シナリオ詳細
<シトリンクォーツ>海色に揺れるは航海者
オープニング
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――シトリンクォーツを知っていますか?
そう口にしたのはギルド『ローレット』に所属する『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)。
偉大なる情報屋であった故エウレカ・ユリカの愛娘である彼女の情報はまだまだ不完全なものも多いが、今回の情報確度はSS級だ。
「シトリンクォーツって宝石の名前なのですけどこの時期に混沌世界に咲く黄色い花に由来しているのですよ。
その花が咲く頃に豊穣とこの一年の幸福を祈って勤労に感謝する一週間があるのです。
ローレットに来て皆さんはたっくさんお仕事をして下さってますから、その働きに感謝して旅行に行ってみてはいかがでしょうか?」
旅人の誰かは『ゴールデンウィーク』と『勤労感謝の日』が混ざったような期間だと口にした。
ユリーカは「そういうものがあるのですね?」とこてりと首を傾げて、楽しんできてくださいねと小さく笑った。
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穏やかな気候を有するネオ・フロンティア海洋王国の港にてソルベ・ジェラート・コンテュールは特異運命座標達を待ち望んでいた。
「よくぞいらっしゃいました」
ぱあ、と明るい表情を見せた青年はローレットより特異運命座標がシトリンクォーツの休暇の為に海洋に訪れる事を聞き、準備を整えていたのだという。
国王たるイザベラ・パニ・アイスはこのシトリンクォーツも忙しく動き回っているだろうが、海洋国家は『ギスギスしていても大らか』な国民性によりこうしたゲストの招待ものんびりと行うことが出来るのだろう。
「我がコンテュール家が皆さんの休暇を特別なものにしてみせましょう!
ご準備は済んでおりますよ。ささ、タルトゥフォへと乗り込んで海洋の海をクルージングといきませんか?」
楽し気に笑うソルベは元より気さくな気質の青年なのだろう。貴族派の筆頭ではあるが未だ年若い青年にとって己を飾らず楽しめる相手がいるのは何よりも喜ばしいのだろう。
「リッツパークへは初めてですか? もしそうなら、是非街も堪能していってください。
首都というだけあって、海洋の中では一番沢山の物が揃っていますから――嗚呼、街並みが不思議ですか?」
海洋はその大らかさと港であるという特色から様々な文明が入り混じる。
隣接する幻想の西洋文化を取り入れながらも何処からか流入した和風テイストが旅人の心を擽るだろう。もとより中華風――イザベラ女王を見て旅人の一人は乙姫様と称したが西洋と東洋の間の文明のようだ――であった街並みは混在し合い海洋独特の物へと変化している。
「衣服や食事も観光される方にとっては重要ですよね。
メインストリートも良いですが、煉瓦通り――失礼、西洋の文化の濃い場所に並ぶ蝋燭屋などが僕はお気に入りですよ。
オリジナルキャンドルの作成もできますから。色や香り、長さを自分でチョイスできるなら十分立派な土産物でしょう」
幼い頃に一度作ったことが有るのだというソルベはマーケットの様子を口にする。
望むならば釣り道具を貸し出す事も出来るし、海遊びだって可能だろうと告げた後「寒いですかね」と僅かに肩を竦めて。
「さあ、折角のシトリンクォーツです。楽しみましょう」
柔らかに笑った青年の手に握られたのはライオンが口から水を吐き出し続ける置物。
「……これですか? 海洋の土産物の一つですよ。名前は確か――なんでしたっけ?」
- <シトリンクォーツ>海色に揺れるは航海者完了
- GM名夏あかね
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2018年05月20日 21時15分
- 参加人数126/∞人
- 相談10日
- 参加費50RC
参加者 : 126 人
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参加者一覧(126人)
サポートNPC一覧(1人)
リプレイ
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爽やかな風が吹く。海洋の穏やかな気候はシトリンクォーツを堪能するには打って付けだ。
「人がたくさんいる! 明るい! きれい! 見るものすべてが楽しい!」
瞳を輝かせたリーはくんくんと色々な匂いに釣られてあっちにふらふらこっちにふらふら――目はきらきらだ。
「ソルベさんのお船なの? 素敵ね! 沢山の人がこの船やあなたに魅かれて集まっているのね」
その言葉にソルベ・ジェラート・コンテュールは満更でもなさそうな表情を見せる。
海洋の貴族たる彼は特異運命座標の何気ない言葉に何処までも素直に感激したのだろう。
「コンテュール家のソルベ殿、か。ふむ……このような催し。感謝せねばなるまいな……」
感心した様に煙草を吹かすライハ。バーカウンターにはもてなす準備が整えられている。地元の珍味もしっかりとそろえられておりライハの希望は叶っている。
「良き地の良き物を食す。これに勝る贅沢があろうか。さぁよいよよいよ……ひと時の夢を楽しむとしようか……」
大きい船は乗る機会はないわね、とアイオーラは『ダーリン』を振り仰ぐ。幻想だと中々楽しむことのできない経験だからこそ、アイオーラは幸福そうだ。
ふと、傍らを見ればダーリンはお昼寝中。読みかけの推理小説の続きをお茶でも飲みながらのんびりと楽しもうと頁をめくる。起きたら珈琲でも共に飲もう。穏やかな時間が二人の間に流れるはずだ。
「勤労感謝ねぇ……まぁ、仕事をしなくていいならなんでもいいか。普段の船だとせわしなくてゆっくり出来ないからな」
うんと一つ伸びをしてエイヴァンは極力誰にも会わぬようにと料理の並んだテーブルへと進んだ。
肉と赤ワインは定番だ。金を気にする必要がないならば存分に楽しみたいところだ。
「ボトルか樽でキープしたいが――持ち帰りは?」
「それは遠慮いただきたいかもしれませんね」
曖昧に笑った貴族派筆頭たる青年にエイヴァンは肩を竦める。
「幻想での依頼に忙しく奔走していました折にこの機会。せっかくですから、楽しませていただきます」
丁寧な物腰で告げたLumiliaは海はまだ寒いからと潮風と日向ぼっこを楽しみ、バーカウンターで用意されていた冷たいジュースを手にする。
吹く風に髪が煽られる。Lumiliaはほう、と小さく息を吐きだした。
(――……師と共には、海へ訪れることはありませんでした。
私と出会う以前から、師は海を知っていたのでしょうか。
できることならば、共にここへ来て、そして思い出を語って欲しかった。……なんて)
出来るだけ風を感じる所で。カイトは翼を広げていたが、ソルベの姿を見つけ手を振った。
「こんなでっかい船も動かしてみたいもんだな!」
「そうですね。この船は我が家の者ですがシャルラハ様もいつかは船を動かすのでは?」
冒険に出る船ではないんですが、と付け足すソルベに冒険したいなあとカイトはもごもごと呟く。
「ソルベってさ、シトリンクォーツも持ってるのか? アレきれーな色してるよな、太陽みたいでさ!」
「持ってますよ。只、自宅にしまってありますが」
柔らかに微笑んだソルベは特異運命座標と共に見る太陽のようで美しいのだと告げた。
「クルージングなんて人生初だぜ! こんなことまで体験できるなんて、イレギュラーズってすげぇなぁ…… 」
服装の指定はないときいて安堵したみつきは着たくはないけれどと一応用意したサンドレスを見てほっと胸を撫でおろす。
陽射しは強くないかもしれないが日焼け止めはしっかりと。波風が気持ちよく、穏やかな気持ちが胸に湧き上がる。
「ふぉぉぉぉぉ!? すごい船!! こんな豪華な船初めて乗るよ!」
はしゃぐニーニアの声にみつきは小さく笑う。みつきだって同じ気持ちだ。初めての豪華客船に心躍らせるニーニアはソルベ様、とソルベに駆け寄った。
「ご招待有難うございます! すごい!」
「そうでしょう。存分に楽しんでくださいね」
イレギュラーズが入れない部屋に関しては係の者がいるからとニーニアに案内し。彼女は船の中を探検だ、と走り出す。
のんびりとバカンスを楽しむのだとルクスリアは美貌を武器にタルトゥフォを楽しんでいる。
「うむ、見て眺め、羨望の眼差しを向けるのも許可しよう」
料理を嗜み、ふらふらと色々な場所に行くのもいいだろう。中々に此度の旅は楽しいものだ。
「海上を散歩するには良質な日だ。我等『物語』の輪郭には不安定しか無いが、充分に満喫可能な状況。
少々前の遭難生活が懐かしいな! 此度は真に優雅な旅。娯楽的な己に相応しく、誰もが歓ぶ波の揺れ。
此れが現実だとは! 物語だった頃こそが最も『至』だった。されど人間的に過ごすのも心地良……待て。何だ。気分が悪いぞ。成程。我等『脳味噌』が拒絶する感覚……何処かに休める場所は在ったか。此処だったな」
以上がオラボナの臓腑が大変な状況だ。マーライオンだよ。見せられないよ!
