PandoraPartyProject

ギルドスレッド

シキアの樹

Aug.昼

陽の照りしきる夏の日。
青く澄みわたる空に、恵みの雲は見えず。
時折に吹き抜ける風だけが、僅かな涼を与えてくれる。



穏やかに揺れるシキアは、今日も憩い人を歓迎していた。

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(眩い陽射しが、枝葉の間からちらちらと溢れる昼下がり。
 木陰のおかげで日溜まりよりも僅かに冷えた地面に、
 ぴたりと顔をくっつけて眠りこけていた旅人が一人。
 影に収まるように身を丸め、くうくうと寝息を立ている姿は猫か犬。
 顔に付く土くれも気にせずに、穏やかな休息を過ごして――)
(――ぱちり。
 自分以外のヒトの気配を感じて、青年は唐突に瞼を開けた。
 昼寝より覚醒した瞳に入ってきたのは、
 白に赤の三本線が特徴的な青年と、
 明るいピンクが眩しい――たぶん、飛行種のヒト。
 眠りにつく前には居なかったであろう影二つを確認して、青年はもう一度目を瞬かせ、)

――こんにちは?
貴方たちも、此処。休みにきたのか?

(ゆっくりと上体を起こしながら声を掛ける。
 この辺りの住民にとっても、此処は憩い場の様なものだと認識していた。……けれど。
 あまり見掛けない顔触れに、好奇心が働いた)
(暖かい陽の光、心地よく頬を撫でる風。
 眩しさに細めていた目はいつの間にか閉じかけて、うつらうつらと船を漕ぐ)

(いつの間にやらヒトの気配は増えていて。まぁ、それもいつもの事かとさておいた。
 おそらく一息入れに涼みに来たヒトたちだろうから、各々に過ごすだろう。
 ……そうでなかったら、それはそれで興味があるけれど)

(くぁ、と一つあくびして、)
……貴方たちも、こんにちは。今日は良くヒトが来る日だ、な。
(前半は鳥種や獣種であろう客人たちへ、後半は背にした樹に向けて声をかけた。
 のんびりとした声音には眠気が多分に含まれて、ぼうっとした様子で面々を見る。
 --放っておけば、そのうち寝てしまいそうな表情だった)
(鉤爪の先が地の感触を捉える。広げていた翼を背に寄せ仕舞えば一息ついて周りに目を配らせた。上から見て確認していたより、人がいた様だ。)

ああ、眠っていた所を邪魔してしまっていたならすまない。日陰が涼しそうでな…つい。
あと知人がここに飛んで行くのを見たんだが、見なかったか?
(きょろり、視線を移してみるも自身の視界には見覚えのある姿は映らない。少しばかり、首を傾げてひとつ小さな溜め息を吐いた)
今日も暑いよね、すごく。……時間があるなら、此処で涼んで行けば良い。シキアもよろこぶ。
(未だ眠たげな瞳のまま、力強く地を捉える鳥種のヒトへ視線を移して。
 くぁり、あくびをもう一つ)

あなたの、知人? ……どんな人、だろ。(誰のことだろう、と首を傾げた。飛んで行く、と言うのだから彼と同じ鳥種のヒトだろうか。幾人かは、見掛けたけれど)
(眠い眼をくしくしと擦りながら、眩しい色味の羽根をパタリと揺らして木を見上げた後青年に視線を向け)
おぁー、おっきな木らぁ。良い止まり木いなりそーだなん。
こんにちわちわ!ふらふら水辺探してたら辿り着いたんらよ!
此処とっても気持ちいいなぁん!ちょっぴり休んでっていーい?
(欠伸を零す姿を見ながら、もう一度、溜め息)
オレと同じで、翼を持った白い髪の女だ。これくらいの…
(片方の手で探し人の身長であろう高さに手の平を上げてみるも、続きを言いかけて、やめる。自分とて目の前の青年とは初対面だ。己の用件を押し付けるよりもまず先にやる事があるだろう。男はひとつ頭を振って、改めて青年に視線を合わせた。)

…いや、いい。その内勝手にみつかるだろ。
それよりも名乗るのが遅れてしまった。すまない。
オレの名はサイード。突然押しかけてすまなかった、お言葉に甘えて少しこの樹の影で休ませてもらう事にする。

