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シナリオ詳細

<終焉のクロニクル>剣を掲げ、勇気を胸に

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 世界は終わる。
 終わるべくして終わる。
 その『なにものでもない人間』は、鉄帝の帝都にて生まれ落ちた。
 何も持たぬ若者であった。
 勇気も、力も、心も――。
 強きものは、何もない。
 ないからこそ、憧れる。
 人は、飢えるからこそ、強くもなれる。
 もし彼に落ち度があったのだとしたならば――。
 『見間違えた』ことだ。
 あらゆるものを。
 見据える先を。選ぶ道を。己の才すら――。
 見間違えたのだ。
 眩しかった。羨ましかった。『ああなりたかった』。
 物まねのペテンは、所詮物まねに過ぎない。
 憧れは良い。物まねもよい。しかし最終的に、人はそれを脱却する何か、を得られなければならない。
 全剣王。鉄帝の誰もが知る、おとぎ話の王。
 『憧れ』。だが……気づくべきなのだ。
 『自分は、自分にしか、なれないのだ』、ということに。
 『自分は、誰か、には、なれないのだ』、ということに。
 それはとても素晴らしいことなのに――。
 人は目をくらませる。
 自分が嫌いだから。
 自分の嫌なところは一番見えるから。
 だから――。

「ぱっぱらぱー、居ないのか?」
 ふと、ドゥマはそう声を上げた。
 全剣王の塔の、玉座の間であった。
 背後に巨大なワーム・ホールを開き、世界との『戦争』との最前線であるこの場所に――。
 わずかに。
 眠っていたのだと、ドゥマは気づき――。
 よりにもよって、あの、『ぱっぱらぱー』の……ロザリエイルの名を呼んだことを、自分でも訝しんでいた。
 イカれた女である。そういえば、あの女は……『全剣王様が、他人の力を借りるなんて信じられない』などと言っていた気がした。
 『全剣王様なら、己の力で滅びだって成し遂げられるのに!』と――。
「……愚かな」
 ぐしゃり、と、全剣王は玉座の手すりを己の手で握りつぶした。
 この力も。この魔も。この地位も。
 『全剣王だからこそ得られたものだ』。
 全剣王になるために、得た、真似た、紡ぎあげた、無数の『借り物』が、今のドゥマと名乗る、名も知れぬ男のそれである。
 であるならば――。
 その名も知らぬ男には、もはや何の価値もないではないか。
 全剣王ドゥマであるからこそ、許される。ロザリエイル。貴様も『全剣王だからこそ付いてくるのだろう』。
 貴様の目は節穴だ、ぱっぱらぱーめ。エトムートめも……きっと、求めるものは『全剣王』であり、『自分』ではあるまい。
 『その男』が人間種(カオスシード)にある種の憎悪めいた拒絶の感覚を抱くのも、結局は、何者でもなかった自分への、激しい拒否反応に違いあるまい。
 尊大な羞恥。臆病な自尊心。
 その行きついた果てが――。
「……くだらん」
 『ドゥマ』は吐き捨てた。彼はもう、最強の全剣王、である。ならばそれでよいではないか。
「甘ったれたセンチメンタリズムに浸るとはな。
 目的達成を寸前にして気が緩んだか」
 ああ、くだらない。くだらない。あまりにもくだらない。
 吐き気を覚えるほどの、それ。全剣王になり切ったそれが抱いてはならぬ、弱き本当の自分のそれ。
「……くだらん」
 もう一度つぶやいた。
 それで終わりだ。
 もう、『その男』はいない。
 ここにいるのは、滅びをもたらす、最強ゆえにすべてを恣にできる。
 『全剣王・ドゥマ』なのだから――。


 ビッツ・ビネガー(p3n000095)。そしてアミナ(p3n000296)。そして『あなた』たちローレット・イレギュラーズ。彼らが顔を突き合わせているのが、全剣王の塔直下であり、そして無数の『終焉軍勢』と『鉄帝軍勢』が、果てしない衝突を繰り広げている戦場のど真ん中に間違いない。
「……始まるわね」
 ビッツが言う。それはおそらく、世界崩壊の時。今まさに眼前に迫りくる破滅、その最終楽章。
 先の戦いにて展開されたワーム・ホールは無数の終焉の軍勢を世界に放ち続けている。つまり、『ワーム・ホールとは、影の領域という敵の本拠地に繋がっている』という当たり前の事実がここに存在するわけだ。
 敵の本拠地に繋がっている。ということは、『ワーム・ホールを利用すれば、敵の本拠地に向かうことができる』。これも考えてみれば当たり前の話であるが、誰もこれを実行しなかったのは簡単な話で、あまりにも荒唐無稽であったからだ。
「Case-D。
 信託に謳われた絶対的破滅……。
 その顕現が、魔種たちの領域、影の領域だなんて……」
 最悪には最悪が通じるものか。アミナがわずかに震える手を抑え込みながら言った。あまりにも荒唐無稽な作戦。子供が考えたような『敵が通ってくるのならば、そこを通って敵の本拠地に行けばいい』という、あまりにも当たり前であまりにも無謀な作戦は、しかしそんな作戦をとらなければ、混沌世界の敗北が確定しているという、あまりにも極限状態であるからこそ採択された、乾坤一擲の最後の賭け、であった。
「アタシたちがやることは決まってるわ。
 『ワーム・ホールの確保』。
 敵地に部隊を送る意味でも、敵地からくる敵部隊を抑える意味でも、敵地に向かった部隊の帰り道を確保する意味でも。
 あらゆる意味で、この場で、全軍を以って、このワーム・ホールを確保し続けないといけない」
 ビッツの言う通りに、この場に集った『あなた』をはじめとするローレット・イレギュラーズ軍、そしてビッツの率いる鉄帝・ラドバウ闘士連合軍および、アミナの率いるクラースナヤ・ズヴェズター義勇軍……つまるところ、およそ『鉄帝が吐き出しうる最大の攻撃部隊』の目的は、それであった。
 この場を完全に確保する。
 あまりにも平易な言葉で語られる、あまりにも困難な作戦。
 無限とも思えるほどに吐き出される敵兵力をさばきながら、Bad End 8……『超強力』な魔種の一人である『全剣王ドゥマ』、およびその直掩の配下すべてを撃破してようやくなせる、まさに決戦級の一大作戦である。
「……幸い、ローレットの皆のおかげで、敵の疑似権能の一つ、『不毀なる暗黒の海(エミュレート・ラ・レーテ)』『不毀なる増幅(エミュレート・ルクレツィア)』は消滅した。敵の不死性はほぼ消えたようなものだから、だいぶ戦いやすくなってるはず。
 ただ、強毒の権能……『不毀なる廃滅(エミュレート・アルバニア)』はいまだ健在。
 全剣王が部下に権能を貸し与える『不毀なる分与(エミュレート・カロン)』があるならば、直掩の魔種たちが他の権能を扱う可能性は充分にある……」
「……使うでしょうね。おそらくは、バルナバスの権能……あの黒き太陽を」
 もしそうなれば、自軍の壊滅は免れまい。つまるところである。我々は、『不毀なる廃滅(エミュレート・アルバニア)』による強毒の付与に耐えながら、残る権能を打破し、最終的に全剣王をも打ち取らなければならない、というわけだ。
「情報によると、全剣王配下の直掩の魔種、その数は5。
 【エルフレームTypeTitan】ショール=エルフレーム=リアルト。これは『不毀なる廃滅(エミュレート・アルバニア)』の母体ですね。
 それから、『導滅の悪狐』ティリと、『夜闇の真影』エヴリーヌ。
 そしてルナリア=ド=ラフスと、ガルボイ・ルイバローフ……」
 強力な魔種五名の名を上げる、アミナ。この五魔は、確実にこの戦場に出現するだろう。それをも相手にしなければならないというのは、非常に困難な任務に間違いない。
「ショールか……ここで、すべての決着をつけよう」
 ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)が、静かに、手を握り締めながら言った。殺しあうサダメの姉妹。その最後の時は、もうじき訪れるのかもしれない。
「ティリ様……」
 沈痛な面持ちで、ニル(p3p009185)はつぶやいた。同じ思いを抱きながら、決して交わることのない目的を持つ彼とは、結局はここで、相対し、討ち滅ぼさなければならないのだ。
「……その楽しいを、みんなで共有できればよかったんだよ、エヴリーヌ……」
 悲しげに言うのは、セララ(p3p000273)である。エヴリーヌとも浅からぬ因縁のあるセララにとっては、その発露の場所はここに間違いない。
「……ルナリアの相手は、俺に任せてほしい」
 そういうのは、陣営の陰に潜むようにいた一人の男、レヴィ=ド=ラフスだ。
「……世界が滅ぶという状況で申し訳ないが、家族の問題でね。
 ……わがままを言うようだが」
「別に構わないわよ。戦力なんて、あればあるほどいいもの」
 ビッツが言う。
「……アルヴィ。辛いなら……」
 レヴィが言うのへ、アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)はかぶりを振った。
「黙ってろクソ親父。
 ……黙っててくれ。今は。今は……」
「……」
 その様子に、静かにチェレンチィ(p3p008318)も息を吐き出した。絡みついた悲しい糸が、ここでも縺れて悲劇を生み出すような気持だった。
「……無理すんなよ」
 紅花 牡丹(p3p010983)が、吐き出すように言った。
「オレは……くそっ、こんな時に気の利いた言葉すらいえねぇ。
 でも、オレは、そばにいる。絶対だ。だから、信じてくれ。頼ってくれ」
 牡丹の言葉に、アルヴァとチェレンチィは、少しだけ楽になったようにうなづいて見せる。
「あらためてまとめるわね。
 こちらの戦力は、鉄帝全軍およびローレット・イレギュラーズ。
 作戦目標は――簡単ね。『すべての敵の撃破』。
 もちろん、雑兵はアタシたちが相手をするわ。
 貴方達ローレット・イレギュラーズには、五人の魔種、そして全剣王の相手をお願いしたいの」
 そういうビッツに、『あなた』はうなづいた。
 あの、恐るべき、世界を否定する魔を倒すことができるのは、可能性の光を持つ、『あなた』たち……ローレット・イレギュラーズたち、だけなのだから。
「……可能な限り、私達が支援を行います。
 皆さんが、魔種との戦いに注力できるように。
 ですから、背中は任せてくださいね!」
 アミナがほほ笑んで言う。
「ええ、必ず」
 オリーブ・ローレル(p3p004352)が静かにうなづいた。
「いよいよ、決着の時です。
 せっかく、皆が一丸となって守った鉄帝です。
 今更、滅ぼされてたまるものですか」
「私も、今回は援護に回ります」
 メルティ・メーテリア(p3n000303)が言った。
「……もし、ご無事に帰ってきたら。
 戦闘スタイルを変えることを、ちょっと考えてあげてもいいですよ、愛無さん」
「ふん。嘘ばかりだ。エールを送るつもりならば、もっともらしいことをいいたまえ」
 恋屍・愛無(p3p007296)が笑って見せる。
「行きましょう、みなさん。
 きっと、これが……最後の、戦いになるはずです」
 柊木 涼花(p3p010038)が、ぐ、とこぶしを握り締めて、そういった。
 もうこれで、ありったけを出すつもりだ。きっとこの後に、この後にこそ、平和がやってくるはずなのだから。
「では、ここで奴らに見せてあげようか。
 あらゆる危機を突破してきた、ローレット・イレギュラーズの本当の実力をね!」
 マリア・レイシス(p3p006685)が笑う。
「先は全剣王の首を取り損ねたからな。
 ここで仕留めるのも悪くなかろうよ」
 仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)もまた、獰猛に笑って見せる。
「アラタメテ、あの物まね王に、ホントウの強さってものを教えてやろう!」
 イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)が、にぃ、と笑った。
 『あなた』もまた――。
 勇敢に笑っただろう。
 剣を掲げよ。勇気を胸にせよ。
 いざ、いざ――決戦の時!

