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何となく残しておくと面白いかも知れないと思ったので記録しておくことにする。

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2018/11/24(1/3)

<北部戦線・動>

 幻想鉄帝睨み合う北部戦線。
 鉄帝側主将――ザーバ・ザンザの下にその報告が届けられたのは寝耳に水の出来事だった。
 帝都の宰相バイルから送られた使者と手紙は彼の強面を一層厳しいものにする情報が詰め込まれていた。
「……スチールグラード近郊の穀物庫が焼けた、ですって?」
 副官の確認に使者は頷く。
 強張った彼の表情がこの事実が鉄帝国にとって非常に重大な事件である事を示している。
 一年と国土の大半を寒冷な気候に支配されている鉄帝国は経済的な逼迫の上で成り立っている。強靭にして生命力に溢れた鉄帝国の民――多くは過酷に耐性を持つ鉄騎種である――はそれでも力強く精強な帝国を保持してきたが、その気候風土の影響から帝国は冬への備えを他所の国以上に厳重に行ってきた。越冬への準備を邪魔する事、これの盗み等を行う事は帝国では最大の禁忌と見做されている。余程の悪人でも流石に躊躇するような大罪である。
「犯人は挙がっていない、と」
「は。皇帝もこれにはお怒りで……
 宰相の指揮の下、下手人を探しておりますが――発見には到っておりません。
 勿論、帝都も相応の警戒はしていたのですが……
 正直、盗み出す、ではなく焼き捨てる、という発想が余り無かったのは否めません。
 準備は周到だったようで、鎮火も間に合いませんでした。幸いに被害に遭ったのは一棟だけでしたが――」
「ふぅむ」とザーバは思案顔をした。
 ザーバの中に余り考えたくない結論がパズルのピースのように組み上がっていく。
 何とも難しい顔をしたまま、彼は問う。
「報告を待たずしてすまんな。こちらから聞くが、現場に痕跡らしきものは残っておらんかったか?
 例えばそう――レガド・イルシオンが関与しているかのような」
「……将軍、何故それを?」
「まさか本当にあの幻想が……?」
 使者の反応に副官は目を丸くした。
 ザーバはまるで答えを知っていたかのように言った。
2018/11/24(2/3)

 無論、相手は戦争状態の続く敵国だが――幻想は貴族の国家である。彼等が鉄帝国とは違う形でだが、比較的名誉ある戦い――或いは歪んだ騎士道を重んじる事もあり、これまでにこんな搦め手を受けたという事例は無い。或いは幾ら敵国の国力を削ぐ為とはいえ、彼等の一抹の良心がそうさせるのか、最悪の事態を生じれば大量の非戦闘員にまで餓死者を出しかねない『悪辣』には流石に躊躇があったのかも知れないが……
 本当に追い込まれ、化けの皮が剥がれれば何をしでかしてもおかしくない連中ではあるが、それにも少し尚早であろうと考えられた。故に副官はザーバが何故確信を持ったかのようにそう言ったかが知れなかった。
「お察しの通り、現場にはレガド・イルシオンの関与が疑われる証拠が残されておりました。
 一部装備や道具――それらしき品物等、かなり硬い物証がある為、帝都側も尚更怒り心頭なのです」
「……で、あろうな」
 嘆息したザーバは口元を歪めて苦笑いの表情を作っていた。
 幻想広域に放った間者は何れも貴族や有力者から市井に到るまで彼等の混乱を伝えてきていた。
 例の新生砂蠍とやらは彼等を真剣に焦らせるものであり、少なくとも今回の幻想北部侵攻への好機が『幻想という国自体が仕組んだ何らかの罠』である可能性はほぼ消えていると言える。
 だが、同時に――その事実は事件の糸を引く何者かの存在をより強く彼に直感させるものとなっていた。
『動かぬ戦線への当てつけのように鉄帝国の泣き所が焼かれたのであれば、尚更』。
『鮮やかな手並みと相反するわざとらしい証拠が残されていたならば、猿芝居もいい所だ』。
 敵意を煽るという意味でこれ以上の行為は中々無い。
 その何者かが存在するとするならば、余程北部戦線に動いて欲しいらしいという事だ。
「……………」
 だが、押し黙ったザーバはこの仕掛けを単に敵意を煽るだけの狙いと読まない。
 それだけ用意周到な『悪辣』ならば被害をもっと拡大する事も出来ただろう。
 だが、通常の警戒に焼かれたのは一棟。
 厳重警戒になった今、同じ手段は取るまいが――
 次は水源に毒を流す位の事はザーバにさえ思いつく。更にその先は? その次は?
 考えられる危険は、悪意は山とあり――相手が手段を選ばないならば、全てを塞ぐ事は困難に思える。
2018/11/24(3/3)

 要するにこれは何者かの脅し、或いは誘いなのだ。次はもっと酷い事になるぞという――
 ザーバは相手の仕掛けが『自身の知力・判断を計算に入れたもの』とも読んでいた。
「……………サリュー、か」
「……は?」
「いや、何でもない」
 戻ってこなかった間者の事を考えて自然とザーバの口を突いて出た名前だった。
 任務柄、全員が戻ってこない事はままあるのだが――鉄帝国にすら知れた『かの天才、クリスチアン・バダンデール』の名前がどうも気に掛かった。彼の関与は知れないが、鮮やか過ぎる一連の繰り糸は決して凡百には紡げないからだ。
 ……無論、それは単なる直感であり――確実な証拠を帯びた話ではないのだが。
「……帝都へ伝えよ。これから俺が書き出す全ての項目を最優先、最上位の警戒に当たれと。それから――」
 ザーバは眼光鋭く言った。
「――北部戦線はこれより大きく動く事になるだろう、と」
「……っ!」
 全ての判断を帝都に委ねられた将帥の言は、極めて重い。
 大山が動く。その全身に大いなる怒りと絶えない義務を誇りを背負って。
 罠があろうと踏み壊す。全ては帝国の――そして臣民の為、矜持にかけて動き出す。
(思い通りになると思うな。そのやり口を認めると思うな。
 俺は帝国を乱す者を、この卑怯者を絶対に許さぬ。
 全ての糸を千切り、仕掛けを破壊し、全ての暴挙に一つ残らぬ報いをくれてやろう――!)
 その決意を決して口にする事は無く、『不本意な好機』にも気を滾らせる。
 彼こそ、黒鉄(クロガネ)の鉄騎将――帝国最大にして最強の守護神ザーバ・ザンザ。
 不敗不倒の要塞が、今、戦いの時を迎えようとしていた――


※北部戦線が騒がしさを増しているようです。
 幻想南部を舞台にイレギュラーズと新生砂蠍の間で激戦が行われました。
 イレギュラーズの善戦により多数の戦場で砂蠍は撃退されましたが、幾つかの拠点が失陥しています。
 又、何名かのイレギュラーズが帰還していないようです……
2018/11/27

<キング・スコルピオ>

 北部戦線激突、ね。
 邪魔な貴族軍だけじゃなく、ローレットの力も一部殺いでくれるとは。
『いけ好かねえ協力者様』に感謝しておく所かな?

 ……さァて、もう是非もねぇ。これが本番の始まりだぜ。
 蠍を甘く見た奴――俺を侮った奴は必ず殺す。
 一先ず、王都を陥落して――例のローレットの吠え面を見てやろうじゃねぇか。
 行くぞ、テメェ等――気合を入れな!


※北部戦線で幻想・鉄帝が激突しました!
 時同じくして南方から『新生砂蠍』が王都目指して進軍を開始しました!
2018/12/6

『新米記者』キッチュ・コリンズ

はいはい! 号外、号外、大号外ー!
『幻想タイムズ』のスクープですよー!
この程、幻想を脅かしている北部鉄帝国、南部砂蠍!
その両方と幻想軍、イレギュラーズ達がぶつかったみたいですよ!
ええっと、北部は……イレギュラーズは幻想ともぶつかってて……
ややこしいのは置いといて! 兎に角、流石神託! 流石救世主!
どーも皆さん、サーカスに続き活躍してます!
メイビー、きっと。『幻想タイムズ』はその辺りも詳しいので!
号外ついでに本誌の方も――是非買って下さいな!

<アーリア・スピリッツ (p3p004400)の関係者キッチュ・コリンズ>
2018/12/12

<北部戦線遭遇戦>

「おうおう、ようやく『青薔薇』のお出ましか。
 こりゃあいい。不愉快な戦争も、少しは晴れたわ」
「戯言を! その薄笑いを永遠に凍り付かせて差し上げますわ!」
 古来より、戦争において最も効率的な勝利を望むならば『将を取る』は定石である。
『暗殺令嬢』リーゼロッテ・アーベントロートの――麾下部隊『薔薇十字機関』の得手が『暗殺』であるならば、鉄帝国の守護神『塊鬼将』ザーバ・ザンザが前線に出たこの瞬間こそ、まさに彼女等の真骨頂、最適手を打つ瞬間だったと言える。
「そう猛るな。精々楽しめ」
 もう一度「戯言を」と薔薇を激昂させたザーバは、緒戦より幻想の主力部隊を一方的に押し込んでいた。
 だが、幻想貴族軍は老獪である。リーゼロッテとザーバのこの遭遇は偶然ならぬ必然――少なくとも幻想側の策の及んだ結果と言えた。主力部隊の損耗を減らしつつ前線を下げる事でザーバを深く引き込んだ『黄金双竜』レイガルテ・フォン・フィッツバルディの采配指揮は、幻想では全く珍しいとしか言いようのない『二大巨頭の共同作業』の意を示す。
 リーゼロッテの周囲には何れも手練の暗殺者が十名。ザーバ側の数より多い。
 配下が配下を抑える動きを見せ、戦場の『最大武力』同士が激突するのは必然であった。
「仕留めて差し上げますわ――そうやって、無事に戻れると侮っていなさいな!」
 黒のドレスがふわりと花開く。小柄な体躯は獰猛な獣よりも尚疾く、一瞬その姿を『ブレ』させたリーゼロッテは、あらぬ死角からザーバの巨体――その首元を掻っ切らんとする。
「侮って等おらぬとも。鉄帝国軍人にとって、これ以上の時間が無いだけよ!」
 宙空に赤い軌跡を引いた『爪痕』を軽く躱し、ザーバはリーゼロッテ以上の気を吐いた。
「お前こそ、相手をきちんと覚えておけ。
 今日の相手(このおれ)は『慣れた暗殺(おあそび)』で済む程、甘くは無いぞ!」


※戦況が更新されています! 南部・北部両戦線の戦いが激化しています!
2018/12/13

大連破!