(言葉が途切れた所で新たに現れた人影にも一度、軽く頭を下げて「シキア」と呼ばれた樹を背に腰を下ろした)
こんにちは。……うん。よく他の鳥たちも止り木に使ってるみたい、だから。
貴方も、羽を休めていったら良い。
(明るい羽のヒトへ向けて、こくりと頷く。珍しい羽の色味だな、と興味深げに見つめた)
鳥のヒト、白い…………プティ、とかかな。
(ぼんやりとした思考の中、最近に知り合った鳥種の彼女が頭を過る。同じ特徴を持つヒトも複数居たけれど、一番に記憶に残っていたのは彼女だった)

……あ、うん。
ゴテイネイに、ありがとう。
オレはレム。オレも、此処にはたまたま涼みに来ているだけ、だから。
……よろしくね、サイード。
(名を口にした彼に倣うようにして、ぽつぽつと自らの名を告げる。
 レイギ正しいヒトだな、と視線を合わせながらぼんやり思った)
(ふわり、ふわり。地上から2mほどだろうか、不自然に低い位置を雲が漂っていた。人が早歩きするほどの速度で進むそれは、あろうことか。がさり。多くの人が憩う大樹の枝葉へ、見事に引っ掛かった)
うわ、……あー……寝てた……。
(雲から、気の抜けたような、メゾソプラノの声が零れる。もそ、と雲の上から身を起こしたのは、藤色の頭。藤の花房が、長い髪と共に肩に滑り落ちた)
今日は休みに来るヒトも多い、な。にぎやかだ。 ……?
(頭上から降ってきた、聞き慣れない高めの声。
 何だろうと顔を上げて、そこでようやく「雲」の存在に気付いた)

 ――おは、よう? 貴方も、寝ていたの?
(「雲」が喋ったのだろうか、と不思議に思ったのも束の間。目に入ったのは藤の色。
 不思議なヒト……ヒト、だろうか? 姿がよく見えなくて、そんな事を考えながら声をかける。
 本当に、尋ね人が多い日だ)
(聞こえて来た声に、一瞬きょとんとした様子で瞳を瞬いた。……のも、束の間。くあぁ、と大あくびをひとつ。目尻に滲んだ涙を拭いながら、引っ掛かった雲を動かして高度を下げた。そう、丁度、声を掛けて来たと思しき相手の視線の高さへ)
おはよー?すっげぇよく寝てたら事故った……。
(乱暴でぞんざいな手付きで、ぐしゃりと髪を乱して搔き上げる。雲は、相変わらずふわふわと極上の存在感を放ちながら浮いていた)
(男とも女ともつかないそれは、雲の上に座ったままでも十分に長身だった)
……やっぱり来ていたのかあいつ。うろうろするなとあれほど言ったのにまったく…。
…まぁいい。レム、だな。宜しく頼む。
(今度は、盛大な溜め息。もう放っておこうと挨拶を終えた後に樹に背を凭れかけた所で不意に視界に映った白)
……?
(訝しげに見ていればどうやら人を乗せていたようで、藤の花弁がちらりと覗く)
……事故。
(そう言えば、先ほどシキアの枝葉が大きな音を立てていた気がする。
 鳥でも飛び立ったのかと思ったけれど、話を聞くにどうもこのヒトによるものだったようだ)
この雲……貴方が動かしている、のか? すごいな。
(こんな近くで雲を見たのは初めてだ。
 驚きはそのまま好奇心へと変化して、雲と藤のヒトとを交互に見つめる。興味津々の様子だ)
……あ。サイードの知り合い、プティのことであってたんだ。
今日はまだ、姿を見てはいないけれど……。
(もしくは、把握していないだけで既に居たりするのだろうか。
 つい先ほどまで寝ていた身であるから、もしかしたら……?
 そんなことを思いながら、おもむろに立ち上がる。
 少し様子を見てみようと、背にしていたシキアの裏側へと顔を覗かせ――)

