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シナリオ詳細

<終焉のクロニクル>剣を掲げ、勇気を胸に

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 世界は終わる。
 終わるべくして終わる。
 その『なにものでもない人間』は、鉄帝の帝都にて生まれ落ちた。
 何も持たぬ若者であった。
 勇気も、力も、心も――。
 強きものは、何もない。
 ないからこそ、憧れる。
 人は、飢えるからこそ、強くもなれる。
 もし彼に落ち度があったのだとしたならば――。
 『見間違えた』ことだ。
 あらゆるものを。
 見据える先を。選ぶ道を。己の才すら――。
 見間違えたのだ。
 眩しかった。羨ましかった。『ああなりたかった』。
 物まねのペテンは、所詮物まねに過ぎない。
 憧れは良い。物まねもよい。しかし最終的に、人はそれを脱却する何か、を得られなければならない。
 全剣王。鉄帝の誰もが知る、おとぎ話の王。
 『憧れ』。だが……気づくべきなのだ。
 『自分は、自分にしか、なれないのだ』、ということに。
 『自分は、誰か、には、なれないのだ』、ということに。
 それはとても素晴らしいことなのに――。
 人は目をくらませる。
 自分が嫌いだから。
 自分の嫌なところは一番見えるから。
 だから――。

「ぱっぱらぱー、居ないのか?」
 ふと、ドゥマはそう声を上げた。
 全剣王の塔の、玉座の間であった。
 背後に巨大なワーム・ホールを開き、世界との『戦争』との最前線であるこの場所に――。
 わずかに。
 眠っていたのだと、ドゥマは気づき――。
 よりにもよって、あの、『ぱっぱらぱー』の……ロザリエイルの名を呼んだことを、自分でも訝しんでいた。
 イカれた女である。そういえば、あの女は……『全剣王様が、他人の力を借りるなんて信じられない』などと言っていた気がした。
 『全剣王様なら、己の力で滅びだって成し遂げられるのに!』と――。
「……愚かな」
 ぐしゃり、と、全剣王は玉座の手すりを己の手で握りつぶした。
 この力も。この魔も。この地位も。
 『全剣王だからこそ得られたものだ』。
 全剣王になるために、得た、真似た、紡ぎあげた、無数の『借り物』が、今のドゥマと名乗る、名も知れぬ男のそれである。
 であるならば――。
 その名も知らぬ男には、もはや何の価値もないではないか。
 全剣王ドゥマであるからこそ、許される。ロザリエイル。貴様も『全剣王だからこそ付いてくるのだろう』。
 貴様の目は節穴だ、ぱっぱらぱーめ。エトムートめも……きっと、求めるものは『全剣王』であり、『自分』ではあるまい。
 『その男』が人間種(カオスシード)にある種の憎悪めいた拒絶の感覚を抱くのも、結局は、何者でもなかった自分への、激しい拒否反応に違いあるまい。
 尊大な羞恥。臆病な自尊心。
 その行きついた果てが――。
「……くだらん」
 『ドゥマ』は吐き捨てた。彼はもう、最強の全剣王、である。ならばそれでよいではないか。
「甘ったれたセンチメンタリズムに浸るとはな。
 目的達成を寸前にして気が緩んだか」
 ああ、くだらない。くだらない。あまりにもくだらない。
 吐き気を覚えるほどの、それ。全剣王になり切ったそれが抱いてはならぬ、弱き本当の自分のそれ。
「……くだらん」
 もう一度つぶやいた。
 それで終わりだ。
 もう、『その男』はいない。
 ここにいるのは、滅びをもたらす、最強ゆえにすべてを恣にできる。
 『全剣王・ドゥマ』なのだから――。


 ビッツ・ビネガー(p3n000095)。そしてアミナ(p3n000296)。そして『あなた』たちローレット・イレギュラーズ。彼らが顔を突き合わせているのが、全剣王の塔直下であり、そして無数の『終焉軍勢』と『鉄帝軍勢』が、果てしない衝突を繰り広げている戦場のど真ん中に間違いない。
「……始まるわね」
 ビッツが言う。それはおそらく、世界崩壊の時。今まさに眼前に迫りくる破滅、その最終楽章。
 先の戦いにて展開されたワーム・ホールは無数の終焉の軍勢を世界に放ち続けている。つまり、『ワーム・ホールとは、影の領域という敵の本拠地に繋がっている』という当たり前の事実がここに存在するわけだ。
 敵の本拠地に繋がっている。ということは、『ワーム・ホールを利用すれば、敵の本拠地に向かうことができる』。これも考えてみれば当たり前の話であるが、誰もこれを実行しなかったのは簡単な話で、あまりにも荒唐無稽であったからだ。
「Case-D。
 信託に謳われた絶対的破滅……。
 その顕現が、魔種たちの領域、影の領域だなんて……」
 最悪には最悪が通じるものか。アミナがわずかに震える手を抑え込みながら言った。あまりにも荒唐無稽な作戦。子供が考えたような『敵が通ってくるのならば、そこを通って敵の本拠地に行けばいい』という、あまりにも当たり前であまりにも無謀な作戦は、しかしそんな作戦をとらなければ、混沌世界の敗北が確定しているという、あまりにも極限状態であるからこそ採択された、乾坤一擲の最後の賭け、であった。
「アタシたちがやることは決まってるわ。
 『ワーム・ホールの確保』。
 敵地に部隊を送る意味でも、敵地からくる敵部隊を抑える意味でも、敵地に向かった部隊の帰り道を確保する意味でも。
 あらゆる意味で、この場で、全軍を以って、このワーム・ホールを確保し続けないといけない」
 ビッツの言う通りに、この場に集った『あなた』をはじめとするローレット・イレギュラーズ軍、そしてビッツの率いる鉄帝・ラドバウ闘士連合軍および、アミナの率いるクラースナヤ・ズヴェズター義勇軍……つまるところ、およそ『鉄帝が吐き出しうる最大の攻撃部隊』の目的は、それであった。
 この場を完全に確保する。
 あまりにも平易な言葉で語られる、あまりにも困難な作戦。
 無限とも思えるほどに吐き出される敵兵力をさばきながら、Bad End 8……『超強力』な魔種の一人である『全剣王ドゥマ』、およびその直掩の配下すべてを撃破してようやくなせる、まさに決戦級の一大作戦である。
「……幸い、ローレットの皆のおかげで、敵の疑似権能の一つ、『不毀なる暗黒の海(エミュレート・ラ・レーテ)』『不毀なる増幅(エミュレート・ルクレツィア)』は消滅した。敵の不死性はほぼ消えたようなものだから、だいぶ戦いやすくなってるはず。
 ただ、強毒の権能……『不毀なる廃滅(エミュレート・アルバニア)』はいまだ健在。
 全剣王が部下に権能を貸し与える『不毀なる分与(エミュレート・カロン)』があるならば、直掩の魔種たちが他の権能を扱う可能性は充分にある……」
「……使うでしょうね。おそらくは、バルナバスの権能……あの黒き太陽を」
 もしそうなれば、自軍の壊滅は免れまい。つまるところである。我々は、『不毀なる廃滅(エミュレート・アルバニア)』による強毒の付与に耐えながら、残る権能を打破し、最終的に全剣王をも打ち取らなければならない、というわけだ。
「情報によると、全剣王配下の直掩の魔種、その数は5。
 【エルフレームTypeTitan】ショール=エルフレーム=リアルト。これは『不毀なる廃滅(エミュレート・アルバニア)』の母体ですね。
 それから、『導滅の悪狐』ティリと、『夜闇の真影』エヴリーヌ。
 そしてルナリア=ド=ラフスと、ガルボイ・ルイバローフ……」
 強力な魔種五名の名を上げる、アミナ。この五魔は、確実にこの戦場に出現するだろう。それをも相手にしなければならないというのは、非常に困難な任務に間違いない。
「ショールか……ここで、すべての決着をつけよう」
 ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)が、静かに、手を握り締めながら言った。殺しあうサダメの姉妹。その最後の時は、もうじき訪れるのかもしれない。
「ティリ様……」
 沈痛な面持ちで、ニル(p3p009185)はつぶやいた。同じ思いを抱きながら、決して交わることのない目的を持つ彼とは、結局はここで、相対し、討ち滅ぼさなければならないのだ。
「……その楽しいを、みんなで共有できればよかったんだよ、エヴリーヌ……」
 悲しげに言うのは、セララ(p3p000273)である。エヴリーヌとも浅からぬ因縁のあるセララにとっては、その発露の場所はここに間違いない。
「……ルナリアの相手は、俺に任せてほしい」
 そういうのは、陣営の陰に潜むようにいた一人の男、レヴィ=ド=ラフスだ。
「……世界が滅ぶという状況で申し訳ないが、家族の問題でね。
 ……わがままを言うようだが」
「別に構わないわよ。戦力なんて、あればあるほどいいもの」
 ビッツが言う。
「……アルヴィ。辛いなら……」
 レヴィが言うのへ、アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)はかぶりを振った。
「黙ってろクソ親父。
 ……黙っててくれ。今は。今は……」
「……」
 その様子に、静かにチェレンチィ(p3p008318)も息を吐き出した。絡みついた悲しい糸が、ここでも縺れて悲劇を生み出すような気持だった。
「……無理すんなよ」
 紅花 牡丹(p3p010983)が、吐き出すように言った。
「オレは……くそっ、こんな時に気の利いた言葉すらいえねぇ。
 でも、オレは、そばにいる。絶対だ。だから、信じてくれ。頼ってくれ」
 牡丹の言葉に、アルヴァとチェレンチィは、少しだけ楽になったようにうなづいて見せる。
「あらためてまとめるわね。
 こちらの戦力は、鉄帝全軍およびローレット・イレギュラーズ。
 作戦目標は――簡単ね。『すべての敵の撃破』。
 もちろん、雑兵はアタシたちが相手をするわ。
 貴方達ローレット・イレギュラーズには、五人の魔種、そして全剣王の相手をお願いしたいの」
 そういうビッツに、『あなた』はうなづいた。
 あの、恐るべき、世界を否定する魔を倒すことができるのは、可能性の光を持つ、『あなた』たち……ローレット・イレギュラーズたち、だけなのだから。
「……可能な限り、私達が支援を行います。
 皆さんが、魔種との戦いに注力できるように。
 ですから、背中は任せてくださいね!」
 アミナがほほ笑んで言う。
「ええ、必ず」
 オリーブ・ローレル(p3p004352)が静かにうなづいた。
「いよいよ、決着の時です。
 せっかく、皆が一丸となって守った鉄帝です。
 今更、滅ぼされてたまるものですか」
「私も、今回は援護に回ります」
 メルティ・メーテリア(p3n000303)が言った。
「……もし、ご無事に帰ってきたら。
 戦闘スタイルを変えることを、ちょっと考えてあげてもいいですよ、愛無さん」
「ふん。嘘ばかりだ。エールを送るつもりならば、もっともらしいことをいいたまえ」
 恋屍・愛無(p3p007296)が笑って見せる。
「行きましょう、みなさん。
 きっと、これが……最後の、戦いになるはずです」
 柊木 涼花(p3p010038)が、ぐ、とこぶしを握り締めて、そういった。
 もうこれで、ありったけを出すつもりだ。きっとこの後に、この後にこそ、平和がやってくるはずなのだから。
「では、ここで奴らに見せてあげようか。
 あらゆる危機を突破してきた、ローレット・イレギュラーズの本当の実力をね!」
 マリア・レイシス(p3p006685)が笑う。
「先は全剣王の首を取り損ねたからな。
 ここで仕留めるのも悪くなかろうよ」
 仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)もまた、獰猛に笑って見せる。
「アラタメテ、あの物まね王に、ホントウの強さってものを教えてやろう!」
 イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)が、にぃ、と笑った。
 『あなた』もまた――。
 勇敢に笑っただろう。
 剣を掲げよ。勇気を胸にせよ。
 いざ、いざ――決戦の時!

