シナリオ詳細
<夏祭り2021>バーミ・エアーの盛祭
オープニング
●『海洋王国サマーフェスティバル』
王国を挙げて開催される夏の催し。イレギュラーズにとっては『お馴染み』であったサマーフェスティバルは今夏は海洋王国で行われることとなった。
期せずして、R.O.Oでも同じように航海(セイラー)を舞台にした夏のイベントが開催されているようだが、現実の海洋王国では『王国の威信』をかけた政策が投じられていた。
「招待状は出したんじゃな?」
イザベラ・パニ・アイスの問い掛けにソルベ・ジェラート・コンテュールは「勿論です!」と堂々と胸を張る。
賓客を招くためにビーチでは祭りの準備も完了。コテージの整備も終え、屋台も揃い踏みだ。
勿論、ゲストを招くならばとソルベは妹であるカヌレ・ジェラート・コンテュールにエスコートを任せていた。
「さあ、どうでしょう。女王陛下。我が妹にはとっておきの水着を用意しておきましたよ!」
「……その花嫁衣装のような格好はソルベの趣味かえ?」
「美しいでしょう。我がコンテュール家は褐色の肌を持っておりますから、カヌレには白がよく似合うのです。
兄が我が妹にとって一番! よく似合う! と考え抜いた水着です。これで精一杯におもてなしをするのですよ。カヌレ」
「……ええ……」
――花嫁衣装のような水着を纏ったカヌレが立ち尽くしていたのだった。
●往:カムイグラ
「準備は完了したか? 晴明。船旅は久々だな。護衛が多いとは言え、緊張する」
「霞帝が行かずとも――」
「いいや、俺も行きたい」
そう、昨年度は『海洋王国大号令』を経て辿り着いたカムイグラとの合同での祭事であったサマーフェスティバル。
今夏は海洋王国で開くために、カムイグラの有力者達を賓客として招く招待状を出したらしい。御所にて、行くと駄々をこねた霞帝と共に出立することになった晴明は妹分である『けがれの巫女』――つづり、そそぎにも共にと誘いを掛けていた。
「わたしが国を護っております。ええ、賀澄が以内数日の間はお任せ下さい」
「まあ、俺は神使だ。その気になれば直ぐに帰還できるが……つづりとそそぎの面倒も或る故、頼んだぞ、瑞」
畏まりましたと微笑んだ黄泉津瑞神は流石に外に出ることは叶わないのだろう。だが、霞帝が外出するとなれば一人――黄龍がわくわくとした様子で「吾は行けるだろう?」と何度も問い掛けている。
「この為に人の子の装いを真似たのだ。白虎が良くて吾がダメである理由は分からん。賀澄が行くのだ。なあ? のう?」
「……黄龍も行くか。
分かっているとは思うが此度は賓客として招かれている。くれぐれもカムイグラの顔を潰さぬようにするのだぞ」
――そうして、カムイグラの面々は特別な日であると、船で海洋王国へと訪れるのであった。
●バーミ・エアーの盛祭
「たーまやー?」
「まだ花火は上がっていませんよ、なじみ」
「んふふ、夜ですね。それまで楽しみましょうよ。まだまだ時間はありますから」
再現性東京――希望ヶ浜から『旅行』に訪れていた綾敷なじみはイレギュラーズ達が多数参加すると聞き、安心して海洋王国までやって来たのだろう。
勿論、保護者として音呂木 ひよのが一緒である。まるで友人のように然り気無く傍らに鎮座していた澄原 水夜子は従姉妹が病院で激務に追われている事から何か土産物を購入して帰ってやろうと考えていたようだ。
「カムイグラ……まあ、我々から言えば『海向こうの外国』ですね。日本の歴史に似通った国だそうですが。
そちらの方々を賓客として迎えて盛大な夏祭りが行われるそうです。なじみは花火の時用に浴衣を着付けてあげますね」
「持つものはひよひよだね!」
「『持たれ』すぎですね」
なじみはにんまりと微笑んだ。再現性東京の中でも『外』に関心のある彼女たちは旅行として外出してきたのだろう。希望ヶ浜の民の中では考えられない行動――なのかもしれないが。
喧騒のビーチにはパラソルが無数並んでいる。楽しげな話し声と共に、行き交う水着の人々はパーティー会場で食事を楽しんでいるようである。
コテージを借りてのんびりと過すことも出来るそうだ。練達が貸し出した海中歩行用の装置を使用すれば海の中も自由自在であるらしい。
「自然の水族館が楽しめるんでしょう? すごいぜ、流石だね!」
「ええ。再現性東京では有り得ない光景ですし……存分に楽しみましょう。ほら、イレギュラーズの皆さんですよ」
「わ、ほんとうだー! おーい! カムイグラの人達がゲストで来るんだって。
楽しい夏祭りにしようぜ! なじみさんは君を待ってたんだ。一緒に遊んで欲しいなあって!」
手をぶんぶんと振って走り寄っていくなじみを見てから「狡い、私もすればよかった」と水夜子が呟いた。
「……するんですか?」
「その方が、私のこと好きになりそうじゃ無いですか?」
「……そう、ですかね」
「そうですよ」
「いやあ、素晴らしい考えですね!」
「「誰!?」」
ひよのとなじみの前を歩く唐揚げ――失礼、おいしそうな鳥は「勘解由小路・ミケランジェロと申します。屋台で唐揚げ出してますんで、よければ」と堂々と宣言したのだった。
爽やかな海面にフリードリンクで楽しむことの出来るカクテルはアルコールもノンアルコールも揃い踏み。
屋台を歩いて食事を楽しむも良し。海の中を散歩してみるのだって良い。
夜の花火を楽しもう。海洋の暑い夏をおもいっきりに楽しんで――そんな2021年のサマーフェスティバル、盛り沢山で始まります。
- <夏祭り2021>バーミ・エアーの盛祭完了
- GM名夏あかね
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2021年08月09日 22時06分
- 参加人数89/∞人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 89 人
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参加者一覧(89人)
リプレイ
●
夏がやってくる。海王王国の威信を賭けて今年も開催された海洋王国サマーフェスティバル。
此度の夏はひと味違う。昨年のカムイグラとの合同祭事。今年は航路の正常化――と、言っても問題はまだまだ山積みではある――を受けて、カムイグラの要人達を海洋王国へと招待しての夏祭りなのである。
「いやあ、良きかな! 流石は我が国、これだけ盛況ならば海洋王国の栄華は間違いなしですね!」
微笑んだソルベが「其処の方、カクテルを頂いても?」と振り向いてから首を傾いだ。立っていたのはカイトである。
「……や、俺も海洋軍人だからな? ソルベ……様やカヌレ様がいるなら護衛の仕事だよなコレ。
ザルツ兄さんもいるし、見えないけど親父とかもいるんだろ? サボれねぇじゃねぇか」
「イレギュラーズならサボ――と言いかけましたがザルツが此方を見ていますね」
ソルベにカイトはがくりと肩を落した。ブルガートルテ家の当主であるザルツがカヌレの護衛騎士として待機しているならばカイトとてサボる訳にはいかないのだ。
「カヌレ様に風を送って参ります。ソルベ様」
「ええ。我が妹が熱中症にならないように!」
素敵ですよと囁くザルツにカヌレの頬が赤くなる。それでも、魔術を使ってカヌレの水着の布が捲れてしまわぬようにと言う細やかな気遣いが見て取れてカイトは能力の無駄遣いと呟いた。
「で? 今回のカヌレ様の衣装のテーマは? 浜のエンジェルとか? あの格好で歓待するって違う意味で誤解されると思うんだが。
縁起はいいけどさぁ、これだと婚約発表からの電撃結婚式が行われるような気が」
「――!!!!!」
「……ソルベ様おちついて、カヌレ様はまだ婚約してないし彼氏も(たぶん)いないから!」
「含みましたね!?」
――海洋王国は今日も愉快なのである。
「ひさしぶりー、鳥貴族げんきしてたー? カヌレ嬢はごきげんうるわしゅう、本日もおきれいですねってけっこう過激な水着きてるね。
なんだかウェディングドレスみたいだけど、結婚する予定でもあるの?」
「しませんよ―――!!! 因みに私はソルベ! です!」
史之は耳を押えて「五月蠅い鳥貴族だな」と軽く笑みを零した。サマーフェスティバルおめでとうとレモンサワーを差し出せば、カヌレは嬉しそうに礼をする。
「綺麗ですよ、カヌレ嬢。ああ、それからカイトさん、ビールどうぞ! 鳥貴族はハイボールで良いよね。俺もハイボールにしようっと」
「ああ、ありがとな!」
「……ええ、良いですよ。貴方とお揃いも悪くはありません」
え、きもちわる、と呟く史之にカイトが噴き出しソルベが唇を尖らせて抗議する。乾杯のコールを一つ、史之は拗ねたようなソルベに小さく笑った。
「鳥貴族鳥貴族呼んでるけどさあ、俺、おまえのそういう懐ふかいところ好きだよ。これからも女王陛下のためにがんばってね」
瞬いて、ソルベは其れだけでもこの夏祭りを開いた甲斐があったのだと嬉しそうに微笑んだ。
ネオ・フロンティアとカムイグラ。この先も、末長く国交を保って行けるようにと願うのは海洋王国の貴族として持つべき意識だ。
あまり姿勢と関わりすぎれば父から苦言が呈されるだろうがクレマァダは気にはしない。自身とて祭司長。己の行いがモスカの為となる確信があるが故。
「陛下! ソルベ殿! 今日はしょうもないケンカは無しにして頂きますぞ!!
カヌレ殿はそのままで良いのじゃ!! あちらは案外貴女のノリが好きな筈!!」
びしりと指さしたクレマァダの傍らでグラニィタは何も言わずに微笑んで居る。七光り(うまれつきのばけもの)の背後で『己の存在』を見せ付けるがように、静かに。
クレマァダはカムイグラ側に挨拶へと往こうとするすると進み出た。
「帝陛下! 何卒お気を楽にして我らをご覧くださいますよう!
晴明殿! 忌憚なきお伺いを頂いたほうがきっと我が国の者共は喜びまする!
