シナリオ詳細
Vive hodie.
オープニング
●
――その日。
天義に立ち込めた暗雲は瞬く間に晴れ、静寂と清廉なる白き都が戻った。
荘厳なる聖都フォン・ルーベルグ。そう呼ばれていたその都は煤汚れ、無残な戦の残滓がくっきりと残されていた。
瓦礫に塗れれど、命があれば人は新たに芽吹くことができる。
生命の営みはそうして続いてきた、筈なのだ。
王宮や各地でで行われる『不俱戴天の仇』たる魔種を打倒したことへの祝勝会。
前評判として『大いなる魔種』より国家を救う救世の存在たる『ローレット』はその評判を裏切る事無く天義を救ったという事なのだろう。
ここから再度のスタートだ。
禁忌はもう過ぎ去り、日常を始める為に必要な事は――
「掃除?」
イル・フロッタはぱちり、と瞬いた。
天義の聖騎士団詰め所。
「掃除――と言うと子供じみてるが、やるのは聖都内の復興支援だ。
こうも、聖都で敵襲があると……ほら、民草も今後の生活に困るだろう」
それが貴族の務めだとでも言う様にリンツァトルテ・コンフィズリーは静かに言った。
何処かそわそわとし落ち着かぬイルの調子に溜息を交らせながら――行方知らずになった自分を心配で心配で堪らなかった『直情娘』だ。彼女が何所で何をしていたか問い詰めてこないだけでもましだろう――リンツァトルテは資料を投げて寄越す。
「王宮には幸い被害はないが、この騎士団詰め所もそうだし、市街地辺りも煤や瓦礫が散乱している」
「あ、確かに……今日こちらに来る時に思いました。復興の支援も騎士団の仕事、なのですね!」
桃色の瞳を煌めかせたリンツァトルテはぎこちなく笑った。
聖なる都の為であれば、騎士団は動くが民草の為となれば話は違っていた。
しかし、こうして民草の為に騎士団が活動するようになったのもこの国に明らかな変革が齎された証拠だろうか。
「それで! 先輩。私は何を!?」
「とりあえず、お前は落ち着いて行動をする事」
「……はい」
しょんぼりとした調子のイルは肝に銘じますと小さく呟いてから再度顔を上げた。
「復興計画! ですね!」
●
その知らせがローレットに届いたのは先の戦いが終わってすぐの事であった。
その白き都は魔種の強襲により随分と汚れ、そして機能が低下しているのだという。
家屋を潰された国民も居れば、財産を燃やされた者もいた。
避難先として使用された聖堂などで炊き出しが行われある程度の救済は行われているが――戦傷者が多い騎士団では復興に時間がかかってしまう。
ローレットにはその手伝いをしてほしい。
それから、と。
ローレット天義拠点に訪れたイルはぎこちない笑みを浮かべる。
「敵の手が及ばなかった聖堂があるんだ。小さなところなんだけどさ。
綺麗で、それから――何もない静かな所。
ある聖堂の分院にはあたるんだけど。そこで良ければ祈りを捧げていかないかと」
死傷者も多かった。
月光人形――死者の魂――も確かにそこにはあった。
死者に弔いを、そして、その道程が幸或るものだと願って。
天義では死者の魂はランタンに乗り冥府へと運ばれていくと信じられていた。
その道半ば、魂がランタンより逃げだし月光人形と化したそれが無きよう、死者を無事に安寧なる神の膝元へ送り届けるための追悼と祈りを込めて。
「……私が、もっと強ければよかったんだろうか」
少女は囁いた。
「いや、悔いるのは何時だってできる。さあ、頑張ろうか!」
追悼のため、と一輪の百合を手にしてイルはにんまりと笑う。
「今を生きる人を救うのも、『英雄』の役目、だろ?」
- Vive hodie.完了
- GM名夏あかね
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2019年07月27日 22時05分
- 参加人数84/∞人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 84 人
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参加者一覧(84人)
リプレイ
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街並みに、残された傷痕はくっきりと刻まれていて。
此処で何かがあったということをまざまざと理解させる。シフォリィは眩い太陽を眺めてから目を細め、瓦礫を一つ持ち上げた。
失ったものは大きすぎて、すぐに立ち上がる事が困難なもの居る事だろうと思い出の品を探した。
――例えば、結婚指輪、家族の写真。家族の形見。大切なものをセンスフラグで探し続ける彼女の視線の先に国利と頷いたナーガが「うんしょ」と声を上げた。
「ナーちゃんはブキヨーだけど、チカラならジシンがあるよ!
