シナリオ詳細
<Scheinen Nacht2018>雪色染まるヴァルドビューネ
オープニング
●
深緑――アルティオ=エルム。
自然と一体化することでこの世界に結び付き、独自の文化レベルで魔術的発展を遂げた幻想種の都。
迷宮森林に位置する巨大樹ファルカウを中心地とし、その在り方から異種を歓迎せず、閉じた国家として存在している、というのは情報屋の中でもよく聞く話だ。
完全に排他的とは言わないが、文化、価値観的に他国と隔絶したところがある為にごく少数の『信頼できる隣人』と共に生きている……そう告げた『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)は柔らかな笑みを浮かべる。
「ラサでの祝勝会は楽しんでいただけたかしら?
もう、判っているとは思うのだけど彼ら『ラサ』はアルティオ=エルムの『信頼できる友人』よ」
柔らかにそう云ったプルーの傍らで銀髪の幻想種は緩く頷く――ルドラ・ヘス。幻想の軍事面を担っている武人肌の弓使いである。
「深緑(わたし)達へ貴殿達を紹介してきたのは他ならぬ『信頼できる友人』だ。
故に、リュミエ様――深緑の実質指導者であるお方だ――も貴殿達を歓迎している」
アルティオ=エルムへ。
その霊樹は街一つを飲み込むほどに巨大な在り方をしている。幻想種たちの都、その中心地たる『ファルカウ』。
「今宵はシャイネン・ナハト。
深緑(わたし)達の住まうこの場所をこの輝かんばかりの夜を利用して是非、堪能して欲しい」
鮮やかなる緑。静寂なるその場所は、穏やかな気質を感じさせている。
住まうは皆、幻想種ばかりか――少しばかりの異種もいるが、人口はほぼ長耳の彼女らであろう。
だからこそ、足を運んでみて欲しい。
異種(あらたなおとずれ)に緊張する幼い桃色髪の乙女は「何、何? ルドラ、だれだれだれ?」と大騒ぎしながら彼女の周りをくるくると回るほど。
ちらちらと降る雪が緑に美しい。美しき夜空に包まれ自然と調和した穏やかな深緑。
穏やかな美女は『異邦』の人々を待ち望むかのようにこの夜を楽しみにしているのだと側近たるルドラに告げていた。
「大樹ファルカウもこの『開国』を喜んでくれるでしょう」
「そうであると嬉しいですね」
リュミエ様。そう呼ばれた女は柔らかに笑みを溢す。
この日、シャイネン・ナハトの夜には合言葉はただ一つ。
この一言があれば皆――笑みを溢してくれるだろう。今日はそんな夜だ。
だから、開国に相応しく。だから、友好の意を示すのにも相応しい。
どうか、美しき迷宮森林に降る真白な雪がこの夜空を彩る様に。その心模様を伝えて欲しい。
「――輝かんばかりのこの夜に」
- <Scheinen Nacht2018>雪色染まるヴァルドビューネ完了
- GM名夏あかね
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2019年01月12日 22時00分
- 参加人数101/∞人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 101 人
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参加者一覧(101人)
サポートNPC一覧(2人)
リプレイ
●
アルティオ=エルム、そしてその中心たる大樹ファルカウ。
「ここが僕の故郷――深緑」
シャロンの一言に、鼎は緩く頷いた。連れてくるとそう約束したのはまだ――いや、『もう』――1年だ。
久しぶりの里帰り。深く息を吸い込んで大きく吐き出して。背伸びをする。故郷は、何時だって、姿を変えない。
「この時期に開放か……素敵なプレゼント代わりかな。母なる大樹、昔は僕もこの辺りでよく遊んだっけ」
「遊んでいた? ふふ、やんちゃなシャロンなんて想像しにくいけれど。
……ああでも今みたいに、はしゃいでるなら可愛いかな?」
いつもこの樹に見守られて育ってきた。ここの人たちは皆そう。そう告げるシャロンに「確かにここはシャロンの故郷だね」と顔を上げた。
「ほんわかした空気がシャロンみたいで――褒めているよ?」
その空気が好きだからね、と柔らかに告げた鼎にシャロンは頬を掻く。髪飾りを探しに行こう――輝く星の様な、シャロンに似合うものを選びに。
「え、都に入れんだ? じゃああーしらの郷にも帰れっかな」
「すごい、ね? ……お家。帰れる、かな。久しぶり……」
マリネとオリヴァーは自宅に帰る前にとファルカウで土産を買おうと観光を兼ねて歩み出す。
郷に戻る前に、と楽し気なマリネは「なんかいいお土産ねーかなー。小物がいーよね」と様々なものを物色する。
「これなんていいと思うんだけど……えっ変? うけない?」
「何、その……何? 凄く、怪しいオーラ……放ってるよ……?」
きょとりとしたオリヴァーにマリネはだめかァと小さく呟き。さてお土産探しは中断して、一先ずはおやつタイムだ。
滝の水源を目指そうと歩むアレクシアを追い掛けてシラスは、美しいその水の流れに息を飲む。
案内を、と歩む足取りも何所か軽く。実際に見た事がないからと冒険気分のアレクシアは『友達』たる植物に問いかけながら、親愛なる友人を振り仰ぐ。
「見て!」
両手を広げ、鮮やかな緑と、輝かんばかり光を受け止めてアレクシアが柔らかに笑う。
「どこを切り取っても他の国では見られない景色だと思うんだ」
「凄く、綺麗」
彼女と一緒に歩む初めてが、シラスにとっては何物にも代えがたい。今日はシャイネン・ナハト。
二人で過ごせたことが嬉しくて。柄にもなく感謝したシラスの「綺麗だね」と言葉にアレクシアは「自慢の故郷なんだ」と笑みを深めて。
「排他的なエルフの国ねェ……いや、ハーモニアって言うんだっけな。
いずれお世話になるかもしれんし、雰囲気ぐらいは掴んでおこうかね」
「閉鎖的な深緑が外界を受け入れるのは凄い事なの! 綺麗な景色ですね。む、エルフってなんですか?」
アマリリスの丸い瞳にアランは「そう言う事があるんだよ」と柔らかに返す。天義に居た頃はきっと来ることがなかったであろうと考えていた――だからこそ、身に余るほどの幸せを噛み締めるようにアマリリスは「嬉しい」と呟いた。
「……私の身に余るほどの幸福がここに。こんなの、父の焔に焼かれた村人が赦してくれる筈がないのに――」
「お前の親父がどうかしたのか?」
問い掛けるアランにアマリリスは曖昧に笑う。その過去は彼も知る所だったのだろう。
「騎士にとって戦場で死ぬ事は誉れ。気を引き締めねば――ローレットは私の精神を、甘く緩めてしまいます」
「……父親がやったことは、父親がやったことだ。
それに騎士の誉れは戦場で死ぬことじゃねぇよ。戦場で誰かを助けることだ。
俺がずっと近くで見た来た純白の騎士は、ずっとそれをやってた。最近は幻想の騎士に転職したらしいけどな」
くつくつと笑ったアランに目を丸くしてアマリリスは「手厳しいですね」と肩を竦める。
「一塊の騎士風情が守れるのは精々……仕来りと命令だけです。よければ貴方の世界のお話、聞かせてください」
「俺の話なんざ大して面白くもねぇぞ。でも、まぁ――俺の勇者になるまでの物語と、勇者になった後の物語を」
まずは、と話しだしてみようか。
折角だからとリリィを誘いジェックとユリアンはシャイネン・ナハトの夜を歩む。
「初めまして。アタシはジェック。ヨケれば都の外を一緒に散歩シナイかい?
