シナリオ詳細
<夏の夢の終わりに>明日を見させて
オープニング
●バトル・オブ・アヴァル=ケイン
妖精郷に冬が訪れる――全てが凍り、何もかもが凍えて死ぬ――
御伽噺の国『妖精郷アルヴィオン』は魔種達に蹂躙されつつあった。
寸でのタイミングで進撃を果たしたイレギュラーズの活躍により、妖精女王ファレノプシスは救出され、占領されていたエウィンの街を奪還する事にも成功した。が、それでもまだ事態は解決してなかったのである。
占拠された妖精城アヴァル=ケインは未だ魔種達が蠢き。
そして魔種タータリクスに思惑をもって協力するブルーベルとクオン=フユツキの暗躍は――かつての『王の力』を呼び起こしたのだ。
『冬の王』と呼ばれた、あまりに強大な力を宿していた邪妖精の力そのものを。
「『冬の王』……そんなものが眠っておったとは驚きよの……ビェ――キッシ!!」
大きいくしゃみをするのは一条 夢心地(p3p008344)……ではない。
そこに居るのは夢心地の姿をした『キトリニタス』である。
それは素となった人間の肉体の一部と妖精の魂と混ぜ合わせ創り出す錬金術の魔物『アルベド』の更なる発展形。全ての能力が向上し強大な戦力として使用できる傑作品だ――代償として取り込んでいた妖精は『ぐちゃぐちゃに溶けて』いるだろうが些細な事である。
自らの内に閉じこもり夢を見続けるタータリクスにとって、妖精の命などどうでもいい事なのだから。
……閑話休題。ともあれキトリニタス・ユメゴコチが見るのは春を謳歌せし妖精郷ではない。
本来であれば此処はとても温暖で風光明媚なる地であった――が。
見渡す限り広がるのは冬の光景にして。
永久凍土に包まれしは終わりの光景。
これが『冬の王の力』の足跡――妖精郷のレクイエム――
「なんでも昔々の勇者によりビエーッキシッ! あー封印されておったとかいう話じゃが、エーキシッ!! うむ、もう寒くて敵わんのぉ! 誰ぞ火を持てぃ……これ! 麿に付けようとするでないわ!! あちちちちっ! エ――キシィッ!!」
しかもそう『見える』のではなく実際に寒い。
これでは温暖な気候で育っていた草木が耐えられよう筈があろうか。人ですら寒さを感じるのだ……ユメゴコチはまだ妖精の命が入っていない、プロトタイプのアルベドに命じ火を持ってこさせて――しかし知能が足りない故か服に押し付けられてアチチチッ。
手近にあった金属製の箱でアルベドの頭部を叩きながら、鼻を啜って見据えるは前。
「あーまぁ良いわ! どうせそう遠からぬ内に体を動かす事になろうぞ」
妖精城アヴァル=ケインに迫る気配をユメゴコチは感じていた。
冬の王の力を持ち去ったクオン達はともあれ――そもそもの発端である妖精郷を襲ったタータリクスはまだ此処にいる。己が夢を叶える為。己が妄想を現実とする為に。
故に妖精達が――いや妖精達の願いを受けてイレギュラーズ達が来るのは必定であった。
妖精郷は冬に沈んでいる。しかしまだだ。まだ間に合う。
冬の王は妖精郷から消え失せているのだ。妖精郷の中心ともいえるアヴァル=ケインを取り戻し、暴虐の限りを尽くしているタータリクスを排除すれば、まだ冬の力を払えるかもしれない。
皆の力を結集し――総力を尽くせば――!
「だがそうしてはやらぬというものよのぉ……」
故に今ここにタータリクス側の全戦力が集っていた。
イレギュラーズ達を撃退し、妖精郷を再制圧し、妖精女王を『取り戻す』為に。
ユメゴコチ以下、邪妖精やアルベドの成りそこない……有象無象も掛け集めて。
まぁ多少以上『反逆』の意思を示したアルベドが出たのは予想外とも言える事だったが――
「まぁそういう事もあろうかの。ほっほ……ならば向かってくる愚民共に麿の力を見せつけてやる時というものよ。殿上人には万民全て平伏すモノであると知るがいい――これッ!! 熱いと言っておろうが!! アチチチチチチッ!!」
再度炎を近付けてきた配下をそこいらにあった竹刀で連打撃。
ユメゴコチの背後。そこには――多くの魔物が集っていたのであった。
●『明日』を
寒い、と感じるのは当然イレギュラーズ側もであった。
歩を進める度に感じる寒さは本物――これが今の妖精郷――
「……酷いものだ。話には聞いていたが、これほどとは……」
ルドラ・ヘス(p3n000085)もまたあまりの惨状に顔を顰める。
草木の弱りが目に留まり、その命が今にも潰えんとしている程だ。
しかしこれ以上好きにはさせまい。妖精達からの救援要請を受け、深緑の迷宮警備隊も援軍として動きだした――この一戦をもって妖精郷を必ず奪還する。
さもなくば、この地にあるのは『滅亡』の道だけなのだから。
「よし、皆聞いてくれ――間もなく我々はアヴァル=ケインの近くに到達する!
目標はこの先で防衛線を張っているタータリクスの配下共を打倒する事だ!」
先行した偵察隊によれば、敵の数はかなり多いらしい。
中心と成っているのは妖精郷の魔物の総称でもある邪妖精。それからアルベドの成りそこないや、錬金術で作られたと思わしきモンスター達。あまり知能は高くなさそうに見えるが、数で上回るのであれば油断は出来ない。
一方でこちらはイレギュラーズが中心、それから迷宮森林警備のレンジャー部隊だ。
レンジャー部隊は弓を使う者が多く後方支援に優れている。
いざとなれば近接戦も行うのは可能で――その辺りはイレギュラーズと臨機応変に動くべきか。
目標は敵の防衛線の突破。その為における敵指揮官級の撃破。
キトリニタス・ユメゴコチ――彼を撃破すれば敵の統制は乱れる。
「形を作られているアルベドは、妖精の命が混ざり合っているという……
可能であれば無力化し、助けたい所だが……」
「――まって」
その時。ルドラの言に介入する様に。
目の前に現れたのはエーリカ・メルカノワ(p3p000117)――
いや、違う。
その『アルベド』だ。
突如としてイレギュラーズ達の前に現れた彼女の身は――傷ついている。
幾つもの傷が彼女の身を抉り、息を切らしていて……
「キトリニタスは……だめ。もう、まにあわない。いのちは――溶けてる」
「君は――いや、確か報告にあったな。敵対的でないアルベドと……」
アルベドの命は取り込まれた妖精の命によって成り立っている。
フェアリーシードという核となって。一つの命を形成しているのだ。
しかし――複数の意思が混ざりある、だからこそと言うべきか。時折、敵対的ではないアルベドが発生したりもする。タータリクスが真面目であり真剣に丁寧に作ったのであればそういう事も無かったかもしれないが――彼の『夢』以外に対する無関心さが彼女の様な例外を時折生んだ。
アルベド・エーリカは――先の、イレギュラーズとの接触を得てタータリクス陣営への合流を拒み。
彼らに反逆するかのように。
自分の『居たい』場所の方へと歩み出したのだ。
……結果として当然、向こう側からは裏切り者とみなされ苛烈な追撃を。
なんとか粛清の手を逃れてここまで来た――
「……わたしも、いく」
しかし彼女は消えかかっている。
意思と言うべきか命と言うべきか――『何か』が薄れている。
無茶をすれば今にも消えてしまいそうな灯火。
「しかし」
「……ちからに、なりたいの」
生み出された理由を知りたかった。
妖精達を追い詰め、暴力を振るう為に私は生み出されたのだろうか?
嘆きの声を響かせる為に。そんな今日を、明日を過ごす為に生まれてきたのか?
