PandoraPartyProject

シナリオ詳細

夢の牢獄

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 カロン・アンテノーラは『怠惰』である。

 複数の権能を駆使する力を持ちながら、自らが戦う事を好まない。
 何故ならば、それが『怠惰』として産まれた存在の在り方であるからだ。
 カロンは己の所有する権能を配下とした者に分け与える能力を有していた。
 自らが所有していれば万全な護りであろう。自らが所有すればイレギュラーズなど撥ね除けられよう。
 だが、カロン・アンテノーラはそうしなかった。

 ――面倒くさいにゃあ。

 全ては『怠惰』であったが故に。
 カロンの権能の一つ、夢の牢獄――それは『夢檻』と呼ばれた深き眠りに誰もを誘う強力なものであった。
 その一部を複数の魔種に分け与えたのだ。

 ――面倒くさいにゃあ。管理して置いて欲しいにゃあ。

 その権能の配布は大なり小なり、それぞれによって変わっただろう。
 配布された対象が撃破されれば能力はゆっくりとカロンの元へと戻ってくる。
 そうして、カロンはまた別の対象に権能を分け与えるのだ。怠惰を極めるために。
 この能力のデメリットがあるとすれば『分け与えた権能』が大きければ大きい程、使用者が喪われたときにカロンの元に戻る時間が長く掛かる事だった。
 それだけだとカロンは認識していた。

 だが――『不出来な奇跡』がカロンの認識外の出来事を産み出したのだ。
 アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)の起こした奇跡(PPP)は彼女の全てを懸けて、一人の魔種を『短期間だけ』人へと戻した。
 怠惰の魔種の強き戒めから『一時のみ』解き放ったのだ。
 ライアム・レッドモンドが渡されていた権能こそが『夢の牢獄』

 夢の檻に閉ざされたイレギュラーズを救う為にその牢獄への門を開くと彼は言った。
 信用しても良いか。
 信頼しても良いか。
 ……さて、其れは分からない。
 だが、この夢は『カロン・アンテノーラ』が斃されるまで醒めることがないのだ。
「僕を利用してくれ。君達を眠りから醒まし、リュミエ様をお助けして必ずやあの魔種を斃して欲しいんだ」
 ライアムは言った。
 森に訪れた停滞は、これ以上の不幸を生み出さないために彼が望んだものと等しかった。
 しかし、『大切な妹』の一大決心で斯うして己の身は揺り戻しにあったのだ。
「……君達なら、この世界を良き方向に導いてくれる気がしたんだ。僕が正気である内に、少しでも手伝わせて欲しい」


 ライアム・レッドモンドの開いた『夢の牢獄』は荒廃した大地が広がっていた。
 不必要なオブジェクトを必要としないのはこの牢獄の主がカロンであるからだろうか。
 踏み入った者は気付くだろう――『己の身に起きた変化』に。
 純種ならばそれを反転状態と呼ぶはずだ。旅人ならば狂気、とでも言うべきであろうか。
 肉体に訪れた変化が精神を摩耗させようとする。
 脳に響いた呼び声は『怠惰』のものであっただろうか。

 ――面倒だにゃあ。此処でずっと眠っていれば良いのに。

 ――何も考えず、のーんびり過ごせば世界ハ勝手に変化していくにゃあ。荒波に飲まれる必要なんて、ないにゃあ。

 眠たげに欠伸を噛み殺したその声音を聞きながら、イレギュラーズは牢獄を進むことになるだろう。

 この牢獄から抜け出すために。
 夢魔を斥け、現実の世界に目覚めてファルカウを、この森を救うために。

GMコメント

●重要な備考
 ・当シナリオは『優先参加者』に該当する『全体シナリオ<タレイアの心臓>にて【夢檻】状態になったPC』のみが参加可能です。
 ・当シナリオ中は『無数の原罪の呼び声』が響いています。縋るようなその声に耳を傾けない様にお気を付けください……。
 ・『夢の牢獄』『夢檻の世界』は同時進行していきます。
  両方のシナリオでの【クリア者数】が多ければ多いほど、カロンの権能の一つである『夢の牢獄』が弱体化して行きます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はEです。
 無いよりはマシな情報です。グッドラック。

●夢の牢獄
『冠位魔種』カロン・アンテノーラの権能の一つ。ライアム・レッドモンドが門を開いた場所です。
【夢檻】状態となっている対象はこの中に閉じ込められています。
(※リュミエ・フル・フォーレはカロンが直接【夢に閉じ込めた】為に此処には居ないようです)
 周囲に不必要なオブジェクトは存在せず、適当に大地、空、月が存在した非常に寂しい空間です。
 この世界がカロンの作り出したものだと思えば、そうしたオブジェクト設置が面倒であったのかも知れません。

 絶えず呼び声が響いてくる空間です。周辺には夢魔と呼ばれる存在が縦横無尽に歩き回っています。
 夢魔はイレギュラーズを確認すると襲いかかってきます。
 皆さんの目的は『反転/狂気状態』に転じた姿から本当の自分を取り戻すことです。
 この世界の何処かに『本当の自分』が倒れて眠っています。
 眠りから覚めることや、現実を強く思い出す事で本当の自分の居場所を察知することが出来るでしょう。

●夢魔
 夢の世界の住民です。カロンの眷属であり、有象無象がうろうろとしています。
 余計なオブジェクトがない為に身を隠すのも少しばかり難しそうでもありますね。

 ・大怪王獏(グレートバクアロン)&怪王獏(バクアロン)
 本来は悪夢を食う妖精ですが、冠位怠惰カロンの影響により変質し、怪王種(アロンゲノム)化しています。
 ここに居る個体は、魂を食う恐ろしい怪物です。近距離物理攻撃を得意とし、スマッシュヒット時に稀にパンドラを直接減損させます。 
 大怪王獏が数体、そして小型の怪王獏を連れて群れのように歩き回っています。

 ・スロースサキュバス/スロースインキュバス
 本来は世界にあまねく邪妖精『夢魔』ですが、冠位怠惰カロンの影響により変質し、怪王種(アロンゲノム)化しています。
 神秘HA吸収攻撃の他、恍惚や魅了のBS、神物両面の戦闘能力も持ちます。

●参考:夢の牢獄
 カロン・アンテノーラの権能の一つ。
 対象を理不尽にも夢の世界に閉じ込め、深き眠りに閉ざす事が出来ます。
 その力は非常に強力で『理不尽』であり、カロンが意識的に仕掛ければ対象の抵抗判定を大幅に下げた状態で【夢檻】状態へと移行させる事が出来るようです。【夢檻】状態に陥った対象は行動不能となり眠り続けることとなります。
 また、その力は深緑全土に及んでおり、カロンに近付けば近付くほどに効果はより強くなります。
(具体的にはカロンが居るファルカウ上層部ではカロンが意識的に権能を駆使すれば【夢檻】判定が1Tの内に10度行われる状態になります)

 シナリオ『夢の牢獄』と『夢檻の世界』のクリア者数によってこの権能の強弱に変動が出ます。
 何故ならば、夢を抜け出す者が多けれ多いほどに『夢の牢獄』は不安定さを増して行くからです。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

それでは、ご武運を。

  • 夢の牢獄完了
  • GM名夏あかね
  • 種別ラリー
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年06月11日 20時35分
  • 章数1章
  • 総採用数75人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

ドラマ・ゲツク(p3p000172)
蒼剣の弟子

「……っ!? こ、こは……?
 ……確か、最後の記憶はライアム君の開いた門を潜って、それから……うぅ……思い出せない。あの時一緒に潜った方々は無事でしょうか?」
 この現状を打破するために。『蒼剣の弟子』ドラマ・ゲツク(p3p000172)は夢の牢獄を仲間達と進んで来た。
 ライアムが開いた門を潜り、眠りの核を多く怖そうとし――そうして、意識が眩んだ。
「……じっとしていても状況は変わりませんね。情報を、集めないと」
 今、自らは同じような場所に立っている。だが、其処に見知った仲間の姿はない。
 歩き回る夢魔はドラマの事を見て見ぬ振りをし、己の肉体にも妙な倦怠感が付き纏う。
 まるで、此処にずっと居れば良いとでも言いたげな様子で。
「……? 何だか動き辛いと思ったら、茨が絡み付いて……?」
 衣服は、普段のモノと違っていた。アルティオ=エルムを包み込んでいた茨ではない何かが己の肉体へと絡みついている。
 引き摺るようにして歩き出し、息を吐いた。
(……私は、幻想種のドラマ。ドラマです)
 そう、言葉にしようとしたときに夢魔が『此方を見た』事に気付く。其れまでの間は此処で一人穏やかに過ごしているのも良いのではないかとさえ考えられたのだ。
 だが、自らが『現実を想起』するたびに夢魔は押し止めようとその手を伸ばそうとする。
 帰還しようとする者への阻害が彼等の役目なのだろうか。
「……ですが」
 此の儘、斯うしているわけにも行かない。ドラマが嘆息したとき、空には星が煌めいた。
 ひとつ、ふたつ。輝いた其れが照らしてくれている。
 その輝きにドラマは見覚えがあった。仲間達と壊した『眠りの核』――それが其処には眩く光り輝いているのだ。
「もしかして……」
 脚に力を込めて、そろそろと歩き出す。
 その光の先に『自分の帰る場所』が存在して居る気がして、絡みついた茨さえも感じさせない足取りで道を辿って――

成否

成功


第1章 第2節

オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
木漏れ日の優しさ
サイズ(p3p000319)
カースド妖精鎌

「此処は――」
 周囲を見回してから『木漏れ日の優しさ』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)は唇を噛んだ。
「私は帰らなきゃいけないのよ、こんなところでじっとしてるわけにはいかない。
 夜の王を何とかしなきゃ結局深緑に木漏れ日は帰ってこないのよ、陽光の大妖精として許すわけにはいかないわ」
 翼には光が宿らない。木漏れ日が遠い。それでも、何事も『通り過ぎた』停滞の乙女は「うるさいわよ、何よ、どんなものか分かって居るんだから」と戒めを振り払うように首を振った。
 天啓に直感。使える者は全て使う。オデットは『現実に返ることに貪欲』だった。
 それ故に、彼女を狙う夢魔の数は多い。気配を隠していようとも、察知されるようにその跫音が聞こえてくる気がする。
(ああ、もう――! 早く帰らなくっちゃ……!)

 微睡みの淵より目覚めてから『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)は唇を戦慄かせた。
「はは……」
 乾いた笑いが漏れ出でたのはサイズにとって、この眠りに囚われるまでの一連の流れが余りにも苦しい出来事に溢れていたからだ。
「オデットさんに庇われた…妖精女王様に助けられてしまった……。
 それなのに妖精とは関係ないところで夢に捕らわれてしまうとは……はっきり言って無様だな俺……」
 自嘲するサイズはオデットだけでも外に出してやりたいと考えた。自身を庇った彼女を助けなくてはいけない。
 勿論、夢の牢獄を抜け出し、『救う側』の立場として眠りの核を破壊すれば妖精達を救い出せる筈だ。
 機動力を確保し、最速脱出を目指す。全力で此処から逃走する――前に、オデットを助けてやりたかった。
(動き続けろ! 眼に見える妖精を全て目覚めさせろ!
 目が覚めても止まっちゃいけない! 夜の王を倒すまで止まれない! 鎌が欠けても、狂っても妖精の為に動けぇ!)
 サイズは見付けた。
 一人、進む翼の光を失った少女を。
「オデットさん!」
「サイズ……?」
 驚いたように目を瞠ったオデットに「直ぐに助ける!」とサイズは叫んだ。全力で走り抜ける。夢魔の間も、駆け抜けて光の下に彼女を誘うのだ。
 然うして二人で『現実』に戻る。打倒すべきは夢魔ではない。あの夜の王なのだから。

成否

成功


第1章 第3節

天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師

「なるほど……ここが夢の中か。いやに黒い太陽だ、それとも月か?」
 黒い太陽、と口にしてから『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)はふ、と笑みを漏した。
 それは己が目指した姿だったではないか。模倣をしようとし、そして得られなかった未来の姿。
 目隠しを外してから錬は周囲を見回した。色素の失せたような肌を包んだモノクロームの衣服。
 目指した存在に挑み続けたが故に道を踏み外した狂気が其処に笑っている。
「全く……目標が星のように高いんだからこんなところで眠りこけてる暇なんてないんだがな!」
 そうだ、その姿こそが『陰る太陽』なのだとすれば。昏き月になど構っては居られない。
 子守歌のような耳障りな声は、遠く霞んでしまえば良い。
 構えた符は剣となる。己には為す事があるのだと強く思い浮かべる度に、夢魔が周囲に集まった。
「――兵ではないけど神速は尊ぶ! 全滅が出る条件でもないみたいだし集まる前に叩いて散らさないとな」
 斃すことが目的でないならば蹴散らせば良い。
『己が向かう先が何処か』は分かった。
 成程、魂が抜け落ちて体を置き去りにでもしたのだろうか。天に輝き始めた星が、己の行く先を示してくれているのだから。
(……此の儘、目標に向かって進むだけだ)
 星が煌めき始めてから、夢魔の動きが遅くなったと錬は感じていた。天に飾られた星からは妙な気配がする。
 眠りの微睡みではない。穏やかな陽だまりのような――淡い緑の風を感じさせる。
 それが現実への道しるべであると感じ取り、青年は淀みなく歩を進めた。
 目標は高い。だからといって、挫折を味わう暇も無い。極めなければ、まだ届かないのだから。