……あれ?
(目に入ったのは、黒を纏う華奢な人影。初めて見る顔に、きょとりと瞳を瞬かせた)
(木の葉のさざめき。土の鼓動。幹から伝わるやわらかな空気。嗚呼。聞こえる。”あなた”の声)
(幼い頃から”ヒト”の気持ちは悪意しか汲む事が出来なかった。けれど、かみさまはそんな影に、小さな贈り物をくれた)
(物言わぬ動植物。ヒトには見えぬ妖精、元素に宿りし精霊たちの”声”を聞く事が出来る耳)
(だから。ヒトの集まる街並みよりも、自然の中に身を置く事が何より心地良かった)

……シキア。そう。あなたのなまえ。

(大樹の声に耳を傾け乍ら、棒になった足を伸ばして緑に体を預けた、そんな時だった)


(微かな声に振り向けば、ひとりの青年が自分を見下ろしていた)
(あたたかさを宿した褐色の肌。綿を思わせる真白い髪、自分に良く似た蒼銀の双眸)
(ヒトに見えるが、どこか空気が違う。そう、何方かといえば。”私とことのはを交わせるもののような”――)

……え、と、

(青年の後ろ。幹の向こう側には幾人かの姿が見て取れた。此処は彼等の”お気に入り”なのだろうか)
(影は躊躇いがちに視線を彷徨わせ、戸惑い乍らも口を開いた)

邪魔をしてしまって、ごめん。
すこしだけ、……この子のそばで、やすませてもらえないか。
? ううん。ジャマとかは、全然。ただ少し、驚いただけ。

(きょとん。目が合った、と思えばふいに彷徨う彼女の視線に、不思議そうに瞳を瞬かせる。
 何か、気を悪くさせてしまっただろうか。彼女が纏う夜闇の色を見つめながら、口を開いて、)

……うん。オレが言うのは、可笑しいのかもしれないけれど……貴方の好きなだけ、休んだらいい。此処はもともと、そういう場所……誰でも休息できる場所、みたいだったから。
それに、ゆっくりして行ってくれたほうが、シキアもよろこぶ。寂しがり屋なんだ。

(人がたくさんいるときは、シキアも元気な気がする。
 青年は木々と会話こそ出来ないけれど。何となく感じ取っていた思いを、そのまま彼女への返答にのせた)
(あれ、もうひとり居た。訝しげな有翼種の青年の視線に、ぱたぱたとにこやかに手を振って見せて自己主張する藤色)

(興味津々な土色の青年の様子にふふりと少しだけわざとらしく自慢気に笑って、ぽふん、と雲を叩いて見せ)
そうだよ、俺のおもちゃ。あれ、ほら、ギフトってぇの?この世界に来てから使えるようになった謎パワー。
(ふかふかの雲はとても触り心地が良いのだと主張しつつ、触る?なんて問い掛け。もし触るのなら、良く陽に干した布団よりも更にふかふかの、極上の手触りが約束されている)

(新たにやって来た少女の姿に、瞳をぱちり。邪魔、と聞くと可笑しそうに笑って)
ていうか俺も乱入者っていうか乱入者通り越して今さっき事故って混ざったくらいだし、良いんじゃねぇの?おいでおいでー。
(自分の場所ではない癖をして、無責任にもあっけらかんと。自然そのものであるこの藤の精霊に、その場が誰のものである、という認識は全くなかった)
(闇色に身を包んだ影は其の顔半ばまでをフードで覆い隠し、体躯を擦り切れたマントで包み隠している。有り体に言えば、暑苦しい風貌だった)
(口を開けば女、或いは変声期を迎えていない少年か、其の何方かと検討が付くだろう)

(居ても構わない。おいで。方々から告げられる言の葉に数度目を瞬かせ)

でも、

(影は口が上手い方ではない。ヒト慣れしておらず、知らぬ内に彼等に不快な思いを抱かせてしまうかもしれない)
(ならば早々に立ち去るべきだと、思うが早いが立ち上がり踵を返そうとした、のだが)
(『だいじょうぶ』)

(耳が拾う大樹の声に恐る恐る振り返れば、彼等は変わらず穏やかな様子だった)
(顔を俯け逡巡する事、暫し)
(シキアの裏側へ、彼等の元へ。一歩分の距離を開けて、影は立ち止まる)
(座っても良いのだろうか。もう一歩の距離を詰めても、彼等は自分を恐れないだろうか)

