シナリオ詳細
<鎖海に刻むヒストリア>永劫と不変の澱
オープニング
●『煉獄篇第二冠嫉妬』アルバニア
明日は今日より良い日になる――そんな言葉が嫌いだった。
『本来は限りなく広がる未来』に希望が存在している、無責任な担保が大嫌いだった。
明日は今日より悪くなるかも知れないし、希望は誰にでもある訳ではない。
少なくとも『煉獄篇第二冠嫉妬』アルバニア――『彼』の瞳に映る世界は空虚であり、永遠に叶わない望みをループさせるだけの茶番劇だった。
水平線の彼方に大艦隊が見える。
迎え撃つフェデリアの海には配下の魔種が自身に従う変異種、狂王種が来たる戦いを予感してその凶暴性を増している。
いざ、『この時』を迎えてアルバニアは考えた。
そして、朗らかな彼には珍しく心底不機嫌に舌を打つ。
(どいつもこいつも)
唾棄するようなその感情は海洋王国――そして酔狂なローレット、鉄帝国――に向けられたものであり、同時に自身を含む全ての魔種に向けられた嘲笑だった。
(――どうして此の世ってのはこうなのかしらねぇ)
『上手くいかないから人生だ』とは誰の弁だっただろうか、とアルバニアは考えた。
生憎と生まれてこの方人だった試しはない。悪魔の類が人生を考えるのはいよいよ哲学だが――それはさて置き、記憶の底に蟠り、擦り切れてしまう程の昔。この混沌に生まれ落ちたその瞬間から、アルバニアが何一つ変わって居ないのは事実である。七罪と呼ばれるオールドセブンは原初の魔種より直接生み出された分身体のようなものだ。尤も、それぞれに個性と意思、思惑を持ち。必ずしもその意識を一定に束ねる訳ではない。造物主に反乱する事だって簡単だ。力の多寡の問題は別にして。
その上でここで重要なのは『アルバニアが一個の精神を持った生物として、長い時の中でも基本的に不変である――完成した個体として定義された事』部分であった。
「明日はいい事がある、ねぇ。無かったわよ、そんなもの」
アルバニアは他者の『普通の生活』を妬む。
それは決して自身には与えられないものだから。
七つの罪の冠を被った自身が望んでも叶え得ぬものだから。
「希望は尽きない? 馬鹿いいなさいよ。アタシを何歳だと思ってるの」
アルバニアは取り分け『温かな感情と挑戦心』を憎む。
それは自身が諦め、最初から手放していたものだから。
七つの罪の冠を被る自身を取り巻く水は冷たく――何も応えてくれないから。
「いいじゃない。そこに居れば。何度も何度も――全滅させる事だって出来たのよ。
それなのに追い返すに留めて、辞めて来ないで侵略しないでって何度も何度も言ったじゃない。分からせてきたじゃない。それなのに……」
表情を歪めるアルバニアは聞き分けのない子供が嫌いだ。
夢を理由に、愛を理由に、この海に向かう全てが嫌いだった。
『七つの罪を被りながら生来、基本的な気質が邪悪とは縁遠く産まれてしまったアルバニアにとって、世界は生まれ落ちたその瞬間から煉獄だった』。
可愛いプリンにパンケーキ、お洒落も爪を手入れするのも好き。
たまには人に紛れて街を歩いて、火遊びをした事もあったけれど。
(でもね――)
『彼』はどうしようもなく魔種であり、どうしようもなく不変だった。
この世界に満ちる輝かしいものは悲しい程に己自身に相容れない。故に全て嫉妬の対象であり、燃え焦げる怒りを、不満を、呪いを鎮めるには冷たく静かな水が必要だった。
『絶望の青』と最初に誰が呼び始めたのかは分からない。だが、一番最初にこれを命名したアルバニアは唯一「正確な名称ではない」と指摘する事が出来る。
この海は墓標に過ぎなかった。
世界が終わる日まで不変、永劫の澱。
自身と人々を閉じ込める檻の本当の名前は――『アルバニアの絶望の青』だ。
だが、こうなれば最早是非もない。
『冠位のささやかな我儘』と『人間の強欲』。
或いは『人間の克己心』と『卑屈な冠位の泣き言』はもう力勝負をするしかない。
「馬鹿ね、皆。今更、分かってくれとは言わないし。
向こうからすれば冗談は辞めてって話かも知れないけどさ!」
独白めいたアルバニアはまるで確かな地面を踏みしめるように水上に立っている。
周囲の水が渦を巻き、敵を迎え撃つ『お姫様の城』を形作った。
アルバニアは生まれた時からこのままだ。その時点で完成している。
叶わない望みは当時と同じ鮮度を保ち、未だに『彼』の中に渦巻いている。
なればこそ、こうなれば分からないではない。否、分かるしかあるまい。
「ここを越えるのは、アタシを越えるのはそれでも捨てられない夢か。
アタシと同じ、どうしたって諦めきれない望みか、浪漫か――」
なればこそ――アルバニアはその魔性を、権能を解放した。
これまでのような『温い』戦いではない。追い返す為の戦いではない。挑戦者の全てを溶かしてスープにして、呑み喰らい、永遠にこの海を静やかにする為の。
『それは、むしろ漸く挑戦者達を真に認めたアルバニアの決断に他ならない』。
権能、発現――
おおおおおおお……!
――不穏な気配の爆発と共に絶望の青の風が啼く。
不定の気候が唸りを上げ、此の世の終わりの如く濁った清浄が渦を巻いた。
(元々イノリに頼まれてるのよ。アタシだけが頼りだって言ってくれないから。
いつもつれないから――真面目に聞く心算なんてなかったけどサ!)
もう一度だけ繰り返そう。七罪(オールド・セブン)なる個体は被造物でありながら、制御はされていない。それぞれが完全に独立した価値観を、意思を持っている。
『煉獄篇第二冠嫉妬』アルバニア――
『彼女』が生まれながらに抱いていたのは、何一つ変わらない激情は一つだけ。
女の子の一番の夢なんて、好きな人のお嫁さんになる事に決まっている!
●権能(嫉妬)(5/8追記)
一片の光さえ差し込まぬ暗黒の水底を絶望と呼ぶ。
ドロドロと全身に絡み付くその汚れた水は、まるで呪いのようだった――
冠位七罪――神にも等しき権能を自在に振るう大魔種は人智の理外の存在だ。
伝説の、御伽噺の中の存在でしかない彼等だが、少なくとイレギュラーズはそれが『本物』である事を知っていた。
当然と言うべきか、かつて天義――聖教国ネメシスで相見えた『強欲』ベアトリーチェがそうだったのと同じように、此度相対した『嫉妬』アルバニアも恐るべきまでの力でそんな彼等を蝕んでいた。
(どれもこれも使えない、と言いたい所だが……成る程、これはなかなかどうして)
特別機動艦隊――アルバニアとの決戦に赴くイレギュラーズを支援する海洋王国の中心戦力である。
その責任者たる提督――『黒死卿』ゼヴェルガ・ドラン・ヴァスティオンは荒れ狂う海、戦場の空気、そして何より『出現した異変』に揉まれ、思わず苦笑を浮かべていた。誇り高く冷徹極まる海洋王国の軍人、名門の長として『送迎』等という役割は彼の本懐ではなかったが、状況は彼の想定さえ超えていた。
大魔種アルバニアの権能は発現するなりこの海の自由を支配した。
絶え間なく響くは絶望の怨嗟。精神を支配し蝕む死の音色。そして何より問題だったのは強烈なまでの廃滅だ。強くなった廃滅の香りは健常だった船員を次々と蝕み、艦隊全体の機能性を急速に奪いつつあった。
(……鉄帝国(あちら)もそれは同じか。救いは化け物共も似たような状態という事か)
目を細めたゼヴェルガの分析は果たして概ね正解と言えた。
精強極まる友軍――グラナーテ・シュバルツヴァルト提督率いる黒鉄の船団の動きもおかしい。
行方を次々と阻む障害、即ち狂王種も廃滅の影響で体の一部がどろりと溶け出しているのは見て分かった。
「提督! また一人倒れました!」
「……」
「ハンスが! こんなんじゃ戦う所じゃねぇ――!」
「……………」
「提督、ご指示を! 提督! これでは撤退するしか――」
「黙れ。指揮官は私だ。貴様らに判断は求めていない。泣き言も求めていない。
海の藻屑になるか――いや、私の手打ちになりたくないのならば、持ち場で相応しい仕事をする事だ」
言葉は真っ直ぐにつまらない報告を切り捨てた。
……とは言え、圧倒的に人類よりも高い生命力を有する狂王共でさえ酷い有様なのだ。ゼヴェルガの冷徹さが一顧だにしない甲板の上は既に恐怖と混乱、惨劇に塗れていた。
(……実際の所、撤退か? しかし撤退すれば次は無い)
過去に冠位戦を経験したイレギュラーズはこれを想定していた筈だ、とゼヴェルガは読む。
詳細は不明だが、彼等がこの艦隊に乗り込んだ以上は何らかの策があるのだろうとも。
撤退か、進撃か、それとも死か――この海は何時も碌でもない選択肢しか挑む者に寄越しはしない!
●差し込む光
一片の光さえ差し込まぬ暗黒の水底を仮に照らす――照らせる光があるとするならば。
きっと、それこそ『希望』と呼ぶに相応しいのだろう――
「……提督!」
鉄帝国海軍中佐グラナーテ・シュバルツヴァルトに掛けられた呼び声はこれまでと違う声色を帯びていた。
「提督、先程まで苦しんでいた皆が――息を吹き返したようです!」
何が行われたかは知れない。
何が起きたのかも分からない。
唯――誰もが廃滅に苦しむ、アルバニアの権能に怯える戦場は絶望の青の荒天に光のヴェールが降りた時。
押されるばかりだった絶望的な戦局は全く別の顔を見せ始めていた。
俄然力を取り戻し始めたのは鉄艦隊だけではない。友軍たるゼヴェルガ・ドラン・ヴァスティオン麾下、海洋王国機動艦隊が持ち前の機動力を発揮し始め、狂王種達の群れを撹乱し始めている。先程まで恐ろしく動きを損ね、死に体と化していた彼我の精鋭艦隊が持ち前の力を存分に発揮しているのだ。
結論から言えばアルバニアの権能に抗するヴェールは空中神殿より降った『力の塊』である。
空繰パンドラの発出した一時の奇跡は強大な魔種の権能さえ脅かす。『ベアトリーチェが計算違いをしたのと同じように、それを理解していたアルバニアさえも抑え込む』。
影響はゼロではないが、随分と軽減した。
現状は戦えない程ではない。戦士達は権能の深い闇を切り裂き前に進む推進力を得たと言えた。
「……これが、卿等が有する奇跡――その一端という事か」
水飛沫と大波が軍艦を揺らす。砲撃での苛烈なる応戦を指示したグラナーテはイレギュラーズに向き直り静かに言った。
「理屈に合わぬ敵に加え、理屈を知らぬ味方か。さもなりなん、ここはそういう戦場だったな」
言葉は皮肉めいていたが、老獪な軍人の言葉に嫌味は無かった。
鉄帝に所属する軍人は、老いて益々盛んを地で行く男だ。代々の皇帝に仕え、その辣腕をふるってきた。
彼が欲するのは常に名よりも実。勝利のためには「鉄帝らしからぬ」策を取る事も多い彼は、意に沿わぬ自国の兵よりも、金と契約で動く傭兵を利用することも厭わなかった。なればこそ、彼は『極めて有用なるイレギュラーズ』に称賛と興味の視線を抱く事はあれど、忌避も軽侮等感じよう筈もない。一蓮托生となったこの戦場で『友軍に恵まれた』事に感謝するのみであった。
「向こうが背水の陣で挑むならば、此方も切り札を切るまでだろう?」
まず旧知の――『飢獣』恋屍・愛無(p3p007296)がへらりと笑って肩を竦めた。
「『皆の願いを一つに』だ」
「ああ」
愛無の言葉に、
「負けても何も減らないのならそこに賭ける必要性はないんだ。
でもね、ここで負けたら命が無くなる。皆の夢も潰える。ならば、ここで『外す』のは間違いだろうて」
「手遅れになるかもしれない人がいるし……それにサクラちゃんだって……
このままだといずれ……そんな未来には絶対にさせないんだから!」
『迷い狐』リアナル・マギサ・メーヴィン(p3p002906)が、『新たな道へ』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)が頷く。「私はともかく」と前置きした『聖剣解放者』サクラ(p3p005004)もまた 「とりうる選択肢は乾坤一擲!」と意気軒高。
イレギュラーズが戦いに臨む動機は様々だ。
この先を見たい――当然の事だ。
魔種と因縁がある、許せない。これもまた然り。
誰かの為に、なんて掃いても捨てられない程の理由になる。
(どうかお願いです。僕のことを愛して欲しいなどと申しません。
だから、せめて、ジェイク様に生き延びて欲しいのです。
貴方が生きていない、この世など僕にとっての絶望です。嫌われたっていい。だから、お願い。生きて――!)
