シナリオ詳細
<Scheinen Nacht2021>深白のノエル
オープニング
● Scheinen Nacht
――輝かんばかりの、この夜に!
混沌世界を覆う白雪は、平和を象徴するかのようにはらはらと降り積もる。
誰も彼もが戦う事を止めた12月24日の夜。聖女の御伽噺(フェアリーテイル)は誰もが知る物語だ。
祝祭の如く、祝われた『シャイネンナハト』の過ごし方は人それぞれ。
ある者は家族とともに。
ある者は想いを伝えるために。
ある者は、今宵だけの僅かな平穏を楽しむために。
●
幻想王国では家族連れが鳥の丸焼きを購入し歩いて行く様子が見て取れた。横行く馬車はディナーに出掛けるのだろうか。
裏路地に入れば、ディナーで出た多めの残飯に有り付こうとするスラムの子供達がレストランの裏口に集っていて。
国は簡単には変わりやしない。それでも、有りっ丈の日常を彼らはその生で謳歌しているのだろう。
「こっち、こっちなのです!」
走り出すユリーカ・ユリカを追いかけてショウとプルー・ビビットカラーが肩を竦める。
ローレットも同じようにシャイネンナハトに盛り上がる。さて、どのようなディナーにしようかと呟くショウにプルーは「良いワインを用意しましょう」と提案した
「みんなー! 盛り上がっていこうー!」
鉄帝国ではアリーナライブが開催されている。例年通りのパルス・パッションのライブは盛り上がり、ラド・バウも今日は血生臭さを忘れたようだ。
パルスの歌声を聞くビッツ・ビネガーは「相変わらずよね」と肩を竦める。その視線の先でマイケルが「ギェ?」と首を傾げ、ウォロクがコンバルグの毛繕いをし続ける。
「どうしてコンバルグの毛繕いをしてるの?」
問うたリーヌシュカにゲルツ・ゲブラーは「動物だからだろう」とツンとした態度を返した。
白き蒸気が雪に混じり合った極寒のこの国で空を飾ったオーロラを指さすのものは普段の闘争を忘れたように呆けた顔で眺め見る。
其れはヴィーザルでも同じ事だろうか。野は雪に染まり、枯れた木々の向こうに見えた美しき空は戦士達の心を癒やした。
「――――♪」
真白き都、天義ではしずしずとミサが行われる。大聖堂に響いたキャロルを聞きながら聖騎士達は国の立ち直りの早さを喜んだ。
その身のうちに潜んだアドラステイアへと潜伏する仲間達を心配する声も上がれど、今宵だけは彼らも屹度、祝祭を楽しんでいるだろうか。
「先輩、待って」
背を追いかけるイル・フロッタにリンツァトルテ・コンフィズリーは「レオパル様も待って居るぞ」と駆け足で走る。
聖騎士達も今宵は大忙しなのだろう。神の恩を忘れぬ国。今宵は敬愛すべき主を祝ったディナーで食卓も賑わうのだ。
温暖な気候に恵まれていた海洋王国の海風はそれでも雪がちらつく気候になれば寒々しい。
灯る露天の明かりは幾つも建ち並び、食べ歩きを行うものの姿も多く見えた。
「美味しそうですわね? 城下に降りても?」
「……カヌレ」
「……カヌレ、はしたないですよ」
心を躍らすカヌレ・ジェラート・コンテュールにイザベラ・パニ・アイスとソルベ・ジェラート・コンテュールはパーティーホールで息を吐く。海洋王国は王家主催のシャイネンナハトのパーティーを楽しみながら賑わう城下を眺めていることだろう。
露店で売られていた異国の料理。クリスマスマーケットに賑わった海洋ではナイトクルーズも開催されて。
「ああ、羨ましいですわー!」
寒々しい砂漠の夜に。ラサのサンドバザールはそれでも大賑わいのようすであった。各地より取り揃えられた品々を見て回る旅人達の姿が多い。
「欲しいのですか?」
露店に並んでいた小さな天使の人形を眺めていたイヴ・ファルベの肩がびくりと跳ねる。声を掛けたファレン・アル・パレストはサンドバザールには珍しいものが多いでしょうと彼女の肩を叩いた。
今宵は羽休めとして商人達が集いどこの酒場も大賑わいだ。フィオナ・イル・パレストも屋敷でイヴの為のパーティーの用意をしているだろう。傭兵団の長――イルナスやハウザー、ディルクも何処かの酒場で今宵を楽しんでいるだろうか。
「冷えますから、行きましょうか」
降り積もる雪を受け止めながら大樹ファルカウは静かな時を過ごしている。
幻想種達は今宵のイベントをのんびりと過ごすのだ。霊樹の民は独自の文化での祝いを、ファルカウでは『外』と同じようなパーティーを。
リュミエ・フル・フォーレは楽しげな民の様子を眺めるのが楽しかった。彼女達の幸福は自身のものと同じなのだから。
「ッ、ああああーーーリュミエーーー!?」
「フランツェル、はしたな……何をしているのですか」
勢いよく転んだフランツェル・ロア・ヘクセンハウスの隣でルドラ・ヘスが嘆息する。それでもケーキはちゃんとキャッチできたと自慢げに彼女は笑った。リュミエは可笑しいと肩を竦めて、魔法で明かりに光を灯した。
海を隔てた東洋の神威神楽は霞帝の生誕の日がシャイネンナハトであると学んだそうだ。
「今宵は宴でありましょう」
『中務卿』の言葉に大きく頷いた霞帝は「楽しみだな」と心を躍らせて。市中には海洋王国より学んだ『ケーキ』なる洋菓子の販売が始まった。プレゼントや、シャイネンナハトの文化も浸透し始めた頃か。
「俺の生誕祭だというイメージでも構わない。さ、今宵は飲み明かそうではないか」
「うむ!」
「黄龍、玄武、飲み過ぎてはいけませんよ。朱雀、白虎何を食べますか? 青龍も此方にお出でなさい」
「瑞神、少し時間が経ってお力が戻られたからと母親めいて参りましたな……」
境界図書館でぼんやりと過ごすクレカの頭にふわふわと雪を降らせたのは双子の案内人。
時の流れさえも忘れるその場所から彼女が少し踏み出す時が近くなってきたけれど……。
「今日はここで祝う?」
「今日はここで遊んでくれるの?」
二人の言葉にクレカは小さく頷いた。案内人達だって、今宵は此処で過ごしている。ささやかなパーティーを始めよう。
――そして、動乱であった練達にもシャイネンナハトは等しく訪れた。
セフィロトドームに雪を降らせた『悪戯者の兄』の様子を穏やかに眺める『妹』は今宵は静かに民の様子を眺めるのだろう。
塔主達も研究塔に集うだけではなく、思い思いに過ごすことを推奨した。
それは希望ヶ浜でも同じだ。鮮やかなるイルミネーション。クリスマスマーケットに巨大なツリー。ステレオタイプのクリスマスを楽しむ再現性東京の人でも多い。
「輝かんばかりの、この夜に!」
笑う綾敷なじみは手を伸ばす。
「皆、大変な一年だったし、大変な毎日だったけど、皆とクリスマスを祝えるなんてうれしいな! あれ? 祝うものだっけ?」
「東京なら祝うものでは?」
揶揄う澄原 水夜子に音呂木 ひよのは小さく笑った。
「ええ、それでは『メリークリスマス』――輝かんばかりの、この夜に!
皆さんの今日が素晴らしい物になりますように。……のんびりと、平穏を楽しみましょう?」
- <Scheinen Nacht2021>深白のノエル完了
- GM名夏あかね
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2022年01月12日 23時40分
- 参加人数103/∞人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 103 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(103人)
リプレイ
●幻想
輝かんばかりのこの夜に――
「王都はやっぱり、賑わいが段違いですね」
「そうですね、都の賑わいは素晴らしいものがあります」
シャイネンナハトの『視察』を行っていたマルクにテレーゼは頷いた。マーケットの中を歩くだけでもその賑わいが心華やがす。
ツリーのオーナメントやちなんだ小物を眺めながら、マルクが彼女に勧めたのは食べ歩きだ。
「ライプクーヘン……は、すりおろしたじゃがいもを揚げて、りんごのムースを付けて食べるんですね。
りんご飴なんかもあるんだ……りんごはブラウベルクの名産品だから、領内に広めてみるのも、面白いかもしれませんね」
「なるほど、大きさもお手頃ですし、これならお茶会なんかを開くのにもちょうど良さそうです。
ええ、ぜひともブラウベルクで広めると良さそうですね……」
折角の視察だ。この機会にブラウベルクでも為せることを知り、更なる発展を遂げたいのだ。
「さあ、どれから視察しましょうか。あ、でもその前に。寒いから、これで温まりましょう」
マルクがそっと手渡したのはマグカップに入ったグリューワイン。白い息を吐いてから、テレーゼは小さく頷いた。
「ふふ、たしかに、最初にあったまっておいた方が良いですね。ありがとうございます、マルクさん。
そうですね……どこに行きましょうか。あっちで見た露店も珍しかったですし……この季節ならではの物も良さそうですが」
「あのね、ギルオスさんに見て貰いたいものがあって」
ハリエットはギルオスとは偶然立ち話をするような仲。それでも、初めて用事があると声を掛けたのだから、緊張が滲む。
「やぁこんばんは。誘ってくれてありがとうね」
彼女から貰った厄除け守りを付けたギルオスは目立つかな、と目を細めて笑う。彼女から誘われたのはこれが初めてで、出会った頃を思い出せば懐かしい。
過去を思い浮かべるギルオスとは対照的に、彼はどう思っているのかと気になるハリエットは緊張しながら歩を進めた。共に来てくれる程度には嫌われてはないのだろうか。
手を引いて良いかと問えば「迷わないようにしないとね」と彼は笑ってくれた。それだけでハリエットは白い息を吐いて、己を鎮める。
自分の気に入った者を彼に見て欲しい。あわよくば喜んで欲しい。此の感情に名付ける方法が分からないまま、どうしても彼が気になるのだ。
「到着、上見て?」
彼に拾われた路地裏の少し奥に。高い建物ので切り取られた満天の星空がある。
「ここから見上げる星が一番好きで……どうしてかな? ギルオスさんにも見せたくなったんだ」
「ああ――とても美しい夜空だ。
満天の星空。君も好きなのかい? 素晴らしいね。ああ……ゆっくりと空を眺めるのは久しぶりだ――心が穏やかになるよ」
彼が、喜ぶ言葉だけで「ああ、よかった」と胸を撫で下ろすのだ。誰に何を思われても気にもならなかったのに。
「輝かんばかりの、この夜に! フフ、こんばんは、プルーちゃん♪」
ローレットで書類を整えていたプルーは「ミッドブルーの夜空に色彩が溢れているわね」と独特の挨拶をひとつ。
微笑む彼女を前にジルーシャはパーティーよね、とバスケットを掲げた。
「せっかくだから、アタシもグラタンパイを焼いてきたのだけれど…ちょっと大きかったかしら?
