シナリオ詳細
<神逐>月途の誉
オープニング
●
澄み渡った秋空に、雁が哭いている。
空は高く青を広げ、常磐緑の稜線が幾重にも連なっていた。
「忌拿家殿より授かった法にて、必勝をお約束致そう」
兜の緒を硬く締めた天香長胤の家臣楠忠継は、配下の兵を束ね馬へと跨がる。
――御出陣! 御出陣!!
高天京のあちこちで、鬨の声が響いている。
神使共は必ずや、この高天御所――城まで攻め入ってくるに違いない。
「小僧。所詮此の世は弱肉強食よ。死にたくなければ喰らい尽くして見せろ」
忠継の言葉に唇を戦慄かせた小さな少年は、異様な気配を漂わせていた。
それは最早人ではなかった。
姿形ばかりを似せた、化物に違いない。
忌拿家卑踏なる妖の操る邪法『霊長蠱毒』により、無数の怨念を浴びてこうなったのだ。
毒蟲を喰らい合わせる蠱毒にあやかり、極限の飢餓の中で人と人とを喰らわせるおぞましい呪いだ。
忠継の語りかけた魂の残滓は、牙を剥きだしにしてうなり声をあげた。
かつて人だった少年は、最早その命を失い妖と成り果てている。これが忠継の兵器であった。
本来であれば此岸ノ辺の巫女、この大地の穢れを一身に背負う『そそぎ』という少女を依代とする筈であった。しかし神使共との絆を握りしめるそそぎに、その目算は大いに外れてしまった。
ならば原罪の呼び声を浴びせ『膠窈肉腫』なる怪物に転じさせようとも考えたが、これも上手く行かぬ。
実に強情なことである。
だが真価は発揮出来ずとも、霊長蠱毒は大きな効力を持つ筈だ。
即ちこの化物となった小僧を戦場に解き放ち、誰かを喰らわせる。
この小僧が滅びても、その呪詛は勝者へと襲いかかり更に力を強めるのだ。
恐らく神使にこそ通じぬが、なれば己が命をこそ喰わせてやっても良いだろう。
天下分け目の決戦にて、仕える家の為に命果てる事こそ、武人の本懐であるのだから。
そも忠継とて、既に人ではない。魔種と呼ばれる人類の敵である。
修羅の如き謹厳は、実のところ『怠惰が呼び声』に応じていた。安息を知らぬ罰を帯びて、この戦場へ立っている。それを『休むに似たり』とは、皮肉にも過ぎようか。
――備! 前へ!! 前へ!!
「楠の奴目も出陣したか」
「ハッ!」
「夜洽家の痴れ者はどうしておる」
「ハッ! これも出陣しております!」
「近衛長政に加辺右京、二階堂尚忠の莫迦共はどうした」
「ハッ! 滞りなく出陣しております!」
宮内卿は先に逝ってしまった。
愚かにも神使などに入れ込み――それは自身も同じか。自嘲する気にもなれはしない。
神宮寺は『この先』を、やってくれるか。橘めはどうであろうな。中務では足りんぞ。青二才共めが。
七扇は――七扇となってしまったかつての八扇は、この国の政を司る要であったというのに。
それらはいずれも、天香長胤が手ずから築き上げた完璧な実用品であったはずなのだ。
――まっこと、どれもこれも馬鹿げきっておる。
内心毒づき、配下の冥を睨め付けた天香長胤は、鏑矢を手にとった。
「なれば麻呂も向かうとしようぞ」
「なりませぬ、御所様。それでは!」
「痴れ者が、分をわきまえよ! 弁を以ていたずらに楯突くが隠密庭番衆の職責とでも血迷うたか!」
「いえ、決してそのような! しかしせめて大鎧をば」
「誰に物を申しておるか、麻呂は天香が長胤にあるぞ!
そも第一に弓の邪魔となろう。もう良い、下がれい!」
「ハッ!」
衣冠束帯を纏った長胤は佩いた太刀を確かめると、弓を取り立ち上がった。
――思えば長い道のりであった。
巫女姫に唐笠なる化物共に神威神楽の地を牛耳られ、己が身さえ怪物へ成り果て、それでも己はこの国を案じ、天下を手にした望月の男を貫き通した心算は揺るがぬものであった。
在るときは傲慢にも、大を生かすために小を斬り捨て、生きてきた。
在るときは憤怒に身を焼き、京も城も民草も、全てが燃えてしまえば面白いとすら考えたこともある。
在るときは愛(しきよく)に殉じ、身でも投げ捨て、亡き妻(ほたる)の元へ赴こうとも考え到った。
だが長胤はそのどれも良しとは為なかった。それは長胤が、あくまでこの国を治める第一の長であることを己自身へと課し続けてきたが故である。
その結果が、此れ(いくさ)か。
盛者必衰の諸行無常を嘆く前に、長胤には為さねばならぬ事がある。
それは戦の趨勢、落としどころを作り上げることに他ならぬ。
「者共! 出陣じゃ!」
――鋭! 鋭! 応! 応!
鬨の声を浴びながら、長胤は猛々しい言葉とは裏腹に、実のところ『上手く負ける』心算を抱いている。
この戦は、今や帝と天香の戦いである。そして天香が勝者となったとして――本来は断じて其の様に在るべきだが!――魔種なる存在はこの世界を破滅へ導くと云うではないか。
国家百年の安寧すらおぼつかぬであろう小僧共が、この天香長胤を前に遠き破滅回避を説くとは、いかにもちゃんちゃら可笑しいが、さりとて無碍にする心算もない。
冥府魔道へと堕ちた己が命をどこで、どのように使い果たすか。
それを以て長胤は、己に課す最後の役目――朔月と心得た。
なれば戦場で遮那(義弟)を見いだし、帝や神使へと託す他になかろう。
如何に月光の聡明を呪えども、あの青二才共(帝、晴明、遮那)へ、次の道を拓かねばならない。
いずれにせよ、この地は決戦の後に乱世となろう。
朝廷の力が弱まれば、地方の豪族共が何をしでかすか知れたものではない。
だがあれ(遮那)は幸いにも戦が上手い。
その時には、帝の善き臣となろうから。
前へと歩み出た長胤は弓をきりりと引き絞った。
天を駆ける犬神の遠吠えのような音色が、合戦の始まりを告げ――
●
急ごしらえの天幕で、姫菱安奈は下唇を噛みしめていた。
太刀に添えた左手が戦慄いている。
恐怖はあり得ない。だが武者震いでもなかった。急の知らせに、怒っていたのである。
それは共に天香への忠義を誓う楠忠継が、外道の邪法に手を染めたというものであった。
人に人を喰わせ、その怨念を妖の餌とするおぞましい代物だ。
邪法の犠牲となった者達――つまり行方不明となった者達は、いずれも弱者であると云う。
楠忠継は命を独善的なふるいにかけ、いとも容易く奪い去ったのだろう。
姫菱安奈に才覚はない。姫菱安奈に異能はない。姫菱安奈は弱者であった。
しかしたたき上げの自負はある。
幾星霜を剣に捧げ、一角の武人となったのだ。
「忠継殿は――忠継は、我が斬る」
その己を前にして、弱者の可能性を奪い去った者を、きっと安奈は許さない。
神威神楽の決戦である。
かつて海を越えてこの地を踏んだ神使――イレギュラーズは国が魔種に牛耳られていることを知った。
神使達はこの国で活動するにあたって、魔の勢力と僅か一時、お為ごかしの交友を結ばざるをえなかったが、しかし時間の問題であった決裂は、一つの事件を切っ掛けとした。
魔の勢力はこの国に呪詛を蔓延らせ、ついに互いは激突したのである。
一連の戦いの中で、神使は敵の手に落ちていた霞帝を奪還し、この地の大精霊達の加護を得るに到った。
紆余曲折はあり、一時は神使が自凝島へ拉致されたこともあった。
ついに戻らなかった仲間も居た……。
だが刻まれ続ける不可逆な時の流れは、ついに最終決戦を迎えたのである。
この戦場は間違いなく大規模なものとなる。やるべき事も多い。
「まずは、帝へ弓引く逆賊『天香長胤』を討ち果たすこと」
タイム(p3p007854)は真剣な面持ちで言葉を紡ぐ。逆賊とあえて強い言葉を使った。
それは意思を違えないための決意だ。
「次に楠忠継の操る霊長蠱毒なる邪法を討ち滅ぼすこと」
一呼吸置いて咲花・百合子(p3p001385)は忠継の名を呼ぶ。
同属(安奈)が倒すと決めた相手。魔種へと堕ちた天香の忠臣だ。
「最後に」
隠岐奈 朝顔(p3p008750)は思い詰めた表情で唇を噛む。
「――これはもしも可能ならば、天香遮那を無事に連れ戻すこと、です」
朝顔の言葉に鹿ノ子(p3p007279)が指を握り込んだ。
遮那は天香長胤の義弟であるが、神使との交流の中で両者の丁度中間の位置に立っている。
若さ故に思想は甘いが、天香の名を持つ神威神楽の要人ではあった。
理想は神使や帝に近く、引き込むことが叶えば神威神楽の『この後』を有利にする戦略級の課題である。
だが遮那は複製肉腫なる怪物を貼り付けられ、さらには度重なる原罪の呼び声に疲弊しきっている筈だ。
操られ、あるいは薄弱となった意思で、敵方へ参戦するであろう。
遮那が堕ちるまで、おそらくあまり猶予はない。
他には籐蘭なる魔性――遮那を向こう陣営へ引き留め続けようとする邪しき力が働くはずだ。
その正体は、おそらく夜洽紬姫なる魔種がもたらした何かであろう。
行こう、と。誰かが言った。
対する天香長胤は、建前上としても敵軍の総大将である。
為さねばならぬ時へ向け、神使達は果敢な一歩を踏み出した。
●
『何もかもを忘れて、投げ出せば楽になれるだろう。苦しみも痛みも無くなるのだ』
脳内に響く声に頭が割れそうになる。
複製肉腫の原型たる籐蘭の呪いか。膠窈(セバストス)になって欲しい者の呼び声か。
己が身に巣くう悪しき心か。
『琥珀薫風』天香・遮那は朦朧とした意識の中で出陣していた。
兄である長胤が自ら兵を率いるのであれば、弟である遮那が馳せ参じるのは道理。
されど、神使と戦いたい訳では無い。兄と神使が和解し、この京が平和になる事が望みだ。
正しき心で望めば、必ずたどり着ける。
しかし、頭の中の声は正しさを否定し、不安を煽り続けるのだ。
『神使に味方すれば、兄は死ぬかもしれぬ。たった一人の家族を失う事になるかもしれぬ。
忠継も安奈も死ぬかも知れぬ。それで良いのか? 見殺しにするのか?』
「煩い。私は……、兄上の役に立ち、神使と手を取り合い、平和な世を作りたいのだ」
出口の見えぬ押し問答。
しかし、確実に蝕まれているのが分かる。
もし己が悪しき存在になってしまったのならば、兄の役に立つ所か足手纏いになってしまう。
猶予は残されていない。
始まった戦を止める事はもう出来ない。
ならば。
『終わらせてしまえ。殺せばそれだけ早く終結する。兄上も助かる』
虫唾が走る言葉に頭を振って、ただ前だけを見ていた。
●2020/11/01追記
――遮那くんの答えは、その全ては最早叶わない。
合戦が始まりを告げた時、遊撃隊を率いる天香遮那は、其の立場を活用してイレギュラーズへ接触を試みる腹づもりであった。
それは実のところ義兄にして総大将たる天香長胤の用意した布石でもあった。
長胤は遮那の身柄をイレギュラーズへ預け、自身が討伐されることによる戦乱の終結を考えている。
そして戦場の何処かで遮那へ声をかけ、背を押し――それから自刃を果たすのだ。
だが事態を難しくしているのは、いくつかの要因に依る。
配下達は必ずしもその状況を良しとしない筈だった。人はともかく、魔が邪魔立てするであろう。
第一に、長胤は勝つのであれば勝たねばならぬ。否、格好だけでも『勝とうとせねば』ならぬ。
上手く負けねばどんな事態が引き起こされるか知れたものではない。
例えば戦ってすぐ、いたずらに兵を退き、首等を差し出せば、霊長蠱毒や魔の手先共は無作為に襲いかかってくるやもしれぬ。事態の収拾は困難を極めよう。
ならばそれら魔の勢力を、イレギュラーズが討滅した後に、計画を実行する他に道はないと思える。
そんな長胤の心境を知ってか知らずかは、さておき。
遮那の後ろに控える夢見 ルル家(p3p000016)は、そんな長胤が思うもう一つの布石であった。
長胤はルル家に『緑石榴の瞳』なる、強大な呪具を与えていたのである。
――鋭! 鋭! 応! 応!
