シナリオ詳細
海央の橋頭堡
完了
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オープニング
●
その場所はアクエリア。
王国が仮称した絶望の青に存在する孤島である。
イレギュラーズ達が悪意とも呼べるデモニアを退け、この島の制圧作戦を成功させた報せは直ぐ様に応急へと届けられ女王イザベラと貴族派筆頭ソルベは次の策を講じた。
曰く――『拠点』アクエリアの整備である。
「さて、連戦続きで申し訳ありませんが、イレギュラーズの皆さんには今後の航海の為にも一つ、手伝ってほしいのです」
女王には性格が悪いだとか捻くれ者だとか散々な言われようであったソルベはいつも通りの余裕を浮かべた表情でイレギュラーズと向き直る。
「ふふ、お兄様ったらホントはちょっぴり女王に『性格の悪い鳥』って呼ばれたのを気にしているんですのよ」
――なんて、カヌレがこっそりというものだから「カヌレ」と厳しい声音が降ってくる。
「ンンッ、いえ、あんな絶海の孤島でバカンスを楽しめと言うのも酷いことかもしれませんが、寧ろ、島を知ってもらうにはいい機会でしょうしね。
まあ、そちらは兎も角、海洋王国として皆さんには『アクエリア』に拠点整備を行ってほしいのです。後半の海は何があるかも分かりませんしね……更に厳しい戦いが待ち受けている可能性もあります」
船舶を停泊させることも必要ではあるが、司令部や待機の拠点を用意しておいた方がいい。
戦場へと送り出すのならば負傷者を受け入れる準備や簡易宿泊も必要であろうというのが海洋王国の考えだ。
「海洋王国だけでは『アクエリア』への到達は難しい。
資源は我々が用意します。申し訳ありませんが、皆さんには先陣切っての準備を頼みたいのです」
急激に変化する気候や突如として荒ぶる海。それだけではない。悪意を持つかのように船を追う局地嵐『サプライズ』、狂王種(ブルータイラント)と呼ばれる凶悪な魔物、そして廃滅病(アルバニア・シンドローム)――それらを鑑みて、イレギュラーズに全権を任すのが一番であるというのがソルベの判断だ。
「この島は魔種ミロワール――そして、バニーユ男爵夫人、いえ、何もありません。悔しいだけです――が暗躍していた場所です。
そして、アセイテ提督の裏切りがあった今、海洋王国はより一層の『万全なる航海』を行えるよう準備すべきだと考えています」
「ええ、ええ。皆さんが安全無事に航海を終える事を私は信じてますもの!
……バニーユ男爵夫人もアセイテ提督も、きっと何かの間違い……なんて言ってはいられないと、私も分かっています。なら、前を向くしかないでしょう?」
カヌレはこの荒れ狂う海を抜け、更にその先を目指すためにイレギュラーズ達の助力を求めると震える声で「お願いします」と言った。
「皆さんを送り出すなんて、怖いですわ。だって……折角、仲良くなったんですもの。
けれど、ここで止まってられないのだって、分かります。だから――」
まだまだ、危険の潜む島であることは承知だ。
これからの航海の為、どうか、力を貸してほしい。
- 海央の橋頭堡完了
- GM名夏あかね
- 種別ラリー
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年04月12日 22時14分
- 章数1章
- 総採用数65人
- 参加費50RC
第1章
第1章 第1節
アクエリア――『絶望の青』の只中にありながら、海洋王国とイレギュラーズが新たな拠点として確保するに至った大島である。戦闘を伴う上陸を果たしていたイレギュラーズ達へと女王陛下や貴族派筆頭は火急の拠点整備のオーダーをローレットへと下していた。
「――と、言うわけじゃが。ここを妾のキャンプ地とするのじゃ!」
堂々たるクラーク家子女デイジー。先ずは島内を探索して自然物である洞窟の中を確認することから始めると彼女は洞窟内部を見回した。
(水……という事は、海底へと繋がる洞窟があるという噂は正であったか)
湧き水や、池の様に広がるゾーンは島への侵入にもピッタリではある。こうした所から敵が来る事も想定しなくてはならないとファミリアーの海鳥を放ち探索を続けてゆく。
「ふむ……安全無事な水場として完備することが出来れば、宿泊にも治療にも使用できるんじゃが。
一件は百聞に如かず。うむ、妾が潜ってみるとしようか!」
どぶり、とその身を沈めるデイジー。モンスターならば高貴な一撃で退けて見せようと歩む様に海中を進んでいく。
一度は上陸した地点だと言えど、島の内部を探索して把握しておかなければ整備も始まらないだろうと利一は周囲を見回した。ざっと島内を見回せどある意味で一番探索が進みにくいのは暗がりにあたる洞窟だろう。情報収集に適しているはずだと地形や資材に使用できる植物や資源のチェックを続けながらマッピングしていく。『資源になるだろう』と想定されるものは有識者の意見を参考にしようとサンプルをいくつか持ち帰る。
(さて……敵も徘徊しているかもしれないと聞いているが――どうかな。
この『海域』の只中であることは確かだ。強敵が徘徊している事も想定されるな)
利一の警戒はイレギュラーズの誰もが抱いていた。アクエリアは敵地であったのだ。その残党が潜んでいる可能性だって大いにある。
「さて。この手の場所には、未確認の敵性存在が潜んでいる場合があるからな。
設備の設置個所を探すと同時に、そういった輩の排除も行っていくか」
汰磨羈は最速でのマッピングを行うために利一のマッピングを確認しながら最前線を進んでく。
前線を担う汰磨羈にとって注目すべきは洞窟内に拠点を設置するに置けるスポットの確立である。
眼前迫る狂王種に臆することなくその両脚に力を込めて、固い地面を蹴れば、僅かな泥濘が足裏より伝わってくる。
(この辺りも水が入るのか……?)
苔の感覚を感じ取りながら、倒れ伏した狂王種を見下ろして、その他の残党もこの洞窟には潜んでいる事を再確認したと汰磨羈はくるりと振り返った。
「出来れば、空気が籠らない場所が良いが。はて、風の通り道はあるだろうか?」
随分と深く潜ってきたものだが――洞窟内部には外へ繋がる場所を見つける事も出来るはずだ。風の気配を頼りに、探しに進もうではないか。
サンディはシキと共に昏い洞窟内部を進みながら『歪んだ黄金の果実』を探していた。
それは童話にも語られるそれだ。カヌレは「不死だと語られるものもありましたけれど、童話ですもの」と言っていた。それが廃滅病(アルバニア・シンドローム)に効果を発揮するとすれば――?
「なんか隠したり捨てたりすんなら大抵は海底に着くだろーし、探さねー手はねーよな。
丸裸にしてやるぜ、この島を。そしてリアちゃん用の金の林檎を……」
「リアの為に歪な黄金の果実が欲しいんだろう?
