PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ワンデスボローの昨夜

完了

参加者 : 135 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 立ち止まるという事も、一つの動きに違いないから。

●ローレットへの依頼……のその後
 ≪幻想≫(レガド・イルシオン)郊外で発生した依頼案件を無事こなしたイレギュラーズ達は、その帰路で、ほどほどに栄えた港街に立ち寄った。
 街の名を、ワンデスボローと云う。
 もう陽も沈んでしまい、辺りは暗くなってきていた。
 その上、ローレットまでの道程はまだ長い。
 ……対照的に街は暖かな街灯が灯り始め、夜独特の活気が現れてきた。

 イレギュラーズ達は、この街で宿を取り、翌日の朝に出発する事に決めた。
 一泊だけの休養。

 宿で仲間と共に語らう者。
 海辺で黄昏る者。
 温泉で躰を癒す者。
 酒屋でグラスを傾ける者。

 きっと、その過ごし方は、各々異なるのであろう。
 だから今回は、そんな昨夜の話をしよう。

GMコメント

●依頼達成条件
・一晩の休息を楽しむ。


●現場状況
【位置】
・≪幻想≫郊外の海辺の街、ワンデスボロー。
 ほどほどに栄えており、大体の施設が備わっています。
 地球人類で云う所の、温泉が在るのも特徴です。

【時刻】
・夜です。


●PCの行動
・大別して下記の様になります。

①宿屋で過ごす。
②海辺で過ごす。
③温泉で過ごす。
④酒屋(バー)で過ごす。
⑤街中で過ごす。
⑥その他

・各行動の詳細
【①宿屋で過ごす】
 一人部屋でも大部屋でも構いません。
 原則、プレイングで書かれた様な部屋・設備が存在する事になります。
 但し、経費の都合上、余り豪華な宿屋という訳では無いと思われます。
 実際のゴールドが減る訳では無いので、PCのロールに合わせて設定下さい。

【②海辺で過ごす】
 夜の海辺には、少し風があり、少し欠けた月が頭上に輝いています。
 落ち着いた雰囲気の場所です。
 知人と語らう、独りで考え事をする等が適しているでしょうか。

【③温泉で過ごす】
 街には大きな温泉があります。男湯、女湯、混浴に分かれています。
 獣種・機械種であっても、利用可能です。
 尚、【①宿屋で過ごす】で設備として併設されている、としても良いです。

【④酒屋(バー)で過ごす】
 良い感じのバーです。カウンターもボックス席もあります。
 未成年は入店可能ですが、飲酒は不可です。
 地球人類で云う所のカクテル名をオーダーすれば、何でも作ってくれます。
 或いは、『おまかせ』も可能です。その場合は、リクエスト内容・気分・食事状況等を教えて頂ければ、マスターがPCをイメージしてお酒をお選びします。

【⑤街中で過ごす】
 夜の街中をぶらぶらできます。
 原則、プレイングで書かれた様なお店・状況が存在する事になります。

【⑥その他】
 その他何か希望があれば、公序良俗の範囲、無理の無い範囲で行動可能です。


●参加方法
【グループ参加】
・知人との同時行動・描写を希望する場合は、
 『レオン・ドナーツ・バルトロメイ (p3n000002)』
 といったように同行者のフルネームとIDを記載して下さい。

 ※【枕投げ第一師団】のようにグループタグで纏めても構いません。
  その場合は、必ずグループ全員が統一のグループ名を記載して下さい。

【単独参加】
・他のPC様との掛け合いが発生する場合があります。
 『完全単独』での描写をご希望の方はプレイングに明記をお願い致します。


●プレイングの書式例
・以下の書式を例示しますが、強制ではありません。
一行目:同行PCの指定、グループタグの指定、完全単独の希望等
二行目:『PCの行動』を記載
三行目:自由記入

★プレイング例(1)
【枕投げ第一師団】
【①宿屋で過ごす】
同行者と大部屋で宿泊しています。夜は当然、枕投げの戦争です。朝まで戦います。

★プレイング例(2)
単独参加(掛け合い可)
【②海辺で過ごす】
最近ゆっくり出来て居なかったので、海の音を聞きながら過去を振り返ります。

★プレイング例(3)
単独参加(完全単独)
【④酒屋(バー)で過ごす】
カウンターでグラスを傾ける。色々と悩んで居る女に、甘めのカクテルを『おまかせ』で。食事は済ませてあるわ。


●備考
・イベントシナリオでは全員のキャラクター描写が行なわれない可能性があります。
・イベントシナリオでは描写量が限定される為、内容を絞った方が描写が良くなると思います。


皆様のご参加心よりお待ちしております。

  • ワンデスボローの昨夜完了
  • GM名いかるが
  • 種別イベント
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2018年05月28日 22時50分
  • 参加人数135/∞人
  • 相談9日
  • 参加費50RC

参加者 : 135 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(135人)

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
アルプス・ローダー(p3p000034)
特異運命座標
シルヴィア・テスタメント(p3p000058)
Jaeger Maid
十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
竜胆・シオン(p3p000103)
木の上の白烏
鳶島 津々流(p3p000141)
かそけき花霞
クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
如月 ユウ(p3p000205)
浄謐たるセルリアン・ブルー
クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
安寧を願う者
キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
エマ(p3p000257)
こそどろ
セララ(p3p000273)
魔法騎士
ルアナ・テルフォード(p3p000291)
魔王と生きる勇者
ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)
蒼銀一閃
マナ・ニール(p3p000350)
まほろばは隣に
アラン・アークライト(p3p000365)
太陽の勇者
日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
Lumilia=Sherwood(p3p000381)
渡鈴鳥
アリシス・シーアルジア(p3p000397)
黒のミスティリオン
セルウス(p3p000419)
灰火の徒
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
銀城 黒羽(p3p000505)
フェスタ・カーニバル(p3p000545)
エブリデイ・フェスティバル
シェンシー・ディファイス(p3p000556)
反骨の刃
ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
不遜の魔王
シエラ・バレスティ(p3p000604)
バレスティ流剣士
リュグナー(p3p000614)
虚言の境界
ジョゼ・マルドゥ(p3p000624)
ノベルギャザラー
グドルフ・ボイデル(p3p000694)
恋歌 鼎(p3p000741)
尋常一様
オルクス・アケディア(p3p000744)
宿主
コル・メランコリア(p3p000765)
宿主
アレフ(p3p000794)
純なる気配
アーラ・イリュティム(p3p000847)
宿主
冬葵 D 悠凪(p3p000885)
氷晶の盾
グレイ=アッシュ(p3p000901)
灰燼
メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)
メイドロボ騎士
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
シキ(p3p001037)
藍玉雫の守り刀
宗高・みつき(p3p001078)
不屈の
ミスティカ(p3p001111)
赫き深淵の魔女
ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者
御堂・D・豪斗(p3p001181)
例のゴッド
刀根・白盾・灰(p3p001260)
煙草二十本男
イシュトカ=オリフィチエ(p3p001275)
世界の広さを識る者
サングィス・スペルヴィア(p3p001291)
宿主
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
コルヌ・イーラ(p3p001330)
宿主
カウダ・インヴィディア(p3p001332)
宿主
レーグラ・ルクセリア(p3p001357)
宿主
ブラキウム・アワリティア(p3p001442)
宿主
ストマクス・グラ(p3p001455)
宿主
佐山・勇司(p3p001514)
赤の憧憬
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
無限円舞
クロジンデ・エーベルヴァイン(p3p001736)
受付嬢(休息)
グレイル・テンペスタ(p3p001964)
青混じる氷狼
ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)
優穏の聲
ズットッド・ズットッド・ズットッド(p3p002029)
脳髄信仰ラヂオ
ティミ・リリナール(p3p002042)
フェアリーミード
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
長月・秋葉(p3p002112)
無明一閃
アルファード=ベル=エトワール(p3p002160)
α・Belle=Etoile
セシリア・アーデット(p3p002242)
治癒士
ジョセフ・ハイマン(p3p002258)
異端審問官
セティア・レイス(p3p002263)
妖精騎士
セレネ(p3p002267)
Blue Moon
メルナ(p3p002292)
太陽は墜ちた
鬼桜 雪之丞(p3p002312)
白秘夜叉
美面・水城(p3p002313)
イージス
アリソン・アーデント・ミッドフォード(p3p002351)
不死鳥の娘
ブーケ ガルニ(p3p002361)
兎身創痍
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
ルナール・グリムゲルデ(p3p002562)
片翼の守護者
クローネ・グラウヴォルケ(p3p002573)
幻灯グレイ
ノーラ(p3p002582)
方向音痴
十夜 蜻蛉(p3p002599)
暁月夜
アニー・K・メルヴィル(p3p002602)
零のお嫁さん
弓削 鶫(p3p002685)
Tender Hound
九重 竜胆(p3p002735)
青花の寄辺
ルーミニス・アルトリウス(p3p002760)
烈破の紫閃
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
ライセル(p3p002845)
Dáinsleif
リジア(p3p002864)
祈り
枢木 華鈴(p3p003336)
ゆるっと狐姫
コリーヌ=P=カーペンター(p3p003445)
リディア・ヴァイス・フォーマルハウト(p3p003581)
木漏れ日のフルール
ミディーセラ・ドナム・ゾーンブルク(p3p003593)
キールで乾杯
レスト・リゾート(p3p003959)
にゃんこツアーコンダクター
コルザ・テルマレス(p3p004008)
湯道楽
ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)
我が為に
秋空 輪廻(p3p004212)
かっこ(´・ω・`)いい
ミーシャ(p3p004225)
夢棺
エルメス・クロロティカ・エレフセリア(p3p004255)
幸せの提案者
桜坂 結乃(p3p004256)
ふんわりラプンツェル
ルチアーノ・グレコ(p3p004260)
Calm Bringer
ノースポール(p3p004381)
差し伸べる翼
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
シラス(p3p004421)
超える者
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
ハロルド(p3p004465)
ウィツィロの守護者
Morgux(p3p004514)
暴牛
悪鬼・鈴鹿(p3p004538)
ぱんつコレクター
ロズウェル・ストライド(p3p004564)
蒼壁
竜胆 碧(p3p004580)
叛逆の風
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
タツミ・サイトウ・フォルトナー(p3p004688)
TS [the Seeker]
アマリリス(p3p004731)
倖せ者の花束
ジェーリー・マリーシュ(p3p004737)
くらげの魔女
Svipul(p3p004738)
放亡
レオンハルト(p3p004744)
導く剣
ルクス=サンクトゥス(p3p004783)
瑠璃蝶草の花冠
星影 瞬兵(p3p004802)
貫く想い
メアトロ・ナルクラデ(p3p004858)
ふんわりおねーちゃん
ルア=フォス=ニア(p3p004868)
Hi-ord Wavered
ロクスレイ(p3p004875)
特異運命座標
梶野 唯花(p3p004878)
ターンオーバー・アクセル
ウィルフレド・ダークブリンガー(p3p004882)
深淵を識るもの
星影 霧玄(p3p004883)
二重旋律
天津ヶ原 空海(p3p004906)
空狐
ココル・コロ(p3p004963)
希望の花
ヴァン・ローマン(p3p004968)
常闇を歩く
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
アリス・フィン・アーデルハイド(p3p005015)
煌きのハイドランジア
アズライール・プルート(p3p005025)
アンタレス
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
剣閃飛鳥
小鳥遊・鈴音(p3p005114)
ふわふわにゃんこ
ティリー=L=サザーランド(p3p005135)
大砲乙女
フルート(p3p005162)
壊れた楽器
レイルディア=F=エクシヴ(p3p005183)
特異運命座標
雨祇 - N123(p3p005247)
深潭水槽
サラテリ=ラシャ(p3p005303)

