シナリオ詳細
祝勝会は終わらない・二次会会場
オープニング
●まだまだ終わらない
盛り上がりを見せた祝勝会も、そろそろ終わりを迎えそうに思えた。
皆荷物をまとめ会場を後にしようと動き出そうとしたその時、それを止める陽気な声が響き渡る。
「待ちなさい、特異運命座標ちゃん達! まだまだ祝勝会はこれからよー!」
声の主は黒衣に身を包む情報屋、『黒耀の夢』リリィ=クロハネ(p3n000023)だ。
「二次会よ! 二次会をするのよ-! 大丈夫、心配はないわ。すでに私のギフトがこの状況が訪れるのを知らせてくれていたわ! 会場も手配済み! はい、全員ついてらっしゃーい!!」
用意周到。何もかも手配済みのリリィはニコニコと笑いながらイレギュラーズ達を先導し歩き出した。
「大勝利だったんですもの。こういう機会にはパーッと楽しまなくちゃ嘘だわ! それに皆がどういう活躍をしたのか、もっと聞きたいもの!」
まるで酔ってるかのような(素面です)テンションの高さで陽気に振る舞う。
そんなリリィに連れられて辿り着いた会場には、多数の軽食に飲み物、なにやら雑多なアイテムと共に、大きなステージが用意されていた。
戦勝の夜は、まだ始まったばかりだ――。
- 祝勝会は終わらない・二次会会場完了
- GM名澤見夜行
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2018年07月19日 20時45分
- 参加人数92/∞人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 92 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(92人)
リプレイ
●ぬるりと始まる二次会
――戦勝の夜は終わらない。
リリィに連れられ二次会会場に集まったイレギュラーズ。その数は大きく減ったものの、それでも九十二名という大人数が集まった。
「無理矢理連れてきたというのにこれだけの人数。……嬉しいわ。さぁ二次会! 楽しんで行きましょう! 夜はこれからよー!!」
未成年の言う台詞ではないが。二次会という言葉にちょっと憧れていた長身の少女は盛り上げるように手にしたグラス(ジュース)を振り上げた。
釣られてイレギュラーズもグラスをあげて。各々自由に動き出す。
ゆったりとした雰囲気のまま、第二次祝勝会が始まった――。
●祝勝会は終わらない
大ステージにトップバッターとして上がったのはレオン・カルラだ。
子供と人形。伸びた糸を巧みに操りマリオネットダンス。
不意に糸が絡まり人形が動かなくなる。そして、
「こんなの切っちゃおうか、カルラ」
『そうね、レオン。邪魔くさいもの』
人形遣いが慌てるももう遅い。人形は自由気ままに大道芸。
人形遣いと人形の鬼ごっこはどこか滑稽で笑いを誘う。
でも最後には糸付き人形に戻って――。
「何だかんだ」
『コレが一番なのかもね』
一礼すれば拍手の返礼。会場は大いに盛り上がる。
二対の翅が生えた少女の姿をした小型の妖精が、楽しげにステージを眺めていた。
一緒に座ってステージを見ているのはエリーナだ。
「ふふ、楽しいですね」
ゆったりまったりと、大好きなチーズケーキを口に運びながら、二人は次の出し物に期待を膨らませた。
――探し人を見つけた。
「竜胆!! ……あー……あー、その、怪我はないですか?」
他者を心配する感情が残っていたのかと、自分で驚くノインに竜胆は軽口を返す。
「アンタいたのね。最近めっきり見掛けないからいよいよくたばったのかって思っていたのに」
そう言う竜胆は自分の心配をするノインを「偽物?」とからかう。
「偽物じゃねぇよ」と悪態返すノインは心配して損したと、調子を狂わされたようだ。
この場にいると言うことは互いに今回の一件に関わっていたことになる。
互いに健闘を称えて、竜胆はそそくさと移動しようとするが、ノインがそれを引き留めた。
「何で引き留めるのよ。
男と飲むくらいなら可愛い女の子の方が良いのよ、私は」
「可愛い女なんてこの世界飽和してるじゃあないですか。
数分くらい我慢してください、俺はアンタで満たせるのでアンタがいいです」
そんな大胆な告白に、竜胆は――。
二人の仲は少しだけ縮まったのかもしれない。たぶん。
「すごい活気です……!」
二次会の喧噪を目の前に、手を重ねながら感激している蛍。
こんな宴会に出るのが夢の一つだと語る。
「ささ、まずは一献……なんて♪」
本で読んだ知識そのままに、連れだったニアとニルに飲み物を注いでいく。本で得た知識を実践するのが心底楽しそうだ。
「ふふふ、飲み食べ放題で元を取れって偉い人の格言もあるんだお。
不健康優良児な蛍ちゃんなんかは色々食べた方が良いと思うんだぬ」
そう言ってニルは独断と偏見でチョイスした肉類だらけの皿を蛍に受け渡し。
「あ、あの、蛍は余り食べれませんので、前菜や汁物を……」
「だめだめ、そんなものじゃ健康にならないんだお。そら食べるんだぬ」
「あぁ……そんな無理に口に運ばないでくださいまし……」
よよよ、と料理を頬張ったまま蛍がしな垂れる。
「……他の参加者に迷惑にならない程度に騒ぐんだよ。
食べ切れないようならあたしが食べてやるから、ね」
そんなニアにはほっぺにクリームをつけてるのが可愛いからとスイーツの盛り合わせを持ってきたニル。
仲の良い三人はやいのやいのと騒ぎながらも食事を楽しんだ。
そこに、一人の男がやってきた。リチャードだ。
「直接話すのは初めてだが、私はリチャード・ロウ。君と同じ戦場にいた一人だがスコープ越しに戦う君を見かけてね。一言お礼を言いたかったんだ」
危険を顧みず、盾役として同じ戦場に立ったニアに、リチャードは礼を伝える。
「ああ、えーと…あたしはニア・ルヴァリエ。こっちこそ、感謝してるよ」
どこか気恥ずかしい感じで答えるニア。リチャードはその時の状況を思い出しながら言って聞かせる。
「私は後方から狙撃をしていたんだが……、君、そして他にも敵を引き付けてくれた勇気ある皆のおかげで存分に腕を奮うことが出来た、ありがとう」
「あたしは、あたしにできる事をやっただけだし……それは、きっと皆同じだろ?
