PandoraPartyProject
Paradise Lost
●パウル・エーリヒ・ヨアヒム・フォン・アーベントロート
人生は上手くいかないから人生であるようだ。
とびきり幸運な極少数を除けば、多くの人間に『当たり前』の事実だが、それは神代の昔から幻想に蟠るこの闇すらも例外にしなかったらしい。
「……本当に嫌になるなア!」
自慢の魔術――識の檻・無限を破られたパウルは嘆息して天を仰いでいた。
成る程、この男が死牡丹梅泉なる人物を見誤ったのは確かだが、あれだけ戦いに『振った』人間が大魔道が意地悪に叡智を試す『試練』の悉くを超えられると考える道理は無かっただろう。
梅泉の帰還は一つの契機になった。
『全く予想とは違う形で炙り出された』パウルは少なからぬ不満を隠せなかった。
しかし、首をゴキゴキと鳴らした彼は、その後言った。
「じゃあ、そろそろ始めようか。
アーベントロート動乱、愛しのレディのParadise Lostの最終章を」
生臭い息を吐く彼はこれみよがしに釘を刺したのだ。
「――言っておくが、ここからが本番だぜ。
手品の一つを解いた位で――この僕に勝てると思うなよ?」
――そして、その言葉と殆ど同時に大きな変化が訪れていた。
「ヌオ!? これは――」
「――ああ、こりゃあ。愉快な事は起きそうにないな」
思わず構え直したマッチョ ☆ プリン(p3p008503)が息を呑み、天目 錬(p3p008364)が呟いた。
処刑台を覆うように四方から噴き出した闇が周囲の空間に渦巻いていた。
指向性を持った暗黒が短い時間で球を作り始めていた。
空の光を遮断するように、まるで誰をも逃さないとでも言わんばかりに――
「一筋縄じゃ……は分かってた話だが」
「こ、これはピンチ……ですの!?」
「良く分かんないけど! 会長、嫌な予感だけは沢山する!!!」
エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)、ノリア・ソーリア(p3p000062)の言葉に、楊枝 茄子子(p3p008356)が悲鳴じみた声を上げた。
それが何某かの魔術によるものである事は明白である。
茄子子の予想は予想とも言えない位の『確定』に違いない。
「パウル卿……!」
シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)の呼びかけにパウルは少しの苦笑を見せる。
「光栄に思えよな。この僕が『子供』と遊んでやるんだカラ――」
「――頼んじゃいねぇよ」
どうせ、誰の得になるものでも無いと――郷田 貴道(p3p000401)が吐き捨てた。
「……………そ、そうですよ!」
……いや、前言を撤回しよう。
少なくとも『同意した』ドラマ・ゲツク(p3p000172)にとって、その『叡智』を目にする事は確実な『利益』だった。
目の前で展開される遺失魔術(ぱうるのわざ)は現代に存在する混沌の常識では測れない。
シュペル・M・ウィリーなら児戯と笑い飛ばすのかも知れないが、そんなものは『外れ値』だ!
「最終ステージ、という訳ですか?」
レンズの奥で細めたその目で『変化』を見つめ、新田 寛治(p3p005073)は殊更に冷静に言った。
「――――気を付けて、『お父様』は……」
「生憎と、聞けませんね。『気を付ける』より重要なプライオリティがここにはある」
「……っ……!」
リーゼロッテ・アーベントロート(p3n000039)の言葉を寛治は一言で跳ね返した。
そして、それは寛治だけではない。
「ええ、たとえこの身が砕けようとも。その為に我(わたし)は混沌(ここ)に来たのです」
「今、お助けいたしますぞ!」
善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)も、オウェード=ランドマスター(p3p009184)も同じ事。周囲を覆う闇の先、引き上げられるように『壁』に磔にされた彼女がまるで。救いを求めるように手を伸ばしたのが見えたから。
「……愛されているようだ、『私の』お嬢様は」
釘を刺すクリスチアン・バダンデール(p3n000232)も含め――
少なくともそれは自分の仕事であると確信出来たから。
感覚は万全。燃え盛る熱情は些かも衰えていないが、誰もが『掛かった』ばかりの先程までとは少し違う。
研ぎ澄ませた冷静と滾る想いはこの『最終戦』に何処までも相応しい――
「――閉じ込められたか」
「単純に閉じ込めただけじゃあないケドね。『良くも悪くも』」
死牡丹 梅泉(p3n000087)の言葉にパウルは笑う。
言葉の通り、処刑台の上を覆った球形は歪んだ空間世界を作り出していた。
少なくとも元の状態ではない。足場はまるで宙の上のように浮ついており、混沌の物理法則の外にあるようにも思われる。
パウルの言葉を信じるなら『閉じ込めた』以上は外に出るのは自由ではないのだろう。
「新手は勘弁、って話かしら?」
イリス・アトラクトス(p3p000883)が問う。
同時に内に入るのも阻まれれば、確実に援軍は限られるという話になろうが……
「いいや? 半分って言っただろう。
『この場に現れて面白いヤツならここに来れるさ』。
勘違いしているみたいだカラ、何度でも言ってやるケドね。
僕は別に追い詰められちゃあ居ないんだよ。
……考えてみてくれよ。この公開処刑だって『そう』だろう?