だからおおきなガレキとかイワとか、パワーがヒツヨウなところならマカセテ!」
「ありがとうございます。大切なものを、探しましょうね」
「うん! すっごいたくさんのアイ……タタカイがあったあとだからタイヘンかもだけど、がんばるよ!」
普段であれば濃い血潮の中に居るナーガも今日ばかりは懸命に頑張ると決めていたのだろう。
「ちょっとばかり、これは悔しいな。今の俺じゃ力不足だって意味は痛いほど分かってるつもりだけど――元の世界の力があれば…って、今は思う」
瓦礫の中を見回しながら、ウォルは静かにそう呟いた。自分のための戦いとは言い辛い、けれど見過せるものでもなかったのだと彼は至ってシンプルに瓦礫の撤去に身を乗り出した。
「どうかしたのか?」
「……あ、いいえ……」
失せ物を探すかのような淑女にウォルが首を傾げればシフォリィは「協力しましょう」と穏やかな笑みを浮かべる。
「辛いよね……。大丈夫、私が聞くから、ね?」
復興も大事。だけれど、シフォリィが言う様に立ち上がる事が出来ない人のケアも大事だとアリアは住民の傍らに腰かけた。
思い出の品だというそれは、思い出話だけで心が壊れた人を救う事は出来ないと彼女は演奏を行う。その音色が心を癒し、そして、感情を発露してくれればと。
ぽろぽろと流れる涙を見遣り、アリアは目を伏せる。汚れるのも罵られるのも構わないから、だから――その心を癒せたならば。
「かつて共に見た花の彩りを、大きく広げていく第一歩、です」
イルに絵澪を浮かべた珠緒。騎士団へとあいさつをし、必要な場を蛍と『すずきさん』と『こじまさん』と共に連携して清掃を行うと彼女は進み出た。
大きな敵を打ち破った功労に奢れば日々の支えがおろそかになると珠緒は口にする。
「そうね。物語と違って、悪者を倒してめでたしめでたし、で終わりじゃないもの。むしろこれからが本番よね!」
がれき撤去は体力があり頑健な自分に任せてほしいと蛍は名乗り出た。思い出の品があると聞けば、しっかりと保護したいというのが考えだ。
「誕生日にもらったおもちゃ、付き合ってはじめて貰ったアクセサリー、特別なエピソードは無いけれどお気に入りのぬいぐるみ。なんでも言ってください、探してきますから」
それはきっと大切なものだと佐里はにこりと笑った。安全でない所には自身たちが向かうからと声かける。
「……はぁ……疲れた……今回なんか色々疲れたよねぇ……」
気分も乗らないし、とリリーはニート万歳とゆっくりしようと隠れ家へ向かい……入れないとぽかんと口を開けた。
「……ありえなくない……? これだから、魔種はさぁ……」
もはやボコすことは決定だった。けれど、今はとりあえず――瓦礫をボコすのが一番だろうか。
「……相当な大打撃だな、どこもかしこもボロボロだ。ひとまずは瓦礫を片付けて、道を確保するトコからだな」
ヤナギは小さなことの積み重ねなのだな、と呟いた。長い目で見れば、これだけの規模の都市なのだから取りすぎなくらいの休息を取りながら復興を進めていくべきだとヤナギは呟く。
「体力よりも精神的な事の方が重要だな、そういう部分もケアしないとさ……」
精神的なケアも必要だとクリスティアンはふふふと笑う。
(大変な戦いだった。犠牲もなかったわけではないけど…それでも、まだ街の人たちは前を見つめている。少しでも早く、皆の心に安らぎを取り戻せるといいな……)
だから――このきらめきの王子に任せてくれたまえと彼は胸を張った。
「こう見えても家では小さいながら畑を作って農作業をしていてね……体力には自信があるんだ!」
「うんうん! あの時の戦いは凄く大変だったけど、天義に住んでる人達にとってはこれからが大変なんだよね。少しでも早く元の生活に戻れるようにするために少しでもお手伝いするよ!」
炎の精霊たちが大暴れした後は痛ましいと焔は息を吐いた。それでも火を扱う事に長けた彼女にっとってはその後片付けは得意中の得意だ。
「釘とかガラスとか、危ないものも沢山ありそうだし、ちょっと心配だなぁ……」
子供達に注意をする様に辺りを見回して焔が肩を竦める。
「俺は鍛冶屋だ、こういう時こそ動かないとな……
天義はカースド武器の俺的にはちょっと怖いところだが……こういう時は助け合いだからな……それに修理に鍛冶屋として壊れた物はほおっておけない」
金属品の修理に当たったサイズは鍛冶を行うスペースを確保して周囲を見回した。
普段であれば金銭が発生する……のだが、今日という日は特別だ。サイズは要望がないかと調査に当たる。
瓦礫を撤去してサイズの鍛冶場を作成するルウは復興案はみんなに任せると建物の修復や様々な雑務を引き受けた。
「重い瓦礫の撤去作業や物資や資材の運搬なんかは任せな! そこらの男にゃ負けないぐらい働いて見せるぜ!」
「僕も結構力持ちなのですよ、ふふん。がんがん撤去していきたいとこですけど、アルバムとかあるんでしたっけ?
こちらもできる限り持ち主に届くように、埋もれてないか目を見張っておきましょう。……中には辛いもの、遺品などもあるかもしれませんが、この戦いで亡くなった人たちを忘れないためにも。大事なお仕事ですね! がんばりますよー!」
えいえいおーとヨハンが気合を入れる。天義と言う国に思い入れはないけれど、やはり誰かが笑っている事が一番幸せだと彼はせっせとアルバムなどを探した。
背が高く、がれきの撤去作業には向いているのだとコレットは子供達の思い出の品に注意する。彼女自身『この国では目立つ』事もあるのだろう。
巨人様だ、と子供達が近づくそれに注意を配り、思い出の品を幾つも問い掛けた。
その思い出の品を聞き、文はコレットの言葉の通り彼女が見えぬ部分まで深く入り込み探す。
「……これから再建していくまでは時間がかかりそうだね。
しかし、国が潰れたりしなくて本当に良かったよ。早く市井の人が安心して暮らせるように、今日は頑張って片づけようか!」
貴族として、コーデリアは国家のこれからを想い小さく息を吐いた。
魔種の脅威を退けたとしても、国家の再建がすぐにできる訳もない。情報網と教導を活かし、何所にどういった人材が必要かを彼女は思案し、指示をする。
「復興で大事になるのはイレギュラーズではなく、民の力です。
私の役目は、それが十全に発揮できるよう整えていくことだと思っています。さて、頑張りましょうか」
それが、イレギュラーズのコーデリアではない。ハーグリーブス家のコーデリアとしての言葉だ。
●
「…救えなかったものとか色々思う事はあるけど。今は動く時だよね!」
悩まし気にそう呟いて、シャルレィスはリンツァトルテとイルの許へと歩を進めた。
「人手は多分、どこも足りないだろうけど……薄そうな所があればそこに行くから!」
「ああ、それなら――」
リンツァトルテの指示に頷き、シャルレィスは人形を探し泣いている子供の傍に近寄って、脳裏に月光人形の子供が過った。
「――ッ! ……ね、君は何を探してるの?」
「お人形……」
「ようし、私は冒険者だからね。宝物を探すのは得意なんだ! さ、一緒に見つけよっか!」
子供の手を引いて歩き出す。思いは鎮め笑顔で。今は、きっと、この子の為には笑うべきなのだ。
「んー、私は大切な物を探している人達のお手伝いにしようかな?
