シナリオ詳細
    <太陽と月の祝福>常夜の谷を越えて、朝を呼びに行こう
  
オープニング
●もはや明けない夜はない
 『常夜の谷』と――はるか古代には呼ばれていた。
 この世のどこにも存在せず、時空の裂け目の先にあるという、明けない夜の国である。
 その谷を統べる大精霊は『夜の王』と呼ばれ、眷属たちをしたがえいつまでも君臨し続けていた。
 だがあるとき、虐げていた妖精たちが革命を起こしたのだ。
 王の権能は破壊され、森へと追放された王ははるかな時の中で自我すらも霞ませ、夜の闇と同化していたという。
「だが、それも今日までのこと」
 石でできたミラミッド状の巨大建造物の奥の奥。
 跪くハーモニアたちと妖精達と、わらわらとわく闇の手たちと、そして無数の呪物たち。
 それらに囲まれ、石の玉座に腰掛けた『夜の王』はけだるげに顎肘をついた。
 骸を摸した鎧であり、その内側にはただただ闇だけが詰まっている。
 闇の中からは無数の赤い目のような光がらんらんと、周囲をのぞくように明滅していた。
「今ここに、常夜の谷を再建する」
 ファルカウ上層。それも都市部とされるエリアが巨大な異空間と化していた。
 『常夜の谷』と呼ばれるその異空間は古代の大精霊『夜の王』によって支配され、現地住民や先の戦いで夢檻に捕らわれた妖精達が身体を乗っ取られる形で配下と化しているという。
「『夜の王』……既にここまで力をつけていましたか」
 『王子様におやすみ』エリス(p3p007830)は常夜の谷へと踏み入り、ゾッとするような寒気と夜の闇に、本能的に身を震わせた。
 彼女の『呪われたものを感知する』という能力が、この空間全体に対して反応しているだめだ。ここはもはや『呪われた国』なのだ。
 だが、引き返すことはできない。
「ゲーラスとの約束を、果たさなくては」
「で、ござるな……」
 古き呪物師によって作り出され、精霊使いによって行使された呪物鎧。古代の人々の魂を集め、危険がなくなるまで守り続けるという使命を……その鎧は『常夜の王子』ゲーラスという人格(AI)を作り上げることで守り続けていた。
 だがもうその役目は必要ない。『朝を呼ぶために』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)たちによって正しく『終わり』を迎えたのだ。
 だからこれは、ゲーラスの願いでも、古代の呪物師ソミィの願いでもない。
 ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)は歌うように語り出した。
「亡き誰かの願いを、切なる祈りを、己の欲望のために利用する者がいる。
 『常夜の王』――アンタは『呪い』そのものだ。願いを歪ませ、祈りを喰らい、己の奴隷と怠惰な王国を作るためだけに利用した。おれはそいつを、許さねえ」
●操られた彼女たち
 ファルカウ上層部へと進軍したローレット混合軍はかつてない陣営によって入り乱れていた。
 妖精郷からの片道切符で人間たちのために駆けつけた妖精軍。
 深緑との友好国であり救援のために集まったラサ傭兵連合軍。
 これらの実質的な中心となっているローレット。
 彼らは膨大な数になった夜の眷属たちとの戦いを続けながら『常夜の谷』へと到達したのだが……。
「まって、この敵……深緑の人達だよ!」
 イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)の声に応じて、『拵え鋼』リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)たちは手を止めた。
 妖精達の灯したスズラン型のランタンで照らし出されたのは、確かにファルカウで見かけたことのあるハーモニアたちだった。
 助けを求めてやってきたのかと思いきや、彼らは剣を、あるいは弓をとってリュカシスたちへと襲いかかった。
「わっ!?」
 防御しながら飛び退くリュカシス。
 よく見れば、彼らの体中には『闇の手』が無数にまとわりつき肉体を操作しているようだった。
「離れて、眠ったまま操られてるんだっ」
 イーハトーヴがメアリを展開して指輪を構える……が、そんな彼の前にシルクハットを被ったビスクドールが現れた。エプロンを着た、優しい顔つきのハーモニアと一緒に。
「……イーさん?」
 庇おうと前に立ち塞がるリュカシスの後ろで、イーハトーヴは『おなじだ』と呟いた。以前に深く観察したことがあったからだろうか。確信をもって、彼は言えた。
「メアリを、作ったひとだ……」
 『常夜の谷』の各所では、操られた人々との戦いが頻発。うかつに手を出せない連合軍は手痛い足止めをくらっていた。
 だがそんな中でも、彼らの心を苦しめたのは……。
「きみは……」
 観月 四音(p3p008415)は驚愕の表情で魔導書を抱きしめる。
 彼女の前に立ち塞がったのはなんと、前回の戦いで彼女が指揮していた妖精兵のひとりであった。
 目を瞑り、手をかざす妖精たち。彼女たちは夜の王出現の際に仲間を庇う形で逃げ遅れ、夢檻におち、闇の手によって今まさに操られているのだ。
「なにをやってるんですか……『いのちをだいじに』って言ったじゃないですか!」
 ビッと指鉄砲を構える四音。操られた妖精と新たに出撃した妖精たちによる激しい砲撃戦が巻き起こる。
 皿倉 咲良(p3p009816)も次々と飛来する妖精の砲撃をかい潜りながら走り、勇気を込めた跳び蹴りを叩き込む。闇の手によって操られた妖精が吹き飛び、そこへ仲間の妖精たちが不殺効果を持った矢を次々に撃ち込んでいく。
「大丈夫、絶対に助けてみせる。だって……そういう『おまじない』をしたんだから」
 絶望をはねのけるように、咲良は力強く笑った。
「まずいよ、あのとき眠らされた妖精たちも操られてる!」
 『女王のおねがい』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)が虹色のプリズムシールドをチカチカと発生させ魔術砲撃を防御する一方で、『女王のおねがい』サイズ(p3p000319)は握りしめた拳をがつんと地面に叩きつけた。
「許せない……俺が眠っていた間に、女王だけでなく、こんなことを……!」
 サイズも、オデットも、女王に未来を託された存在だ。
 妖精達を預けられた存在だ。
 そんな彼女たちにとって、率いていた妖精たちをこうして奪われけしかけられるなど、許せるはずはなかった。
「妖精部隊には不殺攻撃によるとどめを徹底させるんだ。なんとしても救うぞ!」
「わかってる! フロル、一緒にお願い!」
「ふむ……」
 『女王のおねがい』フロル・フロール(p3p010209)は一度目を瞑り、そして決意をもって開いた。
「多少の負傷はわしが治す。生きてさえ居ればなんとかしてみせよう」
 そして自分に向けて、ここにはいない女王に向けて、あの言葉をもういちど口に出した。
「わしを信じ、託してくれたのであれば……必ず応えるよ、女王」
 操られた人々の対応に苦戦するなかで、フラン・ヴィラネル(p3p006816)とアルメリア・イーグルトン(p3p006810)は強敵中の強敵に出会っていた。
 切り株の椅子に腰掛けていた女性が、ゆらりと立ち上がる。
「たしかに、安否が分からなかったけど……」
「こんなところで、見つかるなんてね……」
 フランとアルメリアはぎゅっと手を握り合い、そして目の前の現実にふるえた。
「おかえりなさぁい、アルメリアちゃん」
 メカクレ前髪の豊満な女性は、優しく微笑んで振り返る。身体には大量の『闇の手』がまとわりつき、夢檻に墜ち操られていることは明白。
 彼女こそはアルメリアの母にして名高き大魔女、ラウラ・イーグルトン。
 こぶりな杖をひとふりするだけで、大量の魔方陣が形成された。
 絶対に叶うわけがない。……と、きっと昔なら思っただろう。
 だがもう、昔の二人じゃない。
 手を握ったまま、二人は大きく足を踏み出す。
「やるわよ」
「うん」
 私達の冒険譚で、このひとを救うのだ。
●そして夜は深く、深く――
 グリーフ・ロス(p3p008615)は、今や遠きマナの木を思い出していた。
「『自分のあるべき場所』を、知っていますか?」
「……昔は、わからなかったと思う」
 ハリエット(p3p009025)はその言葉に応えて、今や遠き桜の木を思い出していた。
「でも、今はわかる気がするよ」
 ライフルを構え、トリガーに指をかける。
 走り出すグリーフと息をあわせ、援護射撃を開始した。
 対するは大量の魔物たち。夜の眷属といわれる呪物や呪霊や、闇の手たちだ。
 今すぐにでもこちらを倒し、眠らせ、操り、新たな国民とすべく襲いかかってくるものたちだ。
 安らかな夢も、都合のいい夢も、いまはもう必要ない。
 優しい朝日を知っているから。
「戦い、取り戻しましょう。この夜を越えるために」

- <太陽と月の祝福>常夜の谷を越えて、朝を呼びに行こう完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別決戦
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年06月30日 23時07分
- 参加人数143/∞人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 143 人
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参加者一覧(143人)
リプレイ
●夜を越えに行く
「夜の眷属ゥ〜? 我は夢(無)の名前を冠してる存在だぜぇ〜? んなもん我に通用する訳がねぇだるぉ〜? なぁ、卮濘さんよぉ〜?」
 風を切り走るオフロードバイクが、擬似的に作られた『常世の国』を駆け抜ける。『敗れた幻想の担い手』夢野 幸潮(p3p010573)は結んだ髪をなびかせ、タンデムシートの『崩れし理想の願い手』有原 卮濘(p3p010661)へ呼びかけた。
 迎え撃つ眷属の群衆へと、斜めに傾いた石壁をジャンプしながら突っ込んでいく。
 大量の影の槍が突き出てくるが、そのたびにポリゴン体が発生し反撃を始めた。
「そうだな〜っ! 私にかかればこんな有象無象なんて"ばんっ"だよ"ばんっ"! いや〜、初戦場がこれとかちょっと引くけど……っていうかなにこの武器、お前に押し付けられt」
 ごっついリボルバー拳銃のとりがーをひくと、あまりの反動で腕がもげそうになる。
「んぎゃぁぁぁ──ッ!?」
「ヒャッハー! 振り落とされたらそのままヤツらのエサなぁーっ!!」
「クッッッッソがっ!」
 早速先陣を切った仲間に続き、チーム早天の面々が槍を備えた呪物『からっぽ鎧』の防御隊列めがけて突撃を仕掛けていた。
「深緑の皆を助けたい、その想いは変わりません。
 仲間と協力して闇を照らす光を呼び戻しましょう……!」
 『やわらかな羽の音』クロエ・ブランシェット(p3p008486)は低空飛行状態で翼を広げると、黄金の輝きが波紋のように広がった。どこからか聞こえるカモメの鳴き声。さざなみの音。それらは仲間達の背中を押す勇気となる。
「いいね、防衛線一点突破!
 この常夜、引き裂いてやろう。アタシたちが朝日ってワケだ」
「しかしこの光景……もはや戦争みたいなもんだな。
 仮にも相手は一国の『王様』と『国民』達だから。
 ……おかしな力で人を眠らせて操って傷つけさせるだけの国なんて、おいらは嫌だけどな」
 そして攻撃にかかる『欠け竜』スースァ(p3p010535)。『黄金の旋律』フーガ・リリオ(p3p010595)の回復支援を受けながら真っ赤な剣を『からっぽ鎧』へ叩きつけた。
 俯瞰した状態では敵陣は高級なケーキのように綺麗な層を作り、どこにも隙がないように見えた。だがそれは同時に、どこから攻めても良いことを意味する。
「ここが始点だ、突っ込め!」
「わかった。僕はこの剣で敵を貫いていくだけだよ。自分たちの幸福を守るために、ファルカウの力になるんだ」
 『鏡の中』アレン・ローゼンバーグ(p3p010096)は美しい装飾のレイピアでヒュウンと美しい記号を描くと、残像すら作る勢いで『からっぽ鎧』へと鋭い突きを繰り出していく。
「このレイピアを持っているんだもの。こんなところで止まれないよ」
 恐るべき連撃が鎧の表面装甲にはねのけられながらも、最後の一発が見事に鎧のスキマを貫いた。
 からっぽといえど中身がある。そんな矛盾を抱えた鎧がガクンとけいれんした途端。頭の上の高さへと飛び上がった『サイボーグ・ドラゴンガール』剣 恋香(p3p010516)が機関銃を構えた。
「夜の王だかなんだか知らないけど……人を自分の欲望のために勝手に利用するとか最悪でしょ」
 思い切りばらまいた連射が傾いた『からっぽ鎧』を通り抜け、後方から範囲魔法を飛ばしまくる『わざわいランタン』へと襲いかかり、パリンというはかないガラスの音を立てて数体が撃沈。
「夜は明けるものよ。朝に向かって私たちは進むの」
 『蛟』尹 瑠藍(p3p010402)は更なる突破口をこじ開けるべく『からっぽ鎧』へ水晶めいた剣で斬りかかった。
 呪力によって維持されていたのだろう。『からっぽ鎧』はその結合力を失ってパーツごとにバラバラと分解し崩れ落ちる。
「さ、次に斬られたい奴は誰?」
 挑発的に剣を向け、首をかしげて見せる瑠藍。
 スースァとアレンも隣に並び、同じように剣を突きつけ挑発的なポーズをとってみせた。
 そうなれば突破はダム決壊のそれと同様。
 『食べ歩き仲間』龔・巳華(p3p010363)と『月華美人』香 月華(p3p010546)。そして『殺戮の愛(物理)天使』アナト・アスタルト(p3p009626)や『偽窓嘘録』柳・黒蓮(p3p010505)とが結託してこじ開けにかかった。
「フフフ…こんなに大量の「愛なき者」達が居るとは…何とも教えがいのあるサンドバックたちですね!
