シナリオ詳細
<グランドウォークライ>歯車仕掛けの大戦争
オープニング
●進撃のギアバジリカ
――「帝都、もらっちまうか」
――その一言がハッピーでクレイジーな戦いの始まりだった。
無口な武器職人が汚れた白Tシャツとトランクスというラフな姿で扉をあけ、玄関前の新聞を手に取る。
くわえたままの歯ブラシに手をかけ、新聞の一面をチラリとみて、そして空を見上げ、もう一度新聞を見た。
するりと口からおちる歯ブラシ、手からこぼれ落ちる新聞。
慌てて屋内へ逃げ込んだ男。そんな彼の住居の前に、すさまじく巨大な鉄の塊が突き刺さった。
まるで巨大すぎる蟹や蜘蛛の足がごとく、道路を粉砕してたつそれはたしかに足であった。
男が窓ごしに見上げてみれば、それは巨大な聖堂であり、聖堂の集合体であり、まさしく移動要塞である。
野外におちた新聞の一面にはこうある。
『ゼシュテリオウス軍閥、帝都進撃を宣言。外出を控えよ』
巨大移動要塞ギアバジリカを背景に、ヴェルスとその協賛軍閥のトップたちが集合し黒ビールを乾杯する写真と共に。
重低音のギターイントロと共に始まるヘビーロックなミュージック。
鋼鉄帝国首都スチール・グラードを闊歩するのは皆さんご存じ歯車大聖堂(ギアバジリカ)である。
大量の建材を吸収し巨大な要塞となったそれは、すべての面から大量の武装を展開し、次々に撃ちまくりながら突き進む。
行く手を阻もうと飛来する飛行戦闘機型強襲兵器ダイダロスは、ギアバジリカへ衝突――しかけた十数メートル直前で半透明な壁にぶつかって爆発。かけらすらも建物にぶつかることはない。
「S2障壁正常起動! 窓ガラスひとつ割れませんぞ! ヒューウ!!」
両手でサムズアップした司祭マカール。
複数の聖火台と講壇が並ぶ全天球型ホールの一角に立ち、台の上に開かれた聖書より浮かび上がるホログラフィックウィンドウをスワイプやタップで操作し始める。
彼だけではない。クラースナヤズヴェズダーの司祭たちがそれぞれの講壇型操作席につき、この巨大な兵器であるギアバジリカを走らせているのだ。
「略すな、賛美聖域(supreme sanctuary)と呼べ!」
「こまけーよおっさん」
やや恰幅のいい将校ショッケン・ハイドリヒ(p3n000161)が額に血管を浮かべて叫ぶと、ライダースーツ姿のバイクチームUQ総長こと伊達千尋が手を叩いて笑う。
「ぐぬうっ、これだから民間人は……何か言ってください鳳圏陸軍大佐殿ォ!」
ショッケンが叫んで振り返ると、鳳圏という部族の軍を率いる榛名 慶一大佐は両手を腰の後ろで組み、肩をすくめて微笑んだ。
「笑って、歌って、揃って突撃。鋼鉄国民らしい姿勢ではないかね?」
「ぐぬう……!」
「まあそう熱くなるな、ショッケン殿。いや、『もっと熱くなれ』と言うべきか」
レイリー=パーヴロヴナ=カーリナ特別将校が肩を叩いた。
そして二歩ほど前に出て、ドーム状スクリーンを見上げる。視点はギアバジリカの頂点やや前方。巨大な球形のスクリーンに周囲の風景がうつり、複数の方向にのびた壇にオペレーターがつくという完全強襲モードでこのギアバジリカは動いている。
そして何よりも見るべきなのは……首都スチール・グラード中央にそびえ立つ城の異様な有様だ。
「『あれ』に対抗せねばならんのだ。私達とて、平常ではいられない――にゃん☆」
キリッとした真顔で横ピースしながら振り返るレイリー。沈黙するショッケンと千尋。
レイリーは両手で顔を覆った。
「今のは忘れろォ!」
●ディアナキャッスル
レイリーが『あれ』と称したのは、ピンク色のクリスタルが大量に浮かび、その造形すら変貌してしまったスチール・グラードの王城である。
元の造形がどんなものであったのか思い出せなくなるほど変化してしまったそれは、なんとこの世界に現れた大いなる存在――『聖頌姫』ディアナ・K・リリエンルージュによって作り上げられたものだという。
それだけではない。首都にはいくつもの簡易型シャドーレギオンが生成され、首都内の基地や輸送拠点、インフラ設備などの要所を次々に占領し軍事支配を始めようとしていたのだ。
オペレーションホールの中心。金色の玉座に腰掛けるのは我らがゼシュテリウス軍閥の代表、ヴェルス・ヴェルク・ヴェンゲルズ。
「『偽のビッツ』然り……この国には本人を真似た偽物としてのシャドーレギオンがいくつも生まれちまってるらしい。
首都進撃を計画した俺たちの動きに対する『この世界のバグ』によるカウンターって所だろう。色々あるが、要約すると――」
ヴェルスは足を組み、にやりと笑った。
「望むところだ」
元々の狙いは首都を手に入れることでこの鋼鉄帝国全体を巻き込んだ内乱に対し兵站及び政治的な問題を一旦解決させようというものだった。
これで内乱のすべてが消えて無くなるとは思えないが、少なくとも内乱によって国が傾く(ないしは沈む)ということは避けられるだろう。
仮に王になれなくとも、首都の支配者となれば国の状態を部分的にだが回復させ、更にゼシュテリウス軍閥の立場を圧倒的優位に立たせ、そして他の大型軍閥をのきなみ弱体化させることが可能になる。
そしてそんな状況を起こせば、動かざるを得ない存在がいる。
「この内乱を引き起こした存在――『世界のバグ』なのです」
開いたウィンドウに表示されたのはローレットの情報屋、『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)である。ROO内ではあるが、混沌側の映像を部分的に表示できているようだ。
「そして狙い通り、相手は動き出しました。『聖頌姫』ディアナ・K・リリエンルージュが首都の王城を巨大なバグによって変化させ、新たに生み出した『偽物軍団』ことインスタントシャドーレギオンたちを兵力にしていち早く支配に乗り出したのです。
このまま放っておけば首都は抑えられ、より悪辣な支配が行われるでしょう。
本来なら歴史の影に隠れ、内乱による殺し合いでゼシュテリウス含む多くの軍閥が崩壊し己の王国を手に入れることができたのでしょうが……僕たちローレットの介入によってその計画が大幅に狂ったのでしょう。敵対したシャドーレギオンの軍閥を正気にもどし味方に取り入れ、軍閥は拡大。ついに首都を狙いに動き出したのですから当然なのです」
そこで、とウィンドウを新たに開く。
そこには『グランドウォークライ』という大規模イベントが表示されていた。
「ゼシュテリウスの一員としてこの首都へと進撃をしかけ、立ち塞がるすべてのシャドーレギオンをなぎ払い、漁夫の利を得ようと襲いかかる他軍閥をもなぎ払い、敵拠点ディアナキャッスルを破壊し首都を手に入れるのです!」
ドォン、と振動と衝撃の音がはしる。
それはまさに大地の叫び。ときの声を上げるかのごとく突き進むギアバジリカの音――グランドウォークライであった。
●作戦概要
作戦会議室……にはもはや収まりきらないために大量の人員がギアバジリカ巨大兵器ガレージへと集まっていた。
巨大スクリーンに表示されるのは、今まさにステージに立つショッケン・ハイドリヒである。
「ゼシュテリウス軍閥の諸君! そして同志イレギュラーズの諸君! よく集まってくれた!
我々の作戦は極めてシンプルだ!
――このギアバジリカを操り敵城へと突進!
――立ち塞がる軍勢を撃滅し襲い来るロボット兵団を壊滅!
――最後には特殊強襲兵器によって城へと突入し、城を占拠するのだ!
敵首領であるディアナとの戦いは別に結成されたチームに任せてある。
我々はそれ以外の『すべて』を行う!」
ショッケンはスクリーンに三つの班を表示させた。
ギアバジリカ操縦班。軍団指揮班。ロボット操縦班。
「既にゼシュテリウス軍閥の兵達はそれぞれのポジションに割り振られている。
イレギュラーズの諸君は、己の望むポジションへとついてくれ!
諸君らはこの軍閥の最大戦力! いわば切り札! 共に突き進み、この戦いに勝利しようではないか!」
叫べ! そう吼えると両手の拳を天に突き上げた。
兵達が武器を掲げ拳を掲げ、勝利をと叫ぶ。
――グランドウォークライである。
- <グランドウォークライ>歯車仕掛けの大戦争完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別決戦
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年09月27日 22時06分
- 参加人数231/∞人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 231 人
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参加者一覧(231人)
リプレイ
●鋼の行進曲
巨大なリフトが重厚な音をたて、人型の機体をカタパルトへと移動させる。
壱狐はそれを見つめ、スパナを持った手を振り上げた。どんな状態で帰ってきても修理してみせるという意気込みが、その一挙手に込められている。
誘導スタッフが光るロッドを降り、ライトがカタパルトを照らす。ビーム状のラインが空へと伸び、ロッドを受け取った壱狐が『発進準備OK』のサインを放った。
「Steife――『機甲隊』、出ます!」
カタパルトから飛び出したのはシンプルな形状をしたエクスギアエクス。ビームソードと修理ポッドだけを備えたそれは、大空へと飛び上がった。
対するは無数のエクスギアエクスや戦車型ダイダロスたち。
「これがエクスギアEX……ちょっと私のは潔すぎますけど大好きですよロボット。紫電としても何度か異世界で乗ったことありますし!」
所詮一機だけだと構えた敵機たちが、驚きにびくりと動くのがわかった。
「それじゃ、征くとしましょうか! ――機甲隊、閃滅せよ!」
言いながら剣を抜くSteife。そこに現れたのは合計11機のエクスギアエクスたちであった。
大上段からの一撃で戦車を真っ二つにするSteife機。その横に着地するウルファ機。
「さて、我も柩……『風狼』で暴れるとしようかの」
黒くしなやかなボディにピンとたった狼耳のようなアンテナ。纏う魔力がエネルギー体の尾となって背後にゆらめき、バガンと外れたバックパックが狼型のオプションユニットへと変形した。
「戦争に犠牲は付き物、じゃがな、犠牲が少ない方がいいという願いもまた、付き物じゃて」
掲げた『風狼』が空に紋章を描き、無数の魔力爆撃を開始。飛び出す狼型ユニットが敵機へと食らいつく。
そこへ雀青の操る『フリオーソ』が突撃。
「では、踊ろうか?」
白と黒の太い腕と、それに不釣り合いな細い身体。山羊の如き角飾りがキラリと光り、(相対的に)針のように細く見える足でダンサーのようなステップを踏んだ。
両腕に宿した力が武装を生み出し、前奏たる赤の剣。そして輪舞する青の大鎌を召喚。動きをとめられた敵機を大回転斬りによって破壊し、爆発させる。
「ほんの遊び心だ、悪く思うなよ?」
まるでショーダンサーのように胸に手を当て、礼の姿勢をとるフリオーソ。
「チッ、数が多いからなんだ。鉄屑に変えてやれ!」
そんな呼びかけと共に敵陣より現れたのは黄金の巨人。もといエクスギアエクスであった。ザックス・ザンバーという将軍の乗る専用機だ。両手にそれぞれ巨大なグレートソードを握ったすさまじい機体である。
その横を量産型エクスギア『正士』たちがサブマシンガンや斧を構えて整列。
――したところへ。
「エネルギー残量確認、異常なし。
武装展開、統制に異常検知されず。
ブースト点火。当機体『キョウシン』発進します」
アンジェラの『キョウシン』が上空へと現れた。
背部の飛行用ブースターが翼を展開し、両手に握った大型ライフルと肩から伸びた大砲がザックスたちへと向けられる。
「な――っ! レーダーには無かったぞ、いつの間に!?」
コックピット内のアンジェラはバイザーに無数のマーカーを表示、そのすべてを高速で認識すると……。
「『ストレンジバグ』――ファイア」
一斉射撃を解き放った。
無論、一機からだけの射撃ではすまない。
「おはようございます、当機はIJ0854、貴方の健康を守ります」
空に二本の雲のラインを描きながら高速で接近してきたIJ0854専用機が四連装ガトリングガンと特殊弾を一斉発射。
「問題(ノイズ)ありません。戦闘を(ノイズ)続行します」
「ぐおお……!?」
剣を交差して防御を固めるザックス機。
「ロボットがロボットに乗ってロボットと戦う……浪漫デース。うるふの装備を再現してるのも嬉しい所デス、まーお洒落さん!」
うるふは専用エクスギアのコックピット内で両手をグーパーさせ、ニッと歯を見せて笑う。直接接続によって精密なコントロール能力を有するうるふ専用機はアズールシリーズを摸して作られたという二丁の拳銃型武装を広げるように展開。踊るように弾幕をばらまき、敵量産機部隊へと次々に弾をめりこませていく。
「デカブツ同士で一曲踊ろうぜ!」
すさまじい機動でザックス機の周りを駆け回りながら銃撃を撃ち込みまくるうるふ機。
グレイの操る『マーター』が急速接近。
鮪型殴打武器を両手でしっかりと構えると、センサーでとらえたザックス機めがけて一直線に迫った。
「さあ、仕事と行こう……」
豪快に撃ち込まれたマグロハンマーがザックス機を吹き飛ばす。
さらなる打撃を加えようとする『マーター』を敵量産機たちが押し止めようとするが、振り回したマグロハンマーによって頭部や腕を粉砕されるのみ。
「おー…皆張り切っちゃって…だらだら…がんばろっか。
急いてはことを仕損じる…まぁ、急いた事ないけど」
ルォーグォーシャ=ダラヴァリヲンはお手伝いアリガトと言ってその横を駆け抜けていく。専用機『ツークツヴァンク』である。
亀か幼虫の様な奇怪なフォルムをしているが、足の下に展開したローラーによって素早く進み、そしてキメるべき時にキメるための砲を備える。まさにルォーグォーシャ=ダラヴァリヲンのための機体だった。
「チャンス到来…敵エースの動きを止めて袋叩きだ…」
電磁ネット弾を発射。つい防御してしまったザックス機は建物の壁に押しつけるかたちで動きをとめられ――。
「『シルヴァーグローリー』、行きます!」
太陽を背に飛び上がった天使のごとき機体が、弓を構える。
まるで本物のような白翼を備え、白き鎧に包まれた女騎士のごときハウメア専用機である。
「まったく、大型ロボで暴れられるからと言って皆はしゃぎ過ぎですね?
確かにこんな機会は滅多にないので、気持ちはわかりますが……私もちょっと楽しいですし」
コックピット内でぽそっと囁くと、操作レバーについたトリガーをひいた。
『シルヴァーグローリー』の放つエネルギーの矢がザックス機を貫き、鋼の音を鳴らす。
「チェックメイト、ですよ」
「ばかな……この機体が……」
「「隊長!」」
敵量産機たちが更に集まり、一斉射撃を仕掛けてくる。
が、そんな彼らに対抗して飛び出したのはリュート専用機『オーバードラゴン』。
まるで龍人のようなクローと頭部パーツを備えたそれは、敵の弾を自らの身体で受けた。
そして……。
「反撃だー!」
ドラゴン形態へとフォームチェンジした『オーバードラゴン』が、頭部ユニットを開き主砲を露出。
「ドラゴン、ブレスー!」
放たれた灼熱の魔炎が敵機の集団を包み込む。
更にフォルティアの機体が迫る。ザックス機を護るように並んだ量産機たち相手に、七色に輝く聖晶の翼を広げて加速した。
「プリズムウイング、フルバースト!」
地面すれすれをすさまじい速度で飛行するフォルティア機。広げた翼から放たれた阿弥陀籤めいた複雑な光線が量産機たちへ突き刺さり、爆破。
そのまま翼を分離させスザァっと着地すると、今までの勢いをつけた翼が巨大な剣となってザックス機を貫き爆発させた。
「まだ戦える? まとめて補給するよ!」
なんて、余裕そうに振り向くフォルティア機に、七色の翼が戻っていく。
「一方的だな……」
事務担当であるMercleinが整備ユニットへとやってきて、本型のデジタル端末片手に様子を眺めている。Mercleinの仕事は今ではなく、戦う前と後にある。だからこそ、今は観察こそが重要なのだ。
「そう見えるのは最初だけだぜ」
そんな事務官に答えたのは、イルミナだった。
油がとびまくったツナギをきてスパナを手に持った姿である。いかにも敵陣に突っ込んでいきそうな彼女には珍しく、彼女の役割は整備士であった。
「見な、ゼシュテリウスも量産機を大量に出してるが、その殆どがやられて帰ってる」
親指をさしてみせるのは白い量産機『百合華』である。ライフルは完全に破壊され、装甲もあちこちが崩れて落ちている。右肩部に至っては完全に壊れ接続部が丸見えになっており、顔面の装甲も半分がイカれて火花を出していた。パイロットは既に離脱し、イルミナの指示で休憩に入っている。
艦内運搬係であるハンナがロロン・ホウエンを連れてやってきて、大量のおにぎりやお弁当をそんなスタッフたちに配っている。
『これだけ巨大な兵器には興味があるわね』と言ってギアバジリカ各所を整備してまわっているロロン。ハンナはそれとは別に、Mercleinやイルミナへとおにぎり弁当を差し出した。
主に荷車を羊の姿で運んで、現場についたら人型になって配り、もうなんか眠すぎる人がいたら枕になってあげるという天使っぷりであった。
「人手は幾らあってもいい、という事でしたので手伝いに参りましたが……すごい所に来てしまいました!」
寝かせたエクスギアエクスの下からシュッと出てくる樹里。小柄な身体を活かして整備員をつとめているようだ。イラスト化ボイス化が楽しみなようじょである。
整備を追えたエクスギアが立ち上がり、振り返る。
「いってらっしゃい」
工兵ようじょ樹里がスパナを持った手で敬礼すれば、エクスギアはビッと敬礼を返した。
一方で、既に何機も破壊されてしまっていたダイダロスを蕭条が尾びれでぺしぺし叩いて修理していた。普通コレじゃ治らないが、治せちゃうのが蕭条の凄いところである。
「そいやっ! ……っと、これでよし」
「うーん、全然参考にならないテクニック……!」
観察していたアオイが苦笑し、そしてマニュアル片手に隣のダイダロスの整備を始める。案外やってみると分かるもので、作戦前にうけたレクチャーと訓練によって特定の機体だけは充分に整備できるようになっていた。
故障したパーツを取り外し、取り付ける。
「メカの整備って男のロマンだよねえ」
とはいいつつ、これだけ壊れた機体が既に何機も出ているのは問題だ。『死んで帰ってこない』よりずっといいが……。
「強力な敵が出てきた、ってことなのかな」
「おそらくは……」
戦いにヒーラーが重要であるように、ロボットバトルでは整備士が重要だ。次々に帰還してくる壊れた味方機。イルミナたちはそれにかけより、できるだけ素早く送り出すべくスパナを握りしめる。
と、その時。
クハシヤが整備ユニットへと駆け込んできた。同時に『警戒態勢』を知らせるランプとブザーが鳴り響く。
「皆さんっ、中央より伝令です……」
クハシヤはこの戦いに加わり、雑用係として様々なユニットで重宝された人材だ。そんなクハシヤが『伝令』として飛び込んできたということは、それだけ緊急性があるということだろう。
面を付けた白犬を抱っこし、声を張る。
「側面3時方向より、敵襲。ギアバジリカへの侵入を試みています……っ」
●go ahead
『は~いお集り頂いた勇気ある強者ご一行様お初にお目にかかるっすよ!』
ギアバジリカ艦内に響き渡る声。VIVI・IXのものである。
エクスギアの発射態勢が整うまでの僅かな間、中央コントロールデッキのオペレーション講壇からVIVIはマイクに向けて呼びかけていた。腰にリング状のエネルギー体が装着されることで体勢が固定されているが、これがなければギアバジリカの揺れ一つで壁面に叩きつけられていたかもしれない。
「今回皆様のお耳の恋人兼オペレーターを勤めさせて頂く VIVI・IXっす!
