シナリオ詳細
ローレット・トレーニングVII<深緑>
オープニング
●アンテローゼ大聖堂より
「皆さん、ようこそアルティオ=エルムへ」
大樹ファルカウの麓に座すアンテローゼ大聖堂。そこでイレギュラーズに穏やかな笑みを浮かべるのはアルティオ=エルムこと深緑の指導者である『ファルカウの巫女』リュミエ・フル・フォーレ(p3n000092)だった。その傍らでは『灰薔薇の司教』フランツェル・ロア・ヘクセンハウス(p3n000115)もにこやかに彼らを迎えている。
「皆さんとお会いするのは新年明けて以来でしょうか。私たちの元にも皆様さんが新天地へ到達したという話は伝わっています」
閉鎖的な国家ではあったが、かねてから交流のあるラサ傭兵商会連合の他イレギュラーズにも門扉を開いたことで、各国の動向は以前より知りやすくなった。とはいえ大きく外交をしているわけではないので、他国に比べたらまだまだ情報の遅れは否めなかったが。
彼女ら深緑の民は、元より積極的に交流をする性質ではない。それでも他国の情勢を知ることは自国を守ることにも繋がるのだ。そして事の始まりを暫し前とする妖精の一件で、多忙と力不足を感じもしたらしい。
「貴殿らが宜しければ、迷宮森林警備隊の訓練や見回りに付き合って頂ければ有難い」
「もちろん以前のように、迷宮森林でのサバイバルやトレーニングもして下さって構いません。けれどこの森はその名の通り、迷宮のように深い。どうぞ迷わぬよう、お気をつけて」
皆もイレギュラーズと共にであれば喜ぶだろう、と『迷宮森林警備隊長』ルドラ・ヘス(p3n000085)が穏やかに告げる。頷いたリュミエはファルカウ周辺に広がる迷宮森林への立ち入りも問題ないとした。最も広大な迷いの森たる迷宮森林で迷子になれば、アルティオ=エルムに住まう幻想種たちの世話になるのだろうが。
この迷宮森林は広大であるがゆえに、古代遺跡が点在し綺麗な湖や花畑も存在する。以前同様にダンジョンアタックをするもよし、休息もトレーニングの一環として自然を楽しむも良いだろう。
「イレギュラーズなの!」
あっとフランツェルが声を上げるも、妖精郷からの客人である『花の妖精』ストレリチア(p3n000129)がイレギュラーズたちの前へ飛び出す。小さな妖精である彼女はひらりひらりと蝶のようなその翅でイレギュラーズたちの間をすり抜け飛び回り、あのねと瞳を輝かせた。
「皆に色々な場所で、たくさんおもって(奢って)もらったけれど、ここにも美味しい蜂蜜酒(ミード)があるの! 皆とも飲みたいの!」
キラキラと瞳を輝かせるストレリチアは幼い言動ながらも飲酒可能なお年頃らしい。具体的な年齢? レディーに年を問うのはマナー違反と言うものだ。
リュミエの前なのに、と思わず額を押さえるルドラとフランツェルであるが、当のリュミエはそんな客人にくすりと微笑みかける。妖精郷の件もまだ落ち着いたわけではないが、妖精女王を救出できたことは妖精たちに少なからず心の安寧をもたらしていることだろう。まだ自由に妖精郷の門(アーカンシェル)で行き来させるわけには──もちろんイレギュラーズもだ──いかないが、深緑へ滞在する妖精に関してはそれ以外の制約を課しているわけでもなく、彼女らが望むのであればイレギュラーズたちとの交流の場を設けることも吝かではない。
「同胞たちに宴の用意をさせましょうか」
「ほんとなの!? ありがとうなの! 皆と優勝できるの!」
殊更嬉しそうに笑うストレリチア。暫しすれば──今が昼も過ぎた頃合いだから、夕刻ほどか──食事や飲み物の準備も整って、彼女の言う通り『皆で優勝』できるようになるだろう。
「いいネ。しがない詩人として、一曲弾かせてもらおうカ! いやァ、頼まれちゃったらもちろん、何曲だって弾くけれどネ!」
『虹の精霊』ライエル・クライサー(p3n000156)が双頭の弦楽器を爪弾くが、何故だか冷たい視線が刺さる。主に後方のルドラから。
「ライエル殿」
「なあにルドラチャン? 僕だって楽しみたいのサ!」
ルドラが危惧するのは、以前部下へしてみせたようにイレギュラーズへ変に揶揄わないかということであるのだが──まあ、大丈夫だろう。この男とてわきまえるべきところはわきまえる。多分、きっと。
「前回同様、自由に過ごして頂いて構いません。
迷宮森林を探検し、古代遺跡へ挑戦する。警備隊と訓練を行う。或いはアルティオ=エルムの景色を楽しんで頂くのも良いでしょう。宴もどうぞお楽しみ下さいね」
けれども2つだけ、とリュミエはイレギュラーズへ注意点を挙げる。森を守るために、この深緑に踏み入れるために守ってもらいたいものであると。
「深緑はご覧の通り、木々や草花……自然と共に暮らしています。そのため炎は好まないのです」
ひとたび燃えてしまえば延焼は免れない。小さな火が国土全域を滅ぼす火種にもなりかねないのだ。故に火事や延焼を防止するのではなく、火の使用を控えて欲しいとリュミエは言う。
