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シナリオ詳細

<終焉のクロニクル>Vivere Est Militare.

完了

参加者 : 56 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ――とどのつまり、全てに意味などありはしなかった。

 人は生物である。
 生物とは自然現象であり、大きなシステムの代謝だ。
 細胞が生まれ死ぬように、獣も人も竜さえも滅び行く。
 文明も星も大地も、世界とて同じだ。
 ただの一つも例外はない。
 そもそも無辜なる混沌の滅びは、初めから予定されていた。
 それだけの話なのだ。

「ああ、それは神の気まぐれ、システムの定め。非道極まる残酷だとも」
 闇が嗤っていた。豪奢な椅子に座る『アークロード』ヴェラムデリクトは肘掛けをコツコツと叩き、それから頬杖をついた。
 豪奢な応接室は、しかしどこか廃墟のような虚ろを思わせる。
 張り出したバルコニーには、一匹の黒竜が眠るように身を横たえていた。
 そこは影の領域――世界に開いたワームホールの先にある砦だ。
「だがね、滅び行くその瞬間を先延ばしにすることほどではないと思わんかね」
「どちらでも構わん、いずれにせよ全て飲み干すまで」
 ヴェラムデリクトの対角に座すのは、狂神と呼ばれる太古の旅人の姿だった。
 濃密な滅びのアークを纏い、怪物と成り果てている。
「今日、この時。グロアノクス、お前ならばどうするね?」
「知れたこと、盟約を果たすまで」
 竜が答えた。
「あの馬鹿共は、この後に及んで来るらしいが。全く以ていやになる」
 ヴェラムデリクトが立ち上がる。
 そして横たわる竜――グロアノクスをひと撫ですると、眼下を見下ろした。
 漆黒の甲冑を纏う騎士達が、一斉に剣を掲げた。
 いずれも魔種(デモニア)である。
 おびただしい数の終焉獣等もまた、轟くような唸りをあげた。

 勝つということが相手を討ち果たすことならば、これを相手取るのは全く現実的ではない。そもそも魔種はイレギュラーズの一団が相手取るべき強敵であり、雑兵などただの一体も居はしなかった。
 竜は伝説の存在であり、単純に生物として人や魔を凌駕する。
 そしてBad End 8はイノリ直下の大魔種であり、各位が冠位にも比肩しよう。
 冠位を滅ぼすには奇跡が必要であり、それらの戦いはイレギュラーズが総力をあげて対処していた。だが今度は違う。八つ、それも同時だ。
 最後に、数は力である。
 おびただしい終焉獣に、個は無力である。
 であるならば、どうすべきか。
 例えばイレギュラーズは世界各国を救い、英雄となっている。
 慕う者は多く、国々は総力をあげて支援するだろう。
 だがこの、滅びのアークに満ちあふれた影の領域で、イレギュラーズではない者達がいかほどにあらがえようか。魔種の群れを量産するだけではないか。
 つまるところ、この戦場に勝利はない。
 挽き潰され、それで終わりだ。
「ああ、だから来て欲しくなどないのだがね」

 施しはした。引き延ばしもした。
 あらがいようのない不可逆の滅びを迎えるその日まで、遊んで暮らせるように。
 ヴェラムデリクトの願いは、ただそれだけだ。
 だがイレギュラーズがそれを破り、この領域へ足を踏み入れるのであれば――
「――殺さねばならんじゃあないか。まったくつくづく厭になる」
 現状は究極の絶望である。
 踏み越えることは絶対に出来ない。

 全ての戦場でイレギュラーズは敗北する。
 いや、まかり間違い奇跡の結果、一つや二つは勝利するかもしれない。
 しかしその程度の局地的な勝利は、最終的な結果になんの影響も及ぼさない。
 では万が一、否。億が一にも全ての戦場で勝利したと仮定しよう。
 するとどうなるだろうか。
 終焉は止まらないのだ。
 世界はそのまま滅ぶ。
 単にそういう決まりなのだ。
「だから神の気まぐれなど放っておけよ、イレギュラーズ」
 ヴェラムデリクトが吐き捨てる。
 なぜ時間を惜しまない。
 なぜ楽しく過ごさない。
 これほど心配してやっているにも関わらずだ。
 ひと月もあれば、世界は消えてなくなってしまうというのに。
「だがそれでも来るのだろう、まったく、つくづく厭になるものだ」


 空中神殿のざんげから、最悪の凶報が届いた。
 遂に『その時』が来るのだという。
 イレギュラーズは総力を結集し、Bad End 8の開くワームホールから影の領域に侵入し、それらを全て打倒せねばならない。

 そしてここはその一角。
 幻想王国のワームホールへ通じる大空洞の前だった。
 そこには無数の天幕が広がり、大軍勢が集結している。

「良いではないか、このまま我等が全軍を送り込めば」
 幻想国王フォルデルマンの言葉は、あっけらかんとしていたが、常である。
「他ならぬローレットの支援、全ての力を結集すべきは当然だからな!」
 のべつまくなし考え無しの放蕩王は、近衛騎士のシャルロッテあたりにたしなめられ、三大貴族の見解が国を導く。それがこの国の在り方だった。
 だがこの日、返る返事は違っていた。
「賛成よ、それでいいわ。そこに私がルーチェ・スピカを合流させるから」
 言葉の主リーヌシュカ(p3n000124)は鉄帝国将校であり、幻想とは敵対している。
 それが歴史というものだった。
 まさか軍を進駐させるなど、あろうはずもない。
「だって別に、帝国側からつっこめばいいんでしょ? 影の領域で合流よ」
「参謀部の試算はどうだ?」
「勝率? ゼロパーセントだって」
 エッダ・フロールリジ(p3p006270)に問いにリーヌシュカが答える。
「なるほど、全く問題ない。
 であれば我々鉄帝国軍は、帝国内のワームホールに進撃。
 部隊の一部をアークロードの居城方面へ浸透させる。
 指揮はエフシュコヴァ少佐がとれ。アサクラ大尉、補佐を任せる」
「もちろん!」
「承知した」
 エッダ大佐の指示に、二人は敬礼を返した。
「帝国と幻想の共闘……何かとてもおかしなものを見ている気がしますわ」
「そうかもしれないね。けど、なんだか楽しくないかい?」
「もちろんですわ」
 ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)とマリア・レイシス(p3p006685)が腹を抱えて笑っている。
「恐れながら陛下」
「ん? どうした?」
 シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)に目配せしたアルテミア・フィルティス(p3p001981)が問う。
 軍をワームホールへ向けるのならば、幻想辺境に集結しつつある終焉獣への対処はどうすべきなのかと。
「あれ?」
 オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)が思わず振り返る。
「ならば辺境に集結する終焉獣は、謎の古代兵器が一掃します」
 杖を片手にフードを目深にかぶった男、歯車卿エフィム・ネストロヴィチ・ベルヴェノフ(p3n000290)が述べた。
「帝国軍ではないのですから、問題はないでしょう」
「まったくもう」
 思わぬ言葉に吹き出したのはアーリア・スピリッツ(p3p004400)だった。
「そうだ、まったく問題はないな!」
「陛下……」
 リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)もやや呆然とした面持ちを隠しきれないが。
「これはこれは、また」
 エフィムの言葉は詭弁ではあり、新田 寛治(p3p005073)も苦笑を隠せない。
「ああ、もうなるようになれだ」
「本当にお疲れ様、けど助かるよ」
 アーカーシュのレリッカ村長パフが頭を掻き毟り、ジェック・アーロン(p3p004755)が労った。
「どこか懐かしい空気ですね」
 小金井・正純(p3p008000)が遠く眺め、そこに居るべき者達を偲ぶ。
 かの司令ならば、果たしてどうしただろう。

「アウラちゃん達はどこから攻めるの?」
 セララ(p3p000273)の問いは、人ならざる者へと向けられていた。
 よりにもよって魔種と並ぶ人類の天敵、伝説の竜帝(バシレウス)が一つ――アウラスカルト(p3n000256)である。
「我等はクォ・ヴァディスとやらと共に覇竜領域から攻めてやる、かまわんな」
「いいんじゃないですか?」
 へらへらと笑ったのはリーティア――先代六竜パラスラディエ(p3n000330)だ。
「魔種ごときどうにでもなりますよ、竜に勝てると思います?」
「めぇ……リーティアさまが……そう仰ると、本当に」
 メイメイ・ルー(p3p004460)が思わず微笑む。
 なぜだか負ける気がしないから。
「ならば人よ、我が眷竜を遣わす」
「ありがとう」
「そして我が汝等の翼となり、鱗を盾に、爪牙を剣と成そう。
 魔種がなにするものぞ、地上を覇するは竜、そして汝等だ。
 滅びなど、この金嶺竜アウラスカルトが蹂躙してくれる」
「じゃあさっそくしにゃとがおーのポーズをとりましょう! がおー」
「がおー?」
 感謝を伝えた笹木 花丸(p3p008689)と、しにゃこ(p3p008456)に――
「良く来てくれた、嬉しく思う」
「お供します、どこまでも」
 ――ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)とリュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)も続いた。
「ユニもいくよー!」
「他の戦場もありますから、全員という訳にもいきませんが」
 しかし「そのために来たのだ」と、終焉の監視者(クォ・ヴァディス)のイワコフ・トカーチも述べた。
「敵はぜんぶぶった切ればいいんですよね、シレジアもやりまーす。あ、そうだ」
「あの、拙者は別に」
「シレジアが合法な薬を手に入れましたので」
 夢見 ルル家(p3p000016)が天幕に押し込まれた頃。
「はっはっは! しかし天義の聖女殿とは心強い!」
「よろしくおねがいします」
 スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)の登場に、幻想貴族達がざわめくが。あのフォルデルマンのこと、それにこの状況となれば知ったことではない。
「で、返事もよこさないのにこれ?」
「その節は申し訳ないわさ、けれどこれって『ラストダンジョン』だからねい」
 呆れ声のイーリン・ジョーンズ(p3p000854)に、ペリカ・ロズィーアン(p3n000113)が平身低頭だが、その瞳は好奇心を抑えきれずにいる。
「背中は私に任せていただきたい」
(……お父さん)
 胸を張るジョゼッフォに ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)は――

「『あれ』は間違いなく『あの中』に居る」
 述べた稲荷神に、長月・イナリ(p3p008096)が頷いた。
(なるほど、だから杜の全兵力を集結させるのね)
「乗りかかった船――ということかな」
「ええ、そうね」
 リースヒース(p3p009207)の言葉に、アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)が頷いた。
「まあ、そういうことだ。佐藤、マキナ、それから普久原!」
「だからもう無職でスから」
「え、ええと、はい」
「たるんでいるぞ!」
 佐藤 美咲(p3p009818)の呆れ声と、普久原・ほむら(p3n000159)の気のない返事にジオルドは思わず喝をいれた。
「もちろん、わたくし達もお供いたしますわ~!」
 ディアナ・K・リリエンルージュ(p3n000238)は、どうも天義の部隊をまるごと扱うつもりらしい。
「ディアナっていったか、変なことを考えるなよ」
 そこにはエリカも居たから、クロバ・フユツキ(p3p000145)は眉をひそめた。
 エリカは――
(元気そうでよかった)
 シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)もほっと一息。

「結局、はむおじさんの目的は何なのだろうな」
「最後まで向き合います」
 恋屍・愛無(p3p007296)にユーフォニー(p3p010323)が続ける。
「面倒くせえ野郎なのは間違いねえがな」
 ルカ・ガンビーノ(p3p007268)が巨剣を担ぎ上げ、ワームホールを睨む。
「じゃあ、いくぜ。最終決戦――どうにでもしてやるよ」
 シラス(p3p004421)が指さした。
「第一こんなもん、たかが前哨戦だろ?」
 何も持たなかった少年は、今や英雄であり――

 繰り返すが、希望はない。
 可能性は潰え、未来に光などありはしない。
 この戦場に勝ち筋はなく、試算された勝率はゼロパーセントである。
 だが、不思議と一ミリも負ける気がしない。

 ――ならば見せてみろ、可能性とやらの力をな。

GMコメント

 pipiです。
 最終決戦です。
 砦を制圧し、全軍を影の城へと進撃させましょう。

 状況は絶体絶命、勝率もゼロだそうです。
 でも負ける気なんてしませんよね。絶望を吹き飛ばしてやりましょう。

 ※こちらのシナリオはTOP都合で納品日が変更される場合があります。

●目的
・『アークロード』ヴェラムデリクトの撃破
 ※三体のロードを一日以内に全滅させること。
・ワームホールの確保
・その他、敵勢力の撃退または撃破

●フィールド
 三方面からヴェラムデリクトの居城を攻めます。
 前半戦はワームホール、中盤はフィールド、後半は城内などになりますが、雰囲気なので特に気にしなくて大丈夫です。

〇A:幻想王国方面
 幻想王国軍、天義黒衣騎士隊、杜の連合軍と攻めます。

敵:
・終焉獣×多数
 爪や牙には不吉や毒のBSがあります。

・キマイラ×多数
 狂神配下の合成獣の群れです。様々なBSを持ちます。

・狂神
 強力な物理攻撃、神秘攻撃を持つ怪物です。

・深淵魔導ロード・オブ・アビス
 ヴェラムデリクトの権能であり、当人です。
 他のロードと意識や記憶は常に同じです。
 ヴェラムデリクトの魔術師としての存在です。
 武器は魔術書で、主に魔術戦闘を得意とします。

