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シナリオ詳細

<春告げの光>そして鉄旗は不変にはためく

完了

参加者 : 43 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●鉄帝、解放!
 歌が聞こえて、笑い声が聞こえて。
 真っ白な蒸気は、まるで祝福を告げるように、ぷかぷかと空に浮かんでいく。
 鉄帝の町並みは、今はかつてのにぎやかさを取り戻していた。
 王城、リッテラムより望む帝都。まるで鉄と歯車の宝石箱のような街は、我々の取り戻した、かけがえのないものに間違いなかった。
「しかし、酷いありさまだな」
 ふん、と鼻を鳴らす、グラナーテ・シュバルツヴァルト。その視線の先には、彼の冠位魔種との『二度にわたる』戦いにより、あちこちが瓦礫の山と化した王城の姿があった。
「バルナバスは、自分の住処にはさほど頓着しなかったようだな。
 ふん、どうせ好きにできたのだ。内装も修理しておいてくれればよかったものの」
「ですが、結局二度目の、ローレットのみなさんとの斬りあい(おはなし)で、ボロボロになったのでは?」
 小首をかしげるメルティ・メーテリア。ラドバウ闘士であったが、帝政派に協力していた彼女は――いや、今はもう、派閥が云々と語る時ではあるまい。今はもう、すべては一つにまとまったのだ。六つに分かれたかつての鉄帝の民は、それぞれの理想と思惑を基に、それぞれの力を求めた。それが最終的に一つにまとまり、強大な敵を打破することができた。
 別たれたことは、無意味ではなかった。一時別たれ、そしてもう一度出会ったときに、誰もがこれまで以上に成長していたからだ。
 さておき。リッテラムがボロボロなのは確かで、バルナバスがきれいに整えていたとしても、再びボロボロになったであろうことは確実だ。なにせ、彼の冠位魔種とローレットの戦い、その激震地である。
「……また不要な出費が必要になるな。バイル卿――」
 そう、グラナーテが言って、しまった、という顔をした。
「ちっ……このめでたい日に遠出とは。さっさと帰ってきてもらわんと、私の仕事が増えることとなる」
 バイルの行方は、いまだ不明のままだ。この場において、彼の姿だけがなかった。
「いずれにしても、今は我々が仕事をひきつごう」
 レオンハルト・フォン・ヴァイセンブルグが、わずかにかぶりを振りながら言った。
「ひとまずは、戦いに明け暮れた民と、兵と、ローレットのみなを労わなければ。
 それに、『鉄帝復活』を、内外に強くアピールする必要もある。
 つまり――祭りだな」
 レオンハルトがそういうのへ、グラナーテがうなづいた。
「ザーバ殿――すぐに南部に戻るわけではあるまい? 今日くらいは、帝都でどっしりとしていてほしいものだが」
「いや、俺は――」
 ザーバ・ザンザが露骨に嫌そうな顔をしたのへ、ゲルツ・ゲブラー耳打ちをした。
「南部派閥の長たる身。こういう時くらいは大将面して公的にふるまって頂きたい」
「ローレットとのやり取りは、実質的にはお前の仕事だっただろう、ゲルツ」
 ザーバが苦笑するのへ、ゲルツは肩をすくめてみせた。
「将軍がどうお考えてあろうと、トップはトップ。将軍としての責務をお考え下さい」
 ふむ、とザーバは嘆息した。それから降参するように両手を上げて、
「南部が心配故に、短時間なら」
「それで構わないよ、ザーバ殿」
 レオンハルトがうなづいた。
「で、アタシたちは好きにやっていいわけ?」
 そういうのは、ビッツ・ビネガー。その隣にはパルス・パッションの姿もあった。
「ラド・バウだろう。好きにするのが仕事のようなものだ」
 ゲルツが言う。
「バルナバスですら『好きにしろ』って言ってたものね。まぁ、あれは思惑があったんだろうけど」
 パルスが、むー、と唸りながらそう言う。新皇帝派の支配の中で、ラド・バウは通常通りの運営を許されていた。バルナバスの支配の中の唯一の娯楽といえたが、それが許されたのはバルナバスの趣味であったのかもしれないが。
「なんにしても――祭りと言えど、アタシたちはいつも通りよ。ラド・バウは誰でも歓迎するわ」
「よし。では、プランを練ろう。ひとまずは、ここにいるメンバーで――北辰やアーカーシュ、革命派の連中にも、あとで話をつけておけば問題ないだろう」
 グラナーテがそういうのへ、その場にいる全員がうなづいた。