きっと『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)のように愛しい誰かの為に祈った者だっているだろう。
ともあれ、数多くの特異運命座標が気持ちを一つにした時、神殿が――ざんげが、彼女が司る神託がこの戦いに『違う結末への可能性』を与えた事だけが厳然たる事実だった。
アルバニアの権能が弱まった今こそが唯一のして最大の好機。
同時にパンドラの奇跡が終焉(じかんぎれ)を迎えれば永遠にこの海は鎖海と化す。
この瞬間こそが、運命を選ぶ分水嶺であった。
●逆撃の時
「ドレイク――幽霊船団が動き出しました!」
第三勢力の動きが叫ばれ、三つ巴の戦いはその激しさを増していく。
「『御伽噺』を倒す、か」
鼻を鳴らしたゼヴェルガに応じたのは『おさかな』カタラァナ=コン=モスカ(p3p004390)だった。
――うちて かえりて なみうちぎわに
よぶこえ いまは とおく とおく♪
「やろう。できることがあるなら、やらなくちゃ。それでこそ人間じゃない?」
状況がどれ程絶望的であっても、最悪を極めても。
可能性の獣はその先の勝利を、未来を見据えている。
これまでも、これからも、この先も――
「これは只のワガママです。
極論、海洋王国も魔種も――世界の滅びだって僕にとってはどうでもいい。
この海の果てに行きたい、その景色を見たい、その地の人々に会いたい。それだけの僕のエゴです」
『泳げベーク君』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)の言葉は静かに、そして力強く響く。
「いいえ」と首を振ったのは『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)であり、
「仲間たちの、生死がかかっているのです!」
「ぶはははは! 違いねぇ!
ドカッと使うのはなかなかに気が引けるが、ここでケチって知り合いが死んだら俺ぁ寂しいしな!」
それに応じて豪快に笑う『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)だった。
「はい。破局には備えるべきでしょう。
備えるべきなのでしょうが、此度ばかりは――拙が求むるは拙の守るべき方の為の力。
強欲に、傲慢に。立ちはだかる全てを捻じ伏せ、この手からあの方の熱を奪わせぬ為に。
奇跡の対価に、誓いましょうや。必ずしもやこの悪夢を打ち破る事を――」
『玲瓏の壁』鬼桜 雪之丞(p3p002312)は、
「休んでろって言っても止まらないやつがいる以上流石に緩くなんて言ってられませんよ。
……ここまでやるからには絶対勝ちますよ、いいですね?
『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)は。最早一分たりとも揺らがない。
「ここに来るまでたくさんの積み重ねがありました……
今回勝てなければ今後一切チャンスはないでしょう。今更後に引ける訳がねーですよ」
「女王陛下の号令は下った。俺はただ従い、この海を踏破するのみ。
そのためなら俺のパンドラすら使い切ったってかまわない」
「少なくとも撃破は必須だ。その懸念材料を潰せるならば、全力を出さない理由は無いだろう?」
『マリンエクスプローラー』マリナ(p3p003552)、増してやそれ以外の事なんて――そう言った『大号令の体現者』秋宮・史之(p3p002233)に、『二代野心』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)がニヤリと笑う。
「賭けるチップはシャカリキ貯めた『奇跡(パンドラ)』だ。
きっとこんなに使っちまえば後々苦労すんだろうな。きっとそん時にゃ死ぬほど後悔する。
けどな、そんな事は知った事じゃねぇ――未来の事はそん時の奴ら、そん時の俺の仕事だ。
出し惜しみして後悔するより、全力出し切って後悔する方を選びてぇ。
見果てぬ浪漫を求め続けて、海洋がやって来た事と一緒だ。きっとそれは同じなんだよ。
つー事でよ、絶望の青を希望の蒼に変えてやろうぜ!」
「訪れる死をこれ以上待つなど御免被る!
勝利にそれが必要と言うならば人の欲を以って叫ばせて貰おう!!
貪欲に真っ直ぐに絶え間なく――全ての瞬間に『奇跡を寄越せ』と!!!」
『蛸髭 Jr.』プラック・クラケーン(p3p006804)の、そして『大号令に続きし者』カンベエ(p3p007540)の決意の『演説』に『虹を齧って歩こう』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)が気を吐いた。
「この海を超えて、この脅威を超えて!
足掻いて、無様でも。いっぱい、頑張って! 全力で足掻いたその先にしか、未来は無いんです!
イレギュラーズも、この号令も未来をこの手で毟り取る為に戦うんですよ!
使ったら――そんなの私らがすぐに取り戻します! ここで使わねばいつ使う!」
大きな瞳に決意を燃やしたウィズィはこの瞬間『普通の女の子』では無かったかも知れない。
「この決意にどうか力を。この覚悟にどうか未来を」。祈る『相方』の姿は頼もしく。
「この絶望の海を切り裂き、果ての朝日を掴み取りましょう。『神がそれを望まれる』」
涼やかに目を閉じて祈るように言った『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)の口元には微かな笑みが浮いていた。
「この海を絶対に超える、運命を絶対に超える。俺は自由に羽ばたく鳥だからな!」
「ああ。ローレットは嵐だ。嵐の海はヤバイが、珍しい魚も取りやすくなる。
……ここまでやった。ここまで来たんだ。上手いこと舵を切ってくれよな、ソルベ様よぉ!」
今更何を言うまでもなく。
『鳥種勇者』カイト・シャルラハ(p3p000684)と轡を並べたファクル・シャルラハ少佐の得物が目前の敵を貫き――海が吠えた。
全ての運命はこの海へ還るだろう。
(海洋の民としてのわがままかもしれないけれど……
お父様。あの日以来言いそびれていた気がしますが、今度こそ。『いってきます』!!!)
『光鱗の姫』イリス・アトラクトス(p3p000883)は想う。
幕は上がるのだ――いや、最早上がったのだ。
拍手は後。冷静に、情熱的に、狂騒に、そして静粛に。
愛も夢も時間さえも欲も浪漫も。忘却の彼方に飲み込んで――全てを決する戦いはまさにこれより始まるのだから!
- <鎖海に刻むヒストリア>永劫と不変の澱Lv:25以上、名声:海洋30以上完了
- GM名YAMIDEITEI
- 種別決戦
- 難易度VERYHARD
- 冒険終了日時2020年05月24日 23時00分
- 参加人数100/100人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 100 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(100人)
リプレイ
●永劫の中の刹那I
「急な訪問なのに随分と熱烈な歓迎だねぇ」
呆れ半分、感心半分にメートヒェンが言葉を零した。
「何が何でもここで阻止する構えって訳か。
……でも、こちらも仲間の命がかかっているんだ悪いけど打ちのめさせてもらうよ!」
彼女が――連合特務艦隊の上から先を見据えるイレギュラーズが見た光景は、『絶望の青』と呼ばれたこの海を全て象徴するかのような悪意にばかり満ちていた。
言わずと知れた狂王種、哀しみを背負う変異種達。魔種、幽霊船、強く臭う廃滅病――
確かに遥か悠久の時を積み重ねても変わらないものはある。
引き延ばされた時間は経過に価値を見出さず、永劫不変の澱は『そのまま』ならばきっと永遠に無為を積み重ね続けた事だろう。
しかし、どれ程長い時間を担保にしたとて。どれ程強固に変化を刻む事を拒んだ者がいたとて。『恐らくは、何かが変わる瞬間は刹那に過ぎないものなのだ』。
「いよいよ魔種との決戦ですね……
これに参戦したともなれば私にも箔が付いて、仕事の依頼も大量に舞い込む事でしょう!
……ふふ、凡人の底力の見せ所です!」
奇しくも『未来(さき)』を見るきりの言葉はここに到った理由となろう。
全ての始まりは遥か時間の彼方である。
全ての結実はこの瞬間、無駄な二十一回を数えた海洋王国大号令に集約される。
百年の時間さえ一眠りに飲み干す絶対の海が今この瞬間揺れていた。万分の一に満たない時間、大気に迸る稲妻の如く。現状を維持するのか、それとも永遠に姿を変えるのか――遂に訪れた二択に強く揺れていたと言える。
(それにしても、冠位か――)
不定の天候に漂う濃密な魔気ときりの一言に身を竦めた主人=公は内心でごちる。
(――どうしてこう七罪ってヤツは存在自体が厄介なんだ!
魔種だからって言えばそれまでなのかもしれないけど! 限度がある!)
