シナリオ詳細
<終焉のクロニクル>剣を掲げ、勇気を胸に
完了
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オープニング
●
世界は終わる。
終わるべくして終わる。
その『なにものでもない人間』は、鉄帝の帝都にて生まれ落ちた。
何も持たぬ若者であった。
勇気も、力も、心も――。
強きものは、何もない。
ないからこそ、憧れる。
人は、飢えるからこそ、強くもなれる。
もし彼に落ち度があったのだとしたならば――。
『見間違えた』ことだ。
あらゆるものを。
見据える先を。選ぶ道を。己の才すら――。
見間違えたのだ。
眩しかった。羨ましかった。『ああなりたかった』。
物まねのペテンは、所詮物まねに過ぎない。
憧れは良い。物まねもよい。しかし最終的に、人はそれを脱却する何か、を得られなければならない。
全剣王。鉄帝の誰もが知る、おとぎ話の王。
『憧れ』。だが……気づくべきなのだ。
『自分は、自分にしか、なれないのだ』、ということに。
『自分は、誰か、には、なれないのだ』、ということに。
それはとても素晴らしいことなのに――。
人は目をくらませる。
自分が嫌いだから。
自分の嫌なところは一番見えるから。
だから――。
「ぱっぱらぱー、居ないのか?」
ふと、ドゥマはそう声を上げた。
全剣王の塔の、玉座の間であった。
背後に巨大なワーム・ホールを開き、世界との『戦争』との最前線であるこの場所に――。
わずかに。
眠っていたのだと、ドゥマは気づき――。
よりにもよって、あの、『ぱっぱらぱー』の……ロザリエイルの名を呼んだことを、自分でも訝しんでいた。
イカれた女である。そういえば、あの女は……『全剣王様が、他人の力を借りるなんて信じられない』などと言っていた気がした。
『全剣王様なら、己の力で滅びだって成し遂げられるのに!』と――。
「……愚かな」
ぐしゃり、と、全剣王は玉座の手すりを己の手で握りつぶした。
この力も。この魔も。この地位も。
『全剣王だからこそ得られたものだ』。
全剣王になるために、得た、真似た、紡ぎあげた、無数の『借り物』が、今のドゥマと名乗る、名も知れぬ男のそれである。
であるならば――。
その名も知らぬ男には、もはや何の価値もないではないか。
全剣王ドゥマであるからこそ、許される。ロザリエイル。貴様も『全剣王だからこそ付いてくるのだろう』。
貴様の目は節穴だ、ぱっぱらぱーめ。エトムートめも……きっと、求めるものは『全剣王』であり、『自分』ではあるまい。
『その男』が人間種(カオスシード)にある種の憎悪めいた拒絶の感覚を抱くのも、結局は、何者でもなかった自分への、激しい拒否反応に違いあるまい。
尊大な羞恥。臆病な自尊心。
その行きついた果てが――。
「……くだらん」
『ドゥマ』は吐き捨てた。彼はもう、最強の全剣王、である。ならばそれでよいではないか。
「甘ったれたセンチメンタリズムに浸るとはな。
目的達成を寸前にして気が緩んだか」
ああ、くだらない。くだらない。あまりにもくだらない。
吐き気を覚えるほどの、それ。全剣王になり切ったそれが抱いてはならぬ、弱き本当の自分のそれ。
「……くだらん」
もう一度つぶやいた。
それで終わりだ。
もう、『その男』はいない。
ここにいるのは、滅びをもたらす、最強ゆえにすべてを恣にできる。
『全剣王・ドゥマ』なのだから――。
●
ビッツ・ビネガー(p3n000095)。そしてアミナ(p3n000296)。そして『あなた』たちローレット・イレギュラーズ。彼らが顔を突き合わせているのが、全剣王の塔直下であり、そして無数の『終焉軍勢』と『鉄帝軍勢』が、果てしない衝突を繰り広げている戦場のど真ん中に間違いない。
「……始まるわね」
ビッツが言う。それはおそらく、世界崩壊の時。今まさに眼前に迫りくる破滅、その最終楽章。
先の戦いにて展開されたワーム・ホールは無数の終焉の軍勢を世界に放ち続けている。つまり、『ワーム・ホールとは、影の領域という敵の本拠地に繋がっている』という当たり前の事実がここに存在するわけだ。
敵の本拠地に繋がっている。ということは、『ワーム・ホールを利用すれば、敵の本拠地に向かうことができる』。これも考えてみれば当たり前の話であるが、誰もこれを実行しなかったのは簡単な話で、あまりにも荒唐無稽であったからだ。
「Case-D。
信託に謳われた絶対的破滅……。
その顕現が、魔種たちの領域、影の領域だなんて……」
最悪には最悪が通じるものか。アミナがわずかに震える手を抑え込みながら言った。あまりにも荒唐無稽な作戦。子供が考えたような『敵が通ってくるのならば、そこを通って敵の本拠地に行けばいい』という、あまりにも当たり前であまりにも無謀な作戦は、しかしそんな作戦をとらなければ、混沌世界の敗北が確定しているという、あまりにも極限状態であるからこそ採択された、乾坤一擲の最後の賭け、であった。
「アタシたちがやることは決まってるわ。
『ワーム・ホールの確保』。
敵地に部隊を送る意味でも、敵地からくる敵部隊を抑える意味でも、敵地に向かった部隊の帰り道を確保する意味でも。
あらゆる意味で、この場で、全軍を以って、このワーム・ホールを確保し続けないといけない」
ビッツの言う通りに、この場に集った『あなた』をはじめとするローレット・イレギュラーズ軍、そしてビッツの率いる鉄帝・ラドバウ闘士連合軍および、アミナの率いるクラースナヤ・ズヴェズター義勇軍……つまるところ、およそ『鉄帝が吐き出しうる最大の攻撃部隊』の目的は、それであった。
この場を完全に確保する。
あまりにも平易な言葉で語られる、あまりにも困難な作戦。
無限とも思えるほどに吐き出される敵兵力をさばきながら、Bad End 8……『超強力』な魔種の一人である『全剣王ドゥマ』、およびその直掩の配下すべてを撃破してようやくなせる、まさに決戦級の一大作戦である。
「……幸い、ローレットの皆のおかげで、敵の疑似権能の一つ、『不毀なる暗黒の海(エミュレート・ラ・レーテ)』『不毀なる増幅(エミュレート・ルクレツィア)』は消滅した。敵の不死性はほぼ消えたようなものだから、だいぶ戦いやすくなってるはず。
ただ、強毒の権能……『不毀なる廃滅(エミュレート・アルバニア)』はいまだ健在。
全剣王が部下に権能を貸し与える『不毀なる分与(エミュレート・カロン)』があるならば、直掩の魔種たちが他の権能を扱う可能性は充分にある……」
「……使うでしょうね。おそらくは、バルナバスの権能……あの黒き太陽を」
もしそうなれば、自軍の壊滅は免れまい。つまるところである。我々は、『不毀なる廃滅(エミュレート・アルバニア)』による強毒の付与に耐えながら、残る権能を打破し、最終的に全剣王をも打ち取らなければならない、というわけだ。
「情報によると、全剣王配下の直掩の魔種、その数は5。
【エルフレームTypeTitan】ショール=エルフレーム=リアルト。これは『不毀なる廃滅(エミュレート・アルバニア)』の母体ですね。
それから、『導滅の悪狐』ティリと、『夜闇の真影』エヴリーヌ。
そしてルナリア=ド=ラフスと、ガルボイ・ルイバローフ……」
強力な魔種五名の名を上げる、アミナ。この五魔は、確実にこの戦場に出現するだろう。それをも相手にしなければならないというのは、非常に困難な任務に間違いない。
「ショールか……ここで、すべての決着をつけよう」
ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)が、静かに、手を握り締めながら言った。殺しあうサダメの姉妹。その最後の時は、もうじき訪れるのかもしれない。
「ティリ様……」
沈痛な面持ちで、ニル(p3p009185)はつぶやいた。同じ思いを抱きながら、決して交わることのない目的を持つ彼とは、結局はここで、相対し、討ち滅ぼさなければならないのだ。
「……その楽しいを、みんなで共有できればよかったんだよ、エヴリーヌ……」
悲しげに言うのは、セララ(p3p000273)である。エヴリーヌとも浅からぬ因縁のあるセララにとっては、その発露の場所はここに間違いない。
「……ルナリアの相手は、俺に任せてほしい」
そういうのは、陣営の陰に潜むようにいた一人の男、レヴィ=ド=ラフスだ。
「……世界が滅ぶという状況で申し訳ないが、家族の問題でね。
……わがままを言うようだが」
「別に構わないわよ。戦力なんて、あればあるほどいいもの」
ビッツが言う。
「……アルヴィ。辛いなら……」
レヴィが言うのへ、アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)はかぶりを振った。
「黙ってろクソ親父。
……黙っててくれ。今は。今は……」
「……」
その様子に、静かにチェレンチィ(p3p008318)も息を吐き出した。絡みついた悲しい糸が、ここでも縺れて悲劇を生み出すような気持だった。
「……無理すんなよ」
紅花 牡丹(p3p010983)が、吐き出すように言った。
「オレは……くそっ、こんな時に気の利いた言葉すらいえねぇ。
でも、オレは、そばにいる。絶対だ。だから、信じてくれ。頼ってくれ」
牡丹の言葉に、アルヴァとチェレンチィは、少しだけ楽になったようにうなづいて見せる。
「あらためてまとめるわね。
こちらの戦力は、鉄帝全軍およびローレット・イレギュラーズ。
作戦目標は――簡単ね。『すべての敵の撃破』。
もちろん、雑兵はアタシたちが相手をするわ。
貴方達ローレット・イレギュラーズには、五人の魔種、そして全剣王の相手をお願いしたいの」
そういうビッツに、『あなた』はうなづいた。
あの、恐るべき、世界を否定する魔を倒すことができるのは、可能性の光を持つ、『あなた』たち……ローレット・イレギュラーズたち、だけなのだから。
「……可能な限り、私達が支援を行います。
皆さんが、魔種との戦いに注力できるように。
ですから、背中は任せてくださいね!」
アミナがほほ笑んで言う。
「ええ、必ず」
オリーブ・ローレル(p3p004352)が静かにうなづいた。
「いよいよ、決着の時です。
せっかく、皆が一丸となって守った鉄帝です。
今更、滅ぼされてたまるものですか」
「私も、今回は援護に回ります」
メルティ・メーテリア(p3n000303)が言った。
「……もし、ご無事に帰ってきたら。
戦闘スタイルを変えることを、ちょっと考えてあげてもいいですよ、愛無さん」
「ふん。嘘ばかりだ。エールを送るつもりならば、もっともらしいことをいいたまえ」
恋屍・愛無(p3p007296)が笑って見せる。
「行きましょう、みなさん。
きっと、これが……最後の、戦いになるはずです」
柊木 涼花(p3p010038)が、ぐ、とこぶしを握り締めて、そういった。
もうこれで、ありったけを出すつもりだ。きっとこの後に、この後にこそ、平和がやってくるはずなのだから。
「では、ここで奴らに見せてあげようか。
あらゆる危機を突破してきた、ローレット・イレギュラーズの本当の実力をね!」
マリア・レイシス(p3p006685)が笑う。
「先は全剣王の首を取り損ねたからな。
ここで仕留めるのも悪くなかろうよ」
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)もまた、獰猛に笑って見せる。
「アラタメテ、あの物まね王に、ホントウの強さってものを教えてやろう!」
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)が、にぃ、と笑った。
『あなた』もまた――。
勇敢に笑っただろう。
剣を掲げよ。勇気を胸にせよ。
いざ、いざ――決戦の時!
- <終焉のクロニクル>剣を掲げ、勇気を胸に完了
- GM名洗井落雲
- 種別ラリー
- 難易度VERYHARD
- 冒険終了日時2024年04月02日 22時05分
- 章数3章
- 総採用数259人
- 参加費50RC
第3章
第3章 第1節
●すべて人の夢の戦い
「黒陽も墜とされ、ガルボイも朽ち」
男は言う。
極大化し続ける、ワームホールの前に立ち。
赤い鎧。
巨大なる剣。
全剣王。
そう名乗るもの。
「下らんことを。ルナリア、貴様はまだ生きているようだが――」
「ええ、王」
一礼をして見せる。ドゥマは鼻で笑った。
「は――だが、死にかけか。
まぁ、いい。せめてここで華やかに散れ」
捨て置く、と意味だろう。もう、彼女の『足止め』など必要ないのだ。
「さて――無駄な努力をご苦労、イレギュラーズの諸君。
見事に下らん努力を続けたものだ。
貴様らが遊んでいる間に、我も暇だったのでな。ワームホールに少し仕掛けをしておいた」
「何を」
ニルが言う。
「したのですか?」
「このままワームホールは極大化を続ける。そうすれば、鉄帝の大半は影の国に飲み込まれるだろうよ。
下らん。我が、守る、だと?
確かに、我は最強であり、イノリからの信も厚い。
故にそうふるまっていたが――そもそも、守る必要ああるのか?
こういうものはな。攻撃に使うのだよ」
笑う。
「そんな」
セララが言った。
「そんな無茶苦茶なことを!」
「できる。
なぜなら我は最強であるからだ」
鼻を鳴らした。
「最強であるからこそ、すべてが許される。
逆を考えろ。弱者は何もできない。
何も選べない。誰にも選ばれない。
故に、強者こそがすべてを恣にできる!
それがこの世の摂理だ!
そしてそれができるのは、この、我だ!
王とは、この世に一人――我のみであるべきだ!」
「偽りの王め」
イーリンがうめく。
「それで勝ったつもり?」
「勝ったつもりなのではない。
勝ったのだ。
膨張するワームホールは、我を殺さなければ止められん。
それに、ワームホールからはこれまで以上の軍勢が湧いて出るだろうよ。
もはや貴様らに援軍は見込めまい。
ならば――」
「いいえ、いますよ」
そう。
静かな声が響いた。
空が暗くなる。
無数の、ワイバーンが。
飛来する――。
四つの影。
「貴様――」
ドゥマが、流石に驚愕のそれを見せた。
「竜、だと」
「ええ。
若輩なれど、バシレウスが一つ――ザビーネ=ザビアボロス」
「悪いな、遅れた!」
ムラデンが叫ぶ。
「ちょっと寝坊助のおっさんを連れてきたからな――」
ぬ、と、大男が頭を掻きながら現れる。
「じゃぁかしい、坊主!
こっちは初めての国外旅行じゃ、土産くらい買わせい!」
「シェーム、さん?」
ユーフォニーが声を上げる。
大樹の嘆き――シェームは笑った。
「おう! まぁ、今回は世界の危機っちゅうことで、特別に、少しだけ目が覚めた。
というか、次に会うときは、もっと静かな時が良かったんじゃが……こちらのザビーネに頼まれてはな!」
「私が人間と縁を紡ぐことになったのは、半分は貴方のおかげです。
責任をとってください」
「まぁ、ええ。儂は可能性を持つものは好きじゃ。
それがこんな阿呆に消されようとしているのではうかうか寝てもいられんな。
さて、ちびっこ、どうするんじゃ?」
「え、え、え、え、えっと」
おどおどとストイシャが言う。
「お、おねえさまと、私と、ムラデンと、お、おじさん……。
全員の力を合わせれば、ワームホールの拡大を食い止められるでしょ?