 夜の眷属だから知りませんが…「愛」を知らぬ哀しき者達に「愛」を知らしめんとしましょう。
 さあ、遠慮せずに私の愛(物理)に溺れなさいな!」
「あらあら…物凄い数ですね、巳華。私、こんな数の敵を見るのは初めての経験ですわ。ちょっとテンションブチ上がってしまいますわ! ……コフっ!」
「……ん、そうだね……月華。……これだけの敵の数は圧巻……わくわくする。
 ……あの……精霊とか……食べたら美味しいのか……な……?」
「いやはや、敵は中々の数居るみたいっスね。こりゃ、流石に分が悪いっス。
 逃げるが勝ちっスよ! …なんて嘘っスけど…ね!」
 彼女たちの連携は見事なもので、巳華が妖槍『ミドガルズオルム』を翳してブロックした状態で月華が『夜の女王』の香りが散布。
 集まってきた所を黒蓮が『暗器:九頭竜天鎖』から繰り出す変幻自在の魔動武器たちが襲いかかる。
 トドメとばかりにモーニングスターの『ラブ&ジャスティス』。更にバールの『エスカリバール』を両手に構えたどうかしてるいでたちのアナトが『愛!』と叫びながらまとめてなぎ払っていくという豪快さである。
「いやいやいや……どれだけの数いるんだよ……こんなのモブの俺らが頑張ってもすりつぶされちゃうよ
 ……でも女の子達が頑張ってるのに何もしないのは漢が廃るって訳で……はあ、頑張るしかないか」
 『一般人のモブ』空木 姫太(p3p010593)はそんな仲間達がこじ開けたポイントへと走ると、巳華の槍を足場に跳躍。取り出したサングラスを装着すると一瞬で変身した。
「ククク! 我こそは混沌卿! 汝らが「夜の眷属」など片腹痛い!我こそが…混沌にして夜を支配する者なり。
 ――さあ、混沌を始めよう!」
 腰にさげた宵闇の剣を抜き、じゃらりと流れるピッキングツールを鳴らしながら敵防衛網をバターでもわけるように切り裂いて行く。
 防衛側が一人潰され、壁に穴がこじ開けられた状態。敵はその穴を塞ぐべく寄せていき、味方は穴を維持すべく流れ込む。
 となれば、もはや勢いの強い方が勝つ流れである。
 『嗤う陽気な殺戮デュラハン』ヒナゲシ・リッチモンド(p3p008245)、『嗤う陽気な骨』ボーン・リッチモンド(p3p007860)、『嘲笑うリッチ』シオン・リッチモンド(p3p008301)の三人衆が突進。
「HAHAHA!これは大量の深緑版百鬼夜行かな?
 そう言う事なら暴れなきゃ損だよね!
 さあ、ボク達に狩られたい子から前に出なよ!」
「カッカッカッ!まるで何時ぞやの豊穣の百鬼夜行の様じゃねーか!
 夜の眷属?だったか?どうやら御同輩のようだが…ちーとお遊びが過ぎるな?
 このボーン様と愛しい家族が少々お仕置きしてやるとするか!」
「ハァ…よくこの事態でこんなおちゃらけた反応出来るわね、この両親達は。
 でもそうね…微力ながら私達で敵を削り取らなきゃ、この局面乗り切れないものね!
やるわよ! 馬鹿親達!!」
 それに加えて『新時代の鬼』小刀祢・剣斗(p3p007699))、『アイドルでばかりはいられない』ミリヤム・ドリーミング(p3p007247)、『子鬼殺し』鬼城・桜華(p3p007211)といっただいぶ顔の知れた面々が逆サイドの流れを維持するべく襲いかかった。
「フハハハ!今回もまた結構な敵軍!滾る!滾るゾ!
 然り!我々が連携すればこのような難局も必ず突破できる!
 「愛」と「勇気」を持って戦え!「正義」は我らにあり!」
「ここ最近病み方が半端ないからいつものアイドル活動は出来ないっス……病むぅ」
「OKOK…また毎度おなじみのパターンね!
 わかったわよ、やってやろうじゃないの! どこからでも掛かってきなさい!」
 彼らの猛攻は寄せてくる『からっぽ鎧』の盾兵たちに強引に押し返されかけるが、『魔眼王』ハク(p3p009806)、『獅子心王女<ライオンハート>』獅子神 伊織(p3p009393)、溝隠 琥珀(p3p009230)、更には『ラド・バウD級闘士』溝隠 瑠璃(p3p009137)といった面々が盾を砕く勢いで反撃していった。
「今日の私のライブは深緑! そしてお相手は夜の眷属さん達ってことね!
 じゃあ、ジャンルはロックにいきますわ! それじゃ、行きますわよ、ヒャッハー!」
「ふむふむ…これは魔眼王のハクの出番なのです!
 ふっふっふ!ハクの麻痺の魔眼で麻痺るのです!」
「アハハ!これだけ大量の敵がいれば修行には持って来いだゾ! さあ、殺ろうじゃないか!」
「久々に姉さんと一緒に依頼に参加できたのに狙撃手として姉さんと離れて参加しなきゃいけないんだ…まあ、それが俺の役割だから仕方ないんだけど。
 ……という訳で、俺の為に死んでくれ、君達」
 こうして切り拓いた流れを完全なものとするべく、『魔法少女(?)マジカル★カルマ』カルマ・モンクスフード(p3p009282)と『あやかし憑き』原田 幸村(p3p009848)、更にキレッキレの『あやかし憑き』原田 幸村(p3p009848)が必殺の一撃を叩き込む。
「…うん…なんで俺ここに参加してるんだろうね? 最近はやっと落ち着いた日々を過ごせてたはずなのに…」
『色物枠の宿命でち!さあ、魔法少女としてキリキリ働くでち!』
「このマスコット、自分で色物枠とか言い出しやがった! 畜生め―!」
「…また瑠璃ちゃんとハクちゃんが参加してるからついてきたけど、どう考えても一介の高校生が対峙していい敵じゃないと思うんだ! 正直、今すごく泣きたい!!! なんか闇堕ち的な声も聞こえるし!」
「オーホッホッホ! これぞ、我々のイレギュラーズの底力ですわ!」
 バッと扇子を広げベテランのお嬢様笑いを見せつけるガーベラ。
「今回も参りましたわ! 特攻野郎Bチーム! ブッコみにかけては実績がありましてよ!」
 敵防の前衛を突破しついに後衛の砲撃部隊、及び支援部隊を攻撃できようかというタイミング。前回も同じパターンで勝利をもぎ取ったローレットだったが、相手もその対策をしないわけではなかったようだ。
「皆さん、下がってください!」
 何かに気付いた『氷晶の盾』冬葵 D 悠凪(p3p000885)が空を見上げ、大きな盾を翳した。
 夜深い天空より急降下する巨大な物体あり。
 大地を歪めるほどの勢いで着地したのは、全長にして10mを越える巨大な『からっぽ鎧』であった。
「我が名はウィガール。王命にて、貴公の魂を頂戴する」
 咄嗟のタイミングで盾によって攻撃を受け流しつつ、機動装置によってホバー移動をかけ押しつぶされることを回避した悠凪。
 地面に盾を突き立てることでブレーキをかけると、再び顔をあげた。
「ウィガール……? 敵のネームドですか。リジアさん、ここは――」
「ああ、私達のチームで受け持とう」
 『祈り』リジア(p3p002864)は閉じていた目をうっすらと開くと、破壊の力をみなぎらせた羽根をそれぞれ展開した。
「全く、目を覚ましてみればこの騒ぎか。
 ……破壊すれば良いのならば、破壊する。それが、私の役目だ」
 リジアのもつ破壊の力を直接行使し空気中のイオンを破壊。バランスをとろうとした世界がとてつもない電撃をウィガールを中心としたエリアに炸裂させた。
 それ以上別の仲間のところへ行かせないよう、悠凪が盾を翳して突進。行動を阻害する。
 一人きりで押し返せる巨大さではなかったかもしれないが――。
「ターゲット補足……。そうですね、敵は実に多数です。ですが、此方も負けてはいません。
 防衛行動を行います。皆様は私の後ろへ。存分に、腕を奮ってくださいませ」
 『宙に浮かぶノーチラス』滓香(p3p010634)が跳躍し、霞むつま先で軌跡を作りながらウィガールの腹へと跳び蹴りを繰り出した。
 攻撃目的ではない。強引に進もうとするウィガールを押し返すための蹴りだ。
 ゴゥンという激しい音をたて、ウィガールは一歩後じさりする。
「ぬう――!」
「どこに魔法を撃っても当たりそうだわ。取り敢えず手当たり次第に焼き払うわよ」
 『紅蓮の魔女』ジュリエット・ラヴェニュー(p3p009195)が後方からパチンと指を鳴らすと、彼女の前方に放り出された宝石が発光。周囲の土がボッと音をたて極小のクレーターを三つ四つ作ると、奪った物質をそのまま転換し人型のゴーレムが形成されていく。
「焼き払いなさい」
 ジュリエットはすぅ――と膝を大きく上げると、地面を穿たんばかりに踏みならした。途端にゴーレムの目から紅蓮の光線が放たれる。
 衝撃に押しこまれるウィガール。
 『優響の音色』Lumilia=Sherwood(p3p000381)はふわりと空へ舞い上がり、白銀のフルートを口に寄せた。
「英雄譚の主役たち。無事に皆で帰ることが、一番大切ですからね」
 奏でた音色が魔法となり、白い光がLumiliaを包み込む、それらはフルートへと集中。握ったフルートが柄がわりとなり、長く伸びた光の剣を振るう。
 刃はそのままウィガールへと飛んでいき、咄嗟に防御の姿勢をとったウィガールへと直撃した。
「久々に前線まで来たらこれですか。ともあれ、商会の名を広めるためにもやりますよ!」
 近くの建物へ飛び込んだ『超絶美少女女子高生(自称)』松瀬 柚子(p3p009218)が階段を駆け上がって二階へ。部屋を突っ切り窓を突き破りながら飛び出すと、振り返ったウィガールの兜の奥で揺れた赤い光の目が柚子を見た。
 小癪な。そうつぶやき柚子を払いのけようと腕を振るうウィガールだが、柚子はその直撃を受けながら抜刀。腕に剣を引っかけるようにして腕へと飛び乗った。
「何ッ!?」
 ふたふりの剣、アヴェンジャーファントム・ジ・オペラ&セイバー。
「もらったダメージ、返させて貰いますよ!」
 交差し放たれた柚子の剣がウィガールの首をすぱんと切断。
 鎧の内部に詰まっていた無数の魂が漏れ出し、空へと消えていった。
「捕らわれた魂たちは、解放されたようですね」
 魂を見送ると、悠凪は息をつき……そして再び気合いを入れ直した。
「さあ、戦闘続行です!」
 戦線の傾きが決定的となったことで、夜の眷属たちは恐るべき統率力によって担当の層構造を破棄。数体で固まった後衛を複数の前衛によって囲み無数の円を作ってローレットの軍勢を受け止めるという作戦に出始めた。
 これが統率された、例えば幻想王国軍であったなら効果のあった作戦だったかもしれないが――元々ローレットはランダムマッチアップが基本。
「どのような場面でも戦うことができるのです」
 『花冠臥竜』カサンドラ(p3p010386)は青い石のはまった杖を翳すと、舞い散る花のようなエフェクトをおこして剣と盾をもった前衛『からっぽ鎧』たちへと魔術の雨を浴びせた。
 斬りかかる鎧に対しては杖で受け、至近距離から魔術の反撃を仕掛ける。そもそもカサンドラはオールレンジ対応の両面型ファイターなのだ。
 そこへ『ダメキリン』黄野(p3p009183)が『角端の霊威』もとい漆黒のツノから流れた霊力を四肢に宿し、鎧の頭部を思い切り踏みつけた。
「この国はまだきちんと訪れておらんのじゃ。見るものを見ぬまま滅びてられては困る!」
 軽やかに後衛へと浸透すると、鎧の治癒を行おうとしていた『不幸せの黒いハンカチ』を掴み破り捨てる。
「如何にもな感じの気配……うむ、武者震いがするのう!