中はヒトが多かったから、スコし疲れちゃったンダ」
「ええ、そうね――今日は、客人が多いもの」
穏やかに笑うリリィにユリアンも気分転換しましょう、とゆっくりと歩み出す。
美しき深緑と共に、こうして雪を見るというのは『どこか違う』。ジェックの知っている雪とは大分と違うのだと顔を上げる。
「それじゃあ――輝かんバカリの、コノ夜に」
静かに一つ、一つと言葉を重ねて。のんびりと星を見上げようと誘うユリアンに「ねえ、暖かいものを飲まない?」とリリィはホットココアを差し出した。
「すごい! 本当に樹の中に都市があるのね! 文字通り樹と一体になってるんだわ!」
子供の様に心を躍らせて。イーリンがはしゃぐようにミーナを手招いた。
イーリン、と呼ぶミーナが手渡したマフラー。深緑は幻想と気候が違うからと念には念を入れて。
本音を言えば一つのマフラーを二人で共有したかったけれどと冗談めかすミーナにイーリンがきらりと瞳を輝かせる。
「この樹が汲み上げた水を井戸みたいに使ってるのかしら! 火を使っても煙とかで燻されたりしないのかしら! 市場もなにこれ見たこと無いものばっかりだわ!」
楽し気にくるくると見て、表情を変えるイーリンにミーナは「ねえ」と手招いた。
「どうだ、一緒に買ってみねぇ?」
「買うわ!」
揃いの花飾り。大声を出したことに気付き、かあ、とイーリンの頬に朱が差し込んだ。
噂に聞けど、訪れる事がなかったから物珍しいのだとミニュイが顔を上げる。
「……綺麗な都」
「ええ、深緑って外から来れることがあまりないから――今、この瞬間が貴重なのよね」
緑に閉ざされてると思っていたこのみゃこ。空があんなにも遠く、広い。もしも生まれる場所が選べるならココが良かったと行きつくミニュイにレジーナがくすりと笑う。
「ねぇ、細工物を買いましょう? 買ったものを交換するの。お互いがお互いに……」
ね、と囁くように言うレジーナにミニュイは彼女の姿を見遣った。長いツインテールを留めるのにも使用できそうな髪飾り。
鮮やかな花飾りは長い髪を美しく飾る事だろう。選ぶ指先を負いながらレジーナは悩ましくぱちりと瞬く。
「ふふ。ミニュ、これ。汝(あなた)にとっても似合うと思うの」
手に取ったフクロウの木彫り。きっと、彼女の好みに合致しているだろうと少し面白そうに笑みを浮かべて。
「不思議な物だ、外は雪がちらついているというのに大樹の中は暖かい。これもまた大樹ファルカウの加護の様な物なのだろうか」
顔を上げたアレフが白い息を吐く。交流を閉ざしていた国とこうして手を取り合えるのは何よりも喜ばしい。
「そういえば先程、深緑の指導者の姿をちらりと見たが。確かに話題になるには十分に美しい女性だった」
振り仰いだアレフにアリシスがぱちりと瞬く。独立した異文化が存在するこの場所。リュミエ・フル・フォーレの姿に『何所か君に似ていた』と告げたアレフにアリシスは緩やかに笑みを溢す。
「──ふむ、私情も含めての判断になるが…やはり、アリシスの方が美しいと思う」
「……ふふ。見ているのはそこですか、アレフ様」
面白おかしくて、つい、笑みが毀れた。彼は天使的な存在であったのにやはり『男』なのであろうか。
「今宵もまた、私の傍に居て貰えるか?アリシス」
伸ばされた手を取ってアリシスは唇に弧を描く。
「私で宜しければ。アレフ様」
いつか、女王と相対したいと願いながら――今日は、彼と過ごそう。
「わあ……! 緑に溢れる美しい国だね。空気も新鮮で美味しいよ。それに、幻想種の人々は美しい人が多いようだ」
大仰なる仕草で楽し気にそう告げたクリスティアンにロクは尻尾を振り「すごいすごい!」と跳ねる。
「……でも王子の方がかっこいいもんね。飾り立てれば飾り立てるほど王子はかっこいいもんね!!」
「まあ! どんなに美しくとも! 当然、僕が一番美しくハンサムだけどね!」
堂々たるクリスティアンにロクははっとした様に枝や葉っぱ飾りを集め、「よーし」と頷く。
「え!? 僕をより引き立てるために装飾を? ありがとう、感激だよ! よぅし、是非飾り付けてくれたまえ!」
枝飾りに葉っぱ飾り、お金ないしどうしようかなと周囲を見回すロクはそうだそうだと言わんばかりに周辺の落ち葉を拾う。
「いや、むしろ大樹並みに際立っているのでは! ふふふ、クリスティアン・ツリーだよ!」
モサモサの 王子もやはり かっこいい――ロクの心の句。
●
これがファルカウ――初めて見たと威降ははあと息を吐いた。
リュミエへのあいさつを終え、アルナスにファルカウを案内して欲しいと乞えば「リュミエ様に会ったの?」と丸い瞳で問うてくる。
「めちゃくちゃ綺麗だった――」
放心状態の威降にぴょんぴょんと跳ね乍らアルナスが「どうしたのー?」と首を傾げる。
「い、いや。お菓子を奢るから、一緒に回らないかい?」
「もっちろんさー!」
別にお菓子のためでは、ないんですよ?
久しぶりの大樹ファルカウ。4年前に逸れてしまった両親ともう一度、と期待したリディアは散らかる家の中にじわりと涙を浮かべた。
安否の分からぬ両親を思い、リディアは散らかった部屋を整頓していく。机の上に置いた一枚は只、想いを伝えて。
――私は今、ローレットのイレギュラーズの一員として活動しています。
だからお父さん、お母さんが無事にこの家に帰ってきた時はローレットに連絡を取ってもらえれば私はきっとまた会いに来ます。
その日が早く来ることを私は願っています。
リディア――
「約束でも一緒に来てくれるなんて嬉しいなぁ……!
奢ってくれるなんて優しいな……折角深緑に来たんだし目いっぱい美味しい物食べて楽しもうなぁ!」
瞳を輝かせたヨルムンガンドにプラックは「約束は守る漢、プラックっすからね!」と胸を張る。
旅人と言えど女の子。4万Gもあれば大丈夫だろうと高を括ったプラックにヨルムンガンドが笑みを浮かべて「んー! おいしいなぁ……!」とあれそれを手にし続ける。
「別のも美味そうだぞ!いっそ二人で全メニュー食べよう……!
あ、あっちの店もいいなぁ……まだまだ(永遠に)私のお腹は満たされないぞ……!
行くぞッ! 注文、全部だ!! MA☆DA☆DA 出店全部食べつくすぞ!! 止めるな…! HA☆NA☆SE!」
以下、プラックの叫びだ――
やめて!
ヨルちゃんの大食らいで深緑の出店を食べ歩かれたら、出店の代金がサイフと繋がってるプラックの精神まで燃え尽きちゃう!
お願い、死なないでプラック! あんたが今ここで倒れたら、秘密にしてる魔種蛸親父を乗り越える話はどうなっちゃうの?
ゴールドはまだ残ってる。ここを耐えれば家賃は払えるんだから! 次回「プラック死す」デュエルスタンバイ!