こういう時こそ思い出とか大事な物が力をくれるはずだから……ってダメダメ、考えるのは後にして手を動かそう」
頑張らなくちゃとスティアは叔母の指示に従って清掃を行っていた。
ぱちり、と目が合ってイルがぱあと笑みを浮かべる。
「あの時はありがとう。あの時だけは私の騎士さんって感じだったしね、恰好良かった」
「――!」
イルに僅かな照れが浮かび、少し恥ずかしそうに彼女は笑った。
『英雄』――リンツァトルテ・コンフィズリー。愛無にとっては良いエネルギーになりそうだと騎士団の中で資料を眺めるリンツァトルテの横顔を見遣った。
「ん……?」
「時に君はイル・フロッタ君のことをどう思っている?
君が他の団員より彼女を気にかけているように見える。ならば、此方も気にもかかろうという物。愛と平和のために戦う。それが人間というものだろう」
「………」
沈黙。リンツァトルテは視線の先でわちゃわちゃと動いているイルを見遣る。
「あぁ、仕事の邪魔をするつもりもない。仕事をさぼるつもりもない。モチベーションの問題ではあるが」
――そう言われても、今の質問に自分はどうすればよかったのだろうとリンツァトルテは口をあんぐり開いたまま歩いていく愛無の背を追い掛けた。
「こんにちは。傷はもう大丈夫ですか?」
ひらりと手を振ってサクラが近寄ればその背後からイルがスティアの手を引いて手を振っている。
「あの決戦でリンツァトルテ様と一緒に聖剣を握った手、私ドキドキしちゃいました……」
そう言って潤んだ瞳でリンツァトルテを見上げるサクラ。リンツァトルテが驚いた様に瞬きし、スティアが「ががーん!」と――イルの方が『ががーん』であったかもしれない。
「なんて、冗談ですよ!」
揶揄っただけだとイルに顔を寄せてサクラは笑う。
「リンツァトルテ様を取ったりしないよ。帰ってきて良かったね」
「あ――」
ありがとう、と言おうとしたイルを思い切りに抱き締めて『うりゃあ』と髪をわしゃわしゃとし続ける。
「ふふ、今度はリンツさんのこと確り捕まえておこうね?」
戸惑った表情のリンツァトルテはさておいて、乙女には秘密のお話が多いのだ。
「お久しぶりです。お二人とも、冷たい飲み物でもどうぞ」
スティアさんとサクラさんもどうぞ、とコロナが柔らかに声をかける。
「復興は大変ですが、見たところ士気は高そうですね。しかしご無理はなさらず。これから暑くになりますよ」
サマーフェスティバルもあるのだと告げたコロナはふと、ぎこちない表情のリンツァトルテと頬を赤らめスティアとサクラを見て居るイルに気づき笑う。
「お二人は今後、どのような目標をお持ちですか?」
「俺は、やはり家の再建かな」
「わっ、私は、その……ううん、ま、また、言う」
もごもごと繰り返す彼女にこっそりと耳を寄せる。
「まだまだ急ぎ足気味ですが、しっかり支えてくださいね。彼も貴族らしさとは無縁だったでしょうし、気心の知れた人は大事ですよ」
また、乙女は秘密の会話をしているのだとリンツァトルテはただ、首を捻った。
「復興支援に託つけて反社会的勢力が紛れ込む……残念ながら良くある話です。
復興の途にある天義の混乱は、裏社会の連中にしてみれば付け込んで根を張る絶好の機会です。よって、毒を以て毒を制す」
「このまま堅気の方々が食い物にされるのは我慢ならねぇ」
寛治と共に義弘は裏を往く。表に立って居るリンツァトルテ達の知らぬところ、そこで義弘は『ワルイヤツ』の前に立った。
「さぁて、お前さんら、ちょっと遊びが過ぎたようだな。
ここには俺達のようなのは必要ねぇ。とっとと消えろ」
「真っ当なビジネスをするのなら、私のコネをご紹介しますよ」
―――一方で。
「ぶっっっちゃっけわたくし的には天義とか堅苦しくて鼻が曲がりそうなのですけれど、
今回の事件を切っ掛けにこの国が変わるというなら、まあ……お手伝いも吝かではありませんわ」
――なんて、天義のシスターが言うのだからこの国は面白い。シスター・テレジアは『被害にあわれた保守派の有力な方々の御屋敷のお掃除』に名乗り出た。
「メカパカお、メガぴょんた! よろしく……ってなんかハチャメチャだな?」
洸汰は屋敷の傍のがれきからアルバムやおもちゃを集め乍ら目が『¥』マークに輝くシスターを眺めていた。ハチャメチャなのは国もそうだが、人もそうだ。
困ったならばローレットにコールを! 勿論、テレジアも『金銭的』にお手伝いしてくれるはずだ。神もやれやれと肩を竦める程度で『きっと』許してくれるから。
「天義と言えば教会……教会と言えばシスター!
