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シナリオ詳細

<最後のプーロ・デセオ>傍にいるよ

完了

参加者 : 109 人

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オープニング


 遥か彼方より、望みはたった一つだけだった――

 天浮の里。豊穣側にも近い、深海の隠れ里は一つの意思に塗りつぶされる寸前だった。
 『海援様』なる存在に。
 その存在は魔種。遥か以前より存在し、そして伏せていた存在――
 名をカンパリ……否。リモーネ=コン=モスカと言った。
 ソレは衣(ガワ)を変え、器(ガワ)を求め、現代にまで至る原初のコン=モスカ。
 そしてたった一つの願いに■焦がれた古き魂。

「――さぁ。今こそ行こうか」

 彼女は往かんとする。深海の果てより地上を目指さんと。
 その望みは己が信望する存在――リヴァイアサンに関わりがある。
 ……彼女は■焦がれたのだ。遥か彼方、あの方を目前にしてから。
 その雄大さに。その偉大さに。その猛々しさに。その全てに。
 だけどあの方は眠ってしまわれた。
 いやそれだけならまだいい。あの方を永遠に封ずる事など出来ようものか――だがリモーネにとって何より見過ごせなかったのは――『あの戦い』において、あの方の一撃を真正面から受けとめた者がいるという方だ。
 自らでは無理だった事を、成せた者がいる?
 欲しい。
 次なる衣(ガワ)として。次なる器(ガワ)として。
 ここが大一番。ここが天王山。
 『真正面からリヴァイアサンと相対する力』を求めるのだ。
 ああソレが手に入った時にこそ――僕は――
「あの方の隣に、きっと在れる」
 あの方に施された『眠り』に関しては必ずどうにかしてみせよう。
 その為にあの方を信仰せし――天浮の里に接触したのだ。
「『滅海の主』、準備は良いね?」
「…………あぁ。我に一切の陰りなどなし」
 同時。にこやかなるリモーネの隣にあるは、氷雨(ひさめ)なる人物だ。
 彼は豊穣に程近い深海側に位置する亜竜種達の隠れ里――天浮の里に住まう亜竜種。そしてリヴァイアサンを偉大なる存在として信仰する里において神の依り代……神子として深く心棒されし者、だ。
 ただし今ではリモーネの支配下に置かれ、里の信仰と思念を一手に受ける存在となってしまっている――自らは『本物のリヴァイアサン』であると信ずる程に。否、信ずるを超えて『そう』であると確信させる程に。
 ……その結果として彼の魂は歪に歪んだ。
 概念的存在(神性)を宿して、疑似的にリヴァイアサンに近しくなっている――勿論その力に関しては本物に遠く及ばないだろう。そればかりか肉体は只の亜竜種に過ぎぬ氷雨が、過ぎた神性を宿すのなら、いずれその身が崩壊するのも遠くないやもしれぬ。
 しかしリモーネにとっては構わないのだ。
 氷雨をそのように誘導したのは、たった一つの願いを叶える為。
「『滅海の主』であれば、この海を全て好きに出来るだろう。
 ――そう。『あの方』と『器』を掬い上げる事も、きっときっと」
 この海域の主として一時でも在れば。
 あの方と、あの方と渡り合った器の溶けている地が分かるだろう。
 そして双方ともに掬い上げる事が出来るのではないか――?
 あの方は、この海域の偉大なる主であったのだから。
 お前も『そう』であるのならば、それを察するは簡単であろう?
 ……それはリモーネの勝手な想像であるのかもしれない。
 それはリモーネの勝手な妄執であるのかもしれない。

 だけど素面で■は語れない。

 そして――まぁ。
 予備プランもあるにはある。
 本命はあの方と渡り合った器だが。
「――ねぇ。『君』はきっと来るよね。『お母様』を放ってはおかないだろう?」
 『再演』だ。
 あの戦いを再現する。
 強大な海嘯をもってして全てを薙ぎ払わんとしてみせよう。
 その為の『滅海竜』だ。その為の『渦潮姫』だ。
 止めてみせなよ、代替物。止めてみせなよ、有象無象。
 僕に器(ガワ)としての価値があると認めさせてみろ。
「今度こそ、今度こそ、僕は彼と添い遂げるの」
 永遠に。
 永劫に。
 滅海竜(あの人)のお側に居られるのは――僕だけなんだ。


 ――嵐が来ていた。
 天浮の里。その程近い海域には船が転覆……する程ではないが強き風が奔流を成し、大雨が身を打ち付ける程の嵐が来ていた。
 ……天浮の里には度々の調査の手が入っていた。
 それは元を辿ればシレンツィオ・リゾートにて珱・琉珂(p3n000246)が同胞らしき気配を察した事を端に発する――そこから亜竜集落ウェスタ出身である冽・十夜(れつ・とおや)がイレギュラーズと共に調査を行い、やがて判明したのは歪なる状況。
 リヴァイアサンを信仰している……と言う事は良い。あれは神代の時代より続く存在だ。
 その存在を敬おうという者ぐらいはいても不思議では無かろう――
 だが。里にて『神』の声を聴くとされ敬意を集める『海援』はソレを利用した。
 神……つまり竜への信仰を凝縮し、歪め、一つの器に収め、再現する。
 『滅海竜』という『概念』を。己が目的の為に。

「……危ない所じゃった。お主らの助けがなくばどうなっていた事か」
「異なる土地に住むとは言え、同胞の危機なら見過ごせない……
 フリアノンの族長からの頼みでもあったのだ。気にすることはない」

 そして。かの海援の所業について語るは、亜竜集落ウェスタ出身の冽・十夜(れつ・とおや)と、天浮の里の族長の娘たる浮・妃憂(ふう・きゆう)の二人である――
 海援様は先述の通り、リヴァイアサン信仰の里において重要な立ち位置を占める者であった。が、不審げな行動が相次ぎ妃憂は外界の者――つまりイレギュラーズ――に助けを求め、海援の目算が完全に成される前に妨害したのが先日の事である。
 奴めは天浮の里周辺に竜信仰の祠を作っていたのだ。
 それは実際には魔種の力も籠った魔術道具――とも言うべき代物。
 つまり里に蔓延している竜信仰をより強靭に歪めんとしたのである。放置し、狙いが完遂されていれば奴は里そのものすら掌握していたかもしれない。人々の意思を手中に収め、万全の戦力としていただろう。
 ――しかしリモーネは今更止まらぬ。
 最早『海援』などという立場など不要とばかりに動き出しているのだ。
 自らが作り上げた竜信仰の象徴――氷雨に伴う大量の滅虚種(ホロウクレスト)を引き連れて。目指すはフェデリアの制圧、だろうか。
「……それから、一部の里の者達が操られておる。あれは一体……」
「潔一(きよかず)の症状だな――どうにも本人の意思じゃあないっぽいな」
「他の場所でも似たような症状が出てた連中がいるって聞くぜ……もしかしたらそれとおんなじヤツか……?」
 が、戦力はどうにもそれだけではないと紡ぐのはシオン・シズリー(p3p010236)に越智内 定(p3p009033)である。以前はイレギュラーズ達に協力的であった潔一という――これまた天浮の里の亜竜種が居たのだが、彼の様子は調査の途中で突如おかしくなった。
 知古である妃憂に刃を向ける程に。
 シオンらが注意していたが故に大きな被害はなかったが……事の真相は瘴緒(しょうのお・デヴシルメ)という肉腫に操られているが故、だ。悪神ダガヌの影響によって発生したモノなのだが――恐らくこれもリモーネによって利用されているのだろう。
 魔種である彼女であれば肉腫を操れても不思議ではない。
 ……いずれにせよ、一部の里の民達が操られている可能性がある。
 敵は滅虚種だけでなく……そういった者達もいるだろうか。
「天浮の里にはどんな音楽が……なんて気になっていたんですけれど。それ所ではないですね、これは……!」
 ならばと。天浮の調査に出向いた柊木 涼花(p3p010038)は奥歯を噛みしめるものだ。
 未知の天浮。些か心躍る面もあったのだが……待ち受けていたのは魔種の思惑。
 ひとまずはそこを鎮める必要がありそうだと――
「……同胞を手駒の様にするとは、やはり見過ごせんな」
「ああ――もう一戦、やってみるとするかい」
 であれば斯様な所業は冽・十夜にとって見過ごせぬ。
 然らば十夜 縁(p3p000099)もその意思に同調するものだ。
 彼が行くというのならば己がいかぬ理由もないだろうよ――なぁ、親父。
 それに、幸いと言うべきか……冽・十夜以外にも味方をしてくれる存在は、いる。
「水竜さま――いや。卯ノ花、でいいのか?」
「卯ノ花さん……は『渦潮姫』なの?」
「うん――私は『そう』だよ。卯ノ花でもあるけど、ね」
 それは天浮の里の住人たる卯ノ花、だ。
 彼女をカイト・シャルラハ(p3p000684)にリリー・シャルラハ(p3p000955)は見据えれば……確かにその内から感じる気配は『渦潮姫』の如し。
 しかしそんな筈はないのだ。封じられた竜がこんな所にいる筈がないしあり得ない。
 ……勿論ソレは本物が再臨している訳ではない。氷雨と同様に『渦潮姫』を概念としてその身を器としているのだ――が。氷雨程危険な状態でなく、むしろイレギュラーズに友好的に見えるのは、かつてイレギュラーズが己を救ってくれたから……だけでなく。信仰対象としての念が滅海竜の方が一段上であったからだろうか。
 ともあれ彼女も氷雨を止めるべく戦ってくれる。
 以前シレンツィオで出会った時はイレギュラーズが救ったが。
 この信仰が満ちているこの場であれば戦える力を宿しているらしい。
 波を操る。滅海竜として振舞る氷雨程の力ではないが。
 しかし『渦潮姫』として振舞う彼女は――『渦潮姫』として『滅海竜』を止めるのだ。

「――やれやれ。こっちでも騒ぎがあると聞きつけてきてみれば……
 想像以上に厄介な状況になってるみたいだな」

 と、その時。
 戦場に響く声があった――それは。
「んん!? 親父――どうしてここに!?」
「よぉカイト。ま、海軍としても当然見過ごせねぇからな。
 シレンツィオ方面には既にダガヌの連中も来ていやがる……
 ここで連中を止めなけりゃシレンツィオで混戦どころじゃねぇ。必ず食い止めるぞ!」
 カイトの父であるファクル・シャルラハだ。いや彼だけではない――海洋王国の軍旗を掲げた船が見えれば、海洋王国の軍人らも救援に至っている様だ。天浮の里方面での騒乱を察知し、駆けつけてきてくれたのか。
 なんにせよ援軍とは有り難い次第である。人手は一人でも多く欲しい所なのだから!
「しかし……この嵐。まるで、あの時の戦いみてぇだな」
 刹那。ファクルは……いや。
 かつてリヴァイアサンと戦った事があるイレギュラーズ達には思い出す光景があった。
 神代の時代より存在したリヴァイアサンと、そして冠位魔種との戦いの一時を。
 今日の嵐は――まるであの日の様だ。
 波は吹き荒れ、大雨の中。竜の姿を模した者と戦うとは。

「でも、なんだっていいわよ」

 ――しかし。イーリン・ジョーンズ(p3p000854)は述べるものだ。
 関係ない、と。今日がどれだけあの日に似ていようが、いまいが。
 リモーネ。
 あの女がもしも――カタラァナの波濤を宿そうというのなら。
「止めるだけの事だから」
「あぁ、そうじゃな――そうじゃ」
「行きましょう、クレマァダさん」
 クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)も。
 フェルディン・T・レオンハート(p3p000215)も。
 一つの決意と共に一歩を踏み出すものだ。
 水底より至る孤独な波よ。
 此処にいるのだと、届かぬ彼方に大きく吼える、寂しい声よ。

 ――コン=モスカの意義を。絶海の管理者の意義を、今こそ見せよう。

GMコメント

●依頼達成条件
 敵勢力の撃破

●フィールド
 天浮の里周辺海域です。
 現在、後述する敵勢力は海面に浮上し、フェデリアへ向かわんとしています――これらを迎撃してください!
 海上で戦う場合、周辺は嵐で満ちており強風、大雨の中での戦闘となります。
 海洋王国の軍船も援軍としてきていますので、海を泳げる技能は必ずしも必要ではありませんが、海でも自在に泳げれば海中での戦闘も行えて色々と対応しやすい面があるでしょう。
 戦場は主に二点存在します。

【A】海上付近での戦闘
 リモーネや氷雨は海上へと、多くの虚滅種と共に至っています。
 これらを迎撃、撃破する戦場です――
 激しい戦場となるでしょう。特にリモーネや氷雨の攻撃にはご注意ください。

【B】海中、天浮の里での戦闘
 現在、敵戦力は深海から次々と海上へ上がらんとしています。
 それらを撃破し、海上付近を援護するのが主体となります。
 天浮の里へと続く『道』に限っては、不思議な加護があり呼吸が可能です。
 なので泳げる技能は必ずしも必要ではありませんが、あくまで『道』に限るので泳げるとより移動の幅が広がる事でしょう。
 天浮の里で操られている人達もいますので、そういった者達の救出も行えるかもしれません。

