シナリオ詳細
深海にて、輝ける都へ
完了
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オープニング
●竜宮救援
竜宮幣(ドラグチップ)、集まる――。
先のサマーフェスティバルと連動した大捜索作戦。ローレットの活躍によって、各地に散らばった竜宮幣は、その大半の回収に成功していた。
「これだけあれば、深怪魔(ディープ・テラーズ)の封印を強化できるはず!」
マール・ディーネーはそう語る。神器である玉匣(たまくしげ)の力の欠片である竜宮幣が集まれば、玉匣はその力を取り戻し、深怪魔の再封印が可能であると目されていた。
「となると、オレ達の暮らしも多少はマシになるのか」
そういうのは、海賊、漁火海軍の頭領である漁牙である。ローレットとの『喧嘩』に負けた漁牙は、『やむなく、力に従わされて』という建前の下、ローレット、そしてマールに協力していた。ローレットのの人間には、海賊としての活動を止められ、今はマールの護衛部遺体のような役割を果たしている。
「そうだね! シレンツィオの商人たちのことは、あたしの管轄外だからごめんなんだけど……。
深怪魔がでなくなれば、もう少し漁もしやすくなると思うんだ!
それに、約束通り、豊漁の加護も、メーアにお願いするからね!」
そう言って、マールは笑う。メーア、とはマールの妹であり、竜宮城の乙姫である。竜宮の加護を司る乙姫なら、多少の豊漁は約束してくれるだろう。
「で、竜宮に行くには、この『べっ甲の宝玉』が必要だったな」
漁牙が差し出した小さな宝玉。美しく、見るものが見れば何らかの加護を感じられるだろうそれが、竜宮に向かうための道しるべとなるパスポートのようなものだった。漁牙以外にも、持っているものはいるだろう。マールも本来は持って出なければならなかったが、緊急事態故に、持ち出しを忘れていたらしい。
「うん! それを持って念じれば、竜宮の加護を察知できるの。そこが、『道』。地上で生きる人でも海底で呼吸できるようになってるから、ゆっくりついてきてね!」
マールは、漁火海軍たち、そしてローレットのイレギュラーズ達にそういう。漁牙はマールの護衛故にともかく、イレギュラーズ達もいるのは、漁牙が不安を感じ取ったからだ。
曰く、「何かあったらオレ達だけでは対処できんかもしれん。念のため、ついてきてほしい」との事だったが――。
いずれにしても、深怪魔に、竜宮、そしてマールが狙われていたのは事実だ。となれば、警戒しすぎるという事はないだろう。
「じゃあ、いこっか!」
そんな、戦う者たちの不安を知ってか知らずか、マールはこれで万事なんとかなる、と信じている様だ。マールに、自分たちの実力を信じてもらっているのは嬉しいものだが、かといって油断はできない。
漁火村から、しばらく船で進み、ダガヌ海域と豊穣の海の境目ほどへ。マールが宝玉を掲げて念じると、一筋の光が海底に届き、まるで光る路のように、海底を指示した。
「ついてきて! 泳げないひとも、この光の中では泳げるし、呼吸もできるの!」
そう言って、マールが飛び込む。少し不安に感じながらも、一行は光の道の中へと身を沈めた。すると、どうだろう。まるでふわふわとしたような感覚は、さながら泳いでいるというより自由気ままに浮いているという感覚だ。自分の周りには、新鮮な空気の幕ができてるように、呼吸が可能。なんとも不思議な感覚の中、先を行くマール、そして漁牙の後について、一行は進んでいく――。
●海乱鬼衆
「漁火海軍の奴ら、妙におかしいと思ったら」
そういうのは、襤褸の和装に身を包んだ、剣呑な雰囲気をまとった男達である。近場の岩礁に船を隠し、イレギュラーズ一行を追っていた、複数の影。海乱鬼衆。豊穣海賊である。海賊と言っても、漁火海軍のような気持のよい男たちもいるが、しかし彼らは真逆。心底の悪党であり、先の豊穣の騒乱に乗じて覇権を得ようと画策し、敗北から海へと逃げた、悪党どもの残党である。
「成程、海の底のお宝か」
頭領らしき男が、下卑た笑いを浮かべる。
「奴らはどうも、海乱鬼衆を裏切ったらしいなぁ」
「どうしやす? 濁羅(ダグラ)の親方」
頭領――濁羅、と呼ばれた男は頷く。
「おう、裏切り者は始末しねぇと。それに、お宝があるってなら、それは俺たちのもんよ。
海は、俺たちの領域だ。そこにあるものは、全部、俺たち海乱鬼衆の財産だ!」
その言葉に、配下の海賊たちが、応、と叫んだ。
「行くぞ、あの光の道に突っ込め! 行った先で全部浚うぞ!」
●二正面作戦
「あった、あの光が竜宮だよ!」
マールが指さす先には、何とも『明るい』都があった。暗い海底にありながら、輝くピンクだのの光は、再現性東京で言う所のネオンサインに似ている。その醸し出す雰囲気も、どこか再現性東京で言う『繁華街』のような雰囲気を見せた。
「なんだかビカビカしてんなぁ。もっと神秘的じゃねぇのか?」
漁牙が呆れたように言うのへ、マールは小首をかしげた。
「そう? 明るくていいと思うけど……」
「ま、嬢ちゃんがそれでいいならいいけどよ。
兎に角、妹ちゃんの所に帰ってやんな。心配してんだろ?」
漁牙がそういうのへ、マールは頷く。そして一行がさらに竜宮城に近づいたときに――異変に気付いた。竜宮の周辺では、悍ましい怪物たち――例えば、ぐずぐずにとけたようなクラーケンのような怪物や、スケルトンのような怪物、サハギンのような怪物たちだ――が群れを成し、竜宮を突破せんと攻撃を繰り広げている!
「これ以上、深怪魔たちを中に入れないで!」
「だ、だめ! 右手側の子達が怪我が酷くて……!」
「ケガをした子は下がるんだ! ドラゴンズドリームが避難所になっている……だめだ、このままじゃ押し切られる……!」
見目麗しい竜宮の民たちが、そこで血を流しながら決死の攻防を繰り広げていた。
「そんな……! どうして? 深怪魔に攻撃を受けてるなんて……!」
「おい、ヤベェんじゃねぇのか!?」
漁牙が叫ぶ。それからすぐに、イレギュラーズ達に向き直った。
「迷ってる暇はねぇぞ! すぐに助けに行く! オヌシらも手伝え!」
もちろんだ! イレギュラーズ達は頷き――しかし、後方から迫る影に気が付いた!
「いたな、漁牙ァ!」
下卑た雄叫びをあげるのは、和装の海賊たちだ! 頭領、濁羅を先頭に、数十の海賊たちが、海を泳いで迫りくる!
「くそ、海乱鬼衆だ! あの濁羅って奴は相当の悪党だぞ! あ奴を竜宮に近づければ……!」
おそらくは、深怪魔の襲撃に乗じ、略奪の限りを尽くすのだろう。それだけは止めなければ!
「神使様方よ! 忙しいが、両方に対処しなきゃならん!
オレ達は海賊を抑える! 濁羅を倒すのに、何名か手を貸してくれ!
残った面子で竜宮に救援! 怪物どもを追い払ってやってくれ!」
「わわ、あたしは――!?」
「お嬢ちゃんは、竜宮を救う神使様方と行動! 頼むぞ、そのおてんば嬢ちゃんを守ってやってくれ!」
あなたに、漁牙はそう告げる。あなたは頷くと、武器を抜き放った。
竜宮に到達するための前哨戦。まずは、この二正面作戦を突破せよ!
- 深海にて、輝ける都へ完了
- GM名洗井落雲
- 種別ラリー
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年08月22日 12時40分
- 章数3章
- 総採用数220人
- 参加費50RC
第1章
第1章 第1節
●悪しき、濁り
「ハッハッハァーッ!
海底のどぶ浚いと行こうじゃねぇか!
ゴミ共は全部殺せ! 女子供は売り払え! お宝は俺たちのもんだ!」
下卑た声をあげるのは、濁羅(ダグラ)。海乱鬼衆、濁悪(だあく)海軍の頭領である。
見た通りの荒くれもの、品性のない下劣な悪党たち。それが、同じ海乱鬼衆からも、色々な意味で一目置かれる、悪しき愚連隊たる彼らの本質である。
「なんて奴だ……!」
アクセルが苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる。あまりにも下卑た悪党の姿は、アクセルにも不快に映っただろう。
「漁牙! オイラも援護するよ! アイツをやっつけよう!」
アクセルの言葉に、漁牙は頷いた。
「おう! オレたちも、あ奴のやり口にはうんざりしてたところだ!
ここで大けがさせて、引退と行こうじゃないか!
頼むぞ、アクセル。それに、神使サマ方!」
漁牙の言葉に、イレギュラーズ達は頷いた。そして、配下たる漁火水軍の面々も、応、と声をあげる。
光る路の感覚になれながら、イレギュラーズ達は濁悪海軍へ向けて突撃! 激しい剣戟の音が、静かな深海を嵐のごとく揺らした!
「オレも手伝うっスよ、フィールドに立つ実力もねぇヤツにはレッドカード突きつけてやるか!」
葵が声をあげ。ふわりと、その身を光る路に浮かせる。バランスをとりながら、鋭い蹴りでサッカーボールをシュートする! 神秘の力を帯びたボールは、海賊たちを次々と撃ち抜く!