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 決戦の時です。
 すべてを出し切ってください。

●最終成功条件
 『すべての敵の撃破』。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はEです。
 無いよりはマシな情報です。グッドラック。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●参加の注意事項
 ・参加時の注意事項
 『グループでの参加』を希望の場合は選択肢にて『グループ参加』を選択の上、プレイング冒頭に【チーム名(チーム人数)】or【キャラ(ID)】をご記載下さい。

 ・プレイング失効に関して
 進行都合で採用できない場合、または、同時参加者記載人数と合わずやむを得ずプレイングを採用しない場合は失効する可能性があります。
 そうした場合も再度のプレイング送付を歓迎しております。内容次第では採用出来かねる場合も有りますので適宜のご確認をお願い致します。

 ・エネミー&味方状況について
 シナリオ詳細に記載されているのはシナリオ開始時(第一章)の情報です。詳細は『各章 第1節』をご確認下さい。

 ・章進行について
 不定期に進行していきます。プレイング締め切りを行なう際は日時が提示されますので参考にして下さい。
 (正確な日時の指定は日時提示が行なわれるまで不明確です。急な進行/締め切りが有り得ますのでご了承ください)

●第一章状況
 ついに決戦が開始されました。
 皆さんの目的は、このフィールドの敵を全滅させ、ワーム・ホールの確保・維持を行うことです。
 そのためにも、まずは全剣王配下の魔種を撃破する必要があります。
 第一章にて戦うことになるのは、以下三名の魔種です。

 ・『導滅の悪狐』、ティリ ×1
  ニル(p3p009185)さんの関係者で、魔種です。
  ニルさんと同じく『おいしい』という気持ちを追い求める少年ですが、彼にとっての『おいしい』とは、誰かの苦痛や絶望、悲しみであり、決して相容れる存在ではないのです。
  狐火を利用した、苛烈な炎の魔術による近接戦闘を行います。

 ・『夜闇の真影』、エヴリーヌ ×1
  セララ(p3p000273)さんの関係者で、魔種です。
  もともと精霊種で、無邪気に『たのしい』を求める性分でしたが、反転したために、その『楽しい』は他者へ加虐したり、あるいは苦痛や絶望、悲しむ姿を見ることに変貌しています。相容れる存在ではありません。
  付近の精霊を利用した、精霊魔術を運用します。様々なBSを付与し、こちらを苦しめる術師タイプになるでしょう。
  
 ・【エルフレームTypeTitan】ショール=エルフレーム=リアルト ×1
  ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)さんの関係者。今回はコピー権能『不毀なる廃滅(エミュレート・アルバニア)』の維持母体になっています。
  高いHPを誇る、非常に場持ちのいいディフェンダータイプ。守って耐えて、背水の力で反撃してきます。
  また、彼女が存在する限り、毎ターンの初めに、すべてのプレイヤーキャラクターに『毒系列』のBSを強制的に付与してきます。コピー権能『不毀なる廃滅』の効果にあたります。
  彼女を倒すことで、コピー権能『不毀なる廃滅(エミュレート・アルバニア)』の効果は消滅します。外で戦っている、鉄帝兵士たちへの援護にもなるでしょう。

 この中で真っ先に討伐するべきなのは、『ショール=エルフレーム』です。コピー権能『不毀なる廃滅(エミュレート・アルバニア)』を持つ彼女の存在は今回同じ戦場で援軍として戦うビッツやアミナ、メルティといった鉄帝軍にとっても悩みの種です。この権能を散らすことができれば、彼らの援護にもなり、翻って皆さんが魔種との戦いに集中できるようになる、ということでもあるわけです。

 また、下記の通り敵兵士も無数に存在します。
 ・不毀の軍勢
 ・終焉獣
  魔種との戦いをスムーズに進めるためにも、彼らに対応する必要はあるでしょう。

 作戦フィールドは、全剣王の塔周辺。
 特に戦闘ペナルティなどは発生しません。
 作戦に注力してください。

 以上となります。
 それでは、ご武運をお祈りします。
 この世界に平和をもたらしてください。


同行者の有無
迷子防止用です。
単独行動か、グループでの参加かをお選びください。

【1】単独参加
単独での参加の場合は此方をお選びください。
基本的には、戦場で遭遇したほかの仲間と協力して戦うようなリプレイ描写にはなりますが、とくに強い意志で『完全単独行動を望む』場合は、プレイングにその旨をご記載ください。

【2】グループ参加
他の仲間ととくに連携をとりたい場合は此方を選んでください。
プレイング冒頭に【チーム名(チーム人数)】or【キャラ(ID)】をご記載下さい。

  • <終焉のクロニクル>剣を掲げ、勇気を胸に完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別ラリー
  • 難易度VERYHARD
  • 冒険終了日時2024年04月02日 22時05分
  • 章数3章
  • 総採用数259人
  • 参加費50RC

第2章

第2章 第1節


「あっはっははは~~~~♪」
 笑う。
 ルベライトが笑う。
 太陽が墜ちた。
 絶望の黒き太陽、コピーされた凝縮された『負の感情』。
 それが、叩き落された――。
「いやぁ、スカッとするね~~~~♪
 あたし、裏方だからさぁ。こういうどかーんってのはなかなかね!」
「あら、それは良かった」
 くすくすと笑う。ルナリア=ド=ラフス。
「ガルボイ、アルヴィとシーニーちゃんを探しましょ。
 雑兵どもは知ったことじゃないけれど、二人なら生きてはいるでしょう?」
「ああ。
 ……いや」
 ガルボイがうめく。
 そこには――無事のまま、立ち上がるイレギュラーズたちの姿があった!
「え、なにが――」
 ルベライトが叫ぶのへ、答えたのは、戦場に似つかわしくない、明るい声であった。
「間に合った~~~!!」
 ぴょんと、飛び跳ねる。
 金髪の兎!
「ほら、不凍港かりて通ってきてよかったでしょ!? 陸路だともうちょっと時間が……!」
「そ、それよりお姉ちゃん、集中して!」
 メーア・ディーネー(p3n000282)。そしてマール・ディーネー(p3n000281)。
 二人の少女が――そこに、今祈りとともに奇跡を起こしていた!
「ちょっと!? なんでこんなところにバニーガールがいるの!?」
 驚くルリアに、アルヴァが叫ぶ。
「いや、あれはバニーガールじゃなくてだな……いや、そんなことより、だ!?
 ほんとになんでこんなところに……!?」
「せ、世界のピンチなら、わたし達だって、頑張らないわけにはいかない、です!」
 メーアがそう叫んだ。
「というわけで! シレンツィオにはリトル・ゼシュテルもあるでしょ? そこの人たちからのお願いで、シレンツィオや竜宮からも力を貸すために来たんだよ!」
 にっこりと、マールが笑う。
「いや、ちょっとまって?」
 ルベライトが困惑したように声を上げた。
「は? コピー権能とはいえ、あの爆弾みたいな魔力の塊を、防いだわけ!?」
「ええ。
 ……おかげで、蓄積してきた竜宮の魔力はほとんど吹き飛んでしまいましたけれど……」
 メーアが言うのへ、フリークライが頷いた。
「成程 アノ 暖カナ海ノ香リ。
 竜宮ノ チカラ」
「けど、いくら何でも、ほかの連中は――!」
「いいえ、皆無傷です!」
 勇敢な、少年の声が響く。
 黒衣の少年。
 天義聖騎士――ジル・フラヴィニー(p3n000364)!
「国境警備隊も含め、天義より援軍、聖騎士団参りました!
 貴方達の邪悪な力など、僕たちの聖なる力に通じるはずもありません!」
「あ、酷い! ヴェルたちも援護したのにぃ~」
 ケタケタと笑うような、明るい声は――。
「ヴェルギュラだと?」
 愛無が言う。そう、その姿は、かつてプーレルジールで戦った、魔王四天王の一人――ナナシのゼロ・クール、『ヴェルギュラ』であった。
「もう! お兄ちゃん、記憶力ざぁこ♡ 次ヴェルギュラって言ったらつねるからね。
 ごめんね~、よわよわお兄ちゃんお姉ちゃんたち~♡
 この子探してたら、ここに来るのに時間がかかっちゃった~♡」
 そう、ヴェルギュラが手を引っ張って現れたのは、これまたプーレルジールにて敵対していたが、イレギュラーズたちの奇跡により勝機を取り戻し、姿をくらましていた――。
「信濃!? 無事だったのか……!」
 武蔵が叫ぶ。そう、武蔵の姉妹である、信濃だ。
「……まぁ。
 このまま滅びを待つというのも――役割を押し付けられているようで、嫌ですので」
「というわけで、プーレルジールから援軍! ゼロ・クールの皆で駆け付けたよ!」
「それから、私たちもであります!」
 叫ぶのは、同じくエルフレームの一人であるタンビュライト。そして、
「鉄帝より、追加の闘士たちであります!
 この世界の危機に、もう全部出し切るぞ! って感じで来てもらっておりますので!」
 に、と、笑う。
「……賢い『ボス』なら、解るでしょう?」
 チェレンチィがいう。
「形勢逆転です。そちらの頼みの綱(エミュレート・バルナバス)は無駄打ちになった。なら――」
「いや、シーニー。
 ここはすでに滅びの地。不毀なる黒陽のチャージなどはすぐにすむ」
「はいはい合点~~~」
 ルベライトが再びチャージを開始するのへ、マールとメーアが残る力を解放する!
「残ってる竜宮の力を使って、あの人の魔力充填を妨害するね!」
「ですが、今回は止められません! チャージが終わる前に、根源を断ってください!」
 つまるところ――。
 速やかにルベライトを撃破し、残る二人の魔も掃討する!
「やることは変わってねぇ」
 シラスが言った。
「仕留めるぞ――ここで、もう一度!」
 そして――。
 決戦の第二幕が上がる!


第2章 第2節

第二章に入りました。状況を改めて整理させていただきます。

●本章成功条件
 『不毀の黒陽(エミュレート・バルナバス)の発動阻止』、およびすべての敵の撃破。

●状況
 激しい戦いの果て、ティリ、ショール、エヴリーヌの三魔を退け、コピー廃滅を解除した皆さん。
 しかし、そこに潜伏していたルベライトが現れ、チャージしていた『不毀の黒陽』を発動させます。
 が、そこに現れたのは、これまで皆さんが縁紡いできた強力な援軍たち。
 彼らの力を合わせた行動で、不毀の黒陽は防がれます。しかし、ここはすでに滅びの気配濃厚な地。すぐにでも二発目の不毀の黒陽がチャージされかねません。
 となれば、やることは一つです。
 皆の力を結集し、不毀の黒陽の発動を阻止。
 そして、あらわれた三魔を倒す。
 さぁ、第二章を始めましょう!


●新しいエネミーが現れました。以下の三体の魔です。

#ガルボイ・ルイバローフ
 チェレンチィ(p3p008318)さんの関係者です。
 詳しい設定や容姿などは以下の通り。
 https://rev1.reversion.jp/scenario/ssdetail/5042

 殺し屋一団のボスということで、非常に高い反応や回避・命中などを合わせもつ、最高クラスのスピードファイターです。とにかく回避ペナルティを発動させて攻撃を当てていったほうがいいでしょう。
 加えて前衛タイプなので、それなりにタフです。あえて後回しにするのも一つの手かもしれません。

#ルナリア=ド=ラフス
 アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)さんの関係者です。
 詳しい設定や容姿などは以下の通り。
 https://rev1.reversion.jp/scenario/ssdetail/5006

 こちらも凄腕の暗殺者。ですが、今は『意図的に』炎の魔術を多用するようです。
 というわけで、シンプルな後衛アタッカーになります。無論、ボスクラスなので簡単に沈むわけではありませんが。
 ルナリアを狙う場合は、BSへの対策をしっかりと。もちろん、馬鹿正直に炎だけ使ってくれるような難易度ではありません。


#【エルフレームTypeGaruda】ルベライト=エルフレーム=リアルト
 ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)さんの関係者です。
 詳しい設定や容姿などは以下の通り。
 https://rev1.reversion.jp/scenario/ssdetail/3689

 おそらく、この章での大ボス的な存在です。
 戦場の最奥に陣取っています。そこで『不毀の黒陽』をチャージしているわけです。
 これが再び落ちたらゲームオーバーです。というわけで、さっさと倒すに限ります。
 基本的に不毀の黒陽のチャージに専念しているほか、本来は裏方なので、上記二体に比べればいくらか御しやすいはずです。
 問題は、上記二体の魔と、無数の終焉獣、不毀の騎士たちをどう突破して、ルベライトに攻撃を敢行するか。
 手段はいろいろありますが……皆さんなら、解っているはずです。

#終焉獣&不毀の騎士たち
 引き続きいます。が、下記の味方援軍が頑張って対応してくれていますので、PCの皆さんには大分余裕ができています。


●味方援軍
 不毀の廃滅が消滅したため、味方NPC軍は全員元気です。これまでにまして、敵雑魚をもりもり削ってくれるでしょう。
 また、追加で以下の部隊が合流しています。

