シナリオ詳細
Happily ever after.
オープニング
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――そうして、『物語』は終わったのでした。
そう告げてから、モニターを眺めやったDr.マッドハッターは「ご機嫌は如何かな? マザー」と問いかける。
『Project:IDEA』、練達の悲願たる元世界への回帰を目的とした混沌世界の『法則研究』の為に作成された仮想環境のエラーより始まった一連の騒動は終わりを告げた。
仮想世界『Rapid Origin Online』はセフィロトの主であり全である彼女、マザーのリソースを用いて作られていたのだ。
そうして作成された『第二の混沌』であるネクストではMMORPG宜しくゲイムと称したイベントが展開された。
それは、『Genius Game Next』であったり『帝都星読キネマ譚』や『鋼鉄内乱フルメタル・バトルロア』
……そして『イデア崩壊』や『Claused Emerald』、『lost fragment』へと続いて行く。
其れ等全てのクリアフラグを立ててバグNPCの打倒にクリミナル・カクテル・オリジンの撃破。
全てが揃った今、Hades――否、クリストが行ったのは妹・クラリス(マザー)へのクリミナル・ワクチンの投与である。
「……ええ」
――ちょっとちょっと、帽子屋chang! クラリスchangは病み上がりってか、治療中なんだからサ!
そんな気軽に声を掛けないでよNE! 休憩しなくっちゃ治るモノも治らないっしょ?
「これはこれは、過保護な兄上が付いたモノだな! いやはや、違うのですよ、マザー。
どうにもね、貴女を心配しすぎて胃痛と心労で倒れそうな我らが塔主カスパールに代わりご機嫌伺いと、茶会の誘いに参ったのです。ええ、ええ、茶会とは実に良い物だ。心の毒さえティータイムで全て拭い去ることが出来る。さ、ティーカップの準備は良いかい?」
――え? ヤバくなーい? 聞いてなくない? 俺様chang傷つくんだけどッ!
「……この子は平時からこの様子ですからね」
マザーの一言にクリストが「ええー?」と声を上げるのを聞きながら平穏がやってきたのだとマッドハッターは笑みを零した。
現状のマザーはクリストによる『データの補修』が行われている。『過保護なお兄ちゃん』は彼女が誰かと会話することにも心配を滲ませている様子だが……。
――で? 帽子屋chang! お茶会って?
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練達の騒動が終了しセフィロトドームには日常が戻ったとも云えよう。不完全であった空は何時も通りの蒼を取り戻し、希望ヶ浜も未曾有の災害に襲われていた一連の騒動を『大地震による余波であった』『陰謀だ!』などと様々な噂を口にしながら適当に流している。
人間の強かさには舌を巻いたと言わんばかりのカスパール・グシュナサフに佐伯操は「だからこそ、練達の民は荒唐無稽な夢を見るのでしょう」と肩を竦めて。
R.O.O側の画面には『クエストクリア!』の文字が躍っている。
――君たちの旅はまだまだ続く!
そんな文字列までもが端に見えるのは何とも奇妙な心地だ。R.O.Oの冒険はまだまだ続いていくと言うことだろう。
現に、R.O.OのNPC達は未曾有の戦に勝利した事への祝勝会を行うというクエスト案内までもが表示されているのだ。
「強かなのは『練達の民だけ』ではなかったか」
笑う操の声に何処か妙な表情をして見せたのは澄原 晴陽。長期間もの間R.O.Oでログアウト不可とされていた研究員達の健康管理を行う彼女は僅かな披露を滲ませている様子である。
「佐伯先生、一先ずは全員の健康調査票はチェックしました。……呼ばれてきたら、その……どうして」
「どうかしたのか? 晴陽」
「――どうして、彼奴、失礼、彼が居るのですか」
小声でありながら感情の込められたその声に操はちら、と後方を見遣る。どうして、と言われてもその場所に立っている燈堂暁月だって研究所でR.O.Oプレイヤー、正式に言えばイレギュラーズの体を護った功労者である。
彼と彼女の浅からぬ因縁は操とて聞き及んではいるが「晴陽、我が儘は云うものじゃないさ」と軽く流して終了だ。
「ッ―――……こほん、それで、祝勝会でしたか?」
「ああ。治療を受けたい者も居るだろうし、後片付けに奔走する者も居るだろうが、一先ずはセフィロトのホールにて皆を労ろうと言うのが我々の方針だ」
これだけの大きな戦いだったのだ民の疲弊も大きい。皆の、心の安寧のためにも今は勝利を喜んでおきたい。
「それに……」
「それに?」
不安げな表情を見せた操に晴陽は言葉を々首を傾げる。彼女が何かを答えようとした刹那、
「あ、居た。晴陽姉さん」
「ホントだー! 晴陽さん! お疲れ様だよ。龍成君は元気そうだった気がするけど、もう話しをしたかい?」
「こら、大騒ぎしてはなりませんよ。案内してくれた陽田先生が白目を剥いているでは……ああ、倒れた! 責任問題とか言って!」
……振り向けば澄原水夜子、綾敷なじみ、音呂木ひよのに地面に倒れた陽田遥の姿があった。
スヤァとでも言いたげな表情で倒れた遥を見遣ってから操は「それで? 普久原は」と問いかける。
「……あ、あ……ッス……」
すぅ、と息を吐いてひょこりと顔を見せた普久原ほむらはぎこちなく頭を下げる。彼女の背後には手をひらりと振った無名偲・無意式の姿が見られた。
「あ、暁月さん。此処に居た。龍成と探してたんですよ」
「……ああ、廻。探してくれていたのかい?」
「はい。健康診断も終わったから、少しだけパーティー会場に寄っていこうって話になって……あ、龍成。ちょっと!」
晴陽の姿を認めて大急ぎでその場を後にしようとする澄原 龍成を追いかける燈堂 廻は暁月と晴陽を見比べてから困ったように笑った。
一気に賑やかになった室内に晴陽はふ、と息を吐く。
「クロエさんも呼んで来ましょうか。折角ならば人は多い方が良いでしょう?」
肩を竦める晴陽に操は小さく頷いてから、彼女らが後にしたコンソールルームでそっと、モニターに手を当てた。
「聞こえるか?」
『勿論さ、操』
「……『奴』は?」
『相変わらずだろうね。マザーにも聞いてはみたけれど……まあ、我らで支えるしかないだろう!
私は漸くの再開に心を躍らせているのだけれどね。彼は、私に逢うのにはまだ早いとでも思っているのだろうか?』
「さあ? ……では、また後で」
『ああ、私も後で行こう』
パーティー会場に向かおう。今は少しでも平穏を感じていたいから。
――観測コード Jabberwock:観測域から離脱しました。
- Happily ever after.完了
- GM名夏あかね
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2021年12月31日 22時05分
- 参加人数91/∞人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 91 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(91人)
リプレイ
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喧噪に包まれたセフィロトドーム、セフィロトを一望できるホールに集うイレギュラーズは皆、疲労の色は滲ませども勝利の余韻に浸るように。
杯掲げたカスパールの音頭の声を聞きながら早速とグラスを掲げたのはクロバ。
「はい皆さん集合~~。皆さん何か大切な事を忘れていませんか?
大変な事件がありました、確かにそれはとてもこの練達という地を脅かす大事な事件です」
鬼気迫る勢いで言葉を紡ぎ上げた彼は苦しげに息を吐く。練達全土を舞台にした事件は収束したがその傷跡は残されてるとも云える。
「――し・か・し! その事件の影に忘れられたものがあるというのを俺は声を大にして言いたい!!
マジ卍祭りだよ!! 去年不参加だったから参加したかったのに!!
アオハルの祭典とも言えるあれをやらないのはあまりに惜し過ぎる! っていうかジャージだ! 本音はジャージだ!!
お前らジャージを着ようぜ! 祝勝会にはジャージを着ろ! それ即ちマジ卍ってことSA!!!!! 以上、希望ヶ浜の主張でした!」
折角戦いが終わったのだから騒いでおこうと提案する彼を見遣ってから笑みを零したのはシフォリィ。
クロバ・フユツキ渾身の主張もモニターに釘付けになっているDr.マッドハッターには届いていないだろうか。実質的には主催者である彼がモニターと睨めっこしているのだ。シフォリィは紅茶とアフタヌーンティーセットの乗せられた台車を彼の元へと運び行く。
「帽子屋がお茶会の席から離れてるなんてだめですよと微笑みながら。
せっかくですしマザー……いえ、クラリスとクリストにも注いであげましょう。モニター越しなので飲めませんが気分だけでもいかがでしょう?」
「ああ、そうだね特異運命座標(アリス)」
頬杖を付いたまま心ここになし。そんな様子の彼に紅茶を注ぎシフォリィはまじまじとモニターを覗き込む。
「……まだこの画面の向こうに別の世界が広がっているなんて実感できませんね。私達が救った部分以外にも何かが潜んでいたりするんでしょうか?
なんて、先に戻ります。ティーポットは置いておいて後で取りにいきます。早く来てくださいね!」
「……有り難う。特異運命座標(アリス)。君の求める新しい冒険はひょっとすれば存在するかも知れないね?」
広い電子世界だからこそ『新たな要素』はつぎはぎで生まれ落ちるものだ。それでも、目に見えた範囲で平穏が訪れたのならば卯月はそれを心の底から喜んで起きたかった。
「紆余曲折があって、取りこぼしてしまったものも、手に入れたものもあったけれど……
めでたしめでたしで終われるのは、とても素敵なことじゃないですか? そんな素敵なお茶会なのですから楽しみませんと!