友軍:
・幻想王国軍
 数と編成バランスに優れた部隊です。
 幻想は弱兵で有名とはいえ、選りすぐりが集まっているので精強です。

・天義黒衣騎士団
 幻想軍よりも数はだいぶ少ないですが、高い戦闘能力を持ちます。
 防御能力と回復力の高い、非常に堅牢な部隊です。

・杜の部隊
 近代兵器で武装した非常に精強な部隊です。
 幻想軍よりも数はだいぶ少ないですが、高い戦闘能力を持ちます。

・ペリカ・ロズィーアン(p3n000113)
 果ての迷宮探索隊の総隊長。ラストダンジョンの攻略に燃えています。
 非常に柔軟なスペックです。

・ジョゼッフォ
 ココロさんのお父さんです。堅実で堅牢なスペックです。

・エリカ・フユツキ
 クロバさんの義娘のような存在です。高い回復力を持ちます。

『熟練冒険者』アルテナ・フォルテ (p3n000007)
 ローレットの仲間です。両面前衛アタッカー。
 クエスト『All's right with the world! 』程度の強さです。

『式神』稲荷神
 イナリさんの関係者です。狂神ほどではありませんが、ものすごく強いです。
 思いつく限りの物理現象を自在に操ります。

〇B:鉄帝国方面
 独立混成連隊ルーチェ・スピカと共に攻めます。

敵:
・終焉獣×多数
 爪や牙には不吉や毒のBSがあります。

・漆黒騎士団(シュヴァルツリッター)×多数
 ヴェラムデリクト率いる魔種の騎士団です。
 多数の歩兵騎士、比較的少数の終焉獣騎兵と弓箭隊が居ます。
 統制の取れた部隊で、合理的に行動します。

・狂神
 ものすごく強いです。
 思いつく限りの物理現象を自在に操ります。

・漆黒王ロード・オブ・ダークネス
 ヴェラムデリクトの権能であり、これも当人です。
 他のロードと意識や記憶は常に同じです。
 ヴェラムデリクトの剣士としての存在です。
 武器は大剣で、主に物理戦闘を得意とします。
 パッシヴとして高い指揮能力を持ちます。

友軍:
・ルーチェスピカ
 近代兵器で武装した、突破力と制圧力の高い部隊です。

・リーヌシュカ (p3n000124)
 皆さんの妹的な帝国軍人にしてラド・バウA級闘士です。

普久原・ほむら (p3n000159)
 ローレットの仲間です。両面前衛アタックヒーラー。
 クエスト『All's right with the world! 』程度の強さです。

・ディアナ・K・リリエンルージュ (p3n000238)
 練達関係の仲間。両面アタックヒーラー。
 クエスト『All's right with the world! 』程度の強さです。

〇C:覇竜領域方面
 竜と、クォ・ヴァディス一部兵力と共に攻めます。

・終焉獣×多数
 爪や牙には不吉や毒のBSがあります。

・滅気竜×そこそこ
 瘴気を纏った亜竜です。飛べます。

・魔神竜グロアノクス
 黒鱗、将星種(レグルス)の古竜(エンシェントドラゴン)です。
 飛行しています。
 前方遠扇の麻痺系の咆哮、同じく遠扇の瘴気のブレス、爪牙尾の広範囲連続攻撃を行います。

・魔神王ロード・オブ・デヴィル
 魔神竜グロアノクスに騎乗しています。
 ヴェラムデリクトの権能であり、これも当人です。
 他のロードと意識や記憶は常に同じです。
 ヴェラムデリクトの悪魔としての存在です。
 武器は大剣で、物理神秘の両面戦闘を得意とします。スペックには隙がありませんが、攻撃はいずれも極めて高威力です。

友軍:
・クォヴァディス×少数
 終焉の監視者の実働部隊です。
 数は少ないながら、編成バランスも良く、士気が高く精強です。

・嶺亜竜×そこそこ
 アウラスカルトに従う亜竜の群れです。飛べます。
 背に乗ることが出来ます。

・シレジア
 ルル家さんの関係者の、なんかヤバい女剣士です。結構強いです。

・イワコフ
 マルクさんの関係者でした。亜竜に乗って戦います。
 タフネスと機動力と射程に優れます。とにかくタフです。

・ユニ
 レグルス種の幼竜です。
 アーリアさんの関係者です。
 なかなかに頑丈で力持ちです。

・アウラスカルト(p3n000256)
 みなさんに良く懐いているドラゴンです。
 パラスラディエの手ほどきによって、魔術の腕前がだいぶ向上しています。
 めちゃんこ強いですが、超高反応の封殺が弱点。
 ……なのですが、そんなことが出来るのは皆さんとロードぐらいのものでしょう。

・パラスラディエ(p3n000330)
 みなさんのことが大好きな竜のお母さん……の魂の残滓です。
 何も出来ませんが、無駄に心強いです。
 NPCですがアーリアさんの関係者みたいな扱いになっています。念。

D:その他
 戦場各地や後方などで、部隊の連携、兵站確保、救助などを行います。
 この場が活躍すると、他戦場の効率が向上し、死亡率が低下します。

●『アークロード』ヴェラムデリクト
 Bad End 8の一体。属性不明の魔種です。
 太古の昔から、歴史の闇で暗闘してきました。
 おそらく三度ほど多重反転しています。推定は色欲、傲慢、怠惰です。

 能力を単純に言えば、普通の魔種として『カンスト』しています。
 全てのスペックが高く、CTFBは高CT、マイナスFBです。

 権能は『仮初の不死』です。
 簡単に言えば三体いますが、本体という概念はありません。全てが当人です。
 一つの意識が、破綻なく三つの身体を動かしているという状態です。
 要するにこのスペックの敵が三体居るということです。
 そして24時間程度の間に三体とも倒さなければ完全消滅しません。

 イレギュラーズのみに伝えられたスキル(ゴールディロアやアルトゲフェングニスやドロップスキルなど)やアクセルカレイド以外の、全ての物理神秘スキルと同等のものを取得しています。
 それぞれのロードは、そのうちの7つのアクティブスキルを活性化しています。

●その他友軍
 なんとなく気配があります。
 酒臭い妖精とかレグルスの竜が二体ほどとか暑苦しい冬の王とか北海の蛮族とか。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。

●『パンドラ』の加護
 このフィールドでは『イクリプス全身』の姿にキャラクターが変化することが可能です。
 影の領域内部に存在するだけでPC当人の『パンドラ』は消費されていきますが、敵に対抗するための非常に強力な力を得ることが可能です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はDです。
 不測の事態などあって当然ですが。もうここからは気合いです。
 なんぼのもんじゃい!


行動場所
 以下の選択肢の中から行動する場所を選択して下さい。

【1】幻想王国方面
 幻想王国軍、天義黒衣騎士隊、杜の連合軍と攻めます。

【2】鉄帝国方面
 独立混成連隊ルーチェ・スピカと共に攻めます。

【3】覇竜領域方面
 竜と、クォ・ヴァディス一部兵力と共に攻めます。

【4】その他
 戦場各地や後方などで、部隊の連携、兵站確保、救助などを行います。
 この場が活躍すると、他戦場の効率が向上し、死亡率が低下します。

  • <終焉のクロニクル>Vivere Est Militare.Lv:60以上完了
  • GM名pipi
  • 種別決戦
  • 難易度VERYHARD
  • 冒険終了日時2024年04月13日 22時05分
  • 参加人数56/56人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 56 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(56人)

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
私のイノリ
セララ(p3p000273)
魔法騎士
オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
鏡花の矛
ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
Lumière Stellaire
レッド(p3p000395)
赤々靴
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)
黒武護
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
無限円舞
ウォリア(p3p001789)
生命に焦がれて
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)
優穏の聲
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
ディバイン・シールド
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
シラス(p3p004421)
超える者
メイメイ・ルー(p3p004460)
祈りと誓いと
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊
ジェック・アーロン(p3p004755)
冠位狙撃者
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)
真打
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し
ソア(p3p007025)
愛しき雷陣
カイト(p3p007128)
雨夜の映し身
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣
アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮
リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)
黒狼の従者
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)
薄明を見る者
長月・イナリ(p3p008096)
狐です
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
カイン・レジスト(p3p008357)
数多異世界の冒険者
天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師
しにゃこ(p3p008456)
可愛いもの好き
ラムダ・アイリス(p3p008609)
血風旋華
ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)
流星の狩人
ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)
人間賛歌
結月 沙耶(p3p009126)
怪盗乱麻
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
祝音・猫乃見・来探(p3p009413)
優しい白子猫
フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)
挫けぬ笑顔
佐藤 美咲(p3p009818)
無職
ユーフォニー(p3p010323)
竜域の娘
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女
セレナ・夜月(p3p010688)
夜守の魔女

サポートNPC一覧(8人)

アルテナ・フォルテ(p3n000007)
冒険者
リーヌシュカ(p3n000124)
セイバーマギエル
ストレリチア(p3n000129)
花の妖精
普久原・ほむら(p3n000159)
ヴェガルド・オルセン(p3n000191)
氷剣
ディアナ・K・リリエンルージュ(p3n000238)
聖頌姫
アウラスカルト(p3n000256)
金嶺竜
パラスラディエ(p3n000330)
光暁竜

リプレイ

●Last Phantasm I
 朝日を反射する鋼の鎧兜達が、小高い丘に光の帯を描いていた。
「嫌な風だ、熱病でも患ったような」
「さもないことを言うな。これより征くは地獄ぞ、些末は捨て置けばよい」
「違いない!」
 不吉な呟きを笑い飛ばした騎士隊長達が、ワームホールを睨み付ける。
 それは終焉(ラスト・ラスト)へ通じる、地獄への大穴だという。

 絶え間なく湧き出す終焉獣(ラグナヴァイス)を屠りながら、幻想王国の兵士達は徐々にその包囲網を狭めていた。
 瘴気の影を纏う狼のような怪物が、兵士の喉笛を噛みちぎらんと躍りかかる。
 そもそも、無理なものは無理なのだ。
 道理というものは覆らない。
 枝で羽を休めぬ鳥はおらず、死者は決して蘇らず、世界とていずれ必ず滅ぶ。
 この世界は今や終わりを迎えようとしていた。

 ――どうすればいい。
 仰向けに押し倒された若き兵士、ジャン=シモン・ルイスは思案した。
 のしかかる怪物は、いま正に自信の喉笛を噛みちぎらんとしている。
 槍を手放し、脚に結んだ小さな鞘から短剣(ミゼリコルデ)を引き抜く。
 そして獣の腹を突こうともがくが――間に合わない。
 哀れ二十八年の生涯は閉じられる。
 そう思われた。
 叫びながら両目を閉じたジャン=シモンが、おそるおそる目をあける。
 見えたのは、黒衣を翻す背中だった。
「クロバさんじゃないですか、ありがとうございます!」
「礼なんていいさ、こっちだって助かってる」
 憧憬を隠さぬまま、瞳を輝かせた兵士と、面識は全くない。
 だがクロバ達イレギュラーズは、今や英雄として知られている。
 そんなイレギュラーズの一団は、幻想王国の兵士や騎士達と共に、ラストラストを目指しワームホールへと進撃していた。
「露払いはどうぞ、我等にお任せを!」
「そうだ、この地に集ってくだすった百の勇者殿等をかならずや送り届けん!」
 兵達の声音は、勇ましい限りである。
 ただの兵士の一人までもが、果敢に奮い立っている。
 だのに『絶望』は『絶対』だ。
 この戦場に勝利はあり得ない。
 客観的事実として、そのように分析されていた。

「本当に助かる、それに……」
 クロバは緊張した面持ちで先陣を見つめるエリカの隣へ立った。
 そして小さな背に、そっと手のひらをあてる。
「行く前に一つ話しておこうか」
「……はい」
「天の星でなく地に咲く花、それがお前の名前の由来だよエリカ」
「地に咲く花……」
 荒れた大地に咲き誇るヒースは寂しさという意味を持つ。されど、それは他の花が咲かない地であっても健気に育つ強い花なのだとクロバは笑ってみせる。
「なんでだろ、状況最悪なのに全然負ける気がしないの。お師匠とエリカが行くなら隣で一緒に戦わせて」
 エリカの傍に歩み寄るシキは彼女の手を握る頷いた。
「ふふ、私って師匠しがいのある弟子だろう?」
「さぁて行こうかシキとエリカ?」
 クロバの問いに二人は「ええ」と応える。
 見据える先は『魔王』が鎮座する大穴。
 駆け出すその背は、まさに勇者のそれだった。

