シナリオ詳細
<鉄と血と>人民のための大地
完了
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オープニング
●作戦名「人民のための大地」
古代遺跡を利用して作られた地下鉄道を、何台にも及ぶ列車が走り抜けていく。
それらはゆっくりと停車し、各々の扉がガタリと開く。
スライドする扉たち。先頭の車両からまず姿を見せたのは革命派の精鋭イレギュラーズたちである。
「ついに、この時が来ましたわね」
「ええ、先輩」
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)とアミナは二人並び、メイスと小銃を構えて顔を見合わせる。
もう怖いものなんてない。そんな顔で笑い合うと、ホームへと歩み出た。
「皆さんも、一緒に来てくれてありがとうございます!」
どこか強気に笑うアミナに、リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)が首を振る。
「友達だからね。派閥なんて関係ない。一緒に戦うよ」
「僕はヴァリューシャのためだけどね!」
「何のためでもいいさ。それがこの国の未来を救う」
「先輩。やりましょう!」
彼女たちの左右に広がるように姿を見せるのはマリア・レイシス(p3p006685)、シラス(p3p004421)、ブランシュ=エルフレーム=リアルト――といった錚々たる面々だ。後に革命派の同志たちも集まり、それは巨大な力となって地下道を進んでいく。
ルブラット・メルクライン(p3p009557)、楊枝 茄子子(p3p008356)、イロン=マ=イデン(p3p008964)……数えればきりがないほどの精鋭たちの中で、茄子子が代表してマップを広げた。
「歩きながら聞いて下さい。私たちは首都を軍事的に支配してるグロース師団を倒すため、その参謀本部を目指して侵攻します。
そのために、私たちは派閥の垣根を越えて手を取り合います」
「派閥を越えて、か。もはや革命派だけの問題ではなくなったということだな」
「グロース師団と敵対しているのは、ワタシたちだけではないのです」
ルブラットとイロンが振り向けば。茄子子も頷いて振り向く。
「北辰連合、南部軍、アーカーシュ、帝政派、ラドバウ独立区。全ての勢力から援軍が駆けつけてるわ」
「勿論、ローレットからも」
言われてまず車両から進み出たのはイアソン・マリー・ステイオーン。
独立複合民族アルゴノーツの族長であり、精鋭のラピテースやエリンたちも古代兵器を手に左右に続く。
彼女たちを仲介したのは善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)、ルナ・ファ・ディール(p3p009526)たちだ。
「グロース師団のハウグリン一家には随分手を焼かされたからの。決着を付けるには丁度良い舞台じゃ」
「その通り。これもまた天命というべきでしょう」
更にフランセス・D・ナウクラテーと、その友となったシャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)。
そこへ北辰連合からの援軍たちが続くが、特にギラギラとその存在感を見せつけたのは鳳自治区と呼ばれる地方から集まった癖の強すぎる精鋭たちだ。
通称、鳳圏勢。
榛名 慶一を初めとする鳳圏軍服に身を包んだ兵たちが強敵相手の戦いに飢えた目をして突き進む。
仲介役兼領主としてその先頭を歩かされる加賀・栄龍(p3p007422)がガチガチだ
「グロース師団。そしてその支援を受けていた『黒百合の夜明け団』を捨て置くわけにはいかない。そうだね?」
「いかにも」
咲花・百合子(p3p001385)が獰猛かつ清楚な笑みでそれに応える。
続いては独立島アーカーシュより、戦闘用ゴーレムや戦闘精霊、そしてアーカーシュから駆けつけたローレットイレギュラーズたちが車両からホームへと降り立った。
彼らが天空から直接降りれば目立ってしまう。秘密裏に地下道へ運び込んだのは九頭竜 友哉率いる九頭竜商会の流通網を利用したものだ。
「チッ、損の多い取引になっちまった。代金は払えるんだろうな?」
「えっ!? ちょっとそのお金は……」
「なら、また『仕事』だな」
「そんなあ」
雑賀 千代(p3p010694)を小突き、そしてククッと安堵したように笑う友哉。
エル・エ・ルーエ(p3p008216)もそれに続き、ふとこの先にいるであろうメリナという魔種のことを想う。
悲しい演目。誰かに伝えようとして潰えた想い。ちゃんと、聞いてあげなくちゃ。
続いてこちらは帝政派。
車両から降り堂々と先頭を歩くのは鉄帝の政治家として名高いアントーニオ・ロッセリーノ。
「グロース師団との因縁もこれにて決着、となればよいのだが。今回も働いて貰うぞ、アーティストたち」
それに苦笑を返すのはベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)、イズマ・トーティス(p3p009471)たちだ。
優れたアーティストは優れたトラブルシューターになるというアントーニオの思想はそのままローレットへの敬意となり、対グロース師団連合という計画に帝政派からいち早く賛同し手勢を送り込んだのだった。
故に、帝政派に属する兵士たちもここには大勢つめかけている。
更に南部戦線ザーバ派。
ディートリヒ・フォン・ツェッペリンとダヴィート・ドラガノフを先頭とした南部軍の面々が揃い、グレン・ロジャース(p3p005709)とディートリヒは深く頷き合った。
「この前はうまく使っちまったからな。これで貸し借りはナシにしたい所だ」
「どうだかな」
シラスと視線を交わし合うダヴィート。
「軍事力を濫用して村から略奪をしかけるなんて許せませんわ! グロース師団、ぶっ飛ばしてやりますわ!」
ギベオン・ハートが拳を掲げてやる気をみなぎらせている。ですわよね! と振り返られ、オニキス・ハート(p3p008639)が肩をちょっとだけすくめて見せた。
そしてラドバウ独立区。
グロース将軍からインガ・アイゼンナハトが供給を受け、ラドバウからドロップアウトした闇闘士たちを抱え込んでいるという噂はいくらかの闘士たちをこの作戦に動員するきっかけを作った。
夜式・十七号(p3p008363)が進み出て、彼らと共に前を向く。
中でも異彩を放っていたのは、鎖を取り出し拳に巻き付け殺気をむきむきに出しているウサミ・ラビットイヤーである。
「うおー! やったるぴょん! 地下ファイター(アイドル)の底地からみせたるぴょん!」
「がんばろうねウサミちゃん!」
「やる気!? てことは今度こそユニット――」
「KUMANAI!」
先んじてアイドルユニット化をブロックする炎堂 焔(p3p004727)。
そんな人々の中で、清水 洸汰(p3p000845)がふと一緒に歩くカルネ(p3n000010)へと目を向けた。
「あのおかーさん、やっぱりこの先にいるのかな」
「多分ね。あの人は絶対に諦めない」
「けど、向き合うためには……」
三國・誠司(p3p008563)、イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)がそう続いて、カルネは少しだけ寂しそうに笑った。
「僕も、ホントは怖いよ。これから一生関わらずに、逃げていきることだってできると思う。けど、向き合おうって決めたんだ。皆がいたから……決められたんだ」
だから、一緒に来てくれる? カルネは手を差し出してそう言った。
そんな中で、レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)がグッと拳を天に向けて掲げる。
「グロース師団にはいろんな人が苦しめられたっす! キャトルさんたちだけじゃない、みんなっす! みんなで、その暴挙を止めるっすよ!」
「他派閥と協力体制を……とは言ったけど、全派閥から来るとはね」
リア・クォーツ(p3p004937)が感心したようにヴァルフォロメイを見る。ヴァルフォロメイはどこか居心地が悪そうだ。
代わりにというべきか、『オリーブのしずく』のクラウディア・フィーニーが微笑みかけた。
「グロース将軍に困らされていたのは、何も私達だけではありませんからね」
「『共通の敵』ってやつは、結束するにゃ充分なネタってわけだな」
ブラトン・スレンコヴァがニッと笑う。
長月・イナリ(p3p008096)、ンクルス・クー(p3p007660)、フラーゴラ・トラモント(p3p008825)たちがその様子に表情を緩めた。
「『人民軍』はまだ後方に待機させてるよ。あるべきときにこそ、切り札を使わないとね」
「私達が戦うことで、みんなに被害が及ぶことを防げるってわけだね!」
「いい考えだわ。けど、敵の戦力も把握してるだけとは限らない。油断は禁物よ」
一丸となり、『対グロース師団連合軍』と化した皆は地下道を通り、地上を目指す。
作戦名は、『人民のための大地』。
●作戦名『衝撃と畏怖』
グロース・フォン・マントイフェル将軍は憎々しげに参謀本部のテーブルを叩いた。
会議室の重厚なテーブルについているのは、アレイスター・クロユリー、メリナ・バルカロッタ、インガ・アイゼンナハトといった常軌を逸した者たちだ。
それに加えヘルマン大佐をはじめとする強力な将校たちが席に着き、グロースの言葉を待っていた。
「どうやら、我々は最後の決戦を強いられているらしい。喜ばしいだろう鉄帝国のウォーモンガーたちよ。血湧き肉躍るというやつだ。まあ中には、本当に血を沸騰させて死んだ者もいるようだが?」
ブラックなユーモアを交えて語り出せば、グロースはその調子を取り戻す。
「東西南北、大規模派閥の連合軍によって囲まれている。中央部からはラドバウ独立区の連中が立ち上がり、地下道からは革命派を中核とした連合軍が侵攻を図っている。逃げ場などもはやなく、袋のネズミだ。
つまり――我々こそが戦場の華!」
立ち上がり、凶悪な笑みを浮かべるグロース。
「命令だ。地下道へと攻撃をしかけ、地上部へ広がらんとする連合軍を食い殺せ!
クロユリー、メリナ、インガ、ヘルマン。貴様等も全員出動だ」
「貴様はどうする?」
クロユリーの問いかける口ぶりに、グロースは小さく肩をすくめた。
「せいぜい奥の手でも用意しておくとする。師団を率いる将軍として先陣を切れないのは残念きわまるがね」
将軍こそが先陣を切るという風習は、皇帝ヴェルスが先陣を切って戦争をしかけた頃にもあった鉄帝らしさの一つだ。グロース将軍もその例に漏れず何度か前線に飛び込んでは暴れていたものだが、どうやら今回はそれができない状況であるらしい。
「では、此度の先陣は私が務めましょう」
ヘルマン大佐が立ち上がり、会議室から出て行く。
その表情は、堅く険しいものだった。
「ローレット……この戦いに勝利した側こそが、国の未来を決めることになるだろう。
バルナバス陛下の支配を認めるか、全てを壊し作り直すか。いずれにせよ、破壊と戦いは免れぬ」
かくして火蓋は切って落とされる。
グロース師団との、壮絶な戦い火蓋が。
- <鉄と血と>人民のための大地Lv:20以上完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別ラリー
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2023年03月28日 14時30分
- 章数3章
- 総採用数241人
- 参加費50RC
第2章
第2章 第1節
「本当に――本当に本当に本当に忌々しい!」
走る戦車の上に立ち、ガリッと指を噛む幼女。グロース・フォン・マントイフェル将軍。
ついに前線へと現れた彼女が従えているのは、憤怒のオーラによって操られた何十台という戦車。そして歯車仕掛けのサーカス団であった。
大回天事業零号と呼ばれるそれは、かつて首都で猛威を振るった凶器のサーカス団が身につけていた義手や義足たち。それらを全て『組み合わせた』狂気の自動人形だ。
それが恐ろしい数になって歩兵として揃えられ、戦車の随伴戦力となっている。
更には、ハウグリン一族最後の戦士となったキルケ・ハウグリンの姿もある。彼女以外にも、グロース師団最精鋭部隊に直接配属された歴戦の兵たちが波のごとく迫るのだ。
「兵士たちよ、ここが最後の砦だと思え。貴様等の失敗に次はない。特にキルケ……分かっているだろうな?」
剣のような古代兵器シュヴァインを抜いたキルケが、はいと小さく呟いてアデュナトンを召喚。騎乗し、ゆっくりと宙へと上がる。
「わたしたちに次なんてないんだ。だからお願い、イレギュラーズ。ここで死んで」
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※システムアナウンス
●章解説:第二章
革命派、北辰連合、南部戦線、アーカーシュ、ラドバウ、帝政派と六派閥から代表者と兵たちが合流したことで完成したいわば連合軍とでも言うべき味方の軍勢は、新皇帝派のネームドであるグロース・フォン・マントイフェル将軍率いるグロース師団との戦いを繰り広げています。
そしてついに首都の陸軍参謀本部へと到達したイレギュラーズたち連合軍。
ついに姿を見せてグロース将軍とその精鋭部隊に挑みます。
●パートタグ
【空戦】
空を飛ぶ天衝種やそれに騎乗した兵たちとの空中戦です。
飛行スキルを用いるか、ワイバーンをレンタルする形で参加してください。
彼らは味方後方部隊への爆撃を目的とし頭上を飛び越えるつもりのようです。
彼らを撃墜することは、ひいては仲間を護る素晴らしい一手となるでしょう。
味方:九頭竜 友哉、アーカーシュゴーレム部隊混合部隊、ほか連合軍飛行戦力
【陸戦】
グロース将軍への道を切り開くべく精鋭部隊と戦います。
天衝種によって構成されていますが、戦車やパワードスーツといった特殊な兵器に憤怒のオーラを纏わせた特別製です。
敵ネームド:キルケ、インガ
【大回天】
陸戦部隊の中に少数ですが配備されている『大回天事業零号』を押さえにかかります。
他に比べ非常に高い戦力を有しているため、戦闘難易度が上昇します。
・大回天事業零号:狂気のサーカス団大回天事業が有していた改造義手や義足を全て組み合わせ一体の人形として完成させたもの。全身が兵器であり、その多彩かつ強靱な戦闘能力は驚異的。
【指揮】
各部隊を指揮し、大量の精鋭部隊を相手取りましょう。
革命派、北辰連合、南部戦線、アーカーシュ、ラドバウ、帝政派から好きな部隊を選択できます。
敵ネームド:アレイスター・クロユリー
【グロース】
敵将であるグロース・フォン・マントイフェル将軍と戦います。
非常に強力な魔種であり、この戦いにケリをつけようと全力を出してくるでしょう。
●自由戦力
以下のNPCは関連したPCの参戦したパートに追加参戦します。
クラウディア、ブラトン、アミナ、アルゴノーツ、フランセス、鳳圏軍、ウサミ、ディートリヒ、ダヴィート、ギベオン、アントーニオ、カルネ
※その他NPCも関連したPCと共に戦場に登場することがあります。
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第2章 第2節
「はいぱーじゃっじめんと――」
「「WW(ダブルワイルド)つ!」」
『革命の用心棒』ンクルス・クー(p3p007660)とブラトンによる同時ラリアットによって回転しながら宙に浮いたパワードスーツ。それをブレーンバスターの要領で二人で抱え、地面へと叩きつけた。
かなりの装甲をもつパワードスーツがバラバラに崩壊するさまは爽快の一言だ。
「ったく、次から次へと沸いてきやがる。グロース師団の兵士は畑で取れるんじゃねえだろうな」
「構図が逆っぽい気もするけど……それよりブラトンさん」
くいっと親指を立てて後方をさすンクルス。
「このあと国民の決起と突撃が始まると思う! その時は、皆の被害を減らすように統制を手伝って!」
「任せな。そういうのは軍人の本分……じゃあねえが、得意分野だぜ」
「ありがとう! それじゃあ――『皆に創造神様の加護がありますように』!」
迫る戦車と砲弾の雨。
およそ地獄のような風景に、しかし『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)は実家の如き安心感で挑んでいた。
「こちとら戦争生まれの戦火育ち、産湯は血の池故郷は灰。ってね」
秋奈は飛来する砲弾をあろうことか剣でばっさり切断すると、続けて打ち込まれるガトリング砲による集中砲火を剣で舞うように次々に撃ち払うことで突撃していく。
「とにかく楽しんでればオールOKさ! 私ちゃんたちも思いっきり戦いを楽しんじゃおうぜ!
