PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<希譚・別譚>どうたい

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


[注:繙読後、突然に誰かに呼ばれたとしても決して応えないでください。]
[注:繙読後、何かの気配を感じたとしても決して振り向かないで下さい。]

 ねかんましなさい。

 ごうんごうん。

 じょうく。

 うぺか。うぺか。


「……けほ」
 音呂木神社、蔵の二階部分には隠し部屋が存在していた。その中に身を縮めて入り込んでいたのは『真性怪異』の専門家、澄原 水夜子 (p3n000214)。
 どうして彼女がこの様な埃っぽい場所で咳き込んでいるかと言えば、単純な怪異探索であった。
 希望ヶ浜怪異譚――通称を『希譚』
 それは希望ヶ浜に古くから伝わっている都市伝説を蒐集した一冊の書である。
 葛籠 神璽と名乗る作家の口伝や手記を頼りにして辿ることの出来るこの都市伝説には幾つかの欠け(ブランク)が存在していた。
 水夜子にとっては仕事半分趣味半分。怪異の蒐集の為に家主である音呂木家に許諾を得て資料を探っていたのだ。
 流石に希望ヶ浜では其れなりに名の知れた場所だ。曰く付きの品もずらりと揃っている。
 例えば、音呂木・ひよの (p3n000167)が気紛れに『遭った』怪異の情報をメモしたノートもこの場所に封じるように置いてあった。
(まあ……『音呂木』の血筋に何らかの謂れがありそうなことは想定済みですが。
 そもそも、葛籠神璽とは誰か、というのが主題にはある。その秘密は屹度、音呂木にあるのでしょうが――)
 今は良き協力者としてひよのとも仲良くしておきたいというのが水夜子の考えでもある。
 例えば、水夜子の大学の先輩に『葛籠 とこよ』という青年がいる。そして彼は双子の妹に『うつしよ』という娘が居るそうだ。
 数奇な事に彼等は『葛籠』の名を持ち、その上で、常世現世と来た。如何にもなネーミングに、音呂木の縁者であると名乗る。
 これで「まあ、言ってるだけだ」と流せてしまうほど水夜子は単純な女ではない。
(うつしよさんととこよ先輩についてはこれから先の調査で良いでしょう。
 先に、他の怪異の調査にでも遊びに行きましょうか。余り、怪異に触れて居なさすぎると勘が鈍ってしまいますし)
 独り言ちた娘は余り死を恐れては居ない。
 そもそも、水夜子という娘は澄原病院のフィールドワーカー兼実務担当者である。
 怪異の解析をし、怪異の調達をし、怪異の探索をし、怪異そのものに接触する。
 従姉達が触れる事のない危険にも彼女は臆することなく飛び込んでいく。明るく振る舞っているが込み入った事情の許で活動して居るのだ。
「……箱ですか」
 まず、斯うした場所に置いて箱というものは開けてはならないものと『開けた後に何らかの情報が入っている』ものがある。
 前者の場合最悪死に至り、良くて呪われるのでトラップみたいなものだ。後者はまだ物語の導入部位に他ならない。
「……」
 二つに一つ。
「ま、開けましょうか」
 死んだら死んだ位だ。葬式で従姉達が泣いてくれればちょっと嬉しい。
 呪われたらひよのに解呪を頼もう。物語の導入部だというなら、特異運命座標達を適当に誘うのが吉か。

 ぱかり、と開けて見れば――
「……地図、と文」
 どうやら後者だった。
『ああ、ごめんなさい。皆さん、今日も一緒に呪われに生きましょうか』という素敵な誘い文句だけ添えておこう。


 地図にはバツ印が為されていた。
 海に程近いが山がある事しか読み取れず、拡大地図でもその場所は乗っていないらしい。
 印だけを頼りにその場所へと訪れれば、看板だけがその村の名を示していた。
 狭照屋(さてや)村。
 ロケーションとしては海に近い集落であるらしい。周囲を山々に囲まれており、バスは数日に1本。生活用道路は対面通行。
 トタン屋根のバス停にベンチが一つ。寂れ、時刻掲示の看板も文字が読み取り辛い。
 道路には地下に繋がっている出入り口が存在していた。歩道の代りなのであろうか、崖沿いにぽつねんと存在する下り階段は内部を確認することが出来ない。
 少しばかり歩き、集落へ向かって行けばぽつねんと村唯一の信号が立っていた。
 誰も護る事が無く、殆ど変わらないのであろう点滅信号はぱちぱちと瞬きでもするかのようにその存在だけを知らしめる。
 周囲には平屋の住宅がぽつぽつと存在していた。

「誰だ!」
 呼び止められたあなたが振り向けば、この村の住民だろうか。蒼い衣装を身に纏った男が憤怒の形相で此方を見ていた。
「どうしてこんな所に来た!」
 叱り付ける村人は「かならず夜は出歩くな、早く帰れ」と口にする。
「おや、どうして?」
「だめなもんはだめだ」
 水夜子は唇を尖らせた。そう言えば今宵は新月だ。だからこそ――なのだろうかと首を傾げた途端。

 ポーーーン、と音がした。
 ザザ――――ザ―――――迷子のお知らせです――――

 村人が頭を抱えて「うう」と呻いた。走り出した彼は何かに怯えているかのようである。
 しんと静まり返ってしまった村の中を確かめるように歩いて行く。商店も、どこもかしこも人気が無い。
「じょうく、じょうく、うぺか、うぺか」
 毬で有存でいた子供はあなた達の姿を見付けてからくすくすと笑った。
「かーくれんぼしーましょ」
 指をクルクルと動かしてから子供は走って行く。一体何だというのだろうか。
 踏み込めば、足元に倒れた看板が存在していた。
 立ち入るべからず。
 そうだろう。この先は山しかない。
「――ねかんましなさい?」
 掠れ、傷んでしまった看板の『裏』には何かが書かれている。
「ごうん……? じょうく。うぺか……。さっき子供が歌っていたような。
 うーん、良く分かりませんが! 所謂因習村ですね!」
 やったあと言いたげな勢いで立ち上がった水夜子は振り向いてから「取りあえず、村から脱出しましょうか」と微笑んだ。

GMコメント

 やばそうな村で遊びましょう!!ダイスを振ってファンブルしたらSSR位の確率で呪われます。
 皆で因習村を作りましょう。

●希譚とは?
 それは希望ヶ浜に古くから伝わっている都市伝説を蒐集した一冊の書です。
 実在しているのかさえも『都市伝説』であるこの書には様々な物語が綴られています。
 例えば、『石神地区に住まう神様の話』。例えば、『逢坂地区の離島の伝承』。

 そうした一連の『都市伝説』を集約したシリーズとなります。
 前後を知らなくともお楽しみ頂けますが、もしも気になるなあと言った場合は、各種報告書(リプレイ)や特設ページをごご覧下さいませ。雰囲気を更に感じて頂けるかと思います。

[注:繙読後、突然に誰かに呼ばれたとしても決して応えないでください。]
[注:繙読後、何かの気配を感じたとしても決して振り向かないで下さい。]

●狭照屋(さてや)村
 音呂木神社に存在していた地図で発見した地図にない集落です。
 どんな場所かというのはOPをご参照下さい。何かいそうです。居そうと思った時点で、居ます。そういうものです。
 ぽつねんとした集落です。人気がいきなり無くなりました。迷子の放送の後からです。
 気付けば歌っていた子供も消えました。
 そういえば、村の半径50m位からでれなくなってる気がします。踏み込んじゃったからね!!!
 ――つまりは、このシナリオでは怪異の原因を解明するか、村を物理的に消滅させて脱出するシナリオです。
 楽しく「こんな怪異居るな」という気持ちで選択肢を選んで調査をし立派な因習村を作り上げてから脱出しましょう。

●NPC
・『音呂木ひよの』
 水夜子を心配して付いてきた音呂木の巫女。神様の加護を持っていますのである意味安全域です。
 村人に滅茶苦茶帰って欲しそうな顔を為れ疎まれているので村の中には入れません。何故か海と山も入ろうとすると金縛りに遭います。
「え、此処まで来たのに私動けないんですか?」とちょっと腹が立ったので、突然ピクニックを始めました。憑か……疲れたら来て下さい。

・『澄原水夜子』
 澄原病院のフィールドワーカー。とっても明るく死を恐れない前のめり系民俗学専攻ガール。
 基本、怪異に突貫していきます。何かあればお声かけ下さい。
 澄原と名乗っていますが晴陽/龍成の姉弟とは従姉の間柄になります。
 父親に晴陽に取り入ってある程度良い地位において貰うようにと幼少期から厳しく躾けられました。言われるが儘に育ちました。
 ある意味で後ろ暗い過去やら、良いとは言えない生育環境で育っていますが彼女自身は明るく振る舞っています。
 ――そうじゃなきゃ、嫌われちゃうでしょ?

・『若宮 蕃茄』
 希譚<両槻>編にて撃破された『ハヤマ分霊・若宮』と呼ばれたまだ若い神様です。
 その神性を失い、現在は楊枝 茄子子(p3p008356)さんに与えて貰った形で活動中。
 「みゃーこが行くと行ったから着いた来た。蕃茄、この村は嫌な予感がするかもしれない。しないかもしれない」
 蕃茄はある意味、怪異避けです。とっても強い『神様の欠片』みたいなものなのです。


●Danger!
 当シナリオには『そうそう無いはずですが』パンドラ残量に拠らない死亡判定、又は、『見てはいけないものを見たときに狂気に陥る』可能性が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。


狭照屋村探索
[注:繙読後、何かの気配を感じたとしても決して振り向かないで下さい。]
村を探索しましょう。

【1】怪異に更に突っ込んでいく
『謎の言葉』『歌っている少女』『迷子放送』『何らかの因習』を調べるために帰る気なく突っ込みます。
この選択肢は覚悟完了みたいなものです。『穴を掘る』やら『人を探す』やら簡単な行動を補足して下さい。

【2】村人を探す
「え!?一体どう言うことですか!?」の精神で村人を探します。
村人が因習を語ってくれれば取りあえずはこの村の謂れは理解出来そうですね。
この選択肢ではどの様村人を探すか補足してくださると嬉しいです。

【3】新しい『怖そうな場所を探す』(もしくは、選択しない)
絶対こういう場合は座敷牢とかありますよね。
この選択肢では、どうやって探すかなど、『覚悟完了』かどうかだけお書き下さい。
また、外部探索を優先する場合は此方をセレクトして下さい。


狭照屋村外部探索
[注:繙読後、何かの気配を感じたとしても決して振り向かないで下さい。]
山と海を探索しましょう。

【1】浜辺/海付近の洞窟を探索する。
こういう時、こういう場所って何か居るって知ってるんだ。
この選択肢では、どうやって探すかや『覚悟完了』かどうかだけお書き下さい。

【2】山間の道を探索する
地下に続く階段があった道とか有りました。バス停もありました。その後ろに獣道も……。
この選択肢では、どうやって探すかや『覚悟完了』かどうかだけお書き下さい。

【3】『ひよのさんとピクニック』(もしくは、選択しない)
音呂木さんとピクニックをします。何故か海にも山にも村にも行けない可哀想な巫女です。
好きなお弁当の具材かサンドウィッチの具材を報告しても良いですし、
何か発見後、ひよのに聞きたいことがあれば補足してください。
……村探索を優先する場合は此方をセレクトしてください。ひよのが『いってらっしゃい』をします。

  • <希譚・別譚>どうたい完了
  • GM名夏あかね
  • 種別 ラリー
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年02月24日 11時50分
  • 章数1章
  • 総採用数120人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
カイト(p3p007128)
雨夜の映し身

「いってらっしゃい」
 笑顔を浮かべた音呂木の巫女はこれ以上は入れないと『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)の後ろ姿を見守っていた。
 曰く――彼女は帰り道である。音呂木の巫女が出立を見守ったという事は、何かあれど帰ってこられる可能性はあると考えれば良いだろう。
 ……生死は問わずだが。
「帰ったら弁当を食おう」
「あら、おかずは?」
「西京焼きだ」
 素晴らしいと手を叩いたひよのに送り出され狭照屋(さてや)村へと辿り着いた。潮騒が微かに聞こえる程度に村は静まり返っている。
『社長!』キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)はと言えば村の入り口にあたる山間部にぽつねんと存在しているバス停のベンチに座っていた。
 随分と古くさいバス停だ。トタン屋根は傾げ、木造のそれは雨除けにもなってはいないだろう。
 時刻表を眺めても待ちぼうけをするしかない。次のバスは明後日だ。ぼんやりと座って見れば坂を下った先に海辺が見える。美しく、青々とした光が揺らいでいる。
 バスがその体を何処か遠くに運んで言ってくれるのではないか、などと考えた。
 そこまで考えてから――
「あの」
 声を掛けられてキドーは顔を上げる。
「バスは来ますか」
「いいや? まだまだずっと先だ」
「そうですか」
 誰に声を掛けられたのかと振り向いたが――そこには誰も立っては居なかった。
「……」
 思わず『マジかよ』と唇が動いたが、それ以上の返答の使用は無い。其処には誰も居なかったのだから。
 ふと、立ち上がればバス停の傍には自転車のタイヤが転がっているだけであった。

 村の外から淀みなくカイトが向かったのは水夜子が見かけた看板の場所だ。
 看板の裏に書かれていた歌は子供の歌うわらべ唄と同じであっただろう。
 カイトはまじまじと看板を眺めた。

 ――ねかんましなさい――ごうんごうん――じょうく――うぺか。うぺか。

「良く分からないが……何だろうな。文字列に何らかの意味がありそうなのは確かだが」
 まじまじと眺めてから看板を撫でる。成程、古くに造られたもなのだろう。それは何らかの注意書きの意味合いもありそうだ。
 あくまでも裏面に書かれている歌だ。立ち入り禁止とは書かれているが子供の行方も気にはなる。
「行くか」
 嘆息し、立ち上がった。どうしようもなく山の奥が気になる。獣道だ。昇るべからずと書かれているその道を進みたくて堪らない。
 さくさくと山を踏み分けるようにしてカイトは進んでいく。其れがどうにも、気味が悪いのだ。
 まず、違和感を感じたのは眼であった。視界に何かがちらつく。幼い子供が上から手招きをし、見下ろしてくるような気配だ。
 其れを追掛けようとする度に体が気怠くなった。あの娘はなんであろうか。ただ、あの娘だけを追掛けていれば良い。
 ぱきり、と木の枝を踏み締めた時、周囲の気配が消え去り、しんと静かになった。
「此処は……?」
 気付かぬうちに随分と山を登ってきていたようである。目の前には涸れ井戸だけがぽつねんと存在していた。

成否

成功


第1章 第2節

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
メイメイ・ルー(p3p004460)
祈りと誓いと
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊
散々・未散(p3p008200)
魔女の騎士
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華
ミザリィ・メルヒェン(p3p010073)
レ・ミゼラブル