シュテルン
『星の歌姫』シュテルン(p3p006791)
痛み分け……すごく頑張ったけど、残念……
でも、ある程度の打撃は与えられたと思うわ

ミミ
『城守りコウモリ』ミミ・ザ・キャッスルガード(p3p000867)
キ・キ! 砦の制圧完了!
どうなるかな? どうなるかな? キ・キ! 幻想と鉄帝、情勢は目まぐるしい!


『市街戦のスペシャリスト』藤堂 夕(p3p006645)
そうね、状況は依然として読めないけれど、兵達と協力すれば好機は巡るわ。
作戦がうまくいっている戦場もあるし、どうなるかしら?

小雷
張・小雷(p3p006233)
まだ、分からない……。けど、私たちは出来ることを、するだけ……。

ラルフ
『カオスシーカー』ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)
戦争って言うのはエゴとエゴのぶつかり合いだ。
俺が彼女の毒(エゴ)に付き合ったのだって、また然り――


『尋常一様』恋歌 鼎 (p3p000741)
エゴ、成程ね。一途で情熱的なのは嫌いじゃないよ。
焦がれ焦がれて燃え尽きるのは『敵』であるべき――そうだろう?

マリナ
『マリンエクスプローラー』マリナ(p3p003552)
あの海と同じくイレギュラーズの『船』は沈みません
まだまだ小舟かもしれませんが、大船にのった気でがんばるでごぜーます。
『新生・砂蠍』、遠慮なく全部沈めてしまいましょー

※戦況が更新されています! 南部・北部両戦線の戦いが激化しています!
2018/12/14

喰獣顕現、そして――

勇司
佐山・勇司(p3p001514)
っ、……苦戦した。あと一歩で魔種を逃がすとは……完了!
でも次だ。ローレットも俺達もこのままで終われるかよ!

リンネ
巡離 リンネ(p3p000412)
ま、こんなもんだねー。ご馳走様!
うん、手応えはもうちょっとだったかもだけど。

ヴェノム
ヴェノム・カーネイジ(p3p000285)
まー、そうッスね。バリボリと、頭から――まあまあだったッスけど。
正直、喰いたりないッス。
何処かに満腹にしてくれるようなセンパイが居ればいいんスけどね。
――とか、――、みたいな。

レオン
自信家共め。だが、オマエ達の活躍が大きいのは事実だ。
一部戦場じゃこっちの敗退もあるが、全体的にはかなり押してる。
北部戦線は『大差つかずに拮抗、やや幻想寄り』って所だが、これも悪くない。
いよいよ、正念場が近付いてるぜ。全ての決着がつくのは――遠くない!

※戦況が更新されています! 南部・北部両戦線の戦いが激化しています!
2018/12/15

<???>

ああ、いいじゃねェか。
心地いい『憤怒』の匂い。まさに闘争の――戦争の醍醐味よ。
木っ端共がどうしようと関係ねぇが、あのスキンヘッドは面白ぇ。
さァて、折角だ。軽く遊びに行こうかね――


※とても嫌な予感がします……
2018/12/15

ゲイム・オーバー

アレクシア
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
戦況を報告するよ! 向こうにも事情があるのかもしれないけど、こっちも同じ!
止めて見せたんだ……! 犠牲はこれ以上は必要ないから……!

リースリット
リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)
ええ、油断した雑兵なら敵ではありません。
手段を講じる必要もなく――『チェックメイト』です。

リゲル
リゲル=アークライト(p3p000442)
チェックメイト――ああ、確かにそうだね。『新生・砂蠍』には確かに届いた筈。
……一先ずは陛下を護り抜く事が出来て安心したよ。


弓削 鶫(p3p002685)
立ち込めていた霧が晴れた――
こちらも『霧の魔女』の撃退は完了したわ。


炎堂 焔(p3p004727)
火で皆を悲しませようとするなんて許せない――!
炎から大切なものは護る事が出来たよ。流石は炎の御子って褒めてくれるかな?

フェスタ
フェスタ・カーニバル(p3p000545)
大活躍だったよ。
危険がいっぱいだったけど……私も幸運を皆に分け与えられた――!
ルキシオンを守れてよかった……!

アベル
アベル(p3p003719)
星には手が届かない――星自らが『飛び込んでくる』なら別ですが。
こんな非力を殺せなくて、呆気なく死んでくれるなら所詮それまでかもしれませんが。
……って言うか、こっちは救援部隊ですよ???

サンディ
サンディ・カルタ(p3p000438)
いや、全てはみんなの頑張りのおかげだ。俺もあの牢から出ることができた。
あの場所から全員そろって逃げる事が出来た――それを、人は奇跡って呼んだんだ。
一つだけ言わせて欲しい。皆に――『ありがとう』。

※戦況が更新されました!
 戦いの結果、南部戦線『新生砂蠍』が潰走しました! 北部戦線は未だ不透明です……
2018/12/16(1/2)

<北部戦線・収束>

「南部戦線で新生砂蠍の潰走が確認されました。また、陛下もご無事の様子。
 ローレットがやってくれたようですが――こちらも素晴らしいお手並みでした」
 厳格な面立ちに気難しい表情を貼り付けたままの『黄金双竜』レイガルテにそう述べたのは、同じく流麗なその美貌に安堵と疲労の色を貼り付けた『遊楽伯』ガブリエルだった。
 幻想南部――『新生砂蠍』の挙兵を発端に始まった一連の動乱は、レガド・イルシオンの長い歴史の中でも特筆するべき動乱となっていた。国家重鎮たる貴族の彼等も今回ばかりは至極真面目な国防の対応に追われ、不休の指揮対応に努めていたという訳である。
「ザーバがローレットを引き込んだと聞いた時には驚きましたが……
 結果としてほぼ痛み分け――ですが、幾分かは我が国の側に有利があったようですね。
『彼等の活躍』もあり、防衛線は保たれました。
 尤も、ザーバを抑えられなければ、敗北は必至だったでしょうがね」
 ガブリエルの言葉はレイガルテへの報告であり、称賛であり、婉曲な皮肉と試しを含んでいた。
「これも――ザーズウォルカ殿の奮戦あっての事。
 幻想最強の騎士の名は伊達ではありませんね。それにしても流石だ。『リーゼロッテ殿がザーバを抑えつけているその間に、主力たる騎士団を用兵する公爵閣下の采配はお見事でした』」
「ふん」
 ガブリエルが何を言いたいかを鋭敏に察したレイガルテはその言葉を鼻で吹き飛ばす。
「此度の動乱を沈めたのはあくまでフィッツバルディ家――つまりはわしとその伴の用兵よ。
 物事には優先順位と道理というものがあろう。猪武者の小娘はまだまだ青いわ」
 暗殺令嬢のあの憤りを見れば、責めるも酷かも知れない。
 まさに一枚上手という事だろう。
 リーゼロッテはザーバを引き込み、後は任せるというレイガルテの策に一もニも無く飛びついた。
 レイガルテは彼女にそんな餌を出し、配下の黄金騎士をもって最大の戦果を横から掠め取った格好である。
「それで、貴様の方も抜かりはないのであろうな?」
2018/12/16(2/2)

「当然です。北部戦線が動いた原因――
 つまり、スチールグラードで起きた穀物庫への破壊工作の情報は掴んでいましたからね。
 帝都へ使者を派遣し、我がバルツァーレク家の名の下に調査の約束と人道支援を申し出ました。
 戦況と合わせて冬を迎えた鉄帝国には厭戦気分も広がりましょう。故にこれでおしまいです」
 戦争とは外交の一手段であり、外交は戦争の一手段でもある。
 ガブリエルの立板に水を流すかのような説明にレイガルテは頷いた。
「ザーバを潰走させる事はやはり叶いませんでしたが……
 北部戦線も間もなく収束するでしょう。しかし、恐れながら閣下。一つだけ確認をしたく存じます」
「申してみろ」と顎をしゃくったレイガルテにガブリエルは表情を引き締めた。
「閣下は彼女を捨て駒にする心算で、作戦立案を?」
 少なからぬ猜疑と、僅かばかりの憤慨を込めたガブリエルの言葉にレイガルテは苦笑した。
「馬鹿な。それこそ馬鹿な話だ。
 ザーバと小娘、共倒れしてくれるなら万歳よ。しかし、彼奴ならこの程度の仕事は果たせよう。
 小賢しい事を考えるな、遊楽伯。わしは人物の好悪を能力評価に加える愚者ではないわ」
 ガブリエルを一喝したレイガルテの物言いは政敵への不可思議な『信頼』を含んでいた。
 かの鉄帝国の守護神を相手にしても、そう滅多な事では死にはすまいという何とも全く素直ではない――
「それはあのローレットにしても同じ事よ。連中はわしの期待に応え、ほぼ満点の回答を出したではないか。  貴様はそんなわしの鑑定眼を疑うのか? 遊楽伯」
「……それを聞いて安心しました」
「くだらん」と嘆息したレイガルテだが、心底気分を害した様子は無かった。
 ふと思いついたようにガブリエルに尋ねる。
「それで、小娘はどうしたのだ」
「……彼女は暫く我々の前――少なくとも閣下の前には姿を見せないでしょう」
「もう戻ったのであろう?」
「ええ。散々な格好でね。とんでもない気位の持ち主です。
 彼女は傷んだ格好を人前に晒せる程、素直な女性ではありますまい――」
 今回ばかりは流石に相手が悪かった。
 襤褸になった青薔薇を見たいと思うは身の毒だ。
 見たいだろうが、見ぬが華よと。叶わないのは常である――


※戦況が更新されました。『新生砂蠍』が潰走し、北部戦線が幻想有利で終結しました!
2018/12/18

<第34話『ネオフォボ中略立ち上がレット!!!』>

怪しいサーカスが出たり入ったり、イカしたハゲが暴れて死んだり。
全く千客万来でその名の通り飽きない混沌世界に面白おかしく結構雑な魔手が迫っていた。
カバンにされる油圧ワニファラオ!
占い師のタイターさんに若干日和って中途半端な反応を見せるアルプス・ローダー(p3p000034)!
平成の終わりに平成バブル期のバラエティみたいな雑弄りを従え、真の戦いが今火蓋を切って落とされた!