元々、その気になれば君達なんかに邪魔をされずに、全てを進める事だって出来たんだぜ。
これは全部、僕が可愛い可愛い娘の為に用意した『知育』みたいなモンで――おっと、凄い顔で睨まれた!
兎も角、ゲイムでお楽しみでもあるんだ。剣士君も言ってただろう?
僕は勝ち筋のないゲイムは好まない。面白くないカラね。フェアなんだよ、何時だって」
パウルの長広舌は明らかにイレギュラーズを煽る毒気を帯びていた。
この男の本当の目的は余人には知れぬが、言葉から察するに想像される結論は『碌でも無い』。
同時にその推測(ひまつぶし)を真実とするならば、いちいち自分に枷をつける行動原理も頷けようか。
「……サクラちゃん、こいつ駄目だ。多分、煮ても焼いても食べられない」
「うん。センセーにも言いたい事は山程あるけど、それより先だね。
『ここを決着させない事には私も絶対収まらない』。ね、センセー!」
「うん。アンタ大ッ嫌いやけど賛成やわ。旦那はんはこってり絞ってやんないと」
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)に応じたサクラ(p3p005004)、更には『乗った』紫乃宮 たては(p3n000190)に水を向けられた梅泉は「わしのせいか?」という顔をしたが、「やむを得まい。勝てば褒美の代わりじゃな」と苦笑交じりに承諾した。
「……ま、ヨルも『頑張った』みたいだカラ。
諸君の『イヴェント』は実に多岐に渡るだろうし――予想以上に面白い。
これだけやれば、長い『子育て』の苦労も報われたってモノだ。
さあ。もう、お喋りは十分だろう? そろそろ始めようか――」
ふわりと宙に浮いたパウルの背後により大きな闇が蠢いていた。
彼が何者であろうと意図がどうであろうとそれは大きな問題ではない。
唯、一つだけ言える事は――
「強いな、これは。混沌でわしが相まみえた中では――
実に、喜ばしい事に『最強』じゃ」
――『梅泉の審美眼』が『答え』を告げている事だけ。
「それ、確実な感じかい?」
「うむ。尤もわしは『冠位』は知らぬが」
「そうかい。最悪で――覚悟も決まるな」
梅泉の答えにシラス(p3p004421)が苦笑した。
識の檻・無限さえ破った男の眼力を信じない理由がない。それも今回の鑑定は『戦い』に関してである――
風雲急、告げれば空気は一段と引き締まる。
されど、余裕を失えば勝てるものも勝てぬは必然という事か――
「小夜」
「なあに」
「今一度、わしに付き合え」
「あら」
『お誘い』に白薊 小夜(p3p006668)は少し驚いた顔をした。
「そうね、たまには誘われかったわ――喜んで」
そう告げた梅泉に小夜は微笑む。
互いの視線は『他意』を孕み、やり取りは瀟洒に遊びめいている――
「あの!!!」
すずな(p3p005307)が大きく咳払いをした。
「――私も付き合いますからね!!!」
思わず声を荒らげた彼女にたてはが笑った。
見れば梅泉と小夜の双方がくっくっと人の悪い笑みを見せている。
「犬娘はほんま単純やわあ。今の露骨に両方がわざとやん」
「あ、たてはちゃんかしこい!」
紅迅 斬華(p3p008460)がパチパチと手を叩き、たてははここぞと勝ち誇る。
「うちにも分かるのに、これだから犬娘は」
「貴女にだけは言われたくないのですけど!!!」
(……たてはちゃん、でも実はお姉さんも同意ですけど……!)