「そして何より大切なのが大樹ファルカウ。我々にとって信仰の対象であり、ここアンテローゼ大聖堂も大樹へ祈りを捧げる場所となっております。『昇る』『害する』という行為は充分お気を付け下さい」
あくまでリュミエの表情は柔らかい。けれどもその言葉は重くイレギュラーズの胸に届いたことだろう。
「それでは本日も──良き日になりますよう」
- ローレット・トレーニングVII<深緑>完了
- GM名愁
- 種別イベント
- 難易度EASY
- 冒険終了日時2020年08月17日 23時17分
- 参加人数172/∞人
- 相談8日
- 参加費50RC
参加者 : 172 人
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参加者一覧(172人)
リプレイ
●緑広がるファルカウの下
大樹ファルカウ。深緑に置いて信仰の対象でもあるその樹の下には広大な自然が広がっている。そこには獰猛なモンスターも住んでいるが、迷宮森林警備隊が見回る範囲は基本的に平和である。閉鎖的な国ではあるが、そこに秘められている美しき景色を知れば各国からこぞって観光に来る者がいただろう。
初季は湖畔のほとりをゆっくり歩く。動植物たちの営みを壊すことのないように、その生活にほんの少しだけ触れさせてもらうのだ。
(私ももっと強くならなければ)
そうでないとこの景色は守れないのだ、と初季は美しい光景を眺めた。
通り過ぎる小さな影をレニーは呼び止め、何をしに来たのだろうと尋ねる。ご一緒しても? と問えば小動物はひょっこり隣へ。切り株に座ったレニーは「ありがと」とその様子を微笑ましげに眺める。
湖畔でワインを分け合うスティーブンは「変わんねぇな」と呟く。スレイには分からない事であるが、只々緑の多さには驚かされた。
アルコールはふわふわと睡魔を呼び寄せ、スレイは体を彼へと預ける。こういうのも悪くない、なんて思いながら。スティーブンもまた泊まるアテがあるから、とそっと瞳を閉じる。さわりとそよ風が2人を撫でた。
チラリゴケたちはファルカウの見学に麓まで来ていた。植物の端くれとしては非常に興味の湧く同族。1日は軽く眺めていられるだろう。丁度近くを小鳥が通り過ぎ、チラリゴケはその背に生えさせてもらうことに。
シリルは植物と対話するも、ファルカウに傷をつけるような罪人はいないことに安堵する。シリルにとっては懐かしいが、ユールにとっては知っているそれと違う新鮮な場所。新鮮な空気を吸い込むユールの傍ら、シリルは睡魔が瞼を撫でた気配を感じた。
ミヅハはファルカウを仰ぎ、願いを込める。御神体を直に見ることができるのだ、ここで願わずしてなんとする。
(良いことありますように、っと)
そんな願いを感じたのか、周囲の木々がさわりと小さく揺れた。
深緑はアニーの故郷であれど、その全容は彼女も知り得ない。零は然りと頷く。
「意外と故郷のことって知らないもんな」
「うん。まずは大樹ファルカウをぐるっと回りながら景色を見てみよう」
繋いだ2人の手首で揃いのブレスレットが揺れる。指が絡まり合って、いつしか腕を絡めて。互いに顔は赤いけれど、振りほどくことはない。
(次は……ちゃんとそんな関係になってから、ここに来たいな)
「わ……! すごい、外ってこんな風になってたんだ」
オデットは感嘆の声を上げる。過去を知らぬ彼女からしてみれば新鮮だ。ちょっぴり不安もあるけれど、きっと大丈夫とその姿は街に紛れていった。
小さく躓いたクリソプレーズにデネブは手を差し伸べる。幼い頃も良くここで躓いたのだ。2人は手を繋ぐと大樹の周りをぐるりと散歩し始めた。大樹はまるで母のよう。そしてその色を受け継いだかのように2人は緑の瞳をしている。束の間見つめ合った視線はデネブが笑ったことにより離れた。
「じっとしているのは勿体ない。更に進もうか」
幻想種の命とて有限。急かすようなデネブにクリソプレーズは微笑みながらついていく。
「優しい味がする」
ディアナは深緑の食事に舌鼓を打っていた。火を使わないなりの工夫を感じる一品である。
(お嬢様生活じゃ絶対に味わえなかったわね)
いつか父も分かってくれるように、とディアナは土産を探し始めた。
(一目くらい見られるかなー)
などと思っていたルタは、当の本人──リュミエを目にして「げっ」と小さく声を出した。
「どうされました?」
「いーえ、別にぃ~」
ああ、何を言おう。笑みを張り付けたルタは必死に頭を巡らせる。
「どんな場合なら登っていいのよ!? ねえ!?」
警備隊にそう言い募るキドーの望みは1つ。ファルカウに登りたい。勿論許されるはずもないが、さらに願うならいるであろう上位精霊と話したい!
勿論許されないのであるが。
妹が危ない目に遭っていたのかとハンナは俯く。これでは姉失格だと。その様子を気づかわし気に見ていたウィリアム──シャハルであるが、ハンナの立ち直りは早かった。修行しなければと燃える彼女だが、もし父母がいなければシャハルに相手となる役目は回ってくるのだろう。
(最近は僕も剣を使うし、ちょっと面白くなるかな?)