黄龍殿! 龍を斃した話など出るやもしれませぬがお気を悪くなさらぬよう! つづりとそそぎは氷菓子でも食べよう!」
堂々と挨拶に回るクレマァダにグラニィタは何も言わない。コン=モスカの祭司長が此程までに『落魄れてる』とは笑えると内心にほくそ笑みながら。
「クレマァダ」
「えらい人、みたい」
つづりとそそぎの言葉にクレマァダは頬を赤らめた。えらい人『みたい』ではなくてえらい人なのだが――
「海洋はどうじゃ? つづり、海の中の雪を見に行こうな。そそぎ、ケーキを後で一緒に食べよう」
「ケーキ? 本当に?」
「本当じゃよ」
微笑んだクレマァダにそそぎは「後でね」とそっぽを向いた。照れてるとそそぎの手をぎゅうと握ったつづりにクレマァダはは、と息を飲む。
彼女等に自分を重ねているのか、分からない。それでも彼女等が愛おしい。
己が果たせなかったことを仮託しているのか。それとも――分からなくとも、二人が微笑んで居るだけで、巣くわれた気になるのだ。
「あっ、つづりちゃん! そそぎちゃん! クレマァダちゃん! それに風牙く……ちゃ、くん?」
手を振って駆け寄ってくる焔の揺った髪が揺れている。あとでと手を振るクレマァダに変わり風牙は「良く来たな」とつづりとそそぎの頭をわしわしと撫でた。
「国を出るのは初めてで不安か? あ、帽子はかぶっておけよ? 日差し強いからな! 水分は取ったか?」
「もう、世話を焼きすぎ。子供じゃない」
「はは。でも、海は初めてだろ?」
ふんとそっぽを向いたそそぎに帽子を被せて風牙は「波打ち際で波を感じてみるか!」と笑いかけた。海歴三年目の焔はそっと脚を差し入れてぱあと華やいだそそぎに囁く。
「あっ、そそぎちゃん気を付けてね、あんまり長い間海に入ってると溶けちゃうから。毎年それで溶けちゃう人が何人も……じょ、冗談だよ! 本当は大丈夫だよ! ごめんね!」
泣き出しそうな顔をしたそそぎにつづりと風牙は顔を見合わせ小さく笑う。
「溶けるのはナメクジくらいだよ! なんでナメクジかって? 海の水をちょっと舐めてみりゃわかるよ」
「そそぎは溶けないって」
嘘だと叫んだそそぎにつづりは「大丈夫」とくすくすと微笑んで。白い砂が指先を擽って波に攫われていく。掬われるような、不思議な感覚に双子は互いに手を繋いで顔を見合わせて可笑しそうに笑み溢した。
「そうだ、つづりちゃん、そそぎちゃん。ボクも遊べそうなものいくつか持って来たんだ!
浮き輪とか水鉄砲とか、あと砂浜でお城とか作れるようにちっちゃいスコップとか! だから今日は皆でいっぱい遊ぼうね!」
「おっ、焔が色々持ってきてくれてるな! よーし、今日はみんなで思いっきり遊ぶぞー!」
双子は焔の持ってきた玩具を手に、同じタイミングで同じように大きく頷いた。
●
「夏だー! 海だー! 海洋王国にいらっしゃい、イルちゃん!」
「うむ! 海洋王国は海がとっても綺麗なんだな。なんだか、不思議な気持ちだ」
水着姿にサマーワンピースを重ねたイルにスティアはにんまりと微笑んだ。ビーチサンダルを借りて波打ち際を遊びに行こうと手を差し伸べる。
押し寄せる波さえも天義の見習い騎士にとっては初めての事で。港より眺める海と違った光景は心躍らせる。
「ビーチボールもしてみる? これはボールを落とさないように相手の元に打ち返す遊びかな?
慣れるまではゆっくり返すことだけ考えると良いかも。軽くレシーブとトスのやり方教えるから、あとは慣れだよ!」
「わ、私でも出来るかな?」
「うんうん。大丈夫。あ、疲れたら言ってね。ふかふかクッションで休憩も出来るみたいだから」
飲み物なんかも貰えるそうだよとビーチボールを手にして微笑んだスティアに、イルは大きく頷いた。それでは、レッツ――トライ!
初めての海洋にフウカは尾を揺らがせる。「買ってもらったお洋服や水着も好きー!」と微笑むフウカを見ればヨゾラの頬も緩んだ。
このために彼女へと可愛らしい水着や洋服を買ってやったヨゾラは猫の耳に夜空を思わせるヴェールをつんと摘まんだフウカの手をそっと引く。
「フウカ、何を食べたい?」
「おいしそうな食べ物飲み物、沢山食べたいな。お肉にお魚、お魚……お野菜もちょっと食べる」
喉に詰らせないようにね、と。注意をすればフウカはこくこくと頷いた。
沢山食べれば疲れてしまうから冷房の効いたコテージで休憩しようかとヨゾラはフウカを誘った。エスコート先でも爪とぎはNGだ。
「ほら、フウカ、クッションで寝てみる? きっとふかふかだよ!」
「クッション? もこもこ……?」
ふかふかとしたクッションに触れるだけで脚が沈んで。フウカは蕩けるように微笑んで、その感覚を楽しみながら夢の中に。
丸くなって幸せそうに眠っているフウカを見るだけで、奇跡だって起こせそうだとヨゾラは夢の世界へと――
「クヒヒ! サマーフェスティバル! イイですねェ……まさに夏の祭典!
活気があるという事はいいことです。それだけ国に活力があるという事。
商人の端くれとしてこの活気に便乗するのは当然! と言う訳で始めますよ! 『首輪屋』!
老若男女、大小様々、全ての人に似合う首輪を! をモットーに!
多種多様の首輪を用意、私がコーディネートしてあげましょう! さあさあさあ! この首輪なんかどうですかァ?」
あやめはにんまりと微笑んだ。慈愛のザントマンの妹たる彼女は首輪に狂っていた――
パーティー会場には様々な人が居るのだとイズマは浴衣を着用し、海洋王国を見て回る。
海洋王国に領地を有するイズマに気付いて手を振ったのかコンテュール兄妹だ。笑みを浮かべるイズマにカヌレは微笑み返す。
「もてなしていただいたお礼に……一曲いかが?
俺は音楽をやってるんだ。ギフトも活用して、少しだけ奏でてみよう。ささやかな盛り上げをさせてもらえたら幸い」
「ええ、ぜひ、聞かせて下さいませ!」
微笑むカヌレに応える、イズマが演奏をする傍らでアナトは愛天使アナトチョコを配り歩く。
「まあまあ! 何とも盛大な夏の祭典でしょう。まさに皆の不断の努力と様々な力……そして愛が形を成した素晴らしいお祭りと言えるでしょう。
これには『バール様』もニッコリするでしょう。ええ、私も……愛を感じて火照ってしまいました。なので愛のお裾分けを致しましょう!」
愛のお裾分けを受け取って、ソルベが「此れは食べて良いものですか?」と振り向いた。さて、どうだろうか……。
「海洋王国の夏祭り、全力で楽しむぞー! 夏と言えば海! 海で思う存分、泳ぐ~! 大人は海では泳がないものみたいだけど、あたしは全力で泳いで楽しむ!」
にんまりと微笑んだ由香がビーチバレーしてみたいなとボールを手にすれば亮が「やる!?」と声を掛けた。どうやら、人数を集めてくれるのだろう。
「やったー! あ、あとで、おいしいお料理もあるなら食べたいな~!」
「じゃあ一戦! その後食べてきなよ。美味しいモンは早い者勝ちだしさ」
「うんうん! 夜は花火を堪能するんだ。思いっきり遊ぶ!」
大輪の花が咲くのを楽しみに由香はビーチバレーに繰り出して。
「フフッ! ようやくまともな格好が出来た……この浴衣姿とっても似合ってるだろう?」
『本当でち! 我もキュートな水着を着れて大満足でち! 本当はカルマにも魔法少女(ビキニver)になってほしかったでちが……』
カルマに語りかけるプリティな小悪魔精霊アザミにカルマはげんなりと肩を落した。
「……マスコットのビキニ姿とか誰得なのか……そして絶対にそれだけはお断りだ!」
『まあ、魔法少女にも休息は必要でち。さあ、思う存分露天巡りを楽しむがいいでち! 後、我は綿飴をご所望するでち!』
「……言われなくとも満喫するし……ハイハイ、綿飴ね。良ければ君にも奢るよ」
その言葉にやったーと頷いたのは水夜子。露天巡りに出掛けるつもりだったのだろう。
「どうやら素敵なお兄さんが奢ってくれるそうなので、私はここで!」
「はい。行ってらっしゃい」
手を振るひよのに水夜子は「たこ焼きも良いですか?」とカルマに微笑みかけた。小悪魔精霊が一人増えただけかもしれない……。
●
「ふふふ、カムイグラ舶来のお酒だなんて、気が利いていますわね!
そのお酒も、あのお酒も、見たことがないものばかりでとっても楽しいですわー!
そこの貴方、飲み比べしましょう、飲み比べ! 私のお酒が飲めないとは言わせなくってよ! エッダ、この会場で一番高いお酒を! 樽で!
えっ、お酒が飲めない?そんなこと知ったことではございませんわ!!」
大騒ぎのヴァレーリヤの手を引いて、海洋王国及びカムイグラの面々が談笑をする場へと割って入ったのはエッダである。
「自分、エッダ・フロールリジ。鉄帝の騎士(メイド)であります。
グレイス・ヌレは大変楽しかったでありますね。今後の良き隣人関係の為に御近付きの印にご覧に入れたい物が」
霞帝には会ったことがある。エッダは深々とイザベラへと頭を下げ――
「こちらの聖職者であります。
さあこれからこの世紀末赤毛相手にめくるめく楽しい飲み比べバトルを……我々が勝ったらカムイグラとネオフロンティアの酒は根こそぎ頂くであります!」
「はは、愉快だな」
けらけらと笑った霞帝はエッダとヴァレーリヤの作り出す死屍累々は嫌いではないのだろう。慌てるソルベの合図に衛兵達が慌てて立ち上がる。
「あっ、何をするであります! これは外交問題になるでありますよ!」
「どっちがですかー!?」
「私は大切なゲストでしてよ!? 放しなさい、さもないと後で……」
「後でコンテュールが聞きますから! さて、霞帝殿、失礼を……」
ソルベに追い遣られるヴァレーリヤ&エッダを見詰めていた霞帝は腹を抱えて笑い出す。流石はイレギュラーズ何時も愉快なのである。
「帝さんと晴明さんと遊びたいのだわ!」
無邪気に微笑んで居る章姫に鬼灯は頷いた。霞帝が海を渡ってきているならばと心躍らす彼女は愛らしい。
「ごきげんよう、また章殿が貴殿らに会いたいといってな。連れてきた。花火を共に見たいそうなんだが時間は大丈夫だろうか?」
「ああ、構わない。章姫、今日の君は我が国を思わす装いなのだな。愛らしい。君と花火を見れることを喜ぼう」
微笑んだ霞帝に鬼灯は何とも、娘を見るように笑う彼がこちらに甘い気がしてならない。此程に気易くてもいいのだろうかと困り顔の鬼灯の傍らで章姫は不思議そうに首を傾いで。
「あら? 帝さんと晴明さんはお着替えをなさらないの? 今度私が選んであげるのだわ!」
「それは喜ばしい。だが、章姫。君の亭主殿に選んで貰っても良いかを聞かなくてはな」
――妬いてしまっているのを見透かされたのか。揶揄うように笑った霞帝に鬼灯は肩を竦めた。
「突然の誘いに乗ってくれてありがとう、退紅。
何時もそちらの面白山高原先輩と猫地蔵くんにはうちのポメ太郎が世話になっている様で申し訳ない」
困ったように微笑んだベネディクトは足下で「先輩、蛸地蔵さんも!」と尻尾をぶんぶんと振り続けているポメ太郎を見下ろした。
「こちらこそ。お誘い有難うベネディクトさん!
