シナリオ詳細
フォルデルマン・アプローズ
オープニング
●善き日と信じて
戦いは終わった。
北部の前線は未だ混迷しているが、少なくとも砂蠍については。
「やぁ! 我が愛しき特異運命座標の友人達! 南部の方では、大変世話になったね!」
各地の砂蠍大半以上を撃破し、フギン=ムニンは逃走。
キング・スコルピオは王都を目指す半ばついにイレギュラーズの奮闘により倒れ――
彼の野望は今ぞここに、潰えたのだ。
「私も一時は身が危なかったらしい! だが勇敢なる友人達のおかげでこの通り五体満足! 領土も奪還! 幻想としても再び元気を取り戻した次第だよ! 残党の駆逐などはあるのだろうが――まぁそれは追々として!」
幻想国王『放蕩王』フォルデルマン三世は杯を掲げる。
高々と。高々と。己が『友人』達を王宮に招待して。
「では諸君! 幻想奪還に! 盗賊王討伐に! そして諸君ら、特異運命座標に!」
――乾杯ッ!!
グラスとグラスの接触する甲高い音が鳴り響く。
幾つも重ねて一つの音楽。一つの感情。勝利の証。
フォルデルマン三世は意気揚々に『勝利』を手にしたローレットを王宮へと招待したのだ。自身を守ってもらった……自覚はきっとあると思うが。その礼も兼ねてだろう。数多の料理が、数多の酒がジュースが並んで。彼の好きなパーティが開かれていた。
「どんだけの時間で準備したのこれ?」
「……さて。まぁ今宵は善き日と考えてその辺りは忘れさせて頂けると幸いです」
その一角にて『蒼剣』レオン・ドナーツ・バルトロメイ(p3n000002)と『花の騎士』シャルロッテ・ド・レーヌ(p3n000072)は話していた。キング・スコルピオ撃破は目出度い事だが、そこからの準備が早すぎる。頑張ったのだろう。準備人達が。
「ま、こっちはタダ酒が飲めるとなれば良いけどね。前回は俺が、ていうかローレットが払ったし」
「皆さんにはお世話になりました。陛下も『良いだろうこれぐらい!』と仰られておりますし……今宵はどうぞ、お気軽に楽しんでいただければと」
「ああそうさせてもらいたいね。キング・スコルピオの戦場じゃ、魔種が現れたって話だが――」
言うなり、レオンは口に酒を運ぶ。
――良い。良い酒だ。流石王宮で用意した高級酒。巷の安酒とは違うね。
「ま、心配は後日でいい。今は激戦を勝ち抜いてくれた証として」
アイツらを労ってやりたいものだと、花の騎士へと言葉を紡ぐ。
無傷ではなかった。血は流れた。
誰もが帰ってきた訳ではなかった。ここに『来られない』者もいる。
それでもと、花の騎士は心に願う。
出来なかった事。失った者。例えそれらが重くのしかかろうと。
「出来た事……救われた者……得たモノも、きっとあるのですから」
信じよう。数多の出来事があったのだとしても。
盗賊王の暴力から逃れた今日この日は。
皆で掴んだ――きっと、善い日だったのだと。
- フォルデルマン・アプローズ完了
- GM名茶零四
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2019年01月05日 21時10分
- 参加人数120/∞人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 120 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(120人)
サポートNPC一覧(1人)
リプレイ
●
「オニク! オニクはあるの!? たくさんオニクがほしい!!」
「ハハハ落ち着きたまえ――私の給仕達が用意していない訳がないだろう!」
別に野菜が嫌いなわけではない。されどやはりニクだ。ニクから優先だとナーガは眼を皿のようにしてニクを探す。されば王様が声を。そこいらあそこいらに沢山あるぞとナーガへ言葉を。
「オ・ニ・ク――!!」
まだ調理していない肉の塊すら持ち上げてナーガははしゃぐ。今宵の宴に。
「えへ~♪ おさらにおにくいーっぱいのっけて、おにくのケーキにするの!」
とんでもないモノを作ろうとしているのはリリィだ。喰らうのか。喰らい尽くす気かその特殊ケーキを! しかし本物のケーキも良さそうだと目移り目移り。こうなれば全ての種類を試す他あるまい……!
「王様――王宮での戦い以来だね」
「おぉセララではないか! 君にもあの折は世話になったね!」
あの目前で行われた戦いをどう感じたか、セララは王へと言葉を紡ぐ。
あれはこの国を。そして王を護る為に皆が地を流した戦い。
流れた血の分だけ――この国を良くせねばならないのだと。
「だからね、王様」
この国を良くすると約束してほしい。道が見えないのなら周りの人や
「ボク達を頼ってよ」
一緒に考えて、歩いて行こう。
「王様……いや、僕達の友達のフォルデルマン!」
「ホクブ戦線から、しかも鉄帝側で戦ってたワケだからさ。オレはあまり大っぴらに盛り上がるワケにもいけないんだよね」
あくまでこれは幻想側のパーティなのだから、とイグナートは些か居心地悪そうに。
皆の無事を知りたくてやってはきたが。
「ま、今回はヒッソリと飲んでようと思うよ」
故郷の側に組した事に後悔は無い。ただ今は、犠牲となった両国民の事を想って……
「グフフ……この国の最高権威たる王宮で酒が飲めるとは、何と愉快なことか」
全く蠍様様だと、大二は心中で笑いが止まらない。商社の特権として存分に楽しませてもらうとしようと酒を喉の奥へ。ああセレブ時代の味を思い出す。先戻りもいつかと近いか……! 危ない橋を渡った甲斐があったものだ。
「HAHAHA、粋なことしてくれるじゃないか放蕩王! まあアンタはむしろ政務なんかよりこっちの方が得意そうだけどな! 良い酒ばかりだ最高だ!」
「喜んでくれたのなら何よりだよハッハッハ!」
貴道は言う。王と共に笑いながら。不敬? いやいや知らぬよ。どこまで行っても彼の天はボクシングの神。ザ・グレイテストただ一人だ……まぁその。こっちを見ている花の騎士のニコニコとしている雰囲気に殺気が混じったら流石に逃走しようとは思ってるが。うん。
「HAHAHA! ま、今日は無礼講だよな放蕩王!!」
「ハハハ! ああ無論だとも!」
よっしゃ王から言質とったらもう少し行ける行ける! あ、やべ花の騎士さんこっちに来。
「よっしゃああ!! 今日は宴だタダ酒だあああ!!!」
喰うぜ喰うぜとグドルフは肉に食らいつく。パンドラの準備は万端だ! 次いで酒を樽ごと行くぜ! パンドラの準備は万端だ! 酔ってきたので王の眼前で大いびきだぜパンドラの準備は万端、あ。親衛隊の皆さんお疲れさまです。あ、外ですか。はい。
「んごごぉぉぉがああああッ」
放り出されたけどパンドラの準備は万端……寝ててもちゃんと発動されるのかこれ!?
「祝勝会ならホントは血が欲しいトコっスけど……」
ま、いいやメシだメシと葵は多くの料理を前に言葉を紡ぐ。どれが良いか。まずは種類を多く量を少なく、一口目を楽しんでみるとしよう。腹八分程度になれば丁度良いが――
「んっ? ようマルベート、アンタも来てたっスか」
「おや! そこにいるのは我が友、葵じゃないか! 奇遇――とは言い難い場か!」
知り合いだ。マルベート、彼女は肉料理を中心に…………凄い速度で平らげている。グラスを飲み干し、喉を潤せば。
「どうしたそんな小食気味で。君は男の子なんだから、もっともっと食べなければダメだよ。ほらこれも分けてあげよう! なぁに遠慮することはない私はまた取る!!」
「あ、あ! 待て! 折角分けてた人の皿に……あぁしかも肉ばっか!!」
騒ぎ、喰らおう望むまで。今宵は特別な日であるのだから。
アーベントロート様はご不在です――
「……確か北部前線で怪我をしたんだっけ。その影響、かな?」
スティアが探していたのは暗殺令嬢、リーゼロッテだ。もしかしたら来ているのではないか……と思い散策したが、残念ながらいないようだ。彼女は……私達をオトモダチと呼ぶ、変わった人。
「怖いと思う一面もあるけれど」
可愛い一面もあってなんだか憎めない人。仲良くしたい人。もし会えたのならば――
「他愛のない話でも、したかったかな」
微かに下を向いて微笑むは、リーゼロッテの顔を思い出しての事。
死んではいない。ならまたいつか会えるよね。そう遠くない内に……
「んー……みんなおめでとー……ぐぅ……ぐ……」
リリーは眠たげだ。瞼は閉じかけ、こっくりと船を漕いで。
「はーぁ……どうも騒がしい所は苦手なのよねぇ……目線も集まるし」
憂鬱だ、と利香は言葉を。今は青き肌。元の淫魔としての姿を得ている。
何故ならば全力で戦った結果――『気が緩んだから』と言うに他は無い。全く。命がけの野次馬から『無事に帰れたら呑む』と決めていた故に、初めてのお酒を飲んでほろ酔い気分で――
「まぁ……まだ生きてるんですもの、今日くらいは夜遊びも控えてパーティ楽しみましょ」
開催した王様の面子もありますし……あるのかしら?
