シナリオ詳細
アジサイ畑に集う
オープニング
●紫陽花畑のお誘い
「アジサイ、という花を知っているかしら」
『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)が集まったイレギュラーズへそう問いかける。
プルーの問いかけにある者は首を傾げ、ある者は思い至る節があるといった表情を浮かべ。
それらを見たプルーはイレギュラーズ達へアジサイについて説明をし始める。
夏より少し前の時期に咲く花。それはまるで小さな花束を作ったかのように、小さな花をドーム状に密集させて咲くのだ……と。
「ちょうど今、アジサイ畑の花が綺麗に咲いているという情報をもらったの。去年は大規模召喚より前だったから見られていないイレギュラーズが多いでしょう? 折角だから、行ってみてはどうかしら?」
確かに去年の大規模召喚は初夏。それ以前に来たイレギュラーズは見られたかもしれないが、ほとんどは幻想のアジサイを、もしかしたらアジサイ自体を見たことがないだろう。
「アジサイを見ながら散策してもいいし、近くにあるカフェの中から楽しむのもいいと思うわ。スペクトラル・ブルー、オーキッド・パープル、フロスティ・グレイ……素敵な色があなた達を迎えてくれるはずよ」
そう告げたプルーは徐に窓の外へ視線を向け「あら」と小さく声を漏らした。
何人かがつられて視線を外へ向ける。
「スモーク・ブルーだと思ってはいたけれど……降ってきたわね」
ぱた、ぱた。
窓に雫がつき、つぅと流れる。
どうやら雨が降り始めたようだった。
●カフェ『Hydrangea』
紫陽花畑のすぐ傍に、そのカフェはある。
ブラウン基調の落ち着いた室内。カウンター席とテーブル席があり、席の傍には1輪挿しの花が活けられている。
A型看板やメニューにはデフォルメされたドリンクのイラスト。ページを1つめくれば、そこには簡単なスイーツなども載っていて。
「いらっしゃいませ! 注文はご注文口でどうぞ。店内をご利用の場合は先にお席の確保をお願い致します!」
店員である少女の声が室内に響いた。
- アジサイ畑に集う完了
- GM名愁
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2018年06月17日 21時15分
- 参加人数117/∞人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 117 人
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参加者一覧(117人)
リプレイ
●雨は降る
しとしと、しとしと。
雨の降り続けるアジサイ畑。
冬の氷のように冷たい雨とも違う。
真夏の鉄のように一瞬で通り過ぎる雨とも違う。
(煙るようでいて、ずっとついて回る雨の只中の散歩というのもいいものだ)
『迷光仕掛け』アリスター=F=ナーサシス(p3p002118)は八重咲きのアジサイを見に進む。
眠りへ誘う如く霞む世界。それは孤独さえも曖昧にしてしまうようだ。
くいくいと腕をひっぱる『人形使われ』レオン・カルラ(p3p000250)と「引っ張んじゃねぇ!?」と頭に雨を受けながらレオン・カルラを追いかける『太陽の勇者様』アラン・アークライトに、小さく2つのくすくす笑いが漏れる。
『おやおや、彼女ったら楽しそうだね』
『ええ。彼ったら、腕なんて引っ張って』
レオン・カルラの腕の中で、そんな囁きを交わし合う人形たち。
楽し気にアジサイを覗きこむレオン・カルラに、アランはふうと自分の体を見下ろした。
引っ張られた際に傘から外れ、すっかり濡れてしまったのだ。
「天気ぐらい、元の世界の俺なら……」
そんな呟きは、子供に聞こえてしまったようで。
眉尻の下がった表情を見て、アランは肩を竦めた。
「良いって事よ。アジサイってのを見てみたかったしな。それに、たまには子供に付き合うのも悪くねぇ。また何かあったら一緒に散歩でも何でも行こうぜ」
できれば、晴れの日に。
アランが視線の高さを合わせると、2人は仄かに笑いあった。
太陽さんと一緒だから楽しいよ。今日はありがとう、アラン。
『──って言いたいみたいだけど』
『まぁ、笑顔で伝わるんじゃないかしら』
人形たちはまた、囁き合う。
「防水加工よし、っと」
『最速願望』スウェン・アルバート(p3p000005)は足とメットを確認し、走り始めた。
アジサイを眺める人々の邪魔にならないようにしつつ、自らもそれらを眺める。日課は欠かせないけれど、ただ走るだけも勿体ないというものだ。
走っているとなかなか景色を意識することは難しい。けれどふと視界に映る花々はまるで宝石の様。
(心が落ち着くッスね。ゼシュテルじゃあ見れなかったッスから、なーんか贅沢してる気分ッスよ!)
スウェンの通った後を追うように、水溜りから小さく雫が跳ねた。
「こういうのも風情があってよろしいですね!」
ぴょんぴょんと跳ねながらアジサイを見て回る『ロリ宇宙警察忍者巡査下忍』夢見 ルル家(p3p000016)。『blue Moon』セレネ(p3p002267)に誘われるままあっちへ。そっちへ。
(やっぱり、旅人さんには新鮮に映るのでしょうか)
ルル家の表情は楽しそうで、可愛らしい。
「何か生きものを探してみるのも楽しそうです」
「ですな。なにやら、トカゲとカエルが合体したような生き物がいるそうです」
じゅる、と唾液を飲み込むルル家。レッツ生き物探し。
セレネは1つ1つ、花の中を覗き込む。対してルル家は勢いよくアジサイの傍を走って確かめ──。
「あびゃー!」
「ルル家さん! 大丈夫ですか?」
起き上がったルル家は泥だらけの姿で、にへらぁと駆け寄ってきたセレネに笑いかけた。その笑顔にセレネは目をぱちくり。
(これは仲良くなる切欠かも?)
その視線はルル家から、ぬかるんだ足元へ。
「セレネ殿!?」
わざと転んだセレネにルル家が驚きの声を上げる。むくりと起き上がったセレネは、ルル家へ笑いかけた。
「これでお揃いです、ふふ」
その言葉にルル家はきょとんとして。しばらくしてくすくすと笑い始める。
笑い声が2つ、仲良さげに響き合った。
「エンヴィさんの髪やお洋服の色と、アジサイ。色合いが似通っててとてもお綺麗です」
『ほのあかり』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)の言葉に『ふわふわな嫉妬心』エンヴィ=グレノール(p3p000051)が目を丸くする。
「そう言われると、照れてしまうわ……アジサイが綺麗な事は間違いないのだけど……」
俯くエンヴィにクラリーチェはくすくすと笑う。
「あら、本当のことですよ」
お世辞でも何でもない。
淡い青と、その色を持つ花に顔を寄せる青の少女。絵にしたくなるような光景だ。
「さ、もう少し歩いてみましょうか。あちらに違う色の花が見えますし」
「……えぇ、今日はゆっくりアジサイを見ていたいわ……クラリーチェさんと一緒に、ね?」
エンヴィにとって、こんな風に誰かと共に出かけられることはとても嬉しい事。
ぱらぱらと傘を叩く雨音を聞きながら、2人は歩いていく。
少し離れた場所では、静かに言葉を交わす2人。
「この世界へ降り立ってから、これまで自分が多くの物のことを知ろうともせずに気づいた。私自身の傲慢さ故だったのだろうが……」
『堕ちた光』アレフ(p3p000794)が静かにそう零す。
アジサイを知っているか、という会話が丁度落ち着いたところだった。
続く言葉を『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)は黙って待つ。
けれど、そこに続く言葉はなく。
「……少しは人を理解できるようになったのだろうか、私は」
