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樹上の村

街角保管室

街角の更新ログ

何となく残しておくと面白いかも知れないと思ったので記録しておくことにする。

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2019/4/16(2/2)

 リンツァトルテはその事情を知らなかったが、朴念仁の彼とてそれを心配する気持ちが無い訳ではない。

 ――在りし日に還る死者は、時計の針を逆に動かす存在である。
   現在は生ある者のみによって紡がれるもの。
   厳粛たる終わりを戻す事は神と死者そのものへの悪罵に他ならない――

 フェネスト六世の言葉は当然ながらネメシスの正対せねばならぬ深刻な事態を重く受け止めていた。
 規律正しく秩序をもって生活していた聖都の市民の『非協力』はこの国では類を見ない規模に膨れ上がっている。『本来ならば』率先して悪を告発し、間違いを正してきた市民達が今となっては聖騎士団の目を盗むように『戻ってきた何者か』を庇い立てている。
 これはネメシスの最も嫌う状況だ。
 中央の絶大な力はネメシス国民自身の支持によって成り立っている。つまる所、民心の混乱こそ最も危険な事態であり、『敵』がその民心自体であるが故に強権的な対処さえ難しい。
 完璧な統制に生まれた一分の隙は歪に膨れ上がり、何かの時を待っているかのようである。
 杞憂に済むならばどんなに良いか――リンツァトルテは考えたが、それを保証する者は何処にも無い。
「……どうした」
「いえ、その……」
 深く嘆息したリンツァトルテにふと、兵士が何かを言いたそうにした。
「言ってみろ。ここには俺以外誰も居ない」
 彼の言葉には小さな皮肉が混ざっているが、多少気心の知れた上官に促され兵士はおずおずと一つの問い掛けをした。
「――――」
 一瞬だけ面食らったリンツァトルテの表情が苦笑いの形になるに時間は掛からなかった。
「成る程、他の人間には言わない方がいい」
「恐縮です。愚かな事を問いました」
「いや」
 リンツァトルテは口元を歪めて兵士の問いに『答え』を返す。
「この目で事態の確認をする事は必要だ。肯定はせずとも、真相に興味が無いと言えば嘘になる。
『何より俺は天義騎士としてより正しくあるにはどうするべきかを何時も知りたいと思っている』」

 ――コンフィズリー殿は、仮にそれが叶うとしたら、誰かの、黄泉帰りを望みますか?

 知れた事だった。問いたい事等、山とある。
 例えばこの国に本当に正義はあるのか、とか――

 ――ねぇ、父上。


※フォン・ルーベルグを中心に多数の『黄泉帰り』が確認され、民心が乱れているようです……

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