シナリオ詳細
<アーカーシュ>レリッカ探索隊
オープニング
●
――鉄帝国南部の町『ノイスハウゼン』に、三人の少年少女達が降ってきた。それも、伝説の浮島からである。
荒唐無稽にも思えるそれは紛れもない事実であり鉄帝国の――ごく一部と言っても差し支えないかもしれない。何せ、『すげー! 空かよ! 俺も飛びてェ!』が罷り通る国だ――ホットニュースになったのであった。
さて、順序良く説明しよう。
子供達はアーカーシュから遣ってきた、とそう言った。
当初は信じられるものでもなかったが、少年ユルグが持っていた古い身分証が流れを変えたのだ。
『初代アーカーシュ探索隊』の体調のドックタグ。町の住民の大空に浮かぶ島の目撃情報。
それらから軽騎兵隊が調査に乗り出し、秒速で島が発見されてからと云うものの『すげー! 島が浮いてる!』という電撃的情報として知れ渡ったのであった。
「調査隊の皆! こんにちはっ!」
明るく元気に挨拶するのはパルス・パッションその人だ。
浮遊島の調査には鉄帝の調査隊結成と共にローレットが向かう事になっていた。
手っ取り早く『鉄帝国に名が知られてる奴を呼びつけて島の調査をさせようぜ!』の勢い宜しく招待状が届いた訳である。
「イレギュラーズの皆は『手軽な飛行手段』があるんだよね。いいなあー。ライブで空を飛ぶとかキマりそう!」
「そうかしら。空を飛んだら風で化粧が崩れそうなモノだけれど」
嘆息したのはビッツ・ビネガー。アーカーシュの調査と攻略に手を貸して欲しいとパルスが派遣された際にイレギュラーズと共に同行する事となったラド・バウ戦士である。
嫌われる傾向のある『クセの強い』S級闘士であるが、戦いの場に出なければ人気のある彼は腕っ節の面から調査隊に加わっていた
「ギエエエエエ」
「ちょっと、どうにかしなさいよ、幽霊」
「……ん」
こくりと頷いたのはウォロク・ウォンバットである。その足下で楽しみと言わんばかりに仁王立ちをしてすっ転んだのは相棒のウォンバットの『マイケル』だ。
「皆は、アーカーシュ、知ってる……?」
――ウォロクは説明する。
御伽噺の島であったというアーカーシュ。
夥しい犠牲や行方不明者を出して調査計画さえ忘れられたその土地は鉄帝国にとっても『未知』に溢れた場所であった。
古くから抱えた食糧問題に、疲弊する土地の様子からも領土拡大に貪欲であった鉄帝は浮遊島に可能性を見いだしたいのである。
「アタシはあんまり知らないわね。御伽噺だと思っていたもの」
「んー、実はボクも。って言っても知ってる人ってあんまり居なさそうだよね。
……と、言うわけで! 遺跡の調査に向かう皆とは別にボク達はアーカーシュに到着したら遺跡の村『レリッカ』での交流へと参加しようと思います!」
遺跡の村レリッカ――
それはアーカーシュ調査隊が開いたとされる村である。子孫達が細々と過しており、レリッカの村長のアンフィフテーレはイレギュラーズを快く受け入れてくれたらしい。
「良ければ宴でも開こう。たいしたものはないが、皆の娯楽にもなる」
木材建築の並んだ長閑な村は、空き家も多く自由に使ってくれて構わないという。
だが、村民の少ない村に大勢で押し掛けるのだ『村の為』になる事をアピールし、アーカーシャ攻略の助けにしたい。
「村の様子を事前に調査しておいたけれど、あの村は食料がボク達が思っているより偏っているんだね。
例えば、調味料がないとか……ソライロイモとか、何だか不思議な食材が多いみたい。まあ、浮島だし……」
それ故に、地上から食事を持ち込んだり振る舞うことが村民にとっては喜ばしいことであろうとパルスは考えた。
料理自慢のイレギュラーズは是非とも参加し、村人達に料理を振る舞って上げて欲しいという。
「あとは、伝えておくのはそうだね……」
パルスはアンフィフテーレの言葉を思い出す。
――一つだけ注意しておこう。知っていると思うが、この島の外側は雲と暴風に覆われていたんだ。それも、ついこの間まで。けれど今ちょうど帝国にお世話になっているユルグ少年が、村の奥にある石版に触れたとたん、雲がみんな吹き飛んでしまってね。原因も何も分からないんだ。我々もこの島を、ほとんど調査出来ていないのさ。だから未知の危険があることは、承知しておいてほしい。安全な場所は教えるがね
村人が狩猟や採取を行う森の付近や魚や水を調達指定湖と川、村周辺は安全だがそのほとんどが未踏だ。
故に、村の中で開かれる祭りでの交流に留めておいた方が吉であろう。
お祭りというのは簡易的な小さな宴だ。遺跡が多く、こじんまりとした村から風情ある眺めを楽しむほか、酒や料理を持ち込んで村を楽しむ程度に留まるだろうがそれでも村人にとっては大きな娯楽になるだろう。
「アンタ達はワイバーンが居るんでしょ? その子に乗って、飛行して見るのも気持ち良さそうじゃない?」
「……楽しそう。遺跡も、子供達の遊び場担ってるところは入れそう、らしい……。
他は調査待ち、だから、ダンジョンアタックはまだ、だけど……マイケルも、今は縁を繋ぐに留めようって……」
一先ずは村を楽しむ事を優先しよう。
鉄帝国と『アーカーシャ』の交流第一歩だ。
- <アーカーシュ>レリッカ探索隊完了
- GM名夏あかね
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2022年04月18日 22時05分
- 参加人数79/∞人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 79 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(79人)
サポートNPC一覧(3人)
リプレイ
●レリッカI
天を悠々と進む浮島は嘗て語られた御伽噺そのものであったらしい。
「へえ、そんな伝説があったんだね」
伝説――と言いきってしまえば自身が立つこの浮島は夢想の随に搔き消える。そう、今回は『伝説』ではなく『現地との交流』が主題なのだ。
楽しい宴にしようとスースァが声を掛ければ「喜んで」と村長アンフィフテーレ・パフはイレギュラーズを誘った。
「こんなところに、こんな場所があるなんて! ニルはとってもとってもびっくりしたのです。
ニルは村の人たちとごはんを食べたいのです。タルトとか、おかしとか、いろいろ持っていってみるのです。
ここではどんなごはんがあるのでしょうか? みなさま、どんなごはんがすきなのでしょうか? ニルは知りたいです!」
うきうきとした様子のニルは食事を必要とする身体ではない。
だが、村人たちの『おいしい』を感じ取ることができればきっと『しあわせ』になれるのだ。
「空飛ぶ島アーカーシュ……凄い! 物語でしか見ないような場所に今私来ているんですね。誘ってくれてありがとうございます、怪人さん」
驚いた様子で息を飲むマリエッタに英司は「はは、なぁに一人で行くのも寂しかったからよ」と手をひらりとふって合図した。
「アンタのそのキラキラした目ぇ見られただけで得した気分だな。
こんな所があったなんてなァ。世界は広いぜ。
さ、アンタは存分に満喫しな。俺ぁ初対面の人間と会話するにしちゃ、”アク”が強すぎるからよ。怪人だけに」
マリエッタもイレギュラーズになりたてだろうか。彼女のサポートをするのも怪人の仕事だと調理面の雑務は自身が担当すると宣言する。
「ありがとうございます! 折角ですから村人たちと交流してどんな生活をしているのか聞いてみますね。
料理はライ麦サンドイッチと野菜のスープに……でも現地のお肉を焼いて挟んだりするのもいいかもですね。地上の生物と比べてどうなんでしょう?」
「味は空にも昇るような味だろうな」
揶揄うような英司にマリエッタは「美味しいならうれしいですね!」と微笑みライ麦パンを切り分けた。
「こんな風に歓迎してもらえると嬉しくなってしまいますね♪
わたしはお菓子を持ってきたので村の皆さんに振舞いましょうか。ささ、たくさんあるので遠慮せずに食べて下さいね♪」
エアの微笑みに付き添う様に子供たちが不思議そうに彼女の持ち込んだお菓子を見やる。
「そうだ、材料もあるので興味があれば作り方も教えますよ」
「……ほんと?」
「……あら? 君、お菓子作りに興味あるのかな? じゃあお姉さんと一緒に作ろうか♪ 貴方が作ってあげたらお父さんとお母さんもきっと喜ぶよっ♪」
小麦粉など材料はここでは手に入らないものも多いだろうが、それでも持ち込むことで新しい文化が開ける可能性もある。
「今回の祭事、部外者の僕たちを参加させてくれて感謝するよ。ぼかぁ料理は出来ないが、君たちが興味を持てる話題の提供をしよう」
挨拶をするエクレアは珍しいものは持っていないが、と前置きしてから『名もなき英雄の遺産』を見せた。
武器を紹介することで警戒する島民達の心を和らげることが出来るだろう。
「刃が折れてるが、味方を強化する便利な武器(おもちゃ)なんだよ。この地でも珍しいモノはないかい?」
食事の合間にでも教えて欲しいと頼めば村人達は弓などのお手製武器をエクレアに見せてくれることだろう。
「聞いた事がある。他所との交易が途絶えると、地域によっては金属とそれに類する技術が失われると。目の当たりにする日が来るとはな」
ラサの料理を持ち込んでの交流に商人としてラダは島の物品と『交易』を行う為にやってきた。
調味料はラサで食されるものよりも控えめを意識している。ラダにとってもアーカーシュの食料は少し勇気が必要であるかもしれない。
突拍子もない色をした料理を口に含むことになるならば――「……大丈夫、生食じゃなければ大体大丈夫だ。たぶん」と告げる必要があるのだ。
「対価として幾らか金属の道具を持ってきてみたけど……良ければ、ささやかながら交易させて欲しい」
問い帰れば村人達は「交易になるような品があるかどうか」と肩を竦めた。成程、逆に『下にないもの』に目星を付けてやる作業が必要だろうか。
「ここが御伽噺だった浮遊島アーカーシュかね……リーゼロッテ様に土産話を探そうかね……」
ヴィーザルに領地を預かるオウェードはランドマスターメロン果汁のソフトクリームを提供し続ける。
「甘いものはいかがかね? これがヴィーザル地方で育ったメロンの果汁で作られてのう……それでも食糧問題の解決がまだまだじゃが……」
「メロンをここで育てるのってできるっすかね?」
こてりと首を傾げたリヴィエールを前にオウェードはパサジール・ルメスの情報屋であると気づき深々と挨拶をする。
「始めましてじゃ……ワシはオウェードじゃ!
