シナリオ詳細
<泡渦の舞踏>潰えたいのちのダンスホール
オープニング
●
海洋の首都リッツ・パークより幾許か離れた海上。
囂々と音立てた大渦は全てを飲み喰らうかのように深き闇を湛えている。
大渦の周辺では不?戴天の仇である魔種による攻撃や海の中へ引き摺り落とさんとする屍骸の怨嗟の声が響き渡っていた。
幻想楽団『シルク・ド・マントゥール』の大討伐――それも随分懐かしい響きになる事だろう。
依然として危機に襲われる幻想より離れた海洋にその残党である魔種『チェネレントラ』が渦を生み出し、深海に存在する都市で乙女の復讐(リベンジ)が為に特異運命座標を迎え入れる準備をしていた。
古都ウェルテクス――大昔は海種の都として栄え、今は御伽噺として言い伝えられているその場所の大きな屋敷、その地下に存在した広きダンスホールに彼女は居た。
「お手紙を送ったの」
甘える様な声音でチェネレントラは云う。
「チェネレントラはぁ、忘れられたくないの。
チェネレントラはぁ、まだまだ踊って居たいの。
チェネレントラはぁ、愛(ころ)されたいの――だって、女の子だから」
「我儘め」
ボヤいたヴィマルの声にチェネレントラがくすくすと笑う。
魔種としての彼は自身の妹と邂逅してから何所か様子がおかしい。
その両眼で見つめられては自身の嫉妬の念に駆られるその存在すらおかしなものに思えて已まないと一人ぼやいていた。
「だからねェ、沢山の招待客を招いたの。
魔種のみんなには『お友達』を連れてきてね? ってお願いしたし。
魔物のみんなにはもっと盛り上げてね、って『ごはん』を用意したの。
それに、それにねェ――この国ってどうせ嫉妬(アルバニア)のものなら、最大限にアタシが遊んで死んだってどうせもらってくれるんでしょ?
なら、下準備位してあげてお返しするのが道理じゃない?」
「で?」
「屍骸でみんなみんな襲って首都位なら飲み込んでしまいたいの!
クヒッ、クヒヒヒッ――! そうしたら、チェネレントラに会いにみんな来てくれるでしょォッ!?」
彼女にとって、自身の先に待ち受けるものは死であることは確定だった。
こうして一人きり、『オーナー』も当に自分を見捨てただろうと想像していた。
嫉妬(アルバニア)だって興味を持つのはヴィマラや他の嫉妬の魔種だけだろう。
死体繰りを得意とする強欲(ベアトリーチェ)だって色欲に狂った女に対しては毛嫌いすることをチェネレントラは知っている。
「一人きりなの」
「……そうかよ」
だから、最後は愛されたかった。
父が母を愛していたように。母が別の男を愛した様に。父がそれ故に自身を母として愛した様に。
自分だけを見てくれる何かが欲しかった。
愛とは何かを教えて欲しかった。恋が醜いとは知っていたけれど、こうなってからわかった――愛されることは死ぬことなのだ、と。
「ねェ、最後までアタシと一緒に居てくれる?」
「……めんどくせェ……」
「アタシがたっくさん愛されたらやきもち、焼くでしょ? アナタはそういう『性質』なんだものね」
どうして、愛されなかったのだろう。
どうして、愛してくれなかったのだろう。
どうして、何時まで経っても満たされなかったのだろう。
所詮、死体を繰るのも一人きりだから。
所詮、死体と踊るのも気が狂ってしまった。
ねえ、お父様。お母様。行ってみたかったの、御伽噺の幻の都。
そこに三人で行けるって信じていたの。
莫迦みたいに、あり得もしない未来ばっかり見て――
アタシね、チェネレントラはね、お姫様なんかじゃなかったわ。
「チェネレントラ、僕のお姫様」
うそつき。
「チェネレントラ、あいしてるわ」
うそつき。
「チェネレントラ、誰よりもかわいい僕らのお姫さま」
うそつき。
幻の都にきたけれど、貴方達はどちらも傍には居なかった。
愛して、くれなかったじゃない。
●
――月夜の晩、皆様をお迎えに参ります。『色欲』と『嫉妬』の呼び声に乗せて――
その月の日がやってきたのだと『パサジールルメスの少女』リヴィエール・ルメス(p3n000038)はそう言った。
「魔種チェネレントラ――傍迷惑なシンデレラの最大の目的は自分を気持ちよく殺して貰う事、だそうっす」
色欲(ルクレツィア)。その色を帯びたシンデレラは愛されることに貪欲だった。
サーカスという遊び場を失い、ただの一人のおんなとなり下がることを恐れたチェネレントラに手を差し伸べた嫉妬(アルバニア)。醜い感情は優越感を帯び、古都という遊び場を彼女へと与えた。
いつの日か、御伽噺で聞いたあの場所に行きたい。
幼い子供の様にそう言ったチェネレントラに与えられたのはお守役の遊び相手。
死体を繰り、死体を集め、そして主が担当する海洋を主の色に染めるが為――そうして、共に居たヴィマルと共に過ごした日々にチェネレントラは飽いてしまった。
乙女の運命にはスパイスが必要だから。甘いだけの生活じゃ、飽きてしまうから。
だから海を荒らし、街を荒らし、屍骸を集め、そして、ローレットを呼び寄せた。
「チェネレントラは『原罪の呼び声』で海洋を物にし、あたし達の『困ることをする』という莫迦らしい復讐劇(リベンジ)を考えているっす。
放置しておけば純種の多いリッツパークには魔種の気配が蔓延しますし、犠牲だって増えていく」
誘いに乗らぬという選択肢はここには存在していない。
至急、彼女が待つ古都の最深部――ダンスホールに向かって欲しい。
「泳げない? 心配はご無用っす。
海中戦闘用スーツ・ナウス――練達の技術を駆使して作成されたものっす――があるので、泳げない方や水中適性のない方もこれを身に纏って進んでください」
「リヴィエール。チェネレントラはなんで殺されたがってるんだ?」
ふと、『男子高校生』月原・亮 (p3n000006)は聞いた。
「『おんなのこ』だからっすよ」
「なんじゃそりゃ……」
意味が分からない、と亮はその表情に表す。
女の子は度し難い。愛されたかったから――愛(ころ)されたい。
亮が首を傾いだまま、「とりあえず、チェネレントラの所にいけばいいのか?」とそう告げる。
リヴィエールはゆるりと頷いた。
此度の騒動の魔種チェネレントラさえ倒せば集まってきた魔種も散り散りになるだろう。
手引きした色欲(ルクレツィア)、この地に存在する嫉妬(アルバニア)。
何れにしても、彼女に対しては大きく関わることはないだろう。
何故?
何故って、それは醜い灰被りになんて誰も興味を示さないでしょう。
だから魔女の魔法で飾り立てた。大渦に、御伽噺の古都(ステージ)。
「チェネレントラは皆さんを道連れにしてでも死ぬつもりです。
もしも、ローレット(あたしたち)が現れなかったらそれこそ海洋ごと……」
――そうすればチェネレントラという存在を『心に刻み込んでくれる』でしょう?
それは気狂いシンデレラの最悪で身勝手で、そして、少女の癇癪で、只の自己満足で、少女というものはそういう生き物なのかもしれないが――溢れる死のかおりに飲み込まれぬように。
「チェネレントラを此処で討ちましょう」
- <泡渦の舞踏>潰えたいのちのダンスホール完了
- GM名夏あかね
- 種別決戦
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2019年02月07日 22時25分
- 参加人数100/100人
- 相談6日
- 参加費50RC
参加者 : 100 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(100人)
リプレイ
●
深い、深い海の底に居た。
きっときっときっと、夢に見たその場所。
お父様とお母様と手を繋いで行ってみたかった幻の都。
誰も目を合わせようとしないこんな自分を愛してくれているのだと思えるような幸せな場所。
絵本の中では何時だってお姫様は幸せだった。
絵本の中では何時だってお姫様は笑っていた。
偶には、そんな夢――見せてくれてもいいじゃない?
