シナリオ詳細
<Rw Nw Prt M Hrw>ブラックルチルは誰の手に
オープニング
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「――おう。負けたか?」
コルボは振り返らずにそう問うた。背後の気配は良く知るそれであり、自らの力によって緩やかに、少しずつ墜ちていくモノ。それはハッと小さく鼻で笑った。
「勝った、でしょう。時間稼ぎはバッチリできたんだから」
「いーや、負けたね。ヤツら、来るじゃねえか」
にぃと笑みを浮かべたコルボは肩越しに振り返る。少しばかり疲弊した右腕たる男――コラットもまた嗤った。
ファルベライズの中核、クリスタルの遺跡を進んでいたそれを命じたのはつい先刻のこと。追ってくるイレギュラーズに対しコラットとその部下、そして死した部下のナリをしたホルスの子供達を向かわせたのだ。
あくまでコラボが最奥へ進むための時間稼ぎ。それが叶うのであれば彼らの命が散ろうとも構わない――が、最善であれという思いは強い。ここまで苦渋を舐めさせられ続ければ尚更だ。
故に。時間稼ぎと言いながら、イレギュラーズが立て直しを図らねばならないほどの事態になっていればコルボはこの場で高笑いしたことだろう。
けれどあくまで『予想通り』だ。この男は昔から予想を超えず、さりとて下回らない。そしてこの男もその予想を満たしていると知るからこそここまで軽薄な調子でいられるのだ。
「お頭。そう言いながらイレギュラーズが来るの、楽しみなんでしょう」
真実、コルボは楽しみにしていた。金も、力も得たいと願い、けれど同時に燃え滾るような戦いをも求めている。虫けらのようなヤツらでは楽しめない。もっと、もっと強い者。例えば、これから向かってくるであろうイレギュラーズのような。
「生きるか死ぬかって瞬間にタギらねぇ奴はいないだろ」
そう、ここで勝たなければ死ぬ。盗賊団自体も非常に打撃を受けている以上、これ以上の再起は難しいだろう。だが――勝てれば盤上はひっくり返る。
「動けて口の聞けるヤツらを総動員しろ。片っ端から死者を喚べ」
コルボの意図を察したコラットはすぐに動き始める。遺跡内に分散する部下たちへ可能な限り命令を伝達し、ホルスの子供達を作り変えるのだ。
――やって良い事と悪い事は区別しよ? 死者を利用しちゃうメンタルはマズいわ。
そう部下へ告げていたイレギュラーズの言葉が蘇る。当然ながら部下たちは聞く耳を持たなかったが、あんなものを聞く必要すらない。こちらのやっていることが非人道的だと言いたかったのだろうが。
(笑わせる)
非人道的?
手段を選べ?
そんなもの、考えないからこそ盗賊なのだ。どんな手段を用いようとも欲するモノが、強欲なまでの想いがなければこの界隈で生きてなどいけまいよ――。
●
「皆さん、今こそ大鴉盗賊団をぶっ潰してやるのです!!」
おー! と拳を掲げる『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)に合わせてイレギュラーズたちが声を上げる。その中に混じったグドルフ・ボイデル(p3p000694)はニィと笑みを浮かべる。
砂蠍の後釜にでも収まるつもりか、或いはそれよりさらに高みを目指しているのか――いずれにせよくだらない。
「いいぜ。盗賊団狩りといこうじゃねえか」
「グドルフさんが来てくれるのなら心強いのです! でも盗賊団もここが正念場みたいですね」
ユリーカは持っていた紙をテーブルへ広げる。ファルベライズの、非常にざっくりとした地図である。
「盗賊団は戦力を集め、大きく分けて3エリアにいるのです」
ユリーカが取り出したのはチェスの駒。それをとん、とん、とん、と3箇所に置いていく。
ひとつめは、クリスタル遺跡の内部へ。
ふたつめは、遺跡の最奥にほど近い場所へ。
みっつめは、遺跡の最奥へ。
「まずここでは、湧き出るホルスの子供達を死者の姿に変えて盗賊たちが待ち受けています」
最初に置いた駒を差したユリーカ。ホルスの子供達とは『名』を呼ぶことにより死者の姿を形作るお人形のことである。
これまで盗賊団で亡くなった者をとにかく蘇らせ、数で押すつもりらしい。
「まさに壁なのです。なのでまず、奥へ向かいたい人たちのためにここで足止めをする人たちが必要になります。
ここを超えたならさらに奥へ。次に待ち受けるのも似たような面々ですが……様子がおかしいのです」
気持ち悪いのです、とユリーカ。曰く、目覚めている大精霊ファルベリヒトの影響だろうと。
最奥にある祭壇には、この遺跡群の主たる大精霊が眠っているとされていた。だが眠る祠は無秩序に荒らされ、目覚めさせられたファルベリヒトの精神は『博士』たる存在と同調、狂気状態に陥っているのだと言う。
その狂気は伝播し、広がる。周囲に湧いたホルスの子供達から、近づいた生者へと。狂化したホルスの子供達は生者を傷つけんと襲い掛かり、狂化した大鴉盗賊団たちは色宝を求める暴徒と化した。足場も不安定な中で彼らを抑え込まなければならない。
「けれど、ここさえ突破できればあとはコルボまで一直線なのです!」
ユリーカが最後に置いたのはクイーンの駒――大鴉盗賊団頭領、コルボ。かの首さえ取れたならば、大鴉盗賊団もあとは崩壊していくだけとなるだろう。
「コラットは?」
アルヴァ=ラドスラフ(p3n007360)はユリーカに問う。時間稼ぎを担ったコルボの右腕とも呼ぶべき幹部。生きて戻った以上、どこかで待ち構えているはずだ。
「スカイウェザーの人ですよね。最奥付近で目撃されているのです」
「わかった」
頷くアルヴァ。その姿をキドーはイレギュラーズに混じりながら見上げる。どこまでも真っすぐに、コラットを倒すことだけを考えている瞳だ。
(ハッ。誰が怖気付いてるかよ)
あの時送り付けられた手紙は握りつぶして――それから、懐で無くさないようにしまってある。このまま引き下がってなどいられない。あの野郎に目にもの見せる時である。
「コルボが盗賊団をかき集めている以上、ここで叩けば彼らにとっては今度こそ致命傷でしょうね」
新田 寛治(p3p005073)の声は決して大きくはないが、良く響く。その声が戦いの始まりを告げるようにローレットへ響いた。
「コルボ追撃戦――ペイバックタイムの始まりだ」
- <Rw Nw Prt M Hrw>ブラックルチルは誰の手にLv:25以上完了
- GM名愁
- 種別決戦
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2021年02月24日 22時10分
- 参加人数103/100人
- 相談6日
- 参加費50RC
参加者 : 103 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(103人)
サポートNPC一覧(2人)
リプレイ
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ウオオオアアアアアア――!!!!
イレギュラーズの耳が野太い掛け声を拾う。それは残り少ないと聞いていた盗賊たちにしては大きく、多く。『ホルスの子供達』を使っていることは明白だった。扉を蹴破るように開き、雪崩れ込んだイレギュラーズたちに盗賊たちは色めき立つ。
「来たぞ!」
「殺セ!」
「宝は大鴉盗賊団のモンだ!!」
武器を構えて向かってくる相手に利香は目を細めた。
「こいつら全員食い止めろですって、クーア」
「やるしかありませんよ」
言葉にするだけなら簡単だが、実行するには途方もない労力だ。しかしクーアの言う通りやるしかない。失敗すれば先へ行く者たちに魔の手が伸びる。
「ちゃちゃっと終わらせましょうか!」
利香は相手へ真っすぐ突っ込んでいく。より多い場所へ。より魅了の沢山かかる場所へ。
(……もしかしたら、混沌で二度目の生を謳歌している私が言える義理ではないかもしれませんが)
クーアはその後を追いながら思う。人が逝くべき末路は焔の中、そして死者が在るべき場所は灰。この『まやかし』たちも、そうしてやるべきなのだろう。
「クーア、よろしくおねがいしますよ!」
「ええ、ガンガン焼くのです!」
利香が飛び込んだ近くへ放火するクーア。それを視界の端に捕らえながら利香は乱撃で近くの敵を圧倒する。それを援護するようにクルルは植物で出来た矢を放った。色鮮やかな花が乱れ咲いたそれは植物の含む有害物質を撒く。
「世の中やって良い事と悪い事があるんだよ……わかんない人たちに平和は脅かさせない!」
次の矢を番うクルル。全てはラサ――この国とかかわりの深い我が故郷の為に!