ユリーカちゃんもショウも沢山食べて頂戴ね! ……あっ、でも火傷しちゃダメよ?」
嬉しそうに走るユリーカを見詰めながらワイングラスを傾けて、乾杯をしたジルーシャは傍らのプルーを見詰めてしみじみと目を細める。
「今年ももうすぐ終わりなのねぇ……。
……ね、後でちょっとだけアタシに付き合ってくれる? 見せたいものがあるの」
見せたいものは決まっていた。あの美しい夜に彼女が喜ぶ顔を見られるのだ。ジルーシャに了承するプルーは「コートを用意しなくちゃ」と立ち上がったのだった。
共に食事を終えてから、ディアナはセージの腕にぎゅうと抱きついた。三度目のシャイネンナハトでも特別なことには変わりは無い。
「セージ。遊び足りないって言ったらどうする?」
出会った頃に比べれば随分と可愛らしくなったおねだりに、今夜くらいならまあいいかと受け入れて。
子供は寝る時間だと茶化した過去さえ忘れるような優しい声かけにディアナは嬉しいと彼と街を歩む。
「ほら、ここだ」
地下に構えたお洒落なBarは『お嬢様』にとってはまだまだ慣れぬ場所だろうか。緊張したようなディアナには流石にノンアルコールを提供するが、大人の雰囲気を味わうならば十分だろう。
「お酒飲めるようになったら、また連れてきてね」
「いずれは他の場所にも連れていってやるさ」
綺麗な色、甘くて美味しい。そんな可愛らしい感動ばかりを携えた彼女を見詰めてから、セージは笑みを滲ませた。
自分の世界を誰かに共有する喜びを噛みしめてから眺めた横顔はどこかずっと大人びている。
――好きな人のテリトリーに入れて貰えた喜び。そんなものを湛えた彼女の横顔は何時もよりぐっと大人びていた。
「輝かんばかりのこの夜に、楽しんでる?」
柔らかに微笑んだアルヴァに「輝かんばかりの、この夜に……!」と緊張したように告げたレッドはすうと息を呑む。
今宵は幻想の空におでかけだと聞いていた。緊張が滲んで頬が赤くなる。そんな彼女にくすりと笑ってアルヴァは手を差し伸べた。
「それで、そのエスコートよろしいです……っすか?」
「んじゃ、行こっか。おいで?」
隻腕だからこそ、落とさないようにとしっかりと抱き寄せれば寒空も気にならないほどにぬくもりが添う。
「落としはしないと信じてますけれども腕が疲れたら遠慮なく言ってください……ね?」
「いつも片手で狙撃銃構えてるんだ、女の子一人くらい何ともないさ」
其の儘黙った彼女は景色を見ているのだろうか。強がりじゃない、強くなったつもり。アルヴァはレッドが何を考えているのだろうかと見下ろして。
彼女の緊張も、初めての幻想の空中散歩に驚く気配も嫌いじゃない。
「幻想を見ていると今年の出来事を思い出します……っすね」
「ああ、今年は本当に色々あったね」
寂寞すら感じさせた言葉は、感情をも何処かに封じ込めたかのようだった。レッドは、彼が腕を失った瞬間を思い出す。
「寒いですしもう少し寄ってもいいです……っすか?」
「ジャケットの中に入るかい?」
引き寄せられた、その距離が心地良い。どうか、恋心を忘れる前に――
ローレットでは仕事の斡旋でも世話になるギルオスを見付けてからモカは美しいドレスに身を包んで「愚痴でも聞こうか?」と声を掛けた。
「言っておくが、仕事以外でここまでガチ女装することなんて滅多に無いからな。貴重な機会を楽しんでくれ。
……という事で、私の店の広告塔契約延長よろしくね」
「君、それが狙いだろう?」
ギルオスの言葉に「バレたか」と笑う。コートに着けたワッペンが店を宣伝してくれているのだから、もう少しくらい契約は延長しておきたいのだ。
「シャイネンナハト…元居た世界にも似たような祭りはあったな。
由来は違えど同じような祝いがあるというのは面白い。今日は戦いを忘れて存分に楽しむとしよう」
天が誘ったのは使用人であるアナトラだ。華やかな街を歩いて、食事をして互いに色々あった年だと語らえば良い。
アナトラにはシャイネンナハトについて教えて貰うのだって良いだろう。
天にとっても元居た場所に未練がないといえば噓になるが、今いる場所も悪くはない。こうして誰かと語り合って歩くことが出来るのは喜ばしいことなのだ。
「ゆ、ユリーカさんにプレゼント渡してぇ!
クリスマス、シャイネンナハトのチャンスに、ちょっとでも男を見せるんだ……あっ相変わらず可愛い……お、落ち着いて、声掛けに……」
そんな飛呂は見失ったと頭を抱える。現在ストーカー状態だが、ローレットならばユリーカにプレゼントを送付することが出来るだろうか。
来年はリベンジ、渡してみせると飛呂はそう心に決めてから、ふと気付いた。
「あ、バレンタインもありだったりするか……?」
●幻想II
「ショウはローレットでパーティするのかにゃ? 飾り付けとか手伝ったら僕もまぜてくれるかにゃ? 料理は難しいの苦手にゃ。簡単なの手伝うにゃ」
ぴょんと跳ねたのはちぐさ。パーティをショウと楽しんだら二人でパーティーを楽しみたいとちぐさは微笑んだ。
「寒いにゃ」
「ああ、そうだね」
「寒いけど、なんだかあったかいにゃー。ショウは寒いかもだから、今日の目的のプレゼント渡すにゃ!
ショウに似合いそうな黒いマフラーにゃ! 喜んでくれるかにゃ? ありがとうの気持ち、伝わるかにゃ?」
「いいのかい?」
勿論と胸を張ったちぐさにショウは微笑んだ。
「輝かんばかりの、この夜に! にゃ! ショウ、いつも遊んでくれたり、今日は時間作ってくれたり、ありがとにゃ!」
ショウはちぐさへと「そうだな……想像してなかったけれど……」と悩ましげに呟いた。
「もしよければこれから買い物はどうかな? プレゼントを貰って何も渡さないのは少し、イヤなんだ」
「いいのかにゃ?」
次はショウが勿論、と胸を張る番だった。
「今回は出遅れちゃったからな〜〜ちっくしょー……お、お誘いするのか……そっか……考えた事もなかったや……。
次は抱えてでも連れ去って……もとい、連れてってやるんだから!」
そんなことを言いながら京はパーティーで食事を続けている。
「今日は食っちゃるぞー! ちゃんと足りてるんでしょーね、量は!!
アタシ今日は限界まで食べるって決めてるんだから! 理由? 理由は……聞くんじゃないわよ、蹴り飛ばすわよ、まったくもう!!」
大食いタレントかおまい家の勢いで食べ続ける京は次回のために英気を養っている。
「ちょっとー、ここのお皿無くなっちゃったんだけど、おかわりまだー!!
まだまだ食べたりないんだからねー、じゃんじゃん持ってきてよー!!
ちょっと、止めないでくれる!? まだ食べるのー!! 止めないでー!!!」
折角ならば今年もエスコートを頼みたいとブレンダはシルトに声を掛けた。
「うーん、気が進まないけど伯爵には挨拶に行った方がいいか……。
ブレンダをエスコートできるには役得だしね。エスコートはお任せあれ」
タキシードに身を包んだシルトと共に夜会用のドレスに身を包んだブレンダバルツァーレク派のパーティーへと出席していた。
面倒だとかんばせに書いてある彼をせっつきながらも貴族周りの挨拶は大事なのだと口を酸っぱくするブレンダは「ほら、行くぞ? その後にダンスもあるからな」とシルトを引っ張る。
一段落し、テラスへと歩を進めたブレンダは小さく息を吐いた。
「俺はダンスだけじゃダメかな……」
「駄目だ」
「ふぅー……何度やってもこれは慣れないね。早く帰りたいよ」
「……これが終わればうちでも軽いパーティの用意がしてある。まぁ、その、なんだ……2人っきりで仕切り直しだ。プレゼントもあるぞ、一応な」
ぽそりと呟いた彼女を見遣ってからシルトは目を輝かせる。
「ん? 続きがあるのかい? それならあとちょっと頑張ろうかな! プレゼント楽しみだなぁ!」
――そんなやる気に急にやる気を出すなと笑いながら、そんな彼が好ましいのだとブレンダは感じずには居られなかった。
「珍しい。お一人で此処に?」
肩を竦める舞花は『あの伝説』もただの物語では終わらないというのだから面白いものだと肩身の狭そうな梅泉に声を掛けた。
似合わないのは何方も同じだと僅かに笑った舞花は冷やかしに来たのだと笑って。
「……もしかして、雪之丞さんにたてはさんを足止めさせて避難してきたのですか」
「……何を」
酔狂な事に日付を決めて縛られているだけでも気が削がれるというのに。その様に言われてしまえばばつが悪い。
――勿論、逃げてきたのだが。梅泉はその様な事を悟られぬように目を伏せるだけだった。
「……あ、もしかしてまた? はー……たてはさんかわいそう……」
嘆息したのはすずな。たまにはのんびり喧噪を眺めていたかったが、こちらも冷やかしの一人だ。
(此方は姉弟子だったり、想い人の関係で複雑な感情を抱えていますので、い、ま、す、の、で!
ダンスなんかしませんけどね、ただ、ROOで『別の彼』に庇われた貸しを返すつもりで、お酌位ならしてやりますけど)
まじまじと見遣ったすずなは梅泉の空いたグラスに酒を注いでから「――これで、貸しはゼロですからね!」と外方を向いた。
何ぞか伝わらぬ言葉を紡いだすずなに梅泉はふむ、と首を捻って。
フォーマルな格好で立っている彼の姿を見付けてからドラマは「レオン君」と駆け寄った。
「騒がしいのは苦手でしょう、けれど……一曲、お付き合い願えますか?」
「ああ、勿論?」
揶揄うように笑ったレオンの大きな掌が、ドラマの小さな手を包み込む。それだけでも心躍ると綻んでからドラマは誘われる様にダンスホールへ。
「ここ数ヶ月は何かと騒がしく、いつの間にかのシャイネンナハトでした。
レオン君も最後の方は取り込まれかけていましたが、私も何だかんだ長期に渡ってネクストに意識を持っていかれていましたから、ね。
それだけあなたと触れ合えなかったのですから……少しだけで良いですから、あなたの時間を私に下さい」
「熱烈だね」
「レオン君は、重い女はお嫌いでしょう? けれど、会えない程、想いは重なるのですよ」
少し大人になったでしょうと揶揄うように笑ったドラマを引き寄せて「悪くは無い」と『採点』でもするような彼は狡い。
喪った時間を補おうとする渇望が、欲求が果てなく彼を追いかける。輝かんばかりのこの夜に――だけれども。
動揺なんて、照れてなんてやるものか。近付いて、その眸が間近にあっても、今日は止まってやらないのだ。
レオンが居ると聞いて慌てて走ってきた華蓮は忙しない彼の傍に居ればそれでいいと考えていた。
飲み物を運んだり、料理を運んだり。離れていないだけ。近い距離に彼の傍に立っている。「ん?」と彼が此方を見れば自信満々に笑うのだ。
そう、これは正妻面でメインヒロイン枠である自負だ。今までならば、嫉妬に駆られた自分は、此の位置に立つことを自分で選ぶのだと華蓮は微笑んだ。
「積極的なのは嫌いだったりするのだわ?」
「いいや? けど、積極的に出来る?」
レオンのそんな言葉に華蓮は唇を尖らせた。狡いことを聞くけれど、彼に負けてはならないのだ。
何時もより一歩前に踏み出して「勿論!」と笑ってからそっとグラスを差し出した。ワインの香りに酔い痴れるように、今日の華蓮(わたし)を見ていてくれればそれでいいのだ。
アーベントロートの名代は壁の花も今や昔、物好きが構ってくれるのだと青薔薇は静かに佇んでいる。
「今年も壁の花をお迎えに上がりました。五分ほど、私にお時間をいただけませんか?」
楽団を買収した寛治はリーゼロッテと躍るときは荘厳な管弦楽からスイング・ジャズに変えて貰えるようにと手配をしていた。
彼女が「よくってよ」と囁く声と共に中央へと歩を進めれば、フィンガースナップでアップテンポに変化を合図して。
互いが互いを振り回すような熱情(ダンス)は退屈しのぎに丁度良い。型破りも悪くは無いと笑った彼女に寛治はくすりと微笑んで。
「ご存知かと思いますが、私、直球よりも変化球で勝負する性質(たち)なもので」
「ええ、身共も退屈は嫌いですもの」
退屈屋の乙女は気まぐれだ。その慰めになれば構わない。寛治はこの時間こそが愛おしいと言わんばかりに彼女を誘って。
踊り終われば、手を離し彼女はまたも壁に咲く。その様さえ美しいのだから困った人なのだ。
「り……りりり……リーゼロッテ様……こ……今年も……お……お疲れ様じゃったのう……これがメロンじゃ……」
ランドマスターメロンを持ってきてから売上金の相談をリーゼロッテへと行ったオウェードはテーブルに鎮座した自身の土産が彼女のお眼鏡に適ったことに安堵する。
「そ、それで……ダ、ダンスをどうかのう……」
「ええ、よろしくてよ」
男女パートが逆転したのはご愛敬。余裕綽々とした彼女に振り回されるように踊るオウェードは美貌の青薔薇を眺めては緊張したように息を呑む。
幻想王国のパーティー会場で、ひときわ美しい彼女がホールのシャンデリアに照らされるのは、何時までだった見詰めてられる。
席へと戻る彼女をエスコートして、オウェードはふと、彼女の座るソファーに置かれたトナカイの人形を見遣った。
「り……リーゼロッテ様……そのトナカイは……何じゃろう……?」
「ミッシェルと申しますの。ええ、今宵のパートナーですのよ」
悪戯めいて笑った彼女にオウェードは頬を掻いた。
「お嬢様におかれましてはご機嫌麗しく。お飲み物等はいかがでしょう。丁度、ワインを持って来ています。
領地で作ったものです。血のように赤く、芳醇な香りと深い味わいを持った良質なものとなりました」
貴女をイメージしたとは口にしないままレジーナは緊張したようにぴんと背筋を伸ばして。
「ダンスのパートナー、本日最後のお相手はお決めになっておりますか?
