シナリオ詳細
<鉄と血と>Heart of the Eisensturm
オープニング
●世界の中心
「なぁ、この国はなんだと思うね、ヴェルンヘル君」
レフ・レフレギノ将軍は、そう尋ねたことを思い出す。冬の始まりのころ、執務室でホットワインを飲みながら。
「なんだと言われれば」
ヴェルンヘルと名乗った魔種は、その時こういった。
「より先鋭化した世界の縮図といったところかな」
「というと?」
「結局の所、世の中『強い奴』が勝つようにできてるってことだ。
強さのバロメーターは、この国では暴力だが、ほかの国では違う。
金。権力。頭の良さ。財産。努力できたか否か。愛。神の祝福。優しさ。皆何かのパラメーターで殴りあっている」
俺が思うに、とヴェルンヘルが言う。
「人間は仲良しこよしなんてできないんだろうさ。なんて言い訳を付けたって、結局は自分を他のものと比べないと生きていけない。そういう生き物なんだ。ほかの国の連中は、鉄帝のことを野蛮だとか、脳筋の単純な国というかもしれないが、結局の所、持っている武器が違うだけで、どいつもこいつも、頭の中身は鉄帝人と変わらないんだよ。人間は皆、殴りあいたがりなのさ。
――だからさ、俺はこの国が嫌いなんだ。この国の人間は、実に、誰よりも、人間臭い」
「だからこの国に来たのかい?」
「まぁ、そうだな。どうせ最初にまっさらにするなら、嫌いなところからにしようと思っていた。この国は、縮図だ。純粋な、人間社会の縮図。強いのが勝つ。そういう、人間社会の根本的で原始的な表出が、この国だ。
バルナバスの太陽――あれの威力を知ったというのもあるがな」
「でも君は愛に生きている」
レフはそう尋ねた。ヴェルンヘルは笑った。
「アンタもだ、将軍。アンタの憤怒は、愛だよ」
「そうかねぇ」
レフは自嘲気味に笑った。
「爺さんを生贄にささげた国家も国民も、憎たらしいのは事実さ。
でもな、僕も思っちまったんだよ。あの時――目の前に、自分の死が濃密に迫ってきたとき。
爺さんがな、優しい顔で僕の頭を、子供の時の様に撫でて、「お前は生き残れ」って愛情をこめていってくれた時にさ。
『ああ、爺さんが死んでくれれば、僕は助かるんだ』って」
はぁ、とレフは吐息を吐いた。
「僕は人間だった。憎たらしいくらいに。
君もそうなんだろう?
僕たちはあまりにも人間だったから、魔に堕ちた。
僕たちが本当に殺したいくらいに憎み、怒りを抱いたのは――『自分自身』だ」
「そうさ」
ヴェルンヘルが笑った。
「歪んでいるのさ、俺たちは。『だからまっさらになることを望んだ』。
世界と心中だ。身勝手で、酷い自己愛だ。釣り合うと思ったのさ。自分の感情と、世界が。そんなわけがないのにな」
「僕たちは勝てると思うかい?」
レフが言った。ヴェルンヘルが笑った。
「勝てるさ。俺たちは『世界の敵』なのだから。必ず、目的を達成できる」
「そうだなぁ。ヴェルンヘル。君は勝って、逃げ延びたのか」
世界が一瞬にして今に収束する。ガンガンになるホットライン。目の前でぎゃあぎゃあと騒ぐ部下ども。あちこちで鳴り響くサイレン。ふたつの太陽。
帝都はすでに厳戒態勢に入っていた。というのも、敵対するすべての六派閥、それが決戦の鬨を上げての攻撃を実行してきたからだ。
この期に及んで、新皇帝派のまとまりは、お世辞にも良いとはいえない。そうだろう、力があれば何をやってもいいのが、今の鉄帝なのだから、力のあるやつらが、仲良しこよしで協調するわけがない。それに、フギン・ムニン一派は独自の思想で動いているし、グロース・フォン・マントイフェル将軍は、どうにも革命派の連中とラドバウ派への対応にかかりきりで――と考えたときに、なんだかんだ全員が全員、それぞれの仕事をしている事実に、レフはどうにも笑ってしまう。
「この状況で白昼夢でも見たのか?」
ルドルフ・オルグレンが淡々とそう告げた。
「奴は――すでに死んだであろう。そうか、あれは勝ち逃げであったのか」
「たぶん僕たちの中で、あいつが唯一勝ち逃げをしたんだ」
レフが笑った。
「うらやましいもんさ。おかげで僕たちは負け戦だろうよ」
「指揮官がそんなことでは、兵士もたまったものではあるまい」
ふん、とルドルフが馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
「将軍に置かれては」
レフが言った。
「勝てると思うかい?」
「このまま無策で奴らが突っ込んでくればな。だが、バイルはグラーフ・アイゼンブルートをつかっているだろう。南部は列車砲を使うだろうし、フローズヴィトニルの欠片はイレギュラーズたちの手に堕ちた」
ルドルフが、ふむ、と唸った。
「盤面をひっくり返される可能性は、0ではあるまい。だが、その可能性も、決して大きくないが――」
「『英雄』ってやつらは、それをひっくり返してくるもんだ」
レフが言う。
「彼らが本当に、英雄足るのならば――強者なのならば。ここでそれを証明してくるのだろうね」
「英雄。強さ」
ルドルフが笑った。
「この国は、どうも、そういうものに踊らされすぎているのかもな」
「それも人間だよ。とても人間臭い国だ」
レフが笑った。その時、部下の一人が、レフの下へと駆けよってきた。
「将軍、お耳に入れたいことが」
「どうぞー」
「新時代英雄隊の一部が離反し、内部からこちらへの攻撃を開始した模様です。
例の件がばれたのでしょう」
「ああ、家族に仕送りしてやる、って約束したの全無視した奴か。
意外とバレるのが早かったな。もうちょっと騙せると思ってた」
ふん、とレフが不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「じゃあ、まぁ、いいよ。裏切者はまとめて殺しな。どうせ最後はバルナバスでドボンだ」
「は――」
部下が去っていくのを、ルドルフは見送りつつ、言った。
「バルナバスか。確かに、奴は最強のジョーカーだ。勝とうが勝つまいが、この国を亡ぼすだろう」
「だから君はここにいるんだろう?」
レフの言葉に、ルドルフは複雑な感情をのせた笑みを発露した。
「帝都の最大の警戒態勢だ。儂が起こせなかった事だけが唯一残念だよ」
●
作戦はすでに始まっていた。示し合わせたように、東西南北から一斉に、各派閥は攻撃を開始していた。
帝都入り口の関門は、予想外にもあっさりと突破できていた。というのも、新時代英雄隊内部に裏切者が発生したらしく、大規模な離反と反乱がおこったかららしかった。
更に意外なことに――その離反軍を率いていたのは、齢十ほどの少女であったとされる。ソフィーヤ・ソフラウリッテと、愛情を持った両親に名付けられた少女は、この時、その絶望と怒りを、正しく胸に秘め、離反した同じ境遇の者たちと、真に守るべきもののために戦っていた。
『あなた』は、西・南関門からスチールグラードに入場する。上空には飛行型の天衝種が飛び交い、地上には自称英雄たちと同じく天衝種たちがはびこる。仲間たちが、そして同じ派閥の兵士たちが、雄たけびを上げて突撃していくのが分かった。
「イレギュラーズさんですね?」
少女が――ソフィーヤと名乗った少女が声をかける。
「こちらの方が手薄です! こちらへ――あ、えと、わたしたちは味方です。
新時代英雄隊でしたけど、離反しました。信じてもらえると嬉しいです」
目の前の少女が嘘をついているとは思えない。あなたはうなづいた。少女もうなづき返す。
「簡単に、状況を説明しますね。
このラインには、2名の将軍が陣頭指揮を執っています。
北西では、ルドルフ・オルグレン将軍が。
南西では、レフ・レフレギノ将軍が」
その言葉の意味を、あなたは頭に叩き込む。つまり、この2将軍を討ち取る必要性があるということだ。
「街にも、協力してくれる市民の方がいて……たぶん皆さんの派閥の、これまでの求心力によって、どれくらい協力を得られるかが変わってくると思います」
あなたはうなづいた。あなたたちが、これまで行ってきたすべての出来事が、あなたの力と協力として、結果を見せてくれるはずだ。
「それぞれの将軍を討ち取れれば、帝都市街の抵抗も収まるはずです。
お願いします、どうか、どうか……この国を、真に守ってください!」
少女の願いに、あなたはうなづく。
ここは中心。アイゼンシュトゥルムの中心。
この地で、この国で、最後の戦いが始まろうとしていた。
- <鉄と血と>Heart of the Eisensturm完了
- GM名洗井落雲
- 種別決戦
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年03月23日 22時36分
- 参加人数126/∞人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 126 人
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参加者一覧(126人)
リプレイ
●帝都攻防
今や帝都への帰還は成った。
西部から攻め込んだ帝政派……いや、帝政・南部合同派というべきか。いずれにしても、帝政派軍を主とする一団は、その猛攻とイレギュラーズたちの力を借りながら、帝都へと突入。
今まさに、帝都内部での作戦行動を開始したのである――。
「わたしたちが援護を行います!」
新時代英雄隊、いや、今はそれを離反した一人であるソフィーヤ・ソフラウリッテが、ともに離反した仲間たちともに、イレギュラーズたちへの援護を開始する。それは、元軍人たちだけのそれではない。帝都に住む者たちが、今まさに、自分たちができることをやろうと、できうる限りの『戦い』を繰り広げていた――。
「イレギュラーズさん、こっちだ! こっちのルートなら奴らの数も少ない!」
家の中から声がかかる。住民たちは地域ネットワークを利用して、状況を把握しており、それを随時イレギュラーズたちに伝え続けていた。これは、攻撃にも防御にも使える情報であったし、簡単ながら支援術式などを使えるものは、ありったけのそれをイレギュラーズたちにばらまき続けている。
「まるで、帝都全体が味方になったようでして!」
ルシア・アイリス・アップルトンが声を上げる。ソフィーヤが、「やっぱり来てくれた」という思いの視線を送るのを、くすぐったく思いながら。
「今のみなさんは「英雄」ではなく「勇者」でして!