そ、その間に、皆があっちのおじさんをやっつける……」
「っちゅうことじゃ!」
シェームがいった。
「貴様(きさん)らの力はもう試すまでもないじゃろ!
全力でやれ! 手助けはする!」
「ええ、まさか深緑からも手助けが来るとは」
オリーブが言う。
「これは、情けないところは見せられませんね!」
妙見子が、笑った。
「いいわね。これでいい加減最後よ」
イーリンが、声を上げる。
「立ち向かうわ。
全群突撃!」
おう、と。
人が。
人の群れが、鬨を上げる。
「戯けが」
忌々しそうに、ドゥマが睨みつけた。
「その思い上がり。
この剣で消し飛ばしてやろう」
構える――。
「……やるぞ」
アルヴァが、言った。
さぁ、立ち上がれ。
決戦の時だ!
第3章 第2節
ファイナルフェイズです。状況を改めて整理させていただきます。
●最終成功条件
すべての敵の撃破
●状況
ついに状況は最終章に到達しました。
すべての作戦に失敗を喫し、手下ももはや瀕死のルナリアの残すだけとなってしまった全剣王。
彼は最後の手段に出ます。ワームホールを極大化し、周辺を影の領域へと飲み込もうというのです。
しかし、最後の増援がそれを阻止してくれます。竜、バシレウスであるザビーネ=ザビアボロスとその従者竜、ムラデンとストイシャ。そして、深緑の大樹の嘆きの一人である、シェームです。
彼らは力を合わせ、ワームホールの極大化を阻止してくれていますが、しかし結局は大本を絶たねば解決はしません。
おおもととは、つまり全剣王ドゥマ。
さぁ、決着の時です。決戦の時です。
ドゥマを倒し、最終決戦にまず最初の勝鬨を挙げましょう!!!
●ルール追加:パンドラの加護について
ワームホールの極大化に伴い、周辺にもパンドラの加護が適用されています。
このフィールドでは『イクリプス全身』の姿にキャラクターが変化することが可能です。
イクリプス全身の姿になる場合、PC当人の『パンドラ』は消費されていきますが、敵に対抗するための非常に強力な力を得ることが可能です。
●この章のエネミーは、以下の通りです。
#全剣王ドゥマ
Bad End 8の一人。自称最強の全剣王。その正体は、『なにものにもなれなかった一人の人間種』だったとされています。
正体はさておき、今は非常に強力な魔であることに間違いはありません。仮にもBad End 8。終焉の将の一人です。決して油断はなさらないでください。
非常にふざけたことをいいますが、全レンジに隙はないです。とりわけ物理攻撃に重きを置いていますが、神秘攻撃が穴になってることもありません。しいて言うなら、単体攻撃への比重が強めなので、うまく盾役とヒーラーが
頑張るとといいかもしれません。
申し訳ありませんが、これはVHの最終決戦です。
全員が己の出すべき力、なすべき役割、かけるべき言葉、抱くべき覚悟、
全てを持たなければ勝てない相手です。
皆さんの覚悟をお見せください。
#ルナリア=ド=ラフス
アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)さんの関係者です。
詳しい設定や容姿などは以下の通り。
https://rev1.reversion.jp/scenario/ssdetail/5006
性能は前章通り。ただ、現在はイレギュラーズの猛攻によりほぼ瀕死の状態です。
割く戦力は最低限で問題はないかと思いますが、炎は消える寸前にこそ極大に燃え上がるのです。
#終焉獣&不毀の騎士たち
引き続きいます。が、下記の味方援軍が頑張って対応してくれていますので、PCの皆さんにはが相手をする必要はないです。
●味方援軍
不毀の廃滅が消滅したため、味方NPC軍は全員元気です。これまでにまして、敵雑魚をもりもり削ってくれるでしょう。
マール&メーアの竜宮軍
マール・ディーネー(https://rev1.reversion.jp/character/detail/p3n000281)とメーア・ディーネー(https://rev1.reversion.jp/character/detail/p3n000282)をリーダーとする、竜宮のバニーガール&ボーイたちです。
いろいろとまんべんなくのこなせる頼りになるバニーさんたちです。
彼らがいる限り、毎ターン味方全員に簡易なバフがかかります。
天義聖騎士団独立部隊
ジル・フラヴィニー(https://rev1.reversion.jp/character/detail/p3n000364)も所属する、天義の聖騎士団です。そのうち、国境警備隊などと合流し、鉄帝に増援として派遣されたものです。
彼らがいる限り、味方NPCの残存性向上が見込めます。
鉄帝お代わり部隊
【エルフレームTypeAegis】ダンビュライト=エルフレーム=リアルト(https://rev1.reversion.jp/scenario/ssdetail/3961)が連れてきた、鉄帝の増援部隊です。
シンプルのNPC戦力に上乗せされます。また、これまでのイレギュラーズたちの戦いの結果、士気はめちゃくちゃ高くなっています。
プーレルジール増援部隊
ヴェルちゃん(https://rev1.reversion.jp/scenario/ssdetail/5272)と信濃(https://rev1.reversion.jp/scenario/ssdetail/5271)が率いる、プーレルジールからの増援部隊。戦闘用ゼロ・クールや、簡易生産型のツイン・モデルなどが所属します。
シンプルにNPC戦力に上乗せされます。これまでのイレギュラーズたちの戦いの結果、士気はめちゃくちゃ高くなっています。
レヴィ遊撃部隊
レヴィ=ド=ラフス(https://rev1.reversion.jp/scenario/ssdetail/5770)率いる遊撃部隊。
現在はルナリアと交戦中です。
鉄帝部隊
ビッツ・ビネガー(p3n000095)とアミナ(p3n000296)が率いる初期部隊です。皆さんの電光石火の活躍の結果、さしたる消耗もなく戦場で暴れまわっています。
こちらの戦力が基本値になり、さらに上記の増援部隊が合流しています。
正直、ある程度の雑魚敵はNPC部隊にに任せてしまっても問題ないくらいにデカく膨れ上がってます。
#さらに、以下の部隊が増援に参加しています。
チームザビアボロス+シェーム
ザビーネ=ザビアボロス(https://rev1.reversion.jp/character/detail/p3n000333)とその従者竜ムラデン(https://rev1.reversion.jp/character/detail/p3n000334)とストイシャ(https://rev1.reversion.jp/character/detail/p3n000335)。そしてシェーム(https://rev1.reversion.jp/character/detail/p3n000259)が率いる混成部隊です。
主にザビアボロスの眷属であるワイバーンが主戦力になっています。めちゃくちゃ強いので、雑魚敵は任せてしまって大丈夫です。
ザビーネ、ムラデン、ストイシャ、シェームも、対全剣王戦に力を貸してくれます。
もちろん、上記部隊の隊長格のメンバーも、全力を以て力を貸してくれるでしょう。
●プレイング締め切り
作戦完了まで、現実時間でおおよそ三日とさせていただきます。
プレイング最終締め切りは、『3月30日の23時』です。
締め切りまでの間にも、プレイングの採用によりプレイの執筆、自体の進行などは行われる可能性がありますので、ご了承の上ご参加ください。
それでは、ご武運を!
第3章 第3節
●春風は、いつだって悪戯だった
子供っぽい言葉を使えば一目惚れだったのだ。だって、そうでしょう?
恋なんて雷にでも打たれたように転がり落ちるものなのだ。理性的であれば恋をしない――なんて事は無い。
あの人はきっと、わたくしになんて興味は無かった。
その辺の雑草を見た時にやたら大きなテントウムシが居たようなものだろう。
ええ、きっと。そう。きっと私がテントウムシなのかクロホシテントウダマシなのかヨツボシテントウダマシなのか気になったようなもの。
ちょっとテントウムシっぽさがあったから目に付いたようなだけの、そんな存在だったに違いない。
だからこそ「ぱっぱらぱー」なんて興味も無いからわたくしの名前を覚えない貴方であったも良かったの。
何せ、あなたがわたくしのようなぱっぱらぱーな小さき生き物に興味を持つわけなんてなかったのだから!
……本当に、それだけで、よかったの。
「うん。例えば分からないけれど、凄く良い話ししてると思うわ。
それがスモックを着用して黄色い帽子を被った状況じゃなかったら心から同情して、アンタをどうにかしてやれた気がする」
リア・クォーツ(p3p004937)は静かにそう言った。眼前には『不毀の軍勢』ロザリエイルが俯いて涙を流している。
最終決戦であるというのに幼稚園児のコスチュームでの先頭を強いられたイレギュラーズはこの目の前の不憫な乙女に同情的だった。
彼女は『不毀の軍勢』ではあるが、その力を貸し与えられただけの人間に過ぎないのだという。
初対面では水着バトルを、そして引き続いては愛を叫ぶウェディングドレスバトルとおしゃぶり赤ちゃんオギャり大戦を開いた胡乱な娘だ。
バニースーツ電流マッチまで熟してきたかと思えば、ついには幼稚園スモック最終決戦を開くに至った。
「ロザリエイルちゃん……」
炎堂 焔(p3p004727)はその名前を呼んだ。正直、凄い相手だった。どんなタイミングでも我を曲げない彼女。
だからこそその純愛を貫いてきたのだろう。
「ロザリエイルさんは、その、凄いと思うのですよ。だから、行く当てがなくなったらメイの教会に来ませんか?」
「家を与えて下さいますの!?」
「そ、そうかもしれないのです。悲しむことがあれば悲しんで、それから泣くだけ泣いて……」
慌てるメイ・カヴァッツァ(p3p010703)に「ですが、わたくし……」とロザリエイルはしょんぼりと呟いた。
これ以上彼女と刃を交す必要は無いだろうともルーキス・ファウン(p3p008870)は認識している。ロザリエイルとの時間は短かったが愉快なものだった。
「ロザリエイル……」
「オギャリ大魔神様」
「……俺の呼び名……?」
最終決戦という大一番で凄まじい呼びかけを受けたルーキスは兎も角と首を振った。
「選択を聞きたいんだ、ロザリエイル」
ぬばたまの髪にスモック、仮面を外せば可憐な娘であった。それでも、眼(まなこ)の曇った男から見れば所詮は雑草の一つに過ぎない。
彼女の体には電流が走ったように恋に落ちた。うらぶれた毎日を送っていたとしたならば、救いのように彼が目の前にやってきたのだ。
悪い男に唆された訳ではない。勝手に好きになって、勝手に愛して、勝手に『彼が他の技を模倣するなんて』と理想をぶつけた。
ロザリエイルの恋心全てを否定してはならないと隠岐奈 朝顔(p3p008750)は知っている。彼女は、彼が死ねと言えば死ねる程のはっきりとした存在だろうから。
「私達は、貴女を支えたいです。ロザリエイルさん。貴女は貴女として選択して下さい」
「そうですよ。で、如何します? もうハッキリフラれに行きます? てか、マジで思うんですけど……。
しにゃたちぱっぱらぱーなので、この恋なんてサッと忘れて仕舞えば良くないですか? だって、しにゃたち――ほら、なんですっけ――」
――大ッッッ親友――
何故か敵に唐突にそう認定されたしにゃこ(p3p008456)は「大ッッッ親友ですし!?」とロザリエイルに手を差し伸べる。
「と、言うわけだ。ロザリエイルが『来る』ならば全剣王ドゥマの所へと連れて行ってやろう」
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)は肩を竦めた。以前としてフリフリとした可愛らしいスモック姿である。似合ってしまうから仕方が無い。
本気でコスプレをして居た汰磨羈は「その選択肢はロザリエイルに託す」とそう言った。
「……どうする?」
穏やかに微笑んだレイリー=シュタイン(p3p007270)はそっと手を差し伸べた。
「私は一途な貴女が大好きよ。
だから、選んで良い。貴女が選ぶなら、私が連れて行ってあげる。貴女が恐いなら、支えてあげるわ。
私はその為の準備だってしているのだもの」
にっこりと微笑んだレイリーにロザリエイルはすくっと立ち上がってから「わたくし、参りますわ」とそう言った。
あの人は、きっと最後まで名前なんざ覚えちゃくれていないのだ。
たった一度でも良いからロザリエイルと呼ばれたら吹っ切れてしまいそうな――細い糸を捩り合わせて頼りにしてきた恋だった。
「告白いたします。それで、潔く振られたら、わたくし! 『不毀の軍勢』を止めて『再現性コスプレ同好会』に参入いたしますわよ―――!」
「えっ、リアちゃん」
「おい!! 焔にバレねぇように加入に署名させた意味がねぇだろうが、このぱっぱらぱー女!」
リアが『ロザリエイルの居場所作り』(と、コイツに全てを押し付けるぞと言う魂胆)で行なった裏工作が露見したが、それはそれ。
イレギュラーズの選択を受け、一人の娘は進むことにした。
あの人が息絶える前に伝えよう。
――あなたが居て、しあわせでした。わたくしの生きる光でした。
けれど、最後まで、わたくしを見てはいなかったのでしょう。
戦うことばかりにのめり込んでいくあなたの心の支えになれなかったことが、わたくしは悔しかった。
「行きますわよ!! 恋と決別! 後ついでに世界を救うわたくしになりますわ! ね、しにゃこ!」
「イキナリ呼び捨てですか!? いいですけど! 行きますよ! オギャリ大魔神!」
「オ、オギャアアアアアアア――――!」
ルーキスは本気で叫んだ。
きっと、大した影響はない。
ただの一人の娘の自己満足になるかも知れない。
それでも「良かったね」とひとつひとつの幸せを集めて、一つの大きな可能性に変えてきたあなたたちだったから。
向き合う為の勇気を教えてくれたのだ。
せめて、全てが終わってしまう前に――
※イレギュラーズたちに背中を押され、ロザリエイルが戦場に現れました!
第3章 第4節
●剣を掲げ、勇気を胸に・Ⅰ
それは王である。
王を名乗るものである。
全ての剣を修めし王。
全ての魔を修めし王。
すべての武の頂点。
それを名乗るものである――。
実際。
苛烈、という言葉すら生ぬるいほどに、王の攻撃は苛烈である。
天を割くほどの、地を割くほどの、世界を壊すほどの――。
一撃!
それが、幾度となく、幾度となく。
鉄帝の大地を削った。
「ち――っ」
舌打ち一つ、シラスは飛ぶ。
パンドラの加護を受けたシラスの姿は、極端、一つ、人間のままである。
だが――この姿こそが、最も自分を体現したものだと知っている。
それは、ある意味で――飾ることで己を覆い隠した全剣王とは、対極に位置するのかもしれない。
「7回の反転だと?
二重反転の魔種でさえ大勢で相手しても苦戦した。
普通に考えたら敵うわけがない。
でも何でだろうな。
微塵も負ける気がしない!」
吠える。笑う。血にまみれながら、傷に汚れながら、凄絶に。
「お前さ、今日一日で"最強"って何回言った?
