シナリオ詳細
再現性東京2010:希望ヶ浜学園学園祭準備
オープニング
●『希望ヶ浜学園』
そこはまるで――《東京》であった。
再現性東京――それは練達に存在する『適応できなかった者』の過ごす場所だ。
埋没しきった平凡のラベルを飾った日常が突如として、望んでいたかどうかにも関わらず変質したその刹那、人々はどれ程までに飽き飽きした在り来たりな毎日が尊いのかを知るだろう。再現性東京<アデプト・トーキョー>はその中に様々な街を内包する。世紀末の予言が聞こえる1999街を始めとした時代考証もおざなりな、日本人――それに興味を持った者―――が作った自分たちの故郷。
偽りの安寧を享受し続けるその場所には夜妖<ヨル>と呼ばれる悪性怪異が存在していた。それがどうして存在するのか、何故この区画にのみであるのかは……さて、又別の機会に語ることになるのかも知れないが、人の心は魔を生み出すという事は確かなこととして伝えておこうでは無いか。
語るにも必要の無い情報ばかりが羅列している。情報とは取捨選択すべきだと言われるが、一度に多くを得てしまえば公も混乱するものか。ならば簡単だ。
ローレットに所属する特異運命座標(イレギュラーズ)が招致されたのはまるで現代日本を模倣したかのように作られた再現性東京<アデプト・トーキョー>の一区画。希望ヶ浜、その地域でも有数のマンモス校であり伝統深い私立希望ヶ浜学園だ。
どうして? 勘の良い『読者』なら簡単に分かるだろう。私立希望ヶ浜学園は悪性怪異へ対抗するための人材を育成する場だから。実に在り来たりだと笑ってくれる事なかれ、『お約束』と名付けて欲しい。斯くして、君たちは希望ヶ浜学園の幼稚舎から大学部の生徒、講師となり希望ヶ浜で活動することとなったのだ。
●『前日譚』
――と、案内に書いてあったのだと告げる無名偲・無意式校長に「まあ、ローレットから来たら学費、寮費、学食の費用は学園負担。本人は招致された特待生なので負担なしに過ごして貰えるって事ですもんね。羨ましい」と音呂木・ひよのはそう告げた。
希望ヶ浜地区の音呂木神社跡取り娘にして巫女のひよのは所謂『夜妖の専門家』である。唇を尖らせてわざとらしく拗ねた彼女に「俺に言うな」と校長は言った。
「本題へ入れ」
「はいはい」
校長の指示にひよのは机の上に一枚のプリントを叩き付けた。その表題は『企画書』である。企画書を叩き付けた、と書けば余りに不思議な光景ではあるが――校長は慣れきったかのように「ああ」と唸る。
「学園祭か」
「そうです。それから10月には体育祭もありますよね。
恐ろしくありませんか? 夜妖に夢中になりすぎて私としたことがローレットの皆さんにお誘いを忘れていたのです。ああ……こんなの、『有意義な学生生活』ではないではありませんか!」
饒舌に頭を抱えてたひよの。はあ、と溜息を吐いた彼女の企画書に続く言葉はこうだ。
校長先生へ(はぁとマーク)
希望ヶ浜学園学園祭及び体育祭に、ローレットの『特待生』も参加を要請します。
有意義な学生生活を送るために、クラスなどは気にせずに各が準備を行う方針としましょう。
予算についてはある程度、『イロを付けて』くださいね。
――企画書、とは何だったのか。校長は「勝手にしろ」と投げやりである。何時だって投げやりな彼はある意味で中間管理職によく向いていた。つまり、余計なことは気にする事なかれ、だ。
「やった。それでは皆さんに案内を出してきますね!」
●やっと此処から主題である
「ご機嫌よう、ローレットの皆さん。あなたの音呂木・ひよのです。
……まあ、それは兎も角ですが、皆さんにお誘いがあるのです。
9月の後半に『学園祭』が行われるのですが、皆さんにも是非参加して欲しいのです。
ですが、催し物を行いたい方もいらっしゃるでしょうから、これは準備段階です。良いですか? 決して、『美味しいものを食べに行くぞ!』とか言わないでください。催し物はまだなのですから、学食を楽しむことしか出来ませんよ。
……ま、つまりは『有意義な学園生活』でも楽しみましょう。『外』で大変なのでしょう。希望ヶ浜で位、のびのびしてみては?」
- 再現性東京2010:希望ヶ浜学園学園祭準備完了
- GM名夏あかね
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2020年09月22日 22時10分
- 参加人数69/∞人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 69 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(69人)
リプレイ
●
9月26日はついに学園祭――!
これは心躍る学園祭の準備に奔走する再現性東京<アデプトトーキョー>2010街『希望ヶ浜地区』での一幕なのである。
●
「こっくりさんです!」
コックリさんよりなおもお化けっぽい藍はわくわくと胸を膨らませる。アルプスに言わせれば緊迫度マックス、正直ヤバい結果が出てる感じがする――のだ。
「そう、こっくりさんなら、これなら教室1つ借りて、カーテンを閉め切って真ん中に机1つ置くだけで雰囲気出ていいでしょう?
ヤバい結果なんて出ないでしょうが(フラグ)出そうになったら運営者の僕が操作しちゃえばいいですし」
ふふん、とアルプスが鼻を鳴らせば「はい!」と嬉しそうに藍が笑みを零す。
「もう1人手伝ってくれる十七女さんがヒエッ怪異かと思った いらっしゃったら雰囲気も抜群ですね!」
「ヒェッ、怪異ですか? え? あ、私? 怖くないですよ!
呼べたら何か聞くべきなんですよね……ええ、質問もちゃんと考えておりますとも!
ずばり! 『希望ヶ浜学園校長の座に就く為に必要なもの』とはなにか! クク、この前の補修で無名偲校長に見捨てられた恨み、私は忘れておりません……!」
にいと笑う藍を見てアルプスは彼女を見ればマジモノの怪異も逃げ出しそうだな後ぼんやりと考えた。
「学園祭……ですか。元世界では終ぞ、学生というものに縁がなかったワタクシが……友人と共に催し物をする事になるなど。
やれやれ、ここまで奇異な運命を辿るなどどんな占いで予測できたでしょうか」
くす、と笑みを浮かべたヴァイオレットの視線の先にはルル家が立っている。こうも心を躍らせるのは彼女のお陰だろうか。
「ヴィオちゃん! こっちです!」
学園祭では路地裏カプリチオの出張店を出すのだと設営を頑張るルル家。何をしましょう、と問いかけヴァイオレットにルル家もぱあ、と明るい表情を見せる。
「助かります! 人手が全然足りなくて……正直当日の店員も足りるかどうかなんですが……ヴィオちゃんはやっぱりこういうコスプレとか、抵抗ありますかね?」
メイド服姿のルル家ヴァイオレットは潜入や諜報の活動でそうした装いには慣れていると胸を張る。
「ではこのバニー服とかどうでしょうか! シスター服もいいですね!