戦場のあちこちで鬨の声が響き、晩秋の空を雁の群れが切り裂いて往く。
「これより、我が隊は神使の軍勢を奇……」
ぐらりと傾いだ純正ガイアキャンサー『艶勾玉』籐蘭は、最後にそんな空を見た。
「何の真似か!」
「……ルル、家、そなた」
魔種夜洽紬姫と遮那が呆然と口を開いた刹那、猛然と駆けるルル家は遮那へと肉薄を果たした。
籐蘭は――死んでいる。ルル家に斬られて!
「これしきを御せずして、何が側仕えでしょうか!」
風が払った前髪の向こうには、両目(!)が輝いている。
かつて海洋王国大号令にて失った右目の洞には、カラス天狗の目を媒体とした大呪具『緑石榴の瞳』がはめ込まれていた。
「――!」
ぐるぐると在らぬ方向を見定めようとする右目を押さえ込み、果たして――ルル家はその力を確かにモノにして見せた。身体から立ち上る妖力は、最早尋常ならざる水域へと達している。
「長胤殿は遮那くんを愛し、天香であると認めていました」
ルル家は自身の目と、御してのけた右目の視線をしっかりと合わせて遮那を見据えた。
「長胤殿は魔種である自分が滅びる事を望んでいるのです! 己が滅びなければ、豊穣が滅びるから!」
「ルル、家。だが、それでは兄上が助から――グ、あっ!」
問答無用。遮那の胸ぐらを掴み上げたルル家は、その首元に巣喰う複製肉腫を一気に引き剥がした。
夜洽紬姫は、妖達は、ルル家の力を測りかねている。
そこに僅かばかりの隙が生じていた。逃す手はない。
「貴方は天香長胤の弟、天香遮那でしょう! いつまでもつらい事から目を逸らすな!」
「……ルル家、そなたは私に、決めろと云うのだな」
「ええ、そうです。だから行きましょう、遮那くん。神使達の――仲間達の元へ!」
ルル家の背から稲妻のように、禍々しい翼が生じた。
「あれを逃すでないぞ、すべてが水の泡となろう。引っ捕らえよ!」
「拙者は、貴殿に構っている暇など、ない!」
「――!」
ルル家は遮那を抱えて、大空へと一気に飛び上がる。
風を斬り、天を駆け、仲間達が待つ本陣へと。
「もう一度長胤殿に会いに行きましょう遮那くん」
「――分かった」
「私はずっと遮那くんの傍にいます」
「――ありがとう、ルル家」
「もっと言えば私を奥さんにしてくれるととっても嬉しいですね! 今度は結構本気ですよ!」
「――ルル家」
「……お返事は、やはり下さらないのですね。見えてきましたよ」
――ルル家!
誰かが叫んだ。
仲間達に囲まれたルル家と遮那は、手短に仲間達へと事情を伝えた。
目的達成のための手段を失った夜洽紬姫は、天香長胤の本陣と合流するはずだ。
また楠忠継の率いる敵主力部隊は、おそらくすぐに異変を察知し、後退を始めるだろう。
作戦は大きな変更を余儀なくされるであろうが、こちらには今や『天香遮那』がいる。
「若様。よくぞ、ご無事で……」
「忠継は、そうか。魔の手に堕ちた……のか……」
駆け寄った姫菱安奈と神使達は情報を共有し、新たな作戦を構築しはじめた。
「若様。忠継は、我が斬ります」
「……任せる。戦場(いくさば)で死に目に会えるとは思わない」
拳をきつく握り込み、震えそうになる喉を叱咤して、遮那は言いのけた。
「御意に」
「神使達よ、頼む。私を義兄――天香長胤の元へ連れて行って欲しい。そこで戦を終わらせよう」
一同がざわめいた。
「魔が滅びねばならぬことは理解している。そこで果たされねばならぬことは、私とて承知しているのだ」
遮那は一同、一人一人の目をゆっくりと見渡した。
「兄上は、否、天香長胤は伐たれねばならない!」
その決断は、あまりにつらかろう。
「正直に申せば、今にも足が砕けそうだ。だから、私の背を支えて欲しい」
そんな光景の中。
後方で誰にも見られぬよう、ルル家は苦しげに右目を押えていた。
その呪具は――妖の瞳は、ついにその身を強烈に蝕み始めていた。
まるで意識が、命が、妖へと塗り替えられていくように。
強大な力を使いすぎたルル家は瞳と完全に融合し、今や一方的に喰われつつある。
意識さえ、どこまで保つかは分からない。
後ほんの僅かな間に、人としての生が幕を閉じる実感がある。
――それでいいのですよ。遮那くん。
私は死にません。友達がいます。
本当に頼りになるとっても素敵な友達なんですから!
- <神逐>月途の誉Lv:15以上完了
- GM名もみじ
- 種別決戦
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2020年11月19日 22時35分
- 参加人数100/100人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 100 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(100人)
リプレイ
●
風が強く吹いている。
幟旗が踊り、胸の中心を揺さぶる陣太鼓と共に、地が鳴り響いた。
――鋭! 鋭! 応!
軍馬の嘶きを、鬨がかき消す。
先陣を切ったエマの夢幻の短刀が敵の槍を弾いた。
「一番槍の栄誉は、エマ殿か!」
「誠、御美事に御座りまする!」
「こういう戦いでは、ひとまずいかにこちらが数的有利を取るか……って感じですかね。露払い、任されましたよ。ひひっ」
迫る銀槍をひらと躱し。口の端を上げたエマ。
「懐に潜り込まれちゃお辛いでしょう、隊列をかき乱してやりますとも!」
「敵は大軍ですね、しかし押し負けるわけにはいきません!」
彩華はエマに続き敵陣へと走り込む。
「とにかく敵の数を減らしていきたいところです。この体が果てるまで攻撃の手を緩めずに戦い抜いて見せましょう」
闘志を漲らせ二刀を敵に滑らせる彩華の紺色の髪が風に靡いた。
「やれやれ」
ルーキスとルナールは開戦のほら貝が鳴り響く戦場に視線を送る。
「次から次へと厄介ごとばかり舞い込んでくる」
「とはいえ、私達のやることは変わらない」
地響きと共に駆け込んでくる敵陣に接近し、武力を持って制するのみ。
「さー頑張って戦線を支えよう」
「……あくりょーたいさん」
『イヤ、アイツらまだ人間だからな?』
「頑張るのです!」
マリスと鈴音も加われば百人力というものだ。
「ルナとマリスは前に、鈴音ちゃんは回復。何時も通り頑張ろう」
「行くぞ!」
ルナールの声と共に敵へと切り込んで行く四人。
ルーキスは一瞬だけルナールの肩に手を置いた。
「しんどい戦いになるけど。ルナールと一緒なら大丈夫そうだ」
「ああ、必ず護るから。心配はいらない」
迫り来る軍勢は強大だろう。だが、引くわけには行かないのだ。
――鋭! 鋭! 応!
