シナリオ詳細
<ヴィーグリーズ会戦>焦燥ビルレスト
オープニング
●
幻想王国は勇者王が打ち立てた偉大なる国である。
故に勇者王の血筋を敬い。故に皆が従う――
「……ミーミルンド一派は勇者アイオンの再来を、かの者の血筋がこちらにあると喧伝――同時にスラン・ロウより失われたレガリアたる『角笛』を掲げました。正義は我にあり、と触れ回っている様ですね、巨人と共に」
だからこそその言葉には一定の力が宿っているのだと。現国王たる『放蕩王』フォルデルマン三世(p3n000089)に報告しているのは彼を守護する近衛騎士の長『花の騎士』シャルロッテ・ド・レーヌ(p3n000072)だ。
まさか角笛を此処で出してくるとは――王権の象徴たる一つの、レガリア。
元々は古廟スラン・ロウに安置されていた勇者王にまつわる物品の一つが、それだ。
なんでも元々はノルン家の祖先から献上されたものらしいが……ともあれソレはスラン・ロウにて巨人となり果てたイミルの民の封印を強める力を成していた。しかしそういった事細かな事情は重要ではない。
一般的にはアレは『王権の象徴』でしかないのだ。
それを持ち、自らこそが勇者王の真の末裔であると称する者がいる――
ここに来てレガリア紛失を伏せていた事が仇となってきたか。貴族間ではレガリア紛失は公然の秘密の様な形で広まっていたが……その配下たる騎士や、民達全てにまで盗まれた事が伝わっていた訳ではない。
大なり小なり衝撃が広がっている。
本来なれば国王を擁するこちらに付くのが当たり前であるはずなのに――この戦いの行く末を静観する者も多少出始めるぐらいであり――
「あっはっはっはっは! 面白いなぁ、シャル! 勇者王の末裔だって?
ん、それはつまり……私に弟がいたという事なんだろうか!? いや親戚かな!?」
そんでもってこの放蕩王は相も変わらず陽気なご様子。ああ頭が痛い!!
「陛下。そうではなく、いわゆる『騙り』で御座いましょう。
勇者王の末裔たる御方は、陛下ただ一人です」
「おおそうなのか! 嘘はいけないな……まったくベルナールの奴も何を考えているのだか!」
そんな王へ『遊楽伯爵』ガブリエル・ロウ・バルツァーレク(p3n000077)が語り掛ければ、またあっさりと言を信じるものだ。いや遊楽伯の述べる事こそ確かであり、勇者王の正統なる末裔はフォルデルマン三世ただ一人で間違いない。
少なくとも記録上、他に王家に連なる者などいない筈なのだ。
だから向こうの言は全て虚言。反逆者達の戯言であると。
「ともかく――陛下。反逆者たるミーミルンド卿は討たねばなりません。陛下の号令に従う幻想軍は、巨人を引き連れる反乱軍の進撃を妨げるべくヴィーグリーズの丘に展開しております」
「うんうん、まぁ我が友人たるイレギュラーズ達も加わっているのだ! 万に一つも敗北はあるまいよ!」
「ええイレギュラーズも加わってくれているのです――だから陛下。陛下はこのような前線に至らなくてもよろしかったのですよ?」
遊楽伯の説明を受けながら『あっはっは!』と笑うフォルデルマン三世――
そんな彼にシャルロッテは吐息を漏らすものだ。なにせそれも……この王が『王たる者、前に立たずしてどうするのだ!』などと思いつきでのたまったからッ――!!
王らがいるのは王都ではない。
ここはヴィーグリーズの丘から少し離れた『ビルレスト』と呼ばれる街だ。
川を跨ぐ大きな橋があるのが特徴であり……ここに幻想軍を指揮する仮の拠点を設営した。当然最前線からはある程度離れている――ここでなんとか王を宥めすかして満足してもらうとしよう。流石にこれ以上近付くのは危険だから!
「……まぁここならばなんとかなるでしょう。巨人たちの接近があっても気付きますし、それ以前にミーミルンド卿らの主力も最前線で確認されているのであれば、ここの防衛を突破できるような強襲戦力もありますまい」
その時、遊楽伯がシャルロッテに耳打ちを。
彼の言う事は尤もだ。親衛隊も控えしここは、まずもって安全と言っていい。
いや親衛隊だけではない――ここにはある程度余剰戦力もあるのだ、例えば。
「国王陛下。前線では各地で戦端が開かれ始めたようです。
状況に変化があり次第、すぐにご報告申し上げます」
「おおクロードか! うむ、君の働きにも期待しているぞ!」
「はっ。勿体ないお言葉です」
フォルデルマン派閥――つまりは王党派たる者でも固めているのだから。
その一人が、リーモライザ家が長クロードだ。
彼はフォルデルマン三世が自由奔放に動くのならばそれでも良いと考えている。ならばその王を支える事こそが幻想の貴族たるもののあるべき姿だと……徹底した王権派たるその姿勢はシャルロッテからもある程度信を得ていて。
――ともあれ彼の兵もここにはいる。彼以外にも、戦場の全体を支援するための者も、だ。
ここを経由してこれから戦線に向かうイレギュラーズもいよう。
幻想軍の大部分は前線であるが。
『思わぬ伏兵』でもいない限り――此処が落ちることなど――
「で、伝令――ッ!! 街の中に侵入する影あり!! 防衛を整えろッ――!!」
瞬間。王や遊楽伯爵もいる間に挙がってきた報告は耳を疑うものだった。
「襲撃、ですか? どこの者です。ミーミルンドですか、それとも巨人?」
「目下の所不明ですが、既に街に侵入されており各地に混乱が――」
遊楽伯が伝令からの報告を受け取った――その時。
生じるは爆発音。近くではないが、はるか遠くとも言えぬ距離で生じたソレは。
正に敵意の象徴。
「親衛隊、総員を此処に! 他は侵入者を排除してください! 陛下の御身を最優先!」
「情報を纏めよ! それから近場のイレギュラーズにも支援を要請――急げ!!」
シャルロッテは声を飛ばし親衛隊に召集をかけ。
クロードは侵入者を排除すべく英雄らにも声を掛けよう。
一体どこの愚か者共が来たのかと――思考を馳せながら。
●
同時刻。幻想軍の拠点から少し離れた地にて。
ビルレストの街に混乱を巻き起こしているのは――
「あのアバズレがああああああああああああッ!!
よくも私の計画を!! 全て!! 全て計画通りに進んでいたと言うのに!!」
ミーミルンド派でもイミルの民でもなかった。
怒り狂うはレアンカルナシオンという組織が頭領、ミハイル。
『傲慢』の魔種が一角であり――今や勇者アイオンを名乗るアンジェロにそのような『記憶を植え付ける秘術』を用いた者だった。
――実際にはその儀式は『失敗』していたのだが。
アンジェロの勘違いもあり彼はまだ気づいていない。まぁ尤も予想だにもしなかった存在の来訪により色々と予定が崩れてしまった彼には最早アンジェロに思考を馳せる暇もないのだが。
「ミーミルンドの馬鹿どもは失敗する筈だった! イミルの巨人にも何が出来ようか!
しかし只では転ぶまい! 疲弊した幻想王国を横からかっさらう予定が――
あのクソ女が!! ミーミルンドを魔種にしただと!!?
これでは最悪勝ってしまうではないか!!」
そんな彼はミーミルンドに協力する姿勢を見せながらも策謀を巡らせていたのだ。
彼には『一つの野望』があった。
それは魔種を打倒する為に世界を一つにする世界政府構想計画。
――その為の足掛かりとして国を手に入れたかった。
そう。血を優先するこの国家……幻想ならばと……混沌世界で唯一この国だけが……
しかしそれは瓦解した。思わぬ横やり――
『煉獄篇第七冠色欲』 ルクレツィアの手によって。
「しかもあの女の配下のリュシアンとかいう小僧も近くにいるのでは……くっ、事の途中でアンジェロを回収するつもりが……! やむを得ん、元々の計画であった――フォルデルマン三世の身柄を拉致する! 機はこの瞬間にしかない!!」
彼は――古廟スラン・ロウなどからあふれ出てきていた魔物らの残存を『制御』した。
今、あの街に幻想軍の主力はいない。
とは言え護衛が全くいないわけでもあるまい――その為には数が必要だったのだ。
故に、それが魔種としての力か。或いは彼自身の力かは分からないが……
フレイス姫などの制御が強くない、巨人を除く個体達を幾らか頂戴した。
――そして攻め込む。
ビルレストの川から侵入するように。
橋を落として分断し、混乱の間際に事を成す!
フォルデルマン三世を拉致し、彼こそを勇者アイオンの依り代と成すのだ――
「世には偉大なる英雄が必要なのだ!!」
そして偉大なる国家が必要だ。
たった一つの。完璧なる政府。全ての民が協力し、今こそ魔種という癌を……
そもそもあんな呆けた放蕩王などいるのか?
この世界が不安定な時に。愚鈍な頂点者など……
「私は正しい。私こそがやるのだ」
魔種を殲滅し、世界に平穏を取り戻す。
『魔種である私』だからこそ分かる事もあるのだ。
冠位魔種共を早く、一刻も早く倒さねば――必ずとんでもない事になると。
「さぁ! 私の計画はまだ潰えていないぞ!!