だから、こういう時は…お互い様ってヤツさ。ありがとう、リチャード」
二人は自己紹介を終えたばかりだというのに、気の合う友人のように杯を重ねた。
仲良し三人組に一人を増やし、四人は二次会を楽しむのだった。
会場できょろきょろと人を探すのはルチアーノだ。
彼は会場内で高笑いしている『クソザコ美少女』ことビューティフル・ビューティーを見つけると話しかける。
「やぁ、ビューティーさん、こんばんは」
「オーホッホッホ! ……あら、貴方は、ええっと……カプチーノさん」
「ルチアーノです」
決戦の感想に、高笑いをしながら「余裕でしたわ!」と答えるクソザコ美少女は誰がどう見ても強がりだったがあえて突っ込むまい。
そんなクソザコ美少女に、君が戦場に立つと絶対に倒れられないと、気合いが入るとルチアーノは言う。
「改めてこれからもよろしくね。
僕も負けないように強くなるよう頑張るからね!」
「オーホッホッホ! よくって――う゛ぉえ!」
拳を合わせようとしたところで、通りがかったウェイターがクソザコ美少女にぶつかり、体勢を崩したクソザコ美少女がテーブルの角にお腹をぶつけてすごい声をだした。
祝勝会であっても彼女の不運は続くらしかった。
●
ステージでは面白いものが始まっていた。
タルトによる即興スイーツファクトリー。
(……まぁギフトでちょちょーっと作るだけなんだけども☆彡)
お腹が膨れてもスイーツは別腹。
意外に人気のスイーツファクトリーは人が途切れない。
「ぶっ倒れるまで楽しむわよ~!」
気分の乗ってるタルトはいつまでもお菓子を出し続けるだろう。
【月夜二吼エル】の四名は互いに激戦からの帰還を労っていた。
一次会では呑み足りない。二次会でもまだまだ呑む構えだ。
救護班を買って出たシグを覗いた三人が手にしたグラスを傾けていく。
「――意外と呑める奴が多いンだなァ……俺も赤ワインは嫌いじゃねぇけど。白は普通。赤ワインって血みたいな色だろ? これでも吸血鬼なンでね」
鋭利な牙を覗かせながら笑みを深めた吸血鬼(レイチェル)は、グラスに赤ワインを並々と注ぐ。微酔い故に上機嫌だ。
クロジンデとレストが何を呑んでいるのか訪ねると、
「んー、何呑んでるかってー?
ラサ産のアラックがあったからそれだよー」
クロジンデが蘊蓄を交えて答える。
「今日はブランデーの気分かしらね~?
蜜のような香りがするし、ほんのり甘くて美味しいのよ~。
大人の雰囲気を見せてあげる~」
そういうレストは手にしたグラスを動かし、中のブランデーをくるくる回す。
浮かれている皆に『大人の雰囲気』を見せつけているのだ。
ラサだと騒がしい以外の酒の席などない。大人な雰囲気などはないのだとクロジンデは言う。
「いやラサだとって、ラサ出たの五年前――」
「えー、酔っぱらって聞こえないー」
耳を塞ぐクロジンデのその横では、あっという間に酔いつぶれたレストが寝言をぼやいていた。
「すぴー……んふふ……みんなまだまだ子供れ~……むにゃむにゃ……」
「……大人の雰囲気、な。救護班、早速出番みたいだぜ?」
「やれやれ……大丈夫かね?」
そう言ってシグがレストを担ぎ上げて休憩室まで運ぶ。運び終えてぼそりと、
「……ふむ。ダイエットを行うべきかも知れんな?」
その言葉はレストの耳にはきっと届かなかったはずだ。……たぶん。
「えっひっひ、美味しい! 美味しいですよ! このお肉も、野菜も、柑橘系なジュースも!」
祝勝会の興奮冷めやらず呑めや歌えやの大騒ぎを体現するのはエマだ。
とにかくテーブルの上にある料理に手をつけ口に運ぶ。
サーカス依頼で多額の報酬がでて貧乏から脱却したはずだが、それはそれ。目の前にご馳走があれば手をつけずにはいられないのだ。
「食いだめ、です! えひゃひゃ!」
エマは不自然な引きつけ笑いを繰り返しながら、テーブルを荒らし続けるのだった。
戦いの疲れを癒やすように、椅子に腰掛けるMorgux。
戦った魔種を面白いモンだと思う。
戦った団長は魔種の中でどの程度の強さだったのだろうか。興味はつきない。
「しかしまぁ、結構疲れたな。怪我もそこそこ負ったし……」
明日の仕事の心配をしながら、今は喧噪に耳を傾けるとしよう。
長い両耳が三つ並ぶ。
ルフトとリリィ、そしてラーシアのハーモニア三人はプチ同郷会を開いていた。
同胞二人に無垢な親愛を向けるルフト。リリィとラーシアもまた同胞を歓迎していた。
「今度一緒に少し遠出をして旅の実習訓練でもするか?」
と気軽に誘えば、
「ええ、ぜひ」
と、ラーシアは微笑んだ。
「あら、良いわね。私も情報集めに遠出したいわ」
リリィの言葉に、「君にならいくらでも情報提供しよう」とルフトは言う。ただ、余り無理はするなと付け加えて。
「頼れる相手を見つけるのも、頼ることも力だ。
それに変に背伸びをしなくても十分魅力的だぞ」
その言葉に見た目にそぐわない少女らしい照れ顔を見せて、
「ふふ、ありがと。頼れるときは頼らせてもらうわね」
とリリィは答えるのだった。
話が弾むなか、通りがかったリゲルを見つけるとルフトはグラスをあげて目礼で挨拶する。
三人の小さな同郷会は今しばらく続くようだった。
●
続けてステージに立ったのはlumiliaだ。
夜空のドレスに星の川が煌めいて、華やかな装いにそれだけで盛り上がる。
一呼吸の後、手にしたフルートで奏でるは英雄たちを称える剣のバラッド。
英雄を語る言葉を持たないlumiliaはこの場に集まった仲間が語り合う戦果に花を添えるように。
雄弁に勇ましく、けれど優しい音色を奏でる。
(これからも、一人一人が誰かの、あるいは世界の英雄となりますように)
想いを乗せた旋律が会場に響き渡った。
会場では演奏に動かされたであろうイレギュラーズが戦いを追想する。
クロバは話を聞きたいというリリィに語って聞かせていた。
――あぁ、オレにもっと力があればな、と嫌に痛感させられた。
【銀の剣】として同行者と共に魔種である道化師と戦ったクロバ。
仲間達と共に死力を尽くした結果、道化師は倒れたがクロバ自身も大きな怪我を負った。
「……まぁ、まだまだオレも未熟だってことだったな。――とまぁ、こんな感じだが」