もしよろしければ……我(わたし)を……選んで、いただきますと……。
その、いえ、順番に特別な意味等は無いとは思っておりますが、聞くところによれば。
最後に相手というのは、大切な意味が……あるとか…ないとか……」
シャイネンナハトの夜に贈った指輪。ルビーを嵌めた特別な意味を込めたそれ。
彼女が『其れに気付いていても、気付かないふりをして』「よくってよ」と答えることは知っている。
どうか、その眸に映された『痕』が欲しい。とっておきの香水を付けて、貴女の牙が突き立てられる日を求めるように。
「ふふ、――イケない子」
囁いて、少し離れた。そんな熱烈な夜はまだ遠く。ダンスの余韻だけがレジーナを包んでいた。
●ギルド
「大人だって平等に今日という日を楽しむ権利があるんだよ。
というわけで! サンタさんな僕はきみに贈り物を用意してきたのです。手! 出して!」
深緑の教会にてサンティールはブラッドにそう微笑んだ。不意を突かれたといった調子の彼は不思議そうに瞬いて。
「俺に贈り物ですか? 気を使わずとも……いえ、こういう時は『ありがとうございます』ですね」
手にしたのは防寒やおしゃれのためだけのひとそろえ。手袋をする彼への贈り物はサンティールらしい細やかな気遣いで。
「実用性を重視しがちで自分では用意する事が無いので大切に使わせていただきます。感謝します。
……こう言う場に贈り物は定番と聞いていたので俺からも。
練達に行った際に知ったもので『防犯ブザー』と言うそうです。子供が怪しい者と遭遇した際、相手への警告と即座に周囲へ危機的状況だと知らせる物だそうで……」
その言葉に首を傾げたサンティール。なあに、と問うた言葉へ返事は何とも『幼い子供』を思わせた者で。
「サンティール程の背丈の子はよくつけていると伺いましたが……」
「ブラッド! 僕年が明けたらニンゲンから見たらほとんどオトナになるって何度も言ったよね!?
いや気持ちはうれしいけど! 心配してくれてうれしいけどさ! もー!!」
頬を膨らませたサンティールは耐えきれないといった様子で腹を抱えて笑う。ああ、彼と過ごせばうんと楽しいのだ。
「ささやかながらパーティーをしましょうか」
微笑んだ弥恵にミアとカルウェットが「おじゃまします……なの!」「パーティー、するぞ」と心を躍らせる。
雪降る中、シックな場所で優雅に過すのは淑女の時間なのだとミアの尾がゆるりと揺らぐ。
弥恵が仕事で歌を披露する場として借り受けた喫茶店はモダンな飾りに自己主張しない色合いの内装。アンティークの食器が並んだ穏やかな場所だ。
「プレゼント、もつ、するして、交換会! ハロウィン、以来、会う、する? 楽しみ、する。
パーティって、何回、するしても、わくわく、するね。ひっひー」
「……約一名騒々しいのがいるけど……なの」
じと、と見たミアにカルウェットはにんまりと微笑んだ。
弥恵が用意したのはミアには空のような透き通るリボン、カルウェットには朝日のような茜に紫のリボンを用意した。
可愛い二人には屹度似合うと微笑む彼女は食事もできあがりましたよとマスターを振り返る。
「え!?美味しそうなご飯、ある、するの!? ボク、これ、食べるー! いただきます、した!」
「にゃあああ!? それはミアの、お肉、なのっ!
にゅぐぐ……この野良レガシーめぇ……なの。この腹の虫は、よっぽどいいもの貰わないと治まらないにゃ……」
ぐぬぬと意気込んだミアの前に差し出されたのは弥恵のリボンとカルウェットの髪飾り。
「髪飾り? ピカピカ……ふ……ふん……悪くはないの。なら、ミアはからはこれを……」
手編みのマフラーを差し出すミアはこれくらい朝飯前なのと外方を向いてから尾を揺らがせた。
「メリークリスマス…ってルシア氏はこれが通じるタイプの旅人でしたっけ?」
「あっ、メリークリスマスでして! やっぱりこれが通じない人もいるのですよ?」
メリークリスマスは再現性東京ではよく知られると美咲とルシアは小さく笑った。
再現性東京の美咲のアパートでのんびりと過すシャイネン――否、クリスマスも悪くは無い。
「さて、ようやく練達の動乱が落ち着いた今でスが、私らには次の戦いがありまス。……そう、それは年明けの福袋商戦」
「確かにモノによっては激しい戦いになるのですよ!」
慌てるようなルシアに美咲は頷いた。
「私は買うなら食べ物系かなー。途中で飽きると知っていても大量安売りの誘惑には勝てません。
カロリー的に考えても高級路線のほうがいいとわかっているんスけどねー……ま、余りそうならそっちにも分けますんでよろしくお願いしまスね」
「ルシアも食べ物系でして! ちょっとお高い系のもの詰め合わせもいいのですよ? この時にしか出来ないささやかな贅沢でして。
安いもの沢山もしたいけども……多分ルシアじゃ食べきれないかもだけど食べ比べはしたいのですよ!」
二人居れば、きっと食べきれるはずだと笑い合う。ならば、今は英気を養うのだ。
「年が明けたら一緒に買いに行きましょーねー……外寒いから今のうちにこたつで温まっとこ」
「来年が楽しみでしてーはー、こたつあったかくていいのですよー」
夜空の下の小さな屋敷。ヨゾラの自宅で行われたのはクリスマスパーティーの準備だ。
クリスマスツリーには飾り付けを。料理はサンドウィッチを始め、七面鳥にクリスマスケーキ。シャンパンやジュースも準備した。
プレゼントはこっそりと用意して。サンタクロースの『正体』は悟られぬようにとヨゾラはこっそりと隅に隠した。
猫たちに美味しいご飯や温かな毛布。簡易的なテーブルも作り、クッキーや猫用おやつも完備した。
執政官の皆が来たならばわくわくとパーティーを開くのだ。
ルシールは何と言うだろうか? フウカやフローエは屹度喜んでくれる。ニアルカーニャも美味しい食事に喜んでくれるだろうか。
「いらっしゃい! フローエ・シャイネンナハトー!」
●海洋
「おじさま! 海風気持ちいいけどお腹すいたー!」
寒くともおじさまと一緒ならばうきうきするのだとルアナは心を躍らせる。
「……ふむ、そこの屋台で何か食べるとしよう」
そう呟くグレイシアの側はどちらかと言えば寒さで身を縮めていたか。子供は風の子と言うがルアナにしてみれば心地よいのか。
彼女が選んだのはクレープ屋。ホットメニューやデザート系も多いのだと眺めるグレイシアがどうしたものかと首を捻る横で「決めた!」とルアナが跳ねる。
「おじさぁん! この『お腹いっぱい全部のせクレープ』くださぁい!」
「……全部のせ……だと?」
驚愕したグレイシアに「これこれ!」とルアナが指さしたのはツナ、チーズ、ウインナーを始めとした具材が乗った巨大クレープ。
「なるほど、ミール系の物だったか……吾輩は、トロピカルフルーツのクレープにしよう」
大将の了承の声を聞きながら、ルアナのクレープができあがる様を眺めてからグレイシアは頭を抱えた。
「……食べきれなかった場合は、吾輩も手伝うとしよう」
小さな少女の手では大きすぎたクレープはずっしりと胃にも強敵になりそうだ。
「で、お前らこないだの賭けには勝ったのか? 金ちゃんと持ってきてんだろうな?」
嘆息する聖霊は王家のパーティーは気を遣うからとのんびりとマーケットを歩き回る。
適当なツマミとホットワインを手にした彼の言葉に「え?」と渋い顔をしたのは清舟。
「あぁ……うん……ちと今回ばかしは調子が悪うて……10000G溶かしちゃった……えへ。いや、銭はあるぞ!? 今日の分ぐらいは大丈夫じゃから!?