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 決戦の時です。
 すべてを出し切ってください。

●最終成功条件
 『すべての敵の撃破』。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はEです。
 無いよりはマシな情報です。グッドラック。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●参加の注意事項
 ・参加時の注意事項
 『グループでの参加』を希望の場合は選択肢にて『グループ参加』を選択の上、プレイング冒頭に【チーム名(チーム人数)】or【キャラ(ID)】をご記載下さい。

 ・プレイング失効に関して
 進行都合で採用できない場合、または、同時参加者記載人数と合わずやむを得ずプレイングを採用しない場合は失効する可能性があります。
 そうした場合も再度のプレイング送付を歓迎しております。内容次第では採用出来かねる場合も有りますので適宜のご確認をお願い致します。

 ・エネミー&味方状況について
 シナリオ詳細に記載されているのはシナリオ開始時(第一章)の情報です。詳細は『各章 第1節』をご確認下さい。

 ・章進行について
 不定期に進行していきます。プレイング締め切りを行なう際は日時が提示されますので参考にして下さい。
 (正確な日時の指定は日時提示が行なわれるまで不明確です。急な進行/締め切りが有り得ますのでご了承ください)

●第一章状況
 ついに決戦が開始されました。
 皆さんの目的は、このフィールドの敵を全滅させ、ワーム・ホールの確保・維持を行うことです。
 そのためにも、まずは全剣王配下の魔種を撃破する必要があります。
 第一章にて戦うことになるのは、以下三名の魔種です。

 ・『導滅の悪狐』、ティリ ×1
  ニル(p3p009185)さんの関係者で、魔種です。
  ニルさんと同じく『おいしい』という気持ちを追い求める少年ですが、彼にとっての『おいしい』とは、誰かの苦痛や絶望、悲しみであり、決して相容れる存在ではないのです。
  狐火を利用した、苛烈な炎の魔術による近接戦闘を行います。

 ・『夜闇の真影』、エヴリーヌ ×1
  セララ(p3p000273)さんの関係者で、魔種です。
  もともと精霊種で、無邪気に『たのしい』を求める性分でしたが、反転したために、その『楽しい』は他者へ加虐したり、あるいは苦痛や絶望、悲しむ姿を見ることに変貌しています。相容れる存在ではありません。
  付近の精霊を利用した、精霊魔術を運用します。様々なBSを付与し、こちらを苦しめる術師タイプになるでしょう。
  
 ・【エルフレームTypeTitan】ショール=エルフレーム=リアルト ×1
  ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)さんの関係者。今回はコピー権能『不毀なる廃滅(エミュレート・アルバニア)』の維持母体になっています。
  高いHPを誇る、非常に場持ちのいいディフェンダータイプ。守って耐えて、背水の力で反撃してきます。
  また、彼女が存在する限り、毎ターンの初めに、すべてのプレイヤーキャラクターに『毒系列』のBSを強制的に付与してきます。コピー権能『不毀なる廃滅』の効果にあたります。
  彼女を倒すことで、コピー権能『不毀なる廃滅(エミュレート・アルバニア)』の効果は消滅します。外で戦っている、鉄帝兵士たちへの援護にもなるでしょう。

 この中で真っ先に討伐するべきなのは、『ショール=エルフレーム』です。コピー権能『不毀なる廃滅(エミュレート・アルバニア)』を持つ彼女の存在は今回同じ戦場で援軍として戦うビッツやアミナ、メルティといった鉄帝軍にとっても悩みの種です。この権能を散らすことができれば、彼らの援護にもなり、翻って皆さんが魔種との戦いに集中できるようになる、ということでもあるわけです。

 また、下記の通り敵兵士も無数に存在します。
 ・不毀の軍勢
 ・終焉獣
  魔種との戦いをスムーズに進めるためにも、彼らに対応する必要はあるでしょう。

 作戦フィールドは、全剣王の塔周辺。
 特に戦闘ペナルティなどは発生しません。
 作戦に注力してください。

 以上となります。
 それでは、ご武運をお祈りします。
 この世界に平和をもたらしてください。


同行者の有無
迷子防止用です。
単独行動か、グループでの参加かをお選びください。

【1】単独参加
単独での参加の場合は此方をお選びください。
基本的には、戦場で遭遇したほかの仲間と協力して戦うようなリプレイ描写にはなりますが、とくに強い意志で『完全単独行動を望む』場合は、プレイングにその旨をご記載ください。

【2】グループ参加
他の仲間ととくに連携をとりたい場合は此方を選んでください。
プレイング冒頭に【チーム名(チーム人数)】or【キャラ(ID)】をご記載下さい。

  • <終焉のクロニクル>剣を掲げ、勇気を胸に完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別ラリー
  • 難易度VERYHARD
  • 冒険終了日時2024年04月02日 22時05分
  • 章数3章
  • 総採用数259人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)
アネモネの花束
マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376)
涙を知る泥人形
星影 向日葵(p3p008750)
遠い約束


 走り出す――。
 誰もが。
 雄たけびを上げながら。
 勇気を胸に、剣を掲げ。
 いざや、いざや! 戦場へと!
 神よ、もし見ているのであれば。
 その目かっぴらいてとくと御覧じろ!
 あなたの定めし神託とやら、打ち壊すために走り出す――。
 人の群を!
 その一つ一つが、勇気ある輝き。勇気ある命。勇気ある友。
「ああ、そうだとも。そうだとも」
 ベルナルドは笑う。
「扇動してやろうかと思ったが、それもやめだ。
 ああ、ああ、そんなことをするまでもなく、誰もが雄たけびのままに突撃していくのだろう。
 アントーニオ! 私兵を借りる!」
「行け、行け、友よ」
 アントーニオは笑う。
「いずれも気高き鉄帝の民だ。一番槍など欲するところ。
 ま? 私は裏方のほうが好きな質なのでね。
 こういえばいいか? 背中は支えてやる、トラブルシューター。
 君も死ぬなよ、アーティスト。芸術家としての君は死ぬには惜しい」
「誉め言葉を有難うよ」
 ベルナルドが笑った。絵筆を振るう。指揮杖のように。描くのは、なんだ?
 英雄の戦いか。勇者の剣か。
「いいや、平和への道筋さ。行くぞ!」
 轟、と鉄帝の兵士たちが雄たけびを上げる。相手が無尽蔵に敵を補充する? いいとも、此方がその程度で折れると思うな!
「なんだな。そちらの失策は――単純なことだ。進行先に、この国を選んだことだよ」
 マッダラーが苦笑する。
「世界の滅び、それに燃えない精神性などは、この国の民は持ち合わせちゃあいない。
 それに、俺たちも――その程度であきらめるものか。
 見せてやるさ、『泥臭い戦い方』って奴を」
 マッダラーが獰猛に笑う――掲げる手が、己の魂を炎と具現する。
 泥の、炎。気高く、強き、何者にも染まらぬ、泥という色の、魂。
 最もマッダラーらしき、その輝きに、獣は引き寄せられずにいられまい。なにものでもない怪物たちにとって、それはあまりにもまばゆかった――。
「行け!」
 マッダラーが叫ぶ。無数の敵をひきつけながら、駆ける! 友とともに!
「最初から全力だ! 余力を残してなんていられないけど……!」
 仲間たちの様子を伺いつつ、ヨゾラは叫ぶ。全力を尽くさねば、倒せぬ相手の群れである。
 だが、全力を出し切っては、この先にたどり着けぬ旅路でもあった。
「まったく、難しいね……やることはシンプルなのに!」
 すべての敵を倒す! あまりにも鉄帝的な、シンプルで難しい最終勝利目標!
「けどね……僕にとって、この世界は大切なものなんだ!
 手を出して、手を出そうとして……滅ぼそうとして! ただで済むと思うな! 終焉の獣たち!」
 吹き荒れる星空色の泥が、終焉の獣を次々と飲み込んでいく。その泥に乗るように書けながら、朝顔ははるか遠くの『王を名乗る男』を見る。
「……嫌いなんですね。自分が。
 だから……塗りつぶしたくなる。自分を……」
 胸にうちに浮かぶ痛み。チクリとしたそれを感じながら、しかし朝顔は、その手を、武器を、勇気を奮うことを止めない。
「約束があるんです。
 それを果たすまで、この世界を滅ぼさせたりなんて、しない!」
 想いは違えど。
 目指す道は同じ。
 再び、この世界で明日を迎える。
 そのためにも――そのための、戦端が。
 ここに、開かれていた。

成否

成功


第1章 第2節

リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)
無敵鉄板暴牛
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
夜式・十七号(p3p008363)
蒼き燕
ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)
流星の狩人


「へいへい、決戦だぜオリーブさん!」
 ミヅハが笑いながら番えた矢を解き放つ。放たれた矢が、獣のような終焉獣の額をぶち抜くや、その死体を超えて騎士風の『不毀の軍勢』の一体が現れた。振り下ろされた刃を間一髪で回避するや、ミヅハが再度打ち放った矢が騎士の心臓をぶち抜く。
「ワンショット・ワンキル――」
 が、相手も怪物である。心の臓を貫いた程度では死ぬまい。動き出した怪物の斬撃を、しかし受け止めたのはサンディだ。
「へいへい、気を抜いてるんじゃねぇの?」
 サンディがその手を振るう。その手に握られたのは風。それをナイフにすることなどはたやすい。ふりぬかれたナイフは、騎士の首を一発ではねた。ゴロンと転がる。すぐに消えて、すぐに新しい騎士が飛び込んでくる。
「が! 害虫みてぇな奴らだな!」
「実際害虫だろうさ!」
 十七号が、手にした青の刃で、新規の騎士の片腕を切り捨てた。体勢を崩した状態の騎士に鋭くけりをぶつけてやってから、倒れた騎士の首に刃を突き刺す。
「だから、頭をしっかり潰しておくんだぞ」
「害虫だったら体だけでも動くんじゃない?」
 ミヅハがそういうのへ、十七号が、ふむ、という。
「なら、猫の出番か――?」
「ねこをなんだと思ってる、御主ら!」
 ほとばしる陰陽の光が、終焉獣と騎士たちをまとめて飲み込み、その光の内に消滅させる。が、まさに敵の数に切りはあるまい。
「やれやれ、ここまで数が多いのは久しぶりだな!
 まさに『死ぬほどしんどい(ベリー・ハード)』か!
 だが、雑魚には用はない! 疾く失せよ!」
 汰磨羈が叫び、再度刃を振るう。陰陽の斬撃が、戦場を分断するがごとく烈撃をみせ、獣を分断していく。
「十七号! ほれ、鬨をあげさせろ! こういうのは気合からだ!」
「ああ、ああ、理解している。
 さあ開戦だ。鬨の声を上げろ、勇ましき鉄帝の戦士たちよ!」
 十七号の雄たけびとともに、鉄帝の兵士たちがまた一歩、戦線を押し上げる――だが、異変はその時に起きた。体に激痛が走るのを、イレギュラーズたちも感じていた。内部が腐り落ちるかのような、強烈な毒のにおい……!
「ちっ、コピー権能か!」
 サンディが舌打ちをする。戦場にばらまかれる滅びの毒は、なるほど、強烈な毒素となって、内部からイレギュラーズたちを、鉄帝の闘士たちを襲っているようだった。
「俺たちは耐えられても、闘士たちが耐えられるかっていうとわからんぜ?」
 ミヅハが言う通り、この強烈な毒に長時間耐えることは一般人にはつらいだろう。イレギュラーズと言えど、これを受け続けてはじり貧になるはずだ。
「となると、やはり速やかにショールをつぶすべきですね」
 オリーブが言う。
「……あの時、仕留め損ねた相手です。
 因縁は他の方に在れど、自分にも『縁がある』というには充分でしょう」
「両方をしとめておければもっと楽だったろうが、敵の疑似不死をそげただけでも大金星だった」
 汰磨羈がいう。その言葉通り、敵の不死性に近いほどの生命力を与えるコピー権能を残していては、此方の攻め手に停滞をもたらしていただろう。となれば、あの段階でルクレツィア=エルフレームの撃破を優先し、そして成し遂げたことは限りなく最善に近い。
「では、その因縁を解消しに行くか、オリーブ」
 汰磨羈が笑った。オリーブもうなづく。
「ええ。サリーシュガーさん、力をお借りします」
「任せてください」
 リュカシスが穏やかに笑う。
「ええ、ええ。毒が何だというのが、なんだというのですか。
 そういうのは、根源を断つに尽きます。
 そのために、ボクはここにいるんです。
 皆さんと、ここに。
 皆さんとともに、この世界の未来を勝ち取るために!
 ええ、ええ、やることはシンプル。
 『すべての敵をやっつける』!
 やりましょう、踏み込みましょう!
 道を拓くのなら任せて。全力で参ります!」
 そう、力強く。笑う。
 友のために。友とともに!
「よし、では、邪魔をするでくの坊は片っ端から切り伏せるとしよう」
 十七号が、ゆっくりと刃を構える。
「いいですね。なんとも、パーティ戦闘という感じで心地よい」
 オリーブが笑った。
「この身、ただの冒険者なれど。
 ええ、ええ、今は英雄で得ると嘯きましょう。
 行きますよ、皆さん! 勝利を!」
 応! 仲間たちは叫び、その手に武器を握る!
 果たして、リュカシスを先頭に、一同は戦線深く切り込んでいく。彼らの行く後に道ができ、彼らの行く先にさらなる道が開ける。彼らが開いた道が、友の進むべき、新たなる道となっていく――!