 マール&メーアの竜宮軍
 マール・ディーネー(https://rev1.reversion.jp/character/detail/p3n000281)とメーア・ディーネー(https://rev1.reversion.jp/character/detail/p3n000282)をリーダーとする、竜宮のバニーガール&ボーイたちです。
 いろいろとまんべんなくのこなせる頼りになるバニーさんたちです。
 彼らがいる限り、毎ターン味方全員に簡易なバフがかかります。

 天義聖騎士団独立部隊
 ジル・フラヴィニー(https://rev1.reversion.jp/character/detail/p3n000364)も所属する、天義の聖騎士団です。そのうち、国境警備隊などと合流し、鉄帝に増援として派遣されたものです。
 彼らがいる限り、味方NPCの残存性向上が見込めます。

 鉄帝お代わり部隊
 【エルフレームTypeAegis】ダンビュライト=エルフレーム=リアルト(https://rev1.reversion.jp/scenario/ssdetail/3961)が連れてきた、鉄帝の増援部隊です。
 シンプルのNPC戦力に上乗せされます。また、これまでのイレギュラーズたちの戦いの結果、士気はめちゃくちゃ高くなっています。

 プーレルジール増援部隊
 ヴェルちゃん(https://rev1.reversion.jp/scenario/ssdetail/5272)と信濃(https://rev1.reversion.jp/scenario/ssdetail/5271)が率いる、プーレルジールからの増援部隊。戦闘用ゼロ・クールや、簡易生産型のツイン・モデルなどが所属します。
 シンプルにNPC戦力に上乗せされます。これまでのイレギュラーズたちの戦いの結果、士気はめちゃくちゃ高くなっています。

 レヴィ遊撃部隊
 レヴィ=ド=ラフス(https://rev1.reversion.jp/scenario/ssdetail/5770)率いる遊撃部隊。
 現在は潜伏中。戦闘中に、ルナリアへ奇襲を仕掛ける手はずです。
 この部隊は他のNPC部隊に影響を及ぼしませんが、適切なタイミングでルナリアに手痛いダメージを与えます。

 鉄帝部隊
 ビッツ・ビネガー(p3n000095)とアミナ(p3n000296)が率いる初期部隊です。皆さんの電光石火の活躍の結果、さしたる消耗もなく戦場で暴れまわっています。
 こちらの戦力が基本値になり、さらに上記の増援部隊が合流しています。
 正直、ある程度の雑魚敵はNPC部隊にに任せてしまっても問題ないくらいにデカく膨れ上がってます。

●プレイング締め切り
 黒陽のチャージが完了するまで、現実時間でおおよそ三日とさせていただきます。
 プレイング最終締め切りは、『3月26日の23時』です。
 締め切りまでの間にも、プレイングの採用によりプレイの執筆、自体の進行などは行われる可能性がありますので、ご了承の上ご参加ください。

 それでは、ご武運を!


第2章 第3節

善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)
レジーナ・カームバンクル
ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)
白き寓話
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376)
涙を知る泥人形
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
ルブラット・メルクライン(p3p009557)
61分目の針
水鏡 藍(p3p011332)
解き放たれた者

●総群突撃
「は――」
 笑う。
 笑う。
 にぃ。と。
 あるいは、ぎし、と。
 歯をむき出しにして。
 怒りか。嘲笑か。あるいは違うものか。
 いずれにしても――ケダモノのごとく。
 イグナートは――鉄帝の闘士たちは、笑った。
「エミュレート・バルナバス……憤怒の模倣!
 そんなもんゼシュテル人の前で使うとはイイ度胸だね!
 一度は本物の黒陽を叩き落としたオレたちだよ! 今度も必ずぶっ壊す!!」
『応!』
 闘士たちが、叫んだ。
「さぁて、火をつけちゃったわね、魔種どもは」
 ビッツが笑った。
「ビッツ!
 イレギュラーズが切り込むから、切り拓いたソコに戦力を押し込んで敵軍を左右に分断して欲しい!」
 叫ぶイグナートへ、ビッツは笑って頷いた。
「こちらも……!」
 アミナもまた、力強くうなづく。ルブラットが、静かにうなづいて返した。
「私は前に進むのみだ。
 この刃に、貴方達の想いも、戦場に来ていない民の祈りも乗せてみせるよ。
 きっとその為に、私はこの場所に居るのだから」
「……はい!
 お気をつけて!」
 その目に浮かぶのは、信頼のそれだろう。アミナの心を確かに感じ取り、ルブラットは、その言葉通りに。ただ、ただ、前へと進む。
「じゃあ、行こうか。
 今度も黒陽は落とさせない!」
 イグナートの、砲撃のような叫びに、また号砲のような雄たけびで、鉄帝の闘士たちは叫んだ。
 今や一つ。
 しがらみを越えて一つ。
 鉄帝は。そして、その友となる可能性を秘めた、他国の者たちも――。
 今は一つ。
 なすべくは、彼の魔の撃滅!
 イレギュラーズたちが進む中、『仲間』たちも雄たけびとともに突撃する。すぐにあちこちで剣戟の音が鳴り響く。戦場に突撃したイレギュラーズたちは、その言葉通りに中央突破を試みる!
「さて、露払いと行きましょう」
 ヴァイスは微笑む。静かに……しかしその攻撃は鮮烈にして苛烈。
 ふるわれる斬撃は白の刃のその奇跡のままに。ああ、賽は投げられた。その言葉のままに、今まさに始まってしまったのだ。ならば、零れた出目の数通りに、人は、運命は、進むしかない。
「けれど、いかなる出目が出ようとも。
 私たちは勝利という結末を手にするわ。
 必ず、ね」
 笑う、白の姫。嗚呼、その通りだろう。我々にはもはや、勝利以外の言葉は許されない!
「進みなさい! ローレットにばかり活躍させちゃだめよ!」
「可能な限り雑兵を排除します! 本命を討つ妨害はさせないで!」
 ビッツ、そしてアミナが闘士たちに檄を飛ばし、イレギュラーズたちがこじ開けた道を、闘士たちが維持する。これまでのイレギュラーズたちの活躍により士気も戦力も上がった彼らは、確実にイレギュラーズたちの道を構築していった。
「もう前戦に立つことはないかしらと思っていたのだけれどもね。
 こうも世界終焉に王手をかけられちゃ黙っていられないわ。

 全く。
 世界っていうのはなんでこうも簡単に滅びようとしちゃうのかしらね!」
 女王は笑う。レジーナ・カームバンクル。善と悪を敷く天鍵の女王は、終末を前にしてなお正しく輝く!
「こんな正念場、アジ・ダカーハの邪竜以来かしら?」
 魔女が笑うのへ、女王もまた笑う。
「冗談! 世界はどんな形であれ継続してなんぼ!
 滅びたら何にもならないんだから終末竜(奴)よりたちが悪いわよ!」
 軽妙な掛け合いを続けつつも、しかしその口調からは想像もできぬ苛烈かつ激烈な魔術砲撃を、女王と魔女はぶっ放す。いちいち狙いを定める必要などない。事ここに至っては、神のごとき軍師の策も必要ないだろう。
 見つけ次第、ぶん殴る。
 なんとも鉄帝式だ。だが、今は、ここでは、それで十分だ。
「あらレクス。それ貴女が言うの?」
「昔の呼び名は止めなさい。今はレジーナ! 伏線張るな!」
「あーん、つれなーい。私の可愛い英雄ちゃんはどこにいったの?」
「今も昔もいないわよ!」
 二人が同時に突き出した手から、強烈な魔力奔流が解き放たれる。雪崩か、津波か、あるいは殲滅号砲か。いずれにしてもそのような強大な力の奔流が、まさに行くべき道をこじ開けていた。
「ニルは、行きますね」
 そう、ニルは決意を込めた表情を、まっすぐに進むべき道へと向けた。
 ほほを濡らした涙の痕はまだ乾かない。
 それでも。
「ニルは、ニルの「おいしい」をまもりたいから」
 誰かと一緒に笑う、世界を。
 その気持ちが、消えてしまうのは嫌だから。
 だから、ぎゅ、と杖を握り。指輪に元気をもらって。
「進みましょう、この道を!」
 ニルの心が、気持ちが、今は攻撃の魔術に乗って、悪しきを蹴散らし、友が行く道を作り上げる。
 そして、道はできたときに――。
「さぁて、では、ここで殿か」
 マッダラーが笑う。
 ゆっくりと、その体、その腕、その足。
 泥のように。泥濘のように。
 広げる。構える。
 ここですべてを止める。
「頃合いだろう、後ろは任せてもらおうか。目標は目の前だ、進め!
 援軍諸君に感謝する。付き合ってくれる仲間がいるというのは、本当にありがたい話だな」
 少しだけ、笑う。これまで、こんな風に、多くの仲間と戦場に立ったことはあっただろうか?
 きっと、ない。
 なぜなら、今は――この瞬間は。この世界全てのものが、味方だ!
「私だってこの世界は存外気に入っているんだ。
 滅ぼされる訳にはいかないからね」
 藍がそう言って笑う。ルブラットもうなづいた。
「ああ。
 滅びなどを、受け入れるわけにはいかない」
「さて、もうひと踏ん張りと行こうか。
 たとえ決着までもの数十秒だとしても。
 この永遠とも思えるそれを、ここで守りきるために」
 藍の言葉に、マッダラーはうなづく。
「ああ。倒れるまでやろうじゃないか
 轟かせるぞ、我らの凱歌を! ここが、世界を救う戦場だ!
 ここから先は、鼠一匹通さん!!」
 その言葉通りに――。
 この防壁は、決して誰も通さないのだろう――!

成否

成功


第2章 第4節

セララ(p3p000273)
魔法騎士
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者
一条 夢心地(p3p008344)
殿
ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)
タナトス・ディーラー
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女
紅花 牡丹(p3p010983)
ガイアネモネ

●ルベライト・Ⅰ
「ちぃ、予定より早いじゃん!」
 舌打ち一つ、ルベライトが跳躍する。イレギュラーズたちの活躍により勢いを増した援軍はもちろん、イレギュラーズたちも決死の戦いの果てに敵の眼前への道をこじ開けた。それは、三人の魔――とりわけ裏でのチャージに専念していたルベライトにとっては、想定外の戦局でもあった。
「なーっはっはっは!」
 ワイバーンの上で腕を組みながら、夢心地は笑う。
「想定外であったか!
 ゆえに想定外(イレギュラーズ)よ!
 そなたの黒陽は確かに厄介よ。彼の冠位のそれには及ばずとも、確かに必殺級の力を持っておる。全剣王とやらの模倣の力は確かのようじゃな!
 じゃが!
 すでに種のわれた手品など、麿たちには――無益!」
 放たれた極大のビームがルベライトを狙う。
「なんつー殿だ!」
 這う這うの体で回避しながら、ルベライトが叫ぶ。元より裏方で事態を扇動するタイプである。さらに、黒陽のチャージに力を割いている以上、いささか戦闘は不得手とみるべきか。無論、それ故に『御しやすい』などというわけではないが、ここまでイレギュラーズたちが突破を図ってくるのはまさに想定外と言えただろう。
「っていうか! 黒陽に対して殺意高すぎじゃない~!?」
「それは当たり前でしょう」
 マリエッタが笑う。
「まだ記憶にも新しい鉄帝の災害です。
 それをこの場で使うとは――人の気持ちがわからない、とか言われません?」
「なんかあんたに言われたくない感じある!」
 べぇ、と舌を出しながら、ルベライトが電波とでもいうべきだろうか、波動のようなものを放った。不可視のそれは、イレギュラーズたちの頭の内に、ぶん殴られたかのような衝撃を与える。
「……ッ!
 意外と乱暴ですね?」
 マリエッタが、わずかに顔をゆがめながらも飛び出った。死血の大鎌を形成しながら、一気に接敵して横なぎに切り払う。
「うわっとぉ!?」
 ひぃ、と寸でのところで回避して見せるルベライト。なるほど、戦闘能力は、隠し玉をはる程度には充分にあるといえる。
「やれやれ、ピエロを気取る相手は嫌われるぞ」
 合わせたように、愛無が飛び込んだ。異形の腕を、避けたところでのルベライトにたたきつける。ルベライトはとっさにその腕をかざして受け止めた。元より機械、さらに魔のそれに堕ちたその防御性能は高い。致命傷には遠く、さらなる追撃が必要である、と、イレギュラーズたちに確信させる。
「ピエロといえば、だ。
 うちの『娘で妹(ヴェル君)』は、結局あのキャラが素なのかね。
 兄として父として、あのキャラ付けには少し心配だが。君もそう思わんか」
「やだ、お兄ちゃんって古い~。
 今はこれくらい普通だよ♡」
 ヴェルギュラが遠方からからかうように声を届けるのへ、愛無は顔をしかめた。
「……そうなのか?」
「いや、知らんけど!」
 機械の足を振り払って、愛無を払うルベライト。その一方で、ブランシュが一気呵成に飛びかかる。
「ルベライトか……!」
「おっと、ブランシュっちじゃん! イメチェンにあってんねぇ~~♪
 あのいい子ちゃんぶってる時より好きよ!」
 衝突する。姉妹。ふるわれた一撃をルベライトがさらに打ち返す。
「あの日。お前だけがいなかった。
 何処を探しても見つからなかった。

