シナリオ詳細
<最後のプーロ・デセオ>私達の日常を護って
オープニング
●シレンツィオ動乱
「あれは……船か?」
海が黒く染まったのではと思えるほどに、無数の『艦隊』が迫っていた。
はるか昔に沈んだであろう無数の船は、ダガヌチに寄生されたことで船型の怪物と化し、それらは『不浄艦隊』となってシレンツィオリゾート・フェデリア島をめざし侵攻していた。
「キャピテーヌの話は本当だったか。疑ったわけではないが……実際に目にすると凄まじいな」
「船が相手であればこちらも負けないつもりですが、あれが接岸されれば大変なことになりますよ」
対抗するように湾から出航したのはエイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)とその部下が乗り込んだ戦闘艦。そしてサイラス&クゥイル・グレイのかるシュバルツオーレ号。それらを旗艦とした海鉄合同艦隊である。
クゥイルが双眼鏡ごしに不浄艦隊を観察すると、船の上には夥しい数の深怪魔が積み込まれているのが見えた。
ジョージ・キングマン(p3p007332)、ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)、マリア・レイシス(p3p006685)らもそれぞれの船に乗り、この艦隊に参加している。
「既に一部の船は島への上陸を果たしていますわ」
「これ以上の侵攻を許すわけにはいかないね!」
「全艦、撃て!」
合同艦隊の船たちが次々に大砲を発射する。
轟音が、『静寂の青』に響き渡った。
ダガヌ神完全復活のため、『ダガヌチの巫女』の軍勢はシレンツィオリゾート・フェデリア島と竜宮への同時強襲を開始。
対して、シレンツィオ・リゾートに駐留していた海洋海軍および鉄帝国の支配から離れ自治状態をとったリトル・ゼシュテルの海軍勢力が各方面に展開。防衛および迎撃作戦を開始した。
「わざわざ総督府を狙ってくるとはね。それほどこの島が欲しかったのかしら? 確かに、欲望たっぷりって感じだものね」
イリス・アトラクトス(p3p000883)はフル装備でスチームトラムへと乗り込んだ。
同じく武器商人(p3p001107)、セレナ・夜月(p3p010688)、モカ・ビアンキーニ(p3p007999)、マリエッタ・エーレイン(p3p010534)といった面々がトラムへ乗り込み、運転席のモカは『つかまっていろ』とだけ言ってアクセルをべた踏みにした。
舗装された広い道路を全速力で突っ走る。窓から外を見ると、巨大な蟹型深怪魔がずかずかと建物群をまたぎながら一直線に無番街へ侵攻しているのが見えた。
「それで、何故あれらは無番街を目指しているのだったかねぇ」
「エスペランサ遺跡と同様、このフェデリア島が『巨大な玉匣』として機能する装置だからよ。そして玉匣としての機能を発動させれば、『匣』は壊れるものよ」
「つまり……この島が崩壊するのですか……?」
「ああ、けが人も山のように出るはずだ」
窓によりかかって呟くマリエッタに、フーガ・リリオ(p3p010595)は決意を込めた声で言った。
「おいらたちの力が、また必要になる。ビルはまた建てればいいし、スチームトラムだってまた作ればいい。けれど、失った命は戻らないから……」
「『ダガヌチの巫女』……か。この物語も、終わりにしなくっちゃあな」
ファニー(p3p010255)らは、『ダガヌチの巫女』を迎撃すべくシレンツィオ無番街へと集合していた。
綾辻・愛奈(p3p010320)が手帳を閉じ、笑みと苦みを混ぜたような表情をする。
「『フリアン・ジェパーソン一家虐殺事件』……無番街で起きたただの殺人が、まさかここまで繋がるとは」
「奴は無番街に殺された……と思ってたが」
キドー(p3p000244)がナイフを抜いてその刀身をしげしげと見つめる。
その横でネクタイをなおすバルガル・ミフィスト(p3p007978)。
「おそらく、フェデリア島が『巨大な玉匣』として機能する秘密を知ってしまったのでしょう」
「街どころか、もっとでけえもんに殺されたってわけか。そう考えると、関わったマフィア連中も古代の邪神の犠牲者ってトコだな」
「……ッスね」
イルミナ・ガードルーン(p3p001475)はこの街を駆け回ったことを思い出しながら、ゆっくりと息を吸った。
この街は、確かに欲望まみれだ。シマを争って国家レベルでにらみ合って、利益をむさぼる怪物のごとく日に日に塔は高く伸びていく。
しかし、この街で生きる人々の……しぶとくも明るい生き様にも触れてきた。
「壊させはしないッス。邪神なんかに……『与えられる幸福』なんかに満足した連中なんかに!」
●竜宮動乱
フェデリア島が『ダガヌチの巫女』の勢力によって襲撃される一方、竜宮もまた襲撃に晒されていた。
豊穣の巫女そそぎが竜宮の霊脈を護ってはいるが、それだけでは対処不能なレベルの深怪魔の軍勢をぶつけることで『憎き竜宮』を崩壊させようと目論んだのである。
「竜宮の警備隊は前回の襲撃で負った傷が癒えておりません。
それに、海洋海軍勢力はその大半がフェデリア島へと向けられています。いまは、私達だけが頼りなのです」
リディア・T・レオンハート(p3p008325)が集まったイレギュラーズたちに呼びかけた。
彼女たちは竜宮に張られた結界の外へと出ると、海底を突き進んでくる巨大深怪魔の群れが見える。
「結界の外で怪物たちを食い止めて、結界へのダメージを少しでも減らそうという作戦ですわね!」
ヤッテヤリマスワーと言いながら鎌をぶんぶん振るフロラ・イーリス・ハスクヴァーナ(p3p010730)。
その後ろにはワモン・C・デルモンテ(p3p007195)と彼につけられた機動部隊が集まっている。
「うおー! これが最後の戦いだぜー! 竜宮を護ってハッピーエンドだー!」
新道 風牙(p3p005012)はそんな中で、槍を手に後ろを振り返る。
「……必ず、護るからな」
●そして戦端は開かれる
フェデリア島一番街。
政治中枢にしてシンボル。フェデリアハウス前の広間には、海洋および豊穣から集められた警備兵たちが整列している。
「鉄帝はかの動乱のためにリトル・ゼシュテルと近海の防備を固めるのに精一杯。豊穣はそもそも島外に戦力を送れる数が限られてる。今回に備えて援軍を遅れた海洋のおかげで数はあるけど……」
アンジュ・サルディーネ(p3p006960)が集まった兵たちのどこか困惑した様子を見て、無理もないと首を振った。
ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)と天之空・ミーナ(p3p005003)が、その左右に立つ。
「ここはいわゆるリゾート地でして。リヴァイアサンを封じた今、戦争の舞台になるなんて思いもしなかったのですよ」
「連中も、殆どが海賊退治かカジノの警備員をやってた連中だ。怪物の大軍勢を相手にしろって言われれば困惑もするだろう」
『世界の危機』に慣れているのは、自分達だけなのかもしれない。
そんな中で、壇上にキャピテーヌ・P・ピラータ(p3n000279)が上った。
「集まってくれて、ありがとうなのだ。
皆に求めることは、あまり多くないのだ。戦って死んで欲しいとは思わないし、知らない人達を護って欲しいとまで思わない。
みんなが今までやってきたのは、アイスクリームワゴンが暴徒に襲われないように護ったり、マフィアが台頭しすぎないように牽制したり、海賊が貴族の船を襲わないように取り締まったり……そう、みんな『日常を護ってきた』人々なのだ。
世界の危機は、きっとピンとこないのだ」
だから。
と、キャピテーヌは一呼吸を置いて胸に手を当てた。
「この日常を、護って欲しいのだ。
『ダガヌチの巫女』がこの島の中枢である祭壇にたどり着き、儀式に成功してしまったら……北の火山は噴火しこの島は海底へと沈むのだ。
もしこの島がなくなっても、三国政府は別の要所を見つけるかもしれない。貿易だって続くし、仕事もなくならないかもしれない。
けれど、日常は確実に壊れるのだ。この島で出会った人々、楽しかった日々、ちょっとイヤだけど付き合ってきた昨日。ぜんぶぜんぶ失うのだ。
だから、私からはこうお願いするのだ」
「私達の日常を護って。これは命令ではない」
- <最後のプーロ・デセオ>私達の日常を護って完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別決戦
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年11月04日 22時53分
- 参加人数119/∞人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 119 人
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参加者一覧(119人)
リプレイ
●シティズ・ハザード
シレンツィオ・リゾート三番街。通称セレニティームーン。
高級ホテルやカジノが並び、まさにセレブ御用達といった雰囲気の街は今――無数の爆発と混乱に満ちていた。
特に有名な三大カジノのひとつウィンフェデリア・カジノのアーティスティックビル内では、ダガヌチの寄生によってモンスターと化したスロットマシンがポーカーテーブルを粉砕している。
逃げ惑う人々の波をかき分け、『紲家』紲 寿馨(p3p010459)は颯爽と姿を現した
「このまま遊べなくなるのも困るからね――不具合が出た機械には止まってもらうよ」
探索のために展開していた蝶の式神を指にとまらせると、式神を戦闘状態に変化させ寄生スロットマシンへと解き放った。
火花を散らしよろめく寄生スロットマシン。
反撃にと大量のコインをマシンガンのように吐き出すが――。
「なんつーか、押し付けがましいんだよな。寄生って」
『点睛穿貫』囲 飛呂(p3p010030)は倒したテーブルでコインを防御すると、半透明なプレートを空中に呼び出して駆け上がる。
「女の子悲しませるようなやつらに、好き勝手に暴れさせたりしねーよ」
吹き抜けの二階へと飛び乗ると、抱えていたライフルを使ってスロットマシンを次々に撃ち抜いていった。
「あはは!ここの人達、応戦してくれるとか気概があっていいねぇ!
ボクもここがなくなっちゃうと困るんだよね」
『多言数窮の積雪』ユイユ・アペティート(p3p009040)もまた二階から狙いを付けると、スロットマシンの絵柄を狙って撃ち始めた。
ぐるぐる回るマシンが『7』の絵柄で丁度揃った形で撃ち込まれ、コインを溢れんばかりに吐き出しながらひっくりかえる。
「お、フィーバーだ。やったね!」
「キャピテーヌ様に一度会って見たいと思っている…さておきアドラステイアでの戦い方で行こうかね!」
そこへ突進をしかける『黒鉄守護』オウェード=ランドマスター(p3p009184)。自慢の防御力でチップマシンガンをはねのけると、至近距離まで迫って攻撃を叩き込んだ。
彼を盾にする形で『双名弓手』風花(p3p010364)と『鬼火憑き』ブライアン・ブレイズ(p3p009563)が接近。先ほど倒したテーブルの影に風花は滑り込むと、力をこめた矢を放つ。
「深怪魔というから海ドラネコとか、期待していましたが、そんなこともなさそうですか」
残念そうに呟きつつも、凄まじい神業で矢を連射。その隙に距離を一気に詰めたブライアンは、思いっきり己の拳をスロットマシンに叩き込んだ。
「おおっと! 此処をダメにされちゃ困るな!