アルベドの中にはソレを是とする者もいよう。創造主であるタータリクスに忠実な者こそ特に。
でも、わたしは。
「わたしは」
一緒に行こうと言ってくれた人がいた事が。
嬉しかった。
闇の中を、泥沼を歩く様な感覚の中で温かな何かを感じた。
一緒に生きたいとあの時、心から願った。
だから。
「わたしにも……できることが、あるはずだから」
一緒に歩みたいと――此処へ来たのだ。
消える前に自分の命を知りたかった。
胸の内。フェアリーシードから、後押ししてくれている様な声が、意思が聞こえている。
だから居させてほしい――妖精郷を共に、助けさせてほしい。
どうかこの命に。闇を進んでいたこのわたしにも。
光を。
貴方達と同じ光景を――明日を見させて。
- <夏の夢の終わりに>明日を見させて完了
- GM名茶零四
- 種別決戦
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年09月02日 23時35分
- 参加人数100/100人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 100 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(100人)
サポートNPC一覧(1人)
リプレイ
●
命とはなんだろうか。
命とは誰のものだろうか。
この世に生まれ落ちた命とは、一体――
●
鬨の声。
激しき声の高ぶりは敵からも味方からも――
イレギュラーズと深緑警備隊の一部の連合は迫りくる邪妖精の群れに対処を行っていた。
奴らはこの妖精郷に住まう魔物共。タータリクスが操りし暴虐の塊達。
「邪妖精だのと――魔物に堕ちた同胞。嘆かわしい。見るに堪えませんね」
庚は軽く吐息一つ。あぁあぁなんたる様か。なんたる異形か。
醜悪。故にカノエ直々に成敗して差し上げましょう――ッ! 幻想種のレンジャー部隊の者と連携し、敵が近付く前にその姿を討たんとする。顕現せし疑似生命が狙うは――ああどれでもいい。正に山の如く波の如くいるのだから。
自らに失敗を否定する概念を齎し、穿つ穿つ……おっとっと。
「――いけませんね。かわゆいカノエにあるまじきお顔でございました」
口端を吊り上げるその在り様。余人には見せられぬと微笑み呟いて。
「うむ、やるべき事は露払いじゃな。数は多いがそこは臨機応変に、じゃ」
「勝利し、囚われし妖精達を解放してやらねばな。
同意なしに命を使う錬金術など……断じて許せるものではない」
次いでクラウジアとレオンハルトもまた敵へと対処する。油断すれば飲み込まれてしまいそうだが、こちらとて幾つもの戦いを乗り越えてきたのだ。今更何を臆そうか。
クラウジアの魔術が敵を抉る様に捉え、レオンハルトの剣撃が寄る邪妖精の首を断つ。
奴らの爪は鋭く、その牙は殺意に塗れていれば無傷とはいかないが――
「ですが、ここで多くの兵を喰い止めれば、他の方たちが戦いやすくなるでしょう……本命はこの奥にいるキトリニタスとやら。皆さま、がんばりましょう」
Pの言う通り苛烈であるからこそ踏み止まらせるに意味があるのだ。
敵は多く気は抜けぬ。されど押し負けぬ様に敵の流れを見据える――
戦略の目を持って統率の声を飛ばし、戦う者らの支援と成す。負の要素を齎された者がいれば、邪気を払う光によって対処して。
「戦わねば、道は開きません。妖精郷のために――死力を尽くしましょう」
死力と微力を。全力を持ってこの戦場に在り続けるのだ。
「邪妖精とは魔物の一種であるとか……ならばその命を奪う事に抵抗はありません」
前衛側としては桔梗はその一人として、邪妖精の群れへ相対す。
数が多かろうと一体一体丁寧に沈めて行けばやがてはゼロと至ろう。これらが名前通り『妖精』の枠組みであったのならばまだ多少抵抗もあったかもしれないが――奴らなら話は別だ。
攻撃を躱し、こちらの一撃を確実に当てて。時として名乗りを挙げる様に注意を引く。
兎に角、数を減らす。それだけを考え動き――敵を倒してゆく。
「……ところですごく気になっているのですが。あの顔が白い愉快なアルベド……いやキトリニタスというのでしたか、あの状態は。ともあれあの方のアレは――神威神楽の人間のキトリニタスなのでしょうか?」
とてもそうにしか見えないが、なんでもウォーカーの者だとか?
世界が似ていたのだろうか……なんとも奇遇な事があるもので。
「あぁ……すごくたくさんいるねぇ。まったく、とにかく蹴散らさないといけないね」
「ひなたぼっこ天国を冬にするとかけしからんやつらにゃ! うー寒いにゃ寒いにゃ……でもここでがんばって助けたらお礼にひなたぼっこスポットを借りれるかもしれにゃい!」
ともあれ津々流やシュリエもまた邪妖精の払いを買って出る。
数が多いのならそれこそ範囲技の輝き所でもある――霊力によって生み出した桜吹雪を津々流は彼らへ。冬に陥ったこの場の冷気すら切り刻まん激流が邪妖精達を纏めて流す様に。
一方でシュリエは文字通り『水』の力を。
多量の顕現せし水が津波として襲い掛かるのだ。温暖だった妖精郷をこのようにしてしまうとは許すまじ。折角の日向ぼっこスポットを奴らはなんだと思ってるんだにゃ……!
「うおー、やってやるにゃ! 未来のかつおぶしとひなたぼっこの為にゃ――!!」
味方を巻き込まぬ様に注意しながら。紡ぐ一撃は災厄の炎すら織り交ぜて。
「うーさっむ。じっとしてたら凍っちまいそうだ。オジサンの身体を労わって欲しいもんだよ全く……仕方ない。運動ついでにさっさと終わらせるとしようかね」
しかしそれでも敵の数は多い。効率よく倒そうとしても尚に多数。
故にランデルブルクはレンジャー部隊の援護を。
弓を放つ彼らに近寄らんとする輩を、加速を持って蹴り飛ばしてやる――
「嫌らしい形で悪いけどさ、これがオジサンの戦い方なもんで」
殴られれば気概が削がれよう。邪魔をされれば怒ろう。
故に嫌がらせの如く、正に攻撃しようとしている奴らの横っ面を殴りつけてやる。一体の目標に固執せず、端から端まで観察し常に動いて……『ああこいつだ』という奴を跳躍一閃。
「ルドラさん、支援させて頂きます――そちらはご存分に」
「ああ助かる。中々、思っていた以上に数が多いな……!」
で、あればと冬佳もまたルドラ率いる者達の援護に。
数は即ち力。敵が正にソレで攻撃してきているのならば――こちらにとっては纏まった人数を宿すレンジャー部隊が十全に動ける事こそ意味合いが大きいと。彼らの射撃による制圧射撃……
阻害せぬ様にと彼女が張りしは一つの結界。展開された陣が無数の氷刃を生み出して。
放つは敵にのみ。味方の混乱を治癒し、敵には無慈悲なる刃を。
「――よくもこれだけ集めたものですね、タータリクスも。しかし未だ彼の力が働いているとはいえ……無尽蔵と言う訳でもなし。邪魔にならぬよう此処で撃ち減らしましょう」
目に映る者を捉え、穿つ。味方が傷付けばその治癒へと当たろう。
戦いはまだ始まったばかりと成れば、脱落者を出す訳にはいかない。
「全く。戦略も何もなくても数っていうのはそれだけで強いな……孤立すればすぐにでも包囲されてしまうだろう。注意しつつ、この場で少しでも多くを減らせるといいんだが」
修也が見据える防衛線は今の所決壊していない。集団は敵を押しのけている。
しかし油断すれば食い破られよう。ふとした時に突出してしまえばどうなるか。
故にソニアと修也は行動を共にする――修也が放つ魔砲の一閃が敵陣に穴を開ける様に戦場に瞬けば、ソニアはそんな彼の補助に徹するのだ。気力が尽きそうであれば支援し、傷を受ければ治癒を齎して。
「アルベド、そしてキトリニタス……惨い事を」
そしてソニアが思うのはこの戦場の先、妖精を媒介に造られたモノ達の事だ。
命を軽んじた外道の行い。しかし人間も何かに情熱を傾けるほど、周囲を顧みることはできなくなるもの……と思いもする。手を取り合おうとは決して思わないが、同時に『理解』出来る面もあるのだ。
「――私には彼の総てを否定する事も出来ませんね」
「それでもいいだろう。思うだけなら誰でも自由だ……だが線を超えるかで隔絶した違いがあるが」
タータリクスはその『線』を超えて行った側だ。
もはや許されざる。打倒せねばならぬ――敵であると。
「やれやれ、妖精郷に住まう生物の観察が捗る……と悠長に言ってはいられないね、これは」
だからこそシルヴェストルも容赦はせぬ。
放つ雷撃。余裕があれば彼らの姿やその特性をまじまじと見たい所だが……そういった欲を出している場合ではないと分かっている。故に敵を薙ぎ払うのだ――如何に多いとは言え無限ではあるまいと。
「中核に向かう者達の援護を、ね。戦勝報告、楽しみにしているよ」
「うおー! あの子のためにも、アタイたちは道を切り開かなきゃいけないんだ!
どかないなら……容赦はしないぞ――!!」
そんな彼に次ぐ形でモモカもまた縦横無尽に暴れてやる。
闘志漲らせ。その理由は少しでも『未来』を見せてやりたいからだ――
あの子の望みをかなえてやりたい。その為にはお前達は邪魔だし、それに。
「これ以上命をもてあそぶなんてアタイは許さねぇ……!」
こいつらを倒してみんな終わらせて、あったかい妖精郷を取り戻すんだ!