 夜の闇に潜む魑魅魍魎、蘇りて国を転じようとする古き禍。いやー祓い甲斐があるというものじゃな。麒麟チェック、ヨシ!」
「ちいちゃかわいい妖精ちゃんたちにひどいことをして! 絶対に許さないから! 残らず燃え尽きてしまえ!」
 『グルメ・ドラゴニア』アルフィオーネ・エクリプス・ブランエトワル(p3p010486)はそう叫ぶと『クリミネルブリュレ』のブレスを発動。すぐさま左右にバッと仲間が退避したその後に、炎が呪物たちを燃やしていく。
「よし、射線確保」
 飛行してラインを確保していた『亜竜祓い』アンリ・マレー(p3p010423)は両手でやっともてるような巨大なボウガンを構えると、こちらの部隊を拘束しようと伸びる『闇の手』の束を撃ち抜いた。オーラを伴った矢は闇すらも打ち抜き、そしてジュワアという溶解めいた音をたてて闇の手を消し去っていく。
 そんな戦場をゆく、『抱き止める白』グリーフ・ロス(p3p008615)。
「夜の王、その眷属。彼らもかつては生があったものなのでしょうか……」
 侵攻を止めようと両手剣のからっぽ鎧が斬りかかるが、グリーフの頑強な魔術防殻を突破することはかなわなかった。
「彼らは彼らの在り方を取り戻そうとしているだけなのかもしれません」
 それまでの考えを飲み込んで、手をかざす。
「すみません。今を生きる皆さんのため。私も、今を生きる者として、守り、進みます。どうか、安らかに」
 仲間達の一斉魔術砲撃が、鎧をバラバラに破壊していく。
 目を瞑ったグリーフは、祈るように薄目を開いた。
 人間を容易に両断できるような巨大なハルバートを構えた鎧。ヘルメットから威圧するように伸びたツノや馬のたてがみからとったらしき流れ髪の装飾は、鎧が強力な個体であることを嫌が応にも感じさせた。
「俺はカヴァーチャ。たとえ貴様等のくそやべえ魔法であっても、この鎧は抜けねえぞ」
 対峙していたのは『希望の星』黒野 鶫(p3p008734)。
 カヴァーチャの繰り出すハルバートのスイングを屈んでかわすと、相手に距離を詰める。
「そう簡単にやらせはせんのじゃよ!」
 手にしていた鉈を叩きつけるが、しかしカヴァーチャの装甲の頑丈さにはじかれる。
「なんという堅さじゃ。されど、怯む訳には行かぬ!」
 繰り出される蹴りをガード姿勢でうけとめる鶫。
 これなら何発かは耐えられる。ダメージを打ち返すことも可能だ。そう確信したところで――。
「まったく、こんな世界に呼ばれてすぐこんな戦いなんて!」
 『夜守の魔女』セレナ・夜月(p3p010688)はいかにも魔女然とした帽子のつばをついっとあげると、ひとりでに飛んできた魔女の箒を掴んで魔法の力を込めた。
「これも運命的? お導き? はあ……まったくもう。やってやるわよ!」
 ため息をついて、セレナは込めた魔法を投げつける要領で放射した。
「ホントに召喚されたばっかりでレベルが低いの。けど確実な手数にはなる筈よ。あわせて!」
「承知しました――久方ぶりの大舞台、存分に舞わせて頂きましょう」
 『銀月の舞姫』津久見・弥恵(p3p005208)は踊るようにカヴァーチャの前に出ると、優雅に頭を下げてみせる。
「月の舞姫の参上です、さぁ、共に夜明けを目指しましょう」
 約半年のブランクがあった筈にもかかわらず、弥恵の動きは変わらず洗練されていた。無自覚な妖艶さと研いだ剣のような妖しい危険さをそのままに、舞い踊るその動きだけで周囲の空間を自らのステージとしてしまった。
「何ッ――!」
 ステージに飲まれる形でガクンと膝をつくカヴァーチャ。
 『善なる饂飩屋台』御子神・天狐(p3p009798)はそのチャンスを逃すまいと、『リヤカーうどん屋台『麺狐亭』』のスピードをマックスにあげた。
「『うどん・ザ・スリルクラッシュ ~えびの天ぷらをそえて~!』」
 たぶん今考えたであろう必殺技を叫びながらぶちあてた屋台は姿勢の崩れたカヴァーチャを吹き飛ばすに充分であった。
「数の暴力に数の暴力をブチ当てる、ん-豪快で良きかな良きかな!
 で、天啓! 次はどうすればよい!?」
 空を見上げる天狐。うっすら浮かんだインド人っぽい人が手を合わせて言った。
『カレーうどんのスープは、カレーのブロックルーと粉末鰹出汁をまぜるだけで作れます』
「便利!!!!」
「後は任せよ」
 『慈鬼』白妙姫(p3p009627)はぺろりと舌なめずりをすると、吹き飛んだあとのカヴァーチャめがけて美しい刀身をもつ『朧月夜』を抜刀。
「これまた長丁場になりそうじゃのう。どれ、直々にこのわしが一肌脱いでしんぜよう。
さぁやるぞ皆の衆! 突撃じゃあ!」
 舞いを踊るような優雅な、それでいて恐ろしく素早い動きで連撃を繰り出す白妙姫。
 咄嗟に立ち上がりハルバートによる防御を始めるカヴァーチャだが、『あらぶるりゅう』リリア=リザイア(p3p010432)が追撃をしかけた。
 追撃っていうか、赤い翼を羽ばたかせて上空からツッコミ繰り出す――
「りりあぱんち!」
 である。
 ただのパンチだったはずが、空圧のドラゴンロアがこもったパンチはカヴァーチャのヘルメットを見事にへこませ、ツノをへし折る。
「なんか大変なことになりましたね!
 夜は涼しいから好きですけどやっぱり明るい朝も好きです! だからずっと夜は嫌なのです!
 と言う訳で常夜は終わらせてもらいますね!」
 再び空に舞い上がり攻撃の構えをとるリリア。
「死亡上等で無双突撃。わたしが好きな言葉です。それを間近で見ていたい。わたしが回復する理由です」
 『特異運命座標』岩倉・鈴音(p3p006119)は多分言いたかっただけのことを言ってから、眼帯をした目へと絵を翳す。
 キラッと光る魔力の光が周囲へと散り、治癒の力となって広がっていく。
 いつでも自分も攻撃に参加できるようにと、肩にのった黒猫に警戒させているが……どうやら治癒だけに集中してよさそうだ。
 なぜなら、『こそどろ』エマ(p3p000257)とエミリー ヴァージニア(p3p010622)がカヴァーチャへと襲いかかったがためである。
「夜そのものは大事ですが、ずっと明けないってのも考え物ですからね。
 そろそろ夜明けの時間ですよ……っと。頑張りましょう!」
 手にしたナイフを繰り出し、凄まじい勢いで駆け抜けるエマ。かと思えば凄まじい角度でターンして再び斬り付け、それを幾度か繰り返したかと思うといつの間にか(スリ入れる要領で)鎧のスキマに刺さっていたナイフが次々に爆発。
 エミリーはその炎の中へとツッコミ、『エーデルシュタインインペリアル』を展開。
 カヴァーチャはルバートの背についたピックではらうように突き刺すが、脇腹にピックが刺さったことによる出血はエミリーを勢いづけるに過ぎなかった。
「これが決戦というものか。この世界に来たばかりの私にはこの戦場のわかりやすさはありがたい」
 吹き上がった血が次々に結晶化し、それら全てが球形魔方陣を展開。変形。円形魔方陣を無数に作り出すと、一斉に紅蓮の火炎魔術『クリムゾンインフェルノ』を発射した。
「これでこそ、生。さぁ、この開幕が良い詩になるように存分に歌おうでではないか!」
 敵ネームドを更に倒したところで、『洪水の蛇』成龍(p3p009884)は勢いよく敵陣へと浸透。己の妖術を練り上げると、すぐ近くにあった井戸からドゥッと水流が吹き上がった。
「人手が欲しいと聞いて馳せ参じましたぞ!
 ええ、ええ。どうぞ拙者をお好きにお使いください!」
 水流は水竜へと変じ、眼前の人型呪霊の群れへと食らいつく。
「この世界でもやれることは多い様子。なるほど面白くなって参りました!」
「星空の綺麗な夜は、好きです、し、
 奪われた国を、取り戻したい気持ちも、理解はできます。
 けれど、それが誰かを虐げる為の世界なら、
 わたしは、抗い、ます。…夜の王の望むようには、させません」
 『ひつじぱわー』メイメイ・ルー(p3p004460)は祈るように手を合わせると、ふわふわの力を解き放った。
「ちょっと早い、ファントムナイト、のようです、ね。とても狂暴、ですが……」
 メイメイのふわふわフィールドは、闇の手によって拘束された仲間達を自由にし、彼らにのしかかった様々な呪いをも祓っていく。
 彼女が……いや、彼女たちがいなければ、遠からず部隊は瓦解していたことだろう。
 なぜなら、遠くよりゆらゆらと巨大なガス灯ポールの列が歩いてきたからだ。
「あれは……?」
「『わざわいランタン』……にしては形状が……」
 『聖なるかな?』アザー・T・S・ドリフト(p3p008499)が警戒するように頭部のぴかぴかを光らせる。
 と、ガス灯が綺麗に整列し、一斉に魔術砲撃を仕掛けてきた。炎を飛ばすなどというレベルではない。光線と呼ぶに相応しい砲撃だ。
「皆さん回復範囲内に!」
 ドリフトは光を強めサンクチュアリを形成。ざくざくと貫いては仲間達に降り注ぐ光線のダメージをなんとか治癒で押さえ込みはじめる。
「目まぐるしいですね本当に。目が覚めたら今度は自称王様ですか。…王政復古かクーデターか。諦めて頂きましょう」
 綾辻・愛奈(p3p010320)はぱっと髪を払うと周囲不思議なアストラル体が浮かび上がった。翳した手に伴って放たれたアストラル体がサンクチュアリの内側に張り付き治癒のフィールドを強化。光線によるダメージに対して更なる抵抗を始めた。
「過去の名将も言いました。戦いは数です。皆で戦って、皆で勝つのです」
 いっぽうで『ゴールデンラバール』矢都花 リリー(p3p006541)はバールを振りかざし、ガス灯の列めがけて投げまくる。
「あの魔種といいこいつらといい、夜中に騒ぎすぎっしょ…
 アタマ珍走かってんだよねぇ…
 「夜の王」とか許されるのは中2までっしょ……
 そんなのがあたいの健康で福祉的な眠活(睡眠生活)を乱すとか完っ全ギルティなんだよねぇ…
 朝が来るまでボコり回しの刑だよぉ…」
 ガラスのカバーをばりばりと貫いてバールが刺さり、ポールはそのたびに倒れていく。
「防御力は低いのかな? だったら――」
 『月下の華月』月季(p3p010632)は翼を大きく広げてバランスをとると、倒れた『からっぽ鎧』の残骸を踏み台にして跳躍光線の隙を突いてムーンサルトキックを叩き込んだ。
「っし! まーこれも一つの経験にゃなるでしょーよ。
 つかまー……やべー奴をのさばらせとくのもやっぱ悪いし、ね?」
 ばりんとカバーを破壊し、内部でゆらめく炎が消える。
 『ちびっ子鬼門守』鬼ヶ城 金剛(p3p008733)はここは耐え時だとばかりに前に出ると、更なる光線の集中砲火をガード姿勢で受け止めた。
「深緑の一大決戦……大規模戦闘は何度やっても慣れないよぅ!