「二人ともこんばんは。祝勝会って雰囲気じゃなさそうだけど、どうかしたの?」
もしよければ話してくれるかしら? と、ニルはニアと小夜の二人に告げる。
二人とも明らかに様子が他とは違う。場に馴染めぬ様子であり、恐らくあれは。
「……もしかして、祝える様な場合じゃない?」
「そう、なんていうか……ね。私の所は魔種を取り逃がしてしまったから」
小夜は語る。全てを口に出す訳ではないが、依頼を仕損じてしまったのだと。
故にお祝いの気分にどうしても浸れぬのだ。薬に犯された少女が魔種となり、逃げられて……他にもっと、あるいはもっと上手く出来たのではと何度も思考を重ねてしまう。可能であるならば。
「――次に相見えたなら諸共に断ち切って見せる」
救いたかった思いも。迷いも纏めて。
「……ああいや。そうだね。こっちも成功したんだけど――あたしは醜態晒しちまってて、ね」
ニアは思考する。結局の所、力が足りなかった事に起因するのだと。
見知った相手だった。やり遂げるべくの意思はあった。しかし途中で脱落せざるをえない事態に陥り――結局、己が手の外で全てが終わってしまった。現実を見せつけられた気分だったのだ。多分、これは。
「悔しい……って事なのかな」
ああ、ちくしょう。あたしは弱いって事かと自問する。
だがこれで全て終わりにする気はさらさらない。次は全部、見届けてやる。
力が足りていないのなら――もっと強くなってやるさと、心に誓って。
「みんなは――楽しんでるかな?」
ムスティスラーフはひっそりと。月夜を見上げて事を想う。
ここに来られなかった人。犠牲になった人。そして――己が殺していった人達。
「みんな、きっと」
この日を生きたかった筈だ。
屍を踏み越えたのがこんなお爺ちゃんでごめんね。されど……容易く死ぬ気は無い。
「今日はずっとここにいるからさ」
寂しくない様に。見ているのならば怒りをぶつけられる様に。
耳を澄ませよう。如何なる声を逃さぬ様に。明日へ進むために――今はここに。
頭部の宝石が、月光に瞬いた気がした。
爪痕は残る。誰の心にも。
「分かっちゃいた事……なんだろうけどな」
勇司は言う。大きな戦いの度に大きな爪痕も共にあるのだと。
ならばこの祝勝会は――その痛みを少しでも紛らわせる為に――
「……たくっ。出来なかった事を悔やんでても仕方ねーってのも……」
分かっているのにな、我ながら女々しいこったと。彼は呟いて歩を進める。
息は白く、ここは寒い。パーティーの続きと行こう――
勝利の熱が嫌とは言わぬが、アンナは想う。
中庭へ。進めた歩と共に思考するはこの一月。超えた死線。乗り越えた高揚感。敵意と互いの信念の果てに――そう。己にとっての熱はきっとあの時が最高点だったのだと自覚して。
「……その内きっと、死んでしまいそうね」
同時に、続ければ『そう』なるだろうと確信がある。
だからこそリセットがいるのだと。吐いた息は白く、冷たく。
「……さすがに冷えるわね」
抱くは理由。『死にたくない』その想い。
次なる戦いは――もう少し楽であれば良いと。無理だという自覚と共に今日を過ごす。
たった一通の封書が黒羽と共にそこにあった。
それはナハトラーベの意思。今宵の一幕、やむを得なき事情により『欠席』させて頂きたくとの二文字。彼女は今、どうも一本職の葬儀屋としての従事を優先しているようだ。戦死した者らの弔い故にと。
したためられし文章は少女とは思えぬ流麗かつ礼儀作法に満ちた文面。で、あるが。
「んんっ?」
王は見た。追伸の二文字を。続く言葉『唐揚げを――』と。
料理を取っておいて欲しいという事か。成程成程。格式ありし文面だが、これはなんとも少女である――
ギフトで呼び出したふわふわ羊のジークは、とてもふわふわだった。
「あぁ……語彙がなくなる……」
「それは良かった。二人はここ暫く疲れ果てていそうだったからね……堪能してくれ」
その羊に埋もれているショウを見て、満足そうにデザートを口に入れるゲオルグがそこにいた。旨いケーキだ。流石王宮。
「失われたもの、残党処理……そして突如戦場に現れた魔種の事、気になる事は色々あるが」
「おう。今はお前さんらの勝利の酒に」
乾杯と行こうとレオンとゲオルグは盃を重ね合わせる。
甲高い音がなる。万事を祝う、甲高い音が。
「レオン殿――! 聞いてたもれ! 魔種を叩きのめしてきたぞ!」
そんな中、百合子は真っ先にレオンの元へと。美少女的にはつおい敵を倒したら武勲を讃えるべく敵の頭蓋骨を金箔で飾ったり、盃に加工したりするのだが。
「幻想にはそういう文化がなさそうなのでな、自重したぞ!」
「むしろある方が特異つーか……いや、ま。お前は旅人だけどさ」
クレバーかつ気配りの出来る吾を褒めて良いぞと言葉を紡ぐ。やだわ相変わらずのこの美少女……しかし行いを『よし』とされるのであれば本望だ。強者との闘争は。狂おしく求めた上での勝利は渇きを癒す『美酒』である。
故に結ぼうこれからも。貴殿の『よし』さえあるのなら何者をの喉笛を食いちぎる故。
「これからもよしなに」
――酒の肴にと各々の話を盗み聞きしようと思ったクローネだったが。
「……多い、多すぎる……一人一人で物語が、英雄譚が出来そうだ……」
牢獄から帰還した怪盗、蠍殺しの武闘家、王を守った聖騎士……etc。
誰も彼もが主役級。メモでも取らねばとても把握しきれない。
「……この英雄達はこの後どうやって、何をして……」
呟き続けるクローネの言。
さてさて楽しみなる未来を一つ。生きていく理由にでもしようかと。
「王様と親衛隊長のおねえさん、きいて。
わたしたちみんな、いまからぜったいすごいすーぱー面白いことするから、みて」
すげぇ。セティアさんいきなりハードルをブン上げやがった。簡単に自己紹介を済ませた彼女はブドウジュースグラスを片手に持って。拾ってきた水分たっぷりのワカメと王冠っぽいのを頭に乗せれば――
「――なんでも私が死にそうだった件」
\国王陛下!/
「にてた?」
よりにもよって何故花の騎士に聞いたの? 空気、やばい? やばいのです。
あ。あ、花の騎士さんがセティアの首根っこを引きずって部屋の奥に。あ。ああ~!
「や、やべー! 王様の前であいつやりやがったにゃ……!」
そんなセティアをシュリエは見る。親指立てながら連れていかれた、しかしインパクトは誰にも負けぬ。や、やべぇ。どうする? どうすればいい? どうすればあのインパクトを超えれるかとやべぇ事を思考して――
「二番シュリエ――脱ぎまーすにゃ!!」
とんでもねーこと宣言した! 自らのスカートに手を掛けて思いっきり捲り上げ……
「――陛下の御前でお戯れも程々に」
ようとしたら一瞬で戻ってきた花の騎士に取り押さえられた。やめて! まだ手を掛けただけだから許してあげて! ぼくとしてはそのままスカートを捲り上げてもらってもよかったんだけどあッ、なんでもないです!
瞬間。音と光が瞬いた。
『響く聖なる愛の鳴動! 魔法少女インフィニティハート、ここに見参!』
シュピーン! 今回は間に合いました、愛さんです! さ、いつ魔砲撃つんです?