成否

成功


第1章 第3節

セララ(p3p000273)
魔法騎士
紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)
真打
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し


「おらおら~! フェスっちゃうぜ!」
 体をむしばむ毒の痛みに耐えながら……いや、もしかしたら、今はそんなものは感じていないのかもしれない。ただただ戦場の高揚が、秋奈の頭の中を駆け巡り、痛みすら麻痺させていたのかもしれない。
「はっはっはーーーーッ!
 作戦目標、『すべての敵を倒せ』!
 こんなシンプルなことある!? いいねぇいいねぇ、最高だともさ!
 ほらほら紫電ちゃんもおくれんなだぜ!」
「ああ、任せな!
 ……無茶はすんなよ、秋奈!」
 紫電が隣をかけながら、強烈な斬撃をお見舞いする。ふるわれた刃が不毀の騎士を切り裂いた瞬間、その死体を飲み込まんばかりに、強烈な熱波が二人を襲った!
「ちっ……秋奈、こっちだ!」
「おっとぉ!?」
 とっさに引きずった紫電に引っ張られて、秋奈が体勢を崩す。その頭上を、かすっただけでも激烈だとわかる熱が抜けていくのが分かった。その熱は敵味方の区別なく、周辺のすべてを灰燼と帰すべく解き放たれる。
「……やべぇやつじゃん! どっちだ!?」
 秋奈が叫ぶのへ、くすくすと甘ったるい笑い声が響いた。
「ざんねぇん。焼いちゃおうと思ったのに」
「エヴリーヌの方か……!」
 紫電が舌打ち一つ。
「うん。きちゃった♪
 まあ、そうよねぇ。だって、ショールを守んないといけないみたいだしぃ。
 ほんとは、こういうのあんまり好きじゃないの。面倒だし。ティリもそうだけど……ほら。
 あたし、空気読めない子じゃないからぁ♪」
 その手を振るえば、次に周辺の冷気の精霊が励起され、強烈な冷波を巻き起こす。それは触れるだけで肌を切り裂く、ダイヤモンドダストの冷気だ!
「……! 精霊術……!」
 さしものルチアも、わずかに表情をゆがめる。エヴリーヌの扱う精霊魔術は、人外のそれであることを、ルチアは刹那の内に理解していた。
「……精霊を引っ張って妨害できないかと思ったけど、強制力が強いわね」
「少しでもやってくれると助かるわ。だってめちゃくちゃだもんあれ」
 秋奈が言うのへ、紫電がうなづく。
「最悪なのは、エヴリーヌとティリがショールの戦線に合流することだ。
 あいつらをまとめて相手にするのはしんどい……ってことで、足止めを始めるぞ」
 身構える――そこへ、飛び込んできたのは、一つの影。
「あ、セララじゃん♪」
 エヴリーヌが笑う。飛び込んできた魔法少女は、ゆっくりと聖剣を構えた。
「……考えたんだ。キミのこと。
 『たのしい』が、反転してしまったんだよね。
 ……でも、昔感じていた『たのしい』ってこと、きっと残ってるって、信じてる」
 だから、と、セララは構えた。
「キミを倒す。それは変わらない。
 ……でも、その中で、少しでも、キミに手を伸ばせれば。
 ねぇ、エヴリーヌ。ボクの『たのしい』は歌ったり踊ったり美味しい物を食べたりなんだ。
 それから、強敵と戦う事かな。エヴリーヌ、キミはとっても強くてバトルが『たのしい』!
 できれば……これからも、一緒に戦って、一緒に強くなりたいって、思ってしまうくらいに。
 ……これが、ボクの楽しい。キミの楽しいを、キミの本当に楽しかったことを、教えて。
 ――全力で行くよ、エヴリーヌ!」
 構える。笑う。たのしい、を、伝えるために。
「あたしはぁ、セララが苦しんでくれれば一番楽しいんだけれどなぁ」
 甘ったるく、腐ったようにも感じられる、笑み。
 笑う。エヴリーヌ。
「……とめるわよ、あれを」
 ルチアが言った。
「絶対に。
 ……この世界を救うために」
 その決意とともに――まず、一方。激戦が始まった。

成否

成功


第1章 第4節

アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
無限円舞
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
胡桃・ツァンフオ(p3p008299)
ファイアフォックス
八重 慧(p3p008813)
歪角ノ夜叉
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
レオナ(p3p010430)
不退転


「ねぇ、いま、この瞬間!
 僕はすっごく、『おいしい』って感じる!」
 笑う。それは、笑う。
 破滅を導く狐。『おいしい』という絶望を求める悪狐。
 ティリ。魔種に、魔に、堕ちた、一人の子。
 戦線深く切り込んだイレギュラーズたちは、エヴリーヌ、そしてティリと邂逅していた。当然といえば当然であろう。ショールは疑似権能を持った要――なれば、この二人が援護に動き出さないわけがない。
 幸いというべきか、戦線突破を行い、ショールを狙うイレギュラーズのほかにも、このティリとエヴリーヌを抑える役目のメンバーはいた。イレギュラーズたちの作戦では、ショールを最優先にするものと思われるが、しかしティリとエヴリーヌ、この強力な魔を放置しておくことはできない――。
「ボクはね、ドゥマに用があるんだよね!」
 焔が笑って見せる。
「ロザリエイルちゃんの好きな人っていうから、そのことをちゃんとわからせてあげないと!
 というわけで――君の炎じゃ、ボクは滅せないよ!」
 交差する――炎。狐火と、焔の炎。期せずして相対した、二つの魔と神の炎は、世界の終末を目前として強烈に巻き起こり、爆裂を巻き起こしていた。
「苦痛や絶望が美味しいのですって? ここは最高の戦場でしょうね。けれど……!」
 爆炎の中を切り裂くように、アンナが突撃する!
「私達の勝利で直に味わえなくなる。幸せな内に倒れておきなさい!」
 ふるわれる水晶剣は、対比するかのような涼やかな冷剣の斬を打ち放つ。ばぢばぢと、炎と冷気が反応して、無数の小規模な爆発を引き起こした。
「あはは、怖いね! でも、その怒ってるのもとっても『おいしい』よ!」
 ティリはあざ笑うように笑う。アンナの内腑を、疑似権能の毒が焼いているのを、ティリは知っている。アンナが激痛を隠しながら戦っていることも。
「趣味が悪いって言われない!?」
 焔が吠える。アンナが一気に踏み込んだ。
「改めたほうがいいわよ……もっと穏便な趣味にね!」
 ふるわれる、二人の撃。しかし、それでもティリを落とすには届かない。
 そして、ここにも炎の狐が一人――。
「なんとも、大騒ぎな炎ね」
 胡桃がコャー、と鳴いて見せる。ぱちん、と指を鳴らせば、強烈な蒼炎が巻き起こり、狐子を狙った。
「……あれ? 君、もしかして同類かな?」
 楽しげに笑って見せるティリが、その手を振るう。狐火が滅炎と化して、胡桃の蒼炎を吹き消した。
「そうね。
 炎属性と狐属性とグルメ属性までキャラが被ってる元精霊種っぽいの……。
 いやな運命、という感じ。
 でもね、きっと、そなたの『おいしい』とわたしの『おいしい』は違うものなのね。
 わたしにとっての『おいしい』は、みんなが幸せになるものだから。
 そう信じるがゆえに、今ここにいるの」
 二つの、いや、三つの炎が交差する。それは周囲を飲み込まんほどの熱量を巻き上げ、苛烈な炎圏を巻き起こす!
「……! 下手に近づいたらのみこまれるっすね……!」
 慧が苦笑する。かの、三人の炎使いの絶圏。さらには、その炎の中においても解けぬ冷剣使いであるアンナ。この四人の苛烈なる輪舞に、下手な使い手ならば飲み込まれて何もできずに死ぬだけだ。
 とはいえ。慧は『下手な使い手』などではない。
「さぁて、海の加護を――マールさん、メーアさん。きっとお二人も、どこかで戦っているのでしょうね。
 今だけは、どうか、力を貸してください。
 ……あの炎に、カチコミをしかけるっすよ」
 慧が踏み込む――ティリがその存在を認識し、
「いいよ、君からこんがり『おいしく』してあげる!」
 ふるう炎を、慧は受け止めた。
「こんがり? ハッ――この程度でローストされるほどヤワじゃないんすわ」
 にぃ、と。笑って見せる。その背後から、一気に飛び込む、影――。
「悪狐か! ここで仕留める!」
 レオナだ! その全身に浮かぶ紋様は、レオナの戦意の表れに間違いあるまい! 飛び込むように振るわれる長剣を、ティリは狐火のカーテンで受け止めた!
「ねぇ、飛んで火にいる、って言葉知ってる?
 ドラゴンみたいな人が飛んでくるとは思わなかったけど!
 きみはどんな風に『おいしく』なるのかな?」
「なら、教えてやろう。ドラゴニアは『死ぬほど不味い』ぞ!」
 レオナが、雄たけびとともに斬撃を完遂した。炎のカーテンを切り裂くようなそれを、ティリはしかし後方へと跳躍して回避――同時、飛び込む、もう一つの影――!
「ティリ様……!」
「ニル……!
 きみもきたの!」
 ふるわれる炎帯を、ニルは体を丸めて受け止めた。ちりちりと体を焼く炎の痛みを感じながら、叫ぶ。
「ニルは、やっぱりティリ様の「おいしい」は違うと思います。
 今ここがティリ様の「おいしい」なら、
 ニルは……ティリ様の食卓を、ひっくり返さなきゃいけない」
「きみは、僕と同じだよね。
 『おいしい』、が本当にわかる人たちがうらやましいんだ。
 だから、『おいしい』の真似っこをして、自分も一緒になれるって思いこんでいたんだろう?」
 諭すように、嘲笑するように。ティリは言う。
「ねぇ、ニル。もう我慢しなくていいじゃない。
 嫌いなんだよね。『おいしい』って笑う人たちが!
 憎いんだ、僕たちが感じられない幸せを感じられる人たちが!
 つらかったよね? 苦しかったよね? 寂しかったよね?
 だったら……!」
「違います……違います……!」
 ニルが、叫んだ。
「「おいしい」がわかるひと、ニルは確かにうらやましいです!
 「おなかがすく」がわかるひと、ニルは確かにあこがれます!
 わからないことはかなしい!
 おなじじゃないことはさみしい!
 あなたと、同じです! ティリ様!
 ニルと、ティリ様は、同じでした!
 でも……!
 でも……許せない、は違います!
 憎い、じゃないです!

 ニルに「おいしい」をおしえてくれたひとがいて……!
 味がよくわからないニルに、ごはんを作ってくれたひとがいて……!
 ニルは、とってもとっても嬉しかったから……!

 ニルは、この、ニルの「おいしい」をまもりたいから……!
 力を貸して、「おねえちゃん」!!」
 叫ぶ――その背に、ああ、その背に、勇気と力と想いを乗せて――。
 戦闘は、続く。

成否

成功


第1章 第5節

イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
黒星 一晃(p3p004679)
黒一閃
恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣
バルガル・ミフィスト(p3p007978)
シャドウウォーカー
一条 夢心地(p3p008344)
殿
天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師
三鬼 昴(p3p010722)
修羅の如く


「魔種との戦闘が始まったか……」
 一晃がつぶやく。同じ戦場なれど、少しばかり遠い場所。苛烈な炎、そして魔的な精霊術。二つの恐るべき『戦華』は、戦場の二か所にて強烈にその存在を発揮していた。
「こちらに来るか……あの二体に合流されればまずいだろう……な!」
 つぶやきつつ、裂ぱくの気合とともに終焉の獣を切り裂く。本隊ともいえるイレギュラーズたちは、未だショールを目指して進軍中である。当然のごとく防御は分厚いが、しかし仲間たちの果敢な援護もあり、ゆっくりと戦線は押し上げられて行っていた。
 その『果敢な援護』には、一晃のそれももちろん含まれている。未だショールそのものとは相まみえずとも、激しい戦闘は繰り広げられているわけだ。
「……ショールか。
 あの時討ち漏らしたもの、とはいえの」
 夢心地が嘆息する。奇妙な縁だとは言えた。とはいえ――。
「奇妙な――奇妙な娘ではあった。
 本来は、戦いを好むような性質ではなかったのかもしれぬのう」
 そう、誰にも聞こえないようにつぶやいた。あのショールという魔は、安穏を望んでいた。滅びまでの、静かな、安穏。だが、それは滅びを前提とした平和に過ぎない。結局は、我々とは相いれないのだ。
「……ブランシュ。この戦いで、何を見る……?」
 ともに戦った仲間を想う。ブランシュは、仲間たちともに、この戦場を突破せんと激闘を繰り広げているはずだ。
「なれば……麿もまた、全力で舞い踊ろうか」
 東村山の脇差を振るう。一歩。一斬。血路を開くために。
「行くぞ! この鬱陶しい毒を何とかしないとな!」
 昴が吠える。疑似権能は、未だ仲間たちを悩ませる強烈な『デバフ』に間違いはない。
「実際、仲間の闘士たちの行動能率も落ちている……」
 錬が言う。
「闘士たちも、回復なんかに戦力を割かれているからな。
 このまま押し切りたいところだが、勢いが足りない……!」
「闘士たちの力を借りられなければ、私たちも無尽蔵にわいてくる敵兵に手を焼く羽目になるからな……」
 昴の言う通りだろう。闘士たちもまた立派な戦力であり、トップエースであるイレギュラーズたちは、敵のエースである魔種への戦いに注力させたいところだ。が、闘士たちが攻めあぐねているならばそれもできず、結局はショールを殲滅する必要はどうしても出てくる。
「なんにしても、やるしかないわけだ……。
 気合を入れていくとするか!」
 ばし、と、昴がこぶしを打ち付けた。どの敵を狙おうか、などと考える必要はない。敵は視界の中に無数に存在し、適当に腕を振るっても敵にあたるほど、といってもいいだろう。
「食い殺す」
 愛無が言った。
「片っ端からだ。骨すらも残さずに」
 ふるう刃が、終焉の獣を薙ぎ払った。穿つ。切り払う。穿つ。切り払う。
 殺す。殺す。殺す殺す殺す。
 食い殺す。
「哀れな虎よ、君と会うのが楽しみだ」
 愛無が、笑った。
 虎よ、全剣王よ。
 精々そこで待っていろ。
 今は――。
「僕は勝てると思った勝負で負けるのが死ぬほど嫌いなんでね。
 まずは、食い残しから食べさせてもらう」
 そう、言った。
 果たして、イレギュラーズたちは戦線を突き進む。無数とも思える獣と軍勢を薙ぎ払い――先へ、先へ!
「見つけた!」
 イグナートが叫ぶ。果たして、そこにはショールと名乗る、どこかおどおどとした少女がいた。
「……! また、あの時の……!」
「久しぶりだね!
 リベンジマッチと行こう!」
 飛び込んだイグナートが、その拳をたたきつける。ショールの巨腕が、イグナートのこぶしを受け、叩き返した。
「どうして邪魔をするんですか……!
 私はただ、皆と静かに終わりを迎えたいだけなんです……!」
「アイニク、オレはそれはゴメンでね!」
 轟。号。合。打ち合う拳。イグナートと、ショール。二つのこぶしは、巨大な列車がぶつかり合うかのような、強烈な衝撃をたたきつけあう。
「……のんびり終わりを待つなんて性に合わない!」
「……どうして、そんな無駄なことをするんですか。
 世界は終わる。それは決して変わらないのに。
 ……嫌い、嫌い嫌い! 貴方みたいな人、嫌い!」
 激怒したかのように叫ぶショール――たたきつける拳が、イグナートを吹き飛ばした。入れ替わるように飛び込むバルガルが、不意の一撃を打ち込む。
「その権能のせいと貴方に関わる縁からも多数の相手が来るはずでしょう。
 ですのでねぇ、その方々が少しでも休憩できる様お付き合いお願いしたく。
 それくらいの覚悟あって、そんな毒吹き装置持って此処にいるのでしょう?」
 挑発するように言うバルガルの鎖刃が、ショールを突き刺した。くっ、と呻きながら、ショールはバルガルを全力で叩きつける!
「バルガル!」
 イグナートが叫ぶのへ、しかしバルガルはすぐに体勢を立て直すと、流れ出る血も気にせずに再び身構えた。
「所詮俺は影。強烈な光で消し飛ばされるだろう。
 だがな、影なら影らしく。背後なり足元なり、幾らでも付き纏ってやる。
 ……しつこいのですよ、自分は」
 いつものように――バルガルは怪しく笑って見せた。
 果たして、この時点で、三体の魔種との戦闘が開始されていた。
 戦場に――苛烈なる戦の華が、三つ――。