 それでも、一人でも多く救うためにここで敵を沢山倒さないと……!」
 仲間のヒーラーによるサンクチュアリ効果も相まって、金剛はなんとかダメージと治癒でバランスをとれているようだ。
 が、一度にはいるダメージ量が許容量(HP)を越えなければの話である。
「ホッホッホ、よくぞ耐えたのう人間たちよ」
 ばさりと布が空の上に翻り、マントのように何かを覆った形をとると中から枯れ木のような手が一本伸びた。手にはランタンがさがっているが、『わざわいランタン』のそれとは比べものにならない黄金の輝きが灯っている。
「ワシはバニパルというものじゃ。名は覚えなくてもよいぞ。皆、常夜の中に眠り墜ちるがよい」
 ゆーらゆーらとランタンをゆらすと、それに伴ったようにガス灯たちが一斉に砲撃をしかけてくる。
 『雨に舞う』秋霖・水愛(p3p010393)は対抗して水のドラゴンロアを唱えると、薄い水面のような魔術障壁が展開。
 手にした本が開き、風にぱらぱらとページがめくられていった。
「だいじょーぶだいじょーぶ、みんな回復してあげるね。がんばろー!」
 そう言いながら『水を凍らせる魔法はー』とページを見つめ、ピッと指でとめた。
「あった! フロストチェイン!」
 水愛が氷の鎖を発射すると同時に、『鮮血の薔薇姫レベル29』トルテ・ブルトローゼ(p3p009759)が飛び出しビッと指を突きつけた。
「中身の無い鎧やカタチの無い呪霊を従えて『王』などとは笑わせる。
 撃ち倒された王国の再建などと往生際の悪いことだ。もう一度闇の中で眠っていてもらおうか」
 トルテは空中に真っ赤な魔方陣を展開させると、血色の氷塊を召喚した。
「守りに優れていようが呪いで内側から蝕まれるのには耐えられまい。薔薇の結界の中で朽ち果てるがいい!」
 放った氷塊がバニパルに激突。薔薇の花びらとなって砕け散り、極寒の結界を形成した。
「冠位魔種に古代の大精霊……相変わらず世界の危機に事欠かないのです
 ともあれ、この数は稼ぎ時なのです。さぁ、いくらでも掛かって来るのです!」
 『鋼鉄の冒険者』ココア・テッジ(p3p008442)は手にしたライフルのレバーを操作すると、バニパルへと狙いを定める。
「……あ、いややっぱりココアが捌き切れる程度に掛かって来てほしいのです!」
 言いながらも発砲。カチカチッと時計の針めいた音がしたかと思うとライフルはとてつもないスピードでスラッグ弾頭をまさかの連射。着弾した弾頭からは黒い球状の小さな弾丸が飛び散りガス灯たちを次々に割っていく。
 『幽世歩き』瑞鬼(p3p008720)がやれやれと言った様子でキセルをくわえる。
 すると湧き上がった煙が魔力をもった盾となり、仲間たちの防壁へと変わる。
「意思のある子の背中を押す、足りない力をつけ足してやる。それをするのが年長者の役目。
 ほれ、存分に戦うがよい。後ろにはわしがいる。お前たちの背を支え続けてやろうぞ」
 そうしてできあがった煙の盾の後ろに隠れながら、『フレジェ』襲・九郎(p3p010307)はピンク色のライフルだけを上から出して乱射した。
「チッ、あたらねえ」
「あれは……手にしたガス灯を割れば勝ちか? 容易そうで、案外困難と見えるぞ」
「だろうな。人間だって脳味噌ぶちまければ死ぬが、それができねえから知恵だの武器だのが要る」
 ライフルをリロードし、ピンク色をした『いちごあじ』て書いてある煙草(?)をくわえる九郎。
「ヤツはガス灯を操ってる。全部打っ潰す必要はねえが、とにかく邪魔だ。一点突破でぶっ壊すから、行けるヤツはブッコめ!」
 そう叫ぶと立ち上がり、ガス灯めがけて的確にライフルを撃ちまくった。
「妖精以外の戦力を用意してくるとは、伊達に王を名乗ってないっすね。
 守る必要ねぇっすから全力で破壊するのみっす。
 自分の思い通りになる傀儡しか部下にできねぇ奴に王の器はねぇっす!」
 『鬼ごろし殺し』桐野 浩美(p3p001062)はそのタイミングに飛び出すと広げた手を突き出すように構えた。
 赤い陰陽陣が空中に生まれ、大量の蝙蝠が放たれる。蝙蝠たちはガス灯にぶつかるや否や次々に爆発。
 『輝きを目指して』ダリル(p3p009658)も(人間形態で)立ち上がり、堕天の魔方陣を作り出した。
「ワーハッハ!誰が呼んだかダリル様の降臨じゃ!
 さって、数が多数あり!であれば我が最適ぞ!」
 魔方陣から大量に放たれた赤黒い光線がガス灯たちをばりばりに破壊していく。
 一部のガス灯が闇雲に突っ込んでくるが、サッと翳した手にインパクトの魔法を込めた。
「小・ザ・インパクト!」
「小・ザ・インパクト?」
「小・ザ・インパクト!?」
 自分で言っておきながら隣で聞き返してきた浩美に二度見した。
 接触、着弾、小さく細く鋭く形成された魔方陣がガス灯を射貫く。
「い、いまのは間違い! 間違いじゃ!」
「しかし道は開きました。今です!」
 ライル・エレニア・クリフォード(p3p010303)は剣をとり、バニパルめがけて突進した。
「陽は、必ず昇る、
 それがどんなに深く、暗い闇の夜だったとしても。
 開闢の時から定められ、繰り返された理です。
 夜の眷属よ、知れ。
 例え、呪いが空を闇に染め、閉ざしたとして。
 人が抱く心の光までは、決して閉ざすことは出来ないのだと!」
 魔法の鎧によって加速。距離を一気に詰めたライルは大上段からバニパルへと剣を振り下ろした。
 いや、彼だけではない。
 『影を歩くもの』ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)がまるで踊るようにガス灯の砲撃を軽々とかわしながら距離を詰め、バニパルへと手を伸ばした。
「夜、ですか。影の使徒であるワタクシにとっては心地良いく…朝焼けをこそ忌むワタクシではございますが……。
 夜とは、傷ついた者や疲弊した者を優しく抱きとめる拠り所であり、隣人
決して明けぬ闇を押し付ける暴君ではございません
 光の者をすら呑み込む常世など欺瞞。此度ばかりは忌むべき朝を呼ぶ手伝いを致しましょう」
 絡みつく手から影がのび、バニパルへと這い上がる。
「近づいたからとてワシを落とせるなどと?」
 ランタンを翳すバニパル。
 が、『刑天(シンティエン)』雨紅(p3p008287)と『自分を失った精霊種』ナナ(p3p009497)がそれぞれ左右から襲いかかっていたことには気づけなかったようだ。
「静かな夜も好きなのですが…この常夜は寂しく、冷酷過ぎましょう。
 これは、王一人の為だけの夜なのですね」
 悲しげに呟き、繰り出される槍がランタンを持つ手を払う。
「私達の日常を、奪わせはしません」
 と同時に、エメラルドグリーンの光を纏った杖を両手剣のように握って振り上げていたナナがランタンへそれを撃ち込んだ。
「あははっ! 面白そうな敵を相手しているじゃない! どんな敵が来ても、ナナが全力で壊してあげる!」
 見事にランタンへ命中した杖はそのカバーを破壊。迫ったライルたちの剣が走り、バニパルは切り裂かれ消滅してしまった。周囲のガス灯たちもまとめて力を失い倒壊していく。
「あははっ!
 見てみてみて! 敵がこぉんなに沢山!
 夜の眷属だか、なんだか知らないけど!」
 空に昇っていく魂。きっと呪物に捕らわれていた魂たちだろう。
「あぁ…貴方達は愛を知らずに行きているのですね。
 あの夜の王は愛を教えて居なかったようで…。
 色んなモノが集まっているというのに勿体ない…。
 異種族恋愛も素敵ですよ…えぇ…。
 そんな貴方達に私が愛を教えましょう、全力の拳で!」
 『お前も愛を知らせてやろうか!』ナズナサス(p3p001053)は超す微を握りしめると、なんとかこちらを追い返そうと砲撃するわざわいランタンへとつっこみ、パンチ一発で破壊する。
「あぁでも全て終わったら、敵同士のカップリング作りたいですね…」
 一方『特異運命座標』イチゴ(p3p010687)は深呼吸して自分になにかを言いきかせていた。
「コレは竜種じゃない
 コレは新たな種族じゃない
 コレに心はないから、遠慮なくぶっ飛ばしても大丈夫…!!
 はい、イチゴ頑張らせて頂きます!」
 気合いが入ったのか覚悟がきまったのか、マギシュートをランタンめがけ次々と発射。
 交差する砲撃が無数の爆発を生む。
「呪物や邪霊の軍隊かぁ。なんだか実感の沸かない戦場だけど、助っ人として来たからには全力で戦うよ!」
 『助っ人部員』相川 操(p3p008880)はその名の通りと言うべきか、助っ人戦士として敵陣へと突進。
 カラテのフォームでランタンを次々に割っていく。
「あたしはあくまで助っ人。今日は全力で楽しむよ!」
「子供達がこんなに頑張っている。勿論、お母さんも頑張るものでしょう?」
 『紲一族のお母さん』紲 蝋梅(p3p010457)はメガヒールの魔術詠唱を行うと、汗だくで疲労した操に体力回復の魔法をかけてやる。
「大丈夫。お母さんがついているから。貴方は貴方のやりたい事を全力で叶えてきてね?」
 紲家のお母さんというよりみんなのお母さんとなりつつある蝋梅。
 対抗するように、呪物たちの中をかき分け下半身のない女性型の呪霊が姿を現した。
「トンプィユ、見参。ずいぶんヤンチャしてくれたみたいやなあ?」
 呪霊のトンプィユは絵に描いた幽霊のように細く伸びた腰から下のアストラル体をゆらすと、周囲の呪霊たちを変身させてふたつの刀にすると両手に握った。
「相手したる。かかってきいや」
「ならば、ここは私が」
 『氷月玲瓏』久住・舞花(p3p005056)も剣を抜き、前へ出る。
「夜の王……大昔の支配者である大精霊、ね。
 それが今になって出てきて、やる事が自らの王国の再建とは……。
 全く、精霊や妖精達の大半よりも余程人間らしい。
 まあ、そういう存在であるなら臥薪嘗胆の念も解ろうというものだけれど……」
「まあそう言わんと、建国を祝福したってや? お祝いの品も歓迎しとるで?」
 などといいながら突風のような強引さで連撃を繰り出してくるトンプィユ。
 対する舞花も見事なもので、剣によってそれらを次々に払いのけていく。
「――銀閃『神威』」
 鋭い一撃がトンプィユに迫る。かに見えた一方。
 背後に回った『おしゃべりしよう』彷徨 みける(p3p010041)が両手剣でもって思い切りトンプィユを払った。
 二人の攻撃をくらって吹き飛ぶトンプィユ。
「夜の眷属…妖精さん達や幻想種さん達に悪い事するなら許さない!
 妖精さん達や幻想種さん達も心配だけど。
 私は不殺ありスキル持ってないから救出はお願いねー!
