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at no.9

緑の廃屋(1:1)

王都の市街とスラムの中間地点、通り一本を隔て街並みの変わる境界線上、そこには覆い茂る緑と共にひっそりと佇む洋館らしき建造物があった。
錆びた門を軋ませて一歩その敷地に踏み入れば、朽ちて色を失った屋敷とは裏腹に、もはや庭木とも呼べぬ植物達に溢れる生命力を夜の闇の中でも確りと感じられた。

「孤児院だったらしいぜ、此処。俺がガキの頃からこんなだけど……っと」

シラスは屋敷の裏口の方へ回ると、鞄から鍵束を取り出して見せる。
盗んだ、譲り受けた、不正に複製した。
その数は少年が幻想の街を彷徨う足跡そのものだ。

やがて一つを屋敷の戸に差し込んで捻ればカチリとした金属音。
ほっと小さな溜息をひとつ。

屋敷に入ると寂れた空間が天窓から降り注ぐ月の光に照らされていた。
床にはまばらに朽ちかけたインテリア、幼児用の玩具らしい人形や木馬などが部屋の隅に寄せられている。
そんなヒトの残り香を包み込むように、木々の緑がもう屋内まで及ぼうとしていた。

(アレクシアさんとの1:1のスレッドです、他の方の書きこみはご遠慮ください)

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ううん、謝ったりしないで。
アレクシアがいてくれるだけで、一人で考え込むよりも、ずっと落ち着いていられるんだ。

(真摯な様子で語りかけてくる言葉に、作っていた笑みは消えて、少し真剣な表情で頷く。
 やがて静かな面持ちで淡々と語りだして)

ありがとう……そう、夢。
いつもあの2人と別れた日のこと。

兄貴についていけないで家を飛び出した、なんて言ってたけど……ゴメン、半分は嘘なんだ。

確かにアイツは滅茶苦茶をやっていた。
腕が立って命知らずだったから、チンピラ共は直ぐに兄貴の言いなりになった。
やがて性質の悪い連中ともツルむようになってさ、兄貴達が何かする度に街の暗がりが広がっていくようで……けれど俺はそんなの構いやしなかったんだ。
言われるままに何だって協力したよ。
兄貴のおかげで母さんは花売りなんて汚い仕事をやめられたし、俺達を笑う奴らもいなくなったから。

ただ、その代わりに母さんは段々と良くない薬に耽るようになっていってね。
ある時期から街に性質の悪い品が流れるようになるともうその後は酷いものだったぜ。
綺麗な人だったのに半年もしないで見る影もなくなっていったよ。
もう助からないって子供の目にも分かった。

そしてある日さ、兄貴の奴が久々に家に戻ったと思ったら、俺に新しい仕事を手伝えって。
聞けば、よりによって母さんをあんなにした薬を山ほど用意したから、となり街にも流すだなんて言うんだ。

俺は驚かなかった、兄貴たちの仕業だって薄々と分かっちゃいたからさ。
ずっと考えないようにしていたんだ、でも本人に突きつけられたんじゃどうしようもないじゃないか。
アイツがあまりにも簡単に話を続けるものだから、俺もつい食ってかかって。
でも、言いたいこと沢山あったのに、胸が詰まって……どうして、どうしてって、それしか言えなかった。
悔しくて、情けなくて、涙が止まらなかった。
兄貴はもうウンザリって顔でさ、いつものように俺の胸倉を掴み上げて言ったよ。
いい加減に目を覚ませって。

そして長い溜息をついてこう続けた。
あんな女は親じゃない、赤ん坊の俺を殺そうとした。
まだ歩けもしない俺を捨てようとした。
兄貴に庇ってもらえなければ俺は何回も死んでるってさ。

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