奥歯を噛み締め肉薄戦。臆さぬ退かぬ、前へと進んで敵を薙ぐ! こんな操られているだけの邪妖精達に負けてたまるか――
「お前らとは背負っているものの数が桁違いなんだよ。舐めるな」
上空。ェクセレリァスは索敵を行いながら、空飛ぶ邪妖精との空中戦を繰り広げていた。
敵の動向はハイテレパスの力をもって地上の者へと伝える。同時、敵の迎撃には造りだせし無数の蛇腹剣によって行い、打ち落としてやる――タータリクスに操作され、ただ目の前へと邁進するだけの輩にどうして負けてやれようか。
命を弄び、弄ばれ。そんな奴らに。
「……キトリニタスにまで至った妖精はもう……そう、なんだ……」
同じく空を飛翔するタイムが奥歯を噛み締める様に。
感じているのはどう足掻いても、もうどうしようもないという事実のみ。
キトリニタスとなった妖精の命は――もうない――
「ううん、それでも……それでもわたしたちは進むの……! みんなで明日を見る為に……!」
敵陣の流れを観察し、敵の攻勢が激しい点へと雷撃を撃ち込む。
凄い数だ。空から見ればよりその蠢く数が目へと映る。だが――退かない。
わたしたちはあのキトリニタスを倒さないといけないのだから!
「とにかく敵の数を減らしていきましょう。今出来る事を全力で……!」
「こんなに寒くちゃ妖精さんも凍えちゃいます。もとに戻すためにも頑張らないとですね!」
故に道を切り拓こう。初季の不可視の刃が敵を斬り裂き、葵の弾幕が邪妖精を薙ぐ。
一撃一撃を大切に、一体一体を着実に撃破。
どこへ撃とうが当たるレベルの敵の戦力――とはいえ雑に相手には出来ぬ。
囲まれぬ様に周囲と連携し、奴らの牙がこちらに届く前に討ち滅ぼす。
「近付けさせないよ――彼らにちょっかい出したいなら、まずは私を倒してから」
イルリカもまた、レンジャー部隊に近付かんとする邪妖精に掌底一つ。されば敵の身体が浮き、後方へ弾き飛ばされるが如く、だ。そうすれば彼らの矢が敵へと注がれ、その身を削ろう――彼らの邪魔はさせない。
数は力。こっちの数の中核を護り、その力を援護して。
「飲み込まれないよう、仲間達と連携しつつ戦っていきましょう――敵の排除をなんとしてもなさねば」
「これ以上、向こうの妖精達の命を奪わせる訳にも。妖精達の故郷であるこの地を汚させる事も許しません……そして、今は一つでも多くの命を救わねばなりません。そのためには戦うだけです」
そしてヴァージニアと兼続の力は支援へと注がれる。敵の攻勢により鈍る動きあらば分析された号令を。元より持久戦になるのは覚悟の上だ。中核へと進み、キトリニタスを仲間が討つまで――退く事は出来ない。故に皆の身を、戦う姿勢を万全に。
「生命の冒涜……僕には何か言う資格もないけど。それでも、意思も、何もかもを無視して、全く違う性格を与えるなんて、許されない、よね」
同時。ノアの力が死骸の盾を作る――それは彼女のオトモダチ。
敵の突撃を食い止める壁とするのだ。ああこんな戦い方、敵を批判できる様なモノでもないと思うが……それでも違うのだ。そちらとこちらでは。オトモダチで衝撃を和らげ、そこへ雷撃一つ。地を這う蛇が敵を焼き、戦場をなぞって邪妖精を一閃。
戦いは苛烈さを増す。どこまでもどこまでも敵は潰えない。
それでも誰も投げ出さない。
逃げる場所など無いのだから。魔種に屈すればいずれ自ら達の首へと繋がろう。
このせかいで出会った大切なひとたちは――いま僕が立ち向かわなくちゃ守れない。
「だから――見ててよ、イヴ!」
往くのはサンティールだ。波の様に押し寄せる魔物を前に、彼女は立つ。
魔力を纏わせた一撃を彼らへ。迎撃する様に、踏み止まる様に。
肉を抉る感触が手より伝わる。全くいい感触などでは決してない。
それでもと、己を叱咤しただ前へ。
護る事は奪う事でもある。
けれど。
「サティ! 君は、君の心のままに飛んでね!!」
それを支えてくれるひとが――背中に居ることも、知っている。
イーハトーヴ。大切なひとたちの一人。
そして彼自身もまた――サンティールの、大好きなこの世界で出会った君の力になりたいと。傷つく彼女の身を治癒し、その身に力を与えんとする。
戦う事は誰だって怖いのだ。戦う事の恐怖を、互いに知っている。
それでも旅鳥を支える止まり木としての役目を果たしたく。
二人はこの戦場に在り続ける。いつかまた、自由な空を羽ばたくために。
「いやはや妖精郷も酷い状況だ……敵は邪妖精とはいえ、些か剣を振るうのに躊躇いもあるな」
そしてカイトもまた前衛の一人として、薙ぐ剣はこの地を護るために。
友人に妖精が二人ほどいるのを思えば、魔物に堕ちていると言えど邪妖精の枠組みの彼らを倒すのは――正直気が滅入る。だが、やらねばこの地は滅びへと向かおう。実際に冬へと至ったこの地の有り様を目にすればしかと感じられて。
「僕は悲しいが、君達の羽を刈り取っていこう。
僕の翼は、僕の剣は――護るために使うものだから」
全身の力を集約。眼前より迫る邪妖精へと斬りつけて。
脳裏に過る妖精との記憶は今は考えぬ様に。大切なモノを護るために、この戦いを終幕へと導かん。
「にいでも、できる、こと。きっと、あるはず、だから。にぃも、みんなと、いっしょに」
往くのだと、二は己が力を振るう。なるべく多数を巻き込む様に毒の霧を浴びせて。
二はイレギュラーズになったばかりだ。妖精郷の惨状に至る物語――その詳細を知る身ではない。それでも己がイレギュラーズになったのは、この事態に対して手が届く位置にいた事は。
「きっと、きっと――いみが、ある、から」
だから往こう。皆と共に。
明日の為に。
皆と一緒に――明日を見たいから。
「ああ。難しい舞台だけれど……明日を見る戦いというのは、うん、悪くない。
実に助力のしがいがあるね――ここでの頑張りが、皆の明日に繋がるんだ」
だからヴェルグリーズも同様に。敵を切り伏せ、思考するのは明日へと繋がる物語。
イレギュラーズとしては実質これが初戦だ。だからこそ突出はせず、ルドラ達レンジャー部隊の援護を中心に。彼らを支援し、そして彼らの支援を受けつつ孤立を避ける。気は抜けぬが、やりがいのある戦場ではある。
「さぁ来てみると良い……そう簡単に倒されてあげる程、俺は諦めは良くないよ」
邪妖精達と。眼前の敵を一体、両断し。
「わぁ~敵が一杯いるね! 仲間も困ってるみたいだし、いっぱい頑張るよ~!!」
「うん……前に進む味方の為にも、ここは……僕達が頑張るしかないね……突破口を作るよ……!」
そんなヴェルヴリーズの近くへと集う邪妖精達を――ウタとグレイルの力が薙いだ。
「う~ん、いいね! とりあえず一発いっとく?」
ウタが振るうのは魔砲だ。強大なる魔力が収束し、戦場に穴を開けるかのような一撃を。
次も魔砲。その次もまた魔砲。只管に砲撃を繰り返す様に。
味方には勿論当たらぬ様に射線を調整して。あはははは、実に楽しい。楽しい! 何体吹き飛ばしてもまだいて、まだ向かってきて、あはははは! まだまだまだまだ戦える!!
「切り拓くんだ……彼らへの道を……!」
そしてグレイルが放つのは投影魔術。複数の術式を重ねて造り出したは神秘を纏う黒狼である。敵の中心部にて暴れまわるかのようにかの黒狼は縦横無尽に。ああ妖精郷が大変な事になっていると聞いてここへやってきたが……状況は想像よりも酷いようだ。
だから全力を。だから己の総てを此処に。
「さぁ征くわよ。勝利への水先案内は、我ら騎兵隊が引き受けた!」
その時だ――大きな号令が響いたと思えば。
それはイーリンの一声。彼女達が纏まりしは、騎兵の群れである。
先往く仲間の送る為。この戦いの勝利の為――掲げる武器が戦場の中で瞬き。
突撃する。
敵陣を瓦解させ、中央を突破するために。この戦場の――勝利の為に!
「私はレイリー=シュタイン! 騎兵隊の一番槍の誉れはもらった――ッ!」
真っ先に先陣を切るのはレイリーである。正直な事を述べれば、レイリーは妖精郷の経緯はよくは知らぬ。タータリクスなる魔種が暗躍しているとしか――しかし確実な事として、妖精達が困っているという。妖精達を困らす悪がいるという。
ならばそれだけで良し。悪を挫くための一番槍とならん。
掛け声とともに展開される白装甲が戦場に輝く。その白き鎧は打ち砕かれず、戦場に在り続ける白壁の如く。
背の仲間は――必ず護ってみせる!