呟かれたそれに、アリシスはかくりと首を傾げた。
「成程……」
悩みには真剣に言葉を返すべきだろう。アリシスは暫し考えて口を開く。
人も最初から理解し合えているわけではない。理解を深めるのは経験で、それが一生だとアリシスは思う。
つまり、とアリシスはアレフを見た。
「そう自覚なさっているのなら、誰もと同じようにその途上にあるのだと思います」
その言葉にアレフは1つ目を瞬かせ、ふと目元を和らげる。
「……そうか。済まないな、君にはいつも苦労を掛ける」
「いえ」
2人は互いから視線を外し、雨の降るアジサイ畑へ向けた。
(アジサイか……幻想にもあるんだな)
『Quell the Storm』銀城 黒羽(p3p000505)はゆったりと散策していた。その頭にはウォンバットのような生物──サンが大人しく乗っている。
「季節を感じさせる何かを見るのはいいもんだ」
自分の知っているアジサイと同じかどうかはわからないが、楽しむとしよう。
傘にサンが当たらぬよう、上めに差して歩く黒羽。その前を、アジサイ畑の色を凝縮したような蝶が横切っていった。
「わ、綺麗だなー」
『魔法騎士』セララ(p3p000273)は広がるアジサイ畑に感嘆の声を上げた。
元々自然の少ない場所に住んでいたのだ。見慣れぬ景色は新鮮で素敵で、美しい。
グラデーションのように変化していく畑の色。きっと元の世界だったら写真を撮って──。
(でも、無いものは仕方ないよね)
その分、この瞬間を覚えておこうとセララはゆったり足を踏み出した。
「懐かしいね」
そう零したのは『饗宴の悪魔』マルベート・トゥールーズ(p3p000736)。雨を気にした様子のない彼女は傘をさしていない。ワインの入ったグラスを片手に、景色へ目を細める。
ふとグラスを持っていない手を伸ばしたと思えば、捕まえたのはカエルのような、トカゲのような生き物。
「確かトカエルだったかな? ふむ、可愛らしいね」
手に乗せてその姿を愛でたマルベート。徐にぱくりと食べてしまった。
「……ふふ。さて、次に私の目と舌を楽しませてくれるのはどの子かな?」
ふらり、とその姿はアジサイ畑に紛れていく。
「傘……持っていただけるのはありがたいのですが」
『アンタレス』アズライール・プルート(p3p005025)は申し訳なさそうに眉尻を下げる。
その様子に『驟猫』ヨハン=レーム(p3p001117)は小首を傾げた。
「重くはないので大丈夫ですよ」
そうですか、とアズライールは曖昧に笑みを浮かべて頷く。
(ボクの翼が大きいために、ヨハンさんが濡れないか心配です……)
今のところは大丈夫そうだが、気にしておこう。
「それにしても、綺麗なアジサイ畑ですね」
様々な色が咲いている。雨の日の外出は憂鬱かと思ったが、案外こういったものも悪くない。
「僕はお花はあんまり詳しくはないですけどー…これ、アズちゃんの髪の色に似てたりしますね」
「本当ですね。惹かれるものがあります」
教会に飾ってみたくなってしまうが、持ち帰りはできないはずだ。
代わりに記憶へ刻もうと、アズライールは「あちらへ行ってみましょう」とヨハンを誘った。
「中々に良いものですね、これは」
「ふふ、そうでしょう? この時期の花はやっぱりアジサイよね!」
『Tender Hound』弓削 鶫(p3p002685)と『くらげの魔女』ジェーリー・マリーシュ(p3p002709)はたまたま出会ったお1人様同士でのんびりと散策をしていた。
(どんなに歳をとっても、ずっと元気な女性でいたいものだわ!)
ジェーリーはピンク色のアジサイにそんな思いを馳せながら、出会ったばかりの鶫へアジサイの持つ花言葉を説明する。
「…でね、白は寛容というのもあるみたい! 場所によって解釈が違う事は争いも生むけれど……でも、面白い! って楽しむ事も出来たら……とても素敵よね!」
「そうですね」
鶫は頷き、辺りを見回した。
普段はアンニュイになる雨の中も、濡れるアジサイを見えると消えてしまう。そんなアジサイには色も意味も様々で──。
「あら」
見つけたそれに思わず顔を綻ばせる。
無意識であれば見つけられないだろう生物。彼らとの邂逅は、中々に心が弾んで楽しいもの。
「こうしてみると。雨の日も、悪くないものですね」
「ええ!」
2人は顔を見合わせながら笑った。
(こうして色とりどりの花を見る楽しみがあるのは、雨を嫌いになりきれない理由でしょう)
『朱鬼』鬼桜 雪之丞(p3p002312)は和傘に雨音へ耳を澄ませた。
そうしていると、何処からともなく聞こえてくるのはカエルの合唱──。
(……はて。合唱の方はやや苦手な様子でございますね)
伏せていた目を開けてその姿を探せば、一目見て分かる色鮮やかなカエル。
……カエル?
「拙の知るものと幾分、違うようでございますね」
知るカエルにトサカやヒレはなく、孔雀のように広げることもない。
(けれど、それもまた可愛らしくていいものです)
アジサイ畑の中に白い傘と、花柄の傘。アジサイに溶け込んでしまいそうな白い2人。
「ウィリア様は、雨はお好きですか?」
『α・Belle=Etoile』アルファード=ベル=エトワール(p3p002160)の言葉に『彷徨たる鬼火』ウィリア・ウィスプール(p3p000384)は空を見上げる。
ぱらぱら、しとしと。
「心地よくって……好きですよ」
本当は雨に濡れるのも好きだ。静かな時間を過ごすにも雨は良い。
ウィリアの顔には小さく笑みが浮かんでいて、その視線は少し先を行くアルファード──ベラへ向けられる。
ベラが雨でキラキラして見えて、つい見とれてしまうのだ。
「まぁ、ウィリア様ご覧ください。可愛らしいです……!」
その言葉にはっと我に返ったウィリア。慌ててそちらを見る。
「あっ……わぁ、変わった生き物が、いるんですね。小さくて……可愛い」
久々の出掛けと美しい景色。そして不思議な生物。2人は穏やかな表情を浮かべてそれらを楽しんだ。
「やあ、君達も元気そうだね。大切にしてもらっているんだねえ」
『大賢者』レンジー(p3p000130)は辺りのアジサイにそう声をかける。
一緒に回らない? と声をかけてきたマルク・シリング(p3p001309)も一緒だ。
2人は傘を差して、水溜りに気を付けながら歩く。
「これだけ沢山のアジサイが集まってる花畑なんて、そうそう見ないよね」
「そうだね。なんだかこうして会うと複雑な感じ」
耳が花弁の種族『花種』。レンジーはアジサイの一族であることをマルクに告げる。
「なるほど。……あ、あのアジサイなんか同じ色じゃないかな?」
マルクの指の先にはピンク色のアジサイ。レンジーは近づき、花に顔を近づける。
「本当だ。ふふふ、おそろいだねえ」
顔を綻ばせるレンジーとアジサイ。
マルクは少し離れた場所から、その風景を切り取るように親指と人差し指で囲った。
「しと、しと、ぴっちゃん、しとぴっちゃん……♪」
『兎身創痍』ブーケ ガルニ(p3p002361)は楽し気に鼻歌を歌う。
(濃紅のもの、淡緑のもの、色んなのがあってキレイやなぁ)
と、少し先にアジサイの影を覗き込む少女を見つける。
「あなたは雨宿り? それともお散歩かしら?」
そう声をかけている『桜火旋風』六車・焔珠(p3p002320)を覗き込み、ブーケは「ゴグラやね」と声をかけた。
「ゴグラ?」
「そ。雨で地下のお家が崩れんように、入口を補強しに出てきたんやね」
首を傾げる焔珠と答えるブーケ。どちらも濡れ鼠で、どちらから言いだすこともなく2人でアジサイを楽しみ始める。
「……風邪ひいてしまうで?」
「今日は雨に降られる気分なの。あなたは?」
「だってほら、濡れ鼠な方が皆も優しゅうしてくれはるし?」
そんな応酬をしながら、ふらりふらりと。
緋色の蛇の目傘と、真紅の番傘。描かれた桜吹雪に雫が落ちる。