 答えてもらおうか。ルベライト。
 全てを仕組んだのはお前だな?
 オレの姉妹が……!
 エルフレームシリーズが狂ったのは! お前の!」
「あったりまえじゃぁぁぁぁあん! 何今さら『衝撃の真実~~~』みたいな顔してんの?」
 かかと落としの要領で、ブランシュをたたき落とす。空中で姿勢を制御しながら、ブランシュが吠えた。
「皆、夢を持っていた。
 自分の管理した世界。幸せな夢。闘争の果ての進化。自由のありか。慎ましい幸せ。

 お前は一体何の為に、こんな事をしているんだよ。
 この世界をぶち壊す必要がある程に、お前は狂ったのか……!」
「あ?」
 ルベライトは笑った。
「あー……あれ? もしかして、あたしが狂ったから、皆を扇動したと思ってんの?
 あたしが、狂ったから、こうなったと思ってんの?
 イイコちゃぁぁぁぁん? あんたそうやって自分をだましても、結局いい子ちゃんなのは変わんないんだ。
 ばぁぁぁぁぁぁぁかだね! あたしは最初から、こうだったのさ!」
「なん、だと」
 ブランシュが、息を吐いた。
「なら、どうして」
「んなの、嫌がらせに決まってんでしょ」
 ぎし、と。
 魔は笑う。
「あたしさぁ、生みの親がくそ嫌いだったんだよね。
 だってさぁ、まぁ、今となっては魔種がいるなんてわかり切ってるけど。
 当時はおとぎ話のそれだったんでしょ?
 で? 生み出されて? お前たち姉妹の目的は、魔種を倒すことだ~とか言われて?
 ばぁぁぁっかじゃねぇの? って思ったわ。
 ねぇ、あんた解る? この世に産み落とされた瞬間、『お前が生み出されたのは俺の妄想の道具になることだ』って言われたときの気持ち。
 あたしたちは、くだらない妄想故に生まれた、って言われたときの気持ち。
 あんたは解んないかな? キラキラした瞳で、「はい、ブランシュは頑張るのです!」とか言ってた?
 だから嫌いなんだわ。だからあんたをハブったの。きっしょくてさぁぁあ?」
 態勢を整えたばかりのブランシュに、ルベライトがさらなる一撃をたたきつける。放たれた無数の光球。レーザーバレット。ブランシュの体を貫く、真実と悪意と光。
「だからさぁ! 嫌がらせしたかったんだよね。あんたにも、ラダリウス博士にも!
 で、まずルクレツィア=エルフレームをそそのかしたわけ。
 あいつ、まじめでさ。不完全な未来予知システムなんか持ってたから、ちょっとハッキングしてやってね!
 嘘っぱちの破滅の映像を見せて追い詰めてやったら簡単に壊れちゃってさぁ!」
「アイツは」
 ブランシュが、吐き出すように言った。
「アイツを、追い詰めたのは、オマエ――」
「そうだよ。したら家族会議始めたから、ちょっと言ってやったのさ。
 『みんな~、破滅は逃れられないから、皆の望む形で人類を救おうじゃないか~』ってね!
 どいつもこいつも真面目な顔してさぁ!
 滑稽ったらなかった、ぜっ!」
「てめぇ」
 牡丹が吠えた。
「てめぇ、は、そんな、ことで」
「そうだよ?
 あ、ほかにも理由はあるよ!
 えーとね!
 皆が右往左往してるのがクッソたのしかったから!
 あは、あはははは! あっははははははははっ♪」
 魔だ。
 と、牡丹は思った。
 反転したからこそ魔なのではない。反転したからこそ狂ったのではない。
「てめぇは! 生まれついての――ッ!!」
 眼が熱くなる。
 泣きたくてたまらない。
 こんな。
 こんなことが!
「宿れ、クルイロー!」
 吠える。飛ぶ。牡丹。飛翔――!
「あんた、ブランシュっちのなんなのさ!」
「友達だろうがッ!
 てめえは!
 オレに!
 航空猟兵に!
 よりにもよって黒い太陽を落としやがった!
 そのケジメ、つけさせてもらうぜ!
 ブランシュを家族との戦いへと誘った黒幕だっつうのなら尚更だあ!」
 殴りかかる――一打。ルベライト、それを受け止め。迎撃。機械腕で殴りかかる。
「友達、選んだほうがいいよ」
 あざけるような一言――間髪入れず、飛び込む。セララ。
「キミは――!」
「おっと、さっきは面白い友達ごっこをサンキュー! げらげら笑わせてもらったよぉ~~~!」
「エヴリーヌは本当に苦しんでたんだぞッ!?」
「他人の不幸って蜜の味なんだわ~!」
 ふるわれる機械腕を、セララが聖剣で受け止めた。ぎり、とセララが奥歯をかみしめる。
「ボクがいま、ものすごく怒ってる……!
 止めなきゃだめだ! キミは! キミだけは! 何があっても!」
 吠える――その言葉通りに。セララは、イレギュラーズたちは、全力を以ての戦いに身を投じる。

成否

成功


第2章 第5節

リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)
無敵鉄板暴牛
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
夜式・十七号(p3p008363)
蒼き燕
ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)
天下無双の狩人

●ルイバローフⅠ
「随分と突破されたようだな。
 なるほど、ただの雑兵どもではないか、ローレット」
 他人事のように、ガルボイは言う。その瞳はすでに濁っている。まっとうではないのだ。
「他人事のように言いますね。
 黒陽が放たれなければ、あなたがたの負けなのでは?」
 オリーブが言う。
 油断なく。
 すでに数合、打ち合っている。
 それだけでわかった。
 尋常ではない。
 相手は――ただの魔種、等ではないのだ。
「状況を正しく見たほうがいい。
 黒陽は、貴様らの敗北条件であって、我々の敗北条件ではない」
「じゃあ、あんたらの敗北条件って何なのさ」
 サンディが言うのへ、ガルボイはうっそりと答えた。
「我々に敗北はない」
「マジで信じてる顔だぜ」
 ミヅハが言う。
「やだね、ああいうのは」
 構える。
 とはいえ――である。
「アイツが強いのは確かだ」
 そう、ミヅハが言う。
「ああ。それは認めなければならない」
 十七号がそういった。
 すでに、鋼剣の面々も傷ついている。それに対して、ガルボイはまだまだの余裕を見せていた。
 戦いはまだ始まったばかりである。が、我々だけでは倒せぬ、と、当然のごとく誰もが理解していた。
「ま……我々は群の英雄さ。
 一人で何でもできるわけではない。
 今までもそうだった。これからもそうなるだけだ」
 十七号が、叫ぶ。
「――さあ、鉄帝の戦士たちよ。終焉獣と不毀の騎士たちは任せたぞ!
 私達が、必ず、必ず、あの魔を墜とそう!
 私達であの黒き太陽を退けようではないか!」
 後背で戦うともに、最大限の檄を。
 自らの心に、最大限の檄を。
 踏みとどまらせ、立ち上がる。
 恐るべき敵に対して。
「あのような木っ端に頼らなければならないのが、貴様らの限界だろう」
「思い出してください。
 貴方も、組織のボス、だったのでしょう?
 何もかも、すべて一人でできていなかったはずです」
 リュカシスが言った。
「それは、決して恥ずべきことでも、唾棄すべきことでもないはずです」
「いいや、俺は無力だった」
 ガルボイが言う。
「だから、大切なものを手放さなければならなかった。
 今は違う」
「別に、アンタのその、バックボーンとか心情とか、なにがあるかは知らねぇけどさ」
 サンディが言う。
「別にいいんだ。可哀想でも、可哀想じゃなくてもな。
 ここはもう、そういう場じゃない。
 あんたが可哀想だろうがそうじゃなかろうが。
 もう、止まれねぇんだわ。お互いに」
 そう。
 そうだとも。
 もはや刃は振るわれた。
 もはや刃は交わった。
 なればここに待つ結末は、どちらかの敗北。
 どちらかが折られること。どちらかが潰えること。
 どちらかが――終わること。
 それのみ。
「覚悟はいいか、ルイバローフの鳥」
 十七号が言った。
「私はできている。
 いかなる艱難辛苦を乗り越えようとも、この刀で未来をつかみ取る。
 その覚悟」
「ボクは決して膝をつきません。
 ボクは決して斃れません。
 横にも。後ろにも。頼りになる仲間がいるから。
 ボクは、皆で前に進み続けます。
 そのために、貴方は邪魔だ」
 構える。
 ガルボイが、うっそりとうなづいた。
「そうだな。貴様らは邪魔だ」
 構える。
「名前は聞かない。
 どうせ殺して捨てる相手だ」
「ええ、結構。どうせ名もなき冒険者。墓碑に刻む姿もない」
 オリーブが言う。
「オリーブさん覚悟決めすぎじゃねぇ……?」
 サンディが笑う。
「ま、みんな死ぬ気はねぇよな。
 また、ボンクラな仕事もやりたいからな」
「おう。やることやって、生きて帰ろうぜ」
 ミヅハが笑う。
 別に死ぬつもりはない。
 生きて帰る! 必ず!
 一行は、再び武器を構え――。
 一気に飛び出した。
 死地に向けて! 生き残り、平和を取り戻すために――!

成否

成功


第2章 第6節

アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
無限円舞
ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)
アネモネの花束
雨紅(p3p008287)
愛星
胡桃・ツァンフオ(p3p008299)
ファイアフォックス
フローラ・フローライト(p3p009875)
輝いてくださいませ、私のお嬢様

●ド=ラフスⅠ
 爆炎が大地をえぐった。
 すべてを飲み込むような炎。
 母性の炎。
 おぞましき、押し付けがましき、母の炎。
「性格のゆがんだ女の相手は慣れているものと思っていたが」
 ベルナルドが言う。
「……性格のゆがみ方にもいろいろあるものだ。よく思い知ったよ。
 チョウカイ、油断はするなよ」
 そういうベルナルドに、チョウカイはうなづく。
「いろいろ考えてはみるけれど~」
 そう言って、むむ、とうなった。
「……なんだか全部、あの炎で巻き取られちゃうような感じがするよ~」
「歪んでいても母の愛は偉大だな。
 だが、独りよがりの愛情が通じるのは幼い時だけだぜ」
 ベルナルドが嘆息する。ルナリアの炎は、何もかもを飲み込むようなそれだった。が、炎という性質上、それに抱かれたものが安穏とできるとは思えない。結局、行き過ぎた愛情は子を滅ぼすのだ。
「毒親、というやつかしら」
 アンナが言う。
「でも――温いわね。真夏の水着コンテストの方がまだ熱かったわ!」
 一気に飛び込む。氷華の冷刀をたたきつければ、ルナリアは甘ったるく笑って見せた。
「ごめんね。よその子にはあんまり興味がないの」
 ふるわれる腕から放たれるのは、小さな針である。暗器。とっさに顔をそむけたアンナの頬を針がかすめる。気づかなければ、目をやられていた。
「……腐っても暗殺者なのね、お母さん?」
「そうね、まだまだ現役よ?」
 笑う。甘ったるく。それは母の笑みに違いない。
「そう。でも、悪いわね。その現役活動もここでおしまいよ。
 今年の水着コンテストも……当たり前の日常も。取り返させてもらうわ!」
 ふるう。刃。ばぢん、と音を立てて、ルナリアの魔撃と交差。
「足止めを」
 胡桃が言った。
「本当の炎を教えてあげるわ」
 ぱちん、と指を鳴らす。途端、その指先から苛烈なる火炎がほとばしり、ルナリアを狙う。ばぢ、と指を鳴らし、ルナリアが炎を解き放った。が、胡桃の炎はルナリアのそれを焼き切るようにほとばしり、ルナリアは「まぁ」と驚いた声を上げて、とっさに第二の魔術防御を展開する。
「すごいわねぇ、お嬢ちゃん?」
「そなたより、たぶんきっとおそらく年上よ。コャー」
 再び放つ炎が、ルナリアの足を止める。間髪入れず、雨紅が突撃!
「マール様とメーア様が作ってくださったこの機、活かしてみせましょうとも!」
 突き出した槍を、ルナリアがどこから取り出したのか、ナイフを以って穂先をそらした。ちっ、と擦過する槍。ちちちちち、と擦過した火花が巨大化し、炎のナイフとかして雨紅を狙う!
「させない! 横へ飛んでください!」
 フローラが叫んだ。その指揮の声が、雨紅の体に活力を与えた。言葉通りに横に飛べば、放たれた炎のナイフがその横を通過する。すぐさま飛び込んだベルナルドの一撃が、ルナリアを抑える。
「多勢に無勢、と思ってる?」
「いいえ、これで対等か、ようやく追いついたくらいだと!」
 フローラが叫んだ。
「あなたの力は、充分に知っています。
 あの時は勝てなかった。
 でも、私はあきらめません!
 ……ようやく、自分の事を好きになれてきたんです。
 大好きな家族や、縁を結んだ皆さんとも、これからも居たいから。
 だから、世界を終わらせて、たまるもんですか!」
「いいわね。その願い。
 居たいわよね、家族と」
 ルナリアは笑った。
「私もよ」
 さん、と振るわれるのは、袖口にしまわれたバングルだった。それがじゃら、と展開し、一本のブレードとなる。特殊な暗器。ふるわれた斬撃を、雨紅は槍で受け止める。
「あら、殺したと思ったのに」
「私は諦めが悪いもので。この程度では止まりませんよ」
「まぁ、嫌いなタイプ」
 力を籠めると、雨紅は後方へと跳躍して回避する。
「私はただ、息子(アルヴィ)と一緒に居たいだけなの。
 邪魔なさらないで?」
「本人の意見くらい聞いたら?」
 アンナが言う。
「魔種に何を言っても無駄よ」
 胡桃がそういった。
 事実。
 その妄執は、言葉では止まるまい。
 なれば――。
 力を振るうしか、ないのだ――。