分かるさ、同じだったよ。
俺は強いといつだって心の中で繰り返した。
自分で自分を言い聞かせないとやっていられないと思ってた。
そうやって弱い自分を塗りつぶした気になってた。
でもそんなことは何の意味もないんだ。
自分が何者かなんて、仲間たちが教えてくれたよ。
皆がくれた勇気に比べたら独りの強さなんてちっぽけなもんさ。
テメーにだってあったはずだろ! 最強じゃない何かが!」
「吠えるなッ!」
突き出された刃を、ドゥマはその巨大な剣で受け止めた! 衝突! 衝撃!
「それで貴様は何を得たッ!
貴様はあきらめたのだろう、誰かになることをッ!」
「違うな――ようやく知ったんだ、自分を!」
ふるう、刃。剣を撃ち落とさんばかりのそれを、全剣王は耐えた。
「ならば」
言葉を紡ぐ。
重く。重く。
ダイヤの王。
マッチョ ☆ プリン。
「一つこの場で言えるのは……。
無駄に自分の熱を消費してくれる分には有難い。
邪魔だと思うならオレを倒していけ」
「ほざいたな小童!」
刃を振るう――斬撃が、プリンを貫く――間髪、反撃の棘!
「ち……ッ!」
ドゥマが吠える。わずかに手を貫く、痺れのごとき痛み。
「だが、それがどうしたというのだ!
貴様の命がけの行動が、我の手を僅かにしびれさせたにすぎぬ!
無意味だ! それは!」
「いいや、オレ一人では届かないかもしれない。
ちいさな、小さな、一打だ。
だが、ここにはオレ一人だけではない」
プリンが言う。
「強者が好きな様に出来る。
弱者は奪われるのみ。
なるほど、道理だ。概ねは同意する。
……だが、基準になるのは強さではなく結果だろう。
自分がどうにかできる、するなどと。
結果が出る前に意気込みだけいくら語ったとて、
無意味だ。無価値だ。リソースの無駄だ。
それは、目的を達成してから言わなければ。
貴様は達成したのか? 目的を?
まだ、なれば。
それは夢想に過ぎん」
意識をぶっ飛ばしながらも、プリンは嗤う。
「そうね、全剣王様?」
ヴァイスもゆっくりと笑う。
「ええ、ええ、御伽噺の英雄様。
貴方の夢想、叶えさせてはあげないわ。
私もこの世界を割合気に入っているの。
全力で守らせてもらいましょうか。
……この世界のことは、まだまだ知り足りないし。待ってくれている人だっているのだもの。
戦闘はあまり得意ではないけれど。本当に必要な時にふるう刃はきちんと用意しているつもりよ?」
その背に掲げるは、七つの光。七つの剣。虹。
虹の剣姫、ヴァイス。
「吠えるなよ、小娘が!」
斬撃が、大地をえぐる。ヴァイスはたん、と跳躍して、その斬撃を避けて見せた。
「――っ!」
呼気とともに、奮う刃。七閃。七つの光。七虹。
しゃあああん、と振るわれる。刃を、ドゥマは片手で受け止めた。
「痺れるだけだと――」
「なら、一生痺れさせてやるさ」
紫電が吠える。斬撃。横なぎ。
「時空(せかい)の歪みは……オレが絶ち斬る!」
――《ソノ一閃、時ヲ喰イ、空ヲ断ツ》。時喰空断。一閃。これにはたまらうず、ドゥマも大剣を以って受け止めた。
「貴様――!」
「イクリプスとか知らないけどとりあえずパワー!! ってやるのがデザストル流、そうよね!?」
星華が笑った。
パワー。仲間の背中を押すための力!
「全部ぶっ飛ばしちゃって!
やっちゃいなさい! 私が許す!
さぁ、さぁ、世界を救っちゃいましょう!」
その言葉通り――。
一歩。
一歩。
進む――着実に!
成否
成功
状態異常
第3章 第5節
●我らこそが鉄帝なりと
「何やら愉快な囀りが聞こえるな。
強ければ何をしても良いと?」
声が聞こえる。
戦場で、
この戦場で、
朗々と響く声が。
「そんな思い上がりを未だに信じているのは時代遅れの証左だ」
そう、声が上がる。
ざ、ざ、ざ、と。
無数の足音が、それに続く。
続く。
フロールリジ騎士団。
無数の鉄帝兵、副官ユングヴィ・グスタフ・ユングとともに。
それは。
鉄帝は。
エッダは。
「御覧じろ、カビの生えたおとぎ話め。
最強とは、勝者の名ではないのだ」
カッ、と。高らかにブーツを踏みしめた。
それは、鉄帝である。
鉄帝そのものである。
「蹂躙せよ。
この国にカビの生えた御伽噺などは不要だ。
ここにあるは、最も新しい御伽噺。
滅びを打ち砕き、真の最強を謳う不確定の群。
すなわち、我々ぞ!
踏み鳴らせ、打ち鳴らせ、華散らせ!
今こそ――決戦の時なれば!」
エッダは――。
鉄帝の女は。
そう、高らかに謳った。
「これが今の鉄帝です。
そう陛下も仰るはずだ。
力への信奉を捨てたのではない。
より高みへ至った我らの、新たな武を見るが良い」
笑う。
あのようなものは、鉄帝には不要だ。
だから。
我が盾と矛を以ってそれを追い立てよう。
「全剣王。夢のあるおとぎ話だ。
だが彼が最強であるのは、それを語り継ぐ者が居るからこそだ。
その意味が判らぬ者に、負ける我らではない」
その言葉は――。
必ず、結実するはずだと。
今この場に戦う、すべては、信じて疑うことはない!
成否
成功
第3章 第6節
●再開の火
「シェーム、さん
……っ、世界の危機くらいで起きてこれるならずっと起きててくださいよ……!」
駄々をこねるように、ユーフォニーは言った。
解っている。
これはわがままだ。
でも。
あの時握った手を。
その手の暖かさを。
大地へと消えてゆくその温度を。
私は、どれほど。どんなに、どれほど――。
そう、思えば思うほど。
想いは溢れていく。
「おう。貴様の手の温かさは、変わらずのようじゃな。
……と……いや……なんじゃ、おなごに泣かれるのは苦手なんじゃが……」
困ったように言うシェームに、しかし胡桃はかぶりを振った。
「自業自得なの」
「そうはいってくれるな。
……貴様は、見つけられたか?」
「……さあ?」
胡桃はかぶりを振って見せた。
「未だわたしも道半ば、だからこそ、目の前のあれが終わりと認めるわけにもいかぬの。
だから、きっとわたし達の炎も未来の為になると信じて」
「おう。そうじゃな」
に、と。シェームは笑う。
「相変わらずね。
来てくれたのね、シェーム
とても嬉しいの」
「おう。貴様らの危機じゃ。
いてもたってもいられんかった。
ま、外に出るのには少々難儀したが、それも特別っちゅうことでな」
「ごきげんよう、炎のあなた」
ポシェティケトがゆっくりと一礼をするのへ、シェームが笑った。
「貴様も寝坊助か?」
「ふふ。でも、ワタシ達もねぼすけではいられないわね。
ねぇ、クララ」
「はは――よいな!
さぁて、もしや貴様もめそめそしておらんじゃろうな、ムサシ?」
そう言って笑いかけるシェームに、ヘルメット越しにムサシはうなづいた。
「ええ……ええ。もちろんです」
「ふん。強がりは人間の特権じゃ。
ま、終わったらその仮面を脱ぐといい。
終わったら、じゃがな!」
「はい!」
構える。
眼前。
全て剣の王を名乗るそれに。
「覚えているかなシェーム、2度にわたりやりあった沙耶だよ!」
沙耶がそういうのへ、シェームは笑った。
「もちろんじゃ、怪盗!
今日盗むのはデカい獲物じゃな!」
「ええ。何せ、最強を騙る大バカ者ですもの!」
構える――その先に、敵がいる。
「ふん。
ファルカウのところから逃げ出してきたか? 嘆き如きが」
「あの小娘にも言いたいこともなくはないが――じゃが、なすべきはこっちじゃ。
友がいる。願いを託した友がいる。
ならば儂がここにいるのは必然。
可能性を紡ぐというのは、そういうことじゃ」
「……」
祝音が、うれしそうに笑った。いつか、自分が紡いだ可能性が、絆が、どこかで花開くこともあるのだろうか? それはとても、幸せな未来図に間違いない。
「……頑張ろう。
僕は、この場で……誰も死なせたりは、しない、にゃー!」
「頼りにしちょるぞ、坊主!
さて……貴様ら、準備は良いな」
「ああ、もちろん」
フィノアーシェが笑う。
「再び、会えることも。
隣にいることも。
今はそれが心地よい。
さぁ、こういわせてもらおうか。
負ける気など、ない、と」
「ほざいたな、雑魚どもが」
ドゥマが構える。
「来い。一刀のもとに切り伏せてやる」
「シェームさん、力を貸してください」
少しだけ、口をとがらせて、ユーフォニーが言った。
「ムサシさんばっかり、ずるいです!」
「いや、それは!」
ムサシが慌てるのへ、シェームは笑う。
「おう。
大盤振る舞いじゃ。
背中に乗せて、誰彼も征け!」
「まかせるの」
胡桃が笑う。
がおうん、と。
その背を、炎が押してくれるような気がいした。
嘆きの炎ではない。
希望を託す炎だ!
「仕留めさせてもらうぞ、ドゥマ!」
フィノアーシェが叫ぶ。同時、祝音が、
「みんなに、ちからを!」
賦活の術式で仲間たちに力を与える!
「無駄なことだ!」
切りかかるイレギュラーズたちを、ドゥマは薙ぎ払った。しかし間髪入れず、沙耶が一気に接敵する!
「私は君という存在に興味があるんだ。強さではない、その心に!
ものが何であろうと何かに一直線な存在は輝きが強い!
そういう方を私は何人も見てきた……!
だから君のその強さに一直線な思いも見せて欲しいんだ!」
「キラキラとした物言いを!」
ドゥマが忌々し気に、刃を振るう。沙耶の一撃を、受け止めた。
「我の道は! 決して綺麗なものなどではない!」
「知っている! でも、その芯に、あるものが!」
「『我はドゥマだ』!」
吠えるドゥマに、吹っ飛ばされる沙耶。すぐさまポシェティケトがそれを受け止めて、治癒を敢行する。
倒れさせない、は、無理だ。
ならば、一秒でも長く、戦場に立たせるために。
「命をつなぐ。
それが限界でも。
一秒。ここに立っていたことは。
無駄にはならないから」
そう。ポシェティケトが言う。
そうだ。
倒れても、倒れたとしても――。
つなぐ。
それは、勇気の意思をつなぐリレー!
「シェームさん、ムサシさん!」
ユーフォニーが叫ぶ。
「力を!」
「合わせるッ!」
「任せろ!」
ユーフォニーが世界を見る。
万華鏡。
私だけの世界。
ううん。
私たちの、世界!
「――ちっ!」
炎、そして、千変万化の鮮やかなる世界――混ざり合う力に、ムサシの力が混ざり合う!
「何者にもなれない? そんなことあるものか!
俺はまだまだ届かないこともあったし、負けて失ったことだってあった!
それでも俺は……意志を貫けって背中を押してくれた人がいた!
色彩と愛をくれて、一緒に歩んでくれた人がいた!」
「随分と生ぬるいものだな!」
ドゥマは一撃を受け止めながらあざ笑う。
「ゆえに――貴様では、我は殺せん!」
「ああ、かもな。
だが、続く。
俺たちだけじゃないんだ! ここにいるものは!」
「舐めないでほしいの」
胡桃が言った。
「イレギュラーズ。ローレット。
今ここに集う幾千の勇者たち。
何もかも信じられず、自分の強さというものだけを求め続けてきたそなたには、越えられない力よ」
「何を……!」
ドゥマが吠えた。
イレギュラーズたちの渾身の一撃は――。
確かに。
最強を謳うものへと、わずかでも傷をつけていた。
成否
成功
状態異常
第3章 第7節
●剣を掲げ、勇気を胸に・Ⅱ
強くあれば何もできる。
弱くあれば何もできない。
当たり前のことだ。
強さとは、なんだ。
知力。武力。財力。感性。地位。ありとあらゆる、他人より優れたものだ。
なければ軽んじられる。
他者より一つでも劣ったものは、踏みつけられ、唾棄され、捌け口にされ、嬲られる。
何もできない。
弱いものは、何もできないのだ。
きっと――死にざますら選ぶことはできまい。
弱さとは、絶望だ。
何もできずなにも持てず、何も選べず、ただ生きて死ぬだけ。
人の生きた意味も証も見つけられず、ただ獣のように生きて死ぬだけ。
そこに何の幸福があろうか。
弱ければ。
人は幸福たり得ない。
井の中の蛙大海を知らず。
良い言葉だ。弱者は生きる場所すら選べない。
空の高さを知る? このようなくだらない蛇足をつけていい顔をしているものを軽蔑する。
空の高さなど、どこに居ようとも知ることができるではないか。
井の中の蛙が劣っていることは不変。どれだけロマンチシズムにおぼれた擁護をしようと、井の中の蛙に価値などない。
誰よりも強くなろう。
誰よりも強くあろう。
あの、御伽噺の王のように。
ぼくが、あの王になろう。
「かなしいのはいやです」
と、ニルは言う。
「ニルは、ニルの「おいしい」をまもりたいから……!」
そのために。
何が必要なのだろう。
「貴様の、おいしいとやらを守るためにも!」
ドゥマは言う。
「必要なのは、力だ! 絶対的な、すべてを恣にする、力だ!」
「それは」
ニルはうなづいた。
「ある一面では、そうかもしれないのです。
でも、それだけでは、ニルは、おいしい、という気持ちを、得られなかった。
きっと、ティリと、おなじ……かなしい、ひとに、なっていた……!」
「ティリもまた同じだ! 力があれば! 貴様より強ければ……」
「ティリは、ニルより、つよかった、です!」
ニルは叫んだ。
「でも、ティリは、かなしかった。
かなしかった、のです……!」
「世迷言を……!」
「いいえ、いいえ」
雨紅がとびかかった。一槍。ぶつかる。
「『あなた』は、その強さで『何を為したい』のです?
……敵にこう言うのもおかしな話ですが。為したいことは、今から見つけたって遅くはないですよ」
「何を、だと?」
ドゥマがせせら笑う。
「すべてだ!
何もかもができる!
求められる!
『全剣王ドゥマ』であるのならば――!」
おとぎ話の英雄が、すべてを手に入れられたように。
全てを――。
恣にできる。
全てを!
「あっはははは! なるほどなるほど!
自分をだまして騙して、そこまで来たってわけだね!」
ユイユが笑う。
「ペテンでどこまで強くなれたのか、どこまで行けたのか! ボクに見せて見せて!」
「ペテンだと!?」
ドゥマが激昂する。
「我は、本物だ!」
「いいや、ペテンだね! ドゥマという被り物をかぶった誰かに過ぎない!
そうなんだろう!?