十分な戦力を持ってこれたとは言えんが――賭けをしてみようではないか!!」
故に彼は往く。己は勝てると『傲慢』なまでの自信を抱きながら。
街の中央。重要たる橋が燃え盛ると同時に――勝利を求めて。
- <ヴィーグリーズ会戦>焦燥ビルレスト完了
- GM名茶零四
- 種別決戦
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年07月07日 22時06分
- 参加人数100/100人
- 相談6日
- 参加費50RC
参加者 : 100 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(100人)
リプレイ
●
古今東西あらゆる戦いは『王』を討ち取れば勝利する。
それは指揮官と言う意味でも、文字通りの意味の場合もある。
――敵の狙いはフォルデルマン三世。
「ふむ。本来なら対岸にいらっしゃる幻想国王こそが狙いなのでしょうが……
かといって此方の攻撃も無視は出来ません」
理解はできるが、かといって物資のある『西』側への攻撃も見過ごせぬと言うは玉兎だ。
どうやら敵も出鱈目に攻めてきている訳ではないらしい。しかし手を伸ばすにも限りがあるならば――あちらの事はあちらに任せるとしよう。
「神使の皆様なら、きっと大丈夫ですわ――さて」
故に動き始める。彼女は周囲の味方を鼓舞しつつ、敵を見据えれば冷たき呪いを齎そう。
敵の数は多いのだ――一刻も早く鎮圧せねばならず。
「大切なものを勝手に壊すのは悪い事だよ。お仕置きが必要だね――
ははっ。英雄を欲してるなら、英雄として何度でも立ち上がってみせるよ」
「武器弾薬、兵糧、医療物資。どれが欠けても戦線の維持はできない。
重要な局面だね。必ず守り抜くよ」
故にアイザックとオニキスも往く。
敵意を感知するアイザックが周囲に敵が潜んでいないかを確認しつつ、敵あらば聖なる光にて敵を討とう。此処に保管してある物を奴らに奪わせも害させもしない……アイザックの背後からオニキスの砲撃が炸裂。
砲撃形態に移行し、展開された超高圧縮魔力弾が――放たれる。
アハト・アハト。マジカル要素を含んだソレが空より飛来する魔物を打ち砕いて。
「鳥型の、古代獣……ふふふ、奇しくも、だ。縁を……感じる、ね」
直後。オニキスの射撃の終わりに空の魔物どもを見据えるのはクィニーである。
――古代獣。それも、鳥とは。
口元を緩ませる。さすれば、隠し持っていた銃で敵の足首を穿つ――
『おいで』と、そういわんばかりに。
此方へおいで、その翼を千切ってでも。甘い声色の口の動きが注意を引く様に。
――そして叩き落そう。君たちには鳥籠の中が相応しいから。
「空中での優位があるのは自分たちだけだと思わないことね!
ぜーんぶ撃ち落としてやるわ! 覚悟しておきなさーい!!」
更に向かうのはオデットだ。上空からの襲撃を確認した彼女が投じるは、派手な光を撒き散らす林檎型のソレ。周囲の味方に警告を伝える手を投じれば、同時に放つのは熱砂の一撃だ。
それは空中へと。地上ならともかく、空に向けて放つのならば味方を巻き込む恐れも少ない。
――空を飛んでいれば無敵とでも思った?
「甘いのよ!」
炸裂させていく。幾度も、目につく敵を倒せるまで。
「さてさて、そう簡単に物資の破壊なんてさせてあげられないのよ、ね」
あちこちで始まる戦闘音。その中で、ヴァイスは物資集積所へと寄ってくる敵を見据える。
収奪ではなく破壊。ここを襲撃してきている主犯となる人物は物資なんぞに眼もくれていないのか――? 大概こういうのは火事場泥棒的に奪う輩が多そうだが……
「まぁ。おいたはあまりしちゃだめよ?」
ともあれ前線を支えるべき代物を狙うならば打ち払おう。
魔物であれば暴風をもって払い飛ばし。怪しき者には探知する瞳を。
中には『人』の敵も混ざっているのだから――これぐらいの警戒は当然だと。
「ふむ……戦場に出るは性分ではないのだが。
まぁ偶には幻想の方々に恩を売るのも悪くないな――
では。お歴々よ、一世一代のイカサマをご照覧あれ!」
しかし人の敵がある程度思考をもってくるのならば、彼らを騙す策を講じるのがハビーブだ。いや上手く行けば魔物達の目も誤魔化せるだろうか……
何でも屋たる彼の隠し拠点の一つが偶々この街にあった。
それを利用するのだ――一部の騎士たちに協力を貰い受け、まるで防衛している拠点であるかのように振舞う。
ここは物資を護っているのだと――
「貴重な戦力を割く羽目になるのは重々承知の上。しかし!」
上手く行けば敵を多く釣る事が出来るのも確かだと。
建物に見事向かってくる敵意の数を見ながら、彼はほくそ笑むものであった。
――やれやれ。偶には陰で暗躍するだけでなく、肉体労働もしてみようかと思考もしながら。
「全く。どれだけの数が潜んでいるのだか……」
次いで。その建物の上から射撃を行うのはシュロットだ。
狙うは主に潜んでいるレアンカルナシオンの人員共――
幻想の内乱なんて好きにやらせておけば良い、とも思うけど……
「これも仕事だ。やむを得ないね」
文句はここまでと。息を潜めて射撃一つ。
彼方を撃ち抜く一閃を――戦乱持ち込む馬鹿どもへと叩き込んでやろう。
「物資を狙うとかちまちまめんどくせえ連中だな。
正面からブッ潰せれば楽なんだけど……流石にそう簡単にはいかねぇよなぁ!」
「ああ。細けぇこと知らねえがここにある物資は必要なもんだからな……てめえらにくれてやる分は米の一粒もねえ。来るってんならそのつもりでかかってきな」
同時。地上の方ではルビィと狂歌が敵を待ち構えていた。
レアンカルナシオンの怪しい動きは明らかに騎士達とは異なる。人目に付かぬ様に移動する様な連中の前に躍り出て――戦闘を開始するものだ。味方に位置を伝達しつつ、決して孤立しない様にしながら。
「ふふふ。さぁさ面白い方々です……目的のために手段が正当化されることなどないというのに、分からずに踊り続けますか。それとも起きながらにして見ているのは夢ですか?」
であれば各地を巡る四音が治癒の術を飛ばすものだ――
勇敢に戦う皆さんの命を癒し守るのが私の使命。
「ちゃんと見守っていますから、どうぞ安心して戦ってくださいね」
彼女は常に笑みを携えている。変わらぬ笑みをいつまでも、いつまでも。
「大丈夫。君達を害為す全てを取り払うから、全力で戦って欲しい」
そして治癒の力を紡ぐのは四音だけではない――昼顔もだ。
今回の幻想の動乱には深く関わっていない身だが、それでも本来助かる筈の人が助からなくなるのは――見過ごせない。手が届くのならば伸ばそう。
周囲に齎す力が彼らに力を。施す慈愛が彼らの体力を癒す――
(……こういうのキャラじゃないけどね)
内で思考しつつも、助力になるであれば良しと彼は力を振るい。
同様に――英雄など『ガラ』ではないと思考しているのはリョウブだ。
「さてさて。まぁ、幻想の騎士様方の力になれば幸いです――とね」
彼もまた治癒をしつつ、同時に周囲へと言葉を満たす。
それは英雄の様な振る舞いではなく――言葉でそれらしく思わせる事。
騎士達との連携の際に、必ず彼らを労うし、頼もしさをも伝えよう。
「やぁ大丈夫かい。あまり無理はせず、一度後退するのも手だ――
なに。君の様な勇猛なりし騎士は一人じゃない。
退き、態勢を整える事もまた戦いさ」
彼らもいなくば決してこの場は守り切れぬ。
だから振舞おう。心の底から彼らを称える様に、演説するように――
「はいはいはいはい! アンデッド型を倒してお友達をたくさん増やせばいいんですね。
任せてください!! いやーこんなお仕事があるなんてホントたーのしー!」
直後、全力の魔力を叩き込み、大通りを向かってくる魔物どもを一直線に薙ぎ払うのは絵里である――いやー次々と『お友達』が増えるなんてとっても楽しい依頼だうふふふふ。え、何? レアなんとかの人たちも友達に?
「まっかせて下さい! ぶいぶい」
彼女は往く。己が心のままに、戦場の真っただ中へと駆け抜けながら。
「死体の人権保護のためだからね~。質の悪いアンデッドは解体しちゃうよ~」
さ~どこにアンデッドがいるのかな~?」
更にフランドールもまたアンデッドを追い求めて。
敵陣の真っただ中へと突っ込み――寄って来たアンデッドらを討ち果たそう。
「静かに眠っとりたかったやろうに……お気の毒さま」
一方で『おやすみの時間よ』と優しく言の葉を語り掛けるのは蜻蛉だ。
死した者は墓へと。子守歌は――いるやろか?
「ゆっくりと。もう一度休むんやで」
景気付けの香水の匂いを漂わせながら彼女は往く。
アンデッドらを次々に眠らせて往く仲間の傷を癒すように。
紡ぐは――一滴の雫。
月の光が浮かび上がりて皆の内を満たそう。
「あっどうも ご無沙汰してるわね。
謙虚! 静淑! 慎ましやかなる可愛いお花!
そう私こそ――人類の敵ロザリエルよ!」
そして暑くてじめっとしてて過ごしやすい季節になったから暴れに来たと派手に戦場に乱入するのはロザリエルである。街の路地裏など、人目に付きにくい個所をこそこそと移動している者の前に現れれば。
「えーと? なんだっけ、記憶を移せば本人って……それはそうだろうけど。
過去の栄光に縋るとか 無いわ! 今生きてる者としての誇りとかないの!!?」
ナンセンスの塊であるレアンカルナシオンの人員共をぶちのめしていく。
お前らの変装などとうの昔に看破しているのだ――なんならその四肢をもいで見せようかと。
「……さて、と。こっちに引き寄せればいける、かな……?」
次いでアムルが不思議な羽音を幾度と響かせながら敵を引き寄せる。
それは意識の隙間に潜り込む様な――不快感を伴う苛立ち。
だからこそ敵はアムルを放っておかない。が、彼らを受け止めるのはちょっと難儀だから。
「うん。やっぱり……近接専門の人と合流するのが吉、だね」
だから――受け止める事が出来る人の下へと行こう。騎士でも良い。
このまま移動し続け引きずりまわした後に。攻撃に転じるのは――その後でも良いと。
「勇者が建国したとかどうでもいいわ。国が揺らぐと国民が困るのよ」
そしてディアナも往く。敵はあちらこちらにおり、街の中を闊歩しているならば。
「んんと。下手に前に出てやられるとか愚の骨頂。後ろの方から攻撃しましょうか。
……狙撃手みたいに。息を潜めて一体ずつ、ね」
「そうさなぁ。前は、前に出られるお人に任せて、ウチらは後ろから気張らせてもらいましょか」
味方と共に奴らを討ち果たしていくとしよう。途中で合流したのは、清音だ。
弓使いであるが故にこそ『飛ぶ鳥』を落とすのは文字通り本職だ――構える大弓。引き絞りながら天へと向けて、悪意ありし凶兆を撃ち落とさん。ディアナも同時、戦いの始まりを告げる赤き血糊と共に。己を奮い立たせて――建物の影より敵を見据える。
決して孤立せず仲間と共に。見据える先に放つ一撃がどこまでも敵を追い詰めよう。
「幻想には世話になってますから、力になるっすよ」
「激しい乱戦になりそうだな――さて。この戦いに如何程の価値があるか……」
そして周囲を広い視点で軽快する慧が敵の前に立ち塞がり、清音が空の敵を一体ずつ仕留めている所へと追撃するべく駆け抜けるのはオライオンだ。万全の加護を己に齎す慧は正に要塞が如く。
敵の攻撃が来ようとも身じろぎもしないものだ――その間にオライオンは天を見据え。
この騒乱に関わるつもりはなかったが、これほどの戦いであれば『経験』になりそうだと。
「――憎悪の為の糧になってもらうぞ」
放つは聖なる光。敵のみを捉える一撃が飛翔する者達を薙げば。
「誠吾さん! 敵がいっぱいいるのです! あっちにもこっちにも……すごいいるのです!」
「……いや。おまえ、なんでそんな威勢がいいんだよ」
「えっ? こういうのは、元気に向かった方が良いのですよ!」
周囲の様子を探る様に。元気よく誠吾へと話しかけているのはソフィリアだ――
ここは戦場。命のやり取りをする場だと分かっているのだろうか?