成否

成功


第1章 第4節

ガイアドニス(p3p010327)
超合金おねーさん

「何も考えずのんびり眠ってればいいだなんて。そんな風に思えるのなら、里から出てくることはなかったおねーさんなのでっす!」
 ふふ、と笑った『超合金おねーさん』ガイアドニス(p3p010327)はぱちり、と瞬いた。
 反転、なんて言うものだから『魔種になる』と言うよりもガイアドニスは『体が大きくなってしまう』と考えた。
 身長的には小さくなるのだろうかと起き上がってみれば更に『おっきく』なっていたのだ。
「そうね、ええ、まずは! 本来の自分の身体を思い出して、気を強く持とうかしら!
 おねーさんは290cm、おねーさんは290cm! というか今のおねーさん、普段にも増して、足元注意よね?
 うう、踏み潰しちゃわないよう気をつけなくちゃだわ!」
 明るく己を思い出すガイアドニスは皆を探さないと行けないときょろきょろと周囲を見回した。
 ……自分が大きすぎて踏み潰してしまいそう、とそろそろと歩きながら。はあ、と息を吐く。
「困ったのだわ。全てが小さく見えちゃうと、何もかもを愛してあげたくなりそうだわ!
 幸いこれ、怠惰じゃなくて傲慢なのでしょうけど! 身体の変化に影響されないよう、平常心を保たなきゃだわ!」
 平常心を胸に、ガイアドニスはゆっくりゆっくりと歩いた。
 心を落ち着けておかねば持って行かれるような感覚がする。
「なんだか空にも手が届きそうね?」
 こてんと首を傾げて空に手を翳した。
 月は張りぼてのように触れることは出来なかったが飾られた星は暖かい。
 指先が触れただけで、自分が何処に行けば良いのかが分かった気がした。
「……そうね! おねーさんはあっちにいけばいいのね!」
 ずしり、ずしりと跫音を響かせて。夢魔を蹴散らすように進み続ける。一寸の痛みなんてへっちゃらだと言いたげに。
 帰る先はもう、分かったのだから。

成否

成功


第1章 第5節

マルク・シリング(p3p001309)
レニンスカヤ・チュレンコフ・ウサビッチ(p3p006499)
恩義のために

 ――怠惰にはなれない。なぜなら、救わなくちゃならない。
 誰を救うのか、何を救うのか。何のために救うのか。いつかそれを見失うことになったとしても、救いたいという願いだけは捨てられない。
 己が落ちるなら強欲だ。
 強欲の魔種マルク・シリングは屹度そんな男なのだ。
 自分の感情のままに誰かを救おうとする。そんな、奴なのだから。

 マルク・シリング(p3p001309)は、は、と前を向いた。
 眼前には駆ける『恩義のために』レニンスカヤ・チュレンコフ・ウサビッチ(p3p006499)の姿が見える。
 地を蹴って、待たせたなと姿を見せては攻撃を仕掛け続ける。
 レニンスカヤは只、只管に駆けていた。己が出来ることは全力で蹴ることなのだと知っていたのだろう。
(――そうか、うさは、一度死んだんだね。
 あの心臓を握られた時の怖さ、もうびっくりだよ。
 だからこそ、だね。うさは――死んでも、まだ帰りたいよ。恩を返せてないんだから)
 怖くとも、怠惰に此処で眠っては居られないと考えたレニンスカヤを癒やしながらマルクは「大丈夫かい?」と問いかけた。
「大丈夫さ。うさには結局それしかできないんだ。逃げるときも、戦う時も、ずっと足なんだ。
 足が動く限り、うさは戦うし。助けるよ。みんな安心したいから。
 怠惰で安心できないなら、頑張るまでだよ――みんな、やろう!!」
「ああ。あの星が、僕たちを導いてくれている気がする。星を辿ろう」
 夢魔を蹴散らし、出来る限りの戦闘を避けて進め。星の煌めきが自身達の行く先を照らしてくれていると感じさせる。
 あの星は、外で自身達を救おうとした仲間達からの道しるべだったのだろう。
 眠りから醒まさせるような星の煌めきは弾け、流星群のように落ちてくる。
 此方にいらっしゃいと誘うようなその星にマルクもレニンスカヤも不快感はなかった。
 ――彼方に行けば、外に出ることが出来る。
「様子を見てくるよ。うさが先に走って」
「なら、その後ろをついて行くよ。光の彼方が、僕たちが帰るべき場所なのだろうから」

成否

成功


第1章 第6節

アルメリア・イーグルトン(p3p006810)
緑雷の魔女
フラン・ヴィラネル(p3p006816)
ノームの愛娘

「最悪だわ……。面倒くさがりの私にこの呼び声は最高に響いてくるわね。気をしっかり持たないと」
 頭を抱えた『緑雷の魔女』アルメリア・イーグルトン(p3p006810)の脳裏に過ったのは幼馴染みの姿だった。
 先にこの夢に囚われた筈の『ノームの愛娘』フラン・ヴィラネル(p3p006816)。彼女が何処かにいるはずなのだ。
(単独で行動していては危ないわ。まず合流しないと保たないわね、これ。お母さん……フラン……絶対私、負けないからね)
 気を強く持たなければならないと、心臓が脈を打つ。緊張を滲ませながら進むアルメリアの前に、見慣れた――否、見慣れていないのかも知れない。それでも、彼女だと分かる――後ろ姿があった。
「フラン?」
「……アルメリア?」
 ぱちり、と瞬き合った。互いである事は分かるのに、互いではないような姿をしている。
 真っ白で、ぼうっとしていて何も楽しくない。自分が自分では無いような感覚に身を委ねていたフランの意識を浮上させたのは幼馴染みでであった。
「こんな所に居たの?」
「ほんもの?」
「本物に決まってるじゃない。早く行きましょうよ。いやだ、もう、此処に居たくなっちゃう」
 そわそわとしたアルメリアに「それはいけない」とフランは立ち上がった。
 そうだ、此処にはアルメリアは居るけれど――他の皆はいない。アルメリアを外に連れ出さなくちゃならない。屹度、引き籠もってしまうから。
 其処まで考えてからフランはぽつり、と呟いた。
「……帰らなきゃ」
 それでもフランの足は震えた。本当は恐ろしかった。憧れの、大好きなアレクシアが危険な状態に陥っていた。
 彼女が齎した奇跡が、この世界から帰還する一助となったとしても、彼女はその奇跡の代償を支払わねばならなかったはずだ。
(……怖いよ、アレクシア先輩……)

 ――魔種って、悪い人なんだよね。殺さなきゃいけないんだよね?

 ――あの人は言った。「必ず、一緒に笑えるようにするんだ」

 あの人は、其れを叶えたんだ。フランはそれに、と唇を震わせた。
 まだ、大好きな人に「好きです」と伝えていない。失恋なんて、勝手なこと。想いを伝えるのだって勝手なこと。
 女の子は身勝手である方が強くなれるのだから。
「いこう! アルメリア、あっちだよ」
「ええ? フラン、どうやったら出られるのか分かるの……? あっち?」
「そう、あっち。あの星がね、あたし太刀の買える場所を教えてくれてるから!」

成否

成功


第1章 第7節

クロバ・フユツキ(p3p000145)
駆け出し錬金術師
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
輝奪のヘリオドール

「……まったく、雪原の中で寝るなとはよく言ったものだよな。
 要はこの姿から元の姿に戻ればいいんだろう、ハッ……見たまんま魔物じゃないか」
 ごろりと転がっていた『雪解けを求め』クロバ・フユツキ(p3p000145)は星を眺めた。
 美しい天の星。そこから、自身に帰ってこいと声を掛ける弟子や、居候先の『妹』の声がする気がした。
「分かってる」
 クロバは呟く。
「分かってるんだよ。のんびりなんてしてられない。
 残念だったな、怠惰……俺は止まってられねぇんだよ……。
 あの男への復讐を遂げなきゃならないし、リュミエ様……あの人を助けるんだ」
 クロバは知っている。リュミエは森が傷つくことで心を痛めるだろう。あの人を救う為にこの森を救わねばならない。
 その為には、あの男――クロバ・フユツキへの復讐を遂げなくてはならないのだ。
「どっちも俺が、勝手にだけど結んだ約束だ……だからこれは死んでも果たさないといけないんだよ……!」
 約束を胸に歩くクロバの前で、苦しげな表情をしていた『炯眼のエメラルド』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)は「あなたは?」と問うた。
「俺は……」
「私は、私は……?」
 頭を抱えていたマリエッタは「くっ……」と呻く。
「私、私は……イヴァーノさんに…夢に誘われて、っ、く…ここが、夢檻でしょうか。先ほどから……声が。
 それに姿が、いつも夢で見ている知らない女性…それが、私……? だとしたら、私は……私が……アタシが……あの惨劇を……?」
「おい、大丈夫か――!」
 クロバが声を掛ければマリエッタは眸をマルクしてから唇を震わせた。
「血の魔術が、この身に馴染むんです……ですが、私は……今は、やられちゃだめで……」
 首をぶんぶんと振った。心の内から囁きかける声が、恐ろしかったからだ。
 優しい夢に誘われ、悪夢こそが現実であったならば、自分は何れだけ弱かったのだろう。
 それでも、マリエッタのためだと星が輝いた。クロバと同じように手を差し伸べてくれる人が居たからだ。
(けれどいろんな人が助けてくれようとしているなら…私はまだ、マリエッタでありたい。
 目を覚まして、もっといろいろを識りたい。貴女にまだ、出番はないんです……!)
 ひゅ、と息を呑んだマリエッタにクロバは手を伸ばした。
「大丈夫か」
「……はい、あの、あの星を辿りましょう」
 指差す星をクロバは確かに見た。アレを辿れば『戻れる』その確信が温かな光のように自らを導いてくれるから――

成否

成功


第1章 第8節

ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
光輝のたいやき
ルーキス・ファウン(p3p008870)
散華閃刀

「……いえ、まぁ。僕は生存能力が強みの一つ……というか、まぁ基本それしかないんですが。
 こういうキツイ役が何度も回ってくるのはやっぱり運がないんですかね……?」
 首を捻った『不屈の障壁』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)は探索を行っていた。
 今の姿がどの様になっているかの確認はベークはしなかった。其れをする意味さえ感じなかったからだ。
 そろそろと歩き回り、探索を続ける。自分を探すのは匂いで容易な気がする。
「はあ……」
 ため息を吐き、呼び声は袖にすることが出来る気がした。「何者だ」と声を掛けられてベークは肩を竦める。
「ひえ」
「……イレギュラーズか……?」
 剣を携えた『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)は肩で息をしていた。睨め付け、品定めをするかのような視線は確かにベークを見ている。
「そうですよ。ベーク・シー・ドリームです」
「……申し訳ない。つい、姿を見て敵かと誤認しました」
「いいえいいえ」
 首を振ってベークはそうか、自身から発された気配はその様なものに変化していたのか、と感じた。
 殺風景な風景に大量の魔物。自身を魔物だと認識していれば襲ってこなかったそれが、自身を探し始めた途端に牙を剥く。
 響く呼び声を耐え凌ぎながら、急ぎ進まねばならないとやってきたルーキスは焦燥を滲ませていた。
 両手に握った刀に、腕に付けたブレスレットが自身をこの世界に戻してくれる気がする。
(俺にとっての大切な、何よりも護りたいと願う人。自分が戦い、生きる理由……
 あぁ、そうだ。こんな所で終わる訳にはいかない。俺にはまだ、やらなければならない事があるのだから……!)
 護りたい人が居るのだから、こんな所では止まって居られなかった。
「守備を任せても良いですか」
「構いませんよ、なら――」
「俺は、道を切り拓きます。見えますか、あの星です。あの光が、俺達を導いてくれています」
 ルーキスが指し示す。其処に自らが居ると感じたのだ。魂が肉体に惹かれて行くように。
 彼方に行けと心が叫ぶ。ベークは小さく頷いてから彼の背を追掛けた。

成否

成功


第1章 第9節

フレイ・イング・ラーセン(p3p007598)
Immortalizer

「んー、ここに来たってことは俺は寝ちまったか。
 妹も追いかけないといけないし、早く抜け出さないとな。それに、この姿、この感じ……長くいるとヤバいってのがよくわかるな」
 頭を掻いた『Immortalizer』フレイ・イング・ラーセン(p3p007598)の脳裏に過ったのは兄様と慕ってくれていた少女のことだった。
 父方にハーモニアが居るという飛行種の少女は無事だろうか。
 フレイヤは魔種になったが、ノルンは……。其処まで考えてから、フレイはどうにか救いたいと星を眺めた。
 煌めく星が、誰かを救うための輝きだというならば。
 フレイはその煌めきに応えたい。
 ノルンがもしも命を落してしまったら自分がイレギュラーズである意味さえないのだ。
「えーっと、本当の俺の姿を探さなければならないんだな。邪魔してくるやつはいるようだし、用心しないとなぁ。
 仲間も同じように囚われて、違う姿になってるとしたら、それも気を付けないとな。間違って攻撃してしまわないように。
 呼び声かぁ……妹の呼び声ならいざ知らず、この呼び声はどうでも良い。救えるなら救いたいとは思うが」
 救いの手を伸ばすことは、我武者羅でなくてはならない。
 ノルン。彼女は何処に行ったのだろうか。兄様と呼んでくれた彼女の事を思い出してから、フレイは行くかと立ち上がった。
 夢魔を少しずつ斥け、ゆっくりと、ゆっくりと星を辿る。
 荒廃とした大地に、光が落ちた。オブジェクトの少ない世界で、向かう先は確かに一つだと確信できたのは――あの光のお陰だったのだろうか。

成否

成功


第1章 第10節

ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)
名無しの

『名無しの』ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)はふ、と笑った。
「――あの猫は博徒って人種がどんな奴らなのかまっったく分かってねぇようだな。ただの運任せに溺れるような怠惰な奴らじゃねーんだよ。
 世界が勝手に変わるからって動かねぇわけねぇだろ。そんじゃ脱獄と洒落込もうじゃねぇか」
 脱獄するならば見つからないように平常心で行くべきだ。博徒ならば、そんな修羅場は山ほど見てきた。
 今の姿が普段と違うという事は、『俺』は何処かに居るんだろうとニコラスは歩み止めることはない。
「……例え本当の自分がどんな奴か分かってなくてもよ。俺は諦めねぇぞ」
 迷わなければ、星の光が己を呼び寄せてくれるとさえ思えたのだ。
 頭が痛い。呼び声は響き、甘い誘惑が心を揺らす。だから、どうしたとニコラスは言いたかった。遣りたいことが沢山在る。
「テメェの名前は既に奪われて、俺を俺と思えねぇ奴に本当の自分を探せってのは笑っちまう。
 名前に込められた大切な想いも罪も、背負ったもんも今の俺にはない。それでも見つけれるのかね」
 それでも、ニコラスは『一人じゃ』なかった。ニコラスが自分を分からなくてもニコラスの友人達が『眠りの核を砕き』、その道を照らしてくれる。
(――だから俺は俺のことを信じれる。名無しだとしても紡いできた思い出は現実に残ってる
 だから寝てる場合じゃねぇんだぜ。急いで起きなきゃまた怒られちまうからよ)
 寝坊助だと叱られる前に、進むべき場所がある。だからこそ、夢魔には構っては居られない。目を覚ますのだ。

成否

成功


第1章 第11節

桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻

 ――珠緒さん!