 ザァ――押しては引いていく波の音に耳を居傾けながら『社長!』キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)は引き攣った声を漏した。
「振り向いちまったけど……っていうか会話しちまったけど大丈夫、なんだよな?
 ……いやでも律儀にバス待つような奴なら……うーん!?」
 先程まで何が居たのだろうか。キドーはトタン屋根と、その裏側を確認するようにぐるりと回ってみせる。苔むした石が丁度影になる部分に存在していた。無数の雑草が生い茂り、裏側は余り誰も立ち入らないことが分かる。
 バス停があるのは山間だ。少しばかり上り調子の場所なのだろう。崖が存在し、そして奥を見遣れば海がある。集落はなだらかながらも坂の街である事が良く分かった。まるで『山を切り開いた』ような場所だ。
「あの……?」
 そろそろと声を掛けた『ちいさな決意』メイメイ・ルー(p3p004460)に「どわぁっ!?」とキドーが肩を跳ねさせた。驚いたのはメイメイも同じ。「めぇ」と小さく声を漏してからその耳がぷるりと震える。
「も、もしかしなくても、バスって今日はもう来ないのでは……?」
「あ、ああ、まだらしい」
 その会話は少しの既視感。バスが来ないことを確かめられれば、その後、乗車を求めた人間は何処に行くか。
「迷子? も気になります、ね。村の人もあんなに慌ててました、し。
 ……どんな子が迷子なのか、探して、みましょうか……バスも来ないことですし……」
 そう、メイメイの言う通り『バスに乗るのを諦める』だろう。そうすれば脚は自然に帰路を辿るはずだ。
(まさかなァ)
 此処が村の入り口ならば呼んでいるのだろうか。メイメイはふと、顔を上げる。視線の先には何かを全て諦めきったような顔をしてレジャーシートを敷いたひよのの姿が見える。
「行って、参ります」
「はい、行ってらっしゃい」
 手を振るひよのは幾つかの水筒を持ち込んでいた。それは味噌汁、それはほうじ茶などと指差す彼女に『なじみさんの友達』笹木 花丸(p3p008689)は「用意周到だねえ」と笑いかける。
「ええ、長丁場になりそうですし、此処では食糧調達も出来なさそうなので水夜子さんと運んできました。
 私が居る位置がギリギリですよ。私は『嫌われてます』から、村から平気で弾き出されますが、皆さんは此処から向こうは……」
「え」
 花丸が手を差し伸べれば――確かに違和感がある。壁でもあるような、いや、名にも無いはずの場所であるのにどうしようもなく足が拒むのだ。道が続いているように見えるのは幻惑なのだろうか。
「いやいやいや、閉じ込められるような場所に連れて来たの? いや、分かってたよ。水夜子さんだもんね……でもホントいきなりだね!?」
「め、めえ……で、でれま、せんね……?」
 確かに出る事は出来ない。メイメイは役場の辺りにでも向かって見ると一礼する。町内放送はあれ以降は鳴っていない。
 だが、鳴ってしまえば取り返しが付かないような気がしてならないのだ。どうにも、あの時、名を呼ばれたのは普通の少女であった筈なのに、そう認識してしまう。
「名前を呼ばれた子がね、かくれんぼしましょって。私はあの娘を探しに行ってくるから。ひよのさんは此処で待っていてね?」
「はい、気をつけて」
 味噌汁を啜るひよのに手を振ってから花丸がさくさく、と大地を踏み締める。視線の先には『ライカンスロープ』ミザリィ・メルヒェン(p3p010073)の姿があった。
「かくれんぼ――ですか」
 悩ましげに呟くミザリィに『魔女の騎士』散々・未散(p3p008200)と『蒼穹の魔女』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)は顔を見合わせた。
「かくれんぼ、だって」
「ええ、かくれんぼ。構いませんよ。所で、かくれんぼとは子供騙しではありますが何かと曰く付きではありませんか」
 桜の痣がずきりと痛んだ気がした。くっきりと浮かび上がるそれを隠すようにそっと手を添えてから未散はアレクシアを見詰める。
 アレクシアは傷付いたような顔をして未散を見詰めた。嗚呼、同じ事を考えて居たのは確かだ。隠されるのは何方か、鬼とは何か、そこを突き詰めれば児戯ともいえど恐ろしい事に変化する。
 かくれんぼというのは一人では成り立たない。だからこそ、子供は誘ったのだろう。だが、明確に役割を分担せねばならないではないか。
 迷子放送で名を上げられた少女が隠れたのだとすれば、其れを村人全員で見付けろとでも言う様な――
「……ふふ、何にせよゲームならば乗った者勝ち。
 さあお手をどうぞアレクシアさま。此のセンサーがあれば、地獄に足を突っ込むのも、容易いでしょう」
「この獄はどこまで続いているのやら……行くとこまで行くしかないか!
 未散君も気をつけてね。桜の……ええ、桜の時みたいに逸れないよう。手は離さないでね」
 ぎゅう、と手を握りしめ、警戒を露わにしたアレクシアと未散は静まり返った集落の信号の下に立っていた。
 点滅信号。その向こう側に歩いて行くミザリィを追掛けて花丸も山手へと向かう。
 丁度手頃な大木がある。広場にぽつねんと立っていた其れを前に目を覆ってからミザリィはすう、と息を吸い込んだ。

 いぃち―――――にぃ――――――

 大声で響かせる。さて、十まで数えたならば次は探すだけだ。それが『鬼』の役割である。
 この時点でミザリィ・メルヒェンという少女は敢て己の存在を確かな物にした。
 己が鬼である、と。未散はアレクシアの手をぐい、と引いた。「隠れて」と物陰へと引き摺る。
(何だろう、空気がちょっと変わったような……)
 花丸はそれでも妙に気持ちが惹かれる山手へと歩き出す。背後には鬼が居る、ミザリィがいる。
 そこまで考えてから、ふと水夜子が言って居たことを思いだした――鬼というのは死者の魂を指しているらしい。
 果たして、鬼と名乗った彼女が安全無事に過ごせるのかは……まだ、分からないのかもしれない。

成否

成功


第1章 第3節

ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
同一奇譚
アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)
灰雪に舞う翼
リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)
黒狼の従者
佐藤 美咲(p3p009818)
無職
刻見 雲雀(p3p010272)
最果てに至る邪眼

『同一奇譚』オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)――『彼女』は元から恐怖心などを抱いているわけでは無かったのだろう。
 そもそもにおいて、だ。怪談話というのは彼女の言う所の物語群に過ぎず、設定資料の一端が具現化して襲いかかってくるだけだ。
「貴様――私は理解している。歌とは即ち怪異を招く為の手段だ。
 つまり、口遊みつつ浜辺を歩めば何れ――知り合いに遭う可能性も高い!
 嗚呼、貴様、愉しそうな面だ。第四の壁に触れ、姿を晒し給え。Nyahahaha!」
 朗々と語らいながら浜辺へ向かって坂を下る。その時にオラボナは地図を思い浮かべただろう。水夜子が蔵で見かけた地図に寄れば、海辺に存在した山岳地帯だ。その端に切り拓かれて集落がポツポツと点在しているだけに過ぎない。
 ハイキング気分で降りていくオラボナは標識を見付けた。

『 瞋 』

 はてさて、其れは何か。首を捻ってから自然に口から出たのは童歌。

 ねかんましなさい、ごうん、じょうく。うぺか。うぺか。
 さんなく、さんなく。どぅか、どぅか。どうたいたどれば、つーかまえた。

「……お、おのれ、我が職場」
 震えるようにして言葉を吐出した『罪の形を手に入れた』佐藤 美咲(p3p009818)の唇は戦慄いていた。
 何が情報未登録の集落だ。何が新発見勢力の可能性有だ。何処からどう見てもバリバリの因習村ではないか。
「私はオカルトは専門外なのに……毎度現場への投入が雑かつ広範囲なんスよ」
 頭を抱えた美咲は一先ずは職場の意向通り、調査に赴こうと考えたが、さて、ここからが問題だ。
「人の気配がないッスね……?」
「嗚呼、確かに。風習に詳しそうな老人も、子供達が内容も語られずに教えられる俗信も聞けそうにない」
 がらんどうだと顔を出した『最果てに至る邪眼』刻見 雲雀(p3p010272)は村についての風習などを知りたかったのだと美咲へと言った。
 例えば、だ。何らかの謂れがある事を口にすれば触(さわ)りが在るかも知れない。そうした場合は敢て回り諄く分かる物にしか伝わらぬように覆い隠すのだ。それは丁寧に布で丸め込むかのような、箱に押し込めるかのようなものである。
 夜に爪を切ってはならない俗信も『世詰め』という言葉から来ており早逝するという意味合いがあると伝え聞くこともある。そうした何らかの風習はこの村を紐解くには必要な事なのだろう。
「そう、話を聞くことこそがフィールドワークでは一番ッス。
 村に立ち入るなと告げた人が居た筈なのに、その人さえも何処かに消えてしまった……胡散臭いッスね」
 美咲はふと、周囲を見詰める。点滅信号はぱち、ぱちと瞬きを繰り返すように赤い色をしている。其れが妙に引っ掛かる。人通りも少なくバスさえも疏らなこの場所に信号があることだけが不可思議なのだ。
 やけに、それが気を惹く。何のために着けたのか。町長が福祉の一環に遇ったのか、それとも――信号が何度も点滅を繰り返す。赤い色だ。赤い、赤い、赤い。それが村の正面入り口に向けて何度も明かりを返している。
「まるで、威嚇しているようだな」
 雲雀はそう呟いた。人の影はないが、ここから先に進むことも妙に憚られた。踏み込むか、それとも引くか。この信号から先が別の場所に繋がっているような気がしてなら叶った。
 上空から探し求めていた『灰雪に舞う翼』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)は「駄目だなあ」と呟いた。
「イレギュラーズ以外の影が何も見えないんだ。可笑しいくらいに」
 人以外の何かが見えてしまうことが恐ろしかったけれど、と呟いたアクセルはひよのに「村人がいない」という報告を行なった。
 彼女は不思議そうな顔をして村を見詰め、アクセルを眺める。
「いえ、居るはずですが」
「……どういうこと?」

 ザザ――――ザ―――――迷子のお知らせです――――

「あ、また放送だ」
 放送という言葉にひよのの肩がぴくりと揺らいだ。妙な表情をする巫女はアクセルが振り返った先を眺める。
「私に、放送は聞こえません。何と云っていますか?」
「迷子のお知らせって、それから……」

 ザザ――――ザ―――――しきうん、しきうん―――

「しき、うん?」
「色……?」
 ひよのとアクセルが顔を見合わせる。それ以上は分からない。だが、村の内部で探索していた美咲も雲雀もその放送は聞いていたことだろう。
『黒狼の従者』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)は「入ってみます」と告げてひよのの傍にランチバスケットを置いた。何かあったときのために持ち込んだ弁当だ。
「ひよの様、『ごうん』という音はご存じですか?」
 リュティスは振り返った。ごうん、ごうん。まるで、何かが動き回るような音が聞こえている。
「何処に行けば良いか、などともしも案があれば其れに従わせて頂こうかと」
「ごうん――……どう、でしょう。もしも宜しければ、山に洞はありませんか? もしくは、何か暗闇に繋がっている道など」
 ひよのがそう告げればリュティスはふと、思い出したように山道を見た。下へ下へ、下る階段が存在している。
 その先に何があるかは昏く、確認は出来ないが何のためにその道があるのかは分からない。それが山道に車を避けるための歩道として整備されているとしてもこの交通量ならば使用者はいないだろう。
 ひよのの傍にその道はあった。それが何処に繋がっているか――そう考えてからリュティスはそっと階段を覗き込んだ。

成否

成功


第1章 第4節

アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣
シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)
天下無双の貴族騎士
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
ナイアル・エルアル(p3p009369)
新たな可能性
荒御鋒・陵鳴(p3p010418)
アラミサキ

 流れ続ける迷子放送に耳を傾けて、『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)は「まあ!」と声を上げた。
「迷子だなんて……私は先生だもの、迷子を捜さなくっちゃね」
 希望ヶ浜学園で教鞭を振るうアーリアにとって、幼子は可愛らしい自分の生徒と同じ。
 外で遊んでいて帰れなくなったのだとすれば早く親元に帰してやりたいというのが『大人』の心持ちだ。
 周囲を見回していたアーリアは山を登ってみるべきだろうかと点滅信号の下を潜り抜けた。
 潜り抜けた刹那に、ぞわり、と体の中で何かが蠢くような感覚がした。それは這いずる何者かだ。いや、何者などと呼ばなくても良い。アーリアはそれが何かを知っている。
『蟲』
 少し前に己が契約者となったそれが何かを求めるように身の内を蠢いたのだ。それがどうにも腹を減らした。
 ぎゅう、と鳴りかける腹を押さえてからアーリアは息を吐く。どうしようもない程に『魅力的な食材がある』と山を見詰めたのは……屹度、蟲のせいなのだ。
「あら、あら」
 呟く水夜子のかんばせを覗いてから『暴食の黒』恋屍・愛無(p3p007296)は「どうかしたのかい」と声を掛けた。
「いいえ、アーリアさんはある意味で色んな夜妖の発見装置のようだなあって。ひよのさんは真性怪異発見装置ですが」
「ふむ、音呂木の血が拒絶されるからか」
「そうですね、血が拒絶されるが故にひよのさんが『入れない場所』には何かが居るのでしょう」
 つい、と顔を上げた水夜子に倣って愛無も顔を上げる。視線の先にはひよのが一人でピクニックを行なっている場所が見えそうだ。
 山道とは逆方向。ひよのはあくまでも村の入り口の向こう側には余り気乗りしないと言って居た。
 彼女自身が入ってこられる場所は『正確には』この信号機付近までだ。だが、それでも入ることを体が拒絶しているようだとも言う。
「……さて、水夜子君は此の儘、ご一緒してくれるかな?」
「構いませんよ。どうせ、私が一人で突っ走っていけば手を引いて連れ戻してくれるのでしょう?
 ……死に焦れるくせに、『鬼』籍に入ることを怖がって下さるなんて……とってもいじらしい」

 山へと繋がる道の土は僅かに湿っているようだった。じゃり、と踏み締めてから『新たな可能性』ナイアル・エルアル(p3p009369)は振り返る。
 唄を口ずさみながら進むその歩みは淀みなく。迷子の案内があった事から考えれば――そうだ、確かに『迷子は彼女』である可能性が高い。
「それにしてもこれ、どういう意味なんだろう」
 澱みもなく繰り返し、繰り返し、言葉を連ねて謳われていたそれが耳に残って仕方が無いのだ。
 ナイアルは金色色の瞳をきょろりと動かした。死した者は鳥となる。魂を鎮める宿り木の少年は直接その心を鎮める事が出来るのだそうだ。
 だからだろうか、妙に右目がずきりと痛んだのは。誰を見たのかは分からない。けれど、山を見る度に眼が、酷く――
「ねかんましなさい、ごうん、じょうく。うぺか。うぺか。
 さんなく、さんなく。どぅか、どぅか。どうたいたどれば、つーかまえた」
 淡々と、その言葉を連ねて見せた『アラミサキ』荒御鋒・陵鳴(p3p010418)はふと思う。
 迷子、迷い子、帰らぬ子。それは果たして自ら姿を消したか神に選ばれたかは定かではあるまいが。
 ねかんまとは何であろうか。寝棺ならば棺探しを求められるか。ごうんとは五蘊か五運か当てはまる文字は無数にある。
 じょうくは畳句であれば確かに繰り返す語が多いが、さて。『ごうんじょうく』と繋げてみるべきであろうか。
 いずれにしても、これは。
「神の教えを童歌にすることはよくあることだ」
 山道を『歌いながら登れば』何かあるだろうか。陵鳴は淡々と進み始める。その背を眺めていたナイアルはぱちくりと瞬いた。
 そんな陵鳴の背中を見詰めながら『ノブレス・オブリージュ』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)は僅かに違和感を覚える。
(なんであろうか、定かではないが……霊魂というものは本来であれば存在しているはずだ。
 だが、この空間に入ってからその気配が静まったようにも感じられる。さて、何だろうか)
 シューヴェルトは首を捻った。信号機を越えてから体に感じるのは警鐘めいた何かであった。全方位にある危険性。
 点滅し続ける信号が危険を叫ぶ。シグナルレッド。無数に肉体を包み込んだ奇怪な気配は『覗き見』を許さぬとでも言うかのようだ。
「山と海、その何方もがあるか――」
 見下ろす先の海から響く潮騒がやけに騒がしく聞こえる。
 ざざあ、ざざあ、何度も何度も。繰り返される。当たり前のように押して引いて。
 全てを洗い流すように。
『陽だまりに佇んで』ニル(p3p009185)はくるりと振り向いた。誰かの気配がしただろうか? 気のせいだろうか。
「……迷子の放送……よく聞き取れませんでしたが、迷子は大変です!
 きっとさみしくて困っているでしょう。早く探して見つけてあげなくちゃ!」
 小さなかわいい子猫、こと、ココアがにゃあと鳴いたぎゅうと抱き締めるココアが嫌がるように身動ぎをしている。
 そもそも、それは小さな子猫の姿をしているが『本来的には猫』ではないか。何らかの謂れが付くだけで『お手付き』の物品はその場では突飛もない行動をする事がある。
 耳をピンと立てたココアがいやだいやだと首を振る。ニルの服に爪を立てアピールをし続ける。
「ココア?」
 ニルのまぁるい眸がぱちりと瞬かれた。ココアが嫌がっているのは潮騒の向こう側――覗いていた大穴のような場所だった。