「いやー妖精はピンチだしイレギュラーズの偽物は現れるし今回のボスはキモいしで大変でござるな! だがやる事に変わりなし! 戦場にお呼びとあらば――どこへでも参りましょうぞ!」
「うーむ、多くの兵集う様は壮観だネェ。戦場に並ぶ様こそ、正に身震いをさせるというか。
なんにせよあとは余達が成すべき事を成すだけ……さぁて派手にいっちゃおうか!」
一気に進む。軍馬に、馬に登場せし者らが邪妖精達を恐れずに。
往くは与一とヨルだ。与一の射撃があちらこちらへと。貫通せし一撃が戦場を飛び回り、遠くに敵あらば届いて射抜く長大なりし射撃を齎して。そして騎兵隊の中でも後方に位置するヨルはこちらを狙わんとしてくる敵に狙いを定め――歪みの力で敵を阻害す。
「勝つための策もしっかり用意してるんだ。ここまでしておいて負けられないね」
殺傷の霧を敵へとも放り。
「さあ、Step on it!! 一気に突っ込みますよ!! 勝利を――掴むために!」
次いでウィズィもまた吶喊する。敵の隊列を崩す一撃を加えながら、前を見据えて。
自らに施した茨の鎧をもって――常にイーリンの傍に。
彼女に攻撃を通してなるものか。私の愛しき者へ攻撃は決して通さない。
――今回の騒動はあまりに多くの人を巻き込み過ぎた。皆の命と誇りを弄んだ元凶たるタータリクスは、此処には居ないけれど。それでも私達に出来る事が此処に必ずある。
「その名を聞いたらば道を開けろ! 私達が! 騎兵隊だッ!!」
一喝。阻む邪妖精を打ち払って。
ただただ進む。その歩みの邪魔は誰にもさせない。
「さてさて敵は無数にして巨大……張り合い甲斐があるというものだよね」
「危機である以上は奮闘しなければならないものでしょう。恩を売りつけられるならば将来的な商売も……おっと失礼。なんでもございません」
騎兵隊の前進を支援するのがシャルロッテだ。彼女の指揮が周囲の者達への力となり。
同時にバルガルもまた騎兵隊の一員として続く。零れた欲望の言の葉は、おっととばかりに口を塞いで――騎兵隊の突撃によりあぶれた個体へと突撃。絶やさぬ笑みと共に敵を薙ぐ。
「はらしょ――! 鉄火場! 突撃! 人助け、だよ――!!」
「ウサビッチお嬢様。あまり前には出過ぎませんように……
まぁウサビッチお嬢様と負傷兵に危害が行くことがないよう、全身全霊でお守り致しますよ」
しかし突撃も全てが順調に行くという訳では無い。敵の数も多ければ、その前進も鈍る事は在ろう。故にウサビッチ――もといレニンスカヤと彼岸誰の両名は負傷者の援護へと。
優れた機動力を持つレニンスカヤはあちらこちらへ。速力を武器にした一撃を敵に叩き込みつつ――次いで彼岸誰の打撃が敵へと叩き込まれる。声を掛け合いタイミングを見据え、救出しようとして孤立したりせぬ様に。
「ありがとうだねぇ、うさは彼者誰のおかげで安心だよ」
「光栄です。さて、この地点での回収作業終了ですね? 次地点に行きましょう」
動きは止めない。常に動いて味方を救い敵を翻弄して。
「くのっ、言う事を聞け! ここで後れを取る訳にはいかんのじゃ!」
そしてクレマァダは――慣れぬ馬への騎乗をなんとか制しながら前へと進む。
その口から紡がれるのは神を言祝ぐ歌だ。精神を伝う力が戦場に満ちる――
味方は巻き込まぬ様に。それでも近寄る敵あれば掌底で弾き飛ばして。
「やれ、本当に慣れぬ事よ……! しかし全員生きて帰る為に、こういう戦い方も必要な時がある。そうじゃろう、イーチャンよ!」
「ええ勿論よ――皆で必す生還するのよッ!」
飛ばす声は少し前にいるイーリンへと。
目線交わさぬとも心が通じ合う。勝つのだ。生きるのだ。その為に――前へ進め!
「さて。地上ばかりと思ってくれれば良いのだが」
「モノに穴を開けるとき、先ず下穴を開ける。
……言わんとすることは解るだろう? さぁ、私達の戦いを始めようか」
同時。騎兵隊の上空。
そこにいるのはレイヴンとメリッカだ。派手な地上から離れた先、そこで索敵と――空爆を成す。
紡がれる力を地へと。空からであれば射線はほぼ自由なものだ……
飛行せし敵が来る前に敵を薙ごう。そして。
「防衛線中核地点設定、味方識別完了。さて妖精郷に展開する邪妖精達よ……どこまで私の力が通じるか、試させてもらうぞ! この世界が、少しは気に入ってきたところなんでな!」
索敵の情報は8號へと。8號もまた空を移動し、爆撃するかのように攻撃と成す。
その攻撃は味方へ被害を齎さぬ様に。常に敵へ。飛行せし邪妖精達が来れば無双とはいかないが――それでも上空からの攻撃は地上からだけでは無しえない効果を発揮していた。
ああ全く。8號にとっては彼らに、魔種の好きにやらせてやるわけにはいかない。
荒廃していた世界より来た身としては、この世界の自然は――あまりに美しいのだから。
惹かれる魂が活力と成す。闘志を燃やして――敵を討つ!
「敵が崩れてきたな。側面攻撃が効いてきたようだ……なら、ここが押し切り時か」
そしてアトは感じていた。ルドラ率いるレンジャー部隊の射撃や、騎兵隊の突撃によって――段々と敵の戦線が崩れ始めてきている事を。逃がせぬ好機だ。指で弾く銃弾が炸裂し、生じる熱が敵を焼いて。
今こそ更なる攻勢のタイミングだと。指示を出して苛烈を極める。
戦場は流動的だ。今を逃せば次がいつかなどと待つ暇はなく。
「戦場……決戦……これが、命を取り合う場……空気がビリビリして、毛が逆立っちゃう……
でも、怖いなんて、言ってる暇はないね……」
であればと。アトの少し後ろにいるフラーゴラもまた闘志を奮い立たせるものだ。
クレマァダと同様に彼女もまた馬には慣れぬ。だが――アトの後ろに居たかった。
どうしてもその背を追いたかった。追いつけなくても背伸びしたくて。
「ワタシは、ワタシに出来る事をがんばる……!」
優れし五感で周囲を観察。騎兵隊の身を万全にするべく活力を齎して。
「ふふー! 今回は馬も用意してきましたからね! 皆についていくのですよ!」
されば意気揚々とねねこはフラーゴラに続いて支援と回復を。
充填の力により通常よりも戦闘可能時間が長くなる彼女は味方の力を底上げしつつ、治癒の力を皆へ。突撃により疲弊した身体へと、癒しの力が満ち渡る――いざと成れば庇う事も視野に入れて、だ。倒れにくい力も彼女は宿しているのだから。
「師匠様と共にある限り、わたしは負けない……! ここから先に、進むんだ!!」
そして突破の指示と共にココロは全力を灯す。
更なる攻勢の為にと今を万全にするのだ。聖域たる結界の力が傷を急速に。
誰も彼もその範囲に入れて見せる。少しくらい押されても、皆が培ってきた力が十全に果たせれば――それぞれの実力が発揮されれば――絶対に負けない。勝利へと必ず繋がるのだから! 師匠と呼ぶイーリンを追い、彼女は全力を尽くして。
「ああ……ああ。みんな、眩しいわね……本当に」
皆本当に輝かしいと、呟くのは華蓮だ。長い時間が経ったのに未だに絶望の蒼での決戦から、皆への嫉妬の海に沈んだままの彼女。前往く皆は希望に満ちて、司書に至っては凛々しい背中で私達を導いているのに。
その背に向ける華蓮の目は、嫉妬に塗れた刃の如き視線。
心の棘を――しかし味方ではなく敵へ。分別はあり、敵の戦列を乱さんとする。
どうしても拭えぬ、心の茨に縛られながら。
「さてさて……どうやら向こう側が見えてきたようだねぇ。もう一押しと踏ん張ろうか」
「敵も猛反撃とばかりに激しくなってきているがな――それが敵の危機でもあるか」
そして武器商人とリアナルが更に進む。
敵の注意を引く武器商人はその身にあらゆる攻撃を弾く加護を纏わせて。壊れぬ的となりつつ味方の援護となすのだ――リアナルは周囲の味方に指揮の声を飛ばしつつ、仲間へ施すは活力の源。
大号令の響きが数多の負を祓い、十全と成すのである。
誰も落とさせない。誰も脱落などさせない。
皆で明日を見る為に。
「さぁ行け……キトリニタスは任せたぞ!」
言葉を放つ。
穴は開けた。見えた先に居るのは――この戦場の指揮を執る金色の生命。
アレを討とう。
妖精郷に――明日を齎す為に!
●
「戯け共が――ッ! これだけの数がいて突破されるとは何事か!」
キトリニタス・ユメゴコチ。その目前にイレギュラーズ達が迫って来る。
数の利を彼らは押し返している。その力は一体どこから湧いて出ているというのだ?