まだ俺ァこのリゾートに遊びに来たことねえんだ!」
吹き飛び、転がるスロットマシン。
「はーい! 私もシレンツィオのために頑張るから皆も応援してね、期待してるよ!」
スマホを自分に向けて翳すと、ウィンクしながら配信ボタンをタップする『新米P-Tuber』天雷 紅璃(p3p008467)。
どこに向けてなにが配信されてるのかわからないが、画面右下のハートマークがぽこぽことあふれ出す。
「じゃ、そういうことでよろしく!」
カメラを仲間たちに向けると、画面から飛び出した大量のハートが仲間のパワーを増強させた。
それをうけ、自らの手を見つめる『無敵鉄板暴牛』リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)。
「『日常を護って』、かあ。
それってほんとうにすっごく大事にしたいコトだ。
普通の日、いつもの毎日を護りに行かなくちゃ」
よしっ、と拳を握りしめ、おなじみのドスコイマンモスを召喚。
入り口を突き破って現れたドスコイマンモスに飛び乗るとスロットマシン軍団めがけておもむろに突進した。
破壊されたマシンから派手に溢れるコイン。
『炎の守護者』チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)はそんな中を駆け抜け、剣に炎を纏わせた。
「せっかくのリゾート、そしてここに暮らす人たちの日常を壊させてたまるか! ダガヌチも深海魔もかかってこい!」
ひときわ大きなマシンがチャロロの剣を止めようと進み出、コインマシンガンを放つも超回復をかけながら突進するチャロロはそれを全てはねのけた。
「待っててね、必ずもとの日常を取り戻してみせるから!」
そして、チャロロの剣が寄生スロットマシンを一刀のもとに両断した。
一方こちらは二番街サンクチュアリ。労働者の街であり豊富な漁獲量をもつ希望港のある場所だ。
そして、上陸した深怪魔たちの被害を最も受ける場所でもある。
「むぅ…平和に生活してる人を襲うような人は悪い人だよ!
そして悪い人はしっかり天罰して住人を守らないとね!
皆に創造神様の加護がありますように!」
港へと這い上がってきた半魚人型深怪魔フォアレスターの集団に対して、『鋼のシスター』ンクルス・クー(p3p007660)が両腕を広げて突進。ツインラリアットによって二人同時になぎ倒すと、困惑したもう一人の顔面を掴み激しく跳躍。
「はいぱーじゃっじめんとSP(すぺしゃる)っ!」
港のコンクリート舗装された地面に叩きつけられるフォアレスター。その上空を巨大マンタ型深怪魔エピゴウネが通過し次々と生態爆弾を投下。
そこへ、飛行していた『aerial dragon』藤宮 美空(p3p010401)が超高速で駆け抜け逃げ遅れた一般市民を抱え救出。安全な所に立たせると、そのままターンしてエピゴウネめがけて封印の魔法を連射した。
「市街地が戦場になるなんて……これは、一刻も早く何とかしないと不味いですわね!?」
魔法うけ、爆撃能力を封じられたエピゴウネが直接叩こうと高度を落としてくる。
屋根に上ったリエル(p3p010702)と『ファイアフォックス』胡桃・ツァンフオ(p3p008299)がそれを迎え撃った。
「宗派の違いは理解できるけれど……。長い、とても長い時が経ってなお、平和を乱す必要性があるのかしら……?」
「コャー、しっちゃかめっちゃかなの。
炎の精霊種であるところのわたしは海が苦手でこちらにはあまり来なかったのだけれども陸の上ならお役に立てるの。街のみんなを助けるのよ」
魔砲をたくみに連射するリエル。その砲撃によって突進の軌道を強制的にズラされたエピゴウネめがけ、胡桃が狐型の炎を無数に呼び出し自らの周りで踊らせた。
そしてパンチを叩き込むフォームをとった途端、全ての狐の焔がエピゴウネめがけて突っ込んでいった。
「市街地でなりふり構わず攻めて来るだけとなれば。狙撃兵として出来る事は多そうなのです。戦果の稼ぎ時って奴ですね」
『鋼鉄の冒険者』ココア・テッジ(p3p008442)はここぞとばかりに建物の二階へと陣取ると、窓からエピゴウネめがけ側面射撃をしかけた。
まさかそんなところにココアが潜んでいるとは思わないエピゴウネは直撃をくらい爆発。
爆風を逃れ建物の反対側から飛び出すココア。ふと見ると、『働き人』アンジェラ(p3p007241)が逃げ遅れた人々に盾になりつつ味方の治癒を行っていた。
「出身世界の遺伝的多様性の乏しい社会にとって、感染症は致命的でした。
その恐怖は私達真社会性人類の遺伝子に刻み込まれているのでしょう……こちらの遺伝的に多様な社会にいても、ダガヌチの排除は最優先事項に感じてしまいますね」
病は水際で対策すべし。アンジェラはそんなようなことを言いながら、治療した市民を逃がし、また別の仲間を庇うべく走り出す。
五番街、リトル・ゼシュテル。動乱する鉄帝国となかば切り離される形で自治状態を保つこのエリアは、豊かな土地に領土を持ちたいという鉄帝国における皮肉のような存在であった。
といっても、今のように寄生スチームトラムが暴走し人々を追い回す前まではの話だが。
「他人を思うがままに操ろうとする輩は一番嫌いでな。塵に還れ」
『含牙戴角』イルマ・クリムヒルト・リヒテンベルガー(p3p010125)は逃げ惑う人々の波に逆らうように路上へと出ると、突進してくる寄生スチームトラム相手にライフルを発砲。見事にタイヤを撃ち抜かれたトラムが消火栓へ激突し、激しく水を噴射させた。
が、どうやら寄生スチームトラムはこれ一体だけではないようだ。後から次々に現れヘッドライトを煌々と照らす彼らに対して、『妖怪・白うねり』ネリ(p3p007055)がモップを槍のように構える。
「事情はよく飲み込めてないけれど、ここには美味しい深怪魔料理をご馳走してくれたバーのお姉さんがいるし、仲間の皆とのお食事も楽しかったわ。
コイツらをお掃除するのに十分な理由かしら」
「わかりますよ……」
『女装バレは死活問題』トール=アシェンプテル(p3p010816)もまた、美しいく長い髪とレースのはいったスカートを靡かせ、寄生スチームトラム立ちの前に立ちはだかる。
「ありのまま全てを護る事は不可能かもしれません。ですが、日常は護ってみませます!」
光の刀身を作り出すトール。彼(彼女)が駆け出すと同時にネリは『塵界』の術を発動。共にスチームトラムへと飛びかかる。
そこへ突如現れたのは『(自称)ぬくもりの精霊種』芳(p3p010860)。
「寄生ってことは……つまりノミかニャ!?
ウニャー! あいつら痒くって芳は嫌いニャ!」
ぬくもりの精霊っていうかもう見たまんまボール状の猫といった様子の芳は『ニャアアン』と言いながら高速回転。スチームトラムの横っ腹へとめり込んでいく。
「町の人、助けたらお魚もらえそうニャ!」
「わ、わあ……」
そんな光景を目の当たりにした『ちびっ子鬼門守』鬼ヶ城 金剛(p3p008733)。
モップが主武装の妖怪、女装男子(バレてないはず)、丸い猫。それらが自動車のバケモンに体当たり気味に突っ込んでいくさまはなんだか妖怪大戦争を思わせた。
ぷるぷると首を振る金剛。
「って、それどころじゃない! ここで食い止めなきゃ!
街中に入り込んだ相手を放置したら被害がどんどん増えちゃうからね!」
金剛はなんとか住民を逃がそうとするホテルマンに避難誘導を頼むと、自らも寄生スチームトラムへと駆け出した。
「えい……!」
跳躍し、鋭い跳び蹴りを叩き込む。
ボンネットが大きくへこみ、そして爆発を起こした。
一方こちらはシレンツィオ・リゾートフェデリア島一番街。いわゆる政治の中枢であり、総督府をもつある意味最も警備が行き届いたエリアである。
だがそんな場所でも、施設や武装がダガヌチに寄生されてしまえば元も子もないということらしい。
最近建設されたという『瑞神の像』がのしのしと歩き、凶悪かつ巨大な怪物となって銀の炎を吐いている。
「様々な存在が侵入してきているようだな……ならば僅かなりとも食い止められる努力はしよう」
そこへ立ち塞がったのは『亜竜祓い』レオナ(p3p010430)。
最近ローレットへと加入したドラゴニアである。
像の放つ炎をジグザグな機動でかわし、ナイフを抜く。
が、それは攻撃の全てではない。物陰から飛び出した『木漏れ日の優しさ』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)が、横っ飛びになりながら指鉄砲を構える。
「精霊たちが怯えてる。この島が本当に危ないんだわ……けど、そうはさせない。今までだって、抗ってきたんだから!」
虹色の輪をいくつも作り出すと、凝縮された光が弾丸となって像へと命中。
と同時に様子をしっかりと観察していた『道草大好き』モニモニ・プー(p3p010585)が飛び出し、逃げる人々を庇うような位置をとりつつ像へと斬りかかった。
「私はこの街出身じゃないけど、キャピテーヌさんの演説に心が震えたよ!
だから、そのお手伝いをしたい!
同じ様に皆の事も守りたい!