「私は……そうですねぇ、船首のほうで海でも眺めてましょうか。食事って気分でもありませんし。
しかしこう……あれです。海洋は久々ですね。今度戻ってきたらのんびり泳ぎ回ったりしてみたいものです。ふむ……ちょっとあんにゅいになってしまいました。とりあえず潮風にあたっていましょう」
――なんて、ベークは人の姿でぼんやりしていた。
見た目は鯛焼きであるベークは何処か遠く――多分鉄帝だ――から流星の如く聞こえた願いを振り払う様に食べられませんようにとあんにゅいな気持ちでぼんやりしていた。
●
街角でいつかの機会にデートをしようといっていたレオンに「これが良い機会だわ」と華蓮は胸を張った。
エスコートもしてくれるのでしょう、と微笑む彼女はクッキーを焼いて、不測の事態に備えてしっかりと情報もキャッチ済だ。
「お誘いありがとうね。海風で体を冷やさないように」
腕に抱き着くくらい――そう考えていた華蓮にレオン慣れた様にカーディガンを羽織らせた。慣れてるのね、と告げた華蓮に「ウチには『ドジッ娘』がいるでしょ」とレオンは肩を竦めて見せた。
へくちゅ。
小さなくしゃみにフルートは笑う。「大丈夫? ユリーカ」と問い掛ければユリーカはこくこくと頷いた。
「きっと誰かが噂してるのです」
「あはは。ユリーカ、一緒に観光しよう。変な置物とかコスチュームとかいろいろあるみたいだし」
フルートの言葉にローレットの看板娘は「楽しそうなのです!」と微笑む。お土産物も良いが、折角の機会だと土産物屋の衣装をユリーカに宛がうフルート。ぐへへ、なんて笑みが聞こえてきそうだが、ドジッ娘は気付かぬままに「似合いますか?」と微笑んだ。
「見知らぬ土地を歩く……うーんわくわくするねェ。
建っている家なんかはアタシにも馴染みがある外見だけど、地面や全体の雰囲気なんかは似ても似つかないや」
パルファンは周囲を見回し楽しいなあとリッツパークを堪能している。海洋の首都たるそこはどこか異国を混ぜ合わせた不思議な雰囲気を感じさせる。
(そういえばアタシの見た目、こっちではどう見えるんだろうか? パッと見スカイウェザーでも通りそうとは思うんだけど、この世界でもナンパされたら面倒ねェ……)
ぼそりと呟き、からかって遊ぼうかと笑ったパルファン。一人で自由に歩き回りたい気分なのだ。
おいしそうなものを食べ歩きながら休暇を堪能しようではないか。
「普段、海はほとんど行かないのでせっかくの機会デスから海遊びに行きマスぅ!」
美弥妃はリッツパークの浜辺で足先を海へと浸ける。その冷たさに少しばかり戸惑うが、次第に心地よさが勝る。
波打ち際で足先を冷やしながら貝殻や変な生き物を探す美弥妃が手にしたのは不思議な形の貝殻だった。
海――『絶望の青』。危険な海域は未踏の地だという。
舞花の板世界では海の果てと星の形が解明されていたけれど混沌世界はそうはいかないのだと実感する。
「む……其処にいるのは久住か? この間は世話になった。今日はそちらも気晴らしか?」
そんな世界でたまたま知り合いに遭遇するのも縁だ。颯人の姿を認めて舞花はぺこりと頭を下げる。
「普段は元気の良いのが一緒にいるんだが、今日は別行動でな。良ければ一緒に見て回らんか」
喜んで、と笑った舞花はこれからどうしましょうか、と颯人に問いかけた。
「昼飯がまだなら食べにでも行くか、何か好きな食べ物でもあるならその店に行くが」
「そもそもどういう料理があるのか、から見て回っても良いかもですね」
さて、リッツパークを探検してみよう。
「港町だからかしら。混沌としたものが沢山あるわ。ヘンテコな面白そうなものばかり」
小さく笑ったミラーカにティアブラスは「面白いですねえぇ」と笑う。
「小腹空いたら歩きながら食べられる物を買って、食べ……ってちょっとあたしのー!?」
「残念ながらミラ、あなたは淑女(笑)らしくこんなはしたない食べ方は禁止でございます」
ティアブラスの言葉にミラーカは「えええええ」と頬を膨らませる。
こう言う所で勝手に開運の壺は売っちゃダメ、と怒るミラーカにこて、とティアブラスは首を傾げる。
「いつもティアのペースだわ。でも、ティアといると、楽しい……てか、退屈はしないけどねっ」
まあ、天使ですから、とティアブラスはどや、と少しばかり表情を変えて見せた。
マーケットに向かうセティアがすん、と鼻を鳴らす。潮風はセティアには馴染みない。
「この国、風邪の空気に、何か入ってる感ある。塩?」
「お塩!?」
ぱちりと瞬くココル。ツッコミ不在な二人の目的はがち目にえもいリッツパークを楽しむ事だ。
「セティア、この置物はどうですか? えもい感じに仕上るかもですよ」
ガチ目にえもい感じのゾウの頭にムキムキの人の体をくっつけた銅像が其処にはあった。
「ぞうの、ぞう? ぞうひゅーまん? 神話的、えもさ」
「じゃあ、こっちは?」
セティアの髪にココルが乗せたのはペリドットのヘアアクセサリー。髪色に似あうのです、と微笑むココルに『まじでやばめで割とガチ目にアイドル誕生の予感みありそうな』気配を感じてお買い上げ。
「ブランケット、これ、どう? これならガチ目にかわいいとおもう 」
――コアラの着ぐるみだった。コアラの着ぐるみ、ならば。
「ユーカリ、すき?」
「これ、コアラの着ぐるみじゃないですか! ユーカリ食べないですよっ!」
しかし、お買い上げだ。
「僕、山育ちだから海にはあまり来たことがないんだ。だからね、海に来るとワクワクするんだ」
緋呂斗はシトリンクォーツという行事を楽しむように笑みを溢す。農業をしている彼にとって五穀豊穣は願ってやまないことだ。豊穣と今年一年の幸福を願ったのんびりと釣りをとリッツパークで釣り具を借りた。
「どんな魚が釣れますか?」
「最近はトビンガルーに……ああ、後はあれだなァ。ロケットイワシとか、マグロボットとか」
「……はあ」
海洋の海には不思議生物も多い。この世界に来てから色々忙しいものばかりだった。こうして釣り糸を垂らしてのんびりするのまた――楽しいではないか。
「へぇ、此処が海洋の首都か。今迄幻想で活動してた分、何だか新鮮な感じがするぜ」
ギスギスとした幻想の空気とはまた違う穏やかさを感じながら勇司は周囲を見回した。
海洋の料理も気になるし食べ歩きに行こうという彼が目にしたのは中華まんや寿司などだ。少し聞きなれない食材が使われているがどれも美味しいものといえるだろう。
「長期間持つモノとかあったらお土産に買って帰るのもアリか……」
お土産にモアイのような置物もチョイスしてもいいだろう。折角の思い出だ。楽しいものになるはずだと勇司は変な置物をそっと手に取った。
「ソルベ君が言ってたオリジナルキャンドルっていうのを作りに行くんだ。
記念になるようなおっきくてかっこいいのを作ろう! うんとこしょ、どっこいしょ!」
必死に頑張るムスティスラーフ。しかし、毛むくじゃらなモンスターがそこには完成している。
「うわああん、笑わないでよ~」
店員の笑みに慌てるムスティスラーフはこれも思い出だよね、と照れを浮かべる。
「あ、そうだ。ローレットの事も困ったら呼んでね。僕個人の依頼も引き受けるよ!」
――迷子探しから夜のお供まで。なんだって是非、ご贔屓に!