リプレイ

●宿屋の話
「まさか枕投げ大会が始まるとは思わなかった。
 アルプスの想定外、いや想定不足だったかな……」
 目の前の状況に軽く嘆息するアルプス。
「お泊りと言えば枕投げ!」
 主犯はそう宣言したルル家だが、他の者も案外乗り気。
「皆で集まってなんて学校の皆とお出掛けして以来かもっ!」
「大人数で遊ぶ機会ってあんまりないから楽しみ!」
 アリスとスティアも既に臨戦態勢。汰磨羈に至っては、
「―――至高のマイ布団セットを有する私こそが、この場に於いて最強だという事だ」
 渾身のドヤ顔でマイお布団セットを取り出すが、その論理はよく分からなかった。
「ルル家さんカッコいい!」
 何となく始まった投げ合い。スティアはルル家を誑かしていく戦法か。背後から軽そうな枕を投げる。
「見よ、この厳選された羽毛が入ったお布団を。枕も低反発。
 これさえあれば向かう所敵なs……すーすー」
 布団薀蓄を垂れ流していた汰磨羈は気が付けば寝てた。
「何この子……。だけど、チャンス!」
 アリスが無防備な汰磨羈へ仕掛けると、
「……ハッ。
 ね、寝たと思わせての不意打ちを喰らえっ!」
「ば、馬鹿なぁ!? 死人が枕をぉ!?」
 ルル家に低反発枕がヒット!
「まっ、一応他に宿泊してる人達も居るから程々にしておきなさ……」
 生暖かい眼で眺めていた竜胆がそ場を収めようとしたその時、
「拙者の忍術、ご覧あれ!」
「……待て、そういう枕の投げ方は反則だろ!?
「って、助けてー!?」
「わわっ、ルル家ちゃんの忍術って何でもアリなの!?
 私だって負けてられないんだから!」
 ルル家から放たれる、燃える枕に凍る枕―――。狼狽える汰磨羈とスティアにその混沌枕が迫り、アリスが喜々と応戦するが、
「って、痛いわよ!? え、何でこの枕凍って……ルル家?」
「……あっ、あわわわっ!? 竜胆さんが鬼みたいに怒ってるよ!?」
「……場が暖まってきたぞ」
 アルプスはヤバイ雰囲気を察知し「本体(バイク)に傷が付いたら大変だ」と防御の態勢を取る。
「これが宇宙忍法マジ枕! 控えおろう!」
「……ふーん。
 これは私への宣戦布告って受け取っても良いのよね?」
 竜胆の艶麗な相貌に、一筋の藍が奔る。
「……あれ? お師匠?
 何故そんなにもお怒りに……?」
「スティア、その子を抱きしめておいて貰える?」
「え、捕まえておけば良いの?」
「は! 何故拙者の後ろに!」
「大丈夫、何も貴女ごと狙おうって訳じゃないのよ。
 ちゃんとルル家だけお仕置きしてみせるから。―――この枕でね」
「……ルル家ちゃん、君の事は忘れないよ」
「竜胆さん信じてるからね! スティアの命運を託したよ!!」
 アリスが哀しい眼でルル家を見つめ、スティアは覚悟を決める。ルル家は必至の形相で抵抗を続ける。
「うおー! 思い通りにやらせるものか!」
「大人しく成敗されて下さい!」
「―――受けなさい、私の必殺枕投げを!」
「……くれぐれも不殺枕投げでお願いします」
「私も奥の手―――私自身が枕になる!!」
「願わくば無事、明日の朝を迎えられますように……」
「アッー!」

「……私とした事が、我を忘れていたわ。
 元気が残ってる連中は片付け始めましょうか」
 我に返った竜胆の指揮下で始まる掃除タイム。
 一人気を喪っているルル家は譫言の様に。
「故郷の上司に……。拙者は最後まで枕を投げたと……」



 温泉を堪能したシオン、セララ、セティア、ミーシャ、ココルの五人。浴衣やパジャマに着替えて、布団でだらだらと心地よい気怠さに身を任せていた。
 そんな中、
「ルームサービス……頼むの……」
 シオンのその一言で部屋内に戦慄が奔った。
「ルームサービス? 禁断……!」
「こんな時間に食べ物!」
 ミーシャとセティアがそう絶句するも、全員が既に何を頼むかへ意識を移していた。
「アイスとジュースは定番……あ、フルーツ牛乳飲みたい……」
「ポテト」
「あとクッキー。今夜は宴だー!」
 セティアとセララが追加してフルコースと化す。
 ……そして、ココルがトランプを取り出した。
「ババ抜きをするのです!」
「いいねー。何か、賭けても面白いかも?」
「そしたら……俺が負けたら鶏の真似する……こけー……。
 勝ったら枕を奪うぞー……」
「じゃあ、ボクが負けたら、枕になるー。
 勝ったら、朝起こして貰おうかな?」
「ボクに勝てたらマッサージしてあげる!」
「わたしが負けたら……カピバラの真似するから」
「……それ罰ゲームになってます?
 私が勝ったらそのお菓子をいただきなのです!
 負けたら……このお菓子を差し出すのです……!」
 そうして、皆が手元に夜食を揃えて、ババ抜きが始まる。
「こうみえてボクはポーカーフェイスとか得意だし!」
「わたしも負けない」
 セティアはギフトにより創成したソファに座り、セララに対抗する。みんなぱない。
「引きます!」
 ココルがシオンの手札から一枚引く。
「えっとー……こっちがジョーカーかなー……? ジョーカー欲しい……」
「いえ、ジョーカーは引いちゃダメです」
「えー……ババ抜きって最後にジョーカー持ってる人が勝ちじゃないのー……?」
「逆逆!」
「じゃあいらなーい……」
 ココルとミーシャの助言を聞き、セティアの手札から引こうとするシオン。
「いっとくけどこれ、地元じゃさいきょーの秘儀の真似だから」
 相手がババもったら目をそらして、じゃなくて……、と思案するセティア。実際はジョーカーは持っていないのだが。
「ババ抜きは心理戦、だよね」
 ミーシャが笑う。セティアはセララの手札から引こうとするが、
「なにそれ」
「え」
「ウサミミリボン」
 ポーカーフェイスを頑張るセララだったが、ある一枚に手がかかると、ウサミミリボンがピンと立ってしまう。
「……ばれた?」
 こくり、とセティアが頷く。
 ……そんなこんなでわいわいと続くババ抜きだったが、
「はわ!? 今、崖から落ちたのです!」
「決着つくまでは、起きてないと……」
「ねむくなってきた」
「ねー……」
(修行に明け暮れていたのでこんな時間はあんまり知らないのです
 だから、この楽しい時間がずっと続けばいいのに―――)
 ココルも其処まで考えて、気が付けば、全員寝落ちしていたのだった。

 ……翌日、セララがギフトで作り上げた昨夜の様子の漫画を配る。
「旅行の思い出! また来たいね!」
 漫画の中の五人は、パジャマを纏って、心底幸せそうな顏をしていたのだった。



「なに、本のお遊びだ。
 宿代と帰りの路銀の両方は取らないから安心したまえ」
 そう言って笑ったイシュトカのテーブルに、ヘイゼル、豪斗、クロジンデが同席していた。
「たまの夜にあまり馴染みのない方々と卓を囲むと云うのも一興ですね」
「ボクとイシュトカが一度面識ある位かな?」
「そうだな。
 ……さて、今宵のゲームはポーカー、テキサスホールデムだ」
 イシュトカがルールを説明する。
「ラックの要素も強いがタクティクスもインポータント……なかなか善くできたゲームだ!」
 豪斗の言にヘイゼルが頷く。
(ポーカーは駆け引きのゲームと言われていますが確率のゲームでもあるのです。
 そして、私は後者であると思っているのですよね)
「ひとまず”進行役”は私が務めよう」
 イシュトカがカードを捌く。商人ならではのスムーズさだ。
「手慣れているわね」
「剣と魔法よりは専門分野に近いものでね。
 ……私の考えでは、"これ"で渡り合う世界の方がずっと恐ろしいが」
 くつくつと笑うイシュトカ。クロジンデは、
(海千山千の商人に全てが謎の自称・旅人、そして初対面のゴッド―――。
 一筋縄でいくわけ無いよねー)
 目と記憶力を活かして臨む。
「コールで」
 ギャンブラーの条件は”いかに熱くならずに熱意を保ち続けられるか”。思考を一切悟らせず、只自分のポケットとフロップから計算される勝率がオッズに合うかで賭け続けるヘイゼル。
「レイズ」
 序盤からリレイズし派手な動きで攪乱し、高額なディールを仕掛けていくクロジンデ。
(ゴッドのルーズが込んでいるな……。
 しかし! ここぞという時でウェイクアップするのがゴッドラック!)
「オールイン!」
 謎の引きを見せつけるゴッド。10のフォーオブアカインド。強い手だ。
「ポットは君の物だ」
「これでイーブン! 勝負はここからよ!
 ゴッドにも、ユー達にも! ゴッドのブレスあれ、だ!」
 最終的に僅差で、上からイシュトカ、クロジンデ、ヘイゼル、豪斗の順でゲームを終えた。