 誰一人の欠落も赦さない。
 戦場を見据えるイーリンの決意は固かった。
「全く、遅いのよ」
「何を言う、真打ちは後から登場するもの、この冬の王オリオン」
 大見得を切る。
「人の身なれど奮闘せしめん」
「だったら見せてみなさい」
 数は力である。
 力が――騎兵隊が勝利をもたらす。
 結論は変わらない。そう信じている。
「ペリカ、私達が貴女を守る。昔みたいに前に出ても良いわよ」
 生きる為の策を練り、実行する。その繰り返し。
「オリオン、轡を並べるのも良い景色でしょう」
 旗を掲げ集まった友軍全ての顔を見遣る。
「騎兵隊である! 勝利は、否生存は我等と共にある」
 イーリンが檄を飛ばした。
「故に貴方達も騎兵隊よ、続け!」
 傍で赫塊に跨がるのはココロである。
 一番弟子を自負するココロはイーリンの傍を離れてはならない。
 彼女が前に進めるようにその道を開くのが自分達の役目であると。
「わたし達は止まらない!」
「お供しましょう」
 怒号と剣檄がワームホールの中に、無数の死を散らしている。
 一瞬毎に刃が閃き、終焉獣が絶叫し、亜空の地を黒に染める。
「あはは、こうも味方が多いのに、敵の数が更に多い」
 ここまで来ると笑えてくると、愛馬リットの上でレイリーは声を上げた。
 手綱を引いて旋回したレイリーは、向かってくる軍勢に口角を上げる。
「私の名はレイリー=シュタイン、騎兵隊の一番槍よ!」
 その槍が終焉獣を貫き、振り払い、四肢が飛ぶ。
「ぶはははッ、そんじゃあ騎兵隊の脇は俺が固めさせてもらいますかねぇ!」
 ゴリョウは騎士達を引き連れて終焉獣の群れに立ちはだかる。
 身を屈め護りを固めた騎士達の盾に終焉獣の爪が弾かれた。
「踏ん張れよ! 此処で負ければ後はねぇぞ!」
 ――応!
 ゴリョウの激励に騎士達は終焉獣を押し返す。

「強大な存在が一人『で』三人だろうと」
 カイトはイーリンの背を追いかけながら笑みを零す。
「此方には紡いできた総てが集まってきている……」
 こういう時に燃えるのが自分達の大将であるのだ。
「どうせ最後のご対面にお互いなるのなら、だ。
 ――遊びましょ、寝坊助の黒幕気質さん。
 俺の、とっておきの、騎兵の為の『舞台』でな」
 カイトの目には戦場の動きが隅々まで見えていた。
 後方で銃をかまえるのはミヅハだ。先陣を切る騎兵隊に追従している。
「背中は任せろとカッコつけたい所だけど、今日は一人だから程々に頑張るぜ」
 其れにしてもとミヅハは視界に映る顔ぶれに感心する。
 対峙しているのは魔種(デモニア)だった。
 反転した瞬間に、混沌肯定『レベル1』を超越する存在。
 滅びのアークを纏い、広め、世界を終焉へ導くという悪魔。
 人類の不倶戴天の敵。
 弱兵も雑兵も一人としていない。
 それが、ここにはどれだけ居るのだろう。
「敵は訳わかんねー強さだけど」
 倒したのは、辛うじてなのかもしれない。けれど――
「このメンツならなんとかなりそうな予感がするぜ!」
「うん、僕も戦うよ」
 ヨゾラはアルテナやペリカが怪我をしないように注意深く気を配っていた。
 最前線に居る幻想の騎士達が傷を負えばすぐさまヨゾラは癒しを施す。
「ヴェラムデリクト、絶対に倒す……!」
 怒りを闘志に変えて、ヨゾラは戦場を走った。

「聖女殿! どうかお力添えを!」
 叫ぶ一団がある。
 兵士達の集団が重傷を負っている。
「大丈夫」
 光が満ち、スティアが癒やしの聖句を紡いだ。
「滅びの運命を受け入れる訳にはいかないよ」
 そして凜とした眼差しで、魔種の群れへ両手を広げた。
 攻勢術式の乱舞が爆ぜる。
 だがスティアの結界を打ち破るには足りなかった。
 どんなに困難であっても救われる可能性が少しでもあるのなら。
「全力で足掻いてみせる!」
 何者をも寄せ付けぬ聖なる光輝が、一帯を優しく包み込んでいる。
「それが聖女の名を冠する者の役目だと思うから……」
 信念の輝きがスティアの周囲に光となって現れたのだ。
「どれほど絶望的だと言われたとしても」
 僅かに腰を落とし、アルテミアが踏み込んだ。
「どれほど滅びが不可避だと言われても、私は――」
 冴え渡る剣の一戦が、終焉獣を両断する。
「私たちは抗い続けるわ! だって、それが『生きる』という事なのだから!」
 生きることを諦めるなんて出来るわけがない。
 アルテミアの言葉にアンナも頷く。
「可能性がない、なんて所詮敵の妄言だわ」
 自分達は抗うために選ばれた。この背には数多の人々の希望が輝いている。
 その思いがアンナたちに勇気を与えてくれるのだ。
「戦う理由には十分でしょう」

 どうせ終わるのだから放っておけ――と。
 ヴェラムデリクトは、そんな風に宣った。
「それで止まるようなら、そもそも冠位を突破出来なかっただろうな」
 錬は彼の言葉を思い返し首を振った。
 実のところ、この戦場に勝利はない。
 情報屋はそのように分析するほかになかった。
 それは幻想王国の軍師が述べるも同じ。
 練達の賢者も、天義の司祭も、鉄帝国の将校も皆一様に導いた結論だ。
 勝率はゼロパーセントなのだという。
「けどな」
 そんなことは関係ない。
「例え勝率が零だと言われようと無理やりに勝機を作り出す!」
 それがイレギュラーズというものだ。
「イレギュラーズは勝てない?」
 ヴェラムデリクトの言葉を鼻で笑うのはアルヴィだ。
「勝負は敗色濃厚から始まる方が、覆し甲斐があるってモンだろ」
 アルヴィは目にも留まらぬ速さで戦場を駆け抜ける。
 押し寄せる終焉獣目がけて弾丸の如くその身を滑らせた。
「道を作る、進みたい奴はさっさと進むといい」
 アルヴィの切り拓いた道に幻想、そして天義の騎士達が突き進む。
 だが果たして、こんな作戦が通用するものだろうか。
 ここは魔境、死地である。
 イレギュラーズならばともかく、大半はたかが兵士風情だ。
 弱兵で知られる幻想と、妄信だけが取り柄の天義と。
 満ち満ちた滅びのアークに絶望し、原罪の呼び声を受け入れる。
 その全てがたちまち魔種になる。
 それが結論だ。
 滅びの扉が開かれる。
 世界が消え失せる瞬間が近付いている。
 味方が魔種の大軍勢となれば、さしものイレギュラーズとて無力。
 数は力なのだから。

「互いに引けぬ戦い。ならば、やる事は一つだけ――」
 なのになぜ、誰一人反転していないのか。
 イナリが機銃を掃射した。
 小細工など最早意味をもたない。
 ただ手を緩めず、殺す。それだけのこと。
「前進するのみよ、一体でも多く叩き潰して」
「その息だ」
 式神稲荷神が呪符を放つ。
 超重力の歪みが終焉獣の群れを挽き潰した。
「だいいち我等は逃げ回る『あれ』を始末しなければならんしな」
 それでも敵の勢いは止まらない。
 カインは剣柄を握り締め――
「……でも、それでも」
 ――信じて、一気に振り抜く。
 斬撃が終焉獣を両断し、即座に地を蹴る。
「僕らはイレギュラーズ、ローレットの冒険者」
 返す刃が、いままさに槍を突き込もうとした魔種を貫いた。
「出来得る限り足掻かせて貰わなきゃね!!」
 絶望がなんだ。
 勝利は、つかみ取らねば意味がない。

●Luce Spica I
 連合軍は三方から、アークロードの待つ闇の砦を目指している。
 しかし戦況が絶望的なのは鉄帝国方面においても同じだった。
 帝国の大軍勢は全剣王との戦いに消耗しつつあり、撃破は未だかなっていない。
 どだい無理な話だ。この瘴気溢れる滅びの空間において、たかが人間が魔種に太刀打ち出来るはずなどありはしない。
 帝国がこの戦域へ派遣出来たのは、結局独立混成連隊ルーチェ・スピカだけだ。
 イレギュラーズのために作られた、イレギュラーズを支援するための精強な部隊ではある。その火力は、突破力は、制圧力は優秀極まる。
 あくまで『人の世界ならば』の話だが。

「愛しい旦那様じゃなくて私と一緒で悪いわね」
 だがルチアへ向けたオデットの言葉は、不安など微塵にも感じさせない。
「ふふ、照れ隠しはいいのよ」
 無辜なる混沌で初めて『ありのままの自分』を見せることの出来た――
「頼りにしてるわよ、親友!」
「任せなさい、親友」
 言ってのける。
「貴女が為すべき事に集中できるよう、完璧にバックアップしてみせるわ!」
「色々ごちゃごちゃ言ってたが」
 愛無はヴェラムデリクトの言葉を思い返す。
「詰まる所は仕事を理由に家族や未来と向き合う事を放棄した」
 何かの気配へむけて、愛無が振り返る。
「駄目なおじさんって事だな」
 ことある毎に愛を口にする手合いの――
「なるほど、やはりお前等は愚かにも向かってきたということか」
 何かの声がする。
 そこには闇が渦巻いていた。
「居るのでしょう、出てきてはいかが?」
「御免被る。この私が、わざわざ、何のために出て行かねばならんのかね」
 闇が嗤った。
「この私がたかが十人風情にどうこうされる言われはないが。
 だがね、お前等は特異点。万が一と言うこともあり得る。
 可能性の奇跡でも放たれたのであれば、無事では済むまい。
 お前等は冠位さえ殺しているのだからな。
 私は勝たねばならない。
 ならば全身全霊、全軍を以て挽き潰してやろうじゃあないか」
「もう一度聞いておくけれど、私達と一緒に世界を救うつもりは?」
 それはヴァレーリヤの、今ひとたびの問いだった。
「お断りだと言ったろうが、司祭めが。二言などあるものか」
「……そう、なら戦うしかありませんわね。
 私達だって、いつまでも揺り籠にいる子供ではありませんの」
 自分の道は自分で選び、切り拓く。
 聖句と共に、ヴァレーリヤの戦棍が炎を吹き上げた。
「ふふ。ヴァリューシャ」
「ええ、マリィ」
「世界の危機なんだ。きっと来るなと行っても皆来ちゃうはずさ」
 彼女の隣に寄り添うマリアが同じように前を向いた。
「だから、皆で精一杯ありったけ頑張ろう」
「行きますわよ、マリィ!」
「うん! 行こう! ヴァリューシャ! 後ろはまかせて!」

「馬鹿共めが。なぜ抗う、何故楽にしない」
「なぜ抗うかって、私が一番わからないんスよ!」
 美咲は声を張り上げる。
 雑に生きて呆気なく死ぬつもりだったのに、気付けば死ねなくなっていた。
「だから、最後まで足掻かないと行けないんスよ」
 ラムダは己を奮い立たせるように拳を握り締めた。
「勝率0%? だから何? って感じだね」
 そして笑い飛ばした。
「……抗いもせずに大人しく立ち尽くす程、
 ボク達は絶望なんてしていないのだからね!」
 その背を守るように、ルーチェ・スピカの軍人達が雄叫びを上げた。
 そして機銃を手に一斉突撃を敢行する。
 終焉獣の群れを穿つ弾丸の嵐が、亜空に黒い血を塗りたくる。
「より良き未来を得られる道があるのなら」
 ムスティスラーフの声は、誰よりも優しかったろう。
「それがどんなに困難でも諦められないものさ」
 極度の疲労に膝を屈した壮年の男――帝国軍人の肩を抱き、引き返して休むように促そうとしたが――軍人が立ち上がる。
「まだ戦えます」
「無理をしたらいけないよ」
「いえ、押し通すのです。あなた方がいてくれるのだから!」
「可能性はゼロ――だからどうした。私達はこれまでそういう絶対を覆してきた!」「うん、勝てるかどうか、なんて考えてたらここまで戦ってきてないしね」
 沙耶の言葉にアレクシアが頷く。
「だから今回だって、たとえ試算された可能性がゼロだって――それが試算でしかないことを、イレギュラーズの希望の力を証明してあげよう!」
「いつだって、希望は必ずあると信じて進むだけ!」
 アレクシアたちの願いを込めた声が戦場に響き渡った。
「オレは『よをつむぐもの』。世界という織物を仕立てるための糸を紡ぐ者」
 拳を握った風牙が、寛治とフォルトゥナリアと目配せ一つ。
「そして、オレ自身もオレという物語を紡ぐ。終わらせてたまるかよ!」
 三者は一気に敵陣へと駆け出した。
「まだ、終わりじゃない!」
 フォルトゥナリアの姿が、美しくも禍々しい黒竜魔人へと変貌した。
 だがその漆黒は、希望の光を放っている。
「さて、この制服を身につけるのも久しぶりですね」
 この日、正純はあえてアーカーシュの制服に身を包み戦場へ立った。
 ルーチェ・スピカの面々から喝采が轟いた。
「彼が――」
 その弓を構える。
「マルク・シリングが命懸けで残した世界、彼の代わりに守り通しましょう」
 放たれた一射に、魔種騎士の一体が散った。
「ヴェラムデリクト……奴を倒す為にも、僕はこっちで、皆を癒すよ」
 祝音はアーカーシュの日々を思い出しながら此処に集まった人々を見つめる。
 彼らの為にも頑張らなければと覚悟を決めた。
「「かなしい」のはいやです。だから……いきましょう、「おねえちゃん」」
 ニルは手にしたミラベルワンドを握り締める。
「行って、帰ってくるのです。ニルのだいすきなひとのところへ」
 左の薬指に光るベスビアナイトの指輪に触れてニルは願いを口にした。
 杖とネックレスが自分を支えてくれるから。
 ――前へ、前へ!