気軽にヴィヴィちゃんって呼んでくださいっすよ♪
ウチは今回この戦いを全員が無事に生き残りその手に勝利を掴む為のお手伝いをさせて貰うっす!」
「全員!しっかり”ただいま”を言いに帰ってくるっすよ!!」
ショッケンの『発棺!』の命令に合わせ、VIVIは赤いボタンを拳で叩き押した。
無数の砲身から一斉に、そして連続で発射されるエクスギア。
空中で十字に開いたそれが大地へ突き刺さり、ギアバジリカ内部へ侵入しようと迫るシャドーレギオン軍の前に並ぶ。
そして、すべての棺の蓋がバガッと展開した。
「っしゃあ、出番だぜ!」
一番槍で飛び出したのはトモコ・ザ・バーバリアン。そばに控えていた美少年従者デルさんに手をかざすと、デルさんは巨大な石斧へと変身。回転してトモコの手に収まった。
「貴様……まさかノーザンキングスの英雄トモコ……? いや……」
「おうとも違うとも。けど、アタシはきっとアイツより強いぜェ!?」
吼えると同時に殴りかかる。
斧の一撃が咄嗟に構えた相手の盾を粉砕、相手の肉体も粉砕し地面もついでに粉砕した。
その横をロードが駆け抜け、力の塊を弾幕のようにまき散らす。
「くくっ俺は1人でも大丈夫! なぜなら1人ではないからだ! なあ! ねこ!」
バッと振り返るとくろくてはねのはえたかわいくてむがいなねこたんが『オアー』て低い声を出した。なんか贔屓の野球チームが負けたから機嫌が悪いらしい。
「……まあいいか!」
ロードはサングラスのブリッジ部分を親指で押さえると、弾幕を更に形成。ぶっ放す。
シャドーレギオンがいかに英雄達のコピー体であったとしても、所詮は昨日今日作り出された模造品。ロードたちイレギュラーズ単騎の力はそれを上回っていた。
「さて、水龍神様の初陣といこうか。安心しろ、すぐにこの世界には慣れるさ。
少しばかり耐えていろ、他の単独防衛の場所を片付ける」
ヴラノス・イグナシオとソーマが並んで敵陣を駆け抜け、そしてソーマは力ある声を放った。
突き抜けるように穿たれた声がシャドーレギオンたちを弱らせ、そこへヴラノスが手を突き出す。
鳳陣・封禍刹牙憑、虎陣・飛躍華猟嵐。その二つの力をうけ――一陣・双華散天が解き放たれる。
暁月を散らすかの如く穿たれた力の奔流がシャドーレギオンたちを今度こそ壊滅させていく。
「ソーマは危険になったら迷わず下がれ、自分の命を大切にしろ。お前の仕事は今、生き残ることだ」
ちらりと見たソーマは、ヴラノスに頷いて返した。
今結成されているのはイレギュラーズだけのチームだ。本来ならイレギュラーズを小隊長にして部隊をそれぞれにつけ指揮させるところだが、単独またはペアで戦うほうが効果的な者も多い。ローレットは元々、そういう組織だ。
「こちら天使の宅配便♪ 皆さんに戦場の傘もといユグゴトさんをお届けです♪」
空を飛び現れたアカネが、抱えていたユグゴト・ツァンを敵陣のど真ん中へと投下。
ドンと大地に突き刺さった七腕の怪物は、初手からの本気モードである。
「お母さんよ――おいで」
蠱惑的なまでにおぞましく魅惑的なまでに狂おしい声で呼びかけ、味方へ撃ち込まれる銃弾や斬撃を受け止めそして振り払う。
そこへアカネも降下し、傘を広げて防御を展開した。
「皆さん、今です!」
味方への被害が一時的にやんだ、その瞬間を彼らは逃さない。
「シャドーレギオンの簡易版? だったか それでも誰かの願いの欠片なんだろ 好き勝手使われてんじゃねぇよ!」
「久しぶりの単独行動、思う存分楽しませていただきましょう」
Sakuraとセフィが敵陣へと飛び込み、次々と蹴散らしていく。
「乗れるロボットにも興味はあったけど……とりあえずまたの機会に乗るとして、さっさと終わらせてしまおう」
「壮観だね壮観だね! ここまでいっぱい敵がいるとすっごくワクワクしてくるね!」
一方でアウラとルインが遠距離から射撃、砲撃。
電探で敵の存在を感知した武野ミカが物陰から飛び出し雷光一閃を放つと同時に、レイスと神谷マリアが崩れた敵陣へと更に踏み込んでいく。
「よ、要塞とかロボットとか……しっちゃかめっちゃかで凄い戦場だね……?」
「そもそもにゃーは怪盗でファンタジーな生き物なのにゃ、後ろでサボってのんびりしてる方が……」
シャドーレギオンたちに爪をたて、ブラッドカーニバルを解き放つ神谷マリア。
レイスは浮遊する複数の剣から魔力を噴射し、シャドーレギオンたちを貫いていった。
「馬鹿な……たった1小隊規模で最前衛部隊を突破したというのか……!?」
シャドーレギオンのゼクス・ゼンベリン将軍は部下からの報告に思わず身を震わせた。彼のオリジナルはかつて鉄帝北部を相手取った侵略戦争の際に優れた指揮によって数々の領土を奪っていった猛者である。それは偽物として作られた状態でも発揮されているが……。
「特異運命座標(イレギュラーズ)なる存在がこれほど強力な『個』であるとは……侮っていたぞ!」
馬上から叫ぶゼクス。
エーミールはそんな彼に対し、剣を構えてにやりと笑った。武装満載の味方部隊が彼を護るように展開し、一斉に射撃を開始する。
「私は影! 皆様の戦いを支援するために動くだけの影ですから!
表に立つ事は殆どありませんよ!
……表に立ちたいと思ったことはありますけど、ね!」
スッと味方部隊の中に隠れて消えてしまったエーミールの一方、バリバリ前に出たのがきうりん&アルヤンであった。
「攻撃は最大の防御っす! 敵がこっちに来る前にやってしまえばなんの問題もなく『防衛』っすよ!」
「私はワンマンアーミーだぜ! だよねきうり(馬)!!」
「KIURYYYYYYYYYYYYYY!!」
突撃するパンジャンときうり馬。ヒィッて叫ぶ兵士たちを二人(?)はすさまじく蹂躙していく。
地上からとりつきギアバジリカ内部へ侵入しようというゼクス将軍の作戦は、こうして――。
「今だ! 私ごとやれー!!!」
「えっ」
きうりんたちの自爆覚悟(というかほぼ自爆)の大爆撃によって壊滅したのであった。
ギアバジリカ本体への侵入を図る敵軍に対し、防御を固めるギアバジリカ。
歩く食パンたち『デコギア』チームは魔力のこもったデコレーションをギアバジリカのあちこちに施すことでS2障壁の性能を高めていた。
もちろん、戦う最中にも様々な理由ではげおちてしまうのでデコレーションを高めたり直したりを繰り返すのだが……。
「仲間と一緒に力を合わせてえいえいお。
可愛くて強〜いギアバジリカにしましょうねえ」
そう語る歩く食パンはおっきな目や三角形を描いて(〇△〇)な顔文字を感性させ、ギアバジリカの正面ユニットに変な迫力をもたせている。
ぷかぷかくんも一緒にあちこちを回り、側面方向に沢山パイプを生やしたりとげとげにしたりして迫力をつけている。パイプから煙が噴き上がるせいか、迫力というよりなんだかパレードのゴンドラめいたワクワク感が高まったが……そのおかげでS2障壁は力を増しているらしい。
「お絵描きとか、こういう工作とか……。
思いを籠めるのは、きっとだいじ」
その証拠に。振り返ってみればギアバジリカへ突入をしかけようと突っ込んできた飛行ダイダロスが障壁に阻まれて爆発していた。
そう、これはアダムの知っている『可愛さの魔法』なのだ。
人を殺す兵器ではなく、仲間を護る盾として、この魔法は使われているのだ。
「機械って言ったらおもちゃのことしかわからないし……。
権力争い? とか難しいこともよくわからないけど、でも!
これ以上ここで好き勝手はさせられないってことは、俺にもわかるよ!」
でっかいクレヨンを振りかざすアダム。アダムのかき上げたウサギのお姫様やチームの皆の絵が、魔法になって障壁に力を送っている。
一方で、(割と最近手に入った)くまさんパワードスーツに乗って機材を運んでいたベルが、仲間達のデコレーション道具を配っていく。
側面装甲を強化するために、魚の鱗のように七色のパネルが既に沢山設置してある。
「一つのパーツは、とっても小さくても、たくさん集まったら、とっても強くなるって、ベルは思いました」
デコレーションの修復を追えたベルが、パワードスーツをとてとてさせながら艦内へと帰還。ポケットからおやつを取り出して仲間達へと配った。
「それでは、休憩に、しましょう」
戦いはまだまだ続く。城は、まだ遠い。
そんなスタッフたちの気持ちを鼓舞するためにだろう。
艦内にトリスの歌が響き渡った。
中央オペレーションデッキとは別に用意されたコンサートホール型ユニットで演奏を開始したトリス。
(派手というか何というか……まさか頼みの綱がギアバジリカなんてシチュエーションが来る日が来ようとは)
「不肖トリス・ラクトアイス、歌います!」
構えたエレキギターをかき鳴らす。
希望の歌が、ギアバジリカの足を更に強く踏みしめさせるのを感じた。
●世界のバグと進撃の要塞
三脚のついたカメラがあった。公園の一角に立っていた。
大きな湖と、そのむこうにそびえ立つ城を撮影するためのものだった。
もしかしたら一番手前に何人かが一緒に映り込むつもりだったのだろうか。しかしそこには誰もおらず、溶けきったソフトクリームとコーンだけがむなしく落ち、その様子をカメラだけが寂しく見つめている。
そんな風景に、巨人の脚が突き立った。ソフトクリームもコーンも、足下にひかれた『記念撮影はこちら』の線も、すべてを踏み潰す脚はイズル専用エクスギアエクス『Tブレイカー』のものである。そしてスラスターによるジャンプを終え、湖に足首までつかる形で着地したツルギ専用機『ハウントγ』のもの。
カメラは倒れ、ひび割れた視界でそれを捕らえる。
はるか彼方、ピンク色の城通称『ディアナキャッスル』より発生した無数の大砲。そこから打ち出される棺型強襲装置エクスギア――否、その高機動戦闘拡張パッケージ群。はるか空高くで展開し変形し、人型を形作ったそれらは湖へと落ちる前にフライトユニットと合体。ステルス戦闘機めいた翼がスラスターを発光させ空を飛び始めると、Tブレイカーは空を見上げた。
華奢な人型シルエットは素早く飛行形態へと変形し、華麗なターンをみせてからハウントγのバックパックユニットとして合体した。
白銀で流線型のハウントγに翼が加わったかのようなその姿。内ではコックピットが拡張され、ツルギが左ハンドル――イズルがその助手席に滑り込むような格好になった。
「貴方のDARKをお持ちなさい。全て喰らい尽くして差し上げます! 冥響合体ッ! GO! ミコマデリオンッッ!」
空へと舞い上がった彼らはゲーミングカラーに輝き、突き出した腕より激しい弾幕を放つ。
彼らの射撃によってフライトユニットを喪失した敵量産機群『正士』。赤くトゲのあるシルエットの彼らは湖へ転落するも、すぐに戦闘を続行――しようとした瞬間。
「ナイトダイバァアー! 出撃(show time)!!」
すぐ近くまで接近していたギアバジリカのカタパルトから崎守ナイト専用機『ナイトダイバー』が出撃し、ギアバジリカのはるか高くより飛び降り風をうけていた彼を光のビームで胸のコアへ吸い込む形で搭乗させた。夜を纏った様な深い青のスーパー系エクスギアエクスだ。
「一機ずつ撃墜してちゃ拉致があかねぇ! シトリン、合体技だ!」
そう言って呼び出されたのは同じくカタパルトから発進したシトリン専用機『オレンジ・ジェット』。女性的なオレンジカラーのそれ……はまだシトリンが搭乗していなかった。というよりギアバジリカの上に立っていた。
「ここから飛び降りるのお!? ナイト社長!
男気……じゃなかった。女は度胸!
えーい! ミラクルチェンジ!」
魔法少女に変身し滑り込むように搭乗すると、四腕をもつナイトダイバーの手をしっかり掴むことでお互いを発光。
「陰陽呪術・黄水晶光波!!」
湖から射撃を行う敵量産機たちめがけ黄金の奔流を叩きつけると、そのすべてを破壊し尽くし大きな水柱をあげさせた。
その一方では、ルチアナがピンクカラーの可愛らしい機体を滅茶苦茶に暴れさせていた。大きく厳ついライフルを振り回して打ちまくっているようだ。
「おじさま! わたし何で遠くからの攻撃しかできないの!
ええと……おじさまに当てないように頑張るけど、うまく逃げてね!!」
滅茶苦茶に乱射するルチアナ機。
対してグレイシアは冷製そうだった。漆黒の重装甲に赤いエネルギーラインをもつ彼のエクスギアは腰部に収納していた刀の柄状の装備を取り出すと、光の刀身を出現させた。
「それを吾輩に聞かれても…な。
まぁ、少しずつ慣れていけば良い…実戦とは言え、ゲームなのだからな」
フレンドリーファイアを受けないように努力しよう、などとクールに言いながらも、上手にルチアナの射線に入らないように駆け回り接近しようとする敵機を次々に切り裂いて行く。
そんな彼らの前に現れたのは――。
「報告であります! コンバルグ国際闘技場が変異! 小型のディアナキャッスルになっているでありますぅっ!」
めちゃめちゃ初期アバターのまま銃座についていたゼストが、伝声管に向けて大声で叫んだ。
彼の位置からはよく見える。空間が激しいグリッジノイズに襲われたと思った途端、闘技場が小型の城へと変化。そして城はピンクの蜘蛛足を生やして立ち上がったのだ。
そして、こちらめがけて突っ込んでくるではないか。
「うおおおおおおクソッタレェェェェでまりますうううう!」
機関銃を撃ちまくり牽制を始めるゼスト。
はるか遠くから見れば、ギアバジリカから突き出す無数の透明球体のひとつ。担当しているのはエクスギアエクスを蜂の巣にできるような大型機関銃である。
それでも、相手はあまりに巨大であった。
「お任せなのです! 仮称マルチキャッスルへ攻撃するのですよ!」
そんなときカタパルトから発進したのはミルフィーユ専用エクスギアエクス。そしてトルテ専用エクスギアエクスの二機だった。
漆黒に紫なカラーリングを持ち、頭上に浮かべた黒いエネルギーリングに吊られるような形で飛行するミルフィーユ機。
カタパルトによる射出の勢いのまま突っ込むことにしたトルテ機が振り返る。こちらはギアバジリカに多く搭載されている標準的な機体をトルテらしくカスタムしたものだ。百合華トルテカスタムとでも言うべきだろうか。
「お前ロボット知ってるのか?」
「最近漫画で読んだのです! ROOで役立つって、佐伯研究室で!」
そう言いながら巨大なレイピアを背より取り外し、美しく輝かせる。
「成程。じゃあいっちょ頑張ってみますかね。ああでも、あんま傍から離れんなよ?」
一方でトルテ機は巨大なエネルギーの壁をライオットシールドのように展開すると、マルチキャッスルから弧を描いて放たれる射撃を防御。そのままの勢いでミルフィーユのレイピアを敵マルチキャッスルへと突き立てた。
が、相手の力はかなりのものだったようで激しく振り回されている。
しがみつく味方機を排除しようとしたのか、マルチキャッスルからピンク色の堕天使型エクスギアエクスが四体同時に出撃。槍を構え、その側面からエネルギー弾を発砲してきた。
「敵の新型機――なら、ボクたちの出番だね! チーム奏甲、行くよ!」
ブラワー専用機『ブラワー・ヒンメル』。
スリムな人型で水色と白の青空イメージした、なによりカワイイその機体が先陣を切る形でギアバジリカより発進。
大空に浮かび魔道マルチスピーカーを膝や肩や胸から同時展開すると、ブラワーオリジナルのアイドルソングを歌い始めた。
「さぁ戦場のみんな、ボクの歌を聞け―!」
その勢いに乗る形で次々に出撃するチーム。
アイシスの『アイス・ローズ』が蒼白いバラ型のビットを展開し広域へ向けると、アイシスの歌を響かせる。
「ああ、皆様も素晴らしい歌声を響かせてますが私も負けていられません、この戦場で私の歌を聞く味方がいる以上この命尽きるその瞬間まで歌わせて頂きます」
更にカナタのエクスギアエクスが前へと飛び出し、サイリウムのように輝く剣を両手に握った。
「サポートは任せて!」
踊るように斬りかかるカナタ機。その後方に着地したフィーネ機が武装を展開。
こちらは四足ユニコーン型のエクスギアエクス。頭部のツノ型アンテナが周囲の味方機や要救助者へのレーダーとして機能し、腹部から展開したヒールバレットが機体の修復を行うという優秀な支援機だ。
「怪我人は任せてください! ファントムさん、オウェードさん、ドスコイさん!」
フィーネの呼びかけをうけ、その左右を走っていくのはファントム専用機とオウェード専用機。
黒い細身に紫のラインをもち、指輪のような武装をハンドマニピュレーターに装着したファントム機とは対照的に、オウェード機は重厚なフルプレートアーマーのような装甲と両手に握ったヒートアックスという堅実な機体だ。
「ロボは使い慣れてないが、何とかなるでしょ! 危なくなったら俺を盾に使っても良いぜ!」
そう言って敵の新型めがけて斬りかかるオウェード機。
「ガハハッ! 俺がコンサートスタッフをやるのもまた面白いぜー!」
「支援なら任せなさい!