●
水泡が上がっていく。水中での行動には慣れないが水中戦闘を補助し可能にする練達特製スーツは中々の出来栄えか。
呼吸をしながら、水中で海獣を相手取ったアルペストゥスはぐるるると喉を鳴らす。
異世界より訪れた古龍の末裔は海の中をぐんぐんと進む獣たちの姿に首を傾げる。
(海の生き物は、どうして変わった姿をしているのだろう。
その部位は何? その形はどうして? その動きは何? その振る舞いは、呼び声?)
理解も体感も出来ない。呼声は『旅人(ことなるそんざい)』には届かぬ、多いなる純種(このせかい)の叫び。
放たれた魔弾に一角を生やした巨大な鯨が怯む様に身を返した。
「普通に暮らしてた海獣をいいなりにさせるなんて魔種って、すごいね。すごい迷惑」
彼らとて『普通に暮らして来た』筈なのだ。コゼットは耳をぺしゃりと下げて小さく小さく呟いた。誘う様に手招いて、その体は水の中でも自由に動く。
(海の中でもちゃんと動けるって、不思議な気分)
戦闘用スーツはナウスと名付けられている。コゼットにとっては『海の中』は考えられない場所だった。
「深海の獣だから、きっと目はよくないよね……
他の感覚で、おぎなってるだろうから、そこのところ注意するよ」
海の中で、音を、気配を、探す様に動き回る獣たち――
「海中……暗いし火の通りが悪くて嫌なのです」
ぷるぷると小さく震えたクーア。『こげねこ』の名は伊達ではない。彼女が今際に見た炎の景色は残念ながら海の中では見る事が出来ない。
尾を揺らし、海獣の許へと飛び出し、蹴撃を放ったクーアがくるりとその身を反転させる。
「放火魔? 気のせいなのですっ」
周囲に散らばる焔の気配にくすりと小さく笑みを溢した夕。マルベートと協力体制を敷き、海獣の行く先を『予測』する。モンスター知識を利用して海獣たちの特性を探る夕は「マルベートさん、後ろ!」と声をかけた。
「ああ、なるほど。背後から――ふふ、面白いじゃないか」
深海屋敷の華麗なる一幕も素敵だが、屍骸相手はナンセンスだとマルベートは手にしたナイフとフォークの切っ先を海獣へ向けた。
「しかし幸いなるかな、可愛らしい海獣たちがいるようじゃないか! その上、我が同胞、夕と共に戦える幸運にも恵まれた!」
操られているとしても相手は獣。生きるのは喰らうのと同義だと彼らとて理解している筈だ。
「ふふ、何なら仕留めた数でも競ってみようか?」
「今回の目標は『なるべく長く戦い続けて、なるべく多くを屠る』! なら、そのゲームは一理ありです! よおっし! 私、負けません! 負けませんよー!!!」
やる気十分の夕に対してマルベートがにたりと笑う。海獣を倒し尽くせばそれでよい。
深海屋敷にはまた別の仲間達が向かっているのだから――
ヤングシュガール。その人を探す様に灰は声を上げる。者ども集えという様に盾を手に、魔種の声を払う様に守りを固めて。
(ここで倒さねば……)
仲間を統率し、魔種という害をこの大海より出さないようにと願うが如く。
ヤングシュガールに接敵した灰をいやしたマルクは前衛で戦い強力なヤングシュガールの背後に見えるペルーダの姿を両眼に映す。
(どちらもヒーラーを退治にしている……ってことかな?)
戦線を維持することは即ち、勝利への道しるべだ。前往く灰に続く様に耳をぴこりと動かしたルルリアは「蛇男、こちらです」と手招きふ、とその姿を掠めさせる。
「ルルさん、アンナさん、気をつけて!」
「大丈夫なのです。さあ、動きは止めさせてもらいますよ、蛇男」
ルルリアの挑発的な言葉。『ルルリア様の祟り』は例えば冷蔵庫の名前が書かれたプリンを勝手に食べてし待ったかのような――そんな、そんな『恐ろしい祟り』だ。
その怨みを乗せた一撃を癒すペルーダ。視線をちら、とやったアンナはヤングシュガールを抑える様に武器を手にした。
響く声は只、嫉妬を乗せている。マルクの言葉に「ええ、気を付けていくわ」と穏やかに告げたアンナの小さな体が跳ね上がる。
「海中で踊るのもたまには良いでしょう。しばし付き合って頂戴?」
ぐん、とヤングシュガールに接敵する。頬に掠めた一撃、アンナの表情が僅かに歪むと同時にその身を反転させて灰がカヴァーリングに入る。
「止めるだけで精一杯かよ」
煽る様なヤングシュガールの言葉を遮る如く、銀河を股にかけるロリ宇宙警察忍者巡査下忍がいざとその姿を現した。
「いいえ、名乗る為の『尺稼ぎ』! 知ってますか、ヒーローは変身シーンと名乗るシーンに攻撃はされないのです!」
無い胸張ったルル家にルルリアが「らしいのです」とこくりと頷いた。
「お遊び気分で人の命を奪われるのは迷惑千万。
この宇宙警察忍者、夢見ルル家、邪悪を成敗致します!」
格好良く名乗りを上げてルル家は『美味しそうな蛇男』に狙いを定める。蛇なのだ、蛙だって食べるのだから蛇だって食べれる。ちょっと人間っぽいところが気になるけれど――腹が減っては戦はできますまい! 食事のためです、犠牲になってください。
海獣を狩る人々に其方は任せヤングシュガールに食欲(ちから)をぶつけてゆく。
「楽しそうに戦えるだなんて……妬ましいわ……」
爪を噛み、エンヴィは囁くようにそう言った。遊ぶように楽し気に――ヤングシュガールとペルーダにとっては『特異運命座標』との戦いこそが遊びなのだろう。
エンヴィの言葉を聞いて、静かに目線を配ったクラリーチェはエンヴィの云う『妬ましい』は『羨ましい』――それは、ここにいる魔種達の呼び声にも似た、羨望であろうか――が含まれていると理解していた。
「エンヴィさんは、戦いを楽しみたい人なのですか?」
ぱちり、とエンヴィが瞬く気配がする。クラリーチェは「……いかなる場所でも平常心や少々の心の余裕は必要でしょうね」と静かに呟き、落ち着き払っている自分の方が可笑しいのかと魔種を見遣った。
不安げなエンヴィの瞳が、其処にはある。旅人である彼女と違いクラリーチェは『呼ばれる』可能性があるからか。
「エンヴィさん、大丈夫。私は呼ばれないわ。一切の興味関心がないから、人様にどうこうなんて、思わない物」
嗚呼、嗚呼。そのクラリーチェの言葉にペルーダが唾を吐く様にけらけらと笑い出す。
「人様に関心がない!? なんて、かわいそう!」
「可哀想? 人を蔑む事しかできないババアには云われたかないぜ」
ペルーダに対して打ち込んだ一撃。海獣を盾に使うであろうと予測していたシラスは口の中で予測通りとほくそ笑んだ。
ペルーダを庇う海獣を全て『吹っ飛ばす』。そして彼女への進路を開ければ『自身の回復に手いっぱいになり、ヤングシュガールは意識の外』ではなかろうか――?