敵は恐るべき秘密結社ネオフォボス!
集結せよ、ローレット――イレギュラーズ!
総統ナンイドナイトメア(ほんとうでござるか?)を早急に撃破し、輝く明日へレディ・ゴー!!!
2018/12/22

<雪化粧の街並みで>
 シャイネン・ナハトまであと少し! 雪化粧の街並みも綺麗ですよね!
 年末年始。12月は師走と言う位に大忙しです。………ヘンテコな甲冑が幻想の街に現れる位には。
 新生・砂蠍でお疲れでしょうし、まずは祝勝会でのんびりと!
 ああ、ラサからもお招きがあるみたいですよ?
 すき焼きとか観光もいいですね……。
 今年もあと少し。頑張っていきましょう!

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隠し扉

裏口
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2018/12/24(1/2)

<シャイネン・ナハト?>
 冷たい、冷たい、余りに寒い――
「輝かんばかりの、この夜に――か」
 光の差し込まない、灯りの点らない、熱と言う熱の無い、何より人の目は決して届かない――
 君の望んだ零下と雪の風景で、君は今年も眠っている。
「『聖女』ね。確かに君は間違いなく――美しく、正しかったんだろう」
 此の世には己が為に世界を侵せる人間が山程居る。『人間ではないが』自身もまた同じ事。むしろその究極だ。
 しかして、君はそんな人間の性(サガ)とも悪魔の合理とも全く別の世界に居た事は間違いない。
「僕ならば止められる――とか。何て無責任な話だろうね」
 原罪を強いて定義するならば、『自由』という言葉が相応しい。
『自由』を持ち得ないからこそ――は、――で。僕はそれを何処までも許せない。
 ……全ての欲望に根ざす自由こそ、ヒトがヒトたる所以で悪魔が望んだ七つの罪である。その全てを併せ持ち、誰よりもこの――な世界に飽いている自分に事もあろうか――封印の守り人をしろだなんて。余りにナンセンスすぎて頭が痛い。彼女の願いをもう――年も叶え続けている自分自身には尚更吐き気がした。

 ――でも、貴方は私の友人です――

 ……馬鹿げた一言が呪いの鎖のように僕を縛っている。
 そんな些細な切っ掛けが、遠い夜のやり取りが褪せない幻想のように蟠っているのだ。
 君は妹に似ていて、同時に何処までも似ていなかったから。
 愚かな僕はどれだけの時間が経っても感傷を捨て切れない。
 まるでそれは深く刺さった棘のようだ。永久氷で出来た、細く鋭い透明の楔。
「……言っておくけれどね。君がもし、もしだ。本当に僕の友人なのだとしたらば」

 ――反転(きみのわがまま)で、僕は珍しい友人を長い間喪っている事になるんだぜ?
2018/12/24(2/2)

 彼女は感謝を捧ぐ事が僕への祈りだと言っていた。
 見事過ぎる程に上質な嫌味は、成る程。どれだけの時間が経っても僕を捕まえたままだ。
 祈りが『神』に捧ぐものならば、全く悪趣味がピッタリ過ぎて――苦笑する事を禁じ得ない。
「人間は今年も――今夜だけは争わないそうだ。
 君が全てを賭して叶えたかったのはそんなささやかな願いではないかも知れないけれど。
 僕も今夜何かをしようとは思わない。それは正直、気分じゃない。
 だから――きっと、うん。前言を撤回しよう。
 やはり、『君の奇跡』はささやかなものではなかったんだろう。間違いなく」
 輝かんばかりの夜は、記憶の中――したり顔で笑う君のもの。
 吹雪が鳴る。その声色は「早く帰れ」と言っているようにも思え……
 その逆の、「もう少しお話しましょう」にも聞こえなくもない。
「結論は手早い。悪魔は早々に退散しようかな。また会いに来るけれど――」
 この先、どうなろうと――責めてくれるなよ、マリアベル。
「――僕は君の願いを叶えたい。
『シャイネン・ナハト』が永遠であるように、せめて力は尽くす心算だけどね――」

 ――実を言えば、この悪魔にも叶えられない願いは、ある。
   嗚呼、そう。例えば『君の力』がこんなに大きくなっていなかったなら――

※シャイネン・ナハトが訪れ、混沌世界から殆どの争いが消えました。
2018/12/26

<ファルカウにて>

 変化は時として恐ろしいもの。
 それが長くを生きる幻想種――時の凍ったアルティオ=エルムの住人であるならば尚更。
 しかし、時は水のようなもの。水は澱めばやがては腐る。時も止まればやがては枯れる……
 皆は少しざわついているけれど、受け入れてくれているようで良かった。
 私はファルカウを守り、幻想種を守る者だけれど。
 遠い昔、遥かな昔――私に変化を教えてくれたのは、――だったから。
 きっと、イレギュラーズというのも、面白い人達なのでしょうね。
 願わくば、彼等の存在が私達の新たな風になりますよう。

※シャイネン・ナハトを切っ掛けにアルティオ=エルムへの招待が起きています!
2019/1/9

<永縁なる銀の森にて――>

 ――いやだ、こないで。
 幻想に『嫌いな人』達が居たから、逃げたのに……また、皆、来るのね……?
 こないで。こないで。こないで。
 誰も知らない――入ってきた人が悪いんだもの……。
 みんな、みんな、みんな、嫌いよ。
 ずるい、ずるいわ――英雄になれるなんて。
 ずるい、ずるいわ――可能性を集められるなんて。
 無力だもの、無力なの……だから、こないで。
2019/1/11

<寒空の日に>

 随分と肌寒い日が続きますね。シャイネン・ナハトが終われば次はグラオ・クローネの準備が始まります。
 グラオ・クローネの御伽噺は深緑(アルティオ=エルム)が舞台となったもの……。
 これから、深緑にも訪れることがあるでしょうし、グラオ・クローネの御伽噺を考えながら冒険するのもまた一興でしょう。
 ああ、そういえばアクセルカレイドは扱えるようになったのでしょうか?
 旅人の皆さんならば元の世界に縁ある技能であったりするでしょうし、勿論、純種であれば高めた実力の賜物でしょう。
 冒険記録へ写真を添えたり、気持ちを綴る機会もお見逃しなく。
 さて……風邪を引かぬよう……。これからの冒険も頑張って参りましょう。
2019/1/15

<ゲノム解析>調査依頼

 一つの街の区画が疫病でほぼ全滅した事件以来、情報屋の間から<悪性ゲノム>と名付けられた一連の事件に関して、著名な学者や医者からの調査依頼や情報提供がいくらか寄せられていた。
 情報屋が整理し終えたそれらを、興味本位に流し読んでいるイレギュラーズが二人。
「お偉方の学者様曰く、これら一連の事件は『原因不明の突然変異』『出処不明の疫病の類』……どれもいまいちハッキリしないっすね」
 肝心の内容はというと、期待に応えるものは少ない。
「だからこその調査依頼か」
 過去の事件を思い返す『爆弾』ヴェノム・カーネイジ(p3p000285)と『静謐なる射手』ラダ・ジグリ(p3p000271)。
 自分達は魔物じみた状態になった鼠を退治したのだが、それらをよく調べてみれば違う個体同士を継ぎ接ぎした様なものだった。
 他のイレギュラーズが対処に向かったものでは薬物を投与した様な注射痕が発見されたり、あるいは牙や舌を施術した様な痕も見つかったという。
 また、自分達が真相を追っている最中だが。凶悪な突然変異を生じさせる薬を持っている者が居るという証言もあった。
『――以上の事から、この件の全ては“人為的な介入”があると断言する。解決するには、貴方達イレギュラーズの協力が必要不可欠であり――』
 彼らは、力強い筆跡で書かれた一枚の書類に目を通す。一連の事件を総括するに、これは確実に自然現象ではなく”人為的な行動の結果”と結論付けられた。ヴェノムとラダなど事件に関わったイレギュラーズからしてみても、そうとしか考えられぬ。
「……それに気づけている学者も、少なからず居るみたいッスね」
 書類の下を眺めてみると、<悪性ゲノム>に対して今日中に依頼を頼みに来る という旨の文章を見て、ラダは少なからず期待した様に頷いた。
「何人も被害を受けた事件だけれど、これで何か進展するかもしれない」
 二人がそんな封に話し合っていると突如としてギルドの中に、若い女のキンキン声が響いた。
「イレギュラーズ様! 手紙でお願いした依頼を頼みに来たのですが!!」
2019/1/20(1/2)

<泡渦の舞踏>

 ――月夜の晩、皆様をお迎えに参ります。『色欲』と『嫉妬』の呼び声に乗せて――

 その言葉を口にして『女王忠節』秋宮・史之(p3p002233)は渋い顔をした。
 その表情の原因は簡単だ。彼が(専ら個人的事情を主に)忠節を誓う海洋王国の女王『イザベラ・パニ・アイス』からローレットに直々に魔種の対処依頼が舞い込んだのだ。
 親愛なる女王陛下より直々の声かけを頂く事は恐悦至極なりて、非常なる朗報ではあるのだが、その内容が宜しくない。
 その玉体御身に危機が及ぶとなれば、それは何よりの大事であろう――
「女王陛下の治める国が今、未曽有の危機に襲われていると言います。
 案内状を差し出して来たのは魔種――ローレットが幻想で対処したサーカス団の残党――チェネレントラ。
 その目的は……」
「当然、ワタシ達を『海洋に来るように仕向ける』為だぜ。ロックだねー?」
『スカベンジャー』ヴィマラ(p3p005079)は常と変わらぬ調子でそう云った。まるでそうなることを予期していたように。
 チェネレントラは海洋王国の首都リッツパークに程近い海上に大渦を生み出した。その周囲には魔種や魔物の姿が散見され、海洋王国からは魔種退治実績のあるローレットへの対処依頼が舞い込み続けていた。
 魔種から乱れは大いなる目的に繋がる『地歩』なのだろうが、被る方はたまったものではない。
 無論、此度の案内状に対しても史之の敬愛する麗しのイザベラ女王や貴族派代表格のソルベ・ジェラート・コンテュール卿よりの救援依頼が出されているが、それは対処療法に過ぎず、根治を考えるならばチェネレントラの排除は必須となろう。
「女王陛下の国を守る為にも此処は見過ごせません。今までも死体や魔種の暴走が見られてきたわけですし……」
「これ以上、国を荒らされる訳にもいかないし、被害も増えそうだもんな」
 ロックじゃない、と唇を尖らせるヴィマラに史之は緩く頷いた。
2019/1/20(2/2)