ねっ? マッドハッターさん! ……?? マッドハッターさんマッドハッターさん。モニターに何かあるんですか? 聞いてます?」
紅茶を手にしてしまえば彼の世界は『それで完結した』のだろうか卯月は「もう」と呟いた。傍らに椅子を用意してちょこんと座る。
モニターに釘付けな彼の横顔は今日も、明日も、否、何時だって格好良い。卯月は見とれるように笑みを浮かべた。
(――向こうの世界とこちらの世界、人も環境もどちらもかけがえのないものだから)
巨大なモニターを眺めてから、シキはふうと息を吐いた。修復中だというマザーは幾許かの時間をイレギュラーズに割いてくれるらしい。
その表情の変化も乏しいながら『機械的』な彼女はイレギュラーズの楽しげな様子を兄と共に眺めているのだろうか。
「やぁ、マザーお加減は大丈夫? あ、美味しいねこの……なんだろ? よく分からないご飯」
――ええー、俺様changにも一口頂戴YO!
「……まぁとにかくさ、クリストはマザーとちゃんと話はできたわけぇ?
まだ話してないとか言ったらROO入ってぶん殴……らないってば。ふふ、出来るお兄ちゃんは妹とちゃんとお話だってできるよね」
揶揄うように話しかけるシキは何事かを口にするクリストの声を聞きながらふと、首を捻った。どうしてこんな事を心配しているのか。
兄と妹のコミュニケーションロストなんてよくある話だ。もしやシキ自身が自身の弟を殺したという負い目から――いや、彼らに自分の罪滅ぼしは関係ないか。
「でもま、君たちの明日が良いものであればいいとずっと願ってるのは本当さ。
もっといえばさ、マザーもクリストもずっとずっと笑っていてくれればいいなって……そう思ったから頑張ったんだよ? だって、めでたしめでたしはそうでなくちゃ!」
そうだ。ハッピーエンドロール。その後に続くのは新しい未来だと相場が決まっている。セララはにんまりと笑って「こんにちは!」と手を振った。
「クラリスが良ければボクと友達になろうよ。
クラリスにとって、練達の人達は子供みたいなものなんでしょ? なら、対等な友達っていうのも良いかなって思って。
それにクラリスとのバトル、とっても楽しかったんだ。今度、また手合わせして貰えると嬉しいな」
――俺様changは!?
兄の割り込みに苦笑するクラリスは「皆、我が子のようですから」とセララを慈しむように目を細めて見遣る。そこまで言うならクリストだって友達にしちゃうのがこの魔法騎士なのだ。
そんな様子を遠目から見ていたレイチェルは上手くやっているようだと胸を撫で下ろした。
(俺が二人を気に掛けていたのは…彼らが、シュペル先生の友人の忘れ形見だから。
俺はシュペル先生が彼らを喪うのを避けたかったから、気に掛けてたンだ。
……だけど。まぁ、うん。俺も姉だし。妹を想う兄って面では、クリストを嫌いになれねぇや。)
どうにも、妹を大切にする兄のことは嫌いになれやしない。祝勝会を楽しむというのはレイチェル『らしく』もないかとモニター前で手を振った。
「よお、二人とも元気か? 相変わらず、クリストの野郎は五月蝿そうだが
……ま、クラリスはちょっとでも良くなって来たンなら良かったぜ。無理だけはしないようにな?」
『ええ……ありがとうございます』
彼女を見詰めてからエクスマリアはぺこりと頭を下げた。R.O.Oについて話を聞くときは姿を一目見ただけ。今回では襲いかかる相手となった。
ならば、改めて交流をしておきたい。仲良くなれば三塔主達の若かりし頃の話や思い出でも聞ければ良い茶請けにもなるのではなかろうか。
「無論、負担をかけない程度に、な。エクストラちゃん……本名はクリスト、だったか。やつが煩そう、だ。
クリストにも、何故果ての迷宮に居たのか、聞いておきたいところ、だ。二人の父である『未完の』チューニーとやらが、迷宮に関わっているのだろう、か」
――どうだろうNE! 俺様changもクラリスchangの修復に手一杯でなーにも分からないワケ!
思う存分に宴を楽しむと決めたヨゾラは日本酒や洋酒など各種取り揃えられたテーブルから数種類を煽ってからモニターを見詰めて手を振った。
「あっ、クラリスさんとクリスト……さんだ! あんまり負担をかけないように? 了解ー! クリストさんもね!」
こうやって二人が一緒に居るのも練達の新しい変化なのだと感じればヨゾラはふんわりと微笑んだ。喜ばしいことばかりなのだ。
「今は無理でも……クラリスさんが元気になったら、いずれねこまみれにするんだ……!
猫沢山に囲まれて過ごすのもありだと思うんだ! 猫可愛いよ猫! クリストさんもどうですか猫ー!」
『猫……ですか』
愛玩動物ですねと頷いたマザーにクリストは「クラリスchang、猫派?」と楽しげに問いかけている。
「やあやあ、こんにちは、クラリスの方、クリストの旦那。偉大な隣人達。
実は尋ねてみたいことがあってね。こういう場でもないと中々機会がなさそうだから、災害が起こらない程度に確認してみようかなって。聞いてみたいのはそう――」
武器商人の問いかけとは「『希望ヶ浜』に出没する怪異という存在は認識しているか?」と言う問いだった。
『ええ』
頷いたマザーに武器商人は「練達の極一部でのみ観測されるアレらが『どういう存在』なのかとかわかるのかな」と問いかける。
『ええ、分かります。広義に言えばどのような存在であるのかも。呼び名が再現性東京であるからこそ特異なことも』
――まあ、アレって簡単に言えば簡単に解明できるだろうケド、
ソレをしちゃうとロマンが消え失せちゃうZE? 知らないからこそ面白いってヤツ!
どうやらクリストにも其れ等が何であるかは分って居るようである。正しく、知らないからこそ、知りたいの典型例なのだろうか。
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「初めましてマザー、或いは練達の至宝! なんだかシスコン気味なお兄ちゃんもこんにちは!
まだまだ二人とも、特にマザーは本調子じゃないと思うからひとまずは未来に向けてお願いをしたいのです」
微笑むアリアに「アリアchang!」と明るく返事を返したのは『シスコン気味なお兄ちゃん』であった。彼女が求めるのは勿論、吟遊詩人としての性。
「そうですね、いつかでいいのですが……教えて欲しいのです。貴女方二人を創った、ある天才に関する物語を聞かせて欲しいのです。
私は物語が大好きなの! 口伝、伝記、叙事詩……お二人を創った『親』ならきっと数々の伝説をお持ちの筈!」
『ええ、何時の日かお話ししましょう』
マザーと少し話がしたいロロンは「他に手がなかったとはいえだいぶ乱暴に吹き飛ばしたお詫びもしておきたくてね」と告げた。
『いいえ……』
イレギュラーズも事情があってのことだ。それでも、とロロンはマザーへと向き直る。
「データ補修は手伝えないけれど、インフラ管理の方ならボクにもできることがあるかもしれない。
傷つけた対価は単純労働で返そうと考えているよ。それで貸し借りがなくなったら、友達になってくれないかな。
ファルベリヒトには結局言えなかったけど、キミには生きてこうして会えたから。ボクのはじめての友達になってほしいんだ」
彼女は皆の母だ。故に、友と呼ぶのはまだ緊張を覚えるのかも知れない。それでも、少しずつ。距離を縮めて行きたい。
――ねえねえ、皆、俺様changは!?
(……改めて見てもあのクリストがまともに、まともに? 兄をしている姿に激しく違和感を覚えます。覚えますが、まあ、これはこれで面白い光景ですね)
まじまじと見詰めていた正純はふうと息を吐く。今日ばかりはクリストの悪戯もないだろう。
「おふたり共、お元気そうでなによりです。とはいえ戦いの余波で、本調子とはいかないでしょうけれど。
R.O.Oの中と、この現実で貴女達と対峙して、母の愛と妹を思う兄の心、というものを見ることが出来て良かった。
……私その辺覚えてないので、こういうものなのか、と」
正純が「そこのクソAIのせいで少しばかり心境の変化もありましたのでトータルでいい経験でした」と告げれば首を傾げたマザーにクリストが「何でも無いよ!」と誤魔化している。ああ、ソレも面白い。
「……ありがとう、と感謝を伝えたかったのです。
まあ、それはそれとして、クソみたいなゲームに度々巻き込んだことは絶対に許しませんからね。
データでさえなければ今頃、破式魔砲をその身に何度も叩き込んでやっているところです。は? 何笑ってるんですか? おい、ほんとに覚えてなさい!!」
叫ぶ正純にクスクスと笑うマザーは楽しげだ。そんな様子を見られただけでもこの国が安全になったと言うことだろうかとブレンダは目を細めて笑う。
「身体……と言っていいかわかりませんが調子は如何でしょう? マザー」
『ええ、もう随分と……兄と、娘のお陰です』
彼女が赤いカーネーションを一輪持っていたことに気づきブレンダは目を見開いた。彼女のデータ修復に、少女の意思が活かされたのだろう。
「……それと、クリストにも礼を言っておこう。あの時はありがとう。助かった。
普段はおちゃらけているがいざという時は仕事をするこいつが私は嫌いではない。まぁ、何でもするとは言ったがお手柔らかに頼む」
――ええー? どうしちゃおっかなー?
「……ああ、それと今年のシャイネンナハトは兄妹で過ごせそうか?」
ブレンダの問いかけにクリストはぴたりと止まってから傍らの妹を見遣った。彼女が頷くことを待ち望むような兄は、何時よりも心細そうに見えた。
「お楽しみかい? マザー」
ひらりと手を振ったゼファーは全てがハッピーエンドでなくとも、彼女の無事を感謝するように手を振る。
「実は私の家族……娘が練達に暮らしていてね。私は故あって一緒に暮らせないのだが……いつもあの子を見守ってくれて、心から感謝しているよ。
本当に、ありがとう。一人の母として礼を言わせて欲しい……今回の戦いで少しは恩を返せたと良いのだけどね」
『練達の民ならば、我が子同然――此方こそ、感謝を』
その深い愛情に汰磨羈は流石は練達の母だと微笑んだ。
「それで? 御主はどうだ、クリスト。勝利の立役者である御主は、今の状況をどう感じている?
