PandoraPartyProject

ギルドスレッド

at no.9

緑の廃屋(1:1)

王都の市街とスラムの中間地点、通り一本を隔て街並みの変わる境界線上、そこには覆い茂る緑と共にひっそりと佇む洋館らしき建造物があった。
錆びた門を軋ませて一歩その敷地に踏み入れば、朽ちて色を失った屋敷とは裏腹に、もはや庭木とも呼べぬ植物達に溢れる生命力を夜の闇の中でも確りと感じられた。

「孤児院だったらしいぜ、此処。俺がガキの頃からこんなだけど……っと」

シラスは屋敷の裏口の方へ回ると、鞄から鍵束を取り出して見せる。
盗んだ、譲り受けた、不正に複製した。
その数は少年が幻想の街を彷徨う足跡そのものだ。

やがて一つを屋敷の戸に差し込んで捻ればカチリとした金属音。
ほっと小さな溜息をひとつ。

屋敷に入ると寂れた空間が天窓から降り注ぐ月の光に照らされていた。
床にはまばらに朽ちかけたインテリア、幼児用の玩具らしい人形や木馬などが部屋の隅に寄せられている。
そんなヒトの残り香を包み込むように、木々の緑がもう屋内まで及ぼうとしていた。

(アレクシアさんとの1:1のスレッドです、他の方の書きこみはご遠慮ください)

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(比較的片付いてるスペースにソファに腰かけて鞄を下ろし、屋外に漏れぬように明かりを絞ったランタンを灯す)

ようこそ……って言うのも変だね。
この場所に誰かと一緒にいるのって不思議な気分。

此処はどういうわけか昔から取り壊される気配が無いんだ。
曰くつきだったりするんだろうね、もしかすると出たりして。

(だらりと手首を垂らして幽霊の仕草を真似て、直ぐに笑って)

アレクシアこういうの全然怖がらないんだからっ。
(そーっと静かに足を踏み入れる。高揚を隠しきれない表情のまま、辺りを伺うように見回す)

わぁー……こんなところがあったんだねえ……!
誰かの部屋だったのかな?なんだかちょっとドキドキしちゃう!

(幽霊の仕草を真似る姿を見て)

あははっ、いるなら出てきてくれたら嬉しいなー!
お化けさん、ちょっとお邪魔します! なんてね。

(手近なスペースの埃を軽く払って鞄を下ろし、改めて辺りを軽く見回した後にソファに座る相手へと目を向ける)

今日はここで一泊ってわけだよね。
想像してたよりしっかりした場所だなって思った!
こういう場所ってどうやって見つけるの?
(目を輝かせた様子に、自分も頬を少し緩ませて)

すごいでしょ、外から見たよりも中はマトモでさ。
子供用の部屋だろうけど、皆で使っていたか、それとも部屋割りがあったか。
最後に使っていた人も今はもう大人になってるはずだね。

はは、本当に幽霊が出たら次に使うの怖くなるから止めてよ。
アレクシアって普段からよくそういうのとお話したりするの?
ひょっとしてツリーハウスに大勢住んでいたりなんかして。

(肩掛けのカバンを膝の上で開き、その中身を漁りながら頷いて)

そう、いつもは適当に毛布に包まって横になってるよ。
俺は目をつむれば大体どこでも眠れるからさ。
今日は案内できそうな場所の中でも綺麗なところ選んだつもり。
他はご想像の通り、もっと汚れてたり、臭かったりするの多いよ。

ここはね、昔から空き家になっていてさ。
一月か二月に一度だけ管理の人が来るって知っていたから。
いよいよこんな場所に世話になり始めた頃、そいつから鍵を……。
えっと、こっそり借りた……そんな感じ。

(質問に待ってましたという表情で視線を返すが、目を合わせていると、スリ盗ったとは言えず、言葉を濁して)

それから暫くしても鍵が変わっていなかったからさ。
ありがたくお邪魔してるってわけ。
この手の場所は、鍵が変わったら当分は寄り付かないようにしてる。
しっかりと管理されている場所は怖いもの。

他にもさ、昔からこの辺りに住んでるから、それで寝床の当たりをつけて試していったり、知り合いに助けてもらったりとかね。
(辺りに転がっている人形を拾い上げて埃を払い、暫く集中するようにじぃっと見つめ)

確かに、もう大分前のものって感じだもんね。
元々の持ち主さんも、どこかで元気にしてるといいな!

ふふ、大丈夫。ここはお化けはでなさそうだから!
それに、私も流石に普段からお化けとずっとお話してるなんてことはないよ!
もしツリーハウスに大勢いたらシラス君が来れなくなっちゃう!(ふふっと冗談めかすように笑って)

(質問への答えに感心するように頷きながら)

なるほどねえ、今日はじゃあ高級な宿屋ってわけだね!
もっと汚れてたり臭かったりするような場所も気にはなるけれど!
それこそ、前に話した時に言ったように、橋の下で一晩過ごすくらいのつもりではいたからね!