「……そもそもしんりょく? がどんなばしょかわかってないから、ふたりでちょっとしたたんけんにいきたいなっ」
にんまりと笑うリリーにミルヴィは「イイよ」と柔らかに頷いた。
いろいろな所に行ったけれど、深緑は知らないというミルヴィは「ちょっと昔ね、縁があってサ」とリリーへ語る。
「奥さんが陣痛で困ってたから拾って急いで届けたんだよねー。
アタシは見届けられなかったケド無事にいるといーなーってネ」
「え、まえにここのひとたすけたのっ? ん、ならさがしてみたら、いるかもしれないねっ。
よーし、さがすついでにレブンといっしょにたんけんだーっ♪ とっても、たのしみたのしみ♪」
人懐っこいシャチを伴って、リリーがいくよーと笑みを溢す。道すがら二年前に出産したという夫婦を探しミルヴィとリリーは往く。
幻想種の夫妻に出会ったならば幼い少女が一人、ミルヴィを出迎えるだろう。きっと、彼女が救った小さな少女は『未来』という名を得て――
見知らぬ土地で一人。それは何処か不安だから――閠はアルナスに観光案内を頼む。
「まっかせなっさーい」
「ボクが今、お邪魔させてもらっている場所にも、すごく大きな、樹が生えてるんです、けど……。
ここはもっともっと、大きいんですね……包まれてる安心感、というか」
うむ、と頷くアルナスに閠は周囲の音や気配にも心惹かれたように感嘆の声を漏らす。
「飾りもの、誰かにおすすめを選んでもらえたら、記念になって、いいお土産になると思うんですけど……えっと、お願いできますか?」
「ふむ、良い店を探すのなら妾も行こうかの」
ローレットからきたデイジー・クラークじゃ、と淑女の礼を見せたデイジーにアルナスも『楽し気』に倣う。
「せっかくの深緑じゃ。名物となる料理が出る店にいこうかの」
その言葉にアルナスはまかせなさい! と走りだす。
その足元で尾を振るおはぎは大樹ファルカウを楽しむようん牛王を見上げている。
深緑の食事は野菜が中心で、美味いものが多いと気けど牛王は何処に行くべきかに迷い出す。
アルナスの案内に「私は『さらだ』……野菜の添え物が好きです。お肉はあまり食べませんね。特に牛肉は……少々罪悪感を感じるので」と小さく呟く。
「案内役のアルナスに妾から。
シャイネン・ナハトの夜に良い子はプレゼントを貰えるのじゃ。妾に道案内をしてくれた良い子のアルナスにプレゼントなのじゃ♪」
「わ、ほんとぉ!?」
嬉しいと笑って。さあ、今から美味しい料理を探しに行こうではないか。
「自由きままに生きたいだけの私にはこういう所もいいかもしれませんねぇ」
きょろりと周囲を見回して利香はうんと背伸びをした。
木の実を砕き混ぜ込んだドーナツを手にして、手帳を手に周囲を現地調査としてっ回した。
「あのこげねこが居たらさぞかしこの森は焼きがいがあると思いそうですねえ」
どんな場所であれど利香にとっては新鮮で――「深緑は初めて」と口にする純種の反応は、利香のそれとはどこか違って。胸にちりりと羨ましさが募った。
くちゅん、と小さくくしゃみをしてクーアは「お姉さまの気配がするのです」とこそこそと仮面をつけて身を縮める。
(今日はまだ何もわるいことしてないのですが。なんとなくにげておくのです。なんとなく)
ててて、と走り広いファルカウの中を往く。一周するのは難しそうだが、今、足を踏み入れた居住区だけならばなんとかなるであろうか。
大きい木だ、とエルが息を飲む。自身と同じ特徴の長耳の種――幻想種が住まうのはこの場所かと周囲をキョロ里と見回した。
「私はエルと言います、よろしくお願いします」
「オッケー! アルナスさんにおまかせー!」
にへっと笑ったアルナスにエルが問い掛けるのはこの国の国家事情。
「名産の木の飾りを買いたいんですが……よければ、選んで欲しいんです。私が選んだものは、アルナスさんに」
「へへ、それはうれしいぞお」
音楽や服装は様々な好みがある。このアルナスという少女は閉鎖的な深緑でも珍しく、『新しい物』が好きなのだろう。
じゃあ、選びに行こうと走り出すアルナスの背を追い掛けて。
「観光……観光に来たけど、普段、荒事ばっかだから何していいか。
そっちは、また今度って事すし。ぶっちゃけ解らんてのが正直なところすよねぇ。どーしましょ。どーしましょ」
「どーしましょ?」
ぴた、と足を止めたアルナスにヴェノムがぱちりと瞬く。ああ、そう言えば案内役に打って付けではないか。
「ね、アルナス先輩。どーしたら良いすかね。まぁ、旅は道連れっていうし、ちょいと付き合ってくださいよ」
「いいよおっ」
「独自の文化レベルで魔術的発展を遂げた幻想種の都って実際、どんなもんがあるんか見てみたいんすよね。
防衛機構とか得物とか見てみたいすけど。あと強い人とかあってみたいすけど」
「んーぼうえーきこー? アルナスさんはわからないぞー?」
彼女がそうやって笑うものだからヴェノムは「そっすか」と小さく返した。嗚呼、なかなか『おいしそう』な少女ではないか。
昔から世話になって居る大婆さんに話を聞かされていた。ユゥリアリアにとっては深緑は伝聞だったが、はじめてその目で見る事が出来、心躍る経験となったのだろう。
アルナスの案内を受けながら「一度、アルティオ=エルムには着てみたかったのですよね。わたくし」とユゥリアリアは柔らかに笑みを浮かべる。
温かなホットココアと穀物のスープを手にラダは一人、上へ上へと進んでいく。山でもこうして登ったことはない。
居住区でも一番高い場所へ――そう思えば『普通の樹』よりも幾分も高い大樹を心行くまで堪能できる。
(しかし、これでただの隣国、か。世の中広いな――)
閉鎖的だといわれる深緑。その象徴たる大樹は何処までも伸びている。
様々な世界を目にしても、きわめて興味深いのだとシェリーは顔を上げる。何処か、心が弾む彼女の様子は親しい人間なら理解できるのだろうか。
自然を目いっぱいに吸い込む様に両手を広げ、緑を感じて深呼吸をして。
フェスタはゆっくり歩んでお散歩メモを書きたいけれど、と瞬いて、アルナスににこりと笑みを溢す。
「輝かんばかりのこの夜に! 初めまして!
フェスタ・カーニバルです! これから仲良く出来たら嬉しいでーす!
この国の事、この国の人達の事、いーっぱい知りたいな! 独自のしきたりとか、作法とかあるのかな?」
「しきたり――……んーと、小枝を折ったら骨を……ううん、これ、リュミエ様が良く言う幻想種ジョーク!
作法は礼儀作法とあんまり変わんないと思うなあー。常識は常識だもん!
しきたり……? んー、火はあんまり使わないかも」
山火事は怖いもんね、と笑みを溢したアルナスにフェスタはなるほど、と小さく頷く。
折角だから楽しみたかったとエリーナはアルナスの案内に沿って料理を端の吸うべく歩み出す。
「自然豊かで心が落ち着きますね」
柔らかに笑うエリーナ。周囲の草木は彼女を歓迎するようにざわりとざわめいているようだ。
「深緑……周り、いっぱい、いっぱい、の、木、花……とっても、とっても、素敵な、国……『こころのはな』も、皆、楽しそ、だ!」
シュテルンは心を躍らせ、周囲をきょろきょろと見遣った。こうして盛り上がっているのは久々なのだと告げる幻想種たちにシュテルンはぱちぱちと瞬く。
「イレギュラーズ、皆、ワイワイ、好き、だから……。
シュテ、も、イレギュラーズ、の、ワイワイ、に、救われ、した、の。
だから、皆、為、がんばるって、決めた、したんだ!
深緑、国、皆、にも、イレギュラーズ、皆、事、いっぱい、いっぱい! 知る、して、ほしい!」
『いっぱいいっぱい』の幸せを。そうして、知ってもらえたならばそれが一番なのだとシュテルンは幻想種たちへと笑みを溢した。
バザールを歩む足取りは軽くなる。
一人で行くのも味気ないとアトはザックに作った荷を積み、バザールを巡ろうとフェンリルに声かけた。
「このくだもの……何ていうの……? どんな味……? ひとつ、買ってもいい……?