成否

成功


第1章 第5節

カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
シラス(p3p004421)
超える者
紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)
真打
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
ファニー(p3p010255)
カフカ(p3p010280)
蟲憑き

「穴、か」
 がらんどうの眸。それでも、先を見通す事が出来るのだと『スケルトンの』ファニー(p3p010255)は浜辺から更に奥まった場所に点在する岩場へと向かっていた。
 海の中を泳ぐ魚に、そして空から警戒するように鳴き声を上げる鴉に。
 その二つと共にファニーはやって来た。見慣れないというものは辺りにはない、だが――
(寧ろ、当たり前すぎる空間が出来てることの方が問題だな。
『何も違和感がない』からこそ迷子になったのが誰かという事さえ隠されちまってる)
 ファニーはそこまで考えてから、ふと、自身の思考を振り返るようにおとがいに手を遣った。
 誰が迷子になったのか。
 迷子放送が流れている以上、それは村の誰か、であるべきだ。『陽だまりに佇んで』ニル(p3p009185)が礒の岩場を探すと決めたように。
 良くはない何かに出会ってしまった誰かがいると考えるのが通常だ。だが――
「どうかしましたか」
「……いや?」
 ファニーは妙な引っかかりを覚えて居た。
 ニルの腕に抱かれたココアがいやだと拒絶するように。『迷子の誰かが怖がっている』可能性がある『べき』なのだ。
「ココア、もうちょっとだけ、進んでみましょう」
 岩場の奥に大穴がある。覗き込んでいたのはニルだけではない。『竜剣』シラス(p3p004421)も同じだ。
「如何にも、だな」
 斯うした村には水浸しの洞窟があるのが通例(オーソドックス)だ。例にも漏れず用意されているのが流石は再現性東京だろうか。
「曰く付きも再現したっていうなら、まあ……潮が引くまで待つべきだろうけどさ」
 全容を知るためには更に奥に、奥に進むべきだろうか。
 ニルは「此処までしか、今は無理でしょうか」と唇を尖らせた。水の気は足元をばしゃりと濡らす。
 どうやら洞自体は更に水の深さを感じさせながら奥へ奥へと続いているようである。
「この構造なら、下りなのか……いや、下った後登る可能性もあるな。どのみち『奥が見えないようになってる』時点で意地が悪いぜ」
 シラスはぼやいた。ニルの腕の中でココアが更にいやだと我儘を言うようである。
「ココア、大丈夫です。……もしかして、潮が満ちる前に、誰かが進んだかもしれません」
 シラスは頷いた。そうであって欲しいと言う知的好奇心が胸を締めたのは屹度気のせいだ。
 ファニーはその様子を眺めながらまるで誘い込まれるようだと思った。お誂え向きの穴。罠のように大口開いたそれ。
 チョウチンアンコウは頭部の誘引突起(イリシウム)を使用して獲物を集めるらしい。こんなロケーションに、こんなシチュエーション。
 ……まるで誘引灯だ。

「さて、『みんないこうぜ いんしゅうのむら』というヤツだな。
 映画や物語で語られるお約束にも意味がある。実際によくあるケースである場合と……お約束だという認識が引き起こした現実への汚染だ。
 ……岩場や崖下に洞窟があるもの、と言おうとしたがお誂え向きにあったみたいだ」
『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)は遍くホラー現象を束ねた様にしたり顔で言った。
 現在彼が腰掛けていたのはひよのの居るレジャーシートだ。突入前に一度報告にやって来たわけである。
「あちらでは霊魂達の気配は感じられなかった。けど、こっちだと感じるな。不思議で仕方ないが……どう思う?」
「それは……こちらとその場所が大きく乖離してるからではないですか?」
 ギリギリの位置に座っている巫女は「嫌なことを言いますが、私は現(うつつ)にいますよね?」とアーマデルへと問う。
「まるで此方が幽(かくりよ)のような言い方をする」
「そう言ってますから」
「……けれど、そうならしっくりくるな。幽(かくりよ)に置いては霊魂の疎通とはケースバイケース。そもそも、俺達こそも『霊魂』の扱いかも知れない。
 魂魄が肉体から抜け出して現実とは乖離した場所に引き摺られるのもお約束ではなかったか?」
 アーマデルはそれならば、それを念頭に置いて『海の洞窟』を探ってみるべきかと立ち上がった。
「ええ、なんや難しい話してるやん」
 茶の用意をしていた『無視できない』カフカ(p3p010280)にひよのは「カフカさん、奥に行くと気持ち悪くなりませんでした?」と問う。
「え? せやねん。ひよのちゃんとピクニックしとこうかなぁって思った理由やねんけどな。
 奥に、奥に行こうとすると妙に腹が減ったわ、『しんどい』わで……それなら外でちょっと待っておこうかと思って」
 己の身体に付いている『蟲』について何らかの情報を得られるのではないかとやって来た彼はどんよりした顔の『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)を見遣った。
「パイセン……」
「いえ、秋奈さんは寧ろ遅刻してくるべきでしたよ」
「え? マジマジ? 怒ってない? 許されてる系?」
「……いえ?」
 泣き出しそうな顔をした秋奈に『紫閃一刃』紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)は「秋奈、ひよのが怖い」と唇を震わせる。
「こちとら一度蛇に呪われてるんだからやばいやつを探しに行こうと思ったんだが……。
 ひよのはどうして私達を呼び止めたんだ? 大丈夫だぞ、秋奈のことはちゃんと連れて帰ってくる。リードは手にしてる」
「あ、私ちゃんが握られる側? てか、そんな心配しなくてもおけまる水産だしさ」
 へらりと笑った秋奈に紫電は肩を竦める。カフカは紫電の発言から自身と同じ理由でこの場所に呼び止められたのだと気付いた。
「秋奈さん、信号機から向こう側に行くならば私のことをちゃんと思ってて下さいね」
「え? いきなり浮気の誘い?」
「……ひよの、其れはどう言う……」
 修羅場が発展しそうだとカフカとアーマデルは彼女達を眺めている。ひよのはいいえいいえと首を振った。
「『あなた、憑かれてます』よ」
 カフカは自身にもそれを言われた気がして肩を跳ねさせた。信号機、確かにその位置を越えた途端に体が怠く感じられたのだ。
「秋奈さんが『私の弟子』で居たいなら、ちゃぁんと私を、音呂木を思って下さい。
 そうではなく、蛇蠱(へびみこ)に寄り添うならば、しがらみも何もなく紫電さんの手だけ握って前へ進むのです」
「……パイセンは、選択しろっていってる?」
 秋奈はそっと腕を撫でた。口を余り開かずもごもごと言葉を発したのはふとした瞬間に舌が『二つに割れて』仕舞いそうになるからだ。
 彼女には蛇が憑いている。カフカには蟲が憑いている。
 取り憑くものがあれば、それらが過剰に反応するのは無理もない。
「危険なんだな?」
 空から眺め遣っていた『有翼の捕食者』カイト・シャルラハ(p3p000684)は問い掛けた。
 緋色のとりさんはこれから村にアタックを掛けるのだと宣言する。
「聞いたことがある言葉があって、取りあえず報告に来たぜ!
 しきうん? 色? 識? 色あるものは物であり、形あるものはいずれ壊れるだったか? 希望ヶ浜学園で習った。あってるだろ?」
「はい」
「まあ、俺は大丈夫だけど、他の皆は『憑いてる』から危険かもしれないんだよな。見ておく?」
「カイトさん、『覗き見る』のは結構危険ですよ」
 カイトは大丈夫大丈夫と笑って見せた。だが、先程から妙な気配を感じているのだ。
 もう一度空から確認してみようかと海へと向けて俯瞰する。
 ――ひよのの場所から見れば人が居る。無数の村人が歩き回っている。だと、言うのに。実際に向かえば誰もいない。
「なあ、ここって境界線だったりするのか? 見える景色が違うのが気になるぜ」
「……」
 ひよのはカイトを真っ直ぐ見据える。彼女には最初から『村人が居る風景しか見えてなかったのだから』
「隠されたのって、誰なんだろうな」

成否

成功


第1章 第6節

武器商人(p3p001107)
闇之雲
古木・文(p3p001262)
文具屋
水瀬 冬佳(p3p006383)
水天の巫女
イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
キラキラを守って
鏡禍・A・水月(p3p008354)
鏡花の盾
ルブラット・メルクライン(p3p009557)
61分目の針
クウハ(p3p010695)
あいいろのおもい

「まるで異界に切り替わったかの様。……先ずは村の中の状態から把握すべきか」
 ぽそりと呟いた『水天の巫女』水瀬 冬佳(p3p006383)は周辺を見回した。どうやら、本当に人が消えたのかを確かめねばならない。
 点滅する信号だけがやけに視界の端にちらついている。冬佳はひよのの許へと向かえるならば『外』と隔絶されているわけでは無さそうだと考えて居た。
 人々の営みが先程まで続いていたかのような生活感が屋内には存在している。畦道に変化したその場所を歩けば、誰かが踏み締めた後も残されていた。
 だが、妙なのはイレギュラーズが村の中にぎゅうと押し込められた状態だ。『異界の中に自分たちだけが取り残された』状況は些かアンフェアでもある。
(考え得るのは何か――例えば、だ。
 あの童歌にヒントがあるとすればこの村での『かくれんぼ』を終らせることで何かに至る可能性があるか。
 もしくは、現(うつつ)より離れてからこそ、この怪異は現象を続けていくものであるか……)
 首を捻る。村人が消えた理由を探れば、まずは道を開けるのだろう。
 この村に纏わる謂れは業が深い。斯うして人々を隔離するような事だというならば、児戯めいたかくれんぼそのものに理由が存在してる可能性さえある。
 ……例えば。そう、例えば『それが儀式』であり、巻込まれぬ為に村人達が『そうした』可能性も――

「慈雨」
 たった二人きりしか居ない空間だ。『悪戯幽霊』クウハ(p3p010695)は振り返ってから『闇之雲』武器商人(p3p001107)へと呼び掛けた。
「どうかしたのかい?」
 主人としてクウハの身の安全を優先する武器商人は民家や集会所を回ってみようと声を掛けていた。
 普通の人では見えないものを見通すことの出来るアメジストの眸が髪の隙間からちらりと覗いている。
「地道に回ってきたけど何か見えたか?」
 問うたクウハに武器商人は「実はね、困った者が見えるのさ」と笑った。
「……困ったもの?」
「我(アタシ)達は村人を探して歩き回ってきただろう? 民家の数々、それから集会場……。
 けれどさ、時々『普通に村人が見える』事がある。コレは可笑しい。なんたって、我達は声を掛けることが出来ないのだから」
 クウハの柳眉がぴくりと揺らいだ。
「……それは――」
「ああ、そうさ、そうに違いない。『此処は本来の村の姿』じゃないのだろうねェ!」
 からからと笑った武器商人にクウハは『出る事が出来ない』時点でその元になっている物を壊すしかないのだろうと思い当たった。
 足は淀みなく集会場へ向かっている。

 からだも魂も地獄で滅ぼす力のあるかたを恐れなさい――

 そう口にしながら『革命の医師』ルブラット・メルクライン(p3p009557)は歩いていた。その前には『結切』古木・文(p3p001262)と『オフィーリアの祝福』イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)の背中がある。
「子供達は、居ないみたいだね?」
「そうだね」
「……文お兄ちゃん、そっちは誰もいないよ。ね、ルブラット」
 振り向いたイーハトーヴに書の言葉を引用しながら歩き回っていたペストマスク――ルブラットは顔を上げた。
「確かに、誰も」
「だよね? オフィーリア、君もそう思うでしょう」
 誰も居ないはずなのに、文がまじまじと見詰めている先がある。集会場だ。人が集うべき場所。先程すれ違ったクウハと武器商人が向かった場所だ。
「……あっちに行ってみよう」
「何か予感があるのかね?」
「うん。これが『人が引き起す』事ならば、最も良いのは『人間の気が集まる場所』だよ。
 もしも、これが異空間に取り残された現象だって言うなら、そうするために村人はこの状況を作り出す周知をしたはずだよ。
 空間が分かたれていたって、その場所にこびり付いているものは中々とれないものだから」
 文はすたすたと歩き始めた。イーハトーヴは「待って」と追掛ける。
 どうしようもない程に、文が何かにひかれていくような気配がする。すたすたと歩いて行く文に従い進むルブラット自身も何ら恐怖を感じていないようだ。
「ええ、と……もしも村の人が居たらどうする?」
「『人はそれぞれ、自分の欲望に引かれ、おびき寄せられて、誘惑されるのです』――さて、どうするか」
 ルブラットは静かな声音で言った。居るとは限らないが、居た場合、それは『悪魔』の象徴のようなものではなかろうか。
 集会場へと向かう道すがら『守護者』水月・鏡禍(p3p008354)は家と家の間の細い隙間を抜けて歩いていた。
 畦道に出て、集会場の裏手に回った事に気付く。そこには無数の地蔵が並んでいた。まるで『道』を護るかのように存在している端神。
 道祖神と呼ぶ物は旅の安全を見守るらしい。異界へ居たり、そして何処かに到達することが旅だというならば、この場の地蔵にはそれは見込めないだろう。
 頭の半分が消え失せた物。脆く崩れた物までも存在している。それが集会場の裏手に不自然に並んで山に向かって続いている。
 注目すべき点は集会場の裏手『から』と言うことだ。まるで、その場所から山へ向かって誘うようにも見える。
「……山、ですか」
 ここで臆することはないだろう。何せ鏡禍は元の世界では怪異に分類されるのだ。
 山。山神。山には女神が住む事が多い。豊穣の女神達は嫉妬深い。古来より、山神に贄として嫁を捧げることがあった。
 その為には命を捧げ、魂魄(たましい)だけの存在にならねばならないと言う。肉体とは容れ物だ。その容れ物から『抜けてこそ』その座に至ることがある。
 死には段階が存在しているという。
 正しき死を頂くためには欲を捨てねばならない。苦しみを越えてこそ、正しく神の座に至れる。人間の生存に根付く『四苦八苦』から逃れなくては未練はその魂を現に留めてしまうだろう――

成否

成功


第1章 第7節

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
メイメイ・ルー(p3p004460)
祈りと誓いと
楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華
ミザリィ・メルヒェン(p3p010073)
レ・ミゼラブル
ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)
航空猟兵

「あああーーーー!!! いーーーやーーー!!! 待って、待って待って!?
 みゃーこ先輩! 突撃しないでー! こんなおっそろしい所いたら呪われる! 呪われる! 引っ張らないでくださいって!」
 手を掴まれてスキップしている水夜子に引き摺られるようにやって来た『後光の乙女』ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)。
「ブランシュ帰りますからね!」
「あら、残念」
「本当に帰りますから!」
 そんなことを言いながらひよのの元に行ってみれば――「で、出られない……?」
 ブランシュは何かに阻まれ外に出る事の出来ない恐怖を再度煽られることになったのだった。
 さて、それでも、仕方が無いからこそ『出る』為の探索を為ねばならないか。