などと考えていたシャハルは末妹にストップをかけなければならない事態を、まだ知る由もない。
ふらりふらりと彷徨うようなアトゥリは生家を探していた。過去は一切持っていなくとも、同じ種がいるのならば或いは、と。
(……結果は、予想していた、ですが)
それでも、このままは前に進めないから。
『自然が多くて良い所だね』
Nilは少女が喋らなくとも語り続ける。まるで応えを得ているかのように。
『うん、静かで良い場所だね』
Nilを連れる少女はあちらへ、こちらへ。2人で綺麗な場所の散策だ。
「森の外にだって素敵な事はいっぱいあるのよ!」
そう声を上げたマグダレーナにナズナサスは頷く。閉鎖的な空間も良し悪しがあるものだ。故に、新たな風を吹かせるべく2人は作り出すのは──同人誌。恋愛小説といっても範囲は広い。マグダレーナは冒険ものを、ナズナサスは一押しのショタおねを寄稿せんと書いていく。それがハッピーエンドか否かは各自次第であった。
サイズは自らの鎌を研いでいた。妖精郷の一件で酷使したコア(鎌)は研いで休めなければ折れてしまうだろう。
(本来、戦闘は専門外なんだよな)
きっと余計に負担をかけている。それでも助けなければと衝動が起こるのは──妖精に連なりしモノであるが故に。
名を呼ばれたリュミエはエーリカを瞳に映す。駆けてきた彼女はフリージアの冠を差し出した。
「お礼と、リュミエさまとも……お、おともだちになれたら、いいなって」
休む暇もないだろう彼女の慰めにと出された花冠を受け取って、リュミエは柔らかく微笑んだ。元より同族、親愛なる友人のようなものである、と。
深緑の事を皆に教えたい、とガイドブックを作り上げるレスト。大変な量でも、捌くのはトレーニングの一環だ。現状では未だ閉鎖的な面もあり、まだ他国にこれは置けないけれど──いつか許容される日が来ることを、願って。
新参イレギュラーズであるフリューは揃いし美男美女に唖然とする。きっと美しくも閉鎖的な森で磨かれたのだろう。
これは訓練どころではない。男として、この国の女性に名を覚えてもらわねば!
「へい、そこの姉ちゃん!」
軽薄な口調で片っ端から幻想種へ声をかける飛は目指せナンパ100人を掲げていた。成否など関係ない。やることに意味がある。深緑は幻想種の住まう地──飛にとってはパラダイスなのだから!
アンテローゼ大聖堂。大樹へと祈りを捧げる場所である。
(私の祈りが届くかわかりませんが……)
リディアは行方知れずの両親を守ってほしいと祈りを込める。そのためならいくらでも自然の素晴らしさを説き、破壊する者に立ち向かおう。
「ああ、変わってないですね」
サンもまた大樹を見上げ、祈りを捧げる。深緑が、混沌が、友の世界も含め全てがどうか平和であれ、と。
「でっかいわー!」
トリーネはいつかファルカウの上で思い切り鳴いてみたい──淡い願いを抱きながら祈りを捧げる。ファルカウに登ったらというお願い事は幻想種が聞けば卒倒しそうだが、幸か不幸かトリーネの胸の内に留められたままだ。
(もう3年か)
ふわもこアニマルと共にゲオルグも祈りを込める。更なるふわもこアニマルと会えるように。そのためにはきっと豊かな大自然が不可欠なのだろうから。旅人であれどファルカウへ祈りを捧げる者は多く、ジュリエットもその1人である。
「これからも平穏でありますように……」
大聖堂の雰囲気はどこも変わらないらしい。神聖な空気はどこか懐かしい気がした。
ルフナはフランツェルの元を訪れ、大聖堂に蓄積されているであろう本を読みたいと口にする。集落ひとつ違うだけで様々な差異があることは、ルフナへ十分すぎる刺激だったのだ。
「勿論。案内するわね」
フランツェルの背中を追いかけるルフナ。さあ、どんな知識が待ち受けているだろう?
さて、迷宮森林には遺跡群も存在する。そこへも数人のイレギュラーズが訪れていた。
最も本来の探索人数にはほど遠く、楽しむ、あるいは力試し程度となるが──。
(大丈夫、遺跡は逃げません。そこに遺跡がある限り)
アルテラがポーズを決めると魔法陣が現れ、光り輝く。その様子を見てシャルレィスも負けるものかと遺跡内部へ繰り出した。
(踏破済みでも、もしかしたら見落としがあるかも)
いざ探さん新発見。シャルレィスはギミック対処をしながら奥へ。別の遺跡前ではおやつを携えたアルメリアとフランがこれから挑戦である。
「アルちゃんがどかーんって攻撃! あたしがぴかーって回復だよ!」
作戦は単純明快。互いの長所を伸ばす為、最大限に魔力を使うのだ。所々で休憩を入れて、300Gまでのおやつを食べて。2人の姿は下層へと消えていった。
(演習と言うよりは慰安、祭りの様な部分が多いんですかねぇ)
鏡はひんやりした遺跡の中へ入っていく。不意に、側面から気配──に気付くと同時、それは鋭く切り裂かれた。
それを見ながら正当防衛に暴れる場所としてはアタリだ、と鏡は武器をしまう。さあ、どれくらい進めるだろうか?
「りっちゃんいこー!」
「あっ、まってルナー!」
走り出すルナにリュコスは慌ててついていく。何も考えず突撃すれば、当然迷子にもなるもので。
「さっきも通ってない……?」
「そんなきがする! どーしよどーしよ!?」
2人は半泣きになりながら地上の光を探し、ほうほうの体で大樹の方向を目指したのだった。
フリークライは草花を傷つけぬよう動き、幻想種の前に座った。彼の体には植物が生え、青々とした色をしている。
「自然 共生。勉強 ナル。学ビタイ」
最大限の感謝とともに教えを請う巨人に、幻想種からの否やはない。
リヴィエラの角先に妖精が腰かける。溢れんばかりの花々の名を問うと妖精は快く教え、彼女の周囲をくるりと回った。楽しそうな声にリヴィエラもまた微笑む。
(強くなって、護れるように頑張らなくちゃ)
美しい景色と世界を、見ているだけではいられない。今は弱いかもしれないけれど、これから。
エルナも花畑に到着すると、絶えず懐かしさを覚えながら植物へ問いかける。もしかしたらここにも同胞がいるかもしれない、そう思って。
「ん、ご一緒、いい?」
そこへ現れたのはシュテルンだ。エルナが頷くと彼女はにっこり笑う。
けれど。
(深緑に、来る、してから……『あなた』は誰……?)