ちゃんアミナにもいいとこ見せてあげるんじゃーい!
ゼシュテルスタイルでバイブス鬼ってる今なら押せるっしょ! うぇーい!」
大きな跳躍から繰り出した剣が、憤怒のオーラによる自動操縦をうけた戦車を真上から装甲を貫いて刺す。オーラの暴走かはたまた破裂か、戦車はボンッと爆発を起こして停止した。
「この国の運命は私ちゃんらが決める! アホ軍人は黙ってな! びっ!
苦労を増やしている私ちゃんが言うなって話だけどな! ぶはは!」
横ピースしながら、秋奈は笑って宣言する。
「誰だって死んだら次はないからこの戦場を精一杯戦い抜いてるんだがな
事ここに至って敵の事情なんて知る余裕なんてないからこのまま押し徹るぜ!」
『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)は手持ちの式符を次々に引き抜き、全力で一斉発動させた。
次々に瞬間鍛造される絡繰兵士、陰る太陽を写す魔鏡、五行相克の循環を象った斧。絡繰兵士が分解変形し錬へと集まると、錬は全身鎧に盾に斧。いわゆる重戦士スタイルへと変化した。
「そういや、大砲を鍛造して敵を吹き飛ばしたこともあったっけな。懐かしいぜ、リヴァイアサン戦」
錬は不敵に笑うと、戦車の撃ち込んでくる大砲を五行の障壁で防御。そのまま迫って戦車の最も弱い部分を斧によってかち割った。
「弱点はそのままか。皆、俺の教えた場所を攻撃しろ!」
「効率化か、助かるね。なら俺はこっちに集中しようかな」
『桜舞の暉剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)は鞘から『神々廻剱・写し』を抜くと、くるりと一度だけ回して構え直す。
敵はキルケ・ハウグリン。
彼女は古代兵器の剣をくるりと回すと、ヴェルグリーズと同じように構えた。
「相手になるよキルケ・ハウグリン。さあ、仇はここだ」
「楽しい話には、なりそうにないね」
暗い表情で語るキルケは分厚い軍用コートを羽織ったまま――豪速で迫るヴェルグリーズとつばぜり合いに持ち込んだ。そこから互いに反発し、激しい火花が互いの間に散る。
極限の集中状態で振るわれるヴェルグリーズの剣をここまで受けられるということは相当の達人だろう。古代兵器の力か、それとも愛の力か。ヴェルグリーズにはどちらにもとれる気がした。
「この国の未来は譲らない、だから死んであげるわけにはいかないんだ。
キミ達にもはや退路が無いのであれば仕方ない。
戦士としてこの場で終わらせてあげるよ」
飛来する砲弾を革命派の僧兵たちが防御結界によって弾き、屈強な南部軍が担いだ重火器が反撃の炎をあげる。
そんな中を、『ちいさな決意』メイメイ・ルー(p3p004460)は『オールハンデッド』を呼びかけながら走っていた。
「これだけの人たちが、手を取り合って戦っている…
わたし、も、その助けになりたい、です。
この国と、この国の人たちの為に。
目指す先が同じなら…迷いません…!」
空を見上げると、大量の飛行天衝種とゴーレム軍団がぶつかり合い、交わされる熱光線や魔術弾が花火のようだ。
が、そんな中――。
「バフを巻いてるのはヤツだ! 先に潰せ!」
敵兵の叫びと共にパワードスーツの集団がメイメイめがけて殺到した。振りかざされるヒートアックス。
メイメイがハッと振り返り、そして助けを求めてある神の名を叫んだ。
「ハイペリオンさま!」
「はい!」
はるか天空より舞い降りし、太陽の翼。
「ハイペリオン、只今参上しました \(╹v╹*)/」
翼を広げたハイペリオンが結界を広げると、斧が次々に止められる。その力の一端を受けたメイメイが、ひつじさんのもこもこを纏ったミニペリオンを召喚する。
「メリー!」
高く叫ぶと、ミニペリオンは敵めがけて激しいドロップキックを仕掛けるのだった。
「無機質な鉄塊の軍勢はちょっと恐ろしいけど、みんながついている、怖じ気付かなくていい。
苦しい思いをした人の笑顔のためにいざ……」
『赤々靴』レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)は戦場の中に建ち、真朱色の戦旗を高く掲げた。
纏うドレスもまた深紅。
「遅れたけど増援に来たっす!」
仲間にそう叫びながら真っ赤な魔術の光を解き放つ――と。
「レッドちゃんレッドちゃん」
大きなリュックサックを背負ったキャトル・ミューティが後ろからひょこっと顔を出した。
「うわあ!? え、どうしたっすか!? ここは危ないっすよ!」
そう言いながら、飛んできた砲弾めがけて紅蓮の魔術弾で迎撃。眼前で起こった爆発がレッドの頬にピッと小さな傷をつくる。
それを見たキャトルは鞄から牛乳をひと瓶取り出した。
「こんなこともあろうかと、余裕のあるうちにいくらか冷凍しておいたの。飲んで飲んで」
「今!?」
せかされるまま牛乳に口をつける……と、傷の痛みが引いていく。飲み干すと、驚くべきコトに傷が治癒されてしまった。
「この牛乳すごいっす!」
「おいしくなる魔法をかけたからね、今!」
この戦いに勝ったらビッツちゃんのライブを見に行くんだ、と嬉しそうに呟くキャトルに、レッドはほっこりと笑った。
国民たちは戦っている。銃をとるばかりではなく、祈り、走り、時にこうして牛乳を飲ませ。彼らは共に戦っているのだ。
成否
成功
第2章 第3節
「カルネのおかーさんヨシ!
ってことでここから本領発揮、やっぱりアタシは飛んで戦うのが性に合うわ!
カルネ、ワイバーンに乗って戦ったことは? なくてもなんかこう、ギュってしてガッていってギュンで動かせるから大丈夫よ!」
「え、なに!? 全然わかんない!」
空へと飛び上がる『秦の倉庫守』秦・鈴花(p3p010358)。亜竜種の見えない翼を広げ、風を味方に付け空へと舞い上がる姿と共に、ワイバーンに騎乗したカルネが上昇する。
敵となるのは軍の高高度を越えて後方部隊に爆撃をしかけようとしている飛行天衝種たちだ。
「見て、あれ!」
グリフォン型の天衝種にライフルを装備した兵が騎乗しこちらに攻撃をしかけてくる。
集中砲火――を、カルネは鈴花の前に躍り出ることで防御した。
「このくらいで負けるくらいなら、最初から冒険になんか出ない!」
「その意気よ!」
鈴花は拳を引き絞り、ひねりを加えるようなフォームをとる。
「伏せて!」
空中でどう伏せるのかわからないけどワイバーンにぺたんと伏せたカルネの頭上を、鈴花の突き出した拳――の先から放たれた螺旋状の波動が抜けていく。
直撃、からの爆発。大勢の敵兵がその動きを乱した。
『最果てに至る邪眼』刻見 雲雀(p3p010272)が襲いかかったのはそのタイミングである。騎乗したワイバーンの上でピッと自らの腕に小さなナイフを走らせると、血は長い鞭へと変わる。
放たれた鞭は動きの乱れた敵兵の首に絡みつき、引っ張る動作によってグリフォンから転落していく。
「後方を先に叩いておけば、という考えは確かに一理ある。
逆に言えば、それだけ事態を想定しやすいということでもあるワケだ。
貴方たちの手は全部潰させてもらう。覚悟はいいね?」
パッと鞭から手を離すと、血は無数の矢へと姿を変えた。
弓を放つようなジェスチャーと共に解き放たれた矢は、敵陣めがけて殺到していく。
その全てが敵のグリフォン、そして兵士へと刺さる。
墜落するには充分過ぎる威力だ。
そんな敵兵たちの間を抜けて、人型の飛行パワードスーツや戦闘機型の天衝種たちが雲雀たちの間を高速で抜けていく。
が、それを想定しない彼らではない。
「フハハハ! 空へと手を掛けたな! 我の目の前で!