(濁した言葉の先は何となく察するも、踏み込んでいいものか躊躇われた。
だから、少し誤魔化すように笑って)

そっかそっか。確かに、見つかっちゃうと何言われるか判んないから怖いもんねえ。
もしいま見つかったら私も怒られちゃうなあ!

こういう場所を見つけるのも、地道な作業の賜物なんだね。
当たりを付けて試したり、人に助けてもらったり……やっぱりちょっとした冒険みたいだ!
慣れてくると寝床探しもちょっと楽しくなってきそう、なんて思うのは楽観的すぎるかな?

(拾った人形を抱えたままソファに歩み寄り、隣に腰掛ける。
自分を落ち着かせるように人形をぎゅっと握って)

今日はもう、後は寝るだけなんだよね?
……あのね、多分私これ……すぐには寝れない気がする
寝床が悪いとかじゃなくて、楽しみで目が冴えちゃって……!
あのツリーハウスならお化けがいる程度で足が遠のいたりしないけどね。
むしろお化けを追い出して俺がそのスペースをとっちゃうから。

(そう言って冗談っぽく唇を尖らせてみせて)

こ、高級……そうかな、そうかも。
地下水路なんか臭くて汚いけど、寒くはないんだ。
そこで知り合った奴なんかいたりしてさ。

そうそう、前に依頼で地下から浮浪者を追い出す話があってね。
俺は受けなかったけど、知人じゃなければ良いなって思った。

今は昔よりは場所を選べてるし、気分で宿に泊まったりもする。
俺も最初は好んでヘンテコな場所で寝泊まりしてたわけじゃないからね。
その頃はフカフカのベッドに憧れてた。

でも召喚されてからは嫌な夢が続いてさ。
何だか一つの場所に身の置き所がない心地で……変だよね?
そんなわけで、中途半端に昔みたいな生活してるよ。
今は夢も慣れてきたし、これからどうしようかなってところ。

(笑ってくれている様子に、頬を掻いて自分も笑って、鞄を外し床に降ろす)

そんなに胸を張れるものじゃないけどね。
冒険といえば冒険なのかな。
俺はもうこの街じゃうんざりだけれどファルカウならきっと楽しい。
そういうものなのかも知れない。

(隣に座ったアレクシアの方を向いて、視線が合うと少し緊張したように膝の上で拳をきゅっと握り)

うん、いつもは直ぐ寝ちゃうか、眠気が来るまで本を読んでたり。
……俺だって、こんなの……ハイ、おやすみって寝れないよ。
今日はもう少し夜更かしをしてたいな。

あ、それより寒かったりはしない?
この前の夢……覗き見みたいでゴメン、でもずっと気になっていて。
子供の頃から病気だったんだろ……今はもう大丈夫なの?
あはは、追い出すんじゃなくて仲良くしてくれると嬉しいなあ!
まあ、お化けなんていないけどね!

それにしても、嫌な夢、か。
別に全然変じゃないと思うよ。
嫌な夢を見たらあれこれ考えちゃってさ、どうにも不安を引き摺っちゃうなんて、わかるもの。
それが毎日となればなおさらね。
もう慣れた、って事は夢を見なくなった、ってわけじゃないんだよね?
あんまり話したくないかもしれないけれど、もし私で力になれるなら……遠慮なく話してね。

(この街じゃうんざりだけれど、という言葉を聞いて何となく空を仰ぎ)

ふふ、そうかもしれないね。
私はこの街の事、まだまだ知らないから、いくらでもワクワクできるけれど。
きっとファルカウだともう少し、落ち着いていられるかもしれない。
世界が埋まった分だけ冒険ができなくなるんだと思うと、楽しめる時に楽しまないとって思うね!

(視線が合うと軽く笑って)

良かった!……良かったのかはわからないけれど!
それじゃあ、もう少し夜更かししてお話しよう!

(問い掛けられると、元気よくソファから立ち上がり、笑顔で答える)

ううん、気にしないで!不可抗力みたいなものだしね!
それに今はもう大丈夫!全然そんな風に見えないでしょう?

(言ってから暫く笑顔でいたものの、やがて耐えきれなくなったかのようにしゃがみ込み、俯いて)

……ごめんなさい。嘘ついた。
昔より良くなったのは本当。でもまだ、時々駄目なんだ。
激しい運動とか身体がついていかないし、大きな戦いの後とか決まって寝込んでる。
いつか話さなきゃって思ってたんだけど……でも、出来れば知られたくなくて……ごめんなさい。
うん、悪い夢は今もよく見るよ、毎日って程じゃないけど。
初めの頃は夢の中で現実みたく感じてたけど、今は夢だって直ぐ分る、でも覚めないんだ。
後で寝言がうるさかったらゴメンね、前にもそれで迷惑かけたことあるから!

(悪戯を見つかったような表情で小さく舌を出し)

話したくないっていうか、こういうの何か情けなくって。
格好悪いし、笑われたらどうしようって。
でも、ありがとう……聞いてもらえたら、言葉にしてみたら、それで片付く気持ちもあるかもね。

(ソファを立って笑って見せる様子に、分かってるさと言いたげに頷くが、やがて表情を曇らせて姿勢を崩す様にハッとして)

アレクシア!?