『これは伝え聞いた』
『枕投げ』
『の儀……!』
 ズットッドが枕を前にして神妙なる相貌で呟いた。
『つまりこれも』
『≪聖戦≫(ジハード)の一種』
『かもしれない』
「―――そう、これは違い無く聖戦さ」
 セルウスが反対側で神妙に頷いた。
「とある宗教の戦闘訓練を兼ねた儀式が始まりとも言われているよ、知らんけど。
 物を壊すのはダメだし、先生が来たら寝たフリをしなきゃダメだぞ、知らんけど」
『前置きはさて置きやってみたいよね』
「あと燃やすのもダメって厳しいなあ」
『窓とか物は壊しちゃいけないんだよ』
『先生に怒られるからね』
 そして始まる枕投げ。格好良いスローとか触手防御とか炸裂して大変盛り上がった。
『童心に帰った感じがしますねえ』
『―――まあ童心というか子供だったことはないんですが、おれ』
「僕も子供時代があったかは知らないけど。
 子供ってこんな感じかなあ?」
 首を傾げる二人だった。



「さっきから何だね、人の顔をじろじろと」
 「抑々君は」と説教モード開始のラルフにミルヴィは、
「もーいつもうっせ! それよりアタシの話聞けって!」
「ふむ。たまには聞こうか」
「えっ、イイの? ……この町は温泉があってねー」
「温泉か、湯治には良いな」
「センセがイイなら一緒に入ったげても……」
「仮にも淑女だろう、慎みを持ちたまえ。
 第一。子供に背中を流してもらってもね」
「誰が子供だ! 胸だってあるわ!」
「そういう話ではない」
「それで、昔、母さんがここで……」
「……ほう、ここで?」
「母さんの話もっと聞きたい?」
「……ああ」
「いいよ、母さんの名前はミリアって言ってね……」
「……ミリア、ね……」
「料理とか勉強教えて……」
「……きっと料理が上手だったのだろうね……」
「センセ……どうしたの?」
「―――もう疲れたろう? 早く寝なさい」

 毛布に包まれたミルヴィは、その顔を覗き見る。
 ―――何であの人、あんなに優しい顔するの?



「つい、長湯してしまいました」
「ええお湯やったね……極楽でした」
 雪之丞と蜻蛉が何時になく顔を緩めていた。
 立ち上がった蜻蛉が淡藤色の浴衣を慣れた手つきで着るのを雪之丞が眺めていると、
「そや、着付けたるで、こっちおいで?」
「……甘えてもよろしいでしょうか?」
 蜻蛉が淡桃色の浴衣を着付けていく。
「蜻蛉さんは、やはり詳しいのですね」
「ん、娘子の着付けするんは久しぶりやわ、懐かしい」
「……サラシが無いので不思議な感じです」
「って……よお見たら、雪ちゃん意外に……」
 蜻蛉の視線が雪之丞の胸の膨らみへ泳ぐ。
「……拙のは、蜻蛉さんほど、豊かでもなく」
「どういたしまして。
 ……ん、少し大人な感じで、色っぽいわ」
 蜻蛉が嬉しげにうなじをつつくと、雪之丞の口元が緩む。
「見てみ」
 雪之丞が蜻蛉に導かれて姿見の前に立つと、其処には見違えた自分の姿が在った。
「ありがとうございます。
 とても―――とても、素敵です」



「……東はこちらですか。ならこのベットがよさそうですね」
『入り口から遠く朝日の差さない場所であるな』
「……メランも此方に如何ですか?」
 アケディがメランコリアを誘う。
「……アケディアも……寝る気……」
(『安眠の為に隣を埋めておくつもりか』)
 オルクスが囁くように云う。アケディアは無視した。
「……後は水を入れたコップも準備完了です」
『適度に利用されているがいいのか?』
「……私は……どうせ寝たら……起きない」
『ならいいが』
『ふむ、明日出発する準備もほぼ完了しているな』
「……えぇ、これで明日はぎりぎりまで惰眠を貪れますね』
『努力の内容に問題がある気がするがな』
「……明日の……荷物は………まぁ……いいか」
『アワリティアにまた怒られることになると思うが?』
「……途中で……諦める…よりは……被害が少ない」
『一理あるが準備を怠る理由にはならないな』
「……」
「……」

『『よい眠りと夢を。我が契約者殿』』

●海辺の話
「ここ、が……ワンデスボロー……」
 アルファードは、砂浜に座り込み静かに海を眺めていた。
「あら、先客かな」
 その声に振り返る。其処には津々流が立っていた。
「海と星を見ていただけ。貴方は?」
「考え事しながら散歩。お邪魔じゃ無ければ隣、良いかな?」
「ええ。私はベラ」
「鳶島です」
「……それで、考え事って?」
「最近、やっと依頼を受け始めたんだけどねえ」
 サーカスの異変についての違和感を津々流が吐露する。
「まさか”不幸せだ”という理由で、大勢の人々が動くなんて思ってなかったんだ。
 ……僕は、元いた世界で裕福な暮らしをしていたから、分からないんだと思うけどねえ」
 アルファードは星を眺める。―――それは、彼女の起源。
 海に視線を落とせば、其処に在りもしない筈の水上に聳え立つ屋敷を幻想した。
(あちらの世界は平穏でしょうか……)
 大丈夫と軽はずみに言えないけれど。
 ―――きっと。
「人は其処まで弱くない、と思うわ」
「……そうだね」
 津々流が頷いた。



「うーん、月がとっても綺麗! ね、巴!」
 シャルレィスが伸びをしながら一人云う。
<……別に、私は月になど興味はないが>
「綺麗なのは認めてくれるんだよね?」
<……っ。何故そうなる>
「だって前に森で星を見た時も同じように言ってたもん。
 素直じゃないよね!」
<……お前は素直が過ぎると思うがな>
「それこそなんでそうなるの!?
 いいじゃん、綺麗なものは綺麗なんだし!」
<……別に月の事だけを言った訳ではないのだがな。
 ―――やれやれ、だ>



 海辺に、オラボナが一人。
「視るが好い」
 海の底から這い蠢く触手の咆哮
「覗き込むが好い」
 宙に浮かぶ十字に裂けた満月の輝き
「我等『物語』は芸術家」
 沸騰する肉塊の嬉々的な舞踏
「久方振りに”娯楽”を成そう」
 穏やかな海辺が幻想狂気で彩られ、そして、霧散する。
「誰もが我等『暗黒神話大系』を認識する。
 未知なる恐怖は在り得ない。―――ああ。神よ。
 真に在るならば混ぜて魅せよう。
 我こそが―――原始『オリジナル』だ」



(海かあ。以前、依頼で行ったきりだな。
 あの時はゆっくり愉しむという雰囲気では無かったが)
 浜辺に腰かけるジョセフの視線の先、海から突然、ブーケが上がってきた。
「うお! 傷だらけだな!?」
「ん? 驚かせたった?」
 むしろ血塗れのブーケがきょとんと首を傾げるが、ジェセフは否定する。
「いや、むしろ羨望の眼差しだ」
「……変わったお人やね。躰が火照って仕方無いもんでな」
「分かる、良いよね、傷」
「……いや、俺は暴力は嫌いやけん」
「そうか、うん、……まあそうだな」
 服を絞ったブーケは、そのまま砂浜をじいと見る。
「案外綺麗やなあ。貝殻とかガラス片とか集めてみよかなあ。
 良かったら、手伝ってくれへん?」
「構わない。ちょっとアンニュイな感じ気取ってただけで、
 実際は明日の朝飯の事ぐらいしか考えること無いしな!」
「やっぱ変わっとるわ」
 にやりとブーケが笑った。



 碧は一人、潮風に抱かれながら剣を振っていた。
(静かな場所でありますし、精神集中には捗るでありましょう)
「それに―――”あれ”くらい強くならなければ」
 碧は、ベツェルの村で対峙した”天使”の事を思い返していた。
 自分一人では……あれを倒す事など到底出来なかった。
 飛び立っていった白き/黒き天使。
 自分を、見逃した天使。
「いつか」
 碧は剣を振る。何時か天使を断罪出来るまで。



(外から見る海はいいねー、広くて。
 しかも今回は夜の海! はじめて見るよ)
 N123が少し上気した視線で眺める。
「……ちょっと潜っちゃお。
 ナイトダイビングってやつ!」
 水中行動の異能で海に潜ると、N123はこれまた初見の光景に感動する。
「暗い! けど、独特!」
 一頻り楽しんだ後、海から出たN123。
 風邪をひかない様に服と髪を乾かした後、宿に戻る。
「明日からもがんばるぞー!」



(……夜風が気持ち良い。
 この世界に来て初めての海だが、こちらの海も綺麗で心が落ち着く)
 サラテリは波の音に耳を澄ます。
(こうしてゆっくり海を眺めるなど、いつ振りだろうか)
「確か、最後に見たときは先生と一緒に……。
 いや、これを考えるのはやめておこう」
 捨て子だった時の事を思い返そうとして、止める。
「さて、帰るか」
 満足げにサラテリは立ち上がる。良い気晴らしになったのだった。



(……幻想にもこんな所があるんだな)
 浜辺を一人歩く黒羽。
「もうすぐ特異運命座標になって一年か。
 早ぇようで短かったが本当、色んなことがあったな。
 ……まぁ結局、記憶は戻ってねぇが」
 依頼の事。日常の事。
 救えなかった生命の事。
(勿論、救えた命も確かにある。
 だけどよ、救えなかった命も同じ、それ以上あんだぜ?)
「なぁ、俺は……俺はちゃんと前に進めているか?」
 月は、何も答えてくれない。



 対人恐怖症の気があるインヴィディアは、人の少ない海辺に向け歩いていた。
「ひっ……!」
『只の野良猫だぜ』
「えぅ……どっちに……いっ、行けばいい?」
『んー、当分まっすぐ行きゃぁいい』
「……あっ、り…がと……』
『そぉ、思うんならもうちっと名前負けしないでくれると有難いんだがなぁ?』
「うぅ……っ…」
『じょーだんだ、気にすんな。
 ―――それより目的の月が見えてきたぞ?
 カウダが笑う様に言った。



 人気の無い海辺で燥ぐ瞬兵と霧玄。先に仕掛けたのは瞬兵の方で、誘われる様に霧玄も波打ち際に向かう。
「痛っ……!」
 霧玄が目を抑え立ち止まると、瞬兵が「大丈夫?」と心配そうに近寄り、顔を近づけた瞬間、
「―――」
 霧玄の悪戯な視線が、そのまま不意打ちにキスへと続く。
「あはは! 引っかかった!」
「……もー心配したのにー!」
 今度は霧玄が逃げる瞬兵を追いかける。
「うわっ!」
「……っと」
 足を滑らせて転びそうになった瞬兵を咄嗟に支えた霧玄。
「鈍くさいなぁ―――っ!」
 ……が、今度は瞬兵の悪戯が仕返しをする。逆にキスをされて赤くなった霧玄と、そのまま微笑んで目に映った星空を見あげる瞬兵。
「月が綺麗だね」
 その言葉を翻訳した、異世界の文学者に想いを馳せ。
「君の為なら、俺は死んでもいいよ」
 と返した霧玄に、瞬兵は照れた笑いを返すのだった。