無限に力を供給してあげるわ。救急遊撃部隊出動よ!」
ファントムは手を突き出すような格好でブーストされた魔術兵器を発動。
オウェードの斬りかかった敵機へと赤い花弁のようなホーミングマジックミサイルを連射。
「ワタシたちなら出来る! ええ、一緒に!叫びなさい!」
そこへ参戦しようとしたピンクの敵機だが――。
フラッシュドスコイの専用機『フラッシュフラッシュ』が思い切り激突。
オレンジとグリーンのカラーリングをしたアメフト選手のような機敏かつどっしりとバランスのとれた機体のタックルはさすがに答えたようで、敵機は吹き飛ばされてマルチキャッスルへと激突した。
「仲間の歌声を聞こえると力がどんどん湧いてくる! よーし! ボクも頑張るぞー! おりゃりゃー!」
拳状の両手を突き出すとビームが発射され、激突した敵機へと追撃をしかけていく。
残るはピンクの新型一機だけだ。
シャープなフォルムのそれは槍を握ってギアバジリカへと一直線に突撃。
『中央デッキを狙っているぞ! 誰か――』
ショッケンのどこかテンパった叫びに、パッとモニターや計器類の灯りに照らされたスティアの横顔が答えた。
「私達が抑えるよ。ね、サクラちゃん!」
「うん、いこうスティアちゃん!」
同じくコックピット内で顔をあげ、笑みを浮かべる桜。
二台のカタパルトから同時に発進する姿勢をとる二機のエクスギアエクス。
「桜――『桜花』、出る!」
「スティア――セラフィム、出撃するよ!」
飛び出したのは翼のはえた天使のような『セラフィム』と超巨大太刀リトルクロウを装備した桜色の騎士風機体『桜花』。
相手の突撃に対抗するように突っ込んだ『セラフィム』の体当たりは、氷の魔術が刀身に付与された魔術兵器エクスギアエクス専用超硬度カトラス『散華EX』と『月天EX』による交差斬りによるものだ。
そこへ、カタパルト発射の勢いで飛びかかった『桜花』のリトルクロウがたたき込まれる。
「名付けて――」
「「重ね氷華!」」
大空に、爆発が起こる。
マルチキャッスルによる攻撃はそれだけでは終わらなかった。
攻撃するこちらのエクスギアエクス部隊を突っ切るようにして走り出したマルチキャッスルが、首都中心へと突進するギアバジリカへと迫る。
丁度側面からタックルするような格好になるだろうが……。
「速度をあげろ! ――機関部!」
伝声管に向けてショッケンが叫ぶと、機関室で祈りの力を集めていた久治良が空中に手をかざすことでその出力をコントロールした。
「了解。詠唱機関(セイクリッドエンジン)、出力70%。これ以上は危ないよ?」
目の前の巨大な光のクリスタルが発光を増し、まるで心臓を早めたかのようにギアバジリカはその動きを加速させた。
が、そこへ迫るのは無数の汽車。
首都を巡る鉄道環状線のレール上を踏んだギアバジリカの脚めがけ、汽車が思い切り激突したのだ。物理法則に従って頭をあげ僅かに駆け上がるような姿勢になった汽車が、突然爆発。内部に仕込まれた大量の爆弾を爆ぜさせたのだ。
更に近くにあった高層ビルの根元が爆発し、建物そのものが倒れギアバジリカへとのしかかる。
転倒する程ではないが、その動きを弱めるには充分だ。
更に最悪なのは、地下に潜んでいたであろう敵量産機群および多段式ミサイルポット型ダイダロスが次々に道路の下からせり上がるように出現。
一斉攻撃を開始したのだ。
「マズイ――第六エクスギアエクス部隊出撃!」
ショッケンの叫びに答えるように――モモカリバー専用機、ロスヴァイセ機『ワルキューレ』、黝専用機、エステル機『マギアギア』が一斉出撃。
「我が名は"桃剣舞皇"モモカリバー! この危機を救うために力を貸そう!」
大剣で斬りかかるモモカリバー機と剣に星空を浮かべて切り裂く『ワルキューレ』。
黝機は五寸釘型兵器を撃ち込み『マギアギア』は槍もつ銀の機体で振り払う。
更にウルリカ専用機『フォーセブン』が出撃。
硬化軽装甲格闘機である『フォーセブン』はその拳でもって敵量産機を一撃のもと殴り倒した。
「たとえここが仮想現実と呼ばれるものだとしても。無闇に犠牲を増やしたくはないのですよねぇ」
更にユリウス専用機がモーニングスターを振り回し、敵ダイダロスをなぎ払う。
「ふははははー! すごいぞかっこいいぞー!!
初めて機体に乗る時は全裸の方が良いって聞いたけど気のせいかな」
リカナ専用機『デビジェル(仮称)』が空へと飛び上がり、ハイパーロケットランチャーを発射。
「ロボット!あの過去の世界では科学が行き着く先と言われていたロマンの結晶!
ROOでは乗れるのね。戦車よりずっと頼もしいわ」
そこへパトラ専用機『ストリキニーネ』も飛び上がり、腰部から取り外した銃型魔道兵器を突きつける。撃つ先は障害物や周囲の建物。なぜなら、これは敵を穿つ装備ではなく、味方を召喚するための装備なのだから。
「焼き焦がして、シウテクトリ!
射抜いて、オライオン!」
呼び出した怪物や英雄、神的存在たちが敵へ襲いかかる。
そんな中へ満を持して現れたのが――。
「ボクたちの進撃は止めさせない! 邪魔する奴等は薙ぎ倒す!」
カイン専用エクスギアエクス『闘熊(トウユウ)』であった。
巨大なくまのぬいぐるみにすら見えるこの機体。カタパルトから飛び出したと同時にくまウィングを広げて飛行し、くまビームを発射。
「ボクを武装の無いでくの坊だと思うなよ! いきなり必殺くま・光・閃!」
敵機をなぎ払うと、直接つっこんでくまバーニングラッシュを繰り出した。
「驚くのはまだ早い! ボクの連打を受けてみろ! ドヤドヤドヤドヤー!
ボクの戦意が尽きることはなし! 最後まで闘う!」
完膚なきまでに敵機を破壊し尽くした――その時。
突如としてすぐ近くにあったゲルツ・ゲプラー記念館が変異。新たなマルチキャッスルとなって立ち上がると、巨大なカニの腕のごときアームをギアバジリカへと突っ込んだ。
破壊のため……ではない!
「S2障壁突破されました! 第二装甲まで貫通! それに……機関部へ敵兵が侵入しています!」
「あれは破壊兵器なんかじゃない……強襲用突入兵器だ!」
頭を抱え発狂寸前になるショッケンとマカール。
だが、ヴェルスだけは冷静だった。
「落ち着けよ。こういうときこそ、精鋭部隊の出番だろ?」
ヴェルスはパチンと指を鳴らすと、伝声管を引っ張ってきて呼びかけた。
「防衛部隊出撃。一番槍は任せたぞ、Teth」
「――委細承知」
機関部へ、Teth=Steinerはなんと先回りしていた。伸ばした伝声管を手放し、身構える。
「こんだけ図体がデカいヤツを効率的に沈めようと考えた場合。やっぱ、真っ先に狙うのはココだよなあ?」
後ろでは、あまりの衝撃にオーバーヒートをおこしかけた詠唱機関(セイクリッドエンジン)をなだめるミドリの姿があった。
「落ち着いてギアバジリカ。大丈夫、私たちがついてるわ」
優しく介抱するかのように、そして素早く故障した部分を修理していくミドリ。
それを狙おうとした兵士を、Tethは床と壁をすべるような機動で接近し蹴り倒した。
更に続いて突入してくる敵兵たちに全武装を解放する。
「せっかくのお祭り騒ぎだ。ド派手に行こうぜ!!」
無論、この場所に駆けつけたのは彼女だけではない。
「やっぱり居たかシャドーレギオン! 俺の耳はオマエらの動きをバッチリ捉えてンだよ」
突入箇所を耳で確かめていたキサラギが機関室へと飛び込み、狐月三刀流の技で敵兵を切り倒す。
イレギュラーズはそんじょそこらの兵とは比べものにならない価値をもつ。それは戦力的な意味でもだ。
「敵には困らねェが広すぎンだよここは。駆けつけるのに時間がかかっちまったじゃねえか」
「ですが、場所を特定してくれたのは助かりました」
ボーディガーが開いた扉から室内へ飛び込み、遮蔽物に身を隠しながら砲撃を開始。
敵兵が爆発によって吹き飛んでいくのをチラリと見てから、近くの伝声管を掴んだ。
「数が少なすぎる。敵の侵入がここだけとは思えません。別働隊に連絡を――」
ボーディガーの読み通り、敵はカニ腕から直接乗り込むだけでなくマルチキャッスルに備えた飛行タイプのダイダロスを複数発進させ、まるで開口ドリルのような先端部でギアバジリカ各所へと侵入を開始していたのだった。
これによってギアバジリカ内部はズタズタにされてしまうのか……?
否!
「HAHAHA、戦争なんてくだらねえ! ミーの歌を聴いていきな!
あ? オマエ本当は絶対戦争大好きだろって? HAHAHA、そいつは言わねえお約束さ!
今のミーはロックンローラーだからな!」
居住区へ侵入していた敵兵に向けてコンサートを開始するアーロン。
「さあ行くぞ。我らが身が千々に裂かれようとも敵にはそれ以上の畏れを、恐怖を植え付けてやろうではないか!」
魂を揺さぶるミュージックが敵兵を襲う一方、通路を突っ走るベルンハルトが敵兵へと襲いかかった。
「容易に事を進ませようとは笑わせる。此処を抜けたくば我が牙を折ってみせよ!」
押し切ろうとアサルトライフルによる連射をしかけてくる敵兵だが、ベルンハルトはそれをかわして相手を爪と牙とそして咢で屠っていく。
『ワレラ、コノ地ノ守護者ニ非ズ。
シカシテ、護ルベキ意志ハ尊ブベキデアル』
更に現れたエデンスが両手を合わせ祈るような姿勢で通路に陣取った。
『コレラ、守ルベキ域ニ侵入スル、不埒者ヨ。汝ノ魂、ワレラガ打チ砕コウ』
生まれたエネルギーシールドが銃弾を弾き、逆に分霊たちが相手の魂を打ち抜いていく。
ギアバジリカは巨大な移動要塞である。兵器としての機能はもちろんのこと、大量の兵士を収容し一定水準以上の生活を可能にする設備が格納されている。いわば『移動する町』だ。理髪店も孤児院もあれば病院もあるし、書店もカレー屋も串カツマリ屋出張点もある。
完全戦闘モードになった今その殆どは防護壁や表層に出ている各種施設によって護られてこそいるが、ダイダロスによって侵入を許した今、その安全は絶対ではない。
そしてそれだけの広大な『移動する町』全域に現状を細かく説明することは難しく――それゆえに
「オイラ達が大活躍ってわけね……ニャ」
エクシルはなじんだ者しか知らないような細いショートカット通路や通常では移動できないような場所を駆け抜け、孤児院エリアへと滑り込む。
そこにはエクシルが面倒を見たことのある子供達やミニツナ缶号も置いてあった。
「みんな! ここは危険だよ! B52シェルターに移動して!」
言うや否や爆発によって吹き飛ぶ壁。
顔前面を覆うガスマスクと黒いヘルメットを被ったパワードスーツの集団が、孤児院エリアへと侵入してきた。
優位を察した兵達が人質を取ろうと動き出した――その時。
突如として現れたAdamが兵のバックパックを突き壊し、破裂させた。
「ハイドレンジャー参上! ハハハ驚いたか!!」
「貴様、どこから――!」
驚き身構える兵士達。だがAdamは余裕そうだ。なぜなら……既に他の味方もこのエリアに誘導していたからだった。
「しゃーっ! 此処は通しませんよ!」
高所の鉄骨から飛び降りてきたムーが着地し、野生の猫のごときポーズで構える。
更にアルヴと楊回も現れ、パワードスーツの集団へと構えた。
(…なんだか…現実世界の決戦よりも…大規模になっているような…?
