シナリオ詳細
Tower of Shupell
完了
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オープニング
●『神』への挑戦
「まぁ、簡単な依頼にはならないよ」
ローレットに集められた多数のイレギュラーズを前にした時、『蒼剣』レオン・ドナーツ・バルトロメイ(p3n000002)は何時もより幾ばくか真剣な調子でそう言った。
「オマエ達に頼みたいのは或る『塔』の攻略だ。
どれ位訳知りかは知らないが――その顔を見る限りじゃ何人かは聞いてるな?
そう、御存知の通りだ。オマエ達が挑むのは混沌の歴史の根源、創世、御伽噺そのものだよ」
Tower of Shupell――
それは『スターテクノクラート』の異名を持つシュペル・M・ウィリーの拠点である。
練達の首都であり、練達そのものでもある『セフィロト』からそう遠くなく。天を突き、聳える塔が持ち主の性格と等しく傍若無人に存在しているのは混沌の住民には知られた話だった。
同時に彼は禁忌であり、常に世界の治外法権でもあった。
混沌は彼の存在に干渉しない。同時に彼が何をしようとも干渉『出来ない』。過去にはならず者や有力な軍隊が塔に攻め寄せたという記録が残されているが、彼等は例外なく忽然と歴史から姿を消してしまった以上、やはり『塔』はそういう場所でしか無かった。
「間違いなく混沌最高の天才だよ。いや、天才なんて言葉じゃ片がつかない。
神ならぬ神と言い換えても良い。恐らくアイツに不可能な事なんて死体を生き返らせる事位のもんだから」
ローレットにとっては特殊な装備を用意してくれる人間、といった印象が強いが、レオンの言葉はそれ以上だった。
物事を茶化しがちな彼が直接依頼をもってきて、大真面目な顔を崩さないなら言いたい事は知れている。
「……R.O.O――いや、『ネクスト』事件解決の為だよな?」
「ああ。確証はないが、奴ならこんな状況にも手が打てるだろう。
『真相を既に知っているのか、それとも対処が可能なのかは知れないが』。
何れにせよ、空振りがない事だけは断言出来る。それがシュペルだから」
「……随分信用してるんだな」
「信頼はしてないけどね」
この切り返しだけは如何にもレオンらしく、肩を竦めた彼は小さく嘆息した。
「問題はそこなんだ。アイツは兎に角変わり者で性格が悪い。
悪いと言うか……まぁ、何だ。兎に角面倒くさい。
……そういや、オマエ達。ネクストでは竜域に挑戦してるんだろう?
アイツの出方は不明で、今回の『塔』が冗談で済むのか、その竜域より危険なのかすら『分からない』。
規格外が過ぎるのは碌でもないもんだ」
「……マジかよ」
「大マジ。遊ばれるのか、殺しに来るのかどうかも分からん。
ついでに言うなら素直に協力を願ってもまず言う事は聞かないし、望む結果は得られないだろう」
「……だろうな」
「それで、必要なのが――」
「――『塔』の攻略、と」
「その通り」
レオンは頷いて説明を足した。
「アイツは天上天下自分に並ぶ者が無いと確信しているからな。
まず、話を聞いて貰うには『最低限』聞く価値がある人間だと証明する必要がある。
ご自慢の『塔』を超えて会いに来れる人間ならまさにお誂え向きって訳だ。
話が分かり易いだろう? だから、オマエ達には『塔』を攻略して貰う必要があるんだ」
「つまり、これはローレットを挙げての挑戦だ」とレオンは言う。
曰く総力戦で『誰か』が届けばそれでいい、と。
「成程ね。でも、確かレオンはもう攻略済みなんだろう?」
「なら、アンタが話せば」。そう言いかけたイレギュラーズに苦笑したレオンは首を振った。
「アイツは『塔』を超えた人間の願いを『面白ければ』叶えてくれる。
だが、それは一回限りのパスポートだ。俺はもう力を借りちまってるからね」
――ローレットに協力しろ。混沌の神託をぶっ壊すギルドだ。絶対退屈はさせねぇからよ?
「……ま、そういう訳だ。だから資格が残ってるのはオマエ達だけ。
ただ、悪い事ばかりじゃねぇぞ。今言った通りだ。
もしお目通り叶い、願い事がお眼鏡に叶ったなら――条件はキツイが不可能は殆どない。
素直に叶えてくれるかは別として『そういう事』だ。
まさに神代の冒険の英雄譚みたいなもんで――頑張りがいがあるってもんだろう?」
●プレイヤーキラー
幻想北部商都サリュー。
「実に愉快な展開じゃないか!」
執務室の机に頬杖を突いた上機嫌極まるクリスチアン・バダンデールの地獄耳はこの日、最高に耳寄りな情報を掴んでいた。
それは言わずと知れたホット・ニュース。
Tower of Shupell――混沌の『聖域』にローレットが挑む大作戦の話であった。
「上で待つ『神』は万能だと聞く。
ローレットにつまらない願いを叶えさせるのは退屈だし……
ここは一噛みしたくはならないかね?」
「誰ぞに頼るのは嫌いでな。そう興味はないが?」
「いいや、嘘だね。それは単なる手段と目的の順序問題だぜ。
君が君の願いを叶えたなら、闘争は永遠のものになるだろう!?
君はこの世の混乱の為に、或いはその先に待つ『君の世界』の為に私を手伝っているのだろう?
