シナリオ詳細
ローレット・トレーニングVII<練達>
オープニング
●アデプト・トレーニング・プログラム
「ヨウコソ、練達(アデプト)ヘ、NOJA。あなたたちヲ、カンゲイイタシマス、NOJA」
練達へと呼び出された特異運命座標(イレギュラーズ達)。彼らの前に現れたのは、ハイパーメカニカル子ロリババアだ。練達が作り出したロボットの一種であり、子ロリババアの心を埋め込んだメカニカルな子ロリババアである。子ロリババアとは……まぁ、そう言う生き物がいるのである。
なお、ハイパーメカニカル子ロリババアは奇妙なロボットだが、子ロリババアたちに危害を加えようとしなければ、友好的な存在だ。
「サテ、ミナサン。サッソクデスガ、ツイテキテクダサイ、NOJA」
とにかくイレギュラーズ達は、子ロリババアに案内されるがままに練達内部へ。いわゆる近未来的な光景の広がる練達の街並みを横目に街路を行く。街を歩く人の多くは、主に旅人(ウォーカー)達だ。この混沌世界の理、それにただ従う事を良しとしない旅人(ウォーカー)達によって作り出されたのが、練達(アデプト)と言う国家である。
一行は、やがて一つの建物の中へ。そして一つの部屋へと案内される。
「やぁ、特異運命座標(アリス)。また会えてうれしいよ」
その部屋の中で、特異運命座標(イレギュラーズ)達を出迎えたのは、不敵な笑みで一礼をする、『想像の塔』の塔主、Dr.マッドハッターだ。隣には『実践の塔』の塔主、佐伯操の姿もあり、練達のトップ・クラスの大物二人による出迎えという事に、少々緊張感を覚える者もいたかもしれない。
「ああ、緊張しないでくれ。今日皆を呼んだのは、ほら、他の国からも呼び出しがかかっているだろう? それと同じ用件だからね」
微笑んで操が言う。各国からの呼び出し――それは、イレギュラーズ達への、大規模な訓練計画の打診であった。
「最近は戦いも激しさを増しているだろう? 私はね、そんな君(アリス)達が心配でたまらないのさ」
マッドハッターの言う通りだ。昨今の戦いは激しさを増し、二度にわたる冠位魔種との戦い、そして絶望の青に現れた竜種の戦いは記憶にも新しい。
多くの者が戦い、そして傷ついた。辛くも勝利を収めたイレギュラーズ達であったが、しかし、これからの戦いには、さらなる力が必要となるだろう。
「だから……私達も、ささやかながらトレーニング・メニューを提案させてもらうよ」
操は微笑んだ。
「任せてくれたまえ。科学的な実績に則ったトレーニングだ。此方で用意したインストラクターによる基礎トレーニング、それから、最近完成したVRトレーニングを用意しているよ。冠位魔種の強さを再現……とまではいかなかったけれど、様々な状況を再現し、アプローチできる」
ふっ、と操は胸を張る。神秘現象の支配する混沌世界において、それでも科学によるアプローチを諦めないのが練達、探求都市国家アデプトという地だ。様々な世界より集まった最先端の科学者たちが、日夜その頭脳を利用して混沌世界に立ち向かおうとしている。その頭脳によれば、VR……ヴァーチャル・リアリティシステムの構築なども、不可能ではないのだ。
「そうそう、今回は君たちのボス(レオン)から許可はとっている。ちゃんと実績の伴ったトレーニング手法さ。君たちで実験するのは、またの機会にさせてもらうから」
操は肩をすくめた。いや、それもどうなのだろう、と思ったものもいるかもしれないが、ここは口を挟まないで置いた。
「それから、君(アリス)達には、『再現性東京(アデプトトーキョー)』地区の事件解決をお願いしているね? まだまだなじみのない場所かもしれないから、この機会に探索してみるのもいいと思うよ?」
マッドハッターが言った。『再現性東京』地区とは、地球世界の日本からやってきた旅人(ウォーカー)達により再現された、近代の東京を模した街の事だ。
例えば、『終わらぬ昭和』の街を再現した1970街、『弾けぬバブル』の街、1980街、『明けぬ世紀末』1999街、そして神秘現象を忌避した『希望ヶ浜』を擁する2010街など、様々な『再現された東京の街並み』が存在する。
「二人とも、入ってきてくれ」
操の言葉に、二人の人影が入室してくる。ひとりは、紫のスーツを着た男。もう一人は、学生服の少女だ。
「やぁ、こんな所までご苦労な事だな、イレギュラーズ諸君」
男――無名偲・無意式が、皮肉気な笑みを浮かべながら言った。再現性東京の、希望ヶ浜に存在する『希望ヶ浜学園』、その『仕事をしない校長』と呼ばれるのが無意式だ。
「再現性東京での生活、という事で、私達が案内人として選ばれたわけです」
いつもの、おだやかな笑みを浮かべるのは音呂木・ひよの。すでにオリエンテーションと言う形で、彼女と会ったものもいるかもしれない。ひよのは、『希望ヶ浜学園』の生徒の一人だ。
『希望ヶ浜学園』とは、希望ヶ浜を脅かす超常存在『夜妖<ヨル>』――この混沌世界でいう所の魔物といったたぐいの――と戦う存在を育成するという裏の一面も持っており、ひよのは学園で育成された『対夜妖<ヨル>のエージェント』の一人である。
「俺は特別何かしてやる気はないし、お前らも俺に傅かれたところで嬉しくは無いだろう。お前たちが学園に編入する際の書類にハンコを押すくらいはしてやる。だから詳しい事はそこの優秀な生徒から聞いてくれ」
「という訳で、優秀な生徒から、皆さんに案内させていただきますね」
肩をすくめつつ、ひよのは笑う。
「と言っても、再現性東京でのルール……都市内の常識さえ守ってくれれば、どのように過ごしてもらって構いませんよ。学生生活を送ってみたり、あるいは再現性東京の都市を観光してみたり……ほら、普段から皆さんは戦ってばかりなわけですから、ここで少し休憩を取るのも、それは立派な経験値となるはずなのですよ」
つまり――練達が提案するトレーニングをまとめると、こういう事になる。
1、VRシステムや、科学的メソッドに則たトレーニング。
2、再現性東京地区での散策や休息。
「どうだい? 特異運命座標(アリス)たち。ここはひとつ、練達で過ごしてみるというのは?」
マッドハッター達の提案に、君たちの返事は――。
- ローレット・トレーニングVII<練達>完了
- GM名洗井落雲
- 種別イベント
- 難易度EASY
- 冒険終了日時2020年08月17日 23時17分
- 参加人数214/∞人
- 相談8日
- 参加費50RC
参加者 : 214 人
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参加者一覧(214人)
リプレイ
●トレーニング、スタート!
――『探求都市国家アデプト』。通称『練達』。旅人(ウォーカー)たる運命に叛逆し、科学技術によって混沌世界の強いた法則に打ち勝ち、元の世界へと帰還するべく、研鑽を続ける者たちの街。
この街は、いわゆる『近未来的な』空間が広がっている。外界では見られぬような、コンクリート様式の道路やビル街。そして空を覆う『ドーム』と呼ばれる建造物。行き交う人々もまた、外界とは異なる、様々な異世界様式の服装をしていることも多い、文字通りに、混沌世界とは異なる世界の人々の街だ。
――そんな練達の入り口。数名のイレギュラーズ達が、物珍し気にあたりを見回していた。彼らは【初心者駆け込み寺】の面々だ。
「間に合った? ぼくらで最後?」
そして ぼくらはの言葉通り、トレーニングに参加すべく練達へと訪れたのは、彼らで最後のようだった。周りには、アレン、みにみ、羅々、米々、レクトルたちの姿もあって、練達の街並みを、興味深げに眺めていた。
「おや、皆さんも、ローレットの方なのですね、NOJA」
蓮蘭たち、【初心者駆け込み寺】のメンバーに気づいた、ハイパーメカニカル子ロリババアが一堂に声をかける。
「我先程急遽召喚故相当焦。御祭騒耳聞、参加意思有」
清・納言の言葉に、ハイパーメカニカル子ロリババアが深く頷いた。
「はい、ミナサンを歓迎いたします、NOJA。今回は、トレーニング、観光。何方をご希望でしょう、NOJA」
「なんかみんな走ってたからついてきたんだが、トレーニングか!? 全力で走り回ればいいのか!?」
オニキスが腕を振りつつ声をあげる。
「--- ・-・-・ -・ ・--・ -・ ・・-- --・-・ ---・ ・・- ・・-・- ・-・-- -・・- -・- --・ -・ ・- --・-」
モールス=くんの声。二人の言葉に、ハイパーメカニカル子ロリババアは深く頷いて、
「はい。観光でしたら、このまま各都市へ。トレーニングでしたら、トレーニング場へ案内いたしますNOJA」
「トックン? トックンスル? オーゥイェーーエエエエイィ!!!!」
Dr. チンドナの言葉に、迦楼羅や練・辰、オリトらが頷く。
「引っ張られるままに来てしまいましたが……観光もよいですね。このようなハイカラな所はわかりませんが、楽しそうだという事はわかります。わかりませんが」
愛の言葉に、同意を示したのはピン=ナプやdogmaだ。
「では、トレーニングご希望の方たちは、このままご案内したしますNOJA。観光の皆さんは、此方の地図をご参照に、是非練達を見て回ってください、NOJA」
ハイパーメカニカル子ロリババアに地図をもらった観光組のメンバーは、さっそくとばかりに街へと繰り出してゆく。その背中を見送りながら、残るメンバーもトレーニング場へと向けて歩き出した。
「間もなく始まりますので、少し急ぎましょう。会場では基礎トレーニングの他、VRによる、各種状況を再現したトレーニングなども行えますNOJA」
「ぶいあーるだって!? すっごい! すごいすごい! 幻影魔法じゃないの? 光? 音? まっったく仕組みがわからないわ!」
目を丸くして、驚いた様子を見せるのはリリア。
「夏、ひまわり畑、白いワンピース……わたしはただ、それだけの存在。そんなわたしと似たようなものね、VR」
どこか涼し気に告げるのは、夏・麦わら帽子の少女だ。
「楽しみですが……時間もギリギリなのですね! これも間に合え! と言う特訓でしょうか! みなさん、いきますよ!」
鹿呉の言葉に、メンバーは頷いた。
「目的もなく集まれど、数があれば目立つもの。さて、先達に色々と導いてもらう事としような、みんな?」
道中で合流したネーム レスと共に、ハイパーメカニカル子ロリババアに案内され、一同はドーム状の建物へとたどり着く。そこは、練達にある大きな運動施設だ。研究者(インドア派)の多い練達であるが、当然こういったスポーツ施設にも需要はある。
「それでは皆様、トレーニング、お楽しみください、NOJA」
ハイパーメカニカル子ロリババアに促され、ドーム内へと入る一同。そこには、既に多くのイレギュラーズ達が訓練を行っていた。
お子では主に基礎トレーニングなどを行っているらしく、トレーナーたちと、イレギュラーズ達の声が響いている。リュンクス、フェアリ、夏宮・千尋、サンズイ達の姿も見えて、既にトレーニングを開始し、汗を流しているようだ。
奈々はバットをかまえつつ、トレーナーの指示を仰ぐ。
「バットを振り回すなら、腕、腰、脚、等の筋肉が必要となりますね。それぞれを重点的に鍛えましょう」
「なるほど……じゃあ、こんな感じッスかね!」
びゅん、と鋭い音を立てて、バットが振られた。
「なぁ、このレーザーの火力と射程と命中精度、あげられないか?」
と、トレーナーに尋ねるのは、灰人だ。とはいえ、相手はトレーナー。科学技術はまた別分野だ。
「ふむ……強化する方法はあるとは思いますが、ここで今すぐ、となるのは無理ですね……」
「そうかぁ……じゃぁ今日は、地道に体を鍛えることにするよ。筋トレしてくるから、これ、預かっててくれよな!」
武器をトレーナーに預け、灰人は筋トレを始めるのだった。
「じゃあ、基礎トレーニングからお願いするっす!」
リサはトレーナーにぺこり、と頭を下げる。それから、トレーナーの指導の下、全身運動をベースとした体力トレーニングが始まった。
「トレーニング以外にも、銃器の使い方とか構造、改造とかも勉強したいっす……やる事がいっぱいっすね!」
やる事は多かったが、リサの表情は、どこか楽し気であった。
さて、トレーニング会場の隅の方。皆から隠れるように、トレーニングを行っているのはキャロだ。
「夏はモモやスイカやメロンが美味しくてぇ……体形維持のためのトレーニングにゃ~」
普段はPTubeで動画配信などをしているキャロだが、今日は動画配信も目立つのも中止。
努力は影ながら、影でやってこそなのだから。
「Dr.マッドハッターからアリス、って呼ばれるの、なんだか照れちゃうな」
体力増強のためのランニングをしながら、アドネは呟く。とは言え、期待され、心配されているのは、なんだかうれしい。
「ボクも皆の足を引っ張らないように強くならなくちゃ……!」
よし、と気合の声をあげ、走る速度をあげるのであった。
「なるほど……ただがむしゃらに体を動かしてもダメなんだな……」
ハルラが声をあげる。身体を動かすことは重要だが、目的に沿ったトレーニングと、裏打ちされた理論が重要だ。それが、練達式のトレーニングである。
「いつでも実践できるわけじゃねーが、新しい学びがあるのは嬉しいな。よし、ならさっそく試してみるか……!」
トレーナーの指示に従って、春らはトレーニングを開始する。
シルバー・ザ・グッドスピードが、会場をランニングしている。
「やれやれ、どうやら召喚ってので足が遅くなっちまったみたいだな!」
混沌の法則により、すぐには元の世界での実力は出せない。だがそれでも、一般人よりははるかに速い速度で、シルバー・ザ・グッドスピードはランニングを続けていた。
「しかし、流石に全身タイツとパンツは恥ずかしいな! 誰かお金貸してくれないかな!」
自身の格好を気にしつつ、今はトレーニングを続けるのであった。
屍もまた、会場にて走り込みを続ける。伝令役として、ひたすら走力を鍛える――それが、屍の選んだトレーニングだった。
トレーナーの力も借りつつ、効率的にトレーニングを続けていく。
「もっと早く、長く、走れるようにならないと……!」
かわいい『男の娘』と本物の女の子の応援効率に差が出るか測定する。それが、茉白に課せられた今回の使命だ!
