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シキアの樹

Aug.昼

陽の照りしきる夏の日。
青く澄みわたる空に、恵みの雲は見えず。
時折に吹き抜ける風だけが、僅かな涼を与えてくれる。



穏やかに揺れるシキアは、今日も憩い人を歓迎していた。

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(”檻の外”を知らなかった己と、”外の世界”から来た古の藤。其れは似ているようで、まるで違う)
(目映いほどの――彼、と称そう。――彼の笑みを真正面から見る事は出来なかった)

私、わたしは、

(怖がられる事が、怖かった)
(だから、ただ。『ありがとう』と、一声発する事が出来れば、其れで良いのに)



(身を乗り出す気配にそろりと視線を上げて)
(見る間に喜色を浮かべて好意を向けられれば、影は薄氷の瞳をまん丸に見開いて呆然と雲の上の藤色を見上げた)

……いとしご?

(其れは、耳慣れないことのはだった)
(戸惑い露わに、其れは自分を指しているのかと。恐る恐る問うて)

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