ナースも白衣の天使って感じで似合うんじゃないでしょうか! ディーラー服を捨てがたい!」
色物だらけ――けれど断れないまま、されるまま。ヴァイオレットの明日はどっちだ!
「私の出し物はお姫様喫茶だよ、ふふ本番が楽しみだな」
装笑みを浮かべるラクロスの前にやってきたお客様――いや、お姫様が一人。
「真面目にやってっかー?」と顔を出した教師である行人に恭しくエスコートするラクロス。
「おいおい、俺がお姫様に見えるか?」
「やあ、ごきげんよう。お姫様、私はラクロス・サン・アントワーヌ。貴方の為の王子様だ。君の名前は?」
そっと手を差し伸べるラクロスに行人はなるほど、と笑みを浮かべた。ここはお姫様喫茶なのだという。
「俺はここの高等部の理科教師……伏見行人、ってモンだよ。何、俺をお姫様扱いしてくれるの?」
「さぁお手をどうぞ、プリンセス」
席まで恭しいエスコートをされながら行人は本番が楽しみだと揶揄うように小さく笑う。
「さて、お姫様。ご注文をなんなりと」
お姫様の我儘を叶えるのが王子様。うっとりとするようなもてなしに百点満点だと小さく笑って行人は紅茶を一杯、とオーダーした。
折角の学園祭。こう言う時は先生だって羽目を外していいのだとシルキィはアーリア主催の『さかさまカフェ』の準備をお手伝い。
普段着ない服が一番なのよとアーリアはにんまり笑顔。髪をポニーテールにして燕尾服とモノクル姿。教師としてさかさまカフェの指導を立派に心がける。
医療知識を生かして考えたメニューなら衛生的に提供できるか判断できるはずとカフェメニューにも余念はない。
仕立てならばお任せあれと恭介は準備を整える。さかさまカフェの店員用の衣裳はリクエストを聞いて個人個人に合わせて作成だ。裁縫スキルとそして式神も使役してばっちり衣裳や布に関しての準備を整える。
「お祭りなのだわ鬼灯くん!」
そうだね章殿、と小さく笑みを浮かべる鬼灯のことを章姫は「仕立て屋さんなのだわ!」と眸を煌めかした。
普段から彼女や部下の衣裳を作っている鬼灯にとってこうした仕立てはお安いご用だ。
「黒影ちゃん、そっちお願いしていいかしら?」
「ああ。承った」
章姫には女性陣の採寸と素材を選ぶのを手伝ってくれと頼み恭介から渡された仕事をこなし続ける。
「はーい、ここに並んでね! 腕をピンってしてね、動いちゃダメよ!」
章姫は作業台でメジャーやレース、リボン片手にぴょこりぴょこりと動き回る。燕尾服をオーダーしたシルキィは着用してみて「素敵だねぇ」と微笑んだ。
「わたしは男装する訳だけど、折角なら普段と違う雰囲気の方が面白いよねぇ。
執事さんなら口調も執事っぽく……語尾を伸ばす癖を何とかしなきゃねぇ。
お帰りなさいませ、お帰りなさいませ、お帰りなさいませぇ……」
はっ、としたシルキィは「戻ってないよぉ」と口にしてぱ、と口元を抑える。
「どんな衣裳がいいのかなって皆で考えるのは楽しいですね。仕立ての方達が居るんだ、本格的」
ぱちり、と瞬いた廻にとって特異運命座標との学園祭は初めてだ。異性装とは面白いとブレンダは仕立て組に自分が身に纏う燕尾服をリクエストした。
「おー、誠吾さんが可愛い服を着てるのです!」
眸をキラリと輝かせるソフィリア。髪は一つに括り白ワイシャツに黒のスラックス、黒のベストとネクタイ。着慣れぬズボンでそわそわとしていたソフィリアは誠吾を見てにんまり顔。
「元の世界でも女装・男装を出し物にした学園祭はあったが、まさかこっちで自分が女装とか……」
ぼやく誠吾はメイド服姿。周囲を見回せば似合っている者、似合わない者、様々だ。
「誰得なんだ、これ。…お前さんはちまっこくて可愛いな」
「うちも、普段とは違う服装なのですよ!」
くるんと回ったソフィリアはカワイイと言われて嬉しいとにんまり気分。誠吾は太ももがぱつぱつしてる、という言葉を飲み込んだ。
「俺の方、髪やら化粧も要らないだろ?」
「んー…長い髪にしてみるのも、ありだと思うのですよ?」
ウィッグを手にじりじり迫るソフィリアに「おちつけ」と誠吾はノーセンキューを叫んだ。
「僕は――じゃあ、ロングワンピースを……」
「あらぁ? メイド服よ、廻君」
にんまり微笑むアーリアは化粧道具を手にじりじりと廻へ迫る。え、え、と何度も繰り返す廻は慌てたようにアーリアを見詰めた。
「あ、あの……このメイド服、スカート短くないですか? ぜ、絶対領域って何!?」
「うふふ、大丈夫よぉ」
看板でも作ろうかとブレンダは金槌や刃物を使用して出来るだけ目立つように異性装を出来るし見れる場所だとアピールするための準備を整えていく。
ギルドでの祭りは何度かあったが、此処の祭りはまた趣が違うのだと愛無は周囲を見回しながら準備中のさかさまカフェの扉を開けて――
「廻くんなら、何を着ても似合うさ。線も細い。顔も整っているしね。それに益々親近感がわくしな」
「えぇ……似合いますか……?」
肯く愛無。その前ではメイド服に身を包んで薄らと涙目の廻が立っている。そういえば、とaPhoneを取り出した。
「一緒に写真と撮って貰えないかな。これは写真も撮れると聞いた。よければ記念だ」
「こ、この格好でですか!?」
慌てる廻に愛無が肯けば看板をセッティングしたブレンダが準備完了告げる。さあ、アーリア先生は宣材写真よ、と心躍らせる時間だ。
「今回は……良い学園祭になると良いな」
「じゃあ、看板と一緒にSNSで宣伝よぉ!」
#希望ヶ浜学園学園祭
#さかさまカフェ
#お待ちしてます
●
「学園祭! いいねいいね、お祭りは楽しいから大好きだ。
それじゃ、僕も準備を頑張ってみるとしよう。中等部美術講師として!」
創は校内に展示するモニュメントや展示物の作成を希望ヶ浜学園の生徒達と行うこととした。
生徒達のデザイン案をチェックし、作成方法のアドバイスを行い続ける.場合によっては改修に手を事だってある。
「うんうん、アイデアはとてもいいね。ただここが……そうだな、もう少し滑らかなデザインにしてはどうだろう。安全性は大事だからね」
そう言って、生徒達の展示をとりまとめて実行員の元へ向かおう。誰が実行委員かはきっとひよのに聞けば分かるだろう。
「えへへーこれブレザーっていうんだよね! デイジー先輩も似合っててかわいいー!」
「くっふっふー、そうじゃろー妾は何を着ても似合うじゃろー。フランお主も妾の次くらいに似合っておるぞー。
ふむ、しかしこのブレザーというのは身体にピッタリの作り故、少々胸元がきつくなるのう。……フラン、お主もそう思わぬか?」
「……胸元? きつくない……ぐすん。ベーク先輩はえっと……あっいたいた、ほらたいやき屋さんやるんだから手伝ってー!」
デイジーとフランの『胸囲』の格差社会が其処にはあった。二人に呼び掛けられたのは鯛焼き屋さんというよりたい焼きそのもののベークである。
―――そして……。
「マッ!?!?!?!?」
看板にくっきりとのこったたい焼きの魚拓をお楽しみください。何故か真っ黒にされて看板にされているのだ。百歩譲って屋台を手伝うのは良い。けれどこの扱いはおかしいとベークは非難した。
「あとは目を引くためにライブパフォーマンス! ほら目の前でステーキ焼いてます! みたいな。
あの音と匂いでよだれ出るよねぇ、うんうん。……ってことで着火!」
「そして、見よっ!こんな事もあろうかと秘かに練習していた、これが妾のパイロキネシス!そして、発火なのじゃ!」
此の儘では食用と間違えられる――! ベークは諦観していた。
「……なんか、学校って大変なんですねぇ……」
「せ、せんせー!? 大変ッスよ! イルミナしか学級会に来ていないッス!