事細かには話さないがありのままに伝えるクロバにリリィは手を合わせ。
「でも、すごいわ。本当に激戦だったのね」
と、クロバが無事であることを喜んだ。
隣では百合子と夜鷹が魔種との戦いを振り返っていた。
その中で夜鷹は女の子でありながら強く在る百合子に憧れたのだと語る。
恐怖心から『本当』のことを隠し夜鷹と名乗っていた。それを聞いた百合子は「クハッ!」と感じたことを伝えた。
美少女の中で最強でありながら、しかし様々なものを取りこぼしてきた百合子。自分に理解できない恐怖、侮蔑、慈愛の感情を持つ夜鷹は眩しかった。
「あのね、……わたしのなまえを、呼んでほしくて。
わたし、百合子とおともだちになりたい」
余りに恥ずかしくて俯きながら口にした拙い願い。だが百合子は豪快な笑顔で、
「吾は愛を知るものが眩しい。
『エーリカ殿』と同じであるな!」
そう、快諾しながらエーリカの肩をこれまた豪快に叩いた。
”わからないこと”は”これから知れること”。
顔を綻ばせた二人の仲は、これからも深まっていくだろう。
ゆったりとイスに腰掛け、ステージを眺めながら本を読んでいるのはジークだ。
此度の戦いを追想しながら思う。
「魔種との戦闘。今回は勝利に収めたわけだが、今後も上手くいくとは限らない。
これから戦いは苛烈になっていくだろう――」
その為に一刻でも早く元の力を取り戻すべきだと。
未来を見据えるジークは、しかし今はこの喧噪を楽しんでいた。
【太陽】の三人はリリィを交えて魔種との激戦を振り返る。
アランが戦ったクラリーチェ。本人は活躍しなかったと言うが、誰もが逃げるとみてたクラリーチェを撃破できたのは戦いに参加した全員の活躍あってこそだろう。
リゲルとポテトがアランを労う。
「リゲルとポテトはあのクソデブのトドメ刺したんだってな?
ったく、良いところ取りやがってこんちくしょう」
そういうアランはどこか嬉しそうだ。兄貴分として鼻が高い。
「リゲルは、誰よりも近くで活躍を見られたからな。
最後まで本当によく頑張ったと思う」
「ポテトもサポートしてくれて有難うな」
魔種についても手がかりを得ることができた。この調子で魔種になった人を戻す方法がわかれば……とポテトは思う。
「ふふ、三人ともすごいのね。三人の話とても面白かったわ」
「楽しんでもらえたのならなにより。
リリィ、こうしてこれからも沢山の楽しい時間を紡いでいけるといいな」
リリィとの再会を喜ぶリゲル。
そんなリゲルにアランが肩を叩いて、
「ってかリゲルてめぇこんな所で真面目すぎんだよ。
もっとはっちゃけろ! テンション上げていけや!」
リゲルはこういう場でブレイクした経験が少ないからと、どうしたものかと目を動かして。
そんな二人をポテトが見て笑う。
「これから先『あのお方』とやらが出てきてまた騒動になるかもしれないが、その時はまた皆で力を合わせて頑張ろう」
「めんどくせぇ…が俺たちが倒さなきゃな。頑張ろうぜ。
――ってなわけで今は楽しもうぜ! 乾杯!」
そうしてグラスを合わせ、音を響かせた。
リジアと悠凪は二人連れ添って歩いていた。
「……お前は私を連れ出すのが好きだな、冬葵」
「ふふ、どうしてでしょうね? まぁ一緒にいたいということで納得して頂ければ?」
リジアの言葉に悠凪が微笑みながら返す。
一時の勝利を分かち合う経験が初めてでよくわからないというリジア。
悠凪はそんなリジアに今はこの勝利を楽しみましょう、と誘った。
「……お前は、変なやつだ。
食事は美味しい……美味しいが……お前はあんまり食べない。
生き物のくせに、私より食べないのは……生意気? ……だ」
「ふふ、おかしく見えます?
まぁ私は小食な方なので……それに、誰かと一緒に食べていて、それを見ているのが好きなので」
そういう悠凪にリジアが料理をお皿に乗せて渡そうとする。
「……だから、食べろ。
それとも、お前が度々やるスプーンなどで掬って口に運ぶ行為でもすればいいのか?」
その問いに悠凪はきょとんとして
「あ、えっと。頂けるなら頂きます……?」
と、疑問系で返事を返すのだった。
会場の端、賑やかな雰囲気とは真逆のある種異様な雰囲気の中、集まった男女八名が言葉を交わす。
「そうか、動き始めたか……彼奴らが」
「感じるな……闇の脈動を」
ゲンリーとローラントの言葉は重い。
「時が満ちた……そういう事なのですね」
「はっ、連中も大人しくしてりゃいいものを。慌てて動き出したってか」
面々の様子を伺いながらスティアがつぶやく。壁に寄りかかったリーゼルはグラスを弄びながら、強気に言葉を発する。
「存在が確認され、介入と思われる事象も観測されました。即ち、ここからが始まりだと言う事」
湯飲みを片手に一息ついたアリシスが小首を傾げる。
「初めて対峙した相手でしたが……。これならこの先まぁまぁ楽しめるのではないでしょうか?」
魔種の強さを知ってなお、楽しめると評するクラリーチェ。
彼らの言葉に頷いて、【アイオンの瞳】盟主たるアレフが言葉を発した。
「──いずれその時が来る。それは解っていた、我らアイオンの瞳の全ての座が埋まったという事はそういう事だ」
――だが、しかし。目を閉じ考え込むアレフ。
「世界は救済を求めている。そして、その為の我々でもある。だが、光が強ければ闇もまた色濃く反映されるのもまた理」
「盟主の仰る通り、強すぎる光はより濃き影を生みだすものです。
此度の勝利はそれだけ大きかった、という事でしょう。
隠れ潜む闇を引きずり出す程度には」
変革の時が始まったのだと、ヘルモントはどこか喜ぶ。喜びながら、メイドとして面々のお世話をする。あっ、躓いてゲンリーの顔にその豊満な胸を押しつけた。
「……ごほん。ならば我らアイオンの瞳、敢えて火中の栗を拾うまでの事よ」
何も見なかったことにしてゲンリーが続ける。
「――連中は甘く見ている。滅びの意思の前に抗う、生命の叫びの強さを。
いかなる闇も、アイオンの瞳からは逃れられぬと知るがよい……」
ローラントの鋭い眼光が虚空を射貫く。
「どれだけ深き闇に潜もうとも光を完全に遮断する事はできぬはず……。なれば私は闇を切り裂く刃となりましょう」