もう自分すら騙して楽しくやっちゃおうよ〜。
さぁ、世界も全部! 騙して! 自分が嫌いでも、空っぽでも、一瞬だとしても一緒に遊ぼう!」
「ほざくな、下郎がッ!」
躍りかかるユイユを、ドゥマが叩き払う。に、とユイユは笑う。
「それがキミの得たものかい? なんて――」
「そうだ! 僕は……君のとっておきが、君のオリジナルが見たい!」
ヨゾラが叫ぶ。
「全剣王の業じゃない。
冠位のそれじゃない!
君の、君だけの!」
「何をほざくッ!」
叫ぶ。
「我はすべてを収めるッ!
故に、すべてが我の業である!」
「そうやって、自分をごまかしても……ッ!」
「黙れ!」
放たれる。
それは、誰かがどこかで使った技。
伝説のコピー。
確かに、見事に模倣された業である。
確かに、見事に再現された業である。
でも、それだけ。
それだけだと――。
ヨゾラは思う。
「結局は、『あなた』が何かをなしたいかなのでしょう」
雨紅が言う。
何を。
『ぼく』は、なにを。
「黙れ!」
『ドゥマ』は吠えた。イレギュラーズと戦い続け、未だ衰えることのない力も、体も、イレギュラーズたちを激しく打ち据える極滅の撃である。
「こと此処に至って、長々と垂れるような口上は、オレには無い。
……ああ、だがまあ、ずっと共に戦い続けてくれた「コイツ」には、何時もの一言があって然るべきか。
さて、ディスペアーよ。絶望の大剣の力、世界の希望を切り拓く為、涸れ尽くすまで使わせて貰うぞ!」
その、極檄の中に在りてなお、一嘉は立ち、戦い、躍る。
その絶望が希望を描く時まで。傷つこうとも、斃れようとも、希望を、希望を、胸に描いて――。
「も、全っ然きにくわねー! さっきから言おうと思ってたんだけど、そもそもだな……。
なにものにもなれなかった? そんな考えが染みついちゃってんだろ?
なんだったら、なんで全と王を名乗ってんだ、あんた。
静寂の青よりひろい私ちゃんの心も、ここらで我慢の限界だぜ」
まっすぐな瞳で――。
秋奈が、『全剣王』を見据える。
「『あんた』だったら『なにもにもなれなかった』なんてのは嘘だぜ。
諦めんなよ。間違えんなよ。足を止めんなよ。
私ちゃんはな――そういうのが! 大っ嫌いだッ!」
とびかかる――斬打!
「おねえちゃん、力を!」
ニルが叫ぶ。傷をふさぐ。魔力の結晶。
傷ついても。壊れても。前に進む。ニルのカタチ。
「すすむのです……みんなで、『おいしい』を感じるために……!」
戦いは、続く。
成否
成功
状態異常
第3章 第8節
●家族
戦いが続く一方で――。
ある家族の戦いも、終わろうとしていた。
ルナリア。
家族を求めた女。
ゆがんだ形であろうとも――それを求めた女が。
「ルナリア」
レヴィが言う。
「俺は」
「何も言わないで頂戴」
ルナリアが言う。
「結局……結局。
どこから狂っていたのか。どこから間違っていたのか。
そんなことは、誰にもわからないの。
……まぁ。今更知った貴方の浮気には、ちょっとばかり、ムカついているけれども」
笑う。
すでに、その身は血にまみれ、
右腕はだらりと、力なく垂れさがっている。
痕がある。
火傷の痕。
戦いは激化し、
しかし、あまりにも静かに。
まるで仲間外れのようにも、家族水入らずのようにも。
ただ――。
決着の時は、訪れようとしていた。
「俺は」
今度は、アルヴァがそういった。
「俺は……俺のやりたいことを、やりたい」
そう、言うのへ。
「ええ」
と、チェレンチィは笑った。
「家族って、とても大事なものですからね。
……ボクも、時間こそ短かったですが。ちゃんと理解出来たんです。
だから、アルヴァさんにも自分の本心に従って欲しい。
伝えたい事を伝えて、やりたい事をやって欲しい。
手伝う位どうって事ないですよ」
「そうねぇ」
メリーノも笑った。
「そうねぇ、きっとこうするしか無いのだけれど。
あるばちゃんがしたいことをすればいいわ 大丈夫、きちんとしてあげる 任せて」
笑う。
友達の、ために。
「ボクも……トモダチの、ためっす!」
レッドが笑った。
多分、この物語の結末は別離で。
起こせるのは、ほんの一瞬の奇跡。
だとしても――。
踏み込んだ。踏み出した。
各々、己のなすべき、ことのために。
ルナリアが、最後の力を振り絞った。立ち、進む。ふるう。放たれた炎。炎。
ああ、我が子との、最後の絆。
だから、こだわった。
だから、選んだ。
この、愚直なまでに、赤い、炎。
アルヴィ、貴方との絆。
イレギュラーズたちを薙ぎ払うそれを、レッドが受け止めた。
苛烈な炎が体を焼くのを感じる。加護を受けた体がなお、焼けて悲鳴を上げるのを感じる。
それでも――。
バトンタッチ。
踏み込む。チェレンチィ、メリーノ、前へ。
「足を」
「とめる――!」
打。
撃。
打ち込む――それが。
それが――穿つ。ルナリアの、体を。
死なせない。
終わらせない。
まだ。でも――。
「母さん、俺を見ろ。俺はアルヴィ=ド=ラフス、あんたの息子だ!」
視る。見る。看る。
「ルナリア!」
レヴィが叫んだ。
声が。
響いた気がした。
世界に――。
この、小さな世界に。
トーストの香りで目を覚ました。甘いクリームと、苦いコーヒーの香りも。
テーブルがある。食卓だ。そこには、家族がそろっている。
誰ともなく、そこに座った。
ルナリアがいる。
アルヴァがいる。
レヴィがいる。
ニーアがいる。
ルリアもいる。
家族。
家族だ。
「私は」
ルナリアが言った。
「ずっとこうしたかったの。
それだけ。
それだけよ」
「きっと、そうなんだ」
レヴィが言った。
「それだけで、良かったんだ。
ただ、それだけで。
すまなかったな、アルヴィ……」
「馬鹿だよな、皆」
アルヴァが笑った。
「あのね、母さん。
俺にも仲間って呼べる人が沢山いるんだ。
あの頃の情けなかった俺じゃ考えられないかもしれないけど、隊長って言ってついてきてくれる仲間もいてさ」
笑う。
「昔から俺って我儘だったろ?
母さんにも、死んじゃった姉さんにも沢山迷惑かけてたし。
全部全部大切なんだ、守りたいって思ってる。
母さんも、少し意地張っちゃっただけだよね。
だから、全部終わりにしよう。
大丈夫、母さんの責任も代償も全部俺が持つ。
俺は母さんの自慢の息子だから」
「アルヴァ……!」
ルリアが、叫んだ。
「いいんだ、ルリア」
満ち足りたように、アルヴァが笑った。
「お前は、父さんの傍にいてやってくれ」
「アルヴィ!」
レヴィが叫ぶ。
ルナリアが笑った。
「ばかね。
本当に、馬鹿な子」
悲しそうに、笑った。
「あなたを連れて行ったら、後ろにいるお友達に恨まれちゃうわ。
だから――」
席を立った。
ルナリアと、ニーア。
二人とも、笑っていた。
「これでいいのでしょう?」
「母さん」
手を伸ばした。
届かない。
ルナリアが手をかざした。
そのやけど跡が、綺麗に消えていた。
「ごめんね、私の愛しい子」
ぐっ、と。
アルヴァの背中が、誰かに引っ張られている。
後ろに。
友が、仲間が――。
いた、から。
「幸せになったら、また会いましょう」
そう、ルナリアが言った、瞬間。
あたりが炎に包まれた。
仲間たちが、アルヴァを引っ張り出す。
「あるばちゃん!」
メリーノが、叫んだ。
「わたし達にとって、
あなたが『航空猟兵 団長』なの!
まっすぐ前を見ていて!
わたし達は負けない!」
「……守る側になりたいなら、生きねばなりません。
ボクだって貴方が大切です。失いたくはない!」
チェレンチィが、叫んだ。
「逝かせる、ものか!」
レッドが叫んだ。
炎の中に。
母が消えていく。
「ああ」
アルヴァが言った。
「そうなのか、母さん」
笑う。
母もまた、笑っていた。
家族の姿が消える。炎の内に。
「元気で、アルヴィ。
幸せになったら、また会いましょう」
その言葉のままに――。
母は消えて。
友と、家族と、彼だけが、残っていた。
成否
成功
状態異常
第3章 第9節
●やたら大きいけれど多分とてもきれいな恋のメロディ
ねぇ、知ってる?
恋ってとても苦しくて、せつなくて、とても幸せなものなのです。
ねぇ、知ってる?
失恋って、とても苦してくて、せつなくて、とても尊いものなのです。
かくして乙女は行く。乙女と、乙女を守るべくともに行く、9人の仲間とともに――。
「そこのこけそこのけ乙女が通りますわ~~~!!」
どざざぁぁぁぁぁっ、と駆け出すロザリエイル。その後ろを突っ走るイレギュラーズたち。
イレギュラーズたちに背を押され、突如として戦場に突撃したロザリエイルは、並み居る敵をぶっ倒しながら進軍進撃。全力を以て恋する乙女を遂行するのである――!
「くそ、あのバカ女じゃないか!」
「なんなんだよ!? とうとういかれたのか!?」
騎士たちがざわざわと騒ぎだすのへ、ロザリエイルは胸を張った。
「わたくし! 最初から最後まで! 恋にいかれておりますわ!」
「ダメだ、話が通じない! 知ってたけど!」
「どうするんだ? あれでも側近だろう?」
「側近なのか……? 勝手に追いかけ回してただけというか……」
「うろたえないでくださいまし!!」
ロザリエイルが叫んだ。
「止めたければ止めて結構!
ですがわたくし、そう簡単には止まりませんわ!
そう、わたくしには今、強い味方が――。
オギャリ大魔神様と愉快な仲間たちがおりますの!」
「俺!?」
ルーキスが自分を指さした。
「オギャリ大魔神だと……!?」
「不遜にも大魔神を騙るとは……!」
「いったい何者なんだ……!?」
「オギャァァァァァァァッ!!」
ルーキスが頭を抱える。
「さておき! さておき!」
ロザリエイルが、ばーって手を開いた。
「わたくし、ドゥマ様に用がありますの。
通してくださいまし!」
「お前のような怪しいやつらを通せるか!」
すごく当たり前のことを騎士が言うのへ、
「ですわよね!
では、まかり通りますわ!!!
恋する乙女は! 最強! ですのよ!!!」
ぐっ、とロザリエイルがクラウチングスタートする。
「あー、おっけー。
一気に行って。
僕がここはやっとくから」
構える、誠司。に、と仲間たちに笑いか
「ありがとうございますわ~~~~~!!!!!!!」
ようとした瞬間、びゅおん、と烈風のごとき風が吹いたかと思ったら、ロザリエイルが仲間たちの手を引っ張って先に突っ走て行くのが見えた。
残された、誠司と、不毀の騎士たち。
「……」
「……」
眼を合わせる。
「えっと……こ、ここは通さんぞ」
「ありがとう……。
いやー、言ってみたかったんだよね。ここは任せて先へ行け、みたいなセリフ」
誠司が苦笑した。
「わかるよ」
「わかってくれるんだ」
いずれにしても――。
恋の戦いなんて、もうずっと前から始まっている!
最初から、お互い本当のところを見せてはいなかったのですね。
だって恋って駆け引き。
ごめん嘘。
ほんとは、どちらも本当のところをさらけ出していましたのよ!
「……ハァ?」
激闘の最中、流石の全剣王も呆れた顔をして見せた。
というのも、大口をたたいてどこぞへと消えたぱっぱらぱーが、なぜかローレットの人間を連れてこちらに突撃してくるのである。
「……ハァ?」
なんか有名なネットミームみたいな声を出して、全剣王が顔をしかめた。
「おい、なにを」
「ドゥマ様~~~~~~~~!!」
ずざざぁぁぁ、とスライディングしながら滑り込み、びしっ、と指をさすロザリエイル。
「愛していますわ!」
「誰が?」
「わたくしが!」
「誰を?」
「ドゥマ様を!」
びしっ、と再び指さす。
「つまり、貴方を愛してる、と言っています」
ルーキスがそういった。
「うん、それはわかる」
ドゥマが困った顔をした。
「それを……どうして急に?」
「思い立ったが吉日ですわ!!」
ふふん、とロザリエイルが胸を張った。
「わたくし、決めましたの! 愛の告白をして、玉砕すると!
いえ、もしかしたらワンチャンス、愛を添い遂げられるのじゃないかな、とか思っておりますけれど!
それはそれとして、想いを伝えるのは尊い――、って、大ッッッ親友ッッッ! が、言っていた気がしますの!」
「いってませんよ?」
しにゃこが言った。
「貴様が焚きつけたのか? このぱっぱらぱーを?」
ドゥマが嫌そうな顔をした。
「……しにゃが焚きつけたかもしれん……」
むむ、としにゃこが渋い顔をした。
「なんだこれは、攪乱戦術というやつか?」
「意外とまじめね、ドゥマ!」
レイリーが、びしっ、と指をさした。
「なんてことないのよ。
ただの、恋する乙女の頑張りなだけ。
わたしはヴァイス☆ドラッヘ! 乙女の恋を応援するため只今参上!」
レイリーの言葉に、ドゥマは顔をしかめた。
「貴様らのところにも、ぱっぱらぱーがいるのだな」
「レイリーはぱっぱらぱーではないさ」
幸潮が笑う。
「わたしは レイリーの善の背信者。
あなたが やりたいと 悪欲を抱いたのなら。
わたしは それを 肯定するだけ」
「よくわからんが」
ドゥマが鼻を鳴らす。
「諸共死にたいということは解った。
ならば死ね」
剣を振るう――斬撃が、真空刃のようにあたりを薙ぎ払う!
「とうっ!」
ロザリエイルがジャンプしてそれを回避して見せた。続くイレギュラーズたちが戦闘態勢に入る。
「来たな……全剣王よ!」
汰磨羈が獰猛に笑う!
「ドゥマよ!
そこまで至った御主の執念そのものは、紛れもなく御主自身の力であった筈!
その執念さえあれば、借り物など無くとも力を掴めたのではないか!?
私は、そんな御主自身の力が見たい。
故に、こう告げよう。
『借り物まみれの全剣王擬きではなく、御主自身に。闘士として決闘を申し込む』! と!」
「ほざけ!」
ドゥマが跳躍、汰磨羈へと斬りかかる!
「これが、『我』だ! これこそが、我なのだ!」
「違いますわ~~~!!」
ロザリエイルが叫ぶ!
「何が違う! 貴様とて、愛しているとやらは、『ドゥマ』なのであろうに!」
「何を……!?」
ロザリエイルが困惑した。
「貴様が愛するのは、力だ! 強さだ! 全剣王ドゥマという強きものの影なのだ。
……『僕』ではない。
なれば、それでよいではないか! 『我』はドゥマだ! 変わらず――」
「お馬鹿ですわ~~~~~~~~~っ!」
ずばん、と、踏み込んだロザリエイルが、ドゥマの頬をひっぱたいた!