「目標はあのバカ殿様? OK、でもボクまだ本調子じゃないし、そっちはみんなに任せるね。ボクは露払いと今回はしておこうかな」
それでもキトリニタスの周囲には護衛の戦力がまだいる。
故にグレイシアは近付けさせまいとしてくる一体に打撃を連打。
力がまだ戻っていないのだ。雑魚でストレス解消としておこう……少なくとも今は。
「キトリニタスへの道を開けて貰おうか! 邪魔をするならば――押して参る!」
「可哀想な妖精達。今楽にします」
次いで清鷹とオーガストも道を開くために。
この惨憺たる現状を見過ごせぬと駆けつけた清鷹の五指に力が灯る。アルベド達――形作られてすらいないなりそこない達――なんと歪な命であろうか。斬撃を生じさせ、命を終わらせんと力を込めて。
そのような半端な生命体であるからこそだろうか、他と比べて脅威は低いとオーガストは分析する。しかし油断は出来ない。一撃の重みは邪妖精にも劣らぬどころか、場合によっては上回ろう。
故に注意をしかと。石の力を宿す大蛇の泥人形を顕現させ――魔砲一閃。
「戦場は一瞬の油断が命取りです。無理はしないでくださいね――仲間がいるのですから」
味方で傷つきし者あらば治癒の術を放って。
『悪の版図を塗り替える愛と正義の輝光! 魔法少女インフィニティハート、ここに見参!』
同時。非常に特徴的な名乗りを挙げたのは――いつもの通り愛であった……!
その顔は真顔。新たな魔砲の極致を放つ彼女の一撃は戦場に瞬き多くの敵を巻き込んで――思考するのは命を弄ぶ輩の事。弄ぶ卑劣な輩は当然としても……命を持たないものが悪を成す、これもまた言語道断。
「その偽りの心臓(ハート)に、愛と正義と命の重さを叩き込んであげましょう。
具体的には――私の魔砲によって」
物理的、いや神秘的? な一撃によって彼女は敵へと断罪を下す。
邪魔な連中を一掃するのだ。こちらの目標はただ一つ、キトリニタスなのだから。
「命が積み込まれぬ相手……となると魂も存在していないとは。イーゼラー様の供物にはならぬ。そのようなモノを、まがい物の生命を我が神の地に解き放つとは……決して許しはしない」
「んでも人の形をしてるって事は脚があるってことですよねー? つまりたくさんの脚が取り放題ってことですねー魂もどーせ穢れきっているでしょーし、ついでにイーゼラー……様に捧げちまいましょー」
魂宿らぬアルベド――あまりに冒涜と。セレスチアルは心の奥底で憤怒を疼巻かせ、ピリムもまた同調するかのような言を結んで。もっとも、ピリムにとっては己が趣味に高じられればそれで良しと考えているが。
ともあれ敵を討つに変わりはない。
セレスチアルは式符を用いて敵へと放り、ピリムは脚をねらってその刃を振るうのだ。
「さてなんやかんやあったが正念場だな。妖精郷が凍り付くか付かないかの瀬戸際だ……
いつも通り、気合入れていくとしようじゃねえか」
拳に義弘は力を籠め。キトリニタスの下へと向かう者達を援護する。
漢として。体も張るべき場面たるこの場で闘志を抱かぬ者がいようか。勿論この戦域の戦いは――その決着はすぐにつく訳ではない、場合によっては長期戦に至る可能性もあろう……だが。
「出し惜しみなんてしねぇ」
ただ目の前の敵を殴り倒す事に専念する。
振るう拳は暴風の様に。向かってくるプロトタイプ・アルベドをぶちのめし――義弘は全力を。
先の戦場では邪妖精が多く布陣していた。
そこに比べればここではキトリニタスの姿が見えており……彼に纏う護衛の姿は決して多くはない。
「とはいえ有象無象の邪魔はこちらでも激しいですね。蹴散らすとしましょう」
故に瑠璃もまた支援を。見ていてなぜか腹の立つあの顔に、代わりに一発お見舞いしてくださいと先往くイレギュラーズに声を掛けて……あ、違いますよ? キトリニタスの事ですよ? こっち側の夢心地さんの事じゃないですよ?
「なるほど、あれが噂の『殿』……確かにそっくりだ。
近くで見ると瞬時に区別をつけるのは大変そうだな」
しかし随分よく似ているとモカも同調し――ともあれ瑠璃と共に固まっている所を薙ぐように。味方への誤射が無いようには注意しつつ、アルベドやニグレド達を押しのけ道を切り開いて。
「やれやれ。しかしあれ、何体いるんでしょう……無限じゃあないんでしょうけどねぇ」
あんまり多いと流石にごめんですよ、とカイロは言う。
耐えるという事に関してはそこそこ得意だと自負があるが、無数複数となれば話は別だ。やがてどこかで限界はこよう……面倒そうだと、吐息を一つ。まぁ無理だと感じたら退けばよいと思考し。
「戦場を駆ける英雄達よ~♪ 死物狂いで暴れ回れ~♪」
なんて歌を紡ぐんだこいつは。しかし齎した加護は確かに周囲の者へと。
そして自らは他者を庇う動きを見せながら――隙を見て治癒の光で強化を。
やれる事は幾らでもあるのだ。ニグレドの攻撃を捌きながら、前を見据えて。
「――往きましょう。其処にどんな物語の結末が待っているとしても」
我々は進まなければならないのですからと、コルクは紡ぐ。
彼女が繋げるのは癒しの術により戦線の維持だ――戦う術を持たずとも、誰かを癒し、支える術は持っている。飛行しつつ地上からの攻撃は受けぬ様に注意して。
「私は星の姫」
空は私の領域です――
想いの形も、ねがいのいろも。
褪せてしまわぬように、どうかと願う。
「妖精郷を苦しめるたぁな……! うおおお! 燃えろ! オレの魂ッ!」
次いでコルクからの支援を受け取った葭ノが敵へと攻勢を。
膂力を集中させ刃を一閃。妖精達が辛い目にあっている状況を、どうして見過ごせようか。
「明日が見たいやつがいるなら、そいつをオレたちが切り開くッ! それが特異運命座標ってやつ――だろ! わかんねーけど! きっとそう!」
だからと力を振り絞るのだ。
己の脆さがあろうとも仲間がいれば耐えられる。己は一人ではないのだ。
救い、救われ助け合い。その果てにある輝きを――必ずこの手に掴んでみせる。
「何から何まで趣味が悪いわね、本当に。美しい妖精郷をこんな形にして」
顔を微かに歪めるのはアンナだ。アルベドの一体と交戦し、叩き伏せて。
「まぁでも――まだ間に合うのなら、やってみせましょう」
奴らの足を止める。キトリニタス撃破の為の道を切り拓かんと。
倒さずとも足止め続ければ最低限の仕事にはなるのだ。
さぁ遊ぼう。このまま暫く――全力で。
「……冷たい音が、する。永久の眠りを運ぶ、懐かしい。死の気配」
さればチックが感じているのは――この戦場を覆う気配だ。
大切な場所を守りたいという沢山の声。朧な灯火を胸に立つ『彼女』の願い。
それらを『手伝う』事が、使命という……なら。
「……奏でよう。形の無い彼等への、鎮魂歌を」
自らも出来る事をしよう。
どうか満足いく結末をと――子守唄を紡いで。
「うう寒いし、怪物いっぱいでおっかないしで、もー勘弁して欲しいですよっ」
そしてミミはこんな季節の雪に身を震わせながら、味方の治癒の援護を紡ぐ。
いや本当に寒い。寒すぎる。妖精さん方もいい近所迷惑なのです。
「あいつら追っ払って、この寒いのどうにかして欲しいですよねえ」
その為にも勝利を目指さねば。ポーション乱舞し傷を癒して。
必要なければ――おら! イヌミミ爆弾だ! 悪漢滅殺……なのです!