ともあれニ十歳になったのでお酒を静かに。おや、お酒には強いのかな?
「酔う? 愛に満ちた私が酔うなどという事はないのですが良いですかじっくり説明しますと愛の力とアルコール分解酵素の量は比例して強大となりやがて愛がアルコールと結婚して破局するまでは……」
誰かお水持ってきて!!
「みんなおつかれsummer――! みんなの力でへいわになったね!」
きゅーあちゃんだよ! みんなすごい! みんなヒーロー!
そんな中でもMVPに選ばれた者達はスーパーヒーロー!! 表彰式だ!!
では具体的に誰がMVPに選ばれていたのかと言うと――
「いやホントですねアベルさんマジハンパないって。彼ハンパ無いって。能力を高く整えるだけでもすごいのに、その能力を最大限に活かす行動をしているんですよ? そんなん出来へんやん普通」
なんか微妙にいつもと口調が違う寛治は言う。そう、一人はアベルであると。
自らを鍛え上げ、最大限に動かす力を彼は持っていたと。ベタ褒めである。
彼の知る、ある猫は言っていた――『能力は器、行動は水』
十分な器に余すことなく水を注いだ彼が称賛されるは当然と。
「――色々そういう風にして頂ければ俺も嬉しくはありますがね? でも正直な所俺をダシにして皆で騒ぎたいだけでしょうが君達」
「ふふふ、年長者の悪ふざけにぐらい付き合ってもらおうか。さ、今日は君にスポットライトだ」
さぁかく言われる御仁、アベルの登場だ。ラルフの言葉を受けながら注目を浴びる。
彼は本当によくやった、見事だ。君達ならばもっと高みへ……と思考して。
「さー囲め、囲めー! 今じゃ、そっちへ行ったぞ逃がすななのじゃ――む、なんか違うのか? アベルを捕まえて壇上に上げる催しではないのか?」
間違ってはないが間違っているぜ! アベルを褒める集いであると、デイジーは一拍遅れて理解。うむうむ。先日の蠍退治ではアベルが大活躍であった。ならば褒美にと可愛い妾が褒めて進ぜようと。
「アーベルはえらいのじゃ♪ かーんぱいなのじゃ」
「あーまったく、こう……ああ。ありがとうですよハイ」
「ぶはは! 初めての依頼からの付き合いで大分長ぇが……ホント大したもんだよオメェさんはよぉ!」
デイジーに続いて、背中を叩いて豪快に。ゴリョウはアベルの躍進を素直に祝う。
互いに暴れ牛の護衛をする依頼から長い付き合いになったものだ。そのアベルがこの重要なる決戦で要となる活躍をしたに値すると褒められたのならば祝うが道理であろう。
「まぁ飲め飲め! 流石にノンアルコールだから雰囲気だけどな!」
「さぁさぁどうぞお座りください。おっ、こってますね~ほぐしますね~」
そんなゴリョウに次いでエルはアベルの肩をほぐす。まだ疲れは溜まっているだろうと。
彼女自身は決戦に直接関わってはいないが、目出度い事に違いはない。ならば祝おうと。食べすぎたり飲みすぎたりする者がいれば漢方薬を差し入れに出せる準備もしながら。
「やあ主役。気分はどうだね? 可愛らしい女性達にも囲まれて……いやはや、羨ましいね……」
そこへ銀も祝福へと訪れる。あくまで賑やかしだが、雰囲気を楽しめれば良かろうと思考して。
「まあ飲みたまえよ……って、なんだ、君はまだ未成年だったのか。なんとなし、意外だな」
「あーまぁ普段ガスマスクしてるからアレですけどねぇギリギリ違うんで」
しかし本当にトンデモない計画だ。次から次へとお祝いが飛んでくる上に、そして。
突如。オーッホッホッホッ!! と言う声が聞こえる。あ、この声はまさか!!
\きらめけ!/
\ぼくらの!/
\\\アベル様!!///
「ですわ――!! アベル様、どうぞ今宵はおめでとうございます!!」
出たなタント様。ギフトでの喝采、珍しく最後は肉声だ。
拍手喝采称賛絶讚感歎賞嘆ポーズを取りながらアベルの後ろで発光している。まぶしい! でもここまでやってるけど実はこれがアベルさんとの初目見えなんですよね。
「やれやれ――」
ならばとアベルは恭しくジュースを一つ。タントの御前に差し出せば。
「月や星や太陽までも、恐れ慄いて隠れてしまいそうな輝きですね?」
「なんのなんの! さあさあどうか胸をお張り下さいまし! 貴方様の勇気が! 皆の世界と心を動かしたのですもの!! これぐらいの注目はあって然るべきですわ――!」
あくまでここの主役はアベルだと。飲み物は頂くが、タントはそう彼へと告げる。
「主役だろう、胸はってようぜ! そういや傷はもう平気なの?」
「おっとシラスくん。傷はもう全く……しかし、一緒に戦場を駆け巡ったシラスくんにもこの賛辞の半分でもあげりゃいいのに、なんて思うんですがね」
「いやいややっぱりアベルが一番さ。なんならあそこにいる王様にも売り込んでおこうか?」
そして最後にシラスも訪れる。こういう場にアベルが出てくるのは珍しい。貴重なチャンスだからこそ。
「よぉーく労わっとけよう、アンタが倒れたら泣く人多いんだろう。あー悪い大人、ヤダヤダ!」
背筋に走った戦いの緊張。冗談でも言わねば流せない。
だがそれはそれとして、だ。作戦でコンビを組んだ相棒が大活躍したのだ――嬉しさを抑えるは出来ず、シラスも興奮しようというもの。生きて帰れた。どころか活躍までした。最高ではないか。
文字通り命がけで掴んだ戦果を皆で祝い、生還を称え合おう。もう少し。もう少し。折角なのだから。
「はぁ……何やってんだ俺は……」
アランは歩く。酒を片手に喉の奥へと。歩を緩めずに風に当たって。
喧噪の中にいる気は無かった。どこかの騎士や死神と比べて自らの活躍は如何ほどであったろうかと、思い起こせばああ全く……思わず舌打つ。何かを忘れているような、そんな気がどうも拭えない。
なんだ? 己は何を忘れて――思った、その瞬間。
彼を照らす。月の光が、天に瞬き。
「――」
その一瞬に思い起こされたのは彼方の記憶。勇者であった頃に交わした……
ハッ、そうだったよなぁ悪い。
「俺が救うのは世界じゃなくて人間、だったな。なぁ?」
ロイ……、――
かつての二人の名を呼び、流れる風が言葉の残滓を掻き消して。
歩きだす。どこへか。どこへでも、か。
騒がしさの裏には、時として静けさがある。
「ウフフフここにはいろいろな人が集まってきそうデスぅ♪」
美弥妃は中庭を散歩しながら口の端をニンマリと。騒がしさから遠のく者、何かを思考する為に来た者――ああより取り見取り……もとい、多くの種類の者らがいるものだ。
別に彼らの邪魔をするつもりはない。ただそう言う者もいるのだなと、好奇心から横目を流して。
「ああいう大きい戦いは初めてでしたからねぇ……」
終わった今、少しぐらいくだらない事も――したくなるものだ。
クリストフは奏でていた。聖歌をこの日に。今ある人々の為に。
そして――今は亡き人々の為に。
「果てなき空に 揺蕩う光。
無限の星は 希望の如く。
我等が想い 聞き入れたまえ。
彼等が想い 聞き入れため、ぇ、った!」
あっ! 舌を噛んだ!!
闘いの事を振り返るのも悪くない。様々な思いがあったものだ。
しかし休める時は休み英気を養わなければならない故――
「って事で今日は沢山食べるぞ――!!」
アリスは宣言。上等な食事へと突撃するのだった。
新人の己が招かれても良いのだろうか――ヨシトはそんな思考を重ねる。
されどローレットの一員ならば王もそれぞれの出自や経験など気にもしまい。枯れ木も山の賑わいか、と。ヨシトはモヒカン頭の後頭部を掻きながら。
「あっ。たッくよ……酔い過ぎて潰れたら仕方ねーだろ、おいおい……」
酔いつぶれている者を見て呆れが混じるが。こういう場であればこそ出てくるのも必然か。そのままにはしておけないと彼は介抱に努めて。
フェアリの掲げているグラスに入っているのはワインで――彼女の顔は真っ赤だった。
「おーさまー! おーさまー! めっちゃご飯ウマいっすよ――! あれ!? おーさまが二人いる――!?」
目がぐるぐる。酔いがやばい事になってき、あ、倒れた!