「この青い大きい子、どこか旦那に似てはる」
『暁月夜』蜻蛉(p3p002599)が見下ろしたのは瑠璃色の花。なんとなく寂しげに見えてしまうのは、雨のせいだろうか。
「ははっ、よしてくれ。こんなおっさんに例えちゃ花が可哀想だ」
『本心は水の底』十夜 縁(p3p000099)が肩を竦めて雨音に目を細めた。
水気のある安心感は海種が故か。
蜻蛉は十夜の言葉を聞き、ゆっくり先を歩き出す。
「旦那は、どの子が気になるやろか?」
「そうさなぁ、俺が気になるのは──……っておい、風邪ひいちまうぞ?」
「これくらい平気やわ。ほんで、お気に入りは……?」
傘を外した蜻蛉が振り返った。その髪から雫が伝う。
(やれやれ、仕方ねぇ嬢ちゃんだ)
小さく苦笑を浮かべた十夜は番傘を閉じ、羽織を広げた。
「俺のお気に入りは……お前さん、ってことにしておくかね」
雨が遮られ、薄暗闇が蜻蛉を包む。
「しておくかて……何やのそれ」
呆れたようにそっぽを向く蜻蛉だが──その頬は朱に染まっていた。
(……アッチの世界を思い出すな)
『GEED』佐山・勇司(p3p001514)はアジサイを見ながら目を細めた。
この時期に、この花。そして雨。今頃はあちらも梅雨に入りかけているのだろうか。
綺麗に咲いたアジサイを眺める勇司の前を、ぴょんと尻尾の長いカエルが横切っていく。
「カエルに……トカゲか?」
似ているようで似ていない生物。
花を見ながら探すのも、ソレはソレで面白いかもしれない。
勇司はトカエルを追っていった。
活き活きとアジサイのことを語っていた『白い嘘』シャロン=セルシウス(p3p000876)は、くすくすと聞こえてきた笑い声にはっと我へ返った。
それは植物の──アジサイの声だ。
「あ、ごめんね……つい、いつもの僕だ」
とほほと後ろ手に頭を掻くシャロンは、その肩を少し濡らしている。
守られるように傘の中にいた『尋常一様』恋歌 鼎(p3p000741)はぴったりと寄り添いながらにこりと笑った。
「私はそういうところ好きだよ。なんだか童心に返ったみたい。可愛いよ、シャロン?」
悪戯っぽいその言葉に、シャロンの頬へ朱が走る。
「シャ、シャロン……!」
その震える声は、わざと異なる呼び方をしたことに気づいたようで。
「もっとアジサイのことを話しても大丈夫だよ。楽し気に離されて、悪い気はしないだろうしね?」
僕には彼らの声が聞こえないけれど、と何でもないように言う鼎。
シャロンが思わず顔を背けると、雨粒がぽたりと顔に当たって。
「……うん、皆とても笑ってるよ」
くすくす、くすくす。
沢山の笑い声が木霊する。
「ふむ、幻想の花ですか」
『夢に一途な』フロウ・リバー(p3p000709)は雨に降られながらゆっくりと散策する。
中々趣のあるものだし急ぐ必要もあるまいと、折角の休暇を楽しむフロウ。
『白き渡鳥』Lumilia=Sherwood(p3p000381)はほう、とその景色に吐息を漏らす。
「アジサイ、ですか」
近くのアジサイは青紫だが、少し離れた所へ視線を向ければ紫やピンクなどの色合いも見える。
(この小雨も、美しい情景の欠かせない要素なのでしょう)
景色を持ち帰ることはできないが、せめて何かの形に残したい。
Lumiliaは小さく口を開くが──。
(どうやら、こちらの才能はないようですね)
思いついた言葉を口に出してから、苦笑交じりにアジサイを見下ろす。
詩にするというのは難しい。けれどきっと、この景色は忘れない。
雨に紛れる甘い花の香りに、アジサイの影から虫が姿を覗かせた。
「わ、これ、蝶?」
その姿に屈みこんだのは『駆け出し冒険者』シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)。
その視線が向くのはアジサイに擬態するような蝶だ。
青から青紫、桃色から白へ。まるで蝶が1つのアジサイ畑のよう。
「色とりどりでアジサイみたい! とっても綺麗だね♪」
雨の匂い、雨の音。気持ちを落ち着かせてくれるようなそれらに包まれながら、シャルレィスは次の生き物を探すべく立ち上がる。
と、傘のない少女──否、少年の姿に目を瞬かせた。
「君、風邪ひいちゃうよ?」
声をかけられた『空虚なる■■』天宮 詩音(p3p005363)はびくりと肩を竦め、シャルレィスを見た。
「……ああ、わかってる。問題ないよ」
そう短く告げて詩音はシャルレィスの元からふらりと立ち去った。
彼の気分は、敢えて言うのなら感傷的だ。
アジサイには『家族愛』という花言葉がある。家族━━それは詩音が失ってしまったもの。
(……いや、あったと思い込んでいただけなのかもしれないな)
ああ、今この時だけでいい。全てから自由になれたらいいのに。
そう願う詩音に、変わらず雨は降り続ける。
感傷に浸る影もあれば、興味を抱く影もあり。
「なんだ!? めっちゃ高速で色が変わるアジサイがある……!」
『月下』シレオ・ラウルス(p3p004281)は思わず目元に手をかざした。
元の世界にもアジサイのあったシレオ、こちらでも見られると知ってアジサイ畑を散策していたのだが。
(不思議生物ってやつか、混沌の土壌がモンスターなのか……!?)
目の痛くなるような色の変化。布を被せねばとシレオは駆け出していった。
「ん?」
『他造宝石』ジル・チタニイット(p3p000943)は変わった尻尾のカエルを見た気がして、そこを覗きこんだ。
(雨が凌げて、乾いてない所にいると思うっすけど……)
そう知識を思い出しながら、アジサイの影を順に覗きこんでいく。
「お、発見したっす」
喜びに思わず声が出た。そして次の瞬間、ジルはおやと目を瞬かせる。
2匹目のトカエルだ。これはもしかしてお熱い展開なのだろうか。
(それだと僕はお邪魔虫っすね)
ジルは2匹を驚かせないよう、ゆっくりと立ち上がった。
「こっちは青……あ、紫色」
『山岳廃都の自由人』メルト・ノーグマン(p3p002269)は余計なことは何も考えず、ただ視覚に入る色の違いを楽しみながら歩いていく。
その傍を過ぎていくのは楽し気なピンク色の影と、ぐったりとした雰囲気の黄色い影。『羽無し』ココル・コロ(p3p004963)と『トータルパンツコンサルタント』セティア・レイス(p3p002263)だ。
「こっちですか~♪ あっちですか~♪」
「ココル、元気ぱない」
セティアは少し遅れてココルの後をついていく。だがペットのぶひはそうでもないようで、飼い主を置いてココルの元へ走っていってしまった。
「見つけたのです!」
アジサイの元にしゃがみ込むココル。追い付いたセティアは上からそれを覗き込むが──。
「ぶべっ!」
「ひびゃあ!?」
勢いよく立ち上がりかけた為の接触事故。
片や顎を押さえ、片や頭を押さえ。痛みに呻きながらごろごろと転がれば、カラフルなレインコートは泥だらけ。
それでも、不思議な生物の動きを見れば笑い声は自然と漏れる。
「お花って、色によって花言葉が違ってくるものもあるのです」
『お花屋さん』アニー・メルヴィル(p3p002602)はアジサイを見ながら言葉を紡ぐ。
白は寛容。ピンクや赤は元気な女性。
「どちらもアレクシアさまに似合う、素敵なお花だと思うのです」
「ふふ、何となく照れくさいけれど……ありがと!」
『特異運命座標』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(pp004630)が照れくさそうに笑いかける。
そんな風に褒められてしまえば、自分でも育ててなってみたくなるもので。
「……今度、お花の育て方とか聞いてみてもいいかなぁ?」
「! お花に興味を持ってくれて嬉しいです! もちろん教えますとも!」
アレクシアの言葉にアニーの表情が綻ぶ。それはまるで、花が咲いたように。
「……私の、好きな花」