成否

成功


第1章 第6節

アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮
楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾
フリークライ(p3p008595)
水月花の墓守
ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)
航空猟兵
紅花 牡丹(p3p010983)
ガイアネモネ


 ――エルフレームとは何だったのだろう。
 ふとそんなことを想うのは、終わりが近づいてきたからか。
 そう。
 終わる。
 きっと、この因縁は。
 もうすぐ。
 航空猟兵たちの攻撃である。
 高度に連携のとれた一団は、この時、ブランシュを中心として、一気呵成の攻撃を仕掛けていた。
「――」
 何を見て。
 何を思ったのか。
「……なんで、反転なんかしちゃったのよ」
 戦場の果てで、ローズベリル=エルフレームはつぶやく。
「人類の幸せとか、なんで……なんで私たち(エルフレーム)が考えないといけないのよ!」
 答えは出ない。
 いや、きっと知っている。
 悲しいくらいに、皆人間だから。
 人間は夢を見る。
 これがきっと、人間であった彼女たちの、夢であるのだから――。

 剛腕が大地を揺らす。そのたびに、仲間たちに傷が一つ増える。
「ああ、ああ、くそったれ」
 牡丹が激痛をこらえながら、立ち続ける。
「でかい腕。デカいだけの手、か。
 きっと、違うんだ、それは。
 バカみてえにデカかったヒトをオレは知っている。
 あのデカさでなんでそんなに器用なんだよ、ってヒトだった。
 生まれつきじゃなかったはずだ。
 悠久の時の中で磨き上げた技術の数々だ。
 そうか。あんた、諦めちまったのか……全部……」
「分かったようなことを言わないで!」
 吐き出すように、ショールは叫んだ。
 諦観。
 罪があるならば、ショールの罪はそれであろうか。
 諦めたのだ……何か、大切なものを。
「だ、つってもな」
 アルヴァが顔をしかめながら言った。頭痛がする。ひどい頭痛。吐き気も。何もかもを、吐き出してしまいそうな、吐き気。
「そうだな。
 テメェの気持ちなんてわからねぇよ。
 ……だから、おあいこだ」
 きっと、此方の気持ちなんて、解らないのだから。
 諦観せずに、這ってでも明日を希求する、人間の気持ちなど――。
 解らないの、だろう。
「あんたのその諦観!
 オレ達で止めねえとな、茄子子!」
 牡丹が凄絶に笑うのへ、茄子子も少し悪い顔で笑って返して見せた。
「いやぁ、分かってないね牡丹くん。止めるだけじゃただただムカつくじゃん。
 私はね、3倍返ししか認めないよ!」
 ショールのふるう強烈な打撃。それを、茄子子は展開した障壁にて受け止めた。その衝撃が、反射するかの如くショールを穿つ!
「自分の力で自分を傷つけるのってどういう気分?
 私わかんないなぁ~~~?」
 おどけるように言って見せる茄子子。なるほど、牡丹も並んで、強力な盾役である。ショールは苦痛に呻く様子を見せながら、しかしその表情は明確な怒りのそれに変わっている。
「……なんで、邪魔するの。
 私の、私の、終わりを。夢を――」
「ショール。存在理由ト心ノ不一致 苦シムカ。
 我 君 心 分カラズ。
 我 存在理由ト心 一致。
 サレド 君 心 否定セズ。
 只 汝ノ願イ 我ガ願イ カチ合ウ故二」
 フリークライが、静かにそういった。茄子子が笑う。
「ムズカシイ話だ」
「多分、黙ってた方が空気読める、って言われるぜ」
 牡丹が苦笑しつつ、ショールからの打撃を受け止める。
「私の何がわかるんですか!」
 もう一度、同じ言葉を、ショールは叫んだ。
「これは! 私の幸せなの!
 私の幸せ……静かに、穏やかに、終わりを迎えたいの! 皆で……!
 邪魔しないで! 否定しないっていうならば、協力してよ!」
「……ソレハ 不可能」
 フリークライが、哀しそうな声色でそういった。
「……申シ訳ナイ。
 心カラ ソウ想ウ。
 君 ハ キット 悪ク ナイ。
 デモ。
 ソレデモ――」
 戦わなければならない。
 二人の夢は違うのだから。
 願う夢は違うのだから。
 この場にいる、我々の夢は。
 また、明日を見ることなのだから。
 明日を望まない貴方とは、相容れないのだから。
 それが、貴方のどれだけの絶望から来たものだとしても――。
「――決着をつけよう。ショール。
 俺たちの全てに。俺たちの信じた人類の幸福の為に」
 ブランシュが、そういった。
「……俺たちは、何のために生まれたんだろうな。
 そう考えることはある。
 ……もしかしたら、俺たちは、夢を見るために生まれたのかもしれない。
 夢を……人として、夢を」
 構えた。
 ショールもゆっくりと、構える。
 おそらく――。
 この夢が――どちらかの夢が潰えるまでに、そう長い時間はかからないはずだった。

成否

成功


第1章 第7節

戦場の状況が更新されています。
現時点では、以下のような状況です

※イレギュラーズたちは、戦場深くに切り込み、三体の魔種との交戦を開始しました。

※ショール=エルフレームは追い詰められつつあります。速やかに撃破を狙ってください。

※ティリとの戦闘では、戦力が拮抗しています。引き続き足止めを推奨します。

※エヴリーヌとの戦闘では、エヴリーヌがやや優勢です。
 こちらの不利が続けば、ショール側の戦場に合流される恐れがあります。

※味方鉄帝部隊の闘士たちは、『不毀なる廃滅』の毒素にはまだ耐えられそうです。


第1章 第8節

イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
武器商人(p3p001107)
闇之雲
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
ディバイン・シールド
エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)
流星と並び立つ赤き備
シャルロッテ=チェシャ(p3p006490)
ロクデナシ車椅子探偵
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
只野・黒子(p3p008597)
群鱗
オニキス・ハート(p3p008639)
八十八式重火砲型機動魔法少女
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃
フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)
挫けぬ笑顔
刻見 雲雀(p3p010272)
最果てに至る邪眼


 戦場に旗は翻る。
 ああ、見よ、見よ、あの勇敢なる姿を。
 圧倒的な魔の蠢く死地に、しかして敢然と立ち駆ける、無数なる勇者たちをみよ!
 人は、こう呼ぶ。
 ――騎兵隊、と。
 進む、進む、進む。
 進め、進め、進め!
 いざや、駆けよ戦場を!
「これが最後の戦いよ」
 イーリンは言う。
「出し尽くしなさい! 後はいらないわ!
 我らが行うは露払い。
 かの三魔に相対する、輩の背中を押すこと!
 腐るんじゃないわよ、騎兵隊!
 これこそ、これこそ! 我らのなすべき仕事なのだから!」
 叫ぶ。紫髪の戦乙女が――。
 その声は、先導の道先。
 その声は、背を押す鬨。
 ここに我らありと、騎兵隊ありと! 叫ぶは魂なる詩!
「ショール対応チームの突入を確認」
 黒子が言う。
「ティリ対応チームもまた充分。
 エヴリーヌ側がいささか薄い、かと」
「OK。エヴリーヌを抑えつつ、後続が向かうための道をこじ開けるわよ」
 にぃ、とイーリンが笑う。
「ちょっとした強行軍だけど――悪いわね、騎兵隊にとってこの程度の強行軍はいつもの事なのよ。知ってたでしょ?」
 ふ、と黒子も笑う。
「ええ、もちろん」
「ぶははははっ! いいねぇ、剛毅だ、豪気だ!」
 ゴリョウが笑う。
「だからこそやりがいがある。
 だからこそ守りがいがある!
 友もそれを望んでくれるだろうさ!」
 ゴリョウは頼もし気に、手にした白亜の盾をなでて見せた。
「力を借りるぜ!」
 がおうん! 吠えるかのごとく振り上げた盾が、大地にたたきつけられて白亜の輝きを放つ。
 聖盾よ、友を守れ! その白亜の輝きのもとに!
「これは『理想』じゃねぇ! オレの『魂(ホンモノ)』だ! 守り切る――そうだろう!?」
 その強烈な白亜の壁に、怪物たちが押しとどめられる。一瞬。
「突撃!」
 紫髪の戦乙女は吠える。
 走る――奔る! 轟、豪、轟! 高らかに大地を鳴らせ、踏み出せ、騎兵たちよ!
「騎兵隊が先駆け、赤備たぁアタシの事だ!
 雑魚共纏めてぶっとばしてやらぁ!!」
 エレンシアが吠える――飛び込んだ先にいた、四つ足の終焉獣を顔面から貫いてやる。そのまま放り上げて放り捨てる――それが絶命しつつ大地にたたきつけられた瞬間には、もうエレンシアは次の獲物へととびかかっていた。
「ハ――温いな! これが終焉か? これが不毀か!?
 ガキのままごとのほうがよっぽど高難易度(ベリー・ハード)だ!
 レイリー! ついてきな!」
「『ついていく』? 違うわね、私も並び立つ――いいえ、先に行く!
 私はヴァイスドラッヘ、レイリー=シュタイン!
 騎兵隊の一番槍で、鉄帝のアイドル騎士よ!
 しっかり覚えて朽ちなさいッ!」
 手にした赤い宝玉の杖を高らかに掲げる。生み出された混沌の泥が、混沌世界の大地の怒りが、終焉の獣を根こそぎ飲み込み、うち潰していく!
「ラストライブと行こうかしら、アイドルだものね!
 エレンシア、コーラスなんてどう?」
「いいや、あたしがメインボーカルだ!」
 にぃ、と笑いあう、二人。一方で、騎兵たちの攻撃はそれだけにはとどまらない。地を埋め尽くすかのような怪物たちを、強烈な光の砲が打ち貫く。放たれた光は次々と怪物たちを飲み込み、爆発ともに終焉を冠するものたちをこの世より消滅させた!
「目標は敵の殲滅と進軍ルートの維持」
 土埃の中に立つのは、一機の砲士。
「シンプルで分かりやすい。ぜんぶ、全力で、撃ち抜くだけだよ」
 オニキス・ハート。『八十八式重火砲型機動魔法少女』。その名のままに――。
「其れこそが私の本分。
 本領、発揮させてもらうよ」
 穿つ。放つ。撃つ! 放たれるは魔力の奔流!
「インフィニティモードに移行。
 マジカルジェネレーター、フルドライブ。バレル接続。固定完了。
 超々高圧縮魔力充填、120%。
 ターゲット、ロック。
 マジカル☆アハトアハト・インフィニティ―――発射(フォイア)!」
 ぶち抜く――戦場を! 光が!
「味方ながら呆れるほどの攻撃だね」
 くっくっとシャルロッテが笑う。頼もしきは仲間たちの力か。しかし、シャルロッテとて、ただそれに頼っているだけではもちろんない。
「このまま一気にぶち抜いてやるといい。
 エヴリーヌは近い――」
 シャルロッテの言う通り――果たして突撃を敢行する騎兵たちの前に、現れたのは甘ったるい気配漂わせる一匹の魔――。
「冗談でしょう?」
 エヴリーヌ! しかしその顔は、流石に不快気に染まっていた。
「そんな大勢でドタバタとなんて!
 無粋よねぇ」
 エヴリーヌが口をとがらせると、周囲の風の精霊が一気に活性化する。巻き上げた風は圧縮され、さながら刃のごとく騎兵たちへと降りそそぐ!
「おっと、斬られると痛いよ、皆」
 シャルロッテがそういった刹那、戦闘人形レギオンの内一体が、その斬撃を受け止めて見せた。かの人形の体が切り裂かれているのを目視する。相当の火力のようである。
「ふむ、やっぱり、魔種だね。
 一気に相手をするのは骨が折れそうだ――だから」
「わかってる! ほかのところに合流させたりしないよ!」
 ヴェルーリアが吠えた。勇敢に、勇気のままに、立ちはだかる。
「エヴリーヌさん……あなたは、私たちが相手!」
 叫ぶヴェルーリアへ、エヴリーヌは甘く笑った。
「ふぅん?
 ……いいよぉ? あなたをいじめると、『楽しそう』だものぉ♪」
 妖艶にして残虐なる笑み。幼さと淫靡さの入り混じった、悍ましくも色気のあるそれに、しかしヴェルーリアはひるむことなく視線をぶつけ返した。
「……誰かが苦しむのが楽しいんだってね。
 そんなの絶対、間違ってる」
「そうかしらぁ。
 あなたにもいるんじゃないのぉ?
 苦しんでほしい人とかぁ。
 死んでほしい人とかね。
 そういう人が辛い目にあってると、すっごくしあわせ、って思わない?
 あたしはぁ、そういう対象がすっごく多いってだけでぇ。
 あ、別に、誰かを恨んでるとか、そういうわけじゃないの。
 だって、あたし、みんなのこと、嫌いじゃないものね。
 ただちょっと――あたしを楽しませてほしいだけ。
 それだけよぉ」
「随分と歪んでるコだねぇ」
 武器商人は笑う。
「ま……それくらい壊れていたほうが、此方もやりやすいというものだけれどね。
 ああ、我(アタシ)も別に、キミのことは嫌いじゃないよ。
 お互い様だね」
 見つめる。
 お互い――。
「あ。
 あたしは、あなたのこと、あんまり好きじゃないかも」
 ふふ、とエヴリーヌが笑った。なにか、を感じ取ったのか。
「おや、残念」
 ヒヒヒ、と武器商人は笑った。