なあ、そうだろう。バイセン!」
何時になく興奮し、熱っぽい雇い主(クリスチアン)に死牡丹梅泉は辟易した。
言い出したら聞かない男である。子供のように無邪気に残酷極まる行為を『やり切る』男なのだ。
その好奇心が向く先には大抵碌でもない未来が降りかかる。
「……まぁ、良い。それで何じゃ。主はわしにちょっかいを出せと言う心算か?」
梅泉とて、毎度顎で使われる趣味はないのだ。
あのイレギュラーズと一戦交えるのは吝かではなく。
吝かではないから――何だかんだで『お使い』をさせられているのは否めないのだが。
「いいや、違う」
だが、この日のクリスチアンの言葉は何時もと少し違っていた。
こんな時、大抵彼は「任せるから遊んできたまえ。私を楽しませてくれたまえよ」等と言うのだが……
「今回は君にお使いを、じゃない。私も行くからね」
「――ほう?」
眠たげだった梅泉の目が開く。
チェスのクイーンのように滅多な事では動かないクリスチアンが重い腰を上げるのは滅多に見れるものではない。
「……じゃが、構わんのか? ローレットに堂々と敵対しても」
「何を言っているんだ、バイセン。敵対なんてとんでもないよ。彼等と遭遇するのは偶然さ。
彼等が伝説の塔に――神に挑むのと同じように、偶然我々もそうするに過ぎない。
更に間の悪い事に私達は独自の情報を得ているんだ。
『塔を攻略出来るのは一組だけ』。意味が分かるかい?」
「陰湿な主らしいな」
梅泉は呆れた調子で溜息を吐いた。
クリスチアンは出会ったイレギュラーズに例えばこんな風に言うのだろう。
――塔を攻略出来るのは一組だけなんだ。だからこの場は我々に譲って貰うよ?
もし、譲ってもらえないなら……そうだ、ここはフェアに勝負といこう!
勝っても負けても恨みっこなしで、ね!
承諾する筈がない。結果として物別れするのだから『やむを得ず排除せざるを得ない』と言いたい訳である。
「そういう訳だから、急いで準備をしよう。
留守番は……今回は時雨に任せよう。私、君、たては君、それから小雪君。
チーム・サリューだ。素晴らしい。
いやあ、私もデスクワークには飽き飽きしていたんだ。
たまには運動をしないとこの身体も鈍ってしまうというものだからね!」
相変わらず上機嫌のクリスチアンを半眼で眺め、梅泉は考えた。
(成る程、この男の底は知れない。見極めるも良き機会じゃろう。
さて、イレギュラーズには災難じゃが、乗り越えてこそ『勇者』といった所か――)
●『神』
一体何時ぶりの出来事か。
酔狂の気まぐれと、愚者の蛮勇。
それを除けば『塔』を望む者等多くはない。
ましてや本気で攻略を目指す等――天に唾する方が『マシ』であろうというものだ。
「一つ前は『蒼剣』か。その前は『あの女』。その前は――アイオンだっけ?」
実際問題、混沌の長い歴史の中でも『塔』を踏破した者等、数える程も居ないのだ。
だが、どうも、ローレットと――オマケが『塔』を目指しているのは本当のようである。
『散発』と違うのはローレットが本腰を上げた以上、『攻略』を重視してくる事は間違いないという点だ。
「ま、経験者(レオン)の考えそうな事ではある。
……しかし、まったく。どいつもこいつも俗っぽい。
小生に謁見しようというのに、実に嘆かわしい限りだな?」
混沌の全てを見通し、全治を気取る――『スターテクノクラート』は皮肉に口の端を持ち上げていた。
練達の三塔主から協力を要請されたのは随分前の出来事だが、当然そんなものは一蹴した。
そうしたら今度はこの通りである。自分の『お気に入り』をてこに話を進めようという事なのだろう。
「……………ま、良いか」
時間は売ってもなくならない位に余っていて。
代わり映えしない長閑には些か飽き飽きしていたのは事実である。
何年振りにか――それも迷い込むレベルではない。
『塔』に挑むに最低限礼儀の整った連中が大挙して押し寄せるなら、これはシュペルにとってもいい娯楽であった。
「……うむ、レオンの所の連中ならこんなものか?
いや、もう少しか? それともやり過ぎか?」
彼は空中に生じた青い魔力のコンソールを素早く打鍵する。
その一打ごとに『塔』の内部は姿を変え続けているのだ。
元より外から見える姿は仮初のようなもの。
無限に引き伸ばされ、自由に再構築される内部空間は彼のみに許された至高の幻想そのものである。
『塔の見た目、外から見える高さに意味は無く。実際問題一度足を踏み込めばそこには別の世界そのものが広がっている』。
シュペルに言わせればシステムを介して『混沌』をコピーしたR.O.O等、玩具に過ぎない。
「良し、一先ずはこれでいい」
塔を訪れる稀人であるレオンの顔を思い浮かべ、シュペルは作業に『一先ず』ほんの少しの手心を加えた。
先の保証はしないが、一層から全滅してはいよいよ退屈であるし、何より。
彼が自分のルールを理解しているのに満足した。お願い事を二回されるのは好きじゃない。
「何人が会いに来る事か――」
恐らくローレットはレオンの指揮で実に効率的に『攻略』を目指す事だろう。
それに、ダークホース。『おかしな連中』のお手並みも見物するには愉快だった。
「――尤も、期待はしないがね」
- Tower of Shupell名声:境界20以上完了
- GM名YAMIDEITEI
- 種別ラリー
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2021年10月01日 23時15分
- 章数5章
- 総採用数397人
- 参加費50RC
第4章
第4章 第1節
●星神闘技イレギュラーズ
――さて、いよいよ決着だ。
投票で『敗退』したイレギュラーズ十二組、数にして四十八人を除き、シュペルは薄い笑みを見せた。
予想外だったのは彼等が『放り出されなかった事』である。
勝敗はついたが、何を思ったか彼は脱落したイレギュラーズをギャラリーに指名した。
勝ち抜けた四組、十六名が辿り着いたのは古代の闘技場のような場所だった。
――想像はつくと思うが説明は必要かね?
「想像はつくけど聞きたくはないわね」
すっかり何時もの調子を取り戻した『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)をシュペルは嘲笑う。
――現金な娘だ。先程の肉を焼いてる姿は愉快極まりなかったのに!