「いざ、行進の時……なんて、そんな仰々しい場所は私には似合わない」
 マリエッタは雄々しく大地を踏みしめる最前線の仲間達を見つめた。
「私は私、魔女らしく……」
 仲間達の作り出す勝利の道筋を確実なものとする一手を担わんとするのだ。
「そういうのも必要なのでしょう?」
「ええ、私達で支えましょう」
 彼女の隣にはセレナの姿もあった。
「だから華々しく戦ってきなさい、英雄達」
 術式を振い、支援する。
「魔女は魔女らしく戦う、ただそれだけです」
 何よりマリエッタ達の激励の言葉は強い鼓舞となったろう。
 それでも――

●Luce Spica II
 帝国方面では、いまもなお一進一退の攻防が続いていた。
 この戦場に数の優位はなく、また同時に、人が魔種に勝てるはずもなく。
 事前の予測通り、この戦場は瓦解するのだろう。
 もしも研究者が、軍師が、歴史家がここまでの状況を分析するのであれば、そのように断言しただろうが。

「左翼を前進させたほうがいい」
「……言われなくても!」
 戦況は刻一刻と、秒単位で推移している。
 リーヌシュカの僅か一瞬の決断を、ジオルド支えたなら未来は変わるのか。
 そしてマキナの情報統制が、効率を向上させたならどうだろう。
 願った美咲自身も、最前線で盾役を買っている。
「そっちは任せたスよ」
 誰もが必死だった。
 嫌な予感がするとも思った。
「ルーチェスピカも美咲もさ、いるんだから弱いところ見せられらないわよね」
 パンドラの加護を纏ったオデットは氷の妖精の姿になっている。
 戦場に光が駆け抜ける。
 その熱量が、膨大な魔力が、終焉獣を飲み込んでいく。
 ルチアもまた、決死の親友を支え抜くと誓っている。信じている。
「まだ行けるわよね?」
「もちろんよ!」
 オデットとルチアの声が戦場に弾んだ。
「世界の行く末だのと規模がでかい話をしたところで」
 漆黒の塊が魔種騎士を飲んだ。
「結局は、ぽーくじゃなくて、ちきんだったって訳だ」
 左右から飛びかかる終焉獣の二体を掴み、頭部をぶつけ合わせる。
「愛しているなら抱きしめて『愛している』って言わなきゃな」
 愛無はうねるように身体をひねり、獣を引きちぎり、そのまま丸呑みにした。

「あっちが薄くなったんじゃないか?」
「ええ、ならばプランBへ移行しましょうか」
 戦場を俯瞰する風牙に寛治が頷く。
 わずか一射、ただの抜き打ちに魔種騎士の一人が足を止めた。
 人ならば即死であろうヘッドショットの痕、額を手のひらで押えながらそれは高らかに笑う。人風情の必死を、魔が嘲っている。
 だが寛治が築いた僅か一瞬の隙を縫い、風牙の一撃が貫き通す。
 一匹の終焉を謳う者に、望む終焉が訪れた。
「皆を護ってみせる!」
 誰も死なせたくないのだとフォルトゥナリアが願いをこめた。
「魔王なんて勇者の相手にはお誂え向きだね!」
 ニルは杖を頭上に掲げ集まった敵へ、膨大な魔力を叩き込む。
「『希望』と『勇気』で未来を勝ち取るよ!」
 紡がれた術式に光が爆ぜ、敵陣を灼き祓う。
 だが敵は、まるで決壊した堤防からあふれ出す濁流のように、一行へと殺到し続けていた。
 祓えども、破れども、その猛攻は止まらない。
 終焉獣の一体がニルへ牙を剥く。
 そのとき、一条の閃光が戦場を純白に染め上げた。
「全部まとめて消し飛ばしてあげるよ!」
 ムスティスラーフの交戦が戦場をこじ開ける。
 それは今や、獣竜と呼ぶべき存在となっていた。
「パンドラが削られるといっても臆するものか!」
 祝音は追い打ちを掛けるように集まった敵へと照準を合わせる。
「無限の光の彼方へ……ぶちのめす! みゃー!」
 あらわにした怒りは、さながら毛の逆立つ猫のように。
 祝音は決意に満ちていた。

 誰もが必死である。決死である。
 けれど人の身には限りがあり、疲弊は免れない。
 そんな戦況の推移を、ラムダは感じ取っていた。
「無理は禁物だよ! 怪我をした人は一旦下がって体勢を立て直すんだ!」
 ここは正念場である。
 命を賭すに値する、決戦の場である。
 だから戦士達は誰もが、限界を越えている。
 だが、それでも引き際はあった。
 攻撃は波状とすべきであり、波は引くものだからだ。
 背水の戦いにおいて、一兵の命はあまりに軽いかもしれない。
 だが、だからこそ、無駄に喪うわけにはいかない。
 魔弾を打ちはらい、ラムダが叫ぶ。
「まだ、きみ達の力が必要なんだ!」
 沙耶さえも、今は肩で息をしている。
 だがここで耐え抜かなければ、戦場は瓦解する。
 そうした一念がイレギュラーズを支えていた。
 イレギュラーズが立っているからこそ、連合軍も戦うことが出来ていた。
 繰り返すが、勝率はゼロパーセントである。
 いかにしても、そこには敗戦という結論しかない。
 世界は滅ぶのだ。
 目の前で、今すぐに。

 敵陣中央で嗤う者が居る。
 狂神と呼ばれる旅人だったもののなれはてだ。
 それは魔種と手を結び、この世界を終わりに導くのだという。

 しかしそんな未来を、アレクシアは認めていない。
 沙耶も正純も同じだ。
 だから術式と、矢と、抵抗は重ねている。
 しかし援軍など望むべくもない。
 帝国軍は全剣王と交戦しているからだ。
 その戦場とて同等の死地である。
 全ての冠位すら模倣するという、多重反転の果てにある魔種だ。
 どだい勝利することは出来ない。
「こっちは終わったよ」
 背後からかけられたそんな言葉に、帝国軍人マトヴェイは狼狽えた。
 彼は少しだけ後悔しはじめていた。
 こんなことであればスチールグラードの酒場で酒でもひっかけて、女を口説いていれば良かったのだ。なにも死にに来ることもなかったのだと。
 終わったということは決着だ。
 即ち敗北である。帝国軍が全剣王に破れたのであれば、この戦場は更に倍する敵と交戦することを意味する。
「君、なんて顔してるのさ」
 そう述べたのは、確か『雷帝』ティセ・ティルマノフ。
 ラド・バウのA級闘士だったではないか。
「倒したよ」

 ――誰が、誰を。

「イレギュラーズが、全剣王を」

 それは奇跡だった。
 不可能の一つが、最終的な終焉の結末が、一つだけ覆った合図だった。

 ――増援です。
   味方、帝国軍主力部隊!

 正純が――正純ともあろう女が――叫んだ。
 イレギュラーズのつかみ取った勝利と、そして同じくイレギュラーズが耐え抜いた戦場と、二重の奇跡が結ばれようとしている。
 今、運命が揺らいでいた。
 微かに、僅かに、頼りないままで。

●Quo vadis I
「はいそうですかと大人しくしてなんていられるかー!」
 レッドは怒りを顕にしていた。
 この戦場は、覇竜方面から闇の砦を目指すものだった。
 一行の数は最小、だが竜達が控えている。
 ヴェラムデリクトは、滅びを受け入れろと言っていた。
 だが――
「理不尽に抗い覆し壊す! それがボクらってもんっすよ!」
 ワームホールが軋みを上げる中。
「終焉なんてブレイクしにいくよウォリア!!」
 レッドと共に戦場へ駆け出すのはウォリアの巨躯だ。
 迫る終焉獣を前に、その闘志を剥き出しに剣を振う。
 一体、また一体。
 屠る度に増える己が傷痕さえ焼くように。
「いえ、薬は結構です……」
「あれあれ、どうしてですか、キメれば超ハイ。楽しいことは良いことです」
「ていうかシレジア殿の前のお茶も一応飲んだけど、明らかにヤバイやつだったじゃないですか!」
「ささ、一杯。毒味はしてあります」
 というか酒のんだみたくなる薬とか、戦闘前に飲むものではないのではないか。
 そんな常識をシレジアは笑い飛ばす。
(シレジア殿、悪い方じゃない……ないか? 多分ないんですが。なんか身の危険を覚えるんですよね)
「ねえ、ちょっと思いついたんだけど」
「どうした」
「ボクの聖剣に魔術を使えるから? アウラちゃん! 合わせ技みたいに!」
「やってみよう」
 アウラスカルトが頷き、セララの剣をエンハンスメントさせる。
「例え滅びると、定められていたとして、も」
 メイメイは大きく息を吸い込んで、ゆっくりと吐く。
「最後の最後まで…足掻きたいのです、よ」
「ああ、無論」
「そう思えるのも、今まで皆と乗り越えてきた、から」
「ええ、もちろん」
「ボク達とアウラちゃんの出会いと冒険」
「ああ」
「楽しい物語は世界を救ってハッピーエンドだよ!」
 眼前には終焉獣が姿を見せていた。
 あたかも海中で小魚が渦を巻くように、亜空間を駆け巡るそれらは、まさに絶望の象徴だ。一体一体が人の身など容易に引き裂き喰らい尽くす怪物である。
「……アウラさま、リーティアさま、ガツンとやっちゃいましょう……!」
「行きなさい、アウラスカルト。帝竜(バシレウス)の火を見せつけるのです」
「ここは任せろ。あんなもの、我が息吹一つで消し炭にかえてくれる」
 竜の――アウラスカルトの巨大な顎の間に光がこぼれた。
 みるみる増幅する光が辺り一帯を覆い尽くし――閃光が放たれる。
 さながら子供がホースで水を撒くように。
 縦横無尽に戦場を斬り裂く光線が、終焉獣の群れをなぎ払う。
 ワームホールは、それで終わりだ。
 ここからは影の領域。
 前人未踏の極北――地獄である。
「コル=オリカルカ、来ない理由は無いでしょう」
「全く、世話が焼ける」
 リースリットの背後に、人型の竜が現われた。
「乗りなさい、リースリット」
 竜身へ戻ったコル=オリカルカが首を下げた。
 そして一行を、アウラスカルトの眷属たる亜竜達もまた背に乗せる。

「全く忌々しい、人の分際で竜など手懐けおって」
 闇の砦を前に誰かが息を飲んだ。
「万に一つが、二つになったらどうしてくれる」
 闇が嗤っている。
 それは漆黒の竜に乗っていた。
「もっとも、この私がすべて鏖殺し尽くすまでだがね」
 それはレグルス種の魔神竜グロアノクス。
 そして魔神王(ロード・オブ・デヴィル)ヴェラムデリクトだった。
 背後では無数の終焉獣と亜竜が一斉に舞い上がる。

「――蹂躙せよ」

 眼前の無数は、僅か百たらずの一行を飲み込もうとしていた。
 竜と共に在ろうとも、やはりこの戦場も勝てないに決まっている。
 客観的にはそう判断せざるを得ない状況だった。
「ヴェラムさんが安心して仕事を諦めるよう、彼を倒して強さを証明しないとね」
「やけに強い子だと思っていたら、ユニちゃんもレグルスだなんて!」
「にひー!」
 亜竜を蹴り飛ばしたユニが終焉獣を投げ飛ばし、満面の笑みを浮かべる。
 あっちのレグルスとは大違いだとアーリアは思った。
「アウラスカルトちゃんも、りーちゃんも、ユニちゃんも……」
 竜達が振り返る。
「貴女達は皆、竜と人が友達になれるって。
 素敵なことを教えてくれた大事な人だもの。さ、一緒に行きましょ!」
 それからアーリアは一拍手をうつと、近くに浮かぶ光球へ視線を送る。
「……と、いるのは解ってるからねストレリチアちゃん!」
「おー! 驚かせようとしたのに、ばればれなの!」

 ――現は幻、花の夢。
   とどけよとどけ、虹の橋。
   開け、ゲート・オブ・アルヴィオン!