●敵戦力
・リモーネ=コン=モスカ
 それは魔種。それは原初のコン=モスカ。それは最強の波濤魔術師――
 波を操る事に関しては超絶の技量を宿しています。超高範囲を攻撃する『大波』を操る事が出来、更には彼方まで到達せしめるかのような強力な貫通攻撃を宿した『海嘯』は強力無比な事でしょう――他にも波濤魔術師として彼女だけが知る技などがあったりするかもしれません。
 魔術として体系化したのは、正に彼女の手腕。
 その扱いに関して、彼女は誰よりも優れているかもしれません――尤も、彼女自身はリヴァイアサンの隣に立つことはどれだけ願っても叶わなかったのですが。

 彼女の狙いはこの海を手中に収め、そして新たなる『器』を見つけ出す事です。
 かつてリヴァイアサンと互角に立ち向かった『器』を。
 欲しているのです。だって。

 彼女は竜に『■』をしたのですから。

・氷雨(ひさめ)
 『天浮の里』出身の亜竜種。代々、滅海竜をお祀りする家系に生まれた彼は『生きた滅海竜』の依り代、神子として里で深く信奉されていました――しかしあくまでも滅海竜そのものではなく、信奉者の一人……だったのですが、リモーネの影響により『本物』として振舞い『本物』であるかのような技能を使用します。単純には、虚滅種の完全上位互換の技を使用します。
 この海域周辺限定で大きな力を宿している様です。その身は強引に宿された過大な神性により崩壊に向かっていますが、崩壊に向かえば向かう程強くなっていきます……

・潔一(きよかず)
 『天浮の里』出身の亜竜種です。外の世界に興味があるのか、非常にイレギュラーズ達に好意的です――が。瘴緒(しょうのお・デヴシルメ)という肉腫を植え付けられており、現在はリモーネ配下として皆さんと敵対しています。【B】の戦場にいます。
 戦闘不能状態にすれば『瘴緒』は解除されます。

・天浮の里の住人×複数
 潔一同様に操られている存在が幾人かいる模様です。
 可能であれば助けてあげてください――【B】の戦場にいます。
 戦闘不能状態にすれば『瘴緒』は解除されます。

・虚滅種(ホロウクレスト)×多数
 虚滅種と呼ばれる怪物たちです。なんとなくですが――その姿、いや雰囲気はかつての大竜リヴァイアサン……と似ている気がします。勿論、あくまで『なんとなく』以上ではないのですが。竜の姿によく似た、亜竜の幻影の様な者達です。【A】【B】両方の戦場にいます。
 攻撃方法としては波を押し寄せる様に操る『海嘯』なる技を使用したり、鋭い爪や牙など……強靭な肉体を振るう手段が多彩な模様です。特に『海嘯』は【麻痺】や【凍結系列】のBSを付与する事がある模様ですので、ご注意ください。

●味方戦力
・冽・十夜(れつ・とおや)
 亜竜集落ウェスタの住民で、命を帯びて、外の文化を知る為大陸を旅する事もある亜竜種です。気の流れを水の流れに見立てての近接格闘を得手としており、前線で戦います。

・浮・妃憂(ふう・きゆう)
 天浮の里の里長の跡取り娘です。
 あまり戦闘は得手ではありませんが、皆さんの支援を中心に戦う模様です。

・卯ノ花(うのはな)
 氷雨と同様に神子として称えられている、蒼い肌の亜竜種です。
 彼女は氷雨とは違い『滅海竜』ではなく『渦潮姫』としての概念を宿しています――
 その為か『渦潮姫』と似たような戦い方をすることがあるようです。
 この海域周辺限定で戦える力を宿しています。

・ファクル・シャルラハ
 カイト・シャルラハさんの父親にして海洋王国軍人の一人です。
 元冒険者でもあり、戦闘の経験は豊富な人物です。
 後述する軍人らの指揮を執りながら皆さんと共に戦います。

・海洋王国海軍×30名
 ファクルの指揮下にある海洋王国の軍人です。
 海種、飛行種が中心であり、皆さんと共に戦います。
 一部の者は軍艦を操り砲撃による援護も行います。

●特殊ルール『竜宮の波紋・応急』
 この海域ではマール・ディーネーの力をうけ、PCは戦闘力を向上させることができます。
 竜宮城の聖防具に近い水着姿にのみ適用していましたが、竜宮幣が一定数集まったことでどんな服装でも加護を得ることができるようになりました。

●特殊ドロップ『竜宮幣』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『竜宮幣』がドロップします。
 竜宮幣を使用すると当シリーズ内で使える携行品アイテムと交換できます。
 https://rev1.reversion.jp/page/dragtip_yasasigyaru

  • <最後のプーロ・デセオ>傍にいるよLv:30以上完了
  • GM名茶零四
  • 種別決戦
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年11月04日 22時51分
  • 参加人数109/109人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 109 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(109人)

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)
騎兵隊一番翼
十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
フェルディン・T・レオンハート(p3p000215)
海淵の騎士
エマ(p3p000257)
こそどろ
日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
郷田 貴道(p3p000401)
竜拳
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
メルトアイ・ザ・ベルベットムーン(p3p000674)
悦楽種
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)
黄昏夢廸
清水 洸汰(p3p000845)
理想のにーちゃん
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
リリー・シャルラハ(p3p000955)
自在の名手
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者
アト・サイン(p3p001394)
観光客
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
無限円舞
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら
鬼桜 雪之丞(p3p002312)
白秘夜叉
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
ルナール・グリムゲルデ(p3p002562)
片翼の守護者
十夜 蜻蛉(p3p002599)
暁月夜
リディア・ヴァイス・フォーマルハウト(p3p003581)
木漏れ日のフルール
赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師
アベリア・クォーツ・バルツァーレク(p3p004937)
願いの先
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
剣閃飛鳥
ライム マスカット(p3p005059)
グリーンスライムサキュバス
エマ・ウィートラント(p3p005065)
Enigma
ェクセレリァス・アルケラシス・ヴィルフェリゥム(p3p005156)
天翔鉱龍
岩倉・鈴音(p3p006119)
バアルぺオルの魔人
水瀬 冬佳(p3p006383)
水天の巫女
ルルゥ・ブルー(p3p006410)
水底の夢
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
奈落の虹
プラック・クラケーン(p3p006804)
昔日の青年
フラン・ヴィラネル(p3p006816)
ノームの愛娘
シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)
花に願いを
蘭 彩華(p3p006927)
力いっぱいウォークライ
ガヴィ コレット(p3p006928)
旋律が覚えてる
ソア(p3p007025)
愛しき雷陣
秋月 誠吾(p3p007127)
虹を心にかけて
カイト(p3p007128)
雨夜の映し身
ディアナ・クラッセン(p3p007179)
お父様には内緒
物部・ねねこ(p3p007217)
ネクロフィリア
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
マリリン・ラーン(p3p007380)
氷の輝き
ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)
咲き誇る菫、友に抱かれ
アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
Le Chasseur.
リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)
黒狼の従者
黒影 鬼灯(p3p007949)
やさしき愛妻家
ファルム(p3p007966)
主無き人形
リサ・ディーラング(p3p008016)
特異運命座標
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
松元 聖霊(p3p008208)
それでも前へ
リーディア・ノイ・ヴォルク(p3p008298)
氷の狼
マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376)
涙を知る泥人形
紅迅 斬華(p3p008460)
首神(首刈りお姉さん)
ルカ・リアム・ロンズデール(p3p008462)
深き森の冒険者
アザー・T・S・ドリフト(p3p008499)
聖なるかな?
ヲルト・アドバライト(p3p008506)
パーフェクト・オーダー
クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)
海淵の祭司
フリークライ(p3p008595)
水月花の墓守
只野・黒子(p3p008597)
群鱗
ラムダ・アイリス(p3p008609)
血風旋華
ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)
流星の狩人
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華
花榮・しきみ(p3p008719)
お姉様の鮫
節樹 トウカ(p3p008730)
散らぬ桃花
黒野 鶫(p3p008734)
希望の星
星影 向日葵(p3p008750)
遠い約束
砧 琥太郎(p3p008773)
つよいおにだぞ
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
ハリエット(p3p009025)
暖かな記憶
越智内 定(p3p009033)
約束
オラン・ジェット(p3p009057)
復興青空教室
結月 沙耶(p3p009126)
怪盗乱麻
アデル・マルブランシュ(p3p009130)
幻想ギャル
アイザック(p3p009200)
空に輝くは星
リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)
花でいっぱいの
ウルズ・ウィムフォクシー(p3p009291)
母になった狼
コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)
慈悪の天秤
神倉 五十琴姫(p3p009466)
白蛇
もこねこ みーお(p3p009481)
ひだまり猫
セチア・リリー・スノードロップ(p3p009573)
約束の果てへ
サルヴェナーズ・ザラスシュティ(p3p009720)
砂漠の蛇
ハビーブ・アッスルターン(p3p009802)
何でも屋
キルシェ=キルシュ(p3p009805)
光の聖女
成龍(p3p009884)
洪水の蛇
杜里 ちぐさ(p3p010035)
明日を希う猫又情報屋
柊木 涼花(p3p010038)
絆音、戦場揺らす
彷徨 みける(p3p010041)
おしゃべりしよう
ニャンタル・ポルタ(p3p010190)
ナチュラルボーン食いしん坊!
國定 天川(p3p010201)
決意の復讐者
シオン・シズリー(p3p010236)
餓狼
猪市 きゐこ(p3p010262)
炎熱百計
リフィヌディオル(p3p010339)
浮舟 帳(p3p010344)
今を写す撮影者
秦・鈴花(p3p010358)
未来を背負う者
月瑠(p3p010361)
未来を背負う者
煉・朱華(p3p010458)
未来を背負う者
紲 白虎(p3p010475)
ドラゴニュート
フロイント ハイン(p3p010570)
謳う死神
リドニア・アルフェーネ(p3p010574)
たったひとつの純愛
水無比 然音(p3p010637)
旧世代型暗殺者
メイ・カヴァッツァ(p3p010703)
ひだまりのまもりびと
シルト・リースフェルト(p3p010711)
騎士を名乗るもの