「この街並みは、噂には聞いていたが……すごいな。
様々なテイストの建築物が入り交じった構造、まるでいくつもの世界観をひとつの街に閉じ込めたような」
それが海洋――海に面する国家なのだろうか。引っ越すのもやぶさかではないと冗談めかしたラデリは片手で摘まめるスナック菓子を手に、キーホルダーの様な小さな飾りを捜し歩く。
銃を買い替えたばかりだ。着飾るのもいいだろうと異国の風貌を感じる武器飾りを探し、銃に触れ首を振った。
「おー、このごった煮具合……ある種の混沌だなあ」
「ごちゃごちゃしてて、此処とそっくりな場所を知っている」
へえ、とルーキスは瞬いた。彼女の元居た世界は幻想に似ていたがルナールはどちらかといえば海洋の方が馴染みある街並みだ。
「興味はあるけどこの身体だから、着れる服も限定されちゃうし。
……ということでキミで遊ぼう。たまにはいいでしょう?」
「ルーキスが楽しいなら構わんが」
決まり、と笑うルーキスはルナールの着せ替えごっこ。奇抜過ぎないか、と聞いた少し派手なチャイナ服にルーキスはそんな事ないと笑みを溢した。
「ルナ、次はあれを食べよう」
「了解。ルーキスも楽しそうだし、今日は満足だよ」
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青い海、青い空――
ジュアは無表情ながらも浮かれ気分にアロハシャツ姿。甲板の戦闘で海風に当たる砂漠育ちの心も逸る。
豪華客船で金持ち気分を満喫だと笑うレイチェルはフードを目深に被りサングラスをかけての完璧武双を施している。
「レストが一番ノリノリな気がするのは目の錯覚か……?」
レイチェルの視線の先でハート型のサングラスにハイビスカスの首飾り。フルーツが盛られたトロピカルジュース。麦わら帽子にカラフルパレオのリゾートコーデを決めたレストが立っている。
「ギルド・ローレットのイレギュラーズたるもの、いかなる時にも対応できるようにしないと」
説得力は皆無だが、楽し気なクロジンデは「うんうん!」といいながら水着姿で甲板を走り出す。
「ヒャッハー! ラサの砂とこの水溜り、どっちが大きいんだー? どっちが質量多いんだー?」
陽射しは砂の海よりましだけれど潮を含んだ風はべたついて感じられる。
はしゃぐクロジンデをちら、と見やってシグは厨房を借りて共に訪れたメンバーへと料理を提供していた。
「うおーーー! 待ってーーー! 置いてかないでーーー!」
船よりなぜか落ちたペリ子の悲鳴が響き渡る。ペリ子の為に海鮮料理を用意していたシグはそんな様子を見て「あそこにいる……」と呆然と呟く。
「魚のマリネがおいし……ペリ子ォオォオ!!!」
レイチェルの悲痛な叫びにジョアは「あっ」と小さく声を上げた。
「うむ、ナイスファイトだペリ子、キミならやれる」
「……そうだ! イルカだ! イルカになるんだっ!
身も心も! この広大な海洋を閃光のように泳ぐ一匹のイルカになって! 船を追いかけるんだ!
そうさ! 今のボクはペリ子じゃない! ドルフィンのドル子だッッッ! うおぉーーー! キュイーーーーーッ!」
ペリ子の声を聴きながら浮き輪を構えたクロジンデはスポッとそこに『ドル子』が嵌るのを見ている。
「ナイスキャッチ」
ハレの日に美味しいご飯を食べながらちょっとした事件も起きる。それは何とも楽しい旅行ではないか。
「ウミ? どろどろじゃない? アオい? マ? えっキになる、ギルドのヒト達についてこ」
なんて、ジェックは驚いたように瞬いた。マナ、リュグナー、ソフィラについていくとジェックは周囲をきょろきょろと見回した。
「船に乗るのは初めてなので……お、落ちてしまわないか不安です……」
不安げなマナはペンとメモを持ち最近の海洋の様子を聞いて歩こうとゆらゆらと歩いている。
その様子に知識を手に入れられるとリュグナーは船を探検した。デッキは中々に見通しが良い。
ソフィラの目の周りを担ったリュグナーは情報屋としてすべての情報を得たいと楽し気だ。
「あら、あら……地面が揺れているわ?」
これが、船、と瞬くソフィラはリュグナーに手を引かれている。転んで船から落ちぬようにと気を付けて歩むソフィラにマナは「こちらですよ……」と手招いた。
「クハハハハ! これが海の上か、これが船か! そしてこれが―――船酔い、か……?」
「あら……船酔いというのもあるのね。不思議ね」
バーカウンターですっきりとするドリンクでも頂きましょうという提案にジェックとリュグナーは大きく頷く。得た情報を整理するというマナは小さく笑みを溢した。
「こっそりと……ご一緒してくださった皆様の楽しそうな風景でも描いておきましょう……♪」
以前、レジーナに言った。海洋の海を見せるという約束が果たせる機会だ。
「レイヴン。エスコートをお願いしてもいいかしら?」
手を差し出すレジーナに喜んでとレイヴンは頭を下げた。海洋育ちのレイヴンと違い、旅人であるレジーナは船に慣れてはいない。
「海は、ちょっぴり怖いのよね。落ちたら底の方まで沈んでいってしまいそう。ふふ、でも、わくわくするのだわ」
小さく笑うレジーナにレイヴンは柔らかに微笑んだ。美しい海を眺めながらグラスを傾けるのも良い。
「美しき海洋と、美しき我が主に」
「――まったく、レイヴンは調子が良いのだわ。では、我はこの船と、忠実なレイヴンに乾杯しましょう」
潮風が心地よいとルミは靡く髪を抑えた。タルトゥフォの甲板であらんは海か、と小さく息を吐く。
ワインの入ったグラスの中で赤い雫が揺れている。陽の光が反射して煌めく海に飛ぶカモメが海の豊かさを教えてくれる。
「……こうやって船に揺られて海を眺めてると幻想の武装蜂起とか、色んな問題を忘れちまうな」
「――アランは頑張っていましたから。今日くらいゆっくり過ごしましょう」
ルミが領地の対応に追われる中、アランは懸命に戦った。だからこそ、今日は二人でゆったりと過ごしたい
「しかし、すげぇ綺麗だな。……あー、こういう時は『お前の方が綺麗だよ』って言うんだっけか?
