シナリオ詳細
Tower of Shupell
完了
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オープニング
●『神』への挑戦
「まぁ、簡単な依頼にはならないよ」
ローレットに集められた多数のイレギュラーズを前にした時、『蒼剣』レオン・ドナーツ・バルトロメイ(p3n000002)は何時もより幾ばくか真剣な調子でそう言った。
「オマエ達に頼みたいのは或る『塔』の攻略だ。
どれ位訳知りかは知らないが――その顔を見る限りじゃ何人かは聞いてるな?
そう、御存知の通りだ。オマエ達が挑むのは混沌の歴史の根源、創世、御伽噺そのものだよ」
Tower of Shupell――
それは『スターテクノクラート』の異名を持つシュペル・M・ウィリーの拠点である。
練達の首都であり、練達そのものでもある『セフィロト』からそう遠くなく。天を突き、聳える塔が持ち主の性格と等しく傍若無人に存在しているのは混沌の住民には知られた話だった。
同時に彼は禁忌であり、常に世界の治外法権でもあった。
混沌は彼の存在に干渉しない。同時に彼が何をしようとも干渉『出来ない』。過去にはならず者や有力な軍隊が塔に攻め寄せたという記録が残されているが、彼等は例外なく忽然と歴史から姿を消してしまった以上、やはり『塔』はそういう場所でしか無かった。
「間違いなく混沌最高の天才だよ。いや、天才なんて言葉じゃ片がつかない。
神ならぬ神と言い換えても良い。恐らくアイツに不可能な事なんて死体を生き返らせる事位のもんだから」
ローレットにとっては特殊な装備を用意してくれる人間、といった印象が強いが、レオンの言葉はそれ以上だった。
物事を茶化しがちな彼が直接依頼をもってきて、大真面目な顔を崩さないなら言いたい事は知れている。
「……R.O.O――いや、『ネクスト』事件解決の為だよな?」
「ああ。確証はないが、奴ならこんな状況にも手が打てるだろう。
『真相を既に知っているのか、それとも対処が可能なのかは知れないが』。
何れにせよ、空振りがない事だけは断言出来る。それがシュペルだから」
「……随分信用してるんだな」
「信頼はしてないけどね」
この切り返しだけは如何にもレオンらしく、肩を竦めた彼は小さく嘆息した。
「問題はそこなんだ。アイツは兎に角変わり者で性格が悪い。
悪いと言うか……まぁ、何だ。兎に角面倒くさい。
……そういや、オマエ達。ネクストでは竜域に挑戦してるんだろう?
アイツの出方は不明で、今回の『塔』が冗談で済むのか、その竜域より危険なのかすら『分からない』。
規格外が過ぎるのは碌でもないもんだ」
「……マジかよ」
「大マジ。遊ばれるのか、殺しに来るのかどうかも分からん。
ついでに言うなら素直に協力を願ってもまず言う事は聞かないし、望む結果は得られないだろう」
「……だろうな」
「それで、必要なのが――」
「――『塔』の攻略、と」
「その通り」
レオンは頷いて説明を足した。
「アイツは天上天下自分に並ぶ者が無いと確信しているからな。
まず、話を聞いて貰うには『最低限』聞く価値がある人間だと証明する必要がある。
ご自慢の『塔』を超えて会いに来れる人間ならまさにお誂え向きって訳だ。
話が分かり易いだろう? だから、オマエ達には『塔』を攻略して貰う必要があるんだ」
「つまり、これはローレットを挙げての挑戦だ」とレオンは言う。
曰く総力戦で『誰か』が届けばそれでいい、と。
「成程ね。でも、確かレオンはもう攻略済みなんだろう?」
「なら、アンタが話せば」。そう言いかけたイレギュラーズに苦笑したレオンは首を振った。
「アイツは『塔』を超えた人間の願いを『面白ければ』叶えてくれる。
だが、それは一回限りのパスポートだ。俺はもう力を借りちまってるからね」
――ローレットに協力しろ。混沌の神託をぶっ壊すギルドだ。絶対退屈はさせねぇからよ?
「……ま、そういう訳だ。だから資格が残ってるのはオマエ達だけ。
ただ、悪い事ばかりじゃねぇぞ。今言った通りだ。
もしお目通り叶い、願い事がお眼鏡に叶ったなら――条件はキツイが不可能は殆どない。
素直に叶えてくれるかは別として『そういう事』だ。
まさに神代の冒険の英雄譚みたいなもんで――頑張りがいがあるってもんだろう?」
●プレイヤーキラー
幻想北部商都サリュー。
「実に愉快な展開じゃないか!」
執務室の机に頬杖を突いた上機嫌極まるクリスチアン・バダンデールの地獄耳はこの日、最高に耳寄りな情報を掴んでいた。
それは言わずと知れたホット・ニュース。
Tower of Shupell――混沌の『聖域』にローレットが挑む大作戦の話であった。
「上で待つ『神』は万能だと聞く。
ローレットにつまらない願いを叶えさせるのは退屈だし……
ここは一噛みしたくはならないかね?」
「誰ぞに頼るのは嫌いでな。そう興味はないが?」
「いいや、嘘だね。それは単なる手段と目的の順序問題だぜ。
君が君の願いを叶えたなら、闘争は永遠のものになるだろう!?
君はこの世の混乱の為に、或いはその先に待つ『君の世界』の為に私を手伝っているのだろう?
なあ、そうだろう。バイセン!」
何時になく興奮し、熱っぽい雇い主(クリスチアン)に死牡丹梅泉は辟易した。
言い出したら聞かない男である。子供のように無邪気に残酷極まる行為を『やり切る』男なのだ。
その好奇心が向く先には大抵碌でもない未来が降りかかる。
「……まぁ、良い。それで何じゃ。主はわしにちょっかいを出せと言う心算か?」
梅泉とて、毎度顎で使われる趣味はないのだ。
あのイレギュラーズと一戦交えるのは吝かではなく。
吝かではないから――何だかんだで『お使い』をさせられているのは否めないのだが。
「いいや、違う」
だが、この日のクリスチアンの言葉は何時もと少し違っていた。
こんな時、大抵彼は「任せるから遊んできたまえ。私を楽しませてくれたまえよ」等と言うのだが……
「今回は君にお使いを、じゃない。私も行くからね」
「――ほう?」
眠たげだった梅泉の目が開く。
チェスのクイーンのように滅多な事では動かないクリスチアンが重い腰を上げるのは滅多に見れるものではない。
「……じゃが、構わんのか? ローレットに堂々と敵対しても」
「何を言っているんだ、バイセン。敵対なんてとんでもないよ。彼等と遭遇するのは偶然さ。
彼等が伝説の塔に――神に挑むのと同じように、偶然我々もそうするに過ぎない。
更に間の悪い事に私達は独自の情報を得ているんだ。
『塔を攻略出来るのは一組だけ』。意味が分かるかい?」
「陰湿な主らしいな」
梅泉は呆れた調子で溜息を吐いた。
クリスチアンは出会ったイレギュラーズに例えばこんな風に言うのだろう。
――塔を攻略出来るのは一組だけなんだ。だからこの場は我々に譲って貰うよ?
もし、譲ってもらえないなら……そうだ、ここはフェアに勝負といこう!
勝っても負けても恨みっこなしで、ね!
承諾する筈がない。結果として物別れするのだから『やむを得ず排除せざるを得ない』と言いたい訳である。
「そういう訳だから、急いで準備をしよう。
留守番は……今回は時雨に任せよう。私、君、たては君、それから小雪君。
チーム・サリューだ。素晴らしい。
いやあ、私もデスクワークには飽き飽きしていたんだ。
たまには運動をしないとこの身体も鈍ってしまうというものだからね!」
相変わらず上機嫌のクリスチアンを半眼で眺め、梅泉は考えた。
(成る程、この男の底は知れない。見極めるも良き機会じゃろう。
さて、イレギュラーズには災難じゃが、乗り越えてこそ『勇者』といった所か――)
●『神』
一体何時ぶりの出来事か。
酔狂の気まぐれと、愚者の蛮勇。
それを除けば『塔』を望む者等多くはない。
ましてや本気で攻略を目指す等――天に唾する方が『マシ』であろうというものだ。
「一つ前は『蒼剣』か。その前は『あの女』。その前は――アイオンだっけ?」
実際問題、混沌の長い歴史の中でも『塔』を踏破した者等、数える程も居ないのだ。
だが、どうも、ローレットと――オマケが『塔』を目指しているのは本当のようである。
『散発』と違うのはローレットが本腰を上げた以上、『攻略』を重視してくる事は間違いないという点だ。
「ま、経験者(レオン)の考えそうな事ではある。
……しかし、まったく。どいつもこいつも俗っぽい。
小生に謁見しようというのに、実に嘆かわしい限りだな?」
混沌の全てを見通し、全治を気取る――『スターテクノクラート』は皮肉に口の端を持ち上げていた。
練達の三塔主から協力を要請されたのは随分前の出来事だが、当然そんなものは一蹴した。
そうしたら今度はこの通りである。自分の『お気に入り』をてこに話を進めようという事なのだろう。
「……………ま、良いか」
時間は売ってもなくならない位に余っていて。
代わり映えしない長閑には些か飽き飽きしていたのは事実である。
何年振りにか――それも迷い込むレベルではない。
『塔』に挑むに最低限礼儀の整った連中が大挙して押し寄せるなら、これはシュペルにとってもいい娯楽であった。
「……うむ、レオンの所の連中ならこんなものか?