神への侮辱、不敬である。堕としてやろう」
しっかりと上空で構えていた『輝きを目指して』ダリル(p3p009658)は再び恐るべき箱の姿へと転じると、開いた目から『神の裁き』を放射した。
まっすぐな光線にまるで死へ誘うような二重螺旋を纏ったそれは、飛行パワードスーツを滅茶苦茶に破壊。苦し紛れに放たれた機銃掃射も、ダリルを倒すには至らない。
「次だ!」
火力にすぐれたダリルのこと。神の裁きを広域に広げたらどうなるか。
人間形態に変じて指を天にかざすと、白い雷が全方位へと放たれた。そう、ダリルを中心に巨大な球形が突如うまれたかのごとく。
すり抜けを試みようとしていた複数のパワードスーツが小爆発を起こし墜落を始める。
『つまさきに光芒』綾辻・愛奈(p3p010320)は腕組みをし、ふわふわと浮かんだ状態でその様子を眺めていた。
「空が手薄と聞いていたので助太刀に来てみましたが、どうやら来て正解だったようですね」
手にしたのはピストル。特殊な魔術弾頭を詰め込んだマガジンを差し込むと、愛奈はこちらへ抜けてくる戦闘機型の天衝種たちめがけて撃ちまくった。
戦闘機と言ってもプロペラ機である。機銃を備えたそれには本来いるはずの搭乗者はなく、憤怒のオーラによって自動操縦状態にある。
反撃に繰り出される機銃の射撃。
愛奈はそれをヒュッと真横に飛び退くことで回避すると、横を抜けてターンをかけた戦闘機めがけ素早く反転。靡く長い髪をそのままに、相手のボディ側面を撃ちまくる。
ボッと爆発をおこして墜落する戦闘機のその上を、『ラストドロップ』ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)がワイバーンに跨がって飛んでいった。
「どう言われようと僕はこの国で生まれ育ちました。
森も国も、もうありませんとかそんなのはごめんですよ。
祖国を守りたい、それは当たり前の感情でしょう」
ジョシュアが抜いたのはリボルバーピストル。込められた弾はしかし、戦闘機の装甲をゆうに撃ち抜く威力を持っていた。
ここは混沌。機会平等の世界。戦闘機だか核兵器だか知らないが、ジョシュアの覚悟と想いを止められやしないのだ。
「一気に行きます!」
ジョシュアはスピードローダーを用いて弾をリロードすると、撃鉄に手を添えて凄まじい連射を繰り出した。
横薙ぎにするかのように放った銃弾は、迫る戦闘機群を次々に撃ち落としていく。
その一方、『社長!』キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)はミーメに跨がり共に戦うアーカーシュのゴーレム軍団を眺めていた。
「全く、つくづく歩いても飛んでもかわいい奴らだ。
お気に入りの連中が落とされるのは忍びない――助太刀するぜ!」
ということで早速キドーが邪妖精を召喚。
「戦闘機に邪妖精とくりゃ――こいつだな! コーヒーブレイクだぜ、グレムリン!」
『休憩中の時だけ遊んでいい』という契約のもと召喚された妖精。戦闘機にいつの間にか整備不良を引き起こすという戦時中の妖精譚である。
……てなことをやっていると、遠くから巨大なミサイル型の物体が飛行してきた。周囲には飛行パワードスーツの集団。
「ありゃあ……爆弾か? やべえな、護衛をすぐには削りきれねえ」
キドーが仲間に救援を頼もうか、それともゴーレムたちを退かせようか悩んだその時。
「「シャッチョーーーー!」」
遠くからご機嫌な声がした。
ワイバーンや陸鮫に騎乗したごろつき共が、手を振りながらやってくる。ルンペルシュティルツのスタッフたちだ。
そしてその一人が光る棒を掲げた。これが何かと言えば……。
「弾着ーッ!」
はるか遠く、海側から行われた海洋王国の支援砲撃である。
「おお……」
キドーがつい笑顔になってしまうほど、それはそれは激しい爆発が空を覆った。
成否
成功
第2章 第4節
「待たせたな、アントーニオ!」
「その声は!」
数々のお約束に則って振り返るアントーニオの視界には、あえて高い場所で逆光を浴びる『鳥籠の画家』ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)の姿があった。
「来てくれたのか、ベルナルド! 信じていたぞ!」
「少々準備に時間がかかってしまってな」
「準備……だと……?」
怪訝そうに眉根を寄せるアントーニオに、ベルナルドは頷いた。
「クリエイターの総力を終結したロボ、その名も『ゼシュテンガー』だ」
完成予想図はこうだ、と滅茶苦茶アーティスティックなロボのイラストを広げてみせる。
アントーニオは数秒黙り、そして目頭を押さえ、そしてまた数秒黙った。
「ベルナルド、それは流石に無理だろう」
「アントーニオ……」
「気持ちはわかる。しかし実現するには越えるべき障害があまりにも多い。それをいかな君といえど」
と言いながら何気なく振り返ると。
そこにはアーティスティックなロボが立っていた。
「もうできている!?(戦場に置いてある!)」
説明しよう!
鉄帝に集まったアーティストたちによって作られた『ゼシュテンガー』!
それはベルナルドによるテンションのあがる塗装技術と!
『残秋』冬越 弾正(p3p007105)によるテンションの上がるテーマソングと!
『悲劇愛好家』クロサイト=F=キャラハン(p3p004306)によって作られたテンションの上がる巨大サングラスと!
『幸運の女神を探せ』ジュート=ラッキーバレット(p3p010359)によるテンションのあがる料理と!
『姉ヶ崎先生』姉ヶ崎 春樹(p3p002879)によるテンションの上がる脱ぎっぷりと!
『甘い香りの紳士』朝長 晴明(p3p001866)によるなんやかんやで集めた素材と!
『自由医師』御幣島 十三(p3p004425)によるなんやかんやすごい工兵技術と!
『天届く懺悔』トカム=レプンカムイ(p3p002363)によるなんやかんやした運搬技術によって届けられた傑作ロボなのだ!
「テンションに偏りすぎている」
「大事だろ?」
な? と言いながら録音されたテーマソングを流す弾正。
それでは聞いて下さいといってマイクを構えると、これまでにないテンションで自作テーマソングを歌い始めた。
キラリとクロサイトデザインの巨大サングラスが光り、腕に装備していた大砲がゆっくりと腕と共に持ち上がる。
ジュートのピストルと同じデザインのそれを見て、ジュートはピンッとコインを弾いた。
びっくりするほど当たらないギャンブルによって裏面で落ちたコイン。クロサイトはちゃきっと眼鏡に指をあて、同じく眼鏡に指を当てた晴明が十三へと振り返る。
「まるで自分たちの記憶を疑うようで悪いんだが」
「なにかな?」
「俺たちは、そもそもどうやってこの素材を集めたんだ? 戦時下の困窮した鉄帝国内で」
「それは……なんやかんやですよ」
十三がすごくふわふわしたジェスチャーをする。
「わかった……それはもういい。レプンカムイはこれをどうやってここまで運んできたんだ?」
「それは……」
レプンカムイもまたふわふわしたジェスチャーをした。
もうわかったと言って両手を翳す晴明。
その後ろでは春樹がここぞとばかりに脱いでいた。
「ちなみにあちこちの造形をデザインしたのは……俺だ!」
「脱ぐな脱ぐな」
一肌脱ぐぜ! を「人肌脱ぎまくるぜ」書いてしまったためにおきた春樹のサービスであった。が、冗談はここまで。
はりぼてみたいに置かれたゼシュテンガーは、掲げた大砲からとてつもないビームを発射したのだった。
「何っ!?」
まさか本当に動くと想わなかったアントーニオが二度見するなか、光線が迫る大回天事業零号たちを貫いていく。
「よし撃てた! 成功だ! というわけで行くぞ!」
弾正がマイクを握ったまま敵陣へと突撃。巨大サングラスを剣代わりにして残った大回天事業零号へと斬りかかる。
ベルナルドは『七彩の誘色』を発動。クロサイトたちによって付与された力をそのまま敵陣めがけて解き放つ。
「皆さんキラキラした目でロボ作りをしていらして…熱気でクラクラしそうですよ」
「鉄帝だってサヨナキドリの商売先だ。勝手に滅ぼされちゃあ困るんだよ!」
晴明は『ヴェノムジュエル』の魔術を発動。クロサイトの力によって眼鏡がバージョンアップした晴明の魔術は冴えにさえている。
ジュートはウェスタンチックなサングラスをかけ二丁拳銃を撃ちまくる。
「敵のロボもこっちのロボもイケてるな!
でも勝つのは俺達だぜ! 天性のラッキーボーイ。
幸運の女神に一族郎党キレられた男ジュートがついてるんだからな!」
「ま、参加した理由は物づくりよりも新皇帝派の鉄帝軍人の亡命を助けちまった負い目ってとこだけどな。鉄帝側にも多少は貢献しとかなきゃだ」
レプンカムイが肩をすくめ、自走式ウォーワゴンへと乗り込んだ。
そしてアクセルペダルを踏み込むと搭載したゼシュテンガーと共に敵陣というか大回天事業零号へと突っ込んだ。
必殺ゼシュテンガークラッシュ(轢き逃げ)である。
十三はターレットスコープをかちゃりと回し、そんなワゴンへと迫る大回天事業零号たちに円盤形の自走地雷を解き放った。
次々に起こる爆発の中、春樹が飛びだし手にした大型スパナを二刀流で振り抜く。
「鉄のでけぇ固まりが動くってのは……浪漫だよな」
ニッと笑い、見栄をきる春樹。
その横に十三、レプンカムイ、晴明、ジュート、クロサイト、弾正、ベルナルド、そしてアントーニオが並び、それぞれのポーズをとったと同時に大回天事業零号が次々に爆発。中央でゼシュテンガーが片腕を大きく天に掲げていた。
「ちなみに中身はほぼ空洞だ。完璧な完成は、未来に託すとしよう!」
成否
成功
第2章 第5節
ブンワカと奏でる狂ったサーカスの不協和音。
不条理の際で生まれた歯車仕掛けのサーカス団がもたらすのは、もはや破壊でも娯楽でも、まして狂気ですらない。
誰かに仕掛けられた戦闘というタスクをこなすためだけの機械と成り果てたのである。
そんな中、ふらふらと歩く大回天事業零号の頭部を見事な射撃によって撃ち抜いた。
「煙と血に交じって、鉄と油のにおいが強まってきた。いよいよ本星が出てきたか」
ジャガッとレバー操作を行いライフルの弾をリロードする『天穿つ』ラダ・ジグリ(p3p000271)。回転して飛んでいく空薬莢がスローモーションになるほどの集中状態の中、スコープ越しの右目と裸眼の左目両方で把握した世界のありさまから、次に撃つべきポイントを策定、照準、発射。ここまでのワンセットがコンマ一秒の間に行われている。
手回し機関銃でも撃っているかのような速度で次々に放たれるラダの射撃は、その全てがヘッドショットとなっていた。
とはいえ相手は機械仕掛けのサーカス。グラニットという火吹き男が装着していた火炎放射マスクを破壊したに過ぎない。
遠距離攻撃の手段を封じたここからは、『魔法騎士』セララ(p3p000273)の出番である。
「輝く魔法とみんなの笑顔! 魔法騎士セララ、参上!」
きゃぴっと横ピースしたセララは手にしたドーナツをひとかじり。
頭を失った大回天事業零号が腕を振り回し、胸の獅子で吠える。
相対するセララの行動は、しかし早かった。
獅子の咆哮による威嚇もまるで通用していないセララはずらりと開いた複数のカードを連鎖発動させ、セラフィムモードによる突進を仕掛けた
「クラスカード、リリース!」
空に放り投げた無数のカードには様々なコスチュームに身を包んだセララが描かれている。その全てが次々に光り輝き、セララのコスチュームを次々に変化させていった。
変化するたびに特製アイテムと必殺技を大回天事業零号へと叩き込んでいく。
セララの『真の真骨頂』。変幻自在かつ縦横無尽なビルドスタイルによる全方位対応力。その全てを凝縮して叩き込み、セララは聖剣を最後に振り抜いた。
爆発を起こす大回天事業零号。その横をすりぬけ走るのは『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)であった。
「見覚えのある部品の数々です。特にあの仮面は。あれらを全て破壊する、それがこの戦場で自分が為すべき事でしょう」
グラニットとの戦いを思い出しながら、オリーブは己の剣に力を込めた。
ヴィゴーレの義手が繰り出されるが、それをギリギリのところで交わして相手の懐に滑り込みまず一撃。リーナの義足による回し蹴りを剣で受け止めつつ大きくバックステップ。胸のアニマールが火を噴くがまたもギリギリで回避しきったオリーブは相手がクラウンのボールを放つのを直前で察知。素早く抜いたボウガンによってシュートを事前に阻止した。