 その声が聞こえた気がして『比翼連理・攻』桜咲 珠緒(p3p004426)はこてりと首を傾いだ。
「早々に帰りませんと、蛍さんを心配させてしまいます……」
 屹度、今の自身の姿は蛍には喜ばれない。珠緒は、泣いているかも知れない彼女を思い浮かべ早く帰らなくてはと言う気持ちを確かにした。
 遮蔽の無い場所では早期の退避がベターか。単独戦闘を回避しなくてはとそろそろと歩く。
 オブジェクトがない以上、どこもかしこも全てが同じに見えてしまう。方角さえも狂ってしまうやもしれない奇妙な感覚。
「……迷いますね」
 けれど、その迷いを打ち払うように星が煌めいた。
「蛍さん?」
 彼女が呼んでいる気がした。珠緒のためならと危険をも顧みずに飛び込んでくれたのだろうか。
 ああ、ならば彼女に言わなくては。
 危ないことをしてはいけませんよ、なんて。屹度「珠緒さんこそ!」と叱られてしまうのかも知れないが。
「そう、そうですね。珠緒は大切な方と共に日々を歩むことこそが幸福なのです。一人で眠っては、召喚されず廃棄された未来と変わりません」
 だからこそ――彼女が示してくれる帰り道を歩む。
 珠緒のことは、蛍が一番に知っているから。貴女の蛍火が、星となって帰り道を照らしてくれている。

成否

成功


第1章 第12節

リカ・サキュバス(p3p001254)
雨宿りの雨宮利香

『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)は小さく呻いてから体を起こした。
「……頭が痛い、私は何をしてたのかしら。
 最後に聞いたのは蹄の音か、あの子の声か……記憶が曖昧ね。ああ、でも、こんなろくでもないとこはとっとと出るに限るわ、それはわかる」
 背に感じる猛禽類の純白の翼に、石灰のように白く浄化された皮膚。
 己の豊満な肉体を包み込んだ其れは、根本的に魂が狂って『天使』のような姿になったのか。
「ここで何もせずもう男を望まず抱かなくとも良いと? そりゃぁ素敵ね……」
 色欲を謳歌する。それは『サキュバス』にとっては願ってはない道なのかも知れない。どうやらご同胞も盛りだくさんだ。
「何よ、何よ――ッ、ステキ? 素敵なわけないじゃない。
 何よこれ、この私の体は……! ……落ち着きなさいリカ、旅人は狂うのみで反転はしないでしょ。
 肉体がどうなろうと諦めなければ大丈夫。ここはきっと冠位の領域、何があろうと可笑しくない」
 すう、と息を吐いてから直感を信じた。眷属の彼女は置いてきてしまったか。自分が壊し続けた『眠りの核』が光のように空に飾られている。
「あっちかしら……ねえ、余計なお世話よ、クソネコ。
 私には一緒に穢れてもいいと言ってくれた子がいるの……どんな魅力的な狂気だろうとお断りよ。
 夢魔、日陰者、リカ・サキュバス。私の生きる道は、もう決めてんのよ!」
 だからこそ、その光に向かって駆け出すと決めた。
 さっさと帰ってクソネコをぶん殴ってやらねばならない。こんな世界の同胞なんて、必要としていないのだから。

成否

成功


第1章 第13節

リンディス=クァドラータ(p3p007979)
夜咲紡ぎ
ハリエット(p3p009025)
暖かな記憶

「ここ、は……?」
 周囲を見回して『夜咲紡ぎ』リンディス=クァドラータ(p3p007979)はずきりと痛んだ頭を抑えた。
 右目の視界を見れば、完全な紅色に染まった髪が見える。右腕は動かす度にズキズキと痛んだ。
「え――」
 リンディスは息を呑む。手にした本は、大切な頁が真っ黒に塗りつぶされている。
「ど、どうして」
 唇が震えた。こんなこと、自分がする訳がない。けれど、自分にしか出来ないものだ。リンディスは酷い頭痛を感じて俯いた。
 人々の紡いだ未来という物語。酷く絶望した少女は狂った様に『欲しかったのはこんな物語ではない!』と黒く塗った。
 約束さえも塗りつぶし、仲間との頁さえも絶望の色に染めた。漆黒に染まってから、右腕は綴る事さえ拒絶して傷付けた。
 全て、全て自分がしたのだリンディスは「ひ――」と息を呑んだ。
 絶望詩を歌う己はそれでも、と未来を綴ろうとし――体が拒絶したことを感じていた。
「い、いや……」
 違う、と頭を振った。
 未来を求めていたはずの自分がいた。大切な約束が――

「私は、私の身体を見付けるんだ」
 リンディスが聞いたのは『今は未だ秘めた想い』ハリエット(p3p009025)の声だった。
 自身の身体は異形に変化していても、此処は夢だとハリエットは己に言い聞かせるように歩いている。
 リンディスはその声を耳にしてハリエットをまじまじと見詰める。
「私には目指しているものがある。なりたい自分がある。
 私に光を……手を差し伸べてくれた人のためにも、ここから抜け出さなきゃ!」
「そ、うですね……」
 空には星がある。美しい星だ。その光が導いてくれているとさえ感じさせたから。
「大丈夫? 身体が重い。でも、此処じゃ眠れないよ。眠ったら楽になるか知れないけれど……。
 だって。私の安らげる場所も、私の居場所も此処じゃない。
 私の居場所は、あの人の傍。いつも優しく微笑んでくれる、光の傍だから」
 光を探そう、とハリエットはリンディスに手を差し伸べた。
「光を?」
「そう、光っている。夢魔の囁きなんて遠ざけてしまえば良い」
 ハリエットは帰ることだけを見ていた。現在(いま)を求めた彼女の背をリンディスはゆっくりと追掛ける。
 微睡みの淵で、見上げた空の光が――未来よりも現在を照らしてくれているから。
 此の儘、帰れるという実感が胸に沸き立って。

成否

成功


第1章 第14節

シラス(p3p004421)
竜剣
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
散々・未散(p3p008200)
魔女の騎士

「ここは……兄さんは……どうなったの……? っ……頭が……私は一体……」
 身体を起こした『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)が自らの周辺に朽ちた天使の羽が転がっていることに気付いた。
 傷つき、擦り切れた魔女の格好をした少女は酷い頭痛を感じながら深く息を吐く。
「アレクシア」
「アレクシアさま」
 呼びかけられてアレクシアは唇を震わせながら二人の名を呼んだ。
「シラス君……? 未散君まで……その姿は……それに、ここは?」
「……ライアムさまが鍵を開いた牢獄です。此処から抜け出しましょう」
 鍵を開いたのはあなたのおかげなのだ、と言葉には出来ぬまま『L'Oiseau bleu』散々・未散(p3p008200)はそっと手を差し伸べた。
「手を、」
 もう何処にも行かないでと言いたげに震えた声音は幼い子供の様だった。アレクシアを追掛けて此処までやってきた。
 未散の手を握りしめたアレクシアに『竜剣』シラス(p3p004421)はほ、と息を吐く。
「アレクシアに着いてこられて良かった――けど、……慣れない姿だな」
「それはシラスさまも」
 お互い様かとシラスは苦い笑いを噛み殺した。兄と同じ金髪碧眼。それは『シラスのなりたかった姿』だったのだろうか。
 兄のようになろうとも、決して手に入らないものはあるというのに。自嘲を噛み殺してから「参ったね」と笑った。
「みんなおかしな格好になってら」
「ええ、ええ」
 目元は鮮やかな死の色を乗せて、羽は抜け落ち朽ちそうな翼を持った未散は空を眺めて「なんとわびしい」と呟いた。
 おひさまはここにある。天使のような姿の彼女。アレクシアの手を握る未散の傍で、どうして彼女が天使を形取ったのだろうかと考えてからシラスは胸が痛んだ。
「大丈夫、もう起きれるかい?」
「大丈夫だよ、起き上がらなきゃ」
「……そうだね」
 未散がいるだけでも、今は心強い。シラスはアレクシアの支えとなってくれる彼女が居てくれただけでも安堵したのだ。
「3人で来られて助かった」
「ええ、ええ。必ずや、お二人と此の牢獄を抜け出して見せましょうぞ。
 誰一人、欠ける事なく、です。そうでなきゃ、格好付けたのに皆さまに合わせる顔がありませぬ」
 太陽が月を喰むのを知らしめればならない、と天を指差す未散にアレクシアはふふ、と笑った。
 どうやれば出られるのだろう。前に、ライアムの夢から抜け出したときは思い出が大事だった。だから、思い出を語ろう。
 アレクシアの笑顔を見て、シラスはほっと胸を撫で下ろす。

 ──それでも、今は、戦わなくちゃだ

「どこまでも変わらなそうな景色してるな、おっと来やがったぜ!」
 しらすは必ず生きて這い出すと、空から満ちた光を眺めた。掃き溜めにだって、そうやって光が差すことがあった。
 その光を掴もうと我武者羅に生きてきたではないか。
「シラス君!」
「アレクシア、未散はサポートを。あんなやつ、蹴散らせてやる!」
 出来損ないの悪夢の中で、未散は目を伏せた。

 頭が痛い。
『■ me、■ me、』――煩いな、怠け者め。自分で死ぬ事も出来ないのか
『■ me、■ me、』――煩いな、お生憎様。ぼくの唇はそう安いものでは無いのだ
『■ me、■ me、』――煩いな、失せろよ。お前になんかやるものか!
 武器構え、唇を震わせた。
「ええ、あれは良く晴れた暑い一日でした。或いは、高い所から見た果ての無い夕暮れでした」
 思い出せば、未散は目の前のアレクシアとシラスを眺めてふふりと笑う。
 こんな場所で飲まれて堪るか。
「アレクシアさま、お話をしてくださいな」
「そうだね、シラス君とは、廃屋巡りで冒険したねとか、未散君とは、向日葵畑で走ったよね、とか……。私の大切な話をしよう――」
 アレクシアは微笑んだ。その思い出に『靄が掛かっている』気がしたのは――
 ああ、何故だろう。あの時どうしたっけ、大切だった宝物。思い出の記憶が、靄がかかって霞んでしまう。
 気のせいだと思いたい。多分、屹度。
「アレクシア」
 呼んだ声に微笑んだ。
 あの先の光を目指そう。そうすれば帰れるよと笑いかけて。
「ねえねえ、行きましょうよ。
 ライアムさまに聴いて欲しい事もあるんです。ぼくと、シラスさまと、アレクシアさまの物語、其の断片を――」

成否

成功


第1章 第15節

イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
オフィーリアの祝福
ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)
奏で伝う
皿倉 咲良(p3p009816)
正義の味方
フロル・フロール(p3p010209)
女王のおねがい

 羽は傷つき、枯れ果てた花から漂うのは血の香り。死臭にも似た気配を纏わせて『女王のおねがい』フロル・フロール(p3p010209)は皮肉に笑う。
(……成程、これが反転……。我が姿ながら、悪趣味なものじゃな……)
 フロルは己の掌をまじまじと見詰めた。美しい姿をしていたおんなの姿は今は得も言われぬ状況に変化している。
「ふむ」
 この姿を以前までの自分が見たら酷く絶望しただろう。だが、今は違う――帰らねばならない理由がある。
(約束、したのじゃ。女王と。託されたのじゃ、女王に)
 身体に力を込めて、フロルはふらつく足で立ち上がった。聞こえる呼び声が、全てを肯定してくれる。
 此処に居れば、全て終わる。頭に直接響いたその声が足取りを重くさせるが、それでも、だ。
「じゃがな、カロンよ。変化することを止めることは、それこそ命の終わりと同義なのじゃ。
 ……わしは帰るよ。『女王のおねがい』は果たされておらぬのじゃから!」

 俯いていた『正義の味方』皿倉 咲良(p3p009816)は小さく笑いを漏した。んふふ、と笑みが漏れたのは致し方なかったのだろう。
「あーあ……アタシとしたことがびびっちゃった」
 血濡れの警察官の制服に、笑った膝が立ち上がることを拒絶する。憧れの象徴はこんな形で着たくはなかった。
「……立ち止まってて何が進むわけでもないじゃん? アタシには、やることもやりたいことも沢山ある。
 一緒に戦ってくれる皆の為にも絶対に生きて帰る。二度と折れたりなんかしない。アタシは皿倉咲良。正義の味方。それが、アタシの本当の姿だ」
 告げたとき、夢魔の眼が無数に咲良を見た。背筋にぞわと恐怖が走る。
 怖くても弱くても、越えていかねばならない。其れ等がどれ程に恐ろしくたって。咲良は唇を噛んだ。
「ッ――来なよ! 生きて帰って来るのを待ってる人がいる。沢山伝えたいことがある人がいる。
 遊ぶ約束もあるし、恋した人に告白もできてない。……ここでじっとしてるなんて絶対嫌!」
 立ち上がって、生きて返るためのおまじないのように言葉を重ねた。
「アタシは正義の味方。恐怖があるなら、それに負けない強い想いで抗えばいい。正義は絶対勝つからさ!
 ……負けるなアタシ。こんなつまらない悪夢に負けるな! 本当のアタシはそんな弱虫じゃない! 歩みを止めるな。自分を諦めるな!」