 その分眷属退治を頑張るよ!」
 次は誰!? とかまえるみけるだが、トンプィユはゆらりと起き上がる。
「あーいたた、手加減してやー」
「攻撃が効いていない?」
 『最果てに至る邪眼』刻見 雲雀(p3p010272)が警戒するように距離をとりつつ、『そんな筈はない』と思いなした。二人の攻撃は確かに入った。特に舞花はし損じるような実力ではないはずだ。
 ならば追撃あるのみ。
「夜も更け切ったとなれば後は朝がくるだけ。
 終わらない夜はあってはならない……君たち夜の眷属にはお帰り頂こうか」
 雲雀は『フェアリーズゲイム』の魔術を展開。トンプィユへと解き放つ。
 更に『名無しの暴食』エリカ・フェレライ(p3p010645)も影から三つ首の犬を呼び出すとトンプィユへ襲いかからせた。
「成程成程…今回は入れ食い食べ放題ということですか、わかります。
 正直、エリカは夜の王が何を思ってこのような暴挙を行ったかは微塵も興味ねーのです。
 エリカにとって重要なのはこいつらが「食べてもいい」奴等かどうか」
 トンプィユを穴だらけにし、両腕を食いちぎる。
 が、それでもトンプィユは倒れることなく、呪霊を変身させた薙刀をキャッチした。身体は元に戻っている。
「モテモテやなぁ。次は何がくるん?」
「…………」
 『今は未だ秘めた想い』ハリエット(p3p009025)は更なる攻撃をしかけよう……として、目を細める。
「明けない夜はない、なんて。召喚されるまで思ったことなかったよ。
 その日を生き抜くこと以外、考える余裕はなかったから。けれど……」
 暖かな木漏れ日。を優しい光を、思い出す。
「この夜を越えて、皆に朝日を。そして、あるべき場所へ帰るために。
 この国の人の居場所を取り戻すために、がんばろう」
 ハリエットは想いを込めてライフルの狙いを付け、そして討ちまくった。
 見事にトンプィユの額や胸を撃ち抜くライフル。
 先ほどのように再生が始まるかと思いきや――。
「三度目はないでぇ」
 『奇剣』雷霧(p3p010562)の剣『扱』がずぶりと腹に刺さった。
「色々見た目でごまかしとるみたいやけど。ジブンのそれはただのEXF復帰と攻撃無効化の合わせ技や。なら、敗れるで」
 雷霧は刀をもういっぽん抜くと、それを思い切りトンプィユに叩きつける。咄嗟に防御のため翳した薙刀にぶつかりへし折れ、刀身がどこかへ飛んでいく――が、その動きこそ雷霧の狙いであった。
「ハリエットぉ!」
「ん」
 特殊弾を装填。発砲。その動作およそコンマ五秒。
 トンプィユに撃ち込まれた必殺弾が、彼女の霊体をパンッと水風船のごとく破裂させた。
「ったく、ツッコミ所だらけの敵やったなあ」
 そう言いながら周りを見回す雷霧。まだ呪物や呪霊たちは残っている。
 彼らを倒し、今度は救出部隊を邪魔されないように抑え込む仕事が残っている。
●君を退屈から救いに来た
 『闇の手』が全身へとからみつき、まるで操り人形のように動き出す深緑のハーモニアたち。『ハンドトラッカー』と通称される彼らは皆眠っているにもかかわらず、通常と同じかそれ以上の戦闘機動を見せる。
「深緑の皆を殺させる訳にはいかないよ、ティーデ君!」
「行くぜ生方のダンナ、前は任せたからしっかり働いてやんよ!」
 『黒狐はただ住まう』生方・創(p3p000068)と『身軽過ぎるデザイナー』ティーデ・ティル・オーステルハウス(p3p009692)は迎え撃つように構えると、互いの拳を出してコツンとやった。
「キツネの肉球って案外硬いんだぞ、おりゃー!」
 早速ハンドトラッカーの矢が次々と浴びせられる中を駆け抜けると、創は相手の腹に掌底を入れ、そのまま蹴り飛ばして気絶させた。
 厳密にはハンドトラッカーの外側。闇の手たちを払った状態である。
 そんな彼を押さえ込もうとハーモニアの少女たちが両サイドから腕にしがみつくが……。
「連中を抑えるのは任せたぜダンナ、その代わりに敵をどうこうするのはこっちに任せな!」
 ティーデは鳥の羽を加工して作ったという軽いナイフに魔術を通すと、それを少女達めがけて次々に投げていく。
 サクサクッと小気味よい音をたて、しかし酷い怪我をすることなくその場に倒れていく。
「君たちは僕たちが助けよう」
「はい、師匠!」
 『チャンスを活かして』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)と『レディ・ガーネット』海紅玉 彼方(p3p008804)がそんな彼らを飛び越えるようにして弓兵ハンドトラッカーたちへ距離をつめると、全く同じフォームで構えた剣を繰り出した。
 貴族騎士流抜刀術『翠刃・逢魔』。込めた力の違いか射程距離こそ異なるものの、二人の剣はハンドトラッカーにまとわりついた闇の手だけを切り裂いていく。斬撃自体が肉体を通り過ぎたにもかかわらず、だ。
「皆様、ここは私が引き受けます」
「総員、まずは僕らが弱らせた敵を優先的に倒してくれ! 数が減りさえすれば、それだけでも十分有利だ!」
「手伝うわ。人手がいるでしょう?」
 そこへ加わったのは『禁忌の双盾』阿瀬比 瑠璃(p3p009038)と『禁忌の双盾』阿瀬比 彗星(p3p009037)のコンビだった。
 瑠璃が魔術障壁を展開して仲間達を庇える位置に入ると、周囲から放たれる無数の魔術砲撃に防御した。
 直接剣で斬りかかるハンドトラッカーたちには彗星が挑発を仕掛けることで引きつけを行うという鉄壁のコンビネーションだ。
「さて此処では、月人が操られているそうね?
 そして味方が不殺で助けようとしている
 けれど手加減してしまう分、きっと早く倒せない人も多いでしょう」
「豊穣では居なかった妖精は味方に任せて、僕達は月人を助ける人達を助けるってことだね、瑠璃」
 そういうこと、と頷きあう二人。
「……私の一番大切な人、決して私の前で倒させないわ」
「それは僕だって同じだよ、瑠璃。僕も君も、絶対に倒れずに行こう」
 そこへ更に『優しい絵画』ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)と『悲劇愛好家』クロサイト=F=キャラハン(p3p004306)が加わり、ハンドトラッカーたちへの攻撃を開始する。
「私の妻が操られていた様に、こんなにも多くの人々が操られてしまうとは……許すべき事ではありません」
「いつだって煽りを喰らうのは弱い立場の人間だな。行くぜ、クロサイト。アンタの家族を助けに行こうじゃねぇか」
 そうですね、とクロサイトは頷き、自らの周囲にパープルカラーの魔術煙を展開する。ベルナルドが手に取った絵筆を空中に走らせると魔術煙に色が重なり、虹色の煙が輝きを放って広がっていく。
 周囲のハンドトラッカーたちは煙を吸い込み、くらりとその場に崩れ落ちる。非殺傷性の魔術だ。
「こんなときですが、聞いておきたいことがあります」
「なんだ」
 背中を合わせ、増援を寄越してこちらを包囲するハンドトラッカーたちに構える二人。
「ところで、ベルナルドさんはいつアネモネさんと結婚するのですか?」
「おい」
 本当に今聞くことか? と苦笑するベルナルド。
 二人に魔術や矢が次々に降り注ぐ――かに見えたその時。
 駆け抜けたグリーンの光が彼らを次々に気絶させていく。
 『いつか貴方に届く弾丸』ミズキ・フリージア(p3p008540)が凄まじいピードでハンドトラッカーの間を駆け抜け、片っ端から『峰打ち』していったのだ。
 がくりと脱力した少女が頭をぶつけないように支えると、仲間たちへと振り返る。
「大丈夫! 今、安全な場所へ運んであげますから!」
 抱えた少女を運んでいくミズキだが、剣を装備したハンドトラッカーたちが追いかける。『死神小鬼』アヤメ・フリージア(p3p008574)はそんな彼らに割って入り、大鎌を振りかざした。
「無理矢理、眠らせる上に操るなんて、なんて酷い…!
 絶対、絶対、全員助けるんです…!」
 反撃――ではない。自らとミズキを効果範囲内に収めて治癒魔法を連打し、仲間が駆けつける時間を稼ぐという戦法である。
「気絶した人達を安全な場所に運びます。援護を!」
「そういうことなら、手伝いましょう」
 『朗らかな狂犬』イサベル・セペダ(p3p007374)は追いすがるハンドトラッカーめがけて思い切り殴りかかった。というより、側頭部に拳を叩きつけて無理矢理気絶させた。
 血のついた拳を翳してニッコリ笑い、振り返る。
「正直興味はないのです。森が夜のままであったとして、何に困るでしょうか。ですが……他者から押しつけられた夢というのが、どうも好きにはなれませんね」
「それはいいんだけど……よくそれで殺さずに倒せてるな。血が出てるぞ」
 『malstrøm』リュビア・イネスペラ(p3p010143)は不思議そうに眺めつつ、自分は刀身にぐるぐると布を巻き付けるとそれでもってハンドトラッカーの頭を殴りつける。
「ホントに、御伽噺みたいというか。まあ、流石にこんなのがこの国の外まで出てくるってなると大変な話になるよね」
 夜が明けないのはともかく、自分や周りの人達が眠ったまま知らないひとと戦わされる姿を想像するといやになる。
 リュビアは棍棒で殴りかかってくるハンドトラッカーの大男を殴り倒し、フウと息をついた。
 操られているのが非力な民間人あるいは非戦闘員だけであったならよかったが、流石に相手もそこまでザルではなかったらしい。
 ファルカウに詰めていた森林警備隊たちが完全武装のまま兵舎からぞろぞろと現れ、魔法の弓や精霊術のかかった剣を抜いて襲いかかってくる。
「眠らせて操って無理やり戦わせるとか悪趣味にも程があるデスね。
 盾代わりに使われでもしたらマジで厄介デスし、速攻で助けないとデスね」
 ハンドトラッカーの前衛部隊が突っ込んでくる中、『カードデュエラー』明星・砂織(p3p008848)はデッキケースから抜いたカードを空に放り投げる。魔法使いが空を吹き払うイラストとフレーバーテキストが書かれたそれは、実際に夜を払う光を周囲へと解き放つ。
 吹き飛ぶ前衛部隊。その上を無数の矢が飛んでくるが――。
「明けない夜がある様に例え夢に囚われようとも必ずたたき起こしてあげるのです!
 囚われた人達を助ける為にも…僕は「愛」と「癒し」の堕天使として皆を助けるのですよ!」
 アザレア・ラビエル(p3p010678)は対抗するように治癒の魔法を発動。
 着弾と同時に魔術爆発が連続しておこるなか、アザレアのカウンターヒールがダメージを押し返していく。
「今のうちにどうぞ!」
「助かる」
 ジン(p3p010382)は抜刀しながら敵前衛部隊をすり抜けると、その後ろの魔法弓兵隊へと斬りかかった。
「命を奪わず、力のみを斬る必要があるか。
 決して容易くはないが……任せてくれ。
 伊達で今日まで刀を振るい続けて来たわけではない」
 咄嗟に雷の魔法が籠もった矢が打ち付けられるが、ジンはそれを腕で受けて防御。無理矢理距離を詰めると『闇の手』だけを豪快に切り払った。
「やあ、遅れてしまってごめんね。あそこで操られているのは眠っている深緑の人かな」
 すると、援軍として駆けつけた『ifを願えば』古木・文(p3p001262)が治癒と防御で精霊剣士部隊の猛攻を耐えていたチームへと合流。
 万年筆のキャップを外すと、空中にさらさらと力あるサインを描いた。
「なかなかに嫌な手を使ってくれる。
 厄介なことになっているようだし勝手に加勢させてもらうよ。
 判断に迷っている間に犠牲者が増えかねない」
 文の付与効果(サイン)を受けて、左右を『拵え鋼』リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)と『春の約束』イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)が駆け抜けていく。
「イー君、リュ君、面倒は引き受ける。だから自分の心向くままに動いて欲しい」
「「ありがとう!」」
 リュカシスは自慢のカスタム装備『鉄鋼千軍万馬』をガションと稼働させると溢れる火花をそのままに精霊剣士にパンチを浴びせる。変形し巨大な拳の形となった武装は見事に精霊剣士を吹き飛ばし、イーハトーヴはキャンディのような宝石がついた指輪にそっと口づけをした。
 そこへ、シルクハットを被ったビスクドールとエプロンをつけたハーモニアが現れる。
「大丈夫。俺は平気だよ、オフィーリア。――メアリ、お願い!」
 力を得て走り出すメアリ。
 シルクハットのビスクドールとぶつかり合うと、互いの腕をがしりと掴んで力比べの状態へと入った。
「こんな場所で……こんな形で出会うことになるなんて」
「イーさん、助けよう」
「一緒にね」
 リュカシスと文が同時に語りかけ、イーハトーヴは優しい笑顔で頷いた。
「うん。この人達を、深緑の皆を助ける為に――立ち止まったりなんて絶対にするもんか!」
 ぶつかり合う力と力。
 そしてついに、リュカシスの放った拳が人形師のハーモニアを打ち倒したのだった。
「強き星の光よ、彼らに畏怖を」
 『星読み』セス・サーム(p3p010326)が小さく口を開くと、喉の奥にある発声装置が圧縮された星読みの呪文を再生。早回しにしすぎた音声さながらのキュインという甲高い音がしたかと思うとまばゆい光が周囲を覆った。
「ことが片付くまでもう少々お待ちください」
 光に目がくらみ、よろめくハンドトラッカーたち。一部はそれだけで膝をつくほどだが、『探す月影』ルナ・ファ・ディール(p3p009526)はそんな彼らめがけて突っ込むと、闇の手の支配から脱したハーモニアたちを馬車に乗せてターン。戦場を即座に離脱した。
「ラサの連中も深緑の同盟連中助けるため、同胞助けるため。お熱いこった。ま、俺も暇してんでな。手伝ってやるよ」
 後は頼んだぜと言って後ろを指さすと、魔法弓兵たちの追撃をさけながら加速した。
「お仲間を殺したくねぇってきばってんだろ? 無力化しただけでその辺に寝かしといたら、巻き添えくうぞ」
「そうですね。例え難しくても、一人でも多くの、同族の救出を優先しましょう。
 今は敵対しているあの方々を待っている誰かがいるのでしょう?」
 『ヒーラー見習い』レナート=アーテリス(p3p010281)は離脱するルナを助けるべく割り込みをかけると、治癒の魔法での支援を始めた。
「明けない夜など存在しないのです。
 彼らを帰るべき場所へ帰すことが私の願いです。
 もちろん今共にいる人も含めて」
 これまで経験したこともなかった故郷の危機。
 きっと深緑とラサの国力だけでは、この全てを乗り切ることはできなかったのだろう。
 自分達がいたからだ。自分達が、『あと一歩』を完成させた。きっと、レナート自身も含めて。
「夢檻に眠りの世界……なんとも恐ろしい状況になったものだな。
 聖職者としていつものように皆の無事を祈りたいところだが……」
 『謎めいた牧師』ナイジェル=シン(p3p003705)はそんなレナートを助けるべく書物を開くと、フッと皮肉げな表情でわらった。
「我が望みは一人でも多くの命が救われること。
 罪なき者たちの命を不当に奪ったかつての罪への償いとして、奪った以上の命を救うこと。
 それでも赦しは求めない。赦されてはならない。
 我が贖罪は結局のところ、ただの自己満足に過ぎないのだから……」
 書物に指をはわせて呟くナイジェル。内容を読み上げただけなのか、それとも自身の言葉なのか。確かなのは、空中に浮かび放たれた光が魔法弓兵たちを吹き飛ばし、気絶させたことだけだ。
「ケッ、なっさけねえ野郎どもだ。
 クソッタレに良いように操られたんじゃねえやバカヤロー。
 見てらんねえってんだ、こっちが恥ずかしくなってくらぁ!