「んぇへへへへぇ……」
「あー妖精さん……こんな所で! もう、お喋り出来る様子じゃないなぁ……」
泥酔のまま寝落ち。仕方なしと、フェアリが介抱しに奥へと運ぶ。
お祝いの日なのだ。もっと幸せを運ばなければならない。りんごジュースの入ったコップも片手に、フェスタは己がギフトで誰ぞを幸せに出来るかと――運び手を担うべく、会場を歩き渡る。
白いタキシードに身を包んでラノールは往く。中庭で待つ彼女の下へ。
「おぉ……ふふ、とても似合うじゃないか!」
素敵だよ――とエーリカへ率直な言葉を。
慣れぬドレスへ身を包む彼女。初なる正装。もどかしく、どうも緊張を隠せぬのか髪の端を弄っている。背伸びしすぎていないだろうか大丈夫だろうか――恐る恐るエーリカはラノールへと顔を上げて。
「え、へへ……だいじょうぶ、かな?」
「ええ勿論――あちらに静かに休める場所があるので、そこまでお連れ致しましょう」
返される微笑みに、肩に張った力が少し抜ける。ラノールは恭しく彼女の手を取って、所謂かな『王子様』の如くエスコート。二人に成りて歩を進める。
――先の戦い。お互いに帰って来れたのだ。
庇われ、細くなる息に手から『何か』が零れ落ちる感覚がしたが。二人は今、ここにいる。
「……『灰かぶり』にも、手を差し伸べてくれる?」
無論、と言葉を繋ぐ彼の笑顔はとても眩しかった――
「先日は御前で荒事が起きてしまいましたが……お怪我など無くて安堵しております」
「何を言う、万事君達のおかげではないか! いやぁ死ななくてよかったなぁ!」
王へと挨拶を述べるはクラリーチェだ。先の激戦、玉体への負傷を防げてなによりと。
「えぇ本当、無事に終わって何より……本当に、妬ましいわ」
「如何なる事態にも慌てず動じずにいらしたこと、流石一国の王様ですね……懐深き事だとお見逸れいたしました。それでは私達はこれで」
続くエンヴィの『妬ましい』言。あれは彼女なりの言葉で『良かった』という事なのだが……まぁきっと伝わってくれるだろう。信じよう。うん。しかし『動じず』とは……成程。言い方と言うのは色々あるものだとエンヴィは感心して。
「……あれだけ他人事みたいに言えるのも、才能なのかしら?」
ああ全く、妬ましいものである――
お招きいただきありがとうございます――同時に、そう言った二人がいた。
「おや。母上の前に奥方の方と会う事になろうとはね!」
「恐縮です陛下。今日と言う日を迎える事が出来、とても嬉しく思います」
「先日は危ない所だったとお聞きしましたが……リゲル達が無事に陛下をお守りする事が出来て誇らしく思います」
リゲルとポテトだ。リゲルは先の砂蠍で、王を直接護った身。今宵を迎え、更には次なる祭事も楽しめれば幸いと――挨拶の言葉を紡ぐ。
彼にとっての母国は天義。縁遠くなってしまった部分はあるが……もしこの縁から両国を繋げることが出来るのならば幸いだ。今や彼にとっては幻想も天義も大切な母国に違いなく。
「花の騎士も――いや、これを機にシャルロッテと呼んでも?」
「ええポテトさん。私の事はどうぞ気楽に」
ポテトの方は花の騎士の方にも挨拶を。今日を機に、善き縁を結べればと思考して。
「は、初めま、して……あの、シュテ、シュテルン、言う、します」
そこへ、たどたどしい口調のシュテルンが挨拶を。
王とは初めて会う。故、この場にまぬかれた感謝の意を伝えようと。
「えっと、えっと、シュテ、も、オーサマ、守る、出来て、良かった、です。シュテ、は、天義、生まれた、してた、だけど……幻想、も、大切、場所、なる、しました!」
「おお、そうか……我が国の事をそうまで……!」
口調はこれが常なのだろう。しかし思いはそのままに、フォルデルマンにも伝わってくる。
平和が一番。幻想も、天義もどこも――
「ご無事でなによりでございました陛下。王宮に刺客が、と聞いた時は血の気が引く思いでしたが……」
そこへリースリットも。聞いた話によればなんとか撃退したとかで、本当に良かった。
父から聞いた先王の御代とはあまりにもこの国は変わってしまったようだが……目の前のフォルデルマンがフォルデルマンであるからこそ、きっと今も国が纏まっていられるのだろう。国の今と未来に悲観するはまだ早いと。
「私達も……いや、私も陛下を支えて行かねばならない、という思いを新たにしました」
「うん? よく分からないが私は褒められているのかなシャル!」
察しの悪い、しかしてだからこそ悪心無き事が分かる幻想国王。
ああやはり、世を儚むには――まだ早そうだとリースリットは心で思う。
「よーう、王様も楽しんでるか? 今日はありがとな!!」
「カイトか! おお愛しき友人よ、先日はその緋色の翼で私を守ってくれたな!」
そうしていればカイトが料理を皿ごと持っていく。肉を貪るように。流石の猛禽類だ。
あまりに気楽な様子の掛け声に花の騎士もどうしたものかと思ったが、例え注意されようとそれでもカイトは笑うのだろう。カラカラと。カラカラと。なぜならば生き残り――勝ち取ったのだから。
「あら。先日振りね、二人とも。早速楽しんでいたみたいね?」
そして挨拶を済ませて離れれば、そこには竜胆がいた。彼女も今から挨拶か。
「ええ。『私も一時は身が危なかったらしい』……って言うのは流石に呆れたけれど。ま、それはそれとして招待された身だし、挨拶ぐらいはしておかないとね」
「はは、でもあそこが陛下らしい所だよ」
せめてもう少しだけ自覚をもって欲しい所だ。リゲルの言う通り、らしいと言えばらしいのだが。
挨拶を済ませればどうしようか。会話ばかりでは折角の料理を逸してしまう。
皆を集めて乾杯して――堪能しておかないと勿体ないか。
「……そうだな。食事は頂こう。うむ、こういう場で食べられるご飯はおいしい。知ってる」
言うはリジアだ。あの決戦の後、王宮に侵入していた魔種がどうなったか……気になる所ではあるが、王宮内もまだ混乱していた。恐らく、逃げられてしまったのだろうか。
ともあれ一連の惨事が大惨事にならかったのは……ひとえに生き物の執念だろうと思考して。
「……あれが、ただ破壊するだけにはない強さ、というものだろうか」
まだ完全なる理解には遠いが。少しだけ、少しだけ生き物の強さをまた見た気がする。
そして生き物の強さ、というのは向こう側もあったのだろう。アルテミアは会場の柱に背を預け、シャンパンを飲みながら周囲を眺める。
「勝ったけれども……決して無傷ではなかったからね」
護れた命もあれば守れなかった命……見捨てざるを得なかった命もあった。それは砂蠍側の奮戦が故。彼らの側にあった意思の強さが故……彼女は全てを護る、などいう理想は持っていないが手が届かなかったのは悔しいモノだ。
「でも、目を逸らさずに背負い続けていかないとね」
選択した責任がある故にこそ。それからは、決して逃げてはいけないのだから。
騒ぐ皆に見つかった。やれやれ全く、あんなに騒いで怪我に障ってはいけないというのに。