その気持ちはまぁ、一緒だからさ。あの子の美味しい紅茶が飲めなくなったら私も困るさね」
サンディは海底に繋がる道があるという事は『何かを隠す場所』も大いに存在しているという事かと溜池のように広がったそれを見下ろした。塩辛くも感じるそれは海水であることは確かで。
「海底につながってるってのはー……こう、海底トンネルみたいな感じなのかい?」
「みたいだな……潮の満ち引きで進める箇所が大いに変わるって雰囲気が凄いするが……」
シキとサンディは顔を見合わせる。そうした場所こそ宝が眠っていて欲しいというものだ。
共に救いたいものが存在している。足に絡んだ水の重さを祓う様にして、サンディは「熱い歓迎のようだぜ?」と眼前の狂王種を見遣った。
「海底に繋がってるっていう洞窟を探ってみたいな。
拠点にするなら、敵が入ってこれそうな場所はちゃんと把握しておかないとね!」
アレクシアは自然との対話を頼りにしながら情報を収集していく。彼女の傍らでなるべく戦闘を避けて情報収集にあたりたい言ったシラスは「海底に繋がってる洞窟なんて絶対に行ってみたいと思ってたしね」と揶揄うように笑って見せた。
「アレクシアとコンビなら怖いもの無しだぜ」
彼のその言葉にアレクシアは嬉しそうに頷く――が、その実、彼の身に染み付いた呪いは随分と進行している事が分かっている。指を咥えてまっていられないのも実情だ。
「アレクシア、水路があるよ」
「水中に潜る必要があるかもって思ってちゃんと道具の用意はしてきたからね! 魔法服の下に水着も着てきたから、ぱっと脱げば濡れても大丈夫!」
用意周到なアレクシアが魔法服を脱ぎ、水着姿になったそれを見てシラスは「これだけで報われた気がする」と小さく呟いた。夏先取りの水着姿に少し喜んでしまったのは否めない。
「じゃあ、水路の様子をチェックしながら気を付けて進もうか。大丈夫? 寒くはない?」
「うん、大丈夫。さあ、シラスくん! 行こうか!」
その水路が安全であるかどうか――それを見定めるのもまた、必要な行為だ。ヴァレーリヤは航海とは何たるかを学んできたのだと胸を張った。
「航海で最も大切なもの。それは……そう、水源の確保!
食料も大事だけれど、無いと一番困るのが水ですものねー。サバイバルでだって大事ですわ!」
アレクシアやシラス、そしてシキやサンディが進む『海底通路』は敵の侵入口となり水路としては使えないだろうが――苔の密集地帯などの情報は得ている。水の音を頼りに、洞窟内部の湧き水ポイントを数か所チェックして拠点の確保を急ぎたいが……目の前には敵影が一つ。
「どっせえーーーい!」
神に仕えるものらしからぬ声音と共に、蹴散らされていく狂王種。ずんずんと進んでこの航海を成功させなくてはならないとヴァレーリヤはやる気を漲らせた。
廃滅病(アルバニア・シンドローム)による命のリミットがある事で気が焦るのは確かなのだが、セリアはそれでも一つずつこなして行かねばならないと洞窟の内部を進んでいた。
気温と湿度がある程度一定である涼しい所があれば、食料などの貯蔵を行うことが出来るはずだ。そうしたポイントを確認しながらアクエリアに自生する食物の確保を急ぎたい。
「衛生的に飲めなくても真水は貴重だし……絶望の青の水って飲める、のかな?」
カタラァナが考えたのは洞窟内部にモスカの祭壇を――例えるにオパール・ネラに存在したものと同様の祭壇だ――作成するという事であった。島内には加護の予定はある。しかし、それはあくまでも島の守護であり、『イレギュラーズ個人』への加護ではない。
「僕だって、それなりに何かしたい気持ちはあるんだ。
例えば、わくらばが落ちるのを少し遅らせたりとか……もっと、他に何か」
きっと、かたわれならば『加護になど頼っておるから、いざというときに困るのじゃ』とつんけんとした態度を取りながら清浄なる気を振りまくのだろうと考えてカタラァナの口元には笑みが浮かんだ。
「例えばだけど。僕がここで直接儀式を執り行えば、もっかい死兆、伸ばす手伝いにならないかな。
悪あがきはなんでもしてみるものだよね?」
振り返るカタラァナにどうだろうとウィリアムは首を振った。刻一刻と迫る死の足音が聞こえるような気がして辟易しているという彼は小さく笑う。
「まあ……『アリ』かもしれないが後半の海への橋頭堡って言うなら、例えば、もっと濃い死臭がするかもしれない」
「ああ、そっか……なら、僕が祈るのはみんなの無事だ。それも悪あがきかもしれない、けれどね――♪」
謡うその声を聴きながらウィリアムは周囲を見回した。それ程、悠長に探索をしている場合でhないことを彼自身も分かっている。しかし、それでもだ、ワクワクしてしまうのは彼もまた『少年』の心を持っているからなのかもしれない。
危険区域であるとはいえど、これは無人島の探険である。未知の場所である事には大差ないのだ。
「俺自身、そんなにのんびりはしてられないが……だからって足元をお留守にしちゃいけないからな」
専門家程ではなくても、多少は色々と分かるはずだとウィリアムは歩を進め続ける。
「洞窟内にあるという、海の底に、つながった道。
向かえる人材は、限られていますの……わたしが、勇気を出さなくては、いけませんの!」
ゆらゆらと澄んだ尾を揺らしたノリア。青白い光を放つランタンを手に、いざと勇気を振り絞り進んでゆく。
「搬入路や、秘密の出入り口として役に立つ通路になりそうか、誰でも調べられるようにしますの」
「ああ、任せた」
ウィリアムの返答にノリアは大きく頷いた。敵影があればそれを斃せば良い。耐えれば仲間たちの救援が繰る事も分かっている。だからこそ、勇気を胸にノリアはずんずん進む。
「わたしなら、安全な場所に戻るまで、時間稼ぎ、できますの」
「あァ、任せる」
レイチェルはそう言って、昏い水中を見遣った。こうした場所には狂王種が潜んでいるというものだ。鼻先にすぐに擽る様な死臭は治る病も治らぬというものだ。
「病棟建てても……仮に病気を持ってる狂王種がウジャウジャ居たら意味が無い。
ついでに例の黄金の果実を探す。見付かりゃ上々なんだがな。アレがありゃ大勢の仲間の命が助かるかもしれん」
それが『歪』であろうとも――かの海賊ドレイクが得た効果があればと願わずにはいられない。
レイチェルが狂王種を発見したと顔を上げた時、ジェイクは「了解」とだけ小さく返した。