 幸いにして――幸いと言っていいかは知れないが――チェネレントラなる乙女は持久戦の根比べを選択出来る程、人間(?)が出来ていなかったようだ。子供じみて、感情めいた『招待』を送りつけて来る所からは彼女の嗜虐性と幼稚さが垣間見える。魔種なる存在に潜伏されれば至上に厄介なのは明白で、どちらも最悪に変わりないが劇場型の方がまだ対処は取りやすい。
 シルク・ド・マントゥールや砂蠍事件の時の事を考えれば、それは間違いなかろう。
 チェネレントラが本拠として選んだのは大渦の深き底に存在するという古都ウェルテクスであるという。
 海種の古き都であり、海洋の御伽噺にも数えられるというそれはソルベも幼い頃に耳にしたと言っていた。そして――海種であるイザベラにとっては『海種の屍骸が弄ばれる』という事実に心を痛めている事だろう(と、史之は痛ましい表情でそう云った)。
「チェネレントラはどうして海洋で……」
「古都に憧れてたらしい?」
「たった――『たったそれだけ』?」
 史之の言葉にヴィマラは曖昧に笑う。
 たったそれだけで、死体を弄んでいる。
 たったそれだけで、自身を敗者としたローレットへの復讐劇(リベンジ)の場所に選んでいる。
 たった、たった、それだけで『人を殺すことを躊躇わない』。
 此の儘、放置しておけば純種の多い海洋は呼声に飲まれる可能性が高く、そして――犠牲者が増えていく。
「……オンナノコってのは度し難い生き物なんだぜ?
 そういう生き方もロックなのかもしれないけど――」  無邪気は時に最悪の邪悪となる。
 魔種なる原罪のむき出しの感情はまるで揺らめく毒のようで。
 犠牲者を加害者に、加害者を犠牲者に誘い続けるセイレーンの歌声となるのだろう。
「――でも、でもさ。その先には救いはない」
 ヴィマラはそう、小さく呟いた。脳裏に浮かんだのは同じ血を流す片割の姿だけだった。


※海洋王国女王イザベラから緊急の依頼が舞い込んでいます!
2019/1/24

<焔の気配>

 ……雪泪の迷宮は消滅したか。
 ……一般人の救出も無事に済んでいる。
 これも、精霊(あいつ)達が外の者達――ローレットとやらに助けを求めたおかげか。
 だが、安心は出来ない。何にせよ、銀の森の魔種はまだ出ていく素振りはなさそうだ。
 あのような者共に、この美しい森を壊される訳にはいかない。
 余り手をこまねいている訳にもいかぬが、さて、どうするか――


※銀の森での冒険が新たな展開を予感させています……
2019/1/26(1/2)

<銀なる森のトロンプ・ルイユ>
 深々と白に粧う森は凍て付く氷の気配を感じさせる。
 元より厳しい気候に晒される鉄帝側から見ればそれは有り触れた風景なのだろうが、砂漠に覆われラサより見遣れば『異常気象』を思わせる。溶ける事なき雪と穏やかな砂漠地帯の気候が混ざり合った特異な場所――それが『銀の森』だ。
 混沌世界における気候風土は必ずしも距離のみを理由にしない。色彩豊か、或いは過酷極まる――そうした『変化』を生み出すのは精霊たちの『仕事』なのだと精霊『シルフィード』はそう言ったものだった。
 そんな『銀の森』は現在、穏やかざる状況に置かれていた。
 永い時間、外界と隔絶されていた狭く――完成された『ちいさなせかい』は蜂の巣を突いたような騒ぎになっている。
「その氷の精霊の力が暴走しそうになっているの! それもこれも銀の森で魔種が迷宮を作り出した所為よ」
「ええ、そうね。そうだわ――魔種が森に入り込んで悪さをしているから……。
 その対処にチカラを使って弱っていたのね。それで呼び声もあるから……」
 精霊『ウンディーネ』が静かに告げた言葉に精霊『ベガ』は「どう、でしょうか」と何処かぎこちなく呟く。
「……ウンディーネは……魔種の呼び声が、その、精霊様に……悪さしてるって思う、のかな……?」
 言ってしまえば『また』魔種の災いである。だが、それが故に説得力は十分だった。
 森に足を踏み入れ、自然と動物、そして霊魂と対話してきた『黒鴉の花姫』アイリス・アベリア・ソードゥサロモン(p3p006749)も確かな『違和感』を感じていたのだろう。
 頷く精霊たちにアイリスは「それは……危険……だね」と不安げにその切れ長の瞳を揺らす。
2019/1/26(2/2)

「あァ――迷宮の中に居た黑き獣はまやかしであれど此方に干渉はしてくるからね。
 森と自分たちを守護するには骨が折れるだろう。精霊たちを守る為ならば猶更に」
 目元を隠す長い髪に悪戯するように触れたシルフィードは「そうでしょう」と『闇之雲』武器商人(p3p001107)へと告げた。
 魔術を嗜み、そして、その名の通り『武器商人』たる旅人は迷宮を思い返し、「商品が沢山あったのも確か」と静かに呟いた。
 迷宮――メルカート・メイズの作り出した迷家にはモンスターや罠、そして『原罪の呼び声』と言った様々な危機が存在する一方で商人ならば垂涎ものの宝も多く存在していた。
「精霊たちを守るだけ。只、それだけならば」
「そう、それだけじゃないの。トレジャーハンターって言うのかしら? 迷宮に挑むニンゲン達が森に入り込んで来たなら何が起こるかわからないもの」
 精霊たちが不安げに眉を顰める。『ニンゲン』が森で惑い、そして、魔種の獣たちが跋扈する――精霊たちは自身の森を守るために力を使い、そして、傍らの魔種の呼び声に耳を傾けてしまう可能性があるのだ。
 その対処を行う様に『焔の気配』を纏った青年が森の中で調査を行っているのだという。
 彼は精霊たちにとって居心地のいい存在有りながら、精霊たちとは別のものの――何かが結び付いた様に出来上がった『ニンゲン』の様な、そんな存在なのだという。
 特異運命座標が大量に召喚された『世界の変化』を経て、世界に一つ変化が訪れたのかもしれないと精霊たちは口々にそう言った。
「……焔の、人も気になるけど……」
「あァ、先ずは森の対処からだねェ。精霊の暴走を食い止め、魔種の迷宮を破壊しなくちゃならない」
 ふと、ローレットの外へと視線を向ける。武器商人は満員御礼の暖炉を見遣ってから「寒いと思ったら――」と小さく笑う。
「そうか――今日は、雪かぃ」


※銀の森がイレギュラーズを新たな冒険に誘っています……
2019/2/1(1/2)

<『凶』の男と傭兵達>

 美しい白銀の翼をはためかせ、一人の女が舞い降りた。
 日差しから逃れるように、薄布を目深にかぶる。
 砂漠の顔色は気まぐれで、過ごしやすいとはとても言えないが――これがラサの冬だ。
 もっとも夏であればそもそも『飛ぶ気にすらなれない』訳だが。そんな事はさて置いて。
 彼女が踏み入ったのは小さな酒場である。
 雑然とした空気を切り裂くように鋭い視線が奥の席から投げかけられた。
 獣種の男三人の存在感は何処にでもある酒場の風景を別の物に変えるかのようである。
「待たせたな。まずは詫びよう」
 女――竜胆・カラシナは涼しげに言うとカウンターからショットグラスを受け取り、奥へと歩んでゆく。
「いいや、今始まった所だぜ」
 答えたジョニー・マルドゥ等の前には既に十数本の空瓶が並んでいた。
「練習をな。しておったのよ」
 そう続けた『白牛』マグナッド・グローリーが豪快に笑う。
「聞かせろ。竜胆」
「ああ。大方の予想通りで間違いない」
 腕を組む『凶』ハウザー・ヤークの問いに、カラシナが答える。
「成る程ね。食い応えがありそうで結構じゃねぇか」
 ハウザーは不敵に笑い杯を煽った。
「まあ座れ竜胆。落ち着かん」
「ん? ああ」
 カラシナも小さなグラスをひと息に煽ると、椅子に腰を下ろす。
 今日、この小さな酒場に集まった四人はそれぞれラサの傭兵団の代表である。
『凶』のハウザー・ヤークは言うまでもなく、それ以外についてもひとかどに名前が知れている。
 ラサ『傭兵』商会連合の歴とした一員、重要なるパーツの一という訳だ。
 そんな彼等の議題は幻想から落ち延びてきた『新生・砂蠍』の残党共の討伐についてであった。
 敵がどこに潜伏しているのか。
 数はいくらか。構成はどうなのか。
 そういった戦略的情報の交換と、子細な協力体制の構築が行われているのである。
2019/2/1(2/2)

 傭兵にとってこの案件は国内の治安維持に相当する。外貨は獲得できない。要するに『儲からない仕事』ではある。だが元はと言えば『砂蠍』は彼等の獲物であった。他国に逃してしまった経緯もあり、話題への熱量は高いのは言うまでもない。かの砂蠍は彼等にとっても仇敵であり、煮え湯を飲まされた回数はお互い様。損得以上の動機は十分所か、十二分さえ超えている。
「ま。馬は馬方、蛇の道は蛇だな」
「なんだ『白牛』の。今日に限って奥手じゃねえか。腰にでもキてんのか?」
「がっはっは!」
 茶化したハウザーに、マグナッドはもう一度豪快に笑った。
 カラシナの情報によれば砂蠍残党共の中に、魔種が紛れ込んでいるらしい。
 いかに勇猛な傭兵とはいえ、『原罪の呼び声』を持つ魔種は戦いたくない相手であることに違いはないが。
 それだけでは彼等が剣をとらない理由にはならない。第一、生半な戦士など認めぬ傭兵達が、切った張ったの荒事を余人に委ねるなど、到底あろう筈のないことでもある。
 ならば何故――その答えは恐ろしい程に簡単(シンプル)だ。
「見たくて見たくて仕方ねえって顔だぜ」
「違いない!」
 つまり彼等の目当ては『噂のローレット』そのものでもあるという訳だ。
「細けぇこたあ、後で決めりゃいい。おい姉ちゃん!」
「はいはい、いつものね」
 傭兵達の合意は幾つかの思惑を孕む。
 餅は餅屋、乗りかけた船に乗せちまえ、或いは見物半分、面白半分。
 ハウザーに言わせれば「キングが討ち取れねえなら、そんなもん。俺が出る程の事って言えるかよ」。
 もっともその言葉は『実際にキングを討ち取った連中』への負け惜しみも半ば含んでいる。
 全くもって特異運命座標というのは『総ゆる運命を吸引する』。まさに特別なのだろう。
 傭兵が誰ぞに傭兵稼業を『依頼』するのは稀有な機会ではあるのだが――
2019/2/5

<ハウザー・ヤーク>

ああ、全く、面白くもねぇ。
何が籤引きだ。ふざけんな。馬鹿にしやがって!
後方指揮、何てのはそもそも俺様に向いてねぇんだ。
そもそも必要かよ、そんなもん!

