シナリオ詳細
<フイユモールの終>クリスタラード・クライシス
オープニング
●戦士達の輝き
壮観そのものである。志願した亜竜種の戦士たちが一同に集まり、ここヘスペリデス中継基地に並んでいた。
「クヌェ族、パルパ族、ハディ族、カッマ族――それぞれより戦士を集めた」
白い髭に顔が殆ど隠れたパルパ族の族長が列の中から現れる。他部族の族長たちもだ。
「イエローイキシア集落の部族の大半は、いまローレットの味方だ」
「クリスタラードと戦うのであれば、その支配より助けてくれた恩、今こそ報いる時である」
「敵対的であったデデ族やトイタ族たちも今は和解が成立しておる。心配は無用じゃ」
そう言われ、天目 錬(p3p008364)やリディア・T・レオンハート(p3p008325)たちは顔を見合わせる。佐藤 美咲(p3p009818)は『それはそうでしょうね』という顔だ。
一方でレイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)とオデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)は微笑んで彼らの背後を見やる。泉の精霊の加護が、彼らには見えたのだ。離れていても、一緒に戦ってくれるということなのだろう。
「すごいな! クリスタラードとの決着のためにこんなに集まったのか!」
熾煇(p3p010425)が嬉しそうにぴょんぴょんとはねるが、それは『七つの亜竜集落から集まったうちの一集落』に過ぎない。
「待ってくれ、俺たちもいるぜ!」
レッドレナ集落から志願した戦士達がバルバジスの頭部から作ったという戦太鼓を叩きながら前に出る。クーア・M・サキュバス(p3p003529)がほほう、と目を細めた。
「皆、出来ることをしたいの。戦える人も、そうでないひとも」
決意を込めるように言ったのはトルハという亜竜種の少女だった。バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)が目を見開く。非戦闘員である彼女が前線に出てくるとはとても思わなかったからだ。トルハは自らに勢いを込めるようにして胸を手に当てる。
「わたしたちは、皆さんに救われました。故郷を、誇りを、生きる意志を貰いました。だから一緒に戦います。
直接戦う力が無くても、医療班として後衛テントに入れますから」
「トルハ……」
目元を咄嗟に抑え、バクルドは息を吐いた。大きくなった。そう、思う。
「驚くのは未だ早いわよ! ここには七つの集落全部から戦士たちが集まってるんだから!」
そう言って平たい胸をはる少女に、トスト・クェント(p3p009132)が思わず声を上げる。
「呉覇! 鈴・呉覇、来てくれたんだね」
「当然じゃない」
彼女の後ろにはオーシャンオキザリス集落や鈴家から集められた選りすぐりの戦士達と医療スタッフが並んでいる。
鯤・玲姫(p3p010395)と襲・九郎(p3p010307)も彼らのどこか誇らしげな様子に驚く。初めて見た時のぼうっとした様子とはまるで違うのだ。
サンディ・カルタ(p3p000438)はつい嬉しくなって声をあげた。海の底から宝珠をひとつ盗み出す冒険がついに竜殺しの軍勢にまで変わるとは。
「私達はただ生きてた。生きてただけ。そこに生きる意味と力をくれたんだもの、一緒に戦うのは当然でしょ?」
きゃは、と笑う呉覇。
そんな中で、澄恋(p3p009412)と炎 練倒(p3p010353)は列の中から女性たちが歩み出るのを見た。
「あなたは……」
「その節は、バザーナグナル様が大変お世話になりました。なんて、変な言い方ですわね」
死してなお番犬のごとく使役されていた優しき守護者。そしてそれを慕う乙女たち。
シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)は深く頷き、その後ろに続く武装した戦士達を見やった。
彼女たちはヴァイオレットウェデリア集落の戦士達だ。かつて家畜としてクリスタラードのエサとなっていた彼らはその支配から解放され、人として生きている。
そして今、人として戦おうとしているのだ。
「からの~?」
「ちゃかすんじゃないよ」
伊達 千尋(p3p007569)がビッと指を向けると、アダマス・パイロンが彼の頭をぺちんと叩いた。
彼女の後ろにはホワイトホメリア集落から集まった戦士達。彼らはみな細身ながらスタミナはあるようで、目には精強なギラつきがあった。
中でも長を務める白髭の老人が、杖を突きながら前に出る。
「わしらは永きにわたり支配と牢獄の日々にあった。解放の悲願を達成した今、同じ憂き目に遭う者が出ぬようにしたい。あのようなことは、くり返してはならぬ」
ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)はフッと苦笑し、そしてプルネイラ・吏・アガネイアムへと振り返った。
「アンタも、来るのかい?」
「はい。外の世界を見せて貰いましたから。あのような綺麗な世界を、もう壊させはしません」
そこにいたのはプルネイラだけではない。
グリーンクフィア集落で支配から解放された人々が、攻め手医療スタッフにと志願しているのだ。
タイム(p3p007854)は微笑み、そして深く頷く。ルブラット・メルクライン(p3p009557)は胸にそっと手を当て、仮面の下で目を閉じた。
(ベルガモット。この民たちは、こんなにも強く生きている。きっと、生きる苦しみとも闘えるだろう)
「ここまで集まっているということは……」
ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)と散々・未散(p3p008200)がちらりと顔を見合わせる。
「ああ、いるぞ! ブラックブライアより黒響族! 応援要請を受けて只今推参だ!」
冬越 弾正(p3p007105)をヘッドとあおぐ彼らが進み出て、弾正とハイタッチを交わした。
郷田 貴道(p3p000401)がHAHAHAと豪快に笑った。戦士達の中には塔の最上階をかけて戦った彼や彼女の姿もある。にっこりと笑うセララ(p3p000273)。
アルティマという集落群があった。
そこはかつて、クリスタラードの『人間牧場』であった。
人々は様々な手段で飼い慣らされ、クリスタラードのエサとなるべく捧げられ続けていた。
そんな――ホワイトホメリア、ブラックブライア、ヴァイオレットウェデリア、レッドレナ、オーシャンオキザリス、イエローイキシア、グリーンクフィア――七つの集落は、ローレットの活躍によって解放され、いま戦士となって応援に駆けつけたのである。
気持ちは一つだ。
「今こそ、クリスタラードを倒そう!」
●クリスタラード討伐作戦
竜を殺す。その奇跡のような作戦が、いま始まろうとしていた。
事実それは奇跡なのだろう。生まれながらにして圧倒的な強さをもつ竜種の、それも六竜に数えられるクリスタラードを倒すなど不可能なことだと誰もが思っていたのだから。
「けど、そのチャンスは今をおいて他にないわ!」
作戦を説明する鈴・呉覇は大胆にもそう言い切った。
「ローレットのみんなの活躍で、クリスタラードを守っていた七つの水晶体は破壊された。それを再生する時間はもうない筈。今攻め込めば、クリスタラードは丸裸よ」
とはいえ、その『丸裸』がどれほど強力であるかは直接戦ったローレットが痛いほど知っている。
前回はクリスタラードを巣から追い出すことだけが目的だったので重傷者も少なく済んだが、トドメを刺すまでになればどれほどの抵抗があるか知れたものではない。こちらにだって、死者が出ることは覚悟するほどなのだ。
なにせ歩く災厄。破壊の権化。普通に相対すれば大勢の死者が出てもおかしくないような存在なのである。
「しかも、今はヘスペリデスの奥地まで逃げ込んでる。亜竜たちがうようよいる中によ。私達も露払いをさせてもらうけど、どれだけやれるか――」
「それなら、任せて!」
少年の声がした。大勢が振り返り、その何人かは目を見開いて彼の名を呼んだ。
「「バシリウス!」」
クリスタラードの養分にされかけていた彼が、どうやら目を覚ましたようだ。
「バシっちゃん、もう大丈夫なのか?」
千尋が心配そうに尋ねるが、バシリウスは首を振る。
「大丈夫じゃないよ。力がかなり落ちちゃったし、ちょっとフラつく。けど、戦えるよ! クリスタラードさまと直接は無理だけど……その手前までなら」
彼も将星種『レグルス』級の竜種だ。クリスタラードほどでないにしても、かなり強い。力が衰えているといっても心強い戦力になってくれるだろう。
うんっと呉覇は腕組みをして頷く。
「部隊はクリスタラードと戦う本隊。その本体を送り届けるための突撃部隊、負傷者の手当をする医療部隊に別れるわ。みんな自分の力が使えるところへ行って頂戴。それと……」
呉覇は考え込むようにしてから付け加えた。
「クリスタラードをここまで『おいつめた』存在はきっと今までいないわ。だから、まだ誰も見たことのない奥の手があるかもしれない。本人ですら自覚していないような、そんな力が。
みんな、充分に注意して。手負いの虎ほど危険なのだから」
●消えない傷、消えない光
俺は死なない。俺は無敵だ。
俺は負けない。俺は最強だ。
そのはずだ。そのはずなんだ……。
覇竜領域は深部、ピシュニオンの森の更に奥。
ヘスペリデスへと進軍したローレット・イレギュラーズたちはついにベルゼーへと手をかけつつあった。六竜との戦いも本格的に始まり、その多くはローレット側の優勢であるという。
このまま行けば、彼らは最深部へとたどり着くだろう。
天義では未だにルスト勢力による神の国騒動が起こり、その波は海洋、幻想に続き練達や豊穣にまで及んでおりそれらの対応に追われている真っ最中だというのに。
天帝種『バシレウス』――六竜がひとり、霊喰晶竜クリスタラードは地面に降り立ち、よろぼうように歩く。
そして痛みにこらえるような顔をして、胸を押さえた。
自分がいま何をしたのか、思い出して。
この胸にもう傷はない。切り落とされたはずの腕もこの通りだ。自分にダメージらしいダメージは残っていない。虎の子の水晶体は壊されたが、それだって時間さえかければ、時間さえ……。
「時間だと……?」
思わず呟いた言葉に笑いがこみ上げてきた。
