シナリオ詳細
ローレット・トレーニングIX<練達>
オープニング
●探求都市国家アデプト
中央制御システム『マザー』により管理されたセフィロト・ドーム。夏であれども涼やかな気候はマザーによる空調管理の賜物だろうか。
R.O.Oの一件により特異運命座標の出入りも多くなったこの小島は旅人達によって構成された近未来の都市である。
セフィロトの中でも一番にその存在を誇張する『三塔』はそれぞれに謂れが名付けられる。
――探求、想像、実戦。
それらの名を有する三塔の研究者により、日々、彼等が行っているのは元世界への回帰や神たり得る存在への研究であった。
卓越した技術力を有する練達――フルダイブ型VRMMO、のような、第二の混沌世界を仮想世界に作り上げる技術力だ!――から此度の誘いが掛ったのは例年行われているローレットでの『合同訓練』への参加の呼びかけだったのだろう。
「やあ、特異運命座標(アリス)。日々の暑さを忘れさせる母の愛(セフィロト)はお気に召したかい?
私には春も秋も冬さえなく、夏なんて知った事ではないのだけれど、毎日が君の誕生日である事は知っているよ!
ああ、パーティーの準備を行った方が良かったかい? 勿論、忘れてはいないさ。とっておきのケーキを準備して茶会を行おうと」
「マッドハッター、説明は任せてくれるのではなかったか?」
饒舌に、何時も通りの出鱈目さで言葉を紡ぎ続ける『想像』の塔主、Dr.マッドハッターに『実戦』の塔の責任者である佐伯 操は溜息を吐いた。
「おや、操。君だけかい?」
「ドクター、無視ですか?」
ファン・シンロンにマッドハッターは「君は何時だて私の隣で茶を淹れてくれてたじゃあないか!」とからから笑う。相も変わらずマイペースなのだ。
「ああ。生憎だが『探求の』はマザーと共にR.O.Oの観測に忙しくてね。
……トレーニングを彼方の世界で、というのも楽しそうだと思ったが、その最中に大規模なエラーが起きないとは限らない。危険だろう?」
ローレットの『マスター』からは打診もあったけれどと肩を竦める操にレオン・ドナーツ・バルトロメイは「ジョークだよ」と軽やかに笑った。彼の笑みにも興味を持たぬ操は「ジョークも真に受けるのが研究者というものだ」と白けた表情を見せた。
「これは手厳しいな。普通の女性(レディ)として佐伯女史を揶揄ってはいけないとは言われちゃ居たが……。
いや、なに。別に口説き文句を言いに来たわけじゃない。ローレットの訓練に今年も付き合ってくれるってんで直接お礼に来ただけだ」
「それはご丁寧に。だが、セフィロトでやれることも限られているだろう? 『あちら』にも連絡は取って置いた」
「『あちら』?」
「ああ。実はね。君たちもよく出入りしているであろう再現性東京2010街の『希望ヶ浜』には私の研究施設を置いているんだ。
……まあ、現時点では大問題になっていて私の出入りはあちら側から禁止されているのだけれどね。希望ヶ浜学園にも訓練に付き合ってくれるようにと通達はしている」
「そりゃ有り難い。ドクターは茶会を開いて、佐伯女史はトレーニング施設の無料開放だったか。こりゃ、鍛え甲斐がありそうだな」
揶揄うように笑ったレオンに操は「もう30も越えて40も近いのだろう。鍛え直しては?」と仏頂面の儘、ジョークを返すのであった。
●希望ヶ浜学園
「ろー れっ と と れ ぇ に ん ぐ?」
テキストを眺めて居た綾敷なじみは首を傾いだ。カフェ・ローレットに突如として呼び出された彼女にとっては慣れない時間がやってくる。
「ええ。なじみ、夏のテストです」
「違うよね!? ええ、なじみさんはちゃんと自分の学校でテストを受けてきたよ!?
だめだよ、学力測定テストなんてしちゃ。あやしいくらいに勉強が出来ないって怒られちゃう!」
慌てるなじみの声を聞いて燈堂 廻はくすりと笑った。「勉強すればいいんじゃないかな」なんて事を彼は言わない。
今日も元気ななじみの勢いに少しばかり押し負けている感は否めないが、祓い屋もローレットトレーニングには一役買うのだろう。
「廻、それに燈堂先生もご足労頂き有難うございます。
佐伯先生からローレットトレーニングに希望ヶ浜も協力するようにと言われて……まあ、この説明はするべき人が居るんですが」
「何を言う。音呂木。
俺ぁ、犬に噛まれて死ぬし棒に当たりゃスッ転ぶ。分かっちゃ居ると思うがお前等のように若くは無いんだ。
R.O.Oにまで駆り出されて雇われ者にゃ休みも無いか……いや、構いやしないが老体に鞭打つなよ、音呂木」
「口ばかり達者ですから、この人は。まあ、いいのです。先生に期待はしていません」
「酷いな」
「酷いでしょう? 私、酷いんです。
兎も角、学園では夏の林間学校やテストが行われることに決まりました。昨年開催のオリエンテーションも絶好調に再度開催。
祓い屋の皆さん側は如何なさいますか?」
微笑むひよのの問い掛けに応えるように、カウンター席で廻が淹れるアイスコーヒーをのんびりと楽しんでいた燈堂 暁月が「ああ」と頷いた。
「オリエンテーションを手伝いながら、のんびりと過ごせば良いと思っているけれどね」
「あ、そういえば暁月さん。花火大会があるそうですね! 知ってましたか?」
「うん。折角だから龍成に晴陽ちゃ――お姉さんと一緒に行ってきてはどうかと提案したらそっぽを向かれてしまって」
肩を竦める暁月の視線が追いかけたのはテーブル席で頬を只管、澄原 水夜子に頬を突かれ続ける澄原 龍成であった。
龍成と水夜子は従姉妹である。気易い性格である水夜子が龍成と、彼の姉・澄原 晴陽の潤滑油であるのは確かなのだろうが姉弟の心の溝は深そうである。
「暁月さん? どうやら、龍くんは『お姉ちゃんと花火大会』なんて小っ恥ずかしいようですよ」
「はあ? おい、水夜子!」
「幼少期のように『みゃーちゃん』と呼んで下さって、もごもご……」
大騒ぎの澄原家も此度のトレーニングには協力してくれるらしい。
一連を眺めて居る普久原 ほむらは「えーと……」と困ったように首を傾いだ。
「取り敢えず、纏めしませんか。その、えーと……やっぱ、分かりやすいって重要ですし」
わかりにくいと上司にドヤされて企画書再提出とかエトセトラ。そんな『ダークネス』な過去を持つほむらは青い顔でひよのへと言った。
「ええ。まずは、練達のセフィロトではドクターとの茶会や佐伯先生のトレーニングルームを無料開放されてます。
勿論、セフィロト内を自由に行動出来ますよ。あ、R.O.Oにはログインできませんが! アッチはアッチで中々難しいのです。
マザーとカスパール塔主は忙しいそうですのでそちらへの面会は難しいでしょうが……。
トレーニングスペースを借りてローレットのギルドマスターが稽古を付けてくれたりするかも知れませんね。あ、もちろん『こっち』に連れてくるのも良いと思いますよ」
最初からその『まとめ』を言えばこんなにも大騒ぎする必要は無かったのではとほむらは言わないようにした。
「それから、希望ヶ浜学園では夏期講習と学力テストが開催されてます。あ、臨海学校にいけるそうですよ。
臨海学校の行き先は……水族館なんですね! 良いですね。水族館。とーっても楽しそうです。イルカショーとか見れそうですよね。
それで、オリエンテーションは昨年、イレギュラーズの皆さんを招いたものなんですが……『廃校舎』が現われるので、そちらの探索です。校舎自体が夜妖なので、払えないんですが、中で死んでも死にきれないのでまあ、楽しんで下さいね。
あ、夜に花火大会があるんですよ。晴陽先生にお誘いをかけたら『うーん』と返ってきたんですが皆さんで楽しんで見ませんか?」
2021年の夏。7/29に花火大会となじみが描いた丸印。
今年のローレットトレーニングは練達で過ごしてみませんか?