「ブッ潰れろォ!」
声荒げ、そう言い放ったシラス。ペルーダがけらけら笑うその視界を遮る様ににんまりと笑ったアーリアは「水中って酔うわねぇ……」と肩を竦めた。
「ペルーダちゃん、私達と遊びましょお?」
嫉妬ばかりの女の子は『可愛くない』とアーリアはくすくす笑う。シラスが狙い穿った一撃で空いたペルーダへの道。なれば、視界も通るはずだと手招く様に指先をこまねいて。
「またこの二日酔いみたいな呼声ねぇ……こんな頭痛慣れてるもの、屈するわけなーい!」
唇に、僅かに浮かべた笑み。ペルーダへ放つは甘美な淑女のキッス。甘く強いお酒に酔う様にその身を蝕むそれをペルーダが悔し気に歯噛みする。
「何さ、その『甘ったるい』の!」
「最後位、甘い酒でも飲ませてやろうかと思っただけだぜ、ババア!」
シラスの煽る日と声にペルーダの視線がぐるりと向いた。癒しを乞うアオイは嫉妬の気配をその身にひしひしと感じ取る。
遊びたいというならば、何処までも相手になる。自身を癒し特異運命座標と戦う事に躍起になったペルーダにヤングシュガールが「おい」と焦りの声をかけるが、それも届かぬものか。
「ただし、俺らを相手にして無事に済むとは思うなよ」
「なんだってェ……?」
ヤングシュガールとの連携よりも特異運命座標へと夢中になった鱗淑女。無論、それが狙いだとアオイの口元にゆったりと笑みが浮かび上がる。
手の甲の口付けに、穏やかな笑みで「君にも女神の加護があらんことを」と跪いて手の甲にキスを返したクリスティアンは眼前のペルーダを見遣る。
「より強く、皆を守る城壁となれるように!」
距離を詰め、クリスティアンがペルーダの瞳を覗き込む。どこか爬虫類を思わせるその瞳がぎょろりとクリスティアンを覗き込み、只、笑った。
「さあ、前座の時間も仕舞だ。心配はしなくていい。仲間達が、フィナーレを飾ってくれるからさ」
「フィナーレだぁ?」
けらけらと、笑った女の横面へ嫌がらせの様に投げ込まれた手榴弾。倒す、誰かの為に――只、それが大義名分だというのならキドーにとってはくそくらえだ。盗賊は『大義名分』なんざ掲げちゃいない。
「海洋はどーでもいいが、港が無くなるのは困るな。
海のオトコってのはまあ浪漫だのなんだのゴチャゴチャ言うが、最終的には港を目指すもんだろう。海賊……オクトの野郎もな」
誰か、求めた存在を。これはエゴかもしれないと唇に笑みを乗せたキドーに距離開けてヤングシュガールを相手にしていたエマとて『大義名分』なんか掲げちゃいない。
「えひっ……」
至近距離で攻撃を重ね続けるエマは危ないという様に後方へと一歩下がる。
(危険なら刀根さんとか、黙って盾にしても怒らないでしょうしね。えっひっひ!)
「ん? 何か寒気が……」
海の中だからかと呟く灰からふいと目を逸らしたエマが「容赦はしませんよ」と傷だらけのヤングシュガールへと向き直った。
ペルーダは自身を回復し持久戦にもつれ込むだろうが、ヤングシュガールは短期決戦に切り替えたのだろう。
「歌え、声高に。振るえ、持てる力を!!」
海獣への対応が為に射撃と、そして味方の鼓舞に回るローゼスは誰も失わぬ様にとその熱意を、力を振るう。
ローゼスの支援を受けて、咲耶は出来る限り『不殺』で対応するのだと忍術を続ける。
「ローレットははただ騒いでつるむだけの軟な集団ではござらぬ。
その理由は誰かが悲しむ姿を見たくない、後で後悔したくない、強い者と戦いたいと様々な物。
互いの利害が一致している故に共に同じ方向を向いてゆけるのでござる――そこに楽しみ飽きる余地など一片もあらず、ただ互いの共通の敵を打ち砕くのみ!」
「ええ、ええ、彼ら普段は気のいい奴ですのよー」
ユゥリアリアは穏やかな調子でそう云った。海種の機動力を使用し、魔種と戦う見方の許へは生かさないと威嚇術を使用し続ける。
「キツくても辛くても笑顔笑顔! 笑顔を忘れなければ何とかなる!」
天十里は呼声を払う様に笑みを溢す。操られている相手を仕留めるのは気が引けるとハイセンスで水の流れや水音を利用して偵察を続ける天十里。
拳銃しか武器ないんだけどと声を発する天十里にユゥリアリアはくすくすと小さく笑みを溢した。
咲耶は無駄に命を散らすのは拙者の忍道に反すると『殺さず』を全うするが為、武器を振るう。
「今が満ち足りてるとは到底思えねぇが、魔種になるほど飢えちゃいねぇっての!」
タツミは極力の不殺とそして無力化を狙い続ける。無駄な殺生をせずに済むならそれに越したことはないと攻撃を重ね続けた。
弱り切った海種。魔種達を庇う事から離れたそれを拳で殴りつけてタツミは無力化し続ける。
なるべく、不殺でという仲間の気持ちを汲んでライハは長分析を行いながら、支援を行い続ける。被害を少なくするためにというならば、余裕を持たねばならない。海獣の攻撃を防ぐ様にライハが放つ一撃が海獣を抉る。
「敗北の物語を紡ぐつもりはないのでな……止むを得ん。
さぁ英雄譚を見せてくれ。この古都にて――ッ!」
ライハの言葉を聞き、影より飛び出した弾丸。
(ヤングシュガールもペルーダもヴィマルも……あの時ブリだ。決して侮ってたワケじゃないけど、デモ……今度コソ、逃がさない)
ジェックは放つ弾丸はヤングシュガールの横面を吹き飛ばす。
「狙うのはお綺麗なカオ。アノ時からつくづく、エンがあるね」
「ッ――!?」
はッ、と息を飲む。吐き出されたそれと共に至近に飛び込んだ一晃はじろりとその目を見遣った。
「だが今日こそ終わりとしよう。墨染烏、黒星一晃。一筋の光と成りて、舞踏会に幕を下ろす!」
一晃にヤングシュガールが後退する。にんまりと笑ったシュリエは尾を揺らしヤングシュガールに首を傾いだ。
「しっかしこいつら、無駄に楽しそうだにゃあ。
あんま煽りがいがないにゃー……まあ良いけど」
「楽しいぜ? さあ、お前も『一緒に死のう』ぜ?」
「断るにゃ! 楽しそうで何よりだけど、前座は前座らしく長引かない程度で退場しろにゃ!」
火力を武器とするヤングシュガールを落とす。それを狙うシュリエは災厄と共に、ヤングシュガールの懐へと飛び込んだ。
「嗚呼、遊びに来たぞ、魔種。これで最後だがな」
そう言い残し、リジアの姿がその場から掻き消える。牽制を送り、姿勢を逸らしたリジア。ヤングシュガールを相手取り、ペルーダを探す様にリジアの視線がきょろりと見回している。
「なんだか凄い理由で戦う事になりましたのね。あ、でも確かにご飯になるかも……?」
ぱちり、と瞬く鈴音。テラはきゅう、とお腹を空かせ「やる気が出た気がするので頑張るのです」と首を傾げた。
「まずは3枚おろし……背開きと腹開き、悩むのです」
むむ、と悩まし気な寺。鈴音は「それっておいしいのかしら……」とぱちぱちと瞬く。
「ぶつ切りも出汁に最適」
淡々と呟くテラの傍らで、ルナールは何処か面倒くさそうに頬を掻いた。
「おーおー、また好き勝手な事を言ってるな。一人で自滅すればいいものを…。
やれやれ、自暴自棄なら俺とルーキスを巻き込まない所でやって欲しいもんだ」
自暴自棄という言葉にルーキスが緩やかに頷く。ルナールの呆れの言葉と共に放たれたそれ。近寄る敵を兎に角と攻撃を重ねていくルナールとルーキスに続き、腹を空かせたテラが「わ」と小さく息を吐く。
「わわっ! 皆さん鈴音が回復しますね!」
「はいはい私の恋人に近寄らないでね! テラちゃーん、12時方向真後ろ切り捨てよろしく」
鈴音の支援と共に、ルナールとルーキスが攻撃を重ね続ける。
「ワシも頼めるかの? かわい子ちゃんにキスしてもらえて更に幸せが訪れるなんて……!」
にんまりと、幸福を与えられた只、それだけが嬉しいとミカエラは癒しを送る。魔種になってまで幸福は求めて居ないというミカエラに協力するようにボルカノは「そろそろ幕引きといきたい所であるな……!」と大きく頷いた。
「アワワ、やることいっぱい……!」
慌てるボルカノは超視力とハイテレパスを持って、周囲の海獣たちの対応を進めていく。
「寂しいのかもしれんが道連れとは感心せんのう」
小さく呟く潮。チェネレントラは淋しくてそうしているのだろうかとぽつりとつぶやく。
「寂しいのならもう少し待ちなさい。わしもそろそろあの世への呼び出しを考えんといかん頃じゃから……その際は一緒にいてあげよう」
エトは「あら」と小さく呟いた。潮は「今はその時じゃあるまい」と小さく呟く。
海獣への対応が完璧であったが故、魔種の早期の分断が叶い、回復手を失ったヤングシュガールはもはやその身をい震わせているではないか。
(人と獣と、混戦なんてなったら面倒にも程がある。
魔種と戦うお人らが対魔種との戦いに集中できるように。獣たちは引き受けましょ)
ブーケの耳に届くペルーダの声。ブーケは何処か面倒だという様に、耳をぺこりと動かした。
「人様を羨むほど周り見てる余裕、ないからなあぁ。俺は自分の幸福護るので背一杯。アンタらの声聞いている暇もないんよ、堪忍ね」
重ねられ続ける攻撃に雪之丞はほう、と息を吐く。
「拙に、呼び声はそよ風ですね。あなた方も、あのチェネレントラと同じ。
自分と同じ場所へ引きずり落とせばいいと願う者、でしょう――真実は知りません。ただ、亡者共も似た事を呻いていましたね」
不愉快な呼び声を払う様に、目の前で動きを鈍くしたヤングシュガールに向けて、只、攻撃を放つ。
一太刀。深海の闇に溶けるようにその身体が沈んでいく。
エトはペルーダに向けて雷を堕とす。シラスの攻撃に重ね、癒しを送るエトは只、緩やかに攻撃を重ねた。
「愛を強請るだけの悲劇気取りなど捨ておきなさい、貴方を真に想う者の聲にだけ耳を傾けて!」
世界初、水中に潜った鶏! …だったりしないかしら。この世界だと前にいてもおかしくないけど!