 オラ、気合い入れてやっから、さっさと正気に戻りやがれってんだ!」
 『天邪鬼』神無月・明人(p3p010400)はそんな魔法弓兵たちへとつっこみ、翼を広げ滞空したエアリアルコンボで弓兵を叩きのめしてしまった。
 そして腰から下げたひょうたん型のボトルをひらくと、中身を飲み干した。
「一人一人は大した事ねえが、数だきゃあ多い、途中で倒れてちゃ世話ねえからな。休んでる場合でもねえだろうよ」
 その一方で、『救済の視座』リスェン・マチダ(p3p010493)は朽ちかけた魔法の杖を一振りして非殺傷性の魔法を発動。光でできた無数のナイフが飛び、周囲のハンドトラッカーたちへと突き刺さる。
「ファルカウの人たちを操ってまで国を作りたいなんて、わたしには理解できないです。王って、民に信頼されて民のために尽くして民を幸せにする。わたしの好きな冒険譚ではそうでした。だから『夜の王』のような侵略者をわたしは王と呼びません」
 痛いけど我慢して下さいね。そうつぶやき、リスェンは帽子の下で目を細めた。
「本当は妖精達も助けに行きたい。
 けれど今の私では、何をするにも手が足りない。
 ……いえ、違いますね。
 一緒に戦う皆さんを信頼し、私は私の役目を全うしましょう」
 操られた森林警備隊たちの鎮圧が済んだところで、残るハンドトラッカーたちを鎮圧すべく『人護知能』イースリー・ノース(p3p005030)たちは部隊を前へ進めていた。
「今お助けします!」
 残っているのは操られた非戦闘員ばかりだ。
「生憎と戦うのは得意じゃねぇオレだが……今回はおあつらえ向きな仕事があるみたいだな。ナニカを運ぶのは得意中の得意。運び屋サマに任せとけ」
 『運び屋』シエル・アントレポ(p3p009009)はそうして倒した非戦闘員のハーモニアを両脇に抱えると、あえて地を駆け現場を離脱していく。、
「戦う必要もなく何かを運べばいい。最っ高にオレ向きの戦場ってやつだ。
 身体を張って戦ってるやつらが大勢いるんだ。オレたちも身体を張って一人でも多く救ってやらねぇとな」
 追撃を阻み援護するのは『都市伝説“プリズム男”』アイザック(p3p009200)たちの役目だ。
「操って無理やり動かすなんて、ずいぶん「悪い子」だね。
 「悪い子」への報いは必要だけど、今回は救助が先。
 悪くもないのに報いを受けるというのは、僕“プリズム男”にとってはおかしいことだからね」
 アイザックはキューブ状の頭をくるくると回すと、プリズムカラーの光を周囲に乱反射させた。
 それを浴びるたびにがくりを膝をついていくハーモニアたち。
 この調子なら――と更に進もうとした彼らに、緑色の雷が走った。
 それもただの雷撃ではない。周囲が消し飛び、残った地面にも影の後が焼き付いてしまうほどの恐ろしい衝撃と光だ。
 イレギュラーズたちはなんとかその運命力で死を免れたものの、これ以上の戦闘は危険だと本能でわかる。
 更なる衝撃が走る――かに思われたところで、別の雷撃が炸裂した。
「あ、当たった……?」
 手をかざし、ぜーぜーと息をする『緑雷の魔女』アルメリア・イーグルトン(p3p006810)。
 これまで様々な魔種と戦い、自分の偽物(母そっくり)とも戦った彼女だが、本物の母が目の前にいるこのプレッシャーは凄まじいものだった。
 彼女の実力が、その底が、全く分からないのだ。
「アルメリアちゃあん」
 とろけるような声で囁くラウラ・イーグルトン。
 背を向けて逃げ出したい気持ちにかられるが、手の中のお守りをぎゅっと握りしめた。
 フランが『どうしても行かなきゃいけない所があるの!』と駆け出しぎわ手渡してきたお守りである。これまで横に並んで戦ってきた彼女の不在に心が急に細くなる気持ちだが……。
「前に進まないと。見せつけるのよ、お母さんに、これまでの――」
「そうだよアルちゃん! いっぱい、冒険したきたもんね!」
「その声は!?」
 振り返るアルメリア。
 両手をグーにして片足をぴょんと後ろに上げ、身体にしなを作ってウィンクする……『最期に映した男』キドー(p3p000244)がいた。
「助けに来たよアルちゃん(裏声)! ところで煙草持ってない?」
「うそでしょ?」
「みなまで言うな。俺もギリギリなんだよこれは」
 そう言うと、キドーはナイフを取り出しくるくると回した。
 ラウラが手をかざす。迸る閃光。
「――いくわよ!」
 本能で動いた二人は、『ミザリーボルト』の魔術と子鬼爆弾を同時に放ちながら両サイドへと飛んだ。
 ラウラは防御することなく魔方陣を展開、変形、結合、増幅、並列処理をしながら周囲一帯に極小の魔方陣を大量に自己増殖させ背景をライトグリーンの光で埋め尽くすと、そこから巨大な雷の竜を呼び出した。
「うそでしょ!?」
「くらえやフラン・バースト・ストリーム!」
 キドーはナイフを握りしめると竜めがけて飛びかかり、その隙にアルメリアは魔方陣を大量に作成。それを全て一点に集中し分厚い円盤のような形状にすると、それらをガチガチッとダイヤルように複雑に回転させた。
「見て、お母さん……これが私の――!」
 衝撃。
 どのような魔法がはしり、ぶつかったのか、記憶にも残っていない。
 覚えているのは、まばゆい光の中で『これが成長……いいわねぇ』とうっとり呟く母の声だった。
●妖精の羽はなんのため
「善き者を利用し、悪行に勝手に加担させるなど言語道断!
 我々が何としても解放してあげなければならないのです!」
 金色の瞳に怒りをたたえ、『善行の囚人』イロン=マ=イデン(p3p008964)は聖なる光を両手に宿した。
 ちいさなちいさな魔法の剣をたずさえた妖精達が、眠ったまま襲いかかってくる。
 彼女たちを操っているのは間違いなく『闇の手』だ。
 剣を光る手のひらで払い、掌底の動きで放った衝撃で妖精から闇の手だけをそぎ落とす。
「そんな…! あんなに可愛らしい妖精さんが
 女王様を失った上に、無理やり眠らされて操られているなんて!
 これは絶対に許せません…!
 私は私の出来る事をして、救い出してみせましょう!」
 『愛しき影と共に』カスミ・スリーシックス(p3p008029)は前に出て妖精達を挑発すると、盾で無数の魔法を受け止めながらシールドバッシュを繰り出していく。
「味方の為に、貴方達の為に、最後の最後まで耐えきってみせます!」
 その衝撃によって押し出された妖精が回り込もうとするも、『黒鉄守護』オウェード=ランドマスター(p3p009184)がその防御力をもって立ち塞がる。
「基本的な戦い方はアドラステイアの時と変わらぬ…つまり得意手じゃな…ガハハハ!」
 彼もまた防御を活かしたタックルで妖精をつきとばす。
「ワシは友人メープル殿の代理じゃ! この一撃で目覚めるがいい!」
 隙ができれば落とすタイミングが廻ってくる。
 『月香るウィスタリア』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)は妖艶に笑うと手首にフッと息を吹きかけた。
「あの子たちを助けるために…力を貸して、アタシの可愛いお隣さんたち」
 物悲しい香りが広がり、妖精達へ畏怖の気持ちをわき上がらせる。
 がくりと脱力し、支配を脱する妖精達。その一人はジルーシャと共に戦ってくれた妖精槍兵だった。
 『じょうおうさま』と呟く彼女たちを見下ろし、ジルーシャは唇を噛んだ。
「っ、やってくれるわね…!
 何の罪もない人たちが操られているのも辛いけれど…やっぱり、一緒に戦った子たちのこんな姿を見るのは本当にキツいわ…」
「みんなで頑張って女王様に褒めてもらうって約束したのよ。
 例え今女王様がいないとしても、一人たりとも欠けさせないわ」
 夜に墜ちた世界の中で、小さな太陽を呼び寄せる『木漏れ日の優しさ』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)。
 対抗して襲いかかる妖精たちは、あのとき『大好きよ!』とオデットに賛同してくれた仲間の妖精兵だった。
「みんなで絶対木漏れ日の下でお昼寝するんだから! そうでしょ、サイズ!」
 太陽の光を次々に乱射するオデット。加えて、『初めてのネコ探し』曉・銘恵(p3p010376)が神気閃光を発射した。
「妖精さん達…前回、一緒に戦ったから感謝してる。
 捕まって操られてるの…つらい、よね。
 しゃおみー、頑張って助けるよ…!」
 『よろしくぅー!』と陽気に笑って親指を立ててくれた妖精達。彼らはいま、目の前で銘恵に弓を向けている。望んでいないはずだ、こんなこと。
「絶対助ける! 綺麗な光…お願い、妖精さん達を生かして倒して…!」
 おねがいと両手をあわせると、銘恵から放たれた光が闇の手だけを溶かしていった。
 『いのちをだいじに』観月 四音(p3p008415)は指鉄砲のフォームで妖精の突進を迎撃すると、仲間達へ治癒の魔法を展開させた。
「あの人達は、本当に、皆の為に全力で奮闘してくださっていた凄い人達なんです。
 絶対にあのままにしておく訳にはいきません。
 皆さん、力を貸してください!」
「そのつもりだよ!」
「友達だからね!」
 女王と共に森へと出てきた妖精兵たち。彼らは既に妖精郷へ帰る手段を失っていた。
 それを覚悟して、四音たちを助けにやってきたのだ。
「皆で帰って、大団円にならなきゃ気が済みませんよ!」
「承知。であれば可能な限り奮戦するとしよう」
「行こう、咲良、バク。彼らにこれ以上の悲劇は必要ない」
 『未だ遅くない英雄譚』バク=エルナンデス(p3p009253)と『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)が前へ出ると、エーレンは抜刀。バクは魔法の力を解放する。ファイティングポーズをとった『正義の味方』皿倉 咲良(p3p009816)は、かつて共に戦ってくれた妖精たちがこちらに魔法の弓を構えるさまに唇を噛んだ。
「ホントに悪趣味だよね。
 夢に閉じ込められてたから言えるけど、覚めない夢も、開けない夜もないからさ。
 絶対に助ける。だから今は……」
 咲良は構えた拳を手刀にかえると、妖精達へと突進。魔法を身体でうけながら、最前列の妖精をたたき落とし流れる動きで周りの妖精たちに手刀を浴びせた。
「ごめん、もう少しだけ寝てて!」
「殺しはしない。斬るのは、その闇の手だけだ」
 エーレンは刀を素早く振るうと妖精に当てることなく闇の手だけを見事なまでの剣さばきで切り落としていく。
「鳴神抜刀流、霧江詠蓮だ。少々荒療治になるが、必ず助け出す。許せよ!」
「残りは儂が」
 破硝結界を展開したバクが仲間達へ浴びせられる魔法を防御。
 すべて受けきると、結界を直接叩きつける形で妖精たちを昏倒させた。
「誰一人、犠牲など出させはせぬよ。
 部隊の皆、今一度力を貸しておくれ……わしらの手で、同胞達を救い出す。女王の為、仲間の為。戦い抜くのじゃ!」
 『女王のおねがい』フロル・フロール(p3p010209)は残る妖精兵たちを引き連れ、操られた妖精達へと立ち向かった。
 虹色の光を剣のように握ると、眼前の妖精達をひと薙ぎにする。
 統率された妖精兵たちが非殺傷性の魔法をこめた矢を一斉に放ち、操られた妖精たちは次々に墜落していった。
 その様子に安堵しつつも、周囲をきょろきょろとうかがう。
「やはり、か」
 この場所までくればあるいはとは思ったが……『女王の気配』はない。
 なくなって初めて気付いた。あの温かくて、安らぐような、春の木漏れ日のような気配。
 妖精全体から『女王の力』が完全に失われてしまったのだと、心から実感できた。それは同時に、妖精郷への帰還が完全に不可能となったことを意味している。
「それでも守ろうとしたのじゃろう? だったら……まもるよ。この世界を。ひとを」
 自分達は女王に未来を託されたのだから。
●『夜の王』
 王城、と呼ぶにそれは相応しかった。
 闇の手を大量に纏わせた巨大な鎧が二体。黒く不吉なマントを羽織り、兜の奥にはらんらんと災いの炎が揺れている。湧き上がる力は、無数の魂を閉じ込め凝縮させた呪霊のものだろう。
「よくぞたどり着いた。と、まずは褒めてやろう」
 二人の巨鎧のさらに奥。石の玉座に腰掛けた『夜の王』が、なんともけだるげにこちらを見ている。しかし鎧の奥かららんらんと光る赤い目が、激しいプレッシャーとなって場の全員の身体にビリビリとしたものをはしらせる。
 が、『特異運命座標』スザンナ・ウィンストン(p3p010592)はあえて胸を張った。
「ふふん♪ この危機的状況、寧ろチャンスだと思わない?