今この瞬間にも激しさを増す乱戦も『幾分かマシになった結果』でしかない。
……緒戦で決戦に向かう誰をも圧倒したのは冠位魔種アルバニアの権能だった。総崩れ状態になりかけた特務艦隊を『引き戻した』のは主人=公がちらりと見上げた空の彼方、空中神殿のざんげによる干渉に他なるまい。イレギュラーズの意志を汲んだ彼女の起こしたパンドラの奇跡がこの道を行く誰をも助けるのは明白だったが――
「時間がないからね――アルバニアを守る魔種たちや狂王種達、皆まとめてやっつけるよ!」
――虎のように吠えたソアの言う通り、この戦いが時間との勝負になる事もまた確実だった。
ざんげの降ろした光のヴェールはフェデリア海域全体を包み込んでいるが、主人=公が感じた冠位魔種の色濃い気配は減じてはいない。『根絶した訳ではなく、効果を遮断しているに過ぎないならば、ヴェールが解ければその先は想像するに難くない』。
「行くよ! 鮫や烏賊なんかより虎の方が強いって見せちゃうんだから!」
犬歯を剥き出したソアが大口を開けて自身を脅かした鮫の一撃を避け、強烈なカウンターをお見舞いする。
彼等、決戦に赴く特務部隊の最終的な目標はこの海の支配者――アルバニアを撃破する事である。
海洋王国、鉄帝国、ローレットより最精鋭を集めた決死部隊は艦隊機動により敵陣を深く突き進み、最後方でフェデリア海域全体の指揮を執るアルバニアの首を狙っている。
彼等の役割分担は主に五つに分かれている。
まず、第一。海洋王国と鉄帝国の艦隊戦力――海軍軍人達の受け持つは『足』だ。洋上の戦いに足場と運搬が必要なのは言うまでもない。イレギュラーズ達を運び、支援し、後退や救命のチャンスを残すのが彼等の絶対の役割である。
第二、イレギュラーズは敵陣を貫かなければならない。【攻撃部隊】として力を振るう戦力は連合艦隊の先鋒部隊に乗り込み、数限りない妨害戦力を悉く叩く役割を背負っている。彼等の奮闘なくしてアルバニアへの道は開けない。更に言えば冠位へ対抗するべく力を温存する【撃破部隊】を消耗させてしまえば、作戦は成功しないだろう。
第三、イレギュラーズは自身等の寄る辺となる連合艦船を守り抜かねばならない。足場と機動力を失えば海を主戦場とする狂王種共に勝つ事は不可能だ。【防衛部隊】の仕事は兎に角一隻でも多く連合艦船の航行能力、支援能力を維持する事。彼等は魔種陣営に加え、二正面作戦を取る幽霊船――大海賊ドレイク勢力をも相手取らねばならぬのだから、簡単な仕事では有り得まい。
第四、つまり【撃破部隊】こそアルバニアの首筋に突き立てられるべき刃である。『本作戦の全ての戦力は、戦いは、作戦は『彼等がアルバニアを仕留める前提の上に立脚している』。彼等はどれ程に苦しい局面があろうとも最後の力を振るう瞬間まで『温存』を求められる。アクア・パレスなる敵の拠点に乗り込み、かのアルバニアと相対するには万全でも全く足りない事が推測されるからだ。仲間を信じ、バトンを受け取り。全てを決めねばならぬ彼等の双肩にかかる責任は重過ぎる。
最後、第五の役割が【救援部隊】である。彼等はこの戦場に、この作戦に許された僅かばかりの遊撃、最後の希望であり、調整弁である。危機・苦難を救うと言葉で言えば簡単だが、彼等は最後の防波堤なのだから成らずが意味するはそう軽いものではない。
――ドン、と。
遠雷の如く轟音を立てる一斉砲撃が向かってくる化け物共の巨体を揺らがせた。
立て続けに発射されたカルバリン砲が幽霊船の接近を阻んでいる。
鉄帝国艦隊の旗艦は後ろに引っ込むでもなく前線より奮戦を続けている。弾幕を抜けた小型の狂王種(デビルいわし)を愛無の首落清光――小型のチェーンソーが『ひらき』にした。
「冠位に挑む艦隊指揮官。武を誉とする鉄帝。聞こえは良いが、とんだ貧乏籤だろうに」
「ふん。減らず口は変わらんな」
救援と皮肉を提督グラナーテは鼻を鳴らして一蹴する。
「相変わらずの『嫌われ者』で安心した。とはいえ、クライアントは大切にしなければいけない」
何処まで本気か、戯言か。愛無はへらりと笑って次を見据える――
「これが正真正銘の最終決戦っスね。アイツを倒して、絶望の海の向こう側に絶対行く――
冠位だろうが廃滅だろうが、んなもん乗り越えてやるっス!」
葵の気合が澱んだ海の空気を切り裂いた。
「始めるっスよ、キックオフだ!」
距離を取っての強烈な一撃が船に取り付きかけた狂王種の一体を弾き飛ばした。
「おー、向こうも躍起になってるなぁ。
これに押し切られてしまっては、アルバニアを討滅しても道連れという訳だ。
……ならば、撃破部隊が戻ってくる場所は守らねばなるまい?」
「よし来た、バッチリオレ達に任せとけ!」
葵と同様に防衛で力を発揮するフレイが自身の防御を固め、敵の注意を引いた。歯を見せて不敵に笑った洸汰もそれは同じで、前に出ながら敵の威圧を防御的に食い止める。
「オレもいるから大丈夫だ! だから無茶すんなよー?」
幸か不幸か混沌において『英雄』の道を歩む洸汰(イレギュラーズ)の言葉は周りの兵をどれだけ勇気づけるものか。
権能は言うに及ばず、権能なくしてもこの海で最強を誇る敵の布陣は簡単に食い破れるものではなかった。両国艦隊は攻防役割を持つイレギュラーズと共に奮戦し、退路を気にするよりも前に進む――それだけの覚悟を以って進撃していたが、盤面を塗り替える速度は遅々としたものだ。【攻撃部隊】がベストを尽くしてそれならば、彼等【防衛部隊】の仕事は十分な時間を稼ぐ事となろう。
「……やれやれ、だ。火力ないのはキツいかな!」
受けては払い、フレイはそんな風に嘯くが……
状況は完全な拮抗ではない。作戦は確かに『効いている』。
権能を抑え、決死の覚悟で挑む連合軍の勢いは敵の防御を幾分ばかりか上回っているのだ。
「アルバニアが倒れた……って報せを聞くまでは、倒れるわけにはいかねぇ!
逆転ホームラン決めるまで、最後までマウンドに立ってやるんだからな!」
【防衛部隊】は忙しく、同時に【攻撃部隊】は最初から本気そのものだ。
「死にゲーで初見クリア強要するクソゲー会場はここかにゃ?
……何か逆にテンション上がってきたにゃ。よっしゃ、RTAにぶっ飛ぶすにゃー!」
「抵抗が低いルルにとってこの戦場は最悪っですがっ!
窮地を脱して勝利という宝を手にしてこそ真のトレジャーハンターと言えましょう!!!」
シュリエの何とも言えない台詞にルルリアがここぞとばかりに呼応した。
現場は確かに無理難題――シュリエに言わせれば『クソゲー会場』――に違いあるまいが、【攻撃部隊】――【狐兎猫】を形成する彼女達のやる事はシンプルだ。
「仲間達を救って、大切な人と一緒に帰る――私がやるべき事はそれだけよ!」
即ちそれは目前の壁を叩いて潰して踏み越える事のみ――気炎を上げたアンナが連携良く、先の二人に『ぶっとばされた』大烏賊の反撃を代わりに受ける。
「幾らでも……そうね、私達と根比べといきましょうか……!」
【狐兎猫】の三人のみならず、攻勢に出る【攻撃部隊】はまさにその死力を尽くしていた。中でも大部隊を形成した【衝角】【暁剣】の二チームは双方で競い合うように敵陣にその威力を突き刺していく。
「負けられぬ戦程、我が旗は強く立つ。
今此処に、我らこそが英雄たりえる者だと知らしめよ――!」
謡うように高らかに、玲瓏たるベルフラウの声が『力』を呼び起こす。
「戦いの痛みも、無念も。海に散った全ての者の痛みに比べれば砂の一粒にも及ぶまい!!」
「絶望の青の航海もここまで来たからにはもはや一蓮托生でござる。
この嫉妬の嵐を乗り越えて――皆で絶望の果てへいざ行かん!」
「いや、まったく――『とうとう』決戦だな!
今日の俺は露払い。撃破部隊の連中を送り届けるのが仕事だ!
バケモンの群れの中にでっかい風穴を開けてやるぞ!」
ベルフラウや咲耶の声に舌をなめずったのは戦いへの高揚故か。
【衝角】の一角――ラムよりも禍々しい角と大剣を振り回すルウが豪放磊落に笑い、
「狂王種たち……彼らも我々の先達か。
だが、今の私に――私たちに出来るのは力を示すことだけだ。
君たちがどう思おうと、勝手にその無念と夢は背負わせてもらうよ。
さあ、まずは道を拓こうか!」
「アタシ達はツヨイ。生きて帰ってきてしまう。
ファイトいっぱーつ!水に潜れる強壮薬飲んで気合いいれるヨー」
ゼフィラも、鈴音もまた仲間達の闘志を、精度を、冷徹を。文字通りに『引っ張り上げる』。
「潮風で髪が痛むのにも――すっかり、海にも慣れてきたな」
苦笑交じりに言葉を漏らしたのはラダ。
彼女をはじめとした【衝角】の面々はその名に相応しく先頭艦に乗り込み、最先鋒を勤め続けている。強力なイレギュラーズの部隊は個々が戦闘しても強靭だ。だが、この部隊は個人が単に暴れるに留まっていない。ベルフラウの詩が勝利を称え、ゼフィラの声が吶喊を祝福し、鈴音の旋律が守護する。そんな部隊の統制を取り、その有機的連携を更に生かすのはラダの視野であり、指示なのだ。
「進路確保が最優先! 撃破より排除が優先だ!
逃げれば追わず、ただもう一発は撃ち込んでやれ! 逃げた先がその死地だ!」
ハイセンスを用い、広範の視野より最適解を叩き出す。
索敵と指示、同時に自身の手による撃破を並列するラダに周囲の仲間も良く応えている。
(アルバニアの気持ち、嫉妬の感情はわかるよ。でも、止めないと)
分かたれた以上は、こうなった以上は是非もない。アクセルの放ったルーン・Hが広範に敵を叩き、その動きを鈍らせた。
(進撃を早めれば、狂王種達をドレイク艦隊からの盾に出来るかも――)
アクセルがちらりと視線を投げた先には連合軍と魔種双方を敵と定めるドレイク艦隊の動きがある。恐らくはドレイク自身が乗り込む座艦『ブラッド・オーシャン』は未だ動きを見せていないが、幽霊船の脅威は確かにそこに存在している。狙いこそ読めないがドレイクに考えがあるというならば、その危険性は何倍にも跳ね上がろう。
(撃破部隊をなるべく完全な状態で、アクアパレスにおくりだせるように……)
前方の魔種の指示を受け、次々と襲い掛かってくる小型狂王種にコゼットが立ち塞がった。
「みんなで道を切り開く、よ……!」
目を大きく見開いた彼女の見た敵の動きはスローモーションのようだった。
一撃、身を翻してこれを避ける。二撃、屈んだ彼女の頭上を刃物のようなヒレが薙ぐ。
三撃、ぴょんと跳んだ彼女に一歩敵の触手は届かない。
「――っ!?」
四撃、苛ついた魔種の放った光撃を、
「そこまで、です」
桜狼――魔刀で斬り散らしたのは『玲瓏の壁』雪之丞だった。
「周囲の引きつけはお願いします。ここは拙が」
同じ壁でも圧倒的な回避を武器にするコゼットと金剛石の如き堅牢を発揮する雪之丞は質が違う。多数の相手を翻弄するならコゼットが勝り、たった一の強敵を抑えるならば雪之丞が向く。
「……ごめんね、お雪さん。付き合って貰っちゃって」
「何、お気に召されますな。拙とてこの道は拓きたいのです。
御安心を。リアさんも、しっかりお守りしますから――」
強靭なフロントを形成する仲間をがっちりと支援するのはリアの存在である。
(どんな場所でも、何が起きても――皆はこの手で支えてみせる!
シスターらしく、絶望すらも塗りつぶす、強い希望の光になってやる――)
「……約束、です」
今ここには居ない――別の場所で戦う蜻蛉と、リアと。どちらも決して違えぬ、と。幽かな笑みでその守護を請け負った雪之丞とこのリアが組めば突破するに容易ならざる壁となろう。
少女(リア)の決意は本物で。
(――そんでとっととこの匂い取り除いて、あの方にちゃんと胸張って会えるように!)
廃滅の気配にその肩を震わせ、愛しい人に会えない悲しみに胸を焦がす『らしさ』もまた本物だった。
「お嬢様とまたお逢いする為に――お逢いするだけではなくて!
ええと、その……お茶したり、お買い物したり、それ以外にも、ちょっと不遜な事も含めて!
ええ、そう。そうよ。実際我(わたし)は――ここで、こんな所では死ねないの――!」
一方で声と共に全力――『破軍』をぶっ放した乙女も居る。
魔種陣営を薙ぎ払うかのような暴力装置は放たれた理不尽な台詞に匹敵するような災厄だ。
本来ならば海風はお肌に悪い。元々はカードの具現化であるレジーナにとってみれば、絶望の海は最悪のロケーションだ。だが、虎穴に入らねば虎児は得ず。彼女の愛しいお嬢様は何時でも嗜虐的で、彼女を捕まえるには自分が強くなる以外無いのは必然だった。
「緋色の流れ、咲き乱れなさい!
……まぁ、大変ねえ。相手がリーゼロッテ、じゃね」
肩で息をするレジーナの隙を埋め、こちらは全く優美に敵を叩くのはシャルロッテだ。
彼女もまたリーゼロッテとは親しいが、面白がっている所もある。
「奇しくも相手は嫉妬――アルバニア、か。
身勝手な感情を永遠に燻らせたまま、眠りなさい……って所かしら?」
「どっち道――のんびりしてられる状況じゃないんだ、蹴散らすよ!」
痺れを切らして海上より船に乗り込んできた魔種と狂王種を「歓迎!」と言わんばかりに射程に捉えた天十里の攻勢が捕まえた。
(撃破部隊を送るためにも、数を減らして戦線を切り開かなきゃね!
とにかく前線の優勢確保と維持を優先、抜けた敵は防衛部隊に任せる……
他力本願かも知れないけど、今はそれしか――)
それしか、ない。
歯を食いしばる。
不確定要素だらけの戦場で他人に仕事を任せるしかないのは強い不安要素になる。
だが、誰一人欠けても、どのピースが足らずとも上手くいかない戦場なのだ。
歴戦を共に超えて来た仲間を信じるしかない。見果てぬ野望に命を燃やす海洋王国を信じるしかない。戦いこそ全てと価値観を持ち、強敵として立ちはだかる事もあった鉄帝国を信じるしかない!