面白山高原先輩も蛸地蔵くんも、いっつもポメ太郎のおはなしをしてくれるのよ。
だから、先輩達が喜んでくれているからポメ太郎君には感謝しなくっちゃ!」
可笑しそうに微笑んだ万葉にポメ太郎は自慢げだ。お近づきの印にとポメ太郎がバスケットを加えて先輩達の前にふんすと置いたのはきゅうりだ。
「そういえば面白山高原先輩や猫地蔵くんはきゅうりを食べたりするのかい?
実は豊穣の瑞にお土産で黄龍に渡す為に沢山持って来てあるんだ、良かったらお裾分けしよう」
「先輩達って気乞うグルメだし……そんな素敵なお土産をもらえるなら、先輩達にとってもとーっても嬉しい事ね」
貌を寄せ合う三匹にベネディクトと万葉は顔を見合わせて可笑しいと笑った。どうにも飼い主よりも犬たちの方が距離が近いのだ。
「ポメ太郎達は仲良くやっている様だし、どうだい? 俺達ものんびり涼みながら話でも」
「ふふ。それじゃ、お言葉に甘えて。勇者さんの『素敵なお話』聞かせて貰おうかしら!」
乾杯とグラスを打ち合わせて、まずは――そう、自己紹介からだろうか?
花を飾った水着に、肩から浮き輪を掛けてアセナは首位を見回すグリジオの傍にぴたりと寄った。
「人が多いからはぐれないようにしないとね。腕でも組む? ……あ、でも浮輪が邪魔ね。残念」
そんな彼女にグリジオは息を飲む。愛しい人の水着姿が可愛いが『良き息子』で居るためには口にも貌にも出さないで。
「師匠、人が多いですからはぐれないで下さいね。勝手にふらふらしたらまた迷子になりますよ。
腕を組めないなら手を……いや、そっちの方が恥ずかしいか。浮き輪は俺が持ちますから」
「あら、ありがとう。食べ物も結構多いのね。持ち込みって海で漁をしてきた人とかかしら。私も何か持ってきた方が良かったかしら……
この歳になっても好物はお肉なのよねぇ。手に持って食べられるものだとベストよね。グリジオは嫌いなものはある?
というか昔食べられなかった嫌いなものは食べられるようになった? まぁもう大人ですし、好き嫌いは駄目、なんて言わないけど」
せっせと世話を焼いてくれるアセナ。彼女の中では自身は何時まで経っても幼い子供なのだろうか。
「師匠の中の俺はいつまでもガキのままみたいですけどこれでももう40越えてますからね。
好き嫌いもないし貴女をエスコートくらい出来ます。多分」
「あら」
ああ、本当に相手にされていない――グリジオはがくりと肩を落し、アセナの様子を眺めていたが。
「息子とこうして遊びに行けるのが嬉しくて、ちょっとはしゃいじゃったわ。眠くなってきたわ……」
「ああ、もう、師匠。眠いなら帰りましょう。歩けないなら抱っこしてあげますから。……どっちが子供だか分からないな」
そんな様子が可愛いと思う自分も大概『重傷』なのだと感じられてグリジオは困ったように肩を竦めた。
「賀澄様、この様な格好で失礼致します。地元の新鮮な海の幸を持って参りましたので是非ご賞味下さい。
海洋では様々な魚が獲れると聞き、自ら海へ入って食材を調達してきた次第です」
魚を捕ってきたのだと言うルーキスの躯には戦いの痕跡が刻まれている。賀澄の背後で「此れは凄い」と笑った庚にルーキスは「ええ」と頷いた。
「銛一本での勝負は正直死ぬか……、いやかなりスリリングでした。
ところで大陸には『水着』と言う水に入る専用の服があるのですね、初めて知りました。
この格好が普通だと思っていましたが、逆に目立っている様な……?」
褌姿のルーキスに霞帝はふむ、と呟いてから真っ直ぐな瞳で言った。
「そうだな、大陸の女子にとってはその姿は下着姿かも知れない。水着とやらの着用も良いかもしれんな!」
――何時でも真っ直ぐな男なのである。
●
右手には大好きな瑠璃。左手には最近居候を始めた原田白こと、ハクが。そんな両手に花状態に幸せだと笑う幸村をバシバシと叩くのは八尺ちゃんだ。
両手に花状態の幸村はこの幸せなバカンスを楽しもうと鬼畜スマイルを浮かべていた。
「お世話になってる原田家の幸村お兄様から誘われて海洋王国のリゾートに来たのです!
ハクもお師様から用意された水着を着て気合十分! 夏を満喫するのですよ! むふー!」
水着姿で胸を張る。ハクと書かれたスクール水着姿の彼女はちら、と傍らの瑠璃を見遣った。競泳水着の美人が立っている。
「おお! まさにリゾートって感じだゾ!流石海洋王国! こういう光景は鉄帝や希望ヶ丘でも中々お目に掛けられないゾ!
いつもはバトルや任務とか忙しい我が身だけど流石に夏の誘惑には勝てないゾ!
具体的には青い海で泳ぎまくるのだ!
ほら、原田君あそこまで競泳しよう♪ ……それともこの競泳水着に見惚れちゃたり? 原田君はエッチだゾ」
胸を押しつけてわざとらしく笑った瑠璃を見遣ってからハクは『嫉妬の魔種』になりそうだと胸元をぺたんと触った。
幸村と言えば、水難事故スレスレの状態で瑠璃とのバカンスを楽しんでいる。そんな様子を見て再度ハクは胸元をぺたん。……膨らみの差が、如実に感じられるのだった。
「ああ~~、もうだめなのです。嫉妬の魔種になる前に、人を駄目にするクッションで怠惰の魔種になるのです……」
「朔姉、俺水着持ってきてないんだけッゥォワッ!? さ、朔姉、その格好…………ど、どうって、その、似合って……」
凛太郎は困惑していた。「やあやあもっちー!」と微笑んで「こういうのがおすすめと聞いたんだけど!」と告げる朔。
布面積が少なめで凛太郎に言わせれば刺激が強い。似合っていると言って良いのか『エロ』失礼、『セクシー』と言えば良いのか。
青少年は困惑し、頭がパンクしそうな儘、似合っているかと問われた言葉に裏返った声で姿勢を正して答えた。
「か、可愛いと、思いマスッ!」
「……ちょ、ちょっと恥ずかしいけどまあ今日一日これでよろしく!! 大丈夫ちゃんと固定されてるから」
――そう言うのを聞いているんじゃなくて!
凛太郎がドキマギする傍らで朔はふむ、と周囲を見回した。
「所でもっちーって海とか来たことある? 私実は元の世界では遊べるような場所じゃなかったから海で遊ぶって割と新鮮なんだよね」
「ん? 海かぁ。海はそんなに来たことないなぁ。夏は稼ぎ時だから……へぇ、朔姉の世界だと海って危険なのかな?
へへ、そしたらまぁ今年はいっぱい遊べるといいな!」
「楽しみにしてたんだ。今日のフェスティバル。……ところで、こういうのってデートなのかな。どう思う、少年? ――私はデートだとしても歓迎だよ?」
そんな狡い聞き方を、と凛太郎は肩をふるわせそのかんばせを紅色に染め上げる。
「ヘッ? デート? ………………お、俺は……そうだと、思ってるよ……」
そう思ってくれているのなら嬉しいと朔は笑みを零した。グラオ・クローネのチョコレートだって一粒だけだった。
来年はもっと良いものを送るからと微笑んだ朔がするりと離れて走り出す。
「……んー! こういう事を言うと暑いね! 顔とか! さ、海いこ海! 遊ぼう! ね!
今年だけじゃなくて、来年も、その先も、これからもこうやって一緒に遊べるといいなぁ。……なんて、我儘かな?」
「ギルバートさん、またお会い出来てとても嬉しいです」
「俺も君に再開出来て嬉しいよジュリエット。今日は沢山羽根を伸ばそう」
微笑みかければ、笑みが返って。ジュリエットはギルバートの前で、その、と唇を震わせる。
泳ぎ得意では無くとも、夏の浜辺というロケーションならば。好ましい彼がどう言葉にしてくれるかと白を纏ったジュリエットがそうと顔を上げる。
「折角ですので、私も水着を着てみました。このような装いは滅多にしないのですが、どうですか?」
「とても、良く似合っている。たおやかな肌を包む白い水着とアクセントの青い花は君の美しさをよく引き立てている。
パレオが風に靡く度に気になってしまうよ。やはり君は雪の精霊の様に美しい」
彼のその言葉にジュリエットは色白の頬を朱色に染めた。言葉を探す色違いの眸にギルバートは笑みを深めるだけだ。
折角だからと波打ち際を二人で歩み、ジュリエットはそうと手を差し伸べる。
「もし、我が儘を聞いて下さるなら、手を繋ぎたいです」
「我儘だなんて、そんな事は無いよ。嬉しい。俺も君と手を繋げたらと思っていたんだ。心を読まれたのかと思って驚いたよ――お手をどうぞ、姫君」
はにかむ彼女の手を取って、ゆっくりと。流れる時を少しでも共に過ごせるようにと穏やかな足取りで歩み続ける。
「その、夜には花火が上がるそうです。コテージがビーチの近くにあるので行きませんか?