アト、アト、これ、二つ買ってきた……いっしょに、食べよう……?」
フェンリルの言葉にアトは「へえ……」とぱちくりと瞬いた。果物もそうだが、おやきや素餃といった野菜を主とした食物が多分に並んでいる。味噌類も発達しているのだろうかとバザールをめぐるアトの裾をくい、と引っ張ったフェンリルがぱちりと瞬いた。
「小物類もいいが、この季節ならば上質な木綿の服だってあるだろう? フェンリル、興味があったら試着してもいいよ?
気に入ったんだったら……ま、プレゼントだ。遠慮するなよ、蠍退治のおかげで金もある」
「それじゃあ、わたしもこの髪飾り……アトにプレゼント……きっとアト、似合うと思うな……」
遠慮するなよ、と身に着けた暖かな衣服にフェンリルが何所か嬉しそうにくるりと回り、持ち上げた髪飾りをそっと差し出して。
「ぬ?」
こて、と首を傾げたニルは「でっけー木なんだお。どんくらい高いんだぬ?」と未だ見ぬ大樹を見上げてぱちりと瞬いた。
折角だからと野菜を中心とした料理を食べ歩き。小麦粉と簡単に混ぜただけの軽食や、自然由来のスナックが並び屋台に揃う果物系のデザートにも心が躍る。
「とりあえず、片っ端から食べ歩いて堪能するんだお!! お祭りはこうじゃなくっちゃなんだぬ」
懐かしい場所なのだとシフォリィは周囲をきょろりと見回した。深緑の大樹ファルカウ。母の生まれた国は何処までも『穏やか』だ。
「幻想種だったお母様は、幼い頃の私が眠れない夜はファルカウの偉大さや、そこに伝わる昔話などを、よく語ってくれました。
いつか、家族皆で一緒に行こうと言ってくれたのを覚えています」
母は言っていた。何時か、生まれ故郷を家族に見せたいのだと。その儘、病に倒れ、死してしまった母。
シフォリィが目を細め、ふと、過るのは『中姉様』の姿。
「……そういえば、中姉樣……次女のお姉様は、深緑に嫁いだんでした。
いつでも遊びに来てほしいと、お姉様の旦那樣、私にとってのお義兄さまもいっていたらしいですし……。
顔を出すのもいいかもしれませんね。5年ぶりですし、楽しみです」
●
「……何と言いましょうか……不思議な感じっスね……この国は。
幻想や海洋とも違う……お伽噺にしか出てこないような場所に自分達がいる……」
ほう、と息を付いたクローネの傍らで、いつも通りのきらめくタントは「淑やかな心持ですわ!」と笑みを溢し手を差し出した。
「でも先輩とご一緒にシャイネンナハトのおデート! できてとっても嬉しいのは隠せませんし隠しませんわ!
あっ、手を繋いでも宜しいでしょうか! きゃっ! わたくしの手は温かいですわよー!」
相変わらずのタントにクローネは見失わずに済むから、とその手を握りしめる。
見てくださいまし、と瞳輝かすタントは「一輪の白いバラの花飾りですわー!」と購入し笑みを溢す。
「……あら、白い薔薇? 良いんじゃないっスか……貴方なら似合って……えっ、私に……?
………別にこんな………いや、ありがとうございます……代わりに私もお礼をさせて下さい」
そうして貰えるのは嬉しい――だから、礼を。ならばシャイネン・ナハトの夜に素晴らしディナーを楽しもうじゃないか。
物心がつく前に過ごしていたとはいえほぼ初めて訪れることとなった深緑の地。クラリーチェが周囲を見渡せばグレイが「あっちに行こう!」と足早に進み出す。
「折角だから色々見て回りましょうか。お土産も選ばねば……ですが……」
好奇心で進んだからか。もしかして、とクラリーチェとアッシュが顔を見合わせる。
「「――迷子……?」」
帰り道なんて覚えていない。どこかに歩こうと真直ぐ進む足取りが少し重くなる。
「クラリーチェくんお疲れかな? それなら。ふふん、僕に任せてくれ。キミを背負って僕が往こう」
え、とクラリーチェが息を飲む。強引に背負う彼の仕草に「えっ、あ、ありがとうございます」と平静を装った。
――もう少しダイエットしておけばよかった!
「ただいま祖国! よかったー、帰れなくてどうしようかとおもってたのよ!
大体招待も何も私はこの国の生まれなのよ、勝手に召喚しておいて入れないってどういうことなの!」
ぷんすことしたアルメリア。彼女であれば深緑には『入れた』かもしれないが、ローレットより距離のあるこの国への実質的な派遣がなかった以上、中々に帰宅は難しかっただろう。
「よかったー、シャイネン・ナハトを自宅で過ごせて……。
召喚されてからいきなり戦争に呼び出されて、ヒーラーとして駆り出されたのよ。もっと魔法の勉強、しておけばよかったわ」
拗ねた彼女は両親に告げる。またローレットに戻らなくちゃいけないの、と。
母は可愛いアルメリアを心配するような表情を浮かべるが――「ふふふ、いつかほんとに深緑指折りの魔術師になってるかもしれないわよ、私」なんて、笑顔で言われれば認めるしかないではないか。
「食事はまだ要らないし。土産でも漁るかな。お兄さんはどーする? 何か希望でもあるならそうするよー」
俺も、とルーキスの言葉に頷くルナール。バザールはシャイネン・ナハトのためか盛り上がりを感じさせるもので。
赤い花のブローチを手にしたルーキスの首筋にそっとつけられたのはルナールがセレクトしたネックレスだ。
「来年も、というか、ずっと一緒に出掛けような?」
「たまには赤も良いと思うんだー。折角のシャイネン・ナハト、プレゼント無しはしょっぱいでしょ?」
笑ったルーキスが来年のプレゼントも期待してると瞳を細めて。
「しゃいねんなはとという特別な日を、見た事もない場で過ごせるのは夢のような心地です。
……ご一緒くださって、ありがとうございます」
「こちらこそ――異世界巡りを楽しんで、特別な日の思い出を分かち合えるのも桜咲さんが居てくれるおかげ」
珠緒が柔らかに笑みを溢す。この域の樹木は見た事がなかったという彼女に蛍は神話の様な世界よねと柔らかに溢す。
食堂で食べられるお祝いの料理、この国ならではの物であり珠緒の体質にも丁度いいのだろうと蛍は判断していた。
(桜咲さんにはこういう料理が望ましい……和食とかも良いのかも?)
