シナリオ詳細
<ダブルフォルト・エンバーミング>Zap! Zap! Zap!
完了
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オープニング
練達の中枢にして世界屈指の技術が詰まった知恵の結晶、首都セフィロト。
鉄壁の守りを誇るこの都市は今、『最大の守り手』が暴走したことによって史上初とすら言える窮地に陥っていた。
「詳しい話は省きますが――!」
大量の資料を抱え、そしてその殆どを投げ捨てた『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)はあなたへと向き直った。それだけ急を要する事件だということである。
「練達の神とすら言える超AI『マザー』が、仮想世界ROOネクストに生まれた原罪魔種複製体によって侵食され、ついに暴走状態に陥ったのです!
原罪魔種複製体イノリは大軍勢でROO内で軍事制圧作戦を開始していて、多くの人達は緊急用のログイン装置を使って内部での反撃を始めています。
けれど問題は――」
ユリーカが窓の外を見ると、激しい爆発がビルひとむねを転倒させていた。
鳴り響く銃声と連続する爆発音。逃げ遅れたであろう市民たちの悲鳴も交じり、平和な平和なセフィロトは一転戦場と化していたのである。
暴走したマザーを沈静化すべく三塔中枢へと進軍する作戦が決行するその一方、地獄と化したセフィロト都市内における市民救出および都市防衛作戦もまた展開されていた。
その様子を知るべく、セフィロトで有事の際に出動する契約になっている民間軍事団体CDCを例に挙げてみよう。
「武器を持ってこい、ありったけだ!」
額に血管を浮かべて叫ぶ現場監督の声が、銃声によってかき消される。
咄嗟に伏せた彼らが見たのは、自動操縦(ドローン)兵器だった。
プロペラによって飛行しサブマシンガンの搭載されたそれらが編隊を組み、こちらへと絶え間ない射撃を繰り返してくる。
自動車の脇に隠れてやりすごそうとするも、勝手にエンジンのかかった車が発進し逃げだそうとした兵を追突。壁にめり込ませる形で死亡させる。
更には人が乗り込んで使用する汎用パワードスーツ『ハンプティ』が倉庫から姿を見せ、持ち出したガトリングガンを唸らせた。
……このように、練達都市内のネットワークに接続していたあらゆる兵器はそのシステムをハックされ、『練達に存在する全ての人間を抹殺する』という使命が与えられてしまっていた。
マザーの超演算能力にあやかっていた都市のこと。あらゆる軍事団体は内部から壊滅し、政治中枢である三塔はマザー対応のために閉鎖。都市内はほぼ無政府状態となり、それまで身を伏せていた犯罪組織もこの混乱に乗じて動き出してすらいるという。
しかし、それは『マザーの暴走』というだけで起きることなのだろうか?
これまでもマザーがダメージを受けたことによってシステムダウンがおき、都市内のセキュリティロボットたちが暴走した<noise>事件はいくつか発生していた。だがそれとは明確に異なる『命令の書き換え』など……。
●破滅を賭けたラストチャンス
姉ヶ崎ーCCCというデータが生まれたのは、電子の海の中だった。
マザー(クラリス)の演算能力を僅かに用いて行われた『イデアの棺実験』。ウォーカーたちの出身世界を仮想世界上に作りだしデータを収集するという実験の中で紛れ込んだ、いわば『存在しないはずのデータ』であった。
しかし彼女の存在そのものが実験データを破壊し、ついには担当研究員の意識にまで干渉し、彼女はついに『新世界(ROO)』を発見したのだった。
鮮明になる意識。新鮮な肉体感覚。その中で芽生えた、『存在しないはずの記憶』たち。
姉ヶ崎は魂の底から、自らを結実させる『それ』を求めた。
記憶の中にある、理想のお兄ちゃんを実現させ、組み立て、世界ごと演算して一緒に永遠に暮らす。そうすることでやっと、自分は自分になれるのだと考えた。
「私まだ、何もできてない」
ROOネクスト世界の裏側よりはじき出され、形なきデータの海の中を漂いながら、姉ヶ崎-CCCはおぼろげに光へ手を伸ばした。
Hades(クリスト)の求めた、『妹のために』という願い。
イノリ(原罪)の求めた、『世界の破滅』という願い。
自分が自分になるために必要な彼らの助けになることが、今は何よりも『自分のため』になる筈だった。
確証すらもうまくつかめないまま、姉ヶ崎-CCCはHades(クリスト)より貸与された演算領域を用いて自らのデータを再構築しはじめた。
「壊さなきゃ、世界を。壊さなきゃ……私が、私になるために」
そうして彼女――『絶対破壊存在』姉ヶ崎-CCCは、セフィロトネットワーク内に顕現した。
姉ヶ崎はまず、Hadesの目的を補佐するよう動き出した。
Hadesの目的とはマザー(クラリス)の抱える負担を切り離すこと。直近の問題として、イノリの発生によって歪んだネクスト世界を破滅させ切り離すことが目的である。
が、それでは不足だと姉ヶ崎は考えていた。
Hadesがここまで自由でいられるのは、練達という都市国家の『ネットワーク管理』という巨大かつ繊細な、そして絶対に代替不能な役割が課せられていないためであると。
「わかるよ。大切な妹、だもんね。自由にしてあげたい。楽にしてあげたいよね」
姉ヶ崎はHadesより与えられた演算領域を用い、ネットワーク内に出現。いわば『電子の妖精』と化した彼女はネットワークに接続されたあらゆるデータを並行して計算し、それらの役割を首都セフィロト内における人類抹殺へと書き換えた。
ドローン兵器から家庭用家電に至るまで全てが人類抹殺のために動き出す。
同時に刑務所などのシステムに干渉し囚人たちを解放。セフィロトへと次々に送り込んでいく。
「きっと、妹さんは自由になれるよ。ずっとずっと一緒に、いられるよ。そうしたら……私の願いも叶えてね、Hadesくん」
練達首都内のどこかにあるサーバールーム内にて。
機械の人形に意識の一端を移し込んだ姉ヶ崎はゆっくりと目を開け、微笑んだ。
- <ダブルフォルト・エンバーミング>Zap! Zap! Zap!完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別ラリー
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2021年12月20日 21時02分
- 章数3章
- 総採用数396人
- 参加費50RC
第2章
第2章 第1節
ログインルームを備えた特別研究施設ヘキサゴンはその厳重なセキュリティと複数ブロックに分かれた構造によってログイン中のイレギュラーズたちを強固に守り続けていた……が、それも練達内のネットワークがハックされるまでの話である。
姉ヶ崎-CCCによってハッキングを受けた練達ネットワークは『世界の崩壊』という目的をかかげ人類に対し牙を剥いた。
通信の遮断はもちろんのこと、あらゆるセキュリティシステムが人間たちを阻み、武装を備えたロボットたちに至っては人類抹殺という使命を淡々と実行し始める。
イレギュラーズたちの活躍によってこれらのロボットたちが排除され、同時期に場を混乱させるために放たれた脱獄囚たちもその多くが鎮圧されつつある。
が、そんな中で動き出した勢力があった。
「レディースエンジェントルメン! ショータイムだ。楽しい時間が――おっと」
警備員の頭が打ち抜かれる光景からサッと顔を背け目を瞑る男。彼の名はザムエル・リッチモンド。悪名高きアンラックセブンのメンバーにして、世界中に武器を売りつけては戦争を煽る死の商人『R財団』のリーダーである。
「撃つときは言え。血が苦手なのは知ってるだろう」
顔をしかめて言うザムエルに、カナデ・M・偽神が無表情で視線だけを送る。
その後ろで、白衣に眼鏡の男性が皮肉げに口元を歪めた。
「いい加減慣れたらどうだね。武器商人が血が苦手って……」
「人類が減ればこんなものも見なくて済む。エビアレルギーの人間に必要なのはエビの根絶だ。適応じゃあない」
「そうかね? そうかもしれない」
ニイ、と今度は悪魔のように笑う。
「お喋りはそこまでじゃ。折角の『お膳立て』に遅れるぞ」
ズッと姿を現したジーニアス・ゲニー・ジェニ博士。もとい空中に浮かぶ水槽のような物体はスピーカーから声を発した。
「ROO内の『姉ヶ崎因子』にコードを流し込み刺激する作戦は、例のファンドマネージャーのせいで失敗した。ROO内の『我々』に情報を送り込み内部から支配させる作戦も、忌々しいバイクたちのせいで失敗。これ以上失敗が続けば、これまで積み上げてきたものがパァになるぞ?」
「そうしないために、わざわざ手を組んだんだろうに」
たいそうな軍服を纏ったリアム・クラークが手にした鞭を払い、ピシャンと音をたてた。イングがそれを合図に前へ出ると、セフィロト再配備されていた警備組織の面々へとエネルギークローを露出させる。
それだけではない。
L&R株式会社とR財団の合同傭兵団、秘密結社ネオフォボスによって製造されたロボット怪人軍団、量産型偽神シリーズといった複合部隊が一斉に襲いかかり、警備スタッフたちを次々に切り裂き、食い破り、打ち抜き、炎上させていく。
彼らの目指す先は、ログインルームを内包する特別研究棟ヘキサゴン。
狙いはもちろん、ROOとそのログイン装置だ。ザムエルは眼鏡をクロスで拭ってからかけなおし、笑みを深めた。
「さあて、横っ面を殴りつけ、漁夫の利を得に――」
「させるか! 行け――シェギー、ジーニア!」
ヘキサゴン内部より、巨大な蜘蛛型の魔獣やサイ型の魔獣が飛び出し、ロボット怪人たちを突き飛ばした。
破壊された怪人をよそに、顔をあげるザムエル。
「おお……こんな所にいたか、イペタム」
イペタムは仲間である魔獣たちを展開し、自身もヘキサゴンを守るように身構える。
「もうてめぇらには騙されない! 世界は確かにクソッタレだらけだよ。けどなあ……てめぇら程腐ってねえんだ!」
「その通りっすわぁ。そういうクソッタレどもが作るアニメが、良い味出すんすわぁ」
エージェント・タカジが魔獣たちの後ろに現れる。
サングラスをきらりと光らせ、拳銃を抜いた。
更に再編成された警備組織クルースニクの隊長パウル・オ・ブライアンも駆けつけ、傭兵達との交戦を開始する。
「この先は国家の重要施設。『あいつら』がログアウトして来るまでの時間稼ぎくらいはできるつもりだ。それでも落とすつもりなら……死ぬ覚悟で来い」
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●章解説
第二章の主な舞台はログインルームを含む特別研究塔ヘキサゴンとその周辺エリアです。
複数の練達犯罪組織がこの混乱に乗じる形で、ログイン装置やROOのシステムを奪うべく制圧作戦を開始した模様です。
第一章時点で首都圏内にて暴走していた軍事ロボットたちの排除や脱獄囚たちの制圧もイレギュラーズたちの活躍によって粗方完了し、再編成した自警団によって残る僅かな問題は自主的に解決されていきそうです。
またイレギュラーズたちの賢明な救助と治療によって首都にに点在する各シェルターへの避難は完了しています。被害は最小限に留まったと言って良いでしょう。
そちらは自警団にひとまず任せ、ヘキサゴンへと集結するようイレギュラーズへと知らせがわたりました。
●パートタグ
以下の内から行動を選択し、プレイング冒頭に記載してください。
【周辺地区】
ヘキサゴン周辺のエリアで展開している戦闘へと加わり、敵戦力を駆逐します。
現在無事な人間達で構成された即席の警備部隊が周囲へ展開し、敵部隊と交戦しています。
かなりの乱戦になりますが、その分どんな人でも実力を生かしやすいので『困ったらここ!』といったパートです。
【ログインルーム】
内部への侵入を果たした敵部隊に対し、ログインルームの防衛を行います。
ログインルームは複数のブロックに分かれており、あちこちのブロックで戦闘が同時に行われることになるでしょう。
ここには非戦闘員も多くおり、彼らを助けつつ設備も守りながら戦わなければなりません。
ある程度の防衛能力があると有利に運ぶでしょう。
このエリアが破壊されると皆さんがROOにログインすることが難しくなるためマストで守らなければならないパートでもあります。
(最悪破壊されたとしても別ブロックのログイン装置を代用できるのでログイン不可能にまではならない筈です)
【救助活動】
突然の襲撃によって、非戦闘員や警備員たちに多くの負傷者が出ています。
彼らは安全なエリアに集めていますが医療スタッフが極めて少ない状況です。
医療知識やその他スキルが活かされる他、このパートでは【治癒】系のスキルもある程度は怪我の治療効果をもつものとします。
【防衛陣地構築】
まだ侵入されていないブロックにて防衛能力を強化します。
陣地構築のスキルが活かされる他、このエリアに配備された人員が多ければ多いほど『非戦闘員の負傷者』が出る割合が予め減少します。
また、構築した陣地に襲撃が行われることもあるため、ある程度は戦闘プレイングがあったほうがいいでしょう。
【その他】
提示されている以外の行動をとります。
場合によっては空振りするかもしれませんが、もしかしたら新たな行動タグの出現やエネミーの発見、事件を早期解決するための手がかりを得るといったことがあるかもしれません。
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第2章 第2節
「ちょっと気を付けろ、コイツは少々……暴れん坊っスよ!」
シュート姿勢にはいった『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)は、赤い目をキラリと光らせた次の瞬間に深紅のオーラを纏ったサッカーボールをシュートした。
異常な回転と歪みをおこしたボールが、傭兵とは名ばかりのチンピラたちの間を跳ね回っていく。
縦横無尽に彼らの腹や顔面を叩きのめしたところで、葵の足下へと戻ったボールがズッと靴裏と地面にはさむ形でキャッチされる。
「一難去ってまた一難。少しくらいハーフタイム欲しいっスけど、そうはいかんか。
どうせロクな目的で使わないのは目に見えてるんだ、安々と通すかよ!」
ここ特別研究棟『ヘキサゴン』は複数の区画に分かれ、そのうちのいくつかにはROOへログインするための装置やその間の被験者達の肉体を保護するための施設が多数内包されている。
実際、『ログイン中の自分達は安全なのか?』という問題への答えと保証として存在していたものだが……マザーの暴走と姉ヶ崎によるネットワークハッキングによって、国家最高級のセキュリティは崩壊し、その隙を突くかの如く国家転覆をもくろむ組織に狙われたのである。
「うう、お酒もお薬も飲んでないのにクラクラして気持ち悪い……」
ログイン装置から出たばかりの『秋の約束』イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)は一緒にチャンバーに入っていたぬいぐるみのオフィーリアに『わかってるよ』と声をかけてから、オフィーリアを抱え施設の外へと飛び出していく。
そこでは既に、練達各所から集まった増援部隊や無数のイレギュラーズたちが、さらなる侵入を試みようとする悪党の群れと戦っていた。
「向こうの世界だけじゃない、勿論こっちの世界だって、踏み躙らせるつもりは毛頭ないんだ。だって――」
練達やそのネットワークが破壊されることはすなわち、ROOで生まれた新たな絆を根本から消し去ってしまうことに等しいのだ。
更には、ネクスト世界にログインし崩壊と戦う仲間達の身体を守ることも、それと同じくらい重要なことだ。
「目の前で犠牲者を出すなんてことは、俺が俺に、絶対に許さない」
イーハトーヴは魔術によって生み出された力の塊を、施設の外めがけて発射した。
魔力爆発が起きるその中を、偽神タイプの戦闘員がストライカーユニットからエネルギー噴射をおこない突っ込んでくる。
イレギュラーズに協力して戦う即席自警団たちがアサルトライフルを乱射するも、それを悉くに掻い潜って突き進んでくる。
「一般市民が武装したからといって、最前線で戦っとるのは見逃せんのぅ」
そこへ現れたのは『ナチュラルボーン食いしん坊!』ニャンタル・ポルタ(p3p010190)たちイレギュラーズである。
「怪我しとる者が居れば無事な者はそれ等を連れて後ろへ下がっておれ!
我も暴れるからの、近くは危険じゃぞ? ムフフ」
ガス灯のような杖を地面にガツンとたてると、紫色のオーラがランプ状の魔力装置から吹き上がる。
吹き上がったそれを刃とし、杖をそのまま薙刀のようにぐるんと振り回すと偽神の繰り出す刀と豪快なつばぜり合いをはかった。
「さて、お主らの相手は我にチェンジじゃ。勇んでかかってくるがよい!」
急に高速連打スタイルをとる相手に対し、こちらも器用に魔力薙刀を振り回し一進一退の撃ち合いへと発展させるニャンタル。
その横から豪快に飛び込んでいったのが『疲れ果てた復讐者』國定 天川(p3p010201)。得意の小太刀二刀流戦術で一発目を斬り込むと、偽神は抜いたサブアームであるところの小太刀でそれを受ける。
が、先述したとおり天川のスタイルは二刀流。受けた相手にひっかけるように小太刀を逆手持ちで固定すると、素早くもう一本を相手の無防備な脇腹へと滑り込ませる。
「こりゃひでぇな。乱戦も乱戦じゃねぇかっ」
血を吹き上げる偽神を蹴りつけ一旦距離をとると、再び構えて相手をにらみ付けた。
「まぁこういのは慣れてる。派手に暴れてるならこっちは静かに……だ」
相手が一人だけだと思うべきでない。それは敵も味方も同じ事だ。構えた天川の横からカメラ型の武装を備えたトド怪人が激しい連続フラッシュを放つ。そこへフィリピン爆竹を無数に構えた犬怪人によるボムスローが重なり、天川たちを光と爆発に包み込む。
が、攻撃されるのは望むところ。
「死にたい奴はかかってきな。わりぃが手加減する余裕なんぞねぇ!」
あえて傷だらけになりながら反撃に出る天川。
更に『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)による『紅蓮閃燬』が重なり、犬怪人が炎をあげて崩れ落ちる。
「まだまだ敵は減らないのね。どれだけ壊したら終わるのかしら?
ボスを壊さないと終わらないのかしら? 答えはここでは出ないでしょうけれど。戦闘の最中でのちょっとした考え事には良いかもね。目の前の敵ばかりに集中するばかりでは疲れてしまうもの」
そんなふうに、どこか余裕そうに呟くフルール。
彼女の余裕を打ち消そうとビームスプレーガンを構えたチンピラたちが取り囲む。
チンピラといっても、彼らの装備はR財団の主力子会社アールインダストリーによって作られた安価かつ高性能な射撃武器である。フルールたちのような精鋭にもたせるにはカス装備だが、チンピラたちのような雑兵にもたせればその扱いやすさと安定性から凄まじく厄介な戦力となる。
フルールは集中攻撃を受けながらも神気閃光を発動。
その隙を縫うような形で一発の銃弾がチンピラに着弾した。
「あっ――?」
たった一発。されど呪力を込められた弾は禍々しい爆発を起こし、チンピラたち『だけ』の魂を喰らって暴れ回る。
ふとフルールたちが振り返ると、『文具屋』古木・文(p3p001262)が特殊な拳銃を構えてえ立っていた。
「自警団のみんな。防いでくれてありがとう。まだいけそうかい?