●鉄旗はためく下で
 蒸気はいつも以上に華やかに、勢いよく空へと立ち上っている。
 帝都全域、あるいは鉄帝全国を巻き込んだ、勝利の宴。あるいは解放祭とでもいうべきそれは、瞬く間に開催の段取りをつけ、あっという間に開催の日を迎えていた。
 かつては、怪物と悪漢によって支配されていた大通りも、今は多くの人々の笑顔て賑わいで埋め尽くされた、『かつての鉄帝の姿』を見せていた。
「さぁ、今日は解放のセールだ! 出血覚悟で大安売りしてってるから、何でも食っていってくれ!」
「もう二度と俺たちは、バルナバスに負けたりはしない――ってことは、さらに鍛えなきゃならねぇよな!
 トレーニング器具を大セールだ! みんな買って、ガンガン鍛えて、さらに強くなろうぜ!」
「プロテインが安いよ! プロテイン配合ドリンクで、子供のころからムキムキだ~!!」
 ……いささか脳筋に偏っている気もするが、いずれにしても、街のあちこちに屋台やお店が出店していて、大賑わいの様相を呈していた。大通りには、発掘兵器を改造した『おみこし』が走っていて、いつでも飛び入りの『担ぎ手』を募集している。屈強な老若男女が、勢いよく蒸気を吹きだすおみこしを担いで、血気盛んに雄たけびを上げている。
 ラド・バウに目を向ければ、ラド・バウは「いつもの様子」だった。つまり、解放祭・エキシビションマッチという名目であちこちで野試合のようなものが開かれ、コンバルグ・コングの『ゴリラでもできる筋肉体操』の実演が行われていたりする。特設ステージはもちろんパルスちゃんがぱっるすちゃーん! とライブを開いている。いつものラド・バウの光景であり、我々の守った『いつもの光景』を強く心に刻んでくれた。
 王城リッテラムでは、ローレットや、派閥兵士たちのためのに貸し切りの立食パーティが繰り広げられている。といっても、格式張ったものではないのは、実に鉄帝らしい。大いに食べ、飲み、笑いあえばいい。そうしていい権利を、戦いに勝ち抜いた我々は持っているのだ。
 そんな祭りの中に、あなたもいる。あなたは今日、どのように過ごすのだろうか。
 勝ち取った平和を噛みしめながら、今はひと時の休息に身をゆだねてほしい――。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 鉄帝解放。その偉業、お見事でした。
 今はその体を、ゆっくりと休ませてあげてください。

●成功条件
 鉄帝の解放祭に参加する!

●特殊ルール
 本シナリオでは、報酬として得られるパンドラの値が、+1から+3になります!

●プレイング書式について
 もし、グループ・チーム、あるいはペアでのご参加を希望の方は、
 一行目に、【グループタグ】or同行者(ID) ※なしの場合は空行
 といった形で記載をお願いします。
 この記載がない場合、迷子になってしまう可能性もありますので、ご協力をお願いします。

 それでは、以下の選択肢から好きな場所を選んで、休日をお過ごしください!


行動場所
 以下の選択肢の中から行動する場所を選択して下さい。

【1】帝都大通り
 帝都の大通りです。ここはまさにお祭りの会場といった様子。
 各地で屋台やお店で大セールを行っており、
 また、カーニバルの様に、ゼシュテルのおみこし(発掘兵器を改造したもののようです)が練り歩いています。
 此処では、屋台での買い食いやお店での買い物、おみこしの担ぎ手をやってみたり、路上ライブを開いてみたり、外で楽しめることはだいたい何でもできます。

【2】ラド・バウ
 ラド・バウは平常運転ですが、いつもお祭り騒ぎといえばその通りです。
 エキシビションマッチとして、あちこちでトレーニングを兼ねたバトルロイヤルのような野試合が行われていたり、コンバルグがゴリラ体操をしていたり、パルスちゃんがライブを開いたりしています。
 此処では、思いっきり体を動かすことができるでしょう。休息!? いやバトルだ! といった方たちにお勧めです。
 

【3】王城リッテラム
 リッテラムでは、兵士たちはローレットの皆さんのために、立食パーティが開かれています。
 とはいえ、格式張ったものでもありません。大いに食べ、飲み、歌えばいいのです。

 王城での活動になります。立食パーティに参加したり、今回の戦いにも乗想いを馳せたりするのもよいでしょう。

【4】リッテラム中庭
 王城でも、静かな場所です。一人きりや、二人だけになれたりします。
 庭園は質実剛健ながら美しく、大きな噴水が空気を穏やかなものにしてくれるでしょう。
 奇跡的に破損は少ないため、穏やかに過ごすことができます。

  • <春告げの光>そして鉄旗は不変にはためく完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別イベント
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2023年04月19日 22時06分
  • 参加人数43/∞人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 43 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(43人)

アンドリュー・アームストロング(p3n000213)
黒顎拳士
ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
セララ(p3p000273)
魔法騎士
日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
志屍 志(p3p000416)
天下無双のくノ一
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)
キミと、手を繋ぐ
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
武器商人(p3p001107)
闇之雲
リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
ディバイン・シールド
Lily Aileen Lane(p3p002187)
100点満点
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら
フルール プリュニエ(p3p002501)
夢語る李花
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
ルミエール・ローズブレイド(p3p002902)
永遠の少女
赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
メイメイ・ルー(p3p004460)
祈りと誓いと
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し
カイト(p3p007128)
雨夜の映し身
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣
雨紅(p3p008287)
愛星
鏡禍・A・水月(p3p008354)
鏡花の盾
天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師
観音打 至東(p3p008495)
ラムダ・アイリス(p3p008609)
血風旋華
祝音・猫乃見・来探(p3p009413)
優しい白子猫
Я・E・D(p3p009532)
赤い頭巾の魔砲狼
ファニー(p3p010255)
綾辻・愛奈(p3p010320)
綺羅星の守護者
レイン・レイン(p3p010586)
玉響
フーガ・リリオ(p3p010595)
君を護る黄金百合
水天宮 妙見子(p3p010644)
ともに最期まで
クウハ(p3p010695)
あいいろのおもい
シェンリー・アリーアル(p3p010784)
戦勝の指し手