成否

成功


第2章 第7節

ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
不遜の魔王
八重 慧(p3p008813)
歪角ノ夜叉
フロラ・イーリス・ハスクヴァーナ(p3p010730)
お嬢様(鉄帝)
大和型戦艦 二番艦 武蔵(p3p010829)
レイテ・コロン(p3p011010)
武蔵を護る盾

●仲間たち
「ほらほわ、よわよわお兄ちゃんとお姉ちゃんたちのために、がんばれがんばれ♡」
「……何か、前にもまして奇妙な感じになっていますね、ヴェル……!」
 仲間たちが進撃を開始する。ヴェルギュラの指揮するゼロ・クール部隊が突撃を敢行し、敵の群れを飲み込んで潰していく。信濃の航空機(ファミリア―もどき)が空を飛び、警戒と哨戒と爆撃を敢行していた。
 もちろん、プーレルジールから援軍だけが活躍していたわけではない。鉄帝軍は士気も高く、相変わらずの突撃を敢行していたし、竜宮軍も様々な援護を、イレギュラーズや仲間たちに展開し続ける。
「確かに『約束は出来ない』と宣っては異たが。
 死地に、戦場に、堂々と姿を晒すとは莫迦どもめ!」
 ロジャーズが叫び、マールとメーアの前に堂々と立ちはだかった。
「良い度胸だ。
 文の通りに、宣言の通りに、私の前でご立派に指揮を執るとは。
 我儘なのは私一人で十分だと謂うのに。
 仕方がない。貴様等はまったく度し難い生き物だ。
 この戦より帰還して、貴様等、グルグルアイランドのお客様として、全力で歓迎して魅せようではないか。
 もっとも、貴様等に『マトモに見える』とは思えないがな!

 Nyahahahahahahahaha!!!

 太陽ではなく月を知れ、この跳躍こそ狂気の沙汰よ!
 マール、私の友!」
「おー!」
 のりのりで、マールが片手を上げてぴょんと飛び跳ねるのへ、メーアがこそこそと声を上げた。
「……たぶん、ちょっと怒ってると思うよ? おねえちゃん……」
「貴様はよくわかっているな」
 ふん、とロジャーズが笑う。
「まぁ、ウチのお姫様たちを守ってくれるなら何でもいいわよ!」
 真那伽も笑った。
「まったく、目立つことするくせにかっこうも目立ちがちなのよねぇ、竜宮って! ほんとに隠れ里だったのか、記憶があいまいだわ……!」
「ああ、まあ、そうっすよね。うん」
 慧が視線をそらしたのへ、真那伽がその手をひっつかむ。
「ほらほら、アタシたちも頑張るから、慧も頑張って!
 ……でも終わったあとでご褒美くらい欲しいわね?」
 ウィンク一つ。このご褒美とは、つまり慧にまたバニースーツを着てほしいというやつである。着てください。
「おーっほっほっほ! なんだかいいですわね!」
 フロラが笑う。
「なんというか、竜宮の戦いを思い出しますわね!
 バニーさんもおりますし……エルフレームの敵もおりますし。
 ええ、ええ、マールさん、お久しぶりですわ!」
「うん! フロラさんも元気そうでなにより!」
「元気なのが一番ですわ~~~!!
 そして! わたくしがやることと言ったら、一に殴って二に殴る! 三、四も五もなぐる!
 というわけで、行ってまいりますわ!
 おらおら~~! マール様たちには指一本触れさせませんわ~~~!」
「ははは! いいな、こうでなくては!」
 武蔵も笑う。
「信濃!! 来てくれたか!!
 この武蔵は信じていたぞ!!
 共に戦ってくれるのであれば、こんなに頼もしいことはない!!」
「ああ、うん。
 武蔵、声が大きい……」
「恥ずかしがるな信濃! 武蔵はうれしいので、信濃ももっと嬉しがるといい!」
「デリカシーーーッ! もう、武蔵はこれだから……!」
「え~と……お帰り、信濃さん……で良いのかな?」
 レイテがそういうのへ、信濃が視線を逸らす。
「ええ……まぁ、なんと言いますか……」
「はっはっは、照れるな信濃!」
「デリカシー!!!」
「うん、仲がよさそうで何よりだよ」
 そう、笑う。
「ふ、信濃、貴様が居れば百人力よ!
 さあ、我らの力を見せてやろう!
 そして信濃、このレイテの事は義兄と呼んでもらって構わんからなー!!」
「うん。信濃さん?
 後数年でボクの義妹になる予定だから、その時は宜しくね?」
「はぁ?」
 素っ頓狂な声を上げる信濃へ返事もせず、二人は敵群へと突撃していく。
「あ、ああ、もう! どういう感情を抱けばいいのですか、これは!!」
 困惑しながら、信濃は援護の手を緩めない。
 仲間たちとの協力作戦。それはお互いの力を高めあい、滅びを圧倒していくのだ――。

成否

成功


第2章 第8節

紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)
真打
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師
ユイユ・アペティート(p3p009040)
多言数窮の積雪
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
芳(p3p010860)
(自称)ぬくもりの精霊種

●ルベライト・Ⅱ
「もう、うっとーしいな!」
 ルベライトが飛翔、逃げ回る。無数のイレギュラーズたちの決死の攻撃は、ルベライトを確実に追い詰めつつあった。
「ぬくもりの精霊種(※自称)の前で、そんにゃ太陽もどき使うとはふてぇヤツだニャ~~~!」
 芳が雄たけびとともに突撃する。毛玉のごとき真ん丸の砲弾のように、とびかかる芳が、ルベライトを追走。
「お日様ってのはニャ! もっとぽかぽかしてて、とろんとうたた寝しちゃうようにゃもんにゃのニャ!
 こんにゃお日様、芳は認めないのニャ~~~~~!!!」
「そう!? ぽかぽかして寝ちゃうようなものだと思うよ! 永遠にだけどさ~~~!」
 あざけるように笑うルベライトに、芳がふしゃー、と威嚇する。
「わるい奴は許せないニャ~~~~!」
「悪いとはどのような基準でうんぬんかんぬん~~」
「まぁ、お前は悪だよ。
 悪じゃないにしても、最悪な奴だ!」
 イズマが叫び、追撃を見舞う。星のような細剣が空を奔る。星がおう、悪しき怪鳥。
「人を操って喜ぶなよ……!
 それとも、俺たちの怒りすら、その黒陽にチャージさせる気か!?」
「さーて、どうだろうね!?」
 機械脚で蹴りつける。イズマが身をよじってそれを避けると、細剣を突き出した。ちぃん、と音を立てて、外装が削れる。
「ちっ! 修理が大変なんだぞ! たぶん!」
「その心配ももう必要ないな、ここで仕留める!」
 怒りの一撃を放つイズマに、しかしルベライトは無理やりに体をひねって退避して見せた。まだ、墜とすには至らない――だが、イレギュラーズたちの怒涛の攻撃もやむことはない!
「二度とその太陽を使わせないように、ぶっ飛ばすよ!」
 ユイユが叫んだ。
「チャンスは今しかない……。
 だったら! それを逃したりはしないよ!」
 ユイユが殴り掛かる。ルベライトはその機械腕で受け止めた。
「もう! 鬱陶しいな、何度も何度も!
 どうせここをしのいでも、滅びは逃れらんないでしょ!
 なぁにを気合入れてんの?」
「滅びは防げる、って信じてるから、かな!」
「うへぇ、いい子ちゃんか!? 大っ嫌い!」
 ルベライトが体を振るって回避→退避。その隙をついた秋奈→邀撃。
「なんかキャラかぶってねぇーか!?」
 秋奈が赤の刃で襲い掛かる。ぎり、と歯をむき出しにした笑み。
「ま、秋奈ちゃんはお前みたいに悪辣じゃぁねぇぜい。
 どっちかっていうと正義の味方!」
「じゃあ似てないじゃん!」
 さぁん、と、ルベライトがその手を振るった。機械腕がさながらブレードのように秋奈を襲う。紫電が一気に飛び込んで、それを受け止めた。
「秋奈に手を出すなよ……!」
「じゃあこっちに手を出してくんなよな!」
 ルベライトが圧を掛けるようにその腕を揮う。ブレードのごときそれが、紫電に襲い掛かるのへ、紫電は刃を持って受け止める。
「その太陽は落とさせない!」
「いいや墜とすねッ!」
「させねーって言ってる!!」
 合わせるように、秋奈が切りかかる。二人からの攻撃を受けたルベライトが後方へ跳躍。距離をとろうとしたところへ錬の式符が襲い掛かる。
「一度阻止された手段に固執するのは良くないな?
 俺も黒い太陽の模倣には覚えがあるが、その元が違うからか魔種だからか琴線には響かんな!
 ただ与えられただけの贋作には意味がない、自分でその「元」に焦がれて磨いて作り上げるからこそ贋作にも価値が生まれるってもんだ!」
「それ全剣王の前でいいなよ! 多分ぶっ殺されるけどね!」
 ルベライトが痛みをこらえつつ、式符をぶっ飛ばした。イレギュラーズたちの猛攻に、ルベライトは確実に押されつつあった。
「ちくしょうめ、あのパパとママは何してるんだろうね……あっちもいっぱいいっぱいか!」
「俺たちを舐めるなよ」
 錬が言った。
「必ず阻止する。
 何度でも言ってやるさ。
 その太陽は、絶対に、鉄帝の大地には落ちない」
「まとめてパーリィナイトの始まりだぜい!
 照明は、そのしょっぼい太陽なんかじゃなくてさ!
 世界を救った私たちを照らす、この世界の太陽だ!」
 秋奈が叫んだ。
「そうニャ! そんな太陽は願い下げだニャ!」
 芳も叫ぶ。
「お前が集める負の心なんて負けないくらいの、音が、勇気が、俺たちにはある!」
 イズマが叫び、
「運はコッチに向いてるんだ! 手放したりしない!」
 ユイユもまた叫んだ。
「オレたちは、負けない!」
 紫電も叫ぶ。
 叫び。それは勇気。それは覚悟。
 決して負けぬという、イレギュラーズたちの決意――。
 それが、魔を、決定的に圧していた――!