立ち上がって伝えるべき人に伝えるべき事を!
これだけでも大きな一歩になるのですよ!
そしてそれは今成されたのでして!」
今この場にいる『勇者』たちにそう告げる。力あるもの。そうでないもの。強者も弱者もない。今できる精一杯をやらなければ、そういう思いもすべて消えてなくなってしまう。
強者も弱者も生き残れる、鉄帝とする。その想いは、今この場に生きるすべてのものに共通するそれだった。
「鉄帝国の気風には思う所もあるのですが――」
観月 四音が声を上げた。
「それはそれとして、です! みなさん! ご助力を感謝します!
同時に、わたしも皆さんをお手伝いします!
力を貸します! だから、力を貸してください!」
市民たちの助力に、さらに力を貸す。より高度な支援になるといえるだろう。
「もしも恐ろしいというお気持ちがあるのならば、私が皆さんを守ります」
市民たちにそう声をかけるのはアンジェラだ。
「その責務を果たせるように、私自身こそが市民達の決死の盾となりましょう。
皆様もまた、かけがえのない命であるのですから。私(働き人)がその身を守ります」
「力を借りる。故に、私もその力を存分に発揮しよう」
レオナが刃を構え、叫んだ。
「修練を兼ねているとはいえど、今こそ実戦、今こそ決戦。
この力、道半ばなれど存分に振るおうぞ!」
「南部からの攻撃も始まっています!」
帝政派閥の兵士が声を上げた。
「すさまじい勢いだ。市民たちの士気も上がっているようです。軍事力を提供したかいもあるってもんだ」
「冠位魔種がかかわると、ほんとどこも大騒ぎだよね! 国の一大事ってやつだから!」
そういうのは、天雷 紅璃だ。
「さて、皆が頑張ってくれてる分、頑張らないとね!
私も頑張って応援するから皆も沢山がんばれー!」
「そうだね。
帝都へは戦いに来てばかりだ。
平和な帝都を観光できる日が来ることを願おう……いいや、掴み取らなければならないな、私たちの手で」
ルブラット・メルクラインが、うなづくように言った。
「行こう。決戦の時は、今……というやつだ」
その言葉とともに、イレギュラーズたちは、『勇者』たちともに進軍する! 何度も見慣れたはずの帝都の町並みは、今はそこかしこに敵の潜む敵地と化している。
「来たぞ、イレギュラーズだ!」
敵兵士たち――それは、新時代英雄隊の兵士であったり、天衝種であった――が声を上げ、武器を構える。
「勝てば官軍、負ければ賊軍。新時代の英雄を名乗るならば、まずは私達に勝って見せてくださいね」
雨紅が声を上げて、優雅に『跳んだ』。舞踏、である。戦場に咲く一輪の花は、相対する敵すらも魅了する――。
「邪魔はさせません。将軍の首をとるものたちを、先へと行かせる」
「そういうことだ!」
モカ・ビアンキーニはその鋭い蹴の一撃を、目の前にいた人型の天衝種に叩き込んだ。
「さぁて、露払い……というわけではないが。ここで君たちは全滅させる」
「貴様らの相手は、儂じゃぞ!」
黒野 鶫が叫び、モカの横をすり抜けて敵陣に突っ込む! 熊のような天衝種の一撃を受け止めて、さらにとびかかってきた兵士へカウンター気味に斬撃を繰り出して吹っ飛ばす!
「ここ一番じゃ! 儂らがやらんで誰がやる!」
「マリオンさんだって、やるんだから!」
此度は女性の姿で参戦したマリオンが、リトルワイバーンとともに空をかけた。ワイバーンの背でその手を掲げれば、無数の氷刃が降り注ぎ、付近を飛行していた鴉のような天衝種を次々と貫いて叩き落とす!
「上空だって、とり返す! 首都の、地上も、空も、君たちなんかに渡すもんか!」
「その通りです。この地の一かけらたりとも、魔に渡すつもりはありません」
ワイバーンによる上空からの攻撃を行っていたのは、瀬能・詩織も同じだ。その攻撃はさながら爆撃機のようである。地上を向けた魔力術式が、後衛に位置する敵陣に叩き込まれた。
「圧倒させていただきます――私たちの背を押してくれている人たちがいるのですから」
詩織やマリオンの爆撃、上空攻撃の合間を縫って、地上ではイレギュラーズたちが一気に前線へと切り込んでいる。
「よもや我々が鉄帝首都に攻め入る運びになるとは。
数年前までは思いもよらなかったのです」
クーア・M・サキュバスがそうつぶやくのへ、リカ・サキュバスは静かにうなづく。
「前皇帝に貸しがありますからね……手を貸す義理はないのですが。
しかし、蝿の様にうるさいやつらですね、どうせあの黒い太陽で全て消し飛ぶというのに何故荒らしつづけるのです?」
兵士たち、そして天衝種たちは、二人の前に無数とばかりに立ちはだかる。
「性根の腐ったやつは見るのも不愉快です……その望み、怒りで狂い忘れるまで邪魔してやりますか。
クーア、仕上げは任せましたよ。我が雷、打ち破れるならどうぞやってみてください?」
「ええ、ええ、リカ! 我が紅蓮の力で挫いて差し上げましょうか!」
雷、そして炎。二人のサキュバスが放つ雷炎が、戦場を爆へと染め上げる!
「さて、ディスペアーよ。絶望の大剣の力、希望を手繰り寄せる為、使わせて貰うぞ」
陰房・一嘉が、その刃を振るいながら突撃する――轟、断。強烈な断斬撃は敵兵士を爆発したかのように吹っ飛ばし、
「甘い」
隙をついたととびかかってきた狼のような天衝種を、危なげなく薙ぎ払う! ぐえ、と悲鳴を上げた天衝種が石畳に叩きつけられて絶命する。
「なんじゃ有象無象がうようよと。
ならば我が蹴散らしてくれよう!
……ってあー! 痛いのじゃー! きさまー!」
頭を鴉型の天衝種に突っつかれながら、ダリルが術式を展開して鴉たちを薙ぎ払う。
「上の方、手が足りんか!?」
ダリルの叫びに、うなづいたのは劉・紫琳だ。
「問題ありません。『私たち二人』で制圧できます」
「その通り!」
叫んで応えるは、八十八式重火砲型機動魔法少女――そう、オニキス・ハートだ!
「紫琳、状況は!」
「司令塔タイプの飛行型がいます。東側。群れの中央です」
その方を見てみれば、確かに鴉の群れの中に、統率するかのようにふるまうものが見えた。オニキスが笑う。
「ならば、纏めて吹き飛ばそう!」
その言葉に間髪入れず、二人の放つ銃弾、そして砲撃が、まるで祝砲の様に空へと解き放たれた。鴉たちが消滅していくのが見える。
「はっはー! やるねやるね!
元気溌剌、生命輝いて居るかい?」
岩倉・鈴音が敵陣へと切り込む。切りかかってきた兵士に一発蹴りを加えて吹っ飛ばし、術式の弾丸をぶち込んで黙らせた。
「ここが命のかけ時だぞ! うだうだと死を考えずに鉄帝らしく闘いを楽しむといい。生命の燃焼する感動物語や~!