生真面目なシスター達はここ最近の騒ぎもあってきっと疲れている。大変な時だからこそ体を休ませることが重要だ」
イイことをしにいくというフレイ。その隣には『生真面目じゃないシスター』がにこにこしている。
それはさておき、向こうを見る。あれはブス、あっちもブス、一人飛ばして……。
奥に行けば行くほど美人が居るに違いないとフレイは悩まし気に眉を潜めた。どうやら法王や騎士団長は此処には居ないらしい。
「……ところでその際、わたくしが多少の手数料をお布施としていただいたとしても、きっとそれも神の御心ですわ。うふふ♡」
――やっぱり、赦してくれないかもしれない。
●
「オーッホッホッホッ! 皆様!こ のわたくし!」
\きらめけ!/
\ぼくらの!/
\\\タント様!///
「――が! やってきましたわよー!」
『この人が来たならもう大丈夫だ』感を出そうとするタント。民は騒めきタント様だ!と知っているのか定かではないが口にしている。
「元からお体のお悪い方のご相談にも乗りましてよ。ご高齢の方や妊産婦の方はいらっしゃいますの?」
太陽が明日昇ることを疑わぬように、よりよい明日が来る事を煌めきと共にタントは伝えている。
「復興にせよ、怪我を治すにしろ、まず腹いっぱい食って精をつけなくちゃな」
威勢よく声を張り上げグレンはボランティアも大歓迎だと料理を配る。
メインはスープを。野菜の皮むきや材料の下ごしらえと大量に必要になればそれは戦場だ。
「グレン特製スープで美味いと言わせてみせるぜ!」
「なら、スープに合うフランスパンもあるぜ!」
屋台「羽印」を引き出しながら零はそう言った。お礼はまたの宣伝でいいと笑う。
「そもそも俺がしたのは、お前らの明日の生きる道を作ったぐらい。
この後生きれるかはお前ら次第な事、忘れんなよ!」
次に、宣伝してくれればパンが売れて寿命が延びるんだと彼は冗談めかして笑った。
「ふふ。踊る機会はありませんが、生き残った誰かは未来で私のファンになってくれるかもしれません。その為ならばえんやコラです」
弥恵は祈りを捧げるよりも救援を優先していた。軍馬に医薬品を積み込んで負傷者の移動や救出にあたる。
何処に誰が居るかは分からない。未来のファンのためだ。此処で全力を尽くすのがいいだろう。
弥恵が救出を続ける中、移動した負傷者に「食料足りる?」とステラは首を傾ぐ。
「何か、狩ってこようか。でもこないだの騒動で、動物逃げちゃってないかなぁ……果物なんかもあればいいんだけど」
医療の心得はないというステラ。それなら炊き出しで『食料を狩ってきて』はどうかと弥恵が提案する。
「OK、持ってくるね。お腹がすけばイライラするもんね」
一人でも多くの人を救いたい――そう願うアレクシアは癒しを送り、勇気を謳う。
その様子をサポートしながらシラスは肩を竦めた。彼女は優れた術者だ。それ故に、休憩を是とせずに誰かのためと力を使い続けることは重々承知だ。
「無理はしないでね。気持ちを落ち着けて、ゆっくりと前を向いていけばいいから!」
にっこりと笑って言う彼女に、アレクシアもだとシラスは云いたいが――「そっちの人は?」と問われてはやれやれと肩を竦めるしかない。
「アレクシア、昼食。ちゃんと食べなきゃ」
ほら、と彼女にサンドイッチを差し出せばアレクシアはぱちりと瞬き嬉しそうに笑った。
『悲愴を癒す愛と慈悲の光風! 魔法少女インフィニティハート、ここに見参!』
そうポーズをした後に愛は真顔に立ち返ってさて、と歩み始める。
悪を打ち破った事はとても喜ばしいと天を仰ぐ。天の杖に薔薇、それは愛の『魔砲』と同じくした強き愛の力を感じさせる。
「これほどの愛の力を発揮できるこの街の民衆および神職の方々の回復には、私の愛の力が入用でしょう。私も力をお貸しますよ」
愛の傍らでけが人の治療に回ったひつぎは治療を受けに来る人は自己申告での行動をとるだろうと認識していた。『人助けセンサー』を使用して、内心で助けを求めている――傷を負っているにも関わらず治療を受けに来ない人――内心で助けを求める人――を探し続ける。
数多の食材を使用してリーリアは懸命に支援物資を聖堂に届け炊き出しの手伝いを申し出た。
「復興をするにしても、まずは元気と体力!お腹が減っては力も出ないからね!」
料理人としての技能をフル活用するリーリアは子供達用に甘いパンケーキを用意したのだと振る舞った。
「こんなの……」
いいの、と不安げな子供にリーリアはにこりと笑う。美味しいの声と元気な笑顔、それだけでとびっきり幸せになれるのが料理人なのだから。
「ふふふー。指示に従って、炊き出しのお手伝い! お料理はあんまり得意じゃないけど、身軽さには自信があるからね」
スーは指示通りなら大丈夫だと告げる。それを見遣ってはアトゥリは「料理は得意ではないのでリーダーの座は譲るですよ」と『獣耳遊撃隊』にそうつぶやいた。
「炊き出し! なんといっても得意分野! 今日は臨時リーダーの、リーンちゃんさまに任せておけば大丈夫だよー!」
クランベルがどやっとする。スーとアトゥリに指示を送りながらも三人とも力仕事は得意じゃないのは分かっているとキリキリ働き続ける。
回復魔術は苦手だというアトゥリ。重傷者の所へ向かっても焼け石に水かなと彼女は『やることだらけ』にうがー! と頭を掻いた。
「辛い夜があったとしても、きっと朝はやってくるから。
私が昔元気を貰ったみたいに……次は私が、元気を分けて上げられたら嬉しい……かなっ?」
ハッピーになぁれとスーは頑張り続ける。その様子にアトゥリはやってやるのです、とやる気十分。
「まだまだ休んでる暇はないぞ! えいえいおー!」
リーダーのリーンちゃんさまがいうのだ。さあ、頑張ろう!
「シスターキャサリンに会うのいつぶりなんだろう?