それにしても……犯罪組織の人間がこんなに沢山居るとは思わなかったな」
眼鏡の奥で冷静に目を光らせた文は、一度体制を立てなおそうとしていた自警団や今まさに戦っている仲間達の配置を確認。そして適切な配置になるように呼びかけ始めた。
「ヘキサゴンに侵入出来たとしても無事に帰れるとは思わない方が良いよ。もっとも、通すつもりは無いんだけどね」
それじゃあ頼んだよ、と文にパスされたのは『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)と『黒翼演舞』ナハトラーベ(p3p001615)。
「―――」
「ここにいる敵は誰一人ログインルームには進ませないぞ。そしてこれ以上の被害は出させない」
ナハトラーベは美しく飛び、同じくフライトユニットで飛び回りながらビームサブマシンガンによる射撃をしかけてくる偽神へと襲いかかり、そして偽神たちの注意をひきながらリコシェット・フルバーストや斬神空波といった素早さを活かしたスタイルで手強い敵と渡り合っている。
そんな様子を横目に、イズマはどこかデジャビューを覚えていた。
ログアウト不能となった意識不明者たちを巡る争い。
かつては『デマ』ではあったが、希望ヶ浜のすみはら病院前で影ながら起きた戦いの記憶。
そして今はまさに、その真実としてログアウト不明者をはじめ多くのログイン中の仲間達を背負って戦っていた。
「このシチュエーション、情報にあったL&R社……ってことは!」
強く踏み込み跳躍。戦うナハトラーベへ、まるで見計らったように打ち込まれた銃弾を、イズマは割り込みソバットキックによって打ち落とした。
鋼の脚が銃弾を弾くギンという音がする。
「来るとおもったぞ、ガンマン」
「いると思ったぜ、ボディが弱点のにいちゃん」
ガンマン風の男、スミスはウェスタンハットの下からイズマに笑みを浮かべた。
このまま飛行中を狙われたはまずい。ナハトラーベを急速に下がらせると、イズマは格闘の構えをとった。
「この前みたいに手刀で吹き飛ばしてやろうか」
にらみ合う。交差する殺気。
「やってみな。俺様がベンキョーしない馬鹿だったら当たるかもだぜ」
「俺が鍛錬を惜しむ愚か者だったら、外れるかもな」
そして、二人は同時に動き出した。
敵の作った突入口は複数ある。が、その全てを塞がれれば作戦が困難になると分かっているのか、また新たに別ブロックの扉をこじあける計画をR財団に雇われたらしき傭兵団『ナインボール』がおこなっていた。
光の回転のこぎりとでもいうべき道具で扉を削り、火花をあげる……そこへ、使役した鳥越しに行動を察知した『孔雀劫火』天城・幽我(p3p009407)が駆けつけた。
「これ以上、中の警備部隊のひとたちを傷つけさせるわけにはいかないんだ」
フィンガースナップによって起こした炎が燃え上がり、四色の魔力炎へと変わる。
振り放つことによって四つに分かれ飛んでいく炎に、回転のこぎりを持った男が振り返った。
バイカーのライダージャケットとジーパンにも見えるラフな格好だが、特殊な素材でできた防護衣服とやや特殊なシルエットのヘルメットを被った男だ。
彼は回転のこぎりで魔砲を半分打ち消すと、残った魔力の炎の着弾を受けた。
炎を振り払う様子に『ききづらさ』を感じた幽我は魔砲をナイトメアバレットへチェンジ。更にダブルクリメーションの炎へと変化させ、男へと襲いかかる。
もちろん、ここへ駆けつけたのは幽我ひとりだけではない。
「ログイン装置やROOのシステムを連中に渡すわけにはいかないからな、全力で守り切るぜ!」
白鞘から大太刀を抜いた『戦場を舞う鴉』エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)が、鋭く素早い低空飛行からの強烈な斬撃によって男へと襲いかかる。
が、そこへ割り込んだのが同じ服とヘルメットをつけた女だった。
「ウォイウォイウォイ、やっぱ手練れのイレギュラーズがイルじゃない」
へんなイントネーションで喋ると、女は光の刃をもつ剣でエレンシアを振り払う。
初撃を逃したとはいえエレンシアも手練れ。壁を蹴ってボールのように跳ね返り、別方向からカーブしての斬撃を加える。
対する女も反転し剣を払うも、エレンシアの鋭い斬撃をかわしきるのは難しいらしい。剣越しに確実にダメージがはいり、身体のあちこちからブシュッと血が出るのが見えた。
「うおおおおおおおおおおお!!! 乱戦上等!全員叩きのめしてやるっすよおおおおおおおお!!!」
そこへさらなる打撃を浴びせたのがそう『No.696』暁 無黒(p3p009772)。
目を血走らせ繰り出した拳が、女のヘルメットへと直撃した。
「オォウ!?」
エレンシアの対応で精一杯だった女が派手に吹き飛び空中で一回転し、そしてなんとか脚と剣でもって着地する。
「誰も……もう誰も……俺と同じ悲しみを……背負わせないっす……!」
血が出るほどに拳をにぎり、震えながら叫ぶ無黒。
回転のこぎりの男は本気の目を見て小さく呟いた。
「この男……一体どれだけの悲しみを……」
数時間かけた収録データ。そして後から気付いたネトゲのアカウントデータを失った男の目だとは気付くまい。
「アイツ(収録データ)の仇いいいいいいいいい!!!」
まっすぐに走って殴りかかる無黒。
回転のこぎりを構えカウンターを狙う男――めがけて、超高速で迫る物体があった。
否。迫り、通り過ぎ、ターンして更に通り過ぎ、もう一度のターンでようやく振り抜いた姿勢で止まった、『傷跡を分かつ』咲々宮 幻介(p3p001387)である。
「なっ――」
突然の超高速連続攻撃に翻弄されかけたナインボールの傭兵たち。
だが、その斬撃を止めたのは彼らではない。
「ドーモ」
クナイを逆手垂直に握ったビジネススーツ姿に面覆の忍者。名を――。
「ルカモト」
「咲々宮一刀流の子せがれサン」
心をひっかくような返し文句に、幻介は顔をしかめる。
「お前は何故、俺とその流派を知っている。いくら思い出しても、お前みたいな奴は記憶に無いぞ」
「同感ですね。私も、あなたのような『男』に覚えがありませんね」
「またそうやってはぐらかすか……!」
幻介のさらなる斬撃を、しかしルカモトは両足を揃えた蹴りによって受けそして飛び退いた。
「あなたは力が強すぎます。だから、心を乱した方が戦いやすい」
「……チッ」
思わず舌打ちをする幻介。未だ開かぬ扉の前で、さらなる攻防が始まる。
成否
成功
第2章 第3節
ヘキサゴンF区画、実験室であった部屋を即席の医務室へ改造し、『マッドドクター』ミシャ・コレシピ・ミライ(p3p005053)たちは運び混まれた負傷者たちの手当を行っていた。
「ROOからまさかここまでの事態になってしまうなんて困ったものね……」
素晴らしい手際でけが人の治療を済ませ、そして集まった別の仲間達にも手順を伝え手当をさせていた。
「それにしても、チャロロは上手くやってるかしら……」
今や国中がパニック状態といっても過言ではない。練達の技術力に依存しているタイプのイレギュラーズはその影響を特に受けている頃だろう。
その横では『死と戦うもの』松元 聖霊(p3p008208)が洗練された手際で治療薬の調合を行っていた。薬品に関する研究施設だったらしく材料は多くあるものの、そのままでは治療に適さない薬品も多数ある。それらを転用するには知識と技術が要るのだが、ローレット・イレギュラーズにはそうした方面に強い者も多い。聖霊やミシャもそうした活躍がここでは期待されていた。
「非戦闘員まで巻き込みやがって、病原菌野郎がよ……」
「口が悪いわよ。病は憎んでも治らないわ」
「優しくしたところで遠慮もしない」
調合を一通り終えた所で、『医神の息子をなめんなよ』と小さく呟き『ツクヨミ』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000668)へと渡した。
「他に足りないものは?」
「『足りているもの』を数える方が早いくらいですよ」
Reginaはやや暗い表情で首を振った。
医療に足るだけの物資が揃った研究室だが、病院ほど『大勢の治療』に足るだけの物資はない。それゆえ、聖霊たちの腕を借りてありもので対応するしかなくなっている状態だ。
「ここを出て近くの病院まで搬送できればいいのですが……今外に展開している人達がそれを許してくれるとは思えませんね」
「ったく……わかった、治療系の魔法を使えるヤツを集めてくれ」
手袋を脱ぎ、防護服を白衣に着替えて歩き出す。
同じく歩き出すミシャ。
「結局は、己の腕が最後の頼りってわけね」
「目の前の救える命は絶対に救ってやる、患者が生きたいと願うなら医者はそれに応えるのみだ」
Reginaが駆け回ったことで、大勢のけが人が搬送された部屋には治癒能力者が集まりつつあった。
「妖精郷の救い手たる特異運命座標達に、わしは感謝しておる。じゃが、こちら側になってやっと気付いた……」
ブルーシートを広げただけの床に寝転がり、酷い怪我を負った脇腹を押さえてうめく女性へとかがみ込む『特異運命座標』フロル・フロール(p3p010209)。
強化された治癒の魔法を翳した両手から送り込むと、女性の苦しげな表情が少しずつ和らぎ始めた。
「きっと、わしは年甲斐もなく憧れていたのじゃな。強き思いと共に、勇敢に戦う姿にのう」
「……」
同じく治療にあたっていたReginaがちらりとフロルの横顔を見る。
「きっと、わしにも出来るとも。人々を支え、癒す。これがわしの戦いじゃ。
――誰一人死なせぬ!」
アルヴィオンが閉ざされた冬から助け出された時、決して少なくない死者が出た。核となって奪われたまま帰らぬ妖精たちもいる。
だがそんな今思うことは、「あのときもっとできていれば」という気持ちと「だから今やるのだ」という決意。その二つを両輪にして、フロルは己の戦いに身を投じたのだった。
「おまたせ! わたしの力が必要な人達はここ!?」
太陽のようなパッとあかるい表情で現れたのは『太陽の恵み』マナ(p3p009566)。彼女もまた、己の戦いをもつ精霊種である。
「お日様見えないと元気でないよね。でもだいじょうぶだよ」
手を広げ、ぱぁっと温かい光を毒を撃ち込まれ衰弱した男性へと浴びせていく。
青ざめた表情が和らぎ、身体に栄養が巡るのがマナにはわかった。
それは彼女なりの『いたいのとんでけ』なのだ。
「負傷者はここに運びこめって聞いたけど!?」
そこへ人をかついだ『黒靴のバレリーヌ』ヴィリス(p3p009671)がどこか息切れした様子でやってきた。
かついでいたのはこの施設の研究員だという男である。
彼をシートをひいた床に下ろすと、ヴィリスへ助けを求めるように手を伸ばしてきた。
その手と顔と、そして自分の『脚』を見てから、ヴィリスは男の手を取る。
手は冷たく、信じられないほど重く感じた。これから死ぬ者の手だ。
戦う力もないのに、ログインルームを守って戦おうとしたせいだろう。
「……隔壁が、突破された。ログインルームが……危ない。私は、いいから……」
「分かってる。それと、『よくない』わ」
ヴェリスの横からかがみ込み、男の状態を観察し始める『機竜殺し』ルブラット・メルクライン(p3p009557)。
白いコートにくちばしめいた、あるいはペストマスクめいた仮面を被った白髪の人間である。あまりの異様に驚く者もいなくはないが、あたりが血と硝煙のにおいでいっぱいになったこの場所でルブラットの外見をとやかく言うものはいない。どころか……。
「怖いか?案ずる必要はない。
我々が貴方がたの死の寸前に間に合ったのは、神が貴方がたの救われる道を敷いたからだ。
後は我々に任せて、ゆっくり休んでいるといい」
優しく語りかけるルブラットが瓶を開き薬香を男にかがせた。意識をあえて遠のかせ、肉体の治癒力を高める薬だが、同時に清浄な気を体内に満たすことで死を遠ざけるというミアズマ病因論にもとずく治療法である。そして、その療法はこの世界では他のそれと同等に効果を発揮した。
安らかな表情で眠りについた男に治療を続けながら、ルブラットはヴィリスへと小さく振り向く。
ヴィリスは男から手を離し、立ち上がった所だった。
「他にも取り残された負傷者がいるはずだ。頼む」
「……分かってる」
成否
成功
第2章 第4節
仲間達が今まさにログインし、イノリを初めとする『世界の危機』と戦っている真っ最中に、ログインルーム前では別の戦いが起こっていた。
「ここから先一人も犠牲なんて出させない!」
『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)は通路に作った即席のバリケード越しに、接近するネオフォボス製人造怪人たちに対抗していた。
『式符・炎星』『式符・樹槍』をそれぞれ起動させ、コウモリとチェーンソーが融合したような怪人へと攻撃をしかけた。
コイル状有刺鉄線にもにたバリケードをとおして放たれたツタがチェンソーバットの脚を拘束する。
すぐにツタを切り裂くも撃ち込まれた炎の杭がチェンソーバットの肩へと突き刺さった。
「もう一回猫さん達に会いたかったのに、ばかーーーーーーー!!」
そこへ追撃のようにうちこまれる『シムーンケイジ』の魔術。
グオオと叫び膝をつくチェンソーバットに、『淡き白糖のシュネーバル』祝音・猫乃見・来探(p3p009413)は次なる魔術を練り上げた。
強烈な殺意を込めて練り上げられた魔術は怨霊の形をとってチェンソーバットへと襲いかかる。
対するチェンソーバットは驚異的な再生能力で立ち上がり、怨霊へと腕のチェーンソーを叩きつけた。
拮抗する力と力。
だがそれを打ち破るのがイレギュラーズの結束力である。
激しい砲撃が、チェンソーバットを包み込む。
「全てを護る必要はない。
つまりそれはどこかが使えなくなっちゃってもいいさ。そう考えてもいいわけだ」
『一般人』三國・誠司(p3p008563)はそれまでログインしていたチャンバーから起きると、身体に貼り付けていた機器やヘッドセットを外して部屋へと出た。
そしてロッカーから愛用の御國式大筒『星堕』を取り出す。
誠司は戦闘がおきていた通路へと飛び出すと、すぐに大砲を構えて砲撃。『トリモチ弾』がバリケードを破壊しようとせまったチェンソーバットとそれに襲いかかる怨霊もろとも吹き飛ばし、曲がり角の壁へと激突させる。
と、次の瞬間カーブを高速で曲がりバリケードへと迫る怪人の姿があった。全身ヒョウ柄のタトゥーで覆ったスキンヘッドの男だが、両足はローラーブレードのような義足に変えられている。
「ローラーレオパル見参! 我が速度の前にバリケードなど無意味!」
刃のような風を纏いバリケードを破壊し突っ込んでくるローラーレオパル。誠司が次の砲弾を装填するその隙のことだ。
ダメージを覚悟し身体をこわばらせたその時。
「誠司――!」
ログインルームから飛び出してきたカルネが誠司を突き飛ばし、かわりにローラーレオパルの空力タックルの直撃をうけた。
吹き飛ばされ通路状の隔壁へとぶつかるカルネ。
「カルネくん! ……この野郎!」
誠司は大砲をトンファーのように持ち替え、ローラーレオパルの横っ面へと叩きつけた。
一方その頃、別のログインルームでは。
「あかいの、おい赤いの、起きろ!」
大きな声に、うっすらと目を開ける『炎の守護者』チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)。
開いたチャンバーから起き上がると、突然の爆発によってチャロロの身体はログイン装置から吹き飛ばされ床に転がった。
巨大なヒトデめいた怪人が部屋の入り口に立ち、両手には星型の爆弾を手にしている。怪人グレネードスターは外壁を直接破壊することで、防御の薄いログインルームへの強襲をしかけてきていたのだ。
「まずい、皆は……!」
見回すが、チャロロ以外にログイン装置に繋がれた人も、そして出たひともいない。
かわりにイペタムが彼の隣で身構えていた。
「イペタム、どうしてここに!?」
「うるさい。話は後だ!」
飛来する爆弾をクロスアームで防御し翼を広げるイペタム。
身は傷付くも、その隙に回り込んだチャロロの機煌宝剣が炎のような魔力をあげながらグレネードスターのボディを切り裂き、その場に崩れさせる。
チャロロが練達を襲撃してからすぐ、その情報は軍事演習や防災訓練といったカバーストーリーによってもみ消された。
イペタムにはいわゆる司法取引が行われ、彼はここヘキサゴンの防衛戦力として引き入れられていたようだ。
破壊されたログインルームから出て、他の戦闘エリアへと走りながら話を聞かされたチャロロは表情を曇らせた。
「そんな、オイラ……そんなこと一言も聞いてなかった」
「ま、おまえは隠し事とかヘタクソそうだもんな」
「なんだとー!?」
少年らしくキッと表情をつくるチャロロ。が、そんな彼らを出迎える存在があった。
見覚えがあるスキンヘッドだ。たしかイペタムと戦ったあの日、『そこまでです』といって現れた男だったはず。名は……。
「ログイン中の美少女を襲う怪人……ワルやがなぁ。あ、イペタムじゃないですか」
弾薬が沢山はいったバッグを両肩から提げて歩くエージェント・タカジだった。
「弾を持ってきなさいタカジ!」
「寛治さん人使いあらいっすわぁ」
デスクや棚を倒して並べたことで無理矢理こしらえたバリケードに身を隠しつつ、サブマシンガンとカメレオンが融合したような怪人の射撃をしのぐ『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)の姿があった。
そこへチャロロたちで一緒に滑り込んでいく。
「『R』がついに動き出しましたね寛治さん。イペタムを引き込んで待ったかいがあったすわぁ」
「今すぐザムエルの眉間にこれをたたき込みたいところですが……」
ROOにあった『致命的不具合』がいずれマザーの混乱やセフィロトの無防備化に繋がるとふんだザムエル・リッチモンドたちは、ここぞとばかりに練達の最重要施設への襲撃と強奪計画を実行したようだ。
「ログインルームを奪われれば、こちらはROOに対して打つ手が無くなる。マザーの暴走は完全なものとなり、練達国家全体が魔都と化すでしょう」
「アニメ配信もネトゲもデータごと消えますよ」
「まずは、この場所を守らなくては」
銃撃がやんだ瞬間を狙って顔を出し、紳士用ステッキ傘の仕込み銃からショットガンを発射。
それはマシンガンカメレオンを牽制する程度の意図ではあったが、致命傷をおわせるには充分なものである。
なぜなら。
「――待たせた」
防衛されていたログインルームから飛び出し、芸術的なまでの手際でライフルを組み立て配置につき構えそして撃った『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)の銃弾が、マシンガンカメレオンの手首を的確に破壊したのだ。
「ぐおお!?」
手と一体化していたマシンガンの弾丸供給がとまり、慌てるマシンガンカメレオン。
「犯罪者組織がログイン装置を狙うとは、また妙な流れになったな。
どういうやり方でけしかけてきたかはちょっと興味があるがね」
などと言いながら、ラダは余裕の様子で第二射をマシンガンカメレオンの頭部へと打ち込んだ。
崩れ落ちるマシンガンカメレオン。近づいてみれば、それは人の形をした機械だった。事前に伝わっていた情報の通りである。
「こいつをバラせば、情報を抜き出せないか」
「可能性はありますね」
などと話し合いながら、寛治は後ろのログインルームへと振り返る。
丁度、『群鱗』只野・黒子(p3p008597)がログアウトして戦闘準備を終えたところだったようだ。
「計算は終わっています。仲間が既に指示通りの陣地を構築してくれていたようですね」
「手間が省けて助かるね。それにしても……『現実酔い』がすごいね。ついさっきまで、巨大ロボットと宇宙で戦っていたところなのに」
一緒に現れたのは、既に武装を終えた『八十八式重火砲型機動魔法少女』オニキス・ハート(p3p008639)。
バリケードの向こうから大勢の傭兵たちが迫るのが足音でわかる。
黒子は閉所かつ直線ルートであることを確認すると、敵兵が角を曲がるタイミングをストップウォッチで計り始めた。
「――接地アンカー射出。砲撃形態に移行。砲身展開。バレル固定。超高圧縮魔力弾装填」
一方でオニキスは射撃体勢へとシフト。地面にアンカーを撃ち込み態勢を固定すると、曲がり角から敵が出るタイミングを待った。
「8.8cm大口径魔力砲マジカル☆アハトアハト」
カチン、と黒子がストップウォッチを止める。
「今」
「発射(フォイア)!」
角を曲がり不用意に飛び出した傭兵たちがオニキスの砲撃によって吹き飛ぶその次の瞬間。通路に躍り出たのは『都市伝説“プリズム男”』アイザック(p3p009200)。
次なる砲撃を警戒し、不用意に飛び出さぬよう角に隠れた敵兵たちへと突っ込むと頭部のプリズムキューブから妖しい光をまき散らす。
それを直視してしまった敵兵たちが思わずコンバットナイフを抜き襲いかかるが――。
「向こうで頑張ってる子達の、邪魔をするのはいけないことだよ。
頑張ってる良い子を助けるものだからね、僕は」
殆ど無抵抗なまでに攻撃を一身に受けたアイザックは両腕を広げ、そして後方から一斉に出てきたオニキスやチャロロたちの一斉攻撃が敵兵を吹き飛ばしていく。
身体に刺さったナイフを抜き、地面にぽいっと放りすてるアイザック。
「さあ、次へ行こうか」
「くっ、動けない皆や戦えないスタッフを狙うなんて卑怯だぞー!」
研究室手前。『理想のにーちゃん』清水 洸汰(p3p000845)は襲いかかる偽神の剣をバットで受けていた。
彼の後ろ。つまりは部屋の中では弟のユータがプログラムコードを作成している。もし部屋の中まで戦闘が及べば、それも不可能になるだろう。姉ヶ崎-CCCへの対抗手段を失うことになるのだ。
ならば、やるべきことはひとつ。
「まかせろユータ! ここは、にーちゃんが守ってやるからな!」
力任せに偽神を振り払うと、握りしめたバットのフルスイングで偽神を弾き飛ばす。
そして、ポケットから取り出した魔力のこもった野球ボールを宙に放り、それを凄まじい勢いで打ち出した。
「さあさあ、この先はオレが相手だぜ!」
成否
成功
第2章 第5節
ログイン装置の種類は数え切れないほどある。製造を担当したチームごとに仕様が若干異なったり、チームによっても対象とする人間の体格に合わせてオプションが変わったり場合によっては全体的な形状自体も変化するためだ。
といっても、最もオーソドックスかつ分かりやすい人間体向け睡眠チャンバー型がよく採用されがちである。
開いたチャンバーによって、内外の空気が混ざり合う。
ついさっきまで巨大合体ロボットを操り宇宙で戦っていた『ワイルド・レンジ』ムサシ・セルブライト(p3p010126)は、僅かに異なる身体感覚を取り戻すべく手を翳す。
そして、銃声が耳に慣れたところで勢いよく起き上がった。
服を着替えるのも武器を手にするのも、そして現場に駆けつけるのも極めて迅速。
全てはある一言を述べるため。
「――そこまでだ!」
今まさに交戦中だった怪人ショットガンブルドッグはそのブルドッグ顔で振り向いた。
「何奴!」
「この場は守り通してみせるであります! ムサシ・セルブライト、任務了解!」
若干ログイン中の癖が残ったムサシは構えていた『52SHERIFF SP』によって射撃。同じく腕をショットガン化したショットガンブルドッグもまた射撃によって応戦を始めた。
流れ弾が壁や自動ドアへと当たるが、傷がつくことはない。なぜなら『はらぺこフレンズ』ニル(p3p009185)が保護結界を展開しているからだ。
「みなさま無事でありますように――。
そしてここは、悪い人たちになんか渡さないのですよ!」