 気持ち悪い。『春の約束』イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)は遠く、フロルと咲良の声が聞こえた気がしながらもオフィーリアをぎゅうと抱き締めた。
 気持ち悪い。声が煩い。嫌だ、むかつく。全部、全部壊したらずうっと気分が良くなるだろうなぁ。
 イーハトーヴの手を握りしめて愛らしいオフィーリアは首をぶんぶんと振った。
「なぁに、オフィーリア? それは駄目? 何で駄目なの? ……大事なことだから、それは自分で考えなさい?
 ……ああ、そうだ。友達が待ってるんだ。早く帰って、ごめんねって、俺の口から、俺の言葉で伝えるんだ」
 元の自分は『こう』だったか――オフィーリアは質問が抽象的すぎると少し叱るような声音で言った。
 何が違うか分からない。どうでもいいかと投げ出しかけた思考をより戻して首を振る。
「俺は、ちゃんと『イーハトーヴ・アーケイディアン』で在り続けたい。皆と生きる、あの世界へ絶対に帰るんだから!」
「その意気だな」
 振り向けば『奏で伝う』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)が立っていた。
 牢獄に『ブチ込まれた』コトなどヤツェクにとっては数多とあった。悪い夜の目覚めとは何時だって牢獄の天井だ。
 聞こえてきた声も囚人の呻き声だと思えば、受け入れることも出来よう。
「――となりゃ、後はやるこた簡単だ。狂気の二日酔いは頭から払い、いつも通り、脱獄するのさ!
 レディを助けてさっさと脱獄(にげ)るぞ。さっさと起きてあの星を目指すんだ」
 ヤツェクは夢魔を蹴散らし、血塗れになりながら、震える膝をなんとか立たせていた咲良の手を引いていた。
 その隣にはフロルが立っている。四人も居れば、恐れることはないとでも青年は告げるように唇を吊り上げる。
(……この状況を引き起こした責任もあるからな。夜の王の始末は、必ずおれが付ける。
 その為にも生き残る。ついでに他の奴らも一緒に現実に戻す。
 カロンとやら、言っとくが、おれは立ち止まるなんて御免こうむる。音が鳴れば、嫌でも音楽は始まる)
 斃すべき存在が、皆、存在して居た。現実に戻りたい理由だって、山ほど合った。
「――それに、おれにゃ、守るべき貴婦人がいる。
 こんなところでくたばってヘレナ・オークランドを泣かせちゃならんということくらい、嫌という程わかってる。立てた誓いもあるしな」
 イーハトーヴは友と共に戦場で共闘した。それでも、時間を稼ぐためにオフィーリアを相手にし夢に囚われた。
 咲良は、フロルは、ヤツェクは。誰もが今日居たる存在と対峙した。
「星が見えるか。
 眩い星だ。……こんな所で立ち止まっちゃいれないだろ。あれが呼んでくれているなら、大丈夫だ。迷うことはない」
 脚が竦みそうになっても四人で協力すればこの夢を抜け出せる――

成否

成功


第1章 第16節

レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)
騎兵隊一番翼
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
天才になれなかった女
バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)
蛇喰らい
咲々宮 幻介(p3p001387)
背で語る
アト・サイン(p3p001394)
観光客
エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)
一ノ太刀
物部・ねねこ(p3p007217)
ネクロフィリア
エリス(p3p007830)
王子様におやすみ
バルガル・ミフィスト(p3p007978)
酔狂者
セチア・リリー・スノードロップ(p3p009573)
秩序の警守
倉庫マン(p3p009901)
与え続ける
ムサシ・セルブライト(p3p010126)
宇宙の保安官
風花(p3p010364)
双名弓手
リドニア・アルフェーネ(p3p010574)
夢先案内人

「此処何処?! しかも何なの、この姿! まるで……正義や悪人を理由に囚人に拷問する悪辣な看守みたい」
 ぺたりと地に座り込んでいた『鬼看守』セチア・リリー・スノードロップ(p3p009573)は驚愕し己の姿に愕然とする。
 それはこの世界に囚われた誰もが同じであっただろう。
 コンバットスーツは悪魔のように変貌していた。レーザーソードは紅く染まっている。『宇宙の保安官』ムサシ・セルブライト(p3p010126)は身体をがばりと起こしてから確かめるように周囲を見た。
「ここは!?」
 見覚えのない荒廃とした大地が広がっている。それでも自らを見失わない彼はゼストスクランブラーに直ぐに搭乗することを決めた。
「宇宙保安官ムサシ・セルブライト見参ッ! 何処であっても……ヒーローとして戦うのみでありますっ!」
 行く先に、一人の男がいた。斬れども、斬れども紅色の眸が光を帯びた。
 斬れども、斬れども、敵は減らず己を此処に留めようとしてくる。『刀身不屈』咲々宮 幻介(p3p001387)は「くそ」と呻いた。
「煩い、煩い五月蝿いうるさいうルサいウルサイ!
 拙者は、俺は……今度こそ、絶対に、護り抜いてみせる。仲間を、友人を……何よりも大切な、あいつらを!」
 首を振る。此処に居る全てを斬り捨てれば、この声は止むのだろうか。ムサシにセチアの姿が見えた。
 ぼんやりと佇んでいる幻介の唇が震える。どうしようもない程の無力感に苛まれた。
(いや、止まないか。俺が『俺自身』を見付け出さない限りは……。
 だが、見付けられるのか……こんなに弱くて、ちっぽけで、何の力も無い俺が? はは、ははは……もう、よく分からなくなってきたな)
 唇を震わせた幻介は夢か幻か。目の前に愛おしい姿を見付けた。辿り着く先は己であるかは分からない。

 ――こっち。

 呼ぶ声に手を伸ばせば、光が見えた。眩い光だ。
「――最大の誤算を教えてあげる。夢の中で、孤独な異形の姿の者共が、群れて戦う。貴方達は想定していた? それも――私達が! 騎兵隊が!」
 常に姿がイリモナインに変化しようとも。不安定であろうとも『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)は『仲間』が居れば旗を振る。
 ラムレイが居てくれた。で、あれば、前へと進むだけだ。魂を喰われるくらい経験済みだ。前進する。敵をすりつぶし、夢魔に恐怖を与えるように。
「亜竜も斃し、冬の王に認められた。私達の目覚めに貴方達は不要よ!」
 苦しみながら前に進む、別の道に逸れる仲間が居ても『司書』は留めない。己達のよすがはそれだけではない。道を違えても再開できる。
 この夢で百鬼夜行と彷徨うとも、星の光は、眩くも導いてくれるから。

 ――耳あらば聞け、刮目せよ! これがイレギュラーズ。集え集え、散れ、照らせ!
 怠惰であるなら見せてやりましょう。黎明を呼ぶ私達の有様を。神がそれを望まれる!

「はは、本当に。いつものことだろ」
 光の先に『観光客』アト・サイン(p3p001394)が立っていた。銀剣に映る彼は変化せず、ダンジョンを『暴食』する彼にとっては正気も狂気も紙一重であったのだから。
「このダンジョンを塔はするだけだ。司書が旗を振れば僕らは馬を駆ける。
 ここが夢の中であろうと関係なかろう――夢は消え去るものであり、現実だけがこの世に残るのだ」
 馬に跨がり、蹄の音を聞け。駆けた道は捲れ上がり、地肌が露出している。
 そのヒズメノオトを聞けばこそ、『一ノ太刀』エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)は「相変わらずだな」と振り向いた。
 鴉の脚に、背の翼は巨大に変化した。尾羽を揺らがせた巨大な鴉を思わせたおんなはふわふわと浮き上がりながら唇を吊り上げた。
 この姿が『己が転じた姿』だというならば、戻る手立てを講じるだけだ。そう思えば夢魔が此方を向いた。命を寄越せと叫ぶように迫り来る。
「相変わらず意気軒高そうで何よりだ。指揮は任せるぜ! アタシは指示通り暴れるだけだ! 指示が無けりゃ見かけた敵はすべてぶち殺すだけだ!」
「あーあ。いやぁ…ここ若干居心地が良かったんでどうしようかと思ってました。
 これで騎兵隊メンバーも一緒に居なかったらめんどくさい事になってたかもですね♪
 兎も角そう言う事ならいつも通りどんどこ騎兵隊で支援していきますね!」
 何時も通りだと言うならば『ネクロフィリア』物部・ねねこ(p3p007217)もイーリンを支えて走るだけだと決めていた。
「あ、そういえば私や皆の死体が落ちてるんでしたっけ? うひょひょ―!!! 私得ですね!
 安心してください!皆の体は私がばっちり保護しておきますからね♪」
「死体――なのか……?」
 未だ生きていて欲しいと願うばかりだがエレンシアにねねこは「テンション上げていきましょうね♪」と声を躍らせ微笑んだ。
 ああ、騎兵隊はやっぱり楽しいのだ。

 ――夢? 夢中になって竜と戦っていたはずが、どうにも記憶が曖昧だ。
『黒竜翼』レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)は唇を震わせる。
(夢か……どうにも気だるい。だがどうにも私はまだレイヴンを続けているらしい。
 姿は変わり、視界は不良となり、それでも未だペルソナを被っている理由は何だったか……そうだ、■■■■を殺さねばならない。
 それだけは確かだ。そのために、現世(うつつよ)に戻らねばならない。戻らねば、殺さねば、殺さねば――)
 もはや慣れ親しんでしまった断頭台を抜きレイヴンはゆらゆらと立ち上がった。何時も通りに首を刎ねれば良い。刎ねれば紅い飛沫が飛ぶはずだ。
 ああ、頭が痛い――痛いが『あの声』と『統率の響き』は、妙に心地よいのだ。

「いやぁ怠惰に耽る事ができるならそちらの方がいいのですけどねぇ。夢の中でも動けると知ったら働かないと、でしてねぇ」
 ぱりっとしたスーツ姿である事には変わりなかった。だが、『酔狂者』バルガル・ミフィスト(p3p007978)の双眸は爛々と輝き殺気を帯びている。
 痛みで『意識』が覚醒するならば其れで問題ないとバルガルはリトルワイバーンでの低空飛行をしながら進んでいた。
「さて、仲間を起こしながら列を組みましょう。夢の中でさえ『秩序』は大事でしょう?」
 バルガルは俯いていた『王子様におやすみ』エリス(p3p007830)に気付き、その肩を叩いた。
「……ここは? 私はいったい……『夜の王』が復活したところまでは覚えているのですが……。
 なんだか、何か声が聞こえてきますし、元の世界で呪われていた時のことを思い出しますね……こういう時こそ自己をしっかり保たないと」
「ええ、ええ、悪い夢でも『働かされていること』は確かです。貴女のお名前は?」
「私はエリス。誇り高きエルフのエリスです。ゲーラスとの約束を果たす為にもここで狂気に呑まれるわけにはいきません!」
 そうでしょう、と立ち上がったエリスにバルガルは頷いた。隊列は淀みない。
「ふむ、やれやれ、ベルゼーおじさまは囮でしたか。なかなか嫌らしい手を使われますね!」
 こんな所に居たってベルゼーとは対話できない。彼は撤退してしまっただろうか。次に会うときまでに牙を研ぎ澄まさねばならないのだ。
 遣る事ばかりで大忙しである。『双名弓手』風花(p3p010364)はふと、呟いた。
「何もしたくない、は怠惰というより無気力な気がしますが……果たして眠るのも面倒くさいとはならないのでしょうか」
 冠位魔種怠惰は夢を見る。それは『無気力』に生きてきた彼が唯一に見付けた怠け方であったのかもしれない。
 起きていれば、何かを為さねばならないその苦しみから、幾許の時でも解き放たれたかったのであろうか。

 ――男は夢を見た。
 イレギュラーズになる前の同胞たちと酒を酌み交わすあの夢を。イレギュラーズになる直前のあの町の彼らと語らう夢を。
 腕を失ったあの喪失感を。イレギュラーズになった時の憤りを。夢を見ている、イレギュラーズにならなかった安寧を。

 今を見る、残した奴らと俺が得た放浪を――
『悠遠の放浪者』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)は「愉快だ」と笑った。
「トカゲを地べたに叩き落としたら寝ていた。
 ンなこたぁどうだって良い、右腕もデカけりゃ左腕が大砲になってるわ目を瞑っても見えるわでマジで最悪だが。
 それすらどうでもいい。なんてったってここには魔種よりもイカれたど根性の百鬼夜行共を束ねる馬の骨が居るんだ」
 ああ、楽しい。楽しいではないか。怠惰でいるにはこの世界はどれ程までに楽しいか。
「テメェの口をとっとと閉じろクソ猫。今からテメェの皮を剥ぎに行くからな」
 迫り来る夢魔など、この隊列は打ち払うことを望んでいる。夢魔が何だ、呼び声が何だと声高に男は叫んだ。
 その隊列を眺めながら『与え続ける』倉庫マン(p3p009901)は皆の姿が変質していると驚いたように見回した。
 元が誰なのか分からない者も居る。大して変化のない者を見れば安堵する気持ちもある。
(私もその1人ですが…この場が強力な魔種によって作られた空間ならば、呼び声に深く関わる姿なのでしょうか。
 ああ、道理で私は何も変わらない訳です。
 いくら呼ばれようとも、私自身を求められるのは困り事ですし…そもそも『私の事』など、全くどうでもよい事ですから。
 ……重要なのは需要。それ一つのみです)
 倉庫マンはイーリン達の需要を満たすために脱出の糸口を探すのだと決めていた。己が出来ることと言えば、提供だ。与え続けるためにはクライアントの意向にはしっかりと答えなくてはならないのだから。
「ふふ、可笑しいわね。呼び声も、敵もうじゃうじゃいる。怖くはないわ!
 寧ろ、看守の試練として喜んで受けて立ちましょう! こんなの刑務所の中では常でしょう。
 強い悪辣の中でも染まる事なく――高潔に、善性に有り続ける。それが私が目指す看守の在り方なのだから!」
 進みましょうとセチアは飛び込んだ。
 だって、だって――まだ、クェイスをぶん殴っていないのだから。
(クェイス。私、まだ伝えたい事が沢山あるの。アイツが居ない貴方を知りたいの――共に生きる道を足掻いて掴んでみたいから。
 名前も知らないアイツは……本人が生者かも知らないけど、アレがクェイスの心に居る事は絶対に間違ってるのは私でも分かる)
 看守の在り方として、あまり言いたくないけれど。それでも、『死刑執行しなければ』と思ったのだから。
「待ってなさい、2人共! こんな所、さっさと出てってすぐ会いに行くから!」

 ――私は。私は、誰だ。
 何処かで呼ぶ声がする。自身が誰か分からずに、求める声があるならばそれに従おうかと『特異運命座標』リドニア・アルフェーネ(p3p010574)は手を伸ばした。
 誰かのためになるならばリドニアは喜んでその身を捧げることだろう。そうあれかし。
 リドニア・アルフェーネは『救い』の様に、求められることを望んだ。
(私を求める声など、きっと無いのだから。……だからみんな、行ってらっしゃい。私はまだ、此処でやる事がある。
 私は誰だ。私はこんな黒い物だったか? 私はこんなにも赤に満ちていたか?)
 ふらつきながら仲間の背を追った。
(今となってはもう何もわからない。
 もし、私を求める声があるのなら。その時は、それに従おう――例えその先に、どんな果てに辿り着こうとも)
 自らの欲求に素直であったリドニアは、仲間達が『目覚める』様子を眺めていた。
 たった、一人。帰り道も分からずに。

成否

成功


第1章 第17節

夢見 ルル家(p3p000016)
離れぬ意思

 ――ちょっと、ルル家! あんまり先に行くなって! おい! クソ! 聞いてんのか!
 ――急くな。目標を見失うぞ。待て、待てと言っているだろ!