激戦は続く。
戦場全体を見回し、状況を分析する者は敵陣にも居た。
「……流石に、手強い」
一人呟いたのは嫉妬の権能の抑制を察し良く理解し、動きを変えたミリガンテなる魔種だった。彼の指揮下にある魔種勢力は連合艦隊を狙っているが、幾ばくか軸足を遅延と防御に移している。
(最悪、どうする? アルバニア様を退避させてしまえば時間切れは十分狙える。
フェデリアは突破されようが、時間勝負ならばまだ目はあるが――)
冷静な性質のミリガンテはそれが『最高勝率』である事を理解している。
フェデリアの激戦を経た連合艦隊は『絶望の青』の航海に耐えぬ可能性が高くない。
しかし、そんな彼の計算に大いなる邪魔を入れる要素がある。
(――忌々しい、ドレイク!)
戦いの第三極として存在する海賊ドレイクの勢力は実際の所を言えば彼の乗る旗艦と幽霊船団の集団である。『頭』であり『実』はブラッド・オーシャンのみであり、それ以外は使い捨て。アルバニアが『絶望の青』を何人にも超えさせぬというこだわりを見せる以上、単艦航海で突破しかねぬドレイクを叩かずして先の戦術は使えないに等しい。
二正面作戦を展開し、連合艦隊と魔種勢力双方に攻撃を仕掛けるドレイクはイレギュラーズにとっても頭痛の種であったが、魔種にとっても首筋に突き付けられた匕首が如しなのだった。
(……どうする……?)
考えても簡単に解ける問題ではないが――ミリガンテに与えられた沈思黙考の時間は、実際の所、そう長いものにはならなかった。
「……勢いが、強い!」
連合艦隊の進撃が徐々にその速さ鋭さを増していた。
多少の消耗、危険に構わず――仲間達にそれを任せる――彼等は一本の槍のように闇を突く。
ミリガンテが思わず憎悪の視線を向けた先には【暁剣】の面々が居た――
「アルバニア…皆が苦しんでる廃滅病の原因。ついにその姿を現した……
レアータも……いえ、感傷に浸ってる場合ではないわね」
「そうなのです。積み重ねたのは私達だけじゃない……
散っていった海の男達の魂がこの船に乗っているんです。
アンタさん達を倒して、絶対に希望へとたどり着いてみせるのです……!」
彼方、アクアパレスに君臨するアルバニアを見た時、Erstineは胸にこみ上げる強い感慨を抑え込む事が出来なかった。吹き抜けた絶望味の潮風に目を細めたマリナは同じく静かに決意を燃やしていた。
誰が呼んだか青海の女神、海戦の守護天使……
『船が船の機能形状を保つ限り沈まずの加護をもたらす』彼女は【暁剣】の足場を作る意味で最高の存在である。マリナ擁する【暁剣】は鈍重な軍艦より中型船に足を変えた切り込み役だ。
硬質の音が無残に弾ける。
強大なる狂王種の爪牙さえ、肌に触れるより先に弾き飛ばしたのは獰猛に笑うハロルドだ。
「魔種どもが……俺は天義でのことを一生忘れん。必ず皆殺しにしてやる」
依然厳しいままの戦場においても、敵陣を切り開く【暁剣】の場においても、彼の存在感は際立っていた。二種の完全防御付与を併用し、持ち前の充填能力で完全に場を支える……小技の利く相手ならばハロルドに対抗策を見出すやも知れないが、力任せの狂王種(バカ)が相手なら、彼の存在は完璧なる楔となった。攻撃を自身にかき集めるハロルドはまさに不倒の壁である。
「クロバ! アルテロンド! テメェらは無茶すんじゃねぇぞ!」
「無茶しないで済む状況なら、喜んでそうさせて貰うけどな」
戦場の空気に染まってか。些か荒っぽくなったハロルドの調子にクロバが軽く肩を竦めた。
一方でシフォリィの方は「はい!」と素直な返事をしたが、クロバはそんな彼女をごく自然に己が背に庇うような位置取りで戦いを進めていた。
「さて、じゃあ――『無理をしない程度に』。
『身内』に迷惑かけたツケをここで清算だ。
切り開くんだ、終わらない夜を否定し、明日の暁を迎える為に!
廃滅を終わらせる為の道を創る!」
「ええ。冠位魔種がどれ程強大な存在であろうとも――
私達には大事な人達の命もかかっています!
嵐渦巻き波逆巻く絶望の海に、今こそ夜明けをもたらしましょう!」
言葉とは裏腹に強く踏み込んだクロバが敵の一を穿ち、すかさず連携良く動いたシフォリィが仕留めに掛かった。
「ソウソウ! 個人的にも――鉄帝からも援軍が来てるしカッコウ悪いところは見せられないね!
ローレットの暁剣此処にアリ!この海に散りたいヤツからかかって来なよ!」
大立ち回りを見せるイグナートが「カッコウつけすぎかな?」と軽く笑う。
「オレたちはゲキハ部隊の道を切り開く!
その為には……やはり、ヤツか!」
『業壊掌』のその名に恥じず、暴れに暴れるそんなイグナートが彼方洋上の敵を見据えていた。
「廃滅病が弱まっている事は、向こうにも利点なんだろうが――面倒くせぇな。
白黒ハッキリつく方がまだ気持ちがいいってモンだぜ」
舌を打つ義弘も前線での戦い、その肌感で変化を感じ取る一人だった。
断続的に続く攻撃は何時の頃からか妨害の色を強め始めていた。権能の働いていた時のような本気苛烈の攻めではない。そして遅延と妨害を目的にした敵の戦い方は悪戯に連合軍の時間を奪っている。
「どうやらこれが『ミリガンテ』か。どっち道、あの頭を叩く以外は無さそうだな――」
義弘の言葉に何人かの仲間達が頷いた。
【衝角】の突撃力で分厚かった敵陣は既に綻びを見せていた。
そこに【暁剣】が切り込んだ事で、ミリガンテは手の届く(チェック)の位置まで接近している。
優秀な統率の取れた敵と烏合の衆はまるで別物である。ましてや戦闘的な狂王種の大半が知性では連合軍に及ばぬ事を考えれば、やはり【暁剣】が討ち取るべきはミリガンテに違いなかった。
「このままではジリ貧です。ここで、仕掛けなければ」
その手に星屑のオパールを握り締め、ラクリマが声を張った。
長期戦を望む相手にお付き合いする事は敗北の一因に他ならない。元より【攻撃部隊】の役割は余力を残す事でも艦の安全を保持し続ける事でもない。『それは他の仲間の仕事であり、彼等が為さねばならぬのは前のめりに倒れる事だ』。
(別々の場所で戦っているはずなのに。
これを身に着けていると貴方がそばにいるようでとても安心します――)
ラクリマの心に温かき守護をもたらすのは何処かで奮闘するライセルか。
何れにせよ、泥沼の消耗戦、酷い乱戦は徐々に加速し――より本格的なぶつかり合いへと変化していく。
距離を詰める。
どんどん詰める。
目標は魔種ミリガンテ。更に言えばその先のアクアパレス――アルバニア!
「一身上の都合により、この海洋での活動は控え目となっておりましたが、報告書には目を通しております。嫉妬の冠位魔種、その在り方に思うトコロが無いでは無いですが……」
狂王種の体当たりと大波が横殴りに艦を揺らす。通常ならば転覆や沈没をしてもおかしくない衝撃だが、何せこの船にはマリナが居た。バランスを崩した者が居た一方で、このドラマはミリガンテを守るように向かってきた一体の魔種を正面から真っ直ぐに迎撃する事に成功していた。
「我々は、物語の勇者達を『大舞台』へと押し上げる為の、露払い。
しっかりと勤め上げ、道を切り開くと致しましょう!」
可憐な姿に似合わぬ程の構え、振る舞い。それは参じぬ師匠も満足気に見つめるであろう威風堂々に他ならない。「修行の成果をご覧あれ」とばかりに前に立ち続けるドラマは何年か前の弱々しさをもう殆ど残していない。複腕と触手を次々と繰り出す魔種の攻勢に傷付きながらも、二歩下がりこれを捌き、堪えるドラマは目前の敵に対して怯んだ様子はまるでなかった。
(この位、レオン君の方がずっと意地悪ですから――!)
反撃を打ち込んだ彼女の脳裏に過った切っ先は自分がどれ程懸命に追いすがってもからかい半分で全ていなしてしまう『彼』との稽古のシーンである。成る程、この程度驚くべきものか。
「まさか、これ程やるとは……いや。
『だから貴様等はこの海域まで到ったのだったな』!」
洋上を滑るように移動するミリガンテが後退した前線に飲み込まれ【暁剣】と相対する。
「ここが勝負所。乾坤一擲、押し通ります……!
魔種ミリガンテ! その首級、獲らせて頂きます――覚悟!」
すずなは一瞬の刹那を見極め、身命さえ惜しまず深く踏み込む。
より速く、より強烈な一撃を繰り出す布石より到った鬼灯は瞬の四段。
「……っ……く……!」
自身が強大なる魔種たるミリガンテは唯の一撃に屈するような敵ではない。だが、彼はこの時、錯覚か目の前の敵より強い威圧を受けていた。
すずなの――イレギュラーズの、連合軍の迸るような意志の力はアルバニアの支配していた海をこの時確かに別の色に変えつつあったのかも知れない。
●永劫の中の刹那II
「俺、この戦いが終わったら告白するんだ、とか何とかさ。
死亡フラグ立てとけばワンチャンあるだろ! つーか生きて帰らなきゃ恨まれる!」
冗句めいたクリムの言葉はその実、全く大いなる本音だった。
絶望の青、フェデリア海域の最奥に佇むアクアパレス。美しき悪意と水の城は、鉄壁とも思われた闇のカーテンを破られ、招かれざる客の侵入を赦す事となっていた。
【撃破部隊】の精鋭はここに到るまでその戦力を極力温存した。強力なイレギュラーズを戦わせず温存して、この場までの道を切り開く事がどれだけの無茶だったかはクリムならずとも知っている。
傷付き倒れた者もいる。汚れた水に落ちてついに浮かんでこなかった兵も多かった。権能弱まったとて、ドロドロに溶かされた者も居る。全てを背負って【撃破部隊】はここに居た。
しかし……
「相変わらず、楽をさせてくれる心算はなさそうね」
「成る程な、『城』に辿り着いたからって――それで決戦だ、なんて甘いよなあ!」
唇を噛むアルテミア、強く声を張ったシラスの言う通り侵入は最初の難関を越えたに過ぎなかった。元よりまるで情報の不足した『冠位戦』だ。彼が危惧した通り、イレギュラーズが足を踏み入れたアクアパレスは黙ってアルバニアへの道を通す心算はないらしく、通路に壁に天井に……次々とおぞましき人型、水の兵を生み出しつつあった。
「読めてたなら――対処は早いぜ!」
シラスのコンステラシオは範囲を対象にした識別攻撃である。『敵がアルバニア一体であるとするならばさして有用ではない手管』も状況が違えば大きな価値を持つのは言うまでもない。
「そうね。『時間が無い以上、どの道やる事は一緒だわ』」
アルテミアも又、敵に塗れた通路に切り込む。
【撃破部隊】の面々は急ぎ、尚且つ確実にこの奥に潜む嫉妬の澱を破らねばならない。
戦いはまだ始まったばかりだった――
「ついに二度目の大物戦か……廃滅病は絶対に止めなくちゃならないんだ…!
廃滅病を消して――俺たちも生きて帰るために……ここからが本番だぜ!」
傷付く海洋王国の兵を死の間際より掬い上げ、アオイが強く気を吐いた。
【攻撃部隊】の苛烈なまでの前進が辛うじて【撃破部隊】をアクアパレスにねじ込んだ。第一作戦目標の達成は同時に連合軍の戦線が無茶な全身により縦長に寸断された事を意味している。
「諸君! ゴッドである! フューチャーは誰にも分からぬ! 知らせぬ! だが!
ゴッドウィズユー! ゴッドはユー達と共にある! そのビクトリーとサクセスを期待するぞ!」
だが、作戦が前進したのは確かである。タイミング良く発せられた豪斗の有難いお言葉が理屈よりも先に――理屈等を超越して奮戦を続ける海洋兵達の士気を上げた。
「死ぬ覚悟はあるだろうが死にたいわけじゃあないんだろう?