パサジール・ルメスに所属している少女からよく聞いていてのう……さておきソフトクリームが欲しいかね?」
「ご相伴に預かるっす!」
にんまりと笑ったリヴィエールを前にオウェードは口ごもることはなかった。これも商売やそうした事の取引の場。リヴィエールは良きビジネスパートナーになりそうだ。
「鉄帝に領地を持つ者として実に興味深いのである!
吾のとこは農耕が盛ん故、特産の美少女米や野菜を持って来たのでこれで珍しい植物を交換しようぞ。
持って帰って吾のお庭で育てられるか試してみる! 美味しいものも好いが、吾は花もすきだぞ」
どうだろうかと百合子が問いかければ「どうなるか聞かせてくださいね」と村人は幾つか獲れたという赤い花の種を手渡した。
「ふむ。ならば吾も持ってきた。此処で育つかは分からぬが、プランターにでも撒いて育ててほしいのである。
アーカーシュを探検する上でレリッカが発展してほしい……という下心込みであるが、育てば食べられるものも増えるしさほど悪い話でもあるまい」
揶揄うように笑った百合子に村人は「コツはありますか?」と問いかけるが――
「うん? 育てるポイントであるか?
吾のとこはヴィーザル農法といって襲ってくる賊を埋めて堆肥を作っておるぞ!」
……ちょっぴり過激なのである。
「まぁ、まぁ……村の人たちとぜひ色々お話してみたいわ。特にお洋服を作られる皆さん!
主婦の方が多いのかしら? そのお洋服、自作なのでしょう?
実は私も洋服店を営んでおりまして……初めて見る織り方、服の形に興味がしんしんなんです」
穏やかに微笑むカシエは百合子におっかなびっくりの様子を見せた村の男性が妻を連れてきてくれると聞き心を躍らせた。
染料を渡せば村人達は素材を交換してくれる。カシエも其れを利用すれば新しい染料に出会えるかも知れない。
「きっと同じようなものもあれば全く違うものもあるのでしょうね。持ち帰って育つかしら、ぜひ試してみたいわ。
それから、もし出来るなら……一緒に編み物をしてみたいです。
技術交流……とまでは行きませんけれど、親しくなれるきっかけになれば良いなと思いまして」
「教えて貰えますか?」
余り詳しくないのでとおずおずと口を開いた夫人に「是非!」とカシエは手を打ち合わせた。
「食卓を潤わせ、心を癒すのも僧の勤め、なんてね。調味料がないなら、作っちゃえばいいじゃない」
ある程度の食料品を持ち込めるならばと沙弥は卵と油、酢を準備してお手軽なマヨネーズを作成する。
料理技術と科学的な素養を利用すればそれらは容易に作成できて子供たちにも教えられるものとなる。
「アーカーシュのものだけで今後も作れるかも。誰かちょっと試してみない?
お肉が獲れるなら、脂身の部分だけを熱すればラードが取れる。それに鳥の卵をよく混ぜるだけよ」
「鳥ってどんな……」
「うーん。酢もあれば日持ちするけど、これだけでもらしくなる。
お好みで香草や柑橘系の果汁なんかを混ぜてもいい。肉でも野菜でも、まあ魚にも使えるわ」
アーカーシュの地場の物で作るならばどのような鳥が生息しているかを調べるところからだろうか。
「宴と言えば酒だ!」
スースァが持ち込んだのは大量の酒類であった。ワインにジン、ハーブ酒エトセトラ。子供たちが丸い目をしてスースァを見上げれば「子供たちはこっちだ」と彼女はフリアノンポテトとお菓子をテーブルへ。
芋の調理は仲間に任せばおいしい料理となる筈だ。
「覇竜もさ、少し前までは外と交流なかったんだ。
色々あって忙しないけど、良い変化に出来るって思ってるし、此処もそうなればいいなと思うよ」
ハーブを使った酒に丸い芋はスースァの故郷の産物だ。そうして、交流に使用することできっと良き未来が開けるだろうと彼女は快活に笑った。
●村近郊I
「ここが遺跡の村、レリッカですわね! 新天地、新種族、新たな強敵。うふふ、ワクワクが止まりませんわ!!」
「……ん」
「ギエエエエエ」
にんり微笑んだシャルロッテはウォロク&マイケルと共に村人たちに狩猟を学ぼうと考えていた。
古風な罠を使用し、未知の生物を捕らえるが村から離れすぎると窮地に陥る可能性があると村人たちは語る。
シャルロッテは自身の戦闘能力を活かして重い一撃をドーンと放つ。
「やりましたわ、見てくださいまし!」
満面の笑みを浮かべるシャルロッテ。その姿は小動物を獲った猫そのものだ。「すごい」と無表情のまま拍手をするウォロクと負けてはいられないと『ギエ』るマイケル。そんな様子を眺めながら狩った獲物を食するためにも更に狩りに興じるのであった。
(伝説の浮島も興味はあるが、俺の関心はビッツ殿だ。
……R.O.O.では色々あって師事を乞うようになったが、そうなると現実の彼とも縁を繋いでおきたくなるものだ)
弾正はビッツに良ければ同行してくれないかと申し出た。
ラド・バウを出れば気の良い『オネエサン』であるビッツは「構わないわよ?」と笑う。折角ならば二人で狩猟を楽しむのだ。
そうしてみれば、何とも意外なことにR.O.Oでの知識を活かせばビッツとの連携も上手くいく。
「やだ、全てお見通しって感じでドキドキするじゃない」
「戦闘後にはぴかぴかシャボンスプレーで身綺麗にできる準備をしている。
そういうところに気をつかう人だったと思うのだが、どうだろう?」
「……悪くはないわね。イイ男じゃない」
「っひゃあー! 空中神殿も凄かったけどやっぱり別格だねえ……」
メープルは妖精郷にも綺麗なところはあるけれど、と待ち合わせ先に向かいながらアーカーシュの様子を眺めた。
安全な場所でのんびり仲間と過すのは屹度、楽しいだろう。さて、待ち合わせ場所までのんびりと向かおうか。
「わあ、浮遊島……! 噂話や物語には聞いていたけれど、本当にあったんだね!