「うう、恥ずかしいですけど、皆さんのためなら……!」
そんなこんなで、可愛らしいチア服に身を包み、トレーニングを続ける皆を応援する茉白であった。
「みんな、がんばって♡」
可愛ければ、男の娘でもいいのではないだろうか。
「重要なのは、身体を動かす時にどの筋肉を使うか……です。必然、そこを重点的に鍛えれば、効率的にトレーニングは効果を発揮します」
「なるほど……」
まずは座学、と言うわけではないが、練達式の科学トレーニングメソッドについて、勉強する兼続である。
「では、実際にやってみたいのですが……持久力と走力、となるとやはり走り込みでしょうか」
トレーナーに尋ねる兼続。理論だけではトレーニングにはならない。やはり実践しなけばならないのだ。
一方、会場を出、練達の街中にてマラソンを行っているのが、【ジャージを着て走る】チームだ。
「私は最後尾から着いて走る。心配するな、そこまでフィジカルに自信はないがちゃんと最後まで付き合ってやる。それと、コースは事前に配った地図の通りだが、ショートカットをした者は罰が下るので注意する様に──特に今そこで悪だくみを考えている様な顔をしている者。後で私の目を見て、話を聞かせて貰うからな」
後ろから、アレフが監督を行い、一同、練達の街を走っていく。道中には、ヴィエラたちサポートチームが設置した給水所があって、参加者たちにドリンクを配っていた。
「はい、給水ポイントよ! 真面目に走って行った人達はもうとっくに行っちゃったわよ! だらだら走らない! シャキッとしなさい、シャキッと!」
ヴィエラから檄が飛ぶ。最後尾組――バルバロッサ、セオドア、イグニスは、渋い顔をしながら給水所を通過した。
「どうにかショートカット出来ないもんかね……なあ、バルバロッサ、お前、良い案無いのかよ」
「悪巧みってもなあ……イグニスよ、俺もお前も所詮頭は良くはない、つまりそんな奴らが集まった所で良い知恵なんぞ浮かばない! そういうこったな! ガハハハハ!!」
豪快に笑う。
「諦めて素直に真面目に走ったらどうなんだい? バルバロッサもイグニスも」
などと言うセオドアだが、当初真っ先にサボろうとしていたのはセオドアである。
一方、先頭組は第二給水所を通過していた。
「流石ね、3人とも。最後尾はまだ此処には来なさそうだけど、余裕がありそうだわ」
奏が声をかけるのへ、先頭組の三人は片手をあげて挨拶をする。
「という訳で、そろそろラストスパート。競争と行きませんか?お二人とも」
ロズウェルが提案するのへ、
「お、良いね。悪いが、俺が本気になる以上勝ちは誰にも譲らねえぜ? 負けた奴が飲み物奢るでどうだ?」
「──ほう、勝負か。面白い、偶にはそういった趣向も悪くは無いな、乗った」
侠、颯人が頷いて、三人は一気にラストスパートをかける。抜きつ抜かれつ、一進一退の攻防。
果たして、ゴールに先に飛び込んだのは――。
「お疲れ様です、競争ですか? 何やら随分と楽しそうに走っておいででしたが」
ほぼ同時にゴールに飛び込んだ三人へ、ティスタは労うように、タオルとドリンクを手渡した。
ところ変わって、此方はVRトレーニングのスペース。此方にも多くのイレギュラーズ達が集まっていて、例えばそこにはアニエル、ジョセフ、マカライト、リオン、桃子たちなどの姿が見えた。ヘッドマウントディスプレイタイプのモニターを被り、それぞれが仮想世界において再現された様々なトレーニングに挑戦している。
アリシアは仮想再現されたモンスターを、その刃で斬り捨てる。手応えはあった。だが、まだ限界を迎えるには遠い。
「まだ、私は『弱い』……もっと強くならねば」
そう呟き、次のモンスターを召喚する――さらなる強さを目指し、刃を振るう。
「うふふ。ワタクシ、まだまだ本調子ではありませんの。ですから、今日は皆さんのトレーニングを見学させて頂きますわね?」
アポフィライトは観る――皆のトレーニングを。VRシステムを。
ただ、ただ――観る。
「ふぅ、表示限界までまだまだなのか。随分とVRシステムも進化したんだねぇ」
ムスティスラーフは、VR空間内をひたすらに歩いていた。
表示限界地点の探索が目的だったが、同時にひたすら歩くことによる忍耐力の強化も狙いの一つだ。
「自分のペースで……行けるところまで行ってみよう」
「システム、リンク。今回は、防御兵装の試験と試運転を行う」
VR空間内に現れたエネミーターゲット。そいつが吐き出すビームのような攻撃を、シャスラはシールドで受け止めて見せた。
「パターンを変更する。攻撃属性。周囲環境の変化……テスト項目は多い。すべてにおいて試験を行う」
次々と目まぐるしく変わる環境、ターゲット。シャスラはそれを見据え、シールドを構えるのだった。
「ふっ、ん"く"ぅ"ぅ"う"う"っ!!」
およそお嬢様が出してはいけないタイプの唸り声をあげながら、リリルは手にしたVRデバイスに力を込めた。
ゲーム感覚で筋トレができる――そんな触れ込みのVRステージだったが、中々これが、本格的な筋トレを要求されるものだったらしい。
「これ、思ってたよりキツいのですわ……ん゛ぐ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛っ゛!!」
「寝ながらVR、ねぇ……いいじゃん……眠った先のVR空間でまた眠れば、リアル睡眠&バーチャル睡眠の効果で、きっともっとよく眠れるって事だよねぇ……」
と、嬉しそうに言うのはリリー。一同は、睡眠訓練を行うために集まったメンバーだ。
「実際には、明晰夢のような状態になるのか……旅人の技術と言うのは面白いね」
キルトがゴーグルを眺めつつ、そう言った。
一同の通された小部屋は、少し涼しく、薄暗い。一同、様々な安眠グッズを持ち込んでいる事もあり、これはよく眠れそうである。
「眠りながら強くなれる……かぁ。これで強くなれたら本当に大発明だと思うわ。師匠が聞いたら変な顔するだろうけどな!」
笑い顔を見せる要。皆半信半疑の様だが、睡眠学習、と言う学習形態もあるらしいし、天下の練達が研究している分野だ。きっと成果が出るに違いあるまい。
「寝てる間にエステとかお願いできないかな? だめ? そういうサービスあったら絶対儲かると思いますよ~!」
と、VR担当者に言うのはタイムである。確かにサービスとしてはありかもしれないが、とりあえず今回は、適用されていないサービスである。
「じゃあ、さっそく! みんな、お休みっすよ~!」
ジルの言葉を合図に、一同はさっそく睡眠タイムに入る――。
「わらわはどーやって眠れば良いのかの? ……zz……z……。そもそも眠るってなんじゃ……? ……z……z……」
約一名、Azathdoが困惑していたようだがそれはさておいて。
夢の中の世界は、無数の羊が飛び跳ねる、奇妙な空間だった。手には、毛刈用の鋏が、いつの間にか握られていた。
「成程……羊本体には傷をつけず毛だけを狙う……という事だな!? これはいい鍛錬になりそうだ!」
なにやら納得したブレンダが、モフモフと飛び回る羊に飛び掛かり、つぎつぎと毛を刈っていく。
一方、なぜか神官服の少女姿に変化していたアザー・T・S・ドリフトは、些か困惑してはいたものの、
「ふむふむー……? 良く分かりませんが普通に動けるので問題なし、ですねっ! 今日は特段の訓練日和という奴ですね。皆さん頑張りましょうー!」
と、特に気にせず、訓練へと励むのであった。
奇妙な訓練であったが、睡眠VRは確実に、皆の良い経験となっただろう。
戦場と、無数の兵士たち。軍隊生活を再現したVR空間に、ドミニクスの姿があった。
「再現は凄いし、現実と間違えそうだが現実よりはかなりマシだわな」
苦笑しつつ、上官NPCの登場に、反射的に敬礼をするドミニクス。昔の勘が戻るのも、そう遠くではあるまい。
「えっ? 仮想空間で好きなだけ実験ができて!? 実害なし!? ほんとに!? なんてすばらしいのでしょう!」
と、物理演算を行うためのVR空間で声をあげるのは、フィーアだ。現実と同様に様々な実験をバーチャルで行える空間は、フィーアにとっては垂涎の品であっただろう。
「あぁこれも! あれも! なんという可能性の数々! これは時間がいくらあっても足りません!!! 急がねばー急がねばー、あっこれをこうすれば! あぁー!」
声を上げながら、様々な実験を行い、レポートを記していくフィーアであった。
「はい、というわけで突然始まりましたPan Tube! 初動画投稿でまさかのロレトレの一部始終を映すとか前代未聞って? 思いついちゃったんだから仕方ないんだよ!」
紅璃はVR空間で声をあげる。片手のVRデバイスで自撮りなどをしながら、VR空間内でトレーニングを行う仲間達へ向けて、治療術式を展開する。
「皆頑張ってるね! 私も全力でサポートしなくちゃ! それ、がんばれがんばれ!」
自身と、仲間達の活躍。そんな光景を映す、紅璃の動画撮影は続く。
「えっと、すっごい機械でトレーニングが出来るのね、凄いわ!」
ぽん、と両手を合わせながらメアトロが声をあげるのへ、ヴァンは頷いた。
「難しそうなことはわかりませんが、試しに戦ってみればわかる筈です。頑張りましょう、メアトロさん!」
二人の目の前に、凶悪な外見のモンスターが現れる。その迫力は、現実と見まごうほどだ。ぴりぴりと肌を走るプレッシャーが、その敵が自分たちと同等の相手であることを教えてくれる。
「ローマン君、どっちが多く倒せるか、競争しましょ? わたしに勝てたら、ご褒美をあげるわよ?」
ご褒美、と言う言葉に、なんだかヴァンはどきりとしてしまう。しかしすぐに気を取り直すと、
「勝負ですね? 負けませんよ!」
二人は頷き合うと、モンスターへと向けて一気に駆けだした。
弟。妹。弟弟妹。妹妹弟。弟妹弟妹弟妹弟妹――。
VR空間を、無数の弟と妹とが埋め尽くす。その弟と妹の津波の真中で、至福の表情を浮かべるのは、龍だ。
全生物の姉を自称する龍である。ここにバーチャルとは言え、弟と妹を再現するのは当然だった――。
これがトレーニングなのかは不明だが、本人が幸せそうなので、良いのだろう。
「しっかしすごいもんだね練達ってのは、ここまで現実にそっくりなシュミレーションができるなんてな」
遮蔽物に隠れたサイモンの頭上を、銃弾が飛んでいく。現実と見紛うほどの光景に一瞬眩暈を覚えたがすぐさま気を取り直して、応射した。
サイモンは、FPSと言うゲームジャンル、そのVR版にて訓練を行っていた。