思わず吐息が零れそうになるものだ、が。
「……まぁ悲壮な顔をするよりはいいか。
とりあえず、俺より前には出ないように。いいな? 分かったな? 返事は?」
「はーい、誠吾さんはうちが護るのですよ! おっまかせください!」
話が通じてるのか通じてないのか! ソフィリアは胸を張って治癒の術を飛ばす――そして彼女の支援を受け取りながら誠吾は前へと。複数ではなく一体一体を確実に倒せるように――潰していくのだ。
ソフィリアからは離れすぎないように。彼女を庇えるように、何があっても大丈夫な様に。
「聞こえる者は耳を傾け、見える者は前を見たまえ」
瞬間。周囲に響く声の主は――エクレアだ。
彼女が行うは戦う幻想の騎士へと。その声には力があり、鼓舞する力は群を抜いている。
「眼前に映るは敵だ。武器を持った殺意だ。
だが慄いてはいけない。
敗ればその矛先は君達の家族、あるいは愛する者に向くだろう。故に――」
勝たねばならぬ。戦わねばならぬと。
活力を満たす号令を放てば――皆が奮い立つものだ。
民無くては国に非ず、誇り無くては騎士に非ず。
闘え、そして勝て。盟友諸君は一騎当千の戦士。
「――魔物共にその強さを思い知らせてやるのだ!」
全軍前進。敵を殲滅し、国を救え!
その力は無論幻想の騎士のみならずイレギュラーズ達にも満ちる――
「さて。この空気たるや久方ぶりの大いくさ……腕がなりますね」
言うは無量だ。敵は戦術たるものを理解している……
敵の大将を狙うという事。食料などの精神的余裕を揺さぶる事。
それらを崩さぬ限り、戦力差がなければ戦局は大きく揺るがない。
『逆に言えば』……という事態が今であり、故にこそ己は此処を護ろう。
「加減をする余裕はなし。向かってくるならば――お覚悟を」
目を向けた先。一直線に向かい来るは手先の魔物か。
――では与えよう。
無辜なる者よ、救いを求めよ。さすれば解き放たれん――
彼女の一閃が敵を纏めて穿ち去る。それはまるで仏の掌の上である様に。
「ゲへへ……これじゃ遅れをとってる場合じゃねぇなぁ! 王様の危機に馳せ参じれば覚えてもいいってもんよ! なあ兵士さんよ! この戦いで名を挙げてやろうじゃねぇか!」
直後、拠点の前にて敵を待ち構えるゲンゾウが兵士に向けて声を放つ。
戦場は手柄の立て所だと。そう言い放ち、そして。
「さぁってと――ほんじゃ手柄の為にも死んでくれや。
あっ? なぁお前さんは敵だろう――? バレてねぇとでも思ったか?」
言葉を紡いだ兵士へと一閃を放つ。
それはレアンカルナシオンの者の変装。看破していた彼はあえて引き込む為に、仲間に言うような言動を紡いでいたのだ――汚ぇ手で俺様に勝てるとでも思ったか? 十年はえぇよ。ははは!
「物資の流れ、補給線が滞ったら勝てる戦いも勝てなくなるデスからね。
この辺りはなんとしても死守が絶対。防衛するデスよ」
「これ以上彼らの好きにさせたら困った所の話じゃなくなるし、ね。
フォルデルマン王の治世はなんだかんだ暮らしとしては快適なんだ――
悪意をもった連中の好きにはさせられないね」
そしてゲンゾウ同様に襲撃されている支援物資拠点の前に陣取るのは砂織と文である。
ここには医療物資も保管されている様で――これが届かぬとなれば救えぬ命も出てくるかもしれない。そうはさせてなるものかと、砂織は感情を探知して潜入者を燻りださんとするものだ。
レアンカルナシオンのメンバーなら守ろうと動く騎士とは別の感情があるに違いない。
――見つければ穿とう。足止めし、仲間と共に撃滅するのだ。
「まったく。こっちはフツーのJCなんデスけど」
思わず吐息が零れそうな状況だが、それでもやらねばならぬ。
ここで万が一の事が有らば、文の懸念通り王の治世に影響があるかもしれない。それは決して望むべく所ではないのだ――日々胃痛に悩む遊楽伯や花の騎士達には少し親近感を抱いている所でもあるし。
「なんだってやるよ。あの人たちの為なら、ね」
故に文もまた警戒をする。こちらに敵意を向けてくる者がいないかと探知の術を巡らせ。
いざとなれば大弓にて対抗しよう。
――ここだけは抜かせない。絶対にと。
「むむむ。幻想と言う国は悪い所も確かにあるけれど……
それでも王様もマシになってきてるし、全体としてみれば良い国ニャ!
ここに住む人々も好きだし――守ってみせるニャ!」
そしてニャンジェリカもこの国を気に入っている一人であった。
故に奴らには蹂躙させない。
眼前、迫ってくるアンデッド型の魔物を見据えれば、叩きのめすのだ。
「掛かってこいニャー! こんなもんで私を倒せるつもりかニャー!」
己に注意が向く様に。己に敵が寄せられるように。
剣のみならず盾も使って。全霊を賭して――奴らをぶちのめしていくとするニャ!
「全員気合入れてけ! 絶対ここは守るっスよ!
万が一にもお偉いさんが傷ついたら……それだけはある意味『負け』っスよ!」
次いで葵もまた奮戦する。周囲の騎士たちに声を掛け鼓舞しながら。
ここには王も遊楽伯もいると聞いた――どちらも守らねば、と思うが流石に一人の手ではどちらかの護衛に行くのが精一杯。故、葵は西側の者達を護ると決めて此方へきたのだ。
「空から来るっスよ――!! 撃ち落とすっス! 後は――」
片付けてくれ! と、叫ぶように。
跳躍する彼が家の屋根へと至り、撃をそのまま叩き込もう。
地上の味方と連携して効率よく倒していくのだ。一人で無理でも皆なら――出来ると!
「伝え聞くに、レアンカルナシオンとやらは使命感に燃え……
理想のために自ら命を散らす作戦に進んで身を投ずる類の者達なのでしょう。
ならば景護! こちらも相応の工夫と力、そして――強き心があらねばなりません!
景護、覚悟はできましたか!? 私は出来ています!!」
「はい。無論承知しております――! 是非、お命じ下さい。
この景護、御身の勅命あらば身命を尽くす覚悟はとうの昔に!」
であれば。真優と景護の両名の信ずる力があらば届く手もあろう。
――敵の心には狂気が見えど油断できるものに在らず。
それでもあのような者らに大地を蹂躙させる訳にはいかぬと。真優の放つ複数のファミリアーが周囲を索敵し敵を割り出さんとする。適正存在であると見据える事が出来れば――それよりは景護の出番だ。
「神威神楽を発った時より……
御身をお守りし、敵を討ち、共にその先へ進んでいく覚悟は済ませております。
御身はただこの身に『成せ』とお命じ頂ければッ」
その手に込めし力は全霊。敵対する者は魂を穿つ爪の一閃をくれてみせよう。
――忠義はかくあるべし。
ただただこのお方の為にならん事を――眼前へと振るうのみだ!
「クロード様。武勲を頂くべく馳せ参じました。何なりとお申し付けを」
そして忠義という観点においてはヲルトにもまた主君とすべき者がいた。
それがクロード・リーモライザ。平伏す様に馳せ参じ、己が身命はこの方の為に、と。
「よく来た。その武、早急に邪魔立てする者達に振るうが良い。
よいか。奴らが万一にも陛下の身に届こうものならば――その命では償いきれんぞ」
「承知しております。全てはクロード様、引いては幻想王の為に」
クロードの言に、一切ヲルトの身を案じる様な要素は含まれていない。
忠実な下僕という認識の相手にそれは当然とも言えるが――しかし、捨て駒程度の存在とも思っていない。ヲルトの武勲は認められる所があり、だからこそ彼がこの場へと至る事を許してもいるのだから。
成せ。リーモライザ家の為に、幻想の為に。
探すはレアンカルナシオンの様な潜入者達だ。魔物は分かりやすいが、奴らは紛れる。
潰す。必ず潰す。周囲の感情を探知し、妙な輩がいないか目を光らせよう。
撃を成すのはその後だ。クロード様の許しを得てから――その後だと。
「幻想の反乱……私にはどちらが正義かなど区別はつきません」
同時。別方面で街の守護を担当せんとするのはイースリーだ。
イースリーにとってどちらがどうとは分からぬ。
どなたも大切な人類。争い合う現状がただ、悲しいだけ。
「けれど」
悲しむだけの者によりよい未来など訪れない――故に動こう。
魔物共が物資を狙う前に。自らの存在を彼らの前へと寄せて、注意を引く。
多少の怪我などなんの問題があろうか。
治癒の術を張り巡らせ役割を果たしに行く。困った者の所へ、早急に。
「命が失われては取り戻せないのですから」
イースリーは分かっている。この戦い、そもそもの根幹であるソレが……
不可能を巡っているのだと。誰よりも――理解している。
「はぁ。センセ達も大変だよね。
……こういう状況本でしか読んだこと無いけど。まさか当事者に、とはね」
そして柊也は吐息を零しながらも自らに出来る事をしていこう。
周囲の味方の力になる様に。特別な事が出来なくても、地道に少しずつ。
――無論、動き続ければやがて敵の目に留まるものだ、が。
「あぁやめておいたほうがいい――『こわいめにあう』よ」
なんとかなる気しかしていない。
例え『味方の振りをして殴ってくる』者がいたとしても。
『命を顧みないのは普通じゃない』のだから。
だから――殴れば痛い。『これくらい』しか出来ないけれど、それでも。
彼は己に成せるべき事を成していくのだ。
「では、打ち倒しておきましょうかね」
直後。柊也を襲っていた者をなぎ倒すのはノアだ。
物資を狙わんとするレアンカルナシオンの人員は要注意対象……彼らを放置してはおけない。
星の光は太古の世界からの今の世界への贈り物。
英雄譚は古の英雄たちから今の人々たちへの贈り物――ならば。
「新たに幻想の勇者となった私たちはこの戦いにイレギュラーズ達の冒険譚を交えて」
未来にこの世界へと訪れる人々に贈れるような勇者の物語に仕上げましょう。
――彼女は戦う。物語の形成の為に。
彼女は戦う。数多の悪意を打ち倒す、英雄譚の為に。
「まあ、まあ、大変! 人、というものはわたしがぴゅうと駆け抜けてしまえば吹き飛ぶ弱きものかと思っておりましたが……こうして人同士でも、争うのですね。だめですよ! 貴方達は弱いのですから、手を取りじっと籠らねば!」
と、同時。物語とは異なるが、非常に広い大局の観点から人を見据えるはザヴィーもか。
元世界ではハリケーンの存在であった彼女にとって人は平等だ。
吹けば『飛ぶ』。それだけの事。
「もう、聞いて下さらないなら……起こりましたわ、天罰です!