「ちっと風があるな……寒くねぇか?」
「少し……」
 マナと並んで海辺を歩く縁が、羽織を広げて風除けにする。
「何なら、うっかり飛ばされねぇよう、おっさんにしがみついとくかい?」
「……た、確かにこのままだと歩きづらいと思いますので……」
「ははっ、悪い悪い、冗談だ。確かにそれじゃ歩けねぇな」
 そう言った縁に、マナは控えめに寄り添う。
「……にしても、大仕事の後だからか、いつもよか星が綺麗に見えるねぇ。
 世の為人の為ってより、こういう景色をまた見てぇから戦うのが性に合ってるな、俺は。
 お前さんはどうだい、マナ?」
「……人の為に働くのも良いですが……。
 私は……皆様と……十夜様と、またこうしてゆったりとした時間を過ごしたい……ですね……」
「……そうか、お前さんらしいな」
 縁がぽんぽんとマナの小さな頭を撫でて微笑む。
(私は、今日十夜様とご一緒出来た事がとても嬉しいのです)
 そんな彼女の声は、波に掻き消されて―――。



「今日はありがとうございました」
「どういたしまして」
 クラリーチェが煤猫を撫でている。グレイと二人での買い物帰りに、海辺で一休みしていた
「ねぇ、シスター……いや、クラリーチェくん」
 “個人”へ向けるべき善意が分からず。グレイは少し戸惑った声色で続ける。
「僕はここに居ていいのだろうか」
「そう、ですね……」
 唐突なグレイの質問にクラリーチェも暫し無言になる。
(名前に呼び直しての質問という事は、求められているのは“他人”としてではなく、
 “個人”の答え……)
 クラリーチェがじいとグレイを見詰める。
「はい。近くに居て下さると、嬉しいです。
 今日みたいにまた、一緒にお買い物に行けたらいいなって……」
「……そんなことでいいのかい? 勿論いいとも!」
 グレイは破顔する。“らしくない”自分を茶化す様に、
「財布の紐は取っ払ってしまおうじゃないか」
「まあ……」
 くすくすと笑うクラリーチェ。
 ―――心が弾んだのは内緒にして。



 サンディとミスティカの二人が来たのは静かな海辺。
 ミスティカは表情に出さないが、内心で海の空気を堪能する。サンディは海に興味津々だ。
「しっかしそうか、これが聞いた海……しょっぺっ!」
 サンディもミスティカの横に腰かける。彼女は瞼を閉じていた。
「海は全ての生命の源みたいに云うけれど」
 口を開いたミスティカに、サンディが振り向く。
「闇夜を照らす月光は、海へと還る人の魂を導く道標の様にも思えるわ。
 ……もしも私が波に浚われてしまったら、貴方は私をどうするかしら」
「……へっ!? そんなこと、させねぇに決まってるだろ!
 とりあえず飛び込んで……どうするかはその後だな」
「随分勇ましいこと言ってくれるのね」
「相手が海だろうが、ただで取らせはしねぇ」
「貴方がその心算なら―――しっかり離さないでいて頂戴」
 サンディが強く頷いた。
 彼女の何時もと少し違う雰囲気に、内心で首を傾げながら……。



 小舟を借りて、夜の海に漕ぎ出すマルクとアンナ。
 二人は向かい合って乗り合わせていた。
「まるで闇の中に浮いているみたいだ、夜の海って」
「本当ね。昼の海と全く雰囲気が違うわ……」
「でも、真っ暗なぶん、街の灯りは一番綺麗に見えるんじゃないかな。
 遠くの漁火も。それから……星も」
「ほんと、街灯りってこんなに綺麗に見えるものなのね。星も」
 ……成る程、と嘆息するアンナ。「流石ね」とマルクを持ち上げると、彼も頬を掻く。
「気に入って貰えて、嬉しいよ。
 ……寒くないかな? もし寒かったら、上着貸すよ」
「少し肌寒いわね。借りるわ、有難う。
 ……それと、私が漕いでみても良いかしら?」
「……君が?」
 手を差し出すアンナに、マルクが遠慮気味にオールを渡す。
「当然初めてだけど……何事も経験よね。
 幸い教えてくれそうな人が目の前にいる事だし」
「勿論、それじゃ、岸を目指そうか。まずはオールを―――」



「初めて見る海はどうだった?」
 アレクシアの問いかけに、珠緒が穏やかに微笑む。
「海を見てみたい、そう以前話しておりました。
 それを覚えていて下さって……」
「海洋の海の方が良かったかな? ってちょっと心配してたんだけどね」
「とんでもない、かけがえのない一夜を得られた、そう感じるのです。
 それに、日差しが強いと、倒れかねませんので。まだ月と共にあるくらいが丁度よいかと」
「確かに珠緒君は、月の方が似合ってるよね。
 神秘的な感じというかさ、穏やかではあるんだけど、実はしっかりと芯を持ってる所とかさ」
 海辺を歩く二人。アレクシアが水平線を眺め口を開く。
「いつかね、海の向こうに行ってみたいなって思ってるんだ」
「うみの むこう ですか?
 海すら見たばかりの桜咲には遥かなお話ですが……」
「冒険が夢なんだ!
 いつかその時がきたら、良かったら付き合ってくれるかな……?」
「一緒に冒険―――望む所なのです!」


●温泉の話
【男湯】
「……なんてこった、この時間男湯は誰もいねぇのか!」
 ゴリョウがぽかんと口をあける。
 女湯の方騒々しいが、こちらは蛻の空だった。
「まぁいい、これだけの風呂を独り占めってのも悪かねえ!」
 こっそりと持ち込んだ清酒とぐい呑みを持って入るゴリョウ。
「キツい依頼も多いが、こうやって気を休める場所があるってのは良いもんだ。
 あぁ、今夜は気持ちよく寝られそうだねぇ」
 見上げれば丸い月。傷だらけの躰に、酒の味が染みた。



「いやァ……しかし、異世界の温泉も悪くねぇなァ」
「最近は荒事続きだったからな、久しぶりにゆっくりできる」
 アランの言にレオンハルトが首肯する。ゴリョウとは入れ違いに周りには様々なイレギュラーズが入浴に来ていた。アランは亡とその様子を眺め、横でレオンハルトも右腕を含めて湯船に浸かっていた。
「しかし、女湯を覗く奴とか居そうだな~……ま、定番っちゃ定番だが」
「そうだな」
 肩まで湯に浸かりながら、男湯と女湯を隔てる壁を眺めるアラン。「年頃の男子にとっては格好のイベントだしな……」と呟きつつ体を伸ばしたその瞬間、
「あ”っつ”!?」
 思わず変な声で立ち上がったアランは続けて、
「てめぇアチィよボケ! ふざけんな!」
 近くの桶でレオンハルトの頭を叩こうとする。
「……? ああすまない、右腕か。いつもの調子でやってしまった」
 アランの桶をそのまま取り上げると、レオンハルトはそこに水を貯めて右腕を突っ込んで冷ましたのだった。



「ん……? 何も問題ないですよね、ボク女の子じゃないですし……」
「うん、大丈夫、男湯GOGO!」
 ヨハンがアズライールの背中を押して男湯へ入る。
(とは言ったものの……絶対アズちゃん女の子って思われてますよね)
 早速集まる視線にヨハンが口を噤むが、横の天使は羽とタオルで隠し誘惑していくスタイルでむしろ更に視線を集めていた。因みに世間ではヨハンも男湯NGレベルであり二人で視線を集めている。
「そういえばヨハンさんがボクの羽を洗ってくれるんですよね?
 一枚三十分くらいかけてピカピカにして貰わないとですよね」
「こないだ良い武器を頂きましたけれど、流石に全部は嫌ですよ!?」
「全部で二時間くらいでしょうか……、流石に一枚三十分は嘘ですけど」
「こ、こき使われる! 悪魔ー!」
「メイドさんだったみたいですしどれだけ綺麗にしてもらえるのか。
 ボクとーっても楽しみ、ですね」
 結局彼の羽は全てヨハンが洗う事になりました!
「やだー!!」



【女湯】
「ふぃー……いいお湯ー。
 温泉って、こーんなに気持ちよかったんだー」
 頭にタオルを乗せたフェスタが躰を弛緩させる。
「なんだか……いろんな色をした温泉がありますね……」
 辺りを見渡すアニー。
「無色透明もあれば白だったり赤だったり。
 この土が濁ったように見えるものも温泉なのね……びっくりです」
「美肌成分大目みたいよ、ここ」
 先に浸かっていたフェスタが言うと、「じゃあご一緒して……」とアニーも浸かる。
「……ふう。確かに、少しとろみがあるお湯です。気持ちいい…」
「私は、冒険に出る前は水浴びが好きでしたけど、温泉に出会ってまた違う心地良さを知ってしまいました」
 先に入っていたリディアも首肯する。
「私の世界じゃこういうのあったけど、良さが分かってなかったなぁ。
 もしも帰れたりした時は行ってみようかな♪」
「各地の温泉に入る機会があるというのは羨ましいですね」
 フェスタの言にリディアが言うと、「この世界でも色々探さなくちゃですね」とアニーが続ける。
「今夜は男性陣とは別行動ですが、一緒に温泉で過ごす機会があるといいですね。
 でも、水着着用でも目のやり場に困りそうなので難しいでしょうか」
「私はパスだけど、混浴ってのがあるからねー」
 フェスタが混浴の方を指差す。その横ではアニーが寝落ちしかけていた。リディアが優しく肩を揺する。
「さて、そろそろ上がろっかな。
 明日も、楽しい日にしよー!」
 フェスタがぴちゃん、とお湯面を軽く弾き、夜空を見上げた。