「え? 何て? さぁ、どんどん行きましょう、リア殿! たまきち殿!!
 ……あれ? いない? もしかして拙者、寝ちゃいました?」
 そう呟いてから、己の姿を眺めてから『離れぬ意思』夢見 ルル家(p3p000016)は頭を抱えた。
 酷く気分が悪く、視界も怪しい。旅人である以上は反転する姿にはならないが、愛しい人のことも考えることが出来ない。
 これが狂気と呼ぶ状況なのだろうか。頭の中に何かの声が聞こえる。
「……うぅ…頭が痛い…… Bちゃんはいつもこんな気分なんでしょうか…?
 魔種はそうでもないんでしょうかね……受け入れちゃったんですもんね。戦いたくないけど……もう一度会いたいな……」
 手を繋いだぬくもりが、思い出された。彼女は困ったような顔をして「ばーか」と笑ってくれるのだ。
(ずっと一緒にいれたら良いのに……あぁ、でも遮那くんやヴィオ、皆に会えなくなるのは嫌ですね)
 身体が重い。気持ちが悪い。頭が痛い。戦いたくなんてない。膝をついて、地へと掌をぺたりと付けた。
 脂汗が滴り落ちる。
 呼吸が浅い。頭の中で『傷付けたくはない友達』が笑っている。
「……う……進めないと思ったらいつのまにか転んでたんですね。
 起きなきゃ……起きて進まなきゃ……帰らないと……遮那くん……ヴィオ……リズちゃん……」
 愛しい人の名前を並べて、ふと、頭に過ったのは彼女の事だった。
「Bちゃん……」

 ――ばかだな、アンタ。

 彼女はルル家が反転することを望むだろうか? ……いや、屹度、彼女はそんなことを望まない。
 自分と同じ所に落ちてきたルル家を見れば苦しそうな顔をするのだ。煌めく星があった。
 本当の彼女と話しに行こう。その為には。今、立ち上がらなければ。

成否

成功


第1章 第18節

アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)
航空猟兵
綾辻・愛奈(p3p010320)
つまさきに光芒

「なんだよ、これ」
『航空猟兵』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)は愕然と己の姿を見下ろした。
 夢があった。アルヴァにとっての『淡い憧れ』――それは、鳥への強い憧憬であった。
 空を自由に飛ぶ翼に憧れた。地を走る獣種であったからこそ、空を優美に飛ぶ鳥に憧れたのかも知れない。
 その憧れは何時の日か、嫉妬に変わった。何れだけ技能を身に付けたって鳥には及ばないと感じていたからだ。

 あるはずのない左腕に、背に纏った翼に目が眩んだ。
 全部全部、遙かなる旅路の果てに自分が欲していたものだった。姉が笑っている気がする。優しい声音が、響いて消える。
(――お願いだ、偽りであると知りながら手を伸ばしてしまう醜い俺を見ないでくれ。
 叶わぬ願いであると知りながら、今でも願ってしまう脆い俺を許してくれ)
 頭を抱えたアルヴァの傍に綾辻・愛奈(p3p010320)が立っていた。
 死後の世界、三途の川にしてはなんとも殺風景だと感じていた愛奈は違うと本能的に察した。
「声が聞こえますね、アルヴァさん。ずっとずっと、此処で眠っていれば『憧れも何もかも叶う』だなんて。
 ……冗談ではありません。私は帰って積んだ本を読むのです。まだ見ぬ稀書を探すのです。
 ……それに、見知った顔に挨拶するまでは死ねません。例え一度投げ出した身であっても、私の身の振りは私が決めます。勝手に決められて堪るものですか」
 アルヴァを見捨てることを愛奈は是としなかった。アルヴァはゆるゆると立ち上がる。
「向こうで、仲間が戦ってる」
「ええ、そうです」
 甘美な夢であったとて、醒めなければならない。航空猟兵の仲間が戦っている事を、アルヴァは知っていたから。
 願いとの決別を付けて、戻らなくてはならない。愛奈は行きましょうとその手を引いて――

「すまない。俺は少し、やり残したことがある。心配すんな、後で必ず俺も戻るから」
「アルヴァさん」
 愛奈は必ず連れて帰ると手を伸ばした。彼の帰り道はもう、目の前にあるのに。
 アルヴァは振り向かなかった。
 決意しろ。大丈夫だ。行ける。心を強く持て――!
 勢い良く飛び込んだ。飛来し、傾く月へと制御も不能になった速度で飛び付いた。
 ガチン、と硬い音がした。硬質的な『何か物質を殴った』音。
 其の儘、肉体が光に惹かれるように地へと落ちる。

(月が更に傾いだ。罅が入った――『アッチの景色と同じ』だ)
 アルヴァは手を伸ばす。あの月は現実の自分たちが踏み込んだ『夢檻の世界』と連動していたのだろうか。

成否

成功


第1章 第19節

ルビー・アールオース(p3p009378)
正義の味方

 肉体から咲いたのは紅色の薔薇だった。咲いて、舞い散る花びらはまるで飛び散る血潮を思わせる。
 ゆっくりと肉体を動かして感じられたのは、花弁は涙のようにふわりと堕ちて行くことだけだった。
「……身体が……!」
 これが夢の牢獄。『正義の味方』ルビー・アールオース(p3p009378)は唇を戦慄かせる。
 在る人を思い、そして辛いことがあって呼び声に応えた魔種。
 ルビーはその人を思い浮かべる。誰もが思い浮かべる辛い出来事が其処にはあっただろう。声に身を委ねれば、安心できるのだろうか。

 ――頭の中で声が響いた。
 此処でずっと眠っていよう。荒波に呑まれる必要も無い。安心して変わらぬ日常を夢見ていよう。

 ルビーは唇を噛んだ。それは、どれ程平和で安寧で、どれ程幸せな世界なのだろう。
 スピネルの手を握って、微睡みを共に過ごす。二人とも、傷つく必要は無いんだよ、と告げるように。
 ……けれど、その声も屹度、遠離ってしまうのだ。スピネルは屹度、泣いてしまうだろう。ルビーと声を掛けて、涙を流す。
(ヒーローになるんだよ、ルビー)
 その声がルビーの意識をぐっと現実側に引き寄せた。
「そう、だよね。私はスピネルとずっと手を繋いでいたい。どんなに苦しくたって、手を離したくないよ。
 一人で眠る安らぎよりも、誰かと手を取って進むと約束したから。
 ――だから早くこの夢から醒めて、スピネルの元に戻らなきゃ」
 彼の声が届いてくれるなら、自分は屹度もっと強くなれるから。
 ルビーは走る。……少しでも良いから早く。彼の元へと帰るために。

成否

成功


第1章 第20節

ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
奈落の虹
ハンナ・シャロン(p3p007137)
風のテルメンディル

 傍らには『片割れ』が居た。『風のテルメンディル』ハンナ・シャロン(p3p007137)と『奈落の虹』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)は並んで空を眺める。
「寂しい場所ですね……とりあえず一通り揃えただけ、という感じでしょうか」
「ここが夢の世界か……油断したなぁ。
 ハンナの言う通り殺風景だね。それでも調べれば何か見つかるかもしれないけど、故郷では今も戦いが続いている筈だ。早く抜け出さないとね」
 共にあったからこそハンナは常の通りの様子で隣のウィリアム――シャハルに声を掛けた。
「出口がどちらか分かりませんが、とにかく進んでいけばそのうち見つかるでしょう。ねっシャハル!」
「……その前に1ついい? 何で僕の姿こんななの? 原形なくない? よくハンナは僕だって分かったね」
「……あら、元気ないですねシャハル。大丈夫、きっと何とかなりますよ! シャハルのことなら分かりますし! ほらほら、行きましょう!」
 明るく声を掛けてくれるハンナを前にして無数の黒き脚を動かしたシャハルは項垂れた。
 ちりん、と銀のベルを鳴らす以外に異形としか呼ぶ事の出来ない姿。悍ましさを秘めた青年の背をハンナは楽しげに押し続ける。
「あっこら押すな押さないでちゃんと歩くから! くそっ絶対に戻ってやるからなー!!」
 そうしていれば、何時も通りの『楽しそうな双子』であった。
 ハンナはシャハルを見失い事は無い。シャハルが居れば、ハンナは強くなれる。恐ろしさだって、消えるのだ。
 落ち込む兄の背中を押すならば、聞こえる呼び声だって今は邪魔なモノだった。そんなモノ、聞こえいても、居なくても兄の世話に大変だと笑い飛ばして。
 自分の姿にショックを受けたシャハルはそれでも懸命に手を動かした。
(……故郷やイレギュラーズの皆の事を考える。全員無事だろうか。彼女も……怪我がないと良いけれど。
 早くここを抜け出さなければ。考える事は山ほどある。大事な事なんだ。眠ってる場合じゃない)
 背を押してくれるハンナを振り返ってからシャハルは小さく息を吐いた。
(……でもこうして集中出来るのは妹のおかげだね。
 昔は僕が助けなきゃと思ったけど、いつの間にか助けられるようになったね。あの一直線な明るさ、“ウィリアム”にそっくりだよ)
 ウィリアム。二人にとっての一等星。それが、二人を現実に引き戻そうとしてくれる。呼んでいるような気が、したからだ。
 ハンナは眼を細める。帰り道は、もうずっと前から分かって居た。心の中で"ウィリアム"が呼んでいたから。

 ――ああ“ウィリアム”。私達の中で今も極星のごとく輝く貴方。これからも貴方の言葉を胸に進みます。見守っていてくださいね。

『いつかハンナも皆を助けられるくらい強くなれるさ』『双子は揃うと無敵なんだぜ!』

成否

成功


第1章 第21節

矢都花 リリー(p3p006541)
ゴールデンラバール

「はぁ……?」
『ゴールデンラバール』矢都花 リリー(p3p006541)は『相変わらず』苛立っていた。
「……うっっざぁぁぁ……。
 ……夢の世界とかほんとは誰にも邪魔されず自由で何というかなんというか救われてなきゃあ駄目なんだよねぇ……
 それがいきなりむさいオッサンにされてるし……周り敵ばっかだし……。
 それにこの呼び声とかいうやつ……こんなず~~っと出てるのどこが怠惰なんだかさぁ。
 必死すぎでそれだけでも『なりたくない』って思うじゃんよねぇ……魔種そういうとこだぞ……」
 リリーは苛立った。そもそも、冠位魔種が猫の時点で腹が立つ。休日の朝早くから喧嘩をして眠りを妨げる奴を思い出すからだ。
 眠れと言われれば、それは親がゲームを取り上げることを思い出す。殺風景過ぎる空間だって詰まらなさすぎてNGだ。
 転がされる自分の姿まで辿り着くにはリリーは早かった。そもそも、床にごろ寝している自分は待遇さえ悪かった。
「……おら身体返せ帰り道空けろだよぉ……
 邪魔する奴はここで溜めた戦闘的精神的復讐パワーに現実で震えることになるから……覚悟……」
 ――可愛らしい姿ではなく、男性的な姿に変化していたリリーはそうして外見が変化しても自らを見失わなかった。
 早く帰って本当の怠惰に身を任せたい。怠惰レベルなら、冠位にも負けていないつもりなのだから。

成否

成功


第1章 第22節

ニル(p3p009185)
眠らぬ者

 は、と瞼を押し上げて――『陽だまりに佇んで』ニル(p3p009185)は首を傾げる。
「……ニルは、眠っていました。いいえ……まだ、眠っている……のでしょうか?
 ここは、どこ? ニルは、ニル? なのでしょうか? 頭の中がぼんやりするのです」
『眠る』ことのないニルに夢は余りに未知の世界だった。これが眠るという事なのだろうかと、作り物めいた世界で身を起こす。
「レンブランサ様は、どこ?」
 首を傾げて、そろそろと歩き出す。
 子守歌が、聞こえる気がする。夢のまにまに呼ぶ歌が。響いて、そして遠離るような、奇妙な感覚――それでも、ニルは眠らない。寝る必要が無いからだ。
「……起きたいのです」
 早く、早く起きよう。ぼんやりしていれば、ナヴァンが食事をしないかも知れない。
 彼は放っておくと直ぐに食事を忘れてしまうから。『美味しい』をとどけてあげなくては屹度御困ってしまう。
「それに、もう一度、あいたいひとがいるから……伸ばした手で、触れたいひと。
 それに、それに……レンブランサ様にも会わなくちゃ。ニルは……傷つけたくはない……けど、止めなくちゃって、思うから……」
 ニルはそろそろと歩いた。襲いかかってくる気配から逃れるように。
 走り出す。逃げなくては、ならないから。
 重い足を持ち上げる。疲れてしまったら立ち止まれば良い。
 それからゆっくりと、歩き出す。
 ――早く、行かなくちゃ。レンブランサが一人で泣いているかも知れないから。