「いいですこと!? いいですこと!?
あなたの、わたくしに対しての興味がトゲトゲなのかトゲナシトゲトゲなのかトゲアリトゲナシトゲトゲなのか、ちょっと気になった程度であることは!
わたくしごときの、小さな命に目を向けないのは!
『ドゥマだから』じゃありませんわ!
あなたが! 心底! 性格が悪いからですわ~~~~~~っ!!」
「はぁ?」
飛呂が声を上げた。
「まって、俺、割とちゃんとした応援の言葉とかをプレイングに書いてきたんだけど」
「ありがとうございますわ~~~! 後でしっかり心に刻みます!
さておき!」
ばしん、ともっかい、ロザリエルがドゥマの頬をひっぱたいた。
「わかりませんの!? 人は、誰かにはなれませんわ!
だからこそ、ですの! わたくしは、ぱっぱらぱーと呼ばれても、胸を張って頷いてやりますわ!
だってわたくし、ぱっぱらぱーですもの!
あなたがどれだけ、目を背けようと――あなたは、あなたなのです!
そして、だからこそ――わたくしは、あなたに恋をしたのです!」
「それは」
ドゥマが、虚を突かれた顔をした。
「我は」
「あなたである、と!」
「認め、られる、ものか!」
吠えた。ドゥマが――悍ましいものを自覚するように。
「僕は、僕を、捨てたのだ……もう、あのみじめな僕はいない……!」
「ドゥマ様……!」
「さがって、ロザリエイル!」
飛呂がロザリエイルを引っ張る。
「大丈夫?」
焔が、ロザリエイルを庇う様に、身構えた。
「ありがとうございますわ~~~!
……わたくし、地雷ふんだかしら?」
「でかいのを!!」
焔が苦笑した。
「構わん」
ぎり、とドゥマは笑う。
「貴様らが、我を我だというのならば、認めてやろう。
そのうえで――その事実を知る貴様らをここで殺す。確実に、消す!
ロザリエイル!」
「まぁ、告白を受け入れてくださいますの!?」
「誰が受け入れるか! 貴様は念入りに殺す!」
「殺したいくらいに愛してると!?」
「お前さぁ!!!!」
ドゥマが地団太を踏む。
「もう! わかるでしょ!? ロザリエイルちゃんはアナタが強いからとかじゃなくて、
アナタがアナタだから好きになったんだって!」
焔が叫ぶ。
「力で支配なんかしなくたって、アナタのことをたった一人の大切な人として想ってるんだって!
……それじゃ、ダメだったの!?
こんなことしなくても、きっと楽しい毎日を過ごせる未来だってあったはずなのに!」
「認めてやる、ロザリエイル、貴様の眼は曇ってはいなかった!」
焔の言葉に、ドゥマはロザリエイルをにらみつける。
「ゆえに――我は貴様を殺す!
我の本質を知る、貴様を!」
「まぁ……」
ロザリエイルは、くらり、と額に手をやって見せた。
「こじらせてますわね! わたくしもびっくりするくらいに!」
「……私も己が大嫌い。
でも弱さは肯定出来た」
朝顔が、そういう。
「誰よりも痛がり、
選ばれぬからこそ……。
誰かに寄り添い、
価値を見出だせると。
……貴方は、私とも、セレスタン=サマエルとも違う。
本当に……自分を、憎悪している……!」
「そうですわね! なんか申し訳ありませんわ!」
ロザリエイルが言った。
「ううん……でも、だからこそ、自分を愛している人がいるって、教えてあげなくちゃならない……!」
「つまり、わたくしですわね!」
ロザリエイルがうなづいた。
「うん! もう、なんだかわかんなくなっちゃいましたけど!
ガンガン告白してください!
しにゃもこうなりゃ一蓮托生です!」
しにゃこが身構える。
「やることは変わらないわ!
皆、乙女の告白、届けるわよ!」
レイリーがそういい、
「ええ、あなたの思うがままに」
幸潮が笑う。
たとえ届かずとも。
たとえフラれても。
きっと、この恋は、美しく貴いのだから――。
「よーし、このまま告白しながら世界、救っちゃいますわ~~~!」
ロザリエイルが笑った。
何にしても――。
決戦は続く!
成否
成功
第3章 第10節
●騎と星と
徹底した個。
つまり個人が最強なれば、という発想。
全剣王の発想とはそれである。
厳密に言えば、最強とは一人でよく、それは己である、という傲慢な思想ではあった。
さらにより厳密に言えば――。
ドゥマを名乗る男にとって、世界とは敵だったのである。
隣に歩くもの。先に後に歩くもの。全て。全て、敵であった。
己を脅かす敵であった。
ドゥマを名乗る男が、どの様な人生を送ってきたのかを、ことさらに記すことはない。
ただ――。
彼は孤独であった。
それ故に、今の全剣王となった。
それだけは、間違いない。
彼は個だ。
間違いなく。
間違いなく――個の、強さ、である。
で、あるならば、と、勇気あるものは思う。
かのものに相対するのは、個の強さか?
違う! と、我らは思う!
我らは、勇あれど。
――友と、ともにある強さ。
群の、強さ。
共に手をとりあえる。
共に歩みあえる。
「だからこその――」
と、ヴェルーリアは言う。
「それゆえの、強さなんだ」
と、勇気あるものは言う。
友と。
人と。
人でないものと。
つないだ絆。
群としての、力。
一人で、私達は何でもできるわけではない。
最強、にはなれない。
だからこそ――。
私たちは、人間なのだから。
「相手は最強の個!
だったら私達は『全員』の連携で立ち向かうよ!
友軍とも力とタイミングを合わせて全剣王!
貴方を倒す!」
紡いだ絆の力を手に。
ヴェルーリアは叫ぶ。
騎兵がいる。
星の光がある。
そうでない、無数の命がここにある!
なれば。
ああ、なれば。
突破できるはずだ!
ここで!
この、難局を!
「いま、この瞬間は」
イーリンが言った。
「騎兵隊も何もない!
ここにいるすべての物の同胞として、私はここに立つ!
そしてここに叫び、ここに吠え、ここに揮う!
全剣王! 孤独なる王よ!
貴方のことを侮る者はこの戦場には居ないわ!
士気が沸騰した友軍が!
万難を排したイレギュラーズが!
先陣を切った騎兵隊が!
そして私が――私にしかなれなかった私が「貴方のために此処に居る」!」
吠える。魂を。全てをかけて。
「偽りの王。貴方が恣にできるのは、私達とこの舞台だけ。
成り上がって見せなさい。この戦場の王に。
王が立つ物語になるか。私達が王殺しになるか。
それとも「雑兵の群れに倒された何者でもない者になるか」は貴方次第よ。
選びなさい!」
「吠えるな、娘」
ドゥマが怒りの表情を見せた。
「殺す。貴様らは。確実にここで。
一度で死んで終わりと思うな。
念入りに殺す。冥府に落ちたその魂、呼び戻してでも再び殺す!
貴様らが死に怯え、死に飽いて、死を厭うて、完全なる消滅を懇願するその時まで!
殺しつくす!
この『ドゥマ』の名において!」
「いいですよ。何度でも立ち上がりましょう」
妙見子が、声を上げた。
「全剣王……いいえ『ただの』ドゥマ様。
強い者を真似たとて貴方は貴方。
一人の人間である事実は変わりません。
いつだって貴方の心は一人だったのでしょう?」
諭すように。あるいは、伝えるように。
「私達は違います。
紡いできた絆も。
繋いできた想いも。
皆が貴方を超えるためにここにいる!
私達に勝つのであれば――。
我々の想いを越えて見せよ!
私は、手をつなぎ。
ともに最期まで、と縁を紡いだ。
勝てるものなら、断てるものなら!
断ってみなさい!」
「あんま挑発すんなよな」
ムラデンが言う。
「ま、そういうわけだからさ。
生きて帰ろうぜ、皆」
「ん……レイも、気を付けるんだよ?」
ストイシャがそういうのへ、零が笑う。
「ああ、ストイシャ姉。
……全剣王!
個で至る最強か。
でも、其れは流石に無理だと思う。
真に一人で強くはなれない。
戦うにも一人じゃ無理だし」
と、隣に立つ者のことを想う。
この戦場に立つ者たちのことを想う。
そして、戦う相手のことをも思う。
一人ではない。
どこまで行っても、人は。
「全剣王の伝説が今のお前を形作るなら……。
少なくとも、『全剣王』という存在がお前の力に成ってくれたことは違いねぇ、其れは一人と言えるのか?
それもお前自身の強さってんなら其れは良い。
俺も最初はただの人だ。
でも紡いだ縁と経験が、
皆と積み重ねたからこその今だ!
お前が個の強さを誇るなら……此処で!
俺達が得た強さを! 見せてやるッ!」
「何処までもぬくぬくときれいごとを」
ドゥマが忌々しげに睨みつける。
「それすらも強さゆえのことだとなぜわからん。
貴様が弱者であったなら、隣の竜が貴様を見出したか?
自覚せよ。
貴様が強かったから、竜が頭を垂れたのだろう。
貴様が弱ければ、そこの嘆きも力を貸さぬ。
力だ。
貴様らを支えているのは、力だ」
「――おっしゃることはいちいち」
ザビーネが言った。
「ええ、理解できますが。
私たちが、本当に力のみに恃むのでしたら――。
私は『ザビアボロス』になっていましたよ。
ここにいるすべての個は。
先代の足元にも及びませんから」
「はっきり言われちゃうとドキッとしますね!」
ねねこが笑う。
「そうです!
私たちは、『ハーデス』の足元にも及びませんでしたよ!
ザビーネさんたちの力を借りて、皆で戦って、ようやくスタート地点でしたから!
それでも、負ける可能性は充分にありました!
……強かったわけじゃない。
ただ、力を合わせたいと願った。
それを強さと呼ぶならそう呼んでください。
それが、私達の強さだというのならば!」
「ならば、我一人にすりつぶされて終わりだ」
ドゥマが言う。
「群だの絆だのと。
仲良しごっこもたいがいにしろ。
貴様らは気持ちがいいかもしれんが、きいきいと虫唾が走るわ。
貴様らとて、竜が強いからこそ、手を結ぼうと思ったのだろうに。
弱者であれば、見捨てておっただろう?」
「随分とこじらせたみたいだね」
アルムが言った。
「俺は、強いとか、弱いとか、そういうことで手を差し伸べようと思ったわけじゃない。
ただ、彼女が彼女だから差し伸べたいと思ったんだ。
それだけ。
それだけだよ」
アルムが構える。
「さて、ここからはもう平行線なんだろう?
話を続けるつもりはないんだろう?
俺たちにもない。
……俺たちは、世界を救う。
お前は、世界を滅ぼすというのならば。
俺たちは、それを止める。
絶対に」
「やってみろ、等とは言わん。
無駄なことをかみしめてここで死ね」
だん、と。
ドゥマが踏みだした。
ずざ、と。
大剣を地に滑らせる。
それだけで――地がえぐれて。
激烈波が大地を駆ける!
「さぁて、決戦だ」
武器商人が、笑ってそれの前に立つ。
「個としての最強、ならばそれを突き破るのが群としての最強ってね。
味わうといい、全剣王。キミでは見れなかった光景を。
解るかい?
ここにいるのは――最強の盾の群だ」
「ぶはははッ! 乗せてくれるねぇ!」
ゴリョウが笑う。
「なら、乗るか!
なぁ、友よ!
なぁ、戦友よ!
オメェさん(セレスタン=サマエル)の力を借りて、ここに立っている!
俺も、オメェさん(セレスタン=サマエル)の盾に力を貸すぜ!
そして、力を貸すのは俺だけじゃねぇ! オメェさん(セレスタン=サマエル)だけじゃねぇ!
ここにいるすべてが!
俺の!
俺たちの!
聖盾(願い)に力を貸す!
だろう、ジル坊!
マール、メーア!
俺の、俺たちの!
紡いできた絆の、道の、友の、力が!」
「ああ。
全てが。
このせかいのすべてが――。
私たちの力になる」
レーカが言う。
「立つぞ。守るぞ。
立ち続けるぞ。守り続けるぞ。
我らは幾千。我らは幾億。
無数の人々のための盾!
たった一人の最強などに、破られる由はないッ!」
吠える――。
「行くぜ!
『聖盾よ、我らが世界を守りたまえ(セイクリッド・テリトリィ・ネクサス)』ッッ!!」
絆が。
願いが。
友の力が――。
強烈な、加護を。
盾を。
生み出す!
衝撃と結界がぶつかり合い、激しいスパークを引き起こした!
爆発する。空気が、酸素が、魔力が――あらゆるものが!
その瞬間の煉獄から世界を守るのは、絆。仲間たちの、絆。群。
その、絆の盾の中から――勇者たちが、飛び出すッ!
「諦めなければ勝てる。悪いけどもう生きるのを諦めない。
生きるのは自分達! それを譲る気はないんよ!」
吠える。加速。加速。加速加速加速! ただひたすらに早く! 叩きつける! 一撃!
「く、だらんッ!」
ドゥマが吠えた。彩陽のその一撃を剣で受け止める。ず、むんっ! 激しい衝撃が、尋常ではない一撃であることを周囲に予感させるが、しかしそれでもドゥマは耐えた。
「貴様から先に死ぬか!」
「いいや、死なないッ!」
ふるわれる斬撃。彩陽がそれを受け止める――が、強烈な一撃が、彩陽を吹き飛ばす。何度も意識を吹き飛ばされながらも、しかし、言葉通り。死ぬつもりはない!
「生き延びる――生きて、未来を見る!」
「そうなんですよね~~~」
ヴィルメイズが笑う。
「全剣王というのはよく分かりませんが~~~?
この全美王(七重美容液を果たした究極の美貌)たる私が!
母こと妙見子様と父ことムラデン様の手助けに参りましたとも!
ダイナミック親孝行タイムでございますよ〜」
たんっ、と踏み出す。舞うは蚩尤血楓舞。救い無き悪霊を討滅するための神聖舞。
「ええ、これが、未来のためなれば。
多少血反吐を吐くことになったとしても、この足を止めはしません。
……というか、口から血を吐く私って、あまりにも美しいので~~~~?」
舞より放たれる聖なる気配、それが無数の爪や刃のごとく形を変えて、ドゥマへと斬りかかる。ドゥマは裂ぱくの気合でそれを抑えつけ、
「そのそっ首、叩き落して塩漬けにしてやろうか!」
「いやですね~~~漬物は。せめて美しくはく製にしてくださいます?
まぁ、どちらもお断りなのですが!」
ふるわれる斬撃を受け止め、ヴィルメイズが後ずさる。入れ替わるように飛び込む美咲が、吹き飛ばされてきたヴィルメイズの『刃』を空中でキャッチし、美咲は全剣王に肉薄、たたきつける。
「……なんか、ずいぶんと鉄帝式になってきてしまいましたけど!