敵の槍がマリスを打つ。蘇芳の血に染まる身体。生半可では無いということだ。
マリスは後ろで支えてくれる鈴音を呼んだ。
「んーむ流石は前線」
『メディーック! 回復くれ回復!』
「いたいのいたいのとんでいけー、ですにゃ!」
鈴音の掛け声はマリスの傷を優しく癒やしていく。
「敵勢力は味方を何人も攫った許し難き悪。ですが頭脳派たるもの、怒っていても冷静につとめなければ、なのです……!」
イロンは味方兵士の指揮を担っていた。前線で戦う仲間達が集中出来るように味方を誘導していく。
決死の怒声、濁流のただ中へ兵達が殺到した。
「我こそは御狩が次男定頼也、そこにおわすは神使胡桃・ツァンフオ殿とお見受けする! いざ手合わせ願わん!」
戦場は混ざり合い敵と味方が入り乱れる。胡桃の前に現れたのは御狩が次男定頼也と名乗る武士だった。
胡桃にとって豊穣の争いは他人事だった。けれど、大戦まで発展した今、何もしない訳にはいかなかったのだ。成すべき事を成す。
「ええ。行くわよ! いざ!」
相手の槍が胡桃の身体に届く前に放たれた炎の旋風は、定頼の身を焼き尽くす。
燃えながら落馬した定頼は地面を転げながら意識を失った。
「音にこそ聞け、近くば寄って目にも見よ」
戦場の兵士が割れ、馬に乗った武人が前に進み出てくる。
イレギュラーズに緊張が走った。馬上にて剣を抜き去る男こそ、この戦場の古豪。
「――我こそは天香が一の剣! 帝より楠を賜りし侍大将の忠継也!」
剣の背に光が走った。剣鬼とは正に目の前の男の事を言うのだろう。
其れに立ちはだかるは。
「先陣切るその意気や良し! 俺はジョージ・キングマン。楠 忠継。貴様の相手は俺が受けて立つ!」
ジョージと視線を交した忠継は口の端を上げた。
「相手にとって不足無し! いざ参る!」
火花を散らす剣檄が戦場に響き渡る。
ジョージが忠継と切り結ぶ様は壮絶な光景で。死をも思わせる気迫にフラッフルは息を飲んだ。
フラッフルにとって豊穣は多少縁のできた土地だった。柄にもないかもしれないけれど、できる限りのことはしたいと思う程には愛着もあったのだ。
「そして、全員で生きて帰る。……生きて、帰るんだ」
思わず零した言葉にフラッフルは唇を噛みしめる。それ程までに目の前の戦いは壮絶を極めていたのだ。
ジョージの身体から赤い血飛沫が舞い上がる。痛みに顔を歪めたジョージに回復を施すのはアルムだ。
「身体を張ってくれているジョージ君を守るのが今回の俺の役目だからね。簡単にやらせたりしないよ」
アルムは魔力を総動員して術式を練り上げる。
「他の戦場だって、イレギュラーズたちが頑張ってるんだ。
後退なんて、させない……ここで決着をつけるよ!」
仲間を鼓舞するように響いたアルムの声にフェリシアも頷いた。
「どうか、良い戦いを。わたしにできる事は……せいいっぱい、やります、から」
祈りを込め空色の瞳を以て英雄を讃える詩を届ければ、響く旋律に仲間の士気が上がっていく。
フェリシアの言葉は力となって戦場に活力を与えるのだ。
「おぞましく命を啜り、それで武人を極めたつもり?」
エトの鋭いガーネットの瞳で忠継を射貫く。
「かつて王冠を抱いた身として……民を軽んじる貴方を認めはしないわ」
権威を振るう代わりに己を賭して、民を護るのが上に立つ者としての矜持ではないのか。
弱者を虐げ排斥することは断じて有ってはならないことなのだ。
「絶対に、認めない!」
忠継に向けられた言葉は戦場を駆け抜けた。
――鋭! 鋭! 応!
「前へ!」
戦場は更に突き進んで行く。
――――
――
灰墨の妖気が一人の少年を包んでいた。
纏う怨念が近づく者の耳朶を打つ。到底聞き入れる事の出来ない怨嗟は恐怖さえも覚えるだろう。
一つ歩を進めれば、足下に咲いた花が枯れた。
二つ歩を進めれば、土が瘴気を帯びて毒をまき散らす。
三つ歩を進めれば、果敢に立ち向かった兵士が瞬く間に腹の中に消えた。
霊長蠱毒。触れてはならぬ怨嗟の坩堝。
「……っ、くそ」
「どうやって、あんな化物」
味方の兵士達が怖じ気づいて進軍が止まる。
息を飲む間も無く、黒い妖気に包まれた兵士が霊長蠱毒に取り込まれた。
「嫌だ、助けて!!! たす……」
名も知らぬ兵士がまた一人、霊長蠱毒の養分となる。
ロトは霊長蠱毒の脅威を肌で感じていた。
「呪詛と外法の極点……その1つって所かな? 皆みたいに英雄らしくとは行かないけど……邪魔者くらいは果たそうか」
走り込み、食われそうになっている味方兵士を後ろへ投げる。
「下がって! 前に突出しないように!」
目の前に対峙してみて初めて分かる恐怖。妖魔と戦い慣れていない一般兵ならば、足が竦み声を上げる事も出来ないだろう。ロト一人では庇いきれない。しかし、この戦場には仲間が居る。
ロトの瞳はリレインに向けられた。
「まかせて下さい!」
霊長蠱毒が放つ怨嗟の顎をその身に受けるリレイン。
「神使様! お怪我が!」
「どうか僕のことは気にせず!」
兵士達の声にリレインは首を振る。
「……豊穣の地、と呼ばれるくらいの場所なのに、こんな戦場になるなんて。……負けられません」
リレインの傷を癒やすのはクリスハイトだ。
「力はあまりないかもしれないけど少しでも力になりたいの」
前線で戦う仲間を回復するということは、剣を取る事と同義だ。
「平和な世の中じゃないとトレーニングとかサボれなくなっちゃうしね。楽をするためにも戦うんだ!」
共に戦う仲間の何と心強いことか。クリスハイトの瞳は横を駆け抜けていった仗助を見守る。
「一人じゃねえなら、この場に釘付けにすんのもなんとかできるだろ……!」
弱気になりそうな心。頬を張って気合いをいれる仗助。
「見せてやるぜ、俺の"ド根性"ってやつをよ! なんとかするに決まってんだろッ!」
霊長蠱毒の前に躍り出た仗助に怨嗟の手が伸びる。
「こいよッ所詮、虫は虫だってのを教えてやるぜッ!」
根性だけはあるのだ。首を絞める霊長蠱毒の手に仗助は抗い続けた。
「霊長蠱毒、殺害したこちらの味方の体に乗り移って強くなると……」
イレギュラーズがその毒牙に掛からないのは不幸中の幸いだろうかとトウカは眉を寄せる。
最悪の場合敵兵を利用することもかんがえられるだろう。
「……躊躇う必要はないよな。いくら慈悲があっても鬼は鬼なんだ」
トウカは霊長蠱毒の周りに配置された敵兵へと切り込んだ。
「俺達は、イレギュラーズはこの京を護る為に戦っている!
もしもお前達が脅されたり、仕方なく戦っているならさっさと逃げろ!」
トウカの声は敵兵に正しく伝わっただろう。しかし、彼等は引かなかった。
「神使殿! 我らがこの場に居るのは自分達の意思に御座りまする!
忠義を誓った主君をどうして裏切れましょうか! いざ、参る!」
己が信念の為に戦い散る事が命よりも重いと言うように彼等は叫んだ。
「ならば……切り伏せるのみ!」
剣檄が交わる。これは何方共が引けぬ戦いなのだ。
「さてこの地での一大決戦。やりますか。」
バイクに跨がり戦場を駆けるはバルガルだ。敵陣の矢雨を避けるようにバイクを走らせる。
敵陣へと切り込んだバルガルはバイクを乗り捨て、槍を横に薙いだ。
多くの敵を巻き込みながら振るわれる槍に敵兵の足が蹈鞴を踏む。
「さ、出来る限り多くの敵を仕留めましょう」
積み重なるバルガルの連撃に、負けじと敵も飛び込んできた。
「ルル家さんが、沢山の人が、大切な人のために、豊穣のために戦ってる!
私も、私にできることで皆さんを支えます!
戦場に白雪の翼が舞い降りる。強き心。真っ直ぐな眼差しをしたノースポールの姿があった。
翼を広げ敵陣へと空から突撃する。
「私達がいる限りは、好きになんてさせない!」
何処かに行かせたりしない。此処で力尽きるまで踊って貰おうでは無いか。
ノースポールの意思を示すように胸のポラリスが陽光に煌めいた。
「随分な大いくさの様相を呈しているな。そしてルル家が文字通り命を削って戦っている、か……」
視線を上げたR.R.は乱戦になった戦場を仰いだ。
「そうさな、俺も彼女の働きに応える為に、ひと働きせねばなるまいか」
味方兵士の援護にマスケット銃を構え放った。兵士達を鼓舞するようにR.R.は叫ぶ。
「皆の者、敵は多勢なれど気勢で負けるな! 俺達神使が付いている、破滅の運命を変える為の力を与えられた俺達が! 運命を切り開け、俺達とお前達の力を共に合わせて!」
「おおー!」
「さて、と。良い報酬を貰うんだしそこそこ戦果は出さないとね。いつものお節介も一緒だけど、壁役として頑張って貰いましょうか」
「ええ。私達は駆け出しイレギュラーズだけど、二人一緒ならやれるってところを見せましょ!」
ワルツとアイリスは戦場に切り込んで行く。
前を行くは姉のアイリス。その後ろに大口径のスナイパーライフルを構えるワルツが居る。
「攻撃はワルツちゃんに任せて、私は壁になるわ」
「無理しないでよ」