「妖精郷関連は話を聞いていたけどあまり関われなかった分応えるとしましょう……ええ。こんな状況の妖精郷を見捨てるなんて出来ないし、ね」
その渦中をアリシアは往く――目標はキトリニタスへの道を繋ぐこと。
そして同時にアルベド・エーリカの護衛も成そう……潰えそうな命。せめて本懐は果たせてあげようかと。邪魔をしてくるニグレド達に全力一閃。
キトリニタスは見えているのだ。あと少し、あと少しなのだからと。
「我が名はフェルディン! さぁ、お相手願おうか!!」
同時に敵の目を引くべくフェルディンが一喝する。その名乗りに注意を引かれた者らが幾つも。しかし単独で相手取る無謀を行うつもりはない――仲間達の下へと合流し、支援と共に彼らを相手取るのだ。
「道は必ず開いてみせる……!」
敵の攻撃を捌き、反撃の一撃を見舞って。
「みなさん、もうちょっとですの。がんばりましょうですの」
「露を払うとしようか」
Suviaが活力の支援を行い、狂歌が前面に立ちアルベドの一体へと剛打を。
「凍てつく国、ですか……こうなる前は温暖だったと聞きますが……
あっ。寒くないですか? マフラーありますよ」
「ありがとう……季節的には夏だから、ちょっと油断してたわ……ふふ、妬ましい気遣いね」
そしてクラリーチエとエンヴィは防寒の衣に身を包みつつ敵に備える――ああ全くこれ程の『冬』が訪れているとはエンヴィは完全に油断した。なんなら涼む様な心算で来たのだが……
「ともあれ此処からなら、程よく敵が狙えそうね……えぇ、丁度良さそう」
しかしそれはそれとして敵を見る。寒いのは予想外だが――戦闘に支障は無し。
「回復など援護は致しますが……無理はなさらないでくださいね」
まずエンヴィが狙い、それをさらに狙う形でクラリーチェが集中的に追撃する。
いざと成れば回復支援も万全だ――確実に個体を減らしていくことにしょうと。
「えぇ、クラリーチェさんも、無理はしないように、ね」
微笑みながら彼女達は戦う。信頼せし者と共に。
「このままだと妖精郷がおしまいになっちゃうの!? すごくキレイな所なのに、そんなのだめだよ!」
憤慨。と言うべきだろうか、カナメは目の前に広がる冬の光景が信じがたかった。
止めねばならないと切に感じた。故に自らに守護の加護を齎して。
「ねぇみんなー、カナと遊ぼうよ! いっぱい痛め付けて気持ちよくしてねー♪」
齎して――うん。趣味と実益を兼ねた時間である。
敵を引きよせる。それによってキトリニタスへの道を開くのだ。
自身は敵から猛烈な攻撃を受けるが……堅牢なるその力は中々傷を与える事叶わない。うぇへへ……うぇへへ……という呟きは一体何の感情の声なのだろうか。ひぇっ。
「明日を見させて……なんて、当たり前ですわ。それが望みなら。叶えるのが忍の務め」
そして星穹もまたアルベドの相手を優先とする。
エーリカの……アルベドが真に呟いた言葉が腹の内で反芻する。ああ……
「報酬は弾んでくださいませね、なんて!」
言い、往くのだ。敵は多いが関係ない。
その望み、必ず応えよう。
叶えたいのだ。彼女の望みを。
「仮初のいのちしか持たず、真似事でしか戦えぬ貴方達に、誰かの気持ちが判るものか!!」
だからと。傲慢であろうと構わず――敵を叩きのめす。
道を。さぁキトリニタスへの道を! 勝利を、明日への道を!
季節外れの雪が積もって。生き物の気配も全くなくて。
キトリニタス、アルベド、ニグレド……そんな悲しい存在だけがここに居る。
本来の生命の流れから外れた、歪な生命たちだけが。
「こんなの、ひどい。酷すぎます……」
それでもと、パーシャは前を向くのだ。
泣いている暇はありはしない――泣いている内に妖精郷が滅んでしまうかもしれない。
だから涙を拭ってただ前を。
「私達が、みんなの明日を掴むための地図になります! だからお願い、私の声に応えて!」
――ウルサ・マヨル!
高々と名を告げればその手に抱く剣が輝いた様なきがした。この戦線を必ず支えてみせよう。癒しの術が紡がれる――仲間に治癒を。反撃は最小限に、敵を見据えて。
「……はあ、ホント寒いわね。あたしはこの事件には関わって来なかったけれど――
何にせよ罪の無い命を弄ぶなんて、非道い話」
「ひとつの命も大切にできない存在が、女の子のこと大切に出来るわけなくない? いわしも超怒ってるよ。激おこいわし丸だよ」
そしてそんなパーシェの前に立つようにみるくが至り、アンジュが迎撃のいわしを召喚す。
みるくにとっては関わりは薄い事件だ。しかしだからといって何も感じないかと言うと――そうではない。命を乱雑に生み出すかの事件に対して想い抱くは、さて何か。
「せめて、傷みなく終わらせてあげるのが情けかもね」
今はただこの事件を早急に。全力の一撃たる天国への七光りを向かってくるニグレドへと放つ。痛みは無きように、死した事も分からぬ程の速度で一撃を。
「てか寒! いわしが凍っちゃう前に冬なんて終わらせちゃおう! やっぱり夏が最高だよね」
そのままパーシュとみるくと共にアンジュは遊撃の如く戦場を巡る。
いわしの歌を紡ぎ、いわしの弾幕を放つのだ。いわしも妖精もいわしもいわしも――一生懸命生きている。今は雪でも、きっとこの折を抜ければきっと晴れだと信じて。
戦うのだ。明日を求めて。暖かな明日を――信じて。
「むぅ。奴らもやりおるわ……ほっほ。しかし麿の力を見せてやる絶好の『時』と言えよう」
優勢、とは言い難い上記に遂に――キトリニタス・ユメゴコチが動きを見せる。
その手に持たれし刀が妖しく輝くのは奴の力が故か?
腕に力を。瞼を閉じ、集中と共に。溜める一閃は全てを穿つ。
さぁ見るがいい殿上人に抗う愚者共よ。
これが麿の力である――ッ!!
「はいすみませんね――失礼しますよ」
瞬間。瞼の表側に強烈な衝撃が走った。
「ぬほぁあああ!?」
何か。何かよく分からないモノが直撃した感覚――その正体を悟る前にうっかり態勢を崩しながら放ってしまった一線は天へと放られ……不発と化した。空を薙ぐ感覚はするが、人を斬った感覚は一切なし。
キトリニタスを襲った感覚は何か。それは、一台の『バイク』の姿。
「おお真っ先に引く事に成功しましたね。やっぱり速度は正義ですよ」
アルプスである。制御不能なブリンクスターによる点火からスタートしたその走りは、一瞬だけ開いたキトリニタスへの道筋を突き進んだのだ。飛行する力すら持っていれば確実に。キトリニタスへの頭上へと、護衛のニグレド達が反応する隙間すらなく詰めたアルプスは文字通り『轢いた』形で。
「お、おのれ麿の顔を足蹴にするとは、その命万死に値す――ぐぉぁ!!?」
二周目入りました。ダメージが入らぬ、絶好調の状態の時に攻勢を仕掛けるのが吉。
容赦なきアルプスの人身事故がキトリニタスへ苛烈なるダメージを。で、あれば。
「生み出された命――ああ善悪は問わない。在るなら在るで結構だ。
だが敵対するのなら、俺は容赦なくお前を排除しよう」
到達する後続。そしてスカルの一撃もまた容赦はなし。狙うはキトリニタスへ一直線。
こいつを倒せば敵の戦線は崩壊する。ならば容赦する必要があろうかと。
紡がれる銃撃は幾度も。必ず通すとばかりに攻勢をかけて。
「よっしゃー! 目指すはたいしょーくびってやつだぜ――!! ひゃっは――!!」
声と共に。激しく射撃を行う主はワモンだ。
撃つべき対象はキトリニタス・ユメゴコチ。その首一つ!
射撃の弾幕を張りつつ前に出れば速力を武器に滅多切りだ――必ず倒すぜ!
「一瞬ここ豊穣だったかしら? って思っちゃったわ……金ぴかっぽいお殿様ってインパクトある見た目ねぇ」
それにしても似ていると恭介はぽつりと呟き。『本人』の方へと一瞬目をやれば。
「ま、本人も負けていないけれど」
薄く笑って、往く。
やるべきはあのキトリニタスの周囲の護衛の排除だ――命が積み込まれてないなら、容赦の必要は無い。切り刻んで細切れにしてあげよと、多くの者を範囲に含めて。
「私も神威神楽の出身なればその様な武家の将軍を拝見したことはありますが、金銀贅を尽くしたようにこうも輝かれると違和が拭えぬと言うもの……なんというか、こう……キトリ――……失礼。横文字は苦手ですが」
模倣存在なる殿へ敬意を以てこの刃、突き立てましょう、と。
しきみは確かな決意と共に前へ向かう。式符の黒鴉が形となし敵を襲うのだ。
「ご機嫌よう、高貴な光を帯びて居るみたいだけど全身金粉じゃやり過ぎかも知れないわ」
私が少しだけ落として差し上げようかしら、なんて。
冗談を紡ぎながら返答がある前に疑似生命体を投擲する。出会い頭の一撃、なんて淑女なのでしょうか! おハーブですわ。ともあれカレンも恭介と同様にプロトタイプ・アルベドの排除を務める。確実に当て、倒す。
「まことの恋の筋道はすらすら、進んだためしがない……とはよく言ったものね」
貴方の創造主に伝えてくれるかしら?