リプレイ

●取り戻した春
 今や帝都は、人々の笑顔であふれている。
 ほんの少し前まで、絶望と冬、そして黒き太陽が支配していたこの地も、今は希望に満ち溢れた、かつての姿を取り戻した。
 そして、その立役者であるローレット・イレギュラーズたちを称え労うように、町中ではお祭り騒ぎ――というわけだ。

『魔法騎士セララ&マリー参上!』
 と、びしっ、とポーズを決めて見せるセララとハイデマリー。にっこりのセララに対して、ハイデマリーは若干表情筋が死んでいる気がするがさておき。
「鉄帝民の皆様、本日は解放された記念日ゆえ、皆で祝いあいましょう」
「今日は鉄帝が解放された記念日だよ。皆で盛り上がっていこー!」
 ぴょんぴょんと飛び跳ねて見せるセララに比べて、ハイデマリーの動きはいささか硬い。聴衆に家族の姿を見かけたからだ。お忙しいと思っていた父上も、なんでか母上と一緒に、家族総出で群衆に交じっていらっしゃる。どうして。
「ほらほら、マリー! せっかくの記念日なんだから、ね?」
 笑うセララに、ハイデマリーは覚悟を決めた笑みを浮かべて返した。
「ふ……これも鉄帝軍人の務めなれば……!」
 バックダンサーたちと奏でる、マジカルなエンターテイメント。二人の魔法少女が飛び跳ねるように踊り、魔法少女部隊がそれに華を添える中、雨紅も合わせるように華麗な舞を踊って見せた。
「普段とは違う曲調ですが――ふふ。これもまた、よい曲で」
 おそらくはセララのマジカルアニメソングだと思うが、雨紅にはそれを知る由もあるまい。ただ、民たちの喜びをのせて、舞として踊りあげるのみである。それは、二人の魔法少女とは違った感動を、聴衆たちに与えてくれたはずだ。
 まるで合わせるように、鉄帝神輿を担いだ列が大通りを行く。メイメイは、そんな列成してゆくお神輿に、目を丸くして驚いた。
「わ、わぁ……すごい……!」
 興味惹かれるままに、メイメイは、
「あ、あの、おみこし、担いでみても、宜しいです、か?」
「おう! 飛び入りはいつでも歓迎するぜ! 今日はお祭りだ!
 お嬢ちゃんは一寸小柄だから、そっちの子供たちと一緒に担いでくれよ!」
 その言葉に、メイメイは嬉しそうにうなづいた。
「おねーちゃん、こっちだよ!」
 少し小さい子供向けのおみこしを、子供たちが楽し気に担いでる。その輪に入って、メイメイは平和の温かさを実感していた。
「ようやく終わったのね」
 そんな暖かさを実感していたのは、ジルーシャもそうだ。ジルーシャはあちこちで楽しげに笑いあう民たちを眺めながら、買い物としゃれこんでいる。
「それにしても、すごいわね。おみこし!」
 楽しそうに言うジルーシャに、住民の男が笑いかける。
「ああ、戦火に焼かれなくてよかったよ……いや、鉄帝の神輿が戦火なんぞに焼かれるわけはねぇか! ガハハ!」
 愉快気に笑う住民に、ジルーシャも笑いかけた。
「ふふ。きっと、そうね。
 ねぇ、よかったら、この辺りでおすすめのお店教えてくれない?」
「おう、そうだな。まずは――」
 住民が楽し気に案内をしだす。そんな雑踏に紛れて、かつて新時代英雄隊に所属していた少女、ソフィーヤが、感慨深げに神輿を眺めているのを、オリーブは見つけていた。
「ソフラウリッテさん」
「あ……ローレルさん」
 ソフィーヤが頭を下げるのへ、オリーブもゆっくり頭を下げた。
「決戦の時のことを聴きました。お力になってくれたそうですね。自分は……」
 家族の悲報を告げる役目を担ってしまったこと。どこか申し訳なさそうに言うのへ、ソフィーヤは悲しそうに、でも責める様子はなく答えた。
「……ありがとうございました。ローレルさん達が教えてくれなかった、わたしたちは最後まで間違えたままだったかもしれません」
「これから、どうなさるのですか?」
「一度、隊の皆と故郷に戻って、亡くなった家族の弔いを。
 それからは、そうですね。まだまだ、復興の力は必要ですから。
 今度こそ、ちゃんと、皆のための英雄になろうと思います」
 つらいだろう、悲しいだろう。それでも、気丈にふるまう少女に、オリーブはゆっくりとうなづいた。
「……頑張りましょう。自分も、全力を尽くします」
 そういうオリーブに、ソフィーヤは微笑ってうなづいた。
 街中には、カイトとアンドリューの姿も見えた。二人は屋台の串焼きを買うと、さっそくとばかりにほおばった。
「うむ……いい肉だ。俺の腹直筋も喜んでいる……」
「そりゃよかった。こうして祭りが開けるのも、不凍港を取り戻せたのもあるのかな……」
 カイトがそういうのへ、アンドリューはうなづく。
「きっと、そうだろう。ふ、この祭りも、カイトたちのおかげというわけか」
 そういうアンドリューの言葉を、どこか誇らしく思いながら、カイトは笑う。
「まー、しみじみするのは此処までなんだけど!!!
 はい! お互いに頑張ったから本日はチートデイとする!!!」
「むむ、今日はチートデイか。よく分からんが美味いものを食うということだな!
 ならば俺が案内しよう! この先の店のブルストとビールは格別だぞ、カイト!」
「よし! 今日はもう、とにかく一緒に食いまくるとするか!」
 憂いなく、平和の中で、友と二人で食事をとれる。それはなんと、うれしいことだろうか。
「こうしてお前と共に旨いものを食べられるのは嬉しいな!」
 にっ、と笑うアンドリューも、また同じ気持ちなのだろう。二人の幸せな一日は、まだ始まったばかりのようだ。
 さて、瑠璃もそんな、食べ歩きを楽しんでいる一人だ。とはいえ、その表情にはわずかな遠慮のようなものがあった。酒を嗜んではいるが、心地よく酔う……とまではいかないらしい。
「……まだ生き延びた魔種もいるようですからね。騒動など起こさねば良いのですが」
 そうは思うが、しかしこの場で暴れれば、如何に魔種と言えどあっという間にとり抑えられて終わりだろう。それは瑠璃もわかっている。これはなんというか、自分の心残りを昇華するための行動なのかもしれない……そんな風に思った刹那、どこかで見たような姿を、群衆の中に見つけたような気がした。