●夢見リンドウ
昔から、可愛いものが好きだった。
ちいさな動物、ぬいぐるみ、可愛い可愛いお人形。
キラキラと可愛いものに囲まれるのが大好きで、それは特別素敵な事だった。
――私に出来た妹は何時も素直で。『これまでで一番可愛かった』。
後ろをついて回る姿がキュートだった。
真っ直ぐに自分を好いてくれる事が嬉しかった。
何かをしてあげる度に尊敬され、愛されて。
「お姉ちゃんは拙者の理想なんです!」。
そんなくすぐったくなるような言葉を向けられる度に抱きしめてしまいそうだった。
でも。
(……駄目なんだよなあ、私)
可愛いものは大好きだ。私はそれを慈しみたい。
でも、ちいさな動物は皆お墓の中。
ぬいぐるみの綿は抜いてしまった。お人形はバラバラだ。
(駄目だったんだよなあ)
どれ程、自分自身に悩んでも『そう生まれついてしまったからには仕方ない』。
夢見リンドウは生まれつきに壊れていて、愛する程に壊さずにはいられない性質だった。
動物も、ぬいぐるみも、お人形も――妹(ルル家 (p3p000016))も。
これでも我慢してきたのだ。ルル家だけは。
あの子だけはこうなって欲しくはなかったのだ。
誰よりも壊したかったけど、誰よりも壊したくはなかったのだ!
「……だからもう、私ってぐちゃぐちゃなんですよねぇ」
「……?」
至近距離の言葉に首を傾げたルル家の腹を強かに蹴り飛ばす。
息を詰まらせて後退した妹の姿を見やり、ヨル・ケイオス――夢見リンドウは嘆息した。
(今も、確実に『殺せた』のに)
リンドウの死の影が唸りを上げれば、イレギュラーズは簡単に傷付いた。
彼女は重い溜息を吐く。
「させませんよ! 僕が立っている限り!」
「ああ、足りないな!
大切な者と守るために抗う者がいるなら――私が倒れるには早すぎるだろう?」
誇りと矜持を胸に戦う日車・迅(p3p007500)の、ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)の姿を美しいと思う。
「これ以上は――」
「――食い止めますわよ、マリィ!」
「そうだね、ヴァリューシャ!」
マリア・レイシス(p3p006685)が、ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)が。
「こんな痛みなんて、あの子たちの痛みに比べればなんでもない……!」
歯を食いしばり、前を向く小金井・正純(p3p008000)が。
妹(ルル家)の為に頑張ってくれるお友達を嬉しく思う。
「ぜったい、救ってみせる!」
「誰も傷つけさせない、倒れさせやしない! これ以上の悲しみを増やしてなるもんか!」
フラン・ヴィラネル(p3p006816)やアレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)なんてもう眩しい位だった。
「なによそ見をしてるんだ――まだ、私がいるだろうが!」
「やらせない……!」
リンドウの指示でヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)を狙う麾下の暗殺者にシキ・ナイトアッシュ(p3p000229)が立ち向かい、リンディス=クァドラータ(p3p007979)が身を挺した。
「……頑張りますねぇ」
イレギュラーズの戦いにリンドウは問い掛ける。
「そこまで、頑張る必要あります? ルル家も悪いことをしてきましたよ?
そっちの子――ヴィオちゃんだって悪人ですよ、悪人。
とてもお天道様に在り様を誇れる子じゃあないでしょう?」
「例え罪を抱えていると自称しても、他人に悪人だと評価されても……
私にとってヴァイオレットさんは…私の小さな悩みにも答えてくれた、優しいお姉さんなんだ!」
アンジュ・サルディーネ(p3p006960)はリンドウの言葉を一蹴した。
夢見リンドウは知らない。自覚していない。
ヴァイオレット・ホロウウォーカーは知らない。自覚していない。
『二者の抱える事情は同じとは言えないまでも、その声質は極めて似通っている』。
不出来な偶然は稀とも言えず意地の悪い神が望む『運命』そのもの。
善悪だけで物事が判断出来るなら世の中はもっと幸福なのだ。
『悪人は滅びなければいけない』なんて――
(……何度だって叱ってやるわよ)
リア・クォーツ(p3p004937)はちらりとヴァイオレットを振り返り、内心だけで呟いた。
(アンタのは、何時だって身勝手な傲慢なのよ……!)