……………まぁいい。至極不本意ではあるが、砂蠍の連中にトドメを刺す機会には違いねぇ。
あの野郎共、これで失敗なんざしやがったらタダじゃ済まさねーから、覚えとけよ。


※砂蠍残党の討滅依頼がラサ傭兵商会連合から届いています!
 尚、傭兵団長達の厳正な抽選(くじ引き)の結果、ハウザーが後方指揮役に選ばれたようです……
2019/2/7

ペリカ・ロズィーアン

うーん、まさかまさかって感じだわいね。
……あのお貴族様達も認めるイレギュラーズか。
きっと面白い連中なんだわさ。これなら、踏破ももう少し捗るかな?

……取り敢えずお誘い、お誘いっと。
悠久なる迷宮へようこそ! 冒険は人生の潤い、刺激は人生の友達だわさ!
君もあたしと一緒に穴掘って見ないか、ベイビーズ!


※貴族達から『果ての迷宮』への冒険参加の許可・要請が出たようです。
 総隊長ペリカ・ロズィーアンがローレットに訪れています!
2019/2/14

<アルテナ・フォルテ>

今日はグラオ・クローネね。
知ってるかもしれないけど、グラオ・クローネは元々深緑にある伝承が発端なのよね。
だからかしら? 幻想種のルドラさん? が深緑に招待してくれるんだって。
チョコレート、きっとたくさんあるのよね。
すっごく楽しみ。折角だから一緒に行ってみない?

でもイベントを遊び倒すのも大変だわ。
あっちこっち――幻想の街の方も賑やかになると思うし。
……ちょっと目移りしちゃうかも。


※グラオ・クローネ2019が開始しています!
2019/2/19(1/2)

<コンフィズリーの不正義>
 全てが暗転したのは突然の出来事だった。
 世の中は――多くの人達が知っているのと同じように――どうしようもなく理不尽なものであり、どうしようもなく儘ならないものであり、動き出した全ては誰にも止める事の出来ない『決定』に過ぎなかった。
 潔癖の祖国に当家が仕えて二百年以上にもなる。多くの戦争で武勲を上げた。神を信じ、敬い、理想的な天義貴族としての責を果たしてきた筈だ。恐れ多くも歴代の国王陛下より信を賜り、名門として遇された。
 そんなコンフィズリーの栄光が地に堕ちる事となったのは父の代である。
 余りにも突然に――当家は全てを失った。
 家名も、財も、領土も、地位も全て――
 邸宅を追われた自分は父、メルクリス・フォン・コンフィズリーが『不正義』を働いたのだと幼いながらに聞かされた。
 父は出仕したまま帰らず、美しい母は髪をかき乱し、見た事の無いような形相で何事かを喚いていた。
 つい昨日まで当家を持ち上げていた周囲の人間は潮を引くようにいなくなり――いや、居なくなっただけならばまだ良かった。
 顔も知らない親戚、したり顔の役人、信頼していた領民や部下に到るまで――まるで『ハゲタカ』か『ハイエナ』のように当家に残された残り僅かな旨味を喰らい尽くすかのような勢いだった事を覚えている。

 ――そも、当家がこれ程までに痛めつけられなければならかった『不正義』とはなにか。

 事これに到る経緯を俺は良く知らない。
 ……と、言うよりも大人になって改めて知ったのはこれが意図的に隠蔽されている事実であった。
 唯、仁君だった父は良くこんな事を口にしたのを覚えている。

 ――世の中には善悪の二種類以外も存在する。良くない善もあるし、悪くない悪もある。
   人の世の営みによるものならば、全てが白と黒だけでは片付かない話もあるだろう――
2019/2/19(2/2)

 ……聖教国ネメシスの教義からすれば父の考え方は異端だったに違いない。
 実際に引き金になった『不正義』の顛末が何だったのかは知れないが、父が周囲に疎まれていたのは察するに余りある。
 逆風の中、当代の俺が騎士としての身分を得る事が出来たのは、我が身の努力であると自惚れているが――没落した名門として騎士の末席に滑り込んだ時からそれは分かり切っていた。
 上役の侮蔑に満ちた視線は、僅かながらの恐れも孕む。
 接した何人かの貴族、高官はまるで探りを入れるような所があった。
 全く、彼らにとっては当家の『不正義』は探られたくない内容なのだろう。
 嗚呼、何という皮肉だろう。神の教えを口にし、正義と潔白に満ちている王宮が、態度で、言葉でその信頼を毀損する。
 少なからず俺に残っていた父への疑いが、雲散霧消したのは幸福なのか、その逆か。
 俺はそんな誰にもニッコリと笑って今日も心にもない言葉を口にするのだ。

 ――父の『不正義』を贖う為、私は忠勤に臨む所存です。それ以上の何がありましょうか。

 ネメシスは潔癖の国。
 ネメシスは純白の国。
『正義』に沿わぬ何をも許さず、神ならぬ人の驕慢を持ちて神の裁定ばかりを望む国。

 ――そんな、とてつもない、強欲の国。
2019/2/24

<一件落着>

 一連の蠍事件の――或る意味での決算。魔種との戦いは熾烈を極めた。
 イレギュラーズの活躍を以て、アルダハ遺跡に落ち延びた蠍残党は駆逐された。
 戦いの事等知らぬ、存ぜぬ。まるで何事もなかった様に、砂漠には冬の日差しが降り注いでいた。
 戦場は別れが伴う。しかし、残ったのは悲しみだけではない、心の救済がそこにはあった筈。
 イレギュラーズは一抹の寂寥と誇りを胸に――アルダハ遺跡を後にする。
「よう! イレギュラーズ。ご苦労さん。まぁ、俺様程じゃないが、お前等もやるじゃねぇか!」
 やがて辿り着いたラサでは、ハウザー達がイレギュラーズを労うだろう。
 疲れた体に曖昧な笑みを貼り付け――まぁ、まずは、『癒やし』を一杯。
 祝杯をあげようではないか。
 イレギュラーズは間違いなく、そう。間違いなくやり遂げたのだから。
 次の冒険へと繋がる一歩を、絡みつく蛇のような運命を断ち切る一打を。
「乾杯!」
 どうせ嫌だと言っても付き合わせる連中に決まっている。
 何より連中の顔が「話を聞かせろ」と物語っているではないか。
 嗚呼、嗚呼。それならば――毒を喰らわば皿までだ。
 お釣りが来る程に、どれだけ大変だったか聞かせてやろう。精々、傭兵も感謝したまえ。
 今日ばかりは一休み、きっとこんな時間も悪くはなかろう。

※新生砂蠍の残党が壊滅し、ラサで小さな祝勝会が行われたようです。
2019/2/25

<三千世界は鴉を殺した?>
 夢を見ていた。少女が夜を呼ぶ夢だ。
 昼間の賑やかな大通りを、馬車と教会の鐘と焼いた小麦の香りを、その中を、黒衣の少女がまどろむように立ち止まる。
 少女がなにごとか呟いたその時に、空は眠るように夜色へ塗り変わり、風は夢見るように静まり、人々はとっくりとしかし整然に眠りへとついていく。
 町はまるで夢を見るように塗り変わっていった。
 お菓子の家に、遠い銀河に、虹かかる空の庭に、海底のダンスホールに、虚無の白に、スクランブル交差点の雑踏に、羊の大移動に、あがるキノコ雲に、春風歌う大草原に、次々と、まるで元の姿を忘れるように変わっていく。
 人々の姿は夢の中に塗りつぶされるように消え、空も家々も、なにもかもが消えていく。
 少女はその光景の中で唯一変わらず、ただ虚空の一点だけを見つめていた。
 いや。
 少女だけじゃない。
 少女は、『わたし』へ振り返った。
 少女は、眠そうに笑い。
 少女は、優しそうにまどろみ。
 知らぬ間に後ろに立っていた少女が、『わたし』の両目を手で塞いだ。
「誰でも知っていて、誰も気づいていないもの、なあんだ」
 『わたし』は気づいてしまった。
 これは現実だ。夢なんかじゃない。
 そしてもう一つ、気づいてしまった。
 ――現実なんて、もういらない。
 ――夢のような、夢のような、夢のような世界の中で遊べばいい。
 ――現実の肉体など、朽ち果ててしまえばいい。


※天義西部の町ムーンボギーが明けぬ夜の呪いに閉ざされました!
 この不吉に現場は混乱。イレギュラーズには事態の調査と解呪が求められています!
銀の森のフェアリー・テイル

 ――此度は助かった

 そう言った我の言葉に「当たり前のことをしただけだよ」と笑った女が居た。
 馬鹿な。あの恐ろしい悪夢を、魔種を前に当たり前の事等と。
 馬鹿げている。永久の不変、この銀の森を救っておいて、
「フレイムタン君とは、ここでお別れ……かな?」
 これで、おしまい等と。
 故に、我は言ったのだろう。言わずにはいわれなかったのだろう。
「いや――我らもまたこの世界に落とし子。
 なれば、『我らも特異運命座標』としての可能性を得る事もあるのだろう」
「それは……?」と尋ねる恩人に我は言う。
「ああ――こうして我らが母(せかい)が脅かされるのは見過ごせぬ。
 救う手を、救う力を手に入れたい――そう考えれば全ては始まるのかも知れない。
 守りたいのだ。彼女の様なものから、この大いなる世界を」
「聞いても、いいか」
 勇者は我に結論を問う。
 魔種が去った銀の森。特異点的なその場所に存在する気配は様々なものだ。
 我が炎の気配を纏わせるように。あのエリス・マスカレイドが氷の精霊であるように。
 水が、炎が、風が、光が、花が、色付く様に何かに結び付き『種』として存在していく。
 侵食する運命を跳ね返す、新たなる力へと変わっていく。
「……我らも、ローレットへ」
 今、ハッキリと分かるのだ。大いなる変化が、変わり始めた行き先が。
 何かに導かれるように、天空(そら)の神殿に引かれる己が有り様が――
 特異運命座標として。
 精霊種、新たにそう称された我らもきっと――この世界を救う、同じ志を持ったのだと!