ま! わたしはべつに死ぬ気は一切ないんだけどさ!!」
「死ぬ気がないのは同感っすね。
さて、先に俺らの相手してもらいますよ。まぁ通すつもりはないっすが」
八重 慧がそう言って、敵陣に立ちはだかる。
「新時代の英雄なんて嘯くくらいっすから、それなりの覚悟はあるっすよね?」
戦いは続く――そしてイレギュラーズたちの進撃は、確実に、確実に、帝都の中心へと向かいつつあった。
●鉄の腕
あちこちですでに、戦端が切り開かれているのを、ルドルフ・オルグレン将軍は自覚していた。
圧されている……といっていいだろう。イレギュラーズたちだけにではない。帝政派、南部派、両者の軍事作戦に加えて、市民たちもまた、己の国を守らんと立ち上がっている。
「皮肉なものだな」
くく、とルドルフは笑う。帝政派を裏切ったことに、悔いはない。国を守りたいと思ったこともまた事実であったが、それでもなお、自分の中には消しきれぬ怒りが存在していた。
怒りだ。衰える自分への怒り。故郷を奪った鉄帝への怒り。ああ、そうか、とルドルフは笑う。なにゆえに、魔の気配を感じながら、自分が反転しなかったのかを――。
「儂の怒りは、儂だけのものであったからか」
ゆえに、魔に怒りを代弁させたくはなかった。魔に怒りを汚染させたくはなかった。
魔に興味はあった。その力に焦がれることもあった。
それでもなお、そこに至るのを成し遂げるのは、自分の力であると思っていた。
フローズヴィトニルの欠片を狙ったのも、そうだったのだろう。あの力を自分の恣にしたかったのだ。自分の力で。
「なんとも。儂は鉄帝人らしいものだったな」
ふ、と笑う。レフ・レフレギノは、自分たちの策略を「傲慢な自死」だと自覚していたようだ。ならば自分もまた、傲慢であったのだろう。強くあれるはずだという傲慢。自分だけの力で成し遂げられるという傲慢。
「は――傲慢で結構。そうでなくして、なにが儂か」
ああ、そうだ。これこそが、ルドルフ・オルグレンだ。部族の怒りと悲しみを傲慢にも代弁し、その心の奥底に憤怒を燃やし続け、今こそ鉄帝壊したりと立ち上がった今こそが、ルドルフ・オルグレンだ。
「こい、イレギュラーズ。儂は負け戦にするつもりはないぞ」
にぃ、と笑みを浮かべた。決戦の時は、もうすぐそこに迫っている。
すべてを破壊してやろう。この鉄帝という国を――儂の怒りで!
「これまでも多くの人が傷付いてきました。これ以上、誰かの血が流れるのは許せません!
行くよマーシー! マロン!」
セシル・アーネットが、そりの上にて叫ぶ。トナカイのマーシー。そして、ドラネコのマロン。共にある友。大切な戦友とともに。
「さて、だいぶ切り込んできたようじゃが――」
共にかけるバク=エルナンデスが声を上げる。すでに戦闘は始まり、だいぶ時間が経過していた。あちこちで鳴り響く戦闘音は、この作戦の、そして別の作戦の参加者たちが奏でる交響曲でもある。そして、そこに参加しているのは、何度も言うかもしれないが、イレギュラーズたちだけでなく、鉄帝に生きる者たちすべてだ。
「そうだね。きっともうすぐ、このエリアの指揮官の所に――」
そうセシルが答えた刹那、暴風が巻き起こり、そりを揺らした。マーシーが慌てて方向転換して主を守ろうとする。バクはバクで、身構えて飛びずさることでそれを回避して見せた。
「来たな――イレギュラーズ」
厳かにそういう男は、老齢ながら巨岩のごとき威圧感を備えていた。
ルドルフ・オルグレン。男はその名を冠するもの。
「やはり、現れたな……!」
バクが声を上げた。あたりには無数の兵士たちの姿もある。ただではやらせてはくれまい。
「ちっ……将軍か。肩書のことはよくわからねぇが、幻想のお飾り騎士サマなんてのより実力があるのはわかるぜ」
サンディ・カルタが身構えつつ、そういった。
「……近接パワーファイターと見た。ま、頭がよさそうでも鉄帝らしいな」
「ふん。儂が鉄帝らしいか」
ルドルフが笑った。
「なんとも、こそばゆいものだな」
「ルドルフ・オルグレンじゃな? このシャイニング・一条 夢心地が、そなたを斬らせてもらおうかの」
本当に発光しながら夢心地がそういう。ちゃき、と刀を構えるのへ、ルドルフはゆっくりと構えた。
「よかろう。こい」
「麿の剣技と将軍のカラテ、どちらが上か……いざ仕合おうではないか!」
ちぇい、と夢心地がかける。振るわれる、刃――打ち出される、拳。衝突!
ちぃぃ、と術式保護された拳と刃が打ち合わさり、滑った――交差。駆け抜ける。同時!
「私はセチア・リリー・スノードロップ! 鉄帝の看守としてお前を倒す!」
鋭く振るわれる鞭が、ルドルフを狙う! 刃と、鞭。二重奏。
「看守か……儂を収監できるものならば!」
「いいえ――私が行うのは、収監ではなく、死刑の執行よ!
鉄帝の者として鉄帝を裏切った事は決して許せない!
鉄帝に平和を齎す為に倒す事に迷いはない!」
「ならその断頭台に、儂を連れていってみせよ!」
ルドルフが咆哮――同時に、地面を叩きつける。強烈な術式と衝撃波が、周囲を殴りつけるように解き放たれた!
「皆、来るよ!」
メイ・ノファーマが構え、衝撃波を迎撃すべく、術式を展開する! 苛烈なる連続魔が、空間を揺らして衝突!
「総員! 将軍を援護せよ!」
同時、兵士たちの雄たけびが響いた。さすがに帝都、さすが本陣、ここにいるのはそこいらのチンピラとは違う、正規の軍人たちで構成されているようだ。
「敵も来る……!」
メイが叫ぶのへ、
「有象無象が小癪な真似を。邪魔をするのなら塵に還すのみだ」
イルマ・クリムヒルト・リヒテンベルガーがそのライフルを構える――斉射!
「有象無象でも、これだけ倒せばいい経験値になるわ!」
長月・イナリが、飛び交う銃弾の中を突貫! 手にした短機関銃をリズミカルに打ち鳴らす!
二つの銃撃、銃奏、吠える――高らかに!
「つ、よい……!?」
あえぐように、一撃を受けた兵士が叫ぶ。
「当然だ」
「私たちを誰だと思っているのかしら!」
イルマ、イナリ、啖呵を切って見せる。その実力は十分――。
「ふっ……そもそも白兵戦しかできぬような輩どもを相手するほど、容易なこともあるまいよ!」
ハビーブ・アッスルターン。番えるは大弓。根らは一撃必勝。
「狙うは必中、狙うは必殺。一矢一死と行こう!」
放たれた矢が、兵士の人体急所に突き刺さった。ぎゃ、と悲鳴を上げて、兵士が倒れる――そこに飛び込む、ライオリット・ベンダバール!
「まとめて巻き込むっス! 逆理!」
吹き荒れる、強烈なブレス! 吐き出されるそれが、兵士たちを凍てつかせ、焼きつかせる!
「追撃を!」
びゅおう、とブレスを吐き出しながら、ライオリットがさけぶ。続くもこねこ みーおが、
「おまかせですにゃ。猫の手、貸しますにゃ」
砲から放たれる鋼の驟雨=プラチナム・インベルタ。攻撃が次々と兵士を撃ち貫く!
「くそ、ひるむな! ここで奴らを止めなければ!」
兵士が雄たけびを上げて突撃。
「にゃ……突撃して来ますにゃ」
みーおが声を上げるのへ、守る様に立ちはだかったのは鬼ヶ城 金剛だ!
「大丈夫! 僕が守る!」
格闘術の構えを取り、振り下ろされた刀剣を受け流す。ちぃ、と敵の刃が大地を削るのをしり目に、金剛の一撃がアッパー気味に兵士の顎を打った。
「まだくる!」
その言葉通りに、兵士たちは次々となだれ込んでくる! ここまで来ては、もはや乱戦の様相を呈していた。
「寒いのにゃんてクソだニャ! 八つ当たりだニャー!」
芳が、その全身を使って暴れまわる。文字通りに。飛び跳ねるように! 次々と打ち据えていく、兵士たちを!