ここであの『夜の王』なる大悪を打ち倒して見せれば、ウィンストン家の名声は幻想国内にとどまらず混沌全土に拡がるはず。
 そんな華々しい活躍こそ、わたくしに相応しいわ。
 ねぇ、板谷もそう思うでしょう?」
「おいおい、お嬢様のポンコツ具合にも困ったもんだねぇ。
そんな簡単に倒せる相手なわけないだろうに……やれるだけはやるが、最悪の場合はお嬢様を見捨てて撤退するのも視野に入れるか」
 どうか『夜の王』が俺らみたいな小物を優先的に狙うような事態になりませんようにと心の中で祈った『最低にして最悪の使用人』板谷 辰太郎(p3p010606)が剣を抜いて走り出す。スザンナはその後ろから全力の魔法を解き放った。
「何度でも奴が倒れるまで撃ち続けるわよ!」
「作戦が根性論すぎやしませんか」
 対する『夜の王』は玉座に腰掛けたまま、ついっと手をあげた。
「名前をまだつけてはいなかった、な。かまわぬ、か。『ガーディアン』」
 行け、と命令を出すと二体の巨大な鎧『ガーディアン』が辰太郎の剣を巨大な盾で受け止めた。魔法が次々とガーディアンにぶつかる。
「か、かてえ」
 そこへ、『死と共に歩く者』辰巳・紫苑(p3p000764)の放つ魔法が突き刺さる。
 更に『イエスマスター』リンドウ(p3p002222)の構えた拳銃が着弾し、ガーディアンは大きく傾いた。チャンスとばかりに攻撃を畳みかけるスザンナたち。
「味方も敵も色んな感情を乗せて、合唱しているわねぇ」
「この状況、心がある人はきっと悲惨だというのでしょう。しかし、人形は何も思いません。ところで……」
 何を考えているのですかと尋ねるリンドウに、紫苑は首を振る。
「いえ、何となく……『あれが死んだら、お腹いっぱいになるのかしら』と思って」
 リンドウは言葉をかえさない。黙ったまま、あるいは浮かべた言葉を飲み込んだまま。
「全てはマスター、貴方の為に」
 もう一体のガーディアンもまた戦いを始めていた。
 彼らが邪魔になるとわかって、『大空を翔る』藤宮 美空(p3p010401)たちが戦いを挑んだためである。
「古代の大精霊、彼にも思う所があるのかもしれません――。
 しかし、特異運命座標としてこの様な暴挙を許す訳にも行きません!
 此処で禍根を断たせて貰いましょうっ」
 空を飛び、魔術を連射する美空。
「ザコがワラワラ湧いてっけどこういう時はボスを潰すのがセオリーってやつだろ。
 テメェが一人で眠ってやがれ。その鎧をブチ抜いて地獄に叩き返してやるよッ!」
 『特式空戦機巧少女・甲型』ルビィ・コランダム(p3p009743)はそれを払い落とそうと剣を振るうガーディアンの足元を高速で走り、装甲をがりがりと削り取っていく。
 ぎろりと見下ろしたガーディアンが魔術を発動させ爆発を起こすが、割り込んだ『亜竜祓い』レオナ(p3p010430)が大きな盾でそれを受け止めた。
「ふむ、強者が相手であるならば挑まないという事はない。
 王が弱っていようと未だ私より強者なのは確か。
 であればいざ尋常に勝負!」
 レオナは直接切り結ぶことはせず、地面に剣をどんと突き立てると石の床をどろりと溶かす魔法を行使した。
 ガーディアンがバランスを崩す。
「……こちら『蒼空』。作戦空域に到達。行動を開始する。
 主目標である「夜の王」の行動阻害、及び戦力を削ぐ。
 ……さぁ、始めよう。狩りの時間だ!」
 バランスを崩した相手を砲撃するのは『蒼空』ルクト・ナード(p3p007354)にとって極めて容易だ。
 相手の頭上をぐるぐると高速で回りながら、マイクロミサイルと機関銃を目一杯に叩き込む。
「舞台は整えた。あとは任せる」
「任された、っと」
 ここぞとばかりに『梅妻鶴子』梅・雪華(p3p010448)は治癒の魔法を展開。
 転倒し周囲を滅茶苦茶に爆破しようとするガーディアンの魔法を治癒の力で振り払った。
「夜の王? まあ、俺様ほどのイケメンぶりは無理にしてもだよ。
 お前も振る舞い一つでもう少し、違う未来が待ってたんじゃないのかね。
 ……まあ、無理か。
 精霊の人生ってなそんな簡単じゃねえやな」
 そうした中を、『必殺の銃弾』隠岐奈 夜顔(p3p008998)が駆け抜ける。
「うん、深緑の事を何も分からない俺でも。
 あいつは倒さなきゃヤベーっていうのは嫌でも分かる。
 微力ながら助太刀するぜ、戦力は多く居て困る事は無いだろう?」
 構えた銃の狙いを、ガーディアンの鎧のスキマにつける。
「くらいやがれ!」
 撃ち込んだ銃弾が魔術反応を起こし、爆発。ガーディアンはバラバラに崩壊した。
 音を立てて崩れるガーディアンたちを前に、『夜の王』は玉座に腰掛けたままやれやれといった様子で首を振る。
「使えぬ従者であったな」
「……」
 あんまりな言葉だが、軽口を述べてつっかかるという選択を『二花の栞』ジェラルド・ヴォルタ(p3p010356)はしなかった。相手が相応の強者であると知っているからだ。
「俺は単なる壁にでもなれれば儲けもんってところかね。死ぬつもりはないが……」
 口の中で小さくつぶやき、呼び出したタイニーワイバーン『Liam』へと飛び乗り『夜の王』へと突進をかけた。
 攻撃可能射程距離ギリギリのタイミングで古代竜語魔法を発動。
「また俺の身に何があろうとも挫けるこたァねぇ。
 この預りもんがある限り…俺の心は折れやしねぇさ!
 さぁこの戦いはこれで終わりにしてやるぜ…覚悟しろよな!」
「もうすでに、終わりを迎えた国……。
 それを再び作り上げようなどと、その傲慢と悲哀、ここで断ち斬りましょう」
 『破竜剣士』蓮杖 綾姫(p3p008658)はそのタイミングに合わせてなにげに相乗りしていたワイバーンから跳躍。
「――励起・黒蓮」
 周囲の霊力を凝縮した剣をオーバーロード。一時的だが伝説の力を引き出した剣が、その一振りで空を穿った。
 対する『夜の王』は片手を翳し、周囲の闇から大量に呼び出された『闇の手』を束にしてそれらを受け止める。
 が、その隙を突くように滑り込んだ『優しき咆哮』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)が至近距離でガンブレードを作動。
(ねぇリア。家族には素直になった方が良い。帰ったら背を押してやるから。
 ねぇベアトリクス様。どうか生きて。リアは強いよ、信じてあげて。
 ねぇサンディ君。どうか私たちの親友の力になってあげて。あと君も無茶しないでね。
 ねぇクラリーチェ。……生きて、欲しかった。
 此度、戦場で君に声を掛けられないことは惜しいけれど。
 でもこの場所で私は私に出来ることをするんだ)
 願いを込めて発動した斬撃は虚空を立つ黒い閃きとなった。
 それを補佐するように、『ヘビーアームズ』迅牙(p3p007704)は背部推進器と脚部のローラーを使って加速。射線を確保すると大型ビームキャノンをぶっ放した。
「俺の砲撃を喰らいやがれ! キャバクラ野郎!!」
 彼らの砲撃は『闇の手』を束ねた盾をすり抜け、『夜の王』の腕へと命中。
「明けない夜は無いのだよ、夜の王よ。この地に深い縁があるわけでもないが、人々の営みを歪めるその蛮行は許されざる行為だ。それに、未来を見据えずに過去の栄光を、復権を求めるような有り様は泥人形以下だと言わせてもらおう」
 ぬるりと距離をつめにかかった『死と泥の果より』マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376)が直撃しへし折れかかった腕へとしがみつき、至近距離で魔力を暴走させた。
「――ッ」
 振り払おうと影を剣の形にして突き刺すも、その一秒をどろりと全身を溶かすことによって耐えきる。
「沼はお前を逃がさんぞ」
 爆発。
 さしもの『夜の王』とて悠長に玉座に座ってばかりいられる状況ではなかったらしい。
 飛び退き、ボロボロに崩れた玉座と左肩から先の鎧パーツだけを残して飛び退いた。
「少々、侮りが過ぎたようだ……」
 無くなった腕を見下ろし、肩をすくめるような動作をする『夜の王』。
 『朝を呼ぶために』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)はごくりと息を呑んだ。
「片腕を落とせたとはいえ、玉座から立たせるだけで15人がかりとは……」
 咲耶はならばと絡繰手甲・妙法鴉羽『宿儺』を複雑変形。『黄泉迦具土』の技をありったけ叩き込む。変幻自在の絡繰手甲が業火を纏い次々に『夜の王』へと叩き込まれ、残る鎧にヒビを入れる。
「ゲーラス達から託された深緑の未来をこの様な形で迎えてはならぬ。夜の王、お主の野望はここで断つ!」
 最後に巨大な手裏剣に変形させた咲耶は、業火を纏わせ全身を使って投擲した。ハンマー投げのようなフォームで発射されたそれは凄まじい回転をかけて『夜の王』へ激突。火花を散らし、鎧の装甲部を完全に破壊してしまった。
 やったか、とは誰も言わなかった。
 そもそもあの『骸の鎧』は夜の王を動力源とした精霊兵器。そのボディを活用しただけにすぎない。
「殻を破れば、そりゃあ出てくるよね」
 『微睡む水底』トスト・クェント(p3p009132)は苦笑し、そして構える。
 眼前に現れたのは巨大な闇であり、巨大な星空であり、巨大な夜であった。
 この世界から光が消え、冷たく冥くどこまでも意識をもっていかれそうな、黒。
 ラズベリーのような香りがして、思わずくらりと平衡感覚が抜けた。
 そんな闇の中から、無限とも思えるほど大量の赤い目が次々に開いた。
「攻撃して! 今すぐ!」
 本能で死を察したトストは魔方陣を展開。
 これだけの力を体内におさめ、古き願いのために戦い続けたゲーラスは、きっと苦しかっただろう。
「守ろう。夜明けを呼ぼう。そう頼む声を、聞いたのだから!」
 氷のサンショウオ型エネルギー体を大量発射。
 『千紫万考』ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)は頷き、自らも魔法の籠もった矢を放った。
「夜の王は国を再建し妖精や人々を奴隷扱いするつもりだとか。
 奴隷扱いには僕も少し嫌な記憶があるのでそれを看過したくありません。
 立ち向かうための光は大事な人から貰いましたから――」
 大切な人々を心の中に浮かべながら放たれた矢には魔女の魔法と精霊の加護がかかり、迫る夜を穿って飛ぶ。
 『燈囀の鳥』チック・シュテル(p3p000932)はその矢を見つめ、優しく微笑んだ。
「この国に住む……人達の、暖かな"音"を途絶えさせる……なんて。させない、よ。
 妖精の女王様……そしてゲーラスから託された、想いを。叶えたい、から。
 一緒に……迎えに行こう。やさしい光を、この場所に」
 暗闇を祓い、朝への道筋を繋ぐ魔法の子守歌を歌い始めた。
 こわいこわい夜に、優しい声が響き渡る。
 『奏で伝う』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)はポケットから銀色のジッポライターを取り出すと、『CANARY』という銘柄の紙巻き煙草を口にくわえた。ラサの吟遊詩人たちが好んで吸うという、煙草兼喉薬だ。そして丁寧に火をつけてから……。
「俺はな、『英雄の友』なのさ。悲しい願いを、祈りの重さを知っている。
 そいつを歌って、めでたしめでたしで終わらせる吟遊詩人なのさ」
 古のお嬢さんたちの為にも、妖精女王の為にも――。
「負けるわけにゃいかない!」
 渋く重く、そしてよく通る声で歌い始めた。
 誰かの願いが、誰かの祈りが、呪いに変わるほど永き刻を越えて歌われる。
 迫る夜の冷たさが、天を傾けるような恐怖が、和らいでいく。
「善人にも悪人にも等しく雨は降り、太陽は昇り――そして夜が訪れる。
 それがこの世の、絶対たる摂理だ。