※『精霊種』が観測され、特異運命座標の運命を獲得しました!
 『精霊種』キャラクターの作成が可能になりました!
2019/3/9

忘れられし墓標

 幻想王都メフ・メフィートの北。小高い丘で少女は花を携えていた。
 背格好は小さいが長い耳――幻想種の彼女にとって、その呼称はふさわしくないかもしれないが。
「遂に、動きだそうとしているわさ」
 彼女の他には誰もなく。けれど語りかけるように彼女は言葉を紡いだ。
「あの子達ならきっと大丈夫……だから安心してねい」

 思えば長く――実に遠くまできたものだった。
 遠くて近いあの場所で避けられなかった永久の別れ、仕方ない事とは言え、必ず割り切れるものでもない。  何時かの夜。夢を語って飲み明かした冒険者達。
 ペリカの後ばかりを追いかけていた気弱な後輩。
 柄にもなく――夢中にさせられた、あのひと。
 今はもう誰も居なく、その数々が。ちくり、ちくりと彼女の胸を苛んでいる。
 そこは知る人も少ない小さな墓所。
 彼女の眼前にあるのは『果ての迷宮』の踏破にしくじり、命を落とした冒険者達の墓標である。
 知る限り皆、素晴らしい腕前だった。
 けれど足りなかったのは、一体何だったのだろう。
 勇気だろうか。皆勇敢だった筈だ。
 情熱は――今も私が、残された私が遠い途を追いかけている。
 時間だろうか? きっとどれも正しいのだろうけど――

 ペリカは花を添え、目を閉じ、しばし祈った。
 あの時、――なら、もっと。どうして――
 かつては自責に囚われもした。けれど今は違う。
 老成した意地と言えばそれまでだが、私はどうしてもこれをやり遂げる。
 それが救いになるだろう。それこそ報いになるだろう。
 今も尚、魂を遠く引く――滲んだ在りし日の時間に対する手向けに違いないのだ。
「行ってきますねい」
 そう告げるとペリカ・ロジィーアンは踵を返す。
 視線は力強く。朗らかに。歩き出すその先に見えるのは、遠く白ずんだ王城。
 今日はそこへ、待望のイレギュラーズ達が来てくれる筈だから。
2019/3/16(1/2)

<動き出す闇>

 暗い闇の中、一組の男女が佇んでいる。
 常人には目視しかねる深い闇の中、『常人等一瞬で蝕みの中に飲み込んでしまうような泥の中』、男女は涼しい顔を崩していない。
 故に異常。故に危険。泥をものともしないのは、彼等が泥そのものであるからだ。
 周囲を異界に変える根源こそ、麗しい見目を裏切る二つの邪悪に違いない。
「『常夜の呪い』ね。永遠の惰眠を望む等、やはり劣等は劣等に過ぎないな」
「それも、同胞の為す事でしょう? イノリ様のお望みに叶うならば、それも一つ」
 有翼の男の言葉に黒衣の女は温く笑う。
 穏やかでゆっくりとしたその語り口は嗜める調子と軽侮する調子の両方をたっぷりと含んでいる。
 成る程、彼女が『同胞』と称する魔種の何も全て言葉の通りという事になろう。
 彼女にとって『同胞』の為す事等、『イノリ様』のプラスになるかどうかの価値しかないのだろうから。
「フン、心にも無い事を言う。
 しかし、常夜は『怠惰』だろう? カロンの手出しする場所では無い筈なのだがね」
「まさに。面倒臭がりのあの子がわざわざ外に首を突っ込むものですか。
『魔種』は元になった素体の自由意志を強く残します。
 つまりは『常夜』はこのネメシスに何かの因縁か――用があったという事でしょう。
 第一、魔種の活動に完全な制御が効かないのはルストこそ一番知っているのでは?」
 女は男――ルストをからかうようにそう言った。
「貴方がイノリ様の言いつけを守った事が幾度ありますか」。そう言う女をルストは鼻で笑って一蹴する。
「ベアトリーチェ。お前達の如き下位とこのルスト・シファーを同一扱いするのは辞めて貰おうか。
 お前は私達七罪を『被造』としたいようだが――私はそれを是認していない。
 謂わば私は奴のアルター・エゴ。奴も私のアルター・エゴに過ぎん。同一なれば、上下等ある筈も無い。
 気に入らなければ従う道理も無いし、どうしてもと言うならば『どちらが主体か雌雄を決するまで』」
 ルストの物言いにベアトリーチェは肩を竦めた。
 ルストの言葉は全てが間違いでも無いが、全てが正しい訳でも無い。
 只、その正当性をこの男と論じ合う無意味を彼女は重々知っていた。
2019/3/16(2/2)

「……まぁ、良いです。それより本題。
『常夜』が好きにするのはそれはそれで良いでしょう。
 貴方は先を越されたと憤るのでしょうが、私は私で仕掛けを進めてまいります。
 第一、『勤勉なる正義』ばかりを旨とするこの国に『怠惰』は棲みかねていた。
 ならば、それも人の『強欲』で良いというものではありませんか」
「……」
「第一、『他ならぬ貴方が先鋒で動き始める筈が無い』でしょう?
 常夜にせよ、私にせよ同じ事。尤も、勿体をつける名優は出番すら無いかも知れませんけれどもね」
 言葉にルストはもう一度「フン」と鼻を鳴らした。
 己が以外の全てを軽侮し、見下すその姿はまさに『煉獄編第一位』の姿に相応しい。
 己が力と階位を心から信じ切っている彼は、成る程――自称ならずとも『他とは完全に異質』になろう。
「直に舞台の幕は上がるでしょう。ネメシスの全てを巻き込む、大きな、大きな舞台の幕は。
 悲喜が入り混じり、忘れられた人間性は目を覚ます。
 人形達は踊り出し、整然を嫌う狂騒曲は大きな熱を帯びるでしょう。
 ……この国は、あの街は私にとってはこの混沌で一番許し難い。理由は、言わなくても分かるでしょうが」
 ベアトリーチェは「貴方はむしろ相性が良いのでしょうけど」と言葉を結んだ。
 話は概ね纏まっている。ルスト・シファーは『傲慢』の名にかけて先鋒を嫌い、ベアトリーチェ・ラ・レーテは動かなければならない理由と、動きたい理由の双方を持ち合わせている。常夜とは特に協調関係はないが、統制の綻び、国の乱れ、かの常夜はその先駆けとして丁度良い塩梅といった所なのだ。
「ああ、只一つだけ」
 ベアトリーチェは赤い唇、口角を皮肉に持ち上げてルストに言う。
「貴方も余り滅多な事を言わないで。次、イノリ様に弓を引くなんて言ったら、私」
 葬送の歌は欲深く、仄暗い。例えそれが同胞以上の『兄弟』だとて、女の情は止められない。
2019/4/4

強欲のリユニオン

 混沌世界で最も正しきを重視し、標榜する国である聖教国ネメシス。
 その中でも全く――他に類を見ない程に純白に染め抜かれた首都フォン・ルーベルグは何時も整然とした秩序に満ちていた。
 騒がしさとは無縁の大通り、ゴミ一つ散乱しない裏通り。
 街を行く人々は厳しく己を律し、『フォン・ルーベルグの市民としてどうあるべきか』を常に念頭に置いて行動している。
 ネメシスの正義と同様にこの街の姿は完璧であり、ある種酷く歪でもあった。
 見る人間が見れば、それを人間の社会性の完璧な姿であると讃えるだろう。
 また別の人間が見れば、これは唾棄すべき抑圧に過ぎないと断じるだろう。
 評価何れにせよ、フォン・ルーベルグにおいて見える光景は一つである。

 ――潔癖なる白亜の都。

 それ以上でも以下でもない現実はそこに住まう人間に幾ばくかの窮屈さと、それと同じだけの安寧を与えている。それは抑圧であると同時に大いなる救いであるのもまた確か。
 白亜はレガド・イルシオンの如き見える形での不正を認めない。
 白亜はゼシュテル鉄帝国のような過剰な弱肉強食を肯定しない。
 唯、神に対して、標榜する正義に対して敬虔であれば、人間の持つ『間違い』を律し、否定し続ける事さえ出来れば――歪な在り様さえ、一つの正解であるとも呼べるのだろう。
 正しきのみを肯定し、どんな悪をも許容しない。
 総ゆる個の欲望を否定し、調和を何よりも重視する――
「まぁ、それが最も度し難い。人間が人間なる根源が『原罪』なれば。
 欲望さえ否定する国は、街は人間の領域と言えるのかしら?」
 ――今日も何一つ間違いを侵さない白亜の街の姿を眺め、黒衣の女は冷笑する。
 彼女は人間を嫌わない。むしろ人間が人間であるが故に抱き得る、複雑怪奇にして高等なる総ゆる『欲望』を肯定さえしている。
「その琴線を弾き、押し込めた欲望を解き放ち、大きな舞台を描きましょう。
『正しき形』を忘れた人形達に思い出させてあげましょう。
 人は愛し、愛され、生きてやがて朽ちるのならば――演目はきっとこれがいい」
 女の口角が三日月に持ち上がり、白亜の街に暗雲がたちこめる。
 狂騒曲をあなたに。
 人は元来多くを望むものだ。
 聞こえぬ声、届かぬ声を拾うには――こんな荒療治も丁度いい。


※フォン・ルーベルグに奇妙な噂が流れているようです……
2019/4/7(1/2)

灰の天蓋
「……ふむ」
 奇妙なる噂が跋扈する――その噂を抑圧し、押し込める白亜の都で黒の神父は首を傾げる。
 土台、状況が不自然過ぎる事は知れていた。
 仮にも神職を履修した身である。事これに到れば状況が異常過ぎる事を疑う余地は無かった。