響く『誰か』。何かを忘れている。身の内の葛藤をも抱えてシュテルンは花々をただ眺めた。
リックは「あれ?」と振り返る。あちらは花畑の方向だったろうか? 同胞の気配を感じた気がする──精霊ではなく精霊種であるかもしれないが、行ってみなければわからない──とリックはそちらへ向かい始める。
フルールは精霊に無闇に燃やしてはいけないと諭す。賢い精霊は言うことを忠実に守っていた。
が、彼女は修行なんてしない。だってのんびりしているだけで、イレギュラーズはパンドラと経験を貯められるもの!
ノワは前回の訓練を思い出す。寝てしまって訓練どころではなかったと。けれど強くなった気がしたから、今回も?
(うん、起きたら魔法の訓練がんばろう!)
──人はこれをフラグと言う。
「我らが本拠地、深緑ですわ!」
ぐっと拳を握ったヴェルフェゴア。大規模なトレーニングで場所を選べるとなればここしかないとやってきた。これまでの成果もひっくるめて得るくらいに信者を増やさなければ!
(イレギュラーズの皆さんの脚を観察してるほーがいいんですけどねー)
やる気はないまでもついてきたピリム。その視線が移すのは幻想種の脚である。良い脚ないかな。
そんなピリムの傍ら、アンゼリカは敬愛するヴェルフェゴアとイーゼラーの教義を説き、ちゃっかりファンクラブ会報を配布している。勿論どちらも手は抜かない。
「知性を高め、上質な魂になるための答え。我がたどりついたのはこれなのだ」
破ッ! と気合一発、ネメアーの服がはちきれる。ムキムキの筋肉など幻想種では中々見る機会もなく、彼女らから小さく悲鳴が上がる……が、ネメアーは今こそ推さねばと燃え上がる。そこへ大音量のBGMが流れた。
「イーゼラー様は最ッ高だァ! 魂ごと救われたきゃ、俺達と共に来い!」
弾正である。新米信徒らしく(?)盛り上げるサポートにと音楽を流し、布教と入信届の準備も忘れていない。どれだけ大変でも地道な一歩がモノを言うのだ。
「此処はもっと派手に……」
普段の成果の悪さは地味だからだとセレスチアルは案を巡らせるが、いかんせんネタが思いつかない。これでは教祖も嘆き、いやお怒りになるかもしれない。
(私は何と無力なのか……!)
このままではダメだと、セレスチアルは修行の旅へ飛び出していった。
イーゼラー教の行く末は、如何に。
アリアとBinahは魔種として死んだカノンへ祈りを捧げる。
彼女の墓はなく、帰ってきたのは彼女の衣服のみ。Binahも報告書でしか知らないが、せめて冥福を祈るくらいはと深緑式の祈りを捧げる。
「供えたかったなあ」
アリアが手にしているのは読むためではなく、弔い罪悪感を軽くするための本。Binahはそれを聴いて目元を和らげた。
「せめて願おう。次の世界では、誰よりも幸福になれるように」
●深き迷いの森
アンウォルフは1日、幻想種たちの生き方に則ってみようとと森へ向かった。もう武を行使するだけの自分ではない。デカい図体は合っていないかもしれないが、それでもこの地が好きなのだ。
アティはこっちへふらふら、あっちへふらふら。森の中で眠っていたという事実のみでその場所を探し回る。深緑ではないかもしれないが、数打ちゃ当たる……かもしれない。
ミオンは鍛錬より前に体に慣れるべくと森に入る。幸いに幻想種は好意的で温かい。このような場所でなら、心を満たしてくれる何かも見つかるだろうか?
そう考えるミオンの背後から、よそ風が抜けていった。
「中々に大層なものを作るもんだ」
運河の話を聞いたイーディスは感心の声を上げる。幸いにしてその手の労働には慣れている、何かしらの手伝いにはなれるだろう。
「はい。まずは半年でどうなったか確かめますの」
ノリアの言葉にフェリシアが頷く。ならばとアルゲオは広報係を自薦した。
「もっと深緑全体で推してもらうのです!」
人も物も流通しやすくなると説けば分かってくれるはずだ、とアルゲオは支障たるノリアの為駆けていく。
「体力仕事には自信がありません、が……解決方法は、模索できます、から」
フェリシアは計画を進める幻想種たちから悩みを聞き、ノリアと共に計画の修正を考える。全てに口を出すことはノリアにもできないが、発案者として大本を見直すことはできるだろう。
自然豊かな土地を破壊せず、はなかなか難しいかもしれないが──少しずつ、着実に。前回のこと、そして今回の地元住民たちの協力もあり、ちゃんと運河計画は進んでいるのだから。
エストは迷いなく森を進んでいく。1人の時間に求めたのは祈りだった。
(まだまだ、力が、足りない)
大切で大事な友達と、黒い彼岸花に連れて行かれた師匠。今度こそ守らなくちゃ。
「もっとみんなと一緒に騒いだり楽しんだりしなくていいの?」
ヴォルペの言葉にシェルマは片眉を上げる。人が多いのも騒がしいのも苦手だと知っているだろうに、素直じゃない。
「俺はお前がいればいい」
そう告げればヴォルペは頬を赤くして。目も逸らしてしまうから、回り込むように小さなブーケを差し出した。
「俺の元に恋心を置いていく限り、俺以外を愛せるとおもうなよ」
その後、ヴォルペが耳まで真っ赤にしたことは──想像に難くない。
サクラは自然を胸いっぱいに吸い込む。今回は少しでも実家に帰省をしようと思いながら、その足は静かな森へと向かっていたのだ。
(こういう時間も必要ですね)
「なんと! イメージすら伝わらぬと?」
豪斗は植物へ語り掛けるも全く反応がなく、植物疎通なるスキルの存在を知らされる。しかし豪斗はゴッドである。言葉が伝わらぬなら、魂で伝えるのだ。つまるところ──気合である!