時間は今まで稼いできたはずだ。それを使って、力を取り戻して、ゴミ人間共をなぎ払って、また悠々自適に暮らす。そのはずだった。そのはずだったのに。
「なんでだ! なんでだ! なんでだ! なんで連中は追いかけて来れた! なんで立ち向かってくる! 俺は竜だぞ! 天帝種『バシレウス』だ! 逆らったら死ぬ存在! 絶対者! そうだろう! そうだろうが!」
地面を足で踏みつける。
その力のすさまじさに地面は耐えきれず放射状のヒビをいれ、ついには砕けクレーターを作って周囲に砂利を吹き飛ばした。
ぱらぱらと雨のように落ちる小石を浴びながら、クリスタラードの荒い呼吸は止まらない。
まるで落ち着く様子がない。
それも全て、脳裏に焼き付いた『傷』のせいだ。
そう、『傷』だ。
これまで自分を傷つける存在などいなかった。同格の竜たちでさえ距離を置き、下位のものなど頭を垂れ、それ以下の家畜はただの食い物でしかなかった。
それが当たり前で、そうすることが自然だった。
「どこだ? どこでおかしくなった……」
万事うまくいっていたはずだ。
自分は最強の竜で、そのはずで。
それが、どこかでズレた。
最初のズレは……確か練達を襲おうとジャバーウォックが言い出したときだったろうか。いや、厳密にはあの奇妙な町を蹂躙すると決めた時だ。
鉄の馬に乗ったゴミ人間どもが胸をつつくから、邪魔に思って蹴散らしてやった。それで終わりの筈だった。誰もが絶望と恐怖でこちらを見上げるいつもの光景になる筈だった。
けど連中は、違った。
キッとにらみ付ける瞳には光があって、その光には燦然とした意志があった。
本能が悟ってしまったのだ。
この意志を、殺せない。
この決意を、折れない。
この連中を、潰せない。
そう悟ったからだろうか。クリスタラードは退いてしまった。あの街から。
たしか当時は、どうせこれ以上壊したところで何にもならないからと考えたのだったか。それも、今思えば後付けの理由めいていた。
自分は……逃げ――。
「違う!!!!!!!!!!!!!」
気付けば膝を折り、地面を殴りつけていた。
大地のクレーターは更に大きくなり、震撼した大地がゴゴウと唸るように鳴る。
「俺は逃げていない! 俺は負けない! 俺は死なない! 俺は――!」
そして脳裏に光った。
彼らの――ローレット・イレギュラーズたちの目の光が。
振り払っても、吹き飛ばしても、殴り倒しても、どれだけ仲間が倒されても向かってくるあの決意の光が。
「うあ、あ、ああああああああああ!」
殆ど無意識だった。
無意識にクリスタラードは七つの水晶体を作り出していた。拳大のそれは誰をとりこめるでもない小さなもので、しかし妖しく光っている。
そのうちの一つを手に取って、まるで果実のようにかじりつく、ガガリとむりやり囓り取った水晶を呑み込み、更に囓る。
囓る、囓る、かみ砕いて飲み下す。
それを何度くり返しただろう。クリスタラードはその作業をくり返しながら――こう呟いていた。
「死にたくねえ……!」
本来他者を喰らい発揮するはずの機構を自らで喰らう。
その破滅的とも、狂気的とも言える行為は、彼にひとつの真価を発揮させた。
後戻りのできない、破滅への暴走と引き替えにして。
- <フイユモールの終>クリスタラード・クライシス完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別決戦
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2023年07月25日 22時15分
- 参加人数108/∞人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 108 人
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参加者一覧(108人)
リプレイ
●ヘスペリデスの荒野
花が咲き乱れ空は青く、楽園のように美しかったヘスペリデスは今、地獄の荒野と化していた。
空は赤く雷鳴が迸り、大地に赤い川が流れは花は散り醜い土が剥きだしになったその場所こそが、暴食の気まぐれ――ヘスペリデスの今の姿だ。
そんなヘスペリデスを跋扈するのは、ベルゼーのもとへと行かなかった亜竜たち。そしてその亜竜たちは今、クリスタラードを阻む危険な壁となっていた。
「蜂の巣になりたい奴は前に出ろ。なりたくない奴も前に出ろ。貴様らの行く先は地獄のみだ」
そんな地獄めいた敵軍へ挑むのは『生来必殺』イルマ・クリムヒルト・リヒテンベルガー(p3p010125)たちであった。
イルマは小銃を乱射しながら敵陣へと突撃。ワイバーンの群れに穴を開け、仲間を先導し走る。
一人で作れる穴は僅かな浅さだ。だがそれが仲間たちと力を合わせなら違う。
「亜竜の相手は私にお任せ下さい。皆さんは、どうか先へ」
『砂漠の蛇』サルヴェナーズ・ザラスシュティ(p3p009720)は優雅に舞を披露すると、溶ける天使の輪の如き『光輝の冠』より暗い光を解き放ち、ワイバーンたちへと浴びせかける。
目の色を変えたワイバーンたちが彼女を食い尽くそうと群がってくるが――。
「あら、怒ってしまいましたか?これは恐ろしい。こちらですよ、もっと追いかけて来て下さい」
誘導した先にいたのは『ローゼニアの騎士』イルリカ・アルマ・ローゼニア(p3p008338)。『朝日が昇る』赤羽 旭日(p3p008879)の背から飛び降りた彼女は『トロン』を雷の如く鮮烈に振り抜き、ワイバーンの首を切断した。
それでも起き上がろうとするワイバーンのボディめがけ、旭日の『スコルピウス』が上空からの射撃を敢行。縫い付けられるように力尽きたワイバーンを見ると、再びイルリカを自らの背に担ぎ上げた。
「マジでやんの? 合理的かもしれないけど、こんなぶっつけ本番でやるもんじゃ……」
「あ、荷物になったら捨てていいからね」
上空へと戻っていく二人をよそに、『新たな可能性』ミスト=センテトリー(p3p010054)はこきりと拳を鳴らした。
「集落の人たちも力を貸してくれる……今こそ竜をうつ絶好の機会!
露払いは引き受けた! みんなは存分に戦ってきてくれ!」
ミストは迫るテュポーンの巨体を前に気合いを入れると、炎を纏った拳を繰り出す。
衝撃相殺。直後にはしる、白銀の閃光。
(嗚呼、でも心地良う御座います。
闘争を望む竜の雄叫びが。囃す様な闘志達の腕の頼もしさが――……。
そして、こうして差し出されるあなたさまの機械の掌が)
それは『魔女の騎士』散々・未散(p3p008200)の放った剣の閃きであった。
更に突如としてテュポーンの首が破裂するように破壊され、その向こうから『懐中時計は動き出す』ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)が微笑む。
「周囲は騒がしく亜竜だらけ……心の臓を毟りに行ったときも近しい状態でしたがそれよりも酷いですねえ、これは」
差し出した手のひらを、未散がとる。
「さて、行きましょうか」
手を取り、そして……。
(此の人もぼくを置いて死ぬのだと思ったら、途端に愛おしく為っただとか。
惜しくは無いのだけれど、嗚呼、顔に出ない性質で良かったと心から想う)
未散は誰知らず笑うのだ。
そこへ現れたのは首をいくつももつ亜竜ヒュドラであった。
無数の口が開き、毒のブレスを解き放つ。
対するは『物語領の兄慕う少女』コメート・エアツェールング(p3p010936)と『物語領の猫好き青年』メテオール・エアツェールング(p3p010934)。
「ここで倒れるのは敵だけです、味方は誰も倒させませんわよ!」
「この段階の戦いで、他の方々を損耗させる訳にはいきませんからね……!」
毒の霧を駆け抜けヒュドラをマークすると、魔光閃熱波を至近距離からぶち込んだ。
直後にメテオールのデッドエンドワンが首の一本へと打ち込まれる。
「皆がクリスタラードの元に辿り着けるよう、自分達はここで戦います!
あの竜への攻撃は前回できましたからね……奴を倒すのは頼みます!」
そこへ加わったのは『切り裂きジル』ジルベール(p3p010473)と『豪放磊落』呂・子墨(p3p010436)だった。
「俺は暴れられる場所があればどこでもいいが。ここはどうやらおあつらえ向きのようだな」
ザッと斜角をとると、魔力を溜め込み砲撃を発射。
突き出した手のひらから毒を帯びた魔力の渦が解き放たれる。
「オーケー、俺たちの仕事は道を切り開いて本隊の護衛だな
んじゃあ張り切ってる背中見せねぇとな!
クリスタラードに因縁ある奴もいる。その思い俺が弾丸にして届けるぜ」
子墨はライフルを構え、ヒュドラの首めがけて撃ちまくった。
彼らの撃ち込む何発ものヘッドショットがヒュドラの首を全て落とし、地面に横たえさせる。
行く手を阻むドレイクの群れ。四足獣めいた亜竜たちは牙をむき出しにして威嚇し、今にもこちらの喉笛を食いちぎるつもりのようだ。
そんな恐ろしい集団に挑むのは『ちびっ子鬼門守』鬼ヶ城 金剛(p3p008733)。
「この機を逃す訳には行かない……!
クリスタルもだけど、みんなの思いが一つになった今こそ天帝種を打ち破るちゃんす!
皆を無事クリスタラードのもとに送り届けるよ!」
突っ込んできたドレイクの牙を、上下に突っ張るように繰り出した足と腕でがちりと受け止める金剛。
かかってこいとばかりに吠える彼に、ドレイクたちが次々に襲いかかる。
結構な堅さを誇る金剛といえどこの数ではひとたまりもないだろう。が、しかし。
「まさかカジノのいちスタッフが竜種に挑むなんて、これはある意味語り草になるんじゃないかしら」
『Joker』城火 綾花(p3p007140)はシャッとトランプカードを扇状に広げると、それらをドレイクたちめがけて投擲した。
「当たれば一攫千金、外せば一文無し! 幸運の女神が微笑む先をご覧あれ!」
突然始まったスロットマシーンの幻影。赤いスリーセブンが表示された途端、黄金の爆発がドレイクを襲う。
「私が相手するならこっちスね。正直なとこクリスタラードよりイエローイキシアの面々の方が大事なんで」
そういいながら銃でドレイクの群れを攻撃する『合理的じゃない』佐藤 美咲(p3p009818)。彼女と共に走るのはイエローイキシアから駆けつけた援軍の亜竜種たちだ。
「今こそ、後世で伝説と語られる時!
この英戦を!そしてそれを語り継ぐ血脈を!