「天然の洞窟は固くて崩れにくい。まさに自然が作った要塞だ。
司令部としてはうってつけの場所とも言える――とはいえ」
こうやって敵が存在しているならば安全地帯とはとても呼べない。鼠の声を聴きながらジェイクは狂王種を打ち抜いた。レイチェルはその死骸を深い海に葬り去るように一打放つ。
「アルバニアの頭に鉛をぶち込むまで、俺は死ねねえぜ」
そう言って、彼は小さく笑う。全てをリストアップして、得た情報を並べていこう。
そうする事で、洞窟内の探索が容易に済むはずなのだから。
「さて、大号令の体現者と本当に呼ばれるようになった俺は思うんだよね。
女王陛下はもちろんあの鳥貴族やカヌレ嬢……そして一般兵が支えてくれたから、俺たちイレギュラーズは存分に戦えたって」
史之の胸にはありったけの感謝があった。この絶望の海の只中でも、誰かの支えがなくしては何もなしえない。そして、支えるためには心の安寧が必要だ。詰まる所『娯楽施設』を建設したいと彼は考えていた。
「慰安は士気向上へ直結するもの。例えば、酒場とか。
宿泊施設とは別の場所がいいね。酔って揉め事を起こした時、責任追及が速やかにできるように……あとは寝てる人や負傷兵を起こさないため」
隠れて飲まれても始末に悪い。人間なのだからそうしたタブーは行ってしまうものだ。ならば、最初から準備するに越したことはないと狂王種が屠られていく中で、情報を纏めて史之はさっそくと地図とにらめっこだ。
海種らしく、と海底に何か眠っていないかの探索を行おうと縁は進む。自身が捉えられていた水牢の事を思えば魔種達の拠点などがある様な――そんな気さえしてしまうのだ。
光も届かぬ昏き場所。それは、『あいつ』と、彼が呼んだ魔種リーデル・コールが居た場所を思い出した。美しい金の髪に愛おしそうに響かせた子守唄。それは幻聴だという様に振り払い、縁は静かに口にした。
「――待ってろ、お前をこのまま絶望の青に渡したりはしねぇから」
朽ちた遺骸に、船の残骸。それが未来の自分である様な気がして縁は息を飲む。
――ちりん、と。どこかで音が鳴った気がした。
ゆっくりと蜻蛉は振り返る。儀式のときは二人、けれど今日は一人。何となく寂しい気さえしてしまうのはその近くに人の気配がないからか。そんな事を言ってはいられない時分であることは重々承知だ。
その身を、そして『彼』の身を蝕むものがある事を蜻蛉は知っている。気が急いて、伝えたいことが沢山ある。けれど、山の様に積もった思いを伝えるのは生き延びてから。
「そのための準備……やもの」
どこからか鈴の音が聞こえた気がする。昏く、深い。その場所の探索はまだまだ骨が折れそうだ。
(歪な黄金の果実、か……)
ウィズィの脳裏に過るのは船上で相まみえ、切り結んだ『伝説の海賊』――ドレイクの顔だった。黄金の果実を手にしたと言われているが、歪でも何でもドレイクに繋がる手掛かりがあるのならば。そして、それは愛しい人の笑顔にもつながっている筈なのだ。
安易に見つかるものではないのかもしれない。そう思いながら、ウィズィが設備として必要としたのは『食糧庫』であった。日光も当たらず高温多湿にならない場所、洞窟の中などはどうだろうかと進む足は止まることはない。
「環境の調査と輸送路の確保、それから……食料を荒らすような魔物の駆逐、だね!」
そして、顔を上げる。眼前には敵影が存在している。怪我を負ったとしても休みながら調査を継続する。なんたって、『長持ちする女』なのだ。
さあ、準備を進めよう。きっと、島中では恋人も奮闘している事だろう。
成否
成功
第1章 第2節
「オウ、無人島でサバイバルだってえ? え? 違う? 開拓?
……それにつけても拠点作るなら暫く滞在するわけで、そんなら生活必需品の確保が先だろうが」
アクエリア島内にて、グドルフは生活拠点の確立を提案した。拠点を作るとなれば滞在する必要が生じてくる。テントだけでは味気なく、出来得る限り生活の質を向上するならばコテージなどがあればベストだ。
しかし――「……まず必要なのは、兎にも角にも水だぜ!」
彼は島内を歩き出す。木々を掻き分け、探すは泉や川。重要なポイントを目指せば潤い豊かな場所にはやはり『敵』が存在するというものだ。
「おいおい、先客か?」
それに折れているわけにはいかないと彼は武器を手に相対する。調べたりするのはあまり得意ではないのだと島の探索を行うかんなは驚いたようにぱちりと瞬いた。グドルフに加勢した際にその傍にあったのは『洞窟』に繋がる水場である。
どうやら他のイレギュラーズが調査に向かった洞窟から繋がるその水場にはぷくりぷくりと歪な何かが浮かんでいる。
「……これは?」
水場と言う重要拠点を見回っていたかんながぱちりと瞬く。それは歪な形をした果物にも思えた。ひとまずは持ち帰ろう。
「探索もしたい所だけれど、こちらは個人的な趣味が強いから。一先ずは狂王種の掃討を目指しながら皆の元へ『これ』を持って帰りましょうか。ふふふ、大丈夫。たくさん戦うのも、慣れっこよ」
あまりうれしい事ではないけれど、なんて唇を尖らせて白を身に纏った彼女はふわりふわりと歩き続ける。
その手がしっかりと握りしめたそれを見て、イレギュラーズは歪でも尚、金に輝く果実ではないかと驚愕の声を発した。かのドレイクが食したと言われるそれ。伝えられる『御伽噺』にも出てきそうなその形――それが食用であるかは分からないがイレギュラーズ達は皆、それを求めていた。
「これはしっかりと持って帰って確かめなくっちゃね?」
この島の中にはこうした果実も埋もれているのか。あるいは洞窟を探索する誰かからのメッセージであったのかもしれない、なんてかんなはその唇に笑みを乗せた。
木々を掻き分け進むのも一苦労だと焔はため息を吐く。施設を作る場所は粗方みんなが設定してくれるだろう。砂浜や島内を隈なく確認し探索する仲間たちの声を聞きながら『道』作りを始めようとやる気を漲らせる。
「うーん、と言っても、専門的な知識があるわけじゃないんだよね……」
一先ずは歩き易いように大きな石や邪魔になるもの、木々の伐採などを進めていく。無人島という事もあってか、足場は不安定そのものだ。しっかりと踏み固めて平らにすることも必要だろう。
「木は切り開いて資材にすればいいってソルベ君たちも言ってたし……思い切らないとね!