うーん、覇竜領域もそうだけれど、まさにおとぎ話の世界! って感じでワクワクしちゃうな! 何から調べようかなあ、お話してみるのも楽しそうだなあ。迷っちゃう!」
うきうきしたアレクシアは幻想種として気になる自然の確認に赴いていた。どんな植物があってどんな動物が暮らしていてどんな花が咲いているのか。
森の奥には入りたいが、森の奥に入りすぎることは危険だ。植物たちも普段とは違って見え、どうやら『地上とは別の植生』であるらしい。
「ここから先はダメ?」
首を傾ぐアレクシアは森の林の向こうから村人が「そこから先は危ないですよー」と声を掛けてくれていることに気付いた。
未知なる土地にやってきて冒険せずにはいられない。ヴェルミリオは「スケさん、冒険者の血が騒ぎますぞ〜!」とウキウキした調子で叫んだ。
「やはり、現地の方の暮らしを知るなら食料調達の方法を学ぶのが1番ですな。狩猟方法には伝わってきた伝統が、獲物には土地の特性が出る。
現地の方に学びながら体験できるなんてスケさんは幸せものですぞ〜! 罠の仕組みを教えていただけるでしょうか? どんな道具を使うのです?」
ワクワクとした調子の彼の目の前で弓など古風なものが使用されていると村の住民たちは語る。
確かに、その様子は特異な所は見られず鉄帝国でも利用されるものなのだろう。この島の原生植物はあまり名前がついていないらしい。
「もしも『下』と別のものを見つけたら名前を付けてもらうことになるかもしれませんね」
「それは! 楽しそうですな~!」
喜ぶヴェルミリオに『スケさん』と呼ぶ住民たちは親し気であった。
「浮島に湖かぁ。どこら辺に水源あるんや? ……まぁ細かい事は気にせんとこ。さぁ釣るで〜」
首を傾いだ雷霧は赤い眸で湖面を見やる。刀剣を扱うがごとく、優美に振り上げた釣り竿から放たれたウキだけが湖面にゆらゆらと揺らぐ。
湖から少し離れた位置にテントを張り、適当に捕まえた虫を餌にぼんやりと釣り糸を見やる。
「数日間、のんびり釣りするってのも悪ないなぁ……珍しい場所やし、おもろい魚とか釣れればええんやけど」
発見にはやや骨が折れそうだが本腰を入れてみれば新たな発見がありそうだ。
「おんやまあ、アーカーシャでごぜーますか。空の散歩も行きたいところでありんすが……」
ふうむと呟いたのはエマ。行けるところまで行けば、何か『驚異』にである可能性もある。それがローレットに伝わればこれからの冒険にも役に立つだろう。
食糧不足であるのは知識が乏しいからなのだろうが、今は狩猟を中心に村人達の助けになって遣っても良い。
宴会としゃれ込んで、得た食材を村人に分け与えるまでが今日の冒険である。
少し進めば其れだけでも奇怪な生物は居た。何気ない石のようにも見えたがエマが近付けば突如として『立ち上がり』襲いかかってきたのだ。
……成程、これが驚異。慎重に進まねばならなさそうだ。
「ほう! ここが空島アーカーシュか! ここを放浪できるたぁ長生きはしてみるもんだ!
空中庭園もイレギュラーズになるまで夢のまた夢だったが、これはまた違った良さがあるっつーか。取り敢えず放浪だ!」
さて、何をして楽しもうかとバクルトは源氏民と会わせての狩猟手伝いに興じていた。
此処で捕れるものを見る限り地上とは大きく変わっている。狩猟用の罠の作成や現地の民の作る弓矢を見ればそれは現代的とは言えない代物であった。
「獲物もなかなか獲れたし丁度酒があるんだ、どうだ? 酒を傾けながらお互い土産話でも洒落込まねえか?」
「安全な場所まで向かったら是非!」
笑う村人にバクルドは大きく頷いた。
「空に浮かぶ島があるなんて思いませんでした。少し、驚いています。どうやって浮いているんでしょう?
交流は気が引ける部分もありますが調査として見に行くのならいいでしょうか」
そう問いかけるジョシュアにシエルは「誘わないと未知の場所とかなかなか行かないでしょ?」と揶揄う様に見やった。
「遊べばいいのにジョセは真面目だなー。ちょっと水飛ばしちゃお」
「冷たっ。シエル様、水を飛ばさないでください」
ジョシュアが行ったのは近郊の川の水質調査だった。自然知識を利用すれば一見美しい水が飲めるかどうかを判断することもできそうだ。
慎重に動くジョシュアを揶揄うシエルは「手伝って欲しい?」と笑う。
「と言われてもキミよりわかりそうなのは石くらいなものだよ。期待はしてないけど綺麗な石でもあればいいね」
「アーカーシュ…。空想上のものと思われていた浮遊島、かぁ。
何十年も見つからなかった土地が、急に姿を見せるっていうのは、捜し物をしてる身としてはちょっと希望が持てるね」
トストは川や湖を散歩しながらその水質を確認していた。潜ればそこはただの『水の中』だ。
上空にあろうとも、地上であろうともそれには変化はない。水の中で見える魚たちには大きな変化があるように感じたのは――屹度、気のせいではない。
(――あれは、知らないな……)
水の中を泳いだ奇妙な魚。極彩色の尾鰭は長くリボンのように美しく垂れ下がっている。
トストの知らない魚は彼に気付いてからゆらゆらとその体を揺れ動かした。
(けど、地面の底でも、地表でも、空の上でも、何も変わらないんだな……)
「空飛ぶ島アーカーシュ……そういえばROOでも空の島を探索していたな、あれは空中庭園だっただろうか。
植生とか土着の動物とか、興味あるんじゃないかと思うんだ。イシュミルが。あんた好きだろう、そういうの?」
「特別に植物が好きという訳では……? まあ、嫌いではないよ。……キミの事じゃないよ? 植物の話だよね?」
首を捻ったイシュミルにアーマデルは頬を掻いた。変な植物の採取を最近は頼まれなくなったなと頬を掻くアーマデルは少しばかりの見やすさを感じさせるスムージーを思い出し、明日は槍が降るのかと心配したのだ。
「……何か困ってる事があったら相談してくれてもいいんだぞ」
「ではそういう事にしておこうか。むしろ、私に相談したい事があるのはアーマデル、キミの方なので「別に思ってない。思ってないぞ。思ってないって言ってんだろ」
――少しばかり食い込んできた。咳払いをするアーマデルは「あっ見ろ」と誤魔化すように指差す。
「あそこに見たこともないキノコが」
「うーん、未知の種という訳では無さそうだ。このあたりはあの種に固有の特徴によく似ている。
せいぜい亜種という所じゃないかな? 念の為採取して行こうか。他にも何かあるかも知れないしね」
イシュミルを連れていれば、何となく新種スムージー開発が行われそうな気配がするアーマデルなのであった。
「ふっふー! おじさまには内緒で出てきちゃった。だってすーぐ心配するんだもん。転ばないかとか」
一人でも冒険出来るもん! と遣ってきたルアナ。屹度、家では『オジサマ』が大騒ぎしていることだろう。
……何せ勇者(庇護下)が家出したような光景なのだから。
「勇者といえば冒険だもん! 遺跡とかあるみたいだからいってみよー……ふわっ!?」
丸いもふもふにぶつかったと慌てるルアナは「ふぁ? ご、ごめんなさぁ……。ええと、あなたは?」と顔を上げたずんぐりむっくりを見下ろした。
「ギエエエエエ」
――威嚇された。
びくっと肩を跳ねさせたルアナは「見たことがあるような……ええと。まいけるさん!」と指差してから、その背後に『飼い主』を見付ける。
「と……ええとええと。ウォロクさん! せっかくだし? 一緒にお散歩しよ。わたしはルアナだよ!」
「ん」
こくりと頷くウォロク。どうやら同意したらしい。さて、何処まで遊びに行こうか――
●村近郊II
――空を飛ぶのが夢。
そう告げたのはジェイクの娘、碧であった。碧は「ふしぎだね。しまが空を飛んでいるの?」と首を傾げる。
「ああ。そうだ。ワイバーンに乗ってみようと思ったが……其れも危険だろうからな。
子供達が楽しめる場所があるらしいし、遺跡に向かってみようか。もしかしたら碧のお友達になってくれそうな子もいるんじゃないかな」
「お友達? 本当?」
瞳を輝かす娘に頷いてからジェイクは小さな碧の手を引いた。てこてこと歩く少女はどこか嬉しそうに周囲を見回している。
「あなたはだあれ?」
腰掛けたロボットを指差す碧に「ロボットさんだよ」と村の子供達が告げる。
「わあ」
「……この子は碧。良ければこの子の友だちになってあげてほしい」
「僕は碧。みんなとお友達になりたいな」
「勿論! おじさんは調査するの? 碧ちゃんと僕らにも教えて!」
楽しそうに笑う島の子供達に碧は手を差し伸べて「いいよね、お父さん」とうきうきしたように眸を輝かせるのだった。
支給品は不要だと食糧品を必要としない己の身を鑑みてグリーフは告げた。代りに差し出したのは油である。
対話の出来る古代兵器に油などを差し入れるのはどうかと考えたのだ。
「あまり鉄帝国にはなじみがありませんが……練達で産まれたものではない秘宝種も”何らかの遺失技術によって作成された機械体”。
なにか、通じるものが、あるでしょうか。
睡眠も不要の身です。古代兵器の方の中にも、眠らない方がいるかもしれません。
長命種以外では当時、あるいはそれ以前の物事を知る方々。夜の散策をしながら、そういった方たちのお話を伺えれば……」
屹度、得るものもある筈だ。そうして遺跡に辿り着いたグリーフを前に、腰掛けたロボット兵士は『コンニチハ』と流暢に挨拶をした。
だが、繰り返すばかり。コンニチハ、ドウイタシマシテ。そんな『当たり前の言葉を教わった』だけのロボット兵士はグリーフに友好的に接してくれる様子だ。