モテる男の言葉ってのは俺には似合わねぇな……」
彼女を直視できず、ただ海を眺めるアランにルミは小さく笑い「飾らなくっていいんですよ」と柔らかに微笑んで見せた。
海洋――実際に足を運ぶのは初めてだとアレフは『船』に驚いたように見下ろした。
「成程、船とは実際乗るとこの様な感じなのか……」
「ああ……アレフ様は『船』に乗るのはこれが初めてなのですね」
彼の経歴ならばそうかとアリシスは小さく頷く。そう乗った経験が多い訳ではないが、アリシスにとっては知り得たものであるからアレフの驚きは何処か不思議に思える。
「では、これも良い経験になりましょう。船は、恐らく多くの世界において人が編み出したであろうモノですから」
「幻想では私の世界でも見たものが多かったが、海洋は練達まではいかずとも様々な文化を取り入れている様子だな」
練達は旅人たちの文化が濃いが海洋は周辺国家の影響を受ける場所なのだろう。統一感のなさは交易で国を建てたからだと想像に易い。
「……まあ、今はそのような話は無粋か。では、乾杯といこう」
「――はい。それでは、乾杯」
君の美しさに。そんな言葉にアリシスは柔らかに微笑みを浮かべた。
「あ、シキさん今、大きな魚みたいなのが泳いでましたよ」
海を眺めるティミは深くて吸い込まれそうな海を覗き込む。波の飛沫で刀が濡れぬようにと刀袋に仕舞い込んだシキは上から見るのは初めてだと瞬いた。
「魚……ここからだと捕まえられませんね」
残念だと肩を竦めるシキ。ぐらりと船が揺れたそれに身が傾いたティミへとシキは手を伸ばす。
「……気をつけて。……水に落ちたら……僕達は、助けられない……から」
「あわわ……び、びっくりしました」
泣きそうになりながらしがみつけば、後ろから聞こえた声に心臓が跳ねる。
堕ちないようにと確りと手を繋ぎ、ティミはシキに「見てください」と微笑んだ。
「あれは……?」
「イルカですかね……?」
質素な黒いドレス。ルアはバーカウンターにゆったりと腰掛ける。
「んむ、このような客船で余暇を満喫できるとはな。ローレットめ、中々に良い所では無いか。
海は良い。綺麗な青は、眺めているだけで心を和ませてくれる。空が晴れていると、殊更にな」
くつくつと喉を鳴らしカクテルを手にするルアに年齢を確認するように店員は問い掛ける。
若く見えるがこれでも立派な『お姉さん』だというルアはおばあさんという声が何所からか聞こえた気がするが聞こえない気をした。
「はっはー!俺は“森の一族”だけど今回はあえて海を選択したんだぜー。タダで飲み食い出来るってのにつられたとも言う。さー今回こそは思う存分羽を伸ばさせてもらいますかー! ……。…………」
ロクスレイは不安げに周囲を見回した。本当に大丈夫だろうか、タダで本当にこんなに豪華な場所に居て良いのだろうか。
――募集:離島旅行者(行き先秘密★)なんてことないだろうか!?
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「新道さん! ここには一杯のお店があります! ここには一杯の海の食べ物があります! レッツ! 食べ歩きタイム!」
腕を上げた唯花に「レッツ! 食べ歩きターーイム!」と手を上げた風牙。
師匠と山籠もりしていた風牙からするとやっとありつけるご飯だ。屋台で美味しそうなものをどんどんゲットしていくと唯花と風牙は手分けして料理をかき集めた・
「おいしっ、見た目すっごいグロいのにすっごい味濃い! ほら新道さんも食べてみて!」
「うへっ! なんだそれグロい! でもいい匂いしやがる! こっちの揚げ物いけるぞ?」
「あ、それもいいですね! 一口ください一口! そんな寂しいこといわないでー!!」
等価交換――しかしその思いっきりの一口は大きいから。ずるいと唯花が頬を膨らませる。
「いーですねー海洋! 美味しいものもあるし泳げばカロリーだって使えちゃうし特訓にもなりますよ!」
「カロリーとか気にしたことねえなー? 食って、鍛錬して、体を作る!」
気になるならとりあえず、あっちの浜までダッシュだ!
「オイルを塗ってケアしないと……あ、ローマン君、塗ってくれる?」
メアトロの言葉に小安御用です、とヴァンは頷いた。水着も買って準備万端。
先が見えない海は気持ちも逸る。海はいつ来たってすごい所だとメアトロが言っていたことを思い出しヴァンはほう、と息を吐いた。
「では失礼して。………メアトロさん、肌すごいキレイだなぁ……それにスベスベ……。
……あ、あれ。ところでこれ、どこまで塗れば……あっ触れ……ごめんなさいわざとじゃないんですーっ!」
慌てるヴァンにメアトロはゆっくりでいいわよと小さく笑う。塗り終わった海で遊ぼうね、と微笑むメアトロに頬を赤くしたヴァンは「は、はい」と小さく呟いた。
視た事もない文明にきらきらと目を輝かせたレンジーは純白を振り返る。
「ほら、みてごらん、とても興味深い造形だね! 何を模したものなのかな?」
じっくりと観察するレンジーの背へと「あんまり離れるなよ」と声かけた純白はどこか落ち着くと周辺を見回した。
「この服は真白がいつも着ているものに似ているね」
和風の要素に、セーラー服らしきものも存在している。ぱちりと瞬くレンジーに着てみなよと進めればこくりと頷く。
セーラー服レンジーと往く海洋旅行はまだまだ続く。クレープを食べる純白をじ、と見つめたレンジーはこてりと首を傾げた。
「おや……真白、付いたままになっているよ」
「う……」
クリームを拭われ、顔を赤くした純白にお土産を探そうねとレンジーは柔らかに微笑んだ。
海を殆ど知らない彼にサンティールが見せたかったもの。一面の青に、波と砂が削った軌跡。
「ね、きれいでしょ?」
桜色の貝殻に、潮に晒されて形を歪めた小瓶。『たからもの』と呼んだそれを見てウィリアムは星のようだと瞬いた。
「ああ、本当に綺麗だ。見せてくれてありが――って、サティ!」
走り出したサティを追い掛けて。投げられた靴に裸の足先は波で遊ぶ。
「ウィールー! おいてっちゃうぞー!」
子供のようにはしゃいで笑う――空と海、境目を亡くしてしまいそうな蒼。
日が暮れるまでの悪ふざけ。水泡の上を飛び乍ら、声を上げて笑うんだ。
海洋の料理。それを楽しむのだと雪之丞と共にシオンは歩む。シオンにとって慣れた土地である海洋は雪之丞にとっては『未知』の世界で。
「少しはしたないですが、香辛料を効かせた串焼の魚が、とても美味しゅうございます」
「でしょー……!」
根乍ら食べるのにも丁度いいというシオンに小さく笑って雪之丞は「シオン、と、呼んでもよろしいでしょうか」と問い掛けた。
「ゆきのじょーの好きな様に呼んでくれればいいし……! 好きな食べ物とか教えてくれたら嬉しいな……!」
その言葉に雪之丞は笑みを堪えきれない。ああ、だって――最初から友達だった、と言われれば。
「シオンの好きな食べ物を、お聞きしたいです。拙は、甘い菓子が好きでございますね」
「んー……俺の好きな食べ物は……甘い物かなー……」
まだまだ話足りないんだ。これからもっと君の事を教えて欲しい。
「おっ、今日はいつにも増して賑わってるねぇ」
ソルベが張り切ってるんだなと縁は頷いた。彼の眼前には知った姿と――また新たな出会い。
海洋は初めてだというラズライトの傍らできょろりと周囲を見回した津々流。
「はじめましてできるのは、楽しいね」
「僕も海洋は初めてなんだ」
お揃い、と笑ったラズライトに津々流は柔らかに頷いた。そんな二人に「おっさんのガイドでよけりゃ」と案内を買って出た縁。まずは津々流の趣味に合いそうな和雑貨の店へと彼を誘った。