森に入ったジークフリートはもふもふの羊毛に日差しを浴びながら丸くなる。夏の日差しも木々の広げた葉で木漏れ日となり、丁度良い温かさで落ちてくる。広大な大自然でなんと贅沢な事か。ジークフリートはあっという間に夢の世界へ旅立った。
木陰で優雅に読書を楽しむ萌黄の横を抜け、ヴィノは木の実や香草を探す。大した運動ではないかもしれないが、引き籠りには十分だ。確りとあらゆる対策をした彼は、良さげな木の実を見つけると籠へ放り込んだ。
夢唯はふらりふらり。どの木も立派で大きくて、深くまで行けば迷ってしまいそう。目印を置きつつ、冥の素材にと頼めそうな木材を探しに行く。
一方で妖樹はのんびり散歩をしていた。暑いから水場があれば泳いでも良いかもしれない。他者を邪魔しないよう、ゆったりと過ごしたいものである。
(ええ、大丈夫です。私は腐ってもハーモニア)
オーガストは空気中に満ちるマナを頼りに探索をする。辿って行けば帰れるはずだし、何より良い気晴らしだ。これなら不調も治るだろうとずんずん進んでいき──彷徨っていたキサラギ同様、迷子になったのだった。
そんな中1人、エルシアは魔種となった母を探して森に入っていた。
見つけたとしてどうするのか。分からなくても探さずにはいられない。まるで出口のない夢を進むかのようだ。
その母が妖精郷で目撃されたのは、この少し後の事であった──。
●己を磨きし者たち
深緑を訪れた中には森林でもって魔物を、或いは警備隊を相手に特訓しようという者も非常に多い。 青はこのトレーニングに出て来なさいと諭されやってきたが、その手段は目を見張るものであった。遊び、酒を飲み呑まれ。きっとずっと強くオトナなのだろう。
(よし、ボクもガンバるぞ!)
たまにはこういう基礎トレーニングも悪くはないか、とラデリは魔力を放つ。今後を考えての訓練だ。限界まで酷使することで成長を促すのも大事である。
メリーは少々趣旨と異なるかもしれないが、自らを甘やかしてくれていた魔法へ感謝をすべく魔弾を放っていた。
──とはいえ、1万発という目標はあまりにも大きく、飽きの方が大抵先に来ていたが。
同じように億劫だと感じていたNo・51も、しかし地道な努力こそが強くするのだとひたすら数をこなす。全ては『ご主人様』のため。『ご主人様』に褒めてもらう為。
ドラマは幻想の土産を持って再びリュミエの元を訪れる。勿論前回同様に、より深い魔術の深遠を学ぶためだ。
(身体を鍛える機会も増えましたが、本分は魔術師ですからね)
彼女と同様に、リュミエへ教えを乞いたいという者は複数いる。アウローラもその1人である。
「神秘関連のスキルとか教えてもらえませんかー?」
ダメ元で、でも前回は少し教えてくれたという話を聞いて。此度もそのような者たちが現れたことにリュミエは目を瞬かせる。
「お忙しいでしょうし、ご無理は言いませんが……」
お願いできないでしょうか、とディアナも頼み込んだ。支援系の魔法が彼女から学べたら、と。
大きな魔法は危険が伴うが、前回のように少しばかりであれば。リュミエは小さく神秘を灯す。
高威力、けれども命中の低い攻撃に義光は思わずファラーシュへ声をかけた。そのままでは敵に倒されてしまうだろうから、護衛も兼ねて前衛を引き受けよう、と。
「守ってくれるん? 恩にきるわ」
ファラーシュは魔法を紡ぎ、ふと彼の名を聞いていないことに気付く。わんこ君、では流石に失礼だろう。
「拙者は蘇我 義光と申す者」
「義光君やな。じゃあ前は任せた。後ろは──」
ウチに任せてや。ファラーシュはにっと笑みを浮かべた。
(人の多い所って苦手なんだよね)
自然の多いところへやってきた悪羅は訓練をしないといけないと気づく。のんびりするどころではない。ひと息モクを吹かすのも、ギルドへ帰ってからになりそうだ。
「練習、手伝ってくれる?」
両目の本来の力が戻らない、と言う美咲にヒィロからの否やがあるわけもない。頼むのはいつも通りの連携だ。
「こういう練習ならいくらでも!」
嬉しそうに笑顔を見せるヒィロへ微笑みを浮かべ、美咲は出てきた協力してくれる警備隊に視線を向けた。
(調整をかけながら、新しい形を馴染ませる)
不在証明が阻むのならば己のやり方で進んでいくしかないのだ。
アルナはこの深緑でも同胞が見つかるのだろうか、と興味津々で警備隊に聞きながら見回りについていく。その後ろを行くブラッドは警備の者へ口を開いた。
「以前、ストレリチアから優勝の説明を頂きましたが……」
あれをスポーツだと思っているブラッド。各国で有名なのだろうかという言葉には思わず苦笑いも浮かぶだろう。
そんな会話をしつつも見回りは続く。ポシェティケトは野生のカンだけに頼らない戦い方を身に着けに同行していた。時折出現する魔物へ対処する警備隊に真剣なまなざしを向けるのは利一も同様で。ここまでくれば口数も減ってくるのは道理、共に戦いながら後に批評を貰おうと心に決める。