…この世界で知ることが出来るかもしれない貴重な情報が…この侵攻で潰されてしまうのは非常にマズいね…)
(さて、面白そうだからと来てみたは良いけれど。とりあえずここに来る敵を全滅させたら良いのかしら? あんまり強くはないし、死んじゃっても仕方ないけど。戦闘も久しぶりだし、肩は鈍っているかもしれないわね)
二人はそれぞれ別の事を考えていたが、しかしやるべきことは一致していた。一致していたからこそ即座に連携を可能にした。これこそローレットの強みである。
『白い影』という異能によって気配を消し更に『駆ける狼』の異能によって完全獣化していたアルヴはあえて背後から強襲。パワードスーツの一体を押し倒す。
そこへ楊回が『銀閃』のスキルコマンドを発動。無数の糸を放つと、そのすべてで別のパワードスーツを絡め取っていた。くいっ、と指をひくだけで相手がうめき声をあげる。
「こっちでは私達は死んでも戻れるけれど、この世界で生きるものは死んだらそれまで。なんか悲しいわね」
そうしている間に孤児院のスタッフは子供達を連れてより深いシェルターへと移動。
追いかけようとするパワードスーツ群にアルスが立ち塞がった。
「にゃふ~……巨大な移動要塞とは聞いてたけど、まさかここまでなんて」
『モード・オートパイロット』のコードを走らせることで可愛らしい幻獣少女のロールをしたアルスは、早速『誘惑の噴霧』を発動させた。甘い香りが室内へと立ちこめる。
「アルスちゃんは好き勝手暴れちゃうから、巻き込まれないようにだけ気を付けて……ね!」
ハッとしてガスマスクをおさえた彼らに、飛びかかるアルス。
「今日のアルスちゃんはちょっと怖いからね! 倒れるまで殴るのを辞めないよ!」
「偽物風情に後れを取ると思ったか。私を越えられるなら越えて見よ!」
そこへ追撃を仕掛けたのは漆黒の鎧に身を包んだ白髪の騎士ウーティスであった。
わざと周囲の照明を落とさせた彼は暗視能力をアクティブにし、相手がナイトビジョンを起動させる前に召喚した銀剣で斬り付けた。
そしてナイトビジョンが起動されるであろう瞬間を狙って、潜んでいた天魔殿ノロウへ合図を出す。
一斉に点灯する照明。ナイトビジョン(視界の明度を引き上げる)効果のせいでひどく目のくらんだパワードスーツの集団めがけ、天魔殿ノロウは華麗に飛翔。
「ちーっす、そんでさようなら! オレより先に火事場泥棒しようなんてふてぇ野郎だ!」
天狗走りもさながらの距離を飛び、蹴りを浴びせたのち彼らのガスマスクを剥ぎ取っていく。
予め満たされた甘い霧を吸い込んでしまった彼らは、バタバタと倒れていった。
別のエリアでは軍刀を抜いた軍服姿の集団にアンドレイが己が姿を見せつけていた。
主に腹筋の割れ具合を。
「細けえ事は他の奴らに任せてここで暴れさせてもらうぜ。『鋼鉄』流に脳筋戦法だ、倒れる前に全部ぶっ倒しちまえば勝ちなんだよ!」
あまりに堂々としたオーラ(性的な意味で)を放つ彼に警戒した兵士が斬りかかるも、それを筋肉で防御。そして拳で反撃。
「そして俺様はちっとやそっとじゃ倒れねえぜ!」
ああああとパルフェタムールがそれぞれ参戦し、よろめいた兵士を同時攻撃によって吹き飛ばした。
「せっかくこんなつよつよ巨大兵器で終点まで安全安心で寝てられると思ったのに台無しじゃん…。
進路妨害に不法侵入に安眠妨害とか…」
バール……は無かったのでゲームの没シーンがずっと流れてるウィンドウのあの角んとこあるじゃんあれで相手の目と目の間にガッ。
「3重ギルティ」
ガッとしたままブン。つまるとこ兵達をなんかデカい武器でなぎ払ったのである。
「ううん。この世界に来てまで機械尽くめか……どうにも肌に合わないな。
とは言え愚痴も零してはいられないか。体を慣らすついでに遊ばせてもらおう」
そこへパルフェタムールが禁断の魔法を発動。刃のように鋭く硬化した白羽が大量に飛び出し、相手の兵たちへと突き刺さっていく。
「あぁ、それにしても非実在というのは虚しいものだ。
戦いが終わったら愛しき本物の世界で少し贅沢な食事でも取る事にしようか」
シャドーレギオンとして新規生成された偽物の指揮官コミディオスは苦悩していた。
欺された。巨大な要塞といえど動かしているのは人間ゆえに、内部に入ってしまえば脆いのだと教えた上官を今すぐ殴りたい。
「なに、混沌ほどじゃないけど、こちらでもEXF(死ななさ)は残ってる。
しぶとく生き残り続けて、しぶとく回復を続けよう」
などと舞台役者のように唱えるIsaac。彼はネクタイを直しスーツをたたいてしわを伸ばすと、両腕を広げて首――もとい首が本来あるべき場所に浮いているプリズム体をかしげた。
すると、コミディオスの圧倒していた筈のゼシュテリウス兵たちが立ち上がり、武器を再びとるではないか。
焦った兵がIsaacを狙うも、アバターが激しく損傷しているだけで倒れない。
「仮不死者だ! 【必殺】効果を持つ弾を使え!」
コミディオスが叫ぶと、すぐさまシャナが飛び込んできた。
(ヒイズルばかり気にかけていて、正直、状況を正確に把握しているか不安になるが…。
とはいえ、私が少しでも力になれるのならば行かない理由などない)
特殊弾頭を用意する兵を狙って『歌』をはじめた。
「唯の歌だと思うなよ。この声は、この歌声は、其方の防御すら貫くのだから!」
シャナだけではない。名も無き泥の詩人がぬらりと現れ、余りに堅く頑丈なギターで兵を殴り倒していく。
(ギアバジリカ。あちらではその被害者となったものたちのところに訪れたこともあった。過去の悲劇の産物とこういう形で触れ合うというのは異質すぎて逆に好ましくない。バグと決めつけて本当にいいものか。世界を我々に都合よく見ようとしすぎているのではないか)
そして、血のついたギターを指揮官コミディオスへ突きつける。
「命は投げ捨てるものと知れ。たとえ死んだところで土くれと化すだけだ」
「ヒッ――」
偽物の人形、シャドーレギオンとして作られたとはいえ感情をもつ身。恐怖し逃げ出すのも無理からぬことだ。
そして恐怖ゆえに人質をとり、時には自暴自棄になり凶行に走ることも。
「妾も一度はワンダリングエネミーの真似事をしてみたかったものであるが……」
だが、それをフーは許さない。
危険を嗅ぎつけて現れたフーはスッと手をかざし、蒼火を作り出した。更に雷撃の術を放ち、コミディオスたちをまとめて砲撃する。
「お、俺を殺すのか……!?」
「いや?」
フーは不思議そうに肩をすくめ、首を振る。
「妾の役目は挟撃と足止め。殺す役目は……」
「おれさまだよ」
グドルフがその後ろからヌッと現れ、斧を振り上げた。
悲鳴を上げるコミディオスの顔面にそれは容赦なく振り下ろされた。
「けっ、ショッケンの野郎。こっちだと中々イイ面構えしてやがるぜ。『あっち』だとずいぶんなゲス野郎だったが──まあいいか」
息絶えた相手に食い込んだ斧をひっこぬき、ギラギラとした笑みを浮かべる。
「オラ次行くぜえッ、山賊グドルフさまのお通りだあッ! 道を開けろ雑魚どもォ!!」
●マイスターシンガー
吹き上がる煙と大聖堂を前に、ミズキとあやめは軍旗を突き立てた。
「ゲルツさんの偽物が出る事も、ゲルツさんに害為す何かが生まれる事も私は絶対に許しません!!」
「ミズキ義姉さん、お手伝いお願いします!」
機動力に優れたミズキ小隊(ゲルツ・ゲブラーファンクラブ)と治癒能力に優れたあやめ小隊をあわせたフリージア姉妹機動中隊。
彼女たちは眼前より迫る軍勢めがけ一斉に構えると突撃を開始した。
「敵に本物のゲルツ・ゲブラーさんは居ません。決して曇らない絶対的な正義はこちらにあり! さぁ、行きますよ!」
「大丈夫、私達ならできます!」
激突するディアナシャドーレギオン軍VSゼシュテリウス軍。
ギアバジリカを防衛する軍は大きく分けて二つある。在来線爆弾やトラップ群によって足止めをくらったギアバジリカに対する歩兵の侵略を防ぐべく外部に展開した防衛部隊と、ディアナマルチキャッスルによるダイダロスアタックで内部へ既に侵入してしまった部隊を撃退するための防衛部隊。
ソール・ヴィングトールとイデアによる合同中隊はそのうち外部展開部隊に属していた。
馬を駆る敵指揮官の顔を、ソールは知っていた。
「奴が相手か……グランドール中尉は正面戦闘の戦術に優れる。少々手子摺るぞ」
装着したスーツとガントレット。拳をぶつけるような姿勢で構えると、小銃を構えたソール小隊を背につけた。
「ところで……どうやら君は私のことをようく知っているようだけど、残念ながら私は君が誰なのか皆目見当が付かないのだよ、お嬢さん」
隣を見ると、イデア率いる工兵部隊が構えている。
イデアは肩をすくめて見せた。
「いつもとは逆に今回は私がお膳立てをいたします。あとはお任せしますね。防衛戦なら貴方の方が得意でしょう?」
ソールはマスクの下で顔をしかめたが、味方を疑っても仕方ない。ここは背中を任せるのがよかろう。
「諸君、気軽に行こう。何、死んでも死ぬだけさ。楽しい戦争の方が大事じゃないか」
兵達がソールと共に突撃。的確な発砲によって牽制を始める。
有刺鉄線による防御陣地を組み立てる工兵達を背に、イデアもまた敵兵の撃退に走る。
そこへ加わったのが彗星と瑠璃の合同中隊であった。
防御に優れた兵を集めた両小隊を前に出し、味方への被害を抑えつつ防御陣地の構築を助けるのが今の役目だ。
「今、厨房でこれ以上に美味しい様々なご馳走が作られてるみたい。だから、絶対に全員で帰ろう」
前に出て味方を守り、重傷者を出さないように交代制をはかる彗星。瑠璃はそんな戦いを助ける形で安全な戦いを心がけていた。
(私も彗星も死にたくない。貴方達も死なせない為の方法を選ぶ)
「だから…安心して、ゼシュテリウスの盾になりなさい!」
これらの頑強な部隊に阻まれギアバジリカへの侵入をできずにいたグランドール中隊。しかし伏せていた50人規模の中隊が希薄化させていた気配を露わにし、側面から回り込むようにギアバジリカへと迫った。
「おっと、こっちにも仕事が来たわね」
腕組みをして、借りた軍服の上着を羽織るオルタニア。
「この辺りでいいわね。良い、皆?
アタシ達は、見えた敵を他の皆の射程内まで引き付けて、頭だの関節だの武器を撃ち抜いて、次の攻撃に繋げるのが目的よ。誤射は以ての外、外すのも論外……でも怖がったらダメ」
集めた部隊は射撃に優れたチームだ。土嚢の壁越しに自動小銃を構えた者や、高い場所から狙撃銃を構える者。迫撃砲を備えた者。
彼らがオルタニアの号令を待つ。
「悪い運命ぶち抜く気持ちで引き金を引くの。――さあ、撃って!」
砲撃に塗れる敵部隊。
そこへ追撃を仕掛けるのがろおもこねの部隊だった。
「みー…こみお、バジリカ守りますにゃー!
可愛い猫は強いのですにゃ。
一緒にギアバジリカを守り抜こう、にゃーーーーー!!」
猫系獣種で構成された兵士たちがニャーと雄叫び(?)を上げて飛びかかり、兵達を一人ずつマークし足止めしていく。
最前列に飛び出したろおもこねがねこぱんちで兵を殴り倒した。
「ここは通さないですにゃ、ギアバジリカはやらせませんにゃーーー!!」
「左翼部隊は任せました! 右翼部隊を受け持ちますよ、ティリス小隊の皆さん……!」
そう言って飛び出したのは杖に治癒の魔法を輝かせたティリスと彼女率いるティリス小隊。十字のシンボルが描かれたライオットシールドを構えた彼らが一糸乱れぬ突撃をみせる。
「このギアバジリカが落ちれば、この国の希望は暗い物となるかもしれません……それは認められませんっ。此処が正念場、皆でこの場所を守り抜きましょうっ」
動く壁と化した彼らと敵部隊が正面から激突。杖を地面に突き立て周囲を聖域化したティリスは、吼えるように叫んだ。
「皆さんの背中は私が全力で守ります。皆さんの力を見せてください!」
それでも押し切ろうとする敵中央部隊。
一部の兵達がジェットパックによる跳躍をはじめた――その時。
「皆、行くよ! …全員抜剣!」
氷彗率いる氷彗小隊の面々が突撃。着地を狩る形で剣を抜いた。
聖なる力を剣と鎧に込めたフルプレートの戦士達が、敵中央部隊をその身で押し止める。
「えへへ…皆さん…よろしくね」
こちらに笑顔を向ける兵達に頷き、氷彗は氷の輝きを込めた剣を敵兵めがけて振りかざした――!
「はぁ~、まさかこんな形でギアバジリカに入ることになるとは思わなかったのです。
色々と気になりますがまずはお仕事お仕事、ここを抜かれる事はクエスト的にも私の興味的にもなしなのです。
さあ、誰も通さないのですよ!」
ジェット率いるスナイパー部隊。
「射線を集中させて、カウントします。3,2,1――」
ハイテレパス通信によって敵部隊の接近を知った彼らは気配を希釈するマントを剥ぎ取り、その姿を見せた。
「今なのです!」
集中した射撃を浴びて思わず足を止めたグランドール部隊。そこへダリウス率いる『バンデッド』小隊が出撃。荒くれ共で構成されたタフガイたちだ。
はじめから囮として表に出ていた彼らは笑いながら襲いかかった。
「連中に対して徹底的に嫌がらせすんぞ馬鹿野郎共! 笑え! こんなチンケな攻撃しかしてこねぇような連中がここを落とす所か、屑の俺達も倒せねぇナードだってな!! ギャハハハ!!!」
「チィ――!」
指揮官グランドールは馬を下げ、側近の兵たちがダリウスへと襲いかかる。
「ダイヤモンド小隊出撃! 味方の被害を減らすよ!」
ギアバジリカから一斉発射された十数台のエクスギア。地面に突き刺さるそれから飛び出したダイヤモンドは『金剛不壊の加護』を展開すると、フルプレートの鎧に身を包んだ戦士たちを突撃させる。
突破力に優れるグランドール部隊とはいえこれを突破することは容易ではない。
そして――。
「防御をもう一枚。それと砲撃支援を……!」
サクラ(p3x008799)の小隊が同時に撃ち込まれたエクスギアから現れ出撃。
彼女を指揮官にすえ、ライオットシールドと防護スーツを纏った兵たちが両側面から挟むように突進。グランドール部隊を包み込む。
「誰よりも長く戦うことを優先します。みんなが生き延びることを優先します。
ですから大怪我を負ったものはすぐに下がってください。
あなたの命はもうあなただけのものではないのですから!!」
狙いはもちろん――アメベニ小隊の砲撃を集めるためだ。
「ROOでの私の舞は、共に炎も周囲に舞わせるものです」
地面に突き立てた炎舞如意金箍棒。アメベニはそれを振り上げ回転させると、敵陣中央めがけて突きつけた。
「戦争に溺れてしまえば、争い、勝たねば、幸せになれないと思い込んでしまう。だから私は戦うことが恐ろしい。
……だからこそ、この戦に勝ちましょう! この舞は“日常”の証、私たちが求めるのは、奪い取る幸福でなく、皆と笑いあえる“日々”のはずです! ――砲撃!」
ミサイルランチャーを携行していた兵達が一斉にそれを発射。
弧を描いて飛んだミサイルが敵陣の中央で爆発した。指揮官のグランドールを巻き込んで。
外で爆発が続いている。
その音を聞きながら、黒子は自分用の(カンヅメ用の)執務室から出た。
ちらりと見ると、配備された黒子小隊が整列。命令を待っている。
黒子は頷き、彼らを率いて防衛作戦を開始した。黒子小隊の役目はダイダロスアタックによってギアバジリカ内部へ侵入した兵団の排除である。
「ああ、全く……仮想世界てのはよくわかってねぇですが、戦争がクソってのは変わんねぇな」
右舷備蓄庫を狙ったシャドーレギオン部隊とビャクダン小隊が激突していた。
ビャクダンがその高い機動性と爪による破壊力で敵を倒す間、祖霊の衣を纏った飛行種部隊が精霊で守りを固めながら軍刀を振りかざす兵たちへと体当たりを仕掛けていく。
「敵はあっしが倒します。皆さんは後ろと自分を精一杯守ってくだせぇ、頼りにしてます」
「了解、隊長!」
「ヤバくなったら俺に任せて『一旦』退いて良いからな!
メインディッシュはまだ先だぜ!」
そこへ現れたのはシラス率いる戦士達だった。
四足白銀一対翼のシラスドラゴンによるドラゴンブレスが吹き荒れ、シャドーレギオンたちが吹き飛んでいく。
そこへ首から上が猛牛の男達が一斉に突進していった。
「『猛牛共』とは言ったが、ホントに牛獣種を集めるとはなァ」
ハハ、と笑うシラス。その中にすげー見たことある顔があって背筋が寒くなったが、首を振って忘れた。
「お待たせしました。砲兵部隊、攻撃~!」
空梅雨小隊がトロッコレールに乗って現れ、備蓄庫の物資を守るように展開。
「隊長、応援を!」
「え? が、がんばれぇ~! 一番迎撃数が多かった人には、わたしからご褒美、あげちゃいます♪ …な、なんて」
空梅雨がえへっと困ったように笑うと、副隊長が両目かっぴらいて叫んだ。
「空梅雨隊長が裸エプロン着てくれるらしいぞ!」
「えっ」
「「イエエエエエエエエエエエエエ!!」」
スキンヘッドの黒人達がテンションMAXでロケランを乱射。
そこへトドメとばかりに突入したのはシフォリィ小隊。
ゼシュテリウス軍閥の突撃銃歩兵が、傷跡だらけの顔で目をグワッと見開いて突撃する。
「立ち上がりましょう鋼鉄の戦士達!
今ここで私達が守りきれば他の皆が勝利を掴みます! 私達は彼らが戻ってくる場所を必死に守り抜きましょう!」
銃を乱射し、銃剣で敵兵を突きそのまま壁へと激突させる兵士たち。
度重なる爆発と発砲音の中で、シフォリィは敵指揮官へと迫った。
「こんな戦力、一体どうやって……!」
「地道に戦って集めたのですよ」
白いチェスナイトを召喚し、シンメトリーな動きでレイピアの突きを繰り出す。
「……チェックメイトです!」
有事には中央食堂を除くすべての店舗が閉鎖される。移動要塞が鋼鉄各所を練り歩く際にも兵士達に一定水準以上の暮らしを約束すべく作られたハンバーガーショップや居酒屋もだ。
そんなエリアに配属された梨尾小隊にむけ、梨尾は振り返る。
「小隊の皆さん。
自分は旅人で……極端に言えば部外者ですが、家族や大切な人と別れる苦しみや帰る場所が無くなるとか……過去を思い出すのですっごい嫌なんです」
その言葉に、銀色の毛皮をもつ獅子獣種兵たちが深く頷いた。騒霊の獅子獣人もなんか満足そうに頷いている。
焔傘を掲げる梨尾。
「だから首都を、皆が帰る場所を取り戻す為に、ギアバジリカを、居住区を守る為にも皆さんの力を貸してください!」
「「応!!!!」」
士気を高めた兵達。そこへ、シェルターを破壊したシャドーレギオン軍が突入してきた。
首から上が虎というゴルド・ティーガー中尉率いる猛虎軍だ。
そのコピーといえど、戦力は一流。
「守るのが私のやり方。そして私たちの戦いだよ」
そこへ駆けつけたSiki小隊が側面からの攻撃を開始。揃いの龍モチーフが描かれたバンダナをつけた兵たちが青竜刀を抜き、Sikiを先頭にして斬りかかる。
「上手くいったら、ヴェルス殿から褒めて貰えたりして…!
はっ、今は集中!
鬨の声をあげよ、高らかに!
勝利をこの手に掴むまで!」
戦闘が開始された特別食堂区画。
串カツマリ屋ギアバジリカ出張点の降りたシャッター前で、夢見・マリ家&夢見・ヴァレ家による虹虎夢見中隊は武装を展開した。
「ふふん、拙者の庭にこんな小勢で入り込んできたのが失敗でしたね!