刀崎・あやめ(p3p005460)はアジサイへ視線を落とした。
その花言葉は移り気、高慢、無情。よく聞くのは心象の良くないものばかり。青色のアジサイには冷淡なんてものもあって、言われたら泣いてしまいそう。
それでもあやめの1番好きな花は青いアジサイだ。自らに重ねられるような花言葉を持つこの色が大好きなのだ。
(会いたい……会いたいよ。大切な婚約者、1番愛おしい人)
その人はこの世界のどこかにいる。そんな直感が、あやめにはあった。
だから、必ず会いに行ってみせる。
青色アジサイの花言葉は『辛抱強い愛』。ずっと相手を想い続ける愛だ。
1つの傘に2人の影。
「普段はさ、晴れてないと色々めんどくさくなるけれど……アジサイ見るには、やっぱ雨必要だな」
そう告げて隣を伺う『望を喰らう者』天之空・ミーナ(p3p005003)。
アジサイとは異なる紫を持つ『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)は時折ぶつかる肩を気にしながら「ええ」と頷く。
「美醜を共有できる人が居るのと同じね」
アジサイを見つめるその瞳は、苛烈に燃える色でありながら優しい光も湛えていて。
やっぱアレだなぁ、とミーナは呟く。
「美少女に雨と傘とアジサイって、絵に……」
とん、と唇に指を当てられ、ミーナの言葉は止まる。
「花鳥風月、どんなときにもその美点を見出す時、というのは存在するわ」
だからね、とイーリンは軽く笑う。
「それを言うのは、野暮ってものよ」
その脇を駆けていく白兎……否、首狩り白兎が1人。少し不安げな表情だ。
「ママ、どこだろう……」
飛騨・玲(p3p005496)の姿を探す『小さき首狩り白兎』飛騨・沙愛那(p3p005488)はメイド服の女性を見つけ、声をかけた。
声をかけられた『魔法少女スノードロップ兼メイド』飛騨・沙織(p3p004612)はと言えば、食べていたメロンパンを(実際は恐らく気のせいだが)物欲しそうな目で見てきた沙愛那にあげる。
「メロンパンだ! わたしメロンパン好きなんです!」
嬉しそうなその反応に安堵し、ぽつぽつと話せば同じ姓を持つことを知り。
沙愛那の家族構成を聞いていた沙織は、突然の頭痛に見舞われた。
「すみません……具合が悪いようで。失礼いたします」
「大丈夫? 気を付けてね!」
彼女たちが次に会うのは、はたしていつの日か。
雨の中、はしゃぐ姿が1人。
「自然に降ってくるなんて本当に不思議! 夢みたいだよー」
元の世界との違いに目を丸くしながらも楽し気な『深潭水槽』雨祇 - N123(p3p005247)。
気持ちは浮き立ちながらも、散策自体はゆっくりだ。
「実物見るの初めてなんだよねぇ。近くだとこんな感じなんだー」
軽く浮遊しながら花を眺めていると、傍を何かが通った気がして。
「あ、混沌特有の生物かな?」
初めてだらけに、N123の興味は尽きない。
「これがアジサイ、か……」
『太陽忘れた時代の狩人』トライ・ストライン(p3p005482)は小さく声を揺らしながらそう呟く。
太陽を忘れてしまった時代では、咲くことのなかった花。
(本当に異世界に来たのか、俺は……)
古い写真でしか見たことのなかったそれに、トライはいつまでも魅入られていた。
その傍を傘が1つ──それを持つ『特異運命座標』社守 虚之香(p3p005203)がたたたと駆けていく。
『再咲の』フォーガ・ブロッサム(p3p005334)の心の落ち着く時間へ、可愛らしい乱入者。
「あぶないから、もってもらわなくちゃ!」
『小さな思い』リトル・リリー(p3p000955)の言葉に、フォーガは困ったように眉尻を下げる。
「……ケダモノが妖精を捕らえている図ですね」
「えっ? じゃあたくさんあまえるよーにして、そうじゃないってアピールしないと」
フォーガの言葉にリリーは警戒心を持つ様子なく。
握りつぶしてしまわないかハラハラしているフォーガを余所に、リリーはフォーガの手の中でもふり──否、甘えてアピールし始めた。
「だいじょーぶ、フォーガさんはとってもやさしいんだもん♪」
少女が警戒心を抱く日は、果たして。
まるでデートみたい、と心の中で思っていた『其の力は誰が為に』冬葵 D 悠凪(p3p000885)はふと立ち止まった。
「青いアジサイ……」
見つけた虫の知識を披露していた悠凪は同じ傘に入る『生誕の刻天使』リジア(p3p002864)へ、今度はその花言葉を説明する。
「ふふ、まるでリジアさんみたいですね」
「生き物からすれば、私などそんなものだろう」
無情、冷淡。そんな花言葉に軽く肩を竦めるリジア。
本来生きる世界が異なるのだ。価値観なども異なるだろう。
けれど、と思う。こんな時に外を歩く必要もなく、リジアは雨に濡れたってかまわない。
なのにこの少女はリジアを気に掛ける。
「私を気にするお前は……白、なのだろう」
そう呟くと、悠凪が目を瞠った。その表情を見てリジアはやや視線を逸らす。
「……知らなかったわけではない。……気まぐれだ」
白と告げた、その意味は──。
●アジサイに隠れて
『戦花』アマリリス(p3p004731)は借りた真白のハンカチで濡れた部分を拭き、ほぅと息をついた。
先ほどまでずぶぬれで散策していたが、今は『黒影』シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)の傘に入れてもらっている。
「相合傘が良いからって……ったく、本当にお前って奴は……」
『家に置いてきました!』とサムズアップ付きで宣言していた恋人に、シュバルツは苦笑いを浮かべる。
「な、なぜ笑うのです!? 私何かおかしいことしちゃったかな……!! あ、これありがとうございました、リッ……」
シュバルツの様子に目を瞬かせ、ハンカチを返そうとしたアマリリス。その言葉は唇に人差し指を当てられ止められる。
「敬称は付けなくて良いって言ったろ。カップルってのは、互いを呼び捨てで呼ぶもんだぜ?」
見下ろしてくるシュバルツを直視できない。
「ありがとうございます、……シュバルツ」
俯いたアマリリスは小さく呟いて。
「よし、折角綺麗なアジサイ畑が目の前に広がってるんだ。のんびり駄弁りながら、近くを散策するのも悪くはねぇさ。んじゃ、行こうぜ」
「は、はいっ……!!」
観察に邪魔だと傘を畳んだ『蒼ノ翼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)。
面倒な季節だけれど、恋人と出かける口実ができるのは悪くないとも思う。
「おにーさんは雨は好きかい」
その問いに『紅獣』ルナール・グルナディエ(p3p002562)は、ルーキスによって傘に乗せられたトカエルを見上げて少し考える。
「……ルーキスと一緒なら、かな」
勿論、一緒に出かけられるなら天気なんて気にならない。
アジサイを見下ろしたルナールは「けれど」と続ける。
「アジサイは青い方が好きだな」
それは、恋人の纏う色だから。
そっかと零したルーキスは、ルナールの傘を見て徐に目を瞬かせた。
「あー、そうか。どうせなら次からキミに傘持って貰えば良いのか。ルナ、屈んで?」
ルーキスが傘の中へ入ってくる。
「お代はこちらで如何でしょう」
悪戯っぽい笑みと共に、ルーキスの唇とルナールのそれが重なる。
「という訳で次から傘番よろしく」
「……お代なんて無くても傘位持つぞ、いくらでも」
苦笑を浮かべたルナール。
散策の続きは、1つの傘の下で。
「小さなブーケみたいで可愛くて、素敵な花だよね」
「ん、……ああ、そうだな」
『ゆきのはて』ノースポール(p3p004381)の言葉に『Calm Bringer』ルチアーノ・グレコ(p3p004260)は振り返り、目を細めた。