……と、というかですね、しかして、もしかしてッスよ! 未だに催し物が決まっていないのは我々だけなのでは……!?
こうなったらイルミナ、一人ででも屋台でも展示でもやってみせますよ……!」
机に着席してから挙手するイルミナにロトは「人、来ないね……」とへにゃりと眉を下げた。ちまたでウワサのタータリクス顔のせいだろうかと肩を竦めた彼は「あはは……」と小さく溜息を漏らした。
「いや、他にやりたい事が決まってるのかな? それなら良いけどね、あははは。
月原君はデートだって生徒がウワサしてたし音呂木さんも忙しく走り回って――」
ばん、と大きな音を立て扉が開く。其処に立っていたのは教祖、会長――ではなく風紀委員の茄子子であった。
「はい! 会長はとってもいい案があるので聞いて貰っても良いですか!
提案するのは免罪符屋さん! はい!ㅤ会長は羽衣教会のことをもっと知ってもらうために、羽衣教会の免罪符を販売、展示するのがいいと思います!」
「……」
「……」
「クラスのみんなもきっと賛同してくれるはず! あれ、おかしいな、賛同してくれない。なんでだ。
え、みんなも羽衣教会の免罪符欲しくないの?ㅤ羽根生えるんだよ、ばっさーって!ㅤあと許されるよなんかいろいろと」
「……えーと、楊枝さん……」
「あ、わかったわかった。学園だからね。特定の宗教を扱う催しを学園認定の元で出したら不味いんだね!ㅤ会長は聞き分けがいいから引き下がるよ! 風紀委員だしね!ㅤちゃんと風紀は乱さないようにしないと!」
えへん、と胸を張った茄子子。イルミナは「こ、こうなれば本当にイルミナが一人で大型展示をー!?」と叫んだ。
その声を聞きながらもぐもぐと唐揚げを食べて学食に向かう一人の少女――
ここで学園の怪異を一つ紹介しよう。学食に現われ食糧を食い荒らす黒い影のウワサである。
知らないというように学食の椅子にちょこりと座って唐揚げを食べ続ける黒衣の少女。いや、お前だというそう突っ込みも知らない振りでナハトラーベは只管に唐揚げ定食を食べ続けた。
そうだ、学食でやるメニューランキングの出し物を手伝って貰えば良いという意見が彼女を取り巻いた。学食妖怪の名をほしいままにするナハトラーベ。屹度、彼女ならば、素晴らしいランキングを決定してくれるだろう。
「学園祭! 子供の頃、マンガとかで見たやつだ! まさかこっちに来てから参加できるなんて思いもしなかったぜ!」
風牙は勿論参加だと心躍らす。クラスの出し物はお化け屋敷だと聞いたとき、風牙はぱちりと瞬いた。本物は仕事で何時も見るではないか――
「お化けってお前、ヨルで見慣れて……まあいっか!! よっしゃ! 思いっきり驚かせてやろうぜ!」
暗幕で暗くしていかにもなBGMを流してみる。肌を青白く縫って髪の毛も長髪のカツラを足らして仮装を一つ。
「うははははは!! 何だこれ気持ち悪い! こえーこえー!! ちょっとみんなに見せてくる!!」
「討伐されるなよ!」とクラスメイトの揶揄う声が響いた。
運動部を巡る操は助っ人を頼まれるかも知れないという事を考えての売り込みと10月の体育祭までに馴染んでおきたいという本ねえ学園を回る。
何処かの部活動に所属する気がないスタンスで、当分の間は『助っ人』である操を学生達は残念がった。
「よければ学園祭の1on1とかにも参加してくれよ」と乞う声に「OK」と操は快活に返す。
元の世界では実力の差で虚しい思いをした――ソレがないとしても、世界が変わったからと言って自分が変われるなんて信じきれる物ではないから。暫くは『昔』の儘で。
「ぼくはねー、お店をやるよ! えっとね、『おつかれさま屋』さん! なにをするかって?
んっとね、おきゃくさんのがんばってるところにがんばったねーってほめてあげるの。
朝、がんばって起きるのもえらいし、朝ごはん食べるのもすごいし、
おべんきょうがんばっててとってもすごいし、おしごとがんばっててすごくえらい。
あとね! 文章がんばって書いてるの、おつかれさま! すごい!」
突然沢山褒めてくれるえくれあちゃん。『はなまるー!』をくれて自己肯定感もとってもとってもUPするのだ。
はなまるー! えらーい! すごーい! ――ちょっぴり嬉しくなるそんな『おつかれさま屋』さんの開店準備は進んでいる。
クラス担任がないアランからすれば学園祭は科学部の催しのために教室を貸す程度――だが……何もやらないのも居心地が悪いと見回っていた。ふと、看板の材料を抱えたメルトリリスを見つけひらりと手を振る。
「ご機嫌よう、先生。身体の調子でしたら特に問題はありませんが……あ、これ?」
図画工作が苦手だという彼女にアランは「そっちの調子は?」と揶揄うように声を掛けた。
「って、手伝ってくれるの? 明日はサメでも降るのかな!? えへへ」
「ま、手伝うけどよ……つーかオメェよ、いい加減友達は出来たのかよ? そろそろ同年代の女友達作れや」
うーん、とメルトリリスは唸った。勉強は難しい.体育は好きだけど、命令を聞いて従っている方が楽だから――自主的に、というのは何だか居心地が悪いのだとメルトリリスは看板にぺたりとペンキを落とす。
「心配しないでね、パパ。迷ってるだけなの。私、ロストレインだから!