「数だけは多いっすスね。漁火水軍の人たちも、無理しないでくださいよ!」
次々と撃ち放つ援護射撃が、漁火水軍の合間を縫って、援護的に海賊たちを撃ち抜いた。
「フォワード、後ろは気にせず進め! バックアップは任せるっス!」
「ええ、此方はお任せを」
正純が水中にて静止する。ふわりと浮かぶ感覚を覚えながらも、しかしその動きは静。瞬く間に感覚をものにした、正純の型。
「せっかく海になれてきたところでしたのに。出来れば、もう少しこの感覚を楽しみたかったですが――ええ、無法者が現れたとあれば話は別。
様々な事情があるのでしょう。
が、豊穣のこれからを思えば他所様に迷惑をかけていいわけが無い。
あなた方は豊穣で沙汰を受けさせましょう」
うち放った矢が、鋭く海賊の腕を、脚を、貫く。死なない程度に無力化するためのそれは、慈悲というよりは、正式な沙汰を受けさせるためのそれだろう。
「そうっきゅ! っていうか、深怪魔が襲って来てるのを見て、その奇に乗じて略奪だ、なんて人は、ちゃんと怒られるべきっきゅ!」
レーゲンが声をあげつつ、応援の声をあげる。頑張れっきゅ! 頑張れっきゅ! その声は癒しの力となって、漁火水軍、そしてイレギュラーズ達の背を押す。
「おう! 任せな! 神使いサマがたよ!」
漁火水軍の海賊……いや、漁師たちが、手にした武器で、濁悪海軍の海賊を殴りつけた。いてぇ、と悲鳴を上げた海賊が、逃げようとするのを、他の海賊が制した。
「頭領より先に逃げるな! 殺されっぞ!」
「海賊共も、自分の身は惜しいか」
ウェールが呆れたような声をあげる。その手に掲げる魔力の奔流が、水の濁流もかくやという勢いで、濁悪海軍たちを叩く。
「……俺は元生物兵器だから、奪わなきゃ生きていけない敵とかなら気持ちだけは手加減したり、
できるだけ痛くないように終わらせることを考える……だが。
この状況をチャンスだと襲い掛かってくるような輩は、躊躇いなく断ち切らせてもらうぞ」
悪に加減など不要。ウェールの一撃が海賊たちを薙ぎ払い、進むべき道を切り開く。
「すすめ! 奴らを突破し、あの頭領を撤退に追い込む!」
エイヴァンが叫んだ。指示に従うように、漁火水軍の面々が前進する。激しい剣戟が鳴り響く中、エイヴァンは名乗りをあげる。
「エイヴァン=フルブス=グラキオールだ! かかってこい、悪党ども!」
手にした巨大斧を掲げ、挑発するように叫ぶエイヴァンに、悪党どもの視線が集中する。い竦むことなく吠えるエイヴァンが、襲ってきた海賊を、その斧で殴り飛ばした。
「ふん、此処が竜宮の加護のある海でよかったな。こんな所で気絶すれば、おぼれて死んでしまっただろうに」
「ま、こっちもその方が気分は楽だよね!」
鈴音がくすりと笑う。俯瞰する視点であたりを見て見れば、イレギュラーズ達の攻撃により、漁火水軍たちは濁悪海軍達を明確に圧していた。
「いい調子いい調子!
傷ついたら戻って来るんだよ! このわたし、通りすがりの回復屋が癒してあげる!
寄らば……癒すぞ!」
しっかりと戦線は支えられているといっていいだろう。敵は確かに強力であり、濁羅の恐怖支配による連携は確かにあったが、恐怖で縛った思考など、より強い脅威により容易く切り裂かれてしまうものだ。
「ま、こう言う集団は頭を潰したら終いなんだけどな」
シラスが小ばかにした様子で言う。水中戦といえど、その力は衰えない。加護の力もあるが、瞬時に異なるフィールドでも最善のコンディションに持って行けるのが、シラスが歴戦の勇士たる証だろう。
「海賊共が欲出しやがってよォ、後悔しやがれ」
そのかざした手から濁流のごとく押し寄せるは、混沌の泥。蒼き海を汚す正しき怒りは、この時真に海を汚す悪党どもへと向けられていた。
「ついでだ、ステイシス――意味は分かるか? ま、お前ら程度の頭じゃ、崩れないバベルがあったって理解できねーだろうさ!」
停滞の術式が、海賊たちの足を止める! 動けず、泥に飲まれ、そうでなくても、イレギュラーズと漁火水軍の面々に蹂躙される海賊たちは、確実にその数を減じていく。
「ハッ! この程度で『海賊』だあ?
オイオイ、海賊ってのはいつからごっこ遊びで名乗れるようになったんだよ?」
獰猛な笑みを浮かべるのは、山賊、グドルフ。その力は、例え海の中でも健在。いや、むしろ『生っチョロい海賊モドキ』が居るというのなら、その力は膨れ上がろうというもの。
「ま、いいさ。
調子に乗っちまったバカどもをシメてやるのも、おれさまの役目ってこったな。
やれやれ、アタマの悪ィカスどもにもわかりやすいように教えてやるぜ。
海も宝も、何もかも手に入れるのは──この最強最悪の山賊、グドルフ・ボイデルさまだとなあッ!」
まさに、その様は暴威を人の姿にしたがごとし。山賊の在り様は、海でも変わらぬ。殺し、奪い、食いつくす。それが、海賊のまねごとをする間抜け共が相手だというのなら!
「オラァ! 一列に並べ! 順番に殴り飛ばしてやらぁ!」
その斧が振るわれるたびに、海賊モドキたちは悲鳴を上げて海の藻屑と消えていく。
イレギュラーズの猛攻は、まさに絶好調と言えた。
「もしかしたら、船を破壊すれば、奴らを動揺させることができるかもしれない……」
サイズは呟き、敵の群をかいくぐって水上へと向かう。見つけた複数の船は、錨をおろされ、そして流されぬように連結されていた。サイズは、その錨や、ロープ、船底に傷をつける。
「クソ、アイツ船を狙ってやがる!」
海賊たちが叫ぶ。ここは広大な海のただ中だ。船がなくなれば、仮に財宝を手に入れても持って帰る方法がなくなるだろう。文字通りの命綱、立たれるわけにはいかない。
「そうだ、壊されたくなかったら、とっとと撤退しろ!」
サイズが叫び、船への攻撃を敢行する一方、ルチアと鏡禍もまた、濁悪海軍との激闘を繰り広げていた。
「僕、結構無茶なことやろうとしてるんですけどご一緒でいいんですか?」
そういう鏡禍へ、ルチアは少しだけ口を尖らせた。
「無茶するからついて行ってるんじゃない。一人で行ったら心配するでしょう、まったく。
支援は任せて、安心して引き付けなさい」
背中を押すようなその言葉は暖かい。
「行ってきます!」
鏡禍はすぅ、と息を吸い込んで、出来る限り勇敢に、声をあげた。
「さぁ、こっちです! 悪い人たちを、僕たちは許しません!」
敵海賊を引き付けて、頭領を狙う仲間達へのサポートとする。敵は多い。その多くを引き付ける二人には、重い負担がのしかかるだろう。
「大丈夫。ちゃんと支えるから」
ルチアが言う。その言葉だけでも、どんな重責にも耐えられそうな気持になった。
「お願いします……一緒に戦いましょう!」
鏡禍の言葉に、ルチアは頷いた。二人は、襲い掛かる無数の海賊達に、立ち向かう!
「漁火水軍のみなさん、右手側の敵が消耗しているよ!」
文が叫ぶ。漁火水軍の漁師たちが一斉に飛び込むのを見やりつつ、援護の攻撃をうち放った。
「濁悪海軍、ね。海洋に領地を持つ身として、治安が良くなるのは好ましいからね。
あそこにいる海賊たちには、少し怖い目痛い目を見てもらおう」
呟きつつ、手帳を開く。水中でもぬれずに扱えるのは奇妙な感じだが、これも竜宮の加護なのだろう。
「そう言えば、加護で力が増してる……のか。今は水着で来てるけど、スーツ姿で来た方が、丁度よかったかもしれないね」
苦笑する。確かに雰囲気的に似合いそうだが……。
「まぁ、それも、竜宮の平和を取り戻してから考えればいいかな」
「そうだね。あんな珍走団に負けたくないよ」
そういう祝音は、むっ、と口を尖らせた。
「だーくかいぐん、なんて……かっこ悪い名前!
君達は招かれてないんだから、滅茶苦茶にするから……入っちゃだめ。
敵は殲滅する。竜宮からも海からもどこからもいなくなれ……!」
祝音はしかし、行使するのは癒しの力だ。乙姫の加護にも負けぬほどの清涼なる光が、漁火水軍の面々の傷を癒していく。
「皆の力は、借りないといけないから……でも、誰も死なせたりは、しないからね……!」
「そうだね、後ろを頼むよ!」
帳は仲間からの援護を背に受けて、海賊たちのただ中へと躍り出る。その指先が操るは、気糸の斬糸。振るわれるそれが、海賊たちの腕に絡みつき、その動きを阻害する!
「くそ、何だこいつ――」
「いまだよ!」
帳が声をあげるのへ、内部深くへと斬り込んだのは、雄だ!
「折角竜宮城まで来たってのに何邪魔しやがってんだテメェ! こちとらこの時を楽しみにしてたんだぞコラァ!
しかも濁悪とかまたあったま悪ぃネーミングしやがって、いい歳して厨二病かよオイ。俺はこれからカジノで豪快に稼いでねーちゃんたちと楽しく遊ぶんだよ! だからとりあえず死んどけ!!」
雄叫びは威嚇にもつながる。その敵意に僅かに怯んだ海賊を、雄は殴りつけた。気絶した海賊が、ふわり、と海上へと浮かんでいくのへ、舌打ち一つ。
「命拾いしたな! だが、楽に帰れると思うんじゃねぇぞ!」
「そうだよ! 綺麗で楽しい所だって聞いてたから楽しみにしてたのに!
フェデリアで親切にしてくれた人のお店に行ってみたかったのに……!
それをさ、こんな形で穢そうとされるのは割と本気で腹が立つんだから!