「うっさい。上に行ったら絶対殴る」
閑話休題、シュペルは第四層のルールを語る。
――第四層は『星神闘技イレギュラーズ』だ。
不穏すぎる冠(タイトル)に残るメンバーもギャラリーの方もざわめいた。
――想像はつくと思うが。諸君等自身に最後の勝ち抜けを決めて貰おうと思ってね。
知力、気力、運、冒険の心構え――色々試してきたが、勇者に最も必要なものは『まだ』だっただろう?
即ちそれは武力である。
――ルールは簡単。以下の一つをクリアすれば残ったものは『謁見』となる。
一つ、戦闘可能な状態のチームが一組になった場合。
二つ、小生がいいと言った時点までそのチームが戦闘可能である場合。
平たく言えば諸君等にはノックダウン形式のバトルロイヤルを行って貰う。
但し、仲間同士では『二つ』が引っ掛かるだろう?
故にこの闘技場には小生がシュペル・ナイトを放つ事にする。
一応補足しておくが、二つ目のクリア条件は気まぐれのサービスだ。
時間を追えばシュペル・ナイトは強化されていくし、唯の待ちで小生は『良し』と言わない。
『星神闘技』がきちんと奉じられないならば、全滅させるだけだから忘れないように。
「ちょっと待って下さい」
『ダメ人間に見える』佐藤 美咲(p3p009818)がシュペルの言葉に口を挟んだ。
「我々にはハイ・ルールがあります。ローレット同士での戦いは原則禁止なのでは」
――原則、だろう? 依頼に必要ならば止められはしない筈だ。
違うかね? レオン。
――まぁ、やむを得ないな。
シュペルが問いかければ場に聞き慣れたレオンの声が響いた。
つくづくの規格外は、こんな芸当さえ簡単に可能にしてしまう――
――サービスついでにもう一つ。
折角の最後の戦いに真剣に当たってもらえないでは退屈故にな。
この星神闘技では『絶対に重傷も死人も出ないようにしてやろう』。
但しそれは諸君が諸君等と戦った場合のみ、だ。シュペルナイトは例外だから注意をするように!
塔のルールはシュペルが決める、それはこれまでとここも変わるまい。
この階層なら自信満々の連中も多かっただろうが、必ずしも彼等が残っている訳ではない――
結果がバトルロイヤルならばどういう立ち回りをするかで勝敗は大きく異なる。
コントロールの出来ないシュペル・ナイトも不確定要素だろう。
長きに渡った塔の試練、最後の結果は果たしてどうか――
●GMコメント
YAMIDEITEIです。シナリオを補足します。
●第四層『星神闘技イレギュラーズ』
名前の由来は皆さん自身でしょう。
Tower of Syupell第三層『星冠投票サラマンドラ』をクリアした皆さんは、古代の闘技場のような場所に導かれました。
これは百メートル四方程ある戦いの檻です。四チームは四角の闘技場の四隅に配置され、中央にはシュペル・ナイトが出現します。
配置は左上に【ルサルカ】右上に【夜空】左下に【鉄腕】右下に【チームK】となります。
シュペルの説明したルールによれば一組勝ち残れば自動的に通過。
或いはシュペルが「いい」と判断するまで戦い抜けば残ったチームは通過とのこと。
但し、恐らくシュペルはこの階層をイレギュラーズ同士のvsと位置付けている為、消極的な方法で「いい」を引き出す事は困難でしょう。
彼を満足させる必要があるのは間違いないです。
ギフトや非戦スキル等、効果があるものはありますが、塔主は混沌最高の『気分屋』かつ『反則』です。
尚、レオンはこの迷宮を経験した事はありません。「俺の時とはどうせ違うから当てにならない」との事。
第三階層『星冠投票サラマンドラ』で【クリア】判定を貰ったチームのみに参加権利が生じます。
第四層は決勝戦です。最少で一組。最大で四組残る可能性があります。
尚、ハイ・ルールはこの戦いを許諾します。またシュペルの力によりイレギュラーズ同士が相手を殺してしまったり重篤な傷を付けたりする事はありません。
シュペル・ナイトに傷付けられたり殺される可能性はあるのでそちらはご注意下さい。
以上、宜しくご参加下さいませ。
●シュペル・ナイト
シュペルの作り出したゴーレムの一種。
時間経過と共にどんどん強くなります。
何処まで強くなるかは知れませんが、何れ皆さんでも歯が立たない強さになります。
シュペル・ナイトは偶数ターン1d4に応じて何れかのチームを狙います。
奇数ターンはシュペルが面白くなりそうな感じに動きます。
●休息十分
これまでの冒険の疲弊から、全チームがHPAPに1d100/2%の減衰効果を受けます。
但し【休息十分】のステータスを持っているチームはHPAPの初期減少率が1d100/3%に下がります。
バトルロイヤルの立ち回り、シュペルナイトの動きと合わせてかなりのランダム性がある為、単純な戦闘力順にならぬ勝ち目は残るでしょう。
●ギャラリー
『星冠投票』まで残っていたイレギュラーズはこの戦いを目撃します。
プレイングをかけてもいいですが、観客だったり解説役だったり思いの丈を語る係までです。
リプレイの端っこに登場する場合があります。しない場合もあります。
リソースは得られますが、描写は確約しないのでもしやる場合はそんな感じでお願いします。
以上、宜しくお願いいたします。
第4章 第2節
●星神闘技イレギュラーズ
第一層から第三層までの奇々怪々にして厄介極まる障害を乗り越えたイレギュラーズは僅か四組、十六人まで減っていた。
単純な筋力、腕力といった実力以外にも運や勘、機転等を要求された『今回の塔』のファイナリストは大方の予想通りといった感ではない。
Tower of Shupell第四層、試練の名は『星神闘技イレギュラーズ』。
「ふむふむ、まだボクらも残っていてもいいんだね。
バトルロワイアルなら見応えもありそう……」
悪趣味にしてからかい半分のその名称の表す意味は、『無垢なるプリエール』ロロン・ラプス(p3p007992)の言う通り多数の人間が受け取るイメージのその通りであった。
「さて、僕らは敗退しちゃった訳だけども……依頼は帰るまでが冒険、とも言うしね」