綺麗な花火を貴方と一緒に見たいと一番に思ったので、楽しみにしてたんです」
「花火か。それは楽しみだ。美しい君と花火が見られるなんて、俺は幸せ者だな」
オアシスで水遊びは一緒にした事は在る。だが、海で遊ぶのは初めてだとルカはフランを待っていた。
誕生日にくれたプレゼントに似合う大人になるべく、水着も友達と可愛いものをセレクトして。素敵だと褒めて貰えるだろうかとオレンジ色を着用して鏡の前に立ったフランは「やっぱり無理だー!」と緊張にタオルをかぶった。
「お、お待たせしました……」
「いや、待ってたのは良いんだが……」
なんだその格好とタオルの中からひょこりと顔を出したフランの額をつんとルカは突いた。そうやって笑う様子も大人の男性で、かっこよくて――フランは気恥ずかしさに「皆も誘えばよかったかな!?」と声を裏返す。
「賑やかなのも好きだが、のんびりするのも嫌いじゃねえ。たまには二人ってのもいいだろ。
それが女性で、ましてフランみたいないい女なら言うことなしってもんだ」
そんな言葉にフランの頬が真っ赤に染まる。ルカは「どうした」と揶揄うように微笑んだ。
「それは?」
「う……じゃ、じゃーん!」
意を決してタオルを取れば「折角の海だ。フランの水着が見れて安心したぜ。よく似合ってるじゃねえか」と彼が揶揄い笑う。
「うう……今日はいっぱい遊ぼうね! あ、でもポメ太郎エクササイズみたいなハードなのは今日はパスね!」
「遊びは遊びだ、手加減はするぜ……ま、ちびっとハードにして慌てるフランも見てぇ気はするけどな」
酷いと頬を膨らませるフランにルカは揶揄うように笑っただけだった。
●
「海だ――――!! やってきました海洋王国。ゆっくり泳ぐのは勿論やるとして魔種の根城となった海底遺跡、心惹かれる響き!」
スピネル行こうとルビーは手を差し伸べる。赤いマントはトレードマーク。赤い水着を身に纏って掛けていく彼女を追いかけてスピネルは「待って」と笑った。
彼女は興味を引かれれば直ぐに其方ばかりになって仕舞うから。怪我をしないでと囁いて。
「海の中ってなんだか不思議。地上だと私たちは地面を歩くけど、海だと飛んでるみたいに動けるよね。
ほら魚と一緒に泳げるよ。色んなのがいるねー。
あそこが海底遺跡かぁ……魔種が棲んでて、戦いになったのかな。きっと激しい戦いだったんだろうね。
今はとても静かでこうして遊べるぐらいだけど、そうなる為にどれだけの人たちが必死に頑張ったんだろうね」
そう呟く彼女の手をぎゅうと握って。こうして沢山の冒険をするのが幼い頃からの夢だった。だから、君と一緒に、これからも――
「海の中の遺跡に行ける機会があるとはね。海中遺跡といえば、絶望の青を思い出すけれども」
そうやって水上を目指すように手を伸ばせども、届きやしない。まるで空を掴もうとしたかのようだとレジーナはミニュイの手を握る。
「……懐かしいわね。もう遠い過去の記憶のように感じるのだわ。ねえ、ミニュ。海の中の素敵なでぇととシャレ込みましょう」
「そうだね、レナ。
水中はなんというか、重いね。機材の事もあるけど、水がまとわりついてきて。空とは違う。
それに、どんどん光から遠ざかるのは怖い。羽ばたかなくても墜落の心配が無いのは楽だけど」
けれど、二人でならば『素敵なでぇと』が味わえる。届きそうなほどの空を眺めて、二人で海を歩いて行こう。
「……あ、ええと、に、似合ってるよ、リヴィ! その、ちょっとばかし、見惚れちゃうくらいには。
と、とにかく! 小さな船長さん、って感じで……うん。可愛いよ、ホントに」
「嬉しいっすよ、ニア」
陽の色の水着を纏ったニアにリヴィエールはにんまりと微笑んだ。手を繋いで二人、海の中へと歩き出す。
「……風唄と比べると、あんまり懇意じゃないけど。ちょっと工夫もしてきたからね。
今ならきっと、どこまでも一緒に潜れるよ。海の中の素敵な所、二人でもっともっと見に行こう。今日は頼りにさせてもらうよ、船長さん?」
「ヨーソロー!」
冗談を口遊んだリヴィエールの横顔をちらと見遣ってニアは胸を撫で下ろす。二人でならば何処へだっていけるけど――この日のためにに泳ぐ練習をしてたのは、もちろん秘密なのだ。
格好悪いところはリヴィエールには見せられないと尾をゆらゆらと揺らしながら。
「凄いねぇ、水の中でスコルくんとこうして遊べるなんてさ」
元の姿ですいすいと泳ぐトストを視線で追いかけて、スコルは確かにと頷いた。水の中で呼吸を可能にするのは不思議な気分だが、何時でも彼が見ている景色を同じ視線で見られることは喜ばしい。
「さ、行こう!」
伸びたトストの手をそっと握りしめて、スコルは小さく笑う。手を繋ぐ良い口実――の筈が、どうにも歩きにくい。
「大丈夫? 慣れないなら乗ってもいいよ。
どこへ行こうか。まぁおれも海のことはほとんど知らないけど、きっと何だって楽しいよ!」
「……なら、乗ってみようかな。って歩くより数段早い。
俺もあんまり海は詳しく無いけど。トストが一緒なら多分楽しいと、思う」
すいすいと進んでいくトストにぎゅうと掴まって。そうして二人で過ごす時間が心地良いとスコルは目を細める。
何処まで往こうか。もっと遠く。まだ見ぬものを見に行こう。
「へっへー! 今回は夏場の時期! ウォリアさんもしっかり準備満タンっすし楽しみましょーっす!」
リサの言葉にウォリアは「興味深い」と呟いた。闘うための鎧の本質は損なわないが自身が水着を纏うことになるとは思っても居なかったのだろう。
海中遊覧のエスコートはウォリアに任せリサはそっとその背中に引っ付いて。
「うおおお! すっげぇ勢い! はっはー! 景色がどんどん変わっていくっすよウォリアさん!」
「雄大な竜の如く水の中を進み――蒼く深い海の底、二人のデートを始めよう」
人が紡いだ歴史、如何なる運命によってか水の底に沈んだ其れを見物するのも浪漫だ。誰かの存在が深い海の底で眺めることが出来る。
「ここまで来るのが一人だと大変だったっすから、こうして連れてきてくれてありがてぇっすよ!」
微笑むリサにウォリアは言葉も水で泡になるならば、口にするのも悪くはないかとリサを見遣った。
呼吸も不能な体は、水中でも難なく動く。水中行動を行えるウォリアにとってはリサの観光のエスコートを行うだけではあるが――カムイグラの皆と会いたい気持ちよりも誰よりも特別な人と過ごす時間を大切にしたかったのだ。
人との関係へ優先順位を付けることとなった自分の笑い声が海へと溶ける。遺跡を探索し、思い出に残るお土産をさがすリサがちらと振り向いた。
少しの距離、声が届かないならば口をパクパクとうごかして『ありがとう』と伝える彼女にウォリアは頷いた。
――戦に狂う己が、ほんの少し穏やかな顔を見せられる…歩み寄ろうとしてくれる君と、このひと時を。
「水の中……海の上とはまた違った広さを感じます。ともすれば心細くなっちゃいそうですね?」
見上げれば空が落ちてくるような。空気感さえ違う海の中で藤を飾ったウィズィとステラ。愛らしい藤色に身を包んだステラへとウィズィは「逸れないように」と手を差し伸べた。
ウィズィが手を引いてくれるならば怖くなんてない。ステラはウィズィを見上げて微笑んで。手を引いて貰うだけでは無くて手を引いてあげられたら。
そう望んだステラにウィズィは「折角だから、魔種の根城だったっていう遺跡まで行ってみようか」と囁いた。
「魔種の根城だった海底遺跡、ですか? 何だか少し宝探しみたいですね、是非探検してみたいです!
むぅ、隠し部屋とか、あったりしないでしょうか。
……拙が召喚されたのは海洋での大きな戦いの後でしたから、その時のお話もまた聞かせて下さいね?」
「勿論」
二人で手を繋いで下り往く。魔種の根城は流石に物々しいけれど、あの大戦を思い出すような絶望の名残も屹度アル。
繋いだ手の力強さに、迷わぬように。今を楽しむように二人は深い海を進んで。
●
人を駄目にするクッションにだらりと怠ける様に座ったティアはカヌレ、カヌレとその頬を突いた。
「本当にお嫁さんみたいな水着だね。すごく似合ってるよ、カヌレ」
「んもう、恥ずかしいんですわよ。お兄様セレクト」
唇を尖らせて拗ねた様子のカヌレの耳元で「貰っていいならお嫁さんにしたいな、なんて」と囁いたティアにカヌレが勢いよく飛び起きる。
翼をばたばたとさせて「ひょ!?」と声を上げた彼女の緑の目は見開かれ驚愕に揺らいでいる。
「嘘を仰い!」
「割と本気だったりするけどね」
「揶揄わないで下さいまし!」
もう、と拗ねたカヌレがぐんぐんと歩き出す背中をティアは「拗ねないでよ」と笑いかけて追いかけた。
その足取りは徐々に重たくなっていく。流石に貴族令嬢、体力が無いのだろうか。ティアはそっと抱き上げ――
「よっと、カヌレ、平気? ゆっくり休める所まで移動しよっか?」
――勢いよく胸元にタッチした。またもカヌレが声にならない叫びを上げる。
「も、もう! お戯れを!」
「ふふふ、可愛いよカヌレ。今日はお疲れ様とお誘いありがとうね。また街をデートしたりしたいな」
「……ええ、よろしくてよ」
お兄様には内緒で、と言う言葉が『ハモ』った事に二人とも顔を見合わせて可笑しそうに笑ったのだった。
「まあ、カヌレ様。素敵な水着ですね。良ければエスコートさせていただけませんかお嬢様?」
微笑む弥恵は演劇のようにそう申し出た。顔を合わせれど話したことは少ない彼女は折角の水着であるのに恥ずかしそうだ。
黒を基調とした水着を身に纏って、大人びた風貌の弥恵とは対照的な白を纏うカヌレは「よろしくてよ」と緊張したように手を握る。
射的や金魚掬いを楽しみましょうと手を引けば、彼女は慣れない仕草でどの様に楽しむのかと弥恵へと問い掛ける。
「ふふ、カヌレ様はどの様なものがお好きでしょうか?」
「わたくし、あまりこうした経験はありませんの。弥恵さまは金魚掬いはお得意ですか?」
「そうですね……やってみましょうか」
掬い上げた金魚が突如として跳ね上がる。カヌレの胸元へと飛び込んだ金魚に「ぴぎゃあ」と声を上げて仰け反った貴族令嬢に弥恵は「直ぐにお取りします!」と手を伸ばし、大きな翼に阻まれた。
「ひえ」
「やややや、弥恵様、はやく! はやくなさってー!」
水着の中に手を突っ込めと――弥恵は意を決したようにいざ、と手を伸ばしたのだった。
霞帝に断りを入れればシキの姿を見つけた黄龍は喜ばしそうに駆け寄ってくる。どうやら、初めての『外』に心躍って仕方が無いのだろう。
「やぁ黄龍。久しぶり……でもないかな? 最近は練達にいったり忙しかったから、なんだか久しぶりに感じてしまうね」