色鮮やかなアジサイにノースポールの白が良く映える。まるでブーケに包まれているようだ。
「わっ、ごめん!」
ノースポールの声で傘が当たったことにようやく気づく。彼女の慌てた表情が近い。
(ああ、傘があるから距離が遠かったのか)
そう気づいたルチアーノは、しかし次の瞬間「えぇっ?」と声を上げた。
「えっと……お邪魔するね?」
ずっと近くにある真白な姿。
これは俗にいう相合傘、というやつで。
腕を組まれてルチアーノの心臓が跳ねあがる。
「……えへへ。これで動きやすくなるね!」
「……、……そうだな」
幸せそうなノースポールの姿に絶対動揺を悟らせるまい、と思いつつルチアーノは恋人を守るように傘を傾けた。
涼しいはずなのに、2人の周りはやけに暑く感じた。
「雨ん中の散歩ってのもいいもんやねー」
「ええ。こんな風に雨が降ってる時には、何か面白いものが見つかるかもしれないわよ」
『海洋の魔道騎士』美面・水城(p3p002112)と『無明一閃』長月・秋葉(p3p002112)はのんびりと散策を。
水城は雨に濡れても構わないが、傘に落ちる雨粒の音もなかなか楽しいもので。
(雨ん中の散歩ってのもいいもんやねー)
なんて思ったり。
「って、何か面白い物って何や?」
「そうね……ああいうのとか」
つい、と秋葉が指差した先には雨の中を飛ぶ蝶。まるでアジサイ畑のようなグラデーションだ。
「わ、綺麗やなぁ……」
見とれる水城の姿に小さく笑い、秋葉は「記念に1枚取ろうか」と声をかけた。
ええよーと応じる水城とアジサイの前に立ち、カメラを内向きにする。
カシャ、と音が1つ小さく鳴った。
「まろうさんや」
「はい、QZさま」
傘の中でひそやかに。
雨も傘も、2人の空間を作る為のベールのよう。
念願の相合傘デートに浮きたちつつも、『QZ』クィニー・ザルファー(p3p001779)はしっとりとした雰囲気を壊さぬよう気を払う。
(落ち着いた色合いのアジサイと、緩やかな雰囲気のまろうさん……息を呑むくらい、綺麗)
『その声のままに』霧小町 まろう(p3p002709)もまた、恋人へさらに寄り添って。
「濡れちゃわない? ……もう少し、寄ってもいい?」
「あっ、大丈夫です……けれど」
まろうに触れた肩は暖かくて、見上げるとクィニーと視線が絡み合う。
小さく笑う2人は互いしか見えていない。
雨もアジサイも、2人を引き立てるためのもの。
まるで、世界に彼女たちしかいないかのように。
恋人と、美しいものの共有を。
1つの傘に入った『『幻狼』灰色狼』ジェイク・太刀川(p3p001103)と『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)はアジサイ畑を共に眺めていた。
「色の変化の、なんと多彩な花でしょう」
喜色に満ちたその言葉に、ジェイクは小さく笑って肩を抱き寄せる。
そうして密着したままゆっくり歩けば、お互いの吐息や体温を間近に感じて。その鼓動がお互いに早いのは、きっとアジサイのせいだけではない。
(灰色の貴方が、どうしてこんなにも輝いて見えるのでしょう)
幻はそんなジェイクを見つめることができなくて、花の上で見つめ合ってるホタツムリが羨ましくなってしまう。
そんな視界に、突然ひらりと何かが横切った。
「きゃっ」
幻がジェイクへ抱きつく。その肩越しにカエルのような、蝶のような生物が遠ざかっていくのをジェイクは見た。
けれど、すぐに視線は腕の中の恋人へ。
(ああ、愛しくて可愛らしい)
抱きついてきた幻を1人占めしてしまいたい。彼女が欲しい。
傘で周りの景色を隠せば、幻が赤くなっていた顔を上げて。
2人の唇は、そっと重なった。
各々で楽しむ者も、カップルで散策する者もいない場所に傘がぽつり、ぽつり。
(広くて、静かで……いいところね)
『特異運命座標』久遠・U・レイ(p3p001071)は先日負った傷をそっと撫でながら辺りを見渡した。
様々な色の中、その中でも青いアジサイへ視線が向いてしまうのは好きだからだろうか。
そこにあるだけで心が落ち着くし、独りの寂しさを紛らわしてくれる花。
(触れないのが少し残念だけど)
触ったら枯らしてしまうかも、と考えたレイは小さく葉が動いたことに気づいた。
「……カエル?」
正確にはカエル『らしきもの』だ。
(……少し、生き物達の様子でも見ていようかな)
彼女は1人であれど、独りに非ず。
「……花ねぇ」
『極夜』ペッカート・D・パッツィーア(p3p005201)はアジサイを見下ろした。
綺麗だ、と思う。同時に、引きちぎって撒き散らすのは最高に楽しいと思う。
けれど。
「花は誰にも触れられず、花弁を散らして枯れる間際が1番好きなんだ」
だから、ペッカートだけでなく誰の手も触れなければいいと。最後までそうして楽しみたいときもあるものだと。
雨に紛れるようにポツポツ呟いていたペッカートは、唐突に外であったことを思いだした。
「誰かに聞かれてたら恥ずかしいことこの上ねぇわ。退散退散」
帰りに寄るか、と足が向いたのはカフェ──今丁度イレギュラーズ達で賑わっている所──だった。
●賑わう店内に
「ククック! アジサイ畑!! 錬成術に使う良き素材が採れそうではないか!!!」
『夢は現に』ディエ=ディディエル=カルペ(p3p000162)はアジサイ畑を前に、不敵な笑みを浮かべていた。
(ナメクジもどきやカエルもどき、クク、腕が鳴るぞ!)
いざ行かん、と足を踏み出すディエ。その耳に少女の声が入る。
「……客引きか」
期間限定、アジサイゼリー。
菓子に興味が湧いた……わけではない。魔力の再装填をするため、腹ごしらえに行くのだ。
そのカフェの中、『暴牛』Morgux(p3p004514)はゼリーを食べながら外を眺めていた。
花に詳しいわけではない。けれど、見える景色には花、花、花。
紫や青などの色はよく見かけるから、見かけないような珍しい色を探したくなるのだ。
『輝きのシリウス・グリーン』シエラ バレスティ(p3p000604)はソーダジュースに口をつけた。
雑念を紛らわしてくれる雨音に、見惚れてしまうようなアジサイ。けれど、考え事はしてしまうもの。
(あの夢、何なんだろう?)
最近見るようになった、白狼が何かと戦っている夢。
おそらく名前しか知らない『シエラ』という存在に関わることなのだろうが。
「要するになにもわからない……」
シエラは小さく溜息をつき、アジサイゼリーを食べ始める。
「たまにはこんな時間って必要だよね」
コーヒーのお供にスコーンやクッキー、ゼリーをテーブルに並べて。
『鳶指』シラス(p3p004421)はそれらを食べながら、窓越しに見えるアジサイの方へ視線を向けた。
こうして見ると心の中、自分の張りつめていたものがゆるゆると解けて緩むのがわかる。
雨音は子守唄のように、シラスを眠りの世界へ誘って。
シラスは先に寄りかかり、その睡魔へ身を任せた。
「……雨男?」
雨宿りをしていた『吸血姫』Solum Fee Memoria(p3p000056)は、出会った『断絶の死神』クロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)にそう口を開いた。
カフェへ立ち寄ろうとしていたクロバは思わぬ人物に目を瞬かせる。
「吸血鬼って、雨の日は苦手なんじゃなかったのか?」
そう問うていると、Memoriaに上着の中へ隠れられた。やはり苦手という事だろうか。
「……暖房器具」
(……暖を取っていただけか)
猫のようだと思いながら、クロバはMemoriaをカフェの中へと誘った。
「そういえば、アジサイって色によって花言葉が違うらしいぜ」
クロバは外を眺めながら語る。
ピンクのアジサイは『元気な女性』。その意味で妹に渡したつもりだったが、『移り気』という花言葉もあると言われてしまったのだと。