「疲れた身体を癒すには、やっぱり温泉はいいわよね~」
 レストは満足気に空を見上げる。其処には綺麗な星々が瞬いている。
 彼女が浸かっているのは、露天風呂だった。
「あら、やっぱりあるじゃない、露天風呂ぉ」
 髪をアップにしたアーリアも、漸く見つけたとばかりに入浴する。「どうぞー」とレストが手招いた。
「召喚される前は戦うなんて事考えてなかったから、傷の一つ一つに感慨深くなっちゃうわぁ」
「お、同業者だね! 身体を癒すのも立派なお仕事だわ。
 ……はぁ~、湯船が身体に染み渡るなぁ」
 そこにジェーリーも歩いてくる。「此処も温泉かしら?」と首を傾げた彼女に「そうよぉ、空いてるからどうぞ」とアーリアが誘う。
「温泉って初めて! いろんな効能があるって聞くわ」
「此処のはコレって云うのは無いけれど、命の洗濯になるのだわ」
「成る程ね。
 それにしても、裸で誰かと話すのはこの姿だと初めてだからちょっと緊張するわ」
「そお? 裸になるとなんだか心も裸になっちゃうのよねぇ」
 そんなこんなで温まった三人。
「……そういえば、入り口にフルーツ牛乳が売っていた様な~?」
「あら、良いわね」
 着替えを済ますと、売店でフルーツ牛乳を三つ買う。
「んふふ~、堪らないなあ!」
「ジェーリーちゃんもどうぞぉ」
「こ、こうかしら? ……あ、良いわね!」
 三人で飲むフルーツ牛乳は、どうやら格別だったらしい。
「温泉……私、好きになれそうよ! 今日は素敵なお話をありがとう!」

(温泉……聞いたことがある。熱い湯に身を沈めて体を流し、疲れを解消すると)
 初の温泉を試しに来たシェンシー。性別ら辺がアバウトな彼女は「混ざると男が煩い」と云う理由で女湯をチョイス。
「む……」
 勝手を知らぬが、とりあえず体を洗い始める。

 道中眺める街並み。レイルディアは頬に手をあてる。
(これが港町。話に聞いて、本で読んで事があるだけの存在でしたが)
「けれど、温泉があると聞いた以上、入らない選択肢はありません」
 レイルディアも温泉へと向かう。シェンシー同様性別にアバウトだが、造型を鑑みて女湯にすることにした。

(温泉なんて、久しぶりですね。ここ最近はお仕事で駆けずり回っていましたから)
「はぁ……身に沁みます。疲れが溶け出していきますね」
 酒の愉しみは風呂上りに温存する事にした鶫。程なくして、シェンシーとレイルディアが同じ風呂に浸かりに来る。
(おつまみは何にしましょうか。まずはコクのあるチーズとサラミから……)
 妄想が膨らむ鶫の横で、
(やはり風呂はいいものです。毎日数回は入りたいものですが)
 と純粋に愉しむレイルディアと、
(まずい。熱い)
 瞬間でのぼせたが特有の負けん気の所為で素直に上がれないシェンシー。
「……と、いけません。のぼせかけてますね、私」
 鶫が湯から上がった瞬間に、凄い勢いでシェンシーも立ちあがる。
「……」
 鶫とレイルディアの視線がシェンシーに注がれ、本人は赤ら顔で颯爽と脱衣所に戻っていった。



「今回の依頼も無事終了! お疲れさま~」
 ユウとセシリアが依頼帰りに宿へ訪れると、
「……って! 温泉あるの!?
 わ~い! 温泉だよ~入ると気持ちいいんだよね~」
「へぇ……此処にも温泉があるのね……。
 混浴だけならどうしようかと思ったけど、丁度分かれてる見たいだし少しゆっくりして行こうかしら。セシリア貴方は先に宿で休憩して―――」
「宿で先に休憩? ないない!
 さあ、温泉だよ、ユウ一緒に行こう~」
「って言ってゆっくりするはずないわよね……はぁ。
 ……何が起こるか分からないしいいわ、一緒に行きましょうか」
「前に入った時も楽しかったけど今度はどんなお湯があるかな~。
 うん、うん楽しみだな~」
「言っておくけど、体調を管理するのも大事な仕事なんだからね」
「早く早く~」
「はぁ、全く……」
 溜め息を吐くユウだったが、何だかんだでセシリアには甘いのであった。



「仲良し3人組で温泉! ……なかよし、だよね?」
「はい……なかよし……仲良しです!」
「お友達だよね?」
「ふふ。トモダチか。うん。友達だ」
「よし」
 ルアナの脅迫的な確認にセレネと空海が首肯する。友達は、素敵だネ。
 お風呂に入ると三人でナカヨク洗いっこを始める。
「こうやってー。空気を膨らませるとね。あわあわふわふわになるんだよっ」
「ルアナさんの泡……凄いです!
 成る程……こうでしょうか?」
 見様見真似でセレナが泡出てる。
「空海さんは尻尾をキレイキレイしたらいい? 普段のお手入れ大変そうだけど」
「あまり、気にしたことがなかったな」
 空海がルアナを真似て尻尾で泡立てると、
「おお。これは、楽しいな」
 想像以上の泡立ちに気をよくした空海が、そのままルアナとセレナを尻尾で洗い始める。
「ふあー! 気持ちいいふかふかするー!」
「……は、はわ……はわわわ!
 今まで味わった事のない心地良い感覚に二人共骨抜きになる。その様子に空海はどんどんと洗いを続ける。
「ルアナの髪も、洗うのを手伝おうか? 綺麗にすると、気持ちが良い
 セレネも、手伝ってくれるか? 一緒にルアナを綺麗にしよう」
「はい、一緒に洗います!」
「うーん、めんどいから髪も伸ばしっぱなしだし……。
 二人みたいに多少は綺麗にしなきゃなのかもなぁ」
「長い髪の毛……ちゃんとつやつや綺麗ですよ」
「ああ。だが手入れしたらもっと綺麗になるかもな―――」



(……温泉。地中からわき出す温水。それに意味があるのか。只の、温水の筈だ)
「意味があるのか……分からないが。……で、温水をどうすればいい」
 戸惑うリジアの前で、Lumiliaが首を傾げる。
「リジアさんは温泉は初めてですか?
 気を張らず、身体を洗って、それからゆっくり浸かるだけで大丈夫ですよ」
「身体を、洗う。……お前の前でか。……いや、構わないが」
「あ、じゃあお背中流しましょうか。座っていて下さいね」
「……モノ好きだ。他人の背中を流すなど……こそばい。
 ……身体など適当に……こそばゆい」
「これくらいですか?」
「……もう少し、強くでいい」
 リジアと自分を洗い終えると、Lumiliaが「あ、っと……」と翼を仕舞った。
「翼は、仕舞ってしまうのか」
「え、駄目でした?」
「……別に、問題はないが。
 ―――綺麗だから、勿体無いと思った。……それだけだ」



「いやー、やっぱり恋人と温泉は鉄板やねー」
「それに、いい星空ね……そういえばこちらでも星座とかあるのかしら?」
 秋葉が水城に問い掛ける。
 二人の前には、湯に浮かんだ桶と、そこに於かれた酒が在った。
 温泉に浸かって酒を飲みつつ月や星を見ながらのんびりと過ごす。
 ―――この上ない贅沢であった。
「星座? いくつかはあったなぁ、 覚えてへんけど」
 けらけらと水城が笑って返す。
「そう。こうして二人で星を見ながらお酒をちびちびと飲むのも良いものでしょ?」
「うん、二人やからこそ、いいもんやわ」
「温泉が気持ちいいわね」
「二人やからこそ、ね」
「……」
 ―――何時の間にか、水城が真剣な眼差しでじいと秋葉を見詰めていた。
 秋葉は無言だったが、その顏は、酒の所為か赤く上気していた。



「温泉に入るのは久し振りじゃな……」
「名前は聞いたことあるけれど、入るのは初めて。いいものだねぇ……」
 久しぶりの温泉と成る華鈴に対し、結乃は今回が初体験。
「普通のお風呂と違ってじわ~っと気持ち良くなるのじゃ」
 湯船の縁にもたれかかってでろーんと溶ける華鈴。
「家風呂では、この解放感と云い温泉の良さは味わえぬからのぅ……」
「確かにね。お家のお風呂も落ち着くけれど、温泉ならではだね」
 小さな欠伸を零した結乃は華鈴の真似をして、ぽやーんと溶ける。
「でもずっと入っていたらのぼせちゃうね」
「そういう時はじゃな……こういう風に下半身だけ浸かると良いのじゃ」
「あ、足湯って言うんだっけ?」
「結乃は物知りじゃな! 只、これは半身浴と言うものじゃな」
「ちがった。半身浴。一つ新しい言葉を知ったよ。
 じゃあもう暫く温泉を満喫しようね、おねーちゃん。上がったら牛乳飲もうね」
「―――うむ!」
 実に美しい姉妹愛であった。



 宿屋を訪れたイリュティムは、温泉の案内を見て「あら」と足を止める。
「珍しい。獣種でもOKだそう。私も入れそうね」
『我はあくまで翼型であって、羽根が抜けたり等はしないが?』
「事実はそうでも―――」
「やっほぉ。どこいくんですぅ? 一緒にいってもいいですかぁ?
『………』
「っと。ルクですか……いきなりだと吃驚しますよ?」
『我らは構わないが向かう先は風呂になるが?』
「それじゃあ行きましょぉ」
 ルクセリアが合流し、イリュテムと呪具らが温泉へと入る。
「あぁ、いいお湯ですね。空が見えるのも素晴らしいです」
「ううん、やっぱりいいものですねぇ」
『我が契約者殿が満足したようで何よりだ』
「羽根を伸ばすついでにお酒でも頼みましょうか」
『ほどほどにな』
『………』
「ふふっ、それ以上言うと剥がしますよぉ?
『………』
「―――冗談はさておき。
 あ、私もお酒、ご相伴にあずかってもいいですかぁ?」



【混浴】
「―――何、混浴? 女子も男子も裸を堪能できるとか、完璧すぎるでは無いか!」
 滅茶苦茶不純な動機で入浴してきたルア。本人が美少女な所がまたアレである。しかもタオル等防具一切無しの正面突撃!
「見ていいのは、見られる覚悟が出来ているものだけ―――え、隠せ? 隠さなくていい?」
 「隠さなくて良いけれど、色んな描写上もやっとします」という謎の天の声に頷いたルアがガッツポーズ。
(うわあああ! なんか全裸の女の子がすげー堂々と入って来たんだけど……!)
 ササッと体を洗って温泉へINし、反則的な気持ちよさにリラックスしていたみつきが急激に硬直し、必死にルアから目を逸らす。のぼせ対策で、濡らしたタオルで咄嗟に目を覆って視線を変えると、
「ヤー、仕事帰りの疲れを癒すのに丁度いいぜ。
 さー、ダイビングスーツに潜水マスクを着用していざ入浴!」
「む! 汝、脱がんか!」
「え、何この子?!」
 ロクスレイの姿にみつきは思わずタオルを落としかけ、
(うわあああ! なんか逆に全身武装した変な奴がすげー堂々と入って来たんだけど……!!)
 他愛もない話をしながら交流を図りたいな、なんて考えていたみつきの斜め上を行くキャラしか混浴には居なかった。
「うにゃぁ、一人で温泉とか緊張しますぅ。
 で、でも……折角来たんですもの! ゆっくりするのですう」
 そんな中、混浴の看板に気づかずに歩いてくる(ようやく真面な)鈴音も、
「ふ、ふぇ……?!」
「ヤー、これが俺の水着なんだってば。だって俺は性別不明だし?
 一族の掟があるから顔を他人に見せられないし?
 この格好なら性別は分からないし顔も隠せるんだぜー」
「お、お邪魔しましたですぅぅぅぅ!」
 ―――脱兎の如く回れ右して立ち去って行った。
「おい汝! 汝こっち来い! 躰見せよ!」
「お、わ、私!?」
 ルアにマークされたみつき。―――夜は長そうだ。