「吾は人のことは異なる時を過ごして居るが、久方ぶりに感じてしまうぞ。主との時間は楽しいからな」
「ふふ。瑞は今回お留守番なんだよね。会えなくて残念だけれど、よろしく伝えておくれ。
それにしても豊穣の外で黄龍を見るのはとっても新鮮だねぇ。浴衣もさ、すっごく似合ってる! 美人さんだよ!」
そうだろうと胸を張った黄龍はシキが口を開く前に『思い出した』と笑みを華やがせる。カムイグラを出る前に瑞神に言われたのだ。そう、『いいですか、黄龍。召し物を褒められたら相手を良く見て伝えるのですよ』と。
「シキ、主も此度は浴衣ではないか。吾と同じ装い、愛いぞ。うむ」
お揃いだね、と微笑んだシキは「有難う」と微笑んだ友人との時間は尊い。此の儘、花火を共に見に行こうと約束を。
浴衣に夏といえば花火。海も花火も綺麗だけど――君という朋とならばずっと特別なのだ。
「黄龍じゃん、ヤッホ、良かったその姿で。水着とか着る予定ない? もちろんその姿でどうかな~俺は見たいけどな~!」
「ふむ、吝かではないが、女人を大事にせよ、夏子」
揶揄うように笑う黄龍に夏子が振り仰げばタイムは「余所見しないでね?」と小さく笑う。
「うぅうん何でも無いよ? オッケさ行こ! 一夏の思い出作りへ!」
「……ん、やっぱり男前ね。浴衣良く似合ってる。よーしさっそくいこいこ~!」
濃紺を纏う夏の傍らで朝顔を白地に咲かせるタイムは片っ端から露天チャレンジに赴いた。
「かき氷にわたあめ。いい匂いの焼きもろこし……」
「お~お~良い食いっぷりだ。分けれるモノは分けたげようね。シェアして色々食べるの楽しいモンね。串焼きに焼きそば お好み焼きも?良いよ~お先にどうぞ~」
「うん分けて分けて! 次はあっちのタコ焼き屋さんねっ」
まさか彼女と分け合うとは思って居なかったけれど、嬉しそうに笑うから悪くはないかと夏子はタイムの後ろを追いかけて。
「ねえみて、お面屋さん! 何か買っていきましょうよ。わたしはね~……じゃあこの狐のやつくださーい。夏子さんのお面はなぁに? ふふっ」
「俺はこいつだぁ。妖怪赤い鼻長いマン」
天狗でしょうと笑ったタイムの塞がった両手をちらと見て、夏子はそっとお面を彼女の頭に飾る。
「僕が選んだその浴衣に似合ってるよ。いや可愛いね」
その言葉だけで、タイムは微笑んだ。ちらりと見えた遮那には手を振るだけ。だって、今日は彼と一緒だから。
紺の浴衣に下駄ならし、シガーは希紗良に手を振った。赤地に花柄を咲かせた彼女は「アッシュ殿」と頷いた。
「夏はよきでありますね。祭りに花火、蛍に海。そして……」
「色んな屋台があるけど、希紗良ちゃんは食べたい物とかあるかな?」
「よくぞ聞いてくださいましたであります! キサ、色々勉強したでありますよ?」
帳面を出して計画を立てたのだと胸を張る希紗良にシガーが小さく笑う。気合いは十分、メモには食べる計画が並んでいる。
「りんご飴なるものが食べたいであります!あとは、かすてぃら……あとは……アッシュ殿は何が食べたいでありますか?」
自分のことばかりではダメと慌てる希紗良にシガーはふむと呟いた。
「なるほど……甘いものを中心に、だね。
んー、俺は焼きそばとたこ焼き位のつもりだったけど……せっかくだから、色々買って分け合うのもありかな?」
その言葉に彼女の笑顔が華やいだ。計画通りに沢山食べるためには人も多い方が良い。食べてばかりで終われないのがお祭りなのだ。
「じゃあ、食事の後はゲーム勝負といこうか」
「キサ、負けないであります!」
「縁日みたいで、楽しい……ね」
銀路と共に浴衣姿で歩く祝音はからりころりと下駄を鳴らして。
「祝音、その……浴衣、似合うな」
途惑いながらそう言った銀路に祝音は嬉しそうに頷いた。「そうだ、銀路さんも……浴衣、買おう?」と首を傾げられれば、驚いた様に首を捻った。
銀路にとっては自身が浴衣を着用することは考えたことも無かった。さて、自分に何が似合うかも疑問符だらけだ。
それでも買わなければ祝音が悲しむか。何か選ぶのも良いだろうかと小さな祝音の手を引いて。
「ああ、何かあれば良いな」
魚料理やジュースを手に、ねこモチーフを眺めながら、何が似合うかと語り合う。
「銀路さんもイレギュラーズだから……一緒に色んな国を楽しめたら、嬉しい……です。
これから先、良い事も沢山、そうでない事もあると思うけど、銀路さんは僕に名前をつけてくれて、一緒にいてくれるお兄さんだから、再現性東京でも……一緒に楽しめたら、嬉しいな」
「おう。……ありがとうな、祝音」
他の国だって、楽しいことが溢れているだろう。だから、祝音とならば楽しめるだろうか。銀路はその頭をくしゃりと撫でた。
「なおさん、露店が沢山ですにゃ!」
みーおになおはこくりと頷いた。
「幻想とはまた違った品物がいっぱいですにゃ、欲しい物があったら買いますにゃ!
なおさんもみーおが奢るので楽しんでもらえたら嬉しいですにゃ」
楽しむ方法があまり分からないなおにとって、みーおの言葉は疑問符だらけ。みーおが『色んなものをみて、美味しいものを食べて過ごす』というなら屹度それが良いのだ。
「そうですにゃ。水着や浴衣のお店で、みーおもなおさんも水着浴衣買いますにゃ。ねこが着れる水着や浴衣もきっとありますにゃ!」
手を引かれ、なおはぱちりと瞬いた。みーおとなおで『水着』『浴衣』を一緒に選べば、それだけでなおにとっては思い出になる。
「なおさん、みーおのわがままに付き合ってくれてありがとうですにゃ。今日が良い思い出になると嬉しいですにゃ!」
「なおこそ……連れてきてもらえて、嬉しいです。にゃ」
ジュースを飲みながら、そう答えればみーおはにんまりと微笑んだ。屹度、みーが笑ってくれるから。
これが幸せで楽しい時間――の筈なのだ。
●
「あっ、いたいたフランさん!」
手を振ったアレクシアの下駄がからりと音鳴らす。青い帯紐はふんわりと金魚の尾のように揺らいだ。
「あら、アレクシアさん。こんにちは。可愛い浴衣ね。花がとても咲いてる」
「ふふ。フランさんもよければ一緒に露天を回らない?」
深緑の外で遊べる機会は滅多に無いと手を差し出せばフランツェルは微笑んだ。りんご雨を食べながら、金魚掬いや射的を見て回る。
深緑では余り見られない祭りの様子はアレクシアにとってもフランツェルにとっても新鮮で。
「フランさんはこう言うお祭りの経験はある?」
「それなりに色んな場所で見てきてるけれど、これだけ大規模だと中々経験は無いわね」
勝負だーと叫んだアレクシアに大人げなく行くわよとフランツェルが勝ちを狙い続ける。そつなくこなすだろうという印象の通りフランツェルの縁日での腕前は上々だ。
「ふふん、どうかしら。私って結構つよ――」
油断した途端に射的の玉が逸れる。アレクシアはくすくすと笑ってから「面白いね」と囁いた。
折角ならばアンテローゼ大聖堂へのお土産を買いたいと提案するアレクシアにフランツェルは大きく頷く。
「ルクア君や他の皆にも。この夏の楽しい空気を、少しでもおすそ分けできればいいなって。……帰りの荷物は大変かもしれないけれどね!」
「あら? ルクアへのお土産を渡すのはアレクシアさんよ? あの子のヒーローはアレクシアさんだもの」
こつんと額を小突かれてアレクシアは恥ずかしそうに笑みを零した。
「あれもこれもどれも、あらゆる屋台が、そしてここにいらっしゃる皆々様方の表情がきらめいていますわね!」
「そうだね、タント。海洋のお祭りって他国と比べて賑やかっていうか、開放的だよね」
手を繋いで、きらめきの一員に。からり、ころりと下駄を鳴らして。ジェックとタントは揃いの浴衣で縁日を往く。
深い緑に金を描いたジェックの傍らで、若葉の色彩に白華を飾ったタントが笑み綻ばす。
「まあまあ! 光る綿菓子!? 綿菓子そのものが光っておりますの!?
ジェック様! わたくし負けませんわ! わたくしもきらめいておりますわ!」
驚愕したようタントへとジェックは「タントの方が綺麗に光るから」と微笑んだ。
「ロシアンたこ焼き? はふ。特に変わったことは……」
「――――――ッ、み、水、一口……」
「ほわあ!? ジェック様ー!?」
たこ焼きに苦しむジェックの手を引いてタントはうなぎ釣りを指さした。あれを遣ってみましょうと誘うタントにジェックはぱちりと瞬いて。
「面白そう! やってみよ、タント。どっちが多く釣れるかな?」
「オーッホッホッホッ! 負けませんわよジェック様! わたくしの華麗なうな捌きをお見せ致しますわー!」
遠い異国たる豊穣を離れるのは遮那にとっても初めての事だ。全てが全て、新鮮で。
そう、これが鹿ノ子が語り、朝顔が見せてくれた、ルル家が守りたい世界なのだと思えば遮那の心は躍る。
幼い子供のように周囲を見回す遮那を見遣ってルル家の唇には笑みが浮かんだ。普段から気負いがちの彼がこうして羽根を伸ばせるのは良いことだ。
「遮那くんは豊穣以外の国は初めてですからね! 是非楽しんで行って下さい!」
ルル家は折角だからと自身の友人であるカヌレを誘いって遮那の屋台巡りに参加していた。「わたくしもご一緒しても良いのかしら」と呟くカヌレの手を引いてルル家はにんまりと笑みを零す。
「カヌレ殿も遮那くんも仲良くしてくださいね! あ、でもカヌレ殿! 遮那くんは渡しませんよ!」
「何を仰っておりますの! 確かに国政としてはそれも有り得るかもしれませんが、わたくしは友人を裏切る女では」
もごもごと呟いているカヌレが可笑しくてルル家はくすくすと笑う。こうして海洋王国の要人と遮那が並んでいるだけで朝顔は再度認識できるのだ。
彼が豊穣の外に居て、海洋王国を楽しんでいると、強く強く再認識する度に彼を楽しませてあげなくてはならないと感じ取る。
「あれ? 遮那さん、また背が伸びました?」
会う度に背が伸びて、顔つきが変わって。それは恋は盲目なのか、それともと鹿ノ子が手を差し伸べれば「確かに伸びたかもしれんな?」と遮那は考え込む。少しの差でも気づけるのが恋心。
こうして豊穣の外で出会えたことが嬉しい鹿ノ子は何時か自身の故郷にも――そう考えてから彼が光に翳した鱗を眺め見る。
「これは何だ? 海の色をした鱗だろうか?」
「確かにその海の鱗綺麗ですね。買っていきましょうか?」
朝顔の提案に遮那は「本当か!?」と子供のように笑ってから、背をぴんと伸ばした。
「……ここでは、天香家の当主ではなく。ただの遮那で居られる。
嬉しいと思う反面、少しだけ罪悪感もあるのだ。他の者に仕事を押しつけてしまっているのではないかとな」
「遮那くん。私の前ならいつでも『唯の遮那』で良いですからね?