ガチ目にぶっ飛ばす!」
怒りを覚えていたのは、帳も同様の様子だった。
「火事場泥棒はメッ! デス」
そう声をあげ、海賊たちの中を『泳ぎ回る』のはアオゾラだ。手にした武器は、水などないかのように鋭く唸りをあげ、海賊たちをまとめて薙ぎ払う。意識を失った海賊たちが水面へと浮かんでいくのへ、アオゾラは、べ、と舌を出した。
「こういう時に言う言葉、知っているのデス。
オトトイキヤガレ、デス。
……ああ、でも、二度と来てはいけないのデス」
「そうだね、誰一人、竜宮へは行かせないよ」
リュビアがそう告げる。眼下の竜宮では深怪魔と仲間達の激闘が続いており、リュビアのいるその境界線ともいえる此処では、どちらも相手をする可能性があったが、深怪魔達は竜宮攻めを最優先としているようで、頭上の海賊たちには目もくれない。
「それに、これだけの仲間がいれば、海賊なんて竜宮には通さない。
諦めて欲しいな」
そういうリュビアに、濁悪海軍の頭領、濁羅は下品に呵々大笑した。
「馬鹿が、せっかくお宝があるんだ。部下の何匹かやられたくらいで諦められるかよ!」
「相変わらず下衆というものだな、濁羅!」
漁牙が、手にした武器を叩きつける! 濁羅は大太刀で、何のこともなくそれを受け止めて見せた。
「ジジイが、さっさと引退して死ねよ!」
振るわれる大太刀が、漁牙を圧し返す!
「大丈夫か、漁牙の爺よ」
裂が声をあげた。漁牙の実力は、裂も充分に理解している。それをこともなげにあしらった、濁羅という海賊。確かに、強い。
「名指しで指名されるたぁいいご身分じゃねぇか。
海乱鬼衆のやつらにこっちの動きがいつの間にかばれたかしらねぇが、
お互い喧嘩でやりあった仲だ、助太刀するぜ!」
「ハ――何だ、ジジイの漁師仲間か?
ジジイもそうだが、半端な連中が海賊の世界に入って来るんじゃねぇよ!」
「こっちの爺は好きで海賊やってんじゃねぇんでな!
濁羅とか言ったなぁ! てめぇらはお呼びじゃねぇんだ。
そのまま尾びれ巻いて陸へ帰んな!!! お前らにやるもんなんざねぇんだよ!」
「舐めてんじゃねぇぞ、ゴミカスがァ!」
あっさりと挑発に乗った濁羅が、大太刀と共に海中を泳ぐ。加護など無くとも、やはり海賊か。水中での動きは配下のそれよりも機敏だ!
「……思ったよりも、遅い、ね……」
フラーゴラは笑う。水中においてもなお白く輝く獣、その速度には、如何に海の暴威と言えど、追い付けるはずもない!
「ちっ、足だけは速いみたいだな!」
「……脚だけか、どうか、確認してみたら……!」
放つは魔光。放たれた小さなそれは、濁羅の脚を切り裂いた。鮮血がほとばしる。同時、感電したかのような感覚が、濁羅の身体を痺れさせる!
「なんだと!? このガキが!」
「いま、だよ! 皆……!」
フラーゴラの指揮の下、仲間達は一気に突撃を敢行する!
「見ての通り取り込み中でな、ここは大人しく出直して……くれる訳がねぇよな、やっぱり」
縁が嘆息しつつ、力を抜いた。水中での動きは、縁にも長というものがある! 轟烈たる濁羅の泳ぎに比べれば、縁のそれは静たるそれか。お互いの戦闘スタイルの違いが良く視えていると言えた。
「悪いが、元とは言えこれでもギャングなんでな。好き勝手海を荒らされるってのは面白くねぇのさ」
「同業者か? だが、陸の奴は陸にいな! 海は俺たちの領域だ!」
轟! 濁羅の刀が振り下ろされる。縁はそれを受け流すように避けると、静から動、その腕をとって態勢を崩させる。
「おっと!」
濁羅は、しかし俊敏に態勢を変えた。ダメージを最小限に受け身をとると、すぐに轟の剣を抜き放つ。抜き放たれたそれを受け止めたのは、クロバだ!
「クロバさん!」
マールが声をあげるのへ、クロバは頷いた。
「任せろよ、俺は強いつもりだ。
竜宮の方を頼む、お姫様!」
斬撃が、濁羅を振り払う。マールは頷き、他の仲間達と竜宮に向かっていく。
「かっこつけるなよ、色男サンよ!」
「色男サン、か?
……おっと、名乗り遅れたが俺は――駆け出し錬金術師? いやそれだと見栄え悪いな。
まぁ分解なら得意だから……穿壊者(ペネトレイター)クロバ・フユツキ、とでも覚えてもらおうか!」
剣戟が鳴り響く! 濁羅は下卑た笑いを浮かべると、
「俺を分解してみせろよ、ペネトレイター!」
挑発するように刃を振るった。クロバは刃を受け止め、敢えて衝撃を殺さずに後方へと飛ばされた。距離をとる戦法。
「今、あなた方はお呼びではないでしょうに」
入れ替わる様に攻撃を仕掛けたのは、雨紅だ! まさに舞うように華麗に放たれる一撃は、轟の濁羅の剣の隙間を縫うように突き刺さる1
「ちぃ! 気持ちの悪い攻撃だ!」
「あなたにそう言われるという事は、褒め言葉として受け取っておきましょう」
雨紅がさらなる一撃を見ます。鋭く静かな一撃が、濁羅の腕を薙いだ。
「この舞台から降りるまでは、私の舞に付き合っていただきますよ」
「冗談じゃねぇ!」
濁羅は吠えるように、大剣を薙ぎ払う。雨紅が大剣を受け流しながら、しかし衝撃は殺せずに退避。追撃を決めようとした濁羅を、しかし遠距離からの攻撃がその泳ぎを止める。
「させない!」
飛呂の銃が、水中で高らかに吠えた。地上とは状況が違えど、しかし寸分たがわずに狙いを外さずに放たれるそれは、まさに銃士の業か。
「此方も足を止めよう」
同様の銃撃士、ラダもまた、足止めの銃撃を放つ!
「チッ、めんどくせぇゴミ共がよ!」
「ゴミ、か。悪いがそれはこちらのセリフだ」
ラダが狙いを定めながら言う。
「どうも大将、お初にお目にかかる。
今度うちの商船もこの辺の海域を通りそうなんでね、あんたらには是非大人しくしてて欲しいんだよ!」
放たれた銃弾を、濁羅は寸でのところで回避。
「ほう、商人か? 奈良、テメェのも根こそぎ俺たちが奪ってやるぜ!」
続く飛呂の銃弾が、その身体を捉え――しかし、強引に引き寄せた大剣で受け止められる。
「得るものが無ければ、割に合わなければ離脱するはず……だけど」
飛呂は苦笑する。
「あれはしつこいタイプだぞ……!
援護を続ける! 攻撃の手を緩めるな!」
「まっかせなー!」
「ええ、一気にぶっ飛ばすわ!」
秋奈、そしてリアが一気に接敵する! 水を蹴り、放たれるはクォーツ式ドロップキック!
「ぐおっ!?」
流石にイレギュラーズの猛攻に疲労が見えたか、回避しきれずにまともに食らう濁羅! 追撃の秋奈の斬撃が叩き込まれる! 致命傷は避けたが、しかしダメージは大きい。濁羅は忌々し気に舌打ちしつつ、
「クソ女が! おとなしく掴まって売られやがれ!」
「みさげはてた奴ね……幻想のクソ貴族でもそこまでの奴はなかなかいないわよ?
さあて、クソ野郎。見目麗しいバニーガールのお嬢さん方じゃなくてごめんなさいね?
悪いけど、アンタは此処から先には進めないわ!」
リアが挑発するように笑う。秋奈も獰猛な笑みを浮かべた。
「手加減しなくていい奴じゃーん! やっちゃうか? やっちゃうんだけどね、これが!」
秋奈が跳ぶ! 水中を蹴って、加速!
「ええ、手加減も遠慮も無用よ、あんな奴は!」
リアの叫びと共に、秋奈が斬撃! それを濁羅が受け止めると同時、
「射線からひいてください! 撃ちます!」
叫ぶのは、彼方だ! 放たれる、強烈な魔力砲撃! 海を裂く魔力の奔流が、濁羅と、付近の海賊たちを撃ち抜く!
「リリーもやるよ!」
その隙をついて、リリーの放つカースド・バレット! その名の通りに呪力を込めた銃弾は、魔力砲撃に態勢を崩した濁羅の身体に突き刺さった!
「痛ぇ! クソ虫が! 殺してやる!」
邪悪な声をあげる濁羅。べーっ、とリリーは舌を出した。
「おあいにく様! だいたい、海軍ってもっとカッコいいものだもの!
あなたたちが名乗るなんて、間違ってるし許せない!」
「確かに、あなたたちはただの悪党です。
今すぐ尻尾を撒いて逃げかえりなさい。あなたたちが得るものは何もありません!」
彼方が声上げるのへ、濁羅は苛立たし気に叫ぶ。
「黙れ、クソが! 俺はこの海のすべてを手に入れる! 底も代わりねぇ!」
「やれやれね、本当に品性が下劣」
声と共に、降り注ぐは二つの星。美咲とヒィロ、二人がコンビネーションよく、連続攻撃を仕掛ける!
「あなたはは海乱鬼衆から切除可な部分よね?」
「ゴロツキの集団は頭潰せば散り散りになるって、スラムで生きてた時に覚えたんだ!
だから、お前をやっつける!」
ヒィロが声をあげ、その脚で蹴り上げる。濁羅は寸でのところでかわし、その隙をついた美咲の包丁が振るわれた。濁羅は舌打ち一つ、身体を反らす。包丁の先端が、濁羅のはだけた胸を浅く裂いた。
「とんでもねぇ女だな! 包丁で人斬りとはな! 大した腕だよ!」
「腕じゃないね。瞳のおかげかな。
そうそう、どうせ文無しでしょう? 六銭無用にしてあげる……感謝なさい」
美咲が言うとと同時に、ヒィロがその脚を突き刺した! 濁羅が、ぐ、と息を吐きつつ、衝撃を殺すために後退。間髪入れずに飛び込んだのは、アイリスだ!