ロボットとの対話は余り役に立たないかもしれない、と黒子は思い返す。
子供達はロボットに言葉を教えて遣ったのだという。破損が大きいロボット兵士だ。動くことはないが意思疎通をする上で記憶を失っている予感がする。
「ロボットの残骸を採取しても構いませんか?」
「良いと思うよー?」
黒子に質問され、ロボットに『おはよう』『こんばんは』を教えたという子供がにんまりと笑う。
残骸や破片を得ておくことは『修復のため』とは口にするがこれからのアーカーシュを紐解く切っ掛けともなるだろうか。
「さて、秘境の地の探検というわけだが……僕がやることはこの地にすむ生物の調査、のためのサンプル集めだな。
確かに破片も必要だろうが……生物たちも必要そうではある」
シューヴェルトはリトルワイバーンに騎乗してみたり、村人の狩猟に混じり、遺跡を探索とやることは盛りだくさんだと考えた。
――ここに至るまでに彼は奇怪な生物を相手にしたという。其れについて問いかければ鉄帝国は『古代獣(エルディアン)』と呼んでいた。
成程、此処での驚異は古代獣(エルディアン)と呼ばれた異形のモンスターか。傷を負いはしたが其れとの接敵だけでも儲けものであるかも知れない。
「ロボット兵士さんも古代獣(エルディアン)に攻撃されたんデスカネー?」
首を傾げるわんこは同じロボット同士で親近感が沸くとその傍らへと腰掛けた。屹度、大先輩のロボットだ。
「稼働何年目デス?」
『ワカリマセン』
それだけの長い時を過してきたのだろうか。わんこは自身の過去も話せないのだから『大先輩』の分からないも仕方が無いと頬を掻いた。
「どんな人生……ならぬ機生を送って来たのか伺いマショウカ。大先輩のこれまで、興味ありマース。
他の遺跡なんかに行ったことはあるのデスカ? わんこ達は島を荒らすつもりは全然なくて、交流や冒険の為にやってきたんデス。だから、村の為に色々と出来ることもあると思いマス」
『アリマス。探索シマシタ』
「例えばどんな!?」
『ワタシハ、稼働シナイ遺跡ヘユキマシタ』
「稼働しない……」
そう言わしめる遺跡とは、どのようなものなのだろうか。物質などから調査を広げて行くのも大事そうではある。
「空の上に浮かぶ島、地上の私達からしたら未知の幻想。島の住人達からしたら、私達の方が幻想の人。
でも、多分私達は大して違わない同じ人間。きっと分かり合えるでしょうね」
だからこそフルールは地元の子供達が遊んでいる遺跡のロボット兵士との会話を楽しもうと考えた。
「動かない、ということはそれなりの年月は経っているのでしょう。この地の昔話はよくご存知だと思いますし、何故浮いているのかとか。
兵士のようだけれど、昔に何かと戦っていたのかとか。何のために作られたのかとか。その代わり、地上のお話を私はしてあげましょう」
『気付イタラ、居マシタ』
余り詳しいことは分からないのだろう。子供達が教えた辿々しい言葉を返すロボット兵士にフルールとその精霊達は首を捻るだけでもある。
ロボット兵士は此処で朽ちているが、その様子を見る限りかなりの年代物で硬質な素材を使用されていることが良く分かった。
「どういうカラクリで浮かんでいるのかしら?
浮遊しているメカニズムを解き明かすことが出来れば、航空産業にも手が届きそうね。というわけで遺跡に行くわよ遺跡」
そう告げたレジーナにツクヨミは「はいはい」と目を眇めた。
「本当はお嬢様もお呼びしたかったけれども。
流石に鉄帝領内へのご訪問は下手を打つと『遊び』では済まないから残念なのだわ。ツクヨミ、何か分かりそうー?」
「……相変わらずアーベントロートの令嬢ファーストなのですね貴女は。何がそんなに執着させるのか、私には全く理解し難いですが」
ツクヨミは子供の遊び場になる程度の馴染みのある場所。そうそうお宝は出てこないだろうと応じる。
「お宝探しですか。トレジャーハントには経験があります。敵施設に貯蔵された希少金属の奪取ですとか」
「今日は違うわよ」
「ん? そういうのではありませぬか。ふむ……どちらかと言いますと散策に近い、と。
しかし、しかし、浮島の秘密が解き明かすことができれば航空産業に手が出るというのは興味深い説ですな? 何故地上から空へ打ち上がったのか」
成程と頷いたのはSpiegelⅡ。航空力学的にも浮遊するはずのないものが浮遊しているのであればシュピーゲルの改修にも役立ちそうだと彼女はぱちぱちと瞬いた。
「ふぅむ。一体いつ頃の遺跡なのか知らねぇ……何か文献とか残ってないのかしら?」
奇妙な植物が絡みついた浪漫溢れる空間でレジーナは分からないなあと首を傾げるだけであった。
「ユルグという少年の例もある。危険が少ないという遺跡にも何か面白い物があるかもしれないな。
恐らくこの浮島事態も人口物なのだろうし。他の遺跡と共通するギミックなどがあるかも知らん。
クライアントととしても、遺跡の技術や遺物の軍事転用が可能かどうかは気になる所だろうしな」
そうだろうと振り返る愛無。クライアント――グラナーテは食糧問題の解決よりも先に軍事転用の目を光らせているようでもある。
「遺跡内部に踏み入ってみるが、聞きたいことは?」
「ロボット兵士に『此処には調査隊以前に人が居たのか』と問いかけて見る。
人が居たのであれば、何ぞ食料生産に関わる技術や何かが残ってるかもしらんしな。現状では動いていなさそうだが……」
グラナーテに愛無は頷いた。調査の目を光らせればセラミック的物質を感じさせる遺跡内部は正しく人工物そのものだ。
大部分が破損し、地下に繋がる扉なども存在していそうだが……そこは開かなさそうでもある。
「地下、があるならば何かが眠っているのだろう。我々はその辺りも調査しなくてはならなさそうだな」
「遺跡の探索ってロマンがあって楽しみ! どんな発見がボク達を待ってるのかな?」
うきうきとするセララの背を追掛けるのはハイデマリー。
「今回は古代遺跡の調査なので立派な軍務なのですが。まぁ、楽しめる分楽しんだもの勝ちともいうでありますね」
軍が調査に乗り出すならばハイデマリーにとっては軍務の一環だが、セララと楽しめるなら楽しんだ方が良い。
どうやら、この場所は子供の遊び場だ。ハイデマリーが準備した周囲を見遣る力や飛行能力を駆使せずとも安定して活動は出来そうである。
「こっちだよ、マリー!」
呼ぶセララに頷いたハイデマリーは周囲を見回した。
落ちた遺跡の破片はセラミックなどを思わす硬質さだ。古びているからこそ遺跡と呼ぶのかも知れないが、奇妙な違和感を覚えたのは確かである。
「古代の文明の謎というのは聊か不気味さもありますな。
なぜ滅んでしまったのか……開けてはいけない棺を我々はひらいているのか。それとも過去からの祝福なのか――鉄帝にとって祝福とならんことを」
伝説の浮き島。無数の遺跡。朽ちた機械を思わせたロボット達。何とも浪漫溢れる光景にリュカシスは「浪漫だなあ」と呟いた。
「こんにちは、ボクはオールドワンのリュカシスです。あなたのお名前は? カッコいいですね、仲間のロボットもいらっしゃるのですか?」
『ガ――ガガガ、ワタ――ワタシハ――エージュウヨン――』
……聞き取れたのは『えーじゅうよん』という名前だけだ。それだけでも「えーじゅうよんさんですね!」とリュカシスは微笑む。
遊び場の遺跡にも向かってみても良いだろう。自然知識を活かし、自身では入れない場所を覗き込んでみるのも悪くはない。
歯車をその身に貼り付けたような奇妙なリスがリュカシスのファミリアーを覗き込んでは其の儘逃げ出して行く。驚いてから「あれって?」とリュカシスは首を傾げるのだった。
●空中散歩I
何かの背に乗ってのんびりと過ごすのもまた一興だろうかとアンリは周囲を見回した。
村の周辺であれば強敵に襲われることもなさそうだ。のんびりと空中散歩を楽しめそうである。
「えーと、ここが地図のこのアタリだから……アッチが遺跡ガワかな?」
土地勘のない地ではイグナートも危険生物が出る空域や領域に遠出は考えては居ない。ちょっとした冒険はしてみたいが……。
地図と言っても簡単に仲間が作ったものがある程度でほぼ空白だ。村人達も「分からない」と首を振るばかりではある。
「ウーン」
周辺地図も余り役に立たないならばワイバーンに乗って新しい冒険の場所を探すことが課題だろうか。
傍らを飛んで行く蝙蝠らしき存在に気付いてからアレは何だろうとイグナートは首を傾いだ。
「公的な、それもラド・バウ上級闘士が複数人関わる招待となれば、受けない訳にはいかないのでやって来ましたけど。
自分に剣を振る以外を期待するのは、少々無茶だと思うのですよね。やれるだけはやってみますけど、あまり期待はしないで欲しいところです」
そう嘆息したのはオリーブ。鉄帝国軍がラド・バウファイターまで登用して大仰に調査隊を編成するのだ。
専門知識は無いが大まかな地図に付け加える周辺確認はできそうではある。
「何かあった?」
「そうですね……遺跡が多いな、というのが印象です。水も揃っていますし、悪くない土地かも知れません」
イグナートはオリーブに「ナルホドー」と頷いた。正直言えばイグナートの最初の印象は『また鉄帝に食糧が貧弱な土地が増えたね!!!!』であったがもしかすれば活かせる土地であるのかも知れない。
「おー。これが空飛ぶ島か。……どうやって浮いてんだこれ妖術か???