苦笑しながら柱を後に。皆の元へと向かうとしよう――
王の身は守り通せた。しかし肉体的にはともかく目の前での流血沙汰……精神的には如何かと。
「思っていたけど、あの様子なら大丈夫そうかな」
いつも通り明るい陛下だ。ならば挨拶をとメートヒェンは駆け寄り。
「陛下――改めましてご招待頂きありがとうございます。お元気な姿を拝見できて安心いたしました」
「おおメートヒェンか! 君も元気そうでなによりだ!」
疲れはするものの言葉遣い――丁寧語ぐらいやろうと思えばできるのだ。
王との邂逅。危なげなくこなしながら、王の相変わらぬ様子に安堵を抱いて。
王宮での宴会は楽しかった。最高だった。だが。
「……救ってやれなかった人達が多すぎる」
全て救おうとまでは言わない。だがせめて、関わる人たちだけでも……
夏子は思考する。仲間に勧められて初めて飲んだ酒は美味かった。仲間が嬉しそうな情景にも、不思議と心も安らいだものだ。されど、最中にて己の心に引っかかっているモノがある。きっとその引っかかりが『これ』なのだろう。
「助かれば償う機会だって……やり直すことだって……なんだって……」
出来るのだから。次は――必ず――
何時の間にやら、だが。酒が飲める年齢になっていた事が判明した。
故にマルクはリディアの勧めで今宵の機会に試してみようと。白ワインとかなら大丈夫かと思ったが。
「祝勝会だからシャンパンがいいですよ。私は、お酒はまだなので、ジュースで失礼しますが」
「おっと、そうなのかな……うう。大丈夫かな、なんだか妙な緊張がするね」
別に毒物ではないのだが、なんともはや妙な感覚だ。酒は苦いと聞くが、果たして。
……やっぱりワインがいいのではないだろうか。ぶどうジュースというか、ジュースに似たような感じのするワインの方が、いや味は複雑なのだろうがなんとも――
「――ええいままよッ」
リディアにお酌されるまま、一気に飲み干す。あまり多くの量を注いではいけないだろうと、リディアは少量をグラスに注ぎながら。
「大丈夫ですか? 飲み具合が厳しいなら、料理も一緒に取りましょうか」
若干むせている様子のマルクに、リディアは甲斐甲斐しく尽くす。
それはまるで共にあるべき恋人の様に。自身も気付かぬ想いと共に。
今暫く、二人きりの時間を――独占するとしよう。
今宵は祝勝会。で、あれば本来勝利を噛み締める場なのであろうが。
「む、むしろ折角ですし……二人で過ごしても良いですよね……?」
「あはは。マナは賑やかなとこ、ちょっと苦手ですものね」
マナとヨハンは寄り添う。中庭にて、誰の視線も入らぬ場にて。
喧騒は耳の片隅に。感じるべくはここにお互いの手が重なる――幸福の一端。
触れる体温は生の証。冷気に息が白くなりて。
「マナのおかげで僕も皆も助かりましたから、もっと自信を持ってくださいね」
「そ、そんなとんでもない……! 本当に、本当にレーム様が無事でよかったです……」
二人がいたから今宵がある。互いがいなくば互いがおらぬ。
――ああきっと明日もこれからも。己はマナだけのナイトであろうと。
「約束です」
腕の内に収めた彼女の身体をしかと抱いて。ヨハンは月夜に誓う。
クリスティアンは喧騒から離れていた。
状況は悪く、厳しい闘い。果てには亡くなったものがいる事を知って――
「――いけないなぁこんな事じゃ」
涙が止まらない。とても表舞台にはいられない。
場が賑やかであるからこそ……悲しい思いが遡ってきた。溢れる前に外へと出て。
「……大丈夫……かな? あまり……無理してはいけない……よ」
そこへグレイルがやって来る。ふと、気付いただけだ外に誰かいると。
彼のギフトは心の安らぎを施す。身体も、心も疲れた者らが多い中。少しでも助けになればと。
「ああ……すまないね。駄目と分かってはいるんだけど、どうも……性分でね」
「……休息は必要だよ。誰にも……どんな人にも……」
いや。王子足る者こんな所でめそめそとしてはいけない……挫けては、いけないのだ。
手にした酒を飲み干して。瞬く星々を見つめて仰ぐ。
ああ――明日はきっと前を向いて歩こうと思いながら。
「……まぁ、なんだか色々とあったらしいな」
前線には立たなかったが、風聞と言うは自然と耳に入ってくるものだ。
遥はその情報を咀嚼しこれは『いい方向』に繋がった結果だろうと思考する。ならば、華やかな場所にはそれ相応に相応しい役者が占めるだろう。己は中庭の方で喧噪だけを楽しもうと。
今後の己の行く末に思いを馳せ、グラスを傾け――味を楽しむ。
「お誘い頂きありがとうございますねレジーナ。しかし……」
景気の悪い顔をしていますね、とSpiegelⅡは女王へと言葉を。
壁の隅。ぼんやりするように周囲を眺めていた彼女はやがて視線を向けて。
「……どうもシュピーゲル。いや、なに、ちょっとね……」
「幻想が空中分解する事を免れた幸いな日。お祝い事ですよ、笑顔笑顔。それより無料飯を喰いに来たのではないのです? ――服にお金を使い過ぎて」
「だっ! れがそんな事……い、いやまぁおしゃれって大事だしね!」
図星ですかマジですか冗談だったのに。
ともあれ善き日であるに違いはない。王国の繁栄と安寧、そして我達の行く末に。
「――乾杯」
「乾杯。ところで愛しのお嬢とやらは本日どこに?」
「い、と……! お、お嬢様は今療養中よッ」
だから元気がない訳ではない。いや本当にだって、からかったらつまみ出すわよ!
「私と違う戦場に居たみたいだけど……そっちは大丈夫だったかしら?」
「私の方? 至って問題ないわよ。ま、私がいたんだし」
語る一角。アリシアは巫女と互いの無事を確認していた。
巫女の有する大きな自信……普段と変わらぬその返答にアリシアは安堵を抱いて。
「巫女様……」
故に言う。先の戦報にて知った知人の姿を――思い浮かべて。
「出身世界がほぼ同じ友人として……貴女は私の前から居なくならないで、ね」
「ばっかね。いなくなる訳ないでしょ?」
だからこそ巫女もまた語るのだ。己は神。この世界では大きくその意味を削がれたものの。
「それでも意地と意思はあるわ。約束しましょう」
アリシアを抱き寄せ、背中を撫でて。
「私は貴女を置いていかないとね」
包む威厳。零れる涙を受け止めて。
「――どうしたのです、珍しく思い詰めているのです?」
アマリリスは見つける。中庭のベンチにて夜空を見上げる、シュバルツを。
考え事をしていたのだ。蠍は終わった。だが、あの時現れた『憤怒』の魔種は……
「一歩間違えれば死んでたろうな」
周囲諸共。これは終わりではなく始まりなのだろう。
……強くならなければならない。そう思考し、天を見上げれば……
「どうかこのアマリリスを守らないで下さい」
アマリリスは言葉を紡ぐ。魔種の一撃を庇ってくれた、あの行動。
「庇うのは尊いけれど、自己犠牲……それは正しくはないですから」
嬉しくはあるが一歩間違えばシュバルツが――いや、違う違う。こんな事が言いたいのではないのだ。私は……!