「お姉ちゃんなら大丈夫、とっても頑丈なんだから!」
敵の槍をはじき返したアイリスはワルツに問題無いと視線を送った。
しかし、敵の攻撃は多勢。
傷着いていくアイリスを救うには敵の攻撃を退けねばなるまい。
「戦場は好まぬのだが――まあいい。我は我とてまた記録を試みるのみ」
アエクは雷神術式を展開し戦場へと解き放つ。
「たとえどのような結末を迎えようとも、それを我は記録し、吐き出すのだ。その運命を、我は記す。その物語を、我は遺す。その記録を、記憶を、いつかの誰かが思い返すためにも」
全てが残らずとも。必要としてくれる人が居る限り。
「与えられた仕事を完遂してこそのメイドです、このわたしです」
戦場に渦巻く怒気にミエルは指先を握りしめた。奮い立たせる様に言葉を繰る。
「わたしがすべきことを……わたしにできることを。微力ながら、みなさまのお力になれるよう、頑張らせてくださいませ。――やりましょう……! まずは彼らの対処を」
ミエルの言葉が仲間の耳に届いた。
「ほんまは、ルル家ちゃんの事も気になるんやけど」
蜻蛉は友人の笑顔を思い出す。
「あの子を見守る人がよおけおるさかい」
だから、安心出来る。自分が居なくとも大丈夫なのだと思える。
蜻蛉の前に広がる戦場とて重要な拠点なのだ。
「また、うちに借金して遊びに来てくれたら、生きてね約束やよ」
徐々に橙の色が濃くなっていく戦場の空を蜻蛉は見上げた。
●
夜の帳が戦場を覆い、赤々とした篝火が灯される。
朱塗りの甲冑が音を立て、急ぎ足で駆けてくる伝令が天香長胤の前にひれ伏した。
「ご報告に御座います。神使は右辺より本陣へと進軍。此方へ向かってきております」
「来よったか」
夜空と蛍火の描かれた扇子を握りしめた長胤は険しい表情で右辺を見遣る。
「また、先んじて出陣されました二階堂尚忠様が美事、討ち死になされました」
「……馬鹿げておる」
神経質すぎる悪癖はあったが、この様な所で死んでしまうには惜しい男だった。
長胤は一瞬だけ夜空の月を仰ぎ見て、唇を噛みしめる。
「ほへー、吾輩場違い感が半端ないくらい緊迫した戦場でありますな。
ともあれ吾輩もできる事を頑張る所存でありますゆえー、露払いくらいはお任せあれー!」
ジョーイの周りに白い羽根が散って行く。
それは仲間を癒やし、敵を打つ光の翼だった。
「今吾輩は天使になる! であります!」
桔梗はジョーイと共に戦場を駆け抜ける。
「流石にここまでの大きな戦闘経験がない僕には大物狙いは厳しいからね。先輩方が戦いやすいように自分が出来る範囲で敵をしっかりと潰してゆきましょうか」
「ああ。小勢とは行かないが、大軍になる前に各個撃破は基本だからな」
グレンは桔梗へと迫る凶刃をその身で受けとめた。
「俺をただ一枚の盾と思ってくれるなよ。一山いくらの有象無象の魑魅魍魎共、難攻不落の要塞ぞ此処に在りってな!」
「中々の手練れとお見受けした。いざ尋常に勝負!」
「落とせるもんなら落としてみな!」
血の繋がらない兄弟。息子の事を思い出すと瞳を上げたウェール。
「死者も心の中で、思い出の中で生き続けるとはいえ。最期の会話を邪魔する奴は狼が燃やして灰にしなきゃな!」
ウェールの妖刀が淡い黄色い火を滾らせ敵を切り伏せる。
「家族の大切な会話を邪魔するような奴は全員燃え尽きろ!」
「ええ。ええ! この戦にあまり関わりがありませんでしたが、状況は概ね理解しました。私は本陣の雑兵を少しでも減らして、味方の進路を作ります!」
響子はウェールの雄叫びに自身の矛先を重ね合わせた。
「遮那さんや豊穣の皆さんの為にも微力ながら手伝わせていただきますね!」
ステップを踏んだ響子は仲間と共に戦線へ飛び出していく。
「メーコにはカムイグラの情勢や状況に疎いので、どうこう言えるものではないですが……」
それでもメーコ達イレギュラーズとは違い、召喚されていない兵士達はパンドラを持っていない。
メーコは彼等を守る為に此処に来たのだ。
決意の色を瞳に宿したメーコは傷付いた兵士の元へ駆け寄る。
「倒れてはいけませんめぇ……必ず生き残って帰りましょうめぇ……」
「ううん、色々と思惑が絡み合っているけれど……結局は魔種が寄り集まって、悪いことが起こる、ということに収束するのよね」
ヴァイスはメーコの回復を援護するように敵の前に立ちはだかる。
「それで片づけてもいいのかわからないけれど……やるべきことは、やらなくっちゃね……。
だから、もう……少し眠っていて頂戴な!」
白き魔法陣がヴァイスの周りを囲んだ。
味方兵士を背負い戦場後方へ引いていくメーコを護るのはブーケとルフナだ。
「数的有利は大事よね。味方は倒れず、敵は減る方がいいやんかぁ」
「雑兵……と言うには些か手強いけれど、有象無象はここで押し留めてないと天香さん達の所に余計な水差しちゃうじゃん?」
敵の攻撃を受け流し、じくりと痛む傷にブーケは眉を顰めた。
ルフナの回復は他の為に使われるべきものだ。今はまだ不要だと視線で言葉を交し敵の前に躍り出る。
冬も近づいて来る寒さのはずなのに。戦場の熱気に深呼吸を一つ落としたルフナ。
「少しでも体力が残ってれば戦えるでしょ。なら、倒れないように僕が支えるさ」
――――
――
夜洽紬姫は目の前で起こった事に多少なりとも動揺を隠せないで居た。
『琥珀薫風』天香遮那の傍に付き従っていた緑柘榴の目をした少女が突然力を発したのだ。
それは、紬姫の分身たる『艶勾玉』籐蘭を一瞬にして消し去った程の妖気を帯びていた。
「っふ。はは」
少女に其れを決断させたのは『愛』なのだろう。命を捧げ大妖に変じ。それでも貫く物が愛だというのならば何と芳しい睦言なのだろう。
「誰の命も潰えないための闇であれと。私はそう、思っています。この戦局が終われば――師走先生、貴方の元へも帰れますね」
星穹は紬姫へと魔力の奔流を叩きつける。
「この一手は痛くも痒くも無いかもしれない」
けれど、僅かな針の積み重ねはやがて大きな穴となる。そのための確かな一歩だ。
「お覚悟ください。私達は個ではなく、孤でもなく。集であるが故に、強く、太く、かたい絆で結ばれているということを!」
星穹の術式に重ねるようにコルクの黒き剣が紬姫の鼻先を掠める。
「魔種。世界の災い、或いは、災禍の素。其処にどのようなプロローグがあったとしても私達には関係ないのですから。ここで死になさいな、貴女」
挑発するように視線を合わせたコルクは口の端を上げた。
「私達が御相手致しますわ」
双弥は恨みにも似た感情を紬姫へと向ける。
「確実に潰して殺す。此岸ノ辺にカチコミかけたクソ野郎は確実に潰す。容赦しねェ。魔種ってんなら逃がす道理が無え」
重ねられた攻撃に、コルクが追撃を放つ。
「仲間にお膳立てされて中てらんねえなら、俺も帝釈天の眷属の名折れよなァ! 蛇のひと噛みに慌てふためいてる間に旦那達の一撃もらって死んどけや!」
自分の傷は度外視に。穿つ白肌に蘇芳の赤が散った。
遮那の琥珀色の瞳が月光に照らされている。
覚悟を決めた眼差しにユンは安堵の笑みを浮かべた。
「遮那……! 良かった、良かったよ。まだ安心する所ではないが、君が戻ってきたことが嬉しい」
「確かに聞いたよ、遮那君の覚悟! なら、私達は斥候としてキミを一番奥まで連れていくよ!」
アリアの言葉にBinahとユンが頷く。
「さあ、行くよビナー君、ユン君、遮那君!」
「うん、行こうか」
有難うと呟いた遮那の言葉にアリアは笑顔を向けた。
「決めたのね」
タイムは遮那の元へ駆け寄り視線を交す。
「ああ」
「……分かった。もちろん一緒よ。あなたの支えになる」
「ありがとう。タイム」
遮那はタイムの手をぎゅっと握ったあと、朝顔へと向き直った。
「遮那君……帰ってきてくれて有難う」
「向日葵にも心配を掛けたな」
朝顔の手を取った遮那は申し訳なさそうに握る。
「私は君の未来が続く事を、幸福を願い続ける。……共に生きて、一緒に夜明けを見ようね」
「必ず」
遮那は琥珀の瞳を鹿ノ子へと向けた。
「鹿ノ子。待たせたな。共に来てくれるか」
「僕らがついてるッス! だから振り向かず、どうか!」
目指すは、義兄天香長胤の元へ。
立ち止まる訳には行かないのだ。鹿ノ子の二律背反の気持ちは偽りの無い心。
――貴方を救うのは自分だけでいい。笑顔の先は自分であってほしい。
全てを抱きしめ自分だけのものにしたい。
だから。傍に居たい。純粋なる『愛』の慟哭を秘めた鹿ノ子の瞳は、遮那と共に前を向いて居た。
「遮那を長胤のもとに導けるよう、戦線を切り開こう」
大地は先陣を切って前線へと繰り出す。
「長胤ハ、この国を託す為ニ、俺達がそれに足る存在か確かめる為ニ、弓を引いていル。お前の行く道は俺達が導ク。だかラ、お前は兄のもとへ行ケ」
伝えなければならない言葉を届ける為に。赤羽・大地は遮那へと激励の言葉を伝う。
「詳しい事情は分かりませんが、遮那様という殿方を護衛すればいいですの?