「さ、さっきはビックリしましたけど……今度は大丈夫なのですにゃ」
 無事女湯に辿りつけた鈴音は、ちゃんと温泉を堪能できたのでした。



 コルザの視線に気づかぬ様にロズウェルは感嘆を述べ、
「いやぁ、以前言っていた温泉の話がまさか実現するとはね」
 そして苦笑気味に、
「……この間の依頼の失敗の件で励まそうとしてくれたのでしょう?
 ―――タコ殴りでしたからねえ」
 サーカスの狂気に曝された男達に刺された脇腹にも、他にも。その跡が残っている。
「……大丈夫かい? 体の事も勿論だけれど……」
「大丈夫ですよ。
 只……まだまだ、私自身の思う所には至らないという事なのでしょうね」
「僕も、如何にこの世界では無力か……思い知らされた。いや、“知る”事が出来た。
 それは、きっと続く道の力になる筈なのだよ。さ、洗い終わりだ。立てるかい?」
「ああ、ありが―――」
「お礼は言わないでおくれ?
 ………そうだね、今度僕の背中を流してくれればいいのだよ」
 手を貸して笑うコルザに、
「それは只私の役得なのでは……全く、コルザさんには敵いませんねえ」
 ロズウェルも微笑んで手を取った。



「温泉って何だか普通のお風呂より特別な感じがするわよね。
 鼎さんは……、混浴に入りましょうか!」
 内心ほくそ笑むエルメス。鼎も微笑みで返す。
(私の性別をどっちと思って誘ったのだろうね?)
「―――まあ、エルメス君からみたら子供だからあまり差はないかな」
 そうこうして湯船に浸かる二人。
「蕩けそうになるね。疲れが染み出して、なんて言ってると疲れ成分たっぷりの温泉になってしまうかな。
 ……ああでも、エルメス君から癒し成分が出て相殺されてるかな?」
「溶け出すって……こんな感じかしら」
 言うと、湯に溶けるエルメスの幻像が、鼎の目に飛び込む。
「―――吃驚したかしら?」
「吃驚したよ? 但し、微笑ましさの方が強かったけどね」
「あら、魔女心がわかってないのね?
 ……だったら、それなりの悪戯をするまで、ね!」
「んっ、ふふ、くすぐったいよ!
 お返しに、―――えい!」
「まあ―――」
 最終的に、子供の様に水を掛け合い始める二人だった。



「フルート!」
「アタシ達も入浴するわよ!!」
「―――ぐへへ、仲間で裸の付き合いって奴だね」
「「あれ?! 逆に嵌められてる?!」」
 “人の居なさそうな時間に混浴に入る”と云っていたフルートを騙し討ちする形で押し入ったほぼ外道のアリソンとルーミニスだったが、むしろフルートの方がヤバイかもしれなかった。
 だが、丁度他に人は居なさそうだ。アリソンは胸を撫で下ろす。
「えへへぇ……何だか皆でお風呂入るのって中々無いからワクワクしちゃうねぇ!」
 愛用のマフラーが無いのは少し気になる様だが、フルートも楽しそうである。
「温泉が在るって良いわよねぇ。
 ローレットにも作ってくれないかしら、温泉」
 ぶくぶくと湯に沈むアリソン。横に酒を持参したルーミニスが歩いてくる。
「二人はどう……って、あー! まだ飲めなさそうね!!」
「ふ、フルートに合わせてあげてるのよ!」
「後でジュース買ってあげるからその時一緒に飲みましょ!
 ……あ、そうだ! 折角だし、背中でも流して貰おうかしら!」
「お! お背中ながそーか?」
 望む所とばかりに手をわきわきさせるフルート。気が付いていないルーミニスは「上手くできたら舎弟にしてあげてもいいわよ!」とドヤ顔だが、「へ、変な事しないでしょうね……?」とアリソンは警戒中だ。
「二人共可愛いねぇ……ぐへへ」
「反撃するわよ!?」
「こういう機会もたまには悪くないわね!」
 三人の入浴は長くなりそうだ。



 混浴で待ち合わせていたメアトロとヴァン。
 ヴァンが「少し待ってて下さいメアトロさん、今向こうで洗ってきますので」と回れ右をするが、
「海のお礼って言ったでしょ? 洗ってあげる」
「……えっ。そんな流して貰うなんて。
 うーん……はい……じゃ、じゃあお願いします……っ」
 押し切られたヴァンはぽんとイスに座らされる。
「ほーら。気持ち良いかな?」
「……その、メアトロさん。凄い、嬉しいんですけど……」
「んー?」
「あの……背中越しに、凄い……柔らかいのが…っ」
「なぁに?」
 上せそうに成るのを必死に我慢するヴァン。
「さ、洗い終わったら温泉に入っちゃいましょう、大丈夫?」
 メアトロはくすくす笑いながら一緒に湯船へと浸かった。
 そして、温泉から上がると、
「髪の毛ちゃんと拭けてる? 拭いてあげようか?」
「子供じゃないんですから!」
「そ? 風邪引いちゃうからね。
 じゃ、一緒にお宿に行こうね」
 ほくほく顔のおねーちゃんなのであった。

●酒場の話
「ジョニ黒みたいなの。スコッチの気分なんだ」
 カウンターに着くなりシルヴィアが言った。
「其の物はありませんが、ブレンデッドの十三年物で近いのが」
「トゥワイスアップで頼む。晩飯は入れたから、燻製でも見繕ってくれ」
 シルヴィアは酒が出てくるなりすぐ呷る。
「基本的に仕事中はアルコール入れない主義でなぁ」
「影響が?」
「どっちかってぇと験担ぎって奴」
 ―――混沌で云う神じゃなくて、こう、なんか、『いる』んだよ。



「マスター! いつものー!」
 シエラが言った嘘である。
 しかしマスターは「何時も有難うございます」と乗ってくれた。
「マンハッタンです」
 シエラが口に含む。
「ウイスキーの絶妙なバランス……素晴らしいわ」
 その後も褒めながら飲み続けるが、やがてお腹がギブアップ。
 無料化作戦は失敗だ。
「マンハッタンの語源はご存知ですか」
「いえ……」
「“泥酔”、そして、“嘘”―――」
 にこりと笑ったマスター。目は笑っていなかった。



「……ノンアルコールで……僕でも飲めそうなカクテルって……ないかな。
 ……あ……おまかせで……」
 グレイルがオーダーすると、
「では」
 シェイクをしたマスターが「プッシー・キャットです」と差し出した。
「美味しい……」
「オレンジとパイナップルジュースベースのノンアルコールカクテルです。
 “可愛らしい猫”。お客様は、犬かも知れませんが」
 グレイルは少しだけ口角を上げる。窓から見える月を肴に、カクテルを味わった。



 ジョゼが地元の友人ジュノーと陽気に酒を飲んでいる。
 手元にはトム・コリンズが注がれたグラス。
「そーいや、『柄久多屋』の様子はどうなんだ。
 親父……やっぱオイラのこと探してる?」
「勿論。めっちゃ探してるぜ!」
「……だよなー。殆ど家出みてーな出方したし」
 ジョゼはピザを摘む。
「あーもう、飲め飲め、おごりだし口止め料だ!
 その代わり、今日の事は絶対内緒だぞ!」
「お、おい……!」



「いやー、こういう所でお酒を飲むのも久しぶりだねー」
「イライデ アチコチ カケマワッテマシタカラネ」
 コリーヌがギフトの正宗と飲んでいた。
「労働で疲れ切った体には、お酒が必要なのだよー」
「ノミスギハ ゲンキンデス」
「分かってるって。あ、カルーアミルクおかわり!。
 ……唐揚げがちょっと冷めちゃった。正宗くん、ちょっと温めてっ」
「アイアイサー」
 正宗が電磁波で唐揚げを少し温める。
「電子レンジって偉大だと思わない?」
「アイ!」



「……未成年……?
 いえ、あの、アタシ吸血鬼でしてぇ……」
 入店時に一悶着あったがクローネがカウンターに着く。マスターは頻りに頭を下げた。
「……吸血鬼に似合いそうなの、おまかせで……」
 マスターはシェイクし「安直ですが」と前置き、
「ヴァンパイアです」
「……其の物があるんですね……」
「ジンにベルモット、ライムジュース。スイートベルモットで赤を強調しています」
「……爽やかな味」
「あ、お代は結構ですので……」



「あー、疲れた!
 仕事も無事終わったし、一杯引っ掛けるとするか」
 タツミがカウンターに辿りついて注文すると、横にはルクスが座っていた。
「お、美味そうだな! パエリアか?」
「うむ。内地でより俄然美味であるの」
 海鮮を楽しむルクスに触発され、タツミが追加する。ルクスの手元には度数が高すぎず、食事に合いそうなカクテルとして、ジン・リッキーが来た。
「お任せにしたカクテルも……ふむ? 悪くないのぅ」
「食事に合うカクテル、というのは聊か難題でありましたが」
 マスターが微笑んですぐに引っ込むと、タツミが身を乗り出す。
「アンタ同業者だろ? 依頼帰りか?」
「うむ。騎士団の内紛があっての」
「そいつぁおもしれぇ! 俺も結構色々と経験してきたがよ……。
 花摘、機械人形の破壊……最近だと美女とヌルヌルを楽しんだりしたぜ?」
「我も先日、アイドルを救出したのう」
「マジかよ! サイン貰ったか?!」
「サインは……」
 不思議な組み合わせの夜は更けていく。



「静かな時間を過ごしたい時にお勧めのカクテルを」
 ゲオルグの注文にマスターが暫し思案する。シェイクして出したのは白く美しいカクテル。
「アイデアルです」
「理想のカクテルか」
「その所以は謎に包まれています。ショートですが飲みやすく強いのでご注意を」
 口にするゲオルグ。
「これが理想の味、か」
 ふと彼は隣のジークへと視線を移した。ギフトの賜物だ。
「彼に甘いお菓子でもと思うのだが、可能だろうか」
「勿論。カウンターでは皆、私の大切なお客様ですから」
 ―――ゲオルグが頷くと、ジークが小さく鳴いた。




