シナリオ詳細
<絶海のアポカリプス>神威顕現・生存不能
完了
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オープニング
●首を垂れよ
――我は。
――我は、竜。
――天を焦がし、海を統べるモノ。
人間よ。小さき小さき定命共よ。『冠位』を傷つけし稀有なる者共よ。
その勇気と力を称えてやろう。
誇るがいい、この大海の支配者の視界に映る事を。噎び泣き祈りを捧げよ。
我が好奇。我が興味。
ほんの些かなる戯れをするに値すると、我が背筋を擽りおるわ。
知れ。
人よ、我が名を。人よ、我が存在を。
――恐れよ。
――畏れよ。
――称えよ、竦め。許しを乞え。
我は神威。我こそ世界。我こそがこの大海の主である。
我が名を刻めその魂に。
我が名は滅海――
滅海竜リヴァイアサンなり!
●天を仰げ
鉄帝国遠征海軍主力の一角が乗る旗艦ニーベルングの前には『理不尽』がいた。
滅海竜リヴァイアサン――竜種――それは、本来であれば竜の住まう地……
『デザストル』の奥深くにでも行かなければ遭遇すらしない存在だ。
しかし現実として『いる』のだ。正に目の前に。
巨大すぎて――彼我の正確な距離の差が分からなくなる程の存在が。
「撤退は不可能か。近すぎるな」
「左様。もはや後ろには進めん、斯様な隙は即座の沈没となるだろう」
その存在を見上げるは鉄帝遠征部隊指揮官のレオンハルト・フォン・ヴァイセンブルク。
並びに副指揮官ルドルフ・オルグレン。
彼らがいるは旗艦ニーベルング――鉄帝の誇る鋼鉄艦だ、が。
眼前に聳えているリヴァイアサンの大きさと比べれば石か何かにしか見えない。
海洋との戦では頑強さを誇った筈のその艦が、だ。吹けばまるで飛んでしまいそうで。
「ヴァイセンブルク卿――! 先の大竜の攻撃によりワルキューレにも被害!
海洋軍勢の被害よりは遥かにマシな状況ですが、これは……!!」
そして、かの船に報告へと訪れたは鉄帝でも武勇に優れるスティランス家が長子、アルケイデス・スティランスである。嵐の暴雨に体を濡らしながらも、付近に展開する防衛艦の一隻から駆けつけて。
「これは、もはや戦闘云々の状況では……!!」
「然り。しかしもはや我らに退路は無い……勝機を掴むぞ。全軍前進」
「はっ!?!?」
「指揮官殿の声が聞こえなかったのかアルケイデス殿よ――前進だ」
アルケイデスは驚愕の声を漏らす、が。レオンハルトとルドルフの声は確かなモノであり、嵐の中と言えど聞き間違えようはずが無かった。
前進。前進? あの竜へ? あの大竜の懐へ往くと?
――いやアルケイデスにも分かっている。
幾多の戦場を――本来心優しき彼の本意ではないが――ともかく、巡り巡った戦場の勘は『アレをなんとかする他、生き残る道は無い』と警告を鳴らしている。彼らは、二人の指揮官は血迷っている訳では無い。しかし。
「しかし、ビッツ・ビネガーは先の激流により乗船していたワルキューレ諸共行方不明! パルス・パッションは無事ですが多少負傷しているとの話で……! とても戦力は……!」
「承知している。その上で命じているのだ」
「『行け』とな。生の光は前にしかないと知れ」
見る。誰もが前を。誰もが天を。
そこにおわすは、勇猛なりし鉄帝の荒人達なれど竦む大天上の存在。
今一度言おう。諸君らの目の前にいるのは――
竜種である。
しからば、知れ。
――『絶望の青』を。
- <絶海のアポカリプス>神威顕現・生存不能Lv:15以上完了
- GM名茶零四
- 種別ラリー
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2020年06月13日 21時06分
- 章数3章
- 総採用数339人
- 参加費50RC
第1章
第1章 第1節
天へと続く竜の叫び。
咆哮だけで誰しもの身が震えそうだ。それは根源的な『恐怖』……
相対すれば殺されるという確信――だが。
「ふぅ……なんという存在なのだろうね。まぁそれでも、私の仕事はただ一つ」
少しでも長く戦場に留まりスタミナを削る事だとマリアは言う。
奴めの体力は如何程か。自身を一としたならば、十か? 百か? 千か? それとも。
――だがそんな事は関係ない。私にはそれしかないのだからと!
「大竜よ――大海の支配者よ――命を懸けるという事の『様』を見るといいよ……!!」
纏わせるは電子反発の領域。超速へ至る彼女の道筋。
雷撃。紅き猛りが彼女の世界を覆い、地を跳ねる。
甲板の床を叩き割らんとするかの如く。嵐を穿ち、身の一角に辿り着けば――神速拳打。
掌底、蹴撃、肘打、膝蹴、乱舞の舞が紫電一閃此処に在りと世に告げれば。
「ぉぉ、ぉおおおお……ッ!!」
呼吸の暇すら惜しい。
打つべき場所は複数点。一撃ごとに位置を変え、駆け巡るかのように彼女は往く。
全ての感覚を動員し、全てを知覚し集中の極み。されば――
「攻撃が通るか分からない――? こちとら整備をやり続けているメカニックなんすよ。
自分の武器くらい信じられなくてどうするんすか……!!」
リサの射撃がまた襲う。
マリアには当たらぬ様に、ニーベルングに取り付けたバリスタの照準を――
「そのバカでかい体。狙うまでもない……そう、要は当たればいいんす!」
定め、放つ。
機構を回し装填、穿ち。即座に第二射。狙うは同一点。
どれ程硬き身であろうと。どれ程硬き鱗であろうと。
「例え雨垂れからの水滴だろうといつかは――石すら穿つんすから!」
当たっても通らない? いいや通る。通らせる。同じ場所を狙い続ければいつか必ず。
機械の如く。精密を要にリサの瞳は嵐の果て――
巨大なりしリヴァイアサンの姿を、恐れる事無く捉え続けていた。
成否
成功
第1章 第2節
「ほんとローレットって人使いが荒いのねぇ、私魔女なのだけど……はぁ……」
こんな肉体労働専門外よ、と紡ぐのはカロンだ。
上を見上げれば巨大物。下を見下げれば荒れ果てた海……とても魔女に何か物を頼む様に依頼場所ではないのだが。
「でもま、このまま全部あの竜にオシャカにされてバッドエンドてのは――アレよねぇ」
魔女も悲痛なる悪夢よりも、何もかもが上手く行くハッピーエンドの方がいいのだと。
「だから手伝ってあげるワ!
バケモノだろうとこの世に生きる者ならね、傷の一つくらいつけられるものよ!」
滅しない生き物なんて存在してはいけないのだ。それは己の知る自然の摂理に反している。
故に魔砲を。天地を揺るがす戦の号令が、彼女の指先に力を灯す。
敵を射抜く極限の気と共に――かの大竜の鱗へ。
「さっさとくたばりなさいよウミヘビちゃん……!」
その一撃は至高。空を切り裂き、嵐を穿ち。着弾すれば巨大な爆発と共に衝撃が舞い。
――更に直後。そのカロンの一撃に追従するようにもう一発の魔砲が放たれて。
『竜馬を躓かす愛と正義の虹光! 魔法少女インフィニティハート、ここに見参!』
決め言葉と共に現れるのは愛だ。魔法少女のポーズをとる事も忘れない……!
竜。竜、か。確かに竜は――少なくとも己が目の前にいるアレは巨大なモノだが。
「私達が心に宿す愛と正義はそれ以上に重厚にして長大なものです。
――さあ皆さん。自らの力と心を信じ、あの竜に立ち向かいましょう。
ご安心ください。こういう催しの最後は愛と正義を持つ者が必ず勝ちますから」
「あらあら。でもそういうのって、大概死力を尽くした後の展開じゃないのぉ?」
「ええ勿論。ですのでええ――文字通り死ぬほど頑張らなければなりませんね!」
それでも今まで培ってきた全てを信じて。
放つのだ。己が魔力を奥底から。
出し惜しみする様な暇はあるまい。
常に全力を――特に愛は、しばしの呼吸を得ればまた魔砲を放てるから。
「……しかし、それにしても」
阿鼻叫喚と言う他は無い。行方不明のビッツ・ビネガー。彼――もとい彼女が戦力としていれば、と愛は己がセンサー……救助の感情を飛ばす声を捉える探知能力を活用しているのだが、それはあちらこちらから。
混乱の極み故か。これでは特定個人を探すなど中々難しい。
それでもとにかく全力を。竜を退ける為に。
愛属性の魔法を放ち――誰も彼もが力を振り絞る。
成否
成功
第1章 第3節
「あゝ、伝承の生物をこの目で見るのは本当に初めてだヨ。
まさかこんな恐ろしいモノが、こんな海の奥底にいたなんてネ」
どころかあまつさえ牙をたてないといけない状況は無謀すぎる――
紡ぐのはジュルナットだ。彼の言う事は、正しい。
もはや苦笑するしかない程の状況である。死にたくはないというのにいやはやなんとも。
「でもサ、生きなければならないし、助けなければならない仲間が残ってるじゃないカ!」
――ならば退く選択肢はやはり無い。
己が五感のあらゆるを活用し、見据えた相手の変化を一粒でもと。
見据える。見据える。
嵐の中でも少しでもと。暴風の中でも己が狩人の勘を働かせて。
――放つ。
引き絞った弓の先から、奈落の呼び声が如き一撃を。
空に軌跡を描いて。
「さァ……どんなに大きかろうが小さかろうが、獲物は狩るのが狩人なんだよネ……!」
成否
成功
第1章 第4節
竜種――リヴァイアサンもまたイレギュラーズ達を苦しめる廃滅病に罹患していると噂される。
「こんなにも巨大な存在が病気で弱ったりするものなのだろうか……?」
とてもそうは見えないと語るは文だ。
その剛健さは高々と、その異質さは隆々と聳えていて。彼の眼にも劣っている様にはとても見えず。
「でも――相手に弱点があるかもしれない、という希望は忘れずにいよう。
あの巨大さだ。せめてそうとは思いたいし、海の名の通りの絶望を抱いても仕方ないからね」
故に収束させる魔力が魔砲となりて、放つ。
リヴァイアサンの右部に直撃し炸裂。あの巨体に小細工は通らないだろうと思えば。いっそ体力の続く限り大胆にもなれるものだ。
「……今までこんな一撃は使った事はなかったけれど」
それでも、生きるのだ。みんなで生きて帰ると誓って――海に出たのだから。
攻撃の手を一切緩めず、周囲の射撃と連携。文の魔砲の一撃に更に続くのは。
「こ、こ、こんなのアリなわけ!!? あんな大きいの……ああ、お母さん……お父さん……私はまだ死にたくないから、やるだけやるわ……!」
「まったく、この距離なら……雷の出番だよねぇ」
例えばそれはアルミリアやシルキィである。彼女らが紡ぐのは魔法陣、生じるは雷撃。
リヴァイアサンにはまず『届かせる』のも射程が必要なれば、文の様な遠距離射撃がなくば話にならない。いや厳密には往く手段があれば近接でも往けるだろうが……ともあれ。
電気の弾ける音。直後に着弾させる無数の閃光。
直撃、直撃、直撃――しかし。
「効いてるのかもよくわかんないねぇ……! 力の限り撃つ続けるけどさぁ!」
全く、手応えがあるかすらシルキィは感じ取れなかった。
間違いなく当たっているのに震える様子すらない。収束させる一撃を幾度も当てるが、それでもだ。
「あああもう! でもね、こっちだってやるだけやるわよ死にたくないもの……!」
両親の顔を想い浮かべれば、アルメリアは嵐の中に只在るリヴァイアサンを見上げて。
変える魔法陣。次弾で打ち出すは――碧の光弾――から形成された、杭。
鱗が邪魔ならば打ち砕く! 一で無理なら二でも三でも!