ほれほれ、酒は……ビール、わいん、焼酎……飲み比べてみるべ! 流石海洋じゃ、肉も美味いが海の幸も良いもん揃っちょるわ」
そうして視線をぐりんと向けた清舟の視線を追いかけた聖霊は何かに気付いたとでも言う用に彼を横目で見遣る。
「お、清舟。彼処に綺麗な女性が居るけど声かけなくていいのか?」
「お、あっこに居る女子達かわええのう、おまんもそう思わんか? ……声は、今回は掛けないでも、うん」
聖霊と同時に言葉を発した清舟はたじろいだ。こうしたバカ騒ぎも偶には悪くないものなのだ。
「ねえ、アリア。俺を選んでくれてありがとう」
真の言葉にアリア=ラ・ヴェリタは小さく笑う。ナイトクルーズ、海の上で彼女は穏やかに微笑みを浮かべて。
「最初も今も俺を選んで傍に居てくれている。だから、俺はとても幸せ者だなぁって感じるんだ。
だって、こんな素晴らしい人の時間を、俺なんかに使って頂く事を選んで頂けるのだから」
「云ったでしょう? 『俺なんか』じゃない、あなただからあたしはあなたがいいの。だ・か・ら――」
首に手を回して、拗ねるように言葉を重ねたアリアは真を見遣って目を細めた。挑戦的な目は愛おしさばかりだ。
「今夜はとびっきり素敵でロマンティックじゃなきゃダメよ? あたしがあなたに酔うくらい、今夜を楽しませてちょうだい」
「お約束、だったね?」
Shall We Danceの誘いと共に、真は彼女の腰を出した。
「ご期待に添えるよう、努力致しますよ? 俺の可愛くて美しい、愛しの奥さん。
精一杯、愛情を伝えてみせるから、どうか……もっと、俺を愛して――」
祈るようなその感情に、アリアが笑う。ああ、此の愛情は蜜のように甘いのに。
「溺れるくらいに、忘れられない夜にしよう。あなたと俺の2人の時間がもっと続くように、あなたを愛すから、どうか今夜を忘れないでおくれ」
「あなたが忘れてと云っても、もう忘れられないわよ――ばか」
もこもこと防寒具に身を包んでナイトクルーズに赴いたフランはうさぎの耳付きコートにすっぽりと包まれ「さむーい!」と叫んだ。
「昔は、寒いから風邪を、引いてしまうかもしれないと……あ、本当にさむい。寒いです。ひゃわ!」
暖かな茶を片手にぎゅうと身を寄せたネーヴェは「ぬくぬくです、ね」と小さく笑う。
海から見る景色は新鮮だ。夜の気配が街の明かりを優しく包む。ネーヴェにとっても、フランにとっても、船出の街は目映く新しい。
「あ、そうだ! あのね、ネーヴェさんもうすぐお誕生日でしょ?」
寒そうなネーヴェの手をそっと握ってからフランは淡い桃色の飾りが付いたもこもことした手袋をそっと差し出した。
「これできっとあったかいから、一緒に色々お出掛けしよ! もっともっと、ネーヴェさんと仲良くなりたいんだもん!」
「まあ、手袋。とても、とても、暖かそう! これなら、寒くてもどこへだって、行けてしまいます、ね。
ありがとうございます、ヴィラネル様! わたくしも、ヴィラネル様と、沢山仲良くなりたいから、これから、遊ぶ予定を、いっぱい作りましょう!」
どこへだっていけるような気がして二人は笑い合う。もこもことして暖かい。其の儘、手を取って走り出したいほどに心は華やいだ。
ナイトクルーズの夜風に当たりながら、少し燥いでしまうと星穹は天を眺める。
星で満ちた空、きらきらと光る街。全てが、輝いている。何もかもが、新しく見える。
そんな楽しげな彼女の横顔を見てからヴェルグリーズは「星穹殿」とその名を呼んだ。
「とはいえ…流石に風が冷たいね。後になって風邪を引いたりすると大変だからね」
「……え、っと。ヴェルグリーズ……?」
ぬくもりを残したままの上着は優しさだと分かりながらも、それでは彼が風邪を引いてしまうと星穹は慌てた様に彼を見詰める。
「それなら……そうだな、近くにきてくれると嬉しいかな」
「……ち、近くに? ……そんなことでいいのなら構いませんが」
「肩を寄せてもらえればそれだけで温かいよ」
余裕そうに笑った彼に、近い距離には慣れないと星穹はマフラーを無理矢理押し付けて彼の服に隠れる。
星穹は息を呑む。
一年前なら、これまでなら、シャイネンナハトのその意味も、過ごし方もまるで別人のように違っていた。去年の自分に教えてやりたい。今年はこんな風に過したと、屹度信じてや呉れないのだろうけれど。
「……いつも隣にいてくれてありがとう。
ROOでも混沌でも星穹殿が近くにいてくれるとそれだけでとても心強いんだ。
また年が巡ってもこうして一緒にシャイネンナハトを楽しみたいな」
「此方こそ、いつも隣に居てくれて有難う。
貴方と一緒に分かち合いたい初めてがまだまだ沢山あるから、まだ死ねないと思うのです。
だから、今日の日に約束を。また来年も一緒にシャイネンナハトを過ごしてね……ヴェルグリーズ」
その名前を呼ぶ事が、響きが。たまらなく今が愛おしい。世界の色を、心の音を感じるのは怖かったけれど、貴方が傍に居れば、勇気に変わった。
知らないことを知りたい。知る事を恐れたくはない。差し伸べてくれる手が、うつくしいものを教えてくれるから。
王家へのパーティーに出席するのはコン=モスカとして重要なことなのだという。
それでも特別にマーケットに行こうと口にしてくれた彼女に恐れ多くとも喜ばしいとフェルディンは咲くように綻んだ。
「少々冷えますね。加えてこの混雑――宜しければ、お手をどうぞ」
「……苦しゅうない」
真白の息を漏らしたクレマァダは町娘のような仕草ではなく膝に腕を絡めた。
「……ふふ」
「む?」
頭の人々と、変哲も無い自分たち。料理がしたいから材料を買いたいと誘えば来る者を誘っただけ、それ以上の理由は無いというクレマァダが、『何者でも無いただのクレマァダ』として隣に居てくれることが喜ばしい。
「願わくば来年も、その次も――こうして同じ時を過ごしたいものですね」
「ふん」
呼べば来るなんて、どうあっても、特別な――控えめに言っても親しみ、それ以上の行為を『それだけ』だと偽った自分から目を逸らす。
それ以上、どう言えば良いのか。自分を騙しきれないとクレマァダは「あのスパイスを買ってくる」と視線を逸らす。
その背を眺めて笑うフェルディンへ「こんばんは、旅人さん」と微笑んだのは彼女とよく似た風貌の女性。
「……こんばんは?」
モスカの人間だと、バレたって構いやしない。彼女は――カンパリ=コン=モスカは気になるのだと微笑んだ。
ああ、気には止めないで欲しい。挨拶だけだ。シャイネンナハトは誰だって幸せに過したい。それが、今だけだとしても。
その幸福を育んだことはきっと糧になる――私(クレマァダ)の為に、よろしくね?
●ラサ
始めてのサンドバザールが物珍しくてついついはしゃいだエアはエドワードに教えて貰った砂漠の雪を見に行くのだと心躍らせた。
ミニ焚き火台を購入し、温かいココアを振り舞いながら雪積もる砂漠の幻想的な風景を楽しむのだとエアはうきうきと身を揺らす。
「これが砂漠……ですか。本で読んだことはありますが、実際に見るのははじめてです。砂の上って、歩きづらいんですねぇ……」
砂漠には慣れないミザリィはバザ-ルで珍しいインクやペンを購入し、毛布を羽織って温かい飲み物を持ち込んでいた。
まるで絵本の中に居るみたいだと息を呑むミザリィは書庫に閉じこもってばかりだったと不思議そうに眺め見遣る。
ともだちと一緒に過すシャイネンナハト、はじめて見る砂漠の雪。わくわくとしたニルはナヴァンへのお土産のおいしいものを選ぶ。
友人達のお土産もエドワードと探してから、温かい飲み物などは皆の味覚的『おいしい』に頼って購入しておいた。
「みんないっしょなら、寒いのが気にならないくらい、ぽかぽかのきもち……。
かぜをひいたりしないよう、あたたかい毛布も持って行って、みんなで雪と夜空を眺めましょう。
この時間は……とってもとっても「おいしい」って、ニルは思うのです」
そう笑ったニルにエドワードはそうだなとにっかりと笑う。
「砂漠、来たーーーーっ!! 冬の、それも雪が積もってる砂漠は初めて見るぜーっ。不思議な景色だなー……これをみんなと見に来たんだ」
心躍らす彼は皆と逸れぬようにと、魚の木彫りの飾りや蛇の目。それからニルが『おいしい』と思える何かを選んで。
星を眺めるために少し歩いてから、砂漠に降る雪をぼんやりと眺め続ける。
「すげー綺麗な景色……この景色、オレはきっと忘れねー。
それからさ、これくらい綺麗な景色を、またみんなで見に行きたいな! また、見に行こうな!」
にんまりと笑ったエドワードに頷いたのはミザリィ。
「エドワード、誘ってくださってありがとうございます。……いつも、誘われてばかりな気がしますね。次、次こそは、きっと私が誘いますから、ね?」
そう告げるミザリィの傍らからエアがはい、と手を上げた。
「今日は本当に楽しかったです。エドワード君、ニルさん、ミザリィさん。また一緒にお出かけしましょうね」
「リヴィ、リヴィ。もし良かったら、ちょっとお散歩しないかい? ……っていう、お誘い。
遊びに行きたい所のリクエストを考えてたんだけど、中々思いつかなくって。でも、とりあえず……一緒に居られたらそれでいいかな、って思ったからさ」
「ニアがそれでいいなら。お散歩っすね?」
にこりと笑ったリヴィエールにニアはこくりと頷いた。これはちょっとしたわがままだ。戻ったらホットココアを飲んで暖かいと笑う彼女を見るのもまた一興だ。
「でも、お散歩でいいんすか? あたしが何か考えた方がいいのかな?」
「……しょうがないじゃないか。他愛もないお話をしてるだけで、楽しいんだから。それ以上ってなると、中々思いつかなくってさ」
ニアが頬を掻けばリヴィエールはぱちりと瞬いてから笑った。ああ、なんだ、それは同じ気持ちじゃないか。
「あ。今夜は寒そうだから、防寒具はしっかりね」
「じゃあ、片手はニアが温めて下さいっすよ!」
「砂漠で雪が降るって初めて聞いたんだけど。混沌だから?」
問うた朔にコルネリアは「まぁ、たまにはこういうのに足を運ぶのは悪くないわね」と酒やツマミを持ち寄ってふらりと悪く。
「コルネリアは何買ったんだ? それとも手作り? 俺のあげるから一口くれよ。
俺が買ったのは……こう、なんていうの。エイヒレっぽい何か。ツマミには十分美味いぜ」
日本酒みたいなのも用意したと笑った朔へとコルネリアはジャガイモとジンジャーポテトを作ってきたのだと笑う。
賑やかな雰囲気は嫌いじゃない。サンドバザールから少し歩を進めてから、「中々キレイじゃない」と笑ったコルネリアに上着を貸してやる。
「酒で暖めるのはいいけどベロンベロンになってくれるなよ。そん時はおぶって帰ってやるけども」
「なによぉ、おぶって貰うまで飲まないわよ!
……ねぇ朔、飲み終わったらバザール覗いてみましょ。エスコート、お願いできるかしら?
いいじゃない、折角のシャイネンナハトなんだし、ね」
「お、バザール。いいじゃん、行こうぜ。折角のシャイネンナハトだし、な」
輝かんばかりのこの夜に――その思い出を刻むようにコルネリアは朔へと笑いかけた。
「せっかくのシャイネン・ナハトです。クリスマスマーケットにお付き合い願えますか? 勿論、警邏も兼ねてで構いませんともっ」
胸を張ったエルスに「ま、そんなに興味はねぇがうちの商売には間違いない」とディルクは了承した。
トラブル防止の警邏を兼ね、マーケットをうろつくディルクに混んでいるから腕を組んでも良いかと百面相のエルスは『バグ』っている。
「か、からかわないで下さいなっ。ちょっとはぐれそうだなって思ったのは本当なんです。
あなたの時間は貴重なんですから……あなたを探す時間が増えるのは好ましくありませんよ?」
「じゃあ、そんなお嬢ちゃんにはホットワインはどうだ? 冷えるだろ」
優しい、とほっと胸を撫で下ろしたのは兎も角――それは『失敗』してしまう一歩手前。彼だって分って居るはずなのにと唇を尖らせるが、エルスにだって意地がある。飲みますともと煽ればふわりと意識が淀む。
「ディルク様、ディルク様? シャイネン・ナハトの夜はまだまだ始まったばかり、ワインでポカポカして参りました〜。
へへ……今日だけは……少し甘えます。いつも意地悪されてるんです、たまには……良いでしょう?