いや、もう少しか? それともやり過ぎか?」
彼は空中に生じた青い魔力のコンソールを素早く打鍵する。
その一打ごとに『塔』の内部は姿を変え続けているのだ。
元より外から見える姿は仮初のようなもの。
無限に引き伸ばされ、自由に再構築される内部空間は彼のみに許された至高の幻想そのものである。
『塔の見た目、外から見える高さに意味は無く。実際問題一度足を踏み込めばそこには別の世界そのものが広がっている』。
シュペルに言わせればシステムを介して『混沌』をコピーしたR.O.O等、玩具に過ぎない。
「良し、一先ずはこれでいい」
塔を訪れる稀人であるレオンの顔を思い浮かべ、シュペルは作業に『一先ず』ほんの少しの手心を加えた。
先の保証はしないが、一層から全滅してはいよいよ退屈であるし、何より。
彼が自分のルールを理解しているのに満足した。お願い事を二回されるのは好きじゃない。
「何人が会いに来る事か――」
恐らくローレットはレオンの指揮で実に効率的に『攻略』を目指す事だろう。
それに、ダークホース。『おかしな連中』のお手並みも見物するには愉快だった。
「――尤も、期待はしないがね」
- Tower of Shupell名声:境界20以上完了
- GM名YAMIDEITEI
- 種別ラリー
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2021年10月01日 23時15分
- 章数5章
- 総採用数397人
- 参加費50RC
第3章
第3章 第1節
●星冠投票サラマンドラ
――ようこそ、我が塔へ。
第二層の扉を抜けたイレギュラーズは一つの大きな部屋に辿り着いた。
これまで隔絶されていたそれぞれのパーティが一同に介した瞬間である。
そして残存の数を見れば一目瞭然で分かる。半数以上のパーティが脱落の憂き目にあったと言うことだった。
――小生がシュペル。シュペル・M・ウィリーだ。
『昔の約束』が厄介でね。諸君らの世話も時折焼いてやっているから、知っている者もいるだろうが。
大きな部屋に集まったイレギュラーズの前では立体的に投影された『シュペル』を名乗る人物のホログラムが実に偉そうな台詞を並べていた。
彼の顔を知っているのはレオン位なものだが、一目見て分かる「コイツだ」という間違いなさは彼の傲慢さと存在感に裏打ちされた唯の事実であろう。
――本来はあと九十七層程登って貰おうと思っていたのだがね。
諸君らの現在の実力では精々が第四層か、第五層で精一杯だろうと思ってね。
……実に気まぐれで、実に諸君は幸運なのだと思い知るよ。
どうも小生は諸君らに興味を持ち始めてしまったようだ。
故に特別に『謁見』への道筋を立ててやる事にしたという訳だ。
「それが次の階層の『試練』か?」
問うたイレギュラーズにシュペルは「如何にも」と応じる。
――特別サービスだ。予定では諸君等のクリアせねばならない階層はあと二つ。
一つ目が本階層『星冠投票サラマンドラ』だ。
諸君は『ゲリマンダー』の逸話をご存知かね?
……まぁ、知らなくても大した問題はない。
この階層で小生が求めるのは単なる投票だ。
「投票?」
――そう。小生に謁見すべき者、今回はチームか。それが誰かを誰よりも詳しい諸君等に決めて貰う。
だが、それには幾つかのルールがある。一つでも違反したら即失格にするから忘れないように!
シュペルはそこで一泊を置き、それからルールの説明を開始した。
――一つ、『投票で勝ち抜いたチームとそれに投票したチームは勝者となり次の階層へ進む』。
二つ、『投票で勝利するのは二番目に得票の多かったチームである』。
三つ、『同票でも勝ち抜けは一つとする』。
四つ、『投票に際しては如何なる相談行動もとってはならない』。
いいかね? 如何なる相談行動も、打ち合わせもも、意思疎通もだ。
相談板であろうと外部であろうとしてくれるな。それは小生がつまらない。
おっと、失敬。何の事だか分からなかっただろう。まぁ、やはり大した話ではない。
兎に角、諸君らは相談せずに『二番』を目指せばそれでいい。
もし万が一同票になったら厳正に小生が決めるから問題ない。
一方的に語ったシュペルはイレギュラーズの顔を一つずつ見回した。
――どうだ? 神の慈悲を感じるだろう。何せ諸君等の誰かが必ず上に行けるのだ。
我が身の栄誉と幸運を噛み締め、星冠投票を愉しむといい!
大きな砂時計が現れた。
制限時間は僅か二十四時間を示している――
●GMコメント
YAMIDEITEIです。シナリオを補足します。
●第三層『星冠投票サラマンドラ』
恐らく名付けは『ゲリマンダー』から。
Tower of Syupell第二層『究極星択カルネアデス』をクリアした皆さんは、一つの大きな部屋で合流しました。
シュペルのホログラムが皆さんの前に現れ、第三層のルールを説明しています。
砂時計がタイムリミットかは知れませんが、どうやら二十四時間を示している様子。
シュペルは時間内に投票を求めていますが、投票箱のようなものはありません。
皆さんがチーム単位で「そう」と思えばそう決まります。
何れにせよ、兎に角投票する必要があるのは間違いありません。
ギフトや非戦スキル等、効果があるものはありますが、塔主は混沌最高の『気分屋』かつ『反則』です。
尚、レオンはこの迷宮を経験した事はありません。「俺の時とはどうせ違うから当てにならない」との事。
第二階層『究極星択カルネアデス』で【クリア】判定を貰ったチームのみに参加権利が生じます。
第三層でも容易に理不尽や脱落は起き得ます。以上、宜しくご参加下さいませ。
●重要な備考
プレイング期間が大変短いです。
又、本階層では『一切の相談、打ち合わせ行動を強く非推奨』とします。
相談掲示板は当然ながら、外部SNSを含めて全てを使わない事を『強く推奨』します。
但し票はチーム単位で一票で、チーム内での相談はOKです。(揃えることは一応推奨ですが、プレイングが揃っていない場合は来ているプレイングで判断し、割れた場合は多数決を取り、多数決でも駄目ならばコイントスします)
第3章 第2節
●星冠投票サラマンドラ
先行きの見えない塔。
大迷宮に、人を喰ったような言葉遊びを弄した先で一行が出会ったのは塔主――シュペル・M・ウィリーであった。
何処まで信じるかは別にして「イレギュラーズに興味が湧いた」と語った彼は後二階層でのゴールを一同に伝える。
見えてきたクリアへの道筋は、しかして奇妙である。
――投票を行い、二番になって、二番を選んで勝ち抜け。
但し「相談は禁止」とのこと。
一番狙いならば話は比較的容易く、相談していいならば『誰を残すか』のコントロールはやりやすい。
或いは些か暗闘染みて『誰を落とすか』の選択さえあっただろう。
しかしながら『直観で選ぶ二番』はそうなるまい。相変わらずシュペルは相応に意地が悪そうだった。
ともあれ、道筋がついたならばこれまでと同じ。先に進むにはゲイムに乗る他の手段がないなら、イレギュラーズに躊躇う余地はない。
「じゃあ、僕たちから投票しますよ」
やぶからぼうの展開にも然して悩まず、一番手で前に出たのは言わずと知れた『二輪』アルプス・ローダー(p3p000034)である。
彼女(?)を含めた【四天王】がどのチームよりも早く結論を出したのは、実際の所本当である。
プレイングに悩むとかそういう可愛げはねぇのか――というのはさて置いて、
「おのれシュペル、またしても小癪な罠を仕掛けてきおって!
お茶の間の人気者である麿率いる四天王、放っておいても得票一位は必至。
あえて二位を抜けさせるルールとするとは……卑劣千万! ぐっぬぬぬぬーッ!
しかしここで日和る事は有り得ぬ。運否天賦も味方につけ、勝ち残るのは我らが四天王よ。
なーーーーーーっはっはっは!」
「一位ではなく二位を勝たせるだなんて……流石シュペルさん、って感じだけれども」
『殿』一条 夢心地(p3p008344)にせよ、ノリに慣れてきたらしい『竜首狩り』エルス・ティーネ(p3p007325)にせよ意気軒昂には違いない。
「……と言っても。他のチームのなんの為に登っているかとか事情なんて知らないし……
どのチームへ投票すべきか悩ましい……ならチームの答えはただ一つしかない」
「自薦しちゃダメとは言われていないしね。
相談なしで複数票が集まる可能性は低いだろうし、二票以上は一番になるリスクが出てくるだろう。
かといって無票では話にならないから、自分でコントロール出来る自薦の一票が二位につける理想と考えた。
何より後腐れがないし――問題ないよね?」
エルスと続いた『無垢なるプリエール』ロロン・ラプス(p3p007992)の言葉に笑みを浮かべたシュペルは「ああ」と頷いた。
――ピコン、と場違いと言える程に軽快な電子音が響く。
ホログラムのシュペルの横に出現した『リスト』の一位に【四天王】の名が刻まれた。
名前の横には恐らく票数を示す『1』の数字が表示されている。
――小生は『結論が分かっている』から敢えての投票行動は必要ない。
諸君等のチームが、チーム単位で最も適切であると考えた先に票をカウントするという訳だ。
「成る程。僕たちは3位くらいの人気チームで自己投票すればおのずと二位となり通過する事は確定的に確実なんですが。
それはそれとして、前に作ってもらった【雷撃ツインターボ】の反応もうちょっと上がりませんか?