 Svipulやウィルフレドがひっそりと葡萄酒に浸っているのとは、対照的に、グドルフ、キドー、灰、ライセル、ミディーセラが賑やかに卓を囲んでいた。
「乾杯だぜぇ!」
「何回すんだよ、たく。まあ、まだ足んねーけどな!
 しかし、雰囲気の良い酒場だな。『燃える石』とは大違いじゃあねえか。ここなら安心して食事が出来るな!」
 安酒を抱えたグドルフにエールを握るキドーが突っ込んだ。眼前には肉料理が並ぶ。
「しっかし刀根、おめえさんのアレは傑作だったな」
「いや本当に死ぬかと思いましたよ、マジで無事でよかったです!」
「今回も大変だったけど、前のも凄かったよね」
 ライセルが盗賊のアジトに押し入った話を始めると「ライセル殿と組めたのは幸運でしたよ! じゃなきゃ、とっくにくたばってたかも!」と大袈裟に灰が突っ伏す。
 その様子をくすくす笑いながら聞いていたミディーセラは「甘い香りのものでおすすめを……あ、飾りは傘がいいですわ。まあ、まあ……大丈夫ですわ。それなりに、長く生きていますもの。お酒だって浴びるほど飲んでいます」と注文する。どうやら容姿で一回断られた様だが、彼は既に齢五百を超える。
「あの時も、貴方方と一緒だったらアイツも今生きてたでしょうに……うっ、うぅ……」
 突然泣きはじめる灰。
「まあ泣くなよ、アイツらも浮かばれねーぜ?」
 にやり、と灰の背中を叩きながら笑うキドー。全員、灰の“奢って貰う作戦”は承知の上だ。
「小汚ねぇマネしやがって、刀根! 泣き真似は分かってんだぜ」
 だが酒が回ったグドルフが突っかかる。刀根がちらりとグドルフを見た。
「なんでも試してみるものです! ダメだった時のことは考えてません!」
「刀根、テメー!!」
「まあまあ、ほんと仲が良いんだから」
 キドーと同じくエールを片手に、ライセルが仲介する。
「灰もあの時はかっこよく皆を指揮しててさ……」
「ライセル殿ぉ!」
「ふふ。存分に酔いつぶれて、明日の自分に呪われるといいのです」
「不吉な事言うなよ!」
 ミディーセラの言にキドーが身震いする。
「お客様、モーツァルトの午後です」
 絶妙な空白を縫ってマスターがミディーセラにカクテルを出す。「少し肌寒い時分に成ってきましたので、ホットですが」と付け足した。
 ミディーセラが口を付けると、
「……チョコレートに紅茶。ふふ、甘くて贅沢な味。気に入ったわ」
 目の前で馬鹿騒ぎを続ける四人を見ながら、至福に浸る。
「……こうして下らない話に花を咲かすのも、酒精に酔うのも、馬鹿笑いに興じるのも。
 全て、生きていてこそ」
 ―――今日の幸運に乾杯。
 一人でグラスを上げた筈だったが、ほぼ出来上がった四人が「かんぱああい!」と食いついてきたのを見て、ミディーセラはまたくつくつと笑った。

 翌日。
 二日酔いに苦しみつつも皆の出発に間に合わそうと這って歩く山賊の姿が!
「ち、ちくしょう……あ、頭が……ま、待ってくれ…おれを……置いていかないでくれ……」
 因みにキドーと灰も遅刻しましたとさ!



「注文は……」
 リゲルがポテトをちらりと見る。初めての雰囲気に少し緊張気味。
「……普段はとても凛として、芯の強さを持っている。けれど、自分の前では普段と違う可愛らしい部分もある、そんな感じの……」
「って何を言っているんだ……っ!」
 何時の間にか握られていた手を、ポテトは思わず強く握り返す。
「お客様は?」
 マスターが穏やかに微笑んで訊ねる。
「わ、私の分は、格好良くて優しくて時々ちょっと厳しくて、真っ直ぐ私の事愛してくれる彼みたいな……って私も何を言っているんだ……っ!」
 赤くなり俯くポテト。マスターは早速準備に掛かる。
「どうぞ。ラバーズ・ドリームです」
 二人はグラスを手に取ると、小さく鳴らす。
「今宵の縁に。共に過ごした時間に。
 そしてポテトの愛らしさに乾杯!」
「……これから共に過ごす時間に、乾杯」
 店を出ると、リゲルは「成人したらまた来ようか」と呟く
「三年後か。次は普通のカクテルで乾杯しようか」
「ポテトを酔わせてみようかな?」
「私が酔うかは分からないけどね?」



 アリシスとアレフがグラスを鳴らす。お任せで出てきたのは、
「貴女にはフォ-ル・エンジェル。貴方にはコープス・リバイバーNo.1」
 マスターが姿を消すと、アレフが口を開く。
「……一先ず、蜂起しそうになった市民達は抑え切れた様だ。
 尤も、蠍にサーカスは未だに健在。降りかかった火の粉を払ったに過ぎないが」
「魔種に原罪の呼び声……似た様な現象に覚えが無いではありませんけれど」
 アリシアがグラスに口を付け続ける。
「とはいえ、聞く限りではそう頻繁な物でも無し。
 今回は稀に見る規模の物だそうですが……」
「此処からどうなるか。近々あの王の説得に動く気配もある」
「フォルデルマン三世陛下ですか。当然の流れでありましょうね」
 ……そして、この国の岐路の1つになるかもしれない。
「結果次第では、この国だけの問題では無くなります。その時は―――」
 アレフは先を促すでもなく、只グラスを傾けて“死者を蘇らす秘薬”を眺めた。
「……この世界にも懸命に生きる者達は居る。皆が浮かばれる結果になれば良いのだが」
 唇を湿らせる液体。
 秘薬は、四度飲めば、生き返らせた死者を再度殺すと云う―――。



「真面に誰かと飲みに出掛けるのは久しぶりだ。
 つい飲み過ぎちゃうからね」
 そう言ったルーキスに、ルナールが「ああ」と何かに気づいた様に返す。
「ルーキスと飲みに行くのは初めてか。
 ……ま、酔わないと余計飲み方が荒くなるよなぁ」
「多少荒い飲み方しても、お金は払ってるんだからいいよね別に」
「普段稼いでるんだし気にせず飲めばいいのだろうが」
 ルナールは思わず苦笑を零す。
 カウンター席に着くと、ルーキスは強めの酒、ルナールはウイスキーのロックを頼む。マスターは「ゴー・トゥー・ヘブンです」とグラスを差し出した。
「一々祝杯って程の事でもないだろうけど」
「一緒に飲むのは初めてなんだ。祝杯は必須、だろ?」
 悪戯っぽく笑ったルナールにつられ、二人は小さく乾杯する。
「たまには纏まった休みが欲しい所よね」
「うむ、これからどんどん忙しくなる一方だろうからなぁ」
「まだ幻想も慌しいし、精々今の内に休むとしましょうか」
「……忙しくともルーキスとゆっくりする時間位は確保したいんだけどなー?」



「マスター、適当に強い酒頂戴……いいから早く!」
 苛立ちを隠さない鈴鹿にマスターは「承知しました」と用意を始める。
(……妖となりて早数年……未だに人の営みに混じってるなんて私も愚かなの。
 憎い……姉様を奪った人間共も……未だに人に未練を感じる己も)
「―――全く、酔わないとやってられないの」
 本日二杯目のゴー・トゥー・ヘブンが作られると、鈴鹿の隣に女―――輪廻が座る。
「……なんだ、人間……私に近づくな」
「同じ混沌に生きる者でしょ。ま、一杯ぐらい付き合いなさいよ」
「……フン、貴様等は同族同士仲良く出来ない癖に……貴様等の所為で姉様は……。
 ―――不愉快だ! さっさと去れ!」
 軽く首を傾げた輪廻は、無言でその場を立ち去る。
(……何であの人間に懐かしさを覚えたんだ……輪廻姉様……)
「マスター。お任せでお代わりなの」
「承知しました」
 次に出されたのはブルー・ムーン。其処に幸せを願うのか、不幸せを願うのか。



 無事任務を終えたイーラは、酒場に来ていた。
「軽食と軽く飲み物を貰えるかしら? お任せで」
 注文を受けウェイターが下がる。
『ふむ、雰囲気は悪くないな』
 コルヌがそう言った次の瞬間、
「偶然って怖いわね。お邪魔するわ」
『了承を得るくらいはするべきだと思うがな……』
「ふふっ、まぁお互いさまって奴ね」
 突然イーラ達の卓へ座り込むスペルヴィア。
「……遠慮ないわね、まあいいわ。遠慮されるのも気持ち悪いし」
『こちらもこちらで十分失礼ではあるな……』
「ふぅん、意外に軽食も種類があるわね。
 っと、マスター、私にもなにか適当に頂戴」
『任せるならメニューを見る必要があったのか?』
「暇つぶしよ。見るだけでも面白いわよ」
『ふむ、そういうものか?』
「……貴方達って意外に機微に疎いわよね」
『道具が空気を読んで勝手に行動したら困るだろう?
「内容には一理はあるけど、貴方達が機微に疎いのとは関係ないんじゃない?」
『………ふむ、そうか?』

●街中の話
(……何といいますか、つい最近暴動がそこかしこで起こったんですよね。
 あんまりそう感じられないというか)
 エマが輝く街並みを見下ろしながら息を吐く。
 人通りの多い所は苦手だ。
 それに、依頼帰りの盗みも馬鹿らしい。
「月のある夜、高い所から下を見るのが結構好きなんですよ、えひひっ。
 夜風も丁度良いですし」
 自分達が暴動を止めたんだなあ。そんな感慨に少し浸って、エマの頬を月明かりが美しく照らす。
 エマは暫く―――、そのまま街を眺めていた。



(此度の幻想蜂起の依頼において、我はこの手で人を殺めた)
 リュグナーが一人街並みを歩く。
 明るい街灯りと対照的に、彼の心は靄が掛かったまま。
(生物の亡骸などとっくに見慣れたモノだが。
 ――度々胸に引っかかる、この名状し難い気持ちは何なのだろうな)
 自分のその両手―――人を殺めた手―――を見遣った瞬間、
「わっ!」
 突然横でつまずく少女―――その躰をリュグナーが咄嗟に支えてやる。
「ありがとー!」
 屈託なく笑った少女は、そのまま立ち去っていった。
「―――構わぬ」