スティアはワイングラスを手で弄ぶ。中身はブドウジュースだ。
アリシスは思う。いまこの混沌は岐路に立っているのだと。
角笛の音が告げるのは世界の終末か、はたまた――。
傍観の時は終わったのだ、ならば……、
「……まあ、それも悪くは無いかもしれませんね」
「アイオンの瞳 第八位としての力、存分に見せつけてあげましょう」
どこか言い慣れない雰囲気で言うクラリーチェは、こそこそと隅の方に集めた食べ物に手をつける。
「我々の主義主張はそれぞれ異なるだろう。だが、その目的はただ一つだ」
アレフはワインの入ったグラスを傾け、それを飲み干し続ける。
「己が信念がままに全てを見届けよ、我らは観測者でありながら舞台役者でもあるのだから」
聞き終えたリーゼルが、グラスを空にすると。
「――まあ、私は所詮『番外』だ。あんたらの計画に手を加えるつもりはないが、その分自由にやらせてもらうぜ」
そう言ってグラスを置いて立ち去った。
秘密結社【アイオンの瞳】。彼らが見届ける未来は果たして――。
……それは、それとして。残った七人は仲良く食事を楽しんだようです。
●
ステージ上はなにやら異質な文明入り交じった様相を呈していた。
【カラオケへたくそ選手権】と題され、参加者はステージ上に用意されたソファーに座ってなにやら機械を操作していた。
「えっと……これはどうやったらいいんでしょうか……?」
ミラが困惑しながらモニタの付いた機械を操作する。表示される曲名を追いながら、見覚えのある曲をリクエストする。
「ミ、ミラ、歌います!」
勢いこんでみたものの、どうやら同名の知らない曲だったらしい。
「あれっ!? ご、ごめんなさ~い!!」
どこかで鐘の音が一回なった。
「――! 順番だから、歌うね」
続いてマイクをとるはセティアだ。
ぱないイントロが流れ出す。曲は『プリティ★プリンセス2ndDVD Box特装版』のオープニング『いつだってプリティ★プリンセス』だ。
「あー、あ、あ。あれ音ない?」
歌詞が流れ出すも入りがつかめず、マイクを叩くと会場にキーンとハウリング音が鳴る。
なんとか途中から歌い続けるもうろ覚えで薄らぼんやりと、いまいち調子が上がらない。
けれどサビまでたどり着けばこちらのものだと、突然元気に歌い出す。
アーリアが「はーどっこい、よいしょー」だとか「超絶かわいい\せてぃあー/」なんて合いの手を入れなんか盛り上がった。
しかし、続くCメロに入るとまるでわからず――。
「……ポチっ」
素知らぬ顔で演奏停止するセティアの姿が残された。まじ空気がえもい。
「次、リリィさんだから」
「私!?」
なんでステージに呼ばれたのかわからなかったリリィがリモコンを渡される。
訳もわからず入れた曲名は『森の耳長おじさん』。深緑では誰もが知ってる童謡だ。
――へたくそだった。魔女の歌声か。
まぁそれ以上に童謡なのに、横でヨハンがポテトフライを食い散らかしながらハイテンションで二刀マラカスを延々シャカシャカやってるのが気になってしょうがなかった。
その後も、衣が突然飲み物を頭にぶっかけて、紫煙を大きく吐き出して。
「Vaaaaaaaaaaa!!!!!」
とか叫んだ。それはもう絶叫だ。
だんだん楽しくなってきて、最後まで叫び続けた。
「Waoooooooooooooooooon!!!!」
遠吠えか。
「はぁい、幻想へべれけアイドルのアーリア・スピリッツ歌いまぁす!」
酔っ払ってるアーリアは幻想アイドルすぴかちゃんの新曲『真夏のスピカ★』をリクエスト。
ダンスを踊ってるつもりだが、どう見ても千鳥足で。
「……『台詞』? えっ待ってこんなのあったのぉ。
かわいすぎるし何より早口過ぎない!?」
と曲に翻弄されるのだった。
疲れ切ったアーリアが席に座ると、イリスがマイクを手に取る。
「魔法少女はいないか! いるよな?」
呼びかけにしかし、出てくる気配はない。センサーには反応しているのに。
誰も出て来ないのなら出て来ないのでも構わん、と選曲し、歌い出す。
「私が、私達が魔法少女だ! しかと刻み付けるがいい!」
クールな表情を崩さず歌い上げる。
凜とした歌声は、うまい、うまいが……絶望的にきゃるかわな魔法少女曲に合っていない。
ファンシーポップな曲をスタイリッシュに歌ってどうするのかと、会場は笑いに包まれた。
「い、いえーい!」
周囲との温度差にフリーズしながらも、ミニュイが囃し立てるようにマラカスとタンバリンで盛り上げた。
しばらくの間、会場にはへたくそ達の歌声が響き続け会場を盛り上げた。
お酒を片手にステージの観客となっている胡蝶。拍手したり笑い声を上げる様は良いお客さんだ。
「ふふふ……いつもより気分もいいし、イイお酒奮発して呑んじゃいましょう。あ、ウェイターさんこっちもう一杯追加ね」
グラスを空けた胡蝶が早速次を頼む。楽しい雰囲気にお酒が進むというものだ。
今宵は無礼講。いつまでも楽しく飲めそうだ。
一人物思いに耽っているのは灰だ。
ニヤついたり真剣な表情になったりと、酔った不審者のようにも見える。
「思い出しますな、初めての依頼のこと」
四十歳だというのに初依頼から帰ってきたあの日は、恐怖やらで枕を濡らした。
それでも、戦い慣れてきて――もう一流の騎士といっても良いのではないかと調子に乗る。
もしかしたら酒代のツケも出世払いが聞くかも? と一人腕を振り上げる様は本当に不審者だ。
「明日から訓練頑張るとして、今は飲むぞ!」
楽しく酔ってる騎士が、大きくグラスを呷った。
「あら! 勇司ちゃんも来ていたのねー!」
「うっす、久しぶり。今回は二次会の準備お疲れさんな」
テンション高めなリリィに挨拶するのは勇司だ。
活躍を聞きたいというリリィに照れながら語って聞かせる勇司。
一つの決戦を無事に乗り越えられたことを、素直に誇る。
「何れにせよ、ホントの意味でまだ終わっちゃいない。
終わらせる為にも、リリィや他の連中の助けが必要だ」
だから改めて宜しく――何て照れながら。
「ふふ、任せて頂戴!」
そんな勇司にリリィはドンと胸を叩くのだった。
会場の入り口にフラフラと現れた男。
「フフフフ! ここが二次会の会場かい!?