「あっ……この、海をモチーフにした帯留め、気に入ったよ。お幾らかな?」
「食べものも売ってるの。歩きながら食べるのは、ちょっと大変だけど……串焼きのお魚、おいしい」
初めての海洋にはしゃぐ二人を見て縁は「和風バル【潮騒】にご案内だ」とくしゃりと表情を歪めて見せる。
「十夜のお店? しおさい……。どんな意味なのかな。」
「おや、ここが十夜さんのお店なのかな。潮騒……ふふ、いい名前だねえ」
笑みを溢した二人に今日はおっさんの奢りだと縁は胸を張る。冷たいドリンクを飲んで楽しい海洋旅行の話をしようではないか。
「まさか、ハカセまでこっちに来ちゃうなんて思ってもなかったよ……。
元いた国……トゥスクルモシリは大丈夫? その、魔獣のこととか……」
「そうね、心配だけれど――あなたが居ない間に、新しい仲間も増えたし、私だって戦力としていろんな魔動機を作ってきたのよ」
胸を張ったミシャにチャロロは頷く。こうして元の世界で繋がりがあった存在と出会えるのは奇跡だ。歩む足取りが軽くなるのは仕方ない。
「そうだ、せっかくこういうところに来たんだしまた会えた記念になにかお揃いのものを買いましょうか」
「お揃いのものか……だったら、このブレスレットとかいいんじゃないかな?」
赤い石に細工が施されたブレスレットを手にしたチャロロにミシャはいいわねと笑みを溢す。色違いで桃色を手に取って、再会を祝おう。
――友達ができたら友達が増えた! 嬉しいな。
カタラァナは幸福気分でミディーセラとエマに微笑みかけた。
「いやー、凄い国ですね。ミディさんが住みたくなるというのも納得です」
頷くエマにミディーセラは微笑んだ。ミディーセラは海洋が好きだ。良い所も悪い所も含めて――とても心地が良い。
ようこそ海洋、ようこそ友達。
浮かれてくるくる回るカタラァナは「エっちゃん、おいで」と微笑んだ。海辺まで行ければ泳ぎたいな、とはしゃぐカタラァナにエマは「えひひ」と肩を竦める。
「かたらぁなさんも言っていましたし、エマさんに高いものをたくさん食べさせてみましょう……。
まあ、遠慮だなんてそんな。勿論わたしのおごりですとも」
「そ、そんな……えひひ、お、お金はちゃんと用意して……」
ぱちりと瞬くエマにカタラァナは小さく笑う。ミディーセラは二人に何か思い出が残せればと『美味しそうな名物』をセレクトしてエマへと差し出した。
三人でならきっと楽しい――けれど、まだまだ海は寒いから。どっぷんぶくぶくはまた今度。
●
カレーの香りがする。小梢はカレー鍋を甲板へ運びながら「れっつかれーぱーりー」と笑みを浮かべた。
海のコックっぽく海っぽいカレーを。コックじゃなくてメイド――海メイドだろかと首を傾げる小梢。
どこかの世界で海の上でカレーを食べる習わしがあると聞いた。
「いえっさー! 面舵いっぱーい!」
セララの平和な一声に優は笑みを溢す。忍者らしく甲板の手すりに立っていた優はうむと頷く。
「状況を説明しますと、なんかでっかい船に乗れてマリナさんがテンション上がってるんですよね」
狐耶はこやーんと首を傾げる。船はでっかくても本人は小さい――気は大きいかもしれないが。
「へーい、いえっさー。掃除はしましょう、してやりましょう。念入りに」
「ゆけゆけゆけーい! 面舵いっぱーい!」
びしりと指さす小さ――いや、マリナ。そのハイテンションっぷりに狐耶が首傾ぐ。しっぽでデッキ掃除の指示受けて頑張るお狐様に炎はくつくつと喉を鳴らした。
「イエスマム。回頭方向に近づく目標無しだ」
「ラジャー! いっくよー? ってあれれ」
笑み浮かべるセララに優が「ああーっ」と声を上げる。
「あ! なんか跳ねたでござる!! あれはもしや噂に聞く、MAGUROでござるか!!? MAGURO!?」
「船長! MAGUROかと思ったら巨大クラーケンが! どうしよう!」
マグロではなくクラーケンだったそうだ――慌てる二人に炎が「慌てんな!」と声を荒げる。
「こやーん、ピンチですね」
「カレーが零れちゃいます!」
慌てる小梢に狐耶は首をこてりと傾げた儘動向を見守っている。
「そうだー。アクシデントには慌てるなー、おちつけーい。私がいれば船は絶対に沈まないですから!」
自信満々のマリナは走りだし、そして飛び上がる。
「とぉぉぉ」
その儘ずるりと滑り落ちていったのは――彼女らしいのかもしれない。
「僕船って初めてなんだー。どんどん進むぞー! 風が気持ちいいな!」
「視界いっぱいの蒼って新鮮だね。何時も街中だから」
瞳をきらりと輝かせるノーラにシラスは柔らかに微笑む。こうして二人でのんびりと過ごすのは初めてだろうか。
「ノーラは、元居た世界に戻りたい?」
「僕がいた世界か……僕のいた世界は魔法がメインで、機械は少なかったな。あ、精霊はいっぱい居たぞ!
んー……別に帰りたいとは思わないな。だって、パパとママのいるお家が僕の居場所だしな!」
「そっか」
ぱちりと瞬いたシラスに次はノーラから質問だ。君の話を聞きたいと身を乗り出すノーラにシラスは微笑む
「そう言えばシラスは好きな物あるのか? 僕は美味しいものと楽しいのが好きだぞ! シラスや鳥さんと遊ぶのも楽しいぞ!」
「俺は皆とのお仕事が好き。だって格好いいじゃん、イレギュラーズ。
あとは街を歩くのが好き。地元でも一日散歩したら新しい発見あるからね。
それに読書にハマってるよ。ふふん、勉強家なのさ。――あ、楽しいのも美味いのも最高!」
なら、美味しいものを食べに行こうとノーラは手を伸ばした。
「しーくんは海洋の外れの島から来てはるんやって」
「そうやけんね、俺の故郷の島も見えるかね」
船の甲板から見えるだろうかと周囲を見回すブーケに夕陽はこくりと頷いた。どこか纏う雰囲気に親近感を覚える二人はこうして海洋に訪れる機会を作ってくれた貴族――ソルベに挨拶しなくてはと顔を見合わせる。
「幻想の貴族と話すんは背筋がピーンてなるけど、ソルベはんは、なんや、気さくやさかいついつい甘えてしまうね。堪忍ね」
「ソルベ様にも挨拶せなね。本土の、それも貴族様の筆頭に挨拶するげな、田舎モンやけん緊張します」
年若い筆頭貴族だからだろうかと二人して笑えば、軽く挨拶を受けたソルベが是非料理もと二人を促した。
中華料理やお刺身が取り揃えられたその場所で懐かしのゴマ団子に夕陽は目を輝かせる。
「南国の差かなってこないにカラフルなん?」
首傾ぐブーケに夕陽は説明しようと言うように胸を張った。
「海か……見るのは久しぶりだな」
Dは甲板より海を見てほうと息をついた。その安寧も束の間。「ねえ見て二人共! 海っ、見渡す限りの海ですわよー!」とはしゃぎ走り出すヴァレーリヤ。
マストによじ登りだしたヴァレーリヤを止める事無くラクタは首をこてりと傾いだ。
「なるほど、あれが船の推進力を得るための構造か。とても面白い」
「事務所の方向は多分あっちだが、流石に肉眼では見えないだろう。見るなら目を閉じる方が早いだろう。もうすっかり焼き付いているか……ら……」
あっちに事務所があるのかしらとはしゃぐ声。Dが思い浮かべたのは一人で広々としていた場所は気付けば随分と狭くなった空間。
「あっ」
危ないと叱ったDの声に拗ねた様にヴァレーリヤは首を振る。危なくなんてない、だってこんなに楽し――
「助けてえええ! 私、泳げないんですのおおおお!!」
「ってうおおおい!? 何をズムーズかつ軽率に危機に陥ってるんだ君は!?」
ずるりと滑り落ちたヴァレーリヤ。助けに入ったラクタはぱちりと瞬きDを見遣った。
「そういえば、他者を抱えて飛んだことはなかったな。沈むのが二人になるかもしれない」
――落としたら化けてでますわよ!