「――片恋で泣くなら殿を見て笑いなさいって」
それがきっとお似合いよ、と。再び疑似生命体と投擲した。
「キトリニタスちいうのがあのぴかぴかしとるやつ? あれば倒せばよかとね。はーキトリニタスちういうのは全部あんなぴかぴかしてやけに目立ってるんやろうか?」
まぁ倒してしまえばよかかねと、祈乃は己が獄相を顕現させ。
挑むのは接近戦だ――肉弾戦の為の膂力を此処に。どれだけ頑丈でも数で押せばいずれは倒れようと。
「おのれ小賢しい! 麿の近くに来ただけでもう勝ったつもりかの!」
「ああ――その珍妙な髷、真ッ白な馬鹿面ごと吹き飛ばしてやる」
ワモンや祈乃の攻撃を弾かんとするキトリニタス――に対して。R.R.の魔弾が遥か彼方より。
特に見据えるべきは奴の奥の手。溜めの瞬間を見せた時だ。
その時には動きが鈍ろう……容赦なく放たれる一撃が奴の身を削り。
「妖精の命を吸って咲いた命、この俺が滅ぼしてやる」
怒りと共にその身を滅ぼさんとする。
もはや救えぬ命だというのならば、せめて確実に滅ぼそう。
「妖精の命を溶かしてまで造るとは――命を何だと思っているのでしょうか。
万死に値するのはそちらの方ですよ」
直後。ラクリマが内に憤怒を灯しながら攻撃を繋ぐ。
賛美の生け贄と祈りの歌。紡がれた音は蒼き剣の魔力となりて。
降り注ぐ先は命を溶かした在り得べからざる命。これ以上好きにはさせぬとして。
「手加減は――しませんよ!!」
「ぬぅ! 猪口才な!!」
同時。キトリニタスの斬撃が紡がれた。
それは膂力を溜めた上での一撃……キトリニタスにまで昇華された能力における斬撃は、凄まじい。以前も障害物諸共斬り裂く能力があったが――味方のニグレドすら切り裂いた上で、イレギュラーズに攻撃を届かせていて。
「チッ。仲間ごとやるとは無茶苦茶しやがる!
しかし見た目が同じなだけだが一度共闘した相手と戦うのは気分がいいもんじゃねえな!」
「……ただ只管に敵を倒す為だけに生み出された。その為に呼ばれた。
わかってる――だとしても、その命の有り様は酷く悲しいな」
倒れず、なんとかドミニクスと礼久は凌いで。しかしなんとも悲しい事だと言葉を紡ぐ。
まぁあの見た目で面倒ごとを起こされても二重に迷惑というもの。
ここで必ず終わらせてやろう。
「こっちには消えかけている命で協力してくれてる奴もいるんでな、消えてもらうぞ」
故にドミニクスはキトリニタスを討つために射撃を。
礼久とは距離が離れすぎないように注意しつつ――敵の体力を削ろう。
軍師たる采配を行える礼久からの言もあればその精度に磨きがかかるというものだ――彼から血沸き立つ様な支援も貰えば、尚に輝いて。
「また来る――皆気を付けるんだ! 奴には準備動作がある、それを見極めて!」
再びキトリニタスの斬撃の構えが視えれば、礼久はメガホンで周囲の者にも周知を。
奴は強い。卓越した能力があり、膂力も速度もある。慎重に攻めねば瓦解もありえよう、と。
「それでも。ああ悪いが弟子には近づけさせない。弟子を守るのは師匠の役目だからな」
「この妖精郷はこの私たちが守ってみせるわ! だから、かかってきなさい!」
それでも討伐の意志を持つ部隊に諦めの二文字はない――シューヴェルトと、彼の弟子である彼方もまた前線へ。再びキトリニタスへの道を塞がんとしてくるニグレド達を薙ぎ払う様に。
「退いてもらおうか――弟子の前でもあるんだ、不格好は晒せない」
シューヴェルトは攻勢を掛ける。勝利の為に。
そして彼方もまたそんな師匠に応えるべく、そして足を引っ張らぬ様にするべく――キトリニタスに精密なる射撃を。攻撃すれば奴の注意が此方を向くかもしれない。そうなれば危険だ、が。
「師匠が護ってくれるから、大丈夫な筈です!」
尊敬せし師匠との信頼によって奮い立ち。
彼女は紡ぐ――今の己の総てを。
「ねえ、おとのさまのキトリニタスは何のためにたたかうの?」
その時だ。キトリニタスへと声を掛けたのは――リュコス。
この場所を絶対に冬に閉じ込められた寂しい所になんてことはさせない。命懸けで手伝って……そして消えていったアルベドたちがいる。今も戦っている人がいる――が。
キトリニタスは何のために、だろうか。
出血させるべく攻撃を紡いで。言葉への返答は――
「何のため? 知れた事。麿に逆らう愚かな妖精達に身の程を教えてやるためよ」
返答は、あまりにも無慈悲。
アルベドの中にはタータリクスに反抗した者もいた。しかしこのキトリニタスは――明らかに歪められた深度が違う。タータリクスの忠実な部下として。その手駒として、明らかに元となった者と隔離しており……
「成程――やはり愚か者は貴様よの」
瞬間。介入したのは一つの影。
それはキトリニタスに酷似した――いや違う。
彼こそが本物。
「その黄金の闘気……なるほどスーパーお殿様の力に目覚めたと言うわけかの。
じゃが誤ったな。真のお殿様であれば目指すべきは金ではなく美白!
更なる白さを追求しなかったこと、それが貴様の敗因よ」
夢心地である! 白き面と白き面の対峙はどちらに軍配が挙がる事か。
しかし夢心地は確信している――奴の美白は足りぬ、と。ならば奴に勝てる道理は無し。今度こそそのそっ首を切り落とし、戦場の勝利として掲げてみせよう!
「ほっほ。何を言うかと思えば……もはや麿はお主を凌駕しておる! 勝てる道理など――」
ありはしない、とキトリニタスが言おうとしたその時。
介入してきたのは更なる白。シロヲである。
空を舞い、飛翔の後に降りて来るはキトリニタスへと一直線。やけにキラキラして眩しいあの輩を殴りに行くに一切の迷い無し。奇襲攻撃の様な形で振るった爪が頭部に直撃し。
「ぬぅぅぅ!! この焼き鳥めが!!」
「あの時の討ち漏らしは、責任をもって処理しないとね」
次いでその隙に悠の治癒術が皆を癒す。キトリニタスへと向かう者達に、戦う力を。
キトリニタスは追い詰めている――奴の斬撃は脅威であるが、それでも。
私達は確かに前に進めている。
「だから」
もう少しだけ。『戦える力』を。
彼女にも――彼女達にも。この戦場に在ると誓ったエーリカのアルベドにも。
「ありが、とう、ね」
「最期なんだ。悔いのない様に全力を出させてあげるのが筋だろう」
つたない笑顔。それは体力の限界を表しているのか――?
「……あの子、ぼろぼろだわ。でも、ほんの少しだけでもいい」
時間をあげるのだと、ネリは彼女を連れてきた。高めの機動力を活かして彼女を前へ。
護る様に立ち。数多の攻撃から庇ってきた。
そして此処へ。決着の――場へ。
「あなた、そんなにぼろぼろなのに頑張るのね、嫌いじゃないわ」
「うん……ありがとう。後は、わたしが」
がんばるから、と。
口に出さずともその願いがネリには分かった。彼女は勝とうと――している。
創り出された呪縛から。反抗と言う意思をもって。
「……行って。行って! その為の道を――切り拓く!」
だからと、アイラが腹の底より紡ぐのは――魂の叫びだ。
冷静ではいられない。決して。知った『顔』が命を懸けて繋いでいる歩みを。
決して止めさせたくなどないから。
だからラピス、おねがい。
「ボクを……護って」
「ああ。アイラがそれを望むから――君の事も、僕は護ろう」
だからラピスは繋げるのだ。治癒の術を持って『彼女』の命を。
エーリカのアルベドの命を。
そしてアイラを守護する。常に寄り添い傍にあって。離れぬ意思と共に。
きっとこの先に、可能性があると信じて。
……ああ。
彼女は『同じような』姿を持ち、『同じような』心を持つ。ただそれだけ。
決して『同じ』ではないと――分かっていても。
「……護り、助ける理由になる」
「うん……ラノール、リュカシス……おねがい!」
ラノールやエーリカにとってはもう。
『他人』などとは決して思えないのだ。
貴女と触れ合い、会話をしたあの時から。
「友人の力になれる事は無上の喜びです――黒い鉄の誇りに掛けて、全力を振るいましょう」
だからリュカシスも全力を捧げる。
願いを、明日を必ず見せるのだと。
五指に込めた力は――かつてないほどに。
「おのれ、駄作めが、このような所までやってくるとは……!!」
それ以上言葉を紡ぐなと。キトリニタスに言う様に。
ラノールとリュカシスが未だ邪魔をして来ようとするアルベド達を薙ぎ払う。決して道の邪魔はさせまいと、振るう一撃は全てが至高至大。
「さぁ、おばさんに任せて。みんなやエーリカちゃんの道を――私に開かせて」
更にこじ開ける様に。レストの魔術の花がキトリニタスの眼前へと。
アルベド達を巻き込んで作るのだ。歩める空間を。歩むべき、道を。
……おばさんの白い子と戦って倒した時、とても悲しかったのよ。
だからせめて……みんなにはそうであってほしくないから。
「エーリカちゃん!」
喉を震わせる。
さぁ。
「いこう――『わたし』
「うん、いこう――」
そこへ、エーリカと。彼女のアルベドの全てが紡がれるのだ。
自らを高める加護と共に。放つのは眠りへと誘う母なる翠。
慈悲深きものたちよ。
芽吹き給え、息吹き給え。
我らに明日を与え給え。
「ぬ、ぉぉぉおぉおぉ――!!」
放たれし術は誰にも阻害されずキトリニタスへと。ここに至るまでに傷付いた痕から入り込む様に、その身を傷つけ動きを縛らんとする。思わずついた、片膝は追い詰められている証か。
「……君は、殺すべきなんだろうか」
そこへ至るのがアスタだ。
思案する。僕は人を殺すことしか出来ない、と。
その身の内に存在する妖精の命が此処で尽きようとも不幸であったとしか思えない。
――アスタは、冷たいのだろうか?