リプレイ


 嵐。大粒の雫が舞う戦場は――『あの戦い』をどことなし彷彿とさせるか。
「大変だね大変だね! 先達のみんなは本物と戦ったんだよね!
 ――ならボクも頑張って、一体でも多くを上まで出さないようにしてみせるよ!」
 噂に聞いた大竜に雰囲気が似たモノが沢山出るなんて凄いことだ! と、帳は前を見据えるものだ。天浮の里側からは次々と海上に挙がらんとする虚滅種がいる――ならばと『道』より逸れた者達を彼は止めんと動こうか。
 一撃放ちてその動きを文字通り『縛る』様に。さすれば。
「海上も海中も激戦区……これほどの規模の敵がいるとは。
 今ほど水中行動用のデバイスを修理していて良かったと思った事はありませんね……
 何事にも備えておくものです――それでは後続側を叩かせて頂くとしましょうか」
「ややっ、まるで地獄の蓋が外れたみたいです!
 一刻も早く閉じねば天上まで登っていきそうですね――!
 ここは通行止めです、上には行かせませんよ!」
 然音や彩華もソレらを止めんと往くものである。水を往く機能を復活させておいた然音は敵と一定の距離を常に保ちながら魔弾を一閃。次々と敵を穿ちてその身を落とさんとしようか――さすれば気付いた敵が一斉に寄ってくるものだ、が。そうなれば彩華が薙ぎ払うように剛剣を振るおう。
「通さないったら通さないのです! 海の底までお帰りくださーい!!」
 声を張り上げ確実に仕留める様に。一撃放ちて一気に攻め立てようか。
「さーて、モグラ叩きと行こうかの! 竜宮イルカよ、かも〜ん! じゃ!」
 次いで戦線に姿を現したのはニャンタルだ。軽快な声と共に指を鳴らし竜宮イルカを駆る。縦横無尽に動き回り、次々と敵へと撃を叩き込んで往こうか――街灯ぶんぶんしながら。いぇ~い!
「ワハハ! どこを見ても敵だらけ! う~んより取り見取りってヤツじゃのう!
 ほれ! これが終わったらご褒美にイワシをやるからの! そんで我はカツ丼、ラーメン、オムライス、チャーハン、餃子、全て特盛じゃ――どうじゃどうじゃ楽しみじゃろう!  お、ここにもおったか。えいや!」
 同時に彼女はイルカを撫ぜながら鼓舞し、闘志を漲らせよう。こーいうのはコンビネーションが大事じゃからな――! 張り切るイルカが速度を増して、並み居る敵を打ちのめさん――!
「僕も行くにゃ! リヴァイアサンって伝説の化け物に似てる敵……むしろ残されてた情報より禍々しくて不気味なのにゃ……! でも偽物? ならそんなのに負ける訳にはいかないにゃ! 僕が、僕達が打ち勝つんだにゃ――!」
「やれやれ。底からわらわらと……無限に湧いてくる錯覚さえ起きそうね。
 だけれどもそういう戦いはこれが初めてって訳でもない――
 いつもしている事を、今回も果たすとしましょうか」
 更にはニャンタル同様に竜宮イルカを駆るのはちぐさやアンナも、である。遊撃として千草はあちらこちらへと遠距離から撃を放る――複数の敵に気付かれれば一端逃走して態勢を立て直そうか。アンナは自らに戦いの加護を齎しつつ、そんな敵勢を引き付けんとするもの。無論、孤立せぬ様に立ち位置には気を付けている。
「私にはあなた達を派手に吹き飛ばす事も、大立回りもできないけど。
 ここを通さないこと位はできるわ」
 簡単に崩せると思わない事ね、と。
 彼女は堅牢なりし身で――常に在らんとするものだ。
「あまり馴染みのない場所、私とは関わりのない人々。
 ――ですが、放っておくわけにもいきませんね。成すべきことを、成すとしましょう」
 直後。敵の中枢へ、あえて至らんとするのはサルヴェナーズだ。
 魔眼の輝き……いや囁きを周囲へと齎せば、彼女は尚に目立つもの。更には動く幻影にて住民らしき姿を投じて攪乱も行おうか――誰も彼も馴染なくとも、見捨てるには忍びないが故にこそ全霊を此処に。
 そうして寄って来た敵があらば暗く輝く泥にて迎撃せしめて。
「これは相当な数ですね。長い戦いとなりましょうが……負けませんわよ!」
「どうですか、この電撃は! これ以上は通させませんよ――止めてみせます!」
 言うはメルトアイにルカ・リアム・ロンズデールだ。メルトアイは水中であろうと自在に動く術をもってして優位な位置を取れば、続けざまに魔砲を紡ぐ。直線距離に数多の敵を捉えて薙ぐは、あぁなんたる絶景か――おっと。勿論操られているだけの無辜の民や、前線で戦う仲間を害したりしない様には気を付けるが。
 そう言った点では敵味方を識別しうるルカの雷撃は実に便利であった。
 敵のみを呑み込む蛇の濁流が仲間らの攻勢の助けとなろう――
 同時に彼の心中は、些か胸が躍る感覚があった。
 こんな大舞台で戦うは緊張する面もあれど。
「……まるで御伽噺の世界のようです、ね」
 海底から虚滅種の群れが登ってくる様子は、どこか神秘的で、或いは神話を感じさせようか。
 かつての戦いの再演――そう。かつてもこのような舞台であったのだろうかと、思えば。
「上を目指す援軍ですか。ここで倒れてもらいますよ――
 波の上では人間ドラマが演じられているのでね。特にクライマックスシーンが」
 だからこそ野暮な邪魔はさせないという事さ、と。紡ぐのは鈴音だ。
 彼女は周囲の様子を窺いつつ、自らの力が必要そうな地へとイルカを駆りながら往く。その手に持っているのは救急箱か――即効性のある力をその手に宿しつつ、苦戦していると思わしき場所で治癒を振るおう。
 ここで奮戦すればするほどに『上』が楽になるのだから。
「だから――邪魔はさせないと言っているだろう?」
 それでも押し通らんとする敵には、仕方ない。
 里まで叩き落としたるわ〜くらぇ、おらあああああ!!
「さあさお仕事だ。今回はどうやら随分と禍々しいウミヘビのようだね。
 今日もお手伝いよろしくね、ルナール先生!」
「うむ、何時もと同じく。どんな敵だろうが変わりはない――
 守りは俺に任せて元気に暴れてくるといい」
 同時。ペアにて動きを見せているのはルーキスとルナールだ。水中でも移動できる技能を宿した二人の歩みはどこまでも迅速に。そして目指すは敵の密集地点……かの地へとルーキスが駆けつけ、神秘なる泥の奔流を浴びせようか。
 海上に上がるのが嫌になるぐらいに。さすればルナールはそんな彼女の背を護る様に位置しながら、彼女の一撃によって弱った個体へと追撃の一手を投じよう。あぁ――
「細かい事を気にしないでいいってのは利点だよなぁ、面倒がない」
「うんうん! 細かい狙いをつけなくていいって楽でいいなぁ! あっちを見てもこっちを見ても薙ぎ払っていい対象がいて、テーマパークに来たみたいだよ! ルナールせんせー、火力必要そうなところがあったら教えてねー!」
「あぁ勿論。でも、前は出すぎないようにな?」
 両名は往く。軽やかなる歩みと共に。互いを信じ、背を預ける――信頼と共に。
「なになに? なんですか? えっ? 下から来てる怪物達の首を刈ってもいい?
 まぁ♪ それは素敵ね! ぜーんぶ全部お姉さんがやっちゃてもいいのね?
 ――ではお姉さんにお任せあれ♪」
 声の主は斬華だ。相も変らぬ陽気な顔から紡がれる一閃は――どこまでも純粋に『刈』らんとしている。近付いてくる個体を順番に斬撃。追い抜かす様なヤツがいれば後ろから首を飛ばして差し上げましょう♪
「ささ! どんどんいらして下さいな♪ 遠慮なさらず!
 誠心誠意おもてなしさせていただきますよ♪」
 ええ、だって。お代は首だけで――宜しいですからね♪
「有象無象共が、列を成してきやがる……!
 ハッ、だが仕事はやりやすいもんだな! さぁ――暴れるぜ!!」
 次ぐはオランである。有象無象を蹴散らしての露払い……
 『暴れればいいんだろう――?』と口端を吊り上げれば闘志が漲るものだ。優れた感覚をもってして周囲を常に索敵しながら、彼は奮戦する。敵の視線、踏み込み、全て見極め斬り捨てよう!
「ったく! 流石に『道』から逸れるは厳しいが……あぁ俺は俺の『道』を行くだけだよなぁ!」
 迫る敵影。多くの虚滅種らと相対しながら、しかし彼の戦意は留まる所を知らぬ。
 これこそが己なのだからと言わんばかりに。彼の暴が吹き荒れる――!
「なるほどね、虚滅種の出現はこーゆー訳だったのか。
 いやー……なんつーか、恋する乙女ってすげーな……
 迷惑被ってる連中にとっちゃ、たまったもんじゃないだろうけどよ」
 言うはミヅハだ。この事態の中枢に在る魔種を知ればこそ、なんというか……
 が、まぁ今は狩人としての狩りに勤しむとしよう、と。彼は敵を見据える。
「以前戦った個体とそう変わらないし、数が多いこと以外は余裕だな!
 ……いや数、めっちゃ多いけど! こんないたのか!? マジで!?」
 これは余裕ぶっている暇はなさそうだと全霊紡ぐ。小型の個体から優先して、一体一体確実に。共に在る竜宮シャチと共に常に位置取りしながら――我が物顔で暴れる幻影共を海の藻屑にしてやらんと往くものだ!
「どんな想いが根底にあるのだとしても――見過ごせないし、邪魔はさせないわよ!」
 そしてジルーシャも彼らを海の上には行かせまいと立ち回る。
 今、この上では皆が必死に戦っているんだもの――その邪魔なんて絶対にさせない……! 近くに保護すべき対象がいなければ彼女は渦を操る様に魔術を紡いで。
「目には目を、歯には歯を、波には波よ!」
 放つ。海の藻屑にするが如く。
 彼らの力の源たる波を――存分に操りながら。
 そして。ジルーシャなどの動きを支援する動きを見せるのがフリークライだ。
 フリークライは力を振るう。治癒の術を。活力を満たす術を。切らさぬ様に。
 ――我 フリック。我 フリークライ。我 墓守。
「海 眠ル亡骸 魂 平穏 護ル者也」
 故にこそフリークライは退かぬ。
「我 願ウ」
 ドウカ 死者 眠リ 安ラカニ。
 ドウカ 遺サレタ者達 想イ 届キマスヨウニ。
 ドウカ 海ノ底ニモ ソノ声ガ 紡ガレマス 様ニ――
 心の底から願っているのだから。
「いくらでも向かってきてください。一匹たりともこの先には、通しませんよ」
 そしてリフィヌディオルは虚滅種らの足止めを試みる。
 守りを固め、名乗り上げる様に目立ちながら彼らの意識を逸らさせるのだ。リフィヌディオル事態の気質もソレに一役買えば――狙い通り、敵がリフィヌディオルの下へと襲来しようか。さすれば治癒の術を張り巡らせ、己や、己の周囲の者達の活力を満たすものであり。
「この程度で音を上げるわけにはいきません。さぁ今暫し踏みとどまってみせましょうか」
 それでもリフィヌディオルは耐えよう。確かなる意志を、その心中に宿しながら。
「水中で泳ぐってのは兎も角、水中戦だけならまだ何とかついて行ってやるっすよ!
 どれだけいようが関係ないっす! 全部一気に一掃してやるっす!!」
「全く――どれだけいるか知ったこっちゃねぇが。
 生憎防御、防衛だなんて生温いことは言わねえ。柄でもねぇしな。
 ――まとめて殴り飛ばしてやるから、死にたい奴からかかってきな」
 更に迫りくる虚滅種へと攻勢を仕掛けるのはリサに貴道だ。イルカと共に行動するリサは、次々と押し寄せてくる虚滅種へと幾重にも及ぶ銃撃を重ね続けよう――彼女の宿す魔導蒸気機関搭載巨大火砲の火は止まぬ。
 打ち落とす。撃ち落とす。討ち落とす!
 絶大なる火力が襲い掛かり進軍に陰りを齎せば、貴道の瞳は敵の隙を見逃さぬ。
 穿つ拳の一閃はまるで槍の如く。疾風怒濤の踏み込みと拳撃の連なりが敵を一閃する――
「来いよ海蛇共。数だけの連中なんざ串にして纏めて――飲み干してやるよ」
 吼える虚滅種。指を立てて相対する貴道。
 激突は苛烈に。戦いはまだまだこれから――!
「こちらにおいでなさい。あなた達はこの海の淀み、元に戻して差し上げます」
 故にこそガヴィもまた敵を引き付ける。守護の観測を齎しながら、名乗り上げる様に。
 そのまま彼女は仲間の下へと敵を引き寄せ……共に倒さんとするものだ。
 自らは周囲に治癒の術を張り巡らせつつ。あぁ――
「きっと海の上は大変です、私たちが根負けするわけにはいきませんよね。
 ――さぁ。今少しばかり踏みとどまるとしましょうか。海の、安寧の為にも」
 何度でも、外の敵を道まで運んでみせよう、と。

 しかし敵は虚滅種だけではない――操られし者達もいるのだ。

 それが肉腫。憤慨する様に戦線で動いている影の一つは、ソアか。
 彼女は怒る。肉腫は精霊種に近しい存在らしい、が。気持ち悪い感覚しかないのだと。
「こんなものは早く取り除いてあげるからね! う~! これだから肉腫って大っ嫌いなんだ! いつ見たって誰かを害してるよ! あっ! ほら、暴れないの……えーい!」
 彼女は虚滅種に対しては己が爪を振るいつつなぎ倒し。
 無辜なる民があらば捕まえんと奮戦するものだ。
 密着したまま狙いを外さぬ様に。命奪わぬ様に気を付けながら……
「行かせないに決まってんだろ! 水の中で茹で上がってな――その内、終わるからよ!」
「戦場なら以前にも経験したけど……うぅ、やっぱり緊張するなぁ。
 えーと、でも操られてるだけの人がいるんだっけ?
 見捨てておけないね……助けなきゃ! でも敵も多いよ~! 何体いるの!?」
 次いでアデルや白虎も彼らを救わんと行動するものだ。特にアデルは気付く。誰も彼も瞳に生気を失った状態で動いている――と。もしもパンドラが無くば己もああなってしまっていたかもしれぬ可能性を考えれば……ぞっとしない。
 まぁだからこそこんな一大決戦に戦う側で巻き込まれてもいるのだか、と。気を取り直して彼女は往く。彼らが水面にまで到達する前に無力化せんと――特大の一撃で吹き飛ばして。更に白虎も、敵の攻撃を何とか退けながら、民らを動けなくして無力化するものだ。
「――操っているのはきっと『悪い子』なんだろうね。それもきっととびっきりの。
 なら、止めなきゃね。こんなひどい事を見逃しておくわけにはいかないよ」
 と。その時現れたのは――アイザックだ。
 後光で光りし彼はこの上無い程に目立ちながら、引き寄せられてきた者達を纏めて――光で払う。それは邪悪を裁き、しかし命は奪わぬ力。あぁ操られている人たちが犠牲になるなんて、かわいそうだしね。
「良い子だから、少しの間眠っておくれ。悪い夢だったんだと、そうなるまで」
 自らの周囲が負で満たされれば、優しき光を放ちて治癒と活力を齎そうか。
 アイザックは振舞う。アイザックの儘に。プリズムの輝きが、周囲に満ちる様に。
「みーおも手助けに来ましたにゃ!
 みー……まさか海の中にこんなに沢山の魔物がいるなんて驚きですにゃ……
 海の中、あんまり来た事ないにゃですけど頑張りますにゃー!」
「なんとか助けられるだけ助けてあげましょう……! 自分の望まないことを強制的にやらされるなんて……もしもこの先、誰かを傷つけたりしたら……きっといつまでもそのことは心の傷として残ってしまうでしょうから。その前に、なんとしても……!」
 次いで射撃を放ったのはみーおだ――敵のみを穿つ銃撃が虚滅種らを穿ちて、民らへの道を切り拓こう。さすればリディアは優れた水泳の技能によって迅速に移動をはたしていく。
 狙うは『瘴緒』の解除だ。殺さず無力化する為に、彼女もまた光を放つ。
 邪悪だけを払う一閃――さすれば『瘴緒』のみがもだえ苦しみ、退き剥がれようか――
「一人一人確実に、助けていきましょう……!」
 彼女は強い意志を瞳に宿しながら、次の者を見据えるものだ。
 呼吸が出来る『道』から逸れすぎない様には気を付けつつ。己に成せることを――成していく。
 ……しかし。これだけの準備をしてやることが『再演』とは。
「なんとも、まあ、『つまらない事』を」
 呟くように言を零したのは、ヘイゼルだ。
 彼女の胸中に浮かんだのは何か。言葉にし難いような、言葉にするまででもない様な。
 ――まぁ、いい。
「それではいつも如く」
 ゆるりと参りませうか。
 彼女は優れた耳を用いながら接近しうる虚滅種らへと対応していく。上に抜けんとする者らを止める様に。圧倒的な速力から繰り出される一撃をもってして――その歩みを止めようか。
「上階はもう満席ですので、御引き取り願いませうか。立ち見すらご遠慮いただきたく」
 下に、下に押し戻さんとする。
 哀れなる再演に――参加などさせまいが如く。
「私は看守よ! そんなに簡単に倒せるつもりでいるのなら――甘いわね!」
 更に続くのはセチアだ。彼女も虚滅種と戦いながら思考を巡らせる。
 再演。そう言われても、セチア事態に想う所はない。
 故にこそ自らは、想う所が『ある』者らの――皆の道を作って見せようと!
 虚滅種らの攻撃を凌ぎながら彼女は暴動を捻じ伏せるが如く奮戦する。そして。
「――私にも願いが、一方的な約束がある」
 同時に『想う』ものだ。成したい事は、己にもあると。
 けれどそれは私と『アイツ』じゃないと駄目よ!
 他の誰かになって叶えても! 早く会う為に他の誰かに叶えて貰っても意味がない!
「代わりなんて無いって、なれないって貴方達は分からなかったの!?」
 言葉は届かないだろうか? 尖兵となっている虚滅種には。
 行き場のない感情を秘めながら――セチアはそれでもと、戦い続けるものだ。
「海上のひどい嵐でずぶ濡れになるくらいなら、最初から海中にいるほうがまだマシな気がするわ――それに、操られている人達も……見過ごせないしね」
 言うはディアナだ。水の加護を齎す林檎を齧りながら、現地へと。虚滅種らを薙ぐ様に魔力を紡ぎながら、同時に彼女が気にするのは肉腫に操られている者達である……邪魔な敵を掌底で薙いで、そんな者達へと接近すれば。
「しっかりしなさい! 貴方に付いていたものは、もうないわ!
 意識をしっかり。もうすぐ家に帰れるのよ――しゃんとしなさい」
 声を掛けるものだ。瘴緒が解除されていれば、意識も戻ろうと。
 ――自分をしっかり持ってもらわなきゃいけないもの、ね。