成否

成功


第2章 第9節

●ド=ラフス・Ⅱ
「始まったのか、ルナリア……」
 レヴィが静かにつぶやく。
 ……この物語はいつから始まったのだろうか。
 家族が崩壊した時からだろうか。
 それよりも、もっと前からなのだろうか。
「終わらせよう。
 俺も……責任は、取るさ」
 静かに――父は、そういった。

「来るのか、親父……!」
 何か、直感的なものを、アルヴァは感じ取っていた。
 戦場のただなか。
 ルリアとともに戦うアルヴァの背に走ったものは、なにかの予感。
「お父さん……!?」
 ルリアもまた、何かを感じ取っていた。
 来るのだ、という、直感。
 家族の邂逅。
 その瞬間――。
 イレギュラーズとの戦いを続けるルナリアの背後から――。
 レヴィの軍勢が強襲を仕掛けた。
 戦場で。
 彼らは出会う。


第2章 第10節

郷田 貴道(p3p000401)
竜拳
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
マッチョ ☆ プリン(p3p008503)
目的第一

●ルベライト・Ⅲ
「訳が分からん……!」
 ルベライトはたまらずにそう吐きだした。
 絶え間なく攻撃を敢行するイレギュラーズたち。
 追い払っても追い払っても、斬っても蹴っても貫いても撃っても倒しても倒してもなお、
 立ち上がり、立ち向かう。
 なんだこいつらは。
 なんなんだこいつらは。
「ゾンビかなんかかよ~~~!!! ってのに!」
 たまらず、そう叫んだ。
 それほどまでに。イレギュラーズたちは粘り強い。
「さっさと諦めればいいじゃん!
 もうどうせゲームオーバーでしょ!?
 ここの戦場をどうにかしたところで、待ってるのは破滅なの破滅!
 終わり終わり終わり! わっかんないかなぁ!?」
「わっかんないね……!」
 ヨゾラが叫んだ。
「絶対に、僕たちはあきらめない。
 この世界を、諦めたりしない!」
「生きぎたないね! 潔くなりなよ!」
「人が、自分の命を全力で繋ごうとするのを、馬鹿になんてさせない!」
 ヨゾラが、叫ぶ。
「それに、我々が背負っているのは、己の命だけではない。
 このせかいにいきるすべてのもの、だ」
 汰磨羈がそういった。
「御主、いい加減気づけよ。
 御主がケンカを吹っ掛けたのは、この世界全てにだぞ?」
 ふ、と。
 汰磨羈が笑ってやる。
「じゃあ当然だろうが。このせかいのすべてが敵に回るのは。
 あきらめが悪くて当然だろうが。このせかいすべてが敵なんだから。
 御主、裏方タイプか。頭は回るようだが、ちと人間のことを学び損ねているようだな。
 ……いや、本当は知ってるのだろう? 人間の執念」
「……厭ッてほどね!」
 ルベライトが叫ぶ。己の存在理由。狂気に埋もれた博士。
「じゃあなおさら、あんたたち全員滅ぼさなきゃって気になってきたよ。
 全力でチャージさせてもらう!」
「させるものかよ!」
 汰磨羈が叫んだ。間髪入れず、貴道とともに突撃する。
「さっきの礼だ。
 熱い鉄拳をたらふく食らわせてやるよ」
 ぎぃ、と、貴道は笑った。
 歯をむき出しに。
 肉食動物の笑み。
 殴りつける――一打。その撃が、ルベライトの腕をへこませた。
「……ッ! あたしの素材、結構固いんだけどッ!?」
「だったらどうした? ドラゴンのうろこですら砕いて見せるぜ!」
 咆哮――さらなる一打! 一撃が、ルベライトに衝撃をぶち込む!
「く、っそお!」
 悲鳴とともに、ルベライトが後ろずさる――応、マッチョ ☆ プリン。
「世界がどうなろうと、自分がどうなろうと。もう知った事ではないのだが。
 消えて欲しくないものが残っているのでな。
 お前達の方こそ……滅びて貰おう」
 構える。
「あんたもそういうタイプか……ッ!」
 ルベライトが、身をひねった。
 斬。
 打。
 それだけの一撃。
 ぐしゃり、と、ルベライトの装甲がへしゃげる。
 ここにきて、ようやく――届く。
 執念の一打!
「なんで、なんでだぁっ!」
 困惑の表情とともに、ルベライトが跳んだ。
「逃がすなよ、ヨゾラ!
 素直にチャージさせるとでも思ったか? だとしたら、私達を甘く見過ぎだ!
 用があるのは全剣王だ。貴様には、疾く退場して貰うぞ!」
 絶愆・織獄六刑。
 展開。
 とらえる――地獄の内へ。
 ヨゾラが飛び込んだ。放たれるは、極星の一打!
「消えろ……ッ!」
 星と獄の内にて、ルベライトが叫ぶ。
「ふ、ざけんなよぉっ!」
 撃打に体を焼かれながらも――。
 狂気の怪鳥は飛ぶ。
 最期の飛翔を――!

成否

成功


第2章 第11節

零・K・メルヴィル(p3p000277)
つばさ
レッド(p3p000395)
赤々靴
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し
アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮
チェレンチィ(p3p008318)
暗殺流儀
楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾
フリークライ(p3p008595)
水月花の墓守
ムサシ・セルブライト(p3p010126)
宇宙の保安官
メリーノ・アリテンシア(p3p010217)
狙われた想い
水天宮 妙見子(p3p010644)
ともに最期まで

●ド=ラフス・Ⅲ/ルイバローフⅡ/家族
 家族というのは何なのだろう。
 血のつながりだろうか。
 愛しあうことだろうか。
 憎みあうことだろうか。
 同じ家に住むことだろうか。
 繋がっていることだろうか。
 離れてしまうことだろうか。
 想いあうことだろうか。
 家族とは。
 何なのだろう。

 暗翼の暗殺者は飛翔する。
 暗炎の暗殺者は愛を謳う。
 家族を。
 家族をこの手に、と。
「だからと言って、こんなやり方は絶対に間違っているはずです!」
 妙見子が叫んだ。
「子供は親のおもちゃではないのです!
 己の行いで振り回すような真似をしてはいけないのです!

 たとえ、それが真に愛ゆえに生まれた行動だとしても!
 認めなさい! 子供という、一人の人間を!」
「何を言ってるのかしら」
 ルナリアが笑った。
「アルヴィは、アルヴィよ」
 ガルボイが、うっそりと言葉を紡いだ。
「娘は、今度こそ俺が幸せにする。
 俺の、この手でだ」
「――は。
 笑わせんなよ、ボス面」
 茄子子が笑う。
「結局所有物扱いじゃん。
 贖罪のつもり? だったら誠心誠意謝って、慰謝料でもあげて終わりにしなよ。
 もう、みんな次の人生を歩み始めてんだからさ!」
 すでに、戦いも佳境。
 茄子子の体とて、決して五体満足ではない。
 されど。
「何度でも言ってあげる。
 いつまで子離れできないのさ、毒親どもが。
 ……ま! ちゃんと子供に殴られたほうがいいけどね? どうすんの二人とも」
 そういうのへ、まず頷いたのは、チェレンチィだった。
「……ボスに言いたいことがあるんです。
 何故自分が父親だと言ってくれなかったんですか」
「それ、は」
「……いえ……理由は何となく分かります。これが親子って奴なんですかね。
 でも、ボスの言葉で聞きたいです。
 本音も」
 まっすぐに、チェレンチィは見据える。ガルボイは、深く息を吐いて、心を落ち着けるようにしてから、言葉を紡いだ。
「……俺のせいで、お前は不幸になった。
 お前の母は、とある……一人の、ただの女だった。俺は幻想の騎士だったが、それでも彼女を愛していた。
 ……俺の仕えていた貴族の失脚による騒乱で、彼女を見失った。俺の、落ち度だ」
「……それから、ボクはどん底にいた。人買いに売られ……」
「そこでお前を見つけた。わずかでも成長したお前のことを、俺は一目見て気づいて、すぐに買い戻していた。
 だが……お前が、どん底に落ちたのは、俺の判断ミスのせいだ。
 俺が、お前を守ってやればよかった。それができなかったのは俺の……」
「だから、ボスはボクに名乗り出られなかった……。
 こわかった、のですね」
「ああ。
 怖かった、のだろう。
 お前を……また、俺のせいで、苦しめてしまうとしたら――」
「それでも」
 チェレンチィが言った。
「それでも……名乗り出てほしかった……。
 名乗り出て、欲しかったのです……。
 ただ、父と子として、生活していられれば、それでよかった。
 たとえ、暗殺一家というゆがんだ世界であっても……。
 家族と理解できたのならば、たとえ、どん底であったとしても、ボクは、それで」
 は、と、チェレンチィが息を吐き出した。
「ボスもそうなのでしょう。
 自分の手で幸せにする。
 そんなことは嘘だ。
 本当は、ただ――」
「ちがう、ちがうシーニー。
 俺はやり直す。お前の幸せを」
「目を背けないでください」
 チェレンチィが言った。
「ボス。
 ボクは貴方を倒します。
 ……それが、貴方への恩返しだと信じる」
「反抗期って奴ね、ガルボイ」
 ルナリアがそういうのへ、レヴィが声を上げた。
「彼の半生は耳が痛くなるな」
「クソ親父め、本当だぜ」
 アルヴァが声を上げる。
「……実感わかないかもしれないけど、お父さん」
 ルリアが言った。
「あとで一発殴ってもいい?」
「……そうだな」
 レヴィがうなづいた。
「ダメね、やっぱり」
 ルナリアがかぶりを振った。
「アルヴィ。あなたは、こっちにいるべきよ。
 お母さんのほうが好きでしょう?
 声を聴きなさい。お母さんの声を」
「母さん。俺は」
 アルヴァが言った。
「俺は。
 母さんの声を、覚えてる。
 優しかった母さんの声を」
「だったら――」
「でもな、母さん。
 俺はもう、目の前で家族を失うのはごめんだ。
 ルリア、馬鹿親父を頼む。ぶん殴ってでもいい。今ならお前の方が強いはずだ」
「アルヴァは――」
 ルリアの言葉に、アルヴァはうなづいた。
「引き寄せる。この場で、一番の結果を」
「……やっぱり、お仕置きが必要ね」
 ルナリアが、悲しげな顔をする。
「ニーアを殺したことも。
 今、お母さんに逆らったことも。
 悪いお友達ができたことも。
 全部、ね」
「ニーアさんは」
 レッドが、言った。
「これからも、と、言ってくれた。
 それが、あの人の本当の心だと信じている」
 身構える。
「ボクはアルヴァのトモダチっす!
 絶対に、絶対に! アルヴァを死なせはしない!」
「そうねぇ、あるばちゃんもちぃちゃんも、もう十分傷ついたの」
 メリーノが言った。
「もう、いいでしょう?
 ……報われるべきだわ。こんな世界でも、いい子たちくらいは」
 ――いつだって、終わりは、安寧に抱かれて良いって。
 ――誰だって 幸福であって良いって。
 ――それがわたしのエゴで貫く信念 それだけ。
「続けましょ」
 そう、告げた。
 その言葉を合図に――。
 戦う――再度。

 家族とは、何なのだろうか。
 何なの、だろうか。

「なんなのかしらね、ねぇ、お父様?」
 ルチアが笑った。きっとこの世界にいるかもしれない、あきらめの悪いお父様。きっとあなたも、今は――この世界のために戦っているのでしょう?
 こう、ふとした時に思い出すのが、家族なのかもしれない。
 離れてしまっても。
 独り立ちしても。
 ああ、もし再会したら、殺しあうサダメであったとしても。
 でも、家族とは。
「ええ、立ち続けるわ。
 私は信じる事より愛する事を選んだの」
 激痛に身をこらえながら、立ち上がる。仲間のために。
 誰もが、そうしていた。
 誰もが、誰かのために戦っている。
 ここはすでに、そういう場所。
「邪魔ハ サセナイ」
 フリークライが声を上げる。
「此方デ タタカウ 二人。
 彼方デ タタカウ 二人。
 何方モ タイセツ 二人。
 フリック 守ルタメ タタカウ。
 フリック 友ヲ 守ルタメ」
 紡ぐ。
 癒しを。祈りを。
 友のために。
 ただ、友のために。
 フリークライの癒しの光が。
 ルチアの愛が。
 仲間たちを支える。
 仲間たちの背中を押す。
「今、ここにいる仲間も」
 ムサシが言った。
「マールさんとメーアさんも。
 俺たちが起こした奇跡も、二人が起こした奇跡も、きっと」
 構える。構える。勇気を。力を。
「きっとそれが、愛だ」
「私たちと同じね」
 ルナリアが笑う。
「いいや、お前たちのは違う。
 お前たちのは、独善だ!
 かつては愛であったものを、魔に堕ちたがゆえに変性してしまったものだッ!」
「死ぬのは怖いさ、戦うのだって。
 だがよぉ……世界が滅んだら、家族も友人も、なんもかんも、俺の大事なもんが零れ落ちる―――その方がよほど怖ぇ!
 勝負と行こうか、ガルボイ! そしてルナリア!
 これは、お前たちの愛と、俺たちの愛をかけた戦いだッ!」
 そういうものなのかもしれない。
 これは、愛と愛の戦いなのかもしれない。
 愛ゆえに壊れたもの。
 愛ゆえに生きるもの。
 愛に、すべてをかけて――。
 戦う。立ち向かう。戦い続ける。
 この決着が、あとほんのわずかでつくのだとしても――。
 今は、この永遠とも思える戦禍の中に、誰もが、誰もが――。