「………照り返しが眩しいですね」
『せめて景色を楽しみたまえよ、我が契約者殿』
はあと小さく息をつくアケディア。日陰を探し眠たげな彼女の隣でメランコリアも寝るのには悪くないと呟いた。
――一方で、料理を確保するイーラは眠たげなアケディアとメランコリアの様子には聡く気づいているだろう。
「こっちにカクテル三つと軽い食べ物をいくつかちょうだい」
『逸れずに乗船し席につけた時点で8割がたは完了だな』
満足だというメランコリアは幻想との違いに「……違う……ね」と呟いた。
「……そうですね。幻想と海洋では貴族の在り方が違う。…………」
「……アケディアが……睡魔に……負けてる……」
こて、と眠たげに落ちていくメランコリア。眠りの縁に居るアケディアとメランコリアを見遣ってイーラは肩を竦めた。
「えぇ、大体そんなものでしょう?ある意味、国に一度殺されているわけだし」
『そのおかげで今があるとも言えるが愛着がわかないのは同意だな』
その言葉に返ってくるものはないのだけれど。
どんな世界から来たの――?
その問い掛けにタツミは笑みを溢す。バーカウンターに並んだ酒は様々な物だ。アルコール度数は少し低いのだろうが、ずらりと並んだ棚を見るだけでも心は踊る。
トロピカルジュースやノンアルコールのものも用意され、見目美しい物も多かった。
何処から来たの、と問い掛けるそれは『旅人』に向けたものだ。きっと、全く知らない場所の話が聞けるはずだから。
「それにしても、凄いよね。客室もちゃんとあるし、食事だって用意して貰える」
きらりと瞳を輝かせたアリスは「すごーい」と大きく伸びをした。船から外の景色を見るのだっていいが、外に何があるのかを探検するのも楽し気だ。船の中にどんなものがあるのだろうか。魔法少女にとって『はじめて尽くし』のこの空間は心を躍らせる。
「ふっふーっ、お船の上でどんなご飯が出てくるのか、実はすごく楽しみにしてたんだっ!」
きっとこの船の様子に違わぬ豪華なメニューがあるのだろうと幸福そうに心躍らせて。
数年ぶりの海洋をグラは楽しむ様にクルージング。美味しい料理を食べながらも懐かしい海を見て心を躍らせる――そう見せかけて、だれにも言わぬが、グラにはもう一つ目的があった。
没落したプテ家の屋敷がそのまま残されていると聞いている。クルージングをしている最中にそれを見ることが出来るのでは――懐かしい風景に『お二人』が居た面影を見られるのではとグラは考えていた。
(――懐かしいですね)
ディジュラークは初めての海洋にぱちりと瞬く。人とは不思議なもので、どうしてかこういった機会がないとなかなか自分で訪れようとは思わない。
甲板で鳥を呼びながら、ディジュラークはぱちりと瞬いた。海鳥というのかい、と鳥に声をかける。
深緑とは違う全て――遠くに見える街並みと、水平線。それがとても、綺麗だ。
「富も名誉も女性も結構、鳥がいるだけで僕はとっても幸せだ。
……ちょっと嘘ついたかな、富は欲しいな。あれば、こんな景色を飽きるまで見られるのだろうから」
●
リゲルが選んでくれた服に着替えれば、今度は彼の服を選ぼう。
ポテトが纏ったのは海をグラデーションしたワンピースにシトリンクォーツの色を乗せた帽子とサンダル。
今日のデート一式の服に満足げにポテトはマリンブルーのシャツとシンプルな白いズボンをリゲルへと手渡した。互いが互いを着飾ってぎゅ、と手を握る。
「海は広いな……そしてこの世界は、もっと広大だ。ポテトと新しい国を歩く事ができてうれしいよ」
もっと、もっと世界を見て回りたい――笑うポテトにリゲルは頷いた。
「海は宝石のようにキラキラ輝いてるが、俺の一番の宝物はこの腕の中にいるお姫様だ」
「リゲルの目の色みたいな、綺麗な色の海だ。私の宝物もリゲルだよ」
――だから、愛してる。
「アズちゃん!」
羽がぶわーっとなって綺麗な人というイメージを持っているヨハンはアズライール――天使様が傍に居ることに緊張すると身を揺する。こういう場所には初めて来たというアズライールは不思議そうに周囲を見回してぱちりと瞬いた。
「和洋折衷と聞いていましたが、きっといろいろなスイーツとかがたくさん揃っているのですよね?
ボク甘いもの大好きなのですよね、いろいろなスイーツを食べたいです」
「じゃあ、甘いものを食べましょう! あと、海洋でランチもいいですし、お土産屋さんも行きましょうねっ」
マーケット巡りは楽しい。二人揃っていろんな行きたいところに食欲と知的好奇心の赴くままに。
アズちゃんと手招くその声にアズライールは何処か楽し気に笑みを溢して。
「来るべき夏に備えて、可愛い水着探そ! ほら、行くよ行くよっ!」
姫喬に手招かれ樹理はその背中を追い掛ける。来るべき夏に水着は必須だ。
「派手なのはちょっと悩んじゃ……姫喬ちゃん?」
次々と買い物かごに放り込む姫喬のいい笑顔が其処にある。「樹理ちゃん。これなんかどう?」と差し出されたのは際どいデザイン。
「ちょっとこれ、布が、小さくない? 大丈夫……?」
「大丈夫! バストおっきいから良いと思うよーこういう派手なのも。いっひっひ」
姫喬はかっこいいからと花モチーフを差し出して。いざ、試着――けれど。
「おーかわい! 透けてて可愛……あ゛っ裾踏んでっおっ、あ、樹理ちゃ助けてー!」
「わ、姫喬ちゃん。支えるから落ち着いてね!」
ずぅっと森の中に居たから――海というのは初めてで。ドラゴンリリーは不思議そうに周囲を見回す。
「リリーはうみをみたことがないから、はじめてのうみ、だねっ。ドラゴンリリーさんもそうなの?」
たどたどしく、可愛らしく話すリリーを背に乗せて青くて広い水溜りを眺めるドラゴンリリー。
「たくさん見て、知って。今日のことちゃんと、思い出に残したい。? あれなんだろう」
「たくさんみて、きいて、しってできるといいな。……ただ、ふたりともみためがみためだから、おどろかれないといいなって、あれなんだろ」
うねうねと動く蛸。水揚げされたばかりなのかまだまだ活きが良い。ぱちりと瞬くリリーとドラゴンリリー。
「いきものかな?」
「生き物だね?」
うねうね――
「海は広いなー、でっけーなー。でも、まだまだ泳ぐには寒いんかなー?」
洸汰は楽し気に子供達へと話しかける。首都・リッツパークでこどもに流行の遊びは何だろうか?楽しい事ならばそれで満足だ。
子供達は独楽を回し「コマ回しだよお」と楽し気に微笑んだ。洸汰はたのしそう! と子供達に混ざる。
「んー、今日は遊んだなー! それじゃ、おやつの時間にしよーぜ! このコータ兄ちゃんが、なんでも買うからなー!」
――ここで淑女。スティアの様子を見ていこう。
「へい!彼女!スティアと一緒に街を回らない?一人より二人の方が楽しいと思うよ!」
びしりと指さすスティア。ラサでも見せた奥義を見せるときだとぱちりとウインクして知らない人に声をかける。無駄にギフトも使っちゃうと言う彼女を見詰めてから、少女は可笑しそうに小さく笑った。
「よろこんで」
お土産や食べ物を見に行きたいというスティア。事前にソルベに聞いた街の様子。さあ、素敵な場所を冒険だ。
「おお、いっぱいイレギュラーズたちが来ているな。それにしてもいいところだ」
パンにとって必要な仕事は海産物料理だ。最大の目的――仕事は美食家たるものの務めを果す事。
出ている屋台を片っ端から食べ歩き。気になる料理はイラストと感想、料理に使われている食材や調理法の考察を添える。
「この食器は良いな」