 ザザ――――ザ―――――迷子のお知らせです――――

 放送を最後まで聞いてみようと『桜舞の暉剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)は耳を傾けた。
「ま、また新たな放送……?」
 周囲を見回す『ちいさな決意』メイメイ・ルー(p3p004460)も不安そうな表情を浮かべている。村の内部に響き渡った放送は古びたスピーカーから聞こえているようだ。
 電信柱として立てられた木に括り付けられた屋外拡声器は随分と錆び付いている。

 ――――ザーーーー

(名前は聞き取れないな……?)
 その事にヴェルグリーズは首を捻った。続く名前を待っていたのはヴェルグリーズだけでは無かった。メイメイもである。
 何となく、メイメイは嫌な予感がしていた。呼ばれている名前が何処かで変化してしまうのではないだろうか、という漠然とした恐怖だ。
 それが輪郭を徐々に帯びて、実感に変わるまでは僅かな時間しか無い。

 ――ミザ―――――

「ミザ……ミザリィ殿……?」
 ふと、ヴェルグリーズは村に自身達と一緒に訪れていたイレギュラーズの名前を呼んだ。
 子供達とのかくれんぼを行って居る『ライカンスロープ』ミザリィ・メルヒェン(p3p010073)の名前だろうか。
「……確かに、そう聞こえまし、た」
 メイメイが振り返ればヴェルグリーズは「かくれんぼをしているから?」と呟く。
 ミザリィを探せば何か分かるだろうか。彼女は山に向かった筈だ。小さな子供を追掛けて、何処かに行ったのか。
「私は……役場に、向かってみます、ね」
 放送を話している人が居るはずだとメイメイはそろそろと進む。一先ずはそうした拠点を目的地にするべきだろう。
「人の気配はありませんでしたね?」
「……ああ。村長宅だとか寺だとか、私には判別は付かなかったから、探してみたけれど……」
 どうにも人間の姿が見つからず、役場に向かってから祠などを探そうかと『天穿つ』ラダ・ジグリ(p3p000271)は考えて居た。
 メイメイとブランシュ、ラダはそろそろと役場へと向かう。古びた村役場はそれでも人の手が加えられているのか雑草などは存在していなかった。
「どなたか、いらっしゃいますか……?」
「受付も誰も居なさそうだな」
 二階に上がろうかと階段に手を掛けたラダは地下に繋がる階段がある事に気付く。
「地下ですか!? いや、辞めた方がいいのでは!?」
「……いこう」
 ブランシュが呪われますよと何度も繰り返すがラダは臆することなく階段を降りた。
 固い鉄の扉がそこには存在している。妙な事に、この場所だけは村の纏う時代錯誤な古めかしさからは離れている。
 扉に手を掛けたとき――「こら! どうして此処に来たんだ!」
 人の声が、聞こえた。

 覚悟なんて必要ない。そもそも、死ぬわけないのだから。
 驕れば恐れることなど何もないとでも言う様に『純白の矜持』楊枝 茄子子(p3p008356)は笑う。
 山へと向かうヴェルグリーズはミザリィを探しながら『なじみさんの友達』笹木 花丸(p3p008689)に「ミザリィさんは『鬼』になっちゃったから」と告げられたのだと言って居た。
(鬼かあ。鬼って色んな意味合いがありそうだよね。会長にとっては、どうでも良いけど。
 人は死んだら『鬼』になるんだよね。だから『鬼籍』って言葉があるし、祖霊達のことも『鬼』っていうんだよね。
 その『鬼になった』がどう言う意味なのか――其れだけでも面白いかも知れないけれど、さ)
 茄子子はまじまじとスピーカーを見詰めた。
「あなたは誰?」
 しん、と静まり返っている。点滅信号が煩い。頭を掻き混ぜるような気配がする。潮騒がざあ、ざあと引いていく。
「誰?」
 繰り返した言葉の端に、笑みが浮かんだ。ああ、可笑しい。
 そうだ――『誰も居なければアナウンス』なんて響くわけないのだから。
「ここは、どこ?」
 茄子子の眼は、ただ、ただ、笑っていた。

 山を登りながら花丸はイケイケドンドンの勢いで進んでいる。背後から聞こえるのはミザリィの声だろう。
「どこにいるのかな~」
 ――それだけでも十分恐怖を煽る。相手が誰であるか分かって居るからこそ、だ。
 そもそも、鬼を宣言し『誰かとかくれんぼ』しているこの状況だ。探しているのはあの少女ではあるが……さて、花丸は都市伝説的な何かを思い出した。それは降霊術の一種であったのではないか。あの様なものを模しているような状況は危機感や不安も浮かんでくる。
「見つからないな~」
 ミザリィは繰り返す。花丸はその言葉が『かくれんぼをしている』というアピールの一つである事にも気付いていた。
 もしも、自身が逃げる側ならば声が聞こえればドンドン遠くへ奥へと進んでいくだろう。
 ミザリィの動きを遠巻きに見詰めるヴェルグリーズとてそうだ。山は神様が住んでいる。その端の領域から、世界が全て変わるようだとも言われている。
 そも、それ故に神奈備(神域)として扱われることもあるのだ。
「こんなとき、もうひとり鬼がいてくれたらな~」
 そんな場所で『そんなこと』を言ってしまえば。
 ヴェルグリーズは花丸を手招いた。「どうかしたの?」と花丸は問うことは無かった。今、声を出すべきではないと認識したからだ。
 ミザリィの姿が見える――彼女の前に誰かが立って笑っている。
「あれ……は……」
 ヴェルグリーズがそう呟いた瞬間。
「これ! 山に入ってはならんと言ったろうに!!!」
 ――誰かの叱り付ける声が背中側から聞こえた。

成否

成功


第1章 第8節

シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
私のイノリ
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊
散々・未散(p3p008200)
魔女の騎士
ボディ・ダクレ(p3p008384)
アイのカタチ
結月 沙耶(p3p009126)
怪盗乱麻
荒御鋒・陵鳴(p3p010418)
アラミサキ
水天宮 妙見子(p3p010644)
ともに最期まで
トール=アシェンプテル(p3p010816)
つれないシンデレラ

 ――かくれんぼしましょ。

 そんな誘いを受けてから『ぬくもり』ボディ・ダクレ(p3p008384)は迷うことはなく山だろうが何処だろうが行ってみせると昇った。
 どうにも『海』側にも何らかの違和感を感じずには居られないが、この山は低いながらも其れなりに山の幸を得る事が出来るのだろうとその場には違う感想を抱いた。
 その頃、花丸とヴェルグリーズが『誰か』に声を掛けられていたがボディはその『声の主』を見ては居ない。
 前を進むのは危機として歩いている『北辰より来たる母神』水天宮 妙見子(p3p010644)である。
「こういう因習村近辺の獣道の先には白い壁に覆われた謎の宗教施設とかがあるって知ってるんですから!」
 うきうきとした妙見子をサポートして進むのは『奪うは人心までも』結月 沙耶(p3p009126)であった。そうした施設があるならば一層のことあれば愉快その者だ。
 怪異や都市伝説には疎い『女装バレは死活問題』トール=アシェンプテル(p3p010816)は「人為的な何らかですよね、これは……何の企みがあって……」と呟いた。
「どうでしょう? それでもワクワクしますよね!」
「何かが付いてきている気がしますけれどね……?」
 鳥だろうかとトールが振り返るがその影は直ぐに消えてしまう。其れも違和感そのものだ。この先に何が潜んでいるのかを知る由もない。
 いっそのこと妙見子を囮にしてしまえと沙耶は考えて居た。引率役のトールにはそのつもりはないだろうが、沙耶は人身御供系玄狐を餌にしていた。
 ボディはそんな三人が探し求めているものが山を越えた先にあるのか、それとも『人智に及ばぬ何かがいるのか』と考えた。
「……そもそも、此処は現実なのでしょうか」
 そう呟いた途端、背中に嫌な気配が奔った。ああ、そうだ。元から『そう思うべき』だった。
 あの迷子放送が鳴ってから、声を掛けてくれた村人が姿を消してから。幾分の時の間を何食わぬ顔で過ごしてきたが此処は現実であるか、どうかだ。
「寝棺坐しなさい。五蘊盛苦に三悪……或いは三惑。
 それから道諦。成る程、仏教に関する語であれば。
 どぅか…ドゥッカ…つまり苦とすれば――うぺか…ウパーダーナの訛り、執着」
 童歌を歌っていた『アラミサキ』荒御鋒・陵鳴(p3p010418)にボディは「まさか」と呟いた。
「此れは果たして、涅槃に至る道か」
「そもそも、生と死の繰り返しの中でも生とは試練として扱われることもあります。
 ならば、これは生と死の輪廻から抜け出す何らかの儀式であり、其れに巻込まれたと判断すべきなのでは……?」
 ボディの問い掛けに陵鳴は静かに頷いた。そうであろう、そうでなくては困るのだ。
 何故ならば、『ここが幽(かくりよ)』で現実(うつつ)でないならば、妙見子達が探す様な施設はこの場所には存在していない夢まぼろし泡沫のようなものであろう。
 もしかすれば現実には宗教施設では鳴く白い壁に覆われただけの山がある可能性さえある。その箱庭のような場所をぐるぐると、放し飼いにされた獣の様に歩き回らされているというのも想像できように。
「かくれんぼ、ですからね」
「ああ、『かくれ』んぼだ」
 死の婉曲表現に『隠れる』という言葉があるが――
「なら、この道が何処まで続くか、だね?」
『優しき咆哮』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)は止まることはないと歩き出した。
 村人がどうしてこの様なことをしているかが問題だ。現実に戻れたとしてもこれは繰り返されるだろう。
 例えば、お誂え向きに山と海がある。その何方にも何らかの供物が存在してる可能性がある。
 捧げられるのは山の神様か。一方は山で遊んでいた少女であろう。それが神が幼子の形を得てイレギュラーズを誘っていたと考えるべきだ。
「彼女はどうして私達を欲するんだろうね。
 契りの相手? 花婿を求めてのことなのかな。山と海、それぞれ何方もの均衡を取るために贄を用意する儀式だったりして」
 シキはくすくすと笑った。
 ――それでも構うまい。歩いて行けば真実に辿り着けるならば臆すること何てないのだから。
 山上から振り返る。海が見える。
 海は広く、全てを曝け出すが山は一方全てを隠す。海は生命の生まれる場所だが、山は土塊とかして帰る場所だ。
 命の象徴のように、輪廻のように。その一端にシキとボディは立っている。
「あわわ、迷子になりました!?」
「……あっちじゃないかな?」
「それはどうして?」
 沙耶は「勘だ」と妙見子とトールに答えた。何度も、何度も同じ場所を回っているかのような奇怪な感覚が三人を包み込む。
(そういえば――)
 陵鳴は「ねかんま」と呟いた。ねかんま、ねかんま。出離(ネッカンマ)。五欲から自由になること、世俗から離れること。
 まさに、唄の通りならば『世俗より離れ』涅槃に至れと囁くようだ。
(自らの禊を済ませ死ねとでも云われているようだ)

 臆さなくても、体は痛い。じりじり、桜の痕が痛み広がり、身を蝕んだ。
 かみさまというものは存外、執着心が強い。存外、未練がましく、存外、独占欲が強いのだ。
 欲張りなそれを感じながら『魔女の騎士』散々・未散(p3p008200)はただ、『蒼穹の魔女』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)の手だけ握って山頂を目指した。
「ほらほら、ご覧になって。こう云った手合いに多いのは忌(いみ)を持つ石だとかそういうったものでしょう?」
「そうだね。かくれんぼだもの。『私達が隠れる側』なら、死ねと言われているようだけれどルールはされていないものね。
 何かを探せば良いんだ。全てを終らすなら、『隠されたなにか』を見付ければ、かくれんぼは終っちゃう」
 ミザリィが先んじて鬼になったのは、死の傍らで常に駆け引きをするようなものだろう。だが、それも時間稼ぎだ。
 彼女がそうしている間に未散とアレクシアが何かを探せば良い。桜の痣が告げて居る――行くな、行くなと。
「……手を離さないでね?」
「ええ、ええ、勿論」
 嗚呼けれど。彼女を喰もうものならば、未散は赦しやしないのだ。
 神様であろうとも、彼女の騎士(ナイト)は決して恐れる事などしないのだから。

成否

成功


第1章 第9節

カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
武器商人(p3p001107)
闇之雲
古木・文(p3p001262)
文具屋
イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
キラキラを守って
カイト(p3p007128)
雨夜の映し身
ルブラット・メルクライン(p3p009557)
61分目の針
刻見 雲雀(p3p010272)
最果てに至る邪眼
浮舟 帳(p3p010344)
今を写す撮影者
クウハ(p3p010695)
あいいろのおもい