- ローレット・トレーニングIX<練達>完了
- GM名夏あかね
- 種別イベント
- 難易度EASY
- 冒険終了日時2021年08月19日 23時15分
- 参加人数201/∞人
- 相談9日
- 参加費50RC
参加者 : 201 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(201人)
リプレイ
●
練達と言えば――と突発的に行われる同人即売会。その地に踏み入れて夜依子は歓喜に震えていた。
「ちょっと待って。知らなかった! 全然知らされてなかった!! この世界にも同人即売会があるの!?」
何でもあるのが混沌であるかのように。オタクにも暑い夏がやって来たと萌は兄を連れてスペースへと入った。
そして、となりサークルでアルマグナダレーナに会釈をする。開会前に新刊交換大事です。
「サークル【†Kaleidream†】の新刊は蒼剣夢よ。ぱん★ろまの公式サイトでRowlet Zeroが公開されたのは記憶に新しいわ。
私もあの大虐殺でなすすべもなく死んだんだけど――ただでは起きないのが同人屋よ。
堕ちる所まで堕ちた時に現れるのが夢主ってもんでしょ! 違う!?」
今回のPPPオンリーイベの主催であるマグダレーナは微笑んだ。さて、準備は完了だ。隣の萌も準備中。
「既に新刊は印刷所にデータ送信済みだ! 後は暑さ対策、軽食、ポスターに配布ペーパーも完備だ!
恐らく隙はない! 兄よ、出陣するぞ! 交代で売り子をやれば、他サークルの目当ての新刊もゲット出来るはずだ!!」
R.O.Oザントマン受けの可愛らしいラブリーな新刊もセット。作戦も共有済み。あ、遮那君本は意識朦朧としてたので入稿出来てたらあります。
「これよりPPPオンリーイベ『ローレット・トレーニング!9!』を始めます――」
サークルカットもバッチリ。開会の拍手が鳴り響く。
「ふひ……こういう即売会一度参加してみたかったのよね……。時間がなかったからコピー本だけど……。
ここは鉄板のえっちなヤツで……えっ、年齢制限でアウト……? それに魔法少女がそんなもん出すなって……?」
うう、と呟いた奈々美がテーブルの上に置いたのはオカルト知識を詰め込んだホラーとエロスの合体した新刊である。
魔法少女モノの同人誌を狙っていたリズは「さぁて! 張り切って魔法少女物の本を手に入れるわよ~!」とやる気を漲らせた。
「ぁ、エッチな物もあるんだったわね……まぁ、恥ずかしがる歳でもないしそーゆー物も買ってこ」
好きを形にすることは悪いことではないから。さて、素晴らしい出会いを探しに行こう。
コスプレ衣装も準備済み。恭介お手製の衣装は様々なNPCのコスチュームを始め王道のメイド服やバニーも揃えられている。因みに恭介本人は紫色の派手なスーツ――あれ、それってまさか校長先生……いえ、何もないです。
「ってことで…じゃーん、お菓子の魔女ですよ」
憂の前で勇者様風のコスプレをして居たライムは「導かれた感じの雰囲気だ!」と胸を張った。メインディッシュは勿論同人誌である。
「蒼剣の壁サーは勿論として目に付くものは買いあさってやるぜい!! 尊死しても大丈夫! パンドラがある!!」
「なるほどなのです」
魔法少女の逆位置に存在する魔女になった憂はカメラを向けてくれる人々に真っ黒な第二形態に衣装替えするサービスも行ってくれた。
「自作の本を売る催しか……物を書くのは得意ではないからなぁ。ん? 人手が足りない? 私にできることなら手伝うぞ。この服を着て売り子をすればいいんだな? 少々露出多めだが構わんよ」
いそいそと露出も多めな衣装に身を包んだブレンダ先生。一応教師。『変な用途』に使われそうなアングルはNGなのである。気付けばカメコに囲まれて大手サークルのようにポーズをとっているのだった。
「え~? ポーズ~? いいけど、こんな感じ~?」
フランドールはコスプレと勘違いされてポーズを求められる。写真を撮られる度に首を傾いで不思議そうな顔をして。
「壁の方は人だかりがすごいのね。案内図を見ると、ジャンルごとに席がわけられているみたい。
表紙で気になったものを探して、もし試し読みもできるのならしてみましょう」
ライアーは不思議そうに周囲を見回した。価値あるものは試し読み後しっかり購入を。新しい扉を開くのも悪くはない。
「突発聖域が出来たのなら、行くしか無いでしょう? ……あぁ、神よ。貴方が望む、愛に満ちた聖書(同人誌)きっと見つけ出してみせますわ……!」
聖域に乗り込んだナズナサス。ミニセーラー服を身に纏い聖書探しに勤しみ始める。
「哀しい……。同人即売会は悲劇が溢れています。特に人気サークルの同人誌の整列は、売り切れ手前のラインカットをくらった人間の悲哀が見れてゾクゾクしますね」
トイレが最大手ではあるが、壁サークルの混み具合も凄い。クロサイトは一定間隔に『バミ』って床へマーキング。告知を行って列を作成し通行の流れを完璧に作る。そんな彼に負けては居られないと冥夜はホストクラブで鍛えた神テクニックでイベントを円滑に回せるようにと列整理を行っていた。
「よーし、こちら新刊一冊ずつお願いしまーす!
うわあ、これすごいね……発想もイレギュラーズってところ? あ、これもお願いします!」
経済を回す(大切)! 紅璃はイレギュラーズの皆が準備した同人誌の『戦利品』確認配信の許可を取る。
こんな大規模な祭典だ。賑わいも激しくドリフトは熱烈なパッションとイマジネーションの集う祭典の救護班をになっていた。救護テントに設置されていたのは聖なる力を込めたであろうお守りなのである。
「ふっふっふ、今回は吾輩ひよの殿となじみ殿のホンワカ日常物の本(全年齢)を用意してきましたぞー!
あ、ひよの殿となじみ殿! 吾輩の描いてみた本よかったらみてみてですぞー!」
「一冊貰うよー!」
ジョーイは「太っ腹ー!」となじみに本を手渡した。ひよなじ新刊ありますか!
「新刊のテーマはショタと触手だわさ。うねうねぐねぐねにえっちっちな目に遭わされるショタ……たまらないねぃ……」
リルカ先生涎垂れてます。サークルとわりぼんでは各種既刊も頒布中。年齢確認は勿論必要で。PPP倫な書き込みも頑張りました。
「マジカル☆リリィ☆プロジェクト、新刊あります!」
そう叫んだのは皆の姉ヶ崎先生こと春樹である。今回はアーマデルとの合同スペースである。春樹は魔法少女マリン☆バルバロッサのコスプレを。アーマデルには魔法少女ギルティ☆ギルオス♂の着用を。
「少女なのか♂なのかはっきりして欲しい。いやちょっと待て内腿、内腿はダメだ 内腿はダメだろう犯罪だぞ……くっ制服なら仕方が……くっ……」
悔しい。けれど……アーマデルは春樹へと弾正本を差し出した。この続きが欲しい――けれど、年齢制限? え、どうして。そんな。
「随分と盛況なイベントなのだな。なになに、ザントマン愛され総受け本? レオンアンソロジー? ……何て?」
8號は真顔であった。恭介から衣装を借りて猫耳メイド服姿の8號は戸惑いを憶えて居た。見覚えのある人々が普通に販売されている……。
「……花琳さん……確かに俺は手伝いをしますと言ったよ?
……けど何で魔法少女姿で売り子しないといけないんだ! しかも俺の薄い本なんて……聞いてないぞ!」
愕然とするカルマの傍らで畜生、失礼、アザミが「流石花梨なのでち!」と称賛を送っている。伽藍堂写真館のサークル主である花琳は「……そういう対応なら遠慮なく!」と本ではなく写真集を置いたのだった。勿論、マジカル★カルマ写真集と一緒に各都市の風景写真をセットにして。
フランは唐突に脳内に浮かんだゲルツ夢小説を書き置きしていた。練達技術で名前変換OKです。
鉄帝の農村生まれで、スチールグラードに季節に一度の買い出しに来ていたんだけど……ぶつかってきた男の人にアイス零しちゃったの!
謝りもしないからもう怒ったら「お前、面白い女だな」って担ぎ上げられちゃってそのまま鉄帝国保安部で働くことに――!?
ぶつかった男――ゲルツ・ゲプラーは笑いもしないつまらない男であたしにも冷た以下略
「……ふふふふふ、そりゃ会場があるなら新刊を出すのも当然の摂理だよなァ。
既刊のザントマン受け本とか、はたまたネタじゃない方でリリファの本とか――」
カイトは次回予告に『実録ツルペタストーン探索隊』を用意していた。バレなきゃセーフとは言うけれど、その本、買っていったの誰か見ました……?