その身に痛みを受けて覚えてくださいませ!」
故に言葉を弄しても無駄ならば――と彼女が放つのは電撃だ。
天より注ぐ正しく『罰』が敵対者たちを襲っていく――
わたしの話を聞いて下さいましー! と言っているが、はたしてこの轟音の中でどれだけ言の葉が届いている事か。知れど知らねど彼女は止まらない。大自然が人の都合で止まるものか!
――血筋が偉い。伝統が偉い。
ああこの国はそういう国だとヒィロは分かっている。だけど、そうだっていうなら。
「スラム出の記憶喪失で。どーこの誰かも分かんなくて。
ご先祖様も両親も血統もなーんにも、な~んにも持ってないボクは。
幻想ではそこらのゴミ以下ってことだよね。 あはっ」
こんな国に価値があるのか――? まぁ良い。
『今回は』敵を殺すだけで満足してあげる。
ヒィロの気配は負に満ちている。それを機敏に感じ取るのは――美咲か。
……七光り様の自分語りほどつまらないものもない、か。
「そういえば、ヒィロの領地を襲ったのもアンデッドよね。気晴らしに『のして』いく?」
「――うん! そうだね、それがいいかも!」
だから往こう、二人で。
目前。アンデッドの大群の中にヒィロが突撃するように――奴らの目を引き付ければ。
そこへと至るのが美咲の一撃だ。連鎖的な行動が隙間を作らず行動を成して。
満ちる光がアンデッド達を焼き尽くしていく――
「どんな事情があろうとも。私たちは、私たちが楽しめる物語を作りながら、進むだけよ」
「その朽ちたアンデッドの体に聞かせてあげる!
勇者王だのから続くカビの生えた御伽噺なんかよりも……」
ずーっと素敵な物語をね!
彼女らの絆が輝く様に。戦場の一角にて――瞬いていた。
「遊楽伯! 各方面から敵が押し寄せてきています……ここは危険です。避難を!」
「くっ……それはなりません。陛下の御身を護る為にも、ここは死守すべきです!」
同時刻。遊楽伯は配下の騎士に指示を出しながら街を護らんとしていた。
それは街自体を気遣ったが故もあるが……ここで己らが退けば王へ刃が届くやもしれぬ為。退くわけにはいかぬと、退いてはならぬ一線があるのだとその足を踏みとどまらせて入れ――ば。
「拠点を護る事、それは即ちお姉様が大多数を護る助けになる事、です」
突如として声が響いた。
それは、遊楽伯の本陣に突入せんとしていたアンデッドを魔力の撃にて吹き飛ばしたしきみだ――
おぉイレギュラーズか! 騎士達の顔色が一気に明るくなるが、お姉さまとは一体?
「ええ、ええ。是非に協力致しましょう。護衛するご縁があるわけではありませんが穏健派を失えばお姉様に危機が迫る可能性があるのです――その為にも、ええと。何というのでしたか――とにかくお行儀よく守られてくださいね?」
「あ、貴方は一体……?」
にっこりと。微笑むしきみだが、その瞳はこの場ではなくどこか遠くを見据えている気がする――少なくとも遊楽伯など見てもいない。魂に刻みし『お姉さま』とやらがいる方角を見ているのだろうか――?
ともあれしきみを初めとして遊楽伯に合流するイレギュラーズ達がいた。
彼を護る事が結果として街を護る事にも繋がる――ならば。
「いかねぇ理由はねぇよなぁ――俺ぁこっちで物資と陣地も守るぜ。
レアンカルナシオンの連中には気を付けろよ! 敵は魔物ばっかでもねぇからな!」
「悪いね、一人一人丁寧に見ていく訳にもいかないんだ。頭の中を覗かせてもらうよ」
ゴリョウやシュヴァイツァーもまたそちらへと向かうものだ。
遊楽伯らがいる拠点へと近づく敵があらば前面を張るのがゴリョウである。目立つように前線に出て彼らの攻撃を受け止めよう――彼の堅牢たる身であれば早々に崩れる事などありえず、いざとなれば治癒の手段も持ち合わせている。
同時にシュヴァイツァーは騎士――と思わしき者達へと思考を読む術を。
ゴリョウが指摘したレアンカルナシオンの人員を探る為だ。もしもブロッキングを持っていれば警戒し、あからさまに回避してこようとする者にも同様だろう……いやそもそもからして彼らは潜む様に行動しているのであれば、普通の騎士とは異なる動き方をしているかもしれない。
それらを看破していこう。時間が惜しい故に、片っ端から。
「……あの方のいらっしゃるこの場で無様な姿は見せられないのよ。
行かなきゃ、ねッ!」
更にリアもまた周囲へ奏でる旋律を。
それは傷ついた者達へと染み渡り、尚に戦える力を齎して――
「膝を折りそうになったのなら、一度目を閉じなさい!
――その時、浮かんできたものがある? あるならそれが貴方達が戦う理由よ!」
そして言葉にても鼓舞しよう。
敵意に屈してはならない。敵は破壊する者、貴方達は護るべき者だと。
――皆が勇者なのだ。
この国にとって、貴方に大切なモノにとって。
だから立とう。だから抗おう! 今この一時に死力を尽くせッ!
「ふふっ、大切な者の為に……か。
確かにそうだ――このような戦いで無様を晒すわけにはいかんのでなぁ!」
士気の上がる幻想騎士達。それと同時に、ブレンダもまた力を尽くしていた。
これだけ大規模な戦場……物資の重要性などはわかりきっている。未だ本調子でなく、そして少しでも目を離せば『あいつ』の代わりにも戦働きをしておかねば――とッ!
「さぁ寄らば斬り捨てるぞ! 死にたい者だけ来るがいい――!」
全霊を賭す彼女の気力は敵が襲来しようと衰える事はない。
いやむしろ近場にある武器を手に取り投擲し、近づけば剣を振るいて斬り捨てよう。
それはまるで舞踊の様に。戦場に輝く女神の様に。
「二時方向、二体! そのまま引き付けて下さい――叩き斬ります!」
同時。ブレンダらが引き付けた敵を穿つのは綾姫だ。
集団を空間諸共切り裂かんとする程の斬撃に耐えられる者がいようか――?
地を踏み砕かんばかりに踏み込み、そして。
「吼えなさい、黒蓮!」
刻む運命は死を齎そう。
味方は巻き込まぬ様に。注意し、しかし敵には慈悲なき絶命の――一撃を。
「おおお! 勇者に続けッ! 街を護るのだ、外敵を追い出せ――!!」
「遊楽伯! イレギュラーズの活躍により各地で敵の動きが鈍っております!!」
「よろしい。では攻勢と行きましょう……全軍突撃! 奴らを追い払い、陛下の下へと!」
さすれば各地での戦況が傾き始める――
街に入り込んだ魔物は逆に殲滅され始め、攪乱をせんとしていたレアンカルナシオンの人員も焙りだされつつある。彼らの反撃があらば流石に無傷とはいかぬが、それでもこのままの調子であればやがて殲滅も叶おう。
「空へと弓を放てる騎士は我が攻撃に続け!
今こそ奴らを一掃する時!!
空も大地も魔物の好きにはならないということを見せつけよ!」
故に遊楽伯の傍にて護衛していたロスヴァイゼも前に出るものだ。
我が物顔で飛んでいるあの飛行している連中を叩き落してやろう。
――雨の弓矢を投じて一気に追撃と成す。さすれば。
「このままいけば良いのですが。さて、後はあちらもどうなっている事か」
同時。拠点の外周にて防衛を行い、遊楽伯の傍にいる者達と情報共有を行っていた黒子は西側での勝利を確信しつつ――
一方で落とされた橋の向こう側。
東の戦況はどうなっている事かと思考を巡らせていた。
●
西は物資を置いていた。そして東側では――『王』がいた。
王の防備は決して緩くなどない。
幻想の騎士の中でも精鋭中の精鋭……近衛の者らがいるのだから。
――だが。
「なんだこいつらは……強いぞ! 総員注意せよ!!」
強襲してきた『天使』が如き個体共もまた強靭であった。
これらはなんだろうか。今までウィツィロやスラン・ロウから発生した魔物を見た事があるが――しかしこの者達は明らかにそこから湧いて出てきた者達と特徴が違っていた。
「わぁ、なんだあれは? シャル、天使みたいだぞ!」
「陛下。お話は後で――決してここを動かれませんように!」
だが敵には違いない。
近衛達を信用……している故だと思うが、陽気な様子のフォルデルマン三世を花の騎士たるシャルロッテは窘めて。至る攻撃があらば彼女が全て防いでいる――そして。
「王様がいなくなったら悲しむ人いっぱいだと思うわ!
うん! だから――そんな王様を狙う敵さんは全部倒します!!」
来てくれたイレギュラーズと共に奴らに対抗するとしよう!