「海の中は武器が錆びそうであまり気ノリはしなかったけれど、キミみたいなのが暴れるからお仕事になるんだよね!」
アイリスの機刃が、上段から濁羅に迫る。濁羅は咄嗟に身をよじって回避。が、すぐにアイリスの蹴りが迫り、濁羅を叩き伏せる。イレギュラーズ達の猛攻に、濁羅も確実に押されていた。もちろん、アイリスが相応の実力者であるが故のダメージである事は言うまでもないが。
「クソが! 俺が圧されてるってのか……!?」
「憂さ晴らしな感じになってて悪いんだけど、キミたち……タイミングが悪かったと思って諦めて?」
その言葉通りか、力を込めて、怒りをぶつけるような斬撃が、濁羅を叩く! 大剣で無理矢理防御した濁羅は、そのままの勢いで吹き飛ばされた。イレギュラーズ達から距離をとり、叫ぶ。
「おい! 何をやってる! 援護はどうした!」
「ハッ、いざとなったら部下だよりか。それで海賊とは笑わせる」
グドルフが嘲笑するような声をあげた。既に多くの配下たちは漁火水軍、何よりイレギュラーズによって足止めされており、濁羅への援護などは非常に困難な状況に追い込まれている。ぎり、と濁羅は歯噛みした。
「使えねぇ奴らだ! 戻ったら全員殺してやる!」
「仲間を大切にできねぇ奴に、頭領を名乗る資格はないだろうさ!」
ニコラスが叫ぶ。手にした大剣を構え、漁牙と共に突撃!
「漁牙の旦那! 俺たちゃ喧嘩した仲だ。ならお前らのペースを知ってるし逆も然りだ。合わせるぜ!」
「おうよ、ニコラスよ!」
漁牙の武器が突き出さられる。先端の槍状の刃を嫌った濁羅が大きく回避。が、そこにニコラスの大剣が迫る! 横なぎに振るわれるそれを、濁羅は直撃を避けるために無理やり己の剣で受け止めた。激痛が、その腕に走り、濁羅は怒りに叫んだ。
「何なんだテメェらは!」
「知らなかったのか? 神使サマ方だよ!」
漁牙が吠える。ニコラスは苦笑した。
「その呼び方、なんか慣れないな!」
追撃のニコラスの斬撃が、濁羅を大きく吹き飛ばす。追い詰められた濁羅は怒りと背水の力を以て、最後の抵抗に出た。
「つくづく神使共には邪魔されてばっかりだな! 先の豊穣の動乱の時にもそうだ……!」
「……どうやら、根っからの悪党だったようですね」
正純が言う。どうやら、先の豊穣の動乱、その際に魔種に与した悪党の成れの果てが、濁羅たちのようだ。
「ならば、なおのこと容赦する必要はないわね!」
セチアが声をあげた。鞭のようなそれを、びし、と突き出す。
「看守として、貴方は刑務所に収監するわ!
そこで更生の手続きを受けなさい!」
「は、更生ねぇ! 冗談じゃねぇぜ!」
濁羅は吠えた。その怒りの闘気はまるで巨大な大蛇のごとく鎌首をもたげ、薙ぎ払うように振るわれたその闘気が物理的な圧力を伴い、イレギュラーズ達を打ち叩く!
「ちっ……追い詰められるほどに強くなるタイプか」
クロバがそういうのへ、
「……けど、逆に言えば、あと少し、ってことだよ……!」
フラーゴラが言う。
「その通り! 頑張ろ、美咲さん! 皆!」
ヒィロの言葉に、美咲が、仲間達が頷く。
「やってみろよ!」
濁羅が吠えた。その表情はまさに羅刹のごとくか。獰猛な笑みと共に放たれた一匹の獣は、強烈な斬撃と共にイレギュラーズ達を叩く!
「くっ……要注意囚人ね! いちばんセキュリティの高い監房を用意してあげる!」
セチアが声をあげつつ、体制を整えた。海を奔る暴風と化した濁羅を、再度捉えるべくイレギュラーズ達は攻撃を続行!
「まずは脚を止めよう、ついてきてくれ!」
モカが声をあげる。同時、水を蹴る様に水中を突撃! 荒れ狂う斬撃をかいくぐり、モカの蹴撃が濁羅を叩く! 上段から振り下ろされたモカの脚が、鋭い鞭のごとく濁羅の背中を蹴りつけた!
「ぐ、おっ!?」
濁羅が息を吐く。同時、振るわれたのは、バルガルの拳だ!
「てめぇ、いつの間に接近していた……?」
「ええ、隠れるのは得意なもので」
バルガルの拳が、濁羅の腹部に直撃する! ごふ、と息を吐いた濁羅に、モカ、そしてバルガルの脚、拳、二つの撃が突き刺さる!
「折角バニーちゃんたちと楽しめると思っていたのにとんだ邪魔が入りましたねぇ……。
えぇえぇ、怒ってませんよ。ただ、今日は普段よりもしっかりと動けそうだなと思っただけですよ。
そして実際、随分と機敏に動けるようです。こんな風に」
ふ、とバルガルが笑う。同時に、濁羅の顔面に、拳が突き刺さった。強烈な一撃が、濁羅を殴り飛ばす!
濁羅が後方に吹っ飛ばされる中、ルーキスが追撃!
「大方、財宝でも狙って来たんだろうが……ここから先には行かせない。命が惜しくば、大人しくこの場から立ち去れ!」
斬撃と共に、濁羅の足を止める。満足に退避も出来ず、イレギュラーズの攻撃の前にさらされることとなった濁羅は、なおも闘気衰えず、怒りと共に吠えた!
「黙れ、クソゴミが! この程度で俺を止められると思うな!」
「その戦意は認めますが……されど、その悪しき意思を野放しにはできない!」
ルーキスが吠える。振るわれた刃を、濁羅は受け止めた。刹那に泊まった動きを、Я・E・Dは見逃さない。すぐにマスケット銃を構えるや、その引き金を引いた。究極の光。そう形容されるにふさわしき光の帯が、濁羅の左腕を貫いた。
「く、そが!」
痛みに吠える濁羅。Я・E・Dは躊躇なく二発目を射撃。しかし今度は濁羅も大剣で受け止める。
「漁牙さんは、あいつを近づけさせないようにお願い!!
このままくぎ付けにして、撤退まで追い込むよ!」
Я・E・Dが声をあげる。続く三射目が、濁羅の左腕を再び貫いた。
「クソが! クソがクソがクソがクソがクソが!!」
それは、ままならない現状への怒りか、それを打開できない己への怒りか、いや、単純に、邪魔をするイレギュラーズ達への怒りか。様々なそれが爆発するように濁羅の中で渦巻く中、しかし最後まで澱み輝くのは、全てを手に入れるという『欲望』――。
「させねぇよ! 俺はこの海ですべてを手に入れる! 邪魔すんじゃねぇよ!」
吠える濁羅。最後の力を振り絞るような斬撃が、とりつくイレギュラーズ達を吹き飛ばす!
「がああああああっ!」
雄叫びをあげる濁羅。その悪鬼の如き闘気は、悍ましいほどの力を感じさせる。
「エーレンくん、とどめをさそう!」
「ああ。
鳴神抜刀流、霧江詠蓮だ。――教えてやろう、海にお前たちの財産など何もない」
咲良とエーレン、二人が突撃! 吠える濁羅に向って、咲良の拳が突き刺さる! 下方から、すくい上げるような一撃! 打ち上げられ、バランスを崩した濁羅を、上段から叩きつけるエーレンの刃が捕らえた!
「が……あ!!」
吠える。激痛に、濁羅は刹那、意識を失った。だが、すぐに取り戻せたのは、恐ろしいほどの戦意故か。
「もう諦めろ。お前に勝ち目はない」
エーレンの言葉に、咲良は頷いた。
「そうだよ! 正義の味方が居る限り、あなたたちに好き勝手なんかさせないんだから!」
その言葉に、濁羅は苛立たし気に奥歯をかみしめた。
「……正義気取りが、何度も俺の邪魔をするか……!」
唸るように言う濁羅に、しかし咲良は、そしてエーレンは怯むことなく視線を返した。しばしの間、にらみ合う。
「ちっ……だが、もう限界か……」
舌打ち一つ、濁羅がいう。如何に邪悪で下卑た男と言えど、状況を判断できぬほど無能ではない様だ。
「テメェら、撤退だ! 退くぞ!」
ちらり、とこちらをみる。ぎり、と憎悪と怒りに奥歯をかみしめて。
「神使い共か……いつか殺す……そして、竜宮も金も名声も、全て手に入れてやる……!」
言い残すように言うと、濁羅達は去っていく。
「追うなよ! 深怪魔も居る!」
漁牙が漁火水軍の漁師たちに告げる。その通りだった。イレギュラーズにも、追撃を行うだけの余裕はない。まだまだ戦いは続くのだ。
「とんでもない奴だったな……まるで欲望の塊のような奴だ」
ラダが言うのへ、シラスは頷いた。
「ハングリーさは嫌いじゃないが、あれじゃあな」
「どっちにしても、クソ野郎よ、アレ……こほん、失礼」
リアが咳払いする。
「ひとまず被害も損耗も最小限に抑えられたけれど、鬱陶しいことに変わりはなかったね」
Я・E・Dの言葉に、
「あの人たちのせいで、よけいに消耗したっきゅ!」
レーゲンがいうのへ、仲間達は頷く。とは言え、二正面作戦、その内の一面は、見事勝利を収めたといってもいいだろう。
「ケガした人は言ってね! まだ休めはしないけど、応急処置くらいはできるから! 漁火水軍の人達もね!」
鈴音が言った。快進撃と言っても差し支えのない戦果だったが、かといって無傷の完勝とは言い難い。海賊たちからの攻撃も相応にイレギュラーズ達に傷を負わせたし、追い詰められた濁羅の一撃は、多くのイレギュラーズ達に深手を負わせたのだ。
これから戦いは続く以上、此処で応急手当などは行っておいた方がいいだろう。それに、すぐにでも、下で戦っているメンバーと合流する必要もある。
「ふむ、これで、後方からの攻撃は避けられたな。
漁火水軍の皆は、念のため警戒を続けてくれないか?」
エイヴァンが言うのへ、漁牙が頷く。
「頼むぜ、爺。此処からが俺たちにとっては本番なんだからな」
裂がいうのへ、漁牙が笑う。
「応――オレも竜宮は気になるが、仕方あるまい。
オヌシら、あの嬢ちゃんと、嬢ちゃんの仲間達を、頼んだぞ!」
漁牙がそういうのへ、皆は頷いた。
一方で、イレギュラーズ達と深怪魔たちの激闘も、続いていた。状況的に、戦いの趨勢は決まっている様だが、とはいえここでのんきに見ているわけにもいかない。
イレギュラーズ達は意を決すると、深怪魔との闘いに身を投じるのであった。
成否
成功
第1章 第2節
●深海の戦い
さて、イレギュラーズ達が濁羅を撃破したその時より、少しだけ時間をさかのぼる。濁悪海軍との戦いが進む中、竜宮周辺の海底では、無数の深怪魔たちが、竜宮を侵攻せんと、その戦力を展開していた。
「皆……!」
マールが心配げな声をあげる。竜宮の最前線では、幾人もの男女が決死の抵抗を続けているのが見えた。そのだれもが、マールにとっては大切な竜宮の仲間なのだろう。普段は明るい彼女の顔が、殊更にかげって見えるのを、イレギュラーズ達は認識していた。
「うむ! ならばすぐにでも駆けつけ、皆を勇気づけてやらねばならんな!」
そういう百合子が、マールに笑いかけた。それから「失礼をする!」と言ってかがみこむと、マールが困惑する間もなく、彼女を肩車で担ぎ上げてしまったのだ!