 ――一方で、集会場の内部へと踏み込んだ『悪戯幽霊』クウハ(p3p010695)は周囲を見回した。
 集会場はがらんどうとはしていたが、整頓はされていた。重ねられた座布団に端に寄せられたテーブル。少し広めに用意されたスペースは子供達が遊ぶためなのだろうか。プラスチック製の衣装ケースの中には子供達の玩具が重なって入れられている。
「さて、どうしてみようか?」
『闇之雲』武器商人(p3p001107)の声音が弾んだ。艶やかな髪を揺らせた武器商人が「何か秘密なんてないだろうか」と揶揄うような声音で告げる。
「さあ」と笑ったのはクウハ。だが、こういう時には何かあるものだ。
 例えば、練達で流行していたゲームならば沿い要れや棚の内部、壁に天井、様々な場所を探せば良い。隠し部屋などがあれば村の因習について識る事が出来るだろう。
「さながら脱出ゲームだね」
「……脱出ゲーム」
「練達で流行しているのさ。そもそも、我(アタシ)達は村に閉じ込められているから強ち間違いでなにのかもしれないけれど。
 何かボタンを押せば、現実(うつつ)に引き戻されたりしてね――此処が幽(かくりよ)だっていうなら」
 武器商人がつらつらと語る言葉にクウハは繋がるように呟いた。
 そうだ、ここが『異空間』ならば、そもそもにおいて『自身達が探す因習は出てこない』。其れは現実サイドで見付けるべき事なのだろう。
 気付けば取り込まれていたのだから、先ずは此処から抜け出すのが相応しいだろうか。
「なら外に出て因習を暴いてやるか」
「ああ、そういうの――大好きだよ」
 クウハの手が引き出しを適当な順番で引きずり出した。
 がこん、と音が何処かでする。何かが外れたのだろうか――外から「わあ!」と声が聞こえて二人は窓から外を見詰めた。
 ぱちくりと瞬いたのは『今を写す撮影者』浮舟 帳(p3p010344)である。
「これって、何だろう? いきなり出て来たから吃驚した!」
「井戸を覗いていたのか?」
 問うたのは『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)か。こくんと頷いた帳に「涸れ井戸か、中々これまた……」とカイトがおとがいに手を当て紡ぐ。
 姿を隠してずんずんと不自然な場所がないかと村を歩き回っていた帳は何処か嬉しそうな笑顔を見せた。
 不思議な場所に辿り着くのだ。コレが満足せずにいられるか。井戸には水が入っていたはずだがクウハと武器商人が引き出しを引きずり出したことが鍵であったのだろうか。
「何か見付けたのかー?」
 上空より掛けられた声にカイトは「ああ」と『もう一人の』『有翼の捕食者』カイト・シャルラハ(p3p000684)に頷いた。
 彼は鳥たちの姿がないのだと唇をとがらすように嘴をつんと前に突き出す。赤い鳥さんはどうにも此処は可笑しな空間だと言うのだ。
 上空から見ればイレギュラーズの姿しか無かった――が、その『見えていたはずのイレギュラーズの姿』も何処かに消えてしまったのだという。
「……井戸の神様は女神って説があるんだが、知ってるか?」
 カイトの問い掛けに帳は「ええっとー?」と首を傾げる。
 落ちた涙から産まれた女神がいるらしい。その女神が司るのは、鎮魂である。
「降ってみるか、井戸を」
 さて、此処で考えるべきは『童謡』の事であっただろうか。
 其れ等全てが涅槃に至るが為であるというならば。そもそもにおいて童謡に準えた其れ等からの『出離』を行って居る最中だと見做すべきだろうか。
 色蘊が迷子になったと言った。其の儘、人らしさを失えば、苦しみから遁れ遠離ることも出来ように。
 道徳規範をなぞり、深く心を落ち着かせた上で、神の許へと至ることを人が何と呼ぶか知って居るであろうか。
 そう――死は何人にでも訪れる安寧なのである。
「井戸か」
 覗き込んだ『結切』古木・文(p3p001262)に「文おにいちゃん」と『オフィーリアの祝福』イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)は声を掛けた。
「この奥に行けば何処に繋がっているのだろうね」
「さあ、どうだろうか。何かあるのかは分からないけれどね……。
 穴を潜るというのは些か可笑しな謂れがあるとも聞いたことがある」
『革命の医師』ルブラット・メルクライン(p3p009557)は静かな声で繋いだ。穴、穴だ。文には何となく覚えがあった。
 逢坂と呼ばれた場所では『島そのもの』が怪異の肉体であった。故に、穴を通ることは母の胎動より生まれ落ちることを揶揄しているとさえ島民達は語っていたのだ。新たに生まれ変わるという意味合いだ。
 イーハトーヴは文が淡々と表情も変えずに語るその声を聞きオフィーリアをぎゅうと抱き締めた。何か、彼の様子が違うようにも思える。
 魅入られているような、それでいて、踏み込むことを厭わぬ様な恐ろしい声音だ。
「……文お兄ちゃん?」
「この井戸の先は何処に繋がっていると思う? 例えば、異世界。例えば、こここそが異世界であって、現実に返れるのかも知れない」
 ぶつぶつと文が呟いた。赤い鳥さん、こと、カイトは「入るのか?」と問い掛ける。
「危険であろうとも打ち払えるだろうとも」
 ルブラットの声かけに文は「そうだね」と笑った。余りにも、楽しげな笑みだ――疲れ果てたような眼をしながら男は何かに魅入られたように自然に口角を上げている。
「もしも現実に返ったら、村人達が『どうして僕たちを閉じ込めた』のかを聞かなくちゃならないね」
「……例えば、よくある話しなら『贄を出さないと村がなくなってしまう』から?」
 イーハトーヴの問い掛けに文は頷いた。涸れた井戸。底の見えない暗闇。その先は何かの予測さえ付かない。
「行こうか」
「何が起っても良いなら」
 ルブラットに文は穏やかな声音で、答えなど決まっているというように答えるのだった。

(――成程、役所に来てみたが地下に繋がる扉の前にはイレギュラーズと村人。
 おかしいな。ここに至るまで村人の姿など無かったはずなのに。何処かで何かが変化したか……?)
 首を傾いだ『最果てに至る邪眼』刻見 雲雀(p3p010272)は先程から迷子放送が聞こえていないことにも気付いた。
 雲雀は村人達を無視して役所の書架に手を掛ける。因習や謂れについて調べることが出来れば御の字だ。
 無数の書棚を眺めていた雲雀に「どうかなさいましたか」と誰ぞが声を掛けた。穏やかそうな初老の紳士だ。
「……この村について調査を。たまたま訪れたけれど、良い場所だと思って」
「ああ、そうですか。けれど日が暮れる前に帰った方が良い」
「それは、どうして」
 雲雀の問い掛けに村人はパイプ椅子にどかりと腰掛けてから微笑んだ。
「この時期は婿取りがあるのですよ。私達も連れて行かれぬように夜には鍵を掛けるようにしています。
 ああ、けれどね、『女神様が迷子の振りをして』村に降りていらっしゃるときがある。
 その時は一等、清く素晴らしい魂を婿様に選ぶらしいんですわ。神隠しに遭う者も多くて……」
 初老の紳士は「かくいう私も幼少期にねえ」と不思議な体験だったと語った。
 神隠し――そもそも、だ。『水夜子があの放送を聞いた時点で』イレギュラーズは取り込まれていたとでもいうのだろうか。
「……もしも、神隠しだったというならば、どうして『帰ってこられている』?」
 雲雀の問い掛けに紳士は「さあ、神様は気紛れですからねえ」と穏やかに微笑んだ。……人の気配が濃い場所だからこそ、現と幽が混ざり合ったのだろうか。

成否

成功


第1章 第10節

スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣
リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)
黒狼の従者
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華

 唄を口遊み進む少女が一人居た。『聖女頌歌』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)が抱いたのは興味と、それからほんの少しの心配だった。
 その噂を聞いたときに彼女は違和感を覚える。妙な場所に踏み込んだという冴えた直感。首を捻りながらも「迷子だもんね」と一念発起した。
「困ってる子が居ると保護をしてあげなきゃ、ってことでレッツGO――あれ?」
「あら、スティアちゃん」
 ひよのにおにぎりでも貰って来るべきだっただろうかと腹を撫でた『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)がくるりと振り返る。
 困ったように眉を寄せたその人は空腹を感じていたのだろう。己の中に存在する感覚に頼るように周囲を確認し、一歩一歩と踏み出している所だった。
「どうかしたの?」
「ちょっとね……すこし、お腹が空いてしまって。――あっちに行こうと思っていたの」
「あっち……って、獣道だよ?」
 スティアがぱちくりと瞬けばアーリアは困ったような笑顔を浮かべる。仕方が無いのだ。山道、その向こう側――ちょうど、『桜舞の暉剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)や『なじみさんの友達』笹木 花丸(p3p008689)が立っている方向だ。
 体の中から其方に行くべきだと呼ばれている気がする。屹度、ろくでもないものが居ると分かって居ながらも体が惹かれて堪らなかった。
 するすると山道を慣れた様子で登っていくアーリアは淀みない。まるで別人を見ているかのようだとスティアは感じていた。
「そっちに、迷子の子がいるのかな?」
「きっとね」
「アーリアさんは怖くはないの?」
「ええ」
「アーリアさん?」
「……あっ、何かしら?」
「ううん……?」
 スティアは肌が粟立つような感覚に思わず身震いをした。この先に、何か居る。其れが分かるからこそアーリアも感じて要るであろうその『嫌な気配』から遁れる事を誘うのに。
 どうしたことか彼女は前へ、前へと登っていくのだ。
「あら……」
 視線の先には驚いた様子で立ち竦んでいる花丸が見えた。花丸の背後には首からタオルを提げた男が立っている。
「何してるね」
「あ、ううん、その……折角人が……あ、ううん、ええと……ここの人でいいんだよね?
 山に入っちゃったのはごめんなさいだけど、どうして山に入ったらいけないのか教えてもらえないかな?」
 驚き後ずさりながらも花丸が問い掛ける。村人であろう男は頭をガリガリと掻いてから嘆息した。
 そんな村人に構うことなくヴェルグリーズは目を逸らすことなく目の前に立っていた『なにか』に近付いた。
「みつけた」
 静かに声を掛けたときヴェルグリーズを見上げたのは『少女』だった。
「じゃあ、次はお兄さんが鬼ね」
 ヴェルグリーズを指差した少女の声音はノイズがかっている。どうしたことか生の声であるはずが、それは何らかのラジオスピーカーから発されたようにくぐもっていた。
「鬼……?」
「鬼、か。鬼。ああ、鬼だな。五陰盛苦。三惑。道諦。心身から生じる執着と誘惑を退け涅槃へと至る。
 ……捕まった者は『鬼』になるのか? 鬼は即ち死。死者の未練を剥がすために山を登らせ、海に帰そうとしているのか?
 胴体。母体回帰。山と海に共通するイメージ。山道に人工物があるか注意しておこう。信仰のヒントになるかもしれんが……」
『暴食の黒』恋屍・愛無(p3p007296)はじゃり、と石を踏んだ。ヴェルグリーズの事を留めようと手を伸ばす水夜子よりも早く、彼が蟲をして居た村人が腕を掴む。
「勘弁してやってくだせえ」
 男が肩を落とす。
「ルールも知らない余所者で……」
 男が何を言って居るのかと伺ったのは『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)であった。ヴェルグリーズは驚愕し、男を見詰めている。
(ルール。ああ、ルールは必要だろう。
 道諦、八正道、更に簡潔にして三学。即ち、戒・定・慧。行動規範や道徳規範を守り、深く集中し、物事を見抜く。
 そして涅槃、煩悩の火を吹き消して至る道。それを辿っている最中だというならば『私達は煩悩を消すために死より輪廻を辿る』必要がある)
  汰磨羈は目の前の男が自身等を巻込まないために出て来た『気の良い村人A』であると定義した。
 ヴェルグリーズやミザリィが『鬼』として掴まったならば、そこから彼等は死に至るために自らの足で進まねばならない。
 どれか一つでも無視をすればそれは正しく涅槃に至ることは出来ない。だからこそ、まだ『戻れる』とでも言いたげだ。
「……あーあ」
 少女がぽつりと漏した。
「未練は、魂を汚すのに」
 そう言った少女の姿がブレる。そしてぽと、と人形が落ちた。薄汚れた『少女』の人形だ。
 その体には『昇』と書かれている。薄汚れ、体は裂けて中の腸が漏れている。
「何だこれは」
 愛無が呟けば 汰磨羈は「依代」と呟いた。神を顕現させるには人の形をした物が最も良い。
 それを縁にして『神』が降ろされたというならば、この特異的な現象も人工的なものだ。
「ああけど――とっても美味しそう」
 アーリアはごくり、と喉を鳴らしてから目の前の人形に手を伸ばし――

 ぽちゃん、と滴が落ちた。
『黒狼の従者』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)は周囲を見回す。彼女が一人踏み入れていたのは山道から外れた位置にある地下通路であった。周囲を見回し、暗がりの中を眼を頼りに歩く。時折、光の差し込む隙間からはその通路が『山道の下に遊歩道』のように通された場所だというのが分かった。
 雨水でも吹き込んだのか泥濘み、じめじめとした気配がしている。そろそろと歩きながらもリュティスは物音が聞こえて真っ直ぐに見詰めた。
 奥に梯子かが掛かった場所があった。その上から誰ぞの声がするのだ。

 ――井戸か?

 どうやらそれは集会場の裏手に繋がっているらしい。成程、そこから合流しこの『降っている感覚がある』道は徐々に下がっていくのだろう。
 山から、細道を通って、辿り着くのは海か。
(……死から生へ。輪廻の道を通り生まれ変わることで、己の前世の業を注ぐと言いますが、正にその体現だとでも言いたげですね)
 何にせよ、リュティス・ベルンシュタインは『鬼にはなってはいない』。この先に進もうが、直ぐに命を奪われることはないだろう。
 進めば良いか。この先に進んで、この村の本来の姿を見極めてやれば良い――

成否

成功


第1章 第11節

茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
エルシア・クレンオータ(p3p008209)
自然を想う心
楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾
トキノエ(p3p009181)
恨み辛みも肴にかえて
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
ファニー(p3p010255)

 ――秋奈さんが『私の弟子』で居たいなら、ちゃぁんと私を、音呂木を思って下さい。
 そうではなく、蛇蠱(へびみこ)に寄り添うならば、しがらみも何もなく紫電さんの手だけ握って前へ進むのです。

 そんな事を言ういけず名先輩に『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)は叫んだ。
「音呂木音呂木音呂木音呂木音呂木音呂木音呂木音呂木音呂木音呂木音呂木音呂木音呂木音呂木音呂木音呂木音呂木音呂木音呂木音呂木音呂木!
 パイセン好き! しゅきしゅき大好き! 音呂木を思った! よし! 言いつけ守った!」
 ある意味で最強なのだとでも言う様にずんずんと進む秋奈は笑顔である。
 恐ろしい事なんてその辺りに転がっているが臆していて何が音呂木の巫女だと言いたげだ。
「蕃茄、何処が危ないと思う」
「此処が危ないよ」
「……」
 そんな会話を繰り返している『両槻親子』を見付けて秋奈は「よっすよっす」と手を振った。『羽衣教会会長』楊枝 茄子子(p3p008356)はと言えば、探すという行為そのものが『怪異を暴くこと』に繋がっている気がしてならなかったのだ。
「今から捜し物をするんだ」
「なーるほど、私ちゃんが思うにその捜し物ってやばめでしょ?」
 茄子子の瞳がいつもの通りの揶揄うような色に変わる。『会長』は面白いところに行くだけだと言いたげだ。
「そろそろ、引き潮かも」
 茄子子にぽつりと呟いた蕃茄がぱっと手を離す。そこから先へは『真性怪異の欠片』であった蕃茄は向かう事は出来ないとでも、言う様に。
「蕃茄は此処で待っているといいよ。『お母さん』は子供に無茶はさせないからね」
「蕃茄も『お母さん』の無茶は止めたいけど、止まらないから蕃茄の『お母さん』なんだもんね」
 蕃茄は行ってらっしゃいと茄子子を見送った。
 彼女が向かうのは――海の洞穴だった。
 これ以上は進めないだろうか。首を傾いだ『陽だまりに佇んで』ニル(p3p009185)が後戻りをしようとした時に『スケルトンの』ファニー(p3p010255)は「潮が引くぜ」と声を掛けた。
 何かが封印されているならばこの向こうだろうと『劇毒』トキノエ(p3p009181)とて踏んでいたのだ。
「わ、わ、進めそうです」
「……この奥ってのは危険そうだな」
 トキノエはまじまじと見詰めた。四つ辻を探していた彼だが、実のところそれはずっと目の前に存在していた。
 ――信号機、だ。点滅信号は四つ辻に象徴的に存在しており、それを意識しだしてからイレギュラーズ達はずっとこの異空間に囚われているかのようであった。
 その信号を見ていればどうしようもなく海が気になったのだという。ある者は山に、そしてトキノエは海に興味を抱いた。
「さ、奥はどうなってるだろうなあ」
 ファニーは泥濘んだ洞穴を進む。帰ってこなければ『迷子放送』で名前が呼ばれる可能性がどうしようもなくちらついた。
『自然を想う心』エルシア・クレンオータ(p3p008209)は「進むのですか?」と丸い瞳で見詰める。
「それにしても、この様な場所で名前を呼ばれたらついつい振り向いてしまいますよね」
「振り向いては、いけないんですよね」
「そうですね。基本的には振り向いてはならないと言われていますよね」
 ニコニコとしたエルシアにニルはぱりくりと瞬いた。前を進むファニーは全身が浸るならば水中を進むことも辞さぬと考えて居る。
 後方から足音が聞こえてニルの肩が跳ねた。
「やばやばじゃん」
「暗いね」
 聞き覚えのあるその声は茄子子と秋奈だろうか。ファニーは「皆集まってきたな」と呟いた。
「皆、……ああ、そうだな、例えばその奥に『横穴』があるのも気にはなるし、少し降ったと思うが、此処から昇りそうだな」
 トキノエはまじまじと奥を覗き込んだ。その中途に祠が存在している。ぽつねんとしたそれは縄が掛けられてはいたが、戸が開かれていた。
 どうやら昇り調子になっていたのは水底に沈まぬ位置を計算して祠を設置したからなのだろう。
「……あれ、なんだか、こわいです」
 ニルが小さく呟いた。それでも――『そちら側に迷子がいる気がして』ならない。
「扉の中、覗いてみようか」
 茄子子は臆することなく進み、ファニーも同じように扉に手を掛けた。
 すう、と風が吹く。振り向いてはならないと警鐘が鳴る。鳴るからこそエルシアが勢い良く振り向いて――「あ」と声を漏した。
 ばたりと倒れた彼女が体を傾げたように横穴の方に向けて転がっていく。
「あ、あ、ちょいまち!?」
 秋奈が覗き込めば、ぼちゃん、という音がした。
「……見てくる」
 ファニーは水底を覗いたがそこに彼女の姿は無かった――
 それは怪異を見たからなのか、それとも、『救い』であったのかは分からない。
「……もしかすると、会長達を止めている誰かがいるのかもね。
 村の儀式で、贄を選ぶためにこんな異空間に閉じ込めてかくれんぼさせてるんならさ、『村人に見つかって現実に返される』なんてこともありそうだし」
 茄子子がぽつりと呟いた時、上からの物音がその思考を遮った。