トリーネはぱたぱたと翼を揺らす。ペルーダを見遣りながら『地上の代表』としながら『海の獣』として全力を果すとトリーネがこけこっこと動き続ける。
重なる攻撃。只、その中でペルーダの視線がトリーネを見る。
「楽しそうね」
「勿論! だって、『世界初』かもしれないのだもの!」
笑うトリーネにペルーダは「そうかい」と小さく呟き、目を伏せた。
●
感情を手繰り、ユーリエはゆっくりと息をついた。
ヴィマル。そう呼んだ彼とユーリエの視線が邂逅する。
「……特異運命座標か」
何所か、面倒くさそうに――それでいて、抵抗する素振りもなく彼はそう呟いた。
「正に用意された舞台って感じだなぁ……。
海洋に住む人々も……仲間達もどっちも失いたくはないからな……。
『最期の壮大な我儘』……付き合ってやろうじゃないか」
ゆっくりと、確かめるようにそう告げたヨルムンガンド。
最期の壮大な我儘。それがチェネレントラの事を差しているのだとヴィマルはヨルムンガンドの様子をじっとりと見つめ小さく息を付いた。
「優しいこったな」
「ああ……でも、優しいだけじゃないぞ……」
ヨルムンガンドは地面を踏み締め、一気にヴィマルへと接敵した。美しく不吉を呼ぶ黒煙が星屑を纏う。
「さぁ……我儘お姫様と一緒に此処で眠るか……勝負だ!」
「我儘お姫様と寝る? ……ンなめんどくせぇことするかよ」
冗談のように笑ったその顔が、ヴィマラと重なった気がしてノースポールははっと息を付いた。
「でも、チェネレントラを助けに行こうとしてるよね。
チェネレントラの元へは行かせない。全部、ここで終わらせるよ!」
嫉妬の呼び声を払う様にノースポールは口上を名乗る。攻撃に集中し、全てが全てをぶつけるように。只、最大火力を『彼』へぶつけることだけに注力し続ける。
「ポー!」
「うん、ルーク。がんばろう!」
呼ばれたその名前。それだけで力になるとノースポールが掌に力を籠める。ちら、と視線を配ったヴィマルは「ああ」と静かに呟いた。
「……妬ましい? だったら何! 妬んでばかりじゃ、何も変わらないのに!」
呼び声は、悲痛な響きを孕んでいる。ヴィマルが感じ取った『感情』はきっと、ヴィマラも感じた事のある者なのだとアレクシアの表情が僅かに歪む。
「そうだよね……君はヴィマラ君のお兄さんだもんね……」
ヴィマラ。妹の名前、その響きを耳にして、ヴィマルはは、と息を飲む。
「ヴィマラ――」
「うん……、ヴィマラ君から伝言があるの!
『謝りたいことは色々とある。でもどんな姿になろうが、どんな生き方をしようが、ずっと大事に思ってるって!』」
アレクシアのその言葉にヴィマルが唇を噛み締めた。
その表情、そのすべてが彼が『生きている存在』であることを分からせて、そして――それでも尚、己の欲求に飲まれるように妬ましいと口にしたその裏腹さが度し難いとまで思わせた。
「妬ましい――そうやって、アイツには居場所があって、」
「君だってッ」
君だって――ここに、と手を伸ばせど彼がその手を取らないことなど分かり切っていた。
歩をお撫でる水の感覚を掻い潜る様に、癒しの花を回してアレクシアがヴィマルと相対する仲間達を援護し続ける。
癒しを乞いながら幻はじっくりとその様子を見詰めていた。抑え役として戦う仲間を支えることこそが必要されている。
(……まるで、普通の人間の様に息をし、考え、感情を揺らがせる――それでは、『罪なき人』にしか見えないではないですか)
性質が反転したが故の『魔種』。その存在が世界を崩壊に導く可能性がある以上は捨て置けないのだと幻は理解していた。理性よりも感情が勝るその存在は何処までも『ニンゲン的』ではないか。
「妬まなくたって……貴方は大切なものを持っていたでしょうに」
「故郷で蔑まれ、大切なものを守れないとしてもか?」
は、と鼻を鳴らして笑た彼に利香は唇を噛み締めた。特別な力というのは誰しもが得られるものではない。利香が特異運命座標としてこの世界に召喚ばれたのは『偶然』だったのだろう。
そして――彼の妹が可能性を得て、彼が得られなかった事による『羨望』は度し難い。
「貴方は、大切な人を守りたかった……?」
「ハッ、どうだかな」
お人よし、と。利香は小さく呟いた。此処から先に彼が『面倒』だと言っても進もうとするのはあくまでチェネレントラへの情なのだろう。
只の一人、愛されたいと叫ぶ彼女の傍に立っていた一人。
「皆の思いを乗せたこの団結の力で!」
思いは、誰よりも強いのだとユーリエは声を張った。逃がさぬように、逸らさぬように、彼よりも尚、強い気持ちでその道を閉ざす様に。
「ヴィマラからもう一つ! 生まれ変わってまでめそめそしてんじゃねー!