先輩方に比べたら全然微々たるものだけど……無いよりはきっとマシだよね!」
「とんでもない。充分な戦力だ」
『チャンスを活かして』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)はレオナたちの連係攻撃が像を圧倒していくのを確認しつつ、自らも剣を抜く。
「僕らも行くぞ」
「はい、師匠!」
その隣で『ナイト・シー・アイドル』海紅玉 彼方(p3p008804)が魔法を両手の間に凝縮。発光させる。
彼らの集中砲火によって今度こそ動きを止めた像へ、『青混じる氷狼』グレイル・テンペスタ(p3p001964)がトドメの一撃を叩き込んだ。
「…前は大きな戦いがあった場所だし…いずれは何かしら異変が起こるとは思っていたけど…想像以上に大きなことが起こっているみたいだね…。
…アセナ…ハティ…行くよ…」
青い炎が燃え上がり、寄生をとき像を元の状態へと戻していく。
その様子を影から見ていた島の警備隊が、安全になったのだろうかと顔を出した。
振り返るシューヴェルトと彼方。
「可能であれば、君の力を少しでもいいから借りたい」
「今は緊急事態です。私たちと一緒に戦ってくれると嬉しいのですが……構いませんか?」
警備隊は顔を見合わせ、そして『勿論!』と答えるのだった。
「うおお! 街の平和はオイラ達がまもーる!」
フェデリア島北部、四番街に展開した『生イカが好き』ワモン・C・デルモンテ(p3p007195)とゼニガタ部隊は重火器を撃ちまくり、上陸してくる深怪魔やダガヌチの軍勢を牽制し続けていた。
「オイラがいる限り街の住民に被害はださせねーぜ!うおおお!とーちゃん!オイラはやるぜー!」
ワモン自慢のガトリングMADACO弾が次々と炸裂するなか、『燼灰の墓守』フォルエスク・グレイブツリー(p3p010721)、フューリー・エウメニデス(p3p010870)、そして『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)がそれぞれ敵陣へと飛び込んでいく。
「なんでもかんでも寄生して、その特性を用いたものに変異する、か。ならば――」
フォルエスクはダガヌチが寄生しようとした作業機械を即座に解体。
いびつな形で寄生を完了させてしまったダガヌチを、返す刀で八つ裂きにした。
「ここから先は通さん!」
黒き大鎌をぐるりとまわし、魔力の波濤を生み出すフォルエスク。
「オーホッホッホ!民を襲う怪物を退治するのも貴族の務め。
ええ、微力ながら皆様のお手伝いをする為、フューリー・エウメニデス、参戦致しますわ!」
そこへフューリーが堂々と現れ、盾に収めていた剣をすらりと抜いた。
「さあさあ! かかってらっしゃいな! 化け物共! 民にも指一本触れさせませんわよ!
私を誰だと心得ますの! フューリー・エウメニデス、誇り高きエウメニデス家の淑女ですわよ!」
襲いかかる深怪魔の攻撃を盾でうけ流し、剣を鋭く突き込むフューリー。
彼女たちに前衛を任せたジェイクは、大型拳銃『狼牙』と凶銃『餓狼』をそれぞれリロード。
「命令ではなくお願いと来やがったか!
お可愛いお嬢ちゃんのお願いとあれば断れねえよな
いいだろう。
その願い聞き入れた」
腕をクロスし、眼前の深怪魔たちめがけて銃を撃ちまくるジェイク。
見事に味方だけを外す腕前に、ワモンの部下達が『流石』と小さく口笛を吹いた。
殆どの深怪魔、そしてダガヌチの攻撃は水際で食い止められていたものの、やはりそれなりの数が内部へと浸透。無番街にも魔の手は及んでいた。
「無番街でルブラットと食べたステーキが、すごく美味しかったんだ。
あの眼帯の店主さんの日常を護りたい。
それって、戦うのに十分な理由だよね、メアリ、オフィーリア!」
『オフィーリアの祝福』イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)はビスクドールのメアリとぬいぐるみのオフィーリアへそれぞれ呼びかけると、無番街の穴場スポットこと『眼帯おじさんのステーキハウス』の店の前に立ちはだかった。
「あんた……」
「私にとってこの島は、僅かばかりでも特別な思い出のある場所だ。
イーハトーヴ君という友人と出会い、美味しいステーキを食べたり、菓子類と自分の体を解剖したり……。
そんな場所が無粋にも踏み荒らされるのは――少々不愉快だな」
同じくふらりと現れ立ち塞がる『61分目の針』ルブラット・メルクライン(p3p009557)。
「この戦いが一段落したら、また美味しいものを食べにいきたいな、イーハトーヴ君?」
「うん! 俺達の『日常』に帰ったらさ、とっておきの計画を立てようね!」
顔を見合わせ、そして襲いかかる深怪魔たちへと挑みかかる。
そう。ここはもう『どこかのだれか』の場所じゃない。自分達の思い出が刻まれた場所なのだ。
「土地を渡り歩くなら斯様な事は耳に入れるべきであろう」
『寛容たる傲慢』オジヴァン・ノクト・パトリアエ(p3p002653)と『蛇喰らい』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)が、スラム化したストリートを破壊しながら進む深怪魔の前に立ち、交差した剣とライフルをそれぞれ構える。
逃げようと建物から出てきたスラムの子供達が足をとめるが、バクルドとオジヴァンが顎で後方をさし示す。
「お前さんら、大丈夫か?」
「あの建物を目指すが良い、道中の敵は蹴散らした慌てず取り乱さず迎え」
頷き、走っていく子供達。
それを追いかけようとした深怪魔に、バクルドは銃撃を、オジヴァンは剣を叩き込む。
「放浪者、周囲の安全を確保するため殲滅するぞ」
「へいへい、言われんでもここら一帯一掃するぐらいやってやらぁな」
そんな中でも統率をとっていたのは、『ルンペルシュティルツ』の社長こと『最期に映した男』キドー(p3p000244)だった。
「冗談じゃねェ!
派遣会社を立ち上げたってのに、派遣先を潰されてたまるかっての!
俺はウチの野郎共食わせて稼がせなきゃいけねェんだ。俺の為に!
気張っていこうぜェ、千尋くん! 俺の明るい未来を壊させなんてしないぜ!」
「おう! シャッチョサン! 行くアルよ!」
『Go To HeLL!』伊達 千尋(p3p007569)のバイクに二ケツする形でストリートを突っ走る。入り込んでいたダガヌチたちを次々に撥ねながら。
「住民の皆! 応援ありがとう! 派遣会社ルンペルシュティルツ! 派遣会社ルンペルシュティルツをよろしくお願いしま――アア!!」
横から突っ込んできたスチームトラムに跳ねられる千尋。
が、案外無事だった千尋がゆっくり立ち上がると、スキンヘッドにサングラスの男が胸をトントンと叩いてから立ち去った。彼の胸にはUQのバッジがついていたのを、千尋は見逃さない。
「なあ千尋くん。竜宮城にはジャムルピースってえ、いーいスナックがあるんだよ。
終わったら一杯やりにいこうぜ。よければウチの社員も連れてさ!」
「えっマジでキドーさん! 行く行くゥ!
社員の諸君! 今日はシャッチョサンの奢りだ!」
「「おう!」」
その声に応えたのはルンペルシュティルツのスタッフたちだ。
日頃用心棒として奮ってきた腕を、今こそ『島の用心棒』として奮うのだ。
●君がいなくちゃ、明日にはならない
「また、争いで怪我をしてしまう方が出てしまいました……それはとても、悲しいことです……。
争いは好みませんが……私にできることがあるのであれば微力をつくしましょう」
瓦礫だらけとなった二番街の大通りで、『胡蝶の夢』シャルロッテ=ハルシュトレーム(p3p010854)は物陰に隠れていた子供の手を引いた。
彼の足にできた大きな傷に手をかざして温かく治癒すると、『お母様はどちらに?』と問いかける。
首を振る子供……だが。
「おーい!」
空に飛び上がり、両手をぱたぱたさせて『初めてのネコ探し』曉・銘恵(p3p010376)が近くへとやってきた。それに誘導されるように女性が駆け寄ってくる。どうやら子供の母親のようで、腕には包帯が巻かれていた。
銘恵が施した処置のようで、見た目ほどの痛みもないらしい。
二人の様子をみてホッとしたらしい銘恵は、再びけが人を探して空へと飛び上がる。
「しゃおみー、シレンツィオがなくなるのも島の人達が傷つくのもいや……。頑張って助けるから!」
二番街に作られた救護施設……というより、スーパーマーケットの室内にて。
(イレギュラーズになって間もないのに決戦とか、荷が重い……。
ううん、誇りある剣士の血筋に恥じないよう、ビビっちゃダメ!)
『冷たきもの』アイス子(p3p010815)は片足を負傷して歩けなくなったらしい街の警備兵に肩を貸し、せっせとマーケット内へと運んでいく。
途中、大きな蚊のような深怪魔が飛び込んでこようとしたがアイス子は片手で振った半透明な剣で切り払い、急いで屋内へと転がり込む。
(こんな地獄初めてだよ、泣きたいし震えが止められない。けれど不安にさせないよう堪えなきゃ……!)
唇をきゅっと結ぶアイス子に、警備兵が『助かった、ありがとう』と彼女のてを握り、苦しげに微笑んだ。
そこへ駆け寄ってくる『料理人』テルル・ウェイレット(p3p008374)。
「二人ともよく頑張りましたね。あとは任せてください」
テルルは紙のボトルを二人に手渡すと、どうぞと優しく笑みをかける。
口をつけてみると、甘いコーヒーだ。身体じゅうにあった傷がぽわっとした温かみと共に癒えていくのがわかった。
「ご安心くださいね。傷の方は多少の物であれば治せますのでご安心くださいませ」
続けてテルルはその場で治療を行っていた『飛び出し注意』エメリア・エメラ・グリュメーア(p3p002311)に『あとは任せても?』と問いかけた。
海蛇のような下半身をうねらせ、エメリアは手を振って返す。
「任せておくのじゃ。まだスペースには余裕があるから、他にけが人がいないか探しにいってもらえるかの?」
エメリアの手際はかなりのもので、素早く治療を行ったかとおもうと鼻歌交じりに治癒の聖域をマーケットのフロア内に広げていく。
街への直接攻撃は多くの被害を出し、当然もとある病院ではまかなえないほどの負傷者が出た。町中をモンスターが闊歩しているせいで、怪我を負っても病院まで向かうことすらできないという有様だ。
そうして影から助けを求める人々を探すのが、『狐です』長月・イナリ(p3p008096)の役目であった。
「一般人を巻き込んだ市街地戦って物凄く面倒なのよね……
仕方が無い、被害を最小限度に出来る様に頑張りましょうか」
拡張増幅したファミリアーの海鳥たちを町中に飛ばしネットワークを張ると、イナリはオーバークロックした知能でそれらの情報を処理、そして空を飛んでいた『銀の花の聖女』銀花(p3p010701)へとテレパス通信を飛ばす。
手を振ることで通信に応えた銀花は、そのエリアの近くを走っていた『けだもの』蜂八葉 黒丸(p3p009239)に呼びかける。
「子供が三人、大人が一人です! 手伝ってもらえますか!」
「任せて。怪我した人、助ける」
黒丸は両手を地につけると獣のような速度で走り始め、目的のポイントへと急いだ。
駆けつけた黒丸の腕力は大したもので、両手で子供をそれぞれ抱え軽々と運んでしまう。
と、そこへ助けを求める心の声を聞きつけてか『いのちをだいじに』観月 四音(p3p008415)が駆けつけてくれた。
「お待たせしました。私も手伝いますっ!」
大人は多少の治療で歩けるようになりそうだと判断した四音は、早速本に書いてあった治癒の魔法をかけることで足の傷を治療する。
(リゾート都市と言うのは夢を見せてくれるからリゾートなんですよ!?