肉抜きをすればFBを上げてでも反応が上がる余地が200は――」
「シュペル・M・ウィリーよ。
自身に不可能な事なぞ無い、というような顔をしておるが……
おぬしにこの顔ができるか?
どうじゃ? どうじゃ? どうじゃ? できるのか? ん?
ちなみにこのくらいの技は我らが四天王……全員が身につけておる!」
「つけてませんが!?」
――何だこいつら……クソリパーか???
始まりから頭痛を禁じ得ないシュペルが全てを見ないふりをした。
咳払いをした彼が次の投票を促している。
「じゃあ、次は俺達――【伊達】の出番って訳だな!」
迅速果断という意味では【伊達】も【四天王】に劣らない。
「ここまで来て投票だ?
そんなもん我がチーム【伊達】に投票するに決まってんべ?
シュペルさん、わかるかい?
俺たちがこの塔を登ってきて手に入れた一番大事な宝は……そう『絆』さ!」
『Go To HeLL!』伊達 千尋(p3p007569)の幾らか汗臭いウィンクにシュペルが露骨に嫌な顔をした。
「うむ、善き哉! 尤も吾は他のチーム名わかんないから【伊達】以外に入れようがないのであるがっ!?」
「言いたいこといっぱいあるけど、あたし達はここまで一緒に笑ってきたから。
だから伊達! 以上! ……ってことで、百合子先輩ほねっこだよ取ってこーい!」
『胸いっぱいの可能性を』フラン・ヴィラネル(p3p006816)の放った骨に『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子(p3p001385)が釣られ、シュペルのホログラムに突っ込んだ。
「つーか、ムカつく。なにあの言い草
まあ実力に関しては実際そうなんだろうけどさあ、要するにお前の都合だろ。
こっちは九十九階だろうと何だろうとやれるとこまでいくつもりだったのに。
つーか他のチームの事なんて分かるかっての。お前がそういう造りにしたんだろがよ!」
抗議めいた『最期に映した男』キドー(p3p000244)も含め、文字通りの『好き勝手』にシュペルの頭痛は悪化したように見えた。
再び電子音が響き、一位に【伊達】の名前と1の数字が刻まれる。
――まったく。自己投票する奴以外はいないものかね!
映像を乱されたシュペル自身、かのレオンに『変人奇人の見本市』或いは『人種の坩堝』等と称されたイレギュラーズを甘く見積もっていたのかも知れない。
成る程、実力如何に拠らず彼等は特別である。少なくともこの世界には『彼等ほど無軌道で読めない連中は居ない筈だ』。
大袈裟な溜息を吐いたシュペルは恐らく『結果』を知っている。
故にその態度も或いはポーズの一種なのかも知れないが――
「じゃあ――って訳でもないんだけど」
「うん。自己投票以外の投票っていう事で」
――そう言って三組目に名乗り出たのは【桜花紅月】の『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)と『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)、親友同士の二人だった。
「私達は【乙女同盟】に一票かな?
ドラマさんやルル家さんは一緒の派閥の仲間だしね!
こういう機会に応援してあげないと!」
「うん。スティアちゃんと無量さんが応援してるって事なので、【乙女同盟】に一票!」
「……ええ、二番を目指すと言う意味では適しているとは言えないのかも知れませんが……
何処の組に登って貰いたいかと言う話で選ぶならばこの選択肢となりましょうや」
「有難うございます」と応じた『帰心人心』彼岸会 無量(p3p007169)が温く笑う。
投票が『プラス』に働くかは知れないが、言葉は素直な本音である。
元よりどちらかと言えば『好み』がしっかりしたタイプである。更には他力本願を奉じて喜ぶような女ではなく――実を言えば塔に纏わる話の『それなりにウェートが高く重要な話の一部』はこの階層に到る前に欠落していると言えなくはない。
「流石にこの流れは予想の範疇にはなかった、と。
残ったチームから選ぶとなると……難しい話だけれど。
――まあ、良いでしょう。皆に合わせて私も【乙女同盟】に一票とします」
そしてそれは淡々とそう言った『月花銀閃』久住・舞花(p3p005056)も、更に言えば先程のサクラも同じ事であった。
「どうせなら勝ちたいし、最後まで行く心算だけど……
ああ、そうそう! シュペルさん! この刀を強化してくれてありがとうございました!
流石に梅泉センセーの血蛭には全然敵わないみたいだけど、シュペルさんが及ばない部分は私が頑張って実力を埋めようと思う!
ただでさえ腕も及ばないのに、刀の差も埋めるのは大変だけど……弱音を言っても仕方ないからね!
大丈夫! 伝説的魔術師って言っても得手不得手ぐらいあるよね! 本職の鍛冶師に敵わないのは仕方ないから気にしないで!
ちゃんと感謝してるし――それにまだまだ私の実力不足で刀の力を引き出せてないのもあるからだしね!」
……日頃どちらかと言えば朗らかで優しいサクラちゃんの無意識の内の煽り文句は、この階層に到る前に【チーム・サリュー】が他ならぬ目の前の彼の『お遊び』で脱落したからに他ならないのだろう。仲間と進む試練の道に意味がないとは言わないが、『好きな人』と会えずに終わった乙女心は絶対にそれで納得すまい。
感情の種類や強度は様々なれど、【桜花紅月】は実にそこが引っ掛かる。温い反応もさもありなんといった所か。
――よ、予想以上に面倒臭い……!
リストには新たに【乙女同盟】が加わり、票数は変わらず『1』。
投票は序盤戦で、まだ先行きは見えないが――少なくともシュペルはイレギュラーズを『思い知った』に違いない!
途中経過
【四天王】:1
【伊達】:1
【乙女同盟】:1
【残票】:13
※投票結果が途中で出ない仕組み、そして同時返却しても個別に結果を変更できない仕様上、本階層につきましては突破成功失敗の如何に拠らず、システム的な結果判定は『成功』となります。【クリア】と【脱落】は最後に提示されます。予めご了承下さい。
成否
成功
第3章 第3節
●星冠投票サラマンドラII
三組の投票が終わった時点で票は分散して一票ずつ。
その上、内二組が自己投票で一票ずつを獲得している――
(やっぱりね。結果は分からないけど、それなりに目はあったか)
そういう意味でロロンの読みはここまでは『順調』だった。
しかしながら、三票は三票でしかない。全十六組、残十三票の行方は全く知れず、状況は予断を許していない――
「しっかし、あのシュペル会えるたぁな! 勇者王やレオンの旦那にも力を貸した生きる伝説!
こりゃ文字通り――そうだ、感無量ってやつだぜ!」
ざわめきも去らぬその内に、『竜撃』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)が人好きのする調子でそう言った。
「ま、感動は置いといて先に聞いておきてえ事があるんだ。
願いを言うのは最後まで登った時の特権だが、ちと質問するぐれえのご褒美はあったって良いだろ?」
――内容によるが、まぁ小生は貴様が知りたい事位理解している。試しに問う事位は許してやるか。
「サンキュー、案外気前がいいな。じゃ、お言葉に甘えて一つ――」
ルカは口元を歪めてシュペルの映像をじっと見た。
「なぁシュペルよ。アンタ、『アイツ』に神託をよこしてるカミサマってのは嫌いだよな?
そのカミサマに嫌がらせをしたいと思わねえか? 本音言うならぶん殴ってやりたいぐらいだけどな!
ルカの問いは不親切なものだったが、文字通りシュペルの『理解している』に甘えれば良い話である。
言わぬ本音に「アイツを地上に連れ出してえのは山々だが、それが『他の男に叶えられる』なんざ御免こうむる」があるからややこしいのだが、それもまた恐らくは『理解』しているに違いない。
――『今回の物好きは前のより大分素直であること』!
シュペルはルカの言葉には答えずニヤニヤと意地の悪い笑みを見せていた。
「……と、言う訳で。丁度いいし次は【天つ風】の投票でいいかな?」
「今回の場合は、やはり二位を、というのが胆ですね。
言い換えてしまえば『悩んでも仕方ない部分もある』」
そう歩み出たのはルカと同じ【天つ風】の『人為遂行』笹木 花丸(p3p008689)と『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)である。
「しかし、投票と『ゲリマンダー』……
この世界にも似た事例が過去合ったのかもしれないけれど、想像通りであれば随分と俗世的な例えを持ち出すものです。
実にこれも変わった趣向ですが……」
「って言うか、投票で勝利するのは二番目に得票の多かったチームが絶妙に面倒くさいっ!