「やれやれ、ゆっくりと遺跡攻略――なんて場合じゃなさそうだ」
敵に囲まれないよう周囲へ気を配るカインは神気閃光を放つ。乱戦に対する心得があってこその冒険者。倒すならば回復手段のありそうな魔法使いというのも定石だ。
(まだ皆は大丈夫そうだけれど……このままじゃ先にも進めない)
交戦する一同は一進一退、どこかで盗賊という『壁』に穴を開けねばならない。どこかに隙が無いかと視線を走らせるカインに敵の手が迫る。
「っ……」
「――全滅させてしまえば通れぬものも通れるさ」
瞬間、間に滑り込んだスカルが銃で殴りつけながら敵を撃ち抜く。ばたりと倒れる敵を見ながら「それは流石に……」とカインが呟くとスカルは肩越しに彼を見た。
「何、そのくらいの意気込みがあると言うことだ」
「……まあ、確かにそれくらいじゃないと駄目か」
相手の士気は相当に高い。彼の言うくらいに立ち向かわなくてはこの先へも進めないのだろう。
「不摂生が、堪える、わね」
煙草の吸い過ぎかしらなんて冗談めかし、息を切らしながらシャッファは群がる敵へ向けて火を吹く。口に含んだ酒で、火で、余計に酩酊してしまいそう。
「皆さん頑張って下さい! まだまだ序盤ですよ!」
エリスは鼓舞しながら周囲のメンバーを天使の歌で癒していく。どうやら相手方にも回復手がいるようだが――。
「増えなければ癒しとて限界がくるものさ」
マルベートは盗賊を狙って黒い魔力の奔流を起こす。盗賊の肉に闘争と興奮のスパイス、実にご馳走の山が広がっていた。泥人形よりよほど食欲が湧いてくるというもの。
「ほら、仲間を呼んでごらん?」
ニコニコと彼女が告げるけれど、呼べるわけもない。だって、その喉笛は割かれてしまったから。
「――まずはあなたからです」
そんな言葉と共に支援魔法を使っていた盗賊は痛みを感じる。素早さを武器に距離を詰めた牧は敵を吹っ飛ばし、生者の息の根を止めるべく刀を握った。
「ドスコイさん行きますよ!」
リュカシスはドスコイマンモスに乗る。より敵の多い方へ、引き付けられる方へ。突撃したリュカシスはドスコイさんから飛び降りると硬い拳で敵陣へ殴り込んだ。
「腕が鳴りますネ! どんどんかかってこい!」
大量の敵、そして増援。戦いというものを前にすればリュカシスにとってはどちらも燃え上がらせるものでしかない。
「すごい勢いですね~」
アイリスはそれを横目に見ながら速度を生かし攪乱していく。合間に勢いのまま攻撃を叩き込むと、ホルスの子供達はあっけなく崩れ落ちた。
「名前を呼んだらその姿になるなんて……」
ライムはホルスの子供達へ雷撃を仕掛けながらもしかしてと思う。
――父と母を呼べば、その姿になってくれるんじゃないだろうか?
しかし今のところ『姿を変えていないホルスの子供達』は見当たらない。見かけたら試してみようか、なんてちらりと思いながら敵を殲滅していく。
当然――偽物が期待通りであるわけもないのだから。最終的には食べてしまうのだけれど。
「――全く持って優雅でないね」
同じくホルスの子供達を相手取っていたセレマは不満も露わに次の標的を打ちのめしに行く。そんな表情も美少年は美しい。当然のことである。
彼が微笑めば男女関係なく虜にしてしまう美しさはもはや罪である。そして美少年とは――不滅なのである。
能動的な足止め、時間稼ぎ、経戦能力。優雅ではないけれど――美少年たるセレマにこれ以上適任の仕事はあるまい。
「いきましょう、珠緒さん!」
「参りましょう、蛍さん」
2人はいつだってともに――蛍と珠緒は第一設問たる『仲間を向こう側へ送る』の解へ手を伸ばす。明確に、壁へ穴を開けるための一手だ。
珠緒の放つ光が激しく明滅し、盗賊やホルスの子供達が苦しみ始める。仲間たちが意図に気付いて更に範囲攻撃を浴びせる中、蛍は炎熱の桜吹雪を降らせて敵を魅了した。
切り崩せ。
切り崩せ。
壁を薄く、脆く――。
「開いた!」
「皆さん、行ってください!」
後から続いていた数十人が先へ全力で走る。残る面々もまた持てる限りで敵を押しとどめる中、鋭く力強く笑い声が響いた。
「ぶははははっ、この俺を倒してから進むこった!」
特徴的な笑い方。ゴリョウである。かのよく目立つ姿と声は多量の視線を集め、攻撃を受ける。
(それでいい。だが崩壊させるわけにはいかねぇ)
無理に倒す必要はない。仲間がその役目を担う分、ゴリョウもまたすべきことを為すためにどっしりと敵前で構えた。
「オイラも食い止めるぜ!」
チャロロもまた敵を足止めしながら防御攻勢を取る。目の前にいるのは片言で勝利をと叫ぶホルスの子供達。
(こんなこと、盗賊団の人だったとはいえ望んでないよ)
死者を利用してまで宝を得んとする強欲さにチャロロは顔を歪める。させるわけにはいかない――ここで良いように使われている死者たちのためにも。
「珠緒さん、まだいけるわね?」
「勿論です」
第一設問突破。第二設問へ挑む力はまだ残されている。
「貴女の示してくれる先へ、共に進むのみよ!」
「ええ。蛍さんと、皆さんが向かうべき先。珠緒が――示してみせましょう!」
戦いは仲間を先に行かせるための攻勢から、追いかけさせないための攻勢へ変化する。
「皆、存分に戦え!」
ウィリアムは星の魔術を展開しながら声を張る。自ら回復手段を持つ者もいる一方で敵数は尋常でない。数の利を持つは明らかにあちらだ。
それでも、その差を覆す為に自分たちはいる。
「シャルル、無理するなよ」
怪我と疲弊の見えるシャルルへも星の加護を送ると、ひとつ目を瞬かせた彼女が薄く笑った。
「……よく見てるね」
「別に、そうでもないさ。この広い戦場だ」
回復手が散らばっているとはいえ、見えないところは沢山ある。くれぐれも怪我しないでくれと告げると彼女は頷いた。
アルペストゥスは存外ここが気に入っていた。飛べるくらいには広いし、まるで住処のよう。より過ごしやすいように少しずつ作り変えてしまおうか。
――その為に。この遺跡を占拠する勢いの盗賊たちは止めなくてはいけない。
「ギャアウッ!!」
ここはぼくが使いたいんだっ!!
後退せんとする仲間たちと敵との射線を遮り、アルペストゥスは吠える。オパールのような鱗が煌めき、次の瞬間盗賊たちは眩い光に襲われた。
頭を振り、アルペストゥスへ襲い掛かる盗賊たち。その背後から昏き月が照らす。
「大丈夫。皆、愛(殺)してあげます」
Melting――それは等しく愛を配る怪物。皆、皆、愛しているから喧嘩しないで頂戴?
「なんだこのアマ、」
「グラァウッ!!」
振り返った盗賊はアルペストゥスから攻撃を受ける。挟み撃ち――絶体絶命の危機であった。
「どーんっ!!」
ソアは文字通り『空から降ってきた』。落雷のようなそれに盗賊たちは地面を転がり、敵陣へ飛び込んだ可憐な少女へ武器を向ける。
――ただの少女と思うなかれ。彼女はまさしく、雷虎である。
引き付けた敵を順に、圧倒的な威力で打ちのめしていく彼女に段々と敵の危機感は煽られる。それでいい。力の続く限り大暴れしてやるのだ!
ソアが大暴れするその傍ら、彼女は変な歌を聞いた。
「ラーァ、ラァッ♪ プ☆ティン、グゥ♪」
「……????」
なんだこれ。しかも聞こえる範囲にいると回復する。なんだあれ!
「プリン……?」
「ムキムキだぞ」
「なんだあれ」
盗賊たちも困惑である。マッチョなプリンが歌って歩いていればそうだろうとも!!