 ――よりによって黄泉帰り等とは。
   死を汚すかのようなそれは何より、何とも有り得ざる異変である――

「……」
 多くを口にせず、黒神父は沈思黙考を続けていた。
 雇い主(クライアント)は『戻ってきた』御令嬢と一緒なのだろう。立派な天義的貴族である彼が厳めしいその相好を崩して――或る意味全てを放り出して彼女と戯れる様は滑稽であり、痛ましくもあった。
 彼が見る限りでは御令嬢(コレット)からは明確な邪悪は感じられなかったが、それは何の問題も無いとイコール出来る結論では無い。
 こと混沌において、『この世界法則が』失われた生命の回帰を断固として拒否しているのは明確だ。この世界をデザインした大本の『誰か』がそれを何より嫌い、何より否定しているようですらあるのだから――悲しいかな子爵の願いは夢幻の如くに違いない。
 それに何より。
 もし、そんな甘い幻想が許されるのであれば誰よりパスクァーレ・アレアドルフィ自身が――
2019/4/7(2/2)

(……それはいいとして)
 ――胸の内を焼き焦がす吐き気を振り払うように黒神父は柳眉を顰めた。
 異変がこの一件だけならばどんなにか良かったが……
 フォン・ルーベルグを、ネメシスを覆うこの奇怪な状況は隠蔽も叶わず、広がりを見せる一方である。
 先の『常夜』事件も尋常では無かったが、民心を荒らすという意味では今回は尚更となろう。
 つまる所、中央はこの状況を看過すまい。
 それを分からぬ子爵では無いから邸宅は物々しく警備で覆われている。
 故にこそ、自身はこの屋敷に詰めているのだから。
 恐らくはあの御令嬢を亡くしたその時から。
 笑顔の消えた子爵と、悲しみに包まれたバルイエ家は今、久方振りの充足の時間を迎えているだろう。
 皮肉に、奇妙に、歪と破滅を孕んで――
(――だが、破綻の時は近付いている)
 黒神父は手にした十字剣を握り直し、無意識の内に浮かんだ苦笑を噛み殺した。
 自身は全ての理不尽の敵である。
 本来、世界の摂理に抗う不自然を、この『理不尽』を庇護する身の上にはない。
 さりとて、さりとて。

 ――この、胡蝶の夢ばかりは――

 嗚呼、悲喜をこもごもに。
 数多の思惑、数多の想いを呑みこむフォン・ルーベルグの天蓋は厚く灰色に覆われていた。
 光輝にして白亜の都さえ、褪せて見える程に――世界の色はくすんでいる。


※フォン・ルーベルグに奇妙な噂が流れているようです……
2019/4/16(1/2)

<不正義の騎士>

「リンツァトルテ殿、此方の警備は万全です」
「ああ……ご苦労様」
 この所、辺り一帯は『騒がしい』。
 恒例の夜の見回りをするリンツァトルテ・コンフィズリーに敬礼をしてみせた兵士の顔にも不安と疲れが見て取れた。
「しかし、一体これはどういう訳なんですかね」
「さて、ね。実際の所、真相はまるで見えないが――どうやら噂話で済むレベルの事態じゃないらしい」
 休憩がてら足を止め、そう応じたリンツァトルテに兵士は「やっぱり」という顔をした。
 初めは取るに足らない噂に過ぎなかった筈だ。
 しかして、まさに今フォン・ルーベルグを騒がせる事態の正体を中央が知らない筈が無い。
 よりにもよってこの聖都で、よりにもよって死者が黄泉帰る等と。
 冗句にも何もなりはしない――最悪の中の最悪は、しかし最悪であるからこそ誰もを嘲笑うかのようにそこにあった。
 恐らく――恐らくは、である。黄泉帰りを仮に一側面を捉えた類似の事実と認ずるならば――聖都においてはこういった冠言葉は処世術上、意見表明に必要不可欠である――何らかのからくりが存在するのは明白だ。
 死んだ生物は蘇らないし、何より。この聖都を中心に短期間で爆発的に広がった『事例』は余りにも特別性を欠いていた。
 惜しまれなくなった聖人のみならず、ペットや、幼い子供、年老いた両親、果ては酷い悪党まで――現実の指し示す圧倒的なまでの異常、異様に対してその選別は出鱈目であり、統一感というものが欠けていた。その癖、噂でもちきりになっているのは聖教国の中心をなすフォン・ルーベルグ一帯に限られているのだから、そこにある恣意性に気付かぬ人間等無い。
「此方も全力を尽くして事態の収拾は図っているのだが」
「ええ。それにあのローレットも手を貸してくれているようで」
「……ローレットか。うん、彼等ならば適任だろうからね」
 部下のイル・フロッタが上気した顔で彼等の話をしていた事を思い出し、リンツァトルテは頷いた。
 何故彼女の顔が上気しているか、単にイレギュラーズを気に入っているから、と思っている辺り彼は彼と言えるのだが。
「民心を惑わすのが幻術か、悪意の工作かは分からないが――俺達も一層努めなければならないな」
 しかし、普段は自身の後ろをついて離れないイルもここ暫くは少し様子がおかしかったのは事実である。
2019/4/16(2/2)

 リンツァトルテはその事情を知らなかったが、朴念仁の彼とてそれを心配する気持ちが無い訳ではない。

 ――在りし日に還る死者は、時計の針を逆に動かす存在である。
   現在は生ある者のみによって紡がれるもの。
   厳粛たる終わりを戻す事は神と死者そのものへの悪罵に他ならない――

 フェネスト六世の言葉は当然ながらネメシスの正対せねばならぬ深刻な事態を重く受け止めていた。
 規律正しく秩序をもって生活していた聖都の市民の『非協力』はこの国では類を見ない規模に膨れ上がっている。『本来ならば』率先して悪を告発し、間違いを正してきた市民達が今となっては聖騎士団の目を盗むように『戻ってきた何者か』を庇い立てている。
 これはネメシスの最も嫌う状況だ。
 中央の絶大な力はネメシス国民自身の支持によって成り立っている。つまる所、民心の混乱こそ最も危険な事態であり、『敵』がその民心自体であるが故に強権的な対処さえ難しい。
 完璧な統制に生まれた一分の隙は歪に膨れ上がり、何かの時を待っているかのようである。
 杞憂に済むならばどんなに良いか――リンツァトルテは考えたが、それを保証する者は何処にも無い。
「……どうした」
「いえ、その……」
 深く嘆息したリンツァトルテにふと、兵士が何かを言いたそうにした。
「言ってみろ。ここには俺以外誰も居ない」
 彼の言葉には小さな皮肉が混ざっているが、多少気心の知れた上官に促され兵士はおずおずと一つの問い掛けをした。
「――――」
 一瞬だけ面食らったリンツァトルテの表情が苦笑いの形になるに時間は掛からなかった。
「成る程、他の人間には言わない方がいい」
「恐縮です。愚かな事を問いました」
「いや」
 リンツァトルテは口元を歪めて兵士の問いに『答え』を返す。
「この目で事態の確認をする事は必要だ。肯定はせずとも、真相に興味が無いと言えば嘘になる。
『何より俺は天義騎士としてより正しくあるにはどうするべきかを何時も知りたいと思っている』」

 ――コンフィズリー殿は、仮にそれが叶うとしたら、誰かの、黄泉帰りを望みますか?

 知れた事だった。問いたい事等、山とある。
 例えばこの国に本当に正義はあるのか、とか――

 ――ねぇ、父上。


※フォン・ルーベルグを中心に多数の『黄泉帰り』が確認され、民心が乱れているようです……
4/23(1/2)

<楽園の金林檎(イミテーション)>

 太陽のゆりかご。大海原のバージンロード。
 三角定規の大行列がエクストプラズムを演奏すれば、ビスクドールを有する教会司祭の美しい流線型が星屑の迷子を迎えに来るだろう。
 ああ意味など無い。意味など必要ない。意味などあってはたまらない。
 ここは夢の園。現実を捨てた楽園。
 ケミカルの綿毛がユートピアのイミテーションを産出し、持ちきれぬエンドルフィンを神殿の大通りに花びらとして蒔くのだ。
 最終列に並ぶ君の影は星屑の呼び声をもってファストパスチケットを得るだろう。
 意味など無い。意味などあってはたまらないのだ。
 現実を捨てこちらへ来い。
 夢の中で生命を終え、夢幻のパレードに加われ。
 ユートピアは眠る者を拒まないが目覚める者を許さない。
 享楽は無限に続く。ゆめゆめ顧みるな。君の肉体に意味は無い。
 意味などあってはたまらない。
「パパ……」
 巨大な蓮の花びらが開き、創世の色をした瞳が薄く開いた。
 夜のような手がはえいずる芽のように沸き立っては掛け布団を払い、折れた手が順々に階段を作る。
 銀のトレーを手に現われた『パパ』は、階段を上って暖かいミルクと干肉を挟んだパンを少女へ差し出した。
「パパ……もうどこへも行かない?」
 ネメシスの神父服を纏った『パパ』は頷いて、トレーを少女に差し出した。
 差し出したまま、固まったように動かない。
 テレビノイズが走るかのように、『パパ』の身体と顔がかすんでいった。
「パパ……」
 遠い遠い昔話だ。
 ある町のある家庭の、平和が終わった日のお話である。
 母を早くに亡くした娘は、神父に育てられていた。
 神父は献身的で誠実で、町の人々の求めることはなんでもした。
 金を手にしたら必ず町の人々のために使い、明日のミルクとパンがあればそれでよかった。
 娘も同じだった。『パパ』さえ居れば他に何もいらなかった。
 けれど幸福が潰えるのは、ろうそくの火が消えるように唐突だった。
 町の求めに応じ続け、国の求めに応じ続け、身を捧げ心を捧げ、何も欲しなかった神父は過労に倒れ、娘一人が残された。
 世界の全てを喪った娘もまた倒れ、ベッドの中で新しい世界を夢見るようになった。
 夢は狂気の世界を生み、狂気が魔を産出したのは唯の結果であり、結論でしかなかった。
 娘は全ての不幸と全ての憎しみと全ての怒りを現実の枕元に置き去りにして、無限の夢へと逃げたのだ。
 誰が悪かった訳でもない。それは有り触れた不幸に過ぎなかっただろう。さりとて――

 ――まさに彼女にとっての『怠惰』こそ『強欲』であり、甘く蕩ける罪の果実に他なるまい。

 手段を得る事は幸福だ。手段を持つ事は不幸でもある。
 その願いを叶えようと思うなら、誰が永遠に眠っても構わない。
「パパ……おやすみ。もう、ミルクもパンもいらないわ」
 ここには全てがあるもの。
 娘は……『真なる夜魔』は、石の神殿の頂上で、枕と掛け布団だけを大事そうに抱えて、うっとりと目を閉じた。
 神殿を、夜色のローブを纏った信者たちが円形に取り囲む。
「「夢に永遠の幸福を」」
「「現実を捧げよう」」
「「ゆめゆめ顧みるな」」
 嗚呼、嗚呼。
 始まりが如何なとて、唯の少女の願いとて。
 うねり、律動する破滅の音色は彼女程純粋でも、怠惰でもない!
 ゆめ忘れるな! この望みには絶対的な天敵があろうという事を!