当時を振り返りながら苦笑したクロバを、Memoriaは甘いミルクティーを飲みながら見上げた。
「たまには、こうしてのーんびりするのもいいのぅ」
カウンター席でコーヒーを飲みつつ、ルア=フォス=ニア(p3p004868)は外を見て目を細めた。
アジサイは雨の中でも色が映えて美しい。そして室内にいても耳に届く雨音は心地よい。
「風情があるのぅ。んむ、実に良い」
その頬が緩んでいるのは、きっと気のせいではあるまい。
音に、景色に。表情と共に心もほぐれていくのを感じている。
(中々に良いスポットを見つけたものじゃ)
そう思いながら、ニアはスコーンを口に運んだ。
「今日は何でも食っていいぞー。うちのメイド様のお許しは出てるしな」
「ええ、本日は特別ですよ。全く……どこかの誰か様が仕事をしないので、うちの家計は火の車です」
『怠惰な何でも屋』矢萩 誠(p3p001793)が言葉に詰まれば、『奴隷7738番』ナナミ(p3p005393)は冗談ですと呟いた。
誠の言葉に喜んだのは『奴隷37564番』ミナ(p3p005362)だ。
「あむあむ、このケーキ美味しいのですよ! ナナミも食べるといいのです!」
早速食べ始めるミナの様子に誠の表情が和らぐ。ナナミはそれを見ながらポツリと呟いた。
「……今日が私達にとって大事な日なのはわかっておりますよ」
「ああ。何たって……今日は俺達が家族になった日だ」
2年前、誠が荒れていた頃。
彼女たちを拾ったのは、自分より絶望に包まれた人間を見て救われたかったからかもしれない。けれど、一緒に暮らしていくうちにその認識に変わっていったのだ。
「そうですね、今日は2人と家族になった日なのです!」
ミナが無邪気な笑顔を浮かべる。
死と同等の絶望から救い上げてくれたのは誠だ。名前と同時に新たな生を与えられた。
これまでとは慣れないことの連続で、衝突をしたこともある。けれど乗り越えて1年前、家族にまつわる花言葉があるアジサイ畑で誓いを立てた。
『家族になる』……と。
「俺は2人の事、『姉ちゃん』の様に想ってるよ」
微笑んでそう告げる誠。けれどナナミはそのジト目を向けて、ミナは微妙そうな表情を浮かべ。
「……勿論、ミナとナナミはご主人様の嫁ですが?」
「私も『奥さん』とか『嫁』のつもりなのに……」
ミナにすりすりと抱きつかれた誠は困ったような苦笑を浮かべた。
(俺の好きな人は異世界にいるからな……)
それは『あやめ』という、1人の少女。
カウンター席でコーヒーを楽しむ『千法万狩雪宗』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)は、その視線を窓の外へ向けた。
(こちらの世界にもあるとはな)
その瞳に映るのは雨に濡れるアジサイ。
この手の感性は似ているのだな、と1つ頷く汰磨羈の手はシナモンパイへ伸びる。
齧ればさく、と軽い音を立てて。
その音と味を堪能したら外へ行こう、と決意する。
なんでも不思議な生物が沢山いるらしい。
(そういうものを楽しむ童心というものは、無くならないものだ)
ゆら、と2本の尻尾が小さく揺れた。
「まさかこっちの世界でもアジサイを見れる事になるとは」
窓越しにアジサイを眺める『無道の剣』九条 侠(p3p001935)は、その視線を隣へ向ける。
「知ってるか? アジサイ」
「綺麗ですよね……私も、アジサイはちゃんと知ってますよ……」
『虹彩の彼方』セレン・ハーツクライ(p3p001329)は頷くとアイスココアを飲んだ。
侠もジュースを飲み、元の世界に想いを馳せる。
「俺の世界じゃ夏の風物詩だったんだよ」
「なるほど、です……私は雨の季節のイメージが強い、ですね……」
ぱたぱた、と外では変わらず雨が降っている。
アジサイゼリーをひょいと口に入れた侠。それをむぐむぐと咀嚼し、セレンへ「なあ」と声をかけた。
「こっちでもまた祭りがある様なら一緒に行こうぜ、丁度今海洋から誘いが掛かってるみたいだし」
「花火……お祭り……楽しそう……」
新しいところもどんなところか気になる、と呟くセレン。この様子なら共に行ってくれるだろう。
(アジサイかぁ)
もぐもぐ。
(雨の日のアジサイ畑って、何か風情があるよね。何でだろ)
ごくごく。
コリーヌ=P=カーペンター(.p3p003445)はスコーンにクッキー、ココアを咀嚼しながら合間にアジサイを眺める。
胸が締め付けられるような心地のする風景です。ノスタルジック、というものだろうか。
その正体はわからないけれど━━。
「む、結構美味しい」
わからなくていいであろうそれを頭の片隅へ追いやり、コリーヌは再びスコーンに齧り付いた。
「おじさま! 窓の外、アジサイがいっぱい!」
『遠き光』ルアナ・テルフォード(p3p000291)がはしゃいだ声を上げる。『智の魔王』グレイシア=オルトバーン(p3p000111)は座った席に目を細めた。
「これは良い席だ……外よりも落ち着いて見られるな」
「頼んだ者が届くまで、こうやって眺めて……あ。帰りは一緒の傘はいろー?」
傘のサイズに問題があるだろうと渋るグレイシアに、ルアナは肩車を提案。グレイシアが納得するような表情を浮かべた所に注文したデザートが運ばれてくる。
「わぁぁぁ! 綺麗! おいしそう!」
置かれたアジサイゼリーにルアナは歓声を上げた。
照明の下で、キラキラとして見えるアジサイゼリー。スプーンですくえば、アジサイの一部は口の中へ。
「色に合わせて味を変えるのも面白そうだな」
グレイシアはそれを味わいながら、再現できないかと思考を巡らせる。
「ねぇねぇ、帰りは肩車してねっ」
「忘れて無い、大丈夫だ」
途中で釘を刺すルアナ。よほど彼女にとって重要らしい。
グレイシアは思わず笑みを浮かべた。
「あの、えっと……」
きゅ、とサージェイト・ロゴス・カーネイジ(p3p005457)の服の裾を掴む『ふわふわにゃんこ』小鳥遊・鈴音(p3p005114)。
頬を赤らめたその様子にサージェイトはフンと鼻を鳴らす。
「その程度、わざわざ許可を取る必要も無かろう」
そうして隣同士の席に座り、注文したアジサイゼリーと2杯の珈琲。
ゼリーを食べた鈴音はぴこぴこと猫耳を揺らした。
その様子を見ていたサージェイトは、どうやら勘違いをされたようで。
「サージェイト様も召し上がりますにゃ? あーんしてくださいませ~」
「ん? 人目のある所でそういった行いは……」
そうは言っても、照れ笑いを浮かべる鈴音を無碍にするのも勿体ない。
(これから先、幾度も似たようなことになる予感がするのは、きっと気のせいだ)
サージェイトの心情を知ることなく、鈴音は嬉し気に尻尾を揺らした。
「へぇ……綺麗なアジサイだねぇ!」
窓側の席に座った『壊れた楽器』フルート(p3p005162)は、思ったより近いアジサイに顔を綻ばせた。
その手元にはその花を模したゼリー。花そのものは使われていないようだが、アジサイを表現した菓子がゼリーの中に沈んでいる。
食べながら目を閉じれば、微かに聞こえる雨の音。
ジメジメするのは好きじゃないけれど、音は好き。洗い流してくれるようで、その後はなんだかさっぱりした気がするから。
(生き物たちもきっと喜んでるねぇ)
音を楽しむその隣には、やはりアジサイゼリーを食べる者がいて。
「期間限定スイーツ、こんな感じなんだ~!」
はしゃいだ様子のカシミア(p3p005160)は、ここに来る前からアジサイゼリーをそれはそれは楽しみにしていた。
『どんな食べ物なんだろう? アジサイ色なのかな、匂いとか味もアジサイみたいな感じなのかな~!』
と、想像を膨らませていたカシミア。少し想像と違うものではあるけれど、その違いだって楽しいもの。
(森のアジサイは綺麗に植えられてるものじゃないし、この機会にたっぷり堪能しとかなきゃね!)