 掲げる聖剣が光を放ち、現われた無数の妖精達が舞い踊る。
「じゃじゃんと行くの、全軍突撃!」
 無数の終焉獣達が、次々に一握の花びらへと変貌する。
「さあ、行こうじゃないか」
 花びらの道を駆けるブレンダもまた、二刀で十字を斬る。
 この先を切り拓くのは自身であると奮い立ち、終焉獣を両断した。
「世界は終わらない。終わらせない」
 ジェックはライフルを構え、魔竜へと弾丸を打ち込む。
「そんな希望は眩しすぎて目もあてられないかい? 無謀に挑むことには疲れた?」
 ヴェラムデリクトはいったいどれぐらいの失望を抱えて生きてきたのだろう。
「この世界を終わらせんとするのが神ならば」
 一射、また一射。
 放ち続ける弾丸は、遠ざかる未来を縫い止めるように。
「それに抗うアタシ達を召喚したのもまた、神なんだ」
「受験失敗したし世界滅べーって思ったんですけど」
 しにゃこは大声を張り上げる。
「本当に滅びても困るんですよねぇ!?」
「ええ、本当に。我が身朽ち果てた魂の残滓なれど、そんなものは認めない」
「勝てる確率0%だなんて今まで我々が何度無理を通したと思ってるんですか!」
 放つ弾丸が終焉獣を次々に地へ墜とす。
「ねぇパラスラディエさん!」
「ええ、見せて下さいな。あまねく奇跡の結末を、その紡ぎ上げた終着を」
「で、だからどうしたというね。そんなものでゼロが覆るとでも?」
「――今更だ」
 ベネディクトが笑った。
「そして愚問だな」
 らしくもない獰猛な笑みだ。
「今更、俺達に確率の話をするのか?」
 その一撃で亜竜を屠り、顔をあげる。
「勝率が高い闘いなど、真の強敵を前にどれ程あったというのか」
 これまでもイレギュラーズは不可能を可能にしてきた。
「そしてそれを掴み取る事もだ。俺達は幾度も証明して来た筈だ──行くぞ!」
 もう一度、二度、三度。
 繰り返すだけの話ではないか。
 ベネディクトは傍らのリュティスへ視線を向ける。
「私は御主人様と共に在ります。どこまででもお供致しましょう」
 それが死地であっても片時も離れないとリュティスは頷いた。
「勝率ゼロ……成程? つまり小数点以下でならあるわけだ」
 紫電と秋奈は敵軍を見渡し笑みを浮かべる。
「だったらいくらでもやりようはある」
「アークロードのヴェ……あれはもう罰ゲームだぞ、罰ゲーム」
 物は言いよう例えよう。
「だったら、全力出してベストを尽くしたほうがいいのだ」
 その言葉に誰もが頷いたろう。
「ここにみんなが理由なんて、それだけだよ。あ、いや……」
 おどけて笑い飛ばして見せる。
「ちょっとくらいは、びびったかも。名よりは見るは恐ろし……なんちゃて」
「無理を通して道理を蹴っ飛ばす、それがオレたち……だろう?」
 それにここには秋奈も、アウラスカルトも居るのだ。
「なら負ける道理など、ない!」

「やれやれ、一体だけでも手がかかるというのにそれが三体もいるとはな」
 ゲオルグは大きく溜息を吐く。
 ヴェラムデリクトは三体の身を操る魔種だという。
「とても素敵な歓迎ですね」
 ユーフォニーは掌から色彩の魔術を花開かせる。
 澄み切った音が、瘴気揺蕩う魔の空間を鮮烈に輝かせ――
「だが、それで諦めて滅びを受け入れろと言われても無理な話。可能性がないというのであれば作り出すまでだ」
「はい!」
 敵へと立ち向かう仲間達へ加護を与えるのはソアだった。
「一人でも多く、とどくようにね! ウル!」
「そうだよね、ソアちゃん!」
「飛ぶよ!」
「うん!」
 ソアとウルの身体は宙を舞い、無数の終焉獣を置き去りにする。
 そして大地を蹴った。
 振り向きざまに終焉獣を銃弾で縫い止めたウルに、あうんの呼吸でソアが回し蹴りを見舞う。吹き飛んだ終焉獣が霧散した。

●Quo vadis II
 竜さえ従え、夢幻を味方としてさえなお、この戦場は過酷だった。
 ゼフィラは終焉の監視者の兵を乗せ、ドレイクチャリオッツを駆る。
「今の私にできるのはこれが最善だ」
 ドレイクチャリオッツで戦場を駆け抜け、傷を負った仲間を救い出す。
 ファミリアーの視界を頼りに、ゼフィラは兵達を次々と救助していた。
「安心したまえ、私が必ず治療して見せる! 後方は任せろ!」
 そんな声に勇気づけられた兵士がまた、最前線へ戻って行く。
 この長期戦の中で、ヴェラムデリクトは三体とも滅ぼさなければならないと分析されている。それがかの魔種の権能であるのだと。
 ゲオルグもまた仲間を癒し、最前線を見据えた。
 攻撃手を癒すこともまた、戦場において重要な役割である。
 彼の癒しは仲間の生存率を高めるもの。
「戦闘続行出来ないものが増えてしまっては可能性する作らなくなるだろうからな……しっかり皆を支えるとしよう」
 回復を受け立ち上がった騎士の背をゲオルグは優しく押した。

「ここはまだ通過点に過ぎません。こんな所で躓く訳にはいかないですね」
「ああ、その通りだ」
 リュティスの声にベネディクトが敵を切り裂く。
 何重にも振ってくる敵の攻撃を躱し、追撃を掛けるのを繰り返す。
「出し惜しみは無しっす! 全力でいくっす!」
 レッドは目の前の竜を睨み付ける。纏う闘志が赤く染まっていた。
 自分自身がいくら傷を負おうと構いはしない。
「クォヴァディスのロサちゃんの護りの力も借りて進撃!」
 問題は多い。
 あの竜に乗る魔神王をどう討ち果たすのか。
 ジェックであれば、その弾丸を当てることが出来る。
 というよりも、ジェックに出来なければ他に策なんてありはしない。
 しかしいかに正確無比な銃撃であろうとも、射線が通らねば意味がない。
 終焉獣の群れは、その数はヴェールのように。
 否、面ではない。立体物にも等しいだろう。
 だが、それでも。
 一行には強力なバックアッパーが居るではないか。
「終焉獣程度どうにかできるでしょ、アウラスカルト」
「任せておけ。乗れ、ジェック」
 一気に飛び上がったアウラスカルトの背で、ジェックはライフルを構えた。
「動くものの上から狙撃だなんてね」
「汝なら出来よう」
「もちろんだよ」
 闇竜の吐く瘴気のブレスに、アウラスカルトもまた光を放つ。
 拮抗する光と闇が激突し、振動に銃身がぶれる。
 無茶も甚だしいが、その震えさえも計算に組み込めば、弾は当る。
 まずは翼だ。
 その付け根に一射。
 竜が戦慄き宙空で姿勢を崩す。
 間髪入れず、魔神王へ一射。
 弾丸は狙い違わず、魔神王の胸の中心を貫いた。
 ルル家もまたシレジアと共に、亜竜の背へ飛び乗った。
「いまのうちにもう一枚」
 魔神竜の翼を目掛け、狙うは翼膜。
「ビリビリに破いて叩き落としてあげますよ!」
 竜の背から飛び降りたルル家は星之太刀に全身全霊を掛ける。
「うおおおお!」
 ルル家の刃が魔神竜の翼を貫き、そのまま引き裂いた。
 黄金の護りを纏わせたメイメイもまた、その手に神獣を呼ぶ。
 ハイペリオンの群れが殺到する亜竜をなぎ払う。
「合わせよう」
 無数の魔方陣が花開き――アウラスカルトの魔弾が追撃を見舞う。
 メイメイは一人ではない。
 死力を尽くす戦場で、仲間というものは勇気となる。」
「相手が飛ぶならこちらもだな? ……飛べ、ヴィルキュラス!」
 紫電もまた魔神竜グロアノクスの翼を斬り裂いた。
「魔神王を空から引きずり下ろせばだいぶ戦いやすくなるだろうしな」
 秋奈もまた、紫電へ殺到する終焉獣の群れへ刃を走らせる。
「どうも魔神王殿」
「小癪なやつめ」
「ここまできちゃったらもう、無理やりにでも親睦深めるしかないっしょ?」
「いいや断るね」
 ヴェラムデリクトは吐き捨て、大剣を振りかぶる。
「おっと!」
 攻撃を避けるため紫電を抱えた秋奈はそのままヴィルキュラスに着地した。
「運命ってやつは、時にちゃぶ台返しが起こるもの……らしいぜ?」
 強大な相手に秋奈はこれっぽっちも諦めていないのだ。

 虹の架かる花の道を照らすように。
 万華鏡の色彩がユーフォニーの周りに満ちた。
 敵陣に降り注ぐ彼女の光は未来を紡ぐしるべだろう。
「願いよ、光に――!」
 ユーフォニーの声が戦場に響き渡り、七色の粒子が降り注ぐ。
 それは祈りの色彩だった。
「来たれ……このウォリアと共に天を征く、我こそはという勇ある者よ!」
 咆哮が響く。
 ウォリアは、声に応じた亜竜の背に跳び乗った。
「我らは一蓮托生、滅びを討つ勇者なれば」
 剣を掲げ魔神竜へと飛翔する。
「いざ……魔神共を大地に叩き落しに向かおうぞ!」
 重なる咆哮と共に――肉薄。
 一合、また一合。
 豪剣が重なり、鋼の絶叫が轟くが――ウォリアの狙いは魔神王ではなかった。
 垂直に飛び上がった亜竜の背から飛び降り、渾身の力で剣を振りかぶる。
 斬撃が魔神竜の片翼を斬り墜とし、宙空で再び亜竜がウォリアを背に乗せる。

 その轟音は、山でも崩れたかのようだった。
 爆発と共に土煙が飛び散り、辺り一面を覆い尽くす。
 魔神竜が地に堕ちた。
 ただそれだけのことに大地が割れた。
 だが巨大な尾も、顎も健在だ。
 その僅か一振りが大地を引き裂き、人の命を散らせてしまう。
「押えられるか、アウラスカルト!」
「言うまでもない」
 剣を構え突進するルカに呼応して、アウラスカルトが魔神竜に食らい付く。
「こっちには最強の竜がいるんですから負ける訳無いですよね!」
 しにゃこは誇らしげに胸を張る。
「ここにいる竜をどなたと心得る!」
「……」
「最強最可愛竜のアウラスカルト様であるぞー!
 さぁ全部やっちまってください!」
「…………ッ!」
 だがアウラスカルトは、答えなかった。
 答えることが出来ないでいた。
 魔神竜の膂力は、バシレウスさえも凌ぐのか。
 レグルス相手なら格は上のはずだ。
 しかし齢が違う。
 ウォリアの一撃で片翼を失ったとはいえ、大きさは倍近い。
「……じ、冗談ですよ!」
 だから傘を構える。
「最終決戦ですししにゃも最強の可愛さでお相手します!」
 放たれた弾丸が魔神竜の巨大な腕を穿った。
「このまま頼れる所お見せします!」
「おらぁ!」
 だが今正に叩き付けられようとしていた尾の先を、ルカの巨剣が縫い止める。

 ――その瞬間だった。
 魔神王の剣がアウラスカルトに深々と突きたったのは。
 そして剣はその竜の横腹を一気に斬り裂いた。
「これが竜鱗か。天義あたりの安物のバターのほうが、まだ硬い」
「魔種風情が!」
 怒れるアウラスカルトの爪が魔神王に迫り、しかし姿は掻き消える。
「竜種自慢の再生も、この終焉の地、我が剣の前ならばどうだ」
 噴水ように吹きだし、濁流のように溢れる竜の血が止まらない。
「竜を狩る。お前等に出来たことが、なぜこの私に出来んと思うのかね」
 ヴェラムデリクトが嗤う。
「では、まずはこの生意気な仔竜から殺すとしよう」

 ――全く、なんたる無様。
   金鱗の天帝種ともあろうものが、見苦しいにも程がある!

「久しいな、魔神竜グロアノクス。魔種如きに飼われる哀れな虫螻めが」
「貴様は」
「かの金鱗――竜帝の雛を狩るのは我輩だ、断じて貴様等下賎ではないわ!」
「燎貴竜シグロスレア!」
「木っ端! 居るのだろうが! 羽虫遊びにうつつを抜かすか!」
「素直に手を貸せと言いなさい、シグロスレア」
 シグロスレアにコル=オリカルカ。二体の竜が魔神竜に食らい付く。
「大丈夫ですか、アウラスカルト」
「世迷いを抜かせ。この程度、汝の術のほうがもっとずっと痛かった!」
 リースリットは申し訳ないやら、安心したやら。
 こうして金鱗の三竜が、魔神竜の身をずたずたに食い破りはじめた。
 あたかも鳥たちが餌をついばむように、あるいはさながら獅子の群れが獣を屠り食らうかのように。

 その凄絶極まる光景を他所に、激闘は続いていた。
「ヴェラムデリクト、一人になった気分はどう?」
「まったく! ああ、すがすがしく! 不快極まるね!」
 ジェックがトリガーを引き絞る。
「アタシの弾は──避けられないよ」
 放たれた弾丸は狙い違わず、ヴェラムデリクトの眉間を撃ち抜いた。
 身体を傾がせ、額に穴をあけたままの魔神王が嗤った。
「殺せると思うかね、悪魔を」
「殺せるね。それにアタシには仲間が居る」
 この銃弾に続いてくれる仲間を信じている。
「アタシ達は分かっている」
 続くしにゃこの一射は更に右肩を撃ち抜いた。
「神に気まぐれが存在する限り、100%の滅びなんて有り得ない」
「……」
「キミだって、分かっていた筈でしょう」
「なぜ抗う、なぜ苦しむ、なぜそうまでして歩むのをやめようとしない」
 滅びのその時まで享楽に浸って暮らせばいいものを。
「贈り物はくれてやったはずだ」
「おあいにく様。プレゼントってのは、相手を見て選ぶんだよ!」
 ブレンダが迫る一閃をはじき返した。
「さあその程度か魔神王よ! 甘くみて貰っては困るぞ!」
 斬撃がヴェラムデリクトを袈裟懸けに駆ける。
「最期の戦いだ、派手にいこうじゃあないか!」
 この一太刀に続けとばかりに。
「さぁ、最後の戦いでも貴女のイイところを存分に魅せてくれ」
「だったらじゃあ、喜んで」
 ブレンダの声に応え、アーリアは紅を引く。
 唇に乗るのは覚悟の蠱惑――あとはただ、攻めるだけ。
 指先から零れる魔力の旋律がヴェラムデリクトを絡め取る。
 カクテルグラスに滑るふた雫のリキュールが渦を巻くように。
 呪いの呪縛がヴェラムデリクトを拘束した。

 ――良い夢を!