 ごううん、と強烈な炎が躍った。衆の炎の精霊に呼びかけたエヴリーヌが、強烈な爆炎をたたきつける。ヒヒヒ、と笑ったままで、武器商人はそれを受け止めて見せた。
 燃えない。壊れない。消えない。
 武器商人は不変。
「もう! だからきらい!」
 口をとがらせつつ、飄々とした様子を見せる武器商人にぶーぶーとぶーたれて見せた。
「さぁて、抑えるとしようか、皆」
 武器商人の言葉に、仲間たちは突撃を敢行する。
「全剣王と相対する前に、やられるわけにはいかない」
 ルーキスが吠えた。
「ここで抑える!
 だが……そうだ、貴方を倒すのは、俺たちじゃあない」
 ルーキスが言った。
「……足止めに徹するつもり? それってつまらなくないのぉ?」
 あざけるように言うエヴリーヌに、ルーキスは笑って見せた。
「いいや、最高の役目ですよ。
 子供には、まだわからないでしょうけれどね!」
 ルーキスの斬撃が、エヴリーヌを狙う。さん、と降りぬかれた刃が、エヴリーヌの放った氷の精霊の壁を強烈に断斬して見せた。
「ああ、それにね。
 こうも思ってるんだ。
 騎兵隊で、あなたを倒してもそれはそれでいい、とね」
「わがままね!」
「大人って、我儘なんですよ!」
 に、と笑って、ルーキスが刃をたたきつけた。エヴリーヌが後方へと跳躍する。
 間髪入れず、オニキスが、レイリーが、光と混沌の泥をたたきつけ、足を止めたエヴリーヌに、雲雀の蒼き焔の矢が突き刺さる。
「……っ!」
 わずかに顔をゆがめたエヴリーヌに、
「人を苦しめて喜ぶ、いい趣味してるね。
 おいたが過ぎる子に待っているのはお仕置きだけだよ。
 そろそろ大人しくした方がいいんじゃないかい?」
 雲雀が言って見せるのへ、エヴリーヌは笑った。
「……魔種(あたし)がこれくらいで死ぬと思って?」
「いいや?
 だから、君が倒れるまで。
 俺は撃ち続ける」
 その言葉通りに――。
 雲雀は間髪入れずの、追撃を放つ。
 戦いは、続く――。

成否

成功


第1章 第9節

セララ(p3p000273)
魔法騎士
古木・文(p3p001262)
文具屋
恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣
フローラ・フローライト(p3p009875)
輝いてくださいませ、私のお嬢様


 炎。
 風。
 氷。
 あるいは、『電気』すら――。
 ありとあらゆる敵意が、戦場を舞う。
 エヴリーヌ。夜闇の真影。暗いくらい闇の中で生まれた一輪の少女。
 暗いくらい闇の中で求めた光。
 楽しいとか。
 幸せとか。
 友達とか。
 それはずいぶんと、変わってしまったけれど――。
「あっはぁ♪
 あっはははははぁ♪」
 狂笑にも近い笑顔を浮かべる彼女は、なるほど、『幸せ』であるのかもしれない。
 ありとあらゆる精霊を使役し、ありとあらゆる悲劇をもたらす。
 それはもうそういうものだ。
 そういうものになってしまった。
 魔に堕ちるとは――そういうことだ。
「エヴリーヌ!」
 それでも、とセララは吠える。
 倒さなければならない! 解ってる!
 相容れない! 解ってる!
「ボクは苦しいよ。この戦場で皆が傷ついていく事が。全員を守り切る事ができない事が。
 でもね、エヴリーヌ。苦しいけれどボクは負けない。
 キミに本当の『たのしい』を思い出させてあげる!
 でもね、と! 何度でも言い続けてあげる!」
 軽快なBGM。それはまるで踊るかのような剣舞。手を伸ばす。シャル・ウィ・ダンス? だってキミは、そんなに素敵なドレスを身に着けている!
「セララ! もしかしたら、あなたといるときがいちばんたのしいかもしれない♪」
 エヴリーヌは笑う。
「ねぇ、ねぇ! 友達になって頂戴!
 一緒に『たのしいこと』しましょう?」
「友達はOK! でも、今のキミの『楽しいこと』はだめ!
 本当に楽しかったことを思い出そうよ!」
 吠える。斬りこむ。全力で――ここで終わりだと言わんばかりに!
「エヴリーヌの抑えは効いている」
 文は言う。
「あとは、ショールとティリだけれど……そこは、仲間たちを信用しようか」
 そう。ここはもはや、仲間たちを信用するしかない。
 そのうえで――全力を尽くすだけだ。
「とはいえ――何せ、ただの文具屋だからね。道具に頼るのも立派な戦法でしょう?」
 ふ、と笑って見せる――戦局を見る。そして、仲間を背中から支える。ありとあらゆる手段で。
「エヴリーヌか。どうもここは、悪食のそろい場らしい」
 愛無が言葉とともにとびかかる。獣の牙が、夜闇の華を喰らいつくさんと振るわれる。
「ティリの事でしょ? わかるぅ~」
「自覚なしか。それでこそ悪食だとも」
 横なぎにふるった腕を、エヴリーヌは飛び跳ねて避けて見せた。ちっ、とスカートの裾がえぐれる。
「当たったら痛かったかもね♪」
「なら、次は当てようか」
 ヴェルグリーズだ! ふるうは、星の瞬き。否、それを封じ込めた剣。夜闇を切り裂くは星の光か。斬撃がエヴリーヌを狙う!
「自身の快楽を得るために誰かを苦しめる者を俺は許さない。
 相容れない以上、ここでうち倒すのみだ」
 静かな、敵意。狙い、討つ、その意志――刃はエヴリーヌの腕を切った。服を裂いて、血が流れ落ちる。
「……! ひどい!」
「どっちが、ですか……!」
 フローラが叫んだ。
「『楽しい』はみんなで共有するもの……!
 あなたのそれは、誰かと一緒にできるものじゃない!
 そんなことは、間違っている……!」
 思い出す――あの、思い出の、『赫奕姫』を。きっと、世界が大変な今でこそ、かがやき、そしてその力を存分に振るっているであろう、あの輝きの姫を。
 なれば、今こそ、私も輝く。あの姫のように。家族に願われたように。
 そう、輝いてください、お嬢様。今こそ、優しき蛍石(フローライト)のように――!
「反転で歪んでしまった『楽しい』で苦しみを振りまくのなら、私が止めます!
 搾取する『楽しい』より、互いに与え合う『楽しい』の方がきっと大きくなるんですから!」
 そうだとも。
 どのような経緯があろうとも――。
 否定されなければならない。彼女は。
 誰かの苦痛を幸せにするなど――。
 あってはならないのだから。
 だから、輝け、イレギュラーズよ。
 絶望を打ち消すくらいに、ただ、ただ、美しく。

成否

成功


第1章 第10節

零・K・メルヴィル(p3p000277)
つばさ
オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
鏡花の矛
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し
物部・ねねこ(p3p007217)
ネクロフィリア
星影 向日葵(p3p008750)
遠い約束
ルビー・アールオース(p3p009378)
正義の味方
ムサシ・セルブライト(p3p010126)
宇宙の保安官
水天宮 妙見子(p3p010644)
ともに最期まで
三鬼 昴(p3p010722)
修羅の如く


 おそらく――。
 もう、この戦いは終わるのだろう。
 イレギュラーズたちの決死の戦い。
 己が傷つくことを厭わぬ、決死の撃。
 それが――。
 夜闇に咲く花を、確実に追い詰めつつあることに。
 エヴリーヌ自身も。イレギュラーズも。
 明確に、気づきつつあった。
「自分一人が楽しいなんて詰まらない。一緒ならきっともっと楽しい。
 でも貴方のそれは、相手も楽しいから程遠い。それは確かだよ!」
 ルビーが叫ぶ。駆ける―その姿、まさに紅き勇者!
「ここで止める! 貴方の、その悲しい運命も!」
「かなしい?」
 エヴリーヌが小首をかしげた。
「わからない……あたしは悲しくなんてないよ? だってこんなに」
 こんなに。
 こんなに――なんなのだろう。
「答えられないなら、きっと、それは間違ってるんだ……!」
 ルビーが、手にした深紅の月を薙ぎ払う。斬撃がエヴリーヌを裂く。痛みが、この時、エヴリーヌの体を駆け巡った。
「痛い……?」
 痛い、ってなんだろう。痛がられるのは、楽しかった。
 苦しいってなんだろう。苦しまれるのは、楽しかった。
 じゃあ、あたしは?
「やめて……!」
 エヴリーヌが叫んだ。
「触らないで!」
 叫ぶ。その痛みに。厭うように。
 呼応するように放たれた炎の精霊は、拒絶の爆炎となってあたりにまき散らされた。妙見子が、敢然と立ち向かい、その炎を受け止める。
「……すごいですね。
 でも、彼の炎のほうが、もっと強かった!」
 ふ、と笑う。
「ねぇ、エヴリーヌ様。
 変わらず、誰かの不幸を求めるのならば――。
 今、その不幸を、身をもって感じようとしているのならば。
 『お手伝い』させていただきます。
 私は――そんなに優しい女じゃないんですよ」
 笑う――それはまさに傾国の魔の笑みであったか。
 その指先より放たれる呪いは、まさに妖狐の呪であるか。エヴリーヌの体をむしばむ、呪い。痛み。苦しみ。憎悪。そういったものが――エヴリーヌの体を駆け巡る!
「感じますか? 怒り、苦しみ、嘆き……。
 この術はそういったものを練り上げて豊穣の術式と織り交ぜて凝縮したものです。
 ええ。これが、この苦痛が、貴方の『たのしい』の正体なれば――」
「だまって!」
 エヴリーヌが吠えた。
「ちがう、ちがう……こんなのは、ちがう!」
 吠えた。振り払うように、薙ぎ払うように、風の精霊を使役する。圧倒的な暴風が、イレギュラーズにたたきつけられる。
「水天宮先輩!
 貴女、世界を救えたら結婚式でしょう!?
 無茶しないでください!」
 朝顔が叫び、疲弊した妙見子をかばい立つ。
「あら、ごめんなさい……嫁入り前の体、傷つけたら彼が怒りますものね」
「冗句が言えるなら大丈夫そうですね。
 変わります! ねねこさん、治療をしてあげてください!」
「はいはい、まかせて!」
 ねねこが笑って頷き、治療の爆弾を投げ放つ。清廉なる爆風が、痛みと傷を吹き飛ばすようだ。
「あ! 妙見子さんとムラデンさんは結婚おめでとうございます! 式には絶対に行きますね!
 ふふ〜♪ ザビーネさんと一緒に後方親御面したり結婚式に参加する為に必要なら事(祝辞の言葉とか!)を考えたりしたいですね~~! 楽しみ!」
「スピーチはお願いしますね! お義母さまと一緒に!」
「……ふと思ったけどストイシャが俺の義姉ならムラデンが義兄になりそうだが……。
 お前ら結婚したら繋がりすげぇことにならね???」
 零が小首をかしげるのへ、妙見子が笑う。
「あ、子供たちがたくさんいるので、親戚もたくさん増えますね~!」
「どうなってんの?」
 零が笑う。
 笑う。
 笑う。
 戦場の中にあっても――。
 楽しそうに。
 幸せそうに。
「なんなの……」
 エヴリーヌが、吐き出すように吠えた。
「なんなの、さっきから! 何がしたいの! なんなの……!?」
「それが、幸せってことだよ」
 ムサシが言った。
「誰かを……誰かと、共有できる。
 それが、幸せってことなんだ。
 誰かを傷つけて、誰かを不幸にして得られるものが、たのしいとか、しあわせとか、そういうものじゃない。
 皆が……誰もが、笑顔になれる。それが、ほんとうだ。
 ……俺はそう信じてる。
 俺は、そうありたい。
 だから……否定する。お前を」
 ぎり、と、エヴリーヌが表情をゆがめた。
 幸せ、とは。たのしい、とは、ほど遠い、表情。
「……つまんない」
 エヴリーヌが、そういった。
「あなたたちは、つまらない」
「そうだろうな。
 お前の幸せとは、対極にいる人たちだ」
 ムサシが言う。
「……ここで終わりだ、エヴリーヌ。
 ここで、終わらせる。
 ……行くぞッ!」
 吠える――。
 おそらく。
 ここから決着まで、さほどの時間はかかるまい。
 踏み込む。
 手にした、焔の刃。
 絶刀。一撃の斬が、エヴリーヌを切り裂く――。
 ばぢん、と、その体の上で、なにかが爆ぜた。
 精霊たちを、とっさに動かして受け止めたのである。
 それが――。
 わずかに、散逸した。
「ね? こういう時にお互い役に立つでしょう?」
 笑う。
 オデット――。
「自分だけが楽しい、なんて昔の私ならわかったかもだけど、もうつまらないわ。
 ね、そうでしょルチア。
 精霊関係なら私を呼んでくれたらよかったのに」
「……もしかして、呼ばなかった事を拗ねているの? ごめんったら!」
 ルチアも笑う。
 親友とともにあるが故の笑顔。
 二人の、幸せ。
 二人の力が、この時、エヴリーヌの行動を妨害した。
 精霊が、わずかに散逸する。
「いいタイミングだったわ」
 ルチアが言う。
「ね……でも、少し大変だったけれど!」
 オデットが言う。
 視る。エヴリーヌの視線が。二人を――。
 斬、と。刃が、エヴリーヌの体を滑っていた。
 ぼう、と、その体から炎が巻き上がる。
 斬った/斬られた。
 同時に理解した。
 エヴリーヌの体が、ぐらり、と揺れた。
 致命打の一撃。
「……みとめない」
 エヴリーヌが、吠えた。
「みとめない、みとめないみとめない、こんなの、こんなの――」
 たのしくない。しあわせじゃない。
 いや……。
 もともと、ちがったのかもしれない。
 ちがった、の、かも、しれない。
 頭がぐるぐると回るような気がした。
 ちがった。
 もっとちがった。
 ちがった、はずだ。
「あたしは――」
 叫ぶ。
 同時に――イレギュラーズたちは、仲間たちは、全力を以て最期の一撃を叩き込んだ。
 一人の。二人の。三人の。
 いや……仲間たちの。
 友の、撃が。
 エヴリーヌを穿つ。
 手を伸ばすように――エヴリーヌが、目を見開いた。
 その先に、なにが見えたのだろう。
 何が……。
 ただ……。
 それが、その魔の、最期の瞬間なのだと――。
 誰もが、そう理解していた。
「これで終わりだ」
 昴が、そういった。
「終わりだ……」
 ゆっくりと、手を下ろす。
 手に走る痛み。体に走る痛み。
 その結果。
「……いや、終わりじゃないな。戦いはまだ続く」
 昴が言うのへ、仲間たちはうなづいた。
 そう。
 戦いは――まだ、続くのである――。