おっじゃましまーーーす!(壁に頭を激突させる)
アハッ、頭をぶつけてしま……ウフッフフフフッ」
お分かり頂けるだろうか、彼クリスティアンはすでに泥酔している。
「二次会も! 楽しむよ!! お酒も、うま!! おつまみも、うま!! わたしのかわいい荷物持ちは、馬!! ……アハハハハ!! ロバだね!!」
お分かり頂けるだろうか、彼ロクもまたすでに泥酔している。
この二人が揃うとつまり……。
「あっ! やめてロリババア(ロバ)! 転がさないで!! わたし酔ってるから転がさないで!! 吐く!!」
「アッ、ロク君じゃないか!!! ロク君も転、ころが……ハハハハ!
よぉ~し!僕も転が……コロコロコロコロ!
アハハハハハハ! うぷっ……オボr(ry」
「アハハァ!! ロリババアに!! わたし! 転がされてる!! コロンコロン!! アハハハ!! コロンコロコロコロあっ王子もコロンコ……うっぷ。……ぉ(ry」
汚いものが映りそうですが、楽しそうでなによりです。
壁に背を預け、二次会で騒ぐ面々を見渡す輪廻は物思いに耽っていた。
そんな輪廻の元に、男と少女と車椅子の融合体、死聖が近づいて、
「やぁ、お隣良いかな?
特に用という訳では無いのだけど、美しい人が居たからつい糸に掛かってしまってね」
と、輪廻の臀部をなで回す。
すぐに輪廻が手を叩き、
「あなた、顔は可愛らしいけど随分と手が早いのね。
酔っていても、そう簡単には落とされないわよ」
そう嗜める輪廻の元に、少し酔いの回ったリアムが近づいてきて死聖に言葉を投げかけた。
「君、酒の席、同性とはいえ、あまりハメを外し過ぎてはいけないよ?」
「……? また声掛け……? 今度は誰――」
「おや、何だい君は?
これは僕にとって挨拶も当然なもので――ん?」
「……? あの、私の顔に何か?」
リアムの顔を見て硬直する輪廻。そして不意につぶやいて。
「似ている……い、いえ……何でも、無いわ。
助けてくれて、ありがとうね」
そう言って輪廻は足早に去って行った。
「何だったのだろうか……あの仮面の女性は……」
「……もしや君、天然ジゴロかい?」
死聖の冗談は場の空気を変えるには至らず。
「天然、ジゴロ? この世界の言葉、なのかな?」
そんな噛み合わない会話が喧噪に包まれ消えて行った。
●
『月影の舞姫』、弥恵がステージを観る者を魅了する。
長いポニーテールが靡き、三日月の髪飾りが光る。
三メートルの棒を使ったポールダンスは、イヤらしさなど微塵も感じさせない立体的、躍動感に溢れるものだった。
長いようで短い、一瞬の煌めきを凝縮した本格的なダンスに、会場は拍手喝采。大いに盛り上がる。
弥恵はこの機会を楽しむように、踊り続けた。
グラスを合わせる三人は【梟の瞳】だ。
「ヘイゼルさんはまだお酒駄目でしたね。
ではこのお酒は、ギルバートさまと頂いてしまいましょう」
そういうゲツクは見た目の割に結構なお歳である。
郷里では当たり前に飲んでたというヘイゼルは混沌の飲酒可能年齢に一言あるようだがギルバートに、
「郷に入らばなんとやらじゃ。
まあ近いうちに飲めるようになるじゃろ。その時は美味い酒を進呈しよう」
と、嗜められてジンジャーエールで我慢することにした。
「……改めましてそれでは、サーカスとの決戦お疲れさまでしたのです」
【梟の瞳】としての活動は多いが、戦いは今回が初陣にあたる。
互いの役割を労いながら、ボスであった敵団長との戦いを振り返る。
奥の手があると予想していたヘイゼルだが、触手ビルビルになるのは予想外で。
ゲツクも本から得たイメージ以上の魔種の脅威を実感していた。
結果的に怪我人が多く出たが、それに見合う成果を得られたことは良かっただろう。
「今日は沢山、飲んじゃいましょう。
乾杯!」
話は尽きることはない。三人は杯を傾ける。
そんな中、ギルバートは今後の活動について考えていた。
(まずは人をふやすべきか……良き瞳になる者を)
ゆらりと、グラスの中の赤ワインが揺れた。
会場で楽しむ者達を見守るように、ムスティスラーフが歩いていた。
(みんな元気で良いことだね。
お爺ちゃんはみんなが楽しんでいるのを見るだけで十分だよ)
生きて笑い合える。それだけで価値のあることなんだと、ムスティスラーフは思う。
皆が気持ちよく楽しめるように気遣いながら、世話を焼く。
偶に掛けられるお礼にニコリと微笑んで。
そっと見守ること、それこそが楽しみなのだと笑った。
遊びたい気持ちを抑えつつ、今日は大人しくしようと決めた華蓮。
のんびり過ごしていたはずなのだが――。
「ああほら、皆で一斉にお料理取ろうとしちゃだめよ! 私が取り分けてあげるから」
そうのんびりと――。
一人でゆったり身体を休めて――。
「そっちのテーブル食べ物尽きたの? こっちは余ってるのだわ、今そっちに持ってくからお待ちなさいな」
【メイド】たる華蓮は世話焼きが性だ。
身体を休めるのは今しばらくの時が必要だろう。
アニーヤは自身のギフトでお酒(ウォッカ)をつぎ足していた。
呑んでは足し、ウォッカを求める声があれば分け与え、いなければ呑み……。
「……ふふふふ」
初めての戦いや故郷に思いを馳せて、微笑んで。
しばしの時が過ぎれば、世界が回り。呑み過ぎなんだと自覚する。
「今日はとても良い気持ちで眠れそうです。
場所を取ってしまってごめんなさい、今日はここでおやすみなさい……。すぅ……」
テーブルに豊満な胸を押しつけて、アニーヤは静かに瞳を閉じた。
兎耳はぴょこりと動く。
ステージではリェーヴルがマジックショーを魅せていた。
「――さぁさご覧あれ、貴方の瞳を奪う奇術をご覧あれ」
ハットから鳩が飛び、めくるカードが変化する。
会場にいるイレギュラーズを捕まえれば、人体切断から脱出のマジックを魅せる。
タネも仕掛けもあるというが、その実魔法としか思えない奇跡のショーに会場は盛り上がる。
リェーヴルのマジックショーはしばらくの間、会場にいる者達を幻惑し続けた。
アグライアがまったりとジュース片手にステージを眺めていれば、幾人かのイレギュラーズがそばに寄ってきた。
「酒を持て! そして、とくと聞け! 我が名をその魂に刻め!!!