 海の中。不思議な感覚だと――ファルムはどこか感じていた。
 ……『竜宮城』という本を思い出したのは、それが故だろうか。
 本当にあるものなのか。海の底に、お城なんて――
「海の中、里、誰かのおうち。ぼくのおうちも、海の中だった」
「ルルゥ」
「だから、ここを守ろう」
 ぼくと、ともだちの二人といっしょに。
 ファルムに告げるはルルゥだ。その傍には琥太郎もいて――
「うおー! 竜宮城で海ん中でえーと桃が流れてきてまさかり担いで鬼退治!? いや熊だっけ!? 違うの海蛇!? やべー何が何だかわかんねーけど、オレはいい鬼だぞ! 牛乳だって飲むし好き嫌いもしねーし! 信じてくれー! 赤鬼青鬼オレ琥太郎ー!」
「こたろー。だいじょうぶ、大丈夫だから」
 若干パニック。だが琥太郎もやるべきことは分かっていた。
「とにかくやべーことになってるから殴りゃいいんだな! わかった!
 ファルム頼むぞー、どんどん敵引き付けてくれたらオレが全部ぶん殴るから!」
「ああ――捕まえてみるといい、さあ。捕まえられるものなら」
 敵を倒せばいいのだと。だからファルムが引き付けんとしてきた敵を、琥太郎が打ちのめしていく。全力で。じゃんじゃか集まった敵は鴨みたいなもんだ――いやここ海だから魚か!? あー魚食いたくなってきた! 帰ったら刺身! 煮魚! 寿司――!!
「いたいのいたいのとんでけ……! こたろーもルルゥもけがさせない……!」
 そんな琥太郎が傷つけば、ルルゥが治癒するものだ。
 三人は一緒。二人はいっつも、ぼくの前に出て頑張ってくれるから。
(だから、ぼくはその後ろで頑張らないと)
 ぼくだって、守れるのだと言わんばかりにルルゥは力を振るう。
 然らば、ファルムもまた踏みとどまり続けるものだ。
 ……ドラゴンも、竜宮城も、空飛ぶ島も。この世界は、なんだって本当にある。
 ファルムはまだ、それが見たい。だって――
「コタローとルルゥと、一緒に」
 たくさんのものを見たいと、思うから。
 そして。天浮の里……『同胞』を救いたいと願う亜竜種は多かった。
 例えば鈴花。例えば朱華。
 覇竜の外にも同胞が暮らしているだなんて――想像もしていなかった。けれど。
「でも生まれは離れていたって、確かにその根には同じ竜の血が流れているんでしょ?
 ――だったら守るしかないわよね。見捨てる事なんて出来やしないわ」
「そうね! 住む場所は違ったとしても朱華達と同じ亜竜種だもの……
 彼らの危機は朱華達の危機。絶対に――助けてみせるからっ!」
 想いは一つ。同胞の危機であれば救わぬ道などないのだと!
 朱華は往く。付いて来てくれた竜宮イルカと共に、操られている里の者達を救助すべく……まずは邪魔な虚滅種を纏めてぶっ飛ばそうか! 向かってくる海蛇如きに負けてなんかいられないと、朱華は掃射する様に撃を放ちて。同時に鈴花は竜宮イルカ……否。折角の相棒だから名前を付けよう。そうだ、貴方は今日から!
「マリトッツォ山田! マリトッツォ山田よ、よろしくね!
 どうしたのマリトッツォ山田! 余所見している暇はないわ――行くわよ!」
「山の中でも海の中でも、おんなじ亜竜種なら助け合わないとね!
 これ以上、どーほーを好き勝手させたりしないよ!
 …………よっし! ラピス、ごー! 一人でもおおくのおなかまを救うんだー!」
 りんりん――鈴花のネーミングセンスからユウェルは目を逸らしつつ、己も共にするイルカにラピスという名前を付けてあげるものだ。マリトッツォ山田が『僕もああいうのが良い!』的な視線を投じてる気がするが――とにかく今はおなかまだ!
 今回もすんごいせんぱいたちと一緒なんだから負ける気がしないね! 彼女は頼りに出来る者達が多いが故にこそ眼前に全力を投じる――! 斧槍を振るいて虚滅種を薙ぎ払い、救出すべきどーほーは組み敷いて戦闘力を奪おうか。
 同時。鈴花も固まっている敵の箇所へと一閃。デザストルのドラゴニアの強さ、目に焼き付けなさーい! と、薙ぎ払うように彼女は突き進もうか。なぁに多少のダメージなど恐れるに足らず。だって、いざとなればスティア達が直してくれるだろうし――
「ほらおちなんとか! いくわよ! 泳げるでしょ!?」
「イテテ、尻はやめて……ていうか俺、イルカに乗ってる!? マジで!?」
 それに定など、仲間達がいるのだからと。
 定は背後から叩かれながらも竜宮イルカにしがみつく。うぉーイルカすげー! でも今はそれ所じゃないや……海の中って外界から離れていて穏やかなのだろうって思っていたけど、こんな状況だなんてとんだびっくり箱だぜ。
 彼もまた見捨ててはおけない。苦しんでいる人達がいるのなら。
「やれるだけやってやるぜ」
 希望論を口にし、彼は往く。
 それはただ願いを叫ぶ力――でもいいじゃないか、水底のハッピーエンドを祈ったって。
 僕みたいなやつにはそれくらいしか出来ないんだ。
 届かないなら何度だって叫んでやる――何度だって聞かせてやるよ!
「僕の情けない……ちっぽけな想いをさあ!」
 その魂に届くまで、彼は己が力を――振るい続けよう。
「この濁った様なマナの淀み……あれが肉腫」
 と、呟く言を零しながら眼前を見据えるはマリリンだ。
 肉腫。民を虚ろにし、その身を操る――なんたる邪悪か。だが。
「まだ、助けられるんだよね? あの人達――
 ようし、水神マリリン様に任せておきなさい!
 全てを貫く、不可視の水の槍よ――! 皆を救うために、いくよ!!」
 全部なんとかしてあげるんだから――!
 彼女は往く。水中を自在に動き回り、縦横無尽に。自らに戦の加護を齎しつつ万全を整えれば……紡ぐのは水の槍だ。単純には海水を使った水鉄砲だが――それも彼女が用いれば十全たる武器となりえる。
 躰に付いてる邪よ、今払ってあげるわ――!
 ジェットウォッシュね――! そんな感じの事を彼女は言として紡いだであろうか。
「ルシェにはよく分からないけど……リモーネお姉さんは、恋をしてるのかしら?
 でもダメよ! 恋する乙女が暴走して手段選ばなくなるのは本の中だけ!
 好きな人の隣に立ちたいからって人様に迷惑かけるのはめっ! なのよ!」
 次いでキルシェも頬を膨らませながらリモーネのやり方に怒るものだ。
 ましてや人を操るなんて許せない――と。彼女もまた力を奪う光を放とうか。
 みんな操られてるだけだもの。ちょっと痛いかもしれないけれど……
「我慢してね! ごめんね! 後でちゃんと癒すから!」
 彼女は謝る様に言葉を紡ぎながら――それでも最善の為に全力を尽くすものだ。
 リモーネお姉さん。リヴァイザサンの事が大好きで、隣に立ちたかったのね?
 ――でも間違っているのよ。こんな事は!
「皆を操って、兵隊にしようだなんて……そのままにはしておけないね!
 許さないんだから! 絶対全員救ってみせるよ――
 サクラちゃんもしきみちゃんも頑張ろうね!」
「うん、行こうスティアちゃん! しきみちゃん!
 ――誰かの妄執の為に罪のない人達を犠牲にするなんて横暴、止めてあげよう!」
「無論ですわスティアお姉様、参りましょう。
 貴女が救いたいと願うなら私はなんだって、海の底だって、どこへだってお供いたします」
 そして。皆に治癒の術を張り巡らせるのはスティアだ。『救出作戦の始まりだー!』と意気揚々と彼女は己に懐く竜宮イルカと共に戦場を駆け巡る。傷を負った者達や、意識を失った救助者達を見つければすぐにでも癒しの力を投じて。
 同時にしきみはスティアに付き従うように、彼女もイルカとご一緒するものだ。
 狙うはスティアお姉様や救助すべき者達を狙う卑劣な虚滅種共。お姉様の邪魔はさせません――と。彼女は邪魔者の排除を敢行する。住民がいれば巻き込まぬ様に神秘の出力を絞りて、虚滅種だけを狙えるように一閃。
 然らばサクラは前線にて積極的に己が力を振るおう。
 虚滅種が至らば薙ぎ払う様な斬撃を。操られている者がいれば攻撃を防ぎつつ――説得を。
「目を覚まして! 貴方達を害する悪意に負けたりしないで! 肉腫なんかに負けちゃダメだよ! 貴方達にだって……きっと穏やかな明日がやってくるから! 意識を保って!」
 動きが鈍るだけでもよし。どうしても止まらぬようであれば昏倒させようか。
 ――ごめんなさい。でもあとでスティアちゃんが手当するから!
「これほどの数の人々が瘴緒にやられているとは……
 邪神に模造滅海竜……海底に、とんだ厄災が眠っていたものです」
「救出対象は実に大規模だと想定されます。順次、沈静化支援と死傷者の軽減を目指しましょう」
 次いで動くのは冬佳や黒子だ。冬佳は――海の底で積み重ねてきた歴史や想いがある事は否定しない。けれど。けれど――己が為に望まぬ他の大多数を巻き込み、呑み込むようなその行いを認める事は、出来ない。
 止めよう。いや、その妄執を終わらせよう。
 彼女は水の移動に優れるイルカに騎乗し、虚滅種らと相対せん。
 魔と不浄を祓う光の秘術にて敵を祓いながら――己が全霊を小鬼。
 黒子は戦略を見据えるべく各地にて必要とされる地へと迅速に赴くものだ。
 交戦状況。その進捗。被害状況。優先すべき救助者。
 それらを高速で思考し、必要な場所へ必要な治癒と支援を、投じる為に。
「拙者もお手伝いさせていただきますぞ! いやはやどこも猫の手も借りたい所でしょうなぁ……然らば猫ではなくて申し訳ありませんが『洪水の蛇』の手をご照覧あれ!」
 更にそんな黒子を援護する様に動くのは成龍だ。黒子の動きをスムーズにするような特殊支援を実行しつつ……他に治癒などにおいて自らの燃費が気になるモノにも同様の処置を施そうか。必要と在らば自らもまた治癒の役目を成す事厭わず。
「おやおや、拙者を噛まんとするおつもりで!?
 痛いですぞ近寄らない方がいいですぞ〜!」
 であれば、虚滅種もまた彼を狙うものだ、が。そうなれば反撃の一手だ。
 冷たき呪いを帯びる声にて応酬を。近寄るのならば容赦はすまいと――彼は立ち回り。
 同時、ハインは呼吸が不要である権能があらば、道を外れても行動出来るものだ。
 ――敵は依然として浮上を優先して行おうとしている様子。
 ならば、と。
「生命の歌よ、沈黙せよ」
 行かせぬとばかり、彼は不可視の斬撃にて虚滅種を切り裂くものだ。
 僕は友人。僕は死神。此処が生命の源たる母なる海であろうとも。
「死の静寂を招きましょう。死の安寧を――教えて差し上げましょう」
 役割は決して不変なのだからと。
「援護射撃なら任せて――行かせる訳にはいかないもんね。撃ち落としていくよ」
「深海から海上に躍り出る数多の者……か。映画とかのネタでありそうだ。
 現実になるなら洒落にならねぇけど、な」
 次いでハリエットも敵を一体一体確実に狙い定めながら引き金を引き絞る。単独行動すると、近寄られた時に危機に陥るからと――彼女はイレギュラーズの皆と行動を共にし、虚滅種を穿っていく。然らば誠吾も、昇っていく敵共を見据えれば……なんとも少しばかり、神秘的な光景を感じ取るものである。
 これほどの巨大な竜――を模した魔物が列を成せば、彼の言った通り『映画』の如く。
 或いは本の様な、とでも言おうか……
 元居た世界じゃ考えられない事態に対処することにも慣れてきた。ならば。
「――やれるだけやるさ。あぁ、一人でも……いや身体が動く限りは全員を救う」
 それがきっと。自らの成すべき事なのであろう、と。
 彼は往く。虚滅種が至れば打ち倒す様に。里の者達がいれば命取らぬ様に。
 最善の結果を――皆と共に掴む為に。
「かくも美しい海洋の海が、嵐吹き荒れて見る影もない、なんてな。
 この地を守ることができるなら……微力ながら、俺も手を尽くすとしよう」
「ええ、私も――目の前の人を助ける為に。精一杯の歌を、今できる最高の支援を此処へ!」
 続け様に大地は操られている者を救うべく、不殺の一撃を投じるものだ。直後には涼花が戦う者達を鼓舞する様な歌声を響かせる――それは戦いの加護となりて、周囲の者達に闘志を漲らせよう。
 大本を断てる様な力はなくとも、今、この人達を救うぐらいは出来る筈だ。
 ならば――涼花は力の限り戦場に在り続ける。
 肉腫の呪いが解除されれば住民の応急処置にも回ろうか。あぁ。
「ただの一人も、犠牲者を出したりなんてさせません……!」
 彼女は強い意志と共に、此処に在るのだ。
「正気に戻った人達を害させたりなんてしないよ……! こっちだよこっち!」
 そんな動きを援護する様に動くのはみけるだ。彼女は虚滅種らの意識を自らに引き寄せんと会えて目立つように立ち回る。まさか海の中にも亜竜種さんの里があるなんて、初めて知ったけれど……知ったからには見過ごせない!
「あっ! まだ操られてる人達までこっち来ちゃった……!
 でもでも、敵の近くで倒れても危険だし、このまま連れてこようか!」
「ええ。住民の皆さんは私に任せて――一人たりとも、命を落とさせたりなんてしないわ!」
 然らば、みけるの行動で幾人か住民の意識も此方に寄せてしまうものだが……かえって都合がいいとリアは思考するものだ。流星の如き一撃を与える剣技……いや、蹴撃をもってして、彼らの意識を物理的に引き戻してみせよう。クォーツ式ドロップキックには、邪なる肉腫を祓う力すらあるのだ……きっと!
 真面目な話、此処の肉腫は宿主が動けぬ程疲弊すれば操作を維持出来ぬモノ。
 その観点からしても命を奪う程の力さえ込めなければ有用であった――故に。
「次! ほらどんどん来なさいよ、全部相手してあげるわ!!」
 彼女は往く。一人一人千切っては投げ千切っては投げ……じゃなくて、優しく対応していくのである。気絶した者達は引き摺って安全圏へと放り、治癒の術も飛ばして命に別状は無いようにしていく――リアに抜かりはない。
「おいおい! まだ抵抗するのか? 若人達が愛と正義の為に戦ってるんだぜ?
 悪は滅ぶと相場は決まってるんだ。無粋なことはやめておけ。
 どうしても続けるって言うなら、仕方ねぇ……俺が相手してやるか」
 そしてそんな者達の動きを支援せんとするのは、天川だ。
 彼らが活動しやすいように露払いをするとしよう――近付く敵に斬撃放ちて近付けさせぬ。多少の傷などなんのその。むしろ体が温まって来れば……彼の本領が発揮されるところで。
「ふぅ……ったく。水中じゃタバコも吸えやしねぇ、が。
 お前らを三枚におろすぐらいは――難しかねぇぞ!」
 彼の切っ先に鋭さが増す。國定流小太刀術、風神に掛かれば鋼すら絶たん。
 海蛇如きに耐えられるかよ――この一閃、そう甘くはねぇぞ!