「そう、これは最終戦争……いわしアルマゲドンなんだ!!
あの竜さえたおせば、海で最強なのは竜じゃなくて――いわし確定! いわし最強説!!」
だからアンジュも往く! 皆の放つ雷撃や魔砲に合わせ、手を振り狙い定めれば――パパいわしの大群。敵はこの大海を支配する者。対するは食卓に並ぶ類のいわしで――って娘よマジか!? アレに向かえと!!?
「そう! 攻撃をくすぐったいと言ってるあの生意気なヤツにトドメをさせたら、それはつまり――いわ死兆の成立! なぁに大丈夫だよ! 傷ついたなら歌を歌ってあげるから!」
いわ死兆とはなんなのか! 泣きながらも向かっていくパパいわし。鱗に直撃し、パパが弾けて。
おおなんと無常……しかし、小さき生命が朽ちようと。
それでも嘆く前に更なる攻撃を重ねなければならない。
――奴はまだ、攻撃すらしていないのだから。
成否
成功
第1章 第5節
焔が向かったのはパルスの船だ。
海洋軍勢の二割を破壊した激流は鉄帝海軍にも幾らかの打撃を与えていたのだ。
故に焔はパルスの身を案じて駆けつければ。
「パルスちゃん! パルスちゃん大丈夫!? 怪我は――ッ!?」
「ッ……う、うん! 大丈夫だよ焔ちゃん! このぐらいへっちゃらさ……!」
半壊したワルキューレの甲板上にサーベルを突き刺して立っていた。
ただしその横の腹からは――木片が突き刺さったのか流血してる様子が見て取れて。故に。
「こ、の……よくもパルスちゃんをっ!!」
焔の脳髄を憤怒の感情が駆け巡った。
鰻程度がよくもよくも――ッ! ぜったいに許さない!!
「やっつけて開いてかば焼きにしちゃうんだからっ!! そ、こだああああ!!」
焔は跳躍。可能な限り遠くへ跳んで――繰り出すは火炎弾。
炎で形成されしその一撃は巨大なりし鰻の身へと直撃。瞬時に炸裂。
されど当てるは易し、通すは難し。
「か、たッ……! これどうやれば通るのかな……って――あれはッ!!」
「焔ちゃん、逃げて!!」
直後、焔の身へとパルスが突進した。
それは攻撃ではない。むしろ庇うような動作……その理由は。
「う、ろこ……!!」
焔の眼に映る幾つもの巨大物。嵐の中を降り注ぐ大天井からの土産物。
天堕。
先程までパルスと焔の乗っていた半壊したワルキューレにソレが直撃すれば――激しい金属音と衝撃波が発生する程の衝突と共に、轟沈した。
成否
成功
第1章 第6節
「ふざけんなよ、ふざけんなよ、ふざけんなよ!! てめーなんか最初から呼んでねぇ! 用もねぇ!!
マトモに警告も出さねーで寝床を荒らしたァ!? なぁにほざいてんだクソ野郎がッ!」
叫ぶ。叫ぶ――リヴァイアサンの鱗が落ちる様。
『天堕』の様子を見上げながら、嵐にも負けぬサンディの魂の咆哮が大竜へと。
突然現れ何をほざくかと。燃える意思は絶望などに決して塗れず。
「クハッ! 大気が震え、海が荒れる! ああ何たる威容であろうか!
しかして、その向こうに逃げたものを追っておるのだ――無理やりにでも押し通る!」
「然り。ここで退けば全ては木阿弥……生も夢も掴めず朽ち果てるのみ」
同時に百合子と汰磨羈もまた『意思』を抱く。
絶望などという理不尽が現れた。ああ全く嫌になりそうな事態であるが……
そうだ。
生の光は前にしかない――成程、確かにその通りなのだから。
何時でも、何処でも、最後に残るのは足掻き続けた者だけ。前へと進むだけ。
「存分に見せてやろう、竜よ。私が人より学んだ力の一つ『意地』というものをな!」
例えば相手が神であろうと竜であろうと変わりはしない。
放て、奇跡の刃を。
生きる意思にて未来を掴め!
「行くぜ……今まで寝てたんなら、ずっとそんまま寝てろよちょっと古いだけのヘビがァ!」
跳ぶサンディが応ずるは奴の鱗だ。
天堕により落ちてきている一つ――いや複数に狙いを定め。
三厄解放。彼が呼ぶ嵐が天よりの一撃を爆ぜさせんとして。
「ォォオ、オオオオッ!!!」
打つ、撃つ、討つ――粉々に砕いて滅ぼさん。
それでも奴の鱗は頑強で全て完全粉砕には届かず、彼の肌を、肉を破片が掠めて。
「天が堕ちてくるかッ! 壮観壮観ンンンッ!! されど剥がれた点は如何かなァ!」
同時、百合子が往く。
深く踏み込みより前へ。深く踏み込みより死の目前へ。
死の瓦礫が幾千も降り注いでいる。
それでも畏れぬ。身中より全霊を、鱗の剥がれた先へ穿つは己が全力。
美少女の力(ビーム)である。直撃――したのは見えた、が。
「さてこれでも身じろがぬか……! まぁ鱗の上からよりはマシと観察できるが……!」
「元より眼前に聳えるは無謀の塊! 一か八か、通れば僥倖!」
で、あればと。続く汰磨羈も狙うはソコ。
彼女の眼には、剥がれ落ちた筈の鱗が再生されている跡が見えていた。あれほどの規模の装甲を再び生み出すことが可能な生命力を保持しているというのか――しかし!
「させんッ!!」
天へ一喝。脚部に集中させた霊力を大気へ。
されば水面の波紋が如き霊刃が神速。鱗が肌を埋まるよりも早く、その身を穿つ!
打て、撃て、討て恐れるな。神でも竜でもそれでも打ち勝て!
成否
成功
第1章 第7節
御伽噺の世界でなら如何様な怪物もあり得ようが。
己が目の前に現れし怪物は竜を名乗っていた。
「――――」
シラスの口内に渇きを感じる。否応なく『そう』であると信じさせられる重圧……
これが竜か。これが本来デザストルに困る伝説の種族か。
鱗を落とすだけで全てを薙ぐ。下手をすればこれだけで壊滅する。
「だけどよ、怖気づいたって勝てはしないよな……!」
それでも彼の足は後ろに往かぬ。
「逃げ場なんて無いんだ――進んでくれよ!」
後ろは無い。ならば前へ! 死を超えて生の道を!
全霊領域『零』の彼方へ。彼の刹那が瞬いて、世界を置き去りに彼は独立す。
一歩、二歩。超速度故の遅緩の世界。鱗の破片を躱し、目に映る全ての状況を咀嚼して。
「――こ、こ、だッ!」
放つは高熱。竜であろうと喰らいつくさんとする攻撃衝動から発せられる熱が奴へと。
極限集中。ああなれば、些か考えてしまうものだ。
この戦いの始めにて――行方不明になったという者――
「ビッツ……畜生、嘘だろ!」
アイツが……アイツがこんなあっけなくやられる訳がないのだと。
信じぬ様に頭を振るい。彼は、今はただ――竜へと挑む。
成否
成功
第1章 第8節
嘲笑う嘲笑う嘲笑う――
ノイズが鳴り響く。ノイズが脳髄を締め付ける。
「感情が計り知れないほどの……全ての音を呑み込むほどの圧倒的な、旋律……」
これが――竜種――
目が眩む。己が祝福……あるいは呪い、が彼女の――リアの脳を蝕んで。
それでも、彼女は奥歯を噛み締め戦場に奮い立つ。
重圧なる気配は確かにそこにある。だが、だからどうしたのだ。
だからって引ける訳がないのだ!
「ここで退いたら、皆死ぬんだよ!」
知った顔が死ぬ。つい先ほどまで隣にいた者の体温が消える。
そんな事は認めがたい、認められない。ああどうか――
どうかシスター、皆。
私に一筋の力を。
短き祈りを天へ捧げる。大海の支配者などという貴様にではない。己が信ずるモノへと。
されば彼女が行うは先程までのノイズを捉えていた力――クオリアのギフトだ。
対象の感情の色を捉えるかの能力。用いて探すは行方知れずのビッツ・ビネガー。
「S級闘士ってんなら、まだ生きてんだろ! 死んだなんて無様――晒すかよ!」
聞けば海洋の二割を沈めたという激流の余波に艦が巻き込まれと言う。
しかしそれでもビッツは強者。死んだとは思えず、探し出せれば――或いは――
癒しの楽譜を共に紡ぎ、彼女は痛む額の奥底に耐え。
彼女は彼女の役目を果たし続ける。
成否
成功
第1章 第9節
「――ワルキューレ弐番艦轟沈! 壱、肆番艦損傷!! 参番艦、航行不能状態!!」
「救援の余裕なし! 捨て置け前進ッ!!」
「砲弾良し、撃て撃て撃てェ――!! 撃てば当たるぞ――!!」
旗艦ニーベルング。その騒ぎたるや一切の余裕非ず。
砲弾の音は絶えず。舵を切る音は絶えず、艦の総てを動かし続けている。
「……グゥ……?」
その甲板でリヴァイアサンを見つめる一つの影はアルペストゥスだった。
これが――竜? 竜の――脚?
瞳は好奇に満ちている。はやく、はやく――
おはなしがしたい。
その翼を羽ばたかせる。かの存在の出撃、騒ぎの中であれば誰も止める者もいない。
感じる。感じているのだ竜の存在を。
壮大なる姿に、その身の偉容に感嘆を。柔らかな吐息を一つ、漏らせば。
「――――」
直後に放つのは雷撃だ。大竜の身へ一撃二撃。
執拗に攻撃を仕掛ける様は――まるで、構ってもらいたいとせがむ子犬のよう。
こちらを視て欲しい。こちらに気付いてほしい。ああこちらをと、天を仰ぎ翼をより大きく広げて。
「グッ、ルルッ……!!」
次の瞬間、アルペストゥスの身を巨大な壁の如き『風』が襲い掛かった。
リヴァイアサンの身に叩きつけられるソレは神威。
沈痛なる痛みが走る――が、そんな程度で彼は諦めない。
痛みを感じる程に咆哮を。大きな大きな吠え声を挙げて。
ぼくの顔を視ろ――そう言わんばかりに天を駆ける。
成否
成功
第1章 第10節
「うアハッハハハハ!! 鉄帝艦隊も大分やられているようですね!
屈強なる鉄帝の軍人も、慣れぬ海と竜には流石に分が悪いと見えますな!!」
カンベエは高笑う。されどそれは決して馬鹿にしている訳では無いのだ。
むしろこの戦場において痛みを共有する者同士、助け合う気があるぐらいで――
「しからば、かの海戦で見せた砲撃と苛烈なまでの意気を竜の顔に直撃させてやろうじゃありませんか! なぁにわしは盾になってやる事しか出来ませんが――己らがやれる事を全力でやれば道も開けるもの!!」
鉄帝人が呆気にとられる程の大笑い。カンベエ――彼は己を盾だと称す。
それを指し示すが如く彼は艦にぶつからんとする鱗へ跳躍し。
断頭一閃。
欠片を潰さんとするべくその身を晒して更に二閃。破滅的な破壊力の鱗へと向かえばその身も只では済むまいが、彼はその程度頓着しない。
全力でやれる事を全力でやるのだ。
勝つまでやれ。
死しても戦え――それが彼の信条なれば!