「……まぁ、大人しく祭りを楽しんでいるのでしたら、今日の所は」
 見逃してあげましょう、と、大ぶりな肉を包んだサンドイッチをかじって見せる瑠璃である。
 さて、そんな大通りの一角で、笑いと悲鳴がひときわ大きく響いている、そんな場所があった。そこには、【春の鉄帝激辛祭り】と書かれたのぼりが立っていて、近づいただけでも、さわやかな熱気とスパイシーな香りが漂っているのが分かった。
「ぶはははっ! 思ったより盛況じゃねぇか!」
 愉快気に笑うゴリョウは、大ぶりな中華鍋を振るっている。だだん、と豪快に斬った唐辛子を鍋に振りかけ、真っ赤に染まった担々麺などの料理を、次々と作り上げていった。
「鷹の爪が三箱じゃ足りなかったか?」
 さすがのクウハも苦笑する。イレギュラーズたちが客として訪れているのもそうだが、鉄帝の民も、やはりもともと辛い料理が好きなのか、多くの民衆が訪れて、ゴリョウのスパイシーな中華料理に舌鼓を打っている。どころか、どうやら一部の料理人たちは「俺の辛みが最強だ!」と言わんばかりに、一緒になって店を組み立てて料理をふるまい始めたらしい。
「かもしれねぇなぁ? ま! 少なくとも、食材が余っちまう心配は必要なさそうだ!」
 ぶははっ、とゴリョウが笑う。クウハが用意する鷹の爪入りのチョコレートを、鉄帝女子が楽しげに笑いながらかじっているのが見えた。
「ほら、おいらのパエリアも食べてほしいな!」
 フーガがパエリア鍋をテーブルに置くと、鼻を刺激する辛味の匂いと、海鮮の香りが混ざり合った、香ばしさを感じさせるパエリアが、群衆の目を楽しませてくれる。
「まだまだたくさんあるから、好きなだけ食べていってくれよ!
 口休めしたいなら、薔薇の工芸茶を入れるから、気軽に注文してくれ!」
「そうだな。辛いからと水を飲むのはよくないらしい」
 大地が、フーガのお茶を受け取りながら、そういう。
「辛い物を食べて、急激に冷やすのはお腹によくないんだそうだ。
 だからこういったお茶で温めてあげるといいらしい。
 辛い物を食べる前に飲むなら、牛乳だ。膜を張って、胃を保護してくれる」
「へぇぇ、そうなんだ」
 と、辛味など気にする様子もなく、パクパクと料理を口に運ぶЯ・E・Dが、感心したように言う。
「まぁ、わたしは辛いの全然平気なんだけどね。あ、フーガさん、パエリアお代わりしたい」
「いいけどよ、Я・E・D、左手にケーキとか持ってて、両方食べられるのかい?」
 フーガが苦笑するのへ、Я・E・Dはうなづいた。
「まったく全部食べられるよ。
 それに、辛い物と甘い物は交互に食べると辛さが中和されていっぱい食べれるようになるんだ。
 これは人生のライフハックだと思うから、皆、マネしても良いよ」
 むふー、とЯ・E・Dは得意げに笑った。
「さあ、フルールちゃん。
 美味しくて辛ーい中華料理を沢山食べましょうね?
 食べさせてあげるわ。はい、あーん♡」
 そんな会場の一角、テーブルの上に並べられた激辛中華料理、麻婆豆腐をひとさじすくって、ルミエールはフルールへ「あーん」として見せる。さすがのフルールも、困った顔をして見せた。
「ちょっと? ルミエールおねーさん? 何で嬉々として私に食べさせようとするのですか??
 私、痛いのは好きだけど辛いのは駄目なのですよ? 知っててやってます? ……食べますけど」
 ぱくり、といただくフルール。どうやら特別に辛い奴らしく、むー、と涙目になって辛さに耐えている。ルミエールは楽し気に微笑んだ。
「私の為なら100回死ねるって言った癖に意気地無しねぇ。
 でもアルミラージは食べられるわよね?
 アルミラージ、はいあーん♡」
「ちょっと、アルミラージ。何してるの? 食べちゃ駄目よ? 私がつらいから。
 食べちゃ駄目……駄目よ。駄目って言ってるのにぃぃぃぃ辛いわぁぁぁぁぁぁ……」
 ごろごろと転がるフルールを、ルミエールは楽しそうに見つめている。それから、クウハに視線を移した。それに気づいたクウハが、苦笑しながら水とチョコレートを用意してやっていた。
 お祭り騒ぎは、そんな激辛祭りの会場だけでなく、町全体に広がる様に続いている。武器商人とファニーも、そんな町の一角で平和を楽しんでいる一員だ。
「よると二人で外出するのは、はじめてだ」
「確かに、こういう感じに2人でお出かけするのは初めてだねぇカティー」
 ファニーの言葉に、武器商人がうなづく。ファニーはひとの姿をとりながら、武器商人の服の裾をつまんでいた。手でもつなぐかい? と尋ねようとしたが、こういう形もいいだろう。無自覚かもしれないが、ファニーも喜んでいる様子を見せているのを、武器商人は気づいていた。
「鉄帝は寒いからか、味付けが濃いんだな」
「屋台だからっていうのもあるかもね。嫌いかい?」
「いや、助かる」
 そううなづくのへ、武器商人も微笑した。
「そうだ、そろそろお神輿が通るんだ。まぁ、若干特殊な奴だが」
「おみこしっていうのは、なんだ?」
 不思議そうに尋ねるファニーへ、武器商人はうなづく。
「おみこしを見るのは初めてかい? なら、特等席を探そうか」
 そういって、武器商人が、ファニーの手をやさしくつかんだ。それを探る様に握り変えして、ファニーは一緒に歩いた。
 お神輿が進む通りの一角。喫煙可能なテーブルに、愛奈は腰かけて、平和の光景を眺めながら、ゆっくりと煙草の煙を吸い込んだ。
「戦いは終わり。この後は、復興という新たな戦いが始まるのでしょう。
 でも、戦いは、ひとまず終わり。終わりました」
 ふ、と、紫煙を吐く。唇からこぼれた煙が、空に昇る。
(この平穏に貴女は居ない。
 あの空で私達を護ってくれた貴女。
 もういない、貴女)
 胸中で、つぶやく。空を見上げた。散ってしまった、一輪の華。
 たばこの煙を、もう一度、吸い込んだ。それからゆっくりと、吐き出した。
 もういちど、煙が空に昇っていく。昇って昇って、雲になればいいと、そんな風に思った。