なら可能な限り全力で生きる手伝いをさせてもらうよ!」
「まったくだ。期待してるぜ!」
一方で、鉄帝国の戦艦でも、力を振るうランドウェラに兵達から快哉が上がる。
アオイ達三人のみならず【救援部隊】は戦場のあちこちへ散って可能な限りの尽力を続けていた。
実際の所、戦況を見回せばアオイの言う通り、ここからが『本番』なのは間違いない。前線で孤立する【攻撃部隊】を救援するのも、戦力を減じた双艦隊の安全を守るのも同じ難事だ。即ち、作戦目標の達成は【防衛部隊】と【救援部隊】が地獄の如き戦場を支える『防御のターン』の開始を意味していた。
【撃破部隊】が事を成し遂げる保証もないのだから――そのゴールは未だ霧の中に遠過ぎる。彼等は『何時まで掛かるかも分からない時間を無事に稼ぎ続けねばならない』のだ。
「この期に及んじゃ出し惜しみは無しだ。俺は生き残るためならなんでもやるぜ。
……もし奇跡とやらが本当にあるのならば是非見せてもらおうじゃないか?」
「気を引き締めていかねぇとな。
………つっても、俺が出来ることは限られてるし、出来ることを全力でやらせてもらうだけさ」
「どうしてこんな所に来たのやら」と頭を掻く世界、ニヒルに笑う黒羽の挑むは絶望的な防衛戦だ。
「どんな絶望的な状況でも…諦めない!
不可能な困難をも乗り越えられるような暖かな心を授けられたらと思います。
皆さんは一人じゃない。この戦いを最後の戦場になんて……絶対にさせませんから!」
「――俺達は星だ。
絶望の海図に希望の星図を描くんだ。絶望に負けるな、希望を絶やすな!
最後の最後、高らかな勝利のその瞬間まで!」
ユーリエが凛と歌う、ウィリアムの声の輝く。これ程の時間に萎びる戦士は居ないだろう。
『例え勝ちの目が何処にも無かったとしても、恐らくこの戦は最大のものになる』。
(船の上なら敵なし……というわけにもいかんだろうが。
兵の士気が勝敗を左右するのは必定だ)
エイヴァンはまだ意気軒高な味方陣営を見て小さく頷く。
心折れれば勝てるものも勝てなくなる。その負けは容易に致命に足ろう。
なればこそ、彼は彼の海神の軍規(ちから)をもって兵の士気を保ち続けなければならない。
「突撃した仲間たちが預けてくれた背中だ。海洋の旗艦は守って見せるさ。
海洋の人達も、停滞も後退もいい加減懲り懲りだってさ!」
「この先を見ずに死んだでは――海の男が廃るというものだ!」
特に景気の良い声を上げたルフナ、エイヴァンが守護する旗艦は絶対死守せねばならぬ司令塔だ。
海洋王国の民だからこそ響くその言葉に鬨の声が上がる。
かくて、【海猫】の面々――【防衛部隊】の盛大な戦は本格的な幕を上げた。
「押し寄せる敵は吾輩が掃う、安心して戦うが良い」
「怖くないって言ったら嘘になるけど――」
グレイシアの言葉に柳眉を曇らせたルアナだが、『そんな表情』は長くはなかった。
「――おじさまが隣にいてくれるなら、魔王だって倒せちゃうよ!」
「うむ。敵は強く、数も多い……決戦とは、やはりこうでなくてはな」
グレイシアは頷いたが内心だけで「しかし、魔王か」と反駁する。
グレイシアとルアナの連携が飛来する小型の狂王種を次々と迎撃していた。
「『嫉妬』との決戦、此方は皆の帰る場所を護り通す為に――
天使の輪舞(ラスト・ダンス)は避けるわよ……『朱煌剣』アリシア、行くわ!」
戦乙女の如く流麗なアリシアの名乗り、そして戦いぶりに兵が沸いた。
エイヴァンの支援効果、中衛に陣取ったルフナのサポートを受ける彼等も可能な限りの防御に尽くし、艦へのダメージを減らそうと奮戦している。
「攻撃が激しいわね」
「そりゃあ、旗艦が落ちたら冠位を倒せたとしても全滅の目しかありませんからね」
利香の呟きを受けたアルプスが肩を竦めた。
前線【暁剣】の活躍もあり、魔種側指揮官のミリガンテは釘付けになっているようだった。敵側の連携はやや悪く、力に任せた攻撃が中心となったが――物量と単純破壊力の差は侮れるものではない。最低限の命令は受けているのだろう。分厚く攻勢に晒されるこの旗艦は一秒も安全が無い。
「チーム海猫はここを任されたんです。やれるだけ――やれる以上にやってやりますよ!」
敵にすれば愉快で酷い、しかし味方にすれば頼もしい――失敗もするのだが――アルプスに利香の唇が綻んだ。権能対策の精神耐性に守られたアルプスの暴力的な破壊力は既に三度も旗艦に取り付きかけた敵を『吹っ飛ばして』いた。内一回の魔種の顔を思い出すに愉快極まりない所だ。
「はは、僕の魔力の消費はクルマ?のようだと誰かが言ってました。
しかし……仲間を助けるのに惜しんではいられませんね――僕たちは勝つ!」
如何な消耗戦とて氷のように冷静に戦線を支える構えを見せるヨハンの前ではまだまだ温い。
おおおおおおお……!
怨嗟が海鳴りのように響き渡る。
埒が明かぬと見たのか何なのか――これまで見たものとは桁違いのサイズを誇る大海蛇が海中よりその姿を現した。アルプスから手傷を負った魔種複数を含めた大戦力が旗艦を狙う!
「親玉は勇者(バカ)共に任せたわよ、ったく……そんな事言って、最悪の貧乏籤じゃない!」
「さぁて、ここ一番ね。死守するわよーっ!
終電の時間にはまだ早いんだもの、駆け込み乗車はご遠慮くださいってね!」
理香は舌を打ち、秋奈は「大英雄じゃなくてもやれるって見せてあげる」と気を吐いた。
「はいはい、どうぞ! お好きなように!
このリカ=サキュバス、やれるもんならやってみなさい!」
「不躾に乗り込んでくル魔種(おきゃくさま)、お暴れになル狂王種(おきゃくさま)。
すべて適切におもてなしをして、鉄帝国の艦を死守致しまス。
皆様の帰る場所を護る為にも、いざ奮戦致しましょウ!」
『鉄腕メイド』ここにあり。アルムの鉄壁が迫り来る敵を幾度と無く押し返す。
「いよいよ、最後の日って訳だ。
今日こそが、絶望の青が、名を変える日になる――」
『まだ見ぬ、誰も知らない絶望の先』を望むジョージが、コミカルに見える見た目を裏切って、揺れる足場もモノともせず――一撃敵を斬り付けた。
死力を尽くした防衛を続けるのは海洋王国の艦のみならず。新鋭の鋼鉄艦を駆る鉄帝軍人達もまた、イレギュラーズと共に果て無い敵を食い止め、阻止する戦いに追われていた。
海洋王国の機動艦隊と並んで大作戦を支援する鉄帝国艦隊もイレギュラーズの守らねばならない重要なピースなのは間違いない。【鉄帝海峡】チームは鉄帝国艦隊を力強く支援する【防衛部隊】の一角であった。
「海が、おそろしい場所だと思われてしまうのは……海種として、悲しいことですの。
ですので、ここは……存分に動けるわたしが、皆様をお守りしますの!」
大号令に強い思い入れがあるかと言われればそうではないのだが、ノリアはノリアで海種としての矜持というものがあるらしい。
(ゴリョウさんの三色丼をいただいて、心身ともに満ち足りて……
ちょっと恥ずかしいですが、何時も以上に頑張れる気がいたしますの!)
ふわふわした性質のノリアだが、実際の所盾としての性能が極めて高い。
見た目からは信じられない位のタフネスを発揮する彼女は、何事にも動じることのない、大いなる海の力を自身に、他者に纏わせてこの長期戦への術とする。
「ぶははははは! 頼もしいな、こりゃグラナーテの旦那も安心だぜ!」
らしくも必死の戦いを見せるノリアに、ゴリョウは気力が漲るのを感じていた。仲間達の帰る場所を守り、この海に沈まぬ意志を刻む事――力を貰っているのは彼女と同じだ。
【鉄帝海峡】は防御が強力なイレギュラーズが多い。前線でゴリョウやノリアが食い止める動きを見せれば後は連携次第だ。鉄帝国兵の強力な火力が集った敵を焼き払う。
(きっとこの海は、これまで溜まった澱み、停滞の檻。
そういう相手に、負けるわけにはいかないのです。わたしは、わたしのできる事を――)
祈るように想い、その力を振るうシルフォイデアの強力な支援能力が傷付いた前衛を力強く励ませば、
「おっと! させないよ!」
零のBread Callが更に食い下がって取り付いてきた敵を再び海中に叩き落とせば。
「いくら向かってこようとも、一歩たりとも引きはしないよ!!!
皆の乗るこの希望の船を、絶望に沈めさせはしない!!!」
クリスティアンの勇気ある炎が空気を焦がせば、
「僕は僕のできる範囲で、しかしこの身をかけて守って見せるよ!
それが僕の誇るべき、誓うべき――今日という日の戦いなのだから!」
彼の力強い誓いと誇りの声が響く限りは。
強靭なるこの海峡はまだまだ敵の突破を赦しそうもない。
鉄帝国艦のダメージは大きいが、抵抗も未だ頑強。
時間は稼げていると考える一方でゴリョウは遠く海洋王国旗艦を思う。
(……しかし、問題はこの程度じゃねぇ。さっきから幽霊船の動きがおかしいじゃねぇか。
ああ、畜生。頼むぜ、【騎兵隊】。あのドレイクは恐らくは――)
果たしてゴリョウの危惧の通り――或いは本質的にそれを予感していたイレギュラーズの危惧の通りに、海賊艦隊旗艦ブラッド・オーシャンは牙を剥く。
フェデリア海域の戦いにおいて第三勢力であるドレイク支配下の幽霊船達は砲撃戦を中心に連合軍と魔種勢力の双方を攻撃していたが、イレギュラーズの【撃破部隊】がアクアパレスに届かんとした頃、遂に海賊旗艦は大きな動きを見せていた。
「狙うはこの艦か。本意は知れぬが妥当な所だ」
ゼヴェルガ提督が真っ直ぐに海洋王国旗艦を狙うブラッド・オーシャンに鼻を鳴らした。
即座にゼヴェルガは砲撃での応戦を命じるが、船首をこちらに向け『縦』に進撃するブラッド・オーシャンは舵を握るドレイクの驚異的な技量と相俟ってまるでこれを捉える事が出来ない。
ゼヴェルガも練達だが分は悪し……
「だが、驚くぞ。ドレイク……」
海洋王国旗艦の危機は間違いなく、そのままならば厄介な状況は間違いなく加速しただろう。
だが、しかし。彼等には今回もイレギュラーズがついている。
特に【騎兵隊】は洋上においても攻勢防御と機動戦術を『諦めない』特別の策を用意していた。
一筋縄ではいかないのはお互い様。彼等の狙いは――
●アルバニアI
「……信じらんない。本当にもう、考えられる限り最悪じゃない」
アクアパレス深部、広い広いホールにて。
現れたイレギュラーズを見据えた冠位嫉妬アルバニアは吐き捨てるように言葉を零した。
「ミリガンテは何をしてるのよ。あれだけの戦力があって、これっぱかしの敵を通して。
ああ、本当に最悪! アイツあとで軽くシメてやんなきゃね!」
アルバニアは咳払いを一つする。
「……で、アンタ達何の用よ? まさかアタシを本気で倒せるなんて……
そんな冗談を聞かせに来た訳じゃないでしょうね?」
その言葉はまさか本気ではないだろう。
あくまで肩で息をするイレギュラーズを軽侮し、挑発するものである。
「……親父、ミロワール、グドルフさん……道を繋いだ皆……
全ての為にも負けらねぇ! 勝ってっ! 護り抜くっ!
覚悟しろ嫉妬、絶対に皆を護ると決めた俺はッ! 今日の俺はッ! 混沌で1番ッ! 強ぇぞ!」
胸の奥に蟠ったものを吐き出したプラックの脳裏に父の、グドルフの顔が過ぎった。
――オクトはお前が作った閉じた世界(うみ)の先に夢を見た。
お前は停滞の世界を望んだが、逆に浪漫の世界を作ったんだよ。
分かるか? 変わらずにあり続けるモノなんか絶対に無ェんだ。
だから俺達は行くぜ、その先の未来にな――
(……くそっ、集中しろ。しやがれッ!)