(賽は投げられたのです。この戦い、必ず勝たなくてはなりません。多少の無理程度、あまりに安いです)
急接近をかけ、剣によって相手のコアとなる部分を貫く。
なんとかダメージを与えようと自爆する大回天事業零号だったが、オリーブは爆発の中からゆっくりと歩み出るのだった。
「お下がりください。次は私が」
『舞踏は美しくあれ』雨紅(p3p008287)が前に出ると、くるくると槍を回し防御の姿勢をとる。
「その脚、覚えています。大回天事業のリーナ、彼女の最後とともに」
首都でぶつかったあの戦い。夢折れ願いむなしく足を失い、そしてもう一度踊ることを許された女の……その最後。
大回天事業零号は、その美しくも気高く、しかし許されざる死を穢すものであった。
「恐怖を撒き散らし舞う、そのように美しくないものは受け入れられません!」
踊るように繰り出される蹴りを全て槍で受け流し、雨紅もまた踊るように相手の足を斬り付けていく。
最後に突き刺した槍の一撃が、大回天事業零号をくずおれさせる。
胸に一撃つきたて、爆発を起こした大回天事業零号を前に雨紅は仮面の下で目を伏せた。
「あれこそが、あなたの最後の舞台。これ以上穢させません」
ありがとう。誰かがそう言った気がした。
「ヴィゴー……レ……?」
『御用芸術家』イズマ・トーティス(p3p009471)が戦場の片隅で見つけたのは、痩せ細り、横転した戦車に寄りかかって虚空を見つめるヴィゴーレだった。
彼の肩から先。つまり両腕は消えている。
「何があった!? これは……どういうことだ!」
思わず駆け寄り、むき出しの端末部を晒した肩を掴むイズマ。
いくつもの死を生み出し、傲慢に狂気のサーカスを演じ続けた敵だ。だとしても、これはあまりにもあんまりな再会であった。
虚空を見ていたヴィゴーレの目がゆっくりと泳ぎ、イズマを見る。
「ハ、ハハ……団長が死んだ。死んだんだ」
「…………」
「俺たちは、サーカスじゃなくなった。サーカスであることを、あの人が許してくれていたんだ。俺たちにとって、あそこが唯一の場所だったのに」
とりとめもなく呟く彼を、イズマは黙って見つめる。
「見ろよ、腕をとられちまった。今じゃ表を歩いてる機械仕掛けのサーカス団が俺の代わりさ。あれだけ大量にショーマンがいたら、何も楽しくならねえのによう」
くしゃっと笑顔を浮かべたヴィゴーレ。その両目からは涙が溢れた。
「なあ、頼むよ鉄帝の戦士(パフォーマー)……俺を、舞台の上で終わらせてくれ。頼むよ……」
その顔には、傲慢に人々を圧殺していた彼はいない。
イズマは目を瞑り……そして、誰かが倒した大回天事業零号の腕を拾いあげた。
差し出す腕が、ヴィゴーレへと接続される。
両目を見開いたヴィゴーレは。
「嗚呼!」
笑顔で立ち上がり、そしてイズマへと殴りかかろうとして。
どす、と胸をイズマの剣が貫いた。
「ありがとう……真の戦士(パフォーマー)」
涙を流し、ヴィゴーレは息絶えた。
「……イズマ」
その声に振り返ると、アントーニオが剣を手に立っていた。
深く、頷く。
「よくやった、それでこそアーティスト(トラブルシューター)だ」
成否
成功
第2章 第6節
大回天事業零号の群れというあまりにもあまりな敵戦力は、『群鱗』只野・黒子(p3p008597)の目からは『焦り』に見えた。
幾度と革命派の崩壊を狙い、そのたびにローレットに撃退されてきたグロース将軍がついにみせた、なりふり構わぬ戦力投入。それも、美しさや誇りや、あるいは生き様といったものを犠牲にした。
「将は人である前に将。しかしながら、誇りまで捨てては兵は動きません。あなたの下に、『生きた兵士』は一体どれだけ残ったでしょうね。見た限り、あまりにも乏しい」
黒子は南部帝政連合チームによる面制圧射撃を大回天事業零号へ浴びせつつ、ラドバウから派遣されたファイターたちを突貫させる。
その中に、『無敵鉄板暴牛』リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)の姿もあった。
「いくよ、コングスマッシュ!」
リュカシスは腕のワイヤーを引っ張ると、コンバルグフェイバリットの巨大なアームを展開。大回天事業零号を殴りつける。
対抗し巨大な義手で殴りつけてくる大回天事業零号。二人の腕が激突し、激しい火花を散らした。
(組み合わせられた武器ひとつひとつを剥ぎ落としたら、最後は何が出てくるだろう。プレゼント開ける時みたいでワクワクするね)
リュカシスがフッと笑うと、その途端に後方からロケットミサイルが飛んだ。
「リュカシス、よけて!」
飛んでから叫ぶ声に、聞き覚えがある。
「ホリー!?」
ほぼ反射で飛び退いたリュカシス。直後、大回天事業零号に直撃したミサイルが爆発を起こし、そこへ釘バットを握った少年が突進していく。
対抗し放たれた炎やパンチを彼は全て無効化してしまった。
「楽しい遊びしてんじゃん。俺らも混ぜろよ!」
「ジェイビー!」
リュカシスはジェイビーの横からすり抜けるように攻撃役を交代すると、大回天事業零号のボディめがけて強烈なパンチを叩き込んだ。
「市民の決起準備が進んでる。これからドンドンくるぞ。そっちのプレゼントも、楽しみにしとけよな」
吹き飛ぶ大回天事業零号を眺めながら、ジェイビーは釘バットをくるりと回して見せた。
「さぁ、私がママよ。ママのもとへおかえり」
『ファーブラ』プエリーリス(p3p010932)は大回天事業零号の一体を『母の呼ぶ声』によって引きつけると、踊るような義手義足のラッシュを防御した。
翳した七色の障壁が次々に飛び、パンチをすんでの所でとめ、キックをギリギリのところでいなすのだ。
といっても、大回天事業零号ほどに無節操な戦闘機械の繰り出す攻撃をそうそうかわしきれるものではない。
徐々に増えていく傷に、しかしプエリーリスはその穏やかな表情を崩さなかった。
「相手が誰であろうと足を止めてはいけないわ。ただし、間合いを読み、引き際は心得なさい」
「「Yes Ma'am.」」
続くはやはり、『Stargazer』ファニー(p3p010255)と『ライカンスロープ』ミザリィ・メルヒェン(p3p010073)。
ファニーはポケットから一本の骨を取り出すと、それを山なりに投擲――した途端謎の白い犬が空中でキャッチし走り去っていった。
「あ、犬! 俺様の必殺技だぞ! 返せ!」
「あれが必殺技?」
ミザリィはカラトリーセットを両手に抜くと、まるでナイフを何本も握るかのような構えで翳して見せた。
「必殺技とは、こうやるのです」
大回天事業零号が胸の獅子と頭から同時に炎を吹いたが、その中を突っ切りながら両手のカラトリーセットを投げ放つ。
次々に突き刺さったフォークやナイフ、あるいはスプーンたちが摩訶不思議な物理現象を起こし大回天事業零号のパーツをぱらぱらと分解し始めたではないか。
がくんと膝を突いた大回天事業零号が、苦し紛れに球状の戦闘機械『ライド・オン』を起動しこちらへと放ってくる。
豪速で回転、突進する巨大な球体。プエリーリスに防御を任せるのもいいが、ファニーとしてはもう一押し――。
グローブ下の指輪にそっと手で触れると、地面にドンと手を突いた。
地面から突き出る無数の骨。それは波となり壁となり、迫る球体を撃ち払った。
ボッと瞳が青く燃え上がる。
ファニーは大量の獣の頭蓋骨を呼び出すと、全ての口から同時に光線を発射させる。
小さな小さなダメージが大量に積み重なり、大回天事業零号は今度こそバラバラに散ったのだった。
「なるほど、こうだな」
成否
成功
第2章 第7節
「俺の剣技で、大回天事業を"大回転"させてやるぜ!!」
勇ましく両手剣を構え、ニヒルに笑って言い切った『九歩必殺』佐藤・非正規雇用(p3p009377)がいた。
両サイドに立っていたはずの『妙見子ちゃんがんばりまぁす♡』水天宮 妙見子(p3p010644)と『女装バレは死活問題』トール=アシェンプテル(p3p010816)が、すすーっと後ろにスライドし離れていく。
「あっ、やっぱ今のナシで。すみませんでした」
「恥ずかしくなるくらいなら言わなければ良かったのに」
ひゅんと元の位置に戻って扇子を広げる妙見子。
「しかし、以前以前大回天事業をお相手したことがありましたが、随分と凶悪なことになりましたね。
団員は一人までと決めて少人数体制でやりつづけた『団長』はあれでマトモだったということでしょうか? それとも、これだけの兵力を潜在させたまま捨てるほど狂っていたということでしょうか……」
「全員機械人形……なんですよね」
トールが柄だけの剣を握りしめ、異様な光景に目を丸くしている。
「どうやら、遊んでいる余裕はなさそうですね」
「遊んではないが?」
佐藤と妙見子は場所を入れ替え、妙見子が中心に出る。
「あなた方の舞台はここで幕引き。倒します! 今ここで!」
力強く広げた巨大鉄扇には炎の彫刻が施されている。
それに伴ってか、蒼き炎が佐藤とトールを包み込み狐の耳や尻尾を象った。
「輝剣『プリンセス・シンデレラ』!」
水平に翳した柄だけの剣から、オーロラ状の刀身が伸びる。
それを横目に、佐藤は剣を垂直に構えて吠えた。
「ならば俺も名付けよう――剛剣『ナハトファルター』!」
咆哮で自らを鼓舞した佐藤はその勢いのまま大回天事業零号へと突進。
相手の拳を真正面から剣で割り、その勢いのまま腕を粉砕する。
あまりにパワフルな斬撃に、左右のバランスを崩した大回天事業零号が転倒する。
トールは高く跳躍し、相手の胸めがけて剣を突き立てる。
オーロラ状の剣は相手の装甲をまるごと無視し、穿つように地面へとまっすぐに突き立った。
引き抜き、佐藤と共に飛び退くトール。
二人は左右に分かれ見栄を切り、その中央にふわりと妙見子が立って鉄扇子をパタンと閉じたその途端、背後で大回天事業零号は大爆発を起こした。
「あちら様も本気も本気のようなの。そうねぇ、では、こやつを何とかするのは任せてもらおうかしら~」
相手の数も残り僅か。
『ファイアフォックス』胡桃・ツァンフオ(p3p008299)は長い尻尾をゆらりゆらりと思案げに揺らしてから、肉球ハンドの片方を突き出すようにして身構えた。
ガガガーというノイズのような声を発し、炎を吹きながら鋭い蹴りを繰り出してくる大回天事業零号。
しかし、その蹴りには舞うような美しさも吠えるような勇猛さもない。
胡桃が容易に防ぎ、そして零距離収束火炎輻射術式(ぜろいんち・ぶれいじんぐぶらすた~)をぶち込んでしまえる程度には。
「もはやただの兵器扱いとなっては、サーカス団としては廃業なのかしら?
わたし的にはどちらでもよいのだけれども。ここで燃やし尽くしてしまうの」
「さてさて、アミナ殿達は上手くやっておられるでござろうか。では此方も少々派手にゆくとしよう」
その頭上を軽やかに飛び越え、宙返りをはさんで着地する『夜砕き』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)。
絡繰手甲・妙法鴉羽『宿儺』を変形させ刀剣モードと鎖鎌モードの二刀流をとると、大回天事業零号へ鎖を放ち巻き付ける。
「目には目を、絡繰には絡繰を! でござる! 紅牙斬九郎の絡繰忍術、その機械の眼でとくとご覧じろ!」
逃れるために鞭を放つ大回天事業零号だが、武器の扱いに関しては明らかに咲耶が上。
相手の攻撃を身体をのけぞらせることで回避すると、そのまま鎖鎌をリールによって巻き取る動きを利用して急接近をかける。
攻撃を回避しながらの接近。続いて繰り出すのは、必殺の『迦楼羅焔舞』。
過剰な気の回転により身体から漏れた焔の如きエネルギーが刀身を伝い、そのまま破壊力となって大回天事業零号の胴体をぶった切る。
「ぶはははッ、随分とゴテゴテしたお人形だな!
怪力、踊り子の足、火も吹くし装甲球や機械仕掛けの猛獣の要素もある。
なるほど報告書で見た色んな団員のキメラみてぇなもんか」
一方、『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)は繰り出される義手のパンチを、キックを、マスクと胸からの炎を全て火焔盾『炎蕪焚』によって引き受けていた。
これまで戦った経験が凝縮されたような敵だが、しかし。
「哀れだねぇ。
各自の個性を全部合わせた結果、逆に面白みに欠ける典型例だ。
ワンオフとしての特別感も、最終兵器みてぇな浪漫もねぇ!