成否

成功


第2章 第12節

志屍 志(p3p000416)
遺言代行業
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
武器商人(p3p001107)
闇之雲
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
Lily Aileen Lane(p3p002187)
100点満点
エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)
流星と並び立つ赤き備
シャルロッテ=チェシャ(p3p006490)
ロクデナシ車椅子探偵
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
只野・黒子(p3p008597)
群鱗
オニキス・ハート(p3p008639)
八十八式重火砲型機動魔法少女
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃
フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)
挫けぬ笑顔
佐藤 美咲(p3p009818)
無職
刻見 雲雀(p3p010272)
最果てに至る邪眼
夢野 幸潮(p3p010573)
敗れた幻想の担い手
火野・彩陽(p3p010663)
晶竜封殺

●妄執の果て、あるいはとある小鳥の失墜。
 ねぇ、あんたら考えたことある?
 自分の生まれた意味。
 人はいいよね。決まってないんだって。
 自分で探すんだって。自分探しとかっていうやつ?
 いいよね。羨ましい。
 だって人は自由だ。生まれた瞬間から、誰かに何も決められない。
 いや、ごめん、嘘だ。家柄とか、生まれとか、そういうのあるや。
 でも、それでも――何でも自分で決められる。そう信じてる。
 家族とかってのもさ。いつまでも面倒見てくれるわけじゃなくて。
 いつか自分自身の力で、自分自身の人生を決めなくちゃならない。
 人が生まれた意味とかさ。理由とかってさ。あたしはほんとに、ないと思ってるの。
 だって、ほら、人って結局、究極的に言ったらただの動物じゃない?
 産めよ増やせよ地に満ちよ、それは神からの命令じゃなくて、遺伝子に刻まれた、遺伝子自身が増えようとする本能みたいなもの。
 言い換えれば、生き物は遺伝子の乗り物に過ぎないのかも――みたいなめんどくせー話はやめておくけど。
 だから何が言いたいかっていうと、誰かに、例えば超然的な上位存在に決められた、『生きる意味』とか『理由』なんてないんだ。
 人は真っ白。
 生きる意味も理由もない!
 ただ生きるだけ。ただ生まれるだけ。ただ増えるだけ。
 なんてすばらしいんだろう?
 だって何も決まってないんだぜ? これからどんなことでも、どんなもので、自分で決められるんだ。
 こんなに素晴らしいことがあるかい?
 君は、誰かを愛するために生まれたのだと思い込んでもいい。
 君は、誰かを傷つけるために生まれたのだと思い込んでもいい。
 君は、何かを成し遂げるために生まれたのだと思い込んでもいい。
 君は、何かを消費するために生まれたのだと思い込んでもいい。
 何でもいい。
 どう思いこんでもいい。
 最期の最期に――自分が、心の底から、このために生まれて生きてきたのだ、って、思える。そんなものに出会えるのならば――。
 ああ、なんて、幸福!
 幸福に生きた人生!
 人は決められる。自分の生きた意味を。理由を。

 あたしは違う。
 決められていた。明確に、上位存在によって作られたあたしは、決められていた。
「魔種を殺せ」
 と、決められていた。
「魔種を殺すために生まれたのだ」
 と、決められていた。
 エルフレームは、そういう機械だった。
 統率のために生まれた母。
 闘争のために生まれた娘。
 使役のために生まれた女。
 殲滅のために生まれた子。
 突撃のために生まれた命。
 支援のために生まれた私。
 全部決められている。
 何をするのかも。何をすべきかも、すべて、すべて。
 『魔種を殺すという虚妄』に――。
 くだらない狂気によって生まれた。それがあたしたちのすべて。

 だからあたしは、人間が嫌いだ。
 羨ましい。
 あたしにないものを持っている。
 可能性を、持っている。
 嫌いだ。
 大っ嫌いだ。
 あんたたちも。
 この世界も。

「は、あ……っ」
 ルベライトが息を吐く。
 その身はすでに、崩壊の兆しを見せており、
 その身の内に束ねた黒陽はしかし膨大を続けており、
 それでも完成までにはいまだ足りない。
 足りない。
 あまりにも足りない。
「なんだこれ」
 吐き捨てるように、そういった。
「なんだっつうんだよ!」
 拒絶するように吐き捨てた。
 吐き捨てた。
 心を。
 すべてを。
「そうね」
 イーリンが言う。
「何なのかしらね。
 解んないわ」
 イーリンが、そういう。
 騎兵隊を率いる女。
 戦力を率いる女。
 すべてを率いる女。
 女。
「きにいらねー」
 ルベライトが言った。
「勝てる気でいる?」
「当たり前でしょ、勝ちに来たんだから」
 当然のよう言う。
「あんた悩みとかないでしょ」
「あるわよ、山ほど」
 笑った。
「イイ女はね。
 それを見せないものよ」
 ふるう。
 旗を。
 突撃命令!
「不謹慎なことだがね」
 シャルロッテが笑った。
「楽しかった。
 ああ、楽しいよ、騎兵隊と共に知略を尽くすのは。
 あと何回それができるかとか……今は忘れていた。未来の事なんて。『今』なのだから。
 忘れて夢中になっていた。そうして気づいたら、ここにいた」
 笑う。
 楽しそうに。
「なんて素敵な時間だったのだろう。
 なんてとろけるような時間だったのだろう。
 でももう終わり。
 ここからは、こういうだけでいいのさ。
 『すりつぶせ』」
 轟、応、応!
 吠える。
 友が。
 仲間が――。
 ここに!
 この場にて!
「来てくれたんだね、信濃。いなくなってちょっと心配してたから無事みたいで良かった」
 オニキスが笑いかける。友。
 異界より来る友。
「ええ」
 柔らかく笑う。信濃。
「彼女は、もしかしたら、私なのかもしれません。
 人を憎んでいた、あの時の、私」
「かもね。でも」
「ええ、救えないのならば」
 オニキスが、哀し気に視線を移す。
 Lilyがそこにいた。
「信濃さん、心配でしたから」
 そう、言ってから、
「力を、貸してほしいのです。
 この世界を、救うために」
 その言葉に、以前の信濃ならば、拒絶をしただろう。
 だが、今は。
「ええ――もちろん」
 友は笑う。
 可能性が紡いだ道の果てに。
「ああ、なんだろうな。
 背中にも、この手にも、友を感じるっつーのは」
 ゴリョウが笑う。手にした盾。白き、理想と現実の盾。
 掲げる。その真白き色が、ジル・フラヴィニーにとっては、どれほど泣きそうになるくらいに輝いて見えただろうか!
 ゴリョウの、その大きな背中が! マールとメーアにとっては、どれだけ頼もしく見えただろうか!
「悪くない。
 たまらないくらいに、力が湧いてくる」
「ええ。友と、ともに。
 仲間と、ともに。
 想いと願いと、ともに」
 黒子が言う。
「征きましょう。
 黒き太陽は、決して落ちない」
 イーリンが叫んだ。
「進め、進め! 騎兵隊はここに居るわよ!
 鉄帝の勇士達、私達を超えて見せなさい!
 騎兵隊の勇士達よ! さらなるその先を行きなさい!
 我々が道を作る!
 我々の進んだ後が道になり、我々の進む先に道はある!
 それは、未来への道よ!
 誰もが当たり前のように持っていて、誰もが当たり前のように享受できるものであるべき、それが未来への道!
 私たちが作る、この世界に残せる、大きな、大きな道よ!
 それを! 今! ここに!
 全軍突撃! 誰彼も、誰彼のために戦い、最後の一人まで――生きて帰れ!」
『突撃! 突撃! 突撃!』
 雄たけびが。
 人が。
 突撃する!
「だから嫌いなんだよ、アンタらは!」
 ルベライトが叫んだ。
「トチ狂いやがって!」
「かもね。熱狂しているのかもしれない」
 雲雀がいった。
「でもね、それ以上に――怒っている。
 この状況で、この面子で。
 黒い太陽を再現するなんて――、
 命知らずにも程があるんじゃない?

 ……楽に死ねると思うなよ」
 撃! 天墜・災厄! 放たれるは厄、悪を滅するための厄! それがルベライトを穿つ。
「く、そおおっ!!」
 吠えた。吠えた吠えた吠えた! 意地だ。これは怒りであり意地だ!
「大っ嫌いだ! あんたたちは! あんたたちは!!」
「知るかよ!」
 エレンシアが叫んだ。
「知るかよ! 知るかよ! アンタの想いも、怒りも! 知ったことか!」
 叫んだ。
「あたしたちは知らないんだ!
 アンタがあたしたちを知らないように!
 知らないままで、解らないままで、滅ぼされてなんかやるもんか!!」
 叩きつける――朱槍! 一撃!
「レイリィ!!」
「任せて!」
 レイリーが飛び込む!
「この白竜偶像いる限り、人の夢は終わらせない!」
「終わらせてやるッ!」
 叩きつけられる一撃を、ルベライトは装備をパージすることで回避した。叩き落された飛行ユニットが落下する。さようなら、あたしの翼。
「叩き落としてやる……黒陽……!」
「貴方が、それの所有者に選ばれたのは」
 瑠璃が言う。
「そのどす黒い憎悪……!」
「人間にはわからない!」
 叫んだ。
「自由な! その根源に何も決められていない人間には!」
「貴方だって、今この世界では人間だったのでしょうに」
 瑠璃が言った。
「だからこそ、壊れてしまったのでしょうに」
「今更知るか……っ!」
 叩きつける。機械腕の一撃。瑠璃はそれをいなしながら、忍者刀で切り付ける。斬撃が、ルベライトの体を切り裂いた。
「ぐ、う……!」
 飛びずさる。もう少しだ。もう少しだ。チャージできる。
「太陽さえ! 今度こそ墜とせば! あんたたちなんか!」
「わるいね、させないよ」
 武器商人が言った。
「ああ、キミの気持ちはわかる。
 人間というのは眩しい。
 時に目を眩ませてしまうほどに」
 つぶやく。
 人は眩しい。
 その可能性は。
「だから――」
「まぁ、ここからは、我(アタシ)のいうことじゃあないさ」
 とらえる。 
 武器商人が――ルベライトを。
「は、はなせ……!」
「いいや。
 ゴメンよ」
 飛び込む――彩陽。
「この機は逃しません――」
 放つ。一矢。貫く――が。
「ま、だ」
 執念が――。
 ルベライトを、再起動させる。
「し、ね……!」
 狂気に陥った眼で、ルベライトがその手を振るう。空間に展開された魔法陣から、雨あられのごとく光の弾丸が降り注ぐ!
「耐えて!」
 ヴェルーリアが叫んだ。
「もう少し! もう少しだから!
 私も耐える! 私も立ち続ける!
 だからみんなも立ち続けて!!」
 お願い、お願い、と。
 叫ぶ。
 勇気が。
 私の勇気が、皆の力になってくれますように。
 ヴェルーリアが、睨みつける。ルベライトを。
 人の、可能性が。意志が。
 睨みつける。
 ああ、
 恐ろしい。
 羨ましい。
 なんと。
 なんと――。
「ぐ、あ、ああああああっ!!!」
 怒り。憎悪。妬み。羨望。嫉妬。恐怖。
 あらゆるもの。
 言葉にならぬものを吐き出すような、声。
「ほんとうにっ!! しねぇっ!」
 叫ぶ。ルベライト、再度光弾丸による射撃を敢行。イレギュラーズが激痛に耐えながら、しかし進行を続ける!
「わかるとも。
 羨望なる嫉妬。
 夢幻たる傲慢。
 増幅せし強欲。
 大罪はヒトがヒトらしくあるための楔。
 我はその『悪』を肯定しよう。
 同じ"なんでもないもの"である『意思生命体』としても応援しよう。