「フシャーッ! 寒いのが来るなら、芳はこたつで丸くなるのニャけど! そうする前にやることがあるニャ!」
威嚇にひるむ兵士たちへ、攻撃を仕掛けるのはエマだ。
「はいはい、通りますよ、攻撃しますよ……えひひ、こそどろなので、面と向かって戦うのは性分ではないのですが――」
言葉とは裏腹、苛烈な一撃で、兵士の意識を刈り取って見せる。
「やれるだけのことは、やりに来ましたからね。えひひ!」
「私も、せいいっぱいがんばる……!」
曉・銘恵の放つ聖なる光が、兵士たちを薙ぎ払う。慈悲持つ光は命を取らず、その悪意だけを刈り取る。
「君たちはどんな英雄かな?
隣人のために英雄になることを決めた高潔な一般市民か、英雄なんて言葉に踊らされてるだけのチンピラか。
まぁどっちでもいいや。
切り伏せてしまえばみんな同じだよね」
その光の中を切り裂いて、問夜・蜜葉がその刃を閃かせた。銘恵は後を追うように、援護を兼ねた聖光を放つ。
「皆も、頑張って……! しゃおみーも頑張る……!」
「ええ、ここで必ず、勝ちを得ましょう!」
ココア・テッジが放つ無数の銃弾が、苛烈な雄たけびとともに兵士たちの足を止めた!
「今です、どうぞ!」
「ええ、ええ! 傷つきたくないし死にたくない……殺される前に始末しましょう!
攻撃は最大の防御と昔の人も言っておりますし!
顔面偏差値の高いものが勝者、つまり私がチャンピオン! 約束された勝利の顔です!」
などと、叫びとともにヴィルメイズ・サズ・ブロートはその扇を振るう。演舞は呪術舞踏。お題はその悪しき魂。
「顔がよければ何でもできます、ええ――戦いに勝つことだってね!」
「その理屈はよくわかんないけど、うん、戦いに勝つことはできる!」
彷徨 みけるが放つ、飛刃! 呪術舞踏と踊る様に、無数のそれが兵士たちを狙い切る!
「これだったら当たるはず! 当たれ当たれ当たれー!」
言葉通りに、当たる! 兵士たちは、二人の猛攻を受けて後退を余儀なくされる。
「圧しますわよ! 将軍と戦っている皆様に近づけさせはしませんわ!」
藤宮 美空が上空から地上へと向かって突貫! 速度をのせた強烈な一撃で、兵士を吹っ飛ばす!
「今こそ鉄帝国を左右する決戦の時!
皆さんの期待に全力で応える。それがイレギュラーズの流儀ですわ!
市民の皆さんの力を借りて! 必殺の蒼流星ですわーっ!」
まさにその名のごとく、美しき空から放たれる蒼の一撃! 空は美空の領域だ!
「鏡禍、サポートをお願いね」
ルチア・アフラニアがそう頼むのへ、水月・鏡禍は頷いて返した。
「任せてください。皆守り切ります。ルチアさんも、もちろん」
そういって笑いかける鏡禍へ、ルチアは少しだけ微笑んでうなづいた。
その指先が軌跡を描く。雷の鎖が兵士たちを貫く。鏡禍は守る。友を、大切な人を。
「後ろで頑張ってくれている良い子たちを、邪魔するなら止めないとね」
アイザックが金剛と同様、最前線にてゆっくり構えた。
「来なよ。都市伝説を見せてあげよう」
プリズム男が構え、怒涛の流れを食い止める。あちこちで激戦が繰り広げられるなか、物部 支佐手はとびかかってきた兵士を一刀のもとに切り伏せていた。
「満足かい、このような終わりで」
「お前らにとっては間違っていたとしても」
兵士が言った。
「信念のために戦って死ねた……」
残して、こと切れる。支佐手は僅かに目を細めた。
「……ええ顔で死によってからに」
この状況においても、敵の攻勢が衰えることはなかった。あるいは、信念というものを、敵も確かに持ち合わせていたのかもしれない。
「だとしても……加減はして差し上げられませんがね」
バルガル・ミフィストが声を上げた。ナイフを十分に印象付けてから、視覚外からのけりで敵の意識を刈り取る。
「信念の戦いというのならば、なおさら」
「戦争も、怒りも悲しみも……もうこれで終わってくれるといいにゃ……」
杜里 ちぐさが、悲しげにつぶやいた。
「こんなの……ずっと、ずっと……みんな、かなしいにゃ……」
憤怒の先に待っているのは、悲しみだけなのかもしれない。憤怒という魔。それに賛同した人々。その憤怒の跡にも、今にも、あまりにも悲しいことだけが転がっているなら――。
「……ダメにゃ、しょんぼりしてる場合じゃないのにゃ!
少なくとも鉄帝の平和は近づくはずにゃ!」
それでもちぐさは前を向く。いや、イレギュラーズたちは、前を向く。
「悲しみが満ち満ちていく。怒りがそれを扇動していく」
多次元世界 観測端末は静かにつぶやいた。
「はてさて、観測はどのような結末を迎えるか。当端末は観測機なれど、しかし今は力を尽くしましょう」
戦いは続く――あの黒き太陽の下で。
●レフ・レフレギノ
思えば随分と、好き放題をしたものだ、とも思う。
憤怒、怒り。そういうものの思うままにふるまうのは楽しかったか。
まぁ、楽しいだろう。感情のままにふるまうのは、それがどのような感情であれ楽しいものだ。
悲しい気持ちのまま悲嘆にくれるのも。
喜びの気持ちのまま歓喜に打ち震えるのも。
楽しみの気持ちのまま享楽におぼれるのも。
そして、怒りの感情のままにすべてを傷つけるのも。
楽しいだろう。だが、おおむねの場合において、人はその付けを払わなければならない時が来るのだろう。
「僕は好き勝手にした。好き勝手にしたぞ」
レフ・レフレギノはふとそう告げる。銃声と砲声の響き、人の声と剣戟が混ざり合う戦場のただなか。
「僕は僕の怒りのままに、好き勝手にしたぞ。僕自身とお前たち全員の命を傲慢にも等価に見立てて、今ここに災禍と死滅を齎そうとしているぞ」
レフが叫んだ。
「僕はこの国が嫌いだ。僕は僕が嫌いだ。だから――僕と一緒に、ここでまっさらになってもらう!」
「させねぇよ」
声が響いた。
「きたね、レイチェル=ヨハンナ」
レフが言った。
「言っただろ。
直ぐにアンタの喉元に噛み付いてやるって」
レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタインがそういう。
いびつな約束だった。果たされるときはきた。
「スレイプニール! 道中では私がカバーする!
戦闘状態に突入後は援護を頼んだよ!」
「了解です。マスター。目標到達後全力支援します」
マリア・レイシス、そして雷光殲姫専用 異能拡張兵装 スレイプニールが宙を駆ける! 目指すは敵将! レフ!
「すでに接敵したものもいるみたいだね……なら! 道中の敵を散らすよ!」
「アイ、アイ、マスター。
援護射撃開始。電磁投射砲『神馬』連続投射」
言葉と同時――放たれた無数の徹甲弾が、神速のごとき速度を以って敵陣へと叩きこまれた! 吹き飛ぶ兵士、あるいは天衝種たち。その援護攻撃を受けながら、雷光の戦姫はその紅の雷を、目の前にいた巨大な熊状の天衝種にぶちこむ!
「邪魔は、させないっ!」
その強烈な電磁が爆発を巻き起こした! その紅の爆裂を切り裂いて、無数のイレギュラーズたちが突貫!
「危ない時は私が止めるわ!
ひたすら前へ、眼前の敵を打ち砕くことに邁進しなさい!」
同時、響き渡るアンナ・シャルロット・ミルフィールが、その手を掲げる。応、という一斉の返事のもと、帝政派、そして南部派の兵士たちが一斉突撃を仕掛ける!
「アンナ・シャルロットの名のもとに続け! 勝利の女神はこっちについてるぞ!」
兵士たちのはやしたてにわずかに気恥ずかしさを覚えながら、アンナはコホンと咳払い。
「とにかく! 敵兵士の対応をお願い! 大丈夫! 必ず勝利へと導いて見せる!」
「天衝種の お相手は 任せてほしいですの……!」
ノリア・ソーリアが「のれそれ」のしっぽをつるんとふるわせて、敵を引き付ける。思った通り、本能ママの怪物たちは、ノリアに引き寄せられているようだ。
「ナイスよ! さぁ、来なさいよ、全員まとめて相手してあげる!」
引き寄せられた敵へと秦・鈴花が攻撃を叩きつける! 苛烈な一撃が、狼風の天衝種を粉砕し、さらにとびかかってきた鴉風の天衝種も叩き落とす!