世の中には故郷で棒きれ振ってた頃には思いもしなかった不思議なもんが沢山あるなあ……」
村も気にはなるが、斯うして島の中を確認するのも重要な仕事だ。獅門はワイバーンに跨がって超方向感覚を駆使して空白の地図を埋めるように宙を行く。
獅門がワイバーンで調査を行うように、ヘイゼルは島の中をゆっくりと歩いていた。
「空に浮かぶ島とは興味深いですね。
空中庭園は生活感の有る処ではありませんので、空の上の島での暮らしは此処にしかない様式で満ち溢れていそうで見て回るのが楽しみなのですよ」
ヘイゼルが意識するのは『原因不明』に島が拓かれたのだとすれば『唐突に』事態が急変する可能性だ。
一先ずは仲間達の情報を収集して安全な探索のために地図を作成しておくべきだろう。
「さて、村の周辺はどんな感じになってるのかな」
コータはリトルワイバーンに騎乗し悠々と空を進む。騎乗への慣らしを兼ねたリトルワイバーンの騎乗はレリッカを眺めるのに適している。
「あそこは地上からじゃないと探索は無理かな……後で他の皆にも伝えておこう。
――っと、まだまだ完全には乗りこなせてないかな。もっとこいつらと仲良くなって、いつかいっぱしのワイバーン乗りになってやるぜ!」
騎乗にはコツがある。特に慣れない空ではワイバーンたちも本調子ではない。ここから、立派なワイバーン乗りになることを目指すことこそが目標だ。
「何もかもが未知に満ち溢れているのなら、せめてこの村を中心とした地形の把握ぐらいはやっておかないと危険ですよね」
ノアはメタル・カオス・ワイバーンに騎乗して村周辺を飛び回る。ロボット兵士の残骸などという高い技術力を感じさせる物品が多いのは確かだ。
それらが目覚める『鍵』があるかもしれないともノアは考えた。何らかの切欠で動き出せば敵にも味方にもなろうロボット兵士達を遠巻きに眺めてふと首を傾げる。
「……それにしても、村の子供たちがメタル・カオス・ワイバーンをじっと見ていたような気がしたのだけど。
やっぱり機械でできた亜竜って気になっちゃうものかしら? ……まさか似たような物がこの島にいたりしない……?」
アルフィオーネにとって翼は郷里での生活で大空ではあまり駆使しないものだ。心配そうなドラネコに「大丈夫よ」と微笑んで、リトルワイバーンの支えで飛行訓練を兼ねてみる。
村周辺を眺めれば、美しい浮島の周囲には雲が幾つも点在して見えた。遠くを見やれば遺跡なども存在するだろうか。村周辺から離れなければ情報入手は難しそうだが。
「それにしても、風が気持ちいいわね。郷里でもこんな風に飛べたなら……」
難しいかしら、と呟くアルフィオーネに答えるようにドラネコが鳴き声を上げた。
「りんりんもイレギュラーズになってたなんてなー。意外と世界は狭いのかな?」
「お互い元々仲良かったけど、まさか二人してイレギュラーズなんてねぇ」
仲良しの『りんりん』と『ゆえ』こと鈴花とユウェルは二人で悠々と空中散歩。
好き勝手に空を飛ぶのは領域(くに)ではありえなかったことだ。鈴花が言う様に「ワイバーンとかに襲われない平和な空があるなんて」が正に彼女達の故郷の危険さを表している。
「んー、でもやっぱりわたしはいつもの騒がしい空も好きかなかな?」
「そっか……ところで。ローレットの近くのケーキ屋さん行った?
アタシこの前初めて並んで行ってね、フルーツ山盛りのタルト食べたのよ。あれすごいわ、もう宝石」
「宝石!?」
「いやアタシは宝石食べないわよ。でねでね、曜日限定でんぎゅーって搾り出るモンブランがあるみたいで……はっ今日じゃない!」
「えっ、わたし基本覇竜の依頼ばっかりだもん! おうちのお手伝いもあるからあんまり遠出できないのにりんりんずるーい!
うおー! かっ飛ばしていくよー! りんりん! モンブランを食べに行こう!」
かしまし乙女二人組。求めるのは美味のモンブラン。空中散歩も楽しいけれど、甘いものには勝てないのです。
「本当は息子のラスヴェートも連れてきたかったけど、まだまだ未開の地…どんな危険があるか分からない場所に幼い息子を連れてくるのはリスクが高い。
もう少し彼が大きくなったら、一緒に旅に出たり探索も出来るようになるんだけど……それは将来のお楽しみ、かな?」
問いかけるヨタカに武器商人は頷いた。未知で未開。そんな場所に可愛い『ラス』を連れてくるのは憚られた。
「いいお土産を探そうか。何にする? 小鳥」
「何にしようかなと悩んだけど、ラスは子供が遊ぶ玩具よりも帆船だったり本だったり知識の探求をするのが好きだから……。
空を飛んで彼の好きそうな鉱石なんかを発見出来れば……どんなワクワクが待ってるのか楽しみだね……紫月……」
「ああ、いいねえ。小鳥と共に空飛ぶ島を散策……わくわくするねぇ」
微笑んだ武器商人は「今日は優雅に空を駆けるところを見せておくれね、麗しのギネヴィア」とその背を撫でた。
ヨタカと共に空中散歩を行う事はとての楽しみだ。
息子にもこの光景を見せて上げたい。屹度、ラスヴェートはその大きな瞳を輝かせて喜んでくれるはずだから。
「空を飛ぶのは初めての経験……楽しみ、です。
とは言え……この子……齧りませんよ……ね? ……大丈夫ですよね……? ウルフさん……」
ロックを心配そうに見遣ったルシアへとエルゥドリンが首を傾げる。エルゥドリンに齧られる可能性は――無きにしも非ずなのだ。
「それでも齧られたら……赦せ」
しれっと言葉にする彼におそるおそると背に乗ってルシアはロックの誘いで一気に空へと飛びあがる。
「ゆっくりは飛ぶつもりだがエルゥの気分次第もある。気をつけろ」
「え、ええ……空を飛びながらの眺めは……とても素晴らしいものですね」
水をたたえた瞳は大きく開く。ルシアが目を奪われた美しい光景は風で煽られ飛ばぬようにと固定したスケッチブックにしっかりと書き示した。
エルゥドリンにスケッチの邪魔はせぬようにと忠告し、ロックはルシアを見やる。
その瞳は、輝いた。調達指定の湖以外にも様々な未知がある。
「村以外の遺跡も見つかるかしら……?」
「あちらは?」
指させば様々な遺跡が点在していた。そんな彼女の表情を見れば、平穏だった過去が頭によぎる。今はこの永遠に広がる世界を旅すると過去は遠く置き去りに――
●空中散歩II
「空飛ぶ島っ! 響きからしてロマンに溢れててすっごい面白そうっ!
村で行われてるお祭りも楽しそうだけど、新しい場所に来たからにはやっぱり冒険だよねっ!」
うきうきとする花丸は相棒『ハナマルブラック』との空中散歩を楽しんでいる。
「村から離れすぎると危険って話だったけど、実際何があるんだろうね?」
ハナマルブラックの背を撫でれば、ハナマルブラックは胴だろうとでも言う様に首を傾いだ。
散歩のついでのように見詰めれば、空から眺めるアーカーシュには遺跡が点在しているようにも見える。
「今日はポメ太郎も空に飛びだってみるか。高い所は特に怖い事は無いのかな?」
「あ、ベネディクトさんと抱っこ紐状態のポメ太郎だ。おーい!」
花丸が手を振れば、ワイバーンの背に乗っていたベネディクトが緩やかに手を降り返す。その背中には赤子がされるように『抱っこひも』に縛り付けられたポメ太郎の姿が見える。
「わん」
空から見る世界が新鮮なのか少しばかり驚いた様子のポメ太郎は「楽しいですよ」と花丸に返事をするようだ。
「世界は広いな、ポメ太郎。俺達なんて、この世界から比べたら本当に小さい」
「わうわう」
何と言っているのかは分からないが言葉は通じたのだろうか。そんなことを思いながらベネディクトの空中散歩はあと少しだけ続く。
「えと……良かったら後ろに乗る?」
背を丸め、乗りやすいようにと気を配るワイバーンを一瞥してからハリエットはギルオスを眺めやった。
「いいのかい? じゃあお言葉に甘えて――」
二人揃って飛び上がれば、ギルオスは「空中神殿以外にもこんな場所があったなんてね」と目を細めて笑った。
柔らかな声音を聞きながらハリエットは緊張を滲ませ、話があると口を開く。
「沢山考えたんだ。いつも忙しそうにしているギルオスさんが、楽になる方法」
荒唐無稽なことでも無碍に否定しないはず。ハリエットの知っているギルオスは真面目に話を聞いてくれる人だから。
「私も情報屋になりたい。そして、貴方の手伝いをしたいんだ。
今すぐじゃないよ。沢山勉強して実戦も積んで……大人になって、いつの日か」
「……情報屋に? そうか――」
彼女の思いも、信念も。冗談ではないと告げる眼差しが、彼女が必死に考えた結果であると感じさせるから。
「……うん。いいんじゃあないかな。ハリエットがいつか隣にいてくれたら、僕は嬉しいよ」
ハリエットの目が、丸く柔らかな色を帯びた。
彼女が望むなら、彼女がその道を進むのも悪くは亡い。今ではない『きっといつか』、同じ目線で仕事をするのだろうか。
自分よりも小さな背中を後ろから包み込む乍らギルオスが紡いだ言葉の真意をハリエットは屹度、知らない。
「……風が冷たくなったね。ご飯食べようか」
――伝えられただけで、それでいいとハリエットは口を噤んだ。その荷物を分けて欲しいけれど、今は、まだ。
小さなリアムに乗ったジェラルドはリアムに掴まり共に飛行するアルエットがアーカーシュを見下ろす様子を眺めやる。
「あまり遠くに行くのは危ないのよね? 少し怖いな。
アルエット一人だったら怖くてどこにも行けないわ。ジェラルドさんが居てくれてよかった」
「そんな怖がらなくても大丈夫さ。
根拠はねぇけどよぉ……だってアンタのピンチに駆けつけてくれる友達ってのはいっぱいいるじゃねーか! それに今日は俺もいるしな!」
ジェラルドが快活に笑えばアルエットは「アルエットにもお兄ちゃんが居たらジェラルドさんみたいな感じだったのかな」とぽつりと呟いた。
「そうかい? 門下生達の世話ばかりしてたからかね?