私は好きな人と一緒に歩けるだけで舞い上がってしまう女なんです。だから今とっても楽しんですよ?」
「そうかい」
揶揄うように目を細めた彼に「ふふ、笑ったぁ」とエルスが頬を緩める。何時だって『バグ』った彼女を揶揄うのがディルクのやり方なのだ。
●鉄帝
「わっはっはっー! ヘルちゃんサンタなのだ!」
ミニスカートサンタクロースは黒ビキニで愛らしく。ヘルミーネはシャイネンナハトになれば、子供達にプレゼントを配り歩くと決めていた。
それを学んだのはミニスカサンタなるものの在り方を知ったときだ。
「子供達にプレゼントとか配り歩くのだ! さあ、トナカイ役のガルムちゃん! 行くのだ! プレゼント大作戦発動なのだ!」
密かに、そして大胆に。ヴィーザルに住まう子供達へとプレゼントと夢を配り歩く。ヘルミーナは大忙しなのだ。
「ゲルツ、ゲルツ! ちょっぴり手伝って頂いてもよろしくて? 聖夜の儀式の準備をしているのだけれど、どうしても人手が足りなくて……」
構わないと頷いたゲルツにヴァレーリヤはせっせと倉庫へと足を運んだ。棚にある道具を礼拝堂に持ってきて欲しいと指示をする彼女を見詰めながらゲルツは眼鏡の位置を正す。
「入り口に関係者以外立ち入り禁止とあったのだが……」
「いいんですのよ、緊急事態なんだからー。真面目ですのね、貴方。
ということで、よろしくて? お願いしましたわよ! 私、儀式の準備に行ってきますので!」
走り去るヴァレーリヤを見送ってから、作業をするゲルツの背中に「せんぱーい! 乳香ってどこに置いてましひょあああ、誰ですか!? 先輩は!? さ、さては人攫いですね! 攫うつもりでしょう、先輩だけでなく私も! この凶悪眼鏡、恥を知りなさい!」と突如罵り文句が振る。
「いや、ち、違う」
「憲兵ー!」
大騒ぎのアミナを取りあえず落ち着かせようと取っ組み合い状態になったゲルツ。騒がしいと感じ取ったヴァレーリヤはひょこりと顔を覗かせ――
「何だか、楽しそうなことをしていますわね?」
「し、失礼しました。私ったら早とちりして……」
真逆、彼女の使いだったとはとアミナは肩を竦めたのだった。
「パッルスくーん!!! 流石だね! これがアイドル! しかし私も負けてられない!
くっ! でも私もパルス君と一緒にいつかTo Love Each Otherを歌ってみたい! それにパルス君にVDMランドでライブをしてもらいたいね!」
そんな事を叫んでいるのはレインボータイガー社CEO兼アイドルPのマリアであった。ライブを視察しVDMランドをよりよくするのが目的だ。
「くぅー! いや! まずはリア君とドラマ君のユニットを成功させなくては! あとでパルス君に色々聞いてみよう!
ヴェルス君もいるかな!? 彼にもVDMランドでの外貨獲得に協力してもらわねば! ふっふ! そうと決まれば善は急げだ! れっつごー!!!」
うきうきと身を揺らしたマリアは成程、凄い勢いで駆け出すのだった。
「輝かんばかりのこの夜に」
友人であるエステルとは久しぶりだと笑ったギルバートにエステルはこくりと頷いた。
「輝かんばかりの夜、の名前通りの景色です。……そういえばギルバート様とはもうすぐ出会って一年になりますか。時間が経つのは早いものです」
暖かいハーブティーを手にして、オーロラを眺めようかと息を吐く。白く色づいたそれが空気に溶けて消える様を眺めてからギルバートは笑みを湛えた。
「このハーブティーはジンジャーが入っているから、身体も温まるぞ。
ああ。失礼……ヴィーザルの寒さは堪えるだろう、暖を取らなければ凍えてしまうからな」
羽織っていたマントを彼女の肩に掛けてからギルバートは「カイロだ」と差し出す。
「エステル、友人である君の道行に加護があらんことを、精霊に祈ろう」
「輝かんばかりのこの夜に……貴方様と共に居られることを幸せに思います」
――願わくば。これからも穏やかな日々が続きますように。
●豊穣
「ぶはははッ、祝宴と聞いて! 霞帝の誕生日でもあるとかそりゃ二倍めでたいってもんだ!」
「貴殿の料理を食べれるのならば喜ばしい。料理長も感無量だと言って居たぞ」
霞帝の声掛けにゴリョウは任せろと腹を叩いた。様々な国に行った経験を活かしシャイネンナハトのケーキを作るのだ。
他の国の果物なども揃え、様々なケーキを作ることが出来る。毒味役には食材のレクチャー付きだ。
「霞帝用の美味いケーキを作り上げるぜ! なかなか外には出れねぇ立場だろうし、せめてこういうの食って楽しんで貰わねぇとな。
無論、四神や黄龍、瑞の神さんらにも是非とも楽しんでもらえりゃ嬉しいかな!」
「毒味役を吾がしようぞ」
ひょこんと顔を出した黄龍が腹を空かせたような仕草をすればゴリョウは悪かないと笑ったのだった。
「帝さんの誕生日をお祝いするのだわ!」
わくわくと身を揺らす章姫は朝からテンションが高かった。着ていく服を選んで欲しいとせがんだり、何時行こうかと準備をしたり。
鬼灯にとってもそれは可愛らしくて複雑さしかない。章姫が嬉しいならばそれでいいのだが、何となく腑に落ちないのである。
「帝さんお誕生日おめでとう!えっとね帝さんの似顔絵とねあとね……」
嬉しそうに笑って霞帝の膝へと走り寄る章姫。嬉しそうな彼女は聖夜に舞い降りた天使なのだと微笑んだ鬼灯は嘆息した。
(今日の為に新しい服も拵えたのだが……はあ……やはり複雑だ)
「章姫、亭主殿が父に焼き餅のようだが」
「ん? ヤキモチ? 焼いてない。焼いてないったら焼いてない。ただ章殿は俺の奥さんだからな!!」
「ああ、俺は父だからな」
そんなに堂々と父である宣言をされてしまえば鬼灯も答えに詰まってしまうのだ。
「ふふ、霞帝さまのお誕生日とシャイネンナハトを同時に、というのも、わくわくが何倍にもなります、ね。
それに。霞帝さまと瑞さまたち、皆さまがひとつの家族みたい、で。お傍で見ていると、わたしまで、ほんわりとした気持ちになれます」
豊穣風にアレンジされた外の料理もとても美味しいとメイメイは微笑んだ。斯うしてみれば穏やかな豊穣で時を過ごせるのは心地よい。
「プレゼントは、ささやかですが、千代紙を折って作った皆さまのお姿をひとつずつ。手渡しにて。もちろん、晴明さまの分もあります、よ」
「俺も、構わないのか?」
こくりと頷いたメイメイに晴明は有り難うと頷いた。どうやら彼は朱雀や白虎のサンタクロースになる係だったようだ。
「シャイネンナハトは大切なひとと過ごす日。一緒に楽しめたら、わたしも嬉しい、です」
共に楽しもうと笑ったメイメイと共に楽しげな時を過す一行から一人離れた霞帝は「斯様な用だ?」と問いかける。
「ご無沙汰しております。以前、謁見の場を設けて頂いて以来でしょうか。
お誕生日おめでとうございます。ご健康で幸多き一年となられますようお祈り申し上げます」
「ああ。有り難う。しかし……少し顔色が悪くは無いか? 体調か、気の方か。余り背負い込まないでくれ」
霞帝の前に立っていたのは息を潜めた鹿ノ子であった。身の回りでの変化が、そのかんばせに沈痛の色を齎したのだろう。
「……ええ、こんな顔は、遮那さんには見せられません。僕は遮那さんにとって大切な存在になりたいけれど、彼の弱点になりたいわけではありませんので」
「……そう、か」
遮那ならば、直ぐに手を差し伸べるのだろうと霞帝は考える。屹度、そうする彼を思い浮かべるからこそ霞帝は敢えて黙って彼女を眺めていた。
「霞帝……いえ、今園さま。打算だと、下心だと、思われても構いません。僕がこの国のためにできることがあるなら、なんなりとお申し付けくださいましね」
「その心よ立派である。だが、貴殿の顔色が優れぬ内は余り背負わすものではあるまい? 俺とて貴殿等は友や子として扱ってるのだ。
そう、苦辛の道ばかりを選ばなくて良い。……その忠義、この霞帝は良く分かっているのだから」
「何か持ってきましょうか?」
星見と雪見を兼ねた宴で遮那は縁側でのんびりと眺め見遣る。気遣い屋の朝顔に「構わぬか?」と問うた遮那の鼻は僅かに赤い。
「寒いですから暖かいものを探しますね。人混みだと思いますが、高身長が役に立つはずですしお任せ下さい」
その後は火鉢に寄り添ってのんびりと温まろうと提案する朝顔はすらりと高い背丈を活かしておめあてを探し求める。
手を擦り白い息を吐く遮那に「ちゃんと暖まるんですよ」と注意する朝顔と入れ替わるようにルル家が「遮那くん」と彼の名を呼ぶ。
友人に化粧を施して貰った。その状態ならば愛しい人の前に立てる乙女心。ルル家を見遣ってから遮那は手を振る。
「大陸ではシャイネンナハトと呼ぶのであろう? 輝かんばかりの、この夜に! ――だったか」
大陸のことは学んだのだと自慢げな彼に「はい。輝かんばかりの、この夜に! ですよ!」とルル家はにんまりと微笑んだ。
寒いからこそ、体を寄せ合って皆で温め合おう。それには他意は無いのだとルル家は言い含める。遠慮無くガッツリと体を寄せていた過去を思えば、随分と控えめな仕草で彼の隣に腰掛けたルル家は「遮那くん手が冷たいのですか?」とそっと手を握りしめた。
(くっ……! やっぱり恥ずかしいです……!)
ふい、と逸らした視線に彼は気付いただろうか。表情を変えず穏やかに笑ったそのかんばせに、ルル家の乙女心がふわふわと揺れる。
「お待たせしました。良ければ、皆で飲みましょう?」
ホットミルクのマグカップを盆にのせた朝顔は遮那の傍らに腰掛けた。火鉢からぱちりと跳ねる音ひとつ。心が僅かに波立った。
「所で私は遮那君と友人以上になりたいんですけどねー……?」
屹度彼は答えやしない――穏やかな彼が皆が平穏に過すことを願うように、朝顔はそう呟きながらも彼の平穏を星へと祈る。
美しい歩に手を伸ばすように天へと指先をかざしてから、朝顔はにんまりと微笑んだ。
「折角なので、皆で言いませんか? 『輝かんばかりの、この夜に!』って」
喧噪から一人離れてから追儺は街明かりを眺めて雪見酒を楽しむ。
これが彼にとっての慣習化されたハレの日の過ごし方なのである。
●天義
「シャイネンナハトで会わないなんて選択肢はない!