プラックは自身を殴りつけたい位の気持ちだった。
初めての――そして最後かも知れないオクトとの共闘、そして海中に消えたグドルフ。「あの人が死ぬ訳がない」。そう信じる気持ちと不安は彼の中を酷く駆け巡っていた。
想いは同じく。
「……っ、廃滅病のせいでどれだけの人が嘆き悲しみ、犠牲が出たことか。
だけどこれ以上の嘆きや悲しみ、犠牲は出させない――今日ここでお前を倒す!」
アルバニアの挑発に頬を紅潮させたポテトが声を張り上げた。
「アルバニア、遂にお会いできましたね。光栄至極で御座います
ですが、ええ。今日の良き日に、貴方には死んで頂きますよ」
一方で冷ややかに幻は言った。言外に滲む「ジェイク様の為に」は敢えて口にしない。語るに落ちる。自身に別れを告げた――今、共にこの戦いに挑むジェイクが何を考えているか等、彼女には最初から知れていた。故に彼女は惑わず、迷わず、目前の敵だけを見据えている。
(サイレン、ドミニカさん見えるか――『アルバニアとその先が』)
目を閉じていたカンベエが冷静に、しかし情熱的に言った。
「今更、譲れぬ、互いに! そうだろうアルバニア!」
「遂に追い詰めた。皆と……そう、皆と繋いだ道だ。
もう逃がしはしない! 廃滅病を消し去る為、嫉妬の冠位を討たせてもらう!」
「あら、どっちもとってもいい男。愛でも囁いて貰いたい位ね」
アルバニアは苦笑してカンベエを、リゲルを。そして今一度【絆】の面々を見た。
「HAHAHA、良い舞台だ。やってやるぜ、全力でな!
おっと、あんまり舐めるなよ、カマ野郎ッ! 死ぬか生きるか……これから選ぶ時間だぜ!」
「かっちーん、いい男だけどアンタはちゃんと殺してやるからね!」
一方で、貴道は鼻で笑う。軽侮される謂れが無いのも確かである。
挑発めいて脅しの言葉にも「カマン」と嘯く彼の言う通り、状況はどちらか一方に悪い訳ではない。どちらにも悪いと言った方が適切だ。イレギュラーズは権能の妨害と望まぬ消耗を、アルバニアは空中神殿の奇跡に抑え込まれた状態だからだ。
冠位は強いかも知れないが不滅ではない。最も不滅に近い筈の冠位(ベアトリーチェ)を滅ぼしたイレギュラーズだからこそ、それは確信出来ている。
「……ついにここまで来たね。まったくふざけた病をばら撒いてくれたものだ。
このままで僕の友も、目標としている人も、皆死んでしまうかと思ったよ。
後は勝つだけだ……貴女がどれだけ強かろうと関係ない。その首貰い受ける!」
故にウィリアムの言葉は酷くシンプルで適切で宣戦布告にピッタリだった。
元よりそんな関係ではないのだ。長いお喋りはもう必要無く――殺気がざわめき、一対数十の、非対称的な、されど極めて厳しい戦いは始まった。
【海開き】と連携するウィリアムは魔光の閃熱で間合いを灼き、続く彼等の呼び水となる。
「パーティーに間に合ったな。引き篭もりのお嬢様を引き釣り出すのには苦労したんだ」
「精々たっぷりとこの時間を愉しんで貰おうか」。権能にも負けず、ジェイクの銃技『縛鎖』が後方よりアルバニアを狙う。「こんなもの!」とその膂力で攻勢を『引き千切った』アルバニアは『お嬢様らしからぬご様子で』続くラルフに目を向ける。
「嫉妬こそ俺が最も嫌う淀みなんでね」
その薄ら笑いは人間に属するものが冠位に向けるにしては余りにも場違いな軽侮であった。
しかし本心、心底から闘争のままに――敵に恐れ等抱こう筈もない傲慢(ラルフ)は、アルバニアに絡み付かんと封印の術を刻み付けんとする。
「兎に角気張り続けて下さいっす!」
「ああ、簡単に済むような相手ではなかったな?
だが、構わん。この理屈が通るまでまかり通るのみ、だ」
ジルより掛かった激励の言葉にラルフは「元より」と笑みを浮かべる。
「年寄りより先に死ぬ子達なんてもう見たくないから、ね!」
ラルフの動きはある意味でムスティスラーフから意識を逸らす為の布石にもなった。大きく息を吸い込んで、限界まで吸い込んで一気に吐き出された緑色の閃光は防御姿勢を取ったアルバニアの影を焼き払う。
「……ちょ~きったないんだけど、この技……」
衣装のみを襤褸にしたアルバニアは引き攣った顔で怒りを見せる。
単純に分かるのは『こんなもの』が直撃しても堪えた様子の無い冠位の実力と、決してダメージを与えられない相手ではないという幽かな希望であった。
「――はッ!」
裂帛の気合と共に背後を取ったアルテミアが一閃を放った。
受け止めたアルバニアの視線が背後に向く。
「……ッ……!?」
「美人ですって面してさ。その綺麗な顔、ぐちゃぐちゃにしてあげよっか?」
「いや、今日はそっちじゃないだろう? こっちを見てくれなきゃ困る」
自分が蒔いた種だろう? と深く廃滅に侵されたベークが悪意を阻んだ。
「あるばにあちゃん わたし あなたに『しっと』してるわ たぶん」
そんなベークと共に決戦に挑むポムグラニットはアルバニアのその水かきが羨ましい。その鰓が妬ましい――ベークと『同じ』海の生き物の特徴が欲しかった。
「すきなひとのために がんばるのは いけないことじゃないわよね?」
『嫉妬』なる原罪は誰もが持ち合わせている。誰かの都合で幾らでも話は歪む――我儘ばかりの冠位は誰よりもそのエゴを隠しはしないだけ。
「ああ、やっぱり、超、訳わかんない! 超! ムカつく!」
瞬間的に膨れ上がった魔性にイレギュラーズは思わず散開した。
その場に居れば殺される――強烈なまでのイメージは恐らく事実をそう裏切るものではなかった。
●ドレイク
フェデリアの激戦は続く。
「――ドレイク! 左舷から敵船!」
「……はあ?」
物見からの報告を受けたバルタザールが即座にドレイクに『それ』を伝達した。
ブラッドオーシャンは幾ばくかの内に海洋王国旗艦を捉え、強烈な白兵戦に移行する予定だった。だが、寝耳に水を聞かされたドレイクは思わずその眉を跳ね上げていた。
「乱戦に小さめの船だったから対応が遅れたぜ。『イレギュラーズ』が向かってくる!」
ドレイクは鼻を鳴らした。彼とて旗艦での戦いで強烈な抵抗に遭う事は想定していたのだが、
(どうやらイレギュラーズは思った以上に思い切りがいい……
……勇気がある……いやさ、大馬鹿者らしい。
横合いから衝角で喰いつけば、こちらの航行能力を奪える、か?
馬鹿らしい。吾輩を相手に海の立ち回りで戦いを挑むとは!)
『そういう若者は嫌いではないが、ドレイクは海賊である』。
「バルタザールッ!」
「言われるまでもねぇよ、もうやってる!」
怒鳴り声に怒鳴り声を返したバルタザールの指示を受け、ブラッド・オーシャンの砲が次々に火を噴いた。前方海洋王国からの砲撃を避けながら攻撃をするのは容易くなく、結果としてブラッド・オーシャンは前進という推力を大きく減じる事となっていた。
一方で、決死隊めいた【騎兵隊】も必死である。
「……っ……こ、の……ッ!」
「きをつけて。右水面下に狂王種!」
「ったく!!!」
潮目を読み、持ち前の操船技術で速力を出す。
砲弾の嵐を、狂王種を、絶望の青の海を。カタラァナの援護を受けたアトは必死に掻い潜る。
全てが上手くいく等というのは幻想で、やはり当然の如くどうしようもなく現実は難しかったが、実際の所チャンスはこのタイミングしかなかったとも言えた。ブラッド・オーシャンが遅れるならば、自身等が一撃を見舞えるならば『仕事としては悪いトレードではない』。グラナーテとゼヴェルガに使いを出しているのだから尚更だ。
(白兵戦に必ず持ち込む。吶喊す。全力を以て我ごと賊を沈めること願う――!)
アトの決意は強く、彼にまず行く末を預ける仲間達もまた同じだった。
果たして砲撃は【騎兵隊】を沈めるには至らない。
「しゃらくいさいよ、君達!」
衝角の狙う横腹を避けるが如く、ブラッドオーシャンが旋回する。
衝撃に双方の船が揺れるが、海賊旗艦のダメージは極限まで回避されていた。それは彼我の艦の重量の差であり、操舵する二人の腕前の差であると言えるか。
とは言え『食い止めた』のは確かである。
元よりイレギュラーズが望んだのは迎え撃つ戦いではなく、乗り込む白兵戦だ。
ドレイクがどちらにいようと鉄のような意志は微塵たりとも揺らぎはしない!
「共に戦う仲間達と共に、絶望の先に道を切り拓き!
天をも穿つ我が魔槍を以て、絶望の海に風穴を開けるっ――」
宣誓めいたフィーゼの鮮烈な言葉と共に、
「――どれ程、無謀と謗られようとも!」
ハイロングピアサーが彼我の間合いを引き裂いた。
「分かってるわね!? 全員生存よ、見事果たしてみせましょう!
私の、私達の名を、覚えて貰いに来た! 絶望の先に貴方を攫う!」
「来るぞ、数は少ねぇが手練れ共だ! 油断するなッ!」
統率するイーリンの前半の言葉は仲間達に、後半の言葉はドレイクに向く。
予想外の展開の俄然ざわめく海賊(クルー)をバルタザールが一喝した。
「『どっち道、やり合うのは同じ。こっちで片付けるか、あっちで片付けるかだけの問題だ』!」
「ご挨拶ね」
舌戦をイリスが買った。
「生きて、また止めに来たわ。貴方が討ち漏らした私が。
外を願い、先を想い、それでも私は幸福だったと知ったわ。
私の『これまで』が、例え貴方にだって負けないものだって、証明してみせる!」
言葉を戯言にするか否かは全てこの戦いに掛かっている。
果たして衝角での突撃を果たした【騎兵隊】は海賊旗艦を叩くべく白兵戦を開始する!
「海を越えたい人は助けたいんだけど……ごめんね」
先制攻撃とばかりにドレイクを含めた数人をカタラァナの夢見る呼び声が誘う。
海賊の何人かがこの影響を受けるもドレイクは皮肉に笑った。
「生憎と、寝ても夢、醒めても夢だ。吾輩の夢は百年以上も前に止まっているんでね」
「是非も無し。処断こそ処刑人の根本意義。海賊とは、いずれ絶やされるもの。
その首もいい加減に処刑台に飾られるべきだろう?」
動きかけたドレイクを空中より砲撃に出たレイヴンの魔砲とイリスが阻んだ。
(生きてる限り、負けは一時のもの。死ねば敗北で終わり――気は抜けない!)