しかしふざけているわけではない(らしい)。敵には痛みを、味方には癒しを。その屈強な肉体で攻撃を耐えながら彼は――性別不明だけど表現上彼にしておく――兎角目立っていた。
「有難い事ですね、どんどん切り崩していきましょう」
バルガルはその奇異な姿を視界に収めつつ、その癒しをしっかりもらって槍を振り回していた。被弾上等。痛みは生を実感させる。あとは自分が倒れるまでにどれだけ相手を消耗させられるか。
(とはいえ、ホルスの子供達は面倒ですね)
切っても切っても名を与える限り湧いてくる。ブランディッシュで土塊になったそれを見下ろし、バルガルは眼鏡のブリッジを押し上げた。
「ああもう! 埃っぽくて嫌になるワ!」
カロンは顔を顰めながら不可視の刃で敵を切りつける。土塊となったそれを最後まで見ることなく次へ。敵はまだまだいて、とてもじゃないがシャワーまで辿り着くにはまだまだかかりそうだ。
(グレーゾーンを軽々飛び越えちゃってくれるわね)
一目で禁忌だと分かるその存在にカロンは顔を顰めざるを得ない。正義なんて大層なものではないが、やってはいけないことを止めるだけの常識は持ち合わせている。
「っ……!」
不意の接近。防御は間に合わない――。
「――ふふふふふ。これは貸しだぜ」
素早く滑り込んだ影がそう告げる。エクレアは痛みを顔に出さないよう気を付けながら先にカロンへヒールオーダーをかけた。
「ぼかぁね、血生臭い殺し合いとか嫌いなのだよ」
どうか自分に関わらないところでやってくれ。そういうように彼女は下がっていく。カロンが戦えってことらしい。
「もう、こっちだってこんなところ嫌なんですけれど!?」
なんて返すけれど、嗚呼、敵は待っちゃくれないのだ。
「要は近寄らせなければいい、ということだろう」
竜真はそう告げながら刀の柄へ手をかける。その姿に氷彗は小さく笑みを浮かべた。
(わたしも、頑張らなくちゃ)
本来なら1人だったのに、一緒に来てくれた優しい人。無駄な傷を負わせないためにと氷彗は自らの力を解き放った。
荒れ狂う吹雪の如く、近づく者を悉く襲う氷の連撃。それよりも遠方から向かってくる敵へ竜真は駆ける。
(彼女の隙は俺が潰す)
遠くから狙ってくるのなら、彼女を狙う間に切り捨ててしまえばよろしい。竜真は矢を番える男へ向けて速力を上げ、強かに貫いた。
「こいつ……っ」
魔法攻撃を浴びるもぐっと地面を踏みしめ、魔性の切っ先でもう1人を仕留める。振り返ると時雨の如く氷の連撃を浴びせ、敵を沈めた氷彗がにこりと笑みを浮かべた。
「気を抜くなよ」
「勿論。攻撃の手も緩めないよ……!」
2人を盗賊たちが取り囲む。それでも負けるつもりは、ない。
「死者に似せたからと言って、かつてと同じ連携が出来るとも限るまいに……」
レオンハルトは地面に転がった盗賊と土塊を一瞥し視線を巡らせる。そして次の標的を定めると鋭く駆けだした。
姿を似せても所詮は偽物。とはいえその戦闘力は生者でも苦戦させられるほど。それでも倒れるつもりも、討ち漏らすつもりもない。
此処で全て――断ってやる。
そんな彼へ天使の歌が傷を癒す。回復をばらまきながらも白は他の魂魄に影響を受けていた。
「死んでまで盗賊とかホントふざけるなよ。黙って死んでろ」
敵の固まっているところに神気閃光を放つ白。楽しそうじゃないか。なあナアなあ混ぜてくれよ!
(敵の士気も下がってきたようですが、まだまだ油断なりませんね)
味方の回復を受けながらオリーブは前衛で攻めて行く。危うくならない限りは引いたら押される。先に行った仲間を追わせるわけにはいかない。
至近距離での攻勢を見せるオリーブにマリリンもまた加勢する。
「まだまだ気を抜いちゃダメだよ! 我に続けー!」
仲間の士気を上げるため。それを見せつけることで敵の士気を下げるため。その分気力の消費も激しいが、ここで手を抜くことなどできはしない。
「水弾シュート!」
攻撃する彼女や仲間たちの気力を回復させんと蜻蛉は応援の言霊を発し、深紅の蝶を飛ばす。
「子守唄は必要やろか? おやすみの時間や」
土は土へ。還るべきところへ。どうかこれ以上この存在が増えてしまわないようにと――願う。
「あっちを見てもこっちを見てもならず者だらけな!」
「なんか人がいっぱいでお祭りみたいだね!」
この戦場で異常にテンションの高い2人組、コッコと繁茂。けれども大丈夫、なんだかんだでちゃんとすべきは理解しているのだ。
「皆、無理だけはするなよ……!」
「勿論! でもフリークライちゃんがいるから頼もしいね!」
「ン。フリック 回復 任セテホシイ」
フリークライの言葉を背に繁茂はたったかと敵陣へ近づいていく。敵が気づいて近付いてくると、
「あっはは! バカみたいに追い込まれてどんな気分? ねぇねぇ?」
と、煽り立てる。エドガーはひらりと軍馬に乗り、前線へと駆けた。
「タリスのエドガー、推して参る!」
騎乗戦闘を繰り広げるエドガーの周囲をコッコと才蔵が援護射撃する。まだまだ湧いてくるが、繁茂が引き付けエドガーが取り漏らしを切り捨てた。
(盗賊共がゾロゾロと……)
リロードを済ませた才蔵は再び敵へと構える。どれだけ来ようと関係ない、銃身がイカれるまで撃ち貫くのみである。
「確実にここで倒すな! これ以上奥に進ませちゃダメなー!」
コッコも才蔵に合わせて敵を殲滅し、そのすぐ傍らでフリークライがクェーサーアナライズを発動する。そして繁茂を回復させながらフリークライは敵を見た。
(ホルス 子供達 思ウ所ハアレド 恨ミナシ)
造られた存在。その意義がフリークライたちと戦うと言うことならば、それを果たして眠ってもらいたい。それこそがきっと彼らへの手向けになるのだろうから。
「チッこいつら!」
ホルスの子供達に混ざって生者たる盗賊もこちらを狙い始める。エドガーを狙う弓術師に才蔵は照準を定め、撃ち抜いた。
「――お前達にくれてやるのはお前達が奪ってきた者達の恨み、そして鉛玉だけだ」
後方支援に救われたエドガーは肩越しに感謝の言葉を告げつつ、敵の側面から攻め立てる。悪人に容赦は不要、ひたすら倒していく間に少しずつ流れが変わり始める。
本当に少しずつではあるが――盗賊の数が減ったことで、迫りくるホルスの子供達もこの大広間から少なくなろうとしていた。
●
一方、先へと進んだ一同はファルベライズの最奥により近い場所で盗賊たちと接敵した。……が、様子がおかしい。盗賊たちと戦い合っているように見えるが、その言葉を聞いている限りはホルスの事共たちだろう――などと見ていられたのもほんの数秒、ぐりんと両者がイレギュラーズたちへ向く。
「先に行くやつは行け!!」
エイヴァンの声に半分ほどが駆けだし、エイヴァンはそれについていく振りをして踵を返し、追ってきた盗賊たちへ名乗り口上を上げた。
「この先へは行かせんぞ!」
敵視を存分に浴び、地面を踏みしめたエイヴァンは気づく。この床はかなり不安定で、どこか揺れているようにさえ感じられる。
(土台が……?)