澄恋の同人誌を買いに走るレベリオ。サークルはすみれに任せて澄恋はと言えば『蠱惑的なデスボイスの発声』を買いに走っていた。旦那様錬成研究は滞りなく進んでいるのである。
新刊:すみれすてぃーに 夏号(須美礼錬成研究開発機構出版部) B5/94p/全年齢/200G
既刊:すみれすてぃーに 梅雨号(同上) B5/12p/全年齢/100G
「同人誌ねえ、初めて見るけどこれ皆素人なの!?
表紙の力の入れ様とか本屋さんで売ってるのよりも凄いし……なにより作者の念というか『圧』が濃い」
驚愕するかぐや。ふと、旦那様錬成本以外を見遣れば――あれ、見覚えのあるギルドマスターやら帽子屋やらラド・バウファイターやらの本が……?
「此れはフリーペーパーです。ご自由にお取りください」
すみれの用意したフリーペーパーは何とも念が込められていたのだった。
要旨:錬成したヒトの部位からの発声を解明するため皮質電気刺激により言語野を検討し,環シルビウス溝言語領域の異常はないことを確認した。また皮質脳波検査を用い……
「ああ、知ってる知ってる。金が動き物が動き、でもその本質は情熱の追求にある、ってとこだろう?」
頷いたウーナは何となく理解してくれているような雰囲気であった。冒険者の集まるこの空間でだって不届き者は現われる。折角の楽しい時間ヲ邪魔するモノを排除するために警備に回ると訪れたのはステージフロア。
即売会会場の外ではレディ・ガーネットこと彼方がライブ中。即売会に訪れる歴戦の戦士達の応援にきらりと汗が光る。
「みんなー! 今日も来てくれてありがとうねー! 同人即売会のほうも、みんな足を運んでくれると嬉しいな」
「次は獅子系アイドル『獅子神伊織』の出番ですわ! 私の歌を聴きやがれ! ですわ!!」
マイク片手にRockなリズムで歌い出す伊織。はちゃめちゃなライブでも、盛り上がれば正義なのです。
●
夏――練達の暑さも極まれり。夏と言えば朝はラジオ体操だと雄斗はスタンプカードにポイントを貰って――そんな希望ヶ浜の朝は涼やかだ。
希望ヶ浜には『テスト』シーズンが到来していた。夏期講習もある。その準備をホーは続けて居た。人の往来が激しくなれば何かとトラブルがある。用務員さんは夏休みでも大忙しなのである。
「まあ、これが学力テストと云うものなのですね。初めて見ました」と驚くヘイゼルの傍らで、テストを熟知して居るような顔をしてアルプスは「なるほど」と呟く。
「唐突だったので一夜漬けすらできないしヤマカンを狙おうにも綺麗サッパリテストの内容が頭に入ってこない。
――そうだ、カンニングしよう」
酷い判断をしたが、賛同する悪い奴等は居る。連鎖行動を起こして組織的な華麗なカンニングを行う千尋。
これがチームプレイ。青春だと胸を高鳴らす彼の背後でぴしりと手を上げて、教師の意識を逸らしたのはフィーア。ドローンがいきなり飛んでってしまったと教師の髪に絡み付くその間にホロウはチラッと隣の席をチェック。
(………えっやっば全然分からん。えっ、ちょっ、他の人なんて書いてんの!?)
消しゴムを落したのでその間に誰か答えを教えてください!
「おいおいおいおい! 見ちまったぜぇ? つうわけでそこのテメェら! ……いくら出す?」
唇を吊り上げたゲンゾウに何のことですかと光の速さでなかったことにするアルプス。
「………これは……結構いいところまで行けるんじゃないかな……?」
真剣に学力テストに挑んでいたグレイルは背後で起こっているカンニング騒動には気付いていない。方程式は獣式を組む時に使ったものと似ていた事で容易に解けてゆくのが楽しい。
学生服姿で座席に着いたヘイゼルはそもそも此処は誰の席だったのだろうかと思案した――答えは出ない。適当に再現性での勉強を見るが、成程、分かるわけもなかった。しかも、名前欄が空欄だと『0点』で決定だった><。
「よーっし、今日も希望ヶ浜学園で助っ人稼業頑張るぞ……って、学力テストぉっ!?
アレ? もしかしてこれテストで皆忙しくて部活も一時的に活動止めてたりするところが多い感じ?」
何時もは助っ人役であった操も今日という日は部活ではなくテストの勉強会に駆り出される。天才肌である操は『他人に教えるのが苦手』である事にだけは気付いてはいなかった――
夏期講習へと参加を促されることとなった彼等を見遣ってからシャルロッテはゆったりと椅子へと背を預けた。
「夏期講習……夏期講習ね……悪くないんじゃないだろうか。
愚者は教えたがり賢者は知りたがる…とも言う、一般的な学力は軍師として軽視できるものではあるまい」
軍師でも大人しく座学を受けるのだから、皆さん良ければしっかりと勉強に励んで欲しい。
「おかしいな? つい最近テストは受けた覚えあるけど。年一でよくね? 意外にも(意外じゃない)俺の成績は常にあやしいので当然お勉強決定である」
モノローグのように呟いた眞田は教科書と睨めっこ。残念ながら暁月先生も『見逃して』くれなかった。けれど、頭が良ければメンタルもぶっちぎって――屹度、素晴らしい花火が見れる気がする。この戦いが終わったら、が付属してしまうけれど。
勿論、場外戦術も必要だ。テストのために勉強を行うルアナを支えるグレイシア。ローレットでの活動で欠席が嵩む以上は成績は高得点を修めたい。
「おべんきょできなくても、喫茶店のマスターのおくさんならできるもん。わたしも水族館行きたかった……」
「店舗経営を行うのであれば、相応に学力は必要になるのだが……ふむ……それならば、テストが無事終わったら水族館に行くとしよう」
ご褒美にルアナの眸はきらりと輝いたのだった。
「はじまる前から残念会するのもなんだけど、やっぱり数学はどうしてもわかんないや……たぶん追試だろうなぁ。
四則演算まではともかく、方程式とかxだとかyだとかがつくやつはどうにも……いったいなんなんだよ暗記しきれないよ!」
頭を抱えたチャロロにミシャは始める前から諦めないでと特製プリントを差し出した。
――だが、現実は無情である。京は頭を抱えてがくりと項垂れた。結果が出てなくても追試が待っている。
「学力テストー!? なんでなんでー!? どうしてー!? ぜんっぜん分からんかったー、赤点確実じゃんー!?」
「大丈夫ですよ。何か書いているだけでも。何となく半分ぐらい当たってる気がします!