私は練達の人間なんスけどね……!
……おい、誰だ嘘つけって言ったの??」
ぎりぃ、と美咲が笑みを浮かべて見せる。
「ゴホン、とにかくあんたも鉄帝で王を名乗るならわかるでしょう?
策、能力、統制、色々あるけど最後はコレだって。
いくぞ、殴り合いだッ……!」
「戯けが、貴様一人がいたところで――」
「一人じゃ、ねぇんスよ!」
ぎぃ、と。美咲が獰猛に笑う。その背後より。導かれる、二つの影。
カイト。雲雀。導かれし、二人。
「……貴方は寂しい人だ。
悪いけど、強がりを言っているようにしか聞こえないよ」
雲雀が、言った。
「純粋な力のみしか強さとして見られず、背中を預けることのできる仲間の存在も認められない。
上を見すぎるが余り、『対等に並んでくれるかもしれなかった存在』に気付けなかったんだろうね。
だから、貴方にとっては俺たちの絆は理解に苦しむものだろう。
上か、下か。
それでしか、世界を見ることのできない、貴方は――」
「それが、真理であろう!」
ドゥマが吠える。
拒絶する。
「世界とは! そういうものだ!」
「ならば、ずいぶんと生きにくかっただろうな」
カイトが言った。
「だが……そうしたのは、アンタだ。
アンタ自身が、世界をこんなに、苦しいものに変えてしまった。
――こんなにも、すばらしいせかいを」
「ほざけよ!」
ドゥマが吠える。斬撃を、カイトが受け止める。雲雀が、すぐさまの反撃に転じた。
「理解できないなら、貴方は一生俺たちには勝てないよ。
絆というものが生み出す力を知らない貴方に、俺たちは決して負けない。
皆の為に――負けるワケにはいかないんだ!!」
ぐ、と。
力を籠める。
想いを込める。
想いとは、力である。
絆とは、力である。
それらが――。
力に変わる。
「圧されている……?」
ドゥマが吠えた。
幾人もの。
幾人もの、攻撃を受けて――。
圧される。
わずか――。
それでも、確か。
「図に乗るなよ……!」
ドゥマがその手を掲げた。七式の魔力、何者にもなれる、何者にもなれない、七式の魔術。
「砕けて消えよ! レインボー・ダスト!」
七色の魔術が――誰かの模倣の集合体が、解き放たれた。イレギュラーズたちの体を打ち付けるは激痛。世界を滅ぼすほどの呪いを込めた魔法撃。
「……!」
ルトヴィリアが吠えた。
「立て直します! 全力ッ!」
一斉に。
回復の術式を解き放つ。
光。
絆の光。
愛の光。
そういうものが――舞い散る。
「――世界のためでなく、小さな愛のために本気を出しましょうか。
字の如く、命を灼いて踊る瀉血の魔術――どうぞご照覧あれ!
……キザすぎたかな」
ふ、と笑うルトヴィリアに、
「問題ッ! ありませんッ!」
フロラは笑った。
「いいじゃないですの! ちょっとキザでも!
ここが世界の危機なれば、旅の恥は搔き捨てですわッ!
わたくしも~~~!
全力全開ッ! 皆様を守り!
あの石頭をボカンとしてやりますわ~~っ!」
「ま、そんなかんじっす!」
ウルズは笑う。
「どんとこいっすよ! 何でもかんでもぶっ放してこいっす!
全部受け止める。全部癒す。
誰一人として死なせはしない!
誰一人として脱落させない!
この戦場で!
この後輩がっ!
ここにいたことを、誰彼もの記憶に残して見せるっす!」
「そうね。
それに、妙見子さんとムラデンさんのお熱いところも、皆の記憶に刻みつけてほしいところね」
ルチアが笑う。
「結婚してなければこの空気には耐えられなかったかもしれないわね。
さて、これで我らは百人力、いえ千人力。
全剣王、貴方は知らないかもしれないけれど――乙女の恋情は、時に何者にも優れるものなのよ。
覚悟なさい。乙女の恋を邪魔する奴は、馬に蹴られてローマから追放されるがいいわ」
輝く。光が。想いが。絆が。仲間を癒す、無数の光が。
わずかでも。ほんのひと時でも。
この戦場で、立ち上がる力となるならば。
「ああ、美しいな。楽しいな」
シャルロッテが笑う。
「なんて素敵なのだろう。
なんと激しい戦場なのだろう。
この美しい戦場を、走り抜ける君たちを見られるのは、もうきっと無いのだろう。
それでも――。
やりたいがままに進めるよう微力を尽くし助けよう。
少しでも長く美しい物を見ていられる様に。
さぁ、最後の指揮の始まりだ」
シャルロッテの言葉のままに――。
立ち上がる。仲間たちは! 今、ここに!
そして駆ける!
このよでもっともうつくしいものを、見せるために!
絆を、願いを、想いを、人の心を――。
あの、孤独の王に見せつけるためにも!
「吹き飛ばすぞッ!」
オニキスが叫び。
「巻き込まれるなよ、巻き込まれても知らん!
全力全開、マジカル☆アハトアハト・インフィニティ―――発射(フォイア)!」
それが、貫く――世界を。
「この一撃は私一人の力じゃない。
皆が繋いだ、そして私の後にも続く私達全員の力。
どこまでも一人で戦うお前が持ちえなかった力だ……!」
「ほざけよ!」
あたりを爆裂させながら、ドゥマがそれを受け止める。激しく明滅した砲撃の破片が、あちこちに降り注ぎ爆裂を起こす。
「巻き込まれたら死ぬぞ!」
旭日が叫んだ。
「けど……あれくらいとしないとな!」
死ぬ覚悟なければ、あの魔はおとせまい!
――自分は誰かになれない。自分は自分自身でしかない。
――であるならば。
「一ミリでも自分を高みに連れてくしかねぇ」
――今この瞬間の無力を噛みしめて。
――あの旗に、勇気をもらって――!
「飛べぇッ!!」
吠える。飛ぶ。駆ける――。
一撃が、ドゥマを打つ。
がおうん、と。強烈な音が響いた。衝突と、反撃が、旭日を吹き飛ばす――間髪。
「全剣王ドゥマ!
貴方は強い。でも私達は引かない!
私は私の強さで貴方を打ち倒す!」
ルビーが吠えた。
その姿は、赤い勇者。
ルビー・アールオース。
今やルビーは、ヒーローに間違いない。
「私達イレギュラーズは何時も力を想いを束ねて困難に挑んできた!
種族を立場を乗り越え絆を結んできた!
これが私の、私たちの強さ!
この一撃がハッピーエンドを迎える一助となると信じて――ううん! して見せる!」
叩きつけられる。
紅い月。
一閃。
その一撃が。
その決意が、覚悟が――この時。
全剣王の、剣を。
強く。
弾いた。
抑え込んだ。
「き、さま」
激昂に、ドゥマの表情がゆがむ。
「我の、すべてを――!」
「今ッ!」
ルビーが吠える。
飛び込む。
「一気に叩きこむよ!」
ェクセレリァスが、叫んだ。
「お前らの勝手な理屈で世界を終わらせてなるものか!
私にも、皆にも、まだまだやりたいことがあるんだよ。
だから全剣王、我らがお前を打ち倒す。
ここは終着点ではなく未来への通過点だと─証明してやる!」
「アタシはエレンシア!
『騎兵隊の先駆け、真紅之備』エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ!
全剣王!
騎兵隊の……。
いや! このせかいにいきる、すべてもののの一員として挑ませてもらうぜ!」
吠える。
エレンシアが。
「そうです!
誰かの為に戦えるのは、独りで戦うより強いのです!
勝利を分かち合える人が居るのは、強いのです!
好きな人が側に居ると負けられない、不思議な力があるのです!
だから、私は……私達は“負けない”のです!」
lilyが。
叫ぶ。
その表情を、闇のそれに変えて。
今は――。
戦う、ために!
「闇のlily……参ります。
ふふ……本気で行きますね」
飛び込む――。
ェクセレリァスのブレスが、まず解き放たれた。剣を抑えられたドゥマの体に、それが叩きつけられる。
続くLilyのパイルバンカーがぶつけられる。ぐわおうん、と音を上げて、杭がドゥマの体を吹っ飛ばした。
「ぬ、うっ!」
引きちぎれんばかりの痛みが、剣を持つ手に走った。ドゥマがさらに力を籠めると、ルビーが吹き飛ばされ、剣の拘束が解かれる。
間髪入れずに、エレンシアが飛び込んだ。コード・レッド。赤の一刺し。騎兵の先立つ紅き焔、先駆けの赤備。それが、エレンシアなれば!
放たれた紅の一打、それがドゥマの鎧に傷をつける。ち、と舌打ち一つ、ドゥマは刃を振るった。斬撃が、果敢な攻撃を加えたイレギュラーズたちを薙ぎ払う――そこへ。
「まったく、最高の戦場を見物に通りすがってみたら、ずいぶんと無様をさらしているのね、全剣王サマ?」
リカが笑う。
「そう、まっっっったく、偶然通りすがっただけなのだけれど?
皆の力、確かに――つなぐわ」
ふるわれる。
夢幻の魔剣の斬撃。
それが――。
薙ぐ。
ドゥマ、その鎧を。
傷つけられた。
鎧が。
最強の、それが。
プライドが。
拠り所が――。
「貴様ら」
ドゥマのそれが、まして怒りのそれに燃える。
「生きて帰れると思うな」
「いいえ、生きて帰るわ」
イーリンが、笑った。
「この後結婚式が待っていますので」
妙見子が笑った。
「そう、私達は負けない!」
ヴェルーリアが、勇気をもってうなづく。
戦いは続く。
されど――。
確実に。
その天秤は、傾いていった。
成否
成功
状態異常
第3章 第11節
●カウント・ダウン
おそらく――。
戦いは、もうすぐ終わるのだろう。
誰もがそれを予感していた。
勝利の気配ではない。
終わり、の、気配である。
ドゥマに、着実に打撃が入っている。それは間違いない。
そうだとしても、イレギュラーズたちの損害は、決して小さくない。
ならば。
おそらく――もう、後がない。
イレギュラーズには。
「もとより、後など考えていません」
フローラが言う。
光り輝くは、一人の乙女。
輝きの乙女よ、蛍石の乙女よ。
その輝きで、温かく世界を照らすか。
「ずっと、ずっと。
この戦場にあるならば――前に進むことしか考えていません。
全剣王。あなたはきっと、私と似ている。
嫌いな自分を押し留めて、憧れの何者かになりたくて。
だからこそ、私の、これまでの全てを懸けた輝きをぶつけるに足る相手でもある!」
叫ぶは、乙女よ。輝光の乙女よ。
誰かの声が聞こえた。
「——燐光のフローライト。
——原石が、良い輝きを得ましたわね」
仲間たちの群の中から聞こえる。
一際の輝き。
ああ、貴方も戦っているのならば。
「ええ――あなたのように」
フローラは笑う。
まだ、立てる――。
「全剣王よ。――口を開けば、己の話ばかり。
大義すらなく、己の力を誇示したいだけか?
その為に死んでいった者の苦しみを考えたことはあるか? 今も戦いの傷に苦しむ患者のことは?」
ルブラットが言う。ドゥマは鼻で笑った。
「弱者がどうなろうと、知ったことではない」
「で、あるならば」
ルブラットが、その手を掲げた。輝く、白き刃。
「……せめて。
せめて、神でも隣に居る者でもよかった。貴方も誰かを愛してほしかったよ。
そうすれば、貴方のことも憎んでいないと、忘れたくないと、心の底から思えたのに」
「憎まれることもまた、強者の特権と言えよう。
その仮面の下に、どれほどの『憎悪』を我に見せている?
忘れたいと思おうが、強者のそれは、頭に刻みつけられる強制である」
「もう、語ることはないよ」
ルブラットが言う。
「もはや。
貴方を殺す。
それ以外の選択肢はない」
「そうだな。
だが、奴の――最強という言葉にはうなづけるところもある。
最強はたった一人、ああ、全く以ってその通りだ。無比の強さは二つも要らぬ。
だが最強しか拠り所がないのは余りにつまらぬ。その無双の強さを振るうならば振り切れれば良かったものを、何一つ極められてはいない。
さあ全剣、今こそ俺は一刀を示してやろう。
極めし、一刀だ。
貴様の、得られなかった、極だ」
「ハ――」
ドゥマは。
「ハハ! ハハハハハ!」
笑った。
「鎧に傷をつけた程度で図に乗ったが愚図どもが!
寛大な我も流石に怒髪天ともいえようか!
この期に及んで――我を斬る、我を殺すだと!」
「ああ、そうだ」
錬が言う。
「この期に及んで、敵の素性だのなんだのは俺には興味も関係もない。
ただ、アンタを倒せなければ世界が滅ぶ。
ならばそれを阻止するのが俺の仕事だ。俺のなすべきことだ。
……まさか。世界を滅ぼそうとして、一切抵抗されないなんて思っちゃあいないよな、王様?」
「窮鼠の抵抗は想定済みだ。だが、貴様らは追い詰められたのではない。詰んでいるのだ。
もはや窮鼠の一噛も終えた段階なのだ!
気づけ!
貴様らの一噛は無駄に終わったのだ! わが鎧を傷つけよう、それが窮鼠の無駄なあがきの結果だ!
貴様らは! 後は空を仰ぎ、真の強者の力に己が身を嘆くだけをしていればいい!」
「気に入りませんね」
バルガルが言った。
「はは、ははは。
気に入らねぇ。
その勝った面が。
その、勝ちを疑いもしない面が!
気に入らねぇ」
「ほざけよ」
ドゥマが言う。
「その諦めぬ面が、気に入らん」
「なら、対等だ」
バルガルが、獰猛に笑って見せた。
「俺たちは対等だ。
対等に馬鹿で、対等に殺しあう。
それでいいじゃねぇか。
は――それともプライドが許さないか、王様」
「うぬぼれるな、と言っている」
ぎり、と、ドゥマが呼気を吐いた。
「うぬぼれちゃあいませんよ。
全員が全力を以て、それでやっと、足元ってところっす」
慧が言った。
「さて……楽しいトークもこの辺としましょうか。
どうせトークするなら、竜宮でマールさんやメーアさんとしていたほうが何倍も楽しいっすからね」
「同感ですね」
バルガルが笑う。
「自分が、盾をやるっす。全力で――それでも、耐えられるのは、きっとほんの僅か」
「それで、充分です」
フローラが言う。
「ああ。一撃。斬り付けられれば僥倖」
一晃が言う。
「私たちは弱い――少しうぬぼれて言うならば、強くとも『最強』には程遠い。
だからこそ、手を取り合える。
だからこそ、信じあえる」
ルブラットが言う。
「だからこそ、強い」
錬がうなづいた。
絆。群。信頼。
そういうもの。
「輝きましょう――ここにいる、すべてのなかまとともに!」
フローラの言葉に――。
仲間たちは、一斉に駆けだした。
また一つ。
針は進む。
戦いの終わりを告げる、時計の――。
成否
成功
状態異常
第3章 第12節
●ゼロ・ツー
激しい斬撃が、世界を薙いだ。
激しい砲撃が、世界を穿った。
激しい魔術が、世界を焼いた。
ありとあらゆる力が――。
この戦場に、今。
飛び交う。交わる。剣戟を奏でる――。
「何者、か、ですか」
マリエッタは笑う。
「ならば私は、きっと何者でもない。
死血の魔女では、ない。
聖女でも、ない。
マリエッタ・エーレインという私。
けれど、だからこそ全てを背負い生きる者。
嘘も偽りも、自分の罪も罰も……すべてが私の糧となり……そして、負けられないと心が叫ぶ……!