こんなのと友達になりたい人なんているのかな〜! ……あはは。それに、騎士だし……天義の」
「……ま、ゆっくりやれや。俺とは違ってお前は沢山時間があるだろうよ。
それにロストレインとか、天義なんて誰も気にしねェよ」
少なくともこの場所ならば、そう付け加えたアランをちらりと見て、メルトリリスは「うん」と呟いた。甘えてられないのも分かっている――けれど、もう少し雪解けには時間が掛かりそうだ。
●
「学校ってとこ初めてだからあちこち回りたい!」
制服のスカートをひらりと揺らしてルアナはグレイシアに笑みを浮かべた。二人並んでいれば生徒とその保護者のような様子だ。
「さて、探検との事だが……どこを周る気なのだ?」
こっちこっちと手招かれたのは空き教室だ。「この辺に座ってー。あ、おじさまは教壇のとこ立ってみてー」と指示を出す彼女に従い教卓に立てば「ふあああ!」と感激したような声が聞こえる。
「おじさま本当に本で読んだ『学校の先生』みたーい! かっこいいねぇ」
「ふむ、これでは補習のようだな。実際に数学の講義も行ってるのだが……ふむ」
学校体験に胸を高鳴らせ楽しげなルアナを見てグレイシアはにんまりと笑った――が、刹那。
「あれだよね。おじさまに恋する生徒さんとかいそう。えへへ」
「……流石に、吾輩に恋などする者は居ないだろう」
きょとん、とルアナは瞬いた。それならわたしが、と屈託ない笑みを浮かべて進み出す。
「……ふむ、考えておくとしよう。次は何処へ向かう気だ?」
グレイシアの脳裏には『勇者』の姿が浮かんでいた――
教師としての衣服を身につけているベネディクトの前で常の通りのメイド服姿のリュティスは「普段とはまた違うお姿なのですね」と彼へと告げた.因みに眼鏡がお気に入りポイントなのだそうだ。
「学園か……形は違えど、俺も学ぶ場に通っていた事はあった。この学園の方が文明は遥かに進んでいるが」
「学園生活ですか、私には縁がなかった場所ですので少し羨ましく思いますね。
また時間のある時にどういう感じだったのか伺いたいものです」
ああ、と肯くベネディクトはリュティスと共に学食へと向かう。折角ならば此処での昼食もリュティスに体験して貰いたいと言う意図だ。
「此処では日替わり定食もあるらしい。一体どの様な品が出てくるのか考えるのも一つの楽しみなのだろう」
「日によって出てくる物が違うというのは中々面白いですね。
悩んだりすることもあるでしょうし、もちろんお値段の方も気になりますが……」
味も気になると二人揃っての日替わりA定食。味もそれなりではあるが量もそれなりだと考えるリュティスの耳元で不意にベネディクトが囁いた。
「悪くは無いが、やはり何時もリュティスが作ってくれる手料理の方が美味しいな」
学部も気になる――けれど、今日は学食を見に行きたいとクラークはゆっくりと歩み出す。
着崩したスーツ姿で学食に行けばまるで教員のようである。世界に馴染むというのはこういうことを言うのだろう。
「何かお勧めは?」と学食のおばちゃんに問いかければ「日替わり定食からチャレンジしなね」とにまりと笑顔が返ってくる。
「実は私、こう見えても花も恥じらう17歳…学園生だったりするのです」
あやめは未だに友達がゼロ、としょんぼりとしながら学食でラーメンを食べていた。
後学の為に希望ヶ浜に編入好いてきたけれど――仲間以外には陰キャであるというあやめは放置プレイだと興奮、否、しょんぼりしていたのだ。
「夜妖ってどんな首輪が似合うのでしょう……?」
「く、首輪は止めときなよ!?」
亮の制止の声を聞き、あやめは「ひゃ」と肩を跳ねさせた。因みに――彼ならば友達になってくれるので宜しくお願いします。
「……此処が希望ヶ浜学園……凄いね、豊穣と同じ世界にあるのか疑うぐらい全然違う……」
朝顔はぱちり、と瞬く。行くなら大学部かなあ、と周囲を見回した。一応朝顔はじゅうきゅ――ううん、何もないのだ。
色んな学部がある様子にレッツ学部見学だ。
「……武芸とか舞芸とか見れそうな所があるかな? オキナの一族、一応舞芸者から始まったとか聞くし……その割には今に伝わっているアレコレが戦闘向けなのが不思議だけどさ」
むう、と唇を尖らせた。朝顔の好みで言えば芸術学部系列で伝統芸能を学ぶのが良いのだろう。屹度彼女に身についた伝統芸能を生かすことも出来るはずだ。
同じように探索を行うのはフラッフル。再現性東京と唇に音乗せる。適応できなかった人間を慰め安定させておく場所。
「……中にあるものは、決して綺麗なものばかりでは無いだろうね」
呟く。祭りの準備乗じてみてみれば、楽しげに歩み笑い合う『停滞した人間』達。自らの時を止め、未来に目隠しをして外界を拒否した人間達。
(――僕とは正反対の生き方をよしとした理由はなんなのか。
愚かに見えても中身をのぞき見てみれば、存外うなずけるものが見られるかもしれないからね。
……愚かだのうなずけるだの、僕のようなものに判断されても、あちらも不快だろうけど。ふふふ)
それでも――きっと、彼等は日常を謳歌していることを、当たり前だと思っているのだ。それは、なんと――なんと愚かしいか。
●
古典教師として紛れては居るものの、と文は周囲を見回した。授業以外で他の校舎に立ち入ることはなかった――これは良い機会だと校舎の探索を行うために学内の案内掲示板とにらめっこ。
幼稚舎から大学まで.そう思えば広すぎる校舎の中で学園祭の準備が行われれば普段の様子とは様変わりだ。
「こんにちは、これは何の準備をしているんだい?」
優しく声掛ければ学生達はメイド喫茶やお化け屋敷と言ったオーソドックスな展示やタピオカ屋さんと胸を張る者まで居る。
「おっと、そっちは気をつけて! 怪我しないようね!」
大きな仕掛けを運ぶ生徒に声掛けて、さあ、次の探索に出発だ。
「リョーーウ!」