補修になっても大丈夫、わたし座ってるだけとかもけっこう得意な方なので!」
鉛筆転がしのフィナの幸運が此処で発揮されていれば良いが――
「美術部顧問としての活動は久々だが、生徒に対する『思い』は変わらぬ。我々は一切あやしくないもので、人間性の塊だと刻めないか。真実、それを証すには芸術活動が正解なのだよ。貴様――」
オラボナは彫像をなじみに解説していた。全く分からないと言った顔をする彼女は作品を提出し褒められたことに心の底から喜んだような表情を見せたのだった。
夏期講習の講師を務めるチェルカは優秀な生徒ばかりで教え甲斐があるのだと笑みを零す。成程、テストを受けなかった生徒達も夏期講習には多いのだろう。
「きりーつ! れいー! ちゃくせきー! という事で先生、よろしくっすねー!」
リサは機械工学や工業が特異である。その他にも生物学や解剖学にも精通はしたけれど――そう、今日、受けるのは苦手な文系科目なのである。
リサが困惑した様子で文系科目に挑む傍らで、ライは珍しいとノートにシャープペンシルを走らせる。
(しかし……これ……延々と教師が喋って……最初は物珍しかったけど……段々、眠たく………)
日本史の講習を行っているゼフィラはこう言う時だからこそ仕事はしておかねばならないと夏期講習に精を出す。
「さて、次のページだ。ま、日本史なんぞ学んでも役に立つ場面は少ないというのもわかるさ、特にこの世界では。とはいえ最低限、赤点くらいは回避してもらわないとね」
説明を聞きながら砂織は困り切った表情をして居た。傍らには棒アイスを食べているまりあが座っている。
「ソーダと梨、どっちが良い?」
「は? キレそう。 言うてもまりあサン、去年まで学生だったんデスよね?」
答えを助けて欲しいと拗ねたように見遣る砂織にまりあは分からないと静かに首を振るだけだった。
そうして夏休みの貴重な時間を費やしている生徒を見詰めてからライは学生って大変だなと呟いた。学んだからこそ保健の先生という仕事が出来ていると思えども、『現役時代』はそれはそれはいやだった。熱中症の生徒が出ないように気を配っておこうか。
夕暮の道で待っていたのはもつ。
「夏期講習今日の分終わりましたかね? 夕餉一緒に行きましょうよ。アソコのお肉お安いけど食べ放題でアドなんですよアド。アドってなんですかね?」
あやしくないお店だから問題は無いですと笑いかけるもつになじみは「美味しいのを食べようね!」と微笑んだ。それなら、夜は百物語でも楽しもう――屹度スリリングな時間が待っている。
「オニちゃんは詳しいな」
希望ヶ浜学園内を案内するのはオニキス。ジルコルニアは学食を覗いて――人だかりに驚いた様に彼女を振り返った。
「……! あれは……限定大盛メニュー……!? 急ごう、ジル子。ここは戦場になるよ」
「了解だ……! 掴まれオニちゃん、突撃する!」
●
希望ヶ浜の夏はまだまだ盛り沢山。普通の学生たるもの臨海学校は楽しみたい。
「はいどうも! 『Ptuber』のアリスです! 今回はー……希望ヶ浜学園の臨海学校にて、水族館にお邪魔しています!」
キャロは『アリス』として水族館を紹介。広告ティッシュで水族館関係者には根回し済み。見所や人気スポットをフューチャーして宣伝塔を務め続ける。
「水族館、行った事が無い場所。気になる。
魚が沢山……綺麗なものも、大きいものも。くらげ? うみうし? 知らない。でも、綺麗で、可愛いと……思う」
ビアンカはぱちりと瞬いてそれを眺めて居た。じい、と目をこらして眺めるだけ。その時間をのんびりと過ごすだけだ。
ワルツは遊んでても良い仕事。ほむらを連れて水族館へといざ参らん。サメやカエルを眺めて居れば背後からほむらが巨大なオオサンショウオ人形を差し出してくれる。
「わ! それを持ってペンギンいくの?」
「行こうかなって。……好きそうだと思って」
ワルツより巨大なウーパールーパーと共に何を考えているか分からないペンギン集団の観察へと向かおうではないか。
ペンギン――ではなく、ハワイは同胞達の楽園を眺めて居た。地獄の生活を強いられているわけでもなさそうな同胞を一瞥してから、水生生物たちをじいと見にいこう。突然ペンギンがしゃべり出すのもパニックの元だ。今日は静かに佇むだけにしておこう。
「なーじみさん! あーそびましょ!」
イルミナはどれから回ろうかとパンフレットとにらめっこ。なじみも「むーん」と小さく唸って。
「……あ!見てくださいよこれ! コイン刻印機ですって! オリジナルの記念コインが作れるらしいッスよ!
……いや、わかってるッス。わかってるッスよ? これを持って帰っても正直持て余すというか、帰ったらあんまりいらなかったな……ってなるのは!」
「でも、なじみさんと遊んだ記念だぞ」
頬を突かれてイルミナはならいいかなあと笑みを零した。
『伏見先生』を遠巻きに見詰めて居るファン達と、自身にファンレターをくれるプリンセス。
そんな彼女等を一瞥し、口元に人差指を当ててウィンクを――『ごめんね、今は白衣のお姫様をエスコートしているのさ』
そんなアントワーヌを一瞥して行人は「煽るなよ」と囁いた。
「楽しいね、伏見先生?」
「……お前が高等部の生徒じゃなくてよかったよ」
美し水槽の前で、悪戯めいて微笑んだアントワーヌの額をこつりと小突いた。
「とってもにあうよ、ファニーおねえさん!」
学生服姿のファニアスにえくれあはこくこくと頷いた。
「えくれあちゃんは元々、学生ちゃんなんだっけ?」というファニアスの問いにえくれあは先輩だと胸を張ってから逸れないようにと手を繋ぐ。
「あ、あれはね、マンボウっていうんだよ! かわいいよね!」
「テストの結果? 安心して頑張れる程度には花丸ちゃん頑張りましたっ!」
胸を張った花丸。実はひよのに泣き付いたのは――秘密である。水族館にレッツゴーとひよのを連れて走る花丸の背後を待ってと追いかけるのは定。
夏休みに学校行事でも水族館とか恋愛偏差値高すぎて少年漫画ラブコメボーイには少し厳しい。
「何から見にいくの?」
「皆は好きなお魚さんいる? 花丸ちゃんは変わったお魚さんかも。カピバラさんもかわいいよね!」
「花丸さんが良いですね」
見てるのがでしょと拗ねる花丸にひよのは笑った。定はふむ、となじみを見詰める。
「そうだな、僕は小魚の群れを見るのが好き。彼らは自分が一人じゃ生きていけない事が分かってるんだ。
だから群れて大きく見せる。健気だろ? なじみさんは魚とツーショットが良く似合うね」
「猫だから」と笑った彼女に「じゃ、猫さんはイルカショーもどうだい?」と飄々と返して。
「わぁ……っ、見て! 大きなお魚が通ったわ……! あんなに大きいのに、どうして沈まないのかしら?」
リヴィエラは学校に通えるだけでもドキドキと胸が高鳴るのに。こんなにも沢山の生徒達と一緒だとはと笑みを零して。
お土産屋さんの海月の帽子を被って角を隠して。御父様や御母様にも見せてあげたい世界に夢を見る。
「綺麗ですね」
微笑むひよのにリヴィエラは「ええ!」と微笑んだ。猪突猛進、真っ直ぐに飛び込んできた秋奈は「ウェーイ!」とピース。
「ひよの先輩ひよの先輩ーっ! 水族館ですよ水族館! 臨海学校楽しむのだー!合法的に! いやあ、台風様様だぜー! サマーだけに! ガハハ!」
何処から回ろうかなと考えて。思い出が出来るような場所を探す秋奈の目的地を探すのはひよの。「先輩に頼りなさい」と言ってくれるだけで嬉しくて。
「そういえば秋奈さん。学力テストは」
「……ひよのパイセン? かわいいおかおがえらいことになってますぜ?」
●
「皆様ご存知ローレットトレーニング!!! 9度目の!!! ローレットトレーニング!!!!
そう!! 人が集まる布教の時ですわ!!! この度も何名か教徒の皆様にお声掛けが出来ましたので新たな教徒獲得にいそしみましょう!!」
ヴェルフェゴアが堂々と宣言する。イーゼラー教は今日も布教活動中だ。革命的な『布教ウイルス』を駆使するのも素晴らしい行いのように感じてしまう。
弾正は何時かは布教が来るとは思って居たがR.O.Oの事には触れられないように、そして希望ヶ浜のことにも触れないように――
「ドーモ、イーゼラー デース……はっ。ROOで助けた学園生徒君?! しーっ! 先生の事は内緒だぞ! 絶対約束だ!」
誰にだって知られたくない事はあるとでも言うような。そんな弾正とは対照的に自身の趣味をアピールするのはピリム。
「イーゼラー教、興味はねーですかー? 貴方の趣味のお役に立てるかもしれねーですよー。
現に私はこの教団のおかげでこんなにも充実した生活を送れていますー。ほら、この脚……素晴らしいでしょー?
さあ、こんな便利な宗教は他にはねーのですー」
「はい、現場のアンゼリカでございます。魂とは科学で解明出来る物なのでございましょうか?