どこかに切った木は纏めないと。流石に1人で出来ることじゃないし、誰かに手伝って貰えると嬉しいんだけど……」
きょろりと周囲を見回した焔の伐採した木々をじいと見つめてから沙月は「良い木材です」と頷いた。自生しているものは生命力が強い。沙月は木々を眺めながら拠点を新たに建設するのはとても楽しそうだと笑みを浮かべた。
そう、何を作りたいかも全てイレギュラーズ次第だ。例えば、『簡易拠点』とするだけではなく、航海の中途の地として考えるのであれば『道場』が必要であろうと彼女は説いた。
「この後の事を考えると身体を鈍らせないように動かす場所というのは必要だと思いますし……無駄にはならないでしょう」
「うんうん、軍人さんたちも利用するしね?」
焔に沙月は頷いた。一先ず、これを『必要だ』と説くのならば根回しは必要なのだろうかと彼女は憂う。そういう事は余りに得意ではない。何事も説得(物理)で済ませて、『理解させたい』ものだ。
「とりあえずは海洋王国の関係者などにも話をしておきましょうか。
先に一先ずコンテュール卿らとは『話した』ので助力してくださる軍人の皆さんは……」
一先ず、軍人さんたちならば武力で分からせてもいいかもしれません。沙月の様な美女に負けたとなれば軍人たちにも火が付くというものである。
宿泊所が必要だと聞いて、早速その準備に取り掛かっていたルアナはふかふかとしたマットレスを持ってきてよかったとその掌を埋もれさせる。
「じゃあ、鍛錬場の傍にはやっぱり宿泊施設が必要だよね! 皆がゆっくりと疲れをいやせるといいなー! ほら。美人は眠りからって言うしー」
にんまりと微笑んだルアナにグレイシアは「そうだな」とさらりと返す。「あー、おじさま! 今、適当に返したー!」と頬を膨らませながらもルアナは木材を床板として丁寧に張っていく。
ふと、ルアナが準備を終えて小物を運び込んでいるのを確認していたグレイシアは彼女の姿が消えた事に気付く。
「ルアナ?」
「はーい! おじさま! 宿泊所のロビー? にくまちゃん置いていい?
これ、出かける前におじさまのベッドの枕元に置いてきたくまちゃんとお揃いなの!」
声が掛かったと振り向けばそこにはルアナの姿はなく、くまが堂々と鎮座している。いや、ルアナがくまに隠されているだけか。
そのもふもふとした愛らしいぬいぐるみの腕を動かすルアナにロビーとグレイシアは呟いた。ロビー、待合の場であればそうしたものがあってもいいだろう。しかし――
「ふむ……ロビーなら良いだろう。だが……何故、お揃いのくまをここに置くのか」
枕元に置いてきたというならば、ルアナが持っていればいいだろうにとグレイシアは不思議そうに彼女を見遣る「えー?」と首を傾ぐ。くまちゃんはかわいいから必要だと力説する愛らしい少女にグレイシアは「まあ、可愛さは癒しだからな……」と緩く頷いた。呆れられている気がするのは、きっと、気のせいではないのだ。
「どうせ野戦病院は地獄になるんだから病床数確保メインで行くわよ! ココロ! とまり木はどれくらいあればいい?」
師の問いかけに『医師(の卵)』としてココロは指示をする。大きめの木に着目した彼女は妹弟子のリアナルに資材調達をお願いする。
ココロの指示を伝えるイーリンに一つ頷いて、パカダクラを駆るミーナはレイリーと共に資材の運搬を担いリアナルへと向き直る。
「リアナル殿! 良い場所見つかったら教えて。資材を順々に輸送するから」
「それじゃあ――」
ココロの方を向いたリアナルにレイリーは頷いた。「頼んだぜ砂駆。お前ならやれるだろ」と励ますミーナへとイーリンがくすりと笑う。
資材の準備はばっちりだ。速やかなる診療所(宿泊場所としても利用できる)の確保のためにココロが出す指示にイーリンは頷き、効率的に仲間たちを統率していく。
ふと、邪魔になる木々を見つけて薙ぎ倒したその時、ミーナが言っていた言葉を思い出した気がしてイーリンは小さく笑った。
「こういう時はあれよねミーナ。環境破壊は気持ちいいわね。だったかしら?」
「いや環境破壊じゃないし気持ち良くはないだろ」
ミーナの突っ込みともとれる返答にイーリンはくすくす笑う。リアナルがココロへと資材を運び、簡単な診療所を立てる様子をしたから眺め「大丈夫リアナル、腰痛めてない?」と励ましの声を送るイーリンにリアナルががばりと振り返る。
「人の腰をなんだと思っている、そう簡単にいわしはせんが?!」
その言葉にココロは小さく笑う。木を主体にして診療所を作ったのは見つけやすさとそして、飛行種が多い海洋王国の特徴を生かしたからだ。蛇やサソリと言った有害な生物を避ける事にもつながっているのだろう。
準備は完了だ。此処からは医師の腕の見せ所だ。リアナルに礼を言ってからココロは負傷者の手当てなどが効率的に行える導線のチェックを始めていく。
「手当なら承るので!」
「ええ、けれどココロ? そろそろお茶にしましょうか。南の島もオツなものよ」
レイリーに手伝ってちょうだいと微笑んだイーリンにココロはほっとしたように頷いて見せた。
準備を速やかに進める事も必要だが、イレギュラーズが此処でくたびれてしまうのもいけない。早速だが、休息を一つ挟んでから次なる準備に進もうではないか。
「うきゅ! 植物なら任せるっきゅ!」
なんたってレーゲンは『森アザラシ』なのだ。植物との疎通や自然の知識を生かして、ウェールと共に薬に使えそうな植物を捜索しに出かけていく。
「病棟が出来たのは確認できた。医師が居る時は良いが、いつも医師が常駐するわけにも行かないだろうしな。
非常時に初心者でも薬が作れるよう、森や林の中を捜索して薬に使える物を探してレーゲンに……」
「じ、実験!?」
やだやだと首を振るレーゲンにウェールは「ダメか?」と問いかけた。
問題なければそれを資料に纏めればと思ったが、森アザラシNGが出てしまったようだ。
「帰ったら甘酢っぱいタレを絡めたから揚げとか作るから、な?」
「から揚げだけじゃなくオムライスも要求するっきゅ!
ケチャップでなんかマークを描くっきゅ! ハートでもいいっきゅよー。せいぜい恥ずかしがって描くっきゅー」
「…………オムライス? それぐらいならいいが、三十路おっさんの愛情を込めたケチャップを見て後悔するなよ……」
そうぼやいたウェールにレーゲンはくすくすと笑った。
正直言えば推しが無人島で遭難しているところは非常においしい。
ローズはへら、と小さく笑った。平和的にカップリングを推していると幸せではあるのだが、放置しておけば死んでしまう人が居るとなればそれは看過できない。新たな果実(ネタ)を見つける為にも必要な事なのだと壁サーの女王は武器庫を作る。
ある意味でローズにとっては武器庫(意味深)ではあるローレットだが、それはそれでこれはこれだ。
「武装を守るための受けに見えるかもしれないけど、攻めに転じるためには多くの武装が必要でしょ。
だから、これは攻めのための受けなの! 武器庫は一カ所じゃダメ。
敵が武器庫を1つ破壊してしまえば、甚大な損害よ?」
難しいがこだわりはばっちり。防衛ラインを保つためには必要なのだろう。彼女に気圧されながらプラックは大きく頷く。
「じゃ、じゃあ森の伐採でもしながら武器庫やその周囲の森の伐採を続けていく。機動力を生かして縦横無尽に森を駆けまわったプラックはアクエリアという無人島はまだまだ未開の場所が多いことを実感していた。
「廃棄された建物とかはるのか? ……修理の目処は建てておきてぇな。
つっても、俺は船の修理くらいしか知識ねぇんだけども」
頬を掻いたプラック。此処が無人島であることを思えばこそ『安全』なんて言えないのだと利香はふむ、と小さく呟いた。
「安全な島と言ってもそこまでの海路はあの絶望の青じゃないですか?