(なるべく森を荒らさないようには心掛けなければ)
8號は祖国と異なる緑溢れた地に、そしてそこで生きる者に美しさを感じた。なればこそ、それを維持する努力はすべきだろう。
「敵が増えてきましたね」
魔性の茨で足止めしながらラナティアは呟く。すかさずティミが魔法を放って容易に仕留めるが、見回り怠れば集落への被害もあるのだろう。
(無心に……嫌な予感なんてしない)
ティミは追い払っても寄ってくる予感を振り払うように魔法を行使する。いくら訓練しても足りない気がしてならないから。それでも──いつかは殻を破って、輝くダイヤモンドのようになるのだ。
そんな一同を支えるのはエリスの癒しだ。より使いこなすべく全体支援を行って進む内に、敵の頻出ポイントは抜けたらしい。
「改めて迷宮森林の広さを実感するね」
ほう、と息をついたアレクシアはファルカウの元で育った1人であれど、森自体にはあまり詳しくない。今回の動向には母の仕事を知りたいという思いも含まれていた。
(守ってくれてる人に、森に、感謝しなきゃ)
戻ろうか、と警備隊から上がる。見回りはここまでのようだとイレギュラーズたちはそれについて行った。
「まぁ~素敵な場所ねぇ~」
スガラムルディは茶や菓子を用意して自然を堪能する。その向かい側ではクラリーチェが優雅たる訓練をしていた。
「ああ、この胡桃のサンドイッチも口当たりが良いわね」
「ふふ、そうね~。こちらは如何?」
香りを楽しみ、軽食を楽しみ。そうしていれば精神を波立たせないという特訓にもなる。
「お、来たな!」
少し離れたところで訓練帰りの幻想種たちを見つけたのはヴィーカだ。以前より世界の様相は様変わりしたようだが、ヴィーカのすべきことは変わらない。ボロボロになった者を甲斐甲斐しく癒すだけである。
ひたすら正拳突きの練習をするラグの傍ら、葭ノの鼻孔を美味しそうな匂いが掠めていく。
(あー向こうは宴会かァ)
行きたい気持ちはあるが、まだ未成年。なれば訓練に明け暮れるしかないと、葭ノは同じくらいの身長で付き合ってくれる者を捜していた。
ペリステライトは男らしさを磨くために──そう、男である──男らしい人を観察していた。中身は勿論、見た目も重要なのだ。
テレンスは静かに耳を傾け、木の葉が風を纏う音を聞く。次の瞬間、放たれた矢は正確に葉を撃ち抜いた。
(まだ、足りない)
次の矢を番える。もっと力を付けなければ、自警団の皆に顔を合わせられない。
「ゲリラ戦、勘を取り戻すには丁度良さそうだ」
箏勿は召喚されて以降ロクに得物も奮っていなかったと零す。戦闘に飽いていたからと言って、腕が錆びてしまうのはよろしくない。なにより隠密行動や陣作成の勘も鈍ってしまうだろう。
「少しわくわくしますね」
発案者であるヨランダへの恩返しにと同行したメアリーは嬉々としてギフトを光らせる。誘蛾灯のように、罠となるべく。
襲い掛かるそれにすかさず奇襲をかける繰子へ次ぎ、強襲したノワはにっと笑みを浮かべた。
「僕たちのショーにじっくり付き合ってもらうよ?」
嫌がらせや小細工はお手の物。その背後からヨランダの発破が飛んでくる。
「アンタ達気ぃ抜くんじゃないよ!!」
そう告げるヨランダ自身も切り込んでいく。やるからには絶対勝ちに行くのだ。
後方からはリラが固定砲台となり魔砲を撃つ。
「ドーン!」
可愛らしい声とは裏腹の威力を誇る魔砲。けれどもリラ自身はどこまでもピクニック気分だ。
「後方へは行かせませんヨ
アルムは前衛タンクを務めながら、昔──騎士だったころを思い出す。今も敵を燃やしにかかるメアリー同様少しばかりわくわくしているが、浮ついて負けるわけにはいかない。相手の鼻を明かすのだ。
「なんでクソ兄貴が居るんだよ聞いてねーぞ!」
「まーまーラーちゃんそんな嫌がらずにさ」
噛みつくラーテに宥めるディアーチル。ラーテとしては不本意かもしれないが、その連携は義兄妹として見事なものだ。範囲攻撃を放つラーテに、漏らした敵をディアーチルが狙い撃ち。
(サバイバルはさておき、警備隊と顔を合わせるのはいつぶりかナ……)
深緑の地に居れば、知り合いとも少なからず顔を合わせることになる。そこには甘さも出てくるかもしれないが──。
「顔知ってても容赦はせなんだサ、勝たせてもらうヨ」
矢を番えるジュルナット。その矢を追いかけるようにコウは駆け、前線で名乗り口上を上げる。メアリーという誘蛾灯から敵視がコウへと移った。同時にアルムという盾役もいくらか負担を軽減される。自身で治癒をしながらとは言っても、1人ではなかなか耐え切れないものもあるのだ。
13人が一丸となり、サバイバル技術を教わりながらの演習は有意義に過ぎていった。
●優勝なの!