って事で、輝かんばかりの、この夜に! 直接会うのは久々になっちゃったね。ただいまーって言うべきなのかな? 心配かけてごめんね」
「心配してたぞ! 大丈夫だったか? 大変だったと聞いたけど……」
「閉じ込められていただけだからとっても元気だけど! この通りもう大丈夫!」
ぴんぴんしてますと背筋を伸ばしたスティアにイルがほっと胸を撫で下ろす。プレゼントの茶葉を渡したスティアは「ミルクティーにするのがおすすめなんだって」と微笑んだ。
「お菓子作りの練習の試食のお供にできるしね! 今日はリンツさんと会う予定はある? それまでお話ししてたいな!」
「スティアが帰ってくるからいってお出でと先輩に言われて。その、私も話したいと思って……あ!」
何かに気付いたイルがびしりと指さして裏路地に隠れる。スティアは慌てて彼女を真似てから小さく笑った。
叔母と彼女の『元』婚約者。どちらかと言えば叔母が慌てて歩くその背をダヴィットが追いかけているのだが――それだけでも心が温まるのだ。
●深緑
「輝かんばかりの、この夜に。こんばんはリュミエ様。せっかくのこの日なので会いに来ました。……少しばかり俺に時間をくれませんか?」
問うたクロバにリュミエは「ええ、喜んで」と頷いた。R.O.Oの彼女よりも穏やかに見えた気質。
そのかんばせを見て、今までの感じたことや冒険を彼女に伝えたいと考えたのだ。
「閉鎖的だったり悲しい事は起きてたりするけど、多分俺はこの地が好きなんですってね」
此処に自分のルーツはない。ただ、美しいから――そして、恋人の前世や今の家族のゆかりの地でもある――それが理由にならないかと問いかける。
「いいえ、立派な理由です。それを求められるだけ私達は『心を開くことが出来た』のです」
アア、その言葉を聞きたかった。クロバは「だから、何かあったら守りたいのです」と真っ正面から伝えた。
敬愛と、お節介。それは此の深き森だけではない。リュミエという個人に対してもだ。
「だから、これは約束です」
「ええ。どうぞ守って下さい。我らは、貴方方と隣人と感じているのですから」
穏やかな微笑みが曇らぬように――クロバはリュミエの前にわざとらしく傅いて、笑って見せた。
シャイネンナハトは皆の笑顔で溢れている。久方振りのレムレースとの外出はチックにとっても楽しみで。
「チックおにいちゃんと『しゅうかくさい』だけじゃなくて、シャイネンナハトもいっしょにすごせるなんて、とってもうれしい!
アルティオ=エルム……っていうくににくるのは、きょうがはじめて」
嬉しそうなレムレースにチックは頷いた。収穫祭の次は聖なる祝祭。それが思い出となって小さな彼女らに教えてやれればとても喜ばしい。
『はじめまして』が重なれば、屹度、幸せを分け合えるのだ。
「リュミエ様、フランツェルは……お茶会以来、かな。二人も……聖夜を楽しんでいるみたいで、嬉しい。
前に……この国に来て、楽しい時間……過ごしたんだ。何か……欲しいものは、ある……?」
「あっ、みてみておにいちゃん! あそこにあるケーキ、とってもおいしそう!」
ケーキを分け合おうかと大皿に盛ってからチックは微笑んだ。フォークを運ぶレムレースは嬉しいと心躍るようにステップを踏んでいた。
「じゃじゃーん、ストレリチアなの。光の精霊さん、お願いなの。ブチアガるライトアップしてほしいの。
練達の話きくなら、妖精郷も練達らしくいくの! 練達からパチった変な機械で爆音EDM流してアゲてくの! 今日ここはクラブアルヴィオンTOKYO!
マイレバーの頼みとあらば参上して飲みまくるの! ミヅハさんもウルズさんものんでのんでのみまくるの!」
虹が架かればエルシアが焼き払うから安心なのだと胸を張った通称・花金の妖精ストレリチア。
彼女のマイ肝臓(レバー)こと幻介は「負けぬぞ! ストレリチア!」と叫んだ。
「幻介先輩が飲み比べ勝負っすか!? 面白そう!!! あたしも先輩の味方として馳せ参じ……ひっく」
――早々にエルシアが三重くらいに見えたウルズが目をぐるぐると回しながら「あれ? 幻介先輩もいつから影分身覚えたんすか、浪人じゃなくて忍者なんすか?」と首を傾げている。
「なんだよーもー、なんでエルシア先輩は呑まないんすかぁ。
あたしの酒が飲めねえってかぁ? あたしのじゃないっすけどぉ、タダ酒はいいっすねぇ……って違う違う、先輩の飲み比べ勝負を手伝うっす!」
コンパニオンであるエルシアは「忙しすぎるんですけど!?」と目を回す。母が大罪を犯したこの国でどんちゃん騒ぎをする気は無かったが、酔っ払いの相手は骨が折れる。
一世一代の大勝負(酒)を仕掛ける幻介が全てを併せ呑む覚悟であれど、ウルズが倒れるのは予想外。
「今日はパーティーの日、コカボムからいっとくの! 甘くて薬草の香りがしておいしいの!
そこからは青いテキーラ凍らせたのショットでいくの! チェイサーはビールにしとくの、瓶にカットライムねじこむの!」
「ああ、待って下さい!」
慌てるエルシアに「どんどんもってこーいなの!」とストレリチアがテンションをブチ上げて笑い続ける。
「と、そうそう……今日は拙者の友人達にも声を掛けておってな。
ミヅハ殿は此方の基準だとまだ童だが、中々胆力が据わった男でな……先の大戦でも活躍した程の腕なので御座るぞ。
酒の肴にでも、その英雄譚を語ってみようか……他の妖精達も、そういう話は好きであろう?」
「ああ、練達のやつか。ちょっ……あれはほら、みんなのおかげだし……や、やめろよ恥ずかしいじゃねーか。
いやまあ聞きたいなら止めないけどさ。目の前で話されるとホント恥ずかしいなぁ!」
照れるミヅハを前に、幻介が「よいよい!」と笑っている。彼もそろそろ虹の橋を架けてしまうが、その前にエルシアにちゃんとウルズを任せたのは男気だ。
「これは凄いな……?」
「お、ルドラ来てくれたんだ。ありがとな。みんないい感じにお酒入っちゃってるけど……コイツが幻介、俺の友人で相棒だ。
先の大戦の話は聞いた? あの時も幻介と一緒に戦ってたんだ。凄い奴だよ幻介は。あっちがウルズ、幻介の恋人で…違う?」
揶揄うように笑ったミヅハにルドラは「おや? 貴殿の武勇伝と聞いていたが」と幻介を眺め見遣ってから、ミヅハにわざとらしく首を捻る仕草を見せた。
「いや、ち、違うって――!」
慌てる彼は「皆寝落ちて来てるし帰りは送らせて欲しい」と小さな声で呟いた。
●練達I
「助けられた人も、助けられなかった人もいるけれど……それでも。こうして幸せな時間を過ごすことが出来て良かった。
それもこれも、一緒に戦ってくれた『イイ女』の皆のお陰だねぇ……改めて、ほんとにありがとうねぇ」
ほっこりと微笑んだシルキィに「パーっとはしゃいじゃいましょ」と車椅子に腰掛けたヴィリスが微笑んだ。
顔はヴェールで覆ってドレスアップした彼女は今日はその『剣靴』はそっと隠した。淡い銀色のパーティードレスで緊張するシルキィも少し照れたかんばせで。
「さぁさ、一緒にマザーとの戦いを乗り越えたイイ女の皆で祝勝会!
あの時は血に埃にオイルに塗れてお化粧どころじゃなかったけれど、今日はとびきり華やかなドレスを着て、目元にはラメを乗せて、さぁ、乾杯といきましょうか!」
アーリアは戦場で頼れる仲間も斯うしてみれば皆可愛い女の子なのだとグラスを煽る。
ドレスを着てしゃなりと微笑んでいるだけではない。誇りや大切な人、守りたい何かのために自分からその身を投じるからこそ『イイ女』なのだ。
その喜びに少し酒の回ったアーリアに「これ美味しいよぉ」とシルキィは微笑んで。
「プリマのステージを特等席で見るの、楽しみにしてたの!」
「わたしもヴィリスちゃんの踊り見てみたいねぇ。プリマのバレエ、良かったら間近で見せてもらえないかなぁ……?」
そう言われれば、剣靴を着けた彼女は「プリマとしては断れないわ!」とステージへと躍り出る。
期待に応えてこそがいい女。光り輝くこの夜に、目一杯躍るプリマは誰よりも輝いて――
R.O.Oの後の街はどうなったかと歩くソフィラを連れたのはリュグナー。
情報屋たる者、最新の情報は仕入れておきたい。そんな、寒くとも賑わった町並みにソフィラはそっと手を伸ばして。
「たまにキラキラ見えるような気がするのはイルミネーションかしら」
リュグナーの返答を待つだけでも心は躍った。見えないことは退屈ではないけれど、寂しい。
彼と同じ世界が見えない事はどうしても共にある事が許されないように感じられるから。
「屹度、寂しいのね。オルタではない、本物の貴方が見られないこと。
……なんてね! 見られなくても、握っているこの温もりは本物だわ。寒くて凍えてしまわないよう、このまま握っていて頂戴な」
手を引いて、街を行こう。此の儘、凍えてしまわないように。
ふらりとレイチェルが足を運んだのは――
――YO! YO! どうしちゃったのさ!
わざわざクリストに逢いに来たのだとレイチェルは「寂しがり屋か? 糞色ぼけAI」と声を掛けた。
折角のシャイネンナハトに彼が『ぼっち』だと可哀想だという気遣い。妹は人気者だが、兄は色ぼけだという揶揄うような心を込めて。
「よお、クリスト。楽しくシングルベルやってるか? レイチェル先生が来てやったぞ、と! もしかしたらシングルベルじゃないかもだが!
ま、シャンパン開けようぜー! あ、黒ビキニは真冬に着ないからな? 風邪引きたくないし! 『借り』に対する取り立ては後日で」
――冷暖房完備DEATH!
「と言うか! シャイネンナハトの聖夜だからな、そう言うアレな言動は止めろ!! 黒ビキニは駄目だからな!」
シャンパンを飲むんだと瓶を掲げるレイチェルにクリストがげらげらと笑い続ける。そんな聖夜も偶には悪くは無いのだ。
出没している、と正純はじっとりとクリストを見遣った。豊穣は若い人々に任せて、クソAIを監視するというのは正純の談だ。
「私が構いに来て上げましたから、余計なことしないで大人しくしていなさい。今日がどういう日かは、貴方もよく分かっているでしょう?」
――悪戯はしてないZE!
「……え、特に騒ぐ気もない? ……こほん。いえ、なんでもないです。こっちの顔みるな!」
――何々~~?
「じゃあ私に付き合ってください。セフィロトの街を見て回りましょう。貴方がこれから暮らす街ですし、結果的に守った街でしょう? さ、案内お願いしますね。」
――良いように使ってない!?
「あ、クリストくんじゃーん。おつー」
茄子子はどうせきうりんだということは彼にばれてるんだから適当でいいやと、あからさまに適当な対応をしてみせた。
「忖度してログアウト不可にしてくれてありがとね。それはそれとして脱出したあと地獄だったけど!!
羽衣教会冬の戦後処理……もう二度とやりたくないね!ㅤあれがデスマーチってやつか……! なんにせよ、羽衣教会もまた活動出来そうでよかったよかった!」
国教には出来なそうだけどと頬を膨らませてから茄子子はにっこりと微笑む。
「あ、クリストくんは入信とかしないかな?ㅤかな?」
――俺様changまで勧誘するとは……ヒュー、やるじゃん!
「例えばクリストくんが羽衣教会の宣伝してくれるなら会長ぜんぜん靴とか舐めるけどね。今クリストくん実態ないけど?