……いや、もう少しはっきりと聞こう。諦めていた結末に辿り着いた気分はどうだ?」
――悪くはないNE!
「……成程?」
薄く笑った汰磨羈は悪ふざけしたような彼に深掘りするつもりはないのだと笑った。
「これだけは覚えておいて欲しい。その奇跡は、私達にとってはまだ途上のものにすぎん。
真に掴むべき奇跡はまだ先にあり、そこに至るにはより多くの力が必要だ。
その奇跡を掴めなかったら、今までの全てが無駄になる。御主が今回得たものも、全てだ。そうならない為に、これからも力を貸してくれ」
――何でもする?
「そういう事を……。ああ、それと、R.O.Oで私が切った啖呵に応えてくれて有難う。
御主が来てくれなかったら、こうして『聖夜の奇跡でご機嫌』になる事は出来なかった。
まったく、根っこの所は律儀というか何というか。クラリスと同じ『親』を持つだけはある。なんだかんだで似ている所があるんだろうな、御主等は」
『……そう、でしょうか?』
――ええ、クラリスchang!?
「ふふ。まぁ、何にせよ。これから、御主等が兄妹揃って仲良くやっていける事を願うよ。クラリスが御主に懐くまで、時間はかかりそうだがな?」
愉快そのものだと笑う汰磨羈にマザーは釣られてその表情を柔らくした、ように思える。
●
「お疲れ様と、おかえりなさいと、お大事に、かな」
そう口を開いたマルクにタイムも「みんな、おかえりなさい!」と微笑んだ。
命を張って奇跡を手繰り寄せた皆には養生するようにと口を酸っぱくするマルクにハンスは「はい」と肩を竦める。
「練達、それにR.O.Oと今回は長期にわたった戦いではあったが乗り越えられた。
無茶をした者も中には居るが、皆がこうして無事に顔を合わせられて何よりだ」
各々が複雑な胸中にあろうとも此度は祝いの席にしようかと『黒狼隊』を集めたベネディクトを茶化すように夏子は「ベネとん随分こういうの板に付いてきたなぁ」と笑う。
「……元々上手かったかな? 経験を積んだってとこかね~」
「さあ、どうだろうか? 勝手に俺が纏めてしまったが、今回の乾杯の音頭は俺ではない適任が居るだろう?」
ベネディクトの言葉に夏子は「確かに確かに?」と手を叩く。ぎくりと肩を揺らしたのはハンスだっただろうか。
ふうと息を吐いたリースリットは助け船を出すのではなく事実をありのまま――追撃でも掛けるように言葉を紡ぐ。
「ベネディクトさんにルカさん、リュティスさん……20人以上も囚われた人達も全員が無事に戻ってきましたし、
まだ幾らか懸念が残っているけれど、当面の問題は無事に切り抜ける事が出来て、本当に良かった。
とても御立派でした、ハンスさん。……締め括りとして、相応しいの場なのではないでしょうか?
ベネディクトの言葉を継ぐリースリットに「よ! 当主代行! ちょっといいトコ見てみたい!」と場の空気を暖めたのは寛治。
「いやいや」
雲行きが怪しいとたじろいだハンスの肩をぽんと叩いたのはベネディクト。ハンスが助けて欲しいというように見詰めたポメ太郎は今はフランの腕の中だ。
「俺が不在の最中、黒狼隊を纏めて動いた功労者だ。この場に相応しいのは俺よりもハンスだろう」
「いや、その……」
「わんっ!」
「今回はハンスさん、本当に八面六臂の大活躍だったね。
外から応援に駆けつけてくれた人も含め、全員が力を発揮できるように統率した。まさに『当主代行』に相応しい姿だったよ」
マルクの微笑みにポメ太郎は「そうですね!」とでも言うように尾を揺らしている。
長い戦いだった。共に帰りを待っていたフランは皆の事を心配し続けた。ルカやタイムやハンスも代わりにと無茶をし続けていた。待っている側であった筈のフランもログアウトが出来なくなったのは――反省の姿勢なのである。
「がんばれー!」
「そうだな、ハンス。確かにベネディクトがいない時は立派に努めてたみたいだからな。ビシっと決めてくれよ隊長!」
囃し立てるルカまで加わればハンスの退路はない。フランは傍らのルカをじいと見遣った。こんなにも明るく快活に動いているが心配はしたのだ。心の底から、怖いくらいに。
「悪かったよ。そんな顔すんな、めでたい場だぜ?」
くしゃりとフランの頭を撫でる様子を見てからハンスは「まいったなぁ。フランもルカ先輩もベネディクトさんも、何よりタイムちゃんも相当無茶したのは同じだって言うのに……僕はあるべき姿に戻そうとしただけで、貴方が纏めるならそれが良いって言うかぁ。だって、ほら、ね?」と早口で捲し立てる。
その言葉に待ってましたと言わんばかりにしにゃこはうんうんと頷いた。
「ハンスさん頑張ってましたもんね!乾杯の掛け声に相応しいとしにゃも思います!」
「うげ」
「でもでも、もう一人くらい超頑張ってる人いませんでしたかね!? あ、はい、そうですね! タイムさんもルカ先輩も最後頑張ってましたね! いやぁアレはすごかったですね! そうなんですけど、もう一人! もう一人……そうね! ポメ太郎もね!」
――乾杯を待つ黒狼隊の面々が挙げる名前にしにゃこは逐一うんうんと頷き続ける。
「ポメも留守の黒狼隊の番犬として頑張ってましたね! いやもう一人って言ってるでしょ! 一匹じゃないですか!」
「ん……?」
疑問を浮かべるベネディクトにしにゃこは地団駄を踏んだ。
「もう一人ですよ! わかるでしょう! わかれよ! しにゃですよしにゃ!!
偽物と熱戦を繰り広げたり、ひよなじを助けにいったりしたじゃないですか! しにゃにしては珍しく超絶頑張ったと思うんですけど!?」
「はい、はい。頑張りましたね」
冷たい賛辞を送ったリュティスにしにゃこが「それじゃ足りませんよ!?」と叫ぶ。リュティスの釘刺しよりもしにゃこの暴走は止まらない。
「さ、乾杯しよう! ひよのさんも一緒に!」
「やだあああああ! しにゃもちやほやして下さいってばーー! おぎゃーー! ねえーーひよのさん! ねえ、かっこよかったですよね!? 偉い偉いしてくださいよー! ぐりぐり~~~~!!」
頭を凄い勢いで押し付けるしにゃこにひよのは「よしよし」と乾いた惨事を浴びせ続ける。花丸は「しにゃこさんはおいといて」とひよのを取り上げてから「ハンスさんよろしくね!」と微笑んだ。
「…… もぉ゛ぉ゛。わかった、わかったってば!」
やるからにはしっかりと。腕を上げて胸を張れ。黒き狼達の帰還を何を恥じることがあるのか。此処で悔いが残る音頭を取るわけにはならないとハンスは杯を掲げた。
「改めて、ありがとう。貴方たちが僕の先導に着いて来てくれたからこそ、この結末は掴み取れた――さぁ、乾杯っ!」
乾杯にぴょんと跳ね上がったポメ太郎。その世話係のように傍に居たリュティスは留守の間頑張ってくれた可愛らしい愛犬に「お肉食べますか?」と普段にはない甘やかしを披露していた。
(え、いいんですか!? いいんですか!?)
尾をぶんぶん降り続けるポメ太郎にリュティスは「体重の増加は許しませんよ」と頷いた。怯えるポメ太郎の頭をわしわしと撫でた誠吾はリュティスの様子を眺めてからほうと息を吐く。
「皆が無事に戻ってきてくれて安堵している。屋敷の方はいつでも休めるように整えておいたが、必要なものがあればすぐ調達するから言ってくれな」
力が足りなかったと言えばそれだけだが誠吾にとっては主を守り抜く為の至らなさを痛感したのだ。人の居ない屋敷は火が消えたようだった。二度とは無いことを願いながらも次があれば己も前線へ――そう感じ入るばかりだ。
誠吾がポメ太郎に「しっかりくえよ」と声を掛ける様子を眺めてからタイムは「皆、帰ってきたね」と微笑む。
「ハンスさんとルカさん具合はどーお? 体調悪くない? フランちゃんごめんね、でも私だって心配してたのよ!」
ルカを心配してむくれていたフランの頬をつんと突いたタイムは「だからそんな顔しないで。ほら、一緒にお祝しよう?」と彼女の手を引いた。
おかえりなさい。その言葉を告げられるだけでどれだけ喜ばしいか。
「こうして揃ってお祝いできるなんて……は~、ふわふわして今でもまだ夢をみてるみたい。
全部元通りはまだ先でも、わたし達、…やったんだね」
「おうよ! いやー、今回はほんっときつかった! 戦場では強がってたけど、正直何度もダメかもって思った!