ふわもこジャイアントモルモットのリチェルカーレの背にしがみつく様に乗るキルシェは戦場各地の状況を確認・伝達しながら味方の援護を成す――飛び交う攻撃の中での移動は危険も伴う、が。
「リチェ、怖いのいっぱいだけど、一緒に頑張ってくれる?」
キリッ。と敬礼顔をするリチェと一緒ならば必ずできると。
襲ってくる敵あらば衝撃波にて抗おう。全てはみんなで一緒に、無事な王様を――ぎゅーとする為!
「ああ。お世辞にも、名君、賢君とは言い難い、が。それでも、戦火を延焼させ続けるような者ではなく、そんな愚かな輩共よりは、遥かにマシ、だ」
更にエクスマリアも王を守護すべく駆けつけるものだ。全く、最前線の近くに出てくるなど呑気すぎると思わないでもないが……仮にも我らを友と呼ぶものであれば応えねばなるまい。
天使を見据えて穿つは魔力。彼女の精神力の高さこそが威力に直結する一撃を投じて。
「王よ。王座を、国を護りたいのなら。王道を、示せ。
それが気高く、正しい道ならば、民は自然、あるべき王の下に集う、はず。
偽りに騙される程、この国は、民は、愚かでは、ない」
「うん――? つまり私は私のままであればいいという事かな? 任せたまえ!」
花の騎士殿がまた頭を抱えているが、戦場の中でもあるしまぁいいとするか!
それよりも敵はまだまだいる。
天使らの刃は鋭く、重いのだ。とても油断などしていられなければ。
「シャルロッテさんですね。私はクラリーチェと申します。皆様の支援に参りました」
「えっと、王様を護るお手伝いに来たわ……近衛騎士の方々の助けになれば良いけれど」
「お待ちしていました――どうか、共に陛下をお守りください」
次いで訪れたのはクラリーチェとエンヴィだ。
王を護る。それがこの場における最重要な出来事。
例え敵を倒しきれても王が倒れでもすれば最悪の事態だ……故にクラリーチェ達は近衛やイレギュラーズ達に支援を届ける。自分が出来る場所で、出来る限りの事を。
「えぇ、私も最善を尽くすわ。一緒に勝利を掴み取りましょう」
故にエンヴィは怨霊を顕現させ、投じる。
天使たちに絡みつく様に。さすれば生じた隙にてクラリーチェは治癒を行き渡らせるのだ。
「私達は前に出て戦う力は持っておりません――
適材適所とも言いますし、皆様と一緒に頑張りましょう。
力を尽くせば……きっと結果は付いてきます」
近衛の者達を支える様に彼女たちは歩調を合わせて。
「死にそうな人はいないですか――? 無理をすることはありません、下がりましょう」
同時に、別箇所でも治癒の術にて支援するのはヴァールウェルである。
天使の相手をしている者達の負担が減る様に、と。応急の手当も加えながら。
「ぴ、ぴぃ……決して失敗してはいけない場面で王様の御前なんて……
うう。失礼のないようにしないと……!!」
まさか天上人様のお傍で戦う事になるなんて思ってもいなかったミミは緊張で震えているが――頬を自ら叩いて気合を入れ直し。密かにプルる体に活を入れる……!
「騎士さま方! 頑張るですよ! 負けるなーですよ!」
「そうだミミの言う通りだぞ! ははは、負けたら大変だからな!」
んひぃ、王様と一緒に喋ってしまいました!
またもプルりかけるミミだが――しかし敵が押し寄せてくるタイミングで号令を挟む彼女の言葉は存外に力を齎すものだ。いやそれだけでなく危機が訪れてると思えばポーションを片っ端から投じて傷を癒そう。
出来る事を一つずつ。勝利に向かって一歩ずつ。
「敵の中に……邪悪な呼び声を使う奴が、いるかもだから。
もし、呼ばれたり、来いとか言われても……だめだって拒絶して、ね」
直後。念の為にと王様や騎士達に声を掛けるのは祝音だ。
いわゆる呼び声――発しているそれに屈してしまえばもう戻ってこれない。
どうかお願いしますと、丁寧なお辞儀をしながら。
「近づかないで……その羽……剥ぐ、よ?」
彼らを狙う天使あらば、邪悪な怨霊の顕現にて対抗しよう。
誰も傷つけさせない。王様は特にと、殲滅する勢いを――彼女は見せて。
「木漏れ日の魔法少女リディア只今参上!
陛下を、幻想を、この街を守るために力をお貸しください。
我々と共に戦ってください、騎士の皆様!」
次いで。王へと牙を届かせんと接近した個体を衝撃波にて打ちのめしたのはリディアである。天使は強い。今先程叩いた天使も――すぐに復帰せんと立ち上がっている真っ最中だ。このような個体共を相手に個人で突出して戦うのは愚の骨頂。
故に彼女は勇猛なる騎士達と共に立ち向かう。
彼らに号令を下すかのような声と共に。活力を満たして――さぁ奴らを排していこう!
「へぇ、この戦場には天使がいるのか。実に素晴らしい! 天使は『久しぶり』だなぁ!」
「本当に天使みたいな見た目ですね。まぁ実際の所見た目が天使に近しいというだけで、魔物か何かには変わりありませんけど」
更に往くのはマルベートとティルだ。眼前より迫りくる存在――に対して心抑えきれぬ高揚感を抱くのがマルベート。
ああはたして彼らは私の知っている『味』かどうか。
いずれにせよ涎が出る思いである。
「血の一滴から羽の一枚に至るまで、存分に呑み喰らわせてもらおう」
文字通りの意味を込めて。己が全身にマナを迸らせて――その魂を喰らわせてもらおう。
己が全霊を込めて。悪魔の権能を身に纏い奴らの喉笛から全てを吸いつくす。
――舌に感じるのは絶品の味わい。
まろやかにしてコクのある――あぁ!
「まだまだ未熟者ですが、精一杯支援しますよ!」
同時。背筋震えて感涙の様子を見せるマルベートを援護するべくティルは撃を紡ぐ。
雷撃をもって奴らを纏めて飲み込む。ああ、マルベートとは異なって別に食したり分解したりはしない……少し可哀想ではあるし。
「クハハハハ! 似非とはいえその姿は正に忌々しき天使の似姿!
ならば相手をしてやろうではないか――加減は出来んがなぁ!!」
更にダリルも魔力を収束させる。彼が抱きしはマルベートの様な食欲とは異なる――
むしろ憤怒に近い感情と言うべきか? ええい奴らの顔を見ると無性に『昔』の連中の面を思い出して腹立たしいのじゃ! 猛る血糊がダリルの戦意を大きく向上させ、紡ぐ一撃は何もかもを貫く。
「何もかも燃やし尽くしてやるが慈悲ぞ!
治癒が出来る? 小賢しいわ!! 治癒も出来ぬ程の火力で焼き爛れよ!」
堕天使たる彼は天使共に全力を投じながらぶちのめしていく。
かつての恨みの一端を晴らすかの如く。
激化する戦闘――騎士達は命を賭してでも王を護らんとする――
この方が倒れれば全てご破算だ。連れ去れても同様に。
だからこそ。
「――絶対に陛下を守るわ!!
陛下! 陛下は絶対に知ってる人の見えるところにいて!
知らない人に付いていったりしてはだめよ!」
「はは! シャルに黙ってお忍び探検はした事があるが、そのような事は――あ、なんでもないぞシャル! こわいぞシャル!」
アクアは王を守護する様に陣取るものだ。
だけれども、自分が死んでもならない。この陽気で優しい王様は――
きっと自分を守るために誰かが死んだら、辛い筈だもの。
命がけで守りつつ死なない。でも守りに回るばかりでは守り切れない。
「きっちり攻めて、早くこんな戦い終わらせないと……!」
陛下を中心に陣取りながらも隙あらば戦線を押し上げよう。
熱砂の力を相手に振るい、アクアは敵を倒さんと力を振るって。
「王様、エルは、お願いしたい事が、あります。皆さんを、えいえいおーって、励まして下さる、言葉があれば、皆さんが、もっともっと頑張れるって、エルは考えました」
「そう! 王の鼓舞で形勢が逆転することもある。さぁ陛下、戦っている者達に何か言ってやってくれ。何ならこの俺が素晴らしい台本を用意してやろう。ああそれともお前が何か言っているか、女騎士。見た目麗しい華からの囁きは兵士達の士気のウケも良かろうな!」
同時。王へと言葉を掛けるのはエルとStarsだ。
Starsは必要ならば己が脚本を書くとし、エルは遠くにまで響く声で――王の言葉を伝えんと。
励ます、というのは存外馬鹿に出来ぬものだ。
言葉一つで人は奮い立ち――力が湧いてくることもあるのだから。
「うーん『がんばれ!』でいいんじゃないかな? はは、頑張る場面だもんな、ここは!」
「そう、です。それでも、いいと、エルは、思います」
重要なのは王が心から思っている事なのだからとエルは思考して。
「王様とは、偉いもの。大事なもの――ファルムが読んだ本にも、沢山出てきた」
そしてファルムもまた王様をじっと見据えるものだ。
本物の王様を見るのは初めてで――絵本に出てきたような、思っていた髭の王様とは違うけれど。でも。王様を守っていた『騎士』というものは強かった。
「今日のファルムは、それになる。ほら、ほら」
だから、と。自らに施した茨の加護と共に王様を護る様に立ち回るのだ。
注意を引く様に。そして相手の動きを縛り付けよう。
かたかたと――ほら、主と遊んだ人形のようだ。
「いやー恩を売っておけば後々貴族とかからお金借りるの問題ないとか思ったんだけど……あれは本気でお金貸してくるタイプの馬鹿だ。間違いない」
そしてそんな王の様子を見た煉はあまりの陽気ぶりに絶句してしまうものだ。
いやいやお人よしが過ぎるだろう、と。まぁお金入るのならばなんでもよし――
「さてさて『全部燃やせば同じだし』ずどーんと行こうか」
味方を巻き込まないように紡ぐ魔法陣が戦場に瞬いて。
数多を貫き――天使達を薙ぎ払っていく。
お金をくれるならそれが味方だ。彼にとっての判断基準は――実に単純明快。
「いっくよ――! カード『勇者』インストール! 魔法勇騎セララ参上!」
直後。声と共にフォルデルマンの護衛に付くのは――セララだ。
「おぉセララじゃあないか! 今日も元気だな!」
「うん! 王様、じっとしててね! ボクの大切な友人は――必ず守り抜いてみせるから!」
彼女が振るう剣はいつだって守りたい人の為に。
そしてその思いは騎士にも伝播するものだ。
――守りたい人を思い浮かべて。ボクらは皆、大切な人たちを護るために。
「剣を振るうんだ! さあ皆、気合いを入れていくよ!」
周囲の者らの熱気も巻き込んで彼女は往く。天雷を受けた聖剣と共に――敵を討ちに。
「全く。そうはいっても、こんな鉄火場に思い付きでは来てほしくなかったよな……!」
自分の存在の大きさをもうちょっとぐらいは分かってほしいと。
吐息を一つ零しながらも敵を撃っていくのはカイトである。
聖なる者面した天使を相手取り、その顔面を打ち砕いてやろう。
「どんなに『別の悪の危険性』を説いてもな、国を害すのは『悪』なんだよ」
だからお前たちをぶちのめすと。カイトは容赦なく奴らへと撃を叩き込んでいく。
「挫けないで――折れないで――必ず勝機はやってくるから!」
同時。声を張り上げ周囲の騎士達を励ますのは京である。
己が鍛え上げた肢体を彼らの前に。天使をねじ伏せ、声を届かせんとする。
広く。大きく――言の葉を発しながら。
「ここにとびっきり無謀な馬鹿女が居るぞ、諦めるにはまだ早いでしょ!