「敵は無数、戦場は嵐と大波に荒れ放題……成程、此れは決戦と呼ぶべき風景ですね。
 さりとてわたしが成すべきは変わりません――皆に救いを。最善の結末の為に」
 と、零す様に告げたのはアッシュである。彼の世で、何度も望まれたことを果たそうと。
 最優先は虚滅種の殲滅、そして無辜なる人々……天浮の里の住人を救う事だ。故に邪悪を祓う光をもってして敵を薙ぎ払おう。不殺の力を込めておけば、民は無力化するだけに留まる――それでも虚滅種らが襲い掛かってくるのであれば、固まっている所に糸切の一閃を。
 撃って、撃って……撃ち続ける。屹度、決着は皆がつけてくれる筈。
「ですから、今は今のわたしに出来ることを。わたしの力の限りを、尽くしましょう」
 きっとこの道が最善に繋がっていると、信じて。

 ――同時。朝顔は想う所があった。
 豊穣を見つける直前、神使が龍と戦い、沢山人が亡くなったと聞いてます。
 ……鬼である自らは、その戦いの事を知らない、けれど。
「それでも豊穣に近い此処で再演なんて……
 あの時のように誰かを死なせる訳にはいきません!
 全力で……止めさせてもらいますッ!」
 救われるべき命は、救われるべきだと。
 彼女は天浮の里の住人を救うべく――不殺の意思をもって拘束していくものだ。
 絶対に助ける。諦めない。名乗り上げる様に彼女は自らへと意識を集中させて。
「こんな道具扱い……なんて非道な事を。必ず助けなければ……!」
「……拙は、あまり選り好みはしませんが、肉腫。これは、例外です。
 ――滅しましょう。その存在を、その魂を。魂を穢す病魔は根絶せねば」
 さすればシャルティエに雪之丞も、肉腫に縛られし者達を救うべく動くものだ。シャルティエは誘い込んで耐え、気絶させる事叶う者らの一撃を誘発させようか――全力で耐え忍べば、堅牢なりし彼であれば早々に崩れもしない。
 そして雪之丞は告げる。肉腫という存在そのものは滅びるべきだ、と。
 霊気を込め、硬質化させた手で打ち鳴らす柏手が周囲の意識を奪わんとし。
「護ると、言いました」
 ならば。
「この刃に誓い、己の全てを以て盾と成しましょう!」
 彼女は在り続ける。どこまでもどこまでも――勝利する、その時まで。
「こんなにいるの、操られてる人達が!?
 ……だとしても、目の前にいる人達ぐらいは助けてみせるよっ!
 花丸ちゃんのこの手は、この拳は……その為にあるんだから!」
 次いで戦場にて奮戦するのは花丸だ。
 彼女は自らに懐く竜宮イルカを伴い、迅速に戦場を駆け抜けていく――そして敵の注意を自らに引き寄せつつ、一体一体に反撃の一手を紡いでいくのだ。握りしめた五指に宿りし力は、虚滅種など歯牙にもかけず。

「鬼灯くん」
「――あぁ。分かっているとも、出来うる限り操られている者たちは救出しよう。
 罰されるべきは操り手であり、人形と化している者達ではないからね」
 章殿、俺の傍から離れぬ様に、と紡ぐのは鬼灯である。
 ……なんとも現実とは御伽噺のようにはいかぬものだ。
 血生臭く、死の匂いがする。へばり付いて取れぬ、泥のように。
「この海はひいては我らが豊穣へ繋がる海だ、好き勝手させてたまるかよ。
 ――どうしても成したいのであれば、俺を踏み越えて見せるがいい!」
 故にこそかれは、自らが活動しうる範囲内において全霊を振るう。
 糸繰の技術にて敵を倒し、其れすらすり抜けてくる者には絶大なる破壊の一撃を。そして。
「う、ぐ、ぁ……待て、逃げろ……!」
「――よぉ潔一。なんだか特別強ぇのに取りつかれてるみてぇだな」
「全く。仕方ありませんわね……少しだけ、手伝って差し上げましょうか」
 槍を振るいてイレギュラーズ達に抗うのは――肉腫に取りつかれた潔一だ。
 相対するはシオンにリドニアである。リドニアは、潔一に会った事がある訳ではない。
 だけれども、仲間たちが心配なしにいけ好かない野郎の元へ行くためなら――
「アンタをぶっ叩いて目を覚まさせる事は出来ましてよ。ねぇ!」
 彼女は往く。潔一の槍の一閃を躱しつつ、自らは魔術を展開。
 あっちが最強の波濤魔術師なら、私は最強の炎の使い手ですわ――
 蒼熾の魔導書が起動する。蒼き炎が水の中であろうとも煌めき肉腫を焼かんとして。
「ぐ、うぅぅぅ――!」
「潔一、てめえいつまで呆けてるつもりだ!
 こんなとこでよくわかんねーヤツに良いようにされてていいのかてめえは!」
 続け様。その隙をシオンは見逃さぬ。
 言っただろうよ――お前は! 俺達に!
「外の事を知りたいんじゃねえのか! だったらさっさと――正気に戻れ!」
 シオンの一撃が潔一を穿つ。無論、命は奪わず、その意識のみを狙って、だ。
 ――彼が壁に叩きつけられる。同時、意識を失えば……肉腫も剥がれた、か。
「全く。手間を掛けさせやがってよ……後は頼んだぜ、そっちが勝負だ」
 然らばシオンは天上へと一度、視線を向けるものだ。
 此度の事件の主犯たるリモーネは其方にいるのだから。
 負けるんじゃねぇぞ――絶対によ。