「さーて、どこまでスコアを伸ばせるか、腕が鳴るぜ!」
千歳と対峙するのは、VRにて再現された――。
「刀嗣……ああ、うん、見た目だけでもやっぱりやる気が変わるね。少しだけ」
再現されたのは、見た目だけか。戦い方はさておき、その強さも相応に調整されているに違いない。
「再現だとしても――俺は負けない。俺の剣は、刀嗣、君を只倒す為だけに研ぎ澄ました剣なのだから」
「ばぁちゃるりありてぃしすてむ……練達はいつ来ても面妖なものを作るな……」
ウォリアは戦斧を構えながら、そう呟いた。
目の前に再現された敵。仮想ながら、其れは相応の強敵だ。
「中々いい鍛錬となりそうだ」
笑えたなら、喜びに笑みを浮かべていたかもしれない。ウォリアは戦斧を振り上げると、敵へと向かって躍り出た。
「ふぅ……やっぱり連戦はきついかな……」
みるくは次々と、夜妖<ヨル>を再現したモンスターと戦っていく。
自分に足りないのは持久力であることは、自覚していた。だからこうして、持久力が必要な連戦をプログラムしたのだ。
「けど、負けない……確り訓練しなきゃ……!」
「よし、私はVR訓練のサポートしつつ、VRシステムの勉強をしよっかな!」
コリーヌはシステム担当者に話しかけて、VRシステムの構成について尋ねて回る。
「はぁ、やっぱこの規模となると、CPUもグラボも未知の領域だわ……外に再現するとしたらどれくらいお金かかるのかなぁ……」
流石は練達という事だろう、そのスケールの大きな設備に、思わず舌を巻くコリーヌであった。
「ハイパーメカニカル子ロリババアも、この国も、中々に濃いよね……」
VR空間で一息つきつつ、達哉が呟く。
「他の国がファンタジーだからね。近未来SFのこの国に、旅人たちが集まるのも当然なのかもね……さて」
休憩はお終いだ。未だ実戦には出ていないが、しかし戦う訓練はしておいた方がいい。達哉は次のプログラムの起動を頼むと、武器を構えた。
激突する、グレイルと、もう一人の『グレイル』。
自分とほぼ同等の敵との闘い――戦い方も、思考をも再現したそれは、完全再現とはいかなかったが、よく自分の強みも、弱みもさらけ出してくれる。
「成程……ここは対策を取って……ここを責める。逆に考えると、僕はこれを克服しなくちゃいけないのか……」
見えてくる自分自身と言う戦い方。何度も試し、検討し、グレイルはまた一つ強くなっていく。
「なるほど、VR……ですか。実践的な訓練ができるのは良い事です」
仮想空間にて、P・P・Pは呟く。敵味方、双方のデコイが戦い合う中、P・P・Pが行うのは、効率的な回復を行うための訓練だ。
「戦場を俯瞰し、適切に力を分配する――では、始めましょう」
マヤは自分と同等の敵を表示させ、同時に様々な状況下を再現する。
撤退戦。強襲戦。防衛戦。高高度の戦闘。悪環境での戦い――。
「他には……潜入作戦の再現もできるのかしら。訓練だとわかっているけれど、なんだかゲームみたいで、少し楽しくなってくるわね」
くすりと笑いつつ――マヤは次なる戦場を再現した。
「私弱いので戦闘訓練させて下さい!
私はその、四角形が大好きなので……
相手の事を立方体やら直方体やらの
四角形にして倒す練習したいです!」
鹿・矩形がお願いすると、VR空間に、
無数のエネミーが再現・登場する。
「わぁ、これをやっつけるんですね!
四角くする方法はひみつですけど、
ここで訓練すれば、素早く確実に
敵を四角くできるのかなぁ……!」
色々な方法を試しつつ、鹿・矩形
は、エネミーを次々と四角くへと
変形させていくのであった……。
「うおお……VRではバッドステータスの辛さも再現できるのであるな……つらみ」
と、次から次へとバッドステータスの効果を味わっているローガン。
これは実際にバッドステータスを体感することで、その経験を自らに蓄積させるためのものだ。
「で、でも……こうも次々と食らって行くと、傍から見たらちょっと面白い絵なのでは……?」
とは言え、苦痛と経験は確実に蓄積されている。今は耐えるのだ。
整備、メンテナンス、バイタルチェック、OK。事前準備を完了したSpiegelⅡが、VRの戦場へと降り立つ。
「仮想敵、出現……注文通りだけれど……」
相手は、強い。そのように、注文したからだ。現在の、自身の討伐すべき課題――同時に、それが達成困難であることも理解している。
「けれど……諦めるわけにはいきません。仮にシュピの戦術を変えるとしても……」
今は、自分の力で突破することは諦めたくない。SpiegelⅡはその武器を構え、敵に相対した。
●練達と言う場所
さて、トレーニングに精を出すものもいれば、今日は身体を休める、あるいは知見を深めるために、練達と言う土地を観光しようと言う者もいる。
街中には、ヤタガラス、リーリア、メイプル、ウルリカたちの姿も見える。各々、思い思いに過ごしているようだ。
練達、と一言で言っても、その内は多種多様である。大雑把に分ければ、今の所イレギュラーズ達に広く開放されているのは、街のメイン、いわゆる『練達の街』と、『再現性東京』と呼ばれる、地球世界に存在する都市、東京を再現した区域になるだろうか。
まずは、練達の街。いわゆる近未来的な光景が広がる中、イレギュラーズ達はそれぞれの休日を過ごしている。
「モザイクだッ!」
治安維持のため――そう言って、モザイクは練達の街中を練り歩く。犯罪者が居れば、即モザイクで埋め尽くしてやるつもりだった。幸か不幸か、犯罪者の類は見受けられなかったけれど、その眼は厳しく、練達の街を見守っているのだ。
「練達の街は初めてなのですよね。痴漢撃退グッズとか、救急キットとか……そう言うお店があると嬉しいのですが」
ミミは練達の案内人――ハイパーメカニカル子ロリババアへと尋ねる。ショップが立ち並ぶ地区へと案内してもらったミミは、そこで目を輝かせるのであった。
「おお、外とは違ったアイテムが沢山……使用感とかどんな感じなのでしょうか?」
様々なアイテムを実際に手に取りつつ、ミミの仕入れが始まった。
練達、TCGショップ。VRやAR技術により、召喚したモンスターをど派手に投影する設備のあるその店で、リヒトと十三は対峙していた。
「前々からお前との知能戦を一度やってみたかったんだよ。鍛錬ついでに賭けようぜ、次の診療所の清掃係、負けた方がやるってな」
「ふーん……カードゲームで修行ね。要はチェスや将棋みたいなモンでしょ?」
不敵に笑い合う二人――果たしてその対決は、一進一退、互角の戦況を繰り広げていた。
「それじゃあ出しますか、俺の切り札……二代目『弥七』巨大化バージョンッッ!!」
十三が召喚したのは、自身の飼い猫を模したカードだ。ふわふわの毛並みに可愛らしい肉球。くりくりとした眼が愛らしい。
「なら、出て来い『孤高の札使い・狐狗狸』! 目の前の弥七に攻げ……」
「……なに、リヒト攻撃するの? こんなに愛らしい子に手をあげるなんて、一体どういう神経してるんだい!?」
「いや、今までも普通にお前の出した僕に攻撃してたし、お前だってしてただろ!?」
突如として始まった非難合戦――呆れたように、弥七はふわぁ、とあくびをするのであった。
練達にも、当然、図書館は存在する。そこは、その街の文化や技術、そして物語が記され眠っている場所と言っても過言ではない。マッダラーはそんな場所を巡りながら、物語を収集する。
「ふぅむ……」
数多の物語たちを見つめながら、マッダラーは唸る。この場所にこそ、マッダラーの求める物語があるのかもしれない。だが、それを理解するには、まだマッダラーには経験が足りなかったようだ。言葉にできぬ物足りなさを覚えつつ、マッダラーの散策は続く。
図書館には、ルネもいた。様々な資料や論文を閲覧スペースのテーブルの上に積んで、次々とそれらを読み漁る。
「これは最近出たギルオスのパンツ理論の論文だ。うわー、超気になる」
目を輝かせるルネ。どうやら練達には、いろんな論文が存在するようであった。
「変なロボットが歩いてる……流石練達、訳が分からない」
蒔菜は練達の街を歩きながら、思わずつぶやく。そこには用途不明の得体のしれないロボットが、カシャカシャと音をあげながら歩き回っていたからだ。
元々居た世界では、訓練所や基地のような、必要最低限の施設しかなかった。だから、今は目に映るすべてが新鮮で面白い。特に練達みたいな変な所は。
「希望ヶ浜にも行ってみようか……うーん、不審者だと思われないかしら……」
「練達、調査中!」
エアルは練達の街をあちこち見やりながら、声をあげた。
「我々は知識経験に餓えているのである。練達のアミューズメントを体験し、レポートするのだ!」
『宇宙人調査員』の、練達レポートが、今始まろうとしていた――。
「うう、物珍しさに目が回りそうだ……これが練達……」
アルヴァはたまらず、近くにあったベンチに腰掛けた。深緑から出た事の無かったアルヴァにとって、練達の街並みはすさまじいカルチャーギャップだったかもしれない。
「結晶の塔……再現性東京……未知のものが多すぎる。他の国もこんな感じなのだろうか……」
まだ見ぬ国々に戦々恐々としつつ、アルヴァは頭と目を休めるため、ベンチで目を閉じた。
「ううむ、観光に来たのは良いが、この国はわらわにとっては早すぎた気がするのじゃ……」
と、此方もカルチャーギャップに苦しむ楓鬼である。元の世界の文明からすると、練達の未来文明は、もはや未知の領域に位置するのだろう。
「む、じゃが、わらわの世界にも武鎧(ロボ)はあった! この国なら、ロボット……武鎧の代わりが見つかるかもしれぬ。さっそく買い物じゃ!」
そして、再現性東京――いくつもの年代をモチーフにしたエリアの立ち並ぶ、東京を再現した街だ。
「うっわ、練達ってこんなとこあったわけ? 教えてくれってマジで、ファンタジーも悪くねえけど、ちょっと疲れんだよな。まあ色々さ」
故郷によく似た――再現された1999年の東京の街を歩きながら、辰巳はいう。久しぶりの現代文明を――喧嘩しがいのある相手なども探しつつ、見物して回る。
「再現性東京、かぁ。ざっと回ってきたけど、いろんな世界と時代の『東京』が混ざり合ってて、意外な発見があるねぇ」
知っているような場所だが、知らないものもある。そんな奇妙なくすぐったさを覚えつつ、芒はTCGショップを探してみる。練達オリジナルなのか、元の世界のゲームを再現したものか――いずれにしても、元プロプレイヤーとしては興味深い。