騎士だっていうなら……アタシよりは後に倒れる方が良いんじゃない!?」
アタシを見て。アタシを聞いて。
そして奮い立って。
皆で協力すれば必ず倒せると――熱意を湧かせて皆で立ち向かうのだ。
そして時を同じくして、別の箇所で天使が如き一体を切り伏せ『本命』を探すのは舞花だ。
敵の目的が王であるならば――当然どこか一点に戦力を集中させるのが定石。
「進軍を一刻も早く止めねば……首謀者か、敵の精鋭か。
それにしても魔種を滅ぼさんとする魔種という話――些か興味深くはあったのだけれど」
このような強引な事までしてくるとは、その実話し合いが通じる様な相手ではなさそうだ。まぁ如何な目的を持っていても魔種は魔種か……
「その計画さえ修正されるなら、協力する余地はあると思うのですけれどね。実際に、どこかで魔種に対する攻勢を仕掛けなければ……やがて滅びのアークの蓄積が、世界を凌駕するやも……」
同時に、傷ついた騎士を見つければ清浄なる神水にて治癒するのが冬佳である。魔種に敵対する魔種の一体位は当面協力し合う余地はあるのでは、と思わなくもない彼女だが……その当の本人がこれほどの出来事をしでかすとは。
実に残念であると舞花と顔を見合わせ――眼前に現れた天使の一体を再び斬り捨てた。
そして同様にアリアも相手取るのは天使達だ。
「すまんのぅ、お主らはともかく天使というのには個人的に怨恨があってな。
ま。これも運が無かったと思ってもらおうか――
ちょいと八つ当たりに付き合ってもらうぞ」
口端釣り上げ――戦う方法はただ一つ。
に出て殴って殴って殴って殴り倒すのみ! 六本の腕を巧みに用いて奴らを粉砕しよう。
戦えば闘う程に――心の片隅から高揚感が湧き出てくれば。
「ははははは! 強きものと戦うのは滾るのぉ! さぁ次はどいつじゃ!
是非手合わせ願いたいものじゃなぁ!」
次へと望むものだ。彼女は力が続く限り――敵を求めて。
「ごきげんよう、シャルロッテ様! ワタクシの名はシャルロッテ・ナックルと申しますの! ええ、えぇ! そう、お察しの通り! ワタクシも同じシャルロッテ! でしたら陛下を護るのは当然の義務――うふふ、そうでしょう?」
「え、あ、えーと……? と、とにかくよろしくお願いしますね!」
次いでにこにこと、シャルロッテらの傍に護衛として至ったのはシャルロッテ・ナックルである――同名であることに奇妙な縁を感じたナックルは捲し立てる様に花の騎士様へと。ある意味迫ってくる天使達以上に一瞬気圧される花の騎士であった、が。とにかく味方には違いない。
「さぁ前はお任せあれ! うふふ……誠心誠意殴り合いましょう!!」
そしてそのままのテンションで彼女は前へと躍り出る。
果たすは鉄拳制裁。愛が籠っているかのような勢いで敵と熾烈な肉弾戦を繰り広げる――殴っては殴られ。殴られては殴って。それでも彼女の表情は満面の笑みと共に。
「命は皆平等……ですが、国の王に何かあっては、国そのものが揺らぎましょう」
更に前へと往くのはもグリーフだ。命に重さなどないとは思うが、しかし実際問題もしも脅威を打ち払っても王が倒れればまた多くの人の生活が脅かされる事になろう。
「故に、お守りします。
貴方の背には、肩には、多くの方の命がかかっているようですから」
自らに出来るのは守る事だけ。されど、その一点関しては誰にも譲らない。
――死ぬことなど許されていないのだから。
彼女は前面に立ち続ける。敵の攻撃を受け止め弾き、立ち続け。
文字通り、鉄壁の壁と――相成りながら。
「正直、幻想がどうなろうが知ったこっちゃねぇがよ。
大国が傾けばラサにも影響が出る――特にお得様の幻想となりゃあ、な。
流石にそいつは糞面倒なんでな」
一方でルナはこの戦いに、幻想王国の未来にはさほど頓着はしていない。
むしろ彼にとってはラサの為である。王や、商人ギルドと繋がりのある遊楽伯が倒れれば連鎖的にかの国にも影響があるのだから――こんな所で朽ち果ててもらっても困るのだ。
「さぁ見逃さねぇぜ――隠れたつもりの狩人と獅子、捕食者はどっちかな?」
故に彼は目を光らせる。
王や己の身近な所に息を潜ませる『敵』はいないかと。
挙動、言動、息遣い――必ず妙な点があるはずだ。
彼は移動を繰り返し、敵に撃を繰り出しながらも足を止めぬままに探りを続けて。
「はぁ、やれやれ……親衛隊の方々も気苦労が絶えませんね、これは」
と。言うは正純だ。
花の騎士と同じように額に手を抑える――まさか一国のトップがこんな所に、と。まぁもう来てしまったものは仕方ない。今更何を言おうが逃げる場所などありはしないのだから。
「ならば、しっかりと守りましょう……それに。
それを抜きにしても、あの様な醜悪な輩を放っておくわけにもいきませんしね」
彼女が見据えるのは向かってくる天使の個体共である。
……どことなく、アドラステイアの聖獣を思い出して胸糞が悪い。天使と言う見た目ながらその内に流れているモノは一体どんな汚物か。刹那に高める戦意と共に穿ち飛ばすは奴らの羽根。
――虫の様に地を這え。
同時に言葉を放ちて騎士たちの士気を上げよう。
ここを守り着れば、あなた方は英雄と共に王を護った誉れ高き騎士だと。
「やれやれ、しかしよもや国王陛下が戦場に……しかも前線に出張って来るとは。ミス・シャルロッテも頭が痛いどころか心労で倒れなければ良いのだが――まぁこういう事も日常茶飯事、と言った所かな?」
直後、言うは才蔵である。
にこやかな陛下を守護する傍らで頭に何度も手を置くシャルロッテ――ああ心中お察しする。であれば、彼女の苦労を少しでも減らしてやるべきだろうかと彼も動くものだ。
どれだけ状況がこちらに傾こうがチェックメイトされては詰み。
片隅に控え、気配を遮断し。息を潜めて――
こちらの警戒網を抜けてこんとする輩がいないか警戒を。会社員たるもの、もしもの状況には備えるものだ……発見次第攻撃をせんと狙いを定め、国王を死守せんとすれば――
「邪魔だッどけ雑魚共!!」
その眼前に現れたのは――此度の主犯。ミハイル・クリストフェルクであった。
怒り狂っているその様子は苛烈。彼は憤怒ではなく傲慢の魔種の筈だが……思わぬ横やりにより全ての計画が狂ってしまったが故の怒りという訳か。己が拳をもって幻想の騎士達をねじ伏せていく彼の歩みはまるで重戦車の如く。
誰の目にも分かる――奴は危険だ。
このまま進ませる訳にはいくまいと思考した、正にその時。
「二人で何度も楽しみました盤上遊戯も、役立つものです」
声がした。それは――珠緒だ。
彼女は蛍と共に行動をしながら常に思考を巡らせていた。敵が如何に傲慢の魔種であろうと将として――指揮官として動くのならば。重要なのは地形、攻防の兵配置、国王の所在……そしてアタリを付けていた。
魔種ミハイルが訪れるであろう場所を。
「珠緒ら二名で抑える数手が、王へ伸ばす手を払う時を生みます。
蛍さん、珠緒の身はお任せいたします――参りましょう」
「珠緒さん――うん! ボクに任せて!」
信頼している二人に不安はなく。故に彼の前へと往こう。
魔種を刺す刀が珠緒なら、己は刀を護る鞘の役目だと!
狙うはミハイル――いや彼に付き従う天使を、だ。奴らを引き付け、愛する珠緒には指一本触れさせない。そうしている内に珠緒は蛍を巻き込まないように撃を一つ。
盤上効果が確実なればこその定石(ギャンビット)。
珠緒の推察が的中し、国王陛下への足取りを歪ませた――その時。
「ちょっと馬の骨、速度出しすぎじゃないです!?
戦う前に事故で死ぬのは御免ですからね! ちょっと……聞いてます!?」
「なぁに死ななきゃ安いもんだろう悲劇野郎――さぁ! うちの勇者様はファンタスティックな魔法使い! 簡単に奇襲出来ると思うなよ魔種野郎!」
悲鳴の絶叫。轟かせるはクロサイトであり、それは冥夜のバイクに跨っていたが故。
抗議によって速度を落とす所かミハイルを阻むべく突っ込んでやったッ!