この前酒場で会ったっきりだよねー負傷者の支援がんばるよー」
鼻歌交じりの秋奈は歩むイルにやっほーと手を振った。
食材を運ぶのはおまかせあれと気分は明るく歩き続ける。
「崩れた瓦礫か……ふむ。これを回収して崩してセメントにすれば新たな建材にできるな」
ラルフの言葉に、現地の人々は首を傾いだ。練達にもある技術を応用すれば、万能金属と工業知識による再現で雛型は作成できる。
「……ああ、それに住居を追われた人々の当面の住処も確保しなければね。
彼らは共同体的な生活は得意だろうから集合住宅など如何かな」
ラルフの世界に或るマンションは管理はできないからと、長屋に仕様かと設計図を描き続ける。
「天義の芸術家はいるかね? 自分の住む地は自らで創るのだよ」
それを眺めていたラクリマがぱちりと瞬いた。芸術家の傷の手当てをしながら、「これならやりたいことができますね?」と笑みを溢す。
「何もできない事は罪ではないですし、しかし何もできない事はとてもつらいから。
これなら、ラルフさんの『設計案』にも参加できると思います」
柔らかなラクリマの言葉にほっと胸を撫で下ろす。
「わ、そんな状態ならまだのんびりしようよ。天義を守ることはできたけど……皆、ボロボロだね。今日は天義の人々の為に頑張るよ!」
「戦後の爪痕は、いつだって痛々しいね……それでも、助かった人たちが居たのは本当に良かったね」
ノースポールの傍でルチアーノは力仕事なら任せてと芸術家たちや付近の住民たちへと配膳を続けている。
「皆さーん! あったかいご飯ですよ! お腹いっぱい食べて、ゆっくり休みましょう」
困った人の許へはすぐに駆け付けて。ノースポールとルチアーノは懸命にサポートを続ける。
「いっぱい動いたら、お腹が……あ、聞こえた? えへへ、恥ずかしいな」
「あはは。ポーも沢山頑張ったもの。お腹もすくよね。
チョコキャンディあげるね。これで少しは凌げるかも。頑張った後は、ご飯沢山たべようね!」
少し照れたようなノースポールの腹の虫にルチアーノがくすくすと笑う。
「ネメシスはこれからどう変わっていくんだろう。
折角、命と希望と未来を掴んだんだもの。より良い国に代わっていけるといいね」
「どうなるかな……きっと、前よりも素敵な国になるよ!」
「――――――」
物言わぬ屍の並ぶ部屋にナハトラーベは茫と立って居た。俯いて、れっきとした生者は黙々と『葬儀屋』の仕事をこなす。
月光人形。道しるべ。暗黒の海。地獄であったその場所。
(汝らの尊厳を穢す敵ばかり。それでも汝らは勇敢に戦い。そして今や、その安息を妨げるものは既に無し――
さあ準備はできた。勇者たちよ、発つが良い。一度故郷に帰り、そしてレテの川の先へ……)
きっと、快適な旅を。手向けの如く、一片の黒羽も棺の群れに舞い落ちた。
●
――光が綺麗で、きらきらしていて。まるで、花びらみたいだ。
シキは、そう小さく呟いた。天使も神も居ない世界から訪れて、翼の生えた小さな像が何かをシキは知る由もない。
けれど、光に佇むそれがあの人に――大切な人に見えて、祈ったことはないけれど、祈りたいと、そう思った。
「……僕は……たくさんの人を、斬って、裂いて……殺しました。
……僕は“刀”で、“武器”で…そうするのが当たり前で、そうしないと生きていけないから……でも……この間の戦いで、ご主人様の幻を斬った時……楽しいはずのに、少しだけ、苦しくて。
僕は……この気持ちを、知りたいと――人間になりたいと、思ってしまいました」
それは懺悔にも似た、祈り。願わくば、と口にする。
――私の故郷であり、私の家族を断罪した国。
それでも、私はこの国を見捨てられなかったし、これからのこの国を見守りたい。
アーリアはローレットの伝手で海洋に食糧支援を要請していた。
イザベラには「この支援で貴女の人徳が増します」と。ソルベには「女王より先んじて支援する事で貴方の人徳が!」と。
双方、その言葉を言われたら弱いのだ。チョコレートクッキーと具だくさんのスープを振る舞えば、心安らぐ様に市民たちが笑みを交える。
(ふふ、少しでも笑っていてくれたらいいなぁって、思うわぁ)
ベアトリーチェとの戦いでの傷は大きいと黒羽は理解していた。痛みには慣れっこだと一人ひとり、負傷者に声をかける。
(だからこそ、俺達が傷付いた天義の民達を支えなくちゃならねぇんだ。
俺に出来るのは肉体的精神的な痛みを肩代わりすること。傷を治せねぇ俺にはそれくらいしか出来ねぇんだよ)
それでも、と誰かの役に立ちたいのだと黒羽が声をかける。全員には難しい――そして、天義の民たちは皆、英雄の凱旋に喜ぶのだ。
「英雄様だ……いてて」
「おっと、無理するなよ?」
ウェールはアクセルと共に医療知識と技術を持って適切な対応を行っていた。祝勝を喜ぶ前に、その傷をいやしてやらなくてはならない。
医療知識を使用しながらもまだまだ慣れぬ手つきのウェールは手際のよいアクセルの様子に小さく頷く。
(……今回の件で……多くの人が……沢山傷ついた……。
……今でも動けなくて……絶望の中にいる人は……沢山いるはずなんだ……
……そんな人達に、手を差し伸べて……前を向くきっかけくらいは……僕たちにも出来るよね……?
……まだ……終わってないんだよね……この件の恐怖が国から消えるまでは……僕たちが頑張らないと……)
決意を胸に、泣いている子供の背を擦る。グレイルの静かな声に、アルテミアはゆっくりと近づいて「大丈夫よ」と囁いた。
「私は“幻想”の貴族出身ではあるけれど、人を助ける事に地位も何も関係ないからね?