我らを遺すため前進せよ!」
美咲の扇動に気合いを入れ、次々と槍を突き立てていく。
『勇猛なる狩人』ダリル(p3p009658)は浮かび上がり、魔力砲撃を準備。
「ワーハッハッハ!このダリル様が降臨したのじゃ。
我が雄姿を、と言いたいが味方を先に行かせるためじゃ。くらえぃ!」
さすがは火力特化型。放った砲撃はドレイクを数体巻き込み貫いていく。
撃ち落とそうとドレイクの一体が飛びかかってくるが、ダリルはそれを素早い側面へのスウェー飛行で回避した。
直後、迎え撃つように跳躍した『希望の星』黒野 鶫(p3p008734)の剣がドレイクの顔面へと炸裂。
「亜竜として、竜にあらぬとして彼奴等にも色々あるのじゃろうが……それでも、彼らの邪魔はさせぬよ! 此処で儂らに付き合って貰うのじゃ!」
空中で繰り広げられるパワー勝負。
勝利したのは、鶫のほうだった。
撃墜され地面に転がったドレイクに、鶫はトドメの一撃を首元へと突き立てる。
ここから先へは行かせんとばかりに剣を構える鶫。その横を、クリスタラードを目指す仲間たちが駆け抜けていく。
ダリルと鶫はにやりと笑い合い、そして戦いを続けるのだった。
「クリスタラードを倒さないといけないの……さっさと倒れて、皆を通して!」
吠えるバジリスクたちの巨体を前に、ダークムーンの魔術を唱える『物語領の愛らしい子猫』ミニマール・エアツェールング(p3p010937)。
「クリスタラード、殴ってきて……とどめ、刺してきて。わたしはここで頑張る。皆を先に通す……!」
「こういう送り出す時に言うセリフがあるんだよな、確かそう、『ここは俺に任せて先に行け』、だったな」
『鬼斬り快女』不動 狂歌(p3p008820)は斬馬刀・砕門を担ぎ、毒のブレスを放つバシリスクへと突進する。
「俺はあんまりクリスタラードに因縁があるわけじゃないけど生贄を求める竜に鉄槌を下す話は嫌いじゃないぜっ」
大上段から撃ち込んだ斬馬刀の斬撃は、バシリスクの首をいとも容易く切断する。さすがは竜殺しの力だ。
「おいおい、初陣がこんな所かよ。すげえことになってんな」
ラウル・スミス(p3p010109)はそんな中にふらりと現れ、ひとふりの剣を抜いた。初心者御用達と言われるその剣はまっすぐで分厚く、そして彼の目から見てもよくできた剣だ。
「無理をするつもりはねえが……足を引っ張るわけにもいかねえな!」
大事なのは勇気だ。ラウルは剣に力を込めると、バシリスクの集団めがけて飛ぶ斬撃を放った。
斬撃がバシリスクの舌を見事に切断する。
蛇ににたバシリスクは舌で相手の位置を詳しく特定していたのだろう、困惑した様子を見せたその隙に、『新米P-Tuber』天雷 紅璃(p3p008467)がスマホを翳してマクロを起動。
「マクロ:スティールライトニング!」
突如雷雲が召喚され、電撃がバシリスクを襲う。
「前を向いても右を向いても左を向いても竜、竜、竜、ついでに後ろを向いても仲間も竜!
こんな状況じゃなければ配信映えチャンス逃せないんだけどねぇ!
とはいえ話を聞くに力と恐怖で従えるタイプっぽいし突入前の被害は抑えたいところだよねー。
まずはこのwave1を私たちだけで乗り切るところから始めようっ」
チャンネル登録よろしく! と自撮りしてから走り出す紅璃。
『炎熱百計』猪市 きゐこ(p3p010262)はその勢いをそのまま乗せるべく、援軍の亜竜種たちによびかけていた。
「腕が鳴るわね――さあ、行くわよ!」
先陣を切るべく腕まくりをしたきゐこはバシリスクの集団めがけ魔術を発動。その名は『日は不変なれど人ば歩む』。
元世界でおこした偉業のひとつであり、それを組み直した術式だ。その本質は日食による太陽の絶対性の否定。解き放たれた力はバシリスクたちを派手に蹴散らした。
「確かに身体的な力は最強かもしれない、でもね?
自分のことを神か何かだと勘違いして、そのくせして散々舐めていたものの全てから反抗された結果自我を保てなくなって。
あの体を振り回すにしては、あまりにも心が弱すぎる」
剣を抜く。『特異運命座標』鯤・玲姫(p3p010395)は、遥か未来を見据えて走り出した。
挑むは亜竜ナーガの集団。駆けつけたオーシャンオキザリスの亜竜種たちと共に、叫びをあげて斬りかかる。
「ここに来るまでに十分温まったから、今の私でも強い人達とある程度は近づけたハズ!
本命の戦いに水を差させはしないよ!」
『地廻竜の吐息』を発動させた玲姫は、ナーガの首を派手に切り落とした。
「あの弱いものいじめしなきゃ保てないような意思をポッキリ折ってきて!」
『雨を識る』チック・シュテル(p3p000932)の『風塵の狂詩曲』が奏でられ、その旋律がナーガたちへと食らいつく。
「死ぬ事に対して……怖い、思う気持ちは。誰しもが、抱く感情。
彼はこれまでに何度も、数えきれないくらい……その声を聞いてきて。今、その立場に……自分がなってる。
その欲望を、苦しみを。断つ為の『お手伝い』、させてもらう……よ」
クリスタラードへの道を阻むものを食い破るべく、いくつもの命がぶつかっていく。チックはその中で、輝くように戦った。
「此処は任せときな。その代わり、アタシの分まで思い切りヤツぶん殴ってきてくれよ」
『欠け竜』スースァ(p3p010535)も同じだ。先を急ぐ仲間たちを温存しつつ、ナーガの顔面をぶん殴る。
別の頭が腕に食らいつくが、それを振り払って蹴りをいれた。
「邪魔すんな!」
殴り飛ばした頭がどさりと地面に落ち、バウンドする。
「今だ、撃て!」
スースァが叫ぶと敵が密集したその瞬間を狙って『玉響』レイン・レイン(p3p010586)が傘を掲げた。海月の放つ淡い燐光のような光が周囲をなぎ払い、ナーガたちを纏めて吹き飛ばしていく。
(沢山の人が…万全の状態で…色んな気持ちの整理がつくといい…。
相手も…なりふり構ってないみたいだから…みんな…死なないでね…。
僕…ここの人達も…必ず守るよ…)
光によってなぎ払われたその中を、『鋼鉄の谷の』ゲンリー(p3p001310)が駆け抜ける。鍛え抜かれた斧をその手に握って。
「我らがドワーフの王国、鋼の谷が竜に滅ぼされたのも、随分と昔のこととなった。
こうして再び竜の群れと見えることが運命ならば、生き永らえた意味もあったと言うものよ。
竜殺しの英雄らに先駆けての先陣、大いに暴れようではないか!」
ガハハと笑い、ナーガの首に斧を叩き込む。
その斧は、見事にナーガの首を撥ね飛ばした。
クリスタラードの待ち構える園まであと僅か。
大量のロックワイバーンが降り立ち、その強固な鱗を見せ付けるように吠える。その咆哮は波動のブレスとなり仲間たちや支援に駆けつけた亜竜たちを吹き飛ばす。
対して、『こころのそば』ラピス・ディアグレイス(p3p007373)は瑠璃色の瞳を輝かせた。
「僕の愛する人もまた、違う戦場ではあるけれど、命を賭けて戦っている
なら、僕だって留守番はしてられないから。
瑠璃の輝きが皆を守り支えます。
さあ、道を切り拓きましょう!」
治癒の光が広がり、仲間たちを包み込む。
そんな光の中を駆け抜けて、『鋼鉄の冒険者』ココア・テッジ(p3p008442)はライフルを構えた。
(竜殺し、しかも天帝種もの相手ともなれば如何に多勢で状況有利であろうと気が抜けないのです!)
的が大きくて助かるのですとばかりに撃ちまくるココア。
ココアの放った弾は大量のロックワイバーンたちへと命中、飛行し上空を抑えようとしていたものが墜落し、その隙を突いてワイバーンに乗った仲間たちがクリスタラードのもとへと突っ込んでいく。
「覇竜の騒動に首を突っ込むのは今が初めてだけど…クリスタラードの話は私でも知ってる。
亜竜を塵みたいに扱って、奴隷にしてたこと……許せるわけ無いでしょ」
『サイボーグ・ドラゴンガール』剣 恋香(p3p010516)はそれでも空中に飛び上がり邪魔しようとするワイバーンたちめがけて砲撃。カルネージカノンの爆発がワイバーンたちを包み込み、広げた翼を焼き焦がす。
「今まで塵扱いしてたクリスタラード様。今頃何をしてるのかしらね。震えて泣いてるか、イレギュラーズへの命乞いを考えてるか。
いずれにしても許さない。その傲岸さ。贖う時が来たのよ」
そこへ斬り込む『何でも屋』ハビーブ・アッスルターン(p3p009802)。
「誰かを先にゆかすための戦いは、行商をしていた頃には幾度も強いられたものだ
昔取った杵柄というものを、亜竜どもに見せてしんぜよう」
様々な効果の乗った弓を引くと、ワイバーンの胸へと見事に命中させた。
足止めを喰らって憤怒に顔を歪めるワイバーンに、ハビーブは笑った。
「さあ、来るがいい。彼らの戦いに、水をささせはせん」
突撃部隊は大量の亜竜へ戦いを挑み、その激戦は多くの負傷者を生んだ。
しかし彼らの活躍は功を奏し、クリスタラード戦への亜竜たちの介入を許さず、そしてクリスタラード戦へ挑む仲間たちを無傷で送り届けることに成功したのだった。
●助かるはずの命
「空はワイバーンだらけカ。さすが、滅多に見ない大スペクタクル」
『惑わす怪猫』玄野 壱和(p3p010806)は箒に乗って移動しつつ、空に飛ばしたファミリアーと視界を共有。超人的な視力でもって、戦場に取り残される味方を発見した。
(いつもはテントの中で負傷者ドモの治療に掛かり切りだから直接観戦するのは新鮮だナァ。っと、観てないでこっちの役割も果たすとしますカ)
救急搬送は支援に駆けつけた亜竜種たちが行ってくれているとはいえ、それでも足りない手はいくらでもある。そこを壱和たち――つまり『救急搬送班』ウルズ・ウィムフォクシー(p3p009291)と『茨の棘』アレン・ローゼンバーグ(p3p010096)を加えた三人が埋めているのだ。
「護衛は任せて。怪我人の搬送を早く」
アレンは手の甲に薔薇の花を栄えると、目印にとその場に花びらを散らした。
「了解っす! 腕が鳴るっす!」
ウルズは怪我人を背負うと、そのまま凄まじい速度で後方の拠点へと走り出した。
もはや誰も追いつけないような速度だが、それでも獲物を逃がすまいと追いかけてくるドレイクやワイバーンたちはいる。
ウルズは応戦を後回しにして更に加速。その間にアレンが薔薇のモチーフがあしらわれたレイピアで応戦を始めた。
幸い拠点は近かった事もあって、ウルズは易々と後方拠点の救護部隊と合流することができた。
そこには大勢の怪我人が転がり、その中にはイレギュラーズの姿も少なからずある。
「怪我人をこちらへ!」
そう叫ぶのは紙袋を被った医者、『かみぶくろのお医者さん』毒島 仁郎(p3p004872)。
高い身長と分厚いガタイのせいで人を握りつぶしそうな風体だが、彼が信頼できる医者であることはここまでの戦いでの記録が証明している。
「キットをこちらへ!」
「お待たせ!」
そこへ駆けつけたのは『青薔薇救護隊』常田・円(p3p010798)だった。
ここは覇竜領域の秘境も秘境。持ち込める医療設備はごく僅かだ。それをなんとかやりくりしながら仲間の治療を行わねばならない。
円は仲間からの指示を受けては必要な道具を運び、時には一緒について治癒の魔法を唱えるのである。
その一方では、『奉唱のウィスプ』クロエ・ブランシェット(p3p008486)が荒い息で呻く患者を抑えつつ、酷い重傷を治療していた。
(覇竜に行くこと自体初めてですが、青薔薇隊の仲間の故郷でもありますから何か力になりたくて……。
皆の想い、命の輝きは宝石にも負けません。失わせないために頑張りましょう……!)