成否

成功


第1章 第11節

●エヴリーヌ
 それを見上げる。
 変な空だった。
 真っ青なのに。
 所々が暗い。
 いやだなぁ、と思った。
 どうしてだろう。
 なんだかとっても……。
 こんな空は、つまらない。
 そうだったな。
 あたしが生まれた時は、空は真っ暗だったけど。
 たくさんの星があって、キラキラしたものがあって。
 たくさんの、楽しいことを探しに行った。
 皆が楽し居て笑っているような、そんな……。

「せ、らら?」
 エヴリーヌが、言った。
「うん」
 セララが、ゆっくりとうなづいた。
「ねぇ、あたし、の、たのしい、ことって……なん、だ、ったっけ……」
 そう、つぶやく。
「こんな、こと、じゃ、なかった、の……。
 いたいとか、くるしいとか……じゃ、なくて……。
 でも……おもいだせない、の……」
「それは」
 セララが、笑った。
「一緒に、ドーナツを食べたり。
 マンガを読んだり。ゲームをしたり。
 ……たまに、いっしょに腕を競い合ったり。
 そういうのだよ。
 エヴリーヌ、キミも、そうだったんだよ」
 少しだけ悲しそうに、笑った。
 エヴリーヌは、幸せそうに笑った。
「そっか……」
 ぐずり、と、体が消えていく。
 魔の力を失ったからだが、地にかえる。
「セララ、友達になってね……。
 こんど、ドーナツ、たべに……」
 ざ、と、影になって、溶けた。
 消えた。
 消えてしまった。
「うん。約束」
 セララは悲し気に、笑った。
 魔が一つ、墜ちた。


第1章 第12節

リリアーヌ・リヴェラ(p3p006284)
勝利の足音
ハッピー・クラッカー(p3p006706)
爆音クイックシルバー
ドロシー・エメラルド(p3p007375)
正義を愛する騎士
ライ・リューゲ・マンソンジュ(p3p008702)
あいの為に


 一つの魔が墜ちた。
 それは――戦場のただなか、無数の終焉の獣、そして不毀の軍勢を押しとどめる者たちにも、確かに感じ取れていた――。
「――沈んだ。一角――」
 ライは、その手に握りつぶしていた獣の頭を地面にたたきつけて、銃弾を一発ぶち込んでやりながらつぶやいた。
「ええ、ええ、状況は好調のよう。ですが――」
 それでも、獣たちの蠢動は止まらない。それでも、不毀の騎士たちの行軍は止まらない。
 ライたちの後背にて戦う闘士たち。彼らも確かに懸命に戦っているが、毒素にむしばまれながらでは十全のそれを発揮できてはいまい。
 つまり、それ故にライのような『寄せ集め』の仲間であっても、こうして背中を合わせ、力を合わせ、戦い続けなければならないわけである。
「えー、ライちゃん! なんか難しい顔してない!?」
 ハッピーがケタケタと笑う。
「片っ端から見つけ次第やっつけてきたけど、これからもこれからもそうすればいいってだけの話でしょ?
 よゆうよゆう!!」
 無尽蔵とも思える体力を見せつけながら、ハッピーはけたけた、けたけたと楽しげに笑って見せた。
「とはいえ、ただ無目的に暴れているだけでは、こうして一時でも力を合わせた意味が薄くなるよ」
 ドロシーが言った。
「簡潔に状況を確認しよう。
 大目標の敵は三体。残りは山ほど。
 三体の内一体――エヴリーヌは、どうも今さっき墜ちたらしい」
「となると、残りは二体。ティリと、ショール、ですね」
 リリアーヌが言う。
「『騎兵隊』をはじめとして、お恥ずかしながら我々も、残りの『山ほど』と相対しております。
 つまり、一角は完全に崩せたといってもいいでしょう」
「残るショールは――まぁ、みんな言わなくても行くだろうからね。となると、ティリの方を抑えたほうがいいのかな?」
 ハッピーが言うのへ、ライがうなづく。
「ええ。というより、ティリとショールの合流を阻止するべきでしょうね。
 ティリのほうに向かった仲間たちの数はどうでしょう?」
「……たくさん!」
 ハッピーが笑いながら言うのへ、ドロシーは肩をすくめた。
「なるほど。じゃあ万全だ」
 実際、『たくさん』である。元より拮抗状態に追い込めていたティリであるが、それを踏まえてのイレギュラーズたちの戦力投入は適切であっただろうか。つまり、『このままのペースなら、ティリも墜とせる』。これが予測できた。
「となると……私たちの仕事は、引き続き?」
「『山ほど』の相手ですね。
 いいではないですか。
 理想も無く思想もなく。
 想いもなければ無念もない。
 ただただ――明確にわかりやすい、悪とラベリングされた存在を、正義の名のもとに叩き伏せる。
 簡単で、楽しく、とても幸せなお仕事でしょう?」
 ライがうっすらと笑うのへ、ハッピーがたじろいだ。
「……怖い話してる? 幽霊が怖いって思う感じの話?」
「少し難しいお話かもしれませんね」
 リリアーヌが肩をすくめた。
「いずれにしても、ライの言う通り。
 ――ここで、『山ほど』の相手をし続ける。
 さぁ、もうひと頑張りと行こう!」
 ドロシーが凛々しくそういうのへ、仲間たちはうなづいた。
 なんにしても。この戦線が、彼女たちのような者たちによって支えられているのは、言うまでもないことである――。

成否

成功


第1章 第13節

アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
無限円舞
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
胡桃・ツァンフオ(p3p008299)
ファイアフォックス
八重 慧(p3p008813)
歪角ノ夜叉


「……やられた? エヴリーヌ……?」
 わずかにティリが視線を逸らす――間髪入れず、焔が飛び込んだ!
「よそ見したらッ!」
 吠えたける、それは狼、いや『大神』のごとく襲い掛かる。焔。牙をむき出しに、苛烈に、焔をたたきつける!
「仲間がやられちゃったけど、まだ『おいしい』……!?」
「どう、かな……!?」
 振り払う手が、狐火を爆裂させる。炎と炎が衝突して焔が吹き飛ばされる中、アンナがその冷剣をもってとびかかる!
「そろそろ貴方の『苦しい』の方が強くなってきたのではないかしら?」
 流麗にして怜悧なる斬撃! まさに凍り付くような一撃を、ティリは受け止めた。
「ぼくが……苦しい……?」
「ええ、ええ、そうでしょう?
 追い詰められてるわよ、貴方」
 間髪入れずに胡桃の爆炎爆裂閃が、すべてを嘗め尽くさんばかりに世界を奔る。
「コャー。そなたに、勝機は見えてる?
 わたしには、見えてる。
 この段階に追い込んだ時点で――」
「そういうの知ってるよ、ふしあな、っていうんだ!」
 おどけるようにか、あるいは脳裏によぎった不安を否定するようにか。ティリは吠え、再び爆炎をまき散らす。
 アンナが吹っ飛ばされつつも、体勢を立て直して着地。すぐに走り出す。
「どちらがそうか、試してみましょうか? 焔さん!」
「まっかせてっ!」
 牙をむき出しに、焔が飛び交かる。冷剣と爆炎、二つの力はまるで衝突して爆裂するかのように、ティリに襲い掛かる。
「くっ……!?」
 さしものティリも、これにはたまったものではないようだ。狐火のデコイをぶちまいてそれらの攻撃を受け止めさせる中、しかし慧がそれを足止めする。
「おいしいっていうのならば。
 海の幸とか良いですよ。
 釣りだの鑑賞だのだってできる。
 ……味、がわからなくても。楽しいことなんてたくさんあった。
 ……楽しめただろうに」
「分かったようなこと言わないでよね……!」
 駄々をこねるように、ティリが吠える。切り付けられた呪血の一刀を、ティリが受け止めて狐火をもって打ち返す。確かに、ティリは強い。だが、イレギュラーズの決死の猛襲は、ティリを確実に足止めし、そして守勢に回らせていた。
「あんたのことは哀れには思う。
 でも、手を抜くつもりはない」
 再度、呪血の刀を切り付ける。間髪入れず、胡桃が爆炎閃を解き放った。吹っ飛ばされたティリが狐火を利用して空中で体勢を整えつつ、はぁ、と息を吐いた。
「……そうだね。今の状況は『おいしくない』」
「でしょうね」
 アンナが言う。
「別に魔種の嗜好だなんて知ったことではないし好きにすれば良いけれど。
 仲間を苦しませようと言うなら、容赦しないわ」
 静かに――冷刃を構える。
「ボク達はこのくらいじゃ絶望なんてしない! もう『おいしい』なんて感じさせない!
 今まで何度も大変な戦いを乗り越えてきたんだ、だから今回も皆で力を合わせれば絶対に勝てるって――、
 神託なんて成就しないってわかってるからね!」
 焔が、にっこりと笑ってそう宣言する。
 信じているのだ。
 明日を。
 未来を。
 それは――ティリとは、対極に位置するものであったのかもしれない。
「僕は」
 ティリは言う。
「世界を滅ぼす。その最後の時に、最高の『おいしい』を味わうんだから――!」
 裂ぱくの気合とともに、ティリが力を解放する。
 それはまもなく、この戦いが終わるであろうことを、誰にも予期させた。

成否

成功


第1章 第14節

ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
同一奇譚
ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)
アネモネの花束
雨紅(p3p008287)
愛星
ユイユ・アペティート(p3p009040)
多言数窮の積雪
囲 飛呂(p3p010030)
君の為に


「こんな戦場に呼ぶなよな。子供は嫌いなんだ。
 知ってるだろうに」
 泰助がそういうのへ、ベルナルドは肩をすくめた。
「これほどストレスフルな戦場なら、気に入ってくれると思ったんだが」
「それはそう。
 でも、これはこれ。
 子供の相手はすきじゃないねぇ」
 荒れ狂うティリの攻撃は、さらに苛烈さを増している。追い詰められたが故の悪あがき、ともとれるが、必死さを引き出したともいえる。
「それで、どうしたいのかねぇ、弟子としては」
「相手は苦痛や絶望、悲しみを好む魔種だ。負の感情を絵にする師匠なら。引きつけ役としても上手くやってくれるだろう。
一緒に飛行して空に作品を描きながら、ティリの気を散らしてやろうぜ!」
「ひきつけ役? オニーサンをなんだと思ってるんだろうねぇ」
 ふん、と泰助は鼻を鳴らした。
「ま……やるんだけどねぇ」
 二人の絵かきが絵筆をとる。そうなれば、やることは一つだ――!