「え、え、なに!? どうして!?」
マールが目を白黒させるのへ、百合子は笑った。
「マール殿、ここは皆に帰還を知らせて希望を持たせるのである!
どうしたらいいのか分からないと頑張れないけど、何したら終わると分かってたら頑張れる!
メ―ア殿にも届く位のおっきい声で頼むのであるよ!」
「そうっすよ! まずは皆に希望を。皆、きっとつらいっすからね! 此処でもう少しがんばればなんとかなるって、皆にエールを送るっすよ!」
レッドがそういうのへ、マールはハッとした顔をした。
「そう……そうだよね! 百合子さん、レッドさん、ありがとう!
ねぇ、今から皆を助けたいの! 勇気づけたいの! 力を貸して!」
百合子に、レッドに、そして仲間達にそういうのに、皆は頷いた。
ここまでくれば、心は一つ。
「じゃあ、いくっすよ!
遠からん者は音にも聞けっす! 近くば寄って目にも見よっす!
マール・ディーネーさんのご帰還であーるっす!!」
レッドがそう告げた時に、百合子はマールを高く掲げるように胸を張った。百合子の肩の上で、マールが両手を振って声をあげる。
「みんな! もう大丈夫! あたし、とっても頼りになる人たちを連れて帰ってきたから! 竜宮幣も集めてくれた! とっても素敵な人たちなんだよ!」
その声が、深海に響いた。刹那、竜宮の民たちにどよめきがはしる。
「マール? マールが帰ってきたの?」
「竜宮幣を集めて帰ってきたんだ!」
わぁ、と歓声が上がる。イレギュラーズ達の試みは、確かに成功したようだ。終わりの見えない戦いに、希望という終わりが見えた。ならばもう少しだけ、立ち上がれる。
「お願い、皆!」
マールが言う。イレギュラーズたちは徘徊する深怪魔達へと、突撃! ぎぎ、とサハギンたちが鳴き声をあげる。マールを狙え、と指示するかのように。
「させないわよ! おいで、Delphinus!
そしてWitchbroom!
Witchesnight! 魔女が魔物を狩りに来たわよ!」
箒に乗って水中(そら)を駆ける、セレナ! 掲げた指先から放たれる雷が、ウーズを焼いてその身を海へと還す! サハギンたちが汚れた槍を投擲するのを避けながら、再びの雷で、サハギンたちを焼き払った!
「まだまだ数は多いわね! でも大丈夫! 竜宮城の人たち、もう安心しなさい!
わたしなんて端役。主役はこれから幾らでも来るんだから!」
とは言え、セレナとて主役級の活躍はしているし、竜宮の人々にとってはセレナもまた英雄の一人にうつっただろう。セレナの雷が走るたびに、あの恐ろしい深怪魔が消えていくのだから。
「深怪魔の襲撃前には来れなかったっすけども……。
なら『間に合わせれば』良いんすよ。
今から退ければ、まだ間に合います、きっと」
慧がそういう。展開するは、夜叉呪血。暗き海底にてほのかに輝く、呪(のろ)いにして呪(まじな)い。
「ほら、血の匂いがするでしょう? 獲物はこちらっすよ」
すぅ、と水の中に、血の匂いが混じるような感覚。深怪魔達はそれを敏感に察し、まるでいざなわれるかのように、慧の元へと向っていく。
「敵は引きはがすっす。後は――」
「ええ、ええ、小さな可愛らしい皆を守りましょう!
みんな! おねーさんが来たからにはもう大丈夫なのだわー!」
ガイアドニスが、右手側の竜宮防衛部隊を庇うべく進軍する。けが人が増え、損害の増えていた右手側防衛部隊にとって、ガイアドニスの存在はまさに天からの助けに違いなかった。
迫るサハギン、スケルトン、無数の敵たちを、ガイアドニスは捌き、撃破する。敵の攻撃は、その身をもって受け止め、背後の竜宮の民たちには、一切通さない!
「あ、ありがとうございます!」
「大丈夫でっす! おねーさん、大きいので!」
にこり、とガイアドニスが笑う。ふわり、と傘を振るうと、襲い掛かってきたスケルトンが砕ける。かちかち、かたかたと骨を鳴らすスケルトンたちが一斉に攻撃してくるのを、ガイアドニスは身体を張って受け止める――同時、キドーのククリがネオンの光を受けて妖しく輝く刹那に、スケルトンをバラバラに解体せしめて見せた!
「おうおう、カルシウム足りてねぇぜ、骨のくせによ」
キドーがおちょくるように笑いつつ、隣にいたスケルトンを蹴りつける。衝撃にスケルトンはバラバラに砕けて動かなくなった。
「おねーさんよ、後ろの連中は頼むぜ! 俺は可能な限り雑魚共を追い払う!」
キドーの言葉に、ガイアドニスは頷いた。
「おまかせでっす! キドーさんも小さいですから、無理しないで!」
笑うガイアドニスに、キドーも「へっ」と笑ってみせた。
「小さいなりの戦い方って奴を見せてやりましょ」
キドーが駆ける。そのたびに、スケルトンがバラバラになり、サハギンたちは三枚におろされていった。そんな中で戦うのは、ソアも同じだ。
「へへーん、いくらでもかかってきて!」
得意げにそう言うだけのことはある。その大きな手に、次々と深怪魔達は粉砕されていく。
「サハギン、しゃべれるのかな? だったら教えて、何で竜宮を襲うの? 狙いはなぁに?」
そう尋ねるも、サハギンたちはふしゅう、と鰓から呼気を吐き出すだけだ。むむ、とソアが唸った。
「しゃべれたら色々聞きだせたのにね?
……ま、いっか。それならそれで、まとめてやっつけるだけだものね!」
ソアが叫び、疾風のごとく駆けだす。
「びりびりどーん!」
振るわれるその手、その爪が、深怪魔達を一気に粉砕していった。
「すごい、深き魔達をあれほど簡単に……!?」
驚きの声が、竜宮の民から上がる。苦戦していた状況は、イレギュラーズ達の活躍により徐々に圧し返されていった。
「気をつけて! クラーケンタイプが来ます!」
竜宮の女性が声をあげるのへ、イレギュラーズ達は飛びずさった。巨大な触腕が、大地を叩きつける。ずず、と海底の砂が海に舞った。
「クラーケンか。マール君を追っていたあれよりは小型だな」
愛無がそう呟く。以前イレギュラーズ達が遭遇したものよりは小さく、いうなれば中型サイズのクラーケンタイプだが、しかしこの場においては驚異の敵であることに違いはない。
「奴は見た目通りに手数が多い。触腕を切り裂いて、封じ込めてやるのがいいだろう」
「なるほど、ね」
オデットが頷いた。
「私は一撃一撃が重いから……触腕は任せてもいい? 隙ができたら、おっきいのを打ち込むわ!」
「了解した」
愛無が頷く。
「よかろう。では攻撃の引き付けは、私が」
オラボナが頷いた。
「私の成すべき事は地上だろうと深海だろうと、大空で在ろうと変わらぬ。
我が身こそが絶対の壁で在り、故に言の葉を紡ぐのだよ。
無窮にして無敵――ラーン=テゴスを貫く事は赦さぬ。
Nyahahaha!」
哄笑。同時に振るわれるクラーケンの触腕が、オラボナを叩く――だが、それは壊れない。砕けない。無窮にして無敵。その言葉のままに。
「Nyahahahaha!
行くと良い!」
「おっけー! ビーチパラソルレーザー!」
メイが叫び、ビーチパラソルを掲げた。その先端から放たれる、強烈な閃光! 魔力砲撃の光が、クラーケンの触腕をちぎって消し飛ばす!
「まだまだ撃つよ! ついでに、後ろの骨とか魚もまとめて粉砕!」
再び放たれる魔力砲撃が、クラーケンの触腕を、そして付近のスケルトンやサハギンをまとめて薙ぎ払う! ぶち、と千切れたクラーケンの触腕が大地に落下し、足下のウーズをついでのように潰して消滅させた。
「よーし、今よ!」
オデットが、クラーケンに接近! その手に魔力を凝縮させて、零距離から叩き込む! 爆発した魔力がクラーケンの身体を駆け巡り、粉砕する!
ぼぐおうん! 苛烈な爆発音が、水中で響いた。クラーケンの身体が倒れ伏し、そのまま泥米納に溶けて消えていく!