思い出の品は、残された人(あなた)達にとって掛け替えのない物だからね……必ず見つけるわ」
天義と言う国が存続を果した。それがこの国の新たな一歩であることを幻想貴族のアルテミアはよく知っている。国家は関係ない。誰かが前を向くならば――それを、手伝いたいともそう思う。
「全く……たった数体で国一つ潰しかねないってのは本当にごめんだわな。
だがそれでもめげず折れない者だっている。そういう奴らに手を貸してやらんとな」
マカライトは頬を掻いた。カレン――子ロリババアと共に清掃を行いながら失せ物探しを続ける。
大切なもの。それがあるならば、こういう時こそ必要なのだとマカライトはよく知っていた。
「邪魔な瓦礫はドンドン積んでっちゃって! 次々運んで行っちゃうよ!」
それを探す様にしてマカライトの傍の瓦礫を馬車にどんどんと積み込むニーニア。資材は別に分けて、しっかりと決められた場所にどんどんと進んでいく。
お腹空いた、怖いよと泣く子供の傍に座り雪之丞は握り飯ですよと差し出した。
「泣いても落ち込んでも憤っていても、腹の虫はそんなことを気にしません。泣けど笑えど陽は昇り、明日が来る」
「お姉ちゃん……」
「はい。何をしなくても食べねば生きていけないのは、生き物の不便なところですね。
先を思い悩むより、まずは腹を満たす。それが一番でしょう」
落ち着くまで傍に居るからと子供の頭を撫でて暖かなスープを勧める。
その子供の状況を各因子、ニエルはその体に刻まれた傷の様子から、治療を促した。
(部外者の私はここでお役御免。世界の孤児は、どこにも溶け込むことはないのだ)
誰かを救うのも復興の意ってか。物を運ぶなりはできるというミニュイは瓦礫を眺めて静かに息を吐いた。
(瓦礫の上に、元の木阿弥で今まで通りの天義が築かれるのか、それとも違うものが出来上がるのか。
……私がどちらを望んでいるのか。今は考えたくない。体を動かそう)
考えたくはなかった。この国が嫌いだと口にしてミニュイは首を振る。崩れた白亜に以前の様な清廉さは存在しない。
「これで良しっと! 後はくれぐれも安静にして頂戴ね」
ヴァレーリヤが柔らかに声をかける。天義式の儀式は苦手だけれど、葬儀の手も貸せると彼女はゆっくりと葬儀場へと向かった。
――主よ、どうか彼らの旅路を照らし給え。
彼らの魂が、冥府への道で迷わぬように。貴方の元で永久の安息が得られるように。
我らが愛した人よ、灯火となりて我らの旅路を照らし給え。
墓の上の嘆きのままに、我らが朽ちることのないように
いつか我ら、主の御許にて再び相見えんことを願う
全ては主の御心のままに。どうか我らを憐れみ給え――
フードを被ったメルトリリスは周囲を見回した。シャベルで瓦礫を纏めるアランの背に「あの」と囁くように声をかける。
「アマリリスという人が亡くなった場所はどこですか?」
「アマリリス……? あぁ、それなら……」
顔を隠し、腕を隠し。そうした訳ありげな姿を観察しながらアランは俯き唇を噛み締めた。
「ああ、ここで姉は最期を迎えたのですね。さぞ幸せな最期であったのでしょう」
「……お前は――?」
ローレット。勇者と呼ばれた彼ら。それを嫌う様にメルトリリスは「イレギュラーズの勇者は国を救ったでしょう。けれど、『アマリリス』は救ってくださらなかった」と静かに言う。
「私、勇者になる。どんな人でも助けられる勇者になる」
「勇者になる、か」
彼女を救えなかった自分が本当に勇者であるかを疑問視するアランはその背を見詰めていた。
全てを救うなんて到底無理な幻想を抱いて、それでも自分に与えられたちっぽけな力で幻想にしがみつく。そんな彼女が、ゆっくりと、顔を上げる。
「はわ、お見苦しい所を。私はメルトリリス。心優しい貴方様に神のご加護のあらんことを……所で、あなたのお名前は?」
「メル……? 変な名前だな。俺か? 俺は――」
●
魔種。それも冠位と呼ばれる者――それを倒せたことは喜ばしいのだろうとゲオルグは息を吐いた。
それでも、喪われたものは余りに多く。騎士のいのちであり、魔種となった者であり。
ああ、だからこそ、この国は『変わっていく』のだ。
――喪われた命へと祈りを捧げておきたい。魔種となった者達も含めて。
誰もいないときにこっそりと。主へとその安寧を祈るのだ。
彼女は、泣いていた。聖堂で、泪をぼろぼろと溢しながら。
「偉大なひとが、死にました。あるいは偉大になった人が、死にました。
紛い物でも、不正義の真実を伝えた人が、死にました、故に、泣きます。泣くことが、私の使命」
レクイエムを聖堂に。手に持つランタンが白き焔を燻らせ消える。
これが、彼女、リコリスの指名なのだから。
――Maleficos non patieris vivere.(Exodus22:18)
祭壇に向かい十字を切って跪いてルチアは懺悔した。天義の神とは似て非なる、遙か地球の父なる主に向かって、届くこともない祈りを。
魔術と偽りの奇蹟の行使に対して、死を持って償うべきなのだと彼女は息を潜める。
「それでも、私は生きていくわ。正義に殉じて死んだ人たちに、申し訳が立たないもの」
お祈りを送ってヴァイスは神様って此処を見て居るのかしらね、と首を傾いだ。
「神託を下したカミサマはきっと見ているのでしょう?」
答えはない。つまらないわ、とヴァイスは小さく呟いた。少しだけ、ちょっぴりだけ『つまらない』のだ。
「――――神が正義を望まれる。そんな言葉がなくたって、己の正義を立てられるように」
さあ、鎮座する天使様たち。祈り、そして決意するこの姿を見てどう思う?