「イラスト……!? 馬鹿にして……!」
 ティリが必死さを隠そうともせずに、狐火の火炎を戦場に踊らせる。
「そんなんじゃ、僕の『おいしい』は満たされない!」
「――何?
 ――美味だと?
 ――いあ、理解は出来る。
 ――何せ、私と貴様は一種の同類だ」
 にぃ、と。
 ロジャーズは笑う。
「分かる。判るとも。解るとも。
 それ故に、打破する。
 そういうものは、二つは必要ない。
 ここは食卓(ダイニングテーブル)。そこには一人分の料理しかない。
 喰らうのは、汝に非ず」
「うるさい……!」
 イラついたように、ティリは爆炎を放った。ロジャーズがそれを受け止める。受け止める。受け止める。
 壊れず。消えず。潰えず。
 故に――立ちはだかる。
「なんなんだ、きみたちは……!」
 焦りか。怒りか。明確な感情が、ティリの表情に浮かぶ。追い詰められつつある。間違いなく。魔が。今この瞬間――。
「人の不幸は蜜の味ってやつ〜? まぁ、ボクもちょっと分かるよ、どんなのがお好みかな?」
 ユイユがとびかかる。破滅の禊を振るいながら、挑発するように、言葉をかける。
「でもね~……最近は、ちょっとね!
 残念! 世界の滅亡とか、昔はどうでも良かったんだけど〜。今はやりたいこと増えちゃってさ!
 また今度にしてよ!」
 叩きつける復讐と背水の一刺が、ティリの肩を貫いた。激痛が、その体に走る。
「痛いかい?
 おいしいかい?」
 ユイユの言葉に、ぎり、とティリが奥歯をかみしめた。
「うるさいっ!」
 もはや、反論するだけの余裕もないか。ティリが爆炎を以ってイレギュラーズたちを薙ぎ払う。無論、ここにきてイレギュラーズたちも無傷であるはずがない。ぎりぎりの戦いであることは、事実だ。
 だが――いや、だとしても。
 ギリギリであろうが踏みとどまらなければならない。
 ここで下がれば、待っているのは破滅だ!
「悪食な方。この晩餐を飾る最後の舞をお見せしましょう」
 雨紅が跳ぶ。願わくば、なにか最後に、本当の『おいしい』を理解してもらいたいと――。
「どうか。どうか。
 これは傲慢かもしれません。
 ですが――それでも」
 傲慢かもしれない。魔を救うなど。一時でも、一時でも、満足に逝ってほしいとは。
 それでも、と思う。それは優しさに間違いないのだ。
「これを『おいしい』って言うのか。
 そうか。

 じゃあ、誰かと同じ食卓を囲むのは無理なんだな。
 味覚なんて人それぞれで、同じ食卓でも本当は別の味を感じてるのかもしれない。
 でも、同じじゃなくても、分かち合えるものってのはあると思ってる。
 きっと、あの子は――それを、知っているのだから。
 それを、知って、居るのに。

 止めることに迷いはない。
 でも、それは少し寂しいな」
 飛呂が、そういった。
 ティリが、わずかに脳裏に浮かべた、あの子、の姿は――。
 ニルの、それだった。
 縁があるわけじゃない。
 たまたま人生の道ですれ違った、同じ、人。
 どうしてここまで違ったのだろう。
 どうしてここまで、ちがうのだろう。
 何が。
 何が。
 その言葉が脳裏に浮かんだ刹那――イレギュラーズたちの攻撃が、ティリを限界にまで追い込んでいた。

成否

成功


第1章 第15節

ニル(p3p009185)
願い紡ぎ


 おいしいって、何なのかな。
 おいしい、ってなんなんだろう。
 味なのかな。気持ちなのかな。
 味は解らなかった。何を口に含んでも、まったく、理解できなかった。
 だからきっと、おいしい、は、気持ちなのだと思った。
 温かい/胸のすくような、気持ち。
 誰かと一緒にいるときに/誰かを傷つけたときに、得られるもの。
 あたたかさ/つめたさ。
 それがおいしい、と。
 ニルは/僕は――。

「ティリ様とニルはおんなじ。
 だけど、こんなにちがう。
 それがかなしくて……さみしくて」
 ニルがそうつぶやいた。ティリが、その体を力なくさらけ出して、ニルの膝の上に眠っていた。
「ニルが目覚めて最初に会ったひとがティリ様だったら。
 もしかしたらニルもティリ様のように、「かなしい」が「おいしい」だと思っていたかもしれません。

 ……でも、ニルは知っているから。
 たくさんのひとがニルに「おいしい」をくれたから」
 そう、言った。
 ティリが、笑った。
「羨ましいな」
 と。
「そっちの方が、おいしい、の、かも、し、れ、ない」
 そう、言った。
「だって……きみの、なみだ。
 とっても、あったかい。
 きっと、『おいしい』……」
 ぐしゃり、と、それが影に散って消えた。
 魔の最後だった。
「ティリ……」
 さようなら、一瞬だけ交わった、ひどく同じだけど、哀しいくらいにちがう人――。

成否

成功


第1章 第16節

リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)
無敵鉄板暴牛
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
夜式・十七号(p3p008363)
蒼き燕
ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)
流星の狩人
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと


「追い詰められている……?」
 ショールがつぶやく。果たして……それは事実だっただろう。
 彼女を守る盾であったはずの、エヴリーヌとティリは潰えた。
 そもそもとして、この配置は全剣王のミスであるともいえる。ショールは、とにかく『守るための盾』であるのだ。それを『守る』というのであれば、いささかちぐはぐであると言わざるをえまい。
 とはいえ、ショールに『疑似権能』を与えたことも事実であり、それは守らなければならないことも事実であり……と考えれば、いかんともしがたい自縄自縛であったことも察せる。
「まあ、我々としては関係のないことですが」
 オリーブが一気に踏み込む。エヴリーヌとティリが潰え、もうこうなれば、ショールを守る盾は周囲の終焉獣と不毀の軍勢、これしかなかった。とはいえ、それらはまさに一匹、一匹と、オリーブの刃によって切り捨てられていく。
「とはいえ、充分な数は送り出しました。
 では、我々も踏み込むとしましょうか。
 トラモントさん、後ろはお願いします」
「まかせて……!」
 フラーゴラは笑う。
「皆がんばれ! ワタシもがんばる! えいえいおー!」
 その言葉とともに、ぴょん、と飛んで片手を上げて。
 高めるは士気。上げるは鬨の声。
 いざや、進め、仲間たちよ! 鉄帝闘士たちが、雄たけびとともに交戦を開始するのがわかる。
 誰もが進む、進む――未来へと向けて!
「いましたね。毒の華」
 リュカシスが、静かに告げる。その前方に、仲間たちと激しい戦いを繰り広げるショールの姿があった。
「……! また増えた……!」
「ええ、残念でしょうが。
 ショール殿、あなたのことは存じ上げませんが……痛みを長引かせたくはありませんので!
 ここで終わらせていただきます!」
 走り出し――たたきつける! が、ショールはその巨腕を以って、それを受け止めた!
「邪魔……!」
 そこに気弱そうな少女はいない。今は追い詰められ、怒りと血反吐を吐きながら、それでも夢を追い求める、一人の魔がいるだけだ。
「どうして! どうしてじっとしてないの!
 どうして! 穏やかに終わりを迎えられないの!
 無駄なのに! 全部全部無駄なのに!!!」
「まだまだ立ち止まるわけにはいきませんか!
 命を大事に、そして力こそパワーです!」
 リュカシスが再度とびかかる。問いには答えない。答える必要はない。もうきっと、多くの者が応えている。
 あきらめないからだ、と。
「つっこめ、つっこめ! 後ろからバンバン撃ってやるからな!!」
 ミヅハが叫ぶ。その言葉通りに、グローブの内側で手の皮がはげ落ちるほどに、何度も、何度も、矢を番え、放つ!
「ここまで来て止まれるか! 諦めて帰ることもできるか!
 ベットしたんだよ、明るい未来って奴にな!」
「ああ、ああ、そういうこった!」
 サンディが叫ぶ。
「諦めて、のんびり終わりを拝むなんざ性に合わねぇんだ!
 そういうのは、もう、やり飽きたんだよ!
 俺たちはな、みっともないとか馬鹿らしいとか言われたって、滅びなんてものにはあらがって見せる!
 世界の終わりなんざ、鼻で笑って追い返してやるってもんだ!
 なんでかって? そりゃあ、きまってらぁ!
 俺は、サンディ・カルタ!
 泣く子も黙る大怪盗、サンディ・カルタだ!
 世界が終わりを受け取るならば、その前に盗んでやるのさ!」
 笑う。進む。進む、進む。
 滅びなんてものをぶっ飛ばすために! 終わりなんてものを笑い飛ばすために!
「間断なく攻撃を加え続けろ! もうこうなれば、チームも連携もあったものか!」
 十七号が叫ぶ!
「足を止めるな、しかし敵の足を止めろ!
 つづけ、続け続け続け!
 私の後に続け! 私の前に進め!
 ありとあらゆる武器を以って、ありとあらゆる滅びを斬れ!
 今が、今こそが! 決戦の時なれば!」
「自分は英雄じゃありませんが、ええ、こういう時にこういうのでしょうね。
 『誰かを英雄と呼ぶのならば、誰もがそう呼ばれるにふさわしい』。
 今は、世界中で戦う全ての人を英雄と呼ぶフェーズであるならば。
 恥ずかしげもなく、傲慢にも、自分を英雄と名乗りましょう。
 ここにいるのは、鋼鉄の英雄、オリーブ・ローレルと知れ!」
 貫く。進む。斬りさく。進む。進む――。
 英雄たちが! 英雄たちが、進み、行く!
 この戦いの終わりに向かって。ただ、ただ、愚直に、あるべくに!
 英雄たちの戦いが、その火ぶたが切って落とされる。その様は、きっと誰もが見たどの英雄譚よりも、鮮烈で激しいものであったはずだ。

成否

成功


第1章 第17節

郷田 貴道(p3p000401)
竜拳
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
バルガル・ミフィスト(p3p007978)
シャドウウォーカー
一条 夢心地(p3p008344)
殿
ルブラット・メルクライン(p3p009557)
61分目の針
大和型戦艦 二番艦 武蔵(p3p010829)
レイテ・コロン(p3p011010)
武蔵を護る盾


 夢だ。
 夢を見ていた。
 穏やかな夢。
 眠るときに視るそれではない。
 起きているときに視るそれだ。
 願いとか。想いとか。そう呼ばれるもの。
 夢という、素敵なこと。
 私はただ、穏やかでいたかっただけ。
 安らぎの風の中で、ただただ、温かく優しい日々を過ごしたかっただけ。
 ああ、でも、私の両手がささやきかけるの。
 『お前はものを壊すことしかできないのに』。
 平穏なんて、温かさなんて、穏やかさなんて、感じられるはずがない。

「ボーッとしてんなよ、反撃……狙ってんだろ?
 やってみろよ、どっちが先に終わるか……試してみようぜ?」
 男は言う。
 貴道はそういう。
 野と、暴の男であった。
 間違いなく、戦いの中に生きてきた男であった。
 その両の腕は、敵を打ち倒すための腕。
 奇しくも、ショールと同じ腕。
 違ったものは、乗せた願い。
「俺は……この手に夢を乗せたのさ。
 アンタもそうしなよ」
「夢を」
「そうさ」
 貴道は言う。
「なぁ、アンタはその腕が嫌いなのかもしれないが――別に悪いこっちゃない。
 考え方を変えな。
 守るために、戦えるんだ。
 俺にとっちゃ、それは福音だ」
「でも、戦うのは嫌い。壊すのは嫌い。嫌い、嫌い、嫌い」
「でも、アンタは強い」
 貴道は言った。
「なぁ、人は『誰か』になれないんだ。
 自分は『自分』にしかなれない。
 持って生まれたもの。
 持たずに生まれたもの。
 全部ひっくるめて自分さ。
 なぁ、自分を愛してやんなよ。
 じゃなきゃ、その手が泣いてるぜ。
 その手は、アンタの一部なんだ。
 アンタを傷つけるわけがないだろ」
「――」
 嗚呼、
 そう、なのかも。
 しれないね。
「私の夢は、静かに、皆で静かに、平穏と滅びを迎えることです」
「いい夢だ」
 貴道は笑った。
「でも俺はその夢を砕く」
「私は貴方を砕きます」
「いいさ、いいさ。ようやくスタートだ。
 殴りあおう」
 ぐわ、と。
 両のこぶしが振るわれた!
 交/差!
 両者、顔面にたたきつけられた拳に、吹っ飛ぶ!
「負けない」
 ショールが吠えた。
「負けない、負けない負けない負けない負けない負けない!
 私たちは、夢を見るために生まれた!
 夢をかなえるために生まれた!
 そうでしょう、ブランシュ! だったら――!」
「だとしても、だ!」
 武蔵が吠えた。高らかに詠う。歌う。謳う。主砲の音色。
「私は、自身の存在意義を肯定している!
 そう生まれ、そうあり、そう戦うことこそが、未来の為になるのだと信じている!
 だが、きっと、夢は一つでなくともよいと、私はそう思うのだ!
 貴様と同じく、平穏を願った娘がいた……!
 貴様とは違う立場だ。でも、それでも……!」
 言葉にすれば、それは平易なそれに変わる。
 言葉にする必要はない。
 今はいらない。
「レイテ!」
 ともに立ち続けようと。
「ああ。ボクが守る。君を」
 うなづく。手をつなぐ。
 ともに生きる。ともに立ち続ける。そのために――。
 苛烈なる攻撃の応酬。
 ふるわれる、絶技と絶技。
 極限は極限を呼び、究極とも思える命の削りあいを演じ続ける。
「なんか、吹っ切れた感じだね!」
 イグナートが笑う。
「嫌いって言われちゃったね!
 でも、オレはショールの事は嫌いじゃないよ!」
 笑う。拳を打ち付ける――受け止められる。
「私は、大っ嫌いです!」
 笑う。ああ、素敵だ。そう思う。
「キミが魔種じゃなければね」
「今、少しだけ思いました」
 殴りつける。その拳で、何かを壊すことしかできないと思い込んでいた拳で。
「私は守れるって知ったのならば、それを使うことに後悔はしない!」
 追い詰められたからこそ、発揮した力。背水の境地にあるが故に至れた究極。
 いわば、ここにきて、ショール、完全体へと至る!
「ホントウ、嫌いじゃないよ! キミみたいなやつは!」
 イグナートが笑った。
 強いし、優しい。キミが魔種だなんて嘘みたいだ!
 空中で無理やり体勢を立て直し、武蔵の砲撃を背中で感じながら突っ走る。果たして合流した貴道とともに、全力のこぶしをたたきつける! ばぎり、とショールのこぶしが鳴った。まだ、壊れない。
「ルクレツィアの、かたき!」
 殴りつける――再び! 貴道とイグナート、二人が吹っ飛ぶほどの一打!
「HAHAHA! 焚きつけすぎたか!?」
「いいんじゃない!? これでこそ、だよ!」
 笑う。奇妙なさわやかさすら、そこにあった。
「奇妙だ。とても奇妙だ」
 ルブラットがわずかに笑う。
「命の取り合いだ。これは命の取り合いだ。
 でも、何故だろうね。これは、夢をかなえるための戦いに思える」
 あるいは。
 元来は、そういうものであるべきだったのかもしれない。
 この鉄帝という地での戦いは。
「アミナ君。約束をした(ゆめをみた)。必ず生きて帰ると。
 私も、その夢をかなえるために戦おう」
 そうだ。
 夢だ。
 これは夢を見る者たちの戦いだ。
「こそばゆいですがね」
 バルガルが言う。
「自分の夢は何でしょうねぇ、竜宮のお店は制覇したいところですが!」
 ショールにとりつく。バルガル。その斬撃を以って、明日を見るために。
「変な夢」
「自覚はしてますがね。ああ、しかし思った通り、化け物のような力で結構。
 追い詰められると燃えるたちでね」
「なるほど、なるほど。
 夢の中にあって現、現の中にあって夢。
 ゆえに、夢心地。
 なればこの戦場、麿のためにあるようなもの」
 夢心地が構える。
「なればこの夢、人類のために。
 いつやるのか! それはNOW!
 踊れ、舞え、夢心地! 夢に舞わせて殿は行く!」
 きぇぇぇい、と、夢心地が刃を振るう。
 その刃が、夢をかなえることを信じて。

