PandoraPartyProject

ギルドスレッド

梔色特別編纂室

【1:1】ちいさな姫と、綴られたお話

誰の目も浴びず、誰に聞き耳を立てられることもない
「信頼できる店」を押さえておくのも、記者には必須。

選んだのは上流階級の子女にも人気のレストラン、その奥の小部屋。
白が眩しいエプロン姿のメイドが下がってしまえば
テーブルの上のベルを鳴らすまで、誰もここには来ない。

午後の、お茶会の時間。
ティー・スタンドには小さなケーキやスコーンが並んで
紅茶もミルクも、香りづけのブランデーもたっぷり。

「わざわざお越しいただいて嬉しいわ、姫様。」
蜜色の猫が、三日月のように笑う。
「お話をしましょ、たくさん、ね?」

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(向かい側に座る彼女の周りの銀食器は、まるで彼女の体に誂えられたように小さく、精巧だった。小人のおままごとに巻き込まれたみたい……「人形の家に入り込んだみたい」と思わなかったのは、彼女の振る舞いは十分、人間らしく見えたせい。)

ところで姫様って、「緊張」って、したことあって?
(こちらは寛いだ調子で、紅茶に口をつける。いい香りがした。)
緊張……。
……からだがこわばって、胸の奥の方が締め付けられるような感覚のこと、よね。
(品のある内装と、あちこちから漂う芳醇そのもののような香りのおかげでしょうか。話題に反して、表情はごく自然に弛んでおりました。)

ええ、あるわ。『シルク・ド・マンドゥール』討伐のとき……。
ブロウマンという、とても大きな敵と戦ったの。
(新聞記者であれば、幻想中を騒がせた彼のサーカスのことは一通り知っているでしょうか。)
(ブロウマンこと、「『スピットファイア』ティム・ザ・ブロウマン」)
(炎に包まれた巨大な人骨が如き姿を持つ、異形の魔種。イレギュラーズたちの奮戦と共に、その名がいくらかの新聞で語られていたとて、不思議ではありません。)
(要するに……とてつもない、強敵です。)
……炎のためばかりでなく、対峙しているだけで体がぴりぴりしたわ。
緊張という感覚を覚えたのは、きっと、あれが初めてね。
そうそう、ぎゅーってなっちゃうのよね。
(ふふ、と微笑んで)
ああ……そうよ、丁度あの時こちらには居られなかったから。絶対大ネタになったのに、残念だったわ。
(おどけたように頬を膨らまして見せて……魔種。その響きには、微かに眉を歪めた)
大丈夫、怪我しなかった?
だって、それはもう強かったのでしょ、「それ」。
強かったわ。
(言い切る他ありません。間違いなく、これまで戦った中で、もっとも強力な敵でした。)
みんな総出でかかって、死力を尽くして……。
それでようやく、地に膝をつかせることができたのだもの。

ケガは、ええ。わたしは大丈夫。
……でも、わたしの「従者」がわたしを庇って、大きな怪我をして。
今はすっかり治ったけれど。イレギュラーズが戦う相手の大きさを、実感させられたわ。
(あの背中がなければ、炎に包まれていたのは自分の身で。最後の一撃を加えることもできなかったでしょう。)
(記憶の歯車を軋ませて語る様は、しかし「恐怖」よりも、その従者への「信頼」に満ちて、安堵の色を宿しておりました。)
(話を聞きながら、古びた手帳に書きつける――確か、作戦に関わった人数はイレギュラーズだけでも100人。異例の、大規模戦闘だったはず)
そう。……姫様ってお怪我なさったら、私みたいに治るのかしら。
何にせよ、ご無事で何よりだわ。
……従者、って(ペンを止めて、ぱちりと海色の瞳を瞬かせて)はぐるま王国の、臣民の方?
そうね……これも、イレギュラーズの力なのかしら。
不思議と、多少の怪我は勝手に治ってしまうみたい。
ある程度は、専属の人形師に診てもらいもするのだけれど、ね。
(もし肉体の治癒が為されなかったなら、お人形の体は、すでに幾度も壊れていることでしょう。)
(不思議なお話ですけれど。混沌においては、今更のことです。続く問いかけには……)
いいえ。混沌に来てから知り合った、海種の「従者」よ。
わたしだけの従者というわけではなくて、そういう生業をしているひと……かしら。
けれども、ええ。いつも、わたしにとても良くしてくれるの。
専属の人形師……ああ、ルドル氏だったかしら。エリオット・ルドル。
(ページを捲るまでもなく、その名はすぐに思い出せた。)
(何せ、或る事件記録に、名前が載っている。)