 一行の猛攻は、魔神王ヴェラムデリクトの身体を次々に斬り裂いた。
「……全……く、忌々……しい」
 そして――
「これがボクとアウラちゃんの絆の一撃!」
 アウラスカルトと視線をかわしたセララが、その背に飛び乗った。
「全力全壊! ドラゴニック! ギガ! セララブレイク!」

 竜人一体の一撃に、闇が溢れる。
 魔神王の身体が絞られるように、瘴気の渦へと変わって行く。
 そして僅かな間をおいてすっかり霧散した。
「倒したよ、最初の一人」
「それじゃあこのまま、蹂躙――しちゃいましょうか♪」
 リーティア――パラスラディエが微笑む。
 勝率はもう、きっととっくに、ゼロパーセントではなくなっていた。
 そのはずなのに――

●Last Phantasm II
 戦況は逼迫していた。
 連合軍の幻想方面は、それでも果敢に闇の砦を目指しながら、魔種と終焉獣の軍勢を食い破っている。
 それでも刀折れ矢尽きた状況は変わらない。
 だが、それでも。
「ぶっ飛べよ――!」
 戦場に敷き詰められた魔力の渦に風穴を開けるのはアルヴィだ。
 仲間がヴェラムデリクトへ至る道を切り開かんとする。
 アルヴィは戦場に吹き抜ける一迅の風だ。
 それに続くのはカインだった。
 連合軍を率いて、アルヴィが切り拓いた道を突き進む。
「このまま、進軍だ!」
「おおおー!!」
 カインのかけ声と共に騎士団の甲冑の音が戦場を駆け抜ける。

 とどのつまり。
 スティアははじめから絶望などしていなかった。
 己は天義の聖女である。
 あの国の人々の希望や祈りを背負って此処に立っているのだ。
 負けられるはずもない。負けることなど有り得ない。
「みんな負けないで! 絶対に勝てるから!」
 スティアの力強い信念は闇の領域にこそ輝くもの。
 その祈りが、癒やしが、美しい姿さえも、御旗として。
「観念することね、絶望なんてするはずがないじゃない」
 アルテミアの一閃が、ヴェラムデリクトを薙いだ。
 だが刃がすり抜けたのは黒い霧だ。
「無駄だと言っている、何もかもが、なぜ分からない」
「いいえ、今ので見えたわ。それがそんなに万能ではないということも」
 アルテミアが地を蹴り、スティアが祈る。
 結界が黒い霧を阻み、アルテミアの斬撃が、今度は胴を捉える。
 クロバはシキと目配せ一つ。
 斬撃によろめいたヴェラムデリクトを挟撃する。
 炸裂と共に斬撃が加速する。
 立て続けに駆けた、七度の軌跡。
 その最後に一撃がヴェラムデリクトの腕を切り飛ばした。
 そして神樹の槍が胸へ深々と突きたった。
「お前は無傷じゃいられない。ゼロパーセントはあり得ない」
 投擲者――錬がさらに式符を放つ。
「いいや無駄だね。ぬか喜びをさせて悪かったとも」
 ヴェラムデリクトは槍を焼き払うと、喪った左腕に黒い霧を纏わせた。
「希望はありえない。この腕もじきに戻る。いま倒れた私の三分の一とて同じ」
 魔方陣が瘴気を纏い、漆黒の槍雨が注いだ。
 だが錬の探究心は止まらない。
「――こうすれば、相克出来るだろ。もっと見せてもらうぜ」
「いつまで余裕でいられるかしら。だって一つ倒れたんでしょう」
 アンナの美しい剣が閃いた。
 さながら舞踏のように、ヴェラムデリクトが刻まれる。

「ようやくのお目通り、歓迎してくれる?」
 イナリは狂神と対峙していた。
「式の、そのまた式風情が、のこのこと現われたところでな」
 狂神が小さな小さな石粒を弾き――圧縮。
 強大な魔力が物質を融合させ、核熱の光を放つ。
 だが光すら通さない超重の漆黒がそれを払った。
「私が押える、だから――越えて見せろ」
 稲荷神はそう言った。
「ええ、もちろん」
 機銃を投げ捨てたイナリが、大太刀を抜き放ち――掻き消えた。
 雷光の如き三閃が、狂神をたしかに捉える。
「もう逃がしはしないわ」
「僕だって魔術師兼魔術なんだ、ぶん殴って打ち勝つ!」
 両手に魔導書を掲げたヨゾラは狂神もろともに、周囲に群がる終焉獣へと星空の瞬きを降り注ぐ。
 戦場に瞬く星々はヨゾラの意志に従って敵を射貫いた。
 膨大な星を降り注いだヨゾラは仲間達の怪我が気になり顔を上げる。
 瞬時に攻撃の手を止め、回復へと切り替えるヨゾラ。
 攻撃することも大事だが、誰かが倒れることはあってはならなかった。
 イレギュラーズもそうではない人も、全員の命を繋ぐことが大切だから。
「誰も倒れさせないよ……!」
 ヨゾラの回復は仲間の傷を癒し、戦う勇気を分け与える。

 レイリーが愛馬と共に戦場を駆け抜ける。
 美しき白騎士が仲間を鼓舞する歌を掲げる姿は勇猛であった。
 誰しもがレイリーの奮闘する姿に勇気づけられる。
 カイトは凍鮫に跨がり、仲間へ情報を伝達する。
 混乱した戦場において情報とは何よりも替え難い重要な戦略の要だ。
 カイトもそれを十分に理解している。
「左方の戦線が崩れかかっているみたいだ」
 カイトの声にレイリーは直ぐさま戦場を駆け抜ける。
「怯むな! ここは騎兵隊が援護するわ!」
 レイリーは脆くなった戦線へ駆け、敵の攻撃から味方を掬い上げた。
「騎兵隊は目標まで止まらない! だから、安心してついてきて!」
「おお」
 癒やしを降り注いだレイリーは先陣を切り終焉獣の群れへ斬り込む。
「ここは白竜偶像の舞台よ! 私がいる限り誰も死なせない! だから、私は立ち続けるわ!」
 レイリーが負う傷はココロが直ぐさま癒している。
 彼女が倒れなければ騎兵隊に負けは無い。
「凌げばチャンスは生まれる」
 そう奮い立たせるようにココロはレイリーの回復に専念する。
 ゴリョウは騎士達と共に文字通りの鉄壁となって仲間を守っていた。
「将を射んと欲すれば先ず馬を射よ、ってか!?」
 終焉獣の群れの攻撃を受け止め押し返す。
「悪ぃな! この豚が居る以上、その馬にすら矢は届かねぇと思え!」
 ゴリョウの盾の後方、イーリンはラムレイに乗り戦場を見渡した。
 彼女が立っているということは騎兵隊は健在だということだ。
 倒れることの無い味方がいるその事実は戦場において戦う勇気をあたえるもの。
 イーリンに迫る敵を撃ち貫くのはミヅハだ。
「総力戦なんだ、細かいこと考えても仕方ねーからな」
 今まで開いてきた道が閉じぬよう、ミヅハは魔種騎士に銃口を向け――

 と、そんな時だった。
 戦場に竜の咆哮が轟いた。
 現われたのは三体の竜種、そして無数の亜竜だ。
 そして背にのるイレギュラーズが一斉に飛び降りる。
 魔神王を撃破した一団だ。
 さらには妖精兵、そして終焉の監視者達も揃っている。
 錬は不敵に微笑む。
「たしか太古からの大魔種の、魔術師としての本体なんだって?」
 錬はヴェラムデリクトへ顔を上げた。
「いい参考資料だからな、もっと見させてもらうぜ!」
 太古の魔種の大魔術が拝めるのだ。これ程までに、楽しいことはない。
「場所が場所で状況が状況だ。どれだけ警戒しても足りると言う事はないからね」
 カインはヴェラムデリクトへ向かう仲間の援護に徹っしていた。
 自分が終焉獣を引きつければそれだけ仲間が怪我をせずにすむ。
 可能なかぎり、敵を排除し続ける、それがカインの戦いだった。

「所詮世界を見限った奴らに講釈垂れられるのは腹が立つわ」
 アンナは水晶剣をヴェラムデリクトへと走らせた。
「何を言われようが、証明するだけよ。私達は滅びるべきでないと!」
 研ぎ澄まされたアンナの剣尖がヴェラムデリクトに突き刺さった。
「僕等が勝つ可能性が見たいなら見せてやる!」
 ヨゾラは膨大な魔力を練り上げ、星の矢を呼び起こす。
 彼の周りに星々の瞬きがざわめき、うねりをあげて闇夜が広がった。
「全身全霊の星の破撃……ぶちのめされろ、ヴェラムデリクト!」
 ヴェラムデリクトに叩き込まれた無数の星は彼が纏っていた闇を取り払う。
「今だよ! 続けー!」
 ヨゾラの渾身の一撃に、騎兵隊が陣を成して突撃した。
「うおおお――!」
 ゴリョウの雄叫びが戦場に響き渡る。
「大将らの殴り合いに横槍は入れさせねぇ!」
 終焉獣の追撃を自らの盾で防ごうというのだ。
 それは、騎兵隊率いるイーリンへ繋ぐ勝利への道。
「このまま一気に!」
 レイリーがヴェラムデリクトを押さえ込みカイトがそれを補助する形で相手取る。
「土手っ腹ぶち抜いてやるぜ!」
 ミヅハの弾丸が戦場を駆け抜けヴェラムデリクトの防御術式を打ち砕いた。
「狩人から逃れられると思うなよ!」
「無駄だと言っている。見ろ」
 突如、大地が激震した。
 岩が爆ぜ、弾丸のような石つぶてが降り注ぐ。
 堕ちてきたのは、三十メートルはあろうかという巨大な終焉獣だった。
 奇声が鼓膜をでたらめに叩き、その巨腕が戦場をなぎ払う。
「これは片付けてやる、だからゆけ、勇者等よ!」
 巨大な終焉獣へ襲いかかったのは竜種達だった。
「全く忌々しい。それほどまでに人が好きかね」
 ヴェラムデリクトは羽虫でも払うように、手をひらひらと振った。
「竜の本質こそ滅びだろう、我々以上にな」
「いいえ、私達は確かに手を取り合っているのです」
 そう言ったのはパラスラディエだった。
「滅びかけのバシレウスに何が出来る」
「なーんにも出来ません、ほぼほぼオバケですから。
 けれどえいえいおー! 応援してるんです!」
 暁の女神のように、天真爛漫な笑顔で続ける。
「そして特等席で観戦するんですよ、イレギュラーズが終焉を滅ぼすその様を!」
 それを見たヴェラムデリクトの表情は、まさに苦虫をかみつぶしたものだった。

「ジョゼッフォ……お父さん。背中を預けていいですか」
「ええ、挟撃はさせません。必ず守ります」
「あと、あの。世界が無事を迎えたら」
「ああ」
「会ってもらいたい男の人が……いる……から『死んでも死ぬな』です!」
「……えっ」
 声を震わせた父を尻目に、ココロは一気に駆け出した。
「なんか一厘も負ける気がしません」
 終焉獣を斬り払い、師と並び――それはあなたがいるから。
「ココロ!」
「はい!」
 重なる斬撃は夜明けの閃光のように。
「……馬鹿め、無駄だと言って……いる」
 深淵魔導の姿がぐずぐずと崩れて行く。
 魔神王が倒れてから八時間が経過しようとしていた。

●Curse Vigil I
 大増援を加えた連合軍帝国方面は、一気呵成に闇の砦――カースヴィジルへと攻め上っていた。一方、幻想天義杜の連合軍もまた、三体の竜をも加えた覇竜連合軍と共に、闇の砦へ集結している。
 そして魔種による漆黒騎士団は壊滅状態となっていた。
 とはいえ周辺部には未だ無数の終焉獣が渦巻いており、永遠に続くかと思われる波状攻撃を仕掛けてきている。

「さあ、いよいよお出ましって訳だ。おれも、アンタらも」
「まったく無茶をさせるね。機材だってタダじゃあないんだぜ」
「けどなリチャード。世界を救っちまったなら、いくらの釣が来る?」
「ぜいぜい弾んどけ、ヤツェクさんよ!」
 壮年と老人が、少年のように笑い合う。

 蒸気バイクと装甲車のヘッドライトが、闇色の大地を斬り裂いてきた。
 帝国軍の精鋭部隊もが、ついに合流を果たしたのだ。
 瘴気に満ちた大地には、妖精達がもたらした花畑が広がっている。
 そして天義の司祭達もまた、懸命に結界を展開していた。
 それはあと幾ばくも持たぬであろう仮初の安全地帯。
 しかし今は確かに、自軍の前線基地と言えるだろう。

「さて、詩人と言えば後方支援。『アーカーシュ天空放送局』再びだ」
 砦攻めの準備が整えられる中、即席のステージが慌ただしく組み上がる。
「じゃ、あとは頼んだぜ、僕は客席に行かせてもらう」
「ああ、おれにまかしとけ」
 ヤツェクがギターをかき鳴らす。
「愉快な仲間を紹介するぜ、正真正銘のドラゴン! 光暁竜パラスラディエ!」
「紹介されちゃいました、いぇーいぴすぴーす!」
 そんな声に、終焉獣を霧散させたアーリアが吹き出した。
「ほんとにもう」
「三体の金竜が皆さんの味方しまーす! いぇーい!」
 アウラスカルトが胸を張り、シグロスレアとコル=オリカルカが顔をしかめる。
「がんばれがんばれ!」

 ――それじゃファーストナンバーは懐かしの。

   All You Need Is Power!