……それに、罪悪感を感じなくて良い。君はいつも頑張っているんですから。
誰かに仕事を任せているなら。その分、今を名一杯楽しんで思い出を語って。
次に、その人が自由に何か出来る時が欲しいってなったら、遮那君がその人の代わりを務めれば良いんです」
朝顔の言葉に遮那はふと顔を上げる。鹿ノ子は鱗をそっと差し出してから微笑んだ。
「遮那さんは遮那さんッス。だから、いまの気持ちを大事にしてくださいッス」
天香として、立場ある者として。そうやって凜と進む遮那というひとり。それでも、そこにある想いや価値観は大切な物だから。
役目や立場に縛られるばかりでは居て欲しくないと彼へと微笑みかける。
「……そう、だな。久しぶりだ。こんなに楽しいのは。皆ありがとう」
カヌレが「我が国が貴方様にとって良き思い出になったのならば光栄ですわ」と微笑んだ。政治の世界ではカヌレが遮那が取り繕って話す時間が多くなるのだろう。それでも、『唯の遮那』として笑いかけてくれるなら――
「お礼には及びませんよ! 遮那くんが楽しんでくれればこれ以上の事はありません! 拙者は遮那くんと一緒にいれればそれで十分幸せなのですから!」
ルル家は、鹿ノ子は、朝顔は。彼が感じる楽しさを、幸せをもっと与えてあげたいと願うのだから。
●
「夏! 海! 冷えたエール! でも流石にこの陽射しの下お酒だけじゃあ目が回ってきたわぁ、露店で何かお腹に入れないと!」
ふらふらと歩いていたアーリアの髪先は黄金色に輝いて。ふと、見遣れば『唐揚げ屋』ののれんが風に揺れている。
「あら? なんだか聞き覚えのある声と、見たことあるとり。ミケくんじゃないの、どうしたの?」
「おや! 実は、唐揚げ屋を出店するチャンスだとお聞きして出張してきたのです! ささ、どうですか? 唐揚げを!」
「そう、唐揚げ屋……ミケくんがいつの間にかやり手のビジネスマンに。うーん敏腕(おてては小さいけど)! ミケランジェロランドの割引券も配っておきましょうねぇ、よしよし」
頭を撫でれば茶色くて美味しそうな鶏、こと勘解由小路・ミケランジェロが嬉しそうにぴょこんと跳ねる。領主様は彼が可愛くて仕方が無いのだ。
「はあー、……極上! これはお酒も止まらなくて……あ、ここに大きい唐揚げ……いただきまぁす!」
ふんふんと鼻を鳴らしたアルペストゥスは香ばしく、そして美味しそうだと感じる匂いを探して周囲を見回した。
――これ? にょろにょろとした長い、さかな。……違う。
――これ? いろとりどりの、たくさんの花。……違う。
どこだろうと大きな体を揺すり匂いを辿れば、目の前に存在したのは『美味しそうなチキン』、失礼勘解由小路・ミケランジェロである。
アーリアが微笑みかけているミケランジェロは唐揚げ屋さんとして一念発起の真っ最中。
「グゥ……(訳:茶色くて美味しそう。あったかそうだし、きっとこれが、出どころ)」
美味しそうだと口をあんぐりと開けて――「領主様に続き、ドラゴンまで――――!?」
そんな叫び声を聞いていたメイメイは「めぇ……」と肩を竦める。宵色の浴衣を纏っメイメイはからりと下駄を鳴らして人捜し。
仕事でやってきた晴明は相変わらず帝の世話を焼いているのだろうか。浴衣姿の彼はメイメイに気付き後ろ手で手を振ってくれる。
「あの、晴明さま。……よければ、息抜きなど。ありのままの海洋の様子も感じられると思いますし。あと、これを」
「これは?」
差し出されたのは天狗をもした屋台の面である。「ふふ……これで正体がバレません」と悪戯めいて微笑むメイメイに面を着用した晴明は「似合うだろうか」と囁いた。
「はい。それでは、街中を案内します、ね。晴明さまは、気になるもの、はあります、か?
それと。今回お留守番の瑞さまの為に、お土産を。
海洋らしい……もの……あ、このカモメのぬいぐるみはどうでしょう、か。ふわふわで、とても、かわいらしいです」
「ふわふわ、は瑞神のようだな。ああ、此れを購入して海洋の楽しさを彼女にも伝えよう。
メイメイ殿も瑞神への土産を選んでくれた礼に一つ、どうだろうか。その――俺からの、此度の思い出を差し上げたいのだ」
咳払いをした晴明を見上げてからメイメイはぱちりと瞬いた。夏で陽に焼けた彼は少し照れているのだろうか?
「祭りと聞いちゃ黙ってられねえ! ここは寿ちゃんを誘ってニッコニコになってもらうしかねえな!」
おニューの甚平にヒーローのお面と林檎飴。極めつけに水風船ヨーヨーで華麗なループ・ザ・ループを決めて寿を待っている千尋はテンションUP間違いなしだろうとほくそ笑む。
「ヘイヘイ寿ちゃんこっちこっち!」
「あっ、伊達さん! お待たせしてすみません!
あら? りんご飴にヨーヨー……お面も! ふふ、一足先に楽しまれてたんですね! そして甚平、とても格好いいです!」
「いや俺も今来たとこ――」
ぴた、と動きを止めた千尋はまじまじと寿を見遣った。涼しげな金魚を身に纏い、変じゃないだろうかと恥ずかしそうに髪を指先で遊ぶ寿をその双眸に映してから千尋は息を飲む。
「……その。ど、どうでしょうか……私……似合ってますか……?
す、すみません、こんなこと聞いて! 困らせてしまいましたね!」
「あ……おう、浴衣、いいじゃん。髪型も……いや、その、マジで似合ってると思う。うん、マジでよ、その、可愛いと、思うぜ」
嬉しいですと微笑んだ、そんな彼女に千尋はくるりと背を向けてから手を差し伸べた。
「そ、それじゃあ! 行こうぜ! 今日は何でも俺が奢ってやるからよ!」
――くっそ、もうちょっと気の利いた事言えなかったのかよ、俺!
そんな悔しさに気付かないで重ねられた掌はぎゅうと力強く握りしめてくれた。
「右手をご覧下さい……此方は屋台だ。左手をご覧下さい……此方も屋台だ」
才蔵の案内を受けてきょろりと周囲を見回す暁月は再現性東京では見かけることのない目新しいものへと目を配る。
「さて、そんな冗談さて置き来たぞ祭りの露店街。折角海洋まで足を伸ばしたんだ、今日は小難しい事は無しで存分にこの祭りを楽しむぞ、暁月」
「ああ、ありがとう才蔵。沢山楽しもうじゃないか
旅行は良いよね。君達ローレットが仕事を伝ってくれるようになったから気軽に行けるようになった。ありがとうね」
暁月の言葉に大きく頷いた才蔵は「自分の知らない物や文化、価値観に出会える……そいつはきっと、何かの糧になるはずさ」と付け加えて露店で購入した料理を手渡した。
「食べてみるか?」
「ああ、そうだね。と、不思議なものが本当に多い」
暁月がそっと手にしたのはヘンテコな置物だ。何とも言えないフォルムに何ともブサイクとも言いたげな表情を浮かべたペンギン、だろうか。
「……ああ、言うのを忘れていたがお土産に変な置物を買って帰るなよ?」
「晴陽ちゃんのお土産にいいかなと思ったんだけど……じゃあ、家族に海っぽいものを買って帰ろうか」
晴陽とは、あの澄原病院の院長だろうか。才蔵は変な置物はやめておけと留めるように彼の肩を叩いた。
色々と一人で抱え込みがちの『友人殿』の気晴らしになればと思った。そう告げる言葉に暁月は微笑んだ。未来は果てない闇、それでも今この時は楽しいのだと。先行きさえ示さぬ友人に才蔵はそうかと小さく返すだけだった。
●
揃いの朝顔の花を浴衣に咲かせ、マルクはリンディスを待っていた。選んだときから共に歩くのが楽しみで。
「お待たせしました。……マルクさんとても似合ってますね、素敵ですよ!」
にんまりと微笑んだリンディスにマルクはよく似合っていると微笑んだ。色は違えど同じ柄。揃えた浴衣を彼女が着てくれているだけで歓びがこみ上げる。
「ありがとう。リンディスさんも浴衣、似合ってるよ。アップにした髪型の、初めて見るけど素敵だね。髪飾りもかわいいよ」
褒められると照れてしまうとズレた髪飾りを直してからリンディスは有難うございますと頬を少しばかり赤らめた。
「夜には花火もあるみたいですし、それまでゆっくり屋台を見て回りましょうか?」
「そうだね、ゆっくり見て回ろう。夏の思い出になるような小物が見つかるといいね」
お菓子や雑貨を見て回ろうと提案するリンディスは栞を探したいらしい。彼女らしいと微笑んでそっと見下ろせば覗いた項にどきりと胸が高鳴った。
逸れてしまわないように。繋いで手を確かめて。この夏を楽しもう。からりころり、鳴る音が、なによりも幸せだ。
黒を基調とした水着を身に纏っていたアレックスの前に緊張した様子で顔を見せたルクトは人魚姫を思わせる水着に身を包んでいた。
お祭りへの参加が初めてで、心騒いで無邪気に歩き回るルクトを見ればアレックスは笑みがこぼれ――ふと、彼女に向く視線に然り気無く割り込んで。
それは独占欲と呼ぶべきものなのだろう。
「アレックス?」
振り向いた彼女にアレックスは首を振った。ルクトが楽しいのだと微笑みかければ、それだけでまあいいかと笑みが浮かんだ。
彼女が身に纏った水着が自分の為に選んだ物であると気付くだけで頭に血が上って行く。頬が赤くなり、鼓動が早まる感覚に、アレックスはふうと息を吐いた。
「……アレックス?」
どうしたのかと問うたルクトが振り向いてベビーカステラを差し出したその表情に、「……可愛い」と漏れた言葉は彼女に届いただろうか。
「月羽さんの浴衣姿……よく似あっていますね。とても綺麗です」
「ふふ、今日の風巻は浴衣が似合っていてかっこいいですよ。帽子も被るんですねぇ」
互いに顔を見合わせて笑い合った威降と紡。紡の言葉に威降はふとかぶっていた黒い帽子を手に取った。
「帽子ですか? お祖父ちゃ、祖父がこんな感じだったので真似してみたんですよ。
今は若いのでまだまだですが、歳を取ったらいつか貫禄が出てくるといいなぁ」
成程と頷いて紡はからりと下駄を鳴らした。朱色に梅を咲かせた紡は「っちは色々混ざってますね。和洋折衷、何でもありですか」と周囲を見回して。
「風巻は日本のお祭りを知っていますか? 金魚すくいや射的、お面を売ってるお店に焼きそばやたこ焼き……ちょっと懐かしくなってしまいますね。
私は焼きそばやたこ焼きをちょっと期待していたのですが、ありますかね……?」
「俺の故郷のお祭りも月羽さんと変わりませんよ。今言った以外だとかき氷とかりんご飴とか。
ここは海洋ですから全部一緒というわけではないですが……それでもこの雰囲気は久しぶりですね」
屹度ありますよと笑いかければ探しましょうかと頷いて。
「あ、風巻は何か食べないんですか? お姉さんが奢ってあげますよ」