アジサイゼリーを1口食べ、カシミアは外の景色を眺めた。
(しかしまぁ。雨の日のアジサイってのは、何とも言えない魅力があるよな……)
イーディス=フィニー(p3p005419)はカップケーキを食べながらふとそんなことを思う。
雨音も心地よく、その中でも映える紫や青のアジサイ。
外で散策している人は、ここで眺めている人は何を感じるのだろう。
「……まぁ。そんな難しいことを考えるのは、性に合わないけどな」
イーディスはそう結論づけ、コーヒーカップに口を付けた。
「アジサイって、結婚式のブーケにも結構使われンだよ」
『寄り添う風』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)は、そう言って花言葉を語る。
『星を追う者』ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)はそれを聞きながらハーブティを飲んだ。
「結婚式ねえ……俺には縁が無さそうだ」
ウィリアムにとって、ミルヴィの話してくれた花言葉は何だかしっくり来ない。それにミルヴィは綺麗だと言ってくれたが、自分は綺麗なのだろうか。
そう思っていたら、ゼリーを食べながら小さく笑っていたミルヴィの手が伸びた。
(想像以上に、自分の頭ン中がお花畑ってるのに何か笑っちまう)
照れて視線を逸らすウィリアム。まだまだ彼は女心に疎い。
「今度アンタの詩でも唄ってやるからサ、そしたらまた2人でいこ?」
「俺の詩? よしてくれよ、ガラじゃねえ」
口約束だったデート。また、口約束を交わす。
「ここの席、一緒に座ってもいいかぁ…?」
「勿論大丈夫だよ」
その問いかけに 『魔法少女』アリス・フィン・アーデルハイド(p3p005015)はホッとした表情を浮かべて頷いた。
1人でテーブル席は悪いかも、と思っていたところである。渡りに船。
アリスの反応に『魔剣殺しの』ヨルムンガンド(p3p002370)は笑いかけ、互いに軽い自己紹介を済ませた。
「よ、ヨルさん一人でそんなに注文して大丈夫なの? ほ……本当に食べられる?」
注文したそれらにアリスが目を丸くするが、ヨルムンガンドは平然とした表情。
分けっこをしながら2人でアジサイを眺める。
「アリスはアジサイが似合うなぁ……! こう、色とか雰囲気とかか?」
「そ、そうかな?」
その言葉は擽ったくて、思わずアリスは照れ笑い。
花束にしてあげられたら良かったんだけど、というヨルムンガンドの言葉にアリスは目を瞬かせる。
「……だったら、私からもヨルさんにあげたかったな?」
アリスの言葉にヨルムンガンドも目を瞬かせた。その様子に小さく笑って「だって」と続ける。
━━アジサイを見て、今日のことを思い出してくれるかもしれないから。
本を読んでいた『一刀繚乱』九重 竜胆(p3p002735)は注文していたアジサイゼリーが置かれた音を聞いて顔を上げた。
(綺麗だわ)
素直にそんな感想が思い浮かぶ。
汚さないように本をしまって、竜胆はスプーンを握った。
口に運んだゼリーは先程頼んだコーヒーやスコーンと同様に美味で、これはリピーター━━再び訪れる客も多いだろうと感じさせる。
ゼリーを食べ、少し休憩した竜胆は席を立った。
(遠くから見ているのもそれはそれで良かったけれど、やっぱり近くで見て感じて……でしょうから)
竜胆は店員へ短く礼の言葉を告げ、雨降るアジサイ畑へ歩みを進めた。
「お菓子とお茶だー!」
『方向音痴』ノーラ(p3p002582)が嬉しそうに声を上げる。
「私はココアをお願いしようかな……あ、あとカップケーキも!」
「僕は……僕も!」
『笑顔の体現者』ユーリエ・シュトラール(p3p001160)の言葉にノーラが反応する。
「それじゃあ私は紅茶とアジサイゼリーを頂こうかな」
「俺はコーヒーとアジサイゼリーを」
『慈愛の恩恵』ポテト チップ(p3p000294)と『銀閃の騎士』リゲル=アークライト(p3p000442)がそう告げると、ノーラが小さく口を尖らせる。
「あ、ゼリーも食べたい……パパ、一口頂戴?」
「勿論いいよ」
パパ──リゲルが答えればその表情はすぐ明るくなって。
注文したそれらが届くと、皆ドリンクを飲んでほっとした表情を浮かべた。
「こうして穏やかな時間を作るのは初めてだな……この世界で何か得たものはあったかい?」
見えてきた目標。個人的な話を聞いてみたいとリゲルは告げる。
「一期一会の出会いをより大切にするようになった……って感じかな」
ユーリエはココアのカップを持ちながら視線を上へ向けた。
人には沢山の人がいて、出会った全ての人に感謝の心を忘れないようにしたい。
「1日1善を心がけて……いつか妹に会ったら、胸を張れるように頑張りたいな!」
「ユーリエも妹さんに話したいことが沢山だな」
ポテトがユーリエを見て目を細める。
「私も女神様に伝えられたらと思っている。この世界のこと」
皆との出会い、思い出。かけがえのない、大切なものも含めて。
「俺は……皆と剣を通じて語らう事が出来て楽しかったな」
言葉では語れないものだって、剣で語ることはできるから。
「目標は、魔種についての更なる情報を集めること。願わくば、剣を交えてその強さを計ってみたい」
「魔種はこれから……関わる機会が増えるだろうな」
ポテトはそう呟き、一瞬視線を伏せる。
思い出すのは、近頃幻想で起こる事件だろうか。
だが、その視線はすぐにリゲルへ向けられて。
「焦らず確実に、情報を集めて頑張ろう」
その言葉に頷くリゲル。その隣ではい! と勢いよく手が挙げられた。
ノーラだ。
「今、いっぱい幸せなんだ。目標は友達もっといっぱい作ることで、魔種ともお友達なれたら良いのになって思ってる」
ノーラの言葉にポテトとリゲルはおや、と思わず顔を見合わせた。
「お友達になれたら、お互い分かりあえると思うんだ」
ノーラは2人を見ながらそう告げる。しかし、カップケーキを食べていたその瞳は徐に瞬いて。
「美味しい」
カップケーキが美味しいと、リゲルとポテトに分けっこするノーラ。
「ユーリエお姉ちゃんのも同じのだけど、分けっこすると美味しいから分けっこだ」
そう言ってユーリエとも分けっこする姿に、テーブルは笑顔に包まれた。
(幼い頃、お姉さま達と来た時以来ですが)
雰囲気は全く変わっていない、と『誓いは輝く剣に』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)は目元を和ませる。
手元には温かい紅茶とスコーン。そしてアジサイゼリー。
イレギュラーズになって忙しない日々。
淑やかに濡れるアジサイを眺め、紅茶を楽しむ今はその時間と無縁だ。
(……こういうのもいいですね)
シフォリィはゆっくりカップへ口をつけた。
その隣でも気を楽にする人物が1人。
(こうして休めるのが久しぶりに思えるよ)
何せ、サーカス騒ぎで今の幻想は慌ただしい。
『灰燼』グレイ=アッシュ(p3p000901)はコーヒーを飲むと、シフォリィが頼んでいたアジサイゼリーに視線を向ける。
「……ああ」
確か、今のおすすめだったか。
興味が湧き、グレイは頼もうと1度席を立つ。
『麗しの王子』クリスティアン=リクセト=エードルンド(p3p005082)は音に耳を澄ませた。
(静かに降る雨が、時を忘れさせるようだよ……)
よく聞けば、遠くで散策する者の楽しそうな声も聞こえてくる。
それらをクリスティアンも楽しみながらサイダーを飲むと、思わずせき込んだ。
口腔で弾けるシュワシュワパチパチ。
これは実に変わった飲み物だ、と口元を手で押さえていると声がかけられる。
「大丈夫? 初めて飲むとびっくりちゃうよね~」
『エブリデイ・フェスティバル』フェスタ・カーニバル(p3p000545)はクリスティアンが落ち着いたのを判断するとミルクティーに口を付ける。
「はふー。あったまるぅ」
先ほどまで散策をしていたフェスタ、やはり暖かいものは安心する。
「これは君が書いたのかい? 成程……実に魅力的だ」
「えへへ、ありがとー! ライフワークなんだ♪」
開かれた小さなノートには見た事や物の感想の他、描きかけのアジサイ畑が描かれていた。
「カフェで1番スペシャルなパンケーキをお願いできるかしら~?」
にこにこと店員に注文した『夢色観光旅行』レスト・リゾート(p3p003959)はテーブル席へ座った。
そこへやってきたのは『砂漠の光』アグライア=O=フォーティス(p3p002314)。
中々見ることのなかった雨、カウンターで見たかったのだが席が埋まってしまっていたのだ。
「すみません、相席しても良いでしょうか?」
「んふふ、もちろんよ〜」
レストの返事にホッとした表情を浮かべるアグライア。2人の座ったテーブルへ、店員がパンケーキの皿を運んでくる。
「まあまあ、これはとってもスペシャルね~!」
3段重ねのパンケーキにたっぷりのホイップクリーム、皿へ零れるほどのフルーツが盛られている。
「わ、すごいですねえ。ご一緒しても?」
通りがかった『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)が目を丸くして声をかけてきた。その手が持っているのはチーズケーキだ。