「さて、魔女は魔女らしく立ち回るのみですが――」
「こちらも順調よ」
 マリエッタは上空のセレナと目配せ一つ。

  ――わたしの仲間も、姉妹も、この戦場で戦ってる。
    国を、世界を守りたい気持ちは誰もが同じ。
    そう、世界は終わらない。終焉にだって負けはしないわ。

「こちらも負けてはいられないな?」
 ゼフィラもまた頷いた。
 後方支援は兵站の確保と、継戦能力の維持に不可欠である。
「巨大終焉獣とやらはあと何体いる?」
「観測の限り、七体だ」
 負傷者を運べば、傷の癒えたラド・バウの闘士達が飛び出していく。
 癒した負傷者は諸手を挙げて行く。
 聞こえて来たのは新曲『十六弦の叙事詩』だ。

「安心しやがれ、兄弟! イレギュラーズはここにいる!」

 そして。

 ――安心しろ『ウィザード』。
   おれ達は、守り切るからな。

 闇の砦を包む魔術結界を前に、数名が目配せを交す。
「結界の術式に綻びはないようです」
「だとすれば一点集中しかない」
 スティアの言葉に錬が提案を返す。
「だとすれば上等よ。第三砲撃隊、前へ!」
 リーヌシュカの指示が飛ぶ。
「斉射三連、撃ちなさい!」
 鉄帝軍、杜の一斉砲撃が始まった。
 雨のように注ぐ重火力に、結界が亀裂を走らせる。
 三体の竜もまた、白く輝く灼熱の吐息を吹き付ける。
 そして稲荷神の崩壊術式によって、結界はついに打ち砕かれた。

「勇ある者よ、音に聞け! いざ時は来た! これより進撃を開始する!」
 竜の咆哮にも負けず劣らず、ウォリアの檄に鬨の声があがった。

「――我に続け!」

 連合軍の精鋭部隊と共に、イレギュラーズが闇の砦へ突撃を開始した。
 迎え撃つは漆黒騎士団の最精鋭部隊、撤退した狂神。
 そしてヴェラムデリクト最後の一体『漆黒王』だ。
 しかし砦内部における敵は、もはや数の優位を失っている。
「ええ、だから」
 イーリンが静かに笑った。
「数は力よ」
「なあ」
 オリオンが問う。
「余は騎兵として全う出来ているだろうか」
「当然でしょ」
 連合軍は精強だ。しかし誰しも疲労は隠せない。
 祝音は普段からは想像も出来ないほどの気迫で、癒やし続けていた。
「誰も、倒れさせないよ……!!」
 祝音の声が戦場に響くと共に、騎士達の顔に生気が戻る。
「倒れず前に進むのです、みんなでいっしょに!」
 重ねられるニルの回復にルーチェスピカの軍人が歯を剥き出しに笑う。
「助かるぜ、まだまだいける!」
 怒濤の進撃は、地響きのようだった。
 無尽蔵とも思える漆黒騎士を相手に、精鋭部隊が激突している。

 一行は回廊を突破し、中庭へ突入していた。
「なぜこの不完全を終わらせない」
 現われたのは宙に浮く狂神だった。
 その時だ。
 レッドの身体が軽やかな弧を描き、嶺亜竜の背から降ってくる。
 逆さまのまま、その銃口が狂神へと火を吹いた。
 赤い閃光が戦場を貫き、狂神の障壁が爆ぜた。
「コイツを倒さないと進めないっすからね!」
 全力の砲撃を叩き込むレッドの背後から、ソアとウルが現われる。
「ここは気持ちが良さそうだね、ボクもお邪魔するよ」
「それじゃソアちゃん、行くよ!」
 爪が、銃弾が、狂神の身体を縦横に引き裂いた。
 ソアの柔軟性のある身体は狂神の身体を引き裂いた。
 地に叩き付けられた狂神が跳ね起きる。
 だが崩れた重心、その隙を逃さず。
 ソアの連撃に続いて、巨大な刃が狂神に迫る。
 唸りを上げ、空間さえ軋ませるウォリアの剣が、狂神の超重力に止められる。
 だがウォリアはその腕に、さらなる力をこめた。
 地が爆ぜ、蜘蛛の巣のように幾重にも砕け散る。
 赤い闘士が燃え上がる。
「――――ォォォォオオオ!」
 雄叫びと共にウォリアは狂神の作り出した重力場ごと袈裟懸けに斬り裂いた。
「イレギュラーズを舐めんなよ」
 アルヴィもまた、姿勢を崩した狂神の横腹目がけて突進する。
 爆音を響かせ狂神の腕が吹き飛んだ。
 そのまま、次の一手へ繋ぐためアルヴィは狂神を押さえ込む。
「可能性の力、零をも超えてみせる!」
 沙耶はアルヴィが抑えている狂神へと軍刀を振りかぶった。
 煌めく刃が狂神の胴に食い込む。
「まだ……!」
 あと一歩と沙耶は足を踏み込んだ。じりじりと魔術式が崩れ、狂神の身体が傾ぐ。
「――時は来たれり」

 即座に追撃を試みた稲荷神の表情が強張った。
「――!?」
「何事?」
 イナリが振り返る。
「やはり狙いは、それか」

「そうだ、この時を、この瞬間を待っていた」
 狂神が嗤う。

 ――この世界の強大なる精霊と、かつての神たる我が身。
   無辜なる混沌の愚かな法則に支配され、真なる幸福を忘れた地。
   されど我、森羅万象を従え、世界をあるべき姿へと戻すため。
   その力を束ねよう。
   式よ。一つへ戻れ。
   この世界を埋め尽くし、統合し、終焉し、新生せよ!
   我こそが、此の世の全てを、救ってみせようぞ!

 二柱とも思える強大な存在存在。
 大精霊と、旅人を核とした太古の怪物と。
 それが融合したならば、もはや勝ち目はない。
「我が身滅びれば、貴様へと綜結する。さすれば真なる神ともなろう!」
 真なる神はこの世界全てを統合し、一つとし、滅びの祭壇へ捧げることになる。
 それは穏やかなグレイグー。全てのバイオマスの食い合いと無限増殖。
 地上全てが覆われる、回避不能の大災厄である。
 それは杜の狐達が演算していた最悪の未来予想だ。
 紡ぎ上げてきた奇跡の全てが、水泡と化す。

「けどね――」
 だというのに、イナリは笑った。
「――杜は既に『計算済み』なのよ」

 笠間の目配せに竹駒と祐徳が頷いた。
「封印術式を展開します」
「何、問題はなくなった訳? だったら私も行くわ!」
「証明しよう、希望の力を」
 沙耶――怪盗リンネの予告状に合わせ、リーヌシュカが斬り込んだ。
 その姿を見遣る愛無は――これが、ああ。感慨深いということだろうか。
「立派になって見違えるようだ。リーヌシュカ君」
 粘膜の爪が狂神を掴み上げ、地へ何度も叩き付ける。
「これで――」
 ニルの放った魔力の奔流が咲き乱れ、狂神を飲み込んだ。
 ありったけをこめた、絶大な術式。
 吹き飛ばされ、背を打った狂神は呪いの形相で一行を睨め付ける。
「邪魔をしおって!」
 膨大な魔力が狂神に集積してゆく。
「ならば全てを討ち滅ぼしてくれる!」
「知ってる?」
 微かに腰を落し、イナリが大太刀へ手をかけた。
「手負いの狐はジャッカルより凶暴って言葉を」
 イナリの姿が刹那、掻き消える。
 僅か一瞬の、横一文字の光が駆け抜けた。
「このまま、神様の地に叩き堕としてあげるわ!」
「おのれ――!」
 断末魔と共に、狂神は渦巻く封印術式に飲まれた。

 もう、そこには何もない。
 なにも見えず、なにも聞こえない。
 初めからなにもなかったかのように。
 けれどイナリの目に、稲荷神の姿は、なぜだかすこしだけ寂しそうに見えた。

●Curse Vigil II
「なあ坊さん、俺達なんかで悪いが、ここは任しちゃくれねえか」
「ヴェガルド、それにエイリークじゃありませんの」
 ヴァレーリヤの肩を叩いたのは、ノルダイン戦士の一団だった。
「薄暗えわ辛気くせえわで、ヴァルハラにゃ遠そうな分、負ける気がしねえんだわ!」
 獰猛な笑みで、ヴェガルドが漆黒騎士と斬り結ぶ。
「では背中は任せますわ、行きますわよマリィ」
「そうだね、ヴァリューシャ。今度こそあいつをすっからかんにしてあげよう」
 一行は大きな階段を駆け上がり、ついに玉座の間へ突入した。

「来たのかね。わざわざと、こんな場所まで、のうのうと」
 漆黒王――ヴェラムデリクトが立ち上がる。
「ようこそ、あくびが出そうな退屈へ。精々歓迎だけはしてやろう」
 剣を振りかざす漆黒王へ、先陣を切ったのは風牙だった。
「諦めて投げ出したヤツが、諦めないヤツの行く手を遮ってんじゃねえ!」
「そう思うかね。たしかに全剣王もホムラミヤも滅んだ。だからなんだ」
 烙地彗天から放たれる、無数の突撃が漆黒の結界を砕いて行く。
「結論が変わるのか、どこを、どうして」
「そんなに傍観が好きなら、オレらのやることを傍から見てろ!」
「文字通り蟻の一穴ですが……確実に2割、ここから崩せる」
 寛治が銃撃を重ねた。
 イレギュラーズはイレギュラーだ。
 その集団という試行回数を押し通す。
 これが最善の戦術であるはずだ。
 瘴気から終焉獣が吹きだし、一行へ奈落の風を吹き付ける。
「グチャグチャにしてあげる! 好き勝手させないよ!」
 フォルトゥナリアの愛らしい軍勢が、一斉に攻勢術式を展開した。
「諦めの悪いやつらだ、全く。本当に厭になる」
「これは心からの言葉です。そのつもりです」
 ユーフォニーが術式を紡いだ。
「ヴェラムデリクトさんなりの優しさを、本当にありがとうございます」
 だけど――万華鏡のように、光が花開く。
「だけどやっぱり諦められない」
 光が溢れる。
「私たちは可能性に手を伸ばします。伸ばし続けます!」
「あなたの言う滅びなんてこれっぽっちも信じない」
「だから未来は!」
「ボク達のこの目で見届ける!
 ソアとウルが二重の雷撃を重ねた。
「手負いの獣の恐ろしさを思い知れ!」

「――だから、不思議に思わんのかね」
 幾度もの苛烈な攻撃を浴びせ続ける一行に、漆黒王が笑った。
「これだけの戦いを経て、なぜ私が立ち続けていると思う?」
 その声音は、どこか幼子を諭すようだった。
 見つめるアルテナの表情は硬い。
「この砦カースヴィジルが、そして滅びのアークがある限り」
 それはきっと最後の絶望に違いなかった。
「私は死なない。死ねんのだよ」
 漆黒王が剣を構える。
「このまま、あと十時間も殺し合いを続ければ、全てがもとに戻るという訳だ」

 ――対して、お前等はいつまで保つというのかね。

「可能性は依然としてゼロのままだと言っている」
 この『戦争』の開戦から、長い時間が経過していた。
 だが漆黒王との継戦時間など、未だものの数分に過ぎない。
「ゼロだって構わない」
 シキと漆黒王が斬り結ぶ。
「ああ、そんなもの飽きるほど見たからな」
 クロバもまた剣を重ねる。
「それでも俺達はずっと超えてきた」
「零は一にしてみせる、皆が生きられるために、そのために来たんだよ!」
「今回だろうがなんてことはない、そうだろシキ、エリカ!」
「はい、その終わりは気に入りませんから」

 ――そして見てろ、アストリア、テレサ。
   これがお前らを背負って進み、拓く路だ!