従者が生業……(主を失った使用人、ってことだろうか。どんなに頓狂でも仕事に成り得るのが、混沌ではあるけれど)
慕われていらっしゃるのね、姫様。私、その忠臣に叱られてしまいやしないかしら?(全く本気ではなさそうに、くすりと笑う)
あら。エリオットのこと、知っていたのね。
そうよ。彼、まだ若いけれど、とても腕がよくて。いつもお世話になってるわ。
(親交のある人物について語る際は、やはりわかりやすく声音も表情も、平素以上に柔らかなものとなっておりました。)

どうかしら……彼女の言うことは、たまにとても難しいから。
もしかしたら意外と、カタリヤとお話が合うかもしれないわ?
面倒見の良さだとか、似ているところもあるもの。
(もちろん、それはお姫様の主観でしかありませんし……語り部であるわたくしに言わせれば、「従者」さんにも多少なりとも打算はあるのですけれども。)
(曇りなき宝石の眼は、しかし、双方を疑うことを知ってはおりませんでした。)
あら、私、その方に似てるの?
ふふ、益々興味深いわね。(さて、似ているのは面倒見の良さ、なのかしら。……彼女の感性は、割と、侮れない。)

若くて腕が確か、そして人形に対して真摯だ、ってね。評判いいじゃない、彼。
(一際和らいだ表情に、目を細める)
姫様は彼のこと、どう思ってらっしゃるの? そうねぇ……家族、とか、仲間、とか。
どう思って? ……ううん。
そうね。とても信頼できるし。お話していても楽しいし。
(以前であれば、この親愛に名前をつけるのに難儀していたのでしょうけれど。今であれば、)
パートナー。それに、友達かしら。
「人形」のわたしにとって、欠かせない存在だけれど。
そうでなくてもきっと、わたし、彼のこと好きだもの。
……(にんまり)恋人、はどうかしら?
(恋人、という概念は、さすがのお姫様とてすでに知っております。)
(人と人との関係性において「恋」は大きな意味を持つもののひとつですから。なればこそ……)

……恋人? どうして?
(きょとん、と。心底不思議そうな様子で聞き返すのでした)
(「恋とは」ではなく、「どうして」。あら、アテが外れちゃった。)
だって、ねぇ? お人形のお姫様と、一番そばで彼女の健やかなる日々を守る若き人形師……なぁんて、おとぎ話みたいでロマンティックじゃない?
(これは、当のルドル氏にもちょっと話を聞いてみなくては。手帳にさらりと、マルをつける――――とはいえ結構、仕事バカ……いえ、仕事熱心な男だという噂だけれど。)
ま、でも、解ったわ。パートナーで、お友達。いい関係、ってことね。

……ああ、そう。
気の毒だったわね、彼。
ロマンティック……そうなのかしら?
お姫様が恋する相手って、王子様なのかと思っていたけれど。
(「お姫様」としての自覚に、「お人形」の部分はあまり繋がってはいない様子。)
(むしろその価値観は、典型的なほど「童話らしく」固められたままなのでした。)

ええ、ええ。エリオットとも、彼のお店の人形たちとも。
いつも素敵な時間を過ごしているもの。とても大事なひとだわ?

……でも。気の毒って、どうして?
(お人形用のサイズに切り分けられたスコーンを口に運びながら。疑問符は、さらに重なってゆきます)
ああ、王子様ねぇ……なるほど?
(お姫様には、王子様。そう、相場が決まっているものだものね。)
でもね姫様。王子様って、意外と……どこにでもいるものかも知れないわよ?
(ポットから2杯目の紅茶を注ぎ、ブランデーをひとたらし。茶葉の香りに、酒気が乗る。)
(ま、実際彼女がどこかの貴族を射止めたならば……それはそれで、とっても面白いけれど!)