「礎となるつもりか――? なるほど、似たような事を考える者もいるものだな」
されば利一もまた俊敏に動きを見せる。
各地で戦闘の結果得た情報を元に、脆いとされる部位――鱗が剥がれ堕ちた後の、僅かな時間。鱗が生え変わるまでの肉の晒される時間が恐らく比較的弱いのだと、類稀な五感を用いて凝視。
見る、視る、観る。敵の姿と、敵の攻撃を同時に。
「こんな怪物を簡単に倒せる筈がない、少しずつ積み重ねていかないとな。
それがきっと皆の一撃に繋がる。それが必ずいつか――勝利に繋がる」
回避、防御。致命を受ける訳にはいかないと常に動く。
少しでも生きる。少しでも長く戦場に留まる。
まだ調べ尽くしていない事ばかりなのだから。
成否
成功
第1章 第11節
「え、これが……竜? こんなの相手にするの……?」
暴風の先にリヴァイアサンの身がある――アリアは一瞬呆然と。しかしすぐさま意思を確かに。
「えーい! 考えてても仕方ないね、こうなったら自棄だ!!
こんな巨大だとどこ打っても当たるよねきっと! 当てやすい当てやすい!!」
瞳に力を。例えば一撃一撃が蚊の刺したようなソレであろうと、諦める事は無い。
巨体であるが故にこそのやりようはあるものだ。紡ぐ言の葉は呪言となりて、雨の空間を歪ませ――リヴァイアサンの身へと到達せん。ねじ切り滅びよ大竜!
「こうした小さな一撃だけど、それを積み上げれば山にもなるんだよ!」
奴が海の支配者ならば、私は山の如く積み上げよう。
蟻の一刺しは象を殺すのだと――
されど大竜は笑う。嘲笑う。
鱗すら貫かぬと。一刺し? 可愛いな、皮膚にすら届かぬモノ達が――と。
「むー! な、なんか腹立つような声が聞こえるような気がするね……!!」
「効いてる気配が微塵も感じられない……だけど奴も生命体なら、いつか殺せるはずだ!」
「ああ。不死身の生命体などどこにもいない……いつか必ず倒せる」
尋常ならざる生命力。それでもアリアに続くリウィルディアとフレイにも絶望の色は無し。アリアが穿ち、リゥイルディアが治癒を無し、フレイが二人を決死に守護する絶対の布陣を敷くのだ。
「退路無き僕らが生きて帰る為にはこれを退ける他に術はない……やろう、二人とも」
治癒者としてリウィルディアは紡ぎの言葉を絶やさない。
生きて帰る意思を至上に。必ずあの地平へと帰るのだ――と。
そこへ落ちるは大竜の鱗。天より至る破滅の破片。
「――ともすれば船がもたない一撃とは、隔絶してるな」
だが、とフレイは決意している。
如何なる攻撃であろうと、如何なる絶望であろうと。
「安心してくれ――二人は必ず生きて帰す」
己が護るのだと。
閉じた聖域の加護を自身へ。この聖域は侵させず、解きもしない。
直撃。凄まじい衝撃が周囲へ爆散すれ、ば。
「君もだよフレイ。皆で必ず……帰るんだ」
リウィルディアの支援が飛ぶ。フレイの傷ついた身が即座に癒され、未だ彼の致命を避ければ。
依然布陣は崩壊せず。
三名の意思は途絶えない。大竜如きに――諦めの色は抱かぬ!
成否
成功
第1章 第12節
「ふむ……存外、長く生きてみるものだな。よもやこの巨躯を見上げる日が来るとは」
コルウィンは興味深そうに大竜の肌を。その身の巨大を眺める。
永く生きているモノだが――しかしこれ程巨大な何かを視る日が来ようとは思わなかった。
例えば大樹であろうとこれ程があっただろうか。
例えば大河であろうとこれ程の生命力を感じただろうか。
「だが、やるだけはやろうじゃないか。ああ、ふむ……やはり死ぬのは趣味ではない」
彼が構えるは対戦車ライフルタイプの一撃。
物量こそ力にして粉砕。狙い定めて穿つ弾幕が大竜の身へと直撃――直撃直撃!
常に動いて位置を調整。名が通りに粉砕せんと彼は往き。
「さぁ! では諸君、神に仇しに行こうではないか! 武勇を示す戦域であるぞ!!」
さればベルフラウが皆を鼓舞する。その声は嵐であろうと透き通る様に。
ここは脚の一角に相対する戦場――であるというのにあれほどデカイとは。
「いやはや矢張り竜とは規格外……! されど、だからこそ! この戦いは『神滅ぼし』の誉れとなるもの! 永劫の英雄譚を求めし者は死力を尽くせ――二頭の獅子が諸君らを導こう!!」
しかしながらそれは諦める理由にならぬ。
英雄の顕現を。神の饗宴をこの場へ。
猛る彼女が旗を振れば示すのだ――ローゼンイスタフここに在りと。
「あそこだ! 先達の意志を無駄にするな、狙え!!」
故に彼女は指し示す。先達たちの攻撃の果てに判明した微かな『弱き点』
それは天堕の直後、剥がれた鱗の部位……鱗がまた生え変わる前までの微かな隙間。
そこへ火力を集中させるのだ。されば少なくとも頑強の上から穿つよりは効果があると。
「よっしゃあ! ならいくぜぇ……出来る出来ないじゃねぇ、やらなきゃいけぇんだよ!!」
さすれば天へと吠えるニコラスの射撃がソコへ続く。
放つ光柱。命中する一撃。ベルフラウの言う様に確かにあそこは脆そうだ――コルウィンの射撃に合わせて更に更にと重ねる――が。
「チッ……! これでも火力不足なのかよ!」
それでも揺るがない。それでも意に介しない。
クソったれが! と吐き出すようにニコラスは悪態をつき、それでも。
「だがな、ああそうだろうよ! 俺の一撃じゃ大した事にはならねぇのかもしれねぇ……ハッ、ガキでも分からぁな! だがな! 俺は諦めねぇぞ!! 絶対に諦めねぇぞ!! なにが大海の支配者だ――!」
彼の勇猛さは留まらぬ。彼の意思はむしろ昇華される様に。
腕一本、歯一つになったとしても彼は止まるまい。
例えばこの大竜を倒すのには奇跡が必要なのだとしても。
「奇跡ってのは、希望ってのは――諦めねぇから起きるんだ!」
意思の果てにこそ、望む未来があると信じて。
成否
成功
第1章 第13節
「うふ、うふふふ! ドラゴン! この世界で最大の未知だわ!」
リヴァイアサンからの攻撃に船が揺らぐ。
海に着弾するだけで波が起こり影響を及ぼすのだ――が。
それでも眼前の大竜に歓喜の感情を見せるのはリーゼロッテだ。
かつて読んだ魔術の本の一つに書いてあった『竜』……それが現実として目の前に。
「……まぁこんな形で会うのは止めて欲しかったけど!
今更何を言っても仕方ないわね! 死ぬ訳にはいかないし――やるわよ!!」
言うなり彼女が及ぼすは治癒の魔術。己を中心とした巨大な魔法陣が味方を癒すのだ。
大竜の攻撃は苛烈。余波だけでも怪我人が出て、治癒の人手は幾らでも欲しいモノ。特に士気に関わる指揮官級やアルケイデス、パルスへの治癒は忘れない。彼らが落ちれば戦場全域の鉄帝兵に影響するかもしれないから。
「一秒でも、稼いだこの瞬間がいつかの奇跡に繋がると……私は信じてるわ!」
例えば絶望と言う闇の中に向かう旅路であろうと。
気迫で負けてなにするものぞ――意欲を全開。誤魔化しなれど勇猛を高々に!
「ぜつぼう? ぜつぼうってなに?」
そしてリーゼロッテからの治癒支援を受け取ったポムグラニットは。
「わたしにとっての ぜつぼうは うみのなかで ばらが さけないことぐらいよ」
恐れるべきは大竜に非ずと魔砲を撃ち込む。
全力。全開。
摩耗した集中は少しすれば充填されるのだ。後よりも今も。今の一撃を奴へと。
「おおきい けれど だから あてやすいね」
天堕の破片が彼女を掠める。されど肌を切り裂くその痛みを彼女が感じる事はなく。
それは天からの祝福かそれとも呪いか――いずれにせよ、彼女は一切の恐怖を抱かない。
攻撃を集中。撃てぬ隙は防御に転じて。
「絶望。そう、絶望の主、ね。名乗りは以上かしら――?」
では。
「その絶望に挑ませてもらうわ……勝負よ!!」
イナリは往く。敵の防御は強固、堅牢、頑強……なんと評すればよいか分からない。
それでも絶望などと言う言葉に屈してなるものか。彼女が両手に抱くは贋作神器。
布都御魂剣に天叢雲剣――
模造なれど魔を砕く一品。下手な技能よりも効果を及ぼすその二刀を構えて。
振るう。一閃の輝きがナルシスの魔獣の加護を得て空を跨ぐのだ。本来届かぬ程の斬撃を届かせる一撃。狙う、狙う。神経が集中しているであろうと思われる箇所を。闇雲よりも少しでも可能性のあるべき場所を――
「アハハハハ!! 竜! 海の奥底に眠っていた竜ですか! やっぱりこの地点は凄いですよ!!
竜と言うスーパーダイナミクスな存在を拝めちゃうんですからねっ!」
そしてリーゼロッテと同様に喚起しているのはヨハナだ。大竜を前にテンションが止まらない。
「もうヨハナびっくりですっ! アニメだったらここが劇場版っ!
海洋王国大号令最終章リヴァイアサン顕現って所ですか副題!! 長いですかね!?
まぁご安心ください――ちゃんと未来は続くって未来人ヨハナが保証しますっ!」
未来。未来。そう。未来、だ。
未来は続く。それでも今、己らの明日を確かに掴み取る為――ヨハナも往く!
海流に乗り下から接近。リヴァイアサンの移動に伴って海の流れも何やら狂っているの様に激しいが、それでもなんのなんの往く往く往く。射程に収めれば光の柱を穿ちて、その身に直撃させれば。
「呼び込め安息の未来っ! この時代の人々に恒久の未来をっ!」
ヨハナの血肉全てを想いに変えてでも、と。
強き意思。明日を求める未来人の全力が――此処へと満ちて。
「巨大生物はロマン……と言いたい所ですが流石に海の底にこんなのがいるとは、予想していませんでした!! うわーとんでもなく大きいですね!!」
「いやー確かに……あんな大きな竜は見た事がないですね……
私達の攻撃、通るんでしょうか……」
ひゃー! とばかりに感嘆するのはルルリアで、彼女の言に続くのはエリスだった。幾つもの攻撃が重ねられている様子を目にしているが、堅牢なる鱗に阻まれ、なんとかその下に届かせる攻撃も肉の厚みに押し負けてどれ程効果が出ているのか。
「とはいえやってみない事には状況は好転しませんね――出来る限りの事はしましょうか」
それでもやれる事をエリスは、振り落とされぬ様に船に命綱を。素早く結んで放つのは――呪いの炎だ。海の支配者であろうと生命体であれば必ず倒せる。焼き尽くさんとする一撃を鱗の下へ、狙い放ってゆけば。
「そうだね! 偉大なる竜の鱗を貫くことができるか……ルルの愛銃で確かめてみせましょうっ」
ルルリアもまた同様に。攻撃が効かない――? だがそれならそれで試してみたい。
己の銃は通じるのか? 己は風穴を開ける事が出来るのか?