まぁでもアンタの事はなんか放って置けなくてよ、ついつい目で追っちまうんだ。だから寂しがるこたァねぇさ」
手を伸ばせば届く距離。寂しくなった気持ちを溶かすようなジェラルドの言葉に「えへへ、ジェラルドさんは優しいのね」と少女は笑う。
「アルエットが寂しく感じた時はいつでも傍に居てやるぜ? アンタが望めば、だけどよ……?」
優しい人と出会えたことがアルエットにとっての幸福なのだろう。
「最初はリトルワイバーンの騎乗も難しいって思ったものだけど、中々どうして…様になってるじゃない、琉珂」
「ふふ、そうかしら?」
上手でしょうと自慢げな琉珂に朱華は「あまり遠くに行っちゃダメだからね」と口を酸っぱくしていった。
「朱華だけならまだしも里の長様を巻き込むわけにはいかないもの」
「危険に陥ったら朱華さんが助けてくれるでしょう?」
「……まあ。――で、少しは気分転換にはなったかしら?
朱華は関わってないから詳しいことはあんまり知らないけど、販路拡大の為に他のイレギュラーズ達と色々頑張ってるんでしょ?
声を掛けてくれたら幾らだって力は貸すつもりだけど、今出来るのはこれ位だもの」
「ふふ、ありがとう! でも朱華さんだって忙しいでしょう? 私、アナタとお出かけできるのが楽しいわ」
見てみて、何か飛んでると指さす琉珂に「乗り出すと落ちるわよ!」と朱華は慌ててその手を掴んだ。
「おおー! 空を飛ぶ島かここー!? すっごいな! どうやって浮いてるんだろうな!?
ここからならもっと高く飛べるってことか。ワイバーンと一緒に空を飛んでみる!
琉珂ー、良かったら一緒に乗らないかー? 俺、ちっちゃいから多分乗れるぞー?
操縦は俺がするし、どこまで離れて良いかわかんないから、教えてくれると嬉しい!」
「私もマイワイバーン用意したの! 一緒に飛びましょう?」
にっこりと微笑んだ琉珂に熾煇はこくこくと頷いた。小さな竜を思わす姿の熾煇は「空の空か!」と驚いたように周囲を見回した。
「凄いな、空の青さが他のところとは全然違う! 風も気持ちいい! 琉珂ー、だいじょーぶか? 落ちない?」
「落ちたら死ぬから落ちない!」
「このままずっと飛んでいたくなるな。ワイバーンも気持ちよさそうだぞ。
どこまでも行ってみたそうだ。こいつ、亜竜だから俺より強いし、色んなところ行けそうだなー!」
今日はまだ様子見だけれど、と笑った琉珂は「行ってみましょうね、遠く!」と熾煇に大きく頷いた。
「空を飛ぶ島があるなんて凄いね。どんな未知の体験をさせてくれるんだろうって考えるとわくわくしちゃう! せっかくの機会だし、あちこち探検してみようよ!」
スティアは琉珂を誘いスティアワンダーに跨がっての空中散歩に躍り出た。
休憩用のお茶を準備して、スティアは琉珂と『もっと仲良くなるぞ計画』を掲げる。
「琉珂ちゃんはあっちの方に行ってみる?」
「そうね。空を飛び回るだけでもとっても楽しいけど、陸も新しい発見があるかしら? 今度一緒に行きましょうね。美味しいものはあればいいなあ」
食いしん坊さんらしい反応を見せる琉珂にスティアはくすくすと笑う。お茶菓子の話をすれば彼女は「おまんじゅうにビックリした」と告げた。
囓ったら中が黒くて驚いたと大仰に言う彼女に「それじゃ、いろんなお菓子を村で食べようか」とスティアは揶揄うように笑うのだった。
●レリッカII
「レイヴンさん零さん今日は集まってくれてありがとう……!
慈善医療団体……国境を気にしない医師団。『オリーブのしずく』の会合だけど、今日は困ってる人もいないしで親睦会をやろう」
フラーゴラの声かけに穏やかに微笑んで挨拶を行ったのはクラウディア。空を浮かぶ島だ。鉄帝に属すことになるのだろうが現時点では国境を気にしない存在のように思える。
「浮島……こんな地があろうとはな。色々調べたいことは山積みだが」
折角のフラーゴラからの誘いだ。レイヴンは「穀物系が不足してるってことで零さんのパンの出番だね……!」とご指名された零をちら、と見遣った。
空飛ぶ島と言えば創作の世界で見るものだったという零。無限フランスパンという噂を聞いたことがあったレイヴンの指摘に零はこくりと頷いた。
「そういや街角でもちょくちょくギフトのパン差し入れしてたしな。実は俺だったんだよ、レイヴン。改めて宜しくな」
「ああ。ワタシは後援者だから医療前線に出ることは少ないかもしれんが、改めてよろしく頼むよ」
挨拶をする二人を眺めてからフラーゴラは早速だと料理に取り掛かる。穀物不足は零が居れば『無限フランスパン』で解決だ。
「ワタシも食料やラサのスパイス持って来た。カレーを作るから……えっと、カレーパンって作ったことある?
わ、まだなんだ? じゃあ今日はチャレンジだね……! レイヴンさんの好物はフライドチリフィッシュ?」
「海洋人故に…最も、この浮島だと海の幸とは程遠い所ではあるがな……魚、あるのか、準備がいいな。まぁ飛行魚の類でもいるのか」
レイヴンが驚いたように手際よく料理を行うフラーゴラを見詰めるが、彼女は「此処で獲れた魚らしいんだあ……」と味見をしてから美味しいと頷く。
上手くいかなくたってカレーとパンなら美味しいと豪語する零は「パンに挟んでフィッシュサンド、それも絶対美味しいよな……」と頷いた。
「楽しいね……皆となら『オリーブのしずく』も上手く行きそうな気がするんだあ……」
これからの未来を思い描いて。そう微笑んだフラーゴラに零とレイヴンは同意するように深く頷いた。
「さーて、琉珂姫を外にお連れし……ようかと思ったんだが、どーせそこらにゃ御節介の亜竜どもが居るだろ!!」
琉珂に「来てる」と合図をしてから雪華は酒を片手にナンパに参じることにした。酒片手にうろうろしてみるが、イレギュラーズに声を掛けられ遊びに行く琉珂を見かけては楽しんでいるだろうか、どうだろうかと気になってそわそわと見てしまう。
「身が入ってないナンパが上手く行くわきゃねえわな。もう諦めて腰据えちまうか。……姫様も戻ってきてるしなあ」
気づけば宴の席に着席した琉珂が見えた。あちこちで美味しいと評判の物を集めて琉珂に渡せば喜ぶだろうか。
きっと彼女だ。食べ歩きにも精を出していると聞く。喜び微笑んでくれるだろうが、そんな顔を見たいというのも『じじむさい』だろうか。
「雪華さん! こっちー!」
「……なあ、姫様。外は楽しいか? 俺ぁ楽しいけどさ。お前はどうなんだ?」
山盛りの食事に手を伸ばしかけた琉珂はきょとりと雪華を見やった。
「ふふ、楽しいわ。とっても。美味しいものばっかりだし、幸せな気持ちになるもの!」
そっか、と雪華は子供にするように琉珂の頭を乱雑に撫でた。ナンパの時とは違う、やや適当さのある仕草だ。
「もう」と頬を膨らます彼女に「これからも盛りたて甲斐があるってもんだ」と笑いかけ、盃を勢いよく煽った。
「ご自身が見せたい、聞かせたいものを、村の方々に披露しましょう。村の皆様にも、参加していただけると嬉しいですね」
声を掛ける雨紅は小規模でも宴は宴であるのだから彩りを増やしても良いだろうと槍を手にした武舞を披露する。
興味があると告げれば、村人達は近くの遺跡で得た『なぞの楽器』を雨紅へと手渡した。打楽器のようだが軽やかな鈴の音が響く。
「よければ使ってください。名前もないので、付けて頂いても」
「成程……ならば、これに似合う楽器を用意して舞うのも良いですね。皆さんの舞を楽しみましょう」
雨紅に促されてステージで木製フルートを奏でるのはカイト。ハイペリオンが好きだった音楽を村で奏でるのも悪くはない。
「こういうところにも神殿とか祠ってあるのかな。
や、ほらハイペリオンさまのおかーさまも神鳥だったんだろ? んで浮島がいくつもあるような土地。なら祠ぐらいありそうじゃね?