にま、っと笑ったイグナートに亮は「たーすーくー」と揶揄い笑う。再現性東京ではどんな服を着れば溶け込むと思う? というイグナートの質問には「大学部に行くってんなら普通にTシャツに何か羽織るとかーと亮はいそいそと自分の着替えを差し出してくる。
「リョウ、御免。ちょっと身長の差があるかも」
「ぬあっ……イグナートに会いそうなのまた買いに行こうぜ。今日は知り合いの伝手で……よしっ」
此れで行っておいで、と背をばしりと叩かれる。向かうは大学探索だ。イグナートの知識の大学と言えば『専門性の高い学問を修めるところと見せかけて、毎日浴びるように酒を飲んで暴れるコンパという儀式を行っている場所』なのだそうだ。強いヤツが居るかもしれないと気合いを入れて探索へGO――地下通路とかは……どうやら下水道などが当てはまりそうだ。
「この学園は賑やかでいいね。私が子供の頃はこんな学園には入れなかったからそれだけでもとても喜ばしいことさね」
学園探検、小さなパトロールとリアナルは歩き出す。ついでと言えば無名偲・無意式校長が何処かに居ないものかと見れば――彼は、呼べば出てくるタイプなのだろう。
「何だ」と薄らと笑みを浮かべてリアナルへと問いかける。学校について知りたいと言えば彼は校長先生として教えようと『在り来たりな学園の歴史』を語りだす。
「戦力とかそっち方面についても知りたいな」
「まあ、学園内は神秘を秘匿する必要もねぇような所だが、学園祭は外部の人間が来る。
それだけ気をつけてやれよ。俺は犬に噛まれただけで死ぬ男だ。ちゃんと護ってくれぇ」
皆楽しそうだとクリスティアンは周囲を見回す。楽しそう、ならば楽しいのだ。
学園の中はまだまだ慣れていないことばかり。クリスティアンは気になるモノはきっちりと確認しておこうと周囲を見回す。
大学では古典を勉強している――けれど、まだまだ分からないことだらけだ。夜妖の事だってまだ、不明が沢山なのだからもう少し勉強してみたい。
祭り準備で賑わう学園内を回ってみようと大地は大学部へと脚を進めた。高校までとは違い図書館として設立された大学の敷地にある建物の蔵書数は圧巻だ。
「『お前にとっちゃア、ご馳走の山だもんナ?』とか言うなよ、赤羽。
よりにもよって学校の備品を、俺が勝手に食うわけ無いだろ。
万が一、本のヨルでも紛れ込んでたら話は別だけど。その場合ハ、俺達の手で何とか鎮めてやろうカ」
揶揄うように小さく笑う。どうやら特異運命座標は図書館での貸し出しでも融通が利くのか多数の蔵書の貸与も可能らしい。学園の外にある希望ヶ浜地区の図書館も良い本が揃っていると係の者は微笑んだ。
「希望ヶ浜には先生として入ってるけど、よく考えたらあんまり学校のことよく知らない!
そもそも、故郷でも学校ってちゃんと通ってなかったし……というわけで探検してみましょう!」
えいえいおーとアレクシア。一通りぐるりと回ってみるのも良い。けれど、それより気になるのは図書館や図書室であった。単純に本が気になると言うのもあるが、希望ヶ浜の怪異や成り立ちに関する本があったりしないのだろうかと見て回る。
「怪しげな本とかあるかな? でもそういう本っていわゆる禁帯出! みたいな感じだったりするのかな?
先生だからちょっと読ませてもらったりできない? ダメかな? ちょっとでいいからさー!」
――その本、読んだら呪われる系列ではないですか……?
●
ポニーテールを揺らして由奈はきょろりと周囲を見回した。普段と違うのは『普通』の女学生としての表情を見せているからだろうか。
「ふふふ、良く考えたら私、元の世界では学生だったんですよね。
18歳になってお兄ちゃんとの順風満帆な生活を送ってる今、今更元の世界の学生生活なんて微塵も興味はありませんが……でもこちらで学生生活が出来るというなら少しは体験してみるのも悪くはないかなって」
教室の机にそ、と手で触れる。編入してきたばかり。これから学園を楽しむのだって悪くはない。今度学食風の料理とお兄ちゃんに作ってあげようかなと小さく笑みを浮かべ――あれ、由奈さん、料理(悪)では……?
「うわ、マジで学校じゃん」
ぱちりと瞬く千種。こんな所もあるんだな、と貸与されたaPhoneで写真をぱしゃり。其の儘、いざ探検である。
「いや~学校でこんなにわくわくしちゃうなんて思ってなかった……」
外に出ればファンタジー世界感満載ではあるが、再現性東京はその名の通りであるが故に馴染みがある。リラックスして行動が出来るというものだ。
校内で準備中の皆の事もチェックし写真の撮影を行う。文化祭でカフェを行うための準備をしている者を見れば異世界であろうとも学校で行われるモノは同じなのかと心が躍る。すん、と鼻先を擽るのは学食か――さあ、行ってみよう!
「小等部のメイなのですよ!
メイはカメラを持って、学園を探検しながら、学園祭の準備をしている皆さんのお写真をいっぱい撮ろうと思っているのですよ」
お祭りは準備段階もとても楽しい。ならばその楽しい準備段階を自称スーパーカメラマンのメイがバズる写真をシャッターチャンスなのだ。
「あっ、皆さんはメイの事は気にしないで欲しいのです! 自然体がいいのです!」
カメラを向ければ意識してしまう――ならば、と段ボールの中でごそごそ動いてスニーキングミッション開始! ……結構目立っているような?
「希望ヶ浜学園……初めてだなぁ。ええっと、この街はトーキョー……に似てるんだっけ? とは言っても、トーキョーもよく知らないんだよね……」
アルムは色々な世界に飛ばされはしたけれど――東京はどうだったかと頭を悩ました。こんなにも大きくて四角い建物が並んでいるのは驚くものだと歩き出す。
学園内を見て回り、皆に話を聞いてみれば良い。図書館の方角を一先ず目指しながらの『学園』探検を進めていこうか。
「学園祭だ!こういうお祭りは当日だけじゃなく準備期間も楽しいんだぞ! 僕も今からドキドキのワクワクなのだ!