『カミサマ』も『天使様』も知らんぷりだ。ああなんて、つまらない。
静かな祈りを捧げる。シュテルンにとってはそれは『お父様』に言われた者とは違う。
誰かのための歌を歌いたい。強く、そう思った。
「…神様、神様…シュテに力を、下さい。シュテに…みんなを元気づける力を、下さい」
人々が前を向いて歩けるように。
人々が笑い合えるように。悲しみに負けて俯き泣かぬように。歓びの涙を流せるように――
アイリスはリンツァトルテに「これからどうするんですか」と問い掛けた。
「先ずは国を復興……かな」
そう、静かに言った彼にアイリスはゆるく頷く。迷う魂が此処にはたくさんいると指先で辿って。
「あの戦いでは……死んだ人を模した人形がいて、人が死んで、死の領分が荒らされた、けど。ランタンを、灯すの。さ迷う魂が迷わないように……未練があって留まりたいなら、悪い人に利用される前に、籠に来てもらいたい」
「君がそうしてくれるなら迷子も減るだろうな」
静かなその場所でフィーネは追悼と祈りを捧げた。この国では死者の魂はランタンにのってあの世に向かうと言われている――ならば、その道程に幸せがありますようにと祈る。
(たくさん、救えなかった人が居ました。力不足だというのは、少し、傲慢でしょうか。
それでも……もっと、救えた人が居たのではないかと。
そう思わずには、いられないのです。もっと、もっと……と)
フィーネは『あの人の隣』に並び立つ資格があるのだろうかと懺悔の言葉を口にした。
淡い思いが重荷になるのではと、理解しているのに――けれど。
せめて無事であるように。せめて、幸福がある様に。今は只、祈りを。
(無力じゃないのは分かってる。ベアトリーチェを倒せたのはみんなが尽力したおかげよ?
……みんなで繋ぎとめた平和だもの。だけど、それでも無力さを感じてしまう)
アクアは混沌の海を、額面通り食い破ったあの人を。通りすがりの怪生物と名乗った『あの人』を想う。
助けてもらって――それで終わり。追悼なのかもしれない。けれど、それ以上に感謝を。
聞こえてますか。届いてますか。あの時助けてもらったんですよ、と。
「ねえ、クラリーチェさん……?」
くい、とエンヴィは傍らのクラリーチェの袖を引いた。
「あそこの神父さん? って、この前冥界に一緒に行った人……よね?」
「あの日、友軍として何人かいらしたようですが……お名前等は存じ上げませんね」
クラリーチェはエンヴィを護るのに精一杯でしたから、と冗談めかす。
「えっと……作戦会議中、あの人、ずっとクラリーチェさんを見てたような……知ってる方では無いの?」
どなたかしら、とクラリーチェは首を傾ぐ。遠方に居るその人は、銀の髪に褐色の肌。
似た外見の人はいる者だけれど――どうしてだろうか。気になって、しまう。
断罪の聖女――そうあった見であれど神という存在には懐疑的だというミリアムは冠位大罪との戦争でいいも悪いもなく血が流れ命が失われたことに息を飲んだ。
気にくわないと、天喜と言う国を毛嫌いしていた彼女に取って憐憫を禁じ得ない事は確かであった。
(汝等、迷う事無く神の御許に逝ける様に――)
せめて、『私』は祈りたいのだ。『聖女だった人』のように――みんなの力で救おうとした人達の私語を安らぎを。
「さーて、センチメタルはこれくらいっす! 『ボク』も復興のお手伝いするっすよ!」
瓦礫を抱き上げて、貴道はふんとその手に力を込める。
「HAHAHA、どきな一般人ども! こういう派手な見せ場はミーのものなのさ!
よっ、聖剣使い。HAHAHA、元気そうじゃないか、護ってやった甲斐があるぜ」
リンツァトルテに爽やかに手を振った貴道にリンツァトルテは「ああ」と小さく頭を下げた。
「気合い入れるのは結構だが、張り詰め過ぎて弾けちまうのはつまらねえ。メリハリが必要なのさ、何事もな」
らしくない忠告だと貴道が笑えば、リンツァトルテが「貴方に言われるとそうしなければと思うな」と冗談めかす。
「ま、頑張りな。今後の活躍も楽しみにしてるぜ、ヒーローさんよ?」
この国を護り切れてよかったとリゲルはポテトと共に歩き出した。
「天義復興の第一歩だ!」
最初の一歩は二人で。一緒に、手を繋いで。
瓦礫の対処を行いながら、二人は騎士団として活動するリンツァトルテを見かけて近寄る。
「リンツァトルテ様」
「――あ」
傍らのイルがぺこりと頭を下げてささっと距離を取っていく。その様子にポテトは彼女なりの気遣いなのだろうと小さく笑った。
「イェルハルド様の件は……申し訳ありませんでした。父を守って頂いた事は感謝しきれません」
「イェルハルドを救うことが出来なくて済まなかった。
そして、命がけで天義を守ってくれて有難う……リンツァとシリウスさん、二人がいてくれたから私達はこの国守れた」
リンツァトルテは片膝ついて頭を下げる。それに合わせる様にポテトは胸に手を当て、笑った。
「反転を拒んでくれて有難う。天義を守ってくれて有難う。
――これからはイェルハルドとシリウスさん、二人の願い通り、リンツァとリゲルが共にこの国を良い方向に再生させて行けたらと思う」
「……ああ。一緒にこの国をよくしていこう。それが残された俺達のできる事だと、思う」
頷くリンツァトルテの傍に近寄ったイルが首傾ぐ、リゲルを見遣り、可笑しそうに笑って。
「先輩の友達になってあげれば喜ぶと思――いたっ! せ、先輩、小突くのはなしです!」
彼らは彼らで前を向くのだ、きっと、この奇蹟を胸に。
「……驚いた」
そう呟いたカイトの隣にはどこか困ったような顔をしたヨシュアが立って居た。
二人は同じことに立ち止まり、そして、別々の感情を抱いていた――『ロストレイン』は没落し咎められると考えていたが不正義を濯げというか。
「1人で灌ぎが可能とは思っていないさ。
それに妹がもう1人そろそろ天義に帰ってくるみたいだし、ロストレイン家全員でこの命令を遂げよう」