それに、『空中庭園』―――神託の少女の神殿も空にあるし、な」
カイトの言葉に、成程と頷いたのはダンである。文官でありながらも鉄帝国軍人だ。外交官である彼が調査隊に同行したのは上司が一枚噛んでおきたいという思惑に他ならないのだろう。畑を拡張すれば何かの役に立つかも知れないが、先ずはこの地の土壌や調査から始めた方が良さそうだ。
「わーい祭りだ祭りだー! 島の事とか色々気になるけど祭り楽しみ!」
にこにこと微笑んだヨゾラはリュックサックに詰め込んで小麦粉、米粉、米に野菜、砂糖にカレールーを持ち込んだ。
練達の叡智を詰め込んでからチョコチップクッキーを準備して行けば子供達は喜んでいる。
「まぁ僕も混沌世界来てから知ったんだけどねカレーライス! 再現性東京で買ったはんごう? とかも使おうか」
「お手伝いしてもいい?」
「勿論!」
少女ににんまりと微笑んだヨゾラはお酒もあるし、カレーも楽しめる。宴は大盛り上がりだと喜ばしく思うように頬を緩めた。
島に林檎があるのかは分からないが其れに似通った『すっぱいの実』と呼ばれたなぞのフルーツを子供達が差し入れしてくれる。
「ふふん。私、良いものを持ってきましたのよ
呑めば天国、呑まれれば地獄! 人生のすべてを一口に味わえる魔法の飲み物。その名もウォトカでございますわーー!」
「おぉ!? 流石はヴァリューシャ! ウォトカを持参してくるとは用意周到だね……!
私もたくさん飲んで自分の限界を越えて見せる……!
そうだ! お酒のお供に手作りのブリヌィとホロデーツを持って来てるよ! お口に合うか分からないけど、良かったら召し上げれ♪」
瓶を掲げたヴァレーリヤにマリアが手を叩く。この島にも酒はあるのだろうが、随分と古いもので鉄帝国軍人が嘗て持ち込んだもののようにも思えた。
「まさか空飛ぶ島が存在するなんて思ってもしなかったし、ましてやそこで宴会するなんて夢にも思わなかったよ! 本当に楽しい!
きっとこの世界は、まだまだ私達の知らない素敵なことや場所、そして不思議で満ちているんだろうね……」
「ふふ、こうして珍しいものを飲んで食べて、これまで知らなかったことを見聞きする。なんて楽しいのかしら」
「君と一緒にもっともっとたくさん未知を知りたいし、体験したい! ふふ! ヴァリューシャもご機嫌だね! この島の人達と私達の絆に改めて乾杯!」
もう一度とせがんだヴァレーリヤに乾杯とマリアはグラスを打ち合わせる。未知を二人で知れる事がどれ程に嬉しいか。
楽しげな空気に触れれば皆、心が躍るのだ。
「あらまぁあらまぁ、不思議な島! 調査は勿論別でするけれど、折角の出会いなんだもの楽しまなくっちゃ!
ということでれっつ宴会! 皆もお酒を飲みましょうねえ。今日はなんと、世界各国のお酒をご用意しましたぁ。
幻想名産のヴォードリエ・ワインに、ラサ・ウィスキーに妖精郷秘蔵の蜂蜜酒!
混沌名物の美少女を模した「美少女殺し」は子供達にせーので木槌で割ってもらいましょうか」
アーリアは様々な酒があって、それには土地の空気や風習が詰まっていると告げる。酒文化から知れる世界というのも悪くはないはずだ。
「素晴らしいですね!!! 領主殿!!」
うんうんと頷いたのは新たな世界に付いていきたいと瞳を輝かせたミケランジェロである。
「とりだけど飛べないので落とさないであげてちょうだいな。ミケくんってばこれも商機とばかりにチキンをふるまっているわぁ、感心感心!
って、あら……? ラド・バウに出店したいのは分かるのだけれど、ミケ君。マイケルさんがお口を開いて――」
「「ギエエエエエエエエ」」
――美味しそうな鳥は囓られるのだった。
「ひゃ」
驚いたように肩を竦めるパルスに焔は「鳥さんがチキンになって食べられたのかも知れないね!」とうきうき笑顔で微笑んだ。
彼女はと言えばパルスと一緒に斯うして冒険の旅に出られただけでも天にも昇るような――いや、空には昇っているが――気持ちなのだ。
「ボクもお料理のお手伝い、とかしてもよかったけど……こんな場所だときっと娯楽とかも少ないだろうし、歌とか踊りとかで宴を盛り上げたりとか!
元の世界で練習してた神楽とか以外だと、ボクがちゃんと歌詞とか振り付けとか覚えてるのって殆どパルスちゃんの曲とかだし、本人がいるところでそれを見せるの……!?」
「え? 焔ちゃんが躍ってくれるの? なら、歌っちゃおうかな」
「エエエエエエエエエ生歌!?!?!?」
ミケランジェロとマイケルに負けないほどの叫び声を発した焔なのであった。
●レリッカIII
「ひゃー! 空飛ぶ島なんてわくわく! よっし、折角だしこの島の人達と仲良くなろーっと!」
にんまりと笑うフランの傍で子供達が「これはなにー?」と問いかける。
「クリームパンにー、カレーパンにー、こっちはあたし一押しのすぺしゃるさんど!」
「美味しそう!」
「えへへ。皆のごはんもおいしーね!」
もりもりと食べるフランは村の特有の料理――少し色が不思議でも美味しいものは美味しいのだ――を食べて子供達との交流を深めて行く。
「次はおかーさんにシチューの作り方教わっておくから、それ作りに来るね!
あ、このお野菜美味しいね。栽培してる畑の人とかいるのかな? もし良かったら、詳しく聞きたいなー!」
「ぼくのお母さんが育てたヤツだから呼んでくるね」
走る子供達の背を眺め、フランは此処特有の植物の事にも詳しくなれればと植物たちにもご挨拶をするのだった。
「うぇーい! ちゃん琉珂! お祭りには私ちゃんも行くぜ! 今日はうちらでゴラゴニック女子会だ!
フッ……誰でも口では違うといいながら、体はお祭りを求めているものなのさ……もうね、空って時点で最高に映えんの。もうこれヤバくない?」
「映えはわからないけど、ヤバいは分かるわ。ヤバいわよね!」
「覇竜から持ってくんのってやっぱ肉系? ……うわ、肉塊だ! マジかよ。そういうの、グルメ漫画で読んだことある!」
肉塊しか用意できなかったという琉珂はフランを一瞥して「アレ美味しそう」と呟いている。秋奈は「ちゃん琉珂食いしん坊」と揶揄うように笑った。
「料理! 配膳! いよーし、おつかれちゃん! なんかごめんねー、こんなんにつき合わせちゃって!