リュミエからの通達もあり、会場となる場所は慌ただしく準備が行われている。言い出しっぺの妖精たちもイレギュラーズと優勝するために、と一緒に手伝っているようだ。
「失礼、僕でも手伝えそうなことはあるかい?」
フラッフルは厨房へと声をかける。警備はおしゃべりが過ぎてつまみ出されてしまいそうだったが、ここなら口元を布で覆えば話していても良さそうだ。
そして──夕暮れ。皆が賑やかに言葉と酒を交わす中、Lumiliaは妖精へ声をかける。
「はじめまして妖精さん、ルミリアです。お好きな音楽はありますか?」
フルートを持った彼女に妖精は曲を聞かせてくれると思ったようで、嬉しそうに周りを飛んだ。
「ライエルさん、ご一緒しても?」
「勿論サ、ソニアチャン!」
強めのウィンクに思わず苦笑を浮かべ、ソニアは喉の調子を確かめる。Lumiliaのフルートが終わったら自分たちの舞台だ。
さて、宴に出ている者は勿論、厨房へ入っているイレギュラーズもいる。
「へえ、肉料理で攻めるのか」
クロバの言葉にシフォリィは頷いた。どこ情報かもわからないが、リュミエは実は肉が好きだとか。尚、真偽のほどは定かでない。折角だからクロバも手伝おうと来たのだが──。
「どうして全部クロバさんの方が美味しいんですか味覚ないって言ってるのにずるいですよ!」
拗ねる彼女にそういや事実を教えてないなと思ったクロバだが、面白s悪い気がするから黙っておこう。
睡はせっせとカルパッチョを作る。火を使わない料理と言えばこれだろう。その隣では加熱の魔法で温められている煮物がある。
「はい、できあがり! たーんと召し上がれ~?」
出来上がった料理は宴の会場へ。それらを運ばれたアマダスは静かに食事を楽しむ。離れたところでは妖精たちがわいわいと騒いでいるが、混ざるつもりはなかった。楽しそうならある程度は見逃したって良いのだ。
胡桃は炎を出さないように、と宴へ足を踏み入れた。蜂蜜酒というものを飲んでみたい。妖精が振る舞いたいと言っていたアレである。
「宴、なんて素敵な響きなの……!」
ミーティアこと数子は目を輝かせながらメニューを順に頼みまくり、片っ端から消化していた。勿論目標は全品制覇。深緑の御馳走などまたとない機会である。
「ちゃんと肉料理もあるんだね」
野菜や果物をメインに予想していた零時も、並ぶ料理に目を丸くする。けれどこれはこれで良い。食べ放題というのも更に良い。ここぞとばかりに食べなければ!
「宴って楽でいいわね!」
ロザリエルは人肉──ではなく、森で狩られた獣の串焼きを食べる。本来なら星空を眺めながら人の串焼きが食べたいけれど我慢だ。だって空気が読めるアルラウネなのだから。
「一体、どのように調理しているのだろうか」
グレイシアの言葉にルアナは視線を落とす。今しがた出てきた料理は温かく美味しい。何らかの方法で温めているのだろう。
「お菓子はどうしてるんだろう? ね、みんなにお菓子のこと聞いてこよ?」
菓子は強火、それ相応の熱が無ければ作れない。興味を持った2人はそっと席を立った。
「ねえ、りんご酒はおあり?」
シャーリィの問いに妖精がこれだよと持ってくる。ササメは人に近寄りすぎないようにしながらその話に聞き耳を立てた。とは言っても、声が大きいから良く聞こえるのだけれど。聞こえる様々な冒険譚は、いつかササメ自身が体験することになるかもしれない。
空いたグラスや食器をアイシャは片づけ、出来立ての料理を運んでいく。活気がある分忙しいが、やりがいはある。
「お待たせしました、頑張ってくださいね!」
蜂蜜酒は飲み比べで盛り上がる卓へ。既に空瓶が出ていることが驚きであった。
「蜂蜜だからとっても甘いの! 優勝できちゃうの!」
ボタンへ蜂蜜酒を渡したストレリチアはにっこり。皆で乾杯しに行こうと連れられる。
(美味しかったらお裾分けしたいのですが)
あとで頼んでみようか、と思いながらボタンはイレギュラーズの集まる卓へ混ざる。
「はちみつしゅ、甘くておいしいネ!」
シェプは初めて飲んだお酒ににっこにこだ。ちなみに子供ではないらしい。少なくとも、こうしてお酒を窘めるくらいには。
「イーハトーヴサン、大丈夫かナ?」
「大丈夫……これは、とれーにんぐの一環だから……おふぃーりあ、そんなに怒らないでよ……」
むにゃむにゃと机に突っ伏しているイーハトーヴはすっかり夢の中。隣ではロザーリアもペースを上げたが故に同じ状況だ。
「アタシの勇姿見てるといいにゃ……すぅ」
舞はそんな2人に苦笑を漏らし、そっとグラスを遠ざける。イーハトーヴと仲良くなるのはまた今度になりそうである。舞もまた軽い眠気はあるが、寝てしまうほどの量は飲んでいない。負けず嫌いとして、ここで突っ伏すなどあってはならない。
「すいすい飲めてしまう。危険だなぁ」
全然危険そうでない口調で創は蜂蜜酒の瓶を空けていく。これでもそこそこ強いのだ、そう易々と落ちはしない。フィーゼもいつのまにやら混じって蜂蜜酒を飲んでいる。
「おじさんはすっかり酔っちゃったナ」
イーハトーヴに誘われたライエルは上機嫌に笑う。乾杯! と戯れにグラスを掲げれば酔っ払いラズワルドがノッた。
「みんなでゆーしょー! かんぱぁい!」
甘い香りを楽しむ彼はライエルに演奏を強請る。ふわふわしたこの気持ちなら、飛ぶようなダンスだって出来てしまいそう!
(……この妖精、一体何処でこんな言葉を学習してきたのかしら)
リディアの視線先にはストレリチアがいる、酒瓶を持って「優勝なの!」と言う姿は宴の場だからこそ見逃せる発言だった。
お酒が飲めないから、とラヴは食事を注文する。深緑の新鮮な素材はどれも瑞々しく鮮やかで、視覚も味覚も満たしてくれるようだ。
そうして食べていれば、自然と食事があまり減らない卓に視線が向くもので。
(……少し、わけてもらおうかしら?)