病人であれど、美味は美味。故郷の味を思い出すと笑った蛍に珠緒がぱちりと瞬いて――さて、と包みを差し出した。
「どうぞ開けてみて? ……うん、マフラー。手編みとはいかなかったけど」
「……まあ」
「ボクの心を暖かく和ませてくれる桜咲さんに、ボクからも温もりを。
ほらここ、不格好かもだけど桜咲さんのイニシャル入れてみたんだ――ボクからの感謝を込めて」
喜ばしいと目を細める。店から出たらつけましょうと微笑む珠緒は蛍に「ささやかながら」と織物の眼鏡入れを差し出した。
「とても大切な品とお見受けしますので、保護になればと」
「素敵……! 眼鏡と同じ位大事にするね!」
深緑、と聞けば政宗にとってはヴェルンヘルの故郷というイメージがあった。
故郷をシャイネン・ナハトという特別な夜で過ごせるというのは嬉しいものだと笑うヴェルンヘルに「こんなおじさんでごめんな」と冗談めかす。
「今日は私がエスコートします! 逸れませんように」
手を握り、ゆっくりと進む。それは気づかいであれど、緊張が何所か掌に滲み出す。
「……あそこ、見たい」
露店に並んだ花飾り。花の簪をさらりと長いヴェルンヘルの髪に差し入れて。それに笑みを溢したヴェルンヘルが差し出すは鈴蘭の髪飾り。
白く小さな房が連なる華は、どこか傍らの彼のようだから――「輝かんばかりの、この夜に」
外は寒くても大樹の中は暖かい。ポテトと共に世界を一つ、見る事が出来てよかったと彼女の手を握るリゲルにポテトは大きく頷いた。
「やっぱりここは女神様のいる場所にどこか似ている。でも全然違う」
懐かしそうな、それでいて、楽しみだという様に目を細めて。ポテトのその表情に、リゲルは嬉しそうに笑みを溢した。
「やはり深緑に来ることが出来てよかったな。ポテトが見違えるように生き生きとしている」
バザールを見遣れば花飾りが並んでいる。その愛らしさもさることながら、いくつか買って帰るのもいいな、とポテトが手に取るのは彼の瞳の色をした花飾り。
「似合うか?」
「綺麗な青色だな。深みと透明感がありながらも、キラキラ輝いている」
深緑は自然由来の食事が多い。物足りないかな、と冗談めかして笑ったポテトにリゲルは「問題ないさ」と笑う。
帰ったら彼の好みの物をたくさん作ろうと、微笑んでポテトは彼の手を引いた。
「……大きな木、ですね」
息を飲むシキ。見上げれば空を覆う緑が其処にはある。
シキの傍らでティミは「ここからもう少しラサ方面に行った方に私の家があるみたいです」と胡乱な記憶を辿る。
奴隷であった時代が長いから――満足に思い出せないけれど、とティミは肩を竦めて何かを思い出したように顔を上げた。
「ああ、けれど、兄さんと姐さんと手を繋いで帰ったのは覚えています。家族との、とても幸せな記憶……です」
「……じゃあ……手を繋いで、歩きましょうか。えーっと……こういう時は、何て……言うでしたっけ。……お手を、どうぞ?」
きっと、届かない幸福だった――筈なのに。ぎゅ、とティミの手を握ってシキは彼女の言葉を待つ。
「……最近、凄く嫌な感じがするんです。シキさんが傍にいて、安心なのに、でも、怖くって……」
ご主人様が――そう告げて震える声音。縋る様に腕を掴むティミにシキは「大丈夫」と目を細めた。
「何があっても。どこにいても。僕が必ず、キミを守るよ。……だから、大丈夫」
聞こえる鼓動が、掌の暖かさが、君を感じられる。
「大樹の中に都市がまるまる一つあって、雪までちらついてて。
それなのに大樹の中は暖かいなんて……初めて体験する、不思議なことばかりで」
「ええ、15年生きてきても混沌はまだまだ知らない事だらけ」
アンナはぱちりと瞬けばマルクが楽し気に笑みを溢す。
「別世界に切り取られたみたいな感覚だよ」
「そうね。別世界みたい……今日、来れてよかったわ」
特別な日は、それだけで景色を買えるものだから。この場所はそれでも地続きの場所なのだとマルクはほうと息を吐く。
これから、冒険するのはここなのだと告げればアンナは「実際に訪れるのと伝聞では違うのね」と笑みを深めた。
「そうだ、アンナさん。これ、シャイネン・ナハトの記念に」
ファルカウ名産の花飾り。雪の中に咲くスノードロップを象ったそれに、ぱちりと瞬きアンナはそれを大事そうにぎゅ、と抱える。
「来年も、よろしくね」
「ありがとう。きっとこれも、特別な品になるわ。ええ、来年もよろしくね」
以前訪れた時はまだ『夜鷹』だった。だから――自分と同じすがたをした森の民たち。
彼らにとってエーリカは『仲間』なのであろうと、感じるものの、そのたびに心臓が飛び出しそうで、ぎゅ、とラノールの手を握りしめる。
「エーリカ」
呼ぶ何。彼女と同じ美しい姿を見遣り、緊張した面立ちのエーリカの頭を優しく撫でた。
「このきもちに、なんて名前を付けたらいいの。ううん、きっと――このきもちは、”うれしい”はずだから」
呟いて、エーリカはラノールを見上げる。つないだ手が僅かに、震えた。
「ラノール、わたし、……おはながほしいの」
「おはな、かい? ……ふふ、それならば」
彼らのしるしが欲しいと。強請ったエーリカにラノールは薄紅色の花飾りをそっと差し出した。
「私から君に、これを送ろう」
花の意味を、こそりと額をよせて囁いた。その意味に、瞬いて。息をして、そして。
「――ふ」
漸く、『わたし』のまま笑えたのだ。返した言葉は、彼にだけ聞こえるように。
●
自然の中であれば、やくざでも大人でも盛大に楽しむべきだと義弘は周囲を見回した。
人が集うリュミエに軽い挨拶をし、バザールへ向かえば果物を使用した酒類を勧められる。
「アルティオ=エルム独特のものはあるのか?」
食事に嗜好品である酒。それは生活の根幹や基盤として必要だ。文化を学ぶならば先ずはそこからだと義弘は商店を回り始める。
深緑をお散歩するのです、とヨハンはマナと共に歩き出す。海洋や傭兵も見て来たが、自然にあふれていていい土地だというのがヨハンの感想だ。
「花飾りなどが名産とお聞きしておりますが、シャイネンナハトの時期というのもあって贈り物用などが多いのですかね……?」
「かもしれませんね? でも、色々やりたい事が多すぎるんですよね!
一通り見て回ったら食事をしたいですし、観光も堪能したい、それから、ああ! マナにお花も買ってあげたいです!」
『けーかく』がいっぱい過ぎて忙しいと慌てるヨハンにマナはくすりと笑う。
「本当に?」
「はい!」
「……我儘、言おうとしてたんです。私に似合いそうなものを選んでくれませんか――って……」
甘えを孕んだその言葉。マナはヨハンの物を選ぶから、とつけたしたそれにヨハンは嬉しそうに大きく頷いた。
「木の中で生活ができるなんて、凄いね……! こんな大きな木、見たことないよ。ルークのいた世界には、あったりしたのかな?」
「僕の世界では見たことは無いよ。絵本や想像の世界でしか存在しなかったんだ」
周囲を見回すノースポールにルチアーノも感動した様にそう言った。
緊張した様に『余所者』を見る幻想種に元気いっぱいに笑顔で挨拶する二人はできれば仲良くしたいのだとそう告げる。
「バザールで……あ、ルーク!」
「何かみつけたの?」
そうして差し出されたのは花飾り。上品な翡翠色の髪飾りをそっと手に取り「ふふ」とノースポールは笑う。
彼の髪に宛がって「かわいい」と笑うノースポールが次に手にしたのは葉っぱの飾り。
「僕だけじゃなくてポーにも似合うよ。ほら」
ルークが気に入るなら、と選ぼうとするノースポールに蜜柑色の花飾りを買い与えたルチアーノは「思い出が増えるね」と幸福そうに笑みを溢した。
「生まれの世界では俺も大樹で暮らして居たが……これに比べると大樹と呼ぶに値しない程ちっぽけなものに思えてしまうな」
瞬くリアムに美咲も「凄いね」と呟いた。
「あまりにも大きな質量は、ヒトの知覚だと理解が及ばないけど……。
この存在に触れただけでも、結構重要な経験になるんじゃないかな」
「美咲のおかげでこうやって出歩く楽しみを知る事が出来た、ありがとう。
ここは良いな……自然の恵み、木の温もり……何処か懐かしさを感じる」
美咲はぱちりと瞬き、リアムに笑みを溢す。食事とバザール、お祝いの日にそうして遊ぶのも特別だよねと微笑んで。
「自然と共にある都市だし、木の工芸品とかあるかな。見つけたら、お揃いのカップとか買わない?」
「ならば、片方は俺に出させてくれないか?