成否

成功


第1章 第18節

ユーフォニー(p3p010323)
竜域の娘
ムエン・∞・ゲペラー(p3p010372)
焔王祈
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女
セレナ・夜月(p3p010688)
夜守の魔女


 夢が興る。
 夢が潰える。
 夢の中で踊る。
「現世が夢なれば。
 夢こそが現世なのかもしれませんね。
 となれば、この決戦の場で、姉妹四人で戦える、なんて。
 幸せすぎて夢なのかもしれませんよ?」
 くすくすと笑うマリエッタに、セレナが困った顔をする。
「もう! なんでかしら、マリエッタが言うと冗談に聞こえないのよね……」
「でも、夢じゃないですよ」
 ふふ、とユーフォニーが笑った。
「マリエッタが見る夢ならば、きっともっと素敵ですから。
 ……ですよね?
 あんまり、赤くはないですよね?」
「どうだろう」
 ムエンが笑う。
「……どうだろう?」
「否定してよ」
 セレナが苦笑した。
「でも、マリエッタじゃないですけれど。
 私も結構、わくわくしていますよ。
 終焉。そこに近い場所。
 私の目的地は、このずっと先ですけれど」
「……わくわく、っていうのが、ユーフォニーらしいわ」
 セレナが肩を落とす。
「今日はツッコミか、セレナ」
 ふ、とムエンが笑い、
「何かいつもツッコんでる気がするわ!」
 セレナが苦笑する。
 ……結局。どのような場所であろうとも。
 どのような戦いであろうとも。
 彼女たちの関係とは、あり方とは、変わらないのかもしれない。
 四葉の四姉妹は、どこでいても変わらず。
 あるいは――それがまた、四葉の夢か。
「うらやましい、かもですね」
 ショールが、苛烈な攻撃を加えながらもそういう。
「私も……姉妹、でしたから!」
「ショール……」
 マリエッタが、少しだけ同情の視線を見せた。だが、魔に与したものの末路は、決まっている。世界の敵だ。倒すしか、ない。
「貴方も随分、苦労して戦ってきたんですねショール。
 終わりを願い。戦い、幸せになろうと必死に。

 ……だからこそ、その想いは尊ばれるべきもの。
 そして、摘み取らねばならないもの」
「いいえ、いいえ、優しい魔女さん。
 私の夢は摘み取らせません」
 構える。
「ごめんなさい、ショール」
 マリエッタが言った。
「同情は不要でしたね」
「はい。私は対等に、貴方達の夢を摘み取ります」
「ならば、私たちもまた、そのように」
 ムエンが構える。合わせるように、四葉は構えた。
「我々の夢、摘ませるわけにはいかない」
「ええ。
 ごめんなんて言わないわ。
 ただ、加減はしない」
 セレナが言う。
「あなたの『色』は、とっても素敵です。
 穏やかに奏でられる、そんな色。
 反転する前の貴方に会えたならば、どんなにすばらしかったのでしょう」
 ユーフォニーが言う。
 でもそれも――。
 叶わない願いだ。
 それは過去だから。変えられない。
 でも、未来に夢を見ることはできる。
「行きましょう、私たちの夢のために」
 ユーフォニーが言う。
 姉妹が、進む。
 ショールが、進む。
 激突――。
 それは間違いなく、夢のぶつかり合いだった。
 その果てに――。
 一つの夢はついえる。
 その巨腕に、ひびが入ったときに。
 その崩壊の音は、高らかに、高らかに、響き渡った。

成否

成功


第1章 第19節

シラス(p3p004421)
超える者
ソア(p3p007025)
愛しき雷陣


 夢が終わる。
 その時。
 それはドラマティックであろうか。
 それとも、あまりにも突然で、普通で、あまりにも――平坦であろうか。
 ショールの体は限界。
 これまでに、幾多ものイレギュラーズたちと戦い、戦い、戦い――すでに限界。
 その果てに。
 しかし、立ち続け。
 生かし続けてきたものは、皮肉にも、ついぞ先ほどまで忌避し続けていた己が腕である。
「変なもんだな」
 シラスが言う。
「んー、ボクはその手、かっこいいと思ってたけどね」
 ソアが笑う。
 二人。
 おそらく、ローレットでも最強格の使い手。
 その二人。
「でも――私はやっぱり、この手が嫌い」
 ショールは笑った。
「……どうせなら、貴方みたいなふわふわが良かった」
「おっ、解ってるね! いいでしょ~!
 ふわふわなだけじゃないけどね!」
 それは解っている。
 これまでの――攻撃は。ショールを深く傷つけている。
 もう、一打。二打。
 それで終わる。
「降参するか?」
 シラスが言って、舌打ちした。
「いや……すまねぇ、忘れてくれ、侮辱だ」
「いいですよ。一回くらいは」
 そう言って、ショールは笑った。
 身構える。
 二人も構えた。
 終わる。
 もう、この戦いも。
 たんっ、と。
 踏み込んだ。
 二人!
 前方より、シラス!
 後方より、ソア!
 挟み撃ち――。
 どちらを優先するか。
 ショールは一瞬で判断し、シラスの攻撃を受け止めることにした。
 打撃が、ショールの腕に突き刺さる。
 音もなく――いや、音はしたはずだ。でも、一切聞こえず、静かに――砕ける。腕が。
 ああ。
 ごめんね。
 貴方を愛してあげられていれば、ちがったのかな。
 両の腕を失って。
 後背から、獣の腕が、ショールの体を裂いていた。
 貫く。
 撃。
「ああ」
 ぐしゃり、と、膝をつく。
 体から、力が抜けていくのを――ショールは、感じていた。

成否

成功


第1章 第20節

アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮
チェレンチィ(p3p008318)
暗殺流儀
楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾
フリークライ(p3p008595)
水月花の墓守
メリーノ・アリテンシア(p3p010217)
そんな予感
ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)
航空猟兵
紅花 牡丹(p3p010983)
ガイアネモネ

●結末
「終わったわよ」
 と、メリーノが言った。
「ブランシュちゃん」
 メリーノが、そういった。
 終わった。
 終わったのを感じる。
 あたりに漂っていた、あの腐ったような毒の気配が、霧散して消えていったのを、確かに感じる。
 終わったのだ。
 まず、第一の戦いが――。
 ショールとの、戦いが。
 そして、彼女の、命が。
 潰える。
「見て来いよ」
 アルヴァが言った。
「行ってこい、ブランシュ」
 ゆっくりと――。
 ブランシュが行く。
 両の手を失い、倒れ伏した、彼女を。
 視る。
「ショール」
「負けました」
 そう、笑った。
「なんだか最後に……ようやく本当に……私が生まれた意味が、分かった気がします……」
「遅かったな」
 ブランシュが、笑った。
「遅すぎだ」
「そう、ですね……。
 ほんとはね、ブランシュ。
 私……みんなと……ただ、静かに、暮らせれば……それで……」
 そのあとは。
 紡がれることはなかった。
 破滅が絶対だという迷妄さえなければ。
 彼女は……こうはならなかったかもしれない。
「お前にそれを吹き込んだのは、誰だったんだ……ルクレツィア=エルフレームなのか? だが……」
 考えても、答えはない。
 ただ――。
 終わった、という感慨だけが、そこにあった。
「……俺も、すぐに行くさ」
 静かにつぶやく。誰にも、聞こえないように。
「なぁ、ブランシュ。あいつ、最期、笑ってたか?」
 牡丹が言う。
「……なんつーか、さ。
 あいつ、開き直ってたけど……それでも、壊したり戦ったりするのは、嫌だったはずだからさ。
 ……もう壊さないでいい、壊したいと思わずに済む、って安心したんじゃねえか。
 だから、その……ああ、くそ、いい言葉が出ねぇ……」
 頭をかきむしる牡丹に、
「いや、いいさ。
 アリガトウ」
 ブランシュがわずかに笑った。
「それより、あるばちゃんたちは大丈夫なの?」
 メリーノが言うのへ、アルヴァはかぶりを振る。
「気にすんな……むしろ俺たちは、ここからが本番か」
 あたりを見回す、レヴィは、おそらく、すでに周辺に潜伏しているのだろう……ならば、ここから相対すべきは、残り二つの魔。
「ルナ、リアと……」
 視線を移す。チェレンチィに。チェレンチィもまた、かぶりを振った。
「……ボスが父親だと自分でも「分かって」しまった。
 思うことも、言いたいことも、色々あります。
 辛いか辛くないかで言えば、勿論、辛いです。
 けれども、共に居てくれる仲間が居ますから。
 大丈夫です。

 ボクは、きっと――」
 そう、笑った時に。
 あまりにも当然のように。
 その魔は現れた。
「複雑な気持ちだよ、シーニー」
 そう、言う。
 男は、うっそりと。
「テメェ……!」
 牡丹が吠える。
「きっしょいね。まるで気配を感じなかったんだけど」
 心底いやそうに茄子子が言った。同時に、フリークライに目配せをする。
(ン。防御行動 可能)
 そう告げるフリークライにうなづきながら、茄子子がフリークライから意識をそらすべく挑発をかける。
「へいへーい、おじさん、いい年してストーカーかな。子離れできてないんじゃない?」
「そう言ってくれるな。子はいくつになっても愛おしい。
 それに……今度こそ、娘を俺の手で幸せにしてやりたい。それを想うことは間違いか?」
「子離れしろって言ってるんだよね~。
 こっちもいい歳した大人なんだからさ!」
(まずい、皆を守れる? いったん下がったほうがいいかも!)
 アイコンタクトで伝える茄子子に、牡丹は力強くうなづく。
(任せろ。全部守り抜く)
(いいね、やるじゃん牡丹くん。ほんと、お母さんそっくりだよ)
 笑って見せる。ショールを倒したばかりの状況では分が悪い。ここは撤退を――。
「逃げようとしている悪い子がいるわよ、ガルボイ」
 甘ったるい、毒のような声が、そこに響いた。
「……ルナリア……」
 ルリアが声を上げる。
 そこにいたのは、毒魔、ルナリアである――。
「ねぇ、これって最後の説得なの。
 ここで素直に投降して、こっちに来ない?
 もちろん、それなりにお仕置きはさせてもらうけれど。ね、アルヴィ?」
「ち……!」
 舌打ち一つ、ずきずきと痛む頭を抑える。抑えろ。まだ、まだ、この時は……!
「ウチの隊長に手を出すなよ」
 ブランシュが言った。
「死神が相手になる」
「……あら、こういう年頃?
 アルヴィにはこういう感じはなかった気がするけど。
 ガルボイのところはどうなの?」
「……すまない、シーニー。
 お前の成長を見届けられなかった」
「ほのぼのとした家族の会話をどうもぉ」
 メリーノが言う。
「でもね、ほら。ちょっと後にしてほしいのよね。
 いったん戻るから、そのあとでねぇ?」
「いや、解っているさ。シーニー。お前は少し頑固なところがある。だからきっと、すぐには受け入れられないと思っていた。
 だから――そうだな。少しばかり、『苦しいことになるが』。
 耐えてほしい。すぐに傷は癒してやるから」
 ぞくり、と。
 この時、何か――背筋が凍るような思いがした。
 何か強烈な、違和感。
 何か……何か、想定外の事態が起こりそうな、そんな。
「――空 ヲ!」
 フリークライが叫んだ。
 そこにいたのは、一羽の怪鳥。
「もういい~?」
「――ルベライト=エルフレーム!?」
 ブランシュが、叫んだ。
 その手に掲げる、巨大な黒い陽球は――!
「――! バルナバスの権能モドキ!!」
 メリーノが叫んだ。その瞬間、誰もが理解した。
 七式のコピー権能。
 未だ姿を見せていなかったのは、バルナバスのそれだけだ!!
「いいわよ。ちょっとお仕置きしてあげて?」
 ルナリアの言葉に、ルベライトは笑う。
「んじゃ、サクッと死んじゃってね♪ チャオ~~!」
 振り下ろされる。
 黒の憎悪の陽球が。
 『不毀なる黒陽(エミュレート・バルナバス)』。
 太陽が、墜ちた。

成否

成功

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