「ノリア、バンバン引き寄せて! こっちで全部叩き落す!」
「おまかせ ですの!」
「こっちにもおまかせっす! おらおらー、火力支援、全開っ!」
リサ・ディーラングが巨大な『砲』の砲口を敵陣に向ける。間髪入れずの咆哮。方向などは気にしない。撃てば当たる。ここはすでにそういう状況だ。
「邪魔する相手は吹き飛ばせ! しぶとい奴は爆破しろ! とっとと進め!」
がおうん、と強烈な雄たけびとともに、砲が球を吐き出す。着弾したそれが強烈な爆風を上げて、小型の天衝種たちを瞬く間にチリへと返した。
「足を止めないで。進み続けてくだサイ」
アオゾラ・フルーフ・エーヴィヒカイトが、果敢にも敵の群れに立ちはだかり名がそういう。
「進みまショウ、勝利へ――勝利へ」
その言葉とともに、イレギュラーズたちは、兵士たちは、進む。民の、鉄帝の民の支援を受けながら。その心に、体に、確かな力を受けて漲らせ――進む!
「民の期待や求めに応えるのが冒険者、ってね。
思いがあれば勝てるとは言わないさ。だから後は僕らの仕事だね!」
カイン・レジストの言葉の通りだ。どのような形であれ、想いを遂げるためには力が必要になる。そして、その力がなき者がいるのならば。
「代わりにそれを振るうのが、冒険者ってものさ!」
「そうです。どうか、どうか、皆のために、ニル達のちからを」
ぎゅ、と手にした杖を握りしめて、ニルはいう。その優しき心は、常に周囲に保護の結界を張り続けていた。少しでも、皆の暮らしに傷跡が残らないように。
「押し負けるわけには、いかないのですよ。
市民のみなさまの応援もあるのです。
ニルたちはここで、がんばらなくっちゃ!」
握りしめた杖には、決意と意志をのせて。ニルは戦場を駆ける。守るべき人たちのため。
「私には力があります。けれども……いかに私に敵を討つ力があるのだとしても、それは、人々に犠牲を払わせてまで守るべき力なのでしょうか?
人々が私を庇わんとして傷つくくらいなら、私が誰かを庇って死んでしまう方が余程気が楽です……」
エルシア・クレンオータがそうつぶやく。この戦場には、イレギュラーズ以外の兵力も、あるいは一市民たちも援護という形で参加している。ならば、彼らも傷つくかもしれない。それでも……。
「でも、誰か一人でも私の為に傷ついて下さるのなら、私はどんなに逃げ出したいと思っても、その覚悟に応えなければなりません。
その献身を無駄にする事は、あってはなりません……。
誰かを盾にしてでも生きて、最後まで敵を討ち続けるのです」
そう決意するのは、エルシアだけではないのだ。この場で戦うすべての人々が、今、決意とともに歩を進めている。
「大ボスにはもう接触してるやつらがいるんだろう? だったら!」
灰燼 火群が叫び、構えた。
「雑魚どもを近づけさせちゃあならないな! やろう、皆!」
「委細承知─E·E·R·I·E、出撃致シマス」
E・E ・R・ I・Eが強烈な魔力砲を打ち鳴らす。放たれた閃光が、まるで穴をあけるように敵陣を薙ぎ払った。
「当機ハ現地点ニテ火力砲撃ヲ開始」
「仔鬼、簡単にくたばるんじゃありませんよ」
ルトヴィリア・シュルフツがそう告げるのへ、
「おう、おう! 当然!」
弥多々良 つづらがうなづく。
「こちらで周囲の敵は散らします、攻撃を。
……この泥臭さこそ人間の美しさでしょう、故にあたしは此方に立つ」
「任せよ!
怯むなつわもの達よ! その双肩にこそ未来ありと心得よ!」
雄たけびとともに突撃する、その一撃を大きなカバのような天衝種に叩きつける。ぐばん、その巨大な口が、つづらの拳によって叩き閉められた。
「やれい!」
「ああ――!」
ジルベールが、その術式を、隙をさらしたカバに叩き込む。分厚い草稿のような皮膚を貫いて、カバが絶叫とともに消滅!
「ああ戦場だ! ここが俺の居場所!
斬ればいいのだろう?
俺の自由にしていいと。
血湧き肉踊り満たされる。
鉄帝式は嫌いじゃない。
鉄帝式にのっとり勝った者が王者だ。
さあ殺ろう!」
ジルベールが薄く笑う――その一方で、カナメもまた恍惚とした笑みを浮かべていた。
「首都を奪還って事はここには大きな部隊と敵が沢山いて、
いっぱい痛め付けてくれるって事でいいんだよね!
そう思うと……うぇへへ、今から楽しくなって来ちゃったぁ……♡」
うっとりとした様子で、敵の刃の前に立ちふさがるカナメ――その斬撃を受け止めながら、にへら、と笑ってみせる。
「いくら群がった所で、どうせ忠誠心だけのザコ兵隊さんばっかりだよね~♪
悔しかったらカナに証明してみせてよ! ま、どうせ無理だろうけど~♡」
趣味と実益を兼ねたタンク役。盾役をかって出たのは、ガイアドニスもそうだ。
「さあさあ、おねーさんがお相手するわ!」
その両手いっぱいに、広げるは愛。永遠の愛(ろうごく)。
「ふふふ、みんなみんな、しっかりと守ってあげるわね!
元英雄隊の皆も、無理しちゃだめよ?」
ガイドニスの言葉に、ソフィーヤがうなづく。
「わたしたちは大丈夫です……!」
「ソフィーヤさんか……あんなことしか伝えられなくて、ゴメン」
そういうカティア・ルーデ・サスティンに、ソフィーヤは頭を振った。
「いいえ、大丈夫……大丈夫、です。カティアさんが悪いのではないって、わかってますから」
そうは言うが、それでもつらい思いがあるのだろうと、カティアは感じていた。そうだろう、家族を亡くしたのだ。彼女らは……。
「つらい思いをさせたこと、遺憾に思います」
鵜来巣 冥夜が続けた。
「ですが、どうか……だからこそ、今ここで、力を尽くさせてください」
その言葉に、ソフィーヤは静かにうなづいた。
「行きますよ、オラン、皆さん。総力戦です!」
「ああ、冥夜サン!
露払いは任せとけ!
俺の得意とするとこだ!
シャーマナイトの石のように俺たちが強固だってこと見せつけてやるぜ!」
オラン・ジェットが頷き、敵陣へと切り込む!
「ええ、英雄ごっこは仕舞です」
シルト・リースフェルトが同様に、敵陣へと切り込んだ。
「自称英雄ほど醜いものはありませんね。
そんなに英雄的になりたいなら英雄らしく散ってもらいましょうか」
挑発するように言うシルト、オランもまた、
「どうしたどうしたァ! 気迫負けしてんぞ!」
その言葉とともに、次々と敵を打倒していく!
「アントーニオからの依頼を通して、多くの理不尽を目の当たりにしてきた。
鉄帝の人々が立ち上がるなら、俺の筆は修羅を描こう。
……カチコミ、上等じゃねぇか。俺も後に続かせて貰うぜ冥夜!」
ベルナルド=ヴァレンティーノが続く。今は芸術を描く筆を、戦いのそれへと持ち替えて。
「哀しい……何故あんな約束をしてしまったのか。
馬の骨(冥夜)の背中ぐらいは守ってやる、なんて勢いで口にするなんて……」
そう嘆くクロサイト=F=キャラハンではあるが、しかし戦場にありてその戦意がくじけることはない。
「馬の骨、しっかりと敵を引き付けてくださいね。支援と攻撃はお任せを」
「派手に絵具ぶち撒けて、混成部隊を塗りつぶせ!
極彩色の混乱を奴らに喰らわせてやろうぜ!!」
ベルナルドの言葉に、帝政派の兵士たちが続く。芸術の志を理解する彼らは、ベルナルドの良きパートナーともいえた。
「やれやれ、カチコミか! 大した勢いだよ!」
トカム=レプンカムイが最前線で敵を引き付ける。背中から飛び交う攻撃も、自分を外して攻撃してくれるだろうと信頼する
「何にせよ、人を守る仕事ってのは悪くないな。うん」
そう、これは守るための戦いなのだ。それは間違いない!