「わたしでも異世界に行った気分になれるなんて……! あら、アレがジドウシャにバイクでしょうか? ジテンシャは、わたしでも乗れるのでしょうか……?」
ユーリィが目を輝かせるのは、街並みはもちろん、東京にて再現された様々な乗り物だ。故郷にはなかったような、機械の車だ。街を行くそれらの乗り物は、ユーリィに強い興味と感動を覚えさせている。借りられるなら、自転車に乗ってみるのも良いかな。そんな事を思いながら、ユーリィは道を行く。
「うーん……? 記憶にあるような無いような……というか、此処に住んで無いんやったら記憶にある無いわからへんわ!」
わぁ、と両手をあげたのは山茶花だ。記憶のない山茶花は、ローレットの職員から、もしかしたら東京に縁があるかもしれない、と勧められたのだが、そう簡単に記憶は戻らなかったようだ。まぁ、せっかく来たのだ。気を取り直してパフェでも食べよう。山茶花は気を取り直して、観光にシフトした。
いつもの神官戦士装束で街を歩くのは、イージアだ。周囲からの好奇の視線も気にしない。周囲からは、コスプレか何かだと思われているようだが。
「ここが練達の再現性エリアですか。友達から聞いた世界と似た様なエリアですね……あら、お洒落で良さそうな雰囲気のお店……入ってみようかしら」
目についた、甘い香り漂わせる喫茶店の扉を開く――。
ライム マスカットは、たまたま街中で出会ったレライムと道を行く。
「2010街の方は、わたし達じゃ入れないでしょうしね……ところで、きんぴら? っていう悪い奴がいるみたいです! 食べちゃってもいいですかね?」
「きんぴら……探してみようか? でも、きっとお腹を壊すから食べちゃダメだよ」
小首をかしげるレライムに、ライムは「そんなぁ」と肩を落とす――そんな二人の観光はまだまだ続く。
「何だか懐かしい風景が広がっているな。たまにゃこういうとこで休むのもいいかもな、休息も戦士の仕事ってやつだな」
懐かしさを感じる風景――再現された日本の街並みを、祐介は歩く。これは決して、トレーニングをサボったわけではない。そう、士気を高めてパフォーマンスを高めるのだ! ……なんて、言い訳しながら。
マルカは路地裏にポイ捨てされていたゴミを拾い上げて、袋に詰め込む。ふむ、と満足げに唸ってから、それを馬車へと放り投げた。
「やっぱり、こういう所はゴミが多いっスね。生ゴミとか燃えないゴミとか、社会的なゴミとか」
マルカがお掃除する『ゴミ』に区別はない。都市のゴミを見つけては、次々と確保、制圧し、馬車に放り込んで行く――。
「うーん、1980、1999……いろんな区画があるんですねぇ」
再現性東京の紹介パンフレット等を手に、街を観光するのはティルだ。かつての世界、人間界に降りてきて、初めて目にしたような光景……ちょっと心の傷がひらく。
「お土産は――要らないですよね。際限なく買っちゃいそうですし。今日は都市を学ぶことで、イレギュラーズの活動としましょう!」
キリッ、と言い訳などしつつ、ティルは街を行くのだ。
珠緒は蛍を、優しく抱きしめていた。再現された故郷の景色に、蛍が本当の故郷の事を思い出し、沈んでしまったからだ。
「ご、ごめんなさい、珠緒さん。見苦しいとこ見せちゃったわね」
蛍はそう言って、すぐに気を取り直した。故郷の事は寂しかったけれど、隣に珠緒がいることが、たまらなく嬉しかった。
「珠緒さんが興味を惹かれたお店を覗いたり甘いもの食べたりしながら、あの聳え立つタワーを目指すのはどうかしら? 上に展望台があって、広がる街並みを一望できるみたいよ!」
情報誌を開きながら、電波塔を指さす。珠緒は指先と情報誌、両方へ視線を行ったり来たりさせながら、頷いた。
「興味……やはり服飾関係でしょうか。10代女子向けのお洒落はとても多彩だそうで。ここならではの服装で、お茶もいただいて……展望台ですね!」
二人は笑い合うと、何方からともなく手を繋いだ。それから一緒に、故郷の景色の一歩目を踏み出した。
「こんにちは、同志の諸君! ビスコちゃんです! 今日は地元練達の新しいスポットにやってまいりました! はい、拍手!」
ギフトの力で撮影などを決めつつ、ビスコは再現された東京の街並みを行く。新米練達アイドルたるビスコの今日の活動は、再現性東京の流行スポット巡りだ。練達のネットワーク上で有名になっている場所らしい。
「では早速行ってみようか! 同志の諸君、見逃しちゃだめだぞ!」
可愛らしく手を振り――ビスコは一歩を踏み出した。
「ほほー、これが東京でござるか。雑然としているというか、賑やかな場所でござるなぁ」
与一は再現性東京の商店街を行く。外とは違った様式の洋服や小物。そして食べ物。色々なものが、与一の目を楽しませてくれた。
「ラーメン! ラーメンでござるな! 東京のラーメンとはどのようなものでござろうか。いざ、試してみるでござる!」
与一は楽し気に、目についた食堂へと入店した。
「東京、かぁ。考えてみたら、行ったことは無いんだよね。じゃあ、今日は初めての上京……お上りさん、って所かな」
笑いながら、悠は再現された東京の街を行く。見覚えのある場所。でも言った事の無い場所。不思議な新鮮さと懐かしさを覚えながら、
「流石東京、おしゃれな店が沢山ある……値段も高いんだろうな」
上京を楽しむお上りさん気分を、満喫するのだった。
「再現性東京、か。懐古趣味――とも違うのだろうね。旅人にとっては、深刻な問題か」
ウルスラの脚は再現性東京地区にある図書館へと向かっていた。森で生活していたウルスラにとって、異なる空気の場所で知識欲を満たすのも悪くはない。
「さて、外の世界の知識とは、どんなものやら――」
ウルスラはくすりと笑うと、図書館の扉を開けた。
此処はとあるコンセプトカフェ。現在ここでは、練達の三塔の主や、練達の要人をキャラクター化した、いわゆるコラボカフェが開設されていて、多くファンが詰めかけ、グッズやコラボフードを楽しんでいる。
茉莉や卯月もその中の一人だ。卯月はマッドハッター、茉莉はファン・シンロンのグッズがお目当てらしく、テーブルの上に大量のドリンクを並べていた。このコラボグッズ、曲者で、フードを頼むと一つ、ランダムでもらえるらしく――つまり沼にハマっていたわけだ。
「でない、でないぃぃ」
「推しのコースター、なんで幸運活性化させてるのに来ないんでしょうね?」
次々とドリンクを飲み干す――残して捨てたりはしない。SNSでお気持ち学級会が開催されてしまうし、何より推しに合わせる顔がなくなってしまう。
そうしていくつかのドリンクを頼んだ時――。
「あっ、あっあっあああ自引き、した……?!」
「ファンくんお迎えだね~。おめでと~!! あ、あ、私も~!」
二人は無事に、推しに出会えたのだ。
「見たことない建物が多い……流石は異世界ってところかな、まだ実感すら湧かないけど」
召喚されたばかりの白妙にとって、目に映るすべてが新鮮な、興味深いものだろう。ましてや練達は、混沌世界でも特に異質だ。
「こんな所でも、ローレットは活動するのか……と言うか、今晩の宿はどうするんだろう。ローレットに言えば、貸してくれるのかな……?」
まだまだ分からないことも多い。一つ一つ確認しながら、白妙は歩いていく。
「あー、久しぶりのラーメン美味しい……魚介系の激辛ラーメンも再現してるとか、練達ってすごいデスね……」
ふぅ、とラーメン屋から出てきたのは砂織だ。トレーニングと言う気分でもなかったので街をぶらついていたわけだが、これは正解だったようだ。
「あ、コンビニもあるんデスね。ちょうどいいデス、カップ麺、カップ焼きそば……かっておきマスか。次はいつこれるかわかりまセンしねー」
足は自然とコンビニへ。冷房の効いた店内で、砂織はカップ麺を物色し始める。
「再現性東京か……初めて来たときの印象より、ずっと広かったんだな」
公園のベンチに腰掛けて、フローリカはペットボトルのドリンクを飲んだ。そう言えば、以前の事件で知り合った警察官は元気だろうか。この街を、事件を追って騒がしく走り回っているのだろうか。
「だとしても……平和で、良い街だったのだろうな。東京とは」
フローリカの故郷は、平和とは無縁の場所だった。そう思い出せば、少し東京と言う街が羨ましくなる。フローリカはペットボトルのドリンクを飲み干すと、立ち上がった。
「よーし、到着っ!」
息を切らせつつ、再現性東京に存在する電波塔の展望室にて声をあげるのは、主人=公だ。数百メートルはあるだろう電波塔を、エレベーターではなく外階段で登る――現実の東京にある電波塔の踏破記録は二分ほどであるらしいが――。
「タイムは――おー、こんなことに成ってるのか。すごいなLEVEL1システム」
中々満足のいくタイムだったようだ。主人=公は、今度はエレベーターを使って階下に降りる。帰りには、ファーストフード店に寄って行こう、なんて考えながら。
「おお、すげぇ! ちゃんと音ゲー再現されてる!」
ゲームセンターの一角、音ゲーのコーナーで、眞田は声をあげる。そこでは、かつての世界でも見たような――微妙に違うような、そんな音楽ゲームが設置されていたのだ。
「元の世界の曲……ってもいろんな世界の曲があるんだな。お、混沌世界のアイドルの曲とかもあるのか! クレーンゲームにも見たこともないぬいぐるみとかあったし、こりゃ一日時間潰せるぞ!」
と、眞田は財布の中身の小銭を確認した。これが空になるまで、今日は遊んでいこう。
「再現性東京……なんだか懐かしいですね」
ステラは髪に手をやりながら、そう呟いた。その懐かしさは、かつての世界の光景を見たから……という訳ではない。どうもステラは、かつて再現性東京に住んでいたことがあるようである。
「ここに……家があって。その地下に博士のラボがあったのですが。今はすっかり、違う風景ですね」
今はもうない、故郷の景色。それを思い出しながら、ステラの散策は続く。
迅牙は観察する――再現性東京の街を。人々を。戦いのために作られた迅牙にとって、人々の生活とは興味深いものだ。だから、迅牙は観察する。
駅前の広場のど真ん中で仁王立ちして。
――この日、新たな待ち合わせ場所が駅前に誕生しかけた。
再現性東京――かつてジュディスが居た世界程ではないけれど、そこそこの文明を誇っていた場所が、異世界には存在したようだ。
トレーニングか、休息か。何方かを選ぶように、ジュディスは言われた。とっさに街の散策を選んだが――。
(はたして、私に心休まる時間なんて訪れるのかしら?)