「ボクもねー自分で酒作れるんだよー」
「! 飲んでみたいの!」
ぱぁぁ、と瞳を輝かせたストレリチアのグラスへ瓢箪を傾ける雪乃。中の水は今頃日本酒なるものになっているはずだ。これで彼女と酒について語らうとしよう。
飛鳥は端の方で1人飲み。これはこれで悪くないと思いつつも、新たな世界では自らの思考の偏りに気づかされる。
「まぁ、のんびり変わっていくとするか……」
そう呟いて飲み干した酒はカッと喉を焼いていった。
「かんぱい、です」
シンジュゥとツクモの声は何となくで潜められて。甘いジュースを味わいながら、2人はのんびりした時間を過ごす。けれども自然と聞こえてくるのは各国の情勢だ。
「“俺”達も、頑張って強くならなければ……いけないのでしょうか」
ツクモはその呟きに考える。強くなる意味は何だろうかと。
「……強い方がきっと、色々な所に行けますよ」
だからこれまで通り。動けば強さはきっとついてくる。
賑わいに混じりちょこちょこと働くメーコは器用に人々の合間を抜け、料理を卓まで持って行く。合間に料理のアレンジだってこなす彼女は、宴に満ちる笑顔に自らもにっこり笑った。
静音が料理を目いっぱい楽しむ傍ら、シャロの持ってきた食事にラインナハトは小さく肩眉を上げる。
「そろそろお前も一緒に食え」
「僕は後でも……」
辞そうとしたシャロだが、ラインナハトの視線がそれを許さない。気まずそうに着席した少年は、しかし食事を食べると嬉しそうな笑顔を見せた。
「……似てるもんだな」
「ライさま?」
きょとんとするシャロへ何でもないと上機嫌に笑ったラインナハトは、彼を再び食事へと促した。
「ワタシ、ちょっとダケ、お酒飲めるヨ!」
優勝と叫んでいるという事は、きっと沢山飲んだ人が優勝なのだと解釈してフゥは酒を飲む。思い出されるのは村での時間だ。
(父サマや爺サマは元気にしているカナ……?)
ロゼは少しの飲食物を手に端の席へ。これまでとはだいぶ違ったものではあるが、美味しい食事だ。
「皆さん楽しそうですね」
そう告げれば妖精は宴だからと嬉しそうに飛び回る。
「ねえ、美味しそうな食べ物とってきて!」
「え? 僕が取ってくるんですか?」
小さく唇を尖らせながらも、鏡禍はオデットとルチアの好みを聞いて席を立つ。誘ってもらって一緒に居られる、独りぼっちでないことはとても特別なことだったから。
そうして運ばれた食事に後で礼はする、とルチアは告げ、食事を口元へ運ぶ。オデットは自らの気に入ったものをルチアへ進め、手ずから食べさせた。その距離は近いような気も──気がする所ではないが、ルチアから拒否することもない。
「どんどん盛り上がってこーぜヒュ~~!!」
──と騒いでいたのが小1時間前。千尋はその虚弱体質を発揮し、グロッキーに陥っていた。匂いだけでもダウンしそうである。
「なにここ地獄絵図……??」
聖霊はべろんべろんな妖精とグロッキー千尋を見比べて何とも言えない表情である。とか見ているうちにマジで千尋がダウンした。よくよく見れば同じような者は数人いるようで──医者の血が騒いだのは必然か。
皆がぐったりと泥酔した頃、隅で楽しんでいたセリカは眠った人々の夢を覗き込む。きっと素敵で幸せな夢を見ているのだろう──そう思いながら。
誰もが眠れば、夜は静かに更けていく。今宵ばかりは幻想種や精霊種だけでなく、心身鍛えに来た──あるいは休息に来た──イレギュラーズも、ファルカウの下で一夜を過ごしたのだった。
成否
大成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れさまでした、イレギュラーズ!
沢山の方を書かせて頂きました。とても軽い描写となってしまいましたが、ご参加をありがとうございました。
またのご縁をお待ちしております。
GMコメント
Re:versionです。三周年ありがとうございます!
今回は特別企画で各国に分かれてのイベントシナリオとなります。
●重要:『ローレット・トレーニングVIIは1本しか参加できません』
『ローレット・トレーニングVII<国家名>』は1本しか参加することが出来ません。
参加後の移動も行うことが出来ませんので、参加シナリオ間違いなどにご注意下さい。
●成功度について
難易度Easyの経験値・ゴールド獲得は保証されます。
一定のルールの中で参加人数に応じて獲得経験値が増加します。
それとは別に『ローレット・トレーニングVII』全シナリオ合計で700人を超えた場合、大成功します。(余録です)
まかり間違って『ローレット・トレーニングVII』全シナリオ合計で1000人を超えた場合、更に何か起きます。(想定外です)
万が一もっとすごかったらまた色々考えます。
尚、プレイング素敵だった場合『全体に』別枠加算される場合があります。
又、称号が付与される場合があります。
●プレイングについて
下記ルールを守り、内容は基本的にお好きにどうぞ。
【ペア・グループ参加】
どなたかとペアで参加する場合は相手の名前とIDを記載してください。できればフルネーム+IDがあるとマッチングがスムーズになります。
『レオン・ドナーツ・バルトロメイ(p3n000002)』くらいまでなら読み取れますが、それ以上略されてしまうと最悪迷子になるのでご注意ください。
三人以上のお楽しみの場合は(できればお名前もあって欲しいですが)【アランズブートキャンプ】みたいなグループ名でもOKとします。これも表記ゆれがあったりすると迷子になりかねないのでくれぐれもご注意くださいませ。
●注意
このシナリオで行われるのはスポット的なリプレイ描写となります。
通常のイベントシナリオのような描写密度は基本的にありません。
また全員描写も原則行いません(本当に)
代わりにリソース獲得効率を通常のイベントシナリオの三倍以上としています。
●成功条件
・真面目(?)に面白く(?)トレーニングしましょう!
・宴で飲み食いしましょう!
・楽しく過ごしましょう!
●GMより
愁です! この度は深緑を担当させて頂きます。ローレット・トレーニング──通称ロレトレは排他処理がされてますので、当シナリオに参加した場合は他国家のロレトレに参加できません。ご注意下さい。
OPに書いてある感じで好きにお過ごしいただけます。
ご縁がございましたらよろしくお願い致します!
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