成否

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第1章 第23節

節樹 トウカ(p3p008730)
散らぬ桃花

 瞼を押し上げた。『散らぬ桃花』節樹 トウカ(p3p008730)はすう、と息を吸う。
 自身から漂った血の匂いから逃れるように思わず目を強く閉じたくなった――幼少期の頃から度々目にしていた怒りと憎しみ、それが全てを破壊した悪夢。
 同じ光景が目の前には広がっていたのだ。胸元の花弁は血の色に染まり、神使となるまえにお役目という建前で逃避したことが頭に過る。
 ――この呼び声は、子守歌だ。楽になっても良いんじゃないかと。心の隅でそう思った。

 思った刹那、桜の木刀を握っていた掌に痛みが走る。
 皮膚を切り裂くような痛みにトウカは木刀が破損していたのだろうかとまじまじと見遣る。
 いや、違う。
 木刀に何の変化もなかった。己に変化が及ぼされていようとも、木刀だけは代わらぬままだ。
「――……ああ」
 木刀を授けてくれた『誰か』が叱っているかのように感じられた。
 此処で立ち止まっているな、と。叱り付けるかのような痛みにトウカの唇にはうすらと笑みが浮かぶ。
「そうだな、まだ我が家に帰れてないし! お役目途中だったから両親や兄ちゃん達が心配しているのに!
 この木刀も借りたままなのに! こんな大地と空と月しかない場所で寝てられるか!
 せめてこたつかお布団を用意しろ! ベッドでもいいぞ!」
 叫んだトウカは桃色の花弁を、暫く見ていない故郷の風景を強く思い出した。
 星々の煌めきに誘われて、進む先には桃と桜の香りが漂っているようであった――

成否

成功


第1章 第24節

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女

「ここ、は? それに、この赤黒い片翼は……?」
 呆然と自身の身体を確かめて。身を起こした『プロメテウスの恋焔』アルテミア・フィルティス(p3p001981)は周囲を見回した。
 さっきまで何をして――そう唇に音を乗せれば、唐突に先程までの光景が脳裏に過る。
「ッ、そうだ!? シフォリィさんは!?」
 アルテミアは項垂れている『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)に気付きほっと胸を撫で下ろした。
「よかった、お互い姿が少し変わっているけれど何事も無いようね。
 でも、知らない身体のはずなのに使い方が“解る”というのは嫌な気分ね……。
 ねえ、早く脱出しましょう? 大丈夫、私がついているから、ね? どうしたの?」
 アルテミアの差し伸べた手を払除けてシフォリィはぎ、と、目の前の親友を睨め付けた。
「貴女の護るは誰かの為じゃなくていつも自分の感情を清算する為の物じゃない……。
 色欲に剣を向けるのも、妹の為じゃなくて自分の怒りが収まらないからでしょう! 自分の為なのを誤魔化さないでよ!」
「ねぇ、シフォ……ッ!?」
「手の届く範囲を守りたいのなら、私を救ってよ! もう嫌になるくらい家族も友達も、沢山の大事な物を失ったままの私を!
 誰かに救われてばかりの貴女が、一番近くにいた友人すら救えない貴女が、軽々しく護るなんて言わないで!」
 ――ああ、頭が重かった。
 長く伸びた白銀の長い髪。奇跡さえ起きなかった自分の姿に、諦観ばかりが胸に過った。シフォリィはアルテミアを突き放す。
「来ないで!」
 叫ぶ。喉が、擦り切れそうな程に、声を荒げる。
 現実は大切な人が喪われ行くばかりだった。もう、何かを護る為に戦いたくない。前世が何? 故郷が何? 何もかも残っていないのに?
「ッ――」
 とんでもないことを言った。その事に気付いて、シフォリィは走り出す。アルテミアを置いて、遠く、光から遠離るように。
(お願いアルテミア。追ってこないで。弱い私を追わないで! ――私を救わないで……!)
 罵声と彼女の思い、振り払われた手を呆然と眺めてからアルテミアはへたり込む。
 シフォリィと名を呼ぶと、じわりと彼女に言われた言葉が胸に突き刺さっている事に気付いた。
 そうだ。誰かを救うのも、冠位色欲に剣を向けるのも、その通りだった。妹も、親友も、護る事の出来なかった自分への嫌悪感がそうさせている。
 理由に人を使っていた、目を逸らしてきた私の罪の証。
「ごめんなさい、シフォリィ。貴女がそこまで思い詰めていたなんて……」
 ――だからこそ、彼女を一人にさせたくはなかった。
 全てを投げ出すことが出来れば、どれ程楽だっただろう。あの時、妹の腕の中で微睡んでいられたら。
 ああ、けれど、それを拒絶したのだ。だからこそ、アルテミアは走った。
「シフォリィ!」
 何れだけ罵られようとも、罪深くとも、醜くとも。彼女に腕を伸ばす。
 魂を揺さぶる聲は――シフォリィの腕を掴んだとき、遠く聞こえなくなっていた。

成否

成功


第1章 第25節

星穹(p3p008330)
ヴェルグリーズ(p3p008566)
桜舞の暉剣

 ――聲が、聞こえた。ぬるい泥の中へと招くようなそんな聲が、響いては遠離る。
 視線を下ろせば背から胸へと剣が貫いているのが見えた。痛みなどない。何故か、痛くさえなかった。
『人間』ならば、とうに血を吐いているだろう。痛みに藻掻いて、心臓はとっくに脈動を止めてしまっているかも知れない。
 有り得ざる光景を見詰めながら『桜舞の暉剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)は「俺は?」と首を捻った。
「どう、なっているんだ……?」
 分からない。荒廃した大地で、何かをしなければならない気がした。
 剣を手に、前へ、前へ行かねばならぬ。もうろうとする意識の儘、ふらふらと、ヴェルグリーズは歩いていた。

 紛い物の翼は、穹には決して飛べやしない。
 この鞘は私の物ではない。携えた剣こそが何なのか、『桜舞の暉盾』星穹(p3p008330)には分からない。
 脳裏に木霊する声も、その理由も、何かが足りない気がしている自分の境遇も。
 何もかもが、分からなかった。
「――……私は? わたし、は」
 顔を上げた。気付けば隣に誰かが立っている。朧気な記憶を辿るように星穹は唇を動かした。
 かけがえのないひとだ。屹度、そう。そうだと実感できるのに。
 星穹は迫り来る刃を防ぎ庇った。どうしてそうしたのかは分からない。そうせねばならないと、身体が動いたのだ。
「ああ、」
 隣に立っていたのはヴェルグリーズだった。朧気なまま、身体が自由に動いた。そうするべきだと告げるように。
「ああ、ああ! ああ――! 私は、私は……そう。きっと、貴方の相棒です。
 ただひとつ確かなこと、貴方の居るべきは、こんな場所ではないということ」
「……あぁ、そうだね相棒。そうだった。俺だってキミに『誕生日おめでとう』を伝えられていないんだ」
 顔を見合わせれば、見詰め続けても飽きぬ程に、何時だって望んだ『君の』『貴方の』眸があった。
「美しい貴方を護る盾。それが、私――貴方を護るために、私は此処に居るんだわ。
 ねえ、ヴェルグリーズ。私、貴方に『お祝いをありがとう』も伝えられていませんね」
 言葉が、重ねても、落ちていく。屹度、現実に戻った時に忘れてしまっているかも知れない。
 それでも良かった。朧気であった輪郭が線を結ぶ。名前を呼べば、真っ直ぐに『相棒』の姿が見えた。
「貴方も、私も置き去りにしてきたものが、向こうにありますし、身体を見つけて、帰りましょう。空が……あの子待っていますからね」
「ああ、そうだね。だからこんなところに一秒だっていてやる道理はない。二人で戻ろう、魔物だろうが竜だろうが俺達を止められると思うな!」
 二人でならば、屹度越えられる。きらりと輝いた星が『空』に瞬いた。
 美しい。まるで、二人を呼ぶ声のように優しい光に見えて――

成否

成功


第1章 第26節

胡桃・ツァンフオ(p3p008299)
ファイアフォックス

「不覚を取った……の。
 どうにかして夢から覚めねばならぬが、目下の懸案事項としては、肉体に付随する炎が暴走しないようにせねば……なの。
 この状態で炎を自立駆動させた場合何が起きるか分からぬ。
 結論としては、交戦は避け、必要なら夢魔を通常攻撃で迎撃しつつ、己の足で本来の自分を探さなくてはならぬかの」
 自身の事をぼんやりと考えて『ファイアフォックス』胡桃・ツァンフオ(p3p008299)は呟いた。
 過去と向き合ってきた胡桃にとって、この状況は大きな問題ではなかった。
 過去には縛られるな、とそう言われた事こそが此処を乗り越える原動力になる。
 罪に対する応報と、過去からの解放。
 求める気持ちはあれども、退屈な『今』が続いていく怠惰とは相性が最悪であった。
 停滞を求めているわけではない。進展を、そして踏み出す勇気こそを胡桃は求めていたのだから。
「まだシェームはファルカウ上層で待っているそうであるし、フェニックスが奪われた等、炎たる者として見過ごすわけにはいかぬ……の」
 ファルカウから燃える匂いがした。灰燼に化した森を救う為には此処では負けては居られない。
(――罪を、直視する。だからこそ、安寧のうちに終わりを迎えることは、認められない。
 この身を終わらせるものが、そんなものであっていいはずがない……の)
 煌めく星を見上げてから胡桃ははあ、と息を吐いた。
 あの星を辿れば『外』へと出られる。その魂は肉体の元へと向かっていった。

成否

成功


第1章 第27節

イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
業壊掌
久留見 みるく(p3p007631)
月輪

『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)は前後左右、隈無く見回してから荒廃した大地に「ふうん」と呟いた。
「これがウワサの夢の中か……カッコウも何かヘンな姿に変わっているし、どうしたもんかな?」
 首を捻る。何時夢の中に入ったのかは覚えて居ない。のんびりと胡座を掻いて事態を俯瞰している暇も無いのだと早速立ち上がった。
 ジャバーウォックに少しでも意識されるかもしれない『イイトコロ』だったという自信があった。
 鉄帝の3強でも滅多に出会えないバトルが現実に起り、御伽噺の登場人物に自分が鳴ったかのような素晴らしい幻想。
「帰らないと!」
 兎に角、イグナートは走り出そうと決めた。これが檻ならば妨害が多い方向こそが目的地だ。
 だが、暖かな気配が肉体を包み込む。夢魔など蹴散らして星々を辿れば辿り着くと感じさせてくれたから。
「ッ――やってくれたわね……ジャバーウォックの次は怠惰の魔種に目をつけられたというわけ。
 ああ、もう。次から次へと! こんなところでウダウダとしてる場合じゃないわね。
 アンジュ、パーシャ、二人は無事かしら……あたしが居ないとダメなんだから。早く抜けださなきゃ……!」
 懸命に月輪を握り戦い続ける『月輪』久留見 みるく(p3p007631)はぎゅ、と目を伏せる。
(……なんて不気味な月。パパ、ママ、月輪……あたしを導いて)
 祈るようにそう願ったみるくの傍にイグナートが飛び込んだ。
「ダイジョウブ?」
「え、ええ……イレギュラーズ、よね……ねえ、あっちが光っているのはどうして?」
「モチロン! あっちに行けば良いって感じるよ」
 にんまりと笑ったイグナートにみるくはほっと胸を撫で下ろす。協力して彼方に向かおう。
 出口は光っているから。竜の咆哮が遠離った現実へ。

成否

成功


第1章 第28節

ジェラルド・ヴォルタ(p3p010356)
二花の栞

「……んだよここ。どうなってやがる?」
『二花の栞』ジェラルド・ヴォルタ(p3p010356)は痛む頭を抑えてその身体を起こした。
「俺はどうなった? まだ生きてる感覚はある……だがヤな感じだ。
 夢の牢獄ってやつ、か……まさか俺がかかっちまうなんてなぁ! 全く……油断しちまってたぜ……」
 何か為せることがないだろうか。似たような境遇のイレギュラーズ達が戦っている事は感じ取れるような気がする。
 思い込みでも良い。何か出来ることを探すだけでも十分に現状は変化するだろう。
「ったく、こんなところで寝てられっかよ……クソがッ!
 俺にはあまりにも不釣り合いなこのハンカチを返す為に……生きて帰らなきゃあならねぇってのによォ!
 意思を強く持て……この俺が……簡単に諦めてやれるか! 絶対に思い通りになんかならねぇぜ!」
 気付けばポケットのなから毀れ落ちたのはレースのハンカチだった。友人のアルエットが持たせてくれたのだ。
 一族の願掛けみたいなものを彼女に押し付けた、とジェラルドは感じているがアルエットも彼を心配したのだろう。
(……アンタの所に帰らなきゃな)
 怠惰の魔種なんて撥ね除けて、進まねばならない。
「ハッ――俺に怠け癖はあまりにも不釣り合いだったな!
 ……帰ったら一番にアンタの顔を見たいと思うのは友達だから、だよな?」
 ジェラルドは友の顔を思い出す。その感情の意味は、本人だけが分かることだ。友達だからこそ、と願うことは悪くは無い。
 進む足取りは淀みなく。只、レースのハンカチが行く道を教えてくれているようにも感じられていた。

成否

成功


第1章 第29節

シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
優しき咆哮

「……こんなとこに留まってるわけにはいかない。リアもサンディくんもすーぐ無茶するんだから」
 親友や師匠のことを思い出してから『優しき咆哮』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)は苦い笑みを漏した。
 それが自分の原動力だと思うとなんと言葉にするべきかも分からなくなる。
 早く出て、直ぐにでも助ける手を伸ばさねば。直ぐに無理をする人たちだから――自分のことを思い出そう。

 綺麗だと言ってくれた宝石の瞳。
 君がお守りにとくれたロザリオ。
 師とした人に貰った刃。
 それから――繋いできた縁の刀。
 イメージは完璧だった。シキと呼んでくれる声、シキさまと朗らかに告げる声、あの国の澄渡った空気。