(咄嗟に駆け寄り支えるようにその身に手を添え、俯く横顔を心配そうに覗きこみ)

馬鹿、全然……分からなかったよ、こんな……。

(こんな体で今まであんな戦い方を、そう言いかけた言葉を飲み込む。彼女が必死に重ねてきたものを汚してしまう気がしたから)
(夢で見た憧れと諦めの入り混じった笑顔が頭をよぎって胸が絞めつけらえる思いがした)

話してくれたら、俺だって……何も出来ないかも知れないけど、それでもさ!

……ううん、話してくれてありがとう、馬鹿だなんて言ってゴメン。
打ち明けるのって勇気いるよね……今日は体は平気なの?

無理しないでとは言えないけど、助けが要るときは俺には教えてね。
アレクシアが辛いのを見ているだけなのは悔しいよ。
あはは、寝言くらいならきっと大丈夫。
もしうなされてたりしたら起こしちゃうかもしれないけれど!

なんとなくわかるよ、そういうの。
カッコつけたいしさ、実際他の人から見たら大したことなかったりしたらどうしよって。
でも私は笑ったりはしないからさ、もしその気になったらいつでも話してね。

(俯いたまま微かに頷きながら)

うん……今日は全然なんともないよ。
今は普通に生活してる分にはそんなに支障はないんだ。
だからこそ、イヤになっちゃうよね。どうして頑張れないんだ、って。

(顔をあげて、笑ってみせる。空気を重たくしたくないのか、軽口を挟みながら)

……あはは、全然判らなかったなら上手くやれてたのかな。
あの夢さえなければなあ、お花見行ったのは失敗だったな。
次からは秘密がバレないように下調べしておかないと。

(教えてね、と言われて少し迷うかのように視線を彷徨わせる。
 やがて決心したかのように相手の目を見据えて)

……助けが要る、のかどうかはわからないけれど……
折角だから聞いてもらっていいかな。隠してた理由というか……そんな感じの事を。
……そんなに大した事じゃないし、面白い話でもないけど……あっ、勿論無理にとは言わないから!
ふふっアレクシアに起こしてもらえるなら、嫌な夢も捨てたものじゃないや。
うん……その時は聞いてもらうよ、正直言うと自分でもよく分らないんだ。
何でこんな夢が続くのか、俺はどうしたいのか、とかさ。

(俯いたまま零す言葉に黙って耳を傾ける。
やがて顔を上げて見せてくれた笑顔で思い出したように大きく息を吸いゆっくりと吐き出す)

こういうのは上手くやれたって言わないぜ。
お花見は一緒出来て本当に良かった。
ええ、他にも隠し事があるのかよ!?

(いつもの冗談を交えたような会話、努めてそうしたように感じた。
 僅かな逡巡の後に真っ直ぐこちらの瞳を覗き込んでくる。
 だから俺も少し神妙になって見つめ返し)

そう、だね。
落ちついて考えてみたら、単に格好つけたいって理由じゃ腑に落ちないもの。
アレクシアが良ければ俺も話して欲しいよ。
大丈夫、愉快な話は一つも無くたってさ、キミのことなら知りたい。
……それじゃ、聞かせてもらえるかな?

(座ろう、そう言って手を差し伸べて)
ふふー、さてどうでしょう!
秘密はあるかもしれないし……ないかもしれないね!
……なんてね。ありがとう。

(冗談めかすように少し笑ってから、差し伸べられた手を取って立ち上がる。
 そのままソファーに座り直すと、落ち着かせるように息を吸い込んでからゆっくりと話し始める)

……夢で見た通り、昔の私は本当に身体が弱くて家に籠もりきりだった。
他にできる事がないから、毎日本を読んだり兄さんの話を聞いては外の世界を想像するだけの生活。
そんな私に、お父さんも、お母さんも、兄さんも、他の人もみんな優しくしてくれた。
私を責める人は誰もいなかった。
嬉しかったし、とても幸せな事なんだろうとも思ってた。

(そこまで言ってから一拍置いて、やや躊躇いがちに続きを紡ぐ)

……でも、私はそれが嫌だった……!
優しくされてばかりで、守られてばかりで……!
ただ笑ってるだけで報いる事もできない自分が嫌で……!
どうして自分は、物語のヒーローみたいになれないんだって……
ずっと苦しかった……

(大きく息を吐くと、膝の上に置いた手を握りしめ)

……だから私は、召喚された時に決めたんだ。
この身体の事は秘密にしよう。
誰にも心配掛けないようにしよう。
もう守られる側にはならない。今度は私が、誰かを守れるようになろうって!

……それで、ずっと黙ってたんだ……
……あはは、こうして振り返ると我ながら自分勝手だね!
面白くない話でゴメンね!