 ――いやはや、援軍に駆けつけたのは良いが、なんたる事態だこれは?
 海からは化け物。海上は既に嵐極まるとは。
「海からやってくる化け物をぶっ飛ばすくらいしか頭に入ってないのだが、まぁそれでよろしいか? 宜しいならば依頼報酬代わりに、最後はこの海洋所属軍船は鉄帝国の管理下として――うそですやめて泳げないから! 投げないで!」
 海洋の海に不法投棄されそうになっていたのはヨハンだ。はぁはぁ危ない所だった。
 まぁいい。とにかく敵を退ければそれでよいのだろう――?
「ではお見せしようか。戦力には限りがあるのだ――脱落は許さんぞ!」
 故に彼は振るう。己が采配によって、味方の支援となすのだ。
 彼の指示が味方の動きを迅速化させ、治癒の力では窮地を救おうか――無論、その力は海洋国軍人にも振るって差し上げよう。いいか、僕は泳げないからな。彼らの協力なしではこの戦いは勝利する事はできない。だからイレギュラーズ以外の仲間もカバーしていくぞ。くれぐれも無茶しないように! 落ちないように!
「――どっしりと構えていくぜ!」
(これは……複数の意味で大嵐、ですね。
 風も、雨も、敵の大群も……いずれも容易ならざるものかと……
 それでも、イレギュラーズとして屈する訳には行きませんとも!)
 続けて思案を巡らせるのはアザーだ。アザーは治癒の力を張り巡らせ、支援とする。
 最前線で戦う勇士達の力の一端になれば――と。
 無論、前線に近しい所にはいるのだ。敵からの攻撃があればアザーにも危機は訪れる、が。
(それでも……微力ながら、相対させて貰いましょう!)
 アザーは在り続ける。力の限り、戦い続けんと!
「えぇい凄まじい大嵐じゃな……
 じゃが、これを乗り越えてこそいれぎゅらぁず。
 それを乗り越えて来たからこその、いれぎゅらぁずじゃ!」
 同時。強風に飛ばされぬ様に踏みとどまるのは鶫だ。
 戦場各地で激戦が繰り広げられている。肌に感じるは武者震いか――?
「儂も臆する訳にはいかないじゃろうて! さぁやってみるとしようかのぉ!」
 彼女は笑みを崩さぬ。この程度でいれぎゅらぁずが名乗れるかと!
 前に跳躍し、敵の目をあえて引き付けよう。守護の力を高めていればそうそう簡単に崩れる様な鶫ではない――数多の攻撃を凌ぎ、捌き、只管に戦場に留まり続けんとすれば。
「……リヴァイアサンの時に似た嵐、か。なら、怖がってる暇なんてねえよな」
 告げるはトウカだ。彼は最前線を見据えながら――強き意志を瞳に宿す。
 ここで負けたらフェデリアが……
 いやもしかすれば周辺を乗り越え、海洋と豊穣までもやがて狙われるかもしれない。
「先輩方が既に乗り越えた嵐……一度乗り越えたモノなら、後輩として俺も乗り越えなきゃな!」
 故にこそ戦うのだと。彼は往く。
 軍艦や、前衛に適さぬ者達が狙われぬ様に前に出て、出でる虚滅種を切り裂き。
 どれだけ敵が押し寄せようとも、後ろには通さない――!
「……天気は運悪く大荒れ、偶然かこうなる時を狙ったか……
 ま、何でもいいっスわ、今ならやれるとでも思ってる連中を叩き潰すだけっス」
「おぅおぅ! どんな嵐が来たって、オレ達がここで折れるわけには行かねーもんね!」
 然らば葵に洸汰は大雨吹き荒れるを見据えながら――しかし臆さない。
 連中をこれ以上先に進ませないだけなのだから、と。葵は氷雨とリモーネへ向かわんとするメンバーの周辺を狙っていく――彼らの邪魔はさせないと。なぁに戦場の前線を支えるのもMFの仕事なのだ。
 掃討せんと葵が突き進み、洸汰は海洋の面々を鼓舞しながら船を護らんとする――
「帰るべき船がやられちまったらやべーもんな! ここは俺に任せろ――!
 船の繰り手がやられねーように、しっかりガッチリ守るぜ!」
 船に取りついてくる相手を押しのけ薙ぎ払おう。余力はまだまだ、これからだと。
「……ご主人様なら、なんていうんでしょう。この戦場、この光景は……」
 続いて、ライムは戦場を見据えながら想うものだ。
 悲しむ? それとも、ただ、怒るのかな。
「ま、なんでもいいのです。私の体になるお水はいーっぱいありますし!
 ぜーんぶ溶かして食べてあげちゃいましょう、ね?
 ふふふ。まずはその硬い鱗から、頂きます♪」
 しかし次の瞬間には心を切り替える。あぁだって、偽物でも竜を食べれるなんて、そうそうないのだから! 彼女は大量の海水と共に敵を呑み込まんとする――さぁ食べさせてください。その鱗も、肉も、何もかも!
 それにしてもリヴァイアサン、か。沙耶は思う所があるものだ……
 凄まじい戦いだったと聞くあの戦い――
「あのせいでどれほどの尊い命が消えたと思っている……! 再演などさせない。
 あんな事件は一度限りで十分だ。悲劇は二度と起こさせてはいけないんだ……!」
 故にこそ、彼女は止める決意が固い。迫りくる虚滅種へと急増なれど予告状を投擲。
 怒り誘う一撃をもってして――彼らを押さえつけようか。
 これらを率いる頭目には、相応しい者達が行くだろう。だから!
「達のことは気にせず先に行くがいい! どうか、勝利を!」
 彼女は天へと向かって、声を張り上げるものであった。
「おんやまあ……またリヴァイアサン絡みでごぜーますか。
 やれやれ……あれの何がそんなにいいのやら。ま、どうでもいいでごぜーますが」
 次いで呆れる様に吐息を零しながら戦線を見据えるのは、エマだ。
 リヴァイアサンへの妄執がこんな形になっているとは……面倒であるが、適当にやってみせようと彼女は虚滅種を相手取る。熱砂の嵐を投じて、寄ってくる個体共を順次薙げば。
「先輩たちの中には想う所がある人がいるみたいっすね……
 新参者のあたしが入り込めるような空気じゃなさそうっす。なら――
 あたしは出来る全力で――先輩たちの道を支えるだけっす!」
「ま。色々事情あるみたいだけど、そーいうのは任せるわ。
 成すべきことを成す連中が、やってくれるでしょ――
 あたしは傭兵。傭兵は傭兵らしく金の為に、ね」
 ウルズやコルネリアは、敵の中枢へ至らんとする者達の援護の一撃を紡ぐものである。
 ウルズは知らぬ。この地で起こった深い事柄は。
 だが関係ない。先輩らに負けぬ疾走っぷりを見せて進ぜよう――! 海の上を跳躍し、己が機動力を十全に活かして虚滅種らの意識を逸らす。然らばそこへとコルネリアの一撃が横っ面弾くように飛来するものだ。
 軍船より次々と狙い定めていくコルネリアの瞳は揺らがない。
 敵のみを穿つ射撃は道を切り拓く為のモノ。
 さぁ行きなさいよアンタ達。大元は任せるわ。
「アタシは露払いといこうじゃないの」
 例え血で汚れても、それで救われる生命があるならば、戦う理由にはなると。
 彼女は引き金を絞り上げ続ける。親玉が何を思ってこんなことしてるのか知らないけれど――
 今を生きる誰彼にゃ関係ねぇんだわ。

「嫌な風雨だ……この暴風は只のソレではない……
 が、空は私の領域。この程度で揺らぎはしないよ」
 次いでェクセレリァスは空を舞う。暴風の中での飛翔は体が揺らぎそうになるが、それでもェクセレリァスは『この程度』と断じて負けはせぬ。目視で敵を確認し、予想外の方向から至る敵がいないか警戒と索敵を続けよう――
 もしもしれば軍船へとすぐ様に連絡。迎撃が間に合いそうになければ、己が一撃も紡ごうか。さすれば。
「なんじゃなんじゃ!? 此処はどこじゃ!? わしはこんな話は聞いておらんぞ!
 支佐手――! 支佐手はどこじゃ!? うおー船が大きく揺れおる――!!」
 声の主は五十琴姫だ。激しく揺れる軍船の上で転げそうになる身体――しかしマストに手を掛け必死に耐えようか。ええぃなんと苛烈な戦場じゃ……事態は分からぬが、わしの力も役立つやもしれぬ。
「海で散りたくは無かろう! 誰も死なせん! ここに帰ってこい!」
 故に彼女は援護主体に動き続ける。傷ついた仲間がいれば治癒の術を飛ばし。
 その必要がなくば神の力の一部によって――周囲を己が光にて照らそうか。
 全てを灰燼に帰す一撃は虚滅種達を祓うように。あぁ皆で無事に帰ろうぞ!
「やれやれ。とんだ場所にまで役目があったものだ……
 まぁ、いい。怪我人がいる、治療を必要とする患者がいるなら医者が行くのは当然だ。
 それが戦場であってもな、なぁそうだろリーディア」
「無論だ。一途な女性は魅力的だが、すこしばかり愛が重すぎるのは――考え物だ。そして彼女を止めようと奮闘する者たちがいるなら少しくらい手伝ってもバチは当たらないだろう……氷の狼の誇りと医神の傲慢を見せつけてやろうじゃないか、なぁ、聖霊君?」
 互いに、視線を交わし言を紡ぐのは聖霊にリーディアだ。
 敵が、海を統べる者と名乗るのならば。こちらは氷の狼と医神である、と。
 故に聖霊は周囲を治癒する力を振るいて誰しもの傷を癒し奉ろう。
 己がこの場にいる限り、誰一人として死なせはせぬ。
「生きたいと願え、死に抗え! 想いこそが死神を払い、未来を齎す!
 ――生命の希望は潰えはしねぇ!」
 そんな彼へと襲い掛かる海蛇がいるのなら――リーディアが薙ぐものだ。
 引き金を絞り上げ、追い払うように。あぁ――
「――天気は最悪だが、気分は最高だ」
「あっ!! お師匠〜〜! ここにいたんだ~~! ボクもそっち行くよっ!
 あ、こなくそ! 邪魔しないでよね、折角お師匠が見つかったんだから!!」
 続け様( ‘ᾥ’ )顔で船へと飛び込んできたのはリコリスだ。彼女は虚滅種らに執拗な追撃を受けながらも気にしない――むしろ纏まっているのなら好都合だ、とばかりに。
「このダンガンはね、ちょっと消費が重たいけれど、火力も威力も特別なんだ!
 遠慮しないでしっかり味わってね! ひぃあうぃごー!」
 穿つ。次々と敵の身を、粉砕するかの如く。
 お師匠、見てる? 敵がどんどん落ちていくよ!
「――竜の再演、ですか。成程、然らば……
 往くべきは想いを知るべき者であり、拙者は支えるに留まりましょう」
 次いで言を紡いだのはルル家だ。
 竜を止めた彼女の事を――そして近しい者――ルル家は知らぬ。
 故にこそ轡を並べるのではなく支えよう、と。彼女は赴く。
 身から溢れ出る混沌を此処に。邪神の力の一端を――此処に。
 邪魔せんとする虚滅種へと投じて薙ぎ払おう――! 知るべき者達の為に!

「……なんたる嵐だ。今回の戦い、俺達に地の利はあまりない。
 ――ならば、それ相応に戦わざるを得ないか。
 相応今回も頼りにさせて貰うぞ、茶太郎。厳しいかもしれんが踏ん張ってくれ」
「わふ!」
 と、軍艦に姿を現れたのはベネディクトだ――彼は大きなポメ犬『茶太郎』の頭を撫でながら往く。茶太郎も『任せて! 頑張る!』と凛々しい顔をしながら戦場へ至れば、隣にはフランの姿もあるものだ。
「……あの海は、本当に怖くて、足がすくんで……今だって鮮明に思い出せるよ。
 でも、今は負ける気なんてしないの。皆が居て、一緒に戦ってくれるから!
 だから茶太郎ポニテ齧らないでえええ」
「はわ……狼、さん……? とってももふもふしてるのです……!」
 そんなフランは茶太郎にはむはむされるものだ――海で良かったねフランちゃん。すぐ涎は流れるよ……タブン。メイはそんな微笑ましい姿を見ながら、狼なのか犬なのか疑問符を頭の上に浮かべるもの。
 ともあれ彼女らは眼前を、己らの戦場を見据えるものだ。
「思い出しますね。あの時の戦いを。
 とは言え、今宵現れているのは……所詮紛い物でしょうが」
 さすればリュティスは『かつての戦い』をどうしても想起するものである。
 だが違う、とも分かっている。似ていても今日は『あの日』ではないのだ。
 だから――行こう。と、ベネディクトが言えば動き始める。
 リュティスが神秘の泥を振るい敵を薙ぎ払って。混乱した戦線の最中へとベネディクトが茶太郎と共に斬り込めば――反撃があろうともフランやメイの治癒術が振るわれ、すぐさま万全へと戻るものだ。
 激突。激戦。一歩も引かぬ攻防が、繰り広げられる――
 いやはやしかし全く。恋だ愛だってのはどうにも。
「人を狂わせるらしいな。そいつばっかりは本当に……どうしようもねえよな」
 直後。ベネディクトと共に最前線を支える一撃を紡いだのはルカ・ガンビーノだ。
 だが、如何な理由であろうとも。
 それでもって誰かの墓を暴くなんて真似は流石に『ナシ』だ。
 ましてソイツに一切合切巻き込もうなんてのは――認めねえよ。
「よぅ、氷雨。そうあれかしと育てられて、好きに利用されるなんざ腹が立たねえのか?」
「――誰が利用されていると? 痴れ者が」
 そして。戦場に穴を抉じ開けんとする彼らの前に現れしは――氷雨だ。
 彼は波を操る。本物の滅海竜の如く。強大なりし権能を操るが如く。
 その身に内包されし『圧』は凄まじい……が。
 最早膨張しきっている風船のようにもどこか感じ得る。
 いつ破裂してもおかしくない――そんな傀儡でいいのかと、ルカは告げるものだ。
 まるで。知古に声を掛けるかのように、気さくに。
「再演。そんな言葉で踏みにじれると思うなよ……
 あの戦いから俺達は立ち止まっていた訳じゃない――
 それを見せてやろう」
 次いでマッダラーは、耳に海の音色を捉えつつ――思うものだ。
 やはりマッダラーもあの戦いを思い出す。戦場を散って行った英雄たちの生き様。
 ――泥の身体が熱で溶けそうなほどだった。
 だからこそ。再演などとして穢す輩は許さぬ――!
 イルカを駆りて虚滅種共を引き付け押しのけながら、味方の道を作ろう。
 リモーネや氷雨へと届く道を。あの頃耐えられなかった攻撃も今ならば耐えられる。
 過去の繰り返しではない――! 未来に進んだ力を、今此処で示すのだ!
「愚かな。気持ち一つ、想い一つで何を成せるつもりか――!
 滅海の主たる我に、そのようなモノが通じるつもりか!」
「やれやれ。どのように振舞おうが結構な事だが……
 皆のあんな真剣な顔を見せられたらね……放ってはおけないんだよ。
 だから――ボクの本気で魅せてあげるよ!」
 然らば氷雨は憤慨する様にマッダラー達を吹き飛ばさんとするものだ、が。それでもラムダは恐れぬ。臆さぬ。この戦いに臨む皆の顔を見た瞬間から……決めていた事だ。
 必ずこの戦いを勝利に導かねば、と。その為に氷雨や、虚滅種達を薙がんとする――!
 掃射連撃。如何程の波を操ろうとも、ラムダの撃もまた止まぬ。
 さすれば。