『暴風』と名付けられし魔銃テンペスタ。
斬りさけ嵐を。穿て天を。
引き金を絞り上げた一撃から聖浄の槍が顕現する。魔弾の一種たるソレは大竜へ。
「くっ、逆鱗とかあれば……もっと狙いやすいんですけどね……!!」
当てれば激怒するだろうか? だが今のままではどうせ遅かれ早かれだ。
空いた鱗の下へと皆と同様に攻撃を重ね。
致命の一撃になる場所を探る。
何度も何度も。幾度も幾度も。
勝つまで。生き残れるまで。
成否
成功
第1章 第14節
「鉄帝の人たち大丈夫か? 痛いの治すぞ?」
大竜との死闘は加速度的に負傷者の数を増やしていた。
特に船の操艦や維持に当たっている鉄帝兵の被害は酷く――故にノーラは癒しの術を。
「おっきい蛇、じゃなかった。リヴァイアサンはちょっとずつでもいいから頑張ろう!
みんなで頑張れば竜種だって倒せるからな!」
「ああその通りだノーラ――皆で協力し合えば、竜だろうと必ず倒せる!」
ノーラの陽気なる一声は絶望的な戦況に塗れる鉄帝兵達の感情を癒し。
更にリゲルが皆を鼓舞。まさか、グレイス・ヌレでは争った鉄帝と共闘する事になろうとは……
「生死を別つ……いや、この世界の未来を懸けた戦いだ。絶望を覆し、希望へと斬り開く!
――行くぞ! ポテト、ノーラ! 大海の支配者を、奴を……討つッ!」
「あぁ、ここで諦めて負けるわけには行かない。必ずこの絶望を切り抜けよう!」
おっー! と続くノーラの声。リゲルは周囲も、そして己自身も奮い立たせ。
立ち向かうはリヴァイアサン。大竜にして超越者の一角。
ポテトの支援を受け、万全をもってして三者は進む。
例え目の前に聳えるが死を纏う絶対の壁だとしても――
そんなモノは天義で冠位に立ち向かった時、既に通った道だ。
「ヴァイセンブルク卿、我々は前へ往きます――御身もご武運を!」
「ああリゲル・アークライト。貴殿の武威に祝福あれ! 生きて栄光を掴みたまえよ!」
鉄帝指揮官レオンハルトに一礼を。されば跳躍し、向かえばいきなり天堕の歓迎。
隕石が如き攻撃だ。故に銀閃の如き煌めきを――目にも止まらぬ早業にて解き穿つ。
断罪斬刃。
一閃鏖殺、天堕を砕く! 剣撃との衝突は衝撃波を生み、それだけで彼の身を裂かんとして。
「リゲル――後ろは任せてくれ。リゲルの道は、背中は私達が守ってみせる」
「パパとママと一緒に頑張るぞー! 僕もパパを護るんだ!」
それでもポテトの恩寵が彼を癒す。
ノーラの魔力放出の輝きが天堕の破片を砕けば、更なるダメージを齎す筈が消失して。
「思いっきりやってくれ……ノーラは私が必ず!」
「――ああッ!」
往く、往く――大竜の身へその斬撃を届かせるのだ。
鱗に阻まれようと一度のみで諦めてなるものか。二度でも三度でも。
一人で足りなければノーラの魔術も合わさりて。二人でも三人でも。
誰もが誰もを護る為にここに居る。
誰かが命を繋ぐのではない。
誰もが命を繋ぐのだ!
成否
成功
第1章 第15節
「邪魔だァクソが!! 寝ぼけてた野郎が今更起き上がって来るんじゃねぇ!!」
キドーは吠える。ああリヴァイアサン? 大海の支配者?
なんだそれは知った事じゃねぇんだよ! いいから早くそこをどけ!
「まだ山賊のジジイも帰って来てねえってのによう! お前みたいなデカブツの海ミミズがのたくってちゃ、あいつが上がってこれねえじゃあねえか!」
どこへ行ったのだあの山賊は。いや、違う。違う!
あいつは必ず帰って来る。
だから邪魔なのだお前が。そこにいるなよ、アイツの影が見えないだろ!
「死ぬ気はねぇ。命を投げ出す気もねぇ。
テメェ如きに俺の命をくれてやるなんざ――勿体なくて涙が出らぁな!!」
顕現させし犬こっろ。契約せし精霊たちが牙を剥く。敵はクソデカミミズ野郎。
足を踏ん張り留まって。敵を見据えてその身を穿つ。されど見据えるは全景だ。
――奴の攻撃は一撃一撃が破滅を纏う。
かすり傷でも致命に至るかもしれぬならば油断は出来ぬのだ。
「一発でも多く喰らわせてやるよ」
山賊のジジィだけではなく。
――この海に沈んだ連中の為に。
さればキドーの気迫に続くように味方の射撃もまた重ねられる、それは。
「キくか効かないかは……やってミナイと分からナイんだカラ。ヤルもんだヨネ」
ジェックだ。思考を超速に、繰り出すは徹甲弾。
射撃射撃、そのまた射撃。全弾命中全弾通らず、それでも。
「鱗のウエからが効かないナラ、鱗のスキマから――ソレでもダメなら同じ所へ――」
撃ち続ける。何度も、ナンドも。
卓越した射撃の精度は文字通り『針の穴』を通し続けるのだ。一二三四の五。
全弾命中全弾同箇所――六七、それでも尚彼女は『当て』続ける。
「――最初の"キズ"が必要ナンだ」
最初の一矢、最初の一撃。
たった一か所であろうと希望を作る。
突破口を。アタシ達の、未来を。そうだ――
お前をこの海に沈めてやるまで。
成否
成功
第1章 第16節
「うーん、そこそこ長く旅はしているが……ドラゴンはついぞ見た事なかったなぁ」
頭を掻きながら行人はリヴァイアサンを眺める。
ドラゴン、ドラゴン、か。成程これは流石に珍しい――と。
「君はどうだい、ワッカ……いや。ああ。どうやらお喋りしている暇はなさそうだね」
見えるのは絶望。天より注ぐ天堕の複数。
気を抜けば死が見えるのだろう……故に。己と共に在る精霊との会話を切り上げ。
「開き直って行かないとなあ!! 行くぞォ!!」
跳躍。彼の場合、近寄らなければ話にならぬ故。
例え危険だとしても往くのだ――近きワルキューレに乗り、時として海に浮かぶ木片を足で蹴りながら、近く。近くへ。
されば見えてくる。巨体が。人が小さく見える絶望の塊が。
それでもやらないと終わりだ。生きる為に、彼は剣を握って繰り出すは『坊の攻』勢。
一撃でも二撃でも。強力なる風が吹き荒べば、海に落とされかれぬ衝撃が彼を襲う、も。
「ハハハ! ここまで極まった状況はかつてなかったなあ!!
――だから旅って面白いんだけどね!!」
それでも彼は笑う。旅などいつでも危険と友人。
だからまだまだ往けるのだ、と。
そしてそこから少し離れた所を舞うはルクトだ。船から至りた彼女は大竜に狙いを。
「……これが竜、か。流石に大物だな。デザストル以外で会う機会があろうとは……」
戦えば流石に死ぬかもしれない。動くだけで神威たる風を発生させる規格外。
「だが、だからこそ命を賭けるに値する相手だ。楽しませてもらおう。」
彼女自身も飛行の姿勢をなんとか保ちながら、強大なる身と風へ――立ち向かう。
放つは銃撃。弾幕なりし攻撃を極力集中させ、鱗を砕き貫通させんと。
穿つ、穿つ。穿つ――暴風至れば姿勢を制御しなんとか乗り越えんとする。迂闊に『乗り』間違えれば叩き落とされるか、或いは彼方へと吹き飛ばされかねないが――
「……ドッグファイトをしている気分だ。悪くない」
命の境目で舞う。死と隣り合わせが感覚を鋭敏に。
口内の渇きが愛おしい――極限の中で射撃を繰り返し、風に乗って彼女は天へ。
上げろ身体を。生きる為に、穿つ為に。さすれば――
「でけェなー! あんなのがこの下にいたなんて、地盤とか大丈夫なのかね?」
やれやれと、嵐の中で帽子を押さえて。
アラン・アークライトは天を見据える。リヴァイアサンの巨体を、その意味を。
嫌にでも目に入る破壊、絶望、恐怖……全く怖くないかと言えば嘘になる、が。
「……教えてやるよ、破滅の象徴」
今まで幾度『絶望』を乗り越えて来たと思っているのか。
運命座標の一人として。幾つの戦いを、そして希望を掴み取ってきたのかと。
「この程度の絶望で俺たちが屈するほど、弱くねぇって事をなァ!」
刮目せよ人の強さを。勇者の有り様を。
未だ晴れぬ海域の天候なれど、いつか必ず太陽は姿を見せる。
お前を焼き尽くす太陽が。
剣を握る。離さぬ様に力を込めて。
星の如き剣を、自身の活力を爆発させながら。纏わせる魔力は己が渾身。
――燦然たる救済の光は勇者たる彼が扱うに相応しく。
狙うは一点鱗の下のみ。天堕による攻撃を幾度もの跳躍を加えて躱しながら――叩き込めば。
「さぁ第一ラウンド開始だデカブツよ……こんな所で俺達は終わらねぇ! 終わらせねぇ!!」
往く。確かな意志を瞳に宿しながら。
確かな生を感じながら。
成否
成功
第1章 第17節
貴道の心中には不安があった。
大竜。海の支配者――奴に、果たして届くのか?
「やれるのか……今の俺で? この馬鹿にデカいバケモノを?」
己の拳は天へと至れるのか? ――いや、やるしかないのだったな、くそったれめ!
「死んでたまるか!! 死ぬのは俺達じゃねえ……テメェの方だ!!」
見下ろすなよ海蛇野郎――ぶっ倒して蒲焼きにしてやると。
足に力を。船の甲板を踏み砕かんとする程に力を込めて、振り放つは――拳の槍。
それは空を切り裂き大竜の身へと到達し。
それでも揺らがぬ。渾身の一撃ですら大竜は意にも介さぬ。
奥歯を噛み締め第二撃。効くか効かないかは――もはや気にせぬ。
「諦めねえぞ、俺は……俺は! 絶対にな!」
闘気を纏い、死力を尽くし。
貴道はファイティングポーズを解かず、奴を見据え続ける。
されば一人の奮戦は周囲に伝染するものだ。
「……これが、竜」
呟いたは紗夜だ。竜、伝承上に伝わる超越存在。
世界に覇を唱え、あまつさえ目の前の竜は海を揺らがす程のモノ。
だからといって――臆す訳にもいかない。
彼女に『在る』は竜に首を垂れる方法に非ず。
刃に映すは、何時、如何なる時、そしてどのような相手とて――
――斬り捨てるという信念のみ。
「参ります。天よ、ご照覧あれ」
人の意地を。我が信念を。
この刃をその身に届かせると――卓越した目と耳で周囲の状況を『視』ながら。
往く、届かせる斬撃は飛ぶ一撃。
「信を刃に乗せ、幾度となく繰り返す」
鱗一枚でも砕かん。身を裂き抉り、その命へといつか必ず。
剣の頂を目指す身。ならば今ある天へ己を試そう――そうだこの時ですら常と変わらぬ。
自らと周囲を武威で鼓舞し、天へ挑む。
成否
成功
第1章 第18節
「これだけの存在の差を感じさせるとこう……逆に燃えてくるのう!」
笑うしかない――とアカツキは高らかに。しかし諦め故の感情ではない。
むしろ滾っているぐらいだ。背伸びしても届きそうにない存在に挑めるとは。
――幻想の様に炎を舞わせ、天を焦がさんとする。
己が全霊。己が全力、放つなら正にここと。
「一撃でも……少しでもダメージを多く! 諦めん、妾は諦めんぞ!!」
この『先』がまだまだあるのだ。人生はエンジョイ&エキサイティング!