大きな貝をイメージしたサラダボールは大量発注だ。〆は浜辺のバーで酒を楽しむと決めている。海洋旅行はまだまだ始まったばかり。
里帰りとしゃれこむには少々物騒な家庭事情。デイジーはオリヴィアを誘っての海洋旅行だ。
「最近の海洋の情勢でも話乍ら食事をしようではないかえ。街の様子も相変わらずのようじゃの」
「ああ、そうだねぇ……良くも悪くも変わらないのが海洋の良い所さね」
懐かしの料理に笑みを溢すデイジーは「妾の奢りじゃよ」と海賊淑女へ微笑みかける。
「思えば、妾はこの国におりながら遠洋への冒険も、海賊と面と向かっての話しもしたことがなかったのじゃ 」
「はは、じゃあ今度、アタシと遠洋へ行ってみるかい?」
なんてね、と冗談で笑ったオリヴィアにデイジーは可笑しそうに笑みを溢した。
「うわぁ、面白そうなものがいっぱいだね!」
シャルレィスはぱちりと瞬く。前を行くメイメイとイシュトカから逸れぬようにと駆け寄って。
イシュトカの目利きに頼って骨董や工芸品を見て回るが――雑然とした街並みと品ぞろえは何処か面白くなる様で。
「手が出ないようなものでもないし、出来はどれも素晴らしい。お土産にこういうのはどうだろう?」
ちりん、と音鳴らしたそれ。ぱちりと瞬くメイメイとシャルレィスは「風鈴?」と首傾いだ。
素敵、と微笑むシャルレィスの傍らで故郷の羊毛織物に似たものを手にしながらメイメイは首傾ぐ。
「……巡り、巡って……この市場にやってくる、ことも……あるので、しょうか」
「交易都市だからあるかもしれないな」
頷くイシュトカにメイメイは何処か可笑しそうに笑みを溢した。キラキラとした風鈴の姿と音。お代は少しするかもと悩まし気なシャルレィスにメイメイは「交渉は頑張ってみます」と懸命に――それこそ、店主が笑ってOKくれる程懸命に頼んで見せた。
のんびりのんびりと遼人は歩んでいる。直接的にかかわった人はまだまだ多くない。
誰か――知り合いの姿を見ることができるだろうかと探すが公女様の姿は此処にはない。
「……少し、懐かしいね」
ジャパニーズをイメージした家屋が立ち並んでいる。どこか中華の風貌を感じる其れも遼人にとっては懐かしさを感じて。只、その思い出に浸る様に彼はふと息を吐いた。
「あのー、ちょっと聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」
ぐい、と身を乗り出したアレクシア。色々な人が集まる海洋だからこそアレクシアは聞きたいことが有った。
覚えてる限りの特徴――記憶の中の冒険者。伝えれど、首を傾げる人々ばかりだ。
「ほんと、どこ行ったんだろ……強い人だから、心配はないと思うんだけど……。
あ、ご飯冷めちゃう前に食べないとね。いただきまーす!」
――いつか、会えるだろうか。あの人に。
●
「まさか船がダメだとは思ってなかったわよぉ……やけに今日はお酒が回ると思っていたら……ウッ」
アーリアは死屍累々であった。船酔いはお酒で掻き消すしかないのかしらとミントのお酒を飲みながら何食わぬ様子で船を闊歩するオリヴィアを――ディープシーを羨むように見遣る。
「やっぱりディープシーの人は船酔いなんてしないのかしら……」
「そういえば、女王は少し船酔いするのだそうですよ」
なんて、ソルベから齎された情報に「海種でも船酔いするのね」と顔を蒼褪めさせながらアーリアは小さくぼやいた。
「なるほど、豪華客船ですか。
豪華客船といえば、もちろんカジノ! ギャンブラーとして、これは見逃せませんねぇ! タルトゥフォは、海洋語で「希望」という意味ですしねぇ!」
八卦は心の底から楽し気にコントゥール家の資産で豪遊して見せると笑みを溢す。一応、少しだけですよと甘いソルベから言われたが――ちょっと不満足な譲歩だった――八卦は心を躍らす。
「さあ、皆様お立合い!」
一撃必殺カードドロー。見せてあげましょう。勿論CT22にすべてを賭けて!
「はしゃぎたくなる気持ちも分かるわ。私も初めて見る景色だもの」
きょろりと周囲を見回すアンナ。傍らで驚いたように船からの景観を見詰めていマルクがいた。
船に乗った事がないとはしゃぐマルクに小さくアンナは笑った。ふと、横を見遣れば不安げなリディアがいる。
心細そうなリディアは緑のない景色が寂しく思えて仕方がない。嗚呼、それに不安だ。
「リディアさん……大丈夫? 無理してない?」
可愛い魚や動物たちが居れば――そう思いながらも不安げなリディアの背をアンナは優しくなでる。
「少しだけ、こうしててもいいですか?」
エスコートをしてあげてね、と柔らかに告げるアンナの声音にマルクは「任されました」と彼女を支える。
底抜けな蒼――何処までも続く景色――きっと、緑の世界に過ごした彼女には全く違うものに見えているのだろう。
「少し冷えましたね」
中に入って楽しい所を探しましょう、きっともっと――楽しめる所があるはずだ。
「ああ、その。あまり見ないで。恥ずかしいから」
頬を赤らめたイーリンはミーナをちらりと見た。肩を出したロングドレス姿。照れ隠しの眼鏡の奥でイーリンの瞳が不安げに見つめている。
「海は好きよ。どこまでも広くて深くて悲しくて。溶けてしまいそうなくらい。
だからね、ありがとう。連れてきてくれて。ところで――」
エスコートは十分だ。楽しめた、と笑ったイーリンはいたずらっ子のように目を細める。
ところで、あなた。ジャーキーを取り出し、イーリンは「食べない?」と冗談めかした。
「一応、パーティー用に持ってたチャイナドレスを着てきたけど……大丈夫かしら……」
チャイナドレスを着た秋葉は自身の姿を確かめる様にその場でくるりとターン。
偶には違う雰囲気もええんちゃうかな、なんて水城は楽し気に秋葉の手を握りしめた。
「ふふ、好きな人と二人、好きな海を見ながら食事っていうのは、一つの夢やったんよなー」
「まったく……普段から言ってるのに、こういう場所で言い直さなくても……まぁ、嫌いじゃないけれどね」
――ああ、そんな言葉、頬が熱くなってしまう。
ふい、と顔を逸らした秋葉に水城はくす、と笑う。今日はあんがと、と指先を絡めて彼女の顔を覗き込んだ。
「こちらこそ……誘ってくれてありがとうね……大好きよ」
久々の休暇だ。これでリラックスして仕事が出来るとイザークはうんと伸びをした。
「海だー! 眺めたらリラックスしながら仕事ができるよね。あれ?書類に押す印鑑がない!」
……どうやらアリスターが隠してしまったようで。仕事道具の代わりに洒落たドリンクが手渡される。
「いやー、俗世から離れてこうしてくつろぐのもいいんじゃないかな。ゆっくり休めるのもいい大人だぜ?」
その言葉にイザークはぱちぱちと瞬く。
「おいてきた仕事についちゃ、帰ってきてからバリバリこなせばいいんだよお。
手伝うし、人が要るなら集めもするし……それに何より、それともわたしとこうしていたくはないのかな? イタチちゃん」
「仕事は僕一人でやってるわけじゃないもんね。アルが支えてくれるから頑張れてるんだ。…いつも、ありがとう」
それに――こうしていたいよ、とすりと肩に擦り寄ってみせた。
メートヒェンにとって気になるのはコンテュール家所有の豪華客船に乗る使用人たち。
船内でソルベが一つ、手をこまねけばせせこましく動く彼らは実に優秀だ。
(メイドとして色々参考になるかもしれない……)
軽食を食べながら有意義な時を過ごす。それって、勤労感謝ではないのかもしれないけれど――?