こんな悪夢みたいな状況は放置できません……微力ですけど、私も救助に回りましょうっ)
よし、と頷き振り返る。
「外にはモンスターがまだいます。けど、戦いは避けましょう」
賛成です、と銀花も子供を抱えて翼をぱたぱたとやった。
子供達を抱えてエリアの脱出を図る四音たち。
モンスターがそれに気付いた……のだが、スッと間に割り込むように『光明戦姫』ヴァル・ド・ルクス(p3p010734)が現れた。
巨大案両手斧を大上段に構え、己の存在を恐ろしいまでに相手に焼き付ける。
「深海魔達よ! この先を通りたくば私を倒して行くが良い!」
ここは任せろと振り返ると、『陽の宝物』星影 昼顔(p3p009259)と『幽世歩き』瑞鬼(p3p008720)がまた別の場所からけが人を抱えて出てくるところだった。
ありがとうと小さく頭をさげ、肩を貸したけが人をかばえるようにしながら進む。
(神様に何でも願いを叶えて貰う…うん、きっと素敵な事だと思う。
『自分で叶えなきゃ意味がない』って意見だけが正しいとは思わないしね)
「けれどそのせいで誰かが傷つくのは、僕は絶対に許せないんだ」
うむと小さく笑みを浮かべる瑞鬼。
「さぁやりたいことを思う存分為すがよい、神使たち。わしはその背を押してやろう」
街を守るために、皆戦っている。
しかしその後ろで人々が倒れてしまっては、きっと彼らも戦えまい。
(後ろを気にしておっては戦いに集中できんじゃろうて。こういう裏方はわしらに任せておけばよい)
瑞鬼はヴァルに任せたぞと手を振ると、急いでその場を離脱した。
こうした中で特に大きな活躍を見せたのが複合医療チーム『青薔薇隊』であった。
医療本部を設置し、『青薔薇救護隊』フーガ・リリオ(p3p010595)を中心に広大なフェデリア島に即席でくみ上げた医療チームを派遣。ファミリアー等でネットワークを作り時には人員の移動を行った。
「何時何処の世も割を食うのは市井の者たち、か……。
ふう、見捨てるのも寝覚めが悪いんですよねえ」
通信をファミリアー越しに受け取った『瀉血する灼血の魔女』ルトヴィリア・シュルフツ(p3p010843)は、使役した鴉を空へと飛び上がらせる。
飛行する深怪魔も多いとは言え、こちらの使役した小動物にまで気を回す余裕も向こうにはないらしい。
なにせここは無番街。『ダガヌチの巫女』が直接乗り込んできた最大の激戦区である。
「戦争が起こると一番困るのは市井の方々というのはどこの世界でも同じですね。
なら、僕がやることは一つです! 患者は誰一人も落としません!」
ルトヴィリアの航空支援によって見つけた負傷者へ駆け寄り、円は医療バッグから消毒液や治療薬を取り出す。
当然隙を突こうと深怪魔が狙いをつけるのだが……。
「この魚モドキが! 焼き尽くしてあげる!」
空から舞い降りた『青薔薇救護隊』アルフィオーネ・エクリプス・ブランエトワル(p3p010486)が『クリミネルブリュレ』を発動させた。
いつものお料理ブレスとは根本的に異なる紅蓮の業火が、近づいた深怪魔たちを炎上させる。
ずどんと着地し、『早く行け』とばかりに魔法の鎖を展開した。
こうした具合にチームメンバーは治療・戦闘・捜索が一通り出来るようにスキルと人員の配分がなされていた。偶然そうなったのか、彼らの知恵によるものか、過程はともあれ彼らのチームワークは十全すぎる結果を発揮していた。
『佐倉ネーちゃん、要救護者発見』
使役した『ねこ』ごしにテレパス通信を行う『ねこのうつわ』玄野 壱和(p3p010806)。
壱和は自身も箒に横乗りして負傷者の生むを確かめていた。
「誰かの日常が、笑顔が、命が
踏み躙られ、失われることが無いように
全力で救って護りますよ!」
通信を受けてかけつけたのは勿論『青薔薇救護隊』佐倉・望乃(p3p010720)だ。
混乱する精霊たちをなだめながら、負傷し動けなくなった子供へと駆け寄る。
足の傷に軟膏を塗って包帯をまくと、上から治癒の魔法を唱えた。
一方でこちらは『青薔薇救護隊』灰燼 火群(p3p010778)。
「いやぁ、南海のリゾートエリアって俺は聞いてたんだけど……ナニコレ。
まぁ日常崩れるとメンタルに差し障るしなぁ、少しは頑張りますかぁ」
大量に消費したエネルギーを竜宮の加護で回復すると、うねうねと道を塞ぐナマコ状の深怪魔たちへと対峙した。
「……俺の火ねぇ、治療より『焼き殺す』方が得意っぽいんだ」
パチンと指を鳴らすと彼の足元から炎が湧き上がり、回し蹴りのフォームで放たれたそれは深怪魔たちを炎上させる。
「ほら今だ、行け!」
「ありがとう、助かる」
『雨に舞う』秋霖・水愛(p3p010393)はどこかおっとりした様子で負傷した子供を抱えると、チュウチュウとなくネズミや猫に『他に怪我人はいる?』と問いかけた。
顔を見合わせ、そして『案内する』と応えて走り出すネズミたち。
スラムの入り組んだ地形を最も熟知しているのは野良猫やネズミたちだ。水愛は優しく頷き、走り出す。
こんな具合で激戦区をフォローしていた『青薔薇隊』だが、勿論五番街や三番街といったエリアにも派遣されていた。
「天衣永雅堂ホテルとの交渉が済みました。安全なフロアを医療スペースとして提供して頂けるとのこと」
『星読み』セス・サーム(p3p010326)がそのように言うと、『茨の棘』アレン・ローゼンバーグ(p3p010096)は『了解』といって青い薔薇を口づけた手の甲に咲かせると、ホテルの前に花びらを撒いていく。
彼の巻いた薔薇の色と香りを使って『安全』と『危険』をマーキングしているのだ。
「助かりました。負傷者もこれだけいますから……」
『青薔薇救護隊』レイア・マルガレーテ・シビック(p3p010786)がひいてきた馬車から負傷者をおろすと、ホテルへと案内していく。
ホテルに入りつつも保護結界をはり、テキパキとホテルのロビーを救護施設として使いやすいように整理するようホテルのボーイたちに指示を飛ばし始めた。
「けど、よく相手も受け入れたね。高級ホテルでしょ? 一泊いくらなんだか」
「この非常時には運営自体できませんから。金を取ることより客を守ることを彼らも優先したのです。わたくしの役目は、意志の橋渡しにすぎませんよ」
などと謙遜してみせるセス。
対してアレンは微少し、腰に下げていたレイピアを抜いた。
「おっと、邪魔者が来たみたいだ」
剣の柄に口づけをし、赤い薔薇を咲かせるアレン。セスたちが振り返ると、深怪魔がホテルを狙って近づいていた。
一方こちらは『早天』尹 瑠藍(p3p010402)。彼女は馬車を走らせ、医療本部へと急いでいた。
荷台には怪我人が詰め込まれ、御者席では瑠藍が真剣な顔で馬を操っている。
「アレン殿、しっかり仕事を果たしてくれたわね」
路上には、よく見なければ気付かない程度に薔薇の花びらが散っている。
瑠藍はその香りを辿る形で医療本部や仮救護施設へのルートを確認できていた。
「瑠藍さん、天衣永雅堂ホテルとの交渉が済んだようです。そちらに向かって欲しいって」
ファミリアー越しに連絡を受けた『早天』クロエ・ブランシェット(p3p008486)が建物の窓から顔をだし、駆けつけた瑠藍に手を振った。
「それと、負傷者を発見しました。馬車にはまだ乗れますか?」
大丈夫と回答を受けたクロエは窓から負傷者を抱えて出すと、翼を大きく羽ばたかせながら馬車へと降り立つ。
馬車内での応急処置においてクロエの腕はかなりのものだ。彼女のおかげで事実上、この馬車は救急車として機能できていた。
そんな彼女たちが駆けつけた先では、『深き森の冒険者』アルモニア・リチア(p3p010801)がトリアージ作業を行っている。
「この効率化、すごくいいね。前にもどこかでやったの?」
アルモニアが負傷者の腕にカラーテープを貼りつつ問いかけると、フーガは苦笑をした。
「アーカーシュでの戦いでね。負傷者が多く出るような戦いにはやっぱりこれが効率的だったんだ」
フーガが本部に常駐しているのは、彼がトランペットによる『アラート』を担当しているためだ。
危険が迫ったり、要救護者が多く搬送されたり、その他人手が必要なタイミングがくるたびに彼は特定の音階とリズムでトランペットを吹き鳴らした。
太古の昔から使われる手段だが、彼のセンスと統率力がそれを最新のアラートシステムとして昇華させていた。
と、外で見張っていた警備兵からフーガへと連絡が入る。彼が敵襲来のアラートを鳴らすと、アルモニアはライフルを手に取って立ち上がった。
「迎撃は任せて。みんなが他の事に集中して作業を行える様に、沢山の人を助けるため、ここを守らせてもらう」
●船上の英雄達
「ぬおー!撃って撃って撃ちまくれーい!
海戦はビビッて船の横っ腹を見せた方の負けじゃ。
麿の船、ゴーイング夢心地号でブッ込んだる!!!」
『殿』一条 夢心地(p3p008344)は金の扇子を広げ、迫る深怪魔船団へと向けた。
ゴーイング夢心地号(さっき名付けた)から激しい機銃掃射と大砲による攻撃委を仕掛けていく。
「ババンババンバンバンと撃ちまくるぞよ!」
そんな彼の船の側面へと回り込んできた深怪魔船舶。というより巨大な鯨型の深怪魔。背には大量の陸戦型深怪魔が控え、こちらをギラギラとにらみ付けている。
その兵力たるや、接舷されれば終わりといった有様だ。
「わーはっは! 高貴かつサイキョーの我、ダリル様のお通りじゃ!