道具の少ない秘境で役に立つのはやはり技術と知識だ。クロエは少ない道具と亜竜集落から集められた薬草などを使って処置を続けていく。その腕は見事なもので、重傷者もこのまま命を落とすということはないだろう。
同じく『貴方を護る紅薔薇』佐倉・望乃(p3p010720)も持ち込んだ医療バッグからマニュアルと道具を取り出し、虫の息となった患者の治療に当たっていた。
「大丈夫です、大丈夫……」
それは患者に、そして自分自身にかける言葉だった。
状況は厳しい。だが、希望はある。その少ない希望を手にできるのは、自分達の努力をおいて他にないのだから。
そんな過酷な環境下で――。
「頑張って、取りこぼしの無いよう、患者を運んできてね。腕の二本や三本、繋げて見せるわ!」
『みんなの?お母ちゃん』アルフィンレーヌ(p3p008672)と『ライブキッチン』アルフィオーネ・エクリプス・ブランエトワル(p3p010486)も熱心に患者の治療を行っていた。
「あなたはよく頑張ったわ。今はもうお休みなさい。その身体で出て行ったって、直ぐにここに戻ってくる羽目になるわよ?
それとあなた、一旦休んだ方がいいんじゃない?はいはい、無理をしない。わたしたちが倒れたら、いったい誰が、患者を診るのよ?」
彼女たちは患者の治療を行いつつ、医療スタッフとして働く亜竜種たちの様子もしっかりと見ていた。
ヴァイオレットウェデリア集落から来たという乙女たちが疲弊した様子にも、だからすぐに気付くことが出来たようだ。
「なんとか回ってる、ね」
『雨に舞う』秋霖・水愛(p3p010393)は設備の様子を確かめながら、人の動きを注意深く観察し足りない所へ足りないものを運ばせている。
その助けとなっているのが『ラッキージュート』ジュート=ラッキーバレット(p3p010359)だ。一通りのキットを運び終え、残り少なくなった薬品箱を見下ろして唇を噛む。
ものは足りない。人手も足りない。けれど……。
「最強だからって何してもいいって訳じゃねーぞ、クリスタラード!追い込まれてもこんなに被害を出すなんて……!
一人でも多く、守り抜くんだ!」
守るための戦いがここにある、水愛もジュートも、それをよく知っている。そしてそれを教えてくれたのは――。
「フーガさん、いつものあれを」
求められ、『君を護る黄金百合』フーガ・リリオ(p3p010595)はこくりと頷いた。
一度水を飲み干し、トランペットを口元へと運ぶ。スゥッと鋭く息を吸い……安らぎと癒やしの音楽を吹き始めた。
テント中に広がる音楽が、人々の絶望や恐怖を奪い去っていく。
これこそが青薔薇隊だ。続いて、勇気と希望のマーチを吹き鳴らした。
(青薔薇のマーチが響く限り、命を救うことを諦めない!)
そうしたテントの中、『胡蝶の夢』シャルロッテ=ハルシュトレーム(p3p010854)は血を流す患者の横に膝をつき、そっと手をかざした。癒やしの力が流れ込み、温かく包み込む。
(敵は強大……きっと、今回の戦いでも傷を負う方や、あるいは命を落としてしまう方もいるのでしょう。
でも、私達の努力でその数を減らすことは出来るはずです。私を助けてくれたあの名も知れぬ旅人さんの様に……)
そんなシスターがいたと思えば、その隣では巫女のような服装をした『期待の新人』线(p3p011013)患者を運んで走ってくる所だった。
腕が多いためかバランスがいいらしく、良い状態のまま簡易ベッドへと寝かせてくれた。
「こうして、人を運ぶのは初めてなのですが悪くはないですね」
手を握っては開いて、では次の患者がいますのでと走り出す线。
それを見送って『いのちをだいじに』観月 四音(p3p008415)は治癒の魔法を唱え始める。
苦しみに呻く患者の表情が少しずつ和らいでいくのが、見て分かった。
「出来れば皆無事で何事も無く終わって欲しい……ですけど、祈ってるだけじゃ何の意味もないですからね。
私も、出来る限りお手伝いさせて貰わないと後味が悪いんです。
が、頑張りましょうっ」
そこへ更に――。
「5名さま到着です! 治療を急いでください!」
『でうすのかけら』驚堂院・エアル(p3p004898)が馬車を到着させ、御者台から飛び降りる。
馬車に詰め込まれた怪我人が運び出され、そこへ仲間たちが駆けつける。
エアルは手を貸しながら、この恐るべき戦場を実感していた。
ふとすれば人が死んでしまう。手を離せば死なせてしまう。そんな戦場だ。
亜竜対峙だけでこれなのだ。クリスタラードに挑む皆は、一体どれだけの……。
●クリスタラード・クライシス
亜竜の軍勢を抜けた先に待ち構えていたのは、紅蓮の巨竜であった。
「来やがったなコラァ……!」
睨みをきかせるその姿は、岩に腰掛けあくびをしながら迎え撃った前回とはまるで異なる、本気のクリスタラードである。
「この俺をコケにしやがってよお……死にやがれ!」
速攻で繰り出される爪の一撃。大群をその一撃だけで屠れるような、それは天災のごとき振りであった。
そんななか真っ先に前へ出たのは『新たな可能性』レイテ・コロン(p3p011010)。
「どんな気分だよゴリマッチョ? 死が迫って来てるのに助けてくれる友達もいない、一人ぼっちは!」
「うるせえ! 殺してやる!」
「倒しても倒してもボク達は目の前に現れるぞ!」
「だから全員殺してやるって言ってんだよ!」
完璧に防御――したはずだ。したはずにもかかわらず、レイテは派手に吹き飛ばされ巨石に激突。岩は砕け散った。
「回復を! 急いで!」
『聖なるかな?』アザー・T・S・ドリフト(p3p008499)が慌てて治癒を開始。
「これ以上被害を増やさない為には……ここで斃れて貰う他ありませんっ。
その為に!ここは、踏ん張りどころです……!」
「これで漸く仇を……」
そんなアザーたちをAP回復で支援するのは『食わず嫌いはおしまい』マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)の役目だ。
「てめぇどこかで……いや、あの街か」
「ようやく思い出したか。それが最後になるとはな」
チッと舌打ちをし、再び攻撃に移ろうとするクリスタラード。
だがそれを、『破竜一番槍』観音打 至東(p3p008495)たちは許さない。
「――この至東、許せぬことがあります。
あれなる手負いのけものが、このいくさを生き残ったならば、を思いませ。
そうして想起さるるすべての災事が、この至東、『許せぬ』のでございます」
振り抜いた刀が爪へとぶつかる。素早く攻撃から防御に転じたクリスタラードに、刃が鋭く迫ったのだ。
が、至東の刃は一度きりではない。ギュンと音をたて無数の分身を作ったかと思うと一人きりで相手を包囲し、全方位からの斬撃を一度に繰り出したのだ。
「人の身で竜を討つ、即ち護世の弑! 我が身命掛けてでも、成し遂げてみせる!」
血しぶきが舞い、そこへ『ベルガモットを刻め』ルブラット・メルクライン(p3p009557)が飛び込んでくる。
民たちの夢が宿った一本のナイフを、その手に握りしめて。
(……己の行いを悔いていたというのなら、今ぐらいは力を貸せ、ベルガモット――!)
不思議とこみ上げてくる力を胸に、追撃のナイフが走る。
それだけではない。
「汝、僭主なり。恣に人の血を流し、産を掠めし暴君なり。
ここにその非情の罪業を悼む。煮えたぎる血の河の名において!!」
朗々とうたわれた詠唱。それは『フレジェ』襲・九郎(p3p010307)の声であった。
魔法少女めいた美しい乙女の声に、しかし帯びたのは鮮血と暴力の気配。
「良いツラになったじゃねぇか。
初めて「死に物狂い」になったヤツの目だ。
生まれつき強すぎるってのも考え物だな、ここまでされねぇと分かんねぇか」
ギラリと開いた目。ピンク色のポン刀を抜き放つ。
「ケジメをつけろドラ公ォ!」
斬撃が見事に入った。増幅された力によって、クリスタラードの胸の装甲を破ったのだ。
「畳みかけろ!」
叫びに応じて飛び出してく仲間たち。
『トリック・アンド・トリート!』マリカ・ハウ(p3p009233)は『No life queen』『Drop of despair』『Sugar void』を全て付与した完全状態となり、『Lich pudding』の術式を発動させる。
「どう?人に膝を折られるのってどんな気持ち?