「閉じ込められるだけなんか癪にも程がある。
 だったら思いっきり暴れてから大笑いしながら出口を蹴っ飛ばしてやろうじゃん?」
 シキは小さく笑った。引き抜いた武器の名前は何だっただろうか。
 夢魔が居る。あれが、仲間達を害してこの世界に引き留めようとする者か。

 ――奇跡を呼ぶ人。

 これで、誰だって肩をひっつかんでやりたかった。友達だと笑いかけた人が、遠くに行かないように。
 真っ直ぐに、君達の所に走って行くから。

成否

成功


第1章 第30節

ライオリット・ベンダバール(p3p010380)
青の疾風譚
劉・麗姫(p3p010422)
姫拳

「オーホッホッホ! ……あら? いつの間にか殺風景な所に来てしまいましたわ。
 ……フム、これが俗にいう『夢の中』というものでしょうか? それにしては手抜きにも程がありますわ!」
 変わらぬ態度で夢の牢獄を進むのは『姫拳』劉・麗姫(p3p010422)であった。
「姫たる私に相応しい位に姫っぽくしてくれても! せめて私という存在がこの場所の華になる様に致しましょう! オーホッホッホ!」
 兎に角、きらりと輝いてみせる麗姫は襲いかかってくる相手が居れば姫力(パワー)でぶん殴ってやると決めていた。
「寝てろですって? そんなの姫らしくないわ!
 何より早く戻って琉珂様にまた会いにいかなくてはいけませんもの! ですから……姫の邪魔をしないで!」
 麗姫は琉珂の名を呼んだ。その声に反応をしたのは『青の疾風譚』ライオリット・ベンダバール(p3p010380)。
 彼女を庇う様に立っていた。竜王を見据え、それから――
「腹が減ったっスね。これならフランスパンを分けて貰えばよかったっス。
 確かに、周りに食べるものはないけど……あの月は――なんだか美味そうダな。
 届くダろうか? いや、届くはずなどない。
 俺は飛ぶことすらままならない木偶の坊のはずダろう? 貪り喰らうダけしか能のない、たダの――」
 ライオリットは姫力で周囲を蹴散らそうとする麗姫の高笑いで思わず我に返る。
「……違うっス。やってもいないのに無理だなんてそんな悲しいこと、今のオレは言わないっス。
 やっと見つけたんっス! やっと踏み出せたんっス! だから……!」
 だから――こんな所でこんな事をしている場合じゃない。
 見付けた自分を手放さないために。
 新しい自分を見付けるために。全力で駆け抜ける。ライオリットは煌めく星を見上げた。

成否

成功


第1章 第31節

郷田 貴道(p3p000401)
喰鋭の拳
アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)
灰雪に舞う翼

「うー……なにここ……あとなにこの格好……。
 なんか背中がいつもよりぱたぱたするし、トゲみたいな光が巻き付いてて視界が楽しげにホワイトアウトしかかってるし。声が……歌が妙に響くし」
『灰雪に舞う翼』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)は頭を伏せた。
 ずきずきと頭が痛い。目の前を縛る棘に、歌いたくなる衝動は小さなアクセルの身体を包み込む。
 ああ、けれど。怠惰ではアクセルは満たされない。楽しさが必要だから。
「この場所に来る前は亜竜と戦ってたんだよね……いきなりの黒い霧は冠位魔種の権能だっけ?
 危ない空間ってこともあるけどここから早く出たいなあ。
 魔種とか竜が襲ってきてる深緑を守りたいし、アーカーシュだって冒険続きで楽しいし。
 そうだよ、今はとても楽しいから……きっと、この姿での楽しさは必要ないんだ。だから、早く外に行きたいなあ」
 アクセルは広域から俯瞰する。誰か、居ないだろうかと探すアクセルの眼窩には一人、戦い続ける『喰鋭の拳』郷田 貴道(p3p000401)の姿があった。
「ふざけるな。よりにもよって、この俺に怠惰? 怠惰だと?
 俺にそんな暇は無い。この弱過ぎる身体を鍛え直すには、僅かな時間も無駄に出来ない。停滞なんて断固として認めねえ。
 ――超えなきゃならない漢が居るんだよ!」
 吼えた。その拳には力が込められる。
 自分の身体がある場所は、『あらねばならない場所』は最初から決まっているのだ。
 より険しく、より困難で、危険な場所。苦難上等、立つ場所は七難八苦の中にある。
「指針は定まった、邪魔する奴は薙ぎ倒す! どきやがれ、三下ども! 本来の俺だと? 決まってる、俺は郷田貴道様だ!」
「助太刀、するよ……」
 アクセルの魔砲が敵を薙ぎ払った。道が開く。
「退けェ―――!」
 貴道が走る。あの星は暖かな光だ。其処まで走れ、進め、進め。脚を縺れさせながらも現実を目指して。

成否

成功


第1章 第32節

ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)
寄り添う星
コルク・テイルス・メモリクス(p3p004324)
貴方を想う

「此処は、この場所は……そうか、夢の世界、か」
 これが夢でないならば、なんだと言うのか。軀に巡った魔力は破滅の紅色をしている。ならば、眸だってその色彩に染まっているはずだ。
 長く伸びた赤髪が揺蕩った。これは。ああ、悪魔、と呼ぶべきなのだろうか。
『寄り添う星』ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)は俯いた。傍らに、僅かな吐息。動く気配、金糸がさらりと落ちた。
「……眠って、いるだけならば良かったのだけれど」
 思わずぼやいた『貴方を想う』コルク・テイルス・メモリクス(p3p004324)は目を伏せる。
 染めた髪は元の通りの憎らしいほどの金の色。足掻くしかないじゃない。こんな姿、晒したくはなかったから。
 傍らの愛しい星は紅く、赫く。燃える流星に手を伸ばしたならば、屹度火傷してしまう。
 命の終を象徴するような、星の終わりに似た気配。終焉のようなあなた。
(――わたしと貴方は全てが違うのだと、共に堕ちられたなら、何れ程良かったのだろう)
 唇に乗せる事なき言葉は、おちていく。終焉の気配をつれているから。
「ウィルくん」
「ああ、」
 分かって居るよとウィリアムは言った。早く此処から出ないと行けない。その姿を見られたくないならばウィリアムは前だけを向いていよう。
 傍らに感じた星、彼女と手を繋いで。共にとせがむような足取りで。
「……こんな格好じゃ、お前は怖がっちまうよな。ちゃんと夢から醒めて、起きなきゃいけない。
 俺も、お前も。夢でも物語でもない、現実で生きてるんだから」
 星は最期の時には紅く、赤く染まるらしい。そうして、破滅の気配を宿して落ちていく。それは悪魔の産物だと彼は言った。
 コルクはウィリアムを見上げて「怖くない、なんて言えば嘘になるかしら」と呟いた。

 ――燃える星が、世界すべてを壊すから。彼の夢は酷く悲しい。
 だから、御伽噺(わたし)が居る。貴方の物語には、ハッピーエンドが足りないから。

「……でも、大丈夫。ウィルくん。貴方だって解っているから。どんな姿になったって……信じてる」
 だから手を繋いで歩いて行こう。ほら、ご覧になって。あの星は、帰り道を照らしてくれる一等星だから。

成否

成功


第1章 第33節

物部 支佐手(p3p009422)
黒蛇
杏 憂炎(p3p010385)
酒場の主人
リドニア・アルフェーネ(p3p010574)
夢先案内人

「最早これまでかと思いましたが、どうやら命は繋いだようですの。
 成程、これが噂に聞く夢檻……ご丁寧に異形の姿まで用意して、準備のええことです」
 黒い大蛇の姿に変貌した『黒蛇』物部 支佐手(p3p009422)は「ふむ」と小さく呟いた。
「ここハ……? 早く、アイツの所に戻ラネーと」
 ズキズキと頭が痛んだ。『酒場の主人』杏 憂炎(p3p010385)は周囲を隈無く見回した。
 大人の軀になっていたことに気付き、随分と心地の良い夢だと憂炎は感じたものだ。
 ――謎の奇病に冒されて、9つで成長が止まってしまった。
 ずっと傍に居た幼馴染みだけが成長して行く日々に。一抹の不安を覚えていた憂炎は、その姿が妙にしっくりくる気がしたのだ。

 ”もし彼女が大人になった時、同じ様に俺の手を握ってくれるのだろうか?”

 そんな不安さえ、振り払えるようだから。憂炎はそろそろと歩く。
「ここにアイツは居ねェ、そレじゃダメなんダ」
 ずっと傍にいてくれた幼馴染みは、受け入れてくれた。こんな姿にならなくとも。
「――押し通ル、元居タ世界に返しテ貰ウゾ!」
 だから、憂炎は吼えた。自分は何処だ、と探すように。
 憂炎の憎悪の爪牙を支える様に飛び込んできたのは剣より産み出された蛇神。それは福徳をもたらす霊威そのもの。三輪の大神(おおかみ)を宿した火明の剣。
「全てをお任せするのが楽ですが、それでは黒蛇衆としての在り方を問われ、宮様の名誉を汚す結果となりましょう。
 そう簡単にくたばってやるわけにゃいきません。わしには、まだ戻ってやる事がありますんで! 南蛮物もまだ集めきっとらんことですしの!」
 支佐手の声を聞き『此処で過ごすことに慣れて来て仕舞った』『特異運命座標』リドニア・アルフェーネ(p3p010574)が振り返る。
 心地の良い夢。全てをなくした自分を存在させてくれるから。
 少し知った夢の案内人。最後の最後、眠りから覚めるのは後で良いからと、仲間達を導く役を担った。
(どうか――此の儘夢に漂うことを赦して欲しい。まだ、遣ることが沢山在るの)
「あっちよ」
 リドニアは指差した。
「月を壊すことを望むなら、その手伝いをするわ。でもね、貴方は私と違って自分を覚えてるはず。
 なら、行く道は一つでしょう? ――いってらっしゃい。今度は貴方が夢に囚われないように」
 微笑んだリドニアの顔にはモザイクが掛かっていた。ああ、私は……誰だっけ?

成否

成功


第1章 第34節

ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)
毀金

 薄皮越しに感じていた世界の温度が急に近付いた。そんな錯覚。
 まるで肌に直接触れられたかのように世界は急激にその存在を表した。体温が、じわじわと重なり合うような奇妙な感覚。
 それは――自分が何者かどうか。夢から覚めたら忘れてしまえばきっと消えてしまうような感覚。
 自らに火を付けて、蝕むような。
 その感覚に『朽金の座』ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)は「ああ」と呻いた。

 ――これが、私か。

 腕に握ったのは指輪ではなく槍杖だった。黄金の腕は柔くとも、通りすがる人を護ることは出来る筈だと、その足を引き摺った。
 ささやきかけてくる衝撃を堪える事位なんて事は無かった。
「……生憎、出る理由ができてしまったのでね」
 夢からは覚めたくはなかった。
 けれど、醒めなくてはならない。
 知ってしまったのだ。

 ミロン。
 全てを喪失していた人間、そこからの『反転』。それこそ、全てを思い出した、得た、その上での自らの記憶(つみ)。
 呪いが軋んだ、口の端から漏れた臓器の烟りにヴィクトールは「ああ、ああ」と呻いた。
 思い出した。思い出してしまった。全てを喪失したのは我が手だった。
 ミロン。
 ミロン。私は――私自身のエゴで息子を捨てたのだ。
 この記憶が夢として忘れ去られてしまったとて。
「私は、私の名を与えたあの子に会って詫びなければいけないのですよ」
 でなくてはならない。愛を抱けない呪いは、一生赦してはくれないのだ。
 謝らなければならない。ミロン。ミロン・ヴィクトロヴィチ・ウェスカー。
 大切な――貴方に。

成否

成功


第1章 第35節

フェルディン・T・レオンハート(p3p000215)
海淵の騎士

 ……――ここは、一体どこだ?

 軀がやけに気怠かった。『海淵の騎士』フェルディン・T・レオンハート(p3p000215)は周囲を隈無く見回した。
 己が手足は存在して居る。どうやら五体満足だ。欠損がある訳ではない。
 だが、刀身に映った顔はどうだろうか。
 蒼い髪と真紅の双眸。フェルディンにとって見慣れていないはずの『本来の俺そのもの』の色彩。

 ……――ああ、何も分からないし、面倒臭い

 此の儘もう一度眠ってしまおうかと考えたがフェルディン自身の心がそうは赦さなかった。
 心の奥底で焦燥感のようなものが暴れている。
 眠ることを拒絶する心の奥底で、『彼女』の声が聞こえた気がした。

 ――何をして居るのじゃ、莫迦者が!