「はっ……自分が代わりに、なんて考えてすらいなかったさ。気付いたら身体が勝手に――」
「えと、その、だからあの!」
途端。アマリリスの言葉が淀む。何事かと、横に振り向いた瞬間。
重なる唇。面食らう、己が感情と。万の言葉より伝わる彼女の意思。
……ああ全く。目の離せない事だ。
故に護ろうこの世に只一人だけ在りし――
己が、愛し人。
「……色々と、ありましたね」
悠凪はフォルデルマンやその周辺の様子を眺めながら言葉を。
犠牲があった。無傷ではいられなかった、とても残念だが。
「歩みを止める事は出来ませんから」
今は祈ろう。一時の喧騒に紛れ、悲しみが心の傷として残らぬ様に――と。
シキは語る。ティミへ魔種がいたのだと。
笑っていたけれど苦しそうで寂しそうな……そんな魔種が。
「そんな、事が……私と似た魔種、ですか」
麻薬漬けにされた奴隷が元だったとか。心の奥底が、どこかざわつく。
もし……今でも『ご主人様』に虐げられていたらどうだったろうか。逃げきれぬ、鎖の冷たさに囚われて。己が――魔種にならなかったとは言い切れない。今でも怖い。見つかったら、と。その日は近いような遠いような……嫌な感覚がどうも拭えず。沈みそうだ。海に、あるいは泥の沼に―――
「……刀の僕も、人間の私も。自分の意思で、キミの側にいたいです」
されど。
沈み込んだティミの心を、シキが掴む。
彼女を怖がらせるモノは己が斬る。だから。
「……ティミ、さん」
それは、シキの紡ぎ。誰の聞き間違いでもない、ただ一つの。
「ティミ・リリナールさん」
愛しき真名。折れぬ誓い。初めて聞いた――
「……はい。私も、わたしも」
沢山の気持ちと共に涙が溢れて。冷たい鎖は、きっとその暖かな涙が溶かすのだと。
「初めて、ティミって呼んでくれましたね」
握り返す。あの冬の浜辺で取った手を、もう一度とばかりに。
「……いくら飲んでも酔えない日ってのはあるもんだ」
いつも、ならば良い。だが今日はバカ騒ぎに混じる気にはなれぬとジェイクは。
砂蠍には勝った。されど、失ったモノも多かった。
北部前線で鉄帝側の依頼として――幻想の兵士を殺して。ここにいるのは場違いかもしれぬと。
「立場なんてのは幾らでも変わるぜ。時と場合によって、な」
「だろうな。だが、それでも俺は流しきれない」
レオンの言にも思うのだ。今、自身が見上げている月を。恨みを抱いているどこかの誰かも――眺めているかもしれないと。それでも無論、己にはここしか居場所がないから。
「今後ともよろしくな」
「それにしても色々並んでるよねえ。お酒も美味しいなこれ国王陛下様様。イタチちゃん、君、潰れないように軽いのを小さいグラスで飲む程度にしておきなよ。すぐ寝ちゃうでは勿体無いしな」
いやはや大変な戦いだった。国王陛下は無事なようで何よりだが、とアリスターは思考を。
「……ふにゃあ……え? なに? お酒は飲んでもダイジョブな歳だからオッケーだよぉ!」
「……手遅れだったか。イタチちゃん、せめて酒の味は記憶に残しときなよ」
イタチちゃん、ことイザークはもはや潰れかけだ。アリスターの言は間に合わなかったか。
「陛下の顔、ユカイに曲がってる~! にゃははは! あ、分身したぁ~!」
あ、ダメだこりゃあ。神様なのでお神酒の類は慣れていると豪語していたが、お察しください。
ともあれ、お互い同じ戦場にはいられなかったが、こうして互いに無事であったのは確認できた。こうやって馬鹿をやれているのも生きている証。酔いながらも、今を楽しむとしよう――
「お疲れ様、雪ちゃん」
「はい蜻蛉さん――それではお酌を」
雪之丞と蜻蛉は互いに向き合っている。されば目の前の雪之丞が、お酌をしてくれるではないか。
「……うちのこと、気遣こうてくれるん?」
優しさと気遣いに一寸、目を細めて。傾けられる徳利に感謝の意を。
「普段、甘えてしまっていますから――今日はお返し致したく」
「気にせんといてもええのに。でも、そやねぇ……ほな、ありがたく」
そうそうお上手や。知り合いに注いでもらえる酒の、なんと美味なる事か。
「拙は」
喜ばれる様に、どこか背筋がこそばゆく感じたか。
「この世界では飲めぬ歳ですから、一緒することは出来ませぬが……もし」
その時まで『もし』あらば。ご一緒出来れば。是非ご相席を――
「そない寂しいこと言わんでも……その時が来るんを楽しみにしとります」
言葉の中の想い。秘められし意思。委細承知しながらも、その紐を開きはせぬ。
締められたままで良いのだ。今宵に必要なのはその折の月の形を想像するのみ。
二人並んで盃を交わす日を――胸に描きながら。
「さすが宮殿。他よりも華やかで豪華ねぇ、すごいわ……」
「王宮の内装は権威の指標――と、言えますから。実用性は二の次に、されど維持する事に意味を持ちます」
蛍と珠緒は共に歩く。王宮の内装、輝かしき装飾の数々を目にしながら。
「……尤も、桜咲としては良きものですが……ちょっと輝きが目に痛いのです」
「ん、はは。にじみ出る気品やお淑やかさなら珠緒さんも相当……」
おおそうだ。このような場であるのならば、折角だ――
「どのお飲物に致しますか――お姫様?」
恭しく蛍は珠緒へと礼を取る。
「ふふ本物の王族がおられる場はまずいですよ、蛍さん。それにそういう蛍さんは」
「ボク? ボクは、そーうーん……お付きの人で……」
それではますます乗る訳にはいかない。連れ立つ友人には共に立っていただかねば。
「ならないのですからね。では、乾杯」
「乾杯!」
グラスを鳴らす。さすれば次は料理でも見て行こうかと、二人は思いを共にしながら。
「――それでは、勝利と騎兵隊の活躍。何より皆の帰還とッ!」
「我らが騎兵隊に!!」
「イーリン、そしてエマの初アルコールにも!!」
かんぱーい!! 掲げた盃を重ね合わせる音は二つや三つではない。
イーリン、天十里、そしてイーフォの掛け声と共に乾杯を行うは、決戦にて騎兵隊として纏まった面々たちだ。十人以上いるだろうか。同時、成人した者らに振舞われる初のアルコール。勝利の美酒と共に飲み込めば。
「皆お疲れ様、皆で帰れてよかった」
「ああ……でも今回は、流石に骨が折れた、な」
エイヴとエクスマリアが言葉を交わす。誰しもが帰還できたが、一歩間違えば『そう』ではなかったかもしれない。緊張の糸が切れぬ、難敵であったが。
「イーリンも、酒が飲める歳、か。良い生還祝と、なったな」
「はは、でも本当に自分の限界を感じたわ……けど、それで成功した。嗚呼――良かった」
こうして皆で酒を飲んで騒ぐことが出来ている――素晴らしい事である。
「いやー、一時はどうなるかと思いましたがひと段落ですね! 当分こんなヤバいヤマはお腹いっぱいです、ひっひっひ。さー食べますよ――! 店主のご飯とは違う、王宮の料理たのしみですね――!!」
「おおっとエマもおめでとう。生き残ってお酒、ちょっとした夢だったものね」
「おおお馬の骨さん、さささ私からもお注ぎしますよどーぞどーぞ」
「たく、悪酔いはするなよ……で、イーリン。人生初の酒はどうよ?」
エマのはしゃぎにイーリンは声を掛けて。注がれる酒を共に飲み干す。
人生初の酒? 勝利と一緒なのだ――無論、この上ない美味であると笑顔と喉の鳴らし具合で返答して。
「リリーはまだのめないし……はず、だし……うーん……でもテーブルにのっかる、のも……」
「あぁリリー、何か食べ物をとってあげようか。ちょっと待ってな」
ところで勿論の事だが酒を飲めない者もいる。ならば食事の方を豪快に……と思うのだがリリーは届かない。テーブルに乗れば問題はないのだが、かといってこのような場でテーブルに乗るのもいかがかと。
さすればイーフォが助け舟を。次なる戦いの為の英気を養う場。羽を伸ばせないのは苦痛であろうと食べ物を皿に渡して。
「ええ、ええ、我らを支援してくれれば幻想は安泰ですよ。これからもどうぞ御贔屓に」
一方で乾杯の後レイヴンは抜け目なく貴族達の元へと。
王宮にここまで自由に入れぬなどそうはあるまい。いい機会だ、流石に海洋のソルベ卿はいないだろうが……かの御仁と繋がりのある貴族はいるかもしれない。顔を売っておこうと思考して。
「やー指揮殿、飲んでるかい? 折角の一杯だ、存分に楽しまないとね」
「師匠、わたしの酒が飲めないっていうんですか? ほらもう一杯、まだまだもう一杯!」
「ええ、飲んでるわよ。うふふ、ありがと」
そうして彼もココロと共に、立役者であるイーリンに声を。
彼自身は酒の味を知る者であったが、皆と共に味わう勝利の美酒は――初めての味わい。
忘るるまい。この一時を。この味わいを――しかしココロは一滴もまだ飲んでいないのにあの絡み酒はなんなのであろうか……可愛いデザインをした酒瓶をイーリンの元へ。なみなみ注ぎ続けている。
「陛下、お久しぶりでございます! ウィンストン大橋、南部の砦を2つ、村1つを守り! 決戦では騎兵隊の一員として敵右翼を粉砕など! 数々の難業――やり遂げて参りました!」
「おお流石は私の愛すべき友人だ!! 素晴らしいじゃないか!!」
そんな最中アトは王の元へと。語られる英雄譚は王の興味を引く所。
身振り手振りも加えれば話は進み、王の笑顔も最高潮になった――所で。
アトは語る。こんな民草の心が荒れ果てる時世であるからこそ、希望が必要なのでは。
「具体的には『果ての迷宮』の踏破こそが」
建国の祖を超える大偉業をこそ、この機会にと。
幸いローレットには彼を含め迷宮探索に秀でた者も数多くいるのだから――今こそ勅許をと。しかし。
「果ての迷宮に関しましては『検討』いたしましょう。それが陛下の大御心です」
「む、ととと。左様、ですか。アト、行くぞ」
そこで花の騎士が間に割り込む。将来がどうであれ、この場での言質は避けたい思いか。そんな場の空気を察してアトをエクスマリアが引き摺る。王はともかく花の騎士を怒らせるのは本意ではない。いや、別に彼女も起こってはいないだろうが万一話を続けようとしてしまえばその限りではないだろうと。そして。
「よーし、本日お披露目、我ら騎兵隊の歌! 僕も歌うよー!」
「おっ、来たね。それじゃあ……ホラ、皆で歌お?」
ああ、我ら騎兵隊。
異端の牙を矛と変え。
轟く蹄鉄、暗雲晴らす閧の声。
はためく戦旗は勝利を掲げ。
鋭い一閃、電光石火!