俺も美咲に贈り物をしたい、互いに使用する物を互いの贈り物に、させて貰えないか?」
ぱあ、と笑みを溢した美咲は「ありがとう!」とリアムに優しく返した。
「リヴィ。深緑のバザールは他じゃ見ないアクセサリとか、食べ物があるらしいし、良ければどう?」
「良いっすね! ニアの好きなものとかあるっすか?」
瞳を輝かせ、周囲を見回したリヴィエールはニアの「見た事ない物が多いんじゃないかと思って」という言葉に大仰に頷く。
何か探そうと手招くニアはあれは? とにんまりと笑みを見せた。
「友達に似合うアクセサリなんかを探したりするのは、よくある話らしいからさ。
ほら、あっちの花のやつとか似合いそうじゃないか? 可愛いし、なんというか元気そうだ」
ちらつく雪を見遣りながら蜻蛉は雪之丞に「寒いなあ」と呟いた。
「ここは、不思議な場所ですね。大樹の街など、想像もしておりませんでした」
「せやね……不思議……、雪が降ってるのに――雪……雪ちゃんの名前やな、て思てた」
そうですね、と雪之丞は柔らかく笑みを溢す。記念に何か購入しようと歩み出せば、蜻蛉はふと足を止める。
「雪ちゃん……これどやろ? 雪ちゃんらしくあれへん? 椿の花言葉は『控えめなやさしさ』と『誇り』やの」
「綺麗……」
着飾る事など無くて、不安と、そして歓びが其処にはある。
「蜻蛉さんも、どうぞ。……その花言葉は、蜻蛉さんにこそ、相応しいものだと思います」
簪を差し出す雪之丞に蜻蛉はぱちりと瞬いた。着飾り方を、と囁くそれに蜻蛉は柔らかに笑みを溢す。
「あ、次は、お抹茶……探しに行ってみぃひん?」
「はい。お茶は気になっていましたから、行きましょう」
猫の尾をゆらりと揺らして、セレネはイシュトカの肩へと乗る。
大樹ファルカウ――その居住エリアの最上階までしか行くことはできないが、その上を目指し続ける。
「ハーモニアの人たちの、故郷……ここを訪れるのは、生まれて初めてです」
頬に触れる雪の冷たさに、街の灯りの美しさがぱちぱちと視界を揺らす。
「大樹ファルカウ、皆を見守る……お母さんみたいです。樹にも、命があって……生きているのなら。
歓迎してくれて、ありがとうございます!」
ファルカウに礼をしたセレネにイシュトカは目を丸くして、ふ、と小さく笑う。
「いや、なるほどと思ってね。たしかにどちらかといえば『お母さん』だ、この……彼女は。
レディに初めて会うのに花束のひとつも用意しなかったのは痛恨のミスだよ」
変でしょうか、と笑ったセレネにイシュトカは首を振る。
「……貴女の大切なものは、力の及ぶ限りお守りします。
だからどうか、今日の私の無礼にお気を悪くされませんよう」
白い尾を揺らしたセレネは大丈夫ですよと楽し気に笑みを溢した。
「――こうして下手に出るところといい、ここ最近は格好の悪いところを見られている気がするが……そういう私でよければ、喜んで」
さあ、食事に行こう――そうして、楽しい夜を過ごそうではないか。
「ハッピ~! ポシェティケト~!」
ぴかりと光る角。煌めく星よりもまばゆい光に目を丸くして、サンティ―ルは「うわー」とぱちぱちと瞬いた。
「すごい、すごい! ポシェ、だれよりもぴかぴかだ!」
ちらほらと視線を感じて首を傾げるサンティールにポシェティケトはきょとんと瞬く。
「ワタシ達、街の人に紛れ込めそうと思うのだけど……」
サンティールのコートにもっふりの冬毛。ぴかぴかと光る角もそれでは何所か目立っていて。
「あら! 冬毛がもこもこすぎたのね。ふふ、暖かいからくっついていきましょう」
二人寄り添って、もこもこを共有する中でサンティールは「ねえ」と小さく声かける。
「祈りの夜はなにかひとつ『おねだり』をしてもいいんだよ!」
「おねだり? 鹿は初めて、するわ。
冒険に出掛けたあなたが元気で戻って来るように……っていうのは、どうかしら。え、ちょっと違う?」
「僕は何時も元気!」
初めてだなんて、嬉しくて、恥ずかしくて。小さく笑ったサンティールにポシェティケトは悩まし気に「なら」と小さく呟く。
「それなら、リースが欲しいわ。とびきり素敵で魔法使いの冠みたいな、リース。サティ、あなたにも」
ささげた白百合と月桂樹。魔除けの力を込めた冠を差し出してサンティールは「僕は、ブローチがほしいな」と笑みを深める。
「僕のこころの、いちばんちかいところに触れるように!」
「サティ、あなたには、ええ。ええ。わかったわ。寄り添う、とびっきりを」
白羊星が描かれた月の翼のブローチはお守りの星とかける翼で、心の傍にいるようにとそう――願って。
●
ハーモニアが沢山暮らす国であり、大部分の幻想種はきっとここの出身だろうとアイリスは周辺を見回した。
ぐるぐると歩き回り、周辺を確認する仕草を見せたアイリス。美味しいお茶葉はあるのだろうか、と瞬いた。
「この国の独特の文化、ってのも教えて欲しいです。一応、ほら、私もハーモニアだし……」
天義出身だからあまり故郷という感じはしないのだけど――そう、小さく呟いて。
「輝かんばかりのこの夜に。此度はお招き頂きありがとうございます。スティアと申します」
スカートをつい、と持ち上げて淑女の礼をしたスティアは「普段通りで大丈夫だよね!?」と慌てたように頬を赤らめる。
幻想種が多く、ここが故郷だったのかなと感じることがあるというスティアが聞きたいことがあるのとリュミエを見上げれば彼女は柔らかに笑みを浮かべる。
「幻想とか天義でいう貴族にあたる階級の人達とかいたりするのかな?って……。
なんかこう厳しい作法を教えられる階級とかでも良いんだけど」
「身分の上下のような仕組みは設けておりません。
勿論、必要に応じて政治を行う人間はおりますけれども、あくまで我々は共同体です」
淡々と告げたリュミエにスティアが「へえ……」と小さく呟いた。
フィオナからは美人と聞いていたサンディはリュミエの事を何となくでも気にしていた。長生きで閉鎖的な国家の代表格となれば鋭い美人というイメージがあるが、当の本人はその中にも穏やかさを湛えている。
「この世界って昔から変わらないのか?」
「……?」
訝しむ様に眉をひそめたリュミエに「レディに年を聞きたいわけではなく!」と慌てる。
「最近の動乱とかも『よくあること』なのかとか。人々の考え方とか。魔種とか。
視点が広けりゃ『特異点』の意味も掴めてそうというか」
「……私が知り得る限りでは大きな変革の数は多くありません。
ただし『特異運命座標が大量に召喚された事例』は明らかにこれまでになかった事実です。
魔種とは余り関わったことはありませんので、何とも言えない所です」
肩を竦めるリュミエ。穏やかな気性である彼女はサンディの言葉をしかと受け止めた様に柔らかにそう告げる。
深緑、大自然の国。そこにリカナは『理想のもふもふ』がいると考えた。
しかし、いくら理想のもふもふが其処に居たとしても――『凶暴なもふもふ』である可能性は否めない。
(ファーストコンタクトが難しいかもしれないわ。そうだ、ここは長く生きている人間に聞いてみましょうか……)
リカナはリュミエへと「深緑にはどんなモフ生物がいるのかしら? できれば気性が穏やかな子がいいんだけど」と問い掛ける。
きっと、癒しのもふもふがいる筈だ――そう考えるリカナへと、リュミエは小さく首を傾げて。
自然の恵みたっぷりのクリームチーズで作られたスフレチーズケーキを楽しむゲオルグはふわふわ羊のジークと共にリュミエの許を訪れていた。
その目的はリカナと同じ『ふわもこアニマル』の探求だ。ふわふわでかわいい動物たち――リュミエには『外』と『深緑』に居る生物の違いがあまり分からない。
「あまり外に詳しくないので『何が珍しいのか』……は明確にお答えしかねます」
肩を竦めるリュミエは見つけたら教えてくださいと柔らかに笑みを返した。
大樹ファルカウから旅に出て早くも2年。ドラマは久々の帰郷だと外の世界でかき集めた書物を荷馬車に積んでがたごとと故郷へとやってきた。
さあ、我等が月句の管理する書庫へと参りましょう、と意気込んで。
実家への挨拶はどうせ未だ見ぬ本に夢中になってしまう。それならばと幻想で流行の果物をふんだんに使用したタルトを手にドラマはルドラの許へと訪れた。
「こうして友好的に、再びお会い出来たコト、お慶び申し上げます。よろしければ、お茶でも如何でしょうか?」
「ああ、喜んで」と柔らかにルドラは返した。
「輝かんばかりのこの夜に! 今日はご招待ありがとう、ルドラさん
祝勝会の日からずっと、楽しみで楽しみで眠れないくらいだったんだ!」
頬を上気させたシャルレィスにルドラは緩やかに頷いた。微笑むシャルレィスにルドラは「ようこそ」と返す。
きらきらと輝く瞳と隠せないときめきをその体全部で表したシャルレィス。
「さっき少し探検してきたんだけど……綺麗で、穏やかで……とっても素敵な所だね!