この人達ならって託したのに二番目じゃないといけないって言うのが、ホントにもう! ホントにもうっ!」
地団駄を踏みそうになる花丸をアリシスが「まあまあ」と宥めた。
『アリシスの場合、元の世界で或る意味聞いた話である』。
我々に親しみ深い世界の薄皮一枚の向こうの住人であった彼女はふと考える。
(しかし。あれがシュペル・M・ウィリー……
…………噂に違わぬ、というよりは……比べて相当に人物像が違う。
思っていたより……随分と、気安い人物なのですね。
私の知っている『彼』とここまで全く――ええ、全くの別に振れているとは)
アリシスはシュペルと面識がある訳ではない。
だが、魔術結社で主君に仕えていた頃の彼女は『丁度こんな人物を識っていた』。
アリシスの沈思黙考に構わず、『月下美人』雪村 沙月(p3p007273)は静かに告げた。
「――我々、【天つ風】は【星花】に投票しようと思います。
話し合って決めた事です故、結果に後悔はいたしますまい」
沙月の言葉に応じて【星花】に一票が加わった。
「……しかし、投票を済ませれば皆々様も、手持ち無沙汰もあろうというもの。
茶道具の一式も貸与頂ければ、待ち時間の無聊も慰められようというものですが、如何でしょうか?」
――ま、サービス位はしてやるか。
シュペルが応じると大きな部屋の一角に白いクロスのテーブルやら畳敷きやらが次々と現れた。
どうもスタイルは知らないから好きに使えという事らしい。
「感謝します」と沙月が応じれば『喜びそう』と見られていた花丸は見事に目を輝かせていた。
――どんどん投票したまえよ。出来る限り諸君も小生も愉快なように、な。
一方で『サラマンドラ』は続く。
その五票目は――
「僕達は、自分たちが塔に上る資格がある者だと自認して、この試練に挑んだんだ。
だから、最後までこの四人で進むことを貫きたい。
勝ち抜けるための最善手では無いかもしれないが、僕らは他ならぬ僕らを肯定する」
「正直、塔へのチャレンジはただの腕試しだったけどな。
だけど、ここまで来たら話は別だぜ。仲間たちと一緒に困難を、艱難辛苦を、乗り越えてきたんだ。その自信と誇りが今、胸の中で燃えてんだ。
だから、『どのチームが上に行くのが相応しいのか』を問われたのなら、オレは迷いなくオレ達『黒狼疾駆』と答える!」
「自信満々と、自惚れていると。笑う人もいるでしょう
そしてこれが決して、『この問いかけにおいて賢い選択ではない』ことは承知の上です
ですが、この塔で紡いだ物語に後悔がないように――私たちは『私たち』を選びます」
「考え様によっては、これは愚かな選択だろう。
『上がり』の可能性を片方潰す訳なんだから。
けど、まあ。他人に託して、結局はい脱落ってより、はね。
収まりがいいだろう? ふふ、凡百だからね。見栄えを選んじゃったって訳なのさ!
――そう言ったマルク・シリング(p3p001309)、『よをつむぐもの』新道 風牙(p3p005012)、『夜咲紡ぎ』リンディス=クァドラータ(p3p007979)、『Can'dy✗ho'use』ハンス・キングスレー(p3p008418)等【黒狼疾駆】の面々に委ねられ、【黒狼疾駆】に加えられた。
(……シュペル・M・ウィリー。この世界で神に近いとも言われる方。
貴方にとって、数多の旅人達すら飲み込んだ……
言うなれば『世界の広さより、内包した可能性があまりにも多く見える』この世界をどう思っているのでしょうか)
リンディスはそんな風に考えてシュペルの顔を見た。
そんなシュペルはルカや沙月が良かったなら、と【黒狼疾駆】にも『サービス』を強請られている。
「あ、そういやシュペルさん。
あんたって、いわゆる『純種』なのか? それとも、オレみたいな異世界出身?
いや、あんたほどの人でも、反転したりするのかなあ、とか思ってさ。
あ、だから塔に引きこもってるとか? 魔種除けに」
――小生は所謂ウォーカーだ。
だが、どうして小生が魔種風情を恐れねばならんのだ?
次小生を侮ったら二度とそんな事が出来ぬようにしてやるぞ、小娘!
「おお、こわ」と風牙が肩を竦めた。半ば確信犯だったようである。
「特異運命座標は終末の予言――つまり、Case-Dを防ぐために活動してるよね。
パンドラが貯ればその可能性が下がり、魔種が活発になれば滅びのアークが増えて予言が現実となる可能性が高まる。
世界の滅びは貴方にとっても他人事では無いように思えるけど、そこに介在しない、或いはできない理由があるなら知りたいな。
スターテクノクラートなら、魔種を人に戻す事だってできそうなのに」
――まず一つ目。世界が滅びようと小生には関係ないね。
仮に混沌及び混沌に連なる全世界が滅亡しようとも、小生は小生のみならば『何とか出来る自信がある』。
実際になっていないのだから計算上の話に過ぎないが、まぁ仮に無理ならば『そういうものなのだろうさ』。
この小生が必死になってどうしてクソくだらん世界の延命なぞに腐心せねばなるまいか。
魔種云々は強いて言えば興味がないからだ。心の底からどうでもいい。
続いた言葉の余りの言い様にマルクは思わず絶句した。
ある意味で想像に近い答えだが、その(悪い)想像通りをお出しされるというのは何とも言えない話であろう。
――過剰にサービスしては日が暮れる。問答はいいから次へ進みたまえ。
(しかし……この目の前の男はなんとも意地が悪い。
いや、この男にとってはこれが当たり前なのだろうな。
何でも自分の思い通りになるのが当然。それを疑うことすらしない真の天才。或いは世界最大の勘違い。
……彼に比べれば運動ができるだけの私など可愛いものだな)
傲慢極まりないその空気に触れ、『猪突!邁進!』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)は苦笑した。
再三言われてきた事ではあるが、『二位抜け』は実に意地が悪い。
誰かに託そうと思っても確実にそうなる向きではなく、或いは託そうとした事自体も脱落の種になりかねないのだから当然だ。
そして『正直な感想』はもう一つ。
(アレがシュペルさん、ですか。
底意地の悪さと滲み出る傲慢さ、お噂に聞いた通り性根が少々、こほん……)
初めて見たシュペルに『未来を願う』小金井・正純(p3p008000)はかなり好奇心を掻き立てられていた。
普段から丁寧な物腰ながら熱量が伴い難いタイプなのだが、ママ味を帯びた正純は明らかに普段より前のめりな気分になっていた。
「あ、シュペルさん、言われた傍から個人的な質問です。
シュペルさん食事とかってどうされてるんですか? 栄養のあるものとか食べてます?
洗濯掃除とかってどうなさってます? ていうか生活ちゃんと出来てますか?」
「――って、え?
言われてみればシュペルさん、身の回りの事はどうしてるんでしょうか?
発明品で、なんとかしてるんでしょうか……うーん……
ご、ご迷惑でなければ、今度何か作ってお持ちしましょうか……?」
――何だこの女共は……
更に『勇往邁進』リディア・T・レオンハート(p3p008325)が続けば、モノクルの向こうの瞳に呆れの色を滲ませてシュペルは頭をかいている。
聞いていた通り、言う程邪悪な性質には見えないが、絶対に言う事を聞かない天の邪鬼の匂いはかなり強いか。
何れにせよ面食らう彼はイレギュラーズを見誤っていたのだろう。
一行はある意味においては何百年だか前にここを訪れた勇者王より、彼の天敵の『ゴリラ』より、それからひねくれた全盛期のレオンより恐らく『手強い』。
「実力、自信、運。全てを試されるこの試練は中々に面白い。
まぁ、叶ってしまったが。元より謁見はさておき、登頂するに随一のチームとなれば我々が最優である事に疑いはない
そう思わぬならば、この様な所までは来ておらん。故に二番目を選ぶ今回の試練で自らへの投票は出来ん訳だが……」
「誰かが必ず上に行けるとは言いますが、誰かが必ず脱落するという事でもありますよね。
我々が投じる一票は、誰かを先へと導く力ともなり、誰かにとって不条理な刃ともなりうる……
――ですが。『票を投じない』という選択肢は、ありえませんね。
皆、ようやくここまで来たのです。ならば、前を向いて、進める道を進むのみ!」
『金獅子』ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)にリディアが頷いた。
【星花】の面々の気持ちもとうに一つに纏まっていた。
「私達が一票を投じるのは【創世塔】の皆さんです!」
リディアの言葉に応じて、リストに新たに【創生塔】が刻まれる。
ここまでの六票は何れも1――イレギュラーズのざわめきがまた少しだけ大きくなった。
「時にシュペル・M・ウィリー。これは単なる好奇心なのだが――卿には願いはないのかね?」
「ああ、そうだ。私からも一つ聞いておきたい。この世界から別の世界に戻ることは可能なのか?」
シュペルはベルフラウの問いに肩を竦め、ブレンダには「可能だ」とだけ答えてみせた――
途中経過
【四天王】:1
【伊達】:1
【乙女同盟】:1
【星花】:1
【黒狼疾駆】:1
【創生塔】:1
【残票】:10
※星花は星華との表記の揺らぎがありますが、ほぼ間違いないので同一に有効としてカウントしています。
成否
成功
第3章 第4節
●星冠投票サラマンドラIII
「もしかして困ってたりするかも知れないけど、それって結局自業自得よね」
温い笑みを浮かべた『比翼連理・護』藤野 蛍(p3p003861)は今日も、そして今回も全く澱みはなかった。
「そもそもなんでこの塔攻略してるんだっけ
『ネクスト』事件解決の為……?