者共よ! 我の前にひれ伏せぃ!」
そこへ登場したのは『輝きを目指して』ダリル(p3p009658)。夢心地の船から飛び立つと、空から魔術砲撃をぶちかました。
ダリルお得意の空中砲台スタイルである。これが船に搭載されたと考えると凄まじいものがある。
「私が何かを壊す事しか出来ないのでしょう……。
でも今日は、そんな私でも人の役に立てます。
軍艦に同乗させて貰えば、深怪魔の船くらいは破壊出来るのですから」
同じく船に乗り込んでいた『自然を想う心』エルシア・クレンオータ(p3p008209)は手をかざし、『火線砲』の魔術を展開し始めた。
炎で描かれた魔方陣が幾重にも連なり、それら全てが一瞬にして凝縮されたかと思うと激しいパルス音と共に光の柱を作り出した。
「私に滅ぼされたくなければ、どうか私を滅ぼして下さい…そんな祈りを込めて敵船を穿ちます」
勿論それだけではない。
「砲撃手が必要か? 任せてくれ。
普段はライフルを扱うが…お、おおこんな感じか楽しいな!
砲撃手として才能もあるのなら転職も考えちまうな」
『豪放磊落』呂・子墨(p3p010436)は船の大砲をレバーで操作すると、鯨型深怪魔めがけて位置を調整、発射。
弧を描き飛んでいく砲弾が深怪魔の背で爆発し、搭載している陸戦深怪魔たちがぼろぼろと海に転落していく。
それでも突撃をしかけようと迫る鯨深怪魔に、子墨は素早く銃座へと飛び移って機関銃のレバーを握り込んだ。
「この射程はもっと得意だぜ。おねんねしな!」
激しくひと繋がりの銃声を響かせた。
ついに力尽き、沈み行く鯨型深怪魔。
すると大和型戦艦 二番艦 武蔵(p3p010829)がその横を抜けて敵船団へと迫った。
「この一大事に馳せ参じた戦艦武蔵である。
折角の海戦、艦姫が他のフネに乗艦するというのも座りが悪い。ゆくぞ島風!」
水上を滑るように走る大和型戦艦 二番艦 武蔵(p3p010829)。水を得た魚もとい水上を得た戦艦であった。
『島風の伝令』島風型駆逐艦 一番艦 島風(p3p010746)がその持ち前の機動力をフル活用して敵船舶の側面方向へと滑り込む。武蔵はそれに牽引されるような格好だ
船舶からの生態ミサイルが次々と放たれ空で鋭い弧を描く。
次々と海面に刺さっては爆発を起こし水柱をあげるが、その中を島風は器用に蛇行しながら駆け抜けていく。
「第一戦術 制圧魚雷 rd」
ウェポンユウニットから魚雷を投下。海中を滑るように進んだ魚雷が敵船舶へと命中したと同時に、武蔵がウェポンユニットの大砲を一斉に解き放つ。
「接舷の隙は与えん! 主砲、仰角調整! 撃てっ!!」
シレンツィオ連合艦隊。それは海洋、鉄帝、豊穣の海軍勢力を集合させたものであり、サイラスやクゥイルたちのような兵装豊かな鉄帝海軍、航行能力の高い海洋海軍、そして海軍戦力は低いまでも更正した海賊たちを束ねる形となった豊穣海軍によって構成されている。
「皆、気を付けて。無事に終わったら祝勝会を開きましょう!」
『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は味方の船に乗り込むと、空に鳥を飛ばして観測を行っていた。
「射程圏内! 観測完了、撃って!」
「うん、併せてヴァリューシャ!」
敵船舶を両サイドから挟むように陣取った『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)。
マリアは船から飛び立つと、同行した『マリアの決戦兵装』雷光殲姫専用 異能拡張兵装 スレイプニール(p3p010314)をちらりと振り返る。
ヴァレーリヤとの通話状態を維持しつつ、スレイプニールに攻撃指示を発した。
「了解、マスター。電磁投射砲『神馬』――発射」
スレイプニールは飛行しながら自らを変形。巨大な電磁砲にかわると、徹甲弾を敵船舶めがけて発射した。
貫通――と同時にマリアも白雷式電磁投射砲『雷閃葬華』を発動させた。自らを弾丸とするこの『砲撃』はスレイプニールの穿った穴を更に開き、敵船舶を破壊し尽くすに充分であった。V字のカーブをかけ二段階攻撃を仕掛けると、再び空に舞い上がるマリア。
船から見上げるヴァリューシャとサムズアップを交わした。
「諸君! 今ある乙姫の加護が少女の記憶を代価としていることは聞いたか?」
その一方で、『絶海』ジョージ・キングマン(p3p007332)はエイヴァン艦隊の船と協力し敵船舶への攻撃を続けていた。
「二年前。我々は絶望の青で、一人の少女が奏でた歌に救われた。
そして再び、竜宮の乙女の勇気に助けられている。
ならば我々に出来ることは一つだ。
かの少女が、この地でもう一度、笑えるように、失った以上の物を取り戻せるように。
我々の悲願。夢の続き。静寂の青を侵さんとする愚か者に鉄槌を下すことだ!
総員! 敵を殲滅せよ!」
「健気なマールを怖いと泣かせたとか、マリオンさんは許しません!」
船から竜宮イルカで出撃した『嵐を呼ぶ魔法(砲)戦士』マリオン・エイム(p3p010866)。
ジョージの号令によって一斉砲撃を仕掛けた敵船舶の下部へと回り込み、船底(もとい深怪魔の腹)めがけて魔術砲撃を発射した。
内部に抱えていたエネルギーが暴走してしまったのか、深怪魔が爆発し海へと沈んでいく。陸戦型の深怪魔たちは泳ぐ能力を付与されていないためか、ごぼごぼともがきながら水没していった。
「よし……」
『波濤の盾』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)はこくりと頷き、部下に命令を下していた。
「単縦陣って話なら垂直に突っ込んで接舷を狙ってくる相手もいる。
寄ってくる前に沈められれば良しだが……抜けてくる船もいるだろう
基本は皆に合わせて砲撃戦をするつもりだが……」
「わかってますよ『名誉大佐』。どれだけ仕事を代行してきたと思ってるんです?」
皮肉っぽく笑う部下はエイヴァンの意図を完璧にくみとり、砕氷戦艦『はくよう』を陣形から外し側面攻撃を狙う深怪魔へと突進させた。
「本土危急の今、このリトル・ゼシュテルは往時の姿を一番良く残す、大事な場所だ。人心の拠り所と言っていい。ここまで失えば――。
否、考える意味などない。考える暇があったらエンジンを回せ!パドルを回せ!甲鉄艦共! その威容未だ健在なりと知らしめてやるが良い!」
そうして敵の攻撃をしのぐ間、『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)は鉄帝式の戦闘船で敵船舶へと砲撃を開始。魔術の籠もった砲弾が次々と船側面から発射され、敵船舶へとめり込んでは爆発していく。
「撃ち方用意……撃て!」
タイミングを計ったように狙いをつけた『切り裂きジル』ジルベール(p3p010473)が、船に搭載した精霊式の火葬砲を発射。敵船舶を巨大な刀で斬り付けたかのように破壊していく。
敵船舶はこうみえて巨大な生物。深怪魔だ。攻撃することで上がる血に、ジルベールはテンションをあげた。
「戦だ、戦いだ、抗争だ! 死ぬ覚悟はいいか!?」
海上での戦いは優勢に傾いている。
ジョージは傷付いた味方船舶に下がるように命令を出すと、腕組みをして海面を見つめた。海風にコートが大きく煽られる。
「海の上は俺たちに任せておけ。海底のほうは……任せたぞ」
●深き海の底で
「キャピテーヌは立場だのがあろうとまだ小さい子だ、少なくともアタシにとっては。そんな子にさぁ」
海底。迫り来る深怪魔の群れ。結界の張られた竜宮のそばには、『欠け竜』スースァ(p3p010535)たちが展開していた。
槍を構え突進をしかける深怪魔に、スースァはギラリと振り返る。
「はは、あんな風にお願いされたら断れないだろ」
螺旋を描く機動によって槍を回避すると、スースァは手刀によって空間そのものを切り裂いた。
竜宮イルカに跨がった『弱さゆえの強さ』ラビット(p3p010404)が駆けつけ、仕込んでいた魔術を発動させた。
(さて、いつも来てくださるお二人とは離れて、今回は私一人……だけど、攻撃をすることが怖い私でも、逃げて、攻撃をそらすことぐらいはできるはず。同じ兎仲間の皆様を守るためにも頑張らないと!)
深怪魔を中心に爆発が起こり、周囲の深怪魔たちがまとめて吹き飛んでいく。
ラビットが堂々と姿を見せると、後続の深怪魔たちは彼女めがけて殺到した。
といってもこれは、ラビットによる囮作戦である。
『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)が集まった深怪魔めがけて『紅蓮穿凰』の力を発動させた。
「あっちにもダガヌチ、こっちにもダガヌチ。大量に出して、力押しで結界を破るつもりでしょうか?
さすがに簡単には破れないと思うんですが、その辺りはどうなのでしょう。どのくらいまで耐えられるかって、さすがにわかりませんよね…?