リュミエ様もすごく綺麗だし……わ、私ともお話してくれると思う?」
「ああ、きっと、お話してくださるだろう」
頷くルドラはリュミエ様はお優しいのだ、と柔らかに告げた。
「――輝かんばかりのこの夜に。今夜は深緑のコらとのおしゃべりを楽しむとしよう。ヒヒヒヒヒ……」
武器商人は少しばかりのコネクションがあるからと深緑では珍しい品を用意して顔を見せる。
商売の手を広げたいという深緑の面々が居たら、サヨナキドリの顔役として勧誘しようと武器商人は決めていた。
さてさて、それに『特殊』な商品は深緑にも並んでいるのだろう。良ければ見ていってと微笑む幻想種たちに興味深そうに武器商人は頷いて。
「あちこち食べ物屋さんがある!」
周囲を見回すルアナにグレイシアは「シャイネン・ナハトを祝うバザールだからな。気軽に食べられる物も売り出されているのであろう」と頷きルアナが迷子にならぬように――ルアナからすると『おじさまが迷子にならないように』――手を繋ぐ。
「まずはお腹にたまるもの食べて、そのあと別腹であまいものを……」
「そうだな……こちらの料理は他とはまた違うものゆえ、出来れば色々食べてみたいところだ」
周囲を見回すルアナはグレイシアに「人気なのかな?」と人だかりの出来ている店へと行こうと強請る。
引っ張る手をそのままにグレイシアは「こけぬようにな」と肩を竦めた。
「おおー。お野菜をふかしてあるみたいだよ。おいしそう!」
炒めたり煮込んだりではない、素材の味を楽しむそれにルアナが「たべよ?」と笑みを深めればグレイシアは頷く。
「旅の味を思い出に持ってかえろ? ふへへ。美味しいねっ」
「店に出すには少々工夫が必要になりそうだ……」
合言葉は輝かんばかりの、この夜に。
「幻想とは全然違うわね、空気も、足の裏から伝わる感触も…私は幻想よりもここの方が好みね」
小夜はフィーネの気の向くまま、風の向くままと任せるように散策している。胸いっぱいに空気を吸い込んで、フィーネは嬉しそうに小夜を振り仰いだ。
「混沌は見たこともないような景色ばかりですが、深緑は特に素敵です!
大樹の中の街、花や木々の飾り……まさに本の中の世界みたいで。ふふ、少しばかり舞い上がってしまいますね」
何処に足を向けようかと悩まし気なフィーネ。フィーネといるだけで幸せなのだと小夜は柔らかに笑みを溢した。
「ふふ、輝かんばかりのこの夜は、もうしばらく余裕がありますからね。二人で一緒に、この夜を楽しまないと!
……と、私ばかり引っ張ってしまって大丈夫でしょうか……?」
「ええ、けれど――」
一つ、プレゼントを渡そうと小夜はフィーネへと木の細工を手渡した。この美しき夜を思い出という形にして。
●
「深緑! アルティオ=エルム!
ずーっといつか訪れたかった場所、ついに訪れる機会に恵まれました……! この機会を逃すわけにはいきません!」
Lumiliaは心を躍らせバザールを散策する。彼女の経験上、市場というのは短い時間でも人々の暮らしを感じ取るのに最も適しているものだ。
売っているもの、食べられるもの、そして、訪れる人々の顔ぶれで深緑を理解できるというLumiliaは花飾りを手に取って、ひとつ、と口に仕掛けて瞬いた。
「いえ、友人の分もいくつか……ふふ。似合うもの、見つかると嬉しいですね」
花飾りを気に入ってくれたのでしょうか、とリュミエは柔らかに告げる。クロバはリュミエの許へと柔らかに頭を下げた。
「輝かんばかりのこの夜に、リュミエ・フル・フォーレ。
この夜にせっかくなので少し四方山話でもどうだろう?
今後顔を合わせる機会も多くなるだろうがこの夜だ。個人的に貴女と語らいたい」
所謂ナンパだ――なんて、冗談めかしたクロバにリュミエは「ええ、よろこんで」と沢山の特異運命座標達の訪れを期待するように笑みを溢す。
政治的な話ではなく、楽しいフェアリィテイルを織り交ぜて。長きを生きる彼女にとっては、クロバのいのちは一瞬の事なのかもしれないが、それでも『珍しい全て』を言えば、閉鎖的な国の代表格は「まあ」と楽し気にころころと笑う。
完全には気を許していないだろうとリュミエの様子を踏んでみつきは穏やかに礼をする。
「最近の住民の様子はどうかな。長い歴史を持つ国ではあるけど、最近変わった事がないか、とか……」
魔種の暗躍もこの国にはあるかもしれない――そう考えるみつきにリュミエは「さあ……国内ではあまり変わった様子はみられませんね」と穏やかに返す。
まだ、混み入った話をするのは早いだろうか。彼女の様子を伺いながらみつきは頷いた。
「輝かんばかりのこの夜に。リュミエ様におかれましてはご機嫌麗しく」
大樹ファルカウ。離れていた時間はほんのわずかでも、それでも懐かしい――不思議だとウィリアムは静かに息を付く。
ルドラから聞いた限りのリュミエは変わりはない。みつきの質問の通り、国内にも大きな変化はないのだろう。
「友人たちを探しにバザールに行ってきます。どうか、この夜を楽しんで」
ウィリアムに「ええ、輝かんばかりのこの夜を」とリュミエは穏やかに微笑んで見せる。
「はじめまして。琴葉・結と申します。この度は御招きいただきありがとうございます」
最下層のバザールに行こうと意気込む結にリュミエも「ええ、よくぞいらっしゃいました」と穏やかに返す。
折角だからと特産品と名物料理を楽しむぞと意気込む結へと魔剣ズィーガーが『イッヒヒヒ!』と笑いを溢す。
『シャイネンナハトで浮かれるのは良いが食べ過ぎないように注意しろよ』
「わかってるわ。けれど、楽しまないのも損でしょう?」
結とズィーガーと擦れ違い進み出たシグはレイチェルとレストと共にファルカウの中を見て回っていた。
「……『技術』ではなく、『神秘』の運用に重点を置いた国だろうか」
何処か感心した様にそうつぶやくシグ。懐かしの風景を楽しむ様にレストは「んふふ~、楽しいわねぇ」と笑みを溢す。
「――輝かんばかりのこの夜に」
挨拶一つ、レストは魔剣に変化したシグを手に死「深緑の外で出会ったマブダチという奴でございます~」とリュミエに笑み溢す。
「アルティオ=エルム……すげぇ良い場所だ。空気も綺麗で、木々と土の匂いは落ち着く。
シャイネン・ナハトの夜に来れて良かった。
招いてくれた事、感謝だ。深緑出身のレストには世話になっててな。……彼女の故郷が見てみたかったンだ」
「……レストが居なければ、私とレイチェルは幾度か、死に瀕していたかもしれんな」
二人の言葉に、ぱちり、と瞬いてレストは何処か照れた様に笑みを浮かべる。嗚呼、こうして共に過ごせる友人は何よりも大切で。
「特異運命座標の子は個性的な子ばかり、怪物退治から子供のおもりまで、お眼鏡に叶う子がきっと見つかりますわ
何かお困りの事がありましたら、ローレットへの依頼をご一考くださいね~」
「ええ、その際は是非に――」