 ……あぁ、知らぬ方が良いだろう。
 貴様を助けた手が、依頼の為に汚した手であるとは。

 ……あぁ、知らぬ方が良いだろう。
 我も、この気持ちの真意は知らぬ方が。
 ―――今は、まだ。



「何だこの料理……」
「美味いぜ、にーちゃん、喰ってけよ」
「え―――」
 気さくな店員に圧され、謎の茶色い料理を買わされた勇司。勇気を出して口にするが、美味いとも不味いとも云えない不思議な味がした。
 食事を済ませ、街を観光がてら土産物を物色する。
(買う買わないに関わらず面白いモンが結構置いてあるし、
 適当に見て回るだけでも時間が潰せて楽しいんだよな)
 港町らしく魚介に関する造型品が多い印象だ。
 最終的に「特産品だぜ、にーちゃん、買ってけよ」という気さくな店員に押され、謎の茶色い物体を買わされた勇司。
(気付けばすっかり馴染んでんな、俺も―――)



「港街っていうくらいだし、美味い魚料理専門店とかねぇかな」
 そんな事を考えながら、街をぶらついているMorgux。
「しかし、夜なのに明るいな」
 街並みに目を細めながら、適当に見繕った店でお勧めを注文。
「おー、美味そうだ!」
 活きが良さそうだ。仕事帰りの一杯(ジュース)も格別である。
 食べ終えたMorguxは満足げに店を出る。
「ハハ、まだまだ眠りそうにねぇな。この街は。
 ……今日はいい仕事だったぜ」
 さて、行くとするか。そう呟き、宿へと向かった。



 ふとアクセサリーの露天に立ち寄ったシキとリリー。
「これ……シキさんの瞳と同じ色です」
 赤いガーネットのペンダント。リリーが見せると、シキはリリーを軽く引き寄せて、目を覗き込む。
「……じゃあ。
 リリーさんの目は、これ……でしょうか」
 眼を覗き。石を選ぶシキが、余りに至近距離すぎて……、リリーの頬が朱く染まる。
「あわわ……は、はい」
 色々悩んだ挙句、アクアマリンのペンダントを買ったシキ。
 そんな彼を屈まさせると、リリーは彼の首に赤のペンダントを付けた。

 煌めく街並みは。
 ペンダントを輝かせ。
 反射する神々しい色彩に。
 ―――それは、まるで特別な儀式みたいで。

「今度はボクが」
 シキが少しもたつきながらリリーに碧いペンダントを付けると、リリーがはにかむ。
「ふふ、お揃いですね」
「……はい、お揃いです」
「これで、離れていても……」
 お互いの色を感じられますね。
 ―――そう、握られた手の温もりが、決して逃げない様に。



 ギフトAmadeusで祈りを捧げたアマリリスは、ルチアーノ、ハロルドの姿に気づく。
「お二方、こんばんは。お散歩ですか?」
「夜の港は落ち着くからね」
「……この香りは潮風というものでしょうか?
 なんせ港というものが、初めてでして!」
「こういうとこって、故郷では密輸や密売がよく行われていたんだけど……」
 会話を制したハロルドが一歩前へ出る。あからさまに柄の悪い男達が複数で三人を囲んでいた。
「金を出せ」
「……ひぇ、盗賊」
「ふっ。俺たちにケンカを売るとはいい度胸じゃないか」
「―――ヤる気か?」
 盗賊に殺気が籠る。ハロルドとルチアーノがアマリリスを囲む布陣に。
「タダより高いものは無いってコト解らせてあげようか」
「ほざくな!」
「こ、こんな事しては駄目ですっ!
 今すぐに投降してください……危ないですよ!」
 アマリリスの忠告も虚しく始まった戦闘―――戦闘狂の本性を露わにしたハロルドが獰猛に笑う。
「お望み通り遊んでやるぜ! かかってこいよ!」
 ルチアーノにアイコンタクトを送ると、ハロルドが駆ける。
「ぐおっ!」
「かはっ!」
 ハロルドの剛の柔術とルチアーノの柔の蹴技が瞬時に奔り、
「―――マジかよ」
 あっさり蹴散らされた盗賊。
「……危ないですよ“盗賊さん達が”!
 ――って遅かったですねこれ!!」
 アマリリスの溜め息が漏れた。

「ん? こいつら盗品を持ってやがるな。憲兵にでも引き渡すか」
「この財布も盗品だよね?」
 清々しい顔の二人の横で、
「わ、私一人でもこの程度の盗賊くらい倒せましたから!
 ……でも、ぁ、ありがとうございます……お二人がいて」
 ―――可憐な花は、手折られる事無く。



「ジュースにチップス、ソーセージ」
「唐揚げ、ポテト、ピザ、サラダ、アイスクリーム!」
「温野菜サラダと生春巻き! 後ハンバーグ!」
「……ポーとノーラは頼み過ぎじゃない?」
 眼を細めたシラスに、ノースポールとノーラが首を横に振った。
「あ、飲み物はノンアルコールの甘めので」
「僕ものんあるこーるが良い! おなじく甘いの!」
 酒場に繰り出していた三人は、乾杯し食事を楽しむ。
「みんなでわいわい食べるの美味しい」
「釣られて喰っちまう……けど美味しいや、こんなに食べたの久々かも」
「ふふっ、皆さんで食べると楽しいですね♪
 ……ってシラスさん、野菜も食べて!」
「バレたか」
 シラスが頬を掻いた時、店内の何処かで音楽が流れ始める。
「おーいいね! 行くぜ、ポー、ノーラ!
 振付なんて気にすんな!」
「じゃあ、わたしも!」
「僕も踊るー!」
 シラスに感化され、三人はすぐ周りと同調し気ままに踊り始める。―――が。
「お? お?」
「大丈夫ですかー!」
 ノースポールが人波に呑まれかけてたノーラをガードする。
「鳥さん有難うだぞ!」
「どういたしまして!」
 暫く踊り続けた三人はそのまま高揚した勢いで店を出、「夜景見に行こうぜ!」と云ったシラスに連れられ街を見下ろせる高台へと向かっていた。
「キラキラ綺麗だなー!」
「また三人で夜遊びしましょうね」
「さんせーだぜ!」
「また夜遊び! 絶対だよ!」





 互いを労う唯花と風牙。二人は自分へのご褒美と云う大義名分に焼肉店へと訪れていた。
 風牙が注文すると直ぐに肉が出てくる。
「美味しいもの食べればこんなに心が落ちつくのにー。
 ……どーにかして美味しいものとか、みんなに上げる方法ないんですかねー」
「美味しいものをみんなにあげる方法?
 そんなん、神様でもなきゃ無理無理!
 まあ、マジメに働いてる人がちゃんと報われる世の中にすることが、オレらの仕事じゃねーかな?」
 そう真面目に返した風牙を尻目に、
「ふっふっふ、隙あり! ってやつですよー」
「って、あっこら! オレの育てたカルビ取るな!
 許さん! そっちのロースをよこせー!
「あっ、最後にとってたロースがーー!!」
 早速目の前で醜い欲望を剥き出しあう二人。「ロースとカルビ追加ー! 勿論二人前お願いしますっ!」と続けた唯花は、
「ああもう、いいや! 思いっきり食べましょー!!」
「っしゃあ、今回の報酬は全部肉に変えてやるぜ!」
 そう宣言し、翌日、勿論後悔した。



「この状況で心配なのはグラくらいなもんかねぇ」
『同意だ。インヴィディアはカウダに任せればいいだろうしな』
 そう言いながらアワリティアが歩いていると、噂のグラが目に入る。
「あまり余裕はないですけどお小遣いも準備完了ですね」
『いつもあれだけ食べていればな』
「っと、居た居た。グラ、出掛けんなら一緒にいっていいかい?」
「あ、アワリティア。
 歓迎ですよ! 二人でまわるのも楽しそうですし!」
『あまり甘やかしてはくれるなよ。負担は我に掛かるのだ』
『残念だがそれは諦めろ、我が同胞よ』
 アワリティアはは露天に立ち寄ると、
「大将、景気はどうだい? お勧めを一つずつお願いするよ」
『……材料に興味が惹かれるが聞かないのか?』
「匂いで予測はつくさね」
「……アワリティアのギフトは凄いですよね」
『我らは直接の恩恵は預かれないがな』
「でもどんな味になっているのか気になります!」
『我としてはこれ以上の酷使は遠慮願いたいがな?』


●ドライブの話
 依頼帰りにシフォリィとばったりと出会ったクロバは「折角だし港町まで送ってくか?」と、シフォリィをワンデスボローまでバイクで乗せる事にした。
「この間のピクニックの時は全開ではなかったのでしたっけ」
「ああ。だから今回はいい機会だ」
 それに、夜道も夜道で風情がある。
(聊か海の近くというのが好ましくはないんだがな。個人的には)
 だが人を気にしなくていい分スピードも出せる。
「折角なので夜のドライブを楽しもうじゃないか」
「お願いします!」
 クロバが速度を上げると、みるみる景色が後ろへと流れていく。
(風を思いっきり感じます!)
 シフォリィが少し声を張り上げて、
「これがバイクの本領なんですね! すごいです!」
 そのまま当然舗装の無い夜道を走っていく。
「このまま夜が更けるまでもっと乗っていたいですね」
「そんなに気に入ったか」
「……バイクが楽しいのもありますけれど、こうしてクロバさんと一緒にいる時間が終わってしまうのが、なんだか惜しく思えて……。
 大きな背中に安心して、体を預けてもいいですよね?」
そう言ってクロバの背後からより強く抱きつくシフォリン。
「背中、か。オレも目指している背中はある。元の世界と、今この世界の中でな。
 ……まだまだオレも強くならないと、だ」
 夜風の中、そんなクロバの声は、風に攫われて―――。

●明日の話
 ワンデスボローの夜が明け、朝陽が水面を照らす。
 清々しい空気は、また新たな街の貌を見せ。
 イレギュラーズ達は帰路に着く。
 ―――またの休息を願って。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

皆様の貴重なお時間を頂き、当シナリオへご参加してくださいまして、ありがとうございました。

 最近は緊張感のある依頼も増え、イレギュラーズの皆様もご多忙のことかと存じます。 そんな中、港温泉街ワンデスボローにての休息シナリオ、如何でしたでしょうか。
 「また休息シナリオが欲しい」「次はこんなシチュエーションがいい」等ご要望在りましたらファンレターにて御報せ下さい。可能な範囲で納品物にてお答えしたく存じます。 それでは、次の依頼頑張ってくださいませ。

※白紙以外全員描写したと思いますが、抜けがありましたらお問い合わせをお願い致します。

ご参加いただいたイレギュラーズの皆様が楽しんで頂けること願っております。
『ワンデスボローの昨夜』へのご参加有難うございました。

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