ココロは早鐘を打つ胸を押さえた。敵陣で特に危険なのはドレイクとバルタザールか。
「海賊の師弟をを抑えるは冒険家の師弟。邪魔はさせんぞ小僧☆」
「はあ!? 小娘が囀りやがる!」
「小娘、なぁ。喜んでいいのかそうでもないのか!」
「俺様は海賊提督バルタザール、簡単に止められると思うなよ!!!」
バルタザールは不意打ち(ショウ・ザ・インパクト)で挑発めいたリアナルがまず抑えたが、数に劣り、個の実力でも及ばない以上、戦いが厳しいものとなるのは必然だった。
「支えます――!」
癒し手たるココロは命脈を繋ぐ為の綱である。勝てぬまでも旗艦を守り、皆で戻ろうとするならば彼女の小さな双肩にかかる仕事は余りに重い。
予定外にして強烈な乱戦は始まった。
「これは帽子が鍵と見抜いた夢見ルル家さんからの弾丸です。
彼女は別件なので、マネージャの私がお届けいたします」
目を細めた寛治も今日ばかりは本気。言葉には軽妙な余裕が遊ぶが、回避し帽子を抑えたドレイクが「面倒な連中だよ」と珍しく吐き捨てるように苛立った。
「余程、吾輩の邪魔をしたいらしい。
吾輩のプランでは『諸君等の足を潰し、諸君等の撤退を手伝う心算でいた』のだが。
実に友好的だろう? 吾輩は話せる海賊。
足となる艦が無ければ、諸君等もきっとしおらしく――
そう、『話し合い』も実に有意義に進んだ事だろう。壊滅的打撃を受けた海洋王国にはお引き取り願って――アルバニアの斃れたこの海を吾輩達だけが越える、そういう予定だったのだがね!」
「ああ、何て都合のいい話」
「何、プランBに移行すればいいのさ。人生にアクシデントは付き物さ」
「残念ね、『そう』ならなくて。この先も『きっと』ならなくて――!」
全身全霊の破壊力をこの瞬間に叩きつけるのはイーリンも同じだ。
策士の彼女が最後に辿り着いたのが単純暴力なのは皮肉だが――
「レディ扱い、二人分返上しに来たぞ!」
――ドレイクが阻もうにもあくまで立ち塞がるのはウィズィでもある。
「何時かのお嬢さんが、またお転婆か」
「今度こそ、私らの名前を覚えていけよ。ウィズィと……私と人生を分け合った女、イーリンだ!」
鮮やかなる見栄に空気が震えた。
「……あはは」
撃ち放つばかり、極限の力を溜めたイーリンは「それ、最高」と小さく笑う。
目を丸くしたドレイクは口の中だけで「まるで幼い頃のエリザベスだ」と苦笑した。
「……? おかしな事を言った?」
「いいや、でもいい台詞は聞いたかな。『ウィズィ君』」
ドレイクの刃が鈍色に光る。
そんな、ブラッド・オーシャンの戦いは――これより熾烈を極めるだろう。
●アルバニアII
「ぜんぶ、みんながあじわってきたくるしみとおなじ!
ひとつひとつあじわって……そのまま、きえて!」
拒絶の意志を明確に示したリリー得意の『フルコース』がアルバニアに襲い掛かる。
「アタシの得意分野で勝負するなんて、大概いい度胸じゃないの!?
体鍛えてないベアトリーチェ(あのこ)と一緒にしないでよねぇ!」
何処まで本気か、何処まで与太か。リリーを庇うように動いたカイトが低く呻く。
「死兆がなんだ! 自由を捨てるほうが俺は嫌だぜ!」
リリーには触れさせないとばかりに声を張ったカイト、彼を信じるリリー。
【開帆】の二人の絆の様子にアルバニアの貌が醜く歪んだ。
アクアパレスでの決戦も壮絶なものとなっていた。
冠位大魔種は権能の殆どが封じられた今となっても、依然強大なままだった。
フィアー・フェアーは完全に無力化していない。廃滅病の進行も気にかかる。多くのイレギュラーズが確固たる対策を打った精神混乱については限定的な影響に留まっていたが、数十人の精鋭を束ねて尚、アルバニアの立ち回りは強靭だった。
アルバニアが発する魔性は数を頼みにするしかないイレギュラーズを幾度と無く叩きのめした。
心を折るかのような暴威に立ち向かうのは余りに些細な力だったかも知れない。
「『明日は今日より悪くなるかも知れないし、希望は誰にでもある訳ではない』かもしれない。
それでも――『それでも、昨日を糧に、より良き明日を目指して今日を生きる』。
少なくとも僕は、僕の生き方は――そうありたい」
だが、「例え、その手に何も残らなくても、真剣に生きた日々が、僕の生きた証となるから」――心の中だけでそう続けたマルクは、ボロボロに傷付きながらも仲間達を支え続けている。
アルバニアの防御や抵抗は極めて硬く、これを仕留めるのは容易ならざるものがある。
体力に到っては一体どれ程あるのか想像もつかない位だ。
「アタシは正直アンタの気持ちがわかる。でも……そんなので!
みんなの幸せな未来、キラキラした今……それを絶対に奪わせるもんか!!!」
(俺は所詮、クソガキだ。いくら強くても、奪わなきゃ生きられねぇ。
誰かを育てるとか、何かを作るとか、できねぇ。
だから……もしこれでリアが救えりゃ、俺の命より上等だよな。
『俺だったかもしれない』クォーツ院のガキ共にゃ、俺じゃ全然だめなんだ――!)
それでもミルヴィは、サンディは諦めない。
「サンディ、行くよッ!」
「オーケー、一気に叩けッ!」
鋼鉄よりも強靭な外皮に嘲り笑われるように攻撃を跳ね返されようとも、二人愚直にそれを続けるのみ。
だが、しかし。
(やはり、強大過ぎる。『とてもではないが戦力が足りない』。
しかし、冠位嫉妬が前に出て戦闘をしてまでこの海域を封じ続けるのは何故なのか……
唯々この海の先に到達させたくない、という明確な意志は感じていましたが……)
目を細めて戦況を見つめるアリシスの首筋と冷たく汗が伝う。
彼女含めた【光明】の面々も勝機を見出さんと攻撃を、必死の連携と支援を続けている。だが、まだ勝ち筋は遠くダメージを与えたとて敵の致命に到っていないのは明白過ぎた。
このまま時間が経過すればどうなるか――答えは簡単だ。
権能の抑制を跳ね除けたアルバニアはここまで繋がれた希望の全てを呑み喰らい、イレギュラーズを、海洋王国を、鉄帝国を、完全に全滅させてしまうだろう。
「ダイバージェンスメーターの指針が震えています……ここが歴史の分水嶺なんですね。
ヨハナがこの地点(じかん)にいるのは、このためであるに違いありません。
命を賭しましょう。未来の為に……言っておきますけど、これフラグじゃないですからねっ!」
色濃くなっていく絶望を前にしても、ヨハナは得意の『与太』で不安の影を笑い飛ばした。
「悪い事なんて起きませんっ! 起こさせませんっ! 皆にも、そしてあなたにもっ!」
得意の安請け合いと共に放たれたイモーショナルブレイカーが言葉を裏打ちするかのようにアルバニアにクリーンヒットした。彼が嫌う希望を、変化への期待を常にヨハナは隠しもしない!
「病気を必ず治すって約束した人達が居る――だからここで貴女に負ける訳にはいかないの!」
傷付いた仲間達を癒すスティアのその声には何時にない必死と熱が籠っていた。
「……ごめんね、ありがと」
傍らのサクラを支え、彼女と共に戦うスティアは「ううん」と首を振った。
癒し手にして盾である。スティアは鉾たるサクラと共にこの鉄火場に挑み続ける。
サクラは平素命を惜しまない。惜しまないが廃滅病『では』御免被る――
「貴女に未来を潰させはしない!
私だって、叶うかわからないけど……そんなのほんとにわからないけど、恋しているんだ!
この恋を諦める事なんて出来ない! 死ぬ時は――」
――死ぬ時は、選んで死ぬ――
――雪花の太刀が闇を斬る。
(……何、こいつら。しつこい。何処まで?
アタシに勝てる筈がないのに――これ以上、ずっと喰らいつく心算!?)
……雨垂れが石を穿つように。
イレギュラーズの攻勢は続いていた。
もし彼等が少しでも諦める気持ちを持っていたなら、少しでも出来るベストを尽くしていなかったなら。アルバニアの牙城にヒビを入れる事等出来なかっただろう。
しかし、彼等は特別だった。己が背負う特異運命座標としての運命以上に、可能性の獣、奇跡の蒐集者と呼ばれる宿命以上に――この瞬間に出来る事と、強い意志を重ねていた。
恐らくは、奇跡はそんな時に微笑むのだろう。
人事の全てを尽くし、人為の全てを支配して――最後の一押しに風は吹くのだろう。
「鬱陶しい――これで御仕舞いにしてあげるわ!」
冠位魔種の『本気』が見えた。
絶対絶望の死のイメージが増幅する。『廃滅病を形にしたかのような死の霧』がアルバニアの全身から噴き出した。一度触れれば腐り果て、確実な死を刻むかのような殺意の塊。
そんな終焉を、
「――なめるなよ、嫉妬。自慢じゃないが僕は生き汚いんだぞ。
――甘く見るなよ、嫉妬。僕は何時だって欲張りなんだ」
まさに生死の狭間、誰よりも廃滅を覗くベークの発した奇跡が打ち消した。
冗談のようなその姿が放った光明は、冗談のように死滅の霧を中和した。
眩すぎるベークの輝きを至近で受けたアルバニアの様子が変わっていた。
――最初にして、最後のチャンス――
それを嗅ぎ付けられぬようでは温すぎる。攻め手【美少女】の五人が躍動する。
「嫉妬は、醜い感情、だ。
だが、それがあるからこそ、先を、高みを、目指すことにも、繋がる。
冠を戴きし、魔種。お前の嫉妬は、ただの、停滞。あまりに、つまらない。
お前にだけは、僅かな嫉妬さえ、覚えない、な――届かぬ夢を抱いて、沈め」
表情を変えぬまま、金色の髪が波を打つ。
エクスマリアの放つ閃熱が一時の弱体化の否めないアルバニアを灼いた。
「妾の友と……あとついでに家の者どもに手を出したこと、あの世で後悔するが良いぞ!」
疲れも見せず弱りも見せず。ここぞと調子に乗ったデイジーが追撃し、
「クハッ! この様な楽しい事おちおち退場できるものか!
貴殿がどれ程の妖であろうとも、食い破るまでよ! その首を貰うまでは終わらぬ!」
百合子の白百合清楚殺戮拳が今まさに炸裂。
「――託された思いをこの一撃に! ギガ! セララブレイクッ!!!」
全身全霊乾坤一擲を振り絞った一撃に込めたセララと共に叩きつける。
「こ、ンの――ふざけ、ふざけやがって――!」
百合子を、セララをアルバニアの腕が振り払い、叩きのめした。
血走った瞳は間近に迫る汰磨羈の姿を映していた。
「これは、夢と夢の勝負だ。
嫉妬の裏にある夢を前に――私達はお前を越えていく。
それを超える程の夢を、『お前の美しい夢を、超えていく!』」
おああああああああああ――!
此の世ならざる絶叫が響く。
冠位魔種、冠位嫉妬アルバニアは――
――『倒れなかった』。
●大混迷
「やはり、そう来たか! いい加減に生き汚い事じゃ、反省せい!」
小さくない手傷を負い、余裕を失ったアルバニアが取った手段は声を上げて抗議をしたデイジーが予測した通り『アクアパレスの崩壊』だった。
「『この先』を目前にして、途上で終わっている場合では無いのですよ」
すかさずこの救援に入ったヘイゼルも読んでいた『つまらない手管』である。
(しかし、此方側に対しては有効な手なのです。
前回も思いましたが、見た目や能力ばかり怪物的で……
精神性は普通に『人』なのですね、大罪は。
人外に生まれついて悠久の時を生きたにしては、実に興味深い事なのです)
ヘイゼルは「ふぅむ」と首を傾げるが……
「救援だ! アクアパレスは崩壊したがアルバニアは未だ健在の模様だ!
急げ、あそこには動けないイレギュラーズも多く居る!」
実際の所、周囲の動ける人間に火急の連絡を取るゲオルグの姿が示す通り。これは効果覿面と言わざるを得ない。決戦の場に赴いたイレギュラーズは多くが重傷を負い、倒れている者も居た。まず彼等を『救わねばならぬ』のだから水中を得手とするアルバニアを追撃するのは当然困難過ぎる。アルバニアにとっては保険といった所だっただろうか。
ブラッド・オーシャンは止まったが決死の【騎兵隊】は戻っていないという。
アルバニアに手傷は与えたが、それは逃れたという。
依然狂王種の脅威は絶えず、一帯は平静を迎えていない!