……あの、私。歩き疲れてしまって。
それで、街から見えた……いちばん大きな、この樹のそばに居たい。そう、思って。

(此処まで歩いてきたのだと。立ち尽くした侭、訥々と語り)
その内呼ばなくても出てくるだろう、構わないでいいぞ。

(探しているのか樹の裏側へと移動していく姿に声をかければ、新たな訪問者とかち合う視線。ひらひらと軽やかに振られる手に眉はぴくりと跳ね一瞬の間どうしたものかと逡巡する。表情は固まったままに片手だけを上げかけた所で増えたもう一人の人影にその動きは止まる)
(樹に凭れ休んでいた自分の反対側から出てきたものだから顔は見えずに黒い塊がゆらゆらと所在無さげに動いてるのだけは確認できた。座ったままでは挨拶を掛けることも儘ならない、そう思い再び腰を上げる)

疲れたならつっ立ってないで休んで行けばいいだろう。

(「この二人がいいと言っているのだから」、端的に放たれた言葉は肝心な個所が抜けていて抑揚が無い。癖の様に染み付いたトーンの低い話し方は咄嗟に変えられず目つきの悪さからも誤解を招きかねないけれど、既に言い放った言葉に取り消しはきかない)
(有翼種の青年の手が上げ掛けだったのはばっちり見た。それで結構満足した様子で楽しそうに笑う。
 黒い人影がおろおろとする様は、何だか人慣れしていない小動物のようだ。それに、その人影からは何だか仲間の匂いがする気がする。そう、自分達“精霊”に近しいような、そんな。気のせいかもしれないけれど、ちょっと気になる。
 うーん?と首を捻りつつ、雲を動かして人影の側へと寄って行く)

ほらー、来ないなら俺から行っちまうぞ。
おいでよ、遊ぼ。

(にっこりと無邪気に笑って、雲の上から人影に手を差し伸べる。手を掴んでくれたなら、雲の上に引き上げてみんなの方へ攫ってしまおうと)
なるほど。これが……貴方のギフト。
……! オレでも触れる、のか?

(軽い調子で放たれた青年の問い掛けに、思わずと言った様子で声をこぼす。
 だって、さっきから気になって仕方ないのだ、とても。
 好奇心の前に遠慮はどこぞへと追いやられ、お言葉に甘えて、おそるおそると浮かぶ雲へ手を伸ばす)
 (――ふかり。
 柔らかな質感。いつまでも触っていたくなるような、心地よい手触り。
 初めて覚えた感触に、きらりと水晶が煌いた)
うん。疲れてしまった、なら。休むのが一番だ。……ずっと歩き続けるのは、大変だもの。

(サイードの言葉に、こくりと頷きながら続ける。
 疲れることも、休むことも、ごく当たり前なのだと。
 己が活動を始めてから一番に学んだことだった)

(――だから。貴方が望むのなら、一息ついて行けばいい。
 安らうのを咎めるヒトなど、誰もいなのだ。
 
 そう、想いながら。
 藤のヒトがあやつる雲の後ろから、今一度。其処に佇む影を覗き見る。
 ふかふかの雲に手を添えて、じぃとその動向を観察していた)
(樹の反対側から顔を出したのは、ふたり)
(一人は猛禽を思わせる鋭い眼光に広い背を覆う様に折り畳まれた翼を持つ大柄な男)
(”ヒト”以外を未だ見慣れぬ影は、思わず其の翼をつぶさに観察しようとして、視線を逸らした。余り不躾に眺めては、失礼だと思った故に)

あの、えと……。

(そっけない男の了承に謝辞を述べて良いものだろうかと視線を泳がせていたら、文字通り”雲が飛んできた”ものだから。思わずぽかんと、唯目の前に広がる光景を見つめた)

(其の人物は、目前の青年よりも、もっと。”傍のもの”に近しい気配を感じさせた。藤に彩られた髪、淡く色付く曇り空の双眸。中性的と云うよりも、性の概念を感じさせない、不思議な風貌――恐らくは、”外のもの”なのだろう)