となると個人的に一番気がかりなのは急に何かが必要になった場合ですよね……何かを取りにあの場所をまた往復するなんて絶対嫌ですよ!」
そう、彼女の言う通り航路となるのは絶望の青と呼ばれたその海域だ。アクエリアとて『清浄なる気配』を包むための加護を与えんとしていても廃滅の危機はすぐそばにあるのだ。
「倉庫を作りましょう。その場所もチェックお願いしても?」
「OK、任せろ」
プラックが走るそれを見送ってから、利香は「ふむ」と小さく呟いた。控えめな倉庫でもいいが出来る限りのものを準備したい。備蓄が重要なポイントであることはしっかりと考えておかねばならないのだ。
「っと――『やっぱり』な?」
「え? 何々、なんですか? あー……狂王種? いひひ、欲しがりですね」
けれど、戦うことはやぶさかではないのだと利香は狂王種に向き直った。
プラックは拓いた後方を確認してからここからは通さないとその両脚に力を込めた。
「拠点にするならこの島で食料を確保出来るようにならないとな。
……となれば農家がやることは決まっている。畑作りだ」
そう言ったポテトにリゲルは大きく頷いた。食糧の確保は彼女の得意分野だ。ならば、専門分野である彼女に指示を仰ごうと普段とは『真逆』な調子がどこか擽ったい。
「近くに真水があって、通いやすくてそれなりに広さがある場所が良いな。それから――」
「ポテト」
横に狂王種が居るなんて、リビングで他愛もないことを話すように『さっくり』と倒れていくものだからポテトはつい、面白くなって笑みを零してしまう。
「魔物は任せろ! ポテトの邪魔はさせない!」
「ああ、ありがとう。それじゃあ、気を取り直して、良い場所があったら早速開墾していこう!」
精霊たちに『おねがい』をして。ポテトがふかふかのいい土を作る為に尽力する中――
スポ根魂に火が付いたようにリゲルがざっくざっくと耕し続ける。
「休んでる暇はないぞ、続いて開墾だ! 鍬でガッシガッシとやればいいんだな。
柔らかくして植物が育ちやすくなるよう頑張るぜ!」
「そう、リゲ――って、もうこんなに耕したのか!?」
穏やかな雰囲気で開墾を続けるポテトはぱちりと瞬いた。夫の勢いが凄すぎてついつい気圧されている状況だが、ここは『専門家』として頑張る所だ。
「ほら、種をまいたら後は此処に居て成長を見守るだけだ」
「ああ。食の心配をしなくても良いのは安心感にも繋がる。
思い切り戦う事ができるだろう。よく頑張ったな」
ぽんぽんとポテトの頭を撫でて。ここに来る人々の腹を満足させられるようにと二人は笑い合った。
成否
成功
第1章 第3節
「お仕事……頑張っていこー!
拠点整備という事は、一番はじめに到達するこの砂浜の近辺が一番大事だよね!」
えいえいおーとクランベルはそう言った。悪戯な笑みを浮かべた彼女が考えるに、必要となるのはこの周辺の安全確認と簡易的な拠点の作成――そして、『美味しいごはんと安全な寝床』だ。
ざざんと押しては返す波を見ればアクエリアが絶望の青の只中である事を忘れさせてくる。
警戒を行いつつクランベルは高台となる部分がある事にふと、気づいた。そうした場所から確認をすれば丁度良いだろう。
「あ、資材の運搬なんかは任せてもらっても大丈夫! 物を運んだりするのは得意だからね!」
こういう時は『協力』するのが大事なのだ。クランベルが見つけた高台に灯台を設置したいとカイトは進言した。
「欲しいものはいっぱいあるな、港も欲しいし、修理するためのドックも欲しい。
あぁそうだ、『灯台』とかもあったほうがいいんじゃねーか?」
「そうね、補給拠点になる孤島に必要な施設は……灯台、灯台だわ。
岬の先端や港湾内に設置して、灯りを付けて船舶の目標になる施設、夜間なら効果は抜群だわ。
移動手段があり、なるべく高い位置に作り、石材を利用した頑丈な建物がベストね」
イナリもその意見には同意だったのだろう。カイトは大きく頷く。しかして、イナリは実のところ自分でやりたいことがあった。五穀豊穣の力で島一面を一大穀物地帯にして、アクエリアの穀物庫に――なんていう欲求は一先ず飲み込んでのアクエリアにおける『開拓』事業である。
「灯台ってのは、この島に無事に来れるようにするための『目印』でもあり、
荒れ狂う天気を予測するための『観測所』でもあり、襲いかかる敵への『見張り台』でもあり、同時に『デコイ』でもある」
だから目立つだろうとカイトが指させば、その背後、島中に作られて行っている重要施設が損害を受けない位置であることを求めたいと言った。
「まあ、離れすぎもあれなんだけどさ。一先ず、資材の運搬をやろう。飛んで運べたら高いところを作るのも多少は楽だろ?」
「じゃあ、手伝うよ!」
クランベルの声にカイトが頷く。イナリは水路も活用して色々と考えていきたいわね、とその高台から大いなる海を一望した。
「まあ、立派なのは作れないだろうから、櫓みたいな感じで組んでいって、風を感じるぐらい高く作っていこう」
それを見上げてならば、高台から少し離れた位置に――そして、浜辺であえば『絶望の青』であることを覗けば風光明媚である。ならば、とリュティスは「好きなもの」の設置をしてもらえればうれしいと率直な『個人的意見』を提案する。
「カフェスペースなどあると良いのではないでしょうか?