(努めて明るくしようと、相手の顔を見て、ぎこちなく笑って話し終える)
(直ぐ隣でゆっくりと語られる言葉に意識を傾ける。
 視線は小さなランタンの灯りに遣りながら。
 やがてこちらに向けられた笑顔に顔を上げ頷いて返す)

面白くないなんてことはないよ。
俺も知りたい話だったから。

アレクシアが誰かを守りたいと思うのは。
例えば、自分は世話をかけるだけじゃない……。
ただの可哀そうな病人じゃない……。
それを、証明したい……そんな気持ちもあるのかな。
だから身体が弱いことも知られたくない……とか。

(打ち明けてくれた言葉、そこから少しでも汲みたくて、
 考えを巡らせれば、次第に己をなぞるようになり)

もしそうなら、俺にも少し分かる気がするよ。
俺は別に身体は弱くはないけど。
それでも自分のことを認められたい。
……皆に認めさせやりたいよ、何に代えてもね。

自分勝手なことないさ。
そりゃ、身体が辛いときに黙っていて欲しくは無いけど。
それでも……アレクシアが隠したい気持ち、理解は出来るよ。
誰にだって譲れないものはあるからね。

(一旦言葉を切ると、ため息をついてから天井を見上げ)

ふふ、でも子供の頃に看病されていた話は少し羨ましいな。
そういうの、憧れたことあってさ。
でも、俺って滅多なことじゃ風邪一つ引きやしないの。
馬鹿だったんだろうね。
(話を聞いて、はっとした表情になり、暫く考える。
 少しして、考えを整理するように言葉を紡ぐ)

……証明したい……そう、か……そうかもしれない。
あんまり……考えたことはなかったけど……
私は、お父さんやお母さん……何より兄さんに、褒めてもらいたかったのかもしれない。
人助けをして、凄い冒険をして、こんなこともできるんだって。
一人でも大丈夫なんだって……

(胸に手を当て、ふぅ、と息を吐く。
 続く声音は少し明るくなっている)

私、だいぶ前にも「一人でも多くの人を助けたい」って話したよね。
それは本当で、今でもそう思っているけど、何でそう強く思うのかは自分でもはっきり判ってなかった気がするんだ。
そうするのが当たり前で、みんなが笑ってるのを見られればそれでいいじゃないって思ってた。
でも、シラス君の言う通り、心のどこかで認められたいって思ってたのかも。
同じように誰かを守ってみせれば、きっと兄さんも褒めてくれるだろうって。
……ああ、何だかちょっとすっきりしたような気がする。ありがとう。

(軽く微笑みながらお礼の言葉を言う。
 その笑顔からはぎこちなさは消えていた)

ふふ、身体が丈夫なのは良いことだよ。
寝てる時って本当に退屈なんだからさ!
まあでも、今度シラス君が風邪を引いたら、私が看病してあげよう!
一回くらい看る側に回ってみたかったんだ!任せてよ!

(言って、いたずらっぽく笑う)
ふふ、どういたしまして。

でも今のアレクシアを見たら、親だって何だってきっと褒めてくれるさ。
前にも話したじゃん、心の地図を広げていこうって。
それがいつか追いついたら、お兄さんにだって、必ずね。

認められたいのは誰だってそう。
でもね、見ず知らずの他人の笑顔のためにだよ。
こんなにも頑張れる人なんてなかなかいやしないよ。
それを当たり前って思えるのは、キミの心がとても強いからだ。
そのどちらも本当のアレクシアだって俺は思うよ。

どうだい、俺でよければもっと褒めちゃうぜ?

(いつもの笑顔が戻ったようで、嬉しくなってつられて笑って)

確かにずうっと寝込んでる。
目が覚めても横になったままって想像すると滅入ってしまいそう。
だからこんなに本を好きになったんだろうね。

俺が看病されたいって思ったのは、もう本当にその時に構って欲しかっただけだから。
でも参ったな、そんなこと言われたら、今度こそ風邪を引きたくなっちゃうよ。
それこそ楽しくて寝れないぜ、きっと。
拗らせたりして。

ああ、何だか少し、懐かしいや。

(何かが沁みるようで、気づけば自分の胸に手を当てていた
 それを追い出すように深く息を吐いて、俯いたまま)

……ねえ、俺の夢のこと聞いてくれるって言ってたよね。
さっきは格好悪いって思ったけど、やっぱり話してみてもいいかな。
キミとこうしてると、つい思い出してきちゃって。
ふふ、そうだといいな。
お母さん厳しいからなあ。そう簡単には褒めてくれないかもしれないや!
でもそうだね、兄さんにまた会う時には、きっと褒めてもらえるようになるんだ!

ありがとう。そんな風に言われると照れちゃうな!
心が強い……かあ。自分じゃよくわかんないな。
困ってる人を見たら手を差し伸べたいと思う、ちょっと良い事してお礼を言われると嬉しい、誰かの笑顔を見れば心が暖かくなる。
そういう気持ちは、誰だって持ってると思うんだ。
そしてみんな、いざという時はその為に頑張れるって信じてる。
だから私が特別強いだなんて、考えたこともないからさ。

でもシラス君が言うなら、ちょっとは自惚れてみてもいいのかな。ふふふ。
ただ、これ以上褒められるとなんだか嬉しいようなむず痒いような気持ちになるからもういいよ!大丈夫!