「うん、やれる……! 次に行きましょう!」
オデットの言葉に、仲間達は頷いた。果たして次のクラーケンへ向かい、水中を進撃する!
現れたクラーケンの触腕を粉砕し、解体するように敵の攻撃回数を減じていく。
「うふふ、御免なさいねぇ、クラーケンさん?」
すっかりと本体むき出しとなったクラーケンを、イサベルが殴りつけた。叩きつけられた拳が、クラーケンの身体深く沈む。そこを基点として、爆発するようにクラーケンが爆ぜた。ばちゃ、と水中で泥に溶けて消えてく。
「ふふ。正直事情はよくわかってはいませんが――敵対る方を殴ればいいというのでしたら、そういたしましょう」
ふふふ、とイサベルが笑う。いずれにせよ、戦力は少しでも多い方がいいのは事実だ。事情は分からない、と謙遜するものの、竜宮の民にとっては得難い増援と言えるだろう。
「サハギンの行動にも気をつけて! クラーケンと連携をとってるよ!」
ヨゾラがそう告げる。その言葉通りに、クラーケンを撃破され始めた事に気づいたサハギンたちは、クラーケンを守るように行動を始めた。自分たちを前線にて盾として、クラーケンを最大限に利用する腹積もりなのだろう。
「クラーケンタイプは、敵にとっても切り札何だと思う。お城の城門を壊すみたいな役割があるんだ。だから、クラーケンタイプを多く倒せれば……」
「それだけ、これから竜宮を突破しようとするのを妨げられるという事なのですね?」
イサベルの言葉に、ヨゾラは頷いた。
「積極的にクラーケンを潰していこう。もちろん、サハギンやスケルトンなんかも忘れないでね!」
「ここから先は通さないよ。雨が降ろうと槍が降ろうと、海の底だろうと、それは変わるもんか――」
史之はその刃を抜き放つ! 相対するサハギン、その薄汚れたトライデントを捌きながら、一刀のもとにサハギンを切り捨てた。
「やれやれ、何が憎くてこんな悪どいことができるやら」
倒されたサハギンを盾にするように、史之の隙をつこうとするサハギン。その一撃を紙一重でよけながら、返す刀でサハギンを切り捨てた。
「悪いね、僕には帰りを待ってるお姫様がいるんだ。やられてなんてやれないよ」
史之の斬撃が次々とサハギンを迎撃し、仲間達がクラーケンを粉砕する手助けとなっていた。
一方で、数の多いウーズ、スケルトン、サハギンとの戦いも苛烈なものとなっていた。
「流石に数が多いな……どこからこれだけの兵力を用意できたのやら」
シューヴェルトが斬撃を繰り出すと、ウーズが真っ二つに断たれて、とけて消える。遅いかかかってきたスケルトンに反撃の刃を返すと、スケルトンは砕け散って消えた。
「……此処は、ダガヌよりも豊穣の海に近い所です。その海底に、これだけの深怪魔を派遣できるなんて……」
朝顔が言う。確かに、此処はダガヌと豊穣の海の境目に近い所とは言え、豊穣の海域にあたる。ダガヌ海域内部で多くの深怪魔と遭遇するのなら分かるが、豊穣の海でこれだけの敵戦力に遭遇するとなれば、多少は不安を抱くというもの。
「敵は、それだけの戦力を持っているのでしょうか?
もし、これが、豊穣に向けられたら……」
朝顔が胸中で不安を抱く。もし彼らが豊穣へと本格的な敵意を向けたら、せっかく平和を取り戻したあの国に、また戦乱を招くこととなるかもしれない。
「豊穣のものとして……それは、避けなければなりません」
「そうだな。此処で出来る限り討伐しておきたい所だ」
シューヴェルトがそういう。確かに敵の勢いは苛烈で、総攻撃を目論んでいるように見えたのだ。
「絶望を越えた軌跡♪ もいちど響け奇跡♪」
そんな中に響く歌声は、Meerの歌声だ。それは、竜宮の民、そしてイレギュラーズ、双方にとっての希望であり、力となる魔法の歌声。柔らかなそれは深海に響き、暖かな心を癒しの力として顕現させている。
「素敵……メーア……じゃなくて、Meerさん、ありがとー!」
マールが手を振るのへ、Meerはにっこりと笑ってみせた。
「僕も乙姫ちゃんに会ってみたいからね。
大丈夫、心配しないで。竜宮の皆、助けて見せるよ」
そういうMeerに、マールはうんうんと頷いた。
「お願い……信じてるよ!」
屈託なくそういう彼女は、心の底からMeerを、イレギュラーズ達を信じているのだろう。まだあって間もない自分たちを、心から信じ、好きだと言ってくれる彼女の気持ちは心地よい。
「応えてあげないとね」
Meerはそう言いつつ、再び歌声を紡ぎ出す。グリーフはその歌声をききながら、その歌声にのせるように、祝福と治癒の術式を編み上げた。
「水の中でも動けるように、祝福を」
グリーフが言う。環境適応の願いは、回りの仲間達の動きをより洗練されたものへと変えていく。乙姫の加護があれば最低限の動きはできるだろう。だが、それを超えて、より俊敏に動くための、祝福。
「よし……全体の戦況は、上手い事こっちに傾いている……!」
戦場全体を俯瞰しながら、雲雀は言った。まだまだ緒戦と言えたが、しかし順調に、イレギュラーズ達は有利を勝ち取っている。
「このまま竜宮を守り通そう! 俺たちなら、出来る!」
雲雀の言葉に、仲間達は頷いた。
「私自身が前線での支援拠点、あるいは盾となります。
皆様、ご武運を」
生ける前線拠点であるグリーフ、その存在はイレギュラーズ、竜宮、双方にとって、この戦場で大きな意味を持つものとなっていた。拠点を中心に、戦線を展開していく。深怪魔と人類の衝突が、この場で大きく展開されていった。
成否
成功
第1章 第3節
●白き鎧
深怪魔たちと戦うイレギュラーズ達。その中でも、連携の取れた活躍を行うメンバーが、白き鎧の下に集った者達だ。
「ヴァイスドラッヘ! 只今参上! 竜宮の人々よ、助けに来たわ!」
白き鎧が、海底の光を帯て輝く。ヴァイスドラッヘ、白き英雄よ。
「集まってくれた皆の力、期待しているから!
生きて帰る、それだけがオーダーよ!」
オーダーは告げた。後は実行するのみ!
気高き白の鎧よ、その戦乙女よ。彼女に集いし英傑たちは、今此処に救い手とならん!
「いきますよーっ!」
ルシアが吠える! 掲げたその手に輝く、強烈な魔力の光! 得手とするは魔砲、その一点! 故に極限までそれを鍛造しよう。一撃必殺のその先まで、一撃にて魂を消し飛ばす、その極致迄!
「届いて、あの子にまで――!」
放たれる、光! 閃光が、深海の海(ソラ)を照らす! 一条、悪しきを薙ぎ払う、光!
「あの、光は――」
ロロミアは、見た。かつて出会った少女の光を。
ロロミアは、見た。今ここで再現された希望の物語を。
身体はボロボロで、心も限界で。
でも、大切な竜宮を、厳しくても自分を見捨てないでくれる優しい人たちを、助けたくて。
立って立って立って、限界かもしれないと泣きそうな自分を鼓舞して。その末に――。
光は、来た。
「ルシア!」
叫ぶ! 彼女の名を!
「間に合いましてーーっ!」
応える! 彼女が!
「行くわよ! 突撃開始!」
レイリーが叫んだ! イーリンがうさみみ(ルシアにつけてもらった)をたなびかせながら、水中を突撃!
「せっかく音に聞く竜宮城に遊びに来たっていうのに。
未開の文化を見る前に壊されるのはいただけないわ。
守るわよ――神がそれを望まれる」
目指すはサハギン、穢れし深海の魚人! おうおう、と雄叫びをあげたサハギンが汚れた槍を掲げるのへ、イーリンは黒剣を抜き放った。刹那に輝く、三閃! 瞬く間に撃ち込まれた斬撃が、サハギンを解体する!
「ぎ、ぎぎ」
サハギンが吠えた。一対一では勝ち目がない。集団で当たれ。そのように命じたのだろう、複数のサハギンが襲い掛かるのを、イーリンは不敵に笑った。
「なるほど? 多少は知恵があるようね。でも」
刹那、別の剣閃翻る! エレンシアの刃が、増援のサハギンを一気に切り捨てた!
「此方も数がいる事を予測できない時点で駄目ね。本当に、『多少』知恵がある程度のよう。
まぁ、期待はしていなかったけれど――獣に毛が生えた程度ね」
そう言いつつ、得られた情報を叩き込む。獣ならそれでいい。なら、それを操るものはなんだ。
「考え事もいいけど、あたしばっかに働かせないでよ?」
エレンシアが冗談めかして言うのへ、イーリンが苦笑する。
「ええ、ええ。もちろん。チームワークですものね?」
「そういう事だ!
雑魚共は散りやがれ! むしろシバいて散らす!
雑魚は任せろ! クラーケンタイプは譲るぜ、しっかり潰してきやがれよ!」
にぃ、と笑うエレンシア。そしてその言葉の通り、暴風の如き刃が、『雑魚(サハギン)』共を散らしていく!
「解・憂炎、ローレットのイレギュラーズだよ! 助けに来た!」
憂炎がそういうのへ、竜宮の防衛部隊が安堵の息を漏らした。
「あ、ありがとう! 正直、もうだめかもって……!」
そういう竜宮の民は、本当に、ぼろぼろだった。傷つき、倒れ、それでも仲間達を守ろうとしたのだろう。
「うん、無理しないで。ただ、戦える人は手伝ってほしい。指揮は僕たちがとるから、どうか無理しないで、したがって。
大丈夫。僕たちを信じて。生ハムの原木もあるしね」
「生ハムの原木……!」
生ハムの原木……!!