何もない所ですと気が滅入るかもしれません。気分転換できる場所があれば良いのではないかなと思いました」
「成程! それは良いと思います」
司令塔となるべく周囲を見回していたヨハンはうんうんと頷いた。リュティスは勿論、給仕などは自分が可能である事、そして、軽食やデザートを楽しめる場所になれば更に憩いの場になるだろうと提案を続けていく。
「飲み物の種類は多い方が楽しめそうですよね。……ここがオッケーとなるかどうかは腕の見せ所といったところでしょうか?」
「そうですね。やっぱり、絶望の青ですし――」
だから、まずは狂王種を出来るだけ倒した方がいいのかもしれないと海岸線に沿い現れる狂王種と睨み合いをするヨハン。
「船着場はまぁ海辺に作るとして、司令部や宿泊所は安全面や利便性を考慮しないといけませんし、こういう敵が出て来るのも織り込み済みですね?」
「……成程っす」
頷いたリサは仲間たちが迎撃する様子を見ながら『桟橋』も安全ではないことを再確認した。
木々を担いで、ハンマーで釘打ちながら桟橋からの足場になるキャットウォークを組み立て続ける。幸い、海洋王国が求めたものはイレギュラーズ達で準備は完了している。此処までの経路を考えれば船の修理を行うスペースも必要だとリサは準備を続けていた。
簡易的なもので、王国が所有する軍艦などの整備は出来ないだろうが、それでも『ないよりはまし』というのが実情だ。余った木々を使用して武装を準備することもできるとふと、振り向けば――
砂浜で、淡々と作業を進めるアトは海岸線に沿うように有刺鉄線を打ち付けていく。その様子が灯台から高台から見て取れてカイトは首を傾いだ。
「ああ、何やってるかって? 逆上陸に備えてるのさ!
いいかい、僕らにとって船着き場は入り口であると同時に急所だ!
ここを起点にして、背面から思いっきり殴られたら僕らの橋頭堡は崩壊する!」
「成程。確かに、拠点を持つ方が『不利』になる事もあるもんなー」
と、父が言っていたと思い出しながら言うカイトにアトは頷いた。だからこその備え。備えあれば憂いなしでもある。
「だから備えが必要なんだ、海中から這い出ようとする連中を絡め取るための、網がこの鉄条網ってことだよ」
それでも中々に骨が折れるのは確かだ。アトはずいぶんの距離をこなしてきたものだとため息を吐く。
「一人でやるには時間がかかるかねえ、まあやるしかないんだけど!」
リサは「少し手伝うっすか?」と首を傾いで見せた。アトにとっては福音である。
その様子を眺め、やはり楽観視することは出来ないのだと幻は固定砲台の作成を続ける。アクエリアが『逆に狙われる場所』になり得る可能性は捨てきれない。見張りには飛行種の兵士を当て、敵を迎撃するための固定砲台をセットで設置することこそが『迎撃準備』として良い事だと幻は有刺鉄線張り巡らせるアトに提言した。
「成程」
「一応島に関しては全体像は気を駆使ております。防衛に関しては僕よりも軍の肩の方がお詳しい筈ですし相談をしてみましょう」
地図もしっかりと書き起こした。地図を作成するのも必要だ。外周部の様子が分かるそれを手に、洞窟に探索に行った者たちの情報を合わせれば十分だと幻は軍艦へ向けて歩き出した。
『愛と正義に満ちる光場に悪の付け入る隙は無し! 魔法少女インフィニティハート、ここに見参!』
こちら、お決まりのセリフなのである。
「こういった施設整備は、この島に愛と平和をもたらすため重要な事です。
それを邪魔するような愛無き狂王種は、この島から退去して頂かなければなりませんね」
特に『これから』を見据えている者たちの事を思えば狂王種などの攻撃は看過できるものではない。砂浜の警戒を行いながら愛は迫りくる脅威を退ける。
ふと、振り返れば火をおこす場所を探すベークの姿があった。
「タイ焼き!?」
「食べ物じゃないですよ」
炊き出しする場所を作ってるのは鴨が葱を背負って来るわけではなくて、タイ焼きはそもそもすぐにおいしく頂けるのだからとベークは慌てたように言う。
「いえ、大丈夫です。守るべき対象としてみてますから……それにしてもおいしそうな臭いが……?」
「違います。違います。炊き出しの場を作っていたんです。決して、目の前に飯屋があれば僕が食われることも無くなるでしょうとかそんなこと全く考えてませんよ……?」
本当ですとベークは何度も続けた。窯ので炊き上がるほかほかごはんは美味しいけれど、タイ焼き(自分)は別に食用ではないのだ。
「これでも実家はサルベージ屋。こういった作業は懐かしいですわねー。適した水深の場所を探すか、あるいは海底を深堀りし、大型の船舶が直接接岸できるような港を作成いたしますわー」
やる気十分のユゥリアリアは夢は広がると様々な設備を考える。一番の目玉となる港湾クレーンの建築が出来ればいいのだが練達の持ち得る技術がない以上人力でできる限りを行うしかない。
海洋軍よりも人手の貸し出しがあった。それを受けて指示を行うユゥリアリアはメリットを口にした。
「直接船から荷を積み下ろしできるようになりますと作業も非常に捗りますし、人の手では持ち上げにくいものでも積み下ろしできると、今後の海域に色々持ち込んだり持ち帰ったり出来るようになると思うのですー」
「それは良いな」
エイヴァンは頷く。彼女の指示を聞きながら、ドックのような設備は欲しいものだと告げる彼は周囲をぐるりと見まわす。彼自身も軍属ではあるがイレギュラーズと言う側面が強く使用できる兵や部下は居ない。今回は同様に上陸を果たしていた王国より貸与された兵士たちを伴う事となる。
求めるものは様々だが、指揮の高い兵士たちだ。熱心にエイヴァンの言葉に耳を傾け、皆、作業を分担して行動にあたっている。
「欲しがればきりがないが資源を出し惜しみにしている場合でもないからな……」
此処が踏ん張り時なのだと彼はやる気を漲らせた。
ずんずんと進んだムスティスラーフ。浜辺付近まで飛び出して、探索をする自分の姿を遠目から見れば――成程、徘徊老人と呼ばれても仕方がないかもしれない。
「違うよ。僕は探索者であって徘徊老人じゃないよ、うん。
……そろそろ死兆の期限が迫ってる人もいる。僕もまだ先とはいえ期限があるのは確かだ」
あの日、この場所でそっと抱きしめた自分自身。愛の気配を感じはしたが、それはそれとして黄金の果実が此処にあるのだというのならば探さぬ選択肢は何処にもない。砂浜から中心に向かっての探索は詳細にも渡る。島の奥深く――決して人が踏み込むことのない険しい地形は簡易飛行を使用すればへっちゃらなのだ。
ふと、ムスティスラーフは何かが木になっている事に気付く。それは『そこ』に在る事がおかしいかのような存在であった。まじまじと見てから「わあ」と小さく声を漏らす。
それは何処かいびつな形をしているがまさしく――『黄金の果実』と呼べる代物なのである。
成否
成功
第1章 第4節
島内にはまだまだ未知が存在している。アクエリアでの活動を優位にするためには、様々な開墾作業と『周辺警戒』が必要になってくるだろう。
「開拓とは……些か困ったね。私のような獣にとって『創り出す』というのは難しいものなんだよ」
マルベートはそれでも誰でも自分の仕事と本質的な役割を良く知っていると自認していた。だからこそ、開拓は創造性のある人間に任せ、獣としての本文を果たすべきだとマルベートは狂王種を探し巡回を続けていく。