生きてんなら、楽しめるようにやってけ! そんで笑って死ね!」
「―――、」
プラックは笑う。ロックな妹じゃねぇか、と。
何時だってロックだぜ、と笑っていた片割。自分とは正反対な性質の彼女。
傲慢か、それもいい。貪欲であればそれだけで掴めるものも多いはずだ。
「地下には行かせねぇ!」
振り翳された拳を受け止めて、ヴィマルは息を吐く。頬を掠めるそれ、善戦で戦うのは得意ではないという様にゆらりと動いた彼の戦闘スタイルを見てルチアーノは『ヴィマラ』の事を思い出した。
「ヴィマラさんに伝えたいことがあるなら聞くよ?」
「……ねぇよ」
「はは、嘘が下手だね。本当はずっと妹さんの事を気にしてたんじゃないの? 必ず伝えるよ」
黙り込む。これがペルーダやヤングシュガールならば「生きて帰れると思っているのか」と聞いたのだろうか。
ルチアーノはそこで実感する。嗚呼、彼は本当にお人よしだ。
チェネレントラにも、そして、特異運命座標にも――よくよく思えば彼は『時折辛そうな顔をしていた』ではないか。その性質を反転させようとも、許の性格は変わらない。
全力全開。押し切る様に放った死弾。黑い夢は残酷かそれとも幸福か。魔種にとってのそれがどうなのかは分からない。オレンジレッド・シトリンが焔のように輝き、ルチアーノを鼓舞し続ける。
「根競べだよ!」
ユーリエの言葉に幻は頷いた。ヨハンと、そしてヨルムンガンドに癒しを送るマナは目を伏せる。
(――たいせつ、だったのですね)
彼女がヨハンに対してそう思う様に。ヴィマルもヴィマラを大切にしていた。
視線を受け、ヨハンはにんまりと笑う。
「皆さんが魔種と戦ってる間、僕たちで海獣を止めます! 大丈夫、此方は任せてください!」
自身のできる攻撃をフル活用する。海獣への対応はすでに進んでいる――海獣の強さは未知数であると知っていた。マナの視線にヨハンは柔らかに頷く。
肉親へ向ける正しい愛情は何時しか、彼女への羨望に変わったのだろう。世界への恨みが、故郷への恨みが、それをも笑って過ごせる彼女が――妬ましい。
「妬んでばかり……それじゃ、かわいそうだろ……?」
ヨルムンガンドの言葉にヴィマルが唇を噛み締めた。抵抗は弱い、一気に距離を詰めるようにして、ルチアーノが肉薄する。
アレクシアは「ヴィマル君」と友人に呼びかける様に、そう呼んだ。視線が、あの瞳が、此方を見て居る。
「最期が」
ヴィマルの瞳がプラックを見遣る。その嫉妬の焔を燃やした『妹とは正反対な昏い瞳』がぎょろりと動く。
「アイツの前じゃなくて、よかった――」
に、と口元に笑みが浮かぶ。ヴィマルのその言葉にプラックがはっとした様に目を見開いた。
長い長い、旅の途中。
屍骸を糧にすると誹られたその血を恨めど、彼女は笑っていた。
屍骸喰い、死を冒涜する、悪魔の一族。莫迦野郎。『そういう生き方』だってロックだろ。
……生きてるだけでロックだぜ? ああ、そうだな、きっとそうだ。
ちくしょう。誰が何と言おうとお前は『妹』だったんだ。
――もっと、お前の笑顔、見ときゃ良かったよ。
●
こいつが、魔種『チェネレントラ』。
そう確かめるようにシリルは言った。女性的なその顔立ちに乗ったのは僅かな不安。眼鏡越しに見遣った魔種は『普通の少女』のような姿をしている。
(どこまで闘えるかわからないけど……全力でやらなきゃ……!)
彼女が『普通の少女』を思わせる外見であれど、その性質が魔であることに違いはない。
ぞろりと周囲を歩き回る屍骸の群れの中、シリルははっと顔を上げた。チェネレントラに向けての突破口を平うべく、広範囲に攻撃を届けるラティーシャは銀の髪を靡かせる。
氷の魔剣は冷ややかな気配をさせ、水の中でも変わらず冷気を発し続けている。
「流石にこれだけいると、どこに撃っても当たりそう……魔剣よ、全力で行くわよ」
地面を踏み締める。華奢な足に力を込めて守るべくは戦線維持を買って出るヒーラーたち。
「ッ――」
何処を見ても屍骸、屍骸、屍骸。
「いっ……今すぐ治療しますから!」
シリルの言葉に頷いてその身を反転させたラティーシャが屍骸たちを薙ぎ払う。
「ルーン文字よ、悪意を砕け」
「さぁ……俺と踊ってくれるのは誰だ?」
ひら、と揺らした黒い外套。レイチェルは水中行動を駆使し、水に害される事なく動く。広い視野でハイテレパスを用いての伝達は今の所うまくいっているといえるだろう。
――役割? それは、シンデレラの魔法が溶けるまでの時間稼ぎだ。
思い出す。ノーラはにんまりとフェスタに笑みを浮かべたのだ。「ほっぺが良いな!」と、しかして、その幸福の口づけは手の甲へのものだと言えばノーラはこくこくと頷いた。
おば――……お姉さんの指示に従い攻撃を続けるノーラ。
「ん?」
「んーん」
にへらと笑ったノーラにレイチェルは僅かに瞬いた。もう一度眠らせる為にとフロウは狂ったダンスホールで周囲の特異運命座標と協力し合う。
手の甲にキスひとつ。フェスタと共に進むゴリョウは周囲の死骸たちを払う様に動き続ける。
回復し、直ぐに前に戻るのだとフェスタとゴリョウが交代を続ける。
前線で戦い続けるゴリョウは「ぶははッ、バトンタッチだ! 任せな!」と小さく笑いフェスタと後退する。レイチェルやノーラと共に協力し、屍骸の群れを裂く様に動く彼女たちの目には確かに踊るチェネレントラの姿が見える。
「末長く戦える自家発電むっちーとして活躍するんだ!」
頑張るよ、とむっちー――ムスティスラーフがやる気を滾らせる。むっち砲の威力をとくとご覧あれと攻撃を重ねれば、屍骸たちは薙ぎ倒されるようにその身をホールへと横たえていく。
「……どうか、安らかに眠ってね」
小さく呟くムスティスラーフ。こくりとフェスタとゴリョウが小さく頷いた。
みつきは周辺を妨害するように攻撃を続けていく。レイチェルの作戦に従い、屍骸を中心に攻撃を重ねるみつきは「このままいくぜ?」と確かな成果を感じ取りながら攻撃を重ね続ける。
「私の夢の為、海洋の明日を掴む為、私は絶望の青の先に行くのです。惑わされている暇はありません!」
降らせる雷。アンデッドに対して輝きを放つフロウに屍骸たちがぐぐぐと唸りを上げる。
絶望の青――目指した希望。夢に一途であるフロウは正しく世界を見据えるように声を張る。
「死者は友達にはなれませんよ、これは所詮ひとり上手です」
乱戦状態の中、コロナは目を伏せた儘に仲間へと癒しを送る。
「魔種という殻を破り、我々と共に生きてみませんか?
特異運命座標点なら、例外もあるのでは?」
「魔種が『フツウ』になれるなんて――そう、思ってるのォ?」
くすくすとチェネレントラが屍骸の中で笑う。無理だという様に囁いて、彼女の表情は何処か切なさを帯びてゆく。
(これだけの屍骸を操っているのが『チェネレントラ』か……)
ぽそりと呟く冬佳。鎮魂は彼女にとっては『お役目』と呼べるだろう。鎮めるべき魂を弄り、そして弄ぶ――それが彼女の役目に反することは一目で明らかだ。
「眠りを妨げられし者達よ。我が神水を以て洗い浄め祓い鎮めましょう。――どうか、安らかに」
ひらりと掌を返し、屍骸たちへ向けて放った白鷺結界。頬を掠める痛みに僅かに目を細める冬佳は屍骸たちが『生者の気配に反応し襲い来る』事に気付いた。
「生者に反応する? ああ、じゃあ俺は派手に暴れてくるとするよ――援護が望めるなら多少の無茶も通せる」
千歳は静かに呟いた。首魁へ向けての路を開く露払い。その役割は『行く先知らず』と言えど、悪くはない。
溢れる死骸を受け止める冬佳の表情が僅かに歪む。
「もうかなり斬ったと思うんだけど、まだまだもう一仕事必要か……行くよ!」
「ええ、行きましょう」
その眼前にはチェネレントラ。未だ、屍骸でその身を守る者が其処に入る。
「殺されたい。女の子だから。……理解できませんね。
まあいいでしょう。それが望みとあらば、望み通りに消して差し上げましょう」
淡々と呟いてコーデリアはゆっくりとさ全力での攻撃を放つ。彼女の言葉をホールに反響させるように笑みで『返した』チェネレントラは幸福そうに唇で弧を描いた。
「ええ、だって『女の子』って度し難い物でしょう?」
「さあ?」
「『女の子』はどうしようもない位に度し難くってェ、
どうしようもない位に甘えたでェ、どうしようもない位に――悲しいのよォ」
ひらひらと踊る様に動くチェネレントラの指先が何かを括る。死骸繰り、その様子を見るにコーデリアは我が身を顧みず敵を殺すという行いがチェネレントラの戦力になる可能性も考え得るのだと静かに息を飲んだ。
(かの戦場で討ち果たせなかった魔種――チェネレントラ……。
この刃で引導を渡したいという気持ちはありますが…精鋭の方々にお任せ致します)
すずなはごくり、と息を飲む。サーカスの時と同じ露払い。かつては溢れた屍骸を、そして此度も溢れた屍骸を。因果を感じるとすずなは遊撃として動き続ける。
「――誠の刃、屍如きに止められると思わない事ですね……!」
紫電と共に薙ぎ払う居合。すずなの一撃に続きレイチェルが屍骸を振り払う。
エリーナはレイチェルの傍らで、手の甲に得た『幸福』を受けて、願う様に手を組わせる。多くを巻き込み、呼声に誘われぬようにと掌に力を込めてエリーナは氷の妖精と共に舞い踊る。
水中に揺蕩う氷柱。その様子を見ながら眼鏡をくい、と上げた寛治はファンドマネージャとしての営業を開始するべきかとふうと息を付いた。
「そろそろ海洋にも本格的に営業を掛ける時期ですから、覚えの良くなる働きをしなくては」
この仕事は『海洋の女王から直々のお願い』であった――ならば、これは確りとした営業になるはずだと寛治は踏んでいた。
寛治が放ったハニーコムガトリング。周囲の死骸を蹴散らす様に動く彼の眼鏡がきらりと輝いた。
視線が手繰るは『縁』。縁はチェネレントラの手繰る屍骸の中に『罪』の姿がないかと息を飲む。
(屍骸使いだの、屍骸を操るだの聞くと、どうにも落ち着かねぇ。
……俺がいつか沈めた罪が、引き摺り出されちまってやしないか)
泳ぐのは嫌いだといってはいられないかと、水中に適性を持つその体を揺らして、縁はぐるんと、屍骸に対して攻撃を繰り返す。
「……やっぱり、屍骸を操るというのは頂けないや。
眠りについたものをあれこれ弄っては駄目って、教わらなかったのかな? きっとそうなんだねえ」
「アタシ、寂しくって! ふふ――ふふふ!