私は、私でしか在れない。
私は、私で、良い。
今を生き、今を繋ぎ、今を紡いだ――私という、個――!」
「ええ、そうよ、そうよ、エーレイン!」
セレナが叫んだ。
「シェームの方で戦ってる、ユーフォニーもそう!
わたし達が、四葉の姉妹が紡いだ、今が、絆が、未来が!
わたし達が、マリエッタを支えるわ!
ふふ――聞こえてる、シェーム?
わたしはセレナ。ユーフォニーの姉妹よ!
マリエッタとムエンと四人で、四葉姉妹なの!
彼女の繋いだ縁の一つを伝えたかったの。
覚えておいてね!」
応じるみたいに、戦場の端から、苛烈な炎が巻き上がった。それを受け取った仲間が、全剣王に挑むのが見える。
誰もが、友と力を合わせて。
この戦場で、ただただ、戦い続けている!
「あれは、シェームの炎だ。間違いない。
懐かしいな、マリエッタ……あの時はセレナはいなかったが、色々あった。
マリエッタが夢檻に閉じ込められたりしたのを助けにいったり、な」
「……もう、そのことは――あれ? ムエンさん、泣いてます?」
「……懐かしくて、泣いてなんかないぞ」
「泣いてる?」
「泣いてない!」
ふん、とムエンは顔をそむけた。セレナが笑う。
「ふふ……強がっちゃって!」
「私も深緑の戦い。初めて自分を見出し始めた時を思い出します。
あの時から、私は救う為に多くを殺してきましたね。
だからこそ、一人でも戦わなければいけません。
……なんて、ごめんなさい。ムエンさん、セレナ。
少し、背を押してもらえますか? ええ、それで私は戦える」
「何言ってるのよ」
セレナは、マリエッタの手をつないだ。
「大丈夫だ、マリエッタ。
いざとなれば私も、セレナも、ユーフォニーだっている。
だから……進もう。一緒に、戦おう」
いつだって――。
隣には、友がいる。
愛すべき、ものがいる。
「ええ」
そう、マリエッタは笑う。
「あっちには負けてられないね」
レイテが笑った。武蔵が、うなづく。
「ああ。見せてやろう。武蔵達の、絆も。
そうだろう、信濃」
「ええ。
……ところで、その、義理の」
「ああ、信濃。
彼方のムラデンという竜だがな!
今度義理の父になるらしいぞ」
「はいぃ?」
信濃が変な顔をした。
「ははは! さぁ、行こう、皆!」
叫ぶ。武蔵。皆が、走り出す。
「ええ、ちょっと……もう!」
信濃が不機嫌そうに叫んだ。そのまま、支援機を飛ばして、ドゥマに支援爆撃を仕掛ける。
信濃の支援爆撃を斬り飛ばしながら、ドゥマが修羅のごとく吠えた。
「我を否定はさせん! 我は! 我は! 最強だ!」
「否定はしない! だが、全剣王! お前の攻撃の全てに耐えて、ボクは武蔵を護り切るッ!!
撃ち抜けッ! 武蔵ッ!!」
レイテが叫んだ。
「なら、貴様から先に死ねッ!」
ドゥマが斬撃を振るう。
強烈なそれが、レイテの体を切り裂いた。痛み。それでも、武蔵を守るために、立つ――。
「撃ち抜け!」
もう一度、叫ぶ。武蔵はうなづいた。
「我が艦名(な)は武蔵!!
大和型戦艦 二番艦 武蔵である!!
王よ、あらゆる強さ、あらゆる原罪を知る者よ!
私の知る願いと絆、それこそが我が力!
その身にも届くと今こそ証明しよう!!」
放つ――一撃。砲撃! 吠える!
放たれたそれが、ドゥマの剣をたたいた。崩す。体勢。多くのイレギュラーズたちの一撃。攻撃。執念。
あらゆる、魂が――。
穿つ! 導く! 友を!
「き、さま」
ドゥマが吠える――左腕を掲げ、術式を解き放つ。ななしきのそれ。
「とおさん!」
立ちふさがったのは、ムエン。
炎の加護を受けながら、立つ。
姉妹のため!
加護と、ななしきの術式が、ぶつかり合った。
吹き飛ばされる。
だが、それでいい。
「いけぇ!」
「ええ! さぁ、寝てないで! 『エーレイン』も力を貸して!」
「『マリエッタ』! 力を貸しなさい!」
心の内に潜む。残滓。
確かに紡いだ絆と記憶。
その、確かな温かさを感じながら――。
私と、わたしは、進む!
「吹きッ!」
「飛ばすッ!」
セレナとマリエッタと。
紡いだ絆の赤い鎌。
振り下ろされる、それが、再び――ドゥマの鎧に、深い、深い、傷をつけていた――。
成否
成功
状態異常
第3章 第13節
●ゼロ・ワン
おそらく。
戦いは終わる。
「――」
ブランシュは、ふと思った。
この戦いは、何であったのかと――。
「理由なんて」
ふ、と、笑う。
「世界を救う。
それだけじゃいいじゃねーですか」
笑った。
「……よう。全剣王。
タナトスの鎌はそこまで迫っている。
――と、かっこよく言えたならいいんだがね。
散々、姉妹に言われてしまった。俺のイメチェン、違うってさ。
それに、『自分』は『他人』にはなれないんだとよ。
なあドゥマ。お前も『全剣王という他人』になろうとして、何もかも諦めて反転したんだろ。
俺も、ある奴のようになるしかないと強者の仮面を被り続けた。
だけどそいつには成れなくて、ただただ、虚勢だけの何かが出来上がった。
お前はそれで力を手に入れたんだろうけど、全剣王ではないよ。
反転したただの薄い男だ。
俺も、自分になるよ。もう俺は――
初めまして。ドゥマ。
ブランシュ=エルフレーム=リアルトですよ」
笑う。
ブランシュが。
ドゥマもまた、笑う。
「諦めただけだろう? 貴様は」
「自分語りばっかはやめろ、って誰かにも言われただろ。
モテねぇぞ、ドゥマ」
ふん、と、牡丹は笑って見せた。
「よう、ブランシュ」
「はい! 牡丹!」
に、と、笑う。
「ドゥマ。
最強を吠える割には辛気臭いな、おい!
オレは幸せだぞ!」
はは、と笑う。
その体はすでにボロボロで。
幾重に刻まれた傷痕は痛々しく。
仲間たちを守り続けた体は、すでに悲鳴を上げ。
それでも、と声を上げる。
「ガイアネモネという、かーさんと考えた名も。
紅花牡丹という、自分で考えた名も。
誰かといられたから、つけられた名前だ。
かーさんとの絆の名前。
航空猟兵としての名前。
どっちも大切でどっちもオレだ!
でもな! 『オレ』は『オレ』だ!
この胸の中には、『オレ』という芯がある!
一つ教えてやるよ、王様。
てめえが何者かっつうのはてめえだけで決めるもんじゃねえ。
それを思い知らされな!」
「決めるのは、我だ」
ドゥマが言う。
「我が、我だけが、すべてを決められる!
うぬぼれるな!」
「うぬぼれてんのはそっちでしょ」
茄子子が凄絶に笑った。
「弱者だってさ。笑っちゃうよね。
そうだよ、私は弱者だ。だから全力なんだよ。
侮らない。温存しない。
キミが後ろで小細工してる間、お前以外の皆は戦ってたんだよ。
この戦場で一人、傲慢にも“戦わない”ことを選んだキミが、本当に全力で戦って、勝てるの?」
にぃ、と。
茄子子は笑う。
「まぁ挑発はするけど、別にキミのことは嫌いじゃないんだよね。
全剣王、キミは唯一、“間違え方”だけは合ってた。
誰かになろうとするんじゃない。誰でもない最強の何かを目指す。いいじゃん、最高だ。
私もそうした。完璧な、自分じゃない誰かを演じた。演じ続けた。
だからここに居る。
お前の目の前で、皆を守ってるんだ。
名乗れよ“全剣王”。私の名前は“楊枝 茄子子”。練達の宗教家で旅人(ウォーカー)だ。
分かってんだろ、私も偽りの王だよ。
王は一人なんだろ。踊ろうぜ」
「もう何度、こういうことか。
うぬぼれるな、下郎が。
貴様如きが、我と対等だと?」
ドゥマが、獰猛に唸った。
「貴様に何がわかる」
「しょっぱい定型文をいうなよ、王様」
茄子子が言う。
「分かんないね。
わかんないだろ?
レッツ・ダンスだ。
それでいいだろ」
たん、と。
踏み出す。
イレギュラーズたち。踏み込む。
偽りの王。
すでに――。
ここにいるものは、対等であったのかもしれない。
誰かになろうとしたもの。
そうでないもの。
そうであろうとするもの。
あるいは――。
あるいは。
この、ゼロの場所で。
誰もが、何かを求めて戦っているのか。
「フリックさん!」
ブランシュが叫んだ。
「力を!」
「任セテ」
フリークライの、その姿が変わる。
『可能性の青い鳥』。
「ドゥマ
我モ名乗ロウ。
我 贈ラレシ名前 『繋がり共にある者《フリッケライ》』。
主亡キ後 自ラ名乗リシハ フリークライ。
ヒト 我ヲコウ呼ブ。
フリック ト」
ぴぃ。ぴぃ、と。
鳥たちもなく。
吠える。
己の名を。
弱きものの叫び。
共に手を取り合う、強さを持った者の叫び!
「誰モガ 手ヲ取リアッテ 共ニ」
「弱者の言い訳に過ぎん!」
ドゥマが吠える。
そうなのだろうか?
彼の言う通りか?
いや、ちがう。
それこそまた、強さなのであると。
個の強さ。
群の強さ。
どちらも強さ。
だが――。
時に、尊いものは。
貴いものは。
きっと――。
仲間たちが、傷つき、それでも、手を取り合って、先へ、先へ、先へ。
航空猟兵という、友。
そして、鋼剣という、友。
友と、友。
それもまた、手を取り合い。
先へ。
未来へ。
「ロザリエイル。彼女ハ君ガ掴ンダ縁ダ。君ダケノ縁ダ。
……此レモ 縁。
ソウ デスヨネ 主」
そう、言ってくれるだろうと。
フリークライは、思う。
ブランシュが飛び込んだ。
牡丹が、攻撃を受け止める。
茄子子が、フリークライが、友を守る。戦う。猟兵たちが。
「さて、彼らに任せてばかりというのも情けないものです」
ふ、と。
オリーブが笑った。
「――ありがとうございます、皆さん。
多分――自分は。今、ここに皆さんとあれることを、心から嬉しく思います」
「それは祝勝会の時とかにしようぜ」
ミヅハが笑った。
「そうですわ! 皆で生き延びて、たっぷりお酒を飲むのですから!」
ヴァレーリヤが笑う。
「おっと、それには俺たちも混ぜてくれるんだろうな?」
に、と。
男たちの声が響く。
『雷槌の』ソルステインの姿が、そこにあった。
「親方……じゃなかった、オースヴィーヴル以下数十名、旧ヴィーザルから援軍に来たぜ。
取り巻きの連中は俺達が引き受ける。お前達は安心して全剣王と戦いな」
「おそいですわよ!
ふふ、まぁ、許しますわ。
ここからが本番ですもの!」
ヴァレーリヤが笑う。
「さぁ、行きましょう。
私のシマでよくも好き勝手やってくれましたわね!」
「ええ。自分たちの国で、よくも好き勝手を」
オリーブが言う。刃を構える。武器を構える。不敵に、獰猛に、笑ってやる。
「サンディ! 気張れよお前が盾だ! ゴラちゃんはサンディの回復よろしくな!
かなぎ、リュシカス! それからヴァレーリヤさん! 総攻撃だぜ、出し惜しみはナシだ! 援護は任せろ!」
ミヅハが、笑った。
「じゃあ、行くぜ」
サンディが言った。
「突撃――ッ!」
吠える。
突撃!
他に、修飾すべき言葉があるか?
突撃。
突撃、突撃、突撃!
渾身の、突撃!
「全剣王ドゥマ、ボクはあなたの物語を知りません。
でも、恐ろしく巨大な敵で、倒さなくちゃいけない存在だという事はわかります!
鉄帝国を、世界を、守るのはボク達ですから!
ここで勝たせていただきます!」
リュカシスが、吠えた。
その手に、力を。
勇気を。
覚悟を、込めて。
「叩きますッ!」
打ち込む――力!
がおうん、と、ドゥマが、剣でその一撃を受け止めた。抑える。間髪。
「お前を倒さねば世界は滅び、青空は遠のくんだけどさ。
今ぐらい、そんなんどうでもいいよな。
なあ。お前を倒せば、俺も『アイオン』になれるかな?
時間を掛け過ぎちまってさ、もう正規のルートでアイツに辿り着きそうにねーんだ。
お前らがこんなことしたせいで、
多分その道筋すら、イレギュラーズの業績で上書きされるに違いねえ。この先何年生きても無駄になった。
だからここで。俺とお前、どっちが成りたいものになれたか決めようぜ。
お前が全剣王で俺はサンディなのか。
お前はドゥマで俺がアイオンなのか」
サンディが。
棘を、投げつけた。
風。
乗せる。想いも、願いも。
「知るか!」
ドゥマが吠えた。サンディは笑った。
「はははっ! そうだよな!
悪いな、これは八つ当たりだ」
にぃ、と笑って。振り下ろす。棘。突き刺さる――ドゥマ、その手に。
なぜだ、とドゥマは思う。
なぜ、こいつらは斃れない。
なぜ、こいつらは、諦めない!
僕はあきらめたのに。
諦めたからこそ、這い上がったのに!
なぜ!
「皆がんばれーっ!
奮い立たせるよっ!
皆のその背、支えてみせる!」
フラーゴラが叫んでいる。
その目は。
その声は。
仲間たちのことを信じて疑わない。
そして、自分の力を信じて疑わない。
弱い。
それは自覚して。
なお、諦めない。
負けない、と誓う。
「がんばれーっ!
ワタシも、がんばる!」
声がかれんばかりに。
叫ぶ。
信じる。
戦う――。
なぜ! ああ、何故!
「そのワームホールは邪魔だ。お前の国や玉座にはあっても、うちの国には要らん!