フェデリア海域の激戦は状況、情報が錯綜にしている――
……だめだ、と口に出そうとして泡だけが噴き出した。
霞む視界の中、彼女が、リリーが、カイトの大事な人が昏い水底に堕ちて逝く。
(だめだ……このままじゃ、二人共……)
死ぬ。それは避けられない結末だ。
頭の中をぐるぐると回る絶望に、カイトの体はもう抗ってはくれない。唯、殆ど力の入らない指先で握りしめた御伽噺の小さな鱗が二度目の奇跡にどくんと震えた。
成否
失敗
MVP
状態異常
あとがき
YAMIDEITEIっす。
全員書いた筈ですが抜けていたらお知らせ下さい。
決戦は一旦結びです。撃破には及んでいない事、トータルを見て今回は失敗判定になりますが、アルバニアに大きなダメージが与えられ、状況が進んだのは確実です。
その為、失敗ですが経験値、Gold、名声に特別補正を加えています。
さて、本シナリオ、全体シナリオの結果を受けて延長戦。
いよいよ、海洋編の全てを決める展開が訪れます。
最後まで頑張って下さい。シナリオ、お疲れ様でした。
※行方不明者について
ブラッド・オーシャンに乗り込んだ一部のイレギュラーズが行方不明状態です。
カイト・シャルラハさん、リトル・リリーさんが水没により行方不明状態です。
※グドルフさんについて
グドルフさんは決戦の前段シナリオ『<鎖海に刻むヒストリア>閉ざされし水の母』にて行方不明判定を受けていますので、本決戦には直接参戦していない扱いとなっています。
GMコメント
YAMIDEITEIです。
さあ、海洋決戦です。
が、今回ちょっと特殊なルールがあります。
詳細は以下。
※パンドラ使用投票結果により、難易度がNightMareからVeryHardに低下しました!
●決戦シナリオの注意
当シナリオは『決戦シナリオ』です。
<鎖海に刻むヒストリア>の決戦及びRAIDシナリオは他決戦・RAIDシナリオと同時に参加出来ません。(通常全体とは同時参加出来ます)
どれか一つの参加となりますのでご注意下さい。
●依頼達成目標
・『煉獄篇第二冠嫉妬』アルバニアの撃破、多大な戦果
●フェデリア海域(5/9更新)
『絶望の青』後半の海に存在する魔種達の大拠点。
アクエリアが前線基地だとしたらこのフェデリア海域は本拠地とも呼べます。標準装備された悪天候や異常気象は数十メートルも離れれば状況を変える程に激変を極めており、余程の腕利きでもなければ航海する事もままならない状態です。そういった外部環境の悪さはアルバニアが海上に出現してから尚悪化しています。
→パンドラ使用の選択で『5』が選ばれた為、アルバニアの権能が抑制されました。
フェデリア海域の外部環境の悪さは変わりませんが妨害が抑制され、海洋・鉄帝国艦隊は敵を応戦中です。
イレギュラーズは各自の任務をもって状況に当たって下さい!
※パンドラの奇跡によってアルバニアの権能は抑制されていますが『時間の問題』です。
ベアトリーチェのそれがそうであったのと同じように抑え込める時間には限りがあります。
権能が戻れば壊滅は免れない為、それよりも前にアルバニアに痛撃を加える必要があります!
●友軍(5/9更新)
海洋王国軍主力艦隊が友軍です。彼等は軍艦に主力たるイレギュラーズを載せ、『アクアパレス』を構築したアルバニアの元を目指します。この戦いに勝利するには冠位魔種を倒す以外の方法が無い事は分かり切っているのです。
……が、現時点で発現したアルバニアの権能と多数の敵に阻まれ、無茶苦茶劣勢です。
→権能の抑制状態により友軍が力を取り戻しています!
●詳細情報
1、『煉獄篇第二冠嫉妬』アルバニア(5/9更新)
七罪と呼ばれる原初の魔種と称されます。
筋骨隆々の男の魔種ですが、装いや仕草、性格は女性的です。
『廃滅病』の根源であり、死兆を打ち消すにはこの撃破が必須です。
・フェデリア海域敵陣後方に水で出来た宮殿(アクアパレス)を作り出しています。アクアパレスは海上に浮かぶ半透明の建物のようなもので、きちんと足場等になり得ます。しかし敵が用意した代物である事は考慮しておいた方が良いでしょう。
・有利な海中から海上に出てきたのは魔種達の指揮を執り、権能を発現する為です。
・本人の直接的戦闘力は不明ですが、冠位魔種である事は間違いありません。分からないなりに死力を尽くして戦う必要があるでしょう。
・発現した権能は以下です。
a、他シナリオ全て含む戦場全体においてPCの廃滅病罹患率と進行速度が『激増』します。(この一戦中に発症から溶けてしまうまでいくレベルです。時限式即死攻撃フィールド)
b、アクアパレス内に広がる結界『フィアー・フェアー』にPCが侵入した場合、毎ターン-30での抵抗判定を行います。抵抗に失敗したターンにおいて、全てのPCの能力は『フィアー・フェアー』内部に存在する最も低い能力値に抑制されます。(侵入したキャラクターの全ての最低の能力値が全員に適用されます。例えば物理攻撃1000のキャラクターでも、接近したキャラクターに物理攻撃50が居た場合、50に衰弱します。それを全能力値に適用します)
又、この『フィアー・フェアー』の有効領域はアクアパレスの外にも徐々に染み出し、広がっているようにも感じられます。
※少なくともアルバニアだけは無影響です。
c、戦場のPC(及び友軍)は永続的に『混乱』状態とMアタックを受けます。(毎ターン始めに-30で抵抗判定を行い、成功した場合そのターン『混乱』と『Mアタック』は受けません。但し、混乱は無効系を保有している場合、無効化は出来ます)
→(5/9追記)
・抑制状態の権能は以下です。
a、他シナリオ全て含む戦場全体においてPCの廃滅病罹患率と進行速度が『微増』します。
b、アクアパレス内に広がる結界『フィアー・フェアー』にPCが侵入した場合、毎ターン-10での抵抗判定を行います。抵抗に失敗したターンにおいて、全てのPCの能力の内『ランダムで一項目』が『フィアー・フェアー』内部に存在する最も低い能力値に抑制されます。(侵入したキャラクターの全ての最低の能力値をランダムで一つの能力値に適用します)
『フィアー・フェアー』の有効領域の拡大は現在止まっています。
※少なくともアルバニアだけは無影響です。
c、戦場のPC(及び友軍)は永続的に『混乱』状態を受けます。(毎ターン始めに+-0で抵抗判定を行い、成功した場合そのターン『混乱』は受けません。但し、混乱は無効系を保有している場合、無効化は出来ます)
※更にアルバニア本体の戦闘力も権能を維持する為、低下しています!
2、魔種・狂王種(5/9更新)
多くは変化した水棲生物の姿を取った敵戦力が山のように出現しています。
彼等もまた強まったアルバニアの権能に廃滅を繰り返しています。
但し彼等は何処かアルバニアに『共感』しているらしく彼に忠実です。
主力は攻撃力と俊敏性に優れたサメの狂王種、大規模破壊力を有し、軍艦さえ叩き壊す大海蛇、大烏賊の狂王種等。その他雑多な狂王種等多数をミリガンテという男型の魔種を含めた十体程の魔種が統率しています。冷静で頭脳明晰なミリガンテはアルバニアの信頼が厚いようです。
→ミリガンテは権能の抑制に気付きアルバニアを守る為、攻撃と共に防御を固めています。
廃滅病の加速(権能a)が弱体化した為、敵も活発化しています。気を付けて!
3、『偉大なる』ドレイク及びその一派(5/9更新)
海洋王国に伝わる伝説の海賊。
どういう理屈かは知れませんが何やらの手段を以て幽霊船を支配下におけるようです。
海洋王国にとっては『絶望の青』踏破を阻む難敵ですが、動きを見せる末端は兎も角、幽霊船団を率いてフェデリア決戦に現れた彼と主力艦隊は様子を伺っています。
現在の乗艦は元海洋王国海賊連合旗艦『レッドオーシャン』。
→イレギュラーズの起こした奇跡を確認。戦闘が激化したのを見て第三勢力として参戦してきます。
彼等はイレギュラーズ達と魔種両方を敵として戦います。ドレイクは海洋王国の旗艦を狙っています。気を付けて。
4、友軍(5/9更新)
ゼヴェルガ・ドラン・ヴァスティオン(竜胆・シオン (p3p000103)さんの関係者)率いる海洋王国特別機動艦隊と、グラナーテ・シュバルツヴァルト(恋屍・愛無(p3p007296)さんの関係者)率いる鉄帝国艦隊の一部が決戦の支援者です。
この作戦に起用を受けた――老いて尚盛んな二人の策略家による指揮、そして海洋王国軍少佐ファクル・シャルラハの奮戦は大したもので、彼等は作戦遂行に高い能力と使命感を持つ大艦隊です。彼等は機動力、戦闘力、運搬、支援死力を尽くしてアクアパレスに乗り込まんとするイレギュラーズを支援してくれますが、皆さんの力が無ければやがて沈み、全滅するだけでしょう。彼等が戦闘力、支援能力を残す間にアルバニアに打撃を与えなければ撤退さえままならなくなる恐れがあります。
※ゼウェルカとグラナーテはどちらも有能でかつ冷徹な性格です。
→両指揮官は状況を早く把握掌握し、反撃に出ています。彼等を支え、壊滅する前に戦い抜きましょう!
●対権能(5/9、投票は終了し『5』が選ばれました!)
PCは権能に対して『パンドラ』という切り札を使う事を選択出来ます。
特設投票サイトにおいて5/7一杯までパンドラ使用についての投票を受け付けています。投票結果によりオープニングや難易度等が変化する場合があります。
投票は大まかに以下の内容となります。
1、パンドラを使わない
2、10000パンドラを消費し第一権能(a)に対抗するし抑制します。
3、20000パンドラを消費し第二権能(aとb)に対抗し抑制します。
4、30000パンドラを消費し第三権能(a~c)に対抗し抑制します。
5、50000パンドラを消費し全ての権能を少し不利に近い状態まで封じ込めます。
是非、ご投票下さい!
https://rev1.reversion.jp/spevent/view/31
●プレイング書式(5/9更新)
『必ず』守って下さいませ。
守らないと出番が無いのみならず、死傷率が上がると考えて下さい。
【撃破部隊】:アクアパレスに乗り込み、アルバニアと雌雄を決します。無理ゲーの体現者です。
【攻撃部隊】:敵性戦力を積極的に撃破にいきます。命の保証はありません。
【防衛部隊】:乗り込んできた魔種や襲ってくる狂王種等を迎撃し、海洋王国と鉄帝国の艦を死守します。船が全て沈めばどの道ここに居る者は全滅です。
【救援部隊】:各部隊に有効な支援を加え、その死傷率を下げます。焼け石に水でも。
→(5/9追記)
状況が変化しました。
【撃破部隊】:アクアパレスに乗り込み、アルバニアと雌雄を決します。
【攻撃部隊】:敵性戦力を積極的に撃破にいきます。唯、やれる事を。
【防衛部隊】:乗り込んできた魔種や襲ってくる狂王種等を迎撃し、海洋王国と鉄帝国の艦を死守します。
【救援部隊】:各部隊に有効な支援を加え、その死傷率を下げます。
【撃破部隊】はアルバニアと交戦します。(勝ち筋は不明です)
【攻撃部隊】が薄ければ【撃破部隊】は辿り着けず、同時に【防衛部隊】の負担が跳ね上がります。
【防衛部隊】が崩壊すればシナリオは失敗し致命的な結果を招きます。
【救援部隊】の働きで死傷率が下がります。
権能が発生し、既にイレギュラーズ以外の船員等が行動不能に陥り、混乱状態となっています。
総じて言える事は現在は圧倒的に不利な状態だという事です。
一行目に上記から【】内にくくられた選択肢を選び、それだけを書いて下さい。
二行目に同行者(ID)、或いは【】でくくったチーム名だけを書いて下さい。
三行目以降は自由です。
例
【撃破部隊】
【主人公チーム!】
かっこよく倒す。おれはつよい。
※三行目までには決められた事以外は一切書かないようお願いします。記述を端折る事、【】をつけない事、指定以外を書く事全て行わないようにお願いします。
●情報精度EX→C(5/9更新)
このオープニングの情報は期間内変更される場合があります。
現時点で提示されている情報が『全て』ではありません。
不測の事態が起きる可能性があります。
→オープニングが変化しました!
●Super Danger!→High Danger!(5/9更新)
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
極めて高確率で重篤な判定を受ける可能性があります。
→通常より高確率で大規模かつ重篤な判定を受ける可能性があります。
強く死にたくない場合は参加を控えるようお願いいたします。
以上、宜しくご参加下さいませ。
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