折角出来た友達とお茶会もしまくるし。
読書会もするし。
焚火を見つめてニヤニヤする――そんな希望に溢れた未来が、先があるのだから!
「竜なぞに道を阻まれてたまるか……!」
「そうだ――通用しないと諦めるな。竜とて生物、そして俺達は一人ではない」
そしてベネディクトも往く。見上げれば圧巻、大竜の威厳確かに此処に在る。
だがだから何だというのだ滅海竜よ。
確かに奴から見れば俺達は所詮世界に何千、何万と居る木っ端なのかも知れん。
「だが――人と言う生き物は何度失敗しても、何度でも、何度でも諦めずに……
歴史にその生き様を、この世界に刻んで来た」
故に、貴様がその世界だというのであれば。
「今日というこの日――貴様に俺達という存在を刻み付けよう!
認めぬならば、嘲笑うならば魂で知れ! 人の可能性を! 人の――意思を!!」
槍に乗せる力は正に渾身。
限界を超えて貯めた力を槍に載せ、投擲する一閃は嵐を切り裂き大竜へ到達。鱗へ衝撃を与えて。
「――喰らい破れ、黒き狼の顎よ……!」
勝利の為の一助とならん。勝利への道程を必ず見出さんと。
「……ははぁ、あんま昔の事は覚えてないけど、多分、こんな馬鹿げた相手とは戦ったことないにゃぁ。いやー、人形でも恐怖で震えるとかあるんだにゃ。にゃはは」
そしてシュリエもまた大竜を見据える。いやー巨大巨塊。見た事もないにゃ。
自然と震えるのは恐怖か武者震いか、いずれにせよ。
「はぁぁ……よっしゃ。んじゃまあ、わらわ史上最高の無理ゲーを始めるとしますかにゃ!」
往くのには変わりなし。恐怖であったとしても自らの足で乗り越えよう。
飛ぶ。鱗の破片を大きく迂回し避けて、皆の攻撃が集中している所へ己も一閃。
砕けろ砕けろ――一枚でもいい。鱗砕けろ!
「んにゃ――!! 効いてるのかにゃあホントにこれ!! お祈りゲーより酷いにゃこれ!!」
その間もにも襲い掛かってくる破片を裂け、暴風に負けぬ様になんとか耐えれば。
「これが、リヴァイアサン……海の、竜。できれば、ゆっくりとお話できるような相手なら良かったけど――そんなこと言ってられる状況じゃあないね!」
更にアレクシアの攻撃が重なった。皆と共に大竜へ挑むのだ。
竜――憧れの竜。以前デザストルへ訪れた時には残念ながら姿も見えなかったその存在が今確かに目の前にいる。高鳴る心と、しかしこちらを見下す敵意を確かに感じれば流石に余裕を見せている暇なく。
「誰も死なせやしないよ、みんな護ってみせる!」
穿つ穿つ。皆を護るのだ。己の全てに懸けてでも!
天堕の破片が着弾、すれば彼女は身を挺してその衝撃から味方を護る動きを見せる。
強固なりし彼女ならばそうやすやすと砕ける事は無い。尤も――
「ッ……破片の威力だけでこんなになんてね……! でも、みんなで乗り越えるんだ……!」
天から降り注ぐは一撃のみに非ず。これからも防ごうとすればいつかは突き抜けよう。
その前に奴を倒したい。いや倒せぬまでも、せめて勝機を。
「オーッホッホッホッ!! しかし攻撃だけが全てではありませのよ――ッ!!」
と、その時。戦場に高らかなる声が響いたと思えば皆の身を癒す力が満ちる。
これは、この声はまさか!
「自己紹介をどうも!! 我が名は御天道・タント様ですわ!!
さぁ皆様――攻撃以外のアレソレは私にお任せを!!」
そう――タント様である! 彼女は己が役目を攻撃手たちの支援を見定めたのだ。
放つ力は精神力の回復に、体力の回復に、負の要素を打ち払う光に……
ケアにケアを重ねて万全と成さん。荒れ狂う嵐の主が敵であろうと――
「太陽はそんなものを恐れません! 例え暗黒の雲が空を覆おうと!!
太陽はその更に先の天へいつでも存在しているモノですわ!!」
嵐如きが彼女の輝きを打ち消せるものか。絶望如きが彼女を屈服させられるものか。
「さあ、参りますわよ皆様! こんな通り雨など消し飛ばしてみせますわ――!」
こんなものはたった一時の嵐に過ぎぬと彼女は言うのだ。
誰もを鼓舞し、誰もを奮い立たせる。されば。
「ははははっ! 良いねぇ! 最高だ! 俺はこんな戦いを待ってたんだ!」
天堕の一撃を真正面から受け止めたのは――ハロルドだ。
その姿は無傷。超越した威力だろうが、破壊を無効化する付与を纏えば話は別で。
「竜だ? 絶望だ? いいじゃないか滾るぜ!! 相手がデカければデカい程殺り甲斐はあるもんだ!」
そして往く。長く戦場に留まり、奴の弱点を探してやらんと。
だが神威の風は脅威であると彼は気付いた。
神威の暴風には――纏いを剥がす力が宿っている。ブレイクのソレは付与の脅威。
「成程なぁ! 流石に伊達じゃねぇようだが……こんだけならまだ大したことねぇな!!
竜だってんなら、むしろもっと圧倒してくれなきゃ困るってもんだぜ、なぁテメェら!!」
吠える。吠える――ハロルドは吠えながら剣を振るうのだ。
あらゆる部位へ。あらゆる箇所へ。卓越した五感であらゆるを探りながら。
「勝つぞテメェら……俺に続けぇ!!」
奮い立たせる。皆を勝利へ――必ずと。
成否
成功
第1章 第19節
「とんでもない重圧……! 流石に竜種って訳だね……!」
サクラは、離れながらも感じる敵からの圧を確かに感じていた。
こちらへ向けている見下しの感情――矮小と笑っている――それだけの余裕がある存在。
「こいつを倒して、改めて冠位魔種と戦うなんて……それでも……やるしかない!」
世界を救うなんて奇跡を起こそうというのなら、相手がなんであれば負けてはいられない。
自らの身を万全に。加護を振るいながら更に全力を。
殺人剣の極意は神速の居合を更に昇華する。彼女の斬撃は空の彼方へも到達し。
故に――迎撃するのは天堕の一撃だ。
無数大小。死の権化。砕かんとする一撃が衝突し――火花を舞わす。
「負けない……負けられないんだ!! こんな程度でぇえええ!!」
火花はまるで桜の如く。一で足りねば二を足そう。
天より降り注ぐ絶望を打ち払わん。足場が消滅すれば全てお仕舞いだから。
だから――負けられれぬ。
この絶望を切り拓いて、未来という希望を掴み取って見せるのだから!
「やれやれこの攻撃は中々に厄介だね――いや奴からすれば攻撃の感覚ですらないのかな?」
そしてその動きに続いてメートヒェンもまた天堕に対応する。
厄介な相手だ。しかし厄介だという程度で怯む鉄帝人などどこにいようか。
駆け抜け船に直撃せんとした天堕の破片を叩き落とす。メイドの震脚が、一撃が砕いて。
「海洋の更に果てまでわざわざ鉄帝は来てやったんだ――なら、海だけのみならず。
その主であるあの海流にも鉄の名を刻んでやるというのが、鉄帝の礼儀だろう」
暴威を振るう絶対者。やかましい、鉄帝の意地がそんなものに屈するか!
鉄帝人よ奮い立て。奴へ一撃叩き込んでやるのだと。
「さぁまだまだこれからだよ! 鉄帝人の底力を見せつけてやろう!」
「ハハハ確かにその通りです! 奴へ鉄帝の力を見せてやらねば気が済みませんね!」
故にヨハンも同調し皆を鼓舞。統率、戦略眼の果てにレオンハルト達の指揮を援護して。
「レオンハルトさん! 前線の指揮は僕が受け持ちます――次の一手を導いてください!」
「むっ。貴殿はあのバルド・レームの……宜しい。私も元より全力を尽くすつもりなのでな」
ヨハンは駆ける。前線の細かな援護を主眼に味方をサポート。
力を底上げ、負の要素が撒き散らされれば打ち払う力を満たし。
戦線を必ずもたせてみせると彼は言う。天堕の破片を的確に迎撃し――場の救いとなるべく。
「闇雲に散らすよりは重ねるべきか。鱗の直撃にもやはり警戒が必要だな」
そして修也は言う。己が故郷には言葉がある、と。
「塵も積もれば山となるとか涓滴岩を穿つ……まぁ色々多彩にな。大体全部意味は一緒だ」
例え小さな一撃であろうと。
それはやがて何かを成し遂げる。
諦めず、紡ぎ続ければいつか必ず。
故に彼の一撃は味方と共に集中して。船に直撃しそうな鱗あれば軌道を逸らすべく横より一撃。
終わらせぬ、続ける。勝つまで。希望に手が届くまで。
「はっはっは!! これは大きいですね、ビッグビジネスの匂いがぷんぷんしますよ!! 亜竜の卵欲しいとか言い出す伯爵殿の事ですから、滅海竜のあれそれとか持って行けば大金で買ってくれるのではないでしょうか!」
マジで伯爵はそうしそうだと思いますねルル家さん。ともあれ笑う彼女は竜を前に。
「恐れましょう! 畏れましょう! 称えましょう! 竦みましょう!
ええだから――今夜はお刺身でキマリです! さぁ行きますよ皆さま!」
楽しい楽しい海釣りの時間です! と、彼女は紡ぐのだ。
大竜なんぞ幾らになるかの代物にしか過ぎぬ。未来の億万長者、そのチャンス棒に振るものか!
スーパーノヴァ。宇宙創生の輝きが大竜を襲う。
恒星よりも熱き彼女の情熱はリヴァイアサンの防御を上回れるのか――
少なくとも彼女には、己には見込みがあると思っている。なぜなら。
「タフならば死ぬまで切り裂くのみ!