「ひっでぇ話だよな。鉄帝の人達は、ただ明日を平和に生きたいだけなのに……それを踏みにじった奴らの罪は重い!」
ジュート=ラッキーバレットが叫びながら、仲間たちへと回復の術式を飛ばし続ける。披露している時間はない。一秒でも、一回でも多く、仲間への支援術式をかけ続ける。そうしなければ、勝てない。
「民草を無視した政治などは長く続かぬものと思え」
百合草 源之丞 忠継が静かにそう告げなら、刃を閃かせる。斬撃が一閃を描いて、兵士たちを次々と切り捨てる。
「みんな必死に生きてるんだ! 強者も弱者もあるか!」
「民草を統べる心算もなく国を名乗るとは、愚の骨頂よ」
「まったくどこも酷い有り様だな。
俺はこんな風景よりもっとのどかなほうが好きだぜ」
呂・子墨がそういうのへ、成龍がうなづいた。
「拙者が好きなのは人の営み。
ですのでそれを破壊し阻害する行いは止めさせていただきましょう。
拙者たちが、取り戻せるのであれば――」
「そうだな、一肌脱いで見せるか!」
子墨が笑ってうなづいた。そうだとも。今、本来あるべき平和を取り戻すために、皆はここで一丸となって戦っていた――。
「そこかしこも激戦といったところだね」
レフ・レフレギノがそういう。すでにレフとの戦いは始まっていた。その強烈な力のぶつかり合いは、歴戦のイレギュラーズたちと言えど確実に疲労させている。
「レフ・レフレギノ。自分の不甲斐なさを鉄帝と共に消し飛ばそうなど、全く不器用な男よ」
如月=紅牙=咲耶がそういうのへ、レフは笑った。
「まぁ、そういってくれるなよ。そうしないとやっていけなかったのさ」
手には軍刀。まとうは魔。憤怒の魔種、レフ。
相対する、敵の名だ。
「来いよ。自殺に付き合ってもらうぞ」
「貴方にわかってくれとも、わかってあげたいとも思わない。
ボクの言葉が届かないなら、この剣を届かせるのみ。
――言葉を押し付けるのは「力」かもしれない。
でも、言葉を叫ぶのは「心」なのよ!」
藤野 蛍が、レフの強烈な一撃を受け止めるべく、その注意を引いた。斬撃は、蛍の体に確かに傷をつける。だが、倒れることはない――!
「列車の時の子かい。仲良しごっこといったのは謝るよ!」
再び振り上げる軍刀を、術式刀で受け止めたのは、桜咲 珠緒だ!
「自身と伴侶の関係を侮辱されたならば、その舌焼き切って差し上げるのが礼儀でしょう?
謝罪されるなら、舌切は止めても構いませんが……ええ、舌は」
その言葉通りに、その刃は首を狙う! レフは思いっきりのけぞる形で、必殺の一撃を回避して見せた。
「君は怖いねぇ! 舌は見逃してもらえただけいいかな!」
ぎゅるん、と後方へ転回して、レフがその左手を振るう。空中で合成された無数の歯車が、回転のこぎりの様に回転して解き放たれる! 蛍と珠緒は、その一撃を背をかばいあって受け止めた。
「一筋縄ではいかないね……!」
「さすがに、一軍の将なれば!」
だが、傷つく二人に撤退の二文字はない。ここで倒す。必ず!
「傷が深いなら、いったん下がって!」
星影 昼顔が叫ぶ。
「もう此れ以上、誰かの命を、絆を、途切れさせない!」
展開する、術式。それは、月の光の様に、太陽の光の様に、暖かく、静かで。仲間たちの傷を、静かに癒す――。
「献身的だね! でもそういうやつからやられる――」
再び手を振りかざしたレフへ、しかし背後から、大葉 飛雄馬の全力の斬撃がほとばしる! 受けざるを得ない! レフは方向転換して、それを受け止めた――。
「不意打ちかい!」
「こういい手もアリだよな……?
結果的には貢献してるってことでまあ!」
「嫌いじゃないよ!」
一撃を受け止めたレフが、飛雄馬を振り払う。攻撃のタイミングを逸したレフは、距離を取るべく跳躍。
「こんにちは、こんにちは。レフおにーさん。ご機嫌麗しゅう。
それはそうと、殺し合いをしましょう? きっと楽しめると思うの」
間髪入れずに追撃を行うのは、フルール プリュニエだ! その指先から伸びた紅野茨が、レフの腕を無数に貫き、痛めつけた!
「えぐい一撃だね……!」
「おほめにあずかり。でも、まだまだ元気そうね?」
にこりと笑うフルールに、レフは笑いで返した。当然だ、とばかりに、軍刀で紅野茨を切り裂く。
「こっちにも意地があってね!」
「今や人々は力弱き者も強き者も全員が己の場所を取り戻す為に戦っている!
この件で鉄帝はこれから少しずつ変わる筈。思惑は別としてお主達が彼等を変えたのでござる。もう、己を許しても良いのではござらぬか?」
咲耶の叫びに、レフは頭を振った。
「それはアリガトウ。でも、この怒りは抑えきれないのさ!」
「だろうな。お前の想いは間違ってない。その怒りや憎しみは誰もが抱き得るものだ。一歩間違えば誰もがお前みたいになるだろう。
……そう、怒りに呑まれちゃ駄目なんだ。犯した罪の報いは受けて貰うぜ?」
レイチェルが、静かにそう告げた。
「そうだね」
レフは笑った。
『報いは、受けてもらう』
同時にそういった。
誰が。
誰に。
報いをもたらすのか。
●オルグレン
隠岐奈 朝顔は、思う。
人々が苦しんでいる現状が嫌だ。
悪辣な人達ばかりが上にいて嘲笑っているのが嫌だ。
そんな国ではなかったのに、そんな国にされている事が嫌だ。
……今の鉄帝に、私が思うのはその程度。
「だからこそ、先輩方が向かいたい場所へ行ける手伝いを。さぁ、此処は私に任せて下さい!」
だからこそ、今ここにいる。いま、先を行く者たちの背中を押している。ボロボロになっても、傷ついても。それは誰もがそうだった。
「鉄帝の人が勇猛なのはいいですが、誰も死なせたりはしません!」
アザー・T・S・ドリフトがそう叫ぶ。
「ここでは、誰一人! 仲間を、友を!」
誰も死なせないと、叫ぶ。
「私にできることはほんの少し、背中を押すこと。傷をいやすこと」
テルル・ウェイレットがつぶやく。
「でも、そのほんの少しで、助かる命がある。救える命がある。だから、全力で、ほんの少しを――」
誰もが誰かに手を伸ばし、救おうとする。助けようとする。
誰もが、アイゼンシュトゥルムの中心で――。
ともに、と叫ぶ。
「……にゃあ」
ミニマール・エアツェールングは見た。戦いの中で、ともに手を取り合い、大切なものを取り戻そうとする人たちを。
それがたまらなく美しいと感じた。だから自分の手も、精一杯伸ばそうと。
「まつりごとも、英雄も、民のためであってこそのもの。
わたしも詳しく知るわけではありませんが、新皇帝派は民を切り捨てるもの、らしいです。
で、あれば。
民無き英雄に、負けてあげられません!」
銀花は笑う。勇敢に。負けないと。守り抜くと。
「力だけが強さではない。
戦えなくても立ち向かう者達に声をかけて思いを託せる。
俺の心に、後ろに、隣に守りたい人達が。
共に戦う人々がいるのなら……俺は全力を尽くす。
皆の力と思いを合わせて共に鉄帝を取り戻すぞ!!」
吠える。ウェール=ナイトボートが。
「強いのが全てで、強者しか勝てないんだったら……。
俺達ローレットはとっくに今までの戦いや依頼で魔種とか格上相手に倒されてるはずなんだよ。
でもここまで頑張ってきて、これからも進み続ける。
個々の思惑は違うだろうけど、世界を守る為に。
独りでは弱くても、皆で死力を尽くして乗り越えてきた。
豊穣が守られたように、俺も守ってみせる!!」
叫ぶ。節樹 トウカが。
「狭い世界の中で人がぶつからないことは無い……。
でもぶつかってもごめんなさいできたり、殴り合っても最後に和解できたり。
できるだけぶつからないよう互いに気を使ったりできるっきゅ。
向上心、競争心、嫉妬はマイナスにもプラスにもなれる!
だからこの国を終わらせさせないっきゅ!!」
祈る。レーゲン・グリュック・フルフトバーが。
「長く続いたこの冬もようやく終わり…ううん、終わらせることができるかもしれないんだね。
だから、皆の進む道を切り開くよ!」
挑む。アクセル・ソート・エクシルが。
そして切り開く! 進むべき道を! 行くべき道を! 友のために、守るべきものために!
一身、一心、一進! 進む、ともに、ともに!