ああいえ、気にしないで下さい。こちらの話ですので」
何か言いました? って顔してるクラースナヤズヴェズダーの司祭たちに両手をふるヴァレ家。
「ふふ! ヴァレ家も張り切っていますし、拙者も負けていられませんね!」
キリッと振り返るマリ家。
率いたブラックタイガー部隊が一斉に超電磁串を構えた。
「総員、砲撃開始!」
「総員、突撃開始!」
ヴァレ家小隊による魔法の一斉砲撃が、突入してきた敵部隊へと降り注ぎ、そこへブラックタイガーたちによる猛虎槍突撃が炸裂した。
敵前衛部隊を崩壊させる……が、敵戦力はこちらより少しだけ、ほんの少しだけ多い。
だが引き下がる必要など無い。
「お待たせ! 合流するよ!」
ホワイティ小隊が別区画の敵部隊を倒したらしく合流してきた。
振り上げた淡光をたたえる剣『サンライズソード』。
「諸君らの働きに期待する、なんてねぇ。うまく行ったら皆でご飯食べよっか!」
ちらりと串カツ屋を横目にみながら、ホワイティは力を溜めた。
敵舞台の指揮官ゴルド・ティーガーが鋼の鎧を鳴らし突撃してくる。
「白き騎士の守り、崩せるものなら崩してみろ……!」
儚い灰色の魔力を纏う大楯『グレイミラージュ』を突き出し、こちらもチャージアタックを繰り出すホワイティ。
激突した力と力が、轟音と火花を生む。
「第三備蓄庫にて、敵兵の迎撃を確認! あとは外の軍勢を押し返すだけだね」
運搬係のトゥリがジェットパックを使ってギアバジリカより降下。仲間の運搬係と一緒に既に展開している防衛部隊へと物資を配り始めていた。
投げてよこしたレーションパックを、リアナルがキャッチする。
チーズ味のブロック状携行食だ。囓るとほろりとくずれ、ほんのりとしたチェダーチーズめいた風味が広がる。小麦を原料にしているが、圧縮が強いためかかなり腹にたまるいい食料だ。弱点は口の中の水分が凄い勢いで持って行かれることである。
トゥリが続けて投げてきたスポーツドリンクのボトルをキャッチし、キャップを開く。
そして思い切り飲み干すと、空のボトルを握りつぶした。
「武を誉とする鋼鉄人であるのなら、死して戦うのだろうけれど……死ねば戦力にはならないものだ。我々の戦いとは英雄を支える事、人の誉こそが我々の誉というものだよ」
リアナル小隊は機動力を重視した部隊だ。三輪バイクやジープを揃え、他の部隊を前線へ送り出す役割もになっている。
「ヴァリフィルド小隊、ミセバヤ小隊、ミミサキ小隊到着。出撃準備よし」
部隊を率いたヴァリフィルドが空へと舞い上がると、ギアバジリカ後方から迫るシャドーレギオン部隊がギアバジリカの脚を狙って攻撃を開始していた。
脚の修理は済み、再び動き出せる状態になった所を更に足止めするつもりなのだろう。
こちらは襲撃側。補給に限りがある以上、足止めをされ続けたら負けるのだ。
「こちらは任せるがよい。ヴァリフィルド隊、続け」
ヴァリフィルドが猛烈な勢いでシャドーレギオン部隊へと攻撃を開始。
一方のミセバヤはリアナル隊のジープに乗り、サブマシンガンを掲げた。
「一番多く敵をボコった兵には【高級野菜食べ放題付きお食事券】を進呈するです。気張っていくですよ、ヤローども!」
「「うおー!」」
野菜でそんなにテンションをあげるのは、兵もみなウサギだからだ。ウサギっていうかウサギ獣種の兵達なのだが、皆ギラギラした目で銃を構えている。
走り出したジープ。それを止めようと襲撃してくる敵飛行種部隊。
射撃によって次々に打ち落とす一方で、バイクの後部収納部よりにゅっと出てきたミミサキが接近してきた兵めがけて拳銃を発砲。突如現れたミミサキによって撃墜された兵を合図がわりに、ミミサキが空に向けて二度発砲した。
「ミミサキステルスタンク部隊、行動開始っス!」
突如バガッと展開したエクスギア群。既に展開しおえたエクスギアに混じって身を潜めていたミミサキ隊が一斉に現れ、こちらの戦力を見誤った敵飛行種部隊に射撃を浴びせ始めた。
「攻撃部隊が分断されています。撤退するべきでは」
鋼鉄国の有能なる指揮官ヤナーは、副官ミチルデの進言に首を振った。
「我らはディアナ様に創造されし軍団。存在する意味もそのいと高き御方がくださったもの。命令は絶対だ」
「死ぬまで戦えと……」
剣を抜くヤナー混合中隊。敗退した兵を再編成して作ったこの部隊は、ギアバジリカを1分でも足止めするために展開した兵である。
そこへ襲いかかるのは――。
「行くよ! みんな! いわしを胸に!」
輝海伝説アトランティスサーディンを振りかざすアンジュ(一番似合ってる装備)が率いるエンジェルイワシライダー部隊。巨大エンジェルイワシに跨がる彼らの目は、副官ミチルデに向けられていた。
「敵は全員いわしを食べる連中だよ。許せないよね。
実際に食べないとか食べるとか関係無いんだよ。
食べるんだよこいつらは」
「確かに」
「イワシを食う目をしている!」
「殺さなきゃ!」
オラァって言いながらイワシブレードをかざし突っ込んでいくアンジュ隊。
「ミチルデー!」
そこへ追撃にかかったのがリエル=ティオールの『大天使懲罰隊』。
飛行種で構成され、青色の翼をモチーフとした腕章をつけた兵達が一斉に襲撃を仕掛ける。
「その武器は帝国を取り戻すための牙。
その防具は帝国の魂を守る神の盾。
異界の神様にもその真剣な心は伝わっているはずっす!」
先陣を切ったのは他ならぬリエル=ティオール。すさまじい速度で敵指揮官ヤナーへ迫ると鋭いナイフさばきによって相手の喉をかききった。
「さあ、作戦の要となる移動要塞を皆で守るっすよ!」
リエルたち最終防衛部隊によって、ギアバジリカへの侵入と内部破壊を目論んでいたシャドーレギオン軍は撃退され、彼らは都市部各所での戦いに合流することになった。
一方のギアバジリカは、ついに都市中心部へと到達。ディアナキャッスルへの突貫を目指す……。
●常在戦場の食堂
「おうおう、凄い事になってんな……こんなに楽しそうならもうちょっと真面目に鍛えておくんだったぜ」
料理が大量に詰め込まれたバックパックを背負う獅門。彼がいるのはギアバジリカ中央食堂。
ギアバジリカで生活する人々は『今日のメシどうする? 食堂? 店?』という日常会話をするが、こと完全決戦モードとなったギアバジリカはすべての出張店舗を防御区画より内側へ格納・閉鎖し比較的表層に食堂エリアを配置する。本来座って食べるべきエリアは獅門のような運搬係に弁当を引き渡す出荷場と化していた。
「敵が侵入したり、敵の本拠地へと突撃したりと大変な状況……こんな時だからこそご飯を食べさせてみんなのやる気を引き出す!」
フェアレイン=グリュックは大量に作り上げたオニギリ、というかそれを詰め込んだ四角いバスケットをドンとテーブルに置いていく。運搬係用にはその場で食えるようにと金属製の皿に並べたおにぎりを並べていた。丁寧なことに中身が見えるようにカットして。
「やはり戦いは士気こそ生命線! では何が必要か?
ま、今更言うまでもなかろう。
そう、それは。
う ど ん じゃ !」
こういうとき全一で輝く天狐が、目をうどんにして(うどんにして!?)振り返った。
テイクアウト用硬質タッパーに包まれたうどんとパック封入したつゆ、そして具材。元々なかったのに『うどんが無きゃ戦えないじゃろ!?』と圧をかけて独自開発したうどん専用容器である。
「美味しいうどん is GOD! 戦場で美味しく生き残るための幸運風水特盛トッピング仕様で提供してやろうぞ!」
それほどの圧ではないが、わーもわーで卵焼きを四角いフライパンでじゅうじゅうやっていた。いわゆるだし巻き卵というやつである。
「お料理ゲームは結構やった事あるんです。えへへ」
ひときれ味見して頷くと、手早くバスケットへと移していく。
直接食堂まで駆けつけてきて喰って帰るという兵もいなくはないが、大抵の兵は持ち場にかじりついている。僅かな交代と休憩の隙を突いてガッと喰うのが主である以上、ガッといける料理が今は好まれた。
「戦う彼らの為に料理を作りましょうか。それなら私達でも手伝えるし、死亡しにくいでしょう……料理は食べる専門なのだけれど」
「イエス、マスター。人形は命令を受理しました」
リンドウと紫苑もそういった料理をこしらえてはバケットに大量に並べていく。
なんといっても兵の数が多い。今温存されている攻撃部隊だけでも400人という規模だ。
作戦前と作戦後、その両方で大量の料理が必要になる。
「人間は食事という行為に、至福の幸福を感じるみたいですので。
戦闘後に美味しいご馳走が待っていると分かっているのならば多少の士気向上は見られるでしょう」
「効率よく作らないとね……」
と言いながらできあがったおにぎりを一口囓る紫苑。
横目で見るリンドウ。
「マスター。摘み食いはしないで下さい」
「あら、リンドウ。これは摘み食いではないわ。毒見よ?」
その横では、シチューを煮込むナナがいた。
「戦いが終わったらこんなご馳走が待ってるって伝えたら。
きっと皆、ご馳走を食べたい!って気持ちで志気が上がったり、死ににくいんじゃないかなって、思うんだ」
「確かにね。好きなものを食べると、元気が出るもの。あと甘い物も」
ドーナツやシュークリームといったおやつを専門に作っているアマトが通りかかる。チョコレートバーだけでは心もすさむだろうというものだ。美味しいおやつは大事だろう。
「それで、何を作ってるの?」
「えっとね、今お肉ゴロゴロのシチューに、色んな具材で握ったお握りに色んなご馳走作ってるの。これ食べずに死んだら絶対に後悔すると思うの」
「もし人手が必要そうな場所がありましたら手伝わせて頂きます」
そこへ手伝いに現れたセレーネ。早速手が足りなかったらしく野菜の皮むきを頼まれ、山と積まれたジャガイモをしゃかしゃかむきはじめた。
「まさかゲームの中でこの様な事をするとは正直思いませんでしたが、これも特異運命座標の戦いの内だというなら是非も無いですね。美味しい物を作りましょう!」
そこへ、攻撃部隊の一部がやってくる。出撃が近いことを察して、何か美味しいものを食べておこうと思ったのかも知れない。
「お帰りなさい! 待っていましたよ!」
カスミがそんな彼らを温かく出迎え、そして料理を振る舞っていく。
(待ってる人がいるだけで、絶対に帰るという気持ちが沸き上がって、必ず帰ってきてくれるはず。そのために……)
これも、戦い方の一つだ。
なぜならこの先、帰れぬ者が少なからずいるのだから。
これがフォウニー・ウォー(いかさま戦争)でもない限り、誰も死なない戦争などありえないのだ。
なら、少しでも生きて帰りたくなるように、そして生きたくなるようにするのが戦いなのだ。
●in the STORM
爆発。吹き荒れる熱とガトリングの回転と鋼の連射。死の舞踏をみせるゼシュテリウス量産型エクスギア百合華がバラバラに砕け、爆発と火花を散らして首都中央王城前の交差点に墜落。馬車の通行を制御するための点灯式信号機がへし折れ、すぐ近くに放置されていた馬車が振動だけで横転した。
展開していた歩兵たちが撤退するなか、振り返る。
ピンク色の水晶をコアとした特別製エクスギアエクス『エレメントドール』がふわりと中に浮かび上がり、水晶型のビットを展開し始めた。
『聖頌姫』ディアナ・K・リリエンルージュが忠実な戦士を手に入れた際に搭乗させる予定で作らせていた機動兵器だ。
それが、あろうことか――。
「20体同時……だと……?」
歯をガチガチと鳴らす兵士。そんな彼を見つけたのだろうか。エレメントドールが右手のライフル一体型のレイピアを突きつけ――た瞬間。
「させねーにゃ!」
ネコモ専用機『ニャンラトテップ』のトゲつきナックルがエレメントドールの顔面に炸裂。更に背部及び脚部のブースターを点火させ強引に近くのビルディングへと叩きつけた。
猫耳のようなアンテナのたった女性的なフォルムをもつニャンラトテップ。
至近距離からナックルを連続で叩きつけ、左腕から展開した猫道拳キャノンをぶっ放す。
エレメントドールごとビルをぶち抜いた光線。
そこへ周囲のエレメントドールが支援するべくレイピアを向けるが、シャルロット機の放つ槍に反応してそれを払い落とした。
「しかしまぁこの力や機体、もしもいずれ伝承に持ち込むならと思うと気が気でないな。先にお嬢様にお伝えするのも、あり、か?」
などと言いながらコックピットでレバーを握りしめ、押し込む。
両腕から赤き爪を展開し、躍りかかる。
「ろ、ろ……ロボットだーーー!かっこいい!!
エクスギアエクスだっけ!すごい、これ動かして良いんだ…!?うわー、わー…夢みたい…!
へへ、それじゃあ思い切りやっちゃおう!」
シャル機も同時に飛びかかり、エクスギアエクス用超硬度カトラスを構えた。ガチンと手元の部分が変形。折りたたまれた剣が広がり、長く巨大な両手剣の形状へと至った。
そのまま斬りかかり、二人がかりとなったことでエレメントドールはレイピアによる防御に専念したが――。
「え、何!? こっちこんな乗り物あるの!? ……最高じゃない?
ともかく!こんなチャンスを逃すなんてボクにはムリ!せっかくだからこの赤い扉を選ぶぜ!」
などとうそぶいたマイルフィックがギアバジリカから出撃。機動戦闘オプションと合体すると専用機『マルコシアス』となった。さらなるオプションとして飛んできた大きな白い天使砲をキャッチすると、翼もつ狼のエンブレムが額に光る。
「砲撃!」
コックピット内にて降りたバイザーゴーグル越しにマーカーが重なるその瞬間、操縦桿のトリガーを握りこむ。
砲撃――と同時に襲いかかったのはディアーヌ専用機『ヴァンクレール』。天使のごとき白い翼を展開し飛行する白い機体が、剣状の武器を引き抜き鎌の形に変化させた。
「せっかくの専用機だ。使わないのも勿体ない。遠慮なく使わせてもらおう…もらうねっ☆」
砲撃によって胸を打ち抜いたエレメントドールの胴体を豪快に切断していくヴァンクレール。
その一方で、ジオ機は別のエレメントドールと撃ち合っていた。
「全部相手にするのなんて馬鹿らしい! 狙うは指揮官機よ! アハハハハハ! 堕ちろぉ!」
遠距離用のライフルを構えた機体にはブースターが大量に積まれ、ビル群の間を豪快な機動で駆け抜け、敵機円周軌道上を周りながら打ちまくる。単眼タイプのアイカメラがぎょろりと動き、側面からの攻撃を捕らえた。
「ガッチャン、ガッチャンなのです!」
滑り込み、味方への射撃をファイティングポーズのようなガード姿勢でうけるコル。
フルフェイスヘルメットと鉄鋲ガントレットのような外観をもったコル機。フルプレートアーマーのような重厚な装甲を、エレメントドールの射撃は抜くことが出来なかった。
「軋む鉄の音が新鮮です。
現実でも鎧をつけることはありませんから、ちょっと楽しくなってきました!」
重い外観からは想像できないような機敏なステップで敵の射撃をふせぎながら急接近。パンチのラッシュで相手の体勢を崩すと――。
「やっぴー☆ ナナミンだよぉ♥」
ナナミン専用機、幸せロボットこと『ハッピーナナミン3』がギアバジリカから出撃し合体。巨大オプション装備によってかなり巨大かつグラマラスなボディラインをもつ巨大ロボットが完成した。
「ここは自慢の歌と踊りでみんなを応援するよ!」
その巨体で急に踊り出し歌い出すナナミンにエレメントドールがギョッとしたが、一方で味方機の集団が急にやる気を出して一斉射撃。
いけーと指さすナナミンにせき立てられるように次々に斬りかかった。
爆発するエレメントドール。
つい先ほど撃ち合いをしていた別のエレメントドールがビルの上へと飛び乗り、クリスタルビットによる広範囲無差別射撃を開始した。
流石にエリート専用機。すさまじい火力でこちらのエクスギアエクスが次々に撃墜されていく。
そんな段階でお呼びがかかったのが――。
「ドウ、『蒼迅』」
「デイジー、『鉄骨』」
二つのカタパルトそれぞれで構えるエクスギアエクス。
「「発進っ」」
飛び出したのはなんとも対照的な二機だった。
蒼色の軽量強襲機体である蒼迅は限界まで装甲を削りスラスターを増設した高機動な機体だ。
一方で鉄骨は巨大な骸骨のような外観をしているがその装甲は分厚く、ひときわ大きな右腕がぐわりと動く。
拳を振りかざすと同時に呪詛エネルギーを骸骨の目から乱射する『鉄骨』。
振り下ろした拳はそのままロケットブーストをかけてエレメントドールへと突っ込んだ。
かざしたレイピアでそれを受け止めるが、パワー負けしたのかがくりと身体が傾く。
そこへ急加速した『蒼迅』が回り込み、両手にビームサーベルを握った。展開した蒼い刃がエレメントドールのボディを装甲の上から強引に切断していく。スピードによって生まれたパワーだ。
すると、各所の交差点よりビルのようなものが高速でせり上がり、その側面部を開放。まるで武器ラックのように、内部にはピンク色のガトリングガンやグレートソードが格納されていた。
それを装備し、構えるエレメントドールたち。
「精霊がロボに乗るなんて不思議なもんだな……。
でもこういうのもR.O.Oのいいところだよな!
いくぜー! キサマの正義を見せてみろだぜー!」
リック専用機『ホワイトナイト』。鮫型の頭部をもち、ヒレのようなパーツを各所にそなえた白い鎧の機体である。
まるで空を泳ぐように駆け抜けたホワイトナイトはトゲつきの錨と大盾を構え、グレートソードもちの敵機へと斬りかかる。
「サンダーアンカー!」
あえて技名を叫び、錨を豪快に投げつける。絡みついた鎖から電流が流れ込み、そこへロンロン機がすかさず追撃を仕掛けた。
青い竜型のエクスギアエクスは空を泳いで高所をとると、敵機エレメントドールへと食らいついた。
「竜とはすなわち力あるもの。
力あるものとは弱き者を見捨てないもの!