カウンター席に座っていたが、店員の運ぶパンケーキを見て思わず来てしまったのである。
「ええ、勿論よ~」
女子会の始まる1テーブル。季節限定のアジサイゼリーも頼み、その見た目に声が上がる。
「わ、素敵ですね」
「こういうスイーツもいいですね!」
「んふふ、ここも外もアジサイ畑だわ~!」
アグライアと利香、レストは顔を見合わせてにっこりと笑った。
「じゃ、よろしく」
まとめて注文を伝えた『宿主』ブラキウム・アワリティア(p3p001442)。
『さて、どうする?』
ブラキウムの言葉にアワリティアはうーん、と頤へ手を当てる。
「いつもは料理とかしてるから、逆にちぃっとばかり悩むね」
『ルクセリアがこちらに来そうだな?』
その言葉に見れば、宿主』レーグラ・ルクセリア(p3p001357)がこちらへやってくる。
「よく来たねって程じゃないけど、いらっしゃい」
「リティちゃんと近頃過ごしてない気がして来ちゃいましたぁ」
にっこりと微笑むルクセリア。レーグラはほぼ言葉を発することはないが、おそらくルクセリアには骨伝導で伝わっているのだろう。
『記憶にある限り珍しい組み合わせかもしれないな?』
「あらあら、そうでしたかぁ?」
ルクセリアが首を傾げると『おそらくな』とブラキウムが返答した。
「……たまには外というのも悪くないですね」
『そう思うのならば、紅茶と菓子に手を付け給えよ』
1人の体から2人分の声。このテーブルにつくのは呪具を体に収めた少女達。
『宿主』オルクス・アケディア(p3p000744)──アケディアはうつらうつらとしながら雨音を聞く。
「………メランもぼーっとしてますし、楽しみ方はそれぞれです」
『否定はしないが……まぁ、構わないか』
名を出されたメラン──『宿主』コル・メランコリア(p3p000765)はぼうっとしているようで、実はギフトを使って1人快適に過ごしていた。
「……うむ……過ごし………やすさ……も……大切……」
『せめて、もう少し耐えるべきではないか?』
「……それは……それ」
『宿主』コルヌ・イーラ(p3p001330)の為にもなる、と言うメランコリア。
『否定はしないが、風情や侘び寂を楽しんでも構わないはずだが?』
「…………快適に……過ごす………方が……比重が……大きい……」
『最初の感想はどこにいったのやら』
コルが人のような形をとっていたのなら、呆れて肩を竦めていただろう。そんな声を出した。
イーラは早々に自分の注文したものを食べ終え、手持無沙汰に周囲を観察した。その表情はなんともいえないような、複雑さを表している。
「……どうにも性に合わないわね」
『いつもは仕事を押し付けられて、不機嫌になっていたと思うが?」
そうだけど、と呟くイーラにコルヌが指摘する。
『スペルヴィアと似た表情になっているぞ?』
その言葉に目の前へ座っていた『宿主』サングィス・スペルヴィア(p3p001291)を見ると、丁度ばっちり視線が合った。
ほんの少し時を遡ると、テーブルの反対側では似たような応酬が行われていた。
「……なんというか暇ね?」
周囲を見ながらそう言葉を零したスペルヴィア。
『いつもは子守りなどしたくないと言っていたはずだが?』
「そうなのだけど」
こういった場所では茶や菓子、会話を楽しむものらしい。けれど、スペルヴィアはそれがよくわからないのだ。
『ちなみに、目の前のイーラも同じことを思っていそうだぞ?』
こうして時は戻る。
アケディアは食べるつもりのない菓子を『宿主』ストマクス・グラ(p3p001455)へあげてしまう。
「あ、アケディアさんありがとう。いただきます!」
『あまり甘やかさないでほしいものだが……聞こえていないか』
ストマクスの言う通り、アケディアは既に夢の中。
「こっちはアジサイゼリーですね! あれ、こっちは何でしょう?」
自分の頼んだものを確かめていたグラは、覚えのないデザートに首を傾げる。
『自身で頼んだものぐらいは覚えておくべきだろう』
「美味しく食べれればいいと思いますよ?」
『それで負担が掛かるのは我なのだがな?』
ストマクスの溜息が聞こえてきそうだった。
「お菓子も見ていて飽きませんね」
『宿主』アーラ・イリュティム(p3p000847)は目の前に置かれたアジサイゼリーを見る。
『美術品と同じく創意工夫が差として出るな』
呪具のアーラからも肯定の言葉が出た。
ふと辺りを見回したイリュティムは縮こまる『宿主』カウダ・インヴィディア(p3p001332)に目を留める。
「は……ぅ……」
『おいおい、もうちったぁ周囲の景色を楽しんだらどうよ?』
「でっ……も……」
インヴィディアはカウダの言葉に眉を寄せる。
景色は見たい。でも動きたくないのだ。
『代わりに使い魔でも使えばいいんじゃないか?』
カウダの言葉に目を丸くする。
盲点だった、と気付かされたインヴィディアにカウダの言葉が更に重ねられた。
『まぁ、普通に見るより壮絶な風景になっちまうだろうがなぁ』
「……っっっ!!??」
『カウダ、あまりインヴィディアを揶揄わないように』
アーラの声が静止に入る。インヴィディアの隣にイリュティムが腰かけ、優しく声をかけた。
「インヴィも楽しんでいますか? よければ少しお菓子を交換しません?」
「………ん」
イリュティムの言葉に、インヴィディアは小さく頷いた。
わいわいとした喧騒を聞きながら、『放浪カラス』レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)がココアを口に含む。
「美味しかったですね」
「ええ! 今日は一緒に来られてよかったわ」
『常闇を歩く』ヴァン・ローマン(p3p004968)と『ふんわりおねーちゃん』メアトロ・ナルクラデ(p3p004858)は連れ立ってカフェから出てきた。
アジサイの見えるカフェは珍しく、眺めていると時間を忘れてしまいそうだった。
(ひんやりとした空気に合う、鮮やかな色が綺麗でした)
「ヴァン君、行くよー」
「はい。……あ」
小さな声に傘を差していたメアトロが振り向く。
ヴァンの表情は、どことなく申し訳なさげで。
「……実はというか、申し訳ないんですけど……ここに来る途中、僕の方の傘壊れちゃって」
「こわれちゃったの?」
メアトロが聞き返すと、小さくヴァンが頷く。
「それで、その……狭くなっちゃいますけど……」
「うん! ほら、一緒に入ろ?」
メアトロはにこりと微笑み、ヴァンへ向けて手を広げた。
●音は止み
ぱたぱた、……ぱた、ぱた。
傘を打つ音が止む。葉を揺らす雫が止まる。
空の切れ目には透き通る青。
誰かが指を差した、その先は━━。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れさまでした。
見られた不思議生物はまた、どこかでお目にかかれることでしょう。
白紙でなければ全員描写されています。そのはずです。
それでは、またご縁がございますように。
GMコメント
●すること
アジサイ畑を楽しむ
●できること1:紫陽花畑の散策
広いアジサイ畑を散策できます。
外です。小雨が降っています。
地面から50cm程度の高さに青、紫、白と様々な色のアジサイが咲いています。……が、切って持ち帰る等はご遠慮ください。
アジサイの影などに以下のような不思議生物を見つけられるかもしれません。
・トカエル(カエルっぽいなにか。白くてトカゲの尻尾がある)
・イワツムリ(ナメクジらしきもの。貝殻の代わりに中が空洞の石を背負っている)
……etc.
●できること2:傍のカフェで寛ぐ
アジサイ畑の隣にある広いカフェで寛げます。入口が大きく開いており、窓も大きく作られているので中からもアジサイを楽しむことができます。
基本的にはテーブル席ですが、お1人様であればカウンター席もいくつかはあります。
コーヒーやココア、ジュース等はありますがアルコールは出ません。
カップケーキやスコーンなどの菓子も売られています。
期間限定のお勧めはアジサイゼリーです。
●プレイング注意事項
【守ってほしい書き方】
1行目:同行者(あるいはグループのタグ)
2行目:1と2のどちらへ行くのか。【1】or【2】で明記して下さい。
3行目以降:ここからプレイングをどうぞ!
本シナリオはイベントシナリオです。軽めの描写となりますこと、全員の描写をお約束できない事をご了承ください。
アドリブの可否に関しては明記がなければ(多分)ほどほどにアドリブを入れます。
また、不思議生物及びカフェメニューは「こんなのありそう」と考えられる範囲であればご自由にどうぞ。
●ご挨拶
愁と申します。
もうすぐ6月ですね。雨の季節です。
足元が汚れるのであまり好きではありませんが、雨の降る音は結構好きです。傘に落ちる音、窓を叩く音、地面に落ちる音。機会があれば耳を澄ましてみると楽しいかもしれません。
大規模召喚以前に来た、或いは幻想出身ですというイレギュラーズはそんな感じでプレイングを書いて頂ければ「記録(リプレイ)には残ってないけどここのアジサイを見に来たことがある」という設定で描写します。
それではご縁がございましたらよろしくお願い致します。
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