出し物としては落第点の極みだな!」
ゴリョウの腕に四海腕『八方祭』が展開し、ガシャンとナックル部分が前面へ露出する。
「サーカス団を名乗るんだったら最後まで通せや半端者がぁ!」
強烈なパンチが、大回天事業零号を吹き飛ばした。
成否
成功
第2章 第8節
「終わりね」
『狐です』長月・イナリ(p3p008096)は倒した大回天事業零号のボディを支援部隊に回収させると、再び迫る一体に目をやった。
最後の一体だ。ヒョホホホホと歪んだ笑い声を上げる機械からは、しかし奇妙な哀愁が漂っている。
「悪いけれど……あなたはもう私の敵じゃないわ」
構えた残影稲荷式九式短機関銃-改が火を噴き、大回天事業零号を削り取っていく。
防御のためにと展開した『ライド・オン』が迫るが、直前で繰り出した蹴りで動きが止まる。
義手によって破砕用亜鈴『ゴードン』を振りかざし、蒸気期間ヘルメット『ドクーン』と胸部の『アニマール』ヘッドから火を噴くも、イナリはそれを腕のひとふりでかき消してしまった。
ぶつかったはずのゴードンは、腕ごとへし折れて宙を舞い、地面をへこませ落下した。
蒸気駆動脚部『バイラリン』による蹴りを繰り出そうとするも、イナリは既に背を向けている。
「あなたが脅威だったのは、『サーカス団』だったから。その狂気が人々を呑み込もうとしていたから。価値を見誤ったわね、グロース将軍。『それ』はただの、副産物に過ぎないのよ」
内部で暴走したエネルギーが爆発を起こし、パーツが飛び散っていく。
イナリは嘆息し、そして歩き出した。
成否
成功
第2章 第9節
屋台『羽印』Ver4.00。進化しすぎてそろそろ空も飛び始めた『恋揺れる天華』零・K・メルヴィル(p3p000277)のフランスパン屋台である。
「つっても、飛行戦闘まではまだまだなんだよな。ワイバーンの技術が使えればなぁ」
などといいつつ、零は屋台から降りるとレンタルしていたワイバーンへと飛び乗った。
ただ飛び乗るだけではない。『羽印』のシンボルである看板とレリーフ、印象的な装飾部をワイバーンに乗っけることで実質的に合体してである。
「さあてグロース師団。テメェらにこの先は行かせねぇ。行くんなら…俺達を倒してからにしな!」
空へと飛び上がった零は弾丸のごとくフランスパンを発射。
直撃を受けたグリフォン型天衝種が大きくよろめいたその瞬間、『特異運命座標』陰房・一嘉(p3p010848)のパンチが直撃した。
ガハッと血を吐き、墜落していくグリフォン。
一嘉は腕組みをしながらゆっくりと浮遊すると、迫るグロース師団の航空戦力を観察した。
「此処に来て、後方支援部隊へ、航空爆撃か。
ふむ、戦局的にも、戦略としても、やるなら此処しか無いか。
グロース将軍、腐っても、やはり、一国の軍の将軍と言う事か。
だが、こいつらを叩き落せば、グロース将軍の持ち駒に航空戦力は、ほぼ残るまい。
味方の被害を抑える為にも、一騎残らず、此処で叩き落させて貰うとしよう」
腰から大口径の自動拳銃を取り出すと、広く視界をとったまま撃ちまくる。
「援護を!」
「まかせなさい」
『双影の魔法(砲)戦士』マリオン・エイム(p3p010866)がワイバーンに騎乗し男性モードをとっていた。
青空式マリオンさんアイテムⅠ。つまりは格闘用の魔力刃を生み出すセイバーモードとなってグリフォンたちの集団へと飛び込むと、次々に相手の翼や身体を切りつけていく。
四方八方から飛びかかる飛行パワードスーツは、回転斬りによって撃ち払った。
「このまま、グロースと直接戦えず終いかな?
でも仕方ないよね。マリオンさんは青空の精霊種。
個人の因縁より、皆の心に青空が広がる未来の為にこそ動くだよね。
それじゃ行こうか、リトルワイバーン君。防空に集った皆と共に。前線の皆を支えてくれてる後方部隊、誰一人傷つけさせないよ」
翳した剣から激しい紫電が解き放たれ、周囲の敵たちを焼きいていく。
『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)は自力で飛行し空を駆けると、パワードスーツを豪快に蹴り飛ばした。
「後方部隊を狙おうなんて、こちらもお見通しなのだよ!」
バキンと相手の胸部装甲をブチ抜く鋭い蹴り。
返す刀ならぬ返す踵で後方から迫ったパワードスーツの顔面を横から粉砕すると、キュッとネクタイを締め直す。
「ところでマリオン、といったか」
「何かな?」
戦闘中のマリオンと背中をあわせるように飛ぶと、モカは小さくだけ振り返った。
「グロースと戦いたいと言っていたが……おそらく、叶うぞ」
「? というと?」
「相手の狙いは拠点防衛。なれば、広域破壊兵器を用意していないわけがない――ということ」
『悪縁斬り』観音打 至東(p3p008495)が理解した顔で死角を詰めるように飛び上がってきた。
「あともう一戦。そのための、これは『詰めの一手』なのです」
至東はピンッと刀の鞘を握った手で親指を弾く。それも両腰それぞれ。弾き出された刀を素早く逆手に握り――抜刀。
空を『蹴って』飛び出すと、迫るグリフォンの牙をすり抜け胴体を上下真っ二つに切り裂いてしまった。
「サテ、バラ撒かれるお覚悟をなされませ。これより先、観音打の空は、よすがなき地獄にございます」
ぱっと離された爆弾が落下しそうになるが、至東は素早く棒手裏剣を放って爆弾を空中で爆発させた。
「目には目を、爆弾には――『M.A.D. Bomber』」
ぱっと解き放った
自走地雷ならぬ飛行地雷がパタパタと蝶のように羽ばたき敵へと飛んでいく。
成否
成功
第2章 第10節
「鉄帝の民達に、看守に相応しき精神を見たんだもの。私も負けちゃいられない!」
魔力を纏い空を飛ぶ『秩序の警守』セチア・リリー・スノードロップ(p3p009573)。風を追い越して手にした鞭を展開した。
「私はセチア・リリー・スノードロップ! 鉄帝の看守よ!」
放った鞭が飛行パワードスーツの腕に巻き付き、引っ張り込んだことで近くを飛んでいた別のパワードスーツへと激突させた。
バランスを崩して墜落するパワードスーツ。明後日の方向から飛んできた別のスーツが両手を翳しリパルサーショットを放ったが、セチアはそれを『刑務所五訓』を復唱することで耐えた。
「今こそ鉄帝の看守の抵抗力を見せる時!お前達全員、此処で撃ち落とすわ!」
ごうっ――と背と足からジェット噴射をかけた『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)が上昇し、隊列へと加わる。
このゴーレムめいたフリークライの姿に周囲のパワードスーツたちが一斉に注意を向け、そして味方のゴーレム部隊もまたついつい注意を向けた。
戦場の注目を急に集めたフリークライ。ゆっくり観察するかのように廻らせると、一度だけ瞳の光を明滅させた。
一斉砲撃が撃ち込まれる。パワードスーツの肩から展開したガトリング砲が一斉に撃ち込まれ、対するフリークライは両手を翳し埋め込まれたクリスタルの光によって結界を展開していった。
空中に生み出された無数の花々。いや、花々のような色をした結界に火花が散り、結界に次々にヒビが入っていく。
流石に集中砲火を受けすぎただろうか……とフリークライに不安が走ったその時。
「みんなの頭上はおねーさんがお守りするのだわー!」
『超合金おねーさん』ガイアドニス(p3p010327)が横をすり抜ける形でパワードスーツの一体へとタックルを浴びせた。
雲雀に連鎖行動支援を行っていたガイアドニスが、集中砲火を浴びてピンチになったフリークライを守るべく飛んできた次第である。
ガイアドニスのインパクトはフリークライのそれを大きく越えるものだった。より確実性のある誘引効果でもって注目を浴び、にっこりと不敵ともいえる笑みを浮かべてみせる。
「助かるわ、そのまま注意を引いてて!」
『夜守の魔女』セレナ・夜月(p3p010688)は彼女たちの頭上を飛んでいくと、『箒星』に鋭く跨がるような姿勢をとった。高速機動にうつるためである。
「戦争において空を制するものは戦を制する、と言うものらしいわ。この世界でもそれは変わらない――か。けどね」
急加速をかけたセレナは、非常識なジグザグ機動で飛びながらパワードスーツたちの放つマイクロミサイルの群れを駆け抜けると、至近距離まで迫ってから手のひらサイズの結界を発動させた。
「空がアンタ達だけの領域だと思わない事ね!」
相手の顔面に叩きつけたそれは結界であり欠界。細く鋭く断絶した力をそのまま刀身に見立て、相手の顔面を切り裂いてしまったのである。
火花をちらし、抱えていた爆弾もろとも爆発するパワードスーツ。
爆破を背に大きくカーブを描き、セレナは天に手をかざす。
「空は任せて。一気にいくわよ!」
天空に生まれた無数の結界から生み出された断絶の力が、パワードスーツたちへと降り注ぐ。
成否
成功
第2章 第11節
炎の交わる戦場に、彼女は悠然と立っていた。
来るべき時を、来るべき人を、来るべき結末を――待って。
「私の可愛い愛娘」
「その呼び方は、もはや今更だ」
炎と灰を抜けて歩み出たのは『蒼き燕』夜式・十七号(p3p008363)だった。
その周囲には、駆けつけた各派閥からの支援部隊が集まっている。
「インガ・アイゼンナハトの随伴戦力は我々が押さえつける。決着を付けたいのだろう?」
兵の一人に言われ、十七号は小さくだけ頷いた。
彼女の『因縁』は広く喧伝しているものではない。ごく一部の者しか知らない、そして彼女自身にとってもどう決着すべきか決めかねている問題だ。
「けど、魔種に対してこの戦力で大丈夫なの?」
「ボクたちも行くから、任せて!」
そう言って槍を手にした『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)が前に出る。
「たち? あ、ウサミも入ってるぴょん!?」
一度振り返ってから自分を指さすウサミ・ラビットイヤー。
「戦うのなら全力で手助けするよ! ね!」
「地下闘技場のヌシと? や、やってやりゅぴょん!」
噛んだ。噛んだが、気合いは充分だった。
この戦場にゴングはない。走り出したその時が。あるいはもっとずっとずっと前から、この戦いは始まっていた。
刀を抜き、籠手を前に出すかのように両手で握り振りかざす姿勢を取る。
十七号の狙いは最初から最後まで、インガひとりだ。
飛びかかる天衝種や兵隊たちを、支援部隊の砲撃や盾が受け止め、ウサミの鎖がなぎ払う。
「さぁ、燃えたくない人は道を開けて!」
焔は槍をぐるりと回すと、灯した炎を突きによって放った。
龍の如く伸びた炎が敵兵たちを焼き、そしてうねった道を作り出す。
その果ては、刀によって炎を切り裂いたインガで止まった。
「私の――」
「それはもういい、ここで終わりだ!」
十七号の刀がインガの刀を受け止め――なかった。
ざくりと腕に食い込んだそれは、彼女の腕を切り落とす寸前で止まる。
本来ならば切り落とされて然るべきそれは、籠手に込められたはるか昔の達人の想いと、彼と繋がる父の想いと、そして当時の戦士達の想いに阻まれたのだ。
紙一重に見つけ出したその隙を、十七号は走り抜ける。
背を向けあい、静寂が僅かに流れた。
ぶしゅんと血が吹き出し、十七号は膝を突く。
その後ろで、インガは胸から血を吹き上げてばたりと倒れたのだった。
「私の、可愛い……」
魔種はその願いを歪めてしまうという。愛が、想いが、歪んだ形で『かなぎ』をもとめた。その慣れはてが、これだ。
駆け寄って語りかけるべきだろうか。
「かなぎちゃん……」
焔の呼びかけに、しかし十七号は首を横に振った。腕の袖で刀の血を拭うと、だらんとそれを下げた。
「いいんだ。もう私は……子供じゃない」
向けた背の意味は、彼女だけにしかわからない。
潰えたインガの最後の想いもまた、彼女だけにしか。
成否
成功
第2章 第12節
戦車の履帯が土をはみ、まわる砲塔がぴたりと止まる。
放つ大砲は空を揺らし、物理の爆破を引き起こす。
次々に起こるそれらを前に、しかし――『戮神・第四席』ウォリア(p3p001789)は揺るがない。
「華は何れ散りて枯れ逝き、祭の熱が如く。
死せる者と生ける者、そのどちらかを別つ分水嶺は此処にあり。
次が無いと諦めるならば――その懊悩を、どうか死の間際に晴らさん事を」
『神滅剣アヴァドン・リ・ヲン』を手にした途端、彼の両目に灯る炎がその輝きを増した。
「来たれ憤怒の軍勢よ、戦場彷徨う強者よ。
裁定を下される覚悟あらば――オレと戦え!」
砲弾が飛び交う中を突き進み、戦車の一台を豪快に切り裂くウォリア。
そんな彼の肩を踏み台にして高く跳躍すると、『乱れ裂く退魔の刃』問夜・蜜葉(p3p008210)が抜いたふたつの刀『夢幻珊瑚』と『碧玉雪華』を広げくるりと宙返りをかけた。
そのしなやかな動きと長くなびく髪は、たとえ憤怒のオーラによって自動操縦された戦車団であってさえ一瞬に見とれるほどのものであった。
「いやぁ、圧巻だねぇ。
それにしてもグロース将軍ちゃん、以前にイレギュラーズと交戦した時に、なかよしこよしなんてくだらない、なんていってたのにねぇ」
戦車の上に着地し、ざくんと剣を両方突き立てる。
「こうやって沢山のお友達を引っ張り出すなんて。
なかよしこよししっぽりずっぽりの素晴らしさを分かってくれたようで、私は嬉しいよ……会ったことも話したこともないけど!」
にやりと妖艶に笑い、剣を抜く。小爆発を起こす戦車から飛び退きながら、次の獲物を探した。
そこを駆け抜けていく『奪うは人心までも』結月 沙耶(p3p009126)とアミナ。
もはや最前線を走ることに何の躊躇もなくなったアミナを横目に、沙耶はふと苦笑する。
「覚悟が決まったようだな?」
「覚悟? そうかもしれません。上手に言葉にできないんですが……強いて言うなら、理想を諦めたんですよ」
沙耶の放つカードナイフとアミナの小銃による射撃が、随伴歩兵を打ち倒す。
「切っ掛けは覚えていません。『おばあちゃん』が、楽になっていいって、近道があるって、教えてくれたからかもしれません」
「『おばあちゃん』……ね」
ブリギットとの約束を想い、沙耶は唇の端を上げる。
「近道ができると理想を諦めるものなのか?」
「さあ。けれど……小さい自分だなと、思いまして!」
自嘲気味に、けれど朗らかに言う彼女は、なるほどもう『哀れなる子供たち』じゃない。
「ならば、よし」
沙耶は笑って、共に戦うことにした。
(少しでも力になれるように、想いをたくさんたくさん杖に込めて……!)