成否

成功


第1章 第12節

アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊
恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣
散々・未散(p3p008200)
魔女の騎士
鏡禍・A・水月(p3p008354)
鏡花の盾
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華
結月 沙耶(p3p009126)
怪盗乱麻
ミザリィ・メルヒェン(p3p010073)
レ・ミゼラブル
荒御鋒・陵鳴(p3p010418)
アラミサキ
水天宮 妙見子(p3p010644)
ともに最期まで
トール=アシェンプテル(p3p010816)
つれないシンデレラ

 連なる地蔵達。階段を上ることになろうとも『守護者』水月・鏡禍(p3p008354)は臆することはなかった。
 寧ろ、昇るべきだと『人工の道』を進む。その先に行き着く場所は何処であろうか――
(元々この身は怪異なのですから、何を臆病になる必要がありましょうか)
 鏡禍は淀みなくその階段を進んでいた。山手へと向かう其れは、他の仲間達が入っていた獣道と合流するようだ。だが、随分とショートカットしていることが窺える。
「ここは……」
 周囲を見回せば、そわそわとしていた『女装バレは死活問題』トール=アシェンプテル(p3p010816)の姿が眼に入った。
 ぎゅっと抱き締めた人形を離さないようにしていたトールは突如として茂みの間から顔を出した鏡禍に「わぁっ」と声を上げる。
「ひえ!?」
 びっうっと肩を跳ねさせた『北辰より来たる母神』水天宮 妙見子(p3p010644)が錆び付いた人形のように首を動かした。目線の先には鏡禍が立っている。
「皆さんは……」
「山道を登ってきたんだ。そちらは?」
『奪うは人心までも』結月 沙耶(p3p009126)は鏡禍が階段から上ってきたこと、地蔵道を上ってきたことを聞き首を捻る。
(その道はもっともらしく道祖神が居たと言うことだろうか。
 辻の神が道の加護を与えているならば……『間違いなく』安全であるべき――では、ないのか)
 ふと、沙耶は思い当たった。日本の民間信仰では地蔵は道の神として扱われることが多い。だが、他では子供として認識されることもあるらしい。
 妙見子に言わせれば「お地蔵さんが沢山居たという事はかくれんぼの参加者だったりするのでしょうか」との事である――つまり、は、『子供を追ってやって来た』他の面々と同じ結論に行き着くのだ。
「我々が供物として、という話も出ましたけれど、逆に神、もしくは怪異側へと至らせようとする線も捨てがたいですよね。
 山頂に辿り着けばどうなるのでしょう。興味はあるのですけれど、どう思いますか?」
「ああ、怪異や神――真性怪異へ至らせようとする可能性は捨てがたいだろうな。
 手順を踏んで、最もらしい贄を探している可能性もあるが……その作法を教えていないのがある意味で『意地が悪い』」
 沙耶と妙見子が顔を見合わせている最中でトールは「もしかして、作法を教えずに『勝手に其れを辿って欲しい』って事でしょうか」と呟いた。
「そういう事はあるかもしれませんね。勝手に儀式に入ってきて、勝手に其れを成立させてくれた方が罪悪感は少ないでしょうから」
 穏やかに告げる鏡禍は『怪異側』の意見のように言った。斯うしたときに贄を求めるならば、無作為に『手順を踏んだ』者を選ぶべきだ。
 古来からそれが会ったのならば村人は贄を決めて手順を踏ませていたことだろう。だが、わざわざ『外の者を呼び寄せた』ならば、その者を贄にすべくどうにか手順を踏ませようと考えるだろう。
「出離しなさい、五蘊、盛苦。平穏。平穏。三惑、三惑。苦、苦。道諦辿れば、つーかまえた。
 さて何を捕まえる? 迷子が鍵……どうたいは『童体』でも通ずるか。輪廻であるならば山(死)から海(生)へ至る道を探す。
 勿論、その為に『迷子』を用意したという話も捨てきれないだろう」 
『アラミサキ』荒御鋒・陵鳴(p3p010418)に『暴食の黒』恋屍・愛無(p3p007296)は頷いてから水夜子くんと手を引いた。
「肉体を捨てて俗世から離れる儀式を為そうとしているのだろう。
『鬼』になるべきだろうか。水夜子君、僕が隠れるから『もういいかい?』って聞いてくれるかね?
 僕は『まーだだよ』と答えるゆえに。折を見て『もういいよ』と応えたらどうなるか」
 愛無の提案を聞きながら陵鳴は「見付けて貰う、というのが『儀式の終了』なのかもしれん」とそう言った。
「ふむ、『あの迷子は嘗ての贄』であり、自分の代りを探していたとでも?」
「それは捨てきれない。あの迷子の代りとなる『山の贄柱』を探す儀式であったのだろうが――相手側には不測と予想外の出来事が訪れた」
 陵鳴は山を眺める愛無は山頂付近を目指して辿り着く他の怪異に愛されたその人――『魔女の騎士』散々・未散(p3p008200)と、彼女の手を握りしめている『蒼穹の魔女』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)に気付いて「ああ」と言った。
「他の怪異に愛されている者はどうしようもなく『外』から何かの影響を受けて、場を乱しやすいのか」
「ああ。それに、少女を探すという成り代わりの儀式を終えて、山を登り、そこから至るべき道を探すのは一人で良かったのだろうが……」
 全ての手順は乱れてしまっている。それ故に、場が乱れ『世俗から離れて魂のみに抜け入れ出た存在』というものが作り上げられなかったのだろう。

「隠れるなら、忌物、崖の下……少女は今迄誰と遊んでいたのでしょうか。独り隠れん坊なら其れは亦タチが悪い。
 そうは思えませぬか? ああ、けれど、彼方が『呼び出される側』であったのならば、『こちら』が呼び寄せられたのだから勝手な言い分とでも」
 くすくすと笑う未散の手を決して離すことなくアレクシアはついて行く。
(かくれんぼが続いてる、……きっと、終ることを待ってるんだね)
 例えば――『ライカンスロープ』ミザリィ・メルヒェン(p3p010073)が鬼になってスピーカーで名を呼ばれたように。
 彼女と鬼を交代した『少女』は返れるはずだったのだろう。だが、未だに迷子になっている。
「……私が迷子だというならば、私が彼女を見付けてしまえば全てが元通りなのでしょうね」
 死を回避するならば其れなのだろうとミザリィは言った。
 ミザリィを誘うと決めたのは『未散』の桜の痣がそうせよとでも、呼んでいたからだ。
「彼方へ」
「未散くん、山の上には何があるのかな」
 アレクシアは陵鳴のようにその唄を歌って見せた。ミザリィはどうしてか、その唄に惹かれて山の上へ、上へと昇ってゆく。
 肉体を失えば、全てが平穏になる。無になる。
 三つの迷いが魂に残っていれば苦しみだらけ。だが、それらを捨て去る道を辿れば――『神様の者になれる』
 生憎だがミザリィは其れを捨て去ることは出来なかった。
 勿論、アレクシアとて未散をそうさせるわけには行くまい。
「行くなと云われたら行きたくなるものでしょう?」
「未散くん」
 いつかのようにその手を握った。未散の唇がつい、と吊り上がる。ミザリィは『未散と同じ言葉がするりと唇から飛び出したこと』に驚いた。
「「――嗚呼。みぃつけた」」
 目の前には『ミザリィの前の前に立っていた少女の姿がある』
 其れを眺めていた未散は手を伸ばしてから己に憑いているものが端山(近郊の山を指す信仰である)の神である事を思い出す。
「ああ――『ご友人』だったのでしょうか」

『なじみさんの友達』笹木 花丸(p3p008689)は「もう一体何が起ってるのかな!?」と困惑したように目の前に立っていた謎の村人と向き合った。
 今起きている事象のことは分からないが知っていそうな『おじさん』が居たのだから迷わず彼を問い質すべきだろうか。
 勿論の事だが『桜舞の暉剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)も同じ考えであった。花丸とヴェルグリーズは『周辺の景色が違って見えた』事に気付く。
 先程までの鬱蒼とした空気はなく、寧ろ晴れ晴れとした空が心地良い山道だ。
「……この人形は『前の儀式の贄の子』のもんでな……。
 この村じゃあ、定期的に神様に贄を捧げることに決まってる。けど、もう村の人間も高齢化した。
 外から贄を選んだ方が良い。そう思ってからはその対象だろう奴が来たなら直ぐに儀式を行なうように準備してある。
 迷子放送を流せば『あの娘』が来る。そうすりゃ、時々こうやって村に迷い混んでくる奴(やっこ)を定期的に『かくれんぼ』に誘うんだ」
 村人は訥々と語った。
 この村はいつからかそうした事象が起るようになったと言う。
 長く、贄を選び続けた事による弊害なのではないかとも考えたが――さて、どうか。

 贄となった子供と成り代わるべくかくれんぼをする。それが儀式なのだという。
 迷子の放送が鳴り響いたときに『前代の贄』を呼び出すことで始まる。その時に村人達は家から一歩も出てはならない。
 点滅信号の四つ辻を越えた者がかくれんぼの参加者となる。探すのは前の贄だ。
 それはある種の降霊の儀式にも近い。最も、そうしているのはあちら側だ。次の鬼は『あなた』だと踏み込んだ者を誘い山の中で探して貰うのだ。
 そうしているうちに肉体は『世界に飲まれて』失うものが多くなる。魂との乖離が始まれば、そこでかくれんぼは終了だ。
 鬼に――鬼と云う『魂』への分離がはじまれば、山を登り未練を捨て去る。そうして、死から生への輪廻を辿るように母なる海の祠に辿り着けば完了だ。
 そこに神様が待っている。山から海へ、隠れた道を辿り着けば山神の山道――産道を通り新たな存在に生まれ変われるのだという。
 神の腹を通ったのであればそれは新たな神の誕生だ。その神が村に繁栄をもたらすと信じられていた。
 其れこそがこの村に古くから伝わる因習なのだという。
「可笑しいと思った奴だけ、時々、儀式に参加して何も知らん余所の奴を止めるようにしてるんべさ。
 もう、こんな因習、可笑しいだけだろうに……」
 村人の男は俯いた。その時、ヴェルグリーズと花丸は『生者に声を掛けられたからこそ』現実に引き戻されたのだと気付いたのだった。

成否

成功


第1章 第13節

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
メイメイ・ルー(p3p004460)
祈りと誓いと
ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)
航空猟兵

 ――役場地下。
 びくりと肩を竦めて驚いたようにぱちくりと瞬いた『ちいさな決意』メイメイ・ルー(p3p004460)は叱られた事を気にするように「め、めぇ……」と呟いた。
 混乱の最中に存在している『後光の乙女』ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)は「みゃーこ先輩助けてーー!」と叫んでいる。
 現在の水夜子は予想するに、山登りの最中なのだろう。「この放送なんですかー!?」と困惑するブランシュはメイメイが驚いた事で漸く人の気配があったのだと胸を撫で下ろした。
「すみません、此処から出る方法無いんですか!? 此処の村の人ですよね!?」
 臆することなく『当たり前の存在』として接するブランシュがぐいぐいと近付いていく。慌てる様子のメイメイが「めぇ……」と小さく呟いた。
「ええと……無線から変な声が聞こえて……放送元を、探していたのです。心当たり、ありますか?」
 妙な顔をした住民を見てから『天穿つ』ラダ・ジグリ(p3p000271)はブランシュとメイメイの間に割り込んだ。
「そういえば、聞いたことがある程度の話しなのだが……『神というのは器を欲しがるもの』なのだな。
 現実世界には顕現することが難しい存在である以上は、そうやって誰かの口を借りなくてはならないのだろう」
 ラダは突如としてそう口にしてみる村人は先程までの怒り顔を鎮めてから「ああ、そうだなあ」と頷いた。
「それで、出口は」
「階段を上がればいいだろうよ」
「本当ですか!?」
 ブランシュの瞳が煌めいた。メイメイはおっかなびっくりしながらブランシュの手をぎゅ、と握って村人をまじまじと見遣る。
「その、この村は……、今、どんな状況、ですか?」
「儀式の最中でな。この地下は『使われちゃだめ』なんだ」
 そう告げる村人にメイメイは「だから階段を上ればいい」と言ったのだと合点が言った。
 村人は現の存在なのだろう。そんな彼の干渉が起きた時点で異界が解れている。帰り道を示してくれたその人に従うか、それとも『地下の扉を開くか』
 ラダは「コレを開いても?」と問う。此処まで来て臆する理由も無いからだ。
「知らねぇぞ」
 それ以上は村人は答えたくはないとすたすたと階段を上って行ってしまった。
「どう、しましょう……?」
「分からないが、無理だった場合は『強制終了』できる。放送で始まったなら、放送で終わりだ。
 在り来たりな話しだが夕方になれば帰宅を促す放送が流れるだろう。其れまでの時間、自由に動き回れるが――」
 固く閉ざされていた扉を試し半分で動かした。重苦しい音で僅かに開いた先に覗いていたのは白い部屋、と云うべきだっただろうか――

成否

成功


第1章 第14節

ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊
恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣
散々・未散(p3p008200)
魔女の騎士
鏡禍・A・水月(p3p008354)
鏡花の盾
越智内 定(p3p009033)
約束
結月 沙耶(p3p009126)
怪盗乱麻
琉・玲樹(p3p010481)
水天宮 妙見子(p3p010644)
ともに最期まで
トール=アシェンプテル(p3p010816)
つれないシンデレラ

 山をさくさくと踏み締め昇る琉・玲樹(p3p010481)には迷いも、恐怖も存在していなかった。
『オバケ』と怪異を称すれば其れは最早肝試しに過ぎない。肝試しをしに来た積もりではあったが、芳醇な山の幸に恵まれていそうな小高い御山は玲樹の目には宝物庫のようにさえ移った。
「何か山菜とか獲れたりしないかなあ? キノコとか……」
 徐々に道を外れ始めた玲樹の前には『鏡地獄の』水月・鏡禍(p3p008354)が立っていた。彼はと云えば、本来的には『儀式で通るべき道』を駆け上がってきた唯一無二だ。
 獣道を駆け上がることはなく『供物を捧げる側』の道を上ってきた鏡禍は「そういえばキノコ等は見ていませんね」と首を捻った。
「これだけ木々が存在している上に、山の神が居るならば恵みもありそうなものですが……」
「そうだよね。山菜獲りの名人とか居そうだよね?」
 玲樹は首を傾げてから「あ、誰か居るよ!」と走り始めた。誰か、という言葉に違和感を覚えるのは『綾敷さんのお友達』越智内 定(p3p009033)であろう。
「え、かくれんぼで隠れた子かい?」
 それなら見付けてあげなくてはと定は玲樹の後ろを追掛けた。そんな二人の背中をまじまじと見詰めながら鏡禍はそもそもにおいて『かくれんぼで探すべき子供が安全無事に遊んでいるわけがない』とも考えた。
「『早く帰れ』――そうでしょうね」
 鏡禍は目を伏せる。先程、玲樹が見付けたのは子供では無かったのだろう。定はそれを直視して居らず、玲樹には恐怖心の欠片もない。
 それでも、だ。其れを一目でも見てしまえば存在を認識したことになるだろう。怪異とは『そういうもの』だと鏡禍は知っていた。
 この御山の儀式は破綻している。それ故に、帰路を示す者まで居た。ならば――儀式が破綻した後に異界に歩き回る者はどうなるか。
 答えは単純だ。
 ――他の者が体を探しにやってくる。