 ……まったく、王国だの支配だの、夜を冠する癖にやることがせせこましいな。
 夜とはもっと絶対的かつ無慈悲に存在するべきだとは思わないかね?」
 『61分目の針』ルブラット・メルクライン(p3p009557)は胸に手を当て、そしてマスクの下でくつくつと笑った。
 『宵闇のカンタレラ』。そう呼ばれる暗器を白衣の下から取り出すと、夜へと放った。
「この後、貴方に訪れるもののように!」
 赤い目たちが、目に見えるほどのプレッシャーと恐怖を浴びせてくる。
 対して『光鱗の姫』イリス・アトラクトス(p3p000883)は前に出て、大きな盾と強い心で受け止めた。
「貴方にしてみれば、元々自分のものだったものを取り戻しているだけなのかもしれないけどね。それを、認めることはできないわね。
 ――私の願いは守護ならば!」
 折れそうになる心を強く保ち、叫ぶ。
「願いも祈りもない、呪いしか持たない王様。
 見栄かもしれないけどね、まだゲーラスの方が恐ろしい存在だったわ。
 さぁ、来なさい、この光鱗を貫けるならね!!」
「切り裂いた先から漏れ、やがて広がるのは――朝の光。夜を切り裂き、幕切れとしましょう」
 『麗しきカワセミの君』チェレンチィ(p3p008318)が宙へと飛び上がり、きりもみ回転をかけながらコンバットナイフを振り込む。
 前後左右上下すらわからなくなるような闇の中だったが、不思議とどこを――何を斬ればよいのかがわかった。
「そこです」
 チェレンチィの切り裂いた闇から血のように赤い光が漏れる。
 『夜妖<ヨル>を狩る者』金枝 繁茂(p3p008917)はなるほどとつぶやき、飛びかかった。
「過去の存在が眠たい事言ってるじゃありませんか。
 知ってます? この世は今を生きている人達の物であってあなたの物ではないのですよ『夜の王』」
 翳した大鎌から、悪魔のように冷たい気配が這い上る。
 繁茂は誰かの声を心に聞きながら、優しく囁く。
「あなたを倒し子どもを戒めるお伽噺にしてあげますね」
 切り裂いた虚空は涙のように赤い光を流した。
 いや、実際涙だったのかもしれない。
 切り裂いた筋が開き、周囲の風景が戻ってくる。
 平衡感覚を消し飛ばすような爆発と共に。
「夜が……」
「明けた?」
 『怪人暗黒騎士』耀 英司(p3p009524)と『侠骨の拳』亘理 義弘(p3p000398)は同時に天を仰ぎ見て、太陽が天空にあることに驚いた。
 はたと振り返れば、人の形をかろうじて維持する闇が、赤い光を血のように流しながら浮かんでいる。
 そこはファルカウ上層の街の一角であり、美しい新緑建築の建物が夜の王のむこうに建っている。
「あなたの国は、もう消えてしまいましたよ。『夜の王』」
 『炯眼のエメラルド』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)はそう語りかけ、両手に刻んだ血の呪印を妖しく光らせた。
 『王子様におやすみ』エリス(p3p007830)はふと自らの指輪に目をやる。
 声が、聞こえる気がした。
 聞き覚えのある、三つの声だ。
 ひとつは――大切な人々を守ることを願い、悪に手を染めてでも彼らの魂を救った美少女の声。
 ひとつは――はるか古代の願いと祈りを内に秘めながら、己自身が呪いと化してでもそれを守り続けようとした呪物の声。
 ひとつは――そんな呪物を作り出してしまった責務から、はるか未来に己の願いを託すことに決めた少女の声。
「リモス……やはり、あなただったのですね」
 目覚めた時に記憶もなにもかもを失っていた、自らの執政官を思い出す。きっと話してやってもきょとんとするだろう。
 けれど、必ず話してあげよう。はるか古よりの祈りが、『呪い』を経ていま届きましたよと。
「約束を果たしましょう! この物語に、よき結末を!」
 エリスは『ネージュ・リュヌ・エ・フルール』の弦に手をかけ、美しい音色を奏で始めた。
 英司と義弘が走り出し、『夜の王』は残った力を振り絞るように無数の『闇の手』を作り解き放つ。
 それらは空中でぱきぱきと音をたてて崩れ、最後はマリエッタが生み出した血色の大鎌によって切り裂かれた。
「ずっと貴方の時代は続かない。夜明けを望むものが大勢いる。ただ、そういうことです」
「あばよ、あの傲慢な王様」
「そのまま寝てりゃぁよかったのによ。俺の寝かしつけ方は、ちぃとばかし革命的だぜ」
 二人の拳が『夜の王』へと叩き込まれ、そしてガラス細工でも割るかのように粉砕してしまった。
 ぱらぱらと崩れた破片は光の中に溶けて、消えていく。
 終わったのか。終わったのだろう。
 そう誰かが口にしようとしたとき――。
「まだだ」
 『妖精の守護鎌』サイズ(p3p000319)が呟き、自らの胸に手を当てた。
「女王が、戻ってきてない。女王の力がこの世界にない限り、妖精達は故郷に帰れない」
「サイズ……」
 オデットの呼びかけに、サイズは深く頷いた。
 手にしていた鎌。つまりは自らの核がピシリと音をたて輝きを持ち始める。
 サイズにこれまで蓄積されてきた奇跡の力が、願いに応じて動き出そうとしているのだ。
「どこだ、女王――ファレノプシス様!」
 天を見上げ叫ぶサイズ。
 その時サイズの魂は時空すらも越え、遥か異次元の夢の中を泳いでいた。
 夢の檻のその向こう。
 花咲く景色がほんの一瞬だけ見えたとき――サイズの魂にそっと触れたぬくもりがあった。
 何かを言われた、ような気がした。
 言語化も認識も難しいその世界のなかで、サイズがかつて聞いた言葉が想起されることで結びつけられる。
 『さようなら。ありがとう……』
 唐突に気配は遠のき――
 サイズは、大きく息を吸った。
「ちょっと、サイズ!?」
 オデットが駆け寄ってくる。
 命を失うところだったのだろうか。鎌にはひどい傷がついている。
 だがそのかわりに、ある実感が今はある。
「女王の力が……戻った?」
 女王ファレノプシスがもっていた力の残滓が、この世界へとサイズの手によって引き戻されたのだ。
「フロル、これって!?」
 振り返るオデットに、フロルが頷く。
「今すぐというわけではないじゃろうが……もしこれによって新たな妖精女王が生まれれば、妖精の門を再び開き妖精達は故郷に帰ることができるようになるじゃろう。
 ただ、今は帰るための門はない。この森に住処を見つけなくてはな。
 ……しかしサイズ、そなたが命がけで奇跡をおこさなければ、わしら妖精は二度と、絶対に、故郷には戻れなかったじゃろう」
 その場にはいない妖精達を代弁する形で、フロルは『礼を言う』と頭をさげた。
「……そうか」
 ファレノプシス自身は、戻らなかった。それが必要なことだったのか、戻ることが不可能だったのかはわからない。ただ、未来に繋ぐ確かな力だけはサイズを通してこの世界に戻すことができたようだ。
「今度こそ……」
 エリスが言い、空を見上げる。
 ファルカウから覗く空を。
「『夜』が明けましたよ」
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
 『夜の王』を倒し、ファルカウに夜明けをもたらしました。
 きっともう、夜に閉ざされることはないでしょう。




























































































































GMコメント
●おさらい
只今ファルカウは冠位魔種カロンたちによって制圧され、国家存亡の危機に陥っています。
そしてその中でもファルカウ上層部の都市部を占拠する形で陣を敷いた『夜の王』とその眷属たちが、軍のゆくてを阻んでいます。
カロンとの戦いを実現するためには、この『常夜の谷』へ挑みチームを送り出さねばなりません。
いま、国家存亡をめぐる最終決戦が始まろうとしているのです。
●フィールド:常夜の谷
古代の大精霊『夜の王』が復活し、かつて治めていた彼の国を再現しています。
そのため頭上は満天の星空が広がり、明けぬ夜に包まれた空間となっています。
カロンの権能によって作り出された巨大な『眠りの世界』を利用したこれは、夜の眷属や夢檻状態となって操られた人々が王の民として配置されているようです。
■■■プレイング書式■■■
迷子防止のため、プレイングには以下の書式を守るようにしてください。
・一行目:パートタグ
・二行目:グループタグ(または空白行)
大きなグループの中で更に小グループを作りたいなら二つタグを作ってください。
・三行目:実際のプレイング内容
書式が守られていない場合はお友達とはぐれたり、やろうとしたことをやり損ねたりすることがあります。くれぐれもご注意ください。
■■■パートタグ■■■
以下のいずれかのパートタグを一つだけ【】ごとコピペし、プレイング冒頭一行目に記載してください。
【夜の眷属】
大量に存在する『夜の眷属』たるモンスターたちと戦います。
敵の大半はこの眷属たちですので、数で攻めてどかどかと倒していきましょう。
敵の種類はいくつかありますが、攻守優れ近接戦闘に特化した『からっぽ鎧』、魔法による爆撃を得意とする『わざわいランタン』、味方のバフや回復を得意とする『不幸せの黒いハンカチ』、オールラウンダーの『呪霊』、こちらの動きを阻害するデバフを行う『闇の手』といった呪物や邪霊たちが大規模な隊列を作り防衛線を築いています。
敵の弱いところをすぐにつくのは難しいので、正面からの中央突破でこれらを食い破っていくのが主な戦い方となるでしょう。
要するに、得意分野でドカドカ戦うプレイングをぶつけましょう!
優先参加:グリーフ、ハリエット
【妖精救出】
前回の戦いでローレットの指揮下にはいり共に戦った妖精兵たちが『夜の王』の手にかかり夢檻状態にされ、肉体が操られています。操られた妖精たちは当時の武装のままこちらへ襲いかかってきます。中にはかつて指揮した妖精もいるかもしれません。
操られた状態を解くには一度戦闘不能にするしかありません。
特に生きたまま救出するには【不殺】攻撃によって倒すのが効果的です。
援軍として妖精兵たちが加わり、彼らも不殺攻撃によって支援してくれます。
優先参加:四音、咲良、サイズ、フロル、オデット
【幻想種救出】
ファルカウの民の多くも夢檻状態におとされており、夜の王の眷属によって操られています。操られた人々は元のスキルや武器を行使し、こちらに襲いかかってきます。
操られた状態を解くには一度戦闘不能にするしかありません。
特に生きたまま救出するには【不殺】攻撃によって倒すのが効果的です。
援軍としてラサ傭兵連合軍が加わり、彼らも不殺攻撃によって支援してくれます。
優先参加:イーハトーヴ、リュカシス、アルメリア、フラン
【夜の王】
この空間の支配者にして古代の大精霊『夜の王』を倒さねばなりません。
もし倒せなければ、必ずや今回のように自らの王国を再建し、妖精や人々を奴隷のように扱うようになるでしょう。
『夜の王』は妖精女王によって権能を剥奪されたとはいえ、高い個体戦闘能力をもっています。皆で力を合わせ、これを打ち払いましょう。
優先参加:エリス、咲耶、ヤツェク
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●決戦シナリオの注意
当シナリオは『決戦シナリオ』です。
<太陽と月の祝福>の決戦及びRAIDシナリオは他決戦・RAIDシナリオと同時に参加出来ません。(EXシナリオとは同時参加出来ます)
どれか一つの参加となりますのでご注意下さい。
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