見るが良い! そのための拙者の全身全霊――これぞ宇宙力(くりてぃかる)!!」
とんだルビだぜ。しかし威力は確かに大竜の身へと。
硬さなど無意味と彼女は放ち。
「ハッ。此奴を殺らなきゃ俺達が死ぬ……分かりやすくていいじゃねえか」
どの道倒せねば死兆の方で己は死ぬのだとジェイクは言う。
退路は無いが、後も無いのだ。ならば悲観する程の状況ではない。
「――きっちり片を付けてやる」
本命はアルバニア。眠り続けていた蛇などお呼びではないのだと。
狙い定めて放つは鉛玉。銃弾ぶち込み、蛇を穿つ。
腰の銃身を落とし右脚へ。必殺の一撃、必滅の一撃。必ずお前の身に届かせると。
「喰らえ! これが俺達人間の意地だ! あんまり舐めるんじゃねぇぞ!!」
天へと叫び放ち続ける。さすれば。
「滅海竜――リヴァイアサンか、なるほど確かに巨大だね」
ジェイクに続いて強力な一撃――ムスティスラーフだ。
「君は本当に強いんだろうね。でもさ、効くかわからなくてもさ、やらなきゃ何も変わらないんだ。この選択が間違いだったとしても何もしないよりはずっといい――だから、抗わせてもらうよ」
例え圧倒的な差があろうと、なんだというのだ。
そちらが御大層な呼び名を持つなら。今この時己もいつか背負ったこの呼び名を掲げよう――
その名は【最強砲台】ムスティスラーフ・バイルシュタイン。
「――僕が、ローレット最強の砲だッ!!」
空想ではなく確かにそこに『在る』なら必ず破壊してみせる。
大きく息を吸って準備万端。彼の言の葉と共に紡がれる緑の閃光が――大竜へ。
直撃。鱗を震わせ、身へ届き。揺らがせ砕かんとする彼の天たる一撃!
「これが! 僕の! 『大むっち砲』だぁっ!!」
更にてより強く。より深く。密度を増して槍の如く。
砕けろ砕けろ砕けろ届け――お前なんかに負けてなどやるものか!
成否
成功
第1章 第20節
「……はは、マジか。マジで竜なのかよ」
御伽噺でしか聞いた事のないような存在が、今目の前にいる。この世界に存在するとは知っていたが――どこか遠い存在だと思っていた竜が、確かに目の前に。ブルっちまうよな……けど。
「ここでビビって、死んでたまっかよ! 俺は、絶対に、諦めねぇ!!」
例えば伝説の存在だとろうと知った事ではないとピットは己を奮い立たせる。
獣の本能を全開に。優れた視力と聴力を持って周囲を探りながら、狙うは鱗。
より正確には鱗が剥がれたその瞬間で――
「子供だからって、甘く見るんじゃねぇぞ! 俺は、絶対、生き残ってやる!」
そこへと己の火力を叩き込む。舐めるな大竜。俺は生きるのだと。
そして卓越した五感で探るのは――ラダもである。
「……話には聞いていたが本当に『話に聞く』ばかりだったから、まさかここまで巨大だとは思いもしなかったよ……これが竜、か」
大きさも強さも想定を超えている。それでもやれる事をやるのみで。
彼女が見るのは極力頭部に近い側だ。蛇もだが、体が細長いと上体から下半身へと動いていくのが常な筈。ならばそれに伴って奴の『動き』を読むのも決して不可能ではない筈だ。特にみじろぎによる攻撃の影響があるのならば。
「――必ず出し抜ける『点』が存在する」
同時に探るは守りが薄い点。特に天堕の直後の鱗が剥がれた所は好機である。
一度撃ち込み、二度三度。
仲間の攻撃に合わせて微かな隙間を拭い続ける。執拗に、執拗に何度でも。
「前に進むならやるしかない、か。ここまでの努力を無駄になんてさせない……
大号令の瀬戸際だな……!」
さればドゥーの一撃も続くものだ。狙い定めて同じ個所を。
「あんな化け物相手に出来ることは『正確に一発でも多く攻撃を当てること』だ。あれだけの巨体なら狙わずとも当てる事は容易いだろうけど……違う。弱点となる場所に『正確』に、だ。闇雲な射撃は大した効果も期待できない筈……」
冷静に。焦らず落ち着いて。
情報だって武器になるのだ。弱点を共有し、少しでも有効的な攻撃を、奴へ。
リヴァイアサンから見た人間は。俺達は例えちっぽけな存在だとしても――
「それでも食らいつくところを見せてやろう……!」
意地があるのだと、彼は攻撃を続けるのだ。
「……巨大なるドラゴン。狂王種とは比べ物にならない存在――流石、と言った所でしょうか」
そして。更に弱き点はないかと探るのがリュティスだ。
近付くのは難しい。ならば遠距離からの攻撃を重ねるまで。
死へと誘る不吉な蝶を此処に。不運なる月を奴へと与えれば、そこへ穿つのは――矢だ。
「しかし巨大であればこそ効く攻撃もあるもの。
全ては考えよう……腕の見せ所という所でしょうか?」
放つ。超速で往くその矢には対象を拘束する魔力があって。
流石にリヴァイアサンの総てを縛るは叶わねど――確かにその矢は狙いへと着弾した。
それでも尚止まらない。隙があれば魔砲を放たん。その鱗――
「打ち砕きます」
天上の存在なれど臆す必要なし。
「大号令の悲願成就まであと一歩……
女王陛下の御為に、必ずやこの海の果てへたどり着く。邪魔をするなぁ!」
そう。臆している場合などではないのだ。敬愛せし女王陛下の為――史之は往く。
例え神だろうが竜だろうが大自然そのものだろうが知った事か。
行く末を塞ぐならば押し通るまで!
「こんな所で絶望してられない! 元より『絶望の青』を超える為に来た者が……絶望してたまるか!」
小型船を操舵し荒れる海を邁進。
鱗の破片による衝撃が彼を襲うが――それは癒しの術で耐えるのだ。
そうして推察する。堕ちて来るのが鱗なら、剥がれた地点は薄くなるのでは――と。
「勝機は見えるぞ、大竜め……!」
往く、往く。多くの仲間を射程に捉え、支援の術を満たすのだ。
あと一歩を防がれてたまるか。あと一歩を捧ぐのだ、あの方へ……!
「ハーハッハッハ! 然り然り!! 竜種、確かにバカげたサイズじゃが……
恐れるに足らず! なぜなら余は超☆宇宙魔王フーリエであるぞッ!!」
サイズで負けようがスケールではこちらが勝っているとフーリエは高らかに。
自身に付与した再生の能力。そうして万全にした上で放つ一撃は強力で。
「勇敢なる兵士達よ、余の雄姿を見るがいい! そして気骨ある者は余に続くのじゃ!」
自ら先導し皆を鼓舞する。
相手は強大無比なる存在だが――この海にいて廃滅病の影響が全くないとは考えられない。
「必ず弱い点がある筈じゃ……!」
探ろう。弱った部分があるならば、それを探し出して撃たぬ手はない。
「うん、いいじゃない。こういう絶望的な災害にぶつかってくの大好きよ」
故に状況の打開を見つけるべくセリアは精神力を弾丸に、リヴァイアサンへと射撃する。
あの大竜は『災害』だ。本来抗い難き『理不尽』に連なる事象――
人は時としてかような災害に立ち向かう事に歓喜する者がいる。
「やってみようじゃない――うん。絶望的な戦いで皆と協力するのも悪くないね」
戦略眼で敵と味方を見据え、声を飛ばして少しでも効率的な動きを。
些細な油断が死につながる。ならば『些細』を潰せば死は軽減するのだから――
味方全体を立て直す号令を飛ばし、彼女は戦場に在り続ければ。
「ハハ……冠位魔種だけでも手に負えねぇってのに、この上竜までお出ましとはなぁ」
顎を掻きながら縁は呟いた。
冠位に竜……成程絶望的な状況だ。
今までの自分ならば大人しく両手を上げて降参してた――だろうが。
「……悪いが腹を括っちまったんでな」
立ち向かう。絶望であろうと希望を掴むべく。揺れ動く水面の如くの彼が激流に身を任す――
鱗が落ちて来れば射撃の者らを庇おう。リヴァイアサンの身が近くなれば。
叩き込む。起死回生の一撃――防御の構えから転じて放つ攻勢の一撃を。
どの道、長くないのだ。彼を蝕む死兆は刻一刻と。だから。
「……今死ぬか後で死ぬかの違いなら足掻いてやる」
彼は向かう。絶望であろうと、そうでなかろうと。
成否
成功
第1章 第21節
「おおおおお! 奮い立て諸君! 立たねば死ぬぞ下を向くな!!」
ひぃいいい――!! 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!! 鉄帝の武将の一人アルケイデスは身中で怯え竦みながらリヴァイアサンからの天堕を凌いでいた。槍を振るい、着弾する寸前に少しでも被害を軽減するべく破砕を試みている。
あああまずいまずいまずい全く状況が好転する気がしない、どうすれば――!!
「はは――なるほど、リヴァイアサンね。すげぇでかいな。ものすごいパワーだな」
そんな彼に声をかけるのは――知古の風牙だ。
「つまり、ま『これまでどおり』だな。
見ろよアルケイデス。間違いなくあれがこの海の『ボス』だ」
「むむ!? いやそんな事は分かっているがだからどうし……」
「今までオレらが戦ってきたやつと同じで、でかくて、強くて、すごい。
それらが、ちょっとばかしスケールアップしただけのこった」
風牙は言う。『大したことは無い』と。
今まで魔物と交戦した事はある。強敵と応戦した事はある。
それらのちょっと強い版だと――風牙は言っている。
「怖いか? ま、それもいつものことだろ?
オレもすげえ怖えよ。いつものこった! ハハハハ!」
「な……っ、い、いやしかしやっぱりどうしてもそうは思えな――!」
「――ッシャ! じゃあ行ってくら! 支援砲撃頼んだぜ! 頼りにしてっからな!」
まだまだ怯えるアルケイデス。しかしそんな彼を――『頼りにしている』と。
信じていると風牙は言う。
自らの頬を叩いて気合を入れる風牙。立ち向かうは天堕の数々。
「ああ、もう全く……!!」
ならば。
ならばアルケイデスも奮い立つ。本来の彼は――心穏やかな気質が本音だとしても。
――友を死なせたくない。
そう思いはするのだ。
例え心の中で恐怖があろうと、アルケイデスにも退けぬ一線が確かにあるのだ。
「はははっ竜と対面とは望外の幸運だね。勿論『会えたなら死んでもいい』――とは思わないけれど」
そしてアルケイデスの船から一層強い支援砲撃が始まったと同時。
ニーベルングの方で呟くのはゼフィラだ。まさか『また』この艦に乗る事になるとは思わなかった。かつての横槍の件は覚えており、思う所はあるが……
「今は素直に力を借りるとしようか」
争っている場合でもない。リヴァイアサンを倒す事の方が先決だ。
艦上から炎の精の力を借りる。大竜の身へ広き攻撃を加えて――打撃を与えんと。
全く嫌になるほどの図体だ。これだけで決して倒せるなどとは驕れないが。
「ふふっ、私達に勝ったというのに艦を沈められたくはないだろう?