ロロンや『数多異世界の冒険者』カイン・レジスト(p3p008357)等、惜しくも本戦からは退場したものの『観客席』に残されたイレギュラーズは二十一人も居た。
諦めて帰った者も居るが、残されたメンバーは『応援』する格好で塔にいる状態だ。
何が出来るという訳ではないが好奇心を満たすという意味では伝説の目撃に意味は多い――
「さて。脱落したとは言え見学は許されるのよね」
「普通ならはじかれてそうなもんなのに。
……こうして観客席まで用意してもらえてるってことは…なんか意味があるんだろうかね」
「残念ながら【星花】の挑戦は終わってしまったわけですが、このまま戦いを見せていただけるとは。
太っ腹、いえ、シュペルさんのことですから何かひねくれたお考えがあるのかもしれませんが……」
『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)の言葉に『一般人』三國・誠司(p3p008563)が肩を竦めて言葉を返す。一方で『未来を願う』小金井・正純(p3p008000)の舌鋒はやや緩く、言葉程声色が厳しくないのは大本シュペルが彼女の『波長』に合うからなのかも知れない。
「く、くぅぅっ……私も、あの場に立つことが出来たなら、この剣を存分に振るえたものを!」
「対人戦、しかもイレギュラーズ同士のバトルロイヤルなんて早々見れるものではない。目を離すなよ」
「はい! 師匠! でもあんまり残念そうではありませんね!」
熱くなり、その後に首を傾げた『勇往邁進』リディア・T・レオンハート(p3p008325)に『導きの戦乙女』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)は「ああ」と軽く笑う。
「最後まで残れなかったが……聞きたいことは聞けた。
世界を超えることは可能だとあの天才は言った。であれば私はその方法を探すだけ――
それが余人にどれだけ険しい道のりだとしても、な」
良く心技体が重要だという話は聞くが、敗北後の今こそ実証の時である。
『強い』彼女の姿にリディアは心底から「成る程」と納得せざるを得ない。
「はは、観客でも万金の勝ちがあるな。ラド・バウにも負けず劣らずのバトルロワイアルだ!
何よりシュペルの致命的なデメリットのある類ではない作品を傍から見れる! さぁて少しでも技術を吸収していくぞ!」
「えっと、観戦に必要なものといえば……お料理とお飲み物と、応援と踊り!
踊りはちょっと難しいし、お料理とお飲み物は作る素材も道具もないし、あとは応援だね!」
しかし『思ったよりは毒気がない』シュペルを目の当たりにして彼の人物像を修正したのは正純だけではなく『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)や『いにしえと今の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)といった面々も転んでもただでは起きず、実にポジティブに『観客』を愉しむ構えのようであった。
と言っても、無論この結果は悲喜こもごもである。
「くっそー! 悔しい!
自分を信じられなかったのが敗因なんて!
くっそったれが…誰よりも強く。理不尽を捩じ伏せて進める位強くなれば。俺は俺を信じられたのか?
何処まで強くなれば俺は満たされた?
……多分、俺はこの星神闘技の場に立てても、満たされなかったんだろうけどよ!」
先程は啖呵を切ったのはいいものの、やはりやけ酒の止まらない『蒼の楔』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)のような者も、
「四層の最強はキミだよ! 頑張れ、魔法騎士アト・サイン!」
屈託ない声を力の限り振り絞り真っ直ぐな応援を飛ばす『観光客』セララ(p3p000273)のような者も居る。
「悔しいが、ルールはルールだ。しゃあねェしな!
「むむー残念無念! 残念は残念だったけど……
あのすんごい顔してたシュペルさん面白かったねー」
……ヒヒ、それにしてもあの青毛。不機嫌な犬みてえなツラしてたなガハハ!」
「うむ! あのシュペル何某がぐんにょりしてたのは痛快であったな!
なればこそ、一票投じてくれた【ルサルカ】には恩を返さねばなるまいよ!」
『胸いっぱいの可能性を』フラン・ヴィラネル(p3p006816)は【伊達】に投票してくれた【ルサルカ】が勝ち上がった事には満足したらしい。特に露骨な笑い声を上げた『最期に映した男』キドー(p3p000244)や『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子(p3p001385)の言葉には宙に浮かぶホログラムのシュペルが大袈裟な咳払いをした。
「……本当に」
静かな呟きを漏らしたのは『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)だ。
(基本的に死者も重傷者も出ないようにする、なんて。
とても『彼』とは思えない……似ている所はあっても完全なる別人なのですね、やはり)
追憶の中、遥か遠く余りに遠い――アリシス・シーアルジアの『黄金時代』。
『言葉が余りにも足りない』或いは『言葉が余りにも難解だった』師匠、主人、或いは――の事を、それに対抗する気難しい魔術王の事を思い出し、美貌が僅かに歪む。
観測者に成り下がった己が『プレイヤー』だった頃、今尚燻る火種が青く静かに燃える熱情だった頃を僅かばかりに蘇っている。
「詮無きこと」と苦笑を浮かべたアリシスは己の中のデ・ジャ・ヴを完全なる感傷であると理解していた。
――さあ、星神闘技を始めて貰おう!
気を取り直したように宙空に浮かぶシュペルが高らかに宣言した。
設えられた『闘技場』の四隅に配置されたイレギュラーズ達の表情に緊張が走る。
「残ったチームは【ルサルカ】、【夜空】、【鉄腕】、【チームK】…どのチームも納得、かしらね
はぁ……地味に叶えて欲しい願いはあったけれど……
いえ、いいの。ここまで来れただけでも十分!