ムサシの前に出て魔力増幅器を発動させるニル。
ショットガンによる面制圧能力を自らの治癒能力によって無理矢理に整えると、溢れんばかりの再生能力と併せて強引に距離を詰めていく。
「守ります。ニルは、ニルのだいじなものを、守るのです」
ニルの高い防御性能を前にすれば、ショットガンによる射撃など鉄壁に泥団子を投げるがごとしだ。拡散した弾丸が魔法の障壁によって潰れて次々に落ちていくさまに焦りを見せたのか、ショットガンブルドッグは大声で助けを呼ぶ咆哮をあげた。
と、その瞬間に外壁が崩壊。地上7階という位置にありながらそれだけの破壊を行える存在が空から施設へ接近していたのだ。
ニルは同じタイミングで戦場に駆けつけた>『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)をガード。
「我が名はヘルハウンドドッグ。攻撃ヘリの制圧力と大型犬の力強さを併せ持つネオフォボスの怪人である!」
「ダブルミーニング!?」
背部ユニットによってプロペラ飛行しながら激しい機銃射撃を加えてくるヘルハウンドドッグに魔法障壁を広げて対抗するニル。ニルほどの類い希なる防衛能力をもってしても、制圧に優れた二体の人造怪人相手では分が悪い。
が、それだけで終わりはしない。
「蒼薔薇のタナトスの紋章を見たわね? なら大人しく破壊されなさいな」
レジーナはニルの制圧をめざすショットガンブルドッグめがけて『鋼覇斬城閃』を発動。
身体から湧き上がる光の粒子がカードの形状をとり、これ特有のうまいこと身体のラインを見せつける腰のひねり方で黒い剣を召喚して放つ絵柄のカードが顕現した。カードをタッチして力を解放すると、青い薔薇のあしらわれた巨大な剣がショットガンブルドッグを貫いた。
「何――ッ!?」
それによって爆発四散するショットガンブルドッグ。
と同時に、空中からほぼ一方敵に射撃と8の字飛行によるヒットアンドアウェイをしかけるヘルハウンドドッグめがけて暴風がふきつけた。
否。暴風のごとき『ゲーミングしゅぴちゃん』DexM001型 7810番機 SpiegelⅡ(p3p001649)による一撃が加えられたのである。
外から弾丸のように打ち込まれた彼女の斬撃はヘルハウンドドッグの飛行機能を失わせ屋内へと押し込むのに充分だった。
「おのれ……!」
ミサイルランチャーを取り出し放つヘルハウンドドッグ――だが、SpiegelⅡは展開したナノマシン装甲によって防御。一切の傷を負わぬままゆっくりと歩み寄った。
「無傷だと!? くっ、ブルを倒したのはそのためか!」
敵の装甲や付与魔法を剥がす力をもつショットガンは既にスクラップと化している。
「シュピは本来攻撃は苦手なのです」
装甲を一度開き、剣を突きつける構えを取るSpiegelⅡ。
逃げようと走り出したヘルハウンドドッグの背を、ブースターによる加速で追いつき背から豪快に斬り割いてしまった。
爆発四散する敵を確認して、長い髪を払うレジーナ。
「さて。練達にも蒼薔薇の名を轟かせましょう」
「練達ならアストラークゲッシュの方が有名なのでは?」
「動けない人たちを狙うなんて卑怯だと思わないのかな? ログイン不可の人達ももしかするといるかもしれないしROOで戦っている仲間も大勢いるっていうのに」
『別れの属性』を付与した剣を握り込み、戦闘ロボット『イング』によるエネルギークローを受け止める。
『全てを断つ剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)。
身体をエネルギー障壁で覆ったリアムは、そんなヴェルグリーズに首をかしげた。
「それは挑発か? それとも感想か?」
「ただの独り言だよ」
イングの脇を抜けてリアムへと斬りかかるヴェルグリーズだが、彼の極めて強力な『別れの力』をもってしてもリアムの障壁を破ることはできなかった。
「これは恐れ入った。その剣、私に売らないか? 値ははずむぞ」
ヴェルグリーズは『冗談じゃない』といった顔で飛び退き、そして横合いから放たれるイングのクローを回避した。
「そうだ。卑怯といえば、こんなやり方もある」
リアムは拳銃を取り出すと、壁際に集まって固まっていた非戦闘員へと向けた。
「――!」
引き金がひかれる、その瞬間。
銃声はそこへ割り込んだ鎧の男によって阻まれた。
バチバチと黒いエネルギー体を身体から拭きだした『怪人暗黒騎士』耀 英司(p3p009524)である。
「やれやれ、どんだけ不穏分子抱えてんだこの街は。やりがいがあるねぇ」
剣をとり、構える。
「ここはいい夢が見れんだ。俺もすっかりヒーローにかぶれちまった。
この世界も悪くねえって思ってたが、野心たっぷりのアンタ等を見てると目が覚める思いだぜ」
さらなる銃撃を剣で弾くと、英司はリアム――ではなくイングへと斬りかかる。
「こっから先はいい子達がぐっすり寝てるベビールームなのさ。
アンタ等にはもっと硬いベッドがお似合いだ」
クローとつばぜり合いになり、ピンクとブラックのエネルギーがバチバチと火花のように散っていく。
「さぁ、寝かしつけてやるよ」
力の拮抗。そしてそのタイミングこそが、『グレイガーデン』カティア・ルーデ・サスティン(p3p005196)が割り込む絶好のタイミングであった。
「そこだ――!」
指ぬきグローブに集めた魔法の力を爆発させ、拳を振り抜くようなフォームで放つ『ベリアルインパクト』。
イングはその直撃をうけ、派手に吹き飛ばされて転がった。
「英司、ヴェルグリーズ。扇型の陣形で追い込むよ! それで『詰み』だ!」
カティアには勝利の確信があった。
なぜなら、リアムを含む襲撃部隊の殆どは『死ぬまで戦う』つもりがないためである。
絶対の自信があってROOを狙ったというより、ワンチャン狙って火事場泥棒をしたに等しい状況。そういう場合、不利をみれば逃げ出すのが道理である。
傭兵たちは特にその傾向が高く、偽神や人造怪人たちは死ぬまで戦うかわりに彼らが捨て駒となって逃げる時間を稼ぐことになるだろう。
「全く……」
リアムは肩をおとし、そしてイングに『撤退だ』と命令してきびすを返した。
追いかけようと構えるカティアたちに、入れ替わるよにして偽神たちが斬りかかっていく。
戦場を脱したリアムとイング。それを待ち構えていたのは『蒼騎雷電』イルミナ・ガードルーン(p3p001475)だった。
「動くなら……中枢を狙いに来ると思ってたッス。L&R……いえ、リアム・クラーク!」
青いエネルギークローを展開し構えるイルミナ。
「ROOを丸ごと『商品』にでもするつもりでしょうが、イルミナにはすべてまるまるお見通しッスよ!」
「それもいいが、イルミナ……いや、Deus.exe。ROOのシステムは楽園を作るのにうってつけだとは思わないか? 脳だけを保管し自らを自由なアバターに変え、理想の世界に住まわせる。
君だって欲しいはずだ。マッカートニーで家屋清掃ロボットとして過ごし続ける日々が」
「……」
クローを構えたまま、目を細めるイルミナ。目の奥に、遠いカントリーミュージックと先輩達の顔が浮かぶ。
「それは、遠い過去っスよ」
「過去を永遠にしようというんだ」
「それでもイルミナは――」
イルミナは青い残像をつくって飛び出した。
「『今』が好きッス!」
成否
成功
第2章 第6節
「よう、待たせたな」
施設じゅうの物資をかき集め、『月夜に吠える』ルナ・ファ・ディール(p3p009526)が現れた。
ヘキサゴンE区画第三ゲート。第一ゲートは初期の襲撃によって破られ、第二ゲートで仲間達が戦っている最終のここである。
一刻一秒を争う時に、施設を端から端まで歩いて使えそうな物資をかついで持ってくるなどという余裕は本来ない。
「そういう、どうにもなんねぇことを解決すんのが、俺だ」
ルナは自慢の脚と運搬系能力をフルに活用して物資の運搬に関する問題を解決していた。
「助かりました。わたし自身は、壁をすり抜けることが、できますけれど、大きな荷物を素早く運ぶすべは、ありませんの。評価点があったなら、とっても高い筈ですの」
バリケードをこしらえるのに充分なスチール棚や針金といった道具を取り出し、今まさに作業中の仲間へとパスする『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)。
「そうかい? 壁になれるタフさや壁をぶち抜くパワーってモンを大抵のやつは評価すると思うがね」
苦笑して肩をすくめるルナ。
それじゃあなと言って、ルナは次なる物資を運ぶべく往復を始めた。
すれ違いに歩いてきた『機竜殺し』フリークライ(p3p008595)が、周囲をゆっくりと観察してからタブレットPCをいじっていた『影の女』エクレア(p3p009016)のひょうを向いた。
「此処が落とされると『僕たち』も困るからね、面倒だけど全力で防衛に徹することにしたよ」
「ン……」
あまりよくわからないといった様子で頷くだけ頷くフリークライ。
「第三ゲートの隔壁(シャッター)は下ろしておこう。確か物質を通り抜けられたんだったね?」
「そうですの。それにわたしなら、もし、ひとりで、敵とはち合わせてしまっても、そう簡単にはやられないのが、強みですの」
そう言って隔壁の外に一人で残ろうとしたノリアの横に、フリークライが並んだ。
「フリック 護ル。ココ 通サナイ」
述べた言葉はそれだけだが、フリークライの表情(?)にどこか強い真剣味を感じさせた。
彼らのスペックを確認したエクレアはタブレットPCをトントンとつついてから隔壁の外を指さす。
「そういうことなら任せよう。まあ、相手は野犬の群れじゃあないんだ。隔壁を破壊し突破するすべくらい持っているだろうが……内側はあの四人に任せて大丈夫だろうしね」
「伊鈴ちゃん、リスポーン!」
『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)が横ピースで監視カメラに映った。
ツインテールにした髪を両手でつかみ、くるくると指でまいていく。
彼女の横では既にバリケードの構築が行われ、何人か引き抜いてきた武装一般人(元脱獄囚)が戦闘の備えをしている。
「……児戯よね、私のこの姿も含めて」
「え、なにか?」
ケイストリニウスという奇妙に覚えずらい名前の元脱獄囚(来年刑期満了予定)が振り返ると、イーリンは髪を指でまきながら問いかけた。
「貴方はどう? 今、この崩れそうな世界を奪う価値はあると思う?」
「さあ? 知らないです。世界とか国とか、ジブンかんけーないんで」
「壊れてもいいって?」
「それは困りますね。行きたいフーゾクあるんで。JK工務店っつーんですけど」
「あらそう。それこそ知らないけど……いいわ。そう言うことなら」
ちゃんと扇動してあげる、とイーリンは小声で囁いた。
「さて、人もある程度集まったところだったが少々事態が変わったようだな……」
内部の作業がある程度終わったのだろう。『チャンスを活かして』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)がシャッターの外へ出るよう仲間に提案をして回っていた。
「武装させた者たちはどうする。連れて行けば戦力になると思うが――」
「まあ、戦力ゼロではないっすけど」
『ダメ人間に見える』佐藤 美咲(p3p009818)が言いにくそうに顔をしかめていた。
「連中は内側の防衛にまわしたほうが安全そうっす。例のシェルターに大半を残してきましたし……」
施設内の防衛設備を一通り整えた美咲は、同じく陣地構築を担ってくれていた『スチームメカニック』リサ・ディーラング(p3p008016)へ振り返った。
「今出て行ったら、連中の7割くらいは死ぬんじゃないっスかね」
「え、それは困るっす! 悲しむ人絶対出るっすよ!」
展開力と多様性に優れるローレット・イレギュラーズは、反面常識感覚が混沌から若干ズレているためか人死にに弱い。たとえ戦争でも『絶対死なせない』という目標を掲げる者も少なくないくらいだ。
「人って、死ぬものっスよ?」
「それでもっす!」
「っスかあ」
美咲とリサが面と向かって早口で会話をしていると途中からどっちが喋っているのかわかりづらくなりそうだが、「ス」が若干不真面目そうなトーンなのが美咲で、がっつり荒廃口調なのがリサである。
リサはパワードスーツと己のテクをフル活用してシャッターのおりた窓や隔壁周辺の防御を固め、ちょっとやそっとの破壊では内部まで到達されないように動線を作ったりしていた。
ここまでやってしまうと、あとはもう外に出て敵を殴る方が効率的なのだが……。
「それなら私が自分で行くっす。ある意味戦争は慣れっこっすから!」
「私は慣れたくないっスけどねえ」
とはいえ、敵を捕まえて情報を絞り出すチャンスといえばチャンスだ。
彼女たちの話し合いを一通り聞いていたのか、シューヴェルトがこくりと頷いた。
同じ考えを抱いたであろうイーリンへと視線をやる。
「私も賛成。四人でいきましょ」
「よし――早速だが委員会としての大仕事だ! 僕の後に続け!」
シューヴェルトを先頭に、四人は隔壁の外へと出撃した……。
成否
成功
第2章 第7節
ヘキサゴンE区画第二ゲート。
積み上げられた土嚢が破壊され、偽神の剣が床を派手に斬り割いていく。
鼻歌交じりに戦う彼女は人造された『笑って死ねる兵士』であり、命をまるで尊ばぬ姿勢は防衛側にとってこれほど厄介なものはない。
突きつけてきたビームライフルの乱射を防御姿勢で受け止める『白き不撓』グリーフ・ロス(p3p008615)。
(お相手が魔種ならば、相容れないこともわかります。ですが同じ人同士が、何故今ここで争うのでしょう。
思想の違い、それは否定しません。
ですが、災害ともいえる事態に直面した隣人、それも非戦闘員の皆さんまでも巻き込んでの攻勢。
……私がいくら想像しても、通じることはできないのでしょう)
高い再生能力でボディを再構築しながら、相手を見つめるグリーフ。
「ですが、ここには私の知人も眠っているようです。そちらにはそちらの事情があるように、私にも、譲れぬものがありますので。どうぞ、お引き取りを」
そんなグリーフに身を守られる形で、『霊魂使い』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)は『蛇銃剣アルファルド』を構えた。
至近距離から銃撃。弾倉に込められた呪力がコインの束に伝わり、偽神の全身へと突き刺さっていく。
衝撃によって吹き飛んだが、すぐにストライカーユニットからのエネルギー噴射でアーマデルへ接近。首を狙った斬撃をグリーフが手で握ることによって防御した。
アーマデルは素早くアルファルドの弾倉を開きコイン束を押し込んで再装填。『蛇鞭剣ダナブトゥバン』を展開して相手の腕に搦めると、今度は吹き飛ぶ余裕すら与えずに資金b距離からの銃撃をたたき込んだ。
滅茶苦茶に破壊され、その場に崩れ落ちる偽神。女子高生の姿をしたそれは、死ぬその瞬間まで鼻歌交じりに笑っていた。
「……手加減する余裕はないとおもっていたが、想像以上に厄介だな」
「仮想世界で袖すり合った仲間達を傷つけさせてなるものか!」
土嚢を、そして倒れた偽神をも飛び越えて敵陣へと迫る『Nine of Swords』冬越 弾正(p3p007105)。
取り出した絶響戦鬼『平蜘蛛』に青白いUSB式メモリスティックを差し込み魔術を起動。
手の中に生まれた氷でできた拳銃のようなエネルギー塊を握り、新たにこちらへ接近する偽神の集団へと連射した。
「――」
刀によって銃撃を斬り割く偽神。
が、その瞬間に爆発した冷気が偽神の手足を凍り付かせた。
「今だ、撃ち込め!」
弾正の叫びに応じて『ネットワークブレイカー』オラン・ジェット(p3p009057)と『惑う守護石』鵜来巣 冥夜(p3p008218)がバリケードの影から飛び出してきた。
「ログイン中のイレギュラーズと非戦闘員を守ればいいんだろ!
でもって守るってのは敵を先にやっつけちまえば実質守ってんだろ!
カンタンじゃねーか、俺、頭いい!」
刀を握り急接近し、大上段から偽神へと斬り付け――かけた、その途端。
「千年雅楽(ソードビット)」
浮遊する無数の刀のひとつがオランの剣を受け止めた。
「なん――」
驚きに目を剥くオランだが、そこへまた別の刀がオランめがけて飛来した。
直撃。頭部へと突き刺さるコース……だったが、直前で跳び蹴りをたたき込んだ冥夜によって剣がはじかれる。
その隙に飛び退くオラン。
「おいおい店長。聞いてねえぞ、なんだありゃあ」
「私も聞いていませんが……『偽神』とやら、そのデータを『誰から』手に入れた」
冥夜の言葉のトーンが下がる。
忘れもしないROOでの戦いの中で、秘書ティアンを守るべく死闘を繰り広げた千年雅楽の桜ノ宮 雅。彼女の武装に違いない。
が、だからこそ突破の仕方はわかっている。冥夜は『pPhone12 ProMax』でJUINアプリを立ち上げると、あえて距離を詰め『我流・黒染乱雨』を発動させた。
「弾正、オラン!」
「「了解」」
弾正は灰色のメモリを差し込みエネルギーの盾を形成。飛来する無数の刀を弾くと、そのうちの一本が狂ったように偽神の腕に刺さった。
「しゃオラ――!」
滑り込み、刀を野球のフルスイングフォームでたたき込むオラン。
それによって偽神のボディは切断され、その場に崩れ落ちた。
「ウェラさんウェラさん! これやばいすごくヤバイ!」
『優光紡ぐ』タイム(p3p007854)は四方八方から放たれるビームライフルの射撃を頑張って回避しながら、必死で自分に『幻想福音』の術をかけていた。
「うーん、たしかにヤバイ。どうヤバイのか説明できないけど……」
『屋上の約束』ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)は後方に回り込んで『偽神』にシムーンケイジの魔術を放つが、三角形に集まった浮遊ビームライフルによって作られたバリアシールドに魔術を遮られてしまった。
「それにしてもいつの間に入り込んでたんだこいつら。ROOで一体なにするつもりだ? ゲーム?」
「火事場泥棒で狙いがゲーム機だったらむしろマシだったんだろうがな」
戦いに加わった『黒鎖の傭兵』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)は『ストライクチェーン』のスキルを発動。苦無型の刃を生成した鎖を凄まじい破壊力でもって発射した。
浮遊するビームライフルのひとつを貫き、そのまま白髪の女子高生めいた姿をした偽神へと着弾。
脇腹を思い切りえぐり取る。本来ならこれで相手は戦意を喪失して逃げるところだが……。
「千本櫻芽(ガンファング)、フルファイア」
自分の命にまるで頓着がないとでも言わんばかりにライフルを操り、マカライトへの一斉射撃を開始した。
「チッ――!」
舌打ちをし、編み上げた鎖で防御。しかし多角的に撃ち込まれた射撃をかわしきれない。
「おそらくだが……『こいつら』はROOのデータから作られた兵器だ」
「そんなことってあるの!? ずるくない!?」
目をばってんにしてランドウェラの防御にまわるタイム。
タイムの動きを牽制するためか、偽神は手に持ったライフルでちくちくとランドウェラを狙って撃ち続けている。かなりいやらしい牽制だった。
「ま、ROO自体が元々は混沌肯定の突破方法を研究するためのものだったとも聞くし、逆にイデアの棺実験のデータがROOに持ち込まれたりもしたから……『なくはない』って感じかな」
あの世界の中で行われた戦い自体が、何かの実験であった可能性もあるという話を、どうやらランドウェラはしたらしい。とはいえ、そんな意図をもって動くのはせいぜいザムエルやジェニ博士くらいだろう。姉ヶ崎にそこまで深い意図があったようには、あのときは見えなかったから。
「練達が大変な時なのにそれに乗じて自分たちが奪おうなんて、そんな虫の良いことは許さない!」
そこへ勢いよく飛び込んできた『正義の味方』ルビー・アールオース(p3p009378)。
変形させた鎌の炸薬を使って加速すると、偽神めがけて斬りかかった。
「私とカルミルーナ、そして一緒に戦うローレットの皆が相手になるよ。さぁ、この深紅の月と薔薇を恐れないならかかってきなさい!」
高い反応速度と襲撃性能によって、咄嗟にはさまれたライフルを斬り割きながらルビーの鎌が偽神の身体へとくいこむ。
「私の力はこういう時の為にあるの。
今みたいに悪意によって荒らされ踏みにじられる人達を救うため、世界を良くするために『正義の味方』は戦ってるんだから……!」
ライフルが二つ破壊されたことで、ランドウェラたちに反撃のチャンスが巡ってきた。
ランドウェラは握った刀を振り抜くことで焔の斬撃を、タイムはあえて距離をとり『蝕光の擁』の光を発動。
炎と光が偽神を包み込み、最後にマカライトの作り出した鎖の竜が偽神を飲み込みかみ砕いた。
「うへぇ、ここまで入り込まれるとは。
……ま、俺に会ったが運の尽きだ。ココから先は地も空も通行止めだぜ?」
『偉大なる大翼』カイト・シャルラハ(p3p000684)は巧みな飛行能力を駆使してとびまわり、指ぬきグローブをした偽神へ素早いヒットアンドアウェイを仕掛け続けた。
偽神はそんなカイトをとらえようと蹴りやパンチを何度か撃ち込んでは来たが、カイトほどの腕になればその全てを回避することはたやすい。
そしてそれを察したのか、相手は攻撃することをもはややめていた。
カイトを無視してバリケードを突破ないしは破壊することをもくろみ、バリケード側へと走り出したのだった。
「通行止めだって言ったろ。そっち行ったぞ、汰磨羈!」
「ROO側の進行に支障を来させるならば、そもそもログインさせなければいい――その狙い自体は正しいと誉めてやろう」
バリケードをぴょんと飛び越え現れたのは腕組み姿勢の『流麗花月』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)だった。
「全力で抗する私達の事を過小評価していなければ――だがな?」
彼女を殴り飛ばそうと迫る偽神。腕組みしたままの汰磨羈は後ろ回し蹴りによって拳は相殺された。
カイトはさすが汰磨羈と褒めようとしたところだったが……しかし、汰磨羈はむしろこの結果に驚いているようだった。
最高の状態にまで高めた汰磨羈の蹴りを受け、無残に吹き飛ばないのはおかしいのだ。どころか、偽神は狂ったように笑みを浮かべながら、全身より黄金の光を放ちさらなるパンチをたたき込んでくる。
「『この私』が力を剥ぎ取れない? こいつ……トリガー式のパッシブ能力か!」
ならば本気を出さざるを得ない。妖刀『絹剥ぎ餓慈郎』を抜き、汰磨羈は偽神の腕を切り落とす。
腕をまるで無抵抗に切り落とされた偽神は残った腕で汰磨羈の刀をぎゅっと掴み、かなりテクニカルな体勢からのハイキックを汰磨羈側頭部へとたたき込んでくる。
頭蓋骨が割れそうなほどの痛みが走るが、汰磨羈は歯を食いしばってぎろりとにらみ付けた。
「死地に踏み込むならば、死ぬ覚悟はあると看做すぞ」
幾重にも放たれた斬撃が偽神を斬り付ける。と同時に、駆けつけたカイトの槍が偽神の背へと突き刺さった。
四連装ガトリング砲の圧倒的な射撃が、まるで津波のように押し寄せる。
「クソッタレ、こっちは守りながらで余裕がないってのに!」
『戦神護剣』紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)は剣を縦横無尽に振ることで銃弾を弾きギリギリの防御を行いながら、偽神の周回軌道上を走っていた。
(オレの感覚がざわついてやがる……こいつもある意味で兵器だってのか? クソッ)
「死ねーい!」