それなら、究極的にはこのうちの誰が会おうと同じだと思うんだけど――
他チームの個人的な事情は知らないし、それで特別誰かにって思う訳でもないし。
気に入られそうなのが誰かなんていうのもわからないし。
おまけに得票二番目を当てるとか、これって一番目を当てるより難しいわよね?」
立板に水を流すが如くそう言った彼女に『あの虹を見よ』美咲・マクスウェル(p3p005192)が頷いた。
「これで優位なのって……内部知名度の高いひと?
その辺で得票数の読みあいしろってことかな。っっだらねぇわー。
全員、我こそはって来てるんでしょうに」
口さがないと言えば口さがないが、まぁ間違っているとも言い難い。
――諸君の『好き嫌い』は小生には関係がないのでね。
投票を促すシュペルは『感想』にさして興味がないのかそう促す。
「んー、この塔クリアするのに相応しいチームっていうなら、そりゃもうボク達でしょ。
だってその自信があるからここにいるんだもん!
胸張って自分です! って言えない人達は【桜ノ杜】にいないと思うんだよねー」
「あ、でも一番じゃなくて二番を当てるの? うえぇ……」と『激情の踊り子』ヒィロ=エヒト(p3p002503)が声を漏らした。
「何れにせよ、他チームの方々がどのような思いで登頂を目指されているのか。
それを推し量る術はありません。ならば――いえ、これは誤りですね。
皆さまがどうあろうと、珠緒らを認める方が全くいなくとも。自身が上へ進んでいきたいという主張は曲げられませんから」
『比翼連理・攻』桜咲 珠緒(p3p004426)の言葉にせよ、それ以外の三人にせよ結論は全く一つである。
即ち【桜ノ杜】も自己投票。遂にリストには七組目が刻まれ、未だ『2』の数値を点した者は居ない。
「まぁ、しかし予想外と言えば予想外だし、予想通りと言えば予想通りの展開だね」
『饗宴の悪魔』マルベート・トゥールーズ(p3p000736)がそんな風に言って小さな嘆息を漏らした。
悪魔とはしばしば理不尽なゲームを好むものである。そしてこの世の中には『ままならない』事もあるものだ。
「ここに来ての選択が『運任せ』とはね。いや、決して策を弄する事も出来なくはないのだろうけど……
行動と代償と得る物のバランスがあまりに悪い。ディーラーが見張っているならば尚更だろう。
まぁ、これはひとつ悪魔らしく――ルーレットでも回す気分で臨めばいいんだけど」
次なる投票者はマルベート達【饗饌】だ。
シュペルは『好き嫌いは関係ない』と言ったが、結果が全て一、即ち全員が一位ならば話はどうなるか。
二位が勝ち抜けで、二位が重複したならばシュペルが選ぶか、或いはコイントスでもして決めればいい。
しかしながら『全員が一位だった場合、二位は存在しない』のだから勝ち抜けの条件を満たすものはなくなる。
(さて……)
確率が高いとは思えないが、ここまでの七連続は多少引っ掛かる所だった。
「こんなに早く顔を拝ませてくれたのは意外だったけどね。
それにしてもこの練達で、神の慈悲とは皮肉が効いてるじゃないか。
碌に会話も成立しないひねくれ者かと思っていたが、存外面白い奴だな、あんた。
それをこの目で確かめられただけでも挑戦した甲斐があったというものだ」
皮肉めいてはいたが、『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)からすれば意外と本音に近い言葉でもある。
元々『謁見』等というものを最高の商品に置くような人格だ。こうして顔を出させてやったのはイレギュラーズの大健闘と言えるかも知れない。
「シュペルさんはどうして広い塔に独りなの?
あっあっボクは銀の森の精霊のソアというの、初めましてね。
ボクは物心がついてからずっと独りぼっちで寂しかった。
今は皆と一緒で幸せ……けれどいつかまた誰もいなくなる日が来ると思うと怖いの」
一方の『雷虎』ソア(p3p007025)は捻くれたマルベートやラダとは逆に実に真っ直ぐにシュペルに興味を向けていた。
「……だって、何でも作れるのでしょう?
きっと同じ位に賢くて仲良しのお友達だって。
だからボク、興味がわいちゃって!
ここまで来たご褒美に聞かせて欲しいの!」
――別に強い動機はない。唯、『そういうものだからそうなっている』。
……言っておくが何故何問うても無意味だぞ。小生は混沌においては『そういうもの』だというだけだから。
『よく分からない』回答を意外にも真っ直ぐに寄越したシュペルはうんざりしたように咳払いをする。
早く投票をしろというその仕草に、『一番の宝物は「日常」』セリカ=O=ブランフォール(p3p001548)がぐっと前に出た。
「こうしてみんなが集まってるのを見ると、できるならみんなで協力していきたい、って思うし。
それ以上に――この先も誰一人欠けずに、みんな無事でいて欲しい、そう思わずにはいられないよね……
でもどうしても選ばなきゃいけないなら、私達は【天つ風】に投票するよ……!」
八組目の『1』がリストに浮かぶ。
(上手く突破できてもできなくても。
みんなの無事を……どんな事があってもこれからもみんながいつもの『日常』をずっと過ごしていけるように
どうかこの先も、みんながずっと笑顔で、そして元気でいられますように…!)
遠き霧中に遊ぶ星冠投票の行く先をセリカは祈らずにはいられなかった。
現時点で折り返し、残りは僅かに八票。先述した通り全員が一位ならば全員の敗退は免れない――
「だいじょーぶ、だいじょーぶ」
何とも言えない空気をへらりと笑って切り裂いたのは自堕落に地面に寝そべった『観光客』アト・サイン(p3p001394)だった。
「再現性東京競馬場R11シュペル塔特別(90万G以下)の開催です
各馬一斉にゲートから飛び出しました、ゲートを飛び出したまま全く並んで中盤です。
でもまあ何とかなるでしょう、先頭はキシダンイチゴアジだかオトメドーメー、ダテも伸びるに違いない!
……あっと時間な訳ね。じゃあ【伊達】に投票しとこうか」
言葉はこれまでの誰よりも胡乱だが、状況が『劇的に変わった』のは確かだった。
アト等【ルサルカ】の投票先は【伊達】。
「肉を焼くわよ!
あーー塔の上で何でもできるからってこうして一期一会のメシ食う楽しみはわかんないでしょうねぇ!
全能のシュペルであろうとね~~登れたら一緒に食えるんでしょうけどどうせ行けないからねぇ?
私はオトメドウメイ-シテンノー-キシダンイチゴアジの三連単、でも投票は【伊達】ね!
上に行ける人、グッドラック!」
頭の良すぎる奴は不測の事態に出会うと壊れてしまうものらしい。
キャラにもなくやけくそになった『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)は二層でおちょくられた(と本人は思っている)なぞなぞと、『独立愚連隊が票を集められる筈がない』(と本人は思っている)投票で大分お壊れになっている。
「あははは、いいわね、暇だし楽しんじゃいましょ! 迷宮じゃなくてこんなのな皆こうなるわ!」
「お腹鳴っちゃった。パンじゃ足りない……
アトさんの前で恥ずかしい……
いっそ、宴会しちゃう? お師匠先生。
レイリーさんとコーラで乾杯して!」
だが、『ヴァイスドラッヘ』レイリー=シュタイン(p3p007270)にせよ『恋する探険家』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)にせよ、日頃見ないイーリンのやさぐれた、そんなひっどい姿は面白いものだったらしく殊の外楽しそうにその事態を見守っていた。
「シュペル殿はさ、こうやって一緒にお酒飲んだり、騒いだりするのは好きじゃないのかい?
損してるわよーほんと。ねぇ、今度一緒に飲み会しましょ!
見てるよりも踊らなきゃ損でしょ! いえーい!」
こちらも本来のキャラから少しばかり遠いレイリーがばっちんと強めのウィンクをすればシュペルは何とも言えない顔をした。
――【伊達】ね。……本当に度し難い連中だ。
ともあれ、これまで一票づつが分散していた投票は【伊達】の2票で順位がつく事になった。
このまま終わるならば伊達が一位、それ以外が二位。「マジかよ!」と千尋が面白い顔をしている。
落ちるのは伊達だが、残るのも一組だから旨くはない。
しかし、話とは往々にして動き始めれば大きく動くものであろう。
「シュペルさん、こんにちわ! 二層のクイズとっても面白かったよ!
今回は――そうだね、一位はきっとボク達だ!
聖剣騎士団はボクが信じてる最高の仲間だからね!
だから自薦は無し。他チームへ投票だよ」
『魔法騎士』セララ(p3p000273)が小さな胸を張っていた。
「投票先はボクが『シュペルに会って欲しい!』って思う『乙女同盟』!
恋する乙女のパワーは無限大! きっと波瀾万丈で楽しいことになるよ!」
「ええ、一位をとってしまっては元も子もありませんからね。
私たちは『乙女同盟』に投票しましょう! 恋の乙女パワーが炸裂してくれるはずです!