悔しいよね~ムカつくよね~。
全部無茶苦茶に殺して回りたくなっちゃうよね~。
いいよ、マリカちゃんと一緒にその願いを叶えて回ろうよ。
あんたを『お友達』にしてやるって言ってんのォォォォッ!!!」
そこへ『狐です』長月・イナリ(p3p008096)の『フェイク・ザ・パンドラ』を乗せた至近距離からの機関銃砲撃が繰り出される。
(絶景かな絶景かな。偉大、強大、絶対無敵と思われた存在が無残に滅びて行く光景を眺めるのは面白いわね。
どうせなら特等席で見学させてもらうわよ)
器用に味方との位置取りを整えながら包囲し砲撃を撃ち込んでいく。
『流浪鬼』桐生 雄(p3p010750)はここぞとばかりに剣を抜き、その分厚い鱗をぶち抜く勢いで振り下ろした。
「おうおう、必死じゃねえか。追い詰められて後先考えられねぇってか? 虫けらなんて見下して笑ってたより今の顔の方がずっといいぜ。本能むき出しって感じでな」
バキンと鱗が砕け、その内側へと刀が通る。
「これでお互い本気の本気、命と命のぶつかり合いって訳だ。そんじゃ始めようぜガチバトル。この”流浪鬼”桐生雄様が竜退治やってやんよ!」
血しぶきが上がり、対するクリスタラードは目を剥いて吠えた。
「反撃が来んぞ、さがれ!」
『蛮族令嬢』長谷部 朋子(p3p008321)が飛び出し『原始刃 ネアンデルタール』を叩きつける。
「よぉクリスタラード、いい顔するようになったじゃねーか。
舐めたツラが消えて必死さが見えてる。戦り合うならそうじゃないとな!
あたしは今のアンタこそが一番強いと信じて戦うよ、互いにマジでいこうぜ!!」
咆哮と呼ぶには生ぬるい、砲撃。あるいは爆破だ。眼前にある全てを吹き飛ばすような衝撃が、朋子の全身をビリビリを痺れさせる。
一人で受け持つにはあまりに強すぎる、格上過ぎる相手だ。本来抵抗どころか、対峙することすら困難な。
だが今、魂で理解できた。今まさに、真正面から戦っていると。
『ドラネコ保護委員会』風花 雪莉(p3p010449)がクローズドサンクチュアリを発動。防御を底上げし、そこに治癒の魔法を重ねがけしていく。
(ついに決戦の時が来ました。強大な敵が追い詰められて暴走状態……先の戦いよりもずっと危険ですね。
ですが、逃げられる事もなく付け入る隙もあるかもしれません。貴方が生きたいように、私達もまた生きたい。ただ命があるだけではなく、自分の意思を持って)
力の強さだけではない。今試されているのは想いの強さだ。
思い切り吹き飛びはしたが、それでも仲間は守ることができた。
クリスタラードの全身にあった傷が素早く再生を始め、フウと息をつく。
「おっと、やべえやべえ……ついマジになっちまった。
なんだろうなあ、こんな気持ちは生まれて初めてだぜ。
テメェらをぶち殺してえ。何が何でも殺してえ。今すぐ全員、ブチブチに潰して回りてえんだよ!」
強く生まれ、強く育ち、並ぶ者も少なく、誰もが頭を垂れるのが当たり前だった。
そんな存在を今、脅かすものがある。
それまで歯牙にもかけなかった、人間という脆弱な存在が――自分の本能に訴えるのだ。
戦え。殺せ。生かして帰すな。
「再生すると言うならそれ以上にいっぱい殴ればいい! 単純明快ですな!」
こちらのやるべきことは『騎士を名乗るもの』シルト・リースフェルト(p3p010711)の言うとおりシンプルだ。
籠手を纏った彼は、クリスタラードの巨体めがけて殴りかかる。
とにかく多く、とにかく強く。
「死にたくないって? そうね、あなたが食べてきた人たちも、ウルティマで従ってた亜竜たちも、同じことを思ってたはずよ」
指鉄砲を構えプリズムサークルを作り出す『木漏れ日の優しさ』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)。
サークルは無数に重なり、筒状となったその中心を太陽の光線が放たれた。
「ちゃんと『いただきます』と『ごちそうさま』してた? そう、あなたはやりすぎたわ、クリスタラード!」
オデットの攻撃とクリスタラードの攻撃は同時だった。
その巨腕から繰り出される打撃が、オデットへと迫る。
(俺のやることは変わらない、妖精を守るだけだ、例え竜が嫌いでもな!)
そこへ割り込んだのは『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)だった。打撃をもろにうけて吹き飛び、岩壁に叩きつけられる。
だがサイズがかばったおかげでオデットは無事だ。
『想光を紡ぐ』マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)はそれならばとダメージをうけた仲間の治癒に走った。
(なるほど。悪しき竜に相応しい邪知暴虐の数々。
いいえ、否定は致しませんよ。御伽噺でもよくある話。
であればこそ、勇者達に討たれるまでを所望したい所です。
それが様式美。というものでしょう?)
自分達が立っているのはおとぎ話のなか。いや、現実になったおとぎばなしだ。
「いかに精強なドラゴンであろうとも、不死身でもない限りはいつかは斃れるでしょう
それが如何に辛く苛烈な道程であろうとも
そのいつかが訪れるまで勇者達の心が挫けることはない
わたくしはその一翼を喜んで担いましょう」
そんな彼女たちへ追撃の打撃が――繰り出されるその一瞬。
「そこだ!」
『放逐されし頭首候補』火野・彩陽(p3p010663)の放った矢の一撃が、見事にクリスタラードの腕を捕らえた。
ただ突き刺さっただけではない。湧き上がる死者の霊たちがまとわりつき、クリスタラードの動きをほんの一瞬だが無理矢理に押し止めたのだ。
大量の亜竜、大量の人間。犠牲にした人々の数は、数え切れぬほど多い。それゆえか――あるいは、彩陽の見せた執念ゆえか。
「前のお前が許されへんかったから! だから全力でお前を倒す! 覚悟!」
「て――めえ……!」
好機とばかりに仲間たちが飛びかかっていく――が、その『瞬間』を『真打』紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)は見逃さなかった。
「秋奈、いや全員さがれ、何かヤバイ!」
クリスタラードが腹の底から湧き上がるような、爆発するような、えもいえぬ波動を自らより放ち紫と緑に輝くオーラに包まれたのである。
瞬間、彼を覆っていた封殺の力が強制的にはねのけられ、飛びかかった仲間たちが払いのけられる。
「BSを無効化しやがったか――」
「けど、その分実ダメージは通るっしょ」
秋奈はギラギラと笑いながら再びクリスタラードへ斬りかかった。
「いくぜ紫電ちゃん。簡単に倒れちゃ駄目だぜ?」
「それはお互い様だろ、秋奈?」
共に飛びかかり、交差する斬撃がクリスタラードへと浴びせられる。
「わかったかクリスタラード。それが『死』。
生物が元来持つ根源たる恐怖。今まで暴れ散らかしていたせいで忘れていたようだな」
「これはいわば介錯ってワケさ。さあ、クリスちゃん。お喋りはここまでだぜ」
クリスタラードはそれ以上の攻撃を受けぬよう引き下がろうとしたが、回り込んだ『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)たちがそれを阻んだ。
「そうだよね。
死にたくない、生きたいは当たり前のきもち。
君も生きているならそう思うのは当たり前…でもね。
君のせいでたくさんの命が、生きたいって思うきもちを傷つけられたことを忘れたとは言わせないよ。
自分だけ「ちがう」なんて言わせない」
「割りと誰でもそうではないでしょうか? 拙も他の命を頂いて生きている訳ですから、余りとやかく言える訳ではありませんが……。
追い掛けて、追い付きました、此処が貴方の終着点です!」
自らの尾を使って払いのけようとするクリスタラード。だがそこに割り込んだのは『ノットプリズン』炎 練倒(p3p010353)だった。
いつかのように割り込み、そしてそれ以上に自らの体をダイレクトにぶつけるという大胆さで少女たちを庇う。
「ガーハッハッハ、生贄を吸収する水晶が無くなって覚悟出来たからか良い面構えになったであるなクリスタラード殿。吾輩としてはもう少しインテリジェンスが欲しいと思うであるが殴り合いの喧嘩であればバーバリアン的振る舞いもまた一興であるな!」
直撃を受け、そのまま吹き飛んでいく練倒。
「クリスタラード。哀れな竜の子。
誰もがアナタを赦さないでしょう。
誰もがアナタを殺さんとするでしょう」
『静観の蝶』アルチェロ=ナタリー=バレーヌ(p3p001584)は即座に『夢と現の幻想蝶』を発動させた。ふわふわと舞う蝶の幻影が分裂するように生まれ、治癒の力となって練倒を包み込んでいく。
「けれど私にはアナタのあの寂しそうな顔が忘れられない。
最後まで見届けると決めたもの。
例え私の永き命がここで潰えたとしても、アナタの行く末だけは見届けなければ。
私は『おばあちゃん』。
悪い子だとしても、ひとりぼっちの子を、1人のままにはさせないわ」
今だ、とばかりにリュコスの渾身の『神滅のレイ=レメナー』、そしてステラの『殲光砲魔神』が完璧なタイミングで合わさり、砲撃となってクリスタラードの尾の付け根を直撃した。
クリスタラードを包む輝きの種類が転じて、オレンジ色のそれになる。すると全身の傷が更なる速度で再生しはじめた。
そうはさせない。治癒を差し止めるがため、『雨宿りのこげねこメイド』クーア・M・サキュバス(p3p003529)が動き出した。
「【致命】をいれたいのです。二人とも、援護を」
直接殴りかかったとて、容易かつ思い通りになってくれるほど甘い相手ではない。だが手練れの二人が援護についたのなら話は別だ。
輝きを放つクリスタラードを見てくすりと笑う『雨宿りの雨宮利香』リカ・サキュバス(p3p001254)。
「自爆覚悟のつもりですか? 滑稽な。
まあ良いでしょう、どうせ食われて死ぬか焼き尽くされるかの何れかですからね。ねえ、クーア?」
これまでの仲間の攻撃でついた傷をえぐるように魔剣グラムによって斬り付けるリカ。
更に『グリーンスライムサキュバス』ライム マスカット(p3p005059)がその傷口へと多し被さり傷を深めていく。
「咆哮一発で体が飛んじゃいそうです……体だけならコアで再形成できますが……。
でも、なんでですかね、わからないんですけど、ゾクゾクするんです……肉の欠片でも食べたらどうなるんでしょう……えへへ……」
そうしてえぐった傷にトドメとばかりに叩き込むのがクーアの『無間赤月』である。
魔王の権能をアレンジしたというその必殺剣は、つきたてたその場から幻影の炎を生み出し吹き上がる。それはクリスタラードの治癒効果を無理矢理にかき消してしまった。
「チッ――!」
振り向き、払いのけようと腕を振り込むクリスタラードその腕をがしりと掴んで止めたのが、『山吹の孫娘』ンクルス・クー(p3p007660)。そしてンクルスをすぐ後ろからサポートした『群鱗』只野・黒子(p3p008597)である。
黙々と状況を分析していた黒子が治癒の力を発動させながらンクルスたちをサポート。ンクルスはそれをうけ、クリスタラードの腕をなんとか受け止めた。
「今まで悪い事してきた天罰を与えないとだね! 皆に創造神様の加護がありますに!」
超人的な再生と圧倒的な暴力。シンプルな強さ故に、クリスタラードはしかしシンプルな攻めを貫いたローレット・イレギュラーズの猛攻を止めきることができない。
いや、それ以前の問題だ。
クリスタラードほどの圧倒的強者は、その竜の姿を見せるだけで誰もが怯え竦み頭を垂れた。それだけでよかった。だというのに、彼らは臆せず向かってくる。この外で戦っているというアルティマの人間たちだって、そうだ。
どこからこんな勇気が、どこからこんな例外(イレギュラー)が生まれたというのか。
そしてクリスタラードは、自らの姿を竜のそれから、人間型のそれへと変えた。
的が大きいだけで、邪魔な体など――『この殺し合いに無粋なだけだ』。
「……あ? 今、俺は何を考えた?」
激戦の中で、クリスタラードは瞬く。
胸の奥から燃え上がるような、炎のようなこの感情はなんだ?