でもこの時期に編入してきたり、校内を探検したりしたい人達もいっぱい居るっぽい? ……よーし!なら僕が案内するのだ! 任せて!」
月美の担当は後者の案内だ。今回のルートは一通りの後者を案内した後に学食でのお昼まではお気に入りのコース。
「学食ではラーメンとかカレーは安くて美味くてお腹いっぱい食べられるんだぞ!」
ラーメンやカレーを大量に食べるのだと胸躍らす月美の食いっぷりを傍で見ていた亮は「よく喰うなあ」とからりと笑う。
「美味しいのだ! ん……ここで会ったのも何かの縁。僕で良ければ友達になろう!」
「ん、希望ヶ浜でも宜しく、月美」
にんまりと笑った亮は「俺も月原だし月仲間だな」と揶揄うように言った。
「お邪魔しまーす! なるほどなるほど、これが学校なんですね!
実はわたし、学校とか行ってなかったので密かに憧れてまして! 今回こうやって入れてとってもラッキーでした!」
フィナは瞳をキラリと輝かす。因みに、勉強の方はと言えば入れ墨の入ったおじさんに銃の撃たれ方とか、野生のオオカミさんに狩りのされ方とか教えてもらったことがあるらしい。ソレは此処では秘密の秘密なのだ。
机一杯の教室で椅子に腰掛けて、フィナが顔を上げれば夜妖がゆらりと立っている.出会ったのが幸運か果たして不幸かはさておいて――友達にはなれそうにないのだった。
この前は仕事だったからあまり見て回ることは出来なかった、とエルスはひよのに学園案内を頼む。見上げる形にはなるが、その色彩からほんのちょっぴり親近感――そう、まるで姉が居ればこの様な雰囲気なのだろうかとも思えてしまう。
「ええ、構いませんよ。何処か行きたいところは?」
「んん……取り敢えず見て回りたいわ。その、あの敵の存在は怖かったけれど……。
学園って素敵ね……こんなに楽しそうな行事があるなんて。私は学校に行った事がないからどれもこれも新鮮だわ!」
にんまりと微笑んだエルスにひよのは「学校の経験が無いのです?」と首を傾ぐ。だからこそ、どんな行事があるのか――体育祭やウィンタースポーツと希望ヶ浜は大盤振る舞いであることをひよのは事細かに伝える。
「私も現役の時に楽しみたかったわね……」
「現役?」
「え? わ、私はこう見えても大人で……!
せ、生徒として来てるのはその……学園に興味があったからだけれども……っ!!」
「大丈夫です。旅人は種族の差がありますし。幾つであっても学生ならば学生なのですよ」
ひよのの揶揄う笑みにエルスの頬が僅かに赤らんだ。
「あ、珠緒さんはこういう学園、慣れてないわよね?
たぶんボクが通ってたとこと似たような感じだと思うから、案内は任せてちょうだい!」
こっちよ、と蛍は笑みを浮かべて珠緒の手を引いた。学園の施設はまだまだ知らぬ者が多い珠緒にとって蛍による説明は有り難い。
「さて、次は……理科室? 生物室?
生物への興味を高めたり、生命の神秘について学ぶ教室ね。あくまでも科学的に……たとえばこういう人体模型を使ったりして、ね」
「りか……コトワリの学科ですか。生物、なるほど。
大枠でさいえんすというのですよね、模型も実に精巧です。
ぉぉ、動作まで忠実に……ええ、その模型は動くので――」
きゃあ、と大きな声で蛍が叫べば珠緒はぱちり、と瞬いて「……はないようですね」と言葉を繋げる。どうしたことか蛍の期待に応えるように夜妖が歩き出す。のたのたと動く様子に「珠緒さん、全力で行くわよ!」と戦闘準備を二人揃って整えた。
因みに、普通を知らぬ珠緒は此れが普通だと認識するようにぱちりと瞬いただけだった……。
●
希望ヶ浜学園の音楽の臨時講師、仙狸厄狩 汰磨羈先生こと『タマちゃん先生』は出し物を纏めた資料作成をお洒落なコーヒーショップで行っていた。
「やれやれ……本職の教師たちの苦労が分かるな……」
出し物の内容を確認して必要に応じて当日の仕入れなどの援助をaPhone10で根回しを続ける。
テーブルの上には頭脳労働の対価として季節限定のケーキがセットされている。いくつか食べ終わって足りなければまた違うカフェでのスイーツを探しに行くのも良いだろう。
「何をしているのか、ですか? 手続きの取りまとめですよ。保健所関係のね」
模擬店でのやりとりのために寛治が行うのは役所への提出のための取り纏めであった。誰がやるかと押しつけあってそのお鉢が回ってきたのが社会科(政治経済)の教師である寛治だ。
「え? そんな手続きが必要な世界なのか、って?
混沌世界では屋台や飲食店を出すのに、わざわざ保健所の許可なんて要らないでしょう。しかし、ここは『再現性』東京ですからね」
――東京故の面倒が其処にはあるのだと、寛治は肩を竦めて資料の作成に取りかかり続けるのだった。
中等部のクラスの催し物のための買い出しへとシルフィナは繰り出した。
去夢鉄道学園前駅から電車に乗って市街地へ.クラスメイトの書いたメモを頼りに必要な物品を購入し――その視線がパン屋へと向けられる。
可愛らしい小綺麗なパン屋さん。時計をちら、と見る。
(まだ……時間は大丈夫ですね……?)
丁度小腹が空く時間だ。まだまだ時間に余裕も有るとシルフィナはパン屋の中へと足を進めた。
現代国語の新任教師としてやってきた清鷹は茶道の心得が有ることからソレを見込まれ茶道部の顧問となっていた。
真面目な彼は茶道部の顧問になった=茶請けの菓子を用意して茶道部の出し物のサポートをしなくてはならない、と当然の帰結。
定番の和菓子屋は希望ヶ浜の教員達から聞いていた。豆大福に羊羹、練切り、最中――清鷹はまじまじと菓子を見遣る。
「やはり甘味の物色は心が浮き立つな。……しかし、甘いものが苦手な者も居るかも知れぬ。この後は漬物も買いに行こうか」
は、としたように清鷹は顔を上げ店員へ「領収をお願いします」としっかりと告げた。
「希望ヶ浜学園のセーラー服! バッチリだぜっ!