ではただいまよりこの不肖アンゼリカ、操さまにご相談しすげえくそめんどくせえというお顔をしながら開発して頂いた『より良き魂ツクールくん』を試してみたいと思います」
アンゼリカが引き金を引いて、パンドラが――尚、操は「バカを治す薬はあっただろうか」と呟いたのである。
「と言う訳で操殿。マザーにも『イーゼラー教』の素晴らしさを知ってもらう為に布教させてほしいのだ! アバター作れ? ど、どうすればいいのだ!」
「マザーが知るかは兎も角だが、アバターはこうして……こう。そう、上手だ」
何だか褒められていると素晴らしい気がしてきてしまうネメアーなのだった。(筋肉もついでに盛り上がった)
「はいはい、ごめんなさいね。うちの上司や同志諸君がご迷惑掛けたみたいで。回収しに来ましたよっと。全く尻拭いとか柄じゃないってのに……」
肩を竦めるバストはそれでも、殺し合いに関しては有能な面々だ。コレからもよろしくと囁くのだった。
「クヒヒ! 夏の納涼の定番の一つではありますね……怖い話。
しかし……『百物語は百話語ると怪異が起こる』と聞きますが……どうなるか気になりますねェ……クヒヒ!」
唇を吊り上げ笑ったあやめが語るのは『首輪が足りない』という話であった。
ついで、アエクは『トトリ様』を語る。
――曰く、戸取様。戸取の鳥は閉ざした心も開く神様だ。麦のひと粒を備えて願えばたちまち戸を開く神様だ。
曰く、外酉様。酉の方角の外を守る神様だ。そちらに金の粒を供えればトトリサマが守ってくださる。どれもこれも嘘である。
黄昏時、小鳥が人間に集っている。それは脳髄を啜り頭骨を奪い去って行った。ああ、あれが『頭盗り様』であったか。
(あわわ! うう……早く終わって欲しいのです……)
ハクはアエクとあやめの話に頭を抱えていた。それでも語る順番はやってくる。表情を変えぬ水夜子と怯えきって彼女の背後に隠れる亮を一瞥して語るのは『人間蠱毒』
蠱毒を人間で行う代物。げに恐ろしきは人ではあるまいか――そう語れば八尺ちゃんが幸村の背後に隠れた。
「じゃあ、さとるくんの話をしようか。公衆電話から携帯電話にかけて『さとるくん、さとるくん、おいでください』と唱えるとそれから24時間以内にさとるくんから携帯電話に電話がかかってくる――」
「あ、それって『良く見る夜妖憑き』に似てますね」なんて笑った水夜子にやっぱり恐ろしいのは人間ではないかとハクは確かめるように頷いたのだった。
「希望ヶ浜学園、私も興味あったのだよ。制服が可愛いし、どこか昔、この世界に来る前を思い出すし……
何、オリエンテーションが行われているだと?ぜひ参加させてほしい」
そう頼んだ沙耶を連れて歩むのは無意式校長だ。共に往くと選んだのはアルクである。錬金術の講義はどうやら希望ヶ浜には存在して居ないようだ。
「そういう神秘的なのはセフィロト本体での方が得られるかも知れないな」と校長に宣言されてアルクは参考にしようと頷いた。彼自身は怨霊を信じていない――夜妖なんて殴れば死ぬのだ。
仲間となる在校生達と共に旧校舎の怪異に折角ならば挑もうではないか――それも、『先輩達』が丁度一年前に挑んだという夜妖の再体験として。
「はじめまして、ボクの名前は紫陽花です。今日からぼくもたくさん活躍していきます」
その前に、紫陽花はセフィロト内の観光を。車やバイクの操縦方法も学んで見れば奥が深そうである。
トレーニング施設で自身の技を磨き研鑽を積むのはR.R.。静寂の中で、銃を構え――ターゲットを定める。自分自身すら消え失せたかの如く、集中を極限まで高め引き金を引く。
狙撃とは、己の心との戦いだ。針の穴すら徹すように――一切の微動をも許さぬように。
トレーニングルームで筋トレをする咲良。腹筋、背筋、二の腕トレーニングに有酸素運動。文武両道は正義の味方に大事だから。
そう、これは現実逃避なんかじゃない。数学が嫌いで、数学がピンチかも知れないという現実から逃げているわけではないのだ。
何時もなら幻想を走り回る葵はサッカーの練習用シュミレーターと向き在っていた。流石は練達。何だって存在して居る。動く的当てゲームでパーフェクトを叩き出すためにいざ――!
「ところで、希望ヶ浜学園では問題ないと聞いているが、再現性東京では当機のような一般的人間種から外れた外見のものが姿を見せるのは難しいらしく」
アニエルは一先ずは人形であるのを悟られないようにすればと思ったが難しいとそう言った。その質問にうーんと唸ったひよのは「衣服で隠せる部分は隠してしまえば違和感は何となく消えますよ」と微笑むのだった。
「我こそが200人目のイレギュラーズ!」
そんな風に胸を張ったリインはふんすふんすとピンク色でガラの悪そうなサンドバックをぱんち! 殴るよ!
リインと同じようにまじめにトレーニングに勤しんでいるのはレニー。的のただ一つへと踏み込みから全力で。出せる最速で駆け巡る。持久力と擦れ違い様の打撃にだって気を配る。百獣の王は決して敵を逃さないのだから。
「さてと……ここなら多少暴れても平気だろうし、的として木人が置いてあるのもありがたいな。
さあて……R.O.Oでの……ミドリの時の戦い方をイメージして……窮地にあってもそれを力に。
――今まで踏み込めなかった一歩先に……! いざって時に大切なものを脅かすものを斬り伏せれるよう……更に刃を研ぎ澄ませて……!」
アオイが踏み込めば、リウィルディアはその様子をまじまじと見遣る。捨て身の戦法。背水の攻め。傷付いても動き回る。
血の一滴をも力に変えるその戦い方は『僕を護ってくれる』為のもの。なら、君を護るのは――
「ローレット・トレーニングももう9回目、ですか。今回こそ深緑へ里帰りをと、思ったのですが……何ですかレオン君!
今、暇? 練達まで来てよ。俺も待ってるよ。だなんて! ……私も忙しいのですよ!?」
そう言いながら水着でやって来てしまうドラマ。水着に合ってますか、なんて聞いてしまったら――もう、帰れない!
ルビーにとって、この機は稽古を付けて貰える貴重な時間だ。シュペルの塔に登ったときに実感した自身の弱さ。もっと強くなりたいとレオンにねだれば『可愛い女の子』からの一声に彼は大きく頷くだろう。
「いろんなところに行って、たくさんの人を助けられるように。それが私の幼馴染のスピネルと一緒に約束した、私たちの夢だから」
――他の男のためと言われれば、歴戦のギルドマスターもいまいち決まらないけれど。
「わたくしもトレーニングをしていただいてもよろしくて?」
トレーニング施設でのウォーミングアップを終えた弦佳はイケメンを探すように目を細めた。
●
セフィロトへと向かい、お店のアイデア出しを兼ねての観光へ。ヨタカにとっては愛しき月とのデートへの期待も込められる。
「今回は新しい商品・事業のアイデアを得るという名目で各地の招集可能な支部長たちを集めたよぉ。先進的なセフィロトであればいい刺激になるからね」
お仕事モードの武器商人――紫月に、可愛い小鳥は見惚れるように目を細める。「ヨタカ、ちょっと休憩しよう」とクレープを分け合うだけでも喜ばしくて。
そんな二人の代わりに引率を引受ける京司は「あ、そこのクアトロさん! 捕まえて!!」と叫んだ。
「ほーら、ネリウム。あの薬は私も気になるけど変に動いたりしないの。あの売人の方がここをホームグラウンドにしてる分、一枚上手だわ」
囁くクアトロにどこか詰らなさそうな顔をしたネリウムが「邪魔するなよ」と唇を尖らせた。
「ここがせふぃろと、か! すげぇな、見たこと無ぇものがたくさんある」
驚いた様に周囲を見回す命は旅人達の持ち込んだ異文化に圧倒された気分であった。海洋担当の以蔵にとっては航海で役立つ品は魅力的だ。
ネリウムが走りようとすれば「おい」と肩に声を掛けるのは忘れない。迷子は禁止なのである。
練達はあまり経験が無くて。『てれび』も『ほろぐらむ』も不思議な料理だって沢山揃っているモモカはお小遣いの詰め込んだ鞄を眺めてから決意する。
「――決めた、今度くるときはおこづかいたくさん貯めていっぱい買い物するんだ!」
シャスラは興味深そうに周囲を見遣る。決して広くはないこの都市にも様々な形がある。懐かしさを感じる機械文明の精髄により沿って、かりそめの平和を守ろうと心に刻むだけだ。
注文をするリヴィエールにニアはまるで呪文みたいだなと感じていた。甘いものが好きそうな彼女の為と思ったのは否定しない。別に甘いものは嫌いではないから、二人で行きたいとニアが言えばリヴィエールは「一番好きなのをさがそうっすよ」と笑った。
「正直、自分の事って難しいな、って感じなんだけどさ。自分の事なんか考えた事も無かったし。
一緒にいきたい所とか、一緒に食べたい所なら、思いつけたんだ。だから、しばらくは二人一緒って事で……練習に、付き合ってもらえると嬉しいよ」
親友の提案ならば勿論だと微笑む彼女は嬉しそうに目を細めて。
槐が見て回るのは希望ヶ浜。学校にファミレス、コンビニ。懐かしいモノが勢揃い。随分と遠いところに来てしまったのだというそんな感覚だけが傍で寄り添っている。
「再現性東京ってところはすごいですね~私がもともといた所とそっくりで~ということは……あれあるんですかね。
ゲームセンター! この世界でまさかゲームができるとは思っていなかったので楽しみです」
心を躍らせ、ゲームセンターへとゆう姫はいざ突入して行く。
そんな再現性東京でも『怪しいバイト』は存在しているようで。ber.は「ちょっ! 良いバイトって解剖じゃないかでごわす」と引き下がった。
「しかも解剖される側じゃねーか。ふざけんじゃないでごわす。師走は逃げさせてもらうでごわす!!」
都会は怖いところなのである……。
「金は闇カジノで荒稼ぎすりゃ手に入る! よし! 皮算用? ふっふつふっ! 俺の磁ビールがありゃ荒稼ぎも夢じゃねぇのさ!