ちみもーりょー、を倒しながら進むですの!」
スノウスノウが敵の陣営へと魔力の奔流を叩き込んだ。
「邪魔ですの! 道を開けるですの!」
遮那を気に掛け、彼へ飛んで来た矢をスノウスノウが受け止める。
「陽炎、稲妻、水の月。幻をそなた等は捉えることができるか? 僕はユン。幻の獣。さて、ひとつお遊びに付き合ってもらおうか」
ユンは遮那を護りながら仲間と共に戦場を往く。
「もっとも其方らには僕は倒せない」
挑発と共に自身に敵の注目を引きつけた。積み重なる傷に膝を折れば、ジルの回復が即座に飛んでくる。
「踏ん張って下さいっす。絶対に悔いは残しちゃ駄目っすからね!」
遮那の決意を継ぐ事は彼の盾となり進む皆の総意だから。
ジルは癒し手としてこの場に立っていた。
「さあ、行くっすよ!」
鳴り止まぬ陣太鼓の音が本陣へと徐々に近づいている事を示す。
●
イレギュラーズの猛追に忠継、霊長蠱毒の陣営が徐々に押し上げられていた。
則ちそれは、天香長胤の居る本陣と接近していくということだ。
忠継の耳に本陣の陣太鼓の音が聞こえてくる。
想定よりも神使の勢いが強い事に疑念を抱いた忠継は、遮那が『無事に』彼方側へ下った事を悟った。
何者かが複製肉腫を引き剥がし、自陣に引き入れたのだろう。
そうで無ければ、遊撃隊として出ていた遮那に苦戦し、押しとどめられていたはずなのだ。
ならば、本陣へと合流した方が勝ち目はあるというもの。
「此れより、我が軍は本陣へと合流する! 体勢を立て直し、再び逆賊を打つ払う為である!」
機を読み的確な道筋を見出す。それは怠惰の魔種へと堕ちた忠継の権能。
誰よりも『休む事』をしなかった怠惰の剣鬼だった。
「卑踏の野郎、めんどくさいもん作りやがって!」
戦場に木霊するのは風牙の声だ。
「こんなもんに食わせてやる命なんて一つも無え! ここで叩き潰す!」
翡翠の瞳は曇らない。手を横に掲げ敵味方の兵士に叫ぶ。
「この化け物は人を食う! 敵味方の区別なんかつけねえぞ! どっちも絶対近づくな!」
風牙の声に兵士達が動揺を見せた。じりりと霊長蠱毒から後退る。
「大きな戦になってしまったね……。だが、必ずやこれを収めてみせよう――ルル家さんの心意気に、報いるためにも!」
風牙の隣からフェルディンが駆け出す。
何よりも優先するのは兵士達の被害を軽減すること。敵も味方も全てだ。
「無駄な犠牲は、一人として認めないさ――!」
「ぐうぅ、ああ!!!!」
苦しげに藻掻く霊長蠱毒は小さな少年の形をしていた。
「亡骸に移り憑くなんて……貴方のような邪悪は生かしてはおけません。私めの全身全霊を以って、斃させていただきます……!」
明日は太刀を振るい霊長蠱毒へと斬りかかる。突き刺さる剣先に確かに手応えを感じた。
リュコスは明日の視線を受け頷いた。強靱な肉体膨大な妖気。恨みが形になったもの。
されど、倒せぬ相手では無いのだと。
「これ以上、カムイグラにぎせいを出さないために……」
リュコスから這い出た黒い影は爪となり、霊長蠱毒の口元を切り裂く。
「フリック 霊長蠱毒引キ付ケル フェルディン癒ヤシ続ケ 戦線維持 兵被害抑エル」
青龍の加護を纏しフリークライが霊長蠱毒の前に立ちはだかった。
「ソノ憎悪絶望 フリック弔ウ ン。貴方達 墓標ソンナ化物違ウ フリック 弔イノ花 纏イ
祈リ以ッテ 戦ウ」
フリークライの巨体に霊長蠱毒の怨嗟が纏わり付く。
「市井の人たちにどうしてこんなに酷い事ができるんだろう?」
文は怖かっただろうに、苦しかっただろうにと霊長蠱毒に渦巻く人々の無念を感じ取っていた。
「もうこんな犠牲を増やしたくない。だから止める。それだけだ」
一般兵に被害が及ぶ事をその身体で防ぐ文。
「ただでさえ強力な化物なのに、人間を喰らうだなんて。放って置ける訳がない……」
ドゥーは口を引き結び杖を掲げた。
「早く倒さないと……!」
フェルディンも風牙も満身創痍。されど、積み重なった傷は霊長蠱毒とて同じだとドゥーの視覚は情報を辿る。ならば、好機を逃すのは愚行。
「今、その怨嗟の呪縛から解放するから……!」
ドゥーが掲げるは、必殺の閃光。怨嗟に苦しむ少年を解き放つ救いの光。
「これで――!」
戦場を駆け抜けた一陣の瞬きは皆の心を乗せて夜空を照らした。
左方を照らした眩しい輝きに夜洽紬姫は眉を潜める。
恐らく誰かが神使側に打ち倒されたのだ。大方、霊長蠱毒とかいう獣だろう。
「戯け者めが」
「切なる想いを守る愛と正義の護光! 魔法少女インフィニティハート、ここに見参!」
愛は光輝の中から姿を現した。
「……さて、邪魔な妖怪には退場頂きましょう。
ルル家さん遮那さんの想いを守るためにも、そしてこの戦いに勝利するためにも」
紬姫が率いる軍勢が本陣へと合流するのを防ぐのが愛達の役目。
「大丈夫です、私達がしっかり守ります。恐れず隊列を崩さず、愛と正義を胸に進撃しましょう」
愛の声にザッハトルテも決意を新たにする。
「この流れ込んできた多量の妖怪をどうにかする……そのお手伝いをするで!」
護られるばかりでは嫌なのだと、最前線の味方へと癒やしが届くように前に出るザッハトルテ。
「へこたれたらあかんで! ここが正念場や!」
ザッハトルテの激励に続けとヴァージニアは指示を味方兵士へと与える。
「私にどこまでのことができるかはわかりませんが……やれるだけのことはやりましょう」
成すべき事は味方の被害を減らし、足止めをすること。
上空へと飛ばしたファミリアーで戦場を俯瞰し、的確に兵士を動かしていた。
「……やっぱり……魔種が後ろで暗躍していたんだね……」
紬姫に連れられてやってきた多数の妖怪に眉を寄せるグレイル。
下手な火力であれば押し切られてしまうだろう。例え魔種を倒しても妖怪共は止まらない。
「……本隊が全力を出せるように……ここで抑えるよ……
……余計な手出しは……させない……!」
先見の目を持つ紬姫は悪寒を感じていた。
此の儘では否応が無く不利になってしまうという予感がする。
例えば目の前に居るのが愛無(ばけもの)だったからだ。
「さて、良いようにやられた借りは返さねばなるまいな。実際、苦労したのだ。夜洽紬姫と言ったか。
元凶の一人が此処にいるのだ。決着をつけねばなるまい。そそぎ君達の分も纏めて叩きつけてやろう」
月光に黒光りした愛無の身体から腕が伸びてくる。
「籠の中の鳥は、籠の中でしか生きられぬ。お前が得た『自由』は所詮は偽り」
籠が変われど自由はないのだと愛無は口を開けた。
「愛知らぬ哀れな女。愛乞う愚かな女。何のことは無い。似た者同士か。
お前は誰も愛することなく。愛されることなく。愛無き化物に喰い殺される。今、ここでな」
されど、愛は。その名とは裏腹に。心の奥底で仄かに灯り。
愛無が噛みつくと同時に放たれた紬姫の攻撃。息を絶え絶えに吐くのは何方の肺か。
明らかなる好機にハロルドと希が走り込む。
「魔種の言葉など聞く耳持たん! 誰の記憶にも残らないまま! ただの害虫として無価値に死ねッ!」
「罰は素面で受けてこそ意味がある……」
叩き込まれた連携技に紬姫は恐怖を覚えた。
「愛していたいだけ。其れだけなのに」
「貴様と話す言葉など何も無い!」
「行き過ぎた愛情は許されないなんて、意地悪だよね……」
交錯する剣檄。破砕音。
パンドラをすり減らし、命を削り。
死闘の果て――
口から血を吐いたのは紬姫だった。
ハロルドの聖剣は深々と紬姫の腹に突き刺さり愛無の顎は右腕を食らう。
愛を欲した魔種夜洽紬姫の最期は皮肉にも戦場の最中だった。
――――
――
自身の頭の中で己以外の声が響いていた。
右目の虚に映し出された視界は赤と緑の混色。
夢見 ルル家は脈動する右目を押さえ、内側から這い出ようとする何かに抗っていた。
「ルル家!」
聞き慣れた声に振り返れば、竜胆の顔が見える。ヴァイオレットやリンディスの姿も見える。
「占いで不吉な相が出たんです。けれど、此処に来れば貴女に会えると……」
心配と安堵が入り交じった複雑な表情。けれど、涙を浮かべるほどに嬉しさを滲ませる。
「拙者の事は良いのです。それよりも……」
「ええ、分かってます。……あの日、二人が消えるのを見送ることしか出来なかった手。今度は守り抜きますから。まずは遮那さんの願いを!」
リンディスはルル家の手を握り頷いた。
「……今は何も聞きませんわ。時間がないのでしょう」
ヴァレーリヤはメイスを手に敵をなぎ払う。
「それが貴女の覚悟だと言うのなら、私は鉾となって道を切り開くのみ」
「ルル家君……今はただ君の為に力を尽くそう! だから君は!為すべきことを為したまえ!
話はそれからだ!」
快活な声がヴァレーリヤの隣で木霊する。
「行きましょう、マリィも気をつけて」
「うん! 行こうヴァリューシャ! 君も気を付けて」
ヴァレーリヤとマリアは赤光を纏わせ先陣を切った。
「自分が力不足なのも分かっている。でも……」
夜顔は不安げな表情で姉である朝顔を見た。彼女は何かあれば笑顔でその身を捧げるだろう。
自分には誰よりも朝顔が死ぬ事が耐えられなかった。
魂を別つのが双子だというのならば、未来への奇跡を願う代償とて担うつもりだ。
きっと姉はそれを望まないだろうけれど。
「それでも」
夜顔はそれ程の覚悟を以てこの戦場に来たのだ。
「正直、ルル家っちの事も遮那っちの事もカナはよく知らない……。
知らないけど、みんなの大事な人だから、お姉ちゃんが好きな人だからカナはそれを守りたいんだよ!」
誰が推しの辛そうな顔を見たいもんかとカナメは敵を引きつけていく。
「見たいのは幸せそうな笑顔だけだもん!」
鹿ノ子もルル家も遮那も。最期には笑って欲しいのだ。だから、カナメは痛みに耐え進み道を拓く。
「ルル家お姉さん……遮那お兄さんのこと、身を挺して助けるぐらい大好きなんだな」
ノーラはルル家と遮那を交互に見つめながら指先を握りしめた。
「でも、大好きなら離れちゃだめだ。パパとママとノーラも大好きで一緒なんだから」
小さな声で呟かれたノーラの言葉。
「ルル家さんも心配ですが……きっと皆さんが救ってくれると信じて。私は私のやるべきことを。今は、この人達を絶対に止めないと……!」
パーシャはみるくとアンジュと視線を合わせる。
「ここは本当に良い国ね。無くなるには惜しすぎるわ。アンジュ、パーシャ、行くわよ!」
「おっけー!パーシャちゃんとみるくちゃんとかちこみだよ」
遊撃隊として戦場に駆け込んだ三人は背面から敵の陣営を崩していく。
「ウルサ・マヨル。お願い、みんなを守って!」
「とにかく全力攻撃であたり構わずいわしミサイル発射!!!」
「あなた達のゆく道はこの刀で切り開いてあげる。後ろは振り返るな、あたし達に任せなさい!」
みくるは遮那とルル家を連れた仲間に道を明け渡す。
その身が赤き血を流し、挫けようとも。望んだ未来を勝ち取るために突き進めと。
パーシャとアンジュも同じ思いで戦っていた。
「遮那さんはこちらに帰って来られた様ですね。良かった」
ジュリエットは遠目に姿を見せた遮那達に安堵の表情を浮かべる。
「ですが、彼の決意と責務はまさにこれからの行動なのでしょう。彼の決断を後押しする為にも微力ながら私も尽力致します」
ラムダはジュリエットの隣で敵兵へと攪乱の一手を打ち込んだ。
「形式ってものは必要なのかもしれないけれど難儀なものだねまったく。ボクには理解できないよ。
まぁ、些細な協力をするぐらいはするけどね?」
区切りとしてのある種儀式的な言の葉は、ラムダには理解出来なかったけれど。
それでも仲間が成したい事があるというのならば手助けしたいと思うのだ。
「たいせつなひとをまもりたいってきもち。わたしよくわかるわ。
だからそのおてつだいさせてちょうだいな」
ポムグラニットは戦場を抜けて行く遮那達に視線を上げた。
薔薇の精は多くの妖怪を相手に権威を振るう。
彼等の道を作り出すため。邪魔な者達を排斥するためポムグラニットは戦場に立つ。
「状況は良い方に変わっているけれど、正念場はこれからか。
俺も微力ながら手伝いましょう。遮那さん達の想いを叶えるために」
黒衣に身を隠した威降は青き瞳を上げた。
「それと……あの人がご先祖様の『暦』と同じかは分からないけれど。
風巻源四郎暁威の子孫として、暦の頭領を名乗る人の力にならないとね」
威降の視線の先には鬼灯の背があった。
「遮那殿。本当に良かった。あの時、彼女達の手を届かせてやれなかった……っ」
目の前で浚われていく遮那達を見て居ることしか出来なかった。
「今度こそ、役者が舞台へたどり着く為の舞台を『黒衣』として整えるのみ
――さぁ舞台の幕を上げようか!!」
「ええ、ええ。みんなでおうちに帰るのだわ! 絶対に負けないのだわ!」
鬼灯と章姫の声が戦場に響き、黒き衣を纏った神使が動き出す。
「敵の大将も出て来てまさに決戦、という所だな」
ヤツェクは戦場に聞こえる怒号に耳を澄ませた。
「熱いやり取りは、情熱溢れる若い衆に任せようじゃないか。そのためには――目の前にいる邪魔者たちを、さっさと片付けにゃあならん。大人の渋さを見せつけてやる」
冥を相手取り、ヤツェクは魂の閃光を解き放つ。若者共の道を開くのは自分だと言わんばかりに。
「オレは山の方で育ったから、都とか偉い人のことはよくわかんねーけど。
でも、カムイグラが変なやつらに乗っ取られて、皆で笑って過ごせなくなるのは絶ッッ対やだ!」
ブンブンと首を振った琥太郎は闘志を漲らせる。
「オレは砧 琥太郎! すげー強い鬼だぞ、かかってこい!」
名乗りを上げ、兵士共へと切り込んで巨大な金棒を振り回した。
「オレはもっともっと強い男になるんだ!」
血飛沫を頬に散らし、琥太郎は夜空の月に叫ぶ。
●
騒乱剣檄。
群青の空に浮かぶ望月を見遣り、天香長胤は眉を寄せた。
「来よったか」
簡易椅子から立ち上がった長胤は傍らの弓を取る。
自ら戦いに赴くは神使達への敬意だ。
只上に居座った者の首がすげ変わったとしても納得行かぬ、血気盛んな者達ばかりだ。
「往くぞ」
この場所に戻ることはもう無いのだと、長胤は地を踏みしめた。
「最高の舞台を用意してあげるわ」
マリア・ドレイクが青き流星の如く猛撃で戦場を駆け抜ける。
「るる家さんの覚悟は伝わりました。救います。救うために、この戦いを終わらせましょう」
覚悟と決意の瞳でアルヴァは視線を上げた。
「ボクは皆さんの盾であり、同じイレギュラーズですから!」
最前線に立ちはだかり、仲間への攻撃を受け続ける。例えパンドラを減らそうとも倒れる訳にはいかないのだとアルヴァは吠えた。
「……なんじゃろな、ここに来てわざわざ長胤本人出てくると言う事は」
ヨルは遠くに見える敵本陣に視線を向ける。
「幕引き時を求めておるのかもネェ……ならば決着をつけよう!」
伝えたい想いがある者達が十二分に会話出来るように。ヨルは迅雷を以て戦場を駆ける。
「何かっこよく終わろうとしてるのさ! キミがどんな思いでその末路に向かってるかなんて知らない!