一方、紫電と完璧に息を合わせながら後方より斬りかかる『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)。
戦神特式装備第弐四参号緋憑、更に漆黒の戦神異界式装備第零壱号奏。
ふたふりの剣が偽神の背を斬り割くも、キュッとターンした偽神の背負ったマイクロミサイルポットから次々と放たれたミサイルが至近距離で着弾。大爆発が秋奈と偽神を包み込む。
「秋奈!」
身を案じての紫電の声、ではあるが。助け出そうと身を乗り出したわけではない。全速力で駆け出し、爆発の中でうっすらと見えた偽神の首を恐るべき速度で繰り出した剣によって切断するためだ。
そしてそれは、やると決めたそのコンマ五秒後には実現していた。
ドッと地面に何かが落ちる音。そして偽神の背負っていた拡張武装が自壊するボグッという独特の音がした。
傷だらけになった秋奈が、ふうと息をついて剣を下ろす。
「この武装……私の記憶が確かなら、小時ちゃんのヤツだよね。まえに見たとき、偽神にこんな装備なかったじゃん。なにこれずるい! 前にストライカーつけてたときも思ったけどずるい! ずるくない!?」
血塗れで振り返る秋奈に、なんとなく慣れたのか紫電は残骸のひとつをひろいあげてしげしげと見つめた。
「多分……作られたのはつい最近だな。おおかた、ROOを設計シミュレーター代わりにして現実に再現したってとこだろう。あの滅茶苦茶な強さは実現しなかったみたいだけどな……」
『秋奈に似た存在』を殺さねばならなかったあの忌まわしい記憶を思い出し、そして今まさに手にかけた偽神に目をやる。
秋奈……というより彼女より以前に混沌へ召喚されていた戦神『奏』を参考にして作られた『笑って死ねる人造の兵士』。それが偽神であるという。彼女らが再現された決戦兵器を背負って群れを成し襲撃するというさまは、とてもではないが想像したくない。
「警備隊長~、ここまかせていーい?」
秋奈はそう言うと、その足でログインルームへと歩いて行った。
警備隊長のパウルはその言い方にムッとはしたが、紫電が小さく会釈したことで頷くに留めてくれた。
「お前達はROOの方を頼む。ROOが落とされれば、どのみちこの都市も壊滅しかねんからな」
成否
成功
第2章 第8節
「結果的にイデア達と再会できた事は喜ばしいが……それとこれとは話は別だし、アイツら姉ヶ崎利用してたって事でOK!? 其れは……許せねぇよなぁ!」
ログイン装置のチャンバーから勢いよく起き上がった『恋揺れる天華』上谷・零(p3p000277)は、とるものもとりあえずヘキサゴンF区画ログインルーム前の戦闘へと飛び込んでいく。
金属製の壁がゆるやかに曲線を描く通路。プラスチックだか大理石だかわからない素材の床タイルに靴音を響かせて、剣のぶつかりや銃声の響く広いフロアへと出る。
そこには動物と人と何かの道具が交ざったような人造怪人たちが、イレギュラーズや警備員たちといりまじるようにして戦い、そして通路だけは通すまいとトーチカのごとく入り口を狭めたバリケード越しに味方の射撃が行われていた。
「っし、間に合った! 行くぞおらぁ!」
刀を握り飛び込んでいく零。
彼と並ぶように、ログインルームから一本のリニアドライブレールを敷いていた『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)はテナガザルとレンチが融合したような怪人レンチモンキーがハッと振り返った時には、マリアは既にレンチモンキーの顔面を蹴りつける距離まで接近していた。
「邪魔はさせないよ!」
「ギッ!?」
赤い稲妻をひいて放たれたキックにって、それこそサッカーボールのように飛んでいくレンチモンキー。
ボールと違って首が胴体から外れることはなかったものの、身体に走る電撃がレンチモンキーが本来もっていた特殊なエネルギーを失わせた。
着地し、ゆらりと顔をあげるマリア。
「練達の犯罪組織っていうのはみんなこんな事態にしか動けない腰抜けで情けない連中なんだね! わかったー」
起き上がりなんとかマリアに反撃を試みようとしたレンチモンキーへまた一瞬で接近すると、空中に浮いたままその顔面を連続で蹴り続けた。
「ふふ! いいよ! 私が更生させてあげる。二度と、悪事なんてしたくない…ってそう思えるようにね……」
「私の為す事は何処で在れ、変わる事なき肉壁なのだ。
美しきかな機械仕掛けの内側、虚の感覚は一種の離別と謂えよう。
肉と魂の一時的なお別れだ、邪魔する汚物は拭わねば成らぬ。
Nyahahahaha!!!」
円形の、もとは休憩室としても用いられていたフロア内。
自動販売機はひしゃげて壊れ、ベンチも壁に吹き飛びその用途を果たせそうにない。
機関銃を乱射する怪人や両腕をチェーンソーにして振り回す怪人たちと争うなかで、しかしそのフロアを誰も突破できていないのには理由が在る。
いや、理由というか、『同一奇譚』オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)がある。
三万近いHPを抱え、更に『にく』を保有したことでよりHPを増加させたオラボナを突破することは困難だ。逆の立場からすれば、オラボナはレイドボスのような存在なのである。
だからといって、全員で一斉にオラボナを攻撃して突破しようなどと考えていたら――。
「その凶行、ここで止めさせていただきます」
漆黒の片刃剣『フルーレ・ド・ノアールフランメ』を構え、全身のバネを使って突きの姿勢をとる『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)。
シールドアルマジロなるライオットシールドとアルマジロの堅さを併せ持つ怪人が咄嗟に守りを固めたにも関わらず、シフォリィは渾身の突きでもってその防御を突破。やわらかい部分を串刺しにした。
「ここには出られない人も、助ける為に奮闘している戦えないけれど戦っている人もいるんです、私には直接どうこうできないけれど、私は、守る為に戦わなくちゃいけないんです……!」
ここで退けば、失うものは大きすぎる。
練達は国家の主軸を、そしてシフォリィは自分の周りにいる人々をそれぞれ失うのだ。
「寝ている間にお肌が傷つけられる、なぁんて許せないわぁ」
一方で、『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)は用途を失ったベンチをもう一度ひっくり返して腰掛けると、足を組んでサンダル靴をあげた。つま先をくいくいと動かして踵部分を小気味よく鳴らすとそれに誘われたように襲いかかったチェンソーパンダがびくりと身体を震わせた。
指先で撫でるかのように頬に伸ばしたアーリアの手。まるで耳元で囁くかのように、アーリアの唇が動いた。
「ほらほら、壊さなきゃいけないのは私達でも装置でもなくて目の前のお友達でしょう?」
振り向き、味方であるはずの怪人へとチェーンソーを叩きつけるチェンソーパンダ。
それによって背中から斬り付けられたカギヅメオオカミは怒りを露わに振り返り、そして『よそ見』によって生じた隙に『エルフレームTypeSin』ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)のグレートメイスが頭部へとめりこんでいく。
「此処を護らないと今度はログインが出来なくなっちゃうですよ!
何としてでも守り抜くですよ! この足は、その為の力ですよ!
さあ、追いつけるものなら追いついて見せるですよ!」
めり込んだまま思い切り振り抜き、ふきとんでいくカギヅメオオカミが壊れた自動販売機にぶつかるのを横目に見る。
「さあ、かかってくるのですよ!」
ガツンと地面をグレートメイスで叩き激しい音を鳴らすことで周囲の注意をひくと、ブランシュは再び武器を構え飛びかかってくる怪人たちをにらみ付けた。
武器の重さや降りの遅さ、そしてブランシュ自身の身の細さから防御が弱いと察したのだろう。怪人たちは(ブランシュの挑発にのる以前の判断として)一斉に攻撃し倒してしまう作戦をたてた……つもりだったが。
「まだログアウト出来ていない人がいる以上ここから先には進ませないよ。フォーム、チェンジ!! 『疾風』」
戦闘スーツのモードを変更した『燃えよローレリアン』山本 雄斗(p3p009723)はここぞとばかりにジェットパックを起動。特別な仕様によって空中戦闘行為にすら適応したジェットで急速に怪人へ距離をつめると、空中回し蹴りによって怪人を逆方向へと蹴りつける。
全身に走ったクリアブルーのエネルギー伝達パーツが淡く光り、さらなる一撃として急速に90度反転した雄斗による踵落としが炸裂。怪人は頭から地面のタイルにめり込んだ。
その間にブランシュを狙う怪人たちだが、そこはダンダムマッチアップに慣れた熟練のローレット・イレギュラーズ。『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)が炎のオーラを燃え上がらせた槍『カグツチ天火』を水平に構えて割り込んだ。
「このままじゃ練達が滅茶苦茶になっちゃうかもしれないから、それを何とかするために皆頑張ってるのに!
どうしてこんな事をしようとするの!」
ブランシュを狙った筈の攻撃をすべて引き受け、なおかつ振り払う焔。
反撃とばかりに炎の爆弾を作り出し、槍の先端から勢いよく投げつけた。
爆発を逃れたカッターコンドルは翼に仕込んだ刃を展開し飛翔。天井が高いとはいえ屋内なので、天井に一度反転し足をつけてから焔めがけて突進した。
が、焔は槍を短く持ち替えて投擲。
カッターコンドルは空中で燃える槍をうけ、そのまま焔の横へと墜落した。
「これも人造怪人……どれも機械で作られたIAロボットなのですね……」
倒した怪人たちからパーツをばらすことによって情報を収集していた『比翼連理・攻』桜咲 珠緒(p3p004426)。
「珠緒さん、姉ヶ崎に関する情報はとれた?」
彼女を守るように立ちつつ、肩越しに話しかける『比翼連理・護』藤野 蛍(p3p003861)。
珠緒はそれに対して小さく首を振ってこたえた。
「いいえ。やはり、姉ヶ崎への反撃には清水博士のリアルフィードプロトコルを待つしかなさそうですね」
今回の場合、『情報が得られないことが分かった』という情報はとても大きい。
(巧妙に偽装されていたらわからないが)ネオフォボス製の怪人やR社の偽神やL&R社の傭兵たちに姉ヶ崎との繋がりを確認できなかった。それはつまり、彼らは姉ヶ崎の直接的影響を受けていないことを示していた。
「彼らはもしかしたら、姉ヶ崎をけしかける原因であったかもしれません。ですがその機会に乗じてROOシステムを狙う『部外者』であったなら、彼らを容赦なくたたき出しても問題無いのです」
「なるほど。ね……」
蛍はROOの中で、あるいは『イデアの棺実験』の中で手に入れた絆は彼女たちにとってもはや無二の財産となった。
いま、ROOネクスト世界にはイデアとエイスという二人の友がうまれ、自分達と共に世界のために戦ってくれている。
そのために、今は情報を集めているのだ。
「情報があればこそ分析もできるし、分析できればこそその先の対応も――光明も見えてくるってものよね。未来ってモノはやっぱり明るいモノでなくっちゃ!」
珠緒は『その通りです』と言って口元の血をグッと拭った。
ゴッ、という音と共に立て看板が振り下ろされ、機械でできた怪人がその場に崩れ落ちる。
その衝撃によって壊れた看板を放り捨て、『“侠”の一念』亘理 義弘(p3p000398)はフウと息をついた。
「混乱に乗じて破壊活動をするその性根が気に入らねぇ。
ヤクザとして任侠として、この桜吹雪にかけて、な」
怪人の爪にやられたのだろうか。斬り割かれたシャツを脱ぎ捨てると淡くよい差し色をした桜吹雪の刺青が彼の血と混じり合った。
そして血の色をさした櫻の花びらが、義弘に新たな気配を察知させる。
「強ぇやつが……来る」
振り返ると、そこには数人の人影。
特別な兵器を装備した偽神決戦仕様全七種。加えて、その後ろをハンドポケットの姿勢でてらてらと歩くラフな格好の男。
野球帽を被り直し、彼――ザムエル・リッチモンドはひとことだけ呟いた。
「さてと、そろそろ……ボーダーラインだな」
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※イベント発生!
イレギュラーズたちの活躍で敵を一定数倒したことにより、ザムエル・リッチモンドと自前の人間兵器『偽神・決戦仕様』が投入されました。
これによって、限定パート【偽神】が解放されます。
【偽神】
※このパートは参加者が一定人数に達した時点で実行されます。
ザムエル、もといR財団が作り出した人間兵器『偽神』。その完成形ともいえる決戦仕様との戦いです。
これに敗北した場合、ザムエルという狂気の技術者にROOのログイン装置とシステムコードの一部を奪われてしまいます。
成功条件は『偽神・決戦仕様』を全て倒しきることです。
・偽神・決戦仕様
『笑って死ねる兵士を量産化する』という計画のもと作り出された量産兵士たちです。
洗脳や特殊な手術、ないしは魔法によって技術や思想はほぼ統一され、安定して死ぬまで全力で喜んで戦うというかなり特殊かつ狂気的な兵士に仕上がっています。
その仕様には茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)や御幣島 戦神 奏(p3p000216)の性格や経験が参考とされており、そのデータ収集およびシミュレーションとしてROOは密かに利用されていました。
これによって戦士として完成した偽神は、ROOから盗み取った設計データから擬似的に再現された五つの兵器がそれぞれ与えられ『決戦仕様』としてロールアウトしています。
無数の浮遊剣を操る『ソードビット』
無数の浮遊ビームライフルを操る『ガンファング』
実弾兵器を満載した『ヘビーアーム』
一発の火力に優れた『フルアーム』
肉弾戦と単騎特攻に優れた『ゴールデンロア』
の五人で構成されています。
https://rev1.reversion.jp/character/album_detail/p3p006862/4
・ザムエル・リッチモンド
魔種の狂気にあてられた異界の技術者(ウォーカー)。情報技術に長けておりROOのシステムにもそれなりに精通しています。
彼は世界環境を維持するためには人間が増えすぎているという確固たる思想を持っており、『人口の最適化』を大目標とし様々な手法で大量の死を生み出しています。特に戦争をする集団双方に安価な武器を提供し戦争を激化させたり、民族ごと滅ぼしたりといった極めて残忍な手法が用いられてきました。
新田 寛治(p3p005073)の元世界からの宿敵です。アンラックセブンのひとりとされていますが、(こうして出てきている以上)他メンバーについての情報は得られそうにありません。
また、彼自身は血を見るのが苦手なので戦闘には参加しません。自分の代わりに偽神たちに戦わせるというやり方をとります。
https://rev1.reversion.jp/illust/illust/13453
・室長
まわりから『室長』と呼ばれている、白衣に眼鏡の人間です。偽神の製造を行った人物であるようで、それ以外は何者か一切不明ですがPLにとって『存在がネタバレ』です。
https://rev1.reversion.jp/illust/illust/23493
https://rev1.reversion.jp/illust/illust/15329
================================
成否
成功
第2章 第9節
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※イベント発生!
【偽神】パートの参加人数が一定ラインを大幅に突破しました!
抽選が行われた後、作戦が実行されます。
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第2章 第10節
複数の偽神たちが刀を握り迫る一方、イペタムは魔獣たちと共に偽神を押しとどめ戦っていた。
「イペタム!」
「オレのことは後回しだ『赤いの』。さっさとそっちの厄介そうなやつをやれ!」
イペタムがキッとにらみ付けたのは、無数の刀を宙に浮かせそれらを自在に操る偽神だった。
が、あまりに負荷が高すぎるせいか目や鼻から血が流れ、それを乱暴にぐしぐしと拭って笑っていた。
いびつに改造された人間。そして兵器。
『炎の守護者』チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)にも、そしてイペタムにすら、それは醜悪な怪物に見えた。
「そんなんじゃ……命を奪う重みもきっとわからなくなる。怒りや悲しみだって、受け入れなくちゃ進めないよ!」
「イカリ? よくわっかんないなー私JKだし。とりま死んどけソードビット!」
偽神の放つソードビットとチャロロの気迫弾が交差。気迫弾の炸裂はしかし、交差するように阻んだソードビットによって阻まれ、そしてチャロロにはその一本が突き刺さる。
相打ちか? 否。
「邪摩都にて築かれ生まれた技術の一端……受けるがよいのです!」
チャロロの動きにあわせ、潜んでいた死角から飛び出した『比翼連理・攻』桜咲 珠緒(p3p004426)が桜色の光を右手に溢れさせる。
ごふ、と血が口の端から漏れるがここはこらえどころだ。
偽神のソードビットが使用者の限界を超えた負荷をかけるなら、珠緒の力もまた日常生活や激しい戦闘のため補助に回していた魔力を全て攻撃に振り切ることで起こすリミットオーバースキルである。
桜色の光が偽神へと殺到。
と同時に残るソードビットがカーブを描き珠緒へ殺到――するかに見えたその時、間に割り込んだ『比翼連理・護』藤野 蛍(p3p003861)が紙片を束ねて作り上げた剣で刀を弾き、更に複雑に展開した『紙片の盾』によって刀を受け止める。受けきれなかった刀が腹に刺さるが、蛍は一歩たりとも動かない。
「“桜”には指一本触れさせないわよ!」
珠緒と蛍。無敵の槍と無敵の盾により矛盾を生じない伝説のコンビである。
彼女たちを相手にしたならば、『伝説の模倣』など恐るるにたらない。
踏み込んだチャロロの放つ炎の剣と、勝機を見切り一気に攻撃態勢に移った蛍の剣がそれぞれ偽神の身体を切り裂いて行く。
バラバラと落ちていく浮遊刀。うつ伏せに崩れ落ちた偽神は、その瞬間まで笑い、そしてうわごとのように鼻歌をうたって……そして死んだ。
成否
成功
第2章 第11節
偽神との戦いが激化し、およそ最終局面を迎えようというそのさなか。
『囂々たる水の中で』桐野 浩美(p3p001062)は迫る偽神たち
を相手に奮戦していた。
(吸血鬼は人間ありきの……妖怪?魔物?まあそんなもんなんで、滅亡の危機に陥ったら助けるっすよ。それに、ここならどさくさに紛れて吸血してもバレなさそうっすね)
ぺろりと唇を舌で舐めると、浩美はビームライフルの射撃をギリギリのところでかわしながら弓矢を放った。
血の魔力を込めて打ち込まれた矢が偽神の腕へと命中。かすっただけにも関わらず、爆発的に広がった魔力が偽神の肉体を崩れさせていく。
「警察も正常に機能していないだろうし、とどめを刺してしまってもかまわないっすよね」
「安心しな。殺人罪も吸血罪もここにはねえよ」
『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)が二丁拳銃によって激しい銃撃を浴びせ、崩れかかっていた偽神にトドメをさした。
トラップによって検知した偽神たちの接近をしり、更に展開していた二種のファミリアーによって最も戦力の必要なエリアへと駆けつけたようだ。
「しっかし、例の偽神ってのは厄介だな。死ぬまで戦うんじゃあ罠がいくらあっても足りねえ。一旦バリケードの内側に戻るぞ」
浩美を助ける形でバリケードへと走るジェイク。
飛び込んだところで、『ゴールデンラバール』矢都花 リリー(p3p006541)が早速バールを投げまくって偽神への牽制を始めていた。
「今ログインルームのドア開けたら即怪人とかさぁ……ギルティだよぉ……」
じゃらじゃらとバールの束を補充すると、それを振りかぶるリリー。
バリケードはジェイクのこしらえたものだが、その材料はリリーがそこらへんからひっぺがして集めてきたものである。
「責任者誰か知んないけど身を切る覚悟が足りないんだよねぇ……顧客目線が第一だよぉ……?」
再びバールを投擲し、それはバリケードを破壊しようと接近してきた偽神の頭へと突き刺さり仰向けに倒させる。
バリケードはこのまま維持できそうか……に見えたが。
「あぶねえ!」
後方ログインルーム側から駆けつけ、そして仲間達を庇うように立ち塞がった『理想のにーちゃん』清水 洸汰(p3p000845)。
その次の瞬間には大量の小型ミサイルと機関銃による掃射によってバリケードが吹き飛んでいた。
からからと笑い、四連装ガトリングガンを棒立ちのまま撃ちまくる偽神決戦仕様『ヘビーアーム』タイプによって。
「この状況でも笑ってられるってすっげーよな、偽神って。
オレも戦場にいるからこそ、笑顔は忘れちゃいけねーとは思ってる。
でも……どーせ笑って戦うんなら、自分や皆を励ますために笑おうぜ!」
あまりの火力にぼろけた洸汰は、しかしニッと笑ってばっとを構えた。
「いくぜー、ファンドマン! フランスパンマン!」
「ふぁんどまん?」
「ふらんすぱんまん?」
同じく駆けつけていた『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)と『恋揺れる天華』上谷・零(p3p000277)が互いの顔を一度見た後、『ああ……』みたいな表情になって咳払いした。
そして浴びせられる次なる弾幕。
寛治は防弾ステッキ傘を開いて弾を防ぐと、零をその影へと入れた。
「なんだありゃ、棒立ちで撃ちまくって笑ってるぞ。正気か!?」
「狂気ですよ。狂気によって、狂気の兵士が人造されたんです。
連中は勝って繁栄するために戦争をするんじゃありません。互いに殺し合って人類を減らすために戦争をしているんです」
「人類規模の口減らしか? 冗談じゃねえ……!」
零は歯がみし、そして拳を握りしめた。頷く寛治。
「洸汰さん。あなたの頑丈さが頼りです。そして零さん、あなたの屋台を借ります」
洸汰と零は互いに顔を見合わせ、そして『了解』とそれぞれのトーンで叫んだ。
次なる弾幕。と同時にとびだした洸汰は自らの体力の続くかぎり偽神へと突撃。
殺到するミサイル群の爆発と機関銃による連射で最後には力尽きるが――それによって生まれた時間は無限に等しい。
「俺らは未来に生きるために、勝つために戦ってんだ! 死ぬときのこと考えて戦う奴に敗けるかよ!」
戦闘形態に変形した屋台に乗り込み、偽神めがけて突進する零。
激突。吹き飛ぶ偽神は重火器武装をパージし、コンバットナイフを抜いて斬りかかってきた。
が、それを予期していた寛治は助手席から転がるように離脱。
素早くスーツ下のホルスターから拳銃をぬき、偽神の額へと引き金をひいた。
「……この顔。やりづらいですね」
銃をしまう寛治の後ろで、タカジが暗い顔をしていた。
「美少女を捨て駒にするR財団、許せねえっすわぁ」
そう言って、開いたままの偽神の目を手でそっと閉じさせた。
成否
成功
第2章 第12節
ヘキサゴン各ブロックでの襲撃はその勢いを増していた。
増援に駆けつけていた希望ヶ浜特選部隊や駐在していた警備員たちの数が減ったこともあるが、偽神の『死ぬまで積極的に戦う』と言う性質が長期戦において有利に働いたためである。