(褒め言葉に、何だか気恥ずかしいような気持ちを覚えて笑って誤魔化す)

そうだね、本があればどこにでも行けたから。
そういう意味でも、やっぱり私は恵まれてるんだろうなって思うよ。

ふふ、看病はしてあげたいけど、風邪引かれるのは困っちゃうな!
その間、シラス君と外に遊びに行ったりもできないわけでしょう?
拗らせるなんてもってのほかだね!その時は早く治してもらわないとそのうち怒っちゃうぞ!

(冗談を返し、ひとしきり笑った後、隣に座る相手の様子を見て、次の言葉を静かに待つ。
 やがて紡がれた言葉に、穏やかに微笑みながら)

……うん、いいよ。シラス君が良ければ話して欲しいな。
私も、まだまだ色々知りたいから。君のこと。
ゆっくりで大丈夫だから。聞かせてもらえるかな?
お出かけはいつも楽しいけどね。
アレクシアに怒られるのも捨てがたいや。
これは悩んじゃうな……なんてね。

(微笑んで言葉を返す相手に頷いて感謝を伝えると、やがてポツポツと言葉を吐き出す)

ありがとう……何から聞いてもらおうかな。
言葉にしようとすると、何だかとりとめのない感じでさ。

夢は決まって俺の家族のことで……。
兄貴がどんな奴かって前にも話したけど今日はもう少し。

アイツ、俺と全然似てなかったんだ。
青い目をしていてさ、髪なんて綺麗な金髪で。
ろくでなしのくせに妙に品があってね。
自分は母親そっくりだったからガキの頃は不思議に思ったよ。

でもその理由は直ぐに分かった。
母さんは段々と昔話ばかりするようになっていってね。
大半は兄貴の親父のことなんだけど、何でも大層なお貴族様らしいんだ。
その頃には母さんの言うことは曖昧になってたから、俺も兄貴もそんな話は信じちゃいなかったよ。
ただ母さんは兄貴と一緒に男に捨てられて、その繰り返しで……俺は別の種から生まれたんだって納得した。

(俯きながら発していたぼんやりとした声が次第に強ばり、揺れて)

だから、自分はこんなにも母さんから貰って生まれたのに、兄貴は可哀そうにって。
そんな馬鹿な心配までしていたんだ。

(そこまで話すと鼻をならし、その笑みのまま顔を上げて尋ね、何かを確かめるように言葉を止める)

笑えるよな?
母さんの目は兄貴しか映していなかったのに。
(この部屋で拾った人形を見つめながら、隣で語られる言葉に耳を傾ける。
 これまで聞いてきた断片的な話からある程度は想像していたものの、自分とは全く違う境遇の話。
 やがて語り終えた相手の顔を見る。笑みを浮かべてこそいたが、笑ってないように見えた。
 聞くほどに、自分に何が言えるだろうかと不安になっていた。それでも、思った事を口に出さずにはいられなかった)

そんな事ないよ!笑うようなことでもない!
お兄さんの事だけじゃなく、シラス君の事だって見てたはずだ!
色々事情は複雑かもしれないけど、それでも自分の子供なんだよ!
気に掛けないはず……ないじゃない……!

(不安を振り切るように、そうであって欲しいという想いも込めて勢いよく喋りきる。
 それから自分を落ち着かせるように深呼吸をして)

……何も知らないのにごめんなさい。
でも、私は…………

(言い淀み、考え込むように言葉を切る)

止めちゃってごめん。
夢の話だから……まだ続きもあるんでしょう?
良かったら最後まで聞かせて欲しい。
全部聞き届けるから。
ううん、謝ったりしないで。
アレクシアがいてくれるだけで、一人で考え込むよりも、ずっと落ち着いていられるんだ。

(真摯な様子で語りかけてくる言葉に、作っていた笑みは消えて、少し真剣な表情で頷く。
 やがて静かな面持ちで淡々と語りだして)

ありがとう……そう、夢。
いつもあの2人と別れた日のこと。

兄貴についていけないで家を飛び出した、なんて言ってたけど……ゴメン、半分は嘘なんだ。

確かにアイツは滅茶苦茶をやっていた。
腕が立って命知らずだったから、チンピラ共は直ぐに兄貴の言いなりになった。
やがて性質の悪い連中ともツルむようになってさ、兄貴達が何かする度に街の暗がりが広がっていくようで……けれど俺はそんなの構いやしなかったんだ。
言われるままに何だって協力したよ。
兄貴のおかげで母さんは花売りなんて汚い仕事をやめられたし、俺達を笑う奴らもいなくなったから。