これはあまり激しい動きもできないかもしれない。が、相手はそれを気にする風でもなさそうだ。エイヴァンは警戒しつつ盗賊たちの迎撃を始める。
「手分けできる奴がいたら頼む!」
「オッケー! 俺に任せとけー!」
彼の言葉に洸汰がにっと笑みを浮かべる。体は小さくとも声は大きく、その元気の良さに視線が集まったなら元気チャージ! 仲間を守るべく、粘りの戦いが始まった。
ライハは多くの味方を巻き込むように魔神黙示録を詠み、仲間を支援する。
(これがファルベリヒトの狂気か)
目の前の盗賊たちは全く持ってマトモではない。けれどもこのような輩を粉砕するのもまた、英雄譚の一端だろう。
「1人ずつ、確実に倒すぞ!」
「うわっ本当に来るんですね……いえ、それでいいんですけれど」
ベークは戦場に甘く香ばしい匂いを漂わせ、人をつる。中には人ならざる者も混じっているが気にしまい。人外に気に入られるとか今に始まったことでもないのだから。
(死者を写すなんて趣味の悪さ……いえ、とりあえずは仕事の完遂ですね)
さらに奥へ進んだ仲間を追わせないために。イリスも仲間たちの引き付けから漏れた敵の行く手を遮り、押しとどめる。
「ここまで来ると完全になりふり構わなくなってきたというか……」
「まあ、それだけ相手も必死ってことでしょうね」
視線を交錯させるベークとイリス。さりとてここを通すわけにもいかない。
不意に空から影が差し2人は顔を上げるが、すぐさまそれよりも大きな影を見下ろすことになる。盗賊を撃墜すべくコレットの拳が振り下ろされ、弓を番えたスカイウェザーは地面へと叩き落された。
「グ、ゥ……宝は、俺達の……」
「渡しませんし、行かせませんよ」
コレットはそう呟き、地上の仲間たちが立ち上がった男を取り囲んだのを見届けるなり別の標的へ飛ぶ。
先に行った仲間たちを1人にでも邪魔させてなるものか。
「いいこと、鏡禍。押さえきるわよ」
ルチアの言葉に頷きながら鏡禍は新たにコルボの元へと向かおうとする敵を挑発する。上手くやってみせる。壁役くらいはできるのだと、その男気をルチアへ見せるのだ。
数体を鏡禍が引き付けた直後にルチアは聖躰降臨を彼へ付与する。あとはひたすら回復に徹し、仲間たちが倒してくれるのを待つのみ。
鏡禍はディフェンドオーダーで堅牢に自身を守りながら敵を少しずつ消耗させていく。死ぬまで負けられない。死んだって負けられない。自身が屈しようともルチアは絶対守ると意志を強く持ち、鏡禍は真っすぐ敵を睨み据えた。
「背を向けている相手へ攻撃しようだなんて、さすが盗賊はやることが卑怯すぎますね」
「宝だ」
「渡すか」
「通せ――!」
欲を丸出しにしながら襲い掛かる敵をいなす鏡禍。そこへこけこけと鳴き声が飛んでくる。
「負けないでー! 頑張ってー! こけー!」
トリーネの癒しとルチアのそれによって持ち直す鏡禍。トリーネはそれを見るなり次に癒しを待つ仲間を探す。
(ふふふ、鶏の人形はないみたいね。この戦い、勝ったわ!)
鶏がいたらどうなるかわからなかったが、相手に鶏はいない。そしてこちらにはこのトリーネがいるのだ。
「盗賊にもあの人形にも負けられないわー! 皆、応援するから頑張って頂戴!」
トリーネの声援やこけぴよソングが味方を癒し、士気を上げる。零時は盗賊たちを押しとどめる味方の負担を減らさんとネメシスの光を放った。
(取り巻きの撃破、責任重大だ)
もちろん個々で待ち受ける強敵コラット、そして魔種コルボを倒すことは必須である。しかしだからこそ零時は取り巻きに邪魔をされないよう立ち回るのだ。
確実に、失敗しないように。そんな彼に続くように舞花と冬佳も敵陣へ踏み込んでいく。
「頭領が魔種とはね」
「この正気でない様子も……」
視線で示し合わせる2人。恐らくはそう言うことだろう。それでも統率を失わない盗賊たちはコルボほどでなくとも強い思いが同じ方向へ向いていると言うことか。
「それでも――邪魔はさせない!」
舞花は鋭く踏み込み、紫雷と共に刀を振りぬく。キン、と甲高い音を立てて為されたのは冬佳の白鷺結界だ。羽根が舞い散るようなそれに盗賊たちが狼狽える姿が見える。
しかし上空からの影に2人ははっと顔を上げた。降りかかる魔法に冬佳は力を練り始める。
触媒は清浄なる神水。天から降り注ぐ白い花が味方の傷を覆い、癒してはらりと散っていく。
「飛んでいるから当たらない、なんて思わない事ね」
対する舞花は冬佳の力で傷を癒しながら刀を構えた。死牡丹の技を参考に編み出した、疾風の銀閃。飛ぶ剣撃はそれに反応する事すらも許さず、スカイウェザーの翼を切り裂いた。
(人を率いるというのは慣れないが、そうも言っていられん)
ブレンダは素早く周囲へ視線を走らせ、未だにコルボの元へ向かった仲間を追おうとする敵軍を見定める。
さあ、今こそカリスマの使いどころだ。
「わんこ殿は自由にやってくれ、コルネリア殿は支援を!」
「行くぜ!!」
わんこは駆けだし、ノーマークの敵を引き付ける。騎士なんて柄じゃないが――悪くない。
「我が名はわんこ! 友の行く道を守護する騎士なり……ってなぁ!!」
視線がわんこへ突き刺さる。すこへすかさずコルネリアは大型銃火器を向けた。見る者が見ればロマンを感じそうなその武器を手に、コルネリアはわんこを避けて弾幕を張る。
「文字通り『宝に目が眩む』だな」
耳を済ませれば彼らの強欲な呟きが聞こえてくる。こちらの事も個として認識している様子はない。
――だからと言って、手を抜くなどありえないが。
「リディアは撃ち漏らしを確実に潰せ! ゼファー殿はフォローを頼む!」
「了解です! ここは私たちに任せて、先に行ってください――ってヤツですね、師匠!」
どことなく嬉しそうなリディアの声だが、すぐさまその表情は引きしまる。わんこが取り漏らした敵を名乗り口上で引き寄せれば、ゼファーの乱撃が盗賊たちを襲った。
「火遊びのツケは然るべき奴に確りと払わせる。トーゼンの帰結ですわ!」
まさかここまでのバカ騒ぎになるとは思わなかったが、自らの立ち回りは実に単純明快に『片っ端から全部ぶっ潰せ』である。
(主犯の横っ面をなぐりつけてやりたいトコですけど、役割ってヤツがありますしね?)
視線を仲間たちが向かった最奥へ向けたゼファーだが、すぐさま敵へ移した。この場で戦線崩壊させてなるものか!
「グリムは――来た、後ろからの援軍を!」
ブレンダの視界に入ったのは追ってきた盗賊たち。大した数ではないが、あの量がいれば完全に防ぎきれないのは道理か。その前にグリムは立ちはだかる。
「生憎だが、ここから先は通行止めだ。通りたいと言うのなら……対価に命を頂こう」
死霊の力が敵を拘束する。残りが襲い掛かってきたがグリムはそれを躱し、受けながらホルスの子供達らしき相手を判別した。
「自分への指令がないでありますが」
「私たちは最前線だ。やり甲斐があるだろう?」
ブレンダの言葉にエッダは小さく鼻を鳴らす。有象無象を相手にするという事はやや不満だ――まあ、彼女との共同戦線自体は悪いものでもないが。
「行くでありますよ」
「ああ!」
エッダとブレンダは駆ける。エッダは先読みの構えで。ブレンダは小刀を投擲することで敵の動きを止め、自身へと視線を向けさせる。
(勝つ必要がないのはわかっている)
それでも、とブレンダは大剣を振るいながら思う。戦場に立つのだ、耐え忍んで勝利を得るより、この場も蹂躙し、敵を倒し尽くして勝ちを狙うべき――いや、狙いたいのだと!