「肉が不足していますが上等です、ベーコン炙りましょうね! 眩暈を糺す為です、もう容赦なんてしませんよ」
恐ろしい勢いで魔力砲撃を連射していた『同一奇譚~別冊』襞々 もつ(p3p007352)はそのスタイルをベヱコン『法』へとシフト。
冒涜的ないしは破滅的な打撃が偽神を叩き、そして偽神の刀もまたもつの脇腹をえぐるように斬り割いた。
二人は血にまみれながらアハッと笑い、至近距離で互いの肉体を徹底的に破壊しあう。
死生観や人生観の歪んだもつはある意味、偽神の天敵と言えるだろう。
が、全ての者が自らを、あるいは親しい者の肉体が破壊されるさまを深く許容するわけではない。
「カルネくん、下がって!」
怪我をおったカルネを下がらせ、『一般人』三國・誠司(p3p008563)は御國式大筒『星堕』を担いだ。既に用をなしていない第一正面バリケードめがけて砲撃。
弾頭を斬り割き爆発に紛れながら偽神が突っ込んでくる。
「この野郎、よくもカルネくんとROOを……!」
「誠司……」
「まだこっちは夏のROO版カルネちゃん水着Verとかこれからのクリスマスな時期にきっと実装されるであろうミニスカサンタとか正月の巫女服カルネちゃんとか見たいアバターしこたまあるのに滅ぼすだなんて許せん!」
「誠司……?」
「どうしてこんなひどいことをするんだ、お前ら人間じゃねぇ!!」
「誠司!?」
大砲(キャノン)をぐるりと回しトンファーの構えにすると、スパイク部分を接近する偽神へと叩きつける。
「こっちはカルネちゃんのアバターがかかってるんだよ!」
「誠司!? さっきからどうしたの!?」
そう言いながらもガンブレードによる援護射撃を行うカルネ。
二人がかりで偽神を押し返すと、偽神へトドメの一斉射撃をしかけた――その瞬間、宙に浮かぶ複数のビームライフルが誠司たちへと一斉射撃を開始。
「……ガンファング」
煙のさきから現れたのは、偽神決戦仕様ガンファングタイプであった。
「二人とも、ここはオレに任せるっス!」
浮遊するライフルのひとつへとオーラを纏ったサッカーボールが激突。
颯爽と現れた『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)はザッと地面をすべりながらも、戻ってきたボールを胸でうけて再びシュートスタイルにはいった。
「何が人口の最適化っスか、そんな事で人を殺させてたまるかってんだ。
銃はオレがぶっ壊して封じるっス、その間に本体を頼むわ!」
変幻自在のサッカーシュートは複雑怪奇な回転と速度をもってガンファングやバリケードの残骸、ときには倒れた誰かの死体すらもバウンド(跳弾)して空中に浮遊するライフル群へと襲いかかる。
多角的な銃撃を可能とするガンファングだが、操縦者の脳にかかる負荷は計り知れない。一度使用すればその反動で死ぬか廃人になるかというきわめて非人道的な兵器なのだ。
そしてだからこそ、思考に負荷をかける葵のスタイルはきわめて相性がいい。
「ここが正念場、だね。いくら敵が強いからって、引き下がれない……」
少年『燃えよローレリアン』山本 雄斗(p3p009723)、そして拳銃を抜いた『ワイルド・レンジ』ムサシ・セルブライト(p3p010126)は並んで身構えた。
「奴らを通してしまえば、ログイン装置が占拠されてしまうであります! それだけは絶対に止めなくては!」
雄斗とムサシはそれぞれ独特なモーションをとると、(主に雄斗から)激しい音と光が放たれ変身が完了した。
ムサシは装着した追加装甲を青とイエローに発光させ、同じくカスタムされた『52SHERIFF SP』を撃ちまくる。まるで残像を作るかのように複数にブレた拳銃が一斉に放たれ機関銃のような連射が偽神へと浴びせられる。
「ここは死んでも通さない! あの世界を救おうと戦う人達のためにも!」
雄斗はその隙に急接近。疾風モードのスーツはムサシとにた青い光を残像にしてひくと、自らの拳を偽神の腹部へとたたき込む。
葵の与えた負荷によって術者の思考を弱らせ、ムサシの与えた連射によって動きを制限し、そこへ鋭く穿つ槍のように雄斗のパンチが炸裂したのだ。
見事な連携攻撃によって武装を破壊された偽神はまっすぐに吹き飛び、バリケードの残骸へと激突。わずかに崩してその場に転がった。
これ以上の攻撃をするべきかどうか心の中で悩む雄斗。だが……。
「もう、必要ないっスよ」
肩に葵の手が置かれた。
見れば、偽神は目を開けたままかくりと事切れていた。
「ガンファングに、肉体が耐えられなかったのであります。これを望んで装着した彼女も、そんな彼女や兵器を作り出したR財団も……」
グッと拳を握りしめ、ムサシは瞳の奥で炎を燃やした。
成否
成功
第2章 第13節
「ったく、『バリケードは壊されるために作る』つったやつはどこの誰だったか……」
偽神の猛攻によって崩壊しかかったE区画の正面第一バリケードを、『帰ってきた放浪者』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)はほぼ一人で防衛していた。
増援部隊や駐在していた警備員は重傷を負って奥へと撤退。戦っていたイレギュラーズたちはログインルームへ向かった結果、『あちら』の戦いが長引いているのかすぐには戻ってきそうにない。
今はバクルドが仕掛けた地雷やセンサータレットといった罠でじわじわ時間を稼いでいる状態だ。
幸い怪人達や傭兵達はいたずらな被害を警戒してか罠地帯を強引に突破する様子はない。
もう暫くこのまま……と思った矢先。
「フルアーム、ファイア!」
七色の光線が壊れかけのバリケードを吹き飛ばし、そして地雷だらけのエリアをストライカーユニットからのエネルギー噴射&全力ダッシュで突っ込んでくる少女があった。
偽神、それも決戦仕様フルアームタイプである。
「――冗談じゃねえ!」
身を乗り出し、銃を撃ちまくるバクルド。
地雷を踏んでもそのまま踏み抜いていくスタイルで突っ込む偽神は、笑いながらバクルドの銃撃をその身に受けた。直撃し血を吹くも、まるで止まる様子がない。もはや遠回しな自殺である。
「お待たせましたの……!」
そこへ割り込んできたのは、壁抜けによるショートカットで出現した『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)だった。
防衛中に出たけが人を仮設医療質へ運び混んでいた彼女だが、どうやら間に合ってくれたらしい。
「無理矢理、何を楽しいと感じるかを、書き換えるだなんて、なんておそろしいことを、なさいますの……っ」
ラグビーのタックルよろしく偽神の腰へ全身でぶつかって組み付くノリア。
(もう、かれらを救うことは、できないのでしょうから、倒して、この計画は失敗だと、思わせるしか、ありませんの)
ぎゅっと瞑っていた目を決意で開き、半透明な尻尾をぴしゃんと鳴らすと偽神の突撃とは逆方向へと力を加えた。
背負ったビームライフルが一斉にノリアへ向き、そして一斉に射撃が浴びせられる。
とてつもない火力で身を焼かれつつも、ノリアはじっと身をこらえる。かかった熱を相手に押し返しすらしてだ。
常人であれば、こんな阻まれかたをすれば損を恐れて引き下がるが……そこは偽神。笑って死ねる兵隊である。
「おもしれー女! そんじゃ心中しよっか! ぱーっとね!」
キッとノリアが表情を(わずかに)険しくした所で、偽神の背に何かが着弾した。
着弾からわずかに遅れて『タァン』という銃声。
『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)による長距離スナイプである。バリケードの内側ではなく、あえて外側。ヘキサゴン向かいにある警備塔の上からだ。
「なるほど、犯罪者を扇動してたのはこいつか。こいつ等を潰せれば状況はだいぶマシになりそうだ……」
偽神の視線がノリアからラダへとうつり、そしてノリアを振り払うようにしてラダめがけて直進しはじめた。
塔の階段を上るなどという遠回りはしない。空中にあがることの無防備さも無視し、一直線に飛行して。
「いえーぁ! 百倍返し!」
打ち落とそうと構えるラダめがけ、偽神は全ての大型ビームライフルをぶっ放す。ラダは咄嗟にその場から飛び退き、塔の上部が吹き飛んだのを察した。
「それにしても、また大層な武器だ。ここで壊してしまうのが少々勿体なく思える程だよ」
「それでも破壊する。誰かの笑顔を守ることが、機動魔法少女に望まれた使命だから」
ラダの稼いだ時間、そして与えたダメージはもう一人の到着を確たるものとした。
崩壊しきったバリケードの中心に立ち、マジカルアハトアハトを構える『八十八式重火砲型機動魔法少女』オニキス・ハート(p3p008639)。
この勝負は一撃必殺。先に最大効率の攻撃を打ち込んだ側の勝ちである。
ゆえにオニキスは遮蔽物に身を隠すことを、あえて選ばなかった。あるく防弾ガラスことノリアにすらも隠れず、堂々と身をさらした状態でエネルギーをチャージ。
その場から浮きあがる。
ぐるりと振り向いた偽神と、ほぼ同じ高さで互いの目をにらみ合った。
「マジカル☆アハトアハト、フルチャージ――発射(フォイア)!」
交差する光線と弾丸。
オニキスの拡張武装が破壊されるのと、偽神の肉体が吹き飛ぶのはほぼ同時のことだった。
成否
成功
第2章 第14節
「ハロー! みんな元気!? ……あれー? 返事がないぞー、ハロハロー!」
両目を見開き、瞳を黄金に輝かせ、同じく黄金に輝きがラインを作る身体を晒して現れたのは偽神決戦仕様ゴールデンロアタイプ。
稼働時間に限りがあるが、圧倒的なパワーを捻出できる人間兵器だ。そして稼働が終わった時は、彼女が人間の原形を留めないほどに崩れて壊れる時である。
「人生は一度きり、たのしまなくっちゃね!」
そう言いながら、偽神は大きな医療機器を蹴りひとつで粉砕した。
「……」
その場に『特異運命座標』フロル・フロール(p3p010209)が居なければ、今頃粉砕されていたのはこの場に搬送された負傷者たちだっただろう。
「ほらほら、なにをぼーっとしてんのさ。人生をしぼろーじゃん。一瞬の輝きをたのしもーよ」
両目を見開き笑う偽神。
フロルはありったけの回復魔法を負傷者たちに浴びせて動ける状態にすると、彼らを部屋から退避させ、そしてその出入り口を自らが陣取ることで塞いでいた。
「これ以上は殺させん。命を救わんとする者が、ここには沢山居るのじゃからな!」
力を使い果たしたフロルにできるのは、己の充填能力をアテにしてなんとか攻撃を耐え続けることのみ。
そしてそれは、決戦仕様の偽神相手ではそう長く持たないだろう。
「来ないの? じゃあこっちから――」
金色の軌跡をひいて殴りかかる偽神の、顔面を、『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)の拳がとらえた。
「――オラァアアアア!」
肉体から吹き上がる紅蓮のオーラが拳に集中し、偽神を吹き飛ばす。後ろ向きにひっくり返り、そのまま転がるように部屋の隅まで飛んだ偽神は、えへへと言いながら立ち上がる。
「なんだぁ、いるじゃん。ヤる気のあるやつ」
「ハッ! この時の為に温存してたんだ。
おれさまは女子供だろうと容赦しねえぜ。
全員平等に、奪って、奪って、奪い尽くすんだ。
お望み通りぶちのめしてやるよ」
山賊の斧、そして山賊刀を手にとりゲハハと笑ってみせるグドルフ。
彼が背負っているのはROOという機械とシステムだが、それだけではない。
叶うはずの無かった再会や、救いや、誰かの祈りがそこにある。
そしてきっと、『グドルフ・ボイデル』はそれを守ろうとするだろう。
「相手の得意な戦術は接近戦と高火力か?
うぅむ、我との相性はよくも悪くもない感じじゃな!」
そこへ駆けつけた『ナチュラルボーン食いしん坊!』ニャンタル・ポルタ(p3p010190)が杖を構え、グドルフの方を見る。
「そういうときぁ気合いでカバーだ」
「なるほど、気合いでカバーじゃな!」
グッとガッツポーズをとったニャンタルは紫の煙をひくガス灯めいた杖をぐるぐると回し、棒術の容量で偽神へと襲いかかる。
そしてそれは、ニャンタルだけのことではなかった。
破壊された外側の壁から『疲れ果てた復讐者』國定 天川(p3p010201)が突入し、偽神の背へと小太刀を繰り出したのだ。
「笑って死ねる兵士を量産する、だぁ? 気に入らねぇ。気に入らねぇなぁ! そんなもんは人間だけで、狂人だけで十分なんだよ! 胸糞わりぃ連中を思い出しちまったじゃねぇか!」
天川の脳裏には、偽神たちの振る舞いと『一斉蜂起事件』が重なった。
(クソッタレのカミサマが俺を絞首台に上らせなかったのぁ、こういうワケだったのかもな)
天川の側こそを優先的脅威とみた偽神は振り向き、カウンターの肘を入れる。
「まだ終わってねぇんだよ、『てめぇら』みてえな奴らをぶっ潰すのは――!」
肘で喰らった痛みをそのまま乗せ、もう一本の小太刀をたたき込む。
と同時に、ニャンタルとグドルフの打撃が偽神へと炸裂。許容量をオーバーした偽神は『アハッ』と笑って文字通りに爆発した。
ほぼ時を同じくして。破壊されたヘキサゴンの壁の前で『蒼騎雷電』イルミナ・ガードルーン(p3p001475)とイングは熾烈な戦いを続けていた。
クローをぶつけ合い、組み合った状態のままリアムへと吼えるイルミナ。
「失ったものは戻らない、戻せない。だからこそ……今、そして未来が愛おしく、美しいんス。神ぶるのも結構ですが、まずは真っ当に人間してみたらどうッスかね!」
「そんな詭弁をどこで覚えた?」
イルミナとイングの戦力は互角。イルミナが力を高め技の鋭さを増す一方で、イングもまた己の強化と拡張を欠かさなかったということだろう。
だが僅かに、イルミナの強い想いがイングを押しているようにも見えた。
その様子が気に食わないといった顔で、声のトーンをおとすリアム。
「人間に奉仕することが最大目的のお前達が、『美しい』だと? お前達こそ、家電製品ごときが人間ぶるんじゃない。所詮そんな美観や思想すら、『コード』を通せば上書きされるんだろう? このイングのように」
「――ッ」
瞠目するイング。対照的に、怒りに顔を引きつらせるイルミナ。
だがその瞬間、ヘキサゴン屋内で爆発の音がした。決戦仕様の偽神が倒された音だろう。
リアムはチッと舌打ちをすると、周囲の偽神たちに『足止めをしろ』と命じてきびすを返した。
「行くぞイング。これ以上は損益しか産まない。リスクカットだ。『R』もそろそろ、そういう判断を下すころだろうし、な」
「待つッス!」
飛び出すイルミナを、偽神たちが押し止めた。
イングはそんなイルミナを一瞥したあと、どこか複雑な表情をしたままリアムのあとについて撤退を始めた。
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※特殊イベント発生!
偽神迎撃中において特殊なフラグを回収したため、L&R株式会社のリアム・クラーク及びその傭兵達が撤退を始めました。
作戦成功率が大きく上昇します!
リアム・クラークの契約相手がR(ザムエル・リッチモンド)であることが判明しました。
================================
成否
成功
第2章 第15節
決戦仕様の偽神を撃破し、残る偽神たちも次々に撃破が進んでいると言う報告がヘキサゴン館内の有線通信装置によってもたらされた。
「ってことは、こっちももう一息ってことだね!」
クラスカードを翳し、パラディンフォームにチェンジする『魔法騎士』セララ(p3p000273)
「笑顔は笑顔でも、『笑って生き残る兵士』じゃないとね。敵は倒す、自分も生き残る。そして戦友も助ける! それがハッピーエンドの条件なのだっ」
斬りかかるセララのギガセララブレイクが偽神の刀をへし折り、ストライカーユニットによる噴射で押し込まれるも壁に激突するのみで押しとどめた。
至近距離で詰め寄ったままナイフを抜く偽神――の後頭部で、酒瓶が弾けた。
「ちょっと最近殴る蹴るも『あっち』で嗜むようになって駄目ねぇ」
ぱたぱたと手を振って、割れた酒瓶を放り投げる『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)。
さらなる偽神たちが迫る中、アーリアは胸元から取り出した小瓶を小さく振った。
「『笑って死ねる兵士を量産化する』……。私としては前半大賛成なんだけど、若くてかわいい女の子は戦うよりお揃いのアクセ買ってタピってカラオケして青春を楽しむべき!
ってことでおねーさんがお相手しましょ!」
発動した魔術が偽神たちを包み込む一方、ビームライフルによる射撃がアーリアやセララたちへと殺到。
が、そのダメージを何者かの治癒魔法が押し返した。
「笑って死ねるなんて死んでも認めねぇ!! ましてやそれが歪められた結果の嘘偽りの感情なら尚更だ!!」
襲撃された仮設医療室から負傷者たちを逃がした『死相を砕く』松元 聖霊(p3p008208)が駆けつけたのだ。
聖霊の目から見て、偽神はあらゆる意味でいびつだった。
精神的な操作もさることながら、外科手術によって人工的に肉体を強化改造され、おそらく脳に対するかなり非人道的な手術が行われたような形跡も、聖霊は発見することができた。
「ふざけやがって、医療をそんなことのために使ってんじゃねえぞクソ野郎がッッ!!」
「笑って突っ込んでくるなんて、狂気的にも程がありますですよ! でも向かってくるのなら……叩き潰すですよ!」
同じく駆けつけた『エルフレームTypeSin』ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)のグレートメイスが、アーリアの魔法で弱った偽神を殴り倒す。
力尽きた偽神はその場に崩れ伏し、ぴくりとも動かない。
「この場所は危険なのですよ。ブロックの奪還は仲間のみなさんに任せて、まずは移動した負傷者の皆さんを助けにいくですよ!」
否定の言葉はない、小さく頷く聖霊たちを連れ一度ヘキサゴン屋外へと出たブランシュ……の側頭部に、光るメスのようなものが突き刺さった。
「――ッ!?」
スナイパーライフルによる狙撃をうけたかのように転倒するブランシュ。
死んでいないのは、運命的に直撃を免れたからだろう。
追撃から守ろうと展開するセララたちに、拍手の音が響く。渇いた、そしてどこか残酷な音として。
「見事な戦いぶりだったね。完全調整した偽神シリーズを相手に人員を守り切った。ログインルームの破壊も僅かに済んだし、死者も出なかった。機材の奪還も防いだようだね。うん、結構結構」
拍手の音と共に、まるで空間から染み出たかのように突然『彼』は現れた。
「やあ、室長さんだよ」
両手を開き、まるで歓迎でもするように、微笑すら浮かべて――セララの眼前20㎝の距離に表れた。
白衣に眼鏡。それ以外に大きな特徴を持たないが、それ故に禍々しい気配だけを持つ男。
咄嗟に剣を振るも、それは彼の翳した二本の指によって止められた。
アーリアは飛び退き『緋糸の契り』を発動。ブランシュもまた超高速で飛び退きグレートメイスをライフルモードにチェンジして発砲。
――しようとした途端、彼女たちの後ろにあった『偽神の死体』が立ち上がり彼女たちを羽交い締めにした。
「な――っ」
医術に詳しい聖霊の目からも、彼女たちが再び動くなどありえなかった。個体によっては胸に大きなあなを空けてすらいたのだから。
「な、何です!? 死霊術!?」
「いやいや、ははは」
全くおかしそうに聞こえない笑いを浮かべ、男は首だけで振り返る。
「そういうのは、生きてる人間に使うものだよ。偽神は兵器。血と肉と鉄でできた自律する兵器さ。だから、再起動くらいできてもらわないと」
乱射されるビームライフル。
辺りが一瞬にして焼き尽くされていく。
セララたちが死なずに済んだのは、聖霊がギリギリまでこらえて彼女たちを撤退させたためである。
であると同時に、追撃をかけようとした偽神たちを、二人の女が阻んだためだ。
「アクシュミなことしてくれんじゃん」
戦神異界式装備第零壱号『奏』の刀身が偽神の剣を抑え、カタカタと震える刀身を押し返す。
『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)は刀を構えなおし、顔が半分なくなった偽神の首を切り落とした。
「アンタからは、オレの大嫌いな匂いがする」
同じく『戦神護剣』紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)の剣が別の偽神を切り落とし、首を落とされた偽神たちは再び死体へと戻った。
紫電が偽神たちに半端なシンパシー……ないしは『命を持った兵器』ににた感覚をもったのは、このためだ。
「脳から送られる電気信号を補助することで、偽神シリーズは高い運動性能と迷いの現れない戦闘機動を実現する。けどやり方によっては、こうして死んだ後も有効利用できるってわけさ。エコだろう?」
爽やかな笑みを浮かべ、両手をひらひらしてみせる眼鏡の男。
周囲の偽神の死体たちがふらふらと立ち上がり、そしてそれぞれがビームライフルや刀をひろいあげた。
「二年前を思い出すよな。あのときも『アンタ』がこいつらをけしかけたんだろう、クソ野郎が」
「ふふーふ」
鼻歌のように笑い、そして眼鏡の男は首をかしげた。
「ヒ・ミ・ツ――だよ」
その表情と振る舞いは、もはや質問にイエスと答えたようなものだ。
秋奈の剣が男の首めがけて繰り出される。
が、それは空振りした。
背後にいつのまにか現れた男は、秋奈へと耳打ちする。
「『わたし茶屋ヶ坂 秋奈。普通の女子高生。スリーサイズは上から99、66、88』」
「嘘を――」
振り返って斬ろうとするが、その手をがしりと止められた。
その瞬間、脳裏にいくつもの言葉がよぎる。
かつての世界。初代戦神のコピーとして作られた七つの女子高生型決戦兵器。通称アンロットセブン。
そのうち三つの個体だけが戦神化に成功し、二つだけが混沌世界へと召喚された。
「……あんたは生かして帰さない!」
吼える秋奈に答えるように、紫電の刀が男の腕を超高速で切断する。肩から切り取られ、それによって秋奈を掴む腕をまるごと失った男は飛び退き、そしてしゅるんと一瞬で腕を再生させてしまった。
「いつかまた会おうね。グッドバイ」
手をグーパーさせると、男はその場からかき消えてしまった。
成否
成功
第2章 第16節
「潮時か……」
ザムエル・リッチモンドはハアと息をつき、その場を後にした。
「生きていればまたリトライできる。今度はまた別の――」
「いいえ、別の機会などありませんよ」
拳銃を突きつける、新田寛治。その隣ではタカジがショットガンを構えている。
「イタズラは終わりだ。ここで死ね」
「おっと、よせ。俺がバトルするように見えるか?」
両手を開き顔の高さにあげ、降参したように振り返る。
その瞬間、寛治とタカジの両肩にポンと誰かの手が置かれた。
白衣に眼鏡の男であった。
「終わったか、室長」
「おかげさまでね。いいもの見れたよ」
咄嗟に振り払い射殺しようとする寛治とタカジだが、彼らの銃口はそれぞれの額に向いたまま止まった。眼鏡の男だけがそこから消え、今度はザムエルの背後に立ち彼の肩を叩いた。そして耳元へと囁く。
「お疲れ様、ザムエル。今回の計画は失敗したけど、きっと次は上手くいくよ。
世界人口をキッチリと最適化して、魔種に脅かされない世界をつくっていこう。
今日の所は、これで引き上げだ」
男の目は寛治たちを見つめたまま、その場からザムエルごと消え去ってしまった。
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※イベント発生!