……え、飲み物の持ち込みは禁止? あ、はい。く、くくく。上等だ!! イカサマがなんざしなくたって実力で稼いでやるよこのやろー!!」
――ニコラスは入浴剤やらアロマやら、美味しいモノを『騒動を抑え込んでいるメンバー』にプレゼントしたかった。其れが叶ったのかは……。
流石は練達、賑わいは旅人達が作り出しているのだろうか。
ウルリカは焼き鳥を食べながらぶらりぶらりと歩き続けて。
「……さて、開かれている同人誌即売会とやらもとても気になるんですが、この間に『読書に浸る』を実行しましょう」
そんなリンディスは再現性東京で神保町をモチーフにした場所を廻っていた。世界一の本の街(旅人曰く!)と呼ばれた本の聖地での古書巡り。
心躍る紙とインクの世界へいざ浸らん。
服を買いに行こうとヴェルグリーズは星穹と共に街を歩む。服を選ぶのが苦手な彼女は化粧と香水の匂いに、店員の値踏みする目、女の嬌声。どれにだって心細さを感じて。
「それじゃあ今日は秋の装いを見て回ろうか。星穹殿は髪の色も明るいからベージュやオリーブなんかのシックな色合いや、少しくすんだピンクや黄色なんかの明るくて優しい色が似合うと思うんだ」
彼女の服、と。其れを考えていたヴェルグリーズは竦む星穹に手を差し伸べて。きっと、大丈夫だ。何も恐れること何てないと彼の手を取れば理解ってしまうから。
「うお、随分と妙ちきりんな町だなここは。空にも天井が広がってんのか?
海向こうの暮らしに興味が湧いてこっち来たはいいが、行くとこ見るとこやべーもんばっかりで驚かされっぱなしだ」
ドーム型都市であるセフィロトに驚愕した千之は不思議そうな顔をして周囲を見回した。
のんびりとセフィロトの探索を行っていたエクレアは一人で探索する理由は聞かないでくれとそう言った。好奇心に従って赴いて、スイーツを巡りながら情報を貪ろう。塔などの調査は操やマッドハッターに頼めば中には入れてくれるだろうか。
●
「マッドハッターさんとお茶会……はあ、イレギュラーズ特権ってすごいですね。本来、こんな末端なんかが御目通り願うのも簡単では無いと思うんですが」
そう呟きながらも幼児の姿でうんしょと椅子に座った天灯は「あ。ケーキは結構です。紅茶にも砂糖は要りません、甘党じゃないんで」と断りを入れた。
「特異運命座標(アリス)、眠くなれば無理せず眠るのだよ」
――どうにも、優しい上司なのである。
Dr.マッドハッターのティータイムに参加していたリュグナーにとって彼は『練達の有力者の中で最も理解に及ばない存在』であると認識して居た。
話をして見れば全てに対して好意的に答えてくれるが意味を受け取るのがやっとだ。
「また、いつでも依頼を持ってくるが良い。そうすれば……次回の茶会の土産が増えるやも知れんな」
「ああ、楽しみにしているよ特異運命座標(アリス)。所で君の誕生日パーティーを明日行おうかと思うんだが」
成程、確かに『終わらないお茶会』だった。そこに飛び込んだのはロクちゃん。相変わらずの子ロリババアも一緒である。
「亮くん、あれから仲良いお友達たくさんできたみたいで良かった! メカ子のクララも喜んでるね!
わたしのメカ子にも久しぶりにケーキ食べさせなきゃね! ほら!
マッドハッターさんならメカ子用に頭突っ込んで食べやすいケーキやお茶菓子用意してくれてるって! 皆で食べよう!」
「ロクちゃん」
「どうしたの? カ子には定期的にケーキは食べさせないとだめだよ!
食欲がないように見えても、こうやってケーキを顔面モニターにぶん投げれば……ほら食べたァ! 落ちたのは生ロバが食べてくれるよ」
「ロクちゃん!!!!!」
それは食ってないとは言えない亮なのであった。
「私もだけれどマッドハッターさんはお茶会好きだねぇ……! 大好きな人と好きなものが同じってとっても幸せ!」
にんまりと微笑んだウヅキ。プレゼントもメイクも服も全ては彼に可愛いと言って貰う為に――けれど、一番の不幸は彼が『アリス』と呼ぶことかも知れないと何時もの通りに取り繕って。泡になって仕舞いそうな気持ちを奮い立たせた。
アリスの格好を纏って茶会に参加するアドネに対してマッドハッターは「可愛らしいアリスだね」と囁いた。茶会の席では美味しいお菓子やケーキ、紅茶を楽しむことが出来る。
「お茶会だなんて素敵じゃない? アタシの居た世界は……ディストピア? ポストアポカリプス?
そんな感じで荒廃してたからこういうの(嗜好品)は組織の上層部が独占してたのよね……」
だから楽しみにしていたと深白は微笑んだ。
「あははは! なんでもない日に乾杯、ね!」
「ああ、特異運命座標(かんぱい)。なんでもない日に乾杯」
微笑んだマッドハッターに面白い話を聞かせてと深白はせがむのだった。
かんなはマッドハッターにご挨拶を。茶会の作法は勉強した――けれど、誰かとの茶会は初めてで。表情筋がもう少し動いてくれればと呟いたかんなにマッドハッターは「少女(アリス)は何時だって自由な方が良いのさ」と揶揄うように微笑んだ。
「マッドハッター様。お初にお目にかかります。練達宗教法人『羽衣教会』会長の楊枝 茄子子と申します。
さしあたって、マッドハッター様は宗教に興味はございませんか?」
突拍子も無い言葉を発した茄子子の傍で逃夜は「ゔぁ゛あ゛!?」と叫んだ。手袋君がマッドハッターの帽子を掴んでいるからだ。
「『清きを続ければ、人は翼を手に入れ天へと至れる』。これは羽衣教会の教えの一つです。
宜しければ、こちらの聖書にお目通し頂ければ幸いにございます」
――そして茄子子に視線を移したマッドハッターの紅茶に手袋が悪戯をして。慌てて逃夜は紅茶を入れ替えた。黒手袋は大人しくしていてと叫び出したい気持ちで一杯だった。
「羽衣フーズ、オリジナルブレンドのお茶でございます。こちらで喉を潤しながら、ゆっくりと読書をお楽しみ下さい」
「ドクター、装備の確認をお願いします。今までのシュピは、相手を引き付ける戦闘はできませんでした。それを何とかできませぬか?」
練達の研究室でSpiegelⅡが問い掛ければぐいぐいと装甲を押しつけてくるのは紅宵満月こと遥。
「ふむ。全身のナノマシンを発光させて非常に目立たせる? ……。1680万色とかいかがです? きっと敵の注目を集めるでしょう」
「ゲーミングシュピちゃんだ!」
地球人も多いと聞いた。科学者も多いと聞いた――つまり……地球にいたモフモフたちについて聞くチャンス……。
リカナが期待すれば猫カフェとか行く? と遥はチケット片手に提案をしてくれる。
「確かネクスト以外のVR系ゲームがあったよな……今回はROOのログインは制限されてるし、無名偲・無意式先生のところでも良かったが。
今は大きな異変が起きているROOの方が重要よな。何かあるか?」
問い掛けるマニエラに遥は「操先生に今出来るの聞いてきますね-」と声を掛けた。国家事業であるR.O.Oと似たフルダイブが行えるならば今後にも役立つだろう。アレイドスピーアもR.O.Oはメンテか、と呟いてからネットサーフィンに洒落込んでいた。
「さすが(ボクの)珠緒さん、目の付け所が違うわね。
仮想世界、VR技術への理解を深めれば、中で今まで以上により効果的に立ち回ったり看破したりできるようになれそうだもの」
そう微笑んだ蛍はログの解析やバグについての造詣を深めておきたいと提案した。(蛍の)珠緒は操の紹介でVR関連技術者である遥へと問い掛ける。
「主に仮想世界構築の骨子と、アバターへの情報入出力機構が知りたいですね。
珠緒が細かい理屈も覚え、蛍さんには概要を掴んでもらえれば、他の方とは異なる視点を二種得たことになります」
「でも、お二人が探しているのって――……データベースみちゃったんですけど。『姉ヶ崎』さん、でしょ?」
遥の問い掛けに珠緒と蛍は頷いた。その『バグ』を解消するためならばどんな努力だって惜しまない。
「はい! 私は物部ねねこ。ROOではアカネって名前で遊んでる人間ですね!