「メテオ兄様、参りましょう!」
コメート・エアツェールングが、そう笑いかける。
「ええ、気を付けて、コメート」
メテオール・エアツェールングが、そううなづく。
一心なのはこちらも同じ。共に、この場を切り開く。初めての大戦場なれど、志は誰にも負けることはない!
「僕たちの」
「私たちの」
『なすべきことを!』
二人の進む先に、平和がある。我らの行く先に、正しき終わりがある。イレギュラーズたちの猛攻は、確実に、確実に、新皇帝派を追い詰めつつあった。
「新時代英雄隊……少しだけ縁があってねぇ。愛に殉じた人を、わたしは知っている。
それを打ち倒してきたからこそ……わたしは、最後まで戦わなくちゃいけない。その義務も、意思もある……!」
シルキィがつぶやく。英雄を名乗る彼らにも、様々なものがいた。決して悪とだけ断じることができないものも、居ただろう。
それを、乗り越えてきた。ならば、その義務を背負い、進まなければ。
「もうすぐ終わる。この戦いも、きっと」
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズがそういうのへ、リディア・ヴァイス・フォーマルハウトはうなづいた。
「はい。そのために、もう少し、もう少しだけ」
たとえ自分が傷ついたとしても、立ち続け、戦い続けよう。傷つけることより守ることを優先しよう。仲間のために。
「私の考えは甘いかもしれませんが、理想を持たない魔法少女なんて魅力に欠けるから。行動で示さないと」
「守るために、か。良いと思うよ」
ウィリアムも笑ってみせた。
もとよりそのつもりだ。皆、守って見せる。
「……久しぶりだな」
ふ、とルドルフは笑う。
「これほどまでに、体を使ったのは。研究ばかりの日々で、随分となまったものだ」
「それだけやって、鈍った、っていうのか」
イズマ・トーティスがあきれたように言った。
「一対一とは言えない状況だけど……それでも、充分脅威だよ。
ずっと帝政派にいてくれればよかったのにな」
ルドルフも無傷ではない。だが、それはイズマも同じことだった。苛烈な戦いが、双方に深い傷を負わせている。
「感傷的になってんのか知らねえが、おまえさんらに馬鹿をやられて、馬鹿を見るのは堅気の皆さんだ。
おまえさんらが言う弱い奴等が作った金で飯食わせてもらってんだろうが」
「ふ……正論だな。何も言い返せぬよ」
亘理 義弘の言葉に、ルドルフが笑う。
「そう言った意味では、儂に政などは元来似合わなかったのかもしれんな。もとより、身勝手な男だったのであろうよ」
「将軍自ら前線に出張ってるってのは、なんとも鉄帝らしいが」
エイヴァン=フルブス=グラキオールがそう声を上げる。
「そろそろあきらめてほしいものだがな」
「悪いな。年寄りの悪あがきをさせてもらう」
「オルグレン将軍、魔種に堕ちる事なく戦場に立っておられるのですね。
人のままでいらっしゃることだけは嬉しいです」
リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガーがそういうのへ、ルドルフが笑った。
「あの時の、か。ふ……お主にそういわれるのなら、つまらん意地を張った甲斐もある」
「意地?」
リースリット・エウリア・ファーレルが言った。
「……貴方の同胞にもまだ生き延びている者は少なからず居る筈です。それでも彼ら諸共に滅ぼす、滅びるのが貴方の望みですか。それで、意地ですか!」
「そうさな」
ルドルフが苦笑した。
「意地だった……この国に、手をかけることも。衰え行く肉体に恐怖することも。すべては、自分がどうにかしたいという意地だったのだ。
力への渇望とは、つまりそういうことなのだ。儂は――誰かに託すということができなかった。その意地ゆえにな。
儂はわがままで、破廉恥な男よ。くく、レフの小僧を笑えぬな。
儂もまた――随分と傲慢だったようだ」
ルドルフが構える。
「リースリット・エウレア。いや、イレギュラーズ。
止めて見せよ。儂を。年寄りの、つまらぬ意地をだ」
すぅ、と、ルドルフが息を吸った。
「今、救うべきものを救う。その為に――オルグレン将軍、貴方を討つ」
始まる。
最後のフェーズだ。
たん、とそれは跳んだ。軽やかに――羽の様に。
「ちぃ――」
拳を振り下ろす! 上空から! 叩きつけられる――拳!
「ですが、私は一人ではありません!」
リースリットが叫んだ。刃を、振るう。交差する。二つ。受け流し、リースリットがとんだ――。
「君達はただ、己の不幸とその責任を他者に擦り付けたいだけだ。
開き直るのもいい加減にしろ!」
叫ぶ。フロイント ハイン。その術式(プログラム)を体に展開。振りかざす。白き杖。一撃!
ルドルフは、その一撃を障壁を展開することでいなした。ばぢん、と強烈な衝突。ルドルフ、後方へと滑るように跳躍――。
「ただ、舞うように……遠くからでも、貴様を切る!」
斬撃が、迫る。フィノアーシェ・M・ミラージュ。その一撃! 体勢を崩したルドルフが、それでも、無理やりに上体を起こした。首を飛ばすはずの斬撃が、頬を削るにとどまる。
「動きが止まる。撃て」
スポッター(ユイユ・アペティート)の指示。
「アンタらに我が物顔で居座られてちゃ、邪魔なんだ」
「あんな魔種の皇帝に従うのなら排除するまでだよ。
民あっての国家なのだから、それを蔑ろにするのならば生かしておけない」
囲 飛呂。そしてェクセレリァス・アルケラシス・ヴィルフェリゥム。言葉とともに叩き込まれる、全力の飽和射撃! イレギュラーズたちの猛攻! その爆炎の中、ルドルフは吠えた。
「まだ! 我が意地、我が覚悟、この程度では止まらぬ!」
「何が意地だ! 人にめいわくかけておいて!
お前たちみたいなのが英雄だなんてばーかばーか!
だから叩きのめしてごめんなさいさせてやる!」
リリア=リザイアが放つ。青き波濤。流れ穿つ、青の奔流。それに逆らいて立ちながら、ルドルフが拳を地面へと叩きつける。脈動。強烈な衝撃波。打ち付けられる。激痛。
「まだよ! まだあきらめないで!
鉄帝に夜明けを!
皆で春を迎える為に戦いましょう!」
尹 瑠藍が声を上げた。踏みとどまらせる。仲間を。
「夜明けに昇る太陽は一つで十分。でもってそれは当然、アイツら側じゃあない」
吠える。スースァ。その刃を振り上げ、ルドルフへと叩きつける! ばぢばぢ、と障壁と衝突する。一撃。反撃とばかりにぶち込まれる拳に、スースァは痛みをこらえつつ跳躍。
「やれ!」
「このまま、鉄帝を好きにはさせません!」
ジョシュア・セス・セルウィンの放つ一撃が、ルドルフの方をえぐった。ぐ、と痛みをこらえる。
「まだ、よ!」
ルドルフが吠えた。拳が振るわれる。それを、獅子若丸が受け止めた。
「大将首を、とれ!」
力不足ではあったかもしれない。
だが、為すべきことはなせた。
「いつかの夜明けのために。君たちにはここで散ってもらうよ」
アレン・ローゼンバーグの一撃が、死角からルドルフへと迫る。その一撃を受け止めるべく、ルドルフは障壁を展開。受け止める。衝撃。隙ができた。大きな、それが。
「ここが最期です、将軍」
リュカシスの言葉が、響いた。
全力の一撃が、ルドルフの体を貫いた。
「ここで最期か。それも好い」
そう、つぶやいたつもりだったが、ルドルフの言葉がその唇を震わせることはなかった。
●鉄嵐の中心で
「逝ったかい、ルドルフ」
イヤホンから聞こえる戦況報告は、ルドルフ・オルグレン将軍戦死の知らせだ。レフは、自嘲気味に笑った。
「君の意地は通せたか? 僕も絶賛――だ!」
カイトの一撃を、ようやくの体でレフは回避して見せた。傷だらけのカイトが叫ぶ。
「お前の怒りは正当なモノかもしれない……が。
やろうとしてんのは『みんな殺して俺も死ぬ』だろ?
『お前も』英雄って言葉を『犠牲者』って言葉のオブラートにすんじゃねぇよ!」
にぃ、とレフは笑った。わかってる、とでもいうように。
「戦いたくないのに徴兵された兵士達が居たわ。
特攻する列車に何も知らずに乗せられた人達が居たわ。
そうした人達の故郷が、何の助けも無く――凍え死んでいたのを、見たわ。
その地獄を作り出したのがアンタね。レフ・レフレギノ――!!」
セレナ・夜月が、怒りの叫びをあげた。放たれる術式が、レフの放ったそれと空中で相殺される。
「そうさ! だったらお嬢ちゃん! 次の言葉はなんだい?