あとは勝者が決まるのをこの目で見届けるだけ――
私の願いなんて……身長……長身のあの方の横に並んでスラッと……
二十センチ差位が口付けには一番丁度いいとかロマンチックだとか……いえ、なんでもないの、ええ!」←忖度したアドリブ
「さあ始まります! 『Tower of Shupell第四層【星神闘技イレギュラーズ】』
シュペルナイトが目を光らせるこの闘技場、勝つのは一体どのチームか!
各々が譲れない理由を背景に勝ち上がってきた大一番!これは見逃せませんねえ!
実況は私『冠位魔種を倒し、そしてTower of Shupellを三層まで登った男』ボルケーノ伊達と、解説はお馴染み『トノ・ザ・フール』一条夢心地でお送り致します!
早速エントリーチームを見ていきましょう! 解説の夢心地さん、予測される情勢をお願いします!」
「うむ、解説の麿じゃ。宜しく伊達ちゃん。
星神闘技に挑みし四組、さすがに皆良い面構えをしておる、が!
この第四層、誰か鍵を握るかあえて語るとすれば、それはやはり……
【鉄腕】におる、己を虎だと思っているにゃんこじゃろう。
にゃんこがにゃんこであることを認め、キャットパワーを十全に発揮することができれば。
【夜空】の猫好き、ヨゾラを手懐け!
【チームK】のエクスマリアとの、マリア対決にも勝機が見え!
【ルサルカ】のお肉のゴラからの、串カツ用のお肉の入荷も滞りなく行われる筈じゃ!」
即席の自称『解説席』の隅っこに座った『竜首狩り』エルス・ティーネ(p3p007325)、実況と解説を自称する『Go To HeLL!』伊達 千尋(p3p007569)や『殿』一条 夢心地(p3p008344)の言う通り。「猫じゃあないんだよ!」の一部からの抗議の声は取り敢えず無視して。シュペル曰く「猫と聞いたが?」の通りに。
左上に【ルサルカ】右上に【夜空】左下に【鉄腕】右下に【チームK】――
そして状況を加速させ、混沌とさせる要素として、闘技場の中央には全員の敵――
「……創られたモノのシンパシーというか、多勢に無勢でちょっと可哀想というか。シュペルナイトを応援したいなぁ」
――ロロンの言う、強力極まりないシュペルナイトが配置されている。
彼等はこれから特別にローレットも認めた『バトルロワイヤル』で雌雄を決する事となる。
「願わくば、あのシュペルとかいう優男のスカした顔が大いに歪む展開になる事を望むばかりね」
基本的には男嫌いのレジーナの言葉は喝采を望むイレギュラーズの多くの代弁であった事だろう。
物語はこれより佳境に移る。星神闘技の結果こそ、神に到る最後の関門なのだから。
しかして、結論から言えば。
レジーナの願いは予想外に早く叶う事になる。
その理由は『勝敗』とは全く別の形。彼等は特異運命座標。
『特異点とは往々にして可能性やルールを覆すものなのだ』。
成否
成功
第4章 第3節
●星神闘技イレギュラーズII
塔の神の望みは愉悦である。
何か目的があって試練を架している訳ではない。
イレギュラーズに――より厳密には他者自体に――何かを望んでいる訳ではない。
彼は自身の望みの『大半』を己自身の手で叶える事が出来る。
彼の願いは彼以外を必要とせず、彼に不可能である事を余人が叶える事等、それこそ夢物語と呼ぶ他はない。
『この塔は彼の余興に他ならない』。
あくまで彼に言わせればだが――有象無象が困る姿を楽しみたい、悪戯と言うには度が過ぎて。邪悪と呼ぶには邪気の足りない、シュペル・M・ウィリーのお遊びに他ならないのだと考えるべきだっただろう。
つまり、塔の支配者は常に彼だった。
彼がルールを決め、演者は彼の演目に従って『事』を進める――
それは単純にして絶対の事実であり、何人も侵す事のない『聖域』だった筈だ。
――何だと……!?
星神闘技が始まり、彼が少し間の抜けた声を上げたその瞬間までは!
「星神闘技のシステム、これ自体は普通のバトルロイヤルなんですが!
この塔はラリーシナリオなのでプレイング文字数が300文字しか使えません。
ロールプレイとして戦闘に躊躇う素振りや、シュペルへのレスバを盛り込めば盛り込む程戦闘で不利になる。
気持ちを切り替えてガチガチの戦闘プレイングをかけるのが単純に勝つにはいいんでしょうが、シュペルナイトやシュペルの愉悦スイッチにどう作用するかわからない……
それはそれとして反応を上げれば大抵のことは解決するので、まず先手を取ったのは【鉄腕】佐藤美咲選手!
続いて感心にも反応を上げていたのは【ルサルカ】フラーゴラ・トラモント選手!
更にここに【チームK】黎明院・ゼフィラ選手、【夜空】ティスル ティル選手が続く!
全チーム一通り揃い踏みで動いた先は――」
メタ混じりなのは『二輪』アルプス・ローダー(p3p000034)がアルプスであるが故だ。
反応解説ことクレイジーバイクパイセンが見据える先は舞台の中央。
「――センターのシュペル・ナイトだ! どうやら各チームバトルロイヤルを拒否した模様! 反応上がってますね!」
シュペルの『意図』はプレイヤー同士の対決、バトルロワイヤルだ。
しかしながら彼にとって誤算だった事が二点ある。
一つ目は今回の挑戦者が『とても多かった』こと。
本来ならばもっとふるい落とされる挑戦者の数が『興味を持ってしまった』シュペルの気まぐれにより多く残った。もっと言えば今回の特別は『全員を落としたい訳ではない彼が、誰かが残れるルールを設定してしまったこと』。
二つ目は言うまでもなくイレギュラーズがイレギュラーズであった事である。
かつてレオンが「変人奇人の見本市」と笑った連中は元よりルールに真っ当に殉じるような協調性を持ち合わせてはいない!