●「いつもの」ラド・バウ
 ラド・バウのにぎやかさは今日も変わらない。でも、これまでは「異常の中で平常を保とうとした」故の、いびつな「いつも通り」だったはずだ。
 でも、今日からは違う。
 ほんとうに――いつも通りの、今までのラド・バウが帰ってきたのだ!
「それで、これは――」
 彼のザーバが困ったような顔をするのは珍しいかもしれない。というのも、ザーバの足元にはたくさんの子供たちがいて、押し合いへし合いしているわけだ。
「ふっ、ザーバ。ラドバウでちびっこを相手にして未来の勇士を育てるという私の策にまんまとハマったわね!」
 腰に手をあて、びしっ、と指さすイーリン。隣には妙見子や汰磨羈、Lilyの姿があった。
「ザーバ様をラドバウに引きずり出せってイーリン様が!
 というわけでお初にお目にかかりますザーバ様、騎兵隊が……って私別に騎兵隊ではないんですが……とにかく妙見子です!」
 ぐっ、と胸を張る妙見子。ザーバもさすがに苦笑をした。
「なるほど、ちびっこ。お前の策か」
「誰がちびっこですって!?
 背中預けて死線をくぐった女に!?
 しかも私まだ名前呼んでもらってないんだけど!?」
 イーリンががーっ、と言葉を紡ぐ。汰磨羈が愉快気に笑った。
「イーリンは確かに小さいな。なんせ、私より5㎝も低い。
 そう。私よりも! 5cm低い!」
 なんか勝ち誇ったようにそういう汰磨羈に、Lilyも楽し気に、
「ごせんちも、ひくいのです」
 そういって笑う。
「あったまきたわ! ちびっこたちもいくわよ! あの人をやっつけるの!」
『はーい!』
 その姿はミニ騎兵隊といったところか。子供たちが規律よく手を上げる。
「皆、あの人が、遊んでくれると思うから、かかれ~、なのです」
 Lilyも楽し気に、子供たちをけしかける……どころか、子供たちと一緒になって突撃をした。
「ほらほら! ちびっこの皆さん! 行ってらっしゃいませね! 皆さんでザーバ様を囲みましょうね!」
 妙見子も楽し気にけしかけ、
「そうだぞ、若人たちよ! あのおじさんをやってしまうのだ!」
 ねこモードになった汰磨羈も楽し気に扇動する。かくして子供たちに群がられたザーバは、おそらく人生最大級の危機を迎えることとなったのだった!
 さて、大騒ぎをしているのはここだけではない。例えば、既に野試合のようなものはラド・バウのいたるところで行われていて、そこでは歓声が響き渡り、闘士たちも笑顔で大暴れしている。
 そんな中に姿を見せたのは、ヘイゼルだ。
「よっ、と」
 闘士の背後から忍び寄り、棒きれでたたく。鋭く振るわれたそれは、闘士に強烈な体力減少の術式を叩き込むものだ。
「いてぇっ! く、くそ、どこから……!?」
「おやおや、これはバトルロイヤル。前だけ見ていてもいけませんよ」
 くすりと笑うヘイゼルが、すぐに身を隠す。真正面からはまともに戦わない。なんとも自分らしい戦法だと、ヘイゼルは思う。とはいえ、この乱戦状態において、それは間違いなく効果的な策だ。
「しかし、激戦終わっての御祭……にしましても。
 その中でまた戦っているのが鉄帝らしいですね」
 鉄帝人たちの性質を楽しく思いながら、その祭りの中で自分も踊ってみようとおもう、ヘイゼルである。
「そこのゴリラさん! 勝負と行きましょう!」
 さて、そんなバトルを行っているのは、リカもそうだ。相手はそう、彼のゴリラ――!
「寒いのも物騒な太陽も見なくなったらため息が出るというか、肩の荷が降りるというか。
 命をかけるのは性に合いませんでしたが、それはさておき強者を求めるのはリカちゃんのサガ――。
 今の私がどれだけ通じるか! さあ、行きますよ!」