交差する一瞬に放つは式符の使い魔に、クロサイトの練り上げた魔術――
爆撃の様に降り注がせ、そして。
「さぁ着いたよ――存分に暴れてどうぞ!」
「ヒヒ。どうしたんだい随分と顔色が悪い様子じゃないか。
――笑えよ。
せっかく前に、わざわざ出てきたんだ。少しは楽しまないと損だぜ?」
次いで飛び込んできたのは――京司と武器商人である。
道を抉じ開けそこにねじ込む様に。バイクを操り戦場の渦中へと京司が武器商人を届ければ。
直後に見舞われるその舞踏は死を想起させ、誘う冥府よりの使い。
これ以上進ませる訳にはいかぬと全霊を投じて――しかし。
「邪魔だと言った筈だ! 此方に余裕はないのだ――立ちはだかるなら死ねッ!」
ミハイルは粉砕するかの如く拳の一閃にて全てを叩き割った。
数多の魔術の飛来も。鋭き剣の一閃も。彼は意に介さずに進まんとする。
それは己の力量の自信か――それとも傲慢か。
「随分なご自信だが、悲劇野郎の前で下手な姿は見せられないんだよ――
魔を断つ光となれ! 急急如律令ッ!!」
「哀しい……あぁ。ご主人様を前にしてもまだ諦めない愚か者がいるなんて。
これはその魂の底から――滅ぼすしかありませんね?」
されどイレギュラーズ側も当然ただ一度の邂逅で終わる訳がない。
拳を振るうだけで生まれる超絶の衝撃を受けながらも冥夜は次なる一手を放ち、クロサイトもまた仲間を巻き込まぬ呪いの歌声にてミハイルを打とう。
そして次々と仲間も到来するものだ。連鎖的に、まるで一斉に集うように――
「武器商人の旦那にゃ命を救ってもらった借りがある。
ちょっとずつでも返してかねぇとな……つー訳で。
その『傲慢』の鼻っ柱、へし折ってやろうぜぇ!」
「ああ――これだけ多くの奇跡を前にして、まだ王を諦めない度胸だけは認めてやるよ。
だが俺達にも守るべき物がある。やらせはしねぇさ――お前はここで終わりだ」
馬車が到来する。それを操りしは晴明であり、ベルナルドと共に。
邪魔する天使がおらば晴明は光り輝く翼より刃を放とう。お前たちに構っている暇はないのだとばかりに――次いで周囲の仲間に力を満たす加護を齎せば、ベルナルドが天使を吹き飛ばして押しのけるものだ。
いざと言う時の脱出の為にも馬車を破壊される訳にはいかないと警備しながら。
穿つ力は意思の衝撃波。
このような所で朽ち果てる事はできぬ――決着をつける相手がいるのだからと、その顔をベルナルドは想起しながら固い決意をここに刻んで。
「ったく、モロに味方陣営の内側で暴れてくれてるじゃねえか。
何をのたまってんのか知らねぇが絵空事に付き合う気はないんでね」
ちょっくらご退場願うとするか――言うは以蔵だ。ネリウムとバイクで相乗りしてきた彼が即座に駆けつける事が出来たは、そもそもミハイルを徹底的に捜索していたが故。広い視点と遠くまで見据える目線と共に探し出したのだ――そして。
「これ以上好き勝手にはさせないよ。ここで行き止まりだ」
ネリウムの支援を受け取りながら攻勢へと転じよう。
深く、強かに敵を抉る死の凶弾を奴へと。多少負の要素が己に付与されようとも、ネリウムの的確たる一声がすぐさま正常なる身へと復帰させて。
「チィ、イレギュラーズ……あくまでもこちらの邪魔をするか!」
「そりゃそうだな――誰の邪魔も入らず行けるとでも?」
それでもまだミハイルは止まらない。彼の一撃は強烈であり、だからこそグリジオも往く。
彼の動きに従う仲間の反応速度は高まっている。この場にいる多くの者が一斉にミハイルへと攻撃を仕掛ける事が出来ているのは彼の先導のおかげか――そして同時に彼は邪魔立てする天使達を引き付けるものだ。
『あの子の愛しの銀の君』
『護るのだわ、護るのだわ』
「任せろ、誰も死なせねぇよ!」
己が脳裏に響き渡る声に応えるように彼は動き続ける。
誰も死なせぬ。誰をも生かす。
――その意思に間違いなどあろう筈がないから。
「パパ! 僕も最後まで、一緒に、あの美しい月を護るのだ!」
そして同時にヴェルデはミハイルの背より強襲。
護る。彼女もまたグリジオと同じ意思を抱いて――攻勢を仕掛けるのだ。
護り切る。それがきっと己が役目なのだから!
「小娘とて私の前に立つなら容赦はしないぞ……!」
「勝てると思ってるのだ? ごーまんなのだ!」
ミハイルの蹴りはまるで全てを刈り取る鎌の如く。
されど防ぎ、立ち続けよう。ファミリアーなども駆使して折角見つけた相手なのだから!
「――やはり貴方とは相容れない様です」
直後。邪悪を払う光にて天使達を押しのけ現れたのは、アッシュだ。
ミハイル――かつて会談紛いの出来事で話したこともある相手だった。
大魔種さえも討たんとする意思、そして熱。其処に嘘は無いのでしょう。
「ですが、イマを軽視し過去だけを見据える貴方に未来はありません。
わたし達は特異運命座標。
イマと云う可能性を束ね、希望を紡ぎ、運命を織り成すものなれば」
「言葉遊び程度で大魔種に勝てるつもりか! 必要なのは現実的手段だ!!」
「――それでも」
未来を切り開くのは過去の幻影ではなく。
イマを生きる人達なのです。
あらゆる心を軽視するミハイルとは、きっと無理だと彼女は紡ぎ。
――故に彼と戦おう。
ミハイルの周囲諸共薙ぎ払わん一撃を繰り出し。彼の拳を直撃せぬ様に辛うじて捌けば。
「やり口が強引すぎると誰かに言われた事はないか?
それでなんとかなると思っているのは『傲慢』さ故か?」
更に至るはフローリカである。アッシュが切り開いた道を一直線に――
そして得物を振り下ろす。まるで隕石が落下するかの如く、轟音轟かせ。
「ぬぅ!!」
「そういうヤツは、だいたい早死していくんだよ。志半ばでね!
――ところで他のメンバーはいないのか? こんな重要な場面で?」
腕を交差させ防ぐミハイル――なんて堅い身体だ。
しかし同時にフローリカは言葉も紡ぐものだ。長が出てきてるのになぜ他はいない?
「……もしかしてお前人望がないのか?」
「ふっ――彼らは私の部下ではない! 同志だからな!
無理やり連れてくるなど私の主義に反するだけの話だからいないだけさ!」
「結局似たような事だろう」
武器が弾かれる――と同時に放たれる正拳突きがフローリカの腹部へと。
全身を揺らす衝撃を受け後方に弾き飛ばされて。
「なーにを自慢そうに言ってるんだか。
手段は選べよオッサン。そんなんじゃ誰も味方してぇって思わねえだろ」
それでもイレギュラーズ達の攻勢は終わらない。
息をつかせる暇など与えず踏み込んだルカが斬撃を一閃――
世界をどうこうするなど簡単な事ではないだろう。手段を選ばねえ方がずっと楽かもな。
そういう事情があるのは分からないでもない――しかし。
「世界救ったって、その後に笑う奴がいねえと何の意味もねえだろうが!
だから誰もついてきてねぇんじゃねぇのか!!?」
「――貴様に何が分かる! 冠位――いや! 傲慢の頂点者の恐ろしさを知らぬ者が! あんな化け物は一刻も早く倒さねばならんのだ!」
「知らねぇよ! だけどな、知ってもきっと俺は変わらねぇ!」
だから俺は手段を選んで、世界を救う!
――アイツを笑わせる為にゃ、そんぐれえやれねえとな。
口端を釣り上げ不敵な笑みを。その顔、潰さんとばかりにミハイルは拳を握りしめた、その時。
「あたしはその思想とか野望とか難しい事はよくわかんないよ……
でも。こういう風に大勢を危険にしていいわけない。
一人の人生を塗りつぶしたりするのなんて――きっといい事じゃないんだ!」
ルカの身に守護の加護を齎すのはフランである――侵されざるべき聖なる輝きが打撃の力を削いで。
同時に彼女は決意する。皆が彼に言いたいことがあるのなら、己が守り抜くのだと。
天使の者らが邪魔に思ったか彼女に斬撃を重ねてくるが……それでも折れない。
「皆で倒して……ドゥネーブに『やったよー』って報告しに帰るんだ!
だから――負けられないんだ!! 絶対に勝ーつ!!」
「フランがそこまで言うなら私も負けてられないわね――ぶっ放していくわよ!!」
直後。フランに取りつく天使達を雷撃にて薙ぎ払うのはアルメリアの魔術である。
敵の身を捉えるその雷撃はまるで蛇の如く。そのまま奥の敵も薙いでしまおうか――
「やれやれ。予想外の事態に憤るのは結構ですが。
コンティンジェンシープランを用意するのは、マネジメントの基本ですよ?」
次いで往くは寛治だ。アルメリアが雷撃で薙いだが故に生まれた射線……
言葉を紡ぎながら射撃を幾つも。自慢の肉体も幾度も攻撃されればやがては崩れよう。
「そも、この状況でこのようなシナリオへと短絡的に舵を切るのは近視眼的と言わざるを得ません。私なら両者を疲弊させてから、最後に漁夫の利(くに)を狙いますね」
「――私とて最初はそのつもりだったのだがな。あのアバズレの所為で全てが無茶苦茶だ!」
「臨機応変に対応できるかも、個人の器というものでしょう」
数射に一度位置を変え、こちらに的を絞らせない。
立ち回り奴を削り取っていくとしよう――
さすれば狙い通り奴の動きも徐々に陰りが見られる。
周囲の天使達の治癒も齎されればそう深い傷は負っていないように見えるが……さりとてその天使の数も無限ではない。近衛を含めた幻想騎士達の攻撃も加われば確実に数は減っていて。
「今日は少し静かな気がしますが、エドガーバッハはいないのでしょうか?」
いるとやたら煩いのだが、いないと少し寂しい気持ちにもなるものだと。
紡ぐはかの組織と何度か縁のある――リュティスである。
前へと赴く彼女は言の葉と共に。
レッグシースに仕込んだ隠しナイフを手に、彼女の足取りは――まるで舞うようだ。
躱すミハイルの動きを視線で追い。指先でナイフを躍らせれば刃が常に彼の方へ。
「彼は急用でね。この間の落下で風邪を引いたらしい」
「おやそれは――お大事にとお伝えください。お帰りが可能でしたら」
幻想を乗っ取るなど大胆な計画だ。尤も、破綻寸前の様だが。
いやそれ以前に――そちらが『何』に手を出したか、その身に刻み付けて差し上げましょう。
「御主人様を害するのならば、痛みをもって」
狙うは首筋。明らかなる闘志と共に、彼女は己が忠誠を――矛先に乗せて。
「ミハイル――貴方の道はもうない」
そして――ただ怒りと共に。心の内に燃え盛る感情を抱きながらハンスが接近す。
彼らに縁はなく、怨もない。
だが駄目だ。お前たちの秘術だけは許せない。過去は過去として絶対なのだ。
肯定しよう、その欲を。
否定しよう、その生を。
「ミハイル・クリストフェルク」
その手段のみを理由に、僕という不幸はお前の願いを撃ち落とそう――!