そうすることを求められてきた人形の僕が、迷うことは可笑しいのだろうか。
そして迷う者が命を奪ってもいいのか?
「……人形の僕が、そうやって思うんだ、可笑しいな」
でも。
君を殺して、君の中の命が潰えるのを悲しむべき何だろうか。
知りもしない君の命に僕は弔いを送りたい。
だから――せめて一撃で。苦しまぬ様にと願いたい。
「安らかに」
眠ってと、刃を紡いで。
「ぐぅぉ、まだ、まだよ……! 麿が、麿がこの程度で……!」
「ユメゴコチ――久しぶりだね! さぁ、この前のリベンジだよ。決着をつけよう!」
そこへと更に至ったのがセララだ。かつてぶつかった時よりも強くなっているユメゴコチ。披露していてもその刀には脅威が宿っている――ああだから感じる物だ。キミってば意外と剣に自身があって。
「必殺技も大好きでしょ?」
だって、キミの使う技はキミがオリジナルを越えていることの証明みたいなものだしね。
「だからキミの最期に付き合ってあげるよ――必殺! セララストラッシュ!」
「――小癪なッ!! 麿は――殿上人ぞ!!」
交わる剣技。凄まじい衝撃が互いを襲う。
全身全霊を込めた一撃。セララは真正面からあえて挑んだのだ。だって、どちらが勝っても。
きっと、彼にとってはいい思い出になるから。
――金属音が鳴り響く。それは、ユメゴコチの刃が折れし音。
摩耗した刀がついに限界を迎えたのだ。だから。
「偽物を 仕留めてみせよう ホトトギス」
もはやその生にも終わりを導こう。
せめて本物の――夢心地の手で。
抜刀、一閃。
「ほっほ……まぁ……このような結末も……あろうかの」
笑ったキトリニタスの首が――天を舞った。
●
邪妖精が散っていく。指揮官を失い、蜘蛛の子を散らす様に。
ルドラとレンジャー部隊。そして一部のイレギュラーズがその追撃を行わんとする。
タータリクスなどと合流する前に壊滅させるのだ……そして。
「まって。いかないで……『わたし』。大丈夫、助けるから」
エーリカは紡ぐ。もはや立っている事すら出来なくなった自らのアルベドに対して。
手を掴み。体温を伝える様に言葉を零す。
必ず助ける。だって『あなた』は、『わたし』は、だって、だって――
「ううん、だめ」
しかし。
「それだと、きっと、『わたし』がしぬ」
奇跡を願っても。きっと『両方』は無理なのだ。
だからいいのだと。だってわたしは間違っていた。
――わたしの中にいる妖精を、どうかおうちに帰してあげて。
「だから」
ここでお別れだと。
……奇跡を願っても起こせぬことはある。奇跡を願うには、そも降ろす事にすら条件がある。その条件が満たされていれば、或いはと言えたかもしれないが……
だけど。
なら、ねぇ。まだ聞いて。どうか、この手の温もりが伝わる内に。
聞いて。
『ルミナ』
かつて、私が送られたなまえ。
ね……もらって、くれるかな?
『わたし』に貰って欲しいのだと――エーリカ、は。述べ、て。
応えは、ない。
ただ微笑んだ眼差しと口の端が全てを物語っていた。
命とはなんだろうか。
命とは誰のものだろうか。
この世に生まれ落ちた命とは、一体――
ただ、一つだけ確信がある。
彼女が感じた最後は、とても満足のいく光景だったのだ。
地に背を。エーリカのアルベドが最後に見た景色は。
世界は。
空には。
きっと――明日へと広がる、雄大な青空が広がっていたんだ。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
生み出された命であろうと、きっと一時の生は確かに在ったのでしょう。
ありがとうございました。
GMコメント
どうか、あなたたちと共に。
●同時参加につきまして
決戦及びRAIDシナリオは他決戦・RAIDシナリオと同時に参加出来ません。(通常全体とは同時参加出来ます)
どちらか一つの参加となりますのでご注意下さい。
■プレイング記述内容
お手数ですが、下記の様に記述頂けますと幸いです。
一行目:戦場『1』もしくは『2』を選んで記載下さい。数字だけで大丈夫です。
二行目:同行者、もしくはグループ名を記載下さい。
三行目からは自由に記述下さい。
■勝利条件
キトリニタス・ユメゴコチの撃破。
(厳密にはこの地域一帯の魔物を撃退する事ですが、指揮官たるユメゴコチの撃破でほぼ同じことが為せます)
■戦場
妖精城アヴァル=ケイン付近。
タータリクス陣営の魔物達が防衛線を張っています。
これらを突破し、城への道を切り開いてください。戦場は二つあります。
1:邪妖精達の防衛線
多くのタータリクス陣営邪妖精達が襲い掛かって来る戦場です。
ここの人数が少ない場合、2へと向かうメンバーへある程度のダメージなどが発生する場合があります。
2:防衛線中核地点
後述するキトリニタスがいる地点です。
この地点にいるキトリニタスを撃破できない場合、敵の防衛線が維持され続け失敗と成ります。
■敵戦力
■1の戦場
・邪妖精の群れ×??
妖精郷に存在する魔物達の事です。
魔種タータリクスによって操られ、尖兵と化しています。
オーガ、ナックラビーなどなど。様々な個体が集合しています。中にはBSを撒き散らすのに優れた個体もいる様です。
数は多いですが……そもそもの操り主たるタータリクスが軍略家ではない為か、基本的に突撃思考が強いです。
ただし『数が多い』というのはそれだけで脅威と言えます。
■2の戦場
・キトリニタス『ユメゴコチ』
一条 夢心地(p3p008344)さんのアルベドが進化した個体です。
アルベドは本来『フェアリーシード』という核が存在し、これは妖精の命によって成り立っていました。アルベドの段階であれば無力化した後上手くすれば救出も不可能ではなかったのですが……タータリクスによって仕上げられたキトリニタスは妖精の命は『溶けて』います。
最早救出は不可能であり、撃破する他ありません。
金色のオーラを纏い、非常に強力な戦力と成っています。
接近戦が主な戦闘スタイルのようです。更に『溜め』を行う事によって攻撃力を増大させ、障害物諸共斬り裂く強力な一撃も宿しています。幸いと言うべきか、キトリニタスはこの戦場に一体しかいませんが、十分にご注意ください。
・プロトタイプアルベド×複数
アルベドの『なりそこない』とも言うべき存在です。
妖精の命が積み込まれていない、出来損ないとも……
邪妖精やニグレドより強い戦力として、キトリニタスを護る様に動きます。
一部、イレギュラーズも使うようなスキルを用いてくる事があります。
・ニグレド×複数
アルベドの一つ前の段階です。
これも妖精の命が積み込まれていません。
その為か、高い知能は感じさせませんが腕力は脅威です。
■味方戦力
・ルドラ・ヘス
迷宮森林警備隊の長です。妖精達の救援要請に伴っての援軍として来ました。
1の戦場でレンジャー部隊の指揮を執りながら戦闘を行っています。
弓の名手であり、卓越した遠距離戦闘能力を持ちます。
・レンジャー部隊×20
迷宮森林警備隊の者達です。基本的に弓を用いての後衛向きの者達です。
ただしいざとなれば近接戦闘も行えるとの事。
基本的に1の戦場で向かってくる邪妖精の迎撃に動きます。
・アルベドタイプ『エーリカ・メルカノワ』
タータリクス陣営から離脱したアルベドです。
エーリカ・メルカノワ(p3p000117)さんが原型であり、彼女と近似したスキルを用います。前回の依頼(https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/3744)での会話を経て、自らの在り方を定めてタータリクス陣営から離脱しました。
しかしその時の折々により負傷。
灯火消える前にと――自らの勇気を奮い立たせ、援軍として現れました。
2の戦場へと向かう予定です。
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