 にぃ、と笑うリカに、喜びとドラミングと咆哮が、返答として戻ってくるのだ。
「無事に鉄帝も奪還できたわけだ。ならば此処は鉄帝らしくラドバウで新たな門出を祝うとしよう。
 とはいえ普通に斬り合いしたのでは面白みもない。勝った方が負けた方に奢る事にしよう」
「勝った方が、ですか?」
 愛無の提案にメルティは小首をかしげた。
「すみません、今日はあまり持ち合わせが……あ、お金を下ろしてくるまでお待ちいただければ」
「ナチュラルにそういうこと言うな、君は」
 むむ、と愛無が言って、それから胸を張った。
「こういうのは誘った方が奢るものだ。そして、僕が勝つから問題ない。
 しーてーおんなは食べたいモノでも考えていると良い。しーてーおんなは、まだ19だから酒は飲めないだろうが」
「ナチュラルにそういうことを言うのですね」
 むー、とメルティが言った。
 どちらもなんだかんだ、負けず嫌いだ。ここにいるのだから、しょうがない。
「さ、始めるとしよう。大抵の事は殴り合えば解りあえるからな」
「そうですね、斬りあえ(おはなしすれ)ば、解りあえます」
 いささか物騒。でも、楽しい会話の、始まり始まりである。
 ラド・バウでは、戦いだけが名物ではない。そう、ライブである!
「ぱっるすちゃあああああああああああああああああん!!!!」
 最前列でケミカルライトをぶん回す、焔である。その言葉に気付いたパルスが、焔に向かってばきゅんしたので、焔はマジでショック死しそうになったが、パンドラが減っては元も子もないので気合で耐えた。
「はぁ……ファンサが凄い……これが全力のファンサ……本当の、平和になったパルスちゃんのライブなんだ……!」
 焔が感動とともにそういう。戦乱の中でも、ラド・バウは平常運転を許されていた。それ故に、パルスのライブもあったが、それはどちらかといえば、戦乱の中の人々を、勇気づけ励ますためのライブであったと、焔は思う。
 今は違う。いつも通りの。これまで通りの。みんなで楽しむためのライブだ!
「ボクもファンの一人として、もっともっと盛り上げないと……!
 ぱっるすちゃあああああああああああん!! あ、ウィンクしてくれた! 無理、尊死」
 また意識が飛びそうになったので、気合で耐えた。
「ヴァイス☆ドラッヘ只今参上! 私の祝杯の歌、楽しんでいってよー!」
 アイドルは一人だけではないのだ――レイリーもまた、舞台に立っている。パルスに許可をもらって……と思ったのだが、お祭りの日にそんなものは必要ないのだ。楽しく、好きに歌うがよい!
「ヴァイスドラッヘ!」
「レイリーちゃん!」
 観客席から響く声に、レイリーは元気よく手を振って見せた。
「みんなの力で、鉄帝に春が訪れたわ! とー-ってもありがとう!
 聴いて頂戴、春告の光、新曲の「スプリング・ドラッヘ」!」
 パルスに負けないくらいに、ファンたちが歓声を上げる。そんな、騒がしいラド・バウの写真を撮って、ふぅ、と微笑を浮かべるのは、レインだ。
「僕がイレギュラーズになったのは……鉄帝の混乱が起きてから……だった……。
 その時の僕は……今よりもずっと弱かったから……ラド・バウに保護して貰おう……って思って……初めて……此処に来たんだ……」
 今はもう、懐かしさも感じるけれど、つい先日のことのようにも感じる。
 出会った多くの仲間たち。ローレットの彼らと、ラド・バウの闘士の皆。
 つらい戦いだったけれど、どうしてだろう、どこか楽しかったことも思い出せる。
「……こうして、思い出を残していければ……さみしく、ないよね」
 また、仲間たちの写真を撮る。次は、一緒に撮ってくれるようお願いしよう。大切な、仲間たちに。