「滅海の主。どうか落ち着きなよ――この程度でこの海が割れたりはしない」

 現れた――全ての元凶たる、リモーネだ。
 最早取り繕う事もせずその姿を、その気配を晒している。
 魔種としての気配を。圧を。全てを。
「リモーネ君だね? 君の望みや目的だが……
 『陸地を海にする』程度で本当に良いのかね?
 それはかつての廃滅竜にも出来た程度の代物な筈だが」
「僕の望みはあの方と共に在る事だよ。その邪魔はさせない。僕は迷わない」
「やれやれリモーネ君の一途さは大したものだ」
 同時。言を紡いだのはハビーブだ。
 リモーネを乱さんと言を弄しながら、撃も放つ――刹那でも隙が出来ればよい、と。彼女が仮令不倶戴天の魔種だとしても、その想いに少しでも助言をしてやりたいものなのだ……それが甲斐性というものであろう、と。されどリモーネも堅き意志と共にイレギュラーズを薙がんとする。
 その一撃は、最早海を手足の如く操る程に。
 彼女が腕を振るえば、伴って波もまた動く。
 彼女が指で示せば、伴って神秘の渦が蠢く。
 嵐すら凌駕せんばかりの『威』が眼前で顕現している――あぁ。
「ふふ~♪ やっぱり出来の良い魔術は見てて楽しいわ♪
 ま、命がけにはなりそうだけれども!」
 これが魔術師。これがコン=モスカの始祖かと、きゐこは思考するものだ。
 魔導を志す者としては一度手合わせ頂きたいと思っていたが――これほどとは。
 迂闊に波に飲み込まれればそのまま藻屑となってしまいそうだ。
 ――だからこそ味わいに来た。こんな貴重な機会、どれほどある事か!
「代わりに私の魔術も味わって貰うわ! ふふふどれぐらい通じるかしら、ね!」
「へぇ。海で火かい――いい度胸だね。僕の領域に勝てるとでも?」
 故にこそ彼女は撃ち合いが本望。自らの能を全て此処に注ぎ込む。
 火炎術式。巨大光球の天堕。仕舞には超絶の日食再現――
 対するリモーネはそれらを深海に飲み込まんとする術式をもって相対する。
 火も太陽も何もかも、闇の腹の内に収まってしまえば一緒だとばかりに。
 激しく激突。数多の撃が放たれあい、閃光が瞬く。
 ……イレギュラーズも相当な火力をもってしてリモーネや氷雨を押し込まんとしているが、あちらも想像以上の迎撃をみせるものだ。これは油断すれば逆にイレギュラーズが全てのみ込まれぬとも限らぬか。
「絶望の海での出来事……ワタシがいなかった頃の物語……そっか。
 その顔、恋してるんだね……魂がきっと、焦がれてるんだ」
 さすればフラーゴラはどこか――納得しうるものだ。
 『何に』と問われれば上手く言語化できないけれど。
 『分かる』のだ。好きな人の味方になりたいというのは。
 ――だったら全力でぶつかって証明するしかない!
「皆、行こう――お師匠先生、マリー、皆皆、私が連れて行くから」
「フラー。ああ、ありがとう。行こう、一緒に。盟友と共に、もう一度」
 往く。フラーゴラはアと共に船を巧みに操船し、激しき波を乗り越えるのだ。
 彼女は連れて行く――エクスマリアを、イーリンを。皆を。
 ……エクスマリアの視線を向ける先にはイーリンがいた。
 彼女は船首にいる。その視線は、ただただ……かつての海へと注がれている。
 その手には旗を。仲間と共に突き進む旗を――掲げながら。
 彼女の口が、動く。

 ――『ぼくはうみ』〽『私は星』
 ――『ぼくはうた』〽『私は詩』
 ――『ぼくはこえ』〽『私は声』
 ――『ぼくはおわり』〽『私は始まり』
 ――『おわりのうみに』〽『終わりの海を』
 ――『すまうもの』〽『駆ける者』

 刹那。ソレは何のモノか。
 歌か。唄か。詩か。祝歌か。福音か。それとも――
 ……彼女の心境を真っ先に理解しえたのは、アトだったかもしれない。
 嵐のソレだ、と。であるならば。

 ――貴方が嵐の唄を歌うのならば。
 ――僕は黙す只人として舵を取ろう

 彼は紡がぬ。魂の声に、それ以外は要らぬからと。
 ただ彼は滋養満天の麦粥を腹の中に詰め込む。二度と食べたくなかった、が。
 やむなし。
 此処にては万全でありたいから。此処にては今一度至高を尽くしたいから。
 故に――向かわせる。
 リモーネの下へと。この嵐をもってして万物を呑み込まんとしている者の下へと。
 ――最速最短の意思と共に!
「来るよ滅海の主。愚かな者達が、愚かな儘に」
「であれば沈めるのみだ。森羅万象――我が前に屈するがいい」
 連鎖する行動が一気にフラーゴラやアト達の船を進めていく。
 エクスマリアが魔術を紡ぎ、万物を砕く鉄の星を降り注がせ。
 イーリンは声を張り上げる。『進め』と。
 嵐の粒にかき消される筈の声が――しかし誰しもに届くのは何故だろうか。
 ……だからこそ氷雨は潰さんとしたのかもしれない。
 どこか危険だと感じて――しかし。
「そうはさせねぇ。卯の花、いや……『水竜さま』。どうか――」
「……リリー達を信じて眠ったのだから、静かに眠らさせてあげてよ……!」
 刹那。現れたのはカイト・シャルラハだ。傍にはリリーと、そして。
 卯の花も、いる。
 皆はカイト自慢の船に在る。嵐などにも負けぬ――カイトの『紅鷹丸』だ。
「氷雨。もう遂に、そんな領域まで行っちゃったんだね」
「――水竜か。芥共を隣とするのか。どこまでも愚かな者だ」
 然らば、卯の花と氷雨は言を、一度だけ交わすものだ。
 片方は、どこか物寂しい様に。片方は、どこまでも失望したかの様に。故に。
「水竜さま――あの時背に乗せてくださった水竜さまよりもずっとずっと小さい小舟だけど」
 カイトは操舵するものだ。
 あの時の水竜さまみたいにみんなを『無事に』運び『帰す』為に。
 ――それが航海士だから!
「うん。お願い――氷雨の力は、私が必ず抗ってみせるから……!」
「卯の花。只の再演装置が、随分と調子にのるね」
 然らばリモーネは卯の花へと視線を向けるものだ。
 卯の花の存在は、リモーネが望んだかつての再演の為の一環に過ぎぬ。
 氷雨程の神聖がない。故に無事……無論、そういう力関係である以上、真っ向から今の氷雨とぶつかれば氷雨が優勢だろうが――しかし『水竜さま』として氷雨の海嘯に抗う程度の事は出来よう。カイトによって運ばれれば術を紡ぐ位置も悪くない。
「再演、かぁ……」
 その時。リリーは想起するものだ。
 リリーがやった事と言えば、水竜様の背に乗って戦った事。なんとも懐かしい感覚だ。
 でも、今度は卯ノ花さんの背中に乗って戦う訳には行かないから。
「ワイバーンに乗って行くよ……!
 あの時の再演、だと言うなら最後まで付き合うよ、だから……
 さっさと海の底で、静かに眠ってて!」
「リリー無茶はするなよ! 水竜さまも、皆も――必ず帰るんだ!!」
 リリーは天へと飛翔する。ワイバーンを伴いながら。
 さすればカイトは直前に声を張り上げるものだ――親父にも言っていた。『絶対無事に帰って来るんだぞ』と。今だ親父の船から砲撃が続いているのであれば、親父はまだ無事だろう――が。
 油断はできない。あの日の再演だというのなら、死者が出ぬとも限らぬのだから。
 だから――其処は必ず覆す為に。
 カイトは力を振るう。敵の波を躱して船を進め往くのだ!
「僕はかつての戦いに参加してはいませんが……道理に合わないことを見過ごすほど不人情に育った覚えはありませんので! 其方が多くの人達を巻き込んで我欲を押し通さんとするのなら――止めさせてもらいます!」
 そしてシルトも確かなる意志と共に此処に在る。彼はワイバーンを駆りてフラーゴラの船に追従する様に大雨の中を突っ切りて……邪魔立てする虚滅種らがいれば打ちのめし、氷雨やリモーネへとも紡ごう! 積極的に前に出でて盾役として振舞い。
「はぁ……カタラァナさんが死んじゃった時には私は立ち会えなくて……本当に残念です。死体すら残らないなんて……はぁ~ぁぁ……」
 次いでねねこは深い、深いため息を零しながら味方の治癒と援護に務めるものだ。
 せめて死体が残ってれば……と、彼女は残念でならない――
 カタラァナさんの出来事は伝説になってますが、立ち会えなかった私からしたら。
「『伝説になってしまった』が正直な感想です」
 知らぬ前に、神話になるだなんて。
 ……次は誰も死なせません。
「伝説になんてしてやるものですか! モスカの名前を、もう二度と!」
「モスカって名前は……あの子の……
 ううん。私はそれについて語る口はない。
 私はただ――一人でも犠牲を少なくこの戦を終わらせに来ただけだ!」
「……あの海の再演と来たか。ならば駆けぬわけには行くまい。あの日を、知る者として」
 直後にはミルヴィも馳せ参じる。空から眺める様な視点と共に周囲の状況を把握して、遊撃として各地へと赴くのだ――そしてリモーネらへと向かう者らの邪魔をする海蛇があらば、敵群を突っ切る様に駆け巡り。
 同時に上空より飛来するのはレイヴンだ。雨粒の幕を翼で切り裂き、彼はリモーネ周辺の地を確保せんと魔術一閃。振るう隕石の如き一撃が虚滅種らを捻じ伏せれば――同時に彼は念話をもってして、操舵手達へと紡ごうか。
 今こそ前進の時だ、と!
「まだまだ……アタシの手に入れた新しい速さはこの程度じゃ止まらない!」
 更なる超速の彼方へと至る様に――彼女は全てを捻じ伏せんとする。
 果敢に往く彼女が戦場の一点を穿たんとして。
「……あの日、か。あぁ記憶は、今もこの胸に刻まれている。
 悲しくも美しい奇跡。一度で十分だ。
 二度目はない。誰かの犠牲がなくば勝てぬ戦いなど……不要だ」
 続け様にはウィリアムの魔術が襲来。
 彼にとってはリモーネなど知らぬ。知っている名は『別の人物』
 ――だから思い通りにはさせないと、水上を駆け巡りて彼は往け、ば。
「……誰も彼もどうしてそこまで僕を否定する? お前達が何を知っている――?」
「知っているさ。『あの嬢ちゃん』は此処で全部受け止めて眠った。
 けど、お前がそれを求めた所で『お前に出来る訳がない』
 お前には、彼女にも、クレマァダにもある大事なモノが――『致命的に』欠けているんだからな」
 リモーネの心が、些か波打ってくるものだ。
 どれ程捻じ伏せようとしてもイレギュラーズは立ちはだかってくる、と。
 ……であればカイトは紡ぐ。フラーゴイラの船を追尾する形で飛空探査艇に乗っていた彼は、神秘の力を前線へと放ちながら――その思考の脳裏には『嬢ちゃん』の顔が思い浮かんでいるものだ。
 お前がどんなに縋っても、求めても。
「本物にはならないのさ、その願望は」
 届かないのさ、お前は絶対に。
「届かない……? そんな筈はない。『届いた者』がいたんだ。
 なら僕だってその身体を手にいれれば『届く者』になりえる。
 ――間違いない。僕こそが至高の波濤。身が足り得れば不可能はないんだから」
「冗談じゃない。何を御託をほざいているんですか、私の友達の名を使いながら」
 刹那。リモーネが全て薙ぎ払わんと再び波を操れ――ば。
 一瞬の間隙を突いたのは、エマである。
 彼女の瞳には意志が宿っている。ふざけるな、と叫ぶ様な――意思が。
 あの時助けられなかった。あの後見つけられなかった。友達の亡骸が欲しいのか?
「絶対に許さない。そんな事はさせない。二度とこんなマネできないようにしてやるッ!
 ――私の友達は!! お前のモノじゃあない!!」
 吼える。手にした短剣の切っ先をリモーネに向けながら、どこまでもどこまでも。
 ふざけるなふざけるなふざけるな――怒りが収まらず爆発するかの如く。