『陽だまりに佇んで』ニル(p3p009185)は握った杖で宙に不思議なサインを描くと、治癒の力を広く広く展開した。
『ミラベル・ワンド』。アメトリンが宝飾としてあしらわれた、元気のわいてくるふしぎな短杖。
込められたのは、願いか、想いか、その両方か。はたまた愛か。
ニルは展開したフィールドの中で、仲間に強く呼びかけた。
「この中から砲撃してください! 回復します!」
「うむ、心強い!」
大和型戦艦 二番艦 武蔵(p3p010829)がザッとフィールド内に滑り込み、両足ブーツ部に備えていた折りたたみ式アンカーを展開。下半身をがっちりと固定させると、眼前の戦車部隊めがけて砲の狙いを定めた。
「九四式四六糎三連装砲改。三式弾――撃ェ!」
砲身から放たれた強力な砲弾が、戦車に直撃しその車体をひっくり返す。
対抗して放たれた敵の砲弾は、ニルのカウンターヒールによってダメージごとかき消された。
「陸と空ときて海はないのかと言いたいところだが、本土決戦と考えれば海戦が無いのも頷けるところ……戦艦武蔵!! 血路を切り開かんが為、いざ、参る!!
憤怒のみの紛い物、心なき兵器にこの武蔵を沈めることなどできぬと知れ!!」
成否
成功
第2章 第13節
「さて、待たせたわね!」
堂々と現れた『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)。
両手に紅蓮の剣を握りしめ、アルゴノーツの面々とそろい踏みで戦車団へと立ち向かっていた。
イアソン、エリン、ラピテース。彼女たちを馬車にのせ牽引するのは『探す月影』ルナ・ファ・ディール(p3p009526)の仕事である。もはやチャリオッツ(戦車馬)としての活躍が板についてきた彼だが、当然邪魔する連中はライフルで撃ち抜き時には殴るなり蹴るなりして轢いていくのは忘れない。
(いうなりゃあいつらも鉄帝軍人という群れだ。
それが例えどんだけ馬鹿げた大将の下、馬鹿げた方針であったとしても、群れの仲間として従うと決めた以上、そこに部外者が立ち入る理由はねぇ。
どんだけ阿保みてぇでも、それがあいつらの誇りだ。それを否定する権利はねぇ。
逆にどんだけ激昂されようが、互いの道が違えただけだ。譲る必要はねぇ。そうだろ?)
そして狙うは……敵のネームド、キルケ・ハウグリン。
「鉄帝軍人として。母として。妻として。戦い、散れ――!」
ルナは射撃と同時に馬車をターン。わざと壊れた戦車にぶつけるようにすると、馬車に乗っていたレジーナたちがその反動で大きく飛び出した。
全身をアーマーで覆った『ゲーミングしゅぴちゃん』DexM001型 7810番機 SpiegelⅡ(p3p001649)がその横をすり抜ける一瞬が、スローモーションとなった。
高機動戦闘形態をとったシュピーゲルが先端部からハイブリッドレーザーを発射。
「あまり前に出ないでください女王。シュピの機動にも限界があります」
向けた相手であるキルケは、翼のはえた豚ことアデュナトンを召喚。盾にすることでライフルとレーザーを防御した。アデュナトンとは『ありえないこと』の象徴として用いられる架空の生物だ。その文脈からありえない力を行使するという古代兵器の力は、なるほど凄まじい。
いや、しきれなかったと言うべきだろう。吹き飛ばされ、地面を転がる。
「そう……これが、戦場。あの人の、生きた場所」
シュピーゲルは高機動モードを解き、ラピテースと共に浮遊する。二人で顔を見合わせ、次の行動を決めかねていた。
なぜなら、レジーナがあえて前に出て、剣をキルケへと繰り出したがためである。
気合いと共に打ち込まれた剣は、キルケの剣によって受け止められる。しかし迸る衝撃が、彼女の軍用コートを千切り吹き飛ばした。
中から露わとなったのは、ベルトと鎖だらけの大胆なコスチューム。
一体何故と目を疑うレジーナの不意を突くように、キルケは彼女を蹴り飛ばした。
「わたしの名はキルケ・ハウグリン。亡き夫、ロック・ハウグリンを愛する者。
きみだね、わたしの夫を殺したのは」
「ほう……? あのロック・ハウグリンに妻があったとは」
イアソンがレジーナへと視線を向けた。その間もライフルの狙いはキルケに向けたままだし、シュピーゲルやルナも同じなのだが。要するに、『どうする?』という問いである。
頷き、レジーナは相手を睨んだ。
「なぜこんなことをするの。復讐のため? それとも――」
「愛ゆえに」
アデュナトンを無数に召喚し、キルケは剣をゆっくりと構え直す。
「この格好も、この戦場も、この髪も、この肌も、この瞳も、この世界も……みんなあの人が愛したもの。あの人の残り香。わたしは、ずっとあの人と一緒にいたい。今でも、そう。あの人を感じる」
「戦って死ぬことが愛だって言うの!? この戦力差を見なさい! 誰も生きろと願わなかったわけじゃないでしょうに! あなたの叔父、コルキスだって!」
レジーナが叫ぶ対して、キルケは美しく笑った。
「生きているよ。今。全力で――!」
「甘えるなァ!」
激突。飛び回るアデュナトンをシュピーゲルとルナ、そしてイアソン、ラピテース、エリンたちが撃ち落としていくなか、レジーナとキルケは幾度となく剣をぶつけ合った。
そして、決着はしめやかにつくのだ。
キルケの腕から跳ね上げられた剣が空中を回転し、焼けた地面に突き刺さる。
剣を喉に突きつけて、レジーナはゆっくりとだけ首を横に振った。
「戦場に生きてもいい。愛する人の香りを追ってもいい。我(わたし)にもそれは分かるから」
蒼い薔薇の香りを想い、目を細める。
「けれど、戦う相手が違うわ。汝(あなた)の夫は、叔父は、軍人としてこの国のために戦った。形は違えど、それはわたしたちと同じ。だとしたら……あなたが戦うべきは誰?」
問いかけに、キルケは目を瞑り、そしてゆっくりと両手をあげ投降する意志を見せた。
成否
成功
第2章 第14節
舞う、という動作は常人が想像する以上に根気を必要とする。体力、精神力、そして何よりも魂を。
この戦いが始まってより今もなお舞い続けている『剣の麗姫』アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)のポテンシャルはいかほどのものか、彼女に続き戦う者はみな想像していた。
アンナによる指揮はシンプルだ。自らの戦術的価値を『叩きつける』ように敵を引きつけひたすらに回避と防御を繰り返し、そして兵たちにバフを与える。
この場において、彼女ほど優れた武将――いや、『舞将』はないだろう。
「屈強なる鉄帝の諸君!敵は精鋭、されど魔種に尻尾を振る軟弱者共の精鋭よ!我等が負ける道理など微塵もない!暴れ尽くしなさい!」
そんなアンナによって、道は拓かれた。
『老兵は死せず』時任 零時(p3p007579)率いる鳳圏部隊が突撃銃を手に突進。
アンナ同様のパッシブバフ効果を持つ零時の部隊は、アレイスター・クロユリーの率いる『黒百合の夜明け団』やグロース師団兵たちにひけをとらない。
「余程の差がない限り、戦の勝敗を決めるのは質よりも量。
そして量がつりあったなら、質は僕らが担保する。この戦い、仮に劣勢にはなっても負けはないよ」
零時の指揮は淡々としていて、そしてまた冷静だ。
負傷者が出れば即座に退避させ、戦線が押されるようであれば自らが飛び込んで押し返す。
確かにグロース師団は優秀だが、零時の部隊はそれへ充分に『拮抗』できていた。
強い駒を押さえるということはそれ時点ですでに戦術的役割をこなしているのだ。
負けはないとは、つまりそういうことである。
仮に負けがあるとしたら、零時が突然狂って全隊員に特攻命令でも下し全滅したときだろう。ありえない。
「ほう、これは心強い」
『亜竜祓い』レオナ(p3p010430)は自らの指揮する部隊の先陣をきり、北辰連合のヴィーザル戦死たちと共に走り出した。
「さて事情については兎角知らぬ。されども逃すは面倒事に繋がるとは理解ろう。であれば仕留めるのみ。いざ、再度尋常に!」
敵兵の繰り出すハンマーを盾で受け流し、剣の一撃によって敵兵を斬り伏せる。
そのまま相手を蹴りつけ後続の兵にぶつけると、ヴィーザル戦士たちのなかに組み込んだ法術士に範囲攻撃魔法を集中させる。
「小細工は不得手。正面より受け止め、耐えて砕いて突破するのみ!」
レオナらしくシンプルで、そしてなによりヴィーザル戦士に合っている。そういった意味で的確な指揮であった。
また一方で『的確な指揮』をしていたのは『雪の花婿』フーガ・リリオ(p3p010595)である。
「軍楽隊、演奏用意!」
北辰連合から派遣されてきた部族を越えた合同軍楽隊が、それぞれの部族に伝わる楽器を演奏し始めた。
戦争において国を超えた連合軍が作られたとき、彼らは言葉の垣根を越えるために楽器を演奏したという。それは崩れないバベルによって言葉が通じるこの世界であっても通用するシンパシーだ。音は嘘をつかず、音は魂に響く。
『無名のトランペット』を構え、演奏を牽引するフーガ。
彼らの奏でた奇妙な混合音楽は、しかし巨大な波となって味方の兵の背中を押す。
「ジャズセッションだ!」
音楽は嘘をつかない。それは譲り合いや主張や、互いを認め合う精神すらも見つけ出せる。楽譜などない、打ち合わせもなければ決まり事もない。唯一あるのは良い音楽を奏でようという願いだけ。それは得てして、平和への想いによく似ていた。
そして始まる軽快なジャズ。
『ラド・バウA級闘士』マッチョ ☆ プリン(p3p008503)は凄まじく屈強なラドバウ闘士たちを少数引き連れ、敵陣へ突撃するのだ。
まさにその戦い方はジャズセッションのそれ。
「強いプリンならここにいるぞ! この首取れる物なら取ってみろ!」
自らを主張するプリン。同じく主張する闘士たち。彼らの勇猛さは互いをフェイバリットしあうラドバウ闘士らしい『セッション』を作り出す。
時に独創的に、時に力を合わせ、時にわざと邪魔し合ってさえみせて、戦場という名のステージを沸かせるのだ。
そしてそんな彼らを強化するのが――。
「ワイルド・倉庫バズーカ!」
『与え続ける』倉庫マン(p3p009901)の繰り出すアイテムばらまき作戦であった。
革命派の僧兵や歯車兵たちを指揮した倉庫マン。彼のばらまくレンタルアイテムが兵たちの手に渡り、強化された彼らが敵兵へと飛び込んでいくのだ。
これもまた、セッション。
「人が残っていなくては戦に勝っても勝利とは言えません。何よりも“需要を満たす相手”が居なくては」
背負った大型倉庫をトンと叩き、倉庫マンは歯を見せて笑った。
そんな中、敵兵の中から姿を見せた大型戦車がその大砲を吠えさせる。
飛来する砲弾は魔術指揮だ。爆裂魔法の込められたそれをまともに受ければ味方の兵はただではすまない。
倉庫マンはバックパックコンテナから展開したデジタル端末を素早く片手で操作し、複数の盾を選択。
「シールド・倉庫バズーカ!」
倉庫マンの放った大量の盾が眼前に展開され、爆裂魔砲の込められた砲弾の魔術と物理双方を無効化してしまう。
「なんだあいつら……」
戦場のど真ん中でジャズセッションを始める者やアドリブでプリンを食い始める者。倉庫バズーカする者。もう何が何だかわからないこの戦場こそ、つまりはローレットの戦場だ。
『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)はククッと苦笑し、そのどこか不条理なステージに自分も立っていることを自覚した。