「それで、子供たちの相手は終わりましたか?」
 至東がそういうのへ、ザーバは子供たちを肩にのせたりしながら答えた。
「まだまだ、だ。随分と続きそうだ」
「それは」
 むぅ、と至東が口を尖らせた。
「大変ですネー」
「南が心配か」
 ザーバそういうのへ、ひとまず頷く。それからかぶりを振って、
「というよりは。抜け駆けするのに、まだ時間がかかりそうというか」
「何を抜け駆けするのかはわからないが」
 ザーバは笑った。
「忍耐が必要だぞ……今日は特にな」
 子供たちが途切れることなく群がっているのへ、至東は肩を落とした。
「なら、耐えましょうか。これからもずっと、お隣で」
 その言葉は、たぶんザーバには聞こえなかったけれど。
 今日の所は、それでもよさそうだった。

●王城の宴
 王城には、いまだに巨大な穴が開いている。まぁ、いくら鉄帝の技術力と言えど、数日で直せるような損傷ではないことは確かだ。
「やっぱり、まだ、空いてるんだね……」
 ヨゾラが苦笑しながら、天井の穴を見上げた。そこから見える青い空には、あの黒い太陽はもう存在しない。
 パーティ会場で提供されたドリンクを片手に、はぁ、と空を見上げる。アーカーシュから見たそれとは違う、鉄帝の空。もっと高く見えるような、そんな風にも感じた。
「夜になったら、もっときれいかも。
 鉄帝の夜空、かぁ」
 パーティはきっと、遅くまで続くだろう。だったら星々が輝くまで、ここにいてもいいはずだ。
 一方、玉座にも傷跡は残っているようだった。それを丁寧にふき取りながら、エッダは独り言ちた。
「……失敗しましたね。どうせなら陛下をお呼びすればよかったものを。
 ずいぶん居なかったせいで、呼び立てるのを忘れてしまって」
 ふ、と微笑ってみる。触れた玉座の傷を、よく覚えている。この傷も、あの傷も。
 特別な戦いだった。
 涙まで流してしまった。
(私は、陛下のことを臣下として心配していた筈なのだが)
 そう胸中で呟く。涙って。
「……ヴェルス」
 ふと一言呟いてみる。一個人としてあの人を見てみると、どうだろう。
 此方をからかうし、挑発するし……黙って居なくなるし。
 ろくでもない。
 でも。
「ええ、よくわかりました。
 ついて来るならついて来なと仰るのでしょう?
 そうさせて頂きます」
 もう一度、玉座をやさしくなでた。この玉座にふさわしいのは、憤怒ではないのだから。
「しかし、派手にやってしまったな……」
 錬が苦笑する。王城の傷跡は、生半可なものではない。そんなところでパーティを行う鉄帝人の気質も大概だがさておき。
「城壁破壊したりラトラナジュの火ぶっ放したりしちゃったからなー」
 錬と言えど、この傷をすぐに直すことはできまい。でも、少しでも力になれれば、それでいい。
 かつては戦う力をここで振るった。今は、直す力を振るおう。
「ご歓談中すみません将軍。『お支払い』を済ませて頂けませんと」
 そう、ザーバへというのは、憂炎だ。
「我々イレギュラーズも、全力で事に当たりました。ザーバ派一部イレギュラーズに関しては、特筆すべき事項に関する程です。
 故に、南部派閥として組み込めるイレギュラーズに対して正式な階級の任命をお願いします。
 元々執務室にて、ゲルツさんからもお話してもらえるとも言質を取っております」
「ふむ。そのことは忘れたわけではない」
 ザーバはうなづいた。
「今、お前たちには「帝国軍徽章」を預けているだろう。
 これを、イレギュラーズが鉄帝国で活動する際、臨時階級として使用できるように検討してみよう。
 諸君らの活躍は人々や兵士の間に知れ渡っているからな。
 これで、お前たちの働きに報いることができると思っている。
 今少しだけ、待ってほしい」
「わかりました。
 ……いえ、僕も手に職をつけたいというか。色々ありまして。
 それから。
 イーリンも名前で呼んでやって下さい。
 南部の立ち回り、全部彼女の作戦ですからね」
 そういってみせる憂炎に、流石のザーバも苦笑で返すしかなかった。