(おいでと差し伸べられるてのひら。けれど、”ヒト”に触れる事を恐れる影に其の手を取る勇気は無く)
(其れでも彼等に悪意が欠片ひとつも無い事は十分に伝わったらしく、一歩一歩、至極ゆっくりと歩み寄る。警戒する野生動物のような体ではあったけれど。樹の裏側、彼等の傍から一歩離れた所まで)

……街は、ヒトがたくさんいて。
押しつぶされそうで、何度も転びそうになって、……どこで足を止めたらいいか、わからなくて。

(シキア。彼を”しるべ”にして、漸く此処まで辿り着いたのだと)
(俯く影の表情は其の殆どをフードの下に隠していたが、ぽつりぽつりとことのはを紡ぐ薄い唇は、微かに震えていた)
(座っても大丈夫だろうかと、伺う様に面々を仰ぎ)
(目がこちらへ向いたかと思えばすぐに逸らされた視線。やはり怖がらせたのだろうか、そう思うも間にあの二人がいるならば大丈夫だろうと踏んで踵を返し、シキアから少し離れた草っ原の大地へとその身を転がす)
(身体の大きな自分が樹に寄り掛かっていては余計に輪に入りづらい事はなんとなく見て取れて、行動を以って彼女に了承の意を示した。男は器用に翼を広げながら日光浴を始める)
重量制限はあるっぽいけど、触ったりクッション代わりにするのなら誰にでもー。

(相変わらず調子は軽く、好きなだけどうぞの構え。これが意外と、陽だまりの匂いとふっかふかの手触りで不思議と離れがたくなるのだ。
 差し伸べた手は残念ながら取られることはなかったけれど、少しずつ歩み寄る姿に目的は果たせたと楽しげに笑う。別に、手は取っても取らなくても良いのだ。伝われば、それで良い)

なぁんだ、ちゃんと自分のコト話せるじゃん。
座んなよ、おいでって言っといて座るのダメとか誰も言わねぇよ。

(いいこいいこ。そう言って笑う表情は、見た目にそぐわず何処か幼子を見る好々爺のそれに近い。
 自分はもう一度、雲の上に俯せに。ふかふかを全身で楽しみつつ、雲の位置を地面に程近く下げ、軽く頬杖を着いた)
(翼を広げ、己を気遣っているのか僅か離れた所でくつろぎ始める男の姿を改めて伺った)
(敵意も悪意も無い。単に、口数の多い性質では無いのだろう)

あの、……その、ありが、とう。

(休んでいけば良い。先に告げられていた狗鷲の許しへ、一歩遅れた言の葉を返し)
(次いで、座っても良いよと柔らかく降ってくる声に、思い出したかのように脹脛の辺りがじくじくと疼き出した)

私、あまりひとと話した事が、なくて。
喋り慣れてなくて、……ひとと目を合わせるのも、とくいじゃなくて、

(要約すると、”あなたたちを不快にさせないかどうか心配で、近付く事が怖かった”のだと。途切れ途切れになり乍らも影はシキアの麓に集う人々に訥々と語った)
(自分の意を伝え終わると緊張の糸が途切れたのか、最後の一歩を詰めると影はその場で――座り込むと云うより、へたり込んだ)
(そう、昨日の晩から歩き通しで、文字どおり”くたくた”なのだ)
(ありがとう、という小さな声が届くもそれに返されたのは僅かな羽の一振り。翼の端が少しだけ上がったかと思えばすぐにまた草の上へと投げ出される。礼を貰う程の大層な事はしていない、だからこそその言葉は不要だとでも言いたげに)
(シキアの葉が風に揺らされ木の葉の影から偶に差し込む陽射しが心地よく肌を撫でていく。葉のあたる音が話し声の様にも聞こえて、シキアの言葉が聞き取れない自分にも寄り添ってくれるかのようなこの大樹の存在がなんとも心地良い)

流暢に語らぬ事を不快に感じる様な奴は、そもそもこの樹の元には集まらないだろう。

(静かな場を求めるにしろ、偶然迷い込んだにしろ、テンポの良い会話を一番に求めるならば其れ相応に人の出入りの多い所に行くはずだ。そう考えながら言葉にした一言。どちらにしろ、自分が与り知るところでは無いが。そう結論付け緩やかに襲い来る眠気に身を委ねようとした所で不意に思い至る)
(地に片手をつき、上半身を起こし振り返る)