 漆黒の魔力がクロバとシキを襲った。
 だが――退かず、逸らさず、見据えたまま剣に渾身をこめる。
 斬り裂かれた闇の波動もろとも、ヴェラムデリクトの身に十字を刻む。
「無駄だと言っている」
 戦場は立っているだけで誰をも蝕むほどの瘴気に満ちている。
「けど、支え抜けばいいんだよ。
 独りの力じゃどうにもならなくても、みんなで協力すれば――」
 瞳を閉じたアレクシアの足元から美しい花々がひらき、瘴気を押し返す。
 満身創痍の一行を再び生気が温かく包み込む。
「――絶望なんて敵じゃないよ!」
「その"怠惰"――」
 アルテミアの剣撃が駆け抜けた。
「ええ、それは善意なのでしょう。けれど振り払わせてもらうわ!」
 立て続けの斬撃が漆黒王を刻んだ。
「私達は貴方も終焉も乗り越えて、未来を掴み取る!」
 続く駿足の刃は避けようもなく――
「――漆黒王よ、貴様は強い。
 その実力は俺達を遙かに凌ぐ物に違いはなかろう」
 ベネディクトはリュティスと背を合わせ、愛槍を構えた。
「だが、それでもだ!」
 理論限界の超越は、幾度も行ったではないか。
「 明日を、俺達が望む未来を描く為に貴方にはその玉座から降りて頂く!」
 ベネディクトの乱撃が、リュティスの術式が漆黒王を引き裂く。
「本物の不死などありはしない。幾度蘇ろうとも俺達が倒して見せよう!」
「全く、全く忌々しい」

「ねえ、アルテナさんには楽しく暮らして欲しかったの?」
「……」
「それならこれからも楽しく暮らせる方法を教えてくれないかな?」
 問うスティアを、漆黒王は悪鬼の形相で睨め付ける。
「滅びを止めたら望みは叶うでしょ?」
「そうだ、そうだとも」
「終焉が始まられるなら止める方法も必ずあるんじゃないかな」
「……」
「そうじゃないとおかしいし」
「問うか、それを。ああそのはずだとも」
 ヴェラムデリクトが嗤う。
「人が人の身で届くと思うかね」
「ええ、私は只人なのでしょう。
 特別な力なんてありません」
 満身創痍の正純が顔を上げた。
 そして狙い澄ませる。
 いつものように、何度もしてきたように。
「なればこそ、だからこそ、決して折れない。
 誰もが持ち得る前に進む力で、この世界を守りましょう」

 ――喰らいなさい、この一射を。

 凛と弦音が響いた。
 重く鋭く、矢が胸の中心へと突き立つ。
 漆黒王はそれを折り抜くと、咳き込むように血を吐いた。
「なあ、Case-Dが影の領域に現れる理由はなんだ?」
 徒手空拳の魔術闘士であるシラスは『剣』の切っ先で指す。
「まるで世界の外から針の穴を通すような話だぜ」
「……」
「滅びのアーク? ただそれだけでは片付けられない」
「ああ、そうだとも」
「イレギュラーズだったと言ったよな、魔種の帝国すら討ったのだと」
「ああ、その通りだとも」
「今から俺達もやってのけるよ、そしてその先も諦めちゃいない」
「……」
「お前も同じだったはずだろ」
 幾重にも結ばれる斬撃の軌跡が、漆黒王を縦横に刻んだ。
「ああ私もかつては人だった。故に肉体というものは過ごしやすい」

 ――それは最早、人の形をとどめて居なかった。

「だが脱ぎ捨てるほうが効率がいいこともある」

 ――それは渦巻く膨大な影だった。

「いずれにせよ褒めてはやろう。
 特異運命座標としては、お前等が遙かに勝っている。
 この私よりもだぞ。せいぜい喜べ。
 だが勘違いは正しておかねばなるまいな」

 ――それは滅びのアークの塊だ。

「実に気分がいい、ここまで解放するのは初めてかもしれんな」

 闇が――デモニア・アークロードが嗤った。

「無限の闇をご覧にいれよう」

 絶え間なく、途切れなく、それは訪れる。
 昼があれば夜がある。
 光があれば影がある。
 喜びと悲しみと、人ならば誰もが持つ感情と。
 あらゆる対比の極北。
 そんな代物は、もはや――

「――無限だって? いいや、違うね」
 雷光を纏い、マリアが構えた。
「今は漆黒王だっけ、まぁいい!
 私は君に、確かに質量があったのを覚えてる。
 膨大は無限じゃないんだ。
 それにね、悪いけど、滅海竜ほどじゃあないんだよ!
 不可能などないと! 君に見せてあげよう!」
「どっせえーーい!!!」
 だいたい、なぜ小技ばかり披露するというのか。
 魔力の枯渇を恐れているだけではないのか。
 それを無限だなどと、笑止千万。
「いつだって私達は絶望的な戦いを強いられてきた!」
 ヴァレーリヤの戦棍が灼熱の軌跡を描き、マリアの雷撃が漆黒王を貫く。
「それでも! 諦めたことなどありはしない!」
「その程度で諦めるなら、こんな場所まで来ていませんわよ!」
「死んでしまった仲間がいる! 大切な……友だってその中にいた!」
 乱撃が闇を打ち祓う。
「もう一発、喰らって行きなさい!」
「負けられるものかよ!」
「私は貴方の名のもとに死ぬわけに行きません」
 けれど、ここで負けても死ぬのは同じだ。
 ならば――美咲は死せる星のエイドスを手のひらに載せ、ほむらの手を握る。
 そして二人はそれを前へ突き出した。

 ――二人で不条理を貫く一撃を放つために―――!

 抉るように、削るように、極大の光の奔流が闇に抗っている。
 なおもあふれ出す光が闇を貫いた。
「そうだよ、奇跡は起こしてみせればいいんだ」
 ムスティスラーフは漆黒を討ち滅ぼす力を願う。
「天命を待つために、人事尽くんだ。それに僕ができる奇跡はこれだけじゃない」
 膨大な魔力が、光が更に花開くように。」
「願いを叶えろ色宝片!」
 闇が抉れ、削れ、打ち祓われて行く。
「乗れ、そして二度はないと知れ、劣等種」
「お前は……シグロスレア」
「気やすく呼ぶな劣等種、肉塊にしてやるぞ」
「やってみな、いくらでも殴り合ってやる。けど、そいつは今じゃあねえだろ」
 竜の背に飛び乗ったルカが、今やすっかり天井を失った砦に突入した。
「ヴェラムデリクト、お前は賢いやつだが、嘘は下手だな」
 ルカの笑みは獰猛極まり――
「滅びが来るって信じてんなら俺達を放っておけば良い」
 なのに邪魔はするし、英雄は嫌だと言ってくる。
「希望を持つのが嫌なんだろ? もしかして……って思うのが」
 アルテナも、世界も、本当は滅んで欲しくないのではないか。
 諦めきることが出来ないのではないか。

 ――だったら。

「テメェの言葉をそっくり返すぜ。『のらりくらりと待ってろ』!」

 ルカの一撃が――竜翼の速度を上乗せしたその一撃が、漆黒を吹き飛ばす。
「その間に世界を救ってくるからよ!」
 今まで待った時間に比べれば、そんなものは「すぐ」ではないか。
 シフォリィは思う。
 仮に世界が滅ぶなら、実のところそれは今でも構わないのだと。
 けれど「待つの」だけは嫌だった。
 終わりを迎えたその時に、先に逝った両親、愛した人、親友に。
 良い人生だったと胸を張って言いたいから。
 だから最後まで全力で生きるのだ。
「一緒に願ってくれますか」
「うん、出来ると思う、信じてる」
 シフォリィとアルテナが背を合わせ、剣で天を指した。
「私達は、滅ぶ未来(あした)を恐れません」
「私達は、後悔の無い現在(あした)を勝ち取りに行きます」
 描くはフィナリィの術式、太古の檻――その昇華。
「だからどうか、穏やかに眠れるよう」

 ――銀花結界。

 折り重なる奇跡の光に、滅びのアークが祓われる。
 それは、だがそれでも、魔種を解き放つには能わず。
 しかしそこに、死にかけの魔種を独りだけ放り出したのだろう。
 まるで対話の時間を与えるかのように。
「ヴェラムデリクト、アルテナさんの父君にしてかつての先達」
 リースリットが呼びかけた。
 伝え聞いた言葉に一理はある。
「けれど、貴方のかつてと私達の今とでは、決定的な違いがある。
 それは、滅びの神託の成就が目前に迫ったという事」
 この数年、パンドラの蒐集速度は加速度的に高まった。
 七体の冠位は全て滅び、この領域に剣さえ届いた。
 運命の時は『かつて』ではなく、まさに『今』なのだ。
 この『世界』あるいは『神』がどのような絵図を描いているかは知れない。
 だが――
「……確信があります」

 ――その答えは、この戦いの先にこそあると。

「そうか、私は敗れたか」
「なあ、あんたひとつ偽っているだろう」
 問うたのはシラスだった。
「俺達もお前と同じで、世界の真相に届いていないだと?」
「……」
「違うな……お前は一歩先を見たはずだ」
「…………」
「何を知った、どうして絶望したんだ」

 ──答えろよ、ヴェラムデリクト!

「ああ。いくど奇跡を成そうと世界は変わらなかった。
 頂点を掴めども、絶望は祓えなかったとも。
 だからだ、だからこそ、私はお前等を殺す必要があった。
 最大の、最悪の、最強の障害となる必要があった。
 この私が成せなかったことを、私さえ超えられぬ身で成せると思うかね。
 だが試練ではない。私は本当に殺すつもりだったとも。
 万難の試練など生ぬるい。
 可能性はゼロでなければならない。
 真の絶望こそが相応しい。
 そうでなければ意味がないからな。
 全く、忌々しい話だ。
 だから別の道とて用意してやった。
 こんなことはさっさとやめて、座して待っていればよかったものを。
 血を吐くほどの苦難を選び、こうも飛び続ける馬鹿な鳥がどこにいる」
 ヴェラムデリクトが顎でリースリットを指す。
「あとはその娘の言う通りということだ」

「だったら、超えたぜ、俺達は」
「ああ、そうだとも。喜べ、せいぜい賞賛をくれてやる」

 ヴェラムデリクトがゆっくりと玉座に腰を下ろす。
 そして頬杖をついて瞳をとじた。
「アルテナ」
「はい、お父様」
「良い友人達を持ったな。大切にしろ」
「はい! 絶対に!」

「さようなら。ずっと私達のことを心配してくれて有難う」
 その亡骸にヴァレーリヤは祈る。
「貴方が諦めた理想を叶える姿、主の御許から見守っていて頂戴ね」

成否

大成功

MVP

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女

状態異常

夢見 ルル家(p3p000016)[重傷]
夢見大名
クロバ・フユツキ(p3p000145)[重傷]
深緑の守護者
シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)[重傷]
白銀の戦乙女
シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)[重傷]
私のイノリ
セララ(p3p000273)[重傷]
魔法騎士
オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)[重傷]
鏡花の矛
ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)[重傷]
Lumière Stellaire
レッド(p3p000395)[重傷]
赤々靴
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)[重傷]
流星の少女
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)[重傷]
天義の聖女
ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)[重傷]
黒武護
ウォリア(p3p001789)[重傷]
生命に焦がれて
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)[重傷]
願いの星
アルテミア・フィルティス(p3p001981)[重傷]
銀青の戦乙女
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)[重傷]
紅炎の勇者
ゴリョウ・クートン(p3p002081)[重傷]
ディバイン・シールド
アーリア・スピリッツ(p3p004400)[重傷]
キールで乾杯
シラス(p3p004421)[重傷]
超える者
メイメイ・ルー(p3p004460)[重傷]
祈りと誓いと
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)[重傷]
大樹の精霊
ジェック・アーロン(p3p004755)[重傷]
冠位狙撃者
新道 風牙(p3p005012)[重傷]
よをつむぐもの
新田 寛治(p3p005073)[重傷]
ファンドマネージャ
紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)[重傷]
真打
マリア・レイシス(p3p006685)[重傷]
雷光殲姫
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)[重傷]
音呂木の蛇巫女
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)[重傷]
鏡花の癒し
ソア(p3p007025)[重傷]
愛しき雷陣
カイト(p3p007128)[重傷]
雨夜の映し身
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)[重傷]
運命砕き
レイリー=シュタイン(p3p007270)[重傷]
ヴァイス☆ドラッヘ
恋屍・愛無(p3p007296)[重傷]
終焉の獣
アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)[重傷]
航空指揮
リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)[重傷]
黒狼の従者
小金井・正純(p3p008000)[重傷]
ただの女
ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)[重傷]
薄明を見る者
長月・イナリ(p3p008096)[重傷]
狐です
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)[重傷]
戦輝刃
カイン・レジスト(p3p008357)[重傷]
数多異世界の冒険者
天目 錬(p3p008364)[重傷]
陰陽鍛冶師
しにゃこ(p3p008456)[重傷]
可愛いもの好き
ラムダ・アイリス(p3p008609)[重傷]
血風旋華
ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)[重傷]
流星の狩人
結月 沙耶(p3p009126)[重傷]
怪盗乱麻
ニル(p3p009185)[重傷]
願い紡ぎ
フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)[重傷]
挫けぬ笑顔
佐藤 美咲(p3p009818)[重傷]
無職
ユーフォニー(p3p010323)[重傷]
竜域の娘

あとがき

 決戦、お疲れ様でした。

 MVPはそこに一縷の意思を縫い止めた方へ。

 これでpipiのPPPにおけるシナリオは終了となります。
 とはいえTOPなりの仕事は続くのですが。
 未来をつかみ取ることが出来れば、アフターのSSなども担当すると思います。

 皆さんの最終決戦ラリーの行く末を見守っております。

 それでは。次作ロストアーカディアでも、ご縁があれば幸いです。pipiでした。

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