自嘲気味に胸中でぼやきつつ――しかし折角の機会だ、街を見て回る事は無意味ではあるまい。ジュディスは街を歩きだした。
「再現性東京……興味深いですね。再現されるほどという事は、この地からの旅人(ウォーカー)が多く召喚されていた……あるいは、よく似た世界が複数存在する、という事なのでしょうか」
ヘイゼルは街を行く。1970街から2010街へ。一通り、年代通りに街を見て回った。灰色の、のっぺりとした塔――ビル街。不必要なほどに輝く数多の光。
「発展、慣熟、斜陽、安定――再現する原因は何か。なかなか、興味深いものですね」
その好奇心に、再現性東京はどう映ったか――旅人自称者は、再現された異世界の街を歩く――。
「あら、私、こう見えても成人なんですよ、子供も三人いますし」
90年代の東京を再現した区画――その中でも欲望渦巻く歌舞伎町を模したエリアに、クシュリオーネはいた。現地の警察と共に。どう見ても14歳にしか見えないクシュリオーネである。警察に補導されても仕方あるまい。
「それより皆さん如何ですか、こういう場所ですし、私と一晩愉しみましょう……? ……だめ? もう、真面目なんですね?」
くすくすと、クシュリオーネは妖艶に笑うのであった。
フィリアは再現性東京の街を、その自慢の脚で駆け抜けていた。目的地は特にない。ただ、おいしそうなお店、おいしそうな匂いを探して、走っているのだ。
「トーキョーって場所には、色々なおいしいものがあったのね。目移りしちゃう……!」
次々と目に入ってくる飲食店。混沌世界でも見たようなもの、見たことがないもの。次々と移り変わり、フィリアの目を楽しませてくれた。
「もう、どこに入ろうかしら……ううん、悩む。もう一周するうちに決めなきゃ……!」
(色々なゲームがあるのね……どれも楽しそう……)
ゲームセンターに入店し、店内を見て回るのはコレットだ。音楽ゲーム、ガンシューティング、クレーンゲーム……様々なゲームが、コレットの目を楽しませる。
「ガンシューティング……これをやってみよう。すみません、店員さん。このゲームどうやって遊ぶのか教えていただきたいです」
コレットは近くにいた店員に声をかけた。店員からの説明を、コレットは真面目中で頷いて聞いていた。
「ゼフィラさんは東京出身でしたね……再現性ではなく、本物の。どうッスか? よく再現できてる物なのでしょうか」
イルミナが尋ねるのへ、ゼフィラは微笑んだ。
「そうだね、不思議と懐かしい気持ちになるよ。よくできている」
二人が向かったのは、ゲームセンターだ。ゼフィラもイルミナも、こういった場所にはあまり縁がなかったから、その騒々しさは新鮮に映っただろう。
二人はクレーンゲームの前に足を止めて、遊んでみる。持ち上げられたぬいぐるみが、途中で落下するのを見て、ゼフィラは小首をかしげた。
「なかなか難しいものだね……まぁ、資金は潤沢にある。とれるまでチャレンジすればいい、かな?」
「あ、だったら、どっちが先にとれるか、勝負しましょう、勝負!」
瞳を輝かせるイルミナへ、ゼフィラは笑った。そうして、二人のささやかな対決が、始まったのだった。
「懐かしいな……東京の街並みか」
昴は精緻なほどに再現された東京の街並みを眺めながら、思わずため息をつく。日常の尊さは、失ってから初めて気づく。言い尽くされた言葉だが、まさかそれを体感することになるとは。
「でも……俺は守るために武器を取った。この街の平和を、守れるくらいには、強くありたいね」
目の前に広がるかつての日常を模した風景に、そんな思いを、強くするのであった。
「映画や特撮作品で見た東京の街並み! いいですね!」
紅葉が立っているのは、再現性東京の郊外に位置する場所だ。そこには些かの自然が再現されていて、都市部とはまた違った魅力を見せてくれる。
「やっぱり郊外の方が家賃とかも安いんでしょうか? この街に住んだら……どんな楽しい事が待ってるんでしょう!?」
紅葉はワクワクと、これからの生活に胸を躍らせながら郊外を歩く。
「トレーニング……と言いたい所だが、このところ戦い続きだったしな。ここらで小休止……という訳で雪や、再現性東京地区でデートと洒落込もうじゃないか」
真顔で雪之丞へと告げるのは、汰磨羈だ。雪之丞は、しかし動じることなく、
「汰磨羈様のお誘いとあれば。再現性東京地区とは、あの、樹木を使わぬ建物のある場所でございますね」
と、微笑んで答える。
「うむ。御主にお勧めしたい食い物が色々とある。この再現された地区は、私の知るソレとよく似ていてな。食い物もまた、よく再現されておるのだ」
「食事……でございますか?」
「おう。まず真っ先に紹介したいのは濃厚煮干ラーメンだな。あれはいいぞ。煮干の旨味が口いっぱいに広がって……いかん、涎が」
ぢゅるり、とよだれをすするその口元を、雪之丞はハンカチで拭いてやった。それから微笑んで見せると、
「楽しみでございます。参りましょう、汰磨羈様」
そう言って、共に歩き出した。
「渋谷と言えば若者の街……ですが、道玄坂を登れば、大人のための顔を見せてくれますわ」
再現された渋谷、オリジナルよりはきっと小さかっただろうけれど、その先も良く再現されていた。アイラが目指すのは、そこに在る大人のバーだ。
「フフ、やはり、このお店も再現されていなければ、再現性などと偽りの看板ですわよね」
思い浮かべるのは極上のシャンパン。そして季節のフルーツカクテル――思わぬ再会に喜びながら、アイラはバーの扉を開いた。
「みなさんは、翼が生えてくれば、そう思ったことはありませんか?」
茄子子が駅前で演説を開始する――羽衣教会の入信勧誘演説である。
「自分は飛べない、そんな思い上がった思い込みをしている方は一度思い浮かべてみてください。私達は元の世界からこの混沌世界へと至るという不可思議な体験を、既にしている筈です」
「確かに、唐突に羽が生えると言われてもやはり現実味がないかもしれません。では、実際にその時を目にしたらどうでしょう?」
逃夜は祈りを捧げるポーズをとる――同時に、仕込んでいた手袋を利用して、背中に小さな羽が生えたように演技してみせた。にこり、と笑う。演技に気づかぬ民衆は、おお、と驚きの声をあげる。
「まだ生えたてで未熟な翼だけれど、その僕が言いましょう。──次はきっと、貴方の番です」
その隙をついて、ボディ・ダクレが次々と、聴衆の懐に免罪符(ビラ)をねじ込んでいく。次々と起こる奇跡に、聴衆たちは驚きの表情だ。
よし、聴衆たちの心は掴んだ――茄子子は内心、会心の笑みを浮かべると、
「私達と共に修練に励みませんか? みなさんの入信、心よりお待ちしております」
と、聴衆たちに手を差し伸べるのであった――。
我はバステト。神である。今日は再現性東京を歩いていた所、急にお腹がすいたので、ラーメン屋に入ったのである。
頼んだのは熱々の餃子とラーメン。パリパリの羽と、もちもちの皮。ジューシーなお肉。
ラーメンも最高である。フーフーしながら食べるのだ。こってり濃厚ながら、飽きの来ないスープをすすれば、もう天国なのである。
ラーメンの後に飲む一杯の水は至福の瞬間である。我は動物喫茶で働いて得たお金を払って、お店をでたのだ。我は満足である。
伊達 千尋はバイクに乗って、再現性東京の街を駆け抜ける――1970から2010へ。時代の風を受けながら、未来へ。先へ。
「ハハッ! バンカラも! チーマーも! カラーギャングも! 暴走族も! 反グレも! どいつもこいつもしっかり覚えておきやがれ!」
駆け抜ける。宣戦布告のラッパのように、街に響き渡るエキゾーストノート。そう、これは存在証明の宣言だ。
「俺が! この俺が! 『悠久ーUQー』の伊達千尋だってなァ!!!」
どこか、元居た世界を思い起こさせる再現性東京を散策するのもいいかもしれない。ナインはそう思いながら、街を歩く。
「まぁ、元の世界ではいい思い出なんてないんですけどね」
苦笑しつつ、呟いた。とはいえ、今は自由の身だ。
「まったく人生、いや妖精生は分からないものですね」
さて、ここは再現性秋葉原。此処には一つのカルチャーが存在する。そう、みんな大好きメイド喫茶である。
「むほー! テンション上がりますな! メイドですぞ同士諸君!」
席に着くなり、ジョーイが一行に声をかける。
「おかえりなさいませご主人さまー! ……えへへ、なんだかファミリーみたいだねぇ、とっても楽しいんだぁ、うさメイドになろうかな?」
レニンスカヤの言葉に、ジョーイは頷く。
「んんん! それは実にプリティですな! 吾輩眼福ですぞ!」
「すげぇ、ほんとにメイド喫茶あるんだな……! え、写真? 今手持ちが……あ、でもあの子かわいいっすね……はい2ショット写真あの子で1枚オナシャス……」
彰人がほほを赤らめつつ、メイドさんに連れられて撮影スペースへと移動……数分後に至福の表情で戻ってくる。
「いやー……最高っすわ……」
「ふふ、旅人の文化と言う物は実に面白いね。おっと、オムライスは私の注文で……ほう、美味しくなる呪文を一緒に? いいとも。萌え萌えキュピーン」
滅茶苦茶いい声で美味しくなる呪文を、メイドさんと一緒に唱えるチェルカである。
「なるほど、これが異世界のメイドのスキル……参考になりますわ」
割と真面目に感心しているのはSuviaである。懐からメモ帳を取り出して、メイドさんたちの行動をメモしていたりした。さっそく取り入れなくちゃ、などと呟いている。大丈夫だろうか。
そんな様子を見ながら、暑さから逃れようと一緒にやってきたルーティアは、些か困惑していた。
「いや、この喫茶店考えたやつ多分なんかおかしい……」
ぼやきつつ、メニューを除くチェルカ。そこに踊る数字のけたを確認し、
「……いや、少なくとも頭は良いみたいだな」
何かに納得する。
さて、客としてメイド喫茶に来たイレギュラーズもいれば、メイド喫茶で働く者もいるようで。
「おかえりなさいませ、ご主人様」
と、クールにマテリアは客を案内する。なぜかスカウトされたらしい。クールメイドさんも需要あるからね。
「すまない。コーヒーに入れる砂糖と塩を間違えた」
ちょっとポンコツだった。いや、これはこれでとても良い。
「いらっしゃいませー! あれ、おかえりなさいませだっけ。どっちでもいいか!」
一方、此方は元気いっぱいな魔法少女メイド、白紅である。元気いっぱいで可愛ければ、ちょっとしたミスも許されるのだ!