拙者もかくありたく……拙者未熟なれど、理想のために邁進するのは負けませんぞ」
振り払おうと暴れるエレメントドールにトドメをさしにいったのは、Ignat専用機『アンジャネーヤ』である。
金冠をつけた猿のようなフォルムのエクスギアエクス。肩につけた大砲からEX蟹光箭を発射する。
「とどめだ、くらえっ!」
大爆発の中で、エレメントドールがはじけ飛んでいく。
鳴り響く魔法騎士セララテーマソング『ケ・セラ・セララ(instrumental)』。
満を持して現れたのはセララ専用エクスギアエクス『グレートメカセララ』である。
「いくよ! ドーナツ融合炉、フルパワー!」
脚部魔法スラスターから吹き上げた光が翼の形をとり、飛び上がるグレートメカセララ。
機関銃を撃ちまくるエレメントドールめがけ、『究極!スーパーセララキック!』を繰り出した。
周囲で支援に当たっていた敵戦闘機『正士』がいっぺんに吹き飛んでいく。
そこへ突撃していくのはクロア専用機『シュレーディンガー』。
ジェット噴射で追いついてきたオプションユニットと合体することでビッグシュレーディンガーとなると、増設された針型ビット兵器を大量展開。
「私専用に組まれたロボットとは気分が上がりますな。デカさはパワー、パワーはデカさですぞ」
シルクハットのようなヘッドパーツをスッとあげると、光る両目を合図にしたかのようにビットが一斉にエレメントドールへと迫る。
突き刺さる、と同時にニアサー機が安定制御装置の唸るような音をあげながら身を低くかがめると、味方のビットと共にジグザグに走って接近。ビルを駆け上がって跳躍する。
「この世の全ての願いが叶うはずがない。それは歪んでいようとそうでなかろうとね。
でも。なるべくなら叶った方が楽しいだろう?ニアサーはそのためにいるんだ」
抜いた巨大な日本刀がエレメントドールの腕を切り落とし、返す刀で胴体を切りつけ駆け抜ける。
爆発。しかし一方的な攻撃を許さぬ別のエレメントドールが拡張ミサイルポットをフル解放し攻撃を加えてきた。さらなる爆発に包まれるニアサー機たちだが……。
「『ろぼっと』か! こいつぁいい! 派手にブチかましてや……い、いえ、お役に立てるよう頑張ります…!」
追って出撃してきた梔子専用機『カムサリ』が着地。
ウサギ美少女型エクスギアエクス。その頭部には長くなびく水色髪のような冷却機構を備えている。
度重なる爆発のなかを駆け抜けると、宙返りからのフライングキックを繰り出した。
「このわたしが相手になります! ――必殺!『白銀の脚』ィ!!」
残るは二刀流のエレメントドール。周囲の防衛機構が展開し、道路をパカンと反転させて現れたミサイルポット群が火を噴く。
出撃したアルフィンレーヌ専用飛行型ダイダロスが空中を踊るように飛び爆発をかわし、追って出撃したムッターライガーとムッターポセイドンと合体。
「チェンジ――『ムッターロボ』!」
できあがったのは翼を広げたアイドル。巨大なアルフィンレーヌを摸したぬいぐるみである。
肩から引き抜いたスティックの先端にエネルギーハンマーが生まれ、エレメントドールめがけて突っ込む。
「まとめて、スクラップにしてあげる!」
「暴れ回れ。キャスパリーグ!」
別方向から突進をかけたのはねこ神さま専用機『キャスパリーグ・カスタム』。
猫っぽい外観のエクスギアエクスは全長3mと小型だが、その左右を走る白黒二種の巨大猫型オプションユニットが目を光らせた。
「キャスパリーグ――モード・シロネコ!」
武装子機シロネコさんが展開、合体、装着。肉球型衝撃波動装置を突き出すと、ミサイルポット群が次々に破壊された。
「モード・クロネコ!」
武装子機クロネコさんに換装し、ソニッククローで残るミサイルポット群を破壊。更にブレーキアンドターンかつクロネコさんをパージし――。
「仕上げだ、モード・シマネコ!」
両武装子機が展開、合体、装着。巨大な猫神型エクスギアエクス『キャスパリーグ god stripe』を完成させると、エレメントドールへとスーパークローで殴りかかる。
そんな二機を支援すべく現れたのはかぐや専用機『ムーン・エンパイア』。
艶めくエメラルドグリーンが美しい女性型エクスギアエクス。武装はもちろん巨大バンブーランス。
「ぬおおおおおりゃあああーーーーっ!! まだまだ竹槍ブン投げますわよーーーっ!!!」
助走を付けて思い切りぶん投げた竹槍がエレメントドールに突き刺さり、更にクローとハンマーの直撃がおこりエレメントドールが爆発四散していく。
●タイタン・インファイト
「首都最終防衛ラインを突破!」
なきむしな司祭が講壇のウィンドウに表示されたマップを確認し、振り返って叫ぶ。
マカールや今井准尉がウィンドウを操作しながら重ねた。
「残存エクスギア、20機! ぶつけますか!?」
「防衛部隊は使い切りました。コレを出したらもう攻撃部隊を防衛に回すしかなくなりますよ」
「ぬう……!」
歯がみするショッケン。
「ここまで抵抗してくるとは……形だけとはいえ首都を占領しただけのことはある、か」
『家に帰るまでが遠足』などという言葉があるが、戦争だって同じだ。『拠点に帰るまでが襲撃』。兵站問題にしろ兵力問題にしろ、いたずらに突進し防御を捨てれば、ただ前に進みながら自殺するレミングスになってしまう。
一旦退くべきだろうか。戦力を立て直してもういちど……。
「出撃だ」
その声は、ヴェルスのものだった。
ハッとして振り返るショッケン以下オペレーター一同。
「閣下、それは……」
制止すべく言葉を考えようとするショッケンに対して、ヴェルスはうっすらと笑いながらこめかみを指で叩く。
「聞こえないか? 『歌』ってやつが」
「はぁ……」
「歌だぜ、歌。祈りと願いの歌だ。俺たちには『特異運命座標(イレギュラーズ)』を軍閥に加えたその時から、ずっとその歌が聞こえていた」
思えば不思議なことだ。これだけ強力かつ膨大な兵力が、特定軍閥に所属していたけでもない二百人あまりが、一斉にこの戦いに参加し命を賭して戦っている。
それは最前線で機械の巨人を操る者からギアバジリカ内でおにぎりを握る者まで全員がだ。この場で死ぬかもしれないにも関わらず、彼らは今なお戦い、そして勝利へ着実に近づいている。
なぜ、彼らなのだろう。
なぜ、彼らは我々に味方したのだろうか。
言ってみればヴェルスの保身。正義も世界平和も掲げないいびつな軍閥に、なぜ。
「『世界かくあれかし』――あのクレイジーでクールな連中が加わったのは伊達や酔狂のためだけじゃねえ。俺たちにはまだ見えてない、『何か』からこの世界を守ろうとして歌を続けてるんだ。俺らは、それに突き動かされたに過ぎない」
「…………」
ご冗談を、と言いかけて止まった。
確かにイレギュラーズたちは、この世界の見えないどこかを見ているようだった。それもはるか上位の視点から。
「そのイレギュラーズが諦めてねえんだ、お前が、俺らが、諦めるなよ」
そうして。
なぜだろう、カチリと何かが符合したように思えた。
前を向く。
言うべきことは頭にもう浮かんでいた。
「エクスギアエクス第四機甲中隊、全機出撃! 攻撃部隊はダイダロスアタックまで温存!」
「S2障壁はもう保ちません! ギアバジリカの防御は――」
「こういうときのとっておきだろうが! 緊急防衛スタッフにコールしろ! 祈りと誓いを、『鉛の弾幕』でぶつけてやれとな!」
通路を走るレムリア及び緊急防衛スタッフ。
普段はエネルギー障壁に守られているギアバジリカだが、それらがすべて破壊された際の実効的または攻撃的防衛力として、レムリアたちはいた。
「どちらもとんでもない絡繰りじゃのぅ!
儂に出来る事は少ないやもしれぬがここは踏ん張りどころ、全力を尽くさねばな!」
支給されたヘッドギアを装着。G503と書かれたハッチを開き、バーをつかんで脚から滑り込む。
ストンとシートの上に落ち、目の前にはレバーと半天球型透明壁。
「さあて、始めるかのぅ――オペレーター、G503配置完了! これより攻撃を開始する!」
握ったレバー。スイッチを押し込むと全身が、もとい部屋ごと激しく振動し、赤く加熱した30mmマギスチール弾の群れが毎分3,900発で吐き出され、複雑軌道を描きギアバジリカへとりつこうとする敵量産機群を強引に爆破させる。
「G708、配置完了……」
ネフィルも別の銃座につくと、嬉々としてレバーを握りこんだ。
「何にも手をつけてなかったせいで何が何だかよくわかっていませんけど、ネフィルは制圧射撃とか大好きなんです」
ギアバジリカ正面に位置する銃座からは、今まさに突撃しようとしているディアナキャッスルが見える。城からは無数の砲身が伸び、無数のミサイルが発射されている。着弾すれば酷い被害になるはずだが……。
「そうは、させません……!」
ポインターをあわせスイッチ。激しい轟音と共に吐き出された弾幕が空中でミサイルを爆破させる。
「G202配置完了っと! シューティングにも自信はあるからね! スコアトップの座は渡さないよー!」
腕まくりしたアカリ。地面を高速で滑り大砲を乱射する装甲戦車めがけ、23㎝魔道徹甲弾を発射。
ズドンという痺れるような衝撃と共に放たれた砲弾が敵戦車をゴガンという音で貫き粉砕、爆破。
「さあ! 周りの皆も定番のアレ、行ってみよう!」
アカリをメイン砲手として配置された周囲の機銃掃射スタッフがオーケーと叫ぶと、アカリは拳を突き上げた。
「出力全開! 主砲、撃てーっ!!」
フライトユニットとガトリングガンを装備した敵量産機がギアバジリカを取り囲む。防衛戦力は銃座のみ。
「ふっ……例え架空の世界であろうとも勇士は勇士であるか。
であれば我も出来うる限りでこなしてみせようぞ!」
ダリルは不敵に笑ってレバーを握ると、銃座側面にあるレバースイッチ群を端からカチカチカチとオンにしていく。
「こういう場に集う面々の顔ときたら……あの生き生きとした姿は見惚れる物ばかりぞ!」
「でも弾幕って機銃使うのとミサイルとか使うのどっちが正解なのかにゃ?」
隣の銃座についた千草が問いかけてくるので、ダリルは『右の赤いやつを押せ』とだけ言ってきた。
小首をかしげ、頭上にハテナを浮かべながら実際に押してみる――と。
バガガガガッと千草の銃座の両側面からミサイルポットのハッチが一斉展開。
(半球型の透明壁で守られてはいるが)そのすべてがジェット噴射で飛んでいく。
「うおおおっ!? っと、弾幕貼るにゃ! 射程内の味方機は被弾しないよう回避行動をしっかりとるにゃ!!」
「敵機の10機や20機くらい、撃ち落としちゃうんだから!」
「オーロラは戦うのは恐いですけど、皆のために頑張るんです。だから、いきます……どっかーんって!」
それに続いてアリィとAuroraが銃座から弾幕を放つ。
広く角度をとって鉛玉をばらまくというものだが、結局のところこれが一番強い。
「ふふ~ん♪ これって向かってくる敵や邪魔な敵の首を刈ればいいのかしらね?」
そんな銃座の中で、斬華はレバー中央に書かれた『絶滅首刈り砲』というボタンを凝視していた。
そういえばなんか、以前こういうの欲しいってメカニックに言っていた気がする。
「ではご厚意に甘えて――絶滅首刈り砲、ちょりゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
とんでもない勢いで(それも拳で)連打するボタン。飛んでいく斬撃のエネルギーが敵機の首を次々に切り落としていく。
「まかせて! 私も操縦手伝うからねー! えーっとG306? の銃座についたよー」
シートに座りレバーを握るみけるん。
「弾幕薄い…かどうかわからないからぱぱーって撃っちゃってー!」
周りの銃座スタッフたちと共に弾幕をばらまき、道路側面から展開するミサイルポット郡を潰していく。
夜顔も同じポジションについて、既に放たれたミサイルを機関砲によって空中で迎撃。爆発に目を細める。
「やっぱり銃で弾幕張るのって浪漫があると思うんだよな~」
そして、レバー脇にある透明なカバーを開き赤いスイッチを押し込む。
すると大量のチャフがばらまかれ、ミサイルの誘導が狂い都市のあちこちに落ちていった。
夜顔の銃座を恐れてか迂回し後方へ回り込む敵戦闘機。
「そっちへ行ったぞ、G508」
「G508了解――後悔させてやるか!」
アズハは銃座のレバーを操作して球形の操縦ユニットごと機銃の狙いを動かすと、ゴブッという油圧ブレーキの感覚を身体で感じながら敵戦闘機に向けて弾幕をばらまいた。
「……任せろ、これでもR.O.Oでの銃の扱いはそれなりだ。何だって狙えるよ」
宣言通りというべきか、戦闘機が空中で爆破し破片を公道へまき散らしていく。
迫るはディアナキャッスル射程圏内。
移動要塞と城塞によるインファイト。例えるなら至近距離で額をくっつけての、バッチバチの殴り合いである。
「これはロマンってやつだよな!」
中央コントロールデッキに駆けつけたヒロはぴょんと飛び込むようにして銃座へつくと、隣で計器をにらみつけているオペレーターと目を合わせた。グッとサムズアップする相手に、頷きで応えるヒロ。
(テンション上がってるのは事実だけど、真面目にやらねぇといけないのもちゃんとわかってる。この仮想世界にも、ここで生きてる人達が居るみたいに見えるから)
「正面からミサイル郡。すべて打ち落とすぞッ!」
同じく銃座に滑り込んだスキャットがレバーを握ると、ヒロ同様ギアバジリカ正面から無数の機銃掃射用アームが出現。そのすべてがあらゆる方向をむいてミサイルへと弾幕を張り始めた。
「帝都は素晴らしい所だろうに、私はまだ描けていない。新たな作品になり得る風景が失われていくというものは、芸術家にとって激高すべき痛ましい事だ。必ず勝って、あるべき帝都を取り戻すぞッ!!」
眼前で爆発するミサイル群。はれゆく煙の向こうにある城めがけ、セフィーロはバイクのシートのような銃座に跨がって水平ハンドルを握った。
「弾が速ければ速いほど、距離が狭ければ狭いほど偏差幅は狭まる
分かるわね?
つまり弾速こそが正義!」
レバーを握りこんだその瞬間、67口径84mm魔道砲が火を噴いた。
ピンク色に塗り染められた白の側面にゴガンという金属音で穴をあけ、セフィーロは口笛をふいた。
「練達のげーむせんたーで鍛えた此のウデマエを見せてやるわ! ULTないの、ULT?」
「主砲ならあるよ」
じぇい君がビッと親指をたて、レバーを操作。ギアバジリカ正面から巨大な砲身が出現した。
「エネルギー充填120%!」
レバー中央にせりあがるように現れたスコープつき拳銃のようなコントローラーを握り、じぇい君は不敵に笑った。
「詠唱砲――発射!」
●フルメタルバトルロア
時は僅かに遡り、ギアバジリカがディアナキャッスルと真正面超絶至近距離からのインファイトに突入したまさにその時。
ギアバジリカの防衛を銃座スタッフたちに任せ、エクスギアエクス第四機甲中隊……つまり首都進撃における最後の切り札が攻撃のためにきられた。
「そういうことなら……」
コックピットのなかで両手を組み、グッと前向きに背伸びするΛ(p3x008609)。
「出し惜しみはしないよ? 疾風れ『黒麒』!」
カタパルトから出撃したラムダ専用魔導重装『黒麒』。
出撃して即座に騎馬形態へと変形した黒麒は大地を駆け抜け、並ぶエクスギア防衛部隊めがけて突進した。
肩に展開した拡散魔導砲が連射され、腕を剣に変えた黒麒が敵の機体を胸から串刺しにする。
そこへ突入するラピスラズリ専用機『魅刹天凌』。
ビーム刃を備えた複合電子戦ユニット『D4-MTY』と、それを効果的に運用するためにカスタムされたこの機体。敵集団へ飛び込んだかと思えば広域に向けてセンサーを誤作動させる粒子をばらまいた。
(負けられない戦いだという認識はありますが、死が終わりという訳でもない気安さは拭えません。
実のところ、現実での戦では切り捨てていた『たのしさ』を感じている気がします……)
「おもしれーじゃネーカ! 折角使えるってんなら好き放題やらして貰うゼェ! いくぜ『桃火燎原』!」
文字通りに火を噴き敵陣を突破する桃花専用エクスギアエクス『桃火燎原』。
バックパックに接続した槍状の武装から焔を吹き上げると、まるで箒で払うかのように敵機をなぎはらっていく。
「ヴェルスは混沌じゃ…今となっちゃあ黒歴史気味だけど…プロポーズした仲だ!
ちっとぐらい手伝ってやるゼ!」
脳裏によぎる幾枚もの婚姻届。それは今や笑える思い出であり彼女の足跡だ。今立つ場所が頂上だと知るための。
「ヒャッハー! テメェみてえなゴミも死に花咲かせりゃちったぁ綺麗に見えるかもなァ!」
瓦解した敵防衛陣形。その上を飛び越えるのはすあまの操縦する専用機『LA-DA』。
すあまとラダの複座型コックピットを中心とした巨大な猫型機体である。
ディアナキャッスルから突き出た無数の機関銃がすあま機を打ち払おうと弾幕をはるが、ジグザグに走り抜けるすあま機を止めることはできない。
「ひゃっほー! あ、ねーラダ、酔い止めのお薬って持ってきた?」
混乱気味にサブマシンガンを乱射する敵機を爪で切り倒すと、更に走り出す。
カノンはそんな味方を支援するべく突出した。
「カノン――エクスギアエクス『クロス』。マルチS2障壁、展開しますっ!」
黒を基調とした小柄な機体だが、突き出した両手から放たれる障壁はギアバジリカに搭載される全方位エネルギーシールドと同じものである。
「いよいよ決戦、鋼と鋼がぶつかり合うこれ程の大戦は混沌でもそうは無かったかもしれませんね。
相手の戦力は膨大、対するはイレギュラーズの精鋭達……これは、実に冒険者冥利に尽きるという物でしょう!」
それによって弾幕を防いだ直後、アルヴェール専用機『夜桜』がローラーダッシュで中央舗装道路を駆け抜ける。
「ロボットに乗ってチャンバラごっこを体験できるとは、いやいや、長生きもしてみるものだね。
さあ、花と散れ……『血桜』!」
居合い斬りの姿勢のまま突っ込んだ夜桜は地面から突き出しこちらを狙う機関銃をそのブロックごと切断すると、返す刀ですぐそばのミサイルポットを切断。
爆発を背にし更に駆け抜ける。
それ以上の侵攻を許すまいとディアナキャッスルから飛び出したのは無数のエクスギア。それらは空中で合体し、組み上がり、見上げるほど巨大な人型ロボットを完成させた。
両手のすべての指が戦艦の主砲と同等の威力をもつそれが、街ごと破壊せんとビーム砲撃を開始する。
ダブル専用機『ダーティ・ワーカー』はそんな中をまっすぐに駆け抜けた。
ブラック&ゴールドのリッチなカラーリングをしたエクスギアエクス。小回りがきかない代わりに拡張ロケットブースターからの熱噴射によって距離をつめ、まるで指を鳴らすかのような構えで右手を突き出す。
「ハハッ! 全く何が起こるか分かったもんじゃねぇな!
或いは、一つ違えば混沌でもこうだったのか?
ま、こんなドンパチでも死にゃしねぇなら気楽なもんだなぁ!
行くぜ、ダーティ・ワーカー! 楽しもうぜ、この祭りをよ!」
広域データ破壊が起きたその時、ねこ・もふもふ・ぎふとの専用機『しろねこぎふと』が飛びついた。
四足猫形態による機敏なジグザグ移動とジャンプ、からの素早い二足歩行獣人形態への変形。
巨大エクスギアがそれを払いのけようと腕を振るが……。
「くらえ、やわらかえくすにくきゅうぱーんち。みゃー!」
肉球型魔力発動器(マギインパクター)によるパンチが炸裂。
ズドンという衝撃に、鋼の巨人が揺らぐ。
「エクスギアEX『NyarAdept-ねこ』発進!にゃー☆」
そこへ追撃を仕掛ける新たなる猫。もといナハトスター専用機『NyarAdept-ねこ』。
モーショントレース型コックピット内でビシッと可愛いポーズをキメたナハトスター。同じ動きをしたNyarAdept-ねこが弓形の武装を展開。変形したそれはマジカルステッキへと変化し、魔力砲撃を放った。
「星猫魔法EX…穿て、WSランチャーSP! にゃーーーー!!」
「行くぞオレの『超ハイパーマックス最強ゴリラ号』!」
超ハイパーマックス最強太郎が鋼のゴリラ(虎柄ぱんつ)でドラミングすると、ナックルウォークで巨人へと接近。
二足歩行の戦闘モードへシフトすると、ゴリラパンチを相手の膝にたたき込んだ。
激しい砲撃に加えてゴリラぱんち。今度こそ膝を突いた巨人に対して、玲専用機『雪風』がビルの上から跳躍した。
「にゃっはっは!ついにこの機体に乗ることになるとはのう!