今日はROOの話を皆でしたくてオフ会を開いたんですけどねぇ……誰一人参加者表明がありませんでした!」
「紅宵満月先生じゃあ駄目すか?」
つんつん、ねねこの頬を突いた遥。取り敢えずはR.O.Oの情報をWikiにでも纏めていこうかとぼんやりと考えて。
「せ、せっかく、ですから……R.O.O内でやってみても良いかも……ふぇ!? ログイン……できないんですか!?」
衝撃を受けたフローラ。皆に混ざるのは緊張するとこそこそ、おどおど。セフィロトの中を歩き回る。陰気な場所に収まっていたいと思えばあれよあれよと遥に掴まり研究室で涼むこととなっていたのだった。
●
『―――』はどんな複雑な長い注文でも『―――』で伝えることが出来るのだと喫茶店で手伝いを遂行していた。
喫茶リトルフェザーに来てくれたお客様の接待を行うルシアは「ミリー!」と親友を呼ぶ。
「ゲームの世界に入れる、というのもあるのでして。せっかくなので、お客さんが来る前に練習しておくのですよ!」
「へぇ……そういうのもあるのね」
成程、戸頷いたミリアムはルシアの説明を受けながら喫茶店に訪れるお客に向かい合う。
「ひゅー、トレーニングですよー。こう、近代的? な生活ってこちら側では珍しいから懐かしさすら覚えますね」
四音はトレーニングにかこつけてだらけるのは喜ばしかったピザやら炭酸飲料をお供にだらけたいが、書き手としては周囲のお手入れには気を遣っておきたいところ。
「わたしセティア。エアコンていうののやつ、やばいっておもう。
夏なのに涼しい部屋ってぜったいやばいっておもうし、居るだけでトレーニングになるっておもう、たぶん」
エアコンの効いた涼しい部屋でセティアはだらりとだらけていた。エアコンに興味津々なポチを連れてきたのだという潮は「文明の利器じゃのう」と小さく呟く。
「機会があったら皆にも広めたいのう。セティアや今回はありがとさん」
「エアコンに感謝すると良いと思う。えーほんでゲームしてよ。いっとくけど、わたし今日までに溜めた無料石とかでガチャとかもひくから」
堂々たるセティアにだるっと落ちていた汰磨羈は「当たるか?」と顔を上げた。
「うぐ……冬はこたつが一番だが、夏はやはりエアコンに限るな……。
うむ、これは熱中症を防ぐれっきとした訓練。暑さで倒れて以下略など、まさに言語道断だからな! うむ、ニャーゲンキャッツは今日も美味い」
もぐもぐとアイスを食べる汰磨羈の傍らでアイスをもぐもぐと食べながら『夏なのに涼しい部屋』という異常事態をリーゼロッテは楽しんでいる。
「練達式の魔術書も興味があったのよね。たくさん借りて読みふけるわ! ……ふんふん。ほうほう!」
続きが気になると顔を上げたリーゼロッテ。気付いたら何時の間にかマンガを読んでいたのである。
「んにゃー、こんな暑い日に外に出るとかありえんありえん、ありえんのじゃぁー!」
ルアはごろごろと転がっていた。今日もスイカがめちゃくちゃ美味しいのである。そんな彼女よりも何時も通りの勢いでだらけているのはリリー。
「だって太陽最近イキりすぎっしょ……? 死ぬほど暑いし……てか死ぬし……だったら自己防御するしかないじゃん……?」
これはニートや自宅警備ではなくて、歴とした太陽の攻撃を避けるための時間なのだそうです。
「わっふー☆ 涼しいお部屋にいてトレーニングになる(たぶん)なんてさいこーだね!
……正直トリヤデさんが暑さでバテちゃうし、すっごく助かっちゃうかも」
ミストがつんと突けばトリヤデさんがほっとした表情をして居るのが分かる。羽毛、とっても暑いものね。
(-╹V╹-)<たくさん遊……トレーニングするヤデ。
「にゃー……ほんとうに涼しいところにいるだけで修行に……なるのかなあ……?? でも快適だからいっか……休むのも大事なこと、だよね」
夜影が首を傾ぐが、ルネは冒涜的なこの行為が精神修行になる筈だと堂々と告げて紅茶を用意していた。
「猫はコタツで丸くなる……人々はこの言葉は有名で覚えている、知ってる人が多いにゃ……。
だけど!!!猫だって!!!涼しいところでダラダ……涼むのも大事だと思うのにゃ!!!」
雪見はジュースとお菓子とピリ辛カップラーメンをずるずると飲みながら、お菓子のストックはあるにゃ! と仲間達へと声を掛けて。
「おそとあつい うちもうここからうごかない。うちにもちょうだい」
軽い気持ちで『ジュース買ってこよ』と立ち上がって一分で心が折れた山茶花。再現性東京ではクーラーは必須。他の国と比べれば空調管理のされたセフィロトドームは素晴らしいけれど――暑いモノは暑いのだ。
重宝され続ける冷房。急なトラブルが来ないようにしっかりと管理は行いたい。
コリーヌは冷房のメンテナンスも教えましょうと胸を張った。長持するし、冷やす効率アップで一石二鳥。暑さのピークの前に冷房の管理鵜はお忘れ無く。
「なじみさんの怪しくないをリスペクトするべく弟子入りに来たのですよ。あ、なじみさんは普段通りにしてていいのですよ?
メイは静かについて行きますので! 必要でしたら1日お手伝いもするのですよ! メイはなじみさんの弟子で助手をするのですよ」
シティーガール仮面は怪しい人に見られてしまうから。怪しくないなじみをリスペクト。メモ帳を手に歩き回ってビビッと来た事は取りこぼさずに。
混沌に来てからは徒歩を受け止めていたが召喚前を思えばいまいち閉まらない。ウォリアは自身のニーズを満たす『戦車(チャリオット)』と出会った。
馬とは違って操縦トレーニングの『メンキョ』とやらを取らねばならないらしいが、馬威駆(ばいく)はどうやら奥が深そうだ。
恭介もバイクに跨がり風を感じる。練達内ならば自分用のバイクを手にするのも悪くないだろうか。
「精霊の宿らない力なんて不思議で興味深いです。特に0と1で構成された世界なんて魔法のよう。
魔法をかけ合わせた技術もあるのでしたっけ……私が溶けたあとも記録として残るでしょうか?」
ボタンは首を傾げる。前往くウォリアがバイクを乗っている様子をブーンブーンと眺めては教えてくださいと懇願する。
「あ、そうだ。空を飛べる技術もあるのでしょうか。雪だるまの姿で空を飛べるようになりたいのです」
その言葉に応えたのは練達の技術者たち「飛行ユニットを装着する?」とわいわいと気付けば周囲を囲まれてしまっていた。
●
アポフィライトはゆらゆらと観測しながら眺めて居た。
その傍を繁茂が手を振って希望ヶ浜学園の校長室へ。折角ならば校長に『極上の癒し』を届けた――「って、いないじゃん! かーっ、タイミング良いか悪いかわかんないね! せっかくハンモが超立体三次元マッサージをしに来たのにね!」
そうやって外を見遣れば花火大会の準備が続いていることに気付く。成程、其方に向かったのだろうか?
「んーーー、暑いのは正直勘弁なのでございます。内に籠りがち故に日差しが眩しいですし、汗だったりも気を遣いますし。
……へー、夜に希望ヶ浜で花火大会が。丁度良いです。夜ならば昼間よりも幾分か涼しいでしょうし、此度くらいは浴衣で浴衣此方に伺いましょうか」
夏の暑さも引く頃にノワールは浴衣姿で下駄をからりと鳴らして。
「賑やか、だね……」
祝音は周囲をきょろりと見回した。お気に入りの浴衣姿で向かうのは屋台だ。折角ならば可愛らしい猫モチーフのペンダントを二人分買いたい。誰の誕生日プレゼントかは分からないけれど――仮初の世界でも、この混沌でも大切な日々を喪わないようにぎゅうと大切にペンダントを握りしめた。
「よーし! 今日も元気にうどんをお届けじゃー!
美味しいホカホカうどんを最高速度でお届けする麺狐亭出張デリバリーサービスをやるぞい!