この感情のままに叫んでみたら、一体どんな言葉が生まれるだろう。
「もっとだ」
まだ知らない、それは、クリスタラードの――。
「もっとかかってこい、人間どもォ!」
「中途半端な攻撃で私達を止めようだなんて、100万年早いですわ〜!」
『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)のメイスが人間型となったクリスタラードの手によって止められる。
が、衝撃が伝わらなかったわけではない。足元の地面にぼこんと小さなクレーターが生まれ、クリスタラードが痛みに歯を食いしばる。口の端から血がこぼれるのを、しかし笑みで上書きして。
「だったら殺してやるよ赤髪のォ!」
「そうはさせない!」
『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)の雷のようなシューティングスターキックがクリスタラードの顔面に炸裂した。
「必ずクリスタラードを倒して皆が平和に暮らせる場所にしよう! ヴァリューシャ!行こう!」
「ええ!」
二人がかりのコンボが連続して炸裂。
クリスタラードの全身を、赤いオーラが包み込む。
引き絞られる拳。そこに込められた圧倒的な殺意と暴力に――『おしゃべりしよう』彷徨 みける(p3p010041)が動いた。
「こっちだよ馬鹿竜!」
二人を押しのけ、前にでるみける。自殺行為とすら言えるが、それでも。
――再現性東京。故郷を襲った竜の災害を忘れてはいない。襲った竜の名は、クリスタラード。あの日かなわなかった、邂逅が、対峙が、みけるの勇気をもって実現したのである。
「ううっ……!」
パンチを両腕のガードでギリギリ受け止めるみける。
いや、ギリギリなんてものじゃない。全身が悲鳴をあげ、今にも死にそうだ。
「よく受け止めたじゃねえか人間! ならこいつはどうだ!」
もう一発のキックがみけるを吹き飛ばす。『働き人』アンジェラ(p3p007241)が駆け寄り、倒れたみけるの治療を急いだ。
(外敵から社会を守るのは、働き人の仕事……この戦場でもその役目を果たしてみせましょう
即ち、救援要請フェロモン感覚に従い、敵の攻撃から生殖階級の方々を守るのが私の仕事です……しかし、生殖階級の方々でも身を張って誰かを守ることを喜びとなさる方がいらっしゃる手前、漫然と誰かをかばうだけではその方の喜びを奪ってしまうことにも繋がりかねませんから……)
一方で、クリスタラードへは『空気読め太郎』タツミ・ロック・ストレージ(p3p007185)が対応していた。
「今の強化内容は攻撃力の超アップってところか。それなら……!」
タツミは術式を起動し、ルーンシールドとマギ・ペンタグラムを発動殴りかかるクリスタラードの拳を自らの手のひらで受け止めた。
「――!?」
驚きの表情はごく一瞬。それが無効化結界であると悟ったクリスタラードはすぐさま次の行動に移り、タツミの結界を破壊すべく鋭い蹴りを繰り出してくる。
(奴さんヤケになっちまってんな。まぁ、今まで怖いもんなかった奴が、怖くなってんだからさもありなん、ってやつかね。まあしゃーねぇ、悪いけどお前さんは負けてもらうぜ)
まともにくらえば即撲殺コースだ。タツミは必死にガードし、後衛から治癒を飛ばす『料理人』テルル・ウェイレット(p3p008374)の治癒を受けていた。
どこからともなく現れた手がチョコレートを取り出し、テルルはそこに治癒の力を込めてタツミへとパスする。
「この冒険こそが、私にとっての憧れだからです。ならば最後まで立ち続け、見続けましょう」
それを受け取ってひと囓りすると、タツミは構えた。
「他のとこで頑張ってる奴がいるんだ、もっと怖い戦いしてる奴らの為に、俺達は退くわけにはいかねえ! さあ見て行けよ霊喰晶竜! 俺たちはしぶてぇぜ!」
敵が攻撃に転じているということは、逆に攻撃のチャンスでもある。
『慈悪の天秤』コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)は『福音砲機Call:N/Aria』を構え、思い切り撃ちまくった。
「死にたくないわよね。そりゃ怖いもの。
アンタより余程矮小な存在であるアタシ達が脅威になるなんて思わないのが普通よ。
アンタを砕くという意志の強さ……気づくのが少し遅かったわね」
同じ戦場で戦う千尋とタイムを支援するように放たれたその弾丸はクリスタラードへと命中。かすり傷でこそあったものの、クリスタラードに防御と抵抗の低下効果をもたらした。そう、それこそが狙いだ。
(これまでアルティマを、呉覇くんたちを押さえつけてたやつだ。
おれはたぶん、オーシャンオキザリスの人たちをどこか自分に重ねてた。
普段は露払いとかばかりしてたけど。
こいつは、おれ自身の手でぶん殴ってやりたい。
そうでないと、前に進めない気が……駆けつけてくれたみんなを見てたらしてきたんだ!)
『星灯る水面へ』トスト・クェント(p3p009132)が大きく描いた魔方陣からサンショウオ型のオーラがわきだし、トストはそれを拳に纏う。
「お前の力を食らってでも、仮に食い合ってでも……!」
トストの拳が見事にクリスタラードの顔面に命中。
と同時に、『夢見る薔薇』ジャンヌ・フォン・ジョルダン(p3p010994)の放つ星の魔法が激突した。
(幻想から離れなければ知れなかった事。
きっとまだまだ沢山あるはず、です…だから、いっぱい勉強する為に…みんなの力になる為に……。
ジャンヌは今前へ一歩、踏み出す事が出来たのです。
ジャンヌはまだまだ子供なのです。
でもちゃんと見て貰えるように成長するのですよ!)
そこへ更に続く猛攻。
「貴方は確かに強いわ。そりゃあもう、うんざりしちゃうぐらいにね。けど――」
『猛き者の意志』ゼファー(p3p007625)の槍がクリスタラードの腕を貫き、絡め取る。
「偶々生まれつき優れていたからこそ、強かったからこそ……其れに溺れて、誰よりも甘ったれているのよ。貴方」
筋力で無理矢理に下げられたガードに、ゼファーは槍を踏んで跳躍。全力の蹴りを叩き込む。
くらったクリスタラードの表情には、確かな『焦り』があった。
負けるはずがない。死ぬはずがない。劣るはずがない。そう信じたはずが、裏切られるかもしれないという目。
「これが、竜。これが霊喰晶竜。
だというのに、なんだそのざまは。
そんなに追い詰められた目をするなよ。
勝とうが、負けようが、闘いに変わりはないだろ。
最強たるその所以を、示して見せろ!」
『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)の咆哮と共に繰り出した全力の拳を、クリスタラードは腕のガードで止める。
「くそがよ、人間ごときに、この俺様が、俺様がよ……!」
ガードの裏から見えたその目は、ギラついていた。まるで好敵手を見つけた獣のように、行き足掻く野生のように。
「酒鏡さんの思う最強の動き、それは――息切れするまで最大火力を叩きつけ続けること!
どうせ酒に酔ってて難しいことなんざできやしないんだ。
この砲撃が明日を切り開くと信じて、シンプルに火力を押し付けるだけさァ!!」
そこへ『奢りで一杯』紲 酒鏡(p3p010453)が最大火力での魔力砲撃を連発。
ガード姿勢のクリスタラードは、そこから反撃の咆哮を放った。
カッという鋭い叫びが衝撃となり、それを阻むべく割り込んだ『未だ遅くない英雄譚』バク=エルナンデス(p3p009253)が破硝結界を発動。
(竜狩りとは、な。偉大なる存在と対する以上、肉切れになる覚悟は決めた――)
結界によって弾き出したのは、仲間のほうだ。自分一人が砲撃をくらうために。
直撃を受けたバクは派手に吹き飛び、『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)がそれをキャッチする。
(制御不可 暴走状態 自ラモ未知。
死カラ逃レヨウトシテ 死ヘト踏ミ込ンデイルノデハ?
暴走ニ逃ゲタ君ト違イ ヒト 恐怖 戦イ続ケタ。
断崖ヲ超エテ 今 君ニ挑ンデイル。
クリスタラード。強イ ドッチ? 弱イ ドッチ?)
一方でクリスタラードは自らの肉体を再生させ、纏っていた電撃を振り払う。
「デバフを絶やすな! 畳みかけろ!」
『導きの双閃』ルーキス・ファウン(p3p008870)が剣を抜き、クリスタラードへと迫る。
繰り出す剣は凄まじく鋭く素早いが、対するクリスタラードは白い光を纏って高速でそれを回避した。
「スピードを強化してきたか――だが!」
ギリギリまでなら、当てられる。
「「ゴミのような」人間達に、追い詰められる気分はどうだ?