「なかなかやるであります……が、」
エッダは敵を打撃の連打で崩し、投げて極める。1体ずつ、確実に、だ。
「まだまだいけるぜ! かかってこい!!」
わんこはひょいひょいと攻撃をかわし、その間にもコルネリアが確実に撃ち仕留めて行く。それなりに数は多いが、ダメージを蓄積させていけばやってやれないことはない。
「悪趣味な御人形遊びにもいい加減うんざりですねぇ?」
「ええ――斬り払ってしまいましょう!」
ゼファーとリディアもホルスの子供達を殲滅にかかり、グリムもまた援軍を少しずつ消耗させていく。
味方は先へ進んだ――あとはここをもたせるのみ。
(ここが踏ん張りどころだな)
ゲオルグはクェーサーアナライズで味方の士気を高めながらも周囲に気を配る。通り抜けてきた方角から増援がくるかもしれない。または先へ増援を許してしまうかもしれない。この場の戦線が崩れたならコルボまで一直線だ。
ゲオルグは視線を巡らせ、臨機応変に回復不足な仲間たちの元へ駆けて天使の歌を響かせる。シュリエもその恩恵を受けながら敵へ向けてタイダルウェイブを引き起こした。
「お前達有象無象の人形とは出来が違うのにゃ、出来が!」
多量の水が敵を蹂躙する。思い入れも何もない量産品に負ける気はしない。
「――危ない!」
後方から響いたゲオルグの声にシュリエははっとその場を退く。2、3拍遅れて地面に出来ていた亀裂が深くなり、ぼろりと下へ落ちて行った。
(脆すぎにゃ……いくらか落ちて行ったからいいけどにゃ)
内心冷や汗をかきながらシュリエは落ちて行った先を一瞥する。闇に呑まれたそれがどこまで落ちて行ったのか、どれだけ距離があるのかは定かでない。知りたくもない。スカイウェザーなら別かもしれないが――。
「ルルの愛銃は何でも射抜いちゃいますよっと!」
ルルリアは仮に地面が抜けても落ちない様低空飛行しながらライフルを構える。対象――ではなく、その頭上へ放たれた弾丸は陣を構築すると光の槍で敵を串刺しにした。翼を穴だらけにし、相手は地面のない場所へひたすら落下していく。
「よしっ、次です!」
出来るだけ再起などさせないように。紗夜は彼女の狙う範囲に入らないようにしつつ、地上を行く敵を一掃にかかる。
「瞬刃、風韻となって鎮魂の響きへと」
ホルスの子供達の急所を突きつつ、すかさず納刀して居合を放つ。優雅に美しい音色を聞いたと同時、ホルスの子供達はその腕を切り落とされた。腕を押さえる相手を見据えながら紗夜は再び攻撃を繰り出す。
(道を斬り拓きましょう。幾度とて、斬風の韻を響かせましょう)
この先になど、行かせはしない。
時を少々遡り――コラットもまた、イレギュラーズと対峙していた。
「年貢の納め時だ、コラット」
「よお、これで何度目だ? まあいい、もうすぐ宝はお頭のモノなんだからな」
アルヴァにコラットは嗤う。これまで見たことのない嗤い方で。それでもアルヴァは動じない。
「しつこさだけは折り紙付きでね。覚悟しろ」
もう逃がさない――その決意を胸にアルヴァは一気に上昇し、コラットへ詰め寄る。後を追うように飛び上がった望が虚空より黒き光塊を振り下ろすが、コラットはくるりと躱して鎌鼬を放った。不可視の刃が2人を襲い来る。
「ここでお縄だ。観念しろ」
しかし追撃は止むことなく、2人から離れた隙にヤツェクの放つ逃さじの雨が降り注ぐ。一度は取り逃がしたコラットだが、もはや次はない。仲間たちが頭領コルボを仕留めに向かった以上、ここで合流させず捕まえること――最悪の場合は殺す事――が必須だ。
「ったく、わざわざ俺を使おうってんだ、結果をつかみ取ってくれよ?」
世界は軽い口調で言いつつも、その眼差しは真剣に。刹那の栄光を味方へ下ろし、アルヴァへ回復を施していく。アルヴァは勿論、と短く告げると再び空へ舞い戻った。
アルヴァたちの他にもコラットを制さんとする仲間たちが空中を駆ける彼へ攻撃を仕掛けて行く。異常なまでに力を高めたコラットも、しかし全自動回避マシーンではない。肉眼で、感覚で避ける以上は少なからずボロが出てくるもの。
今、かつてにないほどの人数でコラットは狙われていた。
「――これを食らっても飛んでいられるかしら?」
黒顎魔王の射程内に入ったコラットをシャルロットが撃ち抜く。さしもの彼も彼女の攻撃の前には翼を止めざるを得なく――地面へと落下する。メルナはすかさず肉薄し、雷撃を斬撃もろとも叩きつけた。急所は守られたものの、痺れたのかコラットは片腕をだらんと垂らす。
「もう、ラサの人たちを傷付けさせる様な事はさせないよ……!」
「ハッ、向かってこなきゃ傷つかないさ。そもそも守りたいと思うほどに大事かい?」
ケタケタと笑うコラット。メルナはその狂気に冷や汗が流れたのを感じた。
「俺達は何よりも大事だよ。絶対的な君主だ。宝を抱くに相応しい者だ。何を捨てたって構わない――」
不意の魔弾にコラットの言葉が途切れる。それを放ったオーガストはにこりと笑った。
「盗賊が卑怯なんて言いませんよね?」
「……ハハ、勿論さ。お喋りが過ぎたようだ」
コラットは再び宙へ浮く。シキがすかさず黒の大顎を放つがひらりと避け――その身は突如がくん、と重りでも持ったかのように鈍くなった。
「人を縛り、捉え、離さない……ずっと空になんていさせないよ」
朔の放った術式が、メルナの感電攻撃によってコラットを縛り上げる。睨みつける視線を朔は真っすぐに受け止めた。
「……深いことを聞いたりとかはしないわ。怒るのも、慈悲を向けるのも貴方相手には似合わないでしょうから」
だから。と。告げた瞬間に、大地の放った幻影がコラットを包み込む。色鮮やかなアネモネ、その花言葉は『期待』と『見放される』。今のうちにとヤツェクは自身とシキにかけていた聖骸闘衣をかけなおした。
シキは動きの鈍ったコラットへ黒顎魔王を撃ち続ける。回避は相変わらず高いが、そもそも『射程外へ逃げられる』ことがなくなっただけ余程良い。当てられる場所にいればいるほど仲間たちも撃ち続けられるのだから。そして遠くへ離れることを容易に許容するわけもない。
「『是非叩き落して欲しい』って?」
空へ逃げて行くコラットへシルヴェストルは影から蝙蝠の群れを生成し、コラットへ一直線に飛び掛かっていく。ついでに空を飛んでいた他の盗賊も巻き添えだ。
(やはり、能力は高そうだけれど)
コラットの強さはこの最中でも十分にわかる。しかし――欲しいモノがあるのなら、理性はしっかり握っておくべきだろうに。
だがコラットの圧倒的優位が空にあるというだけで、地上に降りて弱体化するというわけではない。地上でも風のように味方を翻弄するコラットに、ラピスは自身の周囲にいる仲間たちを鼓舞しながら回復に徹する。
(僕だって、待っているだけじゃいられない)
彼女は、愛しい人は別の戦場にいる。そちらがどうなっているのかもわからないけれど、それは彼女もまた同じ。
だから戦って支えて、笑って『ただいま』と『おかえり』を告げるのだ。自身らだけではなく――皆で。
フェリシアもまた、翻弄される仲間たちを倒れさせんと回復を重ねて行く。ふと変な音を聞いた気がして、そしてひらめきを得たフェリシアは咄嗟に叫んだ。
「皆、離れて……!」
その言葉を考えるより先に、皆の耳にも嫌な音が聞こえだす。後退。そして崩壊。幸いは飛べる者が比較的多かったことか。
「残念だ」
嗤うコラット。その姿が急接近し、大地は咄嗟に威嚇術を放つ。軽い。
「――倒れるかよッ!」
パンドラを燃やし、闘志を燃やし、意志を燃やし。小さな奇跡はあと一手を回避する。すぐさまに世界の回復が大地を癒した。
「奴さん、消耗してやがるぜ」
ヤツェクは曲芸射撃で攻め続けながら呟く。当然だ。射程外もあるとはいえ、十数名から同時に狙われているのである。希は大地からの支援を受けながら自身も回復技を放った。
地上から、空から。多数から狙われるコラットへの攻撃は、徐々に殺さぬ攻撃へと変わっていく。勿論それによって自身らに負担がかかることも承知の上で――彼らの多くは、コラットを『殺害』するのではなく『捕縛』を望んでいた。
「ふふ、コラットへの口説き文句は十分かい?」
「ああ」
シキに短く返すアルヴァの瞳は真っすぐで。コラットへと肉薄したアルヴァは機動の慣性によってコラットを切り裂く。