 さて、リッテラムの中庭は、比較的被害の少ない場所だ。庭園はいまだ形を残しており、まるであの戦いが夢であったかのように錯覚さえるほどに、静かであった。
「……これで、「イレギュラーズであるうちにやりたかったこと」は、概ね打ち止めか」
 そう、静けさの中、ベンチに腰かけてサンディが言う。世界の平和を守る、なんていうのは前提だが。心残りみたいなものは、解消できた気がする。
「ま、もちろん、これで引退決め込むわけじゃないが。どうも、周りの連中は元気だからなぁ。あいつとか、飛び出していくのを黙ってみたられるか」
 苦笑する。まだまだ、騒がしい日々は続きそうだ。でも、それが楽しい。
「まぁ、そう思うと気苦労はあんまり変わんねえか。男は忙しいぜ。
 んだから、次生まれ変わる時は、味方として出てきてくれよな。フギン・ムニン」
 因縁の相手の名前を呼びつつ、今は静けさに身をゆだねる。
「お仕事お疲れさん。おかげで、たくさんの人が救われた。お前のがんばりのおかげだよ」
 庭園のテーブルに腰かけて、お茶会を。共に戦った友へ、風牙は声をかけた。
「周りに聞いてる人間もいない。いくらでも弱音でも何でも吐くといい。
 オレも、今回はほんとキツくてやばかったしなー。今思い出しても吐きそうだ。バルナバスのクソ野郎め」
 苦笑するように、そう吐き出した。つらい戦いだった。激戦だった。命を落としてもおかしくない、戦いだった。
 でも、今は生きている。そしてともに未来に進める。
「問題は山積みなんだろうけどさ。きっと、いい国になるよな」
 その言葉に、友もまた、笑った。
 さて、人目につかぬ、静かな場所で。鏡禍は顔を真っ赤にして、ルチアに膝枕をされていた。
 静かな故に、どきどきと自分の鼓動がとても響く。聞こえているのかもしれない、と思ってしまうほどに。
 ルチアが優しく、鏡禍の髪をなでた。心地好い。暖かさ。
「こんなことなら、いつだってしてあげるのに」
 ルチアがほほ笑んだ。鏡禍はどきどきしながら、でも心地よさに、少しずつ、力が抜けていく。
「……寝ちゃった。お疲れ様」
 ルチアのそんな言葉を聞きながら、鏡禍はまどろみに身をゆだねていた。
 さて、ベンチに並んで座り、穏やかな表情を見せるのは、ヴァレーリヤとマリアだ。
「本当に終わりましたのね。
 ……何だか今でも、夢を見ているみたい」
「うん。やっと終わったんだよ。
 君や仲間達、皆で頑張った結果さ!」
 その言葉通りに。仲間たちが、皆と、頑張った結果だった。これまでの鉄帝に元通り、とはいかないかもしれない。これからも、困難が待ち受けているかもしれない。それでも、得た結果は、そしてこれから歩むべき道は、幸せに満ちているはずだと。そして、その道を歩むためには、自分たちもまた頑張らないといけないのだと。言葉にしなくても、二人は理解していた。
「そういえば傷、見せて頂いてもよろしくて?
 ……良かった。跡になってはいませんわね」
「ふふ。大したことはないさ!
 君こそ傷はないかい? 君はすぐ無茶をするからね!」
 マリアが、ヴァレーリヤのほっぺたをぷにぷにとした。ヴァレーリヤが、くすぐったそうに笑う。
「勿論気に致しますわ。本当なら貴女が出る必要のなかった戦いですもの。
 私達の……いえ、私のために戦ってくれてありがとう。こうしていられるのも、マリィのお陰でしてよ」
「もぅ……。そんなことはないよ。君の戦いは私の戦いさ。
 ヴァリューシャは私の全てだもの……。当然のことだよ。君が無事でよかった」
 そうささやいて、マリアはヴァレーリヤを抱きしめた。お互いの温かさが、お互いへの想いの温度なのだ思うくらいに、幸せな暖かさを感じていた。
 中庭は静かで、居眠りするのにももってこいだった。祭りの喧騒から逃れて、ラムダは本を広げつつ、こっくりこっくりと舟をこぐ。
「……いや、ボク秘宝種だし本当に寝ているわけではないけどね?
 ……疲れるわけでもないし……長い戦いも取りあえず決着したしね……。
 ……此処で春の訪れを感じてみるのもいいんじゃないかなってね……?」
 誰に言い訳するでもなく、なんとなく口を突いて出る言葉。ほんとは疲れているのかもしれない。眠いのかもしれない。いや、そんなことはどうだっていいのだ。こうやって、まどろみと遊んでいられることが、平和なのだということなのだから。
 それと遊ぶのも、いいことなのだから。
 ぽん、ぽん、とサッカーボールが弾む音が、静かに聞こえた。もし、誰かがここにいて、そっちの方に視線をやれば、そこでは葵が心を落ち着かせるように、リフティングをしていたのが見えただろう。
「……各地はボロボロだけど滅んだわけじゃない。
 あんなムチャクチャな軍勢相手に、マジで勝ったんだな……」
 思い返してみれば、本当に全く、無茶な戦いだった。その最中にいて、生きて帰ってこれたのも奇跡なのかもしれない。
 ようやくといった感じで実感がわいた。得たものもたくさんある。ある、が。
「これがサッカーで活きるかつったら……うーん」
 苦笑する。ただ、飽きることはなかった、と、強く思った。
 祝音は、一人静かにベンチに腰かけて、空を見上げていた。あの、戦いの跡、それを忘れらせるくらいに、今は真っ青な空だった。
 西側からゆっくりと、空が茜色に染まっているもうすぐ夜になる。星々が見えるだろう。
「なんでかな、悔しい。
 あの時に僕にできる事、もっとあったんじゃないかな、って」
 つぶやく。全力を出した、これ以上ないというほどに、すべてを出し切ったはずだ。
 でも、まだ何か、できたのではないか。そう思ってしまう。それは、克己心の表れなのかもしれなかった。口惜しさと、そわそわした想いと。そういったものが、祝音の気持ちをざわつかせている。
 そんな祝音の気持ちを察したかのように、一匹の黒猫が、足元で寝転がった。今日は休む日だよ、とでもいうように。それを見ながら、祝音はゆっくりと目を閉じた。ジワリと熱くなる目頭が、誰にも見られないといいと思った。
 思いは、多くのものに千差万別にあれど。
 ただ、平和を取り戻したという事実。それだけは、間違いなかった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 全員登場しております。万が一抜けがあったら、ご連絡いただければ幸いです。

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