PandoraPartyProject

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春告げの光

 春を啄む小さな啼鳥の声を聞く。鉄帝国の動乱は、長らくの冬を遠ざけ漸く春の兆しを齎した。
 復興作業を必要とする帝都を始め、諸地には春告げの花が綻び人々は一息吐くことが出来た頃合いだろう。
「イレギュラーズちゃん」
 ほっと一息を吐いたのはエリス・マスカレイド――銀の森の女王にして『フローズヴィトニルの欠片』、本来の名を『ディスコルディア』と言う精霊である。
「よくぞ、バルナバスを退けました。
 あの暗き太陽が消え失せ、鉄帝国(ゼシュテル)の旗がはためいたのはまるで夢のような光景でした。
 わたしは、ゼシュテルの住民でなければ、人でもありません。ですが……心の底から喜びを感じたのです」
 穏やかに微笑むエリスは傷を追いながらも強大なる相手に立ち向かうイレギュラーズに敬意を抱いていた。
 リッテラムに掲げられたあの旗はどれ程に美しかったか。金獅子の娘は眼窩に見下ろすスチールグラードを見詰め、何を思った事か。
 彼女は父の言葉に従い勇猛果敢に戦ったのだそうだ。
 わたしも。そう呟いてエリスは目を伏せた。
 己は怯えてばかりだった。あの戦いは、この国を混迷に叩き落とした。
 多くの犠牲が出た、英雄達の中にも戦いの中で命を落とした者だって居た。……彼女は、そして、仲間達は、皆、求める未来の為に必死だったのだ。
 エリスとてフローズヴィトニル――伝承の『悪しき狼』を封印する為に己の身を挺するつもりだった。
「……イレギュラーズちゃんには、驚かされることばかりでした。
 わたしは、フローズヴィトニルと……『おとうさま』とひとつに混じり、共に眠るために生まれたのだと、ずっと信じていました」
 不和と争いの名を与えられた精霊であった彼女は人間との関わりの中で、『エリス』とその呼び名を変えたのだそうだ。
 長く続いた自らの宿命から解き放たれたのは、フローズヴィトニルの為を思ったイレギュラーズ達のお陰でもあった。
今日は、のんびりと過ごしませんか
 ……フローズヴィトニルの封印も、バルナバスの撃破も、終ったのですから」
 其処まで告げてから、ふと、エリスは『風』の中に喧噪を感じ取る。

 どうやらラド・バウを始め、各地では祝勝の宴が開かれるようである。
 此度の勝利は『救国の英雄』達が居ての事だと豪語する者も居る。力こそが全てである鉄帝国において、イレギュラーズの実力が全国民に披露されたようなものだからだ。
「場外戦闘でコレだけ派手にやられちゃラド・バウファイターの名も廃るわよね」
「とか、言いながら本当は結構楽しかったでしょ? リーダー役」
 何よと唇を尖らせたビッツ・ビネガーパルス・パッションがからからと笑う。両者ともに軽い手当だけを施し、傷だらけであることが分かった。
「まあ、悪くはなかったわよ。
 けどねェ……一つ忘れちゃ駄目ね。帝政も南部もお堅い軍人様達にちゃーんと周知しなさいな?
 良いわね、アンタ達! ――勝利したならッ?」
 其処まで告げたビッツの傍で「パーティー!」と幾人かのラド・バウファイター達が飛び上がった。  やれやれと言わんばかりのゲルツ・ゲブラーと、「ギエエエエエエエ」と叫び回るマイケルのケツを突くウォロク・ウォンバットメルティ・メーテリアが何とも言い難い表情で眺めて居る。
「何? プロテインはあるのか?」
「ウホホホホホ(バナナを喰え)」
 アンドリュー・アームストロングコンバルグ・コングの楽しげな声を聞いていたリーヌシュカは一人、その場を後にする。
 ――目的地は天空に座する『アーカーシュ』だ。
 今の彼女は鉄帝国軍人でラド・バウファイターで在る前に、一人の『アーカーシュ』の人間だという自負がある。
「あら、行くの?」
「お土産、楽しみにしててよね」
 行ってらっしゃいと手を振るビッツにリーヌシュカは悪戯めいた笑みを浮かべた。