「強い奴から狙うのが定石っスからね。ま、うち以外が倒されても勝ちですから――気楽ってもんですよ!」
シュペルナイトに先鞭をつけたのはアルプスの解説した【鉄腕】『ダメ人間に見える』佐藤 美咲(p3p009818)である。
素晴らしいスピードで彗星のように飛び出した彼女は瞬間の速力を破壊力に転じ、まずは華やかなりし鏑矢を闘技場に叩きつける。
「ここに来て仲間同士睨み合うなんてそれは違う……
シュペルさん、ばーーか! メンタルもやし!
全員の願いを叶える器量を見せてよ! ケチ!!!」
続いた【ルサルカ】『恋する探険家』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)が高みの見物を気取るシュペルに抗議じみた声を上げながら、鋼の咆哮を上げたシュペルナイトの注意を引きつける。
「次は我々が、貴方の予想を越える未知を見せようじゃないか。我々の実力を披露しようという話だよ」
「皆、やっぱり凄いや。こんな楽しそうなこと考えちゃうのだもの!
さあ、ローレットの戦いを見てくださいな!
バトロワだけなのは、きっと貴方へ捧げる余興には短すぎるものね!」
涼やかに言う『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)、熱っぽく声を上げた『幻耀双撃』ティスル ティル(p3p006151)。
チームは別々、役割はそれぞれながらその意志は何れも統一されていた。
「【鉄腕】【チームK】【夜空】そして【ルサルカ】。
いいえ、もうこれからは【チームイレギュラーズ】と名乗るべきかしらね?」
顎に手を当てた『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)はこの状況の仕掛け人の一人だった。
司令塔を気取る『天才になれなかった女』は『天才』の顔を余裕たっぷりの顔で見上げて言った。
「貴方の提示したルールは、主に二つ。
一つ、戦闘可能な状態のチームが一組になった場合。
二つ、小生がいいと言った時点までそのチームが戦闘可能である場合。
つまり、私達が戦わないといけない、とは言っていないわよね?」
予想外の共闘は協定によるものだ。
イレギュラーズは短い時間で判断した。
お互いに落とすのではなく、シュペルナイトという共通の敵を叩くという結論を。
「へぇ、イレギュラーズ同士ではなく共闘してシュペルナイトを倒す方向に出たか。
まぁ『らしい』選択ではあるよな。仮に俺らも参戦してたら同じような、なぁ――?」
同意を求めた『ただの死神』クロバ・フユツキ(p3p000145)に傍らのセララが「う、うん……!」と微妙な反応を見せた。
まぁ、そういう可能性もない訳ではないが『戦闘民族』の場合、そういう発想に到るとは限らない所か。
「雌雄を決する良い機会だと思ったのだけれど、イーリン達が言うなら仕方ありませんわね
その首、今は預けておいて差し上げますわ!」
「その台詞はまるで悪役であります、ヴィーシャ。
『自分』は、ハッピーエンドならその方が良いでありますよ」
「ヴァリューシャかわいい……
じゃなかった! こうなれば最善を尽くすだけだよ!」
【鉄腕】は残存したチームでは主力にならざるを得ない強力なチームである。
『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)に『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)が応じ、『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)が続いた。連携良く動き始めた彼女等は強力な攻め手となる。
「では、失礼します。御免遊ばせ」
美咲の先鞭から連鎖するかのように強烈な踏み込みからエッダの拳が唸りを上げた。
「シュペル君! まさか自慢のナイトを破壊されて認めない、なんてことはないよね!?」
凛と声を上げたマリアが膨大に噴出した紅雷を収束させて纏っていた。
異常加速した彼女が刹那に繰り出した雷吠絶華はまさに自身を『雷弾』と化し、間合いに無数の光芒を炸裂させている。
止まらない。『先鞭し』『崩し』『削り取る』一連の動きは終わりではない。
「どっせえーーい!!!」
十分なマリアの手数の支援を受け、隙を見せた敵にヴァレーリヤが気合の咆哮、猛牛の如き突進を叩き込む。
猛攻を〆るのは圧倒的な威力を誇るヴァレーリヤだった。
「成る程ねぇ」
ホログラムのシュペルの顔が面白い形になっていた。
そんな彼の反応が余程『お気に召した』のか『願いの先』リア・クォーツ(p3p004937)の形の良い唇が三日月の形を作っていた。
「あら、随分面白い顔してるじゃない!?」
さっぱりとした彼女のこと、それは決して嘲る調子ではなかったが、姉なる概念の彼女のこと。この手の(割とどうしようもない)男が予想外に狼狽するのは血のしたたるステーキ位に大好きだから仕方ない。シスター的に考えて。
「ねぇ、シュペル・M・ウィリー。
どうかしら? 実際間近で見た、あたし達は。
この展開、予想していました?
あたし達を塔に入れちゃった以上、もう諦めるしかないわよ。
なぁに、貴方って神に近しい人なのでしょ?
だったら、これくらいの横紙破りには目を瞑ってくれてもいいじゃない!?」
――小生が『いい』と言うと思っているのかね!?
水を向けてきたリアにシュペルは最高の渋面を作っていた。
確かにこの共闘に違反項はない。然し乍らこの作戦に問題がない訳ではない。
シュペルの提示したクリア条件は『一組になった場合』、それから『彼がいいと言った場合』である。
リアは挑発するように言ったがイレギュラーズ側の行動は『横紙破り』。
シュペルからすれば自身のルールに従順ではない彼等に「いい」を出す理由は無かろう。
彼が「いい」を出さなければイレギュラーズはシュペルナイトと戦い続けるだけだ。
シュペルナイトが何れかのチームを撃破するならば最後に『誰か』が残るのは確実だが……
――無謀な、愚かな! 余程諸君は死にたいものと見える!