文字通り練達の母であるマザー様の兄を味方にできるなら会長プライドとかかなぐり捨てるからね。
マジで。もうなんでも……うん、なんでもするよなんでも。
会長は羽衣教会をもっとおっきくするんだもんね!ㅤ妹様にもよろしく言っといてよ!」
――妹changに嫌われるか瀬戸際な気がするZE!
そんなクリストに茄子子はにこりと笑うだけだった。
「失礼。アンタ……コホン。貴方が澄原院長で間違いねぇか?
俺は國定 天川ってもんだ。育ちが悪くてな……口が悪いのは許してくれるとありがたい」
探偵事務所の名刺を渡した天川に晴陽はぱちりと瞬いて「はい」と頷く。セフィロトでも名家として知られる彼女は夜妖専門医として希望ヶ浜で職務を全うしている。その立場からしても天川にとっては良きビジネスの相手だ。
「練達で探偵事務所を開いたんだが、ここで仕事するなら夜妖は避けて通れねぇ。院長先生はその専門家だと聞いている。
少し話を聞きたくてな。まぁ有力者とのパイプが欲しいって下心もあるが。
……まあ、身辺警護でも物探しでもなんでもやってる。何かあればいつでも頼ってくれ」
「ええ。有り難うございます。何かあれば是非、仕事を斡旋しますね」
頷いた晴陽の余り変わらぬ表情に天川は肩を竦める。彼女はある種『難易度が高い』。感情が読み辛いというのはビジネス的にも利点だ。
「っと……こんな日に仕事の話ばかりってのもあれだな。一杯一緒にどうだ?
院長先生が酒は駄目ならノンアルコールでも問題ねぇぜ? ふむ……平和な世の中に乾杯ってところか?」
「平和――」
そう呟いてから晴陽は乾杯とグラスを持ち上げた天川に応じる。
「それと、夜妖の専門医って言っても一応医者だよな? いいカウンセラーを知らないか?
最近夢見が悪くてな……。先生が出来るならそれに越したことはないが……」
「一応、私も総合医ですから、カウンセラー紛いのことなら出来ます。また、病院にお越し下さい。澄原晴陽宛てで結構ですから」
「こんばんは、澄原先せ……ええっと、晴陽さんと呼んでもいいだろうか。
いやなに、貴方が気になってな。龍成がネクストから帰ってくるまで苦しかっただろうし、終わってからもゆっくりする時間はあまりなかったんじゃないかって」
「……ええ、澄原は沢山居ますし晴陽で結構ですよ」
顔を上げてどうしましたかと首を傾いだ晴陽に竜真はううんと言い淀んだ。表情が変わりにくいが、それでも此方を見てくれたのは確かだ。
「俺と街に出ないか? 息抜きにさ。雪も降っているから少し寒いが。
イルミネーションなんかいいと思ってな。多分、あまり騒がしいところは好きじゃないだろう? 暖かい飲み物も奢るから、どうだ」
「……よろしいんですか?」
それは奢ると言う言葉に掛かっているのだろう。醒めた目をしている彼女の事が気になった、それが竜真の本音だ。
あの若さで院長だ。達観しなければならない重圧があったのだろう。暁月などの前では、もう少し表情が豊かだと聞いたこともある。
(俺が知らないだけかも知れない。だけど、気になってしまった。
その目は本当に醒めたままなのか。その顔はずっと冷たいままなのか。
昔は見えた笑顔があったんじゃないか。……まあ、俺が見たいだけなのかもしれないけど)
竜真の誘いに了承した晴陽が「それでは行きましょうか」と早足で進む背を静かに追いかけた。
●練達II
街に出掛けてアイシャの好きなものをプレゼントすると誠司は微笑んだ。今年も一年がんばったご褒美だ。
実の兄のように信頼を寄せる誠司の言葉にアイシャの眸が煌めいた。
「アイシャはどんなものが欲しいかな。可愛い洋服、あったかいマフラー、綺麗な小物。
年ごろの女の子なんだもん、こういうので飾るとアイシャはもっと可愛いと兄ちゃん思うんだ」
「ラサにはないものばかり……。
お兄ちゃん、ありがとう。せっかくだからプレゼントし合うのはどうかな?」
もっと可愛くなると言われれば照れてしまう。目に止まった色違いでお揃いマフラーを選んで、「似合ってる」と微笑んだアイシャに誠司は嬉しいと笑みを零した。
色々見たならば食事をしようとアイシャをエスコートする。誠司に手を引かれ、アイシャは「ラサではないものばかり!」と驚いたように瞬いた。
「兄ちゃんのいた世界に結構似てるんだよな、ここ。ほら、ラサでは見ないもの結構あるだろ」
食べ方も、アイシャに一つずつ教える度に、喜ばしくなる。アイシャとこうして過ごせるならば、元世界の帰還より此の世界に腰を据えるのも悪くは無いかも知れない。アイシャがイヤではなければ、と彼女を見遣れば、その気持ちを察したのかアイシャは背筋をピンと伸ばした。
「私はお兄ちゃんが幸せになれる道を選んで欲しいよ。
もしも……もしもね、それが同じ世界で生きる事なら、これからもずっと一緒にいてね」
誠司は柔らかに微笑んだ。
外泊が増えたと思っていれば、どうやら練達に拠点を見付けていたのかとイシュミルは嘆息する。
廃れて放置されていた霊廟。見つけてしまった以上、朽ちるに任せるのは忍びなかったとアーマデルは振り返った。
「空のまま祀られず放置された霊域は悪しきものの巣にもなり得るから。
溜まった埃を吐出して、祭壇などは少しずつ補修したんだ。故郷のやり方で、その祭祀も専門家ではないから完ぺきではない……けど、不埒者の苗床にされない、最低限は整った、と思う」
「まあ」
気軽に異なる神の領域に踏み込んだのは行けないことだと嘆息しながらもその優しさは良く分かる。
「チキン買ってきたから一部をお供えしたんだ。残りは食うぞ。
イシュミル、あんた別に菜食主義って訳じゃないよな、出されれば普通に食事してるし。何故作るといつも緑汁になってしまうんだ……」
「ん?」
再現性スープストックのテイクアウトが緑でも、それは仕方ないと笑ってくれれば構わない。
アーマデルは嘆息してから困ったように肩を竦めた。
「……今年もいろいろなことがあった。来年も宜しくな」
「勿論」
ヒトとして生きるには召喚は良い切欠だったと、イシュミルはアーマデルを見遣ってからそう感じるのだ。
「シャイネンナハトー! テンション上がってシャイネンな♡とか書き間違えそうになったけど気にしない。
だって今年は一人じゃない! スピネルが一緒だもん」
飾り紐で会えるように願掛けをした一人だけのシャイネンナハト。今年はスピネルが隣に居るとルビーは蕩けるように笑った。
「ショッピングモールを回って美味しい物も食べよう。髭のおじさんが空飛んでプレゼントを配ってまわるなんて面白いね。
ああ楽しい、楽しいな。一人はやっぱり寂しい。二人でならこんなに楽しいなんて。
またこんな時間を過ごせるように、これからも皆の楽しいを守っていこうね」
「そうだね、ルビー。君と一緒だから今年はその分まで楽しみたい! あ、けど、風邪を引いたりしないでね」
揶揄うように笑ったスピネルにルビーはこくりと頷いて走り出した。
イルミネーションを眺めながら祝音はのんびりと買い物をして回る。
猫を撫でてから観覧車のチケットを手にのんびりと眺めれば、練達の町並みが眼下に望む。
(ここへ来たばかりの頃もクリスマスで……観覧車に乗った事、あったね。
練達も色々大変だったけど、練達もROOも……解決して、本当に良かった。猫さん達ものんびり過ごせてると良いな)
祝音は去年の今頃に予定はなかったけれど、と小さく笑う。
15分間の空中散歩が終われば、伯父と世話になっているお兄さんと楽しいクリスマスを過ごせるのだ。
「あ、もう少しで時間だ。待ち合わせの場所に行くよ……それじゃ、また」
観覧者を降りてから、にゃあと鳴いた猫に手を振って祝音はのんびりと歩き出す。
「そうだね。練達での祝勝会はなんかボーッとしてたら過ぎてしまったし、こちらのクリスマスパーティーに参加しようかな」
フォルトゥナリアはクリストがいるとは言え、この夜はなんでもないだろうとセフィロトのパーティーに向かうことにしていた。
そう、それまでも沢山楽しいことはあるのだ。イルミネーションを見たり、甘いケーキを沢山食べたり、ショッピングモールで珍しいものを買ってみたり――それが自身等の勝ち取った『クリスマス』の平穏なのだ。
「雪降るホワイトクリスマスに平和を噛み締める。最高のひととき。
……ぼんやりしてても良いかもしれないけど、こうやって私が護りたい時間を味わい尽くして、また明日以降の励みとしたいね」
●練達III
「ええんかな、夜更かししてても。でも、行ってみたいなあ。イルミネーション見れるんやろ?」
くもみの言葉に眞田はうんうんと頷いた。
「くもみちゃん、夜にお出かけなんかしないんじゃない。今日はシャイネンナハトなんだから、これくらい羽目外したっていいんだよ!」
そう、夜なんかじゃないのだ。シャイネンナハトはイルミネーションで明るくて、多少浮かれてても大人達も大目に見てくれる。
モールを歩き回りながら「まーだー、あっちはどうなん?」と首を傾げる。
どちらかと言えばくもみが世話をしているようになっているが眞田は気にはとめやしない。
「そうだ、実は俺サンタさんなんだよ〜」
「プレゼント? ……うち、丸太のケーキ食べたいな。後はな……」
表情は変わらないが、指折り数える彼女はそれでも楽しんでくれている。だからこそ、我が儘を聞いてやりたくて――そのまま眞田は翌日からバイト地獄になるのだが。
クリスマスマーケットで時間を潰そうと卯月は一人クリスマスソングを口遊んで歩き続ける。
マッドハッターとの約束は夜に取り付けた。プレゼントは用意したけれど、もっと良い物があるかも知れない。
アレも素敵、これも素敵と独りごちてから卯月の眸がきらりと輝いた。
「……あっ! これマッドハッターさんっぽい! 買っとこ!!」
彼との夜は自身の我が儘だ。それでも、大好きな人と過ごせるのだから楽しまないなんて損ではないか。
此の空気を目一杯楽しんで、夜になったら「やあ、アリス」と悪戯めいて笑う彼の元に駆け寄るのだと心に決めて。
「水夜子君のお供なら、僕は荷物持ちでも十分満足だよ。
何だかんだで、ご一緒させてもらっているが、水夜子君の事を、あまり良く知らないなと思ってね」
「あら」
そうでしたっけと振り向いた水夜子に愛無は頷いた。澄原の中でも端た家の出であること。対外的な窓口である事、それ位だ。
「だから、こうして共に過ごす機会を増やせば、君の事が解るかなとも思ったのさ。
好きな物とか。よく考えたら、そんな事も知らなかったなとね。海洋の時は、晴陽の事ばかりだったし」
「ふふ、だって姉さんのこと気になっていたでしょう」
そう言われてしまえばそうだが、愛無は首を振った。まずは好きなものから知ろう。幸い街はお祭りムード一色なのだ。
この中でなら好きなものをごちそうすることもきっと容易いのだと告げた愛無に水夜子は「みゃーちゃんはですね」と口を開いた。
「実は甘い物がわりと好きです。クレープとか探しましょう。生クリームがたっぷりなやつを!」
夕暮れ時の観覧車は陽の色彩が目映い。初めてなのだとそわそわと身を揺すったアレクシアに未散はふ、と小さく笑った。
「お手を」