「『今日という日の花を摘め』」
カルペ・ディエム。
その言葉の意味を噛みしめろと――彼はまっすぐミハイルの巨体を蹴り堕とした。
「ぬぅぅぅ……!! チィ、近衛達も集まってきたとは……
無念だがここまでかッ!!」
激しい衝撃がミハイルの身を襲い、思わず一端後ろに跳躍するミハイルの視界に映ったのは、明らかなる劣勢。天使達は撃ち滅ぼされ始めており、如何に治癒魔術が使えると言ってもこれではもう駄目か。
「王様が出てきちまったんだ。あんたら幻想騎士のお手並み拝見だな!
ここで奮い立たねぇ奴なんて――国を守る騎士じゃねぇだろ?」
更にカイルが治癒を受け取った騎士達を囃し立てる様に。
さすればもう一息だと更に士気があがるものだ――その様子を見て、カイルはミハイルへと。
「あのなぁ、お前が勇者や英雄にどんな理想を抱こうが知ったこっちゃねーが、世界の厄介事を擦りつけられるのが英雄だぞ? そんなやつ腹黒の野心家か、底抜けのお人好し以外できねーだろ」
だからお前の狙いはそもそも破綻しているのだと。
無理やりにでも首を縦に振らせるというのなら――尚更にお前の好きにはさせられない。
「ええ、ええ! 貴方が一体全体誰なのかは全く存じ上げないけど、魔種だって聞いたわ! ――天使の様なモンスターを連れているようだけど、わたしの方が天使だし、連れる存在考え直したらどうかしら。もしかして盲目でいらっしゃる?」
瞬間。壁を魔力の砲撃でぶちぬき襲来する悪魔……失礼。
天使のカレン・クルーツォがミハイルへと撃を連発し。
「私ったら貴方とはご縁も全くないのだけれど、でも、でも……出会ってしまったからにはこの際、申し訳ないけど、速やかに死んでいただかないとって思って……」
「理由があまりに突拍子がないぞ!」
「どうしてって、そりゃあ、私の敵だから……」
――女は気紛れなものよ。ごめんあそばせ。
純粋たる殺意全開。彼女が顕現させし一撃が――ミハイルへと食らいついた。
イレギュラーズ達の反転攻勢が遂に最高潮を迎える――故に。
「ぐぅ、おのれ……だがここでは諦められん!」
故にミハイルは一気に踵を返す。己の退路を確保すべく、天使達に壁を作らせて。
「唐突に怒り狂い、そして遁走の構えを見せるとは――
アレがリーダーなど笑止千万だと、私のお母さまなら言っていたでしょうね」
「何とでも言うがいい――! 死ねんものは死ねん!」
天使達を相手取っていたセチアがミハイルを嘲笑するように。
精神が未熟な者に誰かを導く事など出来る訳がない。
結局、その程度の器なのだと――されどミハイルは意にも介さずただ後退を目指すのみ、だ。ならばとセチアは天使達を薙ぎ伏せていく――さぁ。
「あのリーダーに代わって、看守の私が貴方達を有るべき所へ導いてあげる!」
長を失った哀れな天使達よ。終焉の時だと。
「英雄を望む傍観者よ――私は貴方を否定する」
そして。ミハイルの背に向けて言うはフォークロワだ。
例え如何なる理由があろうとも生を塗り替えるその所業は断じて看過する事は出来ない。
もしもお前がこの場を生き抜いたとしても。
「私自身の意志が、未来でも貴方を否定し続けるでしょう。
――さぁ我らが勇者に続け! 王と勇者が揃う今、我らに敗北はあり得ない!」
そしてまるで号令をかける様に彼は紡ぐ。
新たな歴史の一幕に己の名を刻む好機だと――猛々しく叫ぶのだ。
やがてビルレストの街に侵入してきた個体共は各個撃破されていく。
ミハイルが撤退し、指揮がなくなればこんなものか――
「おお! 魔物どもが粉砕されていく……流石私の友人のイレギュラーズ達だ! なぁシャル!」
そしてその光景を満足げな様に見据えるフォルデルマン三世……この戦い、貴方の身が狙われていたのですがお分かりですか? そんな事を言いたくなる花の騎士殿――だったが。
「前線は確認しますのでどうかお座りを。いいですね。絶対動いてはなりませんからね!」
まぁ無事ならば良いかと。深いため息を一つ零すものであった。
――夜が来る。
きっとそろそろ各地の戦闘も終わり始める頃だろう。
この会戦の行く末は――はたして――
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ!
さぁ――ヴィーグリーズ会戦と呼ばれるこの戦いはどうなるのでしょうか。
ひとまず……国王陛下の、いつも通りの陽気な笑顔は守られたようです!
ありがとうございました!
GMコメント
●決戦シナリオの注意
当シナリオは『決戦シナリオ』です。
<ヴィーグリーズ会戦>の決戦及びRAIDシナリオは他決戦・RAIDシナリオと同時に参加出来ません。(通常全体とは同時参加出来ます)
どれか一つの参加となりますのでご注意下さい。
●ご注意
グループで参加される場合は【グループタグ】を、お仲間で参加の場合はIDをご記載ください。
また、どの戦場に行くかの指定を冒頭にお願いします。
■■例■■
【A】
リリファ・ローレンツ (p3n000006)
むきゃむきゃあ!(武器ぶんぶん)
■■■■■■
●依頼達成条件
ビルレストの街に侵入した全ての敵勢力の撃退。
また、フォルデルマン三世の生存。
●フィールド
ヴィーグリーズの丘と呼ばれる、幻想中部付近に存在する広大な丘……
から少し離れた『ビルレスト』という街です。
この街は中心を川が通っており、それを跨ぐ様にして大橋が掛けられています。
しかし襲撃してきた敵戦力が橋を中心に二つに分断しています。
以下、二つの戦場が主に存在していますので、どちらかをご選択ください。橋を中心に分断されていますので、もう片方に援軍に行くというのは中々困難でしょう。なお街に住んでいた民はヴィーグリーズ会戦の気配に伴い事前避難していますので、一般市民の心配をする必要はありません。
●【A】戦場『ビルレスト西側』
ヴィーグリーズの丘方面に近い側です。
ここでは前線を支援するための武具や救援物資などが保管されていました。
ここが甚大な被害を受けると指揮を執る拠点としての意味が薄くなってしまうでしょう。医療道具などにも被害があれば、本来助かる者が助からなくなる可能性も……可能な限り敵戦力の撃退を急いでください!
●敵戦力
・アンデッド型魔物
『古廟スラン・ロウ』から現れていたアンデッド達です。
そこそこの数がいます。ただし巨人系はいないように見受けられます。
基本的に近接型のみで構成されています。
・鳥獣型魔物
『神翼庭園ウィツィロ』から現れた魔物達です。
古代獣とも呼ばれています。主に飛行系の能力を持っており、空から強襲してくるような構えを見せています。上空からの突然の攻撃には注意しておいた方がいいかもしれません。
・レアンカルナシオンの人員
まるで命を惜しまないかのような戦いを行ってくる者達です。
基本的には黒衣を身に着けていますが、どうも物資施設の破壊を目論むなど攪乱を目的としている様です。もしかしたら幻想の騎士に扮するなどの行為を行ってくるかもしれません……
魔物らと比べれば数はそう多くないようです。
●味方NPC+戦力
●ガブリエル・ロウ・バルツァーレク
『遊楽伯爵』と言われる幻想貴族です。
己が配下の騎士に護衛されながら防衛の指揮を執っています。
●クロード・リーモライザ
幻想貴族『リーモライザ家』の現当主です。
己が配下の騎士を率いて王を守るべく、敵の撃退に奔走しています。
●幻想騎士
リーモライザ家などの王権派、或いはバルツァーレク派に属する騎士達が中心です。
戦闘能力は並程度。それなりの数がいますが、幻想軍としての主力は最前線に出向いていますので、潤沢なほど多いわけではありません。皆さんの助力が必要でしょう。
●【B】戦場『ビルレスト東側』
ヴィーグリーズの丘方面に遠い側です。
こちらの方に指揮を執る為の本部の様な拠点が設置されていました。また、それに伴いフォルデルマン三世もここにいるなど、重要人物がいます。王が害されれば戦どころではありません、死守してください。
●敵戦力
●ミハイル・クリストフェルク
『傲慢』の魔種です。レアンカルナシオンという組織の長で、この事件の一部の裏で暗躍していた一人です。
実力の類は不明ですが、近衛騎士はいる此処に襲撃を駆けてきている時点である程度勝てる、と思えるだけの力を所有しているのかもしれません。(そうでなくても魔種として相応の実力はあると見るべきでしょう)
その目的はフォルデルマン三世の拉致にあります――必ず阻止してください!
・天使の様な個体達
ミハイルに付き従うように侵入してきた――おそらく魔物達です。
天使の様な翼に、槍や剣などの武具を装備しています。
スラン・ロウなどの魔物達とは雰囲気が異なる様な気がしますが、詳細は不明です。数は【A】の戦場の魔物達と比べると多くないですが、戦闘能力は非常に高いです。また、それぞれが治癒魔法も扱えるようです。
●味方NPC+戦力
●フォルデルマン三世
『放蕩王』と称される幻想国王。
戦闘能力の類はないに等しいです。
●シャルロッテ・ド・レーヌ
近衛騎士の一人にして『花の騎士』と謳われる人物です。
非常に高い戦闘能力を持ち、フォルデルマン三世を守る様に動きます。
●近衛騎士
シャルロッテ配下の親衛隊です。
数はそう多くないですが、通常の幻想騎士より明らかに強い精鋭です。
また王家に対する高い忠誠心を持ち、文字通り死力を尽くすでしょう。
●幻想騎士
リーモライザ家などの王権派、或いはバルツァーレク派に属する騎士達が中心です。
近衛騎士より数は多いのですが……戦闘力的には天使達にかなり押されます。
●士気ボーナス
今回のシナリオでは、味方の士気を上げるプレイングをかけると判定にボーナスがかかります。(どちらの戦場でも適用されます)
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
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