ふっふっふ! 準備とかはみんなに任せてー私たちは市街地でサボ……買い出し行きましょう! だから付き合ってくださいよー! んふふーっ!」
「良いですけれど、私ったら丁度ミルクティーが飲みたい気分なんですよ。その辺りは如何でしょうか? 秋奈さん?」
にんまりと悪戯めいて微笑んだひよのに秋奈は「後輩に奢って貰うんですか、ひよの先輩!」と揶揄うように笑う。
普段からノープラン秋奈ちゃんでも此処は先輩音呂木さんのさり気ないエスコート。その足はタピオカを買いに向かっている。
「えへへ……こうしてへーわにJKを謳歌できるのって、最近なかったのです。
これからも付き合ってもらいますからねっひよの先輩!」
「ええ、希望ヶ浜のグルメガイドブックを制覇しなくてはなりませんからね.覚悟は良いですか?」
「モチ!」
「せっかく学校の外で活動するんだし、ここで宣伝するのもいいかもしれないね。
ってわけで路上ゲリラライブで学校祭の宣伝をしちゃうよ! 可能ならほむらちゃんも手伝ってくれるかな?」
彼方――カナタ・ルビーオーシャンは眸を煌めかせる。眸が紅色に変化している間は可愛いアイドルカナタちゃんなのだ。過去の自分のことを知る者がいないように息を潜め、手伝ってねとウィンクを一つ。された側のほむらは「えっ、と」と周囲をきょろりと見回し――
「ふっ……よかろう。この宵闇の皇女たるティファレティア・セフィルが、学園祭とやらに人を呼び込んでやる。
そこの人間! 通行人の貴様。そうだ、汝のことだ。我等が希望ヶ浜学園祭に来い。よいな」
――宵闇の皇女が君臨していた。勿論、ものすごい目立つのだ。陰キャとか言っている場合も無くアイドルと宵闇の皇女の宣伝活動は続く。
●
「ね、ラピス。二人で、抜け出しちゃおうよ。
クラスの出し物だって、決まっちゃったし、ボクたちが居なくたって……ばれやしないよ」
なんて、悪い子かなと笑ったアイラの手を取ってラピスは「いいよ」と揶揄うように走り出す。二人揃って『悪い子』だから――二人で放課後デートを楽しむのだってちょっぴりだけ罪の味。
「ほーかご、ってものは、デートが定番なんですって。
おそろいの制服でデートなんて、滅多にできるものじゃないし……ボク、小テストの勉強だって頑張ったでしょう?」
「君は勉強も頑張ってたからね。ご褒美代わり、かな――拒否するつもりなんて無いよ」
少しひんやりとして、それからあたたかくて。そんな手を握って二人揃って街へと走り出す。
手を繋いでタピオカとクレープ。それから洋服を見て。晩ご飯のお買い物だって夫婦として立派にこなして――あとはaPhoneに自慢を投稿しよう。
頬に口付け、『今日の自慢』をUPすれば明日、クラスメイトに揶揄われるだろうか。
#ディアグレイスさんのでーと
「さて、学祭準備な訳だけど……ね、リア。私とデートしよ?」
「今、学園祭の準備しててね……え? デート……デート?」
シキの言葉に思わずぱちりと瞬いたリア。じい、とリアを見詰めたシキは、ふふと小さく笑みを漏らす。
「ふふ、リアの先生姿似合うねぇ。私は何かを教えられる気がしなくて、生徒になったけどさ」
「いや、あの……あ、あぁ、有難う……貴女の制服姿も似合うわ。じゃなくて! こ、これから生徒達と色々準備あって――って、な、なんだてめーらニヤニヤしやがって……買い出し行け?」
押し出されるように生徒達から『送り出された』リアはシキと共にデート――ではなくお買いだしだ。
「……リアせんせ! 私甘いものが食べたいなぁ! くれーぷ?っていうのがあるんでしょ。リアは食べたことある?
私はね、フルーツがいっぱい入った奴が食べたいねぇ。リアのも美味しそうだから一口下さいな?」
「え、クレープ? ま、まぁちょっとなら……」
ほら、と二人で選んだクレープを分け合えば、ぺろ、とシキが舌を見せる。
「生徒と買い食いなんて、他の先生には秘密だね? リアせーんせ」
「ほえー! ここが希望ヶ浜学園ですか! 近々学園祭なんてあるんですね……」
そう言ったのはリリファ。目的は希望ヶ浜市街のクレープ屋なのである。
「さぁ、月原さん行きますよ!」
「え?」
「どこへって、勿論クレープ屋さんですよ! 奢ってください」
と言うわけで――何故かデート中のリリファと亮なのである。タピオカとクレープが楽しみだとるんるんのリリファの背中を取り敢えず追いかける亮も二人で出かけるのは疑問に思っていない。
「甘い物はとっても大好きなんですよ、私! 月原さんは何を頼みます? 私はイチゴとバナナを合わせた――」
「俺はストロベリーレアチーズケーキ」
「は? 寄越せー!」
そんなに好きならあげるって、と揶揄い笑う。取り敢えずはシェアで――付き合ってませんよ?
学園からの依頼で買い物をしながら外部に夜妖が以内かと見回りをするイスナーンは何処へ行こうかとaPhoneを取り出した。コールの先は『なじみさん』だ。
「もしもしなじみさんですか? ちょっとお聞きしたいことがありましてですね。
買い物をするのにオススメのお店と後夜妖や怪異について情報があれば」
『んー……お買い物だったら、センター街とかお勧めかもー? 夜妖とかはまだちょっと今は情報が無いかも!
あ、そうだ、イスナーンさんはタピオカ好き? 開店したね―お店があってー』
……彼女はとっても饒舌なのだ!
イスナーンとの電話を終えて、なじみが顔を上げた先に定が立っていた。
この前は酷い目に遭った。まあ、そのお陰で面倒くさい準備をせずに買い出しで楽を出来ている訳なのだ。だが、しかし、である。死にかけたから、非日常だったから、そんな状況だったからと言って女の子に軽々しく連絡先を聞くのは如何なモノなのか――今更ながら恥ずかしい! 恥ずかしくって驚くほどなのだ! 往来で頭を抱えてジタバタするのが屁でないほどに恥ずかしい。
「定くん?」
「……あれ? なじみさん? 今の見てました?」
――前言撤回。往来でジタバタするのは恥ずかしい。しゃきりとした定は「良ければカフェローレットでお茶でも」と笑みを浮かべる。
「いいね、いいね! 何食べようかなあ。定くんはどうするんだい? なじみさん聞いちゃうぞ」
「今僕の懐は潤いに潤ってるんだ。海洋風アクアパッツァだろうが新緑フルーツパフェだろうが御馳走しちゃうぜ」
「おやおや、そんなこと言うと甘えちゃうのが綾敷さん、だぜ?」
定の真似した口調で揶揄うなじみ。きっと、定はテンションがぶっ壊れてまたも往来でバタバタすることになるのだ。
リンちゃん、はなちゃん、バスちゃん、アカツキちゃんとひよのちゃん。
そんな五人組で行く学外ツアーは花丸のお勧めのタピオカ屋さんに行くらしい。
「これはそう、出し物の為の調査…実地調査即ちフィールドワークです!」
びしりとそう言ったリンディスにアカツキは「妾、タピオカ初挑戦なので楽しみじゃのう……」とそわそわと身を揺らす。
「買い出し終わったら帰って良いって言われてるし、街で遊んだってバチはあたらないよ!」
神様が言うから大丈夫だと告げるバスティス。「サボりじゃないし?」とひよのににこりと笑う花丸は「ほんとのほんとにサボりじゃないよ?」と繰り返す。
「タピオカ屋さんだよ、タピオカ屋さんっ!