人は矛盾を抱え、矛盾を飲み込みながら生きている。
生きなければいけないのなら――勝利の女神(リア・クォーツ)は死にたがりの彼女の横面を引っ叩いてやりたいのだ。
そうして長く短い戦いが続き。決定的な変化が訪れる――
――処刑台を『黒』が飲み込み、声が響いた。
――薔薇十字機関及び、封魔忍軍に告ぐ!
今更、君達如きの援護などノイズですカラ!
新たな使命を与えまショウ。君達は、ヨル・ケイオスを援護し、彼女の目的を達成すること!
「……『ヨアヒム様』とは違う声ですねぇ」
肩を竦めたリンドウは『分からなかった』が、声は有無を言わさず従わねばならぬと分かる威圧を秘めていた。
(いや、私が言うのも何ですが本当に性格最悪ですね、あの方……)
リンドウを援護せよという事は、ヴァイオレット・ホロウウォーカー以下、夢見ルル家の友人を皆殺しにしろ、という事だ。
『事情とは関係なく、ヨアヒム・フォン・アーベントロートなら命じる』と納得出来るのが性質が悪い。
「皆さんにとっては『悲報』ですが、私には好都合でしょうか」
薔薇十字機関の攻勢が一気に激しさを増していく。
「『動いた』のは『朗報』でもありましょう」
妖刀を薙ぐ彼岸会 空観(p3p007169)は笑い飛ばした。
「これは、予感に過ぎませんが。私は嬉しいのです」
「……何が、です?」
空観が飛び込んで、リンドウの鋼糸を断ち切った。
「――そんな気がいたします。
ならば、私も己が戦を完遂せねばなりますまい。
そうしなければ、顔を見せなかった事に失望もされましょうや。
乙女心も友情も、牛飲馬食に彼岸会朱天。はしたなくも魅せましょう――
きっとかの方も今頃暴れ始めている頃なれば!」
●フウガ・ロウライト
処刑台に続く戦場で。
「新たな命令が下りたようですね」
「……みたい、だな」
久住・舞花(p3p005056)の言葉にフウガ・ロウライトは溜息を吐かずにはいられなかった。
「まーた、お役所仕事か。『フウガ』の名が泣くぜ」
「もう、辞めてもいいんじゃない!?」
やり合う新道 風牙(p3p005012)とフラーゴラ・トラモント(p3p008825)が構え直す。
激戦はイレギュラーズと封魔忍軍の双方を傷ませてる。
ある意味でこの『変化』は頃合と言えなくもないのだろうが――
「……参ったね、どうも」
時雨の蛇剣を弾いたフウガは思案した。
「……」
正眼に構える刃桐 雪之丞(p3n000233)、
「目的が所詮『お仕事』では――そろそろ迷う頃でしょう?」
煽りに煽るアンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)を突破するのはかなりの難関だ。
「……まったく、たてはは先に行っちまうし……まあ、それでも薬箱は薬箱だけどな! この上なく!」
それだけならまだマシだが、ぼやくヨハンの回復力が厄介だ。
「まだまだコレカラだね!」
「全て倒せば尽きるというものですから」
腕をぶす格闘家二人、イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)や雪村 沙月(p3p007273)も気にかかる。
「行くよ!」
「やっぱり『食い放題』が一番だ」
猛然たるソア(p3p007025)や恋屍・愛無(p3p007296)が自陣に食らいつくのを目にすれば、
(……ああ、畜生め!
離脱するなら好機だが、ヨアヒムが余計に底知れない感じになってやがるな。
あんまり計算は得意じゃないんだが、兄貴。正直今回ばかりは恨んでるぜ……)
フウガは内心でぼやかすにはいられなかった。
――最終章はかくも激動の時を迎えている!
アーベントロート動乱『Paladise Lost』が最終章を迎えています!
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