それはそれとして、その節はシュペルさんにもお世話になりまして……
え? 何の事か? 唯のお仕事と仰るかも知れませんが、素敵な指輪や月のように輝くムーンルビー……
どれも大切な宝物になりましたから」
勢いのいいセララに続き、折り目正しく『優愛の吸血種』ユーリエ・シュトラール(p3p001160)が言えばシュペルは「ふん」と鼻を鳴らす。
しかし、鼻で笑ったというよりは「当然だ」とドヤ顔をしているに近い。感情の分かりやすい彼はポーカーフェイスが上手くなかった。
「むー、セララちゃんが自薦駄目なら仕方ないかぁ。
他に有望そうなのは……あたしも、やっぱり【乙女同盟】かな?
単純に超強いからね。もちろん最強はあたしたちだけど! その次ね!」
「俺も賛成だ。気のせいかシュペルの眼付が一瞬あいつらを見た瞬間変わったような気もするしな。
多分リア辺りがシュペルの苦手な感じなんじゃないの?」
『蛮族令嬢』長谷部 朋子(p3p008321)の意見に『ただの死神』クロバ・フユツキ(p3p000145)が頷いた。
「は? こんな可憐なシスターを捕まえて何言ってやがる???」みたいな顔をしたご本人はさて置いて。
成る程、クロバの目は節穴ではないようで、シュペルは何とも嫌そうな顔をしていた。
「そこんとこ、実際どうなのよ?」
意地悪く彼が問えばシュペルは何とも歯切れ悪くそれに答える。
――少しばかり知っているゴリラに似てるから、割と本気で帰って欲しいだけだ。
猛烈に抗議する約一名は置いといて。
星冠投票は【伊達】と【乙女同盟】が前に出た事で漸く大きく動き出す――
途中経過
【四天王】:1
【伊達】:2
【乙女同盟】:2
【星花】:1
【黒狼疾駆】:1
【創生塔】:1
【桜ノ杜】:1
【天つ風】:1
【残票】:6
成否
成功
第3章 第5節
●星冠投票サラマンドラIV
「本音言えば、私達が一番相応しいだろ!って言って自分らに投票したいんだけどね。
みすみすチャンスを逃す訳にもいかないから……」
苦笑いを浮かべた『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)の顔から自薦で『二位』を取るのが難しいという悔しさが見て取れる。
『ふつうのおんなのこ』を名乗る割に強気で素敵、案外無敵なステンレスガールとしてはやはりここは勝ち切りたいのが本音だろうか。
しかし、冷静に考えて彼女はこう言う。
「投票先は……『乙女同盟』。
応援したい人は沢山いるけどね。エルス、エクスマリア、無量さん……
ただまぁ、ほら。私は女の子の味方だし?
恋する乙女の集いなんて言ったら名前からして乙女同盟が一番じゃん?」
「はい。ウィズィさんがご縁があるということですし、私としても否はありません。
メンバーの方々を見ても、実力的にも性格的にも異論はなく。
尤も、どうしても運が要る階層。運も実力の内とは言え、これまでの辛苦が運に敗るるも業腹というものなのですが――」
「ええ。投票しなければならないのでしたら【乙女同盟】にでしょうか。
現実的に考えて拙達に投票があるとは思えませんし……これはちょっと、ぐぬぬ。
しかし、レジーナさんは少なからず交流もありますし、個人的に此方のチームの皆さんの先を、見てみたくはありますので」
ウィズィの言葉に『断ち斬りの』蓮杖 綾姫(p3p008658)と『花盾』橋場・ステラ(p3p008617)が同意した。
「特にルル家の恋路はねぇ、私、応援したいのよね。
カムイグラの一件は? シュペルさんもご存知?
ま、ともかく。こんなに凄絶で面白いイレギュラーズ他にいないぜ?ってことで……『乙女同盟』」
やや早口で言ったウィズィには少し照れもあるのかも知れない。
「ところでシュペルさんはどうなんですか。恋とかしたことあります?」
付け足したかのような問い掛けに、シュペルは何とも言えない非常に難しい顔をした。
冗句めいて尋ねたウィズィの方が逆に少し面食らってしまった格好だ。
――本当に無駄口ばかりをよく叩く! で、それで問題ないな?
「ああ」と『一般人』三國・誠司(p3p008563)は頷いた。
(僕自身の意見なら、実は投票先は【四天王】だったりするんだけどね。
要はあんたに『相応しい』相手がどんな風か――
こっちはあんたを『どう思ってるか』がこれでわかるわけだ)
内心は口に出さずに誠司は飄々としたものだった。
(ま、願いとかデカい風呂敷広げた以上、これだけの大人数は流石にシュペルといえど『出来るわけがない』。
後は運に任せていくしかないなら――嗚呼、どの道、あんたに『選ばせる』所までは迫れたんだ。
ありがとう、あんたが人間だってわかって安心したよ)
【烈火】の投票をもって【乙女同盟】の数字が『3』に変わる。確実に一歩前に出たという事だ。
「……うーん、投票は嬉しいって言うか期待してくれて有難うって感じだけど、複雑っていうか。
何だか変な目立ち方してちょっとやり難いんだけど……」
苦笑いをした『願いの先』リア・クォーツ(p3p004937)がいよいよの出番に一歩を踏み出した。
【乙女同盟】は三票を獲得し、現在一位のポジションにある。
もし彼女達がかなりの件数であった『自薦』をしていたならば一位を取る公算はかなり大きくなると言える。
ただ、彼女達の性格を考えた時、その確率が低めなのは分かっていた。
「あたし達が投票するのは『星花』よ。
……個人的には、【四天王】とか【鉄腕】とか送り込んでやりたいと思ったけど、こっちね」
「ええ、迷いましたが……拙者達は『星花』に投票致しますよ!
拙者も目的があってこの塔を登った身です!
しかして、これ以上登れないのであれば託せる方に託したいと思います!
……まぁ、正直! 候補が沢山あって迷いましたけど!」
リアに続いて『離れぬ意思』夢見 ルル家(p3p000016)がそう言えば、
「どうせ投票するならば、それは我(わたし)が信じたい者に。
まぁその他にも楽しそうな方は沢山いらっしゃるのだけれども――選べという以上は致し方ない。
もし幸運が我(わたし)達に味方してくれるなら、次の機会はあるでしょうし」
「……本当の本音を言うなら。
実はここまで来たのなら誰かに託してと言う気には余りならないのですが、それでも選ぶのなら投票先は『星花』にします。
十分勝ち上がりが期待出来るチームだと思いますしね」
『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)と『蒼剣の弟子』ドラマ・ゲツク(p3p000172)もそう言った。
レジーナからすればシュペルの『とある作品』で起きた事件は一発ぶん殴ってやらなければいけないものだ。
お嬢様への土産話も含めてここで落ちたい所ではない。それにドラマの場合は尚更で――
「はー……この幻想種あざといわ!」
「はい?」
「そうだね、師匠の登った塔だもんね。頂上まで行きたいよね」
「後ろから味方を撃つのは辞めて貰っていいですか!?」
――リアが言うまでもなく、叡智の捕食者は未知なる知識を好むし、えいちのほしょくしゃ(ぽんこつ)は乙女である。
【乙女同盟】の投票で【星花】のカウントが『2』になる。
「ところでシュペル殿!
貴方って魔種を人間に戻したり、人を魔種にしないようにしたり、魔種から滅びのアークが発生しないようにしたり出来ますか?
やはり超天才と言えど、世界のルールを覆すようなものは難しいですかね? 死者蘇生も出来ないと聞きましたし!
いやー、正直それが出来ないなら拙者は貴方に願いなど何もなくなるのですよね!
なのでやるやらないは置いといて、とりあえず出来るかどうかだけ知りたいですね! 如何でしょうか!?」
――は? 誰に物を言っているのだ? 娘? 小生はシュペルだぞ、シュペル。はあああ?
ルル家の見え見えな挑発に簡単に煽り散らされるシュペルのアレさは兎も角、だ。
頭一つ抜け出したのは【乙女同盟】。【伊達】と【星花】の二組が『2』で並び、いよいよ残る票が勝負を分ける展開となる――
「そうそう。投票とは直接関係ないんだけど、シュペル・M・ウィリー。
次からはコレ、全一層でギュッと凝縮してくれません?」
――のは置いといて、リアの一言にシュペルの薄笑いが凍り付いた。
「ちまちまめんどくさいのよね。
そうすれば次に会いに来るのが楽になるから……は? 来るな?
ん? 勿論また来るわよ? だって、貴方はローレットに協力してくれているんでしょう?
だったら、あたしが貴方に会いに来るのも至極当然じゃない
まぁ、ほら、なんなら手土産にお弁当でも作って持って行ってあげるから
どうせ、貴方って長年引き籠っていて、碌なご飯食べていないでしょう?
安心していいわよ。子供ご飯作るの慣れてるから。だから、全力で歓迎すべきよ
――じゃ、そういう事で! 投票結果次第ではまた会いましょうね、シュペル!」
――嗚呼、言葉を受けたシュペルの顔はこれまでで一番げっそりとして見えた。
途中経過
【四天王】:1
【伊達】:2
【乙女同盟】:3
【星花】:2
【黒狼疾駆】:1
【創生塔】:1
【桜ノ杜】:1
【天つ風】:1
【残票】:4
成否
成功
第3章 第6節
●星冠投票サラマンドラV
残り四票を残しての状況は混戦。
一位には三票を集めた【乙女同盟】。
二位には二票の【伊達】と【星花】が続く。
一票を持つのは【四天王】【黒狼疾駆】【創生塔】【桜ノ杜】【天つ風】となり暫定的に三位となる。
しかしながら四票あればそれ以外の全てのチームも含めて『一位』にも『二位』にもなる可能性は残されている状態だった。
「ひねくれてはいるが、理に適ったやり方でもあるのだろうな。
手ずから試練を用意して振り落とすのも大変だもんな?