…そういや、レム以外の名を聞いていなかったな。
オレはサイードだ。

(名を聞こうとしているのだろう、続きを促す様に視線は目の前の面々へと移された)
 
(ぽつりぽつりと、影のヒトから放たれる言の葉。
 ゆっくりと溢されていくそれを、ただじっと見つめながら拾っていく。
 感じたのは――ああ、何となく。己と似ているな、と。
 しゃべり慣れてないと言うこのヒトの間は、己が慣れ親しんだそれと似通っているように感じられた)
 
(ふかふかの雲を下げて、笑う藤のヒト。
 一度そちらに視線をやってから、ふたたび影のヒトに視線を移す。
 じぃと座り込むヒトを見たまま、言葉は挟まずに。
 こくりと、一度だけ頷いた。――大丈夫、の意を込めて)
(触るだけなら誰にでも。そのお言葉にまたまた甘えて、高度の下がった雲に手を伸ばす。
 ふかふか、ふかふか。――すっかり、癖になっているようだった。
 大樹に身を預けるように座り込み、低く耳朶打つサイードの言葉を心地良さげに聞きながら――)

 ……ああ、そうか。お名前。
(サイードの言葉を受けて、ようやく名を知らぬことに思い至る。
 お名前を交換することは、未だあまり経験がなくて。すっかり失念していた)

オレは、レム。ゴーレムのレム、だよ。
ええと……貴方たち、の。
(名前は、と小さく続ける。やはり、未だ慣れない)
(ぐてっと雲に身を預けただらけた姿。
 もういっそのこと思いっきりだらけてしまえば、この黒いフードの相手にも、自分が全力で他の者に対する遠慮も何も投げ捨てているのが分かるだろう、と。寛ぐ場所では思いっ切り寛いで然るべきだ)

て言うか現在進行形で喋り倒してて五月蝿いの俺だけでしょ、この面子。
寧ろ俺五月蝿くねぇの? 大丈夫?

(物凄くあっけらかんとした口調には、特に自戒の念は込められていない。
 自分は自分のペースで喋り倒しているだけなので、聞く側にとって五月蝿くなければまぁ良いかな、くらいの考え。自分と同じように喋り倒すことは特に求めていない)
(雲で遊ぶ土色の青年の手を止めることなく好きにさせながら、名前、と小さく呟く。そういえば名乗ってない。元の世界では自分の名前を知らない相手の方が珍しかったから、すっかり忘れていた)

サイードにレムね。
俺は八千夜。

(空中に指を伸ばして、漢字を綴る。数多の夜の意味)
(投げ出された翼。僅かに動いたのは、ヒトで言う片手を上げて応じる所作と似たような感覚なのだろうか?)
(兎も角、気を悪くされたようではないらしい。安堵の息を吐きながら、やわらかな草の上に足を投げ出して手を付いた)

そう、なの。

(シキアの御許。其れは、穏やかな時を過ごす者たちが過ごす憩いの場)
(彼らが言うように、シキアもまた教えてくれる。――どうか、健やかであれと)

……う、うるさく、ない。
私が、喋るのがへたなだけだから。

(言葉足らずの自分の言の葉を引き出してくれるように喋ってくれるヒトの存在は、素直に有難かったから、大丈夫だと)
(大丈夫。静かに頷く――自身をゴーレムだと名乗る大地の御子の仕草に、ちいさくちいさく、ありがとう、と添えて)
(口々に名乗りをあげる面々に、影は小さく言の葉を詰まらせた)
(名前。其れは何時の日からか呼ばれるようになった、本来ならば厭わしい二つ名)
(然れど、)

……夜鷹。
そう、呼ばれてる。

(直ぐに女だと判る”本当のなまえ”は、影にとって不便なものであったから)
(影は其の名を受け入れ、其の儘を名乗る事が常であった)
(雲の虜になりつつあるレムの様子を眺めながら、柔らかく弾む雲を見ていれば成程確かに触り心地は良さそうだと)