『教えて』貰ったの、こうすれば寂しくないってェ!」
叫ぶようにそう言ったチェネレントラに津々流がぱちりと瞬く。躍る様にチェネレントラへの道を閉ざす様に妨害する彼らを手繰る糸を切り裂いていく。
意図を切る。皮肉を込めたその攻撃を放ちながら津々流はくすりと笑った。
「それにしてもこのスーツ凄いねえ、水の中でもこんなに動けるとは……!」
「海の中で自由自在ってのは初めてか?」
「そうだねえ、海の中じゃないみたいだ!」
縁に頷いて、津々流はだからこそ、進もうと両の足に力を込めた。
「命潰えたならば、その身体は静かな場所で眠らせておかなきゃ。なのに……これは」
ルアナは、ぎゅ、と掌に力を籠める。ホールを埋め尽くす夥しい数のいのち――だったもの。
罪もなく、只、その命を全うした『残り』。それを残滓と呼ぶには余りにも酷だとルアナは知っている。
唇がごめんなさい、と形作られる。この先に行かなくてはいけない。弄ばれるその意図を着るために。
チェネレントラの許へ、届けるようにと願うルアナの願いを受けてココロはぐんぐんと同胞の屍骸を避けるように進んだ。
「チェネレントラ」
名前を呼んで。ココロは真直ぐにホールの奥で笑うその顔を見遣る。
「身勝手。自己満足。移り気。わがまま。……たくさんの気持ちを持っている。なのに愛が無いと感じるから不満なの? わたしにとってはどれもこれも解らないから羨ましい」
その言葉にチェネレントラは何処か、曖昧に笑った。
●
嫉妬。
色欲。
すべてのもの。
「姉様とは種族自体が違うので、嫉妬というには色々離れすぎている部分は確かにありますが……まあその、いつも楽しそうですよね、という事を想ったりはするわけで、ですが、楽しい事は分け合えばいいと思うのです」
それが――幸福であるとシルフォイデアは柔らかに告げた。傍らのイリスはチェネレントラを庇わんとする屍骸を受け止める。
イリスは『海洋の誇る美少女』なので嫉妬には無縁だと小さく笑う。
「というか、どうしてそう後ろ向きに全力疾走なのかしら。
素敵な場所なのに、ただ迷惑をかけて刻み付けたいとか、勿体ないでしょ?」
「それしか」
「それしか知らないのですね。姉様。きっと、彼女」
シルフォイデアは小さく呟きイリスは柔らかに目を伏せた。きっと、そうだ。――彼女は、それしか愛情表現を知らなかった。
「死ぬのは結構ですが、認めるわけにはいきません。……全てが手の内で遊んでくれるとは思わないことです」
呟く悠薙ぎの言葉に普段のチェネレントラならば笑い飛ばした事だろう。
嗚呼、もう表情は出て居ない。シュバルツはリゲルとコーデリアを前へ前へと進ませるように只、攻撃を重ねていく。
「ッ、いけ!」
「ええ、進みましょう――『女の子』とは、そういう生き物だそうですから」
同じ女の子ですのに、と囁くコーデリアは困った様に目を伏せる。
チェネレントラ、愛憎に濡れた色欲の魔種。只、今は行き場のない子供の様な彼女。
「騒がしくしてごめんね。 今度こそ静かに休んでいて」
ニーニアは静かに呟いた。屍骸の数は減り、その周囲を拓く様に放った攻撃にチェネレントラは何処か幼い少女の様に声を震わせる。
どうして、と静かに目が揺らいでいる。罪なき命をどうして――どうして、こうも遊ぶのか。
「逢えたな。でも逢える気はしていた」
ヴェノムが囁く。髪を水の動きに合わせて揺らしたチェネレントラはぱちぱちと瞬く。
「……会いに来てくれたのねぇ」
「『お友達』に聞いた通り面白い。チェネレントラ――可愛い『シンデレラ』」
ヴェノムの言葉にチェネレントラの笑みが深く深くなっていく。
彼女のエゴイズム。多々それだけで、世界を壊し、己を殺す。エゴイズムから離れた愛などありえず、彼女の存在そのものがエゴに塗り固められている――ヴェノムにとっての好みの相手。
「OK、シンデレラ。さぁ、踊ろうぜ。愛を語るには、夜は短い」
ぐん、と踏みしめた地面。屍骸たちの合間を抜けてチェネレントラへと肉薄する。
かつり、と海の中でもヒールを鳴らし、いつも通りの様子でにんまりと笑みを浮かべたタント。
「おーっほっほっほ!」
響く笑い声にチェネレントラの貌がつい、と上がる。
「愛とは善悪を超えるもの…しかし! 愛の名に正義は決して屈してはならないのです! わたくしは白日(せいぎ)の名の元に、死人を弄ぶ貴女を誅しますわ!」
きらめけ! キランとおでこが輝くが今回はお出かけモード。
タントは「わたくしに続くのですわー!」とびしりと屍骸の山を指さした。
「海底の廃都……活動できさえすれば確かに拠点としては有効ですね。そして引き込む罠としても」
海中に飛び込み――そして、引き込む様に戦う。魔種とて『頭脳』を使うのだという事をアリシスは悩まし気に目線を揺れ動かした。
「何処から調達したものかこれまでにも相当数処理してきたはずですが……。
まだこんなに居たとは……余所から調達したにしては多すぎますし。
……本当にこの都の住人の遺骸だとして……遺骸がこの程度には残る滅び方をしたこの都の来歴には興味を覚えますね」
古都。その成り立ちは御伽噺で語られ『子供染みた理由』でチェネレントラが好ましいと考えたその場所。
「今回私はサポート寄りに動く、派手に暴れるのは任せるとしよう」
アリシスが古都に夢中である内にアレフは周囲を見回して静かに息を付く。
此処で仕留める。それが魔種に対する対応であるとアレフはよく知っていた。
超聴力で得た情報と共に癒しを送るアレフにアリシスが緩やかに頷いた。
「相手が誰であれ関係がない、我々は勝ちに来た。それだけの事だ──まだいけるな?」
頷く。アリシスの前を進み、リュグナーがくつくつと喉を鳴らして笑った。
「相見えるのはカデンツァ以来だな、小娘。
殺されたいというのが貴様の願いならば、死神である我がこの眼に貴様の死に様を刻んでやろうではないか! ――生きる為に学んだであろうその技術を、己が死に逝く為に使うとは……成程、「おんなのこ」とやらは理解出来ぬな」
地面を踏み締めて、リュグナーはチェネレントラの許へと距離を詰める。
『おんなのこ』は理解できないというリュグナーにグドルフはああ、と頷いた。
「覚悟は良いか。全員、生きて帰るぜえッ!」
「ああ。此処で死ぬわけにはいかない」
リュグナーが頷き、グドルフはにぃと笑みを溢す。周囲を囲う屍骸たちの中を進むラクリマは白薔薇で絶望と未来を紡ぎ続ける。
「犯した罪は消えぬ。そしてそれは他人には償えぬ。
記憶が苦しみに変わる前にもう貴方は眠りなさい」
苦痛を吸い上げる鞭が屍骸に絡まり、チェネレントラへの行く道を伏せがんとし続ける。
視界を遮る死骸を払う様にヨシツネは躍る様に色欲と嫉妬という刃には必要ない想いを切り裂く様にラクリマの行く先を拓く。
「例え命を落とそうとも、奴らは必ずここで仕留めねばなりませんなぁ。
であるなら、必要とあらば無理を通すべきだ。俺は一振りの刃……覚悟などとうに出来ているさ」
彼らの刃と化す。それが仲間という存在そのものだ。
「辺り一面屍骸だらけなんじゃなぁ」
きょろりと周囲を見回した華鈴。折角の海洋、海を楽しみたかったと小さく呟く華鈴はそれよりも珍しい『古都』を目にし、余りに見た目によろしくない屍骸の群れを目にしたならば肩を竦める他にあるまい。
「大物相手が少しでも楽になるようにお手伝いさせてもらうのじゃ」
屍骸を排除するように距離を詰める。汰磨羈は魔種対応班より死骸を離す様に攻撃を続け、背後に立つ鶫に視線を溢す。
「小癪にも残ったか。だが、すぐに掃除させて貰うぞ?」
汰磨羈は鶫とタッグを組んで進む。屍骸の動きが活性化している内は未だ未だ決着に遠いと鶫は静かに囁いた。
「決着の邪魔はさせません。一掃します!」
汰磨羈は頷く。距離を詰め――そして、放て! スタングレネード!