ただ、その代わりに母さんは段々と良くない薬に耽るようになっていってね。
ある時期から街に性質の悪い品が流れるようになるともうその後は酷いものだったぜ。
綺麗な人だったのに半年もしないで見る影もなくなっていったよ。
もう助からないって子供の目にも分かった。

そしてある日さ、兄貴の奴が久々に家に戻ったと思ったら、俺に新しい仕事を手伝えって。
聞けば、よりによって母さんをあんなにした薬を山ほど用意したから、となり街にも流すだなんて言うんだ。

俺は驚かなかった、兄貴たちの仕業だって薄々と分かっちゃいたからさ。
ずっと考えないようにしていたんだ、でも本人に突きつけられたんじゃどうしようもないじゃないか。
アイツがあまりにも簡単に話を続けるものだから、俺もつい食ってかかって。
でも、言いたいこと沢山あったのに、胸が詰まって……どうして、どうしてって、それしか言えなかった。
悔しくて、情けなくて、涙が止まらなかった。
兄貴はもうウンザリって顔でさ、いつものように俺の胸倉を掴み上げて言ったよ。
いい加減に目を覚ませって。

そして長い溜息をついてこう続けた。
あんな女は親じゃない、赤ん坊の俺を殺そうとした。
まだ歩けもしない俺を捨てようとした。
兄貴に庇ってもらえなければ俺は何回も死んでるってさ。
聞いちゃいけない話だった、受け容れられなかった、頭が真っ白になっていった。
まだ何か喋り続けていたけど、俺は喚きながら兄貴に掴みかかっていった。
ハッとした時には、2人で揉みくちゃになって倒れていた、床に血が沢山広がっていって。
握ったナイフのヌルっとした感触はよく覚えてる。

急いで血を止めなくちゃ、それよりも医者を呼ぶべきだろうか。
俺はパニックになっていたけど、背後に人の気配を感じて凍り付いたよ。
……母さんだった。

大声に反応したのかな。
でもまだ意識があるだなんて思わなかった、立って歩くなんて信じられなかった。
まるで死体みたいな姿が一歩動くたびに揺れて、こちらに近づいてきてさ。
俺は気圧されてしまって、尻もちをついたまま後退って……何とか声を絞り出した。

あの時、何を伝えようとしたのか自分でも分からない。
何かを訴えようとしたのか、それとも謝ろうとしたのか。
ただ、お母さんって呼んだんだ。

でも母さんは真っすぐに兄貴のところまで歩くと寄り添うように倒れてしまった。
こちらを一目見ることもなかったよ。
そうしたら、ボソボソと何かを呟いてるのが聞こえてきて。
耳を澄ませればそれは子守唄だった。

もう何だか現実じゃないみたいで、他人事のようにポカンとして見ていた。
遠くで誰かが叫んだ気がしたけれど、気づけばそれは自分の声だった。
きっと俺は2人が羨ましかったのだと思う。

それで……よほど酷いことをしたのだろうね。
そこから暫くのことは頭から放り捨ててしまったみたい。
気づいたら街の外れで膝を抱えてた。

……ゴメンね、気分悪くなったかな。
もう少し、もう少しだけ話を聞いてよ。

ローレットに来るまではずっとそのことに蓋をして生きていた。
考える余裕が無かったんだろうね。

それがさ、召喚を受けてから、夢に見るようになったんだ。
あの日の母さんのこと、母さんの目。
確かに俺を反射していて、けれど俺なんてそこにいないかのようで。

俺が殺されてやれていたら、母さんは俺のことをずっと覚えていてくれたかな。
ううん、そもそも俺なんて生まれて来なければ2人とも違った生き方を見つけられたのかも。
そんな拗けた考えをしたこともあったよ。

(澱みかけた思考を振り払うように声の調子をあげてから、ニッと笑って)

勿論、今はそんなことばかり思っちゃいないけどね。
(真剣な面持ちで話しに耳を傾ける。
 やがて話を終えた相手を見て、軽く微笑んで)

……色々……と一言で言ってしまうにはあまりにも複雑だけど、色々あったんだね。
私はシラス君のお母さんには会ったことがないから、本当はどう考えてたかはわからない。
でも……やっぱりシラス君がいなければ……いないなら……なんて心から思ってたなんて思えない。
私が甘すぎるだけなのかもしれないけど、やっぱりそこは信じたいな。

シラス君が召喚されてからそんな夢をよく見るようになったのは、少し余裕ができたからなのかな。
気持ちというか、考える余裕というか……それで蓋をしてた重石が外れちゃったのかなって。
私、話を聞いてて、シラス君は色々確かめたいんじゃないのかなって思ったんだ。
お兄さんがどうしてあんなことをしたのか、お母さんが本当はどう想ってたのか、あの時何をしたのか……
だから今も夢に見るんじゃないかな。もやもやしたものがいつまでも残ってて。忘れられなくて。

(少し迷うように視線を外してからしばらく黙り込む。
 比較すれば随分と恵まれた環境で生きてきた自分がこれ以上何か言えるのか。
 それでも何か力になりたいと、なれればと思い、やがて意を決して話し始める)