「行くぞアホども! 90年代の青春を謳歌じゃ!」
ライム・ウェルバーの言葉に、憂はジト目でライムを見やりつつ。
「アホ呼ばわりは気に食わねーですが、確かに楽しそうなのですね!」
とショタ風の外見の変身を解除。JKの姿に戻りつつ、周囲を見回した。
再現性東京1999街、アキハバラ地区。当時の熱気やオタクカルチャーの再現された区画だ。
「うーん、ボクは99年の街並みにはあんまり思い入れはないんだけど……あ、でもメイド服着て歩くのは楽しそうだね!」
サバーシャが大通りに視線をやりながらそう言う。歩行者天国には多くの人々が歩いており、中にはコスプレのような恰好をしているものもいる。
「さぁて、週刊誌を買いあさろうかのう! 再現されているならあの名作も再現されているはず! 楽しみじゃな! 出店をあさるのもよいかもしれん!」
「あー、99年くらいのいたずらグッズとかも売ってるのかな。だったら気になるなぁ、どんなのがあるんだろ!」
ライムとサバーシャはショッピングを楽しむことに決めたらしい。
「私はそやのぉ……やっぱり歌でも歌うさね、それが私らしいや」
憂の言葉に、ライムは頷いた。
「うむ、では【魔王城】! 99年のアキハバラを征服じゃー!」
かくて、魔王たちのアキハバラ観光が始まる――!
「昭和……東京の一時代ですね」
フランシスはガイダンスにより導かれる情報に、頷いた。どこか郷愁を思い起こされる、1970街の景色。そこにある生活を眺めながら、
「成程……これは、そう言った使い方をするのですね……」
文化を、生活を、学んでいく。
「はぇー、このお菓子は面白いのです! 混ぜると色が変わったり、ちっちゃい……グミ? ができたり!」
駄菓子屋さんの軒先で、メイは買ったばかりのお菓子を作成する。混沌にはない、地球世界独自のものだ。
「それにしても、駄菓子屋さんは凄いのです。こんなにおいしいお菓子を、こんなに安く売っているのですね。メイ、もっと駄菓子の事を知りたいのです!」
駄菓子屋の店主の老婆は、にこにこと笑いながら、メイに応対してくれる。まるで、祖母と孫が遊んでいるようにも見えた。
1970街のデパートの入り口。薫子の姿を見た栄龍は、思わずどぎまぎしてしまった。普段は和装の薫子が、今日に限っては洋装を着ていて、それがとてもよく似合っていたから。
「似合わない……でしょうか?」
苦笑しつつ小首をかしげる薫子へ、栄龍は強く頭を振って、
「いえ! 決して変などでは! か、かわ、かわいいと思いますので……!」
「……まぁ」
二人とも照れ臭くなって、思わず頬を赤らめてしまう。こほん、と栄龍は咳ばらいをしつつ、気を取り直すと、
「で、では参りましょう。食事をして、買い物、でしたね」
「はい。良ければ、服を選んでほしいのですが……」
「女性のふ、服の好み?? ですか??」
予想外の質問に、栄龍はふたたび、うろたえてしまうのであった。
再現性東京、リトルタチカワ地区。そこには知る人ぞ知る天ぷらの名店、『わかもと』が存在する――。
「どうも新田様。お席の方、ご用意しております」
寛治をはじめとする一行は、奥の座席へと通される。初めてのメンバーは、その落ち着きつつも高級そうな内装にどぎまぎしながら。寛治はいつものように。店内を行く。
「す、すごい……値段が書いてないタイプのお店じゃあないですか……」
翔一郎が小声でつぶやくのへ、寛治は笑んだ。
「リーズナブルな値段の物もありますよ」
果たしてこの店のリーズナブルとは、我々の常識の内のリーズナブルなのか。其れは不明だが。
かくして一行、座敷に着座し、各々注文が始まる。
「夏ですからね、ここは鱧が欠かせないでしょう。夏酒の冷酒でキュッと行きたいですね」
「特に食べ物の好き嫌いはありませんので、お店の看板メニューから変わり種まで少しずつ頂きながら、天ぷらに合うお薦めのお酒など……いえ、飲みに来た訳ではありませんよ?」
と、Sperlied。
「あ、あの、アイスの天ぷらって、出来ます……か?」
店の雰囲気に気おされつつ、ミルキィが店員に尋ねるのへ、店員はにっこりと笑いながら、
「ええ、出来ますよ。食後にお持ちしましょう」
と、頷いてくれた。
さて、食事は始まる。注文された料理が次々とテーブルに並ぶ。其れは芸術品にも似た、美しい金の衣をつけた料理たち。
「ほうほう、油で揚げているのか! 衣をつけて……? 成程成程、これは実に興味深いな!」
天ぷらを観察しながら声をあげる、クリスティーネ。
「TKRy・Ry……!!! 魚介類の天ぷらはうまいな! 特にこのタコが美味い!」
お酒を合わせつつ、萌乃は天ぷらを味わう。
供された天ぷらの味の方は――言うまでもないだろう。さわやかにして香ばしい油の風味と衣。それらに決して負けぬ、素材の存在感――美味い。美味い、と言う言葉以外に、出てくる言葉はない。
「……!」
万願寺唐辛子の天ぷらを食べた翔一郎。その表情は、頭上に『!』とマークが出ているかのように、衝撃的な美味しさを感じているようだ。
「うーん、ミステリアース、でも美味しいヨ。ジャパンは不思議な場所ネ。これが、エビ? オー、宇宙にもこんなしっぽのモンスターが居ましたが、それとは違うのですネ!」
「うん、すごく美味しいぞ! エビの天ぷらって、定番なんだよな……うーん、もっと食べたいぞ。追加で頼んでもいいのかな?」
チトセとモモカは、エビの天ぷらに舌鼓を打つ。よく出来た天ぷらは、しっぽまでサクサクと食べられるもので、二人は丸ごとのエビを心行くまで楽しんだ。
「しかし……これは清酒が欲しくなるな。良ければ、新田君のお薦めとかはあるだろうか?」
コルウィンは、おススメされた和酒を注文する。流石常連と言った所だろう、今日の料理との相性はバッチリだ。
さて、彼らの食事はまだまだ続くが、ここからはいったん離れるとしよう。お腹がすいてしまう。
再現性東京の中でも特に特徴的なのが、混沌から目をそらす街、2010街希望ヶ浜だ。
「いや、ナンパではなく……情報ありがとう、お嬢さん」
苦笑しつつ、華は会話をしていた女子学生へと手を振った。怪異に関する噂――それを聞きたかっただけなのだが、女子学生にはナンパだと思われてしまったらしい。まぁ、急にイケメンが話しかけてきたのである、女子学生も夢を見ても仕方あるまい。
「しかし……怪異と共にありながら、怪異から目を背ける街、か。不思議な街だな……」
華の探索と観察は続く――。
「まあ、まあ。あの音は何かしら? あちらからも知らない音。そちらは随分賑わっているみたい。ねえリュグナーさん、ここはまた違った世界に来てしまったみたいだわ」
くすくすと笑って、ソフィラが言う。リュグナーはそんなソフィラの手を引いて、ゆっくりと希望ヶ浜の街を歩いていく。
「あれはジドウシャ……鉄の馬車だな。あちらからは、CD……音楽を保存できる円盤が歌を歌っているいるぞ」
リュグナーは、一つ一つを丁寧に、ソフィラへと伝えていく。自身も知らぬものが多かったから、改めて色々なものを見ているのは新鮮な気持ちだ。
「リュグナーさんはどこか興味のある場所、見つかった? それともありすぎて困ってるかしら? ね、なら順番に回ってみましょう。私たちが知らないこと、きっとたくさんあるわ!」
「そうだな……時間はたっぷりあるのだ……一つ一つ、回って行こうではないか!」
リュグナーは、優しくソフィラの手を引いて。素敵なものが散らばっている街を、二人で歩いた。
2010街にも、悪事を働く者は当然いる。そんな輩にささやかな灸をすえたスカル=ガイストは、ビルの屋上から街を覗く。
「此処もまた、仮想現実だな」
其れはある種の、本質なのかもしれない。再現された仮想の現実――その薄氷を踏むかのような現実がいつまで続くか。スカル=ガイストはこの街の行く末に思いをはせた。
「わー、すっごい街だね! ……なーんだか見たことあるような無いような!」
クランベルは再現された東京の街並みを見ながら、思わす声をあげた。
「この街だと、メイドさんのお仕事、いっぱいあるんだよね! それなら私の出番でしょ! 家事全般、お料理、偵察から暗殺まで何でもやっちゃうよー!?」
偵察と暗殺は、この街には不要かもしれない。とはいえ、探せばメイドさんの仕事も、きっとあるだろう。特に秋葉原なんかには。沢山。
ローズ=ク=サレは地獄のただなかにいた。何せ同人誌の入稿前日であったからだ。なお、現行はまだ完成していない。
急がなければならない――だが、作品が雑になってはだめだ。丁寧に――レオンとディルクの甘くも切ない物語を描く。そんな事実はない? いいんだよ妄想なんだから。
「でゅへへへ……。あっ、いけない、いけない。私ったら、本体に戻りそうになっちゃった」
気を引き締めつつ、ローズ=ク=サレは原稿に取り掛かった――先生、進捗どうですか? 入稿間に合いますか?