シュペルナイトは時間で強化される上、塔主の頼んだこの階層の最大の障害である。
戦い慣れたイレギュラーズとはいえ、これまでの攻略で疲弊も見える彼等が勝利する事はほとんど不可能だろう。
その上、シュペルが用意した『安全保険』はイレギュラーズ同士の戦いにしか作用しないのだ。
ならば、この『横紙破り』はシュペルの裏を欠くものであると同時に正真正銘の命がけと呼ぶ他はない――
「死にたい訳ないでしょうが。
あたし達に『脱落』はあるけど、『敗北』はまだ誰もしていない。
いいでしょう? それくらい我慢しなさいよ。
こうやって五月蠅く言うのも、長い時を生きる貴方にとってはあたしが死ぬまでのほんの一時だけじゃない」
リアの言葉にシュペルの表情が何故か最高に苦々しく歪んだ。
苛烈さを増す武舞台では【鉄腕】の猛攻に続き、【チームK】が活発な動きを見せていた。
何れにせよ、賽は投げられている。シュペルが『どう思おうと』イレギュラーズのやるべき事は変わらないのだ!
「一瞬でも良い……!
皆でシュペルさんの予想を超えてやりましょう! それが多分――『勝つ』って事なのだわ!」
『嫉妬の後遺症』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)には珍しい凛とした覇気が声に滲んだ。
「イルミナさんにこの風をを預けるのだわ――」
「――ええ。死ぬ気はさらさらありませんが、死力は尽くします。勝ちますよ、イルミナは」
「どうしても認めないなら降りてこい。お前もイレギュラーズ、だ。条件は満たしてる、な?」
愛おしくしとやかなる巫女の『風』を背に受け、無数の残影を展開した『蒼騎雷電』イルミナ・ガードルーン(p3p001475)の百手がシュペルナイトの装甲を叩き、挑発めいた『倫敦の聖女』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)の魂の弾丸が絞り出すような強烈な威力をもって貫いた。
おおおおおおおお……!
シュペルの苛立ちと同期するようにシュペルナイトが咆哮を上げ、その形状が瞬く間に組み変わる。
彼の操作なのか自然の事なのかは知れないが、敵の威圧感は実に早々とその姿を変えていた。
反撃が来る。受けるは【ルサルカ】。
「至れなかった観客の声。至った勇者達の声。
期待が外れた事に、私達の姑息さへの苛立ちが見える。
混沌の儘進む私達を見下ろし、己の理を盲信する貴方の『声』がたまらない。
少なくとも今、私達は貴方と対等な目線に至った――即ち『登った』のよ。
さあ、アト――」
「――文字通りの切札は先の階で手に入れてたのさ。
天主、我に力を帯びさせ―――カード、インストール!
柄じゃあないのは知ってるが、托された以上は皆の笑顔の為に戦わなきゃならんのでね!」
水を向けてきたイーリンに応じた『魔法騎士』アト・サイン(p3p001394)がこの鉄火場で魔法少女(セララ)の格好で気を吐いた。
笑い上戸のイーリンは『ぶん殴ってやりたかった』シュペルと、可愛くない相棒の愉快な姿に満面の笑みを浮かべている。
「でも、抑え役(ドフロント)ってのは大変だな!?」
アト曰く『観光客』は決して荒事向きではない。しかしこの場で【ルサルカ】が仰せつかったのはまず『止める』事である。
シュペルナイトが腕を変化させた大斧を『ヴァイスドラッヘ』レイリー=シュタイン(p3p007270)の圧倒的な防御力と体力が受け止めた。
「っ、く……私達は各人の想いが違っても、一つの敵に立ち向かう時が強いのよね……!」
嘯く彼女でなければ一撃で仕留められていたかも知れない『重さ』だが、白騎士は敢然とそれにも怯まない。
「シュペル、貴方の力はこんなもの?
言っておくけど――貴方が嫌になるまで戦うから、覚悟しなさい!」
――どいつもこいつも……!
「勝ち抜けを選べ、と? だが俺はそれを敗者を選ぶこととはしない。
バトルロワイヤルなのは分かっているが――勝つのは俺たちだ。俺たち『全員』だ!
それを認めさせれば十分なんだろう? 『勇者』っていうのは『そういうもの』なんだろう?」
「折角ここまで来たんだもの! みんなでシュペルお兄さんに会いに行けるように頑張るしかないわ!」
【夜空】も負けては居ない。角度を変え、更に『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)が攻め掛かり、ギリギリの状況を支えんとする『リチェと一緒』キルシェ=キルシュ(p3p009805)が死力を尽くして支援に入る。
「僕はかつて見た夜の空に憧れた。
召喚後に自ら夜空を名乗り、彷徨の星に希い手を伸ばすもの。
シュペルさん、星神闘技は僕等なりに納めるよ。だからたっぷり――そこで見ててね。
僕等の可能性と意地と……色々沢山。後……君に会えたら可愛い猫を、さ!」
嘯いた『希う魔道士』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)は意気軒昂に声を張った。
星神闘技は続く。
見事なるイレギュラーズの攻め手が閃き、シュペルナイトは次々とその姿を変え力を増す。
薙ぎ払われたフラーゴラが小さく声を上げ吹き飛ばされた。
「賭けとしては分が悪くても……僕も皆も生きて進むんだ!」
「ルシェたちはここに来れなかった人達の願いも背負ってるの!
だからね、シュペルお兄さんが満足してくれるまで諦めないわ!