さぁ――さっさと砲撃なりで手を貸してもらえないかな?」
ニーベルングの艦砲も加えてくれ、とゼフィラは鉄帝の面々へと声をかける。
そう。ここには優秀な指揮官もいるのだ。隙を作れば逃すはずも無く――
「マリーのパパにパルスちゃん……それにイレギュラーズの皆。
守りたい人達がいるから戦えるんだ……!」
そして名前を。レオンハルトやパルスの名を重ねながら現れたのは。
「絶望を切り裂く希望の光! 魔法騎士セララ参上!」
意気揚々高らかとセララは艦上へと。
口元にはドーナッツ。もぐもぐすればリヴァイアサンだろうが戦える意欲が湧いて。
――誰もをきっと護るのだと。
「その巨体には範囲攻撃や貫通攻撃が効くとみたよ! 図体が大きいからの弱点……!」
当てやすく、連打しやすく。
そう見たセララは一気に跳躍。大竜へ挑まんと嵐の中を駆け抜ける。
海に浮かぶ木片を蹴り、まるで海上を走っているかのように。
「いっくよ――!! 必殺、セララストラッシュ!」
届けば己が全力を奴へと叩き込む。
誰も死なせない。誰もお前の餌になどしない。
大海の支配者だろうが――圧し潰して押し通る!
成否
成功
第1章 第22節
「全くもぉ、おねーさんか弱いんだから竜種相手なんて無理よぉ! なんなのこれぇ!?」
大きく揺れる船の端に捕まってアーリアは嘆いている。
竜ってなぜ突然。狂王種とかの比ではない強さとサイズだ。もうふざけないでよぉ!
「……とはいえ今回は若くて可愛らしいお二人さんと共闘だもの、そうは言ってられないわよねぇ」
大人のプライドは見せねばならない――と奮起する理由はラピスとアイラだ。
竜種。その存在にはアイラも流石に震えが止まらない。
それでも。
「ラピスやアーリアさんが……一緒に戦ってくれるなら!」
「うん――いつもは二人っきり。でも今回は……頼れる大人が見守ってくれる」
「え、ええそうよぉ! おねーさんにドンと任せなさい!」
皆で戦えば恐怖にも立ち向かえる。
ラピスの指揮支援。アイラのサポート。アーリアの火力が密に成りて大竜を襲うのだ。
魔力も体力もアイラが保たせ。
「二人とも安心して全力を……! 戦えるようにするのが、今日のボクの役割です!」
「うふふ、ありがとうねぇ。おねーさん、ちょーっと頑張っちゃうわぁ……!」
サディスティックに、とアーリアの一撃がリヴァイアサンへ。
そんな二人を視ながら――ラピスは思考する。
二人共強い。比べれば己は耐久力が少しあるぐらい――だけど。
「……でも此処で退く訳にはいかない」
自らには自らしか出来ない役目がある。
それを果たすまで全力を尽くすだけだ。
鱗の墜落が二人を襲うなら、庇おう。暴風の神威が吹き荒れれば盾となろう。
「アイラ、それにアーリアさん――二人は、必ず……!」
この二人は、必ず護るのだと。
彼は勇気を持って立ち続ける。大竜如きに――負ける訳には絶対にいかないから。
「ぶははははっ! 向こうも張り切ってるじゃねぇか……!!
俺も火力ある味方を護るくらいならできるってもんだ!!」
ラピスの奮戦。それを視てゴリョウも奮い立つ。
彼もまた遠方への攻撃手段を持たぬ。しかしそれでもやれる事はある者だ。
味方の治癒。あるいは庇い、守護と成りて。
「桶は桶屋。攻撃は攻撃屋が。俺は俺の売り物をってな……! ぶはははっ! まだまだ俺ぁ折れてねぇぜ!」
鉄壁。それに成りてゴリョウは往く。
しぶくと長く、歯を食いしばりながら戦場に在り続けるのだ。
未だ暴力の化身は健在。まだまだ誰一人として堕とせはせぬ。
「全く本当に場所が悪い限りですね――これが地上なら、まだやりようもあったのでしょうが」
泣き言を言っても仕方ありませんかと、呟くのは沙月だ。
どんな状況だろうと活路はある筈。巨大であろうと不死とは思えないから。
「……見定めるべきは勝機、ですか。生き続ける他ありませんね」
天堕の一撃を躱しつつ、彼女は向かう。
敵の動きを観察し、予測。どのように攻撃を降り注がせて来るか。
どのように移動するか――それを視て。
「――参ります」
覚悟を決めて嵐の中を駆け抜ける。
船を伝って少しでも近くへ。大竜の懐へと必ず必ず。
届きさえすれば拳を叩き込む。流れる技を奔流とし、大竜への一撃と成さん。
「……竜種、か」
そしてかの攻勢を受けるリヴァイアサンを視ながら、レジーナは想い馳せる。
アストラークゲッシュ世界での『記憶』が囁くのだ。竜が猛威を振り撒いた記憶。
あの時は多くの英雄の命と我(わたし)の人種としての人生と引き換えに辛うじて勝利した。しかし今は――あの時集った多くの英雄たちはいない。この我(わたし)に竜を屠るだけの権能はない。
それでも。
今は違う英雄たちがいる。轡を並べる――仲間たちが。
「……ならば悲観も諦観も今だけはすまい」
敵は強い。
状況は絶望的。
それでもきっと明日は来るのだと信じて。
――我が身命、ここに賭としてつかまつる。
「蹂躙怒涛……ッ!!」
フルカース・エト・テンペスタス。戦車と軍馬を伴に、眼前の敵を粉砕すべく見据えるのだ。
狙うは竜鱗の隙間関節部分。
「今一度『神』とやらに人種の意地を見せてやろう……!」
吠える。一度成した事をもう一度。
この世の驕れし神に――見せつけてやろう!
成否
成功
第1章 第23節
「左脚の、高いところに、弱点がありましたから……
もしかしたら右足も、同じ場所に、弱点があるかもしれませんの……」
他方の戦場――其処より情報を得ていたのはノリアだ。
こちらでも同じ場所に弱点があるとは限らない。が、同じ場所かはともかくとして弱点がないか調べれば戦いを有利に進められるのは間違いない。今の所、天堕の後に剥がれた鱗の跡が比較的弱い事は分かっているが。
「他にも……あるかも、しれませんの」
弱点が一つだけなどと誰が決めたか。
大海の抱擁に身を委ね、不思議な貝殻を握りしめて――往く。
同じ高さへ水の圧を。一撃、二撃、三撃……
しかしこちらでは効果が見られない――成程、やはり弱点が同一と言う訳ではなさそうだ。
「皆様、弱点は、やはり鱗が、剥がれた所、ですの」
そして気付く。鱗を通すか通さないかではダメージが劇的に違う、と。
いや違うと言ってもそれでもリヴァイアサンは圧倒的だが――
「それでも少しでも。マシそうな所を狙っていく他はあるまい」
愛無は言う。大竜を相手に余裕は一切ないのだ、有効的な所は積極的に狙う。
それとは別に愛無が探すのは腐食箇所。つまり廃滅病の『跡』がないかと。
リヴァイアサンはずっとこの海域にいるという。
ならば廃滅病に罹患していないなど考えられない。
「もしそこがあれば――多少はより攻撃も通るかもしらん故に」
今の所廃滅病はこの辺りは見つからない。もしかしたら、この周辺には無いかもしれないが。
それでももしやと思った場所に――蛇の視線を送ってやる。
穿つ一閃。集中とともに放たれた一撃は、鱗を揺らして。
「やれ。竜種は途轍もないとは聞いていたが……
この威容、生きとし生ける者の頂点といえよう。これを斬れとはまた無茶をいう」
そしてリヴァイアサンの存在を前に思わず苦笑してしまったのは一晃だ。
これを斬れ――と。成程中々面白い。とても斬れぬ様に見える者を、斬れと。
「……嗚呼、だがこの荒ぶる海の王者を斬る事ができるこの機会、逃す訳にはいくまいよ!」
故に滾るわ! 斬れぬモノを斬る! その栄光を誰に渡せようか!
放つ斬撃、飛びて当たる大竜の身へ。
討つ、討つ。必ず殺す。
鱗の破片が周囲に落ちて衝撃が己を襲おうと。
波に飲まれようと願いを成就せん。ああ大竜よ――その首を落とさせよ!
成否
成功
第1章 第24節
数々の海のヤバイ生物をこの目にしてきた。
しかしこれは別格だ――震えが止まらない。
「でもビビってるだけじゃあ海の漢が廃るってもんです……
どっちにしろ退路はねーみたいですしね。と言う事は腹を括るしかない、と」
ならばガッツリ仕留めて、じっちゃへの自慢話にしてやるのです、とマリナは決意を。
往く。リヴァイアサンの懐へ特攻する者達を支援するべく。
己がギフトを活用し――船を一つ、沈めぬべく立ち回る。
傷を負った者がいれば治癒を。複数いようが関係ない、届かせる。
「ふぃー……これは中々難儀な奴ですよ……!!」
見れば周囲には鱗が幾つも落ちてきている。それだけで多くの者が巻き込まれる。
しかし恐れを抱けばその時点で死だ――足を止めるな。
往け。でなくば生は掴めない!
「くっ……しかしあのデカい竜がリヴァイアサンだと……?」
天を見上げるルーチェ。伝説の存在が現れるとは、全くなんという事態か!
「大物が相手なら出し惜しみはなしだ……喜べ。余の全力を見せてやろう……!」
戦いの始まりを告げる音を鳴らし、全身の魔力を口の中で収束。
直後に放つ光帯――それは光の奔流。力の化身。
嵐を切り裂き天を穿つ彼女の大技である。言った通り出し惜しまぬ。
一でも二でも叩き込もう。効くまで死ぬまで余が勝つまで!
「やれ、ここまでバカデカイとはな。
攻撃が通るかよく分からないような相手は初めてではないが……」
そしてルーチェの幾重にも重なる攻撃を視つつ、フローリカもまた歩を進めて。
巨大。成程、山の如き相手を倒した事は無い。
しかし――
「やる事は変わらんな」
アレもまた生物であるのなら、殺せるはずだ。
殺せる相手なら殺しきる。死ぬまで殺す。それだけだ。
振りかぶった己が武具。ルクス・モルスを一閃。されば往くは――衝撃の刃。
大竜に直撃する。回数を重ね、更なる追撃。弱き点はないかと探りながらあちらこちらへ。
「死ね。大海の支配者よ――お前の命を狩り取ってやる」
必ず殺す。殺意を胸に、彼女はリヴァイアサンへと挑み続けて。
「かような程に巨大であるからこそ、鱗を落とすだけで攻撃は絶大。傷は負ってるのか否か……
ならば逆に考えるでござる。いくら撃ってもダメージに気付かないなら――」
『目に見えぬ』傷を与えてやる、とパティリアの射撃がリヴァイアサンへ。
それは敵の精神、あるいは魔力、気力を削る傷。
体力ではない。直接的なモノとしては気付きにくかろう――だが。
「小物と侮るがいい」
歯牙にもかける価値もないと視界にすら入れないといい。その油断が。
「大竜の致命となろう」
首を獲れればそれでよいのだ。最終的に命を獲る事に繋がれば――良し。
ニンジャの本懐、ここにあり。
闇の刃の意味を知るがいい。
成否
成功
第1章 第25節
洸汰は思考する。彼は水竜様の鱗をもっているのだが――
「まさかこいつの鱗か? ……って思ったけど、スケールが違いすぎるよな」
別の存在か? 気にはなるが……まぁいい、とにかくぐずぐずしてはいられない。
「ここはピンチヒッター、シミズコータ様も相手になるぜ!
やいリヴァイアサン!! これ以上好き勝手はさせねぇぞ!!」
負傷者を後ろに下げ、代わりに彼が前へと。
遠くに居ようが撃ち込む方法はあるのだ――あまりに巨大すぎて、奴の弱点がどこなのかいまいち分かりにくいが。
「でも、やるっきゃねーんだよな……コールドゲームで終わるなんて、オレも真っ平ごめんだ!