「すごい、トーキョーみたいな所あるじゃん! ちょうどよかった、羽のばそ」
洋子は希望ヶ浜の街を歩く。再現された東京、再現された彼の世界の文化――具体的にはアクセサリや小物。それにアパレル。どれも洋子の興味を満たすのに充分で、『カワイイ』ものばかりだ。
「そだ、SNSにアカ作って、ショップとかあげよ。イイものは皆と分かち合いたいしね!」
洋子はさっそくaPhoneを起動すると、SNSアプリをインストールした。
「この街では、たぴおか? が人気みたいだ。お前も一緒にどうだ?」
コロッケを齧りながら、魁真と泉里が街を行く。
「タピオカミルクティー? そう言えば、あっちにワゴンがあったような……って、泉里どこいくのさ? 待ってそっちじゃない」
むず、と魁真は泉里の腕をつかむ。泉里はどうにも、明後日の方へと歩きだしていたらしい。
「確か美味しいって噂の店があっちに……どうしたんだ? そんな顔して。大丈夫だぞ。今回は迷子にならない自信があるんだ」
「今回は自信がある? それ毎回言ってんでしょ!!」
ぐいぐいとひっぱり合う二人。街中での綱引きの勝者は、果たして何方であっただろうか?
手を繋ぎながら、朝の通学路を行く。小夜の手を引いて、フィーネは歩いていく。
「ふふ、学校。緊張する?」
小夜が尋ねるのへ、フィーネは恥ずかしげに笑って、頷いた。
「少し……でも、お姉様がいらっしゃいますから、あまり心配してるワケではないのですけれど」
学園に近づくにつれて、他の生徒の姿もちらほら見え始めた。
そろそろ、手を離した方がいいだろうか。いや、でも。
「……他の生徒さん達が大勢いると、その、少し心細いと言いますか。ぎ、ぎりぎりまで、一緒に……行きましょう……!」
きゅっ、と手を握る。小夜は微笑んで、
「そうね、ぎりぎりまで……一緒に行きましょう」
そう言うのだった。
孤月は希望ヶ浜学園に通う高校生だ。いつも通りの学業を終えて、放課後の街へ。家にはすぐに帰らず、和風喫茶店『明治大正浪漫メランコリック』へと向かう。今日は、バイトがあるのだ。
控室で和風パーラーメイドのエプロン付きお着物に着替える。編み込んだ髪に、可愛い狐面と花の髪飾りをつけて、おめかししつつ、よしっ、と気合を入れる。
ホールに出て、「いらっしゃいませ!」笑顔で声をあげる。大好きなお店の、大好きなお仕事。今日も孤月の日常が始まる。
「ホロウウォーカーさん、占いとか得意なんだよね?」
同級生の女子学生に声をかけられて、ヴァイオレットはヒヒヒッ、と笑ってみせた。
「ええ、ええ。カードからペンデュラム……色々と通じておりますよ」
「やった。ちょっと相性占いとかして欲しいんだけど……」
ヴァイオレットは頷いて見せる。ヴァイオレットは、占い好きの女子学生――今はそう言う事になっている。
学食で、紫苑とリンドウは食事をとっている。
従者として、マスターである紫苑が住んでいた場所に限りなく近い場所を、知っておくのは有用である、と考えたリンドウは、学園の散策を望んだのだ。
(とは言え……マスターが食べ物に釣られないわけがなかったのです)
二人は校内の散策もそこそこに、すぐに学食へと向かった。
(でも……当然なのかもしれません。マスターの包帯の下。その傷は……)
伝え聞いた過去を思い出す。ならば、学校とは、紫苑にとってはつらい場所だったのかもしれない。
でもそれを言葉にすることは出来なくて、リンドウは別の事を尋ねた。
「所でマスター。食べるのは問題ありませんが、それに見合ったお金はあるのですか?」
「……大丈夫よ、リンドウと合わせて払える分までしか食べないから」
そう言って、紫苑は笑った。
「Nyahaha――此度は貴様等の『在り方』をブチ撒け給え。私も己を吐き出して『世』に『物語』に『存在』に刻み込まねば成らぬ。好きに創るが好い。興味と好奇を垂らすのだ」
オラボナは希望ヶ浜の美術部顧問だ。独創的ながらその実丁寧な教育方針は生徒たちにも受け入れられ、今は美術部ですっかり受け入れられていた。
「先生、ちょっとアドバイスが欲しいんですが……」
「――よかろう、貴様の作品を魅せ給え。成程。素晴らしい輪郭だ。可愛らしく……好きな人だと」
オラボナは首をかしげた。
「うふふ、学園生活だなんて。「普通の」生活みたいで……本当に、素敵だわ」
かんなが身に包むのは、希望ヶ浜のセーラー服。大きなリボンに手をやって、鏡の前でくるっと回ってみる。
「大丈夫かしら? 浮いてないかしら? ちゃんと学生、やれるかしら。ふふふ、大丈夫そうなら――今日から晴れて、学園の一員、という事ね」
楽し気に――普通の生活に思いをはせる。かんなの学生生活は、まだまだ始まったばかりだ。
お互いに、制服に袖を通して。ネクタイを締めてあげたりする――ネクタイは締められなかったけれど、ラピスが手を取って教えてくれたから、アイラにとってはそれでよかった。
二人で制服を着て、希望ヶ浜の街を一緒に歩く。放課後の、学生デートみたいな気分。
「なんでも学生は、帰り道に買い食い? するのがマナーなんだって」
「買い食い……?」
「うん。だから、そこのコンビニ、ってお店で、何か買って行こうよ」
二人でコンビニに入る。見たこともないような、色々な商品が目について、ひときわ目を引いたのは、レジ横のボックスに入れられた。
「この肉まんってのを、二人で半分こしてみたいな!」
アイラの言葉に、ラピスは笑う。
「じゃあ、これを買って、二人で半分こして食べよう」
戦いのない、平和な生活。有り得た可能性を思いながら、二人のデートは続く。
「俺のところに来るとは、とんだ物好きだな。大したものは出てこないぞ」
無意式は校長室のソファーに深く腰掛けて、酒を煽っている。リアナルはそんな無意式の様子を見て、笑った。
「何、少しだけ……話してみたかったのさ。手土産もあるぞ。大吟醸に、芋羊羹――どうじゃ、見返りに、あなたの事を教えてくれ」
無意式は皮肉気に笑った。
「俺の話に、その酒ほどの価値があるとは思えんが――まぁ、グラスが空になるまでは、付き合ってやろうじゃないか」
そう言って、無意式はリアナルへとグラスを差し出した。
「なるほどねぇ、これが正常な学校、と言う物かね」
希望ヶ浜学園の敷地内を、興味深げに眺めているのは、緒形だ。かつていた世界――住んでいた場所。その空間の学校は、些か正常とはいいがたい場所だったから、こうした【普通】の学校と言うのを見るのは、初めてだ。
「おっさんを創った子たちが話してくれた、学校生活ってのを一度で良いから見てみたかったけれど――なるほどなるほど。こんな場所で、あの子たちがねぇ」
どこか楽し気に、懐かし気に。緒形は学内を隅々まで、見学して回っていた。
「あ、アオイ! 何してるの?」
リウィルディアは、見知らぬ土地で救いの主を見た気分で、工作室にいたアオイへと声をかけた。アオイといえば、「俺になんか用か?」なんて小首をかしげている。
「俺はさ。ちょっとこいつを改造して、機能とか増やしてやろうとしてただけ、だけどさ」
と、手元のaPhoneを指さす。リウィルディアは目を丸くした。
「改造!? すごいね。僕は使い方も全く分からないよ」
「あー、リウィル、こういうのの使い方、分からないか……だったら教えてやるよ。ほら、隣座りな」
と、隣の椅子を指さすので、リウィルディアはそこに着席して、
「……ふふ。じゃあお言葉に甘えようかな。よろしくね、アオイ先生」
そう言って、微笑んだ。
「はい! 希望ヶ浜生活がとってもしてみたいのであるが! 人外っぽい見た目はあんまりよろしくないと聞いて!」
と、ボルカノがひよのへと声をあげた。学内の教室の一つ。机に腰掛けながら、二人は顔を突き合わせる。
「どうしたら不審に思われないであるかな? 今の所我輩の中では『きぐるみを主張する!』一択なのであるが!」
「そうですね……身体の線を隠すようなコートを着てみる、と言うのも一考かもしれませんね」
しばらく二人は、あれこれと相談を続けたのであった。
一方学食では、藍がひよのを呼び止めていた。
「助けて音呂木先輩。こう、都市内の常識を守ろうとすると『学園から出ない』が最適解なのです私……!」
なので、ひよのから、街の様子を聞いてみたい、という事となったわけである。
「十七女さんは、上手く隠せば街の外にも出れそうですけれど……まぁ、私の話でよければ」
ひよのはくすりと笑うと、希望ヶ浜と言う街の事を話し始めた。それは、地球の良くある風景と一緒で、藍は少しだけ、ホームシックになりそうだったのだ。
遼人は久しぶりの学園生活を満喫していた。チャイムに縛られる、規則正しい生活。それがなんだか懐かしい。
「音呂木さん。夜妖<ヨル>について、よかったら色々教えて欲しいな」
そんな学生生活の最中、遼人はひよのへと声をかける。
「ええ、構いませんよ。では、まず基本的な事から――」
夜妖<ヨル>についての講義が、始まろうとしていた。
「音呂木先輩! 次はこっちのお店に行こう!」
と、ひよのの手を引っ張って街を行くのは、秋奈だ。ひよのに街を案内してもらいたい――きっとそれは口実で、ひよのと遊びたかったのだ。
「もう、仕方ありませんね。後輩の頼みなら、聞かざるを得ませんし?」
くすりと笑い、肩をすくめつつ――ひよのは秋奈としばしの散策を楽しむのであった。
「ひよのちゃん、オリエンテーションぶりだね。ちょっと買い物に付き合ってくれないかな?」
ナイアのお願いに、ひよのは快く応じてくれた。二人で話しながら、希望ヶ浜の道を行く。オリエンテーションの事だったり、今後の事だったり。
「希望ヶ浜で目立たないように、服とか見繕ってくれないかなって」
「構いませんよ。ナイアさんには、どんな服が似合うでしょうね?」
二人は楽し気に、ブティックへと足を踏み入れた。
「これ、全部神秘が関わらない技術で出来てるのね。科学、物理、電気……私たちにとっては新鮮だわ」
ミシャが驚くのへ、リルカは口を尖らせた。
「魔術や神秘をないものとして扱うのはちょっと気にくわないだわさ。新しい技術体系が発見されたら、それはそれですっごく有用だと思うけどねぃ……」
「故郷を懐かしむ気持ちはわかるけど……召喚を受け入れられずにそこに閉じこもることを選ぶのは、なんだかちょっともの悲しい気もするよ……」
チャロロがそう言って、しかし、頭を振った。
「っとと、あんまり湿っぽい感じは無しだよね。久しぶりの学校で、しかも中学生なんだ! ハカセ、リルカさん! 学校生活には、何が必要なのかな?」
チャロロの言葉に、リルカはううん、と考え込むと、
「教科書や制服は学校から渡されるからねぃ……チャロロちゃんより、あたしとミシャの格好をどうにかした方がいい気がするだわさ」
「そうね、チャロロの普段着にも、こっちらしい服が必要かもしれないし。まずは、服を見に行きましょうか?」
ミシャの言葉に、チャロロとリルカは「賛成!」と声をあげる。こうして三人は、希望ヶ浜の商店街へ向かって歩き出したのだった。
再現性東京の街を、フェスタは行く。色々な店を歩き、様々なスポットへ足を運ぶ。
表面上は楽しそうに――しかし内心は、確かな忌避感のようなものを覚えていた。
「大丈夫、大丈夫……ホームシック、克服するんだから!」
だが、その忌避感はホームシック等ではないのだ。無意識に、過去の自分に戻ってしまうのではないかと言う恐怖――それを克服できるのは、いつになるのだろう?