「おぉ、奢ってくれるんですか? ありがとうございます。じゃあそこのクレープを!」
ならば、彼女の期待していたたこ焼きを奢ってあげよう。和洋折衷。似ているところもあれば違うところある。そんな祭りで最後は花火を楽しもう。
「今日はご一緒してくれてありがとう、月羽さん」
紅と黒を分け合って。赤い花をに紫苑の飾り。眞田は蝶々を思わすボタンの姿を認めて手を振った。
初めての夏祭り、普段と違う装いに胸も高鳴りボタンは「眞田さんも落ち着いた雰囲気でとってもステキです!」と笑みを零した。
よく見知ったものもあれば初めて見るものもある。冬の妖精の楽しそうな夏の姿に眞田はくすりと笑みを零した。
「あれ食べてみませんか? あちらも気になります!」
かき氷に綿飴、アツアツの食べ物に。遊戯もあれば、なんだって。ボタンにとっては新鮮なものが集まって賑わいを作る。
「その浴衣いいね、よく似合ってる!」
白と青の世界。黒と赤の自身と対照的な彼女は微笑んで。
「勝負しましょう!」
「ゲーム、勝負する? いいよ、俺これ結構得意だけど」
手加減なんてなし。全力で負けず嫌いの眞田は景品はあげると投げて寄越して。
「あれはりんご飴っていうんだ。食べてみる?」
「リンゴ、アメ?」
キラキラして、とても綺麗で。溶けないようにと手にした飴細工に唇を近づければ甘い香りが漂った。
少しはしゃぎすぎたかと赤らんだ頬はきっと、夏の熱気のせい。
●
「んーっ、やっぱり海洋は海が綺麗ーっ……はふぅ、このままのんびりしよーっと。
……そういえば、瑞神様は……まあ、そりゃあそうなんだけど、来れなかったんだよねっ。
なんか皆楽しそうだし、なんとかしてこう……楽しい様子を伝えられれば良いんだけど……」
リリーはこてんと首を傾いでから『完璧な作戦』が思い浮かんだ。瑞神にこの風景を見せるなら写真を見せれば良いのだ。
屹度、遊びに来ている希望ヶ浜の面々ならばカメラを持っているはず。ひよのかなじみを探しに行こう。
「えへへ、ひよのさん達は滅多に希望ヶ浜から出てこないし、今日の海洋での夏祭り、スッゴイ楽しみにしてたんだっ! って事で、時間いっぱい楽しんじゃおう、オーッ!」
「おーっ!」
「おー」
花丸の号令にびしっと手を上げたなじみ、そしてひよのが続く。三人娘は浴衣姿。花丸はレトロな赤を身に纏い、なじみは黒を。ひよのはと言えば落ち着いた青を着用していた。
「……浴衣で集合だなんて、聞いて居ないぜ」
三人娘と比べれば普段着の定はぼやいた。
「あれれ、ジョーさん早速出遅れてない? ほら、夏祭りって言ったらやっぱり浴衣だよね! 何て男の人なら仕方ないかな?」
「いや、心構えが必要だろう」
定に花丸がくすくす笑う。そりゃそうだ。男が浴衣でと言われても用意も無い。東京から旅行に来ているのだから荷物もかさばって堪らない。
其れは兎も角だ。女友達が浴衣姿で目の前に現われたのだ。無防備に浴びたら致命傷である。
「ひよのさんは花丸ちゃんの着付けまで手伝ってもらっちゃって何だかゴメンね? うん、なじみさん風に言うなら持つものはひよひよって感じっ!」
「あら、なじみは兎も角、花丸さんなら『まるっと』何時でもお任せ下さい」
笑い合う二人になじみが頬を膨らませる。つんと頬を突けばぷすうと空気が抜けるなじみをずいと押し出して花丸は悪戯に微笑んだ。
「黒一点のジョーさん、ココで感想をどうぞ! 特になじみさんに言うべきことがあるんじゃないかなーって花丸ちゃんは思う訳ですよっ!」
「スゴイニアッテルヨ……」
眩しすぎて正視できないとは言わずとも、ふと気付く。なじみの普段は隠して居る尻尾と耳が解禁されているのだ。東京の外である事もあるのだろうか。普段は見られない女友達の秘密を見た気になって役得――であるが顔を上げた先で花丸と目が有った。
\花丸ちゃんの心の悪魔が囁く!/
「ひよのさんあっちの屋台とか美味しそうだし行こうよっ!
花丸ちゃん、折角の機会だしあっちにないような料理とかを食べるいい機会だと思うんだ! ジョーさんが罰として全部奢ってくれるって話だしね!」
「え、いや変な所なんて見てないって……罰として奢り? 全部? 嘘だろう!?
ちょ、ちょっと待ってよ花丸ちゃんは分かってくれるよね? 花丸ちゃん!?」
「何処見てたんですか?」
「えっ!? ちょ、ひよひよ、そりゃないっすよ」
「定くんまでひよひよって言い出した」
けらけらと笑うなじみが「何処を見て居たの?」と問えば定はう、と息を飲んだ。
「そうそう。ひよのさんまだこっちに滞在出来るのかな? 花丸ちゃんひよのさんと海に行きたいんだけど!」
「少しなら。どうせ水夜子さんもまだ観光するつもりでしょうし」
やったーと手を掲げた花丸にひよのは頷いて。二人が歩いて行く背中を追いかけていたなじみに定は声を掛ける。
「その、なじみさん。お祭りの露店の食べ物では何が一番好き? ……遊技系では何が一番得意かな」
「なじみさんはベビーカステラ。定くんとも分けられるぜ。遊戯は、そうだなー、結構見てる派かも。くじびきで運試しも好き。ハズレだけど」
笑ったなじみに「花火、五月蠅いでしょ」と帽子をそっと被せた定を見上げた彼女が微笑んで。
「花火は何が一番好き? 僕はスターマインが好きなんだ。
一つ一つは小さな花火だけれど、それが集まって綺麗な光の奔流に見えるだろう?
あれを見てるとなんでもない僕でも、何か出来るんじゃないかってそう思えてくるんだ」
「私は一番派手なのが好きだよ。其れを見て、驚く定くんを見て居たいんだ。ほら、吃驚した顔をした!」
揶揄ってばかりのなじみに、悪い奴だぜ、と定は小さく微笑んだ。花のように笑った君が『派手な花火のようになんでもできる』と言ってくれた気がした。
「うわ、いるとは聞いてたけど本当にいる。再現性東京の人でも外に出る時は出るものだな」
「あら、夜妖でも見たような吃驚の言い方ですね。快哉なる表情をなさって! うふふ、貴女のみゃーちゃんですよ」
私のではないと首を振るラダに水夜子は可笑しそうに目を細めて微笑んだ。
「どうだい、練達の外は。見慣れない光景や環境に驚く事もあるだろうが、まぁ3日もあれば慣れるだろうさ」
慣れると勿体ないですねえと呟いた水夜子に新鮮さを味わうのも悪くはないだろうとラダは頷いた。
「露天を見るのか? こうした祭の時は観光客の露店も多い。土産物探しにはちょうどいい。
私は実家用に探してるけれど澄原はどんなのを探してる?
贈る相手が好きな物とか、よく使ってるのとかが定番なんだろうな。或いは女性ならアクセサリーでもな。
……感性が独特な人だったらどうしよう。ドレイクグッズセットか?」
「感性は……ラダさんは私のR.O.Oのアバターってご存じです? あれを選んだ人なんですよね」
「……」
「……」
――言葉が出なかった。
「ともかく、だ。土産も大事だけど澄原も好きな物探したらいい。私が出すよ。国外旅行記念だ」
「なら、ラダさんとお揃いを下さいよ。選んで下さい。ほら、国外旅行記念でしょう?」
水夜子に頷いてラダは何にしようかと露天を眺めた。
「おー、とーちゃーん、今日はオイラも仕事手伝うんだぜ! それで何を手伝えばいいんだー?」
「むむ? ワモンよ、お前も俺の仕事を手伝うというのか! 父はうれしいぞ! それではかくかくしかじか」
「ふむふむ、よその国から来た人の案内を手伝えばいいのか! わかったぜとーちゃん! それじゃ誰を手伝うか
……お? オイラの人助けセンサーに困ってる人反応あり! よーし、そいつを手伝うぜー!」
ゼニガタに送りされたワモンは早速と露天を見て回る水夜子の姿に気付いてせっせと走り寄って行く。
「ふむふむ、お土産で迷ってる…。とーちゃーん! なんかおすすめの土産ってあったっけー?」
「ならば、海洋名物のイワシ爆弾はどうだ! ワモン、もしくは号令記念の置物もオススメだ!」
「おー、そんなのがあるのか! 流石とーちゃん物知りだぜ!」
デルモンテ親子の勢いに圧倒されながら水夜子は愉快だと笑った。海豹親子にこうして接待されるのも悪くはない。
「何か他にオススメはありますか?」
「おー! とーちゃんとオイラに任せてくれよな!」
くすくすと笑い続ける水夜子にシューヴェルトは食べ歩きの傍らで「何か悩んでいるのか?」と問い掛けた。
「ええ、従姉妹にお土産をと思って皆さんの意見を聞いていたのですよ」
微笑む水夜庫にシューヴェルトはふむ、と呟いた。『有柄』でも彼女と関わる機会はあった。澄原家とは縁もある。ならばと思ったが食べ物は中々衛生的にも手が出ないだろう。
「なら、僕が射的でいい景品でも取ってみせるよ。欲しそうなものがあったら言ってくれ、銃は最近あまり使えていないがそれでも必ず取ってみせるさ」
「それでは、一番不細工なぬいぐるみを」
「……?」
「一番ぶさいくなのを選んで穿って下さいな。晴陽姉さんはそうしたものが好きなのですよ」
「さて。水夜子君の水着も実に似合っていた。
まさに夏の美少女といった態で目の保養になったよ。さて。これも縁という事で、買い物に付き合わせてもらってもいいかな」
「ええ、そこまで言われれば夏の美少女もOKを出してしまいますよ」
水夜子に愛無は良かったと頷いた。晴陽のお土産を選ぶというならば、変なゆるきゃらグッズが良いだろうと提案する。
ヒラメなども好きそうであろうし、オヒョウクッションとかと提案して行く愛無にヒラメを手にした水夜子は「好きそう……」と呟いた。
「ああ、晴陽君と言えば」
「はい?」
「実際問題、晴陽君と暁月君は何があったのだろうな。よくある青春の一幕という気もするし。
再現性東京という街と二人の立場がすれ違いを生んだのか。まぁ。
気になるが、個人的には暁月君が、恋人がいるのに、何時もの調子で思わせぶりな事を言っていたのだろうと思う。……水夜子君はどう思うね」
「知ってるか知らないからな知っているのですが、まあ――そう、ですね。
晴陽姉さんと暁月さんは良き友人で、それで、……まあ、擦れ違いで、人が死んだんですよ。それだけ、それだけです」
物騒だな、と愛無が返せば物騒ですねと水夜子は返す。それ以上は何も言わないとでも言うように。
●
黄色いフリルに小さな花を並べて。ポシェティケトは「キュウ」とラヴを呼んだ。
彼女と一緒の夏のお出かけに、楽しいことをたっぷりとぎゅうぎゅう詰めにして楽しみたい。砂妖精のクララもうきうきと体を揺らしているのだから。
「キュウ、はぐれないように手を繋いでちょうだいな」