●
生まれて初めて海というものを見たとアリーは広大な蒼を眺めていた。
今までは人から聞いたことや本を読んでの想像しか出来なかった――やっと本物の海を見ることができてうれしいとアニーは瞬く。
「海って幻想にいる時とは違う香りがするのね……これが潮の香りというものかしら。
故郷にいる父さまと母さまは海を見たことがあるのかな……?」
こて、と首を傾ぐ。小さな貝殻もいくつか拾って、ネックレスにしたい。
父と母と自分の分。お揃いで、今日の楽しかった思い出を伝える様に。
「良い気分転換の為に使えるでしょうし。もしかしたら、何か良い商売のネタが見つかるかも」
鶫にとって面白いのは珍奇なものが多い子の街並みだ。和洋折衷奇跡的なバランスを保った観光地と言えばそれらしいのかもしれない――交易都市として国を開き大らかな気候の許、様々な文化を混在させているからだろうか。
「こういう風度なのだろうか……。うん、こういう風度の所為、という事でよさそうですね。これは」
実家の商売で忙しい主人の為。何か面白いものを持ち帰ろう。さて、次に入った店にあったのは――
「釣り、か。あまりしたことはないのだよ」
不思議そうに釣り糸を眺めるコルザは傍らのロズウェルを見遣る。瞑想に近い物だろうかと小さく瞬いて。
「まだ海の水は冷たそうですが、もう暫くすれば海で遊ぶ人も増えそうですね」
「うむ。そうだね。まだまだ夏には遠い時期だ。風邪をひかないようにね」
釣り糸を眺めながらコルザとロズウェルは只、穏やかな時を過ごす。
「また夏になったら遊びに来ましょうか。ああ、でもコルザさんなら海より川遊びの方が馴染み深いんですかね」
その言葉に水は同じ水だと冗句めかして、くい、と引かれる感覚にコルザが思わず立ち上がる。
「おっと、コルザさん。引いてますよ、そちらの竿が」
どうすれば、と慌てる彼女を手伝うようにロズウェルは立ち上がる。簡単に料理して――美味しく食べるのだって楽しそうだ。
港町はとても賑やかで。ルチアーノにとっては故郷の街を思い出すようだ。
太陽の光を受けて、空の青さを反射する大海原を見遣りながら二人で歩こうと、街角で見遣った彼女の横顔を思い出して、今を盗み見る。
澄んだ瞳で海を見つめるノースポールの横顔は、何処か大人びていて。そんな一面があるのだと胸が高鳴った。
「泳ぐにはまだ早いかな?」
くるりと振り返ったノースポールにそうだね、とルチアーノは頷いた。
「ねえ、ルーク。幻想に戻ったら今日の景色を描いてもらえないかな。写真も良いけど、ルークの絵で見たいの」
「この世界に来て一番の、傑作が描けそうだよ。
ポーと過ごした、とても楽しくて貴い思い出が想いとなって絵筆に乗るんだからね」
君の目で見た世界が見たいだなんて、君との思い出を描きたいだなんて。言わないけれど、楽しみだねと二人で笑い合った。
浜辺を歩く。磯の香と海の冷たさ、砂の感触。どれも元の世界と変わらない。
「友達との約束、守れないなぁ」
最後のJKの思い出作り。海に行こうねと笑った友達。夏祭りも浴衣を着てみんなと一緒――
「まぁ。後悔しても仕方ないか」
圏外表示のスマートフォン。連絡が取れたらみんな安心してくれるのだろうか。家族や友達を安心させられるはずなのに、けれど、『戦わなきゃいけない世界に居るのは心配させる』だけかと詩乃は息をつく。
「『私』は元気でやってるよ。必ず、そっちに帰るから……待っててね」
届かないメッセージ。彼女の笑顔は暖かい。けれど、自分に向く事はなく。
――ほら見て、海洋の夕陽が沈んでいく。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様です、イレギュラーズ!
海洋でのシトリンクォーツ。お楽しみいただけましたでしょうか?
皆様の冒険の思い出の一つに数えられますことをお祈りしております。
※白紙の方以外は描写させていただいております。
抜けがございましたらご報告ください。宜しくお願いします。
GMコメント
季節は廻れど、夏あかねです。よろしくお願いいたします。
※重要※
<シトリンクォーツ>の冠を有するイベントシナリオには1本しか参加することができません。
当シナリオに参加した場合、他<シトリンクォーツ>シナリオには参加することができませんのでご注意ください。
※ご同行者がいらっしゃる場合はお名前とIDではぐれないようにご指定ください。グループの場合は【タグ】でOKです。
●海洋(ネオ・フロンティア海洋王国)
大陸東の諸島に拠点を構え、絶望の青と隣接する国家です。一番大きい中央島に首都リッツパークが存在します。
今回は有力な貴族であるコンテュール家のソルベが穏やかな海洋にてクルージングへと皆さんをお誘いしています。
リッツパークは穏やかな気候で少し夏に近いように感じられるため、汗ばむ事が多いかもしれません。
海風が心地よく穏やかに過ごすことができる場所です。リッツパーク以外の小島には恐れ入りますが今回は立ち入れません。
●リッツパーク
海洋の中央島に存在する首都リッツパーク。和風・中華・洋風と様々な文明が入り混じったかのような街並みをしています。
簡単に表すと中華街に日本家屋が立ち並び、且つ、西洋の文明たる煉瓦の道が続いている……という混在具合です。
リッツパークは観光地としても名高いために、様々な種類の食事や土産物、マーケットを見ることができます。
●行動は以下の1or2からご選択ください。
(1)航海船『タルトゥフォ』
コンテュール家が所有する客船兼航海船です。近海への航海を目的としクルージングに使用されます。
絶望の青には立ち入りません。
船内は非常にゆったりとしたバーカウンターや客室が準備されており、穏やかな午後の海の旅を楽しむ事が出来ます。
食事等も可能です。今回はコンテュール家による提供となりますので金銭はお気にせず。楽しくお料理をお楽しみください。
(2)リッツパークの観光
和洋折衷。様々な文明の入り混じるリッツパークのマーケットにてショッピングを楽しむ事が出来ます。
ヘンテコな置物やコスチュームや海洋独特の料理を食べ歩きで楽しむ事も出来ます。
非常に穏やかな気候で過ごしやすいでしょう。浜辺で釣りや海遊びを楽しむ事が出来ますが少し寒いかもしれません。
●NPC
当シナリオにおいてはNPCはお名前を呼んでいただけましたら登場する可能性がございます。
ステータスシートのあるNPCに関しては『ざんげ以外』でしたら登場が可能となります。
ステータスシートが無く、声をかけることのできるNPCはソルベ・ジェラート・コンテュールのみです。
・ソルベ・ジェラート・コンテュール
有力な貴族派筆頭の青年です。明るく特異運命座標たちに好意的ですが、切れ者であるのは確かです。
今回は皆さんを招くホストとしてタルトゥフォへと乗船しています。
●重要な備考
本シナリオは返却締切を『15日』で運営します。
予めご了承の程をお願いいたします。
それでは、楽しい休日をお過ごしください。
皆様の冒険をお待ちしております。
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