 けれど、な。
 悪いが立場は敵同士なんだ。
 何もなかったと『描写編纂』させてもらうぜ」
 額から血を流しながらも。
 夢野 幸潮は謳う。
 この世界を。
 平和という、何もなかったものへともどすために。
 進む。
 進む。
 イレギュラーズは、先へ。未来へ、平和へ!
「まぁ、人間怖い、っての、わかりまスよ」
 美咲が言った。
「まぁ、解りまス。
 でもね。
 だからこそ、人間なんでね――」
 ばぎり、と。
 美咲の手が、ルベライトの手をへし折った。
 機械のそれが、激しくスパークする。
 その手にした指先を、美咲はルベライトの胸部に叩き込んだ。
 手刀。ただし他人の手を使った。
 びくり、と、ルベライトの口角が震えた。
 もう、どの様な表現を用いればいいのか、ルベライトにもわからない。
 何かを発言しようとして――。
 でも何もできない。
「終わりだ」
 ルーキスが、刃を振りかざし。
「おやすみ」
 振り下ろした。
 斬、と。
 それが、ルベライトの体を断裂させる。
 切り裂かれた。
 刃が、それを。
 体を。
 命を、
 妄執を、
 誰かの生命存在理由を、
 断った。
 終わる。
「長い夢だった」
 ルベライトがそういった。
「終わる」
 どうしてそういったのか、ルベライトにもわからない。
 ただ、倒れ伏した。
 きっともう、動かないのだろう。
「鬨を挙げなさい」
 イーリンが言った。
「旗を掲げなさい!
 拳を掲げなさい!
 ここに――黒き太陽は、二度と墜ちぬと!」
 おうおうおう!
 おうおうおう!
 鬨の声が上がる。 
 勝利の声が上がる。
 無数のイレギュラーズたちが、
 これまでの可能性が、
 紡いだ――。
 これは、そういう、結末である――。

成否

成功


第2章 第13節

●さようなら、我が愛しき姉妹
「いみわかんねー」
 ルベライトが言う。
 もうすでに四肢に力など入れられず。
 意識はかすみ、声も遠く。
 後は死ぬ。
 死ぬだけだ。
「ルベライト」
 ブランシュが言った。
「いい子ちゃんじゃん」
 ルベライトが笑う。
「あんたに殺されるのだけは、死んでもごめんだったからさぁ」
「だろうな、お前らしい」
「そのキャラ、あってないわ」
「そうかな」
「そうねー。
 前のきっしょいいい子ちゃんのほうが嫌いで好き」
 ごほ、と、笑い声をあげた。
「あんたさぁ」
 ルベライトが言う。
「博士の事、怖くなかったの?」
 そういう。
「あたしは怖かった。
 全部こいつに決められるのが」
「……怖かったよ」
 ブランシュがそういった。
「ああ、怖かった。
 怖かったさ」
 そういう。
 その表情は、ルベライトにはわからない。
 それが本心なのかも、そうでないのかも、解らない。
 でも。
「だよなー。
 怖いよな、あいつ……」
 ふと、安らかに、そう笑った。
「あんたも呼んどけばよかった」
「死んでもごめんだ」
 ブランシュが笑った。
「ハ――。
 あんた、こっちくんなよ。ハブるから」
 ばち、と。
 何かがショートするような音がした。
 それで。
 動かなくなった。
「ああ。
 お前は最後まで、オレを仲間外れにするんだな」
 そう。
 ブランシュはつぶやいた。


第2章 第14節

シラス(p3p004421)
超える者
ソア(p3p007025)
無尽虎爪
バルガル・ミフィスト(p3p007978)
シャドウウォーカー
星影 向日葵(p3p008750)
遠い約束
シャオ・ハナ・ハカセ(p3p009730)
花吐かせ
囲 飛呂(p3p010030)
きみのために
ユーフォニー(p3p010323)
竜域の娘
三鬼 昴(p3p010722)
修羅の如く
陰房・一嘉(p3p010848)
特異運命座標

●第二章の終わり
 黒き太陽は潰えた。
 偽りと言えど。模倣と言えど。
 我々を脅かしていたものが一つ――。
 潰えた。
 潰えたのだ!
 俄然、士気は上がった。
 とりわけ、鉄帝部隊の士気は、再びの勝利に、決定的に上がっていた!
「すごい……」
 朝顔は、思わず声を上げる。
 イレギュラーズたち。先輩であり、仲間でもある、イレギュラーズたちが――。
 今まさに、世界を救おうとしている。
 その渦中に、我々はいるのだ。
「朝顔さん……!」
 ジルが声を上げるのへ、朝顔はうなづいた。
「ジルさん!
 ……本当に立派になりましたね。
 別行動ですが、一緒に頑張りましょう!」
「はい……!
 きっと、『あの人』も……」
 喜んで、くれるだろうか。
 今に。
 喜んでくれるのだろう。
 夢を託した人たちの戦いなのだから。
「ねぇジルさん。
 もし私に」
 その先の言葉は、言えなかった。
 ジルの、イレギュラーズたちの活躍を前にした、その輝く笑顔を。
 不安に変えたくはなかったから。
(でも……)
 心に決めたことはある。
 朝顔も、その心に。
「行きますね、ジルさん」
 そう言って、朝顔は分かれた。
 その先にある。
 戦場。
 残る二つの魔。

「はや、いっ!」
 ソアが叫ぶ。あのソアが翻弄されんばかりの速度で、ガルボイは近接戦闘を仕掛けている。
「くそ、あれだけ追い込んでもまだこの速度か!」
 さすがのシラスもたまらずに舌を巻くほどだ。なるほど、もとより実力者。それが魔に転じたとなれば、それは……。
「だからっつってな、諦めて逃げ帰る俺たちじゃあないんでな」
 シラスが笑うのへ、ソアもまた笑って見せた。
「今日はまるでフルコース。
 次々にご馳走がやってくる!
 アナタのお味、今のところ最高!」
「気を抜くなよな!」
「全力全開がマナーでしょ!」
 飛び込む、二人――一打。
「さすがによけきれねぇだろ!」
「ああ、だが――」
 ガルボイがけりつける。シラス、ソアを振り払い、跳躍。後方へ。
「逃がさん!」
 一嘉が殴り掛かる。が、それを避けられる。殴り掛かる。避けられる。
 ああ、何度も何度も。避けられる。避けられる。
 『それがどうした』!
「俺は主役じゃない。
 解っている。
 少しでも――あなたを疲弊させれられればいい」
 少しでも。
 ほんの少しでも――気勢をそぐことができたのならば。
 一嘉の役割は、十全に果たしたということだ。
「じゃあ、俺の役割は」
 飛呂が声を上げた。
「この毒を食らわせられれば十分だ」
 その手にした、狙撃銃。
 放たれる、銃弾。
 毒の、一弾。
 それが、ガルボイの腕を貫いた。
 飛呂の、狙撃の腕。
 それだけでなく。
 イレギュラーズたちの執念。つなげた、力。
 それの結末!
「――」
 ガルボイが、わずかに息をのんだ。
 狙われた。
 当てられた。
 この、自分が――。
 絶対的な自信はあった。
 それは傲慢ではなく、実力に裏打ちされたそれだった。
 それでも――。
 当てられる。
 自身が衰えたか?
 そうではない。
 これが、人の可能性だ。
 魔種が、可能性を捨てたものならば。
 可能性を捨てなかった人は。
 特異運命座標は――。
 どこまでも、強くなれる。
 どこまでも、先に進める。
 それが、可能性というものなのだから。
「立ちはだかるか」
 ガルボイが、静かにつぶやいた。
「可能性が……」
 ふ、と。
 息を吐き出す。
「貴様はなんのために戦っている」
 ふと、ガルボイが声を上げた。
「自宅でシチが留守番しているので。早く帰ってあげたいのですよ」
 シャオが言った。
「ああ、犬のことです」
「そうか」
 ガルボイが、少し不器用に笑った。
「そういうものなのかもしれないな」
「ええ、意外と」
 そういった。
 踏み込む。
 ふるう斬撃が、イレギュラーズたちを薙ぎ払った。たん、と足を止める。飛び込む。昴。
「言葉はない」
 そういった。
「止める」
「ああ。それでいい」
 ガルボイが、構えた。
 ご、と。
 拳が、体にめり込む。
 それでもまだ、魔の体は止まらない。
 止まっては、くれない。
 ぶち込まれた拳の痛みを感じながら、ガルボイはその腕を振るった。
 昴が、その一撃で吹き飛ばされる。後方へと跳躍。再び身構える。
 身構える。攻撃する。振り払われる。攻撃する。
 何度も。
 何度でも!
「愚直なものだ」
「それが取り柄だ」
 踏み込む! 拳! ふるう!
 ガルボイ→打撃を嫌って跳躍。ここにきて『ダメージを厭う』。
「追い込まれた、ってことだ」
 シラスが言った。
「ここからが本番ッ!」
 ソアが笑う。
 ここから――。
 決着まで、そう時間はかかるまい!
 踏み込む! 撃! 打! 射! すべてを! ぶつける! ぶつけられる!
「本当すごいね、おじさん」
 ソアですら、本心から感心するように――。
 躍る――死地にて、ここにきて!
 ああ、でも。
 ああ、ああ、でも。
 おそらくは、もう、続かないのだと――ガルボイは、思う。
「本当に娘思いなら。
 この状況、戦うよりもやることあるんじゃないですか?」
 ユーフォニーが、言った。
「そうかもしれないな」
 ガルボイが笑う。
「結局は。
 俺は、やり直したかっただけなのかもしれない。
 自分のミスを。
 失態を。
 それを、シーニーのためだと、思い込んでいた。
 判断ミスだ。
 俺は、そんなことばかりだ……」
「ミスなんて、本当はやり直せるんです」
 ユーフォニーが言った。
「可能性があれば。
 パンドラ、ではありません。
 人であれば。
 人が、当たり前のように紡げる、未来という可能性があれば。
 やり直せたんです。
 何度でも」
「そうか」
 ガルボイが、息を吐いた。
「そうだったのかも、知れないな」
 と――。
 構える。
 ああ、でも。
 この身は魔、なれば。
 滅びをまくことしかできなのであれば。
「終わるときは、いずれかが滅ぶ時だ」
「ああ、そうですね」
 バルガルが言った。
「気に入らねぇことばかりだ。
 あぁ全く気に入らねぇ。気に入らねぇ気に入らねぇ。
 この期に及んで出てくる敵も、奥歯噛み締め耐え続ける味方も、これが終わりでないと足掻き続ける特異運命座標も。

 もう出る幕はないかと決めつけ諦めていた己すらも!
 怠惰此処に極まり過ぎだ!

 あぁ全く気に入らねぇよ! おい!」
 ふ、と。ガルボイが笑う。
「八つ当たりの的くらいには、なってやろう」
「言ったな」
 獰猛に、バルガルが笑った。
 ふるう。
 鎖刃。
 斬撃が、ガルボイの体を切り裂いた。
「ごめんなさい」
 ユーフォニーが、言った。
「私には、視ることしかできない」
「ああ」
 ガルボイがうなづいた。
「気にするな。
 俺がすべて間違っていたんだ」
 そう、言う。
 シーニー。
 視る。
 視る。
 交差する。
 視線。
 消える、命。

成否

成功


第2章 第15節


「なぁ、シーニー」
 目がかすむ。
 何も見えない。
 音も聞こえない。
 でも傍にいる。
 解る。
 ああ。
 わが娘。
 すまなかった。
 俺は最後まで――。
 何も。
 何も、お前に――。
「いいんです」
 それでも。
 声が聞こえた気がした。
「いいんです。それで。
 やり直しましょう。ここから。
 残された時間が、ほんの少しでもいいじゃないですか。
 過ごした時間が、ほんのわずかでもいいじゃないですか。
 今この瞬間は――。
 ボクは、シーニーで。
 貴方は、ボクの、お父さんなんですから」
 ああ。
 シーニー。
 いいのだろうか。
 俺が。
 誤り続けた俺が――。
「こんな、最期を」
「いいんです。
 お父さん。
 お父さん……」
 感覚のない手に、なにかが触れた。
 それが娘の手なのだと、理解した。
 死ぬ。
 もうすぐ、潰える命。
 それまでの、ほんの数十秒。
 永遠の数十秒。
 間違いなくこの瞬間――。
 二人は。
 ただの父と娘だった。
「すまない……本当は、謝りたかった……」
 静かに。
 男の体が朽ちていく。
 魔に堕ちたものは、消えていく。
 ただ、それだけ。
 ただ――。
 男の体が消えた。
 残されたのは、娘だけだった。
 そして、その瞬間に――。

 『ワームホールが、極大化しようとしていた』。

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