 ……ああ、分かった。分かったとも。フェルディンはゆっくりと歩き出す。
 彼女の元とは一体何処なのか。そう思いながらもやけに彼女の事ばかりがはっきりと思い出された。
 叱るような声音が、近付いてくる気配がする。
 美しい水色の星。その鮮やかさが眩く、優しい。
 ふらふらと歩きながらこの荒野を一人行く男はふと、思った。
 ああ、何処に行くのかと悩んでいたが、そんなこと悩む必要なんて無かったではないか。
 心が呼んでいる方向に向かえば良い。
 彼女の下へ戻らなくてはならないと、この心が教えてくれているのだから。

成否

成功


第1章 第36節

秦・鈴花(p3p010358)
パンケーキで許す
ユウェル・ベルク(p3p010361)
宝食姫

「なにこれ、これアタシ?」
 気持ち悪い、と『パンケーキで許す』秦・鈴花(p3p010358)は頭を抱えた。
 腹がぎゅうぎゅうと悲鳴を上げる。全部全部、食べてしまいたいのに。この荒廃した大地には何もない。
 ああ、こんなのあの暴食の『オジサマ』みたいで――隣の、『隣のゆえ』もおいしそうで。
「りんりん?」
「ゆえ……?」
 よくよく見れば『宝食姫』ユウェル・ベルク(p3p010361)の姿も変化していた。
「ねえ、りんりん、ここどこ? さとちょーたちと一緒にいたはず……」
 真白に染まった髪がユウェルは嫌いだった。翼も尻尾も、何時もと違って、いやだと首を振っても意味は無い。
「ねえ、ねえ、ここは良く分からないから早く出ようよ。
 りんりんもなんだかいつもと違う感じ? でもそんなのかんけーないよね! 早く出ないと! 一緒に行こ、りんりん!」
 立ち上がったユウェルの掌にじゅるりと涎が滲んだ気がして鈴花は首を振った。
「……ごめん。齧らないよう離れてた方が」
「なんで?」
 お腹空いちゃったの、とユウェルはポケットを漁った。何もない。荒廃した大地には美味しそうな石もない。
「……ううん。二人で帰ろ。リュカが寂しがって泣いちゃうわ」
「だね! はやくさとちょーの所に戻ろ!」
 離れてと言って離れないなら、それでいい。呆れながらも鈴花はその手を握った。美味しそうな匂いが、軀を包み込む。
 気にも止めてはいないユウェルは「髪の毛、早く元に戻らないかなあ」とぼやいた。
 本当のユウェルは空の青に、母を真似した桃色の髪。早く何時もの色に戻りたい。真っ白だったら『面白くない』のだもの。
 共に空から探し求めよう。帰る場所を、指し示すように。
「ゆえ、帰ったら好きなもん作ってあげる! 何食べたいー!?」
「帰ったらおにくが食べたーい! さとちょーも誘う?」
「いいじゃない。リュカにも料理教えてあげましょうよ!」
 二人で手を繋いでいれば不安なんて飲み込めるから。
 さあ、帰ろう。屹度、あの子は泣いている。うんと美味しいものを食べて、それから思い切り抱き締めてあげなくちゃならないのだから。

成否

成功


第1章 第37節

シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)
蒼と炎の勇者
ポシェティケト・フルートゥフル(p3p001802)
謡うナーサリーライム

「あれ? ここは? ……シェームが言ってた夢の世界って事なのかな?」
 きょろきょろと周囲を見回した『蒼銀一閃』シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)はうんと頭を悩ませた。
「鹿さんやみんなはどうなったんだろう……私がここにいる分シェームに逃して貰えたんだったら良いんだけど!」
 シェーム。炎の嘆きと呼ばれた彼の事を思い浮かべてからシャルレィスは頭の中に響く声を聞き続けた。
「……とにかく此処が夢なら早く起きなくちゃ!
 私も冒険とかの好きな事以外に関しては結構面倒くさがりだったりもするしお昼寝とかも大好きだけど、こんな寂しい世界は御免だよ!
 それに、今はのんびり寝ている暇はないんだ! 深緑のみんなの為に……この剣で出来る事を、全力でやらなくちゃ!」
 顔を上げた先には背中が見えた。
 あれは『誰』だろうか――

「あらまあ、イヤな場所。ほっぺたがピリピリするわね。
 黒い霧が出て、気持ちが悪くなって、楽しくない夢に連れて来られてしまったのね」
『謡うナーサリーライム』ポシェティケト・フルートゥフル(p3p001802)は首を傾げてから金色砂のいたずら妖精クララシュシュルカ・ポッケを探した。
「イヤな場所に連れてきてしまってごめんなさいね、クララ。そこにいる?
 あなたも、ワタシも、身体は動く? きちんと、ある? 落としたものはない?
 腕は、脚は、何本? 頭は、角は、蹄はいくつ? 2本、3本、4本、たくさん? ……ウソだわ。そんな筈ない。
 ヒトとシカと、姿が定まらなくて、イヤになっちゃう」
 ふるふると首を振ったポシェティケトにクララシュシュルカ・ポッケはふわふわ揺れる。
 それが『鹿さん』とクララである事に気付いてシャルレィスは「ふたりとも!」と声を掛けた。
「あら、……ねえ、ねえ、此処は変なところね。帰り方が分からないわ」
「そうだね。けど、絶対に帰らなきゃ……」
 此処が悪い夢ならば、絶対に帰らなきゃ。そう繰り返したシャルレィスにポシェティケトはこくりと頷いて。
(――だめよ、ダメ。ワタシはヒトで、鹿の、ポシェティケト。
 果実の香り、お守りに持っていたの。大事な場所を、思い出さなきゃ……。
 これは、知ってる。あの子の、お友達が、作ってくれた、香りだわ。とにかく、とにかく。帰らなくっちゃ)
 お家は何方かしらと言いたげに、ふらつく脚に力を込めたポシェティケトにシャルレィスは「前は任せてね」と声を掛けた。
 星が、煌めいて、閃いた。
 落ちて行くその先に帰り道があると、そう感じられたから。

成否

成功


第1章 第38節

アカツキ・アマギ(p3p008034)
焔雀護

「んむ?」
『焔雀護』アカツキ・アマギ(p3p008034)は「はて」と首を傾いだ。
「はて、ここは一体……妾は確かクェイスとかいうブチ切れ野郎に死ぬほど追いかけまわされて。
 うーん、それ以上思い出せんのじゃ 作戦はうまく行ったんじゃろうか?」
 アカツキはのろのろと起き上がってからげんなりとした表情をした。
 こんなにも殺風景な荒野では燃やすものの一つも無い。こんな場所からはさっさと出て『ワンチャンファイヤー』を狙いたいところだが――
「……っと、特に異常なしじゃな。
 何ぞ術でもかけられたかと思ったが、むしろいつもより思考がクリアで調子がいいぐらいじゃ。
 炎のキレも良いし、これならいつもより良く燃やせる気がするぞ! ――待っておれよ我が故郷よ、今燃やしに戻るからのう!」
 魔種よりも、魔種めいた欲望を滾らせて。
 アカツキは胸を躍らせ、荒野を進む。
 こんな場所では何も燃やせやしないし、夢魔を燃やしたところで精々焚き火をした程度。
 もっと巨大な『ファイヤー』は此処ではない――そう、例えば。
 其処まで考えてから、星の煌めきが鮮やかな焔に見えて「おっ! 行く先はあっちか!」と走り出す。
 生への執着は、炎に魅了されているという事と同義なのかもしれない。

成否

成功


第1章 第39節

エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
金色凛然

 ――荒野には『金色の首領』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)、ただひとりだった。
 なんとも殺風景だというのが彼女の感想だ。ざっくりと切った金の髪が揺らいでいる。
 こんな場所で、何も考えずに居ても世界は絶えず変化すると囁く声は眠ることを誘い続ける。『随分』と悠長なことだとエクスマリアは感じていた。
「変わる世界を味わうにも、のんびり眠って過ごすにも、居心地の良い場所あってのこと、だろう。
 冠を戴くものが、馬小屋の藁より雑な場で寝るのも、良しとする、か。……『怠惰』も極まると、なんとも不憫、だ。
 マリアは、こんなところでのんびりするのは、御免被る。
 眠るなら、友と食卓を囲み、旨い酒を交わしたあとで、だ」
 それは、怠惰では得ることの出来ない贅沢だった。何処からともなく聞こえた盟友の声はあの月の近くからだろうか。
 邪魔者なんて叩き潰して行こう。荒野の向こう側に、ちっぽけな夢の終わりが待っているのだから――

成否

成功


第1章 第40節

 リドニア・アルフェーネ(p3p010574)はその牢獄に一人で立っていた。
 仲間達が尽力し、巨大な月を攻撃している。あの夢の核が落ちるまで、どれくらいの時間を必要とするだろうか。
 それは『夢の牢獄』に立っているリドニアとて鏡写しで仲間達の活躍を感じている。

 月を壊そう、と。プラック・クラケーン(p3p006804)はそう言ったらしい。
 無駄なオブジェクトの存在しない場所だ。月が『不要なもの』ではない事を確かめに向かったオラン・ジェット(p3p009057)とウテナ・ナナ・ナイン(p3p010033)はそれが巨大な『眠りの核』であることを知ったのだろう。
 長期的活動を目標にしているンクルス・クー(p3p007660)とマッチョ ☆ プリン(p3p008503)、フリークライ(p3p008595)はその月が傾くのを見ていた。
 夢魔達を相手にしながらも愛しい人のところに帰る為にと懸命に努力をするノリア・ソーリア(p3p000062)は「夢だからこそ意志のつよさが力になる」と口にしたものだ。
 アルチェロ=ナタリー=バレーヌ(p3p001584)は『夢を聴いていた』。それは決して素晴らしき微睡みではなかったのだろう。
『煉獄篇第四冠怠惰』カロン・アンテノーラは拒絶の意思など見せない。停滞する事への怠惰。其れ等は全てを受け入れる。
 何もかもを否定せず、全てを受け入れていた。故に、聞いた音は美しかった。
 核を破壊し続ければ皆が救われる。そう聞こえた夢の囁きは仲間達の大きな活力になっただろう。
 セレマ オード クロウリー(p3p007790)が見付けた『鳥かご』は霊樹の力を束ねてリュミエ・フル・フォーレ(p3n000092)が眠りから覚めた時に牢獄に落ちたものだったのだろう。
 それはリドニアの前にも存在して居た。
 イレギュラーズが囚われた牢獄と、イレギュラーズ達がカロンの権能を封じる為に尽力する領域は互いに影響を与え合う。
 だからだろうか、危険であろうと思われた夢魔を避けてリドニアが鳥かごまで遣ってくることが出来たのは。
(……此処は本当に心地良い。この夢が覚めなければ良いのに――)
『二度』、その場所でそう願ったリドニアは夢の牢獄に未だ佇んでいた。
 聞こえてくる声は思考回路をも阻害する。それでも、リドニアは此処に残ることを選んだ。

 ――今の私は少し知った夢の案内人。私が夢から覚めるのは、最後でいい。
   本当は覚めないで欲しいけど。
   どうかこのまま夢に揺蕩う事を許して欲しい。まだやる事が沢山あるの――

 帰り道が分からなくなろうとも、構わなかった。
 遠くにアルチェロの、セレマの、新道 風牙(p3p005012)の声が聞こえた気がする。

 ――さあ、起きろ。起きろ。起きろ。
   目覚まし時計はとっくに鳴ってるぞ!――

「そうですわね」
 リドニアは微笑んだ。目の前に『ふたり』が居る。
 まだ、眠っているだろうか。彼女達はこの荒野をさまよい歩いているのだろうか。
「私は、良いのですわ。この眠りにまだまだ、沢山の人が歩いている。
 イレギュラーズだけではないの。妖精も、精霊も、幻想種も……たくさん、たくさん。
 冠位魔種(あのひと)を斃すまで、この檻はなくならないのでしょう?
 あの月を落して、檻が軋む音がするまで、まだ少し――

 貴方は私と違って自分を覚えてるはず。なら、行く道は一つでしょう?
 いってらっしゃい。今度は貴方が夢に囚われないように」
 祈るように、リドニアは微笑んだ。それが彼女が『二度』繰り返してきた行く先への決定。

 ――――――――
 ――――

「起きる時間ですッ!!!!!」
 大層心配したのであろう、唐突に声を荒げたジョゼッフォ・アトアスワラが肩を掴んだのはココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)と橋場・ステラ(p3p008617)であった。
「ゴ、ゴホッ、ジョ、ジョゼッフォさん。勢いが良すぎて思わず酒が気管にインしてしまったの」
「どうして飲んでいるんだい? 景気付けなら分けて欲しいカモ?🤩 ナンチャッテ😅」
 盛大にむせたストレリチア(p3n000129)の傍で軽やかに笑ったのはライエル・クライサー(p3n000156)であった。
 冠位魔種との戦闘への出立に際しクオン・フユツキの元へとクロバ・フユツキ(p3p000145)とリュミエを送り出したフランツェル・ロア・ヘクセンハウス (p3n000115)は呆気にとられる。
 ジョゼッフォが今にも鍋でも叩いて『実の』娘を揺さ振り起こそうとする勢いであったからだ。
「ゆ、夢檻ってそんな勢いで目覚めるのかしら……」
「分からない……」
 困惑するイリス・フォン・リエーネの傍で目を閉じていたライアム・レッドモンドは「其の儘、呼びかけて」と言った。
「え?」
「これで起きる?」
「冠位魔種、朝寝坊でもしているの?」
 困惑する一向にライアムは違うと首を振った。

「誰かが『案内人』として其処に佇んでいる。……僕の元に、送り届けてくれて居るみたいだ。
 もうすぐ、手繰り寄せられそう――だから、彼女達を導くように呼びかけて。もうすぐ、もうすぐだ――」

 無理はしてはいけないとイルスが声を掛ける。ライアムは『期間限定』での正気に戻っている。魔種の領域に、『カロンの権能』にアクセスをし続けることは其れだけ魔種に近くなると云う事だ。
「……檻の中で月を落そうとする皆もいるんだ。この戦いのために準備をしている人が――」
 脂汗を滲ませたライアムを見てからジョゼッフォはもう一度「起きろ、起きろ」と声を掛けた。
「起きるのォ――――! 女王様だって、何処かに行ってしまって、とってもとっても怖いんだから!
 イレギュラーズが起きてないと、困っちゃうの! お酒を飲んで良い気分でパーリィできないの!」
 ストレリチアは声を荒げた。
 ずっと、傍にいてくれると思った妖精女王。帰れば、そこで笑ってくれる彼女。
 今はアルヴィオンへの道は閉ざされた。彼女だって『外に出てきてから行方』が知れない。
 ――その時点で、ストレリチアは実感していた。もう、あの優しい笑顔には出会えないかも知れない、と。
 眩い光が、あのひとを連れて行った。
 だから、その心に応える為に一人でも多くのイレギュラーズの助けが欲しい。
 それに妖精郷アルヴィオンへ到達する方法は、一切無くなった。ヘイムダリオンを通ることすら出来ない状況である。親友フロックスにだって、もう金輪際、会えないかもしれない。
 救援に来た妖精達も、みんなそれだけの覚悟を背負っているはずだった。
(……わたし、何もできなかったの)
 だから、イレギュラーズの皆に助けてほしい。いや、己自身だって一緒に――

 ――見付けましたわ。さあ、いってらっしゃい――

 ライアムはリドニアの声を聴いた。外へ、送り出してくれたのだろうか。
 そうしてから、目を開けてココロとステラに向かって「おはよう」と笑いかけた。

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