……ああ。もはや貴様の国などないんだったな? いいや、国も何もかもないのだったか――。
私達の国は、私達のものだ。知らん領域のものが我が物顔で乗り込んで来るんじゃない!」
十七号が、たたきつける。
刃。ドゥマの、鎧に、衝撃が走る。痛み。痛み。痛み痛み痛み。
Bad End 8 と呼ばれて――。
ドゥマと呼ばれてから。ついぞ感じたことのないもの。
「何故だ――貴様らは……ッ!」
「意外と大したことありませんのね。手加減してくれているのかしら、それとも私の期待外れ?」
ヴァレーリヤは笑う。
致命打を与えている。
与えているはずだ!
なぜ!
そうも不敵に、獰猛に、勇気に満ちた笑いを浮かべられるッ!
「おびえているのか?」
十七号が笑う。
「見えてきたな? 貴様の――」
「黙れ!」
ドゥマが吠える。
吠える。吠える吠える。
自分を覆い隠すように。
「イレギュラーズと、魔種。
ただの冒険者と、全てを得た王。
明日を望む者と、終わりを望む者。
仲間と戦う者と、1人で戦う者。
どうしようもなく真逆です。
けれど、そうでなかった時がありました。だから問います。
自分の名はオリーブ・ローレルです。貴方の名前を、教えてください」
オリーブが言う。
「うぬぼれるな、侮るな、吠えるな!」
ドゥマが叫んだ。
「我は、ドゥマだ! それでいい! それ以外の何物も、いらない!」
「残念です」
踏み込む。
友の、願いを、力を、受けた、刃が。
ドゥマの、鎧を、貫いた。
その時――。初めて。
強大なる魔は、その血を流した。
成否
成功
第3章 第14節
●剣を掲げ、勇気を胸に、そして征くべき道を
――『僕』は。
僕は。
ただのちっぽけな人間だった。
見上げた鉄帝の空は寒々しいほどに青く遠い。
そこに多くの人間がいる。
僕よりもずっと強い人たち。
強さ、を、人間の基準とする国。
それが鉄帝である。
弱きは人間に非ず。
であるならば、僕は人間ですらなかったのだ。
なにも秀でてなどいない、平凡な人間種の体を呪った。
鉄機種、幻想種、獣種……生まれながらにして特筆すべきものを持つ、他の種族を羨んだ。
羨み、呪い。
それはすべて、最終的に己に向く。
己を呪った。僕を呪った。
嫌いだった。
大っ嫌いだった。
おぞましいほどに、憎んだ。
己を、憎んだ。
自分ではない誰かになりたかった。
自分ではない誰かになれた時に――。
その時初めて、僕は僕を好きになれそうな気がした。
「大義? 理想? そのようなものを知ったことか」
ドゥマは言う。
その赤の鎧には、すでにあちこちに傷が走り。
少しずつ。
確実に。
赤き血が零れ落ちる。
「……これは、私闘だ。最初から、最後までな。
世界の危機など、そんなものでいいのだ」
「虎よ。哀れな虎よ。
その最強への渇望。それは恐怖の裏返しか。
お前が、少しでも上だけではなく、その目を周囲に向けられれば、お前は虎ではなく王になれただろうに。
その点においては、ぱっぱらぱーとやらは慧眼だ。
お前よりも、お前の本質を捉えていたのだろう。男というのは何時まで経っても餓鬼だからな」
愛無が言う。
「貴様が人間を語るか?」
「滑稽か。
かもな」
ふん、と、愛無は笑った。
「だが、何者にもなれず、何処にも行けず。その虚しさ。その憤り。解らぬではないからな。
解らぬでは、ないよ。
ああ、君も結局、まだまだ道半ばか」
それは、どの様な感情か。
憐憫か。呆れか。あるいは。
いずれにしても――。
『僕』という男を語るには充分か。
「なにものにもなれなかった?
馬鹿を申すでないわ。
人はすべて、生まれながらにしてキラキラパワーを秘めておるもの。
見渡してみよ、全剣王。
ここに集まった者たちの、この輝きを。
そして、それはそなたにも必ずやあったハズじゃ」
キラキラに輝く夢心地が言う。その輝きの内には、きっと傷ついた体があるのだろう。それでもその痛みをおして、殿は輝く。
「輝きとは、己の芯から生まれるもの。
己の芯とは、変わらぬもの。
己、自身なのじゃ」
「それを、捨て去りたかった」
「だから、『七回も反転した』のか」
イズマは、すこし、合点がいくように言った。
「七度もの変節。
それは――少しでも、己を、消すための」
「分かったような口をたたく」
ドゥマが、わずかにほえた。
「反転するたびに、己の何かが狂って変わっていく。
心地よい快感だったよ」
「そこまで自分を痛めつけて。自分でない何かに変わって。それで――なんになる」
「『なんにも、ならない』」
イズマの問いに、ドゥマは答えた。
「それが、世界が終わるということだ」
「今少しだけ、アンタが見えたよ」
イグナートが言った。
「だから、アンタは、戦いに余裕がなかったんだ。苦しそうだったんだ。
楽しくなさそうだったのさ。
それは、アンタ自身を塗りつぶすための作業だったから。
アンタ、ほんとは、何になりたかった?」
「人間に」
ドゥマは言った。
「ただ、人間であればよかった。
――忘れよ。世迷言だ」
構える。
「死ね、人間どもよ。世界とともに、滅びよ」
「ああ、それでいいぜ」
貴道が、構えた。
「ようやく会えたな、全剣王?
気になってたんだ、テメェが名乗る『最強』ってやつがよ?
俺も幾つか知ってるんだよ、それ?
『憤怒』が居て尚、『蒼穹』が居て尚……名乗ってるんだよな?
いや、くたばったから名乗ってんのか?
そこんとこ教えてくれよ、全剣王?」
「ああ。彼奴等等、足元にも及ばぬ」
ぎぃ、とドゥマは笑った。
「我こそが! 最強なれば!」
「良く吠えた」
貴道もまた、獣のごとく口角を吊り上げる。
「楽に死ねると思うな」
さぁ。
さぁ! お立合い!
この一合!
この手番!
これにて、この長い長い、戦い(ラリー)! 物語(ラリー)! 決戦(ラリー)!
終幕にございます!
「さぁて」
ロジャーズは笑う。
「覚悟は決めた。
此処で『あれ』を止めねば、全剣王を留めねば、私の『世界破滅計画』とやらは成されない!
マール。メーア。約束を破るのは私の方かもしれないが、力を貸してくれないか。
嗚呼、私こそが傲慢だ!
ならば、傲慢らしく愉快に嘲って魅せよう!
――全剣王!
此処で私か貴様、強大な『魔』が息絶えるのだ!
中々に、悪くはない展開だろうよ!
無辜なる混沌としては!
Nyahahahaha!!!」
解る。
貸してくれ、なんて言わなくても、いつでも力を貸してくれる。
あの、元気な竜宮の双子は。
知っているからこそ。
友達、なのだ。
踏み出す。
魔が。
踏み込む。
魔が。
ドゥマの斬撃が、ロジャーズを切り付ける。
攻撃に転ずるときに、隙ができる。
一瞬。
でも、それでいい。
「ワームホール? Case-D? 知ったことか!
修羅道を歩む者同士
存分に拳で語らい死合おうではないか!!
何者にもなれなかった?
知らんな。
私は『今この場にいるお前』と戦いたいんだ!」
昴が吠えた。
できれば、一騎打ちを狙いたかったが――。
そのような隙は、無い。
だが。
最大の火力をたたきつけるという、意味ならば。
今ここしかない。
拳。
叩きつける。
一打。
ぐしゃり、と。
ドゥマの鎧が砕けた。一打。強烈なそれが。
これまで、仲間たちの紡いだ、道が。
その一撃を、叩き込む――。
「お、お、おおおおお!」
ドゥマが吠えた。
あらわになる、鍛えられた上体は、確かに、彼の努力の跡を見受けさせられた。
「自分が何者か、自分だけで決めるなんて烏滸がましいわね。
人は自分だけの自分じゃない。
他人にとっての誰かでもある。
本当にあなたは模倣した全剣王でしかないか……答えを決めるのは私ではないけれど」
アンナが飛び込む。
冷剣。
終華。
「たかだか20年しか生きてない人間一人、瞬殺してみなさいな。最強の全剣王様!」
叫ぶ。一打。傷が、走る。ドゥマ、刃を以って、アンナを振り払う――。
「強さが全て?
違うぞ、物差しは一つじゃない!
だからこの世界は広くて豊かなんだ。
全ては最強だけで完結しないし、借りる力も嫌う弱さも認められる。
それでも自分を隠し、自分を認める者ごと世界を消し、一人で潰える?
……そんな寂しい終末など否定してやる!」
イズマが叫ぶ。
奏でる旋律。
光。
友を、癒し、歩ませる。
絆の、光が。
「たくさんの人と戦って、真似て、切磋琢磨して、死戦を乗り越えて。そうした絆で鍛え上げたのがボクの技だよ!」
セララが。
叫ぶ。
その剣に、絆を乗せて――。
「ドゥマ! キミが最強であるなら、それを超える最強の絆でキミを討つ!
これが――!
これがボクの最終奥義! 究極ギガセララブレイク!」
振り下ろされる。
一打!
絆の一撃!
それが――。
全剣王の剣を。
粉砕した。
拠り所が。
砕けて散る。
「ヘイ、最強」
貴道が声を上げた。
「そこで止まっちまうのか」
「いいや」
ぎり、と、ドゥマは笑った。
「我は素手でも最強ゆえに」
「なら来いよ、最強」
貴道が。
ドゥマが。
拳を!
繰り出す!
まずは、お互いの顔面!
胸!
腕!
腹!
そして顔面!
殴。
打。
撃。
打。
殴。
打。
殴る。殴る。殴る殴る殴る!
拳――。
私闘。
死闘。
ノックダウンを喰らったのは、貴道だ。
ぐしゃり、と倒れ伏した、その先に。
しかし、ドゥマもまた、終わりが見えていた。
「無様だ」
ドゥマが言う。
「なんだこれは。
これが末路か」
「いいや」
イグナートが笑った。
「かっこいいよ、オウサマ!」
笑った。
は、と。
ドゥマは笑った。
「貴様で終わりだ、イレギュラーズ」
「そうだね。キミで終わりだ」
イグナートが踏み込んだ。
ドゥマが構える。
ぐらりと。
揺れる。
体。
これまでの、ダメージの蓄積。
紡いだ絆の、結果。
それが。
巨大な魔を。
討ち取る――。
拳が。
イグナートの拳が。
ドゥマの腹に突き刺さった。
ご、ふ、と。
ドゥマが息を吐く。
膝をつく。
そのまま――。
倒れた。
何か、つきものが落ちたような顔をしていた。
それからすぐに、ワームホールの極大化が、止まったのを、イレギュラーズたちにも感じられた。
それは――ドゥマを、討ち取った証。
戦いの勝利の、証だった。
成否
成功
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です。
決戦の時です。
すべてを出し切ってください。
●最終成功条件
『すべての敵の撃破』。
●情報精度
このシナリオの情報精度はEです。
無いよりはマシな情報です。グッドラック。
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●参加の注意事項
・参加時の注意事項
『グループでの参加』を希望の場合は選択肢にて『グループ参加』を選択の上、プレイング冒頭に【チーム名(チーム人数)】or【キャラ(ID)】をご記載下さい。
・プレイング失効に関して
進行都合で採用できない場合、または、同時参加者記載人数と合わずやむを得ずプレイングを採用しない場合は失効する可能性があります。
そうした場合も再度のプレイング送付を歓迎しております。内容次第では採用出来かねる場合も有りますので適宜のご確認をお願い致します。
・エネミー&味方状況について
シナリオ詳細に記載されているのはシナリオ開始時(第一章)の情報です。詳細は『各章 第1節』をご確認下さい。
・章進行について
不定期に進行していきます。プレイング締め切りを行なう際は日時が提示されますので参考にして下さい。
(正確な日時の指定は日時提示が行なわれるまで不明確です。急な進行/締め切りが有り得ますのでご了承ください)
●第一章状況
ついに決戦が開始されました。
皆さんの目的は、このフィールドの敵を全滅させ、ワーム・ホールの確保・維持を行うことです。
そのためにも、まずは全剣王配下の魔種を撃破する必要があります。
第一章にて戦うことになるのは、以下三名の魔種です。
・『導滅の悪狐』、ティリ ×1
ニル(p3p009185)さんの関係者で、魔種です。
ニルさんと同じく『おいしい』という気持ちを追い求める少年ですが、彼にとっての『おいしい』とは、誰かの苦痛や絶望、悲しみであり、決して相容れる存在ではないのです。
狐火を利用した、苛烈な炎の魔術による近接戦闘を行います。
・『夜闇の真影』、エヴリーヌ ×1
セララ(p3p000273)さんの関係者で、魔種です。
もともと精霊種で、無邪気に『たのしい』を求める性分でしたが、反転したために、その『楽しい』は他者へ加虐したり、あるいは苦痛や絶望、悲しむ姿を見ることに変貌しています。相容れる存在ではありません。
付近の精霊を利用した、精霊魔術を運用します。様々なBSを付与し、こちらを苦しめる術師タイプになるでしょう。
・【エルフレームTypeTitan】ショール=エルフレーム=リアルト ×1
ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)さんの関係者。今回はコピー権能『不毀なる廃滅(エミュレート・アルバニア)』の維持母体になっています。
高いHPを誇る、非常に場持ちのいいディフェンダータイプ。守って耐えて、背水の力で反撃してきます。
また、彼女が存在する限り、毎ターンの初めに、すべてのプレイヤーキャラクターに『毒系列』のBSを強制的に付与してきます。コピー権能『不毀なる廃滅』の効果にあたります。
彼女を倒すことで、コピー権能『不毀なる廃滅(エミュレート・アルバニア)』の効果は消滅します。外で戦っている、鉄帝兵士たちへの援護にもなるでしょう。
この中で真っ先に討伐するべきなのは、『ショール=エルフレーム』です。コピー権能『不毀なる廃滅(エミュレート・アルバニア)』を持つ彼女の存在は今回同じ戦場で援軍として戦うビッツやアミナ、メルティといった鉄帝軍にとっても悩みの種です。この権能を散らすことができれば、彼らの援護にもなり、翻って皆さんが魔種との戦いに集中できるようになる、ということでもあるわけです。
また、下記の通り敵兵士も無数に存在します。
・不毀の軍勢
・終焉獣
魔種との戦いをスムーズに進めるためにも、彼らに対応する必要はあるでしょう。
作戦フィールドは、全剣王の塔周辺。
特に戦闘ペナルティなどは発生しません。
作戦に注力してください。
以上となります。
それでは、ご武運をお祈りします。
この世界に平和をもたらしてください。
同行者の有無
迷子防止用です。
単独行動か、グループでの参加かをお選びください。
【1】単独参加
単独での参加の場合は此方をお選びください。
基本的には、戦場で遭遇したほかの仲間と協力して戦うようなリプレイ描写にはなりますが、とくに強い意志で『完全単独行動を望む』場合は、プレイングにその旨をご記載ください。
【2】グループ参加
他の仲間ととくに連携をとりたい場合は此方を選んでください。
プレイング冒頭に【チーム名(チーム人数)】or【キャラ(ID)】をご記載下さい。
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