波打ち際を歩いて貝を拾って。食事を楽しんで、お腹をたっぷりに満たして、水遊びをして疲れたとこてりとコテージ眠りに落ちて。
それだけの時間をたっぷり楽しんでしまったから。
「こうして見える空も、海も、今だけの特別な光景だものね。欲張りになってしまう気持ちも、解るわ。
だ から、パーティ会場から持ってきたお料理が山盛りなのも、仕方の無いことなのよ。ええ、ええ」
「ふふ。キュウのお腹が空いたらいけないから、お食事たっぷりいただきましょうね。焼いた海の生き物ってしょっぱくて美味しいわねえ」
顔を見合わせてからポシェティケトはキュウと手を引いて。無意式に繋いで居た手の儘じゃ、食事は出来ないと顔を見合わせて揶揄い合って。
「キュウ、見て」
「ふふ、クララさんも見えるかしら?」
咲いた大輪。クララをそっと掲げて、二人で眺めた花火は美しい。
ぴかぴかで、あなたみたいと囁いたポシェテキケトにラヴは笑みを零した。大好きさんとの花火は何よりも美しい。
満ちて、引いて。夜の浜辺を歩むアルテミアはふんわりと澄んだパレオを風に揺らす。
穏やかな海に星々が散らばって、夜空を泳ぐような心地を覚え、足先を浸してからアルテミアはウィリアムへと振り向いた。
「ウィリアムさんもどう? 冷たくて気持ちが良いわよ」
ぱしゃり、と掛けられた水にウィリアムはぱちりと瞬いた。星の海の中で微笑んだ彼女が美しい――けれど、彼女がそのつもりならば。
「僕に水遊びを仕掛けるとは勇敢だねアルテミア。それじゃ、お返しだよっ」
「わっぷ、むぅ、やったわねぇ? お返しよ!」
二人で水を掛け合って。ひとしきりの楽しみに、波打ち際から笑い合って飛び出して。砂浜へと落ち着くように腰掛けた。
「あぁ、こんなに楽しくはしゃいだのは久しぶりだわ。ウィリアムさん、一緒に海へ来てくれてありがとう」
「こちらこそありがとう、アルテミア。君と一緒に居ると本当に楽しいよ」
ふたり、微笑み合った後、昇り始めたハンマ美に視線を向けて。アルテミアは息を飲んだ。
祖父が突如として縁談の話を持ってきた。それが貴族令嬢としての当たり前で冒険者としてのアルテミアの終わりであると気付いてしまった。
気付きながら――この日常を楽しんでいたい。この人の隣で微笑んで居たい。その想いを溢さぬように、唇から漏れ出でたのは。
「綺麗……」
「そうだね。……とても、綺麗だ」
互いに感じるこの想いの名前は、目を逸らしていては定義できないままだから。今は隣で花火を眺めて居よう。
揃いの小物を買って、一緒水着を選んで。星穹はちら、と傍らを見遣る。
夜の花火を眺めようと、ヴェルグリーズはビーチの波打ち際で「大々的な花火は初めてなんだ」と囁いた。
昼間の喧騒も楽しかったけれど、夜の寂しさは、心地良い。星穹はきゅうと唇を引き結ぶ。
(いい、の、かしら。こんなにも、恵まれているなんて。きっと今までなら、海に来ることもなかったのに)
彼がいる。それだけで世界が色を変えてしまった。そんな、甘い想いを溶かすようにぱしゃりと水が跳ねる。
「ッ――……ヴェルグリーズ、様!?」
顔を上げて、息を飲む。夜の海の星々に、貴方の笑顔が負けずに輝いて。星穹は迷わず立ち上がる。
子供のように笑う彼へと同じように水を掛けて。我に返ると負けだから。子供みたいに互いに水を掛け合って。
刹那、花開いた音に顔を上げた。
光が舞って、散っていく。夜の空に溶け往く華は、余りにも 綺麗で尊くて。言葉にすることさえ叶わない。
「……っと、花火、始まったね。夏は魅力がいっぱいで楽しい季節だから、また来年もこうしてキミと楽しい時間を過ごせるといいな」
ヴェルグリーズの言葉に星穹は目を見開いた。
ああ、どうか、神様。この時だけは。誰も彼を、奪わないで。なんて。柄にもなく、願ってしまった。
●
燦々たる陽の暑さも、茹だるような夏も。煌びやかな私情の喧騒も、鳴りを潜めた深海は二人だけのものだから。
海を渡った冷たい潮風が砂浜に残った灼熱の名残を攫う。ヴィクトールが歩を進めれば未散が応え、大きな貝殻の潮騒の音を聞く。
誰ぞ作った砂の城、誰ぞ描いた愛の言葉。潮が満ちれば、等しく流れ去って行く。そんな儚い命を崩さぬようにと歩き続ける。
「手を繋いで良いですか」
「届く指先であれば、手をつないでもよろしいですよ。そういう日もあります。
手をつなぎたい日もあれば、静かに海に潜って、そのまま沈んで眠ってしまいたい日だってあります」
囁かれれば、未散は耳朶に溶けるように言葉を返す。
「だって何だかあなたさまが今にも海に入って行って、消えて居なくなってしまう様な錯覚に陥ったのだもの。
ぼくを一緒に連れて行って下さるのなら、其の限りではないのですが」
ならば、どうぞと手を伸ばし、夜の冷たい海に爪先を晒せば躯は沈み往く。海へとオカされ、皓々たる月が黒い海にゆらりと揺れる。
月の道の祝福を受けるように身を溶かす。此の儘、眠ってしまいたい。夏の残滓を溶かしたような――そんな、心地の良い夜の傍らで。
いつもの赤いドレスはどこにもないけれど、紫苑を纏った彼女は美しい。夏の色彩に、彼女の纏った色が自分で有ることに心が躍る。
「プルーちゃんも浴衣着てきてくれたのね! やーん、とっても素敵! よく似合ってるわー♪」
手をひらりと振って、ジルーシャは彼女の傍へと駆け寄った。
「あら、貴方こそ。オパール・グリーンが映えているわ。とっても、ダービー・タンね」
「ふふ、お褒めの言葉を有難う」
にこりと微笑んだジルーシャは何時もと違うプルーの姿に胸が高鳴る感覚を覚えた。
長い髪を結い上げて、幼く見えるその横顔が、可愛らしくて堪らない。
「あっ見て、花火が上がったわ! たーまやー♪
それにしても色々な形の花火があるのねぇ。あれは猫、あっちはハートかしら」
「素敵ね。ビクトリアン・ローズがカリブに浮かんで消えていくわ」
彼女の澄んだ蒼い瞳が空を見る。美しいその横顔に、ジルーシャはそっと手を伸ばして。
「……ね、プルーちゃん。アタシね――」
頬に触れれば、どうかしたのかと見上げる彼女のかんばせが何時もより低い位置。ヒールではなく下駄をからりと鳴らした彼女が首を傾いで。
音が、遠ざかる。
一際大きく咲いた花。聞こえなかったわ、と彼女の唇が動いたことにジルーシャは微笑んだ。
「……何て言ったかって? フフ、ナーイショ♪ ホラホラ、いいから花火見ましょ!」
――アンタのことが、大好きよ。
その言葉は、花と消えて。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
ハッピーサマー! 夏祭りへの参加有難う御座いました。
水着浴衣のご指定で沢山の水着や浴衣を拝見できてとても楽しかったです。
一夏の思い出になりますように!
GMコメント
夏(名前)です。夏(季節)ですね。
海洋王国も盛り上がって参りました。今回はWithカムイグラ。
※一行目:行動は冒頭に【1】【2】【3】【4】でお知らせください。
※二行目:ご同行者がいらっしゃる場合はお名前とIDではぐれないようにご指定ください。グループの場合は【タグ】でOKです。
※三行目:お召し物を参照して下さい。指定が或る場合にご記載下さい。
●サマーフェスティバル
満喫しよう!
昨年度はカムイグラとの合同開催だった夏祭り。今年は海洋王国(と、R.O.Oのセイラー)が舞台のようです。
海洋王国はカムイグラの有力者を賓客として招いたみたいです。詳しくはNPC欄をご覧下さいませ。
【1】ビーチでのんびり/海洋王国の歓待を受ける
思う存分楽しんでくださいませ! 沢山の食事が揃っています。
ソルベやイザベラが準備したパーティーです。カムイグラに海洋王国をアピールする目的もあるようですよ。
キッチンの出入りは自由。お料理のお持ち込みは歓迎です。なんでってお好きにどうぞ。
冷房の効いたコテージ(ビーチ沿い)には人をダメにするクッションや、のんびりできるお昼寝セットなども準備済み。
コンテュール家の執事やメイドによるサポートを受けれます。
夜には花火も上がりますので、思いっきり楽しんで下さいね。なじみさんもとっても楽しみです!
【2】海の中
海中歩行用の装置を使用して海中散歩。海種の皆さんは使用しなくてもOKです。
海の中を往けば沖に進むにつれていつか魔種の根城となった海底遺跡が見られますがもぬけの殻です。
絶望の青とはまた違った海を楽しんで見ませんか? しっとりのんびり海の中を楽しんでくださいませ。
【3】露店を楽しむ
海より少し離れた海洋の街中もお祭りムード。国家を上げて復興するように様々な屋台が並んでいます。
海洋王国の独特な和洋折衷、様々な文化の混ざり合った料理や雑貨類を見て回れます。
水着のままで歩き回っている方も浴衣の方も多く見られます。今日は無礼講!
【4】その他
当てはまらないけど此れがやりたいという方へ……。
ご希望にお応えできなかった場合は申し訳ありません。
夏だから原稿の追い込みとかありますよね!(いろんな意味で)色々どうぞ。
●お召し物について
水着や浴衣のご指名が或る場合はどれか分かるようにご明記下さい。
例:月原くんの場合 『2020/実柑IL水着』
●NPC
海洋の有力NPC である
・イザベラ・パニ・アイス
・ソルベ・ジェラート・コンテュール、カヌレ・ジェラート・コンテュール(カヌレはお兄様の趣味の水着を着てます)
がイベント会場にはおります。
また、海洋関係者につきましてはEXプレでのご指定や名指してご用命下さい。(ご希望叶う場合のみお引き受けします)
【カムイグラの賓客】につきましては、
・霞帝 こと 今園・賀澄
・中務卿 こと 建葉・晴明(世界各国勉学中)
・つづり、そそぎ
・黄龍
は少なくともイベントに出席しております。黄泉津瑞神は黄泉津を離れられませんから欠席です。
【希望ヶ浜】からの旅行組につきましては
・音呂木 ひよの
・綾敷 なじみ
・澄原 水夜子(晴陽先生にお土産を買いたいらしいです。相談に乗ってあげて下さい)
がおります。
・ユリーカ・ユリカ、ショウ、プルー・ビビットカラー等の情報屋がいます。
・夏あかねのNPCは月原亮、リヴィエール・ルメス、フランツェル・ロア・ヘクセンハウスあたりはいます。
・無制限イベントシナリオですので、ステータスシートを所有するNPCが参加する場合があります。(通常の参加者と同じように気軽にお声かけ&お誘いしてあげてください!)
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