誉れ高きディエの名を!!」
(凄いテンションというか、体力ですね。お祝い事ですし水を差す気もないのですが)
ディエのテンションを前に、アグライアはペースを崩さすジュースを一口。
「私は後方支援に回ったけど、最前線はどんな感じだったのかな?」
聞き役に回ったのはメルトだ。話を聞けば、ディエが如何に自分の活躍が戦況を変えたのか語って聞かせる。
その横ではショゴスが憤怒を滾らせながらテーブル上の肉を捕食していた。
「畜生が。嗚呼腹立たしい。
サーカスの奴等め、愚生に傷を負わせて勝手に斃れるとは。
次は負けず、次は屠る、次は喰らう」
「ボクの情報伝達が膠着状態を崩す、いわば切り札で――」
「なるほど、なるほど」
三者三様な様子をアグライアが眺める。そうして一頻り話し終えれば、
「クク、月が満ちたようだ。
今宵の与太話はこれまでよ。さらばだ……!」
早々に語りきったディエが去り、ショゴスがさらなる食事を求め移動して、
「嵐のように行ってしまった」
「お疲れ様ですよ」
そうしてメルトとアグライアはしばらくの間ゆったりとステージを眺めた。
会場のテラス。会場内を見渡せる空に浮遊しながら、グラスに注いだ火酒を飲むのはティアだ。呆っと空を見上げる。
「決戦、上手くいってよかった」
『そうだな。
参加者の内から死者が居なかったのは幸いだ』
重傷者はいたけどねとティアが零せば、『ティアの事だな』と神様が返した。
二人(?)は会話しながら決戦を振り返る。そうしてティアは想いを口にした。
「もっと強くならないとね」
『何の為に?』
「それは……
勿論、護る為だよ』
見上げた月が、覚悟を決めた少女を見つめていた。
●
軽快な旋律が鳴り響く。
ステージ上で瞬兵と霧玄による祝歌の演奏が始まったのだ。
霧玄の武器クオリアス・ノーツが、明快で心地の良いメロディを奏で、瞬兵がリズムを合わせて歌い、踊り上げる。
――おめでとう 僕らの勝利に
――ありがとう 僕らの絆に
ダンスを魅せながら、二人は背中を合わせ顔を見合わせ笑う。
王道アイドルユニットのような二人に、どこから黄色い歓声も上がるようだった。
瞬兵の歌声にハモるように霧玄もコーラスで参加して。
息の合った二人は、伸びやかに楽しげに。観ている者達も釣られて笑顔となって。
繰り返されるフレーズに、会場からも歌声が上がり出す。
二次会会場が一体となるようなライブパフォーマンスに、しばらくの間二人は興奮を隠すことなく歌い続けるのだった。
鈴音とリリィは楽しげにおしゃべりする。
鈴音の追想はうまくやれたか、不安な気持ちが入り交じっていた。
「え、えっと! でもでも鈴音は現地で頑張ってましたから!
た、多分……少しはお役に立てた……と……」
へにゃりとする猫耳に、リリィは微笑んで
「ふふ、きっと鈴音ちゃんの活躍で助けられた人はいるはずよ」と、元気づける。
「愚痴みたいになっちゃいましたね、これお詫びです」
とジュースを差し出した。
リリィがそれを受け取ろうとしたところで、後ろからドーンと飛び込む人がいた。アリスだ。
「アリスちゃん! 久しぶり、来ていたのね!」
リリィの誕生日に出来た絆そのままに、アリスの戦いの記憶に耳を傾けるリリィ。
しばらく話して見れば、どこか眠たげなアリスが出来上がって。
「……ハッ!?
お話してたら段々と眠くなって来ちゃったかも。
流石に疲れがあったのかな、えへへ」
「寝るスペースもあるから、ゆっくり休んでね」
と、慈しむようにアリスに微笑み掛けた。
アリスと鈴音と別れたリリィは、大きな瞳をらんらんと向ける少女と出会った。フルートだ。
「――リリィは可愛いね」
イケボ混じりの口説きに照れながら、話を聞かせてとせがむリリィ。
動物をいじめる変態魔種との戦い。五感を機械化しているフルートは炎や煙があがる戦場で活躍をしたのだ。
リリィはそんな話に素直な褒め言葉を送った。喜ぶフルートはしかし、難しい顔で、
「それに……私はもう仕事じゃしくじるつもりはないからね」
ぼそりと言った言葉は喧噪に紛れ消えて行った。
会場の片隅、ビリヤード台が置かれたそこに【撞球】で集まった五名がキューを手に顔を付き合わせていた。
「ビリヤードというのは、精神力や集中力、それに戦略を競うゲームだが……まあ見ての通り、この賑やかな会場では『集中』など望むべくもない」
イシュトカはそこである趣向を凝らす。
ショットグラスに一杯、この会場で一番強い酒を入れた。
「一度打つごとに一杯だ。
酒の強さで戦ってもいいし、素面ではあり得ないトリックショットを見せてくれたって構わない。
さあ始めようか」
「ほほぉ、一発一杯か。面白そうじゃねぇか! 初心者でよけりゃ是非とも遊ばせてくれ!」
いかにもパワータイプなゴリョウが声を上げる。
「酒か――イイじゃねェの、そォいう駆け引き大好きだぜ!
簡単に潰れてくれンなよ?」
猟兵がじっくり勝負と行こうぜと、キューにチョークをこすりつける。
気楽に参加するつもりのペッカートは、
「気楽……あれ、いや、一応聞いておくけど、キミ達どのくらい強い?