駆け抜けろ練達の街! そこにうどんを求める声がある限り! さぁ行くぞ『うどんの神様』! ギフトは常時全開フル稼働じゃぞー!」
走る天狐はスーパーノヴァで最速うどんデリバリー。ウードンイーツを極めるのである。
気晴らしに花火大会へ。晴陽の名前が挙がったことを思い出して彼女を迎えに行く人影が幾つも。
昼顔は晴陽に仮音と呼んだ少女の事を問い掛けた。「身元引受人を探してますが、よければ昼顔さんがなられますか」と言う問い掛けに少しの逡巡。
「……そういえば、龍成氏や祓い屋達も花火見に来るって聞いた気がします。澄原先生、龍成氏や暁月先生に会いたいか会いたくない……どっちですか?」
その言葉に晴陽の表情から何かが滲んだ――「燈堂さんには会いたくないです」と囁かれたその言葉に、昼顔は分かりましたと頷いた。暗がりなら、彼女を彼等の視線から隠せるはずだ。感情の滲まぬ彼女が僅かでも安らいでくれれば、と。そう願わずには居られない。
「はじめましてだな。俺は浅蔵竜真。澄原先生で間違いないか?」
竜真の呼び掛けに晴陽は小さく頷いた。暁月と晴陽。名をも対照的な二人の確執は家柄を鑑みれば検討が付く。それでも、だ。
「あまり妙なことを言うもんじゃないのはわかっているが。よければ花火を一緒に見させてはもらえないか」
「……ええ、構いませんよ」
「――というわけで、皆で花火大会に行こうじゃないか。きっと楽しいぞ」
誘いを掛けた愛無に晴陽は「彼等とですか」と能面のような顔で言った。彼女等の間に確執があるのは確かだが、うら若き淑女を殴って連行するわけにも行かない。「ごめんなさい、あなたとだけなら良いんですが」との言葉は自身への信頼として今回の収穫としておこうか。
浴衣を纏って花火大会へ行こう。廻の誘いに頷いたシルキィも今日は浴衣姿。「今年は洋風な感じなんだよぉ、どうかなぁ?」と問うた彼女に笑みを返して。
手を握り会場をのんびりと進み往く。「来年も再来年もこうして花火見たいですね」と笑み溢せば、彼女は少し臆病に手を握り返してくれた。
前を進んだ暁月は鈴とその名を呼んだ。ぴくりと耳を揺らした彼は「暁月さん?」と首傾げ。
「もしかして花火の音が怖いのかい? 猫の耳は音に敏感だからね。なら、こっちの耳を塞いでてあげよう」
我儘を言ってくれても良いと頭を撫でた指先でそうと耳を塞ぐようにして。これなら大きな音も怖くない。
「ねえねえ、廻も龍成も、今の見た!? きらきらどーんってなって……はっ!」
今のをスケッチしないと、とイーハトーヴは慌てたようにスケッチブックに花を描いて。ワンピースや黒いTシャツに刺繍するのも屹度良い。心騒がす彼に廻は良いですねと微笑んだ。
龍成はボディをちら、と見遣った。「俺も一年前は予想出来なかった……ありがとな」と掛けた声に機械仕掛けに頷いて。
執着から離れたばかりの心は惑う。それでも、親友が傍に居てくれるだけでこんなにも楽しいのだから。
「えぇきっと、とても、とても得難い経験です。龍成、これからも貴方の友として、よろしくお願いします」
彼の姉も来てくれればよかったのにと思いを馳せる――屹度、彼女と彼が揃えば一悶着起こってしまうだろうけれど。
「花火大会と言えば、屋台が有るわよね? ……さぁ、全部の屋台を全制覇する為に行きましょう?」
そう声を掛けた紫苑にリンドウは「イエス、マスター」と常の通りに返した。花火は紫苑にとって馴染みはあるがリンドウにはあまりない。
紫苑にとっての生まれ故郷での風景は――「……まぁ、懐かしいぐらいは言っても良いのかしら」
ジュディスは溜息を漏らす。目を背けていても、手を止めれば考えてしまう。絶望的な『妹の生存』が心をよぎって苦しいから。上がる花火を一瞥して――今は、その喧騒の中で仕事をして居たい。
音が響いた――零は懐かしい花火だと息を飲む。息抜きだってトレーニングの一環。その明るさは何よりも美しくて。
目的なく歩み続けるアイザックは夜の輝きを真っ直ぐに見遣った。プリズムの煌めきよりも尚、夜空をも覆い尽くす光の濁流。
それがこの『都市』特有のモノなのだろうか――眺め見るだけでも特異的なこの場所は、日々進化を続けている。
そうして、続いていくのがこの練達。
旅人達の作り出した近未来。元の世界に回帰する為の唯一の。
鍛錬の一日は穏やかに過ぎて行くのだった。
成否
大成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
この度はローレットトレーニングIXにご参加いただきありがとうございました!
1000人越えの皆さんと混沌大陸全土でトレーニングできて光栄でした!
4周年! これからもどうぞよろしくお願いします!
(※練達編、白紙の方以外は全員描写したつもりです。ヌケがあればファンレターでお知らせ下さい!)
GMコメント
Re:versionです。四周年ありがとうございます!
今回は昨年同様、特別企画で各国に分かれてのイベントシナリオとなります。
●重要:『ローレット・トレーニングIXは1本しか参加できません』
『ローレット・トレーニングIX<国家名>』は1本しか参加することが出来ません。
参加後の移動も行うことが出来ませんので、参加シナリオ間違いなどにご注意下さい。
●ご挨拶
4周年ありがとうございます、おめでとうございます。ローレットトレーニング!国家別!
練達は夏あかねが担当させて頂きます。
・登場NPC
R.O.Oでてんやわんやの都合上、レオン・ドナーツ・バルトロメイは練達での参加です。
練達系NPCはマザーとカスパールを【除いて】皆居ます。
希望ヶ浜系NPCも揃っています。(ひよなじ、校長、祓い屋、澄原家……)
夏あかねのNPC(月原、リヴィ)もお声かけ頂ければ! お気軽にどうぞ!
・できること
なんだって出来ます、が、余りに何だって出来ちゃうとわかりにくいのでひよのが纏めてくれました。
セフィロトではR.O.Oにはログイン不可ですが、マッドハッターと茶会を行えたり、操のトレーニング施設を借り受けることも出来ます。
セフィロト内を探索してみても良いかもしれませんね! 近未来系国家ですので車やバイクも使用可能です。楽しいぞ!
再現性東京では【学年学力テスト】が臨時開催、【夏期講習】も行われています。
臨海学校は『台風君』のせいでズレちゃったので同時開催です。水族館に皆で遊びに行けます。経費学園持ち!
また、【希望ヶ浜学園オリエンテーション】が今回も開催です。
過去のオリエンテーションについては関連シナリオ(こちら:https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/3733)を参考にしてください。同じコトします。
また、夜には希望ヶ浜……東京で花火大会が行われます。澄原先生も呼び出したそうですので皆で花火を見てのんびーりするのも良いかもしれませんね。
普通に希望ヶ浜やセフィロトで買い物をしたり遊んだりも可能です。
●成功度について
難易度Easyの経験値・ゴールド獲得は保証されます。
一定のルールの中で参加人数に応じて獲得経験値が増加します。
それとは別に700人を超えた場合、大成功します。(余録です)
まかり間違って1000人を超えた場合、更に何か起きます。(想定外です)
万が一もっとすごかったらまた色々考えます。
尚、プレイング素敵だった場合『全体に』別枠加算される場合があります。
又、称号が付与される場合があります。
●プレイングについて
下記ルールを守り、内容は基本的にお好きにどうぞ。
【ペア・グループ参加】
どなたかとペアで参加する場合は相手の名前とIDを記載してください。できればフルネーム+IDがあるとマッチングがスムーズになります。
『レオン・ドナーツ・バルトロメイ(p3n000002)』くらいまでなら読み取れますが、それ以上略されてしまうと最悪迷子になるのでご注意ください。
三人以上のお楽しみの場合は(できればお名前もあって欲しいですが)【みゃーちゃんワクワク夜妖探索】みたいなグループ名でもOKとします。これも表記ゆれがあったりすると迷子になりかねないのでくれぐれもご注意くださいませ。
●重要な注意
このシナリオは『夏あかねSD』が執筆担当いたします。
このシナリオで行われるのはスポット的なリプレイ描写となります。
通常のイベントシナリオのような描写密度は基本的にありません。
また全員描写も原則行いません(本当に)
代わりにリソース獲得効率を通常のイベントシナリオの三倍以上としています。
Tweet