 ――初代様。

 であれば、その時。
 リモーネの前に辿り着いたのは、クレマァダだ。
 リモーネ。リモーネ=コン=モスカ。偉大なる初代の御方よ。
 この海に在り続けた御方よ。滅海竜と共に在らんとした御方よ。
「失われた歌に遺りし偉大なる貴女様。我は御身に手向かいます」
「――あぁ。『スペア』がやって来た」
「…………」
 クレマァダは、ただ己が力をもってして初代へと相対する。
 かつての再現をするかのように。死闘を互いに再演する様に。
 嵐の中で究極のせめぎ合いを――せんとする。
 だけれども。
 状況が似通えば似通うほど、彼女らはそれを超えんと足掻く。
 あの海で涙を流した者がある。あの海に居られず臍を噛んだ者がある。
 きっとこの海をあの海と同じにしてなるものかと――その思念が、この地に溢れている。
「自分も、他人も、責任も、何もかもを投げ出して。
 ただ共に在りたいと、添い遂げたいと思ってしまう相手がいる――
 ……若輩の身にて無礼ながら、分からぬとは申しませぬ」
 直後。その流れの中に身を投じるのは、フェルディンだ。
 彼はクレマァダの隣に在る。離れず、守護する様に。そして瞳はリモーネへと。
「ですが」
 ですが――『それ』は、此方とて同じ事!
「その再演、我が全霊を以って阻ませて頂く! 我々の……未来の為に!」
「――喧(かまびす)しい」
 然らば。リモーネはクレマァダやフェルディンへと波を『落とす』ものだ。
 超速。超圧。絶技に至る波濤は二人を割かんとし――されど。
「させっかよ……! リモーネ! もしお前が冠位嫉妬を演じるならならば俺は蛸髭!
 ――あの日、お前を殺した海賊だ!」
 そのリモーネへと一撃介入を果たしたのはプラックだ。
 彼の耳には一つの『唄』が流れている。それは。それは……かつての『わだつみ』
 忘れもせぬ声色が――彼の脳髄へと染み渡れば、彼の闘志を漲らせよう。
「誰だい君は――蛸なんて知らないね!」
「知らねぇのなら覚えておきな! 再演をさせねぇ男の顔をよ――!」
 プラックは立ち続ける。殴りつける様に、只管に。
 あの日……全てを失った。夢も理想も恋すらも。
 そして、取り戻す事も出来ねぇ、俺の全てはあの日々に戻る事は無い。
 ――だからこそこのリーゼントに誓うのだ。
 皆を護る為。皆と共に生きる為――此処で必ず潰すと!
 イレギュラーズ達の攻勢の『波』が増す。
 虚滅種など知らぬ。再演などさせぬ。嵐になど負けぬ。あの日など二度と起こらせない。
 数多の思念が、この海に――強く強く漂っていれば。
「ぬ、ゥ」
 氷雨が、苦悶の色を顔に張り付ける。
 それは彼に過剰な神聖を宿された限界が来ている事を示している――が。決してソレだけではなかった。天浮の里の『信仰』という『思念』を上回るモノが、この海に漂い始めているのだ。故にこそ彼の神聖が薄まりて苦悶しているのだろう。
「また会ったな、氷雨」
 であれば、そこへと至ったのは――ヲルトだ。
 彼は以前氷雨と相対した事がある。故にこそ、この機会を逃さなかった。
「あの時の言葉、もう一度言ってやろう」
「言葉だと? 芥風情が、神に上奏するつもりか――!」
「最後まで『神』のつもりか。生憎だが、お前に次はない――此処で砕けろ」
 ジャックポットは一度だけ、だ。
 血の弾丸を、ヲルトは氷雨へと撃ち込んでいく。
 ……それは戦いの初期であれば、強靭なる神聖を宿していた氷雨であれば耐えられたかもしれない。或いは神威そのものたるリヴァイアサン本物であれば弱ったとしても揺らぐ事は無かっただろう。
 だけど彼は『氷雨』なのだ。滅海竜などではない、亜竜種が一角。
 ――存在に亀裂が入っている所に紡がれれば、一たまりもない――
 知ってるか? 物語ってのは、悪が滅びて終わるんだよ。
「お前も、もう眠れよ、氷雨――お前は楽になっていいんだ」
「馬鹿な。まだ早い。早すぎる。滅海の主。此処ではない。まだだ」
「いいや。此処で終わらせてやろうや――ソイツは手前の道具じゃねぇ」
 であれば。魔術を振るいて氷雨を援護戦としたリモーネの言に。
 即座に断じたのは縁である。
 傍には蜻蛉や――亜竜種たる冽・十夜もいようか。
「悪いな。面倒な事に付き合わせちまった」
「こんな事、もう二度と御免やわて思てたけど……今やったら大丈夫て心から言えます」
 直後。縁は蜻蛉へと言を紡げ、ば。蜻蛉はただ微笑みと共に傍にあるものだ。そして。
「行くのか」
「ああ。手駒にされちまった同胞はこいつも、だろ?」
「……ふっ。そうだな、私も同じことを考えていた。流石は『同じ血』か」
 冽・十夜。自らの『父』たる彼とも、意思を交わすものだ。
 狙うは氷雨。彼を無力化し、その命を救わんとする――
 可能かは分からない。だけど、見捨てるのは忍びないのであれば。
 往く。蜻蛉が治癒の術を張り巡らせ『十夜』が道を切り開き『縁』が届かせよう。
 なぁ。氷雨から滅海竜の代役から解放して。
 ただの亜竜種として『縁』を繋ぎ直してくチャンスをやろうや。
「黙れ塵芥が! 我を誰と心得る――!!」
「……誰かに必要とされる喜び、よお分かります。でも」
 唯、それは己を本当に大切に思ってくれる人がええ。
 氷雨の絶叫へと、蜻蛉は紡ぐものだ。
 ……あなたの隣に立つ人は果たしてどうやろか。
 氷雨の抵抗は、激しい。
 滅海竜として振舞う事しか知らぬ。そういう風に思考を塗りつぶされた彼は、存在意義を掛けて魔力を振るうものだ――かつての大竜を想わせるかのような一撃を、蜻蛉らへとぶつけ『近寄るな』とばかりに。
 だけれども、それでも。水月の果てに縁の一撃が氷雨へと届き――
 そして。
「……後は頼んだぜ――『親父』。これが、最初で最後の親孝行だ」
「……そんな事を言ってくれるな。埋める様に語るべき事が山ほどあろう」
 彼の意識を奪い取る。神性により瓦解しかけている彼の魂が残るかは……運だろう。
 が、いずれにしても無茶を通して氷雨へと届かせた縁の身は限界だ。
 倒れ伏す。その身を、父たる十夜と、片割れたる蜻蛉が支える様にすれば……

「認めない」

 だが。氷雨が止まろうとリモーネは止まらなかった。
 何故誰も彼も邪魔をする。どうしてどうしてどうしてどうして――
 ずっと前から夢を見ていた。ずっと前から望んでいた事が、遂に目の前まで来ているのに。
「あと一歩。あと一歩で海を手に入れる事が出来る。そうすれば、僕は――!」
「――ホンット、ワガママな一族だよなお前らは」
 直後。言を紡いだのは、サンディだ。

 好きに歌って好きに生きて。
 好きに踏み込んでった身勝手な――カタラァナ。
 そして、好きに恋して、好きに踏み荒らしていく。
 またべつのコンモスカ。

 ……人のことァ言えねぇが、兄弟ならなかよくやれってんだ。
「ま、いいさ。風の向くまま気の向くまま」
 お返ししてやる――サンディは戦場駆け巡りて絶好の機会あらば横から打ち抜く。
 己が一撃をもってして。特に大技準備中を撃ち抜ければ最高だ――
 然らば残存の虚滅種達がリモーネの感情に呼応したのか、憤怒する。
 揃いて穿つは大量の海嘯。数多の数を用いて滅海竜の再現か――?
「小うるさい外野は黙ってろ! させるかぁああ!!」
「此処を突破させる訳にはいかん。故に、全力で相手をしよう」
 レイヴンは往く。自らの全霊をもってして――邪魔はさせない、と。
 身を挺してでもクレマァダらを庇おう。さぁ行け、この刹那こそ一歩を紡ぐ!
 故にベネディクトも此処が正念場だと、槍を振るいて全霊投じる。
 例え倒せずとも、我が牙は一度に留まらぬ――覚悟せよ、と。闘士漲らせ。
「馬鹿な」
 であれば、リモーネは言を零す。
 どれだけ足掻いても手に入らないというのか?
 どれだけ焦がれても僕には無理だというのか?
 僕は、ただ。夢を見ていたのに。
「夢から醒めましょう。リモーネ。今こそ、その時なのよ」
「――夢から醒める? 何を言うんだい。永久に夢見た未来が、すぐ傍にあるというのに」
 直後。イーリンは告げる。
 『過去』を求めた貴方に『未来』は訪れないのだと。
 だから『あの子』を変えた引き金を――私は知っている。
 さぁ。だから手を取って。太陽まで連れて行ってあげるから――

 ……だけどリモーネは拒絶する。

 夢は醒めるものだとするイーリンと。
 夢見た地平に往きたいのだとするリモーネは、平行線。
 返事は魔力の収束。リモーネの抱く叡智の全てを此処に集め。
「滅海竜様――」
 あぁ。リモーネは、天を見ながら恋焦がれる。
 ――放つ。それは最大にして最高の波濤たるモノ。
 森羅万象を呑み込みむリモーネの絶技――
 死ね。死んでしまえ。どうしても邪魔をするのなら、誰も彼も。
「待て、フェルディン! あの海嘯は危険ぞ――!」
 刹那。リモーネの視線の先に見えたのは、二つの陰。
 クレマァダとフェルディンだ。男が女の前に、一歩進む。
 それはまるで彼女を護る様に――
 ……いや。“護りたい”だなんて格好の良い感情じゃない。ただ、ただ。
「僕は」
 彼女を失いたくない。
 その剝き出しの気持ちのままに彼は振るう。
 何を? 振るうは一つ。彼の全てを注いだ心血が結晶――絶海剣。
 クレマァダの、いや『絶海』の一族が、コン=モスカが、会得し体現する波濤の術。
 それを彼が。振るう。
 嵐を割くように。波を割くように。
 大切なものを――護るために。
 ソレは奇跡を伴う一撃。たった一瞬、たった刹那だけに顕現した、再演断絶。
 周囲の者。誰も彼をも守らんとする意志が天に届き。
 波を割いた――彼の魂たる一撃。
「――ぁ」
 一閃。音は、ない。ただ結果だけがそこに在る。
 ――リモーネの身が沈んでいく。力なく、波にのまれ。
 蕩ける様に消えていく。
「はは、はは、は――」
 駄目か。駄目か、どれだけやってもダメなのか。
 永久の彼方に貴方を見た。魂の焦がれる音が聞こえた。
 あの日からずっとずっと夢見ていた、のに。
 モスカ。あの方に纏わりつく『蠅』という名を、頂いたのに。
「あぁ」
 零れた吐息は泡となって天上へと昇る。
 ずっとずっと追いかけていた。後悔はない。
 後悔はない。ただ――

「貴方の傍に、いたかった」

 たったそれだけの事が、果たせなかった。
 ……瞼が閉じれば。最後に映るは、隣り合っていたあの二人。
 モスカの始祖は果たせなかったけれど。今のモスカは果たせているのか。
 天へ。水面へ伸ばす五指が、何も掴めず――水だけを掴んだ。
 ……戦いは終わる。リモーネが沈めば、嵐が段々と収まり始めた。
「まだ気を抜くな! 救助者がいないか、すぐ確認しろ!
 飛ばす声は、海洋王国の船を率いてきたファクルのモノか。
 息子の無事も確認しておきたい所だが――
 まぁ。カイトなら無事かと心のどこかにも思っていて。
「……あぁ。思い、出すな。あの海を」
 そしてエクスマリアは――脳裏に思い出すものだ。
 友達に、守られた日を。友達を、亡くした日を。
 もっと彼女の歌を、聞きたかった。
 もっと彼女と、歌いたかった。
 もっと、傍にいてほしかった――

 ――傍に、いるよ。

「……!? カタ、ラァナ……!」
 それは、気のせいだったのかもしれない。
 ……彼女は居ない。いないのだ。
 けれど、彼女の歌はいつも、此処にある。
 それは、気のせいだったのかもしれない――けれど。
「――――」
 今、止めていた筈の景色の全てを想起してしまったら。
 涙も嗚咽も、止められない。
(──思った通り、再演にゃならねぇよな)
 同時。思考を巡らせたのは、プラックだ。
 アイツ(クレマァダ)の旋律は。あの人(カタラァナ)に似た旋律だけどよ。
「やっぱり……アイツだけの交響曲だ」
 プラックは想起する。あの歌声を。世界で唯一の――歌声を。
 だけど。思うものだ。
 ──最後になるかも知れねぇし、聴けて良かったぜ。

 ……嵐が晴れる。
 あの日と同じ、終わりの象徴だ。
 力が晴れ、呪いが無くなり今、妄執は――泡沫と消える。

 ……光が天より降り注ぎ海を――照らしていた。

成否

成功

MVP

フェルディン・T・レオンハート(p3p000215)
海淵の騎士

状態異常

レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)[重傷]
騎兵隊一番翼
十夜 縁(p3p000099)[重傷]
幻蒼海龍
フェルディン・T・レオンハート(p3p000215)[重傷]
海淵の騎士
サンディ・カルタ(p3p000438)[重傷]
金庫破り
ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)[重傷]
黄昏夢廸
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)[重傷]
流星の少女
赤羽・大地(p3p004151)[重傷]
彼岸と此岸の魔術師
エマ・ウィートラント(p3p005065)[重傷]
Enigma
プラック・クラケーン(p3p006804)[重傷]
昔日の青年
ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)[重傷]
咲き誇る菫、友に抱かれ
クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)[重傷]
海淵の祭司
紲 白虎(p3p010475)[重傷]
ドラゴニュート

あとがき

 ――ありがとうございました。

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