……私が言うべきことじゃないかもしれないけれど。
いつか決着をつけなきゃいけないんだと思う。
2人がそれからどうなったのか、ちゃんと知らなきゃいけないんじゃないかな。
お兄さんもお母さんも、もしかしたらそれから普通に生きてるかもしれない。
シラス君がローレットで活躍してるのをどこかで聞いてるかもしれない。
もしかしたらそうじゃないかもしれないけど……
でも、どういう形であれ、ちゃんと見届けなきゃ夢は終わらないんじゃないかなって……そう思うんだ。

……無責任なこと言ってるね、私。
でも、その夢で……思い出で、シラス君が苦しんでるなら……
私はそれを失くすためにできることはなんだって協力するよ。
色々っていうか、いまいち整理ついてなくて……ごめんね。

(信じたいと言い切られて、つい苦笑い。
 頭を抱えるように手を添えて天井を仰ぎ見て)

アレクシアは本当に……いや、流石かな。
キミの中じゃ信じるに値しない悪い奴なんていないのかも知れないね。

余裕が出来たのは、そうかも知れない。
ローレットに喚ばれる前の俺は、食ってくだけで必死だったし。
もうそれ以上は何も考えたくなかったから。

今はあの二人のことを納得したい、仕方なかったんだって。
そうだね、確かめたい気持ちもあるかな、全部、本当のこと。
ただ、思い込んでるものと違ったらって思うと、怖いな。
うーん、どうしたいんだろ……。

(目をつむって髪をグシャグシャにして頭をかいて考え込んでいたが、また語られ始めた声に耳を傾けて、ゆっくりと向き直し、頷いて)

もういないとしても、きちんと知っておくことが、決着か。
いや、確かにね、兄貴は殺しても死ななそうな奴だったし、母さんだって死体を見たわけじゃない。
それに、あの日の終わりも思い出せない。
まだどこかで生きてると思うとゾっとするなあ、でも今度こそ俺のことを見てくれるかもね。

(無責任という言葉に首を横に振り)

ううん、夢を見て何が一番辛いかってさ。
結局、俺には何の価値も、意味だって無いんだって馬鹿な考えで頭がいっぱいになる。
それなら、誰も俺のこと無視できない位に偉くなってやろうって。
でも、こうやって話してる時間は、そんなことよりも楽しくて……だから、その……ありがと。
(信じるに値しない悪いヤツなんていないのかも、と言われて首を振り)
ううん、どうかな、私も許せないって思ったり怒ったりすることはいっぱいあるし。
今だって、シラス君の話を聞いてほんとはちょっと怒ってるもの。
シラス君にそんな扱いをするなんて、って。
でも、信じたいんだよね。
私達だって何かの拍子に魔が差したり道を踏み外すこともある。
でも、それだって根本が変わったりしたわけじゃない。
だから、人には色んな理由があって衝突したり悪事を働いたりうまくいかなかったりするけれど、優しい心だって持ってるはず。
そう信じるのを諦めたくないだけなんだ。

(なんとなく照れくさくなったのか、こほんと咳払いを1つ。
 それからゆっくりと言葉を紡ぐ)

大丈夫、きっと見てくれるよ。
そうじゃなかったら私が文句を言ってやる!
……本当のことを確かめるのは怖いと思う。
でも、確かめないままじゃいつまでも重石になることもある。今の夢のように。
シラス君がどうするかはシラス君次第だけど……もし必要なら、私はいつだって手伝うからね。

(ありがと、という言葉に優しく笑って)
こちらこそ、ありがとう。
私もシラス君といろいろお話できる時間はとっても楽しくて。
ついつい時間を忘れちゃうくらい。
ねえ、だから君に何の価値も意味もないだなんて、絶対にないよ。
親が言おうが神様が言おうが、そんなことは私が否定してやる。
私の大切な友達に何様のつもりだ、ってね!
……っん……。

(微笑んで語りかけられる言葉の一つ一つが胸に沁みるようだった。
 声にすれば潤んでしまいそうで、言葉を返せずに繰り返し小さく頷く。

 そして思う。
 2年前の自分ならどう感じたか。
 世間知らずを鼻で笑ったかも知れない。
 それとも綺麗事だと噛みついただろうか。

 けれど今は違う。
 隣に座る友達の想いの強さを知っている。
 何より、信じたいと願う自分もいる。

 言葉が途切れると伏せていた視線をやっと上げて目を合わせ)

必要だよ……アレクシアがいてくれたら、怖いものなんて無い。
きっと確かめてみるから……その時、側にいてよ。

(ランタンの芯が揺れる、2人の影が一瞬縮んではまた元に戻る)

うん……俺さ、独りになってからローレットに来る前まで、毎日がすごく長く感じたんだ。
何をしても混ぜ過ぎた絵の具の色みたい。
暗くて、つまらなくて、それが自分なんだと思ってた。
今はそんなことない、この1年で退屈なんて無かったし、アレクシアと友達になれたからね。

だから、俺が何か持ってるとしたら、それは皆が、キミがくれたものだから……大切にするよ、自分のこと。
アレクシアがそこまで言ってくれるんだもん……約束する。

ああ……本当に、時間が過ぎるのを忘れちゃうね……灯り切れそう。
……困ったな、全然眠たくないや。
わかった!その時は必ず側にいるよ!
それがシラス君の力になるのなら!約束するよ!
必要とされたときに駆けつけるのがヒーローだしね!