やってやろうぜ! 9回裏2アウトならまだまだこれからだからよ!!」
往く。華麗なプレーでリヴァイアサンの身へ衝撃を伝え。
人は矮小に非ず。お前のスケールなどに負けはしないと――全力を。
しかし誰しもが勇気を持って立ち向かえるわけでもない。例えば。
「……竜種! あれが、あんな、大きいのが……!」
ミミは本能的に抱いた恐怖で尻尾の毛が逆立っていた。
見ているだけで足の力が抜けそうで、へたり込みそうだ――
しかし。
「……!」
己が頬をエイッ、と一発。
叩いて気合を。もう一度リヴァイアサンを視た時――恐怖は、無い!
「ほら、だって助けを待ってる人が、こんな沢山居るんですから!」
やるべき事があるのだ。臆してはいられない――ッ!
甲板を走り回り治癒の一手を。ポーション振り撒きポーション大乱舞。
彼女には『当て勘』の様なものがない。ちゃんばら素人だ――されど。
「ですので……皆さんのけがを治し、少しでも動けるようにする事……
それが一番ミミがお役に立てる事!」
……の、はずです。と最後はちょっと自信なさそうに。
それでもやる。負けてなるものか。救うのだ、皆をッ――!
「ああ。嵐そのもの……形ある災厄だろうが関係ねぇ。人は立ち向かえるもんさ」
さればグレンは前へ。こんな大物に立ち向かえる機会などそうそうなく。
ミミや治癒に徹する者達が集中できるように威風堂々と。
「前は任せな。偉大なる竜種サマなんざ、俺が抑えてやる……!」
宣言し、己を整える。抵抗の加護を、守護の加護を己に。
リヴァイアサンより至る空堕とし――天堕の一撃すら彼は恐れない。
恐怖があるとすれば後ろの者達を護れぬ事だ。
大竜よ、お前に屈する事ではない。
「命を懸けるって事の意味を、竜種サマにみせてやるぜ……!」
俺達が矮小かどうか――その目でよく確かめろ。
鱗の破片と衝突する。それでも彼は立つのだ。耐えるのだ。
何度でも、味方を守り抜くために。
成否
成功
第1章 第26節
激しい戦い。それは一体どこまで続くのか。
こうなれば奴に一撃――と。したくなるのが突撃だが。
「でもその前に……ちょっと上昇補正してみませんか?」
じゃーん、と鈴音は百花太夫。更に繰り出すは英雄の詩。
皆に活力を与える一節がリヴァイアサンへ吶喊せんとする者らの力と成って。
「死ぬ気でもぎ取れあれやそれ。あ、も一つついでにこれもこれも」
だが終わらない。更に渡すは己が生命力を犠牲にした力の伝播。
満たす補正。どうせ死にに行くなら万全になってみませんか。
「いずれ知ることになるのですよ――リヴァイアサンなどただの中ボスてことをね――」
意味深な発言。でもこれ以上の大物とか考えたくないです!!
ともあれより強い敵にあいまみえる覚悟あらば。
ひるまず一撃を叩き込め! それ、ハイヨー青春っ!
「やれやれ。だけど、ま支援はありがたいな……さ、行くからには攻撃しにいこうじゃないか!」
やるなら絶対に一撃以上は、とランドウェラは確かな意志と共に前を見据える。
とても通りそうにない鱗に巨体の身。
ならば下手に技能を使うよりも……武器に宿りし呪い殺しの意を奴へ。
「慎重に行かないとね、情報が分からない攻撃で一発退場は御免だ……!」
暴風。天よりの一撃。
特にあの鱗、相当な攻撃力を叩きこまねば……相殺するのは無理そうだ、恐ろしい。
全くもって規格外。それでも彼は一歩を進めるのだ。
この一撃を奴へと叩き込むまで。
止まれない。
奴を射程に収め攻撃を――放った。
「ふむ。吾輩の鎧も、竜種へ対抗する為だと聞くが……
実際本物を目の前にしてみると頼りになったコレのなんとちっぽけなことか」
そしてローガンは身に着けているドラゴニックメイルに視線を。
これはこれで素晴らしい武具に間違いないだろうが……あの大竜は、まずい。
「だが! 指揮官殿の語る通り! 敵がどれほど強大であろうとも、行かねばならんである!」
そうする事でしか生き残れないなら『やる』しかない。
使えるモノは全て使おう。信念の鎧を纏いて、集中全開。
鱗は躱す。衝撃は耐える。何? いやあんなものにマトモに当たる訳にはいかない!
「吾輩、大抵の『負』に耐える健康な体が自慢ではあるが……こんなもんマトモに受けたらそれ抜きでお陀仏である! いくら何でもあんな一撃も大丈夫とか過信は出来ないのである!!」
危険は可能なら回避する! 駄目なら覚悟する!
そうして彼は進むのだ。銃を撃って距離を詰め、一撃与えるは意思の塊。
「我々は生き残るのである――決意の果てに得る力を、奴に見せてやるのである!」
成否
成功
第1章 第27節
騎兵隊。その名は海賊ドレイクの下へと向かった者達。
経緯は割愛するがそのメンバーの多くは囚われ――しかし。
「先輩たちを助ける為……今はこの窮地をなんとか解決せねば」
「ヒヒヒッ、まさか龍とはね……とんでもないのが出て来たもんだ」
与一や武器商人はまず、己が出来る事をやらねばと大竜に相対する。
ここで死んでしまえば囚われた彼らを迎えるのは誰がやるのだ?
死ねない。故に救護を行いながら全力で大竜への対処へと奔走する。
「乗り切らねば確かに、迎える事も出来ない――まずは負傷しているモノ達の救出を」
「こういう時はヒーラーが沢山必要よね! 私は治癒術に専念するのだわ!」
それ故に彼らはレイリーの用意した小型船を操舵。
それは主に航海術を身に着けている与一が担当し、三名は救出事態を担当。
負傷者が集まれば華蓮が治癒の術を施し、その傷を癒す。
「……よし、あちら側! 助けを求める感情が、ある!」
特にレイリーの感情探知はおおよその方角の特定に成功していた。
荒波にもまれれば姿も見え辛いが、探知出来れば救助も比較的スムーズで――
――だが。無論言う程救助活動とは簡単な事ではない。
リヴァイアサンの攻撃は続くのだ。刺激せねども、奴は無差別。
暴風にしろ鱗落としにしろ長大な範囲を巻き込んで。
「くっ……! なんとも歯痒く、悔しいでござるが今はなすべきことをなすのみ!」
されば与一の操舵が鱗を躱す。一発でも当たればどうなるか――危険だ。
それでも衝撃が甲板を襲う事はある。直撃は避けても余波、と言う訳だ。
「おっと――そうはいかないねぇ」
「余波が来る! 東から……来たッ!」
ではそうなれば武器商人とレイリーの出番である。物理も神秘も無効化する武器商人が、華蓮を庇うのだ。神威の風は纏いを剥がす要素がある故、絶対確実とは言えないが……鱗の方は大丈夫そうだ。レイリーもまた決死の意思を持って救助者や与一のカバーへ。
衝撃波、着弾。船体が大きく揺れ――しかし、致命的な負傷者は対応によりいない。
そうして安全が確保されれば華蓮も全力を賭して治癒に徹す。
「一度ゆっくり休んでほしいわ……手当はしたけれど、深い傷を負っている人もいる……!」
「成程ねぇ。それも分かるけれど……今さら退く所もない」
武器商人は周囲を眺める。嵐、暴風、爆音、闘気――くくっ。
進むは易し、退くは難し……ならば望む者がいるならば戦線復帰させてやろうじゃないか。
それに。
「それにうっかり生き残ってごらんよ、竜殺しの冒険譚なんてドレイクの物語に見劣りしない偉業の登場人物にキミがなるんだ。誰もが望んでも一生かけても到達できない物語が目の前にある」
なんともロマンあふれる話じゃないか――さぁ。
奮い立て、今少し。
大竜の最期をこの目に留めるまで。物語に立ち続けろ。
成否
成功
第1章 第28節
GMコメント
●重要な備考
このラリーシナリオの期間は『時間切れ』になるまでです。
(時間切れとはアルバニアの権能復活を指します)
皆さんはどのシナリオにも、同時に何度でも挑戦することが出来ます。
●目的
リヴァイアサンの撃退。
その為体の一角――右の脚へ対する攻撃を行ってもらいます。
なんとか、ダメージを与えてください。
●戦場
荒れ狂う海域。嵐の中。
皆さんは後述する戦艦ニーベルングか、ワルキューレに乗っている事が出来ます。
ワルキューレの方がリヴァイアサンに近い形ですが、リヴァイアサンの身は規格外すぎますので、あまり大きな違いはないかもしれません。
●敵戦力
『リヴァイアサンの右脚』
リヴァイアサンの右脚、並びにその付近を攻撃してください。
倒せるか倒せないか、ではありません。倒せなければ死ぬだけです。
眼前に聳え立つリヴァイアサンは巨大で、そもそも近接系の攻撃は届くかも分かりません。確実に攻撃を当てたいなら遠距離攻撃以上が必要となるでしょう。尚、それは『当たるか否か』の話であって『攻撃が通る』の話でありません。
全力を尽くして生き残ってください。
また、気紛れの様に時々以下の攻撃が発生します。
・天堕(A):物特レ域 超ダメージ 命中精度:中 BS:不明
恐らく鱗――が、落ちてきます。
それはさながら隕石の様に。
・神威(A):神特レ域 高ダメージ 命中精度:超 BS:不明
時折激しい風――それは嵐の如く――が発生します。
それはただ、身じろぎしているだけなのですが。
また攻撃の発生時『空を飛んでいる人物に特攻性能』を発揮します。
具体的にはダメージ・命中率が増加します。
・神火(A):??? 高ダメージ 命中精度:高 BS:無数
???
●味方戦力
■レオンハルト・フォン・ヴァイセンブルク
鉄帝の軍人。骨格が機械で形成されている鉄騎種。本作戦の指揮官。
ニーベルングに乗船中。
■ルドルフ・オルグレン
鉄帝の技術部門の軍人。皇帝の命により指揮の副官として参戦。
ニーベルングに乗船中。
■アルケイデス・スティランス
鉄帝でも有名な武闘派一族『スティランス家』の長子。前衛型の人物。
ワルキューレに乗船中。
■パルス・パッション
ぱっるすちゃーん! 鉄帝のB級ラド・バウファイターだよ!
前衛型のファイターだよ! ワルキューレに乗船中。
海洋軍勢を薙ぎ払った第一波の攻撃に巻き込まれ、多少負傷している。
■ビッツ・ビネガー
ラド・バウのS級ファイター。自称『Sクラスの最も華麗で美しく残酷な番人』。
非常に強力な戦力……なのですが、リヴァイアサンの第一派の攻撃に巻き込まれ現在行方不明。
■戦艦『ニーベルング』
鋼鉄で包まれた鉄帝国の軍艦。かなり硬い。
硬い、が。絶対的なリヴァイアサンの前ではまるで石か何かの様に見える。
■先行艦『ワルキューレ』
鋼鉄で包まれた鉄帝国の軍艦。
複数艦隊が存在し、ニーベルングを護る様に布陣している。
しかし先のリヴァイアサンの攻撃により幾つかの艦が沈んだ模様。
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●情報精度
このシナリオの情報精度はEです。
無いよりはマシな情報です。グッドラック。
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