 爽やかな風の吹くアーカーシュに、冬の気配が未だ残ったヴィーザルの地、人々の営みを濃く感じるギア・バジリカ
 未だ落ち着かぬ派閥では縮小の宴の前に被害確認が行なわれているらしい。
 それだけ大きな戦いだったのだ。
 吹雪の爪痕はくっきりと大地へと残り、無数の鉄くずと残骸に塗れた街は異様な風景そのもの。
 人が生きて行く為に必要不可欠な準備を急ぐようにと声を掛け合う者達を見れば、エリスはどうしようもなく胸が熱くなるのだ。

 ――生きて、いてくれた。

 悪しき狼の爪は大地を抉った。恐ろしき冬が全てを閉ざしてしまった事は、何もにも代えがたかった。
(……長い別れを、しなくてはなりませんね)
 エリスが振り返れば、そこには『ウォンブラング』の魔女、ブリギット・トール・ウォンブラングが立っていた。
「……ブリギットちゃん」
「精霊女王、お父様の容れ物と、わたくしの……『友人』だったものはお預かり致します」
 ブリギットは魔種である。呼吸をするだけで、心の臓を動かすだけで、世界に滅びを蓄積させる『許されざる存在』である。
 だが、彼女が幾許かの『許された時間』を得ているのは確かなことだった。
 奇跡によって、女は僅かに考える時間を得た。同様に、最後の決定を降せば穏やかな眠りに就くことも出来るだろう。
 今、彼女が手にしている『封具』は柔らな春色の欠片であった。その内部には鎖が透けて見えている。封じ、そして『包み込んだ』品を持って、彼女は『封印の地』へ向かう。
「わたくしにお任せ下さい。無事、フローズヴィトニルはウォンブラング……はじまりの地に、縛り付けましょう」
「ブリギットちゃんは、どうするのですか?」
リュティスアレクシアルル家スティア……ンクルスリュコスヨゾラジルーシャシラスヴァレーリヤ……。
 沢山の子供達に少しだけ時間を貰いました。わたくしは、魔種です。斯うして話しているだけでも滅びを蓄積させ、愛しき子達の未来を潰しかねない」
 暗い表情を見せたブリギットは欠片を撫でてから目を伏せた。
「本当の春が、救いの日が訪れるまで眠っていることを、時を止めることを、あの娘達はわたくしに機会として与えてくれました。
 莫迦なことを、と思って居たのです。ええ、けれど……ある『友人』が底抜けの御人好しばかりのイレギュラーズを相手にしているのだから、と。
 わたくしを驚かせ、狂気をも吹き飛ばすような未来を見せてくれる事だろうと、言っていたのです」
 その人の言葉を一つ、胸に留めていたからこそ己はこの時間を享受することが出来た。
 そう呟いてからブリギットは「改めてお礼を申し上げねばなりませんね」と呟いて目を伏せた。
 女は、ウォンブラングの地でフローズヴィトニルの最後の封印を施す。
 そして、その場で――『あの海の魔種と同じように最後の死が訪れることなく』、『あの森の魔種のように長き眠りに着く』のだそうだ。
「……別たれた道を、ともに歩み、今からはまた、皆が別の道を進むことになるのですね」
 エリスは目を伏せてから、先行きを願うように指を組み合わせた。

 白魔に攫われた命も、動乱の影に消えた数々の星もあっただろう。
 それでも、今、この地に訪れた春が運んだぬくもりは、素晴らしき未来の訪れを予感させた。

 バルナバス・スティージレッドが倒され、リッテラムにゼシュテルの旗がはためいています!
 ※帝都決戦に勝利しました!!

 All You Need Is Power(鉄帝国のテーマ) 作曲:町田カンスケ


 ※ラサでは『月の王国』への作戦行動が遂行されています!
 ※昨日(4/1)は何もなかったよ……?

鉄帝動乱編派閥ギルド

これまでの鉄帝編ラサ(紅血晶)編シビュラの託宣(天義編)

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