※天義にて狂信者たちが動き始めているようです……
2019/5/7(1/2)

探偵の勘
 聖教国ネメシス――その本拠は聖都フォン・ルーベルグ。
 魔種を不倶戴天の敵と看做し、信心深き民が集う『正義』の都である。
 そんな純白の都に似合わない男は寂れた酒場で噂話に耳を傾ける。

 ――行方不明になって居た、あの……

 この清廉なる聖都に下賤な噂話が広がるのは珍しい。彼の故郷の事もある。
 珍しい事だが、ここ暫くこの国はそんな異常事態で持ちきりだ。
 どうにも疑う余地も無く、どうやら、この国は妙な奴に目を付けられたらしい。
 妙なやつ――というのはサントノーレ・パンデピスの勝手な言い回しだが、彼がそう例えた事に表情を曇らせる者もいた。
「……こんなところに呼び出して」
「いや、何。リンツァトルテとは元気にやってるか?」
 サントノーレの前にちょこりと腰掛けたのはイル・フロッタ。天義の騎士団を志す騎士見習いである。
 彼女はその言葉にバツが悪そうに表情を曇らせ「まあ、一応」と小さく告げる。
 イル自身、少なからず衝撃を受ける出来事があったばかりだし――件のリンツァトルテの様子も普段と違うように思えた。
 彼を何時も、じっと見てきた彼女だから分かるその機微は、嘘と作り笑いの上手い騎士を見透かす乙女の『審美眼』である。
「……きっと、ええ」
 幾ばくか歯切れの悪いイルの言葉に、グラスを弄ぶサントノーレはそうかい、とだけ返した。情報収集に交えた雑談がてらにイルを呼び出したが、彼女はぎこちない笑みを浮かべるだけだ。
2019/5/7(2/2)

 どうやら、この国に蔓延る闇の気配は彼女の周囲にも取り巻いているらしい。
 こんな場合、大抵は黒だ。彼女も『噂』に触れている――
 そう踏んだサントノーレの直感は実に正しい。
「……明日も早いんだ。今日は――」
「ああ、カワイ子ちゃんを遅くまで連れまわしちゃ、俺が怒られるんでね」
 幾ばくか罰が悪そうなイルにサントノーレは手をひらひらと振った。お代は良いから帰りな、と少女の背をぽんと叩く。少女には余りに似合わぬ重たい刃ががしゃんと音を立て、彼女はゆっくりと歩き出した。
(ああ、間違いない。有り難くは無いが――)
 事件が探偵を呼ぶのか、それとも探偵が事件を呼ぶのか――こんな時ばかり、彼の勘は冴え渡る。
 その背中からも妙な気配がしたのだ。色濃く、間違いなく、確信めいて。
 死者の帰還。
 黄泉還り。
 この聖都には不似合いな禁忌。
 禁断の果実というのはどうも美味いもので手放したくないのは当たり前の話だ。
 サントノーレだって――彼は自嘲染みた笑みを浮かべてそっとグラスの中身を飲みほした。
「……まったく、どうしたもんかね」
 調査を進めるまでもなく、死者蘇生の話は公然の事件として噂が伝播し続けている。
 広まって、広まって、広まって、烟の様な存在であったはずが。
 もはや、酸素の様に当たり前となっていく。
 だからそれは唯の噂では無い。最早それは単なる事実で、その事実は――
「黄泉還り……これからも、嫌な予感がするぜ……」

 ――きっと、これで終わりではない。

 繰り返して。探偵の勘には自信があるが、これはそれ以前の問題だろう。
2019/5/9(1/2)

<クレール・ドゥ・リュヌ>
「お前がモタモタしている内に『常夜』は駆除されてしまったようだが?」
 正しさを標榜するネメシスの夜、『最もそれからかけ離れた者達』が闇の中に身を浸している。
「イノリのオーダーに従うというならば、絶好の仕掛け場であったろうに」
 意地の悪い調子でそう言ったルスト・シファーの言葉は明確な皮肉である。
 そう言う当人に『イノリのオーダーに従う気は全く無く』冷笑癖のある彼は目前の黒衣の女――ベアトリーチェ・ラ・レーテを煽る為だけにそう言っているのは疑う余地も無い。
「そう仰いますけどね。物事には準備が必要です。
 第一、『常夜』は十分に役を果たしましたとも。あれだけ派手に暴れれば『比較的、直近の危険の無かったクレール・ドゥ・リュヌ』には最優先の意識は向きにくいというもの。元よりこのネメシスは私と貴方、『強欲』と『傲慢』の冠位による管轄なれば、『怠惰』の彼女等前座のようなものではありませんか」
 されど肩を竦めたベアトリーチェの方もそんな事はとうの昔に知っている。
 面倒臭い兄妹のやり取りは時に殺意を交わす程の熱を帯びる事はあっても――半ばお約束じみていた。
「フン、『野良』の連中も使いようという事か」
「そういう事です。彼女の動きは『仕掛け場』ではなく『仕込み場』ですわよ」
2019/5/9(2/2)

 ルストと頷いたベアトリーチェの言う通り『常夜の呪い』でネメシスを覆った魔種は討ち果たされた。
 酷い個人主義者で構成される魔種は『親』であっても完全な統制は難しく、ましてやその親がカロン(きょくどのめんどうくさがり)であれば言うまでもない。従ってこの時期に彼女が場を引っ掻き回したのは元々は二人の計算の内にあらず、さりとてどちらかと言えば強力な魔種であった彼女の活動が役に立ったという評価は妥当な所だった。
「直線的な手段ではあれが精々。
 お陰様で十分な準備は出来ましたとも。次はルストのお望みの通り、この私。
 この私の『クレール・ドゥ・リュヌ』をご覧あれ、といった所です」
 芝居がかったベアトリーチェを薄笑いの半眼で眺めるルスト。自身の司る『傲慢』の通りにそれは何処か彼女をすら軽侮する色を帯びていたが――面倒臭い『兄』のそんな有様にベアトリーチェは構わない。
「ルストは、人間をどう思いますか」
「魔種と変わらんな」
「勿論。魔種とは『最も人間らしい存在』ですとも。では、この『聖都』の事は?」
「まるで呪いだな。全く以て理解に苦しむと言わざるを得ない。
 先程は魔種と変わらんと言ったが――ここの連中と比べるなら魔種の方が『人間らしい』」
 さもありなん、と満足そうにベアトリーチェは頷いた。
「呪いのように染みついた強い抑圧、感情を押し殺すのが美徳とされるこの『聖都』。
 だからこそ、中途半端では何事も起きないのですよ。『常夜』が力を尽くしてもそれは一時。
 コップの中を幾ら騒がせても、そこに立つ水面は一時の騒乱(なぐさめ)にしかなりませんから」
 ベアトリーチェの口角が邪悪な程に持ち上がる。
「『器自体を叩き割るだけの衝撃こそ不可欠です』。
 故に月光人形は昏く輝く。ヒトの琴線を揺らし、鉄の抑圧さえ振り切るのは」

 ――常に最も罪深く、最も美しい愛という感情に他ならないのですから――

「ええ、ええ――イノリ様も、きっとそれを望まれる」
 薄い唇を血のように赤い舌が舐め上げた。
 ベアトリーチェはやがて始まる狂騒の舞台を夢想するように仄暗き愛を想うばかり。
2019/5/18(1/2)

<月影の女>
 思い出したくない事程、強く印象に残っているものだ。
 幸福な記憶は掌からすぐに零れ落ちていく割に、忌避すべきワンシーンは頭の中にこびり付いて離れない。
 聖都の端で人知れず起きていた異変の件が知らしめたように、『黄泉還り』による狂気の伝播が『サーカス』の一件と同様の規模となって居ることに特異運命座標は気付いていた。
「……それで、『先生』?」
 助手役を気取る『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)が件の探偵に冗談めかして問い掛けた。今回の事件も状況への対症療法に過ぎなかったが、これまでと違う話があったのも確かだった。
「黄泉還りの足取りに『黒衣の占い師』の影があり、か。
 それが真実か、証拠も確証もどこにも存在してないけど……」
「そうね。もしもお兄ちゃんだったなら『確かめるべき』というと思うわ。
 憶測だけれど――きっと、この事件にその『黒衣の占い師』が関わっているのは確かだもの」
 『青の十六夜』メルナ(p3p002292)は、兄の代わりを務めるように、あくまで兄の思考を選択する。焔と続いたメルナの言葉に肩を竦めたコートの男――『先生』こと探偵のサントノーレは「お兄ちゃんが言うなら確かだ」と笑っていた。
「『先生』? 笑う所なの?」
「笑えない冗談を言うのが大人の男の余裕ってモンだぜ。
 焦ったって仕方ない。こんな時には無理矢理にでも――やせ我慢でも『余裕』を取るのさ。
 それで頭もハッキリする――それはそうと、助手役も板についたね、焔ちゃん」
「むう」と難しい顔をした焔にサントノーレは「オーケー、マジで行こう」と頷いた。
「確かに例の話は――俺も気にはかかってる。
 聖都への帰り道で寄り道をしたけど、占い師の女の話を何度か聞いた。
 全く関わりの無い複数の人間が似たような証言をするって事は――『何かある可能性』は十分だ。
 問題は俺にもその女の足取りは掴めてないって所なんだが」
「それは……彼女の足取りを掴もうとも……
『黄泉返り』が終わった後では私たちにはそうするすべがないからでしょう」
 踊り子として村人の注目を集め続け、広場での情報を耳にしていた『銀月の舞姫』津久見・弥恵(p3p005208)は苦々しくそう言った。

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