ヨゾラお兄さん、ティスルお姉さん、イズマお兄さん――最後まで頑張ろうね!」
だが、ヨゾラにキルシェは意気軒昂。
シュペルナイトが大きく暴れる。
尽力死闘を嘲笑うかのように暴れに暴れる。
シュペルのホログラムは大して楽しくもなさそうにそれを眺めていた。
「貸しでありますよ」と小さく漏らしたエッダが壁に叩きつけられ、動かなくなった。
勝てる筈がない。元よりこの戦いは勝てるそれではない。だが、それでもマリアは、美咲は下を向かない。
「まだまだ!」
「同感スね」
「ええ!」
ヴァレーリヤは仲間の声に華やかに、軽やかに笑った。
「生憎だけれど、この程度で諦めるような安い女ではありませんのよ――!」
シュペルの「いい」が響いたのは星神闘技が彼の予想よりずっと長く続いた後の事だった。
場に残された誰にも余力はなく。特に戦闘力的な意味での主力を担った【鉄腕】と【ルサルカ】に立っている者は居なかった。
主力を失えば勝敗はもう目に見えている。『最後の一チームになれば勝ち抜けは決まる』が『それは面白い見世物ではない』。
――これ以上続けて諸君の壊滅という消化試合を眺めろと?
大サービスだ。いい加減うんざりする。早く帰らせたいから残りの話は聞いてやる!
憎まれ口を叩くシュペルの声を聞けたのは【チームK】と【ヨゾラ】の何人かだけだったが――
一組の心算だった彼から『譲歩』を引き出したのはイレギュラーズの勝利であり、何より。
特に『脱落した二チームの奮闘だったに違いない』。
【クリア】:【チームK】【ヨゾラ】
【脱落】:【ルサルカ】【鉄腕】
成否
大成功
GMコメント
YAMIDEITEIっす。
Tower of Shupellのてっぺんでもやしと握手!
非常に特殊なラリーです。以下を読み込んでご参加下さい。
●依頼達成条件
・Tower of Shupellの攻略
※ローレットの誰かが達成すればOKです
●シュペル・M・ウィリー
混沌において神に最も近しい人間。
魔術王であり、鬼才のアーティファクトクリエイター。
性格は面倒くさくて傲慢。塔を登って会いに行きましょう。
●Tower of Shupell
練達の『セフィロト』近郊に存在する塔。
シュペル・M・ウィリーのアトリエとされており伝説そのものです。
外から見えるのは高い塔の姿ですが、実は内部は一つの別世界になっておりあらゆる変化が生じます。
塔は登るものですが下る事もあれば、別の事態も生じ得ます。
またレオンは外見に関係なく空間は無限に続き、何もかもを内包していると言っています。
塔を攻略した人間は(シュペルが気に入る話なら)願いを叶えてもらえるそうな。
※本人的に面白くない事願うと不機嫌になって叶えてくれない場合もあるそうな。
●チーム・サリュー
幻想北部商都サリューを支配する一党。悪人です。
クリスチアン・バダンデール、死牡丹梅泉、紫乃宮たては、刃桐雪之丞からなる四人パーティ。
所謂プレイヤーキラーであり、プレイヤーチームにランダムでエンカウントする場合があります。
エンカウントした時、どうなるかは不明です。
●第一層『星彩迷宮アリアドネ』
Tower of Syupellに足を踏み入れたパーティはその瞬間、それぞれ全く別のポイントに強制転移させられます。
入り口は同じでも全く別の場所。そしてそれは無限を感じるような大迷宮です。
シュペル側が一応『手加減』してくれているのか、同チームのメンバーは固まって転移しますが、それぞれのパーティの開始ポイントはバラバラです。
恐らくは『迷宮をクリアする為のゴール』が存在するものと思われ、ゴールに到達した人間は第二層へ移動出来るものと推定されます。
『星彩迷宮アリアドネ』は大迷路の形状をしており、道中には様々なトラップや、番人(経験者であるレオン曰くシュペル・ナイトと称される彼の駒)が存在しています。
シュペルがどれ位『本気』かは不明ですが、忘れてはいけないのは彼にとっては冗談程度の事でも他人には重篤な結果を及ぼす可能性は低くない事です。
死亡判定を含むその他様々な判定が状況上生じ得る事を忘れないようにして下さい。
制限時間やゴールまでの距離は不明(かつ単純に『配置運』にも左右されると考えられる)ですが、中長期の対応が強いられる可能性は高く、単純な戦闘力のみでの解決は容易くないと考えられます。
ギフトや非戦スキル等、効果があるものはありますが、塔主は混沌最高の『気分屋』かつ『反則』です。
尚、レオンはこの迷宮を経験した事はありません。「俺の時の第一階層とはどうせ違うから当てにならない」との事。
シナリオ結果(返却状態)には以下のステータスが存在します。(ハッキリと記載されます)
【クリア】:現階層をクリアし次階層への参加権を得た状態です。おめでとうございます。次階層をお待ち下さい。
【継続】:返却結果を『オープニング』と捉え、その状態に追加のプレイングをかけて下さい。(チームのプレイングが揃わない場合、プレイングの内容等によっては追加の結果が来ない場合があります。その場合は下記の【脱落】と同様の扱いになります)
【脱落】:現階層にてクリアに失敗しチームの脱落が確定した状態です。残った人を応援しましょう!
●特殊な備考
Tower of Shupellに参加するルールと心構えです。
全て守られていないプレイングは有効としない場合があります。
・攻略者は必ず四人のチームを編成して下さい。
・チームメンバーは一行目に【】でくくったチームタグを記入して下さい。(例:【特攻野郎ローレット】)
・本シナリオは『ノックアウト形式』です。第一層を攻略成功したチームのみが第二層以降の参加権利を得ます。第二層以降のルールも同じです。最新層で攻略成功しなかったチームは(不参加も含めて)以降層では自動的に不採用になります。
・特に悪い所がなかったとしても脱落する時はします。そういうものだとご理解下さい。
・PVPではありません! 誰かが届けば皆がOKです。自分が落ちても次の誰かに託す気持ちで応援しましょう!
●情報精度
このシナリオの情報精度はEです。
無いよりはマシな情報です。グッドラック。
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
以上、宜しくお願いいたします!
※2021/07/15追記
各チームの攻略状況を公開しています!
https://rev1.reversion.jp/page/shupelt_challenge
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