この世界に完璧な生物など存在しない。自らを省みず、他者を見くびり驕り高ぶるその性質……!
それこそがお前の敗因だ、クリスタラード!」
刀をぶつけたその瞬間、『自然を想う心』エルシア・クレンオータ(p3p008209)から灼熱の光線が放たれる。
(反転した母から受け継いだ罪。受け継いだ力。自ら決別を選んだとはいえ、私は、それでも母を愛しておりました……その事実ばかりは、決して変わらない)
誓いを込めて放った砲撃がクリスタラードの力を弱め、そこに『aerial dragon』藤宮 美空(p3p010401)が凄まじい機動力と飛行能力をもって斬りかかる。
「漸くここまで辿り着きましたわ!
真正の竜とは比べ物にならない亜竜の身なれど、挑む事は出来そうです。
私達の爪牙が届くか、竜の貴方が勝利を得るか……いざ、尋常に!」
宙返りから繰り出すロケットのようなキックが、クリスタラードに直撃。
今度こそクリスタラードの身体が吹き飛ばされ――なかった。なんとか両足で地面に踏ん張ることで直立姿勢を崩さない。
反動で軽く地面に手を突いたが、こそぎとった岩を握り込むことでそれを散弾のように投擲した。
「ワタシの後ろに隠れて!」
『星月を掬うひと』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)がライオットシールドを構え、岩を受け止める。
盾が粉砕されるのではというほどの衝撃に、手がしびれた。
「クリスタラード……追い詰めたよ! もう皆を悲しませないで!」
「苦しめるだあ!? 誰が――誰が……」
考えもしなかった。自分によって誰かが苦しむなど、悲しむなど、失うなど。
周囲の存在は自分に奉仕するのが当たり前で、糧となるのが運命で、だから、他人の気持ちなんて……。
「『あいつら』も、そういう気持ちだったってのか……?」
人間を認め始めたクワルバルツ。ベルゼーから離反したアウラスカルト。人間に価値を見いだしたザビアボロス。人間に付き合おうとしたメテオスラーク。
奴らの考えが分からなかった。だからツルむのもやめた。
一人きりでも、強ければよかったから。それで、なにもかもが解決したはずだったから。
「俺が、苦しめていた……だと……?」
「それ以上は危険だよ、さがって!」
傷付いたフラーゴラを引っ張って後衛へと下げる『書の静寂』ルネ=エクス=アグニス(p3p008385)。
急いで治癒の魔法を展開する。
「竜との決戦なんて英雄譚の定番中の定番、是非とも特等席で観戦させてもらおうか」
ルネがさがったことで、その穴を埋めるように仲間たちが前へと出る。
「その決意はイレギュラーズだから出来たものではない。
これまでだってきっといたんだ、俺達が初めてお前に届いたというだけでな。
強すぎるが故に死に抗う決意を学ぶのが遅れたな。因果応報、これまで溜めた業を清算して終われ、クリスタラード!」
『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)が飛び出し、『式符・相克斧』を発動。
斧でクリスタラードへと斬りかかる。クリスタラードはそれを自らの手でがしりと受け止めた。歯を食いしばり、目には殺気がみなぎっている。
前回のような余裕は、まるでない。
そこへ『竜食い』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)が貴族騎士流秘奥義『鬼気壊灰』の追撃を繰り出す。
二人がかりの攻撃を払いのけるべく、クリスタラードは二人の武器を掴んで引っ張り上げ、放り投げにかかる。
(倒せるまで、やつを引き付け続けりゃいいんだよな。つまりは皆のアニキである俺と奴との「我慢比べ」ってワケか)
その隙を突くように、『金庫破り』サンディ・カルタ(p3p000438)が飛び出しクリスタラードの注意を引きつけた。
「よう、クリスタラード。長い因縁だったが、ここでフィナーレだ!」
すぐ後ろから『最強のダチ』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)が演奏を開始。
サンディの手が握りつぶされそうになるのをこらえさせ、その演奏はより高度になっていく。
「生き残れよ、バシリウス。プルネイラ。全力でぶったして、皆で祝杯をあげようじゃないか。やっと届いた勝機。全力でつかむぞ。アルティマ集落の奴らの為にも、な」
願いは音となり、音は力となる。
そうした全てを、クリスタラードは再びの『砲撃』でなぎ払った。
クリスタラードからは、黄金の光が燃え上がり全身を包んでいる。
「俺は、後悔してねえ。アルティマの連中を絞りかすにしたことも、練達の街をズタボロにしたことも、バシリウスを食いかけたこともな。
なにせ……こんな気分が味わえるんだからよ!」
クリスタラードがゆっくりと浮遊する。彼から放たれる気迫だけで周囲の小石が浮きあがり、ぐらぐらと地面が揺れるようだった。
「他者を生け贄にして力を得る邪悪なるドラゴン、クリスタラード。
そのような存在は放置できぬ。聖剣として正義を執行するのじゃ!」
『剣の精霊』ラグナロク(p3p010841)は『魔法騎士』セララ(p3p000273)と共に飛び出し、その剣でもって斬りかかる。
「クリスタラード!キミの敗因は仲間や友達がいなかった事! そしてこれが友情の力だよ! ギガセララブレイク!」
セララの繰り出した剣が、クリスタラードの胸を切り裂き鮮血を吹き上げさせる。
「破ァ!」
顔面に叩きつけたクリスタラードの手のひらから、黄金の光が放たれ吹き飛ばされる二人。
「クリスタラード…いい音を立てて割れそうな名だ。往こう弾正、今できる限りを尽くそう」
「ああ! 雄々しく戦う仲間達の音が、共鳴し合いひとつのエネルギーとなって俺を満たす。
クリスタラード。最強の名に溺れた孤独な竜よ!この歌が、この激情が、貴様の全てを打ち砕く!」
『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)が蛇銃剣アルファルドを放ちながら突進。
その弾丸を受けながら睨むクリスタラードへ、『黒響族ヘッド』冬越 弾正(p3p007105)は陰者終曲の楽曲を演奏した。
それは彼らだけの足取りではない。共に塔を登らんと戦った黒響族の魂が乗った足取りで、音楽だ。
それは光線となって解き放たれ、クリスタラードの胸へと直撃する。
「漸くだ。漸くこの日が来た!お前の息の根を止める日がなァ。
てめぇがやった非道の数々、決して赦される物ではない!
これは……全ての犠牲者の怒りを乗せた拳だ!『呪い殺されて』地獄に堕ちるンだな、クリスタラード!!!」
『竜の頬を殴った女』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)の放つ『禁術・彼岸ノ毒』が毒を染みこませ、クリスタラードを確実に弱らせている。
ここまで皆が打ち込んできたのは、それぞれの特技だ。クリスタラードがいかに様々なパワーアップをはかっても、それに対応する誰かがいる。
いくらなぎ払おうとも、立ち上がって挑む誰かがいる。
それこそがローレット・イレギュラーズ。不屈の英雄たちだ。
炎を纏った拳が、あの日のようにクリスタラードの顔面へと叩き込まれた。
それだけではない。
『喰鋭の拳』郷田 貴道(p3p000401)が鋭いフットワークで側面に回り込むと、殺人的なパンチを顔面へと叩き込む。
「よぉ、クリスタラード、元気かい?
そりゃあ元気に決まってるよな?
尻尾巻いて逃げやがったんだ、元気がない訳がねえ。
散々好き勝手してきたくせに恥ってもんを知らねえな。
ここで終わっとけ、潮時だ」
「お膳立て、なんてカッコつける訳じゃないけどさ。やらせて貰うぜ、出来るだけ!」
更に追撃をしかける『綾敷さんのお友達』越智内 定(p3p009033)。ポケットから出したメリケンサックをくるくると回してから握り込むと、クリスタラードの顔面へと叩き込む。
三人のパンチがそれぞれ顔面にめりこんだところで、クリスタラードは強烈なパンチで全員を吹き飛ばし――た直後、バイクに乗った『Go To HeLL!』伊達 千尋(p3p007569)が突っ込んだ。
「バシっちゃんから伝言だ。『サヨナラ』だとさクリスタラード!」
バイクから飛んだ千尋の、必殺の『Go To HeLL!』が蹴りという形でクリスタラードへと命中する。
直後、奇跡のように輝いたバイクがクリスタラードへと激突、派手な爆発を引き起こした。
「よお、クリスタラードまた会ったな。宣言通り死をくれてやる」
「いのちある限りいのちを喰らい─何れは死にゆくもの。
崇高な竜種なら理解していると信じていたのですけれど。
散々人を葬ってきたあなたが死から逃れようなど笑止千万。
逃げていないと言い張るのなら。
やっと訪れた死も受け止めてくださいな!」
立ち上がり、襲いかかる『蛇喰らい』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)と『花嫁キャノン』澄恋(p3p009412)。
跳躍した二人の拳がクリスタラードを滅多打ちにする。
「バザーナグナル様は民を護るため、乙女達は眠る彼のため戦ってきました。
皆大切な誰かのために脅威へ立ち向かって生きたのです。
わたしはそんな彼らの想いのために戦います。
故郷も民も亡骸もこれから歩む筈の穏やかな日々も、もう荒らさせはしません!」
「うる――せえ!」
滅多打ちにされ、よろめいたクリスタラード。しかしその拳を振り抜き二人を吹き飛ばした。
「俺は死なねえ。俺は負けねえ。俺は竜だ、最強の竜だ! 死ぬのは、テメェらだ――!」
手のひらに黄金の光を宿し――た、その瞬間。
「させない!」
『この手を貴女に』タイム(p3p007854)もまた、黄金の光を放った。手にしていた七晶石が虹を混ぜ合わせ、奇跡の光を放ったのだ。
「圧倒的存在としての自負が。
絶対的強者としての驕りが。
恐れと限界を知るわたし達を侮った」
そう、それは、練達を破壊したあの日から決まっていたのかもしれない。
にらみ付けるタイムの眼差しのまっすぐさが、きっと自分を追いかけてくると。
追いつき、その小さな小さな力をあわせて、かならずその魂を破壊するのだと。
クリスタラードは知った。
戦う喜びを。
クリスタラードは知った。
死の恐怖を。
クリスタラードは知った。
人間の、魂の輝きを。
黄金の光をうけて立ち上がったのは、バクルドたちだった。
奇跡のような輝きを魂から燃え上がらせて、拳を握りしめる。
吠えたのは、同時だった。
クリスタラードは黄金を纏い、バクルドたちもまた黄金を纏い、それぞれの拳が交差する。
顔面を捕らえた拳と黄金の爆発を起こし、そのたった一瞬だけ、彼らの拳は竜に匹敵したのだった。
つまりそれは、竜殺しの最後の一撃。
ここまで積み重ねたイレギュラーズたちの攻撃と、ここまで耐え抜いたイレギュラーズたちの信念。そしてこの場所まで届かせてくれた全ての人々の願いが、この一撃の奇跡を生んだ。
「ぐおあ……!?」
吹き飛んだのは、クリスタラードの方だった。
きりもみ回転し、地面をバウンドし、どさりと両手両足を地面に投げ出す。
ぴくりとも……もう、動けなかった。
「マジかよ……この、俺が……負ける……?」
クリスタラードの中に収められていた魂の輝きが、まるで鳥籠から解き放たれたかのように抜け出て空へと登っていく。
これまで彼が喰らった魂だと、直感でわかった。
「そうか……」
クリスタラードは昇っていく七色の光を見つめながら、なぜだろう、満足げに目を閉じた。
「俺が、死ぬのか」
もっと。
もっと。
「死にたく、ねえ……死にたく……」
クリスタラードが七つの光に包まれる。
巨竜の姿へと変じ、空へと浮きあがるクリスタラードの巨体。
輝く瞳に知性は消え、それは死を恐れ暴れる巨大な獣へと成り果てていた。
「オ、オオオオオオオオオオ!」
「いけない!」
タイムが悲鳴のように叫んだ。開かれた目から溢れるそれは、死と暴力に満ちた光で――。
●最後の光
死にたくない。死にたくない。死にたくない!