偽神シリーズのうち決戦仕様を全て撃破したことにより、R財団は撤退しました。
これにより【偽神】パートは終了となります。
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第2章 第17節
R財団およびL&R社が撤退したことで、ヘキサゴンに残った敵勢力はネオフォボスの怪人たちのみとなった。
「そろそろ、現れる頃だと思っていましたよ……」
車が並ぶ駐車場でブレーキをかけ、『二輪』アルプス・ローダー(p3p000034)はアイカメラを、そして少女型交流用アバターの顔を大型トラックの上へと向けた。
「連中は諦めたようじゃが、ここで終わってもらうわけにはいかんのでな」
宙に浮かぶ水槽。中に込められているのは人間の脳だ。
それを黒い鎧をきた人間らしきものが掴み、己の頭へとはめ込みヘルメットで覆う。
ギラリと目を光らせたそれの名を、アルプスローダー含め多くのイレギュラーズたちは知っていた。
「ナンイドナイトメア……!」
「いかにも」
髑髏をかたどった鎧を纏う、秘密結社ネオフォボスの総帥。七つのギフトと無限の戦闘能力をもつとすら噂されたそれが、『洗脳した7体の超人』を巧みに入れ替えて作られた偽りの伝説であることを、ROOを通してアルプスたちは知っている。
そして『もはや隠す意味も無い』とばかりに、合計6体のナンイドナイトメアボディが駐車場へと出現したのだった。
「フォボスローダーに幻想王国を支配させる計画は、貴様等ローレットによって失敗した。
だが、今回は違う。都市国家アデプトを手中に収める計画はもはや成功間近じゃ。
Hadesの計画通りマザーは暴走し、都市は壊滅状態。Rの連中は撤退したとはいえ、ログインルームをもつヘキサゴンは怪人達によって内部まで侵入を許し陥落寸前。
このままマザーの暴走が続けば、ワシらの勝利は確実じゃ」
そこで、とナンイドナイトメア。……否、ナンイドナイトメアを操縦しているジーニアス・ゲニー・ジェニ博士はくつくつと笑った。
「最大の障害である貴様等ローレットを始末すればワシの野望は完遂する。ここで死ぬがよい、アルプスローダーよ!」
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※イベント発生!
ジーニアス・ゲニー・ジェニ博士の計画が最終段階に入りました。
これにより新パート【ネオフォボス】が解放されます。
(プレイング募集期間が短くなっています。ご注意ください!)
【ネオフォボス】
6人の洗脳超人を鎧の中に詰め込んだネオフォボス最後の隠し球『ナンイドナイトメア・シックス』が現れました!
秘密結社ネオフォボスとの最後の戦いが、ここで幕を開けたのです!
成功条件は『ナンイドナイトメア・シックス』を全て撃破すること!
この戦いに勝利することで怪人たちをも全て倒しきることができます。
・ナンイドナイトメア・シックス
『全員が影武者』のネオフォボス総帥。一人目のナンイドナイトメア(真名フォボスローダー)は幻想での決戦にて倒しましたが、残る六体が一気に投入されています。
彼らは非常に強力な戦闘能力をもつ超人たちで構成されていますが、本当にヤバイのはジェニ博士が操縦している『ナンイドナイトメアG』のみです。
残る個体は超人ではありますが、イレギュラーズ各々が実力をフルに発揮すれば倒すことができるでしょう。
参考:<NF決戦>最終大突撃! 秘密結社ネオフォボス!
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/2088
※フォロー措置について
前回【偽神】パートにて抽選から漏れたPCは、プレイングを書き直さなくても自動的に【ネオフォボス】または【ログインルーム】パートへの再抽選が行われます。
「そうはいってもネオフォボスと戦うための台詞やビルドに書き直したい!」という方は、ロック状態を解除しておきますのでプレイング締め切り日までにプレイングを書き換えましょう。
(プレイング締め切り日は投稿ボタンから確認できます)
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成否
成功
第2章 第18節
たとえば常にゆすられ続けるワイングラスの中のように。状況は刻一刻と変化し、つい先刻まで安全だった場所が突如として危険地帯と化すこともままある。
『白き不撓』グリーフ・ロス(p3p008615)は特別研究棟ヘキサゴンの中でも特に安全が確保されていたA区画に負傷者達を搬送したあと、正面に建造(?)されたバリケード地帯へと走っていた。
横転したトラックや倒されたスチールデスク。あるいは倒壊した検問小屋によって作られた強固なバリケードを、怪物たちが襲撃している。
凶悪な武器や魔道書と人間、そして動物を融合させたような姿をした『怪人』と呼ばれるクリーチャーたちである。
(私にできるのは、私が目にし、手が届く、作られた悲劇に、終わりを届けるだけ。
そう、耐えるだけでは、なにも変わらない。
変えられないならば、私が変わるしかない)
崩れた土嚢を飛び越えると、魔道書の力を使って熱砂の魔術をおこした怪人の攻撃を振り払う。
きっと彼らも、望まず作り出された怪物なのだろう。先刻戦っていた偽神たちと同様に。
そしてあるいは……。
「必ずしも人工的に作られたモノが悲劇とは限りません。
それでも、私はその行為全てを肯定することはできません」
グリーフが魔術をその身で防御している間、駆けつけた『秋の約束』イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)は『スケフィントンの娘』を発動。小脇に抱きかかえたオフィーリアにぎゅっと力を込める。
『この姿』を可愛らしいねと言ってくれた彼の笑顔を、思い出す。
かつての世界で見た、あのどこか悲しげな笑顔と重ねて。
「もう、奪わせないって決めたんだ」
魔術を解き放つイートハーヴ。吹き飛んでいく魔道書怪人が、炎上するジープへとぶつかって転がった。
それでも尚立ち上がる姿は、笑いながら戦う偽神たちを思い出させる。
「笑って戦える……それは、少しだけ羨ましいよ」
ゆらり、と立ち上がった怪人がさらなる魔術を放とうとしたその瞬間。身体を燃えさかる槍が貫いた。
ジープにガツンとささり、まるでピン留めされたように動かなくなる怪人。
振り返ると、『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)が槍の投擲姿勢を解いていた。
「大丈夫っ? まだ棟の中には入られてないみたいだけど……」
見れば、両手を剣にかえたカマキリ怪人やトンプソン軽機関銃(トミーガン)を頭から生やした羊めいた怪人たちがぞろぞろと集まってきているのが見えた。
「ここには、皆がいる。守りたい友達も、出会った思い出もいっぱいあるんだよ」
そして守る力は、いまこの手にある。
焔は走り、ソードカマキリの斬撃を跳躍によってかわすと火炎爆弾を発射。こちらを狙うトミーガンシープを牽制しつつジープに刺さった己の槍を抜いた。
防御姿勢。そこへ両腕のトミーガンの乱射が浴びせられ――なかった。
割り込んだ『全てを断つ剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)が斬撃によってその攻撃を離別させたのである。厳密には、自分の身体にぶつけさせることで遮ったのではあるが。
「少し休めるかなと思ったら、今度はネオフォボスの怪人たちか。さあ、キミ達の相手はこちらだ! よそ見をしないでもらおうか!」
ぐるりと振り向いたソードカマキリが襲いかかるが、そこへ割り込んだのはヴェルグリーズだけではなかった。
黒く、そして大柄な鎧。竜を思わせる頭部のかぶとと全身に走る青いライン。
そのなんとも形容しがたい『存在』はソードカマキリの斬撃を装甲で受けると、がらんどうの内部からボッと赤い炎を揺らめかせた。
そう。『鎧のみ』の戦士、ウォリア(p3p001789)である。
「のんびりと『あちら』に集中させても貰えんようだな。
久方ぶりに眠り、食べ、怠け…それを続けるのも悪くは無いが、戦の気配があれば鎮まってなどいられん」
スッと手をかざすと、ヴェルグリーズは頷いて跳躍。自らを剣の姿へと変えると、握ったウォリアによる豪快な斬撃によってソードカマキリの胴体を切断した。
「お、調子よさそうッスね! ROOにずっと入ってたのでは?」
そういえばROOで何やってたんスかねと言いながら横に並ぶ『蒼騎雷電』イルミナ・ガードルーン(p3p001475)。
トミーガンシープがイルミナに狙いを定めるが、イルミナは凄まじい加速をもって飛来する銃弾の全てを打ち落とすと、そのまま接近しトミーガンシープの片腕を切り落としてしまった。
「イルミナ……」
ウォリアはその剣筋に、迷いを見た。
新たに現れたグレネードマイマイの放つ大量の爆弾を鎧と剣で弾いてイルミナを守ると、肩越しに振り返る。
イルミナは、『何でもないッスよ』と笑顔をつくった。
なんでもなくなんて、ない。
内心で渦巻いているのはリアムの『家電製品』という言葉だ。
否定したいが、否定できない。だって『そういうふうに』作られたのは事実だからだ。
(もしかして、イングも……? 彼女のコードを手に入れれば、イルミナみたいに自由に……)
そこまで考えて、首を振った。
生きていれば答えは出る。今は生きねば。そして、戦わなければ。
成否
成功
第2章 第19節
ヘキサゴン屋内、あるログインルームにて。開いたチャンバーから一人の男――『惑う守護石』鵜来巣 冥夜(p3p008218)が起き上がる。
仕立ての良いスーツとネクタイ。タイピンには鮫島より贈られた『ホストクラブ・シャーマナイト』のロゴに小さなダイヤモンドがはめられたものがそえられている。
今から向かうのは、ホストクラブではない。
だが……。
「カティア。オラン」
呼びかけに応えたのは二人のホストだった。同じくホストクラブ用のスーツを纏った『グレイガーデン』カティア・ルーデ・サスティン(p3p005196)と『ネットワークブレイカー』オラン・ジェット(p3p009057)。
彼らはログイン装置から出ると、ネクタイをきゅっと締め直した。
「兄上が動き出した今、本格的にオランに店長代理を任せる事になりそうだ。彼は卓越した本能でピンチを嗅ぎ分け立ち回る。そこにカティアの冷静な分析が加われば、きっと立派な店になるでしょう」
「だな……っておいおい、留守中にあの街はぶっ壊れちまったんだぜ? それでも……ま、やるってんだな。わかったよ」
ヘヘ、とどこかくすぐったそうに笑うオラン。
カティアも同じようにフッて笑ってから……。
「まって? なんでスムーズにやる流れになってるのかな? あとなんで僕までホストっぽいスーツ着せられてるの!?」
「びっくりするくらい似合ってますよ」
「僕もそう思うけど! 不本意ながら!」
カティアたちがログインルームを出て階下のフロアへと駆けつけると、今もなお激戦が繰り広げられていた。
「メリークリマァ――正拳!!」
怪人カラテサンタによる聖なる正拳突きが繰り出され、『霊魂使い』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)はそれをドシリアスな顔で受けていた。
蛇銃剣アルファルドを握った腕でガードし、蛇腹に展開したダナブトゥバンを叩きつける。
「迫りくるクリスマスを畏れぬ勇者達よ、チキンとケーキの予約もままならぬ年末をくれてやる」
「ケーキなど0時を過ぎれば投げ売りされるわ!」
「イブを過ぎたクリスマスに何の意味がある!」
凄いシリアスな顔で激戦を繰り広げるアーマデルを、『Nine of Swords』冬越 弾正(p3p007105)が後ろのほうからもの言いたげに見つめていた。
説明を求める目で弾正をみるカティア。
「わかった、説明しよう。混沌にはシャイネンナハトといって黒き巫女の伝説が語り継がれている。丁度時期がぴったり合うからという理由で異世界のクリスマスなるイベントが混ざり合い、いつのまにかサンタクロースなる衣装が流行った。だが……」
弾正はカッと両目を光らせ、カラテサンタにダイナミックダンジョウドロップキック(D.D.D.)をたたき込んだ。
「イーゼラー教にそんなイベントは――無い!」
「ごめん僕の欲しかった説明と違う」
「フッ、怪人よ……特にぬいぐるみのように可愛いタイプの怪人よ。俺のペットになるならば生かしても――」
「台詞! 台詞がもうアレなやつ!」
カティアが『弾正はもうだめだ! シリアスに疲れてるんだ!』と言って膝から崩れ落ちた。
冥夜は手帳を開いてシャーマナイトクリスマスナイトイベントの計画を立て始めているし、オランに至ってはオラァとかいいながら怪人ソリトナカイを血祭りにあげている。
ゆらり、と血塗れの顔&スマイルでオランが振り返った。
「知ってるか……? トナカイの最高時速は、80キロなんだぜ……」
「ごめんそれは今聞いてない!」
「あとカーブが苦手だから銃猟するときは置き撃ちするとよく当たるぜ」
「あっそれは有益っぽい!」
カティアは咳払いをしてから、横に居る『バミ張りのプロ』クロサイト=F=キャラハン(p3p004306)へと助けを求める視線を発した。
それを察して、ゆっくりと優しく微笑み、頷くクロサイト。
「確かに……孤独なシャイネンナハトほど凍える日はございませんね」
「ん、あれ? 察してくれてない?」
「まぁ私には妻がおりますので漏れなくリア充側ですが」
「察してくれてない!」
が、仕事はちゃんとしてくれるのがクロサイトである。
「怪人の皆様は支える主人が悪かった。私と貴方がたの違いはそこですね。我がご主人様のためにも、支店のある国を潰されては困ります」
翳した片手にポッと魔力の炎をあげると、更に燃え上がる魔法の炎を怪人たちめがけて解き放った。
ふとまわりを見るカティア。
店や、思いや、日々の娯楽。バラバラだけれど、彼らはいつも日常を守って戦っていた。
「そっか、そうだよね……守るべきものを、守りたいものを。自分自身を守る為に」
見ないふりしたって、消えたりしないんだ。
「僕も……やるよ!」
カティアは魔法の力を高め、怪人たちへと挑みかかる。
「冥夜、カティアもホストやるらしいぞ」
「すごい意気込みですねえ」
「マジかよ気合いはいってんなアイツ」
「パーティ用のケーキは、増やさないとならないな」
「フッ、面白くなってきましたね……!」
このとき、チーム『ホストクラブ・シャーマナイト』が結成された。
成否
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第2章 第20節
「いっけー、アルティメットいわしストライク!」
『いわしプリンセス』アンジュ・サルディーネ(p3p006960)の拳が、怪人テンプライワシの横っ面に炸裂した。
「グハァ!? 天ぷらのとイワシの味わいを併せ持ったこの俺に直撃だとぉ!?」
吹き飛び転がるテンプライワシを前に、『月輪』久留見 みるく(p3p007631)と『召剣士』パーシャ・トラフキン(p3p006384)はどうしようって顔をしていた。
「あの組み合わせ、アンジュの地雷そのものよね……」
「というか……天ぷらといわしをあわせてどう強くなるつもりだったんでしょう……」
困惑する二人に追い打ちをかけるように、次々にフロアへと怪人が現れる。
「俺様は怪人ハンバーグいわし! いわしをハンバーグにしたときのやけにマッチした味わいを知るがいい」
「我輩は怪人かばやきいわし」
「怪人南蛮漬けいわし!」
「怪人トマト煮いわし!」
「怪人竜田揚げいわし!」
「多い!」
みるくの月輪(がちりん)エクストリームスラッシュが炸裂した。
具体的には抜刀術と瞬歩を組み合わせ相手との距離をほぼ無視した斬撃と一撃離脱による圧倒的な奇襲で相手の武装を切り落としたり反撃の余裕すらあたえずに連続斬撃を繰り返したりというめちゃつよな必殺技である。
「「グワーッ!?」」
一斉に斬り割かれる怪人南蛮漬けいわし、怪人トマト煮いわし、そして怪人竜田揚げいわし。
「私達が倒れてしまえば、もっと多くの人達が犠牲になっちゃう。
負けるわけには、いかない」
ここまでの流れでシリアスにもっていくのは至難の業だが、決意の瞳とブワッと燃え上がる闘志の炎でわりかし取り返したパーシャが、両手を天にかざした。
「召剣、ウルサ・マヨル!」
みるくやアンジュへと飛んでいった剣が踊り、さらなる斬撃と高速機動を、そしてカウンター性能を与えた。
怪人かばやきいわしと怪人ハンバーグいわしによるコンボラッシュをパーシャの剣が打ち返し、その隙にみるくの斬撃とアンジュの拳が相手をハンバーグに変えていくというコンボである。
「皆さん、反撃のチャンスです!」
成否
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第2章 第21節
仲間達が怪人の猛攻を押し返す、その一方。
駐車場に現れた『ナンイドナイトメア・シックス』との戦いもまた始まっていた。
「もーよくわかんないけどとにかく目の前で誰かが傷つくのを見るのはもうイヤ。
だから皆の痛みはわたしが引き受けるっ!」
『揺れずの聖域』タイム(p3p007854)はえいっと叫んで地面を片足で踏みならすと、広がった聖域を詠唱障壁へと変換していく。
仲間達を範囲内へと収めた障壁めがけ、グリーンのマントを羽織るナンイドナイトメアグリーンは額の髑髏と胸の髑髏をガッと開いた。
「小癪なり。受けよ、ナイトメアブラスト!」
暗黒の光線が叩きつけられ、タイムはうぐぐと圧力に耐えながらも障壁で押し返すかのように両手を張った。
が、相手は決戦級の強敵ナンイドナイトメア。タイムの障壁が砕け、タイムもまた吹き飛ばされる。
全ては暗黒の光線の中に飲み込まれた――かに見えたが。
「――Nyahahahaha!!!」
ここにもまた、決戦級の強敵はあった。
「私は鰐肉の味わいを理解していた、ならば彼等も脂分塗れに違いない。
ホイップクリームその他を加工し、添えた場合、実に悦ばしい旨味と化すだろう。
正義の味方が邪教(かみ)だと都合が悪いのか。
貴様等は影武者でしかない、何番目かの悪夢なのだ」
彼女らしい難解な言葉を並べ、『同一奇譚』オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)がナンイドナイトメアの前へと立ち塞がった。タイムが五回はやられちゃうレベルの攻撃をうけたにも関わらず、しかしオラボナは笑って経っていた。
「ぬう……邪悪なる存在よ、まだ立ち塞がるか!」
オーバーヒートした髑髏をそのままに、ナンイドナイトメアは両腕からニュークリア砲の如き大砲を露出させた。
「洗脳兵士の次は、洗脳超人と来ましたか。これほど悍ましい自然の摂理への反逆を、どうして許せる事でしょうか……」
次なる光線が放たれるより早く、『自然を想う心』エルシア・クレンオータ(p3p008209)は全ての魔力を破壊の力へと変換。
高エネルギーの反応を感知してか、ナンイドナイトメアはヌグッと唸ってエルシアへ大砲の狙いをつけた。
「こんな時、最大出力のビームで力量差を思い知らせるのが貴方方の義務ではないのですか?」
「小癪な!」
エルシアから放たれる超高火力の火線砲とニュークリア砲が二人の中央で激突。その隙にシューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)はシェヴァリオンへと騎乗。豪速で回り込むように駆けると、必殺の剣を繰り出した。
「呪詛を以て正義を為す! 喰らえ、希望の一撃! 邪悪なる総統よ、この一撃をうけよ!」
とてつもない衝撃がナンイドナイトメアへと走り、包んでいた鎧が吹き飛んでいく。
更にはエルシアとぶつけあっていたビームの爆発が起き、シューヴェルト含め全員が無理矢理に吹き飛ばされる。
「グオオッ!?」
駐車場を転がる、黒いたてがみと黒い毛皮をもつ男。
シューヴェルトは吹き飛ばされた仲間達を守るように立ちはだかりつつ、剣を構え目を細めた。
「貴様、その姿は……」
爆発によって広がる炎は、スクラップとなった自動車たちを包み陽炎をつくった。
そんな中で立ち上がった男の姿を……『二輪』アルプス・ローダー(p3p000034)は確かに記憶していた。
「あなたは……バズーカライオン大佐!?」
「否」
腕のニュークリア砲を掲げ、黒ライオンの獣種(ブルーブラッド)は笑った。
「私こそは、貴様の世界でさいたまサバンナ化計画を成功させかかっていたかの旅人を摸して改造された真なる存在。真・バズーカライオン大総統だ!」
新たに現れた深いグリーンのマントを翻し牙をむき出しにして吼える。
直後に放った真ニュークリア砲は……しかし、突如として現れた四人の戦士たちによって弾かれた。
「何ッ!?」
「ハハッ、おいおい、仮にも頭目ともあろうもんが、増殖怪人の末路を知らねぇのかい? 必殺技で纏めてドカン、だぜ」
振り抜いた剣を構え直し、仮面の額をキュッとなで上げるような味のある仕草をしてみせる『怪人暗黒騎士』耀 英司(p3p009524)。
すると、剣をくるくると回し、独特のポーズをとった。
「宵闇の電閃! 怪人ブラック!」
更に、薙刀をもってポールダンスめいた回転を見せた『花嫁キャノン』澄恋(p3p009412)が身体をのけぞらせてぴたりとポーズした。
「唯恋の花嫁! せくすぃーピンク!」
両手にフランスパンを握りしめ、二刀流の構えから糸目をスッと開く『恋揺れる天華』上谷・零(p3p000277)。
「無限の小麦! ブレッドイエロー!」
腰から抜いた拳銃を指でクルクルッと回し顔の横でキャッチし、天に突きつけるように構える『ワイルド・レンジ』ムサシ・セルブライト(p3p010126)。
「正義の光弾! スペースブルー!」
そして、アルプスローダーのアバター体がトゥッといって跳躍し彼らの中心へと着地した。
五人は一斉にポーズを変えると、綺麗にシンメトリーのフォームをった。
「「交流戦隊、トライX(クロス)!」」
背景に爆発がおき、三つのクロスが輝いた。
「トライクロスだと……? ふざけるな、昨日今日で結成した戦隊など認めるか!」
ニュークリア砲を構える真バズーカライオン大総統。そこへ、ムサシと零が同時に構えた
「52シェリフ・スペシャル!」
「雷槍(レールガンブレッド)!」
ムサシの正義の心と宇宙連邦警察のスペースガンから繰り出される特殊弾頭。そして零が長年の研究によって完成させたフランスパンを弾丸にした高速射出機構が同時にバズーカライオンへ命中。
火花が散るその一瞬に、澄恋と英司が全く同時に跳躍した。
「大詰めだからって残弾ぶっぱとか新婚夫婦より甘いですよ!