まぁ、傷を付ける前にどんどん倒してしまえば良いだけですね」
放たれた紅蓮の鳳凰が深怪魔たちを焼き尽くしていく。だが深怪魔たちとて伊達に竜宮を襲おうとしたわけではないらしい。
巨大な白鯨型深怪魔メリディアンが複数体まとめて出現。屈折する青白いビームによって弾幕を張り始めた。
「ここが破られようとする敵が来ておるか。ならば、それに撃破で以て応えるのみである」
対抗するように前へ出た『未だ遅くない英雄譚』バク=エルナンデス(p3p009253)がフルールと共に結界を発動。
バクの展開したガラスのような結界は通常のものに比べ幾重にも分厚く増幅されたものだった。
ぱきぱきと割れていくが、それ以上に再生成される速度が勝る。
「反撃するなら今だぞ」
「サンキュー、助かった!」
『よをつむぐもの』新道 風牙(p3p005012)がドルフィンキックで加速すると、メリディアンめがけて自らを弾丸のごとく発射した。
(この竜宮で、多くの人と知り合った。仲良くなった。
最初は苦手だったけど、付き合ってみれば、気持ちのいい人たちばかりで。
つづりとそそぎも、この街を随分と楽しんでた。街を護るための手伝いもしてくれた。
もう、この街は護りたいと思う、大事な『居場所』のひとつだ)
後方に守るものが、出会ってきた人々が脳裏によぎる。風牙は弾丸となり、メリディアンを撃ち抜いた。
「一応……僕も、海の眷属だからね」
『玉響』レイン・レイン(p3p010586)は竜宮イルカに騎乗するとビームの弾幕の中を掻い潜るように進んでいく。決して打たれ強いということはないが、仲間のフォローがあれば近づくだけの時間は稼げる。
「自分の意思でここに居る僕等と…そうじゃないお前達じゃ…あと一歩で決定的な差が出てくる…。
その一歩まで踏み出そうとする…踏み出せる僕等にはお前達は勝てないよ」
レインの放つ七色の光が海中にオーロラのごとくかかり、メリディアンを切り裂くように広がっていく。
「今負傷兵を守れるのは僕らだけなんですよね。生きて帰った彼らをここで死なせたくはありません」
『千紫万考』ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)がここぞとばかりに竜宮イルカに跨がり加速。射線を確保するとメリディアンの側面を駆け抜けながら拳銃を撃ちまくった。
「終わるのはあなた達ですよ」
全弾見事に命中。ジョシュアは更に高速リロードを行うと特殊な弾頭をメリディアンめがけて撃ち込んだ。
「日常を守る。いやぁ、いい言葉ですなぁ。
メーアちゃんマールちゃん不在の竜宮を守るのに私もちょっと力を貸そうかな
直接対面したことないけど推しだからね。おっぱい大きくて可愛いし」
そこへ参戦する『乱れ裂く退魔の刃』問夜・蜜葉(p3p008210)。攻撃の弱まったメリディアンの反対側へと回り込み剣をボディに突き立てる。そのまま切り裂くようにメリディアン体表部を走った。
「懲りもせずまーた来やがったか。竜宮は顔見知りも多いし、一度助けたところが滅茶苦茶にされんのも気分が悪い。しゃあねえ、また救ってやんよ!」
『流浪鬼』桐生 雄(p3p010750)がメリディアンの上部へとしがみつき、無骨な大剣をぶん回した。
刃渡りからは想像できないような衝撃が周囲に走り、ついにメリディアンの首が切り落とされる。
「よ、っと」
横をかすめるように通り抜けようとする竜宮イルカにつかまり騎乗すると、エネルギーの暴走によって破裂するメリディアンを背に離脱する。
「行くぞ野郎ども! 出航だー!!」
今回限りの水中仕様になった『敗れた幻想の担い手』夢野 幸潮(p3p010573)。
結界の破壊を目的とした『杭打ち機』を装備する半魚人型深怪魔フォアレスターの集団を前に、幸潮は強気で叫んだ。
「周辺の者どもに告ぐ! 対制圧攻撃用防壁を展開する!」
「はー…………ついに私まで来ちゃった。しかも初陣が"コレ"……新人にやらせる者じゃない。全く……はぁ。海中を船で行くとか、これ潜水艦じゃないでしょ。何やってんの?」
「海中で船舶戦闘とか馬鹿なのかな? 馬鹿だったね! 楽しけりゃなんだってオッケー! 結局決戦なんて最後に全体が勝てばいいんだよ!! いぃぃやっはぁぁっっ!!」
それぞれ出撃する『定めし運命の守り手』若宮 芽衣子(p3p010879)と『崩れし理想の願い手』有原 卮濘(p3p010661)。
撃ち込まれる杭を幸潮に防御させつつ、卮濘は両手を翳して不敵に笑った。
非現実的な衝撃が渦のように走り、フォアレスターの集団に文字通り『穴』をあけた。
ハッと振り向きその脅威に気付いたフォアレスターたちは散開を始めるが、『宙より堕つる娘』水天宮 妙見子(p3p010644)が準備万端とばかりに両手で印を結ぶ。
「さぁ張り切ってフロラ様のバックアップに徹しますよぉ♡
あぁ! フロラ様~! 神の加護は素直に受け取っておくべきですよ♡」
神の加護(異世界のやつ)を展開すると、腕組みしながら船からゆっくりと出撃する『自称・豪農お嬢様』フロラ・イーリス・ハスクヴァーナ(p3p010730)を力の膜で覆っていく。
せり上がり式に登場したフロラはカッと目を見開き、背負っていた鎌に手をかけた。
「しゃらくせえですわ! 全員相手してやるのですわ! 何度倒されようと! わたくしが全員シバき倒しますわ〜〜!!」
オラァですわと言いながらフォアレスターの群れめがけて突っ込むフロラ。
四方八方から囲むように杭が打ち込まれるが、割り込んだ芽衣子が防御用の鎖を展開することでそれらを振り払う。
「大丈夫?」
「あと120秒もたせてくださいまし!」
「長くない?」
「お嬢様ジョークですわっ」
フロラは鎌を両手でしっかり構えると、エメラルドグリーンの宝石を鼓動のように明滅させた。
「必殺、絨毯爆撃お嬢様ですわ〜!」
鎌に回転をかけながら投擲。高速で回転する鎌が周囲のフォアレスターたちを切り裂きながら踊り、そして再びフロラの手へと戻っていった。
「チッ、フェデリア島を攻めればイレギュラーズを減らせるという話だったではないか! 奴め、適当なことを吹き込みおって……」
マントを羽織ったひときわ大柄なフォアレスターが、三叉槍を握り忌々しげに呟いた。
どうやらこの深怪魔たちの前線指揮をとっている個体のようだが……。
「ゲロニモ様、イレギュラーズの一団がメリディアン部隊を突破しこちらに向かっているとのこと」
「なぎ払え! どれだけの戦力をつぎ込んだと思っている!」
腕を振るうゲロニモに応じ、巨大ウツボ型深怪魔ドールラインが一斉に漆黒の光線を発射した。
が、しかし。
「竜宮の民は、既に我らの大切な友人なのです。
であれば、難しい理由は何も必要ありません。
友の窮地を救いたい――ただ、その想いのままに!」
輝く剣が、光線を真っ向から受け止め、そして真っ二つに切り裂いた。
そう、竜宮の友から、竜宮の守護者となった『勇往邁進』リディア・T・レオンハート(p3p008325)の剣である。
「皆の者、力を見せよ!」
彼女の剣の輝きを浴びた仲間たちが一斉に突撃する。
「哀しい…。ご主人様との思い出の地に下賤のものが押し寄せるとは。おまけに共闘相手が馬の骨(冥夜)だなんて、竜宮のネオンが涙で滲んでしまいそうです。とはいえ、この鬱屈とした感情は敵にぶつけて発散するしかありません。ポジティブにゆきましょう、れっつジェノサイド」
「願いがなければ娯楽は成り立たない。ホストの私にとって、これは信念の戦いでもあります。
それにしても、お前は毎度、素直に応援できないのか悲劇野郎(クロサイト)。言われなくても解ってる。これから調子を取り戻す」
効果範囲内にあった『悲劇愛好家』クロサイト=F=キャラハン(p3p004306)と『カチコミリーダー』鵜来巣 冥夜(p3p008218)は目を合わせぬままそれぞれネクタイと眼鏡をキュッとなおすと、ゲロニモの放つフォアレスターの群れめがけて同時に術を発動させた。
『タイダルウェイヴ』に『我流・黒夜迅雷』を複合させた漆黒の渦はフォアレスターたちを巻き込み狂気の渦へと落としていく。
「当端末ハコノ戦イニ置イテ、【津波】ノ戦闘ヲ支援スル。ソシテ【竜宮】ノ行ク末ヲ観測スルモノデアル」
なんとも形容しがたい、深怪魔もびっくりの形状をした『観測中』多次元世界 観測端末(p3p010858)が中央の目を開くと、フォアレスターたちめがけて魔弾を発射。
「ドノ様ナ結末ヲ迎エヨウト、当端末ハ観測スルノミデアル」
「鉄帝国の動乱対処に集中したい時期に、こんな騒動を起こしてくれるとは。
この戦、お前たちに因縁も恨みもないが、邪魔させて貰うぞ」
『特異運命座標』陰房・一嘉(p3p010848)はそんな弾幕に乗じる形で敵へ接近。屈強な腕から放つパンチによって相手のボディを粉砕する。
彼らを止めようとドールラインが光線を集中させようとするも、屈強な彼は身を丸く固めることで光線による集中攻撃を防御した。
「私はイレギュラーズになったばかりで、この戦の事情の程はあまり存じ上げません。
ですが頑張って、迫りくる物の怪達を呪い尽くしま……あ、いえ、迎撃いたします!」
その隙を突くかたちで『恋(故意)のお呪い』瀬能・詩織(p3p010861)が両手の指でハートの印を結び、それを素早く反転。無数の印を結ぶと『こいのおまじない』を完成させた。
無数の歪んだ黒いハートがドールラインへと突き刺さり、その巨体を穴だらけにしていく。
「それはそれと致しまして……失礼とは存じ上げますが、観測端末さんは蛸の御親類なのでしょうか?」
「?」
何を言ってる? みたいな顔(?)で振り返る観測端末。
そうしている間に、『侠骨の拳』亘理 義弘(p3p000398)はゲロニモへと急接近を果たしていた。
「数の暴力ってのはある。それこそ今回のような場合は嵐のように襲い来るだろう。
だが俺達は負けねえ。津波となって嵐の海すら飲み込んでやろうじゃねえか」
義弘の武器。つまり鍛え上げた拳によってゲロニモを殴りつけると、ゲロニモもまた槍を構え義弘の腕を貫いた。
「わめくな! ダガヌ様の作られる崇高なる世界も理解できぬ愚か者が!」
「愚かだと?」
義弘はゲロニモの頭を掴み、そして強引にぶん投げる。大きな岩にぶつかったゲロニモが槍を取り落とすと、すかさずリディアが斬りかかった。
「沢山の竜宮の民を、フェデリア島の人々を、そして可愛そうなめんてんやぺんてんたちを手にかけてまで作る世界こそ……愚かの極みです」
身体を真っ二つに切り裂かれ、ゲロニモは断末魔をあげ散っていった。
●ダガヌチの巫女
「ほう、これが巫女様か。もう少しお淑やかなら良かったのになぁ。
こういう荒っぽいのを受け止めるのが仕事とはいえ、景観を損ねるマナー破りはご勘弁願いたい。なんてね。
……さて、来いよ。全部止めてやる」
無番街中央へ続く道は、そのことごとくが破壊されていた。
『だから、守るのさ』解・憂炎(p3p010784)は生ハムの原木を握りしめ、わらわらと増えるダガヌチの軍勢を挑発した。
一斉に襲いかかるダガヌチの群れ。『Legend of Asgar』シャルロット・D・アヴァローナ(p3p002897)はそんな集団を横から強襲し、恐るべき速度で切り裂いて行く。
「やっぱり、永生の者が教主になるのはダメね。頭が変わらないから新しい風も良し悪しもないわ。私も肝に命じて、戦わないとね」
血のように赤く染まった刀身がダガヌチを真っ二つに切断し、踊るように次へ次へと斬り付けていく。
「罪を犯し、世界を冒す巫女…我が他人の事を言えた義理はないが。シレンツィオを壊すなら看過できん、斬らせてもらう…!」
そこへ加わる『彷徨いの巫』フィノアーシェ・M・ミラージュ(p3p010036)。
ダガヌチの巫女は彼我の距離をとるためか大量のダガヌチを湧き出させ、フィノアーシェの剣がそれを切り拓いていく。
「お初にお目にかかるッス、「ダカヌチの巫女」さん!