……ああ、そうだ。報奨の件ではありがとな」
『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)の言葉は恐らく部分的な正解である。
シュペルの場合イレギュラーズを振り落とすのは簡単だろうが、『いい塩梅』はそうでもないと思われた。
イレギュラーズ自身が作る状況が混沌とすればするほど、先行きが不透明になればなるほどシュペルは喜ぶのは想像に難くない。
――さあ、勝負の投票だ!
果たしてシュペルはと言えば先程の嫌気な態度も忘れて至極上機嫌であった。
僅か四票で全てが決まる。全員に『逆転』の目が残されたゲーム・メイクに拍手喝采といった所か――
「二位になるチームに投票……
ルシェたち以外とっても強そうだし凄そうだわ!
この中から一位じゃなくて二位になりそうなチームを選ぶのは大変……!」
『リチェと一緒』キルシェ=キルシュ(p3p009805)が目を丸くしている。
これは直感の問題だ。『当たりやすいもの』はあろうが、『確実』はない。
更に言えばシュペルは恐らく全ての『真なる投票先』を握っている。状況に合わせて回答を変える事は許可すまい。
「俺は、皆で挑戦できて、興味を持ってもらえて、素直に嬉しい。
まだ懲りてないし先には進みたいが、謁見するに相応しいかどうかは分からない。
どんな結果でも、それが良いと信じよう」
「ここまで来れたのはチームの皆のおかげだと思う。
イズマさん、キルシェさん、ティスルさん――本当に、ありがとう」
そう言ったイズマに『希う魔道士』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)が言葉を添えた。
【夜空】は相応の経験を積んだチームではあるが、塔に挑んだ中では『飛び抜けて』強いチームではない。
しかしここまで残ったのは見事だった。これは互いが互いを支え合えたからと言う他はないだろう。
「私ね、ここまでの道がこんな楽しくなるって思ってなかったの。
……だからもう少し、このチームで挑んでみたい。
さあ、恨みっこ無しの運試しをしましょっか」
すぅ、と『幻耀双撃』ティスル ティル(p3p006151)が深呼吸をした。
【夜空】の結論は決まっている。いや、たっぷり悩んだのだが、決まっている。
「――幸運ギャンブラーさんに恋する乙女も凄そうだけど、ルシェたちは【ルサルカ】に投票するわ!
先に進んだ時、何があっても何とかしてくれそうだものね!」
キルシェの言葉でリストの下部に【ルサルカ】の文字と『1』が浮かんだ。
「は? 私達?」とやさぐれて肉を焼くイーリンが痛ましい。すっかりアトと同列に並んだ彼女の横ではフラーゴラが「わあい」と手を叩いていた。
――残りは三票!
「自分達はサクっといくっスよ!」
焦らして溜めたがりそうなシュペルに構わず『蒼騎雷電』イルミナ・ガードルーン(p3p001475)は言う。
「【チームK】は【ルサルカ】に投票するッス」
「……は?」
俄にイーリンが起き上がった。
立て続けに入った二票は状況を大きく動かしている。
『これで彼女達は同率の二位に上がったことになるからだ』。
「この先の階層を超えるのにも、高い対応力を持っているのは、恐らくあのチーム、だろう。
故に、得票数は一位となる可能性も高い、と読んだが……そこは賭け、だ。
マリア達が、確実に二位になれる手でもあれば、よかったのだが」
「自分たちでこの塔をクリアしたいのが本音ではあるが、投票ルールには乗らないとね。
イーリンやアトなら次の階層でもクリアできるだろうし――
シュペルが言う『謁見すべきチーム』を選ぶなら彼女たちだ」
「意外と信頼されてた……」
『雨上がりの少女』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)と『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)の言葉にアトがぽりぽりと頭をかいた。
大抵の事は人を食ったような態度でおふざけに走る男だが、ことダンジョン攻略については特別である。
「我らが騎兵隊のリーダーに。
我らが騎兵隊の頭脳に。
我らが騎兵隊の守り手に。
我らが騎兵隊の疾い牙に。
私が嫉妬する人達に一票を――なのだわ!」
『嫉妬の後遺症』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)がニコリと笑った。
投票は済み、いよいよ状況は煮詰まっていく。
勝ち抜けの二位に【伊達】【星花】【ルサルカ】の三チームが並ぶ状況である。
「あの、シュペルさん。お話させて頂いてもよろしいでしょうか!
貴方に会えたらとりあえずお礼をしておこうかなーと思っていまして。
ほら……今は掛けてませんけど、普段使ってるこの眼鏡とかもシュペルさん製の特別品なんスよ!
大変助かっているのでまずはそのお礼、という訳ッス!」
「皆も聞いていたけれど、シュペルさん生活態度が心配なのだわ。
規則正しく生活できてるかとか、塔の上でお食事はちゃんとしてるのとか――」
イルミナや華蓮のやり取りはほのぼのとしており、シュペルは「次! 次!」とそれを振り払っている。
残りは二票。しかしながらまだ全チームに『二位』の可能性は残されている。
シュペルのホログラムに忍び寄る影があった――
「ふふん、ここまでノコノコ出てきたのが運の尽き!
ひっ捕らえて差し上げますわー! へぶ!?」
――それはまさに彼の後ろ(?)から飛びかかった『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)であり、当然ながらホログラムをすり抜けた彼女は床と熱烈なキスをしている。
「アホでありますかヴィーシャ。
死角から狙わないと逃げられるに決まっているでありましょう!!!」
「……うう、よくもやってくれましたわね!? じんじん致しますわ……
頂上まで辿り着いたら、練達製バリカンの威力を見せてやる……」
そういう問題ではない『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)とやたら不穏な事を呟くヴァレーリヤの姿に、
「二人共!? だ、だめだよ? 仲間がごめんね……皆良い子なんだよ?」
『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)が説得力のないフォローをする。
「それはそれとして! シュペル君!私も君に一つ言っておかなきゃならないことがある!
君がレオン君に何を吹き込まれたかは知らないけど、私は猫でも串猫マリ屋でもないんだよ!
私は虎のように獰猛な軍人なんだ! 私達の奮戦を見ていた君なら分かってくれるよね!?」
――猫と聞いたが?
「どうして……
あと、いつも強力な装備を作ってくれてありがとう! 今日もたくさん装備してるよ!」
よりにもよってクライマックスで現れた緊張感のない連中である。
「hey、シュペル氏。質問がありまス
……もしかしてこのチーム、ボケの比率が高いのでしょうか?」
――見ての通り、ボケとボケとボケと貴様だ。
「やっぱり」と『ダメ人間に見える』佐藤 美咲(p3p009818)は遠い目をした。
「今更気付いたの?」みたいなシュペルの視線がそれなりに痛かった。
だが、しかし彼女等【鉄腕】もまたこの冒険で絆を深めたのは確かだった。
「……こんな時に告白するのもなんですけど。
私には仕事上殺しておきたい相手がいまス。
その相手は幻想の対鉄帝工作員で、その関係上鉄帝の要人と関係を気づく必要があって……
つまりは打算で三人に近づきました、ごめんなさい」
選択を前に悔いはなく『正直』に美咲は言った。
「美咲君……それでも君は私達の友人だよ!」
「……それにしても、突然素直になられるとやや面食らうでありますね。
まあ、自分も……貴女方は、信頼に値すると思っているからチームを組んだでありますし。
打算も欲得も、方向さえ間違わなければそれは正しい力でありますし……」
「もしかしたら言えずに終わるかも知れないから先に言っておくけれど、私と一緒にここまで登ってくれてありがとう。
貴女達と一緒でなければ、ここまで来られなかったと思いますの。感謝致しますわ」
マリアは屈託なく、エッダは幾らか不器用に、そしてヴァレーリヤは劇場版で漂白されて微笑んだ。
全ては選択の先。【鉄腕】は――【ルサルカ】を選び取る!
「……ちょっと待って……」
レイリーの表情が変わった。『最後の四票で三票を集めてしまった』。
これで三票は【乙女同盟】と【ルサルカ】。つまり最後の一票がお互いに入らなければどちらも脱落。
同時に最後の一票がどちらかに入れば、入らなかった方が勝ち抜けという状況になったのである。
――実に愉快な展開だ。開票は『ほぼ』順番通り故、小生もこれには笑うがね。
そしてシュペルは最後の一票を持つ【創世塔】にスポットを当てる。
彼等が【乙女同盟】と【ルサルカ】以外に投票したならば【伊達】【星花】(ないしは自薦だった場合は【創生塔】自身)が勝ち抜ける。
【乙女同盟】か【ルサルカ】だったとしたならば、選ばれなかった方が勝ち抜けるという状況になる。
結果は果たして――
途中経過
【四天王】:1
【伊達】:2
【乙女同盟】:3
【星花】:2
【黒狼疾駆】:1
【創生塔】:1
【桜ノ杜】:1
【天つ風】:1
【ルサルカ】:3
【残票】:1
成否
成功
第3章 第7節
●星冠投票サラマンドラVI
「希代のアーティファクトクリエイターに名乗りを上げたい者も多いんだ、投票までの時間潰しにでも聞いていってほしいものだ」
鍛冶屋にして陰陽師、天目錬。いずれ『スターテクノクラート』に並ぶ職人の名だ、覚えておけ!」
『ずっと言ってやりたかった啖呵を真正面からぶつけてやれば』。
『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)にとってこの塔の冒険は至極意味のあるものになる。
「これは逆に清々しいね!