知りたくもない! でも、柵魔星くんは言ってたよ! 長胤様を裏切る心算は微塵もないって!
最後まで守りたいって! そんな主君思いの部下をキミは見捨てるの!?」
茄子子は長胤の想いに気付き言葉を投げる。
「最後まで、最期まで戦うんだよ! その勇姿を遮那くんに見せつけるんだよ!!
死ぬんだったら、色欲の魔種、総大将天香長胤として、戦で死ね!!」
叩きつけられる熱い想い。自ら命を絶つ事が茄子子には許せなかった。
「国を治めておれば、この手の出来事は日常茶飯事。殿的存在である麿が言うのじゃから、間違いは無い!
あの紫烏帽子の考えることなぞ、ずぇーんぶお見通しよ」
夢心地はにやりと口の端を上げる。
「ふん、任せておれ。麿がこの茶番を完璧にぷろでゅーすしてやるのじゃ」
狙うは長胤が遮那を目視したその瞬間。
遮那を気に掛け、意識を其方に向けた時を狙う。
「嫌いではないからの、貴様のような分かりやすい男は」
覚悟を決めた者の胆力が侮れぬならば。夢心地はその時を命を張って演じるのみ。
「穢れの事も黄泉津瑞神の事もあるけれど、先の為にはこちらも必ず越えなければならない関門」
天香の軸が無くなれば七扇の政治的バランスは崩れるだろう。冬佳は氷蓮華を手に兵と切り結ぶ。
「天下分け目の戦……とはいえ、文字通り国だけでなく民も含めた滅びの瀬戸際で、回避の為に人同士で戦をしなければならないのは、辛いですね」
出来るだけ殺さずに。後の世を良くするために。
「この国はまだ終わりではありません」
続く道のため。冬佳達はこの場に駆けつけたのだから。
「全く……真面目君というのは本当に素直じゃないし不器用ですね」
沙月は小さく溜息を吐いた。
迫り来る敵を迅雷でなぎ払い長胤を見遣る。
「この状況下で長胤が何を思うかは大体想像がつきます、ならば無礼の無いよう手心一切なしで最後の時を迎えさせてあげましょうか」
「ああ」
沙月の隣には誠司が寄り添っていた。
「長胤は誰かを欲しなかった。それでも愛に狂ったのは……もうここには無いから、なのか」
他人の事ばかりで自分を押し殺した。
「自害の前にやる事あるだろう。政治家でも、魔種でもない、一人の人間として最後に。
泣いてやれよ。無くしたものの為に。自分の為に。もう、いいんだ。
アンタは泣いて、いいんだ!」
誠司の叫びは長胤の耳に届いただろう。
それでも成さねばならぬと拳を握る。
「豊穣の興廃この一戦にあり……ですね。歪な望月を落とします」
寛治は遮那がこの場に来ても良いように長胤と相対する。
兵を退け、長胤までの道のりを拓くのだ。
「邪魔立ては許しませんよ」
兄弟の今生の別れ。誰にも憚る事無く伝う言の葉を。
「この国のための御尽力、お見事。魔種へ反転しようとも失われなかった高潔さは貴方様故なのでしょう」
正純は天星弓を構える。矢を番え、流れる様に引かれた弓の弦が張った。
弓の張る音に狙いを定め。
「されどその月、射抜かせていただきます」
天に瞬く星に誓って。戦場に響いた弦音は夜空の星を纏い、長胤の甲冑を貫いた――
膝を着いた長胤に敵兵達が動揺を見せる。
次々と舞い込んでくる長胤陣営の討ち死にの報。
そして。
「兄上――――!!!!」
自身の名を呼ぶ義弟の声に長胤は長く息を吐いた。
――――
――
遮那へと振り返ったBinahとアリアは彼の背中を押す。
「伝えたい言葉があるならしっかり伝えて。本心から伝える言葉は何よりも大事だから」
「行ってください。遮那君――その言葉は、きっと君の今と、未来を支える言葉になる筈」
悔いの無い様、自分の言葉で全てを伝えて来いと二人は頷いた。
リンディスもまた遮那へと語りかける。
「『天香』遮那さん。……今後は、私たちも微力ながら支えましょう。
話して、きちんと進むべき道を間違わないように。心残りの無いように」
「さて、どのような結末になろうとも遮那君は何も悪くありませんよ」
四音は微笑みを浮かべて遮那と長胤の会話に聞き入る。
「皆が望んで行動した結果なのですから、どうぞ気に病まないでください。
むしろ笑顔でありがとうと言ってあげましょう」
自分は大丈夫なのだと安心させるために、笑顔で見送るのが良いのだと四音は嗤う。
「くふ、くふふふふ……」
月影に四音の小さな笑い声が木霊した。
遮那は長胤の元に駆け寄る。正純が貫いた矢を抜き去り、肩で息をする長胤。
「兄上!!!! 兄上、私は……」
「遮那よ、聞け。
血も繋がらぬ貴様が如きを、この長胤が天香へと迎えたのは、哀れみ等とは思うでないぞ。
幼さ故の健気ばかりしか持たぬ、たかが身寄りの無い小僧風情が斯様な場に……天下分け隔つ戦場に立つことなぞ許されるものか」
長胤の言葉は静かになった戦場に響く。
揺らぐ視界にルル家は右目を押さえた。
身体の中から大妖の叫びが聞こえてくる。
腹を割いて飛び出してきそうになる妖魔にルル家は口から血を吐いた。
「遮那、くん。……拙者はもう、限界みたいです。……どうか」
「ルル家!? どうしたのだ!?」
駆け寄ろうとする遮那をルル家は突き飛ばす。
遮那を見つめる瞳は緑色に光り、まるで人間では無いように見えた。
「どうか……、お達者で……っ」
ルル家は翼を広げ、後退る。きっとこれでお別れ。
緑柘榴の瞳の代償はルル家をとうとう侵食した。
遮那は琥珀の瞳を見開いて手を伸ばす。
「ルル家!!!!」
しかし、手を伸ばした先にはルル家は居なかった。浮かび上がるルル家の身体。
「僕は! 貴女に嫉妬した!」
それを掴んだのは鹿ノ子だ。
怒りにも似た表情でルル家に追い縋る。
「遮那さんに手を伸ばせた貴女のことを妬んだ!」
叩きつけられるは、偽らざる鹿ノ子の心。震える感情に。されど涙は出てこない。
「手を伸ばしたなら! 掴んだなら! 離すなんて許さない!」
鹿ノ子が叩きつけた言葉にルル家の身体が動きを止める。
「……っ、拙者は」
この時、鹿ノ子が先んじて飛びつかねばルル家は大空へと舞い上がり姿を消して居ただろう。
「遮那さんが笑う豊穣の未来に、誰かの死なんて必要ない!」
鹿ノ子の叫びが戦場に響き渡る。
「ルル家先輩、私怒ってるんですよ? 貴女が死ねば、遮那君は傷つく」
朝顔が鹿ノ子に加勢した。
「例え彼が死を乗り越える強さを持っていたとしても、私は認めません」
遮那を傷つけるだけならば許さないと朝顔は言葉を繰る。
「……だから生きて下さい。その為なら、私は死なない程度の可能性は削りましょう」
死んでしまえばそこで終わりだから。遮那が悲しむだけだから。
朝顔は飛び立とうと抗うルル家を掴んだ。
「パパとママも無事で帰ってきて欲しいって願ってる。だからここで諦めたらだめだぞ!