(返された声に乗る二人の名を聞いた通りに改めて口の中で反復させながら、傍目に捉えた藤の指の動きが示す字を理解し頷く。綺麗な文字の並びだ、と素直にそう思えた)
(次いで黒い影が紡いだ名には僅かな親近感。その音が示すのは近しくある猛禽類の其れを示す名だろうか、"呼ばれている"という事は他に名を持っているのかもしれないが、本人がそう名乗るのであればわざわざ抗う理由もない)

八千夜に、夜鷹、だな。

(改めて宜しく頼む、と男は告げた。
ともすれば八千夜の賑やかに発せられる言葉には湧き上がる遊び心が少し顔を覗かせて)

あー…いや、八千夜はうるせぇかもな。

(くつり、と皮肉気な笑みと共に紡がれた言葉は決して冗談の域を出るものではなく)
八千夜に夜鷹――貴方たちの、名前。
(透き通った指先が綴る文字。
 なめらかに空を滑る動きを、何となく目で追った。
 見慣れぬ形、けれど不思議と意味は感じ取れる。
 ……明るい調子で話すこのヒトが、夜の名を関していることがちょっぴり意外だった)
(……影が名乗る前の、束の間の空白をすこし疑問に思ったけれど。
 理由があるのかすらも分からなくて、その違和感を取り溢した。
 ただ、直前に呟かれた”ありがとう”だけは拾い上げれて。

 満足げに瞳を伏せてから、二人の名前を反芻する。
 ――覚えた。シキアが繋いだ、不思議なヒトたちの名前)
うるさい……うるさいの、かな。
(基準はわからない。だから、サイードの言に続いた言葉は曖昧で)

でも、八千夜みたいにたくさん喋るオトナのヒトは、初めて会った。
……オトナ、だよね?
(己よりも幾分か大きな容姿。おおよそ成人していると見受けられる言動。
 とは言え。この世界での年齢は、見掛けに左右されないことも多くあると聞く。
 ……各言う己自身も、あまり見た目通りの稼働期間を経てはいないのだが)
夜鷹、ね。
おっけー三人の名前覚えた。

(それぞれの名前をもう一度口の中で繰り返し、覚えたと頷いた。長生きしすぎたせいでどうにも忘れっぽい質なので、うっかりすると記憶からすっこ抜ける。どうやら人にとってそれは随分失礼らしいので、出来る限りは気を付けたい)

そ? なら良いけど──ってサイードひでぇ!
あーレムまでぇ……俺これでも数千年くらい生きてんだけどなー。何歳だったかはっきりとは忘れたけど、もう幼木じゃねぇし、どっちかって言うと超が付く古木。
単純にお喋りなだけだよ俺。

(サイードへと文句の声を上げはした癖に、その声は楽しそうに笑っている。
 レムの言葉に雲に突っ伏して見せてぼやいて、けれど、ぱっと直ぐに上げた顔は相変わらず。
 自然界の皆や動物達に人間達、此処に来るまではそれこそ喋り相手が其処ら中に居て、みんな大好きだったから、ついつい求められるままに喋り倒していたのだ。だからきっと、そのせい)
(別にお喋りが煩わしいというわけでは無い。藤の…八千夜の雰囲気は根っからの"懐っこさ"を纏っていた。全てを受け入れ、全てに手を伸ばすような、シキアの大樹と似通う何か。だからこそ男の口も緩んだのだろう)

超がつく古木…。大人ってより、爺さんか。

(真面目なわけではない男は冗談も軽口も叩く。レムの言葉に離れた面々からは見えぬ位置で小さく吹きだしさらに軽口を続けた。その雰囲気、自分よりも遥かに長生きだという事実に意固地な背伸びも解れているのだろう)
(復唱される二つ名に、こくんと小さく頷きを返して)
(其々の名を頭の中で繰り返し――けれど、呼び返す事は出来なかった)
(人の名を呼ぶ事に慣れない。だって、私は、)

あなたたちは、……しらないいきものが近くにいても、

(怖くはないだろうかと。恐る恐る問う声)