「YO! オレはDusty Lyric奏でるBig Willie(大物) ぽんと飛び出す見知らぬStreet 仲間はぐれ一人佇むhood!」
希望ヶ浜の公園に、軽快なラップが響く。ダスティだ。ストリートミュージシャンは希望ヶ浜でも珍しくない。通行人たちが時折足を止め、ダスティの奏でる音楽に耳を傾ける。
「ノれるヤツは誰でもノってこいYO! 楽しもうぜ、即興ストリートだ!」
ダスティの誘いに、通行人たちからノリの良い返事が返ってきた。
制服を着て。二人で道を歩く。レオとシオンは、なんだか同級生になったみたいなくすぐったい気分だ。
「……あ。シオンさん、タピオカミルクティーあるよ?」
レオが声をあげる。タピオカミルクティーのお店。レオはシオンの手を引いて、お店に向った。二人分のミルクティーを買って、公園のベンチに座る。
「ありがとー、レオ」
シオンがゆったりと笑う。二人でタピオカミルクティーを飲むと、控えめな甘さとタピオカの触感が楽しくて、思わず笑顔になってしまう。
「えへへ。こういうのを放課後っていうのかな? 楽しいね」
控えめな笑顔に、
「ほうかご?」
シオンは小首をかしげつつも、
「うん、レオと一緒に来れて俺もとっても楽しいよ……ありがとう、レオ……」
柔らかな笑顔を、シオンは返すのだった。
トレーニングとは、日常ではやらない動きを行なうことで体や心を鍛えるもの……ゆえに、これはトレーニングなのだ……!
学校帰りの寄り道! 買い食い! 運動部の部活を終わった後はどうしてもお腹が減る! ワタシ、育ち盛り。シカーモ、運動して体が栄養を求めている。
お肉は? 栄養たっぷり! 傷ついた筋肉の成長にートテモイイ! つまりこれは修行! 修行なのです! 日常の中の非日常、修行なのです!
そんなことを胸中で叫びながら。風牙は学校帰りの買い食いに向った――!
シルフィナは、希望ヶ浜学園中等部での生活を送っている。制服はまだ届いていないが、いずれは袖を通してみたい。
授業内容は、分かるものもあるし、分からないものもある。でも、そのどれもが新鮮な体験と知識だ。
「給食も美味しいですし、図書館に部活……学校とは、楽しいものなのですね」
オニちゃんと、きりんさん。
友達になった林檎とオニキス・ハートは、お互いにあだ名をつけあった。
それから、希望ヶ浜学園を見学する。
「ちょっとした転校気分ですね。オニちゃんは、何かやりたいことありますか?」
たずねるきりんさんへ、
「部活とか、やってみたい。運動はあまり得意じゃないけど……」
オニちゃんは無表情ながら、どこか楽しげな雰囲気を纏って。
「きりんさんは、部活に入る?」
と、小首をかしげて尋ねるのだ。
「いやぁ、訓練ってガラじゃないね……ちょっと動いただけで体が悲鳴を上げちゃったよ」
教室で苦笑しながら、そう告げるのはロトだ。学園に集まったイレギュラーズ達や、ひよの達から、ここで起きた様々な出来事の話を聞いている。
「興味深い話だね。よかったら、もっと話してくれないかい?」
「此処が希望ヶ浜学園か……本格的に、学園に編入することになったら、ここに通うんだね」
操が屈伸などをしながら、希望ヶ浜の校門の前に立つ。まずは場所を把握してから、下見がてらに、周囲のお店なんかを探してみよう。
「この街に住む事になるだろうし、下見は必要だよね」
呟いて、一歩を踏み出した。この街には、どんなことが待っているのだろう?
二人でお揃いの制服を着て。手を繋いで。タントとジェックは、希望ヶ浜学園へとやってきた。
先導するのは、オリエンテーションにも参加したタント。数日だけでも先輩だ。及び腰なジェックの手を引いて、次々と施設を紹介して回る。
「ジェック様ジェック様! こちらには食堂がございますわー!」
「食堂? ごはんが出るの? 美味しいのかな?」
ジェックにとって、学園には不思議がいっぱいだ。
「如何ですかしらジェック様! 二人でならきっと学園生活もたのしいですわよ! 今度、一緒に入学してみましょうか!」
そう言って、太陽のように笑うタントをまぶしく思いながら、
「入学は……まだちょっと怖いけど。普段ここでどんなことをするのかは……気になったかも」
そういって、笑うのだった。
「おお、希望ヶ浜にもちゃんとゲームセンターがあるっすね!」
浩美は希望ヶ浜のゲームセンターに訪れていた。目的は、いわゆる音ゲーのプレイだ。
「最近は、いろんな機種が出てるみたいっすね……タッチパネル式だったり……種類も豊富っす」
反射神経の訓練にもなるだろう。浩美はさっそく、目についた機種にコインを投入した。
「2010年……って、私からするとちょっと昔の話なのですけれど」
ねねこは呟きながら、希望ヶ浜の街を歩く。
「うん、でも古き良き時代ですよね! 酸性雨は降らないし勉強も好きなのがやれるし犯罪じゃ無ければ寄り道しようが買い食いしても何も問題じゃないしaPhoneは情報規制もAI監視もないし!」
なかなか過酷な時代からやってきたようである。そんな『古き良き時代』の街並みを、ねねこは興味深げに眺めながら、行くのであった。
「前も来たけど、なんだか変わった街なのです……誠吾さんの元の世界も、こんな感じなのです?」
「ああ。元居た世界……『日本』ていう国にそっくりなんだよな」
ソフィリアの言葉に、誠吾は頷く。感じるのは、郷愁の念。似すぎているが故に、帰れないのだと実感する。
でも。傍らの小鳥が楽しそうで。そんな感傷も、吹っ飛んでしまう。
「誠吾さん、あそこでなんか売ってるのです!」
指さす先には、タピオカミルクティーを販売しているワゴン車があった。
「気になるか? ……興味あるなら飲んでみるか?」
「うん、一緒に飲んでみるのですよ!」
その笑顔に。こういうのも悪くない、なんて思ってしまうのだった。
希望ヶ浜学園を散策したい。出来れば、制服も借りたい。
そんなノースの願いは、果たしてかなえられた。ノースの居た時代からは過去の遺産、学校教育と言う現場に、ノースは居た。
なんだかソワソワしてしまう。空き教室の机に腰かけて、外を見てみれば、生徒たちが運動に打ち込む姿が見えて、その中の一人になったみたいな気持ちに、ノースはなるのだった。
ティは借り受けた学生服に袖を通して、希望ヶ浜の街を歩いてみた。
練達と言う都市は、分からないことがいっぱいだ。VRをはじめとする技術や、旅人たちの世界を模した都市。どれもティの好奇心を刺激する。
「今日は、東京の街を体験してみましょう」
この街の一員になったような気持で。ティは、希望ヶ浜を行く。
「なるほど見たこともない店がいっぱい」
ラドルファスは物珍し気に希望ヶ浜の風景を見つめていた。地球生まれでもないし、記憶を失っているラドルファスには、その風景がとても新鮮なものに見えるのだ。
ふと――ラドルファスは、ある店の前で足を止める。大食いチャレンジを開催している店だ。『特製ラーメン トッピングマシマシ 10㎏!制限時間内に食べきることができれば無料!』。
「ふむ……これはまさに自分の限界を超えるための試練。OKOK、任せろ」
果たして、そのチャレンジの結果は――。
物珍しい都市――ニコラスは希望ヶ浜の街を歩きながら、どこか息苦しさを感じていた。
其れは決して、不快感という訳ではない。街並みは奇妙に映るが、ここは平和で平穏な、良い街であるはずだ。
「──ああ、そういうことか」
ふと、呟く。
「転移してこの混沌に適応できない人がいるのは知ってたがよ。なるほど。その気持ちが少しばかり理解できたわ。自分を異物だと感じちまうこの感覚。経験してみねぇと確かに分からねぇな」
この国に来て、それが分かってよかった。そう思うのであった。
「不思議なめぐり合わせ、っていうのかなぁ」
沙耶はぽつりとつぶやく。そこは紛れもなく、故郷の世界の景色。だが、実際に東京に訪れたことは、沙耶にはない。でも。それでも。
「……なんだか、ホッとしちゃうね」
右も左もわからない異世界で、テレビ越しにしか知らない場所でも、自分がよく知る街がある。それだけで、なんだか嬉しくなってしまうのだった。
ェクセレリァスは夕焼けの、希望ヶ浜の空を飛ぶ。
街の地理の把握に努めて一日が過ぎた。なかなか大きな街だったが、大体の場所は把握できた。
そろそろ日も落ち切るだろう。学園に降りて休憩しよう。
日が落ちる。トレーニングの一日が終わる――。
成否
大成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました。
全員、名前の登場、描写等させていただいております。
もし抜けなどありましたら、FL等でご連絡ください。
それでは、これからの一年が、皆様にとって良い年であることを。
GMコメント
Re:versionです。三周年ありがとうございます!
今回は特別企画で各国に分かれてのイベントシナリオとなります。
●重要:『ローレット・トレーニングVIIは1本しか参加できません』
『ローレット・トレーニングVII<国家名>』は1本しか参加することが出来ません。
参加後の移動も行うことが出来ませんので、参加シナリオ間違いなどにご注意下さい。
●成功度について
難易度Easyの経験値・ゴールド獲得は保証されます。
一定のルールの中で参加人数に応じて獲得経験値が増加します。
それとは別に『ローレット・トレーニングVII』全シナリオ合計で700人を超えた場合、大成功します。(余録です)
まかり間違って『ローレット・トレーニングVII』全シナリオ合計で1000人を超えた場合、更に何か起きます。(想定外です)
万が一もっとすごかったらまた色々考えます。
尚、プレイング素敵だった場合『全体に』別枠加算される場合があります。
又、称号が付与される場合があります。
●プレイングについて
下記ルールを守り、内容は基本的にお好きにどうぞ。
【ペア・グループ参加】
どなたかとペアで参加する場合は相手の名前とIDを記載してください。できればフルネーム+IDがあるとマッチングがスムーズになります。
『レオン・ドナーツ・バルトロメイ(p3n000002)』くらいまでなら読み取れますが、それ以上略されてしまうと最悪迷子になるのでご注意ください。
三人以上のお楽しみの場合は(できればお名前もあって欲しいですが)【アランズブートキャンプ】みたいなグループ名でもOKとします。これも表記ゆれがあったりすると迷子になりかねないのでくれぐれもご注意くださいませ。
●注意
このシナリオで行われるのはスポット的なリプレイ描写となります。
通常のイベントシナリオのような描写密度は基本的にありません。
また全員描写も原則行いません(本当に)
代わりにリソース獲得効率を通常のイベントシナリオの三倍以上としています。
●任務達成条件
・真面目(?)に面白く(?)トレーニングしましょう。
・再現性東京の街で楽しく過ごしましょう。
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