ルル家お姉さんも、ルル家お姉さんが大好きな遮那お兄さんも、みんな一緒に帰るんだ!!」
ノーラは涙を浮かべ声が枯れる程に叫んだ。
愛する人との死別から生み出された悲嘆の象徴が自分なのだとグリーフはルル家に視線を向けた。
照準をルル家に合わせ引き金に指を掛ける。
もしもの時はこの手で人としての終わりを与えるために。
可能性の奇跡を持ってしても、覆らない事実――『死者は蘇らない』ということだ。
それを知っているからこそ。グリーフは願わずには居られなかった。悲嘆を砕く奇跡を。
「戻って来て下さいまし! 皆、ずっと待っていましたのよ!」
ヴァレーリヤは迷い苦しんでいるルル家に叫んだ。
きっと彼女の中では今にも大妖が出て来ようとしているのだ。
だから、ルル家は迷惑を掛けまいとこの場から逃げようとしている。
「ですが……っ、もう」
「何があっても大丈夫、きっと何とかして見せますわ。だって私達……友達でしょう?」
ヴァレーリヤの声にマリアは唇を噛んだ。
大切な人が。大切な友人が助けを求めている。
――ねえ、白虎。
君と戦った時に言ったよね?
大切な友人を助けたいって。
今がその時なのだとマリアは白虎に請うた。
「お願いだ! 皆に力を貸しておくれ――」
煌めく光。一迅の風が戦場を吹き抜ける。迅雷来たれり。
――白虎招来!
雷鳴轟く暴威の一撃。
ルル家を穿つは白虎の権能を纏うマリアの蹴りだ。
風に靡いたマリアの赤い髪には白虎の耳。それに尾が生えていた。
「ぐぅ、あ……!」
痛みはルル家の身体を突き抜ける。
されど、痛みにより意識は人間側に傾いた。
リンディスはルル家に視線を上げる。
「あの日目の前で消えた貴女達を今度こそは――」
目の前で物語を途絶えさせたりしない。白紙の頁はまだ沢山残っているのだ。
ルル家達の笑顔溢れる未来を願うのだ。
妖怪が蔓延る戦場より駆けつけたレンはルル家の哀れな姿に肩を落とす。
「……無様でござるな、ルル家」
想い人と歩む事も、友の想いに応える事も、裏切者に借りを返す事もできずに此の儘妖怪に成り下がってしまうのかとレンは紡いだ。
「力に呑まれるな、己がものと成せ。起こしてみせよ、奇跡を!」
それはかつての弟子を思う師の言葉だ。
この様な所で負けてくれるなとレンは叫ぶ。
「貴女は馬鹿よ、大馬鹿よっ! どれだけ皆を心配させたと思ってるの!?」
竜胆はルル家に手を差し伸べる。
「……でも、でもね。本当に、よく頑張ったわ」
ルル家の金糸に隠された右目の瞼をそっと撫でた竜胆。
「貴女はもう一人じゃないの」
「……っ」
内側から迫り上がる大妖の気配にルル家は竜胆から離れようとする。
されど、竜胆は離れる事を許さない。
紫黒の妖気が溢れ、竜胆の白い頬を蝕んでいく。
「離して、くださ……」
「――嫌よ! 私は絶対にこの手を離さないわ」
毒に侵されていく竜胆の口元から血が流れ、地面に染みを作った。
「私を、皆を少しは頼りなさい」
それでも、抱擁は強く硬く。
山裾に咲く青い花の花弁が風に乗って戦場に舞い上がった。
――願う。願う。願うのだ。
未来と笑顔を。
友が歩む道を。
理屈なんかじゃない。
想いの光だ。
タイムは澄んだ瞳で光の帯を見た。
竜胆から花咲くように舞い上がった光の帯は、想いを紡ぎ夜空の星川の如くルル家に降り注ぐのを。
どうかどうか。奇跡を。
「いやよ。黄龍様の前で、泣かないって決めたの。皆一緒に帰ってこようねってそう願ったの」
ルル家だってその中に入っているのだ。
「貴女がいなくちゃわたしは……!」
胸で指を握ったタイムの眦に涙が浮かぶ。
「私は、愛や恋と言うものの存在をその輪郭しか知りません」
無量は黄金の瞳を僅かに伏せた。
「それら二つが遮那さんを救う為に夢見さんを此処まで突き動かしたなら」
ルル家を解き放ったとすれば自身が望む救いを体現しているのではないか。
其れならばこの様な所で、失う訳にはいかぬのだと無量は決意を込めて顔を上げた。
己が理想を否定しないために。
「二人で歩む未来を」
生きて。愛して。応えるために。
「ワタクシは嘗て、友達を助けられなかった。二度目は、耐えられません」
ヴァイオレットがルル家を抱きしめる。
「だから、運命を変える為に、奇跡を起こすしかないのなら……ワタクシの可能性くらい、いくらだって差し出してみせる」
奇跡は貴女に出会えたこと。諦めていたヴァイオレットに『友達』として手を取ってくれたこと。
それが何れだけ嬉しかったか。貴女には分かるだろうか。
暗闇の中で差し込んだ陽光に似た温かさを。泣き出したいほどの衝動を。
其れが失われるだなんて考えられない。
再び絶望に突き落とされる事が分かっていたなら、あの時貴女の手は取らなかった。
だから。
「どうか帰ってきて……ルルさん!」
一人ぼっちはもう嫌なのだ。
竜胆は黒く染まった指先に力を込める。
「少なくとも私は、ルル家の為に此処まで来たのよ……!」
何処かへ行ってしまうなんて許さない。
「帰って来なさい! ルル家! 貴女にはまだ未来があるでしょう!」
こんな所で折れて良い翼では無い!
弾けるは眩い光。
視界を覆う輝きに誰もが目を細めた。
●
「何だ!?」
忠継は眩い光が天へと上り、戦場を照らしたのに振り返る。
「余所見なんて、つれないんじゃない?」
ジョージの代わりに前へでたゼファーの槍が忠継の胴を割いた。
「海向こうの神使共が好き放題にやりよって、元はといえば姫菱安奈、貴様も同じ穴の狢であったな! よりにもよって若君を誑かせるとは、其所へ直れ! 即刻斬り捨ててくれる!」
安奈は後方から言葉を浴びせかける冥に向き直る。
「武人であるなら、剣で語れ!」
「抜かしたな小娘!」
一刀にして冥を押し返した安奈の気迫に、ゼファーも槍を握りしめた。
「……生憎、こっちも譲れないのよ。
バカと無茶をやろうとしてるヤツを連れ戻さなきゃならないもんですから」
忠継の剣を弾き、時には腕で受け止めるゼファー。
「あんたみたいなのに仕事を増やされちゃ困るってワケよ!」
月光に槍先が反射する。穿たれるは忠継の左腕。
「中々の手練れだ」
「此処で引導を渡してあげるわ!」
ゼファーの後方に至東が走り込む。
「わずか一党にて魔種を斬る。否、かの乙女に斬り殺させる。それをご所望か。さすが、お公家は無茶を言いなさる。が、無茶こそ侍の本懐、美少女の萌えどころござるヨ。故に、身命を賭す意味があり申す」
覚悟を決めて忠継の眼前へと至東は構えた。
「楠忠継殿とお見受けする! わが名は観音打至東! 腰の『楠切村正』を恐れぬならば、いざ参られい!」
「応よ」
切り結ぶ刃。火花散り戦場を焦がす。
忠継の戦法が至東のよく知る反応特化の型であるならば。この技は覿面に効くはずと考えを巡らせる。
「いざ……!」
忠継は悪鬼のように闘い続け、刎ねた首の数は片手の指では足りないがその身も既に満身創痍。
いかな剣豪といえども、また魔種であろうとも限界は見えている。
「安奈殿は如何して楠を討つと決められたのであろうか」
百合子は安奈へと言葉を投げた。
「分からぬのだ。貴女は……同僚に対してそこまで責任を持つことが必要だったのか?」
「何、簡単な事だ。天香から出た錆ならば、摘み取るのもまた、天香の役目であろう」
天香家の臣下として当然の返答だった。
されど、その言葉の裏側には計り知れない想いがあるように見えた。
「参る!」
百合子は美しき拳の連撃を忠継に叩き込む。
一度では止まらぬ百合子の拳は忠継の胴に炸裂し血飛沫が舞った。
「安奈殿――!」
低く構えた安奈が凛と鯉口を切る。
積み上げた研鑽。幾千の剣技に辿り着いた境地。
剣光が忠継を袈裟懸けに駆け抜け――菱葉ポニテ抜刀術。
白き月に。蘇芳の赤が散った。
「強くなったな」
「言うな忠継。多勢に無勢での事」
深々と突き刺さった安奈の剣。貫いた心臓は鼓動を弱くしていく。
「なに、戦は勝てば官軍よ。……若様を、任せ」
「……休め、忠継。いずれ冥土で見えよう」
血溜まりの中、楠忠継の命は揺らぎ、消えて行った。
●
ルーキスは長胤の前に膝を着いた。
「長胤様。此度の争乱で、霞帝は長胤様の事を苦しめてしまったと……心を痛めて御出ででした。
この結末も、決して心から望んでいるものではない筈」
目の前のこの男には叶えたい未来があったはずなのだ。
「最後に、もしも霞帝への言伝がございましたら承ります」
「小憎らしい青二才めが。ひげ面を晒しよる。そうとだけ伝えておけい」
この期に及んで長胤はやはり『らしい』激励を望んだ。
「その言葉、必ずやお伝え致しましょう。貴方様の覚悟を……僭越ながら霞帝に代わり、この目で見届けさせて頂きます」
ルーキスは覚悟を持ってこの場に臨んだ。
「君の想いは決して無駄にはならない。多くの人々に受け継がれ、やがてこの国を導く光となるだろう」
Tricky・Starsは地に膝を着いた長胤に視線を送る。
彼は天香長胤という男の事ははあまり詳しくない。
けれど、国への想いやこの先をより良くしたいというその心が本物だということは理解している。
「己の意志を貫き、ここまで戦い抜いたことだけは称賛に値する」
何れだけの想いを積み重ねただろう。計り知れぬ意思にTricky・Starsは瞳を伏せた。
「ボクは賀澄に長胤とまた話そうねと言って叶えられない」
ハルアは長胤の傍に駆け寄り言葉を掛ける。
「誰もばかげてなんかない。長胤、あなたのその言葉だって。誰の心も、あなたの心も大切だ」
此れより目の前で起こる儀式はハルアにとって苦痛を伴うものだ。
されど、口を引き結び見届けるのだ。
「良いか。神威神楽の世は泰平を離れ、これより乱れよう。
心せよ。貴様は帝と共に才覚を示せ。天香の名を穢す事は許さぬ」
長胤は遮那を真剣な眼差しで射貫く。
「帝の良き臣になれ」
天香の姓はこれより逆徒の楔となるだろう。それを濯ぐのは生半可な努力では出来ない事だ。
身寄りの無い遮那を生かしたのは天香の姓。これからはその天香の姓が重荷となるだろう。
強く生きて、乗り越えよ。
此処から先は。
震える手を遮那は振り上げる。傍にはヴェルグリーズが付いてくれていた。
数多の別れの中でヴェルグリーズが願うのは一つだけ。
『この別れが良きものでありますよう』
ヴェルグリーズの身はその為の、別れの介添えなのだと。
「兄上……否、逆徒長胤。帝の臣天香遮那の名にかけて、成敗致す!」
義弟の言葉を聞いた兄は満足気に目を閉じた。
懐刀を腹に当てた瞬間、遮那の太刀が長胤の首へと振り下ろされ――
「この戦、天香遮那の勝利です! 勝鬨を上げよ!」
寛治の宣言に神使陣営の雄叫びが戦場に響き渡った。
――――
――
「……もう、本当に馬鹿なんだから」
戦場の終わりを告げる騒乱の中。
竜胆は腕の中で眠るルル家を愛おしげに抱きしめ、青い瞳をゆっくりと細めた。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
天香家の決着を迎えました。
ルル家さんを救う為に可能性を燃やした竜胆さんにMVPを。
ヴァイオレットさん、タイムさん、無量さんと共に繋いだ奇跡です。
掴み取った未来に光があらんことを祈っております。
GMコメント
もみじです。
決戦ですね。
●決戦シナリオの注意
当シナリオは『決戦シナリオ』です。
<神逐>の決戦及びRAIDシナリオは他決戦・RAIDシナリオと同時に参加出来ません。(通常全体とは同時参加出来ます)
どれか一つの参加となりますのでご注意下さい。
●重要な注意
このシナリオの内容は、二日程度後に一度だけ書き換わる、ないしは追記の可能性があります。
書き換えや追記が発生した場合、どの場所がどのように変わったのか明記されます。
※2020年11月1日追記されました!!!!