新しい土地、新しい人、勿論、踊って魅せたいと疼く心を抑えて弥恵は柔らかに礼をする。
「この国の礼儀作法……そして、踊りも皆さんにとっては『無礼』になるかもしれません。
ええ、この地の文化を、そして人の喜びを聞かせてくださいますればとても嬉しく思います」
「お気遣いをありがとうございます」
穏やかに返して、リュミエは「踊り……」と小さく呟く。
「独自の物はございませんが、ラサの踊りを好む同士もいるようです。よろしければ、参考にして下さいね」
大樹ファルカウを見上げてサイズはこの大樹の頂上から見た景色はどの様なものなのかと考える。
偉い人や凄い人しか入れないのだろうか。サイズにとって深緑は最終的には居を構えたい場所だ。
隠居するならば深緑で――そう考える中ではその情報は重要なものだろう。
「偉い人以外立ち入り禁止なのかとか……禁止なら依頼こなしまくれば何とかなる?」
「居住エリア以外への場所の立ち入りはご遠慮下さい。
このファルカウは都市である以前に信仰の対象なのです」
信仰の対象である。かみさま。その言葉を言われればサイズも「そうか」と答えるしかない。
肩を竦めたサイズにリュミエは「ファルカウは、それほど大切なものなのです」と柔らかに告げて。
美しい都市だとリジアは感じていた。世界のありのままと、生き物の叡知が合わさったような――練達が旅人たちの叡知の結晶であるならば、森に住まう彼女たち特有の在り方なのだろうとリジアは認識した。
「この都市全体の構造物や物がどうなっているかだ。
私の世界では決して見ることのなかった自然と建造、物との融合。
これらがどういう技術でどのような成り立ちで作られたのか非常に興味深い」
早口に紡いで。リジアは「つ、つまり、この都市が気に入った」と声を震わせる。
「……遥かな昔、今より高い次元でファルカウと通じた幻想種の長が『お願い』したと聞いています。
ですので、構造はファルカウが作り上げたもの。貴女の云う『叡知』なのかもしれません」
リュミエにリジアはより物珍しそうにそうか、とだけ呟いた。
まるで星が落ちて来るかのよう――星で飾ったかのように見える大樹ファルカウを眺めてウィリアムがはあと息を付く。
「輝かんばかりのこの夜に。初めまして。リュミエ・フル・フォーレ」
「輝かんばかりのこの夜に」
リュミエさんと呼んでも、と問うウィリアムにリュミエは柔らかに笑みを浮かべた。
「深緑の魔術に聞いて聞いても?」
その言葉に京司が自分もと丁寧にあいさつし、リュミエへと問い掛けた。
「初めまして、私は趣味で魔術を研究調査している斉賀京司と申します。
ここは独自の魔術的発展を遂げた都だと聞いたのであなたから聞いた事をノートで纏めていて良いですか?」
魔術観、魔法道具など――そう告げる京司に「あまり国内の事情を外にお見せするのは控えておりますので」とリュミエは困った様に笑みを溢す。
「最後に聞きたいのですが、魔術と魔法と呪術の違いはどこだと考えていますか?」
「……究極的に大差はないのではないでしょうか。超常の力をどう呼称するかの違いに過ぎません」
穏やかに――そして、最大限の礼を尽くす様にそう告げたリュミエはよろしいでしょうかと目を伏せる。
「……また、遊びに来れるかな、俺達?」
そう、問い掛けられたその言葉に、リュミエは柔らかに笑みを一つ返した。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
雪色に染まったアルティオ=エルム。
シャイネン・ナハトでお楽しみいただけましたでしょうか?
皆様の素敵な思い出になりますように。
これから、深緑もどうぞ、よろしくお願いします。
GMコメント
夏あかねと申します。輝かんばかりの、この夜に!(メリークリスマス)
冬の一大イベントを深緑は大樹ファルカウで過ごしませんか?
※ご同行者がいらっしゃる場合はお名前とIDではぐれないようにご指定ください。グループの場合は【タグ】でOKです。
●深緑(アルティオ=エルム)
自然と一体化することでこの世界に結び付き、独自の文化レベルで魔術的発展を遂げた幻想種の都。それがアルティオ=エルムです。
大陸の迷宮森林に位置し、『道を知らぬものであれば都に辿り着くこともでること』も出来ぬその場所は幻想種たちが身を守る為、そして、外敵を欺くために効率的に使用されています。
そんな大樹ファルカウへと皆様は招かれました。
ラサでの一件(詳しくは『砂の都より感謝を込めて』をご覧ください)により、皆さんを信頼できる友人からの紹介として都に招く事となりました。今は、この自然溢れる都をシャイネン・ナハトの夜としてご堪能ください。
●大樹ファルカウ
その内部は幾重もの階層を作り出す都です。
最下層にあるバザールにはシャイネン・ナハトを祝う自然由来の食材や料理が多数あります。食堂を営む幻想種もいるため、料理なども堪能することが可能です。
何所かの食堂やバザールの食事をご堪能いただいたり、美しい自然の散歩をして頂く事が可能です。
花飾りや木々の飾りなどが名産です。シャイネン・ナハトの記念に如何でしょうか?
勿論、特異運命座標の中には故郷であるアルティオ=エルムは久々だという方もいるでしょう。実家にお帰り頂くのもOKです。
アルティオ=エルムの外にある迷宮森林は危険ですのであまり出過ぎないように。迷ってしまいますからね。
※気候:雪がちらつきます。外は寒いですが大樹の中では暖かです。
※食事:自然由来です。オーガニック!
※幻想種たち:少し緊張してるもの、友好的なもの様々です。
道案内が必要ならばアルナスという少女であれば案内してくれるかと。
※戦闘:今回は一律禁止致します。また、今度、ですよ。
●NPC
当シナリオにおいてはNPCはお名前を呼んでいただけましたら登場する可能性がございます。
ステータスシートのあるNPCに関しては『クリエイターが所有するNPC or ローレットの情報屋』であれば登場が可能です。
深緑のNPCにつきましては
・リュミエ・フル・フォーレ
・ルドラ・ヘス
・アルナス(桃色の髪の幻想種。「アルナスさんだよ! ちっすー! 案内役にしてねー!」)
は確実にホストです。
※指導者リュミエ・フル・フォーレ
超美人です。凄く長生きしているらしく、他の幻想種とは比較にならないです。
穏やかで、理知的な人物です。聞かれた事には比較的答えてくれそうです。
今回はシャイネンナハトを好機と捉え、イレギュラーズを招待する『開国』に踏み切っていますが、シャイネンナハトなので政治的な話はあんまり推奨しません。
それでは、楽しい休日をお過ごしください。
皆様の冒険をお待ちしております。
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