最近お店が新しく出来た場所があるみたいでさ、花丸ちゃん気になってたんだ!」
「たぴおか屋さん? って花丸ちゃん言ってたけど、どういうものなのかな?
最近は新しい流行を次々と見つけてくるから、神様大変だよー。たぴおか屋さんがモードなわけだね。じゃ、行ってみよー」
はあーと溜息付いたバスティスに「絶対美味しいよ」と花丸は小さく笑う。
「バスティスさんは知らないですか? タピオカ……ええと、こう、もちもちとしてつるんとしたものが飲み物に入ってまして!」
リンディスの説明に「わらびもち?」とひよのに問いかけるバスティスはぱちりと瞬く。
「そういえば、最近はわらびもちドリンクもあるらしいですね。今度はそちらもどうです?」
「いくいく! えーと、味どうしよう!? こ、こんなに種類あるんだね!?」
花丸がぱちりと瞬く傍らではリンディスに「全部記録するのじゃぞ!」と茶化すアカツキが立っている。
「黒糖ラテ、苺みるくタピオカ、チョコバナナタピオカ……目移りしてしまうのう」
「うーん……どうしましょうか。アカツキさんは?」
「妾は黒糖ラテかのう……」
メニューとにらめっこのリンディスとアカツキの傍らでひよのは「私はキャラメルラテにしようかと」とバスティスに指し示す。
「かみさまさー、文法が特殊で注文が難しいの、アレ苦手なんだよね」
珈琲屋さんでもあるヤツ。フラペチーノだと笑った花丸はミルクティー。バスティスはタピオカ増量ピーチティーをセレクトした。
「私は黒糖チーズクリームミルクにしたんですが……チーズティーの酸味に黒糖の柔らかい甘さが入って美味しいですよ――はっ、これは調査です、調査! ね!」
最後まで調査――と言ったけれど帰り道のお茶というのはとても楽しいのだ。
――さあ、学園祭へはもう少し。
期待を胸に、準備を続けよう! タピオカは調査です。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
学園祭楽しみですね!
GMコメント
希望ヶ浜学園は9月に学園祭があるようです。
その、準備段階だよ! 学園を楽しむのです。
●できること
【A】~【C】から1つセレクトしてプレイング冒頭にご記載ください。
また、グループ、誰かとという場合はIDの指定か【グループタグ】の指定を二行目に入れてください。
服装はステータスシートに設定されているものorプレ指定のものを参照致します。
【A】学園祭準備(学園内)
看板を作る/屋台を作る/催し物をする準備!などなど。
学園内で頑張る皆さんのターンです。ちなみに催し物はグループで行うもよし、個人でもOKです。
よければ数人で【タグを作って】催し物なんかしてみてはどうでしょうか?
皆で行えばきっと楽しめるはずですよ!
(催しの例:たこ焼き屋さん、クレープ屋さん、メイド喫茶、お化け屋敷etc……)
【B】学園探検
学園祭も良いけれど、その前に希望ヶ浜学園を知りたいという探検です。
もしかすると夜妖にであるかも知れませんね!? 注意されたし!
幼稚舎~大学部まで様々の場所を探索できます。大学部は色んな学部があるようです。
またただ飯こと学食を楽しむことも出来ますよ!
【C】学祭準備(学外)
希望ヶ浜地区に去夢鉄道学園前駅から出発!(石神地区にはいけません)
市街地での買い出しやおサボりなんかもどうぞ。タピオカ屋さんやクレープ屋さんもありますよ。
カフェローレットで休憩も良いですね。
学祭に必要なものを集めたって良いですねえ。放課後を思う存分楽しむのだ!
●再現性東京2010街『希望ヶ浜』
練達には、再現性東京(アデプト・トーキョー)と呼ばれる地区がある。
主に地球、日本地域出身の旅人や、彼らに興味を抱く者たちが作り上げた、練達内に存在する、日本の都市、『東京』を模した特殊地区。
ここは『希望ヶ浜』。東京西部の小さな都市を模した地域だ。
希望ヶ浜の人々は世界の在り方を受け入れていない。目を瞑り耳を塞ぎ、かつての世界を再現したつもりで生きている。
練達はここに国内を脅かすモンスター(悪性怪異と呼ばれています)を討伐するための人材を育成する機関『希望ヶ浜学園』を設立した。
そこでローレットのイレギュラーズが、モンスター退治の専門家として招かれたのである。
それも『学園の生徒や職員』という形で……。
●希望ヶ浜学園
再現性東京2010街『希望ヶ浜』に設立された学校。
夜妖<ヨル>と呼ばれる存在と戦う学生を育成するマンモス校。
幼稚舎から大学まで一貫した教育を行っており、希望ヶ浜地区では『由緒正しき学園』という認識をされいる裏側では怪異と戦う者達の育成を行っている。
ローレットのイレギュラーズの皆さんは入学、編入、講師として参入することができます。
入学/編入学年や講師としての受け持ち科目はご自分で決定していただくことが出来ます。
ライトな学園伝奇をお楽しみいただけます。
●『怪異の秘匿』
再現性東京(アデプト・トーキョー)希望ヶ浜では、完全な人間型のキャラクター以外は、街の人達に強く恐れられてしまうことがあります。
ひょっとしたらひどく変わったファッションだと思われるかもしれません。
恐れられるのは、魔術や極端に高い運動性能等、常人離れした行動も同様です。
しかし安心して下さい。
理解ある学園内では『本当のあなた』の姿は何も問題がないのです。
また戦いの中でも"力"の行使は認められています。
それに多くの人々は『怪異同士の抗争』なんて、目を瞑って『見ようともしない』のですから――。
●希望ヶ浜について
世界観>練達>希望ヶ浜( こちら: https://rev1.reversion.jp/page/kibougahama )に詳細がございます。
ご存じの無い方は是非ご覧下さい。制服もあるよ!
●NPC
希望ヶ浜系NPCでステータスシートの未所有NPC
・音呂木・ひよの(希望ヶ浜学園高校)
・無名偲・無意式(希望ヶ浜学園校長)
につきましては、お声かけ頂ければ普通に学内でもお相手できます!
また 『綾敷・なじみ』につきましては【C】のみとなります。
その他、クリエイター所有のNPCは登場可能な場合もありますので、お気軽にお声かけください。
(各国有力のNPC(※王や指導者)や希望ヶ浜にはいないだろうNPCについては申し訳ないです!)
どうぞ、よろしくお願いいたします。
Tweet