(力強く頷き、笑ってみせる)

そう言ってもらえると嬉しいな。
与えてもらうばかりだった私も、誰かに何かを与えることができたんだって思えるから。
ちょっと自惚れちゃうかも、ふふっ!
でもきっとそれは、シラス君が元々持っていたものでもあるんだと思うな。
シラス君風に言えば、絵の具で塗り潰しちゃって見えなくなっていただけで。
私も君から、色んなものをもらってきたわけだしね!

うん、でも、そうだね。
大切にしてほしいな、自分のことを。約束だよ。
でももしまた辛くなることがあったら……無理はしないで話してね。

(喋り終えると、切れそうな灯りを見つめながら一息吐く)

あはは、本当に随分長々とお喋りしちゃったね。
眠れないなら眠れるような歌を歌ってあげようか?なんてね!
まあ、私も目が冴えちゃってるけどね。
いつまでも話していたいような気分でもあるけれど。
ちゃんと寝ないと明日が大変だよ!冒険は今日だけではないのだから!
ありがと……そうだぜ、アレクシアは俺のヒーローだから。
もう守られてばかりなんかじゃないさ、絶対に。

(頷く強さにつられてニッと笑って)

自惚れっていうかもっと自信持っていいよ。
きっと大勢を助けてるから。
そんなキミに何かあげられてるって思うと俺も嬉しくなるね。

うん、約束。
大切に……これはアレクシアもだからね?
いつかまた自分が分からなくなったら。
俺はきっと今日のこと思い出すよ。

(小さくなった灯りに目をやり、少し惜しむように笑って)

そうだね、明日はまた別の冒険が待ってる……かな?
是非、キミの歌を聴いてみたいけど、寝かしつけみたいで恥ずかしいよ……いや、誰が見てるってわけでもないけどさ。
ふふー、それじゃ次にチャンスがあれば歌ってもらおうかな。

(そう言って、ランタンのノブを捻ると、一瞬真っ暗になる視界。
 やがて目が慣れて辺りの輪郭を映しはじめて。
 春の湿った寒さに包まれるようで、鞄から毛布を取り出して広げる)

こんなに暗いと雪の貴婦人の鍾乳洞を思い出すね。
あの日も話を聞いてくれたっけ。
それじゃ、今日はこれで……おやすみなさい。

(ソファに背を預けると少し身を傾けてゆっくりと目を閉じる。
 室内の僅かな明暗から月が雲に陰るのを幾度か感じて。
 それでも眠りは訪れず、ふと零す)


…………アレクシア……まだ起きてる?
うん、もちろん。
私も大事にするよ、自分のこと。
色んな人のおかげで今があるんだしね。

ふふ、それじゃあ歌はまたいつか機会があればってことで。
まあ、別にそんな大したものでもないけれど!

(ランタンが消え、視界が真っ暗になるとなんとなく寂しくなる。
 目が慣れてきて側にいるのを確認すると、少し安心した気持ちになり、持ってきた荷物から毛布を取り出して包まる)

 うん、懐かしいね。
 あのときのことも、今も忘れてないよ。
 今日も、色んなことが知れてよかった。嬉しかった。
 おやすみなさい……いい夢を。

(言って目を瞑る。
 自分が思う以上に喋り疲れていたのか、体力のなさゆえか、存外に早く微睡みが訪れる。
 掛けられた言葉に答える声音も、半ば夢見心地のよう)

………………なあに………?
(応えた声が温かくて、彼女の影を見つめていると切ない気持ちさえした。
 でもそれは寂しさとも違うから、素直に言葉にすることが出来た)

……手……つないでくれる?
…………んん……うん……

(半ば夢のなか、呟くように返事を返し、暗闇の中ゆっくりと手を探る。
 やがて見つけた相手の手を優しく握りしめる。)

……ふふ……あったかいね……

(微睡みながら手を取って感じたのは暗闇の中での安心感か。
 闇の中で目が利けば、常より穏やかな寝顔が見えたかもしれない)
(重なった手の平が柔らかな温もりに包まれるのを感じてそっと握り返す。
 側で囁かれるのが嬉しくて顔を綻ばせる。)

……うん、あったかいや…………ありがと……

(つないだ手に意識を傾けると緩やかな眠気に誘われて、安らぎの中で瞼を閉じる。
 ぼんやりとけれども確かに思う、今日は悪い夢は見ない。
 聞こえる吐息がやがてゆっくりと規則的なものに変わっていくのを感じる。
 だから、慈しむような、ほんの少し愁うような、胸の奥の想いを込めて)

…………好きだよ……


(終り)

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