「コラット。お前が死んでも奴は、お前を模ったホルスの子供達を作るだけだ。薄々気づいてるだろ?」
「それがどうした。死んでもお頭に望まれるなら本望だ」
鎌鼬がアルヴァの身体を掠め、肌に赤く筋を作る。アルヴァはギリ、と歯を鳴らした。
「それでもわかんねぇってなら、伸して目ぇ覚まさせてやんよ!!」
2人は一瞬のうちに離れ、ぶつかり合う。仲間たちが固唾をのんだ次の瞬間――2人はともに落下した。
「アルヴァ!」
シキが文字通りに飛んでいく。幸いにして地面のある場所へ落ちた2人だが、双方ともとにかく傷が酷い。だがアルヴァは薄ら目を開けると、傍らで気を失ったコラットを見て小さく笑った。
――何度も逃げられたけれど、今度こそだ、と。
「まだだ」
希はその傍らに膝をつき、祈りを捧げる。奇跡よ、彼の狂気を解いてくれと。間違っても祈るはアルヴァじゃない。彼には生きていてもらわないと困る。
されども。器に満ちた『可能性』はそれをただ見守っていた。想いがあれども、今はその時ではない。
コラットが正常であるか否かは、彼自身が目覚めてからでなければわからない。
●
そして――更に奥、より狂気の濃い場所で。その男はイレギュラーズたちを待っていた。
「ルアナ、相手が1人だと油断せぬように」
「うん! 1人で多数を相手取るつもりなら……それができるなら、とっても強いって事だもんね」
グレイシアの忠告に頷いたルアナは剣を握る。すべきは単純、どちらかが倒れるまで戦い続ける事。けれど、どうか――生きて帰れますように。
「行くよ!」
ルアナを戦闘に走り出す。グレイシアの神気閃光が明滅し、その中を突っ切ってルアナは剣の切っ先を向けた。グレイシアはルアナを始めとした仲間たちの状況を見ながら支援する。
(これだけ囲めるチャンスもそうあるまい。ここで逃せば――より危険な存在となる)
逃がせられない。生かせられない。グレイシアの表情に宿った険が深まる。
「私たちもいくよ、サクラちゃん!」
「うん! 皆も行こう!」
スティアとサクラ、そしてしきみと花丸も共に駆け出す。
(彼らにも言い分があるのはわかる……でも誰を傷付けていいことにはならないんだ)
終わらせるために。スティアはサクラやしきみを守れるよう意識しながら味方へ活力を与えて行く。
「――さぁ、鴉狩の時間だよっ!」
花丸は自らの拳を握り、コルボへ撃ち込んでいく。相対するのはこれが初めてではない。いつ魔種になったのかはわからないが、恐らくは彼と戦えるのはこれが最後。
(だからこそ、この最後の戦いで見て、感じて、考えて、コルボも持つ業をモノにしたいっ!)
彼女がコルボの動きを阻害すると同時、その死角からサクラが攻めた。狂い咲く花のような居合術は少しずつ、確実にコルボを斬りつけて行く。
「天義の聖騎士として、私のやるべきことは変わらない! 魔種は――討つ!」
近距離で戦う仲間をスティアが魔力の花弁で癒す中、しきみは真っすぐにコルボを見た。
これまで会った事もなく、正直存在も知らないような相手だ。興味がなければラサの事情に顔を突っ込まない。
ではなぜ来たのかと言えば、スティアを傷付ける存在、その可能性を看過できなかったから。
「貴女の境遇も何も知らない他人の戯言だと思ってくださいな。
――貴方が頂点に立っても直ぐに転げ落ちると、そう預言しますよ」
周囲のやや脆い地面が起き上がり、コルボを土中へ押し込めんとする。だが彼はそれを無理やりに突き破り。ニタリと笑った。
「ああ、戯言だ。俺が信じるのはてめェじゃネェ。俺自身だ!」
圧倒的自信。それを目の当たりにしてキドーは拳を握る。その後ろから千尋の軽快な声が上がった。
「よ~っしゃ! 今回俺達『悠久ーUQー』はキドーさんをアシストしますポンポーン!」
「キドーさんったら私になーんの断りもなく1人で戦おうとしてるんですもん。ちょっとくらいつき合わせてくださいよ、いひひひっ」
「勝ってキドー先輩の奢りで食べ飲み放題ね!」
「おう、皆ありがとよ。後でパーッと奢……常識の範囲内で頼むよほんとにね?」
エマはまだ良い。フランの言葉にうっかり乗せられそうになったキドーはぶんぶんと頭を振った。どこか緊張感のない会話。けれど余計な緊張もなくなったのは確かだ。
「……いくぜ」
「援護するわ、感謝してよね」
アルメリアのアナイアレイトがコルボへ向かって走り出す。共に駆け出したキドーはコルボの注意を引き付けると光撃を放つ。
「今ここでテメェも、あの海も超えてやる! これが俺の強欲だ、コルボォ!!」
「――ちったァマシな顔できんじゃねェか。いいぜ、今度こそぶっ潰してやるよ!!」
向かってきたキドーにニタリと笑みを浮かべるコルボ。後を千尋とプラックが追随してくる。
「プラック! しくじんなよ!」
「ふっ、あたぼうよ」
プラックは素早くキドーを背に、コルボから守る盾となる。それにはコルボが片眉を上げた。
「てめェが先に相手か?」
「悪いが主役は俺(海賊)じゃない」
盗賊が倒されるのは、盗賊だ。そう告げるプラックにコルボはつまらなさそうな顔をして鋭い蹴りを放つ。
「どけ。俺はそこのチビをぶっ潰すンだからよ」
「その前に俺を倒してからだ」
「――それより前に倒されないといいですね? えひひっ」
彼らの反対側から暗殺剣で仕掛けるエマ。急所を庇ったコルボは次いで千尋から止むことのな連撃を受ける。下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるのだ。
攻撃の止んだ隙に多少下がった千尋は後方から――いや思ったより近い場所から――自身の名を呼ぶフランの声に振り向く、と同時に。
「ンヌッ!」
「んぶっ!?」
気合ビンタを頬に食らう。痛い、なんて思ったのも束の間、彼女が自らへ付与をかけてくれたと気づいた。
「誰も倒れさせないよ! 千尋さんたちも頑張って!」
「――おうよ!」
さあ、まだまだここからだ。
(魔種の圧というのは、何度対峙しても慣れませんね……)
ルーキスはぞくりと背筋を粟立たせながらも武器をとる。これほどの強敵、相手として不足はない。
「いざ、参ります……!」
ルーキスを皮切りに仲間たちも動き出す。そこには何時か相対したカイロの姿もあった。
「その強欲さ、好ましいのですが――そうされると私も困るんでね」
悠久-UQ-に攻め立てられるコルボの隙を突き、複数回にわたって不規則な打撃を繰り返す。だがこれは序の口。修行の成果、今こそ見せるときだ。
「欲深いこと、罪ではないと思うのだわ。だって私たちにも望みはあるもの」
アシェンは正確精密な射撃をリズムよく放ちながら歌うように告げる。欲を抱くことが罪ならば、この世界のほとんどは罪人だ。
大事なのは何かに頼ってしまわない事。人の不幸の上で叶えない事。
アクロバティックに空間を使い、ハルアはコルボへ食らいついていく。攻勢でいられるのは、共に戦ってくれる仲間がいるから。
自らを強固にかためたAliceは中ほどの距離からコルボを精神世界に陥れんと力を込める。仮に何かあったとしても生き残ってやる――その意志は硬い。ちょっとやそっとで倒れるものか。
「いーとみぃ♡ 私は"おいしそう"に見える?」
「ハッ。パカダクラの餌にならしてやるよ」
その返しにAliceはむぅと口を尖らせる。そこへ自己強化を施したユゥリアリアの魔術が発動した。美しき氷の槍が、コルボめがけて一直線に突きささる。多少の朱が散るものの、顔色ひとつ変えやしないのはそれだけ余裕があるということか。
「それでも手堅く堅実に。お宝を見つけて一発逆転、なんてのは視界が狭すぎましてよー?」
「だが放置しちゃ危ねェってンでてめェらは来たんだろ?」
ニタリと笑ったコルボの視界にヨハンが立つ。彼は真っすぐにコルボを見つめた。
「あなたとは面識も因縁もありませんが――最強とまでは言いませんけれど、ローレット最良のヒーラータル自負、意地をお見せしますよ!」
倒れさせぬ意志。それは周囲のイレギュラーズたちに刹那の栄光を下ろす。同時にアイシャは天使の歌とクェーサーアナライズを併用し、味方の士気を底上げした。涼やかな瞳はコルボを映し、小さく細められる。
(……墜ちたのは、彼が《持たざる者》だったから?)