本来であれば駆け引き裏切り抜け駆けで疑心暗鬼を募らせるような催しだけど――最後のルールでそれが覆る。
かの『スターテクノクラート』を出し抜いてそんな暗闘に興じられるのなんて居る訳がないしね。
そうしたら後は小細工なしで自分達の当て勘と運命に身を委ねるのみ、良く出来たルールだよ。
多数派工作も出来なければ人望が必ずしも有利に働く訳でもない。文字通り誰でも勝てるゲームだから!」
「うん。ホログラムの神に興味はない。それより気になるのは――この難問の方だった」
やや興奮したように『数多異世界の冒険者』カイン・レジスト(p3p008357)が言えば、『いにしえと今の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)は至極冷静に周囲を眺めていた。
投票結果は多分に運が絡む。しかし一切合切全てが運という訳ではない。
例えば投票の挑むローレットの仲間達の顔はどうか。
例えばお互いの関係はどうか、性格は?
(二位を狙うには……まず一位を決めないといけない)
『一位になりそうなチームを見定め、外して二位を探す』。
言葉にすれば易しくとも、見極めるのはとてつもない難問だ。
だが、アリアは自分の中の答えを手に入れた。
――さて? 投票して貰おうか。
但し分かっているとは思うが、小生は諸君等の『結論』を知っている。
つまり、諸君等には開票前の真の投票をして貰う事になる。
成る程、【創生塔】が『今判断できるなら』ゲームはゲーム足り得ない。
悪趣味である。
勝利にせよ敗北にせよ、敢えて自分の口で言わせるのはシュペルの性格からすれば当然の事なのだろうが――
『蒼の楔』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)は柳眉を顰めてシュペルを見た。
それは向こうからすれば兎も角、レイチェルにとっては大袈裟ではなく『夢に見た謁見』だった。
(――あの日から。
あの日からずっと、ずっと――シュペル先生に会える日を待ち焦がれていた。
他の奴なんか知らない。他の奴が何をしたいかも、何を思っているかも。
でも俺はこの中で誰より一番、シュペル先生に会いたい自信はある。想いだけなら、絶対に一番だ。誰にも負けない。
それでも――それでも)
――『本当の謁見』に到るには第三層の勝ち抜けが必要不可欠だった。
「だから、俺は――」
レイチェルは悔しくて唇を強く噛んだ。
そうしたかった訳ではないが、そうする他はなかったと言える。
何せ目の前の男は天才だ。彼女が焦がれた至高の魔術師だ。答えのすり替えなんて許しちゃくれない。
彼女は自分自身、何故彼にここまで拘泥するのかが分からない。
分からないが確かにこれはこの吸血鬼らしからぬ瘧のような熱情だった。
「――俺達は、【乙女同盟】に投票した」
言葉と共にリストが動いた。
同率を示していた【乙女同盟】と【ルサルカ】に順位がついた。
同時にファンファーレと共に【ルサルカ】の名前が虹色に輝き、投票した【夜空】【鉄腕】【チームK】に【ルサルカ】自身を加えた四チームの名が大きく表示された。
――実に面白い投票だったよ。
満足したかのようなシュペルの言葉にレイチェルは声を上げた。
「ちょっと待って」
もう『放り出される』事は確実で、だから彼女は声を張った。
「シュペル先生! 俺は絶対諦めないで会いに行ってやるからな!
嫌がられようが押しかけ弟子になってやる!
『名前は見た』だけで終わりたくねぇ!顔も生き様も全部記憶させてやるからな!覚悟しとけよ!
俺は……ヨハンナ=ベルンシュタイン! アンタの弟子になる女だ!!!」
――ライバルだ、弟子だと忙しないものだ。
シュペルは先程の錬やレイチェルの言葉を受け、そして恐らくは生活を心配する連中の事も含めて深い溜息を吐き出した。
――どれもこれも『物好き』な。
言葉は嫌味であり皮肉であり、それだけでもなさそうだった――
結果
【クリア】:【ルサルカ】【夜空】【鉄腕】【チームK】
【脱落】:【上記以外12チーム】
成否
成功
GMコメント
YAMIDEITEIっす。
Tower of Shupellのてっぺんでもやしと握手!
非常に特殊なラリーです。以下を読み込んでご参加下さい。
●依頼達成条件
・Tower of Shupellの攻略
※ローレットの誰かが達成すればOKです
●シュペル・M・ウィリー
混沌において神に最も近しい人間。
魔術王であり、鬼才のアーティファクトクリエイター。
性格は面倒くさくて傲慢。塔を登って会いに行きましょう。
●Tower of Shupell
練達の『セフィロト』近郊に存在する塔。
シュペル・M・ウィリーのアトリエとされており伝説そのものです。
外から見えるのは高い塔の姿ですが、実は内部は一つの別世界になっておりあらゆる変化が生じます。
塔は登るものですが下る事もあれば、別の事態も生じ得ます。
またレオンは外見に関係なく空間は無限に続き、何もかもを内包していると言っています。
塔を攻略した人間は(シュペルが気に入る話なら)願いを叶えてもらえるそうな。
※本人的に面白くない事願うと不機嫌になって叶えてくれない場合もあるそうな。
●チーム・サリュー
幻想北部商都サリューを支配する一党。悪人です。
クリスチアン・バダンデール、死牡丹梅泉、紫乃宮たては、刃桐雪之丞からなる四人パーティ。
所謂プレイヤーキラーであり、プレイヤーチームにランダムでエンカウントする場合があります。
エンカウントした時、どうなるかは不明です。
●第一層『星彩迷宮アリアドネ』
Tower of Syupellに足を踏み入れたパーティはその瞬間、それぞれ全く別のポイントに強制転移させられます。
入り口は同じでも全く別の場所。そしてそれは無限を感じるような大迷宮です。
シュペル側が一応『手加減』してくれているのか、同チームのメンバーは固まって転移しますが、それぞれのパーティの開始ポイントはバラバラです。
恐らくは『迷宮をクリアする為のゴール』が存在するものと思われ、ゴールに到達した人間は第二層へ移動出来るものと推定されます。
『星彩迷宮アリアドネ』は大迷路の形状をしており、道中には様々なトラップや、番人(経験者であるレオン曰くシュペル・ナイトと称される彼の駒)が存在しています。
シュペルがどれ位『本気』かは不明ですが、忘れてはいけないのは彼にとっては冗談程度の事でも他人には重篤な結果を及ぼす可能性は低くない事です。
死亡判定を含むその他様々な判定が状況上生じ得る事を忘れないようにして下さい。
制限時間やゴールまでの距離は不明(かつ単純に『配置運』にも左右されると考えられる)ですが、中長期の対応が強いられる可能性は高く、単純な戦闘力のみでの解決は容易くないと考えられます。
ギフトや非戦スキル等、効果があるものはありますが、塔主は混沌最高の『気分屋』かつ『反則』です。
尚、レオンはこの迷宮を経験した事はありません。「俺の時の第一階層とはどうせ違うから当てにならない」との事。
シナリオ結果(返却状態)には以下のステータスが存在します。(ハッキリと記載されます)
【クリア】:現階層をクリアし次階層への参加権を得た状態です。おめでとうございます。次階層をお待ち下さい。
【継続】:返却結果を『オープニング』と捉え、その状態に追加のプレイングをかけて下さい。(チームのプレイングが揃わない場合、プレイングの内容等によっては追加の結果が来ない場合があります。その場合は下記の【脱落】と同様の扱いになります)
【脱落】:現階層にてクリアに失敗しチームの脱落が確定した状態です。残った人を応援しましょう!
●特殊な備考
Tower of Shupellに参加するルールと心構えです。
全て守られていないプレイングは有効としない場合があります。
・攻略者は必ず四人のチームを編成して下さい。
・チームメンバーは一行目に【】でくくったチームタグを記入して下さい。(例:【特攻野郎ローレット】)
・本シナリオは『ノックアウト形式』です。第一層を攻略成功したチームのみが第二層以降の参加権利を得ます。第二層以降のルールも同じです。最新層で攻略成功しなかったチームは(不参加も含めて)以降層では自動的に不採用になります。
・特に悪い所がなかったとしても脱落する時はします。そういうものだとご理解下さい。
・PVPではありません! 誰かが届けば皆がOKです。自分が落ちても次の誰かに託す気持ちで応援しましょう!
●情報精度
このシナリオの情報精度はEです。
無いよりはマシな情報です。グッドラック。
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
以上、宜しくお願いいたします!
※2021/07/15追記
各チームの攻略状況を公開しています!
https://rev1.reversion.jp/page/shupelt_challenge
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