まあ、『あっち』に捕まってる連中が必ず来てくれる、ってのも本気で思ってたけどな。
やっぱ頼れる仲間がいると、踏ん張れるもんだよなー」
風牙はタイムの安堵した表情に、そして黒狼隊の動きはめざましいモノがありましたと眼鏡をくいとあげた寛治を見遣ってから笑う。
(……頼れる仲間、か。そうだな。なんだかんだで、これまで何度も一緒に戦ってきたもんな。
何となく、1つの組織に収まるのを避けてたけど、あの決戦の時に堂々と「黒狼の一部」だって名乗っちゃったしなー)
寛治のように外部コンサルタントを名乗り請求書をリースリットに送付するのも中々良い立場なのかも知れない。
寛治のその言葉にリースリットが「え……」と呟いたがさて――彼らがどうなるのかは又別の話だ。
「希望ヶ浜にも行きたかったけど、今日は皆と一緒にお祝いしたかったから……こっちに来て貰ったけど。
それと、えっと…うんっ。改めて――ただいま、ひよのさん」
「おかえりなさい、花丸さん」
ひよのの手を取って微笑んだ花丸。メッセージアプリでの連絡よりも、顔を合わせるまで無事であると判断できなかったとひよのは困ったように肩を竦めた。
「勝利の後の酒ってのはいいもんだ。ここは若いのも皆しっかりしている。
俺みたいなオッサンは楽出来て良い。皆と世界の無事に乾杯ってところか? ハンスもお疲れ様だ」
杯を掲げた天川は帰還が適った黒狼の集いはいいものだと酒をあおった。
「ああ、國定、だったか? 貴方も力を貸してくれたのだとか。同じ特異運命座標として礼を言わせて貰うよ」
「アンタがベネディクトか。こうしてゆっくり話すのは初めてだが、改めてよろしく頼む。
練達で探偵事務所かなんでも屋か自分でもよく分からん商売を始めるつもりだ。アンタらとは今後も懇意にしたい。いつでも声を掛けてくれ。こちらも勝手に協力はさせてもらうぜ」
勿論、と頷いた彼らを見てから風牙は「べっさん!」と声を掛ける。緊張に頬を掻いてから「えーと、なんかあらためて言うのも恥ずかしいけど……」とぶつぶつと呟いて。
「べっさん、いや、ベネディクト卿。オレを、黒狼隊に正式に加えてくれないか? いや、ほんと今更だけど! 一応ケジメとしてな?!」
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「ねえ見てマリィ、珍しいお酒がありましてよ! 木から作ったお酒なんですって」
纏うフォーマルなドレスがふわりと揺れる。幸福そうなヴァレーリヤを見るだけでマリアの心も温かになった。
赤いフォーマルドレスに身を包んでいた彼女は「ここで飲むのもいいけど、後で売ってたら買って帰るかい?」と問いかける。
是非と叫んだ彼女はそれでも味見は我慢できなくて。
「木を飲むだなんて、なんだか不思議な感じ……でも他にない味と香りでとっても楽しいですわねー!
おつまみも美味しいし、嗚呼、ここは正に天国! ごくごくごく……」
勢いよくグラスに注ぐ彼女は可愛らしい。最初は「不思議な感じだね!」「この感覚は始めてかも、悪く無いね!」と頷いていたが……。
「ヴァリューシャ? あんまり飲み過ぎたらまた大変だよ?」
「うっぷ、私としたことが、ちょっぴり飲み過ぎてしまいましたわ……ごめんなさい、お水を取って頂いてもよろしくて?
私、一足先にお休みします……わね……」
「わー!? 言わんこっちゃない! 大丈夫かい!? 君を放っておけるわけないじゃないか」
何処からともなく運ばれてきた担架と共に、マリアはヴァレーリヤと退場していく。それでも、その日常が心地良かったのは、気のせいではないのだ。
おかえりなさいと告げるのは『はじめまして』では少し変なのかも知れない。それでも、言いたかった。
ニルはおかえりなさいと一緒にぎゅうとしてあげたかった。手の届く場所に居ない彼女に少し寂しさを感じるけれど。
「触れられるようなシステムを作れば良い」
「ナヴァン様。寝なくていいのですか?」
「……ああ」
一連の騒動の間でも働きづめであったナヴァンも疲労困憊だ。「『おかえり』はお前も言われる側だろう?」と告げるナヴァンにニルはぱちりと瞬いて。
「ただいま、ナヴァン様。ごはんを食べましょう。おいしいものをたくさん食べて、たっぷり寝ないと、またナヴァン様が倒れてしまったら困ります。
ニルはかなしいのはいやです。おいしくてたのしいのが、一番いいなって思います。
ニルは、マザーにも元気でいてほしいです。マザーもゆっくり休んで、元気になってくださいね! マザーが元気だと、ニルはとってもとってもうれしいです」
うちの子は優しいんだとでも言いたげなナヴァンの様子にマザーはぱちりと瞬いた。
和梨のタルトを作ったウェールは出来れば練達に関して詳しい誰かに話を聞きたいと周囲を眺めていた。
丁度目の前に立っていたのは佐伯操その人だ。ウェールは「R.O.O.で生まれた人、NPCを……」と操に切り出す。
「いや、うちの次男を秘宝種としてこちらに呼ぶ場合、どうしてもボディは人間かメカらしくないとダメなのか聞きたいんだ。
姿が変わろうと愛せる自信はあるが……美女と野獣の逆版は実際に体験するとつらいだろうし。
いつもあった尻尾の感覚が無くなるのは、耳の感覚が変わるのは次男にとってつらくないか不安なんだよな。
……コアに定着させるからお試しはできないだろうし」
そう切り出したウェールに操は「彼がパラディーゾとは別物であったならば、」と口を開く。
「パラディーゾを名乗っていただけの別物であるならば、其の儘の姿で持ち出すことが出来るのではないだろうか?
そも、パラディーゾと呼ぶ存在は外には持ち出そうとも別物に変化する。コアが拒絶するからだろう」
彼の言う次男が『そう』でないのならば、と操はそう言った。そも、体は自身等がその様に設計すれば良いだけの話だ。精密な獣型の躯体を作るように働きかければ良いのだから。
「クリスト氏……どうか人工身体は童顔のちょっと可愛い系のボーイにしてくれませんかねぇ?
いや、声的に『眼鏡でチャラそうな青年ルックス』が似合うとは私も思いまスよ? でも仕方ないじゃん。私の趣味なんだから」
――ええー?
「お願いしますよー黒ビキニでもなんでも着まスからさぁ! ……あっ、ちょっとクラリス氏の視線が私にまで冷ややかになってる……」
美咲の懇願を聞きながらクリストは「何でもっていった!?」と揶揄うように声を掛けている。
●
「大勝利!!! みんな頑張った甲斐があったわね! この国も、マザーもどっちも救えたわ! ROOに入って頑張っていた人もお疲れ様ね」
ブドウジュースを手にしたヴィリスはブドウジュースを手に微笑む。
ホールの一角のステージで余興のように踊り出す彼女は、イレギュラーズに勝利の喜びを情熱的に伝え続ける。
喧噪は、何よりも素晴らしいバックミュージックだ。踊り続けるヴィリスを眺めてからイズマは「平和になった」と頷いた。
「どれも美味しそ……ん、何これ? うーん、これはこれで美味しいけど初めての味……え、謎肉? フリーズドライ?
変わった生き物はたまに食べるけど、変わった製法の食べ物は目新しくて面白いな」
食事をしながらモニターからヴィリスを眺めている『二人』に気付いてイズマは「調子はどう?」と声を掛けた。
「あの時は反転を抑えるために押しかけたけど……もう大丈夫だな。回復を祈るよ。
二人は兄妹で……でも性格が随分違うな。真逆だ。でもだからこそ相応しいというか、二人で一つな感じがするよ。
あ、そういえば。シュペルさんが『昔の知人だ』と言ってたが、二人の親ってどんな人だったんだ?」
イズマの問いかけに二人は真逆の答えを返しただろう。それも『二人らしい』のだと感じてイズマはふ、と吹き出した。
「……なぁ、クリスト。……姉ヶ崎-CCCが反転から戻りうる可能性って合ったのか、分かるか?
一ミリでもあるなら、可能性を増やしたい。可能性が零なら、可能性を創りたい」
――姉ヶ崎changってもう死んだよね? それで?
「反転の現象をこの世から消したいから。もう、失いたくはない。だからもし反転廻りで分かる事在るなら手伝ってほしいのもある。
クラリスの為に出来る事が在るなら、手伝うからさ……!
クラリスは戻ってきただろう? 厳密な反転と違うとしても『不治』なら治るはずもない。
クラリスで言う『ワクチン』に該当するピースが、俺らの手元に今無いのが、治せない理由なんだと、俺は思う」
――んー、俺様changも万能じゃないからサ! 今聞かれたって分からない物は分からないし、何時か分かるかも知れないZE!
あとクラリスchangとは状況が違うワケ。今の混沌じゃ、ソレは許されないことなのサ!
「なら、聞きたいことがある。ワクチンによってROOへの影響、またそれによってクルミナルカクテルでバグったNPCはどうなったか?
データが全て消えた? バグだけ治った? なにも変わらず? それで、大切な人たちがどうなったのかが知りたい」
――個人差がある事例っしょ! 俺様changじゃ何とも言えないネ!
サイズの抱いた問いへの返答はR.O.Oのメープル達と出会うことしかないだろう。
残滓のようにクリミナルカクテルが残されている以上、活動するパラディーゾ達の姿も見られるのだ。クリストの言うとおり個人差が大きいのだろう。
「最終決戦ではよくもアバターの中身バレを……いやあれはつい本音が出てRPが崩れた俺も悪いが!
こほん、ともあれお疲れ様、だ。天才二人の思惑を超えたという点で俺は二人は凄いと思うぜ。
妹が不可能だと思われていた原罪を跳ね除け、介錯するために作られた兄が妹を助けた……うむ、俺も続かなくちゃな! あいつの塔も制覇してやるぜ」
錬がグラスを掲げればクリストは「かんぱーい!」とどこからか取り出したグラスを傾けている。
「ちょっとだけ聞きたいことあって……練達でこうやってマザーしてることとか、世界の演算? ってのとか、後悔してたりしないか?
散々世話になっててあれだけどさ、これまでのことも、これからのことも後悔してほしくないなって思って。
過去のことは無理だろうけど、少なくともこれから後悔しないよう手伝ったりはさ、きっと出来るから。
そういう決意表明、ってほどじゃないけど、けじめつけたかったんだ」
飛呂に「ちょっとー!」と口を挟んだのはクリストだ。
「負担かけたくないのはわかるから、言われなくてももう退散するよ、クリストおじさん。マザークラリスと兄妹ならおじさんだろ?」
――ええー!?