「なら、そろそろ俺の仕事(演目)もしないとな」
『葬送舞台・冷え切った雨帳』。狙いは、戦場に姿をみせたアレイスター・クロユリーだ。
「黒百合様!」
狂信的な敵兵が飛び出しアレイスターの盾となる。
カイトは封殺をまるごと防がれたことに舌打ちしたが、『それだけ』だ。そのくらいは想定済み。次なる手をすぐさまうつ。
氷戒凍葬『凍獄愁雨』。死出を彩る呪われた舞台演出が始まる中、自軍の兵と共に飛び出したのは、そう――『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子(p3p001385)と『性別:美少年』セレマ オード クロウリー(p3p007790)であった。
「なんでPvP連中揃ってんだよ。微塵も許してねえからなテメェらよぉ」
態度をごりごりに悪くしたセレマが自軍の兵に指示を送る。
「手駒は洗脳により狂信的忠誠心を持ち地の利も向こうにある。
命を顧みない手駒を派手にぶつけ消耗させ地の利を盾にするのが常套か。
……なら、地の利をずたずたに食い破ってやろう」
連鎖行動を発動させ、自軍の部隊長たちの反応速度を極端に引き上げる。
セレマはその上で敵陣へ飛び込み、自らの『美しさ』によって敵を引きつけ始めた。
いかな忠誠心の高い兵であっても、我を忘れてセレマへと襲いかかる。
カイトはそうしてがら空きとなったクロユリーめがけて封殺の術を打ちまくるのだ。
そして。
「吼えよ! 足を止めるな! 喰らうべき首はそこぞ!」
北辰連合所属美少女道場門妹(?)らに加えメタリカ女学園の精鋭部隊。
見るからにおかしな美少女&乙女軍団に対し、クロユリーは自らの兵をぶち当てる。
こうなればもはや、正面から互いを潰し合うほかないのである。
そしてそうなることこそが、百合子にとって最強の策となる。
「追い詰めたぞクロユリー。踏みにじられた鳳圏の民よ、メタリカの乙女達よ! ここで終わらせる!」
いくつもの部隊を、いくつもの思想を、いくつもの想いを越えたセッションの先に、ひとつとなった勇気がある。
百合子は拳を握りしめ、そして……皆と共に叫んだ。
「「驚天動地! パンドラフィニッシュ!」」
「何ッ――!」
その一撃は、クロユリーにとってあまりに予想外のものであったろう。
「『皆の力を一つに』……とは。やはり変わったな、百合子よ」
凄まじい光と爆発。
その中心にあったクロユリーは跡形もなく消え去っていた。
あまりの衝撃に死体も残らなかったのか、はたまた命からがら逃げおおせたのか。それは分からない。
だが百合子の中に確信があった。
「これで終わり、だな。クロユリーよ。
この世界での貴様の役割は、もう終えた。もしまた拳を交えることがあるならば……かの世界へ共に帰った時であろ」
それまで、さらば。
成否
成功
第2章 第15節
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※システムアナウンス
ネームドエネミーであるキルケ、インガ、クロユリーとの決着がつきました。
残る敵はグロース・フォン・マントイフェル将軍のみとなります。
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第2章 第16節
「やれやれ、と……言わざるをえんか」
グロース・フォン・マントイフェル将軍はポケットに手を入れ、はあと深いため息をついた。
戦争は自軍の半分を失えば戦術的には壊滅状態であるという。
手駒にしていたいくつものネームドを失い、残る兵力はせいぜいが天衝種たちと僅かな兵隊たちのみ。
『グロース師団』は壊滅状態だ。
「だが、敗北ではない。なぜ私が『バルナバス』になろうとしたのか、わかるか。
そもそもバルナバス陛下は、『自軍』など必要としていないのだ」
ポケットから出した手を広げ、おおきく空をあおぐ。
「私こそが軍! 私こそが兵! 私こそが力! 個にして軍である!」
グロースとの最後の戦いが、始まろうとしている。
「グロース将軍。君にどんな過去や経緯があろうと許す気はない。
君の、いや、貴様の暴虐もこれで終わりだ!」
『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)の繰り出す全力の攻撃が、グロースめがけておもむろに繰り出される。
「グロース将軍……僕くらい小さいのに、酷い事沢山して、許せないよ。僕は僕なりに戦います。みゃー」
伴って全力の治癒魔法を唱える『祈光のシュネー』祝音・猫乃見・来探(p3p009413)。
「僕の願いを、鉄帝の人達の願いを叶える為に…削って削って削り切ってやる!
これが僕の、星空の極撃!ナハト…スターブラスタァァァァァ!!」
星の力を込めた拳がグロースへと叩き込まれる。
「ぐお!」
衝撃を受け、吹き飛んだグロースは参謀本部の壁をぶち破り赤い銃弾の広がるエントランスホールを一度バウンドし転がった。
追撃を放とうと迫ったヨゾラに、グロースもまた拳を繰り出す。
まっすぐに放たれた拳は憤怒の力をもち、ヨゾラを地面と水平に吹き飛ばす。
「僕は癒すよ…それが僕の在り方だから。みゃー」
そんなヨゾラを治癒すべく、祝音が継続して治癒の魔法をかけはじめる。
「パカパカーに友達と情熱を乗っけて颯爽登場、待たせたな! シミズコータ、合流したぜ!」
『理想のにーちゃん』清水 洸汰(p3p000845)がパカパカーで参謀本部の建物前へ乗り付け、そこから仲間と共に飛び出してくる。
「ブランディーヌを引き込んだのもアンタらしいじゃん?
カルネが親子喧嘩できたのは良かったけどそれはそれ、これはこれ!
ぶん殴る!」
「できるものならやってみろ!」
洸汰の繰り出すバットが、グロースの手で止められる。
「グロース将軍、貴方はこの国からあまりにも多くを奪った。
俺は貴方を許さないけど、貴方なんかの為に怒りや憎しみに呑まれない。
大切な人達に誇れる戦いをして、この先の未来を、皆と一緒に笑って生きる。
それが、俺から貴方へのめいっぱいの『反撃』だ」
『オフィーリアの祝福』イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)はここぞとばかりに指輪の力を解放し、キャンディ型の魔術弾をグロースへ連射した。
洸汰の攻撃をとめていたグロースに命中した魔術弾。そこへ、カルネとアミナがそれぞれの銃を撃ち込んでいく。
「イーハトーヴ、皆! このまま撃ち続けて!」
「援護します!」
戦うことを、前に進むことを決めた彼らの表情は勇ましい。
イーハトーヴは微笑んでそれを見つめ、そして更なる攻撃を放つべく光の翼を展開した。
直撃――を、グロースはその身のフィジカルによって耐える。
そして小柄な身体で跳躍し、洸汰を掴んだバットごと高く振り上げると無理矢理地面へと叩きつけた。
「天衝種などいくらでも産まれる。バルナバスを倒すことなど不可能。
そしてこの戦場だけを切り取ったとて、私を倒せないのであれば、貴様等の『勝ち』はない!」
振り抜いた拳が衝撃を走らせ、洸汰を中心にしたクレーターができるほどのダメージが広がる。無論洸汰だけで済むダメージではない。周囲の仲間たちが纏めて吹き飛ばされるほどだ。
が、それでローレットの攻撃が終わるわけがない。
「ギベオン!」
「合わせますわよ!」
『八十八式重火砲型機動魔法少女』オニキス・ハート(p3p008639)がマジカル☆アハトアハトを構え、そこにギベオン・ハートがマジカルカノンランサーとウィドマンシュテッテンを連結させた。
二人がかりで構えるそれは八十八式マジカルジェネレーター越しに凄まじいエネルギーをを作り出し、槍の先端からその全てを解き放つ。
「マジカル☆アハトアハト・SSQB――発射(フォイア)!」
「――っ!」
直撃をうけたグロースはさすがにガード姿勢をとった。
追撃とばかりに飛びかかる『陽だまりの白』シルキィ(p3p008115)。
「まだここでの戦いは終わってない。それなら、退く訳には行かない……わたしも最後まで戦うよぉ」
無詠唱化した『天紡星』を発動。紡ぎ上げられた願いの形が砲弾となり、グロースめがけて撃ち込まれる。
オニキスたちの攻撃で手一杯だったグロースは、今度こそ吹き飛ばされ壁を突き破った。
そこは広い広い会議室。幾度となくグロースが命令を下し、そして粛正すらも行ってきた部屋だ。
シルキィはそこへ踏み込み、ゆっくりと見回す。
そして表情を曇らせた。
会議室の壁際に並んだのは、複数の死体。
どれも鉄帝軍将校のもので、身体のあちこちに銃弾をうけたあとがある。壁にもある弾痕からして、壁際に立たせて撃ちまくったあとだろう。娯楽でやったとは思えないが……。
「これは……?」
責めるように問うシルキィに、しかし『老いぼれ』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)が代わりに答えた。
「粛正の跡、だろうな。それも、この戦いが始まる直前のものだ」
ハア、とバクルドはため息をついた。
「たとえお前がどんな理由で魔種に転じようが、何を考えて戦おうが最早語る言葉はいらねえだろ?
俺たちがイレギュラーズでお前さんが魔種である以上、最終的に立つのはどっちかで、それは俺たちになるんだからよぉ」
けどな、と視線を強くしグロースを睨む。
「戦わないと決めたヤツの背を撃つマネをするんなら、魔種であろうがなかろうが、俺たちの敵だぜ」
クラシックライフルWカスタム。つまりはバクルドに最適化したライフルを突きつけ、撃ちまくる。
その全てはグロースへ命中し、しかし……。
成否
成功
状態異常
第2章 第17節
「ハア……ハア……」
肩で荒く息をしながら、グロース・フォン・マントイフェル将軍は自らの顔に手を当てた。
周囲の風景は、とてもではないが軍の施設には見えない。
壁の一部だけが残った灰色の瓦礫の山に、未だちりちりと燃える炎がある。
焼け野原と表現したほうがまだ近い有様に、グロースはつい口元に笑みを浮かべてしまう。
「私、軍人は嫌いだけれど、貴女のことは少しだけ許してあげても良いって思っていますのよ」
ザッ、と瓦礫の一部を踏んで、『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)が姿を見せた。
「だって、ここで貴女を倒せば、たくさんの人が助かるのですもの」
「助かる? 逆だな。この私が強力な個であったがために、首都の軍部は守られていた。冬の飢えもやりすごし、助かることができたのはないか。
貴様のやっていることもそうだ。強者となって弱者の群れを飼育する。それが貴様等の本質だろう、ローレット……いや、クラースナヤ・ズヴェズダーが抱く『願いの星』よ」
指をさすグロースに、しかしヴァレーリヤは小さく顎をあげるだけだ。
「武器を取りなさい。今日こそ主の御許に送って差し上げますわ」
そこへ、リニアドライブを解いた『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)がゆっくりと降り立つ。
「グロース君、君達と我が祖国では軍人の定義が違うようだね」
バチッと紫電が走り、マリアを蒼く輝かせる。
「私の中の軍人とは国ではなく民に尽くし、民と世界の守護者たる存在である!