ん。ほら。
……ルドル氏と親しかった、人形師……ベリナでしたっけ。亡くなったでしょう?
その時ちょっと騒ぎになっていた、って、聞いたのよ。
(軽く目を伏せて悼みながら、カップを傾ける。)
たしかに、幻想にはたくさん貴族がいるけれど……。
(王子様談義は、しかし、カタリヤの口から語られた名によって遮られます。)

……そう。ベリナさんのこと、知ってたのね。
(彼女の名を聞くと、お姫様の顔には、わかりやすくも、理解りづらい哀しみの色が浮かびました。)
とても尊敬する人だったそうだし、広い界隈ではないから。
きっと、ベリナさんの顔も知らなかったわたしより……ずっと、悲しい思いをしたと思うわ。
(ミルクが垂らされた紅茶に口をつけるでもなく、ただ、ちいさなスプーンでかき混ぜるばかり。)
(長い睫毛が、紫水晶の瞳を簾のように覆う。その表情には、見覚えがあった。)
……貴方も悲しかったのね。この間聞いた「悲しかったこと」って、彼女のこと?
(ぱたり、と手帳を閉じてペンも置く。きっとここから先は、綴るものじゃない――――今は。)
でも、顔も知らなかったのでしょう?
ええ。……でも。でも、ベリナさんの人形たちが、彼女の死体を守っていたの。
知っているでしょう?
(ベリナにまつわる事件。その情報を掴んでいるならば、事のあらましもまた把握しているだろう、と判断しての言葉でした。)
(憂いを湛えながらも、時間を経れば、胸に靄は立ち込めども思考にかかる雲はありません。)

わたしも。おじいさんが死んでしまったこと、あとから「悲しい」って気づいたのよ。
……だから。残されたあの子たちのことを思ったら。
(他の誰かへの感情移入。これもまた、彼女の「成長」が為せるようになった情動でしょう。)
(……ただ。胸の歯車が軋むのは、そんな綺麗な感情のためばかりではありません。)
(彼女の問いに、静かに頷いた。)
ローレットに依頼が来て……貴方も対処に当たった、ってね。

(――――こっちのアテは、きちんと当てたらしい。)
(憂えるように目を伏せながら、静かに瞳を輝かす。)

あの子たち……か。可哀そう、だった?
(静かな声音は、ほんの少し探るような響きを帯びた。)
…………。
かわいそう、ではなかったと思う。
だってあの子たちは、最後まで、「やりたいこと」をできたから。
(追想。ベリナの死体回収をこばんだ彼らは、しかし、最後には……)
(きっと、母親たるベリナと「同じ場所」へ行ったのです。だから、憐憫はありません。)
(――憐憫は、ありません。)
どういう風に、あの子たちが考えていたのか。
今となってはもう、わからないけれど。
やりたいこと……
(イレギュラーズに追い詰められた人形たちは――――主の死を理解したとたん、後を追うようにくずおれて。二度と動くことはなかったのだと――――)
……愛するひととずっと一緒に、かしら。
同じところに行けるものかは、わからないけれどね。
(軽く肩を竦めて、)
我儘を通したのなら、かわいそうじゃない、ってこと?

姫様にもわからない? お人形さんたちの、気持ち。
(彼女を見つめる。読み解こうと、見つめる。……人形を語るときの突き放したような抑揚は、実に、興味深かった。)
わからないわ。
……たぶん、わたしはもう、ずっとわかることができない。
(温かいミルクティーに口をつけ、喉を通してみると、いくらかこころが落ち着きます。)
(「学び」は、こんなところでも、自分の心を助けてくれるようでした。)

だって、おじいさんが死んでしまったとき。
わたしはまだ、いのちじゃなかったから。
……同じ状況で、わたしがどんな気持ちになるか。わかりようがないの。
(こころが芽生えてすらいなかった自分、という記憶が存在するのは、後天的に命を得た存在だからこその……矛盾にも近い、奇妙な現象です。)
(けれども事実として、「ただ創造主の死を見届けた」頃の自分が、記憶の中に棲んでいるのです。)
(なんの情動も得られなかった。その事実だけが、きりり、きりりと、歯車を軋ませるばかり。)
もし貴方がそのとき、いのちを……声と、動ける体を持っていたなら。
(小さな体から聞こえる、金属の噛み合う微かな音は、呟きにも……叫びにすら、聞こえた)
(その音を遮らない程度に静かな、甘い声で、優しく囁く)
どうしていたでしょうね。