まあ、ちゃん琉珂に頼ってたら意味ないんだけど! わはは! でも安心しろちゃん琉珂!次はちゃんとするかんね!」
「お手伝いなら何時だってするわ?」
「にしてもちゃん琉珂、かわいいの化身かよ。うんうん、強いぞーかっこいいぞー! そしてかわいい」
うりうりと琉珂の頭を撫でる秋奈。琉珂はくすくすと笑って「ここの美味しいものを知れると良いわねっ!」とお腹を大きく鳴らしたのだった。
「わわわわっ。エルは、また1つ、素敵な場所を、見つけました。皆さん、よろしくお願いします」
ぺこりと挨拶したエルはお土産のおせんべいを手にしていた。ついでに水筒にはお茶も入れてきている。
「ぱりぱりもぐもぐ、色んな味で、とっても美味しくて、エルの大好物、なんですよ。お茶と一緒に、どうぞですよ」
子供達の笑顔を眺めながら、エルはふと首を傾げる。
「そういえば、この場所にも、冬が来るのでしょうか? お空の上、雲の上、なので、エルは気になりました」
「冬って、なんだろう?」
「ずっと雲の中だったから良く分からないや」
子供達が首を傾げればエルは「春と夏と秋と冬、エルは教えます」と頷いた。
少しお話を楽しんでからサメエナガさんと一緒にぽかぽかとお昼寝しよう。そうした休息も、島民達は喜んでくれるだろう。
――この地に、いち早く鉄帝国の根を張り巡らす。
調査隊の子孫は心強い協力者ではある。しかし、それは調査隊というわけではなく子孫であり、今の鉄帝国の利益とは歩調を合わせるわけでは無いのだろう。
(……足りないのは、情報だ)
そう考えるエッダの傍にはヴィクトーリヤが立っていた。「面白いだろう?」とエッダはヴィクトーリヤへ囁いたのを思い返す。
まだ見ぬ資源。そこに敷く情報網。貴族でもあるヴィクトーリヤは情報に対してはエッダとて一目置く存在だ。
「これでまた一歩、帝国は強くなれるぞ」
「さて、どうか」
二人は出来うる限り情報を得る協力者を掴むために村人に声を掛けた。例えば、幼い少年であれどもいい。
何せこの島に訪れる切欠は『幼い少年少女』であったのだから。
「ここは、とても素敵なところですね。是非、貴方とお話をさせて頂きたいのです」
イレギュラーズの誰に向けるよりも『きらきらとした』笑顔を浮かべ、コミュニケーションを意識する。
応じる言葉があれば、其れで構わないのだ。『今』は。
「穏やかな景色だね、とても。
村の人の中には戸惑っている人もいるかもしれないけど……多くの人はどちらかというと楽しそうに見える」
ジェックは折角だからと村長の話を聞きに訪れた。ハイペリオンが嘗ては勇者を乗せてきたところの『筈』だ。
村長達が何処まで知っているか分からないが――それでも、いつか一緒に行くと約束したハイペリオンにとっての大切な場所を大事にしたいのだ。
「村長は何か困りごとはある? 楽しむこととか。それから、どんな日々を過ごしているのか教えて欲しいんだ」
「イレギュラーズの言葉を聞けば田舎暮らし、と呼ぶべきかも知れないな」
彼は言う。世代を経る毎に村人が人口を減らしていく苦しみは感じられるが、それもこの交流で良き方向に向かうはずだ、と。
ジェックは小さく頷いてから「調査隊の人が増えたらまた景色が変わっちゃいそうだよね」と呟いた。
自身達が辿り着いた痕跡を残すために。精密模写をして村の穏やかさを残したい。これから無数の調査隊がやってくる筈だ。
そうして、この地が荒れて言ってしまう可能性を出来うる限りなくしたいと願って。
(今回の仕事は架橋工事か。新しい物好きの若者は物だけで釣れるだろうが、老いぼれ連中はそう簡単じゃない。
すると老いぼれのリーダー……つまり村長を解きほぐしにかかろうか。今回ボクが使う武器はちょっとした嗜好品、そして事実と多少の脚色だ)
と、堂々としたセレマは村長の下へと足を運ぶ。本音はクールに隠すのが美少年の在り方だ。
「鉄帝はレリッカの発見と、それ以上に調査隊がこのような形で存続していることを喜んでいる。
今まで手を貸せなかったが、民族的には鉄帝である同胞を支援する準備もある。
さらに言えば此処にいる者たちはここ数年で数々の魔種を打倒した熟練の兵でもある。なにか困りごとがあるなら我々がすぐに対処できるので言ってほしい」
「其れは有り難い。何せ、村の外は分からないので」
そう告げる村長に掴みは上々かとセレマは感じていた。ここから先に調査隊が出入りしても大きな問題は起こらなさそうである。
そして、これだけの宴会を開いたのだ。鉄帝国はさておいてもローレットへの印象は良いと認識するべきだろう。
村の喧噪から走り抜けだして、リオーレはAKS-2(アクス・ツー)の手を引いた。
「ロボット兵士……このロボット。ねえ、爺──アクスとちょっと、にてるよね? 気のせいかなあっ」
リオーレの言葉に『アクス』は少し喜んでいる様子でもある。エージュウヨンと名乗ったロボット兵士はアクスを眺めるだけだ。
「ボクはリオーレ、よろしくね! そういえば、キミたちはしゃべれるんだね。
アクスはしゃべれないけど……もしかして、しゅう理したら話せるようになるのかな!?」
『ワカリマセン』
「そっか……ねえねえロボットさん、ロボットさんと似たようなロボットをなおせるひと、知らない?
もし知ってるなら、つれてきて、ボクの友達もロボットさんも直してもらうんだから! ね、教えて教えて!」
そう声を掛けるリオーレの傍でアクスは何故か周囲を見回すように首を振った。
そうしてから何故か『喜んだ』様子で「――!」と身を揺らす。
「アクス?」
「――!」
喜んでいる。
『オカエリナサイ』
そう告げる言葉にリオーレは瞬いた。思えば、この地に向かう最中からアクスは『島の位置』から目を離さなかった。
ゆっくりと移動しているはずの浮島を理解しているようだったのだ。
「……ここが、おうち?」
首を捻ったリオーレにアクスは何も答えない。だが、ただ喜ぶように身を揺らがすだけなのだ。
アーカーシュ――伝説の浮島。
この地はまだ未知だらけ。鉄帝国調査隊とローレットによる『伝説の解明』はまだ始まったばかりなのである。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
ご参加有り難う御座いました!
新天地アーカーシュ。これからの冒険に先立って、皆さんが思い思いに活動して下ったことを喜ばしく思います。
(数名の方に島内の『新発見命名権』をお配りする予定です)
これからアーカーシュの地図を埋めていく上で、皆さんが白紙の地図に名前を与えてくれることを楽しみにしております。
其れでは、良き旅を。
GMコメント
夏あかねです。此方は『交流』中心のイベントシナリオです。
●目的
アーカーシュの村、レリッカで行われる宴に参加しましょう。
●持ち物
皆さんは鉄帝国から数日分の食料や嗜好品をある程度支給されています。キャンプ用品などもあります。
ですが、他にも料理や酒などを持ち込むことも可能です。空き家を利用して物資を貯めておくことも出来そうですね。
●プレイング書式
一行目:【番号】
二行目:【グループ】or同行者(ID) ※なしの場合は空行
三行目:自由記入
例:
【1】
リリファ・ローレンツ(p3n000042)
●場所
空飛ぶ島アーカーシュです。
鉄帝国南部の町ノイスハウゼンの上空に発見された、伝説の浮遊島です。島の内部には遺跡がありますがほとんどが未知です。
皆さんが向かうのは遺跡の村レリッカ。
この村は基本が物々交換をしており、狩猟(弓や槍)を行っていたり、木の実(果実やナッツ)を採取したり、野草を採取したり……。
麻とか毛皮とかを加工した簡素な衣類を着用して居る前時代的な生活です。「海のない無人島生活」と言うのが正しいでしょう。(湖があるのでお魚は居るみたいです)
木材や石材の加工に長けており、金属の刃物とかはめっさ貴重品であるかと思われます。イレギュラーズが持ち込めば「うわー!すげー!」となるかも知れません。
村では宴が行われています。pipiSDシナリオ『<アーカーシュ>忘らるる都』の間口を更に広げて自由に交流して頂けるシナリオです。
【1】宴に参加する
村で行われるお祭り(小規模な宴です)に参加しましょう。
食事などは物品が偏っているために、皆さんが持ち込むと喜ばれそうです。島で採れた木の実や野菜の物々交換を行っているほか、肉や魚のジビエスタイルです。
塩は岩塩のみの貴重品であるほか、穀物は野生種の米や麦しかないらしく、不足しているようです。良ければお料理を持ち込んであげてくださいね。
村人達が興味津々に出てきていますので、村人に話しかけてみたり、交流してみるのも良いですね。
【2】村周辺のお散歩
川や湖、墓地、森の入り口、村人の居住区域はどうやら安全です。
その辺りを歩き回ってみるのも楽しそうですね。野生生物を村人は狩猟していますので一緒に狩猟に参加してみるのも楽しそうです。
自然の調査をしてみたり、ちょっとした探索も楽しめそうですね。
危険が少ない子供の遊び場である遺跡があり、動かないロボット兵士のような残骸がお話ししてくれそうです。
【3】村周辺を飛んでみる
リトルワイバーンや飛行生物の背中に乗って空中散歩を楽しむことが出来ます。
村から離れすぎるとどんな危険があるか分かりませんので注意して下さいね。
【4】その他
何かあればご提案下さい。割と何でも出来るでしょうが、危険はつきものです。
●同行NPC
・ビッツ・ビネガー
・パルス・パッション
・ウォロク・ウォンバットとマイケル
+夏あかねのNPC(亮、リヴィエール、琉珂、晴明&庚あたりはプレイングでお声かけ下さい)
・鉄帝関連の関係者(EXプレでの指定でも可です)
・無制限イベントシナリオですので、ステータスシートを所有するNPCが参加する場合があります。
(通常の参加者と同じように気軽にお声かけしてあげて下さいね)
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
村人達は信用できますが、なにぶんほとんど未知の遺跡です。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
●Danger!
当シナリオには【村の外で大幅に活動した場合のみ】パンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
未知の場所であるからです。通常の交流をしている場合には関係はございません。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
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