断じて君らのようなならず者の集団のことではない! 君らの蛮行はここで終わりだ!」
戦う相手は二人か? 否、瓦礫を鋼の腕で押しのけ、『合理的じゃない』佐藤 美咲(p3p009818)が立ち上がる。
「優秀でしたよグロース将軍。私達は幾度となく貴方の策略と戦い、それでも出血を強いられた。
正解の道だけを進む事ができるその才。『まるでバルナバスの部下ではないかの様』」
的を射たような発言に、グロースがぴくりと反応した。
「『バルナバス性』に拘っているらしいですね。けれどバルナバスは、己がそうであることを一度も拘らないでしょう。獣が自らの獣性に拘らないように。
自らの性質に拘るなど、惰弱な『人間性』の現れなのですよ、グロース将軍殿?」
「だとして、貴様の振る舞いには反吐が出る」
『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)が同じく鋼の籠手で瓦礫を押しのけ、立ち上がった。
「その椅子の座り心地はさぞ良かったのでしょうな将軍閣下」
「エーデルガルト」
「ようやく手が届いたぞ。貴様だ。貴様の首は必ず取る」
四方を囲んだ、四人。
しかし優勢とは、とてもいえない。
最初に仕掛けたのは美咲だった。
手にした銃を素早く構え、撃ちまくる。
グロースは魔方陣を展開し盾にすると、銃弾を防御。そこへエッダが飛び込み鋼の拳で殴りかかる。
魔方陣を動かし防御にかかるが、一撃で魔方陣は砕け散った。
グロースへ命中する拳……だが、グロースはそんなエッダの腕を掴み、マーシャルアーツによって足を払い地面へと投げ落としてしまった。
素早く抜いた拳銃がエッダの額に向――く直前に、マリアが雷を纏った超スピードで飛び込み銃を蹴り飛ばす。
回転しながら飛んでいく銃とはまた別に、至近距離で魔方陣を開いたグロースは戦車を召喚。マリアの額にごつんと大砲が接触した。
指鉄砲を構えたような姿勢でグロースが発射の念を送る。
が、それよりも早く光の螺旋が槍となり召喚された戦車を貫いた。
はるか上空から撃ち落とされたそれを、マリアもグロースも知っている。
「これは――イスカァ!」
上向いて叫ぶグロース。そこにはふわふわと空に浮かぶイスカの姿があった。
マリアも同じように見上げたが、イスカはばいばーいと手を振るとすぐにその場から離脱してしまう。
「この戦車、貴女達そっくりですわね。自分の足元に何があるかなんて気にも留めず、真っすぐ進んで踏み潰すことしか知らない。そんなだから、私達に足元をすくわれますのよ!」
炎を纏ったヴァレーリヤのメイスが、グロースの顔面へと直撃する。
ゴガン、という音と共に、グロースの幼い身体が吹き飛んだ。
成否
成功
第2章 第18節
わずかに残った壁を破壊し、バウンドしたグロースは無理矢理に地面に足をつけブレーキをかける。
血の滲んだ口の端。グロースは憎しみをたたえた目でこちらを見た。
「個にして軍。いいですね。
では、強者より弱者が勝っている部分をお教えしましょう。
弱者は自分が今日死ぬかもしれないっていう恐怖を常に抱えています」
『嘘つきな少女』楊枝 茄子子(p3p008356)がルーンシールドを展開させながら立ち、構える。グロースが足元から蹴り上げたライフルの銃弾がシールドによって止められ、そしてシールドが砕け散る。
「だからこそ、弱者は生命を賭けることにだって全力ですよ。
世界ってのは劇的でなきゃいけないんです。
強者が順当なままに喰らい尽くす……そんなの面白くない。
私達に後が無いように、グロース様達にも後が無い。
追い詰められた強者は弱いですよ。逆に、追い詰められた弱者は強い」
「貴様……」
まさに革命です。茄子子はそう呟き、微笑んだ。
「いかに人を救おうが、所詮私は無力で愚かな一人の罪人に過ぎない。
それでも――今だけは胸を張って、彼女達の理想を背負い戦いたい! 主よ、私の命運をあなたに委ねます!」
そこで叫んだのは『革命の医師』ルブラット・メルクライン(p3p009557)だった。
祈りの言葉を口にすると、ルブラットは袖の下から抜いた暗器をグロースめがけて投げ放つ。その一つをキャッチしへし折るグロースだが、一発目の影に隠したつや消しのダートがグロースへと刺さり、塗り込められた毒が広がり始める。
「貴方も貴方なりに国を考えていたのかな。どうせ分かり合えはしないが、地獄では仲良くしようか」
「貴様――!」
仮面の下でギラリと目を光らせるルブラット。
「遂に現れましたか。将軍。
忌々しいのはどちらもでしょうよ。
お互い、分かり合うにはガードを解くしかないんじゃないですかね」
『後光の乙女』ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)は『今こそ』と唱えると、メイスを天高く掲げた。
「フローズヴィトニルの欠片よ、今このとき、力を――!」
召喚された小型の狼型エネルギー体が咆哮を上げ、グロースへと襲いかかる。
食らいついた氷の牙と連動するように、ブランシュの大型メイスがグロースへと振り込まれた。
今度こそ吹き飛んだグロースを……がつん、と巨大な兵器が受け止めた。
四脚の鋭い足と蜘蛛にも似た頭部をもつそれは、グロースを自らの上へと立たせる。
「よもや、『これ』を持ち出すことになるとはな」
グロースの両足を吸い込むように沈ませた黒い台座は、がっちりと彼女の膝を固定する。
次いで、グロースは赤い鞭のようなエネルギー体を召喚した。
無骨な兵器そのものといった様子に、思わずブランシュたちすら半歩退いた。
「極地戦闘、拠点防衛特化型戦術兵器。秘匿呼称G3。帝国最後の牙である」
四つの脚でゆっくりと立ち上がるその様子は、もし知るものがあればショッケン・ハイドリヒが改造されたいつかの姿を連想しただろう。しかして、それは同じものだ。
「どうだ、醜いだろう? だが貴様等は……この砲弾によって守るべき同胞を失うのだ」
装着された大砲が素早く動き次々に放たれる。
狙いははるか後方の支援部隊。
ブランシュはフローズヴィトニルの欠片を行使し、自らも跳躍することで砲弾をその身体でうけた。
「ぐっ!」
歯を食いしばり、吹き飛ばされるブランシュ。
「貴様等の弱点は、『弱者を抱えたこと』。我が兵を打ち破ったつもりだろうが……いくらでも生み出すことはできるのだよ!」
グロースは吠え、憤怒のオーラで動くラースドールやドローン戦車たちを次々に召喚した。
空を埋め尽くすような大量の魔方陣から滑り出たそれらが、次々に大地に降りては戦闘の構えをとる。
物量が、戦場を埋めつくさんとしている。
だが、だが。
『時には花を』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)が、その戦場の中心で叫んだ。
「今だよ――『革命の狼煙』をあげよ!」
天に向けて打ち上げた魔法の照明弾が、赤く空の一部を染めた。
グロースはその様子にびくりとだけ身体を震わせたが……それ以上なにも起きない様子に肩を落とす。
「どうした? 狼煙とやらは不発だったようだが」
嘲るような笑みは。
しかし、直後の『揺れ』に固まる。
ドン。
と足を踏みならした。
一人の少年が。一人の老人が。一人の母親が。一人の農夫が。一人の鉱山夫が。
ひとりひとりが、一斉に足を踏みならした。
手にした武器はたった一丁の銃に過ぎないが、その規模は……あまりにも大きい。
フラーゴラの号令を今の今までじっと待っていた人民の軍勢が、今まさに、動き出したのだった。
成否
成功
第2章 第19節
空が憤怒に染まったみたいだった。
数え切れない魔方陣が空を埋め、次々に召喚されたグロース師団の天衝種たちが大地へと降り立つ。
その中央には、自らと古代兵器を融合させたグロース・フォン・マントイフェル将軍が兵器の四脚によって立ち上がる。
次々に打ち出される砲弾は空に破壊的な弧を描き、各派閥の部隊に爆発を起こした。撤退を叫ぶ声があちこちにあがる。
グロースは、その有様を小さく笑って見つめていた。
「これまでの暴力も、破壊も。悪意はなかった。
強者が生き残るための世界を、ただ実行したにすぎない。
だが今から貴様等イレギュラーズを潰すことに関しては……
悪いが、楽しませて貰う」
兵力さは圧倒的。
一個師団規模に対して、しかしこちらの兵数はわずかだ。
いや。
わずかだったというべきだ。
『皆さん、聞こえますか』
アミナの声が、ファミリアーを通じてテレパスされる。
連絡を受けた革命派の僧兵の一人が、頭から血を流しながらも起き上がる。
「難民部隊が到着したのか」
グロース師団の施設を襲い武器を手に入れ、志願した大人たちによって構成された革命派の難民部隊。通称人民軍。
彼らが駆けつけたのだろうが……しかし、今眼前に広がる一個師団規模の兵力を前にはまだ足りない。
「すまないが、大隊規模が加わった程度ではこの戦況は……」
『いいえ』
穏やかに。
そして、微笑むように、アミナは言った。
「難民部隊……『一個師団』規模が、到着しました」
大地を埋めたのではと思えるほどの軍勢が進む。
革命派の難民たちや、その蜂起を聞いて加わった新たな難民たち。そんな彼らが一丸となって、師団規模の軍勢ができあがったのである。
突き進む。恐怖はない。
怖れを知らないからではない。
失うことを恐れないからでもない。
「死ぬのは怖いです。沢山失って、沢山奪われてきましたから。これ以上失うなんて考えたくもない。怖いのですよ、とても。今だって震えてる」
進む足は、止まらない。
アミナは――そう、『ただのアミナ』は、なお進む。
「けれど、決めたのです。
弱くても。怖くても。たとえ私がひとりぼっちだったとしても」
手にしたのは、強大な力じゃない。
手をとったのは、魅惑的な魔法じゃない。
薄汚れた小銃を一丁だけ持って、彼女は進む。
ごめんなさい、『おばあちゃん』……私は、あなたと一緒に行かなかった。頑張らなくていいと言ってくれて、嬉しかったけれど。
ううん。嬉しかったから。
バイバイ、おばあちゃん。
もう理想を追わない。
足跡のない道を進みます。
たとえ、今よりもっとひとりぼっちになったとしても。
「私達は、戦います!」
ジェームス・ハンソンは農夫だった。
朝起きて、畑を耕して、昼飯を食ってまた耕して、夜は子供と遊んで眠る日々だった。
胸ポケットから、僅かに焦げ付いた白黒写真を取り出す。映っている自分のムスッとした顔と、その腕に抱きついて微笑む妻と、二人の間に立って笑う息子。
妻と息子の顔をそっと指で撫でてから、ジェームスは微笑んだ。
「お前たちの所に行くのは、もう少し先になりそうだ。今は……生きて、戦いたい」
そして進むのだ。怖くても、寂しくても、ジェームスは戦う。
自分が戦災孤児になるなんて、フランクリン・チェンバーズは想いもしなかった。
今日みたいな不機嫌な水曜日には、お菓子が食べられないことをぼやきながらママがニシンの缶詰をあけるのを眺めていたはずだった。木組みのパスルをいじりながら、明日も雪が降るのだろうかと想像するだけの日だったはずだ。
そんな雨漏りのする家はもうない。ぼやく自分を叱ってくれた母はもういない。
フランクリンはひとりぼっちだ。けれど、今は違うと分かっていた。
共に進む仲間がいる。共に戦う仲間が居る。
もう、フランクリンはひとりぼっちじゃなくなった。
「ママ……帰ったら、お墓を建てるよ」
憤怒の力で立ち上がるパワードスーツたちの群れを前に、ヘルベルト・メルツは深呼吸をした。
鉱山に入って一日中働くときは、外の空気を吸っておくのが彼のルーティーンだったからだ。
吸い込んだ空気は妙にけむたくて、どこか灰の味がした。
けれどこれまで吸った空気の中で一番うまい気さえする。
「なあ将軍。見下してたやつらが笑いながら行進するさまはどうだい? 俺たちが笑うのを止めてみろよ」
村で一番強い女と評判のヴィクトリア・ヴォルフに右腕はない。残った左腕でライフルを担ぎ、頭巾を被って背を丸めて歩くのだ。
失った栄光と腕は、実はもう惜しくない。
自分の掲げた腕をぽうっと眺めた村一番の美男子のことも、もうどうでもいい。
全部失ったから? いいや、そんなんじゃない。
「アタシよりちっちゃい子がさ、戦うっていうんだ。なんにも持ってないくせに。だったら、アタシも黙っちゃいられないよ」
エミリー・ハフマンの恋は戦火に消えた。十数年連れ添った幼なじみに『好き』の一言もいえぬまま彼は炎の中に残された。自分をかばって、自分だけを逃がして。
何度も同じ場所に行こうとした。今からでもあの炎に飛び込めば、伝えたい気持ちを届けられるかもって。
けれど、もういいんだ。
バイバイ、フランツ。あなたにフラれたってことにしてあげる。
「次の恋をするにも、戦って、生き残らなくっちゃね」
誰しも普通だ。普通の日々と、普通の暮らしがあった。
そんな『普通』を守るために、彼らは銃を手に取った。
「グロースへの道は、私達が切り開きます! この戦いを、終わらせてください!」
アミナは笑顔で、革命の狼煙を見上げた。
GMコメント
※このシナリオはラリーシナリオです。仕様についてはマニュアルをご覧ください。
https://rev1.reversion.jp/page/scenariorule#menu13
●これまでのあらすじ
新皇帝派のネームド、グロース・フォン・マントイフェル将軍率いるグロース師団との決着を付けるべく、首都への侵攻を開始しました。
味方の軍勢は革命派を中核とした全派閥連合。対グロース師団という目的の一致から手を組んだ全派閥をまたいだドリームチームです。
戦いの状況は【パートタグ】によって異なりますが、主に地下道から首都へ侵攻し参謀本部基地を陥落させるまでが作戦の全容となります。
■■■プレイング書式■■■
混雑防止のため、プレイングには以下の書式を守るようにしてください。
一行目:【パートタグ】
二行目:【グループタグ】
三行目:実際のプレイング内容
書式が守られていないとお友達とはぐれたりすることがありますのでくれぐれもご注意ください。
■■■グループタグ■■■
誰かと一緒に参加したい場合はプレイングの二行目に【】で囲んだグループ名と人数を記載してください。(人数を記載するのは、人数が揃わないうちに描写が完了してしまうのを防ぐためです)
大きなグループの中で更に小グループを作りたい時は【大チーム名】【小チーム名】といった具合に二つタグを作って並べて記載ください。
※タグによってサーチするので、キャラIDや名前のみを書いてもはぐれてしまうおそれがあります。ご注意ください。
例:【ナントカチーム】3名
●特殊ドロップ『闘争の誉れ』
当シナリオでは参加者(プレイング採用者)全員にアイテム『闘争の誉れ』がドロップします。
闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran
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