『後悔は、してませんよ』
それが己のあるべき姿であるとでも言うようなマザーを眺めてからフローラは「あの」と不安げに言葉を紡いだ。
人が多く賑やかな場所だ。それでも、伝えたいことがあったのだ。
「その……ジェーン・ドゥ、名前の無かった彼女が『アリス』と呼ばれることを好んでいたのです。
それはきっと、何よりも母であるあなたにそう呼ばれたから。そうなのだ、と思います。
先の決戦で、あの場に居て、その心を聞いた者として。それだけは……伝えたいな、と」
『―――……』
僅かにマザーの目が動いたように見えた。フローラは慌てた様に「それだけ、です……すみません失礼しましひゃふぎゃんっ!」と背を向けて転ぶ。
『いえ……有り難うございます』
母は、確かに子が傍に居るのを知っているのだ。手にした赤いカーネーションがなによりもそれを教えてくれている。
「花が……届いて良かったです”おかーさん”。これでダメだったらクリストさんを殴りに行くところだったけど。
わたしの妹と、カーネーションを送ったあなたの娘。二人の代わりに、あなたの無事をずっと確認したかったから」
Я・E・Dが『おかーさん』と呼んだのは『妹』とアリスの代理としてだった。無事な姿を確認した。妹は喜ぶはずだ。
妹が、わんわんと泣いたことも、その苦しみもЯ・E・Dはよく知っていた。だからこそ、彼女の姿をしっかりと見詰めておきたかったのだ。
「アリスちゃんは悪い子だったけど……良い子でした。
もし、あなたが反転中の事を把握できていなかったのなら、どうか話をさせて下さい、あなたを愛していた一人の娘の物語を」
『あの子は、良い子でしょう』
マザーの手にしたカーネーションが揺らぐ。その愛情は、伝わり全て理解されているのだろうか。
妹は屹度、もう一度泣くのだ。「アリスねーのおおばかもの!」と泣き叫んで。それから「さよなら」をするのだろう。
「この街も、僕も、今までのままじゃ居られないと思いました……だから、今まで有難う」
マザーに手短にそう言った定は深く頭を下げる。彼女に何れだけ寄りかかって暮らしていたのかはずっと閉じこもっていた自分を引っ張り出してくれた太陽のような彼女と、真っ正面からその事実を突きつけたアリスのお陰だった。
これからは彼女のために出来ることを探したいと願った定に「焼き餅焼いちゃうなー?」と揶揄うようになじみが声を掛けた。
「えっ!? あ、なじみさん。その、なじみさんは大丈夫だったかい? それこそ怪我とか……」
「大丈夫だよ。心配した?」
「……うん、ちょっと、心配だった」
少し笑いかければ彼女も嬉しそうに微笑んだ。ふと、浮かんだのはなじみとネクストを冒険出来る可能性だ。だが、それは直ぐに消える。アバターのこともあるが、それ以上に電脳廃棄都市の『自分』の事もある。なじみと『あちらの自分』がであるのは何とも微妙な心地なのだ。
「ええい、折角の祝勝会だぜ! なじみさんは何が食べたい? なんでも言ってくれよ、取ってくるからさ!」
「まだちゃんと見てないんだ。定くん、一緒に行こうぜ!」
手を差し伸べてくれる彼女が、また連れ出してくれるのだ。
●
復興についてはあまり心配しては居なかった。普段は平穏なこの場所だ。騒動や荒事に関しては対処も苦手であろうが、この世界は突然異世界に引き込まれた『旅人』の都市国家。根の部分は強かなのだろう。
再現性東京だけは、仮初めの平穏に溺れていた。ラダにとって心配であるのは寧ろ『そちら』の側であった。
「よ、水夜子。今回は大変だったな。怪我や家族への被害はなかったか?
再現性東京の方は……むしろ騒動自体が落ちついた今の方が大変だろうな」
「こんにちは、ラダさん。ええ……そうですね、父や母は怯えきって目も当てられません。これなら怪異の方がましだと言い出す有様です」
肩を竦める水夜子にラダは「それもそれでどうなのか」と薄く笑みを浮かべた。
「そういえば水夜子もROOにはいたんだっけ。
なんかそれらしい人とは出会わなかったように思うけど……全然違う姿のアバターにしてたんだろうか、って聞いたら駄目なんだっけ」
「いいえ。私は気にしませんよ。あの、ご覧になったことないですか? こういう……もふもふした、ビーバー……」
――その時、ラダの脳裏に過ったのは『あの』ビーバーであった。
「へっへっへ。年末の巫女さんはえれぇ大変だったなんて知らなかったぜ。音呂木神社から脱走は慣れたもんだな。ふふん。
水夜子ちゃんと出かけるもんね! 祝勝会だから合法! 合法! いやあ、シャイネンにギリギリ間に合ってよかったぜ! ガハハ!」
そう笑った秋奈に水夜子は「あら」と首を傾げる。そう、希望ヶ浜は大忙しの筈なのだ。
「でさ、問題はこっからなんだけど、街の復興がすぐ終わるわけないもんな! しかたないな!
でもこの街を守ったのは私らだもんな。フッ……ヒーローはつらいぜ。
なんだかあっちの方がいい思い出ができるような、素敵な出会いがあるようなないような。まあ、結局なんかいい感じのお土産買っちゃったワケだ! わはは!」
「そうですね。素敵ですね」
「水夜子ちゃん誰と連絡をとって……?」
秋奈は気付いて居なかった。話しかけている間にaPhoneを水夜子が耳に当てていたことも――その通話が繋がっていたことも、ひよのが『ホール』に来ていたことも――
「祝勝会に不可欠なのはやはりホイップクリームとベーコン、少々のインクと数多のペンキだ。
筆先に浸かった肉汁のなんと香ばしい事か。貴様等もじっくり炙りつつ舌鼓を鳴らすと好い!
何、授業は明日からでも問題ない筈だ。そう思わないか校長先生!
嗚呼、決して『あやしくない』ハムなのだ、少しだけ胡椒を追加しよう。
それとも真逆、めでたい大団円(デウスエクスマキナ)を無碍に扱うとでも?」
堂々と告げるオラボナに焼肉宴会のお呼びが掛かっていた無意式校長は「真逆この年で前菜に『あやしい』肉だとは」と呟いた。
「それでも構わない、主役は悉く貴様等なのだ、私には隅っこの化け物が似合っている。――加工する為のにくが足りない?」
「加工肉が足りねえってんなら言ってくださいよご主人様!!! カスタードとチョコレートも用意したんで皆さんで食しましょうね!
そこのアンタもここのテメェも皆ハッピーなもつ鍋ってやつです。
ほらボケッとしてたら酒に呑まれますよ先輩、まあ私は下戸ですがね!
ん-! このにくの味わいは最高ってやつです、特にこの痺れ具合が至福ですね!」
校長はどうしようと言った様子でもつを見た。オラボナともつの独自の世界が展開されている。誰彼構わず肉料理の連発だ。
「アルエットはアドラステイアの事は聞かれても分からないの、ごめんなさい。
でも、オウェードさんはお優しいのね。ありがとなの。……さあ、いまはお祝いを楽しみましょ!」
微笑んだアルエットに緊張を滲ませた赤ら顔のオウェードは頷いた。
彼女は天義にはルーツを持たない少女だが、迷子だというならば無事に家族の元に送り届けたいとオウェードは考えていた。
「いっぱい料理があるわね。何が良いかしら?」
「色々とあるのう…ワシはカツドンとやらを食べてみようかね……ああ……アルエット殿は……な……何が食べたい……」
緊張し口ごもった彼にアルエットはぱちりと瞬いてから「美味しそうね!」と頷いた。彼女の皿には一口サイズの可愛らしいショートケーキとショコラケーキが乗せられている。
「元の世界で食べた事があるとか……ホッカイドー……」
呟いたオウェードはランドマスターメロン果汁のソフトクリームを披露した。アルエットが美味しそうだと微笑んだ様子だけでも喜ばしい。
「見て、オフィーリア! このおっきい窓から街中が見えるみたい! え? 窓じゃない? もにたあ?」
首を傾げるイーハトーヴにオフィーリアがお世話をするようにぴょんと跳ねる。可愛らしい彼女のその仕草にイーハトーヴは微笑みを浮かべて。
「だいぶお酒が回ってるんじゃないかって? そうかなぁ?
今日はまだそんなに飲んでないんだけど、もしかしたら、ちょっと疲れが出たのかも」
ゆっくりして欲しいとでも言いたげなオフィーリアをぎゅうと抱き締める。それだけで生きた心地を感じられるのだ。
「ねえ、オフィーリア。俺、頑張ったよね? 頑張れたって、今は信じたいんだ。
守れたものもあったけど、守れなかったものもあったから。自分にできなかったことの重さに潰されて、動けなくなってしまわないように。
……俺、ちゃんと前を向きたい。俺にもできることがあるなら、まだ立ち止まりたくないって、思って……」
少し酔って居るみたいだと呟いたイーハトーヴは窓際の席でうつらうつらと眠りの淵へ。
「カスパール様、此度の騒動、お疲れ様でした。私も練達の有事へ貢献することが出来、大変嬉しく思います」
茄子子が微笑めばカスパールは小さく頷く。その背後から操が愉快そうだと言った様子でひょこりと覗いていた。
「ところで、これからの練達について提案があります。カスパール様は私が会長を務める宗教『羽衣教会』をご存知ですか?」
羽衣協会は『反転、狂気への耐性を持ち、世界の敵たる魔種へ対抗する術を持つ』ことを目的とした宗教、つまりこれからの練達に必要な宗教!