遅かったではないか! 征くぞ、妾専用エクスギア・EX「雪風」!」
パイルバンカーをガコンとセットした雪風が巨人の脳天にそれを押し当て――。
「バンカークラッシュじゃ!」
バゴンと激しい音をたてて撃ち込まれる鋼の巨杭。
なんとかバランスをとろうと手をつき、胸の主砲を露出させ反撃に出る巨人。
が、その砲撃が放たれることはなかった。
バスンと走る一発の増幅魔術弾が巨人の主砲を打ち抜いたのだ。
ふと振り返ると、ビルの上から一(p3x000034)が魔術杖のようなデザインのスナイパーライフルを構えて伏せの姿勢をとっていた。ニノマエ専用機『サイレンサー』である。
「ヒット――ロボットが生身を操作して更にロボットを動かすなんて変な感じです」
そう呟くと、手元のスワイプ入力パネルからテキストメッセージで報告を送った。
味方からあがってくる戦果報告の数々を見て、ショッケンはホッと胸をなで下ろした。
と同時に、ギアバジリカから主砲が発射される。激しい光がディアナキャッスルの透明なエネルギーシールドを破壊、貫通、城側面に大きな穴をブチあけた。
「よし、いいぞ! さすがはイレギュラーズ! では早速ダイダロスで攻撃部隊を突入させ――」
と、その時。
城からピンク色の機体が飛び上がった。
「あれは……まさか!?」
『スイート・ラズベリーパイ・ゼロ』
ディアナ専用機として開発された特別な機体の、いわゆるテスト機である。
「乗っているのはディアナ……? いや違う!」
いわゆる四天王機であるエルブランシュ、ブラック・リリス、テスタロッサ・グリム、ライトニング・セレスタのテストタイプ四機が同時に出撃し、一糸乱れぬ動きで構えたのだ。
「超つえー機体をオートパイロットで出してきたってわけか! よっしゃ、それなら……!」
ルージュは専用機『ルビードラゴン』をドラゴンフォームに変形させると、アフターバーナーをふかして突撃。
「一番槍だぜ!」
浮遊するエルブランシュ・ゼロが浮遊抗戦兵器を解放。妹エネルギーを纏って突っ込むルビードラゴンと拮抗する。
そこへ食らいついたのがヨシカ専用機『Serenade』。超巨大要塞Cementateに格納されていたというそれは、すさまじいエネルギー量をもってヨシカの必殺技である『アンカーシュート』を放った。それも大出力で。
絡みついたそれを引っ張りながら飛びかかり――。
「ロボにのったなら、やっぱり――『プリンセスパイルハンマー』!」
敵機直撃――のすぐ横でブラック・リリス・ゼロとひめにゃこ専用機『ヒメベアー号・REPAIR』が激突した。
「行きますよヒメベアー号! 可愛いだけじゃない所をお見せします!」
片目を包帯で覆いマントで身体半分を覆ったくまさんのようなデコデコ機体に、ひめにゃこのニャコニウムが集中。
「必殺――ニャコニウムビームです!」
至近距離で放たれるビームは、もはや自爆といっても過言ではない衝撃を生んだ。
まわりの機体を吹き飛ばし、素早く起き上がったテスタロッサ・グリム・ゼロとエクレール専用機『最強エクレールくん一号』が激しいつばぜり合いを起こした。
「イカす名前だろう? この名を刻め! 世界の歴史に!」
真っ白なエネルギーを纏った剣と相手の斧が幾度となくぶつかり合い、火花を散らす。
そして、相手の機体の腕をがしりと掴んだ。
「君達は先に! 此処は僕が命に代えても食い止めよう…だから、絶対に勝ちたまえ」
大爆発。二度目の自爆によって今度こそ吹き飛ぶ敵機たち。
が、ライトニング・セレスタ・ゼロは立ち上がる。予め距離を取っていたスイート・ラズベリーパイ・ゼロに至っては無傷だった。
ライトニング・セレスタ・ゼロがすべての実弾兵器を解放。フルオープンアタックを開始。
対してアイ専用機『Σοφια†μάτι』が浮遊する刀剣をクロスさせ回転させることで防御した。
「僕の後ろは他の皆が守ってくれるッ!
ならば僕の仕事ハ!
目の前の君たちを倒す事だけサ!」
それでも防ぎきれない弾が黒と黄色の二色で統一された鋭いデザインの機体の装甲をこそぎとっていく。
が、それでも強引に距離を詰め、剣を叩きつける。
巨大クラゲ型浮遊ロボットを操縦するエイラが、ここぞとばかりに武装を展開。まるでUFOのようなその外観からは想像もつかないほど凶悪なクラゲ型機雷ビットが飛び、ライトニング・セレスタ・ゼロへと密集。一斉に爆発する。
「あの機体は、まかせたよぉ」
そう託されたのは……鬼丸専用機『鎧闘騎兵アハト・弐式』。以前出撃した際のエクスギアを改良し拡張したものだ。
「この国に生きる人たちの願いを、命を、これ以上歪めさせはしない! 鎧闘騎兵アハト、ユナイトアップ……!」
鉄騎魔神モードをそのまま体現した上、両肩からはミサイルポットを、両足は高機動ブースターを装備し腕には更に巨大なドリルアームを装備。鎧闘騎兵アハトはスイート・ラズベリーパイ・ゼロの放つ光線をドリルアームで貫きながら強引に接近すると、至近距離から――。
「これで終わりだ。アハトバスターキャノン、発射!」
●歯車師団
城壁面へと叩きつけられるスイート・ラズベリーパイ・ゼロ。崩壊した壁へと次々に突入していうダイダロス部隊。一台に一個中隊規模を収納できる装甲車や戦闘飛行機がディアナキャッスル各所へ突き刺さるかのように衝突しては、強引に兵を城内部へと突入させる。
先陣を切ったのはくまさんのペイントがなされた装甲車。既に城門は突き破り、多くの兵隊を跳ね飛ばしながら正面ゲートにめり込む形で突入したダイダロすから、一台のパワードスーツ『くまさん』が出撃した。
「いきましょう。我らクマさん隊の活躍によっては……部隊にクマさん装備が、増えるはずです」
「「クマッ!」」
それに続くのは量産型くまさんシリーズ。迷彩色の巨大なテディベアめいた集団は、そのパワーと防御力をもって小銃を連射する衛兵めがけて一斉くまさんビームを発射した。
「クマさんに包まれた私達に、怖いものはありません。全クマ、突撃、です!」
そんな彼女に続く形で突入したのが白銀の騎士ストームナイト。
ボロボロのデュランダルが墜落し膝をつくなか、コックピットから飛び出した彼は既に展開を始めていたストームナイト小隊に合流した。
「敵の本拠地に自ら乗り込み、勝利を得んとする戦士たちよ! 貴君らの勇敢さ、力強さにこのストームナイト、大いに心振るわされた!
我ら、鋼鉄の剣となりて、この悪辣かつ悪趣味な城を一刀のもとに切り伏せようではないか! こう、スパーンとな!」
後半いい言葉が思いつかなくてボディランゲージになったが、兵達は『応』と叫んで剣を抜いた。
よかろう! と叫んで先陣を切り走り出す白銀の騎士ストームナイト。
「こんにちは、わたしフィノア!」
そこへいきなり登場するフィノア。いきなりというか、壁をダイダロスで突き破り展開用大型ハッチから兵隊を十人ほどつれて突入してきたわけだが。
咄嗟に構える敵兵たち。一斉に向けられた小銃に反応して剣を取――ろうとしてスカッとからぶる。
「って落ち着け我! ROOだ装備が違う!」
背よりロッドをとり、突き出し攻撃魔法を連鎖発動。展開した攻撃的なマジックキャスター部隊が一斉に杖を構え、巨大かつファンシーな魔方陣越しに魔炎を打ちまくる。
「わたし達を止めようなんて、お砂糖みたいに甘いのね!」
炎に包まれた兵たちの中を素早く駆け抜けるディリ及び砲兵小隊。
「こっちでくらいは、派手に暴れたって構わないだろ……」
ガンブレードを抜き、大きな階段の上から銃を構える兵へと射撃。
「弾は気にするな! 一斉掃射、粉砕しろッ!」
すると軽機関銃を担いだ兵達が一斉射撃。上階フロアへの道を強引にこじ開ける。
「おらおらー、私達の手で首都を取り戻すのですよー」
那由他は彼女を主戦力とした剣士で構成された部隊を率い、第二層フロアへと突入。
既に築かれているバリケードをものともせずに、というよりバリケード越しの射撃を大剣と長剣の二刀流で弾き飛ばしながら突き進んでバリケードへと斬撃。
「本当に死にそうになったら撤退してくださいね。
戦いというのは、終わった後の方がやることが多いんですから」
などと言いながらバリケードを崩壊させると、後続の部隊員たちが一斉に斬りかかった。
第二層フロアの制圧を他チームに任せ、お龍率いる鳳圏精鋭小隊が侵攻。
対するは反ノーザンキングス派で知られるヴェーグル中隊である。
「お龍君……我々をどう指揮してくれるのかな?」
どこか挑発的に視線を送ってくる榛名をうけて、お龍はビクリとした。
そして、ちょっとなじまない鳳圏軍服の胸を叩いて見せた。
「俺を先頭にして、突撃でありま――じゃない、突撃だ!」
「よかろう。全員突撃」
シャオラァと叫ぶ橘と共に突撃し、余りに勢いの良い突撃にむしろ引いた敵兵たちを豪快に斬り殺していく。
「戦果ァ! 次!! お前ら続け!守りたいものがあるなら己で守れ!
死にたい奴からかかってこい。俺ァ戦争と生きてきたんだ、お前らなんぞにゃ負けねえよ!」
鳳圏小隊――いや鳳圏大隊の動きは止まらない。
「首都攻略戦!この戦もついに終盤ですね!
歪んでしまった鋼鉄を元の姿に戻すために。さあ進みましょう!」
鳳圏兵におなかのやわこい毛皮をひたっすらモフモフされていた焔迅が叫ぶ。
「装剣!」
「「装剣!」」
が、号令ひとつでモフリストたちは銃剣を装備。『構え、撃て、走れ』の三つで彼らは兵器と化した。
これ使えるなと頷く雪之丞。もといバブ雪之丞。
「ばぶばぶばぶばぁ、だだぁちゅっぱちゅっぱ」
「…………」
抱えていた久慈峰はづみが冷たい目で見てくる。
そしてはづみ鳳圏少将振りかぶって――。
「だああああああああああああああああ!?」
雪之丞をもんのすごい勢いでぶん投げた。そして、敵陣をごりごりとぶった切っていく。
そこへ加わったのが縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧とハイタカからなる合同中隊であった。
「夜の月を侵す者は断じて…この黄昏が許さない…皆、一斉に総攻撃だ…!」
『小鳥 無理 駄目 ね?』
二人は部隊をまぜあわせ攻防整った陣形を組ませると、射撃をしかけながら敵兵への距離をつめていく。
『うてー』
「以前の決戦で進軍してくるギアバジリカを止めようとしていたころが懐かしいな」
そして、大切なものを傷つけさせないために、ハイタカは刀を握り先陣をきった。
終わったらハグしよう、なんて考えながら。
そこへ支援砲撃を仕掛けるBelethR小隊。『T.B.R.C』を合図に放たれた砲撃の後に肉薄していく。
「チィ、蛮族共めが……!」
吐き捨てるようにいうヴェーグル中隊長。
腰から抜いた拳銃を向けた先はリゼ率いるヴィーザル獣人部隊である。多くのヴィーザル出身者が地元へ帰り決起したという噂があるが、その中でもリゼの侠気(?)に惚れて軍閥入りした面々だ。
「いくぜ、アトランティスサーモン!」
二丁拳銃を握りしめ、鮭(?)に跨がり先行突入するリゼ。
歯がみして銃を乱射すヴェーグル中隊長と、笑いながら銃を乱射するリゼ。
鉛と鉛、怒号と怒号、そして人と人が真正面からぶつかり合う。
一方こちらは飛行戦闘型ダイダロスによって城中腹へと突き刺さったハーヴェイ小隊。
「ひゅー!戦争もいよいよ大詰めってやつだな!
敵については何かいまいちよく分かってねーんだけど、
とにかく立ちはだかる奴らをぶちのめしていけばいいんだよな!
超得意です! 突撃だーヒャッハー!!」
みんな俺に続けー! と叫びゴリラのごとき突進をしかけるハーヴェイ。っていうか部下は全員ゴリラだった。ゴリラ獣種だった。
グリース小隊は同じダイダロスから展開し、弓を構えた兵たちを一列に並べる。味方の突進にあわせて援護射撃で敵を的確に落としていくという作戦だ。
「さあ行くよ、グリース隊――撃ぇ!」
バッチリのコンビネーションで敵防衛部隊を打ち倒し、『オールクリア』と笑うグリース。
城中腹にはコピーされた鋼鉄国の英雄シャドーレギオンたちが大量に詰め込まれている。
混沌世界では鉄帝ベースボールで有名だった選手ハラマイトもその一人だ。
「まるでゲームの如く大々戦争ですね……ってこれは一応ゲームなんですけどね!
リアルじゃ絶対危険地帯になんて行けませんでしたが、ええ。少しは積極的にやってみましょうかっ」
ルナリスは部隊を一斉展開。立ったままにもかかわらず狙撃銃での狙いをぴったりとつける彼らは的確にハラマイト小隊の脳天だけを射撃。
ルナリスは構えたガトリングガンを撃ちまくる――が、その中をハラマイトただ一人が突っ込んでくる。
「舐めるなよ! 貴様は手強いが……鉛玉で俺が死ぬか!」
「いや普通は死ぬところでしょうっ」
が、こちらとて戦力が揃っていないわけではない。
「――剣戟こそ戦の華! さぁ、切り込みます! 続いて下さい!」
蒲公英小隊が蒲公英を先頭にした鏃形陣形で突撃。
ハラマイトの鋼のごとき豪腕に、蒲公英の剣がたたき込まれる。
「ほう? やるな」
と同時にハラマイトは自らの腹に巻き付けたダイナマイトを爆発させ辺り一面を炎で包む。
「怯まないで下さい! ここが正念場! この拠点を攻め落とし、我らの手柄とするのです!」
蒲公英に鼓舞して突き進まんとする兵たちにあわせ、アレキサンドライト小隊がダイナマイトに火を付けた。
「爆弾魔(ボマー)アレキサンドライト、推して参る!!」
なんか凄いバリエーションのある声のついたリア充爆発弾を部隊員たちが一斉に掲げ、そしてボンバーシュートした。
「敵は全部リア充と思え!!爆破だ爆破!!!全て吹き飛ばしてやるのですよ!
さあ奴らを焼き尽くせ!!燃えろ!燃え尽きろ!灰になるまでな!!あはは!!」
「ぐおおおおお!?」
目には目を、歯には歯を、爆弾には爆弾を。
フロアが爆発に包まれた。
ディアナの『自分の王国を作る』という目標はある意味で叶ったと言って良いだろう。
ディアナキャッスル内に作られた巨大アリーナには、鋼鉄国エリート闘士たちを中心に構成されたラドバウ師団が完成していたのだから。ラドバウという兵力をフル活用できたなら、鋼鉄国は最強になりうるのだ。
「あっ、あれは……」
そんな中、吹雪が思わず足を止めたのは偽パルス&クローン焔小隊とぶつかったためだ。
「許せねえ」
「パルスちゃんをパクるとは」
「処す? ねえ処す?」
吹雪率いるパルスちゃんファンクラブ(過激派)が血走った目で指示を仰いでくる。
「そうだね……このままでは本物のパルスちゃんのライブも落ち着いて観に行けないもの。
今日で戦いを終わらせて皆でパルスちゃんのライブを観に行くわよ!
帝都を乱してパルスちゃんの邪魔をする輩は私達で排除しましょう!! 叫ぶわよ!」
「「パ・ル・ス・ちゃあああああああああああああん!!」」
サイリウムソードで斬りかかる。
その一方で沙月小隊は格闘家集団と真正面からぶつかっていた。
隊員の援護射撃を受けながら走る沙月。
相手はそんな沙月の手刀を手のひらでうけ、貫手を放ってくる。
「近づくまでは大変ですが、近づいてしまえばこちらのものです」
「アンタはえらく強そうだが、簡単に落とせるかな?」
「やってみせましょう。覚悟はよろしいでしょうか?」
沙月が眼鏡をキラリと光らせ、すさまじい連撃を放った。
その直後。アリーナの各所に無数の石壁が出現。天井まで届く石壁によって遮蔽が生まれた。
こういうとき地の利は敵にある。
イチカは仮面を被った黒装束の兵達へと振り返る。鋼鉄国でも珍しい暗部にいるアサシンたちだ。
「請け負った以上やる事はするけど……邪魔だけはしないでね」
「ご期待には応えて見せましょう、隊長?」
仮面の下でそんな軽口を帰してくる隊員にイチカは片眉をすこしだけ動かすと、部下にサーチをかけさせた。壁の位置と敵の位置を確かめ、回り込み、そして相手の『最も柔らかい場所』を刺して殺す。
淡々とした、そして的確な勝利への道筋であった。
そんな中で慎重に正面から進むことにしたのはナズナさん小隊。
「…私、この戦いが終わったらやってみたい事がありますの。この戦いを1つの本にすることです」
「ほう、それは素晴らしい。一万冊買いますよ」
ボクこう見えて書店員なんですよと笑う眼鏡の副官。
ナズナさんは苦笑すると、『だったら生きて帰ってもらいませんと』と言った。
「この小隊の絶対遵守は”必ず生き抜く事”です。死ぬ事は許しません」
一方で、セチア小隊。
「良い? 絶対的な正義はこちらにあるし、巨大な兵器? もあるし、敵より味方の方が多いわ!」
「本当に?」
「多分!」
「多分!?」
「多分絶対だわ!」
「多分絶対!?」
「自信を持って笑っている私を信じなさい!」
ドンと自分の胸を叩いてみせるセチアには理屈をひっくり返すような勢いがあった。
こくりと頷く兵達。
そして、全員が剣に手をかける。
「総員抜剣! 突っ込むわよ!」
一方。
味方が動き出したことを察した花糸撫子と重装歩兵小隊は味方の突撃を援護する形で動くことにした。花糸撫子のやり方は、もう決まっている。
「さあ、私の歌を聴いていって頂戴な!」
力をもつ声を放つ花糸撫子を中心とした、一個の巨人の如く結束した兵による正面突撃だ。
「さあ、みんな、2人組作って──あ、余ったら3人でもいいよ!いいから!