まぁ、正直なところ。貴女の思想だとか、事情だとかはあんまり興味ないッス!
思うことはひとつ!
過去の存在が!今を生きる皆の邪魔をするなって事ッス!
いいッスか?こうした方がいいとか、こうするべきとか……そういうの、ぜーんぶ!!! 『余計なお世話』、って言うんですよ!
それだけ覚えて、とっとと大人しく寝てろッス!!」
開かれたか細いラインを、『蒼騎雷電』イルミナ・ガードルーン(p3p001475)が流星の如く駆け抜ける。
そして、やっと姿が見える。
黒く淀んだ巫女服と、顔を覆う布。布には不思議な紋様が描かれ、表情をうかがい知ることはできない。
イルミナの手刀が青いエネルギーブレードとなってダガヌチの巫女へと斬りかかる。
それをダガヌチの巫女は発生させた黒い刀身で受け止めた。
だがそれで終わるイルミナではない。凄まじい連続攻撃をダガヌチの巫女めがけて撃ち込んでいった。
「ここには大事な一夏の思い出がたくさんある。そんな地を海に沈めさせやしない!
その為にも儀式魔術の要を叩くのが肝要だろう。
ダガヌチの巫女、キミはここで討たせてもらうよ」
『桜舞の暉剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)は剣をとり、ダガヌチの巫女へと迫った。
「人々の欲望はそこに様々な人が動き、生きた証でもある。
それを利用して人々を不幸にしようだなんて決して許さない。
この街はこれからもっと繁栄する、竜宮もだ。
そこにキミたちの力は必要ないよ」
二人の攻撃を、ダガヌチの巫女はギリギリの所で防御した。いや、しきれたわけではない。
つう……と巫女の頬に線がはしり、一筋の黒い血が流れた。
「そこを退きなさい。真なる世界のため、必要ないのはあなたたちの方なのです」
突如、巫女の後方から黒い波が押し寄せた。モザイクアートのように造形の入り乱れたそれは、全てがダガヌチでできた波。
仲間たちが流された――かに見えた次の瞬間。建物の屋根から『茨咎の鎖』が放たれた。
巫女の腕へと鎖が巻き付く。
「ははは、何やら色々事情を知ってしまった身ですが……まぁせっかく頂いたこの無番街どころかこの島を無くす、というのは癪でしてねぇ」
キッと睨むように振り返る巫女に、『酔狂者』バルガル・ミフィスト(p3p007978)はいつもの笑みを浮かべた。
竜宮での思い出が。そしてかつての世界の思い出が重なるように脳裏を流れる。
「――本気で行くか」
スッとバルガルの表情から笑みが消えた。
「今回の騒動の首謀者、ダガヌチの巫女よ! 私たちの大切な街を蹂躙する事は許さん!」
途端。後方からスチームトラムを運転する『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)が現れた。アクセルべた踏みで巫女へと突撃する。
「モカてんちょー……運転荒いよ~!」
助手席の『大艦巨砲なピーターパン』メイ・ノファーマ(p3p009486)が目を回しながらもビーチパラソルレーザーを引っ張り出す。
「れーざー発射ー!」
スパイラルレーザーが巫女へと何発も撃ち込まれ、更にはモカのトラムそのものの突進によって爆発が起こった。
爆風を抜け、バルガルが一直線に巫女へと迫る。
「――」
そして逆手に握ったナイフが、巫女の首を見事に切り落とした。
ごとり、と無番街に続く未舗装道路に落ちる首。
周囲のダガヌチたちがサァッと波を凪ぐかのように消えていく。
しかし……これで終わったと、誰も思えなかった。
それほど、周囲の空気は酷く淀んでいたのである。
「可愛そうな方。幸せになることができたはずなのに、不自由な肉体に拘って、痛みだらけの人生を生きるのですか?」
巫女服の女性の身体が首のもとまで歩き、そっと己の首を拾いあげる。もとあった場所に据えると、まるでなんてことはなかったかのように首がくっついた。
「ねぇ、巫女さん。神様が貴女達の願いを叶えてくれるなら。誰か神様の願いを叶えようとしなかったんですか? せめて、有難うって言わなかったんですか?」
『一護一会』イチゴ(p3p010687)がこれ以上進ませまいと立ち塞がる。
「神の? そんなこと、おこがましい」
呟く巫女に、イチゴは首を振る。
「そんなんじゃ、一方通行ですよ……」
「持つ願いは邪神の復活のみで、他は何もかも要らない、が自分の意思。それ、ホントでして?」
同じく立ち塞がる『開幕を告げる星』ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)。
「望む望まない関係無く立たされた場所で、自分の全てを捨てさせられて
納得するため消した「無駄なもの」、あったんじゃないのですよ?
…もう全部全部忘れたかもですけども!
その「無駄なもの」を、本当の願いを聞きに来たのでして!」
巫女が再び大量のダガヌチを召喚。イチゴがそれを引きつける間、ルシアは巫女めがけ全力の魔砲を発射した。
いかなダガヌチの巫女といえど、ルシアの全力を受けきれるなどということはない。
作り出したダガヌチの盾が一瞬で蒸発し、巫女の右腕が吹き飛ぶ。
「ひとつ、聞き忘れていたのでして。……お名前を、教えてほしいのでして」
「そんなもの……」
「忘れてしまったのですよ? そこまで、己の意志をもちながら!」
「黙って……!」
巫女は残った片腕を振り、大量のダガヌチを宙に浮かせた。その全てをルシアたちへと叩きつけようというのだ。
周囲の風景がまるごと塗りつぶされるかのごとき衝撃。
しかしそれは、対抗するようにぶつかる銀色の波によって防がれた。
「アンジュはね、何かを忘れていて。それを思い出したら、どうしてか自分じゃなくなってしまう気がして……」
波が二つに割れ、一人の少女が現れる。
「ふたりはそれでも一緒に居てくれる?」
剣を抜き、横に並び立つ『月輪』久留見 みるく(p3p007631)。
「アンジュ、あたしたちをバカにしすぎよ。
無理やりあなたに手を引っ張られたあの日…あなたが忘れてもあたしは忘れない。
あなたが変わったって、今度はあたしたちがアンジュの手を引っ張ってあげるわよ!」
契約した魔剣を召喚し、サモナーズ・タクトを振りかざす『召剣士』パーシャ・トラフキン(p3p006384)。
「私にはアンジュちゃんのおうちの事はわからないけど……どうしたって、何をしたって、私達の大切な友達だよ。それはこれから先もずっと変わらないよ。
これからも一緒に歩いていこう。そのために……あの人を止めよう!」
アンジュは一度目を瞑り、「うん」と小さく頷いた。
「……そうだね。キャピテーヌは前を向いたんだ。アンジュも進まなきゃ」
ダガヌチを吸収することで生やした腕で、巫女が殴りかかってくる。
対するアンジュは拳に力を集め、殴りかかった。
『いわしのちから』と彼女が呼んでいたそれが、今ならわかる。それは原初の願いの欠片であり、果たせなかった想いのなれはてだ。それを今、アンジュは拳に握ったのだ。
「挑戦もしない、臆病な世界なんていらない。
流れなくなった水はいつか濁っていくよ。
人もいわしも、逃げるために足やヒレがついてるわけじゃない。
前に進むためについてるんだ!!」
拳がぶつかり合い……勝ったのはアンジュの方だった。
両サイドから押し寄せるダガヌチの波を、みるくの剣が、そしてパーシャの魔剣がなぎ払う。
「見て、パーシャ。……あの子、いい顔してるわ」
「……うん、これからも続いていくんだね。アンジュちゃんと、みるくちゃんと……一緒に笑えあえる日常が」
二人は笑い合い、そして道を切り開く。敵への、そして未来への。
(……ねえ、お父さん。私、もう、大丈夫だよ)
「姉様や父様がそうであるように、皆さんがそうであるように。
わたしもこの地を守りたいと、そう思うのです」
『積荷』から始まった人生だ。それが色彩を得て、未来を得て、人生を得るまでに誰がいたのか、『花に集う』シルフォイデア・エリスタリス(p3p000886)は知っていた。
横を見れば、『光鱗の姫』イリス・アトラクトス(p3p000883)がバラックだらけの路地の真ん中に立っている。
「そうね……」
イリスはこの場所に、あるいはこの海と島にまつわる『思い出』を脳裏に描いていた。
「本当に、色々あったけど。
最後の決戦の舞台がここなのはどういう縁かしらね。
私は、私の願いを知って、きっと覚悟はできたんだ。
だから、戦える」
ゆっくりとせまる、一人の女性。『ダガヌチの巫女』あるいは巫姫と呼ばれた存在は、形容しがたい化物じみた外見を捨て、その人間めいた姿を露わにしていた。
フォローは任せてください。エリスタリスはそう言って全力の治癒魔法をイリスへと流し始めた。
イリスはその上で防御を固め、巫女へと突進を仕掛ける。
「私は、シレンツィオ総督エルネスト・アトラクトスの子、イリス・アトラクトス!