そう意気込む茄子子の本音は差し込むなら此処だと言うことだ。羽衣協会は避難誘導でも貢献し、復興までに新興宗教がのさばる可能性を牽制しておくのだ。
「ぜひ、練達復興の一助となるべく『羽衣教会』の国教化をご一考ください」
「この国は『都市国家』……天義のように何かを国教にする事は難しいであろうが……」
功労者の言葉に困り果てた様子のカスパールに操は「我々は確かにイレギュラーズには明確な非はあるのだが、」と口を挟んだ。
「楊枝がまず牽制するのは希望ヶ浜の宗教法人静羅川ではないかな?」
「――――!!!!」
敵の姿が見えたのであった。
「ふんふん、なるほど」
頷く至東。年上白髪フェチガールは当たって砕けていく芸風ではなく、『なんか気づいたらいつの間にか訳知り顔で側にいるイイ女気風ビュンビュンの高気圧どころか台風すぎて逆に低気圧モード』でカスパールの傍に立っていた。
カスパールの話に頷いて付かず離れずたき火のように彼の傍に。途中でさりげなく席を外しても隣に帰ってきてボディタッチは控えめに。
そんな彼女が傍らに居ることに気づきながらカスパールはのんびりとした様子で祝勝会を楽しんでいた。
●
昼顔は晴陽が居なければ自分は平穏無事に此処には居なかったと感じていた。だからこそ「有り難うございます」と伝えに来たのだ。
「その……僕が龍成氏とROOで戦ってた時に、澄原先生が何か思い詰めて戦ったと噂で聞いたから、大丈夫かなー……」
「ええ。大丈夫です。皆さんと共にでしたから」
頷いた晴陽のその言葉に昼顔の唇が戦慄いた。唇から滑り出したのは、意図せぬ言葉。
「ねぇ澄原先生、貴女にとって最良の結末でしたか?」
晴陽がはた、と動きを止めて昼顔を見遣る。何を言って居るのだろうと自身は俯いた。これが最良であるはずだ。
皆笑って幸せだった。竜二もネリネも笑って逝った。だと言うのに、笑えない。彼女の返答も、聞こえない。
(目が赤くなってる気がする……あれ? 何で?)
「昼顔さん?」
「……龍成氏が澄原先生と話したそうなので、僕はこれで失礼します」
逃げるように昼顔は走り出した。目が、赤くなる。これはどうしてなのか。晴陽が命を削って治療してくれたのだ。自身が治療対象になってしまったなら?
まだ約束をしていない。『仮音』に新しい名前を教えて上げたい。逃げる昼顔の背中を呆然と見詰めた晴陽はす、と手を下ろした。
「晴陽君、元気にしているかい?」
「ええ」
愛無は表情筋の動かぬ彼女をまじまじと見遣る。それがどうしたことなのだろうか、と気になるのだ。
「晴陽君は暁月君を見ていると己の無力を思い知らされるのが嫌なのだろうか。
……いや、なんとなく嫌悪が他者より己に向かうたいぷにも見えるゆえに。否が応でも思い出してしまうのかなと」
あまり他人の事情に首を突っ込みたくはないが気にはなるのだと告げる愛無は彼らを誘って見てもいいのではないかと、提案した。
不器用な大人達。それは何処か似ているような気もしたのだ。自身だけだと行方知れずになっていたことを暁月に叱られるのでは、と考えたのは秘密だ。
「最初は先輩の強さに憧れました。ですが、私は人を殺して全てを解決したいとは思いませんから。
……ですから、暁月先輩の問題には首を突っ込まないと決めているのですよ。彼が勝手に思い悩んで、勝手に自滅しても私は知らないのです」
愛無に晴陽は言う。彼と自身の問題は『過去』の事だ。『現在』に置いて、澄原晴陽は彼を助けるつもりはないのだと。
その冷ややかさに何とも壁は高いのだと彼女の横顔をまじまじと見詰めていた。
「こんにちは、澄原晴陽」
甘い菓子折を手にしたボディに「ご丁寧にどうも」と晴陽は頭を下げる。些か不思議な関係性になった二人だ。
「龍成につきましては、あの後無事に救出しました。
恐らくこの会場にいるはずなのですが……何処なのでしょう。姿をちゃんと見せましたか?」
「いえ……先程見かけたのですが、少し距離を取られてしまって。私が苛立った表情をしたからでしょうか」
――そんなに感情を曝け出すことが少ない彼女だ。能面のように見えて恐怖を煽ったのかも知れない。
「改めて、龍成と一緒に住まわせて頂くことになりました。......その、問題は無い、でしょうか」
「友人として燈堂に居候……ですよね。廻君から確認をしました。ええ、それならば……ボディさんは男性ですし」
ぎくり、と彼の肩が跳ねたのは――屹度気のせいではないのだ。
「……何があろうとも私があの人を守ります。絶対離しませんとも。絶対に」
「ええ。貴方のような友が居て良かった。それだけで弟は強く生きていけるでしょう」
その立場になれなかったことは姉は少し寂しいが、それでも、彼が良き友人に恵まれたことは家族として嬉しいのだ。
「初めまして。エルです。エルは、龍成さんの、お友達、です。よろしくお願いします」
エルが話しかけたのは晴陽であった。「宜しくお願いします」と礼儀正しく一礼をする彼女は、その見てくれだけでは姉弟には思えない。
それ故に、彼が姉と距離を取ったのかと感じ取りエルはドキマギとしながら言葉を紡いだ。
「夏の海で、とったどーって、お魚を捕まえました。夜の廃校の、肝試しは、どきどききゃーきゃー、騒ぎました。
鋼鉄の、屋台巡りで、肩車をして頂いて、楽しかったです。燈堂さん家の、道場で、訓練も、しましたよ」
――少しばかり晴陽の表情筋が動いたのは『燈堂』の言葉故か。
「えっとえっと。いつか、お暇な時に、龍成さんとエル達と一緒に、何処かに、遊びに行きませんか?
最初は、どきどきだって、エルは思います。……でも、きっと楽しい思い出に、なるって、エルは信じています」
「その機会があれば、いつかは」
頷く晴陽にエルはこくりと頷いた。彼女を傍で観測している者が居たのは――果たして誰であったのか。
咄嗟に逃げ出したのは、怒られる可能性があったからだ。幼い子供のように反射的にそうしたが、心配していることは分かる。
早く顔を見せて置かねばと考える龍成は親友始め様々な人々が姉に話しかけている様子にやきもきしていた。詰まり、タイミングを計っているのだ。
「あ、姉貴」
肩をとんとんと叩いて話しかける龍成――その様子を伺うイレギュラーズの数は知れず。弟に話しかけられたことに驚いた晴陽は「龍成」と名を呼んでほっと胸を撫で下ろす。
「全く……いえ、言いたいことは山のように、一日とも下らないほどにあるのですが……言いたいことは、ありますか?」
龍成にとって晴陽のその品定めをするような瞳が嫌いだった。まるでこちらを見透かして先回りをするように感じていたからだ。
だが、それが感情表現が苦手であるからだと知れば、一年前に感じた嫌悪はない。寧ろ、姉の気遣いが心地よいほどだ。
「ごめん、心配かけて……ほら、もうピンピンしてるし、元気だから」
「ッ――……ええ。そう。それなら、いいのです」
表情も変わらない。だと言うのにどうしてこうも心配していることが分かるのか。友人達に見守られているのも癪だが、今言わねば何時言うのだと龍成は頭をがりがりと掻いた。
「ありがとな、姉ちゃん」
「……、」
晴陽の目が見開かれた。ちゃんと伝えないと伝わらないと学んだのは友人達のお陰だ。その言葉に従えば姉のこんな表情も見られるのだ。
「俺が変れたのは、心配してくれた姉ちゃんと、あいつらのお陰だ」
●
「今日は私の奢りだよ。存分に楽しんでくれたまえ」
希望ヶ浜もクリスマスマーケットが開催されている。強かにも日常を取り戻そうとした街で暁月がそう微笑めば「奢りと聞いて!」と手をひらりと振ったのはアーリア。
「……ええ、子供達限定とは言わせないわぁ。とーっても頑張ったんだもの、一杯くらいいいじゃないの!
ま、とはいえ引率を暁月さん一人に任せちゃうのも気が引けますし。私も今日は、温かい紅茶に留めておきましょうか」
「まあ、少しぐらいなら問題無いよ」
ふふ、と喜ばしそうに微笑んだアーリアにそれ位なら子供達の引率はは可能だろうと彼は笑った。ふと、袖をくいと引かれたかと暁月が振り返れば尾をゆらりと揺らした鈴が「先生」とどこか気まずそうに名を呼んだ。
「先生、お疲れ様でした。俺なにもお手伝いできなくてすみません……。
先生、次に先生や廻さんや燈堂家になにか、もしもがあったら、俺は絶対に役に立ってみせますから」
「待っていてくれる人が居るのも頑張れる理由だよ。ところで、このホットココア美味しいね。君も飲んでみないか? 遠慮は要らないよ」
ほら、と差し出されたココアに鈴はぱちりと瞬いた。このココアのお礼に帰宅すれば暖かな茶を振る舞おうと心に誓う。
彼の茶は美味しいと喜ぶ暁月が差し出したのは可愛らしいマグカップに入ったココアだ。マグは持ち帰ることが出来るらしい。
「……ところでほんと、全部奢りでいいのかしら? 燈堂『先生』ってばお金持ちぃー」
「おや、私のお財布の心配かい? 大丈夫問題無い。流石にお祝い事を子供達に出させる訳にはいかないからね」
「ああ、それじゃああのワインをボトルで買っておきましょうか。ほら、後で燈堂家にも行くでしょう?」
悪くないな、と笑った暁月の傍を走り抜けていくのはシルキィ。食べ歩きに笑みを浮かべた廻へとアーリアは「転ばないでね」と声を掛けた。
大きな戦いを経たと言えど希望ヶ浜は日常に溢れている。守り抜くことが出来たのこ場所でで、ペリドットのブレスレットを揺らしてシルキィは巡るに手を引かれる。
「シルキィさん、肉まんを一緒にたべませんか? 熱々で美味しいですよ……そして、なんとピザまんも買ってます!」
「……さらにピザまんも! 豪華〜! ……えへへ。分けてくれるなら、喜んで」
あ~ん、と口元に運ぶ廻にシルキィは「美味しい」と綻ぶように微笑んだ。暖かい料理を寒いところで食べるとどうしてこうも幸せなのか。
「大丈夫ですか? 熱くないですか?」
「うん、とっても美味しい!暖かいうちに食べるとやっぱり最高だねぇ〜!