とりあえず乾杯。負けないぜ」
と、景気付けに一杯喉に流す。
「一度打つたびに一杯……か」
ビリヤード初体験のアオイは、しかしやるからには真剣勝負だと集中する。
手堅いプレイができるイシュトカのブレイクショットで始まったこの勝負。ルールは『隠し球』だ。
的球から一人三個の持ち玉を選択し、ワンショット交代で的球をポケットしていく。そうして最終的に残った的球が持ち玉だった者が勝者となる。
すでに一次会から呑んできている面々は、次々とワンショット交代で酒を流し込む。
パワープレイヤーに思われたゴリョウは酔いが回れば徐々に力がなくなり、魅せプレイでポケットを決めていた猟兵もミスが増えていく。
ペッカートはすでに手玉が二つに見えてるようだ。あらぬ方向へ手玉が転がる。
持ち前の器用さと集中力で初心者とは思えないプレイを魅せたアオイだが、徐々に瞼が落ちてきて……。
手堅くプレイしていたイシュトカも、ここぞという場面でのミスが目立つようになってきた。
それでもこの『隠し球』、誰の玉を落とすのかで笑い合い、狙いがはずれたときに逆襲を受けたりと、とにかく笑い声が絶えないゲームとなる。
真剣に、でも気楽に楽しく。酒を交えた【撞球】は参加者の大半が酔いつぶれるまで、続けられたようだ。
勝者? それは当然――楽しんだ者だ。
ステージで出し物が始まるたびに会場に響き渡る声で盛り上げるのはブーケだ。
lumiliaが壇上に上がれば、
「待ってました! 美人演奏家!」
と、言ってlumiliaを困らせたり、弥恵がダンスを始めれば、
「よっ! 美脚! こっち向いてな~!」
と、囃し立て、カラオケへたくそ選手権では、
「混沌ー!」
とか、もうとりあえず声にしましたといった感じで。
完全に酔っ払いテンションなのを自覚して、ブーケは楽しげに笑い、新たな上がった演者に、変わらず声を上げた。
窓辺で涼みながら、疲れた身体を休めるヨシツネ。
「戦いはまだ始まったばかり。我ら特異運命座標の牙が魔手の親玉の喉元に届くまで、私もただ牙を研ぎましょう」
そう言いながら、愛刀『大狼一刀』の刀身の手入れを行う。
戦いは始まったばかりなのだ。これから激しくなるであろう戦いに備え、自身の業をもっともっと高めるのだと意気込む。
そうして手入れを終えれば納刀し、
「さて、とはいうものの今だけは羽目を外してもいいでしょう
もう一度、あちらの宴会に混ざろうではありませんか!」
意気揚々と会場へと戻っていくヨシツネの背中には「明日から本気出す!」と書かれていた。
はしゃぎ疲れたフェスタは、二次会は大人しく楽しもうと決めていた。
「んー……あ、そうだっ!」
青空と雲が表紙の小さなノートを取り出して、この会場の雰囲気を描き出す。
「あ! あの人、いい笑顔してるっ♪
んー、あっちの人もすっごい楽しそう!
わっ! ステージに立ってる人の出し物凄いっ!?」
コロコロ表情を変えながら、二次会全体を楽しんで。
そんなフェスタに声を掛けるのはレイだ。
「やぁ。楽しんでる? 私はとても楽しいな。あ、乾杯しようよ」
そういってグラス(ジュース)を手渡して杯を重ねる。
二人は揃って笑い合う。空になったグラスに継ぎ足しながら楽しんだ。
「あはははは♪
この場所にいるだけで元気になってきちゃう! 楽しくなってきちゃう!」
「ふふふ、本当に楽しそうだね。こっちもより楽しくなってくるよ」
そう言いながら、レイはフェスタに今後の目標を聞いてみた。
「――目標、フェスタの目標は……」
――その答えは二人だけのもの。
「……うん。明日からも、頑張らなくちゃ!」
気合いを入れたフェスタを見て、レイは微笑むのだった。
●
喧噪から離れたところで、【竜魔】な二人がゆったり話していた。
自分が役に立てるか不安だったというアレクシア。
「でも、今回の……これまでの戦いを通して、少しは自信を持ってもいいかなって思えたんだ」
アレクシアの言葉にヨルムンガンドは頷いて、
「一緒の場所で戦ってた訳じゃないけど……皆で勝ち取った勝利で私は嬉しいぞ……! ……いずれアレクシアと背中を預けて戦うっていうのも悪くないなぁ……!」
魔種との戦いは二人の意識を変えた。
アレクシアや仲間達のいる世界を壊させる訳にはいかないと戦う意思を持ったヨルムンガンド。
そんな巨大な敵に立ち向かうヨルムンガンドにアレクシアは追いつきたいと、想いを口にした。
二人はしばらく話しあい、そして、
「あはは、お話して安心したらちょっと眠くなってきたかも……。
少し、目を閉じるね……」
そっと目を閉じるアレクシアをヨルムンガンドが優しくヨル枕(膝枕)してあげるのだった
だいぶ祝勝ムードも落ち着いてきた会場で、シラスは内に膨れあがる想いを感じ取っていた。
――ああ、まだやり残したことがある、と。
「俺も初めて魔種ってやつ見たけどさ、結局は逃げられちゃったよ」
マシェラドとかいう人食い。追い払うことはできたが仕留め損なった。
まだ生きているのであれば……仕事が回ってくるかもしれない。
気持ちに火がつくのを感じ、自然と唇を舐めた。
「次は逃がさないぜ」
気合いは十分だった。
二次会が始まってだいぶ時間がたった頃。
ティバンは会場を回って酔いつぶれた者を、邪魔にならない場所へと運んでいた。
「まぁ、二次会だし……酔いつぶれたりする奴らも出始めるよな」
決戦に勝利したのに、その祝勝会で怪我をしては笑いものだ。
気遣うティバンはしばらくの間、そうして会場を回るようだ。
ステージ上に立つオラボナとジョセフがこの日一番の演目を披露する。
「さあさ皆さま御覧あれ! 演目の始まりだ!」
「此処に魅せるのは巨大な肉塊。蠢くものは数多を貪り、自身の力と見做し……されど娯楽に堕ちて終う。さあ。皆様! 御覧じろ! 沸騰するのは混沌の核! 伸びる触手は虚構の所業」
その口上と同時、オラボナの身体――肉が膨張し膨れあがる。
それはサーカス団長との決戦クライマックス。魔種としての力を解放した団長に他ならない。
演目名『正義と反転』。
正義のイレギュラーズと反転せし魔種団長との戦いが、ステージ上で演じられる。
伸びる触手と踊り、肉塊を討とうと演じるジョセフ。
たった二十八秒のその演目は、ジョセフの放つ聖光によって幕を閉じる。
大迫力の娯楽的恐怖は大いに盛り上がり拍手が鳴り止まないのだった。
「……ん? あれっ、我が友?」
ステージ上でジョセフの間の抜けた声が残った。
会場の外れで酔いつぶれる者が一人。グレイだ。