皆が開拓を続けるその場所に近づけさせないことがオーダーである。荷を運ぶ者たちを護衛するコゼットとて同じだ。
「たたかいが、ひつようになるよね。悪意をむけてくる敵が、たくさんいるもの」
コゼットのその言葉にマルベートはにい、と小さく笑った。兎の耳を揺らしたコゼットは出来る限り作業者の手伝いにあたってる。しかし、最後の防波堤となるべく戦闘準備も欠かさない。
「これ、あっちでいいかな?」
コゼットの問いかけに資材を運んでいた軍人が大きく頷いた。一先ずはイレギュラーズ達の許に資材の運搬を効率的に行っていかねばならない。対するマルベートは島内の巡回にあたっていた。まだまだ作業地点よりも遠くには三回の場所も多いだろう。
「これだけ居れば、幸い得物には困らないようだ。殺して喰って殺して喰って時々休憩。延々続く美食遊行を楽しませてもらおう。――さあ、この島を征服し尽くそうじゃないか!」
楽し気なその声音と共に狂王種が薙ぎ倒される作業場付近まで堂々と寄ってくるそれにぴょんと撥ねたコゼットはその耳を揺らして、一気に距離を詰める。
コゼットが惹きつけたそれを討伐し、マルベートはその舌をぺろりと覗かせた。
「資源は用意されるとはいえ、外から運ぶとなれば限りはある。事が巧く運び、周囲の狂王種が駆逐されたとて、冠位の領域には違いない。
可能ならば、島内で資材や食糧を確保できる場所も把握しておくに超したことはあるまい」
愛無は静かにそう告げた。ここは『絶望の青』、そして――愛無のいう通り『冠位魔種』と呼ばれる存在のテリトリーであることには違いない。もとよりここは魔種らが潜伏していた場所なのだ。冠位やその配下の魔種達の影響を帯びた強力な個体なども存在しているであろうこと、そして、家屋の設立場所は粗方開けてはいるが場所にも更なる脅威が存在し、奇襲をかけてくるという可能性を鑑みる。
「狂王種と冠位が繋がっているなら、黄金の果実は渡したくないと思われるゆえに」
「成程。なら、資材を運ぶことや敵の退治を使用かな……?」
愛無のその言葉を聞いてからドゥーは頷いた。彼らの眼前には『狂王種』が躍り出る。愛無は「中々に脅威だ」と小さく呟いた。巨大なそれはイレギュラーズ達の建設予定地を目指して進撃してくることだろう。
「絶望の名を冠する海を制するに、必要なのは希望と勇気。
かといって、常にその炎を燃やし続けられる訳もありません」
だからこそ紗夜は橋頭堡として必要なのは安全の確保であると進言した。振り向けばドゥーや愛無が相対する狂王種の姿もある。
「ここは警戒が行き届いて、安全に休息できる場所だと判ること。
そういう風に作ること肝心と……ならば、私が用意したいのは『監視の為の櫓』ですね。こう言った相手も居る事ですから」
常に抜刀状態であった紗夜と共に、愛無が攻撃を重ね続ける。腕を振るった狂王種は何かを組み合わせたような怪物の姿をしていた。牙を覗かせて飛びついてくるそれを受け止める。
(あまり建築に造詣は深くありませんがこちらであれば――)
専門はどちらかと言えば『戦う事』だ。陸と空。その間に建てられるならばいい。外界と海からの脅威、そして『更なる脅威』が迫りくることだってわかっているのだ。
真正面から切り裂いた、その赤い色の間を抜けてドゥーは狂王種の外皮に何かが絡みついている事に気付いた。
(あれは……?)
それは歪ではあるが確かに食物の形をしている。金の鈍い輝きは人工物であるかのようなイメージを植え付けるが――まさしく。
「歪んだ黄金の果実……?」
「成程、どこからそれが現れるかも分からないものだ」
愛無の言葉に紗夜は確保するべきだとそう言った。ドゥーは頷く。それを確保するのは誰かを救う為の機会に繋がっているのだ。
その手がしかと、その果実を手にする。甘い香りを感じ、ドゥーはほっと息を吐いた。
「ふうん。ここがアクエリア。あたしにはあまり関係ないと思ったけど──ま、付き合ってあげるわ」
そう言ったみるくとは対照的にテンションアップでハピパピモードのアンジュは「ふーーーん。無人島だって! おもしろそ」と周囲を見回した。
「ねー、エンジェルいわし、ここで繁殖させない? いわし島にするの。よくない? だめ?」
「ダメよ」
みるくのその言葉に「だめか」とアンジュはぺろりと舌を見せる。パーシャは「とりあえず簡易的な宿泊所を作りたいですね」と首を傾げ、みるくは「え?」と瞬いた。
「ここは敵の本拠地の目の前よ。一刻も早く撃滅作戦を練り上げるために『司令部』の設置が最優先に決まってるでしょ」
「エンジェルいわしの繁殖所の次に必要なものを考えたんだけど、まーしょーがないしね。うん。
故郷(おくに)のためだし。で、つくるのはちょー重要そうな『船着場』を優先かなー」
三者三葉とはよく言ったものでみるく、パーシャ、アンジュの中での『重要度』が見事に割れている。
一先ずは誰かが作っているのを手伝いつつ三つとも作ればいいだろうというのが三人の中での共通意見だ。
「ほら、いわし、丸太運んで。むり? むりか」
「丸太に潰されちゃうかもしれないですね……」
「い、いわし、死ぬなーー!」
楽しく作業するというのもすごくいい事なのだとレストは小さく笑った。逸れエンジェルいわしがレストの手元を伺えば彼女が準備しているのは野菜畑や果樹園であった。
「長い航海での野菜や果物不足は、体に悪いみたいだもの。
この島を拠点にするのなら、食べ物はあればあるほどいいでしょ~?」
いわしは見ている。美しい川がこっちにあったとレストにアピールをしている。流石、イワシなのである。後でアンジュに褒めてもらおうではないか。
レストはある程度開けた場所を使用すれば素晴らしい果樹園が出来上がるとどんどんと開拓作業を続けていく。
それを見つめてラダはこの場所が絶望の青では比較的安全地帯であることを分かっていても絶海の孤島である事には違いないとレストの行う『開墾作業』を手伝い続ける。
「いつ孤立するかも分からないのだし、生活物資だけでも多少は自給できる方が望ましいと思う」
「そうね~。それに採りたてのお野菜はとってもとってもおいしいわ~?」
にんまりと微笑んだレストに頷いて、ラダは農業系というのはさっぱりであると海洋軍でもそういった造詣に深い者を承知した。果樹園を作成するレストにもアドバイスを行う専門家にラダは「この辺りでは作物は何がいいだろうか」と問いかける。
「自生している果物なども食用ならば作成してもいいだろう。
ああ、それに――いつかコンスタントに船が往来するようになったら、ちょっとした資金源や補給地にもなれば上々だな」
「アクエリア産って言って市場に並ぶのね~。それってとっても楽しみだわ~」
嬉しそうに微笑んだレストにラダは大きく頷いた。そうだ、そういう事も考えられるならばしっかりと作物の作成にも手を入れておくに越したことはない筈だ。
川を覗き込めば自分が写り込む。シルキィは、あの時は鏡の向こうには『彼女』が居たのだと確かめるようにそっと冷たい水に触れた。
ミロワールと名乗っていた彼女、鏡の魔種、誰かの影響を直に受ける可能性があるのだとすれば――今の自分が彼女に会えばもっといい影響を与えられるのだろうか、なんて考えてしまう。
「魔種ミロワール……あの子がいた場所なんだねぇ。
……あの子はもう一度、『死にたくない』って思ってくれたかなぁ?