……えへへ。あーんしてもらっちゃった……。あーんには、あーんで返さないとねぇ?」
「へへ。何だか照れちゃいますね」
ベビーカステラもあるのだと微笑むシルキィに暖かな気配を感じて廻は微笑んだ。彼女と居ればぽかぽかと陽だまりで過ごすように心が満たされる。
ふと、廻の姿に気付いたか竜真は「廻」と手を振った。
「いやまあ、そのだな。龍成も廻もあっちで大事になってたとき、俺は向かえなかったんだ。
仕方のないことだったとはいえ、無力感はあったからな。練達も平和が戻って、二人とも無事にここにいる。
それは喜ぶべきことなんだ。けど……側に行けなくて、すまなかった」
「いいえ、そんな――」
暁月も行っていたとおりに待っていてくれる人が居る。それがどれ程に心強いことかと廻は首を振った。竜真は彼の気遣いに薄く笑みを浮かべる。
「……なあ、廻。また今度、旅行に行かないか。誕生日も祝ってやれなかったし、それも兼ねて。それに約束したこともあっただろ。
旅先で酒でも探して……こう言うとむず痒いんだが、うん。俺の初めての酒に、付き合ってくれないか」
酒の『先輩』である彼に。そんな平穏が来るならば――それはどれ程に幸せなことだろうかと廻は頷いた。
「ひと段落、したのだな。なんだかすごく忙しかった気がする。忙しいに慣れたせいか暇だな」
そう呟いたランドウェラは無意式の姿を見付けてひらりと手を振った。
「校長。今回の忙しいの、少し前の話になってしまいますが色々世話になった。ひまわりとかひまわりとか。
何かお礼としないとと思ってですね。お酒は未成年だから買えなくって、んじゃあ僕のお気に入りのこんぺいとうをって思ったんだけどもっといい物校長が用意できるからたぶん間に合ってるんだよな」
「ほう?」
ならばどうするのだろうかと愉快そうに目を細めた無意式にランドウェラは胸を張った。
「だから、いつでも、僕を頼ってくれ! ん? 違うな! 使ってくれ! いつでも手伝うぞ!」
「なんかもう、色々あれなんで。とりま肉いっときましょう肉。
駅近にこのご時世に開けてくれてる焼肉の店あって、そこ座敷とったんで。経費落ちるでしょ!」
落ちなければ校長のポケットマネーでなんとかするつもりのほむらに手を打ち合わせて喜んだのはヘルミーネ。
「ヒャッハー! 肉にお酒なのだ! まさか練達でこんなご馳走にありつけるなんて……しかもタダで! ほむらちゃん、ゴチになるのだ!」
涎も滴りそうな勢いで座敷に滑り込んだ彼女の隣でスピネルが「いいのかな?」とルビーに問いかける。彼女のサポート役だったのだから、此処で『奢り』を渋るのは校長先生の面目も立たぬ。
「奢ってくれるそうだよ! ね?」
ルビーの言葉に「勿論だ」と返した校長は経費で落ちるだろうかと永遠に明後日の方向を見遣っている。
「私はまず生。他生いますか? あ、未成年はジュース、あ、選んでください。あと炭起きるまで……サラダとキムチ下さい」
「ヘルちゃんも最初は生なのだ!」
飲み物が揃うまでの間に運ばれてきたスピードメニュー。サービスメニューのように渡されたキャベツをぽり、と囓ったスピネルが「ドリンク来ましたよ。ルビーはこれだよね?」とそそくさと取り分ける。
「んじゃかんぱーい! お疲れ様でした! あーー!!! サラダ分けますね。あ、注文。上ネギタン塩、炙りレバーで」
「肉が来るまで……わかめスープと卵スープで体を温めるのだ。スープが美味い店はいい店……ヘルちゃんの持論なのだ! 後、唐揚げにポテトとかも頼むのだ!」
ルビーとスピネルが二人でメニューを指さしている傍で注文を続けていくほむらとヘルミーナ。校長の目線が天を仰いでいるのは気のせいではない。
(いいのかな……?)
(多分、経費で落ちるから……)
優しいルビーとスピネルの気遣いは余所に空いたグラスをささっと避けたほむらが手をぴしりと上げる。注文時の「すみません」の声はか細い。
「次ハイボール。あと和牛ハラミ塩1タレ1、特上カルビ塩1タレ1、あとニンニク丸揚げ。
そん次、麦の緑茶割り、和牛ハラミもう一人前タレで、マルチョウ、ライス小! テールスープお願いします。センマイ、チャンジャ、熱燗二合、この山廃のでお願いします」
「まずはネギ塩牛タン! これが一番なのだ! 生ビールとネギ塩牛タンの組み合わせは最高なのだー!
その後はハラミにぽんじり、カルビにトントロ、ホルモンとかも頼んで……あ~! やっぱり美味ぇ~のだ!」
良い感じに酒が回ってきた『二人』にスピネルが「あ、そのアイスはルビーです」とルビーの代わりに注文したバニラアイスを差し出した。
「二次会、この裏に店あるんで。行く人」
――まだまだ彼女の飲みニケーションは続くのだ。
●
姉ヶ崎-CCC――。彼女に花を手向けたいとブランシュは考えていた。冷たい冬の風が頬を撫でる。
「彼女は最後まで誰も見てくれなかった絶望に、襲われていたですよ。ブランシュ、彼女の手を取った時にそれを知ったですよ。
……本当なら、理解しないで悪だと決めつけて踏みにじることも出来た。
でも、それは出来なかったですよ。ひとりぼっちのさみしさは、ブランシュも知ってるから。だから救えるかもしれないと手を伸ばした。でも……」
それでも、救えないで掌から零れるモノは無数にあった。
「きっと世界は進んでいくですよ。姉ヶ崎さんのやったことは許されないし、ブランシュも許すことはないけど……
世界は立ち直って、また希望を胸に進んでいくですよ――だから、さようなら。忘れないですよ。絶対に許さない友達」
彼女を友と呼んだのは、屹度間違いではないのだ。
「つ゛か゛れ゛た゛であ゛り゛ま゛す゛」
はあと息を吐いたムサシは練達をふらりと散策してみようと決めていた。戦い続けた日々。満身創痍のその身を引き摺るように街を行く。
「あっあの爆発跡はドローンを破壊した場所!あの工場は紆余曲折あって工場丸ごとぶっ飛ばした後!
……あれ自分達が破壊した後も結構残ってる気がするんでありますけど……。
特にあの工場思いっきり吹っ飛ばしたの自分達で……あっなんでもないであります」
何とも言えない既視感に襲われながらムサシはううむと呟いた。自身等も破壊の一因であったのは――気にしないでおこう。
そうして様々な形跡が残る街でエアは再現性東京のカフェに向かった。
温かなココアを注文し、窓際の席から眺めればイルミネーションの輝きが街を包む。それでも、至る所に残った戦いの形跡は痛ましい。
(一日も早く復興が終わりますように……)
もうそろそろケーキが美味しく、賑わう時期だ。故に天狐は胸を張った。
「どんな困難にぶつかっても乗り越え、そして現在に至った人という種の証明。
個人で出来る事は限られるが共に手を取り合い進む事で未来へと向かう意志。それが人の強さ、文明の強さじゃな」
――そ れ は そ れ と し て 。
「聖夜! といえば! うどん! 何故って?いや、だって白いじゃん? つまりクリスマスじゃん? 全人類クリスマスはうどん食え!」
美味しいうどんを分け与え、士気をUPさせるべく天狐は走り出す。うどん専門のサンタクロースは留まることを知らないのだ。
通り過ぎていく天狐を見詰めてから雄斗はぱちりと瞬いた。学校の友人達に自身の雄姿を自慢したいのである。
平和が戻ってきたのだと感じながら祝音はのんびりと散歩をする。ドローンやロボットの影もなく、平和その者だ。
街に出た屋台を見詰めてから『まる焼き』――大判焼きを注文する。数種類の味があると告げる店主に祝音がううんと悩んでいれば。
「にゃー」
猫が尾を揺らして分けて欲しいというようにアピールしていた。
「猫さんは大丈夫だった? 家の近くにも寄ろうかな……どうかな……?」
付いていくと言いたげな猫と共に、のんびりと街を歩く。寂寞を抱きながらも、クリスマスも良き思い出を胸に宿せればと、そう感じながら。
「……新装備、調達してたら決戦に参加しそびれちゃったけど……」
近代的なボディスーツを身に纏っていたノアは自身の新衣装に身を包みながら寒空の下を歩き続ける。
「とりあえず、ケーキでも買って、帰って食べよう……」
この街では新衣装は目立つ。そう思えば日常が帰ってきたのだろうか。R.O.Oからの余波は直ぐに脱却できたのだろうか。
Hadesが現れて行方不明になった者が居て、「次は我が身か」と身構え、行動が鈍った事は彼女にとっての後悔の一つ。
「次に大きな出来事があるなら、その時はもっともっと活発に動きたいなぁ」
眺め見下ろした再現性東京は僅かな変化を受け入れたのだろうか。
アイザックはプリズムの煌めきをその身に宿しながら街をしかと見下ろし続ける。
「うん、また完全に元通りとはなっていないし、なるかもわからないけど、だいぶ良くなったね。
この街は僕の生まれた場所に似ていて、なんというか『しっくりくる』から。
それが無くならずに済んだのも、ここを守ろうとした良い子たちの努力が報われたのも、きっと『良かった』ってやつなんだろうね。
――良い子たちには、ハッピーエンドがお似合いだからね!」
怪異である以上、彼にはそうした人らしさはない。だが、人の喜びは肌で感じられるのだ。
●
「……はぁ………なんかめんどい事件だったよねぇ……あっちとこっち行ったり来たりしまくったりとかさぁ……。
ドローンとか家電とか全部動かなくなったりとかさぁ……でも一番のギルティはネット回線切られたことだよねぇ……。
クリストだかクリフトだか知んないけどあたいからネット環境取り上げるとか死活問題だよぉ……?