「えっと、生ハムの原木はありませんが、回復支援は行えます!」
苦笑しつつ、涼花はいう。
「水中ライブ、ってすっごく変な感じですけど……大丈夫、傷をおったら無理せず下がってください。わたしの歌が、絶対に皆を癒します。
誰一人、死なせたりしません。わたし達を、信じてください!」
「マールが信じた子達なんでしょ? 信じないわけないじゃない!」
竜宮の少女が言う。他の竜宮の民も、イレギュラーズ達に全幅の信頼を寄せてくれている様だ。
「頑張りましょう! みんなで、竜宮を守りましょう!」
涼花の言葉に、竜宮の民は「おお!」と声をあげた。
「ライブなら、演奏が必要だな。
トランペットでよければ」
フーガがウィンク一つ、笑いかける。果たしてフーガは、すぐにトランペットを吹き鳴らした。勇敢に、勇気を生み出す、トランペットの歌声。高らかに歌うそれが、深海を照らすように、鳴り響く!
「たのむぜ、俺たちの演奏で戦線を維持するんだ!」
「はい!」
フーガの演奏が、涼花の歌声が、皆の心の背中を押した。
憂炎達イレギュラーズの指揮に従って、フーガと涼花の音楽を背に受けて、防衛部隊は戦線を再構築する。より的確に、より強固に。再編成された防衛部隊は、これまでに比べてより防御面に振った形をとっている。攻撃面は、勿論イレギュラーズが担当すればいい!
「さぁて、深怪魔、深怪魔、スか」
そう言って、にぃ、と美咲は笑う。
「おうおうおう、こちとらカジノと水着ガチャで爆死した傷をバニーさんに癒してもらう予定だったんスよ?
どー責任取ってくれるんスか???
もう頭来た、特に理由はないけどカジノもガチャも深怪魔のせいだ。
私は悪くない。
というわけで全力の八つ当たりを喰らえ!!」
放つは氷結のルーン! 水中をキラキラと漂う雹は、しかし悪しきを切り裂く正義(私怨込み)の礫だ! 果たして放たれた礫は、美咲のいら立ちを乗せるように、激しく水中を駆け巡る。雹の礫が叩きつけられたサハギンたちが、バタバタと倒れ、その身を泥のようにとかして消え去っていく。
「いい感じスね! このまま勝負をつけるっス!」
美咲の言葉に、ジョージは頷く。
「ああ、押していくぞ! そのためにも、クラーケンどもを潰す!」
その言葉と共に、ジョージはクラーケンに向かっていく。巨大な、腐れたイカのような体躯に、ジョージは力強く殴り掛かった! ぶにゃり、イカの腐った肉体が歪み、クラーケンが痛みにのたうつ!
「この拳、受けてもらうぞ……!」
ジョージは声と共に、突撃! さらなる一打をくわえ、クラーケンを大地にたたきつけた! 強烈な衝撃が、海水を震わせる。叩きつけられたクラーケンが、ずぶずぶと泥に溶けて消えていく。
「クラーケンは強敵だが、総数は少ない! 速めに潰してしまえば後が楽になるはずだ!」
「了解だ!」
ミーナが叫び、蒼き片手剣を振るう。斬撃がクラーケンの触腕を切り飛ばし、痛みにのたうつクラーケンに、打撃を叩きつけたのはレイリーだった。
「やあ、ミーナ」
「レイリーか!」
ふたり隣り合って着地する。目の前には、巨大なクラーケンが、怒りを以って二人に相対していた。
「悪いが、この海洋で暴れる事は……死神が許さねぇ」
「いいえ、わたし『たち』が、よ。ミーナ」
レイリーが笑う。ミーナも、ふ、と笑ってみせた。
「レイリー。私が道を開けるさ。そこを守り広げるのは、任せた!」
「ミーナ分かったわ、私が道を拓く。
貴女は私の横にいて! 護るから!」
そういうレイリーに、ミーナは拳を突き出す。レイリーもまた、拳を突き出して、付き合わせた。
「やるわよ、ミーナ!」
「やるぞ、レイリー!」
二人は叫び、クラーケンへと向かっていく。
白鎧のメンバーによる激闘は、戦場にてひときわ輝く、反撃の旗印となっていた。
成否
成功
第1章 第4節
●決着の時
そして、イレギュラーズ達の活躍は続く。大型敵のクラーケンを次々倒し、深怪魔陣営は、本格的な『攻城能力』を失いつつあった。既に竜宮領域内に侵入された形跡こそあるものの、外縁の敵のさらなる侵攻は完全に防げたといってもいいだろう。
とは言え、まだ敵は残って居る。可能な限り、此処で敵の数を減じておけば、後々の為になるだろう。
「え、えい! 止まってください……!」
メイメイが放つ砂の檻。水中でも『渇いた』砂は、苛烈な砂礫となって、ウーズたちを微塵に切り裂いた。ぐちゃ、とスライム上の身体がとけて、海に消えていく。すぐに正常な色を取り戻した海に、メイメイは安堵の息を吐いた。
「て、敵の勢いも、弱まってきたと思います……!」
「そうですね。先ほどまでに比べて、随分と楽になりました」
ベークがそう言いながら、目の前のスケルトンを粉砕した。既に何匹もの敵を引き付けて居るベークだったが、初期のころに比べて、明らかに敵の進行の速度は落ちていた。
「このまま抑えきれそうですね。攻撃メンバーも、まだまだ元気そうですし」
そう言って視線を移せば、イレギュラーズ達は果敢な攻撃を続けている。一閃、刃が輝けば、その都度に深怪魔たちは消えていく。大規模な一撃が大地を揺らせば、クラーケンすら水に溶けていくのだろう。
「僕も引き続き敵を引き付けます。メイメイ君もお気をつけて」
ベークが言うのへ、メイメイは頷いた。一つの決着の時が、訪れようとしている。
「皆、もー少しだから! 諦めないで頑張って!」
竜宮外縁、竜宮防衛部隊を励ますようにそういうのは、メルル・メリーナ。竜宮嬢の一人だ。防御魔術に秀でた彼女は、それによる結界術式と、その反発を利用したカウンター・マジックを得手として、この場を守り続けている。
弱音は吐かない。いや、心の中には焦りこそあったが、しかしそれを仲間に悟らせるようなことはしない。優しい彼女は、それを良しとはしなかった。
「メルル、気をつけて!」
叫ぶ仲間の声。高速術式から抜け出したサハギンが、彼女に迫ろうとしていた。薄汚い鈍く輝く――たまらずに目をつぶったメルルを、しかし痛みが襲う事はなかった。何故なら――。
「大丈夫――って、メルルさん!?」
「アルテミア!? どうしてここに――」
二人が目を丸くする。アルテミアが、サハギンを切り捨て、メルルに駆け寄った。
「事情は後できくわ! 兎に角、みんな無事なのね?」
「うん! でも、アルテミアの服は無事じゃないよね。こう、色々大切な所が見えたり視えなかったりするけど」
「ふえぇっ!?」
慌てて身体を抱くようにしたアルテミアが、思わず剣をとり落とした。ちょろ、とメルルが胸中で呟く。
「いや、じょーだん、じょーだん。だいじょぶ、なんともないよ」
そう言ってけらけらと笑うメルルに、アルテミアは顔を赤くした。
「もう! こう言う時までやめてよ!
えっと、無事なら、良かった。兎に角、此処でしばらく耐えて! もうすぐ敵を蹴散らせるはずだから!」
少しだけ怒りながら、アルテミアが次なる敵に斬りかかる。その後ろ姿を見ながら、
「ありがと、アルテミア」
と、安堵したように、メルルは微笑を浮かべていた。
「しかし、此処が竜宮……。確かに、マールさんの言ったような風景だけど……」
イリスが嘆息するのへ、マールが笑って言った。
「ね? 明るくていい場所でしょ!」
「確かに明るいけど……」
ちょっとギラギラ過ぎない? とは思う。とは言え、とイリスは嘆息し、
「守らないわけにはいかないものね。マールさんは、竜宮の皆と合流して。私たちで、残る敵を掃討するから!」
「う、うん。イリスさんも気をつけて!」
マールが心配そうにそういうのへ、イリスは笑った。
「あなたもね、お姫様」
そういうと、イリスは襲い掛かってきたスケルトンと格闘戦を演じ始める。あちこちで響く剣戟の音も、徐々に鳴りやんできていた。もちろん、深怪魔たちがその数を減じ始めていたからだ。
「すごいな、イレギュラーズは。彼らが来ただけで、こんなにも違うんだね……!」
ソーリス・オルトゥスが感激したようにそう声をあげた。ソーリスもまた、剣士としては一流。だが、そんな彼でも戦局を覆すことはできなかった。にもかかわらず、イレギュラーズが現れただけで、瞬く間に戦況は覆されている。まさに、切り札と言った所だ。
「ソーリス殿、あなたもいたのか」
アーマデルがそういうのへ、ソーリスが破顔する。
「アーマデル、キミも来てくれていたのか!」
ウーズを切り払いながら、ソーリスは言った。
「とうとうバニーを着てくれるんだね?」
「ああ、救援に――ちょっとまて」
アーマデルはこめかみに手をやった。
「ソーリス殿、まだバニー着るとは言ってない。
……言ってないぞ、そのはずだ」
悩むアーマデルに、ソーリスはふふ、と笑った。
「すまない、冗談だよ……いや、本気だけれど。
兎に角、今この場でバニーを着てくれとは言わないさ。
いずれ言うつもりだけれど。とにかく――」
「分かっている、分かっているとも。
今はこの場を守ることに専念しよう」
アーマデルが構えるのへ、ソーリスも剣を構えた。
「ああ、頼りにしているよ、アーマデル」
二人の件が翻り、悪しき深怪魔を切り裂く。
「ン 状況 ヨシ。
フリック 回復 専念 スル」
「お願い! ボクはあのクラーケンに止めを刺してくるね!」
フリークライの言葉に、セララは頷く。ぴょん、と飛び跳ね――水中ながらも軽い身のこなし。いつものセララの様子を全開に。
「いっくよー! ギガ! セララ! ブレイクッ!」
振り下ろす大剣は、聖なる力の一撃だ! これには如何に大型のクラーケンと言えどひとたまりもない! 真っ二つにされたクラーケンが、しおしおと泥に溶けていくのをみて、セララが「あーっ!」と声をあげた。
「タコ焼きにしようと思ったのに、消えちゃったよ!」
「タコヤキ? フリック アレ イカ ダト 思ウ」
「そっか、イカだからイカ焼きか。イカ焼きもおいしいよね。イカ飯って言うのもあるんだ。
というか、深怪魔って食べられるのかな?」
「フリック オナカ壊ス 思ウ」
「そっかぁ、やっぱりやめた方がいいのかな」
むむむ、とセララがいうのへ、フリークライは「ムゥ」と唸った。
「まぁ、いいか! 兎に角、今は全部やっつけよう!