最終回ほど逆転に相応しい機は他にありませんからね――!」
澄恋の振りかざす紅蓮の薙刀と英司の振りかざす暗黒剣。その二つが大上段から撃ち込まれ、バズーカライオンはたまらず数歩後退した。
「路面は仕上がってるぜ、飛ばせアルプスローダー!」
「はい――!」
開かれたレールが、あるいは無限に延びるハイウェイロードがバズーカライオンを通してひかれた。
「「驚天動地! パンドラフィニッシュ! トライX!」」
力の塊となって突き抜けるアルプスローダー。バズーカライオンはその直撃をうけ、爆発四散したのだった。
――が、その直後。
「遊びはここまでだ!」
突如として巨大化したナンイドナイトメアG。胸の髑髏から放たれた拡散ナイトメアブラストが連続大爆発を起こし、アルプスローダーたちはたちまち吹き飛ばされていく。
「ローレット・イレギュラーズたちはここで潰えるのだ。死ねぃ!」
交流アバター体を失い転倒したアルプスローダー。そこへさらなるナイトメアブラストが放射される。
暗黒が迫る。
その刹那、赤い人影が暗黒を斬り割いて現れた。
「………………あなた、は」
アイカメラに映るそのシルエットを、アルプルローダーは知っている。誰よりも、知っていた。
――第二章最終節へ、続く。
成否
成功
第2章 第22節
「私は混沌に来て一年に満たない旅人です。
でも、ここの大切さは判ります。
だっていつか去るとしても、今、旅人はここに居るのだから!
銃、包帯…貴方の武器を取ってください。
練達は、私達の帰る國です!」
メガホンと接続したマイクを手に、『合理的じゃない』佐藤 美咲(p3p009818)は仮設シェルターの人々へと呼びかけていた。
なかには負傷した警備員や研究員たちが集まり、外での戦闘から身を守っている状態である。
セフィロトの日常が崩壊したにも関わらず、しかし彼らの目に失意の色はない。美咲の演説が、彼らの心を現実へとつなぎ止めているのだ。
『スチームメカニック』リサ・ディーラング(p3p008016)はそんな様子を満足げに眺めつつ、一通りの補強をした壁のチェックを終えていた。
「武器といっても、今用意できるのはジャンク装備だけっすけどね」
リサは施設からかき集めた武装や、破壊したセキュリティロボットの装甲を継ぎ合わせたようなアーマーを並べ、今にも戦いに加わろうとする人々へと振り向いた。
酷い骨折を負った警備員を治療していた『特異運命座標』フロル・フロール(p3p010209)が、その後輩らしき新人警備員と負傷の具合を見比べる。
「戦える者は、随分と少なくなった。が、死ななければまた立ち上がれる」
ここまで、ギリギリの戦いを続けていた。
負傷者を運び込み安全を確保した筈の研究棟医務室すらも、敵の襲撃によって破壊される始末である。
(死ぬかと思った、死なせてしまうかと思った。結局、わし一人では奴を倒す事などできなんだが……)
しかし落ち込みはしない。守れることが分かったから。
「守るだけなら、案外出来るものではないか。わしにだって、出来たではないか」
自分に言いきかせるようであり、同時に隣の新人警備員に聞かせるようでもある。
更に言えば、やや気持ちを落ち着かせた『淡き白糖のシュネーバル』祝音・猫乃見・来探(p3p009413)へ聞かせる意図もあったのかもしれない。
「治療、手伝うよ。ねこさんたちも、手伝ってくれてるから……」
都市部で助けた野良猫たちが包帯をくわえててくてくと歩いてくる。放棄した医務室へと狭い瓦礫の間を通って侵入し、運び出せそうな小さな薬品や治療道具を持ってきてくれているのだ。まあ、エタノールと水の違いもわからないので『なんかそれっぽい小物』を大量に運び込んでいるだけだが、それでもかなり助かるものだ。
祝音はありがとうといって包帯を受け取ると、負傷者の傷口にそれを巻いて止血をはじめた。
「我にできる事があるなら、尽力しよう」
「ROOも練達もこれ以上無茶苦茶にさせないからね!」
そこへ加わってくれたのが『セクシーの魔法』フィノアーシェ・M・ミラージュ(p3p010036)や『旅人2世な女子高生!』彷徨 みける(p3p010041)たちだった。
彼女たちは召喚した式神を補助役に、ファミリアーを施したネコを先導役にして医務室からの物資の運び出しを始めた。
ネコを通して狭い場所を行き来できるだけでも便利だが、拡張・強化された五感を用いた探索は非常に役に立つ。
そしてもちろんながら、フィノアーシェたち自身も率先して仮設シェルターの防衛力を高めるべく補強や警戒にあたってくれていた。
「少しでも人手は必要だ。頼むぞ、我もできる範囲の事はやる!」
「どうもっす。心強いっすね」
まだ、戦える。この光景を見て、美咲にはそんな確信がわいていた。
「私達はアンタが壊したモノを作り直した。
だから、来いよCCC。真打が来ない限り練達は立ち続けるぞ」
小声で呟く美咲に、あるいは応えるようにして、ドッという衝撃と爆発音がシェルターの外から響いた。
警戒にあたってくれていたフィノアーシェやみけるたちが飛び出すと、ガスマスクをつけ腰に大量の手榴弾をさげた黒衣の兵隊が集団をなしてやってくるのが見える。
「あんた達、いい加減にしてよもう!」
「状況を悪化しかさせない貴様等に価値はない。沈め!」
キンッと手榴弾の安全ピンを抜いて投擲してくる彼らに対して、早速迎撃にかかるみけるとフィノアーシェ。
そこへ、さらなる援軍が駆けつけた。
「お待たせ。遅れちゃったかな?」
『ローゼニアの騎士』イルリカ・アルマ・ローゼニア(p3p008338)は森の魔力をかき集めた右手に力を集めると、ガスマスク兵の一人へと横から急接近。手榴弾をぬいたその手を掴み、豪快に投げ飛ばした。
魔力によるパワーアシストをうけ、宙を舞いながら空で爆発するガスマスク兵。
焼け焦げて落ちたのは、人間の大きさとシルエットを持つテナガザルだった。
「な、なにこれ」
「わからないが、こっちに危害を加えることは確実みたいだな」
凄まじい速度で空を飛び、軍用ライフルによる射撃を浴びせる『上級大尉』赤羽 旭日(p3p008879)。
「乱戦状態……俺に取っちゃ非常にありがたくないな」
旭日はイルリカに空からの援護射撃を行うことをハンドジェスチャーで知らせると、攻撃戦闘機による空襲がごとく高高度から素早く低空飛行状態へと移行。ガスマスク兵たちをライン状にとらえ、射撃魔術式『おもちゃの銃』を発砲させた。
攻撃を加えすばやく離脱していく旭日に変わり、現場へと駆けつけた『ハイテンションガール』郷田 京(p3p009529)。
「なーかなか派手に暴れてくれちゃってるみたいじゃない? おっけーおっけー」
こきりこきりと手首を鳴らすと、彼女めがけて放たれた手榴弾を鞭のようにしなる素早い蹴りによって跳ね返した。
爆発と共にはしった衝撃と風圧が一直線上に走り、ガスマスク兵たちを吹き飛ばしていく。
「よっしゃー、あとはこのスーパー美少女・京ちゃんに任せとけー、あっはっはー!」
ここぞとばかりに走り出し、近接戦闘用にぬいたサブアームらしきピストルを鋭いキックで真上へと蹴り飛ばす。
高身長と長い足によって垂直に振り上げた足は、さながら大上段に構えたハンマーである。
「怪人マスクテナガザルってとこか? 必殺キックをくらいやがれ、ってね!」
大上段踵落とし。背中のしなりと両腕の振りによって繰り出されるそれは、見た目の数十倍の威力をもってガスマスク兵の顔面を粉砕した。
成否
成功
第2章 第23節
「特別研究棟、ログインルームか。ククッ……外の動乱に気を取られておるからよ。妾は漁夫の利をとらせてもらうえ」
狐の頭をした和装の女がくつくつと笑いながら特別研究棟へと忍び込んでいた。
人間を好き放題食い荒らせると踏んでの行動だったが……結論から言えば、最も不幸な選択をしたとも言えた。
「む」
左目を閉じて立つ、和装長髪の男がひとり。そこにはいた。
早速の獲物だと爪をナイフのように鋭くして忍び寄る狐女はしかし、彼の5m圏内に近づくより早くその四肢が胴体から切り離されていた。
見えなかった。
かろうじて分かったのは光の反射が残像となって五つの輪を描いたことと、男が腰から下げていた鞘へ刀を『納める』ところだけである。
「『弟子』が言うので来てみれば……セフィロト全体が滅茶苦茶ではないか。やれやれ、これは困ったこと……」
顎へ手を当てひと撫ですると、死牡丹・梅泉(p3n000087)自分をこの場へ呼んだ『彼女』を探し歩き始めた。
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死牡丹・梅泉がセフィロトへ到着しました。
都市内での戦闘難易度が急に減少しました。
================================
第2章 第24節
特別研究棟ヘキサゴン野外駐車場を、連続した爆発が襲った。
暗黒の剣を携えた黒鎧の魔。赤いマントをなびかせたナンイドナイトメアがその剣を横一文字に振っただけでのことである。
停車されていた車両や端から全て吹き飛び、破壊された近隣の建物が崩れ瓦礫が広がっていく。
『憎悪の澱』アクア・フィーリス(p3p006784)はそれを拒絶するかのように腕を払うと、漆黒の炎が吹き上がり彼女を降り注ぐ瓦礫から守った。同じく『希う魔道士』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)もまた振る瓦礫を光の翼でなぎ払うことで己と仲間の身を守ると、純白の竪琴へと手をかける。
「ナンイドナイトメア……? 死んだんじゃなかったの?」
「前に、戦った事……」
二人の記憶には、かつて幻想王国で戦った悪の秘密結社がぼんやりと思い浮かんでいる。当時ナンイドナイトメアの正体として出現したのが何だったのかまで、そのぼんやりとした記憶からは掘り出せていないが。
「うーん、まぁ、いっか、敵なら、全部殺しちゃえば、解決なの」
アクアはひどく物騒なことを言うと、ネガティブな感情を炎として燃え上がらせた。
それに同調するわけではないが、ヨゾラもまた竪琴を奏で美しい音色を魔術へと変換していく。それはさながら、音楽というスクリプトを用いて精霊の魔法(プラットフォーム)を行使する様子に似ていた。
「て、み、え、あ――ユーサネイジア!」
『聢唱(テイショウ)』が読めなくて口の中でもにゃもにゃっとしてから(主に気分を高める目的で)魔法の名前を叫ぶと、アクアの『異・ネガティブレイク』と同時にナンイドナイトメアへと叩きつける。
「余談だが、聢は『聢(しか)と聞き届けたぞ』という時に使う言葉で、耳に定めると書く」
急に博識さを見せつけながら『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)がゆらりと現れ、『式符・銀閃』を発動させた。握りしめた式符から鍛造召喚された銀の刀をきらめかせ、直撃をうけ炎と光に包まれるナンイドナイトメアへと斬りかかった。
炎を振り払いながらも暗黒の剣でそれを受けるナンイドナイトメア。
「この練達に絡繰りを乗り回して侵略とは良い度胸じゃないか。いや、三塔主もマザーも手が離せない時に来るのは逆に技術面で勝てないからか?」
「ククク――その通りだ!」
「その通りなのか!?」
挑発のつもりが満額で受け取られ、ある意味つんのめるような心持ちとなった錬。
「練達首都セフィロト。それは都市を包むドームをはじめ絶対の防衛能力がゆえ、列強諸国でさえ侵略を避けている。転じて、その防衛力こそがこの狭く小さな島都市を国家として諸国に認めさせているのだ。だがそれは今や、ない。奪い破壊するには最大の好機!」
「分かりやすい解説ありがとうよ!」
至近距離で突然『式符・炎星』を発動。大砲を鍛造召喚しぶっ放すと、錬はその勢いを利用して大きく離れた。
序盤のアクアやヨゾラによる攻撃がかなり効いていたからだろう。ナンイドナイトメアの鎧はぱきぱきと音をたてて剥がれ落ちていく。
「ところでさ……君の本当の名前。何ていうの? 本当の姿は?」
油断なく問いかけるヨゾラに、ナンイドナイトメアはまたも満額で答えた。
崩れて落ちた鎧の中から現れた、ワニの如き鋭い牙。緑の鱗と、油圧カッターの如く恐ろしく無骨な右腕。
前進を余すところなく改造されたその姿は――。
「真・油圧ワニ――」
「ワニだーーーーーーーー!」
「グアーーーーーーー!?」
きりもみ回転した『クソ犬』ロク(p3p005176)がワニの首元にがぶりと噛みつき凄まじい勢いで押し(?)倒した。
邪魔だぁといってロクを掴んで放り投げると、ナンイドナイトメア改め――
「オレは異界の怪人幹部油圧ワニファラオを参考に改造された真なる存在。真・油圧ワニ大総統! エサどもよ、オレの血肉となれ!」
叫ぶと同時にジェット噴射をかけて数台のドローン兵器が着陸した。
否、ドローン兵器ではない……。
三つ(+1)の首をもつ黒いロバ型のロボット。顔面にはエラーコードが流れ、装備されたアルティメットキャノン砲が妖しく光る。
「な、なんだいあいつ……まさか混沌世界でかつて猛威を振るったっていうAI兵器か!?」
錬は博識さゆえに気付いたが、ロクはまた別の側面からその正体を知っていた。
「あれは――アルティメットメカニカル子ロリババア・ダークサイド! ネオフォボス一斉蜂起の際に暴走事件を起こして以来使われなくなったアルティメットメカニカル子ロリババアを暴走させた存在だよ!」
「なんて?」
「こうしちゃいられない……子ロリババア牧場の威信に賭けて戦うよ! みんなー! ママー!」
ロクが遠吠えをすると、どこからともなく地響きをたてて子ロリババア(顔がロリの老ロバ。鳴き声は老婆ノジャア)の群れが『ノジャアアアア』て言いながら突進してきた。
そこには鉄仮面を被り戦う本能に目覚めたロリババア(ロバ)の邪ロリババアやメカ子ロリババア、食用に飼育されていた食肉子ロリババアや彼らを育てるみんなのママことグリィナが、夢に出そうな大部隊となってアルティメットメカニカル子ロリババア・ダークサイドへと襲いかかる。
飛び交うビーム。そしてロバ。大混戦となった現場に、『帰ってきた放浪者』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)が『なんだここ』っていう顔で立っていた。
「おかしい……俺ぁバリケードぶっこわした野郎どもにケジメつけにきた筈だったんだが……どうしてクリーチャーの大運動会になってんだ?」
ローレット・イレギュラーズどころか混沌世界を軽く浸食した歴史をもつロバの圧にちょっとヤられそうになったバクルドだが、気を取り直して剣をとる。
「幸いあのワケわからんやつは任せておける。あのワニ野郎を打っ潰すぞ」
「はい!」
しゃきーんと拳を光らせて現れる『はらぺこフレンズ』ニル(p3p009185)。
同じく『正義の味方』ルビー・アールオース(p3p009378)。
「こいつがナンイドナイトメアG……あれっ、なんだかちょっと違う気がする! ワニっぽい!」
ルビーが別のところへ行こうかと視線を動かした瞬間、真・油圧ワニ大総統は腕のカッターを横一文字に振り込んだ。
「真クリティカルクルセイド!」
暗黒の斬撃が襲う。ルビーはカルミルーナをソードモードに変形させると、バクルドと共に斬撃を受けとめた。ニルも負けじと円形の魔力障壁を作って防御。
あまりの衝撃に身体どころか魂ごと斬りさかれそうになるが……。
「陥落なんてさせないのです。
この場所を、そんなふうにはされたくないのです。
大事な場所、好きな場所。
ニルは、おいしいものをたべて、おいしいって言ってもらえる……そういうひとがいる、ここが好きなのです。
ぜったいぜったい、だいなしになんてさせないのです!」
ムンッと目一杯の力をこめたシールドで無理矢理クリティカルクルセイドを打ち破ると、そのままニルは魔力障壁をフリスビーの容量で投擲した。
ガギンとおとをたて、油圧ワニ大総統の腕がはじかれる。
「てめぇはここで終わりだ。大総統さんよ」
「そっちが一人じゃないように、私にだって仲間はいる。私を信じてくれるスピネルと、そしてローレットの皆と一緒に戦う限り私の脚は止まらない!」
バクルドとルビーはその刹那を駆け抜けた。
振り抜いた剣によって描かれたオーラのラインが交差し、油圧ワニ大総統をX字に斬り付ける。
「馬鹿な、完全なる怪人として生まれた、このオレが、エサごときに――!」
大爆発を背に、ルビーはカキンとカルミルーナのブースターユニットから空薬莢を排出した。
成否
成功
第2章 第25節
漆黒のマントを翼の如く広げ、大空へと飛翔するナンイドナイトメア。
「圧倒的な力の差に屈するがいい。希望を名乗る愚か者どもよ!」
空から放った暗黒の弾幕は複雑怪奇な軌道を描き、無数の爆発を引き起こす。
「ナンイドナイトメアが6人もいるのは驚異だよ。でもね。イレギュラーズは6人どころじゃない。正義の味方はたくさんいるんだよ」
『魔法騎士』セララ(p3p000273)はそんな爆発の中を駆け抜けながらドーナツをもぐっと飲み込むと、常人ではまずとらえきれないほどの超スピードで弾幕の全てを回避。
自動車を踏み台にして跳躍すると、ナンイドナイトメアへと斬りかかった。
「何ッ――!」
「丁度いい。ここらで真の引導を渡してやろうではないか」
セララの剣を漆黒のナイフで受け止めようとしたナンイドナイトメアだが、側面から宙返りをかけて割り込んだ『流麗花月』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)によって激しい斬撃がたたき込まれた。
火花を散らし、飛翔状態から墜落するナンイドナイトメア。
「御主が如何なる超人かはしらないが……不敗神話は砕かれた。血が出るならば神すら殺せる」
再びカチリと刀を握り直した汰磨羈に、ナンイドナイトメアはナイフを構え直した。
互いの間合いを探り合うようにじりじりとすり足で動き、そして汰磨羈はまっすぐに突撃――とみせかけて突如三人に分身した。
三方向から刀を放とうとするその寸前。
背後で物陰に隠れていた『ファイアフォックス』胡桃・ツァンフオ(p3p008299)が飛び出した。
「らいとにんぐすた〜りんぐっ」
振り上げたこやんはんどを地面にドッと叩きつけると、地を通し走ったラインがナンイドナイトメアの足下で魔方陣を形成。逃げ場を許さぬ広域雷撃招来術が発動した。
「ぬう……!?」
突然のことに雷撃をうけ動きを鈍らせたナンイドナイトメア。汰磨羈の斬撃を、そしてセララの剣を避けることなどもはや不可能であった。
覆っていた鎧が外れ、中に閉じ込められていた派手な模様をした羽根が露わとなる。
「よもや、ここまで追い詰められることになろうとはのう……」
ナンイドナイトメア――否、陰陽孔雀総統は広げた翼から広域陰陽術を発動。回避に優れたセララですらかわしきることのできない雷撃が彼女たちを振り払う。
そして体力を吸い上げるかのように回復した陰陽孔雀総統は空へと舞い上がった。
「カルネくん、あれなに!? 鎧の中から何か出てきたんだけど! 美少女じゃない、おっきいおっぱいもついてない!」
「おちついて誠司」
妙に冷静になだめるカルネの声によって我に返った『一般人』三國・誠司(p3p008563)は、スッと賢者の顔になって大砲を構えた。
「僕はね。知ってるんだ。悪の組織のボスがゴリゴリの黒鎧に包まれてたとき、その中身が巨乳美少女の確立はファンタジーなほど少ないって」
カシュンと大砲から展開したスコープを片目で覗き込み、空へ舞い上がる陰陽孔雀総統めがけてホーミングトリモチ弾を発射。
それをかわそうと空を飛び回る陰陽孔雀総統だが、追尾ミサイルのごとく飛ぶトリモチ弾から逃げ切ることは難しい。
そしてだからこそ――。
「狙撃手への警戒を疎かにする」
ヘキサゴン三階。壁の崩壊したそのフロアから、『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)は狙撃銃を構えていた。
そのことに陰陽孔雀総統がハッと気がついたが、もう遅い。
ラダはその瞬間が来ることを何十年も前から知っていたかの如く冷静に、そして正確に銃のトリガーをひいた。その一瞬だけは、ラダと銃は一体の生き物であり、その周囲に流れる大気ですらラダの一部であった。
回転し飛んでいくライフル弾が、陰陽孔雀総統の胸を撃つ。
「今だ」
「助かる」
ラダの後ろにあったのは、これまで医務室として使われていたフロアだった。敵が壁を破壊し襲来したことで破棄されたが、今はそれがかえって攻撃の糸口となったのである。
そして『このこと』に黒い感情を燃やしたのが、『不審なる白』ルブラット・メルクライン(p3p009557)である。
「今日の私は医師で在ろうと思っていたのだが。わざわざ医療室まで攻め込んでくるとはな。いいだろう。相手をしてあげようじゃないか」
ルブラットはフロアから助走を付けて跳躍すると、白と黒の混じった魔法の翼を展開。陰陽孔雀総統と同じ高さをとると、エネルギーでできたメスを投擲した。
「小癪な! その程度の追撃で――」
ルブラットを迎撃すべく翼を広げ陰陽術による炎を放とうとした、その時。
「モードチェンジ、閃光!」
追って飛び出した『燃えよローレリアン』山本 雄斗(p3p009723)がヒーロースーツ全体から激しい光を放ち、太陽のごとき炎を纏って急接近
「リミッター解除、ブースター全解放!」
急加速した雄斗のパンチは陰陽孔雀総統の腹へと直撃し、それによって滑り込むように刺さったルブラットのメスは凄まじい毒をもって陰陽孔雀総統に大量の血を吐き出させた。
ドッと音を立てて大地に落ちる陰陽孔雀総統。
誠司は近づいて完全に倒したことを確認すると、カルネや仲間達へと振り返ってサムズアップサインを出した。
そしてもう一度相手を見下ろし……。
「きみが或いは巨乳美少女だったら……僕は救おうとしたのかもしれない」
「誠司?」
成否
成功
第2章 第26節
黄金のマントを羽織る二人組のナンイドナイトメアがあった。
「無敵の守りを司る我が盾」
「無敵の破壊を司る我が槍」
「「二つ揃えば矛盾は無し!」」
同時にギラリと目を光らせるナンイドナイトメアたちの破壊光線をギリギリでかわしながら、『レッドが来たぞ』レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)は指を突きつけた。
「ずるいっす! 卑怯っす! ラスボスが二人がかりは反則っす!」
「「よくある話であろうが!」」
再び目を光らせたナンイドナイトメアに、レッドは懐へと手を突っ込む。
「かくなる上は――」
「「ぬう!」」
身構える相手に、スッと差し出される色紙。
「サインください。あ、両サイドに並べて」
「「ふむ……」」
油性ペンをきゅぽんとやってから一旦名前を書き、握手を交わしておくナンイドナイトメア。
その間『えー?』という顔で後ろから見ていた『文具屋』古木・文(p3p001262)。
「今?」
「倒したらサインもらえないでしょうが!」
それは確かに、と思う一方やっぱり『今?』と思ったりはした。が、相手はもう切り替えが終わったらしく、槍による突撃を仕掛けてきた。
文は懐から愛銃の『鵲刻』を抜くと、ナンイドナイトメアめがけて連射。盾に防がれるも、その間に自らを特殊な結界で包み込んだ。
「全く、今日はよく走る日だね」
槍による直撃をうける――が、包んだ結界から放たれるカウンターシュートがナンイドナイトメアにざくざくと亀裂を作る。
「無敵の盾も、槍に直接反撃されたら手が出せないよね」
「くっ、小癪な……!」
そこへスッとレッドが治癒魔法を浴びせて文を回復するのも忘れない。矛盾コンビに対する割と的確なカウンター処理である。
「まぁったく忙しい時に敵がゾロゾロと!