人の旅路を歪めるサーカスを無事退けたことに舞い上がり、人らしい感情ままに酒を呷った。
醜態を晒す行為であるが、それを――人らしい感情ままに振る舞うことを――喜ばしいと感じれば、そう感じる自分に対してまた喜びの感情を抱く。
人らしく振る舞う自分を嬉しく思った。
……まあ気分は最悪なんですけどね。
「うぇぇ……ゔぅ……気持ち悪……。……なんだい煤猫ちゃん……その、呆れ顔……。
僕だってこういうことしてみたくなることが……ゔっ」
「ほらほら、いい歳した大人がこんなところで潰れないでください。水いりますか?」
近くでステージを見ていたクリムが見るに見かねて寄ってくる。手には水と毛布を持って。
「あ、あぁ……すまないね、恩に着るよ……う゛う゛……」
「ああ、もう。ほら水飲んで。横になって……!」
世話好きのクリムは、そうしてしばらくグレイを介抱するのでした。
人目の少ない場所で、ルーキスとルナールは二人寄り添って座った。
陣頭指揮をしていたルーキスへのご褒美だと、アンティークワインをグラスに注ぐ。
二人でワインを飲みながら、戦いを追想し語り合う。
「それにしても疲れたよな、慣れない戦いってのもあったんだが」
「あー膝枕でもする?」
ルナールは返答せずに膝枕の体勢へ。苦笑しながらルーキスはそれを受け入れて、
「たまにはルナにサービスしないとね、何時も貰ってばっかりだし」
その言葉に、腕を伸ばしたルナールはルーキスの頬に触れると、
「――というわけで眠い、抱き枕を所望する。
因みに今回は拒否権無し」
笑いながら頬を突いて我が儘言うルナールに、ルーキスは小首を傾げて
「抱き枕はいいけど、とりあえず移動しようか。
……拒否権云々は元々無いようなものでしょーう」
と優しく微笑み返し笑い合った。
酔いつぶれた者、疲れて寝てしまった者、一時前の喧噪が嘘のように会場は静かになっていた。
そんなイレギュラーズを介抱するように会場を歩くのは碧だ。
「はは、しかし鉄騎とは言え何人抱えられるやら……、往復作業になりそうでありますね。
長い夜になりそうな予感がするであります」
そう呟いて、長いマフラーを靡かせながら酔いつぶれた者達を休憩室へと運んでいく。
そんな碧に感心しながら、会場を見渡すみつき。
「しっかしまぁ、見事に散らかしたモンだな」
このまま帰るのは気が引ける。会場の提供者にも悪いだろうと、みつきは片付けを始めた。
『来た時よりも美しく』。みつきの世界の言葉だが、それを実践したいと思った。
みつきのそんな動きを見て、ムスティスラーフやクリムも片付けに協力する。
終わりの見えない作業だが……徐々に綺麗になっていくのがわかる。
「手伝ってくれてありがとうな……ってコラ、変なところ触るんじゃねぇ、この酔っ払い!」
こつんと頭を叩いて、やれやれと肩を竦める。
片付けと介抱が終わるまで、まだまだ掛かりそうだと、みつきは大きく息を吐いた。
●夜が明けて、次がくる
二次会会場は静まりかえっていた。皆呑み騒ぎ疲れ寝息を立てている。
窓から差し込む光に、リリィの閉じた目蓋がぴくりと動く。
いつの間に寝てしまったのだろうか。リリィは幾度か長い睫毛を瞬かせると、急に立ち上がりポケットからメモ帳を取り出した。
肩から落ちた毛布に見向きもせずに、何事か書き始める。今見た物を忘れないように、記憶がこぼれ落ちる前に。
そうして全てを書き終えペンを置く。
「……あはは。そう、そうなのね」
一人納得すると、周りで寝ているイレギュラーズを見渡してクスりと年齢に不釣り合いな妖艶な笑みを零した。
「ふふ、次も楽しくなりそうね」
祝勝会は終わり、次が来る。
リリィのメモには断片的にこう綴られていた。
――ネオ・フロンティア、海で夏祭り――と。
目を覚ましたイレギュラーズが一人楽しそうなリリィの思惑を知るのは、もうしばらく後のことになる――。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
澤見夜行です。
二次会お疲れ様でした。
白紙以外は全員描写しています。
抜けが在った場合はご連絡ください!
続けてネオフロンティアサマーフェスティバルです!
一周年のこの夏を楽しみましょう!
GMコメント
こんにちは。澤見夜行(さわみ・やこう)です。
決戦の大勝利おめでとうございます。
リリィ提案の二次会会場はこちらになります。
即興の出し物に挑戦したり、戦いを追想し語り聞かせましょう。
気楽に参加頂ければと思います。
●出来る事
二次会会場でできることならばなんでもOKです。
だいたい何でも揃っているので、妨害行為にならなければ大丈夫です。
一人で参加される方も、二人以上で参加される方も以下のシチュエーションを選択してください。
ピンポイントにシチュエーションを絞った方が描写量が上がるはずです。
【1】ステージ
大きなステージ上で即興の出し物に挑戦します。
一発芸からカラオケ(謎の技術)、演劇などなど。
必要な小道具はすべて揃っています。
【2】追想
戦いを振り返ります。
友人、知人に戦果を自慢するもよし。
話を聞きたがっているリリィに聞かせるもよし。
一人、物思いに耽るもよしです。
【3】その他
会場内でできることであればなんでも大丈夫です。
飲み疲れて寝る方もこちらへ。
●NPC
リリィ・クロハネの他、ステータスシートのあるNPCは『ざんげ』以外、呼べば出てくる可能性があります。
●その他
・可能な限り描写はがんばりますが描写量が少ない場合もあります。その点ご了承ください。
・同行者がいる場合、【プレイング冒頭】にID+お名前か、グループ名の記載をして頂く事で迷子防止に繋がります。
・単独参加の場合、他の方との掛け合いが発生する場合があります。
完全単独での描写をご希望の方はプレイングに明記をお願い致します。
・NPCとの描写が希望の方も、その旨、明記をお願いします。
・白紙やオープニングに沿わないプレイング、他の参加者に迷惑をかけたり不快にさせる行動等、問題がある場合は描写致しません。
・アドリブNGという方はその旨プレイングに記載して頂けると助かります。
皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしています。
宜しくお願いいたします。
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