どうして転じたのか。転じる前の彼と今の彼は果たして同じなのだろうか。欲するモノは――変わっていないのだろうか。
「あなた、自分の手が何本か考えた事ある? 持ちきれもしないのに何でも欲しがって捨ててくようなの――だいっきらいなのよ」
書物を媒介に精神力を弾丸として飛ばしたセリア。その表情は身近に覚えでもあるのか苦々しい。
「コルボ! 君を倒してホルスの子供達を介抱してみせる! マリー、行くよ!」
「ええ」
セララとハイデマリーは2人で連携してセリアに続く。
ホルスの子供達。人間が作り出してしまったモノ。ならば人間がケリをつけるべきなのだろう。
(それでも、わずかな時間でも、別の生き方があったかもしれないのに――許さない!)
セララが接近戦を仕掛け、後方からハイデマリーが援護する。魔種の呼び声など、彼女の声と比べれば大したこともない大きさだ。
そこへ不意にツートーンカラーの少女が肉薄する。
「親玉? 魔種? ふーん大したことなさそーなおじさんだね♪」
カナメはニマニマと笑いながら血のような一閃を食らわせた。次の瞬間、強烈な回し蹴りがカナメを打つ。けれどカナメはやっぱりにんまりと笑った。
「どうしたのー? 傷のひとつも付けられないのー?」
「クソガキが、調子に乗るんじゃねェぞ」
吐き捨てるようなセリフの後、飛んでくる一発。笑っていたカナメは受ける寸前にようやくその笑みを消す。
「っ!!」
痛み。『正気付く』。狂気のようなそれを取り戻す前に再びの打撃がカナメを襲った。
「いったぁ……♥」
痛いのは気持ちよい。けれど今は、今だけはこの快感に身を揺蕩せている場合ではないのに!
「隠し玉ですか」
寛治は魔弾を撃ち込みながら呟く。相手は魔種であり親玉、明かしていない手の1つや2つあっておかしくはない。
不意に視線が合う。寛治はすぐさま方針を変え、頭部を狙い撃つのではなくひたすらダメージを稼がんと照準を定めた。
(まあ、ここらが年貢の納め時ってやつなんだろうね)
仲間たちが交戦する盗賊団の頭領を一瞥し、纏は視線を背後へ巡らせる。
ここまで来るのに仲間たちが足止めしてくれている。けれど――完全に防ぐ、だなんてそれこそ奇跡でもなければ難しい。
「この先にはいかせないよ。私が相手だ」
ちらほらと追いかけてきた飛行種に魔砲を撃ち放つ纏。こちらを向いた仲間たちへ、彼女は肩越しに視線を向けた。
「背中は任せな。そっちは頼んだよ」
「わかりました」
頷く寛治。アリシアも一瞬だけそちらを見てすぐさまコルボへ視線を戻す。
(ラサの秘宝にはあまり関わっていないけれど、魔種を止める……大規模な戦となれば話は別)
人手などいくらあっても足りないのだ。ならばこの力、存分に貸そう。自身も、知人も、皆で無事に帰るために。
魔力を練り上げ、破壊的魔術を起こすアリシア。その光を追いかけるように一晃が駆ける。
(襲い、殺し、奪う、盗賊の強さとはそれでこそ)
こういった手合いは嫌いでない。故に、この闘争も受けて立たんと彼は刀を抜く。
「――黒一閃、黒星一晃、一筋の光と成りて、大鴉の果てをここに刻む!」
真っすぐに、小細工なしでのぶつかり合い。そこへグドルフも横から殴り込む。
「おれさまのツレが随分と執心らしいが……成程ねェ。小心者のゴブリン野郎にゃ、こんな大それた盗みは思いつかねえぜ!」
「あ? ああ、あの情けねェツラしてた野郎か」
キドーの事を示されたことに一拍置いて気付いたらしいコルボは、グドルフのぶん殴りを受け止める。
「だがよ、相手を間違えたな?
世界を轟かすくれえの大奪略――そいつはな、このおれさまたち『三賊』の代名詞なんだよ!!」
もう片方の拳を握りしめ、思い切りに殴ったグドルフ。リコリスはそれに合わせてフェンリルをけしかける。
「ほら、生きること『だけ』に執着してみなよ! 他の欲が全部どうでも良くなるくらいにさ!」
強欲高まって反転したのなら、その逆はどうだ? 反転を戻すすべなど見つかっていないが、弱体化するのではないか?
(野生動物は生きる為の欲求を満たすだけで精一杯なのに、それ以上を望もうなんて理解ができないよ)
それでこんな大迷惑を引き起こすんだからたまったもんじゃない。
「皆、もう少しだよ……!」
フランのマナによって一面に現れた花々が囀り、仲間たちを鼓舞していく。傍らでアルメリアはチェインライトニングを放った。コルボだけでなく、追いかけてきた部下たちを巻き添えにして雷はのたうち回る。
「白星、キメるわよッ!!」
「ひひっ……ま、まだ頑張れますよ!」
正直専門ではないけれど、とエマは斬撃と共に生命力を盗みつつ粘る。流石は魔種。容易には倒れてくれないか。
されど消耗しているのは確か。千尋も脱いだジャケットで視界を邪魔するなどしてアシストしていく。支えるのはフランと、そして味方内での区別をつけず支援するヨハン達。
「寓喩偽典ヤルダバオト第二のページ、サンクチュアリーッ!!」
魔力残存を気にせず回復していくヨハン。けれど無策というわけではない。ハーフ・アムリタを使用したヨハンはアイシャの支援も受け、魔力を回復させながら強烈な支援を送った。
(強欲、ですか)
ふとアイシャは思考の海へ沈みそうになり、慌てて首を振る。いけない。今考えては――呑まれてしまう。
(私だけを見て欲しかった、なんて)
家族に燻った想い。ふとコルボと視線合ったような気がしたけれど、きっと、そう、気のせいよ。
(しかし、嫌な気配です)
ルーキスはその首狙って刀を向けながらも小さく眉根を寄せる。応じる気などさらさらないが、魔種の近くは何度経験しても落ち着かない。早く、仲間の誰かが転じてしまう前に仕留めなければ。
「誰かの不幸の上で幸せになるなんてって、少しでも考えた事はない?」
「ねェな。全員が幸せなんてのは御伽噺の中だけだぜ」
アシェンの弾丸の直撃を避けながらコルボが返す。誰かが幸せな時は誰かが不幸せだと。それでも、アシェンは思うのだ。どうかラサで出会った人々と、幸せなお茶会がまた出来ますようにと。
それは、コルボの思い描く幸せには入っていないのだろうけれど。
「っと……危ないですわね」
ユゥリアリアは崩れた地面を見下ろしつつ、飛行で安全な場所へ向かう。口ずさむ旋律はどこか空虚で。それが実を結ぶよりも先にカイロの放つ蛇行撃が叩き込まれる。
「ッ……」
「どうです? 少しは私との相手も面白くなったでしょう?」
そう告げて糸目を更に細めるカイロだけれど、こちらもコルボに打たれて大分疲労困憊だ。それでも治癒してくれる仲間がいるのなら任せられる。
「1人で戦うあなたに、ボクたちは倒せない」
ハルアは闘志を瞳で燃やす。仲間と視線が合うから、互いを通わせ背を預けられるから、もっともっとと戦える。この喜びを知らないのは、決してコルボばかりのせいではないけれど。
「何もかも手に入れるって、みんな背負うってことだよ。コルボ、あなたもボクも、それにはまだまだ足りないっ!」
空中殺法で攻めるハルアに翻弄されるコルボ。その横合いから仲間たちが力を合わせる。
「「ギガセララ・ゴルトレーヴェ!!」」
セララとハイデマリーの必殺技。感触はあった。だが――強欲は、まだ。
「キドー、てめえの手で終わらせろ! この馬鹿野郎の見るに耐えねえ三文芝居をな!」
「言われなくともやってやるぜ!」
グドルフの言葉にキドーは全ての力を込める。ぶつける先は、その悪人面に!