●ルール
一行目:ロケーションのA~Cを選んで記載下さい。
二行目:同行者を記載下さい。グループの場合はタグ【】でくくって下さい。
三行目からは自由に記述下さい。
例:
A
アルエット(p3n000009) or 【アルエットちゃんの羽もふもふし隊】
おっしゃ、たたかうでー。
●目的
敵軍に壊滅的打撃を与え、合戦に勝利することです。
細かくは、以下の目標を必要十分程度に満たすことです。
また天香長胤の捕獲または殺害に関しては、必須条件です。
・魔種:楠忠継の撃破
・魔種:夜洽紬姫の撃破
・大妖:霊長蠱毒の撃破
・ガイアキャンサー:籐蘭の撃破
・天香遮那の救出(最悪の場合は撃破)
・魔種にして敵の総大将:天香長胤を捕える(または撃破)(必須!)
●ロケーション
高天御苑。
おおざっぱにいえば、京の城の外郭部にあたります。
平らであり広いので、その辺りにはあまり注意を払う必要はありません。
いろいろな建物等がありますが、フレーバーです。大暴れしちゃいましょう。
A:最前線
決戦の花形。
楠忠継率いる敵の本隊との交戦です。
何はなくとも、絶対に打ち破る必要があります。
#### ↓ 2020/11/01追記 ↓ #############
戦場『B』での異変に、未だ気付いていません。
気付いた場合には、後退を始め、長胤軍(戦場『C』)との合流を図ります。
#### ↑ 追記ここまで ↑ #############
○楠 忠継(くすのき ただつぐ)
剣の達人です。極めて強力な魔種です。
至近距離の剣技は修羅の如しです。
一太刀で致命傷となりうる技を放ちます。
先陣をきってきます。
○大妖:霊長蠱毒×1
極めて強力な妖です。
積極的に突撃してきます。。
イレギュラーズ以外の味方NPC(雑兵など)を殺害することで、HPが全回復した状態となります。
またこの際に若干ステータスが向上して行きます。
つまり放置すると加速度的にヤバい敵になっていくのです。
殺害された者の身体に乗り移る格好です。
○『侍』×20
神威神楽の普通の兵達です。
弓や刀で武装しており、そこそこ強いです。
はじめは弓で、接近後は刀で戦います。
○『兵』×60
神威神楽の普通の兵達です。
槍で武装しています。
一人一人はそれほど強くありません。
隊列を組んで前へ前へ攻めてきます。
B:戦場後方
戦場後方へ、天香遮那の率いる遊撃隊が襲ってきます。
ここは重要な拠点です。
#### ↓ 2020/11/01追記 ↓ #############
戦場後方への奇襲を目指していた彼等に、劇的な変化が訪れました。
夢見ルル家の活躍により、遮那を奪還された
戦場『B』の面々は、長胤軍(戦場『C』)との早期合流を目指します。
これにより戦場『B』は消滅し、長胤軍(戦場『C』)の援軍扱いとなります。
#### ↑ 追記ここまで ↑ #############
○『琥珀薫風』天香・遮那(あまのか・しゃな)
八百万の少年。天香家当主長胤の義弟。
元々は誰にでも友好的で、天真爛漫な楽天家でした。
膠窈(セバストス)の侵食を受けており、このままでは魔種へと相成ります。
軽々と空を舞い、刀で敵を斬ります。
忠継に教えて貰った剣術は中々の腕前。
戦いが上手いです。
複製肉腫になったことで大幅に強化されています。
刀を使った剣技。間合いは至~中程度をいくつか。威力大。出血を孕むものもあり。
風術。間合いは至~超遠。特にレンジを無視して戦場全部を包む暴風には要注意。
風の加護(P):己を含む軍勢に飛行能力を与える。
#### ↓ 2020/11/01追記 ↓ #############
遮那はルル家によって、複製肉腫を剥がされ、イレギュラーズの元へ運ばれました。
今は完全に正気となりました。
遮那は義兄長胤を討伐する覚悟を決めましたが、イレギュラーズに支えて欲しい心境のようです。
また遮那はイレギュラーズとの絆により、『原罪の呼び声』へ極めて強い耐性を持ちます。
#### ↑ 追記ここまで ↑ #############
○『艶勾玉』籐蘭(とうらん)
肉腫(ガイアキャンサー)本体。
艶やかな着物を着た女です。夜洽紬姫を模して作られた肉腫です。
夜洽紬姫の命令に従います。
特殊レンジ(超遠距離・万能)から一体に対して絶大な威力の攻撃を仕掛けてきます。
他の攻撃の間合いは至~中程度をいくつか。呪い、呪殺、不吉、恍惚を含みます。
#### ↓ 2020/11/01追記 ↓ #############
籐蘭はルル家によって討伐され、死亡しました。
#### ↑ 追記ここまで ↑ #############
○夜洽紬姫(やめねいのつぐひめ)
色欲の魔種。
艶やかな着物を着た女です。愛とは支配。命を捧げよ。
此岸ノ辺の結界を弱めた張本人です。
神遠域ブレイクを毎ターン行います。
他詳細は不明です。
○妖怪×多量
魔種のあやつる魑魅魍魎達です。
物理攻撃や神秘攻撃を仕掛けてきます。
保有BSは主に精神系。
C:天香長胤
天香長胤の率いる敵の本陣です。
#### ↓ 2020/11/01追記 ↓ #############
戦場『A』『B』の軍勢が合流を目論んでいます。
戦場『B』の敵達は援軍として現れます。
#### ↑ 追記ここまで ↑ #############
○天香・長胤(あまのか・ながたね)
敵の総大将にして色欲の魔種です。
弓を手に取り戦ってきますが、頃合いを見てイレギュラーズに伝えたいことがあるようです。
実のところ、長胤はどこかの時点で自害することによる戦闘終結と、遮那の背を押して帝やイレギュラーズに託すことを狙っています。
しかしこの戦いにイレギュラーズが負けるようでは、それは叶いません。つまり最低限、長胤をその気にさせる程度に、敵軍全体(戦場A、Bを含む)を追い詰める必要はあるでしょう。
それはそう簡単ではありません。
これはもちろんですが、例えば遮那と会話させ、その後に長胤を介錯した場合も『長胤撃破』の成功条件を満たします。
#### ↓ 2020/11/01追記 ↓ #############
長胤の計画に変更はありません。
遮那の背を押す言葉をかけ、この戦場で神使に討ち果たされるか、あるいは自刃を望みます。
#### ↑ 追記ここまで ↑ #############
○『冥』×20
八百万(精霊種)の精強でバランスの良い部隊です。敵軍の精鋭です。
長胤の命令に絶対服従。
・前衛10:刀を使った直接攻撃を仕掛けてきます。
・後衛6:弓を使った攻撃や呪符を使った状態異常攻撃を仕掛けてきます。
・回復4:仲間の回復をします。
○『侍』×4
神威神楽の普通の兵達です。
弓や刀で武装しており、そこそこ強いです。
○『兵』×20
神威神楽の普通の兵達です。
槍で武装しています。
一人一人はそれほど強くありません。
●味方
○姫菱・安奈(ひめびし・あんな)
天香家を守る忠臣。
傷は癒え、万全の状態です。
忠継と共に遮那を見守ってきました。
咲花・百合子(p3p001385)さんの関係者です。
〇味方の兵
戦場A、B、Cそれぞれ、侍4名、兵20名、陰陽師5名ずつが味方に加わります。
・侍:弓や刀で武装しており、そこそこ強いです。
・兵:槍で武装しており、それほど強くありません。
・陰陽師:遠距離からの攻撃や回復等で支援してくれます。
#### ↓ 2020/11/01追記 ↓ #############
●味方?
〇『離れぬ意思』夢見 ルル家(p3p000016)
戻ってきましたが、何やら苦しげな様子が垣間見えます。
イレギュラーズと共に戦います。
実のところ、ルル家の力は強大な呪具によるものです。
最早籐蘭を討ち取った時ほどの力は残されていません。
その意識と命はいま正に、妖によって食い破られ、燃え尽きようとしています……。
時間経過によりルル家は死亡し、一匹の大妖が残るでしょう。
おそらくその直前に、ルル家は戦場から姿を消すと思われます。
#### ↑ 追記ここまで ↑ #############
●諸注意
本作に細かな時系列は余り関係ないのですが、この依頼に限っては、pipiSDの『<神逐>つづりてそそぎ、よをなくす』の後にあたります。
排他ではありませんが、成否や状況に互いの影響を受ける場合があります。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
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