その、……みんな、私の顔を見ると、こわがるから。
みんなを、怖がらせたくなくて、……その、

(然れど、本当は問うまでもないのだ)
(此の子が。シキアが、教えてくれる。彼等は”だいじょうぶ”だと)
(俯きすぎて影の顔は鼻先すら見えない。怖がられたくないけれど、あなたたちのことは嫌ではないのだと)
(うまく説明する事が出来ず、もそもそと小さく縮こまり)
(すうせんねん)
(桁が違う単語があっけらかんと落とされたものだから、影は目を丸くし乍ら藤色のきみを見る)

……たくさんの樹に、たくさんの花。
彼等はみんな、”声”をもっているけれど。
ヒトに声を届けられるあなたは、きっと、とくべつ。

(だって、彼等ときたら)
(みんなみんな、とても”おしゃべり”なのだから!)
そうだよー、普通の樹木ならもうとっくに枯れてるくらいの古木。爺さんでも婆さんでもどっちでも良いけど。

(ふふー、と可笑しそうに笑う表情は生気に満ちて若々しく、語る内容とは全くもってそぐわない。
 自分にとって、ヒトと言うものは等しく愛らしい。その愛らしさに種類の違いこそあれど、往々にして、彼らは幼く、目紛しく、活き活きとした存在だ。
 だから、黒いフードの影の言葉にも、懐っこさを詰め込んだような友好的な表情でにっこりと笑って見せた)

俺にとってはこの世界全部が知らねぇものだよ?
世界すら違えて尚こうな俺に、今更未知のものへの恐怖なんてあると思う?

(こう。寝転んだままで己を指差して、あっけらかんと告げる。己を見失わなければ、世界すら違えて己の知っているものの全てを失ったとしても、意外とあっさりしていられるものだった)
(けれど、“声”と聞いた瞬間にきょとんと瞳を瞬き、徐に身を起こした。まじまじと見つめる影の姿。
 一拍、二拍。
 ぱぁっと、まるで花が一斉に咲き綻ぶように喜色を浮かべ)

あーそっか! なぁんだ、夜鷹、お前“愛し子”だね?
ああ、そう気付けばとても愛らしい。

(精霊の声を、自然の声を聴く者を、自分の世界ではそう呼んでいた。絶対数は少なかったけれど、彼らは自分達にとって、愛らしく可愛らしい、とびきりの隣人だ。
 瞳を細めるように物柔らかく微笑んで影を見る様は、無邪気と言うより、まるで好々爺のように穏やかでゆったりとしたものだった)
(”檻の外”を知らなかった己と、”外の世界”から来た古の藤。其れは似ているようで、まるで違う)
(目映いほどの――彼、と称そう。――彼の笑みを真正面から見る事は出来なかった)

私、わたしは、

(怖がられる事が、怖かった)
(だから、ただ。『ありがとう』と、一声発する事が出来れば、其れで良いのに)



(身を乗り出す気配にそろりと視線を上げて)
(見る間に喜色を浮かべて好意を向けられれば、影は薄氷の瞳をまん丸に見開いて呆然と雲の上の藤色を見上げた)

……いとしご?

(其れは、耳慣れないことのはだった)
(戸惑い露わに、其れは自分を指しているのかと。恐る恐る問うて)
(この世界と自分の世界は全く違うし、この世界に来てから少し経ってはいるけれど。それでも、自分の感性が変わる訳ではない。要するに、元の世界で可愛く愛おしく思っていたものは、この世界でだってそうなのだ。
 だから、影に向けるものは、混じりっ気のない好意そのものだ)

そうだよ、夜鷹。俺達のかわいい子。
俺の世界では、精霊の声を、自然の声を聴く者を、そう呼んでた。
俺達の、とびきりの隣人。
俺はもう、この世界に来る時に存在が歪んだと言うか、まあ、普通の精霊とはちょっと異なる何かに変わっちまったけど、培って来た認識が変わる訳じゃねぇし。

(“かわいい子”の音だけを聞くなら、まるで口説いているかのようではある。けれど、親愛と好意を込めて呼ぶそれに、その手の感情はまるでない。ただ、途方もない年月を経た年寄りが、幼子を慈しんでいるだけだ)

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