殺す、か? やっつける、か? なんでも受け止めてやるよ!」
「あなたはッ!」
悲鳴のように放たれる術式をかいくぐりながら、レフが戦場を駆ける。既に戦いの趨勢は決しているというのは間違いない。勢い的にも、イレギュラーズ陣営の勝利だ。
「でも意地だろう? ルドルフ、ヴェルンヘル」
レフがにぃ、と笑った。ばちん、と指を鳴らすと、強烈な魔力衝撃波があたりを薙ぎ払う。
「うけとめる、安心しろ!」
マッダラー=マッド=マッダラーが、その衝撃波の前に立った。受け止める。すべてを。体を走る激痛。
「うおおおおおおおおっ!」
爆風の中を切り裂くように、シューヴェルト・シェヴァリエが突撃! 一撃を加える! 振り下ろされる刀! 圧しこむ!
「足を止めた!」
「息の根を止めます!」
チェレンチィ、放つナイフ。暗殺の毒。セレニティ・エンド。殺意の一撃――ナイフがレフの腹をえぐった。血がほとばしる。笑う。
「まだまだ、と行こうか!」
軍刀が、シューヴェルトを切り裂く――走る、魔が、まだ止まらじと!
「蜻蛉さま、キルシェさま、全力です!」
メイメイ・ルーが叫んだ。
「ここで……だれも、だれも! しなせたりはしません!」
「みんなの背中はルシェたちが支えます! だからルシェたちの分も思いっきりレフおじさん殴って!」
キルシェが、勇敢に笑った。
「悔いのないよう、思いっきり戦って頂戴!」
蜻蛉が、安心させるように微笑んだ。
嗚呼、あなた達がいるのならば、もうこの場で誰も死なせやしない。
そう、信頼に値する、言葉。
「私は鉄帝には対して関わってませんし戦争に犠牲は付き物ですから貴方個人には特段。
ただ……負け戦の責任を取るのは司令官の務めではないでしょうかね、将軍殿」
言葉共に、放たれる、綾辻・愛奈の一撃。夜叉のそれ。振るわれるそれが、レフの腕を切り裂いた。
「責任はとるさ。もうちょっと後でね……!」
まだ死ぬ気はない。そう告げるように。レフは、愛奈を振り払う。
「そうだとも。まだ、僕の憤怒は終わらない。終わらせて、なるものか」
「きみは悲しみの中でなお、怒りに呑まれてはならなかった。
その愛がおじいさまの清廉なる意志に泥を塗ったんだ」
サンティール・リアンが、叫んだ。
「わかるなんて傲慢なことは言えない。
でも……この分からず屋!」
叫んだ。言葉は届かない。届いても、意味はない。
でもだからこそ、言葉は届けたかった。
「だとして――」
だとして。
ほかに何があったのだろうか。
あの時の、煮えたぎるような怒りと絶望の行き先は。
どこに。
「将軍様たちが何をどう思っているかはそんなに重要じゃないと思っているの。
結局国っていうのはその他大勢の教科書に名前が載らない人たちが全てなのよ。
ゼロからやり直すなんて都合のいい話、させてあげない」
メリーノが言った。
「やりなさい、よーちゃん」
そういった。
レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタインが、駆けた。その傍らに、鎖を咥えた氷の狼を走らせて。
迎撃する。レフ。立ち上がる。その手を振るう。
その手が、吹き飛んだ。
銃撃。
視線をやる。
笑う。
ジェイク・夜乃。
意識を外していた――!
想定外の、一撃。
ぎり、と歯を食いしばり、レフは左手で軍刀を拾い上げた。その刃が、弾き飛ばされる。
エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ。その刃。一ノ太刀。
「なるほど」
レフは笑った。
「喉元か。確かに――」
レイチェルの雄たけびとともに、氷の狼は、レフの喉元に食らいついた。ばぐり、とかみちぎる。
どさり、と斃れる。がふり、と血を吐く。
「おわりだ」
レイチェルが言った。
「これで……全部終わりだ」
ふ、とレフは笑った。どこか満足げに。その体が炎に包まれて、きえていく。身の内に燃えた憤怒の炎に、耐えられなかったというように。
「……レフ将軍 怒リ 呑マレタノハ。
祖父ヘノ後悔 民ト自分自身ヘノ怒リ抱キ続ケタカラデ。
死者ノ死 遺族ノ心 護ルベキ存在ガ 墓守ガ。
コノ国ニモマタ必要 思ウ。
死者弔イ 死 利用サセズ 遺族 心 護ル 墓守ガ」
フリークライが、静かにつぶやいた。その言葉が、小さく風に乗って消えていく。
鉄嵐の中心で、今は静かに、風は凪いでいた。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました。
白紙以外全員登場しております。
万が一抜けがありましたら、ご連絡お願いします。
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です。
決戦です。
※本レイドの返却は、運営都合により通常よりも延長されております。シナリオ展開によって返却が行われますので、ご了承いただけますと幸いです。
●成功条件
ルドルフ・オルグレン、およびレフ・レフレギノの完全撃破。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●排他制限
こちらのRAIDに参加した場合、他のRAIDには参加出来ません。
※ラリー形式のRAIDには参加可能です。
※複数RAIDの優先がある方(レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタインさん、リースリット・エウリア・ファーレルさん、セレナ・夜月さん)のみ特別にこちらと他RAID両方に参加可能です。
※片方のRAIDに参加した後、運営にお問い合わせから連絡いただければ、両方に参加できる処置を行います。恐れ入りますがご連絡いただけますと幸いです。
●状況
6派閥合同による、首都攻撃作戦が決行されました。
あなたは、この作戦に参加し、首都奪還を目指します。
戦場は、以下の通り、『北西地区』『南西地区』に分かれています。
それぞれの場所で指揮を執る将軍を討ち取るのが、本作戦最大の目標です。
戦場では、『帝政派』『ザーバ派』の求心力パラメータやスキルに応じて、現地民のサポートが入ったという形で戦力に有利判定が付きます。これまでの皆さんの行動が、結果として結実します。
その他、多くは語りません。ご武運を。
●選択肢とグループ参加について※2023/03/09追記※
グループや複数名、ペアでの参加希望の方は、プレイング冒頭に、
【グループタグ】or同行者(ID)
の形でご記入ください。
また、グループ・ペアでの参加の希望の際は、『行動場所は統一する必要があります』が、『市民サポートは統一する必要はありません』。
市民サポートに関しましては、ご自身やグループの行動、作戦に応じて有利になる様に、お好きなものをお選びください。
行動場所
以下の選択肢の中から行動する場所を選択して下さい。
【1】北西地区攻撃
帝都の北西での攻撃を行います。
こちらには主に新時代英雄隊の人間型敵が大量に配置されています。
個々の戦闘能力は低めですので、しっかりと準備をしてくれば制圧は可能なはずです。
この地区の指揮を執るのは、ルドルフ・オルグレン将軍。
魔道と格闘を合わせた特殊格闘術の使い手です。
非常に強力な相手ですが、しいて言うならば遠距離面で穴があります。そこを突くとよいでしょう。
【2】南西地区攻撃
帝都南西での攻撃を行います。
こちらは新時代英雄隊・天衝種の混成部隊が配置されており、最も戦闘が激しくなる地区であるといえるでしょう。
攻撃、援護、どちらもしっかりとしたものが求められます。
この地区の指揮を執るのは、レフ・レフレギノ将軍。
彼は魔種であり、この地区を攻撃する歴戦の英雄である皆さんが相手でも苦戦は免れないでしょう。
しっかりと連携を取ったりするなどし、確実な撃破を目指してください。
市民サポート
皆さんがこれまで築き上げてきた求心力の値は伊達ではありません。
皆さんは、鉄帝市民から以下のサポートを得られます。
どれでも好きなサポートを選んでください。皆さんにはその応援を受ける権利と、期待を背負う義務があります。
【1】攻性サポート
市民からの応援や、離反した新時代英雄隊のメンバーの力を借り、あなたの攻撃面にバフが発生します。
数値は、これまで皆さんが得た求心力の値にや派閥スキルによって変動します。
敵兵士や天衝種を一気に撃破し、道を切り開きたい方や、敵将軍への攻撃を狙う方にお勧めです。
【2】防性サポート
市民からの応援や、離反した新時代英雄隊のメンバーの力を借り、あなたの防御面にバフが発生します。
数値は、これまで皆さんが得た求心力の値にや派閥スキルによって変動します。
攻撃よりも生存性を重視し、長く戦場に残って味方のサポートをしたい方、あるいは盾として最前線に立ち続けたい方にお勧めです。
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