誉れの矛で駆け抜けよ――!
ああ、我ら騎兵隊、騎兵隊――ッ!
天十里の元気は天を衝く。ミルヴィの演奏に合わせて歌うは騎兵隊歌。
戦争である以上戦いを讃える歌は作り辛く、故にサーガや軍歌の様な雰囲気にはなったが――
「それでも」
救えなかった人や頑張った人達に届けば良いなと思考して。
「……良い歌だ、後世に語り継がれるべきだと思う」
エイヴは想う。何かの証が残るのは良い事だと。
闘った証でも。生き乗った証でも。後世に語り継がれるならば。
祝おう、騒ごう。来られなかった分まで。喫茶店で語り合った――赤髪の少女の分まで。
「やれやれ皆してはしゃぐよなぁ……ま、今日くらいはいいか」
己が悪運も強かった。終わりよければそれで良しと――しようではないか。
ミーナは乾杯後、一人ぽつりと。夜空を見上げて呟いた。
「――此方へどうぞ、レディ」
アーリアの手を取るのはヨシツネだ。人混みを避け、そのままエスコート。
道中にてグラスを忘れず受け取り――
「かんぱぁい! ふふ、生きて帰れたからこその一杯ねぇ。指揮、お疲れさまぁ」
「ええ全く。いやしかし、俺は左翼側にいましたが普段と『きゃら』が違いましてな」
アーリアと離れていたのは些か好都合であったかもしれぬと振り返る。
されど、仲間の一人として力を頼りにされていたのならば。
「次からは是非とも貴方の剣として立ち振る舞わせて頂ければ」
これ幸いなり、と。『もう一つの約束』……旨い酒を奢るという約束を胸に、喉を潤す。
今宵は、ああ。国王陛下からの奢り故に約束を果たしたとは言えないから。
「また次回、とっておきな一杯の予約をしていいかしらぁ?」
次も生還を。次もこのような機会の場にて――
「――もし。よろしければ乾杯でも、如何でしょうか?」
悠はグラス……と言っても中身は子供ビールだが、を持ってアンシアの元へと。元正義の味方として、悪しき賊を打ち破る戦勝は会心。ヒーローの活躍の話を聞ければと思考して――
「……キミが話を聞き、学ぶべきヒーローは宮廷内にいるはずだが」
「いいえ。敵にためらうことなく飛び込んだ雄々しき背中……思わず左腕の疼きも収まらず……ふふふ」
乾杯は礼儀としてアリシアは返すが。やれやれ、削がれた力を絞り込んだ苦肉の策がどうも過大評価に受け取られ、絡まれてしまったようだ。諍いを起こすは本意ではないが、さて……
「流石ヒーロー志望、前向きだ……ああ、私はアンシアという。見ての通り、雪豹の獣人だ」
「これはご丁寧に、私は名馳悠と申します――」
まぁ名乗りぐらいは構わぬだろうと思考して。この数秒後、以前別の姿で会っている事が露見するのだが……さて、さて。受難は始まったばかりである。
「エリシアさんとは別の戦場に居たのですが此方も何とか勝てましたし……
祝勝会も皆順調に盛り上がってて楽しいですね……と、どうかしましたか?」
言うはイージアだ。折角の機会、遠慮せずにがっつりと飲み食いを果たし、共にあるエリシアへと言葉を紡ぐ。一方の彼女はイージアとは対照的に、静かに食事を進めていて。
「ん、ああ、そうだな……」
戦争という概念に思う事はある。散る命。失われる者。
されど今は――気の良い仲間と未完の王。数々の縁に免じて。
「戦は面倒だ、散る命も多い……が、まあ。祝勝会という事ならば、今宵は素直に祝おう」
「……そう言うのならば詮索は止めておきましょう。ええ、今は善き日に――乾杯!」
乾杯、とグラスを掲げる。
「祝勝会って言ったらお料理スイーツ食べ放題の大宴会でしょ!! それならボクはベークを食べるわ!!!!! 生クリームデェコレェ――ション!! 逃げるな――!! 他の人に迷惑が掛かるでしょ! 大丈夫痛くないわよ!」
「はわあああ緊急回避緊急回避!! なんで!? 食べられたくない! 死にたくない!! ラブアンドピース! ラブアンドピィィス!! 痛い! 待って止めて噛まないでぇ!! だいじなものがでちゃうのぉ!!」
王宮の一角。タルトはベークを追いかけ今や喰わんとしていた。他の皆にも一口分残してあげて! ベーク! 君のパンドラは減らしといてあげるね!! ダメ? そんな――!
「……全く。戦いは終わったというのに、今更命を落としそうな者がいるな」
「はっはっは。いやー大して働いてもねぇのに、これだけのタダ酒とタダ飯にあやかれるとはなぁ。全く、王様も気前が良くていいねぇ」
ここに要るのは情報屋フリートホーフの面々。追いかけられるベークをリュグナーと縁は横目に見据え、酒を構えて。
「アタシ達のショウリに」
カンパイ、とジェックも続いてグラスを鳴らす。
戦いは終わった。少なくともフリートホーフの面々で命を落とした者はいなかった。これは幸い。皆それぞれが力を尽くした結果と。
「僕の力なんて微々たるものさ。フリートホーフの皆と一緒だからこそ出来たことだよ」
「謙遜なさんな。お前さん方がいりゃ――『うち』が危なくなっても安心だ」
津々流の言に応えるは縁。冗談交じりに笑いながら、口元には笑みを浮かべて。
常なる本心は水の如く。その様はどこでも、惑わす酔いが混じっても変わりはしない。
「さて……ともあれ、例の対価は如何なさいますかリュグナー様」
「ああ、貴様に渡した物品の対価か。悪いが、それはまだ受け取る事は出来ぬ」
最中。フィンの声がリュグナーへと。決戦に備えた装備の融通、その対価をと思ったが。
フギンは未だ健在。故にまだ付き合ってもらう必要があるから口角を上げてと。
「ふふ、では今後とも御贔屓に……さて仕事の話はこれくらいにして」
今日くらいは飲み明かすことにいたしましょうか――善き日を祝う為に。
捕まったベークを横目に眺めて、大変な事になっているなと思考しながら。
「全ク、ベークは美味しいのカシラ……ン? 津々流、ソレはなあに?」
「これかい? これは七面鳥。皮は香ばしく、身はほろほろでとっても美味しいよ。でもこれ固形食だからねぇ……あっ。向こうにスープがあったし取ってこようか」
津々流の食している肉にジェックは興味を抱いたようだが、流動食でないのが残念だ。この世は固形食派が多くて困る。ドンナ味がするのか気にならない訳ではないが――『オイシイ物』の解釈が異なると些か面倒が多い。
「閃いた。ベークをすり潰せばやがて流動食になるんじゃ……? わーお、そしたら誰も皆も美味しくめ・し・あ・が・れ・る」
はぁと。飴の雨を降らせながら、タルトは優しいなぁとわたしは思うのでした。
「お初に御目に掛かります、フォルデルマン三世陛下。この度はお招き頂き感謝致します」
今宵は珍しく女性らしい恰好……イブニングドレスを着るレイチェルは王の前へ。
流石に王宮だ。言葉遣いも格好も弁える必要はあろう。さて、そういえばレストの方が何か渡す物があったと言っていたと視線を寄こし。
「私もお初に。お会いできて光栄ですフォルデルマン様。名をレスト・リゾートと申します」
先往くレイチェルの視線を受け、レストは王へと言葉を紡ぐ。が。
「うん? なにかな、こう――君からは変な匂いがするな!」
「あら? ……ほほほやだ、ごめんあそばせ~実は砂蠍との戦いで湿布を貼っていまして~その匂いでしょうね~」
独特な匂い、とすら言わずドストレートな言動を伝えて来る王に、ついぞレストの口調も段々と素の状態が出始める。まぁ向こうも不敬などとは言うまい。それにこの湿布は。
「この湿布をフォルデルマン様にもお贈りしようかと~効き目は抜群ですわ~」
贈り物にもしようと思っていたものだ。なぁに効果は既に自分で実感済みである。母から託された秘伝の技術を用いた湿布……! んふふ~と繋げながら、レストは王へ。