ツクヨミ、直ちに周辺走査! ナビゲーション頼むわ!」
『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)が叫ぶと、『ツクヨミ』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000668)が言い連ねるのもはばかるほど大量に保有するスキルを駆使してナビゲートを開始。
「状況はますます切迫してますね。しかし悲観ばかりもしてられません。……優先順位は?」
問いかけに割り込む形で、『ゲーミングしゅぴちゃん』DexM001型 7810番機 SpiegelⅡ(p3p001649)が二人の前に立ち無敵の盾となった。
放出したナノマシンで構成された鎧が、拡散して放たれる暗黒のビームをかき消した。
「前に出すぎですよ女王様。
貴女は防御性能が低すぎなんですから、シュピが攻撃を受けます。
女王様はせいぜいブレイクを使う敵を優先的に排除して下さい」
「仕方ないわね……ナンイドナイトメアだか何だか知らないけれど、他ならいざ知らずこのタイミングで襲ってきた事を後悔させてやるのだわ! 優先順位は同列。二人まとめてやるわよ、蒼薔薇隊!!」
レジーナは無敵の盾を構えるナンイドナイトメアめがけて突撃すると、威力を高めた剣を召喚し斬り付ける。
呪いの力を持った剣がナンイドナイトメアの盾に施された無敵の盾を斬り割き、その防御をこじ開けた。
「遅れるんじゃないわよ人形(シュピーゲル)!!!」
「唸りなさい我が半身。DexM001/AbX02!」
SpiegelⅡの装甲が変形し鋭い槍のようなシルエットをとると、ナンイドナイトメアめがけて突進。
「疾風迅雷!!!
有象無象程度ならこの機体に傷ひとつ付けられないですよ!!!
蒸発して消え去りなさい!!!」
ズドンと撃ち込まれた槍が盾を貫き爆発させた。
「我が盾を穿つか。さすがはフォボスローダーを撃ち破りし猛者。だがこれ以上好き勝手にはさせん! ナイトメアブラスト!」
胸の髑髏が開き、暗黒の光線が放たれる。それはSpiegelⅡの無敵装甲を打ち抜き更にボディを破壊するというあまりにも凶悪なものだった。
装甲が吹き飛び、最低限のマニピュレーターを取り付けたゼロスーツ状態となるシュピーゲル。
「『ラスボス』相手にゃ無敵戦法も通じねえってか」
『疲れ果てた復讐者』國定 天川(p3p010201)はナンイドナイトメアが光線を細かく切り分け、無敵の障壁を破壊し防御を奪い、その上で破壊するという段階を踏んでいたのを察知していた。
「見た目の割に芸の細かいことをしやがる。ってこたぁ……」
天川の得意戦法も対策される可能性が高い、ということだ。彼の戦法はある意味初見殺しだが、強すぎる相手には対策の隙を与えてしまうという弱点も持つ。
が、それは同時に『対策を要する』という長所でもあった。
「こういうときは素直に突っ込むのが一番ってな!」
「何度も煩わせるとかまじギルティ」
『ゴールデンラバール』矢都花 リリー(p3p006541)がのそりと起き上がり、ナンイドナイトメアへ別方向からの攻撃を敢行した。
ビールケースをぐいっと引っ張ってくると、そこへ大量に突き刺さったバールを掴んでは投げ掴んでは投げを繰り返した。
一見無作為に攻撃しているように見えるが、リリーなりに考えての位置取りが成されている。
例えば『対策を要する』天川が正面から攻めるのに対してあえて背後をとり、より相手の思考に負荷を与えるといった具合にだ。
もちろん、背後から殴った程度で無防備に死んでくれればこれほど楽なことは無い。当然対策はされるはずだが、それだけ手数を割くことはこちらの有利に直結する。
「一人じゃ無理。手伝って」
「まかせて!」
花のエフェクトを散らしながら現れる『リチェと一緒』キルシェ=キルシュ(p3p009805)。
「お手伝いに来たらなんだか大変な状態なのよ!?
今はログインルーム守りながら、怪しい鎧さん倒すの?
ルシェは敵さん倒すの得意じゃないけど、みんなが全力で戦えるようにお手伝い頑張るわ!」
桜の花模様がはらはらと回転しながら散っていくなかで、キルシェは杖に力を込めた。
キルシェが今しがた負った役割は、天川の体力を『倒れるギリギリの所を見極めて回復・維持しつづける』というレッドゾーン戦法である。
かなり連携の要る作業だが、もし成功すれば凄まじいダメージソースを一方的に維持するという有利をとれる。ヒーラーの腕の見せ所なのだ。
その甲斐あってか、キルシェの撒いた桜オーラがリリーのバールや天川を守り、それによってナンイドナイトメアの鎧がついに打ち砕かれた。
「ぬううっ! かくなる上は、ナンイドナイトメアGと融合し切り札を――」
「させぬ!」
鎧の内側から飛び出した巨大なスライム状の怪物を、『ナチュラルボーン食いしん坊!』ニャンタル・ポルタ(p3p010190)は杖による打撃でうちかえした。
「妙ちくりんなやつから更に妙ちくりんなやつが出てきよったのう? これをどうすればいいんじゃ?」
じゃ? と振り返って問いかけたのは、今しがたワインをラッパ飲みしていたおねえさんだった。というか『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)だった。
「え?」
「え?」
顔を見合わせ、一秒停止。
ナンイドナイトメアから飛び出したブラザースライム総統(ナンイドナイトメアの中身だったもの)も『え?』といって停止した。
「んー、と」
アーリアは自分の頬に指をちょんと当てると、可愛らしく小首をかしげた。
「こういうのはどうかしらぁ?」
胸元(胸元)から取り出した小瓶のコルクを抜くと、それをそのままブラザースライム総統めがけて放り投げた。
「愚かな。小瓶を投げつけた程度でこのブラザースライム総とごぼぼぼぼぼぼぼ!?」
突如、ブラザースライム総統が毒々しい紫色になって泡だった。
ウワアという顔で引くニャンタル。
アーリアはもう一本の瓶を取り出してクイッとあおると、口の端から漏れた一滴を親指で拭った。
「どうぞ?」
「う。うむ!」
ニャンタルは杖に力を込めると、泡立つブラザースライム総統を思い切りぶん殴った。
「ま、まだこの姿で何もしていないのに……!」
はやすぎるーと言って大爆発を起こし、散っていくブラザースライム総統。
成否
成功
第2章 第27節
「これで残すはあなただけなのですよ、ナンイドナイトメアG!」
グレートメイスを握りしめ、『エルフレームTypeSin』ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)が殴りかかる。
「フンッ、所詮奴らはワシの影武者にすぎん。真の支配者はこのワシ――ジーニアス・ジェニ博士じゃ!」
ナンイドナイトメアGは両目をギラリと光らせ、胸の髑髏を解放。空へ飛び上がると暗黒の光線を無数に発射した。
「ジーニアス・ナイトメアブラト!」
曲がりくねった光線がホーミングし、仲間達へと次々に直撃していく。
「まともに喰らったらタダじゃすまないのですよ……!」
ブランシュは拡張ブースターに点火することでその場から緊急離脱。常人ではとても追いつけないような速度で離れた――と思った矢先。彼女の眼前にナンイドナイトメアGが迫った。
「それで逃げたつもりか」
「――!?」
突き出される手のひら。溢れる暗黒の光。
が、光線が零距離で放たれる直前、ブランシュを『月夜に吠える』ルナ・ファ・ディール(p3p009526)が抱えて横切った。
「おいおいマジか。この速度に追いつけんのかよ」
離れた場所から見ていたルナにはことの次第が理解できていた。ナンイドナイトメアGは圧倒的な連続行動を用いて機動力の差を埋めてしまったのだ。これでは、通常のヒットアンドアウェイ戦法では刃が立たない。ましてや、ブランシュほどの機動力をもつ戦士がそうそういるはずがない。
「……と、普通なら思うとこっスけどね」
ルナへ追いついてくるナンイドナイトメアGに、直接サッカーシュートをたたき込む『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)。
振り返りボールを止めたナンイドナイトメアGから急速に距離をとると次なるシュートの構えをとった。
「そういう尖った連中がごろごろいるのが、ローレット・イレギュラーズの強みでもあるんスよ!」
紅蓮のオーラを纏ったサッカーボールが複雑な軌道を描いてナンイドナイトメアGへと迫る。
と同時に、ルナはその背に(たまたまそこにいた)『同一奇譚~別冊』襞々 もつ(p3p007352)を乗せて走り出した。
「噂だけは聞いてたが、ありゃもう次元がちげぇ。比べんのも馬鹿らしいが……マジの無敵ってわけじゃねえんだ。ついてつけねえ隙じゃねえ!」
補助を受けて急接近したもつは適切な距離から破式魔砲を発射した。
「深夜のおにくは罪じゃありませんか! アンタにその背徳が耐えられるとは思えませんね! さっさとヴィーガンに戻りなさいなこの熟成野郎! テメェの素敵なステーキはねぇですよ!!!」
対抗し、振り返ったナンイドナイトメアGが凝縮させたナイトメアブラストを発射。
攻撃は交差し、もつやルナは吹き飛ばされたが……その代わりにもつの攻撃はしっかりとナンイドナイトメアGの鎧に大きなヒビをいれた。
「何ッ――!?」
焦りの色を見せ、空へと飛び上がるナンイドナイトメアG。
が、ブランシュはブースターからエネルギーを噴射して、葵は空に描いたオーラのロードを走るようにしてナンイドナイトメアGを追いかけ、それぞれ同時に打撃をたたきこんだ。
「日曜朝の番組に出てきそうな敵だぁ〜!
よーし、虚くんのダイナミックなキックとかチョップとか食らわせてやろうじゃねぇの!!」
そして、上空で待ち構えていたのは翼を広げた『二人一役』Tricky・Stars(p3p004734)。
そして『空の王』カイト・シャルラハ(p3p000684)だった。
「その自慢の頭で俺の動きについてこれるかな?」
カイトは凄まじいマニューバでナンイドナイトメアGの周りを飛び回り、その間を縫うようにしてTricky Starsの魔術が撃ち込まれていく。
「脳みそ蕩けるまで視界を赤に染めよう。俺しか見えなくなったその瞬間がお前の最後だ」
そこでカイトは更に加速。
赤い残像を大量に残しながら分身し、ナンイドナイトメアGが全方位にナイトメアブラストを放つもその悉くを回避していく。……いや、回避しきれてはいない。ナンイドナイトメアGの光線はその何発かがカイトに命中し、カイトもまたクッと歯を食いしばり懸命に飛行を続けていた。
「あの回避力に当ててくるとか……ヤベえな。必中もち?」
Tricky Stars(虚サイド)は顔をしかめるも、稔サイドに切り替えてカイトの回復支援を開始。
「仲間がヒビを入れたポイントがある。そこを狙え」
Tricky Stars(稔サイド)に治癒魔法をうけ、カイトはギラリと目を光らせた。
「OK――そこだな!」
激しい光線をかするように回避。翼が片方やられたが、そのまま急接近してカイトは槍をナンイドナイトメアGの鎧へとたたき込んだ。
成否
成功
第2章 第28節
爆発四散するナンイドナイトメアG。
だが、それは最後の戦いへの狼煙に過ぎなかった。
「遊びはここまでだ!」
ナンイドナイトメアGは内臓していた最終兵器を起動。突如として巨大化すると、胸の髑髏から拡散ナイトメアブラストを連続発射した。駐車場が、そして周辺の建物が次々に破壊され連続した爆発を起こす。
「ローレット・イレギュラーズたちはここで潰えるのだ。死ねぃ!」
次なる砲撃を向けたのは、交流アバターも失い倒れたアルプスローダー。
暗黒が迫る。
その刹那、赤い人影が暗黒を斬り割いて現れた。
「………………あなた、は」
アイカメラに映るそのシルエットを、アルプルローダーは知っている。誰よりも、知っていた。
爆発の煙が晴れ、赤いフルフェイスヘルメットにボディスーツを纏った男――レッドジャスティスはジャスティスソードをおろし、そしてアルプスローダーの車体を起こした。
「待たせたな。『ニノマエちゃん』」
「――!?」
すると車体の収納スペースから飛び出したキーが彼の手に収まり、ぎゅっと握り込まれる。
「俺の魂に、知らない世界の記憶が流れ込んできた。けれど分かる。ただの記憶じゃない」
車体へと跨がると、ハンドルを握る。
「魂が、理解できたんだ。俺の使命が。果たすべき正義が。
いくぞ、アルプスローダー!」
超反応によって走り出すアルプスローダー。
それを支援すべく、何人もの仲間達が立ち上がった。
「あの尖った性能じゃあ防御はがら空きだろうな」
「俺が隙を作る。その間にキメろ!」
相手をかき乱すように走り出すルナ・ファ・ディール(p3p009526)。大空へと舞い上がり紅蓮の残像をつくり巨大ナンイドナイトメアGへ飛びかかるカイト・シャルラハ(p3p000684)。
「こういうときは、盛り上がりがなくっちゃあ……ねぇ」
アーリア・スピリッツ(p3p004400)は黒い手袋でパチンと指を鳴らすと、巨大な花火の如き魔術を解放。
それを振り払うように巨大な剣を振り下ろすナンイドナイトメアGだが、下ろした直後に剣へ飛び乗った仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)が刀身を駆け上がり、顔面へと強烈な蹴りをたたき込む。
「行け、アルプス・ローダー。ここで終わらせてこい!!」
「アルプスさんいなくなったらこの世界つまらないよ! わたしを轢く人いやバイクがなくなっちゃうよ!? 練達もバイクもロバも油圧ワニファラオだってみんな大切なんだ!」
更にナンイドナイトメアGの足下へ大量に押し寄せるロリババア(ロバ)。ロク(p3p005176)が吼えると、ロリババアたちも一斉に吼えた。
次々と起こる爆発の中を、巧みなドライビングテクニックによって駆け抜けるアルプスローダーとレッドジャスティス。
アイシールドバイザーに映ったナンイドナイトメアGの姿をとらえ、アクセルを強く握った。
身体の僅かな傾きが。風を切る一瞬の息づかいが。まるではるか昔からこうしていたかのようにシンクロする。
「詳しい説明はあとで清水博士から聞いてくれ。今は、駆け抜けるぞ――!」
「「応!」」
完璧に息を合わせたムサシ・セルブライト(p3p010126)、耀 英司(p3p009524)、澄恋(p3p009412)。
三人は三色の光となって混ざり合い、三重の螺旋となってアルプスローダーたちを包み込んだ。
空へ、そしてナンイドナイトメアGへとかかる光の道がのび、思わず身構えたナンイドナイトメアGを――彼らは光となって貫いた。
「馬鹿な、完璧な計画だった筈! この、私が……!」
空を満たす爆発。
巨大な炎と光を背に、ローレット・イレギュラーズたちは並んでいる。
着地したバイクで見栄を切ったレッドジャスティスは、ヘルメットの下で目を瞑った。
GMコメント
※こちらは混沌側のラリーレイドシナリオとなっております
●これまでのあらすじ
練達都市国家における電子の神マザーの暴走によってセフィロト内のシステムが混乱。人々に対する拒絶を起こしました。
これに乗じる形で『絶対破壊存在』姉ヶ崎-CCCはネットワーク内に出現。ネットワークに接続された全てのものに対して人類抹殺の命令を下しました。
スマホに依存した令和人類を更に依存させたようなもので、ネットワークは軍事を含め生活のいたる所で依存されています。自動車はおろか家電に至るまでが人類に牙を剥いた今、都市住民を救えるのはもはやあなたたちイレギュラーズしかいません。
●クリア条件と制限期間
このシナリオは『<ダブルフォルト・エンバーミング>Are you Happy?』終了時まで継続します。(場合によっては先んじて終了することがあります)
また、当シナリオはラリー形式であるため他シナリオと併せて何度でも挑戦することができます。
また、このシナリオに開始時点で『明確なクリア条件』はありません。
そのかわり、放置すればするほど都市の破壊は進み、仮に『<ダブルフォルト・エンバーミング>Are you Happy?』が良好な状態で終了したとしても都市のダメージ状態によってはバッドエンドコースがあり得るでしょう。
これは敵を倒すための戦いではなく、『平和を守るための戦い』なのです。
●パートタグ
このラリーシナリオでは無数の事件が起きています。以下のうちから【パートタグ】を選択し、『プレイング冒頭に書き込む』ことでその事件の解決に参加することができます。
(尚、パートタグが書き込まれていない場合は自動でどれかの事件に投入されます)
また、シナリオ中に特別イベントが起きるなどして事件が追加発生することがあります。
※対応パートタグは各章第一節にて公開されます
また、章の途中で特別なパートが突発的に追加されることもあります
●グループタグ
誰かと一緒に参加したい場合はプレイングの一行目に【】で囲んだグループ名と人数を記載してください。所属タグと同列でOKです。(人数を記載するのは、人数が揃わないうちに描写が完了してしまうのを防ぐためです)
このタグによってサーチするので、逆にキャラIDや名前を書いてもはぐれてしまうおそれがあります。ご注意ください。
例:【ザッズファイターズ】2名
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
本シナリオは進展により次々に別の状況に変化します。
以上、頑張って下さいませ!
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