「おいおい、こちとら最後の最期まで諦める気はねェぞ! 勝手に終わらせんじゃねェ!!」
青筋を立てたコルボもまた、拳を握りしめる。ふらつきこそすれ強欲の意志は潰えない。その命が尽きるまで、燃え上がる。
「このツラ、死んでも覚えとけよ! 俺が!! テメエが最期に見る男だ!!!」
――キドーの攻撃と共に光が溢れる。それは次第に収束し、無音の空間が広がった。
コルボは立っている。
キドーは立っている。
ぐらりと揺らいだのは、ほぼ同時。
「キドーさん!」
フランが駆け寄り回復を施す。酷く傷だらけだった。けれど。
「ハッ……言ったろ。俺が、テメエが最期に見る男だって。次会うのは地獄だぜ」
キドーは転がったコルボを見て小さく笑った。紫ルージュの唇が、ほんの微かに震える。
「俺は……まだ、終わらねェよ……」
一瞬、イレギュラーズたちに緊張が走る。けれども命の灯火が消えようとしているその様に、張り詰めた糸は若干のゆるみを見せた。
「どこまでも……のし上がってやるんだよ……俺は、大鴉盗賊団、頭領……の……」
――名乗りは、空気に解けて消える。
今、この時。イレギュラーズたちは、確かに勝利を勝ち取ったのだ。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れさまでした、イレギュラーズ。
大鴉盗賊団がこれからどうなっていくのか、まだ先は不明ですが――この場は皆様の勝利です。
ご参加、ありがとうございました。
GMコメント
●成功条件
必須目標:コルボの討伐
努力目標:大鴉盗賊団メンバーの撃破、あるいは捕縛
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。不測の事態に気を付けてください。
●プレイング
以下形式に沿ってお書きください。
1行目:向かう先の番号(注:1箇所しか選べません)
2行目:同行者or同行タグ(いない場合は空)
3行目:本文
例:
【1】
【ぴよぴよ探検隊】
盗賊団を抑え込むぞ!
●【1】ファルベライズ中核
大鴉盗賊団のメンバーやその仲間の姿を取ったホルスの子供達が皆さんを食い止めるべく立ちはだかっています。その様はまさに壁のごとし。先ずはここで抑え込み、他の仲間たちに進んでもらう必要があります。
このパートは他に比べて単体戦闘自体の難易度は低いです。しかしかなりの経戦能力、或いはそれだけの人数が必要になります。
抑えきれなかった分は【2】へ流れて行きます。
【エネミー】
・盗賊(剣、弓、魔法)×20
大鴉盗賊団のメンバーです。頭領がもはや宝を目の前にしていると合って士気は非常に高いです。
各メンバーはそこまで強いわけではありませんが、数が多いです。
武器に合わせたレンジで戦い、魔法使いは回復も担います。
・ホルスの子供達×???
『名前』を呼ぶことで死者の姿を取る事ができます。盗賊たちが名を呼んだことで総じてかつての大鴉盗賊団所属者になり、盗賊たちとともに戦います。
非常に多いです。戦闘中にも増えます。盗賊たちという壁の向こう側から向かってくるときにはもうかつての仲間へ変化を遂げているでしょう。
もらった名前の人物の戦い方をしますが、概ね盗賊たちと同じと思われます。
【フィールド情報】
ファルベライズ遺跡群の中核、クリスタルの遺跡です。
いくつもの階段が続く中、ひときわ広い部屋があります。敵でごった返しており、確実に乱戦となるでしょう。
●【2】ファルベライズ最奥
色宝を欲し暴徒と化したコラット含む大鴉盗賊団メンバーと、狂化したホルスの子供達がたむろしています。
ある程度は同士討ちもしてくれそうですが、最奥に踏み込んだ途端にどちらもイレギュラーズへ向かってくるでしょう。
この場も誰かが抑え、コルボの元へ他の仲間が向かえるよう援護しなければなりません。
このパートには【1】で抑えられなかった分のエネミーが後ろから押し寄せます。また、ここで抑えられなかったエネミーは【3】へ雪崩れ込みます。
【エネミー】
・『俊足の』コラット
コルボの部下であり、大鴉盗賊団幹部です。見かけはよく酒場にいそうなおっちゃんですが、ラサの砂漠をものともしない俊敏さと機動力を見せます。空を舞い、獲物を狩る双剣使いのスカイウェザーです。
彼はコルボからの狂気と、ファルベリヒトの放つ狂気とをどちらも受けています。前回の時間稼ぎよりも更に異質な雰囲気を纏い、その強さも上がっている事でしょう。
大部分は他の盗賊同様の色宝を求める感情に占められていますが、多少の意思疎通はできます。
鎌鼬:竜巻を作る風は不可視の刃です。【流血】【混乱】【スプラッシュ4】
俊足:目にも止まらないとはまさにこのこと。【移】【体勢不利】
風舞:(P)自らを守る風が吹いています。【棘】
・盗賊(剣、弓、魔法)×15
大鴉盗賊団のメンバーです。総じてコラット同様にコルボとファルベリヒトの狂気に侵されています。色宝を欲する暴徒であり、正しい意思疎通は望めないでしょう。
彼らはコルボの元へ向かおうとする者を優先して襲います。それなりに強いです。
【1】同様に適性レンジで戦ってくるでしょうが、スカイウェザーが多く、空中からの攻撃を受ける可能性があります。
・ホルスの子供達×20
『名前』を呼ぶことで死者の姿を取る事ができます。盗賊たちが名を呼んだことで総じてかつての大鴉盗賊団所属者になっていますが、その後狂化したようで生者を見境なく襲います。
皆さんが来るまでは盗賊たちも襲うでしょうが、皆さんが最奥へ踏み込み次第標的を変更します。
【1】同様に戦ってきますが、ファルベリヒトの狂気も相まってかそれなりに強いです。
【フィールド情報】
大精霊ファルベリヒトの祠があったとされる最奥付近です。
足場は全体的に不安定で、いつどこが崩れるとも知れません。ちなみにエネミーたちはそれを気にしません。
●【3】コルボ戦
【2】を越えた先にコルボはいます。さあ、討ち取りましょう!
このパートには【2】で抑えられなかったエネミーが雪崩れ込んできます。
【エネミー】
・『大鴉盗賊団頭領』コルボ
大鴉盗賊団を取りまとめる頭であり、強欲の魔種です。元より名のある男でしたが、常人とは異なる力を手に入れたことにより更に噂が広がっていたようです。色宝を求めた先へ辿り着こうとしていたところですが、イレギュラーズという追手を迎え撃つこととなりました。
金も力も何もかもを手に入れたい強欲な男です。そして彼は皆さんとの戦闘も――命を削り合うような戦いを望んでいます。
主に格闘術で迫る非常に強力な近接ファイターです。とはいえ他の能力も抜きんでており、特に頑強さは特筆されるべき点でしょう。
剛腕:自らの筋肉を活性化させ、より攻撃的になります。
強打:文字通り、強い打ち込みです。【連】【ショック】【恍惚】
回し蹴り:周囲にいる敵を一蹴します。【飛】【崩れ】【麻痺】
見切り:眼力を強め、視界をよりクリアにします。他者の動きも良く見えるでしょう。
強欲たる意志:反転するほどに強い力です。【攻勢BS回復80】
堅牢な構え:(P)これほどの猛者となると、容易に崩すことはできません。【崩し無効】【足止無効】【精神無効】
【フィールド情報】
大精霊ファルベリヒトの祠があったとされる最奥付近です。
こちらも【2】同様に足場は不安定であり、いつどこが崩れるとも知れません。
【注意】
このパートでは、純種に対し『原罪の呼び声』がかかる可能性があります。ご了承の上、ご参加下さい。
●友軍
・『Blue Rose』シャルル(p3n000032)
旅人の少女です。神秘攻撃の中~遠距離型。
【1】にて敵の迎撃へ参戦します。
・『焔の因子』フレイムタン(p3n000068)
精霊種の青年です。物理型近接ファイター。
【2】にて盗賊&ホルスの子供達迎撃へ参戦します。
●ご挨拶
愁と申します。
勝ち逃げなどさせてはいけません。ここで彼らの命運にピリオドを打ちましょう。
それではどうぞよろしくお願い致します。
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