これからキミたちはバディだよ。
2人または3人組で行動、お互いをカバーしあうんだ」
そこへ支援砲撃を仕掛けるのはグレイガーデン小隊。
遮蔽物から一斉に飛び出し、異常状態効果のあるグレネードや魔法を思い切りばらまいていく。
「さあ、今だ皆!」
弱った敵へ、集中砲火が浴びせられる。
ディアナキャッスル最上フロア。
敵精鋭部隊が待ち構える最難関である。
階段をゆっくり上るのは、ダテ・チヒロ。
そしてチームUQのヘッドたち。
いや……『悠久』の旗の下に集まったおよそ150人規模による連合部隊。
悠久連合である。
「皆、今回は集まってくれてありがとう。
今回は存分に有酸素運動してやろう!
これが終わったらスムージーをご馳走するぞ!」
ダテはリングを構え、そして叫んだ。
「行くぞテメーーーーーらァ!!!」
「奪還の、捲土重来の時は来た。
部隊名、『銀魔隊』。出撃せよ!」
アーゲンティエール率いる銀魔隊が突撃していく。
そしてその中に、アーゲンティエールが彼の地で戦ったはずの鋼鉄軍パワードスーツ部隊が混じっていることに気がついた。
先陣を切り、銀の剣でスーツを破壊し彼らを気絶させる。倒したけれど消えないということは、彼らは例外的にコピー版シャドーレギオンではないということ……。
「一部の兵がディアナキャッスルに配備されていた……?
やはり一連の騒動、黒幕はディアナか」
だがそればすべてではないことは、当時の指揮官ウサーシャがこの場にいないことで明らかだ。別の黒幕が、彼女を持ち去ったということになる。
考えるのは、ここまでだ。この件は、『次』に回そう。
「ベネディクト隊展開! 黒狼の陣!」
ベネディクトは兵の中心に立ち、剣を抜いた。
「此度は悠久の旗の下、本来掲げる旗は違えど仲間として共に戦える事を誇りに思う。
そしてディアナに作られしシャドーレギオンたちよ。我らの行く道に立ち塞がるなら、我が刀にて斬り捨てるのみ!」
ベネディクト隊は最前衛。
敵兵と思い切りぶつかる位置だ。敵部隊の指揮官はあろうことかザーバコピー。
戦闘力を完全コピーできていない劣化版とはいえ、あまりに強力なユニットだ。
斧のひとふりで吹き飛ばされる兵たち。だがそこへ――。
リュティス小隊が両側面から回り込み、がら空きになった敵陣めがけて範囲攻撃魔砲を集中させた。
「此度の悠久の旗の下、皆様と共に戦いましょう。御主人様(ベネディクト)もそれを望んでおられますからね」
魔力収束。『黒天』を解き放ったリュティスはザーバコピーの側近たちを打ち抜いていく。
そこへ味方が突入。リュティスも魔力を両手にナイフのように握った『死舞』で飛びかかる。
「錚々たる面子だ。ROOは勿論、現実でもね。
チヒロ先輩の人望なんだろうけど、それも納得。
オマケに今回はWだろ?
……はは、笑っちゃうぐらいの喜劇ってやつさ」
リラグレーテは笑みを浮かべ、そして部隊に一斉射撃の命令を出した。
「僕らは今、悠久の旗の下にいる!
今この時、君らの命は僕の物だ。勝手に欠ける事は許さない。…皆揃って笑顔を見せておくれよ?
――総員。撃つべきものを、撃てッ!!」
『アラブ歓迎』のハチマキをした兵達が一斉射撃。
現場・ネイコはそんな中を豪快に駆け抜けた。
「皆の命、どうか私に預けて。
私が、私達が絶対皆を勝利に導いてみせるからっ!」
必殺のカラミティストライクがザーバコピーへと命中。額に直撃したにも関わらずザーバコピーは笑っている。射撃が集中し、ネイコ小隊による槍が一斉に突き込まれる。
「私達の部隊の役目は悠久の最前線に立って敵にぶつかり、食い止め、皆の道を切り開く事っ!」
そう、自分たちだけで倒せなくていい。
「露払いは任せなチヒロ」
リュカ小隊が小銃を構えて一斉突撃。突破力に優れたリュカ小隊が敵陣を獣のごとく食い破っていく。
「俺らは初戦嫌われ者、あぶれ者達だ。だが他人がどう思おうなんて関係ねえ。
お前らは故郷を好きにされて心底”トサカ”に来てる。なら抗うにゃそれで十分だ!」
見せてやれ! テメェらの鋼鉄魂を!」
ルフラン小隊の面々が、ロッドを振りかざし白い三輪バイクでやってくる。
COOKIEの後ろにくっつくように跨がるのはルフランだ。
「終わったらチヒロさんの奢りで『悠久』は打ち上げが決まってまーす! というわけで……」
COOKIEとルフランはビッとロッドをかざし歯を見せて笑った。
「――party time!」
四つの大隊で構成される150人規模の悠久連合。一個師団に相当するこの戦力がディアナキャッスル最深部へ突入できたのは、ひとえにここまでの戦いで皆が奮闘したからに他ならない。
適切に温存された切り札は、出したことで勝利を決めるものだ。
最重要かつ最高戦力であるディアナは専用のエクスギアエクスに乗って上空で戦っている。
「つまり、このエリアを制圧すれば実質的な勝利が確定するのです」
ファン・ドルドは眼鏡をくいっとやって兵に攻撃命令を出した。
副官の、いかにも大学教授ですよといった風貌の老いた男性がカチリと仕込み杖を鳴らす。
「敵が七分に大地が三分、といったところでしょうか。斬る相手には困りませんね」
「然様で」
ビュンと音をたてて走る副官と、そして老兵たち。
敵陣を次々に切り裂いていく。
「わああああ!なんだかよくわかんないままクライマックスじゃん!!
千尋さんに続いて突撃ー! UQのお通りよー!!」
いけー! と叫ぶタイムおよびタイムちゃん小隊。
全員なんかコミカルな絵の描かれた棍棒を振りかざし、勢いよく敵陣へ飛びかかっていく。
「ヒャッハー! タイムちゃん隊長のお許しが出たぜー!」
「カーニバル!」
「ってちょ、わたしより暴れん坊なこの小隊なんかすっごい既視感あるぅ~~」
そこへゆらりと現れるクシィ小隊。
「へっ、ネクストでも悠久として戦うなんてな……。
っとまあ兎に角、チヒロくんとは一緒にドラゴンキラーした仲だ。今回もバリバリに共闘させて貰うぜ!」
砂嵐から流れてきたらしい元盗賊で構成された小隊。彼らは闇でさばかれたらしいコピー小銃を掲げてうちまくった。
「行くぜ野郎共! 勝ったら打ち上げパーティーでこのクシィちゃんがチューしてやるぜ!」
「どこに!?」
「頬に!」
「「イエーーーーーーー!」」
テンション爆上げのクシィ小隊。
「女性の為に張る体しか持ってない。
そんな時の為にしか鍛えてない。
理由は兎に角一度はモテたい。
本気になった事が無いだけ。
何時だって受け入れOK。
控え目じゃなく陰キャ。
選ばれし者達よ来い」
神様小隊がそこへ加わり、モテたい男達をけしかける。主に肉盾になれと。
「お前らチャンスだぞ! モテろ! 攻撃逃すな! 全力で受け止めろ! ここで頑張らなきゃもう頑張る時なんかねぇぞ!」
こうして集結した部隊は敵に対し数的有利をとり、なにより士気の高さで優位を取った。
ボスの抜けた精鋭部隊と、各小隊規模でボスが士気をマックスにさせる部隊。どちらが勢いで勝るか言うまでもない。
そんな彼らが最後に相手にすることになったのは……。
「おいおい、こっちは生まれたばっかだぜ? 生後一日でやる仕事じゃあねえだろう」
魔力のこもった剣を抜く、鋼鉄国皇帝有力候補――ヴェルスコピーであった。
その周りには彼に並ぶ鋼鉄国最精鋭S級コピーたち。とはいえ、ちらほらと欠けている者もいるようだが。
対して、マーク小隊は引かなかった。
「ここで耐えれば耐えただけ、そしてたとえ倒れても、仲間たちが道を進む! 僕は怯まない、退かない、そして倒れない!」
剣を握り、一斉に斬りかかる。ガイウスコピーと一個小隊の拮抗。
強引にぶち抜かれたマークだが、とっておきの切り札であるEXF復活によって踏みとどまった。至近距離から剣を突き立てる。
一方でアカツキ小隊が砲撃。
「続け続けー! 妾に続け皆の衆!! どいつもこいつも燃やしがいのありそうな面構えじゃ、恰好の火遊び場じゃぞ! 遊びは真剣に、じゃ!!」
両手に炎を宿して全力砲火するアカツキに続いて、火炎放射器を構えたモヒカンたちがバーベキューだぜと叫びながら炎を浴びせていく。
スマホを取り出しパシャリと自撮りしたエイルが、ギャルで構成されたエイル小隊を整列させる。彼女たちは一斉にピンクの特攻服を羽織った。
「しゃあ! 姐さん、揃いました!」
「エイルって呼んで頼むから」
「姐さんスピンオフまだっすかね!」
「ファブニル兄弟の連絡先知りたいっす!」
「まーまー」
エイルは手をかざし、そして笑った。
「護りたいもん自力で護るのがギャルなんよ!」
「「押忍!」」
エイルたちは酒瓶を振りかざすと、一斉にヴェルスコピーへと襲いかかる。
そのすべてを剣の一振りで打ち払うヴェルスコピーだがそこへファンの射撃、ヴェネディクト&リュカによるダブルファイア。アカツキとタイム舎弟ズによる集中砲火。
ネイコとリュティスが飛びかかり、アーゲンティエールとリラグレーテが別方向から飛びかかる。
神様、クシィ、マークが一斉に号令をかけ、彼らの残存兵力がヴェルスコピーめがけて一斉砲撃を仕掛けた。
そのすべてをギリギリの所で振り払うヴェルスに――。
「行けチヒロ!」
リュカの叫びが響いた。
「オラァ!」
たった一点。拳がはいる20㎝弱しかない防御のスキマを、ダテの拳が突き抜けた。
めり込む拳、まるで黒い水風船のようにはじけ飛んだヴェルスコピー。
拳を振り抜いた姿勢のダテは息を吐き。
その拳を天高く突き上げて見せた。
――鬨の声が、響く。
――最後の決着は、城上空へと預けられた。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
――ゼシュテリウス軍閥による首都進撃作戦が成功しました!
GMコメント
●これまでのあらすじ
ROO内ネクスト世界。舞台はスチーラー鋼鉄帝国、首都スチール・グラード。
国内で激しい内乱を起こすことで邪魔者を排除し自らの王国を手に入れようとしていた『世界のバグ』こと聖頌姫ディアナ。
彼女はこの国内に『シャドーレギオン』を蔓延させ、彼らのWISH(願いの形)を歪めていた。
国は彼女の狙いどおり軍閥どうしで潰し合い崩壊する……はずだった。
しかしイレギュラーズの介入によって力をつけたゼシュテリウス軍閥は、シャドーレギオンのDARK†WISH(歪んだ願い)を浄化し、正気に戻った彼らを次々に味方へ引き入れていった。
巨大軍閥となったゼシュテリウスはついに首都へ進撃。これによるパワーバランスの崩壊に焦れた聖頌姫ディアナは英雄達の偽物であるシャドーレギオン軍団を作り出し、更に王城を自分専用のディアナキャッスルへ変化させることで強制的な支配を開始しました。
このまま放置すればROOの世界がさらなるバグによって破壊されるのみならず、この世界で確かに生きている人々の願いや未来が歪められ、そして踏み潰されてしまうことでしょう。
ゼシュテリウスと共に進撃し、今こそこの支配を破壊し、この首都を手に入れるのです!
※今回戦うシャドーレギオンは簡易版です。本物を摸して新たにつくられた偽物の軍団であり、倒すと消滅します。
■■■プレイング書式■■■
迷子防止のため、プレイングには以下の書式を守るようにしてください。
・一行目:パートタグ
・二行目:グループタグ(または空白行)
大きなグループの中で更に小グループを作りたいなら二つタグを作ってください。
・三行目:実際のプレイング内容
書式が守られていない場合はお友達とはぐれたり、やろうとしたことをやり損ねたりすることがあります。くれぐれもご注意ください。
■■■パートタグ■■■
以下のいずれかのパートタグを一つだけ【】ごとコピペし、プレイング冒頭一行目に記載してください。
================================
【ギアバジリカ】
・こんな方にお勧め:「ギアバジリカで突撃したい」「出力全開、いけます!て叫びたい」「主砲を撃ちたい」「弾幕をはりたい」「裏方の浪漫を見せつけたい」
移動要塞にして最大の兵器ギアバジリカの各所へ乗り込み、この兵器を操縦します。
主に主砲や銃座について敵の巨大兵器を撃退したり、機関部で詠唱機関(セイクリッドエンジン)の出力を全開にしたり、食堂で大量におにぎり握ったり、弾幕うすいぞと言って砲兵たちを指揮したり、次々に出撃する味方機をデッキから見送ったり、メカの整備士として活躍したり、この際なのでなんでもありです。夢と浪漫を両手に握ってかかってこい!
ギアバジリカが無事に王城へ突撃できるかどうかは、あなたに――イレギュラーズにかかっている!
================================
【軍団指揮・防衛】
・こんな方にオススメ:「ギアバジリカを守りたい!」「みんなを指揮して戦いたい」
ゼシュテリウスの侵攻をとめるべく、無数の強襲兵器による侵攻をしかけてきています。
多くは途中で迎撃できているものの一部のシャドーレギオン部隊はギアバジリカ内へ侵入。占領すべく部隊を展開しようとしています。
対するこちらも部隊を展開しこれを撃退、防衛する必要があるでしょう。
あなたは防衛部隊の指揮をとり、敵部隊と戦ってください。
ここでは『小隊指揮ルール』が適用されます。
【軍団指揮・攻撃】
・こんな方にオススメ:「敵拠点を制圧したい!」「クリア!て言いたい」「みんなを指揮して戦いたい」
こちらはギアバジリカが敵最重要拠点ディアナキャッスルへ到達した際、部隊を展開して占領するための班です。
ここでもあなたは部隊の指揮をとり、敵部隊と戦ってください。
『小隊指揮ルール』が適用されます。
●小隊指揮について
・このシナリオには小隊指揮ルールが適用されます。
PCは全員小隊長扱いとなり、十~二十人程度の配下を率いて敵部隊と戦うことができます。
・兵のスキルや装備といった構成内容はおおまかになら決めることができます。
防御重視、回復重視、機動力重視、遠距離砲撃重視、特定系統の非戦スキル重視……といった感じです。細かいオーダーは避けましょう(プレイング圧迫リスク回避のため)
・使用スキルや戦闘パターンの指定は不要です。(プレイング圧迫リスク回避のため)
・部下の戦意を向上させるプレイングをかけることで、小隊の戦力が上昇します。
先陣をきって勇敢に戦って見せたり、笑顔で元気づけたり、料理を振る舞ってみたり、歌って踊ったり、格好いい演説を聴かせたり、効率的な戦術を指示したりとやり方は様々です。キャラにあった隊長プレイをお楽しみください。
・兵のデザインや雰囲気には拘ってOKです。
自分と同じような服装で統一したり、自分の領地にいる戦力を選抜したり、楽しいチームを作りましょう。特に指定が無かった場合、以下のデフォルト設定が適用されます。
この部隊にはゼシュテリオン軍閥の兵及び協力している全軍閥が対応しています。(UQ、鳳圏軍閥、レイリー軍閥など!)
【単独防衛】
・こんな方にオススメ:「単身で(もしくはペアやチームで)闘いたい」「俺はワンマンアーミーだぜ!」
ギアバジリカ内の防衛を単独で行います。
他の部隊に混じったり、単独防衛を選択したPCたちでチームを組むなどして同様に襲撃してきたシャドーレギオンと戦うことになるでしょう。
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【ロボット】
・こんな方にオススメ:「ロボットバトルが好き」「専用機を乗り回したい」「変形合体したい」「ブッピガン的な効果音が好き」
巨大兵器であるギアバジリカを止めるべく、敵もそれなりの兵器をぶつけてきます。
それがロボット兵器エクスギアEX(エクス)です。
普段ギアバジリカから出撃する際に使用していた『黒鉄十字柩(エクスギア)』の高機動装甲兵器型オプションです。
主に大型の人型ロボットで構成され、彼らはギアバジリカの行く手を阻み主に足関節やらを攻撃して進撃を妨げようとしてくるでしょう。
なのでこちらもエクスギアエクスに搭乗し、彼らを迎撃していきます。
今回はあなた専用のエクスギアエクスが組み立てられており、あなたにぴったりの形状と武装になっているでしょう。
プレイングには専用機の名前や形状、武装なんかをお書きください。
詳しくは下記をご覧ください。
●超強襲用高機動ロボット『エクスギア・EX(エクス)』
エクスギアEXとは大型の人型ロボットです。
『黒鉄十字柩(エクスギア)』に附随した大型オプションパーツを超複雑変形させそれぞれの戦闘ロボットへと変形します。
搭乗者の身体特徴や能力をそのまま反映した形状や武装をもち、搭乗者にあわせた操作性を選択し誰しもが意のままに操れる専用機となります。
能力はキャラクターステータスに依存し、スペックが向上した状態になります。
武装等はスキル、装備、アクセスファンタズムに依存しています。
搭乗者のHPがゼロになると破壊され、多くの場合爆発四散します。
搭乗者が装備する剣と同様の剣で斬りかかったり魔術砲撃をしたりと、搭乗するキャラクターによってその戦闘方法は変わるでしょう。
もしお望みであれば、普段と違うデザインをオーダーしてみるのもいいでしょう。
※すべてが専用にカスタムされているため、別の人物が乗り込んだり敵のエクスギアを鹵獲し即座に使用することはできません。逆もまた然りです。
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●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
●ROOとは
練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline
※重要な備考『デスカウント』
R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。
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