「おおい、何処に行ったんだい?」
 定は玲樹の後を追掛けた。定はかくれんぼが得意である。元の世界では一度も見つかったことがない。
 息を潜めて、唇を噤んでからじいと体を硬くしていれば誰もが見つからないと定を置いて帰ってしまっている。誰も見付けてくれないととぼとぼと帰れば他の子はとっくに家に帰っていると叱られたこともある程だ。
「確かにコッチに居たんだけどなあ」
「本当かい?」
 不思議そうな顔をしながら山を登った定と玲樹の前には『奪うは人心までも』結月 沙耶(p3p009126)の姿があった。
「おや、他のイレギュラーズか」
「まあ、本当ですね! 沙耶様、トール様。どうやら山頂が近いから合流し始めてしまったみたいですよ」
『北辰より来たる母神』水天宮 妙見子(p3p010644)が穏やかに微笑み振り返れば『女装バレは死活問題』トール=アシェンプテル(p3p010816)は「そういえばかなり登ってきましたよね」と後ろを振り返る。
「こんにちは、山頂を目指していらっしゃるんですか?」
 微笑む妙見子に悪気なく玲樹は後ろを指差してから云った。
「ああ、ほら! 逆さになって居たよ。山菜採りでもしてるのかな? 変なカッコ――もが」
 定が勢い良く玲樹の口を塞いでから何も見ていないとでも言う様に目を逸らす。沙耶とトールは顔を見合わせてからゆっくりと振り向いた。
 木が存在している。木の幹だ。其処には何らかの傷が付いている。間に立っていた妙見子が「どうしたんですか?」と二人の動きに合せて振り向いた時――影が掛かった。
 だらん、と木の上から何かが逆さにぶら下がっている。幹にフックで引っかけるようにしてぐらぐらと何かが揺れているのだ。
「……あれ、は……」
「人ですね」
「ああ、人だな……」
 妙見子と沙耶にトールは「物の見事に干されていますね」と呟いた。
「ど、どうして冷静なんだい!? 目を合せちゃ駄目だって聞いたよ。目を合せちゃ――!」
 定が繰返しながら玲樹を引っ張って走り始める。確か、向こうには水夜子の姿があったか。
『暴食の黒』恋屍・愛無(p3p007296)と『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)と合流し、山を降る話をしていた水夜子の元に連れていけば一先ずは難を逃れるかと考えたのだ。
 本能的にそれが安全だと察知した定とは対照的に『上からぶら下がった人』を眺める三人は奇妙な落ち着きを持っていた。
「取りあえず山を登りましょうか」
「ああ、そうしようか。……捨てられていた卒塔婆を拾いながら登ってきたんだが、文字が書いてあることしかわからないしな」
 何か更にヒントがあるかもしれないと沙耶はまじまじと卒塔婆を眺めながら何故か『ぶら下がっていた人』をスルーした。
 三人が背を向けて山を登ろうとしたときに、背後でぐしゃりと云う音が立った。最初に振り返ったのはトールであるが其処には何も居ない。
「……?」
 上を見返しても『彼』は居なかった。
「あれ、居なく――」
 沙耶の方を向いたトールは思わず息を呑んだ。沙耶が手にしていた卒塔婆をしたから何かが掴んでいたのだ。
「どうした?」
 沙耶は気付いて居ないのだろうか。それとも『其れが見えているのはトールだけ』なのだろうか。唇がはくはくと動いたが言葉にはならない。
「ふーむ、卒塔婆は三……惑……? 色蘊……? 何だか何処かで聞いたような言葉ですね?」
 妙見子は沙耶に「貸して貰えますか」と卒塔婆を受け取ろうとし――その『手』と触れた気配がしたが、彼女は全く以て何かを気にする素振りは無かった。
 そこに恐怖心は存在していなかったか、其れを上回る知的好奇心があったか、それとも『彼女の性質』故の話しであるかは分からない――だが、後ほどトールが見遣れば沙耶の手首には何者かが握りしめた跡が付いていた。

「水夜子、『気の良い村人A』と云う存在が居た。儀式自体は不成立ではあるがこの異界は現在閉じかけではあるらしい。
 ある程度の怪異から遠い場所にあれば、自動的に弾き出されるだろうが『海』に行った者達が心配だ。協力してくれないか」
 汰磨羈の提案に水夜子は「それでは山を降りましょうか」と愛無を振り向いた。
「ああ、そうだな。それにしても、『気の良い村人A』はヒントをくれて返してくれたのか」
「……気の良い村人Aは乱入者でしかないだろう上に私はそれと直接話したわけではないからな」
 ただ、村人が語ったという怪異譚については汰磨羈も記憶し持ってきていた。
「……それで、高齢化か。怪異も人と共にあるのがよく解るな。何にせよ怪談に、どんでん返しのオチは付き物だ。
 最後まで気を抜かずにいこう。水夜子君をしっかり送り届けねば。家に帰るまでが怪異収集だ」
「ええ、そうですね。しかし、高齢化――だから外から贄を。それは『いまいち』言葉が隠れているとは思いませんか」
 水夜子の問い掛けに汰磨羈と愛無がぴくりと肩を跳ねさせた。

 ――この村じゃあ、定期的に神様に贄を捧げることに決まってる。けど、もう村の人間も高齢化した。
 外から贄を選んだ方が良い。そう思ってからはその対象だろう奴が来たなら直ぐに儀式を行なうように準備してある。

「外から選ぶ理由ってなんでしょうね」
「……それは、贄に適切な年齢の子供が……いや、そもそも『誰でも良かった』のか」
「ええ。儀式に失敗しても、途中まで儀式を辿ってさえ居れば『その子供』を村に匿うことが出来ます」
 親切な村人Aが何も考えて居ないわけがない。わざわざ儀式に突入してきては現実世界に帰るように促してくれるのだ。
「……儀式を続ける人間の補充、か」
 愛無に問われから水夜子は「それは村人しか分からないでしょうね」と微笑んだ。
 ああ、だが、納得できる。村を存続させるには外から人を得ねばならない。だからこそ、こうやって儀式を『わざと起こし』て失敗させて、その人間を保護することで村に根付かせる目的なのだろう。
「本当に怖いのは――」
 怪異か、人か。どちらなのであろうか。
「とりあえず、何かを壊すなら任せて欲しいけれど?」
『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)の問い掛けに水夜子は首を振った。
「終らせ方は私達では知る由もありませんし、これが何であるかも定かではありませんね」
「確かにそれはそうだ。山を降るなら、『儀式は終り』と云うようなものなんだろう?」
 簡易的な異界と呼ぶべきなのだろうとサイズは呟いた。精霊達が作り上げる特異な空間と言うべきであろうか。怪異は即ち精霊とも同一存在だと水夜子は云う。外の世界では精霊として扱われる者が再現性東京では夜妖等と名付けられることもあるからだ。
「精霊達の作り上げる空間と、此処はある種で同一。果たして、其れを壊すべきかは――」
「分からないね」
 設置型の呪物が何処かにあるかも知れないが、それを壊して良いのかも分からない。
 そも、怪異が求めた贄は『儀式が破綻している状態』では得難い存在になっているはずだ。
「あ、そういえばサイズさん」
「ん?」
 水夜子がつい、と指差せば愛無はその手を握った。性懲りも無く、彼女は何時だって『怪異と目をあわせる』のだから。
「後ろ、誰か居ますよ」
 木の上から何かがぶら下がって揺れていた。サイズが振り向いた途端に其れがぐしゃり、と音を立てて落ちてくる――

「……ん? 何かの音が」
『蒼穹の魔女』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)は振り向きながらも『魔女の騎士』散々・未散(p3p008200)の手を離すことは無かった。
 誰よりも先に山頂に辿り着いていた二人の前には少女が立っている。
「……なるほど。ねえ、お外に興味はない? ここにずうっといても、寂しいばかりでしょう?
 君が魂なら、私のギフトで共に村を出れるかも。そしたら、遊びたくなった時はいつだって遊んであげる。約束するよ」
「ええ、ええ、そうしましょう。きーまった」
 未散はアレクシアの前をすいすいと歩いてからそのガラス玉のような瞳で真っ直ぐに見詰めた。
「あなたがほしい」
「――」
「あなたじゃわからん? おなまえつけよ、そうしよう」
 本来の名前は何処かに行った。山の神になりて、海に戻る前に『彼女は戻ることが出来なかったが故』に囚われているのだろう。
「ああ、かわいそうに。海へと戻り、一つに融け、輪廻を全うすることこそが必要だったのでしょうに。
 ええ、ええ。我々と行きませぬか――生きませぬか。
 お友達もおります。軀をお渡し出来るやもですし……約束です。指でも舌でも切ってくれて構わない」
「未散くん!」
 悲痛なアレクシアの声を聞き未散はアレクシアと繋いでいた側とは逆の手を差し出し、ぴゅ、と音を立てて自身の小指が飛んだことに気付いた。
 引き攣ったアレクシアの声を聞き、未散はクスクスと笑う。
「『指切り』ですね」
 青き義肢だ。そこに、外れた小指がもう一度形を為す。だが、小指の周りには指輪でも着けているかのように輪が出来ていた。
「だ、大丈夫なの……?」
「持っていきましたか」
 小指の先は、少女が持っていったのだろう。だが、共に在る証のように小指に切断『痕』だけを残して、元の通りに其れは戻る。
「さあ、帰りましょうか―――『   』」
 唇からは自然に、その名前が飛び出していた。

成否

成功


第1章 第15節

シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
私のイノリ
城火 綾花(p3p007140)
Joker
リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)
黒狼の従者
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華
荒御鋒・陵鳴(p3p010418)
アラミサキ

『なじみさんの友達』笹木 花丸(p3p008689)は「おじさんのお陰なんだよね?」と問うた。
「助かったよっ! ……えっと、そういえば何て呼べばいいのかな?」
 気の良い村人Aと名乗った男は答えない。ただ笑顔を浮かべるだけだ。
「この度は助かった。改めて謝意は伝えるから一先ずは友人を迎えに行っても構わないかな?」
『桜舞の暉剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)が穏やかに微笑めば村人は「ええ、どうぞ」と頷いた。
 奇妙な感覚だ。花丸を促すヴェルグリーズは早足でずんずんと進んでいく。目指すはひよのの居るその場所である。

 ――山神の山道――産道を通り新たな存在に生まれ変われるのだという。
 神の腹を通ったのであればそれは新たな神の誕生だ。その神が村に繁栄をもたらすと信じられていた。

「ヴェルグリーズさん?」
「……少し不思議な感じがすると思わない? 花丸殿」
「そう、そうだね。だって、『神様は旦那さんを探してた』筈なのに、おじさんは其れを話してない」
「そうだね」
 二人は顔を見合わせた。何か裏があるのだろうか。さくさくと早足で歩いている二人に先程の村人が「おおい」と声を掛けた。
「よければ食事を用意しておくよ。友達も連れてお出で。泊まる場所も用意しようか」
 引き攣った笑顔を浮かべた花丸は「遠慮しておきます」とだけ告げてからひよのの元へと向かった。
(……そうか、ひよの殿が中途半端に踏み入れられていた理由は、『彼女を嫌う怪異』とは別に、この村そのものにも何かがあったからなんだ)
 怪異だけではない、何かも縺れ合って異界が作られていたのならば――『かくれんぼ』は成り代わる相手を探す怪異で、村人達は『贄たる花婿』を求めていたのではないだろうか?

 くるりと振り向いた『優しき咆哮』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)は「誰かが行ったかな」と呟いた。
 山を登っていたシキは何かに誘われるようにして、『下り始めた』のだ。
 下へ、下へ。何処に繋がっているかは分からないが、仄暗い階段が存在している場所までやってきていた。
 贄でも何なら花婿でも構わない。輪廻の先に何があるのかをシキは知りたかった。
 階段を降りる足は淀みない。奥に仄かな明かりが見え、それが『黒狼の従者』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)である事に気付いてからシキは「向こう側から?」と問うた。
「ええ、どうやら道が此方と彼方で繋がっていたのですね」
 かつん、かつんと足音をさせながら二人は歩いている。

 ――それはある種の降霊の儀式にも近い。最も、そうしているのはあちら側だ。次の鬼は『あなた』だと踏み込んだ者を誘い山の中で探して貰うのだ。

 それは、果たして『何処まで本当』なのだろうか。村人が因習を全て語るとは到底信じがたいと『アラミサキ』荒御鋒・陵鳴(p3p010418)は考えて居た。
「迷子の魂を放り出せんのが水先案内人の性さね――故に見つけよう。
 依代では足らんならば、贄となった者の骸なりを家へと帰そう。魂は正しく輪廻へ戻そう。それで、終いだ。『祠』にあるのは果たして、本当に神か?」
 陵鳴は海に向かうべきだろうと山を降っていた。リュティスとシキとの合流を果たす。奥へ奥へ、進む度に何らかの潮騒の音が耳を擽った。
 海が近いのだろう。この道こそが『産道』と呼ばれていた場所か。コンクリートで作られた人工の通路。その中を進むリュティスは鼻を摘まむ。
「……腐敗臭がします」
「……見ない方が良さそうだね」
 シキはそっと目を逸らしたが陵鳴は「此処に居たのか」と呟いた。ああ、どうにも不愉快なことだ。
『かくれんぼの少女』はただの噂の誇張による怪異のひとつ。本当のこの村の恐ろしき所は現実世界で行なわれる忌まわしき『婿捜し』ではないか。
 かくれんぼをして神を作り上げたならば。
 次に必要なのはその神に番えるべき贄だ。
「……両方を準備して、後継者を作り上げ、『村を潤滑に回している』のだろうな」
「儀式に失敗して神様になり損なった子供は、村で保護をして育て上げる。そうして、村を代々続けながら、儀式に成功した人が出た時は新たに外から花婿を用意するんだね」
 そして、儀式に失敗し、村に帰らなかった者は『処分していた』と言うことなのだろう。
「……げに恐ろしきは人、ということでしょうね」
 リュティスは忌々しい者でも見たかのようにそう呟いた。

 木の棒が倒れた方向に進んでいた『Joker』城火 綾花(p3p007140)は「こんな方法一つで怪異が関わ……らないわよね?」と笑っていた。
 それでも尚も、不安と不信感を煽ったのは、その先に洞穴が存在したからだ。訥々と語るように落ちてくる水の気配。
 洞穴――他の仲間達が向かった筈のその場所は潮が満ちている。
「入れない……?」
 彩花は不思議そうに其れを眺めていた。人間の姿は周囲には無い。誰かに話を聞こうとも存在していないならば、それをしようにもないか。
 そう思ってくるりと振り向けば――
「ヒッ」
 背後には麦わら帽子を被った男が立っていた。
「ああ、よそさまがこんな所にいらっすった。田原の権助が行ってたんですよ、迷子ですかな」
 微笑んだ爺に彩花は答えてはならないだろうかとじりじりと後退する。
「外に、友人がいるから大丈夫よ」
 ただならぬ気配を感じ、彩花は直ぐにでもこの浜辺を脱出しなくてはならないとひよのの元へと向かって行った。