「その席には先約があるんだ。すぐに退いて頂こうか!」
屍骸の数が多いとリースリットは小さく呟いた。チェネレントラを討つためにと屍骸の対処に多くを割いているこの状況下。
嫉妬の呼び声は他人事ではないという事をリースリットは只、考えていた。
(それに屈してしまった姿があれらなのね――ああ。なんて、無様)
そうなるまい。そうなるまいと言葉を重ね、至近距離で攻撃を重ね続ける。
リースリットが振り仰げば、混戦状態の中でも仲間達はたしかにしかと攻撃を重ねている。
深い深い海の底。灰被りの道化姫は最期を望む――
ならば、その望みを叶えるために0時の鐘を慣れしてやろう。魔種(まほう)が解けるようにと姫君の許へ王子様として。
「構ってちゃんはもう飽き飽きされる頃だぜ。アンタは最後のその瞬間まで愛される事を望み続けるだろう!!」
「飽きられちゃ『愛』はないものねェ」
くすくすと笑うチェネレントラ。只、その眼前に飛び込んだクロバが刃を握りしめる。
「乗ってやるよ灰被り。王子はここに、”その悪夢から、解き放つ”!!」
王子様、と呼んだその声にクロバの唇が僅かに釣りあがる。
そうだ、『悪夢』なのだ。誰からも愛されず、愛せない。だからこそ『感情のない屍骸』を手繰る。
「貴方の舞台も此処でもう終わりです! 零時の鐘が鳴るがごとく、悪い夢は、今ここで覚まします!」
シフォリィはチェネレントラの放つ攻撃より百合子を庇う。
「ッ――久しいな、チェネレントラ。貴殿とは十二分に遊んでいなかった故に再び舞い戻ってやったぞ!」
百合子はタントの声を聴きながら美少女リアリティショックを放ちう攻撃を重ね続ける。攻撃手である百合子はシフォリィの背よりするりと走り抜け、チェネレントラを殴りつけた。
「ッ――」
「女の子は度し難い。嗚呼、確かにそうだ」
美少女とはそういう生き物だという様に百合子はにぃ、と唇を釣り上げた。
「へぇ……あのお姫様、死体を操るのが得意なんだ。
冥界の女主人でも気取るつもりかしら……まぁ、どうでもいいけど」
小さく呟く。しっぽアタックを放ち、噛み付きを行い、ニルは只、攻撃を重ねていく。チェネレントラを庇う様に重なる死骸をのけるのとて彼女の仕事だ。
「目的はあの気狂いシンデレラの首よ」
「首、首でも愛してくれるの――?」
嘘よね、とチェネレントラの唇がつい、と吊り上がる。
――――誰も愛してくれなかった!
「愛して、だぁ? テメェの意思なんざ関係ねえ!
こっちはテメェのせいでハラワタが煮えくりかえってんだよ!
オレはオレの意思で”! チェネレントラァッ! テメェを、殺す!」
只、真直ぐにマグナが叫ぶ。チェネレントラにとって『一番』の言葉。
愛してくれと願ったならば、飾らずに只、感情をぶつけて欲しい。それは乙女の切なる願い。
鉄槌を下す様にマグナ至近に飛び込んだ。噛みつくように攻撃を重ね続ける。
「海の底で眠りなさいシンデレラ!」
居合霧を放つ。癒し手のポテトを庇うように動いたサクラの目にはチェネレントラはこどものように見えた。
友達が欲しく、只、誰かに見て欲しかっただけの小さな子供――堕ちる前に出会えていたならばそれはどれ程良かっただろうか。
(でも、そうはならなかった――そう、じゃなかった、)
サクラは唇を噛み締める。彼女は魔種。そうであるが故に『世界の敵』として討つしかない。
屍骸の中、レイヴンは顔を上げる。眼前のチェネレントラへと向け、ゆっくりと脚を進めて。
「…...ああ、羨む声。かつて、私も聞いたとも」
「あら」
ぱちり、とその昏い瞳が瞬かれた。レイヴンは『忘我のティターニア』を思い浮かべる。忘れないで――その言葉が彼の胸に刻まれる。
「…...嫉妬とは寂しがり屋なんだろう」
「そうね、きっとそうだわ。けれど、ごめんなさい、アタシ――『嫉妬』してはいないの」
くすくすと笑ったチェネレントラ。彼女の属性は色欲か。
それでも、その色に何所か『羨望』を感じ取る。執行の槍を構え距離を詰めたレイヴンから距離を取るようにチェネレントラが跳ね上がった。
クロバが彼女を逃すまいとその動向を抑える。シフォリィはクロバ、百合子、ニルを前へ進ませるようにと息を吐いた。
「愛するというのは信じること。私が刃を突き立てられなくても、他の誰かがきっと――!」
届かせる。その為に。
癒しを送ったポテト。その傍ら、フロアを踏み締める様にくるりと舞うデイジーの凍て付く氷が水中を裂く。海種、それは水中に適性を持つ者たち――ならば、一番動けると自負があるからこそ、サポーターとして不測の事態のリカバリーが出来るようにと対応を続ける。水の中では音もくぐもる。ならば、とハンドサインを送り合い、出来る限りの意思疎通を図る。
「チェネレントラ、ここで負けるわけにはいかないのじゃ」
頷くアミーリアはヒットアンドウェイを繰り返し出来る限りの攻撃の蓄積を防ぐ様に動き続ける。
屍骸という盾を亡くし、全力で『攻撃を集める』チェネレントラは満身創痍だ。
(これならいける――!)