フリークライ、キミは皆の傷を見てあげて? 多分、竜宮の人達の傷をいやす余裕ができてると思う!」
確かに、セララの言う通りだ。既に敵は多く減じており、イレギュラーズ達の猛攻で、敵が総崩れになるのももうすぐだろう。
「ワカッタ フリック 竜宮ノ人 助ケル」
フリークライが竜宮の民の元へ向かうのへ、セララは頷いた。
「ほーらー、こんなに弱っちい亜竜種が此処に居ーまーすーよー!!」
フリークライが戻ると、そこにはイチゴの姿があった。ボロボロでありながらも、しかし決してくじけることなく、己が身を盾に戦い続けている。
「イチゴ 無理 シナイ 回復 スル?」
フリークライの言葉に、イチゴはえへへ、と笑う。
「大丈夫です! あたしは頑丈ですから……竜宮の皆さんを助けてあげてください!」
そういうイチゴも、前述したようにボロボロだ。だが、まだ倒れるわけにはいかない、という気概を感じさせていた。フリークライはその心に沿う事にする。
「気ヲツケテ」
「はい! フリークライさんも!」
イチゴはそう言って、勇敢に戦い続ける。
一方ジュートは追撃の指揮をとりつつ、リューグ・グリュックへと話しかけた。
「リューグ、無事だったか?」
「ああ、もちろん。信じていたからね。人事を尽くして天命を待つ。
僕たちは人事を尽くして待っていた。だから、君たちという天命がもたらされたんだ」
そう言って笑うリューグに、ジュートは苦笑した。
「相変わらずだな。でも、アンタが俺たちを待っててくれたってのは、悪くない気分だ――ああ、っていうか、くっつくなよ? アンタらみんな、距離感バグってるからな……」
「そうかい? 深海は寒いからね、出来れば人のつながりが恋しくなるものさ」
さておき、とリューグは言うと、
「こんな時に済まないが、敵はここにいる連中だけじゃないんだ。
大型の敵に突破されてしまっている。けが人や、他の防衛隊はドラゴンズ・ドリーム……大型カジノに逃げ込んでいるけれど、多分そこも襲撃を受けているはずなんだ」
「って事は、終わったらそっちの救援か……城、乙姫の方は大丈夫なのか?」
「あっちには直掩部隊がいるからね。それに、結界の加護も強いから、まだ時間は稼げるはずだよ」
「了解、ただ、どっちにしてもあんまり余裕はなさそうだ!
弾正、冥夜、ベルナルド! きいてたか!?」
「ああ、もちろんだ」
弾正が頷く。振るう蛇剣が、スケルトンの首を刎ねた。
「やはり、すでに突破されていたか……すぐに救援に向かわねば」
「だが、此処も安全を確保しておかないと、逃げた竜宮の民が危険にあいかねない」
冥夜の言葉に、ベルナルドが頷いた。
「冥夜、アンタの事だ。近くに安全そうな場所を確認してるんだろう?」
「ああ、付近にだいぶ古い沈没船があるな。あそこなら、敵にも見つからない隠れ家になるはずだ」
「なら、そこに竜宮の皆を案内してやってくれ。内部もまだ安全とは言い難い。
漁火水軍のメンバーを、護衛につけてやれば十分だろう」
「そうだな……こっちの敵もおいおい片付いてきたところだ。
冥夜、頼む」
弾正が頷いた。
「わかった。ジュート、オトモダチに話をつけてくれ。
避難民を隠れ家に案内する」
冥夜がそういうのへ、ジュートは頷いた。
「了解だ。リューグ、皆に声をかけてきてくれ!」
「任せて、ジュート」
リューグは頷き、竜宮防衛部隊に話をつけに行く。
四人がこの様な思考に到達するほどに、既に戦局は決まっていたといえるだろう。敵の数は大きく減じ、しかし何かに命令されるかのように、撤退もせずに攻撃を繰り広げている。まるで、深怪魔などは使い捨ての兵隊である、と言わんばかりのようだ。
「気に入らないね」
アンジュがそういう。
むむ、と腕を組んであたりを見回せた場、サハギンたちが斃れており、徐々に泥へと還っていくところだった。
「アンジュちゃん……」
パーシャが声をかける。ウルサ・マヨルの剣が、仲間達を守る様に旋回している。皆を守るという、パーシャの心を反映するかのように。そしてその力は、確実に皆を守っていた。
「こいつら、絶対いわしを食べていたよ。うん。歯にいわしの骨があった。
食べるな! いわしを! 絶許!」
「あいかわらずね、アンジュは……」
みるくが呆れたように言う。とは言え、アンジュと一緒にサハギンたちを狩りまわったのは、みるくも同じである。みるくが最後のサハギンを倒した時に、ようやく周囲に静寂が訪れた。と言っても、まだ遠く、竜宮内部では、戦闘音が鳴り響いているのが分かる。
「どうやら、内部にもいわしを食べた奴らがいるみたいよ?」
「はーーーー!? 許さん! 竜宮にいわしを食べる文化をもたらせる気だよ!!」
むむむ、とアンジュは頬を膨らませた。そんなわけではないのだが、アンジュの中ではそういう事になってるので、それはそれでいいのである。
「いわしはいやし、これを竜宮の人達に伝えるために! アンジュたちはいかなければならないんだ!」
ぐっ、と力を籠めるアンジュに、パーシャは笑った。
「そうだね。まだ困っている人がいるなら、助けに行かないといけないよね」
「そうね。ま、あたしは二人に付き合うわよ」
みるくの言葉に、アンジュは、パーシャは、そしてみるく自身も頷いた。
「よーし! 皆行くよ! いわしの怒りを! 教えてやるんだ!」
おー、と三人娘が手をあげた。いわしの怒りはさておき、イレギュラーズ達の活躍によって、周囲の深怪魔たちが掃討されたのは、事実だった。
成否
成功
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です。
竜宮に到着した皆さん。ですが、状況は剣呑なものでした。
●最終成功条件
竜宮城の救援成功
●特殊失敗条件
各パートにおける成功条件の未達成
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
●状況
竜宮幣を集め、竜宮へと向かった皆さん。漁火海軍の頭領、漁牙の力も借りて、竜宮に到着することには成功しましたが、そこに広がっていたのは、深怪魔たちの襲撃を受ける竜宮城の姿でした。
すぐに救援に……と思ったのもつかの間、此方をつけてきた海乱鬼衆、濁悪(だあく)海軍の頭領、濁羅(ダグラ)に後方から襲撃を受けてしまいます。
前門の虎後門の狼。濁羅達を倒さねば竜宮に進行されかねず、かといって今まさに竜宮に迫る深怪魔たちをほうっておくわけにもいきません。状況を見れば、どうやら竜宮内に深怪魔は侵入している様子。もはや一刻の猶予もないのです。
皆さんは、この危機的な状況を突破する必要があるのです!
●第一パート
第一パートでは、迫る濁悪(だあく)海軍と、深怪魔を排除してもらいます。
作戦目標としては、以下の通り
濁悪(だあく)海軍の頭領、濁羅(ダグラ)を撤退させる。
竜宮周辺に存在する深怪魔を可能な限り掃討し、竜宮の防衛部隊の損害を抑える。
となります。
深怪魔たちはそれぞれ特徴があり、
ウーズタイプ=蹴散らしやすい雑魚。数は多いですが、性能は低め
スケルトンタイプ=人間敵に相当。様々な剣技を使いますが、まだ雑魚の類。
サハギンタイプ=人間敵に相当。スケルトンより知能が高く、連携の取れた行動を行う。
クラーケンタイプ=中ボスに相当。数は少ないが、倒せばそれだけ敵の戦力を大きく減衰できる。
となっています。
濁悪海軍は、
海賊=人間敵。イレギュラーズ達には及ばないが、サハギンタイプ程度には強い。
また、濁羅(ダグラ)を守る傾向にある。
漁火海軍が増援で戦ってくれるので、ある程度は無視可能。
濁羅=人間ボス敵。現シナリオでは最も強いが、撤退に追い込めればよい。
漁牙が増援で戦ってくれる。彼をうまく使って、大打撃を打ち込んでやりましょう。
となっています。
●第一パートプレイング受付期間について
シナリオ公開から三日後、8月11日午前零時を最終締め切りとします。
それまでに送られたプレイングは、タイミングに応じてリプレイとして反映されます。
●特殊ルール『竜宮の波紋・改』
この海域では乙姫メーア・ディーネーの力をうけ、PCは戦闘力を向上させることができます。
竜宮城の聖防具に近い水着姿にのみ適用していましたが、竜宮幣が一定数集まったことでどんな服装でも加護を得ることができるようになりました。
●特殊ドロップ『竜宮幣』
当シナリオでは参加者全員にアイテム『竜宮幣』がドロップします。
このアイテムは使用することで『海洋・鉄帝・ラサ・豊穣』のうちいずれかに投票でき、その後も手元にアイテムが残ります。
投票結果が集計された後は当シリーズ内で使える携行品アイテムとの引換券となります。
※期限内に投票されなかった場合でも同じくアイテム引換券となります
それでは、皆様のご武運を、お祈りいたします!
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