その縋るような願いは自らが喰らった水晶体に反応し、己の生命力をすら喰らい始める。
その本末転倒とも言える、あるいは自殺行為ともいえる行いは、しかし死を前にしてみせる文字通りの死に物狂いであった。
宙に浮かぶクリスタラードの巨体は虹色の光を放ち、今にもそのエネルギーが爆発しそうに膨らんでいる。
目からは知性が消え、もはやこの巨竜はエネルギーを自らの内側で暴走させるだけの兵器に等しい。
「あれは……マズイですね。あふれ出る力がこれまでと比べものにならない」
ルーキス・ファウンが歯噛みして宙に浮かぶ虹色の光を見上げた。
「こっちを道連れに自爆するつもりか、くそっ――!」
仲間たちを見る。大半の仲間はクリスタラードの攻撃によって傷付き、倒れる寸前といった様子だ。部隊の大半がアタッカーという前のめりの構成であったこともあり、ヒーラーによる回復は追いついていないのだ。いや、仮にヒーラーが豊富であったとて、クリスタラードの圧倒的破壊力の前では同じような状態になっただろう。
回復するためのエネルギーが尽き果て、荒く息をする風花 雪莉の様子を見てもそれがわかる。
「効果範囲はわかりますか? 今すぐ撤退すれば――」
「それが許される状況じゃ、なさそうだね」
オデット・ソレーユ・クリスタリアが倒れた仲間を引っ張り起こそうとしながら呟いた。
倒れた仲間の多いこの状況。抱えて逃げるには手が足りない。かといって、仲間を見捨てて逃げるなんて選択は、したくない……。
「最後の最後で自爆を選ぶとは、なんとインテリジェンスなドラゴンであるか!」
苦々しい表情で炎 練倒が叫び、なんとか倒れた仲間の命だけでも救おうと立ち塞がった。
状況は最悪だ。これが『竜を倒す』ということなのか……と只野・黒子が独りごちる。
「とにかく、できることをやるしかねえだろ!」
タツミ・ロック・ストレージが倒れた仲間を抱え走り出そうとする。
どの選択も、犠牲が伴う。
例えば倒れた仲間を抱えて逃げたとて、逃げ切れずに爆発に巻き込まれる可能性が高い。
ならば見捨てて逃げるかと言えば、そうなれば倒れた仲間の命が失われるだろう。
盾になって味方を守ることも不可能ではないが、それによって全滅すれば今度は亜竜たちのエサだ。
「考えてる時間はないわよ。せめて『最悪から二番目』くらいは選ばないとね」
コルネリア=フライフォーゲルが別の仲間を抱え、移動を開始した。
少しでも離れ、そして離れきれないのであれば庇う。全滅はするかもしれないが、突入部隊や救護部隊がなんとか駆けつけてくれるのを期待する……というころだ。
天目 錬とセララが頷き、仲間を担ぎ上げる。まだ息はある。死んではいない。
「誰も死なせるか。この戦いで……!」
「無事に帰らなきゃ、ここまで送り届けてくれた皆のためにも」
レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタインが表情を険しくした。
「まずい、来るぞ!」
爆発が――視界を埋める。
虹色の光やがて真っ白に塗りつぶされ、音すらも消えた。
間に合わなかったのか?
誰もがそう思った……その時。
「う――おおおおおおおおおおおおおお!」
誰かの叫びが、聞こえた。
バクルド・アルティア・ホルスウィングの声だと気付いた時、視界から光が消え、目に焼き付いた残光だけがあった。
突き出した彼の義手に全ての光が吸い込まれ、流れ込んでいく。
流れ込む力に耐えられなかったのか、バクルドの義手が崩壊して吹き飛んでいく。
「がはっ!?」
肉体にもかなりのダメージがあったのだろう、バクルドは血を吐き、その場に崩れるように、仰向けに倒れた。
誰もが直感できた。こんな芸当、どうやったって不可能だ。
不可能を可能にする『奇跡』が、起きたのだと。
「生きて帰るって……死ぬ気はねえって、約束、したからよ……」
駆け寄るタイムに、バクルドはうわごとのように呟く。どうやら息はあるようだ。
「爆発のエネルギーを、吸収してくれたんだね。なんて無茶なこと……」
振り返ると、クリスタラードの巨体が地面に横たわっていた。
全てのエネルギーを出し切り、抜け殻のようになったそれは、紛れもなく竜の死体であった。
ハア、と誰かが脱力したように、そして安堵したように息をつく。
その一拍後に、勝利の歓声があがったのだった。
この日、六竜の一角が死んだ。
それは歴史に刻まれるべき、偉大なる勝利であった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
クリスタラードに勝利しました……!
GMコメント
●同時参加につきまして
決戦及びRAIDシナリオは他決戦・RAIDシナリオと同時に参加出来ません。(通常全体とは同時参加出来ます)
どちらか一つの参加となりますのでご注意下さい。
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●シチュエーション
六竜がひとり『霊喰晶竜』クリスタラードとの最終決戦が始まります。
前回の戦いの中でクリスタラードは自らを守る七水晶を失いました。七水晶は長い期間をかければ再生するらしく、丸裸のクリスタラードを叩くには今をおいて他にはありません。
そんなクリスタラードはヘスペリデス奥地にいます。
荒れ狂う亜竜たちの中を突撃部隊によって突き進み、温存した本隊をクリスタラードへぶつけ、それらの際に生じた負傷者を可能な限り死なせないために救護部隊を後衛に設置します。
かつてクリスタラードの支配下にあった七つの亜竜集落の民たちも応援に駆けつけ、突撃部隊と救護部隊に配置されています。また、戦いの中で友情が芽生えた竜バシリウスも手負いではありますが突撃部隊に協力してくれるようです。
そしてこのうち最精鋭となる一部の人員はクリスタラード戦にも協力してくれるでしょう。
●クリスタラード
純粋な『強さ』を持った竜です。
異常に高い再生能力と頑強な防御力をもち、攻撃力は圧倒的です。
倒すには奇跡を必要とするとまで言われるほどの存在でしたが、今やっと手が届きました。
また、クリスタラードは七水晶を自ら喰らったことで自発的な暴走状態にあり、毎ターンランダムで補助効果が発動します。補助効果の内容は不明です。
■■■グループタグ■■■
一緒に行動するPCがひとりでもいる場合はプレイング冒頭行に【コンビ名】といったようにグループタグをつけて共有してください。
大きなグループの中で更に小グループを作りたい時は【チーム名】【コンビ名】といった具合に二つタグを作って並べて記載ください。
また、グループタグは同部隊内のみとしてください。
部隊配置
以下のどの部隊で行動するかを決定してください。
戦場は非常に混乱するうえ危険なため、部隊間の移動は行えません。
また、グループタグは同部隊内のみとしてください。
【1】突撃部隊
本隊を温存させクリスタラードのもとへ送り届けることを任務とします。
道中に出現する様々な亜竜たちとの戦いが予想されます。
※この部隊にはアルティマ集落群、バシリウスの援護がバフという形でかかります。
※この部隊の活躍によって本隊の損耗率が大きく低下します。
【2】救護部隊
後衛に救護テントを設置し、搬送された負傷者を手当します。
搬送はアルティマ集落群の戦士達が主に行ってくれるため、特別にその役目を負いたい方はプレイングに明記してください。
※この部隊にはアルティマ集落群の援護がバフという形でかかります。
※この部隊の活躍によって各部隊の死亡率が低下します。
【3】アタッカー@対クリスタラード
本隊にあたります。
非常に頑強なクリスタラードの防御を力を合わせて突破しダメージを与え続けます。
クリスタラードには異常な再生能力があるため、常に高いダメージを与え続ける必要があるでしょう。
※この部隊にはアルティマ集落群、バシリウスからの援護がバフという形でかかります。
※この部隊は特に重傷率、死亡率が高いため注意してください。
【4】ディフェンダー@対クリスタラード
本隊にあたります。
圧倒的な攻撃力や行動力を持つクリスタラードの攻撃を引き受け続けます。
できるだけ仲間を庇ったり、率先して前に出て注意を引いたりといった活動が必要になるでしょう。
※この部隊にはアルティマ集落群、バシリウスからの援護がバフという形でかかります。
※この部隊は特に重傷率、死亡率が高いため注意してください。
【5】ヒーラー@対クリスタラード
本隊にあたります。
クリスタラードの攻撃によって激しいダメージを受ける仲間たちを治癒します。
純粋なHPダメージだけでなくBS被害を受けることも想定しておくとよいでしょう。
※この部隊にはアルティマ集落群、バシリウスからの援護がバフという形でかかります。
※この部隊は特に重傷率、死亡率が高いため注意してください。
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