かつて歩んだ「これまで」の為に。
いつか夢見た「これから」の為に。
貴女には、何も奪わせない!」
ダガヌチを固めて作った槍が次々とイリスに突き刺さりにかかるが、それらを次から次へと払いのけ、あるいは瞬間的に治癒し巫女へと迫る。
突進は、見事に動きを止めるに至った。
「いいだろう、見せつけてやる。私が生半可な攻撃じゃびくともしない壁である事をな!さぁ命を燃やすぞ! グリーザハート!!」
そこへ『(・∞・)』ムエン・∞・ゲペラー(p3p010372)がグリーザハートを抜き、豪快に迫る。
巫女は腕を六本に増やし、その四本でイリスを、残る二本でムエンの剣を受け止める。
幾度とないぶつかり合いでダガヌチを固めて作った剣は崩れるが、そのたびに新たな剣が召喚されては壊されていく。
「本当に……本当に。
良く、ここまで頑張りましたね。ただ一人になってまで…それでもなお、幸せを願って戦って。
だからこそ、立ちはだかるのは血の魔女たる私」
『輝奪のヘリオドール』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)は深く深く呼吸を整え、閉じていた瞳を……紅く開いた。
「貴女だって、満たされたいのでしょう。
せめて、最期だけでも……優しく、包み込んであげたいんです」
大きく振りかぶるマリエッタの腕には、大きく切り裂いたような傷が走っていた。吹き上がる大量の血は大きな槍となり、マリエッタはそれを強く握りしめた。
「――未来への葬送を」
投擲。と同時に『紅矢の守護者』天之空・ミーナ(p3p005003)のが凄まじい速度とパワーをもって巫女へと迫った。
「民の幸せを願ったのは立派だったが、方法が悪かったな。
信じるものは、神じゃなく、人の力だったんだよ!!」
猛攻を受けきれない。巫女の胸を槍が貫き、今度こそミーナの剣が巫女の首を切り落とす。
途端。周囲に真っ黒な『海』が広がった。
「巫女。
言葉は既に尽くされました。
意味を決めるのは貴女でも、私でもありません」
黒のなかにたゆたう、『つまさきに光芒』綾辻・愛奈(p3p010320)。
彼女に問いかけるものがあった。
「なぜ抗おうとするのですか。圧倒的な神格を前にして」
問いかけに、愛奈はこう応えることにしていた。
「古の神格を相手取って、確かに私ひとりでは敵いません。
ですが”我々は”負けません。
我々は欠けているからこそ、補い合うのです。
ただ喰らうだけでも、与えるだけでもないのです。
私は……このヒトの縁を護りたい」
翳した手。温かく、そして一度は熱を失った手。
温かい人の感情は、夢は、この島に沢山あった。
「良くも悪くも欲望渦巻くこの場所、でも良い所だって沢山見て来たわ」
同じくたゆたう『夜守の魔女』セレナ・夜月(p3p010688)は、見えない誰かの手を握った。
「この場所の根底にはひとつの欲望があったわ。
それは「幸福になりたい」という気持ち。でもそれは与えられるものじゃない。
幸福は自分で掴み取るものだから。
そう――神はもう要らないのよ。ダガンも、巫女も。役目は終わってるの」
「うそです。未来永劫、この役目は……終わる、はずなんて……」
否定の言葉に熱は感じられなかった。
愛奈とセレナはそれぞれの魔法を発動し、黒き海をなぎ払う。
殆ど崩壊した無番街の街中。『祭壇』と呼ばれるエリアの上に立っていたのは建設途中のホテルだった。
「このホテルの建設が、言ってみれば『事件』の始まりだったのです。
不可解な理由で幾度も建設が中止されたその背景を調べ、何人もが命を落とした。
しかし彼らの抱いた夢は、野望は、フリーパレットという願いの欠片になって残り……私達に引き継がれた」
がらがらと崩れゆくホテルのそばで、『ライカンスロープ』ミザリィ・メルヒェン(p3p010073)がふと隣を見た。
「さぁ、始めましょう。ご都合主義のハッピーエンドを」
「ご都合主義ね……はは。そうだな」
『スケルトンの』ファニー(p3p010255)は両手をポケットに入れ、骸骨の頭で笑った。
「ダガヌ。ダガヌチの巫女。
勝手に祀られて、勝手に不要とされて、それはとても悲しいことです。
けれどそれは、誰にも止めることなんてできない。
子供が大人になるように。お気に入りのおもちゃが不要になってしまうように。
大切なものは交代していく。流転していく。
『どれだけ無情だったとしても』、そうやって物語は続いていくのです」
「夢は終わるんだ。現実はつらいんだ。
だから誰もが幸せになりたいと願って、死(おわり)は怖いと泣き叫んで、足掻くんだよ。
わかるだろう? 今お前が、そうしているんだから」
指をさすファニー。巫女の顔を覆っていた布がはらりと落ちて、黒髪の女性の、美しい顔が露わとなった。
「『どれだけ滑稽だったとしても』――これは”おまえ”の物語だろうが!」
ミザリィの祈りによって強い治癒の力を得たファニーは、ダガヌチの巫女へと走り出す。
胸ポケットに入ったOMEGA VANILAのパッケージが淡く光、文字が複雑に入れ替わっていく。
「――!」
巫女は反射的にダガヌチを無数に呼び出した。頭だけのダガヌチは口を大きく開き漆黒の光線を放つが、対するファニーもまた巨大な獣の骸骨を召喚し白い光線を放った。
真正面からぶつかり合い、相殺する光。
「欲望を思い出せ。お前は何がしたかった!」
光がはれると、そこには無数のイレギュラーズたちの姿があった。
剣を振り上げる者。槍を握りしめる者。魔法を唱える者に拳を振り上げる者。その全てがギラギラとした決意の光に満ちていて――。
それが、抗いがたい光だと、巫女は確信した。
かつて巫女達はこの海に救いを求めていた。
唯一のそれは、神の与えるものだった。
『完璧な幸福』は、縋るに値するものだった。
だからきっと忘れていたのだ。
幸せになることは、人生の目的なんかじゃないことを。
満たされることは、過程にすぎないのだということを。
人はみんなどこか空っぽで、器を満たそうと足掻いて、そしてそれゆえに――輝くのだということを。
誰かが聞いた。
『あなたのなまえは?』
巫女はずっと忘れていたそれを、ようやく思い出せた。
崩れたホテルの瓦礫に背をもたれ、ゆっくりと崩れ落ちる。
胸から流れる血は、赤いそれだった。
手にべっとりとついた、どこか温かいそれを握りしめる。
「ミレイア……原初の巫女。この名はもう、必要ないと思っていたのに」
そうだ、自分は、死にたくなかったんじゃない。
いつか見た誰かの輝きを、羨んだのだ。
ダガヌチの巫女が目を閉じる。
それきり、もう動き出すことはなかった。
無番街を破壊していた大量のダガヌチたちも崩れ去り、大量の竜宮幣だけを残して消えていく。
戦いが終わったのだと、誰もがわかった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
ダガヌチの巫女を倒し、シレンツィオ・リゾートを守りきりました。
GMコメント
シレンツィオ・リゾート、そして竜宮を舞台に最後にして最大の戦いが始まります。
リゾート都市、海上、海底。このみっつのフィールドで戦い抜きましょう。
敵の首魁は『ダガヌチの巫女』。
ダガヌが倒されても復活できるように、あるいは完全復活を遂げさせ無敵の存在にするために、欲望渦巻くフェデリア島を祭壇にして儀式魔術を行使するつもりのようです。
もしこの企みが成功すればフェデリア島は火山の噴火と地盤の崩壊を起こし街は島ごと海に沈んでしまうでしょう。
■■■プレイング書式■■■
迷子防止のため、プレイングには以下の書式を守るようにしてください。
・一行目:パートタグ
・二行目:グループタグ(または空白行)
・三行目:実際のプレイング内容
書式が守られていないとお友達とはぐれたりすることがありますのでくれぐれもご注意ください。
■■■グループタグ■■■
一緒に行動するPCがひとりでもいる場合は【コンビ名】といった具合に二行目にグループタグをつけて共有してください。
大きなグループの中で更に小グループを作りたい時は【チーム名】【コンビ名】といった具合に二つタグを作って並べて記載ください。
■■■パートタグ■■■
以下のいずれかのパートタグを一つだけ【】ごとコピペし、プレイング冒頭一行目に記載してください。
パートによって要求される特徴がことなります。そのため人数配分を均等にする必要はなく、多少偏ってもOKです。『私はここに呼ばれている! 魂で感じるんだ!』といった具合に直感でパートを選んでください。
【海戦】
シレンツィオ近海と湾内を舞台に、船を用いて戦います。船同士でどかどか大砲を撃ち合って互いを沈めあいます。相手の船には陸戦特化型の深怪魔が大量に詰め込まれているため、接舷されると非常に厄介です。なので船ごと沈めてしまいましょう。(陸戦特化型のせいか、深怪魔のわりに海に落ちるとそのまま溺れる仕様になっているようです)
このパートに参加する場合、船には大砲等の武装が備えられているものとします。
自前の『小型船』があると有利になり、なくても軍の小型戦闘艦を貸してもらえます。
持ち前の船には大砲ついてないよと言う方も、今回だけ鉄帝海軍が据え付けてくれるようです。
また、この戦いではエイヴァン隊と鉄帝海軍(サイラス&クゥエル隊)が主な援軍として参加しています。
【市街戦】
シレンツィオの町中に侵入してきた深怪魔やダガヌチたちを撃退します。
ダガヌチはなりふり構わずその辺の物体や人々に寄生し戦闘をしかけてきます。
寄生したダガヌチはその要素を拡張した怪物となります。
例えば寄生スチームトラムや寄生スロットマシン、寄生観光客などを相手に戦うことになるでしょう。
今回は寄生してすぐなので、不殺スキルを使わなくても解除可能であるものとします。
また、シレンツィオの住人達もたまに戦いに協力してくれます。援護射撃をしたり回復アイテムを投げてくれたりと協力のしかたは様々です。
【ダガヌチの巫女】
この襲撃作戦の首謀者であるところのダガヌチの巫女と戦います。
戦場は主に無番街が舞台となり、あたりを滅茶苦茶に破壊しながらの激戦になるでしょう。
心配しなくてもすぐに再建されるので心置きなく戦って下さい。
ダガヌチの巫女は主に大量のダガヌチを召喚したり、膨大な魔力を叩きつけたりといった方法で戦闘をします。
【救護】
今回の襲撃作戦はあちこちから怪物が現れ街中で暴れるというかたちで行われます。
そのため街のあちこちでけが人が出るでしょう。
戦闘員だけでなく一般市民にも被害が及ぶため、彼らを見つけては辻ヒールしていったり各所の安全な建物内に集めて治療したりといった活動が必要になります。
【竜宮】
海中にて深怪魔と戦います。
竜宮に霊脈による結界が張られ、僅かな数の深怪魔たちを除いて外側で対処可能になりました。
一方でダガヌ勢力は大量の深怪魔をぶつけることで結界を無理矢理破壊してしまおうと企んでいます。もし結界が破壊されてしまえば、前回の襲撃で負傷した竜宮の民たちが危険に晒されます。
これらを結界の外で撃退し、破壊を防ぎましょう。
このパートでは水中行動があると有利にはたらきます。
また、援軍として全員ディープシーで構成されたゼニガタ部隊が展開しています。
================================
●特殊ルール『竜宮の波紋・応急』
この海域ではマール・ディーネーの力をうけ、PCは戦闘力を向上させることができます。
竜宮城の聖防具に近い水着姿にのみ適用していましたが、竜宮幣が一定数集まったことでどんな服装でも加護を得ることができるようになりました。
●特殊ドロップ『竜宮幣』
当シナリオでは参加者全員にアイテム『竜宮幣』がドロップします。
竜宮幣を使用すると当シリーズ内で使える携行品アイテムと交換できます。
https://rev1.reversion.jp/page/dragtip_yasasigyaru
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