今はわたしも廃滅病の身。『死にたくない』からお仕事頑張るよぉ」
そう、呟く。あの黒衣の少女は今は何処にいるのかは分からない。ほうきに乗って様々なものを届けながら、簡易宿泊所に必要な準備を整えていこう。シルキィが物資を運ぶ先でううむと悩み続けていたのはスティア。
「これ、持ってきたよぉ」
「あ、ありがとう!」
にこやかにあいさつを交わしてから、スティアは「あのね」と親友へと向き直った。
「んー、宿泊所に病棟も建設予定ってことだけど別に診療所があった方が便利だよね
少なくても衛生面とかも考えると無駄にはならないはず……? ついでに簡易的な礼拝所とかも付けれると良いんだけど!」
「うんうん、いい考えだと思うよスティアちゃん! なんだか本物の聖職者みたい!」
最近は聖職者を志していると聞いた親友。サクラの目線からは『本業サメ召喚士/副業貴族令嬢』に見えていたのだ。それが『本業聖職者/副業サメ召喚士』くらいになってくれれば喜ばしくて涙も溢れるというものである。
「とここまで考えたら後はどうしたらいいんだろう?
サクラちゃん、教えてー! 困った時のサクラちゃん頼み!」
「えっ!? 私!?」
自身は騎士である以上、分からないと首を振るサクラにスティアは「サクラちゃんなら大丈夫」と頼る様な目を向ける。診療所と言えば受付、診察券、ベッドと指折り数えてから「あとは、わからないです……」と呟いた。
「実際作る時って誰かに相談した方が良いのかな? って思ったり……とりあえず案を持っていってオッケーなら取り掛かれば良いのかな?」
ギフトでも何でも使って許可を取るからとやる気十分のスティアを見てからサクラはそう言えば親友のギフトを知らないな、なんて思うのだった。
「……私が作るのは、食堂ですメェ……どんな戦いであっても、食事が大切なのは同じですメェ……」
ムーの提案はログハウス風の食堂の建設であった。ログハウスの一部の土を掘って、半地下を作れば食材子にすることだってできる。洞窟を基本的な保管庫にするにしても近くにも食材を置くことは重要だろう。
「……半地下なら、それだけ温度が低くなって食材が保存できますメェ……食材庫とは離れたところに、石を積んで、かまどを2~3個作りますメェ……」
火も重要だ。設備を準備できたならば次に必要となるのは『椅子やテーブル』である。顧客が座れるように、そしてたくさんの人が一気に食べられることにも配慮した配置で置いていこうとするそれをモカは手伝い続ける。料理を給仕する際には成程、同船的な工夫も必要だ。
「……みんな生きて帰って、ホッとできる場所になってほしいですメェ……」
「ああ。……拠点の準備を完了したならば食物を保存食にしておくことも準備しなくては」
例えば魚介類は干物や乾物になるであろうし、野草などの植物は茹でて塩漬けにすればいい。突貫作業ではあるが、眠りを必要としないモカにとっては日夜を問わずずっと続けていけるというものだ。
彼の調理の音を聞いて、どこからともなくぎゅうと大きな音が鳴ったのは――気のせいではないのだろう。
「――――――」
黒翼の少女はいつもよりも尚、やる気に満ち溢れていた。目当てとなるものを探せば、その細腕で懸命に運んで行く。ナハトラーベが行っているのは調理場の作成だ。
料理は他人に任せればいいが『場所』がなければどうしようもない。だからこそ、彼女は尽力していた。
唇が戦慄く。今日という日は唐揚げはない。長い航海で『消費』してしまったのだ。
食べきるからこんなにも調理場を熱望することになるのだとでもいう様に一片の黒羽が舞い落ちる。
きゅうと腹を鳴らしたナハトラーベはゆっくりと天を仰ぐ。料理ができるのはまだかな、なんて――そんなことを思いながらアクエリアの整備は進んでいくのであった。
成否
成功
GMコメント
夏あかねです。アクエリアを拠点とするために!
●シナリオ構成
こちらは一章限りのラリーシナリオです。
プレイングの受付は7日の朝8時までです。
●行動指針
皆さんが攻略してくださった『アクエリア』を今後の攻略のための橋頭堡(拠点)とすべく、整備を行っていただきます。
・無人島です。周囲は絶望の青に囲まれた孤島です
・特に拓けた場所でもないので皆さんのアイデア次第で様々な開拓ができると思います
・大きな島です。海洋王国はアクエリアの拠点整備をイレギュラーズに一任します。
また、グループ、誰かとという場合はIDの指定か【グループタグ】の指定を一行目に入れてください。
●拠点整備ロケーション
【砂浜】島の外周部。
【島内】島内は木々が広がっています。
【洞窟】アクエリアの内部の洞窟です。海底に追儺がっているものもあるそうです。
また、各種ロケーションでは戦闘が起こる事もあります。
狂王種が多くいますのでお気を付けください。
(拠点整備のための戦闘を中心に行うなどもOKです。また、探索等も行えます)
海洋王国からは以下の設備の設置を依頼されています(その他は自由に作成可能です)
【船着場】【司令部設置】【簡易宿泊所(病棟含む)】
資材は海洋王国(リッツパークやその他諸島)より持ち込んでいます。
あまり荒唐無稽なものは作成できませんがアイデア次第では海洋王国がこの先の航海を行うために有利な設備を設置することも出来そうです。
●ラリーシナリオ
※報酬について
ラリーシナリオの報酬は『1回の採用』に対して『難易度相当のGOLD1/3、及び経験値1/3の』が付与されます。
名声は『1度でも採用される度』に等量ずつ付与されます。パンドラはラリー完結時に付与されます。
※プレイングの投稿ルール
・投稿したプレイングはGMが確認するまでは何度でも書き直しができます。
・一度プレイングがGMに確認されると、リプレイになるまで再度の投稿はできません。リプレイ公開後に再度投稿できるようになります。
・各章での採用回数上限はありません。
●重要
当ラリーシナリオでは極稀に『歪な黄金の果実』を手に入れられる可能性があります。
どうぞ、よろしくお願いしますー。
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