決意新たにそう告げて、カイトはくるりと振り返る。
「…遅れたが、久しいなヨシュア。少し痩せたかい? 身体の調子はどうだい?」
「……いえ」
ぎこちなく視線を逸らす弟にカイトは苦笑を浮かべて久々に『普通の兄弟』をしようとソファを進めた。
彼と、そして、もう一人の妹さえいればこの国でロストレイン家はやり直せるはず。
だから、父よ――ロストレインは、妹は、弟は守って見せる。だから、どうか、安らかに。
●
――神の声を聞いたと言う聖女は死んだ。…魔種ではなく、人として。
(……救われたのかどうかは私には分からない……。
……確かに奇跡の一端を…有り得ないと思っていたそれを……見た)
それが神の手なのか、その場にいた者たちの可能性(パンドラ)の結果なのか。
この命の可能性が何を示したのか分からない。宿命論を崩すのか、運命のひとつであったのか。
(……人が偉業を成す工程には必ず奇跡が着いて回る……その奇跡を起こすのは人か、神か………答えが得られるはずもないでしょうか……)
だから、クローネは『半分だけ信じる』と口にした。賽の目は確かにそれを示したのだろう、と。
割れたステンドグラスに燃えた宗教画。欠けた女神像。天義の白は祈りで成り立っている。
祈りを捧げるべき存在をベルナルドは修復せんと考えた。自身を罰したアネモネが此処に来るかもしれない。けれど、この国の芸術を愛しているから。
がむしゃらに、前のめりに、この国を彩るべき『奇跡』を修復するのだとベルナルドはゆっくりと手を伸ばした。
神様に懺悔します。クーアは尾を揺らす。
「……『これで心置きなく、この地を焔に包める』。私はそう、思ったのです。
思ってしまったのです。私は最初から最後まで、焔色の美しい最期を欲するねこですから」
炎の色、煌めく世界。此処で出来る善行はこれにて終い。
「天義の善き人々が、正義の焔を、あるいは不正義の焔を欲したとき。
そのとき私がまだ燃え尽きていなければ、またお会い致しましょう」
また、焔が揺れるだろうか。ああ、それが、楽しみなのだ。
天義の関係者でも沢山の死者が出た。シュバルツは目を伏せる。
ローレット。イレギュラーズ。知っちゃ相手。それも、この世界からその命を消え失せた。
見知った怪物と、愛する彼女。せめて二人に安らかな眠りを――
祈る中、シュバルツはゆっくりと立ち上がる。ステンドグラスを睨み付ける様に静かに口を開いて。
「なぁ神様。居るかどうかも分からないアンタに、言いたい事が一つだけある。
アンタが描く運命(シナリオ)が、誰かの笑顔を奪うのなら。
この世の不条理を押し付けて、誰かの『大切』を壊すというのなら」
唇が戦慄いた。シュバルツ=リッケンハルトは神に宣戦布告する。
何度だって抗うと。たくさんの仲間が居るのだと。
「……不幸な結末を打ち破り、運命は変えられるって事、いつか証明してみせるから」
――それが、英雄の在り方なのだ。
英雄たちの闘いの記録を歌にして。
不正義とされながらもおれずに戦ったコンフィズリー。その身を魔種に堕としながらも未来を護ったアークライト。
強大な敵に立ち向かいし騎士と勝利を信じ祈った市民たち。
天義を救った英雄達――戦慄を奏でる。その心に英雄の姿を映し出す英雄幻奏。
リアはゆっくりと目を伏せる。
「これから先、神を信じるだけじゃなく、自らの意思で戦い抜いた彼らが新しい未来を切り拓いていく事を願っているわ……頑張れよ、リンツァトルテさん、リゲルさん」
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました。
願わくばこの国にも善きことがありますよう――!
GMコメント
夏あかねです。天義の復興を。
●天義の復興をしよう
ベアトリーチェ・レ・ラーテによる混沌の夜を終え、聖なる都は普段通りの白を取り戻しました。
不浄なる『禁忌』の存在は消え失せ、今は強く戦いの跡が刻み込まれています。
カンタンな行き先:プレイングの冒頭に【1】【2】【3】【4】と番号指定してください。
【1】瓦礫の撤去/市街地清掃
がれきの撤去や市街地の清掃を中心に行います。
聖都の騎士団や男衆がせっせと作業しているようです。
燃えた後に思いでのアルバムやロケットが埋もれているという住民たちもおり、その捜索に当たっている子供達もちらほらとみられました。
手伝いや、新たに住居の考案など『国家の再建』に手を貸してあげてください。
【2】負傷者支援/炊き出し
ある程度避難は行われていましたが、それでも不慮の事で負傷した民草も存在します。
『シスターキャサリン』を始めとした聖職者たちが聖堂を解放し、負傷者の支援や炊き出しを行っています。
食料の確保や炊き出しの手伝い、死傷者の救援などはこちらで。
【3】聖堂で祈りを。
ある聖堂の分院。人気のない小さな場所です。
中央に天使の像が置かれ、美しいステンドグラスより光が降り注ぎます。
ここでは、追悼と祈り、そして懺悔を捧げる事が出来ます。
神へ語り掛けることができる場所です。大丈夫、貴方の他に誰も居ませんよ。
【4】その他
その他1~3に当て嵌まらない事で、何かございましたら。
余りにシナリオ内容から逸脱する場合は描写はお約束できません。
●NPC
ローレットに所属するNPCであれば名前を呼んでいただければ登場させていただきます。
リンツァトルテ・コンフィズリーとイル・フロッタは騎士団として活動ているようです。
また【天義決戦で出て来た味方NPCに関しましては当イベシナでの登場は可となります】。ご希望の場合はプレイングにご記載ください。
(例:エミリア・ヴァークライト、ヨシュア・C・ロストレイン、『旧き蛇』サマエル、エドアルド・カヴァッツァ)
指定のない場合は登場は致しません。
どうぞ、よろしくおねがいします。
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