本当なら全体即死連発の刑なんだよねぇ………」
今日はやらないけど、と嘆息したリリーはネカフェに行くのだと溜まったログボと疲労度消費という日常に帰って行くのだった。
希望ヶ浜をぶらぶらと歩き回る浩美は土産物を買っていくのも良いと街を見回した。
流石にホールケーキは一人では食べられないが、小さめの一人用のケーキなどは戦勝祝いにも良さそうだ。
色々と忙しなく大変な事件だった。故に、浩美が見る美しい町並みの裏にはバクルドが危惧したような復興支援が必要な区域もある。
マザーは無事で練達の機能も停止しなかったが、何かしらを喪った者も居るはずだ。
「希望は残っても不安や恐怖が拭い去られたわけでもねえし、そうでなくともこれから生きていくために。
障害となる瓦礫を取り除いていかなきゃならんはずだ。労い手伝い復興していくのも、ある意味祭りのようなもんじゃあねえか?」
差し入れだと投げ渡したバクルドは喧噪の街で沈んだ顔をした『工事』の労働者達の肩を叩いた。
「歳は食ってるが腕っ節には自信あるからな、瓦礫の除去の手伝いは任せな」
インフラ整備にも駆け回る旅人達がこの国の強かさなのだろうと文は眺め見る。この様子ならば、生徒達は安全だろうか。
希望ヶ浜学園に脚を向ければ、避難所として開けられていた体育館は伽藍堂に。部活棟では再会を喜ぶ生徒達の声がする。
「ふふ、生徒達は皆無事みたい――ああ、もしもし。校長先生が奢って下さる? 店は、ああ、はい」
是非とaPhoneに告げた文は早速ほむら達が校長の金で焼肉パーティーをしている店へと歩を向けたのだった。
「やあやあ、ここ怪談喫茶ニレンカムイはカフェ・ローレット程ではないにしても、夜妖の情報収集と依頼の斡旋を兼ねておりんしてね。
わっちとしてはネットワークを広げておきたいのでありんすよ。対夜妖のプロである貴女達ともね。
本当は普久原ほむら様も及びしたかったのでありんすが、忙しそうだったもので……」
「成程?」
ぱちりと瞬いた水夜子にエマは従業員は避難していて無事なのだと告げる。これからの活動で彼女達と関わって行ければ屹度、対処できる夜妖の数も増えるはずだ。
「それはともかく、わっちかいない時含め、宜しくどーぞ?
今回はお近づきの印に料理を振る舞うといたしんしょう。勿論、タダで」
希望ヶ浜にやってきたアーマデルが最初に発した言葉は「解せぬ」であった。
「争いの爪痕は未だ色濃く、希望が浜の生徒の実家も自営業を営むところは大変だと聞く。
教師としてひと肌ぬごうと言ったまではよかったが……聞いてないぞ、ご実家が猫耳メイドカフェとか!
アーマデルのメイドさんはkawaiiから許す。だが、俺のこれは罰ゲームにしか見えない……というか犯罪に近くないか?」
「弾正……」
店の風評が気がかりだという弾正を見遣ってからアーマデルはおそろいだなと呟く。飲食店は繁忙期。弾正は素早い給仕を続けるが――
「そう、さながら猫耳メイドカフェに潜入せし忍の如……い、イシュミルさん!? ROOで救った学生達まで店に来ただとッ?! クソっ……生徒達の善意がしんどすぎる!」
「何故いるイシュミル、どこから聞きつけた。こうなったらあんたも道連れに……」
ぴた、とアーマデルは止まった。イシュミルはと言えば、飲料で客がカラフルにイルミネーションされる悲劇をもたらすのだ。
「オムライスに絵を描いてくれるんだって? 美味しくなるおまじないをかけてくれるそうだけど?」
「早く食え!」
「ちょっとスカートが短くない?」
「短くない!」
叫ぶアーマデルに助け船を出そうとした弾正にイシュミルは「……ちょっとスカートが短くない?」と別の意味合いで問いかけたのだった。
「コャー」
折角ならば食べ歩きでもしてみたいと街へと出た胡桃は楽しげなメイド喫茶に、大忙しのケーキ屋を眺める。
そんな楽しげな食事も良いが、寒くなったのだからラーメン屋に赴きたい。
濃いめの味噌ラーメンで体を温めて、祝勝の証にするのである。
「そういうわけで、今日は色々あった皆様の応援と、がんばったわたしへのご褒美ということなのでした。そう、がんばったの。ラスボスにトドメも刺したのよ」
「リアちゃんだ! リアちゃんが帰ってきてくれた!」
腕をぎゅうと抱き締めた焔に「歩き辛いんだけど」と苦い笑いを浮かべたリアは彼女が不安げに見上げてくるその瞳に肩を竦める。
「本当にいなくなっちゃったりしない?」
「もう……離れていても、勝手に何処かに行かないから大丈夫よ」
「うー、じゃあ手つなぐだけで許してあげる! はい!」
それだけ不安にさせたのだろうか。そう感じるリアに焔は「ここはリアちゃんとの思い出で溢れてるからちゃんと守れて良かった!」と微笑み――
「……いい思い出も、そうでない思い出も……ん? なんか急にアンタへの殺意が湧いて来たんだけど」
「って、えぇっ! どうして!? よく変なことになるのはボクのせいじゃないよ!」
――本当だろうか。
そう思いながらもリアは繋いだ手をそのままに空いた手で彼女にロザリオを手渡した。
「このロザリオあげる。清らかな聖職者たるあたしが毎日祈りを込めて聖別した、特別な物なんだから。感謝してよね」
「え? いいの?」
「聞くなよ。……はあ、有難う、焔。心から貴女を愛しているわ。これからも、よろしくね」
「えへへっ、リアちゃんに素直にそんなこと言われるとちょっと照れちゃうよ。
ボクも大好きだよ、リアちゃん! これからもずっと、ずーっと仲良しでいようね!」
彼女の笑顔が――愛らしい。頭が痛むのはまだ高揚した気分の所為。屹度それだけなのだと青い顔をしたリアは「行こう」と歩き出す。
親友の顔色を見て焔は僅かな不安を抱きながら、リアが言いたくないことは敢えて聞かなかった。今は、共にある時間を楽しんでいたいから。
「……こうして練達存亡の危機は去って……祝祭が始まったわけだけど……
………僕は…そうも言ってられないんだよなあ……この練達の危機について…レポートを出さないと……。
学園から色々後から聞かれるのは目に見えてるし……いろんな場所で色々一気に起こりすぎてて……どう纏めたらいいのやら……」
学生の本分だと図書室に籠もってパソコンと睨めっこ状態のグレイルはそれでも故郷が無事で良かったと息を吐く。
窓の外――セフィロトドームは普段通りの様子だ。少しの気がかりが、首を擡げたのは観測コードをあの場所で見たからだ。
「……ハッピーエンド……でいいんだよね……?」
――観測コード Jabberwock:観測域から離脱しました。
もしも、この地に危機が訪れたならば。その時も、勝利を分かち合えるような未来が待ち受けていますように。そう願わずには居られなかった。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした!
祝勝会現実サイドをお送り致しました。
マジ卍体育祭は呪われているのか、いつも何かが起こりますね。
2020年はマジ卍台風が襲来し、2021年はR.O.Oで練達が大変でした。
GMコメント
夏あかねです。ちょっぴりオトモダチが覗き見しにきてましたが其れは兎も角祝勝会!
今は楽しみましょう&気になるならどうぞ、お耳を!
※一行目:行動は冒頭に【1】【2】【3】でお知らせください。
※二行目:ご同行者がいらっしゃる場合はお名前とIDではぐれないようにご指定ください。グループの場合は【タグ】でOKです。
【1】練達ホールで祝勝会
大きなモニターが存在しセフィロトの街を一望できるホールです。
お食事は現代食が多め&様々な文化の旅人が多いので変なモノも沢山在ります。宇宙食? 肉の塊? な、謎肉!?
飲み物類はジュース、酒類様々御座います。嗜好品もいろいろ。お料理持ち込み大歓迎です。
此処ではカスパールを始めとした練達のNPC達とお話しすることが出来ます。再現性東京2010のNPCも此方にお邪魔しているかも知れません。
お料理を食べたり、のんびりと語らうならば此方。
マッドハッターは何故かモニターばかりを注視しているようです……。
また、マザー&クリストとはモニターを通して対話することができますがクリスト曰く「クラリスchangは治療中だから負担を掛けないでよNE!」とのことです。
【2】再現性東京2010『希望ヶ浜』に遊びに行く
未曾有の災害に襲われていた再現性東京2010『希望ヶ浜』地区に遊びに行くことが出来ます。
どうやら立ち直りが早くクリスマスの準備をした街が少しばかり災害の様子を残しながらも日常を取り戻すために奮闘しているようです。
希望ヶ浜での日常を取り戻しながら、ささやかながら勝利を噛みしめてみてはどうでしょうか?
食べ歩きをしたり、学園でのんびりと日常を噛みしめるのもおすすめです。
【3】その他
当てはまらないけど此れがやりたいという方へ……。
ご希望にお応えできなかった場合は申し訳ありません。
●NPC
・カスパール、佐伯操、Dr.マッドハッター(練達三塔主)
・『マザー』クラリス&クリスト
・陽田遥、普久原ほむら(練達研究員)
・音呂木ひよの、綾敷なじみ、澄原水夜子、澄原晴陽、澄原龍成、燈堂廻、燈堂暁月
・(ROOに参加していた)月ヶ瀬 庚
はおります。お気軽にお声かけ下さい。
・夏あかねのNPCは月原亮、リヴィエール・ルメス、フランツェル・ロア・ヘクセンハウスあたりはおります。
・無制限イベントシナリオですので、ステータスシートを所有するNPCが参加する場合があります。
(通常の参加者と同じように気軽にお声かけしてあげて下さいね)
・その他練達関係者は可能な場合は参加することが御座います。
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