そう差し出された手にアレクシアは「え、えっと」と驚いたように瞬いた。観覧車は乗るのは初めて、搭乗の時に止まってくれやしないのだ。
「上手く乗れないと、ですか。置いて行かれてしまいます」
「えっ――」
慌てる彼女の手を引っ張って、勢いよく飛び乗れば望むのは真っ赤な夕焼けだ。帰路を急ぐ人にこれからだと楽しむ人たち。忙しない風景が広がっている。
「ねえねえ、未散君! これ凄いね! 景色もとてもキレイだし、遠くまで見えるし!」
アレクシアは魔法使いだ。それでも自分で飛ぶことと、斯うしてゴンドラに揺られることは大きく違う。わあ、と立ち上がる勢いで燥ぐ彼女に未散はくすりと笑った。
「お手を」
もう一度と手を拝借してから手渡したのはお土産屋のブレスレット。友情が深まるとの触れ込みの其れは真偽が定かでなくても揃いならば素敵なのだと思ったのだ。
「はっ、こういうのを『映える』って言うんだよね? だんだんわかってきた気がする! 未散くん!」
身を寄せ合って揃いのブレスレットが見えるようにaPhoneで写真を一枚。名残惜しい下りのゴンドラに、たっぷり堪能したと呟いたアレクシアの耳元で揶揄うように未散は笑った。
「もう一周しますか――実は夜のチケット取っておいたんです。屹度イルミネーションが綺麗だから」
満面の笑みを浮かべて「是非!」と笑ったアレクシアの15分間の星空の旅は、もうすぐ始まるのだ。
いつも通りの皆でクリスマスを過す。龍成にとっては『不思議な心地』だ。
彼の生家である澄原ではその様な穏やかな聖夜はやってこなかった。姉は部屋で勉強を、自身は居心地が悪くて街をぶらついていた――だけだったというのに。
「白い雪に、きらきら、イルミネーション。エルの心は、とってもわくわく、です」
くるくると躍るようにステップ踏んだエルはクリスマスマーケットを眺めてはぱちりと瞬いた。
楽しげな彼女を見てつい笑みを漏らした龍成に「隙有り」と笑ったのは昼顔。シャッターチャンスを逃さぬ彼のカメラには穏やかな笑みが映り込む。
「写真ですか? ポーズを取るべきでしょうか? ぴーす。このような事も、思い出の記念になっていくのでしょうね」
ポーズを取ったボディに昼顔が「そうそう」と笑った。そんな風に友人と写真を撮る経験が龍成を喜ばせることを彼らは知っているからだ。
「皆さん、エルは不思議な飲み物を、見付けたので、持ってきました。えっとえっと、『だし』という、飲み物、だそうです。
なんだか、豊穣っぽい、ほっこり良い香りがしたので、エルは買ってみました。
乾燥したお魚と、海草と、お塩をひとつまみ、使っているそうです。それでは、エルはお先に、頂きます」
一口飲んでほっこりとした表情をしたエルは幸せなスープだと頬を蕩けさせるように微笑んだ。良い香りが心和らがせるとボディは「ありがとうございます、エル様。良い飲み物です」と頷いて。
「エル氏は出汁、有難うね。美味しくて体が温まる……皆で買い食いもするつもりだから、食べ物と合うしね。何か探そうか?」
昼顔が何かを探すように周囲を見回せば、其れにボディが続く。街は華やぎ、普段よりも光溢れて。
「ほら見て下さい龍成きれいで――もがっ」
「ほら、ボディ。たこ焼き食べろよ。こっそりな」
マフラーで隠せよと周囲を気遣うような親友にボディは「お気遣いありがとうございます」と頷いた。喉から食道に――そんな食べ方は中々に珍しい。
「でも、それ火傷しねぇの?」
「体は死体なので意外と何とかなりますよ?」
そんな二人をこっそりと撮影してから昼顔はエルにこそりと問いかける。「あの2人、来年にはどうなってるだろうね? エル氏」なんて囁く彼に「エルは、皆で、仲良しなら、嬉しい、です」とエルは頷いた。
イルミネーションの光を受けて、昼顔は「此処で写真を撮ろう」と三人に提案した。
「おい、お前等ちゃんと屈めよ! エルと一緒に映らねぇだろ!」
龍成の言葉にエルがぱちりと瞬いた。昼顔が可笑しいと笑ったその顔を見て、龍成が小さく呟く。
「なあ、クリスマスってすんげえ楽しいな」
「はい。楽しいですね、クリスマスって」
彼らを見て、エルがほっこりと微笑む横顔を一瞥してから昼顔は目を伏せる。
(……来年もこうして皆と遊べますように。それは心から思えるから)
\輝かんばかりの、この夜に!/
最初のクリスマスから一年経って、おまけにR.O.Oに閉じ込められて。波瀾万丈だった。
振り返るより平和を取り戻して、皆と目一杯に幸せに過すのだと花丸はひよのと共にマーケットを眺める。
「あ、二人共もう来てる。行こ、ひよのさんっ!」
「ええ、ゆっくり焦らずに行きましょうか」
微笑んだひよのの手を引いて、花丸は手を振った。
「こうして皆でクリスマスを祝うのも二回目か。今年は練達も大変だったし当たり前みたいに楽しめるのが嘘みたいだぜ」
定がそう笑えば、なじみは「本当だよねえ」と揶揄うように微笑んだ。手を振り返す彼女はツリーの前でぴょんぴょんと跳ねている。
四人で合流してから、パーティーの準備やプレゼント交換の品物を買うと決めていた。
「今年もこの時が来たって言うね……女の子向けのプレゼントとかどうしろって言うんだい」
ぐったりとした定はaPhoneを眺める。クリスマス限定コフレやボディスクラブ、シャワーオイルのセットは可愛いが肌に合う合わないがある。
「花丸ちゃんは何にしたんだい? 食べ物?」
「花丸ちゃんは手袋とかマフラーかな? 冬は相変わらず寒いし、こういうのは普段使えるのがいいかなって。食べ物はこの後皆で食べるしっ!」
「ははん……ひよのさんはこう言うの選ぶ時センスありそうだね。なじみさんは……?」
「ひよひよは結構文具類好きだよね。和柄とかも。なじみさんは勿論猫っぽいグッズだぜ! なじみさんと一緒セット!」
三者三様。乙女達の答えに定は更に頭を悩ませて、品物を選び取ったのだった。
「花丸ちゃんとひよのさん、僕となじみさんに分かれて観覧車に乗ってから帰らないかい?」
「いいですよ。では、花丸さん行きましょうか」
さっさと進むひよのに連れられて花丸は手を振った。
「――どうだいどうだい、僕だってやる時はやるんだぜ! なあ夢華ちゃん!」
「ええ、そうですね」
「なんで夢華ちゃんが此処に!?」
気付けば隣に座っていた夢華に「ゆめちゃんやっほー」となじみも手を振っている。何故呼ばなかったと問うが呼んでなくても来るのが彼女だ。
「夢華ちゃんもこの後のパーティ、来るだろう? チキンとケーキを買い足して行こうぜ……イルミ、キレイだなあ」
悲しげな定の様子に気付いたのは別のゴンドラに揺られる花丸だ。
「あ。見て、ひよのさん。ジョーさん達の観覧車、いつの間にか夢華さんが乗ってる。何て言うか、先は長そうだねー」
揶揄うように笑った花丸に「そうですねえ、関係性に変化はあるんでしょうか」とひよのがくすくすと笑う。
「思い返せばこの観覧車も一年ぶりかな? 此処からの景色を見て改めて思うんだ。
ひよのさんやなじみさん、ジョーさんと過ごすこの場所を守れてよかったって。……ねっ、ひよのさん。来年もまた来ようねっ!」
「ええ、約束して下さいね」
それが平穏と呼ぶのなら。
屹度、何時までも穏やかに続いていくと――そう、願っていたい。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
お疲れ様でした。
グループタグが(おそらくプレイングを拝見した様子では)重なって終っているように思えましたので、
出来れば出発前に掲示板などでグループ宣言をなさった方がよいかもしれません!
追伸・肝臓は頂戴しました。
GMコメント
夏あかねです。自由行動が出来ます!!!!!
●シャイネンナハト
ご存じのクリスマス。御伽噺は特設ページをご覧下さい。
混沌世界では聖女の逸話による祝福の日や戦闘が起こらない日であると認識されております。
白雪が舞い散るホワイトクリスマス。世界各地でも誰も彼もが穏やかなパーティーを過ごしています。
各国の様子はオープニングに描写した以外に様々な事が御座います。
例えば、美しいイルミネーション。どの街も華やいでいるでしょうね。
例えば、再現性東京ではショッピングモールや素敵な観覧車。
例えば、皆さんのギルドハウス。思い思いに飾っているのでしょう。
出来る限り皆さんのシャイネンナハトを描写させていただきます。
どのような場所にでも参りますので、書式と場所をチェックして下さいね。
●プレイング書式
一行目:【場所】
二行目:【グループ】or同行者(ID) ※なしの場合は空行
三行目:自由記入
例:
【ギルド】
リリファ・ローレンツ(p3n000042)
●場所
※当シナリオでは名声は【幻想】に入ります。
何処へでも行くことが出来ます。大きくは【ギルド】【幻想】【鉄帝】【練達】【ラサ】【天義】【海洋】【深緑】【豊穣】【その他】
妖精郷は深緑に、再現性東京系列は練達にお願いします。
ギルドはご自身の所属ギルドハウスや自宅です。自宅でのんびりと言う場合はギルドをお選び下さい。
★ご参考に。
こんな事が街では起こっているよ!という例を記載します。その他のイベントもあるとは思いますのでお気軽に。
それぞれのイベントごとでは各国のNPCが参加しております。
【幻想】
・王家によるシャイネンナハトのパーティー
・貴族達がそれぞれの屋敷でパーティーを行っている
【鉄帝】
・パルスちゃんクリスマスライブ
・ラド・バウ闘士たちの慰安試合(動物ショーやラド・バウ体験会)
【天義】
・聖夜のミサ
・貴族達によるひっそりとした聖夜のパーティー
【ラサ】
・サンドバザールのクリスマスマーケット
・砂漠の雪を見ながらの傭兵団の酒盛り
【海洋】
・王家によるシャイネンナハトのパーティー
・バザールの食べ歩き(クリスマスマーケット)
・ナイトクルーズ
【深緑】
・大樹ファルカウでのシャイネンナハトの集い
・アンテローゼ大聖堂でのミサ
・妖精郷でのパーティー
【豊穣】
・霞帝による祝宴(お誕生日会も含)
【練達】
・セフィロトでの慰安パーティー、クリスマスパーティー
・再現性東京2010でのクリスマスマーケット
・再現性東京2010でのイルミネーション、ショッピングモール買い回りや観覧車
●NPC
・一応幻想メインです。夏あかねの担当NPCがおります。
また、霞帝やリュミエ等の担当がついていないNPC等もお声かけ頂ければと思います。
※OPに描写のあるNPCは一先ずお声かけいただいても大丈夫です。
※出来る限りのNPCへのお声かけにお返事差し上げたいと考えておりますが、ご要望にお応えできない場合も御座いますことを予めご了承下さい。
※特に【友好的でないNPC】や【鉄帝国上層部等、あまりシナリオにもお顔見せがないNPC】は簡単にお会いすることが難しいです。
・無制限イベントシナリオですので、ステータスシートを所有するNPCが参加する場合があります。
(通常の参加者と同じように気軽にお声かけしてあげて下さいね)
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