死を看取って、悼んで、悲しめた彼らが――――羨ましい?
(妬み。彼女がそれを知っているかは、知らないけれど)
(私の目には、そう見えた。)
…………。
「ずるい」と思ったわ。
(迷いながらも。あのとき人形たちに叫んだのと同じ言葉を、ぽつりと口にしました。)
(自分のうちに芽生えた、濁りを帯びた炎のような感情。)
(今となっては、それを、多少、受け入れられる気がしたのです。)
悼むことも悲しむことも。見送ることも、できたのに。
……彼らは最後まで、それをしなかったから。
わたしには、それができなかったから。
(言葉を探すのではなく、口にするのを躊躇う。漸くぽつりと溢された言葉を聞けば――――)
(――――ああ。可愛らしいじゃないの。)
そう、しなかったの、彼ら。いくらでも出来たはずなのにね。
なんて……愚かで浅ましいんでしょう、ね。
(囁きは穏やかに甘く。)
きっと貴方なら、粛々と受け止めて、たくさん泣いてあげられて、そして、毅然とさよならが出来たのに。
お姫様ですものね。
……ううん。
(唇が紡ぐ甘い言葉が、慰めのそれでないことを、お姫様は知っていたでしょうか。)
(けれど、カタリヤの語る「もしも」には、それこそ毅然として、首を横に振りました。)
「わからない」わ。
粛々と受け止められたのかも。涙を流すことができたのかも。
……もしかしたら、あの子たちと同じように、「一緒に行く」道を選んでたかもしれない。

……「わからない」ままでいるしかないから。
とても、哀しいのよ。
(この世界に来てから、わからないことは、なんでも学ぶことができました。)
(知る手段は、そこら中にいくらでも。こころも知識も、全てを満たすに足る体験の海。)
(……だからこそ。「わからないままでいるしかない」事実が、とても、とても重たいのです。)
(きっぱりとした、答えに)

そう。(ふ、と)(甘ったるさの抜けた声を溢す。)

(そこには、一雫の羨望がとけていた。)
わからないままでいるしかない、なんて。諦めるなんて姫様らしくないわね。
(行儀悪く、腕を組んで溜息を吐いた。)
その瞬間は二度と戻らないとしても、これから姫様が積み重ねて、積み重ねて……経験したものから、答えは出るのかも知れないわよ?
生きるって、意外と長いんだから。
……そうね。考える時間は、まだ沢山、沢山あるわ。
きっといつかは、わたし自身も、誰かを看取るかもしれない。
(ある意味、これが人形の姫君にとっての「お姫様らしさ」なのでしょうか。)
(カタリヤの言葉を、彼女はすべて、善性でもって受け止めておりました。)
(まるですべて、お砂糖の衣に包み込むみたいに。)
それに、哀しいことばかりではないわ。
あの子たちは、エリオットができる限り直してくれたし。
わたしの力があれば、いつかまた、声を聞かせてくれるかもしれないでしょう?

だから、ええ。カタリヤの言う通り。
わたし、「これから」が、とても楽しみでもあるの。
「わからない」ことに打ちのめされてしまったなら。
……「わかるかもしれない」と思わせてくれる何かも、起こってくれると信じたいの。
(細めた瞳は、屈託のない輝きを帯びて。柔らかな笑顔が、花開いておりました。)
(看取るかも知れない……と、さらりと言えてしまう彼女に苦笑い。それは覚悟なのかしら、好奇心なのかしら。)
ちょっと元気出た?
悲しいことを話させて、御免なさいね。でも、貴方のこと……もっと、解ってきた気がするわ。
(ふわりと花開く、小さな『儚い花』に――――)
それよ、それ!
(ペンをぴしり、向けて)
ね、今度は貴族との一件のお話をして頂戴?
聞いたわよ、とっても不思議なお芝居をしたのですって?

(お茶もお菓子も、まだまだ沢山。)
(猫の追及は、手帳をもう数ページ埋めるまで、続くのだ。)
いいえ。
気持ちの整理がついてなかったことも、振り返れて。
わたしも、よかったと思うわ。誰かにお話を聞いてもらえるって、嬉しいものね?
(やはり嘘偽りのない、心からのことばです。)
(「死」というものを認識すればこそ、これから向き合ってゆく可能性をも考える。)
(お姫様はきっと、より「いのち」に近づいたのでしょう。)

貴族……お芝居?
あ。もしかして、皆で探偵をすることになったときの話かしら。
ええとね、あの時はね……。
(ちいさな舌は辿々しく回りゆく。)
(時にはミルクティーとお菓子で、甘やかな言葉を彩りながら。)
(たくさん、たくさん、お話をするのでした。)

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