●
「ま、独りは寂しいからな。付き合うさ。誰が退こうが僕は退かん。
だが僕は『誰かのかわり』なんざ御免だ。それこそ死んでもな。『お前は』違うのか?」
「いいえいいえ、そうよ」
ふわり、と踊る様に。水中を掻く様にチェネレントラがくるりと回る。その動きに合わせ、ヴェノムはチェネレントラへと拳を固め殴りつける。
「故にお前は『僕』を殺せ。僕は『お前』を殺す。――愛してるぜ。お姫様」
チェネレントラの動かす屍骸たちの動きが鈍くなっていく。
「いいぢゃん。自分に正直で」
くすくすと笑った 姫喬。唇がゆるゆると動く――『あたしは好きよ』と。
「――だから、真正面から舞ってあげる!」
姫喬は玉座の間という観光地で楽しく遊びたいと笑う様にひらりと動く。
チェネレントラの至近距離、嫉妬するよと唇がつい、と吊り上がった。
「そんな風に自由に自分を表現できるって。何にも縛られず、後もなくしてさ。
人が感情で縛られるなら、あたしはこれを、全部全力でぶつけてやるッ!!」
「ッ――なら『あなた』もアタシと一緒になろォ?」
甘える様な声音。その声音に震わされるようにしてチェネレントラは姫喬に張られた頬を撫でる。
「あなたが、『此方』にはこれないのですか」
アマリリスは声を震わせる。魔種を純種に戻せるのではないか、と夢を見て居る。
女の子。愛(ころ)されるなんて、悲しい方法で幸せになるなんて許せないとアマリリスは声を震わせる。
「苦い物(アルバニア)なんてお捨て下さい。貴女を思うこの気持ちも一種の愛でしょうか。
ねえ、チェネレントラさま。世界は広く、可能性は無限に――」
ひゅ、とアマリリスの頬を掠めた死の弓。掠めたそれを拭い、アマリリスは深海の昏い世界では息がし辛いでしょうと周囲の死霊を打倒す様に攻撃を続ける。
チェネレントラは一瞥しただけで、只、『在り得もしない夢は見ない』と静かに笑みを溢した。
「嗚呼、奈落には唯一人、君が居る。
――だからね、キミのところまで踊りに来たよ、チェネレントラ。
ヒヒ、この言葉をキミに伝えられるのは旅人の特権だね。"愛してるよ、ニンゲン"」
武器商人の言葉にチェネレントラの瞳が見開かれる。
どうして、と唇が震える。
どうして――どうして、今になって。皆。
「チェネレントラの事を、どうして、いま、愛して――」
「愛しているさ」
だから、攻撃を重ね、死ぬまで愛し続けてやると武器商人が距離を詰める。
「共には逝けない……。だが君の切ない思いも、正しくはないにせよ必死で紡いだ愛情表現も忘れない。
子供はもっと素直になっていいんだよ――辛ければ吐き出せ。溜め込むな
痛みを全部受け止める!」
刹那気に呟くリゲルの言葉を聞きながらポテトは唇を噛み締めた。
そうだ。彼女は必死に紡いだ愛情表現だった。こども染みた、血濡れのシンデレラ。
姫喬とヴェノムが放った攻撃に乙女は目を伏せ小さく笑う。
「疲れちゃったわ」
誰もが、見て居る。この刹那。
チェネレントラは笑みを溢し、幸福そうにくすくすと笑った。
「死は平等だ。それが極悪な魔種だろうと、善人だろうとな――お休み」
「ええ、つかれたの、つかれた」
子供の様に目を伏せったチェネレントラにグドルフは目を伏せる。揺らぐ瞳は海の底で眠る彼女。安寧を与える様に只、静かに声をかけて。
「……ねえ、チェネレントラ。愛は死によって叶えられるものじゃない。
その人が側にいなくても愛は傍にある、だから無いんじゃなくて有るって気が付かなかっただけ」
「でも――みんな、アタシを見て居なかった」
チェネレントラの動く事のない真白の手を握りしめたココロは悲痛な表情を浮かべる。彼女はただの一度として『望んだ愛』を受けれなかったのだという様に海に溶ける涙を流す。
(海に還っていくなんて――泡に溶ける人魚姫みたい)
童話のお姫様になりたかった。ただの、それだけだったのか。
ポテトは倒れたチェネレントラの傷だらけの顔をじっと見つめた。
穏やかな、それでいて、何所か甘える様な瞳は幼いこどもを思わせる。
「沢山の人と踊れて楽しかったか?
でもラストダンスはもうお終いの時間だ。お休みチェネレントラ」
そうね、と手が宙に伸ばされる。
「アタシを、見てくれた。……アタシね、お姫様に、なりたかったの」
「ああ」
「誰よりも、愛されて、しあわせに―――なりた、か、」
高く、高く伸びて、そして、ぱたり、と落ちた。
とてもいい気分だったという様に。海水は冷たく、そしてその体を闇に飲む様に揺れている。
それはとあるお姫様の物語。
決して、褒められることのない――独り善がりなシンデレラの魔法は0時の鐘で解けて、消えた。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
この度はご参加ありがとうございました。
これにて彼女の物語の膜は閉じます。長くお付き合いをどうも、ありがとうございます。
もしも、彼女が『普通のこども』であったなら。皆さんと、幸せになれたのでしょうか。
もしものはなし、ですね。
また、ご縁がございましたらよろしくお願いいたします。イレギュラーズ!
GMコメント
夏です。チェネレントラの最期に。
●成功条件
魔種『チェネレントラ』の死亡
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●ご注意
グループで参加される場合は【グループタグ】を、お仲間で参加の場合はIDをご記載ください。
また、どの戦場に行くかの指定を冒頭にお願いします。
==例==
【A】
リヴィエール(p3n000038)
なぐるよ!
======
【A】古都ウェルテクスの屋敷
巨大な屋敷です。大広間には地下につながる階段が存在しています。
赤い絨毯とその先に据えられた椅子は玉座のようにも思えます。
嘗ては海種の都であったという古都ウェルテクスの御伽噺に出てくる『玉座の間』であるかもしれません。
◆スカベンジャー『ヴィマル』
ローレットの所属であるヴィマラ(p3p005079)の双子の兄。
嫉妬の魔種。スカベンジャーというその呼び名の通りの死体集め。
ネクロオディールを思わせる戦いっぷりです。『お人よし』。
少しチェネレントラを気にしてますが――感傷かも、しれません。
◆ヤングシュガール
◆ペルーダ
嫉妬の魔種。蛇男のヤングシュガールに鱗を持つ妙齢の女ペルーダ。
ヤングシュガールが前衛、ペルーダが後衛のタッグです。非常に強力なタッグですが、ローレットと遊ぶことに一生懸命のようです。
だって、だって、楽しいもんね。
◆海獣
深海に存在した海獣たち。呼声の気配を受け、魔種達のいいなりとなって居ます。
【B】狂ったダンスホール
屋敷の地下に存在するダンスホールです。深海だというのにその雰囲気を感じさせません。
朽ちたステージは登る事が出来ず、いたるところに欠けを感じさせるその場所です。
◆魔種『チェネレントラ』
色欲の魔種。サーカスの残党。気狂いシンデレラ。
海洋で自分勝手自己満足で遊ぶ少女です。子供の様に笑い、子供の様に残酷です。
死体繰り。死体だけがお友達。その技術は学んだものです。生きるために。
◆海種の屍骸
チェネレントラの操る無数の屍骸たち。ぐるぐると周囲を練り回っています。
一定ダメージを与えると糸が切れ脆く崩れていきます。古都の住民であったのか、その眠りを妨げられホールの中で犇めき合っています。
●『海洋戦闘用スーツ・ナウス』
泳げない? 海種じゃない? ご心配なく。
こちら、練達特製の海洋戦闘スーツでございます。着用することで陸地と同じ様に動く事が出来ます(海種の機動力には及びません)。
●呼び声に関して
当依頼に存在する魔種は『道化師』チェネレントラ以外は皆、嫉妬に属しています。
・楽し気なのが妬ましい/楽しいってしあわせよね?
・幸せなのが妬ましい/幸福よね、ああ、気持ちい
・飽きられるのが妬ましい/棄てないで飽きないできらわないで
・――『生きててくれて有難う、けど、お前がしあわせなのが妬ましい』
・――『ねえ、愛して愛して愛して愛して愛して』
そんな彼らの呼び声は常に響きます。純種の皆さんはお気を付けを。
どうぞ、ご武運を。
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