成否

成功


第1章 第16節

カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
武器商人(p3p001107)
闇之雲
古木・文(p3p001262)
文具屋
イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
キラキラを守って
カイト(p3p007128)
雨夜の映し身
ルブラット・メルクライン(p3p009557)
61分目の針
刻見 雲雀(p3p010272)
最果てに至る邪眼
クウハ(p3p010695)
あいいろのおもい

 井戸の先には何があるか。
「イドといや、精神の無意識層、快を求める衝動と本能だったか?
 ……好奇心は猫を殺すというが、殺せるもんなら殺してみろよ」
 せせら笑った『悪戯幽霊』クウハ(p3p010695)へと『闇之雲』武器商人(p3p001107)は「そんな言葉、恐ろしいじゃあないか」と揶揄うように指先をその唇に押し遣った。
「どうにも、異界というのはうまく出来ていてね。どうにも、思ったものが見つかりやすい。
 人間の根幹に根付いた想像こそがこの場所に点在しているというならばそれも当たり前なのかも知れないが――一人預言でもどうだい?」
 銀の髪を揺らがせる武器商人にクウハは「預言、それは面白いな」と悪戯めいた瞳を向けた。
 長い前髪に隠された切れ長の瞳がクウハを見詰める。神聖なる預言者の如く、武器商人は――
「井戸の奥には地下牢、とかどうだい?」

 梯子なんかがあればいいがと『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)は井戸を覗き込む。
「まあなくても飛行でなんとか……」
「集会場に縄梯子ならあった。古びているが一応使えるんじゃないだろうか?」
『最果てに至る邪眼』刻見 雲雀(p3p010272)の提案にカイトは頷いた。師匠のサポートをするのも弟子の役目だという雲雀はそれでも不安がある場合は飛行を使用して足元を確認しておこうと提案する。
 聞き耳を立て、そろそろと降りていく雲雀の上からもう一人の『カイト』――『有翼の捕食者』カイト・シャルラハ(p3p000684)が「どうだー?」と声を掛けた。
 先んじて小石を投げ入れたカイトは小さな小鳥と鳴って最後尾より追従する予定である。小石の結果はと、云えば此方には何も帰ってこなかったため底が深いという結論しか帰っては来なかった。
「足を掴んで引き摺り込まれるパターンだけは勘弁して欲しいな?」
 からからと笑った赤い翼のカイトに『オフィーリアの祝福』イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)は些か不安そうな表情を見せた。
 そんなことになっては先ず『結切』古木・文(p3p001262)が連れて行かれてしまいそうで堪らない。
「文お兄ちゃん」
 おそるおそると声を掛けて文は「イー君、どうかした?」と『何時もと変わらぬ声音』で言った。
「ううん……その、約束は護るよ」
「そうだね。ここから先呼び掛けられても振り返っちゃいけないよ。それが『誰の声』であったって」
 文に小さく頷くイーハトーヴは些か不安げであった。さて、贄は『何』に捧げられたか。この井戸の先は何処に繋がっているのか。
 振り返ることなく『革命の医師』ルブラット・メルクライン(p3p009557)はするすると井戸を降りていった。
「……古木君。奇妙な事を聞くが、君は『古木君』で間違いないのだね?」
 縄梯子を下りながら、上から降りてくる文にルブラットは問い掛ける。
「ルブラットさんも可笑しな事を言うね。そうだよ」
「……本当に? 『彼が偽りを言うとき、いつも自分の本音をはいているのである』――偽りが本音ではないという確証さえ感じられないな」
 静かな声音だった。問い掛けたルブラットに文は乾いた笑みを「は、は、は」と漏すだけだ。
 何れだけ降っただろうか。イーハトーヴは足を地に着けてから先に降りていたルブラットと文、そしてカイトと雲雀を視認する。
 その次に降りて来たのは武器商人とクウハ、最期に赤い翼を有するカイトであった。
「……さあて、どうだい?」
 預言は正解しただろうかと眺め遣った武器商人は確かに牢のように隔たれた物を見た。だが、戸は開いている。
「あれ? 投げた石ころっぽいのはない……いや、更に転がっていったのか?」
 カイト・シャルラハ選手。投げた小石には赤い塗料を塗って『飛距離』を確認したがその石は何処にもない。
 ……どうやら坂のようになっているのだ。何処からかなだらかに道が繋がっている。上からかつ、かつと足音が聞こえクウハは「何かの音がする」と囁いた。
 身構えたルブラットに文は「違う。生者だよ」と低く囁いた。リュティスを始めとして『山より』降ってきていたイレギュラーズ達の姿が遠巻きに見えた。
「……山から繋がっている?」
 雲雀は呟いた。イーハトーヴはどう言うことなのだろうと雲雀とカイトの双方の顔を見遣る。
「山道――『産道』か」
 カイトはぽつりと呟いた。
「と、なれば、ここは贄を閉じ込めておいた場所だろうな。井戸から直接繋がっていたのは此処から食事を降ろしていたのか」
「様子見も兼ねていただろうね。儀式の時以外に神の通り道に触れる事は控えるべきだから」
 文はそう言いながらすたすたと坂を下り始める。
「あ、文お兄ちゃん!」
 慌てて文の手を握りしめたイーハトーヴは彼の手が冷たくなっていたことを気付いた。
「文お兄ちゃん」
 足は淀みなく進む。引き摺られるように脚を動かしたイーハトーヴの様子を見詰めてからルブラットは「古木くん」と呼び掛けた。
「どうしたの?」
 ぐりん、と首が奇妙に曲がった気がして、イーハトーヴは思わず仰け反った。身構えたルブラットの傍で武器商人は「流石は魅入られれば変化もあるのだろうねェ」と笑う。
 神へと至る儀式は失敗した。しかし、贄を捧ぐだけならば容易だ。

 怪異だけではない、何かも縺れ合って異界が作られていたのならば――
『かくれんぼ』は成り代わる相手を探す怪異で、村人達は『贄たる花婿』を求めていたのではないだろうか?

「魅入られ――文お兄ちゃん!」
 それ以上は行かないで、とイーハトーヴが叫ぶ。
 この先に何があるかは『先に居る者』しかわからない。それでも、嫌な予感がしたのだ。
(力が強い……)
 進む足を止めたのは何処からか聞こえてきた『チャイム』であった。景色が揺らぐ。突如として押し寄せる濁流に一同は目を瞠り――気付けば浜辺に座り込んでいた。
「……大丈夫、ですか」
 目の前には音呂木の巫女の姿があり、現実に引き戻されたのだとその時ようやっと気付く。

成否

成功


第1章 第17節

紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)
真打
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾
トキノエ(p3p009181)
恨み辛みも肴にかえて
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
祝音・猫乃見・来探(p3p009413)
優しい白子猫
ファニー(p3p010255)

 ――祠。祠だ。
『陽だまりに佇んで』ニル(p3p009185)は祠を調べようとしてつい、と上を向いた。
「ど、どうかした?」
 ぱちくりと瞬いたのは『祈光のシュネー』祝音・猫乃見・来探(p3p009413)であった。地図にない集落には猫の姿もなく、不自然に人が点在している場所だった。何かを探そうとしても『どうしてもこの場所に』行き着いて仕舞うのだ。まるで、何かに誘われるかのようだった。
 だからこそ踏み込んだ先でニルが、『劇毒』トキノエ(p3p009181)が上を見ている。上からの物音に足元に転がってきた小石をトキノエが拾い上げた。
「石……」
 それは井戸の上からカイト・シャルラハが投げ入れたものではなかったか。足音に人の声が響く。

 ――文お兄ちゃん!

「どうやら、この上は『山の方の道』に繋がってるようだな」
『スケルトンの』ファニー(p3p010255)がまじまじと上を見上げてからそう言った。屹度、落ちて消えてしまった者は『現実に引き戻された』だけなのだ。
 このあわいは彼岸と此岸のはざま。簡単に入り込んでしまえる場所であるからこそ一寸先が闇である事は良く分かる。
「……迷子は、ここにいますか」
「ああ、居るだろう。でも『祀られている』のは――」
 祠をゆっくりと開いたファニーにニルは「そんな」と呟いた。
「……さみしい、ですね。ひとりぼっちは『さみしい』です。ニルは、そんなの、いやです」
 壺だった。普通の壺でない。札が貼られた小さな壺だ。骨壺であろうか。
 その中に入っているのは特定部位のものばかりだ。小指であろうか。小指の先だけが無数に入っているようにも見える。
「これは……」
 引き攣った声を漏したトキノエにファニーは「花婿なあ」とぼやいた。

 山の迷子の少女は贄娘。最初に選ばれたそれは山神様の後継者となるべく山を登った。
 そうして未練を断ち、肉体と魂の分離を促し『鬼』へと転ずる。その状態で次はこの祠へと昏い道を進むのだ。
 丁度、陵鳴たちがそうしたように。山間の『さんどう』を抜けて地下を伝い降りてから洞穴まで辿り着く。
 そうしてその娘の肉体は神の容れ物になるのだろう。
 ここで、もう一つ――『贄にはもう一種類合った』事にトキノエとファニーは気付いただろう。
「ニルたちが探していた迷子さんは……『このひと』たちだった、んでしょうか」
「さあなぁ……」
 もう一種、それは即ち神の花婿――正しき意味合いでの『人身御供』であっただろう。其れ等の小指が此処に千切られ置かれている。
 他の部位はと言えば大海原、海へと戻したのだろう。山に棲まう神が海へと回帰するその時に生と死の輪廻が正しく回るようになる。
 即ち、この村での『贄の儀式』は死後の安寧と、神による村の繁栄に近しいのだろう。
「……う、後ろに、誰か居るよ……?」
 祝音がごくりと息を呑んだ。
『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)は「確かに?」と笑う。その手をぎゅっと握りしめたのは『絆の紐結』紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)であった。
「秋奈」
「どうしたの紫電ちゃん。音呂木の巫女見習いに任せんしゃい!」
 胸を張った秋奈に紫電は嘆息する。どうしたって、彼女は自由奔放なのだ。
「振り向かない方が良いよ」
 本能的に祝音が感じる。何かが背後に立っている。それはつかず離れずある距離に立ってイレギュラーズの背を『見下ろし』ている。
「……」
 ニルの体が震えた。其れが何であるか分からなくとも生命の危機感は揺さぶられるものだとファニーはぼんやりと感じていた。
「……一緒に振り向くぞ、秋奈。ただしなにがあっても、オレとひよのちゃんのことだけ考えて、手を離すな」
 紫電に秋奈は「もち!」と笑いかけ――想い人であり、巫女であって欲しいとは、なんて欲張りなんだろうな、オレは、なんて紫電の重いなど気にしない勢いでぐりんと振り向いた。
 その時だ。秋奈の肉体の中で何かが蠢いた気配がした。蛇だろうか。蛇が怪異を拒絶するかのような感覚に続き――

 ――五時になりました。

 どこからから聞こえた放送に『嘘つきな少女』楊枝 茄子子(p3p008356)は唇をつい、と吊り上げてから物音の方向を見て「残念だねえ」と笑った。
「会長は……私は、かくれんぼなんてしてるつもり無かったんだけどね。やりたいなら言ってくれれば、今から隠れるのに。
 それでも、タイミングが悪かったね。『子供はもう帰る時間』なんだってさ」
 霊障を終らせるのはいつだって『開始の作法』と同じだ。其れに気付いたのは誰だったのだろうか。
「まーだだよ
 ……つってね。今日は帰ろっか。また来るよ。ああ、それと――『君のお友達』は外に出たみたいだね」
 山の中を歩き回っていた彼女は屹度、神様に何てなり損なったただの贄娘だったのだ。
 神様になり損なったからこそ、その儀式の続きを行なう者を探し求めるだなんて何て滑稽か。
 茄子子の傍で何かが蠢いた。囂々と入り口より水の音がする。それでも誰も臆することも焦りもしなかった。

 ――おうちに帰りましょう。

 そんな放送が聞こえ始めてから見えている景色がブレてきたのだから。それが『終わり』を知らせていたのは、明らかであった。

成否

成功


第1章 第18節

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
メイメイ・ルー(p3p004460)
祈りと誓いと
ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)
航空猟兵

 ――少し時刻を遡り。
『あたたかい笑顔』メイメイ・ルー(p3p004460)は扉を開きましょうと提案した。
 本当は今すぐにでも階段を上がらねばならないと『後光の乙女』ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)とて認識していた。
「……す、進んでみましょう。白いお部屋。これも異界、あるいは裏側?
 みゃーこさまの言う所の『箱』を開けてしまった状態と、同じだったりするのかな……此処こそが狭照屋……?」
「かも、しれません。ふふ、此処で新しい怪異の情報を拾えたならばみゃーこ先輩に褒めて貰えますよ!」
 ブランシュはそれ以上に好奇心が恐怖に勝っていることにも気付いてしまった。
 部屋に入ろうとするメイメイとブランシュに頷いてから『天穿つ』ラダ・ジグリ(p3p000271)はaPhoneで水夜子に連絡を送っていた。
 彼女達は山を下り始めているだろう。だが、此処に辿り着く前にラダたちは真白の部屋に入り込んだ。
 その中には一人の娘が立っている。長い黒髪に着物の『未散が連れて行くと決めた』娘にも良く似ている。

「ようこそいらっしゃいました」

 メイメイがびくっと肩を跳ねさせブランシュは「わ!?」と声を上げた。ラダは「お前は」と静かに問い掛ける。
「村の者です。ニルバーナに至ることは誰も出来ませんでした。
 今回の儀式も失敗でしょう。私達は山の神様に肉(からだ)を渡し、祠へと座して貰います。
 そうしてから、選んだ花婿を山の神に殺して貰うのです。神は正直者を好みます。
 花婿は何一つ隠し事をしてはいけません。それが『体の内側』であったとしても」
 静かに聞いていたブランシュは愕然としたようすで少女を見詰めた。メイメイの顔も青ざめる。
「それを教えてくれる理由は?」
 ラダが問い掛ければ少女は笑った。
「――ここが『サティヤ』だからです」
 正直者を好む神様は、正直に全てを曝け出したとでもいうのだろうか。
 嘘は吐いては居ない。神の依代を求めたのは『神』の側であり、花婿を選んでいるのが『村人』である以外は。
「帰り方は知っているのでしょうから」
「……ああ、その放送機材を借りよう」
 真白の部屋にぽつねんと存在していたそれは『異界を作り出す際』にだれぞが放送を行なったものだったのだろう。
 ボタンを押すだけで、それは『夕方の放送』を流し始める。帰りを促すアナウンスと共に、景色が変化した。

「な、何ですかー!?」
 ブランシュが周囲を見回せば真白の部屋ではなく、座敷牢が並んだ景色だけが広がった
「ヒッ」
 息を呑んだメイメイは朽ちた遺骸を見付けてから後ずさった。
「……脱出しよう」
 偈に恐ろしきは村人だ。ラダは静かに告げてからブランシュとメイメイと共に走り出す。

 異界から強制的に追い出された者達は浜辺に立っていた。そこにはひよのの姿もある。
「おおい、おおい」
 何処からか手を振る村人の姿が見えた。やけに晴れ晴れとした笑顔である。
 しかし、ひよのは直ぐにイレギュラーズを振り返ってから「逃げましょう」と囁いた。
 目指すのは県道だ。そこまで行けば彼等は居ってこないだろう。
 浜を抜け、脇道を抜け県道へと辿り着く。
 皆が村を振り返った時、当たり前のように笑っていた数人の村人はその手に農具を握りしめ「あーあ」と小さくぼやいたのだった。
 その時ふと、道の端に落ちていたのは『此処より私有地』『立ち入り禁止』の立て看板である事に気付く。
 その傍には錆び付いたカメラや誰ぞかの学生証が散乱していることに気付いたのは――村を後にする直前であった。

成否

成功

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