言葉が進めば緊張が解け。さればレイチェルも段々と素の柄の悪さが出てくるものだ。先は恭しく陛下に挨拶をこなした、が。
「…………あー俺のキャラじゃねぇな」
別に敬語が出来ないとは言わないが、それを常時はなんとも似合わぬと自分で自分に苦笑する。
「おつおつおー、招待して貰ってありがとーそっちもちゃんと無事だったんだねー」
「ああ死にそうだったみたいなんだがなんとかね!」
「そかそかーこっちがゾウとか自爆特攻とか頭おかしいクソみたいな戦場を必死で繋いだのに、後ろで暗殺されてたら台無しだからねー無事でよかったよー」
次いでクロジンデも。皆よく敬語とか礼儀作法が少しでもできるものだと思いながら、自分はやらない。なぜかって? やる必要がないのを知っているからだ。王は何も気にしない。そうでなくとも今日は無礼講だ。とはいえ。
「……この度は私のように直接参戦していない者まで招いていただき、感謝である」
鉄帝側として参戦したシグにとっては、流石に口に出すのはまずいかと憚って。
「この度は……今の時代には珍しい大規模な国と国の衝突である上に、陛下の御身まで危険が及びかけていた。色々な戦訓、謀略等――諸々が露になった……故に、この国が、その数々の教訓を調査し、取り入れる事を私は願う」
それは彼にして幻想を案じる言葉。本来ならば異界の者。気にすべきではないのだろうが。
この国は――そう嫌いではない。であれば少しでも前へ成長してくれるならば、と。
「……一時は眼前に迫られ命を脅かされたというのに。面白い王だな、あの方は」
「鈍さと太さは紙一重。ある意味稀有なる才能でしょうね、あの方は」
混沌の一角を治める王としては。テンションの高い王を遠目にアレフとアリシスは語る。
ああでなければ。他人を疑う性質であったのなら、もっと早く心を病んでいた事だろう。あれだからこそ国のバランスが保たれているとはなんとも、面白い事だ。これより訪れる戦後処理、現れた強大な魔種。頭の痛い案件は多いが。
「そういえば、まだ言っていなかった」
今は互いの帰還に感謝を。アレフはアリシスへグラスを掲げて。
「此度の戦いお疲れ様だ、アリシス。無事で何よりだ」
「まぁ――ご無事でなによりでした、アレフ様」
音を鳴らす。甲高い、乾杯の音を。
さて。流石に王も自分の身が危なくなればちょっとは成長を――
「してなさそうだな……ま、今は祝える内に祝っておかなきゃな」
「いやホント、フォルデルマンも命が危なかったというのに……相変わらずだなぁ……!」
もはやあれはあれで一種の才能なのだろう。サンディもヨルムンガンドも半ば呆れ、いや諦め気味だ。
――まぁ今宵は良いとしよう。フォルデルマンはともあれ、今宵は。
「サンディ君は本当に心配させ通しで! 無事で、良かったよ……!」
「いや本当に、こうしてまた会えてホントよかったよ――直接迎えには行けなかったけどあの戦場には居たから、大規模転移魔法が発動するところも見てたんだ」
敵に捕らわれ、一時は命もあわやとなった――サンディが無事に帰還した事を祝福しよう。彼の無事なる姿がなによりだと、アレクシアは心中に安心の二文字が浮かび上がる。心配させ、文句の一つでも言おうかと思ったが吹き飛んだ次第だ。
主人=公に至っては戦場にて彼の命を賭けた『奇跡』を目の当たりに。感嘆の気持ちに溢れている。
「まぁサンディさん。御身体はもう大丈夫なのですか? でしたら今宵は出来る限り沢山食べて栄養を取りませんと。病は気から……と言いますがその気は健やかる肉体から生まれるのです」
「サンディさんお帰りなさい! 無事で良かったです♪ どうですかお肉でも、あるいはケーキもありますよ!」
流石の王宮で出る食事。一流の料理人たちによって振舞われる料理なのだろう。
ヘイゼルは是非にとサンディに勧める。回復は今の内に。安堵の吐息を漏らせる内にと。
そしてノースポールもだ。サンディの皿に肉をケーキを勧めていく。いや、むしろ運んでいる。どんどこどんどこ有無を言わさず、自らもそれ以上に食しながら。
「全く、サンディのアニキは攫われて諦めでもしてたらぶん殴ってやろうと思ってたけど、まさか逆に皆を護ろうとして奇跡を実現させるなんてね……」
「いやいや。奇跡、奇跡って……あんなん俺一人じゃどうにもならねぇさ」
ルチアーノの言にサンディは違うと言を返す。
むしろ、あからさまに罠のど真ん中だったあの地に皆が助けてきた方が奇跡だ。結果としてはフギンの策謀も頑強だったわけだが……全ての盤面をひっくり返せる様な奇跡を実現できたのは、皆の意思を感じたから。
己だけでは絶対に果たせなかった、全ての収束。
「……ほんと、ありがとな。幸せもんだぜ俺」
その笑顔は、きっと誰もが求めたもの。失われなかった、あの戦いの結果の一つ。
ローレットが得た――確かなる『戦果』
「さて諸君、名残惜しい限りだが――今宵は間もなくお開きとしようではないか!」
始まりがあれば終わりがある。華やかなパーティにも、勿論。
「砂蠍の暴虐からよくぞこの国を守ってくれた。サーカスの一件より続く諸君らの度重なる活躍に私は……深く、深く感謝する。これは私の嘘偽りのない気持ちのつもりだ」
語るフォルデルマン。これより更なる問題が発生するのだろうか、将来において。
ないとは言い切れない。戦場に現れた謎の魔種。北部前線発生の一端を担ったそもそもの原因……きな臭い話はまだまだどこかに潜んでいるに違いない。
しかし、それでも変わるまい。盗賊王は倒され幻想の危機は一時なれど去った事実は。
もはや誰にも覆しようのない真実なのだから。
「私の愛しき友人達、特異運命座標達よ――改めて礼を言う。これからもこの国を、よろしく頼む」
今宵は幻想にとって、間違いなく善き日であったのだ。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お待たせしました。様々な心情の混ざった一幕となりました。
必ずしもは喜べぬ者。帰還を喜ぶ者……
想いは十色に。ご参加ありがとうございました――
GMコメント
茶零四です。フォルデルマン三世陛下より祝勝会のお誘いがありました!
色々な事があったとは思います。
しかしそれでも。今日というこの日をお楽しみ頂けますと幸いです――
●達成条件
祝勝会を楽しむ!
●プレイング記述
下記の注意を守り、プレイングを書いて下さい。
一行目:下記シチュエーションから一つ選択 例:【王宮】
二行目:同行者名(ID)(もしくは【グループ名】タグ。無い場合不要です)
三行目以降:自由なプレイング
●シチュエーション(ちなみに時刻は【夜】です)
・【王宮】
食事をメインに楽しみます。がやがや楽しむ貴方に! 個人でもご友人とでも!
フォルデルマン三世陛下がいたりします。
・【中庭】
中庭側です。ここは些か喧騒から離れています。
ちなみにここから外に出て街の方へと出ていくことも可能です。
空を眺めれば綺麗な星空や月が見える事でしょう。戦いへの想いに耽りたい方へ。
・【その他】
シナリオ趣旨に明確に反していない限りはご自由にどうぞ!
●その他
お酒出されてますが未成年の方の場合カットしたりジュースになったりします。
本シナリオではステータスシートのあるNPCはお名前を呼んでいただけましたら登場する可能性があります。
ステータスシートのあるNPCに関しては『ざんげ以外』でしたら基本的には登場が可能です。
ただし北部前線が終了していないなど、状況によっては登場出来ないNPCもいますのでご注意ください。
このイベントシナリオではパンドラ値が【3点】回復します
それでは、良い祝勝会を!
Tweet